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特表2024-535023植物中のビタミンDレベルを改善する方法
(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公表特許公報(A)
(11)【公表番号】
(43)【公表日】2024-09-26
(54)【発明の名称】植物中のビタミンDレベルを改善する方法
(51)【国際特許分類】
   A01H 1/00 20060101AFI20240918BHJP
   A01H 3/02 20060101ALI20240918BHJP
   A01H 6/82 20180101ALI20240918BHJP
   C12N 9/04 20060101ALI20240918BHJP
   C12N 5/10 20060101ALI20240918BHJP
   C12N 5/04 20060101ALI20240918BHJP
   A23L 33/155 20160101ALI20240918BHJP
   A01G 7/00 20060101ALI20240918BHJP
   A01G 22/05 20180101ALI20240918BHJP
   A01H 1/06 20060101ALI20240918BHJP
【FI】
A01H1/00 A ZNA
A01H3/02
A01H6/82
C12N9/04
C12N5/10
C12N5/04
A23L33/155
A01G7/00 601C
A01G22/05 Z
A01H1/06
【審査請求】未請求
【予備審査請求】未請求
(21)【出願番号】P 2024516471
(86)(22)【出願日】2022-09-12
(85)【翻訳文提出日】2024-04-26
(86)【国際出願番号】 EP2022075312
(87)【国際公開番号】W WO2023041492
(87)【国際公開日】2023-03-23
(31)【優先権主張番号】2113075.2
(32)【優先日】2021-09-14
(33)【優先権主張国・地域又は機関】GB
(81)【指定国・地域】
(71)【出願人】
【識別番号】520462816
【氏名又は名称】ジョン イネス センター
(74)【代理人】
【識別番号】100083806
【弁理士】
【氏名又は名称】三好 秀和
(74)【代理人】
【識別番号】100111235
【弁理士】
【氏名又は名称】原 裕子
(74)【代理人】
【識別番号】100195257
【弁理士】
【氏名又は名称】大渕 一志
(72)【発明者】
【氏名】マーチン、 キャシー
(72)【発明者】
【氏名】イ、 ジェ
【テーマコード(参考)】
2B022
4B018
4B065
【Fターム(参考)】
2B022AA01
2B022AB15
2B022DA08
4B018LB00
4B018LE00
4B018MD23
4B018ME05
4B018ME14
4B018MF14
4B065AA88X
4B065AA88Y
4B065AC14
4B065CA41
(57)【要約】
植物におけるプロビタミンD3および/またはビタミンD3のレベルを増加させるための方法を記載する。トマト植物を遺伝子修飾して、7-デヒドロコレステロールレダクターゼの活性を減少させた。
【選択図】図1
【特許請求の範囲】
【請求項1】
植物におけるプロビタミンD3レベルを改善する方法であって、植物において7-デヒドロコレステロールレダクターゼ(7-DR)の活性を減少させることを含む、前記方法。
【請求項2】
該方法が、該植物における該7-DR遺伝子によってコードされる酵素の該活性を減少させる1つ以上の突然変異を導入することを含む、請求項1に記載の方法。
【請求項3】
該植物ゲノムが該7-DR遺伝子の重複を含み、該1つ以上の突然変異が7-DR2遺伝子内に導入される、請求項2に記載の方法。
【請求項4】
該突然変異に関してホモ接合体である植物を得るため、突然変異体植物を育種することをさらに含む、請求項2または3に記載の方法。
【請求項5】
転写後技術を用いて、酵素活性を減少させるかまたは消失させる、請求項1に記載の方法。
【請求項6】
該植物または該植物の部分をUV-B照射に曝露することをさらに含む、先行する請求項のいずれかに記載の方法。
【請求項7】
該植物が、果実内へのUV-B光の透過を増加させる突然変異を所持する、先行する請求項のいずれかに記載の方法。
【請求項8】
該植物または該植物の部分をプロセシングして、7-DHCおよび/またはビタミンD3を得ることをさらに含む、先行する請求項のいずれかに記載の方法。
【請求項9】
7-デヒドロコレステロールレダクターゼの活性が減少している、遺伝子改変された植物、その部分または植物細胞。
【請求項10】
該7-DR遺伝子において機能欠失突然変異を含む、請求項9に記載の植物、その部分または植物細胞。
【請求項11】
該機能欠失突然変異が該7-DR2遺伝子中にある、請求項10に記載の植物、その部分または植物細胞。
【請求項12】
該植物がナス科(Solanaceae)のメンバーであり、より好ましくはナス属(Solanum)種であり、最も好ましくはトマト(Solanum lycopersicum)、ジャガイモ(Solanum tuberosum)、ナス(Solanum melongena)より選択される、請求項1~8のいずれかに記載の方法、あるいは請求項9~11のいずれかに記載の植物、その部分または植物細胞。
【請求項13】
請求項9~11のいずれかに記載の植物または植物部分から産生される食品製品。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、植物中のビタミンDおよび/またはプロビタミンDのレベルを改善するための方法に関する。本発明はまた、該方法によって得られた植物、ならびにその果実、および本発明の植物から調製された食品にも関する。
【背景技術】
【0002】
ビタミンDは、骨格発生に影響を及ぼす欠乏性疾患、特に小児におけるクル病、成人における骨軟化症および骨粗しょう症を防止する能力によって同定された1。ビタミンDは、2つの水酸化反応によって、カルシウムホメオスタシスにおいてだけでなく、心臓、骨、肺、腸、乳腺および脳を含む多数の臓器におけるシグナル伝達においても機能する、ステロイドホルモン生理活性を有する産物に変換される2。その結果、ビタミンD欠乏は、免疫機能および炎症に影響を及ぼし、癌、特に乳癌および結腸癌3、4、パーキンソン病5、抑鬱6、神経認知低下7、認知症8のリスク増加と関連し、ごく最近では、COVID-199による感染の重症度と関連する。ビタミンDは、ヒトによって、7-デヒドロコレステロール(7-DHC)から、皮膚のUV-B光への曝露後、合成されうる10が、主な供給源は食餌性である11。世界中でおよそ10億人の人々がビタミンD不足に苦しみ12、主に食餌からの入手可能性が不適切であるため、その数は増加しつつある。ビタミンD状態が劣っていることは、すべての年齢群で公衆衛生上の大きな問題である。欧州食品安全機関は、1歳を超える健康な個体に関して、適切な摂取は1日あたり15μgと定義しており、米国では米国立衛生研究所は小児および成人には1日あたり15μgを、70歳を超える成人には1日20μgに上昇した量を推奨している。一般的に、これらの摂取は、強化食品を通じてまたはビタミンD補助剤を通じてのいずれかの補充なしでは、食品供給源から達成することは不可能である。ヒトはUV-B照射への曝露後、7-DHCからビタミンD3を自分で合成可能であるため、ビタミンD3不足を修正するための助言は大部分、日光への曝露の増加に基づく。しかし、日光に適切に曝露されている個体であっても、高齢者(>70歳)の皮膚中のプロビタミンD3レベルの減少、UV-B透過を減少させる高い皮膚メラニン含量および熱傷瘢痕組織、ならびにクローン病および他の内因子などの腸吸収不全症候群のため、ビタミンD3不足は一般的である。
【0003】
さらに、日光浴の習慣は、UV-B照射への曝露が皮膚癌を引き起こす懸念から減少してきており、日光浴する際に、より高い保護、UV遮断サンスクリーンの使用が伴うようになっており、これはビタミンD産生を制限する。
【0004】
ビタミンD2は、元来、植物において同定されたが、最終的に真菌感染によることが示された13。プロビタミンD3(7-DHC)は、コレステロールおよびステロイド性グリコアルカロイド(SGA)合成の途中で、トマトのようないくつかの植物によって、主に葉で合成される。トマトの葉のUV-B曝露は、ビタミンD3を産生するが、一般的に、植物は比較的劣った食餌性供給源と見なされ、最適な供給源は、魚および乳製品である。キノコおよび酵母は、UV-B光への曝露後、ビタミンD2の供給源として用いられてきているが、ビタミンD2はいくつかの疫学研究において、ビタミンD3よりも有意に低い生物有効性であると報告されてきている14、15。完全菜食主義人口の増加は、さらなる補充なしには、ますます多くの比率の食餌がビタミンD不足になる可能性があり、キノコ由来のビタミンD2を必要とするであろうことを意味する。
【0005】
ビタミンDおよび/またはプロビタミンDのレベルが増加した植物を提供することが有益であろう。
【発明の概要】
【0006】
本発明者らは、ナス科(Solanaceous)植物における植物ステロール生合成経路の部分的重複を利用して、ゲノム編集によって、トマトにおいてプロビタミンD3の集積を操作して、廃棄材料からの栄養補助剤生産のオプションを伴うバイオ強化(biofortified)食品を提供している。
【0007】
本発明の第一の態様において、植物におけるプロビタミンD3レベルを改善する方法であって、植物において7-デヒドロコレステロールレダクターゼ(7-DR)の活性を減少させることを含む、前記方法を提供する。好ましい実施形態において、植物は、7-DR遺伝子の重複を有するものであり;ここで、好ましくは遺伝子座の1つが活性減少に関してターゲティングされる。本明細書に記載されるように、7-DR2酵素はプロビタミンD3/7-DHCを、トマト植物の葉および果実におけるトマチンの合成のため、コレステロールに変換する。その結果、トマトにおいて7-DR2活性を阻害すると、植物ステロールおよびブラシノステロイド生合成にいかなる影響も与えず、7-DHCの集積を生じうる。遺伝子および酵素は、本明細書において、Sl7-DR2(すなわちトマト特異的遺伝子)と称されるが、これは他の植物種におけるホモログおよびオルソログを含むと意図されることが理解されるであろう。
【0008】
「活性減少」は、酵素活性または発現を減少させるかまたは消失させることを意味しうる。好ましい実施形態において、方法は、7-DR遺伝子(好ましくはSl7-DR2遺伝子)の少なくとも1つのコピーに機能欠失突然変異を導入することを含む。突然変異は、コード配列中であってもよい。突然変異は、挿入、欠失、または改変であってもよい。複数の実施形態において、機能欠失突然変異を、Sl7-DR2遺伝子の複数のコピーに導入してもよい。好ましくは、突然変異は、ゲノム編集、好ましくはZFN、TALENまたはCRISPRによって導入される。いくつかの実施形態において、突然変異原(例えば放射線照射)を用いて、突然変異を導入してもよい。いくつかの実施形態において、突然変異を遺伝子の少なくとも1つのコピーに導入して、慣用的な育種技術を用いて、ゲノム中に複数の突然変異を持つ植物、例えばホモ接合体植物を生成してもよい。
【0009】
他の実施形態において、転写後技術を用いて、酵素活性を減少させるかまたは消失させてもよい。例えば、RNAi、CRISPRi、またはアンチセンス技術はすべて、酵素レベルを減少させるために用いられうる。方法は、siRNAまたはアンチセンス分子を植物内に導入することを含んでもよいし;あるいはsiRNAまたはアンチセンス分子をコードする核酸配列を植物内に導入することを含んでもよい。こうした核酸配列は、植物ゲノム内に安定して取り込まれうる。
【0010】
酵素活性が減少している(が消失はしていない)場合、活性は、野生型または対照植物中のレベルに比較して、好ましくは少なくとも5%、10%、20%、30%、40%、50%、60%、70%、80%または90%以上減少する。酵素活性を決定するための方法は、当業者の専門知識範囲内である。
【0011】
複数の実施形態において、植物中の7-DHCのレベルは、野生型または対照植物中のレベルに比較して、少なくとも5%、10%、20%、30%、40%、50%、60%、70%、80%または90%以上増加する。
【0012】
方法は、植物または植物の部分をUVB照射に曝露することをさらに含んでもよい。こうした曝露は、好ましくは、植物中に存在する少なくともある程度の7-DHCをビタミンD3に変換するために十分な時間および強度である。こうした実施形態において、ビタミンD3のレベルは、野生型または対照植物中のレベルに比較して、少なくとも5%、10%、20%、30%、40%、50%、60%、70%、80%または90%以上増加する。
【0013】
いくつかの実施形態において、植物は、果実内へのUV-B光の透過を増加させる突然変異をさらに所持する。例えば、トマトのy突然変異は、「ピンクトマト」の果皮からUV保護フラボノールの欠失を引き起こし、したがって、さらなる透過を可能にする。方法は、本発明の植物にこうした突然変異を導入することを含んでもよく;これは、慣用的な育種技術によってもよいし、またはターゲティングゲノム編集によってもよい。他の実施形態において、こうした突然変異を既に所持する植物に、本発明の方法を適用してもよく;すなわち突然変異植物を、Sl7-DR2活性の減少のためのバックグラウンドとして用いる。
【0014】
1つの実施形態において、植物は、成熟果実におけるクロロフィル分解に影響を及ぼす1つ以上の突然変異をさらに所持する。一例は、トマトのstaygreen遺伝子座の突然変異である。こうした突然変異は、成熟果実中の7-DHCレベルをさらに上昇させるのを補助しうる。これらの特質の積み重ねは、ZFN、TALENまたはCRISPRを用いたゲノム編集によって、あるいは遺伝子移入によって達成されてもよい。
【0015】
1つの実施形態において、方法は、植物または植物の部分をプロセシングして、7-DHCおよび/またはビタミンD3を得ることをさらに含む。こうした実施形態は、植物の部分が典型的には消費されない場合;例えばトマトを収穫した後のトマト植物の葉または茎では、特に有用である可能性がある。
【0016】
本発明の別の態様において、遺伝子改変された植物、その部分または植物細胞であって、7-デヒドロコレステロールレダクターゼの活性が減少している植物、その部分または植物細胞を提供する。植物、その部分または植物細胞は、7-DR遺伝子(好ましくはSl7-DR2遺伝子)中に機能欠失突然変異を含んでもよい。
【0017】
植物部分は、種子、果実、根、塊茎、葉、花であってもよい。
【0018】
上記態様の各々において、植物は、好ましくはナス科のメンバーであり、より好ましくはナス属(Solanum)種である。植物は、トマト(Solanum lycopersicum)、ジャガイモ(Solanum tuberosum)、ナス(Solanum melongena)より選択されてもよい。他の実施形態において、植物は、トウガラシ属(Capsicum)種、例えばトウガラシ(C. annuum)、アヒ・アマリージョ(C. baccatum)、C.キネンセ(C. chinense)、キダチトウガラシ(C. frutescens)、およびロコト(C. pubescens)(これらはパプリカ(bell pepper)およびチリペッパー(chili pepper)を含む)より選択されてもよい。さらに他の実施形態において、植物は、ホオズキ属(Physalis)種、例えばトマティーヨ(tomatillo)であってもよい。
【0019】
本発明の別の態様において、上述の方法のいずれかによって得られるかまたは得られうる植物または植物子孫も提供する。別の態様において、上述の植物由来の花粉、栄養繁殖体、子孫または部分であって、7-DR遺伝子(好ましくはSl7-DR2遺伝子)中に機能欠失突然変異を含む、前記花粉、栄養繁殖体、子孫または部分を提供する。
【0020】
さらにさらなる態様において、本発明の植物または植物部分から産生される食品製品を提供する。
【0021】
いくつかの研究は、ビタミンDまたはプロビタミンDでの食餌の補充は、血清総コレステロール、LDLコレステロール、およびトリグリセリドレベルの減少に有益な効果を有しうることを示す。したがって、本発明は、本発明の植物、またはそこから調製される食品の消費によって、コレステロールレベルを減少させる必要があるヒトまたは動物被験体において、コレステロールレベル減少への潜在的な経路を提供する。1つの態様において、本発明は、コレステロールレベルを減少させる必要があるヒトまたは動物被験体において、コレステロールレベルを減少させる方法であって、本明細書に記載されるような植物または食品を消費することを含む前記方法を提供する。ヒトまたは動物被験体において、コレステロールレベルを減少させる際に使用するための、本明細書に記載されるような植物または食品もまた提供する。
【図面の簡単な説明】
【0022】
図1図1は、Sl7-DR2ホモ接合性ノックアウト系統における7-DHCの集積を示す。 a、トマトにおけるコレステロール生成経路(明るい緑で示す)および植物ステロール生合成経路(明るい橙で示す)、Sonawane et alから再描画。7-DHCは7-DR2によってコレステロールに変換され、UVB光への曝露によってビタミンD3に変換されうる。SMO、C-4ステロールメチルオキシダーゼ;C5-SD1、ステロールC-5(6)デサチュラーゼ1。b、ゲノム編集によって、5つの独立のSl7-DR2ノックアウト系統を生成した。上部:Sl7-DR2遺伝子の模式的構造、エクソンを灰色の矢印として示す。下部:各系統における回復突然変異を明るい青で強調する。CRISPR-Cas9ターゲティング配列およびプロトスペーサー隣接モチーフ配列を、それぞれ、青および赤で示す。c、熟成の異なる段階(IMG、未成熟緑色;MG、成熟緑色;ブレーカー、成熟に転じた果実;B+7、ブレーカー成熟7日後の果実)での、野生型(WT)およびSl7-DR2ノックアウトトマト果実における7-DHC含量。データを平均±s.e.m.として示す。左から右へ:n=14、19、16、15、16、14、13、11、18、13、10、15、15、14、17、11、11、15、9、17、14、17、15および15の生物学的に独立な果実試料。ND、未検出。d、野生型およびSl7-DR2ノックアウト系統の葉の7-DHC含量。データを平均±s.e.m.として示す。左から右へ:n=4、5、5、4、5および4の生物学的に独立な葉試料。両側t検定を用いて、各果実成熟段階(c)または葉(d)において、WTおよび突然変異体の間の統計的有意性を評価した(*P≦0.05、**P≦0.01、***P≦0.001、****P≦0.0001)。
図2図2は、WTおよびSl7-DR2ノックアウト突然変異体系統におけるSGAおよびコレステロールの局在および定量的比較、ならびにSl7-DR2ノックアウトにおけるUV-B照射による7-DHCのビタミンD3への変換を示す。 a、7-DHC(m/z 367.33)およびそのレーザー誘導性派生イオン(m/z 365.32)、コレステロール(m/z 369.35)およびαトマチン(m/z 1,034.55)のMALDI画像。スケールバー、2mm。HotMetal2カラースケールは、総イオン流標準化強度の範囲を示す。野生型および突然変異体試料に関して、同じ代謝産物を同一のスケール強度で示す。潜在的に異なるイオン化効率のため、MALDI画像を用いた異なる代謝産物の相対的存在量を比較することは簡単ではない。b、野生型およびSl7-DR2ノックアウト系統の葉のαトマチン含量(平均±s.e.m.、各系統に関して、n=3の生物学的に独立な葉試料)。c、野生型およびSl7-DR2ノックアウト系統の赤色成熟(ブレーカーの7日後)果実の相対的エスクレオサイドA含量(平均±s.e.m.)。左から右へ:n=6、6、5、8、10および10の生物学的に独立な果実試料。d、野生型およびSl7-DR2ノックアウト系統の葉のコレステロール含量(平均±s.e.m.)。左から右へ:n=4、5、5、4、5および4の生物学的に独立な葉試料。e、対照およびUVB処理した葉または果実における7-DHCおよびビタミンD3の含量(平均±s.e.m.、対照およびMUT#2に関して各段階でのn=4の生物学的に独立な葉または果実試料)。Mut#2の組織を、UVB光によって1時間照射した。実験を3回反復した。ND、未検出。両側t検定を用いて、WTと突然変異体値間(b~d)および対照とUVB処理組織間(e)の統計的有意性を評価した(*P≦0.05、**P≦0.01、***P≦0.001、****P≦0.0001)。
図3図3は、WTおよびSl7-DR2ノックアウト植物の比較を示す。 a 野生型およびSl7-DR2突然変異体の成体植物。スケールバー、20cm。b、野生型およびSl7-DR2ノックアウト系統由来の葉のスチグマステロール含量(平均±s.e.m.、n=3)。両側t検定を用いて、WTおよび突然変異体の間の統計的有意性を評価した。有意な相違は検出されなかった。関連する場合、P値に関してはソースデータを参照されたい。c 7-デヒドロコレステロール(m/z 367.33)およびそのレーザー誘導性派生イオン(m/z 365.32、m/z 363.31)、コレステロール(m/z 369.35)およびαトマチン(m/z 1,034.55)のMALDI画像。スケールバー、2mm。HotMetal2カラースケールは、総イオン流(TIC)標準化強度の範囲を示す。野生型および突然変異体試料に関して、同じ代謝産物を同一のスケール強度で示す。さらなる詳細は、オンラインの方法で見出されうる。d 野生型およびSl7-DR2ノックアウト系統の未成熟緑色果実のαトマチン含量(平均±s.e.m.)。両側t検定を用いて、WTおよび突然変異体値間の統計的有意性を評価した(*P≦0.05、**P≦0.01)。関連する場合、P値に関してはソースデータを参照されたい。e 果実成熟中(IMG、未成熟緑色;MG、成熟緑色;ブレーカー;B+7、ブレーカー成熟7日後の果実)の野生型(WT)およびSl7-DR2ノックアウトトマト果実のコレステロール含量(平均±s.e.m.)。左から右へ:n=14、19、16、15、16、14、13、11、18、13、10、15、15、14、17、11、11、15、9、17、14、17、15、および15。両側t検定を用いて、WTおよび突然変異体間の統計的有意性を評価した(*P≦0.05、**P≦0.01、***P≦0.001、****P≦0.0001)。関連する場合、P値に関してはソースデータを参照されたい。
図4図4は、WTおよびSl7-DR2ノックアウト植物のさらなる比較を示す。 a 野生型およびSl7-DR2突然変異体の葉におけるコレステロールおよび植物ステロール生合成経路中の遺伝子の相対発現レベル(平均±s.e.m.)。SlActinを内部標準として用いた。WT、n=5;Sl7-DR2 KO、n=15(Sl7-DR2中に同じ突然変異を所持する、Mut#1、Mut#2およびMut#3各々由来の5つの試料を合わせた)。b 野生型およびSl7-DR2突然変異体の葉におけるSlC5-SD1の相対発現レベル。SlActinを内部標準として用いた(平均±s.e.m.、n=5)。両側t検定を用いて、WTおよび突然変異体間の統計的有意性を評価した(*P≦0.05、**P≦0.01)。関連する場合、P値に関してはソースデータを参照されたい。c 分析試料および対応する真正標準由来の7-デヒドロコレステロール(7-DHC)、ビタミンD3およびコレステロールの代表的なLC-MSスペクトル。d 2時間のUV照射を伴うおよび伴わない(それぞれ明るい青および黒として示す)Mut#1葉組織由来の抽出物、ならびに標準混合物(10μMの7-DHC、ビタミンD3およびコレステロール)の重ね合わせクロマトグラム、m/z=385.3442~385.3480。ビタミンD3は、UV照射試料において大量に産生された。
【発明を実施するための形態】
【0023】
本発明は、ここで、より詳細に記載されるであろう。以下の節では、本発明の異なる態様がより詳細に定義される。明らかに逆に示されない限り、こうして定義される各態様を、任意の他の単数または複数の態様と組み合わせてもよい。特に、好ましいまたは好適であると示される任意の特徴を、好ましいまたは好適であると示される任意の他の単数または複数の特徴と組み合わせてもよい。
【0024】
本発明の実施は、別に示さない限り、当該技術分野の技術範囲内の植物学、微生物学、組織培養、分子生物学、化学、生化学および組換えDNA技術、バイオインフォマティクスの慣用的技術を使用するであろう。こうした技術は、文献中に完全に説明される。
【0025】
本発明の目的のため、「遺伝子改変された」または「突然変異体」植物は、天然存在野生型(WT)植物に比較して、遺伝子改変されている植物である。1つの実施形態において、突然変異体植物は、突然変異誘発法、例えば本明細書に記載される突然変異誘発法を用いて、天然存在野生型(WT)植物に比較して改変されている植物である。1つの実施形態において、突然変異誘発法は、ターゲティング化ゲノム修飾またはゲノム編集である。ターゲティング化ゲノム修飾またはターゲティング化ゲノム編集は、ターゲティング化DNA二重鎖切断(DSB)を用いて、相同組換え(HR)仲介性組換え事象を通じてゲノム編集を刺激する、ゲノム操作技術である。1つの実施形態において、ZFN、TALENまたはCRISPRを用いて突然変異を導入する。好ましい実施形態において、ターゲティング化ゲノム編集技術はCRISPRである。ゲノム編集におけるこの技術の使用は、当該技術分野に、例えばUS 8,697,359および該文献に引用される参考文献によく記載される。
【0026】
別の実施形態において、慣用的な突然変異誘発技術、例えばT-DNA挿入性突然変異誘発あるいは任意の既知の物理的または化学的突然変異誘発原を用いて、本明細書記載の遺伝子を破壊してもよい。さらなる例において、限定されるわけではないが、1つ以上の遺伝子に対する低分子干渉核酸(siNA)の使用など、当業者に知られる遺伝子サイレンシング法を用いて、1つ以上の遺伝子の発現を、転写または翻訳レベルで減少させてもよい。例えば、siNAには、RNA干渉を仲介可能な低分子干渉RNA(siRNA)、二本鎖RNA(dsRNA)、マイクロRNA(miRNA)、アンタゴミルおよび低分子ヘアピンRNA(shRNA)が含まれうる。
【0027】
1つの例において、突然変異を用いて、天然7-DR遺伝子(好ましくはSl7-DR2遺伝子)の発現をノックダウンまたはノックアウトしてもよい。したがって、この例では、植物中の7-DHCの産生は、改変された植物ゲノムの存在によって与えられ、植物中に発現される導入遺伝子の存在によっては与えられない。言い換えると、遺伝子改変された植物は、導入遺伝子不含と記載されうる。にもかかわらず、別の実施形態において、遺伝子改変された植物は、トランスジェニック植物であってもよい。
【0028】
用語「植物」は、本明細書で用いられる際、植物全体、植物の子孫、ならびに種子、果実、苗条、茎、葉、根(塊茎を含む)、花、組織および器官を含む植物部分を含む。用語「植物」はまた、植物細胞、懸濁培養、カルス組織、胚、分裂組織領域、配偶体、胞子体、花粉および小胞子も含む。
【0029】
本発明はまた、本明細書に記載されるような本発明の植物の収穫可能な部分、限定されるわけではないが、種子、葉、果実、花、茎、根、根茎、塊茎および球根にも拡張される。本発明の態様は、こうした植物の収穫可能な部分に由来する、好ましくは直接由来する製品、例えばドライペレットまたは粉末、油、脂肪および脂肪酸、デンプンまたはタンパク質にも拡張される。本発明はまた、本明細書に記載されるような植物に、またはその部分に由来する製品、より好ましくは食品製品にも関する。
【0030】
最も好ましい実施形態において、植物部分または収穫可能産物は果実である。したがって、本発明のさらなる態様において、本明細書に記載されるような植物から産生される果実を提供する。
【0031】
別の実施形態において、植物部分は、本明細書記載の遺伝子改変された植物の花粉、栄養繁殖体または子孫である。したがって、本発明のさらなる態様において、本明細書に記載されるような植物から産生された花粉、栄養繁殖体または子孫を提供する。
【0032】
本発明の態様すべてにしたがって、本明細書で用いられるような対照植物は、本発明の方法にしたがって修飾されてはいない植物である。1つの実施形態において、対照植物は、野生型植物である。対照植物は、典型的には、同じ植物種のものであり、好ましくは修飾された植物と同じ遺伝子バックグラウンドを有する。
【0033】
本明細書において、「Sl7-DR2」(例えばSl7-DR2遺伝子またはSl7-DR2酵素)に言及する場合、これは、本明細書記載の特定のトマトアイソフォームだけではなく、他の植物におけるホモログおよびオルソログも含むと意図される。当業者は、適切なホモログが、配列比較および保存ドメインの同定によって同定可能であることを理解するであろう。当該技術分野には、こうした配列の同定に使用可能な予測材料がある。ホモログの機能は、当該技術分野に知られる方法を用いて同定可能である。したがって、相同配列が同定されたならば、配列整列を実行することによって、相同位を決定してもよい。したがって、本明細書記載のヌクレオチド配列はまた、他の植物において、本発明を実行する際にも適用可能である。
【0034】
用語「導入」、「トランスフェクション」または「形質転換」は、本明細書において、トランスファーに用いられる方法に関わりなく、外因性ポリヌクレオチドまたは構築物(例えば本明細書に記載されるような核酸構築物またはゲノム編集構築物)の宿主細胞内へのトランスファーを含む。器官形成によるかまたは胚形成によるかいずれであっても、続くクローン性増殖が可能な植物組織を、遺伝子構築物で形質転換してもよく、そこから植物全体を再生してもよい。選択される特定の組織は、形質転換されている特定の種に関して利用可能であり、最も適しているクローン性増殖システムに応じて多様であろう。例示的な組織ターゲットには、葉ディスク、花粉、胚、子葉、胚軸、雌性配偶体、カルス組織、存在する分裂組織(例えば頂端分裂組織、腋芽、および根分裂組織)、および誘導された分裂組織(例えば子葉分裂組織および胚軸分裂組織)が含まれる。次いで、生じた形質転換植物細胞を用いて、当業者に知られる方式で、形質転換植物を再生してもよい。
【0035】
植物の形質転換は、現在、多くの種でルーチンの技術である。当業者に知られるいくつかの形質転換法のいずれを用いて、適切な祖先細胞内に関心対象の1つ以上のゲノム編集構築物を導入してもよい。植物組織または植物細胞からの植物の形質転換および再生に関して記載される方法を、一過性または安定形質転換に利用してもよい。
【0036】
形質転換法には、リポソームの使用、エレクトロポレーション、遊離DNA取り込みを増加させる化学物質、植物内へのDNAの直接注入(マイクロインジェクション)、遺伝子銃(または微粒子銃送達システム)、リポフェクション、ウイルスまたは花粉を用いた形質転換およびマイクロインジェクションが含まれる。方法は、プロトプラスト用のカルシウム/ポリエチレングリコール法、超音波仲介性遺伝子トランスフェクション、光学またはレーザートランスフェクション、炭化ケイ素繊維を用いたトランスフェクション、プロトプラストのエレクトロポレーション、植物材料内へのマイクロインジェクション、DNAまたはRNAコーティング微粒子銃、(非組込み性)ウイルス感染等より選択されてもよい。トランスジェニック植物はまた、アグロバクテリウム・ツメファシエンス(Agrobacterium tumefaciens)仲介性形質転換を通じて産生されてもよい。
【0037】
任意選択で、形質転換植物を選択するため、形質転換植物が非形質転換植物から区別されうるように、形質転換で得られる植物材料は、通例、選択的条件に供される。例えば、種子を植え、初期成長期間後、噴霧によって適切な選択に供してもよい。さらには、適切な場合は滅菌後、形質転換された種子のみが植物に成長可能であるように、適切な選択剤を用いて、寒天プレート上で種子を成長させることが可能である。あるいは、選択を行わない場合、種子を植え、当該技術分野の標準技術を用いて、適切な時点でSl7-DR2活性レベルまたは7-DHCレベルを測定してもよい。導入遺伝子の導入を回避するこの代替法は、導入遺伝子不含植物を産生するために好ましい。
【0038】
DNAトランスファーおよび再生後、また、例えばPCRを用いて、推定上の形質転換植物を評価して、関心対象の突然変異の存在、コピー数および/またはゲノム変性を検出してもよい。あるいはまたはさらに、すべて、一般の当業者に周知の技術であるサザン、ノーザンおよび/またはウェスタン分析を用いて、新規導入DNAの組込みおよび発現レベルを監視してもよい。
【0039】
方法は、好ましくはさらなる増殖のため、1つ以上の突然変異植物を選択することをさらに含んでもよい。選択された植物を多様な手段によって、例えばクローン性増殖または古典的育種技術によって増殖させてもよい。例えば、第一世代(またはT1)形質転換植物を自家受粉させ、ホモ接合体第二世代(またはT2)形質転換体を選択し、次いで、古典的育種技術を用いて、T2植物をさらに増殖させてもよい。生成された形質転換生物は、多様な型を取りうる。例えば、これらは形質転換細胞および非形質転換細胞のキメラ;クローン性形質転換体(例えばすべて発現カセットを含有するように形質転換された細胞);形質転換および非形質転換組織の接木(例えば植物において、非形質転換若枝に接木された形質転換台木)であってもよい。
【実施例
【0040】
プロビタミンD3/7-DHCは、トマト葉で同定されているが、通常は果実中には集積せず、果実ではSGA;緑色果実中のトマチンおよび成熟果実中のエスクレオサイドの形成の中間体として働く16。最近、より一般的には植物ステロールおよびブラシノステロイド生合成に関与する、酵素のいくつかの特定のアイソフォームを含む二重経路が、SGA形成のためのコレステロールを産生し、トマトを含むナス科種で使用可能であることが示されてきている(参考文献17図1a)。ナス科植物中のステロールおよびコレステロール生合成のこの部分的分離によって、重要なホルモン(ブラシノステロイド)、ならびに殺真菌、抗微生物、および殺昆虫特性を有する、植物のより特殊化されたストレス化学物質、SGAの合成のための代謝柔軟性が可能になる。トマト中のコレステロールおよびSGA生合成のためのこの「二重」経路の存在は、プロビタミンD3/7-DHCの操作を比較的単純にする。7-デヒドロコレステロールレダクターゼ(Sl7-DR2)の特定のアイソフォームは、プロビタミンD3/7-DHCを、葉および果実中のトマチンの合成のため、コレステロールに変換する(図1a)。その結果、トマトにおいてSl7-DR2の活性を阻害すると、植物ステロールおよびブラシノステロイド生合成にいかなる影響も及ぼさず、7-DHCの集積を生じえた。本発明者らは、CRISPR/Cas9ゲノム編集を用いてSl7-DR2のノックアウトを生成することによって、トマトにおける7-DHCレベル増加に対するSl7-DR2活性遮断の効果を試験した。sgRNAおよびSl7-DR1遺伝子の間のいかなる相同性も最小限にするように配慮しながら、Sl7-DR2タンパク質をコードする遺伝子の第二のエクソン内の配列に対して、2つのsgRNAを設計した(図1b)。本発明者らは、T1世代内でSl7-DR2遺伝子の5つの独立のノックアウトアレルを回収し、このうち3つは、2つのsgRNA間のエクソン2配列の108bpの同一の欠失を所持した。第二のエクソン中1bpの挿入を伴う2bpの欠失または1bpの挿入のみによって、他の2つのノックアウトアレルが生成され、これらはどちらもフレームシフトを引き起こし、Sl7-DR2タンパク質を未成熟に終結させると予期された(図1b)。ホモ接合性ノックアウトアレルをT1世代で回収し、T2世代内で、Cas9遺伝子およびsgRNA配列を所持するT-DNAを欠くホモ接合性ノックアウト系統を、5系統のうち4つに関して回収した。
【0041】
T2世代で、5つの独立に得られたSl7-DR2のホモ接合性ノックアウトアレルであって、4つはCRISPR/Cas9 T-DNAを欠くものを、分離後に選択した。これらの突然変異体系統において、7-DR1遺伝子のオフターゲット編集は検出されなかった。異なる成熟段階の果実および葉を、7-DHC含量ならびに他の植物ステロール、コレステロールおよびSGAのレベルに関して分析した。編集および対照の野生型トマト植物のステロールおよびプロビタミンD3プロファイルを、LC-MSを用いて決定した16、18
【0042】
Sl7-DR2活性欠失は、トマト系統の成長または発生に影響を持たなかった(図3a)。これは、ブラシノステロイド生合成の阻害のため、矮小化されるシロイヌナズナ属(Arabidopsis)における植物ステロール生合成に関与する同等の遺伝子(DWARF5)の機能欠失突然変異の表現型とは対照的である19。植物ステロール代謝に対して、Sl7-DR2における突然変異の影響がないことは、野生型および編集系統の葉において、トマトにおける植物ステロール経路の最終産物であるスチグマステロールのレベルを比較することによって確認された(図3b)。野生型対照植物では、7-DHCが未成熟緑色果実でのみ検出され、熟成中および成熟果実では検出不能であった。対照的に、Sl7-DR2活性欠失は、葉および緑色果実中のプロビタミンD3/7-DHCレベルの実質的な増加を生じた(図1cおよび1d)。7-DHCレベルは、Sl7-DR2突然変異体の成熟果実ではより低かったが、比例してビタミンD3に変換された場合(例えばUV-B光での処理によって)、1つまたは2つのトマトを消費することによって、栄養補助剤に関するRDA(10μg/日)と同等のビタミンD3量が得られうるほど十分に高いままであった。7-DHCレベルが減少している高齢者では、プロビタミンD3/7-DHCがバイオ強化されている果実を消費することで、その不足に取り組むことも可能である。
【0043】
MALDI画像は、トマト果肉および果皮の両方に、プロビタミンD3/7-DHCの増加が分布することを示した(図2a図3c)。トマチンおよびデヒドロトマチンは、果実成熟中にエスクレオサイドAおよびBに分解され、これはトマチンが成熟果実中の低レベルまで減少することを意味する20。突然変異体および野生型緑色果実のMALDI画像は、対照におけるよりもSl7-DR2突然変異体において、αトマチンがより低いことを示し(図2a図3c、d)、葉の分析は、突然変異体で実質的により低いレベルを示したが、αトマチンは、除去はされなかった(図2b)。対照系統に比較して、突然変異体の成熟果実で、SGA、エスクレオサイドAレベルの強い減少もまた観察された(図2c)。SGAは毒性物質/栄養阻害剤であると報告されており、消費者におけるアレルギーの原因となりうるため、これらの減少は有益と見なされうる。興味深いことに、葉または果実中のコレステロールレベルは、対照に比較して低下せず、大部分の突然変異体系統では、コレステロールレベルは、果実(図2a図3e)および葉(図2d)の両方において、野生型対照におけるよりもより高かった。これは、SGA生合成経路に沿った流動のブロックが、植物ステロール経路の酵素(または少なくともSl7-DR1)によって触媒される中間体の流動増加によって補償されて、コレステロール産生を補充し、SGA集積の減少を制限しうることを示唆した。しかし、これは、WTおよび突然変異体系統の葉におけるこれらの遺伝子のqRT-PCR分析によって示されるように、いずれの経路においても酵素をコードする遺伝子の発現における補償性変化を伴わない(図4a)。野生型と比較して、突然変異体において、転写物レベルの一貫した変化を示す唯一の遺伝子は、植物ステロール経路中のSlC5-SD1であり、この遺伝子は、対照におけるより、約30%、一貫してより低い転写物レベルを示した(図1a図4b)。
【0044】
Sl7-DR2突然変異体植物における7-DHCの上昇したレベルが、ビタミンD3に変換可能であるかどうかを決定するため、本発明者らは、Japelt et al18によって記載されるように、UV-B光による1時間の照射で葉およびスライス果実を処理した。葉の処理は、この変換に非常に有効であり、g乾燥重量あたりほぼ200μgのビタミンD3収量を生じた(図2e)。緑色果実からのビタミンD3収量はより低く、g乾燥重量あたり約0.3μgに達し、赤色果実ではさらに低く、g乾燥重量あたり、平均約0.2μgであった。果実中のこれらのより低い値は、葉に比較して緑色果実および赤色成熟果実における7-DHC前駆体の含量が減少していることを反映した(図2e)。しかし、中程度のサイズのトマトが、約8~10gの乾燥重量を有することを考慮すると、単一のSl7-DR2突然変異体緑色果実において達成可能なビタミンD3のレベルは、米国および欧州諸国のRDAの赤色果実の30%および20%に近い(10~15μg/日)。明らかに、成熟果実において、7-DHCレベルをさらに増進させることが望ましいであろう。プロビタミンD3のビタミンD3への変換は、トマトを天日乾燥させることによって増進されうる。
【0045】
コレステロール/SGA生合成の二重経路は、ナス科の他の食用作物中にも存在し、これには、ナス(Solanum melongena)、ジャガイモ(Solanum tuberosum)およびトウガラシ(Capsicum annuum)が含まれる17。トマトの葉および緑色果実におけるコレステロール/SGA生合成、7-DHC集積および光合成間の緊密な関連(図1c~d、図2b~d、図3d~e)は、果実が食べられる際に緑色でありうるトウガラシにおいて、Sl7-DR2活性をノックアウトすると、植物に基づく食品をビタミンD3バイオ強化するさらなる有効な経路が提供されうることを示唆する。さらに、「ピンクトマト」の果皮からのUV保護フラボノールの欠失を引き起こす、新鮮な果実へのUV-B光の透過を増加させる突然変異、例えばトマトのy突然変異もまた、UV-B曝露後のプロビタミンD3のビタミンD3への変換の増加を提供しうる。こうした積み重ねは、さらなる遺伝子編集によって、または遺伝子移入によって、達成されてもよい21。ビタミンD3で新鮮な果実を強化することに加えて、Sl7-DR2突然変異体の葉は、プロビタミンD3の豊富な供給源であり、その結果、植物由来のビタミンD3栄養補助剤製造のため、トマト栽培から廃棄物植物性材料を用いた重要な新規原材料を提供することが可能になり、これはビーガンに適しているであろう。
【0046】
方法
【0047】
植物材料
トマト(Solanum lycopersicum)栽培種Money Maker植物およびSl7-DR 2ノックアウト突然変異体を、20℃~22℃の平均周囲温度で、John Innes Centre(Norwich, UK)の温室中で成長させた。補助照明は、必要な場合、各日16時間の光を維持するために利用可能であった。
【0048】
プラスミド構築
Sl7-DR2(Solyc06g074090)遺伝子のエクソン2中の2つの特定のターゲット配列(図1b)を選択して、Sl7-DR2ノックアウト突然変異体を生成した。これらをPCRによってsgRNA足場に導入した。sgRNA発現カセットを作製するため、各sgRNAアンプリコンおよび合成U6-IIIプロモーター(pICSL90001)を、GoldenGateレベル1アクセプターにクローニングした(pICH47732およびpICH47742)。Cas9発現カセットおよびカナマイシン耐性(nptII)発現カセットを含有するレベル2バイナリーベクター、pICSL002203をデスティネーションベクターとして用いて、Sl7-DR2 CRISPR/Cas9構築物を生成した。プラスミドpICSL90001、pICH47732、pICH47742およびpICSL002203は、The Sainsbury Laboratory (TSL) SynBioグループ(http://synbio.tsl.ac.uk/)の厚意により提供された。アグロバクテリウム・リゾゲネス(Agrobacterium rhizogenes)(ArATCC15834株)22を用いたトマトの同時形質転換によって、sgRNA効率を試験した。sgRNAターゲット配列に隣接するプライマー、配列番号1(F: TGTTTCACTGGGCTGGTTTAGC)および配列番号2(R: GAGAAGTCTTTCACCATGTCACGA)を用いて、製造者の指示にしたがい、Phire Plant Direct PCRマスターミックス(Thermo Fisher Scientific)で、毛状根から直接、PCRによって、Sl7-DR2のエクソン2の配列を増幅した。
【0049】
トマト安定形質転換
Galdon-Armero et al.(2020)23に以前報告されたような標準的形質転換プロトコルにしたがって、子葉を最初の外植片として用いて行う安定形質転換のため、Sl7-DR2 CRISPR/Cas9構築物を、アグロバクテリウム・ツメファシエンス(AGL1株)に形質転換した。
【0050】
Sl7-DR2ノックアウト系統のスクリーニング
製造者の指示にしたがって、DNeasy(登録商標)植物ミニキット(Qiagen)を用いて、葉組織の微粉砕粉末からDNAを単離した。sgRNAターゲット配列に隣接するプライマー、配列番号3(F: TGTTTCACTGGGCTGGTTTAGC)および配列番号4(R: GAGAAGTCTTTCACCATGTCACGA)での遺伝子型決定によって、5つの独立のSl7-DR2ノックアウト系統を得て、配列決定によって確認した。
【0051】
定量的リアルタイムPCR分析
Trizol法(Sigma-Aldrich)を用いてトマト葉組織から総RNAを抽出した。DNase I(Roche)処理したRNAを、SuperScript(商標)III(Invitrogen)を用いて逆転写した。SYBR(登録商標)Green JumpStart(商標)Taq ReadyMix(商標)(Sigma)を用い、X96 Touch(商標)リアルタイムPCR検出システム(Biorad)を用いて、すべてのRT-qPCR反応を行った。CFX Maestroソフトウェアを用いて、データを分析した。SlActin(Solyc03g078400)をハウスキーピング参照遺伝子として選択した。遺伝子の相対発現をΔCt法によって計算した。NCBIプライマーBLAST(https://www.ncbi.nlm.nih.gov/tools/primer-blast/)を用いて遺伝子特異的プライマーを設計し、以下の表に列挙する。
【0052】
【表1】
【0053】
MALDI画像分析
Dong et al. (2020)24に以前記載されたように、果実の凍結切片作製を行った。新鮮な未成熟緑色果実(開花約16日後)を液体窒素中でフラッシュ凍結し、次いで、M1包埋マトリックス(Thermo Scientific)を用い、ドライアイス上の平坦な金属ホルダー上で包埋した。包埋組織をCryoStar NX70マイクロトーム(Thermo Scientific)にトランスファーし、-18℃で少なくとも3時間熱平衡化した。組織を35μm厚切片に切断し、Superfrost Plusスライド(Thermo Scientific)上に融解マウントした後、デシケーター中で真空乾燥した。
【0054】
1:1比で、Canon MP-E 65mm f/2.8 1~5x Macro Photoレンズ(Canon Inc、日本・東京都大田区)を備えたCanon 5D Mark IVカメラを用いて、光学画像を撮影した。画像生ファイルを、Capture One写真編集ソフトウェア(Capture One, Frederiksberg, Denmark)でプロセシングした。
【0055】
およそ3μg mm-2の密度まで、80%メタノール/0.05% TFA中、10mg ml-1のDHB溶液を含むSunCollect MALDI噴霧器(SunChrome, Friedrichsdorf, Germany)を用いて、2,5-ジヒドロ安息香酸マトリックス(DHB)で切片を覆った。
【0056】
355nmで操作される2.5kHz Nd:YAGレーザーを装備されたMALDI供給源(Waters, Wilmslow, UK)を含むSynapt G2-Si質量分析計で、MALDI画像化を行った。スライドを装置金属ホルダー中で固定し、フラットベッドスキャナー(Canon)でスキャンした。画像を用いて、以下のパラメーターで、HDImagingソフトウェアバージョン1.4(Waters)中、パターンファイルおよび獲得法を生成した:全切片およそ400mm2の面積、105μmステップサイズの低設定(60μm)レーザービーム直径、切片あたりおよそ36kピクセルの生成、MALDI-MS陽性感度モード、m/z 50~1200、スキャン時間0.5s、レーザー反復率1kHz、レーザーエネルギー200。イオン可動性測定のため、以下のさらなるチューンページ設定で、MALDI-HDMSモードで同じパラメーターを用いた:捕捉DCバイアス:45.0、トランスファー波速度(m/s):315、IMS波高(V):40.0、直線傾斜で可能になる可変波速度、開始時波速度(m/s):1500.0、終了時波速度(m/s):200.0。装置較正に赤リンクラスターおよびロックマス補正を用いた。全切片の総スキャン時間は10~12時間であり、10分ごとに2秒間ロックマスを獲得した。
【0057】
MS生ファイルを、以下のパラメーターで、HDI1.4中でプロセシングした:2000の最も豊富なピークの検出、m/zウィンドウ0.05、MS解像10,000、ロックマス526.554(赤リンクラスター)。プロセシングデータをHDI1.4にロードし、総イオン含量(TIC)によって標準化した。HotMetal2カラースケールを用いて画像を生成し、png画像ファイルとしてエクスポートした。比較および平均スペクトルの生成のため、MS生データをimzmlに変換し、Scils Lab MVSソフトウェアバージョン2021c Premium 3D(SCiLS, Bruker Daltonik GmbH, Bremen, Germany)を用いて分析した。
【0058】
同じ装置上で分析される真正標準のドリフト時間およびマスを比較することによって、関心対象の化合物、7-デヒドロコレステロール、コレステロールおよびαトマチンを同定した。MALDI中に7-デヒドロコレステロール、ビタミンD3およびコレステロールに関して検出されるマスを、以下の表に列挙する。コレステロールはMALDI-TOF質量分析中のレーザー誘導性酸化に感受性であり25、7-デヒドロコレステロールは非酵素自己酸化のさらにより高い傾向を有する26、27と報告されている。MALDI中に生成される標準のピークのうち、特異性および相対存在量を考慮すると、367.33、365.32および363.31が7-デヒドロコレステロールの代表的マスとして選択され、369.35および1034.55が、それぞれ、コレステロールおよびαトマチンの代表的マスとして選択される。
【0059】
【表2】
【0060】
*cholcal:コレカルシフェロール、ビタミンD3;7dh:7-デヒドロコレステロール(7-DHC);chol:コレステロール。
【0061】
ステロール分析
ステロール抽出および分析のための方法をJaepelt et al. (2011)16より修飾した。フリーズドライ材料(約20mg)を2mLエッペンドルフチューブ内に秤量し、100μLの60%水酸化カリウム(Sigma-Aldrich)、500μLの96%エタノール(Sigma-Aldrich)および300μLの15%アスコルビン酸(Sigma-Aldrich)と混合した。チューブをサーモシェーカー(Eppendorf)中、22℃でおよそ18時間振盪した。ペンタン中の20%酢酸エチル(v/v)(750μL)を添加し、フラットシェーカー上で30分間振盪した後、室温で2000 x g、5分間遠心分離した。有機層を新規の2mlエッペンドルフチューブにトランスファーした。抽出工程を2回反復した。チューブを30回反転させることによって、総抽出物を500μLの0.1mol L-1塩酸で洗浄して、アルカリを完全に除去した。上層を2mLエッペンドルフチューブにトランスファーした後、1000 x gで2分間遠心分離した。「Very Low BP Mix」のプログラムでGenevac EZ-2 Elite蒸発装置を用い、総抽出物を蒸発乾固した。残渣を200μLメタノール中に最終的に再溶解して、0.22μmナイロンCorning(登録商標)Costar(登録商標)Spin-X(登録商標)チューブフィルター(Sigma-Aldrich)で濾過した。分析まで、試料を-80℃で保存した。
【0062】
同じ装置上で分析される真正標準:7-デヒドロコレステロール、ビタミンD3、コレステロール、スチグマステロール(Sigma-Aldrich)の保持時間および質量分析スペクトルを比較することによって、ステロール化合物を同定し、定量化した。サーモスタットカラム区画を備えたDionex UltimMate(Thermo Fisher Scientific)上で液体クロマトグラフィ分析を行った。流速0.6mL min-1で、50x2.1mm 2.6μ Kinetex F5カラム(Phenomenex)上でクロマトグラフィ分離を行った。溶媒はMilli-Q水中の0.2%ギ酸および25%アセトニトリル(v/v)(A)対100%メタノール(B)であった。勾配プログラムは以下の通りであった:60% B、0.5分間、85% Bまでの線形勾配7分間、100% Bまでの線形勾配0.5分間、1分間の均一濃度溶出、および60% Bに戻る0.5分間の線形勾配および3.5分間の再平衡化、総実行時間13分間。カラムを40℃に維持した。5μLの試料を注入した。大気圧化学イオン化(APCI)供給源を備えたQ Exactive Orbitrap質量分析計(Thermo Scientific)を用いて、質量分析を行った。m/z 180~2000で70,000の解像度のフルスキャン、およびm/z 4.0のイオン化幅、30%標準化衝突エネルギーで、トップ4イオンのデータ依存性MS2を収集するようにMSを設定した。次いで、次の最も豊富なイオンを選択するため、これらのイオンを5秒間無視し;同位体ピークもまた無視した。データ依存性MS2分析は17,500解像度、50msecの最大イオン時間、1x105イオンの自動的獲得対照ターゲットであった。MSスキャンは50msecの最大イオン時間、および30x106イオンの自動獲得対照ターゲットを有した。スプレーチャンバー条件は、231℃キャピラリー温度、21.25単位シースガス、5単位補助ガス、スペアガスなし、4μA電流、363℃プローブヒーター温度、50V S-レンズRFであった。Xcaliburソフトウェア(バージョン4.3、Thermo Scientific)を装置制御およびデータ獲得に用いた。
【0063】
SGA分析
Itkin et al. (2011)28によって記載されるようにSGA抽出を行った。簡潔には、20mgのフリーズドライ試料(葉または果実)を1mLの100%メタノール中で超音波処理し、氷上で1時間インキュベーションし、4000rpmで10分間遠心分離した。上清を収集し、4000rpmで3分間遠心分離し、0.22μフィルターでろ過した。試料抽出物を分析まで-80℃で保存した。真正標準(Sigma-Aldrich)に保持時間および質量分析スペクトルを比較することによって、αトマチンを同定し、定量化した。以前公表されたスペクトルおよび相対保持時間(Itkin et al. 2011)と比較した質量分析スペクトルに基づいて、エスクレオサイドAを同定した。
【0064】
0.6mL min-1の流速で、50×2.1mm 2.6μ Kinetex EVO C18カラム(Phenomenex)上でクロマトグラフィ分離を行った。溶媒は、Milli-Q水中の0.1%ギ酸(v/v)(A)対100%アセトニトリル(B)であった。勾配プログラムは以下の通りであった:2% Bから40% Bまでの4分間の線形勾配、次いで、95% Bまで2分間の線形勾配、1分間の均一濃度溶出および2% Bに戻る0.1分間の線形勾配および2.1分間の再平衡化、総実行時間9.2分間。エレクトロスプレーイオン化(ESI)供給源を備えたQ Exactive Orbitrap質量分析計(Thermo Scientific)を用いて、質量分析を行った。すべての他の設定は、ステロール分析に関して上述するものと同じであった。
【0065】
UV処理
UV曝露前に、果実を1mmスライスに切った。反転短波長トランスイルミネーターの20cm下で、葉または果実組織をUV-B光(3.2mW cm-2)に1時間曝露した。以下の分析のため、処理後、試料を直ちに液体窒素中で凍結した。
【0066】
統計分析
本明細書中のすべての実験を独立に少なくとも3回反復し、代表的なデータセットからの結果を示す。すべての数値を平均±s.e.m.で示す。GraphPad Prism(バージョン9.2.0)を統計分析に用いた。両側スチューデントt検定を用いて、野生型および突然変異体の間の統計的相違を行った。
参考文献:
図1-1】
図1-2】
図1-3】
図2
図3
図4-1】
図4-2】
図4-3】
【配列表】
2024535023000001.xml
【国際調査報告】