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特表2024-535119カーボンブラック及びカーボンナノチューブを含むマスターバッチ組成物
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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公表特許公報(A)
(11)【公表番号】
(43)【公表日】2024-09-26
(54)【発明の名称】カーボンブラック及びカーボンナノチューブを含むマスターバッチ組成物
(51)【国際特許分類】
   C08J 3/22 20060101AFI20240918BHJP
   C08L 101/00 20060101ALI20240918BHJP
   C08K 3/04 20060101ALI20240918BHJP
   C09D 17/00 20060101ALI20240918BHJP
   C09C 1/44 20060101ALI20240918BHJP
   C09C 1/48 20060101ALI20240918BHJP
   C09D 201/00 20060101ALI20240918BHJP
   C09D 7/61 20180101ALI20240918BHJP
【FI】
C08J3/22 CER
C08J3/22 CEZ
C08L101/00
C08K3/04
C09D17/00
C09C1/44
C09C1/48
C09D201/00
C09D7/61
【審査請求】未請求
【予備審査請求】未請求
(21)【出願番号】P 2024532366
(86)(22)【出願日】2022-08-05
(85)【翻訳文提出日】2024-04-04
(86)【国際出願番号】 US2022039515
(87)【国際公開番号】W WO2023014936
(87)【国際公開日】2023-02-09
(31)【優先権主張番号】63/230,288
(32)【優先日】2021-08-06
(33)【優先権主張国・地域又は機関】US
(81)【指定国・地域】
(71)【出願人】
【識別番号】524049516
【氏名又は名称】ビルラ カーボン ユー.エス.エー
(74)【代理人】
【識別番号】100094569
【弁理士】
【氏名又は名称】田中 伸一郎
(74)【代理人】
【識別番号】100103610
【弁理士】
【氏名又は名称】▲吉▼田 和彦
(74)【代理人】
【識別番号】100109070
【弁理士】
【氏名又は名称】須田 洋之
(74)【代理人】
【識別番号】100119013
【弁理士】
【氏名又は名称】山崎 一夫
(74)【代理人】
【識別番号】100111796
【弁理士】
【氏名又は名称】服部 博信
(74)【代理人】
【識別番号】100123766
【弁理士】
【氏名又は名称】松田 七重
(74)【代理人】
【識別番号】100162422
【弁理士】
【氏名又は名称】志村 将
(72)【発明者】
【氏名】カマット ランジャン ケイ
(72)【発明者】
【氏名】バー ダグラス
(72)【発明者】
【氏名】フリッチュ ケネス
(72)【発明者】
【氏名】コレラ ダニエル
【テーマコード(参考)】
4F070
4J002
4J037
4J038
【Fターム(参考)】
4F070AA15
4F070AA57
4F070AC04
4F070AD02
4F070AD03
4F070AD04
4F070AE06
4F070FB03
4F070FC06
4J002AA001
4J002AA011
4J002AA021
4J002BB021
4J002BB031
4J002BB111
4J002BB121
4J002BC021
4J002BC031
4J002BD031
4J002BN151
4J002CG001
4J002DA017
4J002DA036
4J002FD016
4J002FD017
4J002GH00
4J002GT00
4J037AA01
4J037AA02
4J037CC12
4J037DD05
4J037DD07
4J037FF11
4J038CB081
4J038EA011
4J038HA026
4J038KA08
4J038KA12
4J038NA20
(57)【要約】
本開示は、ベースポリマーと、カーボンブラックと、カーボンブラックフィラーのみを有するマスターバッチと比較して、改善された電気的又は機械的性能を備える物品を調製するために使用可能なフィラーとしてのカーボンナノチューブと、を含むマスターバッチ組成物に関する。マスターバッチ組成物をまた使用して、高使用量のカーボンブラック充填組成物で典型的に見られる、電気的又は機械的性能を犠牲にすることなく、着色された物品を調製することができる。
【特許請求の範囲】
【請求項1】
a)ベースポリマーと、
b)20~70重量%の炭素フィラーと、を含み、前記炭素フィラーは、カーボンブラック及びカーボンナノチューブを含み、カーボンブラック対カーボンナノチューブの比は、70~99.5:30~0.5である、マスターバッチ組成物。
【請求項2】
前記ベースポリマーは熱可塑性ポリマー、熱硬化性ポリマー、エラストマー性ポリマー、又はこれらの組み合わせである、請求項1に記載の組成物。
【請求項3】
30~50重量%の前記炭素フィラーを含む、請求項1に記載の組成物。
【請求項4】
カーボンブラック対カーボンナノチューブの比は、85~98:15~2である、請求項1に記載の組成物。
【請求項5】
カーボンブラック対カーボンナノチューブの比は、約95:5である、請求項1に記載の組成物。
【請求項6】
前記カーボンブラックは、ASTM D6556(2015)に従い測定すると、25~250m2/gの窒素表面積(NSA)を有する、請求項1に記載の組成物。
【請求項7】
前記カーボンブラックは、ASTM D6556(2015)に従い測定すると、40~90m2/gの窒素表面積(NSA)を有する、請求項6に記載の組成物。
【請求項8】
前記カーボンブラックは、ASTM D2414(2019)に従い測定すると、45~250cm3/100gのオイル吸収量(OAN)を有する、請求項1に記載の組成物。
【請求項9】
前記カーボンブラックは、ASTM D2414(2019)に従い測定すると、120~170cm3/100gのオイル吸収量(OAN)を有する、請求項8に記載の組成物。
【請求項10】
前記カーボンナノチューブは、多層カーボンナノチューブ、単層カーボンナノチューブ、又はこれらの組み合わせである、請求項1に記載の組成物。
【請求項11】
前記カーボンナノチューブは、1.5~25nmの平均直径を有する、請求項1に記載の組成物。
【請求項12】
前記カーボンナノチューブは、9~15nmの平均直径を有する、請求項11に記載の組成物。
【請求項13】
前記カーボンナノチューブは、1~50μmの平均長さを有する、請求項1に記載の組成物。
【請求項14】
前記カーボンナノチューブは、1.5~15μmの平均長さを有する、請求項13に記載の組成物。
【請求項15】
c)ベースポリマーと、
d)20~70重量%の炭素フィラーと、を含み、前記炭素フィラーはカーボンブラック及びカーボンナノチューブを含み、前記カーボンブラックは、ASTM D6556(2015)に従い測定すると、25~250m2/gの窒素表面積(NSA)を有する、マスターバッチ組成物。
【請求項16】
前記ベースポリマーは熱可塑性ポリマー、熱硬化性ポリマー、エラストマー性ポリマー、又はこれらの組み合わせである、請求項15に記載の組成物。
【請求項17】
30~50重量%の炭素フィラーを含む、請求項15に記載の組成物。
【請求項18】
カーボンブラック対カーボンナノチューブの比は、70~99.5:30~0.5である、請求項15に記載の組成物。
【請求項19】
カーボンブラックの対カーボンナノチューブの比は、85~98:15~2である、請求項18に記載の組成物。
【請求項20】
カーボンブラック対カーボンナノチューブの比は、約95:5である、請求項18に記載の組成物。
【請求項21】
前記カーボンブラックは、ASTM D6556(2015)に従い測定すると、40~90m2/gの窒素表面積(NSA)を有する、請求項15に記載の組成物。
【請求項22】
前記カーボンブラックは、ASTM D2414(2019)に従い測定すると、45~250cm3/100gのオイル吸収量(OAN)を有する、請求項15に記載の組成物。
【請求項23】
前記カーボンブラックは、ASTM D2414(2019)に従い測定すると、120~170cm3/100gのオイル吸収量(OAN)を有する、請求項22に記載の組成物。
【請求項24】
前記カーボンナノチューブは、多層カーボンナノチューブ、単層カーボンナノチューブ、又はこれらの組み合わせである、請求項15に記載の組成物。
【請求項25】
前記カーボンナノチューブは、1.5~25nmの平均直径を有する、請求項15に記載の組成物。
【請求項26】
前記カーボンナノチューブは、9~15nmの平均直径を有する、請求項25に記載の組成物。
【請求項27】
前記カーボンナノチューブは、1~50μmの平均長さを有する、請求項15に記載の組成物。
【請求項28】
前記カーボンナノチューブは、1.5~15μmの平均長さを有する、請求項27に記載の組成物。
【請求項29】
請求項1~28のいずれか1項に記載のマスターバッチから調製された若しくはもたらされた物品又はコーティング。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
関連出願の相互参照
本出願は、2021年8月6日に出願された米国仮出願第63/230,288号に対する優先権を主張し、その全体が参照により組み込まれる。
【0002】
本開示は、ベースポリマーと、カーボンブラック及び比較的少量のカーボンナノチューブを含むことができる炭素フィラーと、を含むマスターバッチ組成物、当該マスターバッチ組成物の作製方法、並びに、当該マスターバッチ組成物からレットダウンされた物品に関する。
【背景技術】
【0003】
カーボンブラックは、導電性化合物の開発に用いられるが、許容される範囲の導電性又は抵抗は、非常に多くの使用量においてのみ達成可能である。そのような多くの使用量において、ポリマーの物理的性質は顕著に低下し、化合物は脆性となる。自動車、電子装置、着用式及び折り畳み式電子機器の需要が増大しているため、化合物の導電性能及び物理的性質の両方が、非常に重要である。カーボンブラックを導電性化合物に組み込む際の問題を克服するために、配合者は、特別な添加剤を含む、及び、ブレンドモルホロジーを変化させるなどの、異なる方法を用いる。このようなアプローチは技術的に困難であり、最終生成物の全体的なコストの著しい増大をもたらす。その結果、ポリマーマトリックスの物理的性質を損なうことなく、カーボンブラック化合物の所望の導電性を付与することができる、費用対効果の高い導電性フィラー系が必要とされている。これら及び他のニーズは、本発明により満たされる。
【発明の概要】
【0004】
本発明の目的(複数可)に従うと、本明細書で実施され、かつ、本明細書で広範に記載されるとおり、本開示は、一態様において、ベースポリマーと、カーボンブラックと、カーボンナノチューブと、を含むマスターバッチ組成物に関する。
【0005】
一態様では、マスターバッチ組成物は、ベースポリマーと、20~70重量%の炭素フィラーと、を含む。炭素フィラーは、カーボンブラック及びカーボンナノチューブを含むことができ、ここで、カーボンブラックの、カーボンナノチューブに対する比は、70~99.5:30~0.5である。
【0006】
更なる態様では、マスターバッチ組成物は、ベースポリマーと、20~70重量%のカーボンブラック/カーボンナノチューブフィラーと、を含み、ここで、カーボンブラックは、ASTM D6556(2015)に従い測定すると、25~250m2/gの窒素表面積(NSA)を有する。
【0007】
開示されたマスターバッチ組成物から調製した物品及びコーティングもまた、開示する。
【0008】
本開示の更なる態様を、以下の説明で部分的に説明し、部分的には説明から明らかとなるであるか、又は、本発明を実施することで学ぶことができる。本発明の利点は、添付の特許請求の範囲に具体的に指摘される要素及び組み合わせにより実現され、達せられるであろう。前述の概要及び以下の発明を実施するための形態の両方は、単に例示的及び説明的であり、特許請求される本発明を限定するものではないことを理解されたい。
【発明を実施するための形態】
【0009】
本発明は、本発明及びそこに含まれる実施例の以下の詳細な説明の参照によって、より容易に理解することができる。
【0010】
本化合物、組成物、物品、システム、機器及び/又は方法が開示及び記述される前に、これらは、別段の明示がなければ、特定の合成方法に、又は別段の明示がなければ、特定の試薬に限定されるものではなく、それ故、当然、変形し得ることを理解されたい。本明細書で使用される用語は、特定の態様を説明することのみを目的とし、限定することが意図されないことも理解されるべきである。本明細書に記載するものと類似の、又は等価なあらゆる方法及び材料を、本発明の実施又は試験に使用することができるものの、ここでは、例示的な方法及び材料を記載する。
【0011】
本明細書で言及される公報(ASTM法を含む)は全て、公報が引用されるものに関連する方法及び/又は材料を開示し、説明するために、参照により本明細書に組み込まれる。
【0012】
別段の定義がない限り、本明細書で使用される全ての技術用語及び科学用語は、本発明が属する当業者によって一般的に理解されるものと同じ意味を有する。本明細書に記載するものと類似の、又は等価なあらゆる方法及び材料を、本発明の実施又は試験に使用することができるものの、ここでは、例示的な方法及び材料を記載する。
【0013】
本明細書で使用する場合、特段の記載が具体的にない限り、文脈上明らかに別段に示されている場合を除き、「a」、「an」及び「the」という単数形には、複数の指示対象が含まれる。したがって、例えば「フィラー(a filler)」、又は「カーボンナノチューブ(a carbon nanotube)」への参照は、それぞれ、2つ以上のフィラー又はカーボンナノチューブの混合物を含む。
【0014】
本明細書では、範囲は、「約」ある特定の値から、及び/又は「約」別の特定の値まで、のように表現され得る。そのような範囲が表されるとき、別の態様は、1つの特定の値から、及び/又は他の特定の値までを含む。同様に、値が、先行詞「約」の使用によって、近似値として表されるとき、特定の値は別の態様を形成することが理解されるであろう。更に、範囲の各終点は、他の終点と関連して、及び他の終点とは独立して、両方とも重要であることが理解されよう。本明細書に開示されるいくつかの値が存在し、各値は、値自体に加えて、「約」その特定の値としても本明細書に開示されることが理解される。例えば、値「10」が開示される場合、「約10」もまた開示される。また、2つの特定の単位間の各単位も開示されることも理解されたい。例えば、10~15が開示される場合、11、12、13、及び14も開示される。
【0015】
本明細書で使用される場合、「任意選択的な」又は「任意選択的に」という用語は、その後に説明される事象又は状況が生じてもよく、又は生じなくてもよいことを意味し、この説明には、当該事象又は状況が生じる場合、及び生じない場合が含まれることを意味する。
【0016】
「マスターバッチ」という用語は、ベースポリマー及び高濃度の炭素フィラーと、分散添加剤、顔料、染料、着色剤などといった他の任意選択的な添加剤との混合物を意味する。
【0017】
「ベースポリマー」という用語は、フィラー及びあらゆる任意選択的な添加剤が、マスターバッチ組成物を形成するための予備配合ステップ中に混合される、ポリマーを意味する。
【0018】
「配合」という用語は、ベースポリマー及びフィラーが混合され、マスターバッチ組成物を形成する加工ステップを意味する。
【0019】
「レットダウン」という用語は、マスターバッチ組成物及びバルクポリマーが混合され、最終樹脂配合物を形成する加工ステップを意味する。「バルクポリマー」という用語は、マスターバッチ組成物が混合され、最終樹脂配合物を形成する、樹脂を意味する。
【0020】
本発明の組成物を調製するために使用される構成要素、及び本明細書に開示される方法内で使用される組成物自体が開示される。これら及び他の材料は、本明細書に開示されており、これらの材料の組み合わせ、サブセット、相互作用、群などが開示されているとき、これらの化合物の、それぞれの様々な、個別の及び集合的な、組み合わせ及び順列への具体的な参照は、明示的に開示されていない可能性があるが、それぞれが本明細書において具体的に想到され、記載されていることが理解される。例えば、特定の化合物が開示され、論じられ、化合物を含むいくつかの分子に対して行われ得るいくつかの修飾が論じられる場合、具体的にそうではないと指示されない限り、化合物のあらゆる組み合わせ及び順列、並びに可能な修飾が明確に想到される。したがって、分子A、B、及びCのクラスだけでなく、分子D、E、及びFのクラス、並びに組み合わせ分子の一例として、A-Dが開示される場合、各々が個別に列挙されていない場合でも、各々が個別にかつ集合的に想到され、すなわち、A-E、A-F、B-D、B-E、B-F、C-D、C-E、及びC-Fが開示されていると見なされる。同様に、これらの任意のサブセット又は組み合わせも開示される。したがって、例えば、A-E、B-F、及びC-Eのサブグループが開示されると見なされるであろう。この概念は、限定されないが、本発明の組成物の作製及び使用方法におけるステップを含む、本出願の全ての態様に適用される。したがって、実施され得る様々な追加のステップが存在する場合、これらの追加のステップの各々は、本発明の方法の任意の特定の実施形態又は実施形態の組み合わせによって実施され得ることを理解されたい。
【0021】
本明細書で開示する材料はそれぞれ、市販されている、及び/又は、これらの製造方法は当業者に周知であるかのいずれかである。
【0022】
本明細書に開示される組成物が特定の機能を有することが理解される。本明細書には、開示される機能を行うための特定の構造要件が開示され、開示される構造に関連する同じ機能を行うことができる様々な構造があり、これらの構造が典型的には同じ結果を達成するであろうことが理解される。
【0023】
別段の指示がない限り、部は、重量部であり、温度は、℃であるか、又は周囲温度であり、圧力は、大気圧又はその付近である。
【0024】
上で簡潔に記載したとおり、本開示は、カーボンブラックと、カーボンナノチューブと、を含むマスターバッチ組成物を提供する。組成物は、カーボンブラックと組み合わせたときに、カーボンナノチューブが、カーボンブラックフィラーのみを必要とする場合よりもはるかに少ない使用量で電気パーコレーションを付与することができるという、予期しない発見に基づく。例えば、少量のカーボンナノチューブは、カーボンブラックベースのコーティング(例えば、アクリル系コーティング)、加えて、記載したマスターバッチ組成物からレットダウンした他の物品及び樹脂の導電性能を顕著に向上させることができる。更に、カーボンブラックとカーボンナノチューブとを組み合わせることにより、コーティング及び他の物品が、十分な電気的及び機械的特性を維持しながら、黒以外の色を有することが可能となる。通常、所望の電気的又は機械的特性を達成するのに必要なカーボンブラックの使用量は、カーボンブラックを充填したマスターバッチから調製される物品又はコーティングが、黒色のみを達成できるようなものである。
【0025】
A.組成物
一態様では、マスターバッチ組成物は、ベースポリマーと、20~70重量%の炭素フィラーと、を含む。炭素フィラーは、カーボンブラック及びカーボンナノチューブを含むことができ、ここで、カーボンブラックの、カーボンナノチューブに対する比は、70~99.5:30~0.5である。更なる態様では、マスターバッチ組成物は、ベースポリマーと、20~70重量%のカーボンブラック/カーボンナノチューブフィラーと、を含み、ここで、カーボンブラックは、ASTM D6556(2015)に従い測定すると、25~250m2/gの窒素表面積(NSA)を有する。いくつかの態様では、マスターバッチ組成物は、30~50重量%、例えば、30重量%、35重量%、40重量%、45重量%、又は50重量%の炭素フィラーを含む。
【0026】
比較的少量のカーボンナノチューブをカーボンブラックマスターバッチ組成物に添加することにより、組成物から調製した、又はレットダウンした物品及びコーティングの電気的及び機械的特性の、予期しない改善をもたらすことができる。したがって、一態様では、カーボンブラックの、カーボンナノチューブに対する比は、マスターバッチ組成物中において70~99.5:30~0.5である。更なる態様では、カーボンブラックの、カーボンナノチューブに対する比は、マスターバッチ組成物中において85~98:15~2である。また更なる態様では、カーボンブラックの、カーボンナノチューブに対する比は、マスターバッチ組成物中において約95:5である。十分な電気的及び機械的特性を可能にしながら、比較的少量のカーボンナノチューブを添加することにより、マスターバッチ組成物から調製した、又はレットダウンした物品及びコーティングを着色することも可能となり、この結果は通常、カーボンブラックフィラーのみを有するマスターバッチ組成物では実現できない(その色は、黒に限定される傾向にある)。
【0027】
マスターバッチ組成物は、分散添加剤又は他の好適な添加剤を、任意選択的に含むことができる。一態様では、マスターバッチ組成物は、0.01重量%~20重量%の範囲の量の、分散添加剤を含むことができる。マスターバッチ組成物中に存在することができる他の任意の添加剤としては、顔料、染料、又は、マスターバッチ組成物から調製した物品若しくはコーティングを着色するための他の材料が挙げられるが、これらに限定されない。
【0028】
組成物は、任意の好適な方法に従い調製することができる。一態様では、マスターバッチ組成物は、溶融混合、溶液ブレンド、又はこれらの組み合わせにより調製することができる。特定の一態様では、マスターバッチ組成物は、以下の実施例にて更に記載する、2工程溶融混合法により調製することができる。
【0029】
1.ベースポリマー
マスターバッチ組成物を、様々なベースポリマーと共に使用することができる。一般に、マスターバッチ組成物用担体として使用可能な任意のポリマーを使用することができる。非限定例としては、熱可塑性ポリマー、熱硬化性ポリマー、エラストマー性ポリマー、又はこれらの組み合わせが挙げられる。具体的な非限定例としては、ポリエチレン若しくはポリプロピレンなどのポリオレフィン(例えば、Braskem PP D115A)、ポリアミド、ポリスチレン、ポリ塩化ビニル、アクリロニトリルブタジエンスチレン、ポリカーボネート、又は、これらの他のポリマー、コポリマー、若しくは混合物が挙げられる。
【0030】
開示したマスターバッチ組成物から調製した、又はレットダウンしたポリマー材料又は物品の表面抵抗値は、それぞれ、90V及び100Vで、Loresta-GP(MCP-T600)又はHiresta-UP(MCP-HT450)を使用して測定することができる。
【0031】
2.カーボンブラック
カーボンブラックフィラーは、任意の好適なカーボンブラック材料を含むことができる。一態様では、カーボンブラックフィラーは、導電性又は半導電性のカーボンブラックを含むことができる。別の態様では、カーボンブラックフィラーは、高構造カーボンブラックを含むことができる。高構造カーボンブラックは、化合物の粘度、弾性率、及び導電性を増加させることができる。高構造はまた、ダイスウェル、最大使用量を低下させ、分散性を改善することができる。低構造カーボンブラックにより、化合物の粘度及び弾性率を低下させ、伸長率、ダイスウェル、及び最大使用量を増加させることができるが、分散性もまた低下する可能性がある。カーボンブラックの他の全ての特徴が一定に保たれる場合、アグリゲートの粒度分布が狭いことで、カーボンブラックの分散がより困難となり、ヒステリシスが増加し、弾性が低下する。
【0032】
一態様では、カーボンブラックは、ASTM D6556(2015)に従い測定すると、25~250m2/gの窒素表面積(NSA)を有する。更なる態様では、カーボンブラックは、ASTM D6556(2015)に従い測定すると、40~90m2/gの窒素表面積(NSA)を有する。
【0033】
更なる態様では、カーボンブラックは、ASTM D2414(2019)に従い測定すると、45~250cm3/100gのオイル吸収量(OAN)を有する。例えば、カーボンブラックフィラーは、ASTM D2414(2019)に従って測定すると、45、50、60、70、80、90、100、105、110、115、120、125、130、135、140、145、150、155、160、165、170、175、180、185、190、200、220、250cc/100gのオイル吸収量を有するカーボンブラックを含むことができる。また更なる態様では、カーボンブラックは、ASTM D2414(2019)に従い測定すると、120~170cm3/100gのオイル吸収量(OAN)を有する。
【0034】
様々な特定の態様では、カーボンブラックは、Birla Carbon,Marietta,Georgia USAから入手することができる、Birla Carbon 7055、7060、7067、CONDUCTEX 7055 ULTRA、CONDUCTEX KU、CONDUCTEX SCU、RAVEN P、RAVEN P7U、又はRAVEN PFEBカーボンブラックを含むことができる。
【0035】
カーボンブラックを製造するための基本的な方法は周知である。一般に、カーボンブラックは、炭化水素ガス又は液体の部分酸化又は熱分解により製造され、ここでは、炭化水素原料(以後、「原材料炭化水素」と呼ぶ)を熱風の流れに注入し、ここで、原材料炭化水素を熱分解して煙に転換した後、水噴霧によりクエンチする。熱風は、燃焼セクション内で燃料を燃焼させることにより産生される。熱風は、燃焼セクションから、燃焼セクションと開放連通した反応セクションに流れる。熱風が反応セクションを通って流れる際に、原材料炭化水素を熱風に注入することで、形成するカーボンブラックの粒子を含む反応混合物が形成される。反応混合物は、反応器から、反応セクションと開口連通した冷却セクションに流れる。冷却セクションのいくつかの位置において、1つ以上の、例えば、水のクエンチスプレーが、流れる反応混合物に注入されることで、反応混合物の温度が、カーボンブラック製造、及び、炭素形成反応を停止するのに必要な温度未満まで下がる。次に、黒色粒子が、熱風の流れから分離する。広範囲のカーボンブラックの種類を、反応器の条件を制御操作することで製造することができる。
【0036】
3.カーボンナノチューブ
任意の好適なカーボンナノチューブを、マスターバッチ組成物と共に使用することができる。一態様では、組成物中のカーボンナノチューブは、多層カーボンナノチューブ、単層カーボンナノチューブ、又はこれらの混合物を含む。多層カーボンナノチューブは、存在する場合、直径、アスペクト比、又は純度が変化する可能性がある。
【0037】
いくつかの態様では、カーボンナノチューブは、1.5~25nmの平均直径を有する。更なる態様では、カーボンナノチューブは、9~15nmの平均直径を有する。一態様では、カーボンナノチューブは、1~50μmの平均長さを有する。更なる態様では、カーボンナノチューブは、1.5~15μmの平均長さを有する。マスターバッチ組成物と共に使用するのに有用なカーボンナノチューブの、具体的な非限定例は、Nanocylから入手することができるNC7000である。
【実施例
【0038】
B.実施例
本発明の様々な例示的実施形態を以下に詳述する。これらの実施形態は例示のものであることを意図し、本発明の範囲を制限することを意図するものではない。
【0039】
実施例1~4のサンプルを調製する手順:CONDUCTEX 7055 ULTRAカーボンブラックを含有する導電性化合物を、2工程で調製した:まず、ポリプロピレン(Braskem PP D115A)樹脂中の、30%のC7055Uマスターバッチを、230℃で二軸スクリュー押出機(16mm、25:1)を用いて調製した。次に、30%マスターバッチを未使用のポリプロピレン(Braskem PP D115A)樹脂と、230℃で二軸スクリュー押出機(16mm、25:1)を用いて混合し、所望の最終使用量のカーボンブラックを達成した。
【0040】
実施例5~9、27~30のサンプルを調製する手順:まず、多くの使用量で小型押出機を用いて、ポリマー樹脂に粉末CNTを封入し、次に、二軸スクリュー押出機で所望の使用量までレットダウンすることにより、CNT含有化合物を調製するか、又は、商業用CNTマスターバッチを未使用の樹脂と混合し、二軸スクリュー押出機で目標使用量を達成するかのいずれかとした。
【0041】
実施例10~26、31~33のサンプルを調製する手順:2つのアプローチ:粉末ブレンディング及びマスターバッチアプローチにより、導電性カーボンブラック-CNTブレンドを調製した。粉末ブレンディング-粉末ブレンディングの場合、カーボンブラック及びCNTを特定の比率で乾式混合した。次に、乾式混合したサンプルを、小型押出機を用いてポリマー樹脂と配合した。マスターバッチブレンディング-マスターバッチアプローチでは、CNTをポリマー樹脂と配合することでCNTマスターバッチを調製するか、又は、商業用CNTマスターバッチを使用した。次に、CNTマスターバッチを未使用の樹脂及びカーボンブラックと混合し、最終化合物で所望の使用量を達成した。
【0042】
実施例34~42のサンプルを調製する手順:機械的特性を評価するために、配合を2工程で実施した。工程1:サンプルをまず、二軸スクリュー押出機(16mm、25:1)で、上述の手順のうちの1つを用いて配合した。工程2:化合物を造粒した後、単軸スクリュー射出成型機に供給した。サンプルを230℃で、引張試験片の形状に射出成形した。
【0043】
導電性試験のサンプルを調製する手順:試験サンプルの、1mm×2.54cmのテープ片を、二軸スクリュー押出機でテープヘッダーを用いて調製した。
【0044】
表面の導電性を試験する手順:表面抵抗値は、それぞれ、90V及び100Vで、Loresta-GP(MCP-T600)及びHiresta-UP(MCP-HT450)を使用して測定した。
【0045】
TEMを用いてサンプルを分析する手順:TEMサンプルを、ウルトラミクロトームにより調製した。
【0046】
機械的特性を評価する手順:2インチ/分の分離速度でユニバーサル引張試験機を用いて、ASTM D638(2015)に従い機械的特性を評価した。
【0047】
結果及び議論:実施例4、13、及び16のポリマー化合物の表面抵抗値と比較して、実施例9(カーボンナノチューブ(CNT)を含有する)は、有意に低い表面抵抗値を示し、このことは、CNTを添加することで、ポリマー材料に所望の導電性が付与されることを示唆している。導電性能の改善は、相乗的な性質を持っている。1%のCNT使用量では、抵抗は1.00E+15を上回り、カーボンブラックの使用量が10%~15%だと、抵抗はまた、1.00E+15を上回る。しかし、15%カーボンブラック化合物に0.3%のCNTを、そして、10%カーボンブラック化合物に0.75%のCNTを添加すると、抵抗は1.45E+07を下回る。実施例21と実施例25の表面抵抗値の差は、配合手順の差に起因している可能性がある。
【0048】
表1:カーボンブラック(CB)及び多層カーボンナノチューブ(MWCNT)を含有するポリプロピレン化合物の表面抵抗値。
【表1】
【0049】
CB-CNTマスターバッチは、粉末ブレンディング及びマスターバッチブレンディング法の両方により調製することができる。表2のデータにより示されるように、粉末ブレンディング法により調製したCB-CNTマスターバッチは、マスターバッチブレンディング法により調製したCB-CNT MBより良好な、ポリマーマトリックスに導電性を付与する能力を示した。
【0050】
表2:カーボンブラック(CB)、多層カーボンナノチューブ(MWCNT)を含有するポリプロピレン化合物の表面抵抗値。
【表2】
【0051】
実施例27~33により示されるように、CB-CNTマスターバッチは、異なるメーカーのCNTを用いて調製することができる。異なるメーカーのCNTが同様に発揮する能力は、CB及びCNTブレンド系の相乗的性質を示し、ここで、CBは、CNTがより良い分散を行うのに役立ち、CNTは、電子流のための、より接続された経路を形成するのに役立つ。CNTを共にブレンドし、高性能材料用のCB-CNTマスターバッチを開発することができることを、これらのデータは示す。
【0052】
表3:カーボンブラック(CB)、多層カーボンナノチューブ(MWCNT)を含有するポリプロピレン化合物の表面抵抗値。
【表3】
【0053】
機械的特性:カーボンブラック(CB)、及びカーボンナノチューブ(CNT)を含有するポリプロピレン化合物の性質を測定した。カーボンブラック及びCNTを粉末形態で混合し、配合中に合わせて供給した。L/Dが40のTSEを配合のために用いた。これらの結果を表4に示す。
【0054】
表4:カーボンブラック(CB)及び多層カーボンナノチューブ(MWCNT)を含有するポリプロピレン化合物の機械的特性(伸長保持割合)。
【表4】
【0055】
当業者には、本発明の範囲又は趣旨から逸脱することなく、本発明において様々な修正及び変形を行うことができることが明らかであろう。本発明の他の実施形態は、本明細書に開示される本発明の明細書及び実践の考慮から、当業者には明らかとなるであろう。本明細書及び実施例は、単なる例示とみなされることが意図され、本発明の真の範囲及び趣旨は、以下の特許請求の範囲によって示される。
【国際調査報告】