(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公表特許公報(A)
(11)【公表番号】
(43)【公表日】2024-09-26
(54)【発明の名称】チタン合金及びこれにより製造された製品
(51)【国際特許分類】
C22C 14/00 20060101AFI20240918BHJP
【FI】
C22C14/00 Z
【審査請求】有
【予備審査請求】未請求
(21)【出願番号】P 2024518261
(86)(22)【出願日】2022-09-19
(85)【翻訳文提出日】2024-05-01
(86)【国際出願番号】 RU2022000285
(87)【国際公開番号】W WO2023048593
(87)【国際公開日】2023-03-30
(32)【優先日】2021-09-27
(33)【優先権主張国・地域又は機関】RU
(81)【指定国・地域】
(71)【出願人】
【識別番号】513073577
【氏名又は名称】パブリックストックカンパニー “ヴイエスエムピーオー アヴィスマ コーポレーション”
(74)【代理人】
【識別番号】100120891
【氏名又は名称】林 一好
(74)【代理人】
【識別番号】100165157
【氏名又は名称】芝 哲央
(74)【代理人】
【識別番号】100205659
【氏名又は名称】齋藤 拓也
(74)【代理人】
【識別番号】100126000
【氏名又は名称】岩池 満
(74)【代理人】
【識別番号】100185269
【氏名又は名称】小菅 一弘
(72)【発明者】
【氏名】レダー ミクハイル オットヴィッチ
(72)【発明者】
【氏名】カリエンコ マクシム セルゲーヴィッチ
(72)【発明者】
【氏名】ヴォルコフ アナトリー ヴラディミロヴィッチ
(72)【発明者】
【氏名】ラヴロヴァ タチアナ アレクサンドロヴナ
(72)【発明者】
【氏名】グレーベンシュチコフ アレクサンドル セルゲイヴィッチ
(72)【発明者】
【氏名】ミカイロフ ヴィタリー アナトレヴィッチ
(72)【発明者】
【氏名】プラクシナ エリザヴェータ アレクサンドロヴナ
(57)【要約】
本発明は、チタン合金及びこれにより製造された製品を開示する。
本発明は、非鉄冶金学に関し、即ち、高温強度及び熱安定性を特徴とする低合金化チタン合金の発展に関し、高温での長期使用向けの製品、即ち、自動車エンジンの排気システムの部品の製造に使用することができる。該チタン合金は、アルミニウム、モリブデン、シリコン、酸素、窒素、鉄及び水素を含有し、合金成分は、wt%で計算すると、
1.5~3.0のアルミニウム、
0.1~0.5のモリブデン、
0.1~0.6のシリコン、
最大0.2の鉄、
最大0.15の酸素、
最大0.1の炭素、
最大0.03の窒素、及び
最大0.015の水素、を含み、且つ、
残部にチタン及び不可避的不純物を含み、
該チタン合金は、一実施形態では、0.5~1.5wt%の銅を更に含有し、製品は、該チタン合金で製造される。
本発明の実施形態の技術的結果は、より高いレベルの耐クリープ性を含む高い機械的特性及び性能特性の組み合わせを特徴とし、冷間成形能力を有するチタン合金を製造することである。
【選択図】なし
【特許請求の範囲】
【請求項1】
アルミニウム、モリブデン、シリコン、鉄、酸素、炭素、窒素及び水素を含有するチタン合金であって、合金成分は、wt%で計算すると、
1.5~3.0のアルミニウム、
0.1~0.5のモリブデン、
0.1~0.6のシリコン、
最大0.2の鉄、
最大0.15の酸素、
最大0.1の炭素、
最大0.03の窒素、及び
最大0.015の水素、を含み、且つ、
残部にチタン及び不可避的不純物を含む、チタン合金。
【請求項2】
0.5~1.5wt%の銅を更に含有する、ことを特徴とする請求項1に記載の合金。
【請求項3】
請求項1又は2に記載の合金で製造される、ことを特徴とするチタン合金製品。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、非鉄冶金学に関し、即ち、高温強度及び熱安定性を特徴とする低合金化チタン合金の発展に関し、高温での長期使用向けの製品、即ち、自動車エンジンの排気システムの部品の製造に使用することができる。
【背景技術】
【0002】
様々な商業的応用、例えば、エンジン及び排気システムにおいて、チタン合金は、吸気弁及び排気弁、ハウジング、タービンインペラ、パイプ及びタンクなどの部品の製造に使用される。これらの応用のうちの多くの応用において、低合金化チタン合金で製造されるエンジン部品、特に排気システムは、動作温度が500~800℃である可能性がある。したがって、高温強度及び耐酸化性などの合金の性能特性は、優先される。また、部品が主に金属圧延板の冷間成形及び溶接管の屈曲により製造されるため、使用される材料は、十分な処理延性を示すべきである。
【0003】
エンジンの設計者がエンジンの効率を改善するにつれて、過給圧、圧縮比及び動作温度などの特性は改善する。これらの特性のレベルを向上させるには、燃焼チャンバ及び排気システムにおいて、現在、従来の低合金化チタン合金で達成可能である動作温度及び圧力よりも高い動作温度及び圧力で歪み(クリープ)に抵抗する材料を必要とする。荷重下での固体材料の遅いずれ又は残留歪みに対する感受性であるクリープは、高温で金属が一定の引張応力を受ける場合に発生する。高い耐クリープ性により、材料が形状及び寸法の変形なしで長時間使用することができるが、原材料の特性のレベルを維持することは重要である。
【0004】
これにより、安価であることに加えて、高い機械的特性及び性能特性の最適な組み合わせを有する材料が求められている。
【0005】
主に(wt%で計算すると)0.2から0.5未満の鉄、0.02から0.12未満の酸素、0.15~0.6のシリコン、及び残部のチタン及び不可避的不純物で構成される耐酸化性高強度チタン合金が知られている。該合金は、総含有量が1.5未満である、Al、Nb、V、Mo、Sn、Zr、Ni、Cr及びTaからなる群から選択される少なくとも1つの元素を更に含有する(米国特許第7767040号、2010年8月3日公開、IPC C22C14/00)。
【0006】
該合金は、高い可塑性を示すが、高温酸化に対する耐性が低い。
【0007】
高温酸化及び腐食に対する優れる耐性を特徴とする低合金化チタン合金が知られており、該合金は、自動車又は自動二輪車の排気システムの材料として使用され、試作品として、(wt%で計算すると)0.30~1.50%のAl、0.10~1.0%のSi、及び0.1~0.5のNbを含有する(米国特許第7166367号、2007年1月23日公開、IPC B32B15/01、C22C14/00、F01N7/16)。
【0008】
該合金は、室温と高温で高強度及び可塑性を示すが、耐高温クリープ性が不十分である。
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0009】
本発明は、自動車のエンジン部品及び排気システムに使用されるものを含む、様々な製品を製造可能な低合金化チタン合金を開発することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0010】
本発明の実施形態の技術的結果は、より高いレベルの耐クリープ性を含む高い機械的特性及び性能特性の組み合わせを特徴とし、冷間成形能力を有するチタン合金を製造することである。
【0011】
技術的結果は、アルミニウム、モリブデン、シリコン、酸素、窒素、鉄及び水素を含有するチタン合金であって、合金成分は、wt%で計算すると、
1.5~3.0のアルミニウム、
0.1~0.5のモリブデン、
0.1~0.6のシリコン、
最大0.2の鉄、
最大0.15の酸素、
最大0.1の炭素、
最大0.03の窒素、及び
最大0.015の水素、を含み、且つ
残部にチタン及び不可避的不純物(Titanium and inevitable impurities - balance)を含むチタン合金により達成され、
該チタン合金は、一実施形態では、0.5~1.5wt%の銅を更に含有し、製品は、該チタン合金で製造される。
【図面の簡単な説明】
【0012】
【
図1】(焼鈍された)送出条件での合金の引張特性を
図1の比較グラフに示す。
【
図2】試作合金と比較して耐酸化性を評価した結果を、
図2に示す560℃での酸化時間の平方根に対する合金重量増加のグラフに示す。
【
図3】試作合金と比較して耐酸化性を評価した結果を、
図3に示す800℃での酸化時間の平方根に対する合金重量増加のグラフに示す。
【
図4】試作合金と比較した、特許請求される合金の耐クリープ性の結果を
図4のグラフに示す。
【発明を実施するための形態】
【0013】
合金化元素は、アルミニウム、酸素、炭素及び窒素などのα安定剤と、モリブデン、鉄、シリコンなどのβ安定剤との様々な安定剤の群から合金組成物に導入される。本発明の一実施形態では、β安定剤の銅は、合金に導入される。
【0014】
アルミニウムは、高温強度及び耐クリープ性を向上させ、高温でのスケール形成を低減する。合金中のアルミニウム含有量は、1.5~3.0wt%に設定される。最適な処理延性を維持するために、合金中の最大のアルミニウム含有量は、3.0wt%に制限される。
【0015】
酸素、窒素及び炭素の含有量が規定制限内にあると、強度の改善に加えて、チタンの同素変態の温度を向上させ、高いレベルの強度及び延性の維持を保証する。酸素、炭素及び窒素の濃度がより高いと、合金の処理延性及び衝撃強度を低下させる。
【0016】
β安定剤の群(Mo、Fe、Si、Cu)について
合金中の0.1~0.5wt%のモリブデン合金化は、構造中のβ相層の出現により強度の改善を促進し、相間境界として機能し、変形中において転位運動を抑制するとともに、高温でのα粒子全体の成長を防止する。合金のβ転移温度が低下し、構造中のβ相の量が増加するため、モリブデン含有量が0.5wt%を超えると、高温強度を低減する。
【0017】
チタン固溶体に存在する合金にシリコンが存在すると、耐クリープ性を向上させる。合金中のシリコン含有量は、0.1~0.6wt%に設定される。この範囲において、シリコンは、チタンシリサイド(Ti3Si)を有する金属間化合物を形成する。合金において必要な量のシリサイドが形成されると、高温強度及び耐クリープ性を向上させ、高温でのα粒子の成長を防止する。また、シリコンは、0.6wt%の濃度になるまで、合金の耐酸化性を顕著に向上させる。濃度がより高いと、処理延性及び成形性が低下する。
【0018】
合金は、更に、銅で合金化されてもよい。銅は、共析形成元素であり、チタンα相に高い溶解度を有し、固溶強化の効果を発揮する。高温での境界の移動を制限するTi2Cu金属間粒子の形成は、合金の高温強度の向上に役立つが、過剰な数のTi2Cu相粒子は、室温での合金延性を低下させるため、提案されている合金中の銅含有量は、最大で、1.5wt%に設定される。
【0019】
0.015wt%に制限される合金中の最大の水素含有量は、水素化チタンの潜在的な生成による合金の脆化を回避することに役立つ。
【0020】
所定の割合で合金に導入され、チタンの耐酸化性に好ましい効果を与えることを単独で特徴とする元素の組成物は、従来の低合金化チタン合金と比較して、十分な耐酸化性とともに強度及び可塑性を確保しつつ、合金の高い耐クリープ性値を得るという相加効果を達成することに役立つ。
【0021】
本発明の産業上の利用可能性は、例示的な実施形態によって証明される。
【0022】
真空アーク再溶解法を使用した工業プロセスに従って、重量が2100kgの2つのインゴットの組成物を溶解して、提案されている合金の特性を測定した。合金の化学組成物No.1及び化学組成物No.2は、表1に示される。
【0023】
【0024】
インゴットを、鍛造して圧延することにより熱間加工して、厚さが0.9mmのコイルを製造した。送出条件でサンプルをとって、合金の機械的特性を評価した。機械的特性を解析するために、温度が20℃、500℃及び700℃の引張試験を行い、材料成形性の基準を評価するために、エリクセン深絞りカップ試験(Erichsen deep drawing cup test)を行った。(焼鈍された)送出条件での合金の引張特性の値は、表2に示され、比較グラフは
図1に示される。
【0025】
【0026】
動作中の製品の材料性能をシミュレーションするために、両組成物のサンプルに対して、それぞれ100時間、200時間の保持時間で、温度が560℃、800℃の静的実験空気中で等温焼鈍を行った。その後、mg/cm
2で表されるサンプルの重量の増加を算出することにより、耐酸化性を評価した。試作合金と比較して耐酸化性を評価した結果を、それぞれ
図2及び
図3に示す560℃及び800℃での酸化時間の平方根に対する合金重量増加のグラフに示す。
【0027】
また、送出条件で合金のサンプルに対して、30MPaの応力での相対歪みの関数として表現される耐クリープ性を、500℃で100時間測定した。試作合金と比較した、特許請求される合金の耐クリープ性の結果を
図4のグラフに示す。
【0028】
試験結果及び評価データの解析により、提案されている合金は、従来の低合金化合金と比較して、耐高温クリープ性を含む高い機械的特性及び性能特性の組み合わせを示すことがわかった。長期間の等温焼鈍後の合金サンプルの耐酸化性の評価結果は、材料の耐久性を示す。
【国際調査報告】