(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公表特許公報(A)
(11)【公表番号】
(43)【公表日】2024-09-26
(54)【発明の名称】前立腺癌の治療に使用するためのCYP11A1阻害剤
(51)【国際特許分類】
A61K 45/00 20060101AFI20240918BHJP
A61P 35/00 20060101ALI20240918BHJP
A61P 13/08 20060101ALI20240918BHJP
A61K 31/454 20060101ALI20240918BHJP
A61P 35/04 20060101ALI20240918BHJP
A61P 43/00 20060101ALI20240918BHJP
G01N 33/53 20060101ALI20240918BHJP
【FI】
A61K45/00
A61P35/00
A61P13/08
A61K31/454
A61P35/04
A61P43/00 111
G01N33/53 M
【審査請求】未請求
【予備審査請求】未請求
(21)【出願番号】P 2024518839
(86)(22)【出願日】2022-09-27
(85)【翻訳文提出日】2024-04-16
(86)【国際出願番号】 FI2022050646
(87)【国際公開番号】W WO2023052682
(87)【国際公開日】2023-04-06
(32)【優先日】2021-09-28
(33)【優先権主張国・地域又は機関】FI
(81)【指定国・地域】
(71)【出願人】
【識別番号】523332172
【氏名又は名称】オリオン・コーポレーション
(74)【代理人】
【識別番号】100114188
【氏名又は名称】小野 誠
(74)【代理人】
【識別番号】100119253
【氏名又は名称】金山 賢教
(74)【代理人】
【識別番号】100124855
【氏名又は名称】坪倉 道明
(74)【代理人】
【識別番号】100129713
【氏名又は名称】重森 一輝
(74)【代理人】
【識別番号】100137213
【氏名又は名称】安藤 健司
(74)【代理人】
【識別番号】100183519
【氏名又は名称】櫻田 芳恵
(74)【代理人】
【識別番号】100196483
【氏名又は名称】川嵜 洋祐
(74)【代理人】
【識別番号】100160749
【氏名又は名称】飯野 陽一
(74)【代理人】
【識別番号】100160255
【氏名又は名称】市川 祐輔
(74)【代理人】
【識別番号】100219265
【氏名又は名称】鈴木 崇大
(74)【代理人】
【識別番号】100203208
【氏名又は名称】小笠原 洋平
(74)【代理人】
【識別番号】100216839
【氏名又は名称】大石 敏幸
(74)【代理人】
【識別番号】100228980
【氏名又は名称】副島 由加里
(74)【代理人】
【識別番号】100146318
【氏名又は名称】岩瀬 吉和
(74)【代理人】
【識別番号】100127812
【氏名又は名称】城山 康文
(72)【発明者】
【氏名】イコネン,タルヤ
(72)【発明者】
【氏名】ヴオレラ,アンナマリ
【テーマコード(参考)】
4C084
4C086
【Fターム(参考)】
4C084AA17
4C084NA14
4C084ZA81
4C084ZB26
4C084ZC20
4C086AA01
4C086AA02
4C086BC21
4C086GA02
4C086GA07
4C086GA12
4C086MA01
4C086MA04
4C086NA14
4C086ZA81
4C086ZB26
4C086ZC20
(57)【要約】
本発明は、CYP11A1阻害剤による治療に応答する可能性がより高い前立腺癌患者を特定するためのバイオマーカーとしての活性化AR遺伝子改変の使用に関する。本発明はまた、前立腺癌を治療するための方法であって、a)患者から試料を取得すること、または取得していることと、b)患者が活性化AR遺伝子改変を有するかどうかを決定するために、試料をアッセイすること、またはアッセイしていることと、c)患者が活性化AR遺伝子改変を有する場合、治療有効量のCYP11A1阻害剤で患者を治療することと、を含む、当該方法に関する。
【選択図】なし
【特許請求の範囲】
【請求項1】
活性化アンドロゲン受容体(AR)遺伝子改変を有する患者における前立腺癌の治療のための方法であって、治療有効量のCYP11A1阻害剤を前記患者に投与することを含む、前記方法。
【請求項2】
前記CYP11A1阻害剤が、式(I)の化合物またはその薬学的に許容される塩である
【化1】
(式中、R
1は、水素または-CF
3である)、請求項1に記載の方法。
【請求項3】
R
1が、水素である、請求項2に記載の方法。
【請求項4】
活性化AR遺伝子改変を有する前記患者が、活性化AR遺伝子改変を有しない前記患者よりも、前記治療に応答する可能性がより高い、請求項1~3のいずれか1項に記載の方法。
【請求項5】
前記活性化AR遺伝子改変が、AR遺伝子増幅である、請求項1~4のいずれか1項に記載の方法。
【請求項6】
前記活性化AR遺伝子改変が、活性化AR-LBD変異である、請求項1~4のいずれか1項に記載の方法。
【請求項7】
前記活性化AR-LBD変異が、活性化AR-LBD点変異である、請求項6に記載の方法。
【請求項8】
前記患者が、Q671R、I673T、L702H、V716M、V716L、K718E、R727L、V731M、W742L、W742C、A749T、A749V、M750I、G751S、V758A、S783N、Q799E、R847G、E873Q、H875Y、H875Q、F877L、T878A、T878S、D880E、L882I、S889G、D891N、D891H、D891Y、E894K、M896T、M896V、A897T、E898G、K911R、T919S、及びQ920Rからなる群から選択される前記活性化AR-LBD点変異のうちの1つ以上を有する、請求項7に記載の方法。
【請求項9】
前記患者が、L702H、V716M、V716L、W742L、W742C、H875Y、F877L、T878A、T878S、D891Y、M896T、及びM896Vからなる群から選択される前記活性化AR-LBD点変異のうちの1つ以上を有する、請求項8に記載の方法。
【請求項10】
前記患者が、L702H、V716M、V716L、W742C、H875Y、F877L、T878A、D891Y、及びM896Tからなる群から選択される前記活性化AR-LBD点変異のうちの1つ以上を有する、請求項9に記載の方法。
【請求項11】
前記患者が、アンドロゲン受容体アンタゴニストまたはCYP17A1阻害剤による療法を以前に受けている、請求項1~10のいずれか1項に記載の方法。
【請求項12】
前記患者が、エンザルタミドまたはアビラテロンアセテートまたはその薬学的に許容される塩による療法を以前に受けている、請求項11に記載の方法。
【請求項13】
前記患者が、アンドロゲン受容体アンタゴニスト療法またはCYP17A1阻害剤療法に耐性である、請求項1~12のいずれか1項に記載の方法。
【請求項14】
前記患者が、エンザルタミドまたはアビラテロンアセテートまたはその薬学的に許容される塩による治療に耐性である、請求項13に記載の方法。
【請求項15】
治療される前記前立腺癌が、去勢抵抗性前立腺癌(CRPC)である、請求項1~14のいずれか1項に記載の方法。
【請求項16】
前記治療される前立腺癌が、転移性去勢抵抗性前立腺癌(mCRPC)である、請求項15に記載の方法。
【請求項17】
患者における前立腺癌を治療するための方法であって、
a)前記患者から試料を取得すること、または取得していることと、
b)前記患者が活性化AR遺伝子改変を有するかどうかを決定するために、前記試料をアッセイすること、またはアッセイしていることと、
c)前記患者が活性化AR遺伝子改変を有する場合、治療有効量のCYP11A1阻害剤で前記患者を治療することと、を含む、前記方法。
【請求項18】
前記CYP11A1阻害剤が、式(I)の化合物またはその薬学的に許容される塩である
【化2】
(式中、R
1は、水素または-CF
3である)、請求項17に記載の方法。
【請求項19】
R
1が、水素である、請求項18に記載の方法。
【請求項20】
活性化AR遺伝子改変を有する前記患者が、活性化AR遺伝子改変を有しない患者よりも、前記治療に応答する可能性がより高い、請求項17~19のいずれか1項に記載の方法。
【請求項21】
前記活性化AR遺伝子改変が、AR遺伝子増幅である、請求項17~20のいずれか1項に記載の方法。
【請求項22】
前記活性化AR遺伝子改変が、活性化AR-LBD変異である、請求項17~20のいずれか1項に記載の方法。
【請求項23】
前記試料が、前記患者由来のARまたはその一部を含む、請求項17~22のいずれか1項に記載の方法。
【請求項24】
前記試料が、前記患者由来のARまたはその一部をコードするポリヌクレオチドを含む、請求項17~22のいずれか1項に記載の方法。
【請求項25】
前記患者由来のAR-LBDポリヌクレオチドまたはその一部の配列を決定することを含む、請求項24に記載の方法。
【請求項26】
既知のAR-LBD改変をハイブリッドキャプチャするように設計されたAR-LBD領域を標的とする遺伝子パネルアッセイに前記試料を供することを含む、請求項24に記載の方法。
【請求項27】
治療される前記前立腺癌が、去勢抵抗性前立腺癌(CRPC)である、請求項17~26のいずれか1項に記載の方法。
【請求項28】
前記治療される前立腺癌が、転移性去勢抵抗性前立腺癌(mCRPC)である、請求項27に記載の方法。
【請求項29】
治療される前記前立腺癌が、去勢感受性前立腺癌(CSPC)である、請求項17~26のいずれか1項に記載の方法。
【請求項30】
前記治療される前立腺癌が、転移性去勢感受性前立腺癌(mCSPC)である、請求項29に記載の方法。
【請求項31】
CYP11A1阻害剤による治療のために前立腺癌に罹患している患者を選択する方法であって、
a)前記患者が活性化AR遺伝子改変を有するかどうかを決定するために、試料をアッセイすること、またはアッセイしていることと、
b)前記患者が活性化AR-LBD遺伝子改変を有する場合、CYP11A1阻害剤による前記治療のために前記患者を選択することと、を含む、前記方法。
【請求項32】
前記CYP11A1阻害剤が、式(I)の化合物またはその薬学的に許容される塩である
【化3】
(式中、R
1は、水素または-CF
3である)、請求項31に記載の方法。
【請求項33】
R
1が、水素である、請求項32に記載の方法。
【請求項34】
活性化AR遺伝子改変を有する前記患者が、活性化AR遺伝子改変を有しない患者よりも、前記治療に応答する可能性がより高い、請求項31~33のいずれか1項に記載の方法。
【請求項35】
前記患者が、去勢抵抗性前立腺癌(CRPC)に罹患している、請求項31~34のいずれか1項に記載の方法。
【請求項36】
前記患者が、転移性去勢抵抗性前立腺癌(mCRPC)に罹患している、請求項35に記載の方法。
【請求項37】
前記患者が、去勢感受性前立腺癌(CSPC)に罹患している、請求項31~34のいずれか1項に記載の方法。
【請求項38】
前記患者が、転移性去勢感受性前立腺癌(mCSPC)に罹患している、請求項37に記載の方法。
【請求項39】
CYP11A1阻害剤を含む治療に応答する可能性がより高い、前立腺癌に罹患している患者を特定するための方法であって、前記患者が活性化AR遺伝子改変を有するかどうかを決定するために、前記患者から得られた試料をアッセイすること、またはアッセイしていることを含み、そのような改変が、前記治療に応答する可能性がより高いものとして前記患者を特定する、前記方法。
【請求項40】
前記CYP11A1阻害剤が、式(I)の化合物またはその薬学的に許容される塩である
【化4】
(式中、R
1は、水素または-CF
3である)、請求項39に記載の方法。
【請求項41】
R
1が、水素である、請求項40に記載の方法。
【請求項42】
活性化AR遺伝子改変を有する患者における前立腺癌の治療に使用するための薬学的組成物であって、有効成分としてのCYP11A1阻害剤及び薬学的に許容される担体を含む、前記薬学的組成物。
【請求項43】
前記CYP11A1阻害剤が、式(I)の化合物またはその薬学的に許容される塩である
【化5】
(式中、R
1は、水素または-CF
3である)、請求項42に記載の組成物。
【請求項44】
R
1が、水素である、請求項43に記載の組成物。
【請求項45】
活性化AR遺伝子改変を有する前記患者が、活性化AR遺伝子改変を有しない患者よりも、CYP11A1阻害剤による前記治療に応答する可能性がより高い、請求項42~44のいずれか1項に記載の組成物。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本開示は、CYP11A1阻害剤を有効成分として使用して前立腺癌を治療する方法に関する。本開示は、CYP11A1阻害剤による治療に応答する可能性がより高い患者を特定するためのバイオマーカーとしての活性化アンドロゲン受容体(AR)遺伝子改変の使用を提供する。
【背景技術】
【0002】
前立腺癌は、男性で2番目に多いがんである。前立腺癌による死亡の大部分は、従来のアンドロゲン除去療法(ADT)に応答しない転移性疾患の発症に起因する。外科的または医学的アプローチのいずれかを使用するアンドロゲン除去は、何十年もの間、進行性及び転移性前立腺癌の標準療法であった。アンドロゲン除去療法後に出現する前立腺癌は、アンドロゲン受容体シグナル伝達に依存したままであることが明らかになった。ADTに生存または応答しない前立腺癌細胞は、しばしば低レベルの循環アンドロゲン(副腎から発現される)を獲得し、または輸入する能力を示し、これらの低レベルのテストステロンに対してはるかに敏感になり、実際に前立腺癌細胞自体内でテストステロンを合成する。前立腺癌のこの段階は、「去勢抵抗性前立腺癌」またはCRPCと呼ばれる。
【0003】
アンドロゲン受容体(AR)は、リガンド誘導性ステロイドホルモン受容体であり、体全体に広く分布し、多様な活動に関与しているが、その主要かつ支配的な機能は男性の性の発達及び分化にある。それは、構造的及び機能的な類似性を共有する核受容体スーパーファミリーのメンバーである。それは、3つの主ドメイン、(i)転写活性を調節する超可変N末端ドメイン、(ii)中央の高度に保存されたDNA結合ドメイン、及び(iii)大きなC末端リガンド結合ドメイン(AR-LBD)、ならびにDNA結合ドメインとAR-LBDとの間の短いリンカーを含む。ARは、前立腺の増殖及び分化に関与する遺伝子の主要な調節細胞内転写因子である。
【0004】
ARシグナル伝達軸は、前立腺癌のすべての段階で重要である。CRPC段階では、疾患は、高いAR発現、AR増幅、ならびに残存組織/腫瘍アンドロゲン及び他のステロイドホルモン及びステロイド生合成の中間体によるARシグナル伝達軸の持続的活性化を特徴とする。したがって、CRPCの現在の治療は、ARアンタゴニスト(例えば、フルタミド、ニルタミド、ビカルタミド、エンザルタミド、アパルタミド、及びダロルタミド)及びアンドロゲン合成阻害剤(例えば、アビラテロンアセテートを含むCYP17A1阻害剤)などのアンドロゲン受容体シグナル伝達阻害剤(ARSi)を含む。
【0005】
療法は最初は疾患の退縮につながる可能性があるが、最終的に患者の大多数は、現在利用可能な療法に対して難治性である疾患を発症する。アビラテロンアセテートで治療された患者におけるプロゲステロンレベルの増加は、耐性メカニズムのうちの1つであると仮定されている。いくつかの非臨床及び臨床研究は、CRPCの後期段階でステロイド生合成を触媒する酵素のアップレギュレーションを示している。更に、CYP17A1阻害に対する前立腺癌耐性は、CYP11A1阻害療法などによって、CYP17A1の上流でのデノボ腫瘍内ステロイド合成を更に抑制することができる療法にステロイド依存性及び応答性のままであり得ることが対処されている(Cai,C.et al,Cancer Res.,71(20),6503-6513,2011)。
【0006】
シトクロムP450モノオキシゲナーゼ11A1(CYP11A1)は、コレステロール側鎖切断酵素とも呼ばれ、すべてのステロイドホルモンの前駆体であるプレグネノロンへのコレステロールの変換を触媒するミトコンドリアモノオキシゲナーゼである。CYP17A1の上流のステロイド生合成の主要酵素であるCYP11A1を阻害することにより、全ステロイド生合成の全ブロックを達成することができる。したがって、CYP11A1阻害剤は、前立腺癌などのステロイドホルモン依存性がんを、疾患の進行段階であっても、特にホルモン不応性であるように見える患者において、治療するための大きな可能性を有する可能性がある。最近、2つの選択的CYP11A1阻害剤、2-(イソインドリン-2-イルメチル)-5-((1-(メチルスルホニル)ピペリジン-4-イル)メトキシ)-4H-ピラン-4-オン(1A)及び5-((1-(メチルスルホニル)ピペリジン-4-イル)メトキシ)-2-((5-(トリフルオロメチル)イソインドリン-2-イル)メチル)-4H-ピラン-4-オン(1B)が前立腺癌患者の治療のための臨床試験に入っている。
【0007】
AR遺伝子増幅などのAR遺伝子改変の活性化及びARのリガンド結合ドメイン(LBD)の変異の活性化は、抗アンドロゲン治療に対する耐性の他のメカニズムである。AR遺伝子増幅は、低濃度の血清アンドロゲンにもかかわらず、腫瘍細胞がAR依存性成長を継続することを可能にするARの過剰発現につながり得る。AR-LBDの変異は、ARの機能獲得を引き起こすLBDの機能変化をもたらし得る。AR-LBDにおける様々な点変異は、弱副腎アンドロゲン、ステロイド性及び非ステロイド性リガンド、ならびにAR阻害剤のアゴニストへの変異駆動型変換によってAR活性化をもたらすことが示されている。例えば、AR-LBDにおけるF877L点変異は、前臨床モデル及び臨床研究の両方でエンザルタミド耐性に関連することが報告されている。F877L変異は、臨床的に関連する数のエンザルタミド耐性患者においても検出される。
【0008】
したがって、前立腺癌のための改善された療法、及び療法に応答する可能性が最も高い患者を特定するための方法が必要である。
【発明の概要】
【0009】
2-(イソインドリン-2-イルメチル)-5-((1-(メチルスルホニル)ピペリジン-4-イル)メトキシ)-4H-ピラン-4-オン(1A)及び5-((1-(メチルスルホニル)ピペリジン-4-イル)メトキシ)-2-((5-(トリフルオロメチル)イソインドリン-2-イル)メチル)-4H-ピラン-4-オン(1B)などのCYP11A1阻害剤は、活性化AR遺伝子改変、例えば、AR遺伝子増幅または活性化AR-LBD変異を有する前立腺癌患者の治療に特に有効であることが分かっている。そのような活性化AR遺伝子改変を有する患者は、活性化AR遺伝子改変を有しない患者よりも、化合物(1A)または(1B)などのCYP11A1阻害剤による治療に応答する可能性が高いことが見出された。したがって、かかる活性化AR遺伝子改変は、CYP11A1阻害剤による治療から利益を得る可能性がより高い前立腺癌患者を選択するためのバイオマーカーとしても有用である。
【0010】
一態様によれば、本開示は、活性化AR遺伝子改変を有する患者における前立腺癌の治療のための方法であって、治療有効量のCYP11A1阻害剤を当該患者に投与することを含む方法を提供する。
【0011】
別の態様によれば、本開示は、活性化AR遺伝子改変を有する患者における前立腺癌の治療のための方法に使用するためのCYP11A1阻害剤を提供する。
【0012】
別の態様によれば、本開示は、前立腺癌を治療するための方法であって、
a)患者から試料を取得すること、または取得していることと、
b)患者が活性化AR遺伝子改変を有するかどうかを決定するために、試料をアッセイすること、またはアッセイしていることと、
c)患者が活性化AR遺伝子改変を有する場合、治療有効量のCYP11A1阻害剤で患者を治療することと、を含む、方法を提供する。
【0013】
一実施形態によれば、活性化AR遺伝子改変は、活性化AR-LBD変異である。別の実施形態によれば、活性化AR遺伝子改変は、AR遺伝子増幅である。
【0014】
更に別の態様によれば、本開示は、CYP11A1阻害剤による治療のために前立腺癌に罹患している患者を選択する方法であって、
a)患者から試料を取得すること、または取得していることと、
b)患者が活性化AR遺伝子改変を有するかどうかを決定するために、試料をアッセイすること、またはアッセイしていることと、
c)患者が活性化AR遺伝子改変を有する場合、CYP11A1阻害剤による治療のために患者を選択することと、を含む、方法を提供する。
【0015】
一実施形態によれば、活性化AR遺伝子改変は、活性化AR-LBD変異である。別の実施形態によれば、活性化AR遺伝子改変は、AR遺伝子増幅である。少なくとも1つの実施形態において、CYP11A1阻害剤による治療のために選択された患者に、治療有効量のCYP11A1阻害剤が投与される。
【0016】
別の態様によれば、本開示は、CYP11A1阻害剤を含む治療に応答する可能性がより高い、前立腺癌に罹患している患者を特定するための方法であって、患者が活性化AR遺伝子改変を有するかどうかを決定するために、患者から得られた試料をアッセイすること、またはアッセイしていることを含み、そのような改変は、患者を治療に応答する可能性がより高いものとして特定する、方法を提供する。少なくとも1つの実施形態において、CYP11A1阻害剤による治療のために選択された患者に、治療有効量のCYP11A1阻害剤が投与される。
【図面の簡単な説明】
【0017】
【
図1】以前のARSi治療を受けた37人の前立腺癌患者における、特定された活性化AR遺伝子改変(複数可)の有無にかかわらず、ベースラインからの前立腺特異的抗原(PSA)変化(%)を示す。
【
図2】示される各患者における変異(複数可)の同一性を有する活性化AR-LBD変異を有する16人の患者におけるベースラインからのPSA変化(%)を示す。
【
図3】以前のARSi治療を有する25人の前立腺癌患者における、特定された活性化AR遺伝子改変(複数可)の有無にかかわらず、ベースラインからのPSA変化(%)を示す。
【
図4】示される各患者における変異(複数可)の同一性を有する活性化AR-LBD変異を有する15人の患者におけるベースラインからのPSA変化(%)を示す。
【発明を実施するための形態】
【0018】
本開示は、活性化AR遺伝子改変を有する患者における前立腺癌の治療のための方法であって、治療有効量のCYP11A1阻害剤を当該患者に投与することを含む、方法を提供する。一態様によれば、CYP11A1阻害剤は、式(I)の化合物またはその薬学的に許容される塩である。
【化1】
ここで、式中、R
1は、水素または-CF
3である。
【0019】
別の態様によれば、CYP11A1阻害剤は、2-(イソインドリン-2-イルメチル)-5-((1-(メチルスルホニル)ピペリジン-4-イル)メトキシ)-4H-ピラン-4-オン(1A)またはその薬学的に許容される塩である。更に別の態様によれば、CYP11A1阻害剤は、5-((1-(メチルスルホニル)ピペリジン-4-イル)メトキシ)-2-((5-(トリフルオロメチル)イソインドリン-2-イル)メチル)-4H-ピラン-4-オン(1B)である。これらの化合物は、前立腺癌患者の治療のための臨床試験に最近入っている。
【0020】
臨床研究の結果、活性化AR遺伝子改変を有する患者は、活性化AR遺伝子改変を有さない患者よりも、CYP11A1阻害剤による治療に応答する可能性が高いことが示された。
【0021】
「選択的CYP11A1阻害剤」という用語は、本明細書で使用される場合、CYP11A1酵素に選択的に結合し、その活性を抑制する化合物を指す。一実施形態によれば、選択的CYP11A1阻害剤は、CYP1A2、CYP2B6、CYP2C8、CYP2C9、CYP2C19、CYP2D6、及びCYP3A4を含む他の薬物代謝CYP阻害剤よりも、少なくとも100倍、例えば、少なくとも500倍、より強力にCYP11A1を阻害する。
【0022】
「活性化AR遺伝子改変」という用語は、本明細書で使用される場合、アンドロゲン受容体(AR)のリガンド特異性を広げ、代替リガンドによるARの活性化を引き起こし、及び/またはARを低レベルの内因性アンドロゲン、例えばジヒドロテストステロンに感作させるアンドロゲン受容体(AR)の改変を指す。活性化AR遺伝子改変の例としては、限定されないが、AR遺伝子増幅及び活性化AR-LBD変異が挙げられる。
【0023】
「AR遺伝子増幅」または「AR増幅」という用語は、本明細書で使用される場合、AR遺伝子の追加的または複数のコピーの形成を指す。AR遺伝子増幅の例としては、AR遺伝子の少なくとも2コピー、少なくとも3コピー、少なくとも5コピー、少なくとも8コピー、少なくとも10コピー、少なくとも15コピー、及び少なくとも20コピーが挙げられる。
【0024】
「活性化AR-LBD変異」という用語は、本明細書で使用される場合、アンドロゲン受容体(AR)のリガンド特異性を広げ、代替リガンドによるARの活性化を引き起こし、及び/またはARを低レベルの内因性アンドロゲン、例えばジヒドロテストステロンに感作させる、アンドロゲン受容体(AR)のリガンド結合ドメイン(LBD)における機能獲得変異を指す。活性化AR-LBD変異は、例えば、活性化AR-LBD点変異、活性化AR-LBD挿入変異、または活性化AR-LBD欠失変異を含み得る。本開示の一態様では、活性化AR-LBD変異は、活性化AR-LBD点変異である。
【0025】
「活性化AR-LBD点変異」という用語は、本明細書で使用される場合、AR-LBDアミノ酸配列における野生型アミノ酸の別のアミノ酸への変化などの単一のアミノ酸変異である活性化AR-LBD変異を指す。
【0026】
ヒトアンドロゲン受容体アミノ酸番号付けは、本明細書で使用される場合、UniProt ID:P10275.1(2016年3月16日に更新された)を指す。アンドロゲン受容体(AR)のリガンド結合ドメイン(LBD)は、アミノ酸残基663~919をカバーする(Wang et al.,Acta Cryst.,F62,1067-1071,2006)。
【0027】
本明細書で使用される場合、AR-LBDの点変異命名法は、変異された変動におけるアミノ酸位置及びアミノ酸置換に続く野生型アミノ酸を描くという標準に従う。例えば、点変異「L702H」は、アミノ酸ロイシン(L)が、AR-LBD位置702でアミノ酸ヒスチジン(H)で置換されていることを意味する。
【0028】
様々な活性化AR-LBD変異は、例えば、Shi,X-B.et al.,“Functional Analysis of 44 Mutant Androgen Receptors from Human Prostate Cancer”,Cancer Research,62,1496-1502,2002(AR-LBD点変異Q671R、I673T、L702H、V716M、K718E、R727L、V731M、A749T、A749V、G751S、V758A、S783N、Q799E、R847G、H875Y、T878A、D891N、A897T、K911R、Q920R)、
Lallous,N.et al.,“Functional analysis of androgen receptor mutations that confer anti-androgen resistance identified in circulating cell-free DNA from prostate cancer patients”,Genome Biology,17:10,1-15,2016(AR-LBD点変異L702H、V716M、V731M、W742C、W742L、H875Y、H875Q、F877L、T878A、T878S、D880E、L882I、S889G、D891H、E894K、M896T、M896V、E898G、T919S)、
Chen,G.et al.,“Androgen Receptor Mutants Detected in Recurrent Prostate Cancer Exhibit Diverse Functional Characteristics”,The Prostate,63,395-406,2005(AR-LBD点変異E873Q)、及び
Buchanan,G.et al.,“Mutations at the Boundary of the Hinge and Ligand Binding Domain of the Androgen Receptor Confer Increased Transactivation Function”,MolecularEndocrinology,15(1),46-56,2001(AR-LBD点変異Q671R及びI673T)に記載されている。
【0029】
本開示の方法の一態様では、患者は、Q671R、I673T、L702H、V716M、V716L、K718E、R727L、V731M、W742L、W742C、A749T、A749V、M750I、G751S、V758A、S783N、Q799E、R847G、E873Q、H875Y、H875Q、F877L、T878A、T878S、D880E、L882I、S889G、D891N、D891H、D891Y、E894K、M896T、M896V、A897T、E898G、K911R、T919S及びQ920Rからなる群から選択されるAR-LBD点変異のうちの1つ以上を有する。
【0030】
本開示の方法の別の態様では、患者は、L702H、V716M、V716L、W742L、W742C、H875Y、F877L、T878A、T878S、D891Y、M896T及びM896Vからなる群から選択されるAR-LBD点変異のうちの1つ以上を有する。
【0031】
本開示の方法の別の態様では、患者は、L702H、V716M、V716L、W742C、H875Y、F877L、T878A、D891Y及びM896Tからなる群から選択されるAR-LBD点変異のうちの1つ以上を有する。
【0032】
本開示の方法の別の態様では、治療される患者は、アンドロゲン受容体アンタゴニスト及びCYP17A1阻害剤などのアンドロゲン受容体シグナル伝達阻害剤(ARSi)、及び/または化学療法剤による治療を以前に受けている。典型的なアンドロゲン受容体アンタゴニストには、エンザルタミド、アパルタミド、ダロルタミド、ビカルタミド、フルタミド、ニルタミド、及びそれらの薬学的に許容される塩が含まれるが、これらに限定されない。典型的なCYP17A1阻害剤には、アビラテロンアセテート及びセビテロネルが含まれるが、これらに限定されない。典型的な化学療法剤には、ドセタキセル、パクリタキセル、及びカバジタキセルが含まれるが、これらに限定されない。
【0033】
本開示の方法の別の態様では、治療される患者は、エンザルタミド、アパルタミド、ダロルタミド、及び/またはアビラテロンアセテートまたはその薬学的に許容される塩による治療を以前に受けている。別の態様では、治療される患者は、エンザルタミド及び/またはアビラテロンアセテートまたはその薬学的に許容される塩による治療を早期に受けている。
【0034】
本開示の方法の別の態様では、治療される患者は、アンドロゲン受容体アンタゴニスト療法またはCYP17A1阻害剤療法に耐性である。別の態様では、治療される患者は、エンザルタミド、アパルタミド、ダロルタミド、及び/またはアビラテロンアセテート、またはその薬学的に許容される塩による治療に耐性である。別の態様では、治療される患者は、エンザルタミド及び/またはアビラテロンアセテートまたはその薬学的に許容される塩による治療に耐性である。
【0035】
本開示は、前立腺癌を治療するための方法であって、
a)患者から試料を取得すること、または取得していることと、
b)患者が活性化AR遺伝子改変を有するかどうかを決定するために、試料をアッセイすること、またはアッセイしていることと、
c)患者が活性化AR遺伝子改変を有する場合、治療有効量のCYP11A1阻害剤で患者を治療することと、を含む、方法を更に提供する。
【0036】
一実施形態によれば、活性化AR遺伝子改変は、活性化AR-LBD変異である。別の実施形態によれば、活性化AR遺伝子改変は、AR遺伝子増幅である。
【0037】
試料は、例えば、血液試料または組織試料であり得る。試料は、患者のARポリペプチドまたはARポリペプチドをコードするポリヌクレオチドを好適に含む。一実施形態において、試料は、患者のAR-LBDポリペプチドまたはAR-LBDポリペプチドをコードするポリヌクレオチドを含む。一態様では、方法は、AR(例えば、AR-LBD)ポリヌクレオチドまたはその一部の配列を決定することと、続いて、患者のAR(例えば、AR-LBD)ポリヌクレオチドまたはポリペプチドまたはその一部の配列をAR(例えば、AR-LBD)ポリヌクレオチドまたはポリペプチドまたはその一部の野生型配列と比較して、患者が活性化AR遺伝子改変(例えば、活性化AR-LBD変異またはAR増幅)を有するかどうかを決定することと、を含み得る。代替的に、試料を、既知のAR変異改変をハイブリッドキャプチャするように設計されたAR領域を標的とする好適な遺伝子パネルアッセイに供してもよい。活性化AR遺伝子改変(例えば、活性化AR-LBD変異またはAR増幅)を有する患者は、活性化AR遺伝子改変(例えば、活性化AR-LBD変異またはAR増幅)を有しない患者よりも、CYP11A1阻害剤による治療に応答する可能性が高いことが見出されている。
【0038】
本開示の一態様によれば、CYP11A1阻害剤は、選択的CYP11A1阻害剤である。本開示の別の態様によれば、CYP11A1阻害剤は、式(I)の化合物またはその薬学的に許容される塩である
【化2】
(式中、R
1は、水素または-CF
3である)。
【0039】
特に、式(I)の化合物は、2-(イソインドリン-2-イルメチル)-5-((1-(メチルスルホニル)ピペリジン-4-イル)メトキシ)-4H-ピラン-4-オン(1A)及び5-((1-(メチルスルホニル)ピペリジン-4-イル)メトキシ)-2-((5-(トリフルオロメチル)イソインドリン-2-イル)メチル)-4H-ピラン-4-オン(1B)、またはその薬学的に許容される塩である。
【0040】
本開示は、CYP11A1阻害剤による治療のために前立腺癌に罹患している患者を選択するための方法であって、
a)患者が活性化AR遺伝子改変を有するかどうかを決定するために、患者から得られた試料をアッセイすること、またはアッセイしていることと、
b)患者が活性化AR遺伝子改変を有する場合、CYP11A1阻害剤による治療のために患者を選択することと、を含む、方法を更に提供する。
【0041】
一実施形態によれば、活性化AR遺伝子改変は、活性化AR-LBD変異である。別の実施形態によれば、活性化AR遺伝子改変は、AR増幅である。少なくとも1つの実施形態において、CYP11A1阻害剤による治療のために選択された患者に、治療有効量のCYP11A1阻害剤が投与される。
【0042】
本開示は、CYP11A1阻害剤を含む治療に応答する可能性がより高い、前立腺癌に罹患している患者を特定するための方法であって、患者が活性化AR遺伝子改変を有するかどうかを決定することを含み、そのような改変は、患者を治療に応答する可能性がより高いと特定する、方法を更に提供する。
【0043】
一実施形態によれば、活性化AR遺伝子改変は、活性化AR-LBD変異である。別の実施形態によれば、活性化AR遺伝子改変は、AR増幅である。
【0044】
本開示は更に、活性化AR遺伝子改変を有する患者における前立腺癌の治療に使用するための薬学的組成物であって、有効成分としてのCYP11A1阻害剤及び薬学的に許容される担体を含む、薬学的組成物を提供する。活性化AR遺伝子改変を有する患者は、活性化AR遺伝子改変を有しない患者よりも、当該医薬組成物による治療に応答する可能性が高い。一実施形態によれば、活性化AR遺伝子改変は、活性化AR-LBD変異である。別の実施形態によれば、活性化AR遺伝子改変は、AR増幅である。一実施形態において、薬学的組成物は、式(I)の化合物またはその薬学的に許容される塩を含む
【化3】
(式中、R
1は、水素または-CF
3である)。一実施形態では、R
1は、水素である。別の実施形態では、R
1は-CF
3である。
【0045】
一態様では、治療される前立腺癌は、去勢抵抗性前立腺癌(CRPC)である。別の態様では、治療される前立腺癌は、転移性去勢抵抗性前立腺癌(mCRPC)である。別の態様では、治療される前立腺癌は、非転移性去勢抵抗性前立腺癌(nmCRPC)である。更に別の態様では、治療される前立腺癌は、去勢感受性前立腺癌(CSPC)である。
【0046】
一態様では、活性化AR遺伝子改変(例えば、活性化AR-LBD変異またはAR増幅)を有する前立腺癌患者、例えば、mCRPCに罹患している患者へのCYP11A1阻害剤、例えば、式(I)の化合物の投与は、放射線学的無増悪生存期間(rPRS)、全生存期間の増加、及び/またはPSA値の減少をもたらす。別の態様では、活性化AR遺伝子改変(例えば、活性化AR-LBD変異またはAR増幅)を有する前立腺癌患者、例えば、mCRPCに罹患している患者に、CYP11A1阻害剤、例えば、式(I)の化合物を投与することは、活性化AR遺伝子改変(例えば、活性化AR-LBD変異またはAR増幅)を有さない患者と比較して、放射線学的無増悪生存期間(rPFS)のより高い増加、全生存期間のより高い増加、及び/またはPSA値のより高い減少をもたらす。
【0047】
試料調製及びゲノムプロファイリング
患者由来の試料が特定の遺伝子改変を有するARを含むかどうかを決定するために利用可能な様々な方法がある。方法には、核酸配列決定(例えば、DNA配列決定、RNA配列決定、タンパク質配列決定、全トランスクリプトーム配列決定、または当該技術分野で既知の他の方法)、または当該変異に特異的な抗体もしくは核酸の使用が含まれるが、これらに限定されない。配列決定に関連する様々な参考文献については、例えば、Morin et al.,Nature 476:298-303(2011)、Kridel et al.,Blood 119:1963-1971(2012)、Ren et al.,Cell Res.22:806-821(2012)を参照されたい。
【0048】
体細胞活性化AR遺伝子改変の検出は、患者の血漿から循環無細胞DNA(cfDNA)を収集することによって好適に実施することができる。最初に患者から全血試料を採取する。試料を処理して、cfDNAのゲノムプロファイリングに好適なプロトコルに従って血漿を得る。cfDNAは、血漿から抽出され、前立腺腫瘍細胞由来の体細胞活性化AR遺伝子改変は、例えば、適切なハイブリッドキャプチャ法によって、好適には、AR領域を標的とする市販の遺伝子パネルを使用して検出される。好適な方法の例として、例えば、Guardant Health,Inc.から入手可能なGuardant360 CDxデジタル次世代シーケンス(NGS)アッセイ(Odegaard,J.et al.,Clin Cancer Res,2018,24(15),3539-3549)(AR-LBD変異及びAR増幅)、Sysmex Inostics,Inc.から入手可能なOncoBEAM(登録商標)デジタルPCR法(AR-LBD変異)、ならびにFoundation Medicineから入手可能なFoundationOne Liquid CDx及びCaris Life Sciencesから入手可能なCaris Assure(商標)が挙げられる。
【0049】
あるいは、患者の前立腺腫瘍細胞のゲノムプロファイリングのための試料を得ることは、従来の腫瘍組織生検によって行うことができる。しかしながら、上記のバイオフルイドベースのcfDNA法などの侵襲性の低い方法が好ましい。
【0050】
AR-LBD変異のインビトロ機能試験
本明細書で定義されるように、ARの観察される遺伝子改変が「活性化AR遺伝子改変」であるかどうかは、例えば、以下のように試験することができる。
【0051】
野生型ヒトアンドロゲン受容体(WT-AR)は、好適な発現プラスミド、例えば、pcDNA3.1にコードされる。AR改変(例えば、AR-LBD点変異)は、当該技術分野で既知の部位特異的変異誘発系を使用して、AR cDNAで生成することができる。次いで、変異原性オリゴヌクレオチドプライマーを、所望のAR変異で個別に設計して、試験される変異のAR cDNAを得る。次いで、変異したAR発現プラスミドは、当該技術分野で既知の方法を使用して調製することができる。
【0052】
AR発現を欠く好適な細胞、例えばPC-3またはCV-1細胞を、木炭剥離血清(CSS)を有する培地中で増殖させる。細胞を、トランスフェクション試薬を使用して、wt-ARまたは改変されたAR発現プラスミド、及びルシフェラーゼのようなAR駆動レポータープラスミドで共トランスフェクションする。一過性にトランスフェクトされた細胞は、増大する濃度の試験されたリガンドで刺激される。試験されるリガンドには、内因性ホルモンステロイド、ならびに前立腺癌患者の治療に使用される抗アンドロゲン剤及びコルチコステロイド剤が含まれる。試験される内因性ホルモンステロイドには、テストステロン、ジヒドロテストステロン、プロゲステロン、アンドロステンジオン、デヒドロエピアンドロステロン(DHEA)、エストラジオール、コルチゾール、及びコルチゾンが含まれるが、これらに限定されない。試験される抗アンドロゲンには、ビカルタミド、フルタミド、ヒドロキシフルタミド、エンザルタミド、アパルタミド、及びダロルタミドが含まれるが、これらに限定されない。試験されるコルチコステロイドには、ヒドロコルチゾン、プレドニゾン、及びデキサメタゾンが含まれるが、これらに限定されない。
【0053】
通常、リガンド治療の24時間後に、培地を吸引し、細胞を溶解し、ルシフェラーゼ活性を測定して、リガンドによるAR活性化を決定する。例えば、Campana,C.et al,Semin Reprod Med.2015 May;33(3):225-234を参照されたい。
【0054】
野生型ARと改変型ARのリガンド誘導AR活性化を比較する。リガンドによる改変型ARのより高いAR活性化は、本明細書に定義されるように、試験されたAR遺伝子改変が「活性化AR遺伝子改変」であったことを示す。
【0055】
治療方法
本開示の一態様によれば、CYP11A1阻害剤、例えば、式(I)の化合物は、活性化AR遺伝子改変(例えば、活性化AR-LBD変異またはAR増幅)を有し、去勢抵抗性前立腺癌(CRPC)、例えば、転移性去勢抵抗性前立腺癌(mCRPC)などの前立腺癌に罹患している患者に投与される。活性化AR遺伝子改変(例えば、活性化AR-LBD変異またはAR増幅)を有する患者は、活性化AR遺伝子改変(例えば、活性化AR-LBD変異またはAR増幅)を有しない患者よりも、CYP11A1阻害剤による治療に応答する可能性が高い。一態様によれば、患者は、アンドロゲン受容体アンタゴニストまたはCYP17A1阻害剤などのアンドロゲン受容体シグナル伝達阻害剤(ARSi)、及び/または化学療法を以前に受けている。別の態様によれば、患者は、アンドロゲン受容体シグナル伝達阻害剤(ARSi)療法、例えば、アンドロゲン受容体アンタゴニスト療法及び/またはCYP17A1阻害剤療法に耐性である。
【0056】
CYP11A1阻害剤は、約0.1mg~約500mg、または約1mg~約500mgの範囲であり得、より典型的には、年齢、体重、患者の状態、治療される状態、投与経路、及び使用される活性成分に応じて、約2mg~約300mg、または約3mg~約150mgを毎日形成し得る治療有効量で患者に投与してもよい。式(I)の化合物を前立腺癌の治療に使用する場合、それは、患者に、約0.1mg~約300mg、または約1mg~約300mg、より典型的には、約2mg~約150mg、または約3mg~約100mg、例えば、約5mg~約100mg、約5mg~約50mg、または約7mg~約20mgの範囲であり得る1日用量で投与されてもよい。
【0057】
CYP11A1阻害剤は、好ましくは、グルココルチコイド及び/またはミネラルコルチコイドと共に、及び任意選択的に、1つ以上の抗がん剤と共に投与される。好適なグルココルチコイドの例としては、ヒドロコルチゾン、プレドニゾン、プレドニゾロン、メチルプレドニゾロン、及びデキサメタゾンが挙げられるが、これらに限定されない。好適なミネラルコルチコイドの例としては、フルドロコルチゾン、デオキシコルチコステロン、11-デオキシコルチゾン、及びデオキシコルチコステロン酢酸塩が挙げられるが、これらに限定されない。グルココルチコイドは、使用されるグルココルチコイドに応じて、慢性副腎不全の治療に推奨される用量、例えば、約0.2mg~約50mg/日で投与され得る。ミネラルコルチコイドは、使用されるミネラルコルチコイドに応じて、慢性副腎不全の治療に推奨される用量、例えば、約0.01mg~約0.5mgまたは約0.05mg~約0.5mg/日で投与されてもよい。
【0058】
CYP11A1阻害剤は、剤形に製剤化することができる。この化合物は、患者にそのまま、または錠剤、顆粒剤、カプセル剤、坐剤、エマルション、懸濁液または溶液の形態で好適な薬学的賦形剤と組み合わせて投与することができる。好適な担体、溶媒、ゲル形成成分、分散形成成分、酸化防止剤、着色剤、甘味料、湿潤化合物、及び剤形を製剤化するのに使用される他の成分も使用し得る。活性化合物を含有する組成物は、経腸または非経口投与することができ、経口経路が好ましい方法である。組成物中の活性化合物の含有量は、全組成物の重量当たり約0.5~100%、例えば、約0.5~約20%である。
【0059】
CYP11A1阻害剤、例えば、式(I)の化合物は、アンドロゲン除去療法(ADT)、ARアンタゴニスト、PARP(ポリ-ADPリボースポリメラーゼ)阻害剤、化学療法剤(例えば、ドセタキセル、パクリタキセル、及びカバジタキセル)、ならびに放射線療法を含むがこれらに限定されない、前立腺癌の治療に有用な他の抗がん治療と組み合わせて投与して
【0060】
本発明は、以下の非限定的な実施例によって更に例示される。
【実施例】
【0061】
実施例1.CYP11A1阻害剤2-(イソインドリン-2-イルメチル)-5-((1-(メチルスルホニル)ピペリジン-4-イル)メトキシ)-4H-ピラン-4-オン(1A)で前立腺癌患者を治療する臨床試験
方法
進行性mCRPCを有する患者を臨床試験に登録して、CYP11A1阻害剤2-(イソインドリン-2-イルメチル)-5-((1-(メチルスルホニル)ピペリジン-4-イル)メトキシ)-4H-ピラン-4-オン(1A)の効果を研究した。患者はADT療法を受けており、アンドロゲン受容体シグナル伝達阻害剤(ARSi)療法及び化学療法を以前に受けているか、または化学療法の適格性がなかった。デキサメタゾン及びフルドロコルチゾンを含む化合物(1A)の5つの異なる1日用量レベルを、用量漸増/漸減部分で27人の患者に経口投与した。コルチコステロイドの用量は、対象の臨床状態に基づいて試験中に調整することが許された。1日用量は、10mg(5mg b.i.d.)、30mg(15mg b.i.d.)、50mg(25mg b.i.d.)、100mg(50mg b.i.d.)、及び150mg(75mg b.i.d.)であった。別の投薬評価部分では、25mgの化合物(1A)の1日1回の投薬、及び2つの異なるグルココルチコイド補充療法、ヒドロコルチゾン及びプレドニゾンを14人の患者で評価した。対象は、疾患の進行または耐え難い毒性が生じるまで療法を継続することが許された。抗腫瘍活性は、PSA評価可能患者集団(n=37、少なくとも4週間の値が利用可能)におけるPSA(前立腺特異的抗原)値の変化を測定することによって決定した。PSA値の減少は抗腫瘍活性を示す。患者におけるPSA応答は、ベースラインのPSA値から少なくとも50%の低下として定義した。
【0062】
OncoBEAM(登録商標)前立腺癌デジタルPCRアッセイパネル(Sysmex Inostics,Inc.)及びGuardant360 CDx(Guardant Health,Inc)アッセイパネルを使用して、患者から得た血漿cfDNA試料において、活性化AR-LBD体細胞点変異及びAR遺伝子増幅の存在を分析した。アッセイパネルを利用して、L702H、V716M、V716L、W742C、W742L、H875Y、F877L、T878A、T878S、D891Y、M896T、及びM896Vを含む活性化AR-LBD点変異の存在を試験した。
【0063】
結果
複数の活性化AR-LBD点変異(2~4)が9人の対象で検出され、単一の活性化AR-LBD点変異が7人の対象で検出された。AR増幅(>5コピー)を2人の対象で検出した。AR-LBD変異L702Hは11人の対象に、T878A変異は9人の対象に、H875Yは6人の対象に、F877Lは1人の対象に、T878Sは1人の対象に発生した。抗腫瘍活性は、活性化AR遺伝子改変を有する対象(n=17)では、活性化AR遺伝子改変を有しない対象(n=20)と比較して、実質的に高いことを観察した。活性化AR遺伝子改変を有する対象の70.6%(17人の対象中12人)において、活性化AR遺伝子改変を伴わない対象の5.0%(20人の対象中1人)と比較して、≧50%のPSA低下が見られた。合計で、PSA応答(50%以上の減少)を有する対象の92.3%が、活性化AR遺伝子改変が陽性であった(13人の対象中12人)。PSA応答は、エンザルタミドまたはアビラテロンアセテートまたはその両方などのアンドロゲン受容体シグナル伝達阻害剤(ARSi)を受けた患者にも見られた。結果を
図1及び2にまとめる。
図1は、評価可能な37人の患者におけるPSA変化を示す。活性化AR-LBD変異を有する患者(16人の患者)は、バーの中央に実線で表される。5コピー以上のAR増幅を有する患者(2人の患者)は、バーの下のドットで表される。以前に投与した薬剤もまた示される。
図2は、示される各患者における変異(複数可)の同一性を有する、活性化AR-LBD変異を有する患者におけるPSA変化を示す。
【0064】
実施例2.CYP11A1阻害剤5-((1-(メチルスルホニル)ピペリジン-4-イル)メトキシ)-2-((5-(トリフルオロメチル)イソインドリン-2-イル)メチル)-4H-ピラン-4-オン(1B)で前立腺癌患者を治療する臨床試験
方法
進行性mCRPCを有する患者を臨床試験に登録して、CYP11A1阻害剤2-5-((1-(メチルスルホニル)ピペリジン-4-イル)メトキシ)-2-((5-(トリフルオロメチル)イソインドリン-2-イル)メチル)-4H-ピラン-4-オン(1B)の効果を研究した。患者はADT療法を受けており、アンドロゲン受容体シグナル伝達阻害剤(ARSi)療法及び化学療法を以前に受けているか、または化学療法の適格性がなかった。ヒドロコルチゾン及びフルドロコルチゾンを含む化合物(1B)の3つの異なる1日用量レベルを、用量漸増部分の13人の対象に経口投与した。コルチコステロイドの用量は、対象の臨床状態に基づいて試験中に調整することが許された。1日用量は、10mg(10mg q.d)、15mg(15mg q.d)及び20mg(20mg q.d)であった。別の投薬評価部分では、5mg及び10mgの化合物(1B)の1日2回の投薬、ならびに異なるグルココルチコイド補充療法、デキサメタゾン、及び異なるヒドロコルチゾン投薬レジメンを16人の患者で評価した。対象は、疾患の進行または耐え難い毒性が生じるまで療法を継続することが許された。抗腫瘍活性は、PSA(前立腺特異的抗原)値の変化を測定することによって決定した。PSA値の減少は抗腫瘍活性を示す。患者におけるPSA応答は、ベースラインのPSA値から少なくとも50%の低下として定義した。
【0065】
OncoBEAM(登録商標)前立腺癌デジタルPCRアッセイパネル(Sysmex Inostics,Inc.)及びGuardant360 CDx(Guardant Health,Inc)アッセイパネルを使用して、患者から得た血漿cfDNA試料において、活性化AR-LBD体細胞点変異及びAR遺伝子増幅の存在を分析した。アッセイパネルを利用して、L702H、V716M、V716L、W742C、W742L、H875Y、F877L、T878A、T878S、D891Y、M896T、及びM896Vを含む活性化AR-LBD変異の存在を試験した。
【0066】
結果
複数の活性化AR-LBD点変異(2~4)が5人の対象で検出され、単一の活性化AR-LBD点変異が10人の対象で検出された。AR増幅(>5コピー)を3人の対象で検出した。AR-LBD変異L702Hは6人の対象で発生し、T878A変異は7人の対象で発生し、H875Yは5人の対象で発生し、F877L、V716M、M896T、D891Y及びV716Lはそれぞれ1人の対象で発生した。抗腫瘍活性は、活性化AR遺伝子改変を有する対象(n=17)では、活性化AR遺伝子改変を有しない対象(n=8)と比較して、実質的に高いことが観察された。活性化AR遺伝子改変を有する対象の35.3%(17人の対象中6人)では、活性化AR遺伝子改変を有しない対象の0%(8人の対象中0人)と比較して、≧50%のPSA低下が見られた。合計で、PSA応答(≧50%の低下)を有する対象の100%が、活性化AR遺伝子改変が陽性であった(6人の対象中6人)。PSA応答は、エンザルタミドまたはアビラテロンアセテートまたはその両方などのアンドロゲン受容体シグナル伝達阻害剤(ARSi)を受けた患者にも見られた。結果を
図3及び4にまとめる。
図3は、評価可能な25人の患者におけるPSA変化を示す。活性化AR-LBD変異を有する患者(15人の患者)は、バーの中央に実線で表される。5コピーを超えるAR増幅を有する患者(3人の患者)は、バーの下のドットで表される。以前に投与した薬剤もまた示される。
図4は、示される各患者における変異(複数可)の同一性を有する、活性化AR-LBD変異を有する患者におけるPSA変化を示す。
【国際調査報告】