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特表2024-535032肺癌上皮細胞用の培養培地及び培養方法、並びにその用途
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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公表特許公報(A)
(11)【公表番号】
(43)【公表日】2024-09-26
(54)【発明の名称】肺癌上皮細胞用の培養培地及び培養方法、並びにその用途
(51)【国際特許分類】
   C12N 5/09 20100101AFI20240918BHJP
   C12Q 1/02 20060101ALI20240918BHJP
   C12N 5/071 20100101ALI20240918BHJP
   A61P 35/00 20060101ALI20240918BHJP
   A61P 11/00 20060101ALI20240918BHJP
   A61P 43/00 20060101ALI20240918BHJP
   A61K 45/00 20060101ALN20240918BHJP
   A61K 31/63 20060101ALN20240918BHJP
【FI】
C12N5/09
C12Q1/02
C12N5/071
A61P35/00
A61P11/00
A61P43/00 111
A61K45/00
A61K31/63
【審査請求】有
【予備審査請求】未請求
(21)【出願番号】P 2024516559
(86)(22)【出願日】2021-10-26
(85)【翻訳文提出日】2024-05-10
(86)【国際出願番号】 CN2021126229
(87)【国際公開番号】W WO2023039999
(87)【国際公開日】2023-03-23
(31)【優先権主張番号】202111079965.0
(32)【優先日】2021-09-15
(33)【優先権主張国・地域又は機関】CN
(81)【指定国・地域】
(71)【出願人】
【識別番号】522178669
【氏名又は名称】合肥中科普瑞昇生物医▲薬▼科技有限公司
(74)【代理人】
【識別番号】110003845
【氏名又は名称】弁理士法人籾井特許事務所
(72)【発明者】
【氏名】▲劉▼ 青松
(72)【発明者】
【氏名】胡 ▲潔▼
(72)【発明者】
【氏名】▲陳▼ 程
(72)【発明者】
【氏名】黄 涛
【テーマコード(参考)】
4B063
4B065
4C084
4C086
【Fターム(参考)】
4B063QA18
4B063QQ02
4B063QQ08
4B063QR72
4B063QR77
4B063QR82
4B063QS36
4B065AA90X
4B065AC20
4B065BB05
4B065BB13
4B065BB19
4B065BC46
4B065CA44
4B065CA46
4C084AA17
4C084NA10
4C084ZA592
4C084ZB262
4C086AA10
4C086DA20
4C086MA03
4C086MA06
4C086NA20
4C086ZC20
(57)【要約】
初代肺癌上皮細胞を培養するための初代細胞培養培地、初代細胞培養培地を用いる培養方法、並びに薬効評価及び薬物スクリーニングにおけるその使用。培養培地は、MST1/2キナーゼ阻害剤と、ROCKキナーゼ阻害剤と、線維芽細胞成長因子と、B27添加剤及びN2添加剤から選択される少なくとも1つの添加剤と、上皮成長因子と、トランスフェリンと、ガストリンと、TGFβ I型受容体阻害剤とを含有する。
【選択図】なし

【特許請求の範囲】
【請求項1】
初代肺癌上皮細胞を培養するための初代細胞培養培地であって、
MST1/2キナーゼ阻害剤と、Y27632、ファスジル及びH-1152のうち少なくとも1つから選択されるROCKキナーゼ阻害剤と、線維芽細胞成長因子と、B27添加剤及びN2添加剤から選択される少なくとも1つの添加剤と、上皮成長因子と、トランスフェリンと、ガストリンと、A83-01、SB431542、Repsox、SB505124、SB525334、SD208、LY36494及びSJN2511のうち少なくとも1つから選択されるTGFβ I型受容体阻害剤と含むことを特徴とし、
前記MST1/2キナーゼ阻害剤が、式(I):
【化1】
(式中、
は、C1~C6アルキル、C3~C6シクロアルキル、C4~C8シクロアルキルアルキル、C2~C6スピロシクロアルキル、並びに1個~2個の独立したRで任意に置換されたアリール、1個~2個の独立したRで任意に置換されたアリールC1~C6アルキル、及び1個~2個の独立したRで任意に置換されたヘテロアリールから選択され、
及びRは、それぞれ独立して、C1~C6アルキルから選択され、
及びRは、それぞれ独立して、水素、C1~C6アルキル、C3~C6シクロアルキル、C4~C8シクロアルキルアルキル、ヒドロキシルC1~C6アルキル、C1~C6ハロアルキル、C1~C6アルキルアミノC1~C6アルキル、C1~C6アルコキシC1~C6アルキル、及びC3~C6ヘテロシクリルC1~C6アルキルから選択され、
は、ハロゲン、C1~C6アルキル、C1~C6アルコキシ、及びC1~C6ハロアルキルから選択される)の化合物、又はその薬学的に許容され得る塩若しくは溶媒和物を含む、初代細胞培養培地。
【請求項2】
が、C1~C6アルキル、C3~C6シクロアルキル、C4~C8シクロアルキルアルキル、C2~C6スピロシクロアルキル、並びに1個~2個の独立したRで任意に置換されたフェニル、1個~2個の独立したRで任意に置換されたナフチル、1個~2個の独立したRで任意に置換されたフェニルメチル、及び1個~2個の独立したRで任意に置換されたチエニルから選択され、
及びRが、それぞれ独立して、C1~C3アルキルから選択され、
及びRが、それぞれ独立して、水素、C1~C6アルキル、C3~C6シクロアルキル、C4~C8シクロアルキルアルキル、ヒドロキシルC1~C6アルキル、C1~C6ハロアルキル、C1~C6アルキルアミノC1~C6アルキル、C1~C6アルコキシC1~C6アルキル、ピペリジルC1~C6アルキル、及びテトラヒドロピラニルC1~C6アルキルから選択され、
は、ハロゲン、C1~C6アルキル、C1~C6アルコキシ、及びC1~C6ハロアルキルから選択される、
請求項1に記載の初代細胞培養培地。
【請求項3】
前記MST1/2キナーゼ阻害剤が、式(Ia):
【化2】
(式中、
は、C1~C6アルキル、1個~2個の独立したRで任意に置換されたフェニル、1個~2個の独立したRで任意に置換されたチエニル、及び1個~2個の独立したRで任意に置換されたフェニルメチルから選択され、
は、水素、C1~C6アルキル、及びC3~C6シクロアルキルから選択され、
は、独立して、ハロゲン、C1~C6アルキル、及びC1~C6ハロアルキルから選択される)の化合物、又はその薬学的に許容され得る塩若しくは溶媒和物を含む、請求項1に記載の初代細胞培養培地。
【請求項4】
が1個~2個の独立したRで任意に置換されたフェニルであり、
が水素であり、
が、フルオロ、メチル又はトリフルオロメチルである、請求項3に記載の初代細胞培養培地。
【請求項5】
前記MST1/2キナーゼ阻害剤が、以下の化合物又はその薬学的に許容され得る塩から選択される少なくとも1つである、請求項1に記載の初代細胞培養培地。
【表1-1】
【表1-2】
【表1-3】
【表1-4】
【表1-5】
【請求項6】
前記培養培地中の前記MST1/2キナーゼ阻害剤の量が、2.5μM~15μM、好ましくは2.5μM~10μMであることを特徴とする、請求項1~5のいずれか一項に記載の初代細胞培養培地。
【請求項7】
以下の条件:
前記培養培地中の前記ROCKキナーゼ阻害剤の量が、2.5μM~18μM、好ましくは5μM~15μMである;
前記線維芽細胞成長因子の量が、2.5ng/ml~80ng/ml、好ましくは5ng/ml~40ng/mlである;
前記培養培地中の前記B27添加剤又は前記N2添加剤の体積濃度が、1:25~1:800、好ましくは1:25~1:200である;
前記上皮成長因子の量が、2.5ng/ml~80ng/ml、好ましくは10ng/ml~40ng/mlである;
トランスフェリンの量が、2.5ng/ml~80ng/ml、好ましくは5ng/ml~80ng/mlである;
ガストリンの量が、2.5ng/ml~80ng/ml、好ましくは5ng/ml~40ng/mlである;
前記TGFβ I型受容体阻害剤の量が、62.5nM~800nM、好ましくは125nM~500nMである、
のうちいずれか1つ以上又は全てを満たすことを特徴とする、請求項1~6のいずれか一項に記載の初代細胞培養培地。
【請求項8】
以下の条件:
前記MST1/2キナーゼ阻害剤が化合物1である;
前記ROCKキナーゼ阻害剤がY27632である;
前記TGFβ I型受容体阻害剤がA83-01である、
のうちいずれか1つ以上又は全てを満たすことを特徴とする、請求項1~7のいずれか一項に記載の初代細胞培養培地。
【請求項9】
DMEM/F12、DMEM、F12又はRPMI-1640からなる群から選択される初期培地と、
ストレプトマイシン/ペニシリン、アムホテリシンB及びプリモシンからなる群から選択される1つ以上の抗生物質と、
を更に含むことを特徴とする、請求項1~8のいずれか一項に記載の初代細胞培養培地。
【請求項10】
血清、ウシ下垂体抽出物、Wntアゴニスト、R-スポンジンファミリータンパク質、BMP阻害剤、ニコチンアミド、又はN-アセチルシステインを含まないことを特徴とする、請求項1~9のいずれか一項に記載の初代細胞培養培地。
【請求項11】
前記初代肺癌上皮細胞が、肺癌細胞、正常肺癌上皮細胞及び肺癌上皮幹細胞からなる群から選択されることを特徴とする、請求項1~10のいずれか一項に記載の初代細胞培養培地。
【請求項12】
初代肺癌上皮細胞を培養する方法であって、
(1)請求項1~11のいずれか一項に記載の初代細胞培養培地を調製する工程と、
(2)細胞外マトリックスゲル希釈液で培養容器をコーティングする工程と、
(3)肺癌組織から分離した初代肺癌上皮細胞を、細胞外マトリックスゲルでコーティングした前記培養容器に接種し、工程(1)の前記初代細胞培養培地を用いて培養する工程と、
を含むことを特徴とする、方法。
【請求項13】
肺癌を治療するための薬物を評価又はスクリーニングする方法であって、
(1)請求項12に記載の培養方法により、肺癌上皮細胞を培養する工程と、
(2)試験する前記薬物を選択し、種々の薬物濃度勾配に希釈する工程と、
(3)工程(1)で得られた前記肺癌上皮細胞に、勾配に希釈された前記薬物を添加し、細胞生存率を検出する工程と、
を含むことを特徴とする、方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、医療技術分野に関し、特に初代肺癌上皮細胞をin vitroで培養又は拡大増殖させるための培養培地及び培養方法、更には培養細胞を薬物の有効性評価及びスクリーニングに用いる方法及びその使用に関する。
【背景技術】
【0002】
肺癌は現在、世界中で最も多く見られる気道腫瘍である。毎年、世界中で180万人を超える新たな肺癌患者が発生している。臨床現場で最も多く見られる悪性腫瘍である肺癌は、主に手術、化学療法、放射線療法、分子標的療法及び免疫療法によって治療され、中でも手術、化学療法及び放射線療法が最も一般的に使用される手段である。しかしながら、これらの臨床治療に適した集団には制限がある。近年、分子生物学の進歩及び発展に伴い、腫瘍の薬物療法は多様化の傾向を示しているが、中でも分子標的薬はその強力な標的化及び高い安全性から肺癌の臨床治療において注目の高い研究テーマとなっている。しかしながら、数多くの臨床治療の選択肢の中で、患者に適したものを選択することが特に重要である。遺伝子検査が指標として用いられるが、遺伝子変異を持たない患者又は特定の変異はあってもその変異に対する標的薬が複数ある患者の場合、臨床現場において治療計画を決めることが困難な場合がある。遺伝子配列決定に加えて、肺癌患者からの試料のin vitroでの初代細胞培養は、in vitroでの有効性を予測し、将来の臨床投薬を導くための重要な手段となっているが、in vitroでの初代肺癌細胞の迅速な取得は、常に解決すべき緊急の技術的問題である。
【0003】
機能的試験とは、癌患者の細胞に対する抗腫瘍薬の感受性をin vitroで検出する方法を指す。この方法を適用する鍵となるのは、短い成長周期を有し、肺癌患者の生物学的特徴を表し得る腫瘍細胞モデルを開発することである。さらに、癌患者に適時に精密投薬指導を与えるには、この細胞モデルは、臨床投薬の有効性を迅速かつ効率的に予測する操作が容易であるべきである。しかしながら、癌患者の初代腫瘍細胞からの細胞モデルのin vitroでの樹立の成功率が通常低く、かつ成長周期が長いこと、及び間葉系細胞(例えば、線維芽細胞等)の過剰増殖等の問題は全て、この分野における開発を制限する。現在、腫瘍細胞の機能的試験の分野において比較的成熟している初代上皮/幹細胞を培養する技術は2つ存在する。一方は、照射されたフィーダー細胞及びROCK阻害剤Y27632を使用して初代上皮細胞の成長を促進し、個別の患者の薬物感受性を調査する技術であり、つまり、条件付き細胞リプログラミング技術である(非特許文献1)。もう一方の技術は、成体幹細胞をin vitroで3D培養して、組織及び器官に類似したオルガノイドを得ることである(非特許文献2)。
【0004】
しかしながら、いずれの技術にも或る特定の制限がある。細胞リプログラミングは、患者からの自己初代上皮細胞をマウス由来のフィーダー細胞と培養する技術である。患者からの初代細胞を薬物感受性に対して試験する際、これらのマウス由来の細胞の存在が、患者の自己初代細胞の薬物感受性試験の結果に干渉する可能性があるが、マウス由来のフィーダー細胞を除去すると、患者の自己初代細胞がリプログラミング環境から外れる可能性があり、細胞増殖速度及び細胞内シグナル伝達経路が大幅に変化する可能性があることから(非特許文献3、非特許文献4)、薬物に対する患者の自己初代細胞の奏効が大きく影響される。オルガノイドは、in vitroで3次元培養用の細胞外マトリックス内に患者の自己初代上皮細胞を埋め込む技術であり、この技術においてはフィーダー細胞が必要ではないため、マウス由来のフィーダー細胞による干渉の問題はない。しかしながら、オルガノイド技術における培養培地には、様々な特定の成長因子(例えば、Wntタンパク質、及びR-スポンジンファミリータンパク質等)を加える必要があることから、これは高価であり、臨床における広範な使用には適していない。さらに、培養過程全体を通して、オルガノイドは細胞外マトリックスゲル内に埋め込まれている必要があり、細胞接種、継代、及び薬物感受性試験の播種工程は、2D培養操作と比較して面倒で時間がかかる。さらに、この技術によって形成されるオルガノイドのサイズを制御することは困難であり、一部のオルガノイドは大きくなりすぎて内部壊死を引き起こす可能性がある。したがって、オルガノイド技術は2D培養技術よりも操作性及び適用性に劣っている。これには専門の技術者が操作する必要があるため、臨床におけるin vitroでの薬物感受性試験のための広範囲かつ幅広い使用には適していない(非特許文献5)。
【0005】
上記の技術の制限に鑑みて、外因性細胞からの干渉なしに、短い培養期間、抑制可能なコスト、及び簡便な操作をもたらし得る、臨床における初代肺癌上皮細胞用の培養技術を開発することが必要とされている。この技術を適用して肺癌の初代腫瘍細胞モデルを構築すると、培養肺癌細胞は、肺癌患者自身の生物学的特徴を表し得る。個別の癌患者に由来する細胞モデルにおいて抗腫瘍薬の感受性をin vitroで評価することにより、抗腫瘍薬の奏効率を臨床において改善することができ、不適切な薬物によって患者に引き起こされる痛み及び医療資源の浪費を減らすことができる。
【先行技術文献】
【非特許文献】
【0006】
【非特許文献1】Liu et al., Am J Pathol, 180: 599-607, 2012
【非特許文献2】Hans Clevers et al., Cell, 11; 172(1-2): 373-386, 2018
【非特許文献3】Liu et al., Am J Pathol, 183(6): 1862-1870, 2013
【非特許文献4】Liu et al., Cell Death Dis., 9(7): 750, 2018
【非特許文献5】Nick Barker, Nat Cell Biol, 18(3): 246-54, 2016
【発明の概要】
【0007】
従来技術の不足に鑑みて、本発明は、初代肺癌上皮細胞を培養するための培養培地、及び該培養培地を使用して初代肺癌上皮細胞を培養する方法を提供することを意図している。本発明の初代肺癌上皮細胞のための培養培地及び培養方法は、外因性細胞からの干渉なしに、in vitroでの培養期間が短く、コストを抑制可能であり、操作が簡便であるという目標を達成することができる。この技術を適用して初代肺癌腫瘍細胞モデルを構築すると、肺癌患者の生物学的特徴を有する初代肺癌細胞を得ることができ、これらを新薬スクリーニング及びin vitroでの薬物感受性試験において適用することができる。
【0008】
本発明の一態様は、MST1/2キナーゼ阻害剤と、Y27632、ファスジル、及びH-1152のうち少なくとも1つから選択されるROCKキナーゼ阻害剤と、線維芽細胞成長因子と、B27添加剤及びN2添加剤から選択される少なくとも1つの添加剤と、上皮成長因子と、トランスフェリンと、ガストリンと、A83-01、SB431542、Repsox、SB505124、SB525334、SD208、LY36494、及びSJN2511のうち少なくとも1つから選択されるTGFβ I型受容体阻害剤とを含む、初代肺癌上皮細胞を培養するための初代細胞培養培地を提供することであり、MST1/2キナーゼ阻害剤は式(I):
【化1】
(式中、
は、C1~C6アルキル、C3~C6シクロアルキル、C4~C8シクロアルキルアルキル、C2~C6スピロシクロアルキル、並びに1個~2個の独立したRで任意に置換されたアリール(例えば、フェニル及びナフチル等)、1個~2個の独立したRで任意に置換されたアリールC1~C6アルキル(例えば、フェニルメチル等)、及び1個~2個の独立したRで任意に置換されたヘテロアリール(例えば、チエニル等)から選択され、
及びRは、それぞれ独立して、C1~C6アルキル、好ましくはC1~C3アルキル、より好ましくはメチルから選択され、
及びRは、それぞれ独立して、水素、C1~C6アルキル、C3~C6シクロアルキル、C4~C8シクロアルキルアルキル、ヒドロキシルC1~C6アルキル、C1~C6ハロアルキル、C1~C6アルキルアミノC1~C6アルキル、C1~C6アルコキシC1~C6アルキル、及びC3~C6ヘテロシクリルC1~C6アルキル(ヘテロシクリルは、例えば、ピペリジル、テトラヒドロピラニル等から選択される)から選択され、
は、ハロゲン(好ましくはフルオロ及びクロロ、より好ましくはフルオロ)、C1~C6アルキル(好ましくはメチル)、C1~C6アルコキシ(好ましくはメトキシ)、及びC1~C6ハロアルキル(好ましくはトリフルオロメチル)から選択される)の化合物、又はその薬学的に許容され得る塩若しくは溶媒和物を含む。
【0009】
好ましい実施の形態において、MST1/2キナーゼ阻害剤は式(Ia):
【化2】
(式中、
は、C1~C6アルキル、1個~2個の独立したRで任意に置換されたフェニル、1個~2個の独立したRで任意に置換されたチエニル、及び1個~2個の独立したRで任意に置換されたフェニルメチルから選択され、より好ましくは、Rは1個~2個の独立したRで任意に置換されたフェニルであり、
は、水素、C1~C6アルキル及びC3~C6シクロアルキルから選択され、より好ましくは、Rは水素であり、
は、ハロゲン、C1~C6アルキル及びC1~C6ハロアルキルから独立して選択され、より好ましくは、Rは、フルオロ、メチル又はトリフルオロメチルである)の化合物、又はその薬学的に許容され得る塩若しくは溶媒和物を含む。
【0010】
好ましくは、MST1/2キナーゼ阻害剤は、以下の化合物又はその薬学的に許容され得る塩、若しくは溶媒和物から選択される少なくとも1つである:
【0011】
【表1-1】
【表1-2】
【表1-3】
【表1-4】
【表1-5】
【0012】
最も好ましくは、本発明のMST1/2キナーゼ阻害剤は化合物1である。
【0013】
本発明の実施の形態において、培養培地中のMST1/2キナーゼ阻害剤の量は、通常2.5μM~15μM、好ましくは2.5μM~10μMである。
【0014】
更に別の実施の形態においては、ROCKキナーゼ阻害剤は、好ましくはY27632である。また、好ましくは、培養培地中のROCKキナーゼ阻害剤の量は、通常、2.5μM~18μM、好ましくは5μM~15μMである。
【0015】
好ましい実施の形態においては、線維芽細胞成長因子の量は、2.5ng/ml~80ng/ml、好ましくは5ng/ml~40ng/mlであり、培養培地中のB27添加剤又はN2添加剤の体積濃度は、1:25~1:800、好ましくは1:25~1:200であり、上皮成長因子の量は、2.5ng/ml~80ng/ml、好ましくは10ng/ml~40ng/mlであり、トランスフェリンの量は、2.5ng/ml~80ng/ml、好ましくは5ng/ml~80ng/mlであり、ガストリンの量は、2.5ng/ml~80ng/ml、好ましくは5ng/ml~40ng/mlであり、TGFβ I型受容体阻害剤の量は、62.5nM~800nM、好ましくは125nM~500nMである。
【0016】
本発明の培地処方は、DMEM/F12、DMEM、F12又はRPMI-1640からなる群から選択される初期培地と、ストレプトマイシン/ペニシリン、アムホテリシンB及びプリモシンからなる群から選択される1つ以上の抗生物質とを更に含む。幾つかの実施の形態においては、初期培地は、好ましくはDMEM/F12であり、抗生物質は、好ましくはプリモシンである。更に好ましい実施の形態においては、培養培地中のプリモシンの量は、25μg/ml~400μg/ml、好ましくは50μg/ml~200μg/mlである。
【0017】
肺癌上皮細胞の条件付き細胞リプログラミング用培地の組成及びオルガノイド用培地の組成と比較すると、本発明の培地の組成には、MST1/2キナーゼ阻害剤が添加されているが、血清、ウシ下垂体抽出物等の不確定成分、Wntアゴニスト、R-スポンジンファミリータンパク質、BMP阻害剤等、オルガノイド培養に必要なニッチ因子(niche factors)を含有せず、またニコチンアミド又はN-アセチルシステインを含まないことにより、培地の費用を大幅に削減し、培地調製の操作プロセスを簡略化し、コスト制御が可能で、操作性の良い初代肺癌上皮細胞のin vitro培養を実現する。
【0018】
本発明においては、初代肺癌上皮細胞は、肺癌細胞、正常肺癌上皮細胞、又は肺癌上皮幹細胞であり得る。
【0019】
本発明の一態様は、以下の工程を含む、初代肺癌上皮細胞を培養する方法を提供することである:
【0020】
(1)本発明の初代細胞培養培地を上記処方に従って調製する工程。
【0021】
(2)培養容器を細胞外マトリックスゲル希釈液でコーティングする工程。
【0022】
具体的には、細胞外マトリックスゲルとしては、低成長因子型の細胞外マトリックスゲルを使用することができ、例えば、市販のMatrigel(Corningから購入)又はBME(Trevigenから購入)を使用することができる。より詳細には、細胞外マトリックスゲルは、DMEM/F12(Corningから購入)であり得る無血清培養培地で希釈される。細胞外マトリックスゲルの希釈比は、1:50~1:400、好ましくは1:100~1:200である。コーティング法は、希釈された細胞外マトリックスゲルを培養容器に加えて、培養容器の底部を完全に覆い、30分間以上放置し、好ましくは37℃で、好ましくは30分~60分のコーティング時間で放置してコーティングすることを含む。コーティングが完了した後に、余分な細胞外マトリックスゲル希釈液を廃棄することで、培養容器は後続使用の準備が整う。
【0023】
(3)初代肺癌上皮細胞を肺癌組織から分離する工程。
【0024】
初代肺癌上皮細胞は、例えば、肺癌外科試料及び生検試料から取得され得る。例えば、肺癌組織試料は、インフォームドコンセントを得た肺癌患者の癌組織試料から外科的切除によって取得され、生検試料は、超音波ガイド下で肺内病変から採集される。上述の組織試料の採集は、患者の外科的摘除又は生検から30分以内に行われる。より詳細には、滅菌環境において、非壊死部位からの組織試料を5mm以上の体積で切り取った後に、組織試料を予冷した組織輸送液中に入れ、これを蓋付きのプラスチック製滅菌遠沈管内に入れて、氷上で研究室に輸送する。ここでは、組織輸送液は、DMEM/F12と、本発明のMST1/2キナーゼ阻害剤(例えば、化合物1)と、0.2体積%~0.4体積%のプリモシンとを含有する。本発明のMST1/2キナーゼ阻害剤の濃度範囲は、0.3μM~10μM、好ましくは2μM~5μM、より好ましくは3μMであり、プリモシンの濃度範囲は、25μg/ml~400μg/ml、好ましくは50μg/ml~200μg/ml、より好ましくは100μg/mlである。
【0025】
生物学的安全キャビネット内で、組織試料を細胞培養皿に移した後に、これを組織輸送液ですすぎ、組織試料の表面上の血球を洗い流す。すすいだ組織試料を別の新しい培養皿に移し、1ml~3mlの組織輸送液を加え、滅菌メス刃及び鉗子を使用して組織試料を体積3mm未満の組織片に分ける。
【0026】
組織試料片を遠沈管に移し、卓上遠心機(Sigma、3-18K)にて1000rpm~3000rpmで3分~5分間遠心分離を行う。上清を捨てた後、組織輸送液と組織消化液を1:1の割合で加える(投与量は、組織10mg当たり組織消化液約5mlであり、組織消化液の調製方法は、1mg/ml~2mg/mlコラゲナーゼII、1mg/ml~2mg/mlコラゲナーゼIV、50U/ml~100U/mlデオキシリボ核酸I、0.5mg/ml~1mg/mlヒアルロニダーゼ、0.1mg/ml~0.5mg/ml塩化カルシウム、5mg/ml~10mg/mlウシ血清アルブミンを、体積比1:1のHBSS及びRPMI-1640に溶解させることを含む)。次いで、試料に番号を付け、シールフィルムで封をし、そして37℃、200回転~300回転の恒温式振盪機(Zhichu Instrument ZQLY-180N)で消化する。消化が完了したかどうかを1時間ごとの観察により判断する。明らかな組織ブロックが見つからない場合は、消化を終了することができ、そうでなければ、4時間~8時間の範囲の消化時間で、十分な消化が行われるまで消化を続ける。消化後、未消化の組織ブロックを細胞フィルタースクリーン(細胞スクリーンのメッシュサイズは、例えば70μmである)で濾過する。フィルタースクリーン上の組織ブロックを組織輸送液ですすぎ、残留細胞を遠沈管にすすぎ入れ、卓上遠心機で1000rpm~3000rpm、3分~5分間遠心分離を行う。上清を捨てた後、残った細胞ペレットを観察して血球が残っているかどうかを判断する。血球があれば血球溶解液(Sigmaから購入)3ml~5mlを加えた後よく混ぜ、5分に1回よく振って混ぜながら4℃で10分~20分間溶解する。溶解後に得られたものを取り出して1000rpm~3000rpmで3分~5分間遠心分離する。上清を捨てた後、本発明の初代細胞培養培地を加えて再懸濁する。フローイメージングカウンター(JIMBIO FIL、Jiangsu Jimbio Technology Co., Ltd.)で計数し、細胞の総数を求める。
【0027】
(4)工程(3)で分離された初代肺癌上皮細胞をコーティングされた培養容器に接種し、工程(1)で得られた初代細胞培養培地を用いて培養する工程。
【0028】
より具体的には、初代肺癌細胞をマルチウェルプレートの1ウェルに2×10細胞/cm~8×10細胞/cmの密度(例えば、4×10細胞/cm)で接種する。2ml~3mlの初代上皮細胞培養培地を加えた後、上記プレートを、細胞インキュベーター内で、例えば37℃、5%COの条件下で8日~16日間培養する。培養中4日ごとに新鮮な初代細胞培養培地を使用して交換する。初代肺癌上皮細胞が、マルチウェルプレート底面積の約80%~90%を占める細胞密度に成長したら消化及び継代を行う。
【0029】
条件付き細胞リプログラミング技術と比較すると、この接種工程はフィーダー細胞の使用を必要としないため、フィーダー細胞を培養及び照射する工程がなくなる。オルガノイド技術と比較すると、この工程は、初代細胞とマトリックスゲルとを氷上で均一に混合して、ゲル液滴を形成し、ゲル液滴の固化を待ってから培地を添加することも必要としないため、事前にコーティングした培養容器を、初代細胞の接種に直接使用することができる。また、オルガノイド技術と比較すると、コーティングした培養容器は、少量の希釈された細胞外マトリックスゲルしか必要としないため、高価な細胞外マトリックスゲルの量が節約され、操作工程も簡略化される。
【0030】
任意に、接種した初代肺癌上皮細胞を8日~16日間培養した後、培養容器内に形成された細胞クローンが底面積の80%を覆うように収束したら、上清を捨て、0.5ml~2mlの0.05%トリプシン(Thermo Fisherから購入)を加え細胞消化を行い、次いで室温で5分~20分間インキュベートする。消化された細胞は、例えば5%(体積/体積)ウシ胎児血清、100U/mlペニシリン、及び100μg/mlストレプトマイシンを含有する1ml~4mlのDMEM/F12培養液に再懸濁し、1000rpm~3000rpmで3分~5分間遠心分離する。消化された単一細胞を、本発明の初代細胞培養培地を使用して再懸濁し、得られた細胞懸濁液を、細胞外マトリックスゲルでコーティングされたT25細胞培養フラスコに入れて連続培養する。T25細胞培養フラスコのコーティング工程は、工程(2)におけるものと同じである。
【0031】
拡大増殖した肺癌上皮細胞は2Dで成長することから、不均一なサイズのオルガノイドが避けられ、オルガノイド技術を使用した拡大増殖において起こり得る過剰成長したオルガノイドの内部壊死が回避される。
【0032】
別の態様において、本発明の初代肺癌上皮細胞の培養方法によって培養した肺癌上皮細胞、特に肺癌腫瘍細胞を、以下の工程を含む薬物の有効性評価及びスクリーニングに使用することができる:
【0033】
(1)初代肺癌上皮細胞を得て、より好ましくは、肺癌患者に由来する癌組織試料又は生検癌組織試料を得て、初代肺癌上皮細胞を分離し、上記初代肺癌上皮細胞を培養する方法に従って初代肺癌上皮細胞(特に初代肺癌細胞)を少なくとも10個の大きさ、好ましくは少なくとも10個の大きさの細胞数まで培養して拡大増殖させる工程。
【0034】
(2)試験する薬物を選択する工程。
【0035】
(3)基準として薬物の最大血漿濃度Cmaxに基づき、初期濃度としてCmaxの2倍~5倍を取り、薬物を種々の薬物濃度勾配、例えば5個~10個の薬物濃度勾配、好ましくは6個~8個の薬物濃度勾配へと希釈する工程。
【0036】
(4)工程(1)において培養した肺癌上皮細胞を消化して単一細胞懸濁液にし、フローイメージングカウンターで細胞数を計数し、本発明の初代細胞培養培地で単一細胞懸濁液を希釈し、希釈された細胞懸濁液を1ウェル当たり2000個~4000個の細胞の密度でマルチウェルプレートに一様に、例えば1ウェル当たり50μLの細胞希釈液で加え、一晩付着させる工程。
【0037】
この工程により、フィーダー細胞の存在が初代細胞の計数及びその後の初代細胞生存率アッセイに干渉し得るという細胞リプログラミング技術の問題が避けられ、オルガノイド技術でのようなマトリックスゲルを含む細胞懸濁液を氷上で混合し、埋め込み、その後に播種するという面倒な工程の必要性が排除されることから、操作法が大幅に簡易化され、技術の操作性及び実用性が向上する。接種される細胞はオルガノイドのような3D構造ではなく単一細胞懸濁液であるため、この技術では、オルガノイド技術と比較して、播種細胞数がより均一になり、ウェル間の細胞数の変動がより小さくなり得ることから、その後の高スループット薬物スクリーニング操作により適したものとなる。
【0038】
(5)高スループット自動ワークステーションを使用して、工程(4)において得られた付着細胞に、従来の化学療法薬、標的薬、抗体薬、又はそれらの組合せ等の選択された候補薬物を勾配希釈で添加する工程。
【0039】
(6)薬物を添加した数時間後、例えば薬物を添加した72時間後に、Cell-Titer Glo発光細胞生存率アッセイキット(Promegaから購入)を使用して肺癌上皮細胞の生存率を検出して、薬物活性をスクリーニングする工程。
【0040】
詳細には、各ウェルに、例えば10μLのCell Titer-Glo試薬(Promegaから購入)を加え、均一に振盪した後に、蛍光マイクロプレートリーダーを用いて各ウェルついて化学発光強度を測定する。横軸として薬物濃度を取り、縦軸として蛍光強度を取ることで、GraphPad Prismソフトウェアを使用して、測定値に基づいて薬物用量-効果曲線を作成し、試験された細胞の増殖に対する薬物の阻害強度を計算する。
【0041】
本発明の初代肺癌細胞を薬物スクリーニング及びin vitroでの薬物感受性検出に適用する場合に、細胞共培養システムを用いないため、細胞リプログラミング技術とは異なり、フィーダー細胞が検出結果に干渉することはない。また、細胞の2D成長のため、薬物との相互作用時間もオルガノイド技術における薬物検出時間より短い(オルガノイド技術における平均投与時間は6日である)。
【0042】
本発明の有益な効果としては、以下のことも挙げられる:
【0043】
(1)初代肺癌上皮細胞の培養の成功率は、80%以上の成功率で改善される。
【0044】
(2)in vitroで初代培養した肺癌上皮細胞は、初代細胞の由来患者の病理学的表現型及び不均一性を再現することを確実にする。
【0045】
(3)培養される初代肺癌上皮細胞は、線維芽細胞によって干渉されず、純粋な肺癌上皮細胞を得ることができる。
【0046】
(4)培地の組成には血清が含まれていないため、様々なバッチからの血清の質及び量によって影響されない。
【0047】
(5)肺癌上皮細胞は高効率で拡大増殖し、ここで、10個レベルの開始細胞数から約2週間以内に10個の規模の肺癌上皮細胞の拡大増殖に成功し、拡大増殖した肺癌上皮細胞は継続的な継代能力を有する。
【0048】
(6)氷上で操作する必要がなく、継代工程においてマトリックスゲルを解離させる必要がなく、細胞の消化及び継代を10分~15分以内に完了することができる。
【0049】
(7)初代肺癌培養培地は、高価なWntアゴニスト、R-スポンジンファミリータンパク質、BMP阻害剤等の因子を必要としないため、培養するコストを抑制可能であることから、初代肺癌上皮細胞オルガノイド用の既存の培養培地の簡略化及び改善となる。細胞接種では、初代細胞と混合してゲル液滴を形成するのにより高濃度の細胞外マトリックスを使用する必要もなく、その代わりに細胞外マトリックスゲルから調製した少量の希釈液を使用すればよいことから、よりコストのかかる細胞外マトリックスの量が節約される。
【0050】
(8)操作が簡便である:条件付きリプログラミング技術と比較して、本技術はフィーダー細胞を培養及び照射する必要がないことから、様々なバッチからのフィーダー細胞の質及び量が初代細胞培養の効率に影響を与え得るという問題が回避される。薬物スクリーニングにおける播種及び試験の対象は初代肺癌上皮細胞だけであり、条件付き細胞リプログラミング技術において必要とされるような共培養システムとは異なり、フィーダー細胞の干渉はない。オルガノイド技術と比較して、本発明において採用される細胞外マトリックスゲルをコーティングする方法において、培養容器を事前に準備することができ、オルガノイド技術とは異なり、マトリックスゲル内に細胞を埋め込む必要がないため、操作工程は簡単かつ容易である。
【0051】
(9)本技術は、肺癌上皮細胞を大量に培養して高い均一性で提供することができることから、新しい候補化合物の高スループットスクリーニング及び患者に対するin vitroでの高スループット薬物感受性機能的試験に適している。
【0052】
この実施の形態の細胞培養培地を使用して、肺癌細胞、正常肺上皮細胞、肺癌上皮幹細胞、又はこれらの細胞の少なくともいずれかを含む組織を含む、ヒト又は他の哺乳動物に由来する肺癌上皮細胞を培養することができる。同時に、本発明の培養培地を使用して、初代肺癌細胞をin vitroで拡大増殖及び培養するためのキットを開発することも可能である。
【0053】
さらに、この実施の形態の培養方法により得られた細胞を、再生医療、肺癌上皮細胞の基礎医学研究、薬物奏効のスクリーニング、及び肺癌に関する新薬の開発等において使用することができる。
【図面の簡単な説明】
【0054】
図1図1A図1Dは、培養培地中の異なる因子が初代肺癌細胞の増殖に及ぼす影響を示す図である。
図2】培養培地中の因子の増加が初代肺癌細胞の増殖に及ぼす影響を示す図である。
図3-1】図3A図3Fは、各因子の濃度が初代肺癌細胞の増殖に及ぼす影響を示す図である。
図3-2】図3G図3Hは、各因子の濃度が初代肺癌細胞の増殖に及ぼす影響を示す図である。
図4図4A及び図4Bは、1つの臨床肺癌組織試料から分離した細胞を、本発明の培養培地FLMを用いて、それぞれ4日目及び12日目まで培養し、倒立顕微鏡下で撮影した肺癌細胞の写真である。
図5図5A図5Dは、1つの外科的に切除した肺癌の試料から分離した細胞を、4種類の異なる培養培地の条件下で12日間培養した後に倒立顕微鏡下で撮影した写真である。
図6】10個の外科的に切除した肺癌試料から分離した細胞を、4種類の異なる培養培地の条件下で14日間培養して得られた細胞増殖効果の比較図である。
図7】1つの臨床肺癌組織試料から分離した細胞を、4種類の異なる培養培地の条件下で培養して得られた細胞成長曲線の比較グラフである。
図8】1つの外科的に切除した肺癌試料と、その試料から分離した細胞を本発明の培養培地FLMを用いて培養して得られた肺癌細胞との免疫組織化学的結果の比較を示す図である。
図9】1つの臨床肺癌組織試料から分離した細胞を、本発明の培養培地FLM、及びFLMから種々の成分を減じて得た培養培地の条件下でそれぞれ培養して得られた細胞成長曲線の比較グラフである。
図10】培養培地FLM及びFLMから化合物1を減じて得た培養培地をそれぞれ用いて細胞を培養した後の細胞増殖に関連するシグナル経路の分析結果を示す図である。
図11図11A及び図11Bは、異なる化学療法薬及び標的薬に対する初代肺癌細胞の用量反応曲線を示す図であり、初代肺癌細胞は、それぞれ異なる2人の肺癌患者の外科的に切除した癌組織試料を本発明の培養培地FLMで培養して得られた。
【発明を実施するための形態】
【0055】
本明細書では、上皮細胞は、上皮組織から得られた分化した上皮細胞及び上皮幹細胞を含む。「上皮幹細胞」とは、上皮細胞に向けて分化し長期自己複製の能力を有する細胞であり、上皮組織由来の幹細胞である。上皮組織の例としては、角膜、口腔粘膜、皮膚、結膜、膀胱、腎尿細管、腎臓、消化器(食道、胃、十二指腸、小腸(空腸及び回腸含む)、大腸(結腸含む))、肝臓、膵臓、乳腺、唾液腺、涙腺、前立腺、毛根、気管、肺等が挙げられる。本実施形態の細胞培養培地は、肺由来の上皮細胞を培養する培養培地であることが好ましい。
【0056】
さらに、本明細書では、「上皮性腫瘍細胞」とは、上述の上皮組織に由来する細胞の腫瘍化によって得られる細胞を指す。
【0057】
本明細書では、「オルガノイド」とは、制御された空間内で細胞が自発的に高密度に組織化及び凝集して形成された3次元の器官様細胞組織を指す。
【0058】
(MST1/2キナーゼ阻害剤の調製例)
本明細書では、MST1/2キナーゼ阻害剤とは、直接的又は間接的にMST1/2シグナル伝達を負に制御するあらゆる阻害剤を指す。一般に、MST1/2キナーゼ阻害剤は、例えば、MST1/2キナーゼに結合することにより、MST1/2キナーゼの活性を低下させる。MST1とMST2は構造が似ているため、MST1/2キナーゼ阻害剤は、例えば、MST1又はMST2に結合してその活性を低下させる化合物であってもよい。
【0059】
1.MST1/2キナーゼ阻害剤化合物1の調製
4-((7-(2,6-ジフルオロフェニル)-5,8-ジメチル-6-オキソ-5,6,7,8-テトラヒドロプテリジン-2-イル)アミノ)ベンズスルファミド1
【化3】
【0060】
メチル2-アミノ-2-(2,6-ジフルオロフェニル)アセテート(A2):2-アミノ-2-(2,6-ジフルオロフェニル)酢酸(2.0g)、次いでメタノール(30ml)を丸底フラスコに加え、続いて塩化チオニル(1.2ml)を氷浴下で滴下して加えた。反応系を85℃で一晩反応させた。反応終了後、この系を減圧下で蒸発させて溶剤を乾燥させ、得られた白色固体をそのまま次の工程に使用した。
【0061】
メチル2-((2-クロロ-5-ニトロピリミジン-4-イル)アミノ)-2-(2,6-ジフルオロフェニル)アセテート(A3):丸底フラスコにメチル2-アミノ-2-(2,6-ジフルオロフェニル)アセテート(2g)、次いでアセトン(30ml)及び炭酸カリウム(2.2g)を加え、次いで氷塩浴で系を-10℃に冷却した後、アセトン中の2,4-ジクロロ-5-ニトロピリミジン(3.1g)の溶液をゆっくりと加えた。反応系を室温で一晩撹拌した。反応終了後、反応混合物を濾過し、濾液から減圧下で溶剤を除去し、残渣を加圧シリカゲルカラムクロマトグラフィーで精製して、化合物A3を得た。LC/MS:M+H 359.0。
【0062】
2-クロロ-7-(2,6-ジフルオロフェニル)-7,8-ジヒドロプテリジン-6(5H)-オン(A4):丸底フラスコにメチル2-((2-クロロ-5-ニトロピリミジン-4-イル)アミノ)-2-(2,6-ジフルオロフェニル)アセテート(2.5g)、次いで酢酸(50ml)及び鉄粉(3.9g)を加えた。反応系を60℃で2時間撹拌した。反応終了後、反応系を減圧下で蒸発させて溶剤を乾燥させ、得られたものを飽和炭酸水素ナトリウム溶液でアルカリ性に中和し、酢酸エチルで抽出した。有機相を水と飽和食塩水で洗浄し、無水硫酸ナトリウムで乾燥した。有機相を濾過し、減圧下で蒸発乾固させて、粗生成物を得た。粗生成物をジエチルエーテルで洗浄し、化合物A4を得た。LC/MS:M+H 297.0。
【0063】
2-クロロ-7-(2,6-ジフルオロフェニル)-5,8-ジメチル-7,8-ジヒドロプテリジン-6(5H)-オン(A5):丸底フラスコに2-クロロ-7-(2,6-ジフルオロフェニル)-7,8-ジヒドロプテリジン-6(5H)-オン(2g)及びN,N-ジメチルアセトアミド(10ml)を加え、-35℃に冷却し、続いてヨードメタン(0.9ml)、次いで水素化ナトリウム(615mg)を加え、反応系を2時間撹拌した。反応終了後、反応混合物を水でクエンチし、酢酸エチルで抽出した。有機相をそれぞれ水及び飽和食塩水で洗浄し、無水硫酸ナトリウムで乾燥させた。有機相を濾過し、減圧下で蒸発乾固させて、粗生成物を得た。粗生成物をジエチルエーテルで洗浄し、化合物A5を得た。LC/MS:M+H 325.0。
【0064】
4-((7-(2,6-ジフルオロフェニル)-5,8-ジメチル-6-オキソ-5,6,7,8-テトラヒドロプテリジン-2-イル)アミノ)ベンズスルファミド(1):丸底フラスコに2-クロロ-7-(2,6-ジフルオロフェニル)-5,8-ジメチル-7,8-ジヒドロプテリジン-6(5H)-オン(100mg)、スルファニルアミド(53mg)、p-トルエンスルホン酸(53mg)及びsec-ブタノール(5ml)を加えた。反応系を120℃で一晩撹拌した。反応終了後、反応混合物を濾過し、メタノール及びジエチルエーテルで洗浄し、化合物1を得た。LC/MS:M+H 461.1。
【0065】
2.本発明の他のMST1/2阻害剤化合物の調製
本発明の他のMST1/2阻害剤化合物を化合物1と同様の方法で合成し、それらの構造及び質量スペクトルデータを以下の表に示す。
【0066】
【表2-1】
【表2-2】
【表2-3】
【表2-4】
【表2-5】
【0067】
(実施例1)
ヒト初代肺癌上皮細胞の分離
肺癌組織試料を、インフォームドコンセントを得た肺癌患者の癌組織試料から外科的切除により取得した。試料の1つ(番号B4)は以下の通りである。
【0068】
上述の組織試料を、患者の外科的摘除の後30分以内に収集した。より具体的には、無菌環境下で、非壊死部位の組織試料を0.5cm以上の体積で切り出し、あらかじめ冷却した4mlの組織輸送液(表1に示す具体的な処方)に入れた。輸送液は5mlの蓋付きプラスチック製滅菌凍結保存チューブ(Guangzhou Jet Bio-Filtration Co., Ltd.から購入)に入れ、コールドチェーン(0℃~10℃)で実験室に運んだ。
【0069】
【表3】
【0070】
【表4】
【0071】
生物学的安全キャビネット内で、組織試料(番号B4)を100mmの細胞培養皿(NESTから購入)に移した。この組織試料を組織輸送液ですすいだ。組織試料の表面上の残留した血液を洗い流した。組織試料の表面上の脂肪等の余分な組織を取り除いた。すすいだ組織試料を別の新しい100mmの培養皿に移し、2mlの輸送液を加え、滅菌メス刃及び鉗子を使用して、組織試料を体積3mm未満の組織片に分けた。
【0072】
組織試料片を15ml遠沈管に移し、卓上遠心機(Sigma、3-18K)で1500rpm、4分間遠心分離した。上清を捨てた後、組織輸送液と組織消化液を1:1の比で加えた(投与量は組織10mgに対して組織消化液約5mlであり、具体的な処方を表2に示した)。次いで、試料に番号を付けてシールフィルムで封をした後、37℃、300回転の恒温式振盪機(Zhichu Instrument ZQLY-180N)で消化した。消化が完了したかどうかを1時間ごとの観察により判断した。
【0073】
消化後、未消化の組織ブロックを70μmのフィルタースクリーンにより濾過して除去した。フィルタースクリーン上の組織ブロックを組織輸送液ですすぎ、残留した細胞を遠沈管にすすぎ入れ、1500rpmで4分間遠心分離を行った。
【0074】
上清を捨てた後、残った細胞ペレットを観察して血球が残っているかどうかを判断した。血球があれば血球溶解液(Sigmaから購入)3mlを加えた後よく混ぜ、5分に1回よく振って混ぜながら4℃で15分間溶解した。溶解後に得られたものを取り出して1500rpmで4分間遠心分離した。上清を捨て、消化及び分離された初代肺癌細胞を提供し、これに基礎培地(BM)を加えて再懸濁した。基礎培地は、市販のDMEM/F-12培地に0.2体積%のプリモシン(Invivogenから購入、濃度50mg/ml)を加え、最終濃度100μg/mlとなるように調製した。フローイメージングカウンター(JIMBIO FIL、Jiangsu Jimbio Technology Co., Ltd.)で計数して得た総細胞数は1020000個であった。
【0075】
(実施例2)
初代肺癌上皮細胞用培養培地の最適化
(1)異なる因子による影響
細胞外マトリックスゲル(Matrigel(商標))(Corning製)を無血清DMEM/F12培地にて1:100の比で希釈して、細胞外マトリックス希釈液を調製した。細胞外マトリックス希釈液を48ウェル培養プレートに500μl/ウェルで加えて、培養プレートのウェルの底部を完全に覆った。培養プレートを37℃のインキュベーター内で1時間放置した。1時間後、細胞外マトリックス希釈液を除去し、Matrigelコーティングプレートを得た。
【0076】
基礎培地(BMと略記する)の調製:BMを、市販のDMEM/F-12培地に0.2体積%のプリモシン(Invivogenから購入、濃度50mg/ml)を加え、最終濃度100μg/mlとなるように調製した。
【0077】
次に、基礎培地(BM)に異なる種類と濃度の添加剤因子(表3)を加え、種々の添加剤成分を含有する肺癌上皮細胞用培養培地を調製した。
【0078】
【表5】
【0079】
細胞外マトリックスゲル(Matrigel)でコーティングした48ウェルプレートに、種々の成分を含む培養培地を500μl/ウェルの容量で添加した。実施例1に記載されるものと同じ方法に従って肺癌組織から分離した肺癌細胞(番号B18)を、Matrigelでコーティングした上述の48ウェル培養プレートに2×10細胞/cmの細胞密度で接種した。表面消毒後、37℃、5%COのインキュベーター(Thermo Fisherから購入)内にプレートを置き、同数の分離したての肺癌腫瘍細胞(番号B18)を異なる培地処方の下で培養した。培養開始後、4日ごとに培養培地を交換した。12日間の培養後、細胞計数を行った。コントロールとして、添加剤を一切加えない基礎培地(BM)を使用した。結果を図1A図1Dに示した。各図の縦軸は、基礎培地BMでの培養後に得られた細胞数に対する、異なる培地での培養後に得られた細胞数の比を表す。図に示すように、BMに表3に従い種々の濃度で異なる因子を添加すると、全てが細胞の増殖を生じたが、程度は様々であった。詳細には、B27添加剤、N2添加剤、線維芽細胞成長因子、ガストリン、上皮成長因子、トランスフェリン、化合物1、Y27632及びA83-01は特定の濃度範囲で細胞増殖に対して一定の促進効果をもたらした。
【0080】
(3)本発明の方法により得られた初代肺癌細胞の増殖に及ぼす培養培地中の異なる増加因子の影響
細胞外マトリックスゲル(Matrigel(商標))を無血清DMEM/F12培地中に1:100の比で希釈して細胞外マトリックス希釈液を調製した。細胞外マトリックス希釈液を48ウェル培養プレートに500μl/ウェルで加えて、培養プレートのウェルの底部を完全に覆った。培養プレートを37℃のインキュベーター内で1時間放置した。1時間後、細胞外マトリックス希釈液を除去し、Matrigelコーティングプレートを得た。
【0081】
基礎培地BMにそれぞれ種々の添加剤因子(表4)を順に添加し、種々の添加剤成分を含有する肺癌上皮細胞用培養培地を調製した。
【0082】
【表6】
【0083】
細胞外マトリックスゲル(Matrigel)でコーティングした48ウェルプレートに、種々の成分を含む培養培地を500μl/ウェルの容量で添加し、同時にBM培地をコントロールとして使用した。実施例1に記載の方法に従って肺癌組織から分離した肺癌細胞(番号B22)を、Matrigelでコーティングした48ウェル培養プレートに2×10細胞/cmの細胞密度で接種した。表面消毒後、37℃、5%COのインキュベーター(Thermo Fisherから購入)内にプレートを置き、同数の分離したての肺癌腫瘍細胞(番号B22)を異なる培地処方の下で培養した。10日間の培養後、細胞計数を行った。結果を図2に示した。図に示すように、新たな添加剤因子を順次添加することで、培養培地処方の細胞増殖効果が持続的に改善し、最終的に、番号8の培養培地処方が、本出願において初代肺癌細胞の培養及び拡大増殖に最も好ましい培養培地であると判断された。
【0084】
(4)本発明で得られた初代肺癌細胞の増殖に及ぼす異なる濃度の添加剤因子の影響
細胞外マトリックスゲル(Matrigel(商標))を無血清DMEM/F12培地中に1:100の比で希釈して細胞外マトリックス希釈液を調製した。細胞外マトリックス希釈液を48ウェル培養プレートに200μl/ウェルで加え、培養プレートのウェルの底部を完全に覆った。培養プレートを37℃のインキュベーター内で1時間放置した。1時間後、細胞外マトリックス希釈液を除去し、Matrigelコーティングプレートを得た。
【0085】
初代肺癌上皮細胞用の番号8の培養培地を調製した。
【0086】
肺癌患者の癌組織(試料番号B26)から、実施例1と同様の方法を使用して癌組織に由来する肺癌上皮細胞を分離した。次に、癌組織由来の肺癌上皮細胞をフローイメージングカウンター(JIMBIO FIL、Jiangsu Jimbio Technology Co., Ltd.)で計数し、総細胞数を求めた。次いで、Matrigel(商標)でコーティングした48ウェルプレートに、4×10細胞/cmの密度で細胞を接種した。調製した初代肺癌上皮細胞用の番号8の培養培地を2ml、48ウェルプレートに加え、次いで、これを37℃、5%COのインキュベーター(Thermo Fisherから購入)に入れ、培養した。培養プレート内の細胞が底面積の約80%を覆うように成長した時点で、48ウェルプレート内の培地上清を捨て、500μlの0.05%トリプシン(Gibcoから購入)を加え細胞消化を行った。次いで、これを37℃で10分間インキュベートし、顕微鏡(EVOS M500、Invitrogen)で観察したところ、細胞は完全に消化されていた。その後、5%(体積/体積)ウシ胎児血清(ExCell Bioから購入)、100U/mlペニシリン(Corningから購入)、及び100μg/mlストレプトマイシン(Corningから購入)を含有するDMEM/F12培養液1mlを用いて消化を終了させた。得られたものを15mlの遠沈管に収集し、1500rpmで4分間遠心分離した後、上清を捨てた。遠心分離した細胞ペレットを基礎培地BMに再懸濁し、フローイメージングカウンター(JIMBIO FIL、Jiangsu Jimbio Technology Co., Ltd.)で細胞を計数して総細胞数を求めた。得られた細胞を、以下の培養実験に用いた。
【0087】
次に、以下の8種類の培養培地処方を調製し、実験を行った。
【0088】
製剤1:B27添加剤を含まない番号8の培養培地組成;
製剤2:線維芽細胞成長因子を含まない番号8の培養培地組成;
製剤3:トランスフェリンを含まない番号8の培養培地組成;
製剤4:上皮成長因子を含まない番号8の培養培地組成;
製剤5:Y27632を含まない番号8の培養培地組成;
製剤6:化合物1を含まない番号8の培養培地組成;
製剤7:A83-01を含まない番号8の培養培地組成;
製剤8:ガストリンを含まない番号8の培養培地組成。
【0089】
消化された細胞懸濁液を上記製剤1~製剤8でそれぞれ希釈し、次いで、48ウェルプレートに1ウェル当たり10000細胞の250μlの容量で接種した。
【0090】
製剤1の培地を使用する場合、初代細胞を接種した48ウェルプレートに、B27添加剤の最終濃度がそれぞれ1:800、1:400、1:200、1:100、1:50、1:25となるように調製したB27添加剤を1ウェル当たり250μl添加した。製剤1の培地を用いてブランクコントロール(BC)ウェルを設定した。
【0091】
製剤2の培地を使用する場合、初代細胞を接種した48ウェルプレートに、線維芽細胞成長因子の最終濃度がそれぞれ80ng/ml、40ng/ml、20ng/ml、10ng/ml、5ng/ml、2.5ng/mlとなるように調製した線維芽細胞成長因子を1ウェル当たり250μl添加した。製剤2の培地を用いてブランクコントロール(BC)ウェルを設定した。
【0092】
製剤3の培地を使用する場合、初代細胞を接種した48ウェルプレートに、トランスフェリンの最終濃度がそれぞれ80ng/ml、40ng/ml、20ng/ml、10ng/ml、5ng/ml、2.5ng/mlとなるように調製したトランスフェリンを1ウェル当たり250μl添加した。製剤3の培地を用いてブランクコントロール(BC)ウェルを設定した。
【0093】
製剤4の培地を使用する場合、初代細胞を接種した48ウェルプレートに、上皮成長因子の最終濃度がそれぞれ80ng/ml、40ng/ml、20ng/ml、10ng/ml、5ng/ml、2.5ng/mlとなるように調製した上皮成長因子を1ウェル当たり250μl添加した。製剤4の培地を用いてブランクコントロール(BC)ウェルを設定した。
【0094】
製剤5の培地を使用する場合、初代細胞を接種した48ウェルプレートに、Y27632の最終濃度がそれぞれ20μM、18μM、15μM、12.5μM、10μM、5μM、2.5μMとなるように調製したY27632を1ウェル当たり250μl添加した。製剤5の培地を用いてブランクコントロール(BC)ウェルを設定した。
【0095】
製剤6の培地を使用する場合、初代細胞を接種した48ウェルプレートに、化合物1の最終濃度がそれぞれ20μM、15μM、10μM、7.5μM、5μM、2.5μM及び1.25μMとなるように調製した化合物1を1ウェル当たり250μl添加した。製剤6の培地を用いてブランクコントロール(BC)ウェルを設定した。
【0096】
製剤7の培地を使用する場合、初代細胞を接種した48ウェルプレートに、A83-01の最終濃度がそれぞれ2000nM、1000nM、800nM、500nM、250nM、125nM及び62.5nMとなるように調製したA83-01を1ウェル当たり250μl添加した。製剤7の培地を用いてブランクコントロール(BC)ウェルを設定した。
【0097】
製剤8の培地を使用する場合、初代細胞を接種した48ウェルプレートに、ガストリンの最終濃度がそれぞれ80ng/ml、40ng/ml、20ng/ml、10ng/ml、5ng/ml、2.5ng/mlとなるように調製したガストリンを1ウェル当たり250μl添加した。製剤8の培地を用いてブランクコントロール(BC)ウェルを設定した。
【0098】
48ウェルの約85%まで細胞を拡大増殖させた後、細胞を消化して計数し、ブランクコントロール(BC)ウェルの細胞数を参照して比を算出し、結果を図3A図3Hに示した。図3A図3Hのそれぞれにおいて、比は、各培養培地を用いることにより培養された1回目の継代の細胞数と、対応するブランクコントロールウェルにより培養された1回目の継代の細胞数との比を表す。この比が1より大きい場合は、異なる濃度の因子又は低分子化合物を含有する調製培地の増殖促進効果が、ブランクコントロールウェルにおける培地の増殖促進効果よりも好ましいことを示し、この比が1より小さい場合は、異なる濃度の因子又は低分子化合物を含有する調製培地の増殖促進効果が、ブランクコントロールウェルにおける培地の増殖促進効果よりも悪いことを示す。
【0099】
図3A図3Hの結果によれば、培養培地中のB27添加剤の体積濃度は、好ましくは1:25~1:800、より好ましくは1:25~1:200、最も好ましくは1:50であり、線維芽細胞成長因子の量は、好ましくは2.5ng/ml~80ng/ml、より好ましくは5ng/ml~40ng/ml、最も好ましくは10ng/mlであり、トランスフェリンの量は、好ましくは2.5ng/ml~80ng/ml、より好ましくは5ng/ml~80ng/ml、最も好ましくは20ng/mlであり、上皮成長因子の量は、好ましくは2.5ng/ml~80ng/ml、より好ましくは10ng/ml~40ng/ml、最も好ましくは20ng/mlであり、Y27632の量は、好ましくは2.5μM~18μM、より好ましくは5μM~15μM、最も好ましくは10μMであり、MST1/2キナーゼ阻害剤化合物1の量は、好ましくは2.5μM~15μM、より好ましくは2.5μM~10μM、最も好ましくは5μMであり、A83-01の量は、好ましくは62.5nM~800nM、より好ましくは125nM~500nM、最も好ましくは500nMであり、ガストリンの量は、好ましくは2.5ng/ml~80ng/ml、より好ましくは5ng/ml~40ng/ml、最も好ましくは10ng/mlである。
【0100】
以下の様々な添加剤因子の最適濃度の組合せを、本発明における初代肺癌細胞の培養及び拡大増殖に最も好ましい培養培地処方として使用した(以下、FLMと称する):基礎培地(BM)+10ng/ml線維芽細胞成長因子(FGF)+20ng/ml上皮成長因子(EGF)+20ng/mlトランスフェリン+体積比1:50のB27添加剤+5μM化合物1+10μM Y27632+500nM A83-01+10ng/mlガストリン。
【0101】
(実施例3)
肺癌組織由来の初代肺癌細胞の培養
肺癌患者の癌組織(試料番号B21)から、実施例1と同様の方法を使用して癌組織に由来する肺癌上皮細胞を分離した。次に、癌組織由来の肺癌上皮細胞をフローイメージングカウンター(JIMBIO FIL、Jiangsu Jimbio Technology Co., Ltd.)で計数し、総細胞数を求めた。その後、Matrigel(商標)(BD Biosciencesから購入)でコーティングした12ウェルプレートに、4×10細胞/cmの密度で細胞を接種した。調製した初代肺癌上皮細胞用培養培地FLMを2ml、12ウェルプレートに加え、次いで、これを37℃、5%COのインキュベーター(Thermo Fisherから購入)に入れ、培養した。
【0102】
図4Aは、Matrigelでコーティングした12ウェルプレートに4×10細胞/cmの密度で接種後4日目まで培養した細胞の顕微鏡画像(40倍倒立位相差顕微鏡で撮影)である。顕微鏡で観察したところ、癌組織由来の初代肺癌培養細胞は純度が高く、線維芽細胞を含んでいなかったことが示される。図4Bは、接種後12日目まで培養した細胞の顕微鏡画像(40倍倒立位相差顕微鏡で撮影)である。図4A及び図4Bから、分離した初代肺癌細胞をin vitroで4日間培養すると、明らかなクローンの形成を顕微鏡下で確認することができ、12日間拡大増殖させると細胞数が有意に増したことがわかる。これにより、本発明の培養培地は肺癌上皮細胞をin vitroで拡大増殖させる効率的な培養培地であることが示唆される。
【0103】
(実施例4)
肺癌組織由来の初代肺癌細胞の増殖促進に対する種々の培養培地の影響
(1)種々の培養培地が第1世代の初代細胞のクローン形成に及ぼす影響の比較及びその増殖効果の比較
実施例2と同様の方法で初代肺癌上皮細胞用培養培地FLMを調製し、コントロールとして基礎培地BMを調製した。別のコントロールとして、条件付き細胞リプログラミング技術で使用する培養培地FMを追加で調製した。調製工程については、Liu et al., Nat Protoc., 12(2):439-451, 2017を参照されたい。培養培地の処方を表5に示す。さらに、追加のコントロールとして、STEMCELLから市販の培地EpiMCult(商標)Plus Medium(以下、「EpiM培地」ともいう)を購入し、培養培地の処方を表6に示す。
【0104】
【表7】
【0105】
【表8】
【0106】
実施例1と同様の方法を使用して、肺癌組織由来の初代肺癌細胞(番号B8)を得た。次に、以下の5つの培養条件で、同じ密度(4×10細胞/cm)で細胞の培養を行った。
【0107】
A.Matrigel(商標)でコーティングした24ウェルプレートに初代肺癌細胞を4×10細胞/cmの密度で接種し、2mlの本発明の初代肺癌上皮細胞用培養培地FLMを用いて培養を行った。
【0108】
B.γ線照射されたマウス線維芽細胞系統J2細胞(Kerafastから購入)を4×10細胞/cmの密度で事前に並べた24ウェルプレートに初代肺癌細胞を接種し、条件付き細胞リプログラミング培地FM(詳細な工程は、非特許文献3を参照)を用いて24ウェルプレート内で培養を行った。
【0109】
C.Matrigel(商標)でコーティングした24ウェルプレートに初代肺癌細胞を4×10細胞/cmの密度で接種し、2mlの市販の培養培地EpiMを用いて24ウェルプレート内で培養を行った。
【0110】
D.Matrigel(商標)でコーティングした24ウェルプレートに初代肺癌細胞を4×10細胞/cmの密度で接種し、2mlの基礎培地BMを用いて24ウェルプレート内で培養を行った。
【0111】
上記の4つの培養において、4つの培養条件下で培地を4日ごとに一新して細胞を培養した。同時に、24ウェルプレートでの各培地の培養下での細胞クローン形成及び細胞増殖状態を観察し、顕微鏡(EVOS M500、Invitrogen)で細胞成長状態を撮影することにより記録した。
【0112】
本発明の技術で培養した初代肺癌細胞(番号B8)については、培養プレート内の細胞が底面積の約80%を覆うように成長した時点で、24ウェルプレート内の培地上清を捨て、500μlの0.05%トリプシン(GIBCOから購入)を加え細胞消化を行った。次いで、これを37℃で10分間インキュベートし、顕微鏡(EVOS M500、Invitrogen)で観察したところ、細胞は完全に消化されていた。その後、5%(体積/体積)ウシ胎児血清、100U/mlペニシリン及び100μg/mlストレプトマイシンを含有するDMEM/F12培養液1mlを用いて消化を終了させた。得られたものを15mlの遠沈管に収集し、1500rpmで4分間遠心分離した後、上清を捨てた。遠心分離した細胞ペレットを本発明の培養培地に再懸濁し、フローイメージングカウンター(JIMBIO FIL、Jiangsu Jimbio Technology Co., Ltd.)で細胞を計数して総細胞数を求めたところ、464000個であった。他の3つの培養条件で培養した細胞は、上記と同様の操作プロセスで消化し、計数した。FM、EpiM及びBMの培地を使用して培養した細胞の総数は、それぞれ350000個、110000個及び68000個であった。
【0113】
図5A図5Dの細胞写真は、4種類の異なる培養条件で12日目まで培養した試料番号B8の顕微鏡写真(40倍倒立位相差顕微鏡下)である。図5Aは、基礎培地BMを用いて12日目まで培養したB8の顕微鏡写真であり、図5Bは、本発明の培養培地FLMを用いて12日目まで培養したB8の顕微鏡写真であり、図5Cは、市販の培地EpiMを用いて12日目まで培養したB8の顕微鏡写真であり、図5Dは、条件付きリプログラミング培地FMを用いて12日目まで培養したB8の顕微鏡写真である。図からわかるように、試料B8は、基礎培地BM(図5A)で12日間培養しても、細胞クローンを形成することができず、EpiM(図5C)で12日間培養しても、少数の細胞クローンが形成されるだけで、細胞の状態は悪く、条件付きリプログラミング培地FM(図5D)で12日間培養すると細胞は或る程度拡大増殖するが、細胞密度及び細胞数は、本発明の培地FLMの場合と比較にならない(図5B)。
【0114】
図6は、10の肺癌患者試料から分離した初代肺癌細胞を実施例1に従って4種類の異なる培養培地の条件下で14日間培養して得られた細胞増殖効果の比較図であり、図中、√は中程度のクローン形成能及び増殖促進効果を表し、√√は有意なクローン形成能及び増殖促進効果を表し、√√√は、極めて有意なクローン形成能及び増殖促進効果を表し、×はクローン形成がないことを表す。図6より、本発明の培養培地FLMは、肺癌組織由来初代細胞の培養において、クローン形成能、細胞増殖促進効果及び培養成功率の点で、他の3つの培養条件に対して有意に優れていることを確認することができる。
【0115】
(2)初代肺癌細胞の種々の培養培地における連続培養及び成長曲線
本実施例の(1)と同様の方法を使用して、初代肺癌上皮細胞用培養培地FLMと、コントロールとしての培養培地BM、FM及びEpiMを得た。
【0116】
肺癌組織由来の初代肺癌細胞(番号B16)を、本実施例の(1)と同様の方法を使用して4種類の培養条件下で培養した後、消化、継代及び計数した。
【0117】
継代した細胞が培養プレート内で再びプレートの底面積の約80%を覆うように成長した時点で、上記の操作方法に従って培養細胞を消化、収集及び計数した。細胞を再び4×10細胞/ウェルの密度で接種し、連続培養を行った。
【0118】
以下は、異なる培養条件下での初代肺癌上皮細胞の細胞集団倍加数の算出式である。
集団倍加(PD)=3.32×log10(消化された細胞の総数/初回接種時の細胞数)、Chapman et al., Stem Cell Research & Therapy 2014, 5:60を参照されたい。
【0119】
図7は、Graphpad Prismソフトウェアによって描かれた、4種類の異なる培養条件下でのB16細胞の成長曲線を示す。横軸は細胞培養日数を表し、縦軸は累積細胞拡大増殖の倍数、すなわち培養期間中の細胞拡大増殖の倍数を表す。値が大きいほど、一定時間内に細胞が何倍にも拡大増殖しており、すなわち、より多くの細胞が拡大増殖している。傾きは、細胞の拡大増殖速度を表す。図より、本発明の培養培地FLMで培養した肺癌上皮細胞の増殖速度が他の4つの培養条件より優れていたことが確認でき、本発明の培養培地により、初代肺癌上皮細胞を連続培養することができ、20日を超えて拡大増殖してもその速度に変化がないことも確認できる。
【0120】
(実施例5)
初代肺癌組織及び継代培養後の肺癌細胞の免疫組織化学的同定
肺癌患者の外科的切除試料からほぼ大豆大の癌組織(試料番号B16)を採取し、1mlの4%パラホルムアルデヒドに浸漬した。残りの癌組織から、実施例1と同様の方法で肺癌上皮細胞(試料番号B16)を得た。試料B16は、本発明の培養培地FLMを用いて、実施例3の方法に従い、4回目の継代まで連続培養した。
【0121】
免疫組織化学アッセイを使用して、試料B16の元の組織及び4回目の継代まで連続培養して得た初代細胞の重要な肺癌関連バイオマーカーの発現を検出した。組織は4%パラホルムアルデヒドで固定し、パラフィンに包埋後、ミクロトームで厚さ4μmの組織切片に切り出した。その後、通例の免疫組織化学的検出を行った(詳細な手順については、Li et al., Nature Communication, (2018) 9:2983を参照されたい)。使用した一次抗体は、P63抗体(CSTから購入)、及びKi67抗体(R&Dから購入)であった。
【0122】
図8により、本発明の培養培地を用いて肺癌細胞(試料番号B16)から4回目の継代まで培養した細胞上での肺癌関連バイオマーカーの発現が、細胞の由来元の組織切片上でのマーカーの発現と実質的に一致していたことが確認される。これは、本発明の培養培地を用いて培養した細胞が、肺癌患者の癌組織の元の病理学的特徴を維持していることを示唆している。
【0123】
(実施例6)
初代肺癌細胞の連続的な拡大増殖及び培養に対する培養培地からの単一因子の除去の影響
実施例2と同様の方法を使用して、初代肺癌上皮細胞用培養培地FLMを調製した。コントロールとして、実施例2と同様の方法を使用して基礎培地BMを調製した。また、表7に従ってその他8種類の異なる培養培地を調製した。
【0124】
【表9】
【0125】
実施例1と同様の方法を使用して、肺癌組織由来の初代肺癌細胞(番号B18)の事例を得た。Matrigel(商標)でコーティングした48ウェルプレートに、初代肺癌細胞を4×10細胞/cmの密度で接種し、本発明の初代肺癌上皮細胞用培養培地(FLM)2mlを用いて、37℃、5%COのインキュベーター(Thermo Fisherから購入)内で培養を行った。
【0126】
培養プレート内の細胞が底面積の約80%を覆うように成長した時点で、48ウェルプレート内の培地上清を捨て、200μlの0.05%トリプシン(Gibcoから購入)を加え細胞消化を行った。次いで、これを37℃で10分間インキュベートし、顕微鏡(EVOS M500、Invitrogen)で観察したところ、細胞は完全に消化されていた。その後、5%(体積/体積)ウシ胎児血清、100U/mlペニシリン及び100μg/mlストレプトマイシンを含有するDMEM/F12培養液800μlを用いて消化を終了させた。得られたものを15mlの遠沈管に収集し、1500rpmで4分間遠心分離した後、上清を捨てた。遠心分離した細胞ペレットを本発明の培養培地に再懸濁し、フローイメージングカウンター(JIMBIO FIL、Jiangsu Jimbio Technology Co., Ltd.)で細胞を計数して総細胞数を求めた。細胞外マトリックスゲルでコーティングした別の48ウェルプレートに2×10細胞/cmの密度で細胞を接種し、更に培養を行った。
【0127】
他の8種類の培養培地及びBMを用いて培養した細胞を、上記と同様の方法を使用して消化、継代及び計数し、異なる培地を用いて培養を行った。
【0128】
継代した細胞が培養プレート内で再びプレートの底面積の約80%を覆うように成長した時点で、上記の操作方法に従って培養細胞を消化し、収集し、計数した。細胞を再び2×10細胞/cmの密度で接種し、連続培養を行った。
【0129】
以下は、異なる培養培地条件下での初代肺癌上皮細胞の細胞集団倍加数の算出式である。
集団倍加(PD)=3.32×log10(消化された細胞の総数/初回接種時の細胞数)、Chapman et al., Stem Cell Research & Therapy 2014, 5:60を参照されたい。
【0130】
図9は、Graphpad Prismソフトウェアを使用して描かれた、10種類の異なる培養培地条件下での細胞の成長曲線のグラフである。横軸は細胞培養日数を表し、縦軸は累積細胞拡大増殖の倍数、すなわち培養期間中の細胞拡大増殖の倍数を表す。値が大きいほど、一定時間内に細胞が何倍にも拡大増殖しており、すなわち、より多くの拡大細胞が増殖している。傾きは、細胞拡大増殖速度を表す。
【0131】
図9の結果からわかるように、本発明の培養培地から種々の低分子及び添加剤因子をそれぞれ除くと、細胞の増殖作用は或る程度弱まる。
【0132】
(実施例7)
実施例1に記載の工程に従い、分離したての初代肺癌上皮細胞試料(番号B16)を得た。次いで、Matrigel(商標)でコーティングした6ウェルプレートに初代上皮細胞を接種した。3mLの培養培地FLM及び化合物1を含まない培養培地FLMを3mL、上述の上皮細胞を接種したウェルにそれぞれ添加した。プレートを37℃、5%COのインキュベーター(Thermo Fisherから購入)に入れ、培養した。培養プロセス中、4日ごとに培養培地を交換した。12日間の培養後に各群の細胞を収集し、核内のHippo経路関連タンパク質YAP及びTAZに対する化合物1の発現を、従来の免疫ブロット法を用いて検出した。Yes関連タンパク質(YAP)及びPDZ結合モチーフを有するその同族転写コアクチベーター(TAZ)は、細胞の成長及び器官の大きさを制御するHippo経路の重要なエフェクターであり、それらの調節異常は、腫瘍発生又は肥大を引き起こす可能性がある。YAP/TAZは、活性化後に核に移行し、TEAD転写因子に結合し、細胞増殖又は転写プロセスの調節を促進する。AP-1複合体に代表される直接的な初期遺伝子は、急速に誘導され、後期転写プロセスを制御し、腫瘍発生及び器官維持に重要な役割を果たす。この結果から、化合物1が肺腫瘍細胞のMST1/2媒介シグナル伝達経路を阻害することによって肺癌幹細胞の増殖特性を維持し、in vitroでの肺癌細胞の持続的な増殖を促進する機能を有することが示唆される。
【0133】
図10の試験結果から、化合物1を含まない培養培地と比較して、化合物1を添加した培養培地FLMが、核内のYAP及びTAZタンパク質の発現の顕著な増加を示したことが示される。このことは、化合物1がHippo経路を活性化して、YAP/TAZを核に移行させ、TEAD転写因子に結合させることで、細胞の持続的な増殖を促進し得ることを示している。
【0134】
(実施例8)
癌組織由来の初代肺癌細胞のマウスでの異種移植による腫瘍形成実験
病理診断された肺癌患者1名の癌組織から、実施例1と同様の方法を使用して肺癌細胞(番号B16)を分離し、取得した。B16を実施例3の方法に従って本発明の培養培地FLMを用いて培養し、肺癌細胞数が1×10に達した時点で、実施例4と同様の方法を使用して肺癌細胞を消化し、収集した。本発明の肺癌細胞用培養培地FLMとMatrigel(商標)を1:1の割合で混合し、Matrigelと混合した培養培地100μlを用いて5×10個の肺癌細胞を再懸濁し、得られたものを6週齢の雌性高度免疫不全マウス(NCG)(Nanjing Model Animal Research Centerから購入)の肺癌脂肪パッドと右前肢の腋下にそれぞれ注入した。肺癌細胞から生成されたマウスにおける腫瘍の体積及び成長速度を3日ごとに観察して写真撮影した。
【0135】
腫瘍細胞接種後15日目にマウスの2つの腫瘍細胞接種部位の両方において腫瘍形成が観察され得る。15日目から30日目まで、マウスにおける腫瘍増殖は明らかであった。これは、本発明の培養方法により培養した癌組織由来の肺癌細胞がマウスにおいて腫瘍形成性を有することを示している。
【0136】
(実施例9)
癌組織由来の肺癌細胞の薬物感受性機能的試験
肺癌患者の外科的切除試料を例に取ると、患者由来の肺癌試料から培養した肺癌細胞を使用して、様々な薬物に対する患者の腫瘍細胞の感受性を試験することができることが確認される。
【0137】
1.初代肺癌細胞の播種:実施例1の方法に従って得られた分離肺癌細胞(番号B25及び番号B26)の細胞懸濁液を、Matrigel(商標)でコーティングした12ウェルプレートに4×10細胞/cmの密度で接種した。2mlの調製した初代肺癌上皮細胞用培養培地FLMを12ウェルプレートに加え、次いで37℃、5%COのインキュベーター(Thermo Fisherから購入)に入れ、培養した。培養プレート内の細胞が底面積の約80%を覆うように成長した時点で、12ウェルプレート内の培地上清を捨て、500μlの0.05%トリプシン(Gibcoから購入)を加え細胞消化を行った。細胞を37℃で10分間インキュベートし、顕微鏡(EVOS M500、Invitrogen)で観察したところ、細胞は完全に消化されていた。その後、5%(体積/体積)ウシ胎児血清、100U/mlペニシリン、及び100μg/mlストレプトマイシンを含有するDMEM/F12培養液1mlを用いて消化を終了させた。得られたものを15mlの遠沈管に収集し、1500rpmで4分間遠心分離した後、上清を捨てた。遠心分離した細胞ペレットを培養培地FLMに再懸濁し、フローイメージングカウンター(JIMBIO FIL、Jiangsu Jimbio Technology Co., Ltd.)で細胞を計数して総細胞数を求めたところ、それぞれ880000個及び680000個であった。2000細胞/ウェル~4000細胞/ウェルの密度で384ウェルプレートに細胞を接種し、一晩細胞を接着させた。
【0138】
2.薬物勾配実験:
(1)薬物貯蔵プレートを勾配希釈法によって調製した:10μlの試験される薬物ストック溶液(薬物ストック溶液は、人体における薬物の最大血漿濃度Cmaxの2倍の濃度を有するように調製した)をそれぞれピペットで取り、20μlのDMSOを含む0.5mlのEPチューブに加え、上記のEPチューブからの10μlの溶液を、再び20μlのDMSOを入れた2つ目の0.5mlのEPチューブへとピペットで移した。つまり、薬物を1:3の比率で希釈した。上記の方法を繰り返して段階的に希釈し、投薬に必要とされる8個の濃度を得た。異なる濃度の薬物を384ウェルの薬物貯蔵プレートに加えた。等容量のDMSOを、コントロールとして溶剤コントロール群の各ウェルに加えた。本実施例では、試験する薬物は、パクリタキセル(MCEから購入)、ゲムシタビン(MCEから購入)、アファチニブ(MCEから購入)、及びエルロチニブ(MCEから購入)とした。
【0139】
(2)高スループット自動ワークステーション(JANUS、Perkin Elmer)を使用して、384ウェルの薬物貯蔵プレートにおける様々な濃度の薬物及び溶剤コントロールを、肺癌細胞が播種された384ウェルの細胞培養プレートに加えた。薬物群及び溶剤コントロール群を、それぞれ3つの反復実験ウェルで配置した。各ウェルに加えた薬物の容量は100nLであった。
【0140】
(3)細胞生存率の試験:投与72時間後に、Cell Titer-Gloアッセイキット(Promegaから購入)を使用して、薬物投与後に培養細胞の化学発光値を検出した。化学発光値の大きさは、細胞生存率及び細胞生存率に対する薬物の効果を反映している。調製された10μlのCell Titer-Glo検出液を各ウェルに加え、マイクロプレートリーダー(Envision、Perkin Elmer)を使用して、混合後に化学発光値を検出した。
【0141】
(4)細胞生存率の試験:細胞生存率(%)=薬物ウェルの化学発光値/コントロールウェルの化学発光値×100%の式により、種々の薬物で処理した細胞の細胞生存率を算出した。グラフはGraphpad Prismソフトウェアを用いて作成し、半数阻害率IC50を算出した。
【0142】
(5)薬物感受性試験結果を図11A及び図11Bに示す。
【0143】
図11A及び図11Bは、それぞれ、2人の異なる肺癌患者の外科的に切除した癌組織試料(試料番号B25及び試料番号B26)から培養した肺癌細胞の、2種類の化学療法剤パクリタキセル及びゲムシタビン、並びに2種類の標的薬アファチニブ及びエルロチニブに対する感受性を表す。具体的には、図11Aは試料番号B25から培養した肺癌細胞の4種類の薬物に対する感受性の結果を示し、図11Bは試料番号B26から培養した肺癌細胞の4種類の薬物に対する感受性の結果を示す。これらの結果は、同じ患者からの細胞が異なる薬物に対して異なる感受性を有し、異なる患者からの細胞も同じ薬物に対して異なる感受性を有することを示している。
【産業上の利用可能性】
【0144】
本発明は、初代肺癌上皮細胞を培養させるための培養培地及び培養方法を提供する。この培養肺癌上皮細胞を、薬物の有効性評価及びスクリーニングに利用することができる。したがって、本発明は産業界に適用可能である。
【0145】
以上、本発明を詳細に説明したが、本発明はこれに限定されるものではなく、当業者であれば本発明の原理に従って改変を加えることが可能である。したがって、本発明の原理に従って行われる全ての改変は、本発明の保護範囲に含まれると解釈されるべきである。
図1
図2
図3-1】
図3-2】
図4
図5
図6
図7
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図9
図10
図11
【国際調査報告】