(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公表特許公報(A)
(11)【公表番号】
(43)【公表日】2024-09-26
(54)【発明の名称】多層トランスデューサ
(51)【国際特許分類】
H04R 19/02 20060101AFI20240918BHJP
H04R 3/00 20060101ALI20240918BHJP
H04R 31/00 20060101ALI20240918BHJP
【FI】
H04R19/02
H04R3/00 320
H04R31/00 Z
【審査請求】未請求
【予備審査請求】未請求
(21)【出願番号】P 2024517395
(86)(22)【出願日】2022-09-21
(85)【翻訳文提出日】2024-04-30
(86)【国際出願番号】 GB2022052381
(87)【国際公開番号】W WO2023047096
(87)【国際公開日】2023-03-30
(32)【優先日】2021-09-21
(33)【優先権主張国・地域又は機関】GB
(81)【指定国・地域】
(71)【出願人】
【識別番号】521473170
【氏名又は名称】ワーウィック アコースティックス リミテッド
(74)【代理人】
【識別番号】110000556
【氏名又は名称】弁理士法人有古特許事務所
(72)【発明者】
【氏名】ライル, ベンジャミン マーティン
(72)【発明者】
【氏名】ヘッジ, ジェイムズ
(72)【発明者】
【氏名】エヴァンズ, サミュエル ジョン
(72)【発明者】
【氏名】マリオット, アシュリー
【テーマコード(参考)】
5D021
5D220
【Fターム(参考)】
5D021CC04
5D021CC09
5D021CC20
5D220BA23
(57)【要約】
静電トランスデューサ(200)は、第一及び第二の可撓性導電膜(204、206)と第一及び第二の導電ステータ(208、210)とを備える。膜(204、206)及びステータ(208、210)は、ステータ(208、210)の間に膜(204、206)が存在する層状構成で組み立てられる。静電トランスデューサ(200)は、使用時に膜(204、206)とステータ(208、210)との間に静電力を生じさせて膜(204、206)のステータ(208、210)に対する動きを起こさせる電位を印加するように構成される。第一及び第二の可撓性導電膜(204、206)は、それぞれ第一及び第二の有効コンプライアンスを有し、第一の有効コンプライアンスは、第二の有効コンプライアンスよりも少なくとも10%大きい。
【選択図】
図2a
【特許請求の範囲】
【請求項1】
静電トランスデューサであって、
第一及び第二の可撓性導電膜と、
第一及び第二の導電性ステータと
を備え、
前記膜及び前記ステータが、前記ステータ間に前記膜が存在する層状構成で組み立てられており、
前記静電トランスデューサが、使用時に前記膜と前記ステータとの間に静電気力を生じさせて前記膜の前記ステータに対する動きを起こさせる電位を印加するように構成され、
前記第一及び第二の可撓性導電膜が、それぞれ第一及び第二の有効コンプライアンスを有し、前記第一の有効コンプライアンスは、前記第二の有効コンプライアンスよりも少なくとも10%大きい、静電トランスデューサ。
【請求項2】
前記第二の膜の厚さが、前記第一の膜の厚さよりも少なくとも3%大きい、請求項1に記載の静電トランスデューサ。
【請求項3】
前記第一の膜の厚さが、100μmより小さく5μmより大きい、請求項1または2に記載の静電トランスデューサ。
【請求項4】
前記第一及び第二の膜が、前記第二の膜の引張応力が前記第一の膜の引張応力よりも少なくとも5%大きいように、異なる引張応力で前記トランスデューサに取り付けられている、請求項1、2または3に記載の静電トランスデューサ。
【請求項5】
前記第一の膜の引張応力が、2MPaから50MPaの範囲である、請求項1から4のいずれかに記載の静電トランスデューサ。
【請求項6】
前記第一及び第二の膜が、異なる材料から作られている、請求項1から5のいずれかに記載の静電トランスデューサ。
【請求項7】
それぞれの膜が積層構造を備える、請求項1から6のいずれかに記載の静電トランスデューサ。
【請求項8】
それぞれの膜が、その片側に導電層を有し、前記導電層上に積層され接合された追加の可撓性絶縁層を有していない、可撓性絶縁材料層を備えるか、またはこの層からなる、請求項1から6のいずれかに記載の静電トランスデューサ。
【請求項9】
前記膜の間で、厚さ、材料、及び引張応力から選択される1つのパラメータまたは特性のみが異なる、請求項1から8のいずれかに記載の静電トランスデューサ。
【請求項10】
前記第一の膜及び前記第二の膜は、これらの間に間隙を有して前記トランスデューサ内に取り付けられる、請求項1から9のいずれかに記載の静電トランスデューサ。
【請求項11】
前記トランスデューサが、前記第一の膜と前記第二の膜との間に密閉された封入された空気の塊を有する、請求項1から10のいずれかに記載の静電トランスデューサ。
【請求項12】
前記第一の膜と前記第二の膜との間に介在要素が存在しない、請求項1から11のいずれかに記載の静電トランスデューサ。
【請求項13】
前記第一の膜と前記第二の膜との間の間隔が少なくとも5μmである、請求項12に記載の静電トランスデューサ。
【請求項14】
前記第一及び第二の膜が電気的に結合される、請求項12または13に記載の静電トランスデューサ。
【請求項15】
前記トランスデューサが、前記第一のステータと前記第二のステータとの間に一つまたは複数のさらなる膜をさらに備える、請求項1から14のいずれかに記載の静電トランスデューサ。
【請求項16】
前記第一の膜と前記第二の膜との間に、さらなる導電性ステータが設けられている、請求項1から11のいずれかに記載の静電トランスデューサ。
【請求項17】
前記第一の膜と前記第二の膜との間の間隔が、少なくとも20μmである、請求項16に記載の静電トランスデューサ。
【請求項18】
前記さらなるステータが、空気が通過することを可能にする穿孔を備える、請求項16または17に記載の静電トランスデューサ。
【請求項19】
前記膜が互いに電気的に絶縁されている、請求項16から18のいずれかに記載の静電トランスデューサ。
【請求項20】
前記トランスデューサが、N個のステータ及びN-1個の膜を備え、Nは少なくとも4であり、前記ステータ及び膜が、前記第一及び第二のステータが最も外側にある交互の層状構成で配置される、請求項16から19のいずれかに記載の静電トランスデューサ。
【請求項21】
前記第一のステータ、前記第二のステータ、及び/または前記さらなるステータが、前記膜に面する一つまたは複数の表面上に絶縁コーティングを備える、請求項1から20のいずれかに記載の静電トランスデューサ。
【請求項22】
静電トランスデューサの製造方法であって、
第一及び第二の可撓性導電膜、並びに第一及び第二の導電性ステータを提供するステップと、
前記第一及び第二の可撓性導電膜と前記第一及び第二のステータとを、前記ステータの間に前記膜が存在する、層状構成で組み立てるステップと、
使用時に前記膜と前記ステータとの間に静電気力を生じさせて前記膜の前記ステータに対する動きを起こさせる電位を印加するように、前記静電トランスデューサを構成するステップと、
を含み、
前記第一及び第二の可撓性導電膜が、前記層状構成で組み立てられた後、それぞれ第一及び第二の有効コンプライアンスを有し、前記第一の有効コンプライアンスは、前記第二の有効コンプライアンスよりも少なくとも10%大きい、製造方法。
【請求項23】
前記第一及び第二の膜が、前記トランスデューサの製造中に、前記第二の膜の引張応力が前記第一の膜の引張応力よりも少なくとも5%大きいように、異なる引張応力下に置かれる、請求項22に記載の製造方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、静電トランスデューサに関し、特にオーディオ信号を再生するのに適したラウドスピーカに関するが、これに限定されない。
【背景技術】
【0002】
従来の静電ラウドスピーカは、キャパシタを形成するために、二枚の穴の開いた導電性バックプレートの間に配置された導電膜を備える。DCバイアスが膜に印加され、AC信号電圧が二つのバックプレートに印加される。この信号によって、帯電した膜に静電気力が働き、これは膜の両側で空気を駆動するように働く。
【0003】
このような従来の静電ラウドスピーカのバリエーションが知られている。例えば、静電トランスデューサは、二つの膜を備えることができる。このような構成は、音圧レベル(SPL)の増加など、トランスデューサの性能に関連していくつかの利点を提供することができる。しかし、この種の静電トランスデューサの音響性能を改善する必要性が、依然として存在する。
【発明の概要】
【0004】
第一の態様から見ると、本発明は静電トランスデューサを提供し、これは、
第一及び第二の可撓性導電膜と、
第一及び第二の導電性ステータとを備え、
膜及びステータは、ステータ間に膜が存在する層状構成で組み立てられ、
静電トランスデューサは、使用時に膜とステータとの間に静電気力を生じさせて前記膜の前記ステータに対する動きを起こさせる電位を印加するように構成され、
第一及び第二の可撓性導電膜は、それぞれ第一及び第二の有効コンプライアンスを有し、第一の有効コンプライアンスは、第二の有効コンプライアンスよりも少なくとも10%大きい。
【0005】
本発明の第一の態様は、静電トランスデューサを製造する方法にも及び、この方法は、
第一及び第二の可撓性導電膜、並びに第一及び第二の導電性ステータを提供するステップと、
第一及び第二の可撓性導電膜と、第一及び第二のステータとを、ステータ間に膜が存在する層状構成で組み立てるステップと、
使用時に膜とステータとの間に静電気力を生じさせて膜のステータに対する動きを起こさせる電位を印加するように、前記静電トランスデューサを構成するステップと
を含み、
ここで、第一及び第二の可撓性導電膜は、層状構成での組み立て後、それぞれ第一及び第二の有効コンプライアンスを有し、第一の有効コンプライアンスは、第二の有効コンプライアンスよりも少なくとも10%大きい。
【0006】
当業者には理解されるように、「コンプライアンス」は、材料の剛性の逆数を指す当技術分野の用語であり、すなわち、コンプライアンスは、材料に加えられる単位力当たりに生じる材料の伸びを指す。材料(すなわち、この場合膜)が張力下で保持されるとき、張力は、単位力当たりに生じる伸びに影響を及ぼす。これも当業者には理解されるように、材料が保持される張力を考慮した、有効コンプライアンスを定義することができる。したがって、本明細書で使用される「有効コンプライアンス」という用語は、膜が層状構成で取り付けられたときの膜の張力を考慮に入れた有効コンプライアンスを指すことを、理解されたい。したがって、各膜の有効コンプライアンスは、トランスデューサ内で層状構成に組み立てられたときに、それぞれの膜に対して(それぞれの張力で)定義される。
【0007】
また、当業者は理解するように、材料のコンプライアンス(したがって、張力下で保持される材料の有効コンプライアンス)は、必ずしも等方性ではなく、例えば、コンプライアンス及び有効コンプライアンスは、異方性(例えば、直交性)である可能性がある。一般に、コンプライアンス及び有効コンプライアンスは、それぞれテンソルとして表すことができる。本発明の文脈において、第一の膜の有効コンプライアンスが第二の膜の有効コンプライアンスよりも少なくとも10%(または任意の他の特定のパーセンテージ)大きいと言う場合、該当する場合、これは、第一の膜の有効コンプライアンステンソルにおける各非ゼロ成分が、第二の膜の有効コンプライアンステンソルにおける対応する成分よりも少なくとも、指定されたパーセンテージだけ大きいことを意味すると理解できる。
【0008】
一般に、トランスデューサ内に層状構成の二つの膜を設けることで、いくつかの利点を提供することができる。例えば、静電トランスデューサ内に第二の薄膜を設けることによって、トランスデューサの出力を増大させることができ、すなわち、与えられた入力電圧に対するSPL (音圧レベル)を増大させることができる。しかしながら、本出願人は、この構成が歪み(特に、共に共振する二つの膜から生じる相互変調歪み)を生じさせる可能性があり、周波数応答を改善させることが有益であることに注目した。
【0009】
本出願人は、異なる有効コンプライアンスを有する膜を提供することにより、相互変調歪みの問題を軽減または除去することができるとともに、トランスデューサの性能をさらに改善することができることを認識した。トランスデューサ内の単一の膜は、膜の有効コンプライアンスに依存する特有の周波数応答を有する。単一の膜を有するトランスデューサの典型的な周波数応答の概略図を
図1に示す。振動の振幅は、共振ピーク104まで周波数とともに増加し、ピーク後に減少し、次いで、より高い周波数において単調増加することが分かる。異なる有効コンプライアンスは、例えば共振ピークの位置を変更するなど、異なる周波数応答を提供する。
【0010】
異なる有効コンプライアンスを有する第二の膜を提供することは、周波数応答に対する追加の寄与を提供し、ここで、追加の寄与は、異なる形状、例えば、異なる共鳴ピークを有する。したがって、トランスデューサ全体の周波数応答は、二つの膜の周波数応答を組み合わせた複合周波数応答である。コンプライアンスの差が十分に大きいとき、すなわち少なくとも10%であるとき、複合周波数応答は、有益に改善された特性を有する。例えば、二つの異なる共鳴ピークの寄与により、単一の膜と比較して、または同じ有効コンプライアンスを有する二つの膜と比較して、より平坦な周波数応答を提供できる可能性がある。これは、上述したSPLの増加との利点を依然として提供しつつ、二つの膜を提供することから生じうる歪みの影響を、有利に緩和することができる。
【0011】
有効コンプライアンスの差、すなわち少なくとも10%が、二つの膜を有するトランスデューサにおける製造公差に起因して生じる差よりも著しく大きいことは、上記の開示に照らして当業者によって理解されるであろう。膜の公称有効コンプライアンスと、製造公差(例えば、膜寸法及び/または膜張力)に起因して生じ得る実際の有効コンプライアンスとの間の差は、1%~2%以下であろう。したがって、有効コンプライアンスの差は、不注意で生じたものはなく、意図的に提供されるものである。
【0012】
一連の実施形態では、第一の有効コンプライアンスは、第二の有効コンプライアンスよりも少なくとも15%、例えば、少なくとも20%、少なくとも25%、または少なくとも30%大きい。
【0013】
第一の有効コンプライアンスと第二の有効コンプライアンスとの間の差は、任意の適切な方法で、例えば、異なる膜材料及び/または膜材料特性によって、異なる膜厚によって、異なる膜張力によって、他の膜特性または寸法によって、またはこれらのうちの二つ以上の組合せによって、達成することができる。
【0014】
第一及び第二の膜は、異なる厚さを有してもよい。第一及び第二の膜が異なる厚さを有する結果として、第一の有効コンプライアンスは、第二の有効コンプライアンスよりも全体的にまたは部分的に大きくすることができる。
【0015】
第二の膜の厚さは、第一の膜の厚さよりも少なくとも3%、例えば少なくとも5%、例えば少なくとも10%大きくてもよい。
【0016】
第一の膜の厚さは、100μm未満、例えば50μm未満、例えば20μm未満、例えば10μm未満であってもよい。第一の膜の厚さは、5μmより大きく、例えば10μmより大きく、例えば20μmより大きくてもよい。
【0017】
有効コンプライアンスの指定された差(例えば、有効コンプライアンスの10%の差)を作り出すために必要とされる厚さの差は、膜の特性、例えば、膜材料に依存しうる。しかしながら、本開示の教示に照らして、当業者であれば、コンプライアンスの指定された差を達成するために、適切な厚さを選択することが可能である。
【0018】
厚さは、平均厚さ、最小厚さ、または最大厚さを指してもよい。
【0019】
追加で又は代替として、第一及び第二の膜は、異なる引張応力でトランスデューサに取り付けられてもよい。例えば、各膜は、製造中に異なる張力がかけられてもよい。第一及び第二の膜がトランスデューサに取り付けられたときに異なる引張応力である結果、第一の有効コンプライアンスは、第二の有効コンプライアンスよりも全体的にまたは部分的に大きくなりうる。
【0020】
膜は、トランスデューサの製造中に異なる張力下に置かれてもよい。例えば、第一及び第二の膜は、異なる張力の下で、それぞれ第一及び第二のステータに、及び/又はスペーサ又はスペーサ構造に接合されてもよく、それによって、第一及び第二の膜が異なる引張応力を有するようになる。
【0021】
第二の膜の引張応力は、第一の膜の引張応力より少なくとも5%大きく、例えば少なくとも10%大きく、例えば少なくとも15%大きく、少なくとも20%大きく、例えば少なくとも25%大きくてもよい。
【0022】
第一の膜の引張応力は、2MPaから50MPa、例えば5MPaから30MPa、例えば10MPaから20MPaの範囲であってもよい。本明細書で使用される「引張応力」とは、膜の平均引張応力を指す。
【0023】
一つの限定的でない例示的な実施形態では、トランスデューサは、50μm厚のBOPP(二軸延伸ポリプロピレン)から作られた第一及び第二の膜を有し、第一の膜は20MPaの平均引張応力を有し、第二の膜は24MPaの平均引張応力を有する。
【0024】
追加で又は代替として、第一及び第二の膜は、異なる材料から作られていてもよい。第一の有効コンプライアンスは、第一及び第二の膜が異なる材料から作られている結果として、第二の有効コンプライアンスよりも全体的にまたは部分的に大きくなりうる。
【0025】
一つの限定的でない例示的な実施形態では、第一の膜はBOPPから作られ、第二の膜はBoPET(二軸延伸ポリエチレンテレフタレート)から作られ、第一及び第二の膜は同じ厚さ及び同じ引張応力を有する。これは、材料のグレードによっては、約32%の有効コンプライアンスの差を提供しうる。
【0026】
一連の実施形態では、各膜は、例えば可撓性絶縁層及び導電層を含む、積層構造を備える。例えば、各膜は、その片側に導電性(例えば、金属)層を有する可撓性絶縁層(例えば、ポリマー材料)を備え、さらなる可撓性絶縁層(例えば、同じまたは異なるポリマー材料)を導電性層の上に設ける(例えば、導電性層に接合される)ことができる。一つの特定の限定的でない例として、各膜は、その上に金またはアルミニウムの金属コーティングが蒸着されたBOPP層と、金属コーティング上に積層されそれに接着剤で接合されたさらなるBOPP層とを備えていてもよい。
【0027】
しかし、これは必須ではなく、一連の可能な実施形態では、各膜は、その一方の側(例えば、トランスデューサに取り付けられたときに、もう一方の膜とは反対側を向く膜の側)に導電層(例えば、蒸着された金属コーティング)を有する可撓性絶縁材料(例えば、ポリマー)の層を備えるか、またはこの層からなり、導電層上に積層され導電層に接合される追加の可撓性絶縁層を有さない。一つの特定の限定的でない例として、各膜は、片側に導電層(例えば、薄い金またはアルミニウムが蒸着されたコーティング)を有するBOPPのシートから作られてもよい。
【0028】
好ましくは、各膜について、異なるものとして指定されるパラメータ及び/または特性を除いて、膜特性、材料、及び取り付けに関する任意の他のパラメータは、製造公差内で同一である。上述のように、二つ以上のパラメータまたは特性が膜間で異なっていてもよく、例えば、有効コンプライアンスにおいて指定された差が達成されるように、膜は、異なる厚さであり異なる引張応力を有することができる。好ましい実施形態では、厚さ、材料、及び引張応力から選択される一つのパラメータ/特性のみが、膜間で異なる。したがって、任意の実施形態では、第一及び第二の膜は同じ厚さを有していてもよい。同様に、第一及び第二の膜は、同じ材料または同じ材料の組み合わせから作られていてもよい。同様に、第一及び第二の膜は、同じ引張応力でトランスデューサに取り付けられてもよい。
【0029】
上述のように、間に間隙を有する二つの膜を設けることにより、トランスデューサ性能を改善することができる可能性がある。一連の実施形態では、第一及び第二の膜は、それらの間に間隙を有してトランスデューサに取り付けられる。
【0030】
しかしながら、本出願人は、第一の膜と第二の膜との間に封入された空気の塊が設けられる場合、トランスデューサの性能における特定の利益及び改善が達成されうることを認識した。例えば、このような封入された塊は、音響インピーダンスを提供し、高周波数において膜を減衰させ、低周波数においてより大きな有効質量を提供する、空気クッションを提供することができる。これは、低い周波数を強化し、高い周波数を平坦化することができ、全体的に平坦な周波数応答が得られる。一連の実施形態では、トランスデューサは、第一の膜と第二の膜との間に密閉された封入された空気の塊を含む。
【0031】
これは、これ自体で新規かつ発明的であり、したがって、第二の態様から見て、本発明は静電トランスデューサを提供し、これは、
第一及び第二の可撓性導電膜と、
第一及び第二の導電性ステータと
を備え、
膜及びステータは、ステータ間に膜があり、第一の膜と第二の膜との間に密閉された封入された空気の塊を有する層状構成で組み立てられており、
静電トランスデューサは、使用時に膜とステータとの間に静電気力を生じさせて膜のステータに対する動きを起こさせる電位を印加するように構成される。
【0032】
本発明の第二の態様は、静電トランスデューサを製造する方法にまで及び、この方法は、
第一及び第二の可撓性導電膜、ならびに第一及び第二の導電性ステータを提供するステップと、
第一及び第二の可撓性導電膜と第一及び第二のステータとを、ステータの間に膜があり、第一及び第二の膜の間に密閉された封入された空気の塊を有する層状構成で組み立てるステップと、
膜とステータとの間に静電気力を生じさせて、膜のステータに対する動きを起こさせる電位を印加するように、静電トランスデューサを構成するステップと、
を含む。
【0033】
適用可能であれば、第一の態様のオプションの特徴は第二の態様の特徴であってもよく、逆もまた同様である。
【0034】
第一の膜と第二の膜との間に密閉された空気の塊が「封入されている」と言った場合、これは、空気が、隙間なくすべての側から取り囲まれていることを意味することを理解されたい。例えば、当業者は、薄膜が、それを通して気体の通過が可能となりうることを理解しているであろうし、したがって、密閉された空気の塊は、必ずしも、第一の膜と第二の膜との間に気密封止される必要はないことを理解されたい。より正確には、「封入されている」とは、空気が、音響波を伝達する形で塊の内外に自由に移動することができないことを意味する。通気孔(例えば、静的均等化のために設けられる)は、通常必要ではなく、好ましくは、通気孔は設けられない。
【0035】
第一及び第二の膜は、それらの間に位置するスペーサまたはスペーサ構造と共にトランスデューサ内に取り付けられてもよい。第一及び第二の膜は、スペーサまたはスペーサ構造と共に、空気の塊を封入することができる。例えば、スペーサまたはスペーサ構造は、第一及び第二の膜に、例えば、各膜のそれぞれの外縁に接合されて、封入された塊の空気を密閉することができる。追加のスペーサまたはスペーサ構造を使用して、第一及び第二の膜を、第一及び第二のステータからそれぞれ分離することができる。第一の膜と第一のステータとの間の間隔は、任意の適切な値、例えば15μmから3mm、例えば0. 1mmから1mm、例えば約0. 5mmであってもよい。第二の膜と第二のステータとの間の間隔は、任意の適切な値、例えば15μmから3mm、例えば0. 1mmから1mm、例えば約0. 5mmであってもよい。
【0036】
トランスデューサは、膜の間に密閉された複数の空気の塊を有してもよい。例示的な一実施形態では、スペーサは、壁によって分離された複数の大きな開口を有する材料の層を備え、膜はそれぞれ開口の間の壁に接合される。したがって、各開口は、膜によって密閉される空気の塊を画定することができる。例えば、スペーサは、格子形状(例えば、六角格子または正方格子)を有していてもよい。
【0037】
第一の膜と第二の膜との間の間隔は、任意の適切な値を有することができる。一般に、間隔は、例えばより大きなSPLを提供するために、またはより低い周波数を強化するために、トランスデューサの用途に基づいて選択することができる。間隔は、5mm未満、例えば2mm未満であってもよい。本明細書で議論されるように、膜の間の間隔は、膜がゆがめられていない位置にあるときの間隔を指す。間隔という用語は、膜上のそれぞれの中心点間の垂直距離を指しうる。
【0038】
一連の実施形態では、第一の膜と第二の膜との間に介在要素が存在しない、すなわち、膜間に空隙のみが存在する。第一の膜と第二の膜との間の間隔は、少なくとも5μm、例えば少なくとも50μm、例えば少なくとも100μmであってもよい。これは、膜間に十分な空気クッションを提供し、上記の利点をトランスデューサ性能にもたらすために役立つ。
【0039】
一般に、第一及び第二の膜は電気的に結合されてもよいが、これは必須ではない。第一の膜と第二の膜との間に介在要素がない実施形態では、第一の膜と第二の膜とは電気的に結合されるのが好ましい。
【0040】
一般に、トランスデューサは、オーディオ信号を表す変動電圧に応答して膜に動きを起こさせるために、任意の適切な方法で電気的にバイアスされうる。好ましくは、静電トランスデューサは、電圧を印加するように構成されたバイアス装置を備える。限定的ではない例として、第一の膜と第二の膜との間に介在要素のない実施形態では、第一のステータ及び第二のステータに印加される変動電圧とともに、第一の膜及び第二の膜にDCバイアスVbを印加することができる(例えば、電圧V1+V(t)を第一のステータに印加することができ、ここで、V1はバイアスオフセットであり、V1<Vbであり、V(t)はオーディオ信号に対応する変動電圧であり、さらに電圧V2-V(t)を第二のステータに印加することができ、ここで、V2はバイアスオフセットであり、V2<Vbである)。
【0041】
一連の実施形態では、さらなる導電性ステータが、第一の膜と第二の膜との間に設けられる。このような実施形態では、第一の膜と第二の膜との間の間隔は、少なくとも20μm、例えば少なくとも50μmが好ましい。さらなるステータは、好ましくは、空気が通過することを可能にする穿孔を備える。したがって、膜間に密閉された封入された空気の塊を含む実施形態では、空気の塊にさらなるステータが含まれうる。さらなるステータは、それぞれの第一及び第二のスペーサによって、第一及び第二の膜の各々から分離することができる。第一及び第二のスペーサは、さらなるステータならびに第一及び第二の膜に(たとえば、さらなるステータ及び各膜の外縁に)接合することができ、膜、第一及び第二のスペーサ、ならびにさらなるステータの接合部分が、ともに空気の塊を封入する。
【0042】
第一及び第二のステータは、好ましくは、空気が通過することを可能にする穿孔を備える。第一のステータ、第二のステータ、及び/または(設けられる場合)さらなるステータは、膜に面する一つまたは複数の表面上に絶縁コーティングを備えることができる。
【0043】
第一の膜と第二の膜との間にさらなる導電性ステータを有する実施形態では、膜は電気的に結合されてもよいが、好ましくは、膜は互いに電気的に絶縁されている。
【0044】
上述のように、トランスデューサは、任意の適切な方法で電気的にバイアスされうる。限定的ではない例として、第一の膜と第二の膜との間にさらなる導電性のステータを備える実施形態では、第一ステータ及び第二のステータに印加される変動電圧とともに、第一の膜、さらなるステータ、及び第二の膜に、それぞれのDCバイアスVa、Vb、及びVc(例えば、Va<Vb<Vc)を与えることができる(例えば、電圧V1+V(t)を第一のステータに印加することができ、ここで、V1はバイアスオフセットであり、V1<Vaであり、V(t)はオーディオ信号に対応する変動電圧であり、さらに電圧V2-V(t)を第二のステータに印加することができ、ここで、V2はバイアスオフセットであり、V2<Vcである)。
【0045】
いくつかの実施形態では、トランスデューサは、三つ以上の膜を備える。第一及び第二の膜に加えて、第一及び第二のステータの間に一つまたは複数のさらなる膜があってもよい。例えば、トランスデューサは、第一及び第二のステータの間に三つ以上の膜(第一及び第二の膜を含む)を有する第一及び第二のステータを備えるか、またはこれらから構成されていてもよい。このような構成は、任意の適切な方法で電気的にバイアスすることができる。例えば、膜は全て互いに電気的に結合され、第一のステータ及び第二のステータに印加される変動電圧とともに、一つのDCバイアスがステータ間の膜の全てに印加されてもよく、すなわち、これは二つの膜を有するバージョンについて上述したものと同様の構成であるが、全て電気的に結合された三つ以上の膜を有している。
【0046】
上述のように、一連の実施形態では、トランスデューサは、第一の膜と第二の膜との間にさらなる(すなわち、第三の)ステータを備えることができる。これらの実施形態のサブセットでは、トランスデューサは、三つより多いステータと、三つより多い膜とを備えることができる。例えば、トランスデューサは、N個のステータと、N-1個の膜とを備えることができ、Nは少なくとも4である。ステータ及び膜は、第一及び第二のステータが最も外側にある交互の層状構成で配置されてもよい。このような構成は、任意の適切な方法で電気的にバイアスすることができる。
【0047】
バイアス装置の限定的でない一つの例では、変動電圧が各ステータに印加され、DCバイアスが各膜に印加されうる。第Nのステータ(トランスデューサを通して順番に番号付けされる)に印加される変動電圧は、電圧VbのN倍のバイアスオフセットを含む。これにより、任意のステータのペアにかかる電圧をそのブレークダウン電圧より十分低く保ちながら、トランスデューサ全体に大きな電圧を供給することができる(したがって、出力パワー及びSPLを改善する)。変動成分の電圧振幅の大きさは、各ステータに対して同じであるが、変動成分の、奇数番号のステータに対する極性は、偶数番号のステータに対する極性と逆である。各膜に印加されるDC電圧の大きさは同じであるが、奇数番号の膜に対する極性は、偶数番号の膜に対する極性と逆である。しかしながら、これは単なる一例であり、他のバイアス構成も可能である。
【0048】
次に、添付の図面を参照して、例示のみを目的として、特定の好ましい実施形態が説明される。
【図面の簡単な説明】
【0049】
【
図1】
図1は、参考のために、単一の膜を有する典型的な静電トランスデューサの周波数応答の概略図を示す。
【
図2a】
図2aは、本発明に係る静電トランスデューサの第一の実施形態の概略断面図を示す。
【
図2c】
図2cは、第一の実施形態の第三スペーサの平面図を示す。
【
図3a】
図3aは、本発明に係る静電トランスデューサの第二の実施形態の概略断面図を示す。
【
図4a】
図4aは、それぞれが単一の膜で製造された二つの個別のトランスデューサのそれぞれの周波数応答の概略図を示し、ここで、それぞれのトランスデューサの膜は、異なる有効コンプライアンスを有する。
【
図4b】
図4bは、従来技術のトランスデューサ及び本発明に係るトランスデューサのそれぞれの周波数応答の概略図を示す。
【発明を実施するための形態】
【0050】
図1は、参考のために、単一の膜を有する典型的な静電トランスデューサの周波数応答100の例示的な概略図を示す。周波数応答の低周波数部分102は、比較的低いSPL (音圧レベル)を生成することが分かる。SPLは、より高い周波数において共鳴ピーク104を有し、次いで、最高周波数部分106は、その後周波数の増加とともに増加する。この周波数応答は、特に低周波数での応答が悪く、共振ピークでの応答が不釣り合いに強いため、理想的ではない。入力オーディオ信号に基づく出力音波の忠実度を改善するためには、より強い低周波応答を有するより平坦な周波数応答プロファイルが望ましい。
【0051】
図2a及び
図2bは、本発明に係る静電トランスデューサ200の第一の実施形態を示す。静電トランスデューサ200は、バイアス装置212と共に、膜204、206及びステータ208、210の層状構成を備える。
図2aは、層状構成の概略断面図を示す。
図2bは、層状構成の概略斜視図を示す。
図2a及び
図2bは、縮尺通りではない。
【0052】
この層状構成は、第一のステータ208と第二のステータ210との間に配置された、第一の膜204と第二の膜206とを備える。第一の膜204及び第二の膜206はそれぞれ、可撓性導電層を備える。第一及び第二のステータ208、210はそれぞれ、膜204、206によって生成された音波がステータ208、210を通過して周囲環境に入ることを可能にするために、その中に孔214のアレイを有する硬質導電シート(この例ではアルミニウムシート)を備える。他の実施形態では、ステータ208、210は、異なる材料または材料の組み合わせを含んでもよい。
【0053】
トランスデューサ200はまた、第一及び第二のスペーサ216、218を備える。第一のスペーサ216は、第一の膜204と第一のステータ208との間に配置され、これにより、第一の膜204と第一のステータ206とが互いに離間した関係で保持される。第一の膜204及び第一のステータ208は、接着剤を用いて第一のスペーサ216に接合される。第二のスペーサ218は、同様に第二の膜206と第二のステータ210との間に配置され、これらに接合され、これにより第二の膜206と第二のステータ210とは、互いに離間した関係で保持される。
【0054】
この例では、第一の膜204と第一のステータ208との間の間隔は1mmであり、第二の膜206と第二のステータ208との間の間隔も1mmであるが、他の間隔も可能である。
【0055】
トランスデューサ200は、第一の膜204と第二の膜206との間に配置された第三のスペーサ220をさらに備える。
図2cは、第三のスペーサ220の平面図を示す。この例では、第三のスペーサ220は、正方形の形状を有し(他の形状も可能であるが)、中央の孔224を四つの側面で取り囲む、切れ目のない周縁222を備えていることが分かる。第一の膜204と第二の膜206との間である第三のスペーサ220の位置も、
図2bに見ることができる。第三のスペーサ220は、膜204、206の全周にわたって接合され、これにより周縁222は、膜204、206と共に、孔224内に空気226の塊を封入し、その囲い内に隙間のない、完全な囲いを形成する。切れ目のない周縁222は、二つ以上の部品から形成されてもよいが、そのような部品は、隙間または空気孔なしに、一緒に接着または封止される。上述及びさらに後述するように、二つの膜の間に封入された空気の塊を設けることにより、トランスデューサの性能、特に周波数応答が改善される。
【0056】
この例では、膜の間の間隔は0.5mmであるが、他の間隔も可能である。
【0057】
第一及び第二の膜204はそれぞれ、それぞれ有効コンプライアンスを有する。前述のように、有効コンプライアンスは、膜構造、寸法及び/又は材料、並びにそれが取り付けられる方法に関する多くの要因に依存する可能性がある。
図2a及び2bの例示的な実施形態では、膜204、206は、構造、材料及び寸法が同一である。この例では、各膜は50μmの厚さであり、その上にアルミニウムコーティングが蒸着されたBOPPポリマーシートと、アルミニウム層の上に接合されたBOPPのさらなる層とを備える。他の実施形態では、膜は、異なる材料、またはこの特定の例からの及び/又は、相互からの材料の組み合わせを含んでもよく、例えば、
図2a及び2bの変形例では、膜204、206は、それぞれ、片面にアルミニウムコーティングを有する単一のBOPPシートを備えていてもよい。
【0058】
有効コンプライアンスの差を与えるために、二つの膜は、各膜がその表面にわたって異なる平均引張応力となるように取り付けられる。第一の薄膜204は、その表面にわたる平均引張応力が20MPaであり、第二の薄膜206は、その表面にわたる平均引張応力が24MPaである。
【0059】
図2a及び2bの実施形態の変形例では、第一及び第二の膜204、206は、同じ材料で作られ、同じ引張応力で層状構成に取り付けられるが、異なる厚さを有する。この変形例では、第一の膜204は50μmの厚さを有し、第二の膜206は53μmの厚さを有する。厚さの差により、第一の膜204の有効コンプライアンスは、第二の膜206の有効コンプライアンスよりも約20%高い。
【0060】
図2a及び2bの例示的な実施形態では、第一及び第二の膜204、206は電気的に結合され、バイアス装置212は、膜204、206に直流バイアスV
bを供給する。バイアス装置212はまた、第一及び第二のステータ208、210に変動電圧を供給する。各ステータ208、210に与えられる電圧は、バイアスオフセット(第一のステータ208についてはV
1及び第二のステータ210についてはV
2)及び再生されるオーディオ信号に対応する変動成分V(t)を含む。変動成分は、各ステータ208、210に対して反対の極性を有しており、これにより電圧V(t)が変動すると、ステータ208、210が協働してバイアスされた膜204、206を押し引きして、オーディオ信号に対応する音波を生成する。
【0061】
図3a及び
図3bに、本発明に係る静電トランスデューサ300の第二の実施形態を示す。静電トランスデューサ300は、バイアス構成312と共に、膜304、306及びステータ308、309、310(孔314、315を有する)の層状構成を備える。
図3aは、層状構成の概略断面図を示す。
図3bは、層状構成の概略斜視図を示す。
図3a及び3bは、縮尺通りではない。
【0062】
この実施形態の第一及び第二の膜304、306ならびに第一及び第二のステータ308、310は、第一及び第二の膜304、306を第一及び第二のステータ308、310に対してそれぞれ離間した関係で保持する第一及び第二のスペーサ316、318に接合されることを含めて、第一の実施形態の膜204、206及びステータ208、210と同じ構造を有する。しかしながら、この実施形態では、第三のステータ309が、第一の膜304と第二の膜306との間に設けられる。第三のステータ309は、第一及び第二のステータ308、310と同じ構造を有し、すなわち、その中に孔のアレイを有する金属シートである。
【0063】
第一及び第二の膜304、306の間の単一の第三のスペーサに代えて、第三及び第四のスペーサ322、324が存在する。第三及び第四のスペーサ322、324は、
図2cに示されるものと同様の形状を有し、切れ目のない周縁及び中央の孔を含む。第三のスペーサ322は、第一の膜304と第三のステータ309との間に配置され、第一の膜304及び第三のステータ309の全周に亘って接合されている。第四のスペーサ324は、第二の膜306と第三のステータ309との間に配置され、第二の膜306及び第三のステータ309の全周に亘って接合されている。第一及び第二の膜304、306は、第三及び第四のスペーサ322、324及び第三のステータ309の周囲とともに、第一及び第二の膜304、306の間のある空気326の塊を囲い、すなわち、空気の塊は、いかなる隙間もなく、すべての側で取り囲まれる。
図3aから、空気の塊は、第三のスペーサ309の孔315を介して音響的に接続された二つの領域328、330を含むことが分かる。
【0064】
この例では、膜間の間隔は2mmであり、第三のステータ309は、各膜304、306から等距離にあるが、他の間隔も可能である。
【0065】
図3a及び3bの例示的な実施形態では、第一及び第二の膜304、306は互いに電気的に絶縁され、バイアス装置312は、それぞれ、第一の膜304、第三のステータ309、及び第二の膜310に直流バイアスV
a、V
b、及びV
cを供給する。バイアス装置312はまた、第一及び第二のステータ308、310に変動電圧を供給する。第一及び第二のステータ308、310のそれぞれに供給される電圧は、バイアスオフセット(第一のステータ308についてはV
1及び第二のステータ310についてはV
2)及び再生されるオーディオ信号に対応する変動成分V(t)を含む。変動成分は、各ステータ308、310に対して反対の極性を有しており、これにより電圧V(t)が変動すると、三つのステータ308、309、310が協働してバイアスされた膜304、306を押し引きして、オーディオ信号に対応する音波を生成する。
【0066】
印加電圧に応じて膜が振動すると、封入された空気326の塊は、第一の実施形態を参照して上述した利点、すなわち、トランスデューサ応答における低周波を増強し、高周波数を減衰させるのに役立つ。
【0067】
図3a及び3bの例では、第一及び第二の膜304、306は、
図2a及び2bを参照して上述した膜204、206と同じ構造及び構成を有し、すなわち、これらは、互いに同じ材料から形成され、同じ寸法を有するが、異なる引張応力で層状構成に取り付けられるため、第一の膜304は、第二の膜306よりも高い有効コンプライアンスを有する。
【0068】
上述のように、異なる有効コンプライアンスを有する二つの膜を設けることは、同じ有効コンプライアンスを有する二つの膜と比較して、トランスデューサの周波数応答を変化させる。共振特性は膜の有効コンプライアンスに依存するため、異なる有効コンプライアンスを有する二つの膜を設けると、両方の膜の共振特性が単一の周波数応答に組み合わせられ、これは、一般に、単一の膜を有する、または同じ有効コンプライアンスを有する二つの膜を有するトランスデューサの周波数応答よりも平坦である。
【0069】
さらに、上述のように、間に封入された空気の塊を有する二つの膜を設けることによって、膜の音響インピーダンスが変更され、複合振動要素としてこれらは低周波で高い有効質量を有し、高周波での減衰が増大する。これにより、トランスデューサの周波数応答において高周波が平坦化される一方で低周波が強化され、全体的に平坦な周波数応答が得られる。
【0070】
図4a及び4bは、既知の構成と比較した、上記の
図2a、2b、3a及び3bを参照して説明したようなトランスデューサの周波数応答で観察される典型的な変化を、例示的に示す。
【0071】
図4aは、単一の膜で製造された二つのトランスデューサの周波数応答400、402の例示的な概略図を示し、各トランスデューサの膜は、異なる有効コンプライアンスを有する。
図4aでは、各トランスデューサは、低周波数では比較的低い応答、共振ピーク404、406(膜コンプライアンスに依存する)を有し、ピークの後、周波数とともに徐々に増加することが分かる。より高い有効コンプライアンスを有する膜の周波数応答402は、より低い有効コンプライアンスを有する膜の周波数応答400の共振ピーク404に対して、周波数が下方にシフトされた共振ピーク406を有する。
【0072】
図4bは、一塊の空気を封入するための密閉を伴わない、膜が同じコンプライアンスを有する二膜トランスデューサの周波数応答(点線408)、並びに上記の
図2a、2b、3a及び3bを参照して説明したような、密閉及び異なる膜有効コンプライアンス有する二膜トランスデューサの周波数応答(実線410)の、例示的な概略図を示している。
【0073】
図4bから、このような二つの異なる膜が一つのトランスデューサに設けられる場合、二つの異なる共振ピークの組み合わせが、全体的に周波数応答を平坦化することが分かる。また、同じトランスデューサ内に二つの膜を設け、それらの間に封入された空気の塊を備えることにより、さらなる平坦化が、低周波を強化し、高周波数を減衰させることによってもたらされることが分かる。トランスデューサがオーディオ信号をより高い忠実度で再生するため、より平坦な周波数応答が望ましい。
【0074】
二つの実施形態のみが説明されたが、これらの実施形態は単なる例示的なものであり、特許請求の範囲によって規定される本発明の範囲を限定するものではないことが理解されよう。
【国際調査報告】