IP Force 特許公報掲載プロジェクト 2022.1.31 β版

知財求人 - 知財ポータルサイト「IP Force」

▶ ゼリス ファーマシューティカルズ インコーポレイテッドの特許一覧

特表2024-534963注射可能な高濃度の薬学的製剤ならびにその製造および使用の方法
(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公表特許公報(A)
(11)【公表番号】
(43)【公表日】2024-09-26
(54)【発明の名称】注射可能な高濃度の薬学的製剤ならびにその製造および使用の方法
(51)【国際特許分類】
   A61K 9/06 20060101AFI20240918BHJP
   A61K 47/26 20060101ALI20240918BHJP
   A61K 47/14 20170101ALI20240918BHJP
   A61K 47/18 20170101ALI20240918BHJP
   A61K 47/22 20060101ALI20240918BHJP
   A61K 47/12 20060101ALI20240918BHJP
   A61K 38/46 20060101ALI20240918BHJP
   A61K 38/47 20060101ALI20240918BHJP
   A61K 38/50 20060101ALI20240918BHJP
   A61K 38/55 20060101ALI20240918BHJP
   A61K 38/49 20060101ALI20240918BHJP
   A61K 38/27 20060101ALI20240918BHJP
   A61K 38/24 20060101ALI20240918BHJP
   A61K 38/23 20060101ALI20240918BHJP
   A61K 38/28 20060101ALI20240918BHJP
   A61K 38/26 20060101ALI20240918BHJP
   A61K 39/395 20060101ALI20240918BHJP
   A61K 38/21 20060101ALI20240918BHJP
   A61K 38/20 20060101ALI20240918BHJP
   A61K 38/19 20060101ALI20240918BHJP
   A61K 31/5513 20060101ALI20240918BHJP
   A61K 31/137 20060101ALI20240918BHJP
   A61P 3/10 20060101ALI20240918BHJP
   A61P 29/00 20060101ALI20240918BHJP
   A61P 25/00 20060101ALI20240918BHJP
   A61P 35/00 20060101ALI20240918BHJP
   A61P 31/00 20060101ALI20240918BHJP
   A61P 31/04 20060101ALI20240918BHJP
   A61P 31/10 20060101ALI20240918BHJP
   A61P 31/12 20060101ALI20240918BHJP
   A61P 19/00 20060101ALI20240918BHJP
   A61P 1/00 20060101ALI20240918BHJP
   A61P 9/00 20060101ALI20240918BHJP
   A61P 17/00 20060101ALI20240918BHJP
   A61P 21/00 20060101ALI20240918BHJP
   C12N 9/50 20060101ALI20240918BHJP
   C12N 9/70 20060101ALI20240918BHJP
   C12N 9/72 20060101ALI20240918BHJP
   C07K 14/575 20060101ALI20240918BHJP
   C07K 14/585 20060101ALI20240918BHJP
   C07K 14/605 20060101ALI20240918BHJP
   C07K 14/62 20060101ALI20240918BHJP
   C07K 14/60 20060101ALI20240918BHJP
   C07K 14/745 20060101ALI20240918BHJP
   C07K 14/51 20060101ALI20240918BHJP
   C07K 14/59 20060101ALI20240918BHJP
   C12N 9/22 20060101ALI20240918BHJP
   C12N 9/24 20060101ALI20240918BHJP
   C12N 9/82 20060101ALI20240918BHJP
   C12N 9/16 20060101ALI20240918BHJP
   C12N 9/48 20060101ALI20240918BHJP
   C12N 9/26 20060101ALI20240918BHJP
   C12N 9/06 20060101ALI20240918BHJP
   C07K 16/18 20060101ALI20240918BHJP
   C07K 14/565 20060101ALI20240918BHJP
   C07K 14/535 20060101ALI20240918BHJP
   C07K 14/55 20060101ALI20240918BHJP
【FI】
A61K9/06
A61K47/26
A61K47/14
A61K47/18
A61K47/22
A61K47/12
A61K38/46
A61K38/47
A61K38/50
A61K38/55
A61K38/49
A61K38/27
A61K38/24
A61K38/23
A61K38/28
A61K38/26
A61K39/395 N
A61K38/21
A61K38/20
A61K38/19
A61K31/5513
A61K31/137
A61P3/10
A61P29/00
A61P25/00
A61P35/00
A61P31/00
A61P31/04
A61P31/10
A61P31/12
A61P19/00
A61P1/00
A61P9/00
A61P17/00
A61P21/00
C12N9/50
C12N9/70
C12N9/72
C07K14/575
C07K14/585
C07K14/605
C07K14/62
C07K14/60
C07K14/745
C07K14/51
C07K14/59
C12N9/22
C12N9/24
C12N9/82
C12N9/16 B
C12N9/48
C12N9/16 Z
C12N9/26 Z
C12N9/06 A
C07K16/18
C07K14/565
C07K14/535
C07K14/55
【審査請求】未請求
【予備審査請求】未請求
(21)【出願番号】P 2024515369
(86)(22)【出願日】2022-09-09
(85)【翻訳文提出日】2024-04-17
(86)【国際出願番号】 US2022076212
(87)【国際公開番号】W WO2023039531
(87)【国際公開日】2023-03-16
(31)【優先権主張番号】63/242,405
(32)【優先日】2021-09-09
(33)【優先権主張国・地域又は機関】US
(31)【優先権主張番号】63/351,786
(32)【優先日】2022-06-13
(33)【優先権主張国・地域又は機関】US
(81)【指定国・地域】
(71)【出願人】
【識別番号】511176159
【氏名又は名称】ゼリス ファーマシューティカルズ インコーポレイテッド
(74)【代理人】
【識別番号】100102978
【弁理士】
【氏名又は名称】清水 初志
(74)【代理人】
【識別番号】100205707
【弁理士】
【氏名又は名称】小寺 秀紀
(74)【代理人】
【識別番号】100160923
【弁理士】
【氏名又は名称】山口 裕孝
(74)【代理人】
【識別番号】100119507
【弁理士】
【氏名又は名称】刑部 俊
(74)【代理人】
【識別番号】100142929
【弁理士】
【氏名又は名称】井上 隆一
(74)【代理人】
【識別番号】100148699
【弁理士】
【氏名又は名称】佐藤 利光
(74)【代理人】
【識別番号】100188433
【弁理士】
【氏名又は名称】梅村 幸輔
(74)【代理人】
【識別番号】100128048
【弁理士】
【氏名又は名称】新見 浩一
(74)【代理人】
【識別番号】100129506
【弁理士】
【氏名又は名称】小林 智彦
(74)【代理人】
【識別番号】100114340
【弁理士】
【氏名又は名称】大関 雅人
(74)【代理人】
【識別番号】100214396
【弁理士】
【氏名又は名称】塩田 真紀
(74)【代理人】
【識別番号】100121072
【弁理士】
【氏名又は名称】川本 和弥
(74)【代理人】
【識別番号】100221741
【弁理士】
【氏名又は名称】酒井 直子
(74)【代理人】
【識別番号】100114926
【弁理士】
【氏名又は名称】枝松 義恵
(72)【発明者】
【氏名】ドノヴァン マーティン
(72)【発明者】
【氏名】プレストレルスキ スティーブン
(72)【発明者】
【氏名】コールマン スコット
(72)【発明者】
【氏名】スロート ブライアン
(72)【発明者】
【氏名】ボウマン ダイアナ
(72)【発明者】
【氏名】フィッチ リチャード
【テーマコード(参考)】
4C076
4C084
4C085
4C086
4C206
4H045
【Fターム(参考)】
4C076AA06
4C076BB11
4C076BB15
4C076BB16
4C076CC01
4C076CC04
4C076CC07
4C076CC11
4C076CC14
4C076CC16
4C076CC18
4C076CC21
4C076CC27
4C076CC31
4C076CC35
4C076DD09
4C076DD42Z
4C076DD43Z
4C076DD46
4C076DD51
4C076DD60
4C076DD60Z
4C076DD66
4C076DD67
4C076EE41
4C084AA02
4C084AA03
4C084BA01
4C084BA34
4C084BA41
4C084DA14
4C084DA19
4C084DA33
4C084DB22
4C084DB26
4C084DB31
4C084DB34
4C084DB35
4C084DB49
4C084DB70
4C084DC21
4C084DC22
4C084DC35
4C084MA28
4C084MA66
4C084NA05
4C084NA06
4C084NA10
4C084ZA01
4C084ZA36
4C084ZA66
4C084ZA89
4C084ZA94
4C084ZA96
4C084ZB11
4C084ZB26
4C084ZB31
4C084ZB33
4C084ZB35
4C084ZC35
4C085AA14
4C085CC23
4C085EE01
4C085GG03
4C085GG04
4C085GG05
4C086AA01
4C086AA02
4C086BC56
4C086MA05
4C086MA28
4C086MA66
4C086NA05
4C086NA06
4C086NA10
4C086ZA01
4C086ZA36
4C086ZA66
4C086ZA89
4C086ZA94
4C086ZA96
4C086ZB11
4C086ZB26
4C086ZB31
4C086ZB33
4C086ZB35
4C086ZC35
4C206AA01
4C206AA02
4C206FA14
4C206KA01
4C206MA05
4C206MA48
4C206MA86
4C206NA05
4C206NA06
4C206NA10
4C206ZA01
4C206ZA36
4C206ZA66
4C206ZA89
4C206ZA94
4C206ZA96
4C206ZB11
4C206ZB26
4C206ZB31
4C206ZB33
4C206ZB35
4C206ZC35
4H045AA30
4H045BA09
4H045BA41
4H045DA04
4H045DA11
4H045DA30
4H045DA35
4H045DA36
4H045DA37
4H045DA45
4H045DA75
4H045DA76
4H045DA83
4H045DA89
4H045EA20
(57)【要約】
本発明は、標準的な市販のシリンジを用いて比較的少量で動物に注射することができる高固形分濃度のペーストの形態である、1つまたは複数の活性な薬学的成分を含む組成物を提供する。本発明は、そのような組成物、特に高固形分濃度のペーストにおいて比較的高治療濃度で高分子量活性成分(例えば、抗体、酵素、ならびに他のタンパク質およびペプチド)を含む組成物を作製する方法も提供する。本発明は、その必要があるヒトを含む動物における特定の疾患および身体障害を治療、予防、および/または改善する際にそのような製剤を使用する方法をさらに提供する。本発明は、本発明の製剤と好適なシリンジとを含むキットも提供し、いくつかの局面ではこのシリンジには本発明の組成物が予め負荷または予め充填されていてもよい。
【特許請求の範囲】
【請求項1】
約350mg/mLを超える固形分濃度を有するペーストを含む組成物であって、
該ペーストが、1つまたは複数の活性な薬学的成分と、1つまたは複数の薬学的に許容される賦形剤と、1つまたは複数の非溶媒流体とを含み、該ペーストが、市販の針/シリンジの組み合わせを用いて少なくとも30μL/sの流量にて3ml以下の量で動物に皮下、皮内または筋肉内注射されることができる、
前記組成物。
【請求項2】
ペーストの固形分濃度が約350mg/mL~約850mg/mLである、請求項1記載の組成物。
【請求項3】
ペーストの固形分濃度が約350mg/mL~約750mg/mLである、請求項1記載の組成物。
【請求項4】
ペーストの固形分濃度が約350mg/mL~約700mg/mL、約350mg/mL~約650mg/mL、約350mg/mL~約600mg/mL、約350mg/mL~約550mg/mL、約350mg/mL~約500mg/mL、約350mg/mL~約450mg/mL、または約350mg/mL~約400mg/mLである、請求項1記載の組成物。
【請求項5】
ペーストが、少なくとも約20%の活性な薬学的成分の相対的含有量を有する、請求項1記載の組成物。
【請求項6】
ペーストが、約20%~約70%の活性な薬学的成分の相対的含有量を有する、請求項1記載の組成物。
【請求項7】
ペーストが、約30%~約65%の活性な薬学的成分の相対的含有量を有する、請求項1記載の組成物。
【請求項8】
ペーストが、約35%~約60%の活性な薬学的成分の相対的含有量を有する、請求項1記載の組成物。
【請求項9】
ペーストが、約20%~約50%の活性な薬学的成分の相対的含有量を有する、請求項1記載の組成物。
【請求項10】
ペーストが、約25%~約50%の活性な薬学的成分の相対的含有量を有する、請求項1記載の組成物。
【請求項11】
活性な薬学的成分が、少なくとも1000ダルトンの分子量を有する、請求項1記載の組成物。
【請求項12】
活性な薬学的成分が、ペプチド治療薬、タンパク質治療薬、および小分子治療薬からなる群より選択される、請求項1記載の組成物。
【請求項13】
活性な薬学的成分がペプチド治療薬またはタンパク質治療薬である、請求項1記載の組成物。
【請求項14】
ペプチド治療薬またはタンパク質治療薬が、酵素、抗トロンビン剤、血栓溶解剤、ペプチドホルモン、骨活性ペプチド、糖尿病活性ペプチド、抗体、非抗体抗腫瘍剤、妊娠促進剤、および免疫抑制剤からなる群より選択される、請求項13記載の組成物。
【請求項15】
ペプチド治療薬またはタンパク質治療薬が、ドルナーゼアルファ、ベラグルセラーゼアルファ、タリグルセラーゼアルファ、アスパラギナーゼ、グルカルピダーゼ、アスホターゼアルファ、エロスルファーゼアルファ、セベリパーゼアルファ、サクロシダーゼ、およびペグロチカーゼからなる群より選択される酵素である、請求項14記載の組成物。
【請求項16】
活性な薬学的成分が、レピルジン、ビバリルジン、デフィブロチド、およびスロデキシドからなる群より選択される抗トロンビン剤である、請求項14記載の組成物。
【請求項17】
ペプチド治療薬またはタンパク質治療薬が、レテプラーゼ、アニストレプラーゼ、テネクテプラーゼ、ストレプトキナーゼ、およびウロキナーゼからなる群より選択される血栓溶解剤である、請求項14記載の組成物。
【請求項18】
ペプチド治療薬またはタンパク質治療薬が、コシノトロピン、絨毛性ゴナドトロピン、およびソマトトロピンからなる群より選択されるペプチドホルモンである、請求項14記載の組成物。
【請求項19】
絨毛性ゴナドトロピンがヒト絨毛性ゴナドトロピンである、請求項18記載の組成物。
【請求項20】
ペプチド治療薬が骨活性ペプチドである、請求項14記載の組成物。
【請求項21】
骨活性ペプチドがカルシトニンである、請求項20記載の組成物。
【請求項22】
カルシトニンがサケカルシトニンである、請求項21記載の組成物。
【請求項23】
糖尿病活性ペプチドまたはタンパク質が、インスリン、プラムリンチド、グルカゴン、およびそれらの類似体からなる群より選択される、請求項14記載の組成物。
【請求項24】
糖尿病活性ペプチドがインスリンまたはその類似体である、請求項23記載の組成物。
【請求項25】
インスリン類似体が、インスリンリスプロ、インスリングラルギン、インスリンアスパルト、インスリンデテミル、およびインスリングルリジンからなる群より選択される、請求項24記載の組成物。
【請求項26】
インスリンがヒトインスリンである、請求項24記載の組成物。
【請求項27】
インスリンがブタインスリンである、請求項24記載の組成物。
【請求項28】
糖尿病活性ペプチドまたはタンパク質がグルカゴンまたはその類似体である、請求項23記載の組成物。
【請求項29】
グルカゴン類似体がダシグルカゴンである、請求項28記載の組成物。
【請求項30】
ペプチド治療薬またはタンパク質治療薬が抗体またはその断片である、請求項14記載の組成物。
【請求項31】
抗体がモノクローナル抗体またはその断片である、請求項30記載の組成物。
【請求項32】
モノクローナル抗体が、セツキシマブ、トラスツズマブ、ベバシズマブ、リツキシマブ、オビヌツズマブ、ゲムツズマブ、カナキヌマブ、イピリムマブ、ダラツムマブ、ベドリズマブ、ウステキヌマブ、シルツキシマブ、ラムシルマブ、ペンブロリズマブ、オファツムマブ、ニボルマブ、メポリズマブ、ブロダルマブ、ペルツズマブ、デノスマブ、ゴリムマブ、ベリムマブ、ラキシバクマブ、ブリナツオマブ、ジヌツキシマブ、およびイブリツモマブからなる群より選択される、請求項31記載の組成物。
【請求項33】
ペプチド治療薬またはタンパク質治療薬が、ロイプロリド、デニロイキンジフチトクス、アルデスロイキン、アスパラギナーゼ、ペガスパラガーゼ、インターフェロンベータ、アフィベルセプト、レノグラスチム、およびシプリューセル-Tからなる群より選択される非抗体抗腫瘍剤である、請求項14記載の組成物。
【請求項34】
ペプチド治療薬またはタンパク質治療薬が、ロイプロリド、メノトロピン、ルトロピンアルファ、フォリトロピンベータ、ウロフォリトロピン、および絨毛性ゴナドトロピンアルファからなる群より選択される妊娠促進剤である、請求項14記載の組成物。
【請求項35】
ペプチド治療薬またはタンパク質治療薬が、エタネルセプト、ペグインターフェロンアルファ、インターフェロンアルファ、フィルグラスチム、ペグフィルグラスチム、サルグラモスチム、アナキンラ、インターフェロンベータ、インターフェロンガンマ、アダリムマブ、インフリキシマブ、バシリキシマブ、ムロモナブ、エファリズマブ、ダクリズマブ、アバタセプト、リロナセプト、ベラタセプト、ナタリズマブ、ブリンツモマブ、ウステキヌマブ、およびヒト免疫グロブリンからなる群より選択される免疫抑制剤である、請求項14記載の組成物。
【請求項36】
ペプチド治療薬またはタンパク質治療薬が組換えペプチドまたはタンパク質である、請求項13記載の組成物。
【請求項37】
活性な薬学的成分が小分子治療薬である、請求項1記載の組成物。
【請求項38】
小分子治療薬が、エピネフリン、ベンゾジアゼピン、カテコールアミン、「トリプタン」、スマトリプタン、ノバントロン、化学療法用小分子(例えば、ミトキサントロン)、コルチコステロイド小分子(例えば、メチルプレドニゾロン、ジプロピオン酸ベクロメタゾン)、免疫抑制性小分子(例えば、アザチオプリン、クラドリビン、シクロホスファミド一水和物、メトトレキサート)、抗炎症性小分子(例えば、サリチル酸、アセチルサリチル酸、リソフィリン、ジフルニサル、トリサリチル酸コリンマグネシウム、サリチレート、ベノリレート、フルフェナム酸、メフェナム酸、メクロフェナム酸、トリフルム酸、ジクロフェナク、フェンクロフェナク、アルクロフェナク、フェンチアザク、イブプロフェン、フルルビプロフェン、ケトプロフェン、ナプロキセン、フェノプロフェン、フェンブフェン、スプロフェン、インドプロフェン、チアプロフェン酸、ベノキサプロフェン、ピルプロフェン、トルメチン、ゾメピラク、クロピナク、インドメタシン、スリンダク、フェニルブタゾン、オキシフェンブタゾン、アザプロパゾン、フェプラゾン、ピロキシカム、イソキシカム)、神経障害を治療するために用いられる小分子(例えば、シメチジン、ラニチジン、ファモチジン、ニザチジン、タクリン、メトリホネート、リバスチグミン、セレギレン、イミプラミン、フルオキセチン、オランザピン、セルチンドール、リスペリドン、バルプロ酸セミナトリウム、ガバペンチン、カルバマゼピン、トピラマート、フェニトイン)、がんを治療するために用いられる小分子(例えば、ビンクリスチン、ビンブラスチン、パクリタキセル、ドセタキセル、シスプラチン、フルベストラント、イリノテカン、トポテカン、ゲムシタビン、テモゾロミド、イマチニブ、ボルテゾミブ)、スタチン(例えば、アトルバスタチン、アムロジピン、ロスバスタチン、シタグリプチン、シンバスタチン、フルバスタチン、ピタバスタチン、ロバスタチン、プラバスタチン、シンバスタチン)、タキソールおよび他のタキサン誘導体、結核を治療するために用いられる小分子(例えば、リファンピシン)、小分子抗真菌剤(例えば、フルコナゾール、ケトコナゾール)、小分子抗不安薬、小分子抗痙攣薬(例えば、ロラゼパム)、小分子抗コリン薬(例えば、アトロピン)、小分子β作動薬(例えば、硫酸アルブテロール)、小分子マスト細胞安定剤、アレルギーを治療するために用いられる小分子薬剤(例えば、クロモリンナトリウム)、小分子麻酔薬/小分子抗不整脈薬(例えば、リドカイン)、小分子抗生物質(例えば、トブラマイシン、シプロフロキサシン)、小分子抗片頭痛薬(例えば、スマトリプタン)、および小分子抗ヒスタミン薬(例えば、ジフェンヒドラミン)、およびこれらの塩または類似体からなる群より選択される、請求項37記載の組成物。
【請求項39】
小分子治療薬がベンゾジアゼピンである、請求項37記載の組成物。
【請求項40】
小分子治療薬がエピネフリンまたはその類似体である、請求項37記載の組成物。
【請求項41】
1つまたは複数の薬学的に許容される賦形剤が、糖類、界面活性剤、アミノ酸、および緩衝剤からなる群より選択される、請求項1記載の組成物。
【請求項42】
糖類が、トレハロース、デキストロース、スクロース、マンノース、およびフルクトースからなる群より選択される、請求項41記載の組成物。
【請求項43】
賦形剤が、ポリソルベート20、ポリソルベート80、ミグリオール810、ミグリオール812、およびミグリオール840からなる群より選択される、請求項41記載の組成物。
【請求項44】
アミノ酸が天然アミノ酸である、請求項41記載の組成物。
【請求項45】
アミノ酸がプロリンまたはシステインである、請求項41記載の組成物。
【請求項46】
アミノ酸が、トリプトファン、フェニルアラニン、アルギニン、またはヒスチジンである、請求項41記載の組成物。
【請求項47】
緩衝剤が、ヒスチジン、クエン酸塩、コハク酸塩、および乳酸塩からなる群より選択される、請求項41記載の組成物。
【請求項48】
前記流体がトリアセチンまたはミグリオール812である、請求項1記載の組成物。
【請求項49】
以下の工程を含む、疾患もしくは障害に罹患しているかまたは疾患もしくは障害になりやすい動物またはヒトにおいて該疾患または障害を治療するか、予防するか、改善するか、または診断する方法:
請求項1記載の組成物を該動物またはヒトに皮下、皮内または筋肉内注射する工程。
【請求項50】
シリンジに取り付けられた針を含む組み合わせ装置を調製する工程であって、該装置が、治療用量の少なくとも1つの活性な薬学的成分を前記動物またはヒトに送達するのに十分な量でシリンジのバレル内に前記組成物を含む、工程;
前記動物またはヒトの皮膚層、皮下層、または筋肉層にシリンジ-針の組み合わせの針を導入する工程;および
シリンジに取り付けられた針の内腔を通じてシリンジのリザーバからペーストを吐出させるようにシリンジのプランジャを移動させ、それによって針を通じて前記動物またはヒトにペーストを吐出する工程であって、該リザーバが、該内腔の内部第2横方向寸法よりも大きい内部第1横方向寸法を有し、該第2横方向寸法が0.1~0.9mmである、工程
を含み、
該ペーストが、350mg/Lを超える固形分濃度を有し;かつ
該ペーストが、30μL/sを超える流量で吐出される、
請求項49記載の方法。
【請求項51】
針およびリザーバの少なくとも一方に配置されたルアーフィッティングを介して針をリザーバに結合する工程を含む、請求項50記載の方法。
【請求項52】
ペーストの流量が、プランジャの移動速度に対して実質的に線形に比例する、請求項50記載の方法。
【請求項53】
第1横方向寸法が第2横方向寸法よりも3~40倍大きい、請求項50記載の方法。
【請求項54】
第1横方向寸法が1~5mmである、請求項50記載の方法。
【請求項55】
第2横方向寸法が0.1~0.9mmである、請求項50記載の方法。
【請求項56】
針が18ゲージまたはそれより小さいサイズを有する、請求項50記載の方法。
【請求項57】
針が23ゲージまたはそれより小さいサイズを有する、請求項56記載の方法。
【請求項58】
針が27ゲージのサイズを有する、請求項56記載の方法。
【請求項59】
ペーストの注入量が10μLより大きい、請求項50記載の方法。
【請求項60】
ペーストの注入量が15μL~3000μLである、請求項59記載の方法。
【請求項61】
ペーストの注入量が30μL~1000μLである、請求項59記載の方法。
【請求項62】
ペーストが、350mg/mLより大きい固形分濃度を有する、請求項50記載の方法。
【請求項63】
ペーストが、350~850mg/mLの固形分濃度を有する、請求項62記載の方法。
【請求項64】
ペーストが、1%~99%の固形分含量を有する、請求項50記載の方法。
【請求項65】
ペーストが、30%~40%の固形分含量を有する、請求項50記載の方法。
【請求項66】
ペーストが、1.0~1.5g/mLの密度を有する、請求項50記載の方法。
【請求項67】
疾患または障害が、糖尿病性疾患または障害、炎症性疾患または障害、神経学的疾患または障害、がん、感染性疾患、細菌性疾患、真菌性疾患、ウイルス性疾患、および、炎症性、神経学的、骨学的、胃腸性、循環器性、心血管性、皮膚、筋肉性、または発達性の徴候または症状を伴う疾患、障害、または状態からなる群より選択される、請求項49記載の方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
関連出願の相互参照
本願は、2021年9月9日に出願の米国仮特許出願第63/242,405号および2022年6月13日に出願の米国仮特許出願第63/351,786号の優先権の恩典を主張し、それらの開示はそれらの全体において参照により本明細書に組み入れられる。
【0002】
発明者または共同発明者による先開示に関する記載
本明細書において開示される材料の一部は米国特許第8,110,209号、第8,790,679号および第9,314,424号、ならびに米国特許出願公開第2017/0216529号に開示されている。
【0003】
発明の分野
本発明は、概して、少なくとも1つの活性な薬学的成分を、特にペーストの形態で、高濃度で含有する薬学的製剤の非経口、すなわち、皮内、皮下および/または筋肉内注射に関し、そのような製剤、そのような製剤の製造および使用の方法、ならびにそのような製剤を含むキットを提供する。
【背景技術】
【0004】
関連技術の記載
非経口注射とは動物の皮膚または粘膜のうちの1つまたは複数の層の下またはそれを通しての注射を介した薬物、薬剤またはワクチンの投与を指す。標準的な注射は動物、例えば、ヒト患者の皮下または筋肉内領域に行われる。大部分の治療剤を送達するために必要な0.1~3.0cc(ml)の注入量を受け入れるべく、浅い皮膚部位よりも組織が容易に拡張するためこれらの深い部位が標的とされる。
【0005】
概して、注射は、(1)すぐに注射できる溶液、(2)患者に注射する直前に溶媒と組み合わせることができる乾燥可溶性製品(溶質)、(3)投与前に好適な注射媒体と組み合わせることができる乾燥不溶性製品、(4)すぐに注射できる懸濁液;および(5)すぐに注射できるエマルジョン、を含む様々なカテゴリに分類されてきた。そのような注射可能な製剤は、静脈内、皮下、皮内、筋肉内、脊髄内、大槽内、および髄腔内を含む経路によって投与される。治療剤および治療される疾患または障害の性質によって投与経路がすぐに決まる。しかしながら、所望の投与経路により治療製剤自体が制約される。例えば、皮下投与向けの溶液では、注射の周辺領域における神経および組織への刺激を回避するために、等張化に細心の注意を払う必要がある。同様に、不溶性粒子が毛細血管を塞いでしまう可能性を考慮して懸濁液は血流には直接投与されない。
【0006】
他の剤形および投与経路(例えば、経口、経皮)と比較して、注射剤は、即時的な生理学的作用(例えば、静脈内注射を介して)、多くの薬物に伴う腸吸収の問題の回避、患者の血流への所望用量の正確な投与、を含む特定の利点を有する。一方、注射剤の欠点の1つは、特定の薬学的活性剤に伴って投与部位に存在する疼痛および不快感や、皮下または静脈内に針が挿入されるトラウマである。投与される注射のたびに患者にはある程度の不快感がある。
【0007】
現在、バイオ医薬品は典型的には無菌溶液に再構成され、例えば18~30ゲージの範囲の、大きなゲージの針を用いて皮下または筋肉内領域に投与されている。疼痛は、とりわけ、針が貫通する深さ、針の「ゲージ」のサイズ、大量の注射、および注射部位からの薬物の拡散によって引き起こされる。注射剤の投与に伴う疼痛によるその問題に加えて、注射に関する現在の実施形態には他の欠点もある。例えば、多くのタンパク質および徐放性薬物は投与直前に再構成する必要がある。薬物の投与は柔軟性に欠けかつ不正確になる場合がある。さらに、多くの製剤は薬物を物理的および/または化学的な分解(例えば、加水分解)から保護するために冷蔵する必要がある。さらに、現在の投与システムは注射装置がかなりの量の薬物製品を保持するという点で無駄が多い。さらに、要求される必要量の送達を行うために、注射用製剤は典型的には濃縮および安定化されていなければならない。標準的な注射剤は液体形態で付与される。液体または凍結乾燥粉末として販売されている製品は注射前に水性担体で再構成する必要がある。多くの治療用タンパク質およびワクチン製品は保存時の安定性を高めるために乾燥した固体形態で製造される。これらの製剤は注射前に、注射用滅菌水(SWFI)、リン酸緩衝液、または等張食塩水を含む薬学的に許容される媒体中で溶液または懸濁液になるまで希釈/再構成される。
【0008】
より最近では、水分が少ない懸濁液、コロイドまたはペーストの形態での高濃度の薬学的製剤の調製および使用が記載されている(例えば、それらすべての開示がそれらの全体において参照により本明細書に組み入れられる米国特許第8,110,209号(特許文献1)、米国特許第8,790,679号(特許文献2)および米国特許第9,314,424号(特許文献3)、ならびに米国特許出願公開第2017/0216529号(特許文献4)を参照されたい)。そのような製剤は従来の水性の薬学的製剤において見られるよりも実質的に高い濃度で、活性な薬学的成分を含有する。ペースト、つまり非溶媒液体中に分散させた固体の二相混合物は薬剤を送達する(例えば、皮内に)ためには効果的な剤形?(例えば、固体と比較して)となり得る。例えば、ペーストは典型的な溶液(たとえば、水溶液)よりもはるかに高い固形分(例えば、薬物)濃度を達成できる可能性がある一方で、ペースト内の活性成分が固体状態で(例えば、粉末として)製剤化され得るため、水溶液と比較して優れた安定性ももたらす。このアプローチは、水溶液にあまり溶けないか、または患者に送達するために低濃度の高水性製剤へと製剤化される際に化学的な分解(例えば、加水分解)を起こしやすくかつ/または物理的に不安定(例えば、凝集)になりやすい活性な薬学的成分を製剤化するために特に有利になり得る。
【0009】
ペーストは、比較的硬くかつ高い粘稠度を備えた油性物質(例えば、油または炭化水素基剤)中に細かく分散した固体(例えば、粉末粒子)を高い割合で含有する半固体の剤形である。ペーストの実際の固形分含量(または固形分濃度 - いずれの場合も製剤中の固体の量を記載しており、「固形分含量」は製剤(固体プラス液体)の総重量に対する固体の重量パーセントを表す一方で、「固形分濃度」は製剤中の単位体積あたりの固体の濃度(例えば、g/mL、mg/mLなど)を表す)は主に構成粉末の特性に応じて異なり、USP-NFの定義にあるものを下回る場合も上回る場合もある(例えば、それらすべての開示がそれらの全体において参照により本明細書に組み入れられる米国特許第8,110,209号(特許文献1)、米国特許第8,790,679号(特許文献2)、米国特許第9,314,424号(特許文献3)、および米国特許第11,129,940号(特許文献5)を参照されたい)。ペーストを調製するためには、粉末に加えられる流体の最小量が、粉末粒子をコーティングするのに十分なものでなければならない。理想的な状況では、すべての粉末間接触が完全に遮断され、各粉末粒子が任意の他の粒子と接着/付着/凝集していない。しかしながら、実際には、多くの微粉化粉末は凝集性が高く、高せん断混合技術を適用したとしても、すべての直接的な粉末間接触を完全に遮断することは可能ではない場合がある。さらなる流体を次いで混合物に加えて粉末粒子間の隙間(すなわち、空隙容量)を埋めることで、ペーストの降伏応力を超えた際に粒子が流体として流動することができる。故に、非常に低密度の粉末(すなわち、表面積対体積比が高い粉末)は、表面積対体積比がより低い粉末よりも、ペーストを形成するために多くの流体を必要とする。したがって、さらに検討するように、ペーストのパーセント固形分含量は大きくばらつく場合があり、ペーストが調製されるプロセス(例えば、非限定的例は、凍結乾燥、噴霧乾燥、噴霧凍結乾燥、薄膜凍結、溶媒抽出/交換、コアセルベーション、および当技術分野で公知のさらなる粒子工学的技術を含む)を含む複数の要因に応じて異なる場合がある。
【0010】
二相系(液体(希釈剤/非溶媒)相中に分散した固体(粒子)相の両方を含有する)であるので懸濁液のカテゴリに分類されることが多いが、ペーストは、組成物中の粒子状物質(例えば、粉末)の濃度が十分に高いため市販の医薬品に関連する保存条件および保存期間にわたって粒子が流体中で沈降することが防止されるという点で、従来の懸濁液、およびゲルなどの固形分濃度が高い他の製剤、とは物理的に異なる。これが、ゲル、クリーム、泡状物および他の「半固体」薬学的剤形と比較して、ペーストに硬い粘稠度をもたらし、ペーストを高度に粘性にする。
【0011】
したがって、そのようなペーストの非経口(例えば、皮内、皮下および/または筋肉内)送達(例えば、注射)は困難な場合がある。特に、そのようなペーストは、典型的には、従来の水溶液と比較した場合に著しく高い見掛け粘度を有し、概して、従来のシリンジを用いたそのような高粘度ペーストの注射は、不可能ではないにしても、困難であると考えられている(例えば、過剰な力を必要としかつ/または、例えば、大きな針の使用による過度の痛みを引き起こす)。さらに、均質に分散した粒子状物質を含有する液体の二相混合物であるため、これらの組成物は送達装置の部分的および/または完全な詰まりの影響を特に受けやすく、治療用ペーストを皮内送達する可能性へのさらなる制限をもたらしている。
【0012】
ペーストを注射する方法はこれまでに開示されている。例えば、米国特許第8,790,679号(特許文献2)、米国特許第8,110,209号(特許文献1)および米国特許第9,314,424号(特許文献3)、ならびに米国特許出願公開第2017/0007675号(特許文献6)および米国特許出願公開第2017/0216529号(特許文献4)(それらすべての開示はそれらの全体において参照により本明細書に組み入れられる)は皮内投与向けの治療用ペーストの調製を開示しており、ペースト製剤には、典型的には、標準的なシリンジ内では流動特性が悪いため、そのような製剤を送達するには新規な針/シリンジ設計が必要であることを示している。送達を達成するために、注射装置は針の内腔にフィットし得るプランジャであって、装置に充填された薬学的製剤の全量が針の内腔に充填され、容積式設計を用いて投与時に患者へと押し出されるように作用するプランジャを組み込んでいることが好ましい。しかしながら、特にこのタイプの構成では、針の内腔内にフィットするプランジャであって、充填された薬学的製剤の実質的にすべて(例えば、100%に近いか、またはそれに等しい)が針を通して注射位置に吐出されるような様式で作動時に針の端部に向かって移動するプランジャが必要になるであろう。
【0013】
当分野では周知のように、市販のシリンジは針の内腔の内径よりも数倍大きな内径を有している。例えば、多くの市販の注射用医薬品において用いられている標準的な1mLのロングシリンジは内径がほぼ6.4mmである(25Gの針でのほぼ0.26mmと比較して)。さらに、従来技術に記載の注射装置は標準的な針を通して非常に少量のペーストおよび/または流体を送達することしかできない。一例としては、皮下注射に用いられる典型的な針は27ゲージ(つまり27G)の超薄肉(UTW)で6mmのロング針である。この針は内径がほぼ300μm(0.300mm)である。針の内部容積を高さ6mmおよび直径0.300mmの円柱としてモデル化すると、そのような針の内部に含めることができるペーストの量は4.24×10-4cm3、つまりほぼ0.42μLになる。皮内送達のための典型的な注入量は100~1000μL(0.1~1.0mL)の範囲であることが多く、適応症、薬物などによって送達量がさらに大きくなる場合がある(例えば、2000または3000μL)。よって、最も治療的に関連のある量の送達には非常に長くかつ非常に大きな(内径に関して)針が必要になるであろう。
【0014】
当技術分野でさらに検討されているように、「注射装置の針部分は長さが約6~約8cmであり、これによって半固体治療製剤の用量およびプランジャを収容するのに十分な内部容積を有する内腔を提供する。」米国特許出願公開第2006/0211982号(特許文献7)、段落[0115]。皮内(I.D.)および皮下(S.C.)投与のための典型的な針の長さは≧0.5インチ(つまり1.3cm)である。さらに深い筋肉内(I.M.)注射では僅か1.0~1.5インチ(つまり2.5~3.8cm)の針が一般的に採用される。したがって、粘稠な治療用ペーストの投与のために想定される針は市販の針の少なくとも2倍の長さでなければならないであろう。しかしながら、これらの長くかつ特別に設計された針を用い、かつ比較的大きな内径を想定しても、内腔内に入れることができる量は治療用量を達成するのに必要な量を依然として大幅に下回っている可能性がある。例えば、長さ8cmの18G針(内径0.84mm)の内容積はわずか4.4×10-2cm3、つまりほぼ44μLである。
【0015】
用量全体が針の内腔内に含まれる構成から投与することができるのは少量であることに加えて、そのような長い針は典型的には特別に製造されなければならず、それらの長さのために特定の患者にとっては恐怖を感じるかまたは嫌悪感を抱いたりする場合がある。さらに、注射の疼痛は針の直径全体(ゲージ)に関連し得るため、そのような大きい針は非常に痛い場合があり、よってそのような大きな針での複数回の注射を必要とする投与レジメンに対する患者のコンプライアンスに悪影響を及ぼす。
【0016】
したがって、当技術分野では、投与のために典型的に用いられる針に接続された標準的なシリンジを用いた、1つまたは複数の治療剤、特にそれら自体が比較的高分子量である治療剤(例えば、抗体(モノクローナルおよび/またはポリクローナル)およびそれらの断片または複合体、ワクチン、酵素、受容体作動性または拮抗性ペプチドおよびタンパク質、オリゴヌクレオチドおよびそれらを含むベクターなどを含む生物製剤)を高濃度で含む、高度に濃縮された粘稠な非ニュートン流体(ペーストなど)の非経口送達における使用のための保存安定性組成物、方法、キットおよび装置が必要とされている。針の内腔の容積を超え得る量のそのような治療用流体(ペーストを含む)の送達のための組成物、方法、キットおよび/または装置がさらに必要とされている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0017】
【特許文献1】米国特許第8,110,209号
【特許文献2】米国特許第8,790,679号
【特許文献3】米国特許第9,314,424号
【特許文献4】米国特許出願公開第2017/0216529号
【特許文献5】米国特許第11,129,940号
【特許文献6】米国特許出願公開第2017/0007675号
【特許文献7】米国特許出願公開第2006/0211982号
【発明の概要】
【0018】
本発明は高濃度の薬学的製剤の非経口投与、すなわち、皮内、皮下および/または筋肉内投与に適した組成物を提供し、そのような製剤、そのような製剤の製造および使用の方法、ならびにそのような製剤を含むキットを提供する。本明細書において記載される発明の特定の局面は、高濃度の活性な薬学的成分を含む非ニュートン流体およびペーストなどの粘弾性半固体組成物(さらには高粘度ニュートン流体)が標準的な(すなわち、市販の)シリンジ/針の組み合わせから非経口的に容易に送達することができるという発見を指向している。このように、本発明は、比較的少量の希釈剤または担体(従来の水性薬学的製剤と比較して)中に多量の活性な薬学的成分を含む薬学的製剤であって、特に、製剤が静脈内以外、例えば、皮下、皮内または非経口による患者への製剤の投与を可能にする様式、すぐに使用できる製剤(すなわち、患者への投与前に再構成または希釈する必要のないもの)を提供する様式、およびさらに従来達成されてきたよりも長期の保存安定性を提供し得る様式で製造された薬学的製剤を提供する。よって、本発明は、従来は静脈内送達されるのみであった薬剤の製造、保存および非経口送達を容易にする - すなわち、大量の薬剤(投与経路に関係なく)にかわって、より少量の皮内、皮下または筋肉内注射を用いて同じ治療効果をもたらすことができる。特定の態様では、このアプローチは、多量の薬学的製剤の非経口注入に伴うことが多い注入部位の有害反応の減少と結び付けられる。
【0019】
1つの局面では、本発明は、高固形分含量ペーストの形態の、治療剤または活性な薬学的成分の非経口注入のための高濃度/高粘度の注射用製剤(例えば、見かけの粘度が約50cP超、約100cP超、約200cP超、または約250cP超の粘度を有する製剤)を製造する方法を提供する。発明のこの局面に係る特定の方法は、1つまたは複数の活性な薬学的成分を含む水性製剤を噴霧乾燥および凍結乾燥する工程および、次いで、非経口注入による投与に適した直径の小さな針を通して送達できるように、得られた粉末を処理(例えば、粉砕、篩過など)してより大きな凝集体を破壊し、直径が比較的小さくかつサイズ分布が狭い粉末および粉末粒子を生成する工程を含む。そのような粉末を次いで1つまたは複数の非溶媒希釈液と混合して、動物における疾患または身体障害を治療するか、改善させるか、予防するかまたは診断するための、動物(例えば、ヒトまたは獣医動物)への少量の注射に好適な高固形分含量および高活性成分濃度のペースト製剤を製造する。発明は発明のそのような方法によって製造されるそのようなペースト製剤も提供する。
【0020】
さらなる局面では、本発明は、治療剤または活性な薬学的成分の非経口(例えば、皮内、皮下および/または筋肉内)投与のための高濃度/高粘度の注射用製剤、ならびに高濃度/高粘度で保存安定性がありすぐに使用できる(すなわち、使用前に再構成および/または希釈する必要がない)製剤が得られる様式でそのような製剤を製造する方法を提供する。本発明の目的には、「治療剤」または「活性な薬学的成分」または「薬学的に活性な成分」(これらの語句は本明細書においては互換的かつ均等に用いられており、当業者には容易に理解される)は、状態、病気または疾患の予防、診断、緩和、治療または治癒に用いられる薬物、ワクチン、ホルモン(特にペプチドホルモン、例えば、インスリン、グルカゴン、プラムリンチド、ヒト成長ホルモン、プロラクチン、乳房栄養ホルモン、バソプレシン、オキシトシン、チロキシン、コルチゾールなど)、抗体(モノクローナル抗体およびポリクローナル抗体を含む)またはそれらの断片(例えば、Fab断片、Fc断片など)、抗体コンジュゲート(別の活性な薬学的成分にコンジュゲートした、すなわち直接的または間接的にリンクした抗体またはその断片を含む)、抗体複合体(例えば、多量体免疫グロブリン複合体)、抗生物質、酵素、および他の生物製剤(例えば、成長因子、コロニー刺激因子、インターロイキン、インターフェロンなど)、または小分子活性薬学的成分(抗がん小分子活性成分、抗生物質、抗真菌剤、抗炎症剤、抗痙攣薬、抗凝固剤および抗血栓薬、抗発作治療薬および予防薬、抗片頭痛治療薬および予防薬などを非限定に含む)を包含する。特定の態様では、製剤は、治療化合物の徐放をもたらす1つまたは複数のポリマーまたはコポリマー担体、例えば、ポリ(エチレングリコール)(「PEG」)、ポリ(乳酸-コ-グリコール酸)(「PLGA」)などを含む。特定のそのような製剤では、治療剤自体が1つまたは複数のそのようなポリマーまたはコポリマーと複合体化またはコンジュゲートしていてもよい。さらなる局面では、発明の製剤は、概して、1つまたは複数の賦形剤、担体または緩衝剤、例えば、1つまたは複数の糖類(例えば、トレハロース、デキストロース、スクロース、マンノース、フルクトースなど)、1つまたは複数の糖アルコール(例えば、マンニトール、キシリトール、グリセロール、エリスリトール、マルチトール、ソルビトールなど)、1つまたは複数の緩衝剤(例えば、ヒスチジン、クエン酸塩、コハク酸塩、乳酸塩など)、1つまたは複数の界面活性剤(例えば、スパン20、ポリソルベート20、ポリソルベート80、コリフォール(登録商標)HS15)、トリグリセリド(例えば、ミグリオール(登録商標)810、ミグリオール(登録商標)812、ミグリオール(登録商標)818、ミグリオール(登録商標)829、ミグリオール(登録商標)840)など)、1つまたは複数のアミノ酸(これらは任意の天然アミノ酸、例えば、ヒスチジン、プロリン、グリシン、メチオニン、トリプトファン、フェニルアラニン、アルギニンおよびシステインなどであってもよい)、ならびに当業者にはよく馴染みのある他の薬学的に許容される担体、賦形剤および充填剤を含む。
【0021】
発明によって提供される製剤は安定しており、典型的には使用前に再構成する必要がなく、単回用量の注射用製剤の場合は約0.1マイクロリットルから最大で約3mLまで、点滴用製剤の場合は最大で約10mLまでの濃縮半固体または固体製剤を含み、薬学的に許容される担体内に均質に含まれた有効量の少なくとも1つの治療剤(および、いくつかの態様では、混合物、特に、典型的な水性製剤中では互いに適合性のない2つ以上の治療薬が存在するような合剤中では1つより多い、例えば、2、3、4つまたはそれ以上の治療剤)を含む。特定のそのような局面では、製剤は重量基準で固形分を約10%~約95%、固形分を約15%~約90%、または固形分を約20%~約85%、特定の好ましい態様では、重量基準で約40%~約70%、特に重量基準で約40%、約42%、約45%、約50%、約55%、約60%、約65%、約67%または約70%を含む。特定のそのような局面では、治療剤または薬学的活性剤は約10ナノメートル(0.01マイクロメートル)~約100マイクロメートルの範囲の平均粒度を有し、約1mmより大きな粒子はなく、特定のそのような態様では、約0.1マイクロメートル~約25マイクロメートルの平均粒度を有し、約25マイクロメートルより大きな粒子はなく、特定の他の態様では、約1~約15マイクロメートルの平均粒度を有し、特に粒子のうちの少なくとも約半分は大きさが約2マイクロメートル~約8マイクロメートルの範囲である。特に、本製剤を製造するために用いられるプロセスは、必ずしも単分散であるとは見なされないが、粒子が比較的均一な大きさの製剤をもたらす。例えば、粒子の測定されたサイズ分布(例えば、レーザー回折などの標準的な技術によって測定され、D10、D50およびD90として報告される)は0.5~5.0、または1.0~3.0、または1.5~2.5の範囲のスパン(典型的には、当分野では((D90-D10)/D50)として規定される)を生じ得る。理想的には、治療剤の粒子は、本明細書における他の箇所に記載されるように発明によって提供される製造プロセスを用いて制御することができる特性である高い充填効率および最小限の表面積を促すようなサイズおよびサイズ分布のものである。
【0022】
特定の態様では、製剤は、製剤にチキソトロピー特性を付与する1つまたは複数の担体(例えば、1つまたは複数の希釈剤、添加剤および/またはポリマー)をさらに含む。治療剤は薬学的に許容される担体に好ましくは均質に組み込まれ、製剤はペーストまたはスラリーの形態においてチキソトロピー性または非ニュートン状態になる。
【0023】
特定の好ましいそのような態様では、治療剤は粉末形態で存在し、薬学的に許容される担体に均質に含有される。担体は好ましくは生体適合性であり、治療剤粉末に対して非溶媒であり(担体中で粉末の溶解が起こらないかまたは最小限しか起こらないように)、特定の好ましい態様では、粒子を流動させる様式で治療剤粉末の粒子間の空間を満たす。特定のそのような態様では、担体は、安息香酸アルキル、安息香酸アリール、安息香酸アラルキル、トリアセチン、非プロトン性極性溶媒(例えば、N-メチル-2-ピロリジン5(NMP)、ジメチルスルホキシド(DMSO))、中鎖トリグリセリド(MCT、例えば、ミグリオール(登録商標)810、ミグリオール(登録商標)812N、ミグリオール(登録商標)818、ミグリオール(登録商標)829、ミグリオール(登録商標)840など)、アルカン、環状アルカン、塩素化アルカン、フッ素化アルカン、過フッ素化アルカンおよびそれらの混合物からなる群より選択される。担体は単一の流体もしくは半固体であってもよいし、あるいは部分的もしくは完全に互いに混和性であり得るかまたはエマルジョンを形成する2つ以上の流体の混合物などの互いに非混和性である2つ以上の流体(もしくは半固体)の混合物であってもよい。
【0024】
特定の態様では、注射用製剤は制御(遅延)または持続放出をもたらし得る。そのような態様では、例えば、製剤は、動物の表皮、真皮または皮下層への注射を介した投与の際に製剤からの治療薬の放出を遅延させるのに有効な量の薬学的に許容されるポリマーを含み得る。そのような製剤中の活性な薬学的(治療)成分の制御または持続放出を促進する薬剤は組成物の連続(希釈剤)相および/または分散(粒子状物質)相に組み込まれ得る。さらに、または代替的には、治療剤はリポソームに組み込まれるか、または多糖類および/もしくは他のポリマーにコンジュゲートするかもしくは組み込まれて、動物の表皮、真皮または皮下層への注射を介した投与の際に製剤からの治療剤の制御放出を提供し得る。特定の好ましい態様では、治療剤は、生体適合性ポリマーと、該ポリマーと粘稠なゲルを形成しかつ組成物による水の取り込みを制限する水混和性の低い生体適合性溶媒とに組み込まれ得る。そのような組成物は、例えば、その全体が参照により本明細書に組み入れられる米国特許第6,130,200号に開示されており、例えば、PEGポリマーまたはPLGAコポリマーを有効可塑化量の溶媒(例えば、安息香酸の低級アルキルまたはアラルキルエステルを含む)と共に利用して該ポリマーとゲルを形成する。
【0025】
さらなる態様では、本発明は、可能であったものよりも少ない量で動物(例えば、ヒトまたは獣医もしくは農業用動物)により高い濃度または多くの活性な薬学的成分を送達するかまたは治療剤の無痛または実質的に無痛の投与を行うための、動物への非経口的、例えば、皮内(表皮または真皮に)、皮下または筋肉内的な注射用製剤の投与の方法であって、約20~約85重量%の固形分を含み、有効量の治療剤を含む濃縮半固体または固体製剤(例えば、スラリーまたはペースト)を動物の表皮、真皮または皮下の皮膚層に約0.1~約50マイクロリットル注射する工程を含む方法も提供する。
【0026】
好ましい態様では、治療剤は、狭小なゲージの針(例えば、25~30ゲージ)を通した注射に適した粒度をもたらすために、例えば、噴霧乾燥または凍結乾燥を介して処理される。治療剤は、典型的には、例えば、安定性を促進し、所望の薬物動態プロファイルを達成し、かつ/または治療剤の製造し易さを向上させるために、含まれる1つまたは複数の賦形剤と共に粉末へと処理される。
【0027】
そのような製剤を製造するための例示的なプロセスは本明細書における他の箇所、特に以下の実施例に提供されている。
【0028】
特定の好ましい態様では、治療剤は非水性または半水性の薬学的に許容される担体に組み込まれる。さらに好ましい態様では、製剤は注射装置からの注射の際にずり流動化特性を示す。
【0029】
本発明は、部分的には、本発明の注射用製剤、注射装置および調製方法を利用した、動物、例えば、ヒト患者または獣医もしくは農業用動物を治療する方法をさらに指向する。
【0030】
「皮内」という用語は、動物、例えば、ヒトまたは獣医もしくは農業用動物の皮膚、すなわち、表皮または真皮の皮膚層への投与を包含する。
【0031】
「皮下」という用語は、動物、例えば、ヒトまたは獣医もしくは農業用動物の皮膚層より下方であるが筋肉層より上方への投与を意味する。
【0032】
「筋肉内」という用語は、動物、例えば、ヒトまたは獣医もしくは農業用動物の筋肉層への投与を意味する。
【0033】
「薬学的に許容される担体」という用語は、本発明の化合物を動物またはヒトに送達するための薬学的に許容される溶媒、懸濁剤、希釈剤またはベヒクルを意味する。担体は液体、半固体または固体であり得、ニュートン流体または非ニュートン流体であってもよい。
【0034】
「薬学的に許容される」成分、賦形剤または構成要素という用語は、合理的なベネフィット/リスク比に見合う、過度の有害な副作用(毒性、刺激、およびアレルギー反応など)を伴わずに(または低減して)ヒトおよび/または動物での使用に適したものである。
【0035】
「治療剤」という用語は、単独で、または他の薬学的賦形剤もしくは不活性成分と組み合わせて、ヒトまたは動物への投与時に、所望の、有益で、しばしば薬理学的な、効果をもたらす薬剤を意味する。
【0036】
「化学的安定性」という用語は、治療剤に関して、酸化または加水分解などの化学的経路によって生成される分解産物の割合が許容範囲であることを意味する。特に、製剤は、製品の意図された保存温度(例えば、室温)で1年間の保存;または製品の1年間の30℃/相対湿度60%での保存;または製品の1か月、好ましくは3~6か月間の40℃/相対湿度75%での保存後に、形成された分解産物が最大で約50%以下、例えば、約10%、約20%、約30%、約40%または約50%以下であれば、化学的に安定であるとみなされる。
【0037】
「物理的安定性」という用語は、治療剤に関して、形成される凝集体(例えば、二量体、三量体およびより大きな形態)の割合が許容範囲であることを意味する。特に、製剤は、製品の意図された保存温度(例えば、室温)で1年間の保存;または製品の1年間の30℃/相対湿度60%での保存;または製品の1か月、好ましくは3~6か月間の40℃/相対湿度75%での保存後に、形成された凝集体が約15%以下であれば、物理的に安定であると見なされる。
【0038】
「安定な製剤」という用語は室温で2ヶ月間保存した後に化学的および物理的に安定な治療剤が少なくとも約65%残存していることを意味する。特に好ましい製剤はこれらの条件下では化学的および物理的に安定な治療剤を少なくとも約80%保持するものである。特に好ましい安定な製剤は滅菌照射(例えば、ガンマ、ベータまたは電子線)後に分解を示さないものである。
【0039】
「バイオアベイラビリティ」という用語は、本発明の目的では、製剤が投与された動物またはヒトの血流および/または組織に治療剤が製剤から吸収される程度として規定される。
【0040】
「全身の」という用語は、対象への有益な薬剤の送達または投与に関して、有益な薬剤が対象の血漿中で生物学的に有意なレベルで検出可能であることを意味する。
【0041】
「ペースト」という用語は、粘性の注射可能な半固体を形成するための濃厚な粘稠度を有する薬学的に許容される担体中に分散させた治療剤の濃縮物を意味する。ペーストは、「分散相」を含む粒子状物質(すなわち、固相)と、「連続相」を含む希釈剤(すなわち、非溶媒)とを備えた二相系として分類し得る。
【0042】
「スラリー」という用語は薄いペーストを意味する。
【0043】
「制御放出」および「持続放出」という用語は、本発明の目的では、血液(例えば、血漿)濃度が約1時間以上、好ましくは12時間以上の期間にわたり治療範囲内であるが毒性濃度未満に維持されるような速度での治療剤の放出として規定される。
【0044】
特定の局面では、本発明は発明の高濃度/高粘度薬学的ペースト製剤が予め充填されたシリンジを提供する。特定のそのような態様では、予め充填されたシリンジは、リザーバを規定するシリンジ本体と、リザーバ内に配置されかつ少なくとも約100~1000mg/mL、約100~1000mg/mL、または100~1000mg/mL超(特に約100mg/mL、約200mg/mL、約300mg/mL、約350mg/mL、約400mg/mL、約425mg/mL、約450mg/mL、約475mg/mL、約500mg/mL、約525mg/mL、約550mg/mL、約575mg/mL、約600mg/mL、約625mg/mL、約650mg/mL、約675mg/mL、約700mg/mL、約750mg/mL、約800mg/mL、約850mg/mL、約900mg/mL、約950mg/mL、および約1000mg/mL、最も具体的には約300mg/mL~約850mg/mL)の固形分濃度を有するペーストと、リザーバ内に配置されかつリザーバからペーストを吐出するために移動するように構成されたプランジャおよび/またはピストンと、シリンジ本体に配置されかつリザーバと流体連通するルアーフィッティングと、リザーバを密閉するためにルアーフィッティングに配置される密閉キャップとを含む。いくつかの態様は内腔を規定する針を含んでおり、針はペーストの皮内送達を可能にするためにルアーフィッティングを介してシリンジ本体に結合されるように構成されており、リザーバは内腔の内部第2横方向寸法よりも大きい内部第1横方向寸法を有する。この予め充填されたシリンジの態様は、ルアーロックまたはルアースリップ(「スリップチップ」)フィッティングを介してシリンジに固定された針を有し得る。本発明の代替的な態様は、例えば、ルアーフィッティングと同様に針をシリンジ本体から取り外すことができない固定針構成を用いてシリンジ本体に永久的に固定された針を有し得る。
【0045】
特定の態様では、予め充填されたシリンジは、内部第1横方向寸法を有するリザーバを規定するシリンジ本体と、リザーバ内に配置され、少なくとも約300~600mg/mL、約300~600mg/mL、または約300~600mg/mL超の固形分濃度を有するペーストと、第1横方向寸法よりも小さい内部第2横方向寸法を有する内腔を規定し、ペーストの皮内送達を可能にするためにリザーバと流体連通するように構成された針と、リザーバ内に配置されかつリザーバから内腔を通してペーストを吐出するために移動するように構成されたプランジャとを含む。
【0046】
この予め充填されたシリンジのいくつかの態様では、ペーストは15、40、50、100、150、250または500μL~1000、2000または3000μLの体積を有する。特定の局面では、ペーストは15μL~1000μLの体積を有してもよい。いくつかの態様では、ペーストは最大で約40μLまでの体積を有する。いくつかの態様では、ペーストは最大で約50μLまでの体積を有する。いくつかの態様では、ペーストは最大で約100μLまたは約150μLまでの体積を有する。いくつかの態様では、ペーストは最大で約200μL~約1000μL、例えば、約200μL、約300μL、約350μL、約400μL、約450μL、約500μL、約550μL、約600μL、約650μL、約700μL、約750μL、約800μL、約850μL、約900μL、約950μLまたは約1000μLまでの体積を有する。
【0047】
この予め充填されたシリンジのいくつかの態様は、プランジャに印加される約50、60、もしくは70または多くても50、60、もしくは70ニュートン(N)の大きさの力の下では、少なくとも約15、約15、または15マイクロリットル/秒(μL/s)超の流量でペーストを吐出するように構成される。特定の態様では、プランジャに印加される力は5、10、20、25、30、35、40、45、50、55、60、65、または70N未満であってもよい。さらなる態様では、プランジャに印加される力は25N未満であってもよい。いくつかの態様は、プランジャに印加される約50~70Nまたは多くても50~70Nの大きさを有する力の下で、65μL/s超の流量でペーストを吐出するように構成される。別の局面、特に自動注射器または他の補助送達装置(例えば、再利用可能な自動注射器)を用いるものでは、予め充填されたシリンジまたは装置は上記の力、または約70Nよりも大きな力、例えば、約75N、約80N、約85N、約90N、約95Nまたは約100Nの流量でペーストを吐出するように構成される。
【0048】
本キットのいくつかの態様は、内部第1横方向寸法を有するリザーバを規定するシリンジ本体と、シリンジ本体に結合されるように構成されかつ第1横方向寸法よりも小さい内部第2横方向寸法を有する内腔を規定する針とを含む。いくつかの態様では、ペーストはリザーバ内に配置される。いくつかの態様では、シリンジ本体はリザーバと連通したルアーフィッティング(例えば、ルアーロックまたはルアースリップフィッティング)と、リザーバを密閉するためにルアーフィッティングに配置された密閉キャップとを含み、針はルアーフィッティングを介してシリンジ本体に結合されるように構成される。別の態様では、針は取り外し可能に接続されることなくシリンジ本体と一体化されている。いくつかの態様では、リザーバは50、75、または100μL~1000、2000、または3000μLの容量を有する。
【0049】
本キットのいくつかの態様は、リザーバ内に配置され、かつプランジャに印加される本明細書における別の箇所に記載されるような大きさの力の下で30μL/s超の流量でリザーバから内腔を通ってペーストを吐出するために移動するように構成されたプランジャを含む。いくつかの態様は、リザーバ内に配置され、かつプランジャに印加される本明細書における別の箇所に記載されるような大きさの力の下で65μL/s超の流量でリザーバから内腔を通ってペーストを吐出するために移動するように構成されたプランジャを含む。
【0050】
代替的な態様はパッチポンプまたは大容量注射器としても公知のボーラス注射器の使用である。特定の局面では、患者への粘稠なペーストの長期送達のためにパッチポンプを採用することができる。これらの注射器の例は、SmartDose(商標)電子ウェアラブルボーラス注射器(West Pharmaceutical Services, Inc.)およびLapas(登録商標)ボーラス注射器(Bespak)ならびに当技術分野で公知の他のもの(例えば、Badkar A.V. et al., Drug Des. Devel. Ther. 15: 159-170 (2021), doi:10.2147/DDDT.S287323を参照されたい)を含む。これらの装置は身体に装着することができ、従来の自動注射器または手動操作シリンジよりもゆっくりとした注入速度での高濃度ペーストの自動的な皮下または皮内送達を提供することができる。これらの装置では、ペーストは内部リザーバに充填され、低体積流量(手動シリンジおよび自動注射装置と比較して)で患者にゆっくりと注入される。これらの装置は皮膚に貼付されるパッチのように装着し得、数分または最大で約1時間までにわたり薬剤を送達する。これらのシステムで採用され得る体積流量の非限定的な例として、10分間で3mLの治療用ペーストの送達は5μL/秒の送達速度を必要とするであろう。1時間で3mLの量のペーストの送達は0.83μL/秒の送達速度を必要とするであろう。
【0051】
一定量のペーストを皮内注射するための本方法のいくつかの態様はシリンジのプランジャを移動させてシリンジのリザーバからシリンジの針の内腔を通してペーストを吐出する工程を含み、リザーバは内腔の内部第2横方向寸法よりも大きい内部第1横方向寸法を有し、例えば、第2横方向寸法は0.1~0.9mmであり、ペーストは固形分含量が約20%~約80%(その間にあるすべての値および範囲を含む)であり、固形分濃度が約100mg/mL超、例えば、約300~約800mg/mL(その間にあるすべての値および範囲を含む)であり、特に、活性な薬学的成分の濃度が約300~約600mg/mL(その間にあるすべての値および範囲を含む)であり、ペーストはプランジャが0.5~50ミリメートル/秒(mm/s)の速度で移動されるにつれて30μL/s超の流量で吐出される。いくつかの態様は患者の皮膚組織内へ、および/または皮膚組織を通じて、針を配置する工程を含む。いくつかの態様はリザーバのルアーフィッティングから密封キャップを取り外す工程を含む。いくつかの態様は針およびリザーバのうちの少なくとも一方に配置されたルアーフィッティングを介して針をリザーバに結合する工程を含む。いくつかの態様では、ペーストの流量はプランジャの移動速度に実質的に線形に比例する。
【0052】
本方法のいくつかの態様では、ペーストの注入量は約1μLより大きい。いくつかの態様では、ペーストの注入量は、単回注入用量の場合、15、30、または100μL~1200、2000、または3000μLであり、点滴用途の場合、最大で約10mLまでである。本シリンジ、キット、および/または方法のいくつかの態様では、第1横方向寸法は第2横方向寸法よりも大きい。いくつかの態様では、第1横方向寸法は1、2、3、4~5、6、7、8、9、10、11、12mmである(その間にあるすべての値および範囲を含む)。いくつかの態様では、第2横方向寸法は0.1、0.2、0.3、または0.4~0.5、0.6、07、0.8、または0.9mmである(その間にあるすべての値および範囲を含む)。
【0053】
本シリンジ、キット、および/または方法のいくつかの態様では、針はサイズが18ゲージまたはそれより大きいゲージである(ここで、より大きいゲージは針の外径および/または内径に関して物理的に小さい針を表す)。いくつかの態様では、針は大きさが23ゲージまたはそれより小さい。いくつかの態様では、針は大きさが25ゲージまたは27Gまたはそれより小さい(すなわち、ゲージがより大きい)。いくつかの態様では、針は露出長が約50mm以下である。いくつかの態様では、針は露出長が約40mm以下である。いくつかの態様では、針は露出長が約13mm以下である。いくつかの態様では、針は露出長がほぼ8mmである。いくつかの態様では、針は露出長がほぼ6mmである。
【0054】
本シリンジ、キット、および/または方法のいくつかの態様では、ペーストは、200mg/mLを超える固形分濃度を有する。いくつかの態様では、ペーストは、200~800mg/mLの固形分濃度を有する。いくつかの態様では、ペーストは、300~750mg/mLの固形分濃度を有する。いくつかの態様では、ペーストは固形分含量が1%~99%である。いくつかの態様では、ペーストは固形分含量が30%~75%である。いくつかの態様では、ペーストは固形分含量が40%~65%または50%~60%である。いくつかの態様では、ペーストは密度が約0.5、0.7、0.75、1.0、1.1、1.2、1.3~約1.4、1.5、1.6、1.7、1.8、1.9、2.0g/mLである(その間にあるすべての値および範囲を含む)。
【0055】
本開示で用いられるように、ペーストは、固体に対して非溶媒であるかまたはこれをほんのわずかに可溶化する液体(例えば、生体適合性希釈剤)中に分散した固体(例えば、薬剤と、必要に応じて安定化剤および/または賦形剤とを含有する粉末)の二相混合物である(例えば、およびそれゆえ、希釈剤は典型的には、しかしながら常にというわけではないが、本質的に親油性である)。ペーストは十分に大きな荷重または応力(典型的には「降伏応力」と呼ばれる)が印加されるまで固体として挙動し、その時点でペーストは液体のように流動する(例えば、ペーストは半固体として規定し得る)。ペーストは非ニュートン流体挙動、特にずり流動化特性および/または粘弾性挙動を示し得る。
【0056】
「結合された」という用語は接続されると規定されるが、必ずしも直接的ではなく、かつ必ずしも力学的ではないが、「結合された」2つのアイテムは互いに一体化し得る。
【0057】
「1つの(a)」および「1つの(an)」という用語は、本開示が明示的に記載している場合を除いて、1つまたは複数として規定される。
【0058】
「実質的に」という用語は、当業者には理解されるように、特定されたもののうちの、必ずしも全部というわけではないが、大部分がそうであると規定される(かつ、特定されたものを含む、例えば、実質的に90度とは90度を含み、実質的に平行とは平行を含む)。任意の開示の態様では、「実質的に」、「ほぼ」、および「約」という用語は特定されたもののうちの「[~パーセント]の範囲内」と置き換えられ得、ここでパーセントは.1、1、5、10、および20パーセントを含む。
【0059】
本明細書において用いられるように、「皮内(intracutaneous)注射」という用語は表皮、皮内(intradermal)、皮下または筋肉内注射を包含する。
【0060】
本明細書において用いられるように、「相」は、境界面によって系の他の部分から分離された、系のうちの均質で物理的に別個の部分として規定される。物質には3つの主要な相(固体、液体および気体)が存在することが公知である。一例として、粒子状物質に対して非溶媒である液体中に懸濁した粒子状物質を含有する系は二相系であるとみなされる。逆に、巨大分子と液体分子の間に明らかな境界が存在しないように液体全体にわたって均一に分布した有機高分子からなる系は単相溶液であると見なされる。
【0061】
本明細書において用いられるように、「半固体」とは塑性流動挙動を示す材料の属性である。半固体材料は注ぐことができず、室温ではその容器に容易に適合せず、低いせん断応力では流動しない。したがって、半固体には、塑性(つまり、非可逆的)変形が起こる前に超えなければならない降伏応力がある。半固体は典型的には粘弾性レオロジー流動プロファイルを有する。
【0062】
したがって、半固体は特定の物理的組成物または薬学的剤形ではなく、むしろ材料の物理的特性を指す。よって、さまざまな材料を、物理的に異なる組成物であるにもかかわらず、半固体材料の属性を備えているため、半固体とみなすことができる。例えば、USP-NFはクリームおよび薬用泡状物の両方が半固体の粘稠度を有すると記載しており、よって、それ以外の点では物理的に別個の組成物であるにもかかわらず、両方とも半固体流体または半固体とみなし得る。同様に、ゲルおよびペーストは、物理的には別個であるにもかかわらず、両方とも半固体と呼ばれることが多い。ゲルは、USP-NFによって、小さな粒子の半固体分散液、または剛性を与えるゲル化剤を含有する溶液が相互浸透した大きな分子の溶液である剤形として規定されている。よって、ゲルは単相または二相系のいずれかであり得る。Remington: The Science and Practice of Pharmacy (2006)で規定されているように、ゲルを構成する成分が完全に可溶性もしくは不溶性ではない場合があるか、または凝集体を形成しかつ光を分散させる場合があるため、ゲル系は透明または不透明のいずれかであり得る。ゲルは「分散相中の粒子または溶媒和された高分子の絡み合った三次元ネットワークによって分散媒の動きが制限され…絡み合いかつ結果として生じる内部摩擦が粘度の増加および半固体状態の原因となる半剛体系として」規定されている。
【0063】
高分子と液体の間に明らかな境界が存在しない様式で高分子が液体全体に分散したゲルは単相ゲルと呼ばれる。ゲル塊が小さな別個の粒子の凝集体からなる場合では、ゲルは二相系として分類され、マグマまたはミルクと呼ばれることが多い。ゲルおよびマグマはそれぞれコロイド寸法の粒子を含有するのでコロイド分散体と見なされる。「コロイド」物質として概して受け入れられているサイズ範囲は粒子が1nm~0.5μmの範囲にある場合である。
【0064】
対照的に、ペーストは、硬い粘稠度を有する、細かく分散した固体を高い割合で含有する半固体の剤形として規定し得る。前述のように、ペーストの実際の固形分含量は主に構成粉末の特性に応じて異なるであろう。ペーストを調製するためには、粉末に加えられる流体の最小量が、個々の粉末粒子の周囲に流体の単層をコーティングしかつこれを生じるのに十分な量でなければならない。これはすべての粉末間接触が完全に遮断された理想的な状況であり、現実には、多くの微粉化粉末は凝集性が高く、高せん断混合技術を適用したとしても、直接的な粉末間接触をすべて完全に遮断することは不可能な場合があることに留意されたい。次いでさらなる流体を混合物に加えて粉末粒子間の隙間(すなわち、空隙容量)を埋めることで、ペーストの降伏応力を超えた際に粒子が流体として流動することができる。したがって、非常に低密度(すなわち、表面積対体積比が高い)の粉末および/または充填性が低い(すなわち、粒子間の隙間が大きい)粉末は、体積に対する表面積の比が低くかつ/または良好な充填性を備えた粉末よりも、ペーストを形成するために体積/質量の大きな流体を必要とする。よって、ゲルおよびペーストはいずれも半固体の性質を備える場合があり、いずれも半固体と呼ばれる場合があるが、物理的には異なる剤形である。特に、ペーストの固形分濃度は典型的にははるかに高く、粒子はコロイド領域の上限(0.5μm)よりもはるかに大きいことが多い。全体として、USP-NFは、クリーム、泡状物、ゲル、ゼリー、軟膏、およびペーストを含む少なくとも6つの異なる剤形を半固体として規定している。しかしながら、これらの薬学的剤形は異なる物理的特性を有する異なる物理的組成物であるにもかかわらず、すべて半固体のレオロジー特性を有し、よって広く半固体と呼ばれることは当業者には容易に認識されかつ理解されるであろう。
【0065】
「固形分含量」とは、本明細書において用いられるように、ペーストを構成する二相(固相プラス液相)の総質量に対する割合としての、ペースト中の固相(例えば、粉末)の重量パーセント(重量%)を指す。固形分含量は、典型的には、%を単位として示される/検討される。一例として、0.65gの固相と0.35gの液相をブレンドすることによって1gのペーストを調製した場合、このペーストの固形分含量は65%になる。
【0066】
「固形分濃度」は、本明細書において用いられるように、ペーストの単位体積当たりの固相の質量を指す。固形分濃度の典型的な単位はmg/mLおよびg/mLを含む。ペーストの固形分濃度は固形分含量に関連しており、ペーストの固形分含量にペーストの密度(ヘリウム比重瓶法などの好適な方法を用いて測定)を乗算することによって取得することができる。例えば、密度が1250mg/mL(1.25g/mL)および固形分含量が60%のペーストの固形分濃度はほぼ750mg/mL(0.75g/mL)となるであろう。ペーストの固相中の薬物濃度はペーストの固形分濃度以下であり得、典型的には、薬物濃度を希釈するさらなる成分(例えば、増量化または安定化賦形剤)が固相中に存在するために固形分濃度より低くなることに留意されたい。
【0067】
「非ニュートン流体」とは、本明細書において用いられるように、粘度がせん断速度またはせん断速度履歴に応じて異なる流体を規定している。これは粘度が、典型的には、適用されるせん断速度に依存しないニュートン流体とは対照的である。
【0068】
「チキソトロピー性」とは、本明細書において用いられるように、ずり流動化特性を示す流体を規定している。より具体的には、チキソトロピー性流体は時間依存的なずり流動化特性を示し、これは時間非依存的なずり流動化特性を示す流体の特徴となり得る擬塑性流体とは対照的である。しかしながら、本願の目的では、チキソトロピー性流体とは概してずり流動化流体のことを記載している。
【0069】
「薬学的に許容される」という用語は、本明細書において用いられるように、通常の薬学的用途に適していること、すなわち、患者に重篤な有害事象を引き起こさないことを意味する。
【0070】
「薬学的に許容される担体」という用語は、本発明の化合物を動物またはヒトに送達するための、薬学的に許容される溶媒、懸濁剤またはベヒクルを意味する。担体は液体、半固体または固体であってもよい。
【0071】
「薬学的に許容される」成分、賦形剤または構成要素という用語は、合理的なベネフィット/リスク比に見合う、過度の有害な副作用(毒性、刺激、およびアレルギー反応など)を伴わずにヒトおよび/または動物での使用に適したものである。
【0072】
本明細書においては「薬学的に活性な成分」、「活性な成分」または「活性な薬学的成分」という用語と互換的に用いられる「治療剤」という用語は単独で、または他の薬学的賦形剤もしくは不活性成分と組み合わせて、ヒトまたは動物への投与時に、所望の、有益で、しばしば薬理学的な、効果をもたらす薬剤を意味する。本発明の特定の局面では、治療剤は、状態、病気または疾患の予防、診断、緩和、治療または治癒に用いられる薬物(例えば、小分子、ペプチド、タンパク質、生物製剤)、ワクチン、オリゴヌクレオチド、遺伝子治療ベヒクル/ベクターなどを包含する。
【0073】
「化学的安定性」という用語は、治療剤に関して、酸化または加水分解などの化学的経路によって生成される分解産物の割合が許容範囲であることを意味する。特に、製剤は、製品の意図された保存温度(例えば、4℃(冷蔵)または25℃(室温))で1年間の保存;または製品の1年間の30℃/相対湿度60%での保存;または製品の1か月、好ましくは3~6か月間の40℃/相対湿度75%での保存後に、形成された分解産物が約20%以下であれば、化学的に安定であると見なされる。
【0074】
「物理的安定性」という用語は、治療剤に関して、形成される凝集体(例えば、二量体、三量体およびより大きな形態)の割合が許容範囲であることを意味する。特に、製剤は、製品の意図された保存温度(例えば、冷蔵されるかまたは室温)で1年間の保存;または製品の1年間の30℃/相対湿度60%での保存;または製品の1か月、好ましくは3~6か月間の40℃/相対湿度75%での保存後に、形成された凝集体が約15%以下、好ましくは約1~10%または1~5%以下であれば、物理的に安定であると見なされる。
【0075】
「安定な製剤」という用語は室温で2ヶ月間保存した後に化学的および物理的に安定な治療剤が少なくとも約65%残存していることを意味する。特に好ましい製剤はこれらの条件下で化学的および物理的に安定な治療剤を少なくとも約80%保持する製剤である。
【0076】
「バイオアベイラビリティ」という用語は、本発明の目的では、治療剤が製剤から吸収される程度として規定される。
【0077】
「全身の」という用語は、対象への有益な薬剤の送達または投与に関して、有益な薬剤が対象の血漿中で生物学的に有意なレベルで検出可能であることを意味する。
【0078】
「スラリー」という用語は薄いペーストを意味する(「ペースト」という用語は下に規定する)。
【0079】
「制御放出」という用語は、本発明の目的では、血液(例えば、血漿)濃度が約1時間以上、好ましくは12時間以上の期間にわたり治療範囲内であるが毒性濃度未満に維持されるような速度での治療剤の放出として規定される。
【0080】
さらに、特定の様式で構成された装置またはシステムは少なくともその様式で構成されているが、具体的に記載されたもの以外の様式で構成することもできる。
【0081】
「含む(comprise)」(ならびに「comprises」および「comprising」などのcompriseのあらゆる形態)、「有する(have)」(ならびに「has」および「having」などのhaveのあらゆる形態)、「含む(include)」(ならびに「includes」および「including」などのincludeのあらゆる形態)、ならびに「含有する(contain)」(ならびに「contains」および「containing」などのcontainのあらゆる形態)という用語はオープンエンドな連結動詞である。結果として、1つまたは複数の要素を「含む(comprises)」、「有する(has)」、「含む(includes)」、または「含有する(contains)」装置はそれら1つまたは複数の要素を備えるが、それらの要素のみを備えることに限定されない。同様に、1つまたは複数の工程を「含む(comprises)」、「有する(has)」、「含む(includes)」、または「含有する(contains)」方法はそれら1つまたは複数の工程を備えるが、それらの工程のみを備えることに限定されない。
【0082】
装置、システム、および方法のいずれかのあらゆる態様が、記載された工程、要素、および/または特徴のいずれかを含む(comprise)/含む(include)/含有する(contain)/有する(have)というよりは、むしろそれらからなるかまたはそれらから本質的になる場合がある。よって、どのクレームにおいても、「からなる」または「から本質的になる」という用語は、所与のクレームの範囲をオープンエンドの連結動詞を用いた場合のものから変更するように、上記のオープンエンドの連結動詞のいずれとも置き換えることができる。
【0083】
記載または図示されていなくとも、1つの態様の特徴または特徴群は、本開示または態様の性質によって明示的に禁じられていなければ、他の態様にも適用し得る。
【0084】
本発明の他の目的、利点、および特徴は、本明細書において示される説明、図面、実施例およびクレームを検討した際に、当業者には容易に明らかになるであろう。
【図面の簡単な説明】
【0085】
以下の図面は例示であり限定を図示するものではない。簡潔さおよび明瞭さのため、所与の構造のあらゆる特徴が、その構造が見られるあらゆる図面において常に符号付けされているわけではない。同一の参照番号が必ずしも同一の構造を示しているわけではない。むしろ、同じ参照番号が類似の特徴を、または類似の機能性を備えた特徴を示すために用いられる場合もあるし、異なる参照番号がそうである場合もある。図面は(特に断りのない限り)正確な縮尺で描かれており、これは少なくとも図面に描かれた態様に関しては描かれた要素の大きさが互いに対して正確であることを意味している。
図1図1は、異なる噴霧乾燥機(Buchi B290)装置設定を用いて発明の噴霧乾燥方法に従って調製された治療用タンパク質粉末(この場合、モノクローナル抗体(mAbs))の粒子を示す一対の走査型電子顕微鏡写真である。図1A:入口温度90℃、アスピレータ65%(27m3/hr)、ノズルガス流量473L/hr(圧力降下0.41bar)、供給液ポンプ流量3%(約1mL/min)、および噴霧乾燥後の二次乾燥または処理(例えば、篩過)無し。図1B:入口温度70℃、アスピレータ85%(34m3/hr)、ノズルガス流量473L/hr(圧力降下0.41bar)、供給液ポンプ流量10%(約3mL/min)、および噴霧乾燥後に二次乾燥(凍結乾燥)および篩過を実施した。
図2図2は、下の表4に示すように、異なる噴霧乾燥機装置設定を用いた発明の噴霧乾燥方法に従って調製された治療用タンパク質粉末(この場合、モノクローナル抗体)の粒子を示す一連の走査型電子顕微鏡写真である。図2A:製剤1;図2B:製剤2;図2C:製剤3;図2D:製剤4;図2E:製剤5;図2F:製剤6;図2G:製剤7;図2H:製剤8。
図3図3は、異なる噴霧乾燥機装置処理設定を用いた発明の噴霧乾燥方法に従って調製された治療用タンパク質粉末(この場合、モノクローナル抗体)の粒子のサイズ分布(走査型電子顕微鏡を介した目視検査によって評価)を示す一連の棒グラフである。製剤番号および噴霧乾燥機設定は上の図2の説明に記載されたものに対応している。図3A:製剤1;図3B:製剤2;図3C:製剤3;図3D:製剤4;図3E:製剤5;図3F:製剤6;図3G:製剤7;図3H:製剤8。
図4図4は、噴霧乾燥前後(噴霧乾燥後の時間ゼロ、および噴霧乾燥後に50℃で1日間保存した後)の発明の方法に従って調製された特定の製剤のパーセント凝集を示すチャート(上)、およびこれらの結果を図示した棒グラフである。
図5図5は、噴霧乾燥前後(噴霧乾燥後の時間ゼロ、および噴霧乾燥後に50℃で1日間保存した後)の発明の方法に従って調製された特定の製剤のパーセント凝集を示すチャート(上)、およびこれらの結果を図示した棒グラフである。二次乾燥は噴霧乾燥後に凍結乾燥機(lyo)内で減圧下にて実施した。
図6図6は、噴霧乾燥前後(噴霧乾燥後の時間ゼロ、および噴霧乾燥後に50℃で1日間保存した後)の発明の方法に従って調製された特定の製剤のパーセント凝集を示すチャート(上)、およびこれらの結果を図示した棒グラフである。
図7図7は、噴霧乾燥前後(噴霧乾燥後の時間ゼロ(T=0)、および40℃で5日間保存する後乾燥後)の発明の方法に従って調製された特定の製剤のパーセント凝集を示すチャートである。
図8図8は、噴霧乾燥前後(噴霧乾燥後の時間ゼロ、および噴霧乾燥後に50℃で1日間保存した後)の発明の方法に従って調製された特定の製剤のパーセント凝集を示すチャート(上)、およびこれらの結果を図示した棒グラフである。
図9図9は、噴霧乾燥前後(噴霧乾燥後の時間ゼロ、および噴霧乾燥後に50℃で1日間保存した後)の発明の方法に従って調製された特定の製剤のパーセント凝集を示すチャート(上)、およびこれらの結果を図示した棒グラフである。
図10図10は、噴霧乾燥前後(噴霧乾燥後の時間ゼロ、および噴霧乾燥後に50℃で1日間保存した後)の発明の方法に従って調製された特定の製剤のパーセント凝集を示すチャート(上)、およびこれらの結果を図示した棒グラフである。
図11図11は、噴霧乾燥前後(噴霧乾燥後の時間ゼロ、および噴霧乾燥後に50℃で1日間保存した後)の発明の方法に従って調製された特定の製剤のパーセント凝集を示すチャート(上)、およびこれらの結果を図示した棒グラフである。
図12図12は、噴霧乾燥前後(噴霧乾燥後の時間ゼロ、および噴霧乾燥後に50℃で1日間保存した後)の発明の方法に従って調製された特定の製剤のパーセント凝集を示すチャート(上)、およびこれらの結果を図示した棒グラフである。
図13図13は、噴霧乾燥前(「SD前」)および後(噴霧乾燥後の時間ゼロ(t0)ならびに噴霧乾燥後50℃で1日間保存した後(50C×1d))の発明の方法に従って調製されたシステイン含有製剤のイオン交換クロマトグラフィーで観察されたメインピーク(図13A)、酸性バリアント(図13B)および塩基性バリアント(図13C)を示す一連のチャートである。
図14図14は、噴霧乾燥前(「SD前」)および後(噴霧乾燥後の時間ゼロ(「t0」)ならびに噴霧乾燥後50℃で1日間保存した後(「50C×1d」))の発明の方法に従って調製された、一方がシステインを1.5mg/mL含有し(図14A)、他方がシステインを6mg/mL含有する(図14B)、2つの製剤の代表的なトレースの比較である。
図15図15は、入口温度が異なる噴霧乾燥前後(噴霧乾燥後の時間ゼロ、および噴霧乾燥後に50℃で1日間保存した後)の発明の方法に従って調製された特定の製剤のパーセント凝集を示すチャート(上)、およびこれらの結果を図示した棒グラフである。
図16図16は、市販の製剤を噴霧乾燥した治療用ペプチド粉末(この場合はモノクローナル抗体)の粒子を示す一連の走査型電子顕微鏡写真であり、ハーセプチン(TmAb)(図16A)、アービタックス(セツキシマブ)(図16B)およびピリヴィジェン(免疫グロブリン)(図16C)の噴霧乾燥製剤で観察された粒子を示す。
図17図17は、レーザー回折を用いて測定した、図16に示す3つの製剤における粒度分布を示すチャートである。D10:10パーセンタイルの粒度;D50:50パーセンタイルの粒度;D90:90パーセンタイルの粒度。スパン=(D90-D10/D50)
図18図18は、23Gの針(下トレース)または27Gの針(上トレース)を備えた1mLのロングシリンジを用いて発明のペースト製剤を1mL吐出するのに必要な注入力(テクスチャアナライザを用いて測定)を示す線グラフである。
図19図19は、市販の水性形態(赤色のトレース)、発明の噴霧乾燥法によって調製され次いで水で再構成された粉末(緑色のトレース)、または発明のゼリジェクト(XeriJect)(商標)ペースト製剤(ピンク色のトレース)における、トラスツズマブ(ハーセプチン(登録商標))の製剤で得られたピークを示すイオン交換クロマトグラムである。
図20図20は、試験動物に静脈内注射した市販の水性形態(青色のトレース)ならびに10mg/Kgの用量および他方は20mg/Kgの用量を用いた発明の2つのゼリジェクト(商標)ペースト製剤を皮下注射した、試験動物に注射し血漿抗体濃度について評価したトラスツズマブ(ハーセプチン(登録商標))製剤の薬物動態(PK)を示す線グラフ(上)であり(図20A);特定のPKパラメータを表形式で示すチャート(図20B)である。
図21図21は、市販の水性製剤から凍結乾燥によって(図21A)または本発明の噴霧乾燥法(図21B)によって調製されたヒト酵素製剤粉末の一対の走査型電子顕微鏡写真である。
図22図22は、図21で用いた酵素の市販の水性製剤(図22A)の静脈内注射、または水性酵素製剤(図22B、「グループ2」))もしくは本発明の方法に従って調製された酵素のゼリジェクト(商標)ペースト(図22B、「グループ3」)の皮下注射の薬物動態学的(PK)結果を示す一連の線グラフである。
図23図23は、図21で用いた酵素の市販の水性製剤(図23A)の静脈内注射、または水性酵素製剤(図23B、「グループ2」))もしくは本発明の方法に従って調製された酵素のゼリジェクト(商標)ペースト(図23B、「グループ3」)の皮下注射の薬力学的結果を示す一連の線グラフである。
図24図24は、市販の水性グルカゴン製剤(図24Aおよび24B中の「GEK」)または本発明の方法に従って調製されたグルカゴンのゼリジェクト(商標)ペースト(図24Aおよび24B中の「ゼリスペースト」)の皮下注射の薬物動態学的(図24A)および薬力学的(図24B)結果を示す一連の線グラフである。
図25図25は、市販の水性製剤から本発明の噴霧乾燥法によって調製されたヒト組換えタンパク質製剤粉末の一対の走査型電子顕微鏡写真である。図25A:低濃度供給液;図25B:高濃度供給液。
図26図26は、標準肉厚または薄肉のいずれかの27G針を固定した市販の大および小シリンジを用いて、図25に示す粉末から調製された組換えタンパク質ペーストを1秒あたり30μLの体積流量で約150μL注射するのに必要な注入力(テクスチャアナライザを用いて測定)を示す棒グラフである。
図27図27は、本発明の噴霧乾燥法により調製されたヒトモノクローナル抗体(ベバシズマブ、BmAb)製剤粉末の一対の走査型電子顕微鏡写真である。図27A:製剤XJ-1(pH4.0);図27B:製剤XJ-2(pH6.0)。
図28図28は、ミニブタへの注射後のゼリジェクトベバシズマブ(BmAb)の様々な製剤の経時的な血漿濃度を示す一対の薬物動態線グラフである。図28A:均等目盛;図28B:同一の結果であるが片対数目盛。
図29図29は、ミニブタへの注射後のゼリジェクトベバシズマブの様々な製剤についての最大血漿濃度までの時間(Tmax)を示す棒グラフである。
図30図30は、用量について補正していない(図30A)または補正した(図30B)、ミニブタへの注射後のゼリジェクトベバシズマブの様々な製剤についての最大血漿濃度(Cmax)を示す一対の棒グラフである。
図31図31は、ミニブタへの注射後のゼリジェクトベバシズマブの様々な製剤についての血漿半減期(T1/2)を示す棒グラフである。
図32図32は、ミニブタへの注射後のゼリジェクトベバシズマブの様々な製剤について用量補正総動物曝露量を示す一対の棒グラフである。図32A:用量補正AUClast図32B:用量補正AUC
図33図33は、ミニブタへの注射後のベバシズマブの様々な製剤について、注射の14日後の用量補正部分動物曝露(AUC336)を示す棒グラフである。
図34図34は、ユカタンミニブタにおけるヒューマリンRおよびゼリジェクトインスリン製剤の皮下投与後の平均(±SEM)血漿インスリン濃度を示す線グラフである。
図35図35は、ユカタンミニブタにおけるヒューマリンRおよびゼリジェクトインスリン製剤の皮下投与後の平均(±SEM)血中グルコース濃度を示す線グラフである。
図36図36は、本発明の方法によって製造される例示的な噴霧乾燥IgG粉末製剤の一対の走査型電子顕微鏡写真である。画像は異なる倍率で提供されている。高(図36A;スケールバー=10μm)および低(図36B;スケールバー=20μm)倍率の2つの異なる倍率が示されている。
図37図37は、本発明の方法によって製造される例示的な噴霧乾燥IgG粉末製剤の粒度分布分析を示す線グラフである。
図38図38は、本発明の方法によって製造される例示的な噴霧乾燥IgGペーストの一連の走査型電子顕微鏡写真である。画像は異なる倍率で提供されている。高(図38A;スケールバー=10μmおよび38B;スケールバー=8μm)および低(図38C;スケールバー=20μm)倍率の3つの異なる倍率が示されている。
図39図39は、本発明の方法によって製造される例示的な噴霧乾燥IgG粉末製剤の粒度分布分析を示す線グラフである。X軸:距離(mm);Y軸:力(N)。
【発明を実施するための形態】
【0086】
発明の詳細な説明
特に定義した場合を除いて、本明細書において用いられるすべての技術的および科学的用語は本発明が属する技術分野における当業者によって通常は解釈されるものと同じ意味を有する。本明細書において記載されるものと同様のまたは均等な任意の方法および材料を本発明の実施または試験において用いることができるが、好ましい方法および材料は下に記載されている。
【0087】
本発明者のうちの数名による先の研究では、比較的高濃度の薬学的に活性な化合物を含有することができる高固形分濃度のペーストの形態で調製される製剤を製造するための方法が記載された(例えば、それらすべての開示がそれらの全体において参照により本明細書に組み入れられる米国特許第8,790,679号、第8,110,209号、および第9,314,424号、ならびに米国特許出願公開第2017/0007675号および第2017/0216529号を参照されたい)。本発明は、より多くの固形分含量を有し、ひいてはより高濃度の活性成分を含有できる(注射量の減少、および、特に患者への皮下注射の場合、患者への送達時の活性物質の薬物動態学的および薬力学的性質のより容易な制御をもたらす)だけでなく、長期間にわたり保存安定性であり得る製剤が得られる、この以前の研究の劇的な発展および改良を表している。さらに、本発明によって提供される方法を用いると、これまでに可能と考えられていた、ひいてはこれまでに実証されてきたよりも高い分子量および/または多くの固形分含量の活性成分を含む製剤を製造することができる。
【0088】
本発明には、ワクチンまたは標的治療製品の場合、薬剤の体循環または免疫系への抗原の曝露をもたらす、患者の皮内空間への濃縮治療剤の投与の効果を生じる少なくとも4つの要素がある。これらの要素は次のとおりである:(i)著しく低い治療剤濃度で調製される対応する(典型的には水性の)溶液を用いた場合に必要とされる多量の注射と比較して少量の注射;(ii)保護溶液(典型的には非水性)に囲まれた濃縮治療剤(例えば、薬物)粒子群または分散固体製剤;(iii)皮内投与に適した直径の小さな針;ならびに(iv)皮膚の表皮層、真皮層、皮下層、または筋肉内層への治療剤の濃縮分散液(例えば、ペースト、スラリー)の浅い注射。これらの要素のすべてを満たす組成物は、以前の組成物および方法と比較した場合に、達成可能な固形分配合量および得られるペースト製剤の保存安定性の両方の向上をもたらす本発明の製造方法によって提供される。
【0089】
組成物およびそれを製造する方法
第1の局面では、本発明は、皮内および/または筋肉内注射に用いられる典型的な針を通して送達することができ、1つまたは複数の活性な薬学的成分を含む、固形分含量が多くかつ粘稠なペーストを生成するかまたは製造する方法、およびそのような方法によって生成される組成物を提供する。特定のそのような局面では、本発明は、水性製剤が乾燥されて粉末製剤になり、非水性希釈剤と混合された場合に、比較的高い活性成分濃度を有し得、動物(例えば、ヒトまたは獣医動物)に、注射後に動物が経験する不快感および/または注射反応を最小限に抑える様式で1つまたは複数の活性な薬学的成分の治療用ボーラスを送達する比較的少量で投与するのに適した、高固形分濃度のペースト製剤の調製に用いられる方法を提供する。以前のそのような方法は、ペースト製剤を作製する際に用いられる粉末を調製するために特定の凍結乾燥、噴霧乾燥、および他の粒子工学的アプローチを利用していたが、本発明者らはそのような方法ではペーストの固形分含量および有効成分濃度の上限が望ましいものではないことを見出した。よって、本発明の1つの目的は、市販のシリンジ/針の組み合わせを用いて、針の詰まりを生じたり、または治療剤を受ける動物に不快感を引き起こすことが多い過剰な注入力の使用および/または送達時間を必要としたりせずに、比較的少量で皮内および/または筋肉内に送達することができる、より高い固形分濃度および増加した活性剤含有量を有するペースト製剤の形成を可能にする好適な製造方法を特定することであった。
【0090】
よって、1つの局面では、本発明は発明の目的に係る使用に適したペースト製剤を調製する方法を提供する。本発明者らは、高固形分濃度ペーストの調製には、活性な薬学的成分と1つまたは複数の薬学的に許容される賦形剤または担体との両方を含有する出発粉末材料を、好ましくは球形であり、好ましいサイズおよびサイズ分布(レーザー回折などの標準的な技術を用いて特性決定される)を有する粉末粒子の形成をもたらす様式で、調製することが必要であることを発見した。本明細書における実施例に記載されているように、そのような粉末は、これまでに利用可能であったものよりも高い固形分濃度のペースト(高い治療剤含有量の可能性がある)を有利に形成することができる。
【0091】
そのような粉末を作製するための好適な製造方法は以下の実施例1および2に詳細に記載する。簡単に説明すると、1つまたは複数の活性な薬学的成分の水性製剤は好適な溶液に対して緩衝液交換して(例えば、4~25℃)、タンパク質濃縮および/または緩衝液交換を促進させる。そのような好適な溶液は、1つまたは複数の糖(例えば、トレハロースまたはスクロース)、1つまたは複数の緩衝および/または安定化剤(例えば、乳酸塩、クエン酸塩、コハク酸塩、ヒスチジン、ホスフェート、グリシン、アルギニン、プロリン、メチオニンなど)、1つまたは複数の界面活性剤(surfactant)/界面活性剤(surface active agent)(例えば、ポリソルベート20、ポリソルベート80)などを含み得る。透析、ろ過、および遠心分離を非限定的に含む、タンパク質濃縮および/または緩衝液交換を促進するための受動的および/または能動的方法を用いることができる。例えば、水性製剤は、室温での接線流ろ過(TFF)を用い、続いて1つまたは複数の糖類(例えば、トレハロースまたはスクロース)、1つまたは複数の緩衝および/または安定化剤(例えば、乳酸塩、クエン酸塩、コハク酸塩、グリシン、プロリン、ヒスチジン、アルギニン、メチオニンなど)、1つまたは複数の界面活性剤(例えば、ポリソルベート20、ポリソルベート80)などを溶液に直接的に加えても調製し得る。好適な方法(例えば、透析、TFFなど)を用いた濃縮および/または緩衝液交換に続いて、水性製剤は2段階の乾燥に供される:(1)噴霧乾燥装置(例えば、BUCHI B-290ミニ噴霧乾燥機)の一定の設定を用いて粉末を噴霧乾燥する - すなわち、入口温度が約70℃~約90℃、好ましくは約70℃~80℃;B-290ボール流量計で測定した乾燥ガス流量が約40~60mm(ほぼ470~800L/hrに相当);アスピレータ流量がB-290対照に対して70%~100%(ほぼ30~40m3/hrに相当)、好ましくは約85%、90%、95%または100%;供給流量がB-290対照に対して約3~20%(1~6mL/minに相当);および(2)噴霧乾燥した粉末を減圧(真空)下で好適な時間にわたり乾燥させて、粉末の含水量を特定のレベルまで低下させる(例えば、5%(w/w)未満、4%(w/w)未満、3%(w/w)未満、2%(w/w)未満または1%(w/w)未満)。噴霧乾燥後の後続の乾燥工程は二次乾燥工程と呼ばれることがあり、当技術分野で公知の様々な技術を用いて実施することができる(例えば、周囲または他の温度で減圧下、周囲または他の温度で不活性ガスの連続流下など)。
【0092】
製造後、バルク固体相中に存在する凝集物を減少させることが望ましい場合は、得られた粉末を処理する(例えば、篩過、粉砕など)。このアプローチを用いて、本発明者らはより均一な球状形態と概して多分散(例えば、多分散は測定された粒度スパン(D90-D10/D50)≠1.00を示す)の粒度分布とを有すると見受けられる粉末出発材料を調製することに成功し、下の実施例で検討されるように発明の高固形分濃度のペースト製剤の調製のためのより好適な出発材料が得られた。
【0093】
ペーストは、概して、固相(例えば、粒子状物質、粉末)が液相(例えば、希釈剤)と混合されており、固相が概して液相に不溶性であるかまたは少なくとも完全に可溶性ではない、二相組成物として説明することができる。そのような混合物において、液相は連続相と呼ばれることがあり、固相は分散相と呼ばれる。当業者には理解されるように、「連続相」および「分散相」という用語は、同様の相を有する混合物から、例えば、非限定例としては水中油型(O/W)および水中油中水型(W/O/W)エマルジョンを含む互いに完全には混和しない2つ以上の液体から、調製される組成物を説明するために用いられることもある。二相組成物は、好適な溶媒にまたは相互に混和性の溶媒の混合物に溶解した1つまたは複数の化学物質を含有する調製物として概して説明される溶液などの単相組成物とは異なる。
【0094】
概して、ペーストは溶液と湿潤固体との間のスペクトルに属する多成分製剤として規定することができる。溶液中では、市販の医薬品に関連する保存期間(例えば、1か月、6か月、12か月、18か月、24か月)にわたってバイアルが静置されると最終的には粒子が沈殿し始める(例えば、重力下で)のに十分なほど固形分濃度は低い。スペクトルの反対側の末端は湿潤固体であり、液相に比べて固相が過剰にあり、湿った砂、ローム、シルトおよび/または粘土として広く説明できるテクスチャが得られる。ペーストとは対照的に、湿潤固体は、皮内および/または筋肉内注射に適したシリンジ-針の組み合わせの中を容易に流動せず、印加されたせん断力により破壊および/または崩壊しやすい可能性がある(例えば、振動および/または回転レオメーターを用いて)一方で、ペーストは流動性があり、同様のせん断条件下では概して均一に広がる。
【0095】
ペーストを調製するためには、粉末粒子の周囲に少なくとも流体のコーティングを生じるのに十分な量の非溶媒流体(希釈剤)が粉末に加えられる。これは個々の粉末粒子間のすべての直接的な粉末同士の接触が完全に遮断された理想的な状況であるが、実際には、多くの微粉化粉末は凝集性が高く(本明細書において記載される粒度範囲内を含む)、粉末処理(例えば、粉砕、篩過、破砕など)および/または高せん断混合技術の適用にもかかわらず、すべての直接的な粉末同士の接触を完全に遮断することは可能ではない場合があることに留意されたい。次いで、さらなる流体を混合物に加えて粉末粒子間の隙間(すなわち、空隙体積)を満たし、これによってペーストの降伏応力を超過した際に粒子が流体として流動することを可能にし得る。したがって、密度が非常に低い(すなわち、表面積対体積比が高い)粉末は、表面積対体積比がより低い粉末よりも、ペーストを形成するために多量の流体を必要とするであろう。上に記載した懸濁液と湿潤固体との間のスペクトルでは、ペーストは様々な固形分含量(例えば、48~55%)にわたって形成でき、その範囲内ではペーストの粘稠度は異なる場合がある(例えば、該範囲のうちの低固形分含量領域と比較して、高固形分含量領域では硬さが増す)が、組成物は懸濁液または湿潤固体とは依然として区別される(例えば、関連する保存期間にわたるその流動特性および/または固相の沈降し難さに関して)。ペーストが観察される/形成される固形分含量の領域/範囲はその構成成分である液相および固相の特性に応じて異なるが、固相が概して最も大きな影響を及ぼす。非限定例として、上に記載のように、密度がより低いおよび/または比表面積がより大きい(例えば、窒素吸着によって測定される)粉末は、より高い固形分含量範囲(例えば、58~64%)でペーストを形成し得る密度がより高いおよび/または比表面積がより小さい粉末よりも、固形分含量範囲が低い(例えば、15~23%)ペーストを形成し得る。固形分含量に大きな違いがあるにもかかわらず、前述のように、両方の組成物は懸濁液または湿潤固体とは区別されるであろう。
【0096】
ペーストは、典型的には、半固体および/または粘弾性組成物と呼ばれ、これは組成物/物質のレオロジー特性/挙動を説明することを意図した広義の用語である。これらの用語(「半固体」および/または「粘弾性」)は広範囲の薬学的剤形を包含し得る。よって、ゲルおよびペーストはいずれも半固体の性質を備え、いずれも半固体と呼ばれる場合があるが、物理的に異なる剤形である。特に、ペーストの固形分濃度は典型的にははるかに高く、粒子は概してコロイド領域の上限(0.5μm)よりもはるかに大きい。全体として、USP-NFは、クリーム、泡状物、ゲル、ゼリー、軟膏、およびペーストを含む少なくとも6つの異なる剤形を半固体として規定している。しかしながら、これらの薬学的剤形は異なる物理的組成物であるにもかかわらず、すべて半固体の特性を有し、よって広く半固体と呼ばれることは当業者には容易に認識されかつ理解されるであろう。
【0097】
ペーストは、粉末を1つまたは複数の流体非溶媒材料と混合することによる本発明の方法によって提供される粉末から形成することができる。発明のこの局面に係るペーストを調製する際に好適に用いられる非溶媒流体はミグリオール810もしくは812などの油、または他の薬学的に許容される化合物が含まれ、その非限定例はトリアセチンもしくは安息香酸ベンジルを含む。本発明の方法に係る使用に好ましいものはトリアセチンおよび/またはミグリオール812であり、これらは1つまたは複数の活性な薬学的成分を含有する粉末と混合/ブレンドされてペースト製剤を生じ、少なくとも約30%、好ましくは少なくとも約40%、好ましくは少なくとも約50%、少なくとも約55%、少なくとも約60%、少なくとも約65%、または少なくとも約70%の固形分濃度を有するペーストが得られる。次いで、そのようなペーストは、意図する投与経路に適したゲージ、肉厚および長さの市販の針(例えば、23G、25G、27Gまたは30G)を装着した市販のシリンジ(広口径または細口径のいずれか)に充填することができ、動物への皮内および/または筋肉内注射を介して比較的少量の治療用ペーストを送達するために用いることができる。
【0098】
当技術分野では公知のように(特に本明細書における他の箇所に記載されているように)、所与のシリンジ、針、および/または物質の組み合わせごとの注入力および/または流動抵抗は、例えば、シリンジのバレルが広くなると針の内腔がはるかに小さくなるためこの領域付近の断面積が急激に変化することにより、リザーバ出口付近の粘性効果によって実質的に左右され得ることが示される場合がある。さらに、ロバストな凝集体を形成しやすい凝集性の微粉化粉末を含有するペースト(凝集物は、加工、混合時に完全に分散されていないかつ/または長期保存中に形成される可能性がある2つ以上の粉末粒子を含む)は、シリンジのリザーバから針へのペーストの送達時に部分的および/または完全な詰まりを呈する可能性があることが観察されてきた。完全な詰まりは装置からの流体の流動を完全に妨げる。対照的に、部分的な詰まりは流体の流動を完全には妨げないが、送達時の力/圧力の急激な増加を意味し得、流体送達時の途切れをもたらす可能性がある。
【0099】
よって、本発明は、完全な詰まりおよび製剤中の粒子凝集をもたらすことなく、最終的にシリンジからのペーストのより良好な流動をもたらす出発材料および製剤の両方を製造する方法を提供することによって、これらの制約に対処する。
【0100】
特定の態様では、ペースト製剤は、意図された用途に適しておりかつペースト製剤と適合する任意の材料で作製され得るシリンジリザーバ内に配置される。リザーバ材料の非限定例は、ガラス(例えば、ホウケイ酸ガラス)およびプラスチック(例えば、ポリプロピレン、ポリカーボネート、ポリスチレン、環状オレフィンポリマーおよびコポリマーなど)を含む。上に記載のように、リザーバは任意の好適な寸法を有することができ、リザーバのうちの任意の好適な容積がペーストを含み得る。例えば、いくつかの態様では、ペーストは体積が15μL~1000μLである。いくつかの態様では、ペーストは体積が50μLを超えていてもよく、いくつかの態様では、ペーストは体積が100μLを超えていてもよい。いくつかの態様では、ペーストは体積が1000μLを超えていてもよく、いくつかの態様では、ペーストは体積が2000μLを超えていてもよい。リザーバ内に配置されるペーストの体積は場合によっては注入量と呼ばれることがある(例えば、ペーストの実質的に全量がシリンジから注射および/または射出される場合)。
【0101】
特定の態様では、本発明の製剤を送達するために、針が一体化されたシリンジ(すなわち、ルアーロックを介してなど取り外し可能に取り付けられることなく、永久的な固定具としてシリンジに取り付けられる)を好適に用いることができる。そのようなシリンジ/針の組み合わせは上記のシリンジおよび針の両方の寸法要件を適切に考慮したものである。発明のそのような局面に従って有用なシリンジ/針の組み合わせは、例えば、Becton DickinsonまたはMedtronic/Covidienから市販されている。
【0102】
本発明に係る使用に適したペーストは任意の好適な材料特性(例えば、固形分濃度、固形分含量、粘度プロファイル、密度、および/または同様のもの)を有し得る。例えば、いくつかの態様では、ペーストは固形分濃度が100mg/mL超、200mg/mL超、または300~500mg/mL(例えば、100、125、150、175、200、225、250、275、300、325、350、375、400、425、450、475、500、525、550、575、600、625、650、675、700、725、750、775、800、825、850、900、950、1000mg/mLまたはそれ以上のうちの任意の1つより大きいかまたはこれらのうちの任意の2つの間)であってもよい。さらなる例として、ペーストは固形分含量(例えば、ペーストの総質量に対する粉末の質量)が約30%~約70%(例えば、1、5、10、15、20、25、30、35、40、45、50、55、60、65、70、75、80、85%またはそれ以上のうちの任意の1つより大きいかまたはこれらのうちの任意の2つの間、好適には約30%、約35%、約40%、約45%、約50%、約55%、約60%、約65%または約70%)であってもよい。さらに別の例として、ペーストは密度が1.0~1.4g/mL(例えば、1.20g/mL)(例えば、1.0、1.1、1.2、1.3、1.4、1.5、1.6、1.7、1.8、1.9、2g/mLまたはそれ以上のうちのいずれか1つより大きいかまたはこれらのうちの2つの間)であってもよい。ペーストの活性な薬学的成分(「API」)に関して、本発明のペーストはペーストの総質量に対するAPI含有量が少なくとも約20%、例えば、約20%~約70%API、約30%~約65%API、約35%~約60%API、約20%~約50%API、約25%~約50%API、約20%~約40%API、約30%~約40%API、または約30%~約35%APIであってもよい(これらの範囲内のすべての値を含む)。
【0103】
特定の局面では、好適なペーストは固形分含量が35%、密度が1.15g/mL、および固形分濃度がほぼ400mg/mLのタンパク質ペーストであってもよい。特定の別の局面では、好適なペーストは固形分含量が50%、密度が1.25g/mL、および固形分濃度がほぼ625mg/mLのタンパク質ペーストであってもよい。特定の別の局面では、好適なペーストは固形分含量が65%、密度が1.3g/mL、および固形分濃度がほぼ845mg/mLのタンパク質ペーストであってもよい。一例では、そのようなペーストは、それぞれ21、22、23、25または27ゲージの標準肉厚、薄肉、超薄肉、極薄肉、特殊薄肉針などであって、異なる露出長(例えば、0.25、0.5、1.0インチ)の針を備えた様々なシリンジからペーストを吐出させることによって試験、特性決定、または最適化して、ペーストを動物に皮下送達するために必要な注入力を最小限に抑えつつ特定のペーストを少量で送達するための最適な市販の針とシリンジの組み合わせを決定することができる。
【0104】
体積流量(例えば、マイクロリットル/秒(μL/s))はリザーバの断面寸法およびプランジャの速度に応じて異なり得る。よって、異なるリザーバを備えたシリンジ間の体積流量はシリンジ間で適用されるプランジャ速度を変えることによって一致させてもよい。例えば、内部横方向寸法がより小さいリザーバ(例えば、100μL容量リザーバ)を有するシリンジは、所与の体積流量を達成するために、内部横方向寸法がより大きいリザーバ(例えば、1000μL容量リザーバ)を有するシリンジよりも高いプランジャ速度を必要とし得る。さらなる例として、様々な容量および内部寸法のリザーバを有する4つの例示的なシリンジについて、表1は、2つの具体的なの体積流量である33.3μL/sおよび67.0μL/sを達成するために必要なそれぞれのプランジャ速度を提供している。
【0105】
(表1)特定のシリンジと一致するリザーバの2つの例示的な流量におけるプランジャ速度
【0106】
示されているように、いくつかの態様では、プランジャが2~40mm/sの速度で移動すると、シリンジは30μL/sを超える流量でペーストを吐出するように構成される。また、図示の例に示されているように、ペーストの流量はプランジャの移動速度と実質的に線形に比例する。
【0107】
一定量のペーストを皮内注射するための本方法のいくつかの態様は、シリンジのプランジャを移動させてシリンジのリザーバからシリンジの針の内腔を通してペーストを吐出する工程を含み、リザーバは内腔の内部第2横方向寸法より大きい内部第1横方向寸法を有し、第2横方向寸法は0.1~0.9mmであり、ペーストは固形分濃度が100mg/Lを超え、ペーストはプランジャが2~40mm/sの速度で移動すると30μL/sを超える流量で吐出される。いくつかの方法はリザーバの装備品(例えば、ルアーフィッティング)から密封キャップを取り外す工程を含む。いくつかの方法は針およびリザーバのうちの少なくとも一方に配置されたルアーフィッティングを介して針をリザーバに結合させる工程を含む。いくつかの方法は患者の皮膚組織内に、および/または皮膚組織を通して、針を配置する工程を含む。
【0108】
いくつかの方法では、ペーストの注入量は10μLを超える。いくつかの方法では、ペーストの注入量は15、500、または1000μL~1200、2000、または3000μLである。いくつかの方法では、ペーストの注入量は30μL~100μLである。
【0109】
薬学的に活性な成分
本発明の組成物は1つまたは複数(例えば、1、2、3、4、5またはそれ以上)の薬学的に活性な成分(本明細書においては「活性な薬学的成分」または「治療成分」と互換的に用いられる)を好適に含む。「薬学的に活性な成分」とは、動物(例えば、ヒトまたは獣医動物)に導入された場合に生理的、代謝的、物理的、または力学的効果を有する組成物中の成分を意図しており、したがって、薬学的に活性な成分が導入される動物における疾患または障害を治療、改善、予防および/または診断するための治療および診断方法において有用である。本発明によって提供されるペースト製剤を調製する際の使用のための好適な薬学的に活性な成分の例は、ペプチド、タンパク質、および小分子の治療または診断剤を非限定的に含む。
【0110】
特定の態様では、薬学的に活性な成分はペプチド治療薬またはタンパク質治療薬である。例示的なペプチド治療薬またはタンパク質治療薬は、ヒトおよび/または獣医動物の治療および/または診断用途での使用が承認されているもの、例えば、オンラインの「THPdb」データベース(http://crdd.osdd.net/raghava/thpdb/で利用可能)に列挙された治療用ペプチドおよびタンパク質を含む。そのようなペプチドおよびタンパク質治療薬は、酵素(ドルナーゼアルファ、ベラグルセラーゼアルファ、タリグルセラーゼアルファ、アスパラギナーゼ、グルカルピダーゼ、アスホターゼアルファ、エロスルファーゼアルファ、セベリパーゼアルファ、サクロシダーゼおよびペグロチカーゼなど)、抗トロンビン剤(レピルジン、ビバリルジン、デフィブロチドおよびスロデキシドなど)、血栓溶解剤(レテプラーゼ、アニストレプラーゼ、テネクテプラーゼ、ストレプトキナーゼおよびウロキナーゼなど)、ペプチドまたはタンパク質ホルモン(副甲状腺ホルモン、アミリン、アンジオテンシン、成長ホルモン、成長ホルモン放出因子、グラチラマー、エクセナチド、インスリン様成長因子、コシノトロピン、絨毛性性腺刺激ホルモン(例えば、ヒト絨毛性性腺刺激ホルモン)および成長ホルモンなど)、骨活性ペプチドまたはタンパク質(カルシトニン、例えば、サケカルシトニンなど)、糖尿病活性ペプチドまたはタンパク質(インスリン(ヒトまたはブタであってもよい)およびその類似体など(インスリンリスプロ、インスリングラルギン、インスリンアスパルト、インスリンデテミル、およびインスリングルリジンを含む)、プラムリンチド、ならびにグルカゴンおよびその類似体(ダシグルカゴンを含む)、抗体またはその断片(モノクローナル抗体またはその断片であってもよく、例えば、セツキシマブ、トラスツズマブ、ベバシズマブ、リツキシマブ、オビヌツズマブ、ゲムツズマブ、カナキヌマブ、イピリムマブ、ダラツムマブ、ベドリズマブ、ウステキヌマブ、シルツキシマブ、ラムシルマブ、ペンブロリズマブ、オファツムマブ、ニボルマブ、メポリズマブ、ブロダルマブ、ペルツズマブ、デノスマブ、ゴリムマブ、ベリムマブ、ラキシバクマブ、ブリナツオマブ、ジヌツキシマブ、およびイブリツモマブ)、非抗体抗腫瘍剤(ロイプロリド、デニロイキンジフチトクス、アルデスロイキン、アスパラギナーゼ、ペガスパラガーゼ、インターフェロンベータ、アフィベルセプト、レノグラスチムおよびシプリューセル-Tなど)、不妊治療薬(ロイプロリド、メノトロピン、ルトロピンアルファ、フォリトロピンベータ、ウロフォリトロピン、および絨毛性ゴナドトロピンアルファなど)、ならびに免疫抑制剤(エタネルセプト、ペグインターフェロンアルファ、インターフェロンアルファ、フィルグラスチム、ペグフィルグラスチム、サルグラモスチム、アナキンラ、インターフェロンベータ、インターフェロンガンマ、アダリムマブ、インフリキシマブ、バシリキシマブ、ムロモナブ、エファリズマブ、ダクリズマブ、アバタセプト、リロナセプト、ベラタセプト、ナタリズマブ、ブリンツモマブ、ウステキヌマブおよびヒト免疫グロブリン)を非限定的に含む。本発明の組成物および方法での使用に適した他のタンパク質およびペプチド治療薬は当業者には馴染みのあるものであろう。本発明に従って有利に用いられるタンパク質およびペプチド治療薬は天然に由来するか、当技術分野で周知のペプチドおよびタンパク質の製造方法を用いて合成されるかまたは組換え製造し得る。
【0111】
本発明の方法により本発明の組成物を製造する際に好適に用いられる他の活性な薬学的成分は小分子の治療および/または診断剤ならびにそれらの塩である。そのような薬剤は、典型的には、動物(例えば、ヒトまたは獣医動物)の体内に導入されると、自体を疾患または障害の治療、改善、予防および/または診断する際に有用にさせる所望の生物活性を有する低分子量(例えば、約1000ダルトン未満)の有機化合物または無機化合物である。本発明に係る使用に好適なそのような小分子の活性な薬学的成分(およびそれらの塩)の例は、エピネフリン、ベンゾジアゼピン、カテコールアミン、「トリプタン」、スマトリプタン、ノバントロン、化学療法用小分子(例えば、ミトキサントロン)、コルチコステロイド小分子(例えば、メチルプレドニゾロン、ジプロピオン酸ベクロメタゾン)、免疫抑制性小分子(例えば、アザチオプリン、クラドリビン、シクロホスファミド一水和物、メトトレキサート)、抗炎症性小分子(例えば、サリチル酸、アセチルサリチル酸、リソフィリン、ジフルニサル、トリサリチル酸コリンマグネシウム、サリチレート、ベノリレート、フルフェナム酸、メフェナム酸、メクロフェナム酸、トリフルム酸、ジクロフェナク、フェンクロフェナク、アルクロフェナク、フェンチアザク、ケトロラク、イブプロフェン、フルルビプロフェン、ケトプロフェン、ナプロキセン、フェノプロフェン、フェンブフェン、スプロフェン、インドプロフェン、チアプロフェン酸、ベノキサプロフェン、ピルプロフェン、トルメチン、ゾメピラク、クロピナク、インドメタシン、スリンダク、フェニルブタゾン、オキシフェンブタゾン、アザプロパゾン、フェプラゾン、ピロキシカム、イソキシカム)、神経障害を治療するために用いられる小分子(例えば、シメチジン、ラニチジン、ファモチジン、ニザチジン、タクリン、メトリホネート、リバスチグミン、セレギレン、イミプラミン、フルオキセチン、オランザピン、セルチンドール、リスペリドン、バルプロ酸セミナトリウム、ガバペンチン、カルバマゼピン、トピラマート、フェニトイン)、がんを治療するために用いられる小分子(例えば、ビンクリスチン、ビンブラスチン、パクリタキセル、ドセタキセル、シスプラチン、イリノテカン、トポテカン、ゲムシタビン、テモゾロミド、イマチニブ、ボルテゾミブ)、スタチン(例えば、アトルバスタチン、アムロジピン、ロスバスタチン、シタグリプチン、シンバスタチン、フルバスタチン、ピタバスタチン、ロバスタチン、プラバスタチン、シンバスタチン)、および他のタキサン誘導体、結核を治療するために用いられる小分子(例えば、リファンピシン)、小分子抗真菌剤(例えば、フルコナゾール、ケトコナゾール)、小分子抗不安薬および小分子抗痙攣薬(例えば、ロラゼパム)、小分子抗コリン薬(例えば、アトロピン)、小分子β作動薬(例えば、硫酸アルブテロール)、小分子マスト細胞安定剤およびアレルギーを治療するために用いられる小分子薬剤(例えば、クロモリンナトリウム)、小分子麻酔薬および小分子抗不整脈薬(例えば、リドカイン)、小分子抗生物質(例えば、トブラマイシン、シプロフロキサシン)、小分子抗片頭痛薬(例えば、スマトリプタン)、および小分子抗ヒスタミン薬(例えば、ジフェンヒドラミン)を非限定的に含む。本発明の組成物および方法での使用に好適な他の小分子治療薬および診断薬ならびにそれらの塩は当業者には馴染みのあるものであろう。さらなる製剤は、少なくとも2つの本明細書において記載の小分子治療薬および診断薬と当業者には馴染みのある他の薬剤とを含む、そのような薬剤の組み合わせを含む。本発明に従って有利に用いることができる小分子およびそれらの塩は広範な供給源(例えば、ThermoFisher、Aldrich Chemicalなど)から商業的に入手し得るか、または当該技術分野で周知の化学的および生化学的合成方法を用いて合成し得る。
【0112】
使用の方法
本発明の組成物は、治療、改善、予防および診断を必要とする獣医動物またはヒトを含む動物における様々な疾患および身体障害を治療するか、改善するか、予防するかまたは診断するために用いることができる。好適なそのような方法は1つまたは複数の本発明のペースト組成物の、好適には皮内、皮下または筋肉内への注射による比較的少量(例えば、1μL~10000μL以下)の投与を伴い、より低濃度の活性成分を有する水性治療製剤の他の投与方法を用いて、例えば、静注を介して達成できるよりも、潜在的に少ない量および/または迅速な治療化合物のボーラスの送達をもたらす。これらの使用方法は注射後の動物の不快感を軽減し得、下の実施例で詳述するように特定の薬物動態学的および薬力学的利点も示し得る。本発明のペースト組成物を用いて好適に治療、予防、改善または診断される疾患および身体障害は当業者には容易に明らかであり、発明のペーストを製造する際の出発物質として用いられる活性成分の選択も、本発明のペースト組成物を用いて治療、予防、改善、または診断される疾患、身体障害または状態に基づいて当業者には馴染みのあるものである。
【0113】
いくつかの態様では、本発明の例示的なそのような方法は、低血糖を有するかまたは低血糖になるリスクのある対象に、本明細書において記載されるペースト製剤または組成物を、低血糖を治療するかまたは予防するのに有効な量で投与することによって低血糖を治療するかまたは予防する工程を含む。いくつかの態様では、対象にはグルカゴンを含むペースト製剤が投与される。特定の局面では、低血糖は糖尿病または非糖尿病に関連した疾患、状態、および障害によって引き起こされる場合があるか、または患者はそれらによって低血糖になるリスクが高い場合がある。
【0114】
低血糖に関して米国糖尿病協会および内分泌学会のワークグループ(Seaquist et al., Diabetes Care 36: 1384 - 1395 (2013))によって記載されているように、低血糖の症状ごとの血糖閾値は(他の反応の中でも特に)最近の先行する低血糖の後はより低い血漿グルコース濃度に移行し、糖尿病の制御が不十分および低血糖がまれな患者ではより高い血漿グルコース濃度に移行するため、糖尿病における低血糖を規定する血漿グルコース濃度の単一の閾値は典型的には当てはまらない。
【0115】
とはいえ、低血糖に伴う潜在的な弊害に対して患者および介護者両方の注意を引く警告値を規定することができる。低血糖のリスクがある患者(すなわち、スルホニル尿素、グリニド、またはインスリンで治療されているもの)は、自己測定した血漿グルコース濃度、または連続的なグルコースモニタリングによる皮下グルコース濃度が≦70mg/dL(≦3.9mmol/L)である場合に低血糖を発症する可能性があることに注意するべきである。これは、非糖尿病患者および糖尿病が良好に制御された患者の両方において症状ごとの血糖閾値よりも高いので、概して、臨床的な低血糖エピソードを防止する時間的猶予を与え、低血糖値でのモニタリング装置の精度が限定的であってもある程度の余裕をもたらす。
【0116】
重度の低血糖状態は、炭水化物、グルカゴンを積極的に投与するか、その他の是正措置を講じたりするために他者の支援を必要とする事象である。事象中は血漿グルコース濃度がない場合があるが、血漿グルコースが正常に戻った後の神経学的回復はその事象が低血漿グルコース濃度によって誘発されたことの十分な証拠であるとみなされる。典型的には、これらの事象は≦50mg/dL(2.8mmol/L)の血漿グルコース濃度で起き始める。記録される症候性低血糖は、低血糖の典型的な症状が≦70mg/dL(≦3.9mmol/L)という測定血漿グルコース濃度を伴う事象である。無症候性低血糖は低血糖の典型的な症状を伴わないが、≦70mg/dL(≦3.9mmol/L)という測定血漿グルコース濃度を伴う事象である。推定症候性低血糖は、低血糖に典型的な症状が、血漿グルコース測定をしないが、おそらく≦70mg/dL(≦3.9mmol/L)の血漿グルコース濃度によって引き起こされる事象である。偽低血糖は、測定血漿グルコース濃度が>70mg/dL(>3.9mmol/L)であるがそのレベルに近づいている状態で、低血糖の典型的症状のいずれかを糖尿病患者が報告する事象である。
【0117】
開示の発明によって治療され得る適応症は低血糖関連自律神経不全症(HAAF)をさらに含む。Philip E. Cryer, Perspectives in Diabetes, Mechanisms of Hypoglycemia-Associated Autonomic Failure and Its Component Syndromes in Diabetes, Diabetes, Vol. 54, pp. 3592-3601 (2005)に記載されているように、「最近の先行する医原性低血糖は、間違ったグルコース逆調節(インスリンの減少とグルカゴンの増加とが存在しない状況で、所与のレベルのその後の低血糖に対するエピネフリン反応を低下させることによる)と、無自覚の低血糖(所与のレベルのその後の低血糖に対する交感副腎的およびその結果として生じる神経原性症状の反応を低下させることによる)との両方、ひいては低血糖の悪循環を引き起こす」。HAAFは1型糖尿病および進行した2型糖尿病患者に影響を及ぼす。加えて、本開示の発明は膵島細胞移植後の患者の低血糖も治療し得る。
【0118】
本発明の組成物は、過剰なインスリンによって引き起こされる低血糖値の状態および影響を広く指す、高インスリン性低血糖の治療または予防にも用いることができる。最も一般的なタイプの重篤であるが典型的には一過性の高インスリン性低血糖は1型糖尿病患者における外的なインスリン投与によって生じる。このタイプの低血糖は医原性低血糖として規定することができ、1型および2型糖尿病の血糖管理における制限要因になる。夜間低血糖(night-time hypo)は外的にインスリンを摂取している患者に生じる一般的なタイプの医原性低血糖である。しかしながら、高インスリン性低血糖は内因性のインスリンにより、例えば、先天性高インスリン症、インスリノーマ(インスリン分泌腫瘍)、運動誘発性低血糖および反応性低血糖により生じる場合もある。反応性低血糖は非糖尿病性低血糖であり、食後に、典型的には食後4時間以内に起こる低血糖によるものである。反応性低血糖は食後低血糖とも呼ばれる。反応性低血糖の症状および徴候は空腹、脱力感、震え、眠気、発汗、混乱および不安を含む。胃の手術(例えば、肥満手術)は、手術後に食物が小腸に達するのが速すぎる可能性があるため(例えば、肥満症後低血糖(PBH))、考えられる原因の1つである。他の原因は、体が食物を分解するのが困難になる酵素欠乏、またはホルモンであるエピネフリンに対する感受性の増加を含む。
【0119】
いくつかの態様では、本発明のペースト組成物により治療されるかまたは予防される疾患、状態、または障害は糖尿病状態である。糖尿病状態の例は、1型糖尿病、2型糖尿病、妊娠糖尿病、前糖尿病、高血糖、低血糖、およびメタボリックシンドロームを非限定的に含む。いくつかの態様では、疾患、状態、または障害は、糖尿病関連低血糖、運動誘発性低血糖、および肥満症手術後低血糖を非限定的に含む低血糖であるか、または本明細書において記載されかつ当業者に公知の別のタイプの低血糖である。いくつかの態様では、疾患、状態、または障害は糖尿病である。
【0120】
いくつかの態様では、本発明の方法は、糖尿病を治療するのに有効な量で、糖尿病を有する対象に本明細書において記載されるペースト製剤中の治療剤を投与することによって糖尿病を治療する工程を含む。いくつかの態様では、対象にはインスリンを含むペースト製剤が投与される。いくつかの態様では、対象にはプラムリンチドを含むペースト製剤が投与される。いくつかの態様では、対象にはインスリンおよびプラムリンチドを含むペースト製剤が投与される。いくつかの態様では、対象にはエクセナチドを含むペースト製剤が投与される。いくつかの態様では、対象にはグルカゴンおよびエクセナチドを含むペースト製剤が投与される。
【0121】
特定の局面では、エピネフリンを含む本発明のペースト製剤は、アナフィラキシーのリスクがあるかまたはアナフィラキシーの疑いのある対象に投与することができる。エピネフリンは、食品、薬物および/または他のアレルゲン、アレルゲン免疫療法、診断検査用物質、昆虫の刺傷および咬傷、ならびに特発性または運動誘発性アナフィラキシーを非限定的に含む複数の原因から生じ得るI型アレルギー反応の緊急治療薬として適応される。
【0122】
本発明の組成物および方法を用いて好適に治療されるか、予防されるか、改善されるかまたは診断される他の疾患、障害および状態は当業者によく馴染みのあるものであり、がん、感染症、細菌性疾患、真菌性疾患、ウイルス性疾患、ならびに炎症性、神経学的、骨学的、胃腸性、循環器性、心血管性、皮膚、筋肉性、発生上および他の症状、徴候または機能不全を伴う他の疾患、障害および症状を非限定的に含む。
【0123】
例示的な態様を参照して本明細書において本発明を説明してきた。特定の態様を、ある程度の具体性と共に、または1つもしくは複数の個別の態様を参照して上に記載してきたが、当業者であれば、本発明の範囲から逸脱することなく、開示された態様に多数の変更を加えることができるであろう。したがって、方法およびシステムの様々な例示的な態様は開示された特定の形態に限定されることを意図していない。むしろ、それらはクレームの範囲に含まれるすべての修正および代替物を含み、示されたもの以外の態様は示された態様の特徴の一部またはすべてを含み得る。発明またはその任意の態様の範囲から逸脱することなく本明細書に記載される方法および用途に対する他の好適な修正および適合を行い得ることが当業者には容易に明らかであろう。同様に、上に記載の恩典および利点は1つの態様に関連する場合もあれば、いくつかの態様に関連する場合もあることが理解されるであろう。これまで本発明を詳細に記載してきたが、説明のみを目的として本明細書に含まれており、本発明を限定することを意図していない以下の実施例を参照することによって本発明がより明確に理解されるであろう。
【実施例
【0124】
以下の実施例および図面は発明の好ましい態様を示すために含まれている。当業者であれば、実施例または図面に開示された技術は発明の実施において良好に機能することが発明者によって発見された技術を表しており、よって、その実施のための好ましい態様を構成すると見なすことができることを認識すべきである。しかしながら、当業者であれば、本開示に照らして、発明の精神および範囲から逸脱することなく、本明細書において開示される特定の態様に変更を加えることができることを認識すべきである。
【0125】
実施例1:タンパク質を含有する噴霧乾燥粉末の安定性に対する製造プロセスの影響
本発明者のうちの何人かによる以前の研究では、比較的高濃度の特定のタンパク質およびペプチドを含有する注射用ペースト製剤を調製するための初期プロセスが確立された(例えば、それらすべての開示がそれらの全体において参照により本明細書に組み入れられる米国特許第8,790,679号、第8,110,209号、および第9,314,424号、ならびに米国特許出願公開第2017/0007675号および第2017/0216529号を参照されたい)。本研究では、高濃度の治療活性成分、特に抗体などの高分子量タンパク質を含む保存安定性のある市販製剤の調製における使用のための製造プロセスを最適化することを目的として、高濃度の抗体を含有する噴霧乾燥粉末およびペーストの調製および安定性に対する様々な製造パラメータの影響を調べた。
【0126】
異なるpH値(噴霧乾燥前に測定)で様々な担体および賦形剤を含有するIgG水溶液(例えば、IgGを20mg/mL含有する水性「供給液」)を噴霧乾燥することによって、IgG抗体を含有する噴霧乾燥粉末を含有する異なるペースト製剤をまず調製した。詳細を下の表2に示す。
【0127】
(表2)代表的な粉末組成
【0128】
次いで、以下の設定を用いかつ表3に示す条件下で2つの製剤を噴霧乾燥した。
【0129】
(表3)2つの例示的な製剤の噴霧乾燥条件
【0130】
特に断りのない限り、本願で検討するすべての噴霧乾燥研究は標準的な2流体ノズルを備えたBUCHI Corporation製B-290ミニ噴霧乾燥機を用いて実施した。この噴霧乾燥機は、0~60mmのスケールでノズル(霧化)ガス流量のための内蔵のフローティングボール流量計を含む。標準単位の空気流量(L/hr)および液体流量(mL/min)への変換はB-290の操作マニュアルに提供されており、アスピレータの空気流量および液体供給ポンプの設定を0~100%のスケールでB-290機器に入力する。
【0131】
これら2つの噴霧乾燥粉末製剤の調製後、試料を走査型電子顕微鏡(SEM)に供して、2つの製剤の粒子の形態を調べた。図1に見られるように、2つの製剤のSEM顕微鏡写真は粒子の形態に明確な違いを示した。製剤1の粒子は広範囲に窪みがあり不規則な形状を示したが、製剤2の粒子は見かけ上の窪みのないより規則的な球形を示した。さらに、平均して製剤1の粒子は製剤2の粒子よりも若干大きかった。これらの物理的特性をあわせると、製剤1の粒子は製剤2のものよりも表面積が大きいことを示す。
【0132】
次いで、これらの2つの製剤から、ペースト組成物が得られるが固相に対して液体が相対的に過剰であることで粒子が経時的に沈降し得る懸濁液に変換される前という点までミグリオール812Nをそれらに加えることによって、ペーストを調製した。製剤1では、ペーストが形成される固形分含量範囲は製剤2でペーストが形成される範囲よりもかなり低かった。製剤1は固形分含量がほぼ38%~42%w/wの範囲のペーストを形成しており、固形分濃度が475mg/mL固形分、IgG含有量がほぼ400mg/mLを示す。対照的に、製剤2では、65%w/wの固形分含量を含有するペーストが調製され、固形分濃度がほぼ820mg/mL、IgG濃度がほぼ630mg/mLを示す。これらの結果は、製剤1の噴霧乾燥粉末の物理的特性(例えば、表面のしわによる、より大きな表面積)により、製剤1では製剤2よりも低濃度のペースト(固形分濃度およびIgG濃度の両方の点で)が得られたことを示唆している。
【0133】
皮下注射針を通してペーストを送達するのに必要な注入力に対する固形分含量の影響を評価するために(動物への治療用ペースト製剤の注射をモデル化している)、これらのペーストをガラスシリンジ(内径約4.6mm)に1mL充填し、ルアーロックフィッティングを介してシリンジに固定された27G極薄肉1/4インチ(露出長約6mm)針を通して送達した。1mLのペーストを30秒でシリンジから送達する(例えば、33.3μL/秒の体積流量)のに必要な力はテクスチャアナライザを用いて測定した(力はプランジャが移動した距離に対してプロットする)。製剤1(固形分42%w/w、約400mg/mL IgG)は1mLのペーストを30秒で排出するのに約36Nの注入力が必要であった一方で、製剤2(固形分65%w/w、630mg/mL IgG)を排出するにはほぼ60Nの注入力が必要であり、全体的な固形分含量におけるそれらの違いを部分的に反映している
【0134】
より低い注入力は送達を容易にし、全体的な投与のし易さを向上させ得る。したがって、市販のシリンジ/針の組み合わせを用いて比較的低い注入力で送達できる高活性成分(例えば、mAb)濃度のペースト製剤を製造することが望ましいであろう。安定した、シリンジに充填可能な治療用タンパク質ペースト製剤を製造できるかどうかに他の噴霧乾燥プロセスパラメータの影響を評価するために、発明者らは、異なるpHの初期溶液の噴霧乾燥前および噴霧乾燥後の非特異的IgG製剤におけるタンパク質凝集のレベルを評価した。20.0mg/mLのIgG水性供給液を表3において上に記載した「製剤2」溶液中、pH4(クエン酸緩衝液を使用)またはpH6(ヒスチジン緩衝液を使用)のいずれかで調製した。次いでサイズ排除クロマトグラフィーを用いて噴霧乾燥後のmAb凝集物の相対的パーセンテージを決定した。両方の製剤においては、噴霧乾燥後の凝集レベルはpH6の製剤ではほぼ2.6%、pH4の製剤では1.9%であり、出発供給液のpHが最終的な噴霧乾燥粉末の%タンパク質凝集率における測定可能な差を促進する可能性があることを示している。特定のIgG製剤では、凝集体形成を最小限に抑えるための好ましいpHは3.5~4.0の範囲であり得る。
【0135】
噴霧乾燥プロセスパラメータ自体の影響をさらに評価するために、一連の実験を行って、得られた噴霧乾燥粉末中のIgG粒子の得られた形態(球形度)、サイズ、およびサイズ分布に対するIgG溶液の噴霧乾燥プロセス時の入口温度、アスピレータ流量、およびノズル圧ガス流量の影響を調べた。pHが6.0の上記の製剤2の溶液中の20mg/mLの非特異的IgG出発溶液を用いて8セットのプロセスパラメータを評価した(表4)。すべての試料は噴霧乾燥の前にろ過し、次いで真空下での二次乾燥に供した。
【0136】
(表4)噴霧乾燥プロセスパラメータ
【0137】
噴霧乾燥後、得られた粉末の外観を視覚的に評価し、次いで注射用水(WFI)に1mg/mL可溶化(溶解)し、サイズ排除クロマトグラフィー(SEC)を介して溶解時間および凝集割合を評価した。結果を表5に示す。
【0138】
(表5)IgG粉末の外観に対する噴霧乾燥パラメータの影響
【0139】
表5に見られるように、本研究で評価した異なる供給液から調製した粉末には溶解時に測定されたタンパク質凝集が同様の割合で含まれており、各粉末も22~27秒の狭い範囲でほぼ同様の溶解時間を示した。
【0140】
これらの粉末を粒子レベルでより詳しく調べるために、表5に記載されている8つの製剤それぞれからの粉末の試料を走査型電子顕微鏡(SEM)を用いて検査して、所与の試料内での粒子サイズ、粒子形状、およびそれぞれの分布を評価した。結果を図2に示す。
【0141】
図2A~2Dに見られるように、いずれも噴霧乾燥機入口温度が90℃である製剤5~8は様々な粒子サイズおよび粒子形態を示し、小さい粒子と大きい粒子との混合物は球およびドーナツ形状の混合物を示した。対照的に、図2E~2Hに見られるように、いずれも噴霧乾燥機入口温度が70℃である製剤5~8は大きさおよび形状の点でより均一な粒子を示し、ほとんどの粒子は球状に見え、ごくわずかのドーナツ状粒子が観察されたのみである。これらの製剤のうち、製剤7および8は大きさが最も均一であるように見え、小さな球状粒子が多数を占めることを示した。
【0142】
これらの結果は、製剤あたり約200個のIgG粒子の直径(代表的なSEM顕微鏡写真上の)を個別に測定することによって粒度分布を測定した際に確認され、これらの測定の結果を図3~4に示す。図3に見られるように、噴霧乾燥機入口温度が90℃である製剤1~4は、噴霧乾燥機入口温度が70℃である製剤5~8(図3E~3H)よりも、大きな粒度分布を示した(図3A~3D)。興味深いことに、所与の噴霧乾燥機入口温度では、ガス流量が大きいほど、より小さくかつより均一な粒子が生成される傾向があり;例えば、40mmのガス流量で乾燥させた製剤(図3A、3C、3Eおよび3F)を60mmのガス流量で乾燥させたそれらに対応する製剤(それぞれ、図3B、3D、3Gおよび3H)と比較されたい。
【0143】
まとめると、これらの研究の結果は、噴霧乾燥の設定が適切なサイズ分布を有する球状粒子の製造に影響を与え得ることを示している。特に、入口温度が約70~90℃、より具体的には約70~80℃、ガス流量が約40~60mm、特に約60mmであれば、粉末中でより小さくかつより球状の粒子が生成されるようであった。実際に、B-290噴霧乾燥機では約70℃の入口温度が球状粒子を得るために用いることができる最低温度であると判断されたが;本実施例に記載した供給液およびプロセスパラメータでより低い温度を用いることは、タンパク質またはペプチドが温度による変性を受けにくいと予想されたが、実際には不均一なサイズ分布のより多くのドーナツ状の粒子を生成する効果があった(データ示さず)。適切なサイズ分布を有する、より小さな球状粒子を製造できることは、治療および診断の目的で動物、特にヒト、に比較的少量で好適に注射し得る高固形分含量で高タンパク質濃度のペーストを最終的に製造するために重要である。
【0144】
実施例2:噴霧乾燥タンパク質の製造および注入可能性に対する製剤賦形剤の影響
噴霧乾燥機の設定以外にも、本発明者らの結果は、噴霧乾燥される製剤の成分が、所与の製剤から調製される噴霧乾燥粉末の物理的および性能的特性に影響を及ぼし得ることを示した。これらの製剤成分の影響をさらに調査しかつ最適化するために、代表的なモノクローナル抗体(市販医薬品ハーセプチン(登録商標)中のAPIであるトラスツズマブまたは「TmAb」)を様々な賦形剤および緩衝剤、薬学的に許容される担体または増量剤、界面活性剤などの存在下で製剤化し、噴霧乾燥による粉末製造後の時間0および粉末の保存時の両方における製剤の凝集の程度に対する各賦形剤の影響を評価した。TmAbは単量体形態では148kDaの大きさのタンパク質であるが、凝集すると、自体が免疫原性であるだけでなく、溶液中でさらに大きな凝集体を形成するための核形成中心としても機能する、より大きな分子量の二量体および他の多量体を形成し;そのような凝集体は免疫原性であり得、かつ/または抗体が治療効果を発揮するチャンスを有する前に免疫系によって除去され得る。したがって、治療上の観点からは、TmAbを含有しかつ保存時の凝集の程度が低い粉末を調製できる(例えば、噴霧乾燥によって)ことが理想的となり、これは、ヒトを含む動物への注射のための高固形分含量/高濃度ペーストに好適に用いることができる。
【0145】
調製のため、市販のTmAb溶液を、一定に撹拌しながら、所望の製剤緩衝液(下の表を参照されたい)に対して4℃で一晩透析した(50kDa分子量カットオフ)。次いで、透析したTmAb溶液を、入口温度70℃、ノズル流量40mm、アスピレータ設定85%、フィードポンプ10%(約3mL/min)で噴霧乾燥した。粉末が生成されたら、含水量を<1%(w/w)の目標レベルまで下げるために、粉末を150mT、5℃で1日間、次いで30℃で3日間二次乾燥させ(例えば、真空下で)、次いで粉末を窒素で再充填したガラスバイアルに保存し、栓をして密閉系を作製した。試料を40℃で4日間または50℃で4時間保存し、t=0試料(凍結乾燥直後)と、粉末試料を水に1mg/mL TmAbの濃度まで溶解し、次いでサイズ排除、イオン交換、および逆相クロマトグラフィーによって溶液を分析することによって凝集の程度および他の安定性パラメータについて比較した。
【0146】
実験の1回目では、それぞれTmAbを20mg/mL、トレハロースを5.15mg/mL、ポリソルベート20を0.05mg/mL、メチオニンを0.412mg/mL、および残部は賦形剤を含み、pHを表6に示す値に調整した5つの製剤を調製した。
【0147】
(表6)pHおよび緩衝剤種の製剤(1回目)
【0148】
次いで、噴霧乾燥前の製剤および可溶化噴霧乾燥粉末におけるタンパク質凝集の程度について、これらの製剤をサイズ排除クロマトグラフィーによって評価した。結果を表7に示す。
【0149】
(表7)TmAbの凝集に対するpHおよび緩衝剤種の影響(1回目)
【0150】
これらの研究を拡大するために、表8に示すように、上の1回目について記載したのと同じレベルのTmAb、トレハロースおよびポリソルベート80を含有するが、コハク酸緩衝液または乳酸緩衝液のいずれかを含有し、pHが4~6である2回目の製剤を調製した。
【0151】
(表8)pHおよび緩衝剤種の製剤(2回目)
【0152】
次いで、サイズ排除クロマトグラフィーを介して噴霧乾燥前の製剤および可溶化噴霧乾燥粉末におけるタンパク質凝集の程度について、これらの製剤を評価して、噴霧乾燥前に試験した試料と噴霧乾燥後のt=0で取り出したものと他の50℃で1日間保存したものとを比較した。結果を図4に示す。1回目の製剤からのものと合わせて、これらの結果は、噴霧前の溶液と噴霧および乾燥後の粉末との両方における凝集量を最小限に抑えるためには、噴霧乾燥前の溶液に最適な緩衝剤およびpH条件は、特にIgG含有製剤については、乳酸塩緩衝剤およびpH約3.5~約4.5、例えば、約4.0の使用であることを示している。
【0153】
次に、噴霧乾燥前の製剤中のトレハロース量が溶液中および噴霧乾燥後の粉末中の凝集に与える影響を評価した。表9に示す量のトレハロースおよび他の賦形剤を含有する、5mM乳酸塩緩衝剤中のpH4.0または6.0のTmAb製剤(20mg/mL)を調製した。
【0154】
(表9)様々な糖含有量を有する製剤
【0155】
次いで、サイズ排除クロマトグラフィーを介して噴霧乾燥前の水性製剤(供給液)および噴霧乾燥後の粉末におけるタンパク質凝集の程度について、これらの製剤を評価して、噴霧乾燥前に試験した試料と噴霧乾燥および凍結乾燥後のt=0で取り出したものと他の50℃で1日間保存したものとを比較した。結果を図5に示す。これらの結果は、粉末の凝集を低減するという点で、トレハロースが噴霧乾燥および噴霧乾燥後の保存に安定化効果を有することを示している。しかしながら、そのような安定性を達成するには製剤中に比較的多量のトレハロースが必要であり、これによってペースト製剤中の活性成分(この場合はTmAb)が減少する。よって、ペースト製剤中に比較的高い活性剤含有量を有することを可能にしつつ安定性を高めるために、含まれるトレハロースの量は他の賦形剤および製剤成分とともに最適化されなければならない。本発明者らは、本実施例の条件下で調製した製剤について、トレハロースの代わりにスクロースを同様の濃度で用いると粉末製剤に対してより大きな安定化効果をもたらし得ることを示唆する結果も有している。同様の様式で有利に用いることができる他の賦形剤は、アミノ酸、有利には1つまたは複数の天然アミノ酸、例えば、疎水性アミノ酸(これは、1つのTmAb分子の疎水性コアが2つ目のTmAbに結合するのを防止し、ひいては凝集を減少させるのに役立ち得る)、乾燥状態であってもタンパク質およびペプチド製剤を安定化させる能力を有することが報告されているアルギニンなどの酸性/塩基性アミノ酸、ならびにデキストラン/トレハロース共製剤などの糖の組み合わせを含む。
【0156】
これらの研究を続けて、噴霧乾燥前の製剤中のポリソルベート20含有量が供給液中および噴霧乾燥後の粉末中の凝集に及ぼす影響を評価した。これらの研究の1回目では、表10に示すポリソルベート20および他の賦形剤の含有量を有する、pH6.0の4.8mMヒスチジン緩衝剤中のTmAb製剤(20mg/mL)を調製した。
【0157】
(表10)ポリソルベート20含有量の評価
【0158】
ポリソルベート20またはポリソルベート80のいずれかを含有する他の製剤も表11に示すように調製した。
【0159】
(表11)ポリソルベート製剤(続き)
【0160】
次いで、サイズ排除クロマトグラフィーを介して噴霧乾燥前の水性製剤および可溶化噴霧乾燥粉末におけるタンパク質凝集の程度について、これらの製剤を評価して、噴霧乾燥前に試験した試料と噴霧乾燥および凍結乾燥後の時間0(例えば、1日以内)で取り出したものと他の50℃で1日間保存したものとを比較した。結果を図6~7に示す。これらの結果は、ポリソルベートが噴霧乾燥および噴霧乾燥後の保存安定性に安定化効果を有する(すなわち、粉末の凝集を低減する)ことを示している。この研究において評価した条件下では、粉末の安定化においてポリソルベート20とポリソルベート80との間に有意な差は見られなかった。さらに、噴霧乾燥前の製剤に加えられるポリソルベートの量を増加しても、安定性のわずかな増加が見られるのみであり;約0.5mg/mLのポリソルベート20は、製剤に対して固形分質量を増加させすぎる(これは、トレハロースに関して上に記載したように、ペースト製剤に含まれ得る活性物質、この場合はTmAb、の量に悪影響を与える(希釈させる)であろう)ことなく、安定化において好適な向上をもたらすようである。
【0161】
次に、賦形剤として様々なアミノ酸を含めた場合の、凝集および保存安定性に対する影響を評価した。まず、表12に示す成分量に従って様々なメチオニン含有製剤を調製した。
【0162】
(表12)メチオニン含有製剤
【0163】
同様の手法で、表13および14に示すように調製した製剤にプロリンまたはグリシンを含ませた場合の評価を行った。
【0164】
(表13)プロリン/グリシン含有製剤
【0165】
(表14)プロリン含有製剤(続き)
【0166】
次いで、サイズ排除クロマトグラフィーを介して噴霧乾燥前の製剤および可溶化噴霧乾燥粉末における凝集の程度についてこれらの製剤を評価して、噴霧乾燥前に試験した試料と噴霧乾燥および凍結乾燥後の試料(時間0(T0)試料)と他の50℃で1日間保存したものとを比較した。結果を図8(メチオニンの場合)、図9(プロリン/グリシン1回目の場合)、および図10(プロリン2回目の場合)に示す。まとめると、これらの結果は、この研究において評価した条件下ではメチオニン(図8)、プロリン(図9および10)、およびグリシン(図9)がすべて安定化賦形剤として作用する一方で、安定性に微々たる影響以上のものを見るためにはこれらのアミノ酸を比較的多量に必要とし得ることを示している。供給液中のこれらの賦形剤の含有量が増加すると(mAb含有量を比較的一定に保持しつつ)粉末および得られるペースト製剤中の活性成分が希釈されるため、これらのアミノ酸は、安定性のほんのわずかな増加と引き換えにこれらの製剤における活性剤含有量を減少させることはトレードオフの価値がないので、本実施例の条件下で製造および評価されたこれらの製剤にとって好ましい賦形剤ではない場合がある。
【0167】
最後に、表15、16、および17に従って様々な濃度でシステインを含む製剤を調製した。
【0168】
(表15)システイン含有製剤
【0169】
(表16)システイン含有製剤(続き)
【0170】
(表17)システイン含有製剤(続き)
【0171】
次いで、サイズ排除クロマトグラフィーを介して噴霧乾燥前の製剤および可溶化噴霧乾燥粉末におけるmAbの凝集について、これらの製剤を評価して、噴霧乾燥前に試験した試料と噴霧乾燥および凍結乾燥後のt=0で取り出したものと他の50℃で1日間保存したものとを比較した。結果は図11~12に示されており、噴霧乾燥前の製剤中に少量であってもシステインが含まれると、本実施例において記載される条件下で調製された噴霧乾燥粉末の貯蔵安定性に対して非常にプラスの効果を有し得ることを示唆している。
【0172】
システインの効果をさらに評価するために、様々なシステイン含有製剤から調製した粉末を溶解し、次いでイオン交換クロマトグラフィーによって分析した。これらの結果は図13および14に示されており;図13は、TmAbのシステイン含有製剤中に存在するメインピーク(図13A)、酸性バリアント(図13B)および塩基性バリアント(図13C)のレベル(AUC測定によって示される全体に対するパーセンテージとして)を示す一方で、図14は一方がシステインを1.5mg/mL含有し(図14A)、他方がシステインを6mg/mL含有する(図14B)2つの製剤の安定性プロファイルの代表的なトレースを提供する。まとめると、これらの結果は、高レベルのシステインがTmAb分子内に存在する内部Cys-Cys結合を破壊し得、保存安定性の損失に加えて、抗体の不活化、したがって、その治療効果の損失につながる可能性があることを示している。したがって、噴霧乾燥前の製剤におけるシステイン含有量が低い(例えば、1.5mg/mL)と、製剤中に多量のシステインが含まれることによって引き起こされる保存安定性の損失および生物活性の潜在的な損失を回避しつつ、安定性が向上し得る。
【0173】
最後に、最適化された賦形剤製剤においてTmAbの透析溶液を調製し、特定の噴霧乾燥パラメータ、特に、凝集を最小限に抑えながらタンパク質濃度および保存安定性を最大化するための最適な供給液濃度および入口温度設定を最適化するために用いた。製剤は表18に示すように調製した。
【0174】
(表18)噴霧乾燥パラメータを最適化するための製剤
【0175】
さらなる製剤を、噴霧乾燥前と、噴霧乾燥後のt=0および50℃でt=1日との両方で、凝集についてイオン交換クロマトグラフィーによって評価した。結果を図15に示す。これらの結果は、より高い供給液濃度(例えば、30mg/mL TmAb対20mg/mL TmAb)を用いると、凝集がより少ない出発溶液、所与の噴霧乾燥機入口温度で凝集がより少ない噴霧乾燥粉末、およびより貯蔵安定性が高い粉末が生成されることを示している(例えば、バッチ52a対バッチ29a;バッチ52b対バッチ29b;およびバッチ52c対バッチ29cについて図15の結果を比較されたい)。さらに、所与の供給液濃度では、70℃の入口温度は、より高い入口温度で調製されたものよりも、凝集が少なく(t=0)、保存安定性の高い(50℃でt=1日)粉末が生成されるようであり(例えば、バッチ29a対バッチ29bおよび29cについて;ならびにバッチ52a対バッチ52bおよび52cについて図15の結果を比較されたい);この結果は最適な入口温度に関して実施例1で上に報告した結果を裏付けている。
【0176】
上に記載の研究に基づくと、表19に詳述する組成物は、得られるペースト製剤において良好な抗体安定性を示しつつ、高い抗体薬物濃度(>400mg/mL)も提供する製剤の一例を表している。
【0177】
(表19)高濃度TmAbペーストのためのゼリジェクト(商標)ペースト製剤
【0178】
まとめると、これらの研究は、これまでは遥かに長時間にわたる静脈内投与しかできなかった治療用ペプチドおよびタンパク質の皮内、皮下および/または筋肉内注射を可能にする高濃度注射用ペースト製剤を調製する際の使用に好適な、モノクローナル抗体などの治療用タンパク質の高濃度、高固形分含量、および保存安定性の乾燥粉末製剤を製造するための代表的な水性供給液製剤ならびに噴霧乾燥およびプロセス条件の例を提供している。実際、本実施例に記載されているアプローチを用いると、治療用途向けの流動性で貯蔵安定性のペースト製剤へと有利に噴霧乾燥させ得る高固形分濃度製剤の調製に好適な製剤の開発を促進するための賦形剤およびプロセスパラメータのスクリーニングを容易にする製剤および装置パラメータのマトリクスを調製することが可能である。本明細書において記載される、Xeris Pharmaceuticals, Incによりそのゼリジェクト(商標)技術プラットフォームに基づいて開発された技術である高固形分濃度の注射可能なペースト状治療用製剤を調製するこのアプローチは、したがって、投与の簡便さ、不快感の回避、および、可能性として、治療用ペプチド/タンパク質製剤の有効性などを含む多くの利点を患者に提供する。
【0179】
実施例3:治療用モノクローナル抗体を含む高濃度ペーストの製造
ゼリジェクト(商標)(XJ)は、用量中の活性な薬学的成分(API)の濃度および/または熱安定性を有意に高めることができる独自の製剤化技術である。ゼリジェクト(商標)技術により、好ましくは上の実施例1および2に記載された方法に従って噴霧乾燥することによって調製された、活性な薬学的成分(API)の乾燥粒子が非溶媒液とブレンドされ、混合されてペーストが形成される。以前に記載したように、ペーストとは懸濁液と湿潤固体との間のスペクトルに存在する二相組成物であり、粉末中の固体濃度はこのアプローチによれば30%w/w以上の薬物濃度を達成することができる(250mg/mL以上)。この技術は、クリニックでは低濃度の溶液の長時間のIVとして投与されなければならないことが多い現在の治療法に比べて大幅な改善を表している。この技術は抗体などのタンパク質、または小分子、を高用量にてボーラス皮下投与で患者に送達するために用いることができる。さらに、特定の製剤においては、ゼリジェクト(商標)技術は標準的なより低用量の濃度であっても製剤(特に製剤中の活性な薬学的成分)の熱安定性の向上をもたらすことができる。
【0180】
これらの研究では、これまでは静脈内投与のみ可能であった治療薬の少量皮下送達のためのプラットフォームとしてゼリジェクト(商標)技術を評価した。具体的には、市販のいくつかのモノクローナル抗体製品をゼリジェクト(商標)ペースト製剤へと製剤化した。
【0181】
(表20)ゼリジェクト(商標)技術を用いてペースト状に調製した市販の医薬品
1)5mg/kg、70kg患者
2)3mg/kg、70kg患者
3)3.6mg/kg、70kg患者
4)3mg/kg、70kg患者
【0182】
ベースラインを設定するために、ハーセプチン(登録商標)(TmAb;実施例1~2を参照されたい)、アービタックス(登録商標)(セツキシマブ;Eli Lilly and Company)、およびピリヴィジェン(登録商標)(免疫グロブリン;CSL Behring AG)という3つの他の市販製品の試料を、最小限の変更を加えて市販の製剤から噴霧乾燥させ、次いで、走査型電子顕微鏡で検査して粉末製品中の抗体粒子の形態および大きさを観察した。代表的な顕微鏡写真を図16に示しており、これはTmAb(図16A)、セツキシマブ(図16B)および免疫グロブリン(図16C)の噴霧乾燥製剤中で観察された粒子を示し、これらは実施例1の他の治療用タンパク質について観察されたものと類似している。これらの市販製品のほとんどは広範囲の粒子サイズを示し、TmAb市販製剤も高度にドーナツ状の粒子を示し、これは、実施例1に示した結果に基づくと、ゼリジェクト(商標)製剤技術を用いた治療用ペーストを調製する際の使用には最適ではない粉末材料をもたらすことがわかる。実際、これら3つの製剤の粒度分布をレーザー回折によって取得すると、図17に示すように、すべての製剤において粒径の10パーセンタイル~90パーセンタイルまで観察される範囲によって特徴づけられる多分散特性があった。
【0183】
これらの市販製品のゼリジェクト(商標)ペースト製剤を調製するために、それぞれの小バッチを実施例1および2で上に記載した方法に従って噴霧乾燥し、ペーストを調製した。トレハロースの代わりにスクロースを市販のセツキシマブおよび免疫グロブリン製剤に加え、透析によってセツキシマブ塩含有量を減少させた。TmAb製剤を市販の製剤から噴霧乾燥させた。噴霧乾燥粉末からペーストを調製し、トリアセチン(密度=1.16g/mL)を最終的な推定ペースト密度が約1.24g/mLとなるように含ませた。次いで各ペースト製剤中の総固形分および活性成分含有量を計算して、表21に示す値になった。
【0184】
(表21)ゼリジェクト(商標)mAbペーストの固形分および活性成分含有量
【0185】
ペーストの調製後、製剤を、2つの異なるシリンジ/針の組み合わせ:スタックした23ゲージ1/2インチ標準肉厚(RW)針を備えた1mLシリンジ(Gerresheimer AG; Bunde, Germany)および27ゲージ1/2インチ標準肉厚(RW)針を備えたsyriQ BioPure(登録商標)1mLロングシリンジ(Schott AG; Mainz, Germany)において所与のペーストを1mLを送達するのに必要な注入力について評価した。各構成ごとに、3.0mm/secのプランジャ速度(ほぼ98μL/secの体積流量に相当)を用いて注入力プロファイルを生成した。トリアセチンを希釈剤(連続相)として固形分含量42%で調製したピリヴィジェン(登録商標)(免疫グロブリン)の調製の代表的な結果を図18に示す。予想された通り、より大きな(より低ゲージの)針で1mLのペーストを送達するには必要な注入力は有意に低く、この結果は低濃度のペースト製剤を用いた以前の結果を裏付けている。しかしながら、重要なことに、27Gの針からであっても、過度に大きな注入力を必要とせずに、全1mLのペースト製品が送達された。皮内および/または筋肉内注射に適した比較的小さなゲージの針を用い、比較的低い注入力で少量の治療用抗体のペースト製剤を皮内注射できることは、そのような抗体の標準的なIV投与と比較して、不快感の軽減および抗体療法治療を受けるのに必要な時間の短縮という点で、そのような注射による患者の利益が有意に向上する。
【0186】
次に、使用可能な高濃度ペーストにTmAbを配合できるかどうかを評価した。市販の製品を水で再構成し、試料を溶液中に保持し、噴霧乾燥して粉末にするか、または上に記載のゼリジェクト(商標)技術を用いて噴霧乾燥粉末からペースト(トリアセチン中で固形分45.2%)に製剤化した。サイズ排除クロマトグラフィーによるこれらの試料の評価ではそれらの間にほとんど差がないことを実証した(図19) - すべての試料は同一の保持プロファイルを有するメインピークと断片との両方を有していた一方で、ゼリジェクト(商標)ペースト試料はペースト製剤中のトリアセチンに対応するさらなるピークを含んでいた。よって、噴霧乾燥およびペースト形成プロセスは、溶液中で再構成された市販製品と比較した場合、TmAbタンパク質の凝集をもたらさなかった。
【0187】
これらの様々なTmAb製剤の薬物動態、特にゼリジェクト(商標)ペースト製剤のものを評価するために、市販の抗体溶液を前述の実施例に記載のように噴霧乾燥して、上に記載のように高固形分含量ペーストを調製するために用いられる噴霧乾燥粉末を作製した。この製剤中のAPI充填量は259mg/mLであり、市販のシリンジ/針の組み合わせを用いて雄性スプラーグドーリーラットに2つの異なる用量で皮下注射により投与した。トラスツズマブの市販製剤も比較のために対照動物にIV投与した。図20に見られるように、トラスツズマブのIV投与は薬物レベルの初期のスパイクを示し、ゼリジェクト(商標)製剤はスパイクを有さず、約24時間後には定常な薬物レベルまで上昇していた(図20A)。次の6日間のサンプリングにわたって、ゼリジェクト(商標)製剤およびIV投与は定常な薬物レベルを維持した。図20Bに示すように、ゼリジェクト(商標)製剤の薬物動態は用量依存的であり、20mg/kgゼリジェクト(商標)の定常な薬物レベルは10mg/kgのIV投与の薬物動態と同様であった。Cmaxは、IV TmAbと比較して、ゼリジェクト(商標)TmAbの10mg/kg および20mg/kg用量の両方で約15%鈍化した一方で、10mg/kg IV TmAbと比較したゼリジェクト(商標)TmAbの10mg/kgおよび20mg/kg用量のバイオアベイラビリティ(AUCo-t)はそれぞれ39および45%であった(用量はノーマライズした)。最後に、IV TmAbのT1/2は約10日であったが、ゼリジェクト(商標)製剤のT1/2は研究に割り当てられた期間よりも長かったため、ここでは決定されなかった。薬学および医療分野の当業者であれば容易に理解されるように、鈍化したCmaxおよび持続的な曝露(すなわち、より長いT1/2)は、Cmaxによる毒性プロファイルおよびAUCによる有効性を有する化合物にとって好ましいものとなり得、これにより、本発明のゼリジェクト(商標)技術を用いて調製されるペーストのもう1つの利点を提供する。これらの結果は、ボーラス注射では比較的少量で多量の薬物を投与できる一方で、IV投与で達成されるのと同様の動態で治療上有益な循環薬物レベルを達成する(持続時間は長いが)ことを示している。よってゼリジェクト(商標)アプローチはこの特定の薬物治療/送達を有意に向上させ、治療用抗体および酵素などの高分子量ペプチドおよびタンパク質を用いる他の治療にも同様に有用となり得る。
【0188】
実施例4:治療用酵素を含む高固形分ペーストの製造
本発明によって提供されるゼリジェクト(商標)技術の有用性をさらに調べるために、治療用酵素を含む高固形分濃度のペーストを調製した。これらの例示的な研究では、多量体PEG化治療用酵素を活性成分として用いた。第1の工程では、PEG化酵素の溶液を先の実施例に記載した凍結乾燥によっておよび噴霧乾燥プロセスによって乾燥粉末に変換した。次いで各粉末調製物の試料を走査型電子顕微鏡で形態およびサイズ分布について調べた。代表的な顕微鏡写真を図21に示す。図21Aに見られるように、供給液の凍結乾燥によって調製されたPEG化酵素粉末は比表面積が比較的高い大きく不規則な粒子を示した。対照的に、図21Bに見られるように、本明細書において記載される噴霧乾燥プロセスによって調製された粉末は比表面積が比較的低い小さな球状粒子を示した。さらに、これらの粉末の両方からペーストを調製した場合、表22に示されるように、噴霧乾燥粉末から調製したペーストは、凍結乾燥粉末から調製したペーストよりも高い固形分濃度を示し、ひいては、より高い酵素濃度を示した。
【0189】
(表22)酵素ペーストの特性
【0190】
これらの結果は、サイズおよび表面積の分布がより小さい、より規則的な球状の粒子を含む粉末は活性成分の流動性ペーストの製造により好適であり、最終的には動物への治療用皮下注射により好適であるという、本明細書における前述の実施例の記載と一致している。したがって、これらの研究の残りの部分は、治療用ゼリジェクト(商標)ペーストの製造のための出発材料として噴霧乾燥粉末を用いて実施した。
【0191】
ゼリジェクト(商標)酵素ペースト製剤の薬物動態パラメータを研究するために、市販のシリンジ/針の組み合わせを用いて、上に記載の噴霧乾燥ペースト酵素調製物を雄性スプラーグドーリーラットへの皮下注射によって投与した。比較のために酵素の水性製剤(PBS中)も対照動物にIVおよび皮下投与した。次いで動物の各群における血漿酵素濃度を経時的に決定し、結果を図22に示す。静脈内投与された水性(PBS)製剤は血漿中の酵素の初期スパイクを示し、その後は次の48~72時間にわたって急速に減少した(図22A)。対照的に、皮下水性(PBS)製剤およびゼリジェクト(商標)ペースト製剤はピーク血漿濃度までの緩やかな上昇と、その後のより長期間かつ緩やかな減少という同様の薬物動態プロファイルを示した(図22B)。表23に示すように、皮下投与製剤のT1/2、Tmax、CmaxおよびAUC(0-t)値も類似していたが、IV投与した酵素のものとは大きく異なり、本明細書における実施例2に記載のTmAbのIV水性対皮下ゼリジェクト(商標)ペースト製剤で得られた結果を連想させるものであった。
【0192】
(表23)IVおよび皮下酵素製剤の薬物動態プロファイル
【0193】
処置した動物からの血漿試料の薬力学的分析は、IV投与(図23A)および皮下投与(図23B)酵素製剤間だけでなく、皮下投与された水性(PBS)およびゼリジェクト(商標)ペースト製剤間でも差異を示した(図23B)。具体的には、水性およびペースト製剤は上に記載の同様の薬物動態プロファイルを呈したが、ゼリジェクト(登録商標)ペースト製剤は、薬力学研究において、より大きなピーク標的の減少を示した(6μM対2μM)。さらに、屠殺後の病理報告の結果(図示せず)は、ゼリジェクト(商標)ペースト製剤を皮下注射した動物では有意な注射部位反応(よって注射後の不快感)が観察されなかったことを示した。
【0194】
まとめると、これらの結果は、本発明によって提供される高濃度高分子量タンパク質治療薬のペースト製剤が、そのような治療用タンパク質の従来の静脈内投与で得られるよりも患者体験を向上させる様式で、少量の治療用タンパク質の制御または持続放出デポーを皮下に送達する際に有用であることを示している。
【0195】
実施例5:高濃度グルカゴンを含む高固形分ペーストの製造
さらなる研究では、グルカゴン、トレハロース、および緩衝剤(グリシン)を含有する水溶液から高濃度のグルカゴンを含有するゼリジェクト(商標)ペースト製剤を薄膜凍結(比較的高い表面積を有する粉末を生成する粒子工学技術)によって調製し、pHを3.0に調整した。薄膜凍結乾燥粉末を穏やかに粉砕し、十分なトリアセチンと混合してペーストを作製することによってペーストに製剤化した。1mgのグルカゴンを5μlのペーストとして、より大きな量(1ml)の市販の水性グルカゴン製剤(グルカゴン緊急キットまたは「GEK」; Eli Lilly)と同じ用量でラットに皮下投与した。これによりゼリジェクト(商標)ペースト製剤の薬物動態および薬力学的特性を市販の水溶液と直接比較することが可能になった。結果を図24に示す。
【0196】
2つの製剤の薬物動態プロファイルの検査(図24A)は、ゼリジェクト(商標)(Xeris)ペースト製剤は200xのより少ない量で注射されたにもかかわらず、より大きな量で注射されたグルカゴンの水性製剤と同等の薬物動態を呈することが示された。同じことが薬力学プロファイルにも当てはまり(図24B)、ゼリジェクト(商標)(Xeris)ペースト製剤が、他の治療用ペプチドで見られたように経時的な崩壊がより遅いにもかかわらず、水性GEK製剤で観察されたものと同様の薬力学的特性を示した(先の実施例を参照されたい)。これらの結果は、本発明によって提供される、より高濃度のペプチド(グルカゴン)のペースト製剤が、比較的多量の注射を必要とするグルカゴンの水性製剤の従来の筋肉内投与で得られるものよりも患者体験を向上させる様式で、少量のグルカゴンを皮下に送達する際に有用であることを示している。
【0197】
実施例6:インスリンを含む高固形分ペーストの製造
非常に高濃度の治療剤を有する注射用製剤を可能にすることに加えて、本明細書において記載される注射用ペーストは、比較的より低濃度で投与されるものを含めて、治療剤の熱安定性を著しく高めるために利用し得る。1つのそのような例はヒトのインスリンであり、これはu100(約3.5mg/mL)~u500(約17.4mg/mL)の範囲の濃度で市販されている。インスリンの投与量は患者によって異なるが、概してu100製剤の場合は30~100μLの範囲である。したがって、この治療用タンパク質は投与量を低減するために薬物濃度を著しく増加させる必要はない。しかしながら、市販のインスリン医薬品は冷蔵(2~8℃)輸送および長期保存の条件を必要とする水溶液として製剤化されている。このコールドチェーン要件が第三世界諸国における市販のインスリンの入手し易さを制限し、かつその品質を損なっている可能性がある。したがって、少なくとも25、30、または35℃の温度での長期安定性(すなわち、少なくとも1年間、より好ましくは少なくとも18、24、30または36か月間の保存安定性)を示し得る、熱安定性が有意に向上した注射用インスリン製剤が必要である。
【0198】
市販の水性インスリン医薬品と比較した噴霧乾燥インスリン粉末の向上した熱安定性の例を本明細書において提供する。インスリン粉末は、グリシンまたはヒスチジンより選択される緩衝剤(約5~20mMの範囲)と、PS20またはPS80より選択される界面活性剤(約0.001~0.1%(w/v)の範囲)と、糖/トレハロース型二糖類(二水和物由来)とをpH8.5で含有する水性供給液から噴霧乾燥させた。最終的な製剤に必要とされるインスリン濃度が比較的低い(例えば、u100=3.5mg/mL)ことと相まって、ペーストの固形分含量が多いため、供給液中の賦形剤濃度は全体の99%(重量)を超えていた。この高い賦形剤対インスリン比により、ペースト組成物(約55~65%(w/w)の固形分含量(ほぼ600~780mg/mLの粉末濃度)および約1.1~1.2g/mLの測定密度)は、u100に相当するほぼ3.5mg/mLの最終的なインスリン含有量を有することが可能であった。
【0199】
粉末を調製するために用いたBuchi B-290ミニ噴霧乾燥機は入口温度が140℃、噴霧ノズル圧力が60(装置に内蔵されるフローティングボール流量計から測定)、液体供給速度が10%(約3mL/分)、アスピレータ設定が90%であった。噴霧乾燥させた粉末を真空下でさらに乾燥(すなわち、二次乾燥)させて、測定された含水量をほぼ1%(w/w)未満に低減し、次いでガラスバイアルに保存し、40℃/75%RHの安定性チャンバ内に入れた。インスリン粉末の化学的安定性を123日(約4か月)後に評価したところ、その保存期間中のインスリンピーク純度の損失が2%未満であることが明らかになった。
【0200】
比較として、市販のヒューマリン(登録商標)Rインスリン(水溶液)をガラスバイアル中40℃で保存し、粉末に用いたのと同じUHPLC法を用いて測定したところ1か月で純度がほぼ7%低下したことが明らかになった。インスリン注射用医薬品のUSPモノグラフはラベル表示の95~105%であり、市販の医薬品は加速条件で1か月以内にそれらの安定性規格を下回ることを示している。したがって、治療用ペーストにおける使用のための熱安定性噴霧乾燥インスリン粉末を調製できることにより、依然として同程度の注入量を可能にしつつ、現在利用可能な市販の製剤の熱安定性を向上させることができる。
【0201】
実施例7:高用量ヒトタンパク質またはペプチドを含む高固形分ペーストの製造
さらなる研究では、高濃度ヒト組換えタンパク質のゼリジェクト(商標)ペースト製剤を先の実施例に記載した噴霧乾燥法に従って調製した。第1の工程では、本明細書において記載の方法(実施例1および2を参照されたい)に従って調製および最適化されたヒト組換えタンパク質の溶液を先の実施例に記載の噴霧乾燥プロセスによって乾燥粉末に変換した。次いで粉末調製物の試料を走査型電子顕微鏡によって形態およびサイズ分布について調べた。代表的な顕微鏡写真を図25に示す。
【0202】
先の実施例で検討したように、ペースト製剤の比較的少量の皮下注射で高濃度および多量のタンパク質を注射できることは、治療用ペーストを調製するために用いられる粉末中に適切なサイズの小さくかつ概して球状の粒子の形成を必要とする。図25Aおよび25Bに見られるように、本明細書において記載される噴霧乾燥プロセスによって調製されたタンパク質粉末は、粒子当たりの比表面積が比較的小さい小さな球状粒子を生成した。粉末調製物全体の個体群統計(図示せず)により、本明細書における他の箇所に記載された研究(例えば、先の実施例を参照されたい)に基づいて、メジアン粒度がペースト形成に最適であると決定した。
【0203】
次いで、上に記載の方法を用いてゼリジェクト(商標)ペースト製剤を調製するためにこれらの粉末を用いると、固形分含量が約45%でありペースト中に300mg/mLを超えるタンパク質を有するペーストが得られた。この濃度の活性物質を有するペーストの治療用量はわずか約150μLであると算出された。次いで、標準肉厚または薄肉いずれかの27G針が取り付けられた市販の大小のシリンジにおいて、毎秒30μLの体積流量で、本実施例において調製したこの量のペーストを送達するのに必要な注入力を上に記載のように測定した。これらの研究の結果は図26に示されており、最適なシリンジ/針構成(すなわち、薄肉の針を備えた小さなシリンジ)で6Nという低い注入力が可能であることを実証した。
【0204】
実施例8:ベバシズマブを含む高濃度ペーストの製造
これらの研究では、ゼリジェクト(商標)技術を、これまでは静脈内投与のみが可能であった一般的に用いられる治療用モノクローナル抗体製剤であるベバシズマブ(アバスチン(登録商標)というブランドの下でGenentechにより市販)の少量皮下送達のためのプラットフォームとして評価した。ベバシズマブは血管内皮増殖因子(VEGF)に結合するヒトモノクローナル抗体であり、VEGFとその受容体との相互作用を防止し、特にがん組織における血管新生を遅延するかまたは防止する。そのため、転移性結腸直腸がん、非扁平上皮非小細胞肺がん、神経膠芽腫および転移性腎細胞がんの治療を含む、ヒトにおける多くの適応症に対して承認されてきた。典型的には、約2週間ごとに30~90分間の点滴を介して25mg/mLの水溶液濃度にて10mg/kgの用量で静脈内(IV)投与される。この製品の半減期は約20日であり、平均クリアランス率は、体重、性別、腫瘍量などの患者固有のパラメータに応じて異なるが約0.262L/日である。よって、本発明者らは、ゼリジェクト(商標)技術を用いて、いずれもIV製品と比較して、より少ない量/より高い用量で投与することができ、かつ、より有利ではないにせよ少なくとも同様の薬物動態を有する、ベバシズマブの製剤を作製できるかどうかを評価した。本明細書における他の箇所に記載されているように、そのような製剤は患者と介護者に、いずれも患者の不快感がより少ないが、IV経路を介するよりも皮下用量としての投与が簡単な非常に少量の注射の使用を含む大きな利益をもたらすであろう。
【0205】
これらの研究を実施するために、市販のベバシズマブ原薬をXJ-1およびXJ-2と名付けられた2つの異なる治療用ペースト製剤へと製剤化した。噴霧乾燥前の水溶液の組成(mg/mL)および噴霧乾燥粉末のおおよその重量%を表24に示す。
【0206】
(表24)ゼリジェクト(商標)技術を用いて調製したベバシズマブ製剤
【0207】
これらの粉末を粒子レベルでより詳しく調べるために、上の実施例1~3で検討したように、SEMを用いてこれら2つの製剤それぞれからの粉末の試料を調べ、粒度、サイズ分布および形状(形態)を評価した。XJ-1(図27A)およびXJ-2(図27B)の噴霧乾燥製剤で観察された粒子が約3.3μm(XJ-1について)または約3.0μm(XJ-2について)の平均サイズを有する一定の範囲の球状粒子を実証したことを示す代表的な顕微鏡写真を図27に示す。XJ-2製剤は、XJ-1製剤よりも、ドーナツ状粒子がやや多いことも示した。
【0208】
これらの結果に基づいて、これらの製剤を用いて動物の薬物動態研究における使用のためのベバシズマブのゼリジェクト(商標)製剤を調製した。各ペーストごとに、遊星軌道ミキサーを用いて、HDPE容器内でXJ-1およびXJ-2粉末をミグリオール812と別々に混合した。2つのペースト製剤のそれぞれの固形分含量は、それぞれ、XJ-1が62%、XJ-2が55%であった。2つの製剤についての測定されたmAb含有量(280nmでの吸光度)はXJ-1については429mg/mL、XJ-2については328mg/mLであった。
【0209】
これらの研究では、4つの群の雌性ゲッティンゲンミニブタに4つの異なるベバシズマブ(BmAb)製剤のうちの1つを100mg単回用量で静脈内(IV)または皮下(SC)いずれかに投与した。
【0210】
(表25)ベバシズマブPK研究デザイン
【0211】
各製剤の注射後、注射から5および30分、2、4、8、12および24時間、ならびに3、5、7、10、14、17、24、28、31、35、38、42、45、49、56および60日後に動物から血漿を採取した。次いで血漿試料の循環ベバシズマブ濃度を測定して、最大血漿濃度(Tmax)までの時間、最大吸収濃度(Cmax)、血漿半減期(T1/2)、用量補正曝露量(AUC)、および部分曝露量(AUC)を評価した。これらの研究の結果を図28~33に示す。
【0212】
図28に見られるように、2つのゼリジェクト(商標)ベバシズマブ製剤XJ-1およびXJ-2は、これらの結果が均等目盛(図28A)または片対数目盛(図28B)にプロットされたかどうかに関わらず、皮下送達したアバスチン(登録商標)製剤と非常に類似した血漿濃度動態を示した。静脈内投与されたアバスチンはIV投与された治療薬で一般的に見られる典型的なボーラス効果を初期の時点で示した。次に、最大血漿濃度(Tmax)に達するまでに必要な時間を各製剤ごとに評価し、結果を図29に示した。いずれのゼリジェクト製剤についてのTmaxも皮下投与したアバスチン製剤よりも短いことが分かった(XJ-1については18時間、XJ-2については24時間に対して、SCアバスチンについては72時間)が、予想されたように、IV投与されたアバスチンで見られたものよりも長かった(0.08時間)。
【0213】
次に、これらの様々な製剤の最大吸収量(Cmax)を評価し、未補正のCmax値(図30A)または動物の用量および体重ごとに補正したCmax値(図30B)の結果を図30に示す。これらの結果は、図29に示すTmaxの結果と併せて、ベバシズマブのゼリジェクト製剤が、より短いTmax(図29)およびより高い用量補正Cmax(図30B)値によって示されるように、皮下投与したアバスチンよりも速く吸収されることを示す。これらの製剤それぞれの半減期を評価したところ、皮下投与したベバシズマブ製剤(ゼリジェクトおよびアバスチンの両方)はIV投与されたアバスチンについて観察されたものよりも短い半減期を実証したことが示された(図31)。
【0214】
抗体に対する動物の総曝露量を評価するために、用量補正した曝露量(AUClastおよびAUCの両方)を評価した。結果は図32に示されており、用量補正した曝露量(AUClast(図32A)およびAUC(図32B)の両方)は、ゼリジェクト製剤と皮下投与したアバスチン製剤との間で同様であり、いずれの評価もアバスチンを静脈内投与した動物では曝露量値が若干高いことが示したことを実証している。用量補正した14日間の部分曝露量(AUC0-336hr図33)を評価した場合に同様の結果が観察されたが、ゼリジェクト製剤のうちの一方(XJ-2)は皮下投与したアバスチンと比較して部分曝露量値が若干高い値を示した。
【0215】
用量について未補正または用量について補正したこれらの研究の総合的な結果を表26および27に示す。
【0216】
(表26)総合的な薬物動態結果、ゼリジェクト対アバスチン(未補正)
*Tmax値はメジアンであり、すべての他の値は平均を示す。
【0217】
(表27)総合的な薬物動態結果、ゼリジェクト対アバスチン(用量補正)
すべての値は平均を示す。
【0218】
まとめると、本実施例に提示された結果は、ミニブタにおけるベバシズマブ血漿濃度-時間曲線が、皮下投与した2つの異なるゼリジェクト(商標)ベバシズマブ製剤および皮下投与したアバスチン(登録商標)で類似しているが、静脈内投与されたアバスチンはピーク暴露量がより高いことを示している。ベバシズマブペースト製剤はいずれも、両方のゼリジェクト製剤についてのより短いTmaxおよび有意に高い用量補正Cmax値によって示されるように、皮下投与したアバスチンよりも速い吸収を示した。さらに、用量補正された曝露量(AUClastおよびAUC)はゼリジェクト製剤と皮下投与したアバスチンとの間では同様であった。用量補正された部分的2週間曝露量(AUC336)は、皮下投与したアバスチンよりも、XJ-2ベバシズマブ製剤の方が高くなる傾向があった。最後に、皮下投与したアバスチンとゼリジェクトベバシズマブ製剤の総バイオアベイラビリティは、静脈内投与されたアバスチンで観察されたものよりも低かったが、いずれも依然として治療用量レベル内である可能性があった。よって、ゼリジェクト技術を用いて、対象動物において忍容性が高くかつ迅速に吸収されると見受けられる治療レベルの抗体を依然として送達しつつ、アバスチンを静脈内に送達するために現在用いられているものよりも少ない量および少ない頻度で皮下注射できるベバシズマブの高濃度製剤を調製することができる。
【0219】
実施例8:インスリンを含む高固形分ペーストの非臨床評価
インスリンペーストの薬物動態(PK)および薬力学(PD)プロファイルを評価するために、2つのペースト製剤(XJ-6およびXJ-8)を実施例6に記載のように調製し、ユカタンミニブタで評価した。XJ-6およびXJ-8はいずれもu200(7.5mg/mL)に相当するインスリン含有量を有するように製剤化した。インスリン粉末は、総固形分量(溶解物質)が50mg/mLであり、組換えヒトインスリン(0.52mg/mL)、トレハロース(二水和物由来:49.0mg/mL)、ヒスチジン(0.3mg/mL) PS80(0.01mg/mL)、EDTA(0.1mg/mL)を含有し、NaOHおよび/またはHClを用いてpHを9.0(±0.1)に調整した供給液を用いて、噴霧乾燥によって調製した。
【0220】
この溶液をろ過し(0.2μm PVDF膜)、BUCHI B-290装置により以下の設定で噴霧乾燥させた:入口温度=140℃ / 液体供給速度=8% / ノズルガス圧ボールメーターの読み取り値=60mm / アスピレータ設定=90%。粉末を真空下で二次乾燥させて粉末の含水量を<2%(w/w)まで減少させた。粉末は純粋なミグリオール812(XJ-6)または1%(v/v)PS80含有ミグリオール812(XJ-8)のいずれかと混合した。XJ-6およびXJ-8の固形分含量は57%および56%であり、それぞれほぼ680mg/mLおよび670mg/mLの固形分濃度に相当する。
【0221】
これらの試験品(XJ-6(ゼリジェクト-6)およびXJ-8(ゼリジェクト-8))は、ユカタンミニブタにおける薬物動態特性(PK)および薬力学特性(PD)(血糖値の変化)について評価し、市販品であるヒューマリンR(u100)と比較した。各製剤は6匹の雄性ユカタンミニブタに0.5U/kgインスリン(0.017mg/kgインスリン)の用量で皮下注射した。
【0222】
図34に示すようにインスリン曝露量はXJ-6の方が少なかったが、3つの製剤すべてのインスリン薬物動態プロファイルは類似していた。ミニブタへの0.5U/kgのヒューマリンR(3.5mg/mLインスリン)のSC投与は、平均(±SD)Cmaxが13±3ng/mLであり、平均(±SD)AUClastが1175±144ng*min/mLである血漿インスリン曝露量をもたらした。メジアンTmaxは30分(範囲:10分~45分)であり、平均(±SD)半減期は79±12分であった。ミニブタへの0.5U/kgXJ-6(17.4mg/mLインスリン)のSC投与は、平均(±SD)Cmaxが10±3ng/mLであり平均(±SD)AUClastが902±139ng*min/mLであるヒューマリンRよりも、インスリン曝露量はわずかに少ないが同様の結果が得られた。メジアンtmax(30分、範囲:30分~60分)はヒューマリンRと同様であり、半減期(129分)は63%長くなった。ミニブタへの0.5U/kgのXJ-8(17.4mg/mLインスリン)のSC投与は、平均(±SD)Cmaxが7.0±1.1ng/mLであり、平均(±SD)AUClastが643±92ng*min/mLであるヒューマリンRよりも、インスリン曝露量が少なかった。メジアンTmax(30分、範囲:20分~45分)および半減期(67分)はヒューマリンRと同様であった。
【0223】
ヒューマリンR、XJ-6およびXJ-8の投与は図35に示されるように血糖値を急速に低下させることにより同様のPD反応を生じた。ヒューマリンRは、38分(範囲:30分~45分)のメジアン時間で、血糖を72±2mg/dLの平均(±SD)ベースラインから21±4mg/dLの平均(±SD)まで低下させた。ゼリジェクト-6は、75分(範囲:20分~360分)のメジアン時間で、血糖値を78±3mg/dLの平均(±SD)ベースラインから14±6mg/dLの平均(±SD)まで低下させた。ゼリジェクト-8は、83分(範囲:30分~120分)のメジアン時間で、血糖値を78±3mg/dLの平均(±SD)ベースラインから17±6mg/dLの平均(±SD)まで低下させた。インスリン投与後に低血糖が発生したいくつかの事例があり、動物は50%ブドウ糖の経口投与により処置した。ここで示されたグルコースレベルに対する試験品の薬力学的効果は、低血糖の治療のためにブドウ糖を与えられたミニブタについてのおおよその値にしかすぎない。
【0224】
実施例9:免疫グロブリンG(IgG)を含む注射用ペーストの製造、特性決定および調製
以下の実施例は高濃度のポリクローナル抗体(pAb)免疫グロブリンG(IgG)を含有する注射用ペースト製剤の調製を記載している。本実施例における固体相は、ほぼ51mg/mLの固形分量を有し、そのうちの40mg/mLがIgGタンパク質である(総固形分量の78%(重量)に相当する)水性供給液を噴霧乾燥することによって調製されたIgG粉末を含んでいた。最終的な供給液調製の前に、IgGを水溶液と緩衝液交換して表28に列挙した最終的な供給液組成を得た。
【0225】
(表28)IgG粉末調製のための製剤供給液組成
【0226】
この製剤供給液を、表29において下に示すBUCHI B-290噴霧乾燥機パラメータおよび条件を用いて噴霧乾燥した。
【0227】
(表29)IgG粉末調製のための噴霧乾燥機パラメータおよび条件
【0228】
噴霧乾燥させた粉末を減圧下で二次乾燥させて含水量を低減し(<1%(w/w))、次いで走査型電子顕微鏡(SEM)によって評価して粒子の形態を調べた。図36Aおよび36Bに見られるように、粒子は比較的平滑な表面、観察される表面の窪み(ディンプル)が最小限~無く、かつ適度に多分散のサイズ分布(スパン約2.0)を有する概して球形の形状を示した。
【0229】
次に、IgG粉末の粒子サイズおよび粒子サイズ分布をレーザー回折によって決定した(粉末の凝集を破壊するために試料を連続的に超音波処理しつつ試料を非溶媒(例えば、プロピルアルコール)に分散させた)。図37に示されるように、D90<10μmの小粒子集団は中程度の多分散性(スパン約2)を有し、はっきりとした微粒子(<1μm)の集団とより大きな粒子(1~10μm)の集団とが存在する二峰性分布がある。この実施例に記載された条件下では比較的二峰性の粒度分布が観察されたことに留意されたい。しかしながら、製剤および/またはプロセスパラメータおよび/または装置(例えば、より大きな噴霧乾燥機など)および/または特性決定方法を変更すると、観察された粒度分布を、高固形分濃度のペーストを調製するのに依然として好適である概して単峰性または多峰性(例えば、二峰性、三峰性など)プロファイルにシフトさせることができる。
【0230】
SEM、レーザー回折、および含水量分析による特性決定(データは示さず)に続いて、粉末をミグリオール812Nと固形分含量が65%になるまで混合する(遊星軌道ミキサーを用いて)ことによってペーストを調製した。ヘリウム比重計によって測定した粉末の密度はほぼ1.2g/mLであり、固形分濃度はほぼ780mg/mLに相当する。供給液の固形分量、特に総固形分量のパーセンテージとしての供給液中のタンパク質の重量パーセント(約78%w/w)は噴霧乾燥粉末中のIgGのおおよその重量パーセントに換算し得(約78%(w/w))、次いで、これを用いてペースト中のおおよそのタンパク質濃度を決定し得る(約600mg/mL)。
【0231】
IgGペーストもSEMによって画像化して、粒子の形態および/またはサイズ分布のあらゆる変化(ミグリオールとの混合後)を調べ、かつペースト内の粒子のパッキングを観察した。図38A、38B、および38Cに示されるように、IgGペーストの調製後、ペーストの固相を含む粒子の形態およびサイズ分布は比較的無変化のままであった。IgGペーストのSEM分析はペーストの高濃度固体相から生じる良好な粒子のパッキング/配置を示し、これがペーストの半固体および粘弾性特性を付与し、医薬品に関連する保存条件および期間にわたって粒子が経時的に沈降するのを立体的に阻害し得る。
【0232】
最後に、高固形分濃度IgGペーストの注射し易さを評価するために、バレル内径が5.0mmの環状オレフィン共重合体(COC)シリンジ(Schott)にペーストを1mL充填し、25ゲージ、極薄肉、6mm針を通じて送達した。図39は、TA.XT Plusモデルテクスチャアナライザ(Stable Micro Systems)を用いて測定した固形分含量65%のIgGペーストの注入力プロファイル(ミリメートルでのプランジャの移動距離(mm、X軸)に対するニュートンでの力(N;Y軸)としてプロット)を提供する。テクスチャアナライザで測定されるように、測定された注入力(平均グライド力)は体積流量31μL/秒で30N未満であった。
【0233】
よって、本実施例は、高固形分濃度(>700mg/mL)および高タンパク質濃度(>500mg/mL)の両方を有するペースト組成物を調製でき、かつ皮内注射に関連するシリンジおよび針を通じて適度な注入力で送達できることを実証している。
【0234】
先行する実施例と合わせて、これらの結果は、本発明によって提供される高濃度の治療用タンパク質のペースト製剤が、比較的高分子量のものを含む治療用タンパク質の制御放出または持続放出デポーを、組換えヒトタンパク質の水性製剤のより多くの量の投与で得られるものよりも患者の体験を向上させる様式で、少量の皮下投与で送達するのに有用であることを示している。
【0235】
特定の機能の実装およびそれらの関係性を示す機能的な構成要素を用いて本発明を上に記載した。これらの機能的な構成要素の境界は、説明の都合上、本明細書では恣意的に規定している。特定の機能およびそれらの関係性が適切に実施される限り代替的な境界を規定することができる。
【0236】
前述の特定の態様の説明は当分野の技術範囲内の知識を適用することによって、過度の実験なく、本発明の基本的な概念から逸脱せずに様々な用途向けにそのような特定の態様を他の者が容易に変更しかつ/または適合し得るように発明の基本的な性質を十分に明らかにしているであろう。よって、本明細書に具体的に記載されたものに加えて、発明の他の好適な態様が前述の説明および実施例ならびに関連する技術分野において一般的に利用可能な知識に基づいて当業者には容易に明らかとなるであろう。したがって、そのような適合および変更は、本明細書において示される教示および指針に基づき、開示された態様の均等物の意味および範囲内であることが意図されている。本明細書における表現または用語は、本明細書の用語または表現が教示および指針に照らして当業者によって解釈されるように、限定ではなく説明の目的のためであることを理解されたい。
【0237】
本発明の範囲(breadth and scope)は上記の例示的な態様のいずれによっても限定されるべきではなく、以下のクレームおよびそれらの均等物によってのみ規定されるべきである。
【0238】
米国特許および公開された特許出願、国際特許および特許出願、ならびに刊行物または他の公に利用可能な文書を含む、本明細書において引用したすべての文献は、文献が関連する本願のセクションに利用可能なそのような文献のうちの部分が具体的に引用されているのと同程度に、それらの全体において参照により本明細書に組み入れられる。
図1
図2
図3
図4
図5
図6
図7
図8
図9
図10
図11
図12
図13
図14
図15
図16
図17
図18
図19
図20
図21
図22
図23
図24
図25
図26
図27
図28
図29
図30
図31
図32
図33
図34
図35
図36
図37
図38
図39
【国際調査報告】