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特表2024-535050度数依存球面収差を有する非球面レンズ設計
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  • 特表-度数依存球面収差を有する非球面レンズ設計 図1
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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公表特許公報(A)
(11)【公表番号】
(43)【公表日】2024-09-26
(54)【発明の名称】度数依存球面収差を有する非球面レンズ設計
(51)【国際特許分類】
   G02C 7/04 20060101AFI20240918BHJP
   G02C 7/06 20060101ALI20240918BHJP
   G02B 3/04 20060101ALI20240918BHJP
   G02B 3/06 20060101ALI20240918BHJP
   G02B 3/08 20060101ALI20240918BHJP
【FI】
G02C7/04
G02C7/06
G02B3/04
G02B3/06
G02B3/08
【審査請求】未請求
【予備審査請求】未請求
(21)【出願番号】P 2024516912
(86)(22)【出願日】2022-09-07
(85)【翻訳文提出日】2024-04-17
(86)【国際出願番号】 IB2022058434
(87)【国際公開番号】W WO2023042041
(87)【国際公開日】2023-03-23
(31)【優先権主張番号】17/476,528
(32)【優先日】2021-09-16
(33)【優先権主張国・地域又は機関】US
(81)【指定国・地域】
(71)【出願人】
【識別番号】510294139
【氏名又は名称】ジョンソン・アンド・ジョンソン・ビジョン・ケア・インコーポレイテッド
【氏名又は名称原語表記】Johnson & Johnson Vision Care, Inc.
【住所又は居所原語表記】7500 Centurion Parkway, Jacksonville, FL 32256, United States of America
(74)【代理人】
【識別番号】100088605
【弁理士】
【氏名又は名称】加藤 公延
(74)【代理人】
【識別番号】100130384
【弁理士】
【氏名又は名称】大島 孝文
(72)【発明者】
【氏名】チェン・ミンハン
【テーマコード(参考)】
2H006
【Fターム(参考)】
2H006BC01
2H006BC02
2H006BC03
2H006BD00
(57)【要約】
本明細書に記載されるのは、目標球面度数に応じてレンズ設計に異なるレベルの球面収差を組み込むことに基づいて、ソフトコンタクトレンズセット及びソフトコンタクトレンズセットを設計する方法である。異なるレベルの球面収差は、ゼロD/mm以下であり、臨床的に測定された母集団平均眼球球面収差、製造ばらつき、及び一般化された調節能力を説明する。
【特許請求の範囲】
【請求項1】
コンタクトレンズのセットであって、前記セットにおける各コンタクトレンズを備え、前記各コンタクトレンズが、ユーザの眼に接して配置されるように適合された第1の表面及び反対側の第2の表面であって、前記レンズの周縁を画定するレンズ縁で交わる、第1の表面及び第2の表面と、屈折力プロファイルと、球面収差(SPHA)プロファイルとを有し、
正のレンズ屈折力では、前記SPHAプロファイルは、ゼロ(0)D/mm以下かつ-0.055D/mm以上であり、
約-3D~0Dの負のレンズ屈折力では、前記SPHAプロファイルは、0.0167SP D/mm以下かつ-0.055D/mm以上であり、
-3.5D~約-3Dの負のレンズ屈折力では、前記SPHAプロファイルは、0.0167SP D/mm以下かつ0.0356SP+0.0467D/mm以上であり、
-8D~-3.5Dの負のレンズ屈折力では、前記SPHAプロファイルは、0.0082SP-0.0301D/mm以下かつ0.0356SP+0.0467D/mm以上である、コンタクトレンズのセット。
【請求項2】
-8D~-3.5Dの負の屈折力では、前記SPHAプロファイルは、0.0082SP-0.0301D/mm以下かつ0.0167SP D/mm超である、請求項1に記載のコンタクトレンズのセット。
【請求項3】
-8D~約-3Dの負の屈折力では、前記SPHAプロファイルは、0.0167SP D/mm未満かつ0.0356SP+0.0467D/mm以上である、請求項1に記載のコンタクトレンズのセット。
【請求項4】
前記第1の表面及び前記第2の表面は、非球面、球面、及びそれらの混合からなる群から選択されたものである、請求項1に記載のコンタクトレンズのセット。
【請求項5】
前記セットは、トーリックレンズを備える、請求項1に記載のコンタクトレンズのセット。
【請求項6】
前記セットは、多焦点レンズを備える、請求項1に記載のコンタクトレンズのセット。
【請求項7】
前記セットは、コンタクトレンズの球面コンパレータセットと比較して改善された視力を備える、請求項1に記載のコンタクトレンズのセット。
【請求項8】
コンタクトレンズのセットであって、前記セットにおける各コンタクトレンズを備え、前記各コンタクトレンズが、ユーザの眼に接して配置されるように適合された第1の表面及び反対側の第2の表面であって、前記レンズの周縁を画定するレンズ縁で交わる、第1の表面及び第2の表面と、屈折力と、球面収差(SPHA)プロファイルとを有し、
正のレンズ屈折力では、前記SPHAプロファイルは、0D/mmに等しく、
約-3.5D~0Dの負のレンズ屈折力では、前記SPHAプロファイルは、0.0167SP D/mmに等しく、
-8D~-3.5Dの負のレンズ屈折力では、前記SPHAプロファイルは、0.0082SP-0.0301D/mmである、コンタクトレンズのセット。
【請求項9】
前記第1の表面及び前記第2の表面は、非球面、球面、及びそれらの混合からなる群から選択されたものである、請求項8に記載のコンタクトレンズのセット。
【請求項10】
前記セットは、トーリックレンズを備える、請求項8に記載のコンタクトレンズのセット。
【請求項11】
前記セットは、多焦点レンズを備える、請求項8に記載のコンタクトレンズのセット。
【請求項12】
前記セットは、コンタクトレンズの球面コンパレータセットと比較して改善された視力を提供する、請求項8に記載のコンタクトレンズのセット。
【請求項13】
前記セットは、コンタクトレンズの球面コンパレータセットと比較して改善された視力を提供する、請求項8に記載のコンタクトレンズのセット。
【請求項14】
コンタクトレンズのセットであって、前記セットにおける各コンタクトレンズを備え、前記各コンタクトレンズが、ユーザの眼に接して配置されるように適合された第1の表面及び反対側の第2の表面であって、前記レンズの周縁を画定するレンズ縁で交わる、第1の表面及び第2の表面と、屈折力プロファイルと、球面収差(SPHA)プロファイルとを有し、
約-3D~0Dの負の屈折力及び全ての正の屈折力では、前記SPHAプロファイルは、-0.055D/mmに等しく、
約-8D~約-3Dの負のレンズ屈折力では、前記SPHAプロファイルは、0.0356SP+0.0467D/mmに等しい、コンタクトレンズのセット。
【請求項15】
前記第1の表面及び前記第2の表面は、非球面、球面、及びそれらの混合からなる群から選択されたものである、請求項14に記載のコンタクトレンズのセット。
【請求項16】
前記セットは、トーリックレンズを備える、請求項14に記載のコンタクトレンズのセット。
【請求項17】
前記セットは、多焦点レンズを備える、請求項14に記載のコンタクトレンズのセット。
【請求項18】
前記セットは、コンタクトレンズの球面コンパレータセットと比較して改善された視力を提供する、請求項14に記載のコンタクトレンズのセット。
【請求項19】
前記セットは、コンタクトレンズの球面コンパレータセットと比較して改善された視力を提供する、請求項14に記載のコンタクトレンズのセット。
【請求項20】
コンタクトレンズのセットであって、前記セットにおける各コンタクトレンズを備え、前記各コンタクトレンズが、ユーザの眼に接して配置されるように適合された第1の表面及び反対側の第2の表面であって、前記レンズの周縁を画定するレンズ縁で交わる、第1の表面及び第2の表面と、屈折力と、球面収差(SPHA)プロファイルとを有し、
-2.9D~0Dの負の屈折力及び全ての正の屈折力では、前記SPHAプロファイルは、-0.055D/mmに等しく、
約-8D~-2.9Dの負のレンズ屈折力では、前記SPHAプロファイルは、0.0356SP+0.0467D/mmに等しい、コンタクトレンズのセット。
【請求項21】
前記第1の表面及び前記第2の表面は、非球面、球面、及びそれらの混合からなる群から選択されたものである、請求項20に記載のコンタクトレンズのセット。
【請求項22】
前記セットは、トーリックレンズを備える、請求項20に記載のコンタクトレンズのセット。
【請求項23】
前記セットは、多焦点レンズを備える、請求項20に記載のコンタクトレンズのセット。
【請求項24】
前記セットは、コンタクトレンズの球面コンパレータセットと比較して改善された視力を提供する、請求項20に記載のコンタクトレンズのセット。
【請求項25】
コンタクトレンズのセットを製造する方法であって、前記方法は、
a)母集団平均眼球球面収差プロファイルを測定することと、
b)前記母集団平均眼球球面収差プロファイルを球面コンパレータレンズ球面収差プロファイルと比較することと、
c)球面コンパレータレンズ球面収差プロファイル並びに球面度数及び製造精度の関数としてのユーザ調節のレベルに関連して、前記母集団平均眼球球面収差プロファイルを補償する球面収差プロファイルを作成することと、
d)ある範囲の球面度数にわたって前記球面収差プロファイルを呈するソフトコンタクトレンズのセットを形成することと、を含む、方法。
【請求項26】
前記球面収差プロファイルは、前記球面度数範囲にわたってゼロ(0)D/mm以下である、請求項25に記載の方法。
【請求項27】
前記球面収差プロファイルは、前記球面度数範囲にわたって2つ又は3つ以上の一次方程式によって記述される、請求項26に記載の方法。
【請求項28】
前記コンタクトレンズのセットは、非球面レンズ、トーリックレンズ、多焦点レンズ、及びそれらの組み合わせからなる、請求項25に記載の方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、装着母集団、レンズ製造、及び調節能力の間のばらつきを考慮して球面収差を組み込むことによって視力が改善されたソフトコンタクトレンズセット及びソフトコンタクトレンズセットを設計する方法に関する。
【背景技術】
【0002】
近視(myopia)又は近眼(nearsightedness)は、物体からの光線が網膜の前で焦点を結ぶ眼の屈折障害である。近視は、眼球が光軸に沿って伸びるか、又は角膜の曲率が急すぎるために起こる。マイナスの度数を有する球面レンズは、近視を矯正するために利用され得る。遠視(hyperopia)又は遠眼(farsightedness)は、物体からの光線が網膜の後ろに焦点を結ぶ眼の屈折障害である。遠視は、眼球が光軸に沿って短くなるか、又は角膜の曲率が平坦すぎるために起こる。プラスの度数を有する球面レンズは、遠視を矯正するために利用され得る。マイナス及びプラスの度数を有する両方の球面レンズの球面は、物体からの光線を像に再合焦する際に不完全である。1つの収差は、球面収差(「spherical aberration、SPHA」)として知られている。球面収差は、レンズの異なる半径方向位置から屈折された物体からの光線が、光軸に沿って異なる位置又は焦点に再合焦し、ぼけた像をもたらすため、像の品質を低減させる。乱視は、角膜が回転対称でないとき、又は水晶体が位置ずれしているときに起こり、2つの直交する像焦点をもたらす。乱視は、通常、近視又は遠視を矯正するために、マイナスの度数を有するレンズ又はプラスの度数を有するレンズのいずれかが眼の上で配向されることを必要とする非回転対称角膜表面によって引き起こされる。配向は、眼上の固定軸の周りでのレンズ回転安定性のための手段を必要とし、典型的には、レンズ周縁の前面上に位置する厚さプロファイルによって達成される。乱視を矯正するレンズは、一般にトーリックレンズと称される。一方、多焦点レンズは、老眼を治療するために使用され、またトーリックレンズであり得る。
【0003】
他の湾曲した屈折表面と同様に、視覚系(角膜、水晶体などを含む)は、いくらかのSPHAを呈する。結果として、近視、遠視、乱視、又は老眼がソフトコンタクトレンズを使用して矯正されるとき、ソフトコンタクトレンズ及び角膜のSPHAは、制御されない方法で組み合わせられ得、それによって、コンタクトレンズ装着者の視力を低下させ得る。したがって、SPHAを引き起こすか、又はSPHAに影響を及ぼすかのいずれかである多くの要因を考慮する体系的な方法でソフトコンタクトレンズを設計し、その結果、様々な球面度数にわたって改善された視力を有するコンタクトレンズのセットをもたらすことが有利であろう。
【発明の概要】
【課題を解決するための手段】
【0004】
本明細書に記載されるのは、目標球面度数に応じてレンズ設計に異なるレベルの球面収差を組み込むことに基づいて、ソフトコンタクトレンズ及びレンズセット及びソフトコンタクトレンズ及びレンズセットを設計する方法である。異なるレベルの球面収差は、母集団平均眼球球面収差プロファイル及び球面コンパレータレンズ球面収差プロファイルを補償することによって選択される。本発明の方法は、球面度数範囲にわたって組み込まれる球面収差の異なるレベルの数を制限することによって、球面収差誤差に対処する効率的な手段を提供する。本発明のソフトコンタクトレンズ及びレンズセットは、同じベースカーブ半径を有する球面コンパレータレンズよりも改善された視力を提供する。
【0005】
一実施形態によれば、コンタクトレンズのセットが提供され、セットにおける各コンタクトレンズは、ユーザの眼に接して配置されるように適合された第1の表面及び反対側の第2の表面を有し、第1の表面及び第2の表面は、レンズの周縁を画定するレンズ縁で交わる。各レンズは、正のレンズ屈折力では、SPHAプロファイルがゼロ(0)D/mm以下かつ-0.055D/mm以上であり、約-3D~0Dの負のレンズ屈折力では、SPHAプロファイルが0.0167SP D/mm以下かつ-0.055D/mm以上であり、-3.5D~約-3Dの負のレンズ屈折力では、SPHAプロファイルが0.0167SP D/mm以下かつ0.0356SP+0.0467D/mm以上であり、-8D~-3.5Dの負のレンズ屈折力では、SPHAプロファイルが0.0082SP-0.0301D/mm以下かつ0.0356SP+0.0467D/mm以上であるような屈折力プロファイル及びSPHAプロファイルを有する。「SP」は、これらの数式において球面度数を示し、SPは、ディオプターで表される。
【0006】
別の実施形態では、-8D~-3.5Dの負の屈折力では、SPHAプロファイルは、0.0082SP-0.0301D/mm以下かつ0.0167SP D/mm超であり、更に別の実施形態では、-8D~-3Dの負の屈折力では、SPHAプロファイルは、0.0167SP D/mm未満かつ0.0356SP+0.0467D/mm以上である。
【0007】
第1の表面及び第2の表面は、非球面、球面、及びそれらの混合からなる群から選択されたものであり得、トーリックレンズであり得、及び/又は多焦点レンズであり得る。
【0008】
コンタクトレンズのセットは、コンタクトレンズの球面コンパレータセットと比較して、改善された視力を提供し得る。
【0009】
また、提供されるのは、コンタクトレンズのセットであり、セットにおける各コンタクトレンズは、ユーザの眼に接して配置されるように適合された第1の表面及び反対側の第2の表面を有し、第1の表面及び第2の表面は、レンズの周縁を画定するレンズ縁で交わる。レンズは、正のレンズ屈折力では、SPHAプロファイルが0D/mmに等しく、約-3.5D~0Dの負のレンズ屈折力では、SPHAプロファイルが0.0167SP D/mmに等しく、-8D~-3.5Dの負のレンズ屈折力では、SPHAプロファイルが0.0082SP-0.0301D/mmであるような屈折力及びSPHAプロファイルを有する。
【0010】
第1の表面及び第2の表面は、非球面、球面、及びそれらの混合からなる群から選択されたものであり得、セットは、トーリックレンズを含み得、及び/又はセットは、多焦点レンズを含み得る。更に、セットは、コンタクトレンズの球面コンパレータセットと比較して、改善された視力を提供し得る。
【0011】
更に別の実施形態では、コンタクトレンズのセットが提供され、セットにおける各コンタクトレンズは、ユーザの眼に接して配置されるように適合された第1の表面及び反対側の第2の表面を有し、第1の表面及び第2の表面は、レンズの周縁を画定するレンズ縁で交わる。各レンズは、約-3D~0Dの負の屈折力及び全ての正の屈折力では、SPHAプロファイルが-0.055D/mmに等しく、約-8D~約-3Dの負のレンズ屈折力では、SPHAプロファイルが0.0356SP+0.0467D/mmに等しいような屈折力プロファイル及びSPHAプロファイルを有する。
【0012】
第1の表面及び第2の表面は、非球面、球面、及びそれらの混合からなる群から選択されたものであり得、レンズは、トーリックレンズであり得、及び/又はレンズは、多焦点レンズであり得る。
【0013】
コンタクトレンズのセットは、コンタクトレンズの球面コンパレータセットと比較して、改善された視力を提供し得る。
【0014】
また、提供されるのは、コンタクトレンズのセットであり、セットにおける各コンタクトレンズは、ユーザの眼に接して配置されるように適合された第1の表面及び反対側の第2の表面を有し、第1の表面及び第2の表面は、レンズの周縁を画定するレンズ縁で交わる。各レンズは、-2.9D~0Dの負の屈折力及び全ての正の屈折力では、SPHAプロファイルが-0.055D/mmに等しく、約-8D~-2.9Dの負のレンズ屈折力では、SPHAプロファイルが0.0356SP+0.0467D/mmに等しいような屈折力及びSPHAプロファイルを有する。
【0015】
第1の表面及び第2の表面は、非球面、球面、及びそれらの混合からなる群から選択されたものであり得、レンズは、トーリックレンズであり得、及び/又はレンズは、多焦点レンズであり得る。
【0016】
コンタクトレンズのセットは、コンタクトレンズの球面コンパレータセットと比較して、改善された視力を提供し得る。
【0017】
母集団平均眼球球面収差プロファイルを測定するステップと、母集団平均眼球球面収差プロファイルを球面コンパレータレンズ球面収差プロファイルと比較するステップと、球面コンパレータレンズ球面収差プロファイル並びに球面度数及び製造精度の関数としてのユーザ調節のレベルに関連して、母集団平均眼球球面収差プロファイルを補償する球面収差プロファイルを作成するステップと、ある範囲の球面度数にわたって球面収差プロファイルを呈するソフトコンタクトレンズのセットを形成するステップと、を含む、コンタクトレンズのセットを製造するための方法も、提供される。
【0018】
球面収差プロファイルは、球面度数範囲にわたってゼロ(0)D/mm以下であり得る。球面収差プロファイルは、球面度数範囲にわたって2つ又は3つ以上の一次方程式によって記述され得る。レンズのセットは、非球面レンズ、トーリックレンズ、多焦点レンズ、及びそれらの組み合わせからなり得る。
【図面の簡単な説明】
【0019】
以下の図面は、実施例として、ただし限定としてではなく、本開示で考察される様々な実施例を概して示したものである。図面のうち:
図1】母集団平均眼球SPHAプロファイル(線100)が、球面コンパレータレンズSPHAプロファイル(線101)と比較して、度数の関数としてどのように変化するかを示す。
図2】母集団平均眼球SPHAプロファイル(線100)及び球面コンパレータレンズSPHAプロファイル(線101)と比較した、本発明のレンズ設計の実施例レンズ1(線102)及び実施例レンズ2(線103)のSPHAプロファイルを示す。
図3】本発明のレンズ設計の実施例レンズ1(線102)及び実施例レンズ2(線103)のSPHAプロファイルのみを示す。
図4】実施例レンズ1及び2について測定された単眼及び両眼視力を示す。
【発明を実施するための形態】
【0020】
述べられるように、本発明は、改善されたソフトコンタクトレンズ設計、そのようなレンズを設計するための方法、及びSPHAによって引き起こされる像ぼけを最小限に抑えることによって改善された視力を達成するレンズセットを提供する。本設計は、以下に記載されるような患者母集団にわたる眼球SPHA、並びに製造変動、及び様々な屈折異常を有する患者の調節能力からのSPHAに対する効果を考慮する。
【0021】
母集団平均眼球SPHAプロファイルは、平均計算眼球SPHAを球面度数(P)の関数としてプロットすることによって作成された。計算眼球SPHAは、約3500人の対象から臨床的に測定された波面から判定された。波面は、Visionix,Luneau Technology Inc.から入手可能な機器などの波面センサ又は収差計を使用して取得された。眼球度数プロファイルP(r)は、
【0022】
【数1】

として定義され、ここで、wは、測定された波面であり、rは、レンズ半径である。眼球度数プロファイルP(r)は、偶数多項式:P(r)=P+SA+SA+SA+...に適合された。二次係数(SA)は、眼球SPHAであり、D/mmの単位を有し、ここで、D=ディオプター及びmm=ミリメートルである。上記の方法論に従って、眼球SPHAは、図1の線100によって示されるような平均計算眼球SPHAを生成するために、全ての対象について計算され、次いで、平均化された。また、図1に線101として示されているのは、8.5mmのベースカーブ半径を有するレンズについての計算コンパレータレンズ球面収差プロファイルである。異なるベースカーブ半径を有する他のコンパレータレンズを使用することができる。全てのコンパレータレンズが線形又はほぼ線形のSPHAプロファイルを呈するわけではない。いずれの場合も、所与のベースカーブ半径について、負の球面度数を有するコンパレータレンズは、負のSPHAを呈し、正の球面度数を有するコンパレータレンズは、正のSPHAを呈する。平面レンズのみは、球面度数にかかわらずゼロSPHAを呈する。
【0023】
レンズ設計の理論的根拠
本発明のレンズセットは、いくつかの特定の設計原理及び臨床観察を組み込む。第1に、図2を参照すると、本発明のレンズ設計は、眼球SPHAを単純に相殺することを目標とするのではなく、眼球SPHA、製造ばらつき、及び調節能力を考慮して、特に目標とされる球面度数範囲内に有限レベルのゼロ又は負のSPHAを組み込み、全ての球面度数に対して正味ゼロのSPHAをもたらす。このようにして正味ゼロのSPHAを設計することは、SPHA及び全体的な視力に影響を及ぼす2つの他の相互に関連する要因、すなわち、レンズ製造によるSPHAにおけるばらつき及びコンタクトレンズ装着者に利用可能な調節量のばらつきを無視する。典型的な製造上のSPHAばらつきは、球面度数に依存し、-0.02D/mm~+0.02D/mmの範囲において較正することができる。負のSPHAは、コンタクトレンズ装着者の調節によって少なくとも部分的に補償されることができるため、製造による負のSPHAばらつきは、正のSPHAばらつきよりも劇的に視力に影響を及ぼさない。したがって、SPHAは、正のシフトのものよりも負のサイドシフトに向かうSPHAについてより大きい耐性を有する。概して、[3、4、及び5mmの瞳孔サイズで]-0.1~約+0.03D/mm内の製造公差は、SPHA精度要件を満たすのに十分に良好である。近視者及び遠視者は、概して異なる調節能力を有するので、別の有効な設計特徴は、SHPAプロファイルを球面度数範囲にわたって2つ~5つのセグメントにセグメント化することである。このようにして、レンズ設計に組み込まれるSPHAの量は、屈折異常の範囲にわたってコンタクトレンズ装着者の調節のレベルに合わせて調整されることができる。セグメントの好ましい数は、2つ又は3つのセグメントである。
【0024】
本発明のレンズ設計は、かなりの調節ラグなしに眼の遠見視力を最適化するのに最も適している。しかしながら、眼が老化するにつれて、しかし老眼の発症前に、小さい又は中程度の調節ラグが発生し、近見視力に著しく影響を及ぼし得る。この場合、本発明のレンズ設計は、球面コンパレータレンズによって呈されるものよりも多くの負のSPHAを高いマイナスの度数に組み込み、より少ない量の負のSPHAをより低いマイナスの度数及びプラスの度数に組み込む。正確な値は、マイナス3Dレンズが典型的に最良の自発視を提供することを確認することによって部分的に判定される。図1に示されるマイナス3Dコンパレータ球面レンズは、おおよそマイナス0.05D/mmのSPHAを呈した。
【0025】
要約すると、本発明のレンズ設計は、SPHAプロファイルから計算されたSPHA値を規定する。SPHAプロファイルは、連続セグメント化関数として定義され、関数における各セグメントは、SPHA値(D/mm)を、その球面度数(D)に応じて本発明のレンズ設計に関連付ける。SPHA値は、ゼロ(0)D/mm以下であり、これは、臨床的に測定された眼球SPHA、製造誤差、及び調節能力を補償する。
【0026】
図に戻って参照すると、先で述べられるように、図1は、約8.5mmのベース曲率及び約1.42の屈折率を有する材料を有するレンズについて、球面コンパレータレンズSPHAプロファイル(101)と比較して、度数の関数として母集団SPHAプロファイル(線100)がどのように変化するかを示す。球面対照レンズのSPHAプロファイルが計算され、式Y=0.0167SPによって定義される実質的に線形であり、これは、負の度数では負であり、正の度数では正である。「SP」は、球面度数を指し、ディオプター(D)単位である。上で説明されるように母集団データから導出された母集団SPHAプロファイルは、全ての球面度数ではわずかに正である。
【0027】
図2は、図1のSPHAプロファイルだけでなく、本発明の2つの例示的なレンズセットの実施形態のSPHAプロファイルも例解する。線102によって例解される実施例レンズ1として述べられる第1の実施形態では、正の球面度数では、SPHAプロファイルは、おおよそゼロである。約-3.5D~-3.0Dの負の球面度数では、SPHAプロファイルは、0.0356SP+0.0467D/mmによって定義され、-3.5D超である負の球面度数では、SPHAプロファイルは、0.0082SP-0.0301D/mmによって定義される。線103によって例解される実施例レンズ2について、約-3.0D超であり、全ての正の屈折力を含む負の屈折力では、SPHAプロファイルは、-0.055D/mmによって定義され、一方、約-3D未満の全ての屈折力では、SPHAプロファイルは、y=0.0356SP+0.0467D/mmによって定義される。
【0028】
実施例レンズ1及び実施例レンズ2の特定のSPHAプロファイルは、上記で具体的に詳細に記載されているが、球面対照レンズと比較して、球面度数の全範囲にわたって改善された視覚性能を有するレンズのセットは、正の屈折力では、2つの実施例レンズの図2に描示される線上又は線の間に入るSPHAプロファイルによって達成される。換言すれば、Y=0以下かつY=-0.055D/mm以上である。同様に、0~-3Dの屈折力では、SPHAプロファイルは、Y=0.0167SP D/mm以下かつY=-0.055D/mm以上であり、-3.5D~-3.0Dの屈折力では、SPHAプロファイルは、0.0167SP D/mm以下かつ0.0356SP+0.0467D/mm以上であり、-8.0D~-3.5Dの負の屈折力では、SPHAプロファイルは、0.0167SP D/mm以下かつ0.0356SP+0.0467D/mm以上である。
【0029】
先で述べられるように、正の度数では、本明細書に記載のレンズセットは、球面対照レンズよりも少ないSPHAを組み込むように設計され、改善された視力を提供する。より高い負の度数では、正常な調節がレンズにおけるいくらかのSPHAに対抗することができるので、SPHAは、あまり重要ではない。
【0030】
本明細書に記載されるレンズセットは、レンズ球面度数の範囲にわたって試験された。視力検査は、39人の対象(78個の眼)に対して実行され、36個の眼は、-4D~-7.25Dの球面度数を有し、20個の眼は、-.075D~-3.0Dの球面度数を有し、22個の眼は、0.5D~3.0Dの球面度数を有していた。対象は、18歳~65歳であり、全員が両眼に使い捨てシリコーンハイドロゲル又はシリコーンハイドロゲルソフトレンズ(1日、2週間又は毎月のレンズ)を習慣的に使用していた。全ての対象は、各眼において-0.75D以下の円柱誤差を有し、各眼において20/25(スネレン(Snellen)又は同等物)以上の矯正視力を有していた。
【0031】
視力は、単眼条件及び両眼条件の両方において、4メートル離れたスネレン視力表上の最小文字を読むように対象に依頼することによって測定された。視力は、表1に従ってlogMAR単位で表された。
【0032】
【表1】
【0033】
視力検査の結果は、一緒に平均され、単眼視力及び両眼視力の両方について図4に反映された。例解されるように、実施例レンズ1及び実施例レンズ2の両方の視力は、単眼視力及び両眼視力の両方について、20/20視力(LogMARスケールでゼロによって表される)超であり、本発明のレンズセットが、球面度数の範囲にわたって改善された視力を提供することを示した。
【0034】
〔実施の態様〕
(1) コンタクトレンズのセットであって、前記セットにおける各コンタクトレンズを備え、前記各コンタクトレンズが、ユーザの眼に接して配置されるように適合された第1の表面及び反対側の第2の表面であって、前記レンズの周縁を画定するレンズ縁で交わる、第1の表面及び第2の表面と、屈折力プロファイルと、球面収差(SPHA)プロファイルとを有し、
正のレンズ屈折力では、前記SPHAプロファイルは、ゼロ(0)D/mm以下かつ-0.055D/mm以上であり、
約-3D~0Dの負のレンズ屈折力では、前記SPHAプロファイルは、0.0167SP D/mm以下かつ-0.055D/mm以上であり、
-3.5D~約-3Dの負のレンズ屈折力では、前記SPHAプロファイルは、0.0167SP D/mm以下かつ0.0356SP+0.0467D/mm以上であり、
-8D~-3.5Dの負のレンズ屈折力では、前記SPHAプロファイルは、0.0082SP-0.0301D/mm以下かつ0.0356SP+0.0467D/mm以上である、コンタクトレンズのセット。
(2) -8D~-3.5Dの負の屈折力では、前記SPHAプロファイルは、0.0082SP-0.0301D/mm以下かつ0.0167SP D/mm超である、実施態様1に記載のコンタクトレンズのセット。
(3) -8D~約-3Dの負の屈折力では、前記SPHAプロファイルは、0.0167SP D/mm未満かつ0.0356SP+0.0467D/mm以上である、実施態様1に記載のコンタクトレンズのセット。
(4) 前記第1の表面及び前記第2の表面は、非球面、球面、及びそれらの混合からなる群から選択されたものである、実施態様1に記載のコンタクトレンズのセット。
(5) 前記セットは、トーリックレンズを備える、実施態様1に記載のコンタクトレンズのセット。
【0035】
(6) 前記セットは、多焦点レンズを備える、実施態様1に記載のコンタクトレンズのセット。
(7) 前記セットは、コンタクトレンズの球面コンパレータセットと比較して改善された視力を備える、実施態様1に記載のコンタクトレンズのセット。
(8) コンタクトレンズのセットであって、前記セットにおける各コンタクトレンズを備え、前記各コンタクトレンズが、ユーザの眼に接して配置されるように適合された第1の表面及び反対側の第2の表面であって、前記レンズの周縁を画定するレンズ縁で交わる、第1の表面及び第2の表面と、屈折力と、球面収差(SPHA)プロファイルとを有し、
正のレンズ屈折力では、前記SPHAプロファイルは、0D/mmに等しく、
約-3.5D~0Dの負のレンズ屈折力では、前記SPHAプロファイルは、0.0167SP D/mmに等しく、
-8D~-3.5Dの負のレンズ屈折力では、前記SPHAプロファイルは、0.0082SP-0.0301D/mmである、コンタクトレンズのセット。
(9) 前記第1の表面及び前記第2の表面は、非球面、球面、及びそれらの混合からなる群から選択されたものである、実施態様8に記載のコンタクトレンズのセット。
(10) 前記セットは、トーリックレンズを備える、実施態様8に記載のコンタクトレンズのセット。
【0036】
(11) 前記セットは、多焦点レンズを備える、実施態様8に記載のコンタクトレンズのセット。
(12) 前記セットは、コンタクトレンズの球面コンパレータセットと比較して改善された視力を提供する、実施態様8に記載のコンタクトレンズのセット。
(13) 前記セットは、コンタクトレンズの球面コンパレータセットと比較して改善された視力を提供する、実施態様8に記載のコンタクトレンズのセット。
(14) コンタクトレンズのセットであって、前記セットにおける各コンタクトレンズを備え、前記各コンタクトレンズが、ユーザの眼に接して配置されるように適合された第1の表面及び反対側の第2の表面であって、前記レンズの周縁を画定するレンズ縁で交わる、第1の表面及び第2の表面と、屈折力プロファイルと、球面収差(SPHA)プロファイルとを有し、
約-3D~0Dの負の屈折力及び全ての正の屈折力では、前記SPHAプロファイルは、-0.055D/mmに等しく、
約-8D~約-3Dの負のレンズ屈折力では、前記SPHAプロファイルは、0.0356SP+0.0467D/mmに等しい、コンタクトレンズのセット。
(15) 前記第1の表面及び前記第2の表面は、非球面、球面、及びそれらの混合からなる群から選択されたものである、実施態様14に記載のコンタクトレンズのセット。
【0037】
(16) 前記セットは、トーリックレンズを備える、実施態様14に記載のコンタクトレンズのセット。
(17) 前記セットは、多焦点レンズを備える、実施態様14に記載のコンタクトレンズのセット。
(18) 前記セットは、コンタクトレンズの球面コンパレータセットと比較して改善された視力を提供する、実施態様14に記載のコンタクトレンズのセット。
(19) 前記セットは、コンタクトレンズの球面コンパレータセットと比較して改善された視力を提供する、実施態様14に記載のコンタクトレンズのセット。
(20) コンタクトレンズのセットであって、前記セットにおける各コンタクトレンズを備え、前記各コンタクトレンズが、ユーザの眼に接して配置されるように適合された第1の表面及び反対側の第2の表面であって、前記レンズの周縁を画定するレンズ縁で交わる、第1の表面及び第2の表面と、屈折力と、球面収差(SPHA)プロファイルとを有し、
-2.9D~0Dの負の屈折力及び全ての正の屈折力では、前記SPHAプロファイルは、-0.055D/mmに等しく、
約-8D~-2.9Dの負のレンズ屈折力では、前記SPHAプロファイルは、0.0356SP+0.0467D/mmに等しい、コンタクトレンズのセット。
【0038】
(21) 前記第1の表面及び前記第2の表面は、非球面、球面、及びそれらの混合からなる群から選択されたものである、実施態様20に記載のコンタクトレンズのセット。
(22) 前記セットは、トーリックレンズを備える、実施態様20に記載のコンタクトレンズのセット。
(23) 前記セットは、多焦点レンズを備える、実施態様20に記載のコンタクトレンズのセット。
(24) 前記セットは、コンタクトレンズの球面コンパレータセットと比較して改善された視力を提供する、実施態様20に記載のコンタクトレンズのセット。
(25) コンタクトレンズのセットを製造する方法であって、前記方法は、
a)母集団平均眼球球面収差プロファイルを測定することと、
b)前記母集団平均眼球球面収差プロファイルを球面コンパレータレンズ球面収差プロファイルと比較することと、
c)球面コンパレータレンズ球面収差プロファイル並びに球面度数及び製造精度の関数としてのユーザ調節のレベルに関連して、前記母集団平均眼球球面収差プロファイルを補償する球面収差プロファイルを作成することと、
d)ある範囲の球面度数にわたって前記球面収差プロファイルを呈するソフトコンタクトレンズのセットを形成することと、を含む、方法。
【0039】
(26) 前記球面収差プロファイルは、前記球面度数範囲にわたってゼロ(0)D/mm以下である、実施態様25に記載の方法。
(27) 前記球面収差プロファイルは、前記球面度数範囲にわたって2つ又は3つ以上の一次方程式によって記述される、実施態様26に記載の方法。
(28) 前記コンタクトレンズのセットは、非球面レンズ、トーリックレンズ、多焦点レンズ、及びそれらの組み合わせからなる、実施態様25に記載の方法。
図1
図2
図3
図4
【国際調査報告】