(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公表特許公報(A)
(11)【公表番号】
(43)【公表日】2024-09-26
(54)【発明の名称】バイオマーカーとしてトリプトファンを使用して気分障害及び/又は気分障害の状態の改善を検出及び/又は定量する方法、並びにその改善された方法及び組成物
(51)【国際特許分類】
G01N 33/68 20060101AFI20240918BHJP
A61P 25/22 20060101ALI20240918BHJP
A61P 25/24 20060101ALI20240918BHJP
A61P 43/00 20060101ALI20240918BHJP
A61K 35/745 20150101ALI20240918BHJP
A61K 31/405 20060101ALI20240918BHJP
A61K 38/02 20060101ALI20240918BHJP
A61K 38/17 20060101ALI20240918BHJP
A23L 33/175 20160101ALI20240918BHJP
A23L 33/135 20160101ALI20240918BHJP
【FI】
G01N33/68
A61P25/22
A61P25/24
A61P43/00 121
A61K35/745
A61K31/405
A61K38/02
A61K38/17
A23L33/175
A23L33/135
【審査請求】未請求
【予備審査請求】未請求
(21)【出願番号】P 2024515926
(86)(22)【出願日】2022-09-23
(85)【翻訳文提出日】2024-03-12
(86)【国際出願番号】 EP2022076512
(87)【国際公開番号】W WO2023046895
(87)【国際公開日】2023-03-30
(32)【優先日】2021-09-24
(33)【優先権主張国・地域又は機関】EP
(81)【指定国・地域】
(71)【出願人】
【識別番号】590002013
【氏名又は名称】ソシエテ・デ・プロデュイ・ネスレ・エス・アー
(74)【代理人】
【識別番号】100088155
【氏名又は名称】長谷川 芳樹
(74)【代理人】
【識別番号】100140453
【氏名又は名称】戸津 洋介
(74)【代理人】
【識別番号】100200540
【氏名又は名称】安藤 祐子
(72)【発明者】
【氏名】マーティン, フランソア‐ピエール
(72)【発明者】
【氏名】ベルゴンゼリ デゴンダ, ガブリエラ
(72)【発明者】
【氏名】コミネッティ アレンデ, オルネラ
【テーマコード(参考)】
2G045
4B018
4C084
4C086
4C087
【Fターム(参考)】
2G045AA25
2G045CA26
2G045CB03
2G045CB04
2G045DA35
2G045FA36
4B018LB08
4B018LB10
4B018MD19
4B018MD87
4B018ME14
4C084AA02
4C084BA03
4C084CA38
4C084DC50
4C084MA02
4C084MA17
4C084MA52
4C084NA05
4C084ZA051
4C084ZA121
4C084ZC611
4C084ZC751
4C086AA01
4C086BC14
4C086MA02
4C086MA04
4C086MA17
4C086MA52
4C086NA05
4C086ZA05
4C086ZA12
4C086ZC61
4C086ZC75
4C087AA01
4C087AA02
4C087BC59
4C087CA09
4C087MA02
4C087MA17
4C087MA52
4C087NA05
4C087ZA05
4C087ZA12
4C087ZC61
4C087ZC75
(57)【要約】
本発明は、対象の気分障害の状態の改善及び/又は過度の情動反応の改善を検出及び/又は定量するためのバイオマーカーとしての、トリプトファンの使用に関する。本発明はまた、対象の気分障害、気分障害の状態の改善及び/又は過度の情動反応の改善を検出及び/又は定量するための方法、特に対象における気分障害の状態及び/又は過度の情動反応を治療又は寛解するための介入の進行をモニタリングするための方法であって、介入が、プロバイオティクスの投与を含む、方法にも関する。本発明はまた、必要とする対象における気分障害の状態及び/又は過度の情動反応を治療又は寛解するための改善された方法であって、プロバイオティクスをトリプトファン又はその機能性誘導体と組み合わせた組成物の有効量を対象に投与することを含む、方法にも関する。
【選択図】
図1
【特許請求の範囲】
【請求項1】
トリプトファンである、バイオマーカー。
【請求項2】
対象の気分障害、前記気分障害の状態の改善及び/又は過度の情動反応の改善を検出及び/又は定量するためのバイオマーカーとしての、トリプトファンの使用。
【請求項3】
対象の気分障害、前記気分障害の状態の改善及び/又は過度の情動反応の改善を検出及び/又は定量する方法であって、
検査を受ける対象から得られた生体試料中のトリプトファンの濃度を評価することと、
前記対象のトリプトファン濃度を予め定められた参照値と比較することと、を含み、
前記試料中のトリプトファン濃度が前記予め定められた参照値と比較して増加していると、前記対象の前記気分障害の状態の改善及び/又は過度の情動反応の改善を示す、方法。
【請求項4】
前記気分障害が、軽度から重度である、請求項2又は3に記載の方法。
【請求項5】
前記予め定められた参照値が、前記同じ対象から以前に得られたものである、請求項3に記載の方法。
【請求項6】
前記予め定められた参照値が、対照集団における同様の体液中の平均トリプトファン濃度に基づくものである、請求項3に記載の方法。
【請求項7】
前記試料中及び前記参照中の前記バイオマーカーの前記濃度が、タンデム質量分析に連結した超高速液体クロマトグラフィー又はガスクロマトグラフィーを用いて、質量分析法によって測定される、請求項3~6のいずれか一項に記載の方法。
【請求項8】
前記予め定められた参照値が、検査を受ける対象から得られた生体試料中のトリプトファンの濃度と同様の体液から得られたトリプトファン濃度に基づくものである、請求項3~7のいずれか一項に記載の方法。
【請求項9】
前記対象の予め定められた参照値が、気分障害の状態及び/又は過度の情動反応を治療又は寛解するための介入が開始する前に前記対象から採取された生体試料から得られたものである、請求項3~8のいずれか一項に記載の方法。
【請求項10】
前記対象の予め定められた参照値が、気分障害の状態及び/又は過度の情動反応を治療又は寛解するための介入中に、前記対象から採取された生体試料から得られたものであり、ただし前記対象から前記生体試料が得られるより少なくとも1週間前、例えば、少なくとも4週間前のものである、請求項3~9のいずれか一項に記載の方法。
【請求項11】
前記生体試料が、糞便、尿、血液、血清、及び血漿からなる群から選択される、請求項3~10のいずれか一項に記載の方法。
【請求項12】
前記方法が、対象における気分障害の状態及び/又は過度の情動反応を治療又は寛解するための介入の進行をモニタリングするためのものであり、前記介入が、プロバイオティクスの投与を含む、請求項3~11のいずれか一項に記載の方法。
【請求項13】
前記プロバイオティクスが、ビフィドバクテリウム・ロンガム(Bifidobacterium longum)NCC3001である、請求項12に記載の方法。
【請求項14】
前記対象が、ヒト、又はコンパニオンアニマル、例えば、ネコ若しくはイヌである、請求項3~13のいずれか一項に記載の方法。
【請求項15】
必要とする対象において、気分障害の状態及び/又は過度の情動反応を治療又は寛解するための改善された方法であって、プロバイオティクスとトリプトファン又はその誘導体とを組み合わせた組成物の有効量を前記対象に投与することを含む、方法。
【請求項16】
前記気分障害が、軽度から重度である、請求項15に記載の方法。
【請求項17】
前記組成物の投与を開始する前に、請求項2~14のいずれか一項に記載の方法を使用して前記対象を診断することを含む、請求項15又は16に記載の方法。
【請求項18】
トリプトファンが、遊離アミノ酸の形態、若しくは、乳タンパク質及び非乳タンパク質などのトリプトファンに富む任意の供給源の形態、又はトリプトファン誘導体の形態である、請求項15又は18に記載の方法。
【請求項19】
前記組成物が、経口投与される、請求項15~18のいずれか一項に記載の方法。
【請求項20】
前記組成物が、食品添加物、食品原材料、機能性食品、ダイエタリーサプリメント、医療用食品、ニュートラシューティカルズ、経口栄養補助食品(ONS)若しくは栄養補助食品、又は乳児用フォーミュラを含む食品製品又は飲料製品である、請求項15~19のいずれか一項に記載の方法。
【請求項21】
前記プロバイオティクスが、ビフィドバクテリウム・ロンガムNCC3001である、請求項15~20のいずれか一項に記載の方法。
【請求項22】
前記対象が、ヒト、又はコンパニオンアニマル、例えば、ネコ若しくはイヌである、請求項15~21のいずれか一項に記載の方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、対象の気分障害の状態の改善及び/又は過度の情動反応の改善を検出及び/又は定量するためのバイオマーカーとしての、トリプトファンの使用に関する。本発明はまた、対象の気分障害、気分障害の状態の改善及び/又は過度の情動反応の改善を検出及び/又は定量するための方法、特に対象における気分障害の状態及び/又は過度の情動反応を治療又は寛解するための介入の進行をモニタリングするための方法であって、介入が、プロバイオティクスの投与を含む、方法にも関する。本発明はまた、必要とする対象における気分障害の状態及び/又は過度の情動反応を治療又は寛解するための改善された方法であって、プロバイオティクスをトリプトファン又はその誘導体と組み合わせた有効量の組成物を、対象に投与することを含む、方法にも関する。
【0002】
世界保健機関(WHO)が2018年に発表したファクトシートによれば、世界の3億人超が抑うつである(GBD 2017 Disease and Injury Incidence and Prevalence Collaborators(2018)。Global,regional,and national incidence,prevalence,and years lived with disability for 354 diseases and injuries for 195 countries and territories,1990-2017:a systematic analysis for the Global Burden of Disease Study 2017.The Lancet)。気分障害の1つである抑うつは、日常生活中の困難に対する気分及び一時的情動応答において、正常な変化とは差異がある、一般的な病気である。しかしながら、潜在性抑うつ、軽度の気分障害もまた、生活の質に影響を及ぼすことがある。
【0003】
気分障害は、患者、及び当該患者と定期的に交流がある人々に深刻な影響を及ぼすことがある。典型的な帰結は、職場又は学校での成績の不振、社会的交流の減少、個人的な悩み、及び友人又は家族との関係性に対する悪影響である。
【0004】
最悪の場合、気分障害は自殺につながることがある。自殺により毎年800,000人に迫る人々が亡くなっており、自殺は15~29歳では2番目に多い死因である(Suicide worldwide in 2019:global health estimates.Geneva:World Health Organization;2021.Licence:CC BY-NC-SA 3.0 IGO)。
【0005】
気分障害は、男性よりも女性でよくみられるようであり(Journal of the American Medical Association,2003;Jun 18.289(23):3095-105)、周産期、及び閉経期が特にかかりやすい時期である。また、小児も1,900万人が抑うつと診断されている。特に、気分障害はまた、後に他の疾患につながることもある。例えば、気分障害により、冠動脈疾患を発症するリスクが大きくなることは公知である。
【0006】
現在、気分障害は、通常は十分に治療することができる。例えば、気分障害は、運動又は対話療法(talking therapy)によって、理想的にはサイコロジストによる指導を受けて、治療することができる。心理療法、例えば認知行動療法は、1つの選択肢である。現在では、抗うつ薬が薬剤としてうまく使用されている。多くの場合、上記に参照したアプローチの組み合わせは、併用療法の枠組みで使用されている。最近の学術研究により、プロバイオティクスであるビフィドバクテリウム・ロンガム(Bifidobacterium longum、BL)NCC3001は、過敏性腸症候群の患者において抑うつスコア(depression score)を低下させることが明らかになった(Gastroenterology 2017;153:448-459)。
【0007】
現在では、医師は、患者との対話、及び典型症状のスクリーニングによって、気分障害を診断している。現在では、治療応答は、確立された自己評価尺度を用いて患者の応答を体系的にモニタリングすることによって測定する必要がある(J Clin Psychiatry.2013 Jul;74(7))。
【0008】
一方で、気分障害を検出すること、及び/又は気分障害を治療又は寛解する治療の成功を評価すること、更にはかかる治療を改善することを可能にする、生化学ツールを利用可能にすることが望ましい。
【0009】
本発明者らは、これらの課題に取り組んだ。
【0010】
本明細書における先行技術文献のいかなる参照も、かかる先行技術が周知であること、又は当該技術分野で共通の全般的な認識の一部を形成していることを認めるものとみなされるべきではない。
【0011】
このことから、本発明は現在の技術水準を改善することを目的とし、特に、対象の気分障害の診断又は気分障害の状態の改善及び/若しくは過度の情動反応の改善を可能にする生化学的ツールの提供、又は少なくとも有用な代替物の提供を目的とした。本発明はまた、対象における気分障害の状態及び/又は過度の情動反応を治療又は寛解するための方法を改善することも目的とする。
【0012】
本発明者らは、驚くべきことに、本発明の目的が独立請求項の主題によって達成され得ることを見出した。従属請求項は、本発明の着想を更に展開させるものである。
【0013】
したがって、一態様において、本発明は、血中で測定することができるバイオマーカーを提供し、該バイオマーカーはトリプトファンである。
【0014】
別の態様において、本発明は更に、対象の気分障害の状態の改善及び/又は過度の情動反応の改善を検出及び/又は定量するためのバイオマーカーとしての、トリプトファンの使用を提供する。
【0015】
更なる態様において、本発明は、対象の気分障害、気分障害の状態の改善及び/又は過度の情動反応の改善を検出及び/又は定量するための方法であって、検査を受ける対象から得られた生体試料中のトリプトファンの濃度を測定することと、対象のトリプトファン濃度を予め定められた参照値と比較することと、を含み、試料中のトリプトファン濃度が予め定められた参照値と比較して増加していると、対象の気分障害の状態の改善及び/又は過度の情動反応の改善を示す、方法を提供する。
【0016】
最後の態様において、本発明は、対象における気分障害の状態及び/又は過度の情動反応を治療又は寛解するための改善された方法であって、プロバイオティクスをトリプトファン又はその誘導体と組み合わせた有効量の組成物を、必要とする対象に投与することを含む、方法を提供する。
【0017】
本明細書で使用される場合、「含む/備える(comprises)」、「含んでいる/備えている(comprising)」という単語、及び類似の単語は、排他的又は網羅的な意味で解釈されるべきではない。換言すれば、これらは「含むが、これらに限定されない」ことを意味することを意図している。
【0018】
本明細書で使用される場合、疾患又は障害を「治療する」、「治療すること」又は「治療」は、次の1つ以上を達成することを意味する:(a)障害の重症度及び/又は持続期間を低減すること;(b)治療される障害(複数可)に特徴的な症状の発症を制限又は予防すること;(c)治療される障害に特徴的な症状の悪化を抑制すること;(d)過去に障害(複数可)を有していた患者における障害(複数可)の再発を制限又は予防すること;及び(e)過去に障害(複数可)の症状を示した患者における症状の再発を制限又は予防すること。本明細書で使用される場合、疾患又は障害の「予防する(prevent)」、「予防すること(preventing)」、「予防(prevention)」、又は「発症予防(prophylaxis)」は、対象において疾患又は障害が生じることを予防することを意味する。
【0019】
「有効量」又は「治療量」という用語は、研究者、獣医、医師又は他の臨床医によって求められている組織、系、動物又はヒトの生物学的応答又は医学的応答を誘発する、物質の量を意味することが意図される。「予防有効量」という用語は、研究者、獣医、医師又は他の臨床医によって組織、系、動物又はヒトにおいて予防されることが求められる生物学的又は医学的事象の発生のリスクを予防又は低減する物質の量を意味することが意図される。
【0020】
本発明の目的で、「気分障害」という用語は、主に人の情動状態に影響する精神の健康問題を含むと理解されるものとする。気分障害には、躁エピソード(多動、会話心迫、及び自尊心の肥大を伴う、高揚した、開放的な、又は易怒的な気分)、又は抑うつエピソード(生活への無関心、虚無感、興味や喜びの喪失、悲しみ、食欲又は体重の変化、無気力又は気力低下、睡眠障害、焦燥/興奮(agitation)、及び無価値感又は罪責感、無力感、思考力若しくは集中力の減退又は決断困難、絶望感、疲労感、倦怠感、記憶障害、涙ぐむ、を伴う、落ち込んだ気分)などの情動障害/撹乱を含み、多くの場合、これら2つの組み合わせを含む。用語「気分」とは、特定の時点における、感情の状態又は質(情動状態)を意味する。気分は、さほど具体的でない、さほど激しくない、及び特定の刺激又は出来事によりさほど誘発されないという点で、単純な情動とは異なる。臨床的抑うつ及び双極性障害は、気分障害(すなわち、気分の長期変調)の例である。気分障害は、精神疾患の診断・統計マニュアル(DSM)の分類システムにおける診断群であり、気分における変調を主要な特徴とする。抑うつ障害の非限定的な例としては、うつ病のような重度の抑うつ、及び軽度から中等度の気分障害である潜在性抑うつ、重篤気分変調症、うつ病、単一及び再発エピソード、持続性抑うつ障害(気分変調症)、季節性感情障害(SAD)、月経前不快気分障害、物質・医薬品誘発性抑うつ障害、他の医学的疾患による抑うつ障害、他の特定される抑うつ障害又は特定不能の抑うつ障害が挙げられる。
【0021】
本発明の目的に関し、「過度の情動反応」という用語は、過度の恐怖、不安、怒り、又は悲しみを特徴とする情動調節不全を含む。不安障害の非限定的な例としては、分離不安障害、場面緘黙、限局性恐怖症、社交不安障害(社交恐怖)、パニック障害、パニック発作、広場恐怖症、全般性不安障害、物質・医薬品誘発性不安障害、他の医学的疾患に起因した不安障害、他の特定される不安障害、又は特定不能の不安障害が挙げられる。不安障害はまた、ストレス、過度のストレスの感覚、易怒性、不穏、又は肉体的な健康に対する過度の心配を指すこともある。
【0022】
あるいは、気分障害は、神経障害、代謝異常、機能性胃腸障害、内分泌疾患、循環器疾患、肺疾患、がん、自己免疫性疾患、及びこれらの組み合わせからなる群から選択される基礎疾患により発症した二次的疾患であり得る。例えば、気分障害は、基礎疾患から生じた1つ以上の抑うつ症状であり得る。
【0023】
本発明者らは、対象の気分障害の状態の改善及び/又は過度の情動反応の改善を検出及び/又は定量するためのバイオマーカーとして、トリプトファンを使用することができることを示した。
【0024】
理論に束縛されることを望むものではないが、本発明者らは、血中トリプトファンが、腸内微生物叢(microbiota)によるタンパク質及び芳香族アミノ酸の代謝の推移を示す読み出し情報になり得、したがって、プロバイオティクスにより誘導され、気分障害の状態の改善に関連する、腸-脳の代謝的相互作用を、直接的又は間接的に説明することができると考えている。実際に、BL NCC3001で治療されたIBS患者の血液中では、プラセボ治療を受けている患者と比較してトリプトファンが増加することが見出された。血中トリプトファン濃度がベースラインよりも上昇していることは、負の情動刺激に応答した扁桃体活性化の減少、並びに、抑うつの改善と、統計的且つ正に関連していた。更に、介入後の血中濃度は、抑うつ症状の改善、並びに、負の情動刺激に応答した扁桃体活性化の減少と、正に相関していた。BL NCC3001摂取は、腸においてトリプトファン産生を増加させ、トリプトファンは血液循環を介して脳に達し、抑うつ及び扁桃体活性化を減少させると仮定されている(Jenkins et al.Nutrients.2016 Jan 20;8(1):56)。
【0025】
本発明者らは、プロバイオティクス、一例としてBL NCC3001による介入を用いて、本明細書に示される治験を実施した。結果として、本発明の目的のためには、プロバイオティクスは、ビフィドバクテリウム・ロンガム、例えば、BL NCC3001であってもよい。
【0026】
また、コンパニオンアニマルも気分障害になることがある。本発明の目的に関し、コンパニオンアニマルは、主に人の仲間として、喜びのため、又は思いやりのある行為として飼われている動物である。コンパニオンアニマルの典型的な例は、ネコ若しくはイヌ、更にウサギ、フェレット、ブタ、齧歯類、例えば、アレチネズミ、ハムスター、チンチラ、ラット、マウス、及びモルモット、又は鳥類である。例えば、イヌは、抑うつ状態になると、多くの場合引きこもり、遊びへの関心が失われ、及び/又は無気力若しくは悲しんでいるようにみえる。場合により、コンパニオンアニマルは、通常よりも少なく食べ及び/又は飲み、それにより様々な身体的疾患になることがある。結果として、今日では、コンパニオンアニマルも気分障害の治療を受ける。したがって、本発明の一実施形態では、対象は、ヒトであってよく、又はコンパニオンアニマル、例えば、ネコ若しくはイヌであってもよい。
【図面の簡単な説明】
【0027】
【
図1】トリプトファンの血中濃度を示す。濃度データの群をその四分位数を通して描く箱ひげ図として報告している。
【
図2】介入後の血中トリプトファンと扁桃体活性化との間の相関プロットを示す。
【0028】
結果として、本発明は、部分的には、トリプトファンであるバイオマーカーに関する。
【0029】
バイオマーカーは、当業者に公知である。バイオマーカーは通常、正常な生物学的プロセス、発症プロセス、又は介入に対する応答の指標として客観的に測定及び評価される特徴として理解される。更なる手引きは、Curr Opin HIV AIDS.2010 Nov;5(6):463-466から得ることができる。
【0030】
本発明はまた、対象の気分障害の状態の改善及び/又は過度の情動反応の改善を検出及び/又は定量するためのバイオマーカーとしての、トリプトファンの使用にも関する。このことから、気分障害を検出するためのバイオマーカーとして、トリプトファンを使用することができる。
【0031】
好ましい実施形態において、気分障害は軽度から重度である。病院不安抑うつ尺度(Hospital Anxiety and Depression Scale,HADS)を使用して、気分障害のレベルを測定することができる。HADSは14項目の自己申告尺度であり、7項目が抑うつサブスケールを形成し、別の7項目が不安を計測する(Zigmond & Snaith,1983)。各項目は、0~3の範囲の4段階スケールで評価され、3はより高い症状頻度を意味する。各サブスケールの合計スコアは0~21の範囲であり、正常(0~7)、軽度(8~10)、中等度(11~14)又は重度(15~21)に分類される(The Hospital Anxiety and Depression Scale,Occupational Medecine 2014,64:393-394)。
【0032】
更に、気分障害の状態の改善を検出及び/又は定量するために、トリプトファンを使用することができる。
【0033】
更に、対象の気分障害の状態から生じる情動反応の改善を検出及び/又は定量するために、トリプトファンを使用することができる。例えば、Gastroenterology 2017;153:448-459の著者は、扁桃体の活性化の変化が気分障害スコアの変化と相関することを報告している。扁桃体は、情動応答において主要な役割を果たすことから、気分障害の状態の改善は、対象の気分障害の状態から生じた情動的反応の改善に対応すると推論することができる。
【0034】
本発明の主題は更に、対象の気分障害の状態の改善及び/又は過度の情動反応の改善を検出及び/又は定量するための方法であって、
検査を受ける対象から得られた生体試料中のトリプトファンの濃度を評価することと、
対象のトリプトファン濃度を予め定められた参照値と比較することと、を含み、
試料中のトリプトファン濃度が予め定められた参照値と比較して増加していると、対象の気分障害の状態の改善及び/又は過度の情動反応の改善を示す、方法に関する。
【0035】
本発明の主題は更に、対象における気分障害を検出するための方法であって、
検査を受ける対象から得られた生体試料中のトリプトファンの濃度を評価することと、
対象のトリプトファン濃度を予め定められた参照値と比較することと、を含み、
試料中のトリプトファン濃度が予め定められた参照値と比較して増加していると、対象における気分障害を示す、方法に関する。
【0036】
本発明の方法は、生体試料中のバイオマーカーの濃度又はバイオマーカーの濃度の変化に基づいて気分障害を診断することを可能にするという利点を有する。また、対象における気分障害の治療の成功を制御することも可能になる。したがって、このような生化学的方法は、気分障害を正確に診断するよう医師を支援するのに、及び/又は医師が指示する治療の成功を追跡するのに、価値のあるツールになり得る一方で、この方法以外では、医師は主観的な問診票及び患者による症状の説明に頼るしかない。また、本発明の方法は、気分障害をはっきり伝えることができず、かつ気分障害になっている対象、例えば、コンパニオンアニマルを助けるのに非常に価値がある。
【0037】
本発明の方法では、検査を受ける対象から得られた生体試料中のトリプトファンの濃度を参照値と比較する。
【0038】
例えば、対象の気分障害の状態の改善及び/又は過度の情動反応の改善を検出及び/又は定量することを目的とする場合、参照値も治療される対象から得られたものであると好ましい場合がある。
【0039】
したがって、本発明の方法に関し、予め定められた参照値は、同じ対象から以前に得られたものであってもよい。このことは、現時点のトリプトファン濃度を以前のトリプトファン濃度と比較することによって、ある個人についてトリプトファン濃度の増加を高信頼度で測定することができるという利点を有する。
【0040】
あるいは、予め定められた参照値は、対照集団における同様の生体試料中の平均トリプトファン濃度に基づくものであってもよい。このことは、ある個体について測定されたトリプトファン濃度を、全体に適用可能な標準と比較することができ、すなわち、ある個体のトリプトファン濃度を全体平均と比較することができるという利点を有する。これにより、多くの個別患者における多くの測定値の容易な比較が可能になる。これによりまた、個別の参照値を得るための予めの検査の必要がないため、わずか1回の検査での迅速な評価も可能になる。
【0041】
生体試料中の少なくとも1つのトリプトファン濃度の分析は、当業者に公知の任意の好適な方法によって実施することができる。本発明者らは、質量分析を用いた。したがって、本発明の一実施形態では、試料中及び参照中のバイオマーカーの濃度は、質量分析によって測定することができる。速度上昇、精度、及びノイズ低減のために、質量分析は、質量分析に先立つクロマトグラフィーステップと連結することができる。例えば、試料中及び参照中のバイオマーカーの濃度は、タンデム質量分析に連結した超高速液体クロマトグラフィーによって測定することができる。更に、例えば、試料中及び参照中のバイオマーカーの濃度は、タンデム質量分析に連結したガスクロマトグラフィーによって測定することができる。例えば、試料中のトリプトファン濃度の定量的測定は、タンデム質量分析(UPLC-MS/MS)及び/又はガスクロマトグラフ-飛行時間型質量分析計(GC-TOFMS)に連結した超高速液体クロマトグラフィーのいずれを用いて実施してもよい。
【0042】
有利なことに、参照値と生体試料から得られたトリプトファン濃度との最適な比較能力を確保するために、参照値及び現在のトリプトファン濃度の両方を同様の生体試料から得ることができる。したがって、予め定められた参照値は、検査を受ける対象から得られた生体試料中のトリプトファンの濃度と同様の生体試料から得られたトリプトファン濃度に基づくものであってもよい。
【0043】
本発明の方法を用いて、気分障害治療の成功をモニタリングすることができる。モニタリングを行うために、現時点のトリプトファン濃度を、治療を受ける対象から治療の開始前に得られたトリプトファン濃度と比較可能であることが好ましい場合がある。したがって、例えば、対象の予め定められた参照値は、気分障害の状態及び/又は過度の情動反応の開始を治療又は寛解するための介入の前に対象から採取された生体試料から得ることができる。
【0044】
本発明が既に開始された後の、気分障害の状態の更なる改善を評価することが可能であるように、治療を受ける対象から得られた参照を利用可能にすることが更に好ましい場合がある。したがって、例えば、対象の予め定められた参照値は、気分障害の状態及び/又は過度の情動反応を治療又は寛解するための介入中に、対象から採取された生体試料から得られたものであってもよく、ただし、対象から生体試料が得られるより少なくとも1週間前、例えば、少なくとも2週間前、少なくとも4週間前、又は少なくとも6週間前のものである。このことは、気分障害の治療の継続的な進行を継続的にモニタリングすることができるという利点を有する。
【0045】
概して、検出されるトリプトファン濃度のいかなる増加も、対象の気分障害の状態の改善及び/又は過度の情動反応の改善を示す。しかしながら、本発明のバイオマーカーの1つの利点は、成功した治療において測定することができる生体試料中のバイオマーカー濃度の差がかなり顕著であることである。したがって、例えば、本発明の方法では、試料中のトリプトファン濃度の、予め定められた参照値と比較して少なくとも10%、少なくとも20%、又は少なくとも30%の減少が、対象の気分障害の状態の改善及び/又は過度の情動反応の改善を示す。
【0046】
本発明者らは、本発明の目的のために使用することができる典型的な生体試料は、糞便、尿、全血、血清、及び血漿からなる群から選択することができることを見出した。
【0047】
有利なことに、参照及び現時点のトリプトファン濃度の両方が、同様の生体試料から得られ、例えば、参照及び現時点のトリプトファン濃度の両方が、いずれも全血から得られ、参照及び現時点のトリプトファン濃度の両方が、血清から得られ、又は参照及び現時点のトリプトファン濃度の両方が、いずれも血漿から得られる。
【0048】
例えば、全血、血清、又は血漿から、約5~10mLを採取することができる。十分に大きな試料サイズにより、アーチファクトが生じることを回避する。これらの試料から、約20~10μLを更なる解析に用いることができる。
【0049】
全血、血清、及び/又は血漿は、検査されるバイオマーカーのシグナル対ノイズ比が特に高いという利点を有する。本発明の方法は、選択される生体試料を問わず、対象からかかる体液を得ることが十分に確立された手順であるという利点を有する。次いで、実際の診断方法は、身体外部において生体試料で実施される。
【0050】
本発明の方法は、気分障害の任意の治療の進行をモニタリングするのに好適である。例えば、気分障害の治療は、運動、又は会話療法、心理療法、認知行動療法、抗うつ薬投与、例えば、プロバイオティクス、プレバイオティクス、及びそれらの組み合わせを用いる栄養介入からなる群から選択することができる。
【0051】
プロバイオティクスは、気分障害の症状に効果があることが見出されている(Neuropsychobiology.2019 Feb,1(9):(Gastroenterology 2017;153:448-459)。これらのプロバイオティクスは、気分障害を含む、広範囲の精神の健康の状態を治療する助けになり得る。理論に束縛されることを望むものではないが、本発明者らは現時点で、脳腸軸により、胃腸管と脳との間の強いつながりがみられると考えている。したがって、本発明の一実施形態では、方法は、対象における気分障害の状態及び/又は過度の情動反応を治療又は寛解する介入の進行をモニタリングするためのものであり、介入は、プロバイオティクスの投与を含む。
【0052】
最後の態様において、本発明は、対象における気分障害の状態及び/又は過度の情動反応を治療又は寛解するための改善された方法であって、プロバイオティクスをトリプトファン又はその誘導体と組み合わせた有効量の組成物を、必要とする対象に投与することを含む、方法を提供する。
【0053】
好ましい実施形態において、気分障害は軽度から重度である。
【0054】
組成物は、対象の気分障害の状態及び/又は過度の情動反応を改善するために投与することができる。したがって、本方法のいくつかの実施形態は、組成物の投与を開始する前に、対象を診断することを含む。
【0055】
一実施形態では、気分の改善は、抑うつレベルの低減、不安レベルの低減、ストレスレベルの低減、知覚エネルギーレベル(「活力」)の増大、より肯定的な情動状態、自尊感情の増強、否定的思考及び/又は否定的な緊張感(tension)の量の低減及び/又は強度の低減、気分変動のリスク低減、又は肯定的な気分の保持のうちの1つ以上を含み得る。更に、この点に関し、組成物を、不安及び/又はストレスを低減する必要のある個体において不安及び/又はストレスを低減するために投与することができる。方法は、不安を低減する及び/又はストレスを低減する必要があるものとして、個体を識別すること、を含み得る。
【0056】
上記のとおり、組成物を、過度の情動的苦痛を制御(例えば、恐怖症を予防又は治療)するために投与することができる。したがって、本明細書で開示される過度の情動的苦痛を制御する方法についてのいくつかの実施形態は、例えば、組成物の投与を開始する前に、過度の情動的苦痛を有する個体を診断すること、を含む。
【0057】
一実施形態において、トリプトファンは、遊離アミノ酸の形態、若しくは、乳タンパク質及び非乳タンパク質などのトリプトファンに富む任意の供給源の形態、又はトリプトファンの機能性誘導体の形態である。そのような実施形態において、組成物は、好ましくは、トリプトファンの天然源、例えば、高いトリプトファン/大型中性アミノ酸(large neutral amino acid)比(TRP/LNAA比)を有するトリプトファンの天然源を含む。いくつかの実施形態において、組成物中のトリプトファンの少なくとも一部分は、(i)組成物中のタンパク質(例えば、乳タンパク質などの動物性タンパク質及び/若しくは植物性タンパク質)並びに/又は(ii)組成物中の遊離型トリプトファンの一方又は両方によって提供される。
【0058】
トリプトファン又はその機能性誘導体は、約0.1mg~約5gのトリプトファン又はその機能性誘導体の量で投与することができる。いくつかの実施形態において、組成物は、約1mg~約5gのトリプトファン、好ましくは約4mg~約1gのトリプトファン、より好ましくは約10mg~約250mgのトリプトファンを含む。
【0059】
いくつかの実施形態において、組成物は、約9.0g~約20.0gのホエイタンパク質ミクロゲル、好ましくは約9.0g~約15.0gのホエイタンパク質ミクロゲル、より好ましくは約9.0g~約11.0gのホエイタンパク質ミクロゲル、最も好ましくは約10.0gのホエイタンパク質ミクロゲルなどのホエイタンパク質ミクロゲルを含む。これらの量のホエイタンパク質ミクロゲルは、約200mgのトリプトファン~約220mgのトリプトファン、例えば約210mgを含むことができる。
【0060】
別の例として、組成物は、ホエイタンパク質、例えば約5.0g~約20.0gのホエイタンパク質、好ましくは約5.0g~約15.0gのホエイタンパク質、より好ましくは約5.0g~約10.0gのホエイタンパク質、更により好ましくは約5.0g~約5.5gのホエイタンパク質、最も好ましくは約5.1gのホエイタンパク質を含む。
【0061】
他の特定の実施形態において、組成物は、ホエイタンパク質とカゼインとの混合物、例えば約8:2のホエイタンパク質とカゼインとの混合物、好ましくは約5.0g~約20.0gのホエイタンパク質とカゼインとの混合物、より好ましくは約5.0g~約15.0gのホエイタンパク質とカゼインとの混合物、更により好ましくは約5.0g~約10.0gのホエイタンパク質とカゼインとの混合物、更により好ましくは約5.5g~約6.0gのホエイタンパク質とカゼインとの混合物、最も好ましくは約5.6gのホエイタンパク質とカゼインとの混合物を含む。
【0062】
更に他の特定の実施形態において、組成物は、組成物中に、大豆タンパク質、例えば約5.0g~約20.0gの大豆タンパク質、好ましくは約5.0g~約15.0gの大豆タンパク質、更により好ましくは約5.0g~約10.0gの大豆タンパク質、更により好ましくは約5.5g~約10.0gの大豆タンパク質、例えば約5.6gの大豆タンパク質(例えば、50.0mgのトリプトファンを含み、夕食中に投与される)又は約9.6gの大豆タンパク質を含む。
【0063】
一実施形態では、本発明のプロバイオティクスは、ビフィドバクテリウム・ロンガム、ビフィドバクテリウム・アニマルス(Bifidobacterium animalis)亜種ラクチス(lactis)、又はビフィドバクテリウム・ブレーベ(breve)であり得る。最も好ましくは、ビフィドバクテリウム・ロンガム、例えば、B.ロンガム亜種ロンガム、B.ロンガム亜種インファンティス(infantis)、又はB.ロンガム亜種スイス(suis)、好ましくは、B.ロンガム亜種ロンガムである。B.ロンガム亜種ロンガムは、B.ロンガムATCC BAA-999(B.ロンガムNCC3001)、B.ロンガムATCC 15707、及びB.ロンガムCNCM I-2618から選択することができる。最も好ましくは、B.ロンガムATCC BAA-999(NCC3001)である。
【0064】
B.ロンガムATCC BAA-999は、本願の譲受人によりNCC3001として2001年1月29日にInstitut Pasteur,28rue du Docteur Roux,F-75024 Paris Cedex15,Franceに寄託された。この寄託物に対する公衆による利用についての全ての制限は、本願特許の付与をもとに取り消し不能(irrevocably)の形で撤回され、生存活性のあるサンプルが受託者により頒布不能になった場合には、寄託物は新たに補充されることになる。
【0065】
B.ロンガムATCC BAA-999は、任意の好適な方法により培養され得る。B.ロンガムATCC BAA-999は、例えば、組成物を形成するにあたり凍結乾燥形態又は噴霧乾燥形態で食品製品に添加され得る。
【0066】
理想的な用量が、例えば、治療する対象、その健康状態、性別、年齢、又は体重、及び投与経路によって異なることは、当業者には明らかである。その結果、理想的に使用される用量は様々であり得るが、当業者によって容易に決定することができる。
【0067】
しかしながら、一般に、本発明の組成物は、B.ロンガム亜種ロンガムを、1日用量当たり106~1010cfu、及び/又は106~1010個で含む場合が好ましい。本発明の組成物はまた、B.ロンガム亜種ロンガムを、組成物の乾燥重量1g当たり106~1011cfu、及び/又は106~1011個で含んでもよい。あるいは、組成物の1日用量は、好ましくは104~1012cfu(コロニー形成単位)、より好ましくは104~1011cfu、最も好ましくは104~1010cfuのB.ロンガム、例えばATCC BAA-999を提供するものである。組成物は、組成物の乾燥重量1g当たり102~1010cfu、好ましくは102~109cfu、より好ましくは102~108cfuのB.ロンガム、例えば、ATCC BAA-999を含んでよい。
【0068】
不活性化された、及び/又は非増殖性のB.ロンガムATCC BAA-999の場合、組成物は、組成物の乾燥重量1g当たり102~1010、好ましくは組成物の乾燥重量1g当たり103~108、より好ましくは組成物の乾燥重量1g当たり105~108の、B.ロンガムの非増殖性の細胞を含んでよい。
【0069】
組成物は、1週間に少なくとも1日、好ましくは1週間に少なくとも2日、より好ましくは1週間に少なくとも3日若しくは4日(例えば、1日おき)、最も好ましくは1週間に少なくとも5日、1週間に6日、又は1週間に7日、投与してよい。投与期間は、少なくとも1週間、好ましくは少なくとも1カ月間、より好ましくは少なくとも2カ月間、最も好ましくは少なくとも3カ月間、例えば、少なくとも4カ月間であってもよい。一実施形態では、投与は少なくとも毎日であり、例えば、対象は1日に1回以上投与を受けてもよい。いくつかの実施形態では、投与は、個体の残りの寿命にわたって継続される。他の実施形態では、投与は、医学的状態について検出可能な症状がなくなるまで行われる。具体的な実施形態では、投与は、少なくとも1つの症状について検出可能な改善が生じるまで行われ、更なる場合においては、寛解を維持するために継続される。
【0070】
本明細書に開示される組成物及び方法のそれぞれにおいて、組成物は、好ましくは、食品添加物、食品原材料、機能性食品、ダイエタリーサプリメント、医療用食品、ニュートラシューティカルズ、経口栄養補助食品(ONS)若しくは栄養補助食品、又は乳児用フォーミュラを含む食品製品又は飲料製品である。
【0071】
本明細書に開示される組成物は、例えば経口投与、経腸投与、眼内投与、局所投与、及び吸入投与で、対象に投与され得る。したがって、組成物の形態の非限定的な例としては、自然食品、加工食品、天然果汁、濃縮物及び抽出物、マイクロカプセル、ナノカプセル、リポソーム、硬膏、吸入形態、点鼻スプレー、点鼻剤、点眼剤、舌下錠、及び持続放出性製剤が挙げられる。
【0072】
本明細書に開示される組成物には、治療目的での投与のための様々な製剤のいずれかを使用することができる。より詳細には、医薬組成物は、薬理学上許容可能な適切な担体又は希釈剤を含むことができ、錠剤、カプセル剤、散剤、顆粒剤、軟膏剤、液剤、坐剤、吸入剤、ゲル剤、マイクロスフェア、及びエアゾール剤などの固体、半固体、液体又は気体の形態の製剤として処方され得る。したがって、組成物の投与は、経口投与、バッカル投与、直腸内投与、経腸投与、及び気管内投与を含む様々な方法で達成することができる。活性成分は、投与後に全身性のものであってもよく、又は局所投与の使用、壁内(intramural)投与の使用、若しくは埋め込み部位において有効用量を保持するように作用する埋入物(インプラント)の使用によって局在化させてもよい。
【0073】
医薬剤形では、化合物は、別の薬理学的に活性な化合物と適切に関連させて使用してもよい。以下の方法及び添加物は、単なる例示であり、決して限定するものではない。
【0074】
経口製剤では、化合物は、単独で使用することができ、又は、錠剤、散剤、顆粒剤若しくはカプセル剤を製造するための適切な添加剤との組み合わせ、例えば、乳糖、マンニトール、トウモロコシデンプン、若しくはジャガイモデンプンなどの従来の添加剤との組み合わせ、結晶セルロース、セルロース機能性誘導体、アラビアゴム、トウモロコシデンプン又はゼラチンなどのバインダーとの組み合わせ、トウモロコシデンプン、ジャガイモデンプン、又はカルボキシメチルセルロースナトリウムなどの崩壊剤との組み合わせ、タルク又はステアリン酸マグネシウムなどの滑沢剤との組み合わせ;並びに所望であれば、希釈剤、緩衝剤、湿潤剤、保存剤及び香味剤との組み合わせで、使用できる。
【0075】
非ヒト動物を対象とする組成物としては、動物の必要栄養量を補給する食品組成物、動物用トリート(例えば、ビスケット)、及び/又はダイエタリーサプリメントが挙げられる。組成物は、ドライ組成物(例えば、キブル)、セミモイスト組成物、ウェット組成物、又はそれらの任意の混合物であってよい。一実施形態では、組成物は、グレイビー、飲料水、飲料、ヨーグルト、粉末、顆粒、ペースト、懸濁液、噛むもの(chew)、一口で食べるもの(morsel)、トリート、スナック、ペレット、丸薬、カプセル、錠剤、又は他の適切な送達形態のものなどのダイエタリーサプリメントである。ダイエタリーサプリメントは、高濃度のUFA及びNORCと、ビタミンB類及び抗酸化物質とを含み得る。これにより、かかるダイエタリーサプリメントを動物に少量投与することが可能になり、あるいは動物に投与する前に希釈することができる。ダイエタリーサプリメントは、動物に投与する前に、水又は他の希釈剤と混合する必要がある場合があり、又は混合することができる。
【0076】
当業者は、本明細書に開示される本発明の全ての特徴を自由に組み合わせることができることを理解するであろう。特に、本発明のバイオマーカーについて記載された特徴点は、本発明の使用及び本発明の方法と組み合わせることができ、逆もまた同様である。更に、本発明の異なる実施形態について記載された特徴を組み合わせてもよい。
【0077】
本発明を例で説明してきたが、特許請求の範囲で定義された本発明の範囲から逸脱することなく、変更及び改変を加えることができることが理解されるべきである。
【0078】
更に、既知の均等物が特定の特徴に対して存在する場合、かかる均等物は、本明細書で具体的に言及されているかのように組み込まれる。本発明の更なる利点及び特徴は、図面及び非限定的な実施例から明らかである。
【0079】
実施例
方法
試験監督
本発明者らは、非便秘型過敏性腸症候群(IBS)を有する患者において、無作為化、二重盲検プラセボ対照単施設パイロット試験を実施した(Pinto-Sanchez et al.,Gastroenterology 2017)。
【0080】
参加者
本発明者らは、非便秘型IBS(Rome III診断基準(Longstreth GF,Thompson WG,Chey WD,et al.Functional bowel disorders.Gastroenterology 2006;130(5):1480-91)の診断を受け、且つ病院不安抑うつ(HAD)尺度(Snaith RP,Zigmond AS.The HAD scale with the Irritability depression-anxiety scale and the Leeds situational anxiety scale manual.GL assessment Ltd.により出版、1994)に基づく軽度から中等度の不安及び/又は抑うつスコア(HAD-A又はHAD-Dスコア8~14)を有する、成人患者を募集した。器質性疾患、免疫不全、腹部の大手術、不安又は抑うつ以外の精神医学的状態、免疫抑制剤、グルココルチコステロイド、オピオイド、抗うつ剤又は抗不安剤の常用量での使用、アルコール又は違法薬物摂取の履歴を有する患者は除外した。ロペラミド及び緩下剤は、レスキュー薬として許可された。その他のいかなる形態のプロバイオティクスも、1ヶ月の導入期間及び試験の間、禁止された。抗菌剤は、導入期間及び試験前の3ケ月間、禁止された。
【0081】
試験デザイン
この試験は、4回の通院を含んだ。スクリーニング来診時に、病歴及び症状を評価し、身体検査及び完全血液検査(complete bloodwork)を実施した。2回目の来診時(0週目)に、適格基準・除外基準及び症状を再評価し、糞便試料、尿試料及び血液試料を採取し、fMRI検査を実施した。
【0082】
次いで患者に、噴霧乾燥したB.ロンガム(1グラムのマルトデキストリン当たり1.0E+10CFU)、又は、1グラムのマルトデキストリンを含有するプラセボの、いずれかの小袋42個を無作為に割り付けた。被験製品(Treatment product)を、パッケージ、色、味及び粘稠度により区別することはできなかった。患者に、小袋の内容物を、20℃に予熱した100~200mLのラクトースフリーミルク、豆乳、又はライスミルクに溶かすように指示した。患者に、各自の食習慣又は繊維摂取を変えないように求めた。参加者は被験製品の摂取を記録し、3回目の来診時(6週目)に、空の小袋を使用してコンプライアンスを評価し、参加者の症状を評価し、血液試料、尿試料及び糞便試料を採取し、fMRI試験を実施した。最後に、フォローアップ来診時(10週目)に患者の症状を再評価した。
【0083】
定期的な通院に加えて、カナダ保健省の要求により、病院不安抑うつ尺度(HAD)スコアも、治療の3週間目に評価した。HADアンケートは、来診1回目には患者に渡し、その次は試験担当医師に郵送又は電子メールで送付した。
【0084】
試験エンドポイント
プライマリーエンドポイントは、6週目の時点での、HADスケールで≧2ポイントの不安及び/又は抑うつスコアの低下とした(Longstreth GF,Thompson WG,Chey WD,et al.Functional bowel disorders.Gastroenterology 2006;130(5):1480-91)。これは、HADスケールの不安スコア及び抑うつスコアについて過去に確立された臨床的に意味のある平均差である、それぞれ1.3及び1.4を根拠とした(Puhan M、Frey M、Buchi S、et al.The minimal important difference of the hospital anxiety and depression scale in patients with chronic obstructive pulmonary disease.Health Qual Life Outcomes.2008;6(46)]。セカンダリーエンドポイントには、不安及び抑うつスコア(HAD、連続データ)、不安(状態-特性不安尺度、STAI)、IBSの全体的な十分な緩和、IBS症状、身体化、生活の質、脳活性化パターンの変化(機能的磁気共鳴画像法、fMRI)、血清炎症マーカー、神経伝達物質及びBDNF、並びに血漿メタボノミクス及び便微生物叢プロファイル、における改善が含まれた。
【0085】
無作為抽出
無作為化シーケンスは、コンピュータプログラム(Proc Plan,SAS,V.9.1)を用いて実施した。ブロック無作為化は、性別とIBS状態(下痢又は混合便パターン)とによって層別化した。コードは、層に従って患者に割付けられた、密封した不透明な封筒内に保持された。無作為化シーケンスを用いて各パックに番号を割付けた。募集時に、患者を4つの層のうちの1つに割付け、その層に利用可能な次の連続無作為化番号を与えた。治療の割付は、参加者及び試験スタッフには秘匿した。
【0086】
パッケージ、色、味及び粘稠度では区別できない被験製品を、1アーム当たり2つのノンスピーキング(non-speakingnon-speaking)コードで識別した。識別情報は、対象、治験担当医師及びサポートスタッフに知らせなかった。
【0087】
研究測定
不安及び抑うつを、それぞれHAD-A及びHAD-Dのサブスコアによって評価した。不安のさらなる尺度として、本発明者らは、状態不安及び特性不安の両方を評価するSTAI(Gaudry E,Spielberger CD,Vagg P.Validation of state-trait distinction in anxiety distinction.Multivariate Behav Res 1975;10:331-41)を使用した。
【0088】
脳活動は、32のパラレルな受信チャネルを有する全身用ショートボアスキャナ、General Electric 3-Tesla Discovery MR 750(General Electric,Milwaukee,WI)を用いた機能的磁気共鳴画像法(fMRI)によって評価した。1時間のプロトコルは、7分間のT1強調構造スキャン後に、恐怖顔の逆行マスキングパラダイムの反復4回(Hall GB, Doyle KA, Goldberg J, et al. Amygdala engagement in response to subthreshold presentations of anxious face stimuli in adults with Autism Spectrum Disorders:preliminary insights. PloS One 2010; 5(5):e10804)を、血中酸素レベルに依存したfMRIスキャン4回(He X,Yablonskiy DA.Quantitative BOLD:mapping of human cerebral deoxygenated blood volume and oxygen extraction fraction:default state.Magn Reson Med 2007;57:115-26)(BOLD EPI;TR/TE=2800/35ms、フリップ角=90°、3mm厚のスライス、ギャップなし、視野=24cm、マトリックス=64×64)中に含んだ。MRIデータの前処理は、Brain Voyager QXバージョン2.8.2、32ビット(Brain Innovation,Maastricht,Netherlands)を使用して完了した。解剖学的データ及び機能的データを検査し、アーチファクトを有するスキャン又は6つの平面のいずれかにおいて5mmを超える移動を有するfMRIスキャンを分析から除外した。解剖学的スキャンを標準矢状方向(sagittal orientation)に変換し、タライラッハ標準空間への空間標準化を行った。fMRIデータに対してスライススキャンの時間補正及び3D動き補正を行い、ガウシアンフィルタ(FWHM=6mm)を使用して空間の平滑化を適用した。扁桃体を関心領域(ROI)として選択し、最初にWFUPick Atlasから導き出し、全群の平均を変換したT1画像上の解剖学的ランドマークに従って精密化した。
【0089】
一晩絶食後に血液試料を採取した。処理後、評価まで試料を-80℃で保管した。
【0090】
特定の代謝産物パネルを測定するために、血液でメタボノミクス分析を行った。過去に公開されている方法(Xie,Zhong et al.2013、Zhao,Ni et al.2017)を用いて、試料を抽出し、調製した。腸内微生物代謝産物分析のために、過去に公開されている標的型の宿主微生物代謝プロファイリング法(host-microbial metabolic profiling method、Zhao,Ni et al.2017)を使用して試料を分析した。
【0091】
統計解析
メタボノミクスデータに関する化学分析は、ソフトウェアパッケージSIMCA-P+(バージョン16.0、Sartorius Stedim Biotech,Sweden)を用いて行った。主成分分析(principal component analysis、PCA)、及びフィッティングプロセス中に応答変数に対して直交するすべての情報を除去する部分的最小二乗回帰(Partial Least Squares Regression、PLSR)の改良版を用いた。この変形であるO-PLS(Orthogonal Projection to Latent Structures ) (Trygg and Wold 2003)は、PLSRと同程度の適合度でより狭いモデル(解釈可能範囲の改善)を提供する。モデルにおける個々の変数の重みを強調するために、投影における変数重要度(Variable Importance in Projection、VIP)を使用し、1を超える値は慣例により閾値として使用した。対応のないt検定と対応のあるt検定とを使用して群比較のために一変量解析を実施し、代謝産物とHAD、STAI、扁桃体エンドポイントとの間のスピアマン相関を計算し、細菌数を計算した。統計解析は、R4.0.5(2021-03-31)を用いて実施した。
【0092】
結果
試験患者及び生物学的試料
試験を完了した38名の試験患者(BL=18名、プラセボ=20名)のうち、介入前及び介入後の両方で試料が入手可能であった36名の参加者(BL=18名、プラセボ=18名)に対して、血液試料のメタボノミクス分析を行うことができた。35名の参加者(BL=16名、プラセボ=19名)で糞便中のBLの定量を行うことができた。
【0093】
糞便試料中のBLの定量及び臨床転帰と糞便BLとの関連
多量のB.ロンガムは、プラセボ群の1名の対象を除きプロバイオティクス群でのみ検出され、介入の良好なコンプライアンスを示した。
【0094】
試験の成功基準としてのHAD-Dサブスコア又はHAD-Aサブスコアのいずれかにおける2ポイント以上の減少は、BLの存在量の増加と関連していた(それぞれp=0.0034及びp=0.0026)。両方のスコアの減少は、糞便中のBLの存在量と相関した(それぞれ、rho=-0.4、p=0.018及びrho=0.55、p=6e-04)。fRMI画像法によって測定された、負の情動刺激に応答した扁桃体活性化の減少も、糞便試料中のプロバイオティクスの量と相関した(rho=0.48、p=0.016)。
【0095】
治療及び血液代謝表現型
1つの予測成分(predictive components)及び1つの直交成分を使用して、OPLS判別分析を適用し、2群間の血液代謝の差異をモデル化した。モデルは、治療後分析についてのみ統計的にロバストであった(R
2X=0.19、R
2Y=0.76、Q
2Y=0.26、式中、R
2X:メタボノミクスデータ(尿代謝産物)における説明された分散、R
2Y:説明された群分散(プラセボ及びプロバイオティクス)及びQ
2Y:モデルのロバスト性)。治療前は2群間に差異はなかった(Q
2Y<0)。ほとんどの判別変数から、対応のあるt検定を用いて群間の統計的有意差を検定した。結果を、血液濃度及びOPLS由来パラメータと共に表1に報告する。BLで治療された患者は、プラセボ群と比較して、アミノ酸のN-アセチル-トリプトファン及びトリプトファンにおいてより高い血中濃度(p<0.1)を示した(
図1、表1)。
【0096】
【表1】
凡例:係数:OPLS相関係数、VIP:投影におけるOPLS変数重要度。p値:介入後のプラセボ群とBL群との間の対応のないt検定。
【0097】
代謝産物と臨床エンドポイント及び糞便中BL数との関連
全体的な統計的に有意な関連を表2にまとめる。扁桃体活性化の減少は、BL治療患者及び全試験集団におけるトリプトファンの血中濃度の増加に関連していた(それぞれ、rho=-0.66、p=0.031及びrho=-0.56、p=0.006)。血中トリプトファンの増加(rho=-0.33、p=0.047はまた、全研究集団におけるHADスコアの減少と相関していた(
図2、表2)。
【0098】
【0099】
トリプトファンは、腸内微生物叢(microbiota)によるタンパク質及び芳香族アミノ酸の代謝の推移を示す読み出し情報になり得、したがって、プロバイオティクスにより誘導され、気分障害の状態の改善に関連する、代謝による腸-脳相互作用を、直接的又は間接的に説明し得る。プロバイオティクスBL NCC3001は、腸においてトリプトファン産生を増加させ、トリプトファンは血液循環を介して脳に達し、抑うつを減少させ、扁桃体の関与を向上させると仮定されている(Jenkins et al.Nutrients.2016 Jan 20;8(1):56)。トリプトファンはセロトニンの前駆体として知られており、脳においてセロトニン作動性活性をもたらし、トリプトファンの投与及び欠乏は、認知、気分及び不安を変化させることが知られている(Jenkins et al.2016)。
【国際調査報告】