(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公表特許公報(A)
(11)【公表番号】
(43)【公表日】2024-09-30
(54)【発明の名称】エクソソームSERS信号を用いた人工知能基盤の多重癌同時診断システム及びその方法
(51)【国際特許分類】
G01N 21/65 20060101AFI20240920BHJP
G01N 33/49 20060101ALI20240920BHJP
【FI】
G01N21/65
G01N33/49 K
【審査請求】有
【予備審査請求】未請求
(21)【出願番号】P 2022581698
(86)(22)【出願日】2022-08-18
(85)【翻訳文提出日】2023-02-01
(86)【国際出願番号】 KR2022012341
(87)【国際公開番号】W WO2024038927
(87)【国際公開日】2024-02-22
(31)【優先権主張番号】10-2022-0103204
(32)【優先日】2022-08-18
(33)【優先権主張国・地域又は機関】KR
(81)【指定国・地域】
(71)【出願人】
【識別番号】522504156
【氏名又は名称】エクソパート コーポレーション
【氏名又は名称原語表記】EXOPERT CORPORATION
(74)【代理人】
【識別番号】100147485
【氏名又は名称】杉村 憲司
(74)【代理人】
【識別番号】230118913
【氏名又は名称】杉村 光嗣
(74)【代理人】
【識別番号】100224683
【氏名又は名称】齋藤 詩織
(72)【発明者】
【氏名】シン ヒョンク
(72)【発明者】
【氏名】シム オン
【テーマコード(参考)】
2G043
2G045
【Fターム(参考)】
2G043AA01
2G043AA03
2G043BA16
2G043CA04
2G043EA03
2G045AA26
2G045CA25
2G045CA26
2G045FA28
(57)【要約】
本発明は、エクソソームSERS信号を用いた人工知能基盤の多重癌同時診断システム及びその方法に関するものである。本発明によれば、エクソソームSERS信号を用いた人工知能基盤の多重癌同時診断システムは、測定対象者から獲得したエクソソームをチップ上に落とした後、チップから複数個のエクソソームSERS信号を獲得する信号獲得部;獲得した複数個のエクソソームSERS信号を学習済の癌分類アルゴリズムに入力して、複数個のエクソソームSERS信号のそれぞれに対して0または1の信号値を獲得し、獲得した信号値の平均を用いて癌または正常と診断する癌診断部;そして、癌と診断された場合、複数個のエクソソームSERS信号を複数個のTOO判別アルゴリズムに入力して、複数個のエクソソームSERS信号のそれぞれに対して0または1の信号値を獲得し、獲得した信号値の平均を用いて癌腫を予測し、該予測された癌腫についての情報を提供する癌情報提供部;を含む。
本発明は、大韓民国ソウル特別市ソウル産業振興院の2021年バイオ・医療技術事業化支援事業(BT210040)「人工知能を通じた多重癌同時選別検査用体外診断機器事業化」を通じて開発された技術である。
【特許請求の範囲】
【請求項1】
エクソソームSERS信号を用いた人工知能基盤の多重癌同時診断システムにおいて、
測定対象者から獲得したエクソソームをチップ上に落とした後、前記チップから複数個のエクソソームSERS信号を獲得する信号獲得部と、
前記獲得した複数個のエクソソームSERS信号を学習済の癌分類アルゴリズムに入力して、前記複数個のエクソソームSERS信号のそれぞれに対して0または1の信号値を獲得し、前記獲得した信号値の平均を用いて癌または正常と診断する癌診断部と、そして、
癌と診断された場合、前記複数個のエクソソームSERS信号を複数個のTOO判別アルゴリズムに入力して、前記複数個のエクソソームSERS信号のそれぞれに対して0または1の信号値を獲得し、前記獲得した信号値の平均を用いて癌腫を予測し、該予測された癌腫についての情報を提供する癌情報提供部と、
を含む、多重癌同時診断システム。
【請求項2】
正常者から獲得したエクソソームから複数個の第1エクソソームSERS信号を獲得し、複数個の癌腫を含む癌患者から獲得したエクソソームから複数個の第2エクソソームSERS信号を獲得し、前記第1エクソソームSERS信号を0にラベリングし、前記第2エクソソームSERS信号を1にラベリングするSERS信号収集部と、そして、
前記ラベリングされた第1エクソソームSERS信号と第2エクソソームSERS信号とを癌分類アルゴリズムに入力して、前記癌分類アルゴリズムをして入力される複数個のエクソソームSERS信号をそれぞれ0または1に分類するように学習させる第1学習部と、
をさらに含む、請求項1に記載の多重癌同時診断システム。
【請求項3】
前記複数個の癌腫のうち、特定の癌腫に該当する癌患者から獲得した第2エクソソームSERS信号と、前記特定の癌腫を除いた残りの癌患者から獲得した第2エクソソームSERS信号と、を複数個のTOO判別アルゴリズムに入力して、それぞれのTOO判別アルゴリズムをして第2エクソソームSESR信号が、前記特定の癌腫に該当するか否かを判別するように学習させる第2学習部をさらに含む、請求項2に記載の多重癌同時診断システム。
【請求項4】
前記信号獲得部は、
n*m(ここで、n及びmは、互いに同一であるか、異なる自然数である)個のドットアレイを含む前記チップからn*m個のエクソソームSERS信号を含むエクソソームSERS信号マップを獲得する、請求項1に記載の多重癌同時診断システム。
【請求項5】
前記癌診断部は、
前記n*m個のエクソソームSERS信号を前記癌分類アルゴリズムに入力して、前記n*m個のエクソソームSERS信号のそれぞれに対応して0または1の信号値を出力し、
出力された信号値の平均が0に近ければ、正常と分類し、出力された信号値の平均が1に近ければ、癌と分類して診断する、請求項4に記載の多重癌同時診断システム。
【請求項6】
前記癌情報提供部は、
前記n*m個のエクソソームSERS信号を前記複数個のTOO判別アルゴリズムに入力し、前記複数個のTOO判別アルゴリズムは、入力されたn*m個のエクソソームSERS信号に対してそれぞれ0または1の信号値を出力し、該出力された信号値の平均を当該癌腫に対する分類基準値と比較して、各癌腫に該当するか否かを判断する、請求項5に記載の多重癌同時診断システム。
【請求項7】
多重癌同時診断システムを用いた多重癌同時診断方法において、
測定対象者から獲得したエクソソームをチップ上に落とした後、前記チップから複数個のエクソソームSERS信号を獲得する段階と、
前記獲得した複数個のエクソソームSERS信号を学習済の癌分類アルゴリズムに入力して、前記複数個のエクソソームSERS信号のそれぞれに対して0または1の信号値を獲得し、前記獲得した信号値の平均を用いて癌または正常と診断する段階と、そして、
癌と診断された場合、前記複数個のエクソソームSERS信号を複数個のTOO判別アルゴリズムに入力して、前記複数個のエクソソームSERS信号のそれぞれに対して0または1の信号値を獲得し、前記獲得した信号値の平均を用いて癌腫を予測し、該予測された癌腫についての情報を提供する段階と、
を含む、多重癌同時診断方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、エクソソームSERS信号を用いた人工知能基盤の多重癌同時診断システム及びその方法に係り、より詳細に説明すれば、特定のマーカーではないエクソソームの全体にわたったSERS信号マップを検出し、該検出されたSERS信号マップを用いて学習された人工知能アルゴリズムを通じて多重癌を同時に診断する多重癌同時診断システム及びその方法に関する。
【背景技術】
【0002】
癌は、依然として現代人の主要死亡原因であるが、早期診断は、適切な治療を提供することにより、癌の結果を改善する。体外診断による早期癌検出は、生物医学分野で重要な目標の1つであり、日常的な癌の管理が可能である。
【0003】
しかし、現在、発癌胚芽抗原(CEA)5と前立腺特異抗原(PSA)6など多様な癌バイオマーカーが多様な癌の診断及び予後戦略に活用されているが、初期癌にはほとんど存在せず、依然として多くの癌は、効果的な事前選別ツールがない問題点があった。
【0004】
最近、母細胞の情報を豊かに含有しているエクソソームを用いて液体生検のためのバイオマーカーとして応用しようとし、多様な生体物質検出技術を応用して体液内に存在する疾病エクソソームの情報を検出して、疾病を早期診断するか、モニタリングする研究が進められた。
【0005】
従来、血液内のエクソソームのSERS信号を用いて癌を診断する試みがあったが、これは、単一癌に対する診断に過ぎず、同時に多重癌を診断することはできず、アルゴリズムの分類エラーによって偽陽性診断を発生させる問題点があった。
【0006】
本発明の背景となる技術は、大韓民国登録特許第10-2225231号(2021.03.09.公告)に開示されている。
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0007】
このように、本発明によれば、特定のマーカーではないエクソソームの全体にわたったSERS信号マップを検出し、該検出されたSERS信号マップを用いて学習された人工知能アルゴリズムを通じて多重癌を同時に診断する多重癌同時診断システム及びその方法を提供することである。
【課題を解決するための手段】
【0008】
このような技術的課題を果たすための本発明の実施形態によれば、エクソソームSERS信号を用いた人工知能基盤の多重癌同時診断システムは、測定対象者から獲得したエクソソームをチップ上に落とした後、前記チップから複数個のエクソソームSERS(Surface Enhanced Raman Spectroscopy)信号を獲得する信号獲得部;前記獲得した複数個のエクソソームSERS信号を学習済の癌分類アルゴリズムに入力して、前記複数個のエクソソームSERS信号のそれぞれに対して0または1の信号値を獲得し、前記獲得した信号値の平均を用いて癌または正常と診断する癌診断部;そして、癌と診断された場合、前記複数個のエクソソームSERS信号を複数個のTOO(tissue of origin)判別アルゴリズムに入力して、前記複数個のエクソソームSERS信号のそれぞれに対して0または1の信号値を獲得し、前記獲得した信号値の平均を用いて癌腫を予測し、該予測された癌腫についての情報を提供する癌情報提供部;を含む。
【0009】
前記エクソソームSERS信号を用いた人工知能基盤の多重癌同時診断システムは、正常者から獲得したエクソソームから複数個の第1エクソソームSERS信号を獲得し、複数個の癌腫を含む癌患者から獲得したエクソソームから複数個の第2エクソソームSERS信号を獲得し、前記第1エクソソームSERS信号を0にラベリングし、前記第2エクソソームSERS信号を1にラベリングするSERS信号収集部;そして、前記ラベリングされた第1エクソソームSERS信号と第2エクソソームSERS信号とを癌分類アルゴリズムに入力して、前記癌分類アルゴリズムをして入力される複数個のエクソソームSERS信号をそれぞれ0または1に分類するように学習させる第1学習部;をさらに含みうる。
【0010】
前記エクソソームSERS信号を用いた人工知能基盤の多重癌同時診断システムは、前記複数個の癌腫のうち、特定の癌腫に該当する癌患者から獲得した第2エクソソームSERS信号と、前記特定の癌腫を除いた残りの癌患者から獲得した第2エクソソームSERS信号と、を複数個のTOO判別アルゴリズムに入力して、それぞれのTOO判別アルゴリズムをして第2エクソソームSESR信号が、前記特定の癌腫に該当するか否かを判別するように学習させる第2学習部をさらに含みうる。
【0011】
前記信号獲得部は、n*m(ここで、n及びmは、互いに同一であるか、異なる自然数である)個のドットアレイ(dot array)を含む前記チップからn*m個のエクソソームSERS信号を含むエクソソームSERS信号マップを獲得することができる。
【0012】
前記癌診断部は、前記n*m個のエクソソームSERS信号を前記癌分類アルゴリズムに入力して、前記n*m個のエクソソームSERS信号のそれぞれに対応して0または1の信号値を出力し、該出力された信号値の平均が0に近ければ、正常と分類し、出力された信号値の平均が1に近ければ、癌と分類して診断することができる。
【0013】
前記癌情報提供部は、前記n*m個のエクソソームSERS信号を前記複数個のTOO判別アルゴリズムに入力し、前記複数個のTOO判別アルゴリズムは、入力されたn*m個のエクソソームSERS信号に対してそれぞれ0または1の信号値を出力し、該出力された信号値の平均を当該癌腫に対する分類基準値と比較して、各癌腫に該当するか否かを判断することができる。
【0014】
本発明の実施形態によれば、多重癌同時診断システムを用いた多重癌同時診断方法は、測定対象者から獲得したエクソソームをチップ上に落とした後、前記チップから複数個のエクソソームSERS信号を獲得する段階;前記獲得した複数個のエクソソームSERS信号を学習済の癌分類アルゴリズムに入力して、前記複数個のエクソソームSERS信号のそれぞれに対して0または1の信号値を獲得し、前記獲得した信号値の平均を用いて癌または正常と診断する段階;そして、癌と診断された場合、前記複数個のエクソソームSERS信号を複数個のTOO判別アルゴリズムに入力して、前記複数個のエクソソームSERS信号のそれぞれに対して0または1の信号値を獲得し、前記獲得した信号値の平均を用いて癌腫を予測し、該予測された癌腫についての情報を提供する段階;を含む。
【発明の効果】
【0015】
このように、本発明によれば、エクソソームSERS信号マップを癌分類アルゴリズムに入力して、癌の有無を先に診断するので、偽陽性診断を減少させ、癌と診断されたエクソソームSERS信号マップを複数個のTOO判別アルゴリズムに入力して、再分析して癌腫を区分することにより、多重癌を同時に診断することができて、癌の早期発見に有用である。
【0016】
また、本発明によれば、複雑なエクソソームのSERS信号を人工知能を通じて分析することにより、従来の信号異質性の限界を克服することができる。これを通じてエクソソームによる癌の非侵襲的な液体生検が可能となる。また、X-ray、CTのように放射線被ばくの危険があるか、侵襲的な組織生検なしに、血液のみで癌診断が可能となり、癌の診断だけではなく、患者の治療モニタリングにも活用される。
【図面の簡単な説明】
【0017】
【
図1】本発明の実施形態による多重癌同時診断システムを説明する構成図である。
【
図2】本発明の実施形態による多重癌同時診断システムを用いた多重癌同時診断方法を説明するフローチャートである。
【
図3】
図2に示されたステップS210で癌腫ごとに表われるSERSスペクトルを示す例示図である。
【
図4】
図2に示されたステップS220で第1エクソソームSERS信号及び第2エクソソームSERS信号をラベリングする方法を説明する例示図である。
【
図5】
図2に示されたステップS220で癌分類アルゴリズムを学習させる方法を説明する例示図である。
【
図6】
図2に示されたステップS230を説明する例示図である。
【
図7】
図2に示されたステップS240を説明する例示図である。
【
図8】本発明の実施形態による癌診断の正確度を示す例示図である。
【
図9】本発明の実施形態による癌患者診断後、TOO判別アルゴリズムを用いて癌腫を区分した場合の偽陽性診断程度を示す例示図である。
【
図10】本発明の実施形態によるエクソソームSERS信号を用いた人工知能基盤の多重癌同時診断方法に対するROC曲線を示す例示図である。
【
図11】本発明の実施形態によるTOO判別アルゴリズムを用いた多重癌診断結果に対する正確度を示す例示図である。
【発明を実施するための形態】
【0018】
以下、添付図面を参照して、本発明による望ましい実施形態を詳しく説明する。この過程で図面に示された線の厚さや構成要素の大きさなどは、説明の明瞭性と便宜上、誇張して示されている。
【0019】
また、後述する用語は、本発明での機能を考慮して定義された用語であって、これは、使用者、運用者の意図または慣例によって変わりうる。したがって、このような用語に対する定義は、本明細書の全般に亘った内容に基づいて下されなければならない。
【0020】
以下、
図1を用いて、本発明の実施形態による多重癌同時診断システムについてより詳細に説明する。
【0021】
図1は、本発明の実施形態による多重癌同時診断システムを説明する構成図である。
【0022】
図1に示したように、本発明の実施形態による多重癌同時診断システム100は、SERS信号収集部110、第1学習部120、第2学習部130、信号獲得部140、癌診断部150及び癌情報提供部160を含む。
【0023】
まず、SERS信号収集部110は、正常者の血しょうから採取したエクソソームと癌患者の血しょうから採取したエクソソームとにラマン分光法(Raman Spectroscopy)を行って獲得したエクソソームSERS信号を収集する。
【0024】
以下、説明の便宜上、正常者から獲得したエクソソームSERS信号を第1エクソソームSERS信号と言い、癌患者から獲得したエクソソームSERS信号は、第2エクソソームSERS信号と言う。
【0025】
そして、SERS信号収集部110は、複数個の第1エクソソームSERS信号を0にラベリングし、複数個の第2エクソソームSERS信号は、1にラベリングする。
【0026】
第1学習部120は、ディープラーニングを基盤とする癌分類アルゴリズムを構築し、ラベリングされた第1エクソソームSERS信号と第2エクソソームSERS信号とを構築された癌分類アルゴリズムに入力して学習させる。そうすると、癌分類アルゴリズムは、入力されるエクソソームSERS信号に対応して0または1の信号値を出力する。
【0027】
第2学習部130は、ディープラーニングを基盤とするTOO判別アルゴリズムを構築する。この際、構築されるTOO判別アルゴリズムは、癌腫に対応して複数個形成される。ここで、癌腫は、肺癌、乳癌、大腸癌、肝癌、膵臓癌及び胃癌のうちの少なくとも1つを含みうるが、必ずしもこれに限定されるものではなく、それ以外に多様な癌腫を含みうる。
【0028】
次いで、第2学習部130は、それぞれの癌患者から獲得した第2エクソソームSERS信号を複数個のTOO判別アルゴリズムに入力して学習させる。ここで、特定の癌腫に対するTOO判別アルゴリズムは、特定の癌腫に該当する癌患者から獲得した第2エクソソームSERS信号と、特定の癌腫を除いた残りの癌患者から獲得した第2エクソソームSERS信号と、を入力されて、第2エクソソームSESR信号が、特定の癌腫に該当するか否かを判別するように学習される。そうすると、TOO判別アルゴリズムは、入力されるエクソソームSERS信号に対して0または1の信号値を出力する。
【0029】
信号獲得部140は、測定対象者の血しょうから採取したエクソソームをチップ上に落とした後、チップにラマン分光法を行って複数個のエクソソームSERS信号を獲得する。
【0030】
癌診断部150は、獲得した複数個のエクソソームSERS信号を学習済の癌分類アルゴリズムに入力して、それぞれのエクソソームSERS信号に対して0または1の信号値を獲得する。そして、癌診断部150は、獲得した信号値の平均を用いて測定対象者を正常または癌と診断する。
【0031】
測定対象者を癌と診断すれば、癌情報提供部160は、複数個のエクソソームSERS信号を学習済の複数個のTOO判別アルゴリズムにそれぞれ入力する。
【0032】
そうすると、複数個のTOO判別アルゴリズムは、入力された複数個のエクソソームSERS信号に対して0または1の信号値を出力し、癌情報提供部160は、出力された信号値の平均を当該癌腫に対する分類基準値と比較して、各癌腫に該当するか否かを判断する。
【0033】
例として説明すれば、肺癌TOO判別アルゴリズムは、入力された複数個のエクソソームSERS信号に対して0または1の信号値を出力し、該出力された信号値の平均を肺癌分類基準値と比較して肺癌の有無を判別する。乳癌TOO判別アルゴリズムは、入力された複数個のエクソソームSERS信号に対して0または1の信号値を出力し、該出力された信号値の平均を乳癌分類基準値と比較して乳癌の有無を判別する。大腸癌TOO判別アルゴリズムは、入力された複数個のエクソソームSERS信号に対して0または1の信号値を出力し、該出力された信号値の平均を大腸癌分類基準値と比較して大腸癌の有無を判別する。肝癌TOO判別アルゴリズムは、入力された複数個のエクソソームSERS信号に対して0または1の信号値を出力し、該出力された信号値の平均を肝癌分類基準値と比較して肝癌の有無を判別する。膵臓癌TOO判別アルゴリズムは、入力された複数個のエクソソームSERS信号に対して0または1の信号値を出力し、該出力された信号値の平均を膵臓癌分類基準値と比較して膵臓癌の有無を判別する。最後に、胃癌TOO判別アルゴリズムは、入力された複数個のエクソソームSERS信号に対して0または1の信号値を出力し、該出力された信号値の平均を胃癌分類基準値と比較して胃癌の有無を判別する。
【0034】
そして、癌情報提供部160は、陽性と判別された癌腫についての情報を提供する。
【0035】
図2ないし
図7を用いて、本発明の実施形態による多重癌同時診断システムを用いた多重癌同時診断方法についてより詳細に説明する。
【0036】
図2は、本発明の実施形態による多重癌同時診断システムを用いた多重癌同時診断方法を説明するフローチャートである。
【0037】
図2に示したように、本発明の実施形態による多重癌同時診断システムを用いた多重癌同時診断方法は、癌分類アルゴリズム及びTOO判別アルゴリズムを学習させる段階と学習済の癌分類アルゴリズム及びTOO判別アルゴリズムを用いて多重癌を診断する段階とを含む。
【0038】
まず、癌分類アルゴリズム及びTOO判別アルゴリズムを学習させる段階を説明すれば、多重癌同時診断システム100は、正常者グループと癌患者グループとからエクソソームSERS信号を収集する(ステップS210)。
【0039】
敷衍すれば、正常者の血しょうサンプルを獲得し、サイズ排除クロマトグラフィー法(size exclusion chromatography;SEC)を用いて獲得した血しょうからエクソソームを分離する。また、同じ方法で癌患者の血しょうサンプルからエクソソームを分離する。
【0040】
次いで、正常者の血しょうサンプルから分離して獲得したエクソソーム溶液と癌患者の血しょうサンプルから分離して獲得したエクソソーム溶液とをそれぞれのAuナノ粒子集合アレイチップに落とした後、乾燥させる。
【0041】
ここで、Auナノ粒子集合アレイチップは、コロイド溶液でAuNPs(Au nanoparticle)を沈殿させた後、NPsがAPTES-機能化されたガラス表面にコーティングされたものである。APTES-機能化されたガラス表面で信号獲得工程の検出処理量と均一性とを高めるために、Auナノ粒子集合アレイチップは、n*m(ここで、n及びmは、互いに同一であるか、異なる自然数である)個のドットアレイを含み、各ドットでエクソソームSERS信号が測定される。
【0042】
次いで、SERS信号収集部110は、エクソソーム溶液が乾燥されたAuナノ粒子集合アレイチップにラマン分光法を行ってドットアレイに対応した複数個のエクソソームSERS信号を含むエクソソームSERS信号マップを収集する。
【0043】
すなわち、SERS信号収集部110は、正常者のエクソソーム溶液からn*m個の第1エクソソームSERS信号を収集し、癌患者のエクソソーム溶液からn*m個のエクソソーム第2SERS信号を収集する。
【0044】
図3は、
図2に示されたステップS210で癌腫ごとに表われるSERSスペクトルを示す例示図である。
【0045】
本発明の実施形態による多重癌同時診断システム100は、肺癌、乳癌、大腸癌、肝癌、膵臓癌及び胃癌のうちの少なくとも1つの癌と診断された患者を用いて癌患者グループを構成する。
【0046】
図3に示したように、肺癌、乳癌、大腸癌、肝癌、膵臓癌及び胃癌は、それぞれSERSスペクトルが異なる。
【0047】
ステップS210が完了すれば、第1学習部120は、正常者グループから獲得した第1エクソソームSERS信号と癌患者グループから獲得した第2エクソソームSERS信号とをラベリングし、該ラベリングされた第1エクソソームSERS信号及び第2エクソソームSERS信号を用いて癌分類アルゴリズムを学習させる(ステップS220)。
【0048】
図4は、
図2に示されたステップS220で第1エクソソームSERS信号及び第2エクソソームSERS信号をラベリングする方法を説明する例示図である。
【0049】
図4に示したように、癌患者のエクソソーム溶液は、正常エクソソームと癌エクソソームとをいずれも含むので、Auナノ粒子集合アレイチップに配列されたn*m個のドットには、正常エクソソームまたは癌エクソソームのうち何れか1つのエクソソームのみ存在しても、正常エクソソームと癌エクソソームとがいずれも存在しても良い。すなわち、ドットアレイに対応する複数個のエクソソームSERS信号は、それぞれ異なるように出力される。
【0050】
しかし、本発明の実施形態による第1学習部120は、癌エクソソームまたは正常エクソソームの存否によってエクソソームSERS信号を分類せず、正常者から獲得した複数個の第1エクソソームSERS信号をいずれも0にラベリングし、癌患者から獲得した複数個の第2エクソソームSERS信号は、いずれも1にラベリングする。
【0051】
図5は、
図2に示されたステップS220で癌分類アルゴリズムを学習させる方法を説明する例示図である。
【0052】
図5に示したように、第1学習部120は、ラベリングされた第1エクソソームSERS信号と第2エクソソームSERS信号とからランダムに学習データ及びテストデータを抽出する。
【0053】
そして、第1学習部120は、抽出された学習データに該当する第1エクソソームSERS信号及び第2エクソソームSERS信号を入力データとし、ラベリングされた値を出力データとして、癌分類アルゴリズムを学習させる。
【0054】
すなわち、癌分類アルゴリズムは、入力される複数個のエクソソームSERS信号に対応して0または1の信号値を出力し、該出力された信号値の平均を用いて癌の有無を先に診断する。
【0055】
次いで、第2学習部130は、ステップS210で獲得した癌患者グループの第2エクソソームSERS信号を用いてTOO判別アルゴリズムを学習させる(ステップS230)。
【0056】
図6は、
図2に示されたステップS230を説明する例示図である。
【0057】
図6に示したように、第2学習部130は、肺癌、乳癌、大腸癌、肝癌、膵臓癌及び胃癌にそれぞれ対応する複数個のTOO判別アルゴリズムを構築する。
【0058】
そして、第2学習部130は、肺癌患者グループから獲得した第2エクソソームSERS信号と肺癌患者を除いた残りの癌患者グループから獲得した第2エクソソームSERS信号とを肺癌TOO判別アルゴリズムに入力して、肺癌TOO判別アルゴリズムをして入力されるエクソソームSERS信号に対応して0または1の信号値を出力するように学習させる。
【0059】
また、第2学習部130は、乳癌患者グループから獲得した第2エクソソームSERS信号と乳癌患者を除いた残りの癌患者グループから獲得した第2エクソソームSERS信号とを乳癌TOO判別アルゴリズムに入力して、乳癌TOO判別アルゴリズムをして入力されるエクソソームSERS信号に対応して0または1の信号値を出力するように学習させる。
【0060】
第2学習部130は、大腸癌TOO判別アルゴリズム、肝癌TOO判別アルゴリズム、膵臓癌TOO判別アルゴリズム及び胃癌TOO判別アルゴリズムにも同じ方法で学習させる。
【0061】
ステップS210ないしステップS230を用いてアルゴリズムに対する学習が完了すれば、多重癌同時診断システム100は、測定対象者に対して多重癌を診断する。
【0062】
まず、信号獲得部140は、測定対象者の血しょうから抽出されたエクソソームSERS信号を獲得する(ステップS240)。
【0063】
図7は、
図2に示されたステップS240を説明する例示図である。
【0064】
図7に示したように、使用者は、測定対象者から血しょうを採取し、該採取された血しょうにクロマトグラフィー法(chromatography)を適用してエクソソームを分離する。
【0065】
そして、使用者は、エクソソームが溶解された溶液をAuナノ粒子集合アレイチップに落とした後、乾燥させる。
【0066】
次いで、Auナノ粒子集合アレイチップにラマン分光法を行ってドットアレイに対応したn*m個(例えば、100個)のエクソソームSERS信号を獲得する。
【0067】
ステップS240が完了すれば、癌診断部150は、n*m個のエクソソームSERS信号を癌分類アルゴリズムに入力して測定対象者が癌に該当するか否かを判断する(ステップS250)。
【0068】
敷衍すれば、癌診断部150は、n*m個のエクソソームSERS信号を癌分類アルゴリズムに入力する。そうすると、癌分類アルゴリズムは、n*m個のエクソソームSERS信号のそれぞれに対応して0または1の信号値を出力する。
【0069】
出力された信号値の平均が0に近ければ、癌診断部150は、測定対象者を正常者と診断し、出力された信号値の平均が1に近ければ、癌診断部150は、測定対象者を癌患者と診断する。
【0070】
ステップS250で、測定対象者を癌患者と診断する場合、癌情報提供部160は、n*m個のエクソソームSERS信号を学習済の複数個のTOO判別アルゴリズムに入力して測定対象者の癌腫を分類する(ステップS260)。
【0071】
敷衍すれば、癌情報提供部160は、n*m個のエクソソームSERS信号を肺癌TOO判別アルゴリズム、乳癌TOO判別アルゴリズム、大腸癌TOO判別アルゴリズム、肝癌TOO判別アルゴリズム、膵臓癌TOO判別アルゴリズム及び胃癌TOO判別アルゴリズムにそれぞれ入力する。
【0072】
そうすると、肺癌TOO判別アルゴリズムは、入力されたn*m個のエクソソームSERS信号に対してそれぞれ0または1の信号値を出力し、該出力された信号値の平均と肺癌分類基準値とを比較して測定対象者が肺癌に該当するか否かを判断する。
【0073】
乳癌TOO判別アルゴリズムは、入力されたn*m個のエクソソームSERS信号に対してそれぞれ0または1の信号値を出力し、該出力された信号値の平均と乳癌分類基準値とを比較して測定対象者が乳癌に該当するか否かを判断する。
【0074】
大腸癌TOO判別アルゴリズムは、入力されたn*m個のエクソソームSERS信号に対してそれぞれ0または1の信号値を出力し、該出力された信号値の平均と大腸癌分類基準値とを比較して測定対象者が大腸癌に該当するか否かを判断する。
【0075】
肝癌TOO判別アルゴリズムは、入力されたn*m個のエクソソームSERS信号に対してそれぞれ0または1の信号値を出力し、該出力された信号値の平均と肝癌分類基準値とを比較して測定対象者が肝癌に該当するか否かを判断する。
【0076】
膵臓癌TOO判別アルゴリズムは、入力されたn*m個のエクソソームSERS信号に対してそれぞれ0または1の信号値を出力し、該出力された信号値の平均と膵臓癌分類基準値とを比較して測定対象者が膵臓癌に該当するか否かを判断する。
【0077】
最後に、胃癌TOO判別アルゴリズムは、入力されたn*m個のエクソソームSERS信号に対してそれぞれ0または1の信号値を出力し、該出力された信号値の平均と胃癌分類基準値とを比較して測定対象者が胃癌に該当するか否かを判断する。
【0078】
次いで、癌情報提供部160は、6個のTOO判別アルゴリズムから出力された結果を用いて癌腫の予測結果を提供する。
【0079】
以下、
図8ないし
図11を用いて、本発明の実施形態による癌分類アルゴリズム及びTOO判別アルゴリズムを用いて多重癌を同時に診断した結果についてより詳細に説明する。
【0080】
図8は、本発明の実施形態による癌診断の正確度を示す例示図である。
【0081】
図8に示したように、癌患者から獲得したエクソソームSERS信号を全部1にラベリングする場合、癌エクソソームが存在しない領域で獲得したエクソソームSERS信号は、実際の正解と異なる。すなわち、個別エクソソームSERS信号に対する予測精度は、多少落ちることがある。
【0082】
しかし、癌患者から獲得した複数のエクソソームSERS信号に対して癌分類アルゴリズムによって出力された信号値の平均を用いて診断を行う場合、ほぼ99%の診断正確度を示す。
【0083】
図9は、本発明の実施形態による癌患者診断後、TOO判別アルゴリズムを用いて癌腫を区分した場合の偽陽性診断程度を示す例示図である。
【0084】
図9に示したように、従来のOne vs Rest接近法と本発明の実施形態による癌診断以後、癌腫を区分する接近法とを比較すれば、One vs Rest接近法は、ほぼ21.8%の誤診率が発生したが、癌診断以後、癌腫を区分する接近法は、ほぼ4.5%の誤診率を発生させることを確認した。
【0085】
したがって、本発明の実施形態による多重癌同時診断システムは、偽陽性診断の確率を大きく縮小させる効果を有する。
【0086】
図10は、本発明の実施形態によるエクソソームSERS信号を用いた人工知能基盤の多重癌同時診断方法に対するROC曲線を示す例示図であり、
図11は、本発明の実施形態によるTOO判別アルゴリズムを用いた多重癌診断結果に対する正確度を示す例示図である。
【0087】
具体的に、
図10は、本発明の実施形態による癌分類アルゴリズムとTOO判別アルゴリズムとの効果検証のために、ROC(Receiver operation characteristic)カーブを示した。ROCカーブ下の面積(AUC:Area under curve)が1に近いほど有用性が大きくなることを示し、本発明の実施形態による癌分類アルゴリズムは、ほぼ0.983の値を示し、複数のTOO判別アルゴリズムも、優れた性能を示す。
【0088】
また、
図11に示したように、実質的な診断結果と本発明の実施形態による予測結果とを比較した高い一致率を示すことを確認し、特に、早期癌患者でも、比較的正確な予測が可能であるということを確認した。
【0089】
このように、本発明による多重癌同時診断システムは、複数個のエクソソームSERS信号を含むエクソソームSERS信号マップを癌分類アルゴリズムに入力して、癌の有無を先に診断するので、偽陽性診断を減少させ、癌と診断されたエクソソームSERS信号マップを複数個のTOO判別アルゴリズムに入力して、再分析して癌腫を区分することにより、多重癌を同時に診断することができて、癌の早期発見に有用である。
【0090】
また、本発明による多重癌同時診断システムは、複雑なエクソソームのSERS信号を人工知能を通じて分析することにより、従来の信号異質性の限界を克服することができる。これを通じてエクソソームによる癌の非侵襲的な液体生検が可能となる。また、X-ray、CTのように放射線被ばくの危険があるか、侵襲的な組織生検なしに、血液のみで癌診断が可能となり、癌の診断だけではなく、患者の治療モニタリングにも活用される。
【0091】
本発明は、図面に示された実施形態を参考にして説明されたが、これは例示的なものに過ぎず、当業者ならば、これにより多様な変形及び均等な他実施形態が可能であるという点を理解できるであろう。したがって、本発明の真の技術的保護範囲は、特許請求の範囲の技術的思想によって決定されねばならない。
【符号の説明】
【0092】
100:多重癌同時診断システム
110:SERS信号収集部
120:第1学習部
130:第2学習部
140:信号獲得部
150:癌診断部
160:癌情報提供部
【国際調査報告】