(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公表特許公報(A)
(11)【公表番号】
(43)【公表日】2024-09-30
(54)【発明の名称】組換えグリカン結合タンパク質及びその使用
(51)【国際特許分類】
C07K 14/37 20060101AFI20240920BHJP
C12N 1/19 20060101ALI20240920BHJP
C12N 5/10 20060101ALI20240920BHJP
C12N 1/15 20060101ALI20240920BHJP
C12N 1/21 20060101ALI20240920BHJP
C12N 15/31 20060101ALI20240920BHJP
A61K 47/64 20170101ALI20240920BHJP
A61P 35/00 20060101ALI20240920BHJP
【FI】
C07K14/37
C12N1/19 ZNA
C12N5/10
C12N1/15
C12N1/21
C12N15/31
A61K47/64
A61P35/00
【審査請求】未請求
【予備審査請求】未請求
(21)【出願番号】P 2024514049
(86)(22)【出願日】2022-09-30
(85)【翻訳文提出日】2024-04-30
(86)【国際出願番号】 IB2022059341
(87)【国際公開番号】W WO2023053083
(87)【国際公開日】2023-04-06
(31)【優先権主張番号】202121044592
(32)【優先日】2021-10-01
(33)【優先権主張国・地域又は機関】IN
(81)【指定国・地域】
(71)【出願人】
【識別番号】515259694
【氏名又は名称】ユニケム ラボラトリーズ リミテッド
(74)【代理人】
【識別番号】100108453
【氏名又は名称】村山 靖彦
(74)【代理人】
【識別番号】100110364
【氏名又は名称】実広 信哉
(74)【代理人】
【識別番号】100133400
【氏名又は名称】阿部 達彦
(72)【発明者】
【氏名】ダナンジャイ・サテ
(72)【発明者】
【氏名】サラヴァナクマール・イヤッパン
(72)【発明者】
【氏名】ガウタム・バクシ
(72)【発明者】
【氏名】ガネーシュ・パティル
【テーマコード(参考)】
4B065
4C076
4H045
【Fターム(参考)】
4B065AA01X
4B065AA26X
4B065AA58Y
4B065AA72X
4B065AA88Y
4B065AA90X
4B065AB01
4B065BA01
4B065CA44
4C076AA95
4C076CC27
4C076CC41
4C076EE41
4C076EE59
4H045AA10
4H045AA11
4H045BA09
4H045CA10
4H045DA80
4H045EA20
4H045FA74
(57)【要約】
本開示は、改変されたタンパク質配列、すなわち組換え発現したグリカン結合タンパク質を提供する。前記グリカン結合タンパク質は、ダイズ白絹病レクチン(Sclerotium rolfsii Lectin)のバリアントであり、分子の安定性の向上、N末端メチオニン不純物の低減、及びタンパク質の他の生物学的薬剤及び化学的薬剤への結合の補助等の属性を含むように改変されている。
【特許請求の範囲】
【請求項1】
配列番号1で表されるダイズ白絹病レクチン(Sclerotium rolfsii Lectin(SRL))のバリアントを含む組換えグリカン結合タンパク質であって、野生型SRLと比較して、バリアントはカルボキシ末端に追加のシステインを含み、
トムゼン-フリーデンライヒ(Galβ1-3GalNAcα-O-Ser/Thr、TF又はT)抗原、O-GalNAc Core1(T抗原)、Core2、'α2,3/6-シアリルCore1'(シアリル-T抗原)、'α2,6/6-シアリルCore2'、並びにTF及びT抗原の改変型から選択される1つ又は複数の抗原に対する結合親和性を保持する、組換えグリカン結合タンパク質。
【請求項2】
前記バリアントのアミノ酸配列が、配列番号1と70%~99.99%の配列同一性を有する、請求項1に記載の組換えグリカン結合タンパク質。
【請求項3】
バリアントが、配列番号1の1~141の間のアミノ酸位置においてシステイン(C)が欠けている、請求項1に記載の組換えグリカン結合タンパク質。
【請求項4】
バリアントが、1位のスレオニン(T)のセリン(S)への置換を含む、請求項1に記載の組換えグリカン結合タンパク質。
【請求項5】
バリアントが、76位のシステイン(C)のグリシン(G)への置換を含む、請求項1に記載の組換えグリカン結合タンパク質。
【請求項6】
バリアントが、142位のシステイン(C)の付加を含む、請求項1に記載の組換えグリカン結合タンパク質。
【請求項7】
バリアントが、142位及び143位にそれぞれ追加のセリン及びシステイン(C)を含む、請求項1に記載の組換えグリカン結合タンパク質。
【請求項8】
タンパク質が、配列番号3又は配列番号4で表される、請求項1に記載の組換えグリカン結合タンパク質。
【請求項9】
前記タンパク質が、薬剤にコンジュゲートしている、請求項1に記載の組換えグリカン結合タンパク質。
【請求項10】
薬剤が、治療剤、細胞傷害性薬剤、放射性薬剤、抗がん剤、診断薬、及びそれらの組合せからなる群から選択される、請求項9に記載のタンパク質薬物コンジュゲート。
【請求項11】
タンパク質が、薬剤の標的送達に使用される、請求項9に記載のタンパク質薬物コンジュゲート。
【請求項12】
タンパク質が、がんの処置のための医薬の調製に使用される、請求項1に記載の組換えグリカン結合タンパク質。
【請求項13】
タンパク質が、がんの診断又は治療処置に使用される、請求項1に記載の組換えグリカン結合タンパク質。
【請求項14】
医薬組成物であって、
請求項1に記載の組換えグリカン結合タンパク質、及び
1つ又は複数の薬学的に許容される賦形剤、
を含む医薬組成物。
【請求項15】
請求項1に記載のタンパク質をコードする組換えポリヌクレオチド。
【請求項16】
請求項15に記載の組換えポリヌクレオチドでトランスフェクトされた細胞。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本開示は、バイオテクノロジーの分野に関し、特に、がんの検出及び治療に有用な組換えグリカン結合タンパク質に関する。本開示は更に、前記レクチンを用いた、治療用組成物の発現、精製及び調製に関する。
【背景技術】
【0002】
レクチンは、微生物、植物、動物を含む様々な生物から発見され、これらに由来する、グリカン結合タンパク質である。レクチンは高いグリカン/糖特異性を示し、特定の単糖又はオリゴ糖に可逆的に結合するその非触媒ドメインによって赤血球を凝集させることが公知である。レクチンは、糖の性質を変えることなく、細胞表面の糖鎖部分に結合特異性を持つことが公知である。この機能は、バイオマーカーの検出、糖タンパク質や糖脂質の精製のための診断及びアッセイ技術並びに細胞選択プロセスに多く応用されている。
【0003】
レクチンは、診断薬としてだけでなく、がん治療薬としての有用性の探索についても研究されている。近年、がん細胞が細胞表面の糖鎖構造に様々な変化を示すことから、がん抗原に選択的に結合し、アポトーシス、細胞傷害性、増殖活性/抗増殖活性、転移、細胞接着阻害等様々な生理作用を発揮するレクチンが数多く探索されている。
【0004】
様々な供給源から得られるレクチンは高い糖特異性を示すが、分子サイズや糖特異性等生理化学的性質が異なる。少数のヤドリギ類レクチン(ML)のような植物レクチンが、ヤドリギ(Viscum album L.)の多様な種から得られ、様々ながんの予防や治療に強力な抗がん剤として使用されてきた歴史が共有されている。ヤドリギ類レクチン-I(ML-I)は、その細胞傷害性及び免疫調節機能に由来する抗増殖活性により、すべてのMLの中で非常に研究されている。しかし、植物由来のレクチンを使用することは、選択性の欠如、品質の不安定性、工業的規模での生産拡大の困難等、固有の欠点がある。
【0005】
米国特許第9500650号は、レクチン-レクチンサンドイッチ法により未分化糖鎖マーカーを検出し、分化細胞の有無を判定するレクチンの有用性を開示している。前記特許に開示されているレクチンは、組換えDNA技術を用いたダイズ白絹病(Sclerotium rolfsii)、ウシグソヒトヨタケ(Coprinopsis cinerea)、マッシュルーム(Agaricus bisporus)、キッコウアワアタケ(Xerocomus chrysenteron)、ヒイロチャワンタケ(Aleuria aurantia)等由来のレクチンを含む。前記特許にはレクチンの治療効果は開示されていない。
【0006】
トムゼン-フリーデンライヒ(TF)二糖(Galβ1-3GalNAcα1-Ser/Thr)やN-アセチルガラクトサミン(TN)単糖(GalNAc)のような腫瘍関連糖鎖構造は、がん細胞の90%に発現していることがわかっている。ダイズ白絹病レクチン(SRL)は、TFとTN抗原に対して特異性を示し、植物病原真菌の硬化体から精製される。インド特許出願第1265/MUM/2004号には、フローサイトメトリー解析による様々なタイプのがんを代表するヒト細胞株パネルに対するSRLの結合特異性が開示されている。しかしながら、天然物由来のSRLレクチンは収率に影響し、精製プロセスに問題があるため、前記レクチンの大量生産のプロセスにはコストがかかる。また、天然物由来のレクチンは、溶解性や安定性に問題があり、前記レクチンの診断薬や治療薬への応用の妨げとなっている。
【0007】
更に、タンパク質合成は、真核生物ではメチオニンによって、原核生物ではホルミルメチオニン(N末端メチオニン)によって開始される。組換えタンパク質の発現中、N末端メチオニンは内在性のメチオニンアミノペプチダーゼ(MAP)によって切断される。発現した組換えタンパク質の量は、限られた量のMAPがN末端メチオニンを切断する能力を上回るため、前記切断プロセスは効果的ではなく、その結果、発現したタンパク質のかなりの量は、成熟タンパク質の一部ではない第1アミノ酸としてメチオニンを含む。更に、N末端メチオニンを持つタンパク質は、製造中や保存中に酸化されやすいので、この酸化に注意しなければならない。タンパク質中のメチオニン残基が酸化されると、メチオニンスルホキシドやメチオニンスルホンが生成される可能性があり、その結果、免疫原性、不活性、凝集が増加する可能性がある。これにより、治療薬の臨床効果、安定性、規制当局による承認が制限される。
【0008】
N末端メチオニン不純物を有する生物学的製剤は、ヒト体内のタンパク質と同じ構造を有していないことがあり、したがって、ヒト対象に投与された場合、対象から予期せぬ免疫応答が起こり、その結果、有効な治療機能が得られないことがある。したがって、メチオニン不純物は、製剤化前に生物学的製剤から除去又は最小化されることが重要である。
【0009】
インド交付特許第277986号(出願番号350/MUM/2009)には、天然のダイズ白絹病レクチン由来の組換え発現レクチンが開示されている。前記特許は更に、大腸菌(E.coli)や酵母等の宿主細胞で発現させた組換えレクチンを調製する方法を開示している。更に、方法は、土壌真菌であるダイズ白絹病レクチンのMALDI MS/MSから得られたアミノ酸配列に基づいてレクチン遺伝子を合成し、宿主細胞内でクローニングすることを含む。前記特許に記載されているレクチンは、通常、N末端メチオニンを含むレクチンと含まないレクチンの混合物を含み、このことは規制当局の承認プロセスにおける障害につながる可能性がある。また、レクチンタンパク質は、アミノ酸配列中にシステイン残基が存在するため、多量体、特に二量体を形成する傾向がある。
【0010】
特許WO2020044296は、宿主細胞内で発現したタンパク質の溶解度が増加すると、そのタンパク質の抗原結合特異性に対する親和性が変化又は低下する可能性があることを開示している。したがって、組換えタンパク質は十分な安定性を示し、特異的抗原に対する結合親和性を保持しながら溶解性を示すことが重要である。
【0011】
特許WO2020074977は、開始メチオニンを有する組換えレクチンが20%以下の組換えレクチンタンパク質の調製方法を開示している。前記特許は、N末端メチオニンのバリアント/不純物を有するレクチンの発現を低減するために、上流と下流の戦略を利用している。
【0012】
また、最近、標的薬物療法のような新しい治療概念が開発されつつあり、抗体やタンパク質が、細胞傷害性活性を持つ強力な薬物分子と、任意で化学リンカーを介して結合したタンパク質薬物複合体(PDC)が開発されている。
【0013】
理想的なPDCは、正常(健康)細胞には存在しない抗原に対する高い特異性、腫瘍細胞に取り込まれた後に標的細胞の細胞死を誘導するように設計された強力な細胞傷害性薬剤(一般に全身毒性の高い低分子薬剤)、及び場合によって、循環中では安定であるが標的細胞では細胞傷害性薬剤を放出する化学リンカーを有する。しかし、化学リンカーを使用するためには、化学的プロセスを追加し、下流で精製する必要がある。また、ほとんどの抗体は、特定のタイプのがん細胞に特異的に発現する抗原に結合する能力を有する。現在までのところ、多くのがん細胞に発現する普遍的な抗原に対する特異性を有する抗体は報告されていない。したがって、多くのがん細胞に存在する普遍的な抗原に対して高い特異性を有するタンパク質が科学的に研究されている。このようなタンパク質を強力な薬物分子に結合させれば、多くの種類のがんを効果的に治療する万能療法への道が開ける可能性がある。
【0014】
タンパク質薬物コンジュゲートの調製には、これまで様々なコンジュゲーション化学が用いられてきた。報告されているコンジュゲーション化学の中には、リジンコンジュゲーション化学、マレイミドタンパク質コンジュゲーション反応化学等がある。抗体薬物コンジュゲートの調製には、その汎用性と簡便なプロセスの要求性のため、リジンベースのコンジュゲーションプロセスが最も好ましいプロセスの一つであり、いくつかの細胞傷害性薬剤(特に抗体上)と反応することができる。しかし、リジンアミノ酸残基が複数の場所に存在するタンパク質の場合、前記プロセスは異種分子を生成する可能性がある。また、この異種分子は、面倒な精製と特性評価プロセスを必要とし、このことは規制当局の承認における障害につながる。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0015】
【特許文献1】米国特許第9500650号
【特許文献2】インド特許出願第1265/MUM/2004号
【特許文献3】インド交付特許第277986号(出願番号350/MUM/2009)
【特許文献4】特許WO2020044296
【特許文献5】特許WO2020074977
【特許文献6】インド特許出願350/MUM/2009
【非特許文献】
【0016】
【非特許文献1】Smith, M., Annv. Rev. Genet. 19、423~462頁 (1985)
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0017】
バイオ医薬品を調製するための均質性を向上させたタンパク質薬物コンジュゲートを作製するためのコンジュゲーションが容易で、コンジュゲートされた薬剤を標的部位、すなわちがん細胞に送達する能力を有する、安定で可溶性のタンパク質が望まれている。
【課題を解決するための手段】
【0018】
本開示は、組換え発現したグリカン結合タンパク質を提供する。グリカン結合タンパク質は、ダイズ白絹病レクチン(SRL)のバリアントであり、分子の安定性の向上、メチオニン不純物の低減、及び他の生物学的及び化学的分子/薬剤への結合の補助等の属性を含むように改変され、システイン-システインの二量体化を回避することによってタンパク質に安定性を提供し、N末端メチオニンの効率的な除去を促進する。一実施形態では、このタンパク質は、野生型SRLと比較して、カルボキシ末端に追加のシステインを含み、トムゼン-フリーデンライヒ(Galβ1-3GalNAcα-O-Ser/Thr、TF又はT)抗原、O-GalNAc Core1(T抗原)、Core2、'α2,3/6-シアリルCore1'(シアリル-T抗原)、'α2,6/6-シアリルCore2'、並びにTF及びT抗原の改変型から選択される1つ又は複数の抗原に対する結合親和性を保持する。
【図面の簡単な説明】
【0019】
【
図1】配列番号3の発現したタンパク質の溶解性分析の図である。
【
図2】配列番号4の発現したタンパク質の溶解性分析の図である。
【
図3】発酵段階における、配列番号3の発現したタンパク質の溶解性分析の図である。
【
図4】発酵段階における、配列番号4の発現したタンパク質の溶解性分析の図である。
【0020】
定義
本明細書で使用される「アミノ酸」という用語は、天然に存在するアミノ酸及び合成アミノ酸、並びに天然に存在するアミノ酸に類似した機能を有するアミノ酸アナログ及びアミノ酸模倣物を指す。天然に存在するアミノ酸とは、遺伝暗号によってコードされているものであり、タンパク質生成アミノ酸を含む。天然に存在するアミノ酸には、細胞内で翻訳後に改変されたものも含まれる。合成アミノ酸には、セレノシステインやピロリジン等の非標準アミノ酸が含まれる。典型的に、合成アミノ酸はタンパク質生成アミノ酸ではない。
【0021】
本明細書で使用される「タンパク質」という用語は、アミノ酸残基のポリマーを指す。
【0022】
「組換え」という用語は、人的介入によって人工的又は合成的に(すなわち、非自然的に)変更された核酸又はポリペプチドを意味する。変更は、その物質が自然な環境若しくは状態内にあるか、又は自然な環境若しくは状態から取り除かれた状態で行われうる。例えば、「組換え核酸」とは、クローニング、DNAシャッフリング、その他の周知の分子生物学的手順において、核酸を組換えることによって作られるものである。「組換えDNA分子」は、このような分子生物学的手法によって結合されたDNAのセグメントから構成される。
【0023】
本明細書で使用される「組換えタンパク質」又は「組換えポリペプチド」という用語は、組換えDNA技術を用いて発現されるタンパク質分子を指す。組換えタンパク質は、部位特異的突然変異誘発を用いて発現されうる。部位特異的突然変異誘発(SDM)は、二本鎖プラスミドDNAに特異的で標的化された変化を作り出す方法である。これらの特異的な変化、挿入、欠失、又は置換は、タンパク質の構造又は活性を変化又は改変するために用いられる。部位特異的突然変異誘発の方法は、この概念の最初の記述以来、急速に発展してきた。Smith, M., Annv. Rev. Genet. 19、423~462頁 (1985)。利用可能な方法の共通の特徴は、突然変異誘発部位のヌクレオチド配列に所望の変化を持つ合成オリゴヌクレオチドを使用することである。この「変異体」オリゴヌクレオチドは、正常な配列を設計されたオリゴヌクレオチドに置き換えることにより、目的の配列に組み込まれる。これはin vitroの酵素的DNA合成によって達成される。改変されたDNAは、コードされたタンパク質の発現のために適切な宿主系に形質転換される。
【0024】
本明細書で使用される「レクチン」又は「レクチンタンパク質」という用語は、文脈上特に指示がない限り、米国バイオテクノロジー情報センター(NCBI)アクセッション番号2OFC_Aを有するダイズ白絹病(インド起源の土壌媒介病原性真菌)のグリカン/糖結合タンパク質を指す。
【0025】
本明細書で使用される「バリアント」という用語は、単一の遺伝子又は遺伝子ファミリーに由来し、遺伝的差異の結果である、高度に類似したタンパク質の集合を有するアミノ酸残基のポリマーを指す。それらは通常、類似した構造と機能性を有する。バリアントは通常、天然のタンパク質と比較して少なくとも1つのアミノ酸改変を含む。
【0026】
本明細書で使用される「置換」という用語は、アミノ酸配列の特定の位置のアミノ酸を、他の適切なアミノ酸で置換することを指す。
【0027】
「細胞傷害性薬剤」という用語は、細胞を阻害する物質、又は細胞の機能を阻害する物質、及び/又は細胞の破壊を引き起こす物質を指す。この用語は、化学療法剤、細菌、真菌、植物又は動物由来の低分子毒素又は酵素活性毒素のような毒素を含み、それらの合成アナログ及び誘導体を含むことを意図している。
【0028】
本明細書で使用される「コンジュゲート」という用語は、本開示の製剤を指す。本開示の目的のために、コンジュゲートは、リンカーの助けを借りて/借りずにタンパク質に結合した薬剤を含んでもよく、タンパク質に直接結合した薬剤を含んでもよい。
【0029】
「がん」及び「がん性」という用語は、制御されていない細胞増殖によって典型的に特徴づけられる哺乳動物における生理的な状態や障害を指すか、又は記述する。
【0030】
「処置する」又は「処置」という用語は、文脈によって別段の指示がない限り、治療的処置及び再発防止のための予防的措置を指し、その目的は、がんの発生又は拡大等の望ましくない生理学的変化又は障害を抑制又は減速(軽減)することである。本開示の目的のために、有益又は所望の臨床結果には、症状の緩和、疾患の範囲の縮小、疾患の状態の安定化(すなわち、悪化していない)、疾患の進行の遅延又は緩徐化、疾患状態の改善又は緩和、及び検出可能又は検出不可能にかかわらず寛解(部分的又は全体的であるかを問わない)が含まれるが、これらに限定されない。「処置」とは、処置を受けなかった場合に予測される生存期間と比較して生存期間を延長することも意味する。処置を必要とする人々には、すでにその状態又は障害を有する人々だけでなく、その状態又は障害を有しやすい人々も含まれる。
【0031】
本明細書で使用される「賦形剤」という用語は、製剤に添加され、有効成分の治療作用に影響を与えないが、有効成分のビヒクル又は媒体として機能する活性ではない又は通常不活性な物質を指す。これは、所望の一貫性を提供するため、安定性を改善するため、及び/又は組成物の浸透圧を調整するために使用されうる。本開示の目的のために使用される賦形剤は、タンパク質安定化剤、バッファー、ポリマー、可溶化剤、凍結保護剤、希釈剤又はそれらの混合物であるが、これらに限定されない。
【0032】
本明細書で使用される「医薬」という用語は、少なくとも1つの薬学的に許容される活性化合物を含有する医薬製剤を意味する。医薬の物理的状態には、液体、固体、半固体、懸濁液、粉末、ペースト、ゲル等、及びそれらの組合せが含まれるが、これらに限定されない。
【0033】
本明細書で使用される「配列同一性」という用語は、整列された配列において同じ位置に全く同じヌクレオチド又はアミノ酸が存在することを指す。
【0034】
「製剤」、「医薬製剤」及び「医薬組成物」という用語は、互換的に使用され、活性成分の生物学的活性が有効であることを可能にするような形態にあり、したがって、治療的使用のために対象に投与されうる調製物を指し、対象は、文脈上別段の指示がない限り、好ましくはヒトである。
【0035】
「標的送達」という用語は、その活性を示すために、薬剤をその標的となる身体領域(器官、細胞、特定組織の細胞内レベル)に直接指定するシステムを指す。これは、薬剤の非特異的で望ましくない効果を克服するために行われ、それによって意図した効果を得るために必要な薬剤の量が少なくなる。
【0036】
「チオール-マレイミド反応」という用語は、チオールとマレイミドとを反応させてチオスクシンイミド生成物を生成させる簡便かつ迅速な反応であり、バイオコンジュゲーション技術におけるシステイン残基の部位選択的改変に用いられる。チオール-マレイミド反応は、蛍光色素、PEG、放射性標識、低分子等のチオールコンジュゲーションを介して生体分子に化学標識を付加するために使用される。
【発明を実施するための形態】
【0037】
本開示の一態様では、組換えグリカン結合タンパク質は、配列番号1で表され、設計され及び適切な宿主細胞において発現されるダイズ白絹病レクチン(SRL)のバリアントである。
【0038】
本開示の実施形態では、前記バリアントのアミノ酸配列は、配列番号1と少なくとも70%の配列同一性を有する。より特定の実施形態では、バリアントの配列同一性は、配列番号1で表されるダイズ白絹病レクチン(SRL)と比較して、少なくとも70%、80%、90%、95%、96%、97%、98%又は99%である。
【0039】
本開示の一実施形態では、組換えグリカン結合タンパク質は、配列番号1で表されるダイズ白絹病レクチン(SRL)のバリアントである。一実施形態では、前記バリアントは、配列番号1で表される野生型ダイズ白絹病レクチン(SRL)と比較して結合親和性を保持している。前記結合親和性は、ヒトがんの90%以上に発現するルイス抗原(SLexとSLea)の変化を含む、トムゼン-フリーデンライヒ(Galβ1-3GalNAcα-O-Ser/Thr、TF又はT)抗原、O-GalNAc Core1(T抗原)、Core2、'α2,3/6-シアリルCore1'(シアリル-T抗原)、'α2,6/6-シアリルCore2'、並びにTF及びT抗原の改変型等、並びに分岐及びフコシル化N-及びO-グリカンの発現変化から選択される1つ又は複数の抗原に対するものが想定される。コアグリカンの変化に加えて、これらの糖はそれぞれ更に改変され、固有の末端グリカンモチーフを生成することができ、それらはまた、腫瘍性形質転換後に特異的な変化を受ける可能性がある。例えば、ルイス抗原[Lewisa/b(Lea/b)及びLewisx/y(Lex/y)]のような高度にフコシル化されたグリカンは、腫瘍性形質転換後、細胞表面に濃縮される可能性がある。同様に、一般的な末端グリカン改変であるシアリル化も、腫瘍の進行中に大きな変化を受ける可能性がある。
【0040】
本開示の一実施形態では、TF抗原(又はT抗原)のバリアント又は改変形態は、[3OSO3]Galβ1-3GalNAcα、Neu5Acα2-3Galβ1-3[6OSO3]GalNAcα、Neu5Acα2-3Galβ1-3GalNAcα、GlcNAcβ1-3Galβ1-3GalNAcα、Galβ1-3(Galβ1-4GlcNAcβ1-6)GalNAcα、Galβ1-3(Neu5Acα2-3Galβ1-4GlcNAβ1-6)GalNAc、Galβ1-3(GlcNAcβ1-6)GalNAcα、Galβ1-3(Neu5Acα2-6)GalNAcα、Neu5Acα2-3Galβ1-3(Neu5Acα2-6)GalNAcα、Galβ1-4GlcNAcβ1-6(Galβ1-3)GalNAcα、Galβ1-3GalNAcα(TF抗原)、Neu5Acα2-6(Galβ1-3)GalNAcα、Galβ1-3(Galβ1-4GlcNAcβ1-6)GalNAc、Galβ1-3(GlcNAcβ1-6)GalNAc、GlcNAcβ1-6(Galβ1-3)GalNAcα、Galβ1-3(Neu5Acβ2-6)GalNAcα、Fucα1-2Galβ1-3GalNAcα、Neu5Acβ2-6(Galβ1-3)GalNAcα、GlcNAcβ1-2Galβ1-3GalNAcαを含む。
【0041】
本開示の一実施形態では、組換えグリカン結合タンパク質は、配列番号1で表されるダイズ白絹病レクチン(SRL)のバリアントであり、配列番号1中のアミノ酸の挿入、欠失、又は置換によるタンパク質の変更を含み、前記変更はタンパク質の構造的及び機能的活性を変化させず、例えばこのタンパク質/バリアントは、トムゼン-フリーデンライヒ(Galβ1-3GalNAcα-O-Ser/Thr、TF又はT)抗原、O-GalNAc Core1(T抗原)、Core2、'α2,3/6-シアリルCore1'(シアリル-T抗原)、'α2,6/6-シアリルCore2'、並びにTF及びT抗原の改変型から選択される1つ又は複数の抗原に対する結合親和性を保持する。
【0042】
本開示の一実施形態では、組換えグリカン結合タンパク質は、配列番号1で表されるダイズ白絹病レクチン(SRL)のバリアントであり、野生型SRLと比較して、配列番号1の1から141の間のアミノ酸位置にアミノ酸システイン(C)がない。前記バリアントは、配列番号1中のアミノ酸の挿入、欠失又は置換により調製され、前記変更はタンパク質の構造的及び機能的活性を変化させず、例えば、タンパク質/バリアントは、トムゼン-フリーデンライヒ(Galβ1-3GalNAcα-O-Ser/Thr、TF又はT)抗原、O-GalNAc Core1(T抗原)、Core2、'α2,3/6-シアリルCore1'(シアリル-T抗原)、'α2,6/6-シアリルCore2'、並びにTF及びT抗原の改変型から選択される1つ又は複数の抗原に対する結合親和性を保持する。
【0043】
本開示の一実施形態では、組換えグリカン結合タンパク質は、配列番号1で表されるダイズ白絹病レクチン(SRL)のバリアントであり、野生型SRLと比較して、カルボキシ末端に追加のシステインを含む。カルボキシ末端へのシステインの付加は、タンパク質の構造的及び機能的活性を変化させないような様式で行われ、例えば、タンパク質/バリアントは、トムゼン-フリーデンライヒ(Galβ1-3GalNAcα-O-Ser/Thr、TF又はT)抗原、O-GalNAc Core1(T抗原)、Core2、'α2,3/6-シアリルCore1'(シアリル-T抗原)、'α2,6/6-シアリルCore2'、並びにTF及びT抗原の改変型から選択される1つ又は複数の抗原に対する結合親和性を保持する。
【0044】
本開示の一実施形態では、配列番号2の組換えグリカン結合タンパク質は、設計され、及び宿主細胞において発現されるダイズ白絹病レクチン(SRL)のバリアントである。配列番号2の前記組換えグリカン結合タンパク質は、インド特許出願350/MUM/2009に開示されている。配列番号2のタンパク質は、GalNAc及びGlcNAcグリカンに対する親和性を有する2つの糖結合部位(一次及び二次)を有し、一実施形態では、配列番号2のタンパク質は、ヒトがんの90%以上に発現するがん胎児性トムゼン-フリーデンライヒ(Galβ1-3GalNAcα-O-Ser/Thr、TF又はT)抗原及びその誘導体に対して高い結合親和性を有する。がん胎児性トムゼン-フリーデンライヒ(Galβ1-3GalNAcα-O-Ser/Thr、TF又はT)抗原及びその誘導体には、O-GalNAc Core1(T抗原);並びにCore2、α2,3/6-シアリルCore1(シアリル-T抗原)、α2,6/6-シアリルCore2、及びTFとT抗原の改変型を含む拡張コア構造が含まれる。
【0045】
配列番号2の組換えグリカン結合タンパク質は、大腸菌のような適切な宿主で発現させた場合、発現したタンパク質は約10~30%のN末端メチオニンの不純物を含む。N末端メチオニンを有する前記タンパク質は、製造及び保存中に酸化されやすい。メチオニンの酸化は、治療製品の臨床的有効性、安定性及び規制当局による承認を制限することがある。本開示の一実施形態では、前述の問題を克服するために、1位のアミノ酸は、適切なアミノ酸で置換されえ、このことは宿主細胞の内因性システムを用いてN末端メチオニンの効率的な除去を助ける。置換は、前記タンパク質の構造及び機能に影響を与えないような様式で行うことができることは、当業者に非常によく知られている。特定の実施形態では、配列番号2の1位のスレオニン(T)は、適切なアミノ酸で置換されえ、このことは宿主細胞のプロセシング機構を使用してN末端メチオニンの効率的な除去を助ける。より特定の実施形態では、配列番号2の第1の位置のスレオニン(T)は、アミノ酸セリン(S)で置換されえ、ゼロ位置でのN末端メチオニンの効率的な除去を助ける。前記置換は、TF及びTN抗原に対するタンパク質の機能的安定性及び結合親和性が影響を受けない様式で行われる。
【0046】
本開示の一実施形態では、配列番号1で表されるダイズ白絹病レクチン(SRL)のバリアントは、前述の実施形態に従って調製され、薬剤に更にコンジュゲートすることが想定される。前記薬剤は、治療剤、細胞傷害性薬剤、放射性薬剤、抗がん剤、診断薬、及びそれらの組合せからなる群から選択されうる。
【0047】
コンジュゲートを調製するために、当技術分野で公知の任意の適切なコンジュゲーション化学を用いて、薬剤をタンパク質と反応させることができる。ランダムなコンジュゲーション化学の使用は、不均一なコンジュゲート分子の生成につながることがある。前記不均一性は、患者における特性、有効性、安全性の問題に更につながる可能性がある。同様の問題を回避するために、タンパク質への薬物の部位特異的コンジュゲーションが好まれうる/設計されうる。一実施形態では、配列番号2の組換えグリカン結合タンパク質は、薬物の部位特異的コンジュゲーション現象を利用するように再操作されうる。より特定の実施形態では、使用される部位特異的コンジュゲーション化学は、チオール-マレイミド反応化学、すなわち、システインベースの部位特異的コンジュゲーションである。システインベースの部位特異的コンジュゲーションの利点を利用するために、配列番号2は、配列番号2のカルボキシ末端、すなわち142位にシステイン(C)を含むように再操作されうるが、142位のシステイン(C)は、76位のシステイン(C)とジスルフィド結合を作る可能性があり、スクランブルによるタンパク質構造の変化につながり、精製/下流プロセスの開発が更に困難になる。また、タンパク質構造の変化は、構造的及び機能的な生物活性の変化につながる可能性がある。前記の問題は、システイン(C)アミノ酸(配列番号2の76位の位置で利用可能)を任意の他の適切なアミノ酸で置換することによって対処されうる。前記置換は、トムゼン-フリーデンライヒ(Galβ1-3GalNAcα-O-Ser/Thr、TF又はT)抗原、O-GalNAc Core1(T抗原)、Core2、'α2,3/6-シアリルCore1'(シアリル-T抗原)、'α2,6/6-シアリルCore2'、並びにTF及びT抗原の改変型に対するタンパク質の機能的安定性及び結合親和性が影響を受けないような様式で行われうる。特定の実施形態では、配列番号2の76位で利用可能なシステイン(C)アミノ酸はグリシン(G)で置換されている。
【0048】
本開示の一実施形態では、配列番号2の組換えグリカン結合タンパク質は、1位、76位及び142位において改変を有するように再操作される。前記改変は、1位のセリンをスレオニンに置換すること、76位のグリシンをシステインに置換すること、及び配列番号2のカルボキシ末端にシステインを付加することを含む。本開示の別の実施形態では、再操作された組換えグリカン結合タンパク質は、配列番号3のタンパク質である。
【0049】
本開示の一実施形態では、配列番号2の組換えグリカン結合タンパク質は、1位、76位及び142~143位において改変を有するように再操作される。前記改変は、1位のセリンをスレオニンに置換すること、76位のグリシンをシステインに置換すること、並びに142位にセリンを付加すること、及び143位、すなわち配列番号2のカルボキシ末端にシステインを付加することを含む。本開示の別の実施形態では、再操作された組換えグリカン結合タンパク質は、配列番号4のタンパク質である。142位のセリンの付加は、c末端システインとタンパク質との間に空間と柔軟性を提供し、コンジュゲートされた薬物に柔軟性を更に提供し、タンパク質コンジュゲートの溶解性の問題を回避するのに役立つ可能性がある。
【0050】
本開示の別の実施形態では、配列番号3又は配列番号4のタンパク質は、タンパク質コンジュゲートの調製のために更に使用されえ、より詳細には、コンジュゲートの均質な混合物を提供するためにチオール-マレイミド反応を使用する。制御された薬物抗体比(DAR)を有する前記均質なコンジュゲートは、更に改善された治療指数を有するコンジュゲートをもたらす。
【0051】
本開示の一実施形態では、配列番号5及び配列番号6の核酸配列は、それぞれ、配列番号3及び配列番号4の組換えグリカン結合タンパク質の発現に使用されうる。
【0052】
本開示の一実施形態では、配列番号1で表されるダイズ白絹病レクチン(SRL)のバリアント、及び前記バリアントを用いて調製されたコンジュゲートは、がんの処置のための医薬の調製に使用されることが想定される。
【0053】
本開示の一実施形態では、配列番号1で表されるダイズ白絹病レクチン(SRL)のバリアント、及び前記バリアントを用いて調製されたコンジュゲートは、がんの診断又は治療処置に使用されることが想定される。
【0054】
本開示の一実施形態では、配列番号1で表されるダイズ白絹病レクチン(SRL)のバリアント又は前記バリアントを用いて調製されたコンジュゲートを含む医薬組成物が、1つ又は複数の薬学的に許容される賦形剤の存在下で調製される。薬学的に許容される賦形剤は、安定性、バイオアベイラビリティ、又は患者の受容性を支持又は増強するために選択されうる。前記医薬組成物は、例えば、液体(例えば、水溶液若しくは懸濁液、又は油ベースの溶液若しくは懸濁液)、固体(例えば、カプセル又は錠剤)、凍結乾燥粉末、スプレー、クリーム、ローション又はゲル、ビロソーム、リポソーム、ニオソーム、トランスフェロソーム、エトソーム、スフィンゴソーム、ファーマコソーム、マルチラメラベシクル、マイクロスフェア等のこれらに限定されない小胞薬物送達システム等の薬学的に許容される形態で提供されうる。
【0055】
本開示の様々な態様を、以下に列挙する実施例によって更に説明する。実施例は例示的なものであり、当業者はそれらの明らかな変形例についてよく認識し、熟知している。したがって、実施例は本開示の範囲をいかなる様式においても限定するものではない。
【実施例】
【0056】
(実施例1)
組換えタンパク質の製造プロセス
配列番号3及び配列番号4の組換えグリカン結合タンパク質の発現
【0057】
配列番号3の組換えグリカン結合タンパク質をコードするヌクレオチド配列(配列番号5)を、NdeI及びBamHIを用いてpET27bベクターにクローニングし、pET27b構築物を作製した。更にpET27b構築物を増殖宿主大腸菌Top10コンピテント細胞に形質転換した。形質転換細胞からプラスミドを単離し、制限消化分析によりインサートの完全性を確認し、DNA配列決定により遺伝子配列を確認した。検証されたpET27bプラスミドを更に大腸菌BL21 DE3(Gold)発現宿主に形質転換した。形質転換されたクローンを組換えタンパク質発現について試験し、高発現を示すクローンをDNA配列決定によって検証し、更に細胞バンク調製に使用した。特徴づけられた細胞バンクを、発酵プロセスに使用する。
【0058】
発酵用の種培養は、グリセロールのストックから、酵母エキス(10g/L)、リン酸二水素カリウム(3g/L)、リン酸水素二カリウム(12.54g/L)、硫酸アンモニウム(5g/L)、塩化ナトリウム(0.5g/L)、デキストロース(12g/L)、硫酸マグネシウム七水和物(1g/L)、硫酸カナマイシン(20mg/L)及び微量金属溶液(1ml/L)を含む培地に培養物を植菌して調製した。発酵は30℃で開始し、その後温度を18℃まで徐々に下げた。DOレベルは60%に維持され、pHは炭素源のシフト時を除き、アルカリ溶液を用いて6.80±0.05に維持した。供給培地として、炭素源としてグリセロール(50%)、窒素源として酵母エキス(40%)を用いたフェッドバッチ発酵プロセスを採用した。誘導を0.15mM IPTGでOD600nmが60付近で行った。全バッチ実行時間は48~72時間で、52log時間後に最大OD600は107の範囲に達した。配列番号3のアミノ酸配列を有する組換えタンパク質の発現量は約6.3g/Lであった。発酵ブロスを発酵槽から採取した。次いで、それを、9000rpm、10℃で10~15分間遠心分離し、コンパクトな細胞ペレットを得た。得られたペレットを、次いで25mM Tris HCl、1mM EDTA、pH8.5を含む1:10の比率(w/v)の溶解バッファーに懸濁し、懸濁液を10±4℃の温度を維持しながらメカニカルスターラーで1~2時間撹拌する。溶解は、1100±200barの高圧ホモジナイザーを用い、1~2パスで行う。90~95%超の細胞溶解効率が得られ(OD600で測定)、溶解液を低温で回収する。
【0059】
細胞溶解液を0.1μ TFFを用いて清澄化し、透過液を回収した。最大量のタンパク質を回収するため、280nmのタンパク質吸光度が4~6未満になるまで、25mM Tris-HClバッファー、1mM EDTA、pH8.0を用いて段階モードで残余分を4~6回洗浄した。その後、0.1μ中空糸フィルターを用いて、膜透過圧2~10psiで溶液を清澄化した。タンパク質を含む洗浄液は、主要な透過液と共にプールした。温度は、清澄化プロセス全体を通して25℃以下に維持した。
【0060】
配列番号3のタンパク質は、3段階のクロマトグラフィーを用いて精製した。最初の段階では、細胞溶解液を、1mM EDTAを含む25mM Trisバッファー、pH8.0±0.5であらかじめ平衡化したCellufine Max Qresinに負荷し、pH8.0の25mM Tris HCl、1mM EDTA、50mM NaClで洗浄した。タンパク質をpH8.0の25mM Tris HCl、1mM EDTA、200mM NaClで溶出した。ピーク全体を1つの画分として回収した。第2段階では、第1段階で溶出した配列番号3のタンパク質を、平衡化バッファーであらかじめ平衡化したCMセファロースカラムに20mg/mlの結合容量で結合させた。完全な負荷後、カラムを平衡化バッファーの25mM 酢酸ナトリウム、5mM β-メルカプトエタノール、pH5.1で洗浄し、結合していないタンパク質を除去した。25mM 酢酸ナトリウム、1.0M NaCl、5mM β-メルカプトエタノール、pH5.1の0~50%の直線勾配で15カラム体積分溶出した後、100%バッファー 25mM 酢酸ナトリウム、1.0M NaCl、5mM β-メルカプトエタノール、pH5.1で洗浄した。CMセファロースカラムから得られた溶出物を、次いでTrisバッファーでpHを8.0に調整し、5KDaメンブレンを用いて、25mM Tris、5mM β-メルカプトエタノール、pH8.0に対してバッファー交換を行い、導電率を2.0mS/cm未満にした。配列番号3のタンパク質を、平衡化バッファー、25mM Tris、5mM β-メルカプトエタノール、pH8.0であらかじめ平衡化した3本目のカラムSource 30Qに負荷した。次いで、配列番号3のタンパク質を、25mM Tris、5mM β-メルカプトエタノール、500mM NaCl、pH8.0の溶出バッファーで溶出した。純度95%以上の配列番号3の組換えタンパク質が得られた。
【0061】
同様に、配列番号4のタンパク質を95%以上の純度で調製した。
【0062】
配列番号3と配列番号4の精製タンパク質の分子量とpIは以下の通りであった。
【0063】
【0064】
(実施例2)
発現したタンパク質の細胞傷害性(MTS-PMS)アッセイ。
配列番号3及び配列番号4のタンパク質の生物活性をMTS-PMSバイオアッセイを用いて測定した。卵巣癌細胞株PA-1、血液癌細胞株MOLT-3、血液癌細胞株Jurkat E6及び乳がん細胞株MDA-MB 231に対する前記タンパク質の効果を調べた。
【0065】
試験には5000細胞/ウェルを使用した。
【0066】
ドキソルビシンという薬物をシステム適合性(SST)の基準として使用した。
【0067】
細胞傷害性アッセイの結果は以下の通りであった。
【0068】
【0069】
結論
・配列番号2、3、及び4のタンパク質は、MDA-MB-231細胞に対して、ドキソルビシン薬物と比較してより優れた細胞傷害性結果を示した。
・配列番号2、3及び4のタンパク質は、他の細胞株、すなわちPA-1、MOLT-3及びJurkat E6細胞株において、ドキソルビシン薬物と比較してより優れた細胞傷害性結果を示した。
・これらのタンパク質は同様の生物活性を示し、したがって同様の機能性を有すると推察することができる。
【0070】
(実施例3)
グリカン結合試験と共局在化試験
a.グリカン結合試験を、がん細胞上に発現するグリカンに対する配列番号2を有するレクチンの結合親和性と特異性を理解するために実施した。
特異的結合モチーフを同定するために、配列番号2のレクチンを以下のグリカンアレイを用いてアッセイした。
・94個のグリカンを含むO-グリカンアレイ、及び
・100個のグリカンを含むN-グリカンアレイ
【0071】
観察
・配列番号2を有するレクチンは、非還元末端にGlcNacを含むN-グリカンに特異的な結合を示した。末端N-グリカンGlcNAcモチーフとの推定Kdは0.238~0.460(μg/ml)の間であった。
・配列番号2を有するレクチンは、O-グリカン、特にT抗原とその拡張コア構造に対して強く幅広い結合プロフィールを示した。見出された主な結合モチーフは、O-GalNAc Core1(T抗原)、拡張Core1構造、Core2、α2,3/6-シアリルCore1、α2,6/6-シアリルCore2であった。T抗原の推定Kdは0.319、シアリルT抗原の推定Kdは0.670~1.756、core2の推定Kdは0.212(μg/ml)であった。
【0072】
b.配列番号2の共局在化研究
共焦点顕微鏡を用いて、配列番号2(試験物質)の細胞オルガネラにおける局在を解析するための研究を行った。
【0073】
水溶液として提供された試験物質を、タンパク質濃度1mg/mLでFITC標識でタグ付けした。
【0074】
試験物質のストック溶液を無血清培地(SFM)で希釈し、単一濃度100μg/mLとした。
【0075】
細胞を、1ウェル当たり0.1×106個の密度でガラスカバースリップ上にプレーティングした。カバースリップ上に細胞が完全に接着した後、細胞を配列番号2のアミノ酸配列を有する100μg/mLのFITC組換えレクチンを37℃で2時間処理した。
【0076】
インキュベーション後、細胞をPBSで洗浄し(3回洗浄)、4%パラホルムアルデヒドを用いて10分間、室温で固定した。固定後、細胞を0.5%IGEPALを用い、室温で10分間透過処理した(パンカドヘリンで染色した細胞には透過処理は行わなかった)。透過処理後、細胞を、5%正常ヤギ血清を用いて室温で1時間ブロッキングした。ブロッキング後、細胞をオルガネラ特異的マーカーで室温において1.5時間処理し、続いて二次抗体で室温において2時間処理した。
【0077】
異なるオルガネラに対して以下の抗体を使用した。
【0078】
【0079】
インキュベーション後、細胞をPBST(3回洗浄)とPBS(3回洗浄)を用いて洗浄し、DAPI(核染色)で3分間、室温で染色した。
【0080】
細胞を洗浄し(3回洗浄)、Prolong Glass褪色防止用封入剤を用いてスライドガラスにマウントした。共焦点蛍光顕微鏡(Make:Olympus FV1000)を用いてイメージングを行った。画像をソフトウェアFluo Viewを用いて取得した。
【0081】
配列番号2のアミノ酸配列を有する組換えレクチン(組換えタンパク質)の共局在を決定するために、膀胱癌細胞(T24)をFITCタグで標識した配列番号2のアミノ酸配列を有する組換えレクチンと2時間インキュベートした。続いて、オルガネラ特異的マーカーであるMTCO2(ミトコンドリア)、カルネキシン(小胞体)、GM130(ゴルジ体)、パンカドヘリン(細胞膜)、及びラミンA/C(核膜)で染色した。細胞は共焦点顕微鏡を用いて画像化した。
【0082】
その結果、配列番号2のアミノ酸配列を有する組換えレクチン(組換えタンパク質)は、ミトコンドリア、小胞体、ゴルジ体、及び細胞膜(赤色蛍光)に共局在することが示された。[
図5参照]。
【0083】
(実施例4)
N末端メチオニンに関する発現したタンパク質の比較
配列番号2、3及び4のタンパク質のN末端メチオニン含量を、逆相-高速液体クロマトグラフィーを用いて測定した。
【0084】
【0085】
結論:配列番号3及び4のタンパク質は、N末端メチオニン不純物が2%未満であったが、配列番号2のタンパク質は、N末端メチオニンが13%超であった。
【0086】
(実施例5)
発現したタンパク質の安定性に関する比較
発現したタンパク質、すなわち配列番号3の安定性を、pH7.8の10mM TBSバッファーを用い、2~8℃で2週間評価した。
【0087】
【0088】
結論:発現したタンパク質、すなわち配列番号3は、pH7.8の10mM TBSバッファー中、2~8℃で安定であることがわかった。
【0089】
(実施例6)
発現したタンパク質の溶解性に関する比較
配列番号3及び4の発現したタンパク質の生産培地(0.25mMのIPTGで18℃で誘導)での溶解性を、SDS PAGE分析を用いて評価した。
【0090】
【0091】
【0092】
【0093】
結論:配列番号3及び4の発現したタンパク質の生産培地での溶解性を確認した。
【0094】
(実施例7)
可溶性タンパク質、すなわち配列番号3及び4の発酵段階の異なる時点における発現解析。
細胞を発酵培地で制御された条件下で増殖させ、適切な誘導剤で誘導した。採取を異なる時点で行い、SDS-PAGEを用いて可溶性タンパク質の発現を解析した。
【0095】
【0096】
【0097】
結論:配列番号3及び4の発現したタンパク質の溶解性を、発酵段階の様々な時点で、生産培地において確認した。
図3及び
図4を参照されたい。
【0098】
(実施例8)
タンパク質薬物コンジュゲートの調製
配列番号3のタンパク質を、以下の手順で細胞傷害性薬物MMAEにコンジュゲートした。1×PBS中の配列番号3のタンパク質30mg(7.0mg/ml)を、10mM EDTA、DMA、及び最終DMA濃度が20%(V/V)になるDMA中の10mM MC-Val-Cit-PAB-MMAEの3.0当量を添加した1×PBSで最終濃度2.5mg/mlに希釈した。2時間後、反応は不完全になり、更に3.0当量のMC-Val-Cit-PAB-MMAEを加え、2時間インキュベートした。
【0099】
タンパク質薬物コンジュゲートをLCMS分析に供し、DAR値を決定した。形成された生成物は、GE10-300 Superdex75カラムを用いたサイズ排除クロマトグラフィー(SEC)に供され、50mM Tris、150mM NaClにバッファー交換し、TBSを用いてpHを8.0に調整した。
【0100】
SEC精製後のタンパク質薬物コンジュゲートのDAR値は1.0であると決定された。
【0101】
結論:配列番号3のタンパク質を用いて調製したタンパク質薬物コンジュゲートのDAR値は1であると決定され、形成されたコンジュゲートの均質性が更に示唆された。
【0102】
(実施例9)
バイオアッセイ-コンジュゲートの細胞傷害性効果
バイオアッセイ-卵巣癌細胞株(PA-1)及びヒト膀胱癌細胞株(T-24)に対する実施例8のコンジュゲートの細胞傷害性効果を測定した。
【0103】
5,000細胞/ウェルをプレーティングし、37℃で一晩インキュベートした。
【0104】
コンジュゲート/ビヒクル対照をそれぞれの培地で希釈し、細胞に添加した。添加量は、各ウェルに50μL。処理開始濃度は、実施例8のコンジュゲート、対照配列番号3単独では1μM、ビヒクル対照(20%DMAを含む1×PBS)では10%とし、次いで10倍希釈して合計11回の処理希釈を行った。各濃度を3連で分析した。培地のみのウェルは、生存率を算出するための対照として使用した。Cell titer glow試薬(容量:50μL)を各ウェルに加え、プレートを5分間振とうし、発光を記録した。薬物処理時間は、72時間。生存率は、各処理ウェルで得られた発光シグナルを未処理ウェル(培地のみの対照)で除し、100を乗じて算出した。
【0105】
次に、X=Log(x)を用いてデータを変換し、PRISMソフトウェアを用いて非線形回帰(カーブフィット)、用量反応阻害-log(阻害剤)対反応(3パラメーター)で分析し、IC50値を決定した。
【0106】
得られた結果は以下の通りである。
【0107】
【0108】
結論:コンジュゲート分子は、細胞株PA-1及びT-24に対して、配列番号3と比較して非常に高い効力を示した。IC50値は配列番号3では15~25μMの範囲であるのに対し、実施例8のコンジュゲートではナノモル単位のIC50値を示した。
【配列表】
【国際調査報告】