(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公表特許公報(A)
(11)【公表番号】
(43)【公表日】2024-09-26
(54)【発明の名称】抗HER2バイパラトピック抗体による癌治療方法
(51)【国際特許分類】
A61K 39/395 20060101AFI20240918BHJP
A61P 35/00 20060101ALI20240918BHJP
A61P 15/00 20060101ALI20240918BHJP
A61P 1/16 20060101ALI20240918BHJP
A61P 43/00 20060101ALI20240918BHJP
A61P 1/04 20060101ALI20240918BHJP
A61P 11/00 20060101ALI20240918BHJP
A61P 35/04 20060101ALI20240918BHJP
A61K 45/00 20060101ALI20240918BHJP
A61K 45/06 20060101ALI20240918BHJP
A61K 31/505 20060101ALI20240918BHJP
A61K 31/519 20060101ALI20240918BHJP
A61K 33/243 20190101ALI20240918BHJP
A61K 31/7068 20060101ALI20240918BHJP
A61K 31/282 20060101ALI20240918BHJP
A61K 31/337 20060101ALI20240918BHJP
C07K 16/28 20060101ALI20240918BHJP
C07K 16/46 20060101ALI20240918BHJP
【FI】
A61K39/395 D ZNA
A61K39/395 N
A61P35/00
A61P15/00
A61P1/16
A61P43/00 111
A61P1/04
A61P11/00
A61P35/04
A61P43/00 121
A61K45/00
A61K45/06
A61K31/505
A61K31/519
A61K33/243
A61K31/7068
A61K31/282
A61K31/337
C07K16/28
C07K16/46
【審査請求】未請求
【予備審査請求】未請求
(21)【出願番号】P 2024516626
(86)(22)【出願日】2022-09-15
(85)【翻訳文提出日】2024-04-11
(86)【国際出願番号】 CA2022051375
(87)【国際公開番号】W WO2023039672
(87)【国際公開日】2023-03-23
(32)【優先日】2021-09-15
(33)【優先権主張国・地域又は機関】US
(81)【指定国・地域】
(71)【出願人】
【識別番号】510214045
【氏名又は名称】ザイムワークス ビーシー インコーポレイテッド
(74)【代理人】
【識別番号】100102978
【氏名又は名称】清水 初志
(74)【代理人】
【識別番号】100205707
【氏名又は名称】小寺 秀紀
(74)【代理人】
【識別番号】100160923
【氏名又は名称】山口 裕孝
(74)【代理人】
【識別番号】100119507
【氏名又は名称】刑部 俊
(74)【代理人】
【識別番号】100142929
【氏名又は名称】井上 隆一
(74)【代理人】
【識別番号】100148699
【氏名又は名称】佐藤 利光
(74)【代理人】
【識別番号】100188433
【氏名又は名称】梅村 幸輔
(74)【代理人】
【識別番号】100128048
【氏名又は名称】新見 浩一
(74)【代理人】
【識別番号】100129506
【氏名又は名称】小林 智彦
(74)【代理人】
【識別番号】100114340
【氏名又は名称】大関 雅人
(74)【代理人】
【識別番号】100214396
【氏名又は名称】塩田 真紀
(74)【代理人】
【識別番号】100121072
【氏名又は名称】川本 和弥
(74)【代理人】
【識別番号】100221741
【氏名又は名称】酒井 直子
(74)【代理人】
【識別番号】100114926
【氏名又は名称】枝松 義恵
(72)【発明者】
【氏名】デイビス ルパート エイチ.
(72)【発明者】
【氏名】ジョセフソン ニール シー.
(72)【発明者】
【氏名】プロクター ジェフリー ライアン
【テーマコード(参考)】
4C084
4C085
4C086
4C206
4H045
【Fターム(参考)】
4C084AA19
4C084AA22
4C084AA23
4C084NA05
4C084NA14
4C084ZA591
4C084ZA661
4C084ZA751
4C084ZA811
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4C084ZC411
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4C085AA14
4C085AA16
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4C085DD62
4C085EE01
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4C086AA01
4C086AA02
4C086BA02
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4C086ZA66
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4C086ZB26
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4C086ZC75
4C206AA01
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4C206ZA66
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4C206ZB26
4C206ZC41
4C206ZC75
4H045AA11
4H045AA20
4H045AA30
4H045BA41
4H045DA76
4H045EA20
4H045FA72
4H045FA74
(57)【要約】
治療される対象の体重に基づいた2段階固定投与レジメンを使用する、HER2発現癌を有する対象の抗HER2バイパラトピック抗体による治療方法を記載する。化学療法剤及び/又はPD-1阻害剤、例えば抗PD-1抗体との併用療法も記載する。
【特許請求の範囲】
【請求項1】
HER2発現癌を有する対象の治療方法であって、前記方法が、前記対象に有効量の抗HER2バイパラトピック抗体を投与することを含み、前記有効量が、2段階(2-tiered)固定投与レジメンに従って投与され、前記2段階固定投与レジメンが、固定された時間間隔で、体重が用量カットオフ体重未満の対象に低い固定用量を投与し且つ体重が前記用量カットオフ体重以上の対象に高い固定用量を投与することを含む、前記方法。
【請求項2】
前記低い固定用量が約600mgであり、前記高い固定用量が約800mgであり、前記用量カットオフ体重が70kgであり、前記固定された時間間隔が1週間ごと(QW)である、請求項1に記載の方法。
【請求項3】
前記低い固定用量が約800mgであり、前記高い固定用量が約1200mgであり、前記用量カットオフ体重が70kgであり、前記固定された時間間隔が1週間ごと(QW)である、請求項1に記載の方法。
【請求項4】
前記低い固定用量が約800mgであり、前記高い固定用量が約1000mgであり、前記用量カットオフ体重が70kgであり、前記固定された時間間隔が1週間ごと(QW)である、請求項1に記載の方法。
【請求項5】
前記低い固定用量が約1800mgであり、前記高い固定用量が約2200mgであり、前記用量カットオフ体重が70kgであり、前記固定された時間間隔が2週間ごと(Q2W)である、請求項1に記載の方法。
【請求項6】
前記低い固定用量が約1200mgであり、前記高い固定用量が約1600mgであり、前記用量カットオフ体重が70kgであり、前記固定された時間間隔が2週間ごと(Q2W)である、請求項1に記載の方法。
【請求項7】
前記低い固定用量が約1200mgであり、前記高い固定用量が約1800mgであり、前記用量カットオフ体重が70kgであり、前記固定された時間間隔が3週間ごと(Q3W)である、請求項1に記載の方法。
【請求項8】
前記低い固定用量が約1800mgであり、前記高い固定用量が約2400mgであり、前記用量カットオフ体重が70kgであり、前記固定された時間間隔が3週間ごと(Q3W)である、請求項1に記載の方法。
【請求項9】
前記抗HER2バイパラトピック抗体が、
(a)それぞれ配列番号32、34及び33に示す、CDR配列CDRH1、CDRH2及びCDRH3、並びにそれぞれ配列番号22、24及び23に示す、CDR配列CDRL1、CDRL2及びCDRL3を含む、第1の抗原結合ドメインと、
(b)それぞれ配列番号56、57及び58に示す、CDR配列CDRH1、CDRH2及びCDRH3、並びにそれぞれ配列番号53、54及び55に示す、CDR配列CDRL1、CDRL2及びCDRL3配列を含む、第2の抗原結合ドメインと
を含む、請求項1~8のいずれか1項に記載の方法。
【請求項10】
前記第1の抗原結合ドメインがFabであり、前記第2の抗原結合ドメインがscFvである、請求項9に記載の方法。
【請求項11】
前記抗HER2バイパラトピック抗体が、
(a)配列番号31に示す配列を含む重鎖可変領域(VH)、及び配列番号21に示す配列を含む軽鎖可変領域(VL)を含む、第1の抗原結合ドメインと、
(b)配列番号52に示すVH配列、及び配列番号51に示すVL配列を含む、第2の抗原結合ドメインと
を含む、請求項9又は10のいずれか1項に記載の方法。
【請求項12】
前記抗HER2バイパラトピック抗体が、配列番号30に示す配列を含む重鎖H1、配列番号50に示す配列を含む重鎖H2、及び配列番号20に示す配列を含む軽鎖L1を含む、請求項1~10のいずれか1項に記載の方法。
【請求項13】
前記HER2発現癌が固形腫瘍である、請求項1~12のいずれか1項に記載の方法。
【請求項14】
前記HER2発現癌が、乳癌、胆道癌、胃食道腺癌(GEA)、胃食道接合部癌(GEJ)、胃癌、子宮内膜癌、卵巣癌、子宮頸癌、非小細胞肺癌(NSCLC)、肛門癌又は結腸直腸癌(CRC)である、請求項1~13のいずれか1項に記載の方法。
【請求項15】
前記HER2発現癌が胃食道腺癌(GEA)である、請求項1~14のいずれか1項に記載の方法。
【請求項16】
前記対象が、抗HER2標的療法であるトラスツズマブ、ペルツズマブ、T-DM1又はEnhertu(商標)(fam-トラスツズマブデルクステカン-nxki)のうちの1つ又は複数による事前治療を受けている、請求項1~15のいずれか1項に記載の方法。
【請求項17】
前記対象が抗HER2標的療法による事前治療を受けていない、請求項1~15のいずれか1項に記載の方法。
【請求項18】
前記対象が、化学療法剤による事前の全身治療を受けていない、請求項1~17のいずれか1項に記載の方法。
【請求項19】
前記癌が転移性である、請求項1~18のいずれか1項に記載の方法。
【請求項20】
前記癌が局所進行性である、請求項1~18のいずれか1項に記載の方法。
【請求項21】
前記癌が、免疫組織化学(IHC)による測定では、HER2 3+、HER2 2+/3+、HER2 2+又はHER2 1+であり、蛍光in situハイブリダイゼーション(FISH)又はin situハイブリダイゼーション(ISH)による測定では、遺伝子増幅されている、請求項1~20のいずれか1項に記載の方法。
【請求項22】
前記癌が、免疫組織化学(IHC)による測定では、HER2 3+、HER2 2+/3+又はHER2 2+又はHER2 1+であり、蛍光in situハイブリダイゼーション(FISH)又はin situハイブリダイゼーション(ISH)による測定では、HER2遺伝子増幅を伴う又は伴わない、請求項1~20のいずれか1項に記載の方法。
【請求項23】
前記癌が、IHCによる測定ではHER2 3+であり、HER2遺伝子増幅を伴う又は伴わない、請求項1~20のいずれか1項に記載の方法。
【請求項24】
前記癌が、IHCによる測定ではHER2 2+であり、FISH又はISHによる測定では、HER2遺伝子増幅を伴う、請求項1~20のいずれか1項に記載の方法。
【請求項25】
前記バイパラトピック抗体が1つ又は複数の化学療法レジメンと組み合わせて投与される、請求項1~24のいずれか1項に記載の方法。
【請求項26】
前記化学療法レジメンが、mFOLFOX6(5-FU及びロイコボリン+オキサリプラチン)、CAPOX(カペシタビン+オキサリプラチン)又はFP(フルオロウラシル[5-FU]+シスプラチン)を含む、請求項25に記載の方法。
【請求項27】
前記化学療法レジメンがタキサンを含む、請求項25に記載の方法。
【請求項28】
前記抗HER2バイパラトピック抗体がPD-1阻害剤と組み合わせて投与される、請求項1~27のいずれか1項に記載の方法。
【請求項29】
前記抗HER2バイパラトピック抗体が別の抗HER2剤と組み合わせて投与される、請求項1~28のいずれか1項に記載の方法。
【請求項30】
前記PD-1阻害剤が抗PD-1抗体である、請求項28に記載の方法。
【請求項31】
前記抗PD-1抗体がチスレリズマブ、ペムブロリズマブ、ニボルマブ又はセミプリマブから選択される、請求項30に記載の。
【請求項32】
前記抗PD-1抗体がチスレリズマブである、請求項30に記載の方法。
【請求項33】
HER2発現癌の治療における使用のための抗HER2バイパラトピック抗体であって、前記抗体の有効用量が、体重が用量カットオフ体重未満の対象のための低い固定用量、及び体重が用量カットオフ体重以上の対象のための高い固定用量を含む2段階固定用量レジメンである、前記抗体。
【請求項34】
前記低い固定用量が約800mgであり、前記高い固定用量が約1200mgであり、前記用量カットオフ体重が70kgであり、前記固定された時間間隔が1週間ごと(QW)である、請求項33に記載の抗体。
【請求項35】
前記低い固定用量が約1200mgであり、前記高い固定用量が約1600mgであり、前記用量カットオフ体重が70kgであり、前記固定された時間間隔が2週間ごと(Q2W)である、請求項33に記載の抗体。
【請求項36】
前記低い固定用量が約1800mgであり、前記高い固定用量が約2400mgであり、前記用量カットオフ体重が70kgであり、前記固定された時間間隔が3週間ごと(Q3W)である、請求項33に記載の抗体。
【請求項37】
前記抗体がv10000である、請求項33~36のいずれか1項に記載の抗体。
【請求項38】
(i)抗HER-2バイパラトピック抗体を含む1つ又は複数の容器と、
(ii)前記1つ又は複数の容器内の又は前記容器に付随したラベル又は添付文書であって、前記抗HER2バイパラトピック抗体が、HER2発現癌を有する対象に対して、(a)体重70kg未満の対象については1800mgの用量で、又は(b)体重70kg以上の対象については2400mgの用量で、3週間ごと(Q3W)に投与するためのものであると指示する、前記ラベル又は添付文書と
を含む、医薬キット。
【請求項39】
(i)抗HER-2バイパラトピック抗体を含む1つ又は複数の容器と、
(ii)前記1つ又は複数の容器内の又は前記容器に付随したラベル又は添付文書であって、前記抗HER2バイパラトピック抗体が、HER2発現癌を有する対象に対して、(a)体重70kg未満の対象については1200mgの用量で、又は(b)体重70kg以上の対象については1600mgの用量で、2週間ごと(Q2W)に投与するためのものであると指示する、前記ラベル又は添付文書と
を含む、医薬キット。
【請求項40】
前記ラベル又は添付文書が、前記HER2発現癌が乳癌、胆道癌、胃食道腺癌(GEA)、胃食道接合部癌(GEJ)、胃癌、子宮内膜癌、卵巣癌、子宮頸癌、非小細胞肺癌(NSCLC)、肛門癌又は結腸直腸癌(CRC)であると更に指示する、請求項38又は39のいずれか1項に記載の医薬キット。
【請求項41】
前記ラベル又は添付文書が、前記HER2発現癌が転移性又は局所進行性であると更に指示する、請求項38~40のいずれか1項に記載の医薬キット。
【請求項42】
前記ラベル又は添付文書が、前記抗HER2バイパラトピック抗体が抗PD-1抗体と組み合わせて投与するのに適すると更に指示する、請求項38~41のいずれか1項に記載の医薬キット。
【請求項43】
前記ラベル又は添付文書が、前記抗HER2バイパラトピック抗体がmFOLFOX6(5-FU及びロイコボリン+オキサリプラチン)、CAPOX(カペシタビン+オキサリプラチン)又はFP(フルオロウラシル[5-FU]+シスプラチン)と組み合わせて投与するのに適すると更に指示する、請求項38~42のいずれか1項に記載の医薬キット。
【請求項44】
前記ラベル又は添付文書が、前記抗HER2バイパラトピック抗体が別の抗HER2剤、任意でツカチニブと組み合わせて投与するのに適すると更に指示する、請求項38~41のいずれか1項に記載の医薬キット。
【請求項45】
前記容器の各々が300mgの前記抗HER2抗体を含む、請求項38~44のいずれか1項に記載の医薬キット。
【請求項46】
前記容器の各々が600mgの前記抗HER2抗体を含む、請求項38~44のいずれか1項に記載の医薬キット。
【請求項47】
前記ラベル又は添付文書が、前記抗HER2バイパラトピック抗体がv10000であると更に指示する、請求項38~41のいずれか1項に記載の医薬キット。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
分野
本開示は癌治療の分野に関し、特に、バイパラトピック抗HER2抗体による癌治療における使用のための投与レジメンに関する。
【背景技術】
【0002】
背景
HER2(ErbB2)は、受容体チロシンキナーゼのErbBファミリーのメンバーである膜貫通型表面結合型受容体チロシンキナーゼであり、通常、細胞成長及び分化を引き起こすシグナル伝達経路に関与している。HER2は、乳癌患者の4分の1で過剰発現されることが判明されているため、乳癌治療の有望な標的である(Bange et al,Nature Medicine 7:548(2001)(非特許文献1))。
【0003】
Herceptin(登録商標)(トラスツズマブ、米国特許第5,821,337号(特許文献1))は、HER2陽性乳癌の治療のために開発された初めのモノクローナル抗体であったが、患者の生存期間が延長されたため、現在では、HER2陰性乳癌患者に対しても同じである。ペルツズマブ(Perjeta(登録商標)、米国特許第7,862,817号(特許文献2))は、HER2受容体が細胞の表面で他のHER受容体(EGFR/HER1、HER3及びHER4)とペアになる(二量体化)プロセスを防ぐように特別に設計されたヒト化モノクローナル抗体であり、前記プロセスは腫瘍の成長及び生存につながると考えられている。Perjeta、Herceptinと化学療法の併用は、HERシグナル伝達経路のより包括的な遮断をもたらすと考えられている。ペルツズマブは、二量体化に不可欠なHER2のドメインIIに結合し、トラスツズマブは、HER2の細胞外ドメインIVに結合する。
【0004】
Liら(Cancer Res.,73:6471-6483(2013)(非特許文献2))は、天然のトラスツズマブ及びペルツズマブ配列に基づく、トラスツズマブ耐性を克服する、HER2に対する二重特異性二価抗体を説明している。他の二重特異性抗HER2抗体が記載されている(国際特許出願公開番号WO2015/077891(特許文献3)及びWO2016/179707(特許文献4)、米国特許出願公開第2014/0170148号(特許文献5)、同第2015/0284463号(特許文献6)、同第2017/0029529号(特許文献7)及び同第2017/0291955号(特許文献8)、米国特許第9,745,382号(特許文献9))。
【0005】
国際特許出願公開番号WO2016/082044(特許文献10)には、抗HER2バイパラトピック抗体のための投与レジメンが記載されている。
【0006】
国際特許出願公開番号WO2019/173911(特許文献11)には、オーリスタチン類似体を含む抗HER2バイパラトピック抗体-薬物コンジュゲートが記載されている。
【0007】
大部分の市販の抗体ベースの治療薬は、対象の体重又は体表面積に基づいた用量で対象に投与される。例えば、治療用抗体は、Xmg/kg体重、又はYmg/m2体表面積の用量で投与され得る。例えば、モノクローナル抗体パニツムマブは、2週間ごと(Q2W)6mg/kgの用量での投与用に承認されており、モノクローナル抗体ニボルマブは、3mg/kg Q2Wの用量での投与用に承認されている。モノクローナル抗体リツキシマブは、375mg/m2体表面積の用量での投与用に承認されている。モノクローナル抗体セツキシマブは、400mg/m2の負荷用量後に1週間ごと250mg/m2体表面積の用量での投与用に承認されている。最近、固定用量(体重又は体表面積に依存しない)での治療用抗体の投与が提案されている(Hendrikx,J.et al.,Fixed Dosing of Monoclonal Antibodies in Oncology,The Oncologist 22:1212(2017)(非特許文献3))。
【0008】
この背景情報は、本開示に関連する可能性があると出願人が考える情報を周知させる目的で提供される。前述した情報のいずれかが特許請求される発明に対する先行技術を構成すると認めることを必然的に意図しているわけではなく、またそのように解釈されるべきでもない。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0009】
【特許文献1】米国特許第5,821,337号
【特許文献2】米国特許第7,862,817号
【特許文献3】WO2015/077891
【特許文献4】WO2016/179707
【特許文献5】米国特許出願公開第2014/0170148号
【特許文献6】米国特許出願公開第2015/0284463号
【特許文献7】米国特許出願公開第2017/0029529号
【特許文献8】米国特許出願公開第2017/0291955号
【特許文献9】米国特許第9,745,382号
【特許文献10】WO2016/082044
【特許文献11】WO2019/173911
【非特許文献】
【0010】
【非特許文献1】Bange et al,Nature Medicine 7:548(2001)
【非特許文献2】Liら(Cancer Res.,73:6471-6483(2013)
【非特許文献3】Hendrikx,J.et al.,Fixed Dosing of Monoclonal Antibodies in Oncology,The Oncologist 22:1212(2017)
【発明の概要】
【0011】
概要
本明細書は、抗HER2バイパラトピック抗体を使用する癌治療方法を記載する。一態様において、本開示は、HER2発現癌を有する対象の治療方法であって、前記方法が、固定された時間間隔で前記対象に有効量の抗HER2バイパラトピック抗体を投与することを含み、前記有効量が、投与される前記抗体の固定用量を含む、前記方法に関する。
【0012】
別の態様において、本開示は、HER2発現癌を有する対象の治療方法であって、前記方法が、前記対象に対して、固定された時間間隔で、有効量の抗HER2バイパラトピック抗体を投与することを含み、前記有効量が、2段階(two-tiered)固定用量を含み、ここで、低い固定用量が、体重カットオフポイント未満の体重の対象に投与され、高い固定用量が、前記体重カットオフポイント以上の体重の対象に投与される、前記方法に関する。
【0013】
別の態様において、本開示は、HER2発現癌を有する対象の治療方法であって、前記方法が、前記対象に対して、固定された時間間隔で、有効量の抗HER2バイパラトピック抗体を投与することを含み、前記有効量が、2段階固定用量を含み、ここで、低い固定用量が、体重70kg未満の対象に投与され、高い固定用量が、体重70kg以上の対象に投与される、前記方法に関する。
【0014】
別の態様において、本開示は、HER2発現癌を有する対象の治療方法であって、前記方法が、有効量の抗HER2バイパラトピック抗体を前記対象に投与することを含み、前記有効量が、体重70kg未満の対象に対する1800mgの固定用量、又は体重70kg以上の対象に対する2400mgの固定用量を含み、前記用量が、3週間ごと(Q3W)に投与される、前記方法に関する。
【0015】
別の態様において、本開示は、HER2発現癌を有する対象の治療方法であって、前記方法が、有効量の抗HER2バイパラトピック抗体を前記対象に投与することを含み、前記有効量が、体重70kg未満の対象に対する1800mgの固定用量、又は体重70kg以上の対象に対する2400mgの固定用量を含み、前記用量が、3週間ごと(Q3W)に投与され、前記HER2バイパラトピック抗体が、(a)配列番号31に示す配列を含む重鎖可変領域(VH)、及び配列番号21に示す配列を含む軽鎖可変領域(VL)を含む、第1の抗原結合ドメインと、(b)配列番号52に示すVH配列、及び配列番号51に示すVL配列を含む、第2の抗原結合ドメインと、を含む、前記方法に関する。
【0016】
別の態様において、本開示は、HER2発現癌を有する対象の治療方法であって、前記方法が、有効量の抗HER2バイパラトピック抗体を前記対象に投与することを含み、前記有効量が、体重70kg未満の対象に対する1800mgの固定用量、又は体重70kg以上の対象に対する2400mgの固定用量を含み、前記用量が、3週間ごと(Q3W)に投与され、前記対象が、乳癌、胃食道腺癌(GEA)、食道癌、胃癌、子宮内膜癌、卵巣癌、子宮頸癌、非小細胞肺癌(NSCLC)、肛門癌、結腸直腸癌(CRC)又は胆道癌と診断されている、前記方法に関する。
【0017】
別の態様において、本開示は、HER2発現癌を有する対象の治療方法であって、前記方法が、有効量の抗HER2バイパラトピック抗体を前記対象に投与することを含み、前記有効量が、体重70kg未満の対象に対する1800mgの固定用量、又は体重70kg以上の対象に対する2400mgの固定用量を含み、前記用量が、3週間ごと(Q3W)に投与され、前記対象が、胃食道腺癌(GEA)、食道癌、胃食道接合部癌(GEJ)、又は胃癌と診断されている、前記方法に関する。
【0018】
別の態様において、本開示は、HER2発現癌を有する対象の治療方法であって、前記方法が、有効量の抗HER2バイパラトピック抗体を前記対象に投与することを含み、前記有効量が、体重70kg未満の対象に対する1200mgの固定用量、又は体重70kg以上の対象に対する1600mgの固定用量を含み、前記用量が、2週間ごと(Q2W)に投与される、前記方法に関する。
【0019】
別の態様において、本開示は、HER2発現癌を有する対象の治療方法であって、前記方法が、有効量の抗HER2バイパラトピック抗体を前記対象に投与することを含み、前記有効量が、体重70kg未満の対象に対する1200mgの固定用量、又は体重70kg以上の対象に対する1600mgの固定用量を含み、前記用量が、2週間ごと(Q2W)に投与され、前記対象が、胆道癌と診断されている、前記方法に関する。
【0020】
別の態様において、本開示は、HER2発現癌を有する対象の治療方法であって、前記方法が、有効量の抗HER2バイパラトピック抗体を前記対象に投与することを含み、前記有効量が、体重70kg未満の対象に対する1200mgの固定用量、又は体重70kg以上の対象に対する1600mgの固定用量を含み、前記用量が、2週間ごと(Q2W)に投与され、前記HER2バイパラトピック抗体が、(a)配列番号31に示す配列を含む重鎖可変領域(VH)、及び配列番号21に示す配列を含む軽鎖可変領域(VL)を含む、第1の抗原結合ドメインと、(b)配列番号52に示すVH配列、及び配列番号51に示すVL配列を含む、第2の抗原結合ドメインと、を含む、前記方法に関する。
【0021】
別の態様において、本開示は、(i)抗HER-2バイパラトピック抗体を含む1つ又は複数の容器と、(ii)前記1つ又は複数の容器内の又は前記容器に付随したラベル又は添付文書であって、前記抗HER2バイパラトピック抗体が、HER2発現癌を有する対象に対して、(a)体重70kg未満の対象については1800mgの用量で、又は(b)体重70kg以上の対象については2400mgの用量で、3週間ごと(Q3W)に投与するためのものであると指示する、前記ラベル又は添付文書と、を含む医薬キットに関する。
【0022】
別の態様において、本開示は、抗HER-2バイパラトピック抗体と、(ii)前記1つ又は複数の容器内の又は前記容器に付随したラベル又は添付文書であって、前記抗HER2バイパラトピック抗体が、HER2発現癌を有する対象に対して、(a)体重70kg未満の対象については1200mgの用量で、又は(b)体重70kg以上の対象については1600mgの用量で、2週間ごと(Q2W)に投与するためのものであると指示する、前記ラベル又は添付文書と、を含む医薬キットに関する。
【図面の簡単な説明】
【0023】
【
図1】抗HER2バイパラトピック抗体v10000の略図を示す。
【
図2A】
図2は、様々な投与レジメンについての、予測曝露量の中央値(実線)、観測データ(白丸)と比較した95%予測区間(灰色のバンド)、観測濃度の中央値(点線)、及び観測された第2.5/97.5百分位数(破線)の視覚的事後予測性能評価を示す。
図2A:1週間ごと(QW)に投与される5mg/kgの用量。
【
図2B】
図2は、様々な投与レジメンについての、予測曝露量の中央値(実線)、観測データ(白丸)と比較した95%予測区間(灰色のバンド)、観測濃度の中央値(点線)、及び観測された第2.5/97.5百分位数(破線)の視覚的事後予測性能評価を示す。
図2B:1週間ごと(Q2W)に投与される10mg/kgの用量。
【
図2C】
図2は、様々な投与レジメンについての、予測曝露量の中央値(実線)、観測データ(白丸)と比較した95%予測区間(灰色のバンド)、観測濃度の中央値(点線)、及び観測された第2.5/97.5百分位数(破線)の視覚的事後予測性能評価を示す。
図2C:2週間ごと(Q2W)に投与される20mg/kgの用量。
【
図2D】
図2は、様々な投与レジメンについての、予測曝露量の中央値(実線)、観測データ(白丸)と比較した95%予測区間(灰色のバンド)、観測濃度の中央値(点線)、及び観測された第2.5/97.5百分位数(破線)の視覚的事後予測性能評価を示す。
図2D:3週間ごと(Q3W)に投与される30mg/kgの用量。
【
図3A】
図3は、いくつかの投与レジメンを使用した、体重別の定常状態でのモデル予測AUCを示す。
図3A:体重ベースの(30mg/kg Q3W)投与。
【
図3B】
図3は、いくつかの投与レジメンを使用した、体重別の定常状態でのモデル予測AUCを示す。
図3B:1段階(2100mg Q3W)フラット投与。
【
図3C】
図3は、いくつかの投与レジメンを使用した、体重別の定常状態でのモデル予測AUCを示す。
図3C:2段階フラット投与(1800/2400mg Q3W)。該2段階フラット用量(1800/2400mg Q3W)は、70kg未満の患者には1800mgで、70kg以上の患者には2400mgで投与される。
【
図4】胃腸癌の治療におけるv10000の実施例4に記載の臨床研究の設計を示す概略図である。5-FU=5-フルオロウラシル。DCR=疾患制御率。DOR=奏効期間。ECOG PS=東部協力腫瘍学グループのパフォーマンスステータス。FISH=蛍光in situハイブリダイゼーション。GEA=胃食道腺癌。IHC=免疫組織化学。ORR=客観的奏効率。PD=病勢進行。PFS=無増悪生存期間。RECIST v1.1=固形腫瘍における奏効評価基準、バージョン1.1。SD=病勢安定。
【
図5】v10000及び化学療法レジメンCAPOX、FP又はmFOLFOXのうちの1つで治療される対象における標的病変部サイズの変化を示すウォーターフォールプロットである。5-FU=5-フルオロウラシル。CA=原発腫瘍部位。CAPOX=カペシタビン+オキサリプラチン。E=食道癌。F=フラット投与。FISH=蛍光in situハイブリダイゼーション。FP=5-FU+シスプラチン。G=胃癌。IHC=免疫組織化学。J=胃食道接合部癌。mFOLFOX6=5-FU+オキサリプラチン及びロイコボリン。W=体重ベースの投与。ZDR=2段階フラット投与レジメン。
【発明を実施するための形態】
【0024】
詳細な説明
本開示は、抗HER2バイパラトピック抗体によるHER2発現癌の治療方法に関する。大部分の抗体ベースの治療薬は、対象の体重(kg)又は体表面積(m2)に基づいた用量で対象に投与される。しかし、この投与方法は、患者ごとに特定の量を計算し分注する必要があるため、不便である。一部の対象が他の対象より多くの薬物を要するが、通常、薬物が1つ又は2つの均一なバイアルサイズで包装されるため、薬物の浪費も引き起こされる。バイアル内の未使用の薬物は多くの場合廃棄しなければならない。治療用抗体の製造コストが高く、薬物の浪費によりその費用が嵩む。これらの問題を回避するために、一部の抗体製造業者は、体重又は体表面積に依存せずに全ての患者に使用できる「フリーサイズ」又は固定用量の治療用抗体を開発していた。しかし、このアプローチは、対象間の薬物濃度の不均一を引き起こす可能性があり、一部の対象は他の対象より薬物曝露量が著しく多い。集団薬物動態を使用したところ、発明者らは、特定の体重より軽い対象に、より重い対象に与えられる固定用量よりも少ない固定用量が与えられる段階的固定投与方法を開発した。
【0025】
したがって、本明細書に開示される方法の特定の態様において、抗HER2バイパラトピック抗体は、HER2発現癌を有する対象に、2段階固定投与レジメンに従って対象の体重に応じて1週間ごと(QW)、2週間ごと(Q2W)又は3週間ごと(Q3W)と固定された間隔で投与される。特定の実施形態において、抗HER2バイパラトピック抗体は、対象に、各21日サイクルの1日目に、約1800mgの用量で(<70kgの対象)又は約2400mgの用量で(≧70kgの対象)Q3WでIV投与される。特定の実施形態において、抗HER2バイパラトピック抗体は、対象に、各28日サイクルの1日目と15日目に、約1200mgの用量で(<70kgの対象)又は約1600mgの用量で(≧70kgの対象)Q2WでIV投与される。
【0026】
本明細書に開示される方法の特定の態様において、抗HER2バイパラトピック抗体は、化学療法剤と組み合わせて投与される。本開示の方法の特定の態様において、抗HER2抗体は、PD-1阻害剤、例えば、抗PD-1抗体と組み合わせて投与される。
【0027】
定義
別途定義されない限り、本明細書で使用される全ての技術用語及び科学用語は、当業者によって一般的に理解されるものと同じ意味を有する。
【0028】
本明細書で使用されるように、用語「対象」とは、治療及び/又は観察の対象であるヒト患者を指す。
【0029】
本明細書で使用されるように、用語「約」とは、所与の値からの変動がおよそ+/-10%であることを指す。こうした変動は、具体的に言及しているかに関わらず、本明細書で提供される任意の所与の値に常に含まれることが理解される。
【0030】
本明細書で用語「含む(comprising)」と組み合わせて使用される場合の語句「1つ(a)」又は「1つ(an)」の使用は、「1つ(one)」を意味し得るが、特定の実施形態において「1つ又は複数」、「少なくとも1つ」又は「1つ又は1つ以上」の意味とも矛盾しない。
【0031】
本明細書で使用されるように、用語「含む(comprising)」、「有する(having)」、「包含する(including)」及び「含有する(containing)」並びにそれらの文法的変形は、包括的又は制限のないものであり、追加の列挙されていない要素及び/又は方法ステップを除外するものではない。用語「…から本質的になる(consisting essentially of)」は、組成物、使用又は方法に関連して本明細書で使用される場合、追加の要素及び/又は方法ステップが存在し得るが、これらの追加が、列挙された組成物、方法、又は使用の機能する方式に実質的な影響を与えないことを意味する。用語「…からなる(consisting of)」は、組成物、使用又は方法に関連して本明細書で使用される場合、追加の要素及び/又は方法ステップが存在しないものとする。特定の要素及び/又はステップを含むものとして本明細書に記載の組成物、使用及び/又は方法はまた、特定の実施形態では、それらの要素及び/又はステップから本質的になり、他の実施形態では、これらの実施形態が具体的に言及するか否かに関わらず、これらの要素及び/又はステップからなるようにしてもよい。
【0032】
用語「…に由来する」及び「…に基づく」は、組換えアミノ酸配列に関して使用される場合、該組換えアミノ酸配列が対応する参照アミノ酸配列の配列と実質的に同一であることを意味する。例えば、野生型Ig Fc配列に由来する(又はそれに基づく)Ig Fcアミノ酸配列は、該野生型Ig Fc配列と実質的に同一である(例えば、少なくとも90%、少なくとも95%、少なくとも96%、少なくとも97%、少なくとも98%又は少なくとも99%の配列同一性を共有する)。
【0033】
用語「第1選択療法」、「第1選択治療」又は「一次療法」は、癌のタイプ及び病期を考慮して、患者の初期治療として一般に受け入れられる治療レジメンである。用語「第2選択療法」又は「第2選択治療」は、第1選択療法が所望の有効性を提供しない場合に通常施される治療レジメンである。
【0034】
用語「ネオアジュバント療法」とは、主な治療、通常は手術が行われる前に、腫瘍を縮小させるために最初のステップとして行われる治療を指す。ネオアジュバント療法の例は、化学療法、放射線療法、及びホルモン療法を含むが、それらに限定されない。ネオアジュバント療法は、第1選択療法として考慮される場合がある。
【0035】
用語「アジュバント療法」とは、癌が再発するリスクを下げるために、第1選択治療後に行われる追加の癌治療を指す。アジュバント療法は、化学療法、放射線療法、ホルモン療法、標的療法(典型的には、正常細胞ではなく特定のタイプの癌細胞を標的とする小分子薬物又は抗体)、又は生物学的療法(例えばワクチン、サイトカイン、抗体、又は遺伝子療法等)を含み得るが、それらに限定されない。
【0036】
「進行癌」とは、安全に切除できないほど進行した癌又は治癒もしくは長期寛解の可能性が非常に低い癌のことである。癌は、その切除を妨げる構造に隣接して成長したり、その発生した場所から組織線を横切るか、又はリンパ節もしくは他の器官等、体の他の部分に浸潤したりすることによって、進行する。進行癌は局所進行性である場合があり、これは、癌が原発部位の器官外に浸潤しているが、離れた部位にはまだ浸潤していないことを意味する。進行癌は転移性である場合もあり、これは、癌細胞が癌の発生した場所(原発部位)から体の他のより離れた部分(続発部位)に浸潤していることを意味する。
【0037】
「切除可能な」癌とは、手術で治療できる癌のことである。「切除不能な」癌とは、通常は主な腫瘍の周囲の組織に浸潤しているため、手術で治療できない癌のことである。特定の癌は、周囲の組織への浸潤の程度に基づいて医師によって「部分切除可能」と評価される場合がある。
【0038】
用語「固定された時間間隔」とは、薬物を投与するための推奨スケジュール、例えば、1週間ごと(QW)、2週間ごと(Q2W)、3週間ごと(Q3W)等を指す。
【0039】
本明細書で論じられるあらゆる実施形態は、本明細書で開示される任意の方法、使用、又は組成物に関して実施できることが意図される。
【0040】
本明細書に開示される実施形態に関連して記載されている特定の特徴、構造及び/又は特性は、1つ又は複数の更なる実施形態を提供するために、任意の好適な方式で本明細書に開示されている別の実施形態に関連して記載されている特徴、構造及び/又は特性と組み合わせてもよい。
【0041】
また、一実施形態における特徴の明確な列挙は、代替的実施形態における該特徴を除外するための基礎として働くことも理解される。例えば、選択肢のリストが所与の実施形態又は請求項に対して提示される場合、こうした代替的実施形態が具体的に言及するか否かに関わらず、1つ又は複数の選択肢が該リストから削除され、短縮されたリストが代替的実施形態を形成し得ることが理解される。
【0042】
抗HER2バイパラトピック抗体
本明細書に記載の抗体は、HER2の2つの異なるエピトープに結合する抗HER2バイパラトピック抗体を含む。
【0043】
本明細書で使用されるように、用語「抗体」とは、一般に、免疫グロブリン様機能を有するタンパク質性結合分子を指す。抗体の典型的な例は、免疫グロブリン、及び依然として結合特異性を保持しているその誘導体又は機能的断片である。抗体を産生するための技法は、当分野で周知である。用語「抗体」は、異なるクラス(即ち、IgA、IgG、IgM、IgD及びIgE)及びサブクラス(IgG1、IgG2、IgG3、IgG4、IgA1及びIgA2等)の免疫グロブリンも含み得る。抗体の例示的な例は、全抗体及びその抗原結合断片、例えば、Fab断片、F(ab’)2、Fv断片、単鎖Fv断片(scFv)、ダイアボディ、ドメイン抗体、及びそれらの組み合わせである。ドメイン抗体は、単一ドメイン抗体、単一可変ドメイン抗体又は可変ドメインを1つのみ有する免疫グロブリン単一可変ドメインであってもよく、これらは、重鎖可変ドメイン又は軽鎖可変ドメインであり得、他の可変領域又はドメインとは関係なく、抗原又はエピトープに特異的に結合する。用語「抗体」はまた、キメラ抗体、単鎖抗体、及びヒト化抗体等のような実施形態も含む。
【0044】
典型的な全抗体は、ジスルフィド結合によって相互連結される少なくとも2つの重(H)鎖及び2つの軽(L)鎖を含む。各重鎖は、重鎖可変領域(VH)及び重鎖定常領域(CH)から構成される。重鎖定常領域は、3つのドメインCH1、CH2、及びCH3を含む。免疫グロブリンの異なるクラスに対応する重鎖定常ドメインはそれぞれ、α(IgA)、δ(IgD)、ε(IgE)、γ(IgG)、及びμ(IgM)として公知である。各軽鎖は、軽鎖可変領域(VL)及び軽鎖定常領域から構成される。軽鎖定常領域は、1つのドメインCLのみを含む。軽鎖は、カッパ又はラムダのいずれかに分類される。VH及びVL領域は、相補性決定領域(CDR)と称される超可変性の領域に更に細分化でき、フレームワーク領域(FW)と称されるより保存された領域が散在している。各VH及びVLは、3つのCDR及び4つのFWから構成され、アミノ末端からカルボキシ末端へと、FW1、CDR1、FW2、CDR2、FW3、CDR3、FW4の順序で配列される。重鎖及び軽鎖の可変領域は、抗原と相互作用する結合ドメイン(パラトープ)を含む。抗体の定常領域は、免疫系の様々な細胞(エフェクター細胞等)及び補体系の構成要素であるC1qを含めて、宿主組織又は因子への免疫グロブリンの結合を媒介できる。
【0045】
特定の実施形態において、本明細書に記載の抗HER2バイパラトピック抗体は、それぞれがHER2の異なるエピトープに結合する2つの抗原結合ドメインを含む。本明細書で交換可能に使用される用語「抗原結合ポリペプチド構築物」及び「抗原結合ドメイン」とは、免疫グロブリンベースの構築物、例えば、抗体断片を指す。いくつかの実施形態において、抗HER2バイパラトピック抗体に含まれる抗原結合ポリペプチド構築物は抗体断片である。
【0046】
特定の実施形態において、抗HER2バイパラトピック抗体に含まれる抗原結合ポリペプチド構築物は、それぞれ独立して、Fab断片、Fab’断片、scFv又はsdAbであり得る。いくつかの実施形態において、抗HER2バイパラトピック抗体に含まれる抗原結合ポリペプチド構築物はそれぞれ独立して、Fab断片又はscFvであり得る。いくつかの実施形態において、抗HER2バイパラトピック抗体に含まれる1つの抗原結合ポリペプチド構築物は、Fab断片であり得、別の抗原結合ポリペプチド構築物はscFvであり得る。
【0047】
特定の実施形態において、抗HER2バイパラトピック抗体に含まれる抗原結合ポリペプチド構築物のうちの少なくとも1つは、Fab断片又はFab’断片であり得る。「Fab断片」は、軽鎖(CL)の定常ドメイン及び重鎖(CH1)の第1定常ドメイン並びに軽鎖及び重鎖の可変ドメイン(それぞれVL及びVH)を含む。Fab’断片は、重鎖CH1ドメインのC末端に数個のアミノ酸残基が付加している点でFab断片と異なり、抗体ヒンジ領域からの1つ又は複数のシステインを含む。Fab断片は、単鎖Fab分子、即ちFab軽鎖及びFab重鎖がペプチドリンカーによって連結されて単一のペプチド鎖を形成するFab分子であってもよい。例えば、単鎖Fab分子内においてFab軽鎖のC末端がFab重鎖のN末端に連結され得る。
【0048】
特定の実施形態において、抗HER2バイパラトピック抗体に含まれる抗原結合ポリペプチド構築物のうちの少なくとも1つは、単鎖Fv(scFv)であり得る。「scFv」は、単一のポリペプチド鎖における抗体の重鎖可変ドメイン(VH)及び軽鎖可変ドメイン(VL)を含む。任意に、scFvは、VHとVLドメインの間にポリペプチドリンカーを更に含み得、これにより、scFvが抗原結合に望ましい構造を形成できるようになる。例えば、scFvは、ポリペプチドリンカーによってそのC末端からVHのN末端に連結されたVLを含み得る。あるいは、scFvは、ポリペプチド鎖又はリンカーによってそのC末端を介してVLのN末端に連結されたVHを含み得る(Pluckthun in The Pharmacology of Monoclonal Antibodies,vol.113,Rosenburg and Moore eds.,Springer-Verlag,New York,pp.269-315(1994)のレビューを参照)。
【0049】
本明細書に記載の抗HER2バイパラトピック抗体は、様々なフォーマットを有し得る。抗HER2バイパラトピック抗体の最小成分は、第1HER2エピトープに結合する第1抗原結合ポリペプチド構築物、及び第2HER2エピトープに結合する第2抗原結合ポリペプチド構築物であり、第1及び第2HER2エピトープが異なる。異なるHER2エピトープに結合する2つの抗原結合ポリペプチド構築物を含む抗体は、二価のバイパラトピック抗体と見なされ得る。例えば、それぞれが第1又は第2HER2エピトープのいずれかに結合する1つ又は複数の追加の抗原結合ポリペプチド構築物を含む抗体も、バイパラトピックであるが、三価又は四価であると見なされる。特定の実施形態において、抗HER2バイパラトピック抗体は二価の抗HER2バイパラトピック抗体である。
【0050】
特定の実施形態において、抗HER2バイパラトピック抗体は、第1及び第2抗原結合ポリペプチド構築物が作動可能に連結される足場を含む。本明細書で使用されるように、用語「作動可能に連結される」とは、記載された構成要素が、それらの意図された方式で機能することを可能にする関係にあることを意味する。好適な足場を以下に説明する。いくつかの実施形態において、抗HER2バイパラトピック抗体は、足場に作動可能に連結された2つの抗原結合ポリペプチド構築物を含み、該抗原結合ポリペプチド構築物のうちの少なくとも1つはscFvである。いくつかの実施形態において、抗HER2バイパラトピック抗体は、足場に作動可能に連結された2つの抗原結合ポリペプチド構築物を含み、該抗原結合ポリペプチド構築物のうちの少なくとも1つはFabである。いくつかの実施形態において、抗HER2バイパラトピック抗体は、足場に作動可能に連結された2つの抗原結合ポリペプチド構築物を含み、そのうち、1つの該抗原結合ポリペプチド構築物はscFvであり、別の該抗原結合ポリペプチド構築物はFabである。
【0051】
好適な足場の例は、免疫グロブリンFc領域、アルブミン、アルブミン類似体及び誘導体、ヘテロ二量化ペプチド(ロイシンジッパー、Jun及びFos由来のヘテロ二量体形成「ジッパー」ペプチド、IgG CH1及びCLドメイン又はバルナーゼ-バルスター毒素等)、サイトカイン、ケモカイン又は成長因子を含むが、それらに限定されない。他の例は、IBC Pharmaceuticals,Inc.及びImmunomedics,Inc.によって開発されたDOCK-AND-LOCK(商標)(DNL(商標))技術に基づく抗体を含む(例えば、Chang,et al.,2007,Clin Cancer Res.,13:5586s-5591sを参照)。
【0052】
特定の実施形態において、抗HER2バイパラトピック抗体は、免疫グロブリンFc領域、アルブミン又はアルブミン類似体もしくは誘導体(例えば、国際特許出願公開WO2012/116453又はWO2014/012082に記載のもの)に基づく足場を含む。いくつかの実施形態において、抗HER2バイパラトピック抗体は、免疫グロブリン(Ig)Fc領域に基づくタンパク質足場を含む。いくつかの実施形態において、抗HER2バイパラトピック抗体は、IgG Fc領域に基づくタンパク質足場を含む。
【0053】
本明細書で使用されるように、用語「Fc領域」、「Fc」又は「Fcドメイン」とは、定常領域の少なくとも一部を含有する免疫グロブリン重鎖のC末端領域を指す。該用語は天然配列Fc領域及びバリアントFc領域を含む。本明細書において別段明記されない限り、Fc領域又は定常領域内のアミノ酸残基の番号付けは、Kabat et al,Sequences of Proteins of Immunological Interest,5th Ed.Public Health Service,National Institutes of Health,Bethesda,MD(1991)に記載されている、EUインデックスとも呼ばれるEUナンバリングシステムに従う。
【0054】
Ig Fc領域は、典型的に二量体であり、2つのFcポリペプチドで構成される。二量体Fcの「Fcポリペプチド」は、二量体Fcドメインを形成する2つのポリペプチドのうちの1つ、即ち免疫グロブリン重鎖の1つ又は複数のC末端定常領域を含む、安定した自己会合が可能なポリペプチドを指す。用語「第1Fcポリペプチド」及び「第2Fcポリペプチド」は、Fc領域が1つの第1Fcポリペプチド及び1つの第2Fcポリペプチドを含むという前提で、二量体Fc領域に含まれるFcポリペプチドの記述に交換可能に使用され得る。
【0055】
Fc領域は、CH3ドメイン、又はCH3とCH2ドメインの両方を含む。例えば、二量体IgG Fc領域のFcポリペプチドは、IgG CH2及びIgG CH3定常ドメイン配列を含む。CH3ドメインは、2つのCH3配列を含み、その1つは二量体Fc領域の2つのFcポリペプチドのそれぞれに由来する。CH2ドメインは、2つのCH2配列を含み、その1つは二量体Fc領域の2つのFcポリペプチドのそれぞれに由来する。
【0056】
いくつかの実施形態において、抗HER2バイパラトピック抗体は、IgG Fc領域に基づく足場を含み得る。いくつかの実施形態において、抗HER2バイパラトピック抗体は、ヒトFc領域に基づく足場を含み得る。いくつかの実施形態において、抗HER2バイパラトピック抗体は、ヒトIgG Fc領域、例えば、ヒトIgG1 Fc領域に基づく足場を含み得る。
【0057】
特定の実施形態において、抗HER2バイパラトピック抗体は、IgG Fc領域に基づく足場を含み得、該IgG Fc領域は、ヘテロ二量体Fc領域であり、それぞれがCH3配列、及び任意にCH2配列を含む第1Fcポリペプチド及び第2Fcポリペプチドを含む。
【0058】
いくつかの実施形態において、抗HER2バイパラトピック抗体は、第1及び第2Fcポリペプチドを含むFc領域に基づく足場を含み得、第1抗原結合ポリペプチド構築物は第1Fcポリペプチドに作動可能に連結され、第2抗原結合ポリペプチド構築物は第2Fcポリペプチドに作動可能に連結される。
【0059】
いくつかの実施形態において、抗HER2バイパラトピック抗体は、第1及び第2Fcポリペプチドを含むFc領域に基づく足場を含み得、ここで、第1抗原結合ポリペプチド構築物は第1Fcポリペプチドに作動可能に連結され、第2抗原結合ポリペプチド構築物は第2Fcポリペプチドに作動可能に連結され、第1及び第2抗原結合ポリペプチド構築物は独立して、Fab断片又はscFvである。
【0060】
いくつかの実施形態において、抗HER2バイパラトピック抗体は、2つのCH3配列を含むFc領域に基づく足場を含み得、該2つのCH3配列のうちの少なくとも1つは1つ又は複数のアミノ酸修飾を含む。いくつかの実施形態において、抗HER2バイパラトピック抗体は、修飾されたCH3ドメインを含むヘテロ二量体Fc領域を含み、ここで該修飾されたCH3ドメインは非対称的に修飾されたCH3ドメインである。一般に、ヘテロ二量体Fcの第1Fcポリペプチドは第1CH3配列を含み、第2Fcポリペプチドは第2CH3配列を含む。
【0061】
本明細書で使用されるように、「非対称アミノ酸修飾」とは、第1CH3配列上の特定の位置のアミノ酸が第2CH3配列上の同じ位置のアミノ酸と異なる修飾を指す。非対称アミノ酸修飾を含むCH3配列について、第1及び第2CH3配列は、典型的に好ましくは、ホモ二量体よりもヘテロ二量体を形成するように対になる。これらの非対称アミノ酸修飾は、各配列の同じ各アミノ酸位置にある2つのアミノ酸のうちの1つのみが修飾されているか、又は第1及び第2CH3配列のそれぞれの同じ各位置にある各配列の両方のアミノ酸の修飾が異なっていることによる結果であり得る。ヘテロ二量体Fcの第1及び第2CH3配列のそれぞれは、1つ又は複数の非対称アミノ酸修飾を含み得る。
【0062】
特定の実施形態において、抗HER2バイパラトピック抗体は、国際特許出願公開WO2012/058768又はWO2013/063702に記載されているように、修飾されたFc領域に基づく足場を含み得る。
【0063】
表1は、全長ヒトIgG1重鎖のアミノ酸231~447に対応するヒトIgG1 Fc配列のアミノ酸配列(配列番号1)を提供する。CH3配列は全長ヒトIgG1重鎖のアミノ酸341~447を含む。
【0064】
特定の実施形態において、抗HER2バイパラトピック抗体は、ホモ二量体Fcではなくヘテロ二量体Fcの形成を促進する非対称アミノ酸修飾を含む修飾されたCH3ドメインを含むヘテロ二量体Fc足場を含み得る。いくつかの実施形態において、抗HER2バイパラトピック抗体は、L351、F405、Y407、T366、K392、T394、T350、S400及び/又はN390(EUナンバリングを使用)という位置のうちの1つ又は複数に下記の修飾を含むヘテロ二量体Fc足場を含み得る。
【0065】
特定の実施形態において、抗HER2バイパラトピック抗体は、F405位及びY407位にアミノ酸修飾を含み且つ任意にL351位にアミノ酸修飾を更に含む第1ポリペプチド配列と、T366位及びT394位にアミノ酸修飾を含み且つ任意にK392位にアミノ酸修飾を更に含む第2ポリペプチド配列とを有する修飾されたCH3ドメインを含むヘテロ二量体Fcを含み得る。いくつかの実施形態において、修飾されたCH3ドメインの第1ポリペプチド配列は、F405位及びY407位にアミノ酸修飾を含み得且つ任意にL351位にアミノ酸修飾を更に含み、修飾されたCH3ドメインの第2ポリペプチド配列は、T366位及びT394位にアミノ酸修飾を含み且つ任意にK392位にアミノ酸修飾を更に含み、F405位のアミノ酸修飾は、F405A、F405I、F405M、F405S、F405T又はF405Vであり、Y407位のアミノ酸修飾は、Y407I又はY407Vであり、T366位のアミノ酸修飾は、T366I、T366L又はT366Mであり、T394位のアミノ酸修飾は、T394Wであり、L351位のアミノ酸修飾は、L351Yであり、K392位のアミノ酸修飾は、K392F、K392L又はK392Mである。いくつかの実施形態において、F405位のアミノ酸修飾は、F405A、F405S、F405T又はF405Vである。
【0066】
いくつかの実施形態において、抗HER2バイパラトピック抗体は、F405及びY407位にアミノ酸修飾を含み且つ任意にL351位にアミノ酸修飾を更に含む第1Fcポリペプチド配列と、T366位及びT394位にアミノ酸修飾を含み且つ任意にK392位にアミノ酸修飾を更に含む第2Fcポリペプチド配列とを有する修飾されたCH3ドメインを含むヘテロ二量体Fcを含み得、F405位のアミノ酸修飾は、F405A、F405I、F405M、F405S、F405T又はF405Vであり、Y407位のアミノ酸修飾は、Y407I又はY407Vであり、T366位のアミノ酸修飾は、T366I、T366L又はT366Mであり、T394位のアミノ酸修飾は、T394Wであり、L351位のアミノ酸修飾は、L351Yであり、K392位のアミノ酸修飾は、K392F、K392L又はK392Mであり、第1及び第2Fcポリペプチド配列の一方又は両方ともアミノ酸修飾T350Vを更に含む。いくつかの実施形態において、F405位のアミノ酸修飾は、F405A、F405S、F405T又はF405Vである。
【0067】
特定の実施形態において、抗HER2バイパラトピック抗体は、上述したように、修飾されたCH3ドメインを含むヘテロ二量体Fcを含み得、ここで、第1Fcポリペプチド配列は、F405位及びY407位にアミノ酸修飾を含み且つ任意にL351位にアミノ酸修飾を更に含み、第2Fcポリペプチド配列は、T366及びT394位にアミノ酸修飾を含み且つ任意にK392位にアミノ酸修飾を更に含み、第1Fcポリペプチド配列は、S400位又はQ347位の一方又は両方にアミノ酸修飾を更に含み、及び/又は第2Fcポリペプチド配列は、K360位又はN390位の一方又は両方にアミノ酸修飾を更に含み、そのうち、S400位のアミノ酸修飾は、S400E、S400D、S400R又はS400Kであり、Q347位のアミノ酸修飾は、Q347R、Q347E又はQ347Kであり、K360位のアミノ酸修飾は、K360D又はK360Eであり、N390位のアミノ酸修飾は、N390R、N390K又はN390Dである。いくつかの実施形態において、F405位のアミノ酸修飾は、F405A、F405S、F405T又はF405Vである。
【0068】
特定の実施形態において、抗HER2バイパラトピック抗体は、表1に示すように、バリアント1、バリアント2、バリアント3、バリアント4又はバリアント5のうちのいずれか1つの修飾を含む修飾されたCH3ドメインを有するヘテロ二量体Fc足場を含み得る。
【0069】
【0070】
特定の実施形態において、抗HER2バイパラトピック抗体は、L351Y、F405A、及びY407Vから選択される1つ又は複数のアミノ酸修飾を含む第1CH3配列と、アミノ酸修飾T366L又はT366I、K392L又はK392M、及びT394Wを含む第2CH3配列とを有する修飾されたCH3ドメインを有するヘテロ二量体Fc足場を含み得、第1及び第2CH3配列の一方又は両方は任意にアミノ酸修飾T350Vを更に含み得る。
【0071】
抗HER2バイパラトピック抗体に含まれる2つの抗原結合ポリペプチド構築物は、それぞれHER2の異なるエピトープに結合し、即ち、第1抗原結合ポリペプチド構築物は第1HER2エピトープに結合し、第2抗原結合ポリペプチド構築物は第2HER2エピトープに結合する。本開示の文脈において、抗原結合ポリペプチド構築物のそれぞれは、その標的エピトープに特異的に結合する。
【0072】
「特異的に結合する」又は「特異的結合」は、結合が抗原に対して選択的であり、不要の又は非特異的な相互作用から区別できることを意味する。特定のエピトープに結合する抗原結合ポリペプチド構築物の能力は、例えば、酵素結合免疫吸着測定法(ELISA)、表面プラズモン共鳴(SPR)技術(BIAcore装置で分析)(Liljeblad et al,Glyco J 17,323-329(2000))又は従来の結合アッセイ(Heeley,Endocr Res 28,217-229(2002))によって測定できる。いくつかの実施形態において、抗原結合ポリペプチド構築物の非関連タンパク質への結合の程度が、例えばSPRによって測定される場合、抗原結合ポリペプチド構築物のその標的エピトープへの結合の約10%未満であると、抗原結合ポリペプチド構築物は、その標的エピトープに特異的に結合していると見なされる。
【0073】
「HER2」(ErbB2としても公知である)とは、例えば、Semba et al.,PNAS(USA),82:6497-6501(1985)及びYamamoto et al.,Nature,319:230-234(1986)(GenBank accession number X03363)に記載されているヒトHER2タンパク質を指す。用語「erbB2」及び「neu」とは、ヒトHER2タンパク質をコードする遺伝子を指す。用語p185又はp185neuは、neu遺伝子のタンパク質産物を指すためにも使用され得る。
【0074】
HER2は、典型的にはHERリガンドと結合する細胞外ドメイン、親油性膜貫通ドメイン、保存された細胞内チロシンキナーゼドメイン、及びリン酸化できる複数のチロシン残基を有するカルボキシル末端シグナル伝達ドメインを含む。HER2の細胞外(エクト)ドメインは、ドメインI~IVの4つのドメインを含む。HER2の配列(配列番号2)を表2に提供する。細胞外ドメイン(ECD)境界は、ドメインI-アミノ酸約1~165、ドメインII-アミノ酸約166~322、ドメインIII-アミノ酸約323~488、及びドメインIV-アミノ酸約489~607のとおりである。
【0075】
【0076】
「エピトープ2C4」は、抗体2C4が結合するHER2の細胞外ドメイン内の領域であり、HER2の細胞外ドメイン(ECD2とも呼ばれる)のドメインIIからの残基を含む。2C4及びペルツズマブは、ドメインI、II及びIIIの接合部でHER2の細胞外ドメインに結合する(Franklin et al.Cancer Cell 5:317-328(2004))。
【0077】
「エピトープ4D5」は、抗体4D5(ATCC CRL 10463)及びトラスツズマブが結合するHER2の細胞外ドメイン内の領域である。このエピトープは、HER2の膜貫通ドメインに近く、HER2のドメインIV(ECD4とも呼ばれる)内にある。
【0078】
一般に、本開示の抗HER2バイパラトピック抗体は、HER2の細胞外ドメイン内のエピトープに結合する。いくつかの実施形態において、抗HER2バイパラトピック抗体の第1及び第2抗原結合ポリペプチド構築物によって結合される第1及び第2HER2エピトープは、非重複エピトープである。いくつかの実施形態において、抗HER2バイパラトピック抗体の第1及び第2抗原結合ポリペプチド構築物によって結合される第1及び第2HER2エピトープは、HER2の異なる細胞外ドメイン上にある。いくつかの実施形態において、抗HER2バイパラトピック抗体の第1抗原結合ポリペプチド構築物は、HER2の第1ドメイン上の第1HER2エピトープに結合し、第2抗原結合ポリペプチド構築物は、HER2の第2ドメイン上の第2HER2エピトープに結合する。いくつかの実施形態において、HER2の第1ドメインは、ECD2であり、HER2の第2ドメインはECD4である。
【0079】
特定の実施形態において、抗HER2バイパラトピック抗体に含まれる抗原結合ポリペプチド構築物の1つは、HER2への結合についてトラスツズマブと競合する。特定の実施形態において、抗HER2バイパラトピック抗体に含まれる抗原結合ポリペプチド構築物の1つは、HER2への結合についてペルツズマブと競合する。特定の実施形態において、抗HER2バイパラトピック抗体に含まれる抗原結合ポリペプチド構築物の1つは、HER2への結合についてトラスツズマブと競合し、別の抗原結合ポリペプチド構築物は、HER2への結合についてペルツズマブと競合する。
【0080】
特定の実施形態において、抗HER2バイパラトピック抗体に含まれる抗原結合ポリペプチド構築物の1つは、Fab又はscFvフォーマットであり、HER2への結合についてトラスツズマブと競合し、別の抗原結合ポリペプチド構築物は、Fab又はscFvフォーマットであり、HER2への結合についてペルツズマブと競合する。特定の実施形態において、抗HER2バイパラトピック抗体に含まれる抗原結合ポリペプチド構築物の1つは、Fabフォーマットであり、HER2への結合についてトラスツズマブと競合し、別の抗原結合ポリペプチド構築物は、scFvフォーマットであり、HER2への結合についてペルツズマブと競合する。
【0081】
いくつかの実施形態において、抗HER2バイパラトピック抗体に含まれる抗原結合ポリペプチド構築物の1つは、トラスツズマブと同じHER2上のエピトープに結合する。いくつかの実施形態において、抗HER2バイパラトピック抗体に含まれる抗原結合ポリペプチド構築物の1つは、ペルツズマブと同じHER2上のエピトープに結合する。いくつかの実施形態において、抗HER2バイパラトピック抗体に含まれる抗原結合ポリペプチド構築物の1つは、トラスツズマブと同じHER2上のエピトープに結合し、別の抗原結合ポリペプチド構築物は、ペルツズマブと同じHER2上のエピトープに結合する。
【0082】
いくつかの実施形態において、抗HER2バイパラトピック抗体に含まれる抗原結合ポリペプチド構築物の1つは、HER2結合を増加させると知られている1つ又は複数の変異を含むトラスツズマブ又はそのバリアントのCDR配列を含み、別の抗原結合ポリペプチド構築物は、HER2結合を増加させると知られている1つ又は複数の変異を含むペルツズマブ又はそのバリアントのCDRを含む。トラスツズマブ又はペルツズマブによるHER2結合を増強すると知られている文献での変異は、下記表3及び4に列挙されているものを含む(HC=重鎖、LC=軽鎖)。これらの変異の組み合わせも意図される。
【0083】
(表3)HER2への結合を増加させるトラスツズマブ変異
【0084】
(表4)HER2への結合を増加させるペルツズマブ変異
【0085】
特定の実施形態において、抗HER2バイパラトピック抗体は、米国特許出願公開第2016/0289335号に記載のバイパラトピック抗体のうちの1つである。いくつかの実施形態において、抗HER2バイパラトピック抗体は、v5019、v5020、v7091、v10000、v6902、v6903又はv6717のうちの1つである(表5、6及び7、並びに配列一覧表を参照)。いくつかの実施形態において、抗HER2バイパラトピック抗体の抗原結合ポリペプチド構築物の1つは、v5019、v5020、v7091、v10000、v6902、v6903又はv6717のうちの1つのECD2結合アームからのVH配列及びVL配列を含む。いくつかの実施形態において、抗HER2バイパラトピック抗体の抗原結合ポリペプチド構築物の1つは、v5019、v5020、v7091、v10000、v6902、v6903又はv6717のうちの1つのECD2結合アームからのVH配列及びVL配列を含み、別の抗原結合ポリペプチド構築物は、v5019、v5020、v7091、v10000、v6902、v6903又はv6717のうちの1つのECD4結合アームからのVH配列及びVL配列を含む。いくつかの実施形態において、抗HER2バイパラトピック抗体の抗原結合ポリペプチド構築物の1つは、v10000のECD2結合アームからのVH配列及びVL配列を含み、別の抗原結合ポリペプチド構築物は、v10000のECD4結合アームからのVH配列及びVL配列を含む。
【0086】
特定の実施形態において、抗HER2バイパラトピック抗体の抗原結合ポリペプチド構築物の1つは、v5019、v5020、v7091、v10000、v6902、v6903又はv6717のうちの1つのECD2結合アームからのCDR配列を含む。いくつかの実施形態において、抗HER2バイパラトピック抗体の抗原結合ポリペプチド構築物の1つは、v5019、v5020、v7091、v10000、v6902、v6903又はv6717のうちの1つのECD2結合アームからのCDR配列を含み、別の抗原結合ポリペプチド構築物は、v5019、v5020、v7091、v10000、v6902、v6903又はv6717のうちの1つのECD4結合アームからのCDR配列を含む。いくつかの実施形態において、抗HER2バイパラトピック抗体の抗原結合ポリペプチド構築物の1つは、v10000のECD2結合アームからのCDR配列を含み、別の抗原結合ポリペプチド構築物は、v10000のECD4結合アームからのCDR配列を含む。
【0087】
(表5)例示的な抗HER2バイパラトピック抗体
*KabatによるFab又は可変ドメインのナンバリング(Kabat et al.,Sequences of proteins of immunological interest,5
th Edition,US Department of Health and Human Services,NIH Publication No.91-3242,p.647,1991)
§KabatのEUインデックスによるCH3ナンバリング(Edelman et al.,1969,PNAS USA,63:78-85)
【0088】
(表6)バリアントv5019、v5020、v7091、v10000、v6902、v6903及びv6717のECD2結合アームのCDR配列
【0089】
(表7)バリアントv5019、v5020、v7091、v10000、v6902、v6903及びv6717のECD4結合アームのCDR配列
【0090】
特定の実施形態において、抗HER2バイパラトピック抗体は、(a)配列番号32、34及び33、並びに配列番号22、24及び23に示すCDR配列を含む、第1の抗原結合ドメインと、(b)配列番号53、54及び55、並びに配列番号56、57及び58に示すCDR配列を含む、第2の抗原結合ドメインと、を含む。
【0091】
特定の実施形態において、抗HER2バイパラトピック抗体は、(a)Fabであり且つ配列番号32、34及び33、並びに配列番号22、24及び23に示すCDR配列を含む、第1の抗原結合ドメインと、(b)scFvであり且つ配列番号53、54及び55、並びに配列番号56、57及び58に示すCDR配列を含む、第2の抗原結合ドメインと、を含む。
【0092】
特定の実施形態において、抗HER2バイパラトピック抗体は、(a)配列番号32に示すCDR1配列、配列番号34に示すCDR2配列及び配列番号33に示すCDR3配列を含むCDRの第1のセット、並びに配列番号22に示すCDR1配列、配列番号24に示すCDR2配列及び配列番号23に示すCDR3配列を含むCDR配列の第2のセットを含む、第1の抗原結合ドメインと、(b)配列番号53に示すCDR1配列、配列番号54に示すCDR2配列及び配列番号55に示すCDR3配列を含むCDR配列の第3のセット、並びに配列番号56に示すCDR1配列、配列番号57に示すCDR2配列及び配列番号58に示すCDR3配列を含むCDR配列の第4のセットを含む、第2の抗原結合ドメインと、を含む。
【0093】
特定の実施形態において、抗HER2バイパラトピック抗体は、(a)配列番号32、34及び33に示すCDR配列を含む第1重鎖(H1)と、(b)配列番号53、54、55、56、57及び58に示すCDR配列を含む第2重鎖(H2)scFvと、(c)配列番号22、24及び23に示すCDR配列を含む軽鎖(L1)と、を含む。
【0094】
特定の実施形態において、抗HER2バイパラトピック抗体は、(a)配列番号32に示すCDR1配列、配列番号34に示すCDR2配列及び配列番号33に示すCDR3配列を含むCDR配列の第1のセットを含む第1重鎖(H1)と、(b)配列番号53に示すCDR1配列、配列番号54に示すCDR2配列及び配列番号55に示すCDR3配列を含むCDR配列の第2のセット、並びに配列番号56に示すCDR1配列、配列番号57に示すCDR2配列及び配列番号58に示すCDR3配列を含むCDR配列の第3のセットを含む第2重鎖(H2)と、配列番号22に示すCDR1配列、配列番号24に示すCDR2配列及び配列番号23に示すCDR3配列を含むCDR配列の第4のセットを含む軽鎖(L1)と、を含む。
【0095】
特定の実施形態において、抗HER2バイパラトピック抗体は、(a)配列番号31に示すVH配列、及び配列番号21に示すVL配列を含む、第1の抗原結合ドメインと、(b)配列番号52に示すVH配列、及び配列番号51に示すVL配列を含む、第2の抗原結合ドメインと、を含む。
【0096】
特定の実施形態において、抗HER2バイパラトピック抗体は、(a)Fabであり且つ配列番号31に示すVH配列、及び配列番号21に示すVL配列を含む、第1の抗原結合ドメインと、(b)scFvであり且つ配列番号52に示すVH配列、及び配列番号51に示すVL配列を含む、第2の抗原結合ドメインと、を含む。
【0097】
特定の実施形態において、抗HER2バイパラトピック抗体は、配列番号31に示すVH配列を含む第1重鎖(H1)と、配列番号52に示すVH配列及び配列番号51に示すVL配列を含む第2重鎖(H2)と、配列番号21に示すVL配列を含む軽鎖(L1)と、を含む。
【0098】
特定の実施形態において、抗HER2バイパラトピック抗体は、(a)配列番号30に示す配列を含む第1重鎖(H1)と、配列番号50に示す配列を含む第2重鎖(H2)と、配列番号20に示す配列を含む軽鎖(L1)と、を含む。
【0099】
特定の実施形態において、抗HER2バイパラトピック抗体は、(a)配列番号30に示す配列からなる第1重鎖(H1)と、配列番号50に示す配列からなる第2重鎖(H2)と、配列番号20に示す配列からなる軽鎖(L1)と、を含む。
【0100】
二重特異性抗HER2抗原結合構築物の調製
本明細書に記載の抗HER2バイパラトピック抗体は、例えば、米国特許第4,816,567号又は国際特許公開WO2015/077891に記載のように、組換え方法及び組成物を使用して産生され得る。
【0101】
1つの実施形態において、本明細書に記載の二重特異性抗HER2バイパラトピック抗体をコードする単離された核酸を提供する。このような核酸は、抗HER2バイパラトピック抗体のVLを含むアミノ酸配列及び/又はそのVHを含むアミノ酸配列(例えば、抗HER2バイパラトピック抗体の軽鎖及び/又は重鎖)をコードし得る。更なる実施形態において、このような核酸を含む1つ又は複数のベクター(例えば、発現ベクター)を提供する。当分野で公知のように、多数のアミノ酸が複数のコドンによってコードされるため、複数の核酸が単一のポリペプチド配列をコードし得る。
【0102】
1つの実施形態において、核酸をマルチシストロン性ベクターで提供する。更なる実施形態において、このような核酸を含む宿主細胞を提供する。1つのこのような実施形態において、宿主細胞は、(1)抗HER2バイパラトピック抗体のVLを含むアミノ酸配列及び抗原結合ポリペプチド構築物のVHを含むアミノ酸配列をコードする核酸を含むベクター、又は(2)抗HER2バイパラトピック抗体のVLを含むアミノ酸配列をコードする核酸を含む第1ベクター及び抗HER2バイパラトピック抗体のVHを含むアミノ酸配列をコードする核酸を含む第2ベクターを含む(例えば、それらで形質転換されている)。1つの実施形態において、宿主細胞は真核細胞、例えば、チャイニーズハムスター卵巣(CHO)細胞、又はヒト胎児腎臓(HEK)細胞、又はリンパ系細胞(例えば、Y0、NS0、Sp20細胞)である。1つの実施形態において、抗HER2バイパラトピック抗体の作製方法を提供し、ここで該方法は、上記で提供されたように、抗HER2バイパラトピック抗体の発現に適した条件下で、抗HER2バイパラトピック抗体をコードする核酸を含む宿主細胞を培養し、そして任意に宿主細胞(又は宿主細胞培地)から抗HER2バイパラトピック抗体を回収することを含む。
【0103】
抗HER2バイパラトピック抗体の組換え産生について、抗HER2バイパラトピック抗体をコードする核酸を、例えば、上述したように、単離し、更なるクローニング及び/又は宿主細胞での発現のために1つ又は複数のベクターに挿入する。このような核酸は、従来の手順を使用して(例えば、抗HER2バイパラトピック抗体の重鎖及び軽鎖をコードする遺伝子に特異的に結合可能なオリゴヌクレオチドプローブを使用することによって)容易に単離及び配列決定され得る。
【0104】
用語「実質的に精製された」とは、自然発生環境、即ち、ネイティブ細胞、又は組換え的に産生された抗HER2バイパラトピック抗体の場合における宿主細胞で発見されるような、タンパク質に通常付随する又はタンパク質と相互作用する成分を実質的に又は本質的に含まない場合がある本明細書に記載の構築物又はそのバリアントのことをいい、これは、特定の実施形態では細胞性物質を実質的に含まず、混入しているタンパク質が(乾燥重量で)約30%未満、約25%未満、約20%未満、約15%未満、約10%未満、約5%未満、約4%未満、約3%未満、約2%未満、又は約1%未満である、タンパク質の調製物を含む。抗HER2バイパラトピック抗体が宿主細胞で組換え的に産生される場合、特定の実施形態においてタンパク質は、細胞の乾燥重量の約30%、約25%、約20%、約15%、約10%、約5%、約4%、約3%、約2%、又は約1%以下である。二重特異性抗HER2抗原結合構築物が宿主細胞で組換え的に産生される場合、特定の実施形態においてタンパク質は、培地中に細胞の乾燥重量として約5g/L、約4g/L、約3g/L、約2g/L、約1g/L、約750mg/L、約500mg/L、約250mg/L、約100mg/L、約50mg/L、約10mg/L、又は約1mg/L以下で存在する。特定の実施形態において、本明細書に記載の方法で産生された「実質的に精製された」二重特異性抗HER2抗原結合構築物は、SDS/PAGE分析、RP-HPLC、SEC、及びキャピラリー電気泳動等の適切な方法によって決定される少なくとも約30%、少なくとも約35%、少なくとも約40%、少なくとも約45%、少なくとも約50%、少なくとも約55%、少なくとも約60%、少なくとも約65%、少なくとも約70%の純度レベル、具体的には、少なくとも約75%、80%、85%の純度レベル、より具体的には、少なくとも約90%、少なくとも約95%、少なくとも約99%以上の純度レベルを有する。
【0105】
抗HER2バイパラトピック抗体をコードするベクターのクローニング又は発現に好適な宿主細胞は、本明細書に記載の原核細胞又は真核細胞を含む。
【0106】
「組換え宿主細胞」又は「宿主細胞」とは、挿入に使用される方法、例えば、直接取り込み、形質導入、f-交配、又は当分野で組換え宿主細胞を作製するための他の公知の方法に関わらず、外来性ポリヌクレオチドを含む細胞を指す。外来性ポリヌクレオチドは、非組み込みベクター、例えば、プラスミドとして維持されてもよく、あるいは、宿主ゲノムに組み込まれてもよい。
【0107】
本明細書で使用されるように、用語「真核生物(eukaryote)」とは、動物(哺乳類、昆虫、爬虫類、鳥類等を含むがこれらに限定されない)、繊毛虫類、植物(単子葉植物、双子葉植物、藻類等を含むがこれらに限定されない)、真菌、酵母菌、鞭毛虫類、微胞子虫類、原生生物等、系統発生ドメイン真核生物に属する生物を指す。
【0108】
本明細書で使用されるように、用語「原核生物(prokaryote)」とは、原核生物(prokaryotic organisms)を指す。例えば、非真核生物は、真正細菌(大腸菌、サーマス・サーモフィラス(Thermus thermophilus)、バチルス・ステアロサーモフィルス(Bacillus stearothermophilus)、シュードモナス・フルオレッセンス(Pseudomonas fluorescens)、緑膿菌(Pseudomonas aeruginosa)、シュードモナス・プチダ(Pseudomonas putida)等を含むがこれらに限定されない)の系統発生ドメイン、又は古細菌(メタノコッカス・ジャナスキー(Methanococcus jannaschii)、メタノバクテリウム・サーモオートトロフィカム(Methanobacterium thermoautotrophicum)、ハロフェラックス・ボルカニ(Haloferax volcanii)及びハロバクテリウム属の種NRC-1等のハロバクテリウム、アーケオグロブス・フルギダス(Archaeoglobus fulgidus)、パイロコッカス・フリオサス(Pyrococcus furiosus)、パイロコッカス・ホリコシイ(Pyrococcus horikoshii)、アエロピュルム・ペルニクス(Aeuropyrum pernix)等を含むがこれらに限定されない)の系統発生ドメインに属してもよい。
【0109】
例えば、抗HER2バイパラトピック抗体は、特にグリコシル化及びFcエフェクター機能が必要とされない場合に、細菌内で産生され得る。抗HER2バイパラトピック抗体断片及びポリペプチドの細菌における発現については、例えば、米国特許第5,648,237号、第5,789,199号、及び第5,840,523号を参照されたい(大腸菌における抗体断片の発現を説明するCharlton,Methods in Molecular Biology,Vol.248(B.K.C.Lo,ed.,Humana Press,Totowa,N.J.,2003),pp.245-254も参照)。発現後、二重特異性抗HER2抗原結合構築物は、可溶性画分中で細菌細胞ペーストから単離されてもよく、更に精製することができる。
【0110】
原核生物に加えて、糸状菌又は酵母等のような真核微生物は、二重特異性抗HER2抗原結合構築物をコードするベクターに好適なクローニング又は発現宿主であり、グリコシル化経路が「ヒト化」されていることにより部分又は完全ヒトグリコシル化パターンを有する二重特異性抗HER2抗原結合構築物の産生をもたらす真菌及び酵母株を含む。Gerngross,Nat.Biotech.22:1409-1414(2004)、及びLi et al.,Nat.Biotech.24:210-215(2006)を参照されたい。
【0111】
グリコシル化された抗HER2バイパラトピック抗体の発現に好適な宿主細胞は、多細胞生物(無脊椎動物及び脊椎動物)にも由来する。無脊椎動物細胞の例は、植物及び昆虫細胞を含む。昆虫細胞と併せて特にスポドプテラ・フルギペルダ(Spodoptera frugiperda)細胞のトランスフェクションに使用され得る、多数のバキュロウイルス株が同定されている。
【0112】
植物細胞培養物も、宿主として利用することができる。例えば、米国特許第5,959,177号、第6,040,498号、第6,420,548号、第7,125,978号、及び第6,417,429号を参照されたい(トランスジェニック植物において抗原結合構築物を産生するためのPLANTIBODIES(商標)技術を記載している)。
【0113】
脊椎動物細胞も、宿主として使用され得る。例えば、懸濁液中で成長するように適合された哺乳類細胞株が有用であり得る。有用な哺乳動物宿主細胞株の他の例は、SV40により形質転換されたサル腎臓CV1株(COS-7)、ヒト胎児腎臓株(例えばGraham et al.,J.Gen Virol.36:59(1977)に記載されているような293又は293細胞)、ベビーハムスター腎臓細胞(BHK)、マウスセルトリ細胞(例えばMather,Biol.Reprod.23:243-251(1980)に記載されているようなTM4細胞)、サル腎臓細胞(CV1)、アフリカミドリザル腎臓細胞(VERO-76)、ヒト子宮頸癌細胞(HELA)、イヌ腎臓細胞(MDCK)、バッファローラット肝臓細胞(BRL 3A)、ヒト肺細胞(W138)、ヒト肝臓細胞(Hep G2)、マウス乳房腫瘍(MMT 060562)、例えばMather et al.,Annals N.Y.Acad.Sci.383:44-68(1982)に記載されているようなTRI細胞、MRC5細胞、及びFS4細胞である。他の有用な哺乳動物宿主細胞株は、DHFR-CHO細胞(Urlaub et al.,Proc.Natl.Acad.Sci.USA 77:4216(1980))を含むチャイニーズハムスター卵巣(CHO)細胞、及びY0、NS0及びSp2/0等のような骨髄腫細胞株を含む。抗原結合構築物の産生に好適な特定の哺乳動物宿主細胞株のレビューについては、例えば、Yazaki and Wu,Methods in Molecular Biology,Vol.248(B.K.C.Lo,ed.,Humana Press,Totowa,N.J.),pp.255-268(2003)を参照されたい。
【0114】
1つの実施形態において、本明細書に記載の-HER2バイパラトピック抗体は、少なくとも1つの安定した哺乳動物細胞に、抗HER2バイパラトピック抗体をコードする核酸を所定の比率でトランスフェクトし、そして少なくと1つの哺乳動物細胞において核酸を発現させることを含む方法によって、安定した哺乳動物細胞内で産生される。いくつかの実施形態において、核酸の所定の比率は、一過性トランスフェクション実験で決定されて、発現産物中の抗HER2バイパラトピック抗体の最も高いパーセンテージをもたらす入力核酸の相対比率を決定する。
【0115】
いくつかの実施形態において、抗HER2バイパラトピック抗体は、安定した哺乳動物細胞で産生され、ここで少なくとも1つの該安定した哺乳動物細胞の発現産物は、単量体重鎖又は軽鎖ポリペプチド、又は他の抗体に比べて、より大きなパーセンテージの所望のグリコシル化された抗HER2バイパラトピック抗体を含む。いくつかの実施形態において、グリコシル化された抗HER2バイパラトピック抗体の同定は、液体クロマトグラフィー及び質量分析法の一方又は両方によって行われる。
【0116】
必要に応じて、抗HER2バイパラトピック抗体は発現後に精製又は単離することができる。タンパク質は当業者に公知の様々な方法で単離又は精製されてもよい。標準な精製方法は、イオン交換、疎水性相互作用、アフィニティー、サイジング又はゲル濾過、及び逆相を含むクロマトグラフ技法を含み、FPLC及びHPLC等のシステムを使用して大気圧又は高圧で実行される。精製方法は、電気泳動、免疫学的、沈殿、透析、及びクロマトフォーカシング技法も含む。タンパク質濃縮と組み合わせた限外濾過及びダイアフィルトレーション技法も有用である。当分野で周知のように、様々なタンパク質はFc及び抗体に結合し、これらのタンパク質は本明細書に記載の抗HER2バイパラトピック抗体の精製に使用することができる。例えば、細菌タンパク質A及びGはFc領域に結合する。同様に、細菌タンパク質Lは一部の抗体のFab領域に結合する。多くの場合、精製は特定の融合パートナーによって可能になる。例えば、抗体は、GST融合が採用される場合にグルタチオン樹脂、Hisタグが採用される場合にNi+2アフィニティークロマトグラフィー、又はflagタグが使用される場合に固定化抗flag抗体を使用して精製され得る。好適な精製技法の一般的なガイダンスについては、例えば、参照によって本明細書に組み込まれるProtein Purification:Principles and Practice,3rd Ed.,Scopes,Springer-Verlag,NY,1994を参照されたい。必要な精製の程度は、二重特異性抗HER2抗原結合構築物の使用に応じて異なる。場合によっては、精製は必要でない。
【0117】
特定の実施形態において、抗HER2バイパラトピック抗体は、Qセファロース、DEAEセファロース、ポロスHQ、ポロスDEAF、トヨパールQ、トヨパールQAE、トヨパールDEAE、リソース/ソースQ及びDEAE、フラクトゲルQ及びDEAEカラムでのクロマトグラフィーに限定されない陰イオン交換クロマトグラフィーを使用して精製される。
【0118】
特定の実施形態において、本明細書に記載の抗HER2バイパラトピック抗体は、SPセファロース、CMセファロース、ポロスHS、ポロスCM、トヨパールSP、トヨパールCM、リソース/ソースS及びCM、フラクトゲルS及びCMカラム、並びにそれらの等価物及び同等物を含むがそれらに限定されない陽イオン交換クロマトグラフィーを使用して精製される。
【0119】
加えて、本明細書に記載の抗HER2バイパラトピック抗体構築物は、当分野で公知の技法を使用して化学的に合成することができる(例えば、Creighton,1983,Proteins:Structures and Molecular Principles,W.H.Freeman & Co.,N.Y及びHunkapiller et al.,Nature,310:105-111(1984)を参照)。例えば、ポリペプチドの断片に対応するポリペプチドは、ペプチド合成機の使用により合成することができる。更に、必要に応じて、非古典的アミノ酸又は化学的アミノ酸類似体はポリペプチド配列への置換又は付加として導入することができる。非古典的アミノ酸は一般に、一般的なアミノ酸のD異性体、2,4ジアミノ酪酸、α-アミノイソ酪酸、4アミノ酪酸、Abu、2-アミノ酪酸、γ-Abu、ε-Ahx、6アミノヘキサン酸、Aib、2-アミノイソ酪酸、3-アミノプロピオン酸、オルニチン、ノルロイシン、ノルバリン、ヒドロキシプロリン、サルコシン、シトルリン、ホモシトルリン、システイン酸、t-ブチルグリシン、t-ブチルアラニン、フェニルグリシン、シクロヘキシルアラニン、β-アラニン、フルオロアミノ酸、及びβ-メチルアミノ酸、Cα-メチルアミノ酸、Nα-メチルアミノ酸等のようなデザイナーアミノ酸、並びにアミノ酸類似体を含むが、それらに限定されない。更に、アミノ酸はD(右旋性)又はL(左旋性)であってもよい。
【0120】
翻訳後修飾
特定の実施形態において、本明細書に記載の抗HER2バイパラトピック抗体は、翻訳中又は翻訳後に差次的に修飾される。
【0121】
本明細書で使用されるように、用語「修飾」とは、ポリペプチドの長さ、アミノ酸配列の長さ、ポリペプチドの化学構造に対する変更、ポリペプチドの翻訳時修飾、又は翻訳後修飾等、所与のポリペプチドに対してなされる任意の変更を指す。「(修飾された)」という形式の用語は、考察されているポリペプチドが任意に修飾されること、即ち、二重特異性抗HER2抗原結合構築物のポリペプチドが修飾されてもなくてもよいことを意味する。
【0122】
用語「翻訳後修飾」とは、天然又は非天然アミノ酸がポリペプチド鎖に組み込まれた後にこうしたアミノ酸に加えられる任意の修飾を指す。該用語は、単なる例として、翻訳時インビボ修飾、翻訳時インビトロ修飾(無細胞翻訳系において等)、翻訳後インビボ修飾、及び翻訳後インビトロ修飾を包含する。
【0123】
いくつかの実施形態において、修飾は、グリコシル化、アセチル化、リン酸化、アミド化、既知の保護/遮断基による誘導体化、タンパク質分解による切断、及び抗体分子又は抗HER2バイパラトピック抗体又は他の細胞リガンドへの連結のうちの少なくとも1つである。いくつかの実施形態において、抗HER2バイパラトピック抗体は、臭化シアン、トリプシン、キモトリプシン、パパイン、V8プロテアーゼ、NaBH4による特異的化学的切断、アセチル化、ホルミル化、酸化、還元、及びツニカマイシンの存在下での代謝合成に限定されない既知の技法によって化学的に修飾される。
【0124】
抗HER2バイパラトピック抗体の追加の翻訳後修飾は、例えば、N結合型又はO結合型炭水化物鎖、N末端又はC末端のプロセシング、アミノ酸骨格への化学部分の付着、N結合型又はO結合型炭水化物鎖の化学修飾、及び原核宿主細胞発現の結果としてのN末端メチオニン残基の付加又は欠失を含む。本明細書に記載の二重特異性抗HER2抗原結合構築物は、タンパク質の検出及び単離を可能にするために、酵素標識、蛍光標識、同位体又はアフィニティー標識等のような検出可能な標識で修飾される。特定の実施形態において、好適な酵素標識の例は、西洋ワサビペルオキシダーゼ、アルカリホスファターゼ、β-ガラクトシダーゼ、又はアセチルコリンエステラーゼを含み、好適な補欠分子族複合体の例は、ストレプトアビジン-ビオチン及びアビジン/ビオチンを含み、好適な蛍光物質の例は、ウンベリフェロン、フルオレセイン、フルオレセインイソチオシアネート、ローダミン、ジクロロトリアジニルアミンフルオレセイン、塩化ダンシル又はフィコエリトリンを含み、発光物質の例は、ルミノールを含み、生物発光物質の例は、ルシフェラーゼ、ルシフェリン、及びエクオリンを含み、好適な放射性物質の例は、ヨウ素、炭素、硫黄、トリチウム、インジウム、テクネチウム、タリウム、ガリウム、パラジウム、モリブデン、キセノン、フッ素を含む。
【0125】
特定の実施形態において、本明細書に記載の抗HER2バイパラトピック抗体は、放射性金属イオンと関連する大環状キレート剤が付着されている。
【0126】
いくつかの実施形態において、本明細書に記載の抗HER2バイパラトピック抗体は、翻訳後プロセシング等のような天然プロセス、又は当分野で周知の化学的修飾技法のいずれかによって修飾される。特定の実施形態において、同じタイプの修飾は、所与のポリペプチド中のいくつかの部位に同じ程度又は様々な程度で存在し得る。特定の実施形態において、本明細書に記載の抗HER2バイパラトピック抗体からのポリペプチドは、例えば、ユビキチン化の結果として分枝しており、いくつかの実施形態では、分枝を伴うか又は伴わない環式である。環式、分枝、及び分枝環式ポリペプチドは、翻訳後天然プロセスからの結果であるか、又は合成方法によって作製される。修飾は、アセチル化、アシル化、ADP-リボシル化、アミド化、フラビンの共有結合、ヘム部分の共有結合、ヌクレオチド又はヌクレオチド誘導体の共有結合、脂質又は脂質誘導体の共有結合、ホスホチジルイノシトールの共有結合、架橋、環化、ジスルフィド結合形成、脱メチル化、共有架橋の形成、システインの形成、ピログルタミン酸の形成、ホルミル化、γ-カルボキシル化、グリコシル化、GPIアンカー形成、ヒドロキシル化、ヨウ素化、メチル化、ミリストイル化、酸化、ペグ化、タンパク質分解プロセシング、リン酸化、プレニル化、ラセミ化、セレノイル化、硫化、タンパク質への転移RNA媒介アミノ酸付加、例えばアルギニル化、及びユビキチン化を含む(例えば、PROTEINS--STRUCTURE AND MOLECULAR PROPERTIES,2nd Ed.,T.E.Creighton,W.H.Freeman and Company,New York(1993)、POST-TRANSLATIONAL COVALENT MODIFICATION OF PROTEINS,B.C.Johnson,Ed.,Academic Press,New York,pgs.1-12(1983)、Seifter et al.,Meth.Enzymol.182:626-646(1990)、Rattan et al.,Ann.N.Y.Acad.Sci.663:48-62(1992)を参照)。
【0127】
医薬組成物
治療的使用のために、抗HER2バイパラトピック抗体は、該抗体及び薬学的に許容可能な担体又は希釈剤を含む組成物の形態で提供され得る。組成物は、周知の容易に入手できる成分を使用して、既知の手順によって調製することができる。
【0128】
医薬組成物は、例えば、経口(例えば、頬側又は舌下を含む)、局所、非経口、直腸又は膣経路によるか、又は吸入もしくはスプレーによる対象への投与のために製剤化され得る。本明細書で使用される用語「非経口」は、皮下注射、及び皮内、関節内、静脈内、筋肉内、血管内、胸骨内、髄腔内の注射又は注入を含む。医薬組成物は、典型的には、例えば、シロップ、エリキシル、錠剤、トローチ、ロゼンジ、ハード又はソフトカプセル、ピル、坐剤、油性又は水性懸濁液、分散性粉末又は顆粒、エマルジョン、注射剤又は溶液として、選択された経路による対象への投与に好適である形式で製剤化される。医薬組成物は、単位投与製剤として提供されてもよい。
【0129】
特定の実施形態において、抗HER2バイパラトピック抗体を含む医薬組成物は、例えば凍結乾燥製剤又は水溶液として、注射可能な形態で、非経口投与用に製剤化される。
【0130】
薬学的に許容される担体は、一般に、用いられる用量及び濃度で、レシピエントにとって非毒性である。こうした担体の例は、リン酸、クエン酸、及び他の有機酸のような緩衝液;アスコルビン酸及びメチオニンのような抗酸化剤;塩化オクタデシルジメチルベンジルアンモニウム、塩化ヘキサメトニウム、塩化ベンザルコニウム、塩化ベンゼトニウム、フェノール、ブチルアルコール、ベンジルアルコール、アルキルパラベン(メチル又はプロピルパラベン等)、カテコール、レゾルシノール、シクロヘキサノール、3-ペンタノール及びm-クレゾールのような保存剤;低分子量(約10残基未満)のポリペプチド;血清アルブミン又はゼラチンのようなタンパク質;ポリビニルピロリドンのような親水性ポリマー;グリシン、グルタミン、アスパラギン、ヒスチジン、アルギニン、又はリジンのようなアミノ酸;グルコース、マンノース、又はデキストリンのような単糖類、二糖類、及び他の炭水化物;EDTAのようなキレート剤;スクロース、マンニトール、トレハロース又はソルビトールのような糖類;ナトリウムのような、塩を形成する対イオン;亜鉛タンパク質複合体のような金属複合体;並びに、ポリエチレングリコール(PEG)のような非イオン性界面活性剤を含むが、それらに限定されない。
【0131】
特定の実施形態において、抗HER2バイパラトピック抗体を含む組成物は、無菌の注射可能な水性又は油性の溶液又は懸濁液の形態であってもよい。こうした懸濁液は、当分野で公知である好適な分散剤又は湿潤剤及び/又は懸濁剤を使用して製剤化してもよい。無菌の注射可能な溶液又は懸濁液は、非毒性の非経口的に許容される希釈剤又は担体中に抗HER2バイパラトピック抗体を含んでもよい。使用できる許容可能な希釈剤及び担体は、例えば、1,3-ブタンジオール、水、リンガー溶液、等張塩化ナトリウム溶液又は右旋糖を含む。加えて、無菌の固定油を担体として使用してもよい。この目的のために、合成モノ又はジグリセリド等、様々な無刺激性固定油が利用されてもよい。また、オレイン酸等の脂肪酸が注射剤の調製に有用であることが分かっている。局所麻酔薬、防腐剤及び/又は緩衝剤等のアジュバントもまた、注射可能な溶液又は懸濁液に含まれ得る。
【0132】
特定の実施形態において、抗HER2バイパラトピック抗体を含む組成物は、ヒトへの静脈内投与のために製剤化され得る。典型的には、静脈内投与用の化合物は、滅菌等張水溶液中の溶液であり、例えば、塩化ナトリウム又は右旋糖を含有する。必要な場合、組成物は可溶化剤及び/又は注射部位での痛みを和らげるためのリグノカイン等の局所麻酔剤を含んでもよい。概して、成分は、単位剤形で、例えば、活性剤の量を示すアンプルもしくはサシェ等の気密封止容器内の凍結乾燥粉末又は水不含濃縮物として、別々に供給されるか、又は一緒に混合されて供給される。組成物は、注入によって投与される場合、例えば、薬学的グレードの無菌の水、生理食塩水又は右旋糖を含む注入ボトルで分注され得る。組成物を注射によって投与する場合、投与の前に成分を混合することができるように、アンプル入りの注射用滅菌水又は生理食塩水を提供してもよい。
【0133】
他の医薬組成物及び医薬組成物を調製する方法は、当分野で公知であり、例えば、「Remington:The Science and Practice of Pharmacy」(公式には「Remingtons Pharmaceutical Sciences」);Gennaro,A.,Lippincott,Williams & Wilkins,Philadelphia,PA(2000)に記載されている。
【0134】
使用方法
本開示の特定の態様は、本明細書に記載の有効量の抗HER2バイパラトピック抗体を投与することで対象のHER2発現癌を治療する方法に関する。
【0135】
HER2発現癌は典型的に固形腫瘍である。HER2発現固形腫瘍の例は、乳癌、子宮内膜癌、卵巣癌、子宮頸癌、肺癌、胃癌、食道癌、結腸直腸癌、肛門癌、尿路上皮癌、膵臓癌、唾液腺癌及び脳癌を含むが、それらに限定されない。HER2発現乳癌は、エストロゲン受容体陰性(ER-)及び/又はプロゲステロン受容体陰性(PR-)乳癌並びに三種陰性(ER-、PR-、低HER2)乳癌を含む。HER2発現肺癌は、非小細胞肺癌(NSCLC)及び小細胞肺癌を含む。
【0136】
特定の実施形態において、本明細書に記載の方法はHER2発現固形腫瘍の治療に用いられる。いくつかの実施形態において、本明細書に記載の方法は、HER2発現乳癌、胃食道腺癌(GEA)、食道癌、子宮内膜癌、卵巣癌、子宮頸癌、非小細胞肺癌(NSCLC)、肛門癌又は結腸直腸癌(CRC)の治療に用いられる。
【0137】
特定の実施形態において、本明細書に記載の方法は、転移性又は局所進行性HER2発現癌の治療に用いられる。いくつかの実施形態において、本明細書に記載の方法は、脳に転移したHER2発現癌の治療に用いられる。特定の実施形態において、本明細書に記載の方法は、HER2発現癌の第1選択治療に用いられる。特定の実施形態において、本明細書に記載の方法は、HER2発現癌の第2選択治療に用いられる。
【0138】
当分野で公知のように、HER2発現癌は、それらが発現するHER2のレベルによって(即ち「HER2状態」によって)特徴付けられ得る。HER2状態は、例えば、免疫組織化学(IHC)、蛍光in situハイブリダイゼーション(FISH)及び発色in situハイブリダイゼーション(CISH)又はDNAin situハイブリダイゼーション(ISH、例えばDNAscope(商標))によって評価できる。患者のHER2状態を評価するためには、多数の市販キットが入手可能である。IHCを使用するHER2検出に利用できるFDA承認の市販キットの例は、HercepTest(商標)(Dako Denmark A/S)、PATHWAY(Ventana Medical Systems,Inc.)、InSit(商標)HER2/NEUキット(Biogenex Laboratories,Inc.)及びBond Oracle HER2 IHC System(Leica Biosystems)を含む。
【0139】
IHCでは、細胞膜上でのHER2タンパク質発現を同定する。例えば、腫瘍生検からのパラフィン包埋組織切片は、IHCアッセイに供され、以下のHER2染色強度基準に一致し得る。
スコア0:染色が観察されないか、又は腫瘍細胞の10%未満(典型的には、<20,000受容体/細胞)において膜染色が観察される。
スコア1+:僅かな/ほとんど認識不可能な膜染色が、腫瘍細胞の10%超(典型的には、約100,000受容体/細胞)において検出される。細胞は、それらの膜の一部分が染色されるのみである。
スコア2+:弱~中度の完全膜染色が、腫瘍細胞の10%超(典型的には、約500,000受容体/細胞)において観察される。
スコア3+:中~強度の完全膜染色が、腫瘍細胞の10%超(典型的には、約2,000,000受容体/細胞)において観察される。
【0140】
本明細書に記載の抗HER2バイパラトピック抗体は、HER2を様々なレベルで発現する癌の治療に有用であり得る。特定の実施形態において、本開示によるHER2発現癌の治療方法は、本明細書に記載の抗HER2バイパラトピック抗体を、IHC 3+と定義された高レベルのHER2(HER2高)を発現する癌を有する対象に投与することを含む。いくつかの実施形態において、本開示によるHER2発現癌の治療方法は、本明細書に記載の抗HER2バイパラトピック抗体を、IHC 2+、IHC 2+/3+又はIHC 3+と定義された高レベルのHER2(高HER2)を発現する癌を有する対象に投与することを含む。いくつかの実施形態において、本開示によるHER2発現癌の治療方法は、本明細書に記載の抗HER2バイパラトピック抗体を、IHC 1+又はIHC 1+/2+と定義された低レベルのHER2(低HER2)を発現する癌を有する対象に投与することを含む。特定の実施形態において、癌は、FISHアッセイ又はISHアッセイを使用して検出可能な増幅されたHER2遺伝子を有する。特定の実施形態において、癌は、FISHアッセイ又はISHアッセイによってHER2遺伝子増幅されていないと検出され、IHCによってHER2 3+と決定される。特定の実施形態において、癌は、IHCによってHER2 2+と決定され、FISHアッセイによってHER2遺伝子増幅されたと判定される。特定の実施形態において、癌は、IHCによってHER2 2/3+と決定され、FISHアッセイ又はISHアッセイによって、HER2遺伝子増幅されたと判定される。
【0141】
特定の実施形態において、本明細書に記載の方法は、HER2発現癌を有する対象の第1選択治療に用いられる。特定の実施形態において、本明細書に記載の方法は、HER2発現癌を有する対象の第2選択治療に用いられる。
【0142】
特定の実施形態において、本明細書に記載の方法は、他の標準治療法に耐性があるか又は耐性を有するようになるHER2発現癌を有する対象の治療に用いられる。いくつかの実施形態において、本明細書に記載の方法は、トラスツズマブ(Herceptin(登録商標))、ペルツズマブ(Perjeta(登録商標))、T-DM1(Kadcyla(登録商標)又はトラスツズマブエムタンシン)、Enhertu(商標)(fam-トラスツズマブデルクステカン-nxki)、又はタキサン(例えばパクリタキセル、ドセタキセル、カバジタキセル)等の1つ又は複数の現在の治療法に応答しないHER2発現癌を有する対象の治療に用いられる。いくつかの実施形態において、本明細書に記載の方法は、トラスツズマブに耐性であるHER2発現癌を有する対象の治療に用いられる。いくつかの実施形態において、本明細書に記載の方法は、以前の抗HER2療法で進行した転移性癌を有する対象の治療に用いられる。いくつかの実施形態において、本明細書に記載の方法は、トラスツズマブ、ペルツズマブ、T-DM1及びEnhertu(商標)(fam-トラスツズマブデルクステカン-nxki)のうちの1つ又は複数による治療を以前に受けた対象の治療に用いられる。
【0143】
特定の態様において、HER2発現癌を有する対象の治療方法は、対象に有効量の抗HER2バイパラトピック抗体を投与することを含み、ここで前記有効量は、固定された時間間隔で前記対象に固定用量で投与される。
【0144】
本方法の特定の実施形態において、固定用量は、体重が用量カットオフ体重未満の対象に対して低い固定用量が選択され、体重が用量カットオフ体重超の対象に対してより高い固定用量が選択される。
【0145】
本方法の特定の実施形態において、低い固定用量は約600mgであり、高い固定用量は約800mgであり、用量カットオフ体重は70kgであり、固定された時間間隔は1週間ごと(QW)である。
【0146】
本方法の特定の実施形態において、低い固定用量は約800mgであり、高い固定用量は約1200mgであり、用量カットオフ体重は70kgであり、固定された時間間隔は1週間ごと(QW)である。
【0147】
本方法の特定の実施形態において、低い固定用量は約800mgであり、高い固定用量は約1000mgであり、用量カットオフ体重は70kgであり、固定された時間間隔は1週間ごと(QW)である。
【0148】
本方法の特定の実施形態において、低い固定用量は約1800mgであり、高い固定用量は約2200mgであり、用量カットオフ体重は70kgであり、固定された時間間隔は2週間ごと(Q2W)である。
【0149】
本方法の特定の実施形態において、低い固定用量は約1200mgであり、高い固定用量は約1600mgであり、用量カットオフ体重は70kgであり、固定された時間間隔は2週間ごと(Q2W)である。
【0150】
本方法の特定の実施形態において、低い固定用量は約1200mgであり、高い固定用量は約1800mgであり、用量カットオフ体重は70kgであり、固定された時間間隔は3週間ごと(Q3W)である。
【0151】
本方法の特定の実施形態において、低い固定用量は約1800mgであり、高い固定用量は約2400mgであり、用量カットオフ体重は70kgであり、固定された時間間隔は3週間ごと(Q3W)である。
【0152】
本方法の特定の実施形態において、対象に投与される抗HER2バイパラトピック抗体は、(a)配列番号32、34及び33、並びに配列番号22、24及び23に示すCDR配列を含む、第1の抗原結合ドメインと、(b)配列番号53、54及び55、並びに配列番号56、57及び58に示すCDR配列を含む、第2の抗原結合ドメインと、を含む。
【0153】
本方法のいくつかの実施形態において、対象に投与される抗HER2バイパラトピック抗体の第1の抗原結合ドメインはFabであり、対象に投与される抗HER2バイパラトピック抗体の第2の抗原結合ドメインはscFvである。
【0154】
本方法の特定の実施形態において、対象に投与される抗HER2バイパラトピック抗体は、配列番号30に示す配列を含む重鎖H1と、配列番号50に示す配列を含む重鎖H2と、配列番号20に示す配列を含む軽鎖L1と、を含む。
【0155】
本方法の特定の実施形態において、HER2発現癌は固形腫瘍である。
【0156】
本方法の特定の実施形態において、HER2発現癌は、乳癌、胆道癌、胃食道腺癌(GEA)、食道癌、胃食道癌(GEJ)、胃癌、子宮内膜癌、卵巣癌、子宮頸癌、非小細胞肺癌(NSCLC)、肛門癌又は結腸直腸癌(CRC)である。
【0157】
本方法の特定の実施形態において、HER2発現癌は胃食道腺癌(GEA)である。
【0158】
本方法の特定の実施形態において、対象は、トラスツズマブ、ペルツズマブ、T-DM1又はEnhertu(商標)(fam-トラスツズマブデルクステカン-nxki)のうちの1つ又は複数による事前治療を受けている。
【0159】
本方法の特定の実施形態において、対象は、抗HER2標的療法による事前治療を受けていない。
【0160】
本方法の特定の実施形態において、対象は、治療されるHER2発現癌に対する化学療法剤による事前の全身治療を受けていない。
【0161】
本方法の特定の実施形態において、HER2発現癌は転移性である。
【0162】
本方法の特定の実施形態において、HER2発現癌は局所進行性である。
【0163】
本方法の特定の実施形態において、HER2発現癌は、免疫組織化学(IHC)による測定では、HER2 3+、HER2 2+/3+又はHER2 2+又はHER2 1+であり、蛍光in situハイブリダイゼーション(FISH)による測定では、遺伝子増幅されている。
【0164】
本方法の特定の実施形態において、HER2発現癌は、免疫組織化学(IHC)による測定では、HER2 3+、HER2 2+/3+又はHER2 2+又はHER2 1+であり、蛍光in situハイブリダイゼーション(FISH)による測定では、HER2遺伝子増幅されていない。
【0165】
本方法の特定の実施形態において、HER2発現癌は、IHCによる測定では、HER2 3+、又はHER2 2+であり、FISHによる測定では、遺伝子増幅されている。
【0166】
本開示の別の態様は、HER2発現癌の治療における使用のための抗HER2バイパラトピック抗体であり、ここで前記抗体の有効用量は、体重が用量カットオフ体重未満の対象に対する低い固定用量、及び体重が用量カットオフ体重超の対象に対する高い固定用量を含む複数段階固定用量である。特定の実施形態において、低い固定用量は約800mgであり、高い固定用量は約1200mgであり、用量カットオフ体重は70kgであり、固定された時間間隔は1週間ごと(QW)である。いくつかの実施形態において、低い固定用量は約1200mgであり、高い固定用量は約1600mgであり、用量カットオフ体重は70kgであり、固定された時間間隔は2週間ごと(Q2W)である。いくつかの実施形態において、低い固定用量は約1800mgであり、高い固定用量は約2400mgであり、用量カットオフ体重は70kgであり、固定された時間間隔は3週間ごと(Q3W)である。いくつかの実施形態において、前記抗体はv10000である。
【0167】
別の態様において、本開示は、HER2発現癌を有する対象の治療方法に関し、該方法は前記対象に有効量の抗HER2バイパラトピック抗体を投与することを含み、前記有効量は体重70kg未満の対象に対する1800mgの固定用量、又は体重70kg以上の対象に対する2400mgの固定用量を含み、ここで前記用量は3週間ごと(Q3W)に投与され、前記対象は乳癌、胃食道腺癌(GEA)、食道癌、胃癌、子宮内膜癌、卵巣癌、子宮頸癌、非小細胞肺癌(NSCLC)、肛門癌又は結腸直腸癌(CRC)と診断されている。
【0168】
別の態様において、本開示は、HER2発現癌を有する対象の治療方法に関し、該方法は、前記対象に有効量の抗HER2バイパラトピック抗体を投与することを含み、前記有効量は、体重70kg未満の対象に対する1200mgの固定用量、又は体重70kg以上の対象に対する1600mgの固定用量を含み、ここで前記用量は2週間ごと(Q2W)に投与される。
【0169】
別の態様において、本開示は、HER2発現癌を有する対象の治療方法に関し、該方法は、前記対象に有効量の抗HER2バイパラトピック抗体を投与することを含み、前記有効量は、体重70kg未満の対象に対する1200mgの固定用量、又は体重70kg以上の対象に対する1600mgの固定用量を含み、ここで前記用量は2週間ごと(Q2W)に投与され、前記対象は胆道癌と診断されている。
【0170】
本明細書に記載の投与レジメンは、抗HER2バイパラトピック抗体を投与するための推奨用量であるが、対象が治療により有害な副作用を経験する場合、投与される用量が低減されてもよいことが理解される。同様に、投与間の固定間隔は、便宜上、僅かに変更されてもよい。
【0171】
併用療法
様々な化学療法レジメンは、2段階投与レジメンの文脈において抗HER2バイパラトピック抗体と併用され得る。特定の実施形態において、化学療法レジメンは、使用される化学療法剤の承認用量及び投与スケジュールに従って施される。いくつかの実施形態において、化学療法剤の用量は、忍容性の理由から、治療の最初のサイクル後に減量され得る。
【0172】
特定の実施形態において、化学療法レジメンは、パクリタキセル、カペシタビン、mFOLFOX6(フルオロウラシル+ロイコボリン+オキサリプラチン)、フルベストラント+パルボシクリブ、カペシタビン+オキサリプラチン(CAPOXであって、XELOXとも呼ばれる)、ビノレルビン、及びシスプラチン+フルオロウラシル(FP)のうちの1つ又は複数を含む。
【0173】
CAPOX(XELOXとしても公知である)は、カペシタビン及びオキサリプラチンからなる多剤化学療法レジメンである。XELOXは、結腸直腸癌及び結腸癌並びに進行胆道系腺癌を含めて様々なGEAの治療に有効な細胞毒性レジメンとして確立されている。CAPOXはアジュバント療法としても使用される。
【0174】
特定の実施形態において、抗HER2バイパラトピック抗体は、以下の用量及びスケジュールでCAPOXと組み合わせて投与される。
(a)各21日サイクルの1日目に、抗HER2バイパラトピック抗体を、1800mgの用量(<70kgの対象)又は2400mgの用量(≧70kgの対象)でQ3WでIV投与する。
(b)CAPOXを、各21日サイクルの1~14日目にカペシタビン1,000mg/m2 PO bid(毎日の総用量2000mg/m2)+各21日サイクルの1日目にオキサリプラチン130mg/m2 IV Q3Wのように施す。
【0175】
FPは、5-FU及びシスプラチンからなる多剤化学療法レジメンである。FPは、胃癌の治療に有効な細胞毒性レジメンとして確立されており、ネオアジュバント/アジュバント療法としても使用される。FPは、第3相盲検ランダム化対照試験でHER2陽性進行胃癌又はGEJ癌に対するトラスツズマブと組み合わせて評価されており、現在、HER2過剰発現胃食道癌においてトラスツズマブと併用する標準な第1選択化学療法と考えられる。特定の実施形態において、抗HER2バイパラトピック抗体は、以下の用量及びスケジュールを使用してFPと組み合わせて投与される。
(a)各21日サイクルの1日目に、抗HER2バイパラトピック抗体を、1800mgの用量(<70kgの対象)又は2400mgの用量(≧70kgの対象)でQ3WでIV投与する。
(b)FPを、各21日サイクルの1~5日目に5-FUを800mg/m2/日で連続的にIV注入+各21日サイクルの1日目にシスプラチンを80mg/m2でQ3WでIV投与のように施す。
【0176】
mFOLFOX6は、オキサリプラチン、ロイコボリン、及び5-FUからなる多剤化学療法レジメンである。mFOLFOXは、様々な癌において管理可能な安全性プロファイルを有する有効な細胞毒性レジメンとして確立されている。特定の実施形態において、抗HER2バイパラトピック抗体は、以下の用量及びスケジュールを使用してmFOLFOX6と組み合わせて投与される。
(a)各28日サイクルの1日目と15日目に、抗HER2バイパラトピック抗体を、1200mgの用量(<70kgの対象)又は16000mgの用量(≧70kgの対象)でQ2WでIV投与する。
(b)mFOLFOX6を次のように投与する:各28日サイクルの1日目と15日目に、400mg/m2でIVボーラス、ロイコボリンを400mg/m2でIV、及びオキサリプラチンを85mg/m2でIV、Q2W;各28日サイクルの1日目と2日目、及び15日目と16日目にQ2Wで、5-FUを、1日当たり1200mg/m2、合計2400mg/m2で、約46~48時間にわたって連続的IV注入。
【0177】
他の併用療法
パルボシクリブはCDK4及びCDK6の阻害剤である。サイクリンD1及びCDK4/6は、細胞増殖を引き起こすシグナル伝達経路の下流にある。インビトロで、パルボシクリブは、細胞周期のG1期からS期への細胞の進行を阻止することによって、エストロゲン受容体(ER)陽性乳癌細胞株の細胞増殖を減少させた。パルボシクリブは、内分泌療法後に疾患が進行した患者においてフルベストラントと併用してホルモン受容体(HR)陽性、HER2陰性の進行性又は転移性乳癌の治療用に承認されている。パルボシクリブの推奨用量は、28日間の治療サイクル中に、125mgのカプセルを1日1回(QD)連続21日間食事とともに経口服用(PO)し、その後、治療を7日間中止する(IBRANCE(登録商標))。
【0178】
フルベストラントは、エストラジオールに匹敵するアフィニティーで競合的にERに結合し、ヒト乳癌細胞内のERタンパク質を下方制御するエストロゲン受容体(ER)アンタゴニストである。フルベストラントは、内分泌療法後に疾患が進行した患者においてパルボシクリブを併用してHR陽性、HER2陰性の進行性又は転移性乳癌の治療用に承認される。フルベストラントの推奨用量は、1、15、及び29日目、並びにその後、1カ月間ごとに、2回の5mL注射として各臀部に1回ずつ、臀部(臀部領域)に緩徐にIM投与される(1回の注射につき1~2分間)、500mgである(FASLODEX(登録商標))。
【0179】
特定の実施形態において、バイパラトピック抗HER2抗体は、上記の投与レジメンに従ってパルボシクリブ及びフルベストラントと組み合わせて投与される。
【0180】
本開示の特定の態様は、本明細書に記載の有効量の抗HER2バイパラトピック抗体を、チェックポイント阻害剤と組み合わせて投与することで対象のHER2発現癌を治療する方法に関する。特定の実施形態において、チェックポイント阻害剤はPD-1阻害剤、例えば、抗PD-1抗体である。抗PD-1抗体の例は、ペムブロリズマブ(Keytruda(登録商標))、ニボルマブ(Opdivo(登録商標))、セミプリマブ(Libtayo(登録商標))、JTX-4014(Jounce Therapeutics)、スパルタリズマブ(PDR001)(Novartis)、カムレリズマブ(SHR1210)(Jiangsu HengRui Medicine Co.,Ltd.)、シンチリマブ(Innovent、Eli-Lilly)、チスレリズマブ(BGB-A317)(Beigene)、トリパリマブ(JS001)(Junshi Biosciences)、ドスターリマブ(GlaxoSmithKline)、INCMGA00012(MGA012)(Incyte、MacroGenics)、AMP-224(AstraZeneca/MedImmune及びGlaxoSmithKline)及びAMP-514(MEDI0680)(AstraZeneca)を含むが、それらに限定されない。
【0181】
特定の実施形態は、本明細書に記載の有効量の抗HER2バイパラトピック抗体を、抗PD-1抗体と組み合わせて投与することで対象のHER2発現癌を治療する方法に関する。特定の実施形態は、本明細書に記載の有効量の抗HER2バイパラトピック抗体を、チスレリズマブと組み合わせて投与することで対象のHER2発現癌を治療する方法に関する。特定の実施形態において、チスレリズマブは、200mgのフラット用量(対象の体重に依存せず)でQ3Wで投与される。特定の実施形態において、対象のHER2発現癌は、本明細書に記載の有効量の抗HER2バイパラトピック抗体を、ペムブロリズマブと組み合わせて投与することで治療される。特定の実施形態において、ペムブロリズマブは、200mgのフラット用量でQ3Wで、又は400mgのフラット用量でQ6Wで投与される。
【0182】
特定の実施形態において、抗PD-1抗体と併用される抗HER2バイパラトピック抗体は、1800mgの用量(対象の体重が70kg未満である)又は2400mgの用量(対象の体重が70kg以上である)で投与され、かつこれは21日サイクルの1日目に投与され、チスレリズマブは、200mgの固定用量(対象の体重に依存せず)でQ3Wで投与される。
【0183】
特定の実施形態は、本明細書に記載の有効量の抗HER2バイパラトピック抗体を、抗CD47抗体又はCD47遮断薬と組み合わせて投与することで対象のHER2発現癌を治療する方法に関する。CD47は、自身のマーカーとして機能する、広く発現されている細胞表面タンパク質である。CD47は、生存細胞/健康細胞とアポトーシス/異常細胞を区別する「私を食べないで(don’t eat me)」という抗食作用シグナルを提供する。SIRPαは、マクロファージ上のCD47受容体である。この受容体に結合するCD47は、健康細胞の食作用を阻害するが、CD47レベルが低い細胞は、マクロファージ媒介破壊を受けやすい。腫瘍細胞は、免疫監視のマクロファージ成分を回避するためにCD47を過剰発現し、幅広い種類の血液腫瘍及び固形腫瘍において大量のCD47発現が観察されている。特定の実施形態において、抗HER2バイパラトピック抗体は、CD47遮断骨髄チェックポイント阻害剤であるエボルパセプト(ALX148)と組み合わせて投与され、エボルパセプトは10mg/kg体重QW、又は30mg/kg体重Q2Wの体重ベースの用量で投与される。特定の実施形態において、抗HER2バイパラトピック抗体v10000は2段階フラット投与レジメンを使用して投与され、ここで、低い固定用量が1800mgであり、高い固定用量が2400mgであり、用量カットオフ体重が70kgである(Q3W)。
【0184】
特定の実施形態は、本明細書に記載の有効量の抗HER2バイパラトピック抗体を、異なる作用機序を持つ別の抗HER2剤と組み合わせて投与することで対象のHER2発現癌を治療する方法に関する。特定の実施形態において、抗HER2バイパラトピック抗体は、HER2タンパク質のチロシンキナーゼ阻害剤である経口薬のツカチニブ(TUKYSA(登録商標))と組み合わせて投与される。特定の実施形態において、ツカチニブは、300mg/用量で1日2回経口投与される。
【0185】
医薬キット
特定の実施形態は、本明細書に記載の抗HER2バイパラトピック抗体を含む医薬キットを提供する。
【0186】
キットは、典型的に、1つ又は複数の容器、及び前記容器上の又はそれに付随したラベル及び/又は添付文書を含む。ラベル又は添付文書は、治療薬の商用包装に通常含まれる説明書を含み、係る治療薬の適応症、用途、用量、投与、禁忌及び/又はその使用に関する警告に関する情報を提供する。例えば、ラベル又は添付文書は、抗HER2バイパラトピック抗体が、Q3Wで約1800mgの固定用量(体重70kg未満の対象に対して)又は体重70kg以上の対象に対して2400mgの固定用量で投与するか、又はQ2Wで1200mgの固定用量(体重70kg未満の対象に対して)又は1600mgの固定用量(体重70kg以上の対象に対して)で投与するためのものであると明記してもよい。
【0187】
キットは、1800mgのv10000を含む容器を含んでもよい。キットは、2400mgのv10000を含む容器を含んでもよい。キットは、それぞれが300mgのv10000を含む6つの容器、及び前記6つのバイアルが体重70kg未満の対象の治療に用いられると明記する添付文書を含んでもよい。キットは、それぞれが300mgのv10000を含む8つの容器、及び前記8つのバイアルが体重70kg以上の対象の治療に用いられると明記する添付文書を含んでもよい。キットは、それぞれが600mgのv10000を含む3つの容器、及び前記3つの容器が体重70kg未満の対象の治療に用いられると明記する添付文書を含んでもよい。キットは、それぞれが600mgのv10000を含む4つの容器、及び前記6つの容器が体重70kg以上の対象の治療に用いられると明記する添付文書を含んでもよい。
【0188】
医薬キット用のラベル又は添付文書は、抗HER2バイパラトピック抗体が、乳癌、胆道癌、胃食道腺癌(GEA)、胃食道接合部癌(GEJ)、胃癌、子宮内膜癌、卵巣癌、子宮頸癌、非小細胞肺癌(NSCLC)、肛門癌又は結腸直腸癌(CRC)を含み得るHER2発現癌の治療に用いられると指示してもよい。
【0189】
医薬キット用のラベル又は添付文書は、治療中のHER2発現癌が転移性又は局所進行性であると指示してもよい。
【0190】
医薬キット用のラベル又は添付文書は、抗HER2バイパラトピック抗体が抗PD-1抗体と組み合わせて投与するのに適すると指示してもよい。
【0191】
医薬キット用のラベル又は添付文書は、抗HER2バイパラトピック抗体がmFOLFOX6(5-FU及びロイコボリン+オキサリプラチン)、CAPOX(カペシタビン+オキサリプラチン)又はFP(フルオロウラシル[5-FU]+シスプラチン)と組み合わせて投与するのに適すると指示してもよい。
【0192】
医薬キット用のラベル又は添付文書は、抗HER2バイパラトピック抗体が別の抗HER2剤、任意でツカチニブと組み合わせて投与するのに適すると指示してもよい。
【0193】
ラベル又は添付文書は、医薬又は生物学的産物の製造、使用、又は販売を管轄する政府機関により規定された書式の説明書を更に含んでもよく、この説明書は、ヒト又は動物の投与に関する製造、使用、又は販売の政府機関による承認を反映する。ラベル又は添付文書は、抗HER2バイパラトピック抗体がHER2発現癌の治療用途に用いられることも指示する。容器は、抗HER2バイパラトピック抗体を含む組成物を保持し、いくつかの実施形態において無菌アクセスポートを有し得る(例えば、容器は、皮下注射針によって貫通され得るストッパーを有する静脈内溶液バッグ又はバイアルであり得る)。
【0194】
抗HER2バイパラトピック抗体を含む組成物を含む容器に加えて、キットは、キットの他の成分を含む1つ又は複数の追加の容器を含んでもよい。例えば、注射用静菌水(BWFI)、リン酸緩衝生理食塩水、リンガー溶液又は右旋糖溶液等のような薬学的に許容される緩衝液、他の緩衝液又は希釈剤が挙げられる。
【0195】
好適な容器は、例えば、ボトル、バイアル、シリンジ、静注液バッグ等を含む。容器は、ガラス又はプラスチック等、様々な材料から形成され得る。適切な場合、キットの1つ又は複数の成分は、凍結乾燥させるか、又は粉末又は顆粒等の乾燥形態で提供し得、キットには、凍結乾燥又は乾燥成分(複数可)を再構成するための好適な溶媒を追加で含めることができる。
【0196】
キットは、フィルター、針、及びシリンジ等、商業的及びユーザの立場から望ましい他の材料を更に含んでもよい。
【0197】
以下の実施例は、例証目的のために提供されており、本発明の範囲を何ら限定することを意図するものではない。
【実施例】
【0198】
実施例1 バリアント10000(V10000)の説明と調製
v10000は、ヒトHER2抗原のECDの2つの非重複エピトープを認識するヒト化二重特異性抗体である。v10000のIgG1様Fc領域は、ヘテロ二量体分子を生成し、それに対応してホモ二量体の形成を妨げるように優先的に対合を引き起こす相補的変異を各CH3ドメインに含む。
図1は、重鎖A及び軽鎖A’が抗体のECD2結合部分を形成し、重鎖Bが抗体のECD4結合部分を形成するscFvを含むv10000のフォーマットの図を示す。バリアント10000は、配列番号30に示す配列を含む重鎖H1(
図1中の重鎖Aに対応)、配列番号50に示す配列を含む重鎖H2(
図1中の重鎖Bに対応)、及び配列番号20に示す配列を含む軽鎖L1(軽鎖A’に対応)を含む。v10000の調製方法は、国際特許公開WO2015/077891に詳細に記載されている。
【0199】
v10000を、ヒト試験に関する規制要件に従って製造し、環境温度でのIV注入用に、生体適合性水性緩衝液中で15mg/mLで製剤化した。v10000を、20mLの緩衝液中に300mgのv10000を含むバイアルで供給した。v10000のバイアルを冷凍で発送し、使用するまで-20℃(+/-5℃)にて保存した。バイアルを使用前に環境温度で解凍した。バイアル内の解凍した溶液を、環境温度で最大24時間、又は冷蔵条件(2℃~8℃)で最大72時間保存し、ラベルに表示された使用期限までに使用した。
【0200】
実施例2 v10000の薬物動態モデリング
集団PKモデリングを使用して、抗体のいくつかの用量レジメン(
図2)、即ち(A)10mg/kg QW、(B)20mg/kg Q2W及び(C)30mg/kg Q3W、に従って静脈内注射された対象における抗HER2抗体v10000の曝露をシミュレートした。
【0201】
介護者に便宜を与え、薬物製品の浪費を減らすために、集団PKモデルを使用するシミュレーションによって、v10000のフラット(又は固定)用量を評価した。中央コンパートメントの容積とクリアランスに関する体重共変量項のパワーモデルを使用して、曝露に対する体重の影響を推定した。
【0202】
v10000の可変性を、集団PKモデルを使用した体重ベースのフラット投与のシミュレーションによって比較した。
図3は、v10000のQ3W投与に基づく、GEAと診断された対象における、体重ベースの投与(A)、フラット投与(B)、及び2段階フラット投与(C)のモデル予測定常状態でのトラフ濃度の比較を示す。
【0203】
フラット投与(CV:43.5%)及び体重ベースの投与(CV:43.4%)の両方とも、定常状態トラフ濃度に同様の変化をもたらす。集団PKモデルシミュレーションによれば、体重が高いほど体重スケール投与では曝露量が高くなる傾向があるが、フラット投与では体重が低いほど曝露が高くなる(
図3)。体重ベースの投与と、70キログラム(<70kg、≧70kg)の体重カットオフポイントでの2段階フラット用量を利用したフラット投与とによるハイブリッドアプローチは、単段フラット投与及び/又は体重ベースの投与に比べ、全体重にわたってより一貫した曝露量をもたらす。
【0204】
4つの臨床試験に参加した305人の対象から観測された共変量からサンプリングすること、及びモデルに適合した個体間変動及び固定効果不確実性からサンプリングすることで、薬物曝露を集団PKモデルからシミュレートした。
【0205】
実施例3 v10000のインビボ薬物動態
表8には、30mg/kg Q3Wでの体重ベースの投与レジメン、又は体重70kg未満の臨床試験対象に対する1800mg及び体重70kg以上の対象に対する2400mgでの2段階固定(フラット)投与レジメンのいずれかで投与されたv10000の薬物動態パラメータを示す。表から明らかなように、体重ベースの投与レジメン及びフラット投与レジメンが、同様の薬物動態をもたらした。表8には、20mg/kg Q2Wでの体重ベースの投与レジメン、又は体重70kg未満の対象に対する1200mg及び体重70kg以上の対象に対する1600mgでの2段階固定(フラット)投与レジメンのいずれかで投与されたv10000の薬物動態パラメータを示す。この場合も、体重ベースの投与レジメン及びフラット投与レジメンが、同様の薬物動態をもたらした。
【0206】
(表8)v10000の薬物動態パラメータ
g*
C
max=血清又は血漿中の薬物の観測された最大濃度。C
trough=投与間隔の終了時に観測された濃度。t
1/2=2の自然対数を終末相の消失速度定数で割ることによって計算された、血清又は血漿中の薬物の終末相半減期の推定値。AUC
0-t=時間0から時間tまでのAUC。AUC
0-∞=時間0から無限時間までのAUC。CL=血清クリアランス。V
z=終末消失相。
a.非GEA(乳癌、結腸直腸癌、胆道癌、その他全て)
b.転移性胃/胃食道接合部腺癌
c.転移性胃/胃食道接合部腺癌
d.転移性乳癌
e.転移性胃/胃食道接合部腺癌
f.転移性胃/胃食道接合部腺癌
g.*値は幾何平均(変動係数)で表す
【0207】
実施例4 体重ベースの投与レジメン及び2段階固定投与レジメンの両方を使用してv100000を投与した対象の抗腫瘍効果
局所進行性(切除不能な)及び/又は転移性HER2発現胃腸癌を有する患者の第1選択治療としての抗HER2バイパラトピック抗体v10000(実施例1を参照)の第2相臨床研究を実施する。
【0208】
これは、抗HER2バイパラトピック抗体であるv10000(実施例1を参照)+医師が選択する併用化学療法の安全性、忍容性、及び抗腫瘍活性を調査するための多施設共同、包括的、第2相、非盲検、第1選択、2部構成の研究である。医師が選択する併用化学療法は、3つのグローバルに認識された多剤併用の第1選択治療:
(1)カペシタビン+オキサリプラチンからなるXELOX
XELOXとv10000の組み合わせの3つのバリアント(XELOX-1、XELOX-2、及びXELOX-3)を試験する。バリアントはv10000レジメンで異なる;
(2)フルオロウラシル(5-FU)+シスプラチンからなるFP
FPとv10000の組み合わせの2つのバリアント(FP-1及びFP-2)を試験する。バリアントはv10000レジメンで異なる;及び
(3)5-FU及びロイコボリン+オキサリプラチンからなるmFOLFOX6
mFOLFOX6とv10000の組み合わせの2つのバリアント(mFOLFOX6-1及びmFOLFOX6-2)を試験する。バリアントは、各4週間の治療サイクルの1日目と15日目にボーラス投与される5-FUの存在(mFOLFOX6-1)又は不在(mFOLFOX6-2)、及びv10000用量(体重ベースの用量対フラット用量)で異なる
を含む。
【0209】
図4は研究設計の概略図を示す。研究に適格であるためには、対象は、切除不能な局所進行性又は転移性GEA、GEJ又は胃癌を患っており、事前のHER2標的療法を受けていない必要がある。バリアント10000を、体重ベースの投与レジメン又は2段階フラット投与レジメンに従って投与した。研究のパート1では、HER2状態の局所又は中央評価を使用し、HER2 FISH状態に関わらずHER2 IHC 3+又はIHC 2+を許容した。パート2では、HER2陽性癌(IHC 3+又はIHC 2+/FISH+)を有する対象のみが含まれた。
【0210】
データカットオフ日の時点で36人の対象が研究に登録しており、9人が食道癌、14人が胃食道接合部癌、13人が胃癌を有した。年齢の中央値は58歳であり、範囲は27~77歳であった。
【0211】
CAPOX+zコホートは、21サイクル中に、1~15日目にカペシタビン1,000mg/m2 PO BID、1日目にオキサリプラチン130mg/m2 IV Q3W、及び1日目に30mg/kgの体重ベースの用量又は70kg未満の対象に対する1800mgと70kg以上の対象に対する2400mgからなる2段階フラット用量のいずれかでのv10000の投与を受けた。
【0212】
FPコホートは、21日サイクル中に、1日目にシスプラチン80mg/m2 IV Q3W、1~5日目に連続5-FU 800mg/m2/日 IV、及び11日目に30mg/kgの体重ベースの用量又は70kg未満の対象に対する1800mgと70kg以上の対象に対する2400mgからなる2段階フラット用量のいずれかでのv10000の投与を受けた。
【0213】
mFOLFOX6-1コホートは、28日サイクル中に、以下の投与を受けた:ロイコボリン400mg/m2 IV Q2W(1日目、15日目);オキサリプラチン85mg/m2 IV Q2W(1日目、15日目);連続する1~2日目及び15~16日目に5-FU 1200mg/m2/日 IV、及び400mg/m2 IV Q2W(1日目、15日目);並びに1日目、15日目に、20mg/kgの体重ベースの用量、又は70kg未満の対象に対する1200mgと70kg以上の対象に対する1600mgからなる2段階フラット用量のいずれかでの、v10000。
【0214】
mFOLFOX6-2レジメンは、1日目と15日目の5-FU 400mg/m2 IV Q2W用量を省略した以外、mFOLFOX6-1レジメンと同一である。
【0215】
研究のパート1は安全性及び用量制限毒性(DLT)に注目した。以下のことが観察された。V10000+CAPOXは、6人の対象においてDLTをもたらさなかった。V10000+FPは、2人の対象のうち1人にDLT(急性腎傷害、グレード3)をもたらした。V10000+mFOLFOX6-1は、13人の対象のうち2人にDLT(下痢、グレード3)をもたらし、13人中8人(62%)にグレード3の下痢があった。安全監視委員会は、1日目、15日目の5-FU 400mg/m2ボーラスを省略する修正レジメン(mFOLFOX6-2)を推奨した。V10000+mFOLFOX6-2は、7人の対象のうち1人にDLT(下痢、グレード3)をもたらし、7人中2人(29%)にグレード3の下痢があった。
【0216】
研究のパート2は、HER2陽性癌を有する対象におけるv10000+併用化学療法の抗腫瘍活性に注目した。疾患制御率(DCR)を、完全奏効(CR)、部分奏効(PR)、又は病勢安定(SD)のうちの最良の奏効として定義した。奏効期間(DOR)を、後続で確認される最初の客観的奏効から、最後の試験治療の30日以内に何らかの原因によるPD又は死亡が記録された時点までの時間として定義した。無増悪生存期間(PFS)を、試験治療の初回投与から、何らかの原因による疾患の進行、臨床的進行、又は死亡が記録された時点までの時間として定義した。5-FU=5-フルオロウラシル。DCR=疾患制御率。DOR=奏効期間。ECOG PS=東部協力腫瘍学グループのパフォーマンスステータス。FISH=蛍光in situハイブリダイゼーション。GEA=胃食道腺癌。IHC=免疫組織化学。ORR=客観的奏効率。PD=病勢進行。PFS=無増悪生存期間。RECIST v1.1=固形腫瘍における奏効評価基準、バージョン1.1。SD=病勢安定。データカットオフ日の時点で、パート1及び2で有効性評価可能な対象は28人であった。最上位の結果を表9に示す。ORRは75%、DCRは89%であった。
【0217】
(表9)奏効率及び疾患制御率
aHER2陽性を、IHC 3+又はIHC 2+/FISH+として定義した。
bcORRは、ベースラインスキャン及び客観的奏効の初期文書化から4週間以上後に取得された確認スキャンを含んだ。有効性評価可能な集団を、1回以上の評価可能ベースライン後疾患評価を経験するか、又は死亡もしくは臨床的進行により試験治療を中止した全てのHER2陽性対象として定義した。
5-FU=5-フルオロウラシル。CAPOX=カペシタビン+オキサリプラチン。CR=完全奏効。DCR=疾患制御率。FP=5-FU及びシスプラチン。mFOLFOX6=5-FU+オキサリプラチン及びロイコボリン。NR=未到達。ORR=奏効率(CR+PR)。PD=病勢進行。PR=部分奏効。SD=病勢安定。
【0218】
図5中のウォーターフォールプロットは、3つのレジメン(v10000+CAPOX、FP又はmFOLFOX)で治療された有効性評価可能な28人の対象の個々の標的病変部サイズを示す。このプロットは、体重ベースのレジメン又は上記の2段階フラット投与レジメンで治療された個々の対象を示す。データは、2段階フラット投与レジメンが体重ベースのレジメンと同等の有効性を提供することを示唆する。2段階フラット投与レジメンで治療された対象の8人中8人(100%)は、標的病変部サイズが30%超の減少を示した。体重ベースのレジメンを使用して治療された対象の20人中17人(85%)は、標的病変部サイズが30%超の減少を示した。
【0219】
本明細書で言及した全ての特許、特許出願、刊行物、及びデータベースエントリの開示は、これらの個々の特許、特許出願、刊行物、及びデータベースエントリが各々具体的且つ個別に、参照により組み込まれると示されているのと同じ程度に、その全体が参照により具体的に組み込まれる。
【0220】
本明細書に記載の、当業者には明らかであろう特定の実施形態の修正は、添付の特許請求の範囲内に含まれることが意図されている。
【0221】
配列一覧表
(表A)バリアントv5019、v5020、v7091、v10000、v6903、v6902及びv6717のクローン番号
【0222】
(表B)クローン番号別のバリアントv5019、v5020、v7091、v10000、v6903、v6902及びv6717の配列
【手続補正書】
【提出日】2024-05-21
【手続補正1】
【補正対象書類名】明細書
【補正対象項目名】配列表
【補正方法】追加
【補正の内容】
【配列表】
【国際調査報告】