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特表2024-535178CARSスペクトルを取得するための方法およびシステム
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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公表特許公報(A)
(11)【公表番号】
(43)【公表日】2024-09-30
(54)【発明の名称】CARSスペクトルを取得するための方法およびシステム
(51)【国際特許分類】
   G01N 21/65 20060101AFI20240920BHJP
【FI】
G01N21/65
【審査請求】有
【予備審査請求】未請求
(21)【出願番号】P 2024504883
(86)(22)【出願日】2022-10-06
(85)【翻訳文提出日】2024-01-25
(86)【国際出願番号】 JP2022037421
(87)【国際公開番号】W WO2023058710
(87)【国際公開日】2023-04-13
(31)【優先権主張番号】63/252,775
(32)【優先日】2021-10-06
(33)【優先権主張国・地域又は機関】US
(81)【指定国・地域】
(71)【出願人】
【識別番号】509339821
【氏名又は名称】アトナープ株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】100102934
【弁理士】
【氏名又は名称】今井 彰
(72)【発明者】
【氏名】ブルックナー ルーカス
【テーマコード(参考)】
2G043
【Fターム(参考)】
2G043AA03
2G043BA16
2G043CA04
2G043EA04
2G043FA02
2G043FA06
2G043HA01
2G043HA02
2G043HA07
2G043HA09
2G043JA03
2G043JA05
2G043KA01
2G043KA08
2G043KA09
2G043LA03
2G043NA01
(57)【要約】
システム(1)は、ストークス光パルス(11)と、ポンプ光パルス(12)と、第1のプローブ光パルス(13a)および第2の光パルス(13b)を含むハイブリッドプローブ光パルス(13)とをターゲット(5)の一部(5a)に照射するように構成された光路(20)を有し、第1のプローブ光パルスおよび第2のプローブ光パルスは時間的に部分的に重なり、第1および第2のプローブ光パルスはストークスパルスおよびポンプパルスと部分的に重なり、第1のプローブ光パルスおよび第2のプローブ光パルスの少なくとも一方が位相を変化させる。システムは、さらに、ストークス光パルスと、ポンプ光パルスと、ハイブリッドプローブ光パルスとによって生成されたCARSスペクトル(15x)および(15y)を検出し、ハイブリッドプローブ光パルスの位相に関連してCARSスペクトル(15)のセットを取得するように構成された検出器(50)を有する。
【特許請求の範囲】
【請求項1】
ストークス光パルスと、ポンプ光パルスと、第1のプローブ光パルスおよび第2のプローブ光パルスを含むハイブリッドプローブ光パルスとをターゲットの一部に照射することによりCARSスペクトルのセットを取得することであって、前記第1のプローブ光パルスおよび前記第2のプローブ光パルスは時間的に部分的に重複し、前記第1のプローブ光パルスおよび前記第2のプローブ光パルスは前記ストークス光パルスおよび前記ポンプ光パルスと部分的に重複しており、前記第1のプローブ光パルスおよび前記第2のプローブ光パルスの少なくとも一方の位相を変化させて前記CARSスペクトのセットを取得することと、
取得された前記CARSスペクトルのセットを比較することにより、共鳴成分を抽出することと、を有する、方法。
【請求項2】
請求項1において、
前記第2のプローブ光パルスは、前記ストークス光パルスおよび前記ポンプ光パルスとともに局部発振(LO)信号を発生するように選択され、前記第1のプローブ光パルスは、前記ストークス光パルスおよび前記ポンプ光パルスとともに共鳴成分を含む信号を発生するように選択されている、方法。
【請求項3】
請求項1において、
前記第1および第2のプローブ光パルスのパルス幅は、前記ストークス光パルスおよび前記ポンプ光パルスのパルス幅よりも大きく、
前記CARSスペクトルのセットを取得することは、前記第1のプローブ光パルスが、前記ストークス光パルスおよび前記ポンプ光パルスに対し、前記ストークス光パルスおよび前記ポンプ光パルスと前記第1のプローブ光パルスの前記パルス幅の範囲内で部分的に重なる第1の相対的な時間的関係を備え、前記第2のプローブ光パルスが、前記ストークス光パルスおよび前記ポンプ光パルスと前記第2のプローブ光パルスの前記パルス幅の範囲内で部分的に重なる第2の相対的な時間的関係であって、前記第1の相対的な時間的関係に対して負の遅延を含む第2の相対的な時間的関係を備えている、前記ハイブリッドプローブ光パルスを出射することを含む、方法。
【請求項4】
請求項1において、
前記CARSスペクトルのセットを取得することは、前記第2のプローブ光パルスが前記ストークス光および前記ポンプ光のパルスよりも早く出射されるように、前記ハイブリッドプローブ光パルスを出射することを含む、方法。
【請求項5】
請求項1において、
前記CARSスペクトルのセットを取得することは、前記ストークス光パルス、前記ポンプ光パルスおよび前記第1のプローブ光パルスが実質的に同時に出射され、前記ストークス光パルスおよび前記ポンプ光パルスが実質的に前記第2のプローブ光パルスのパルス幅の端になるように、前記ハイブリッドプローブ光パルスを出射することを含む、方法。
【請求項6】
請求項1ないし5のいずれかにおいて、
前記ストークス光パルス、前記ポンプ光パルスおよび前記ハイブリッドプローブ光パルスを用いて前記ターゲットをスキャンし、各画素におけるCARSスペクトルのセットを取得することをさらに有する、方法。
【請求項7】
請求項1ないし5のいずれかにおいて、
前記ストークス光パルス、前記ポンプ光パルスおよび前記ハイブリッドプローブ光パルスで前記ターゲットをスキャンし、各ボクセルのCARSスペクトルのセットを取得することをさらに有する、方法。
【請求項8】
請求項1ないし7のいずれかにおいて、
前記ストークス光パルスは第1の波長範囲を備え、前記ポンプ光パルスは前記第1の波長範囲よりも短い第2の波長範囲を備え、前記ハイブリッドプローブ光パルスは前記第2の波長範囲よりも短い第3の波長範囲を備えている、方法。
【請求項9】
請求項1ないし8のいずれかにおいて、
前記ストークス光パルスはブロードバンドストークスビームを含む、方法。
【請求項10】
請求項1ないし9のいずれかにおいて、
前記CARSスペクトルのセットを取得することは、
波長板を用いて入力プローブ光パルスの偏光を変換することと、
PBSを用いて前記入力プローブ光パルスから前記第1のプローブ光パルスおよび前記第2のプローブ光パルスを分離することと、
前記第1のプローブ光パルスおよび前記第2のプローブ光パルスをそれぞれ第1のプローブ経路および第2のプローブ経路であって、それぞれが、波長板、光パルスを前記PBSに反射させるためのミラーを含み、前記第1のプローブ経路および前記第2のプローブ経路の少なくとも一方は、別の経路との時間差を含む経路、および変調のために前記ミラーを移動するアクチュエータを含む、前記第1のプローブ経路および前記第2のプローブ経路により調整することと、
前記第1のプローブ光パルスおよび前記第2のプローブ光パルスを前記PBSにより重ねられるようにガイドすることと、を含む、方法。
【請求項11】
請求項1ないし9のいずれかにおいて、
前記CARSスペクトルのセットを取得することは、
波長板を用いて入力プローブ光パルスの偏光を変換することと、
少なくとも1つの複屈折結晶体を用いて、前記入力プローブ光パルスから前記第1のプローブ光パルスおよび前記第2のプローブ光パルスを分離し、前記第1のプローブ光パルスと前記第2のプローブ光パルスとの間に時間差を設けることと、
EOM(電気光学変調器)を用いて、前記第1のプローブ光パルスおよび前記第2のプローブ光パルスの少なくとも一方を変調することと、
偏光素子によってオーバーラップされた前記第1のプローブ光パルスおよび前記第2のプローブ光パルスをガイドすることと、を含む、方法。
【請求項12】
ストークス光パルスと、ポンプ光パルスと、第1のプローブ光パルスおよび第2のプローブ光パルスを含むハイブリッドプローブ光パルスとを、前記第1のプローブ光パルスおよび前記第2のプローブ光パルスが時間的に部分的に重なり、前記第1のプローブ光パルスおよび前記第2のプローブ光パルスが前記ストークス光パルスおよび前記ポンプ光パルスと部分的に重なり、前記第1のプローブ光パルスおよび前記第2のプローブ光パルスの少なくとも一方の位相を変化させた状態で、ターゲットの一部に照射するように構成された光路と、
前記ストークス光パルス、前記ポンプ光パルスおよび前記ハイブリッドプローブ光パルスにより発生されたCARSスペクトルを検出して、前記ハイブリッドプローブ光パルスの位相に関連するCARSスペクトルのセットを取得するように構成された検出器と、を有する、システム。
【請求項13】
請求項12において、
前記第1のプローブ光パルスと、前記第1のプローブ光パルスに対して負の遅延を含む前記第2のプローブ光パルスとを含む前記ハイブリッドプローブ光パルスを生成するように構成されたプローブパルスジェネレータをさらに有する、システム。
【請求項14】
請求項12において、
さらに、プローブパルスジェネレータを有し、
前記プローブパルスジェネレータは、前記ストークス光パルスおよび前記ポンプ光パルスのパルス幅よりも大きいパルス幅を含む前記第1のプローブ光パルスであって、前記ストークス光パルスおよび前記ポンプ光パルスと前記第1のプローブ光パルスの前記パルス幅内で部分的に重なる第1の相対的な時間的関係を備えた前記第1のプローブ光パルスを生成するように構成された第1のプローブパルスコンディショナと、
前記ストークス光パルスおよび前記ポンプ光パルスのパルス幅よりも大きいパルス幅を含む前記第2のプローブ光パルスであって、前記ストークス光パルスおよび前記ポンプ光パルスと前記第2のプローブパルスの前記パルス幅内で部分的に重なり、前記第1の相対的な時間的関係に対して負の遅延を含む第2の相対的な時間的関係を備えた前記第2のプローブパルスを生成するように構成された第2のプローブパルスコンディショナと、を含む、システム。
【請求項15】
請求項13または14において、
前記プローブパルスジェネレータは、前記第2のプローブ光パルスが前記ストークス光および前記ポンプ光のパルスよりも早く出射されるように、前記ハイブリッドプローブ光パルスを生成するように構成されている、システム。
【請求項16】
請求項13ないし15のいずれかにおいて、
前記プローブパルスジェネレータは、前記第1のプローブ光パルスが前記ストークス光パルスおよび前記ポンプ光パルスと実質的に同時に出射され、前記第2のプローブ光パルスが前記ストークス光パルスおよび前記ポンプ光パルスが前記第2のプローブ光パルスの前記パルス幅の実質的な端部で出射されるように、前記ハイブリッドプローブ光パルスを生成するように構成されている、システム。
【請求項17】
請求項12において、
さらに、プローブパルスジェネレータを有し、
前記プローブパルスジェネレータは、
入力プローブ光パルスの偏光を変換するための波長板と、
前記入力プローブ光パルスから前記第1のプローブ光パルスと前記第2のプローブ光パルスとを分離するためのPBSと、
前記第1のプローブ光パルスおよび前記第2のプローブ光パルスをそれぞれ調整するための第1のプローブ経路および第2のプローブ経路とを含み、前記第1のプローブ経路および前記第2のプローブ経路はそれぞれ、波長板、および光パルスを前記PBSに反射させるためのミラーを含み、前記第1のプローブ経路および前記第2のプローブ経路の少なくとも一方は、他の経路との間に時間差を設けるための経路、および変調のために前記ミラーを移動させるアクチュエータを含み、
前記プローブパルスジェネレータは、さらに、前記PBSによって重ねられた前記第1のプローブ光パルスおよび前記第2のプローブ光パルスを導くための出力経路を含む、システム。
【請求項18】
請求項12において、
さらに、プローブパルスジェネレータを有し、
前記プローブパルスジェネレータは、
入力プローブ光パルスの偏光を変換するための波長板と、
前記入力プローブ光パルスから前記第1のプローブ光パルスおよび前記第2のプローブ光パルスを分離し、前記第1のプローブ光パルスと前記第2のプローブ光パルスとの間に時間差を設けるための少なくとも1つの複屈折結晶体と、
前記第1のプローブ光パルスおよび前記第2のプローブ光パルスの少なくとも一方を変調するためのEOMと、
偏光素子によって重ねられた前記第1のプローブ光パルスおよび前記第2のプローブ光パルスを導く出力経路と、を含む、システム。
【請求項19】
請求項12ないし17のいずれかにおいて、
前記光路は、第1の波長範囲の前記ストークス光パルスを供給するように構成された第1の光路と、
前記第1の波長範囲よりも短い第2の波長範囲の前記ポンプ光パルスを供給するように構成された第2の光路と、
前記第2の波長範囲よりも短い第3の波長範囲の前記ハイブリッドプローブ光パルスを供給するように構成された第3の光路と、を含む、システム。
【請求項20】
請求項19において、
前記第1の光路は、ブロードバンドポンプ光パルスからブロードバンドストークスビームを生成するための第1の光学素子を含む、システム。
【請求項21】
請求項12ないし20のいずれかにおいて、
前記ストークス光パルス、前記ブロードバンドポンプ光パルスおよび前記ハイブリッドプローブ光パルスを用いて前記ターゲットを走査し、各画素におけるCARSスペクトルのセットを取得するように構成されたスキャナーをさらに有する、システム。
【請求項22】
請求項12ないし20のいずれかにおいて、
前記ストークス光パルス、前記ブロードバンドポンプ光パルスおよび前記ハイブリッドプローブ光パルスを用いて前記ターゲットを走査し、各ボクセルのCARSスペクトルのセットを取得するように構成されたスキャナーをさらに有する、システム。
【請求項23】
請求項12ないし22のいずれかにおいて、
取得されたCARSスペクトルのセットを比較することにより共鳴成分を抽出するように構成された分析装置をさらに有する、システム。
【請求項24】
コンピュータを請求項12ないし23のいずれかに記載のシステムとして動作させるためのコンピュータプログラムであって、前記CARSスペクトルのセットを取得し、取得されたCARSスペクトルのセットを比較することによって共鳴成分を抽出するように前記システムを制御するための命令を含む、コンピュータプログラム。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、一般に、CARS(コヒーレント反ストークスラマン散乱(分光))スペクトルおよび/または複数のスペクトルを取得するためのシステムおよび方法に関するものである。
【背景技術】
【0002】
米国特許第7,388,668号は、試料体積内に誘導された非線形コヒーレント場を検出するためのシステムを開示している。このシステムは、第1の周波数で第1の電磁場を発生するための第1のソースと、第2の周波数で第2の電磁場を発生するための第2のソースと、第1および第2の電磁場を試料体積に向けるための第1の光学系と、第1および第2の電磁場を局部発振器体積に向けるための第2の光学系と、干渉計とを含む。干渉計は、試料体積における第1および第2の電磁場の相互作用によって生成される第1の散乱場と、局所発振器体積における第1および第2の電磁場の相互作用によって生成される第2の散乱場とを干渉させるためのものである。
【0003】
コヒーレントアンチストークスラマン散乱(CARS)のスペクトルまたは散乱光を検出することを含む方法およびシステムは、例えば、生体対象の関心対象の生化学的および構造特性評価の分野、特に生体対象の関心対象の生化学組成物の侵襲的および非侵襲的評価およびそれらのアプリケーションを含む広い分野で応用されている。
【発明の概要】
【0004】
しかしながら、CARSスペクトル(スペクトラ)は共鳴成分と非共鳴成分とを含む。局部発振(LO)を用いたヘテロダイン検出は、CARSスペクトル(スペクトラ、複数のスペクトル)から共鳴成分を取得するための解決策の1つであった。この方法は、(a)信号と一定の位相関係を持つコヒーレントで位相安定なLOと信号をオーバーラップさせるステップと、(b)LOと信号の位相差をスキャンするステップとを含む。位相差は、ディレイステージ、シングルムービングミラー、対象物全体の移動(エピ、後方散乱)、パルスシェーパー、2つのガラスウェッジなどによって制御することができる。局部発振源としては、米国特許第7,388,668号に開示されているような、非共鳴試料の第2の焦点からLO信号を発生させる発振器、外部レーザー、コヒーレントプロセスで発生するレーザー(NOPA/OPA)、ブロードバンドレーザーのブルーウィング(SB-CARS)などが考えられる。しかしながら、このような外部、すなわちターゲット以外からLOを取得する方法では、異なる光学系を使用することによる不安定性に加え、LOの取得や切り替えに時間がかかるという問題がある。
【0005】
本発明の一態様は、(i)ストークス光パルスと、ポンプ光パルスと、第1のプローブ光パルスおよび第2のプローブ光パルスを含むハイブリッドプローブ光パルスとを、第1のプローブ光パルスおよび第2のプローブ光パルスの少なくとも一方の位相を変化させながら、ターゲットの一部に照射してCARSスペクトルのセットを取得することと、(ii)取得したCARSスペクトルのセットを比較して共鳴成分を抽出することとを含む方法である。ハイブリッドプローブ光パルスの第1のプローブ光パルスと第2のプローブ光パルスとは時間的に部分的に重なり、第1のプローブ光パルスと第2のプローブ光パルスとはストークス光パルスとポンプ光パルスと部分的に重なる。
【0006】
本発明者のシミュレーションの結果によれば、負の遅延のプローブ光パルスを使用することにより、共鳴成分はスペクトルから消去されるか、ほぼ消去されるので、そのスペクトルをLO信号(局部発振信号)または信号として使用することができる。この方法では、ハイブリッドプローブ光パルスのうち、負の遅延を持つ一方のパルス(第2のプローブ光パルス)を、ターゲットから照射することで、ハイブリッドプローブ光パルスのうち、他方のパルス(第1のプローブ光パルス)で発生された共鳴成分を含む信号と同時にLO信号を得ることができる。したがって、この方法では、第2のプローブ光パルスは、ストークス光パルスとポンプ光パルスとにより局部発振(LO)信号を発生するように選択することができ、第1のプローブ光パルスは、ストークス光パルスとポンプ光とにより共鳴成分を含む信号を発生するように選択することができる。このため、この方法では、本質的に干渉を安定化でき、リファレンス測定が不要で、光学系の切り替えが不要であり、スキャン速度を向上できる。LOと共鳴成分を持つ信号とを得るために試料を切り替える場合、レーザーのドリフトなどの不安定要因が発生する可能性がある。しかしながら、この方法では、ターゲットからLOと共鳴成分を持つ信号とを同じ光学系で同時に取得することができるため、LOの測定と共鳴成分を持つ信号の測定との間で、上記のような変化やドリフトが発生することはない。
【0007】
第1および第2のプローブ光パルスのパルス幅は、ストークス光パルスおよびポンプ光パルスのパルス幅よりも大きく(広く)てもよい。CARSスペクトルのセットを取得することは、第1のプローブ光パルスが、ストークス光パルスおよびポンプ光パルスと第1のプローブ光パルスのパルス幅内で部分的に重なるように、ストークス光パルスおよびポンプ光パルスに対して第1の相対的な時間的関係を有し、第2のプローブ光パルスが、ストークス光パルスおよびポンプ光パルスと第2のプローブ光パルスのパルス幅内で部分的に重なり、第1の相対的な時間的関係に対して負の遅延を含む第2の相対的な時間的関係を有するように、ハイブリッドプローブ光パルスを出射することを含んでもよい。この方法のCARSスペクトルのセットを取得することは、第2のプローブ光パルスがストークス光およびポンプ光のパルスよりも早く出射(放出)されるように、ハイブリッドプローブ光パルスを出射(放出)することを含んでもよい。この方法のCARSスペクトルのセットを取得することは、ストークス光パルス、ポンプ光パルスおよび第1のプローブ光パルスが実質的に同時に出射され、ストークス光パルスおよびポンプ光パルスが第2のプローブ光パルスのパルス幅の実質的な端部(終了部分)に出射されるように、ハイブリッドプローブ光パルスを出射することを含んでもよい。
【0008】
この方法は、2D(二次元)CARS顕微鏡イメージングの処理を行うために、複数のストークス光パルス、複数のポンプ光パルス、および複数のハイブリッドプローブ光パルスでターゲットを走査し、各画素でCARSスペクトルのセットを取得することをさらに含んでもよい。この方法は、3D(三次元)CARS顕微鏡イメージングの処理を行うために、複数のストークス光パルス、複数のポンプ光パルス、および複数のハイブリッドプローブ光パルスでターゲットを走査し、各ボクセルでCARSスペクトルのセットを取得することをさらに含んでもよい。
【0009】
本発明の他の態様の1つは、(i)ストークス光パルス、ポンプ光パルスおよびハイブリッドプローブ光パルスをターゲットの一部に照射するように構成された光路であって、ハイブリッドプローブ光パルス中の第1のプローブ光パルスおよび第2のプローブ光パルスが時間的に部分的に重なり、さらに、第1のプローブ光パルスおよび第2のプローブ光パルスがストークスパルスおよびポンプパルスと部分的に重なり、第1のプローブ光パルスおよび第2のプローブ光パルスの少なくとも一方の位相を変化させながら照射する光路と、(ii)ストークス光パルス、ポンプ光パルスおよびハイブリッドプローブ光パルスによって生成されたCARSスペクトルを検出して、ハイブリッドプローブ光パルスの位相に関連するCARSスペクトルのセットを取得するように構成された検出器とを有するシステムである。
【0010】
この発明のさらに他の態様の1つは、コンピュータを上述したシステムとして動作させるための非一過性媒体に格納されたコンピュータプログラムまたはコンピュータプログラム製品である。コンピュータプログラム(プログラム製品)は、CARSスペクトルのセットを取得し、取得されたCARSスペクトルのセットを比較することによって共鳴成分を抽出するようにシステムを制御するための命令を含む。
【図面の簡単な説明】
【0011】
本明細書の実施形態は、図面を参照した以下の詳細な説明からより良く理解されるであろう。
図1図1は、本発明のシステムの一実施形態を示す。
図2図2は、異なるチャートを用いて典型的なCARSプロセスおよび信号の依存性を示す。
図3図3は、ストークス光、ポンプ光およびプローブ光の典型的なパルス、ならびに生成されたCARSスペクトルを示す。
図4図4は、プローブ光の遅延を変化させた場合のCARSスペクトルの例を示す。
図5図5は、CARS測定と内部リファレンス測定の例を示す。
図6図6は、ハイブリッドプローブ光パルスを用いたCARS測定の例と内部リファレンス測定の例を示す。
図7図7は、位相の異なるハイブリッドプローブ光パルスによって生成されたCARSスペクトルの例を示す。
図8図8は、時間-周波数マップを用いてプローブ光の遅延を変化させた場合のCARSスペクトルの例を示す。
図9図9は、プローブパルスジェネレータの一例を示すブロック図である。
図10図10は、時間-周波数マップを用いてインターナルヘテロダイン法における信号を示す。
図11図11は、プローブパルスジェネレータにおいて第1のプローブ光パルスが生成されるプロセスの一例を示す。
図12図12は、時間-周波数マップを用いて、第1のプローブ光パルスによりCARSを発生させた場合の信号を示す。
図13図13は、プローブパルスジェネレータで第2のプローブ光パルスを発生させるプロセスの一例を示す。
図14図14は、時間-周波数マップを用いて第2のプローブ光パルスによりCARSを発生させた場合の信号を示す。
図15図15は、CARSスペクトルのセットから共鳴成分を抽出するプロセスの一例を示す。
図16図16は、シミュレーションにより得られた2種類のCARSスペクトルの波形と共鳴成分の例を示す。
図17図17は、インターナルヘテロダイン法の理論的なバックグラウンドを示す。
図18図18は、CARSスペクトルのセットと共鳴成分との例を示す。
図19図19は、プローブパルスジェネレータの他の例を示す。
図20図20は、インターヘテロダイン検出法のフローダイアグラムを示す。
【発明を実施するための形態】
【0012】
本明細書における実施形態ならびにその様々な特徴および有利な詳細は、添付図面に図示され、以下の説明において詳述される非限定的な実施形態を参照して、より十分に説明される。周知の構成要素および処理技術の説明は、本明細書における実施形態を不必要に不明瞭にしないように省略する。本明細書で使用される例は、単に、本明細書の実施形態が実施され得る方法の理解を容易にし、当業者が本明細書の実施形態を実施することをさらに可能にすることを意図している。したがって、実施例は、本明細書における実施形態の範囲を限定するものとして解釈されるべきではない。
【0013】
図1は、この発明の一実施形態によるシステム1を示す。このシステム1は、ターゲット5の一部5aにCARS(Coherent Anti-Stokes Raman Scattering(コヒーレント反ストークスラマン散乱)またはCoherent Anti-Stokes Raman Spectroscopy(コヒーレント反ストークスラマン分光))信号(CARSスペクトル、CARS光)15を発生(生成)するために、ターゲット5の一部5aに照射するようにストークス光パルス11、ポンプ光パルス12およびハイブリッドプローブ光パルス13を供給(出射)するように構成された光学モジュール10を備えている。このシステム1は、用途に応じて、測定装置、分析装置、監視装置、モニタ等として使用することができる。光学系10は、CARSを用いて、キュベット内の試料や人体などのターゲット5の表面および内部の状態や成分を示すデータを取得する。
【0014】
システム1は、さらに、ストークス光パルス11、ポンプ光パルス12、およびプローブパルス13によりターゲット5を走査(スキャン)し、レンズ28および他の光学要素を通してターゲット5からCARS光15を取得するように構成されたスキャナー(走査インターフェース)60と、ハイブリッドプローブ光パルス13を生成(発生)し、その位相を制御するように構成されたプローブパルスジェネレータ(プローブパルス発生器)70と、分析するためにCARS光15を検出するように構成された検出器(ディテクター)50と、システム1およびスキャナー60、プローブパルスジェネレータ70、およびレーザー光源30などのモジュールを制御するように構成されたコントローラー55とをさらに備えている。スキャニングモジュール60は、キュベットをスキャニングするように構成されてもよく、非侵襲的サンプラー、侵襲的サンプラー、流路、または指先(フィンガーチップ)スキャニングインターフェースモジュールのようなウェアラブルスキャニングインターフェースとして機能してもよい。コントローラー55は、レーザー光源30を制御するレーザーコントローラー58と、CARS(CARSスペクトル)によって内部組成(成分)を分析する分析器(アナライザー)56とを含む。分析器56は、CARS光15が生成されるターゲット5の一部(部位)5aを確認するための複数のモジュールを含んでいてもよい。コントローラー55のメモリに格納されたプログラム(プログラム製品、ソフトウェア、アプリケーション)59は、メモリ、CPU等のコンピュータ資源を備えたコントローラー55上の処理を実行するために提供される。プログラム(ソフトウェア)59は、プロセッサまたはコンピュータによって読み取り可能な他の記憶媒体(非一時的媒体)に格納されていてもよい。プログラムは、システム1を制御して本明細書に記載の処理を実行するための命令を含んでもよい。
【0015】
光学システム10は、複数のストークス光パルス(ストークスビームパルス)11および複数のポンプ光パルス(ポンプビームパルス)12のための第1の波長1040nmの複数の第1のレーザーパルス30aを生成するためのレーザー光源30を含む。好ましいレーザー光源30の1つは、ファイバーレーザーである。複数の第1のレーザーパルス30aのそれぞれは、数10~数100mWの1~数100fs(フェムト秒)オーダーのパルス幅を有し、フェムト秒オーダーのパルス幅を有するストークス光11およびポンプ光12のパルスを生成(発生)する。ストークス光11およびポンプ光12のパルスのパルス幅PW1は、1~数100fs、例えば、1~900fsであってもよく、10~600fsであってもよく、50~400fsであってもよい。光学系10は、レーザー光パルスの分離および結合用の光路を配置するためのレンズ、フィルタ、ミラー、ダイクロイックミラーおよびプリズムなどの複数の光学素子29を含む。
【0016】
光学系10は、複数のストークス光パルス11、複数のポンプ光パルス12および複数のハイブリッドプローブ光パルス13をターゲット5の一部5aに照射するように構成された光路20を含む。光路20は、PCF(Photonic Crystal Fiber、フォトニッククリスタルファイバ、ファイバ)21aを介して、ポンプ光パルス12と共通の第1のレーザーパルス30aから波長1080~1300nmの第1の範囲R1を有するブロードバンド(広帯域)の複数のストークス光パルス11を供給するように構成されたストークス光路(第1の光路、ストークスユニット)21を含む。光路20は、ストークス光パルス11と共通の第1のレーザーパルス30aからの第1の波長範囲(第1の範囲)R1よりも短い波長1070nmの第2の波長範囲R2を有する複数のポンプ光パルス(第2の光パルス)12に供給するように構成されたポンプ光路(第2の光路、ポンプユニット)22を含む。光路20は、経路21により供給されるストークス光パルス11と、経路22により供給されるポンプ光パルス12とを、ハイブリッドプローブ光パルス13とともに光入出力部(レンズ系)28に供給する共通光路を含む。光路には、フィルタ、ファイバ、ダイクロイックミラー、プリズムなど、各光路を構成するために必要な光学素子が含まれる。以下に説明する光路についても同様である。
【0017】
レーザー光源30は、複数のストークス光パルス11および複数のポンプ光パルス12用の第1の波長1040nmの複数の第1のレーザーパルス30aに加えて、複数のプローブ光パルス(プローブビームパルス)13用の第2の波長780nmの複数の第2のレーザーパルス30bを発生する。第2のレーザーパルス30bは、ピコ秒オーダーのパルス幅を有するプローブ光13のパルスを生成するために、数10~数100mWの1~数10ps(ピコ秒)オーダーのパルスを含むことができる。プローブ光13のパルスのパルス幅PW2は、1~数10ps、例えば、1~90psであってもよく、1~50psであってもよく、2~10psであってもよい。波長780nmの第2のレーザーパルス30bは、波長1560nmの光源発振器から発生させてもよい。光路20は、ストークス光路21およびポンプ光路22に加えて、第2の波長範囲R2よりも短い波長780nmの第3の波長範囲R3を有する複数のプローブ光パルス(プローブビームパルス)13を供給するように構成されたプローブ光路(第3の光路)23を含む。
【0018】
光路20は、複数のストークス光パルス11、複数のポンプ光パルス12および複数のプローブ光パルス13をターゲット5に同軸的に出力し、共通の光路を介してターゲット5からCARS光15を取得するように構成された光I/Oユニット(光学ユニット)28をさらに含む。典型的な光入出力ユニット28は、ターゲット5に対向し、後方に散乱したCARS光パルス(バックワードCARS光パルス、Epi-CARS)15を取得する対物レンズまたはレンズ系である。光学系10は、前方に散乱したCARS光(フォワードCARS光)を得るように構成された光路を含んでもよい。このシステム1では、波長範囲R3よりも短い680~760nmの波長範囲の複数のCARS光パルス15がプローブ光パルス13によって発生(生成)され、検出器50によって検出されるように取得される。
【0019】
プローブ光路23は、第1のプローブ光パルス13aと第2のプローブ光パルス13bとによるハイブリッドプローブ光パルス(ペアプローブ光パルス、複合プローブ光パルス)13を生成するように構成されたプローブパルスジェネレータ(プローブパルス生成装置、プローブパルス発生装置、プローブパルスコンディショナ)70を含む。第1のプローブ光パルス13aおよび第2のプローブ光パルス13bは、時間的に一部重複しており、第1のプローブ光パルス13aおよび第2のプローブ光パルス13bは、それぞれ、ストークスパルス11およびポンプパルス12と一部重複している。さらに、プローブパルスジェネレータ70は、第1のプローブ光パルス13aおよび第2のプローブ光パルス13bの少なくとも一方の位相を変化させるように構成されている。プローブパルスジェネレータ70は、プローブ光パルス13aおよび13bのパルス幅PW2内において、プローブ光13aおよび13bの各パルスと、ストークス光11およびポンプ光12の各パルスとの間の相対的な時間的関係を制御するように構成されている。典型的には、プローブパルスジェネレータ70は、プローブ光パルス13aおよび13bの出射(放出)と、ストークス光パルス11およびポンプ光パルス12の出射(放出)との間の時間差Δtを制御(変化、設定、または変調)する。プローブパルスジェネレータ70は、後述するように、プローブ光パルス13a、13bの各光路(光路の長さ)を変調することができるコリメータとモータやピエゾなどのアクチュエータとを有する時間遅延ステージ(時間遅延ユニット)を含むことができる。プローブパルスジェネレータ70は、コリメータ間の距離を制御するLC-SLM(Liquid Crystal Spatial Light Modulator、液晶空間光変調器)、AWG(Arrayed Wave-guide Grating、アレイ導波路解析格子)等を含むことができる。
【0020】
このシステム1では、ハイブリッドプローブ光パルス13の対をなすうちの1つである負の遅延(逆時間遅延)Δtnを有する第2のプローブ光パルス13bがストークス光パルス11とポンプ光パルス12とで局部発振(LO)信号を生成するために選択される。したがって、プローブパルスジェネレータ70は、第1のプローブ光パルス13aと、第1のプローブ光パルス13aに対して負の遅延Δtnの第2のプローブ光パルス13bとでハイブリッドプローブ光パルス13を生成するように構成されている。
【0021】
本システム1において、プローブパルスジェネレータ70は、第1のプローブパルスコンディショナ(第1のプローブパルスユニット、第1のプローブパルスジェネレータ)71と、第2のプローブパルスコンディショナ(第2のプローブパルスユニット、第2のプローブパルスジェネレータ)72と、入力インターフェース73と、出力インターフェース74と、TDプローブパルスコンディショナ(TDプローブパルスユニット、TDプローブパルスジェネレータ)75とを含む。第1のプローブパルスユニット71は、パルス幅PW2がストークス光パルス11およびポンプ光パルス12のパルス幅PW1よりも大きい第1のプローブ光パルス13aであって、第1のプローブ光パルス13aのパルス幅PW2内でストークス光パルス11およびポンプ光パルス12と部分的に重なる第1の相対的な時間的関係(相対時間関係、相対的時間的関係)Δt1を有する複数の第1のプローブ光パルス13aを生成するように構成されている。第2のプローブパルスユニット72は、ストークス光パルス11およびポンプ光パルス12のパルス幅PW1よりも大きなパルス幅PW2の第2のプローブ光パルス13bであって、第1の相対的な時間的関係Δt1に対して負の遅延時間Δtnを有し、ストークス光パルス11およびポンプ光パルス12と第2のプローブパルス13bのパルス幅PW2内で部分的に重なる第2の相対的な時間的関係Δt2を有する複数の第2のプローブ光パルス13bを生成するように構成されている。TDプローブパルスユニット75は、TD-CARSスペクトルを生成するために、正の遅延Δtdを有する複数のTDプローブ光パルス13cを生成するように構成されている。
【0022】
このシステム1では、プローブパルスジェネレータ70は、負の遅延Δtnを有する第2のプローブ光パルス13bがストークス光11およびポンプ光12のパルスよりも早く放出されるように、ハイブリッドプローブ光パルス13を生成(発生)するように構成されている。典型的には、プローブパルスジェネレータ70は、第1のプローブ光パルス13aがストークス光パルス11およびポンプ光パルス12と実質的に同時に(第1の相対的な時間的関係Δt1=0)出射され、ストークス光パルス11とポンプ光パルス12とが第2のプローブ光パルス13bのパルス幅PW2の実質的な端部(終端、第2の相対的な時間的関係Δt2および負の遅延時間ΔtnがPW2にほぼ一致または等しい)で出射されるように、第2のプローブ光パルス13bを出射させる。負の時間遅延は、ストークス光11およびポンプ光12のパルスによる励起に対して数1000fs(数ピコ秒)またはそれ以上であってもよい。
【0023】
第1のプローブユニット71および/または第2のプローブユニット72は、第1のプローブ光パルス13aの位相φ1と第2のプローブ光パルスの位相φ2との間の位相差Δφをプラス・マイナスPi/2((+/-)π/2)付近で変化させる機能を含んでもよい。このシステム1では、第2のプローブパルスユニット72が第2のプローブ光パルス13bを変調して、ハイブリッドプローブ光パルス13にプラス・マイナスPi/2((+/-)π/2)付近の位相差Δφを含むように位相φ2を変化させる。プローブパルスジェネレータ70によって提供される相対的な位相差Δφは、コントローラー55内の位相コントローラー(タイミングコントローラー、変調コントローラー)56tの制御下で変化または設定されてもよい。ジェネレータ70を用いて、プローブ光路23は、第1のプローブ光パルス13aと第2のプローブ光パルス13bとの位相差Δφがプラス・マイナスPi/2((+/-)π/2)の異なる2種類(2タイプ)のハイブリッドプローブ光パルス13xおよび13yを供給し、光入出力部28を介してターゲット5の点5aにハイブリッドプローブ光パルス13として照射し、ストークス光11、ポンプ光12およびハイブリッドプローブ光13のパルスにより発生された、LO信号に位相が異なる共鳴成分(共振成分)を含む2種類(2タイプ)のCARSパルス15xおよび15yを得ることができる。
【0024】
コントローラー55は、CARSスペクトル取得モジュール(CARS取得モジュール、CARS取得装置)56aをさらに含む。CARS取得モジュール56aは、位相制御器56tを介してプローブパルスジェネレータ70を制御して、複数のストークス光パルス11、ポンプ光パルス12およびハイブリッドプローブ光パルス13をターゲット5の一部5aに、ハイブリッドプローブ光パルス13の位相を変化させながら同期して照射することにより、ハイブリッドプローブ光パルス13の位相と関連付けられたCARSスペクトル15xおよび15yを含むCARSスペクトル15のセット(複数のセット)を取得する。コントローラー55は、位相コントローラー56tを介してプローブパルスジェネレータ70を制御し、ストークス光パルス11およびポンプ光パルス12に対して正の遅延Δtdを有するTD(時間遅延)プローブ光パルス13cを用いてTD-CARSスペクトルを取得する、TD-CARS取得モジュール56bをさらに含んでもよい。
【0025】
検出器50は、ストークス光11と、ポンプ光12と、ハイブリッドプローブ光13xおよび13yとのパルスによって生成されたCARSスペクトル15xおよび15yを検出して、ハイブリッドプローブ光13xおよび13yの位相差に関連するスペクトル15xおよび15yを含むCARSスペクトル15のセットを取得するように構成される。
【0026】
コントローラー55は、分析器55の機能の1つとして、ターゲット5の部分5aの特徴または組成を分析するために取得されたCARSスペクトルのセットを比較することによって、CARSスペクトル15のセットから共鳴成分(共鳴特徴)Rfを抽出するように構成された抽出モジュール(抽出器)56dをさらに含んでもよい。抽出モジュール56dは、スキャナー60を使用してターゲット5を走査する機能を含んでもよい。スキャナー60は、複数のストークス光パルス11、複数のポンプ光パルス12、および複数のハイブリッドプローブ光パルス13xおよび13yを用いてターゲット5を走査し、各画素におけるCARSスペクトル15のセットを取得するように構成される。分析器56は、共鳴特徴Rfを有する複数の画素によるターゲット5の画像(2次元画像)を生成する画像生成モジュール(画像生成器)56eを含んでもよい。したがって、システム1は、CARS分光およびCARS顕微鏡としての機能を有していてもよい。
【0027】
CARS分光法では、ストークス光11、ポンプ光12およびプローブ光13の焦点またはスポットを移動させることにより、システム1はターゲット5の深さプロファイルを生成することができる。したがって、スキャナー60は、複数のストークス光パルス11、複数のポンプ光パルス12、および複数のハイブリッドプローブ光パルス13xおよび13yでターゲット5を3次元的に走査し、各ボクセルにおけるCARSスペクトル15のセットを取得するように構成されてもよい。分析器56は、共鳴成分Rfを有するボクセルによるターゲット5の3D画像を生成する3D画像生成モジュール(3D画像ジェネレータ)56fを含んでもよい。したがって、システム1は、CARS3D顕微鏡の機能を有してもよい。
【0028】
ブロードバンド(広帯域)ストークスパルス(ストークスビーム)11を用いることにより、一度に多くの共鳴を励起し、ワンショットでフルスペクトルを記録することができる。したがって、ターゲット(試料)5を走査することにより、各ショットで各ピクセルまたはボクセルにおいて、フルCARSスペクトル(全域のCARSスペクトル)15xおよび15yを取得することができ、短時間で2D(二次元)または3D(三次元)のCARSイメージングを行うことができる。また、本システム1を用いることで、組織(細胞)等を含むターゲット(被検体)5内の実際の測定場所から、LO信号と共鳴特徴量の両方を含むCARSスペクトル15xおよび15yを各画素またはボクセルにおいて一度に得ることができる。LO信号と共鳴特徴との間では、発生環境、光路、散乱、試料の不均一性、その他のアーチファクトの違いが打ち消される(キャンセルされる)ため、システム1によって感度が向上したCARSスペクトル(spectra)が生成される。
【0029】
図2は、典型的なCARSプロセスと信号との関係を示す。図2(a)は、ストークス光パルス11、ポンプ光パルス12、プローブ光パルス13、および生成されたCARS信号16のエネルギーマップを示す。図2(b)はこれらの信号を周波数領域(周波数ドメイン)で示し、図2(c)はこれらの信号を時間領域(時間ドメイン)で示す。それぞれの領域だけでは、信号の時間的な重なりの関係、および周波数により発生(生成)される信号の関係に基づいて、本発明における信号の挙動を説明するには不十分である。本発明の説明では、より良く理解するために時間-周波数(時間周波数)マップを用いる。図2(d)は、ストークス光パルス11、ポンプ光パルス12、プローブ光パルス13、生成されたCARS信号16を時間-周波数マップを用いて説明した例である。
【0030】
図3は、ストークス光11、ポンプ光12、および時間遅延Δt1(0fs)のプローブ光(第1のプローブ光パルス)13aのパルス(図3(a))によって生成される、ブロードな非共鳴バックグラウンド(NRB)と共鳴成分(Rf)とを含む典型的なCARSスペクトル(光、信号、スペクトル、分光)(図3(b))を示しており、この場合、ストークスパルス11、ポンプパルス12、プローブパルス13aが同時に出射され、CARS信号16aの時間遅延特徴(組成、成分)がプローブ光パルス13aのパルス幅PW2内において取得される。ストークスパルス11とポンプパルス11とは時間的に重なっており、プローブ光パルス13aのポジションを制御することができる。ストークス光11およびポンプ光12のパルスとプローブパルス13aとの時間差(時間的関係、時間遅れ)Δtは任意に選択される。図3(a)では、時間遅れΔtをΔt1(t=0)とし、すなわち、ストークスパルス11とポンプパルス12はプローブパルス13aの開始(最初に到達、先に到来する部分)13sと重なり、その後、プローブパルス13aの残りが最終(最後に到達、後で到来する部分)13eを含めて遅れて到達する。
【0031】
図4は、プローブ光13a、13b、13cの遅延(時間的関係)Δtを変化させた場合のシミュレーション結果としてのCARS光(信号、スペクトル、分光)16の例を示す。図4(c)は、ストークスパルス11、ポンプパルス12、および第1のプローブパルス13aを同時に出射させた場合(時間遅延ΔtをΔt1(Δt=0)とした場合)に発生するCARSスペクトル16aの一例を示す。図4(a)および図4(b)は、ストークスパルス11、ポンプパルス12、および負の遅延Δt2(Δtn)を有する第2のプローブパルス13bによって生成されるインターナルリファレンス(内部参照用の信号、LO信号)16bの例を示す。すなわち、ストークスパルス11およびポンプパルス12は、第2のプローブパルス13bの放出よりも遅れて、しかしながら、第2のプローブパルス13bと重なるように放出される。典型的なインターナルリファレンス(LO信号)16bは、図4(a)に示すように、ストークスパルス11およびポンプパルス12が第2のプローブパルス13bの終端と重なるように放射されたときに取得される。
【0032】
図4(d)および図4(e)は、ストークスパルス11およびポンプパルス12と、正の遅延Δt3(Δtd)を有するプローブパルス13cとによって生成されるTD-CARSスペクトル16cの例を示す。すなわち、プローブパルス13cは、ストークスパルス11およびポンプパルス12の放出よりも遅れて、さらに、ストークスパルス11およびポンプパルス12と重ならないように放出される。典型的なTD-CARS16cは、図4(e)に示すように、ほとんど共鳴成分(共振成分、共鳴特徴)Rfのみで形成されているが、ターゲットのCARSスペクトル16aおよびインターナルリファレンス16bと比較して強度が非常に小さいものが取得される。
【0033】
図4(a)ないし(e)に示すように、共鳴成分(Rf)に相当する減衰時間の長い分子振動変化などの現象は、ビルドアップに長時間を要し、NRBに相当する減衰時間の短い分子振動変化などの現象は、ビルドアップに短時間を要する。つまり、NRBは瞬時の電子応答である。共鳴成分(Rf)はビルドアップに時間を要し、TD-CARSのシミュレーション結果でも同様の傾向を示している。また、減衰時間が長い場合はビルドアップも長くなり(線幅が狭くなる)、減衰時間が短い場合は応答のビルドアップに要する時間が短くなる(線幅が広くなる)。したがって、ストークスパルス11およびポンプパルス12と同時に第1のプローブパルス13aを出射することにより、NRBとの大きな共鳴成分を含むCARSスペクトル16aを取得し、第2のプローブパルス13bのパルス幅PW2の終端に合わせてストークスパルス11およびポンプパルス12を出射することにより、ほぼNRB(本明細書において、ほぼNRBとなるスペクトルまたは全てがNRBとなるスペクトルとは、NRBとして取り扱い可能な(参照できる、基準となる)、十分な程度に共鳴成分を含まないスペクトルを示す)のCARSスペクトルであるインターナルリファレンス(内部基準信号、内部参照信号)16bを取得する。
【0034】
図5ないし図7は、この発明の基本概念(ヘテロダインインターナルリファレンス、インターナルヘテロダイン化、インターナルヘテロダイン法)を示す。図5に示すように、ストークスパルス11およびポンプパルス12に対するプローブパルス13aおよび13bの時間的関係Δtを変化させることにより、全く同じ実験条件(焦点、散乱、吸収、光路等)において、試料(サンプル)および容器(キュベット)を変えることなく、NRBと共鳴特徴とを有するCARSスペクトル16a(図5(b))と、NRBのみのCARSスペクトル(インターナルリファレンス、内部参照、INR)16b(図5(a))とを取得することができる。したがって、INR16bを局部発振(LO)として使用することにより、ヘテロダイン法で共鳴成分を抽出することができる。すなわち、INR16bと共鳴成分を有するCARS信号16aとを同じ位置で同時に発生させることにより、INR16bを検出器50上で局部発振(LO)としてのCARS信号16aと干渉させることができる。さらに、干渉信号はLO16bと共鳴成分(res)と非共鳴成分(NR)を含むCARS信号16aとの位相差Δφに依存する。
【0035】
図6(a)に示すように、ストークス光パルス11およびポンプ光パルス12と同時に、2つの時間遅延プローブパルス13aおよび13bを含むハイブリッドプローブ光パルス13を試料5に送ると(図6(b)に示す)、集光された点5aにおいて、図7に示す干渉信号(ターゲットCARS信号)15xおよび15yがそれぞれ同時に発生する。ハイブリッドプローブ光パルス13において、第1のプローブ光パルス13aは、第2のプローブ光パルス13bとの間に時間差を含み、第2のプローブ光パルス13bと部分的に時間的に重なる。また、第1のプローブ光パルス13aおよび第2のプローブ光パルス13bの重なり部分13mが、ストークス光パルス11およびポンプ光パルス12と重なるように、ストークス光パルス11、ポンプ光パルス12およびハイブリッドプローブ光パルス13が出射される。ハイブリッドプローブ光パルス13のプローブパルス13aおよび13bは、それぞれ散乱信号(CARS)16aおよびLO(局部発振(内部参照、インターナルリファレンス))16bを発生させる。生成された2つの信号16aおよび16bは、検出器50上で干渉され、干渉または合成(結合)された信号15xおよび15yとなり、それらがCARSスペクトル(ターゲットCARSスペクトル)15のセット(集合)となる。
【0036】
このシステム1では、LOのための第2のプローブ光パルス13bの位相φ2をプラス・マイナスPi/2((+/-)π/2)に変化させる(変更する)ことにより、2つのタイプ13xおよび13yを含む複数のハイブリッドプローブ光パルス13が提供される。2つのタイプのうちの一方は、位相差ΔφがマイナスPi/2の第1のプローブ光パルス13aと第2のプローブ光パルス13bとを含むハイブリッドプローブ光パルス13xである。2つのタイプの他方は、位相差ΔφがプラスPi/2の第1のプローブ光パルス13aと第2のプローブ光パルス13bとを含むハイブリッドプローブ光パルス13yである。ハイブリッドプローブ光パルス13の位相差Δφを変化させることにより、ターゲットCARSスペクトル15の干渉および信号形状を制御することができる。したがって、ハイブリッドプローブ光パルス13を用いて位相差Δφを変化させることにより、LO16bからCARS16aを差し引いた形状のターゲットCARSスペクトル15xと、LO16bにCARS16aを加えた形状のターゲットCARSスペクトル15yとが含まれる、ターゲットCARSスペクトル15のセットを生成し取得できる。そのため、位相差Δφを用いて、CARSスペクトル15のセットから共鳴成分17を算出または抽出することができる。
【0037】
共鳴寄与成分と非共鳴寄与成分は、異なる位相(および偏光)特性を示す。したがって、共鳴電界と非共鳴電界は異なる位相を持つが、位相情報は検出時に失われる。干渉法による検出のためにコヒーレントな参照ビーム(局部発振、LO)とターゲットの信号とをオーバーラップさせるヘテロダイン検出を用いることにより、異なる位相関係を利用して、信号の振幅と位相を測定したり、χ(3)の実部と虚部を分離したりすることができる。ヘテロダイン検出には、信号と、その信号と一定の位相関係を示すコヒーレントで位相安定なLOとをオーバーラップさせるステップと、LOと信号との位相差をスキャンするステップとが含まれる。
【0038】
図6に示すように、ハイブリッドプローブパルス13によって、NRBと共鳴特性とを含むCARS16aと、NRBのみのLO16bとの両方が、同じスポット5aから同じ光路を用いて同時に取得される。したがって、両信号16aおよび16bは、吸収、信号経路およびその他の実験条件が同じである。さらに、この内部ヘテロダイン(インターナルヘテロダイン)法は、前方散乱CARSおよび後方散乱CARSに適用可能である。
【0039】
局部発振源は、第2の焦点(非共鳴サンプル)、外部レーザー、コヒーレントプロセス(NOPA/OPA)によって生成されたレーザー、またはブロードバンドレーザーのブルーウィング(SB-CARS)から生成することができる。しかしながら、LO信号を得るためには、そのためのリファレンスを測定する必要があり、LO光源とサンプル(ターゲット)の測定切り替えに時間がかかる。また、光学系の切り替えによる揺らぎ、例えば、レーザードラフトなどにより、非共鳴成分と共鳴成分で測定条件が異なり、正確な測定が困難となる場合がある。したがって、局部発振用の対象物(体積)を用いるのではなく、被測定試料(ターゲット)のみを用いて局部発振(LO)を得ることが望ましい。
【0040】
インターヘテロダイン法を用いた本システム1では、次のような利点が挙げられる。(i)外部LOが不要であり、LOは同じ位置で同じパルスから同時に生成されるため、本質的に安定で位相ロックされる(非常に長い平均化が可能になる)。(ii)リファレンスとなる水の測定は不要となり、非共鳴サンプルのための切替は不要であり、LOを含めて全ての信号を測定対象(サンプル)から得ることができる。(iii)エタロンを用いることにより、ディテクタの干渉を排除し、差異を打ち消すことができる。(iv)MEM(Maximum Entropy Method、最大エントロピー法)を使用することなく、χ(3)の虚部を抽出することができる。(v)システム1は、組織(細胞)のような散乱試料でも動作可能である。つまり、LOは全く同じ光路を介して、同時に生成されるため、試料による位相変化は問題にならない。
【0041】
図8は、時間-周波数マップ(時間周波数マップ)を用いてCARS信号を生成する幾つかの例を示している。図8(a)は、プローブ遅延のない第1のプローブ光パルス13aを用いた通常の測定例を示している。第1のプローブ光パルス13aは、ストークス光パルス11およびポンプ光パルス12の励起と重なり、共鳴およびNRを有するCARS信号16aが生成される。生成されたCARS信号16aは、共鳴電界と非共鳴電界との干渉(r-nr位相シフトロック)による典型的な分散型CARSのライン形状を有する。
【0042】
図8(b)は、時間遅延(正の遅延)のあるTDプローブ光パルス13cを用いた測定例を示している。ストークス光パルス11とポンプ光パルスが先に到来し、TDプローブ光パルス13cが遅れて到来する。NR信号は振動共鳴信号よりも減衰が早いため、r/nr比は増加するが信号強度は減少する。図8(c)は、インターナルリファレンス用のプローブパルス(負の遅延を持つ第2のプローブ光パルス)13bを用いた測定例を示している。負のプローブ遅延を持つプローブ光パルス13bが先に到来する。電子的にNR信号が即座に発生するため、コヒーレンスな振動がビルドアップされる時間はなく、共鳴信号は発生しない。生成された信号16bは、ほぼNR成分(インターナルリファレンス(INR))のみを含む。
【0043】
図9は、プローブパルスジェネレータ(プローブパルス生成装置)70の一実施形態を示す。図10は、時間-周波数マップを用いた内部ヘテロダイン法における複数の信号を示す。プローブパルスジェネレータ(プローブパルスコンディショナ)70は、第1のプローブパルスコンディショナ(第1のプローブパルスユニット)71、第2のプローブパルスコンディショナ(第2のプローブパルスユニット)72、入力インターフェース73、および出力インターフェース74を含む。入力インターフェース73は、入力プローブパルス30bの偏光を変換するための波長板76と、入力プローブパルス30bから第1のプローブパルス(例えばP偏光光)13aと第2のプローブパルス(例えばS偏光光)13bとを分離するためのPBS(偏光ビームスプリッタ)75とを含む。第1のプローブパルスユニット71は、第1のプローブパルス13aを調整するための第1のプローブ経路77を含み、この第1のプローブ経路77は、波長板71aと、第1のプローブパルス13aをPBS75に反射させるためのミラー71bと、第2のプローブパルスユニット72内の第2の光路78との間の距離Δsの差(時間差Δtおよび位相差Δφに影響を与える)を制御するためのアクチュエータ、例えばピエゾアクチュエータ71cとを含む。第2のプローブパルスユニット72は、第2のプローブパルス13bを調整するための第2のプローブ光路78を含み、この第2のプローブ光路78は、波長板72a、第2のプローブパルス13bをPBS75に反射させるためのミラー72b、および距離Δsの差を制御するためのアクチュエータ、例えばピエゾアクチュエータ72cを含む。出力インターフェース74は、PBS75によってオーバーラップされた第1のプローブ光パルス13aおよび第2のプローブ光パルス13bをハイブリッド(ペアまたは複合)プローブパルス13として導くための、ミラー74a、74bおよび他の光学素子を含む出力経路79を含む。
【0044】
第1のプローブ経路77および/または第2のプローブ経路78は、別の経路に対する距離の差Δsを制御する経路を含み、位相コントローラー56tの制御下でアクチュエータ71cおよび/または72cを用いてミラー71bおよび/または72bを制御して、第1のプローブパルス13aに対する(ストークスパルス11およびポンプパルス12に対する)時間差(遅延時間)Δtを設定し、第1のプローブパルス13aと第2のプローブパルス13bとの間の位相差Δφを変化させる。ジェネレータ70は、偏光光学系を使用することにより、高速で再現性のある変調を行うことができる。このジェネレータ70は、偏光によって選択される調整可能な相対的遅延を設けるための2つの経路77および78を含む。波長板76は、高速(>kHz)変調のための回転ステージまたは電気光学変調器(EOM)であってもよい。高速で変調することにより、ノイズの低減、パワー、アライメント、電位エタロニング等のドリフトの除去、およびCARS画像を生成するための走査速度を向上することができる。
【0045】
このプローブパルスジェネレータ70において、入力プローブ光パルス30bの偏光を制御するための波長板76は、第1のプローブ光パルス13aと第2のプローブ光パルス13bとの比を制御するユニットの機能を備えていてもよい。すなわち、波長板76は0から90°の間のいずれかで設定されてもよい。これにより、第1のプローブパルス13a用の経路77における強度と、第2のプローブパルス13b用の経路78における強度とを制御することができる(したがって、LO信号(nr信号)およびCARS信号の強度を制御することができる)。プローブパルスジェネレータ(コンディショナ)70では、偏光子がS偏光のみを伝えるように設定され、このセットアップを出た後のパルスがS偏光(ポンプおよびストークスと同じ)となり、整った偏光を持つようにしている。本実施形態では、ストークス光パルス11とポンプ光パルス12の偏光を同じにするために、入力プローブパルス30bをP偏光とし、第1および第2のプローブパルス13aおよび13bの出力をS偏光としている。しかしながら、このような構成は本発明の実施例の一つである。例えば、波長板76は(例えば)22.5°に設定してもよい。PBS75の前の偏光が45°で直線的である場合、パルスの50%は一方の経路(アーム)77を通り、残りの50%は他方の経路(アーム)78を通る。PBS75の後では、50%のS偏光とP偏光が残っている。同じ偏光になるように同時に回転して戻す方法がないため、偏光子は有効でない部分をカットしてしまってもよい。22.5°波長板(WP)設定の例では、S偏波は+45°直線偏波、P偏波は-45°偏波となる。そこで、偏光板はP偏光成分をすべてカットし、整ったS偏光パルスを2つ生成してもよい。波長板(WP)76の設定により、カットオフされる割合やカットオフされる量を調整できる。
【0046】
図10に示すように、第1のプローブ光パルス13aと第2のプローブ光パルス13bとが部分的に重なったハイブリッドプローブ光パルス13により、共鳴成分とNRとを有するCARS信号(通常のCARS信号)16aと、NRと非共鳴成分とのみを有するLO信号(INR信号)16bとが同期して生成される。したがって、本システム1では、通常のCARS信号16aとLO信号16bとの干渉により生成されたターゲットCARSスペクトル15を得ることができる。
【0047】
図11は、プローブパルスジェネレータ70において第1のプローブ光パルス13aが生成される過程を示す。図12は、時間-周波数マップを用いて第1のプローブ光パルス13aによりCARSを発生させるための複数の信号を示す。図13は、プローブパルスジェネレータ70において第2のプローブ光パルス13bが生成される過程を示す図である。図14は、時間-周波数マップを用いて第2のプローブ光パルス13bによりCARSを発生させるための複数の信号を示している。レーザー光源30から供給されたオリジナル(元)のプローブ光パルス30bは、偏光方向に応じて2つの光路77および78のいずれかを選択するように供給される。光路77および78の光路長の差は、プローブ遅延Δtおよび位相差Δφを変化させるように制御される。
【0048】
1つの実施形態では、第1のプローブパルス13aと第2のプローブパルス13bとの間の位相Δφを(-π/2)および(+π/2)だけシフトするように、第1のプローブパルス13aの位相を変調してもよい。本システム1における信号検出(ヘテロダイン信号検出)においては、位相差Δφを周期的に変化させることが最も重要である。したがって、プローブパルスジェネレータ70は、第1のプローブパルス13aまたは第2のプローブパルス13bのいずれか一方、あるいは両方の位相を変化させてもよい。後で説明する式で示すように、いずれの位相を変化させても関係ないが、LO(nr)を発生させるための負の遅延時間Δtnを持つ第2のプローブ光パルス13bの方が、共鳴(共振)がないため、時間遅延を変えても信号の変化が少ないので、位相を変更する一方として適していると言える。なお、位相の変更は小さな時間遅延を利用して行うので、上記のいずれを選択しても問題ない程度に小さいはずである。原理的には、より良い制御と簡素化のために、経路77または経路78の一方で位相変化を加え、他の経路を固定してもよい。
【0049】
一般に、変調する頻度(変調周波数)はできるだけ高くする必要がある。しかし、変調周波数は以下の条件を考慮して選択することができる。プローブパルスジェネレータ70の変調はピエゾを使用して実施することができるので(高速位相変調を達成する他の、またはより良い方法であってもよい)、ピエゾアクチュエータは反応と移動にある程度、例えば、ミリ秒のオーダーの時間を必要とする。2つの定位置を切り替える場合、ピエゾが定位置に達するまで待つ必要がある。そのため、使用可能な最大周波数はおよそ100Hz程度に制限される。しかしながら、改善することは可能である。
【0050】
もう一つのポイントは、信号強度である。システム1を非常に低い濃度でも動作させるためには、検出器のノイズを低く抑える必要がある。そのためには、検出器50が80%程度まで十分に満たされるように積分時間を調整する必要がある(その場合、読み出しノイズなどではなく、ほとんどショットノイズへの対策が重要である)。すなわち、信号強度により積分時間は調整可能であり、例えば、このシステムの一実施形態では50μsである。可能な限り速いスイッチング周波数が選択されてもよく、そのような高速変調が可能であれば、1つの位相につき1つのスペクトルしか取得されなくてもよい。別の検出器を使うことも可能であるが、その場合も位相変調の速さによって周波数が制限される。まとめると、例えば電気光学変調器を用いて、より高速に位相を変調する方法があり、CCDカメラの代わりにいくつかの高速の高感度光検出器を用いることにより、原理的には変調周波数はMHzであってもよい。変調周波数が1Hz-1kHzの間であっても、この検出方法の利点は達成できることに留意すべきである。
【0051】
図15は、ハイブリッドプローブ光パルス13xおよび13yによりそれぞれ生成された2種類のCARSスペクトル15xおよび15yを含むCARSスペクトル15のセットから共鳴成分17が抽出されるプロセスを示す。図16は、2種類のCARSペクトル15xおよび15yの波形例と、シミュレーションにより得られた共鳴成分17を示す。図15(a)に示すように、第2のプローブ光路78のピエゾアクチュエータ72cの電圧を制御して第2のプローブ光パルス13bの位相をφ1およびφ2に変化させることにより、プラス・マイナスPi/2((+/-)π/2)のような位相差Δφの異なるハイブリッドプローブ光パルス13xおよび13yの複数のセットが生成され、供給される。図15(b)に示すように、これらのハイブリッドプローブ光パルス13xおよび13yのセットにより、CARSスペクトル15x(フェーズ1(第1の位相)、LO16bと通常のCARS信号16aとの和)と、CARSスペクトル15y(フェーズ2(第2の位相)、LO16bから通常のCARS信号16aを引いたもの)とを含むCARSスペクトルのセット15が生成される。図15(c)に示すように、これらのCARSスペクトルのセット15における差を、位相差Δφを参照して計算することにより、共鳴成分(共鳴特徴)17が抽出される。
【0052】
第2のプローブ光路78のピエゾアクチュエータ72cの代わりに、あるいはピエゾアクチュエータ72cとともに、第1のプローブ光路77のピエゾアクチュエータ71cを制御してもよい。ピエゾアクチュエータ71の電圧を走査することにより、経路77の経路長が変更され、第1のプローブ光パルス13aの位相が変更される。これにより、LO13bの位相との間の位相差Δφが変化し、最終的に検出された干渉信号15を得ることができる。ピエゾ変調は、電圧変化とカメラまたは検出器によるCARSスペクトル15xおよび15yの取得とを同期させてもよい。
【0053】
図17は、このインターヘテロダイン法の理論的背景を示す。図17(a)に示すように、共鳴寄与成分と非共鳴寄与成分とは異なる位相(および偏光)特性を示す。したがって、共鳴電界と非共鳴電界とは異なる位相を持つが、この位相情報は検出時に失われる。干渉法による検出の際に、コヒーレントな参照ビーム(基準ビーム、局部発振、LO)と信号とをオーバーラップさせるヘテロダイン検出を使用することにより、異なる位相関係を利用して信号の振幅と位相を測定したり、χ(3)の実部と虚部とを分離したりすることができる。検出器の信号におけるヘテロダイン項SHet(ω)では、図17(b)に示すように、プラス・マイナスPi/2の位相差Δφで測定し、差し引きすることで、定数項と余弦項を除去し、χ(3)の虚部を抽出することができる。
【0054】
図18は、スキャンプローブの位相Δφ(図18(a))と、異なる位相Δφを有するハイブリッドプローブパルス13を用いて得られたCARSスペクトル15xおよび15yのセットの強度(図18(b)~(f))との関係を示す。図18(b)から(f)に示された信号の強度によれば、予想されたように、位相差±Pi/2のスペクトルを差し引きすることにより、強度が最大の信号を抽出できる(図18(d))。
【0055】
図19は、プローブパルスジェネレータ(プローブパルス生成装置、プローブパルス発生装置)70の別の実施形態を示す。ジェネレータ70は、入力プローブ光パルス30bの偏光を変換するための波長板65と、入力プローブ光パルス30bから第1のプローブ光パルス13aおよび第2のプローブ光パルス13bを分離し、第1のプローブ光パルス13aと第2のプローブ光パルス13bとの間の時間差Δφを設けるための少なくとも1つの複屈折結晶66と、第1のプローブ光パルス13aと第2のプローブ光パルス13bとの間の位相差Δφを制御するために、第1のプローブ光パルス13aおよび第2のプローブ光13bの少なくとも一方を変調するEOM(電気光学変調器)67と、波長板、偏光板68またはPBSなどの偏光素子により第1のプローブ光パルス13aおよび第2のプローブ光パルス13bをオーバーラップ(重複)させた後に導く出力経路79とを備える。このジェネレータ70では、単一の入力パルス30bが複屈折結晶66の各軸上の2つのパルス13aおよび13bに変換され、それらの間に約2.5~3psの遅延が設けられる。この遅延は、複屈折ウェッジ対を追加することにより調整可能である。複屈折ウェッジ対は、遅延を微調整するのに適している。2つのパルス13aおよび13b間の位相変調Δφは、EOM(電気光学変調器)67により電気的に制御される。
【0056】
図20は、インターヘテロダイン検出法のプロセスの概要を示すフローチャートである。この方法は、CARSスペクトルのセットを取得することと(ステップ81)、取得したCARSスペクトルのセットを比較することによって共鳴成分(共振成分、共鳴特徴)を抽出することと(ステップ82)を含む。ステップ81では、複数のストークス光パルス11、複数のポンプ光パルス12、および複数のハイブリッドプローブ光パルス13を、ハイブリッドプローブ光パルス13の位相を変化させながらターゲット5の一部5aに照射することにより、CARSスペクトル15の複数のセットを取得する。これらのハイブリッドプローブ光パルス13は、複数の第1のプローブ光パルス13aと複数の第2のプローブ光パルス13bとを含む。複数の第1のプローブ光パルス13aおよび複数の第2のプローブ光パルス13bはそれぞれ時間的に部分的に重なり、第1のプローブ光パルス13aおよび第2のプローブ光パルス13bの少なくとも一方の位相を変化させながら、第1のプローブ光パルス13aおよび第2のプローブ光パルス13bは部分的にストークス光パルス11およびポンプ光パルス12と重なる。
【0057】
ステップ81において、第2のプローブ光パルス13bは、ストークス光パルス11およびポンプ光パルス12とともに局部発振(LO)信号16bを発生するように選択され、第1のプローブ光パルス13aは、ストークス光パルス11およびポンプ光パルス12とともに共鳴成分を含む信号16aを発生するように選択される。第1のプローブ光パルス13aおよび第2のプローブ光パルス13bのパルス幅PW2は、ストークス光パルス11およびポンプ光パルス12のパルス幅PW1よりも大きくてもよく、ステップ81において、ハイブリッドプローブ光パルス13は、第1のプローブ光パルス13aがストークス光パルス11およびポンプ光パルス12に対して第1の相対的な時間的関係Δt1を有し、第1のプローブ光パルス13aのパルス幅PW2内で部分的に重なり、第2のプローブ光パルス13bが第2の相対的な時間的関係Δt2であって、ストークス光パルス11およびポンプ光パルス12に対して、第1の相対的な時間的関係Δt1に対して負の遅延Δtnの第2の相対的な時間的関係Δt2を有し、第2のプローブパルス13bのパルス幅PW2内で部分的に重なるように出射されてもよい。
【0058】
ステップ81において、ハイブリッドプローブ光パルス13は、第2のプローブ光パルス13bがストークス光11およびポンプ光12のパルスよりも早く出射されるようにしてもよい。ステップ81において、ハイブリッドプローブ光パルス13は、ストークス光パルス11、ポンプ光パルス12および第1のプローブ光パルス13が実質的に同時に、ストークス光パルス11およびポンプ光パルス12が実質的に第2のプローブ光パルス13bのパルス幅PW2の終端部になるように出射されてもよい。
【0059】
図9に示すプローブパルスジェネレータ70を使用する場合、ステップ81は、(i)波長板76を用いて入力プローブ光パルス30bの偏光を変換することと、(ii)PBS75を用いて入力プローブ光パルス30bから第1のプローブ光パルス13aおよび第2のプローブ光パルス13bを分離することと、(iii)第1のプローブ光パルス13aおよび第2のプローブ光パルス13bをそれぞれ第1のプローブ経路77および第2のプローブ経路78によってコンディショニング(調整)することと、(iv)PBS75により重ねられた第1のプローブ光パルス13aおよび第2のプローブ光パルス13bをハイブリッドプローブパルス13として導くこととを含んでもよい。第1のプローブ経路77および第2のプローブ経路78の少なくとも一方は、他の経路との時間差を含むための経路と、変調のためにミラーを動かす(移動させる)ためのアクチュエータとを含んでもよい。
【0060】
図19に示すプローブパルスジェネレータ70を使用する場合、ステップ81は(i)波長板65を用いて入力プローブ光パルス30bの偏光を変換することと、(ii)少なくとも1つの複屈折結晶66を用いて、入力プローブ光パルス30bから第1のプローブ光パルス13aと第2のプローブ光パルス13bとを分離し、第1のプローブ光パルス13aと第2のプローブ光パルス13bとの間に時間差を含めることと、(iii)EOM67を用いて、第1のプローブ光パルス13aおよび第2のプローブ光パルス13bの少なくとも一方を変調することと、(iv)偏光素子68により重複(オーバーラップ)された第1のプローブ光パルス13aおよび第2のプローブ光パルス13bを、ハイブリッドプローブ光パルス13として導光することとを含んでいてもよい。
【0061】
この方法は、ターゲット5を走査(スキャン)するステップ(ステップ83)をさらに含んでいてもよい。ステップ83では、複数のストークス光パルス11、複数のポンプ光パルス12、および複数のハイブリッドプローブ光パルス13を用いてターゲット5を走査し、各画素におけるCARSスペクトル15のセットを取得してターゲット5の画像を生成する。ステップ83は、各ボクセルでCARSスペクトル15のセットを取得してターゲット5の3D画像を生成する、3Dスキャンであってもよい。ステップ84では、全てのピクセルまたはボクセル情報が得られるまで、上記のステップを繰り返してもよい。
【0062】
サンプル、例えばキュベット内の溶液にレーザー光を集光することにより、CARSスペクトルが生成され、それを分析して異なる分子を同定したり、溶質の濃度を定量的に求めることも可能である。蛍光やラマン分光のような他の方法とは対照的に、CARSや他の非線形な手法では、信号は焦点位置でのみ生成される。集光度を高めることにより、本質的な空間分解能が得られ、1μmオーダーの微小体積からのみで発生する信号を得ることが可能である。キュベット内の溶液を測定する代わりに、組織のような構造化された物質にCARSを直接適用することも可能である。システム1は、ビーム11、12、および13によってサンプル上をスキャンし、異なる位置ごとにスペクトルを提供することができるため、画像を生成することが可能である。システム1は、CARS分光法としてだけでなく、画像を形成するために各ピクセルでスペクトルをスキャンして取得するCARS顕微鏡としても適用できる。薄い試料(ターゲット)5に対しては、試料を通過する前方散乱方向で信号を記録することができ、厚い試料に対しては後方散乱方向で信号を記録することができる。例えば、脂肪細胞中の脂質のような局所的に高い濃度のものに対してイメージングが要望される。局所的に濃度が高いものにおいては、小さな体積に焦点を合わせることで、バックグラウンドからピークを際立たせることができる。
【0063】
上記で説明したように、ヘテロダイン検出を用いるための方法とシステムとが提供される。開示されたヘテロダイン検出(インターヘテロダイン法、ヘテロダイン内部参照法、ヘテロダインインターナルリファレンス手法)は、前方散乱CARSおよび後方散乱CARSを含むあらゆる種類のCARS測定に適用可能である。開示されたヘテロダイン検出は、複数のビームを用いたシステムを使用することにより、共鳴成分17を取得する同じ試料(ターゲット)5からLO信号を取得することができる。
【0064】
本明細書に記載の方法およびシステムは、生体の関心対象の生化学的および構造的特性評価、特に生体の関心対象の生化学的組成の侵襲的および非侵襲的な評価ならびにそのアプリケーションに適用できる。本明細書に記載された方法およびシステムは、あらゆる種類の試料に適用可能であり、生化学とは無関係な溶液のような単純な試料にも適用可能である。
【0065】
本明細書では、CARS信号を検出するシステム1を開示している。このシステムは、(i)共鳴成分(共振成分)を含む散乱光を発生させるために、少なくとも1種類の第1の光パルスをターゲットに供給するように構成された第1の光路と、(ii)散乱光(CARS信号)を発生させるために、第1のプローブ光パルス13aおよび第2のプローブ光パルス13bをターゲット5に供給するように構成されたプローブパルスコンディショナ(プローブパルスジェネレータ)と、(iii)共鳴成分を抽出するために、変調に同期して取得された散乱光の差分を生成する取得ユニット(アナライザー)56と、を含む。第1のプローブ光パルス13aは、第2のプローブ光パルス13bとの間に時間差を含み、時間的に部分的に重なる。第1のプローブ光パルス13aおよび第2のプローブ光パルス13bの少なくとも一方は、変調された後、光学的にオーバーラップされて、ハイブリッドプローブパルス(ペアプローブ光パルスまたは複合プローブ光パルス)13として出射される。ストーク光パルス11とポンプ光パルス12とを含む第1の光(ビーム)パルスを、第1のプローブ光パルス13aと第2のプローブ光パルス13bとに時間的に部分的に重なるように出射することにより、非共鳴成分と、変調された共鳴成分とを含む散乱光を発生させる(生成される)。したがって、取得された散乱光の差分を変調に同期して生成することにより、共鳴成分を抽出することができる。
【0066】
上記で開示された別の態様は、CARS信号を検出するための方法である。この方法は、共鳴成分を含む散乱光を発生させるために、少なくとも1つの種類の第1の光パルスをターゲットに供給することと、第1のプローブ光パルスと第2のプローブ光パルスとをターゲットに供給し、散乱光を発生させることと、変調に同期して取得した散乱光の差分を生成することとを含む。第1のプローブ光パルスは、第2のプローブ光パルスとの間に時間差を含み、時間的に部分的に重なる。第1のプローブ光パルスおよび第2のプローブ光パルスの少なくとも一方は変調され、その後、光学的にオーバーラップされる。そして、第1の光パルスは、第1のプローブ光パルスと第2のプローブ光パルスとが時間的に部分的に重なるように出射される。
【0067】
この方法は、第1の光パルス、第1のプローブ光パルスおよび第2のプローブ光パルスをターゲットに出射し、ターゲットから散乱光を取得することを更に含んでもよい。この方法は、第1の光パルス、第1のプローブ光パルスおよび第2のプローブ光パルスを用いてターゲットの少なくとも一部を走査し、ターゲットからの散乱光を取得することをさらに含んでもよい。第1の光パルスを供給するステップは、第1の波長範囲のストークス光パルスを供給するステップと、第1の波長範囲より短い第2の波長範囲のポンプ光パルスをストークス光パルスと時間的に重なるように供給するステップと、第2の波長範囲よりも短い第3の波長範囲の第1のプローブ光パルスおよび第2のプローブ光パルスを供給するステップとを含んでもよい。この方法は、ターゲットからCARS信号を取得することをさらに含んでもよい。この方法は、ターゲットからのCARS信号の共鳴成分の時間的な減衰を取得することをさらに含んでもよい。
【0068】
本発明のさらに別の態様は、装置を操作するコンピュータのためのコンピュータプログラム(コンピュータプログラム製品)である。対象の装置は、共鳴成分を含む散乱光を発生させるために、少なくとも1つの種類の第1の光パルスをターゲットに供給するように構成された第1の光路と、第1のプローブ光パルスおよび第2のプローブ光パルスをターゲットに供給して散乱光を発生するように構成されたプローブパルスコンディショナと、ターゲットからの散乱光を取得する取得ユニットとを備える。コンピュータプログラムは、第1のプローブ光パルスと第2のプローブ光パルスとが時間的に部分的に重なる時間差を含むように第1のプローブ光パルスと第2のプローブ光パルスとを供給し、第1のプローブ光パルスおよび第2のプローブ光パルスの少なくとも一方を変調した後に光学的にオーバーラップさせるステップと、変調に同期して取得された散乱光の差分を生成して共鳴成分を抽出するステップとを実行するための実行可能コードを含む。
【0069】
具体的な実施形態に関する前述の説明は、本明細書における実施形態の一般的な性質を十分に明らかにするので、他者は、現在の知識を適用することによって、一般的な概念から逸脱することなく、そのような具体的な実施形態を様々な用途のために容易に修正および/または適合させることができる。したがって、そのような適合および修正は、開示された実施形態の意味および等価物の範囲内で理解されるべきであり、理解されることが意図される。本明細書の表現または用語は、説明のためのものであり、限定するためのものではないことを理解されたい。従って、本明細書における実施形態は、好ましい実施形態の観点から説明されているが、当業者であれば、本明細書における実施形態は、添付の特許請求の範囲の精神および範囲内で変更を加えて実施することができることを認識するであろう。
図1
図2
図3
図4
図5
図6
図7
図8
図9
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図11
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図15
図16
図17
図18
図19
図20
【手続補正書】
【提出日】2024-03-27
【手続補正1】
【補正対象書類名】特許請求の範囲
【補正対象項目名】全文
【補正方法】変更
【補正の内容】
【特許請求の範囲】
【請求項1】
ストークス光パルスと、ポンプ光パルスと、第1のプローブ光パルスおよび第2のプローブ光パルスを含むハイブリッドプローブ光パルスとをターゲットの一部に照射することによりCARSスペクトルのセットを取得することであって、前記第1のプローブ光パルスおよび前記第2のプローブ光パルスは時間的に部分的に重複し、前記第1のプローブ光パルスおよび前記第2のプローブ光パルスは前記ストークス光パルスおよび前記ポンプ光パルスと部分的に重複しており、前記第1のプローブ光パルスおよび前記第2のプローブ光パルスの少なくとも一方の位相を変化させて前記CARSスペクトのセットを取得することと、
取得された前記CARSスペクトルのセットを比較することにより、共鳴成分を抽出することと、を有する、方法。
【請求項2】
請求項1において、
前記第2のプローブ光パルスは、前記ストークス光パルスおよび前記ポンプ光パルスとともに局部発振(LO)信号を発生するように選択され、前記第1のプローブ光パルスは、前記ストークス光パルスおよび前記ポンプ光パルスとともに共鳴成分を含む信号を発生するように選択されている、方法。
【請求項3】
請求項1において、
前記第1および第2のプローブ光パルスのパルス幅は、前記ストークス光パルスおよび前記ポンプ光パルスのパルス幅よりも大きく、
前記CARSスペクトルのセットを取得することは、前記第1のプローブ光パルスが、前記ストークス光パルスおよび前記ポンプ光パルスに対し、前記ストークス光パルスおよび前記ポンプ光パルスと前記第1のプローブ光パルスの前記パルス幅の範囲内で部分的に重なる第1の相対的な時間的関係を備え、前記第2のプローブ光パルスが、前記ストークス光パルスおよび前記ポンプ光パルスと前記第2のプローブ光パルスの前記パルス幅の範囲内で部分的に重なる第2の相対的な時間的関係であって、前記第1の相対的な時間的関係に対して負の遅延を含む第2の相対的な時間的関係を備えている、前記ハイブリッドプローブ光パルスを出射することを含む、方法。
【請求項4】
請求項1において、
前記CARSスペクトルのセットを取得することは、前記第2のプローブ光パルスが前記ストークス光および前記ポンプ光のパルスよりも早く出射されるように、前記ハイブリッドプローブ光パルスを出射することを含む、方法。
【請求項5】
請求項1において、
前記CARSスペクトルのセットを取得することは、前記ストークス光パルス、前記ポンプ光パルスおよび前記第1のプローブ光パルスが実質的に同時に出射され、前記ストークス光パルスおよび前記ポンプ光パルスが実質的に前記第2のプローブ光パルスのパルス幅の端になるように、前記ハイブリッドプローブ光パルスを出射することを含む、方法。
【請求項6】
請求項1ないし5のいずれかにおいて、
前記ストークス光パルス、前記ポンプ光パルスおよび前記ハイブリッドプローブ光パルスを用いて前記ターゲットをスキャンし、各画素におけるCARSスペクトルのセットを取得することをさらに有する、方法。
【請求項7】
請求項1ないし5のいずれかにおいて、
前記ストークス光パルス、前記ポンプ光パルスおよび前記ハイブリッドプローブ光パルスで前記ターゲットをスキャンし、各ボクセルのCARSスペクトルのセットを取得することをさらに有する、方法。
【請求項8】
請求項1ないしのいずれかにおいて、
前記ストークス光パルスは第1の波長範囲を備え、前記ポンプ光パルスは前記第1の波長範囲よりも短い第2の波長範囲を備え、前記ハイブリッドプローブ光パルスは前記第2の波長範囲よりも短い第3の波長範囲を備えている、方法。
【請求項9】
請求項1ないしのいずれかにおいて、
前記ストークス光パルスはブロードバンドストークスビームを含む、方法。
【請求項10】
請求項1ないしのいずれかにおいて、
前記CARSスペクトルのセットを取得することは、
波長板を用いて入力プローブ光パルスの偏光を変換することと、
PBSを用いて前記入力プローブ光パルスから前記第1のプローブ光パルスおよび前記第2のプローブ光パルスを分離することと、
前記第1のプローブ光パルスおよび前記第2のプローブ光パルスをそれぞれ第1のプローブ経路および第2のプローブ経路であって、それぞれが、波長板、光パルスを前記PBSに反射させるためのミラーを含み、前記第1のプローブ経路および前記第2のプローブ経路の少なくとも一方は、別の経路との時間差を含む経路、および変調のために前記ミラーを移動するアクチュエータを含む、前記第1のプローブ経路および前記第2のプローブ経路により調整することと、
前記第1のプローブ光パルスおよび前記第2のプローブ光パルスを前記PBSにより重ねられるようにガイドすることと、を含む、方法。
【請求項11】
請求項1ないしのいずれかにおいて、
前記CARSスペクトルのセットを取得することは、
波長板を用いて入力プローブ光パルスの偏光を変換することと、
少なくとも1つの複屈折結晶体を用いて、前記入力プローブ光パルスから前記第1のプローブ光パルスおよび前記第2のプローブ光パルスを分離し、前記第1のプローブ光パルスと前記第2のプローブ光パルスとの間に時間差を設けることと、
EOM(電気光学変調器)を用いて、前記第1のプローブ光パルスおよび前記第2のプローブ光パルスの少なくとも一方を変調することと、
偏光素子によってオーバーラップされた前記第1のプローブ光パルスおよび前記第2のプローブ光パルスをガイドすることと、を含む、方法。
【請求項12】
ストークス光パルスと、ポンプ光パルスと、第1のプローブ光パルスおよび第2のプローブ光パルスを含むハイブリッドプローブ光パルスとを、前記第1のプローブ光パルスおよび前記第2のプローブ光パルスが時間的に部分的に重なり、前記第1のプローブ光パルスおよび前記第2のプローブ光パルスが前記ストークス光パルスおよび前記ポンプ光パルスと部分的に重なり、前記第1のプローブ光パルスおよび前記第2のプローブ光パルスの少なくとも一方の位相を変化させた状態で、ターゲットの一部に照射するように構成された光路と、
前記ストークス光パルス、前記ポンプ光パルスおよび前記ハイブリッドプローブ光パルスにより発生されたCARSスペクトルを検出して、前記ハイブリッドプローブ光パルスの位相に関連するCARSスペクトルのセットを取得するように構成された検出器と、を有する、システム。
【請求項13】
請求項12において、
前記第1のプローブ光パルスと、前記第1のプローブ光パルスに対して負の遅延を含む前記第2のプローブ光パルスとを含む前記ハイブリッドプローブ光パルスを生成するように構成されたプローブパルスジェネレータをさらに有する、システム。
【請求項14】
請求項12において、
さらに、プローブパルスジェネレータを有し、
前記プローブパルスジェネレータは、前記ストークス光パルスおよび前記ポンプ光パルスのパルス幅よりも大きいパルス幅を含む前記第1のプローブ光パルスであって、前記ストークス光パルスおよび前記ポンプ光パルスと前記第1のプローブ光パルスの前記パルス幅内で部分的に重なる第1の相対的な時間的関係を備えた前記第1のプローブ光パルスを生成するように構成された第1のプローブパルスコンディショナと、
前記ストークス光パルスおよび前記ポンプ光パルスのパルス幅よりも大きいパルス幅を含む前記第2のプローブ光パルスであって、前記ストークス光パルスおよび前記ポンプ光パルスと前記第2のプローブパルスの前記パルス幅内で部分的に重なり、前記第1の相対的な時間的関係に対して負の遅延を含む第2の相対的な時間的関係を備えた前記第2のプローブパルスを生成するように構成された第2のプローブパルスコンディショナと、を含む、システム。
【請求項15】
請求項13または14において、
前記プローブパルスジェネレータは、前記第2のプローブ光パルスが前記ストークス光および前記ポンプ光のパルスよりも早く出射されるように、前記ハイブリッドプローブ光パルスを生成するように構成されている、システム。
【請求項16】
請求項13または14において、
前記プローブパルスジェネレータは、前記第1のプローブ光パルスが前記ストークス光パルスおよび前記ポンプ光パルスと実質的に同時に出射され、前記第2のプローブ光パルスが前記ストークス光パルスおよび前記ポンプ光パルスが前記第2のプローブ光パルスの前記パルス幅の実質的な端部で出射されるように、前記ハイブリッドプローブ光パルスを生成するように構成されている、システム。
【請求項17】
請求項12において、
さらに、プローブパルスジェネレータを有し、
前記プローブパルスジェネレータは、
入力プローブ光パルスの偏光を変換するための波長板と、
前記入力プローブ光パルスから前記第1のプローブ光パルスと前記第2のプローブ光パルスとを分離するためのPBSと、
前記第1のプローブ光パルスおよび前記第2のプローブ光パルスをそれぞれ調整するための第1のプローブ経路および第2のプローブ経路とを含み、前記第1のプローブ経路および前記第2のプローブ経路はそれぞれ、波長板、および光パルスを前記PBSに反射させるためのミラーを含み、前記第1のプローブ経路および前記第2のプローブ経路の少なくとも一方は、他の経路との間に時間差を設けるための経路、および変調のために前記ミラーを移動させるアクチュエータを含み、
前記プローブパルスジェネレータは、さらに、前記PBSによって重ねられた前記第1のプローブ光パルスおよび前記第2のプローブ光パルスを導くための出力経路を含む、システム。
【請求項18】
請求項12において、
さらに、プローブパルスジェネレータを有し、
前記プローブパルスジェネレータは、
入力プローブ光パルスの偏光を変換するための波長板と、
前記入力プローブ光パルスから前記第1のプローブ光パルスおよび前記第2のプローブ光パルスを分離し、前記第1のプローブ光パルスと前記第2のプローブ光パルスとの間に時間差を設けるための少なくとも1つの複屈折結晶体と、
前記第1のプローブ光パルスおよび前記第2のプローブ光パルスの少なくとも一方を変調するためのEOMと、
偏光素子によって重ねられた前記第1のプローブ光パルスおよび前記第2のプローブ光パルスを導く出力経路と、を含む、システム。
【請求項19】
請求項12または13において、
前記光路は、第1の波長範囲の前記ストークス光パルスを供給するように構成された第1の光路と、
前記第1の波長範囲よりも短い第2の波長範囲の前記ポンプ光パルスを供給するように構成された第2の光路と、
前記第2の波長範囲よりも短い第3の波長範囲の前記ハイブリッドプローブ光パルスを供給するように構成された第3の光路と、を含む、システム。
【請求項20】
請求項19において、
前記第1の光路は、前記ポンプ光パルスからブロードバンドストークスビームを生成するための第1の光学素子を含む、システム。
【請求項21】
請求項12または13において、
前記ストークス光パルス、前記ポンプ光パルスおよび前記ハイブリッドプローブ光パルスを用いて前記ターゲットを走査し、各画素におけるCARSスペクトルのセットを取得するように構成されたスキャナーをさらに有する、システム。
【請求項22】
請求項12または13において、
前記ストークス光パルス、前記ポンプ光パルスおよび前記ハイブリッドプローブ光パルスを用いて前記ターゲットを走査し、各ボクセルのCARSスペクトルのセットを取得するように構成されたスキャナーをさらに有する、システム。
【請求項23】
請求項12または13において、
取得されたCARSスペクトルのセットを比較することにより共鳴成分を抽出するように構成された分析装置をさらに有する、システム。
【請求項24】
コンピュータを請求項12または13に記載のシステムとして動作させるためのコンピュータプログラムであって、前記CARSスペクトルのセットを取得し、取得されたCARSスペクトルのセットを比較することによって共鳴成分を抽出するように前記システムを制御するための命令を含む、コンピュータプログラム。
【国際調査報告】