(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公表特許公報(A)
(11)【公表番号】
(43)【公表日】2024-09-30
(54)【発明の名称】シロキサン系かみそり刃コーティング
(51)【国際特許分類】
B26B 21/60 20060101AFI20240920BHJP
B26B 21/58 20060101ALI20240920BHJP
【FI】
B26B21/60
B26B21/58
【審査請求】未請求
【予備審査請求】未請求
(21)【出願番号】P 2024510452
(86)(22)【出願日】2022-09-09
(85)【翻訳文提出日】2024-02-20
(86)【国際出願番号】 EP2022075102
(87)【国際公開番号】W WO2023041431
(87)【国際公開日】2023-03-23
(32)【優先日】2021-09-15
(33)【優先権主張国・地域又は機関】EP
(81)【指定国・地域】
(71)【出願人】
【識別番号】507020417
【氏名又は名称】ビック バイオレクス シングル メンバー エス.エー
(74)【代理人】
【識別番号】110001656
【氏名又は名称】弁理士法人谷川国際特許事務所
(72)【発明者】
【氏名】パンディス,クリストス
(72)【発明者】
【氏名】ツァアカトゥーラス,ジョージオス
(57)【要約】
本出願は、少なくとも1つのかみそり刃を備える手持ち式シェービングデバイスのためのカートリッジに関し、少なくとも1つのかみそり刃が、基材縁部分において終端するステンレス鋼かみそり刃基材を備える。基材縁部分には、複数のケイ素含有ポリマーを含むケイ素含有コーティングが提供されている。複数の直鎖状ケイ素含有ポリマーは、基材縁部分に共有結合され、かつ/又は基材縁部分上に提供されたコーティングに共有結合される。
【選択図】
図1
【特許請求の範囲】
【請求項1】
少なくとも1つのかみそり刃を備える手持ち式シェービングデバイスのためのカートリッジであって、前記少なくとも1つのかみそり刃が、基材縁部分(10、20)において終端するステンレス鋼かみそり刃基材を備え、
前記基材縁部分(10、20)が、2つの基材側面(10a、10b)が、基材縁部(10c)に向かって収束し、基材先端を形成する状態で、連続的に先細りする幾何学的形状を有し、
前記基材縁部分(10、20)が、前記基材先端から5μmの距離で測定された約1.0μm~約4.0μmの厚さを有し、
前記基材縁部分(10、20)には、ケイ素含有コーティング(11、21)が提供されており、
前記ケイ素含有コーティング(11、21)が、複数の直鎖状ケイ素含有ポリマーを含み、これらが、
iii)前記基材縁部分(10、20)に共有結合され、かつ/又は
iv)前記基材縁部分(10、20)上に提供されたコーティングに共有結合され、
前記線状ケイ素含有ポリマーが、式(I)の化合物から選択され、
【化1】
式中、R
1及びR
2が、互いに独立して、H、置換若しくは非置換C
1-C
6アルキル基又は置換若しくは非置換C
6-C
12アリール基を表し、
R
3が、前記直鎖状ケイ素含有ポリマーを前記基材縁部分(10、20)及び/又は前記基材縁部分(10、20)上に提供された前記コーティングに共有結合させる前記テザー基を表し、
R
4が、ポリマー末端基を表し、
nが、2~約1500の整数を表す、カートリッジ。
【請求項2】
前記ケイ素含有コーティング(11、21)が、約0.1mm
2の面積にわたって測定された、最大約150nm、より具体的には、最大約100nm、及び特に最大約50nmの厚さにおける最大差を有する、請求項1に記載のカートリッジ。
【請求項3】
前記ケイ素含有コーティング(11、21)が、約0.01μm
2の面積にわたって測定された、nm
2当たり平均約0.05~約4、より具体的には、約0.1~約2、及び特に約0.2~約1の直鎖状ケイ素含有ポリマーを含む、請求項1又は2に記載のカートリッジ。
【請求項4】
前記複数の直鎖状ケイ素含有ポリマーが、液体様表面を形成するように離間される、請求項1~3のいずれか一項に記載のカートリッジ。
【請求項5】
前記ケイ素含有コーティング(11、21)が、約0.005~約2、より具体的には、約0.01~約1、及び特に0.05~約0.5の摩擦係数を有する、請求項1~4のいずれか一項に記載のカートリッジ。
【請求項6】
前記ケイ素含有コーティング(11、21)が、オムニフォビックである、請求項1~5のいずれか一項に記載のカートリッジ。
【請求項7】
R
1及びR
2が、独立して、H及び置換又は非置換C
1-C
4アルキル基、より具体的には、H、メチル、エチル、n-プロピル、及びイソプロピルからなる群から選択される、請求項1~6のいずれか一項に記載のカートリッジ。
【請求項8】
前記テザー基を表すR
3が、酸素原子、炭素質残基、窒素質残基、リン含有残基又はケイ素含有残基から選択される、請求項1~7のいずれか一項に記載のカートリッジ。
【請求項9】
前記ポリマー末端基を表すR
4が、H、置換又は非置換アルキル基、及び3-(2-アミノエチル)アミノプロピルジメトキシシロキシル基などの置換又は非置換アリール又はヘテロアリール基からなる群から選択され、より具体的には、前記ポリマー末端基を表すR
4が、H、メチル、エチル、n-プロピル、イソプロピル及びフェニルからなる群から選択される、請求項1~8のいずれか一項に記載のカートリッジ。
【請求項10】
前記複数の直鎖状ケイ素含有ポリマーが、ジメチルシロキサン又はメチルヒドロシロキサンからなる群から選択される、請求項1~9のいずれか一項に記載のカートリッジ。
【請求項11】
前記ステンレス鋼かみそり刃基材が、少なくとも10重量%のCrを含む鋼である、請求項1~10のいずれか一項に記載のカートリッジ。
【請求項12】
前記ステンレス鋼かみそり刃基材が、前記直鎖状ケイ素含有ポリマーと共有結合を形成することが可能な酸素含有基を含むように表面処理されている、請求項1~11のいずれか一項に記載のカートリッジ。
【請求項13】
前記基材縁部分(10、20)には、第1のコーティング(22)が提供されており、前記ケイ素含有コーティング(11、21)が、前記第1のコーティング(22)の上に提供された第2のコーティングであり、前記複数の直鎖状ケイ素含有ポリマーが、前記第1のコーティング(22)に共有結合しており、より具体的には、前記第1のコーティング(22)が、金属セラミックコーティング、より具体的には、Ti及びB、Ti、B及びC、又はTi、B及びNを含むコーティングを含む、請求項1~12のいずれか一項に記載のカートリッジ。
【請求項14】
前記第1のコーティング(22)が、Cr
2O
3含有コーティング又はSiO
2系コーティングを含む、請求項13に記載のカートリッジ。
【請求項15】
前記第1のコーティング(22)が、多層コーティングであり、より具体的には、前記第1のコーティング(22)が、内側金属セラミック層、より具体的には、Ti及びB、Ti、B及びC、又はTi、B及びNを含む層と、Cr
2O
3-又はSiO
2を含む外側層と、を含む、多層コーティングである、請求項13又は14に記載のカートリッジ。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本出願は、2021年9月15日に出願された欧州特許出願第21196862.3号、表題「SILOXANE-BASED RAZOR BLADE COATING」の利益を主張し、その内容は参照により本明細書に組み込まれる。
【0002】
(発明の背景)
本開示は、かみそり刃に関し、より具体的には、かみそり刃縁部及びかみそり刃コーティングに関する。
【背景技術】
【0003】
本開示は、かみそり刃に関する。かみそりカートリッジ内に好適に配置されると、それらは、毛を切断する又はシェービングするという最終的な機能を提供する。かみそり刃の形状及びかみそり刃のコーティングは、シェービングの品質において重要な役割を果たす。
【0004】
かみそり刃は、典型的には、刃の切断縁部の態様を説明することによって特徴付けられる。刃の切断縁部は、多くの場合、縁部分で終端するものとして説明され、ひいては、刃の最終縁部(又は単に刃の縁部)で終端する。刃の縁部分は、典型的には、2つの側部が刃の縁部に向かって収束して刃の縁部を形成する状態で、連続的に先細りする幾何学的形状を有する。刃の縁部分の断面を考慮すると、刃の縁部はまた、刃の先端とも呼ばれる。縁部分及び刃の縁部が頑丈に成形されている場合、かみそり刃は、より少ない摩耗を受け、より長い耐用年数を示すことになる。しかしながら、かかる刃のプロファイルはまた、シェービングの快適性に悪影響を与えるより大きい切断力をもたらすであろう。より薄いプロファイルは、より少ない切断力につながるが、破損又は損傷のリスクも増加させ、このため、より短い耐用年数をもたらすであろう。したがって、かみそり刃の縁部及び縁部分のプロファイルは、切断力、シェービングの快適性、及び所望される耐用年数の間の妥協点に基づく。湿式シェービングのための最新のカートリッジ系かみそり刃は、多くの場合、先端から5μmの距離で測定された、1.0μm~約4.0μmの厚さを有する縁部分を有する。
【0005】
刃の縁部及び縁部分は、刃の基材の対応する部品、典型的には、2つの基材側面が基材縁部に向かって収束する状態で、連続的に先細りする幾何学的形状を形成するために研削を受けたステンレス鋼基材が、切断性能、耐久性、及びシェービング経験を改善するために、様々なコーティングでコーティングされ得るという点で、多層構造であり得る。特に、刃の縁部は、潤滑性を増強するためにコーティングされ得、ひいては、必要とされる切断力が低減される。
【0006】
しかしながら、湿式シェービング用のかみそり刃の縁部上にコーティングを提供することは難題である。かかるかみそり刃は、大量消費を良しとするため、コーティングは、製品ごとに一貫して、かつ高スループットで適用されなければならず、これは、非常に信頼できるプロセスと適合性のあるコーティングを必要とする。商業的に最も関連する潤滑コーティングは、ポリテトラフルオロエチレン(polytetrafluoroethylene、PTFE)で作製されたコーティングであり、(刃又は基材)縁部分上にコーティングとして適用される。PTFEは、PTFE粒子の水性又は溶媒分散液を縁部分に噴霧することによって適用され得る。その後、PTFEは、PTFEコーティングを得るために、焼結され得る。焼結プロセスは、PTFEの融点(327℃)を上回る温度を必要とし、これは、ひいては、刃のステンレス鋼の材料特性に影響を及ぼし得る。例えば、コーティングされた縁部分の極端な薄さに起因して、増加した温度は、ステンレス鋼の耐食性及び硬度を既に低減させ得る。更に、PTFEコーティングは、ある程度の均一性の欠如を被る傾向があり、様々な厚さを有し得る。これは、シェービング性能に悪影響を及ぼし得る。更に、このプロセスは、相対的に複雑であり、複数のプロセス工程及び高度なプロセス制御を必要とする。最終的に、PTFEコーティングは、非常に耐久性があり、環境中でゆっくりと劣化する。そのため、PTFEの使用を完全に回避することは、環境的に有益であろう。
【0007】
本開示は、前述の問題のうちの1つ以上に対処することを目的とする。
【発明の概要】
【0008】
本発明者らは、かみそり刃への適用に好適であり、かつ十分な硬度だけでなく、弾性及び破壊靱性も付与されて、改善された耐摩耗性及び使用中の劣化に対する耐性をかみそり刃に提供するコーティングを特定するために鋭意研究を行った。
【0009】
第1の態様では、本開示は、手持ち式シェービングデバイスのためのカートリッジに関する。手持ち式シェービングデバイスは、少なくとも1つのかみそり刃を備え、少なくとも1つのかみそり刃は、基材縁部分において終端するステンレス鋼かみそり刃基材を備える。基材縁部分は、2つの基材側面が基材縁部に向かって収束し、基材先端を形成する状態で、連続的に先細りする幾何学的形状を有する。
【0010】
基材縁部分は、基材先端から5μmの距離で測定された、約1.0μm~約4.0μmの厚さを有する。基材縁部分には、ケイ素含有コーティングが提供されており、ケイ素含有コーティングは、複数の直鎖状ケイ素含有ポリマーを含む。複数の直鎖状ケイ素含有ポリマーは、基材縁部分に共有結合され、かつ/又は基材縁部分上に提供されたコーティングに共有結合される。
【0011】
直鎖状ケイ素含有ポリマーは、式(I)の化合物から選択される。
【0012】
【0013】
R1及びR2は、互いに独立して、H、置換若しくは非置換C1-C6アルキル基、又は置換若しくは非置換C6-C12アリール基を表す。R3は、直鎖状ケイ素含有ポリマーを基材縁部分及び/又は基材縁部分上に設けられたコーティングに共有結合させるテザー基を表す。R4は、ポリマー末端基を表す。nは、2~約1500の整数を表す。
【0014】
いくつかの実施形態では、ケイ素含有コーティングは、約0.1mm2の面積にわたって測定されて、約5~約500nm、より具体的には、約20~約150nm、及び特に約30~約100nmの平均厚さを有し得る。
【0015】
いくつかの実施形態では、ケイ素含有コーティングは、約0.1mm2の面積にわたって測定された、最大約150nm、より具体的には、最大約100nm、及び特に最大約50nmの厚さにおける最大差を有し得る。
【0016】
いくつかの実施形態では、ケイ素含有コーティングは、約0.01μm2の面積にわたって測定された、nm2当たり平均約0.05~約4、より具体的には、約0.1~約2、及び特に約0.2~約1の直鎖状ケイ素含有ポリマーを含み得る。
【0017】
いくつかの実施形態では、複数の直鎖状ケイ素含有ポリマーは、液体様表面を形成するように離間され得る。
【0018】
いくつかの実施形態では、ケイ素含有コーティングは、約0.005~約2、より具体的には、約0.01~約1、及び特に0.05~約0.5の摩擦係数を有し得る。
【0019】
いくつかの実施形態では、ケイ素含有コーティングは、疎水性であり得る。
【0020】
いくつかの実施形態では、ケイ素含有コーティングは、100~約180°、より具体的には、約120~約160°、及び特に約130°~約150°の水接触角を有し得る。
【0021】
いくつかの実施形態では、ケイ素含有コーティングは、オムニフォビックであり得る。
【0022】
いくつかの実施形態では、R1及びR2は、独立して、H及び置換又は非置換C1-C4アルキル基、より具体的には、H、メチル、エチル、n-プロピル、及びイソプロピルからなる群から選択され得る。
【0023】
いくつかの実施形態では、テザー基を表すR3は、酸素原子、炭素質残基、窒素質残基、リン含有残基、又は及びケイ素含有残基から選択され得る。
【0024】
いくつかの実施形態では、ポリマー末端基を表すR4は、H、置換又は非置換アルキル基、及び3-(2-アミノエチル)アミノプロピルジメトキシシロキシル基などの置換又は非置換アリール又はヘテロアリール基からなる群から選択され得る。
【0025】
いくつかの実施形態では、ポリマー末端基を表すR4は、H、メチル、エチル、n-プロピル、イソプロピル及びフェニルからなる群から選択され得る。
【0026】
いくつかの実施形態では、複数の直鎖状ケイ素含有ポリマーは、ジメチルシロキサン又はメチルヒドロシロキサンからなる群から選択され得る。
【0027】
いくつかの実施形態では、nは、約4~約1000、より具体的には、約8~約800、更により具体的には、約12~約500、及び特に約25~約250の整数を表し得る。
【0028】
いくつかの実施形態では、ステンレス鋼かみそり刃基材は、少なくとも10重量%のCrを含む鋼であり得る。
【0029】
いくつかの実施形態では、ステンレス鋼かみそり刃基材は、直鎖状ケイ素含有ポリマーと共有結合を形成することが可能な酸素含有基を含むように表面処理され得る。
【0030】
いくつかの実施形態では、基材縁部分には、第1のコーティングが提供され得、ケイ素含有コーティングは、第1のコーティングの上に提供された第2のコーティングであり得、複数の直鎖状ケイ素含有ポリマーは、第1のコーティングに共有結合し得る。
【0031】
いくつかの実施形態では、第1のコーティングは、Cr2O3含有コーティング又はSiO2系コーティングを含み得る。
【0032】
いくつかの実施形態では、第1のコーティングは、多層コーティングであり得る。
【0033】
いくつかの実施形態では、第1のコーティングは、金属セラミックコーティング、より具体的には、Ti及びB、Ti、B及びC、又はTi、B及びNを含むコーティングを含み得る。
【0034】
いくつかの実施形態では、第1のコーティングは、内側金属セラミック層、より具体的には、Ti及びB、Ti、B及びC、又はTi、B及びNを含む層と、Cr2O3-又はSiO2を含む外側層と、を含む、多層コーティングであり得る。
【0035】
いくつかの実施形態では、第1のコーティングは、約10~約500nm、より具体的には、約50~約300nm、及び特に約150~約250nmの厚さを有し得る。
【0036】
いくつかの実施形態では、基材縁部分は、基材先端から生じる中心長手方向軸を画定する実質的に対称な先細りする幾何学的形状を有し得、基材縁部分は、基材先端から中心長手方向軸に沿って約5μmの距離で測定された約1.7μm~約3.0μmの厚さ、基材先端から中心長手方向軸に沿って約20μmの距離で測定された約6.0μm~約8.4μmの厚さ、基材先端から中心長手方向軸に沿って約50μmの距離で測定された約10.2μm~14.8μmの厚さ、及び基材先端から中心長手方向軸に沿って約100μmの距離で測定された約20.7μm~31.9μmの厚さを有する。
【0037】
いくつかの実施形態では、基材先端から開始して、ケイ素含有コーティングは、基材縁部分の最大約500nm、より具体的には、最大約250μm、及び特に最大約150μmの幅のみを被覆し得る。
【図面の簡単な説明】
【0038】
【
図1】かみそり刃の縁部分の断面図の概略図である。
【
図2】第1のコーティングを含むかみそり刃の縁部分の断面図の概略図である。
【
図3】かみそり刃の縁部分に適用された異なる層の概略図である。
【発明を実施するための形態】
【0039】
以下、本開示を詳細に説明する。本開示の明細書及び特許請求の範囲において使用された用語又は単語は、一般的な言語又は辞書的な意味を有することのみに限定して解釈されてはならず、以下の説明において別途定義しない限り、当該技術分野で設定された通常の技術的意味を有すると解釈されるべきである。詳細な説明は、本開示をより良く例解するために具体的な実施形態及び図面を参照するが、提示される開示がこれらの具体的な実施形態及び図面に限定されないことを理解されたい。本開示の特徴及び利点は、非限定的な例として提供されるその実施形態のいくつか、及び添付の図面の以下の説明から容易に明らかになるであろう。
【0040】
本発明者らは、かみそり刃における適用に好適であり、かつ十分な潤滑性だけでなく、容易な製造可能性も付与されるコーティングを特定するために鋭意研究を行った。
【0041】
第1の態様では、本開示は、手持ち式シェービングデバイスのためのカートリッジに関する。手持ち式シェービングデバイスは、少なくとも1つのかみそり刃を含み、少なくとも1つのかみそり刃は、基材縁部分10、20で終端するステンレス鋼かみそり刃基材を備える。基材縁部分10、20は、2つの基材側面が基材縁部に向かって収束し、基材先端を形成する状態で、連続的に先細りする幾何学的形状を有する。
【0042】
基材縁部分10、20は、基材先端から5μmの距離で測定された約1.0μm~約4.0μmの厚さを有する。基材縁部分10、20には、ケイ素含有コーティング11、21が提供されており、ケイ素含有コーティング11、21は、複数の直鎖状ケイ素含有ポリマーを含む。複数の直鎖状ケイ素含有ポリマーは、基材縁部分10、20に共有結合され、かつ/又は基材縁部分10、20上に提供されたコーティングに共有結合される。
【0043】
直鎖状ケイ素含有ポリマーは、式(I)の化合物から選択される。
【0044】
【0045】
R1及びR2は、互いに独立して、H、置換若しくは非置換C1-C6アルキル基又は置換若しくは非置換C6-C12アリール基を表す。R3は、直鎖状ケイ素含有ポリマーを基材縁部分10、20及び/又は基材縁部分10、20上に提供されたコーティングに共有結合させるテザー基を表す。R4は、ポリマー末端基を表す。nは、2~約1500の整数を表す。
【0046】
複数の直鎖状ケイ素含有ポリマーは、特に、基材縁部分10、20の表面上に凝集構造を形成するいくつかのケイ素含有ポリマーを指し得る。かかる凝集構造は、直鎖状ポリマーのカーペット又はカーペット様構造であり得る。
【0047】
上で定義されたようなケイ素含有コーティング11、21を含むかみそり刃は、シェービング動作中に潤滑性を提供し得、ひいてはシェービング性能を改善する。更に、コーティングは、焼結工程又は他のタイプの積極的な加熱工程を含まない製造プロセスによって提供され得、改善された硬度及び耐食性を有するかみそり刃をもたらす。
【0048】
図1は、基材縁部分10、20の例示的な表現を示す。基材縁部分10、20は、2つの基材側面10a、10bが基材縁部10cに向かって収束する状態で、連続的に先細りする幾何学的形状を有する。基材縁部分10、20の断面形状の連続的に先細りする幾何学的形状は、直線、角度付き、アーチ形、又はこれらの任意の組み合わせであり得る。更に、断面形状は、中心長手方向軸に対して対称又は非対称であり得る。
図1は、中心長手方向軸(図示せず)に対して対称であり、基材縁部10cに向かって直線的な様式で、連続的に先細りになっている基材縁部分10、20の例示的な断面形状を示す。
【0049】
本開示によれば、少なくとも基材縁部10cには、ケイ素含有コーティング11、21が(直接的又は間接的に)提供されている。ケイ素含有コーティング11、21が提供されている基材縁部10cに言及する場合、かかる言及は、単に基材本体の厳密な幾何学的縁部を指すのではなく、むしろ、それが実行する切断作用を考慮した縁部を指すことを理解されたい。したがって、基材縁部10cという用語はまた、基材縁部分10、20の厳密な幾何学的縁部に直接隣接する基材側面10a、10bの部分も包含することを意味する。例示的な実施形態では、基材縁部10cを形成する領域は、約5μm以下、約10μm以下、約15μm以下、約25μm以下、約50μm以下、約75μm以下、約100μm以下、約125μm以下、約150μm以下、約175μm以下、又は約200μm以下の距離にわたって、基材縁部分10、20の中心長手方向軸に沿って基材縁部分10、20の厳密な幾何学的縁部から離れて延在する。
【0050】
図1に概略的に示されるように、ケイ素含有コーティング11、21は、基材縁部10c上に提供されるだけでなく、追加的に、基材縁部分10、20の基材側面10a、10b上に提供され得る。ケイ素含有コーティング11、21を基材側面10a、10bに(又はそれを超えて)延在させることは、かみそり刃の性能を改善する目的で行うことができるか、又は用いられるコーティング技術の副産物であり得る。ケイ素含有コーティング11、21は、概して、下にある基材縁部分10、20の表面及び輪郭に従い得る。したがって、ケイ素含有コーティング11、21は、
図1に示されるように、刃の縁部11cを形成し得る。しかしながら、有利な実施形態であり、本開示のコーティングを提供することが容易であるが、ケイ素含有コーティング11、21は、それ自体が均質である、例えば、均質な厚さ及び/又は組成である必要はない。
【0051】
いくつかの実施形態では、ケイ素含有コーティング11、21は、約0.1mm2の面積にわたって測定された、約5~約500nm、より具体的には、約20~約150nm、及び特に約30~約100nmの平均厚さを有し得る。低い厚さは、必要な切断力を低減することによって、かみそり刃のシェービング性能を改善し得る。
【0052】
ケイ素含有コーティング11、21の平均厚さを決める方法は、特に限定されない。例えば、白色光反射分光法、レーザ干渉法又は三次元レーザ走査顕微鏡法(three-dimensional laser scanning microscopy、3D-LSM)によって厚さを判定することが可能である。更に、特に、例えば、約20nm未満の厚さを有するコーティングの場合、Ar-GCIB(ガスクラスタイオンビーム)と組み合わせたX線光電子分光法(X-ray photoelectron spectroscopy、XPS)が、適用され得る。
【0053】
いくつかの実施形態では、ケイ素含有コーティング11、21は、約0.1mm2の面積にわたって測定された、最大約150nm、より具体的には、最大約100nm、及び特に最大約50nmの厚さにおける最大差を有し得る。厚さにおける最大差は、厚さを測定するために上で説明されたものと同じ方法によって測定され得る。均一な厚さは、かみそり刃のシェービング性能を改善し得る。
【0054】
いくつかの実施形態では、ケイ素含有コーティング11、21は、約0.01μm2の面積にわたって測定された、nm2当たり平均約0.05~約4、より具体的には、約0.1~約2、及び特に約0.2~約1の直鎖状ケイ素含有ポリマーを含み得る。面積当たりの直鎖状ケイ素含有ポリマーの平均は、例えば、X線光電子分光法(XPS)及び/又は原子間力顕微鏡法(atomic force microscopy、AFM)によって測定され得る。他の好適な測定方法もまた、使用され得る。面積当たり多量の直鎖状ケイ素含有ポリマーが、改善された潤滑性を提供し得る。
【0055】
いくつかの実施形態では、複数の直鎖状ケイ素含有ポリマーは、液体様表面を形成するように離間され得る。本開示内の「液体様表面」という用語は、コーティングの分野において十分に確立されているものとして理解されるべきであり、特に、複数のシリコーン系ポリマー鎖によって提供される表面を指し得、ポリマー鎖の近位端が、表面に結合され、ポリマー鎖の残りが、当該表面から延在し、そのためポリマー鎖の遠位端部は、自由に移動、屈曲、又は回転し得る。当該表面からのポリマーの伸長は、隣接するポリマー鎖の高密度及び/又は隣接するポリマー鎖間の反発相互作用に起因して起こり得る。かかる液体様表面は、刃の縁部に優れた滑り特性を提供し得、下の表面に共有結合されていることに起因し、従来の(例えば、焼結)潤滑剤よりも長く持続し得る。
【0056】
いくつかの実施形態では、ケイ素含有コーティング11、21は、約0.005~約2、より具体的には、約0.01~約1、及び特に0.05~約0.5の摩擦係数を有し得る。摩擦係数の測定方法は、特に限定されない。摩擦係数は、例えば、摩擦計又は、例えば、ナノ摩擦計を使用することによって測定され得る。
【0057】
低摩擦係数を有するケイ素含有コーティング11、21を含む基材縁部分10、20は、例えば、シェービング中に毛を切断するためにより少ない切断力を必要とする刃を提供し得る。シェービング中の低減された切断力は、シェービングの安全性、快適性、及び密閉性の改善された感覚をユーザに提供し得る。
【0058】
いくつかの実施形態では、ケイ素含有コーティング11、21は、疎水性であり得る。疎水性表面は、水でコーティングされた表面上でより低い摩擦係数を提供し得る。
【0059】
いくつかの実施形態では、ケイ素含有コーティング11、21は、100~約180°、より具体的には、約120~約160°、及び特に約130°~約150°の水接触角を有し得る。高い水接触角は、ケイ素含有コーティング11、21の疎水性を示し得る。測定方法は、特に限定されず、任意の好適な接触角計を用いて行われ得る。例えば、水接触角は、ピコリットル範囲の液滴を可能にし、μmサイズの表面上の接触角を測定するのに好適であるKRUSS GmbHの接触角計DSA100Mを使用して、刃の縁部の(ファセット上で)判定され得る。
【0060】
いくつかの実施形態では、ケイ素含有コーティング11、21は、オムニフォビックであり得る。オムニフォビック特性を呈するケイ素含有は、多くの表面に低い摩擦係数を提供し得る。例えば、かみそり刃上のオムニフォビックなケイ素含有コーティング11、21は、ユーザの皮膚が水などの極性物質で湿潤している場合、低い摩擦係数を有し得る一方で、ユーザの皮膚が脂肪族油などの単極性物質で被覆されている場合もまた低い摩擦係数を提供する。
【0061】
いくつかの実施形態では、R1及びR2は、独立して、H及び置換又は非置換C1-C4アルキル基、より具体的には、H、メチル、エチル、n-プロピル、及びイソプロピルからなる群から選択され得る。側基の選択は、ケイ素含有コーティング11、21の疎水性及び/又はオムニフォビック特性に影響を及ぼし得る。いくつかの実施形態では、R1及びR2は、独立して、H及び非置換C1-C4アルキル基、より具体的には、H、メチル、エチル、n-プロピル、及びイソプロピルからなる群、より具体的には、H、メチル及びエチルから選択される群から選択されることが特に有利であり得る。
【0062】
いくつかの実施形態では、テザー基を表すR3は、酸素原子、炭素質残基、窒素質残基、リン含有残基、又は及びケイ素含有残基から選択され得る。いくつかの実施形態では、炭素質残基は、エステル含有基、エーテル含有基又はケトン含有基であり得る。いくつかの実施形態では、窒素含有基は、アミン含有基又はアミド含有基であり得る。いくつかの実施形態では、テザー基は、任意選択的に、隣接する直鎖状ケイ素含有ポリマーの他のテザー基と接続するポリマー残基であり得る。テザー基の組成は、例えば、飛行時間型二次イオン質量分析法(Time-of-Flight Secondary Ion Mass Spectrometry、ToF-SIMS)及びX線光電子分光法XPSをAr-GCIB(ガスクラスタイオンビーム)スパッタリングと組み合わせて使用する深さプロファイリングによって分析され得る。
【0063】
ポリマー末端基としてのR4の選択は、特に限定されない。いくつかの場合では、重合が停止した繰り返し単位であり得る。いくつかの場合では、重合反応を停止させるために、又は所望の官能基をポリマーに導入するために使用される専用の末端基であり得る。いくつかの実施形態では、ポリマー末端基を表すR4は、H、置換又は非置換C1~C4アルキル基、置換又は非置換C6~C12アリール若しくはヘテロアリール基、及び置換又は非置換シリル若しくはシロキシ基からなる群から選択され得る。いくつかの実施形態では、ポリマー末端基を表すR4は、H、置換又は非置換アルキル基、置換又は非置換アリール若しくはヘテロアリール基、及びトリ-C1-C4アルコキシシリル基又は3-(2-アミノエチル)アミノプロピル-ジメトキシシロキシル基などの置換又は非置換シリル若しくはシロキシ基からなる群から選択され得る。
【0064】
いくつかの実施形態では、ポリマー末端基を表すR4は、H、非置換C1~C4アルキル基及び非置換C6~C12アリール基からなる群から選択され得る。
【0065】
いくつかの実施形態では、ポリマー末端基を表すR4は、H、メチル、エチル、n-プロピル、イソプロピル及びフェニルからなる群から選択され得る。
【0066】
いくつかの実施形態では、nは、4~約1000、より具体的には、8~800、更により具体的には、約12~約600、及び特に約16~約400の整数を表す。他の実施形態では、nは、約4~約1000、より具体的には、約8~約800、更により具体的には、約12~約500、及び特に約25~約250の整数を表し得る。より長い鎖長は、改善された潤滑性を提供し得るが、鎖のより速い分解にもつながり得る。
【0067】
いくつかの実施形態では、複数の直鎖状ケイ素含有ポリマーは、ジメチルシロキサン又はメチルヒドロシロキサンからなる群から選択され得る。
【0068】
特定の実施形態では、直鎖状ケイ素含有ポリマーは、ポリジメチルシロキサン、例えば、トリメトキシ終端ポリジメチルシロキサンであり得る。
【0069】
いくつかの実施形態では、コーティングは、架橋シロキサンを更に含み得る。かかる架橋は、剥離に対するケイ素含有コーティングの安定性を改善し得る。いくつかの実施形態では、かかる架橋度は、ケイ素含有コーティングの液体様特性を保持するために、直鎖状ケイ素含有ポリマーに対して低く、例えば、約10mol%未満、約5mol%未満、又は約2mol%未満であるべきである。いくつかの実施形態では、コーティングは、架橋シロキサンを含まない場合があるか、又は実質的に含まない場合がある。これは、良好な潤滑特性、オムニフォビック特性及び/又は前述の液体様表面を得るのに有益であり得る。
【0070】
いくつかの実施形態では、ステンレス鋼かみそり刃基材は、少なくとも10重量%のCrを含む鋼であり得る。より高いクロム含有量を含むかみそり刃は、より耐食性であり得る。更に、クロムは、テザー基R3が結合している化合物中に存在し得る。
【0071】
ステンレス鋼の選択は、特に限定されない。特に好適なステンレス鋼は、主合金元素として鉄を含み得、重量で、約0.3~約0.9%の炭素、特に約0.49~約0.75%の炭素、約10~約18%のクロム、特に約12.7~約14.5%のクロム、約0.3~約1.4%のマンガン、特に約0.45~約1.05%のマンガン、約0.1~約0.8%のケイ素、特に約0.20~約0.65%のケイ素、及び約0.6~約2.0%のモリブデン、特に約0.85~約1.50%のモリブデンを含み得る。いくつかの実施形態では、ステンレス鋼は、実質的に上述の元素からなり得、特に、約3重量%、特に約2重量%を超える他の元素を含有しない場合がある。
【0072】
いくつかの実施形態では、ステンレス鋼かみそり刃基材は、コーティング、特に直鎖状ケイ素含有ポリマーと共有結合を形成することが可能な酸素含有基を含むように表面処理され得る。
【0073】
いくつかの実施形態では、基材縁部分10、20には、第1のコーティング22が提供され得、ケイ素含有コーティング11、21は、第1のコーティング22の上に提供された第2のコーティングである。複数の直鎖状ケイ素含有ポリマーは、第1のコーティング22に共有結合している。直鎖状ケイ素含有ポリマーを第1のコーティング22に結合させることはまた、直鎖状ケイ素含有ポリマーを基材縁部分10、20に結合させ得る。
【0074】
いくつかの実施形態では、第1のコーティング22は、Cr2O3含有コーティング又はSiO2系コーティングを含み得る。追加的に又は代替的に、第1のコーティング22は、官能性部分を含む有機化合物を含み得、官能性部分は、窒素、酸素、リン、及び/又はハロゲンを含む。特に、官能性部分は、ハロゲン、アルコキシ、特にカルボキシル又はヒドロキシル、アシルオキシル、アリールオキシ、ポリアキレンオキシル、及び/又はアミン基から選択される官能基を含み得る。
【0075】
いくつかの実施形態では、第1のコーティング22は、多層コーティングであり得る。
【0076】
いくつかの実施形態では、第1のコーティング22は、金属セラミックコーティング、より具体的には、Ti及びB;Ti、B、及びC;又はTi、B、及びNを含むコーティングを含み得る。Ti及びB;Ti、B、及びC;又はTi、B、及びNを含むコーティングは、十分な硬度を提供し得、かみそり刃の基材縁部分10、20に容易に適用可能であり得るため、有利であり得る。
【0077】
いくつかの実施形態では、第1のコーティング22は、内側金属セラミック層、より具体的には、Ti及びB、Ti、B及びC、若しくはTi、B及びNを含む層と、Cr2O3、SiO2、及び/又は官能性部分を含む有機化合物を含む外側層と、を含む、多層コーティングであり得る。
【0078】
いくつかの実施形態では、第1のコーティング22は、内側金属セラミック層、より具体的には、Ti及びB、Ti、B及びC、若しくはTi、B及びNを含む層と、Crを含む中間層と、Cr2O3、SiO2、及び/又は官能性部分を含む有機化合物を含む外側層と、を含む、多層コーティングであり得る。
【0079】
いくつかの実施形態では、第1のコーティング22は、内側金属セラミック層、より具体的には、Ti及びB、Ti、B及びC、又はTi、B及びNを含む層と、Crを含む外側層と、を含む、多層コーティングであり得る。
【0080】
第1のコーティング22は、チタン、ホウ素、及び炭素の元素を含み得る。元素チタン、ホウ素、及び炭素に言及する場合、これらの元素は、任意の形態で、例えば、それらの元素形態で、又は金属間相、特にホウ化物若しくは炭化物に化学的に結合して存在し得ることを理解されたい。第1のコーティング22自体は、コーティングされた基材部分よりも硬質であり得、かつ/又はコーティングされた基材部分は、コーティングされていない基材部分と比較してその全体が硬化され得る。本開示の目的のために、元素チタン、ホウ素、及び炭素を含む任意のコーティングが、第1のコーティング22として考慮され得る。ナノインデンターを使用して、基材上の第1のコーティング22又は第1のコーティング22と、シリコーン含有コーティングと、を含む多層コーティングの硬度を判定する。
【0081】
第1のコーティング22中の元素チタン、ホウ素、及び炭素の存在を判定する方法は、特に限定されない。例えば、それぞれ、これらの元素の定量及び定量的情報を提供することができる、X線光電子分光法(XPS)、オージェ電子分光法(Auger Electron Spectroscopy、AES)などの様々な一般的な表面分析法を使用する、刃縁部の化学分析によってこれらの元素を検出することが可能である。
【0082】
いくつかの実施形態では、第1のコーティング22は、約10~約500nm、より具体的には、約50~約300nm、及び特に約150~約250nmの厚さを有し得る。
【0083】
いくつかの実施形態では、第1のコーティング22は、炭化チタン及びホウ化チタンを含み得る。いくつかの実施形態では、第1のコーティング22は、炭化ホウ素を更に含み得る。かかる炭化物及びホウ化物は、典型的には、物理蒸着(Physical Vapor Deposition、PVD)、化学蒸着(Chemical Vapor Deposition、CVD)、及び関連技術などの薄膜堆積技術によって、元素チタン、ホウ素、及び炭素を堆積させるときに形成される。いくつかの実施形態では、第1のコーティング22は、TiB2系マトリックスを含み得、炭素が、当該マトリックス内に分散される。いくつかの実施形態では、分散された炭素は、それぞれ、チタン及びホウ素と局所結合を形成し得る。いくつかの実施形態では、分散された炭素は、それぞれ、チタン及びホウ素と局所結合を形成しない場合がある。
【0084】
第1のコーティング22は、主に元素チタン、ホウ素、及び炭化物を含み得るが、第1のコーティング22は、他の元素も同様に含有し得ることを理解されたい。他の元素は、不純物として存在し得、刃基材からの元素の侵入から生じ得るか、又は特定の特性を微調整するために意図的に添加され得る。いくつかの実施形態では、第1のコーティング22は、少なくとも約70原子%、より具体的には、少なくとも約80原子%、及び特に少なくとも約90原子%の元素チタン、ホウ素、及び炭素を含み得る。
【0085】
第1のコーティングを含む例示的な実施形態は、
図2に示される。
図2は、基材縁部分20の例示的な表現を示す。基材縁部自体を含む基材縁部分20は、第1のコーティング22でコーティングされる。次いで、第1のコーティング22は、ケイ素含有コーティング21でコーティングされる。第1のコーティング22は、基材縁部10c上に提供されるだけでなく、追加的に、基材縁部分10の基材側面10a、10b上に提供され得る。
【0086】
いくつかの実施形態では、第1のコーティング22は、炭化チタン及びホウ化チタンを含み得る。いくつかの実施形態では、第1のコーティング22は、炭化ホウ素を更に含み得る。かかる炭化物及びホウ化物は、典型的には、物理蒸着(Physical Vapor Deposition、PVD)、化学蒸着(Chemical Vapor Deposition、CVD)、及び関連技術などの薄膜堆積技術によって元素チタン、ホウ素、及び炭素を堆積させるときに形成される。いくつかの実施形態では、第1のコーティング22は、TiB2系マトリックスを含み得、炭素が、当該マトリックス内に分散される。いくつかの実施形態では、分散された炭素は、それぞれ、チタン及びホウ素と局所結合を形成し得る。いくつかの実施形態では、分散された炭素は、それぞれ、チタン及びホウ素と局所結合を形成しない場合がある。
【0087】
いくつかの実施形態では、基材縁部分10、20は、基材先端から生じる中心長手方向軸を画定する実質的に対称な先細りする幾何学的形状を有し得、基材縁部分10、20は、基材先端から中心長手方向軸に沿って、約5μmの距離で測定された約1.7μm~約3.0μmの厚さ、基材先端から中心長手方向軸に沿って約20μmの距離で測定された約6.0μm~約8.4μmの厚さ、基材先端から中心長手方向軸に沿って約50μmの距離で測定された約10.2μm~14.8μmの厚さ、及び基材先端から中心長手方向軸に沿って約100μmの距離で測定された約20.7μm~31.9μmの厚さを有する。
【0088】
いくつかの実施形態では、基材先端から開始して、ケイ素含有コーティング11、21は、基材縁部分10、20の最大約500nm、より具体的には、最大約250μm、及び特に最大約150μmの幅のみを被覆し得る。
【0089】
いくつかの実施形態では、かみそり刃が、ケイ素含有コーティング11、21及び/又は第1のコーティング22、及び特に第1のコーティング22の基材縁部分10、20への確実な付着を容易にするために、接着促進コーティングを更に含むことが有利であり得る。特に、いくつかの実施形態では、接着促進コーティングは、少なくとも基材縁部10c上に堆積されて、第1のコーティングされた基材縁部を提供し、シリコーン含有コーティング11は、少なくとも第1のコーティングされた基材縁部上に堆積される。
【0090】
接着促進コーティングのタイプは、特に限定されない。いくつかの実施形態では、接着促進コーティングは、少なくとも約70原子%、より具体的には、少なくとも約80原子%、及び特に少なくとも約90原子%のTi、Cr、又はTiCを含み得る。
【0091】
いくつかの実施形態では、接着促進コーティングの厚さは、約10~約100nm、より具体的には、約10~約50nm、及び特に約10~約35nmであり得る。
【0092】
以下では、本開示によるかみそり刃の第1のコーティング22を調製する例示的な方法をより詳細に説明する。
【0093】
堆積チャンバの回転固定具にかみそり刃を装着した後、チャンバは、10-5Torrのベース圧力まで排出される。次いで、Arガスは、最大8mTorr(8X10-3Torr)の圧力でチャンバに挿入される。刃バヨネットの回転は、6rpmの一定速度で始まり、ターゲットは、0.2AmpsにおけるDC電流制御下で運転される。スパッタエッチング工程を実施するために、200~600VのDC電圧が、4分間ステンレス鋼刃に適用される。別の実施形態では、スパッタエッチング工程を実施するために、100~600VのパルスDC電圧が、4分間ステンレス鋼刃に適用され得る。
【0094】
次に、接着促進中間層の堆積は、チャンバ圧力を3mTorrに調節した状態で、スパッタエッチング工程の終了後に起きる。中間層ターゲットは、回転刃に0~100VのDC電圧を適用しながら、3~10AmpsにおけるDC電流制御下で動作させる。堆積時間を調節して、5~50nmの中間層を、第1のコーティング22層の堆積前に堆積させる。別の実施形態では、中間層の堆積中に、0~100VのパルスDC電圧が適用され得る。
【0095】
中間層の堆積後、TiBC化合物膜が、その上に堆積され、第1のコーティング22を形成する。TiB2及びCターゲットは、同時に動作される。堆積されたCの相対量は、TiB2ターゲット電流を一定に保ちながら、Cターゲット電流を、例えば、1Amp~7Ampに変化させることによって制御することができる。堆積中、回転刃には0~600VのDCバイアス電圧が適用される。
【0096】
第1のコーティング22層の上に、Cr最上層が、3AmpsにおけるCrターゲット上の電流及び0~450Vのバイアス電圧で堆積され得る。
【0097】
次いで、Cr最上層は、ケイ素含有コーティングを得るために、実施例において説明されるように、ケイ素含有溶液で処理され得る。
【0098】
追加的に又は代替的に、SiO2又はCr2O3層は、スパッタリング又は物理蒸着によって堆積され得る。SiO2又はCr2O3層は、特にCr層上に追加され得る。SiO2を含む層は、テザー基が共有結合している層として有利であり得る。SiO2を含む層は、高密度の結合部位を有する(その場重合)直鎖状ケイ素含有ポリマーを提供し得、このため、液体様表面の形成を容易にし得る。SiO2を含む層は、より具体的には、特に、還元プラズマ処理後に、高密度のヒドロキシル基を含み得る。上述したように、高密度の結合部位は、ケイ素含有溶液による処理後に高密度の直鎖状ケイ素含有ポリマーにつながり得る。
【0099】
ケイ素含有コーティング11、21、より具体的には、直鎖状ケイ素含有ポリマーは、可逆的付加開裂連鎖移動重合(reversible addition fragmentation chain transfer polymerization、RAFT)、原子移動ラジカル重合(atom transfer radical polymerization、ATRP)、ニトロキシド媒介重合(nitroxide mediated polymerization、NMP)、開環メタセシス重合(ring opening metathesis polymerization、ROMP)、及び酸触媒グラフト重縮合を含む、異なる方法によって第1のコーティング22に適用され得る。本開示において、好ましい方法は、酸触媒グラフト重縮合である。ケイ素系ポリマーはまた、熱処理によって、例えば、ヒドロキシル基含有基材表面上に提供されたポリメチルヒドロシロキサンコーティングを熱処理することによって、基材上にグラフト化され得る。
【実施例】
【0100】
本開示の実施形態を例解目的のために開示したが、当業者は、本開示の趣旨から逸脱することなく、様々な修正及び変形が可能であることを理解するであろう。かかる修正及び変更は、本開示及び添付の特許請求の範囲に組み込まれることも理解されるべきである。
【0101】
実施例1
第1の実施例では、基材縁部分上にTi2B層、Cr層及びSiO2層を有する第1のコーティングを含む基材縁部分を含むかみそり刃を、ケイ素含有溶液で処理した。直鎖状ケイ素含有ポリマーは、ジメチルジメトキシシランの酸触媒グラフト重縮合によって、基材縁部分上にコーティングされた。
【0102】
より具体的には、ケイ素含有溶液は、100部のイソプロパノール、20部のジメチルジメトキシシラン、及び1部の硫酸の混合物からなった。次いで、かみそり刃の基材縁部分を、ケイ素含有溶液中に7秒間浸漬し、およそ2cm/秒の速度で引き上げた。ケイ素含有溶液から基材縁部分を完全に除去した後、基材縁部分を、吸収紙と接触させて、吸収紙のウィッキング効果により、過剰なケイ素含有溶液を除去した。次いで、かみそり刃を、室温で20分間静置した。
【0103】
第1のコーティングを含む基材縁部分のみを、ケイ素含有溶液と接触させて、かみそり刃の腐食を防止した。得られた層構造を、
図3aに示し、ここでSCCは、ケイ素含有コーティングを表す。
【0104】
実施例2
第2の実施例では、Ti
2B層及びCr層を有する第1のコーティングを含む基材縁部分を含むかみそり刃を、酸素プラズマを用いて4分間プラズマ還元によって処理して、表面上にヒドロキシル部分を得た。基材縁部分は、実施例1において説明されるように、ケイ素含有溶液でコーティングされる。得られた層構造を、
図3bに示し、ここでSCCは、ケイ素含有コーティングを表す。
【0105】
実施例3
第3の実施例では、Ti
2B層及びCr層を有する第1のコーティングを含む基材縁部分を含むかみそり刃を、オゾンの存在下で、UV光で10分間処理して、Cr層の表面においてCrO
2を活性化した。CrO
2の活性化は、Cr層への直鎖状ケイ素含有ポリマーの結合を改善する。トリメチルシロキシ基で終端するポリメチルヒドロシロキサン(polymethylhydrosiloxane、PMHS)中に基材縁部分を浸漬することによって、直鎖状ケイ素含有ポリマーを、基材縁部分上にコーティングした。トリメチルシロキシ基で終端するPMHSの分子量は、約1400~約2400g/molであった。次いで、かみそり刃の基材縁部分を、ケイ素含有溶液中に30秒間浸漬し、およそ2cm/秒の速度で引き上げた。次いで、かみそり刃を、60℃で24時間静置した。次いで、かみそり刃を、水ですすいで、未反応のPMHSを除去し、窒素ガス流で乾燥させた。このプロセスは、20nm未満の厚さを呈するケイ素含有コーティングにつながった。得られた層構造を、
図3bに示し、ここでSCCは、ケイ素含有コーティングを表す。
【0106】
実施例4
第4の実施例では、基材縁部分を含むかみそり刃を、熱活性化水補助平衡化反応を通して、メトキシ末端ポリジメチルシロキサン(polydimethylsiloxane、PDMS-OCH3)鎖をグラフト化した。UVオゾンで処理した後の基材縁部分の表面を、低粘度PDMS-OCH3を有する溶液中に120℃で24時間浸漬し、次いで、トルエンですすいで、未反応ポリマー鎖を除去した。その結果、PDMS-OCH3鎖の層が、基材表面上で結合した。
【0107】
本開示の実施形態は、例解目的で開示されているが、当業者は、本開示の範囲から逸脱することなく、様々な修正及び変更が可能であることを理解するであろう。かかる修正及び変更は、本開示及び添付の特許請求の範囲に組み込まれることも理解されるべきである。
【0108】
本開示はまた、前述の開示と自由に組み合わされ得る実施形態の以下のリストに関する。
1.少なくとも1つのかみそり刃を備える手持ち式シェービングデバイスのためのカートリッジであって、少なくとも1つのかみそり刃が、基材縁部分において終端するステンレス鋼かみそり刃基材を備え、
基材縁部分が、2つの基材側面が基材縁部に向かって収束し、基材先端を形成する状態で、連続的に先細りする幾何学的形状を有し、
基材縁部分が、基材先端から5μmの距離で測定された約1.0μm~約4.0μmの厚さを有し、
基材縁部分には、ケイ素含有コーティングが提供されており、
ケイ素含有コーティングが、複数の直鎖状ケイ素含有ポリマーを含み、これらは、
i)基材縁部分に共有結合され、かつ/又は
ii)基材縁部分上に提供されたコーティングに共有結合され、
直鎖状ケイ素含有ポリマーが、式(I)の化合物から選択され、
【0109】
【化3】
式中、R
1及びR
2が、互いに独立して、H、置換若しくは非置換C
1-C
6アルキル基又は置換若しくは非置換C
6-C
12アリール基を表し、
R
3が、直鎖状ケイ素含有ポリマーを基材縁部分及び/又は基材縁部分上に提供されるコーティングに共有結合させるテザー基を表し、
R
4が、ポリマー末端基を表し、
nが、2~約1500の整数を表す、カートリッジ。
2.ケイ素含有コーティングが、約0.1mm
2の面積にわたって測定された、約5~約500nm、より具体的には、約20~約150nm、及び特に、約30~約100nmの平均厚さを有する、実施形態1に記載のカートリッジ。
3.ケイ素含有コーティングが、約0.1mm
2の面積にわたって測定された、最大で約150nm、より具体的には、最大で約100nm、及び特に最大で約50nmの厚さにおける最大差を有する、実施形態1又は2に記載のカートリッジ。
4.ケイ素含有コーティングが、約0.01μm
2の面積にわたって測定された、nm
2当たり平均約0.05~約4、より具体的には、約0.1~約2、及び特に約0.2~約1の直鎖状ケイ素含有ポリマーを含む、実施形態1~3のいずれか1つに記載のカートリッジ。
5.複数の直鎖状ケイ素含有ポリマーが、液体様表面を形成するように離間される、実施形態1~4のいずれか1つに記載のカートリッジ。
6.ケイ素含有コーティングが、約0.005~約2、より具体的には、約0.01~約1、及び特に0.05~約0.5の摩擦係数を有する、実施形態1~5のいずれか1つに記載のカートリッジ。
7.ケイ素含有コーティングが、疎水性である、実施形態1~6のいずれか1つに記載のカートリッジ。
8.ケイ素含有コーティングが、100~約180°、より具体的には、約120~約160°、及び特に約130°~約150°の水接触角を有する、実施形態1~7のいずれか1つに記載のカートリッジ。
9.ケイ素含有コーティングが、オムニフォビックである、実施形態1~8のいずれか1つに記載のカートリッジ。
10.R
1及びR
2が、独立して、H及び置換又は非置換C
1-C
4アルキル基、より具体的には、H、メチル、エチル、n-プロピル、及びイソプロピルからなる群から選択される、実施形態1~9のいずれか1つに記載のカートリッジ。
11.テザー基を表すR
3が、酸素原子、炭素質残基、窒素質残基、リン含有残基又はケイ素含有残基から選択される、実施形態1~10のいずれか1つに記載のカートリッジ。
12.ポリマー末端基を表すR
4が、H、置換又は非置換アルキル基、及び3-(2-アミノエチル)アミノプロピルジメトキシシロキシル基などの置換又は非置換アリール又はヘテロアリール基からなる群から選択される、実施形態1~11のいずれか1つに記載のカートリッジ。
13.ポリマー末端基を表すR
4が、H、メチル、エチル、n-プロピル、イソプロピル及びフェニルからなる群から選択される、実施形態1~12のいずれか1つに記載のカートリッジ。
14.複数の直鎖状ケイ素含有ポリマーが、ジメチルシロキサン又はメチルヒドロシロキサンからなる群から選択される、実施形態1~13のいずれか1つに記載のカートリッジ。
15.nが、約4~約1000、より具体的には、約8~約800、更により具体的には、約12~約500、及び特に約25~約250の整数を表す、実施形態1~14のいずれか1つに記載のカートリッジ。
16.ステンレス鋼かみそり刃基材が、少なくとも10重量%のCrを含む鋼である、実施形態1~15のいずれか1つに記載のカートリッジ。
17.ステンレス鋼かみそり刃基材が、直鎖状ケイ素含有ポリマーと共有結合を形成することが可能な酸素含有基を含むように表面処理されている、実施形態1~16のいずれか1つに記載のカートリッジ。
18.基材縁部分には、第1のコーティングが提供されており、ケイ素含有コーティングが、第1のコーティングの上に提供された第2のコーティングであり、複数の直鎖状ケイ素含有ポリマーが、第1のコーティングに共有結合し得る、実施形態1~16のいずれか1つに記載のカートリッジ。
19.第1のコーティングが、Cr
2O
3含有コーティング又はSiO
2系コーティングを含む、実施形態18に記載のカートリッジ。
20.第1のコーティングが、多層コーティングである、実施形態18又は19に記載のカートリッジ。
21.第1のコーティングが、金属セラミックコーティング、より具体的には、Ti及びB、Ti、B及びC、又はTi、B及びNを含むコーティングを含む、実施形態18~20のいずれか1つに記載のカートリッジ。
22.第1のコーティングが、内側金属セラミック層、より具体的には、Ti及びB、Ti、B及びC、又はTi、B及びNを含む層と、Cr
2O
3-又はSiO
2を含む外側層と、を含む、多層コーティングである、実施形態18~21のいずれか1つに記載のカートリッジ。
23.第1のコーティングが、約10~約500nm、より具体的には、約50~約300nm、及び特に約150~約250nmの厚さを有する、実施形態18~22のいずれか1つに記載のカートリッジ。
24.基材縁部分が、基材先端から生じる中心長手方向軸を画定する実質的に対称な先細りする幾何学的形状を有し、基材縁部分は、基材先端から中心長手方向軸に沿って約5μmの距離で測定された約1.7μm~約3.0μmの厚さ、基材先端から中心長手方向軸に沿って約20μmの距離で測定された約6.0μm~約8.4μmの厚さ、基材先端から中心長手方向軸に沿って約50μmの距離で測定された約10.2μm~14.8μmの厚さ、及び基材先端から中心長手方向軸に沿って約100μmの距離で測定された約20.7μm~31.9μmの厚さを有する、実施形態1~23のいずれか1つに記載のカートリッジ。
25.基材先端から開始して、ケイ素含有コーティングは、基材縁部分の最大約500nm、より具体的には、最大約250μm、及び特に最大約150μmの幅のみを被覆する、実施形態1~24のいずれか1つに記載のカートリッジ。
【国際調査報告】