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特表2024-535145改変ワクシニアウイルスアンカラ(MVA)による細胞傷害性導入遺伝子発現を下方調節するためのマイクロRNAの利用
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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公表特許公報(A)
(11)【公表番号】
(43)【公表日】2024-09-27
(54)【発明の名称】改変ワクシニアウイルスアンカラ(MVA)による細胞傷害性導入遺伝子発現を下方調節するためのマイクロRNAの利用
(51)【国際特許分類】
   C12N 15/863 20060101AFI20240919BHJP
   C12N 15/113 20100101ALI20240919BHJP
   C12N 7/01 20060101ALI20240919BHJP
   A61K 39/275 20060101ALI20240919BHJP
   A61P 31/00 20060101ALI20240919BHJP
   A61P 35/00 20060101ALI20240919BHJP
   A61P 31/12 20060101ALI20240919BHJP
   A61K 48/00 20060101ALI20240919BHJP
   A61K 35/76 20150101ALI20240919BHJP
   C12N 15/11 20060101ALN20240919BHJP
【FI】
C12N15/863 Z ZNA
C12N15/113 Z
C12N7/01
A61K39/275
A61P31/00
A61P35/00
A61P31/12
A61K48/00
A61K35/76
C12N15/11 Z
【審査請求】未請求
【予備審査請求】未請求
(21)【出願番号】P 2024513977
(86)(22)【出願日】2022-09-02
(85)【翻訳文提出日】2024-03-14
(86)【国際出願番号】 EP2022074510
(87)【国際公開番号】W WO2023031428
(87)【国際公開日】2023-03-09
(31)【優先権主張番号】21194940.9
(32)【優先日】2021-09-03
(33)【優先権主張国・地域又は機関】EP
(81)【指定国・地域】
【公序良俗違反の表示】
(特許庁注:以下のものは登録商標)
1.TWEEN
(71)【出願人】
【識別番号】509296443
【氏名又は名称】バヴァリアン・ノルディック・アクティーゼルスカブ
(74)【代理人】
【識別番号】100069556
【弁理士】
【氏名又は名称】江崎 光史
(74)【代理人】
【識別番号】100111486
【弁理士】
【氏名又は名称】鍛冶澤 實
(74)【代理人】
【識別番号】100139527
【弁理士】
【氏名又は名称】上西 克礼
(74)【代理人】
【識別番号】100164781
【弁理士】
【氏名又は名称】虎山 一郎
(74)【代理人】
【識別番号】100221981
【弁理士】
【氏名又は名称】石田 大成
(72)【発明者】
【氏名】ハウスマン・ユルゲン
(72)【発明者】
【氏名】カッラ・マルクス
(72)【発明者】
【氏名】シュヴェネカー・マルク
(72)【発明者】
【氏名】ハビャン・マティアス
【テーマコード(参考)】
4B065
4C084
4C085
4C087
【Fターム(参考)】
4B065AA95X
4B065AB01
4B065AC20
4B065BA01
4B065BB40
4B065BC50
4B065CA45
4C084AA13
4C084NA14
4C084ZB261
4C084ZB262
4C084ZB321
4C084ZB322
4C084ZB331
4C084ZB332
4C085AA03
4C085BA85
4C085CC08
4C085EE01
4C087AA01
4C087AA02
4C087BC83
4C087NA14
4C087ZB09
4C087ZB26
4C087ZB32
4C087ZB33
(57)【要約】
本発明は、導入遺伝子に結合したmiRblock内に配置された一連のmiRNA標的配列を含む組み換え改変ワクシニアウイルスアンカラ(MVA)に関するものであり、各miRNA標的配列は、真核生物MVA産生細胞内のmiRNAに対応する。本発明はまた、組み換えMVAの医学的用途にも関する。
【特許請求の範囲】
【請求項1】
ポックスウイルスプロモーターに作用可能に結合した導入遺伝子を含むヌクレオチド配列を含む組み換え改変ワクシニアウイルスアンカラ(MVA)であって、前記ヌクレオチド配列が、前記導入遺伝子に結合した異種miRblock内に配置された一連のmiRNA標的配列をさらに含み、各miRNA標的配列が、真核生物MVA産生細胞内のmiRNAに対応し、前記miRblock内の前記miRNA標的配列のうちの少なくとも1個が、前記真核生物MVA産生細胞内での前記導入遺伝子の発現の下方調節を媒介可能である、前記組み換え改変ワクシニアウイルスアンカラ(MVA)。
【請求項2】
ポックスウイルスプロモーターに作用可能に結合した導入遺伝子を含むヌクレオチド配列を含む転写単位であって、前記ヌクレオチド配列が、前記導入遺伝子に結合した異種miRblock内に配置された一連のmiRNA標的配列をさらに含み、各miRNA標的配列が、真核生物MVA産生細胞内のmiRNA配列に対応し、前記miRblock内の前記miRNA標的配列のうちの少なくとも1個が、前記真核生物MVA産生細胞内での前記導入遺伝子の発現の下方調節を媒介可能である、前記転写単位。
【請求項3】
異種miRblock内に配置された一連のmiRNA標的配列であって、各miRNA標的配列が真核生物MVA産生細胞内のmiRNAに対応し、前記miRblock内の前記miRNA標的配列のうちの少なくとも1個が、前記真核生物MVA産生細胞内での前記miRblockに結合した導入遺伝子の発現の下方調節を媒介可能である、前記miRNA標的配列。
【請求項4】
少なくとも1個のmiRNA標的配列が、約80~100%、好ましくは約90~100%、より好ましくは約95~100%、最も好ましくは約100%のヌクレオチド配列類似性で前記miRNAの配列に対応する、請求項1に記載の組み換えMVA、請求項2に記載の転写単位、または請求項3に記載のmiRblock。
【請求項5】
少なくとも1個のmiRNA標的配列が、配列番号1、配列番号2、配列番号3、配列番号4、配列番号5、配列番号6、配列番号7、配列番号8、及び配列番号9に示されるヌクレオチド配列からなる群より選択される、請求項1もしくは4に記載の組み換えMVA、請求項2もしくは4に記載の転写単位、または請求項3もしくは4に記載のmiRblock。
【請求項6】
前記miRblockが、配列番号48、配列番号49、配列番号51、配列番号52、配列番号53、配列番号54、及び配列番号55に示されるヌクレオチド配列からなる群より選択されるヌクレオチド配列を含む、またはそれからなる、請求項1、4、及び5のいずれか1項に記載の組み換えMVA、請求項2、4、及び5のいずれか1項に記載の転写単位、または請求項3~5のいずれか1項に記載のmiRblock。
【請求項7】
前記導入遺伝子が、呼吸器合胞体ウイルス(RSV)由来のタンパク質、またはその抗原性部分、好ましくはRSV G(A)、G(B)、F、N、及びM2-1タンパク質、ならびにN/M2-1融合タンパク質からなる群より選択されるタンパク質をコードする、請求項1及び4~6のいずれか1項に記載の組み換えMVA、請求項2及び4~6のいずれか1項に記載の転写単位、または請求項3~6のいずれか1項に記載のmiRblock。
【請求項8】
前記真核生物MVA産生細胞が、鳥類初代細胞、好ましくはニワトリ胚線維芽細胞(CEF)、または鳥類永久細胞株、好ましくはDF-1もしくはウズラ細胞である、請求項1及び4~7のいずれか1項に記載の組み換えMVA、請求項2及び4~7のいずれか1項に記載の転写単位、または請求項3~7のいずれか1項に記載のmiRblock。
【請求項9】
前記プロモーターが、Pr13.5long、Pr1328、PrLE1(pHyb)プロモーターからなる群より選択される最初期プロモーターであり、好ましくはPr13.5longプロモーターである、請求項1及び4~8のいずれか1項に記載の組み換えMVA、または請求項2及び4~8のいずれか1項に記載の転写単位。
【請求項10】
請求項1及び4~9のいずれか1項に記載の組み換えMVAを生成するための方法であって、以下:
(1)請求項3~8のいずれか1項に記載のmiRblock内に配置された一連のmiRNA標的配列を準備する工程と、
(2)ステップ(1)で準備された前記miRblockを用いて、請求項2及び4~9のいずれか1項に記載の転写単位を調製する工程と、
(3)ステップ(2)で調製された前記転写単位をMVAに挿入する工程と、
(4)真核生物MVA産生細胞に、ステップ(3)で得られた前記MVAを感染させ、これを増殖させる工程と、
(5)ステップ(4)で増殖された前記組み換えMVAを採取する工程と、
を含む、前記方法。
【請求項11】
in vitroで真核生物MVA産生細胞内でのMVAコード導入遺伝子の発現を下方調節するためのmiRNA標的配列の使用であって、前記miRNA標的配列が、配列番号1、配列番号2、配列番号3、配列番号4、配列番号5、配列番号6、配列番号7、配列番号8、及び配列番号9に示されるヌクレオチド配列からなる群より選択される、前記使用。
【請求項12】
in vitroで真核生物MVA産生細胞内でのMVAコード導入遺伝子の発現を下方調節するための、miRblock内に配置された一連のmiRNA標的配列の使用であって、前記miRblockが、配列番号48、配列番号49、配列番号51、配列番号52、配列番号53、配列番号54、及び配列番号55に示されるヌクレオチド配列からなる群より選択されるヌクレオチド配列を含むか、またはそれからなる、前記使用。
【請求項13】
請求項1及び4~9のいずれか1項に記載の組み換えMVAを含む医薬組成物またはワクチン。
【請求項14】
医薬品またはワクチンとして使用するための、請求項1及び4~9のいずれか1項に記載の組み換えMVA。
【請求項15】
感染症またはがんの治療または予防に使用するための、好ましくはRSV感染症の予防に使用するための、請求項1及び4~9のいずれか1項に記載の組み換えMVA。
【請求項16】
ポックスウイルスプロモーターに作用可能に結合した導入遺伝子を含むヌクレオチド配列を含む組み換えMVAであって、前記ヌクレオチド配列が、前記導入遺伝子に結合したmiRNA標的配列をさらに含み、前記miRNA標的配列が、真核生物MVA産生細胞内のmiRNAに対応し、前記miRblock内の前記miRNA標的配列が、前記真核生物MVA産生細胞内での前記導入遺伝子の発現の下方調節を媒介可能である、前記組み換えMVA。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、ウイルスベクターの分野に関し、詳細にはウイルスベクターベースワクチンに関する。より具体的には、本発明は、導入遺伝子に結合したいわゆるmiRblock内に配置された一連のマイクロRNA(miRNA)標的配列を含む組み換え改変ワクシニアウイルスアンカラ(MVA)に関するものであり、各miRNA標的配列は、真核生物MVA産生細胞内で発現するmiRNAに対応する。本発明はまた、組み換えMVAの医学的用途にも関する。
【背景技術】
【0002】
組み換えウイルスベクターの一般的な問題は、このようなベクターにより発現した導入遺伝子産物がベクター産生細胞の細胞プロセスに及ぼす悪影響である。これは最終的に、所与の組み換えウイルスベクターの収量を損なうことにつながる(1)。細胞傷害性作用は、単一または複数の導入遺伝子の発現の結果であることもあれば、別々に発現させたときには細胞傷害性作用を示さない導入遺伝子産物を組み合わせた結果であることもある。細胞傷害性導入遺伝子産物がウイルスベクターの収量を低減するという問題は、Poxviridae科Orthopoxvirus属の原型種であるワクシニアウイルスに由来する組み換えMVAベクターにも関係する問題である。例えば、複製異常がHIV-env発現MVAで観察されている(2)。
【0003】
MVA-BN(登録商標)は、MVA(改変ワクシニアウイルスアンカラ)ウイルスストックから単離された十分に特性評価されたウイルスベクターである。MVAは、複製ワクシニアウイルスである皮膚ワクシニアウイルスアンカラ株(漿尿膜ワクシニアウイルスアンカラ(CVA:Chorioallantois vaccinia virus Ankara))を起源とする(3)。CVAを初代ニワトリ胚線維芽細胞(CEFまたはCEF細胞)で570継代超にわたり連続的に増殖させることにより、弱毒化されたCVA由来ウイルスMVAが得られた。Bavarian NordicがさらにこのMVAを継代し、さらに弱毒化されたMVA株であるMVA-BN(登録商標)が得られた(4)。MVA-BN(登録商標)は、祖先CVAウイルスと比較するとゲノムのおよそ15%が欠如している(31kbが消失し、その結果6つの主な欠失部位がある)。これらの欠失は、複数の病原性及び宿主域遺伝子ならびにA型封入体における遺伝子に影響を及ぼす。MVA-BN(登録商標)は、ヒト細胞内でウイルスコード遺伝子に付着し、侵入し、これを非常に効率的に発現させることができる。ただし、ヒト細胞内では後代ウイルスの構築及び放出は生じない。そのため、MVA-BN(登録商標)は重要で汎用性の高いワクチンベクターであり、これまでに医療ニーズが満たされていない疾患(例えば、エボラウイルス疾患(5))を標的とするワクチン接種アプローチに使用する抗原コード導入遺伝子を、効率的に発現させることができる。MVA-BN(登録商標)及びその誘導体の調製物は、多くのタイプの動物に、そして臨床試験で免疫不全患者を含む10,500例超のヒト対象にも、いかなる重篤な有害事象も伴わずに投与されている。
【0004】
細胞傷害性導入遺伝子を発現するいくつかのMVA組み換え体のウイルス収量の低減は広範囲にわたって変動し得るものであり、その結果、ウイルス収量の顕著な低減から深刻な複製障害に至るまで生じ、さらには特にある特定の導入遺伝子を発現する組み換えMVAを作製できなくなることすら生じる。組み換えMVA複製の障害は、単一の細胞傷害性の高い導入遺伝子だけで引き起こされることもあるが、複数の導入遺伝子の組み合わせによって引き起こされることもある。これらの導入遺伝子は、MVA媒介発現の際に個別には細胞傷害性がないように思われる場合もあるが、これらの最小限の細胞傷害性作用が加算され、あるいは相乗すらしてMVAの収量を著しく減少させるように思われる。ある特定の導入遺伝子を含む組み換えMVAが作製できないのは、有害な導入遺伝子がMVA組み換え体の複製プロセスに付与する選択的不利益(複製が非効率であるために親MVAバックグラウンドから首尾よく選択及び単離できない程度の不利益)が寄与する可能性がある。さらに、この導入遺伝子を発現するウイルスベクターのトランスジェニックインサートまたはゲノムの遺伝子的安定性が、ウイルスベクター生産中に有害な導入遺伝子が発現することにより損なわれることがある(1、2)。
【0005】
したがって、ウイルス複製能力を可能な限り損なわずに、細胞傷害性の可能性がある複数の導入遺伝子を発現可能な組み換えMVAが必要とされている。
【0006】
発明者らは、MVAベクター産生細胞のマイクロRNA機構が、組み換えMVA生産中に導入遺伝子の発現を下方調節するために利用できるかどうかを評価することを目的とした。
【0007】
マイクロRNA(miRNA)は、すべての真核細胞が遺伝子発現の転写後制御のために産生する、典型的には21~23ヌクレオチド(nt)長の小さな非コードRNAである。これらのRNAは、細胞ゲノム内で一次miRNA(pri-miRNA)と呼ばれる100~1000ヌクレオチドの長い非コードRNAとしてコードされ、核内でRNアーゼドローシャにより、前駆体miRNA(pre-miRNA)と呼ばれる約80ntのヘアピン構造にトリミングされる。これらのヘアピンRNAは細胞質内でRNアーゼダイサーによりさらにトリミングされて、成熟した21~23ntのmiRNAが得られる。成熟miRNAは、miRNAの作用を媒介するいわゆるRISC多タンパク質複合体にロードされる。miRNAが細胞内mRNAのコード配列または5’もしくは3’-非翻訳領域(UTR)内の同族標的配列に結合すると、マッチが不完全な場合は翻訳性低下に至り、マッチが完全な場合はmRNA分解にすら至る。後者のプロセスでは、mRNA分解を媒介するmiRNA自体は分解されず、マイクロRNAエフェクター機構により取り込まれる。したがって、これらは、その標的配列を認識することで、新たなサイクルのmRNA分解を開始することができる。注目すべきことに、miRNAによる細胞タンパク質レベルの下方制御は、通常は2倍未満である(6、7)が、これらの効果は、例えば、完全な標的マッチングにより、及び標的配列のタンデム配置により増強することができる(8)。
【0008】
多くのmiRNA遺伝子は動物界全体で非常に高度に保存されているが、その一方で系統特異的、種特異的、さらには組織特異的なmiRNAも存在する。特定の組織向性を達成する、または非腫瘍組織内での複製を防ぐという一般的な目的で、ウイルスが細胞miRNAにより標的化されるように操作された例は複数存在する。複製制限に成功した例としては、2個の別々の単一miRNA標的配列の挿入により改変されたポリオウイルス、及び3個の標的配列により改変された水疱性口内炎ウイルス(VSV)がある。これらの研究は、in vivoのウイルス複製がmiRNAにより制御できることを示すものである(9、10)。同様にして、種特異的あるいは組織特異的なマイクロRNAの標的配列をウイルスゲノムに挿入することにより、インフルエンザウイルスまたは腫瘍溶解性ピコルナウイルスの減弱が達成された(11、12)。また、A型インフルエンザウイルスにおいて、miRNA-93標的配列をインフルエンザORFに挿入することにより、マウスにおいて種特異的に減弱する(ただしニワトリ卵では減弱しない)ことも証明されている(13)。
【0009】
miRNAの標的化による意図的なウイルス複製の減弱に加えて、マイクロRNA機構は、ウイルス遺伝子治療ベクターの導入遺伝子発現の抑制にも使用されている。アデノ随伴ウイルス(AAV)ベクターゲノムのベクター粒子へのパッケージングは、導入遺伝子産物が細胞傷害性を有する場合、コードされた導入遺伝子が真核生物プロモーターの制御下で発現することによって深刻に損なわれることがある。細胞傷害性導入遺伝子発現のmiRNA媒介性下方調節により、それぞれのAAVのパッケージング効率及び収量が増加した(14)。これまで、このアプローチは、pri-miRNA様スキャフォールド(14)において人工miRNA(amiRNA)を過剰発現させるか、ショートヘアピンRNA(shRNA)(15)としてAAVの収量を高めることによってのみ効果的であることが示唆されてきた。典型的には、AAVベクターは、ベクターゲノム及びヘルパー機能をコードするプラスミドのセットをトランスフェクションすることにより生成されるため、amiRNAまたはshRNA発現プラスミドを同時トランスフェクションすることは技術的に実現可能であった。しかし、miRNAトランスフェクションアプローチは、感受性の高い産生細胞の感染により増殖するMVAまたはポックスウイルスベースのベクター全般に対しては実現不可能である。CEF適応性MVAの場合、一般的な産生細胞は初代CEF細胞か、またはニワトリ連続線維芽細胞株DF-1のようないくつかの鳥類細胞株である。初代CEFは非常に限られたトランスフェクション効率を示すため、概して、トランスフェクション手順は工業的規模の生産プロセスでは理想的ではない。
【0010】
そのため、発明者らは、初代CEF内の細胞内在性miRNAを利用して、ベクター生産中にMVAベクターにより駆動される導入遺伝子の発現を下方調節し、ワクチン接種目的の組み換えMVAの収量向上を達成することを目標とした。
【0011】
miRNA機構及びワクシニアウイルス感染の相互作用に関し、公的に入手可能な知識は限られている。ワクシニアウイルスは、miRNA分解の誘導(16、17)、及びmiRNAの生合成に必要とされる細胞内RNアーゼダイサーの下方調節(17、18)を含めて、様々なレベルで細胞内のmiRNA機構を下方調節しているようである。このことから、miRNAは、ワクシニアウイルスに駆動される導入遺伝子発現の制御には適しないことが示唆された。B5という名称のワクシニアウイルスタンパク質の標的miRNA媒介性発現下方調節の一例が存在する。そこでの目標は、B5依存的なワクシニアウイルスの形態形成の障害、ひいては子孫ウイルス生産の障害であった(19、20)。しかし、B5R遺伝子の発現を駆動する初期/後期ポックスウイルスB5プロモーターは、それほど強力なプロモーターではない(21、22)。これに対し、産生細胞内でポックスウイルスによる導入遺伝子の発現を制御する上での問題は、導入遺伝子の発現を駆動するために使用されるポックスウイルスのプロモーターが、免疫原として機能する最大量の組み換えタンパク質の合成を指示するために、意図的に可能な限り強力になるように設計及び選択されている(例えば、広く使用されている合成初期/後期PrSプロモーター(23)及び強力な最初期プロモーターPr13.5long(24))という事実により、さらに大きな問題となる。
【発明の概要】
【0012】
本発明の目的は、組み換えMVAを高い収量で生成する手段及び方法を提供することである。
【0013】
本発明の根底にある問題は、感受性産生細胞内でMVAが増殖する間に導入遺伝子の発現が下方調節されるように改変された組み換えMVAを提供することにより、解決される。詳細には、本発明は、添付の特許請求の範囲、ならびに以下の態様及びその実施形態により定義される。
【0014】
第1の態様において、本発明は、ポックスウイルスプロモーターに作用可能に結合した導入遺伝子を含むヌクレオチド配列を含む組み換え改変ワクシニアウイルスAnkara(MVA)を提供し、このヌクレオチド配列は、導入遺伝子に結合したmiRNA標的配列をさらに含み、miRNA標的配列は、真核生物MVA産生細胞内のmiRNAに対応する。
【0015】
第1の態様において、本発明は、ポックスウイルスプロモーターに作用可能に結合した導入遺伝子を含むヌクレオチド配列を含む組み換え改変ワクシニアウイルスAnkara(MVA)を提供し、このヌクレオチド配列は、導入遺伝子に結合したmiRblock内に配置された一連のmiRNA標的配列をさらに含み、miRblock内の各miRNA標的配列は、真核生物MVA産生細胞内のmiRNAに対応する。
【0016】
さらなる態様において、本発明は、ポックスウイルスプロモーターに作用可能に結合した導入遺伝子を含むヌクレオチド配列を含む転写単位を含む組み換えMVAを提供し、このヌクレオチド配列は、導入遺伝子に結合したmiRNA標的配列、または導入遺伝子に結合したmiRblock内に配置された一連のmiRNA標的配列をさらに含み、miRNA標的配列またはmiRblock内の各miRNA標的配列は、真核生物MVA産生細胞内のmiRNAに対応する。
【0017】
またさらなる態様において、本発明は、第1及び第2の転写単位、またはそれ以上の転写単位を含む組み換えMVAを提供し、各転写単位は、ポックスウイルスプロモーターに作用可能に結合した導入遺伝子を含むヌクレオチド配列を含み、このヌクレオチド配列は、導入遺伝子に結合したmiRNA標的配列、または導入遺伝子に結合したmiRblock内に配置された一連のmiRNA標的配列をさらに含み、miRNA標的配列またはmiRblock内の各miRNA標的配列は、真核生物MVA産生細胞内のmiRNAに対応する。
【0018】
別の態様において、本発明は、好ましくは組み換えMVAにおける使用に適した、ポックスウイルスプロモーターに作用可能に結合した導入遺伝子を含むヌクレオチド配列を含む転写単位を提供し、このヌクレオチド配列は、導入遺伝子に結合したmiRNA標的配列、または導入遺伝子に結合したmiRblock内に配置された一連のmiRNA標的配列をさらに含み、miRNA標的配列またはmiRblock内の各miRNA標的配列は、真核生物MVA産生細胞内のmiRNAに対応する。
【0019】
また別の態様において、本発明は、好ましくは組み換えMVAにおける使用に適した、miRblock内に配置された一連のmiRNA標的配列を提供し、各miRNA標的配列は、真核生物MVA産生細胞内のmiRNAに対応する。
【0020】
また別の態様において、本発明は、真核生物産生細胞内で活性であるプロモーターに作用可能に結合した導入遺伝子を含むヌクレオチド配列を含むプラスミドを提供し、このヌクレオチド配列は、導入遺伝子に結合したmiRNA標的配列、または導入遺伝子に結合したmiRblock内に配置された一連のmiRNA標的配列をさらに含み、miRNA標的配列またはmiRblock内の各miRNA標的配列は、真核生物産生細胞内のmiRNAに対応する。
【0021】
また別の態様において、本発明は、本発明による組み換えMVAを生成するための方法を提供し、この方法は、以下:
(1)本発明によるmiRblock内に配置されたmiRNA標的配列または一連のmiRNA標的配列を準備する工程と、
(2)ステップ(1)で準備されたmiRNA標的配列またはmiRblockを用いて、本発明による転写単位を調製する工程と、
(3)ステップ(2)で調製された転写単位をMVAに挿入する工程と、
(4)真核生物MVA産生細胞に、ステップ(3)で得られたMVAを感染させ、これを増殖させる工程と、
(5)ステップ(4)で増殖された組み換えMVAを採取する工程とを含む。
【0022】
また別の態様において、本発明は、本発明によるプロセスにより生成された組み換えMVAを提供する。
【0023】
また別の態様において、本発明は、ワクチンの工業的規模の生産のための、本発明による組み換えMVAの使用を提供する。
【0024】
また別の態様において、本発明は、真核生物MVA産生細胞内でのMVAコード導入遺伝子の発現を下方調節するための、詳細にはワクチンの工業的規模生産のための、本発明によるmiRNA標的配列の使用を提供する。
【0025】
また別の態様において、本発明は、真核生物MVA産生細胞におけるMVAコード導入遺伝子の発現を下方調節するための、詳細にはワクチンの大規模生産のための、本発明によるmiRblock内に配置された一連のmiRNA標的配列の使用を提供する。
【0026】
また別の態様において、本発明は、本発明による組み換えMVAを含み、任意選択で、医薬的に許容される担体または賦形剤をさらに含む、医薬組成物またはワクチンを提供する。
【0027】
また別の態様において、本発明は、医薬品またはワクチンとして使用するための、好ましくは疾患の治療または予防に使用するための、本発明による組み換えMVAを提供する。
【0028】
また別の態様において、本発明は、感染性疾患またはがんの治療または予防に使用するための、本発明による組み換えMVAを提供する。
【0029】
また別の態様において、本発明は、感染症またはがんの治療または予防に使用するための医薬品またはワクチンの製造のための、本発明による組み換えMVAの使用を提供する。
【0030】
また別の態様において、本発明は、対象における感染性疾患またはがんを治療または予防する方法を提供し、この方法は、本発明による組み換えMVAを対象に投与することを含む。
【0031】
これらの態様及びその実施形態について、本発明の説明とともにさらに詳細に説明する。
【図面の簡単な説明】
【0032】
図1】EGFPを発現し、EGFP 3’-UTRのヘテロオリゴマーmiRblock内に配置されたmiRNA標的配列を含むプラスミド挿入物の設計を示している。miRNA標的配列なし(「miRbなしEGFP」)(A)、ヘテロオリゴマーmiRblock-1あり(B)及び-2あり(C)、ならびに4個のスクランブルmiRNA標的配列を含む対照miRblockあり(「EGFP-scrbl2」)(D)のEGFPプラスミド。pCMV=ヒトサイトメガロウイルス最初期プロモーター/エンハンサー;EGFP=高感度緑色蛍光タンパク質:SV40ポリA=シミアンウイルス-40由来のポリアデニル化シグナル;nt=ヌクレオチド;ORF=オープンリーディングフレーム。
図2】miRblockが初代CEF細胞内のプラスミド駆動EGFP発現に及ぼす効果の比較を示している。VP-SFM培地中のCEF細胞を、0日目に37℃で96ウェルプレートに播種した(4×10細胞/ウェル)。細胞に対し、1日目に三重反復で、EGFP及び青色蛍光タンパク質(BFP)をコードするプラスミドを同時トランスフェクションした。EGFP遺伝子の3’-UTR内に10の異なるヘテロオリゴマーmiRblockを有するEGFPコードプラスミドをmiRb-1~miRb-10と命名した(miRNA標的配列については表4を参照)。miRblockを含まないEGFPをコードするプラスミドによるトランスフェクションをEGFP発現の基準(「miRbなし」)とした。細胞に対し、2日目にフローサイトメトリーによりEGFPとBFPの発現を解析した。BFP陽性細胞のEGFP(上)及びBFP(下)の幾何平均蛍光強度(GMFI)を示す(幾何平均(GM)及び幾何標準偏差(geoSD)を示すエラーバー)。パーセンテージは、miRblockを含まないEGFP発現基準のEGFP発現レベルに対する%を示す。
図3】CEF及びDF-1細胞におけるプラスミドトランスフェクション後にmiRblockが30℃及び37℃においてEGFP発現に及ぼす効果についての解析を示している。VP-SFM培地中のCEF細胞(左)及びDMEM/10% FCS中のDF-1細胞(右)を、0日目に96ウェルプレートに播種した(4×10細胞/ウェル)。細胞に対し、1日目に三重反復で、EGFP(「miRb-1」、「miRb-2」、miRblock対照「scrbl」)及びBFPをコードするプラスミドを同時トランスフェクションした。miRblockを含まないEGFPをコードするプラスミドによるトランスフェクションをEGFP発現基準とした(「miRbなし」)。細胞を30℃または37℃でインキュベートし、トランスフェクションから23時間後にフローサイトメトリーによりEGFP及びBFPの発現を解析した。BFP陽性細胞のEGFP(上)及びBFP(下)のGMFIを示している(GM及びgeoSD)。EGFP発現基準に対するEGFP発現レベル%。
図4】EGFPをコードし、EGFP 3’-UTRのヘテロオリゴマーmiRblock内に配置されたmiRNA標的配列を含む組み換えMVAインサートの設計を示している。miRNA標的配列なし(「EGFP」)、ヘテロオリゴマーmiRblock-1及び-2あり(「EGFP-miRb-1」、「EGFP-miRb-2」)、ならびに対照miRblockあり(「EGFP-scrbl2」)のEGFPをコードする組み換えMVA。PrS=合成ポックスウイルス初期/後期プロモーター;RFP=赤色蛍光タンパク質;gpt=グアニンホスホリボシルトランスフェラーゼ;nt=ヌクレオチド;TTS=初期転写終結シグナル;IGR=MVAゲノム内の遺伝子間領域。
図5】組み換えMVAによるmiRblockがEGFP発現レベルに及ぼす効果の解析を示している。VP-SFM培地中のCEF細胞(左)及びDMEM/10% FCS中のDF-1細胞(右)を、0日目に96ウェルプレートに播種した(4×10細胞/ウェル)。1日目に三重反復で、細胞にmiRblockなし(「miRbなし」、EGFP発現基準)か、miRblock-1もしくは-2(「miRb-1」、「miRb-2」)、またはmiRblock-scrbl2対照(「scrbl2」)を含むEGFP及びRFP発現MVA-BN組み換え体を感染多重度(MOI)=5で感染させた。感染中、細胞を30℃または37℃でインキュベートした。感染から19時間後に、細胞をトリプシン処理し、洗浄し、PBS-FACS-FORM(1% FCS、0.1% NaN、1%パラホルムアルデヒド(PFA))に再懸濁した。EGFP及びRFPの発現をフローサイトメトリーにより解析した。RFP陽性細胞のEGFP(上)及びRFP(下)のGMFIを示している(GM及びgeoSD)。EGFP発現基準に対するEGFP発現レベル%。
図6】組み換えMVAを異なるMOIで感染させた後にmiRblockがEGFP発現に及ぼす効果の解析を示している。VP-SFM培地(左)中のCEF細胞(左)及びDMEM/10% FCS(右)中のDF-1細胞(右)を、0日目に三重反復で96ウェルプレート(4×10細胞/ウェル)に播種した。1日目に、細胞にmiRblockなし(「miRbなし」、EGFP発現基準)か、miRblock-1もしくは-2(「miRb-1」、「miRb-2」)、またはmiRblock-scrbl2対照(「scrbl2」)を含むEGFP及びRFP発現MVA-BN組み換え体を、示されるように感染多重度(MOI)=5、1、または0.2で感染させた。感染から6時間後に、細胞をトリプシン処理し、洗浄し、PBS-FACS-FORM(1% FCS、0.1%NaN、1% PFA)に再懸濁した。EGFPの発現をフローサイトメトリーにより解析した。EGFPのGMFI(上;GM及びgeoSD)及びEGFP発現基準に対するEGFP発現レベルのGMFI%(下;平均及び平均の標準誤差(SEM))を示している。RFPの発現は記録されなかった。
図7】組み換えMVAを低MOIで感染させた後にmiRblockがEGFP発現に及ぼす経時的な効果(複数サイクル複製)の解析を示している。VP-SFM培地中のCEF細胞を、0日目に三重反復で96ウェルプレートに播種した(4×10細胞/ウェル)。1日目に、細胞にmiRblockなし(「miRbなし」)か、miRblock-1もしくは-2(「miRb-1」、「miRb-2」)、またはmiRblock-scrbl2(「scrbl2」、対照)を含むEGFP及びRFP発現MVA-BN組み換え体をMOI=0.1で感染させた。指示された感染後時間に、細胞をトリプシン処理し、洗浄し、PBS-FACS-FORM(1% FCS、0.1% NaN、1% PFA)に再懸濁した。EGFP及びRFPの発現をフローサイトメトリーにより解析した。RFP陽性細胞のEGFP(左上)及びRFP(右上)のSGMFI(GM及びgeoSD)、ならびにEGFP発現基準に対するGMFI EGFP%及びGMFI RFP%を示している(下;平均及びSEM)。
図8】ヘテロオリゴマーmiRblock内に配置されたmiRNA標的配列を含み、異なるプロモーター下でEGFPを発現する組み換えMVAインサートの設計を示している。PrS=合成ポックスウイルス初期/後期プロモーター;Pr13.5long=最初期プロモーター。
図9】異なるポックスウイルスプロモーター下においてmiRblockがEGFP発現に及ぼす効果の比較を示している。VP-SFM培地中のCEF細胞(左)及びDMEM/10% FCS中のDF-1細胞(右)を、0日目に96ウェルプレートに播種した(4×10または3×10細胞/ウェル)。1日目に三重反復で、細胞に、miRblock-2(「miRb-2」)またはmiRblock-scrbl2(「scrbl2」、対照)と、PrSプロモーターまたはPr13.5longプロモーターのいずれかの制御下にあるmiRNA標的EGFP遺伝子とを含むEGFP及びRFP発現MVA-BN組み換え体を感染させた(MOI=10)。感染から6時間後及び18時間後に、細胞をトリプシン処理し、洗浄し、PBS-FACS-FORM(1% FCS、0.1% NaN、1% PFA)に再懸濁した。EGFP及びRFPの発現をフローサイトメトリーにより解析した。「scrbl2」対照により感染させたRFP陽性細胞内のEGFP発現レベルに対するEGFPのGMFI%を示している(平均及びSEM)。PrSまたはPr13.5longプロモーター及び感染時間は示されている通り。「scrbl2」対照に対するEGFP発現レベルの%。
図10】ヘテロ及び関連ホモオリゴマーmiRblockについて、プラスミド駆動EGFP発現に及ぼす効果に関する比較を示している。0日目に、VP-SFM培地中のCEF細胞(4×10細胞/ウェル)を96ウェルプレートに播種した。細胞に対し、1日目に三重反復で、EGFP及びBFPコードプラスミドを同時トランスフェクションした。ヘテロオリゴマーmiRblock-1もしくは-2(「miRb-1」、「miRb-2」)またはホモオリゴマーmiRblock-13~-20を含むプラスミドによるEGFP発現を解析した。miRblock-13~-16は、miRblock-1に含まれるmiRNA標的配列の3回リピートを含み、miRblock-17~-20は、miRblock-2に含まれるmiRNA標的配列の4回リピートを含んだ。miRblockを含まないプラスミド(「miRbなし」)をEGFP発現基準とし、miRblock-scrbl2(「scrbl2」)を含むプラスミドを対照とした。トランスフェクション後1日目にフローサイトメトリーにより定量したBFP陽性細胞のEGFP(上)及びBFP(下)のGMFI(GM及びgeoSD)を示している。EGFP発現基準に対するEGFP発現%。miRblockを含むプラスミドのセットを2つの別々の実験で解析した。
図11】EGFPを発現しホモオリゴマーmiRblock内に配置された選択したmiRblock-2由来miRNA標的配列を含む、組み換えMVAインサートの設計を示している。miRNA標的配列なし(「EGFP」)、ヘテロオリゴマーmiRblock-2あり(「EGFP-miRb-2」)、ホモオリゴマーmiRblock-17または-18あり(「EGFP-miRb-17」、「EGFP-miRb-18」)、及び対照miRblockあり(「EGFP-scrbl2」)の組み換えMVA。
図12】ヘテロ及び関連ホモオリゴマーmiRblockについて、組み換えMVAによるEGFP発現に及ぼす効果に関する比較を示している。VP-SFM中のCEF細胞を、0日目に96ウェルプレートに播種した(4×10細胞/ウェル)。1日目に、細胞にヘテロオリゴマーmiRblock-2(「miRb-2」)またはホモオリゴマーmiRblock-17もしくは-18(「miRb-17」、「miRb-18」)を含むMVA-BN組み換え体(MOI=5)を感染させた。miRblock-17及び-18は、miRblock-2に含まれるmiRNA標的配列の4回リピートを含んだ。感染から18時間後に、細胞をトリプシン処理し、洗浄し、PBS-FACS-FORM(1% FCS、0.1% NaN3、1% PFA)に再懸濁した。EGFP及びRFPの発現をフローサイトメトリーにより解析した。RFP陽性細胞のEGFP(左)及びRFP(右)発現のGMFIを示している(GM及びgeoSD)。EGFP発現基準(「miRbなし」)に対するEGFP発現レベル%。
図13】選択したmiRNAに基づき設計されたホモオリゴマーmiRblockにより制御されたプラスミド駆動EGFP発現の比較を示している。0日目に、VP-SFM培地中のCEF細胞(4×10細胞/ウェル)(左)及びDMEM/10% FCS中のDF-1細胞(3×10細胞/ウェル)(右)を96ウェルプレートに播種した。細胞に対し、1日目に三重反復で、EGFP及びBFP発現プラスミドをトランスフェクションした。miRNA標的配列の4回リピートから構成されたホモオリゴマーmiRblock-25~-36を含むプラスミドによるEGFP発現を解析した。ヘテロオリゴマーmiRblock-1または-2を含むプラスミドを比較のために含めた。miRblockを含まないプラスミド(「miRbなし」)をEGFP発現基準とし、miRblock-scrbl2(「scrbl2」)を含むプラスミドを対照とした。トランスフェクション後1日目にフローサイトメトリーにより定量したBFP陽性細胞のEGFP(上)及びBFP(下)のGMFI(GM及びgeoSD)を示している。EGFP発現基準(「miRbなし」)に対するEGFP発現%。miRblock-25及び26のデータを含むデータセットは、独立した実験由来のものである。
図14】最も効果的なmiRNA標的配列から構成されたヘテロオリゴマーmiRblockを含む組み換えMVAを感染させた細胞におけるEGFP下方調節の解析を示している。0日目に、VP-SFM培地中のCEF細胞(4×10細胞/ウェル)(左)及びDMEM/10% FCS中のDF-1細胞(3×10細胞/ウェル)(右)を96ウェルプレートに播種した。細胞に対し、1日目に三重反復で、ヘテロオリゴマーmiRblockを含むプラスミドを発現するEGFP及びBFPをトランスフェクションした。miRblock-37~-47は、ホモオリゴマーmiRblock-13、-17-、-18、-20(参照:図10)及びmiRblock-25、-26、-31~-33(参照:図13)由来のmiRNA標的配列から構成された。ヘテロオリゴマーmiRblock-2を含むプラスミドを比較のために含めた。miRblockを含まないプラスミド(「miRbなし」)をEGFP発現基準とし、miRblock-scrbl2(「scrbl2」)を含むプラスミドを対照とした。トランスフェクション後24時間時に、フローサイトメトリーにより細胞のEGFP及びBFPの発現を解析した。BFP陽性細胞のEGFP(上)及びBFP(下)のGMFI(GM及びgeoSD)を示している。EGFP発現基準(「miRbなし」)に対するEGFP発現%。
図15】組み換えMVA-BN-RSV及びRSV由来導入遺伝子の3’-UTR内にmiRblockを含むその改変バージョンの設計を示している。異なるプロモーターの制御下でRSV由来導入遺伝子をコードするMVA-BN組み換え体(「MVA-BN-RSV」、「MVA-BN-RSV-miRb1/2」、「MVA-BN-RSV-miRb39/41」)を示されているように図示している。MVA-BN-RSVでは、コードされたRSV由来導入遺伝子はmiRblockに結合していない。MVA-BN-RSV-miRb1/2及びMVA-BN-RSV-miRb39/41では、それぞれ3つまたは4つすべての導入遺伝子がヘテロオリゴマーmiRblockに結合している。G(A)、G(B)=RSV Gタンパク質のA及びB血清型におけるORF;N=RSV核タンパク質ORF;2A=ピコルナウイルス由来自己切断2Aペプチド;M2-1=RSV M2遺伝子のM2-1 ORF;F(A-long BN)=RSV-Fタンパク質の改変A-long血清型におけるORF;示されているポックスウイルスプロモーター。
図16】MVAコードRSV G、F、及びN/M2-1導入遺伝子のmiRNA媒介性下方調節の解析を示している。0日目に、1×10個のCEF細胞をVP-SFMに播種した。翌日、細胞にMOI=1で、モック感染を行うか、あるいはMVA-BN、または組み換え体MVA-BN-RSV、MVA-BN-RSV-miRb1/2、もしくはMVA-BN-RSV-miRb39/41を感染させた。細胞ライセート(「CL」)を感染から12時間後(左)及び18時間後(右)調製し、タンパク質をSDS-PAGEによりサイズに従って分離し、抗RSV G抗体、抗RSV F抗体、もしくは抗RSV N抗体、または抗D8 VACV抗体(MVAベクター対照)を用いたイムノブロッティングにより解析した。
図17】MVA-BN-RSV-miRb1/2及びMVA-BN-RSV-miRb39/41の複製能力をMVA-BN-RSVと比較して示している。感染の1日前に、CEF細胞を6ウェルプレートに入ったVP-SFM培地に播種した。コンフルエントな単層に三重反復で、MOI=0.1(左)または0.01(右)で1ml VP-SFM中のMVA組み換え体:MVA-BN-RSV、MVA-BN-RSV-miRb1/2、またはMVA-BN-RSV-miRb39/41を感染させた。MVA-BN野生型(すなわち非組み換え)を比較のために含めた。感染細胞を30℃で培養し、感染後3日目及び4日目に直接凍結して、次に行うTCID50滴定に用いた。ウイルス収量は、TCID50/2mlの幾何平均及びSDとして示している。表内に、図(上)に示すデータから算出したウイルス力価の倍数差を示している。
図18】Dextramer染色により解析した、マウスの末梢血細胞におけるRSV特異的CD8+T細胞応答の解析を示している。10頭の雌BALB/cマウスの群を、0日目及び21日目に、マウス当たり1×10TCID50のMVA-BN-RSV、MVA-BN-RSV-miRb1/2、またはMVA-BN-RSV-miRb39/41で筋肉内免疫した。TBS処置マウス(n=5)を対照として含めた。プライミング後7日目、28日目(=ブースト後7日目)、及び34日目(=ブースト後13日目)にPBMCを収集し、RSV M2-1及びMVA E3タンパク質(ベクター対照)内の免疫優性エピトープ、ならびに表面マーカーCD4、CD8、及びCD44の発現に特異的なMHCクラスI dextramerで染色した。活性化され(CD44+)、RSV M2-1(左)またはMVA由来E3(右)に特異的なCD8+T細胞のパーセンテージを示している(平均及びSEM)。
図19】細胞内サイトカイン染色(ICCS)及びELISpotにより解析したマウスの脾細胞におけるRSV特異的T細胞応答の解析を示している。雌のBALB/cマウスを図18に記載のように処置した。ブースト後13日目に、単細胞脾細胞懸濁液を調製してT細胞のICCS及びELISpot解析に用いた。(A)ICCSのために、脾細胞を、示されたRSVタンパク質由来の免疫優性ペプチドまたはMVA E3由来の免疫優性MVAエピトープ(ベクター対照)で6時間再刺激した。ペプチド刺激後のCD8+T細胞のCD44IFN-γ細胞の頻度を示している(平均及びSEM)。(B)ELISpot解析のために、脾細胞を免疫優性RSV G、F、及びM2-1由来ペプチドまたは免疫優性MVA-E3ペプチドで再刺激した。1×10個の脾細胞当たりのIFN-γスポット形成コロニー(SFC)を示している(平均及びSEM)。
図20】マウス血清中のRSV特異的IgG抗体力価及びRSVプラーク減少中和力価の解析を示している。雌のBALB/cマウスを図18に記載のように処置した。血清を、免疫の1日前(-1日目)、プライミング後20日目、及び34日目(=ブースト後13日目)に収集した。(A)RSV及びMVA特異的IgG抗体(それぞれ左及び右)をELISAにより検出し、結果を幾何平均力価(GMT)及びgeoSDとして示している。(B)血清試料中のRSV A2株特異的中和抗体力価をプラーク減少中和試験(PRNT)により定量した(GMT及びgeoSD)。血清転換のパーセンテージ(初期血清陰性マウスにおけるプラーク減少中和力価≧15の出現として定義)を表中に示している。
【0033】
配列の簡単な説明
【表1】
【表2-1】
【表2-2】
【表2-3】
【表3-1】
【表3-2】
【表4】
【発明を実施するための形態】
【0034】
目的は、組み換えMVAのその産生細胞での成長を改善して、とりわけ大規模なワクチン生産において、ウイルス収量を増加させることであった。
【0035】
問題は、増殖中に組み換えMVAによる細胞傷害性導入遺伝子発現を減少させつつ、ワクチンレシピエントにおいて組み換えMVAが導入遺伝子特異的免疫応答を誘導する潜在能力を保持することであった。
【0036】
この問題を解決するため、組み換えMVAによる導入遺伝子発現を下方調節するために、鳥類MVA産生細胞内で内在的に発現するmiRNAを利用した。この目的において、miRNAに対応するmiRNA標的配列を導入遺伝子の3’-UTR領域に挿入した。
【0037】
発明者らは、最初に、トランスフェクションしたモデル遺伝子(EGFP)を用いて、組み換えMVAによる導入遺伝子発現の下方調節が最も効率的なmiRNAをスクリーニングし、次いで選択したmiRNA標的配列を評価して、組み換えMVAでのそれらの使用を最適化するという戦略に従った。
【0038】
ここでは、miRNA標的配列を、組み換えMVAが発現する導入遺伝子に結合するという概念は、MVA産生細胞における導入遺伝子発現の下方調節に対し実施可能であることが示された。ワクシニアウイルスが細胞のマイクロRNA機構の障害を媒介することが想定されているという理由のみをとっても、そして大量の導入遺伝子産生物を実現するためにポックスウイルスプロモーターの大規模な活性化が使用されるという理由からも、このような知見は予想できなかった。
【0039】
2個の一連の異種miRNA標的配列であって、各々がいわゆるmiRblock内に配置されている配列、すなわちmiRblock-39及び-42を、改変MVA-BN-RSVの調製に選択した。miRblock選択の基準は、(i)MVA産生細胞における導入遺伝子発現の下方調節を媒介する活性が高いこと、(ii)miRblock内のmiRNA標的配列間の配列類似性が低いこと、ならびに(iii)ワクチン接種の標的組織、すなわち血液及び骨格筋における関連miRNAの発現が低いこと、とした。
【0040】
最後に、miRNA標的配列(例えば、miRblock-39及び-42)の挿入によって改変されたMVA-BN-RSV組み換え体が、MVA産生細胞での増殖中に、非改変MVA-BN-RSV組み換え体よりも高いウイルス収量をもたらすことが示された。さらに、マウス免疫実験において、組み換えMVA-BN-RSV内の導入遺伝子に結合したmiRNA標的配列が、in vivoでのRSV由来抗原の免疫原性を損なわないことも示された。
【0041】
定義
本明細書で使用される場合、単数形「a」、「an」及び「the」には、文脈で別段の明確な指示がない限り、複数の言及物が含まれることに留意しなければならない。したがって、例えば、「核酸配列(a nucleic acid))」には、1つ以上の核酸配列が含まれる。
【0042】
本明細書で使用される場合、複数の記述されている要素の間の「及び/または」という接続語は、個々の選択肢と組み合わせの選択肢の両方を包含すると理解される。例えば、2つの要素が「及び/または」により結ばれている場合、第1の選択肢は、第1の要素が第2の要素なしで適用可能であることを指す。第2の選択肢は、第2の要素が第1の要素なしで適用可能であることを指す。第3の選択肢は、第1及び第2の要素が一緒に適用可能であることを指す。これらの選択肢の任意の1つがこの意味に含まれ、よって本明細書で使用される「及び/または」という用語の要件を満たすものと理解される。選択肢のうちの2つ以上を同時に適用可能であることも、その意味の範囲内に入り、したがって、「及び/または」という用語の要件を満たすと理解される。
【0043】
本明細書及び添付の特許請求の範囲の全体を通じて、文脈上他の意味に解すべき場合を除き、「含む(comprise)」という語、ならびに「含む(comprises)」及び「含む(comprising)」のような変形は、記述されている、整数もしくは工程または整数群もしくは工程群の包含であって、他の任意の整数もしくは工程または整数群もしくは工程群の除外ではないことを示唆していることが理解される。本発明の説明中の態様または実施形態との関連において使用される場合、「含む(comprising)」という用語は修正可能であり、したがって、「含有する(containing)」もしくは「含む(including)」という用語で置き換えられるかまたは本明細書で使用される場合は「有する(having)」という用語で置き換えられ得る。同様に、前述の用語(含む(comprising)、含む(containing)、含む(including)、有する(having))はいずれも、本発明の説明における態様または実施形態の文脈で使用される場合は常に、「~からなる(consisting of)」または「~から本質的になる(consisting essentially of)」という用語を含み、これらは各々管轄に応じた特定の法的意味を示す。
【0044】
本明細書で使用される場合、「~からなる(consisting of)」は、請求項の要素内で特定されていない任意の要素、ステップ、または成分を除外する。本明細書で使用される場合、「~から本質的になる(consisting essentially of)」は、請求項の基本的な及び新規の特徴に実質的な影響を及ぼさない材料またはステップを除外しない。
【0045】
本明細書に記載されている「組み換えMVA」という用語は、野生型ウイルスには天然に存在しない、ゲノム内に挿入された外来核酸配列を含むMVAを指す。したがって、組み換えMVAとは、自然界には存在しない、または自然界には見られない配置で別の核酸に結合した、合成または半合成起源の核酸配列の2つ以上のセグメントを人工的に組み合わせることにより作製されたMVAを指す。人工的組み合わせは、最も一般的には、確立された遺伝子操作技術を用いて、単離された核酸セグメントを人工的に操作することにより達成される。概して、本明細書に記載されている「組み換えMVA」とは、標準的な遺伝子操作法により生成されたMVAを指し、したがって、例えば組み換えMVAは、遺伝子操作または遺伝子改変MVAである。したがって、「組み換えMVA」という用語は、少なくとも1つの組み換え核酸を、好ましくは転写単位の形態でそのゲノムに組み込んだMVA(例えば、MVA-BN(登録商標))を含む。組み換えMVAは、調節エレメント(例えば、プロモーター)の誘導により、異種抗原決定基、ポリペプチド、またはタンパク質(抗原)を発現することがある。
【0046】
本明細書で使用される場合、「異種」という用語は、MVAにとって本来ネイティブでない(または外来である)が、組み換え技術を用いて人工的にMVAに挿入された遺伝子または導入遺伝子またはDNA配列を指す。同様に、「異種miRblock」という表現は、それを含むMVAに対し異種であるmiRblockを指す。
【0047】
「miRNA」(「マイクロRNA」の省略形)という用語は、典型的には21~23ヌクレオチド(nt)長の小さな一本鎖非コードRNA分子を指す。miRNAは、mRNAに結合することにより、RNAサイレンシング及び遺伝子発現の転写後調節において機能する。
【0048】
miRNAの名称は主に、特定されたmiRNAの単純な連番に基づき、この連番の前に当該miRNAが特定された生物の略称が付される。本明細書で言及されるすべてのmiRNAは、CEF細胞またはニワトリ組織で特定されているため、それぞれのmiRNA名の前にgga(gallus gallus(ニワトリ)を表す)を付ける必要があり、例えば、(本明細書で使用する)「miR-17-5p」の正式名称はgga-miR-17-5pとなる。本明細書で提示する試験ではニワトリmiRNAのみを試験したため、読みやすさのため、すべてのmiRNA名前でggaを省略した。
【0049】
本明細書で使用される場合、「miRNA配列」という用語は、成熟miRNAのヌクレオチド配列を指す。
【0050】
「シード配列」という用語は、miRNAのヌクレオチド配列内にある、miRNAとmRNAとの間の結合に不可欠なセクションを指す。このセクションは7~8ヌクレオチド長であり、mRNA配列内の関連セクションに対し完全に相補的である。
【0051】
本明細書で使用される場合、「miRNA標的配列」とは、miRNAのヌクレオチド配列に対応する核酸配列を意味する。miRNAの配列とその対応標的配列との間のマッチング(すなわちヌクレオチド相補性)は100%適合またはそれ以下であり得る。
【0052】
本明細書で使用される場合、「対応する」または「~に対応する」という用語は、関連するヌクレオチド配列(例えば、miRNAの)に対する、ヌクレオチド配列(例えば、miRNA標的配列の)に関するものである。より正確には、あるmiRNAに対応するmiRNA標的配列は、当該miRNA配列の対応物または相補配列を表す。
【0053】
「相補的」という用語は、ヌクレオチドが二本鎖構造を形成するように互いにマッチする2個のヌクレオチド配列を指す。
【0054】
本明細書で使用される場合、「miRblock」という用語は、一連のmiRNA標的配列を指す。この文脈における「一連」とは、2つ、3つ、またはそれ以上の連続したまたは連鎖状のmiRNA標的配列を意味する。
【0055】
「ホモオリゴマー」miRblockは、一連の同一のmiRNA標的配列から構成される。
【0056】
ヘテロオリゴマー「miRblock」は、ヌクレオチド配列が異なる一連のmiRNA標的配列から構成される。通常は、miRblock内のすべてのmiRNA標的配列は互いに異なる。代替的に、2つ以上のmiRNA標的配列は互いに異なり、miRblock内の他の配列は同一である。
【0057】
導入遺伝子発現の文脈における「下方調節」または「下方制御」という用語は、導入遺伝子産物の量の低減または減少に関するものである。この低減または減少は、導入遺伝子mRNAの量の低減、または導入遺伝子mRNAの翻訳の低減から生じる。
【0058】
本明細書で使用される場合、「転写単位」は、導入遺伝子及びそれに作用可能に結合したプロモーター、ターミネーター、及び任意選択で一連のmiRNA標的配列を含む。
【0059】
本明細書で使用される場合、「作用可能に結合した」という用語は、第1の核酸配列(例えば、導入遺伝子)が第2の核酸配列(例えば、プロモーター)と機能的関係にあることを意味する。例えば、プロモーターがコード配列の転写を指示できる位置にある場合、プロモーターは導入遺伝子のコード配列に作用可能に結合している。
【0060】
略語
BFP:青色蛍光タンパク質
bp:塩基対(複数可)
CEF:ニワトリ胚線維芽細胞
CMV:サイトメガロウイルス
DF-1:ニワトリ連続線維芽細胞株の名称
EGFP:高感度緑色蛍光タンパク質
miRb:miRblock、すなわち一連のmiRNA標的配列
miRNA:マイクロRNA
MOI:感染多重度
MVA:改変ワクシニアウイルスアンカラ
MVA-BN:MVA-BN(登録商標)(Bavarian Nordic)
nt:ヌクレオチド
ORF:オープンリーディングフレーム
p.i.:感染後
RFP:赤色蛍光タンパク質
RSV:呼吸器合胞体ウイルス
TCID50:50%組織培養感染量
TTS:転写終結シグナル
【0061】
実施形態
1つの実施形態において、miRblock内のmiRNA標的配列のうちの少なくとも1個は、真核生物MVA産生細胞内での導入遺伝子の発現レベルの下方調節を媒介可能である。
【0062】
1つの実施形態において、miRblock内のmiRNA標的配列のうちの少なくとも1個は、miRNA標的配列が対応するmiRNAに結合すると、真核生物MVA産生細胞内での導入遺伝子の発現レベルの下方調節を媒介する。
【0063】
1つの実施形態において、導入遺伝子の発現レベルの下方調節は、miRNA標的配列に結合していない導入遺伝子と比較して、(例えば、細胞当たりの)導入遺伝子産物の量が少ないことを意味する。
【0064】
1つの実施形態において、導入遺伝子の発現レベルの下方調節とは、導入遺伝子のmRNAのレベルの低減または導入遺伝子のmRNAの翻訳の低減を意味する。
【0065】
1つの実施形態において、いかなるmiRNA標的配列にも結合していない導入遺伝子の発現レベルと比較した導入遺伝子の発現レベルの低減または減少は、約20、40、60、80、90、または99%である。
【0066】
1つの実施形態において、miRblock内の一連のmiRNA標的配列は、2、3、4、5、6、7、8個、またはそれ以上の一連のmiRNA標的配列、好ましくは3、4、5、6、または7個の一連のmiRNA標的配列、より好ましくは3または4個の一連の標的配列、最も好ましくは4個の一連の標的配列である。
【0067】
1つの実施形態において、miRblock内の一連のmiRNA標的配列は、2~10個、好ましくは2~8個の一連のmiRNA標的配列、より好ましくは3~7個の一連のmiRNA標的配列、さらに好ましくは2~5個の一連のmiRNA標的配列、最も好ましくは3~5個の一連のmiRNA標的配列である。
【0068】
1つの実施形態において、miRblockは、導入遺伝子のオープンリーディングフレーム(ORF)の3’-UTR領域に挿入される。
【0069】
1つの実施形態において、miRblockは、5’側の最初のmiRNA標的配列の5’側の最初のヌクレオチドが、約1~500ヌクレオチド、または約2~100ヌクレオチド、または約3~50ヌクレオチド、好ましくは5~25ヌクレオチド、より好ましくは約10~20ヌクレオチド、さらに好ましくは約13~17ヌクレオチド、最も好ましくは15ヌクレオチドのスペーサーヌクレオチド配列を介し導入遺伝子ORFの終止コドンと連結するように、導入遺伝子に結合する。代替的に、好ましさは劣るが、miRblockは、5’側の最初のmiRNA標的配列の5’側の最初のヌクレオチドが、導入遺伝子ORFの終止コドンに直接、すなわちスペーサーヌクレオチド配列なしで連結するように、導入遺伝子に結合する。
【0070】
1つの実施形態において、ポックスウイルスプロモーターに作用可能に結合した導入遺伝子は、導入遺伝子に結合したmiRblockと一緒に、組み換えMVAの遺伝子間領域(IGR)、好ましくは、IGR44/45、64/65、88/89、及び148/149からなる群より選択されるIGRに挿入される。
【0071】
1つの実施形態において、転写単位は組み換えMVAの遺伝子間領域(IGR)、好ましくは、IGR44/45、64/65、88/89、及び148/149からなる群より選択されるIGRに挿入される。
【0072】
miRNA標的配列に関する実施形態
1つの実施形態において、miRNA標的配列はmiRNAに対応し、その結果、miRNA標的配列はmiRNAとの結合または部分的結合が可能である。
【0073】
1つの実施形態において、miRNAに対応するmiRNA標的配列は、miRNAのヌクレオチド配列に対し部分的または完全に相補的である。
【0074】
1つの実施形態において、miRblock内の少なくとも1個のmiRNA標的配列は、約80~100%、好ましくは約90~100%、より好ましくは約95~100%、最も好ましくは約100%の配列類似性でmiRNA配列に対応する。最も好ましいのは、100%の配列同一性である。
【0075】
1つの実施形態において、miRblock内の少なくとも1個のmiRNA標的配列は、約80~100%、好ましくは約90~100%、より好ましくは約95~100%、最も好ましくは約100%の配列類似性でmiRNA配列に対応するシード配列外のヌクレオチド配列を含む。最も好ましいのは、100%の配列同一性である。
【0076】
1つの実施形態において、miRblock内の少なくとも1個のmiRNA標的配列は、miRNA配列に相補的であり、好ましくは約100%の配列類似性で相補的である。最も好ましいのは、100%の配列同一性である。
【0077】
1つの実施形態において、miRblock内の少なくとも1個のmiRNA標的配列は、配列番号1(miR-17-5pに対応)、配列番号2(miR-20a-5p)、配列番号3(miR-21-5p)、配列番号4(miR-221a-3p)、配列番号5(miR-18a-5p)、配列番号6(miR-19a-3p)、配列番号7(miR-199-3p)、配列番号8(miR-33-5p)、配列番号9(miR-218b-5p)に示されるヌクレオチド配列からなる群より選択される。
【0078】
1つの実施形態において、miRblock内の少なくとも1個のmiRNA標的配列は、配列番号1(miR-17-5pに対応)、配列番号2(miR-20a-5p)、配列番号3(miR-21-5p)、配列番号4(miR-221a-3p)、配列番号6(miR-19a-3p)、及び配列番号7(miR-199-3p)に示されるヌクレオチド配列からなる群より選択される。
【0079】
miRblockに関する実施形態
1つの実施形態において、miRblock内の一連のmiRNA標的配列は、約200bp未満、好ましくは約150bp未満、より好ましくは約90~100bpを含む、またはそれからなる。
【0080】
1つの実施形態において、miRblock内のmiRNA標的配列は、ヘテロまたはホモオリゴマーmiRblock、好ましくはヘテロオリゴマーmiRblock内に配置されている。
【0081】
1つの実施形態において、ヘテロオリゴマーmiRblock内のすべてのmiRNA標的配列は互いに異なる。別の実施形態において、ヘテロオリゴマーmiRblock内の少なくとも2つまたはほとんどのmiRNA標的配列は互いに異なる。詳細には、miRNA標的配列は、そのヌクレオチド配列が異なる。
【0082】
1つの実施形態において、3または4個、好ましくは4個のmiRNA標的配列がヘテロオリゴマーmiRblock内に配置されている。好ましくは、ヘテロオリゴマーmiRblock内の3または4個、好ましくは4個のmiRNA標的配列はすべて互いに異なる。詳細には、miRNA標的配列は、そのヌクレオチド配列が異なる。
【0083】
1つの実施形態において、miRblock内の各miRNA標的配列からの2個のmiRNA標的配列は、約1~10ヌクレオチド、好ましくは約2~8ヌクレオチド、より好ましくは約3~6ヌクレオチド、最も好ましくは4ヌクレオチドのスペーサーヌクレオチド配列によって区切られている。代替的に、好ましさは劣るが、miRblock内のmiRNA標的配列は、スペーサーヌクレオチド配列によって区切られていない。
【0084】
1つの実施形態において、miRblockの後にはポックスウイルス転写終結シグナル(TTS)が続く。
【0085】
1つの実施形態において、ヘテロオリゴマーmiRblock内のmiRNA標的配列は、配列番号1(miR-17-5pに対応)、配列番号2(miR-20a-5p)、配列番号3(miR-21-5p)、配列番号4(miR-221a-3p)、配列番号5(miR-18a-5p)、配列番号6(miR-19a-3p)、配列番号7(miR-199-3p)、配列番号8(miR-33-5p)、配列番号9(miR-218b-5p)に示されるヌクレオチド配列からなる群より選択される。
【0086】
1つの実施形態において、ヘテロオリゴマーmiRblock内のmiRNA標的配列は、配列番号1(miR-17-5pに対応)、配列番号2(miR-20a-5p)、配列番号3(miR-21-5p)、配列番号4(miR-221a-3p)、配列番号6(miR-19a-3p)、及び配列番号7(miR-199-3p)に示されるヌクレオチド配列からなる群より選択される。
【0087】
1つの実施形態において、miRblockは、配列番号1(miRblock-1のmiR-17-5pに対応)に示されるヌクレオチド配列を含む。
【0088】
1つの実施形態において、miRblockは、配列番号2(miRblock-2のmiR-20a-5pに対応)、配列番号3(miRblock-2のmiR-21-5p)、及び配列番号4(miRblock-2のmiR-221a-3p)に示されるヌクレオチド配列を含む。
【0089】
1つの実施形態において、miRblockは、配列番号1(miRblock-37のmiR-17-5pに対応)、配列番号2(miRblock-37のmiR-20a-5p)、配列番号3(miRblock-37のmiR-21-5p)、及び配列番号6(miRblock-37のmiR-19a-3p)に示されるヌクレオチド配列を含む。
【0090】
1つの実施形態において、miRblockは、配列番号1(miRblock-38のmiR-17-5pに対応)、配列番号3(miRblock-38のmiR-21-5p)、配列番号5(miRblock-38のmiR-18a-5p)、及び配列番号6(miRblock-38のmiR-19a-3p)に示されるヌクレオチド配列を含む。
【0091】
1つの実施形態において、miRblockは、配列番号1(miRblock-39のmiR-17-5pに対応)、配列番号5(miRblock-39のmiR-18a-5p)、配列番号6(miRblock-39のmiR-19a-3p)、及び配列番号7(miRblock-39のmiR-199-3p)に示されるヌクレオチド配列を含む。
【0092】
1つの実施形態において、miRblockは、配列番号1(miRblock-41のmiR-17-5pに対応)、配列番号4(miRblock-41のmiR-221a-5p)、配列番号8(miRblock-41のmiR-33-5p)、及び配列番号9(miRblock-41のmiR-218b-5p)に示されるヌクレオチド配列を含む。
【0093】
1つの実施形態において、miRblockは、配列番号48(miRblock-1に対応)、配列番号49(miRblock-2)、配列番号55(miRblock-scrbl-2)、配列番号51(miRblock-37)、配列番号52(miRblock-38)、配列番号53(miRblock-39)、及び配列番号54(miRblock-41)に示されるヌクレオチド配列からなる群より選択されるヌクレオチド配列を含む、またはそれからなる。
【0094】
1つの実施形態において、miRblockは、配列番号48(miRblock-1に対応)、配列番号49(miRblock-2)、配列番号53(miRblock-39)、及び配列番号54(miRblock-41)に示されるヌクレオチド配列からなる群より選択されるヌクレオチド配列を含む、またはそれからなる。
【0095】
1つの実施形態において、miRblockは、配列番号53(miRblock-39に対応)、及び配列番号54(miRblock-41)に示されるヌクレオチド配列からなる群より選択されるヌクレオチド配列を含む、またはそれからなる。
【0096】
1つの実施形態において、miRblockは、配列番号54(miRblock-41に対応)に示されるヌクレオチド配列を含む、またはそれからなる。
【0097】
プロモーターに関する実施形態
1つの実施形態において、プロモーターは、初期/後期プロモーターまたは初期プロモーターであり、好ましくは最初期プロモーターである。
【0098】
1つの実施形態において、初期/後期プロモーターは、PrS、Pr7.5、及びPrH5mプロモーターからなる群より選択される。
【0099】
1つの実施形態において、最初期プロモーターは、Pr13.5long、Pr1328、PrLE1(pHyb)プロモーターからなる群より選択される。
【0100】
好ましい実施形態において、プロモーターはPr13.5longプロモーターである。
【0101】
導入遺伝子に関する実施形態
1つの実施形態において、導入遺伝子は、タンパク質またはペプチド、好ましくは1つ以上の抗原決定基を含むタンパク質またはペプチド、より好ましくはタンパク質性またはペプチド性抗原をコードする。
【0102】
1つの実施形態において、導入遺伝子は、ウイルス、細菌、真菌、植物、寄生虫、非ヒト動物、及びヒト抗原からなる群より選択される抗原、またはその抗原部分をコードする。
【0103】
1つの実施形態において、導入遺伝子は、ウイルス抗原またはその一部をコードする。
【0104】
1つの実施形態において、ウイルス抗原は、アルファウイルス、アデノウイルス、コクサッキーウイルス、クリミアコンゴ出血熱ウイルス、サイトメガロウイルス(CMV)、デングウイルス、エボラウイルス、エプスタイン-バーウイルス(EBV)、東部、西部、またはベネズエラウマ脳炎ウイルス(EEV)、グアナリートウイルス、単純ヘルペスウイルス1型(HSV-1)、単純ヘルペスウイルス2型(HSV-2)、ヒトヘルペスウイルス8型(HHV-8)、A型肝炎ウイルス(HAV)、B型肝炎ウイルス(HBV)、C型肝炎ウイルス(HCV)、D型肝炎ウイルス(HDV)、E型肝炎ウイルス(HEV)、ヒト免疫不全ウイルス(HIV)、インフルエンザウイルス、フニンウイルス、ラッサウイルス、マチュポウイルス、マールブルグウイルス、麻疹ウイルス、ヒトメタニューモウイルス、ムンプスウイルス、ノーウォークウイルス、ヒトパピローマウイルス(HPV)、パラインフルエンザウイルス、パルボウイルス、ポリオウイルス、狂犬病ウイルス、呼吸器合胞体ウイルス(RSV)、ライノウイルス、ロタウイルス、風疹ウイルス、サビアウイルス、重症急性呼吸器症候群ウイルス2(SARS-CoV-2)、中東呼吸器症候群コロナウイルス(MERS-CoV)、水痘帯状疱疹ウイルス、痘瘡ウイルス、西ナイルウイルス、及び黄熱ウイルスからなる群より選択されるウイルスに由来する。
【0105】
1つの実施形態において、ウイルス抗原はRSVに由来する。
【0106】
1つの実施形態において、導入遺伝子は、RSVに由来するタンパク質、またはその抗原部分、好ましくは、RSV G(A)、G(B)、F、N、及びM2-1タンパク質、ならびにN/M2-1融合タンパク質からなる群より選択されるものをコードする。
【0107】
1つの実施形態において、ウイルス抗原は、東部、西部、またはベネズエラEEVに由来する。
【0108】
1つの実施形態において、導入遺伝子は、東部、西部、もしくはベネズエラEEV、またはその抗原部分に由来するタンパク質、好ましくは、エンベロープポリタンパク質E3、E2、6k、及びE1からなる群より選択されるタンパク質をコードする。
【0109】
1つの実施形態において、ウイルス抗原はエプスタイン-バーウイルスに由来する。
【0110】
1つの実施形態において、導入遺伝子は、腫瘍特異的抗原(TSA)もしくは腫瘍関連抗原(TAA)、またはその抗原部分をコードする。
【0111】
miRNAに関する実施形態
1つの実施形態において、真核生物MVA産生細胞内のmiRNAは、真核生物MVA産生細胞内に存在する、検出可能である、または発現している。
【0112】
1つの実施形態において、miRNAは、真核生物MVA産生細胞に対し内在性である。
【0113】
1つの実施形態において、miRNAは、トランスジェニック細胞株において異種ヌクレオチド配列によりコードされ、好ましくは発現する。
【0114】
好ましい実施形態において、miRNAは、骨格筋細胞及び血液細胞(例えば、白血球)内で発現しない、または低い程度もしくは中程度にしか発現しない。
【0115】
真核生物MVA産生細胞に関する実施形態
1つの実施形態において、真核生物MVA産生細胞は鳥類(例えば、ニワトリ)細胞であり、好ましくは、鳥類初代細胞または鳥類永久細胞株の細胞である。
【0116】
1つの実施形態において、真核生物MVA産生細胞、好ましくは鳥類初代細胞はニワトリ胚線維芽細胞(CEF)である。
【0117】
1つの実施形態において、真核生物MVA産生細胞、好ましくは鳥類永久細胞株の細胞はDF-1またはウズラ細胞である。
【0118】
MVAに関する実施形態
1つの実施形態において、組み換えMVAは、ニワトリ胚線維芽細胞(CEF) においてin vitroで生殖的複製能力を有し、ただしヒトケラチノサイト細胞株HaCaT、ヒト骨骨肉腫細胞株143B、ヒト胚腎細胞株293、及びヒト子宮頸部腺癌細胞株HeLaにおいて生殖的複製能力を有しない、MVAまたはMVA誘導体に由来する。
【0119】
1つの実施形態において、組み換えMVAは、2000年8月30日にEuropean Collection of Animal Cell cultures(ECACC)にアクセッション番号V00083008として寄託されたMVA-BN(登録商標)に由来する。
【0120】
いくつかの導入遺伝子を有する組み換えMVAに関する実施形態
1つの実施形態において、組み換えMVAは複数の、例えば、2つ、3つ、4つ、5つ、またはさらにそれ以上の導入遺伝子または転写単位を含む。
【0121】
1つの実施形態において、組み換えMVAは、第1、第2、及び第3の、または第1~第4の、または第1~第5の、または第1~第6の、またはそれ以上の転写単位を含む。
【0122】
好ましい実施形態において、組み換えMVAは4つまたは第1~第4の転写単位を含む。
【0123】
2つ超の導入遺伝子を含む組み換えMVAの1つの実施形態において、各導入遺伝子は異なり、好ましくは、各転写単位は異なる導入遺伝子を含む。
【0124】
1つの実施形態において、組み換えMVAは、miRNA標的配列を含まない1つ以上の転写単位をさらに含み、好ましくは、ポックスウイルスプロモーターに作用可能に結合した導入遺伝子を含むヌクレオチド配列を含み、導入遺伝子に結合したmiRNA標的配列を含まない、1つ以上の転写単位を含む。
【0125】
RSV由来タンパク質をコードする導入遺伝子を有する組み換えMVAに関する実施形態
1つの実施形態において、組み換えMVAは、ポックスウイルスプロモーターに作用可能に結合した導入遺伝子を含むヌクレオチド配列を含む転写単位を含み、このヌクレオチド配列は、導入遺伝子に結合したmiRblock内に配置された一連のmiRNA標的配列をさらに含み、各miRNA標的配列は、真核生物MVA産生細胞内で発現するmiRNAに対応するか、またはそれに相補的であり、
(a)導入遺伝子はRSV G(A)タンパク質をコードし、好ましくは、ポックスウイルスプロモーターはPr7.5プロモーターであり、
(b)導入遺伝子はRSV G(B)タンパク質をコードし、好ましくは、ポックスウイルスプロモーターはPrSプロモーターであり、
(c)導入遺伝子はRSV Fタンパク質をコードし、好ましくは、ポックスウイルスプロモーターはPrH5mプロモーターであり、及び/または
(d)導入遺伝子はRSV N/M2-1融合タンパク質をコードし、好ましくは、ポックスウイルスプロモーターはPrLE1プロモーターである。
【0126】
1つの実施形態において、組み換えMVAは、ポックスウイルスプロモーターに作用可能に結合した導入遺伝子を含むヌクレオチド配列を含む転写単位を含み、このヌクレオチド配列は、導入遺伝子に結合したmiRblock内に配置された一連のmiRNA標的配列をさらに含み、各miRNA標的配列は、真核生物MVA産生細胞内で発現するmiRNAに対応するか、またはそれに相補的であり、導入遺伝子はRSV N/M2-1融合タンパク質をコードし、ポックスウイルスプロモーターはPrLE1プロモーターである。
【0127】
1つの実施形態において、組み換えMVAは、第1~第3の転写単位内にRSV由来タンパク質をコードする導入遺伝子を含み、各転写単位は、ポックスウイルスプロモーターに作用可能に結合した導入遺伝子を含むヌクレオチド配列を含み、このヌクレオチド配列は、導入遺伝子に結合したmiRblock内に配置された一連のmiRNA標的配列をさらに含み、各miRNA標的配列は、真核生物MVA産生細胞内のmiRNA配列に対応するか、またはそれに相補的であり、
(aa)第1の転写単位内の導入遺伝子はRSV G(A)タンパク質をコードし、
(bb)第2の転写単位内の導入遺伝子はRSV G(B)タンパク質をコードし、
(cc)第3の転写単位内の導入遺伝子はRSV Fタンパク質をコードする。
【0128】
組み換えMVAが第1~第3の転写単位内にRSV由来タンパク質をコードする導入遺伝子を含む1つの実施形態において、
(aa’)RSV G(A)タンパク質をコードする導入遺伝子に結合したmiRblockは、配列番号49(miRblock-2に対応)に示されるヌクレオチド配列を含む、またはそれからなり、
(bb’)RSV G(B)タンパク質をコードする導入遺伝子に結合したmiRblockは、配列番号48(miRblock-1)に示されるヌクレオチド配列を含む、またはそれからなり、
(cc’)RSV Fタンパク質をコードする導入遺伝子に結合したmiRblockは、配列番号48(miRblock-1)に示されるヌクレオチド配列を含む、またはそれからなる。
【0129】
好ましい実施形態である1つの実施形態において、組み換えMVAは、第1~第4の転写単位内にRSV由来タンパク質をコードする導入遺伝子を含み、各転写単位は、ポックスウイルスプロモーターに作用可能に結合した導入遺伝子を含むヌクレオチド配列を含み、このヌクレオチド配列は、導入遺伝子に結合したmiRblock内に配置された一連のmiRNA標的配列をさらに含み、各miRNA標的配列は、真核生物MVA産生細胞内のmiRNA配列に対応するか、またはそれに相補的であり、
(aaa)第1の転写単位内の導入遺伝子はRSV G(A)タンパク質をコードし、
(bbb)第2の転写単位内の導入遺伝子はRSV G(B)タンパク質をコードし、
(ccc)第3の転写単位内の導入遺伝子はRSV Fタンパク質をコードし、
(ddd)第4の転写単位内の導入遺伝子はRSV-N/M2-1タンパク質をコードする。
【0130】
組み換えMVAが第1~第4の転写単位内にRSV由来タンパク質をコードする導入遺伝子を含む1つの実施形態において、
(aaa’)RSV G(A)タンパク質をコードする導入遺伝子に結合したmiRblockは、配列番号54(miRblock-41に対応)に示されるヌクレオチド配列を含む、またはそれからなり、
(bbb’)RSV G(B)タンパク質をコードする導入遺伝子に結合したmiRblockは、配列番号53(miRblock-39)に示されるヌクレオチド配列を含む、またはそれからなり、
(ccc’)RSV Fタンパク質をコードする導入遺伝子に結合したmiRblockは、配列番号53(miRblock-39)に示されるヌクレオチド配列を含む、またはそれからなり、
(ddd’)RSV-N/M2-1タンパク質をコードする導入遺伝子に結合したmiRblockは、配列番号54(miRblock-41)に示されるヌクレオチド配列を含む、またはそれからなる。
【0131】
1つの実施形態において、
(w)導入遺伝子はRSV G(A)タンパク質をコードし、ポックスウイルスプロモーターはPr7.5プロモーターであり、
(x)導入遺伝子はRSV G(B)タンパク質をコードし、ポックスウイルスプロモーターはPrSプロモーターであり、
(y)導入遺伝子はRSV Fタンパク質をコードし、ポックスウイルスプロモーターはPrH5mプロモーターであり、及び/または
(z)導入遺伝子はRSV N/M2-1融合タンパク質をコードし、ポックスウイルスプロモーターはPrLE1プロモーターである。
【0132】
1つの実施形態において、組み換えMVAは、ポックスウイルスプロモーターに作用可能に結合した導入遺伝子を含むヌクレオチド配列を含む転写単位を含み、このヌクレオチド配列は、導入遺伝子に結合したmiRblock内に配置された一連のmiRNA標的配列をさらに含み、各miRNA標的配列は、真核生物MVA産生細胞内のmiRNA配列に対応するか、またはそれに相補的であり、導入遺伝子はRSV N/M2-1融合タンパク質をコードし、ポックスウイルスプロモーターはPrLE1プロモーターであり、miRblockは、配列番号54(miRblock-41)に示されるヌクレオチド配列を含む、またはそれからなる。
【0133】
医療使用または治療に関する実施形態
1つの実施形態において、医薬品またはワクチンとして使用するための、好ましくは疾患の治療または予防に使用するための、より好ましくは感染性疾患またはがんの治療または予防に使用するための組み換えMVAは、対象に使用するためのものである。
【0134】
1つの実施形態において、対象は鳥類ではなく、好ましくはヒトまたは非ヒト哺乳類である。
【0135】
1つの実施形態において、感染性疾患は、RSV感染症、または東部、西部、もしくはベネズエラウマ脳炎ウイルス(EEV)の感染症、またはエプスタイン-バーウイルスの感染症であり、好ましくはRSV感染症である。
【0136】
1つの実施形態において、組み換えMVAは筋肉内または皮下投与され、好ましくは筋肉内投与される。
【0137】
さらなる実施形態
1つの実施形態において、組み換えMVAは、約30℃~37℃の温度、好ましくは約30℃、31℃、32℃、33℃、34℃、35℃、36℃、及び37℃からなる群より選択される温度、最も好ましくは約30℃または37℃の温度で、真核生物産生細胞において増殖される。
【0138】
1つの実施形態において、組み換えMVAは、DF-1細胞内で約30℃または37℃の温度で、真核生物産生細胞内で増殖される。
【0139】
1つの実施形態において、組み換えMVAは、感染多重度(MOI)=0.001~5、好ましくはMOI=0.001、0.05、0.01、0.05、0.1、0.2、1、2、または5で組み換えMVAを感染させた後、真核生物産生細胞培養物中で増殖される。
【0140】
1つの実施形態において、組み換えMVAは、多サイクル複製設定において真核生物産生細胞培養物中で増殖される。
【0141】
さらなる詳細
改変ワクシニアウイルスアンカラ(MVA)
過去において、MVAは、ニワトリ胚線維芽細胞で、ワクシニアウイルスのアンカラ株(CVA)を516代連続継代することによって作製された(概説については、Mayr et al.1975)。このウイルスは、その実質的に変化した特性を考慮して、継代570代目でCVAからMVAに改名された。MVAは570代目までさらなる継代を受けた。これらの長期継代の結果、得られたMVAウイルスのゲノムは、その約31キロベースのゲノム配列が欠失しており、そのため、トリ細胞での複製に関して、宿主細胞が非常に限られているものとして説明された(Meyer et al.1991)。この得られたMVAが、完全に複製能のある出発材料と比較して大いに非病原性であることが様々な動物モデルにおいて示された(Mayr and Danner 1978)。
【0142】
本発明の実施において有用なMVAとしては、MVA-572(1994年1月27日にECACC V94012707として寄託)、MVA-575(2000年12月7日にECACC V00120707として寄託)、MVA-I721(Suter et al.2009に参照されている)、NIHクローン1(2003年3月27日にATCC(登録商標)PTA-5095として寄託)、及びMVA-BN(2000年8月30日に、European Collection of Cell Cultures(ECACC)に番号V00083008として寄託)が挙げられる。
【0143】
より好ましくは、本発明に従って使用されるMVAとしては、MVA-BN及びMVA-BN誘導体が挙げられる。MVA-BNは、WO02/042480に記載されている。「MVA-BN誘導体」とは、本明細書に記載のようなMVA-BNと本質的に同じ複製特性を示すが、それらのゲノムの1つ以上の部分に差異を示す任意のウイルスを指す。
【0144】
MVA-BN及びMVA-BN誘導体は複製不能であり、すなわちin vivo及びin vitroで生殖的に複製することができない。より具体的には、in vitroのMVA-BNまたはMVA-BN誘導体は、ニワトリ胚線維芽細胞(CEF)では生殖的複製が可能であると説明されているが、ヒトケラチノサイト細胞株HaCaT(Boukamp et al 1988)、ヒト骨骨肉腫細胞株143B(ECACC寄託番号91112502)、ヒト胚腎細胞株293(ECACC寄託番号85120602)、及びヒト子宮頸部腺癌細胞株HeLa(ATACC寄託番号CCL-2)では生殖複製が不可能であると説明されている。さらに、MVA-BNまたはMVA-BN誘導体は、Hela細胞及びHaCaT細胞株においてMVA-575よりも少なくとも2倍、より好ましくは3倍低いウイルス増幅比率を有する。MVA-BN及びMVA-BN誘導体のこれらの特性に関する試験及びアッセイは、WO02/42480及びWO03/048184に記載されている。
【0145】
上記のようにin vitroのヒト細胞株における「生殖的複製が不可能」という用語は、例えばWO02/42480で説明されており、当該文献はまた、上記のような所望の特性を有するMVAを得る方法についても教示している。この用語は、WO02/42480またはUS6,761,893に記載されているアッセイを用いて感染から4日後にin vitroでのウイルス増幅率が1未満であるウイルスに適用される。
【0146】
組み換えMVAウイルスの例示的作製
本明細書で開示されている組み換えMVAの作製には、異なる方法を適用してよい。ウイルスに挿入されるDNA配列は、ポックスウイルスのDNAのセクションに相同なDNAが挿入されているE.coliプラスミドコンストラクトに配置することができる。別途、挿入するDNA配列をプロモーターにライゲーションしてもよい。プロモーター-遺伝子結合は、非必須座位を含むポックスウイルスDNAの領域に隣接するDNA配列と相同なDNA配列が両端に隣接するように、プラスミドコンストラクト内に配置することができる。得られたプラスミドコンストラクトは、E.coli菌内での増殖により増幅させ、単離することができる。挿入されるDNA遺伝子配列を含む単離プラスミドは、細胞培養物、例えば、ニワトリ胚線維芽細胞(CEF)の細胞培養物にトランスフェクションすることができ、同時に培養物をMVAに感染させる。プラスミド及びウイルスゲノムのそれぞれにおいて相同なMVAウイルスDNA間の組み換えを行うことで、外来(異種)DNA配列の存在により改変されたMVAを作製することができる。
【0147】
例えばCEF細胞のような好適な細胞培養物の細胞に、MVAウイルスを感染させることができる。続いて感染細胞に、外来または異種遺伝子(単数または複数)(例えば、本明細書で提供される核酸のうちの1つ以上)を含む第1のプラスミドベクターを、好ましくはポックスウイルス発現制御エレメントの転写制御下で、トランスフェクションすることができる。上記で説明されているように、プラスミドベクターは、MVAウイルスゲノムの選択された部分への外来配列の挿入を誘導する能力がある配列も含む。任意選択で、プラスミドベクターは、ポックスウイルスプロモーターに作用可能に結合したマーカー遺伝子及び/または選択遺伝子を含むカセットも含む。選択カセットまたはマーカーカセットの使用により、作製された組み換えMVAの特定及び単離が簡略になる。ただし、組み換えポックスウイルスは、PCR技術によっても同定することができる。その後、さらなる細胞に、上記のようにして得られた組み換えMVAを感染させ、それに第2の外来または異種の遺伝子(複数可)を含む第2のベクターをトランスフェクションすることができる。念のため、この遺伝子は、ポックスウイルスゲノムの異なる挿入部位に導入されるべきであり、第2のベクターにおいても、ポックスウイルスのゲノムへの第2の外来遺伝子(複数可)の組み込みを誘導する、ポックスウイルスと相同な配列が異なる。相同組み換えが発生した後に、2つ以上の外来または異種遺伝子を含む組み換えウイルスを単離することができる。追加の外来遺伝子を組み換えウイルスに導入する場合、前の感染工程で単離された組み換えウイルスを用いることによって、かつトランスフェクション用のさらなる外来遺伝子(複数可)を含むさらなるベクターを用いることによって、感染及びトランスフェクションの工程を繰り返すことができる。組み換えMVAを作製するために知られている他の技術が多数ある。
【0148】
本発明の実施では、特に明記しない限り、免疫学、分子生物学、微生物学、細胞生物学、及び組み換え技術の従来技術が用いられ、それらはいずれも当業者の技量の範囲内である。例えば、Sambrook,Fritsch and Maniatis,Molecular Cloning:A Laboratory Manual,2nd edition,1989、Current Protocols in Molecular Biology,Ausubel FM,et al.,eds,1987、Methods in Enzymology(Academic Press,Inc.)シリーズ、PCR2:A Practical Approach,MacPherson MJ,Hams BD,Taylor GR,eds,1995、Antibodies:A Laboratory Manual,Harlow and Lane,eds,1988を参照のこと。
【実施例
【0149】
以下の実施例は、本開示をさらに説明する役割を果たす。実施例を本発明を限定するものとして理解してはならない。本発明の範囲は、添付の特許請求の範囲により定められる。
【0150】
実施例1:材料及び方法
1.1 細胞及びウイルス
ニワトリ線維芽細胞株DF-1をATCCから入手した。11日齢のニワトリ発育卵から初代CEF細胞を調製した。CEF細胞を、トランスフェクション及びウイルスストック生産用にはVP-SFM培地(ThermoFisher Scientific)(1%ゲンタマイシン及び4mM L-グルタミンを追加)中で、複製解析及びウイルス滴定用にはDMEM(10% FCSを追加)中で培養した。この試験で使用したMVAは、MVA-BN(登録商標)(Bavarian Nordic;本明細書では「MVA-BN」と称する)から構築したバクテリア人工染色体(BAC)クローンに由来し、過去に説明されているものである(35)(WO02/42480)。MVA-BN野生型及びMVA-BN組み換え体をCEFまたはDF-1細胞内で増殖させ、TCID50法を用いてCEF細胞において滴定した。MVA-BAC再活性化用のショープ線維腫ウイルスをATCC(VR-364)から入手し、ウサギ角膜SIRC細胞において増殖させ滴定した。
【0151】
1.2 BAC組み換え操作及び感染性組み換えMVAの再活性化
MVA-BACの構築については、過去に説明されている(35)。簡潔に説明すると、挿入されるBACカセットは、E.coli内で維持するためのプラスミドpMBO131(36)に由来するminiFプラスミド配列を含む。BACカセットを、VACV-Copenhagen遺伝子I3L及びI4LのMVAオルソログ(MVA064L/MVA065L)間に挿入した。元来含まれているネオマイシン-ホスホトランスフェラーゼ(npt)II-IRES-EGFPマーカーカセットを細菌テトラサイクリン発現カセットに置き換えて、BACバックボーンから高感度緑色蛍光タンパク質(EGFP)遺伝子を除去し、miRNA標的配列に結合したEGFP導入遺伝子の挿入及び解析ができるようにした。MVA-BACを、説明されている通りに、対抗選択可能rpsL/neoカセットを用いたアレル交換変異誘発により改変した(35)。EGFP遺伝子をPrS-gpt-RFPカセット(図4を参照)と一緒に、合成ポックスウイルス初期/後期プロモーターPrSの制御下で、VACV Copenhagen命名法における遺伝子MVA044L/MVA045L(F14L及びF15L)間の遺伝子間領域(IGR)に挿入した(23)。それぞれのmiRNAにおける標的配列(表1及び表2に収載)、またはmiRblock-scrbl2(miRblock-2のスクランブルバージョンを有する対照miRblock)(表3を参照)を、EGFP遺伝子の3’-UTRの終止コドンに続いて直接挿入した。miRblock-13(miRblockについては表5及び表6を参照)から開始して、EGFP ORFの終止コドンと5’近位miRNA標的配列の最初のヌクレオチドとの間に15ヌクレオチドのスペーサーを挿入した。初期遺伝子のポックスウイルス転写終結配列を、miRNA標的配列の下流に挿入した。miRblockを含まない基準組み換えMVA-EGFPのEGFP遺伝子の3’-UTRには、初期の転写終結配列(TTS)のみを挿入した(「EGFP発現基準」)。MVA-BACからの感染性ウイルスを再活性化するため、10個のBHK-21細胞に、FuGENE(登録商標)HDトランスフェクション試薬(Promega)を用いて3μgのBAC DNAをトランスフェクションし、60分後にショープ線維腫ウイルスを感染させて必要なヘルパー機能を提供した。再活性化したウイルスをCEF細胞内でさらに継代培養することにより単離し、ヘルパーウイルスを過去に説明されている通りに除去した(35)。
【0152】
(PrSプロモーターの制御下の)miRblock-17及び-18を含む組み換えMVA、ならびにPr13.5long最初期プロモーターの制御下のEGFP-miRblock-2及びEGFP-scrbl2を発現する組み換え体を、CEF細胞内での標準的な相同組み換えにより、IGR MVA044L/MVA045Lへの導入遺伝子を標的とする隣接相同性領域を有するトランスファープラスミドを用いて、上述のBAC由来組み換えMVAと同様に作製した。得られた組み換え体を、CEF細胞でプラーク精製を3ラウンド行うことにより精製した。
【0153】
すべての組み換えMVAウイルスストックをDF-1細胞において生成し、説明されている通りにTCID50法を用いてCEF細胞において滴定した(3)。マウス実験用の組み換えMVAをCEF細胞上で増殖させ、スクロースクッション遠心分離を2回連続行って精製し、TCID50滴定法を用いてCEF細胞上で滴定した。
【0154】
1.3 miRNA標的EGFP発現解析のためのプラスミド設計及びクローニング
EGFPの3’-UTRに挿入する様々なmiRNA標的配列またはmiRblockは、フォワードプライマーと一緒にEGFP遺伝子の増幅のためのリバースPCRプライマーとして機能するオリゴヌクレオチドプライマーとして配列した。ORFの3’末端にmiRNA標的配列を含み、両端にクローニング用の制限部位を含む完全なEGFP ORFを有するDNA断片をPCRにより増幅し、哺乳類発現ベクターpEGFP-C1にクローニングした。このベクターから、鳥類細胞と同様にすべての哺乳類細胞内で活性のヒトCMVプロモーターの制御下で様々なEGFP遺伝子を発現させた。様々なmiRblockで試験したmiRNA標的配列を表1及び2に収載する。
【0155】
1.4 トランスフェクションアッセイ
0日目に、新たに調製したVP-SFM培地中のCEF細胞(4×10細胞/ウェル)及びDMEM/10% FCS中のDF-1細胞(3×10細胞/ウェル)を96ウェルプレートに播種した。細胞に対し、1日目に三重反復で、FuGENE(登録商標)HDトランスフェクション試薬(Promega)をメーカーの指示に従って用いたトランスフェクションを、96ウェル当たり0.3μlのトランスフェクション試薬及び0.1μgのプラスミドDNA(ヒトCMVプロモーターにより駆動するEGFPまたはBFPを発現するプラスミドを1:2の比率で含む)を含む5μlのトランスフェクションミックスを用いて行った。miRblockを含まないEGFPをコードするプラスミドによるトランスフェクションをEGFP発現基準とし、スクランブルmiRblock-2を含むEGFPをコードするプラスミドを対照とした。続いて、細胞を37℃で、示された時間期間の間インキュベートした。トランスフェクション後1日目に、細胞をトリプシン処理し、洗浄し、PBS-FACS-FORM(1% FCS、0.1% NaN、1% PFA)に再懸濁し、次いでフローサイトメトリーによりEGFP及びBFPの発現を解析した。
【0156】
1.5 蛍光マーカー発現解析のためのフローサイトメトリー
細胞培養単層をPBSで洗浄し、トリプシン処理により細胞を採取して、単一細胞懸濁液を調製した。EGFP、赤色蛍光タンパク質(RFP)、及び青色蛍光タンパク質(BFP)の発現解析を行うため、細胞をPBS-FACS(2% FCS、0.1%NaN)に再懸濁し、LSR IIフローサイトメーター(BD Biosciences)及びFlowJoソフトウェア(Tree Star Inc.)を用いたフローサイトメトリーにより直接解析した。
【0157】
1.6 ウイルス複製解析
多サイクルウイルス複製の解析を行うため、6ウェル細胞培養プレートのコンフルエントな単層を、500μlのFCSなしのDMEM中の示された感染多重度(MOI)における超音波処理ウイルス希釈液により感染させた。37℃及び5% COで60分間吸着させた後、接種物を吸引し、細胞をDMEMで1回洗浄し、DMEM/2% FCS中、37℃及び5% COでさらにインキュベートした。細胞及び上清を示された時点で採取し、3回凍結融解し、超音波処理してから滴定した。CEF細胞におけるMVAの収量を、説明されている通りにTCID50滴定法を用いて測定した(3)。
【0158】
1.7 組み換えMVAによるRSVタンパク質発現のイムノブロット解析
細胞を、感染の前日に12ウェル組織培養プレートに播種した。過去に説明されている通り(37)に感染を実施した。感染後の示された時間に、細胞を低温リン酸緩衝食塩水(PBS)で洗浄し、200μlの1X Laemmliローディングバッファー(65mMトリス-HCl[pH6.8]、10%グリセロール、2% SDS、0.1%ブロモフェノールブルー、ベータ-メルカプトエタノール[35μl/ml])中で室温で5分間溶解し、次に3分間超音波処理を行い、続いて95℃で5分間加熱した。ライセートを18,000xgで1分間遠心分離して、細胞デブリを除去した。細胞ライセート中の可溶性タンパク質をプレキャストSDS-ポリアクリルアミドゲル(MiniProtean TGX、10%;Bio-Rad)で分離し、Trans-Blot Turbo blotting system(Bio-Rad)及びTrans-Blot Turbo transfer pack(Bio-Rad)を用いてポリフッ化ビニリデン(PVDF)膜に移した。0.1% Tween-20及び0.1% NaNを含むトリス緩衝食塩水(TBS;50mMトリス、150mM NaCl、pH 7.5)中で5%ウシ血清アルブミン(BSA;Carl Roth)を用いて膜をブロックし、以下に挙げる初代抗体(ブロッキングバッファーで希釈)とともに、4℃で一晩振とうしながらインキュベートした。膜を工程間で0.1% Tween-20を含むTBSで4回(合計20~40分)洗浄し、西洋ワサビペルオキシダーゼと結合しマウスまたはウサギIgGに向けられた二次抗体とともに、振とうしながら室温で1時間インキュベートした。二次抗体を5%スキムミルク粉末を含むTBS(VWR International)に希釈した。バンドを増強化学発光(ECL)により、2つの異なる基質試薬、標準試薬としてのSuperSignal West Pico(Thermo Fisher Scientific)及び高感度検出のためのAmersham ECL Select Western Blotting Detection Reagent(GE Healthcare Life Sciences)(1:10希釈)を用いて可視化した。ChemiDoc Touch System及びImage Lab(商標)Software(Bio-Rad)を用いてシグナルを記録して、画像解析及び定量化に用いた。
【0159】
以下の初代抗体をイムノブロット解析に使用した:抗RSV G(acris BM1268)、抗RSF F(abcam ab43812)、RSV N(abcam ab94806)、または抗D8 VACV(clone AB12IT-012-001M1)(すべてマウス、1:1000)。
【0160】
1.8 マウス免疫
10頭の雌BALB/cマウス(Janvier SAS,Saint-Berthevin Cedex,France)の群を、0日目(プライミング)及び21日目(ブースト)に、の10TCID50のそれぞれのMVA組み換え体を含む合計100μlの接種物(各後肢に50μl)を筋肉内(i.m.)経路により免疫した。TBS処置マウス(n=5)を対照として含めた。解析を行うため、指示時点で尾静脈から血液を収集して2% FCS、0.1%アジ化ナトリウム、及び2.5U/mlヘパリンを含むPBSに入れ、以下に記載のように処理した。免疫後の34日目にマウスを安楽死させ、T細胞の細胞内サイトカイン染色(ICCS)用に脾細胞を準備した。すべての動物実験はUpper Bavaria政府(Regierung von Oberbayern)の承認を受けている。
【0161】
1.9 T細胞アッセイ:RSV-M2-1及びMVA-E3特異的CD8 T細胞に対するDextramer染色
RSV及びMVA特異的CD8+T細胞応答の解析を行うため、7日目、28日目、及び34日目にマウスから血液を収集し、赤血球溶解バッファー(Sigma-Aldrich)をメーカーの指示に従って用いて赤血球を溶解することにより、末梢血単核球(PBMC)を調製した。PBMCを、BALB/cバックグラウンドにおけるRSV M2-1またはMVA E3(対照)の免疫優性エピトープ、ならびに表面マーカーCD4、CD8、及びCD44の発現に特異的なMHCクラスI dextramer(Immudex)で染色した。
【0162】
1.10 細胞内サイトカイン染色及びELISpot解析
ブースト後13日目(34日目)にマウスを屠殺し、脾臓を収集して、70μmのセルストレーナーにより組織を機械的に破壊しながらコラゲナーゼ/DNase消化を行い、次に赤血球溶解(Sigma-Aldrich)を行うことにより、単細胞懸濁液を調製した。細胞内サイトカイン染色(ICCS)のために、脾細胞を示されているペプチドまたは対照で6時間再刺激し、その後IC Fixation & Permeabilization Staining kit(eBioscience)を用いて固定し、細胞表面マーカー及び細胞内サイトカインIFN-γ、TNF-α、及びIL-2の発現について染色した。ELISpot解析を行うため、5×10個の脾細胞/ウェルを、H-2dハプロタイプにおける指示されたRSVタンパク質及びMVA E3に対する免疫優性ペプチドで二重反復で再刺激し、メーカーのプロトコル(BD(商標)ELISPOT)に従って応答をアッセイした。
【0163】
1.11 RSV及びMVA特異的抗体に対するELISA
RSV及びMVA特異的IgG抗体力価の解析を行うため、免疫の1日前(-1日目)、プライミング接種後20日目、及び34日目(=ブースト接種後13日目)に血清を収集した。血清中のRSV及びMVA特異的IgGレベルを直接ELISAにより測定した。96ウェルELISAプレートを、RSV抗原(Meridian)またはMVA-BN感染細胞由来粗抽出物で一晩コーティングした。試料を、血清に対し1:100で開始する段階希釈を用いて滴定した。ヒツジ抗マウスIgG-HRP(AbD Serotec)またはヤギ抗マウスIgG-HRP(Abcam)を検出抗体として使用した。抗体力価を4パラメーターフィット(Magellan Software)により算出し、光学密度=0.24をもたらす血清希釈度として規定した。Excel(Microsoft Office 365)を用いて、幾何平均力価(GMT)及び平均の標準誤差(SEM)を算出した。アッセイのカットオフ値(OD<0.24)未満の抗体力価には、計算の目的で恣意的値「1」を付与した。
【0164】
1.12 RSV中和抗体のPRNT
RSVプラーク減少中和力価の解析を行うため、免疫の1日前(-1日目)、プライミング接種後20日目、及び34日目(=ブースト接種後13日目)に血清を収集した。RSV特異的中和力価を、プラーク減少中和試験(PRNT)により測定した。血清試料の2倍連続希釈液を規定数のRSV-A2プラーク形成単位(pfu)とともに30分間インキュベートして、ウイルス中和を行った。次いで混合物をVero細胞に70分間吸着させた。オーバーレイ培地を加え、プレートを5日間インキュベートした。Crystal Violetで染色した後、ニューラルネットワークプラークカウントパッケージを用いてプラークカウントに基づいてPRNT力価を定量及び算出した。中和力価は、成熟ウイルスの50%を中和できる血清希釈度として示される。
【0165】
実施例2:miRNA標的配列及びmiRblockの設計
最初に、科学文献(28~34)からCEF細胞内に最も多く存在することが報告されているmiRNAを抽出した。さらに、非感染CEF細胞及び非組み換え型MVAに感染したCEF細胞内のmiRNAをRNAシークエンシングにより定量した。
【0166】
miRNAの標的配列には、それぞれのmiRNAのヌクレオチド配列と完全にマッチするヌクレオチド配列を使用した。通常、4個のmiRNA標的配列は、いわゆる「miRblock」(本明細書では「miRb」と略することがある)内に連続して配置されている。場合によっては、4個ではなく3個(1つの例外的事例では8個)のmiRNA標的配列をmiRblock内で組み合わせた。個々のmiRNA標的配列に関するmiRblockの組成は、ヘテロまたはホモオリゴマーであった。
【0167】
選択したmiRNA、それらの対応する標的配列、及びそれぞれ構築したmiRblockを以下の表5及び6に収載する。miRblock-13~-20は、文献(25~31)にあるニワトリmiRNA存在量及び特異性のデータに基づき、miRNA標的配列から構築した。少数の事例(「miR-9999」、「miR-10000」)では、miRviewerデータベースからmiRNAを選択した。miRblock-25~36は、独自のmiRNAシーケンスデータに基づいて特定されたmiRNA標的配列から構築し、miRblock-37~-47は、miRblock-13~-36で過去に使用したmiRNA標的配列から構成された。
【表5-1】
【表5-2】
【表5-3】
【表6】
【0168】
実施例3:プラスミド内のmiRNA標的配列
3.1 miRNA標的配列を含むプラスミドの構築
ニワトリ細胞内での導入遺伝子発現の下方調節を媒介するmiRNA標的配列の潜在可能性を評価する目的で、プラスミドを構築した。このようなプラスミドコンストラクトのインサートを図1に示す。
【0169】
モデル導入遺伝子として、高感度緑色蛍光タンパク質(EGFP)遺伝子を使用した。EGFPレポーター遺伝子の発現を、標準的なサイトメガロウイルスIEプロモーター(pCMV)により駆動した(図1)。
【0170】
miRblock-1及び-2内のmiRNA標的配列(それぞれ図1B及び図1Cの「EGFP-miRb-1」、「EGFP-miRb-2」;表3も参照)は、CEF細胞内で最も豊富に存在するmiRNAに対応するため選択した(25、27、30)。miRblock-1及び2内の4個のmiRNA標的配列を、4ヌクレオチド(nt)のスペーサーにより互いに区切った(それぞれ図1B及び1C)。miRblockの5’末端にあるmiRNA標的配列の最初のヌクレオチドを、EGFPオープンリーディングフレーム(ORF)の終止コドンに直接連結した。この概念をmiRblock-3~-10にも適用した。他のすべての事例では、EGFPの終止コドンと最初のmiRNA標的配列の間に15-ntのスペーサーを挿入した。
【0171】
対照として、3’-UTR内にいかなる追加の挿入配列も含まないEGFP ORFを含むEGFP発現プラスミド(「EGFP発現基準」)を使用した(図1Aの「miRbなしEGFP」)。3’-UTR内に「スクランブル-2(またはscrbl2)」と称されるmiRblockを有するEGFP ORFを含むプラスミドをさらなる対照とした(図1Dの「scrbl2」)。miRblock-scrbl2は、miRblock-2の4個のmiRNA標的配列のそれぞれのヌクレオチドをスクランブルし、4-ntスペーサーを用いてスクランブルmiRNA標的配列を再び連結することにより設計した(表3)。スクランブルには、GeneScript(登録商標)が提供するツールを使用した。
【0172】
3.2 EGFP発現の下方調節
miRblock-1~-10のEGFP下方調節活性を試験した。
【0173】
この目的において、CEF細胞に、それぞれのmiRblockを含むプラスミドと、CMVプロモーター下で青色蛍光タンパク質(BFP)を発現する第2のプラスミドとを同時トランスフェクションした。このBFP発現プラスミドは、3’-UTRコード領域内のいかなる追加挿入配列も含まず、BFP陽性細胞内でのEGFP発現レベルを定量するためのトランスフェクション対照及び内部基準として機能した。
【0174】
図2(上)に示すように、miRblock-1は、対照(「miRbなし」)の約25%までEGFP発現の下方調節を媒介し、miRblock-2はさらに、対照の約9%までEGFP下方調節を媒介した。このような効果は、同時トランスフェクション対照プラスミドによるBFP発現では観察されなかった(図2下)。
【0175】
miRblock-1及び-2と比較して、miRblock-3は中程度のEGFP下方調節を媒介し、一方miRblock-5~-10はEGFP発現に有意な影響を示さなかった(図2上)。
【0176】
3.3 温度がEGFP下方調節に及ぼす効果
実施例3.2に記載の結果に基づき、miRblock-1及び-2をさらなる特性評価に選択した。
【0177】
miRblock-1及び-2により媒介されるEGFP発現の下方調節を30℃または37℃で試験した。CEF細胞におけるEGFP下方調節を、同じコンストラクト及び温度を用いたニワトリ線維芽細胞株DF-1における下方調節とも比較した。
【0178】
図3(上)に示すように、EGFP発現基準(「miRbなし」)及びmiRblock対照(「scrbl2」)からは、(トランスフェクションから24時間後)いずれの細胞タイプにおいても所与の温度で同レベルのEGFP発現が得られた。この発見は、miRblock(すなわち、およそ90~100ヌクレオチドの配列の連なり)をEGFPの3’-UTRコード領域に挿入しても導入遺伝子の発現レベルはそのように変化しないこと、そしてmiRblock-scrbl2が好適な対照であることを示した。
【0179】
さらに示しているように、miRblock-1及び-2は、CEF及びDF-1細胞内でのEGFP発現の下方調節を媒介した(図3上)。両方の細胞タイプ及び両方の温度で、miRblock-2がもたらす効果は、miRblock-1がもたらす効果よりも著明であった。
【0180】
さらに、miRblock-1及び-2はいずれも、30℃よりも37℃で効果的にEGFP発現の下方調節を媒介した。この温度効果は、DF-1細胞の方が著明であった(図3上)。
【0181】
同時感染させた対照プラスミドによるBFP発現は、この場合もEGFPの下方調節に非依存的であった(図3下)。
【0182】
実施例4:組み換えMVA内のmiRNA標的配列
4.1 miRNA標的配列を含む組み換えMVAの構築
次に、miRNA標的配列を用いて、EGFP下方調節がMVA感染の文脈でも達成できるかどうかについて調べた。
【0183】
この目的において、遺伝子間領域(IGR)44/45にmiRblock-1またはmiRblock-2に結合したEGFP遺伝子を挿入した2つのMVA組み換え体を構築した(図4の「EGFP-miRb-1」、「EGFP-miRb-2」)。各miRblockの後にポックスウイルス初期転写終結シグナル(TTS)が続き、初期転写産物の長さを約50ヌクレオチドに制限するように機能する。TTSは、ポックスウイルスベクターにおける遺伝子発現カセット内の標準的要素である。単量体赤色蛍光タンパク質(RFP)を、すべてのMVA組み換え体により同時発現させた(図4)。RFP遺伝子は、miRNA標的配列の挿入によって改変されていないため、感染細胞のmiRNA機構による調節を受けないはずである。これを挿入して、異なるMVAコンストラクトによりもたらされる感染レベルをモニター及び比較するためのマーカーとした。EGFP及びRFPはいずれも、組み換えMVAコンストラクト内で初期/後期PrSプロモーターの制御下にあった(図4)。
【0184】
対照として、miRNA標的配列なしのEGFP ORFを含む組み換えMVA(図4の「EGFP」)、すなわちEGFP発現基準と、EGFPの3’-UTR内にmiRblock-scrbl2を有する組み換えMVA(図4の「EGFP-scrbl2」)とを構築した。
【0185】
4.2 EGFP発現の下方調節及び温度の効果
今度は、miRblock-1及び-2のEGFP下方調節媒介活性を、それぞれのMVA組み換え体を感染させ30℃または37℃で培養した細胞において解析した。
【0186】
図5(上)に示すように、組み換えMVAによるEGFP発現は、CEF及びDF-1細胞のいずれにおいてもmiRblock-1及び-2により下方調節された。プラスミドにおける観察結果と同様に、miRblock-2は、特にDF-1細胞でより効果的であった。
【0187】
さらに、EGFP下方調節は両方の温度で検出可能であったが、両方の細胞タイプにおいて30℃よりも37℃の方が著明であり、この温度効果はDF-1細胞の方が著明であった(図5上)。
【0188】
RFPの同時発現は、EGFP下方調節に非依存的であった(図5下)。これにより、MVA導入遺伝子(ここではEGFP遺伝子)の発現は、同じ組み換えMVA内に存在する他の導入遺伝子(ここではRFP遺伝子)に同時に影響を及ぼすことなく、miRNA標的配列により選択的に制御できることが示された。
【0189】
4.3 MOIがEGFP下方調節に及ぼす効果
感染多重度(MOI)がmiRblock-1または-2によるEGFP下方調節に影響を及ぼすかどうかを試験するため、細胞にそれぞれのMVA組み換え体をMOI=5、1、または0.2で感染させた。
【0190】
図6(上)に示すように、miRblock-1及び-2によるEGFP発現の下方調節は、試験した全MOIにおいて、感染後6時間に検出可能であった。注目すべきことに、EGFP発現を対照(すなわち、EGFP発現基準である「miRbなし」)に対する%として示すと(図6下)、miRblock-1及び-2の下方調節効果が、使用するMOIに依存しないことが明らかになる。したがって、MOIが高いために感染細胞培養物におけるEGFP発現レベルが高くなっても、EGFP発現の下方調節には影響を及ぼさなかった。
【0191】
4.4 多サイクルMVA複製がEGFP下方調節に及ぼす効果
導入遺伝子の下方調節について、ウイルスストックまたはワクチンロットを生産するためのウイルス増殖中に通常適用されるのと同様の設定で、さらに検討した。この目的において、CEF細胞にmiRblock-1または-2を含む組み換えMVAを低MOI(0.1)で感染させ、3日間の持続的インキュベート期間にわたり培養した。
【0192】
図7(上、左)に示すように、EGFP発現レベルは経時的に(少なくとも感染後6~48時間は)増加した。しかし、miRblock-1または-2を含む組み換えMVAを感染させた後のEGFP発現の増加は、EGFP発現基準(「miRbなし」)及びmiRblock対照(「scrbl2」)で観察されたものに比べて有意に低減された。
【0193】
EGFP発現を対照(「miRbなし」)に対する%として示すと(図7左下)、miRblock-1及び-2によるEGFPの下方調節は、感染後72時間の全観察期間にわたってほぼ一定に保たれることが判明した。miRblock-2はmiRblock-1よりも効果的にEGFP発現の下方調節を媒介した。Again,
組み換えMVAにより同時発現したRFPのレベルも経時的に(感染後72時間まで)増加したが(図7左上)、EGFPで観察されるような下方調節は伴わなかった(図7の右上及び右下)。これにより、細胞培養物全体で感染効率及びウイルス拡散が同様であることが示された。
【0194】
したがって、miRblock-1及び-2により媒介されるEGFP下方調節の効率は、多サイクルMVA複製の過程にわたって安定が保たれた。
【0195】
4.5 ポックスウイルスプロモーターの効果
導入遺伝子発現を駆動するために使用されるポックスウイルスプロモーターは、多くの場合、ウイルス感染の初期及び後期に発現を開始する複合プロモーターのクラスから選択されている。強力な導入遺伝子発現を誘導するように設計された合成PrSプロモーター(23)がその古典的例であり、広く使用されている。
【0196】
PrSプロモーター内に最適化された初期プロモーターモチーフが存在するにもかかわらず、このプロモーターの制御下での導入遺伝子発現は主に後期に生じる。しかし、導入遺伝子産物に対するT細胞応答を可能な限り最良に誘導するには、初期、さらには最初期の導入遺伝子発現が好ましい。
【0197】
そのため、これまで使用されたPrSプロモーター(例えば、図4を参照)を最初期Pr13.5longプロモーター(24)(WO2014/063832)に置き換えた実験を実施した。EGFPの3’-UTRコード領域内にmiRblock-2を含む組み換えMVAにおいて、PrSまたはPr13.5longプロモーターの制御下でのEGFP発現を比較した(図8)。miRblock-scrbl2とPrSまたはPr13.5longプロモーターとを有する組み換えMVAを対照として使用した(図8)。
【0198】
図9に示すように、PrS及びPr13.5プロモーターの両方により指示されたEGFP発現は、CEF及びDF-1細胞内のmiRblock-2により、感染後6時間及び18時間時に下方調節された。しかし、注目すべきことに、Pr13.5long駆動EGFP発現の下方調節は、いずれの細胞タイプでも、またいずれの時点でもPrS駆動EGFP発現よりも有意に効果的であった(図9)。
【0199】
実施例5:ホモ及びヘテロオリゴマーmiRblockを用いたmiRNA標的配列の評価
5.1 プラスミド内の個々のmiRNA標的配列によるEGFP下方調節
ヘテロオリゴマーmiRblockにより媒介されるEGFP下方調節に対する個々のmiRNA標的配列の寄与を定量するため、事前にヘテロオリゴマーmiRblock内に配置した個々のmiRNA標的配列のホモオリゴマーリピートを有するプラスミド発現コンストラクトを作製した。
【0200】
最初に、miRblock-1及び-2の8個の異なる標的配列を調べた。miRblock-1に含まれる各miRNA標的配列を、ホモオリゴマーmiRblock内に3つの同一コピー(3回リピート)で配置した(表6のmiRblock-13~-16を参照)。miRblock-2に含まれる各miRNA標的配列を4つのコピー(4回リピート)で配置した(表6のmiRblock-17~-20を参照)。miR-125b-5pにおける標的配列(miRblock-1に含まれる)を例として用いると、ホモオリゴマーmiRblock内に配置した3つまたは4つのコピーでは、EGFP下方調節に有意差は見られないことが観察された。ホモオリゴマーmiRblock内の個々のmiRNA標的配列を、ヘテロオリゴマーmiRblockについて上述したように4-ntスペーサーによって区切った(実施例3.1を参照)。
【0201】
図10(上)に示すように、miRblock-13、-17、及び-18(それぞれmiR-17-5p、miR-20a-5p、及びmiR-21-5pにおける標的配列から構成される)が、EGFP発現の下方調節において、ホモオリゴマーmiRblock-13~-20の中で最も効率的であった。miRblock-13、-17、及び-18により媒介されるEGFP下方調節の程度は、対照(「miRbなし」)に対する%において、ヘテロオリゴマーmiRblock-1及び-2に媒介される効果の範囲内であった(図10上)。
【0202】
miRblock-15、-16、及び-20(それぞれmiR-125b-5p、miR-222a、及びmiR-221-3pにおける標的配列)は中レベルでEGFPの下方調節を媒介し、一方mRblock-14及び-19(それぞれmiRNA103-3pと148a-3pにおける標的配列)の効果はわずかにとどまった(図10上)。
【0203】
すべてのトランスフェクションCEF培養物においてBFP発現が非常に類似しており、これにより、プラスミドコンストラクトのトランスフェクション効率が類似することが裏付けられた(図10下)。
【0204】
miR-222a及びmiR-221a-3p(それぞれmiRblock-16及び-20)はCEF細胞内に最も豊富に存在するmiRNAとして記載されている(28)ため、得られた結果は興味深いものであった。ただし、発明者らの実験において、それらの対応する標的配列が媒介したEGFP発現の下方調節は、中程度に過ぎなかった(図10上)。一方、miR-17-5p及びmiR-20a-5p(それぞれmiRblock-13及び-17)の存在量は、miR-222aとmiR-221-3pの存在量のおよそ10%に過ぎないと報告されている(28)が、発明者らの実験では、それらの対応する標的配列が、さらにより効果的であることが判明した(図10上)。
【0205】
5.2 組み換えMVAにおける選択されたmiRNA標的配列によるEGFP下方調節
実施例5.1で上述し、図10に示しているように、ホモオリゴマーmiRblock-13、-17、及び-18は、特に効果的にプラスミドトランスフェクションによるEGFP発現の下方調節を媒介した。
【0206】
次に、miRblock-17及び-18によるEGFP下方調節の効率をMVA感染の文脈で定量した。PrSプロモーター下でEGFPを発現し、EGFPの3’-UTRコード領域にmiRblock-17またはmiRblock-18のいずれかを含む2つの組み換えMVA(それぞれ図11の「EGFP-miRb-17」及び「EGFP-miRb-18」)を構築した。比較のために、miRblock-2を含む組み換えMVAを使用した(図11の「EGFP-miRb-2」)。miRblock-17及び-18を構成するmiRNA標的配列は、ヘテロオリゴマーmiRblock-2にも含まれた。
【0207】
図12(左)に示すように、CEF細胞内のEGFP発現は、miRblock-2により対照(「miRbなし」)の約29%に下方調節された。miRblock-17または-18を含むMVA組み換え体の場合、EGFP発現はそれぞれ約62%及び66%への減少にとどまった(図12左)。
【0208】
異なるMVA組み換え体によるRFPの発現は非常に類似しており(図12右)、これにより、MVA感染のレベルが同様であることが示された。
【0209】
注目すべきなのは、miRblock-17及び-18が達成したEGFP発現の下方調節の程度が、miRblock-2がもたらした下方調節の約半分にとどまったことである(図12左)。この結果は、プラスミドで得られた結果と異なるものであった。上記で示したように(実施例5.1、図10も参照)、プラスミドから発現させた場合のmiRblock-17及び-18によるEGFPの下方調節は、miRblock-2がもたらした下方調節とかなり類似していた。したがって、ヘテロオリゴマーmiRblock内のmiRNA標的配列の配置は、MVA組み換え体に適用したときに特に有利な可能性がある。
【0210】
5.3 プラスミドにおけるさらなる有力なmiRNA標的配列のスクリーニング
CEF細胞に含まれるsmall RNAの独自のRNAシークエンシング解析を行った。この解析から得られたmiRNAによるEGFP下方調節を試験した。
【0211】
選択したmiRNAにおける標的配列を、ホモオリゴマーmiRblock内に4-ntスペーサーで区切った4回リピートで配置した(表6のmiRblock-25~-36を参照)。miRblockをEGFP ORFの配列ストレッチ内に配置し、プラスミドトランスフェクションによりEGFPを発現させた。
【0212】
図13(上)に示すように、miRblock-26及び-31(それぞれmiR-19a-3p及びmiR-199-3pにおける標的配列)は、CEF及びDF-1細胞内でのEGFP発現の下方調節において、miRblock-25~-36の中で最も効率的であった。
【0213】
miRblock-25及び-32(それぞれmiR-18a-5p及びmiR-33-5pにおける標的配列)は、EGFP下方調節を中レベルで媒介した。同様のことが、少なくともCEF細胞において、miRblock-33(miR-218b-5pにおける標的配列)にも該当した。これに対し、残りのmiRblock-27~-30及びmiRblock-33~-36は、ほとんどまたは全く下方調節活性を示さず、あるいはEGFP発現の増強効果すら観察された(図13上)。
【0214】
CEF及びDF-1細胞内でRFP発現レベルが同様であることにより、トランスフェクション効率が等しいことが裏付けられた(図13下)。
【0215】
5.4 組み換えMVAによるEGFP発現下方調節に最も適したmiRNAの定義
異なるmiRNA標的配列のEGFP下方調節活性について得た知見(実施例5.1、5.2、5.3を参照)は、組み換えMVAに使用するヘテロオリゴマーmiRblockの設計を最適化するための基礎としての役割を果たした。この効果に対し選択したmiRNAを以下の表7に収載する。
【表7】
【0216】
概して、ヌクレオチド配列のリピートは、MVA複製中に相同組み換えのリスクを有する。したがって、miRblock内のmiRNA標的配列の一部または全部のホモオリゴマーリピートは、新たに作製した組み換えMVAゲノムにおいて、望ましくない欠失または再構成をもたらす可能性がある。このような事象の確率は、同一の配列または類似性が高い配列ストレッチがタンデム配置され、そのため互いに密接または直接隣接する場合に最も高くなることが想定される。
【0217】
そのため、発明者らは、miRNAのヌクレオチド配列が最大限に異なるヘテロオリゴマーmiRblockの設計を目指した。その結果、miRblock-37~-47のヘテロオリゴマーを作製した(表5)。miRblock-43及び-44は、それぞれmiRblock-39及び-41と同じmiRNA標的配列を、ただし異なる順序で含んだ。
【0218】
miRblock-37~-47のうちの1つを含むプラスミドにおいて、既に上述したようにEGFPをコードする配列と連結し、EGFP下方調節を解析した。
【0219】
図14(左上)に示すように、miRblock-37、-38、-39は、miRblock-37~-47の中で最も効果的にCEF細胞内でEGFP下方調節を媒介した。EGFP発現の下方調節の程度(対照「miRbなし」に対する%)は、miRblock-2によりもたらされた程度よりもさらに良好であった。DF-1細胞(図14右上)では、少なくともmiRblock-37及び-38によるEGFP下方調節は、miRblock-2により誘導される範囲内であった。残りのmiRblock-40~-47は、これらに比べてEGFP発現の下方調節の媒介が効果的ではなかった(図14上)。
【0220】
異なるMVA組み換え体によるRFPの発現は、この場合も非常に類似していた(図14下)。
【0221】
8個の異なるmiRNA標的配列を有するヘテロオリゴマーmiRblock(表4のmiRblock-45)を含む組み換えMVAも試験したが、EGFP下方調節においてほんのわずかな活性を示すにとどまった。
【0222】
最良のEGFP下方調節活性を示すmiRblockから、リード候補miRblockを以下の検討事項に基づき選択した:第一に、ヒトの血液、白血球、または骨格筋内で発現が高いまたは非常に高いmiRNA標的配列を回避した。背景にある理由は、筋肉内または皮下適用をワクチン接種の最も一般的な経路として検討したためである。ヒトの血液、白血球、及び骨格筋内でのmiRNA発現についてのデータをmiRgeneDBデータベース(http://mirgenedb.org/)から取得した。miRNA-21-5pはヒト白血球内で高発現するため、対応する標的配列を含むmiRblock、すなわちmiRblock-37及び-38はさらなる検討から除外した。第二に、miR-17-5p及びmiR-20a-5pの両方における標的配列を含むmiRblock、すなわちmiRblock-37、-46、及び-47は、これらの2個の標的配列の配列類似性が高いため、さらなる検討を行わなかった。
【0223】
最終的に、miRNA標的配列の除外基準を満たし、miRblock-37及び-38に最も近いEGFP下方調節活性を有するmiRblock-39及び-41を、組み換えMVAにおける適用に最も適しているものと特定した。
【0224】
実施例6:組み換えMVA-BN-RSV内のmiRNA標的配列
6.1 miRNA標的配列により改変されたMVA-BN-RSVの構築
miRNA標的配列が、MVA-BN(登録商標)-RSV(「MVA-BN-RSV」と称される)(WO2014/019718)内に存在する導入遺伝子の発現に及ぼす影響について調べた。
【0225】
MVA-BN-RSVは、ヒト呼吸器合胞体ウイルス(RSV)の5つのタンパク質をコードする(図15)。両方の循環RSV抗原サブタイプA及びBからの糖タンパク質(G)の2つのORFは、それぞれ初期/後期プロモーターPr7.5(G(A))及びPrS(G(B))の制御下で発現する。融合糖タンパク質(F)遺伝子は、PrH5m初期/後期プロモーターの制御下で発現する。核タンパク質(N)及びM2-1タンパク質は、主に抗ウイルスCD8 T細胞応答の標的として機能し、融合タンパク質N/M2-1としてコードされ、それぞれのORFは、最初期プロモーターPrLE1の制御下で発現する(図15)((35)、当該文献においてPrLE1はpHybと称されている)。
【0226】
RSV糖タンパク質G(A)、G(B)、及びFの発現を下方調節することを目的として、miRblock-1及び-2を含む第1のバージョンの改変MVA-BN-RSV(図15の「MVA-BN-RSV-miRb1/2」)を作製した。miRblock-1をG(B)遺伝子及びF遺伝子の3’-UTRに挿入し、一方miRblock-2をG(A)遺伝子の3’-UTRに挿入した(図15)。
【0227】
第2のバージョンの改変MVA-BN-RSV(図15の「MVA-BN-RSV-miRb39/41」)では、すべてのRSV由来導入遺伝子をmiRNA標的配列に結合した。MVA-BN-RSV-miRb39/41は、組み換えMVA内での導入遺伝子下方調節に最も好適であると特定されたmiRblock、すなわちmiRblock-39及び-41を用いて設計及び作製した(実施例5.4を参照)。
【0228】
6.2 改変MVA-BN-RSVにおける導入遺伝子の下方調節
MVA-BN-RSV-miRb1/2またはMVA-BN-RSV-miRb39/41を感染させたCEF細胞内でのRSV G、F、及びN/M2-1タンパク質の発現を免疫ブロットにより解析し、MVA-BN-RSV内でのそれぞれのタンパク質発現と比較した。
【0229】
MVA-BN-RSV、MVA-BN-RSV-miRb1/2、またはMVA-BN-RSV-miRb39/41を12時間または18時間感染させたCEF細胞のライセート中で、およそ90kDaの分子量を有する完全グリコシル化成熟形態のRSV Gが主に検出された(図16)。この点において、RSV G検出に使用した抗体が、RSV Gタンパク質の2つの抗原サブタイプA及びBを識別しなかったことに留意されたい。したがって、図16のイムノブロットに見られるRSV G特異的シグナルは、RSV G(A)及びG(B)の重なったシグナルから構成されていると考えられる。MVA-BN-RSV対照を感染させた細胞と比較して、MVA-BN-RSV-miRb1/2またはMVA-BN-RSV-miRb39/41を感染させた細胞では成熟RSV G及び未成熟RSV Gの発現レベルがともに低かった(図16)。したがって、miRblock-1及び-2(MVA-BN-RSV-miRb1/2内のそれぞれRSV G(B)及び(G)Aに結合)ならびにmiRblock-39及び-41(MVA-BN-RSV-miRb39/41内のそれぞれRSV G(B)及びG(A)に結合)は、RSV G(A)/(B)タンパク質発現の下方調節を媒介した。
【0230】
RSV Fタンパク質は、前駆体タンパク質F0及び大型F1サブユニット(細胞フリンプロテアーゼによるF0のタンパク質分解切断により生成される)として検出可能であった(図16)。MVA-BN-RSV-miRb1/2によるRSV F0/F1の発現は、MVA-BN-RSV対照と比較して中程度の低減にとどまったが、MVA-BN-RSV-miRb39/41の場合には明らかに低減された(図16)。したがって、miRblock-39はmiRblock-1よりも効果的にRSV F0/F1の発現を下方調節した。
【0231】
MVA-BN-RSV-miRb39/41感染細胞におけるRSV N/M2-1融合タンパク質(およそ62kDa)の発現は、MVA-BN-RSV対照またはMVA-BN-RSV-miRb1/2を感染させた細胞と比較して明らかに低減された(図16)。この点において、MVA-BN-RSV-miRb1/2が、いかなるmiRNA標的配列もRSV N/M2-1 ORF内に含まなかったことに留意されたい(図15を参照)。
【0232】
内在性発現対照として使用したワクシニアウイルスD8タンパク質の発現は、MVA-BN-RSV-miRb1/2またはMVA-BN-RSV-miRb39/41を感染させた細胞において同等であった(図16)。興味深いことに、D8シグナルは、3つの組み換え体と比較して、野生型、すなわち非組み換え体MVA-BNを感染させた細胞からのライセート中ではわずかに協力であった(図16)。この結果は、いかなるmiRNA媒介性下方調節も伴わない同時発現したRSV由来導入遺伝子の細胞傷害性作用が、D8などの自発性MVA遺伝子の発現に影響を及ぼしたことを示す可能性がある。一方、RSV導入遺伝子のmiRNA標的化では、正常なD8発現は完全には回復しなかった。
【0233】
まとめると、MVA-BN-RSV-miRb1/2及びMVA-BN-RSV-miRb39/41内でRSV G(A)/(B)及びRSV F0/F1の発現は下方調節される。しかし、RSV F0/F1発現の下方調節は、MVA-BN-RSV-miRb39/41の場合の方が著明であった。N/M2-1の発現は、その発現が初期プロモーターにより駆動されるため、予想されたように、特に良好に下方調節される。
【0234】
6.3 改変MVA-BN-RSV組み換え体の収量
MVA-BN-RSV、MVA-BN-RSV-miRb1/2、及びMVA-BN-RSV-miRb39/41を感染させたCEF細胞からの組み換えMVAの収量を、2つの異なるMOI、すなわち0.1及び0.01において、感染後の3日目及び4日目に定量した。
【0235】
図17に示すように、MVA-BN-RSVは、感染後3日目及び4日目に、MOI=0.1及び0.01のいずれにおいても野生型MVA-BNと比較して収量が有意に減少した(約4.2倍~21.5倍の減少;図17の表の「MVA-BN vs.-RSV」を参照)。しかし、MVA-BN-RSVと比較すると、MVA-BN-RSV-miRb1/2の収量は約1.2倍~4.2倍増加した(「MVA-RSV-miRb1/2 vs.MVA-RSV」)。MVA-BN-RSV-miRb39/41の収量は、(少なくとも3日目及び4日目のMOI=0.1、4日目のMOI=0.01において)MVA-BN-RSV-miRb1/2よりもさらに増加し、1.2倍~2.6倍となった(「MVA-RSV-miRb39/41 vs.-miRb1/2」)。MVA-BN-RSVに対する最大の増加は、感染後3日目及び4日目のMOI=0.1におけるMVA-BN-RSV-miRb39/41で観察された(それぞれ約3.2倍及び6.8倍)(「MVA-RSV-miRb39/41 vs.MVA-RSV」)。
【0236】
それにもかかわらず、MVA-BN-RSV-miRb39/41は、MVA-BNの複製挙動を完全には回復せず(図17の表の「MVA-BN vs.RSV-miRb39/41」を参照)、MVA-BN-RSV-miRb39/41の収量は依然として、MVA-BNと比較して約3.2倍(MOI=0.1)及び2.6倍(MOI=0.01)低減された。
【0237】
結論として、miRNA標的配列が生産収量についてもたらす最高の効果は、MOI=0.1及び感染後4日目におけるMVA-BN-RSV-miRb39/41で得られた。
【0238】
6.4 改変MVA-BN-RSV由来のRSVタンパク質の免疫原性
6.4.1 T細胞アッセイ
MVA-BN-RSV-miRb39/41及びMVA-BN-RSV-miRb1/2からのRSV導入産物の免疫原性を調べるため、マウス免疫実験を行った。
【0239】
BALB/c系統のマウス内で生成された場合、M2-1タンパク質は強力な免疫優性CD8 T細胞エピトープを有する。したがって、このエピトープの解析からは、RSV M2-1特異的CD8 T細胞応答を定量するための広いダイナミックレンジを有する高感度アッセイがもたらされた。
【0240】
RSV M2-1またはMVA E3(ベクター対照として使用)に特異的なBALB/マウスのCD8 T細胞応答をDextramer染色により解析した。マウスPBMCをプライミング後7日目、ならびに21日目のブースト後7日目及び13日目(すなわち、初回免疫後28日目及び34日目)に収集し、染色した。
【0241】
図18(左パネル)に示すように、MVA-BN-RSV、MVA-BN-RSV-miRb1/2、及びMVA-BN-RSV-miRb39/41は、RSV M2-1に特異的なCD8T細胞を、解析したすべての時間において同様の頻度で誘導した。したがって、RSV N/M2-1の免疫原性は、改変MVA-BN-RSV組み換え体内に存在するmiRNA標的配列によってin vivoで影響を受けることはなかった。
【0242】
さらに、MVA-BN-RSV、MVA-BN-RSV-miRb1/2、及びMVA-BN-RSV-miRb39/41は、E3特異的CD8T細胞を同様の頻度で誘導した(図18右パネル)。これにより、MVAベクターバックボーンに対するT細胞応答は同等であり、異なる組み換え体による免疫も概して同様に効果的であることが示された。さらに、ある特定の細胞表面マーカー(CD4、CD8、CD44、CD62L、CD127、CD29、CX3CR1)の発現パターンに基づくメモリーT細胞表現型サブセットの頻度を解析したところ、3つのMVA-BN-RSV組み換え体の間で差は示されなかった。
【0243】
6.4.2 細胞内サイトカイン染色及びELISpot解析
サイトカイン生成という観点からCD8T細胞の機能的応答をさらに評価し、RSV F及びGタンパク質に対するCD8 T細胞応答を定量的に比較するため、ブースト後13日目にマウス脾細胞を収集し、直ちにRSV G、F、もしくはM2-1に由来するペプチド、またはMVA E3(ベクター対照)に由来するペプチドで刺激した。応答を、細胞内サイトカイン染色(ICCS)及びELISpot解析により解析した。
【0244】
MVA-BN-RSV、MVA-BN-RSV-miRb1/2、またはMVA-BN-RSV-miRb39/41で免疫したマウスにおいて、RSV G、F、及びN/M2-1タンパク質またはMVA E3の各々に特異的なCD44IFN-γCD8T細胞の全体的な頻度が、3つのMVA-BN-RSV組み換え体のうちの1つで免疫したマウスの群間で非常に類似していた(図19A)。RSV F由来ペプチドで刺激した後、IFN-γCD8T細胞の全体的頻度は、試験した抗原の中で最も低かった(<2%)ものの、RSV N/M2-1由来ペプチドで得られた頻度は最も高かった(図19A)。それに加え、表面マーカーCD62L、CD127、及びCX3CR1のパターンはすべてのマウス群の間で非常に類似していた。
【0245】
免疫マウスにおけるT細胞応答についても、CD4及びCD8 T細胞の解析を包含するELISPOTアッセイを用いて解析した。結果を図19Bに示す。
【0246】
脾細胞をRSV M2-1由来ペプチドで刺激した後のELISpot解析の結果、IFN-γ+スポット形成コロニーが多すぎて数えられなかった(そのため、図19Bには示していない)。この結果からは、RSV N/M2-1タンパク質が強力なCD8 T細胞応答を誘導することが裏付けられ、これは、H-2dマウスにおいてRSV M2-1が免疫優性エピトープを含むという他の報告(36、37)と一致するものであった。
【0247】
RSV G及びF、ならびにMVA E3に由来するペプチドで刺激した後の脾細胞のELISpot解析からは、RSV Gペプチドに対する応答がRSV Fペプチドに対する応答よりも強力であることが確認された(図19B)。ICCS(図19A及び上述)と同様に、3つのMVA-BN-RSV組み換え体のうちの1つで免疫したマウスの群間で、RSV G及びFタンパク質ならびにMVA E3の各々に特異的なT細胞の頻度において差は観察されなかった(図19B)。
【0248】
6.4.3 ELISA及びPRNT解析
コードされたRSVタンパク質に対する液性応答を、免疫グロブリンG(IgG)抗体が抗原として全RSVに結合するELISA法により、in vitroで感染性RSVを中和する抗体力価を定量することにより、解析した。RSV及びMVA特異的IgG力価を、プライミングの1日前(-1日目)、プライミング後20日目、及びプライミング後34日目(すなわちブースト後13日目)に解析した。
【0249】
プライミングまたはブースト後、3つのMVA-BN-RSV組み換え体のうちの1つで免疫したマウスの血清において、総RSV特異的IgG力価の差は観察されなかった(図20A左)。MVA特異的IgG力価についても同様の結果が観察された(図20A右)。
【0250】
プライミング後34日目(すなわちブースト後13日目)に免疫したマウスの血清中のRSV特異的中和抗体力価を、プラーク減少中和試験(PRNT)により定量した。
【0251】
3つの異なるMVA-BN-RSV組み換え体のうちの1つでマウスを免疫した後に誘導された中和抗体の量における差は検出不可能であった(図20B)。RSV中和抗体に対する血清転換率は、免疫マウスの全群において100%であった(図20Bの表を参照)。
【0252】
6.4.4 免疫原性試験からの結論
要約すると、T細胞応答は、RSV特異的CD8T細胞の頻度及び機能性、ならびにRSV特異的IgG及び中和抗体の誘導を含めて、3つの異なるMVA-BN-RSV組み換え体のうちの1つで免疫したマウス群間で非常に類似していた。したがって、導入遺伝子の3’-UTR内にmiRNA標的配列を加えても、マウスにおけるそれぞれの導入遺伝子産物の免疫原性には、非改変MVA-BN-RSVコンストラクトからの導入遺伝子産物との比較で悪影響は及ばなかった。いずれの結果も、miRNA標的配列により媒介される細胞傷害性導入遺伝子発現の下方調節は、in vivoのそれぞれの導入遺伝子産物の免疫原性に検出可能な影響を及ぼすことなく、CEF細胞からのMVA収量に好影響を及ぼすことを示した。
【0253】
終わりに:本明細書の本文全体でいくつかの文書を引用している。本明細書で引用した文書の各々(すべての特許、特許出願、科学刊行物、製造者の仕様書、指示書等を含む)は、参照によりその全体が本明細書に組み込まれる。参照により組み込まれる資料が本明細書と矛盾する、または整合しない場合、本明細書がこのようないかなる資料にも優先される。本明細書のいかなる部分も、先行発明によって本発明がこのような開示内容に先行する権利がないことを認めるとは解釈しないものとする。
【0254】
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【国際調査報告】