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特表2024-535156ステント及び呼吸器の閉塞を解除して気流を確保する方法
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  • 特表-ステント及び呼吸器の閉塞を解除して気流を確保する方法 図1
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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公表特許公報(A)
(11)【公表番号】
(43)【公表日】2024-09-30
(54)【発明の名称】ステント及び呼吸器の閉塞を解除して気流を確保する方法
(51)【国際特許分類】
   A61L 31/10 20060101AFI20240920BHJP
   A61F 2/848 20130101ALI20240920BHJP
   A61L 31/06 20060101ALI20240920BHJP
【FI】
A61L31/10
A61F2/848
A61L31/06
【審査請求】未請求
【予備審査請求】未請求
(21)【出願番号】P 2023516631
(86)(22)【出願日】2022-09-27
(85)【翻訳文提出日】2023-03-13
(86)【国際出願番号】 US2022044812
(87)【国際公開番号】W WO2023055706
(87)【国際公開日】2023-04-06
(31)【優先権主張番号】63/249,264
(32)【優先日】2021-09-28
(33)【優先権主張国・地域又は機関】US
(81)【指定国・地域】
(71)【出願人】
【識別番号】000003159
【氏名又は名称】東レ株式会社
(71)【出願人】
【識別番号】513112245
【氏名又は名称】リージェンツ・オブ・ザ・ユニバーシティ・オブ・ミネソタ
【氏名又は名称原語表記】REGENTS OF THE UNIVERSITY OF MINNESOTA
(74)【代理人】
【識別番号】110002000
【氏名又は名称】弁理士法人栄光事務所
(72)【発明者】
【氏名】門脇 功治
(72)【発明者】
【氏名】チョー,ロイ ジョゼフ
(72)【発明者】
【氏名】グルマック,ダニエル イー.
(72)【発明者】
【氏名】ハンター,ライアン コールソン
(72)【発明者】
【氏名】ピーターソン,グレゴリー カーミット
【テーマコード(参考)】
4C081
4C267
【Fターム(参考)】
4C081AC06
4C081BA17
4C081CA052
4C081CA082
4C081CA102
4C081CA271
4C081CC01
4C081DA03
4C081DB07
4C267AA45
4C267AA50
4C267BB06
4C267BB11
4C267BB12
4C267BB13
4C267BB26
4C267CC21
4C267EE01
4C267GG03
4C267GG07
4C267HH08
4C267HH16
(57)【要約】
内側表面及び外側表面を有する呼吸器用のステントであって、基材及び親水性ポリマー層を有する。前記親水性ポリマー層は、水酸基及びアミド基を有する親水性ポリマーを含む。少なくとも前記内側表面の一部及び/又は少なくとも前記外側表面の一部に、前記親水性ポリマー層を有する。
【選択図】図1
【特許請求の範囲】
【請求項1】
内側表面及び外側表面を有する呼吸器用のステントであって、
前記ステントは、基材及び親水性ポリマー層を有し、
前記親水性ポリマー層は、水酸基及びアミド基を有する親水性ポリマーを含み、
少なくとも前記内側表面の一部に、前記親水性ポリマー層を有する、ステント。
【請求項2】
内側表面及び外側表面を有する呼吸器用のステントであって、
前記ステントは、基材及び親水性ポリマー層を有し、
前記親水性ポリマー層は、水酸基及びアミド基を有する親水性ポリマーを含み、
少なくとも前記外側表面の一部に、前記親水性ポリマー層を有する、ステント。
【請求項3】
前記基材はシリコーン樹脂を含む、請求項1又は2に記載のステント。
【請求項4】
前記基材の成分と前記親水性ポリマー層の成分との混合層をさらに含み、前記混合層が、前記基材と、前記親水性ポリマー層との間に設けられている、請求項1~3のいずれか一項に記載のステント。
【請求項5】
前記親水性ポリマーを含む層の厚みXと前記基材の厚みYの比率X:Yが1:400~1:120000の範囲内である、請求項1~4のいずれか一項に記載のステント。
【請求項6】
管状構造部分を含む、請求項1~5のいずれか一項に記載のステント。
【請求項7】
前記管状構造部分は、外径が4mm以上24mm以下であり、厚みが0.2mm以上2mm以下である、請求項6に記載のステント。
【請求項8】
前記外側表面に複数の突起又は凹凸を有する、請求項1~7のいずれか一項に記載のステント。
【請求項9】
前記呼吸器が、気道、気管支、又は肺である、請求項1~8のいずれか一項に記載のステント。
【請求項10】
水酸基及びアミド基を有する前記親水性ポリマーが、カルボキシル基を有するポリアミド類及び水酸基を有するモノマーとアミド基を有するモノマーとの共重合体からなる群から選ばれる少なくとも一つのポリマーである、請求項1~9のいずれか一項に記載のステント。
【請求項11】
水酸基を有する前記モノマーが、メタクリル酸、アクリル酸、ビニル安息香酸、チオフェン-3-酢酸、4-スチレンスルホン酸、ビニルスルホン酸、2-アクリルアミド-2-メチルプロパンスルホン酸及びこれらの塩からなる群から選ばれる少なくとも一つのモノマーである、請求項10に記載のステント。
【請求項12】
アミド基を有する前記モノマーが、N-ビニルピロリドン、N-ビニルアセトアミド、N,N-ジメチルアクリルアミド、N,N-ジエチルアクリルアミド、N-イソプロピルアクリルアミド、N-(2-ヒドロキシエチル)アクリルアミド及びアクリルアミドからなる群から選ばれる少なくとも一つのモノマーである、請求項10又は11に記載のステント。
【請求項13】
内側表面及び外側表面を有する呼吸器用のステントを用いて呼吸器の閉塞を解除して気流を確保する方法であって、
前記ステントは、基材及び親水性ポリマー層を有し、
前記親水性ポリマー層は、水酸基及びアミド基を有する親水性ポリマーを含み、
少なくとも前記内側表面の一部に、前記親水性ポリマー層を有する、呼吸器系の閉塞を解除して気流を確保する方法。
【請求項14】
内側表面及び外側表面を有する呼吸器用のステントを用いて呼吸器の閉塞を解除して気流を確保する方法であって、
前記ステントは、基材及び親水性ポリマー層を有し、
前記親水性ポリマー層は、水酸基及びアミド基を有する親水性ポリマーを含み、
少なくとも前記外側表面の一部に、前記親水性ポリマー層を有する、呼吸器系の閉塞を解除して気流を確保する方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本開示は、粘液付着を抑制でき、かつ繊毛消失や杯細胞の過増殖を抑制できる生体適合性に優れたステント及び該ステントを用いて呼吸器の閉塞を解除して気流を確保する方法に関する。
【背景技術】
【0002】
ステントは、体内に留置可能なインプラント医療機器であり、径方向に拡張可能なものもあり、様々な体腔又は脈管(例えば血管系、食道、胃腸管、大腸及び小腸、胆管、膵管、肺管、尿管、鼻腔及び気道、気管、気管支など)の内側に配置される。体腔又は脈管が狭窄した場合、内腔を確保するためにステントが狭窄部分に配置される。
【0003】
このようなステントは、体腔又は脈管に長期にわたって留置されるものや、所定の期間のみ内腔の開通性を維持した後に、体内から除去されるものがある。
例えば、肺がんなどで気道や気管支が閉塞した際に呼吸を確保するために狭窄部位に留置される気道ステントが、非特許文献1に開示されている。
【0004】
しかしながら、粘液付着や生体適合性の低さに起因した繊毛消失や杯細胞の過増殖等の合併症の発生が大きな問題となっている。そのため、粘液付着を抑制し、かつ生体適合性を改善することによって、合併症の発生を抑制しながら長期間使用できるステントで治療したいという臨床ニーズがある。
【0005】
このようなニーズに対して、親水性ポリマーや超疎水性ポリマーでコーティングした気道ステントが開発されている(特許文献1及び非特許文献1)。また、特許文献2には、表面が親水化されたデバイス及びそれを簡便に製造する方法が開示されている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0006】
【特許文献1】米国特許出願公開第2017/0340782号
【特許文献2】国際公開第2017/146102号
【非特許文献】
【0007】
【非特許文献1】Hans J. Lee, et al., Journal of Thoracic Disease 2017;9(11):4651-4659.
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0008】
しかしながら、従来の技術におけるステントは、性能が十分ではなく、克服すべき課題が多く残されている。
そこで本開示は、粘液付着及び合併症の発生を抑制でき、生体適合性に優れた呼吸器用のステントを提供することを課題とする。
【課題を解決するための手段】
【0009】
上記課題を解決するための、本開示の例示的な態様は、以下である。
〔1〕
内側表面及び外側表面を有する呼吸器用のステントであって、該ステントは基材及び親水性ポリマー層を有し、前記親水性ポリマー層は、水酸基及びアミド基を有する親水性ポリマーを含み、少なくとも前記内側表面の一部に、前記親水性ポリマー層を有する、ステント。
〔2〕
内側表面及び外側表面を有する呼吸器用のステントであって、該ステントは基材及び親水性ポリマー層を有し、前記親水性ポリマー層は、水酸基及びアミド基を有する親水性ポリマーを含み、少なくとも前記外側表面の一部に、前記親水性ポリマー層を有する、ステント。
〔3〕
前記基材はシリコーン樹脂を含む、〔1〕又は〔2〕に記載のステント。
〔4〕
前記基材の成分と前記親水性ポリマー層の成分との混合層をさらに含み、該混合層が、前記基材と前記親水性ポリマー層との間に設けられている、〔1〕~〔3〕のいずれか一項に記載のステント。
〔5〕
前記親水性ポリマーを含む層の厚みXと前記基材の厚みYの比率X:Yが1:400~1:120000の範囲内である、〔1〕~〔4〕のいずれか一項に記載のステント。
〔6〕
管状構造部分を含む、〔1〕~〔5〕のいずれか一項に記載のステント。
〔7〕
前記管状構造部分は、外径が4mm以上24mm以下であり、厚みが0.2mm以上2mm以下である、〔6〕に記載のステント。
〔8〕
前記外側表面に複数の突起又は凹凸を有する、〔1〕~〔7〕のいずれか一項に記載のステント。
〔9〕
前記呼吸器が、気道、気管支、又は肺である、〔1〕~〔8〕のいずれか一項に記載のステント。
〔10〕
水酸基及びアミド基を有する前記親水性ポリマーが、カルボキシル基を有するポリアミド類、及び水酸基を有するモノマーとアミド基を有するモノマーとの共重合体からなる群から選ばれる少なくとも一つのポリマーである、〔1〕~〔9〕のいずれか一項に記載のステント。
〔11〕
水酸基を有する前記モノマーが、メタクリル酸、アクリル酸、ビニル安息香酸、チオフェン-3-酢酸、4-スチレンスルホン酸、ビニルスルホン酸、2-アクリルアミド-2-メチルプロパンスルホン酸及びこれらの塩からなる群から選ばれる少なくとも一つのモノマーである、〔10〕に記載のステント。
〔12〕
アミド基を有する前記モノマーが、N-ビニルピロリドン、N-ビニルアセトアミド、N,N-ジメチルアクリルアミド、N,N-ジエチルアクリルアミド、N-イソプロピルアクリルアミド、N-(2-ヒドロキシエチル)アクリルアミド及びアクリルアミドからなる群から選ばれる少なくとも一つのモノマーである、〔10〕又は〔11〕に記載のステント。
〔13〕
内側表面及び外側表面を有する呼吸器用のステントを用いて呼吸器の閉塞を解除して気流を確保する方法であって、前記ステントは、基材及び親水性ポリマー層を有し、前記親水性ポリマー層は、水酸基及びアミド基を有する親水性ポリマーを含み、少なくとも前記内側表面の一部に、前記親水性ポリマー層を有する、呼吸器系の閉塞を解除して気流を確保する方法。
〔14〕
内側表面及び外側表面を有する呼吸器用のステントを用いて呼吸器の閉塞を解除して気流を確保する方法であって、前記ステントは、基材及び親水性ポリマー層を有し、前記親水性ポリマー層は、水酸基及びアミド基を有する親水性ポリマーを含み、少なくとも前記外側表面の一部に、前記親水性ポリマー層を有する、呼吸器系の閉塞を解除して気流を確保する方法。
【0010】
本開示の例示的な態様によれば、粘液付着を抑制でき、生体適合性に優れ、合併症の発生を抑制した呼吸器用のステントを提供することができる。
【図面の簡単な説明】
【0011】
図1図1は、一実施形態に係る具体的なステントの概略模式図である。
図2図2は、図1に示す一実施形態に係るステントのA-A断面図である。
図3図3は、一実施形態に係る、別の具体的なステントの概略模式図である。
図4図4は、一実施形態に係る、さらなる具体的なステントの概略模式図である。
図5図5は、本開示の実施例に用いたステントの概略模式図である。
図6図6は、一実施形態に係る、さらなる具体的なステントの概略模式図である。
【発明を実施するための形態】
【0012】
実施形態(第一実施形態)に係るステントは、内側表面及び外側表面を有する呼吸器用のステントであって、該ステントは基材及び親水性ポリマー層を有し、前記親水性ポリマー層は、水酸基及びアミド基を有する親水性ポリマーを含み、少なくとも前記内側表面の一部に、前記親水性ポリマー層を有する。
【0013】
別の実施形態(第二実施形態)に係るステントは、内側表面及び外側表面を有する呼吸器用のステントであって、該ステントは基材及び親水性ポリマー層を有し、前記親水性ポリマー層は、水酸基及びアミド基を有する親水性ポリマーを含み、少なくとも前記外側表面の一部に、前記親水性ポリマー層を有する。
【0014】
本開示における「呼吸器」とは、呼吸に関する器官の総称であり、例えば、気道、口腔、鼻腔、喉頭、気管、気管支、細気管支、肺等が挙げられる。本実施形態に係るステントは、呼吸器用のステントであり、気道、気管、気管支、又は肺用のステントであることが好ましい。
本実施形態に係るステントを狭窄した呼吸器に留置することで、呼吸器の閉塞を解除して気流を確保することができる。
本実施形態に係るステントは、狭窄した呼吸器だけでなく、詰まった呼吸器にも適用できる。
【0015】
本実施形態に係るステントにおいて、「内側表面」とは、呼吸気が通る側の面をいう。また「外側表面」とは、内側表面以外の面をいい、ステントを生体に適用した際に、呼吸器と接する側の面をいう。
図1は、一実施形態に係るステント10の概略模式図である。図1に示すように、本実施形態に係るステント10は、管状構造部分を含んでいてもよい。図1に示すステント10においては、管状構造部分の内側が内側表面11であり、内側表面以外の面が外側表面12である。また、管状構造部分は、径方向に拡張可能でもよい。
【0016】
<基材>
本実施形態に係るステントは、基材を有する。ステントが有する基材(ステント基材)を形成する材料は、特に限定されるものではなく、金属、又は樹脂を含んでいてもよい。
金属としては、例えば、ステンレス鋼、コバルト合金、チタン合金、ニッケルチタン合金(ニチノール)などが挙げられる。
樹脂としては、例えば、ポリウレタン、ポリエステル、PTFE(ポリテトラフルオロエチレン)及びシリコーン樹脂等が挙げられ、生体適合性、力学物性、加工性などの観点からシリコーン樹脂が好ましい。
すなわち、本実施形態に係るステントにおいて、基材はシリコーン樹脂を含むことが好ましい。
基材は、1種の材料で形成されていてもよく、2種以上の材料で形成されていてもよい。
【0017】
<親水性ポリマー層>
本実施形態において、ステントの表面に有する親水性ポリマー層とは、基材表面上に層として形成された親水性ポリマーである。
【0018】
本実施形態に係るステントは、基材と、親水性ポリマー層との間に、基材の成分と親水性ポリマー層の成分との混合層を含むことが好ましい。
本明細書においては、親水性ポリマー単独で形成された親水性ポリマー層と、混合層とを総称して親水性ポリマーを含む層と称する場合がある。
図2図1に示す本実施形態に係るステント10のA-A断面図である。
例えば、図2に示すように、本実施形態に係るステント10は、基材21と、親水性ポリマー層23との間に、基材21の成分と親水性ポリマー層23の成分とが混合した混合層22を含むことが好ましい。
【0019】
基材と、親水性ポリマー層との間に含まれる混合層は、親水性ポリマー層を構成する親水性ポリマーの一部が基材の内部に入り込んだものであってもよい。また、混合層は、基材の一部が親水性ポリマー層の内部に入り込んだものであってもよい。本実施形態に係るステントが混合層を含む場合、親水性ポリマーを含む層が、親水性ポリマー層と、混合層とを含む2層以上の積層構成となる。
【0020】
本実施形態(第一実施形態)に係るステントは、少なくとも内側表面の一部に、親水性ポリマー層を有する必要があり、内側表面の全部に親水性ポリマー層を有していてもよい。本実施形態に係るステントは、内側表面に加え、さらに、外側表面の一部に親水性ポリマー層を有していてもよい。この場合、内側表面に加え、外側表面の全部に親水性ポリマー層を有していてもよい。
別の実施形態(第二実施形態)に係るステントは、少なくとも外側表面の一部に、親水性ポリマー層を有する必要があり、外側表面の全部に親水性ポリマー層を有していてもよい。本実施形態に係るステントは、外側表面に加え、さらに、内側表面の一部に親水性ポリマー層を有していてもよい。この場合、外側表面に加え、内側表面の全部に親水性ポリマー層を有していてもよい。
すなわち、親水性ポリマー層は、内側表面の少なくとも一部及び/又は外側表面の少なくとも一部に設けられている必要がある。生体適合性の観点から、本実施形態に係るステントは、内側表面及び外側表面の全部に、すなわち、ステントの表面の全部に親水性ポリマー層を有していることが好ましい。以下の説明では、第一実施形態について詳細に説明する。しかしながら、第一実施形態に関する説明は、親水性ポリマー層の位置を除いて、第二実施形態に適用できる。
【0021】
本実施形態において、ステントの表面に親水性ポリマー層が存在することによって、ステントの表面の少なくとも一部に親水性が与えられる。親水性ポリマー層の材料は、通常は基材とは異なる材料である。ただし、親水性ポリマー層の材料は、所定の効果が得られるのであれば、基材の材料と同一であってもよい。
【0022】
上記親水性ポリマー層を形成するポリマーは、親水性を有する材料(例えば、親水性ポリマー等)から構成される。ただし、親水性を損ねない限りは、上記材料以外の添加剤等が含まれてもよい。ここで、親水性を有する材料とは室温(20~23℃)の水100質量部に0.0001質量部以上可溶な材料であり、親水性を有する材料は水100質量部に0.01質量部以上可溶であると好ましく、0.1質量部以上可溶であればさらに好ましく、1質量部以上可溶であれば特に好ましい。
【0023】
親水性ポリマーとしては、水酸基を有する親水性ポリマーを用いることが好ましい。水酸基を有する親水性ポリマーの使用は、水濡れ性に優れるのみならず体液等に対する防汚性に優れた表面を形成できるために好ましい。ここでいう水酸基を有する親水性ポリマーとしては、酸性の水酸基を有するポリマーが好ましい。具体的には、水酸基を有する親水性ポリマーはカルボキシル基及びスルホン酸基から選ばれた基を有するポリマーが好ましく、カルボキシル基を有するポリマーが最も好ましい。カルボキシル基又はスルホン酸基は、塩になっていてもかまわない。
【0024】
上記水酸基を有する親水性ポリマーの例は、ポリメタクリル酸、ポリアクリル酸、ポリ(ビニル安息香酸)、ポリ(チオフェン-3-酢酸)、ポリ(4-スチレンスルホン酸)、ポリビニルスルホン酸、ポリ(2-アクリルアミド-2-メチルプロパンスルホン酸)及びこれらの塩などである。以上はホモポリマーの例であるが、親水性ポリマーを構成する親水性モノマー同士の共重合体、あるいは該親水性モノマーと他のモノマーの共重合体も好適に用いることができる。
【0025】
水酸基を有する親水性ポリマーが共重合体である場合、該共重合体を構成する親水性モノマーとしては、アリル基、ビニル基及び(メタ)アクリロイル基から選ばれた基を有するモノマーが好ましく、(メタ)アクリロイル基を有するモノマーが最も好ましい。このようなモノマーとして好適なものを例示すれば、(メタ)アクリル酸、ビニル安息香酸、スチレンスルホン酸、ビニルスルホン酸、2-アクリルアミド-2-メチルプロパンスルホン酸及びこれらの塩などが挙げられる。これらの中で、(メタ)アクリル酸、2-アクリルアミド-2-メチルプロパンスルホン酸及びこれらの塩から選ばれたモノマーがより好ましく、最も好ましいのは(メタ)アクリル酸及びその塩から選ばれたモノマーである。
【0026】
上記水酸基を有する親水性ポリマーは、水酸基に加えてアミド基を有することが、このような親水性ポリマーが水濡れ性に優れるのみならず、粘液付着を抑制でき、繊毛消失や杯細胞の過増殖を抑制した表面を形成できるために好ましい。また、このような親水性ポリマーは、粘液付着を抑制でき、繊毛消失や杯細胞の過増殖を抑制できるため体適合性に優れ、好ましい。
水酸基及びアミド基を有する酸性の親水性ポリマーの例としては、カルボキシル基を有するポリアミド類、水酸基を有するモノマーとアミド基を有するモノマーとの共重合体などを挙げることができる。
【0027】
カルボキシル基を有するポリアミド類の好適な例としては、ポリアスパラギン酸、ポリグルタミン酸などのポリアミノ酸やポリペプチド類などを挙げることができる。
水酸基を有するモノマーとしては、メタクリル酸、アクリル酸、ビニル安息香酸、チオフェン-3-酢酸、4-スチレンスルホン酸、ビニルスルホン酸、2-アクリルアミド-2-メチルプロパンスルホン酸及びこれらの塩から選ばれたモノマーを好適に使用することができる。
【0028】
アミド基を有するモノマーとしては、重合の容易さの点で(メタ)アクリルアミド基を有するモノマー及びN-ビニルカルボン酸アミド(環状のものを含む)から選ばれたモノマーの使用が好ましい。かかるモノマーの好適な例としては、N-ビニルピロリドン、N-ビニルカプロラクタム、N-ビニルアセトアミド、N-メチル―N-ビニルアセトアミド、N-ビニルホルムアミド、N,N-ジメチルアクリルアミド、N,N-ジエチルアクリルアミド、N-イソプロピルアクリルアミド、N-(2-ヒドロキシエチル)アクリルアミド、アクリロイルモルホリン及びアクリルアミドを挙げることができる。これらの中でも、粘液付着、繊毛消失及び杯細胞の過増殖を抑制する点で好ましいのは、N-ビニルピロリドン及びN,N-ジメチルアクリルアミドであり、N,N-ジメチルアクリルアミドが最も好ましい。
【0029】
水酸基に加えてアミド基を有する親水性ポリマーが共重合体の好ましい例は、(メタ)アクリル酸/N-ビニルピロリドン共重合体、(メタ)アクリル酸/N,N-ジメチルアクリルアミド共重合体、2-アクリルアミド-2-メチルプロパンスルホン酸/N-ビニルピロリドン共重合体及び2-アクリルアミド-2-メチルプロパンスルホン酸/N,N-ジメチルアクリルアミド共重合体である。最も好ましくは(メタ)アクリル酸/N,N-ジメチルアクリルアミド共重合体である。
【0030】
水酸基を有するモノマーとアミド基を有するモノマーの共重合体を用いる場合、その共重合比率[水酸基を有するモノマーの質量]/[アミド基を有するモノマーの質量]は1/99~99/1の範囲内であることが好ましい。
共重合において、水酸基を有するモノマーの比率は、2質量%以上がより好ましく、5質量%以上がさらに好ましく、10質量%以上がさらに好ましい。また、共重合において、水酸基を有するモノマーの比率は、90質量%以下がより好ましく、80質量%以下がさらに好ましく、70%質量以下がさらに好ましい。共重合において、アミド基を有するモノマーの比率は、10質量%以上がより好ましく、20質量%以上がさらに好ましく、30質量%以上がさらに好ましい。また、共重合において、アミド基を有するモノマーの比率は、98%質量以下がより好ましく、95質量%以下がさらに好ましく、90質量%以下がさらに好ましい。
共重合比率がこの範囲にある場合に、粘液付着を抑制できる機能や、繊毛消失や杯細胞の過増殖を抑制できる機能を発現しやすくなる。
【0031】
また、上記水酸基を有するモノマーとアミド基を有するモノマーに、さらに水酸基やアミド基が異なるモノマー又は水酸基やアミド基を有しないモノマーから選択されるモノマーを1種類もしくは複数共重合させることも可能である。
【0032】
また、上記以外のモノマーの好適な例としては、ヒドロキシエチル(メタ)アクリレート、ヒドロキシプロピル(メタ)アクリレート、ヒドロキブチル(メタ)アクリレート、ヒドロキシエチル(メタ)アクリルアミド、グリセロール(メタ)アクリレート、カプロラクトン変性-2-ヒドロキシエチル(メタ)アクリレート、N-(4-ヒドロキシフェニル)マレイミド、ヒドロキシスチレン、ビニルアルコール(前駆体としてカルボン酸ビニルエステル)を挙げることができる。これらのモノマーの内、重合の容易さの点で(メタ)アクリロイル基を有するモノマーの使用が好ましく、(メタ)アクリル酸エステルモノマーはより好ましい。これらのモノマーの中で、粘液付着、繊毛消失及び杯細胞の過増殖を抑制する点で最も好ましいのは、ヒドロキシエチル(メタ)アクリレート、ヒドロキシプロピル(メタ)アクリレート、又はグリセロール(メタ)アクリレートの使用であり、中でもヒドロキシエチル(メタ)アクリレートが最も好ましいまた、親水性、抗菌性、防汚性等といった特徴を有するモノマーを使用することも可能である。また、ステントに求められる特性を損ねない限りは、上記材料以外の添加剤等が親水性ポリマー層に含まれてもよい。さらに、親水性ポリマー層には、水酸基を有する親水性ポリマーに加え、他の親水性ポリマーが1種類もしくは複数含まれてもよい。ただし、製造方法が複雑になる傾向があることから、親水性ポリマー層は、1種類の水酸基を有する親水性ポリマーのみからなることが好ましい。
【0033】
ここで、「1種類のポリマー」とは、1の合成反応により製造されたポリマーもしくはポリマー群(異性体、錯体等)を意味する。複数のモノマーを用いて共重合ポリマーとする場合は、構成するモノマー種が同一であっても、配合比を変えて合成したポリマーは同じポリマーとは言わない。
【0034】
また、「親水性ポリマー層が1種類の水酸基を有する親水性ポリマーのみからなる」とは、親水性ポリマー層が、該水酸基を有する親水性ポリマー以外のポリマーを全く含まないか、もしくは、仮にその他のポリマーを含んだとしても、該水酸基を有する親水性ポリマー100質量部に対し、その他のポリマーの含有量は、0.1質量部以下がより好ましく、0.0001質量部以下がさらに好ましい。
【0035】
特に、その他のポリマーが塩基性ポリマーの場合、含有量が上記の範囲よりも多いと、透明性に問題が生じる。従来技術においては、静電吸着作用を利用してステントにおける基材の表面に親水性ポリマーを積層するため、酸性ポリマーと塩基性ポリマーを併用していたが、本開示の例示的な態様によれば、1種類のポリマーのみからなる親水性ポリマー層をステントにおける基材の表面に形成し固着することができる。
【0036】
本実施形態において、「ステントにおける基材の表面上の少なくとも一部に水酸基を有する親水性ポリマー層が固着した」とは、水素結合、イオン結合、ファンデルワールス結合、疎水結合、錯体形成等といった化学結合によってステントにおける基材の表面上に親水性ポリマー層が固定されていることを意味する。親水性ポリマー層は、基材との間に共有結合により結合されていてもよいが、そうすると簡便な工程での製造が困難となることから、むしろ、親水性ポリマー層と基材との間に共有結合を有していないことが好ましい。
【0037】
本実施形態(第一実施形態)においては、内側表面及び外側表面を有する呼吸器用のステントの内側表面への粘液付着を抑制するため、少なくとも内側表面の一部に、親水性ポリマー層を有する必要があり、内側表面の全部に親水性ポリマー層を有することが好ましい。他の実施形態(第二実施形態)においては、繊毛消失や杯細胞の過増殖を抑制するため、ステントの外側表面の少なくとも一部に親水性ポリマー層を有する必要があり、外側表面の全部に親水性ポリマー層を有することが好ましい。ステントの内側表面及び外側表面に親水性ポリマー層を有することがより好ましく、ステントの全表面の上に親水性ポリマー層を有することが更に好ましい。
【0038】
また、簡便な工程での製造が可能となることから、基材と、親水性ポリマー層との間に共有結合を有していないことが好ましい。共有結合を有していないことは、化学反応性基を含まないことで判定する。化学反応性基の具体例としては、アゼチジニウム基、エポキシ基、イソシアネート基、アジリジン基、アズラクトン基及びそれらの組合せなどが挙げられるが、これらに限定されない。
【0039】
親水性ポリマーを含む層の厚みは、含水状態で凍結させた状態(以下、凍結状態)のステントの断面を走査透過型電子顕微鏡を用いて観察したときに、1nm以上1000nm未満であることが好ましい。これは、厚みがこの範囲内であれば、粘液付着を抑制できる機能や、繊毛消失や杯細胞の過増殖を抑制できる機能を発現しやすくなるためである。凍結状態のステントにおける親水性ポリマーを含む層の厚みは、10nm以上がより好ましく、20nm以上がさらに好ましく、30nm以上が最も好ましい。また、凍結状態のステントにおける親水性ポリマーを含む層の厚みは、900nm以下がより好ましく、800nm以下がさらに好ましく700nm以下が最も好ましい。凍結状態のステントにおける親水性ポリマーを含む層の厚みの測定は、走査透過型電子顕微鏡及びクライオトランスファーホルダーを用いた観察によって行うことができる。
【0040】
乾燥状態のステントにおける親水性ポリマーを含む層の厚みは、1~1000nmの範囲内であることが好ましい。これは、厚みがこの範囲であれば粘液付着を抑制できる機能や、繊毛消失や杯細胞の過増殖を抑制できる機能を発現しやすくなるためである。乾燥状態のステントにおける親水性ポリマーを含む層の厚みは、10nm以上がより好ましく、20nm以上がさらに好ましい。また、乾燥状態のステントにおける親水性ポリマーを含む層の厚みは、900nm以下がより好ましく、800nm以下がさらに好ましく、最も好ましくは、700nm以下である。
【0041】
また、上述したとおり、親水性ポリマーを含む層は、好ましくは2層以上又は2相以上に分離した状態であることが好ましい。
【0042】
ここで、親水性ポリマーを含む層が2層以上に分離した状態とは、ステントの断面を透過型電子顕微鏡を用いて観察したときに、親水性ポリマーを含む層に2層以上の多層構造が観察される状態を示す。透過型電子顕微鏡による観察だけでは、層の分離の判定が困難な場合は、ステントの断面を走査透過電子顕微鏡法及び電子エネルギー損失分光法、エネルギー分散型X線分光法、飛行時間型2次イオン質量分析法等の元素分析や組成分析ができる手段を用いて、断面の元素や組成を解析することにより判定する。
【0043】
また、親水性ポリマーを含む層が2相以上に相分離した状態とは、ステントの断面を透過型電子顕微鏡を用いて観察したときに、親水性ポリマーを含む層中で2相以上への相分離が観察される状態を示す。透過型電子顕微鏡による観察だけでは、相の分離の判定が困難な場合については、上記と同様の方法で判断する。
【0044】
従来、基材表面上に2層以上又は2相以上のポリマー層を形成させるためには、2種類以上のポリマーが必要であったが、本開示の例示的な態様においては、ポリマーが1種類しか存在しない場合でも、基材表面上に、2層以上又は2相以上に分離した親水性ポリマーを含む層を形成し得ることが見出された。
【0045】
上述したとおり、本実施形態に係るステントは、基材と、親水性ポリマー層との間に、基材の成分と親水性ポリマー層の成分とが混合した混合層を含むことが好ましい。本実施形態に係るステントが混合層を含む場合、疎水性ポリマーを含む層が、親水性ポリマー層と、混合層とを含む2層以上の積層構成となる。
【0046】
疎水性ポリマーを含む層が2層以上の多層構造を有する場合、疎水性ポリマーを含む層が十分厚くなり、粘液付着を抑制できる機能や、繊毛消失や杯細胞の過増殖を抑制できる機能がより良好となる。また、疎水性ポリマーを含む層が2相以上に相分離した状態を有する場合、ステントの断面を透過型電子顕微鏡を用いて観察したときにゴミやほこりといった異物と区別することが容易となるため、ステントにおける基材表面上におけるポリマー層形成を確認しやすく、品質検査の上で効率的である。
【0047】
また、親水性ポリマー層の成分が基材の成分と混和した状態は、ステントの断面を走査透過電子顕微鏡法、電子エネルギー損失分光法、エネルギー分散型X線分光法、飛行時間型2次イオン質量分析法等の元素分析又は組成分析を行える観察手段で観察したときに、混合層に基材由来の元素が検出されることで確認できる。親水性ポリマー層の成分が基材の成分と混和することにより、親水性ポリマー層が基材により強固に固定されうる。
【0048】
ステントが親水性ポリマー層の成分と基材の成分とが混和した混合層を有する場合、親水性ポリマー層と、混合層との2層構造が観察されることが好ましい。混合層の厚みは、混合層と親水性ポリマー層の合計厚みに対して、3%以上が好ましく、5%以上がより好ましく、10%以上がさらに好ましい。混合層の厚みは、混合層と親水性ポリマー層の合計厚みに対して、98%以下が好ましく、95%以下がより好ましく、90%以下がさらに好ましく、80%以下が最も好ましい。混合層の厚み割合が小さすぎると、親水性ポリマーと基材の混和が十分ではなく好ましくない。混合層の厚み割合が大きすぎると、親水性ポリマーの性質が十分に発現しない可能性があり好ましくない。
【0049】
親水性ポリマーを含む層の層数又は相数は、ステントの透明性に優れる点から2~3層又は相が好ましく、2層又は相がより好ましい。
【0050】
本開示の例示的な態様による粘液付着抑制能は、ヒトの唾液から抽出したムチンを使用するムチン付着試験により、評価することができる。これらの評価によるムチン付着量が少ないものほど、粘液付着抑制効果が高く、生体適合性に優れ、ステントの感染や移動リスクが低減されるために好ましい。
ムチン付着量は、シリコーン基材に対して、50%以下が好ましく、40%以下がより好ましく、30%以下が最も好ましい。測定方法の詳細は後述する。
【0051】
<ステントの製造方法>
次に、本実施形態に係るステントの製造方法について説明する。
本実施形態(第一実施形態)に係るステントは、基材の少なくとも内側表面の一部に親水性ポリマー層を形成することにより製造することができる。別の実施形態(第二実施形態)に係るステントは、基材の少なくとも外側表面の一部に親水性ポリマー層を形成することにより製造することができる。
第一実施形態においては、基材の内側表面の全部に親水性ポリマー層を形成することが好ましい。さらに、基材の外側表面の少なくとも一部に親水性ポリマー層を形成してもよい。第二実施形態においては、基材の外側表面の全部に親水性ポリマー層を形成することが好ましい。さらに、基材の内側表面の少なくとも一部に親水性ポリマー層を形成してもよい。基材の内側表面及び外側表面に親水性ポリマー層を形成することがより好ましく、基材の全表面の上に親水性ポリマー層を形成することがさらに好ましい。以下の説明では、第一実施形態に係るステントの製造方法について詳細に説明する。しかしながら、第一実施形態に関する説明は、親水性ポリマー層の位置を除いて、第二実施形態に適用できる。
【0052】
本実施形態にかかるステントは、基材の内側表面の少なくとも一部を、親水性ポリマーを含有する溶液により被覆することで、製造することができる。被覆の方法には特に限定はなく、浸漬(ディッピング)、噴霧(スプレー)、塗布・印刷等の従来公知の方法が挙げられる。
中でも、基材を水酸基を有する親水性ポリマーを含有する溶液中に浸漬した状態で溶液を加熱する方法により得ることが好ましい。また、基材表面に、又はその一部にポリマー溶液を噴霧もしくは、塗布することで基材表面の一部に親水性ポリマー層を形成することができる。さらに、内側表面のみがポリマー溶液に接触した状態もしくは、外側表面のみがポリマー溶液に接触した状態で溶液を加熱することでも基材表面の一部に親水性ポリマー層を形成することができる。
また、製造プロセスの観点から、予め所望の形状に成形した基材の内側表面の少なくとも一部に親水性ポリマー層を形成することが好ましい。
留置後の移動を防ぐために、例えば、3DCTに基づいた解剖学的精度の高いデータを作成し、解剖学的な解析に基づいて3Dプリント技術を用いて、適用する患者の呼吸器の形状に適したサイズ及び形状に成形した基材を用いてもよい。
【0053】
ここで、本発明者らは、上記水酸基を有する親水性ポリマーを含有する溶液の初期pHを2.0以上6.0以下に調整して、かかる溶液中にステント基材を配置し、その状態で該溶液を加熱するという極めて簡便な方法で、従来知られている特別な方法、たとえば酸性ポリマーと塩基性ポリマーを併用した静電吸着作用を利用した方法、などによらずとも、水酸基を有する親水性ポリマーをステント基材の表面上に固着でき、粘液付着を抑制できる機能や、繊毛消失や杯細胞の過増殖を抑制できる機能をステントに発現することを見出した。これは、製造工程の短縮化という観点から、工業的に非常に重要な意味を持つ。
【0054】
1種類の水酸基を有する親水性ポリマーのみを用いてステント基材の表面にポリマー層を形成させる場合、従来技術では、層の厚みが十分でないため、十分な粘液付着を抑制できる機能や、繊毛消失や杯細胞の過増殖を抑制できる機能をステントに付与することが難しいという問題があった。
ここで、親水性ポリマーの分子量を増すと、一般に得られるポリマー層の厚さは増す。しかし、分子量が大きすぎる場合、粘度増大により製造時の親水性ポリマーの取り扱い難さが増す可能性があることから、得られるポリマー層の厚さには上限が有る。また、製造時の溶液中の親水性ポリマーの濃度を高くすると、一般に得られるポリマー層の厚さは増す。しかし、親水性ポリマーの濃度が高すぎる場合、粘度増大により製造時の親水性ポリマーの取り扱い難さが増す可能性があることから、親水性ポリマーの濃度は、分子量が大きすぎる場合と同様に制限を受ける。
しかしながら、本実施形態に係るステントが混合層を含む場合においては、水酸基を有する親水性ポリマーが1種類のみを用いているにも関わらず、親水性ポリマーを含む層が、親水性ポリマー層と、混合層とを含む2層以上の積層構成となる。その結果、下記分子量の範囲の親水性ポリマーを用いても、また、製造時の親水性ポリマーの溶液中の濃度を下記の範囲の設定としても、親水性ポリマーを含む層の厚みを増大させることが可能となり、粘液付着を抑制できる機能や、繊毛消失や杯細胞の過増殖を抑制できる機能を十分なものとすることが容易となる。
【0055】
なお、本開示で使用される水酸基を有する親水性ポリマーは、2000~1500000の分子量を有することが好ましい。水酸基を有する親水性ポリマーの分子量は、より好ましくは、5000以上であり、さらに好ましくは、10000以上である。また、水酸基を有する親水性ポリマーの分子量は、1200000以下がより好ましく、1000000以下がさらに好ましい。ここで、上記分子量としては、ゲル浸透クロマトグラフィー法(水系溶媒)で測定されるポリエチレングリコール換算の質量平均分子量を用いる。
【0056】
また、製造時の親水性ポリマーの溶液中の濃度については、これを高くすると、一般に得られる親水性ポリマー層の厚さは増す。しかし、親水性ポリマーの濃度が高すぎる場合、粘度増大により製造時の取り扱い難さが増す可能性があるため、水酸基を有する親水性ポリマーの濃度は、0.0001~30質量%の範囲であることが好ましい。水酸基を有する親水性ポリマーの濃度は、より好ましくは、0.001質量%以上であり、さらに好ましくは、0.005質量%以上である。また、水酸基を有する親水性ポリマーの濃度は、より好ましくは、20質量%以下であり、さらに好ましくは、15質量%以下である。
【0057】
上記工程において、親水性ポリマーを含有する溶液の初期pHは、溶液に濁りが生じず、透明性が良好なステントが得られることから、2.0~6.0の範囲が好ましい。初期pHは、2.2以上がより好ましく、2.4以上がより好ましく、2.5以上がさらに好ましく、2.6以上が最も好ましい。また、初期pHは、5.0以下が好ましく、4.5以下がより好ましく、4.0以下が最も好ましい。
初期pHが2.0以上であると、溶液の濁りが生じる場合がより少なくなる。溶液に濁りが生じないと、内視鏡などでの観察時に生体組織反応を早期に発見することができる傾向にあるため好ましい。初期pHが6.0を超える場合、親水性ポリマー層が2層以上又は2相以上に分離して得られない傾向があり、粘液付着を抑制できる機能や、繊毛消失や杯細胞の過増殖を抑制できる機能が低下し、好ましくない。
【0058】
上記溶液のpHは、pHメーター(例えばp「Eutech pH2700」、Eutech Instruments社製)を用いて測定することができる。ここで、水酸基を有する親水性ポリマーを含有する溶液の初期pHとは、溶液に親水性ポリマーを全て添加した後、室温(23~25℃)にて2時間回転子を用い撹拌し、溶液を均一とした後であって、基材を配置して加熱する前に測定したpHの値を指す。なお、本開示において、pHの値の小数点以下第2位は四捨五入する。
【0059】
なお、溶液のpHは、加熱操作によって変化し得る。加熱操作を行った後の溶液のpHは、2.0~6.5が好ましい。加熱後の溶液のpHは、2.2以上がより好ましく、2.3以上がより好ましく、2.4以上が最も好ましい。また加熱後の溶液のpHは、5.9以下がより好ましく、5.5以下がより好ましく、5.0以下がさらに好ましく、4.5以下が最も好ましい。
加熱操作を行った後の溶液のpHが、上記範囲であることで、加熱操作を行っている間、適切なpH条件とすることができ、得られるステントの物性が好適なものとなる。なお、本開示に係る加熱操作を行ってステント表面を改質した後で、中和処理を行ったり、水を加えたりしてpHを調整することもできるが、ここでいう加熱操作を行った後の溶液のpHとは、かかるpH調整処理を行う前の溶液のpHである。
【0060】
上記水酸基を有する親水性ポリマーを含んだ溶液の溶媒としては、水が好ましく挙げられる。親水性ポリマーを含んだ溶液のpHは、例えば酢酸、クエン酸、ギ酸、アスコルビン酸、トリフルオロメタンスルホン酸、メタンスルホン酸、硝酸、硫酸、リン酸、塩酸などの酸性物質を溶液に添加することによって調整することができる。これらの酸性物質の中で、揮発性が少ないこと、生体に対する安全性が高いことなどの観点では、クエン酸、アスコルビン酸及び硫酸が好ましい。また、pHの微調整を容易にするために、溶液に緩衝剤を添加することも好ましい。
【0061】
緩衝剤としては、任意の生理学的に適合性のある公知の緩衝剤を使用することができる。本開示において適切に用いられる緩衝剤は当業者に公知であり、例えば、ホウ酸、ホウ酸塩類(例:ホウ酸ナトリウム)、クエン酸、クエン酸塩類(例:クエン酸カリウム)、重炭酸塩(例:重炭酸ナトリウム)、リン酸緩衝液(例:NaHPO、NaHPO及びKHPO)、TRIS(トリス(ヒドロキシメチル)アミノメタン)、2-ビス(2-ヒドロキシエチル)アミノ-2-(ヒドロキシメチル)-1,3-プロパンジオール、ビス-アミノポリオール、トリエタノールアミン、ACES(N-(2-アセトアミド)-2-アミノエタンスルホン酸)、BES(N,N-ビス(2-ヒドロキシエチル)-2-アミノエタンスルホン酸)、HEPES(4-(2-ヒドロキシエチル)-1-ピペラジンエタンスルホン酸)、MES(2-(N-モルホリノ)エタンスルホン酸)、MOPS(3-[N-モルホリノ]-プロパンスルホン酸)、PIPES(ピペラジン-N,N’-ビス(2-エタンスルホン酸)、TES(N-[トリス(ヒドロキシメチル)メチル]-2-アミノエタンスルホン酸)及びそれらの塩が挙げられる。各緩衝剤は、所望のpHを達成する上で有効であるために必要な量が用いられ、通常は、これら緩衝剤は、上記溶液中において0.001質量%~2質量%、好ましくは、0.01質量%~1質量%、より好ましくは、0.05質量%~0.30質量%存在する。各緩衝剤は、上記上限及び下限のいずれを組み合わせた範囲で存在してもよい。
【0062】
上記加熱の方法としては、高圧蒸気滅菌法、電磁波(γ線、マイクロ波など)照射、乾熱法、火炎法などが挙げられる。粘液付着を抑制できる機能や、繊毛消失や杯細胞の過増殖を抑制できる機能及び製造工程短縮の観点から、高圧蒸気滅菌法が最も好ましい。装置としては、オートクレーブを用いることが好ましい。
【0063】
加熱温度は、粘液付着を抑制できる機能や、繊毛消失や杯細胞の過増殖を抑制できる機能が良好なステントが得られ、かつ、ステント自体の強度に影響が少ない観点から、60℃~200℃の範囲内が好ましい。加熱温度は、80℃以上がより好ましく、100℃以上がさらに好ましく、101℃以上がさらに好ましく、110℃以上が最も好ましい。また加熱温度は、180℃以下がより好ましく、170℃以下がさらに好ましく、150℃以下が最も好ましい。
【0064】
加熱時間は、短すぎると粘液付着を抑制できる機能や、繊毛消失や杯細胞の過増殖を抑制できる機能が良好なステントが得られず、長過ぎるとステント自体の強度に影響を及ぼすことから5分~600分の範囲内が好ましい。加熱時間は、10分以上が好ましく、15分以上がより好ましい。また、加熱時間は、400分以下が好ましく、300分以下がより好ましい。
【0065】
上記の加熱処理後、得られたステントにさらに他の処理を行ってもよい。他の処理としては、水酸基を有する親水性ポリマーを含んだ溶液中において再び同様の加熱処理を行う方法、親水性ポリマーを含まない溶液に入れ替えて同様の加熱処理を行う方法、ポリマーを含まない溶液中において再び同様の加熱処理を行う方法、放射線照射を行う方法、基材に対して反対の荷電を有するポリマー材料を1層ずつ交互にコーティングするLbL処理(Layer by Layer処理)を行う方法、金属イオンによる架橋処理を行う方法、化学架橋処理を行う方法など処理が挙げられる。ただし、簡便な方法によりステント表面の親水化が可能とする本開示の思想に照らし、製造工程が複雑になり過ぎることのない範囲での処理の実施が好ましい。
【0066】
上記の放射線照射に用いる放射線としては、各種のイオン線、電子線、陽電子線、エックス線、γ線、中性子線が好ましく、より好ましくは電子線及びγ線であり、最も好ましくはγ線である。
【0067】
上記のLbL処理としては、例えば国際公開第2013/024800号公報に記載されているような酸性ポリマーと塩基性ポリマーを使用した処理を用いると良い。
【0068】
上記の金属イオンによる架橋処理に用いる金属イオンとしては、各種の金属イオンが好ましく、より好ましくは1価及び2価の金属イオンであり、最も好ましくは2価の金属イオンである。また、キレート錯体を用いても良い。
【0069】
上記の化学架橋処理としては、例えば日本国特表2014-533381号公報(国際公開第2013/074535号)に記載されているようなエポキシド基とカルボキシル基との間の反応や、適切な水酸基を有する酸性の親水性ポリマーとの間で形成される公知の架橋処理を用いると良い。
上記の溶液を親水性ポリマーを含まない溶液に入れ替えて、同様の加熱処理を行う方法において、親水性ポリマーを含まない溶液としては、特に限定されないが、緩衝剤溶液の使用が好ましい。緩衝剤としては、前記のいずれでもよい。
【0070】
緩衝剤溶液のpHは、生理学的に許容できる範囲である6.3~7.8が好ましい。緩衝剤溶液のpHは、好ましくは6.5以上、さらに好ましくは6.8以上である。また、緩衝剤溶液のpHは、7.6以下が好ましく、さらに好ましくは7.4以下である。
【0071】
呼吸器用ステントとして機能しながら、粘液付着を抑制できる機能や、繊毛消失や杯細胞の過増殖を抑制できる機能を発揮するためには、乾燥状態のステントにおける前記親水性ポリマーを含む層の厚みXと前記基材の厚みYの比率X:Yが1:400~1:120000の範囲内となることが好ましく、1:800~1:100000となることがより好ましく、1:1200~1:80000となることがよりさらに好ましく、1:1500~1:60000となることが特により好ましい。
【0072】
本実施形態に係るステントの形状について説明する。
図1図3及び図4は、本実施形態に係るステントを模式的に示す図である。
本実施形態に係るステントの形状は、特に限定されるものではないが、ステントは図1に示すように管状構造部分を含んでいてもよい。また、本実施形態に係るステントは図4に示すように、分岐していてもよ。本実施形態に係るステントは、適用する呼吸器の形状に合わせたものであることが好ましい。
また、本実施形態に係るステントのサイズは、特に限定されるものではないが、呼吸器用ステントとして機能するために、管状構造部分における外径が4mm以上24mm以下であることが好ましく、ステントの厚みは0.2mm以上2mm以下であることが好まし。管状構造部分における外径が6mm以上20mm以下であることが好ましく、ステントの厚みは0.25mm以上1.5mm以下であることが好ましい。
ここで用いられる「外径」は、突起又は凹凸が外周面に形成されている場合、それらを含むものと定義される。外周面に突起や凹凸が形成されていない場合、「外径」は突起や凹凸を含まない鋳物と定義され、外径が上記範囲内である部分がステントの一部にあればよい。
【0073】
本実施形態に係るステントの形状は、上述の通り特に限定されるものではないが、ステント留置後の移動を防ぐために、ステントの外側表面に突起又は凹凸が形成されていることが好ましい。複数の突起又は凹凸が形成されていることが好ましい。
複数の突起は、規則的又はランダムに配置されていてよい。
突起がステントの外側表面に形成されている場合、複数の突起40Aは、例えば図1、3及び4に示されるように、規則的又はランダムに配置されていてよい。
突起又は凹凸は、外側表演に局所的に配置されていてもよく、外側表面の全体に配置されていてもよく、又は外側表面に点在していても良い。
【0074】
突起40Aの形状は、特に制限はなく、半球状、円柱状、円錐状、柱状、多角錘状、鍵状等であってもよい。より具体的には、例えば、各突起40Aは、図1に示すような半球状又は図3に示すような円柱状であってもよい。
凹凸の形状は、特に制限はなく、ひだ状、エンボス状、パターン状(線、波、星)等であってもよい。より具体的には、例えば、凹凸は図5に示すようなひだ状、又は図6に示されるステントの突起40Bのような線型のパターンであってもよい。
ステントの外側表面に突起又は凹凸が配置される場合、突起のサイズには特に制限はない。組織への刺激を抑制する観点から、突起のサイズは4mm以下が好ましく、3mm以下がより好ましく、2mmいかがさらに好ましい。
ステントの留置後の移動を抑制する機能を発現するためには、突起のサイズは0.1mm以上が好ましく、0.2mm以上がより好ましい。
【0075】
留置後のステントの移動を防ぐために、例えば、3DCTに基づいた解剖学的精度の高いデータを作成し、解剖学的な解析に基づいて3Dプリント技術を用いて、適用する患者の呼吸器の形状に適したサイズ及び形状のステントを作成することもできる。また、ステントを配置する呼吸器の内腔径とステント外径の差異は10%以下であることが好ましく、8%以下がより好ましく、6%以下であることがよりさらに好ましく、5%以下であることが特により好ましい。
【0076】
<呼吸器の閉塞を解除して気流を確保する方法>
本実施形態に係る呼吸器の閉塞を解除して気流を確保する方法は、内側表面及び外側表面を有する呼吸器用のステントを用いて呼吸器の閉塞を解除して気流を確保する方法であって、前記ステントは、基材及び親水性ポリマー層を有し、前記親水性ポリマー層は、水酸基及びアミド基を有する親水性ポリマーを含み、少なくとも前記内側表面の一部に、前記親水性ポリマー層を有する、方法である。
【0077】
本実施形態に係る呼吸器の閉塞を解除して気流を確保する方法は、上述のステントを用いることにより、粘液付着を抑制でき、生体適合性に優れた方法であり、合併症の発生を抑制することができる。
本実施形態に係る呼吸器の閉塞を解除して気流を確保する方法において、ステントについては上述の説明をそのまま援用し得る。
【産業上の利用可能性】
【0078】
本実施形態に係るステントは呼吸器用のステントであり、例えば、気道、口腔、鼻腔、喉頭、気管、気管支、細気管支、肺等に適用し得る。また、本実施形態に係るステントは、呼吸器以外の様々な体腔又は脈管(例えば血管系、食道、胃腸管、大腸及び小腸、胆管、膵管、肺管、尿管、鼻腔及び気道、気管、気管支など)の狭窄した部位に移植して内腔を確保する用途にも適用できる。
【実施例
【0079】
以下、実施例及び比較例を挙げて本開示の例示的な態様を詳細に説明するが、本開示はこれらに限定されるものではない。
【0080】
(測定例1:水濡れ性(液膜保持時間))
ステントを、室温(23℃~25℃)でビーカー中のリン酸緩衝液100mL中で軽く洗浄後、新たなリン酸緩衝液100mL中に24時間以上浸漬した。ステントをリン酸緩衝液から引き上げ、空中に保持した際の表面の液膜が保持される時間を目視観察し、三回測定の平均時間を下記基準で判定した。
【0081】
A:表面の液膜が60秒以上保持される。
B:表面の液膜が30秒以上60秒未満で切れる。
C:表面の液膜が5秒以上30秒未満で切れる。
D:表面の液膜が5秒未満で切れる。
【0082】
(測定例2:重量平均分子量測定)
使用した親水性ポリマーの重量平均分子量は以下に示す条件で測定した。
【0083】
(GPC測定条件)
装置:島津製作所製 「Prominence GPCシステム」
ポンプ:LC-20AD
オートサンプラ:SIL-20AHT
カラムオーブン:CTO-20A
検出器:RID-10A
カラム:東ソー社製GMPWXL(内径7.8mm×30cm、粒子径13μm)
溶媒:水/メタノール=1/1(0.1N硝酸リチウム添加)
流速:0.5mL/分
測定時間:30分
サンプル濃度:0.1質量%
注入量:100μL
標準サンプル:Agilent社製ポリエチレンオキシド標準サンプル(0.1kD~1258kD)
【0084】
(測定例3:初期pH測定法)
pHメーター「Eutech pH2700」、Eutech Instruments社製、を用いて溶液のpHを測定した。表において、水酸基を有する親水性ポリマーを含有する溶液の初期pHは、各実施例等記載の溶液に親水性ポリマーを全て添加した後、室温23~25℃)にて2時間回転子を用い撹拌し溶液を均一とした後に測定したpHである。
【0085】
(測定例4:親水性ポリマーを含む層の分離の判定)
親水性ポリマーを含む層が2層以上に分離しているかどうかの判定は、透過型電子顕微鏡を用いてステントの断面を観察することで行った。
装置: 透過型電子顕微鏡、日立製「H-7100FA」
加速電圧: 100kV
試料調製: シリコーン系基材(RuO染色超薄切片法)
ハイドロゲル系基材(OsO染色超薄切片法又はRuO染色超薄切片法)
【0086】
(測定例5:親水性ポリマーを含む層の元素組成分析)
親水性ポリマーを含む層の元素組成分析は、クライオトランスファーホルダーを用いて含水状態で凍結したステントの断面を透過型走査電子顕微鏡法及び電子エネルギー損失分光法にて分析することによって行った。
装置: 電界放出型電子顕微鏡(JEOL製 「JEM-2100F」)
加速電圧: 200kV
測定温度: 約-100℃
電子エネルギー損失分光法: GATAN GIF Tridiem
画像取得: Digital Micrograph
試料調製: RuO染色凍結超薄切片法
【0087】
(測定例6:親水性ポリマーを含む層の膜厚)
乾燥状態の親水性ポリマーを含む層の膜厚は、乾燥状態のステントの断面を透過型電子顕微鏡を用いて観察することで行った。上記(測定例4:親水性ポリマーを含む層の分離の判定)に記載の条件にて測定した。7ヶ所場所を変えて、各視野につき、5ヶ所膜厚を測定し、計35ヶ所の膜厚を測定した。測定された膜厚の平均値を表1に記載した。
凍結状態の親水性ポリマーを含む層の膜厚は、クライオトランスファーホルダーを用いて含水状態で凍結したステントの断面を透過型走査電子顕微鏡を用いて観察することで行った。上記(測定例5:親水性ポリマーを含む層の元素組成分析)に記載の条件にて測定した。7ヶ所場所を変えて、各視野につき、5ヶ所膜厚を測定し、計35ヶ所の膜厚を測定した。測定された膜厚の平均値を表1に記載した。
【0088】
(測定例7:in vitroでの粘液付着試験)
唾液からムチンを精製し、濃度が100μg/mLのムチン溶液を調製した。ステントを直径4mm径のディスク形状に打ち抜き、マイクロタイタープレートの48ウェルにそれぞれセットした。それぞれのウェルに濃度100μg/mLのムチン溶液を600μL添加し、37℃で20~24時間インキュベートした。また、コントロールとして、ムチン溶液の代わりにPBSを添加し、37℃で20~24時間インキュベートした。PBSで3回洗浄してから、ブロッキングバッファー(ThermoFisher Scientific 37570)を添加し、室温(23℃~25℃)で1時間インキュベートした。PBSで3回洗浄してから、WGA (Biotinylated Wheat Germ Agglutinin (WGA) [Vector Laboratories B-1025-5]、PBSで500倍希釈)を添加し、室温で1時間インキュベートした。PBSで3回洗浄してから、西洋ワサビペルオキシダーゼ(HRP)標識ストレプトアビジン(HRP-Streptavidin [Sigma-Aldrich RABHRP3-600UL]) を添加し、室温で1時間インキュベートした。PBSで3回洗浄してから、TMB (3,3′,5,5′-Tetramethylbenzidine (TMB) substrate [Thermo Scientific PI34028]) 溶液を250μL添加し、室温で15~30分インキュベート後にサンプルを取り出し、2Mの硫酸を250μL添加し、450nmの吸光度をマイクロプレート分光光度計で測定して、以下の式(1)に示すように、粘液(ムチン)付着量を算出した。
【0089】
(粘液付着量(%))= (As-Asb)×100/(Ac-Acb) ・・・(1)
As : サンプルの吸光度
Asb : サンプルのブランク溶液(ムチン溶液ではなくPBSで一晩インキュベート)の吸光度
Ac : シリコーン製ステント(Dumonステント)の吸光度
Acb : シリコーン製ステント(Dumonステント)のブランク溶液(ムチン溶液ではなくPBSで一晩インキュベート)の吸光度
【0090】
(測定例8:ブタ気管支への気道ステント移植試験による生体適合性の評価)
H.S.Jungらの文献(Scientific Reports 11,7958,2021)等を参考にして、ブタ気管支に気道ステントを約1cm留置し、定期的に、留置した気道ステントの表面を気管支内視鏡にて観察した。ブタ一匹あたり2本(左気管支に1本、右気管支に1本)の気道ステントを留置した。
留置4週間後に各気道ステント表面と周囲にある粘液を回収して粘液の質量を測定した。
また、留置4週間後に気道ステントを摘出し、H.E.染色(ヘマトキシリン エオジン染色)とPAS染色(過ヨウ素酸シッフ染色)した標本を作製した。得られた標本を顕微鏡で観察し、下記基準で繊毛消失の程度と杯細胞の数について、以下の基準でスコア評価した。
【0091】
繊毛消失(H.E.染色):
なし:0
低:1
中:2
高:3
【0092】
杯細胞(PAS染色):
0~20%:0
20%超~60%以下:1
60%超~80%以下:2
80%超~90%以下:3
90%超~100%以下:4
【0093】
[リン酸緩衝液]
下記実施例、比較例のプロセス及び上記した測定において使用したリン酸緩衝液の組成は、以下の通りである。
KCl: 0.2g/L
KHPO: 0.2g/L
NaCl: 8.0g/L
NaHPO(anhydrous): 1.15g/L
EDTA: 0.25g/L
【0094】
[参考例1]
3D プリンター用液状シリコーンゴム(「SILASTIC(登録商標) 3D 3335 LSR」 ダウ社製)とGerman RepRap社製の3D-Printer「L320」を用いて、外径14mm、厚み1mm、長さ4cmのシリコーン製のステント基材を造形した(図5)。
【0095】
[実施例1]
参考例1のシリコーン製ステント基材を、アクリル酸/N,N-ジメチルアクリルアミド共重合体(共重合におけるモル比1/9、Mw:800000、大阪有機化学工業株式会社製)を純水中に0.2質量%含有した水溶液をクエン酸によりpH2.8に調整した溶液中に入れ、溶液を121℃30分間オートクレーブにて加熱した。得られたステントをリン酸緩衝液で洗浄後、自然乾燥してから上記方法にて評価した結果を表1に示す。
上記測定例5により親水性ポリマーを含む層の元素組成分析を行った結果、一方の層は基材の成分と親水性ポリマー層の成分との混合層であり、他方の層は親水性ポリマー単独の層であった。
【0096】
[実施例2]
参考例1のシリコーン製ステント基材を、アクリル酸/N,N-ジメチルアクリルアミド共重合体(共重合におけるモル比1/9、Mw:700000、大阪有機化学工業株式会社製)をリン酸緩衝液中に0.2質量%含有した溶液をクエン酸によりpH2.6に調整した溶液中に入れ、溶液を121℃30分間オートクレーブにて加熱した。得られたステントをリン酸緩衝液で洗浄後、自然乾燥してから上記方法にて評価した結果を表1に示す。
【0097】
[実施例3]
参考例1のシリコーン製ステント基材を、アクリル酸/N,N-ジメチルアクリルアミド共重合体(共重合におけるモル比1/9、Mw:800000、大阪有機化学工業株式会社製)を純水中に0.2質量%含有した水溶液をクエン酸によりpH2.5に調整した溶液中に入れ、溶液を121℃30分間オートクレーブにて加熱した。得られたステントをリン酸緩衝液で洗浄後、自然乾燥してから上記方法にて評価した結果を表1に示す。
【0098】
[実施例4]
参考例1のシリコーン製ステント基材を、アクリル酸/ビニルピロリドン共重合体(共重合におけるモル比1/4、Mw:500000、大阪有機化学工業株式会社製)をリン酸緩衝液中に0.1質量%含有した溶液をクエン酸によりpH3.2に調整した溶液中に入れ、溶液を121℃30分間オートクレーブにて加熱した。得られたステントをリン酸緩衝液で洗浄後、自然乾燥してから上記方法にて評価した結果を表1に示す。
【0099】
[実施例5]
シリコーン製のステント(Dumonステント)基材を、アクリル酸/N,N-ジメチルアクリルアミド共重合体(共重合におけるモル比1/9、Mw:800000、大阪有機化学工業株式会社製)をリン酸緩衝液中に0.2質量%含有した溶液をクエン酸によりpH3.3に調整した溶液中に入れ、溶液を121℃30分間オートクレーブにて加熱した。得られたステントをリン酸緩衝液で洗浄後、自然乾燥してから上記方法にて評価した結果を表1に示す。
【0100】
[実施例6]
シリコーン製のステント(Dumonステント)基材を、アクリル酸/N,N-ジメチルアクリルアミド共重合体(共重合におけるモル比1/9、Mw:500000、大阪有機化学工業株式会社製)をリン酸緩衝液中に0.2質量%含有した溶液をクエン酸によりpH3.0に調整した溶液中に入れ、溶液を121℃30分間オートクレーブにて加熱した。得られたステントをリン酸緩衝液で洗浄後、自然乾燥してから上記方法にて評価した結果を表1に示す。
【0101】
[実施例7]
シリコーン製のステント(Dumonステント)基材を、アクリル酸/N,N-ジメチルアクリルアミド共重合体(共重合におけるモル比1/2、Mw:700000、大阪有機化学工業株式会社製)をリン酸緩衝液中に0.2質量%含有した溶液をクエン酸によりpH3.1に調整した溶液中に入れ、溶液を121℃30分間オートクレーブにて加熱した。得られたステントをリン酸緩衝液で洗浄後、自然乾燥してから上記方法にて評価した結果を表1に示す。
【0102】
[実施例8]
シリコーン製のステント(Dumonステント)基材を、アクリル酸/ビニルピロリドン共重合体(共重合におけるモル比1/4、Mw:800000、大阪有機化学工業株式会社製)をリン酸緩衝液中に0.1質量%含有した溶液をクエン酸によりpH4.1に調整した溶液中に入れ、溶液を121℃30分間オートクレーブにて加熱した。得られたステントをリン酸緩衝液で洗浄後、自然乾燥してから上記方法にて評価した結果を表1に示す。
【0103】
[実施例9]
シリコーン製のステント(Dumonステント)基材を、アクリル酸/ビニルピロリドン共重合体(共重合におけるモル比1/9、Mw:400000、大阪有機化学工業株式会社製)をリン酸緩衝液中に0.1質量%含有した溶液をクエン酸によりpH4.3に調整した溶液中に入れ、溶液を121℃30分間オートクレーブにて加熱した。得られたステントをリン酸緩衝液で洗浄後、自然乾燥してから上記方法にて評価した結果を表1に示す。
【0104】
[実施例10]
シリコーン製のステント(Dumonステント)基材を、アクリル酸/N,N-ジメチルアクリルアミド共重合体(共重合におけるモル比1/9、Mw:500000、大阪有機化学工業株式会社製)をリン酸緩衝液中に0.2質量%含有した溶液をクエン酸によりpH2.7に調整した溶液中に入れ、溶液を121℃30分間オートクレーブにて加熱した。得られたステントをリン酸緩衝液で洗浄後、自然乾燥してから上記方法にて評価した結果を表1に示す。
【0105】
[実施例11]
シリコーン製のステント(Dumonステント)基材を、アクリル酸/N,N-ジメチルアクリルアミド共重合体(共重合におけるモル比1/9、Mw:800000、大阪有機化学工業株式会社製)をリン酸緩衝液中に0.2質量%含有した溶液をクエン酸によりpH2.9に調整した溶液中に入れ、溶液を121℃30分間オートクレーブにて加熱した。得られたステントをリン酸緩衝液で洗浄後、自然乾燥してから上記方法にて評価した結果を表1に示す。
【0106】
[比較例1]
シリコーン製のステント(Dumonステント)基材をリン酸緩衝液で洗浄後、自然乾燥してから上記方法にて評価した結果を表1に示す。
【0107】
[比較例2]
参考例1のシリコーン製ステント基材をリン酸緩衝液で洗浄後、自然乾燥してから上記方法にて評価した結果を表1に示す。
【0108】
[比較例3]
シリコーン製のステント(Dumonステント)基材を、アクリル酸/N,N-ジメチルアクリルアミド共重合体(共重合におけるモル比1/2、Mw:500000、大阪有機化学工業株式会社製)をリン酸緩衝液中に0.03質量%含有した溶液をクエン酸によりpH3.2に調整した溶液中に入れ、溶液を121℃30分間オートクレーブにて加熱した。得られたステントをリン酸緩衝液で洗浄後、自然乾燥してから上記方法にて評価した結果を表1に示す。
【0109】
[比較例4]
参考例1のシリコーン製ステント基材を、アクリル酸/ビニルピロリドン共重合体(共重合におけるモル比1/4、Mw:500000、大阪有機化学工業株式会社製)をリン酸緩衝液中に0.03質量%含有した溶液をクエン酸によりpH4.5に調整した溶液中に入れ、溶液を121℃30分間オートクレーブにて加熱した。得られたステントをリン酸緩衝液で洗浄後、自然乾燥してから上記方法にて評価した結果を表1に示す。
【0110】
[実施例12]
実施例8で得られたステントを測定例8に記載した方法にて評価した結果を表2に示す。
【0111】
[実施例13]
実施例11で得られたステントを測定例8に記載した方法にて評価した結果を表2に示す。
【0112】
[比較例5]
比較例1で得られたステントを測定例8に記載した方法にて評価した結果を表2に示す。
【0113】
[比較例6]
比較例3で得られたステントを測定例8に記載した方法にて評価した結果を表2に示す。
【0114】
[実施例14]
シリコーン製のステント(Dumonステント)基材を、アクリル酸/N,N-ジメチルアクリルアミド共重合体(共重合におけるモル比1/9、Mw:800000、大阪有機化学工業株式会社製)をリン酸緩衝液中に0.2質量%含有した溶液をクエン酸によりpH2.9に調整した溶液中に入れ、溶液を121℃30分間オートクレーブにて加熱した。得られたステントをリン酸緩衝液で洗浄後、自然乾燥してから、再度リン酸緩衝液中で121℃30分間オートクレーブにて加熱した。得られたステントをリン酸緩衝液で洗浄後、自然乾燥してから、上記方法にて評価した結果を表1に示す。
【0115】
[実施例15]
アクリル酸/N,N-ジメチルアクリルアミド共重合体(共重合におけるモル比1/9、Mw:800000、大阪有機化学工業株式会社製)をリン酸緩衝液中に0.2質量%含有した溶液をクエン酸によりpH2.9に調整した溶液を調製した。シリコーン製のステント(Dumonステント)基材の外側のみが溶液に触れるように、上記溶液中に入れ、溶液を121℃30分間オートクレーブにて加熱した。得られたステントをリン酸緩衝液で洗浄後、自然乾燥してから、上記方法にて評価した結果を表1に示す。
【0116】
[実施例16]
実施例14で得られたステントを測定例8に記載した方法にて評価した結果を表2に示す。
【0117】
[実施例17]
実施例15で得られたステントを測定例8に記載した方法にて評価した結果を表2に示す。
【0118】
実施例1~11、14、15及び比較例3及び比較例4で得られたステントのそれぞれについて、上記測定例5により親水性ポリマーを含む層の元素組成分析を行った結果、一方の層は基材の成分と親水性ポリマー層の成分との混合層であり、他方の層は親水性ポリマー単独の層であることが分かった。
【0119】
【表1】
【0120】
【表2】
【0121】
【表3】
【符号の説明】
【0122】
10 ステント
11 内側表面
12 外側表面
21 基材
22 混合層
23 親水性ポリマー層
40A 突起
40B 突起
図1
図2
図3
図4
図5
図6
【国際調査報告】