(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公表特許公報(A)
(11)【公表番号】
(43)【公表日】2024-09-26
(54)【発明の名称】冷間圧延熱処理鋼板及びその製造方法
(51)【国際特許分類】
C22C 38/00 20060101AFI20240918BHJP
C22C 38/60 20060101ALI20240918BHJP
C21D 9/46 20060101ALI20240918BHJP
【FI】
C22C38/00 301T
C22C38/60
C21D9/46 J
【審査請求】有
【予備審査請求】未請求
(21)【出願番号】P 2024519304
(86)(22)【出願日】2021-09-29
(85)【翻訳文提出日】2024-05-23
(86)【国際出願番号】 IB2021058916
(87)【国際公開番号】W WO2023052814
(87)【国際公開日】2023-04-06
(81)【指定国・地域】
(71)【出願人】
【識別番号】515214729
【氏名又は名称】アルセロールミタル
(74)【代理人】
【識別番号】110001173
【氏名又は名称】弁理士法人川口國際特許事務所
(72)【発明者】
【氏名】ワーテルスコート,トム
(72)【発明者】
【氏名】レイ,アルニム
(72)【発明者】
【氏名】ダビド,レナルド
【テーマコード(参考)】
4K037
【Fターム(参考)】
4K037EA01
4K037EA02
4K037EA05
4K037EA06
4K037EA09
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4K037FL02
4K037FM02
4K037FM04
4K037GA05
4K037JA06
(57)【要約】
冷間圧延熱処理鋼板であって、以下の元素、0.05%≦炭素≦0.12%、1.0%≦マンガン≦2%、0.01%≦ケイ素≦0.5%、0.01%≦アルミニウム≦0.1%、0.01%≦ニオブ≦0.1%、0%≦リン≦0.09%、0%≦硫黄≦0.09%、0%≦窒素≦0.09%、0.1%≦クロム≦0.5%、0%≦ニッケル≦3%、0%≦チタン≦0.1%、0%≦カルシウム≦0.005%、0%≦銅≦2%、0%≦モリブデン≦0.5%、0%≦バナジウム≦0.1%、0%≦ホウ素≦0.003%、0%≦セリウム≦0.1%、0%≦マグネシウム≦0.010%、0%≦ジルコニウム≦0.010%、を含有することができる組成を有し、残りの組成が、鉄及び加工によって生じる不可避的不純物から構成され、鋼板の微細組織が、面積分率で、50~90%の再結晶フェライト、10~50%の非再結晶フェライト、0%~15%のセメンタイト及び0.5%~2%のニオブの炭化物を含み、ここで、再結晶フェライトと非再結晶フェライトとの累積量が少なくとも85%である、冷間圧延熱処理鋼板。
【特許請求の範囲】
【請求項1】
冷間圧延熱処理鋼板であって、重量パーセントで表される以下の元素:
0.05%≦炭素≦0.12%
1.0%≦マンガン≦2%
0.01%≦ケイ素≦0.5%
0.01%≦アルミニウム≦0.1%
0.01%≦ニオブ≦0.1%
0%≦リン≦0.09%
0%≦硫黄≦0.09%
0%≦窒素≦0.09%
を含み、並びに以下の任意選択の元素
0.1%≦クロム≦0.5%
0%≦ニッケル≦3%
0%≦チタン≦0.1%
0%≦カルシウム≦0.005%
0%≦銅≦2%
0%≦モリブデン≦0.5%
0%≦バナジウム≦0.1%
0%≦ホウ素≦0.003%
0%≦セリウム≦0.1%
0%≦マグネシウム≦0.010%
0%≦ジルコニウム≦0.010%
のうちの1つ以上を含有することができる組成を有し、
残りの組成が、鉄及び加工によって生じる不可避的不純物から構成され、前記鋼板の微細組織が、面積分率で、50~90%の再結晶フェライト、10~50%の非再結晶フェライト、0%~15%のセメンタイト及び0.5%~2%のニオブの炭化物を含み、ここで、再結晶フェライトと非再結晶フェライトとの累積量が少なくとも85%である、冷間圧延熱処理鋼板。
【請求項2】
前記組成が0.01%~0.4%のケイ素を含む、請求項1に記載の冷間圧延熱処理鋼板。
【請求項3】
前記組成が0.05%~0.11%の炭素を含む、請求項1又は2に記載の冷間圧延熱処理鋼板。
【請求項4】
前記組成が0.01%~0.09%のアルミニウムを含む、請求項1から3のいずれか一項に記載の冷間圧延熱処理鋼板。
【請求項5】
再結晶フェライトと非再結晶フェライトとの前記累積量が少なくとも90%である、請求項1から4のいずれか一項に記載の冷間圧延熱処理鋼板。
【請求項6】
再結晶フェライトの量が54%~85%である、請求項1から5のいずれか一項に記載の冷間圧延熱処理鋼板。
【請求項7】
非再結晶フェライトが20%~48%である、請求項1から6のいずれか一項に記載の冷間圧延熱処理鋼板。
【請求項8】
600MPa以上の極限引張強度と、14%以上の全伸びと、1.10以上の降伏強度対引張強度比とを有する、請求項1から8のいずれか一項に記載の冷間圧延熱処理鋼板。
【請求項9】
550MPa以上の降伏強度を有する、請求項1から9のいずれか一項に記載の冷間圧延熱処理鋼板。
【請求項10】
冷間圧延熱処理鋼板の製造方法であって、以下の連続ステップ:
- 請求項1から4のいずれか一項に記載の鋼組成物を提供するステップ;
- 半製品を1000℃~1280℃の温度に再加熱するステップ;
- 半製品をAc3~Ac3+100℃の温度範囲において圧延するステップであって、熱間圧延仕上げ温度はAc3を超えるものとし、熱間圧延鋼を得るステップ;
- 前記熱間圧延鋼を20℃/秒を超える冷却速度で450℃~650℃の巻取り温度まで冷却するステップ、及び前記熱間圧延鋼を巻取るステップ;
- 前記熱間圧延鋼を室温まで冷却するステップ;
- 任意選択的に、前記熱間圧延鋼板にスケール除去工程を実施するステップ;
- 任意選択的に、400℃~750℃の熱間圧延鋼板に焼鈍を行うステップ;
- 任意選択的に、前記熱間圧延鋼板にスケール除去工程を実施するステップ;
- 前記熱間圧延鋼板を35~90%の圧下率で冷間圧延して、冷間圧延鋼板を得るステップ;
- 前記冷間圧延鋼板を2ステップの加熱:
・ 第1のステップが、少なくとも20℃/秒の加熱速度HR1で、前記鋼板を室温から580℃~650℃の温度T1まで加熱することから始まり、
・ 第2のステップが、2℃/秒以上の加熱速度HR2で、T1から700℃~760℃の均熱温度T2まで前記鋼板をさらに加熱することから始まり、HR2がHR1よりも低ものであり、次いで、T2で10~500秒間焼鈍を行う、
で焼鈍するステップ;
- 次いで、前記冷間圧延鋼板をT2から400℃~500℃の保持温度T3まで少なくとも10℃/秒の平均冷却速度で冷却するステップ;
- 次いで、前記冷間圧延鋼板をT3で10~500秒間保持し、420℃~480℃の温度範囲にするステップ;
- 次いで、前記冷間圧延板を被覆して、冷間圧延熱処理鋼板を得るステップ
を含む、方法。
【請求項11】
前記巻取り温度が450℃~625℃である、請求項11に記載の方法。
【請求項12】
前記仕上げ圧延温度が850℃を超える、請求項11又は12に記載の方法。
【請求項13】
構造用鋼の製造のための、請求項1から10のいずれか一項に記載の鋼板又は請求項11から13の方法に従って製造された鋼板の使用。
【請求項14】
請求項14に従って得られた部品を備える鋼構造物。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、自動車用鋼板としての使用に適した冷間圧延熱処理鋼板に関する。
【背景技術】
【0002】
構造用鋼は、2つの矛盾する要求、すなわち、形成の容易さ及び強度を満たす必要があるが、近年では、地球環境問題に対する関心から、ソーラーフレーム、ラッキング、サイロ、屋根材、クラッド材及び他の同様の目的を構築するために使用されることが意図されているこれらの構造用鋼にCO2消費量の影響に関する改善という第3の要件も課せられている。したがって、現在、構造用鋼は、耐久性及び寿命の基準に適合するために、高い強度を有する材料で作られなければならない。
【0003】
したがって、材料の強度を高めることによって自動車に利用される材料の量を減らすために、懸命な研究開発の努力がなされている。逆に、鋼板の強度を高めると成形性が低下するため、したがって高強度かつ高成形性を併せ持つ材料の開発が必要とされている。
【0004】
高強度かつ高成形性の鋼板の分野における先行研究及び開発は、高強度かつ高成形性鋼板を製造するためのいくつかの方法をもたらしており、そのうちのいくつかは、本発明の最終的な評価のために本明細書に列挙されている。
【0005】
US10920293は、質量%で、C:0.07~0.19%、Si:0.09%以下、Mn:0.50~1.60%、P:0.05%以下、S:0.01%以下、Al:0.01~0.10%、N:0.010%以下、並びに残部Fe及び不可避的不純物を含む組成の鋼板であって、主相としてフェライトを含有し、体積で2~12%のパーライト、3%以下のマルテンサイトを含み、残部が低温発生相である微細組織であり、フェライトが平均結晶粒径25μm以下を有し、パーライトが平均結晶粒径5μm以下を有し、マルテンサイトが平均結晶粒径1.5μm以下を有し、パーライトの平均自由行程が5.5μm以上の鋼板である。しかしながら、US10920293の鋼は、600MPa以上の引張強度を達成することができない。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0006】
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0007】
本発明の目的は、以下を同時に有する冷間圧延鋼板を利用可能にすることによって、これらの問題を解決することである:
1.10以上のTS/YS比。
600MPa以上の極限引張強度、
14%以上の全伸び、好ましくは15%以上の全伸び。
【0008】
好ましくは、このような鋼は、550MPa以上、好ましくは580MPa超の降伏強度を有する。
【0009】
好ましくは、このような鋼はまた、成形、良好な溶接性、曲げ性及び被覆性を伴う圧延に良好な適合性を有することができる。
【0010】
好ましくは、このような鋼はまた、40%を超える穴広げ率(hole expansion ratio)を有することができる。
【0011】
本発明の別の目的はまた、製造パラメータの変更に対して頑強でありながら、従来の工業用途に適合する、これらの板の製造方法を利用可能にすることである。
【課題を解決するための手段】
【0012】
本発明の冷間圧延熱処理鋼板は、その耐食性を改善するために、亜鉛若しくは亜鉛合金で、又はアルミニウム若しくはアルミニウム合金で被覆される。
【0013】
炭素は、鋼中に0.05%~0.12%存在する。炭素は、微細合金析出物を形成を介してだけでなく格子間強化によって、鋼板の強度を高めるために必要な元素である。Cが0.05wt%未満であると、要求される降伏強度550MPa以上と全伸び14%超とを同時に達成することが困難となる。炭素含有量が0.12%を超える場合はいつでも、被覆性を低下させ、鋼-被覆界面で不十分な接着性を示す。0.12%を超える炭素含有量はAc1温度を低下させ、そのためパーライト、ベイナイト、マルテンサイトのような第2相が比較的低い均熱温度(soaking temperature)で形成され得、このことが穴広げ率を低下させ、曲げ中の加工硬化を増加させるので、これは推奨されない。したがって、本発明の鋼の炭素の好ましい範囲は、0.05%~0.11%、より好ましくは0.07%~0.095%である。
【0014】
本発明の鋼のマンガン含有量は1.0%~2%である;マンガンを添加する目的は、本質的に、固溶強化によって鋼に強度を付与することである。Mnが1%未満であると、要求される降伏強度550MPa以上と全伸び14%超とを同時に達成することが困難となる。Mn含有量が2%を超えて添加されると、オーステナイトからパーライトへの変態が抑制され、マルテンサイト及び/又はベイナイトが形成され、熱影響域(HAZ)における硬度が高くなるという点で溶接性が悪くなり、溶接時に表面割れが発生しやすくなる。本発明の好ましい含有量は、本発明の鋼の良好な曲げ性を確保するために、1.1%~1.9%、さらにより好ましくは1.2%~1.8%に維持され得る。
【0015】
本発明の鋼のケイ素含有量は0.01%~0.5%である。ケイ素は、固溶強化によってフェライトに強度を付加し、この効果のために、穴広げ率は増加する傾向があり、良好な延性も確保される。しかしながら、0.5%を超える量で含有されると、焼鈍時にケイ素が酸化物の形態で鋼板表面に濃化し、被覆性が悪化して脆化の原因となる。また、0.5%を超える過剰なケイ素含有量もまた、高温での靭性が損なわれ、溶接時に表面割れを引き起こすことが多い。このため、ケイ素含有量は0.5%以下に制限される。ケイ素含有量は、好ましくは0.01%~0.4%、より好ましくは0.01%~0.3%である。
【0016】
アルミニウムは必須元素であり、本発明の鋼中に0.01%~0.1%存在する。アルミニウムはフェライト形成を促進し、Ms温度を上昇させ、それにより、本発明は、本発明の鋼に延性並びに強度を付与するために本発明の鋼が必要とする適切な量でフェライトを有することが可能となる。しかし、アルミニウムの存在が0.1%を超えると、Ac3温度が上昇し、完全オーステナイト領域での焼鈍及び熱間圧延仕上げ温度が経済的に不合理になる。アルミニウム含有量は、好ましくは0.01%~0.09%、より好ましくは0.01%~0.05%に制限される。
【0017】
ニオブは、0.01%~0.1%で本発明の鋼にとって必須元素であり、炭化物及び炭窒化物を形成して、析出硬化によって本発明の鋼の強度を付与するのに適している。ニオブはまた、炭化物としての析出によって、及び加熱工程中の再結晶化を遅延させることによって、微細組織成分のサイズに影響を与えると思われる。したがって、最終製品中に形成されるより微細な微細組織、結果として本発明の鋼は、目標強度に到達することができる。しかしながら、0.1%を超えるニオブ含有量は、経済的に興味深いものではなく、また、鋼の穴広げ率、伸びなどの特性に有害なより粗い析出物を形成し、また、ニオブの含有量が0.1%以上である場合、ニオブは鋼の熱間延性にも有害であり、鋼の鋳造及び圧延中に困難をもたらす。ニオブ含有量の好ましい限界は0.01%~0.09%であり、より好ましい限界は0.01%~0.05%である。
【0018】
リンは必須元素ではないが、不純物として鋼中に含まれていてもよく、本発明の観点から、リンの含有量は可能な限り少ないことが好ましく、0.09%以下であることが好ましい。リンは、特に結晶粒界に偏析する、又はマンガンと共偏析する傾向があるため、点溶接性及び熱間延性を低下させる。これらの理由から、その含有量は0.09%未満、好ましくは0.03%未満、より好ましくは0.014%未満に制限される。
【0019】
硫黄は必須元素ではないが、不純物として鋼中に含まれていてもよく、本発明の観点から、硫黄の含有量は可能な限り少ないことが好ましいが、製造コストの観点から0.09%以下である。さらに、より高い硫黄が鋼中に存在する場合、特にマンガンと結合して硫化物を形成し、本発明の鋼に対するその有益な影響が低下する。
【0020】
材料の経年劣化を回避し、鋼の機械的特性に有害な凝固中の窒化物の析出を最小限に抑えるために、窒素は0.09%に制限される。
【0021】
クロムは、本発明の任意選択の元素である。本発明の鋼中に存在し得るクロム含有量は0.1%~0.5%である。クロムは鋼に強度及び硬化を提供するが、0.5%を超えて使用すると鋼の表面仕上げを損なう。本発明にとってのクロムの好ましい限界は、0.1%~0.4%、より好ましくは0.2%~0.4%である。
【0022】
ニッケルは、鋼の強度を増強し、靭性を改善するために、任意選択の元素として3%までの量で添加されてもよい。このような効果が生じるためには、最低0.01%が好ましい。しかしながら、その含有量が3%を超えると、ニッケルは延性低下を引き起こす。
【0023】
チタンは任意選択の元素であり、本発明の鋼に0.1%まで添加することができる。ニオブは、炭窒化物の形成に関与するため、本発明の鋼の硬化に役割を果たす。さらに、チタンもまた、鋳造品の凝固中に現れるチタン窒化物を形成する。チタンの量は、成形性に有害な粗いチタン窒化物の形成を回避するために0.1%に制限される。チタン含有量が0.001%未満である場合、本発明の鋼にいかなる影響も与えない。
【0024】
本発明の鋼中のカルシウム含有量は0.005%までである。カルシウムは、特に介在物(inclusion)処理の際に、任意選択の元素として好ましい最小量0.0001%で本発明の鋼に添加される。カルシウムは、球状形態の有害な硫黄含有量を阻止することによって鋼の精錬に寄与し、それによって硫黄の有害な影響を遅らせる。
【0025】
銅は、鋼の強度を増強し、耐食性を改善するために、任意選択の元素として2%までの量で添加されてもよい。このような効果を得るためには、最低0.01%の銅が好ましい。しかしながら、その含有量が2%を超えると、表面の様相を劣化させる可能性がある。
【0026】
モリブデンは、本発明の鋼の最大0.5%を構成する任意選択の元素である。モリブデンは、焼入れ性及び硬度を決定するのに有効な役割を果たし、ベイナイトの出現を遅らせ、ベイナイト中の炭化物析出を回避する。しかしながら、モリブデンの添加は合金元素の添加コストを過度に増加させるので、経済的理由からその含有量は0.5%に制限される。
【0027】
バナジウムは、炭化物又は炭窒化物を形成することによって鋼の強度を高めるのに有効であり、経済的理由により上限は0.1%である。セリウム、ホウ素、マグネシウム又はジルコニウムなどの他の元素は、以下の重量割合で個別に又は組み合わせて添加することができる:セリウム≦0.1%、ホウ素≦0.003%、マグネシウム≦0.010%及びジルコニウム≦0.010%。示された最大含有量レベルまで、これらの元素は、凝固の際の結晶粒の微細化を可能にする。鋼の組成の残りは、鉄及び加工から生じる必然的不純物からなる。
【0028】
次に鋼板の微細組織について説明する。
【0029】
再結晶フェライトは、本発明の鋼の面積分率で微細組織の50%~90%を構成し、3.6ミクロン以下の平均粒径を有することが有利であり、平均粒径が2ミクロン~3.6ミクロンであることが好ましい。この再結晶フェライトは、本発明の鋼に少なくとも14%の全伸びを付与する。しかしながら、本発明の鋼のマトリックス中に再結晶フェライト含有量が90%を超えて存在する場合、550MPaの降伏強度を達成することは不可能である。再結晶フェライト粒は、冷間圧延後の焼鈍中に加熱及びAc1温度未満の均熱中に核形成及び成長する無転位等軸粒と定義される。したがって、本発明のマトリックス中の再結晶フェライトの存在の好ましい限界は、面積分率で54%~85%、より好ましくは54%~80%である。
【0030】
非再結晶フェライトは、本発明の鋼の面積分率で微細組織の10%~50%を構成する。非再結晶フェライト粒は、冷間圧延中に形成され、冷間圧延後の焼鈍中に加熱及びAc1温度未満の均熱中に再結晶しなかった細長いフェライト粒を含む転位として定義される。非再結晶フェライトは、本発明の鋼における高い強度に寄与し、550MPa以上の降伏強度を確保するために、少なくとも10%の非再結晶フェライトを有する必要がある。しかし、本発明の鋼のマトリックス中に非再結晶フェライト含有量が50%を超えて存在する場合、少なくとも14%の全伸びを達成することは不可能である。したがって、本発明の非再結晶フェライトの存在の好ましい限界は、面積分率で15%~50%、より好ましくは20%~48%である。
【0031】
非再結晶フェライトと再結晶フェライトとの累積存在は、少なくとも85%、好ましくは少なくとも90%、より好ましくは少なくとも98又は99.5%であり得る。非エッチング及びDinoのエッチング液(蒸留水140ml、H2O2 100ml、シュウ酸4g、H2SO4 2ml及びHF 1.5ml)を使用して、光学顕微鏡写真により再結晶フェライト微細組織要素と非再結晶フェライト微細組織要素とを区別する。各構成要素の面積分率は、ASTM E562に従って測定される。
【0032】
炭化ニオブは、本発明の鋼中に存在する。本発明によれば、炭化ニオブ析出物のサイズが2nm~200nm、より好ましくは2nm~20nmであることが有利である。本発明の炭化ニオブには、粒内炭化ニオブ(すなわち、フェライト粒子の内部に析出するので粒内炭化ニオブと呼ばれる)と粒間炭化ニオブ(すなわち、フェライト粒界に析出するので粒間炭化ニオブと呼ばれる)の両方が含まれる。炭化ニオブの均質で密着した析出は、鋼の強度を増強させる。炭化ニオブの存在の限界は、面積分率で0.5%~2%であり、より好ましくは面積分率で0.5%~1.5%である。
【0033】
本発明の鋼中に任意選択で存在し得るセメンタイトは0%~15%である。セメンタイトは本発明に強度を付与するが、セメンタイトの存在が15%を超えると、全伸びは達成されない。
【0034】
上記の微細組織に加えて、冷間圧延熱処理鋼板の微細組織は、鋼板の機械的特性を損なうことなく、パーライト、ベイナイト及びマルテンサイトなどの微細組織成分を含まない。
【0035】
本発明による鋼板は、任意の適切な方法によって製造することができる。好ましい方法は、本発明による化学組成を有する鋼の半完成鋳造物を提供することからなる。鋳造は、インゴットにするか、又は薄いスラブ若しくは薄いストリップの形態で連続的に、すなわちスラブの場合の約220mmから、薄いストリップの場合の数十ミリメートルまでの範囲の厚さで行うことができる。
【0036】
例えば、上述の化学組成を有するスラブは連続鋳造によって製造され、スラブは、中心偏析を回避するために、任意選択的に連続鋳造工程中に直接軽圧下に供され、局所炭素対公称炭素の比は1.10未満に確実に維持される。連続鋳造工程によって提供されるスラブは、連続鋳造後に高温で直接使用することができ、又は最初に室温まで冷却し、次いで熱間圧延のために再加熱することができる。
【0037】
熱間圧延に供されるスラブの温度は、少なくとも1000℃であり、1280℃未満でなければならない。スラブの温度が1000℃未満の場合、ニオブの溶解は完全には起こらず、その結果、ニオブは焼鈍中に適切な炭化物を形成せず、さらに1000℃未満の温度の場合、圧延機に過剰な負荷がかかる可能性があり、さらに、仕上げ圧延中に鋼の温度がフェライト変態温度まで低下する可能性があり、それにより鋼は変態フェライトが組織に含まれた状態で圧延される。したがって、スラブの温度は、好ましくは、Ac3~Ac3+100℃の温度範囲で熱間圧延を完了することができ、最終圧延温度がAc3を超えて残存するべく十分に高い。1280℃を超える温度での再加熱は、工業的に高価であるため避ける必要がある。
【0038】
最終圧延温度は、再結晶及び圧延に好ましい組織を有するために、Ac3~Ac3+100℃の範囲が必要である。最終圧延パスは850℃を超える温度で実施されることが好ましく、この温度未満では鋼板は圧延性の著しい低下を示す。次いで、このようにして得られた熱間圧延鋼を、20℃/秒を超える冷却速度で、450℃~650℃でなければならない巻取り温度まで冷却する。巻取り温度を450℃~650℃に保つ目的は、冷間圧延後の焼鈍中の析出を最大にするために、ニオブなどのマイクロアロイ元素を熱間帯鋼(hot band)の固溶体中に保つことである。好ましくは、冷却速度は200℃/秒以下である。
【0039】
次いで、熱間圧延鋼は、楕円化を避けるために450℃~650℃、好ましくはスケール形成を避けるために450℃~625℃の巻取り温度で巻取りされる。このような巻取り温度のより好ましい範囲は、460℃~625℃である。巻取られた熱間圧延鋼は室温まで冷却され、その後任意選択の熱間帯鋼焼鈍に供される。
【0040】
熱間圧延鋼は、任意選択の熱間帯鋼焼鈍の前に、熱間圧延中に形成されたスケールを除去するために任意選択のスケール除去ステップに供されてもよい。次いで、熱間圧延板は、例えば、400℃~750℃の温度で少なくとも12時間~96時間以下の任意選択の熱間帯鋼焼鈍に供されてもよく、その温度は、熱間圧延された微細組織の部分的変態、したがって微細組織の均一性の喪失を回避するために750℃未満に留める。その後は、この熱間圧延鋼の任意選択のスケール除去ステップは、例えば、このような板の酸洗によって実施されてもよい。この熱間圧延鋼を冷間圧延に供して、厚さが35~90%減圧した冷間圧延鋼板を得る。次いで、冷間圧延工程から得られた冷間圧延鋼板を焼鈍に供して、本発明の鋼に微細組織及び機械的特性を付与する。
【0041】
冷間圧延鋼板の焼鈍は、2ステップの加熱で実施され、第1のステップは、少なくとも20℃/秒の加熱速度HR1で、鋼板を室温から580℃~650℃の温度T1まで加熱することから始まる。Taylor及びFrancisの「Differential scanning calorimetry study of constrained groove pressed low carbon steel:recovery,recrystallisation and ferrite to austenite phase transformation」として2013年12月6日に掲載された論文の765~773ページによる示差走査熱量測定実験によって計算される再結晶開始温度よりもT1温度を低く保つことが有利である。その後、第2のステップは、少なくとも2℃/秒の加熱速度HR2で、T1から700℃~760℃の均熱温度T2まで鋼板をさらに加熱することから始まり、HR2はHR1よりも低いものであり、次いで、T2で10~500秒間焼鈍を行う。好ましい実施形態では、第2のステップの加熱速度は、10℃/秒未満、より好ましくは8℃/秒未満である。均熱のための好ましい温度T2は、700℃~Ac1-50℃である。
【0042】
次いで、冷間圧延鋼は、T2から400℃~500℃、好ましくは420℃~490℃の温度範囲T3まで、少なくとも10℃/秒、好ましくは少なくとも15℃/秒の平均冷却速度で冷却され、冷却ステップは、2℃/秒以下、好ましくは1℃/秒以下の冷却速度で、T3温度範囲内の任意選択の徐冷サブステップを含んでもよい。冷間圧延鋼板は、10~500秒間、温度範囲T3内に保持される。
【0043】
次いで、冷間圧延鋼板の溶融めっきを容易にするために、被覆の性質に応じて、冷間圧延鋼板を被覆浴の温度420℃~480℃にすることができる。
【0044】
冷間圧延鋼板はまた、電気亜鉛めっき、JVD、PVDなどの公知の工業工程のいずれかによって被覆することができ、被覆前に上述の温度範囲にする必要はない。
【0045】
次いで、150℃~300℃の温度で30分~120時間、任意選択のバッチ後焼鈍を行ってもよい。
【0046】
その後、冷間圧延鋼板に対して、1.3%以上、好ましくは1.4%以上の最小スキンパス圧下でスキンパス圧延を行うことができる。
【実施例】
【0047】
本明細書に提示される以下の試験、実施例、図的例示及び表は、本質的に非限定的であり、例示のみを目的として考慮されなければならず、本発明の有利な特徴を示すものである。
【0048】
異なる組成の鋼で作られた鋼板を表1にまとめ、これらの鋼板は、それぞれ表2に規定された工程パラメータに従って製造される。その後、表3は試験中に得られた鋼板の微細組織をまとめ、表4は得られた特性の評価結果をまとめている。
【0049】
【0050】
表2
表2は、表1の鋼に対して実施された焼鈍工程のパラメータをまとめたものである。鋼組成I1からI3及びR1からR5は、本発明による板の製造に供される。表2は、Ac1及びAc3の集計も示す。これらのAc1及びAc3は、ASTM A1033-04規格に従って行われた膨張測定研究によって、本発明の鋼及び参照鋼について規定される。
【0051】
以下の処理パラメータは、表1の全ての鋼について同じである。表1の全ての鋼は、熱間圧延の前に1200℃の温度に加熱され、最終的に亜鉛溶融めっきの前に460℃の温度にされた。
【0052】
表2は以下の通りである:
【0053】
【0054】
表3
表3は、本発明の鋼及び参照鋼の両方の微細組織を決定するための走査型電子顕微鏡などの異なる顕微鏡で規格に従って行われた試験の結果を例示する。
【0055】
結果は、本明細書に明記される:
【0056】
【表3】
I=本発明による;R=参照;下線付き値:本発明によらない。
【0057】
表4
表4は、本発明の鋼及び参照鋼の両方の機械的特性を例示する。引張強度、降伏強度及び全伸びを決定するために、NBN EN ISO 6892-1、方法Bに従って、A80試験片について引張試験を行う。
【0058】
規格に従って行われた様々な機械的試験の結果をまとめている。
【0059】
【表4】
I=本発明による;R=参照;下線付き値:本発明によらない。
【国際調査報告】