(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公表特許公報(A)
(11)【公表番号】
(43)【公表日】2024-09-26
(54)【発明の名称】ポリペプチドおよび複合体の抗うつ用途および抗不安用途
(51)【国際特許分類】
C07K 14/72 20060101AFI20240918BHJP
C12N 15/12 20060101ALI20240918BHJP
C12N 15/63 20060101ALI20240918BHJP
C12N 1/15 20060101ALI20240918BHJP
C12N 1/19 20060101ALI20240918BHJP
C12N 1/21 20060101ALI20240918BHJP
C12N 5/10 20060101ALI20240918BHJP
C07K 17/14 20060101ALI20240918BHJP
A61P 25/24 20060101ALI20240918BHJP
A61P 25/22 20060101ALI20240918BHJP
A61K 38/17 20060101ALI20240918BHJP
A61K 47/64 20170101ALI20240918BHJP
A61K 47/68 20170101ALI20240918BHJP
【FI】
C07K14/72 ZNA
C12N15/12
C12N15/63 Z
C12N1/15
C12N1/19
C12N1/21
C12N5/10
C07K17/14
A61P25/24
A61P25/22
A61K38/17
A61K47/64
A61K47/68
【審査請求】有
【予備審査請求】未請求
(21)【出願番号】P 2024518969
(86)(22)【出願日】2022-08-22
(85)【翻訳文提出日】2024-05-20
(86)【国際出願番号】 CN2022113892
(87)【国際公開番号】W WO2023045662
(87)【国際公開日】2023-03-30
(31)【優先権主張番号】202111128332.4
(32)【優先日】2021-09-26
(33)【優先権主張国・地域又は機関】CN
(81)【指定国・地域】
【公序良俗違反の表示】
(特許庁注:以下のものは登録商標)
(71)【出願人】
【識別番号】524114641
【氏名又は名称】シェンヅェン チェンヤン バイオロジカル テクノロジー カンパニー リミテッド
【氏名又は名称原語表記】SHENZHEN CHENYANG BIOLOGICAL TECHNOLOGY CO., LTD
【住所又は居所原語表記】The Second West Gate, 1098 Xueyuan Avenue, Nanshan District, Shenzhen, Guangdong 518000 China
(74)【代理人】
【識別番号】100077012
【氏名又は名称】岩谷 龍
(72)【発明者】
【氏名】タン,ヅェン
(72)【発明者】
【氏名】イュ,ヅジャン
(72)【発明者】
【氏名】リ,シュポン
【テーマコード(参考)】
4B065
4C076
4C084
4H045
【Fターム(参考)】
4B065AA01X
4B065AA57X
4B065AA72X
4B065AA87X
4B065AB01
4B065BA02
4B065CA24
4B065CA44
4C076AA95
4C076EE41
4C076EE59
4C084AA02
4C084BA01
4C084BA02
4C084BA08
4C084BA18
4C084BA19
4C084BA20
4C084BA23
4C084BA42
4C084CA18
4C084CA19
4C084CA53
4C084DC50
4C084NA13
4C084NA14
4C084ZA021
4C084ZA022
4C084ZA121
4C084ZA122
4H045AA10
4H045AA20
4H045AA30
4H045BA17
4H045BA18
4H045BA60
4H045CA40
4H045DA50
4H045EA21
4H045FA74
(57)【要約】
本発明は、ポリペプチドの抗うつ用途および抗不安用途に関し、うつ病または不安症の治療用および/または予防用の医薬品の調製における、配列番号1に示される配列を有するポリペプチドの用途を提供する。さらに、本発明は、前記ポリペプチドを含む複合体に関する。
【選択図】
図7
【特許請求の範囲】
【請求項1】
うつ病または不安障害の治療用および/または予防用の医薬品の調製における、配列番号1に示されるアミノ酸配列を有するポリペプチドの使用。
【請求項2】
前記ポリペプチドの長さが15~50aaである、請求項1に記載の使用。
【請求項3】
前記ポリペプチドの長さが15~30aaである、請求項1に記載の使用。
【請求項4】
前記ポリペプチドが、5-HT2A受容体に由来するものである、請求項1~3のいずれか1項に記載の使用。
【請求項5】
前記5-HT2A受容体が霊長類に由来するものであり、好ましくはヒトに由来するものである、請求項4に記載の使用。
【請求項6】
うつ病または不安障害の治療用および/または予防用の医薬品の調製における、請求項1~5のいずれか1項に記載のポリペプチドをコードする核酸分子の使用。
【請求項7】
うつ病または不安障害の治療用および/または予防用の医薬品の調製における、請求項6に記載の核酸分子を含む発現ベクターの使用。
【請求項8】
うつ病または不安障害の治療用および/または予防用の医薬品の調製における、請求項6に記載の核酸分子または請求項7に記載の発現ベクターを含む宿主細胞の使用。
【請求項9】
請求項1~5のいずれか1項に記載のポリペプチドと、血液脳関門を透過させるために前記ポリペプチドに結合された担体とを含む複合体。
【請求項10】
前記血液脳関門を透過させるための担体が、HIV-1 Tatタンパク質、インスリン、カチオン化アルブミン、ラットトランスフェリン受容体に対するモノクローナル抗体、ヒトインスリン受容体に対するマウス由来モノクローナル抗体、Penetratin、Tatタンパク質の形質導入ドメイン、Pep-1ペプチド、S4
13-PV、マガイニン2およびブフォリン2からなる群から選択される1種以上である、請求項9に記載の複合体。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、抗うつ病および抗不安症の分野に関し、より具体的には、抗うつ病および抗不安症におけるポリペプチドの使用に関する。
【背景技術】
【0002】
うつ病は、気分の落ち込みを主な臨床症状として、様々な理由により引き起こされる精神障害疾患である。うつ病は、高い罹患率、高い能力低下率、高い自殺率などを特徴とする。うつ病の発症機序は完全には解明されておらず、臨床現場で一般的に使用されている抗うつ薬の大半は、「モノアミン系神経伝達物質仮説」に基づいて開発されたものである。この仮説では、脳内でのドーパミン(DA)、5-ヒドロキシトリプタミン(5-HT)、ノルエピネフリン(NA)などのモノアミン神経伝達物質の欠損がうつ病の発生に関連していること、および抗うつ薬が、5-HTトランスポーターとNAトランスポーターの機能を阻害することによりモノアミン神経伝達物質の再取り込みを遮断して、シナプス間隙におけるモノアミン神経伝達物質の濃度を増加させることにより、うつ病の症状を改善することが示唆されている。
【0003】
臨床現場で一般的に使用されている抗うつ薬は、その作用機序と開発時期に応じて、第一世代抗うつ薬(モノアミン酸化酵素阻害薬(MAOI)および三環系抗うつ薬)、第二世代抗うつ薬(選択的セロトニン再取り込み阻害薬(SSRI))、第三世代抗うつ薬(5-ヒドロキシトリプタミンとノルエピネフリンのデュアル再取り込み阻害薬、ノルエピネフリン再取り込み阻害薬(SNRI)およびノルエピネフリン関連セロトニン作動性抗うつ薬)などのカテゴリーに分類されている。
【0004】
「モノアミン系神経伝達物質仮説」に基づいて開発されたこれらの薬物は、明確な治療効果を有するが、有効率はわずか60%しかなく、抗うつ作用が現れるまでに時間を要する(通常、抗うつ薬を服用してから2~3週間かかる)。さらに、これらの抗うつ薬は、長期間服用すると大きな有害な副作用を起こしたり、投薬中止後に再発しやすいといった欠点がある。
【0005】
近年、うつ病の発症機序の詳細な研究において、うつ病に関する古典的な「モノアミン系神経伝達物質仮説」に加えて、NMDA受容体、CRF1受容体、δ受容体、κ受容体、GABAB受容体、Mコリン受容体、IDO、CysLT1R、PDE4、PPARγ、PPARδ、NOSなどの非モノアミン系伝達物質に基づく抗うつ薬の新たな分子標的が研究者によりいくつか発見されている。これらの新たな標的の中から抗うつ活性を持つ物質がいくつか見出されており、そのうちのいくつかは臨床研究段階に進んでいる。
【0006】
より良好な治療戦略を数多く提供し、うつ病の発症機序をさらに詳しく解明するため、うつ病分野において、さらに重要な発症機序および治療標的の探索と発見が依然として強く求められている。
【発明の概要】
【課題を解決するための手段】
【0007】
本発明者らは、上記目的を達成するため、うつ病モデルの分子変化に基づいて数多くの研究を実施し、うつ病の発症機序の新たな機構を発見し、本発明を完成させた。
【0008】
具体的には、5-HT受容体は、Gタンパク質共役型受容体とリガンド依存性イオンチャネルからなる一群であり、中枢神経系の中心部と末梢神経系に認められる。5HT受容体は、5-HT1、5-HT2、5-HT3、5-HT4、5-HT5、5-HT6、5-HT7の7種のサブファミリーに分類することができる。5-HT2受容体は、A、B、Cの3種のサブタイプ、すなわち、5-HT2A受容体タンパク質、5-HT2B受容体タンパク質および5-HT2C受容体タンパク質を有する。このうち、5-HT2A受容体(5-HT2AR)は、興奮性5-HT受容体であり、哺乳動物の脳に広く発現されている。
【0009】
ドーパミン(DA)受容体は、生物体内に存在する受容体の1種であり、対応する細胞膜受容体を介してその作用を発揮する。DA受容体は、D1、D2、D3、D4、D5の5種のタイプに分類することができる。D1受容体(D1R)は、脳に広く発現されている。
【0010】
本発明者らは、5-HT2ARが、単独の形態で神経伝達物質を調節するだけでなく、5-HT1AR/5-HT2AR複合体や5-HT2AR/オキシトシン受容体(OXTR)複合体などの複合体の形態でも神経伝達物質を調節することを見出している。
【0011】
5-HT2ARが、インビボにおいてD1Rとタンパク質複合体を形成することができることは現在まで報告されておらず、5-HT2AR/D1R複合体とうつ病の関連性について明らかにした報告はこれまでにない。本発明者らは、予想外にも、5-HT2ARがそのカルボキシル末端を介して、D1Rとタンパク質複合体を形成し、この複合体が抑うつ性の病原性を有することを発見した。その後、さらに研究を進めた結果、特定のポリペプチドによって、5-HT2ARとD1Rの間の相互作用を低下させることができ、これによって、うつ病の症状および不安症の症状を軽減できることを見出した。
【0012】
したがって、第1の態様において、本発明は、配列番号1(SKDNSDGVNEKVSCV)に示されるアミノ酸配列を有するポリペプチドを提供する。また、本発明は、うつ病または不安障害の治療用および/または予防用の医薬品の調製における本発明のポリペプチドの使用を提供する。
【0013】
いくつかの実施形態において、本発明のポリペプチドの長さは、15~90aaであってもよく、特に、15~50aa、15~30aaまたは15~20aaであってもよい。例えば、本発明のポリペプチドの長さは、16aa、17aa、18aa、19aa、20aa、21aa、22aa、23aa、24aa、25aa、26aa、27aa、28aa、29aa、30aa、31aa、32aa、33aa、34aa、34aa、35aa、36aa、37aa、38aa、39aa、40aa、41aa、42aa、43aa、44aa、45aa、46aa、47aa、48aaまたは49aaであってもよい。
【0014】
いくつかの実施形態において、本発明のポリペプチドは、5-HT2ARに由来するものであってもよい。本発明のポリペプチドが由来する5-HT2ARは、生物情報データベース(例えば、Genbank、EMI、DDBJなど)から抽出することができ、このようなデーターベースから抽出した情報に基づいて、ポリペプチドが5-HT2ARに由来するものであることを確認することができる。例えば、ポリペプチドが5-HT2AR(Genbankアクセッション番号:NP_001365853)に由来するものである場合、このポリペプチドは、配列番号1に示される配列(すなわち、NP_001365853に示されるアミノ酸配列の457~471番目)を含み、これに加えて、N末端側に1個以上のアミノ酸残基をさらに含んでいてもよい。
【0015】
例示的な一実施形態において、本発明のポリペプチドは、NP_001365853に一致するアミノ酸配列の442~471番目の残基からなる。
【0016】
例示的な一実施形態において、本発明のポリペプチドは、NP_001365853に一致するアミノ酸配列の385~471番目の残基からなる。
【0017】
いくつかの実施形態において、5-HT2ARは霊長類に由来するものである。
【0018】
好ましい一実施形態において、5-HT2ARはヒトに由来するものである。
【0019】
本明細書において、「治療する」は、患者に所望の効果または有益な効果をもたらすことを指し、疾患の1つ以上の症状の頻度もしくは重症度の低下、または疾患、病気もしくは障害のさらなる発症の抑制もしくは阻止を含んでいてもよい。
【0020】
本明細書において、「予防する」は、疾患の発症の阻止もしくは遅延、またはその臨床症状もしくは亜臨床症状の発症の阻止を意味する。
【0021】
本発明のポリペプチドは、うつ病の新たな病理機構(5-HT2AR/D1R複合体)を介して抗うつ作用を発揮し、本発明のポリペプチドは、即時効果、良好な活性およびわずかな副作用という特性を有し、臨床開発の価値が高い。さらに、本発明のポリペプチドは、抗不安作用を得ることができる。
【0022】
後述の実施例4および実施例7、ならびに
図5、
図6、
図9および
図10で確認されたように、本発明のポリペプチドは、5-HT2AR/D1R複合体の相互作用を破壊するが、5-HT2ARおよびD1Rの発現には有意な影響を及ぼさないことには注目されたい。換言すれば、本発明のポリペプチドは、5-HT2AR/D1R複合体の相互作用を特異的に破壊することによってその機能を発揮する。
【0023】
第2の態様において、本発明は、本発明のポリペプチドをコードする核酸分子を提供する。さらに、本発明は、うつ病または不安障害の治療用および/または予防用の医薬品の調製における本発明の核酸分子の使用を提供する。
【0024】
本発明の核酸分子を用いて、本発明の抗原性ペプチドが製造され、本発明の核酸分子の配列は、使用する発現系に応じて、当業者により適切に調節することができる。
【0025】
例示的な一実施形態において、前記核酸分子は、配列番号2に示される配列を有する。
【0026】
第3の態様において、本発明は、本発明の核酸分子を含む発現ベクターを提供する。さらに、本発明は、うつ病または不安障害の治療用および/または予防用の医薬品の調製における本発明の発現ベクターの使用を提供する。
【0027】
本発明の核酸配列は、様々な公知の方法を用いて発現ベクターに挿入することができる。例えば、本発明の核酸分子は、適切な制限エンドヌクレアーゼ部位に挿入することができる。また、クローニング、単離、増幅および精製の標準的な技術、DNAリガーゼ、DNAポリメラーゼまたは制限エンドヌクレアーゼを用いた酵素反応、ならびに操作中の様々な分離技術は、当業者に公知の一般に使用されている技術に属する。
【0028】
第4の態様において、本発明は、本発明の核酸分子または発現ベクターを含む宿主細胞を提供する。また、本発明は、うつ病または不安障害の治療用および/または予防用の医薬品の調製における本発明の宿主細胞の使用を提供する。
【0029】
本発明のポリペプチドは、原核生物発現系や真核生物発現系などの様々な発現系において、発現ベクターと宿主細胞を用いて製造してもよい。次に、哺乳動物の発現系を一例として以下に述べる。宿主細胞としては、サル腎線維芽細胞のCOS-7細胞株、および適合するベクターを発現することができるその他の細胞株、例えば、C127細胞株、3T3細胞株、CHO細胞株、Hela細胞株、BHK細胞株などを挙げることができる。哺乳動物用発現ベクターは、複製起点、適切なプロモーターおよびエンハンサーを含んでいなければならず、必要に応じて、リボソーム結合部位、ポリアデニル化部位、スプライシングドナー部位およびスプライシングアクセプター部位、転写終結配列ならびに5’隣接非転写配列を含んでいる必要がある。例えば、SV40のスプライシング部位およびポリアデニル化部位にそれぞれ由来するDNA配列を利用して、所望の非転写遺伝子エレメントを提供することができる。発現ベクターは、当業者によく知られている様々な方法により宿主細胞に導入してもよく、このような方法として、例えば、リン酸カルシウムトランスフェクション法、DEAE-グルカンを利用したトランスフェクション法、またはエレクトロポレーション法が挙げられるが、これらに限定されない。
【0030】
第5の態様において、本発明は、本発明のポリペプチドと、血液脳関門を透過させるために前記ポリペプチドに結合された(輸送)担体とを含む複合体を提供する。
【0031】
例示的な一実施形態において、血液脳関門を透過させるために使用される担体は、HIV-1 Tatタンパク質、インスリン、カチオン化アルブミン、ラットトランスフェリン受容体に対するモノクローナル抗体(OX26)、ヒトインスリン受容体に対するマウス由来モノクローナル抗体(HIRMAb)、Penetratin、Tatタンパク質の形質導入ドメイン、Pep-1ペプチド、S413-PV、マガイニン2およびブフォリン2のうちの1種以上であってもよい。例えば、(配列番号3に示される)YGRKKRRQRRRのアミノ酸を有するTATの形質導入ドメインは、細胞膜を通過させて細胞内に形質導入することができる。
【0032】
本発明のポリペプチドは、適切な連結技術によって、血液脳関門を透過させるための担体に結合させることができる。例示的な連結技術は、アビジン-ビオチン技術、ポリエチレングリコール(PEG)を利用したスペーサーアーム技術、融合タンパク質技術などであってもよい。例えば、血液脳関門を透過させるための担体として、HIV-1 Tatタンパク質の形質導入ドメインを用いる場合、融合タンパク質技術により、本発明のポリペプチドをTatタンパク質の形質導入ドメインに直接連結することができる。
【0033】
いくつかの実施形態において、融合タンパク質技術を用いる場合、本発明のポリペプチドは、リンカーを用いて、血液脳関門を透過させるための担体に連結することもできる。例示的なリンカーは、グリシンを含む柔軟なリンカーであってもよく、例えば、G、GSG、GSGGSG、GSGGSGG、GSGGSGGG、GGGGSGGG、GGGGS、SGGなどが挙げられる。
【0034】
第6の態様において、本発明は、うつ病に罹患している対象またはうつ病のリスクがある対象において、うつ病を治療する方法であって、本発明のポリペプチドまたは複合体の有効量を前記対象に投与する工程を含む方法を提供する。
【0035】
本発明のポリペプチドまたは複合体は、5-HT2ARとD1Rの相互作用を低下させることによって、前記対象におけるうつ病を治療する。
【0036】
また、本発明は、不安障害に罹患している対象または不安障害のリスクがある対象において、不安障害を治療する方法であって、本発明のポリペプチドまたは複合体の有効量を前記対象に投与する工程を含む方法を提供する。
【0037】
本発明のポリペプチドまたは複合体は、5-HT2ARとD1Rの相互作用を低下させることによって、前記対象における不安障害を治療する。
【0038】
「有効量」または「治療有効量」は、所望の生物学的結果の誘導に十分な活性薬剤の量を指す。この所望の生物学的結果は、疾患の徴候、症状もしくは原因の減少、またはその他の所望の生体系の変化であってもよい。本明細書において、「治療有効量」という用語は、病変領域に一定期間繰り返し投与した場合に、疾患の状態を実質的に改善することができる製剤量を意味するために使用される。治療有効量は、治療の対象となる病態、病態の進行度、ならびに使用される製剤の種類および濃度に応じて様々に変動する。当業者であれば、ルーチン実験を行うことによって適切な量を決定することができるであろう。
【0039】
「対象」、「個体」または「患者」という用語は、本明細書において同じ意味で使用され、脊椎動物を指し、哺乳動物を指すことが好ましく、ヒトを指すことがより好ましい。哺乳動物としては、ラット、サル、ヒト、家畜および愛玩動物が挙げられるが、これらに限定されない。インビトロで入手または培養される生物学的組織および生物学的細胞ならびにこれらの派生物も含まれる。
【0040】
第7の態様において、本発明は、薬物として使用される本発明のポリペプチドまたは複合体を提供する。
【0041】
いくつかの実施形態において、薬物としての使用とは、うつ病または不安障害を治療または予防するために使用することを意味する。
【図面の簡単な説明】
【0042】
【
図1】マウスから得た海馬組織の共免疫沈降法のウエスタンブロットの結果を示す。
【
図2】CRSマウスモデル、CMSマウスモデルおよびCSDSマウスモデルにおける共免疫沈降法のウエスタンブロットの結果を示す。
【
図3】実施例3において使用した各断片の5-HT2AR上での位置を示す。
【
図4】実施例3の各断片を用いたマウス海馬組織のGSTプルダウン分析のウエスタンブロットの結果を示す。
【
図5】ポリペプチドで処置したマウスから得た海馬組織の共免疫沈降法のウエスタンブロットの結果を示す。
【
図6】ポリペプチドで処置したマウスから得た海馬組織のウエスタンブロットの結果を示す。
【
図7】ポリペプチドで処置したマウスのOFT分析、FST分析およびTST分析の結果を示す。*:P<0.05;**:P<0.01。
【
図8】ポリペプチドで処置したCRSマウス、CMSマウスおよびCSDSマウスのFST分析、TST分析およびSPT分析の結果を示す。*:P<0.05;**:P<0.01;***:P<0.001;****:P<0.0001。
【
図9】ポリペプチドで処置したCRSマウス、CMSマウスおよびCSDSマウスから得た海馬組織の共免疫沈降法のウエスタンブロットの結果を示す。
【
図10】ポリペプチドで処置したCRSマウスから得た海馬組織のウエスタンブロットの結果を示す。
【
図11】ポリペプチドで処置したマウスのOFT分析(中央区画での滞在時間の測定)の結果を示す。**:P<0.01。
【
図12】ポリペプチドで処置したマウスのEPM分析の結果を示す。*:P<0.05;**:P<0.01。
【発明を実施するための形態】
【0043】
本明細書を通して、別段の記載がない限り、本明細書で使用される用語は、当技術分野で一般に使用される意味を有すると理解される。したがって、別段の定義がない限り、本明細書で使用されるすべての技術用語および科学用語は、本発明が属する技術分野の当業者によって一般に理解される意味を有する。何らかの矛盾が生じた場合、本願の記載が優先されるものとする。
【0044】
以下、実施例を参照しながら本発明の実施形態をさらに詳細に説明するが、本発明の利点および様々な効果は、以下の実施例にさらに明確に記載されている。当業者であれば、これらの具体的な実施形態および実施例が、本発明を説明することを目的としたものであり、本発明を限定するものではないことを理解できるであろう。
【実施例】
【0045】
実施例において具体的な条件が記載されていない場合、従来の条件または製造業者により推奨されている条件に従うものとする。また、使用した試薬や装置の製造業者が記載されていない場合、使用した試薬または装置は、従来の市販品である。
【0046】
別段の記載がない限り、実施例で使用した実験動物は、12時間の明期/12時間の暗期のサイクルのもとで、18~22℃で飼育した成体C57BL/6J雄性マウス(12~14週齢)であった。実験工程全体を通して、食物と水道水を自由に摂取させた。
【0047】
実施例で行った統計分析では、一元配置分散分析(anova)を行った後に事後比較を行って、平均値間の差異を評価した。別段の記載がない限り、独立標本t検定を用いて、二群間の差異を比較した。
【0048】
実施例1.インビボにおける5-HT2AR/D1R複合体の形成の確認
マウスの海馬組織から得たタンパク質試料(100~500μg)を用いて共免疫沈降法を行った。この免疫沈降は、抗5-HT2ARマウス抗体(サンタクルーズバイオテクノロジー社、sc-166775)と、25μlのProtein A/G PLUS-Agaroseビーズスラリー(サンタクルーズバイオテクノロジー社、sc-2001)を用いて行った。
【0049】
免疫沈降後にウエスタンブロット分析を行った。具体的には、変性させたタンパク質を8%SDS-PAGEゲル上で分離し、ニトロセルロース膜に転写し、TBSTでブロッキングした。次に、抗D1Rマウス抗体(サンタクルーズバイオテクノロジー社、sc-33660)と抗D2Rマウス抗体(サンタクルーズバイオテクノロジー社、sc-5303)を添加して4℃で一晩インキュベートした。次に、HRP標識二次抗体で1時間処理し、SuperSignal ECL化学発光キットを用いてシグナルを検出し、Image Labソフトウェアを用いてバンドの密度を分析した。この結果を
図1に示す。
【0050】
図1から分かるように、抗5-HT2AR抗体はD1Rを沈降させることができるが、D2Rを沈降させることはできないことから、5-HT2ARがインビボでD1Rと複合体を形成することができるが、D2Rとは複合体を形成できないことが示された。
【0051】
実施例2.5-HT2AR/D1R複合体の病理学的意義の検証
5-HT2AR/D1R複合体の病理学的意義を調査するため、慢性拘束ストレス(CRS)、慢性軽度ストレス(CMS)および慢性社会的敗北ストレス(CSDS)を含む様々なうつ病モデルを構築した。各モデルの構築方法を以下に述べる。
【0052】
CRSマウスモデルの構築:円筒型平底のアクリル製保定器(25×90mm)内にマウスを1日6時間(10:00~16:00)水平に固定し、この拘束ストレスを2週間加えた。フィルターは、それぞれのマウスの大きさに応じてマウスをしっかりと拘束し、疼痛を引き起こすことなくマウスの四肢の物理的な動きを抑制できるように、数個のスロットを有している。拘束の終了後、マウスを直ちにケージに戻した。拘束をしなかったマウス(対照)は、CRS操作を行うことなくホームケージ内で飼育し、CRSストレスの負荷中は、対照マウスとCRSマウスに食物や水を与えなかった。
【0053】
CMSマウスモデルの構築:拘束(4時間)、ケージの傾斜(45回、各12時間)、明暗サイクルの逆転(1回)、フラッシュ光(12時間)および汚れたケージ(2回、各14時間)を含む様々なストレスをマウスに加えた。このプログラムを6週間継続した。対照マウスには、これらのストレスを加えなかった。
【0054】
CSDSマウスモデルの構築:攻撃性の高いCD1マウス(標的マウス)にマウスを1日10分間暴露させ、毎日異なるCD1マウスに変えて暴露を10日間行った。各日の10分間の暴露後には、穴の開いたプラスチック製の仕切り板で実験マウスをCD1マウスから分離した。さらに、ケージの中央に配置した仕切り板を介して、実験マウスに24時間の持続的なストレス負荷を与えた。対照マウスに対しては、攻撃性の高いマウスの代わりに同じ系統のマウスを使用して同様の操作(社会的ストレスなし)を行った。
【0055】
構築したCRSマウスモデル、CMSマウスモデルおよびCSDSマウスモデルをそれぞれ用いて、実施例1と同様にして共免疫沈降法とウエスタンブロット法を行うことにより、これらのマウスモデルにおけるD1Rと5-HT2ARの相互作用を調査した。この結果を
図2に示す。
【0056】
図2から分かるように、CRSモデル、CMSモデルおよびCSDSモデルにおいて、5-HT2AR/D1R複合体の有意な増加が見られたことから、うつ病において5-HT2AR/D1R複合体が病原性を有することが確認された。
【0057】
実施例3.5-HT2AR/D1R複合体の相互結合部位の同定
5-HT2AR/D1R複合体の相互結合部位を確認するため、まず、5-HT2AR全長cDNAクローン(Genbankアクセッション番号:NM_001378924)を増幅して、5-HT2ARのCT領域(K385~V471)のcDNA断片と、5-HT2ARの第3細胞内ループ(IL3)領域(F255~V324)のcDNA断片を得た。これらの断片を、pGEX-4T-3プラスミド(YouBio社、No:VT1255)のBamH1/EcoR1部位またはBamH1/Xho1部位にサブクローニングした。最初のメチオニン残基と終止コドンを適宜組み込んだ。すべてのコンストラクトを再シーケンスして、スプライシングと融合が適切に行われたことを確認した。5-HT2ARの第3細胞内ループ(IL3)を含むGST融合タンパク質(GST-5HT2AR-IL3)と、5-HT2ARのCT領域を含むGST融合タンパク質(GST-5HT2AR-CT)を、大腸菌BL21生菌体(AlpalifeBio社、No.:KTSM104L)から発現させ、細菌溶解物溶液から精製した。5-HT2AR上でのIL3領域のコード配列とCT領域のコード配列の具体的な位置を
図3に示す。
【0058】
溶解したマウス海馬組織抽出物500μgを1×PBS/1%Triton X-100で希釈した後、GSTタンパク質または15μgのGST融合タンパク質をタンパク質-GST樹脂で飽和したもの20μlと4℃で一晩インキュベートした。1×PBS/1%Triton X-100でビーズを1~8回洗浄した。結合したタンパク質を2×ローディングバッファーで溶出し、SDS-PAGEで分離し、各抗体を用いたウエスタンブロットを行った。この結果を
図4Aに示す。
【0059】
図4Aから分かるように、5-HT2ARのCT領域によりD1Rをプルダウンすることができる。
【0060】
次に、5-HT2ARとD1Rの間での正確な相互作用配列/部位をさらに調査するため、CT領域を、5-HT2ARのKV領域(K385~V411)、5-HT2ARのNN領域(N412~N441)および5-HT2ARのDV領域(D442~V471)に分割した。これらの領域の5-HT2AR上での具体的な位置を
図3に示す。
【0061】
本実施例に記載の方法に従って、5-HT2ARのKV領域を含むGST融合タンパク質(GST-5HT2AR-KV)、5-HT2ARのNN領域を含むGST融合タンパク質(GST-5HT2AR-NN)、または5-HT2ARのDV領域を含むGST融合タンパク質(GST-5HT2AR-DV)を用いて、プルダウン分析を実施し、ウエスタンブロットの結果を
図4Bに示した。
【0062】
図4Bから分かるように、5-HT2ARのDV領域によりD1Rをプルダウンすることができる。
【0063】
さらに、DV領域を、5-HT2ARのDA領域(D442~A456)と5-HT2ARのSV領域(D442~V471)に分割した。これらの領域の5-HT2AR上での具体的な位置を
図3に示す。
【0064】
本実施例に記載の方法に従って、5-HT2ARのDA領域を含むGST融合タンパク質(GST-5HT2AR-DA)または5-HT2ARのSV領域を含むGST融合タンパク質(GST-5HT2AR-SV)を用いて、プルダウン分析を実施し、ウエスタンブロットの結果を
図4Cに示した。
【0065】
図4Cから分かるように、5HT2AR-SVポリペプチド(S457~V471)は、マウス海馬組織由来のD1Rに対して親和性を有することから、5-HT2ARがそのカルボキシル末端テールを介してD1Rと相互作用できることが示されている。
【0066】
実施例4.インビボにおける5-HT2AR/D1R複合体に対するポリペプチドの破壊作用の確認
インビボにおける5-HT2AR/D1R複合体に対する5-HT2ARカルボキシル末端ポリペプチドの効果を確認するため、5-HT2ARのSV領域(S457~V471)のC末端を、HIV-1型Tatタンパク質の形質導入ドメイン(配列番号3に示される;以下、TATと呼ぶ)のN末端に融合して、血液脳関門を透過可能な融合タンパク質を得た。この融合タンパク質をTAT-5HT2AR-SVと命名した。これと同様にして、5-HT2ARのDV領域(D442~V471)をTATと融合して、TAT-5HT2AR-DVを得た。さらに、5-HT2ARのCT領域(K385~V471)をTATと融合して、TAT-5HT2AR-CTを得た。
【0067】
TAT-5HT2AR-SV、TAT-5HT2AR-DVまたはTAT-5HT2AR-CTでマウスを処置し、TATのみで処置したマウスを対照として使用した(いずれのマウスも単回の腹腔内投与で処置した;3nmol/g)。処置の1時間後に、実施例1と同様にして共免疫沈降法により、実験に使用したマウスを分析した。この結果を
図5に示す。
【0068】
図5から分かるように、マウス海馬組織において、5HT2AR-SVにより5HT2ARとD1Rの間の相互作用を破壊することに成功した。
【0069】
さらに、TAT-5HT2AR-SVで処置したマウスおよびTATで処置したマウスの海馬組織をウエスタンブロットで直接分析した。
図6から分かるように、5-HT2ARとD1Rの発現量は、処置後に有意に変化しなかった。
【0070】
一方で、TAT-5HT2AR-DVとTAT-5HT2AR-CTで処置した場合でも、5-HT2ARとD1Rの間の相互作用を破壊することに成功し、5-HT2ARとD1Rの発現量に有意な変化は認められなかった。
【0071】
実施例5.本発明のポリペプチドの抗うつ様作用の評価
本発明のポリペプチドの抗うつ様作用を評価するため、TAT-5HT2AR-SV、TAT-5HT2AR-DVまたはTAT-5HT2AR-CTで処置したマウス(いずれのマウスも単回の腹腔内投与で処置した;3nmol/g)を、処置の1時間後に、オープンフィールド試験(OFT)、強制水泳試験(FST)および尾懸垂試験(TST)に供した。TATのみで処置したマウスを対照として使用した。各試験方法を以下に述べる。
【0072】
オープンフィールド試験(OFT):1時間かけてマウスを実験環境に順化させ、45×45×30cmのチャンバーに入れた。5分間動画を記録して、マウスの運動活動性を観察した。マウスが移動した総距離をミリメートル単位で測定し、分析した。
【0073】
強制水泳試験(FST):水深が30cmを超えるように水(水温23±1℃)を満たしたプレキシガラス製の円筒形容器(高さ70cm、直径30cm)にマウスを入れた。マウスを5分間動画撮影して分析し、無動時間の長さを記録した。マウスが水に浮いたまま動かなくなった状態またはマウスが水面から鼻先だけを出した状態になった場合に、マウスが無動状態であると定義する。円筒形容器全体に対する水平方向の動きを水泳として定義し、円筒形容器の壁面に対する上下方向の動きをよじ登りとして定義する。
【0074】
尾懸垂試験(TST):長方形の小部屋(長さ55cm×幅20cm×深さ11.5cm)の床面から40cmの高さに接着テープでマウスを逆さに吊り下げた。動画を5分間記録し、マウスが無動状態になった時間を記録した。動画の記録および分析は、EthoVision XTソフトウェアにより行った。
【0075】
試験結果の一部を
図7に示す。図面の左側に示したOFTの結果から、TAT-5HT2AR-SVで処置したマウスの総移動距離と、TATで処置したマウスの総移動距離との間で有意な差が見られなかったことが分かり、このことから、このポリペプチドがマウスの移動能力に効果がなかったことが示された。さらに、図面の中央に示したFSTの結果と図面の右側に示したTSTの結果から、TAT-5HT2AR-SV処置群の無動時間が、対照群(Tatのみ)と比べて有意に短縮したことが分かる。TAT-5HT2AR-DV処置群の結果とTAT-5HT2AR-CT処置群の結果も、TAT-5HT2AR-SV処置群の結果と同様であった。上記の結果から本発明の抗うつ作用が確認された。
【0076】
実施例6.薬物評価モデルを用いた本発明のポリペプチドの抗うつ能力の評価
本発明のポリペプチドの抗うつ薬としての能力をさらに評価するため、実施例2に記載の方法に従って、CRSマウスモデル、CMSマウスモデルおよびCSDSマウスモデルをそれぞれ構築した。マウスモデルを構築してから1時間後に、各10μMのTAT-5HT2AR-SV、TAT-5HT2AR-DV、TAT-5HT2AR-CTまたはTATで各マウスモデルを処置した(いずれのマウスも単回の腹腔内投与で処置した;3nmol/g)。次に、CRSマウスにFSTとTSTを実施し、CMSマウスとCSDSマウスにFSTとTSTとショ糖嗜好性試験(SPT)をそれぞれ実施した。
【0077】
FSTとTSTの実験操作は、実施例6の記載と同様にして実施し、SPTの具体的な実験操作は以下のように行った。
【0078】
SPTは、2ボトル自由選択パラダイムを用いて行った。マウスを1%ショ糖溶液に3日間順化させ、無作為に群分けした。各個体のショ糖の摂取量を評価するため、マウスの順化から3日以内に24時間の絶水と絶食を行った。その翌日に、給水瓶を2本用意して、一方にはショ糖を入れ、もう一方には水を入れて、各マウスに自由に摂取させた。2.5時間後に、水の給水瓶とショ糖の給水瓶の位置を入れ替えて、計5時間の試験時間まで試験を行った。試験終了時に、水の消費量とショ糖溶液の消費量を記録し、以下の式(I)に従って計算を行った。
【数1】
【0079】
図8に示した分析結果から分かるように、3種の薬物評価モデルのすべてにおいて、TAT-5HT2AR-SVで処置したマウスは、TATで処置したマウスと比べて、ストレスにより誘導される無動時間の延長が有意に減少し(A~C、FSTとTST)、ショ糖嗜好性が有意に増強された(A~C、SPT)。TAT-5HT2AR-DV処置群の結果とTAT-5HT2AR-CT処置群の結果も、TAT-5HT2AR-SV処置群の結果と同様であった。
【0080】
実施例7.5-HT2AR/D1R複合体相互作用の破壊における本発明のポリペプチドの有効性の動物モデルにおける検証
処置を行った実施例6のCRSマウス、CMSマウスおよびCSDSマウス(TAT-5HT2AR-SV、TAT-5HT2AR-DV、TAT-5HT2AR-CTまたはTAT)を、実施例1と同様にして共免疫沈降法により分析し、ウエスタンブロットを行った結果を
図9にそれぞれ示した。
【0081】
予想したとおり、3種のマウスモデルのすべてにおいて5-HT2ARとD1Rの結合量が有意に増加し、TAT-5HT2AR-SV処置群では、TAT処置群と比べて、ストレス負荷マウスの海馬組織における5-HT2ARとD1Rの間の相互作用が有意に減少した(
図9A~C)。
【0082】
さらに、処置を行ったCRSマウスの海馬組織を、ウエスタンブロットで直接分析して、D1Rと5-HT2ARの発現量を調べた。この結果を
図10に示す。興味深いことに、TAT-5HT2A-SV処置群とTAT処置群の間で、D1Rの発現量と5-HT2ARの発現量に有意な変化は認められず、この結果から、本発明のポリペプチドが、D1Rと5-HT2ARの結合に対して特異性を有することが示された。
【0083】
さらに、TAT-5HT2AR-DVまたはTAT-5HT2AR-CTで処置したCRSマウス、CMSマウスおよびCSDSマウスの試験をそれぞれ行った。試験の結果、TAT-5HT2AR-DV群とTAT-5HT2AR-CT群では、ストレス負荷マウスの海馬組織において、5-HT2ARとD1Rの間の相互作用が有意に減少したが、D1Rの発現量と5-HT2ARの発現量には有意な変化を起こさなかったことが示された。
【0084】
実施例8.本発明のポリペプチドの抗不安様作用の評価
本発明のポリペプチドの抗不安様作用を評価するため、TAT-5HT2AR-SV、TAT-5HT2AR-DVまたはTAT-5HT2AR-CTで処置したマウス(いずれのマウスも単回の腹腔内投与で処置した;3nmol/g)を、処置の1時間後に、オープンフィールド試験(OFT)による中央区画での滞在時間の測定と、高架式十字迷路試験(EPM)に供した。TATで処置したマウスを対照として使用した。各試験方法を以下に述べる。
【0085】
オープンフィールド試験(OFT)(中央区画での滞在時間の測定):オープンフィールドの床面を同じ面積の25個のマス目に分け、そのうち中央の9個のマス目を中央区画として使用した。本発明のポリペプチドでマウスを処置した1時間後に、マウスを中央区画に置き、5分間記録し、中央区画でのマウスの滞在時間を記録した。
【0086】
高架式十字迷路試験(EPM):高架式十字迷路は、2本のオープンアーム(25cm×8cm)と2本のクローズドアーム(25cm×8cm)で構成されており、これらのアームの交点を中央区画(8cm×8cm)として使用し、床面から40cmの高さに設置する。本発明のポリペプチドでマウスを処置した1時間後に、オープンアームに向けてマウスを中央区画に置き、自由に活動させて5分間記録した。各マウスを試験した後、この装置を70%アルコールで清拭した。オープンアームでの滞在時間、クローズドアームでの滞在時間、およびマウスの総移動距離を記録した。
【0087】
OFTの結果の一部を
図11に示す。TAT-5HT2A-SRポリペプチドによって、中央区画でのマウスの滞在時間を有意に延長することができ、これと同様に、TAT-5HT2AR-DVポリペプチドおよびTAT-5HT2AR-CTポリペプチドによっても、中央区画でのマウスの滞在時間が有意に延長されたことから(P<0.01)、これらのポリペプチドが不安を効果的に低減させたことが示された。
【0088】
EPMの結果の一部を
図12に示す。TAT-5HT2A-SRポリペプチドによって、オープンアームでの滞在時間(A)が有意に延長し、クローズドアームでの滞在時間(B)が有意に短縮したが、マウスの総移動能力(C)には影響は認められなかった。これと同様に、TAT-5HT2AR-DVポリペプチドおよびTAT-5HT2AR-CTポリペプチドによっても、オープンアームでの滞在時間が有意に延長し(P<0.01)、クローズドアームでの滞在時間が有意に短縮したが(P<0.05)、マウスの総移動能力には影響は認められなかった。この結果から、本発明のポリペプチドが不安を効果的に低減させたことが示された。
【配列表】
【手続補正書】
【提出日】2024-05-20
【手続補正1】
【補正対象書類名】明細書
【補正対象項目名】0033
【補正方法】変更
【補正の内容】
【0033】
いくつかの実施形態において、融合タンパク質技術を用いる場合、本発明のポリペプチドは、リンカーを用いて、血液脳関門を透過させるための担体に連結することもできる。例示的なリンカーは、グリシンを含む柔軟なリンカーであってもよく、例えば、G、GSG、GSGGSG(配列番号4)、GSGGSGG(配列番号5)、GSGGSGGG(配列番号6)、GGGGSGGG(配列番号7)、GGGGS(配列番号8)、SGGなどが挙げられる。
【手続補正2】
【補正対象書類名】明細書
【補正対象項目名】配列表
【補正方法】変更
【補正の内容】
【配列表】
【国際調査報告】