(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公表特許公報(A)
(11)【公表番号】
(43)【公表日】2024-09-26
(54)【発明の名称】ハンゲ、タイソウ、カンゾウ、コウライニンジン、カンキョウ、オウゴン及びオウレン混合抽出物を有効成分として含むアルツハイマー病治療用組成物
(51)【国際特許分類】
A61K 36/888 20060101AFI20240918BHJP
A61P 25/28 20060101ALI20240918BHJP
A61K 36/725 20060101ALI20240918BHJP
A61K 36/896 20060101ALI20240918BHJP
A61K 36/258 20060101ALI20240918BHJP
A61K 36/9068 20060101ALI20240918BHJP
A61K 36/539 20060101ALI20240918BHJP
A61K 36/718 20060101ALI20240918BHJP
A23L 33/105 20160101ALI20240918BHJP
【FI】
A61K36/888
A61P25/28
A61K36/725
A61K36/896
A61K36/258
A61K36/9068
A61K36/539
A61K36/718
A23L33/105
【審査請求】有
【予備審査請求】未請求
(21)【出願番号】P 2024519775
(86)(22)【出願日】2022-09-30
(85)【翻訳文提出日】2024-03-29
(86)【国際出願番号】 KR2022014816
(87)【国際公開番号】W WO2023055198
(87)【国際公開日】2023-04-06
(31)【優先権主張番号】10-2021-0130429
(32)【優先日】2021-09-30
(33)【優先権主張国・地域又は機関】KR
(81)【指定国・地域】
【公序良俗違反の表示】
(特許庁注:以下のものは登録商標)
(71)【出願人】
【識別番号】520087022
【氏名又は名称】コリア・インスティトゥート・オブ・オリエンタル・メディスン
(71)【出願人】
【識別番号】519341706
【氏名又は名称】テグ キョンプク インスティテュート オブ サイエンス アンド テクノロジー
【氏名又は名称原語表記】DAEGU GYEONGBUK INSTITUTE OF SCIENCE AND TECHNOLOGY
(74)【代理人】
【識別番号】100105957
【氏名又は名称】恩田 誠
(74)【代理人】
【識別番号】100068755
【氏名又は名称】恩田 博宣
(74)【代理人】
【識別番号】100142907
【氏名又は名称】本田 淳
(74)【代理人】
【識別番号】100152489
【氏名又は名称】中村 美樹
(72)【発明者】
【氏名】コ、ヨンフン
(72)【発明者】
【氏名】キム、ブユン
(72)【発明者】
【氏名】キム、ジェ グァン
(72)【発明者】
【氏名】チェ、ジャン-ギ
(72)【発明者】
【氏名】オ、テ ウ
(72)【発明者】
【氏名】パク、マルク ウン
(72)【発明者】
【氏名】パク、ヨ ジン
(72)【発明者】
【氏名】ソ、ジンス
(72)【発明者】
【氏名】イ、ヘイン
【テーマコード(参考)】
4B018
4C088
【Fターム(参考)】
4B018MD61
4B018ME10
4B018ME14
4B018MF01
4C088AB12
4C088AB18
4C088AB32
4C088AB38
4C088AB42
4C088AB80
4C088AB81
4C088AB85
4C088BA08
4C088BA09
4C088CA05
4C088CA06
4C088MA52
4C088NA14
4C088ZA16
(57)【要約】
本発明は、半夏瀉心湯を有効成分として含む組成物における、ApoE4遺伝子変異を原因とするアルツハイマー病の治療、改善又は予防への使用に関する。本発明の半夏瀉心湯を有効成分として含む組成物及び治療方法は、ApoE4の遺伝子変異を原因とするアルツハイマー病に特異的にアミロイドβタンパク質の優れた減少効果及び蓄積阻害効果を発揮し、ApoE4遺伝子変異を原因とするアルツハイマー病に特異的な予防、改善又は治療用組成物としての活用度が高い。
【特許請求の範囲】
【請求項1】
ハンゲ、タイソウ、カンゾウ、コウライニンジン、カンキョウ、オウゴン及びオウレン混合抽出物を有効成分として含む、アルツハイマー病の予防又は治療用薬学的組成物。
【請求項2】
前記アルツハイマー病は、ApoE4遺伝子変異を原因とするものである、請求項1に記載のアルツハイマー病の予防又は治療用薬学的組成物。
【請求項3】
前記アルツハイマー病は遅発性アルツハイマー病(Late onset Alzheimer’s disease)である、請求項1に記載のアルツハイマー病の予防又は治療用薬学的組成物。
【請求項4】
前記抽出物は、水又は炭素数1~4の低級アルコール抽出物である、請求項1に記載のアルツハイマー病の予防又は治療用薬学的組成物。
【請求項5】
前記組成物は、アミロイドβ減少効果を発揮することを特徴とする、請求項1に記載のアルツハイマー病の予防又は治療用薬学的組成物。
【請求項6】
ハンゲ、タイソウ、カンゾウ、コウライニンジン、カンキョウ、オウゴン及びオウレン混合抽出物を有効成分として含む、ApoE4遺伝子変異を原因とするアルツハイマー病の予防又は改善用機能性食品組成物。
【請求項7】
ハンゲ、タイソウ、カンゾウ、コウライニンジン、カンキョウ、オウゴン及びオウレン混合抽出物を有効成分として含む、ApoE4遺伝子変異を原因とするアルツハイマー病の予防又は改善用医薬部外品組成物。
【請求項8】
請求項1に記載の薬学的組成物をヒト以外の個体に投与するステップを含む、ApoE4遺伝子変異を原因とするアルツハイマー病の治療方法。
【請求項9】
アルツハイマー病の予防又は治療のための、ハンゲ、タイソウ、カンゾウ、コウライニンジン、カンキョウ、オウゴン及びオウレン混合抽出物を有効成分として含む組成物の使用。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、ハンゲ、タイソウ、カンゾウ、コウライニンジン、カンキョウ、オウゴン及びオウレン混合抽出物を有効成分として含むアルツハイマー病予防もしくは治療用薬学的組成物、ハンゲ、タイソウ、カンゾウ、コウライニンジン、カンキョウ、オウゴン及びオウレン混合抽出物を有効成分として含むアルツハイマー病予防もしくは改善用機能性食品組成物、ハンゲ、タイソウ、カンゾウ、コウライニンジン、カンキョウ、オウゴン及びオウレン混合抽出物を有効成分として含むアルツハイマー病予防もしくは改善用医薬部外品組成物、又は前記薬学的組成物を個体に投与するステップを含むアルツハイマー病治療方法に関する。
【背景技術】
【0002】
アルツハイマー病(alzheimer’s disease)は、記憶力をはじめとする認知機能の悪化が徐々に進む病気であり、最も多い退行性脳疾患に該当する。アルツハイマー病の主な症状としては、記憶力の減退、言語能力の低下、時空間把握能力の低下、判断力及び日常生活遂行能力の低下、性格の変化、焦燥性興奮、うつ病、妄想などのいわゆる精神行動症状、尿便失禁、挙動障害などの身体症状が挙げられる。
【0003】
このようなアルツハイマー病は、平均余命の延長がもたらす老人人口の増加により、全世界的に発症率が上昇を続けている。専門家は、2050年にはアルツハイマー病を発症する患者が米国で1380万人に達し、韓国で237万人に達するものと予想しており、ますます深刻になっている。よって、全世界的にアルツハイマー病の治療及び改善のための研究が盛んに行われている。
【0004】
一方、アルツハイマー病は、タウタンパク質の過剰リン酸化、炎症反応、βアミロイドの過剰生成による脳内沈着、酸化的損傷などの様々な機序により発症することが知られている。これらの機序発生の全ての原因について正確に解明されているわけではないが、遺伝的な原因がアルツハイマー病発症全体の約40~50%を占めることが報告されている。
【0005】
代表的には、アミロイド前駆体タンパク質遺伝子、プレセニリン遺伝子変異は、65才未満で症状が始まる早発性アルツハイマー病(Early onset Alzheimer’s disease)のリスクを高める遺伝要因であり、アポリポタンパク質E遺伝子のApoE4対立遺伝子は、主に65才以降に症状が始まる遅発性アルツハイマー病(Late onset Alzheimer’s disease)のリスクを高める遺伝要因であることが知られている。
【0006】
このように、アルツハイマー病は、様々な原因により発症する。アルツハイマー病を引き起こすこれらの具体的原因に応じた特異的な治療剤に関する研究が一部行われている。例えば、特許文献1には、プレセニリン1及びBACEの過剰発現により引き起こされたアルツハイマー病を治療するために、スーパーオキシドディスムターゼ及びS-アデノシルメチオニンを含む組成物が開示されている。このように一部研究は行われているが、現在のところ、アルツハイマー病の具体的な誘発原因に応じた特異的な治療剤に関する研究は活発に行われていない。
【0007】
ApoE遺伝子とは、アポリポタンパク質E(apolipoprotein E, ApoE)の配列をコードする遺伝子を意味する。前記ApoE遺伝子は、HDL(High Density Lipoprotein)、LDL(Low Density Lipoprotein)、VLDL(Very Low Density Lipoprotein)などの血漿の正常構成成分であるリポタンパク質の構成タンパク質をコードするものであり、19番染色体に位置し、脂肪運搬物質として中枢及び末梢神経系の損傷後の脂肪代謝を調節する核心的な役割を果たすことが知られている。前記ApoE遺伝子には、3つの対立遺伝子型であるE2、E3及びE4が存在する。前記対立遺伝子型のうちE2及びE4がアルツハイマー病性認知症に関連することが知られており、アポリポタンパク質のE4対立形質(ApoE4)はアルツハイマー病性認知症発症の危険因子として、アポリポタンパク質のE2対立形質(ApoE2)はアルツハイマー病性認知症発症の保護因子として知られている。アルツハイマー病性認知症患者全体の約10~15%は前記ApoE4遺伝変異が原因となって発症することが知られている。
【0008】
このように、ApoE4遺伝子型は、アルツハイマー病の主な原因の1つである。よって、本発明者らは、具体的にはApoE4遺伝変異を原因とするアルツハイマー病に対して特異的な活性を有する組成物を開発すべく鋭意研究を重ねた。その結果、ハンゲ、タイソウ、カンゾウ、コウライニンジン、カンキョウ、オウゴン及びオウレン混合抽出物(以下、半夏瀉心湯)における、ApoE4誘発アルツハイマー病に特異的なアミロイドβ減少効果を解明し、半夏瀉心湯における、ApoE4遺伝変異を原因とするアルツハイマー病の治療への使用を開発し、本発明を完成するに至った。
【0009】
本特許出願以前には、半夏瀉心湯の使用に関して、ApoE4遺伝子変異により引き起こされたアルツハイマー病疾病の改善に特異的に適用されるという事実を開示する文献や技術は全く存在しなかった。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0010】
【特許文献1】韓国公開特許第10-2010-0126326号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0011】
本発明は、ハンゲ、タイソウ、カンゾウ、コウライニンジン、カンキョウ、オウゴン及びオウレン混合抽出物を有効成分として含む、アルツハイマー病の予防又は治療用薬学的組成物を提供することを目的とする。
【0012】
また、本発明は、ハンゲ、タイソウ、カンゾウ、コウライニンジン、カンキョウ、オウゴン及びオウレン混合抽出物を有効成分として含む、ApoE4遺伝子変異を原因とするアルツハイマー病の予防又は治療用薬学的組成物を提供することを目的とする。
【0013】
さらに、本発明は、ハンゲ、タイソウ、カンゾウ、コウライニンジン、カンキョウ、オウゴン及びオウレン混合抽出物を有効成分として含む、アルツハイマー病の予防又は改善用機能性食品組成物を提供することを目的とする。
【0014】
さらに、本発明は、ハンゲ、タイソウ、カンゾウ、コウライニンジン、カンキョウ、オウゴン及びオウレン混合抽出物を有効成分として含む、アルツハイマー病の予防又は改善用医薬部外品組成物を提供することを目的とする。
【0015】
さらに、本発明は、前記組成物をヒト以外の個体に投与するステップを含む、アルツハイマー病の治療方法を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0016】
本発明で開示される各説明及び実施形態はそれぞれ他の説明及び実施形態にも適用される。すなわち、本発明で開示される様々な要素のあらゆる組み合わせが本発明に含まれる。また、以下の具体的な記述に本発明が限定されるものではない。
【0017】
また、当該技術分野における通常の知識を有する者であれば、通常の実験のみを用いて本発明に記載された本発明の特定の態様の多くの等価物を認識し、確認することができるであろう。さらに、その等価物も本発明に含まれることが意図されている。
【0018】
さらに、本発明の明細書全体において、ある部分がある構成要素を「含む」という場合、これは特に断らない限り、他の構成要素を除外するのではなく、他の構成要素をさらに含んでもよいことを意味する。
【0019】
以下、本発明をより詳細に説明する。
本発明は、ハンゲ、タイソウ、カンゾウ、コウライニンジン、カンキョウ、オウゴン及びオウレン混合抽出物を有効成分として含む組成物のアルツハイマー病予防、改善又は治療への使用に関する。
【0020】
上記目的を達成するための本発明の一態様は、ハンゲ、タイソウ、カンゾウ、コウライニンジン、カンキョウ、オウゴン及びオウレン混合抽出物を有効成分として含む薬学的組成物を提供する。
【0021】
本発明における「半夏瀉心湯(ハンゲシャシントウ)」とは、ハンゲ、タイソウ、カンゾウ、コウライニンジン、カンキョウ、オウゴン及びオウレンの混合抽出物を意味し、本明細書においてこれらは混用される。前記半夏瀉心湯は、当該技術分野で通常用いられる方法により製造することができる。漢方において、半夏瀉心湯は、一般に胃炎、胃拡張症、胃十二指腸潰瘍、胃腸炎などの症状に用いられることが知られている。
【0022】
一実施例において、前記半夏瀉心湯は、ハンゲ、タイソウ、カンキョウ、オウゴン、コウライニンジン、カンゾウ及びオウレンを混合した抽出物、又は上記各成分の抽出物の混合物であるが、これらに限定されるものではない。
【0023】
一具体例において、前記半夏瀉心湯に含まれるハンゲ、タイソウ、カンゾウ、コウライニンジン、カンキョウ、オウゴン、オウレンの比率は、約1.2~2.0:0.8~1.2:0.8~1.2:0.8~1.2:0.6~1.0:0.8~1.2:0.2~0.5であるが、これに限定されるものではない。
【0024】
他の具体例において、前記半夏瀉心湯は、ハンゲ約1.2~2.0g、タイソウ約0.8~1.2g、カンゾウ約0.8~1.2g、コウライニンジン約0.8~1.2g、カンキョウ約0.6~1.0g、オウゴン約0.8~1.2g、及びオウレン約0.2~0.5gを混合した抽出物であるが、これに限定されるものではない。
【0025】
好ましい一具体例において、前記半夏瀉心湯は、ハンゲ約1.67g、タイソウ約1g、カンゾウ約1g、コウライニンジン約1g、カンキョウ約0.83g、オウゴン約1g及びオウレン約0.33gを混合した抽出物、又はこれらと同程度の割合で質量のみ異なる混合液の抽出物であるが、これらに限定されるものではない。
【0026】
以下、前記半夏瀉心湯の成分についてより詳細に説明する。
本発明における「ハンゲ(半夏)」とは、一般にサトイモ科のカラスビシャク(Pinellia ternata Breitenbach)のコルク層を取り除いた塊茎を意味する。地文、羊眼半夏などの名称でも知られている。臭いがほとんどなく、やや粘液性であり、辛い味がし、温かい性質を持つ。漢方において、ハンゲは、痰、咳嗽、喘息に用いられ、凝りによる頭痛、眩暈、胸のつかえ、膨満感、嘔吐、咽喉痛、背中のできもの、乳房炎、妊娠嘔吐などの症状に用いられる。薬理作用により、去痰、鎮咳、嘔吐抑制、珪肺予防、抗癌作用などをもたらすことが報告されている。
【0027】
本発明における「タイソウ(大棗)」とは、ナツメの木の実を意味し、その学名はZiziphus jujuba var.inermisである。ナツメ(棗)や木蜜という名称でも知られている。赤褐色の表面を有し、楕円形であり、長さは1.5~2.5cmに達し、熟すと甘みが増す。漢方において、タイソウは、利尿、強壮、緩和剤として用いられることが報告されている。
【0028】
本発明における「カンゾウ(甘草)」は、マメ科に属する多年生植物であり、学名はGlycyrrhiza uralensis FISCH.である。前記カンゾウは、国老、美草、蜜甘、蜜草、霊草、甜草、蕗草などともいう。カンゾウの外皮は、赤褐色又は暗褐色を呈し、縦に皺がある。漢方において、カンゾウは、薬の毒性を中和し、薬効を向上させ、五臓六腑の寒熱邪気を除き、あらゆる血脈を疎通させ、筋肉と骨を丈夫にする成分として用いられることが報告されている。
【0029】
本発明における「コウライニンジン(高麗人参)」とは、オタネニンジン(Panax ginseng C. A. Meyer)(ウコギ科,Araliaceae)の根を意味する。前記コウライニンジンは、鬼蓋、金井玉蘭、神草、玉精、人微、人銜、地精、土精、孩兒参、血蔘、血参、黄蔘、野山蔘、別直蔘などともいう。コウライニンジンは、特異な臭いがあり、甘く、やや苦い味がし、温かい性質を持つ。漢方において、コウライニンジンは、精力を補い、身体虚弱、倦怠感、疲労、食欲不振、嘔吐、下痢に用いられ、腎機能を向上させる効能も報告されている。
【0030】
本発明における「カンキョウ(乾姜)」とは、ショウガ(Zingiber officinale Roscoe)の根茎を乾燥させたものを意味する。カンキョウは、白姜、均姜ともいい、特異な臭いがあり、薬性は辛、熱である。カンキョウは、抗炎、鎮痛作用、抑菌作用などの薬理効果がある。
【0031】
本発明における「オウゴン」とは、シソ科(Lamiaceae)タツナミソウ属(genus Scutellaria)に属するコガネバナ(Scutellaria baicalensis)の根又はその周皮を取り除いたものを意味する。オウゴンは、臭いがほとんどなく、味はやや苦い。オウゴンは、抗癌、肝保護、抗酸化などの薬理効果を有することが報告されている。
【0032】
本発明における「オウレン」とは、双子葉類キンポウゲ目キンポウゲ科の常緑多年草を意味する。オウレンの学名はCoptis chinensisであり、味は苦く、冷たい性質を持つ。オウレンの主要成分であるベルベリンは、薬理学的に腸内細菌に対する抗菌作用、鎮静及び鎮痙作用、抗動脈硬化作用、消炎作用、利胆作用、膵液分泌促進作用を示すことが報告されている。
【0033】
本発明における「抽出物」又は「混合抽出物」には、前記ハンゲ、タイソウ、カンゾウ、コウライニンジン、カンキョウ、オウゴン及びオウレンを抽出処理して得られる抽出液、前記抽出液の希釈液や濃縮液、前記抽出液を乾燥させて得られる乾燥物、前記抽出液の粗精製物や精製物、それらの混合物など、抽出液自体及び抽出液を用いて形成可能なあらゆる剤形の抽出物が含まれる。具体的には、本発明の前記抽出物は、抽出後に乾燥粉末の形態に作製されて用いられるようにしてもよい。本発明において、前記ハンゲ、タイソウ、カンゾウ、コウライニンジン、カンキョウ、オウゴン又はオウレンは、市販されているものを購入して用いてもよく、自然界で栽培又は採取したものを用いてもよい。
【0034】
本発明の一具体例として、前記ハンゲ、タイソウ、カンゾウ、コウライニンジン、カンキョウ、オウゴン及びオウレン混合抽出物は、各植物を抽出して混合する方法を用いてもよく、前記ハンゲ、タイソウ、カンゾウ、コウライニンジン、カンキョウ、オウゴン及びオウレンを全て混合し、その後抽出する方法を用いてもよく、また、混合過程は、抽出の前に行ってもよく、抽出の後に行ってもよく、さらに、各植物を抽出し、その後混合するステップを経ることが好ましいが、これに限定されるものではない。
【0035】
本発明において、前記抽出物の抽出に用いる抽出溶媒の種類は、特に限定されるものではなく、当該技術分野で公知の任意の溶媒を用いることができる。前記抽出溶媒としては、例えば水や、メタノール、エタノール、プロピルアルコール、ブチルアルコールなどの炭素数1~4の低級アルコールや、グリセリン、ブチレングリコール、プロピレングリコールなどの多価アルコールや、酢酸メチル、酢酸エチル、アセトン、ベンゼン、ヘキサン、ジエチルエーテル、ジクロロメタンなどの炭化水素系溶媒や、それらの混合物を用いることができるが、上記例に限定されるものではない。前記抽出物は、水又は炭素数1~4の低級アルコール抽出物であることが好ましいが、これらに限定されるものではない。
【0036】
本発明において、前記抽出物を抽出する方法は、特に限定されるものではなく、当該技術分野で通常用いられる方法により抽出することができる。前記抽出方法としては、例えば熱水抽出法、超音波抽出法、濾過法、還流抽出法などが挙げられるが、これらに限定されるものではなく、これらは単独で用いてもよく、2種以上の方法を併用してもよい。
【0037】
本発明の一具体例として、前記ハンゲ、タイソウ、カンゾウ、コウライニンジン、カンキョウ、オウゴン及びオウレン混合抽出物には、抽出後に、濃縮、濾過、分画、乾燥、粉砕など、植物の抽出物に適用される通常の追加工程により作製された濃縮物、濾物、分画物、乾燥物、粉砕物などが含まれる。ここで、前記「濃縮物」とは、化学物質から溶媒などを除去して主要固体成分の濃度を上昇させた物質を意味し、前記「濾物」とは、液体と固体が混合した物質を粒径差により分離する方法で得られた物質を意味し、前記「分画物」とは、様々な構成成分を含む混合物から特定成分又は特定グループを分離する分画方法で得られた結果物を意味し、前記「乾燥物」とは、少量の水を含有する物質から水を除去する方法で得られた結果物を意味し、前記「粉砕物」とは、固体粒子に力を加え、細かく砕くか、切り崩して小さな粒子にする方法で得られた結果物を意味する。ここで、前記濃縮物、濾物、分画物、乾燥物、粉砕物などは、当該結果物が得られる通常の方法で得られ、特に限定されるものではない。
【0038】
本発明の薬学的組成物は、前述したような半夏瀉心湯を有効成分として含むものであってもよい。
また、ここで、前記半夏瀉心湯は、前記組成物に50~800ug/mlの濃度で含まれるが、これに限定されるものではない。例えば、前記半夏瀉心湯は、前記組成物に100~700ug/mlの濃度で含まれるが、これに限定されるものではない。前記半夏瀉心湯は、200~500ug/mlの濃度で組成物に含まれることが好ましいが、これに限定されるものではない。前記半夏瀉心湯は、約300ug/mlの濃度で組成物に含まれることがより好ましい。
【0039】
本発明の薬学的組成物は、半夏瀉心湯以外にさらなる有効成分を1種以上含むものであってもよい。本発明の薬学的組成物は、薬学的組成物の製造に通常用いられる薬学的に許容される担体、賦形剤又は希釈剤をさらに含んでもよく、前記担体は、非天然担体(non-naturally occuring carrier)であってもよい。
【0040】
本発明における「薬学的に許容される」とは、前記組成物に接触する細胞やヒトに毒性がないという特性を意味する。
前記担体、賦形剤及び希釈剤の具体例としては、ラクトース、グルコース、スクロース、ソルビトール、マンニトール、キシリトール、エリトリトール、マルチトール、デンプン、アカシアゴム、アルギン酸塩、ゼラチン、リン酸カルシウム、ケイ酸カルシウム、セルロース、メチルセルロース、微晶質セルロース、ポリビニルピロリドン、水、ヒドロキシ安息香酸メチル、ヒドロキシ安息香酸プロピル、タルク、ステアリン酸マグネシウム、鉱油などが挙げられるが、これらに限定されるものではない。これらは単独で用いてもよく、2種以上を混合して用いてもよい。
【0041】
また、前記薬学的組成物は、それぞれ通常の方法で錠剤、丸剤、散剤、顆粒剤、カプセル剤、懸濁剤、内用液剤、乳剤、シロップ剤、滅菌水溶液剤、非水性溶剤、凍結乾燥製剤及び坐剤からなる群から選択されるいずれかの形態に剤形化して用いられ、経口又は非経口の様々な剤形であってもよい。製剤化する場合は、通常用いる充填剤、増量剤、結合剤、湿潤剤、崩壊剤、界面活性剤などの希釈剤又は賦形剤を用いて調製される。経口用固形製剤としては、錠剤、丸剤、散剤、顆粒剤、カプセル剤などが挙げられ、これらの固形製剤には、少なくとも1つの賦形剤、例えばデンプン、炭酸カルシウム、スクロース(sucrose)又はラクトース(lactose)、ゼラチンなどが用いられる。また、通常の賦形剤以外に、ステアリン酸マグネシウム、タルクなどの滑沢剤も用いられる。経口用液体製剤としては、懸濁剤、内用液剤、乳剤、シロップ剤などが挙げられ、通常用いられる通常の希釈剤である水、流動パラフィン以外にも種々の賦形剤、例えば湿潤剤、甘味剤、芳香剤、保存剤などが用いられる。非経口用製剤としては、滅菌水溶液剤、非水性溶剤、懸濁剤、乳剤、凍結乾燥製剤、坐剤などが挙げられる。非水性溶剤、懸濁剤としては、プロピレングリコール(propylene glycol)、ポリエチレングリコール、オリーブ油などの植物性油、オレイン酸エチルなどの注射可能なエステルなどが用いられる。坐剤の基剤としては、ウィテップゾール(witepsol)、マクロゴール、ツイーン(tween)61、カカオ脂、ラウリン脂、グリセロゼラチンなどが用いられるが、これらに限定されるものではない。
【0042】
本発明の他の態様は、前記半夏瀉心湯を有効成分として含む、ApoE4遺伝子変異を原因とするアルツハイマー病の予防又は治療用薬学的組成物を提供する。
本発明における「アルツハイマー病(alzheimer’s disease)」とは、退行性脳疾患であって、徐々に発症し、記憶力をはじめとする認知機能の悪化が徐々に進行する疾患を意味する。
【0043】
アルツハイマー病を引き起こす原因の一つとして、アポリポタンパク質のE4対立形質(ApoE4)遺伝子変異が知られている。ApoE遺伝子とは、アポリポタンパク質E(apolipoprotein E, ApoE)の配列をコードする遺伝子を意味する。ここで、前記ApoE4遺伝子型は、アルツハイマー病性認知症発症の危険因子として知られている。従来の研究により、APOE4対立遺伝子を1つ有する(heterozygous)場合のアルツハイマー病発症率は約50%であり、2つ有する(homozygous)場合のアルツハイマー病発症率は約91%であることが報告されている。さらに、APOE4対立遺伝子を有すると、アルツハイマー病発症時期も早くなることが知られている。
【0044】
本発明における前記アルツハイマー病は、ApoE4遺伝子変異を原因とするアルツハイマー病であってもよい。ここで、本発明における「ApoE4遺伝子変異を原因とするアルツハイマー病」とは、ApoE4遺伝子型を有する個体のApoE4が発現して発生したアルツハイマー病を意味するが、これに限定されるものではない。
【0045】
前記ApoE4遺伝子変異を原因とするアルツハイマー病は、ApoE4遺伝子変異を原因とするアルツハイマー病性認知症であるが、これに限定されるものではない。ここで、本発明における「アルツハイマー病性認知症」とは、アルツハイマー病により引き起こされた認知症疾患を意味する。
【0046】
前記アルツハイマー病は、例えば遅発性アルツハイマー病(Late onset Alzheimer’s disease)であってもよい。
本発明における「治療」とは、組成物の投与により、ApoE4遺伝子変異によるアルツハイマー病の症状を好転又は有利に変化させるあらゆる行為を意味する。
【0047】
本発明における「予防」とは、本発明の組成物を用いて、ApoE4遺伝子変異を原因とするアルツハイマー病の発生、進行及び再発を抑制又は遅延させるあらゆる行為を意味する。
【0048】
具体的には、前記治療の一例として、本発明における一実施例において、ApoE4遺伝子変異を原因とするアルツハイマー病発症個体に対してアミロイドβの貪食作用を活発にし、アミロイドβの蓄積を抑制する効果や、アミロイドβを除去する効果が確認された。
【0049】
他の具体例において、本発明の組成物は、ApoE4遺伝子変異を原因とするアルツハイマー病発症個体におけるタウタンパク質の過剰リン酸化を抑制するものであってもよい。
【0050】
さらに他の具体例において、本発明の組成物は、ApoE4遺伝子変異を原因とするアルツハイマー病発症個体におけるアミロイドβの貪食作用の促進又はタウタンパク質の過剰リン酸化の抑制により、前記個体の認知機能を向上させるものであってもよい。
【0051】
このように、本発明の半夏瀉心湯を有効成分として含む組成物は、ApoE4遺伝子変異を原因とするアルツハイマー病に特異的な治療用組成物としての活用度が高いことが確認された。
【0052】
本発明のさらに他の態様は、ApoE4遺伝子変異を原因とするアルツハイマー病の治療方法を提供する。
前記治療方法は、前記個体においてApoE4遺伝子型を有するか否かを検査し、ApoE4陽性で、アルツハイマー病を有する個体を治療対象として決定するステップを含んでもよい。
【0053】
また、前記治療方法は、半夏瀉心湯を有効成分として含む前記薬学的組成物を個体に投与するステップを含んでもよい。
前記「半夏瀉心湯」、「治療」、「ApoE4遺伝子変異を原因とするアルツハイマー病」、「予防」及び「投与」については前述した通りである。
【0054】
以下、前記治療方法のステップについて詳細に説明する。
本発明の前記治療方法は、ApoE4遺伝子型を有するか否かを検査する過程を含んでもよい。本発明における「ApoE4遺伝子型を有するか否かの検査」とは、個体に前記ApoE4対立遺伝子型が存在するか否かを検査する行為を意味する。「ApoE4遺伝子型を有するか否かの検査」は、「ApoE4陽性であるか否かの検査」と同義であると解される。本発明が提供する組成物は、ApoE4遺伝子変異により引き起こされたアルツハイマー病に特異的活性を示すので、前記過程によりApoE4陽性の個体を治療対象として選択する。
【0055】
本発明における「ApoE4陽性」とは、個体が少なくとも1つのApoE4対立遺伝子型を有する場合を意味する。
ここで、前記ApoE4対立遺伝子型が存在するか否かを検査する方法としては、当該技術分野において一般に用いられる方法が用いられるが、これらに限定されるものではない。前記検査は、等電点電気泳動法、免疫学的方法、免疫化学的方法、配列分析法などにより行うことができるが、これらに限定されるものではない。例えば、前記検査は、重合酵素連鎖反応(PCR,polymerase chain reaction)により行うことができる。
【0056】
また、本発明の前記治療方法は、ApoE4陽性で、アルツハイマー病を有する個体を治療の対象として決定するステップを含んでもよい。すなわち、前述した検査過程における結果がApoE4陽性の個体であって、アルツハイマー病を有する個体を治療対象として決定するようにしてもよい。前記治療対象は、ApoE4遺伝子変異を原因とするアルツハイマー病の発症者であってもよい。前記治療対象は、ApoE4遺伝子の発現を原因とするアルツハイマー病の発症者であってもよい。
【0057】
ここで、本発明における「個体」とは、ヒトをはじめとする、ラット、マウス、家畜などのあらゆる動物を意味する。前記動物は、ヒトだけでなく、ウシ、ウマ、ヒツジ、ブタ、ヤギ、ラクダ、カモシカ、イヌ、ネコなどの哺乳動物であるが、これらに限定されるものではない。
【0058】
ここで、前記治療対象は、ApoE4遺伝子型がヘテロ接合性であって、アルツハイマー病を発症した個体であってもよい。前記治療対象は、ApoE4遺伝子型がホモ接合性であって、アルツハイマー病を発症した個体であってもよい。また、前記治療対象は、ApoE4遺伝子の発現により引き起こされたアルツハイマー病の患者であってもよい。
【0059】
具体的には、前記治療対象は、ApoE4遺伝子変異を原因とするアルツハイマー病性認知症を発症した個体であってもよい。
本発明の前記治療方法は、半夏瀉心湯を有効成分として含む薬学的組成物を前記対象に投与する過程を含んでもよい。
【0060】
ここで、前記薬学的組成物は、前述したような「半夏瀉心湯を有効成分として含む、ApoE4遺伝子変異を原因とするアルツハイマー病の予防又は治療用薬学的組成物」と同義であると解される。
【0061】
本発明の組成物は、目的とする方法に応じて、経口投与又は非経口投与されてもよく、非経口投与においては、皮膚外用、又は腹腔内注射、直腸内注射、皮下注射、静脈注射、筋肉内注射もしくは胸部内注射注入法が選択されてもよい。ここで、本発明における「投与」とは、任意の適切な方法で患者に所定の物質を提供することを意味し、本発明の組成物の投与経路は、標的組織に送達できるものであれば、一般的なあらゆる経路で投与することができる。腹腔内投与、静脈内投与、筋肉内投与、皮下投与、皮内投与、経口投与、局所投与、鼻腔内投与、肺内投与、直腸内投与が挙げられるが、これらに限定されるものではない。
【0062】
前記組成物の投与量は、患者の体重、年齢、性別、健康状態、食餌、投与時間、投与方法、排泄率、疾患の重症度などによりその範囲が異なる。
また、本発明の組成物は、認知障害の予防及び治療のために、単独で用いてもよく、手術、ホルモン治療、薬物治療、生物学的反応調節剤を用いる方法などと併用して用いてもよい。本発明の目的上、本発明による組成物は、アルツハイマー病性疾患に通常用いられる1つ以上のさらなる薬物と併用投与してもよい。
【0063】
本明細書において、本発明のさらに他の態様は、半夏瀉心湯を有効成分として含む、アルツハイマー病の予防又は改善用機能性食品組成物を提供する。
ここで、本発明の具体的な一態様は、半夏瀉心湯を有効成分として含む、ApoE4遺伝子変異を原因とするアルツハイマー病の予防又は改善用機能性食品組成物を提供する。
【0064】
これに関して、前記「半夏瀉心湯」、「アルツハイマー病」及び「ApoE4遺伝子変異を原因とする」については前述した通りである。また、前記機能性食品組成物における半夏瀉心湯の重量比又は濃度は、前記薬学的組成物において定義したものと同様である。
【0065】
本発明における前記「予防」は、前記薬学的組成物において説明したものと同様であり、「改善」とは、本発明の組成物を用いて前記疾患の発症個体又はその疑いのある個体の症状を好転又は有利に変化させるあらゆる行為を意味する。
【0066】
前記機能(性)食品(functional food)とは、特定保健用食品(food for special health use,FoSHU)と同義であり、人体に有用な機能性を有する原料や成分を用いて製造及び/又は加工した食品であって、栄養供給以外にも生体調節機能を効率的に示すように加工された医学、医療効果の高い食品を意味する。ここで、「機能(性)」とは、人体の構造及び機能に対して栄養素を調節するか、生理学的作用などの保健用途に有用な効果を与えることを意味する。このように、人体に有用な成分を含む食品として食品医薬品安全処がその機能と安定性を認めた食品を機能性食品といい、それ以外の食品医薬品安全処の許可を受けてはいないが、人体に有利な効果を有する食品とみなされるものを健康(補助)食品といい、区別する。本発明の食品は、当該技術分野で通常用いられる方法により製造することができ、その製造時には当該技術分野で通常添加する原料及び成分を添加して製造することができる。また、前記食品の剤形は、食品として認められる剤形であればいかなるものでもよい。
【0067】
本発明の健康食品組成物は、半夏瀉心湯以外に、食品学的に許容される補助剤、添加剤及び他の成分のいかなるものを含んでもよい。ここで、本発明の食品組成物は、必須の成分である半夏瀉心湯以外に、生薬抽出物、食品補助添加剤、天然炭水化物などを追加成分として含有してもよい。
【0068】
また、前記機能性食品組成物は、食品学的に許容される担体をさらに含んでもよく、それは当業者が適宜選択して用いることができる。例えば、様々な栄養剤、ビタミン、ミネラル(電解質)、合成風味剤や天然風味剤などの風味剤、着色剤及び充填剤、ペクチン酸及びその塩、アルギン酸及びその塩、有機酸、保護コロイド、増粘剤、pH調整剤、安定化剤、防腐剤、グリセリン、アルコール、炭酸飲料に用いられる炭酸化剤などが挙げられるが、上記例にその種類が限定されるものではない。
【0069】
また、前記機能性食品組成物は、食品組成物に常用されて香り、味、視覚などを向上させることのできる追加成分を含んでもよい。例えば、ビタミンA、C、D、E、B1、B2、B6、B12、ナイアシン(niacin)、ビオチン(biotin)、葉酸(folate)、パントテン酸(panthotenic acid)などを含んでもよい。また、亜鉛(Zn)、鉄(Fe)、カルシウム(Ca)、クロム(Cr)、マグネシウム(Mg)、マンガン(Mn)、銅(Cu)などのミネラルを含んでもよい。さらに、リシン、トリプトファン、システイン、バリンなどのアミノ酸を含んでもよい。
【0070】
さらに、防腐剤(ソルビン酸カリウム、安息香酸ナトリウム、サリチル酸、デヒドロ酢酸ナトリウムなど)、殺菌剤(サラシ粉と高度サラシ粉、次亜塩素酸ナトリウムなど)、酸化防止剤(ブチルヒドロキシアニソール(BHA)、ブチルヒドロキシトルエン(BHT)など)、着色剤(タール色素など)、発色剤(亜硝酸ナトリウム、亜酢酸ナトリウムなど)、漂白剤(亜硫酸ナトリウム)、調味料(グルタミン酸ナトリウム(MSG)など)、甘味料(ズルチン、チクロ、サッカリン、ナトリウムなど)、香料(バニリン、ラクトン類など)、膨張剤(ミョウバン、D-酒石酸水素カリウムなど)、強化剤、乳化剤、増粘剤(糊料)、被膜剤、ガムベース、泡抑制剤、溶剤、改良材などの食品添加物(food additives)を添加してもよい。
【0071】
本発明のさらに他の態様は、半夏瀉心湯を有効成分として含む、アルツハイマー病の予防又は改善用医薬部外品組成物を提供する。
ここで、本発明の具体的な一態様は、半夏瀉心湯を有効成分として含む、ApoE4遺伝子変異を原因とするアルツハイマー病の予防又は改善用医薬部外品組成物を提供する。
【0072】
これに関して、前記「半夏瀉心湯」、「アルツハイマー病」、「ApoE4遺伝子変異を原因とする」、「予防」及び「改善」については前述した通りである。また、前記医薬部外品組成物における半夏瀉心湯の重量比又は濃度は、前記薬学的組成物において定義したものと同様である。
【0073】
本発明における「医薬部外品」とは、ヒトや動物の疾病を診断、治療、改善、軽減、処置又は予防する目的で用いられる物品のうち医薬品より作用が軽微な物品を意味する。例えば、薬事法によれば、医薬部外品は、医薬品の用途に用いられる物品を除くものであり、ヒト/動物の疾病治療や予防に用いられる製品、人体に対する作用が軽微であるか、又は直接作用しない製品などが挙げられる。
【0074】
前記医薬部外品組成物は、本発明による半夏瀉心湯を有効成分として含む組成物をそのまま添加してもよく、他の医薬部外品又は医薬部外品成分と共に用いてもよく、通常の方法で適宜用いられる。有効成分の混合量は、使用目的(予防、健康又は治療的処置)に応じて適宜決定される。
【0075】
前記医薬部外品組成物には、特にこれらに限定されるものではないが、個人衛生用品、手指消毒剤又は軟膏剤が含まれる。前記個人衛生用品は、特にこれらに限定されるものではないが、具体的には歯磨き粉、うがい薬、洗浄ゲル、又は入れ歯などの補綴物の保管剤であってもよい。
【0076】
また、前記医薬部外品組成物は、特にこれらに限定されるものではないが、具体的には軟膏剤、ローション剤、スプレー剤、パッチ剤、クリーム剤、散剤、懸濁剤、ゲル剤又はゲルの形態に製造されて用いられる。
【0077】
本発明のさらに他の態様は、アルツハイマー病の予防又は治療のための、ハンゲ、タイソウ、カンゾウ、コウライニンジン、カンキョウ、オウゴン及びオウレン混合抽出物を有効成分として含む組成物の使用を提供する。前記アルツハイマー病は、ApoE4遺伝子変異を原因とするアルツハイマー病であってもよい。また、前記アルツハイマー病は、遅発性アルツハイマー病(Late onset Alzheimer’s disease)であってもよい。これに関して、前記「半夏瀉心湯」、「アルツハイマー病」、「ApoE4遺伝子変異を原因とする」、「予防」及び「治療」については前述した通りである。
【0078】
本発明のさらに他の態様は、アルツハイマー病の予防又は治療のための、ハンゲ、タイソウ、カンゾウ、コウライニンジン、カンキョウ、オウゴン及びオウレン混合抽出物を有効成分として含む機能性食品組成物の使用を提供する。前記アルツハイマー病は、ApoE4遺伝子変異を原因とするアルツハイマー病であってもよい。また、前記アルツハイマー病は、遅発性アルツハイマー病(Late onset Alzheimer’s disease)であってもよい。
【0079】
本発明のさらに他の態様は、アルツハイマー病予防又は治療のための、ハンゲ、タイソウ、カンゾウ、コウライニンジン、カンキョウ、オウゴン及びオウレン混合抽出物を有効成分として含む医薬部外品組成物の使用を提供する。前記アルツハイマー病は、ApoE4遺伝子変異を原因とするアルツハイマー病であってもよい。また、前記アルツハイマー病は、遅発性アルツハイマー病(Late onset Alzheimer’s disease)であってもよい。
【発明の効果】
【0080】
本発明の半夏瀉心湯を有効成分として含む組成物及び治療方法は、ApoE4の遺伝子変異を原因とするアルツハイマー病に特異的にアミロイドβタンパク質の優れた減少効果及び蓄積阻害効果を発揮し、ApoE4遺伝子変異を原因とするアルツハイマー病に特異的な治療用組成物としての活用度が高い。本明細書は、以下の実施例において、ApoE4ヒト脳星状膠細胞及び脳オルガノイドを用いて本発明の組成物のApoE4特異的アミロイドβ減少効果を確認し、その結果を明確に解明している。
【0081】
よって、本発明の組成物及び治療方法は、ApoE4遺伝子型によるアルツハイマー病の患者により効果的なカスタマイズ治療を提供することができるであろう。
【図面の簡単な説明】
【0082】
【
図1】CRISPR/Cas9ゲノム編集により作製したApoE4アルツハイマー病性認知症ヒト誘導万能幹細胞モデルを示す図である。
【
図2b】ヒト誘導万能幹細胞において神経前駆細胞を経て星状膠細胞に分化した星状膠細胞の分化の成功を蛍光染色法で検証した結果を示す図である。
【
図3】アルツハイマー病性認知症星状膠細胞における、漢方ベースの治療素材によるアミロイドβ貪食作用回復探索プロトコルを示す図である。
【
図4a】ApoE3、ApoE4星状膠細胞Aβ
42貪食作用の測定結果を示す図である。
【
図4c】分解機能が低下したApoE4星状膠細胞における、半夏瀉心湯での処理による回復効果を示す図である。
【
図5】CRISPR/Cas9遺伝子はさみ技術による認知症ヒト誘導万能幹細胞(APPswe)モデル作製過程を示す図である。
【
図6a】APPswe星状膠細胞における、半夏瀉心湯によるアミロイドβ貪食作用効果測定実験のタイムラインを示す図である。
【
図6b】APPswe星状膠細胞における、半夏瀉心湯によるアミロイドβ貪食作用効果測定結果を示す図である。
【
図7】ApoE4脳オルガノイドにおける半夏瀉心湯効果探索実験の進行過程を示す図である。
【
図8a】ApoE4脳オルガノイドにおけるアミロイドβ蓄積増加と半夏瀉心湯による減少効果を示す図である。具体的には、アミロイドβの確認のためのウェスタンブロット(western blot)結果を示す図である。
【
図8b】ApoE4脳オルガノイドにおけるアミロイドβ蓄積増加と半夏瀉心湯による減少効果を示す図である。具体的には、
図8aの結果をグラフで数値化して示す図である。
【発明を実施するための形態】
【0083】
以下、実施例及び実験例を挙げて本発明の構成及び効果をより詳細に説明する。これらの実施例及び実験例はあくまで本発明を例示するものにすぎず、本発明はこれらの実施例及び実験例に限定されるものではない。
【0084】
製造例1:半夏瀉心湯を有効成分として含む組成物の製造
カンゾウ(Glycyrrhiza uralensis Fischer,スペインカンゾウ(Glycyrrhiza glabra Linne)又はチョウカカンゾウ(Glycyrrhiza inflata Batal.(マメ科,Leguminosae))の根及び根茎のそのまま又は周皮を取り除いたもの)1.00g、カンキョウ(ショウガ(Zingiber officinale Roscoe)(ショウガ科,Zingiberaceae)の根茎を乾燥させたもの)0.83g、タイソウ(ナツメ(Zizyphus jujuba Miller var. inermis Rehder)又は報恩ナツメ(Zizyphus jujuba Miller var. hoonensis T. B. Lee)(クロウメモドキ科,Rhamnaceae)の成熟した果実)1.00g、ハンゲ(Pine/lia ternata Breitenbach(サトイモ科,Araceae)の塊茎の周皮を完全に取り除いたもの)1.67g、コウライニンジン(Panax ginseng C. A.Meyer(ウコギ科,Araliaceae)の根のそのまま又は細根とコルク層を取り除いたもの)1.00g、オウゴン(コガネバナ(Scutellaria baicalensis Georgi)(シソ科,Labiatae)の根のそのまま又は周皮を取り除いたもの)1.00g、オウレン(オウレン(Coptis japonica Makino)、トウオウレン(Coptis chinensis Franchet)、三角葉黄連(Coptis deltoidea C. Y. Cheng et Hsiao)又は雲南黄連(Coptis teeta Wallich)(キンポウゲ科,Ranunculaceae)の根茎の根を取り除いたもの)0.33gを準備した。上記生薬を精選し、原料薬品の分量通り各生薬を煎じて抽出器に入れ、8~10倍の量の常水(KP)又は精製水(KP)を加え、80~100℃で2~3時間抽出して半夏瀉心湯を製造した。
【実施例1】
【0085】
ヒト誘導万能幹細胞の培養
アルツハイマー病性認知症の主な遺伝的要因であるApoE4変異を有するアルツハイマー病性認知症ヒト誘導万能幹細胞モデルをCRISPR/Cas9ゲノム編集により作製(
図1)し、作製したアルツハイマー病性認知症ヒト誘導万能幹細胞モデルを本研究に用いるために、ApoE3/ApoE4同質染色体誘導万能幹細胞をmatrigel-coated 6 well plateにおいてTeSR1 mediaで培養した。
【0086】
その結果として、CRISPR/Cas9ゲノム編集によるApoE4アルツハイマー病性認知症ヒト誘導万能幹細胞モデルが作製された。
【実施例2】
【0087】
星状膠細胞の分化
星状膠細胞の前駆体である神経前駆細胞をヒト誘導万能幹細胞から分化させるために、ヒト誘導万能幹細胞が100%confluentのときに、neuronal induction media[DMEM/F-12 GlutaMAX(Gibco)、Neurobasal(Gibco)、0.5x N-2(Gibco)、0.5x B27(Gibco)、0.5x GlutaMAX(ThermoFisher Scientific)、5μg/ml insulin(Sigma-Aldrich)、0.5x NEAA(Thermo Fisher Scientific)、100μM 2-mercaptoethanol(Sigma-Aldrich)、1xPenicillin/Streptomycin(Gibco)]と共に、SMADシグナル抑制剤である1μM Dorsomorphin(Tocris)と10μM SB431542(Tocris)で11日間処理した。次いで、細胞をmatrigel-coaated plateに移し、その後rosette構造が形成されるまで、20ng/ml FGF2(Peprotech)で培養液を処理した。
【0088】
作製した神経前駆細胞を1.5×10
5個のdensityでplatingし、その後Astrocyte Media(Sciencell)で培養し、培養液を2日に1回交換し、1カ月間の培養後に細胞をTrypLE(Gibco)で剥離し、次いで星状膠細胞マーカーであるGLAST-PE antibody(MiltenylBiotec)で染色し、次いでflow cytometer(Sony SH800)によりGLAST-positive細胞のみ回収して培養した(
図2a)。星状膠細胞の分化を検証するために、星状膠細胞の他のマーカーであるGFAPとAQP4を染色するantibodiesにより蛍光染色を行った(
図2b)。
【0089】
ヒト誘導万能幹細胞から神経前駆細胞を経ての星状膠細胞への分化、及び星状膠細胞の分化を蛍光染色法で検証した。
【実施例3】
【0090】
半夏瀉心湯によるApoE4星状膠細胞におけるアミロイドβ貪食作用の確認
合成したアミロイドβ(Aβ
42)と半夏瀉心湯でApoE4星状膠細胞と対照群ApoE3星状膠細胞を処理して2日間培養し、その後培養液に残存するアミロイドβの量をELISA法により測定した(
図3)。
【0091】
ApoE4星状膠細胞においては、ApoE3と比較して、培養液をAβ
42で処理した際に、それを除去する能力が大幅に低下した(
図4a)。ここで、半夏瀉心湯を投与すると、濃度依存的にAβ
42貪食能力が向上し、正常群であるApoE3における値と同程度又はそれ以上に向上することが確認された。特に、300ug/mlの処理条件における除去能は、正常群以上の値に大幅に向上した(
図4c)。それに対して、ApoE3星状膠細胞においては、半夏瀉心湯の処理により統計的に有意な差が現れなかった(
図4b)。
【実施例4】
【0092】
半夏瀉心湯によるAPPswe(APP swedish)星状膠細胞におけるアミロイドβ貪食作用の確認
次に、APPswe遺伝子変異を原因とするアルツハイマー病に対しても半夏瀉心湯の治療活性を示すか否かを確認するために、APPswe星状膠細胞モデルを作製した。APPは、アミロイド前駆体タンパク質遺伝子(amyloid precursor protein gene)であり、家族性アルツハイマー病の代表的な原因遺伝子として知られている。
【0093】
具体的には、本出願人らは、正常なヒト誘導万能幹細胞にアルツハイマー病性認知症誘発変異であるAPPswe(APP遺伝子のKM670/671NL double mutation)をCRISPR/Cas9遺伝子はさみ技術で導入して「アルツハイマー病性認知症ヒト誘導万能幹細胞モデル(APPswe)」を作製した(
図5)。ここで、本実験に用いた配列は、次の通りである。
【0094】
【0095】
なお、星状膠細胞の分化過程は、実施例2と同様に行った。合成したアミロイドβ(Aβ
42)と半夏瀉心湯でAPPswe星状膠細胞を処理して2日間培養し、その後培養液に残存するアミロイドβの量をELISA法により測定した。本実験の概略的なタイムラインを
図6aに示し、結果を
図6bに示す。
【0096】
図6bの結果から確認できるように、Familial alzhheimer’s disease lineであるAPPswe星状膠細胞においては、半夏瀉心湯処理によるアミロイドβ(Aβ
42)除去能の変化が現れなかった。
【0097】
このような実施例3及び4の結果から、半夏瀉心湯のApoE4保有細胞に対する特異的なアミロイドβ減少効果が確認される。
【実施例5】
【0098】
脳オルガノイドにおける半夏瀉心湯処理によるアルツハイマー病関連病理現象緩和の確認
4カ月間培養したApoE4脳オルガノイドを300ug/mlの濃度の半夏瀉心湯で7日間処理し、その後アミロイドβ蓄積変化の様子を確認した(
図7)。
【0099】
培養したApoE4脳オルガノイドにおいては、ApoE3脳オルガノイドに比べて、アミロイドβの四量体(tetramer)以下及び以上の重合体の全てが有意に増加することが観察された。アミロイドβにおいては、四量体(tetramer)オリゴマー(oligomer)を形成する時点からAβ
40と構造が異なり、毒性を有する核を形成しやすくなることが知られており、四量体以上のオリゴマー形成が神経毒性に対する主な影響因子である。
図8bに示すように、ApoE4脳オルガノイドを半夏瀉心湯で処理した群の全てにおいて、四量体以下及び以上の重合体量の減少が観察された(
図8b)。
【0100】
これらの結果は、本発明がApoE4により引き起こされたアルツハイマー病におけるアミロイドβ抑制及び貪食作用に優れた効果があることを示唆するものであり、本発明がApoE4により引き起こされたアルツハイマー病に対する特異的治療剤、又は遅発性アルツハイマー病(Late onset Alzheimer’s disease)に対する特異的治療剤として有用であることを示唆するものである。
【0101】
以上の説明から、本発明の属する技術分野の当業者であれば、本発明がその技術的思想や必須の特徴を変更することなく、他の具体的な形態で実施できることを理解するであろう。なお、上記実施例はあくまで例示的なものであり、限定的なものでないことを理解すべきである。本発明には、明細書ではなく請求の範囲の意味及び範囲とその等価概念から導かれるあらゆる変更や変形された形態が含まれるものと解釈すべきである。
【国際調査報告】