(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公表特許公報(A)
(11)【公表番号】
(43)【公表日】2024-09-26
(54)【発明の名称】オーステナイト系ステンレス鋼
(51)【国際特許分類】
C22C 38/00 20060101AFI20240918BHJP
C22C 38/60 20060101ALI20240918BHJP
C22C 30/02 20060101ALI20240918BHJP
C22C 19/05 20060101ALI20240918BHJP
【FI】
C22C38/00 302Z
C22C38/60
C22C30/02
C22C19/05 Z
【審査請求】未請求
【予備審査請求】未請求
(21)【出願番号】P 2024518769
(86)(22)【出願日】2022-09-27
(85)【翻訳文提出日】2024-05-21
(86)【国際出願番号】 GB2022052439
(87)【国際公開番号】W WO2023047142
(87)【国際公開日】2023-03-30
(32)【優先日】2021-09-27
(33)【優先権主張国・地域又は機関】GB
(81)【指定国・地域】
(71)【出願人】
【識別番号】520440054
【氏名又は名称】アロイド リミテッド
(74)【代理人】
【識別番号】100087398
【氏名又は名称】水野 勝文
(74)【代理人】
【識別番号】100128783
【氏名又は名称】井出 真
(74)【代理人】
【識別番号】100128473
【氏名又は名称】須澤 洋
(74)【代理人】
【識別番号】100160886
【氏名又は名称】久松 洋輔
(74)【代理人】
【識別番号】100209060
【氏名又は名称】冨所 剛
(72)【発明者】
【氏名】ターク,アンドレイ
(57)【要約】
質量%で、16~50%のニッケル、10~27%のクロム、0.1~0.75%の炭素、2.0~6.5%の酸可溶性Al(sol.Al)、2.5%以下のケイ素、0.75%以下のマンガン、4.0%以下の銅、4.0%以下のモリブデン、3.0%以下のタングステン、2.0%以下のニオブ、2.5%以下のバナジウム、0.15%以下のホウ素、0.04%以下のカルシウム、2.0%以下の亜鉛、5.0%以下のコバルト、0.05%以下のリン、0.1%以下の硫黄を含み、含有されるランタニド元素、ハフニウム、ジルコニウム、イットリウム、セリウム及びチタンの合計が1.0質量%以下であり、含有されるセレン、テルル、アンチモン、ビスマス及び鉛の合計が0.04質量%以下であり、残部が鉄及び不可避的不純物であり、以下の式(1)を満たす鋼を提供する。
10
5(-0.0689W
Al + 1.41W
C- 0.0248W
Cr - 0.0662W
Cu - 0.0205W
Mn + 0.0333W
Mo- 0.182W
Nb + 0.0499W
Ni - 0.219W
Si - 0.97)≧-7000 (1)
ここで、W
Al, W
C, W
Cr, W
Mn, W
Mo, W
Ni, W
Si, W
Nb及びW
Cu は、鋼中のアルミニウム、炭素、クロム、マンガン、モリブデン、ニッケル、ケイ素、ニオブ及び銅の量である。
【選択図】
図1
【特許請求の範囲】
【請求項1】
質量%で、
16~50%のニッケル、
10~27%のクロム、
0.1~0.75%の炭素、
2.0~6.5%の酸可溶性Al、
2.5%以下のケイ素、
0.75%以下のマンガン、
4.0%以下の銅、
4.0%以下のモリブデン、
3.0%以下のタングステン、
2.0%以下のニオブ、
2.5%以下のバナジウム、
0.15%以下のホウ素、
0.04%以下のカルシウム、
2.0%以下の亜鉛、
5.0%以下のコバルト、
0.05%以下のリン、
0.1%以下の硫黄
を含み、
含有されるランタニド元素、ハフニウム、ジルコニウム、イットリウム、セリウム及びチタンの合計が1.0質量%以下であり、
含有されるセレン、テルル、アンチモン、ビスマス及び鉛の合計が0.04質量%以下であり、
残部が鉄及び不可避的不純物であり、
以下の式(1)を満たす鋼。
10
5(-0.0689W
Al + 1.41W
C- 0.0248W
Cr - 0.0662W
Cu - 0.0205W
Mn + 0.0333W
Mo- 0.182W
Nb + 0.0499W
Ni - 0.219W
Si - 0.97)≧-7000 (1)
ここで、W
Al, W
C, W
Cr, W
Mn, W
Mo, W
Ni, W
Si, W
Nb及びW
Cu は、鋼中のアルミニウム、炭素、クロム、マンガン、モリブデン、ニッケル、ケイ素、ニオブ及び銅の量である。
【請求項2】
鋼中のクロム、マンガン、銅、モリブデン、ニッケル、ケイ素、タングステン、ニオブ、アルミニウム及び鉄の量を、それぞれW
Cr, W
Mn, W
Cu, W
Mo, W
Ni, W
Si, W
W, W
Nb, W
Al及びW
Feとすると、以下の式を満たす、請求項1に記載の鋼。
0.065W
Cr + 0.047W
Cu + 0.008W
Fe + 0.017W
Mn + 0.327W
Mo+ 0.484W
Nb + 0.12W
Ni + 0.013W
Si + 0.363W
W+ 0.015W
Al ≦ 7.5 (2)
好ましくは、以下の式を満たす。
0.065W
Cr + 0.047W
Cu+ 0.008W
Fe + 0.017W
Mn + 0.327W
Mo + 0.484W
Nb+ 0.12W
Ni + 0.013W
Si + 0.363W
W + 0.015W
Al ≦ 6.5
より好ましくは、以下の式を満たす。
0.065W
Cr+ 0.047W
Cu + 0.008W
Fe + 0.017W
Mn + 0.327W
Mo+ 0.484W
Nb + 0.12W
Ni + 0.013W
Si + 0.363W
W + 0.015W
Al ≦ 6.0
さらにより好ましくは、以下の式を満たす。
0.065W
Cr + 0.047W
Cu+ 0.008W
Fe + 0.017W
Mn + 0.327W
Mo + 0.484W
Nb+ 0.12W
Ni + 0.013W
Si + 0.363W
W + 0.015W
Al≦ 5.0
最も好ましくは、以下の式を満たす。
0.065W
Cr+ 0.047W
Cu + 0.008W
Fe + 0.017W
Mn + 0.327W
Mo+ 0.484W
Nb + 0.12W
Ni + 0.013W
Si + 0.363W
W + 0.015W
Al ≦ 4.6
【請求項3】
鋼中のクロム、マンガン、銅、モリブデン、ニッケル、ケイ素、タングステン、アルミニウム及び鉄の量を、それぞれW
Cr, W
Mn, W
Cu, W
Mo, W
Ni, W
Si, W
W, W
Al及びW
Feとすると、以下の式を満たす、請求項1または2に記載の鋼。
(34.487W
Al + 0.209W
Cr - 0.263W
Cu - 1.538W
Fe + 1.009W
Mn + 0.171W
Mo- 1.406W
Ni + 16.880W
Si + 0.949W
W)/100 ≦0.05983 (3)
好ましくは、以下の式を満たす。
(34.487W
Al + 0.209W
Cr - 0.263W
Cu - 1.538W
Fe + 1.009W
Mn + 0.171W
Mo- 1.406W
Ni + 16.880W
Si + 0.949W
W)/100 ≦ 0.05128
より好ましくは、以下の式を満たす。
(34.487W
Al + 0.209W
Cr - 0.263W
Cu - 1.538W
Fe + 1.009W
Mn + 0.171W
Mo- 1.406W
Ni + 16.880W
Si + 0.949W
W)/100 ≦ 0.04274
さらにより好ましくは、以下の式を満たす。
(34.487W
Al + 0.209W
Cr - 0.263W
Cu - 1.538W
Fe + 1.009W
Mn + 0.171W
Mo- 1.406W
Ni + 16.880W
Si + 0.949W
W)/100 ≦ 0.03419
最も好ましくは、以下の式を満たす。
(34.487W
Al + 0.209W
Cr - 0.263W
Cu - 1.538W
Fe + 1.009W
Mn + 0.171W
Mo- 1.406W
Ni + 16.880W
Si + 0.949W
W)/100 ≦ 0.01282
【請求項4】
鋼中のクロム、マンガン、銅、モリブデン、ニッケル、ケイ素、アルミニウム、ニオブ及び炭素の量を、それぞれW
Cr, W
Mn, W
Cu, W
Mo, W
Ni, W
Si, W
Al W
Nb及びW
Cとすると、以下の式を満たす、請求項1ないし3のいずれか1つに記載の鋼。
10
-3(4.67W
Al+ 16.9W
C - 1.45W
Cr + 5.81W
Cu - 11.6W
Mn- 4.8W
Mo - 2.19W
Nb + 0.768W
Ni + 1.23W
Si+ 5.14) ≧ 0.01 (4)
好ましくは、以下の式を満たす。
10
-3(4.67W
Al+ 16.9W
C - 1.45W
Cr + 5.81W
Cu - 11.6W
Mn- 4.8W
Mo - 2.19W
Nb + 0.768W
Ni + 1.23W
Si+ 5.14) ≧ 0.02
より好ましくは、以下の式を満たす。
10
-3(4.67W
Al+ 16.9W
C - 1.45W
Cr + 5.81W
Cu - 11.6W
Mn- 4.8W
Mo - 2.19W
Nb + 0.768W
Ni + 1.23W
Si+ 5.14) ≧ 0.03
最も好ましくは、以下の式を満たす。
10
-3(4.67W
Al+ 16.9W
C - 1.45W
Cr + 5.81W
Cu - 11.6W
Mn- 4.8W
Mo - 2.19W
Nb + 0.768W
Ni + 1.23W
Si+ 5.14) ≧ 0.045
【請求項5】
鋼中のクロム、マンガン、銅、モリブデン、ニッケル、ケイ素、タングステン、アルミニウム、ニオブ及び炭素の量を、それぞれW
Cr, W
Mn, W
Cu, W
Mo, W
Ni, W
Si, W
W, W
Al, W
Nb及びW
Cとすると、以下の式を満たす、請求項1ないし4のいずれか1つに記載の鋼。
0.923W
Al+ 2.752W
C - 0.037W
Cr + 2.162W
Cu + 1.342W
Mn+ 2.137W
Mo - 0.224W
Nb - 0.339W
Ni + 5.684W
Si+ 0.667W
W + 128.038 ≧115.385 (5)
好ましくは、以下の式を満たす。
0.923W
Al + 2.752W
C - 0.037W
Cr+ 2.162W
Cu + 1.342W
Mn + 2.137W
Mo - 0.224W
Nb- 0.339W
Ni + 5.684W
Si + 0.667W
W + 128.038 ≧ 119.658
より好ましくは、以下の式を満たす。
0.923W
Al + 2.752W
C - 0.037W
Cr+ 2.162W
Cu + 1.342W
Mn + 2.137W
Mo - 0.224W
Nb- 0.339W
Ni + 5.684W
Si + 0.667W
W + 128.038 ≧ 121.795
さらにより好ましくは、以下の式を満たす。
0.923W
Al + 2.752W
C - 0.037W
Cr+ 2.162W
Cu + 1.342W
Mn + 2.137W
Mo - 0.224W
Nb- 0.339W
Ni + 5.684W
Si + 0.667W
W + 128.038 ≧ 128.205
【請求項6】
鋼中のクロム、マンガン、銅、モリブデン、ニッケル、ケイ素、アルミニウム、ニオブ及び鉄の量を、それぞれW
Cr, W
Mn, W
Cu, W
Mo, W
Ni, W
Si, W
Al, W
Nb及びW
Feとすると、以下の式を満たす、請求項1ないし5のいずれか1つに記載の鋼。
10
-5(25.5W
Al+ 23.3W
Cr + 13.8W
Cu - 0.493W
Fe + 1.11W
Mn- 1.0W
Mo + 22.8W
Nb + 4.34W
Ni + 11.4W
Si) ≧ 0.00455 (6)
好ましくは、以下の式を満たす。
10
-5(25.5W
Al+ 23.3W
Cr + 13.8W
Cu - 0.493W
Fe + 1.11W
Mn- 1.0W
Mo + 22.8W
Nb + 4.34W
Ni + 11.4W
Si) ≧ 0.0050
より好ましくは、以下の式を満たす。
10
-5(25.5W
Al+ 23.3W
Cr + 13.8W
Cu - 0.493W
Fe + 1.11W
Mn- 1.0W
Mo + 22.8W
Nb + 4.34W
Ni + 11.4W
Si) ≧ 0.0060
さらにより好ましくは、以下の式を満たす。
10
-5(25.5W
Al+ 23.3W
Cr + 13.8W
Cu - 0.493W
Fe + 1.11W
Mn- 1.0W
Mo + 22.8W
Nb + 4.34W
Ni + 11.4W
Si) ≧ 0.0060
【請求項7】
鋼中のクロム、マンガン、銅、モリブデン、ニッケル、ケイ素、タングステン、アルミニウム、ニオブ及び鉄の量を、それぞれW
Cr, W
Mn, W
Cu, W
Mo, W
Ni, W
Si, W
W, W
Al, W
Nb及びW
Feとすると、以下の式を満たす、請求項1ないし6のいずれか1つに記載の鋼。
10
-20(171.0W
Al+ 12.0W
Cr + 39.2W
Cu + 0.964W
Fe - 8.56W
Mn+ 3.09W
Mo + 6.72W
Nb + 6.87W
Ni - 76.9W
Si+ 4.96W
W) ≧8.7 E-18
好ましくは、以下の式を満たす。
10
-20(171.0W
Al+ 12.0W
Cr + 39.2W
Cu + 0.964W
Fe - 8.56W
Mn+ 3.09W
Mo + 6.72W
Nb + 6.87W
Ni - 76.9W
Si+ 4.96W
W) ≧9.0 E-18
より好ましくは、以下の式を満たす。
10
-20(171.0W
Al+ 12.0W
Cr + 39.2W
Cu + 0.964W
Fe - 8.56W
Mn+ 3.09W
Mo + 6.72W
Nb + 6.87W
Ni - 76.9W
Si+ 4.96W
W) ≧9.2 E-18
さらにより好ましくは、以下の式を満たす。
10
-20(171.0W
Al+ 12.0W
Cr + 39.2W
Cu + 0.964W
Fe - 8.56W
Mn+ 3.09W
Mo + 6.72W
Nb + 6.87W
Ni - 76.9W
Si+ 4.96W
W) ≧9.5 E-18
10
-20(171.0W
Al+ 12.0W
Cr + 39.2W
Cu + 0.964W
Fe - 8.56W
Mn+ 3.09W
Mo + 6.72W
Nb + 6.87W
Ni - 76.9W
Si+ 4.96W
W) ≧1E-17
10
-20(171.0W
Al+ 12.0W
Cr + 39.2W
Cu + 0.964W
Fe - 8.56W
Mn+ 3.09W
Mo + 6.72W
Nb + 6.87W
Ni - 76.9W
Si+ 4.96W
W) ≧1.2E-17
【請求項8】
鋼中のアルミニウム、炭素、クロム、マンガン、モリブデン、ニッケル、ケイ素、ニオブ及び銅の量を、それぞれW
Al, W
C, W
Cr, W
Mn, W
Mo, W
Ni, W
Si, W
Nb及びW
Cuとすると、以下の式を満たす、請求項1ないし7のいずれか1つに記載の鋼。
10
5(-0.0689W
Al+ 1.41W
C - 0.0248W
Cr - 0.0662W
Cu - 0.0205W
Mn+ 0.0333W
Mo - 0.182W
Nb + 0.0499W
Ni - 0.219W
Si- 0.97) ≧ 0
好ましくは、以下の式を満たす。
10
5(-0.0689W
Al+ 1.41W
C - 0.0248W
Cr - 0.0662W
Cu - 0.0205W
Mn+ 0.0333W
Mo - 0.182W
Nb + 0.0499W
Ni - 0.219W
Si- 0.97) ≧ 10000
より好ましくは、以下の式を満たす。
10
5(-0.0689W
Al+ 1.41W
C - 0.0248W
Cr - 0.0662W
Cu - 0.0205W
Mn+ 0.0333W
Mo - 0.182W
Nb + 0.0499W
Ni - 0.219W
Si- 0.97) ≧ 30000
さらにより好ましくは、以下の式を満たす。
10
5(-0.0689W
Al+ 1.41W
C - 0.0248W
Cr - 0.0662W
Cu - 0.0205W
Mn+ 0.0333W
Mo - 0.182W
Nb + 0.0499W
Ni - 0.219W
Si- 0.97) ≧ 50000
さらにより好ましくは、以下の式を満たす。
10
5(-0.0689W
Al+ 1.41W
C - 0.0248W
Cr - 0.0662W
Cu - 0.0205W
Mn+ 0.0333W
Mo - 0.182W
Nb + 0.0499W
Ni - 0.219W
Si- 0.97) ≧ 60000
さらにより好ましくは、以下の式を満たす。
10
5(-0.0689W
Al+ 1.41W
C - 0.0248W
Cr - 0.0662W
Cu - 0.0205W
Mn+ 0.0333W
Mo - 0.182W
Nb + 0.0499W
Ni - 0.219W
Si- 0.97) ≧ 90000
最も好ましくは、以下の式を満たす。
10
5(-0.0689W
Al+ 1.41W
C - 0.0248W
Cr - 0.0662W
Cu - 0.0205W
Mn+ 0.0333W
Mo - 0.182W
Nb + 0.0499W
Ni - 0.219W
Si- 0.97) ≧ 110000
【請求項9】
ニッケルを、質量%で、30%以上、好ましくは35%以上、より好ましくは37%以上、さらにより好ましくは40%以上、最も好ましくは42%以上含有する、請求項1ないし8のいずれか1つに記載の鋼。
【請求項10】
ニッケルを、質量%で、45%以下、好ましくは30%以下、好ましくは26%以下含有する、請求項1ないし9のいずれか1つに記載の鋼。
【請求項11】
バナジウムを、質量%で、0.3%以下、好ましくは0.2%以下、より好ましくは0.1%以下含有する、請求項1ないし10のいずれか1つに記載の鋼。
【請求項12】
ケイ素を、質量%で、0.2%以上、好ましくは1.0%以上、より好ましくは1.5%以上含有する、請求項1ないし11のいずれか1つに記載の鋼。
【請求項13】
ケイ素を、質量%で、1.5%以下、好ましくは1.0%以下含有する、請求項1ないし12のいずれか1つに記載の鋼。
【請求項14】
マンガンを、質量%で、0.1%以上、好ましくは0.2%以上含有する、請求項1ないし13のいずれか1つに記載の鋼。
【請求項15】
クロムを、質量%で、11.0%以上、好ましくは12.0%以上、より好ましくは16%以上、最も好ましくは22.0%以上含有する、請求項1ないし14のいずれか1つに記載の鋼。
【請求項16】
クロムを、質量%で、20.0%以下、好ましくは16%以下、より好ましくは13%以下含有する、請求項1ないし15のいずれか1つに記載の鋼。
【請求項17】
タングステンを、質量%で、1.5%以下、好ましくは1.0%以下、より好ましくは0.5%以下含有する、請求項1ないし16のいずれか1つに記載の鋼。
【請求項18】
モリブデンを、質量%で、0.1%以上、好ましくは1.5%以上、より好ましくは2.5%以上含有する、請求項1ないし17のいずれか1つに記載の鋼。
【請求項19】
モリブデンを、質量%で、0.5%以下、好ましくは0.3%以下含有する、請求項1ないし18のいずれか1つに記載の鋼。
【請求項20】
チタンを、質量%で、0.15%以下含有する、請求項1ないし18のいずれか1つに記載の鋼。
【請求項21】
ニオブを、質量%で、1.0%以下、好ましくは0.2%以下、より好ましくは0.01%以下含有する、請求項1ないし20のいずれか1つに記載の鋼。
【請求項22】
ニオブを、質量%で、0.6%以上、好ましくは1.0%以上、より好ましくは1.5%以上含有する、請求項1ないし21のいずれか1つに記載の鋼。
【請求項23】
ホウ素を、質量%で、0.03%以上、好ましくは0.07%以上含有する、請求項1ないし22のいずれか1つに記載の鋼。
【請求項24】
バナジウムを、質量%で、0.1%以上、好ましくは0.3%以上、より好ましくは1.0%以上、さらにより好ましくは1.5%以上、最も好ましくは1.9%以上含有する、請求項1ないし23のいずれか1つに記載の鋼。
【請求項25】
亜鉛を、質量%で、0.5%以上含有する、請求項1ないし24のいずれか1つに記載の鋼。
【請求項26】
タングステンを、質量%で、0.5%以上含有する、請求項1ないし25のいずれか1つに記載の鋼。
【請求項27】
炭素を、質量%で、0.4%以上、好ましくは0.45%以上、より好ましくは0.475%以上含有する、請求項1ないし26のいずれか1つに記載の鋼。
【請求項28】
炭素を、質量%で、0.6%以下、好ましくは0.4%以下、より好ましくは0.3%以下含有する、請求項1ないし27のいずれか1つに記載の鋼。
【請求項29】
アルミニウムを、質量%で、3.5%以上、好ましくは4.0%以上、さらにより好ましくは4.3%以上、最も好ましくは4.5%以上含有する、請求項1ないし28のいずれか1つに記載の鋼。
【請求項30】
アルミニウムを、質量%で、5.5%以下、好ましくは5.0%以下、より好ましくは3.5%以下含有する、請求項1ないし29のいずれか1つに記載の鋼。
【請求項31】
銅を、質量%で、0.2%以上、好ましくは0.5%以上、より好ましくは0.75%以上、より好ましくは1.5%以上、最も好ましくは2.2%以上含有する、請求項1ないし30のいずれか1つに記載の鋼。
【請求項32】
銅を、質量%で、2.5%以下、好ましくは2.2%以下、より好ましくは1.5%以下、最も好ましくは0.5%以下含有する、請求項1ないし31のいずれか1つに記載の鋼。
【請求項33】
イットリウムを、質量%で、0.01%以下含有する、請求項1ないし31のいずれか1つに記載の鋼。
【請求項34】
セリウムを、質量%で、0.01%以下含有する、請求項1ないし33のいずれか1つに記載の鋼。
【請求項35】
マンガンを、質量%で、0.5%以下、好ましくは0.3%以下含有する、請求項1ないし34のいずれか1つに記載の鋼。
【請求項36】
ホウ素を、質量%で、0.01%以下含有する、請求項1ないし35のいずれか1つに記載の鋼。
【請求項37】
亜鉛を、質量%で、0.1%以下含有する、請求項1ないし36のいずれか1つに記載の鋼。
【請求項38】
ハフニウムを、質量%で、0.1%以下含有する、請求項1ないし37のいずれか1つに記載の鋼。
【請求項39】
鋼中のアルミニウム、炭素、クロム、マンガン、モリブデン、ニッケル、ケイ素、ニオブ及び銅の量を、それぞれW
Al, W
C, W
Cr, W
Mn, W
Mo, W
Ni, W
Si, W
Nb及びW
Cuとすると、以下の式を満たす、請求項1ないし38のいずれか1つに記載の鋼。
10
-3(4.67W
Al+ 16.9W
C - 1.45W
Cr + 5.81W
Cu - 11.6W
Mn- 4.8W
Mo - 2.19W
Nb + 0.768W
Ni + 1.23W
Si+ 5.14) ≧ 0.03
及び
10
5(-0.0689W
Al+ 1.41W
C - 0.0248W
Cr - 0.0662W
Cu - 0.0205W
Mn+ 0.0333W
Mo - 0.182W
Nb + 0.0499W
Ni - 0.219W
Si- 0.97) ≧ 50000
【請求項40】
質量%で、約43%のニッケル、約12%のクロム、約0.5%の炭素、約0.3%のケイ素、約0.22%のマンガン、約4.8%のアルミニウム、約2.0%の銅を含み、残部が鉄及び不可避的不純物である、鋼。
【請求項41】
請求項1ないし40のいずれか1つに記載の鋼からなる鋳造製品。
【請求項42】
請求項1ないし40のいずれか1つに記載の鋼からなるターボチャージャーハウジング。
【請求項43】
請求項41に記載のターボチャージャーであって、ターボチャージャーハウジングが鋳造製品である、ターボチャージャー。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、オーステナイト系ステンレス鋼に関する。
【背景技術】
【0002】
ターボチャージャー付き燃焼エンジンを使用する車両では、エンジン効率を向上させるためにターボチャージャーの動作温度を上昇させる傾向がある。現在、ターボチャージャーの高温セクションのハウジングの製造には、1.4837、1.4848、1.4849などの伝統的な鋳造ステンレス鋼グレードがよく使用されている。これらの鋼は、部品内で大きな温度勾配が発生する可能性がある繰り返しの加熱と冷却のサイクルだけでなく、酸化にも耐える必要がある。これらの条件は熱機械疲労につながり、通常の疲労のような周期的ひずみだけでなく、温度変化や、亀裂の発生と伝播を促進する表面酸化によっても、破損が引き起こされる。したがって、ターボチャージャーハウジングの材料は、非常に高い温度まで維持される適度な降伏強度、クリープや酸化に対する優れた耐性、幅広い温度範囲で維持される安定した微細構造など、いくつかの要件をすべて比較的低コストで満たす必要がある。共晶炭化物で強化された鋳造オーステナイトステンレス鋼は、これらすべての制約を満たす数少ない材料クラスの1つである。本発明は、このようなタイプのオーステナイト系ステンレス鋼について、正確に説明する。本発明のオーステナイト系ステンレス鋼は、鋳造及び/またはターボチャージャー(特にターボチャージャーハウジング)の用途に適している。
【発明の概要】
【課題を解決するための手段】
【0003】
本発明は、質量%で、16~50%のニッケル、10~27%のクロム、0.1~0.75%の炭素、2.0~6.5%の酸可溶性Al(sol.Al)、2.5%以下のケイ素、0.75%以下のマンガン、4.0%以下の銅、4.0%以下のモリブデン、3.0%以下のタングステン、2.0%以下のニオブ、2.5%以下のバナジウム、0.15%以下のホウ素、0.04%以下のカルシウム、2.0%以下の亜鉛、5.0%以下のコバルト、0.05%以下のリン、0.1%以下の硫黄を含み、含有されるランタニド元素、ハフニウム、ジルコニウム、イットリウム、セリウム及びチタンの合計が1.0質量%以下であり、含有されるセレン、テルル、アンチモン、ビスマス及び鉛の合計が0.04質量%以下であり、残部が鉄及び不可避的不純物であり、以下の式(1)を満たす鋼を提供する。
105(-0.0689WAl + 1.41WC- 0.0248WCr - 0.0662WCu - 0.0205WMn + 0.0333WMo- 0.182WNb + 0.0499WNi - 0.219WSi - 0.97)≧-7000 (1)
ここで、WAl, WC, WCr, WMn, WMo, WNi, WSi, WNb及びWCu は、鋼中のアルミニウム、炭素、クロム、マンガン、モリブデン、ニッケル、ケイ素、ニオブ及び銅の量である。
【0004】
この合金によれば、非常に高い温度まで維持される適度な降伏強度、クリープや酸化に対する優れた耐性、及び幅広い温度範囲にわたって維持される安定した微細構造が、比較的低コストですべて提供される。
【0005】
いくつかの実施形態では、鋼は、ニッケルを、質量%で、30%以上、好ましくは35%以上、より好ましくは37%以上、さらにより好ましくは40%以上、最も好ましくは42%以上、含有する。このような鋼は、耐酸化性および耐クリープ性の向上を特に享受する。
【0006】
いくつかの実施形態では、鋼は、ニッケルを、質量%で、45%以下、好ましくは30%以下、好ましくは26%以下、含有する。このような鋼は、コストがさらに低い。
【0007】
いくつかの実施形態では、鋼は、バナジウムを、質量%で、0.3%以下、好ましくは0.2%以下、より好ましくは0.1%以下、含有する。このような鋼は、コストが削減される。
【0008】
いくつかの実施形態では、鋼は、ケイ素を、質量%で、0.2%以上、好ましくは1.0%以上、より好ましくは1.5%以上、含有する。このような鋼では、耐酸化性と強度が向上する。
【0009】
いくつかの実施形態では、鋼は、ケイ素を、質量%で、1.5%以下、好ましくは1.0%以下、含有する。このような鋼では、延性が向上する。
【0010】
いくつかの実施形態では、鋼は、マンガンを、質量%で、0.1%以上、好ましくは0.2%以上、含有する。このような鋼では、硫黄による脆化が低減される。
【0011】
いくつかの実施形態では、鋼は、クロムを、質量%で、11.0%以上、好ましくは12.0%以上、より好ましくは16%以上、より好ましくは22.0%以上、含有する。高いクロム含有量は、中間温度でのクロミアスケールの維持に役立つ。
【0012】
いくつかの実施形態では、鋼は、クロムを、質量%で、20.0%以下、好ましくは16%以下、より好ましくは13%以下、含有する。このような鋼では、アルミニアスケールの形成が改善されており、その結果、高温耐酸化性が向上する。
【0013】
いくつかの実施形態では、鋼は、タングステンを、質量%で、1.5%以下、好ましくは1.0%以下、より好ましくは0.5%以下、含有する。このような鋼では、コストが削減され、金属間化合物の含有量が低くなる。
【0014】
いくつかの実施形態では、鋼は、モリブデンを、質量%で、0.1%以上、好ましくは1.5%以上、より好ましくは2.5%以上、含有する。このような鋼では、固溶強度が増加する。固溶強度の増加は、クリープ強度に寄与する。
【0015】
いくつかの実施形態では、鋼は、モリブデンを、質量%で、0.5%以下、好ましくは0.3%以下、含有する。 このような鋼では、金属間化合物相が形成される可能性が減少する。
【0016】
いくつかの実施形態では、鋼は、ニオブを、質量%で、1.0%以下、好ましくは0.2%以下、より好ましくは0.01%以下、含有する。このような鋼では、機械加工性が向上する。
【0017】
いくつかの実施形態では、鋼は、ニオブを、質量%で、0.6%以上、好ましくは1.0%以上、より好ましくは1.5%以上、含有する。このような鋼では、高温クリープが改善される。
【0018】
いくつかの実施形態では、鋼は、ホウ素を、質量%で、0.03%以上、好ましくは0.07%以上、含有する。このような鋼は、耐クリープ性を有する。
【0019】
いくつかの実施形態では、鋼は、バナジウムを、質量%で、0.1%以上、好ましくは0.3%以上、より好ましくは1.0%以上、さらにより好ましくは1.5%以上、最も好ましくは1.9%以上、含有する。このような鋼では、高温耐クリープ性が向上する。
【0020】
いくつかの実施形態では、鋼は、タングステンを、質量%で、0.5%以上含有する。このような鋼では、耐クリープ性が向上する。
【0021】
いくつかの実施形態では、鋼は、炭素を、質量%で、0.4%以上、好ましくは0.5%以上、より好ましくは0.475%以上、含有する。このような鋼では、耐クリープ性が向上する。
【0022】
いくつかの実施形態では、鋼は、炭素を、質量%で、0.6%以下、好ましくは0.4%以下、より好ましくは0.3%以下、含有する。このような鋼では、延性が向上する。
【0023】
いくつかの実施形態では、鋼は、アルミニウムを、質量%で、3.5%以上、好ましくは4.0%以上、さらにより好ましくは4.3%以上、最も好ましくは4.5%以上、含有する。このような鋼は、耐酸化性を有する。
【0024】
いくつかの実施形態では、鋼は、アルミニウムを、質量%で、5.5%以下、好ましくは5.0%以下、より好ましくは3.5%以下、含有する。このような鋼では、延性と耐クリープ性が向上する。
【0025】
いくつかの実施形態では、鋼は、銅を、質量%で、0.2%以上、好ましくは0.5%以上、より好ましくは0.75%以上、より好ましくは1.5%以上、最も好ましくは2.2%以上、含有する。このような鋼では、鋳造性が向上する。
【0026】
いくつかの実施形態では、鋼は、銅を、質量%で、1.5%以下、好ましくは0.5%以下、含有する。このような鋼では、耐酸化性が向上する。
【0027】
いくつかの実施形態では、鋼は、ホウ素を、質量%で、0.01%以下含有する。このような鋼では、延性が向上する。
【0028】
本明細書における「を備える」との用語は、組成物を100%として、追加の成分の存在を排斥することでパーセンテージを100%にしていることを示すために用いられる。
【0029】
本発明について、単なる例示を通じて、添付図面を参照しながら、さらに十分に説明する。
【図面の簡単な説明】
【0030】
【
図1】ニッケルおよびクロムのレベルに対する、酸化指数、クロム活性指数及びコスト指数の依存性を示す。
【
図2】本発明の3つの実施例および比較例における、酸化試験の結果を示す。
【
図3】2つの比較例と本発明の実施例における、ビッカース硬度試験の実験結果を示す。
【
図4】実施例10(2つの点が2つの別個のクリープ試験に対応する)及び比較例1(2つの点が2つの別個のクリープ試験に対応する)において実験的に測定された、ラーソン・ミラーパラメータ値を示す。
【発明を実施するための形態】
【0031】
典型的な耐熱鋼グレードは、高温酸化によって連続的に内側に成長するクロミアスケールを形成する。クロミアスケールは付着性があり、酸素や窒素を通さないため、保護バリアとして機能し、酸化速度を制限する。ただし、クロミア形成鋼の最大使用温度は1050℃までに制限される。スケールは母材金属に比べて密度が低いため、酸化物と金属の界面に応力を及ぼす。この応力はスケールの厚さとともに増加し、最終的にはスケールの剥離を引き起こす。これにより、クロムが枯渇したむき出しの金属表面が環境にさらされ、さらに急速に酸化が進む。1050℃を超えるとスケールが急速に厚くなるため、剥離に要する時間が短縮され、その結果として生じる質量損失率が、許容できないほど高くなる。スケールの剥離とその結果として生じる質量損失は、ターボチャージャーのハウジングに特有の急速な加熱および冷却条件によって促進される。このような条件では、金属酸化物界面に対する応力が増加するが、これは、両側の熱膨張係数の不一致に起因するものである。
【0032】
したがって、1050℃を超える温度で繰り返し酸化にさらされる部品においては、クロミア形成材料が十分な酸化保護を提供できない可能性がある。これに対する解決策は、アルミナ形成オーステナイト鋼(AFA)である。アルミナスケールは、酸素の透過性がはるかに低く、かなり遅い速度で厚くなり、1050℃を超える温度でも適切な耐酸化性を示す。また、繰り返し酸化条件下における、剥離に対する耐性が、クロミアスケールよりも優れている。
【0033】
本特許は、一定の温度範囲にわたる比較的高い降伏強度と、同等のコストで従来のクロミア形成オーステナイトのグレードに匹敵する耐クリープ性と、を備え、完全に連続した保護アルミナスケールの一部を形成する、一種のオーステナイト系ステンレス鋼について記載するものである。
【0034】
表1に、本発明の鋼の主要な合金元素の境界を示す。以下に、各元素の効果を説明するとともに、いくつかのメリット指数を記載する。メリット指数は、実験的および/または理論的モデリングに基づいて開発されており、本発明の組成範囲を絞り込んで、耐熱鋼における優れた特性(非常に高温でも維持される適正な降伏強度と、クリープ及び酸化に対する優れた耐性と、幅広い温度範囲で維持される安定した微細構造と、をすべて比較的低コストで実現することを含む)を有する組成を特定するために使用される。メリット指数に基づいて、異なる特性間の複雑なトレードオフが行われ、結果として、組成範囲内で元素が制限される。以下の
図1は、コスト指数、クロム活性指数及び酸化メリット指数が、ニッケルとクロムの含有量の変化によってどのような影響を受けるかを示している。メリット指数と組成の間の複雑な相互関係を視覚化するのは困難だが、以下の表2は、組成範囲にわたる様々なメリット指数に対する、各元素の平均的な影響を示す。
【表1】
【0035】
高レベルの耐クリープ性を達成するために、本発明の鋼は、一定の最小クリープ指数も達成する。これは、最小のクリープ指数を達成するには、鋼中に存在する元素が所定量必要であることを意味する。表1の範囲内の組成では、このようなクリープ指数は達成されない。炭素とニッケルの量が多く、アルミニウムとクロムの量が少ない高合金鋼は、望ましいクリープメリット指数を達成する。モリブデンを添加すると、クリープメリット指数を達成する可能性が高くなるが、銅、マンガン、ニオブ、ケイ素を添加すると、クリープメリット指数を達成する可能性が低くなる。
【0036】
<メリット指数>
【0037】
ニッケルアルミナイド指数:
高温下で安定なニッケルアルミナイド相の体積分率の尺度である。この体積分率は、熱力学計算を使用して決定される。低いニッケルアルミナイド指数は、微細構造の安定性と延性の指標である。ニッケルアルミナイドの体積分率に比例する式は、以下のとおりである。
ニッケルアルミナイド指数 =(34.487WAl + 0.209WCr - 0.263WCu - 1.538WFe+ 1.009WMn + 0.171WMo - 1.406WNi + 16.880WSi+ 0.949WW) / 100
ここで、WCr, WMn, WCu, WMo, WNi, WSi, WW, WAl及びWFeは、鋼中のクロム、マンガン、銅、モリブデン、ニッケル、ケイ素、タングステン、アルミニウム及び鉄の量である。
【0038】
好ましくは、ニッケルアルミナイド指数は0.05983以下である。これは、ニッケルアルミナイドの平衡体積分率が約10~15%という低値になるためである。より好ましくは、ニッケルアルミナイド指数は、0.05128以下、さらには0.04274以下、あるいは0.03419以下である。これによれば、ニッケルアルミナイドの平衡体積分率が10%未満となる。0.01282以下のニッケルアルミナイドを達成することも可能であり、これが最も好ましい。
【0039】
強度メリット指数:
室温での合金の降伏強度を反映する。常にではないが、高い値が望ましいことが多い。これは、加熱と冷却を繰り返す際の熱ひずみによって塑性変形が引き起こされる可能性が低く、高強度合金で作られた部品の耐用年数が長くなることを示すためである。強度メリット指数は、2つの仮定に基づいている。第1に、鋳放しの粒径は組成によってわずかしか変化しないため、粒界強度は組成範囲全体にわたって一定である。第2に、析出強度は析出物の体積分率のみに依存する。サイズ分布の変動は、複雑な凝固条件により無視され、一定であると仮定される。したがって、降伏強度の変動は、固溶強度によって支配される。強度メリット指数の式は、以下の通りである。
【数1】
【0040】
ここで、xiは熱力学計算から予測されたオーステナイト内の元素iのモル分率、Siはその強化係数、τ0はテイラー係数(値3.06)、Gは鋼のせん断弾性率(74GPa)、bはバーガース ベクトルの長さ(2.5 nm)、rpは析出物の半径(1μmと仮定)、φpはその体積分率である。300 MPa(一定)は、粒界およびその他の強度の寄与に起因するものである。
【0041】
合金の組成に基づき、強度に比例する式が発見された。
強度指数 = 0.923WAl + 2.752WC - 0.037WCr + 2.162WCu + 1.342WMn+ 2.137WMo - 0.224WNb - 0.339WNi + 5.684WSi+ 0.667WW + 128.038
ここで、WCr, WMn, WCu, WMo, WNi, WSi, WW, WAl, WNb及びWCは、鋼中のクロム、マンガン、銅、モリブデン、ニッケル、ケイ素、タングステン、アルミニウム、ニオブおよび炭素の量である。
【0042】
好ましくは、強度メリット指数は、少なくとも約260~280MPaの強度が達成されるように115.385以上であり、最大285MPa以上のさらに高い強度が可能となるように、119.658以上または121.795以上である。最も好ましくは、強度メリット指数は128.205以上である。
【0043】
クリープメリット指数:
高炭素オーステナイト系ステンレス鋼では、耐クリープ性は、2つのメカニズム(固溶強度によるオーステナイト固有の耐クリープ性と、高温での二次炭化物の析出による耐クリープ性の増加)によって支配される。これらのメカニズムはどちらも組成に依存しており、熱力学計算で導き出すことができる。2つのメカニズムの複合効果は、次の方程式で近似されることが、本発明によって判明した。
クリープ指数 = 105(-0.0689WAl+ 1.41WC - 0.0248WCr - 0.0662WCu - 0.0205WMn+ 0.0333WMo - 0.182WNb + 0.0499WNi - 0.219WSi- 0.97)
ここで、WAl, WC, WCr, WMn, WMo, WNi, WSi, WNb及びWCuは、鋼中のアルミニウム、炭素、クロム、マンガン、モリブデン、ニッケル、ケイ素、ニオブ及び銅の量である。
【0044】
本発明では、従来技術の合金よりも耐クリープ性に優れた鋼が望まれる。したがって、クリープ指数の最小値は-7,000となり、酸化特性に優れるだけでなく、耐クリープ性にも優れた鋼材となる。クリープメリット指数の値をさらに大きくすることも可能であり、好ましくはクリープメリット指数が0以上、より好ましくは10,000以上、より好ましくは30,000以上である。高い耐酸化性を備え、最高のパフォーマンスを発揮する合金の多くは、50000以上のクリープ指数を達成することが特に好ましい。一部の合金は、さらに高いクリープ指数も達成し、クリープ指数は、より好ましくは60,000以上、より好ましくは90,000以上、最も好ましくは1,100,000以上である。
【0045】
クロム活性指数:
保護的なクロミアスケールを形成する合金の能力を反映する。クロミアはアルミナよりも著しく速く形成される。したがって、連続的にクロミアスケールを形成する能力により、酸化の初期段階で保護が提供され、クロミアと金属の界面でアルミナスケールが成長する時間を確保できる。この条件が満たされないと、連続的なアルミナスケールの形成が妨げられる場合がある。したがって、クロム活性指数が高いと耐酸化性が向上する。さらに、クロミアスケールは高温腐食に対する耐性が高く、硫黄イオンや塩素イオンが存在する用途において望ましい場合がある。クロムの活性は熱力学計算によって得られる。クロム活性指数は、合金元素の関数である。
クロム活性指数 = 10-5(25.5WAl+ 23.3WCr + 13.8WCu - 0.493WFe + 1.11WMn- 1.0WMo + 22.8WNb + 4.34WNi + 11.4WSi)
ここで、WCr, WMn, WCu, WMo, WNi, WSi, WAl, WNb及びWFeは、鋼中のクロム、マンガン、銅、モリブデン、ニッケル、ケイ素、アルミニウム、ニオブ及び鉄の量である。
【0046】
好ましくは、クロム活性指数は0.00455以上である。クロム活性指数は、さらに大きな値とすることが可能であり、クロム指数が少なくとも0.0050、さらには少なくとも0.0060、さらには少なくとも0.0070であることが好ましい。
【0047】
クロム拡散指数:
保護クロミアスケールを再形成する合金の能力、または剥離後に保護クロミアスケールを再形成する合金の能力を反映する。急速なクロミア形成によりアルミナスケールの形成が促進され、耐酸化性が向上する。クロミアスケールの成長により、その真下のクロム濃度は、金属全体に比べていくらか減少する。クロムの消耗の程度は、クロムの拡散率が低い場合に特に深刻である。剥離後の酸化速度は、この枯渇層の組成に依存する。消耗度が高い場合、クロミアスケールが形成できず、代わりにさまざまな多孔質で非付着性の酸化物が形成される可能性がある。局所的なクロム濃度が十分に高くなり、再びクロミアの形成が始まるのは、酸素がこの枯渇層を通過したときのみである。逆に、クロムの拡散率が高いとクロムの消耗度は低くなる。このため、クロミアスケールは剥離現象後に急速に再形成され、全体の酸化速度が低下する。
【0048】
クロムの拡散率は調整できるが、これは、オーステナイト内の元素の相互拡散は一定ではなく、オーステナイトの組成に依存するためである。特にニッケルと銅は、それを増加させる元素として知られている。オーステナイト中のクロムの相互拡散係数は、熱力学計算で求めることができる。合金元素の線形結合を使用した近似が発見された。
クロム拡散指数 = 10-20(171.0WAl+ 12.0WCr + 39.2WCu + 0.964WFe - 8.56WMn+ 3.09WMo + 6.72WNb + 6.87WNi - 76.9WSi+ 4.96WW)
ここで、WCr, WMn, WCu, WMo, WNi, WSi, WW, WAl, WNb及びWFeは、鋼中のクロム、マンガン、銅、モリブデン、ニッケル、ケイ素、タングステン、アルミニウム、ニオブ及び鉄の量である。
【0049】
クロム拡散指数は、8.7E-18以上であることが好ましい。ただし、さらに大きな値も可能であり、少なくとも9.0E-18、または少なくとも9.2E-18を達成することが望ましい。9.5E-18または少なくとも1E-17を達成することも可能であり、これらの値も望ましい。最も好ましい合金では、1.2E-17以上のクロム拡散率を達成する。
【0050】
コスト指数:
合金の製造に必要な原材料のコスト(2021 年のGBP/kg)を反映する。純粋な元素から出発すると仮定すると、合金のコストについては、以下のような簡単な式を使用できる。
コスト指数 = 0.065WCr + 0.047WCu + 0.008WFe+ 0.017WMn + 0.327WMo + 0.484WNb + 0.12WNi+ 0.013WSi + 0.363WW + 0.015WAl
ここで、WCr, WMn, WCu, WMo, WNi, WSi, WW, WNb, WAl及びWFeは、鋼中のクロム、マンガン、銅、モリブデン、ニッケル、ケイ素、タングステン、ニオブ、アルミニウム及び鉄の量である。
【0051】
合金が安価であればあるほど、コスト指数は低くなる。コスト指数は7.5以下であることが望ましい。しかしながら、本発明の範囲内ではさらに安価な合金も可能であり、そのため、コスト指数が6.5以下、6.0以下、5.0以下または4.6以下であることがさらに望ましい。
【0052】
酸化指数:
Sato,A.、Y-L.Chiu及びR.C.Reed.の「Oxidation of nickel-based single-crystal superalloys for industrial gas turbine applications.」(Acta Materialia 59.1 (2011): 225-240)に従って、内部酸化が制限された連続アルミナスケールを形成するための要件は、合金内のアルミニウムの活性に依存する、アルミナスケール形成のギブズ自由エネルギー(ΔG
AL2O3)と、アルミナスケールにおけるカチオンの有効原子価(V
eff)と、の関数である。どちらの量も、合金組成に大きく依存する。連続したアルミナスケールを形成する合金は、アルミナスケールの有効原子価とアルミナ形成のギブズ自由エネルギーとの加重合計である、高い酸化指数値を有する。
【数2】
【0053】
定数k1とk2は現象学的であり、文献に記載されているアルミニウム含有オーステナイト鋼の多数の酸化実験から導出されている。酸化指数の正確な値を取得するには、熱力学計算が必要である。合金組成に基づいた、以下の関係が発見された。
酸化指数= 10-3(4.67WAl+ 16.9WC - 1.45WCr + 5.81WCu - 11.6WMn- 4.8WMo - 2.19WNb + 0.768WNi + 1.23WSi+ 5.14)
ここで、WCr, WMn, WCu, WMo, WNi, WSi, WAl, WNb及びWCは、鋼中のクロム、マンガン、銅、モリブデン、ニッケル、ケイ素、アルミニウム、ニオブおよび炭素の量である。
【0054】
酸化指数は0.01以上であることが望ましい。さらに大きな酸化指数も達成可能であり、望ましくは、酸化指数は0.02以上、さらには0.03以上である。最大0.045%以上の値が達成可能であり、これらも望ましい。酸化指数が高いと、他の望ましい特性を犠牲にすることなく高い耐酸化性を達成できるため、本発明の合金が際立つ。0.03以上の酸化指数を有する合金が最も好ましく、表3および4の実施例には、50000以上のクリープ指数を有しながらもこれを達成できることが示されている(例えば、実施例6、27および28)。0.03以上の酸化指数と50000以上のクリープ指数との組み合わせが、特に好ましい。
【0055】
酸化指数は、熱力学的効果による連続的なアルミナスケールの形成の可能性を示すだけである。しかしながら、アルミナの形成は速度論的に遅いため、合金は、酸化の初期段階で保護的なクロミアスケールを形成できることが好ましい。これにより、アルミナスケールの形成が促進され、固溶体中のアルミニウムの内部酸化が抑制される。最適な耐酸化性を達成するには、合金は十分に高いCr活性指数値とCr拡散指数値を示す必要がある。
【0056】
個々のメリット指数に対する、評価された合金元素のおおよその影響を、以下の表2に示す。表内のスコアは、所定のメリット指数の元素の係数と、主張されている組成範囲内における元素範囲の平均値と、を乗算した積として導出した。次に、これらの値を加重係数値の平均で除算して、さまざまなメリット指数(列)にわたる元素の効果を比較できるようにした。大きな負の値は強いマイナスの効果、大きなプラスの値は強いプラスの効果を表す。この表には、1つの元素が複数の主要な特性に同時に影響を与える仕組みがまとめられている。また、この表には、一部の元素が他の元素よりも一般的に重要であることも示されている。たとえば、Mn の変化は、酸化指数の低下を除けば、メリット指数に大きな影響を与えない。一方、Alは、ニッケルアルミナイド指数、強度指数、Cr拡散指数及び酸化指数に対して強いプラスの影響を及ぼし、クリープ指数に対して強いマイナスの影響を及ぼす。
【表2】
【0057】
メリット指数を用いることで、望ましい特性間の複雑なトレードオフを調べることができ、これらの特性の最適な組み合わせを持つ合金を発見することができた。
【0058】
表1の元素とその範囲は、以下の理由で選択された。
【0059】
ニッケル:
オーステナイトマトリックス相での拡散速度が遅いため、オーステナイト相を安定化させるとともに、耐クリープ性を大幅に向上させる。さらに、スケールの有効原子価を下げてアルミニウムの活性を高めることにより、アルミナ形成鋼の耐酸化性を大幅に向上させ、それによって連続的なアルミナスケールの形成を促進する。一方、ニッケルを多量に添加すると法外に高額となる。ニッケルは、ニッケルアルミナイド相とガンマプライム相を形成することにより、析出強化に大きく貢献する。一方、ニッケルアルミナイドは望ましくない相であり、ニッケルとアルミニウムの含有量が両方とも非常に高くない限り、ガンマプライムが形成される可能性は低い。したがって、強度モデルでは固溶強度がより重視される。固溶強度に関する文献によると、Ni-Fe固溶体ではNiが降伏強度にほとんど影響を及ぼさない、またはマイナスの効果さえあることが示されている。したがって、ニッケルは、強度に対して正味マイナスの効果があると考えられる。特性の最良のバランスは、最小ニッケル含有量16.0質量%及び最大ニッケル濃度50.0質量%によって達成されることが判明した。ニッケルの存在は、コストと強度を除くすべてのメリット指標にとって有益である。したがって、特に所望のクリープ強度、耐酸化性、およびニッケルアルミナイドの所望の体積分率を達成するには、最小限のニッケルが必要であり、これらすべての特性は、ニッケル濃度の増加とともに向上する。したがって、ニッケル濃度は、30.0質量%以上、より好ましくは35.0質量%以上とすることが望ましい。ニッケル濃度を37.0質量%以上あるいは40質量%以上に増加させると、コストが増加し、強度がある程度低下するが、合金の特性はさらに改善される。一実施形態において、ニッケルは42.0質量%以上の量で存在し、これにより耐酸化性および耐クリープ性がさらに向上する。必要に応じて、高濃度のニッケルでの強度の低下は、好ましい高いケイ素濃度およびアルミニウム濃度を使用し、場合によっては合金元素として銅及びモリブデンを添加することによって、少なくとも部分的に相殺することができる。一部の用途では、コストが重要な要素となる。したがって、いくつかの実施形態では、ニッケルの量は45.0質量%以下、さらには30.0質量%以下、好ましくは26.0質量%以下に制限される。
【0060】
クロム:
固溶体強化を行い、耐クリープ性を向上させる。また、耐酸化性の源でもあり、高温でのさらなる酸化に対する障壁として機能する保護クロミアスケールを形成する。成長の速いクロミアスケールは、酸化の初期段階で耐酸化性を提供し、その後、成長が遅く且つより保護的なアルミナスケールの形成を促進する。したがって、耐酸化性のためには、十分なクロム含有量が必要である。しかし、クロムを多量に添加すると、フェライトや、シグマ相を含むさまざまな有害な金属間化合物が安定する。それらの存在により、合金の延性と耐酸化性が大幅に低下する。したがって、クロム含有量は10.0質量%以上27.0質量%以下とする必要がある。この範囲内でクロム含有量を増やすと、中間温度でクロムスケールを維持するのに役立つ。したがって、クロム含有量は少なくとも11.0質量%であることが好ましい。耐酸化性が最重要であるいくつかの実施形態では、クロム含有量は、好ましくは12.0質量%以上、さらにより好ましくは16.0質量%以上、最も好ましくは22.0質量%以上である。一方、クロムの濃度が高くなると、高温でのアルミナスケールの形成が不十分になるため、耐酸化性が低下する可能性がある。したがって、いくつかの実施形態では、クロムは20.0質量%以下に制限され、これが本発明の合金を他の同様の合金と区別し、著しく良好な耐酸化性をもたらす。好ましくは、合金は、16.0質量%以下のクロム、より好ましくは13.0質量%以下のクロムを有する。
【0061】
ケイ素:
固溶体強化を行い、合金の鋳造性を改善し、溶融物を脱酸する。一方、本発明の他の元素も上記の役割を果たすことができるため、ケイ素の存在は任意である。さらに、ケイ素を多量に添加すると、延性にとって有害な金属間化合物であるG相とラーベス相が安定する。したがって、ケイ素は任意の元素である。よって、シリコンの最大許容量は2.5質量%以下に規定される。それにもかかわらず、少量(例えば0.2質量%以上)のケイ素は、特に、合金の強度を向上させて低温での酸化耐性を改善するのに有益である。逆に、ケイ素の量を減らすと(例えば、1.5質量%以下にすると)、金属間化合物相の析出が少なくなり、延性が向上する。ケイ素の量は、1.0質量%以下のレベルであることが望ましい。これにより、延性がさらに改善される。
【0062】
炭素:
固溶体強化を行い、オーステナイト相を安定化させ、且つ、本発明の合金に特徴的な耐クリープ性および高温強度を付与する樹枝状共晶炭化物の特徴的なネットワークを形成する。炭素の添加は、二次析出を改善し、耐クリープ性に貢献する。一方、過剰な炭素の添加は、樹枝状炭化物の体積分率が好ましくないほどに大きくなり、合金の延性に悪影響を与える。したがって、炭素範囲は0.1質量%以上0.75質量%以下となる。炭素含有量を、例えば0.4質量%以上、さらには0.45質量%以上、より好ましくは0.475質量%以上に増加させることにより、耐クリープ性の改善を達成することができる。しかしながら、炭素含有量が増加しすぎると、延性が低下する可能性があるため、一実施形態では、鋼の炭素含有量は0.6質量%以下となる。いくつかの実施形態では、炭素は、例えば0.4質量%以下、さらには0.3質量%以下までさらに低減される。これによって、合金の延性が完全に改善される。
【0063】
マンガン:
固溶体強化を行い、オーステナイト相を安定化し、且つ、硫化マンガンを形成することで硫黄不純物の脆化効果を中和する。一方、過剰な添加は、鋳放し材料中に析出する可能性のある一次デルタフェライトを安定化させ、耐クリープ性を低下させ、有害なシグマ相の核生成部位として作用する。さらに、マンガンは、酸素透過性で剥離しやすい、マンガンを多く含む酸化物相の形成を促進することにより、耐酸化性に悪影響を与えることも知られている。本発明者らは、すべてではないが多くの場合においてマンガンの欠点が利点を上回り、マンガンが存在しなくても必要な物理的特性が達成できることが多いことを発見した。したがって、マンガンは任意の元素であり、マンガンは0.75質量%以下、好ましくは0.5質量%以下、さらには0.3質量%以下に制限される。一実施形態では、マンガンを0.1質量%以上の量で添加することで、硫黄脆化の危険性が低下する。一実施形態では、マンガンを0.2質量%以上の量で添加することで、硫黄脆化の可能性をさらに減少させる。
【0064】
モリブデン:
固溶体強化と耐クリープ性を提供する。一方、過剰に添加すると、合金のコストを上昇させ、シグマ相やラーベス相などの種々の脆い金属間化合物を安定化させる傾向がある。したがって、モリブデンは任意の元素であり、モリブデンの量は0.4質量%以下に制限される。0.1質量%以上の少量のモリブデン添加を必須とすることにより、有害な金属間化合物が発生するリスクを伴うことなく固溶体強化を実現できる。モリブデンをさらに添加し、1.5質量%以上、さらには2.5質量%以上とすることで、固溶強度を顕著に増加させることができ、これが本発明の任意の特徴である。一方、一実施形態では、シグマ相およびラーベス相が生成される可能性を低減するために、鋼に含有されるモリブデンは0.5質量%以下(または0.3質量%以下)に制限される。
【0065】
タングステン:
モリブデンと同様に、タングステンは固溶体強化を行うが、耐クリープ性に対する利点は小さくなる。一方、過剰に添加すると、合金のコストを上昇させ、シグマ相やラーベス相などの種々の脆い金属間化合物を安定化させる傾向がある。本発明のいくつかの実施形態では、タングステンを任意に存在させることができるが、タングステンは3.0質量%以下に制限される。好ましくは、タングステンは、さらに低いレベル(1.5質量%以下、さらには1.0質量%以下、または0.5質量%以下)で存在する。一方、より優れた耐クリープ性合金が必要な場合、特にモリブデン含有量が低い鋼において、タングステンを0.5質量%以上の量で存在させることができる。
【0066】
銅:
オーステナイト相を安定化させるとともに、クロミア形成合金においてはCr活性及びCr拡散率を増加させることにより、アルミナ形成合金においてはアルミナスケールの有効原子価を下げることにより、耐酸化性を向上させる。一方、Cu含有量が高いと、Cuが粒界に偏析して材料が脆化するため、鋳造性が低下する可能性があり、さらには1000℃付近でCuに富んだ液膜が存在する可能性がある。液膜は高温での延性と強度を壊滅的に低下させる。Cuはまた、さまざまな炭化物相を安定化し、溶融物中での炭化物の析出を促進する。これにより、延性と疲労寿命に悪影響を及ぼす大きな一次炭化物が生成される。したがって、銅の添加は有益であり、銅は任意であるが、いずれの場合も4.0質量%以下に制限される。銅のリスクに起因して、いくつかの実施形態では、銅は2.5質量%以下、好ましくは2.0質量%以下、より好ましくは1.5質量%以下、さらには0.5質量%以下に制限される。一方、一実施形態では、銅を添加する潜在的な利点があるため、特に耐酸化性を向上させるために、銅を0.2質量%以上の量で添加する。銅の量を増やすと、耐酸化性がさらに向上するので、銅の量を0.5質量%以上、好ましくは0.75質量%以上、さらに好ましくは1.5質量%以上、さらには2.2質量%以上とすることで、特定の用途に対して有益である可能性がある。
【0067】
ニオブ:
硬くて安定した樹枝状炭化物を形成することにより、耐クリープ性と高温強度を大幅に向上させる。一方、過剰に添加すると、高額となるほか、フェライト相を安定化させ、シグマ相やG相などの脆い金属間化合物の形成を促進する。したがって、ニオブは任意の元素であり、いずれの場合も2.0質量%以下に限定される。合金のコストを低く抑え、より良好な機械加工性を確保するために、ニオブは、好ましくは1.0質量%以下、より好ましくは0.2質量%以下、さらには0.01質量%以下の量で存在する。一方、ニオブを少量(0.6質量%以上、さらには1.0質量%以上)添加すると、樹枝状結晶間領域に非常に硬いMC 炭化物のネットワークが形成され、非常に高温での材料の強度が向上するため、このレベルのニオブが好ましい。一実施形態では、ニオブは1.5質量%以上の量で存在する。
【0068】
アルミニウム:
合金の表面に保護酸化スケールを形成することにより、耐酸化性を向上させる。場合によっては、ニッケルとともにガンマプライム(Ni3Al)析出物を形成することで、中程度の温度までは合金の降伏強度を大幅に向上させることもできる。連続的なアルミニアスケールを形成するには、合金中のアルミニウムの活性を十分に高める必要がある。ただし、過剰に添加すると、NiAl 析出物が安定化するため、延性が低下して耐クリープ性が低下する可能性がある。したがって、アルミニウムは2.0質量%以上6.5質量%以下の量で存在する。アルミニウム含有量を増加させると(例えば3.5質量%以上、さらには4.0質量%以上)、耐酸化性が向上する。この理由から、アルミニウム含有量を、4.3質量%、さらには4.5質量%まで増加させることが、さらに好ましい。アルミニウムの最大量を、5.5質量%以下、さらには5.0質量%以下に減らすと、延性が高まり且つ耐クリープ性が高まるため、有益である可能性がある。一実施形態では、アルミニウムは、3.5質量%以下の量までに制限される。
【0069】
バナジウム:
凝固中における、M23C6炭化物上への硬いM7C3炭化物の形成を促進し、結果として高温強度が向上する。また、ターボチャージャーハウジングの動作中における、M23C6炭化物上への二次MC炭化物の析出も促進する。二次MC炭化物は、M23C6炭化物よりも、耐クリープ性の向上に対して効果的である。また、粗大化もより遅くなるが、これは、二次析出による機械的特性(降伏強度と耐クリープ性)の向上が、時間の経過とともに非常にゆっくりと減少することを意味する。ただし、過剰に添加すると、合金のコストが大幅に増加する。本発明のいくつかの実施形態では、バナジウムが任意に存在することができる。したがって、バナジウムは任意の元素であり、いずれの場合も2.5質量%以下に制限される。バナジウムを含むことの欠点に起因して、バナジウムは、0.3質量%以下、さらには0.2質量%以下、さらには0.1質量%以下の量で存在することが好ましい。それにもかかわらず、最大の高温耐クリープ性を有する合金が望まれる場合には、バナジウムを必須元素として、0.1質量%以上の量で含めることができる。バナジウムを増加させると、高温耐クリープ性がさらに増加するため、最小量を、0.3質量%、1.0質量%、さらには1.5質量%または1.9質量%とすることも可能である。
【0070】
ホウ素:
粒界に偏析して粒界を強化し、合金の高温強度と耐クリープ性を向上させる。ただし、ホウ素を多量に添加すると、延性が低下する可能性がある。本発明のいくつかの実施形態では、ホウ素は任意に存在することができる。ホウ素は任意の元素であるが、0.15質量%以下の量まで存在してもよい。ホウ素を添加することの利点に起因して、特に耐クリープ性の向上が望まれる場合には、ホウ素を0.03質量%以上、さらには0.07質量%以上の量で添加してもよい。ホウ素が0.01質量%以下で存在すると、より延性に優れた合金が得られる。
【0071】
さらに、本発明の合金は、1.0質量%を超えない微量合金元素の任意の組み合わせを含有することができる。微量合金元素として、ランタニド(原子元素57(ランタン)~71(ルテチウム))はより好ましい炭化物の形態と耐酸化性の向上のために、ハフニウム、ジルコニウムおよびホウ素は粒界強化効果のために、イットリウムは耐酸化性の向上のために、そしてチタンはMC炭化物の粗大化耐性の向上のために、含有される(ここで、Mは、主にNbであり、一部がTi、V、またはZrに置換されたものである)。チタンの量は、0.15質量%以下に制限することが好ましい。チタンの存在は、低レベルのニオブまたはニオブの欠如を部分的に置き換えることができるため、有益である可能性がある。イットリウムは0.01質量%以下であることが好ましく、セリウムは0.01質量%以下であることが好ましい。イットリウムと希土類は、酸化スケールの付着性と高温腐食に対する耐性を向上させることが知られている。一方、イットリウムと希土類が多量に含まれると、鋳造品において、偏析や機械的特性の低下が生じる可能性がある。また、その反応性に起因して、加工が困難となる。ハフニウムはコストが高いため、0.01質量%以下に制限することが好ましい。
【0072】
リン:
リンは不純物である。リンは粒界に偏析し、鋼の耐SSC性を低下させる。したがって、リン含有量は0.05質量%以下となる。好ましいリン含有量は、0.02質量%以下である。リン含有量は、可能な限り低いことが好ましい。
【0073】
硫黄:
硫黄は、粒界に偏析する不純物である。凝集力が低下するため、材料の延性、強度、耐クリープ性が大幅に低下する可能性がある。したがって、硫黄含有量は0.01質量%以下である。好ましい硫黄含有量は0.005質量%以下、より好ましくは0.003質量%以下である。硫黄含有量は、可能な限り低いことが好ましい。ただし、合金の機械加工が容易になるため、硫黄含有量を高めることが望ましい場合がある。この場合、硫黄含有量は、0.01質量%以上0.1質量%以下であることが好ましい。
【0074】
セレン、テルル、アンチモン、ビスマス、鉛:
これらの元素は、粒界に偏析する不純物である。これらは粒界の凝集力を低下させるため、材料の延性、強度、耐クリープ性が大幅に低下する可能性がある。したがって、その含有量は0.005質量%以下、好ましくは0.001質量%以下、さらに好ましくは0.0003質量%以下である。これらの含有量は、できるだけ少ないことが好ましい。ただし、合金の機械加工が容易になるため、これらの元素の含有量を高めることが望ましい場合がある。この場合、それらの合計含有量は、0.005質量%以上0.04質量%以下であることが好ましい。
【0075】
カルシウム:
溶融物に添加され、溶融物中に存在する可能性のあるSiやAlによって通常形成される硬い酸化介在物よりも、柔らかい酸化介在物の形成を促進する傾向がある。また、硫化介在物も良好に改質する。どちらのメカニズムも、合金の機械加工性の向上に貢献する。カルシウム含有量は、0.005質量%以上0.04質量%以下であることが好ましい。
【0076】
最大2.0質量%の亜鉛を添加することができ、これにより耐酸化性が向上する。一実施形態では、少なくとも0.5質量%の亜鉛が添加される。亜鉛は任意の元素である。一実施形態では、亜鉛は0.1質量以下の量で存在する。
【0077】
コバルトはニッケルと同様の挙動を示すため、コバルト含有量は最大5.0質量%である。コバルトは拡散が遅い元素であり、耐クリープ性を向上させる。一実施形態では、コバルトとニッケルの合計は、16~50質量%の範囲内、または本明細書の他の箇所でニッケル単独について与えられる他の範囲内にある。一方、コバルトはニッケルよりもさらに高価であるため、その含有量は0.5質量%以下に制限される。コバルトは任意で添加される。一実施形態では、合金はコバルトを実質的に含まない。
【0078】
さらに、合金には、上記のセクションに記載されていない他の不可避的不純物の元素が少量含まれる場合がある。
【0079】
図1は、表1の組成領域において、Cr及びNi含有量に対して描かれた、酸化指数(黒の実線の等値線)、コスト指数(濃い灰色の点線の等値線)及びクロム活性指数(明るい灰色の等値線)の依存性を示す。
図1から分かる通り、ニッケル含有量が増加すると、クロム活性メリット指数と酸化活性メリット指数が上昇し、これはどちらも好ましい。一方、ニッケル含有量の増加はコストの増加にもつながり、これは好ましくない。
図1からわかるように、クロム含有量を増やすとコストがわずかに増加する。しかし、最も重要なことは、クロム含有量を増やすとクロムの活性が高まることである。一方、クロム含有量が増加しすぎると、耐酸化性に悪影響を及ぼす。これらのトレードオフを表2に示す。表2では、コストメリット指数とニッケルアルミナイドメリット指数が低いことが望まれ、強度メリット指数、クリープメリット指数、クロム活性指数、クロム拡散指数、酸化メリット指数が高いことが有利である。このようなトレードオフに基づいて、表1に記載した、合金の組成領域が決定された。
【0080】
実施例および比較例
【0081】
表3の実施例および比較例の一部について実験を行った。比較例3、4、5、6は実験用オーステナイト系ステンレス鋼であり、比較例1、2はそれぞれDIN規格1.4848、1.4849に相当する周知のオーステナイト系耐熱鋼である。どちらも、耐酸化性は良好だが降伏強度が比較的低いことで知られており、耐熱材料として広く使用されている。しかしながら、比較例1および2は、アルミナ形成材ではなくクロミア形成材である。比較例7~11は、本発明の範囲に含まれない従来技術の合金である。
【表3】
【0082】
比較のために、表3の合金のメリット指数の値を表4に示す。
【0083】
【0084】
表4からわかるように、本発明のすべての実施例は、上述の望ましいメリット指数の大半を達成している。実施例2のみが、所望の最小クロム拡散指数(8.7E-18)または酸化指数(>0.01)を完全には達成していない。実施例3もまた、所望の最小酸化指数(0.01)を完全には達成していない(そしてかなり高価である)。実施例27および28は、所望のニッケルアルミナイド指数(0.0598以下)を完全には達成していない。それにもかかわらず、周知の比較例1および2に対する本発明の実施例の特性の改善は、これらの合金によって達成されるクロム拡散指数及び酸化指数の両方において明らかである。比較例3は、マンガンのレベルが高すぎるために酸化指数が低く、比較例3~8及び11はすべて、クリープメリット指数が低い。比較例7~10は、ニッケルアルミナイドの割合が高すぎることを示している。比較例9および10はコストが非常に高く、比較例10は耐酸化性が劣る。比較例9及び10は、良好な耐クリープ性を達成しているが、コストが過度に高く且つニッケルアルミナイドの体積分率が過度に高い、という犠牲を払っている。比較例9も強度が比較的低く、強度指数が低い。
【0085】
図2は、本発明と比較例2において、合金サンプルの繰り返し酸化試験中の質量増加を比較した結果を示す。酸化試験は、箱型炉内で、1100℃にて種々の期間実施された(図に示す)。サンプルを開放アルミナボートに入れた後、この開放アルミナボートを予熱した炉に挿入した。曝露後、ボートを炉から取り出し、1時間空冷し、重量を測定した。実施例4及び10は、安定かつ中程度の質量増加を示しており、これは保護アルミナスケールが形成されていることを示している。比較例2は、クロミア形成合金であり、急速かつかなりの質量損失を示したが、これは、スケールの蒸発および剥離に起因する可能性が高い。したがって、実験結果は、比較例2の組成物のクロム拡散指数および酸化指数が低いために耐酸化性が劣ることを、実際に示している。
【0086】
図3は、本発明の一実施例のビッカース硬度(荷重5kg、滞留時間10秒)を示す。比較例と比較して、ビッカース硬度の値は同等であり、すなわち降伏強度が同等であることを示している。
【0087】
図4は、本発明の実施例10および比較例1について950℃および60MPaで行われたクリープ試験における、ラーソン・ミラーパラメータ値(定数項20)を示す。各合金について、2つのサンプルをテストしたため、合計4回のクリープテストが実施された。比較例と比較して、本発明の実施例10は、クリープ破断寿命が長いため、より大きなラーソン・ミラーパラメータ値を示している。
【0088】
実施例6は、(高いニッケル含有量に助けられた)非常に高い耐クリープ性と、非常に優れた耐酸化性と、を有する特に有望な組成物である。実施例27および28も、実施例6と比較して、コストを削減しながら特性の良好なバランスを達成している。
【0089】
表5に、本発明の鋼の元素範囲と、主要な合金元素の好ましい範囲と、を示す。他の元素は、例えば本明細書に示される最低レベルまたはそれに近いレベルで、実質的に存在しない。
【表5】
【0090】
特に高い耐クリープ性を有する好ましい鋼は、以下の元素範囲となる。
【表6】
【0091】
特に優れた耐酸化性を有する好ましい鋼は、以下の元素範囲となる。
【表7】
【0092】
特に優れた耐酸化性を有する他の好ましい鋼は、以下の元素範囲となる。
【表8】
【国際調査報告】