(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公表特許公報(A)
(11)【公表番号】
(43)【公表日】2024-09-30
(54)【発明の名称】合成ヒト化ラマナノボディライブラリーおよびSARS-COV-2中和抗体を同定するためのその使用
(51)【国際特許分類】
C40B 40/10 20060101AFI20240920BHJP
C07K 16/10 20060101ALI20240920BHJP
C07K 16/46 20060101ALI20240920BHJP
C07K 19/00 20060101ALI20240920BHJP
C12N 15/13 20060101ALI20240920BHJP
C12N 15/62 20060101ALI20240920BHJP
C12N 15/63 20060101ALI20240920BHJP
C12P 21/08 20060101ALI20240920BHJP
C12N 1/15 20060101ALI20240920BHJP
C12N 1/19 20060101ALI20240920BHJP
C12N 1/21 20060101ALI20240920BHJP
C12N 5/10 20060101ALI20240920BHJP
A61K 39/395 20060101ALI20240920BHJP
A61P 31/14 20060101ALI20240920BHJP
G01N 33/569 20060101ALI20240920BHJP
G01N 33/577 20060101ALI20240920BHJP
【FI】
C40B40/10 ZNA
C07K16/10
C07K16/46
C07K19/00
C12N15/13
C12N15/62 Z
C12N15/63 Z
C12P21/08
C12N1/15
C12N1/19
C12N1/21
C12N5/10
A61K39/395 S
A61P31/14
G01N33/569 L
G01N33/577 B
【審査請求】未請求
【予備審査請求】未請求
(21)【出願番号】P 2024516630
(86)(22)【出願日】2022-09-09
(85)【翻訳文提出日】2024-05-07
(86)【国際出願番号】 US2022076221
(87)【国際公開番号】W WO2023044272
(87)【国際公開日】2023-03-23
(32)【優先日】2021-09-17
(33)【優先権主張国・地域又は機関】US
(81)【指定国・地域】
(71)【出願人】
【識別番号】514144836
【氏名又は名称】ザ ユナイテッド ステイツ オブ アメリカ, アズ リプレゼンテッド バイ ザ セクレタリー, デパートメント オブ ヘルス アンド ヒューマン サービシーズ
(74)【代理人】
【識別番号】100078282
【氏名又は名称】山本 秀策
(74)【代理人】
【識別番号】100113413
【氏名又は名称】森下 夏樹
(74)【代理人】
【識別番号】100181674
【氏名又は名称】飯田 貴敏
(74)【代理人】
【識別番号】100181641
【氏名又は名称】石川 大輔
(74)【代理人】
【識別番号】230113332
【氏名又は名称】山本 健策
(72)【発明者】
【氏名】フー, イン
(72)【発明者】
【氏名】フレミング, ブライアン ディー.
(72)【発明者】
【氏名】レン, アレックス
(72)【発明者】
【氏名】ホール, マシュー ディー.
(72)【発明者】
【氏名】シメオノフ, アントン
【テーマコード(参考)】
4B064
4B065
4C085
4H045
【Fターム(参考)】
4B064AG27
4B064CA19
4B064CC24
4B064CE10
4B064DA01
4B064DA13
4B065AA01X
4B065AA57X
4B065AA72X
4B065AA88X
4B065AA90X
4B065AA90Y
4B065AB01
4B065AC14
4B065BA02
4B065CA25
4B065CA44
4B065CA46
4C085AA14
4C085BA71
4C085BB31
4C085CC23
4C085DD61
4C085EE01
4H045AA11
4H045AA20
4H045AA30
4H045BA41
4H045BA52
4H045BA70
4H045BA71
4H045CA40
4H045DA76
4H045EA20
4H045EA53
4H045FA74
4H045GA21
(57)【要約】
ヒト化ラマナノボディフレームワーク配列を使用して合成シングルドメインモノクローナル抗体ライブラリーを産生するための方法、当該方法によって入手可能なライブラリー、および当該ライブラリーから選択された抗体が記載されている。特に、SARS-CoV-2のスパイクタンパク質に特異的に結合し、SARS-CoV-2感染を中和する合成シングルドメインモノクローナル抗体が記載されている。SARS-CoV-2感染の検出、予防および処置のための開示されている抗体の使用が記載されている。
【特許請求の範囲】
【請求項1】
合成シングルドメインモノクローナル抗体ライブラリーを作製する方法であって、合成シングルドメインモノクローナル抗体のそれぞれのフレームワーク(FR)コード領域の間の相補性決定領域1(CDR1)、CDR2およびCDR3配列をコードする核酸分子の多様性を導入して、同じ合成シングルドメインモノクローナル抗体足場アミノ酸配列を有する合成シングルドメインモノクローナル抗体の多様性をコードする核酸分子を生成するステップを含み、前記合成シングルドメインモノクローナル抗体足場が、配列番号1を含むFR1配列、配列番号2を含むFR2配列、配列番号3を含むFR3配列および配列番号4を含むFR4配列を含む、方法。
【請求項2】
CDR1が、5~8残基の長さであり、前記CDR1配列のアミノ酸残基が、次の法則:
CDR1の1位は、Gであり、
CDR1の2位は、N、S、TまたはYであり、
CDR1の3位は、Iであり、
CDR1の4位は、FまたはSであり、
CDR1の5位は、Y、G、D、A、R、S、V、F、L、T、E、P、W、H、K、I、M、NまたはQであり、
CDR1の6、7および/または8位は、存在する場合、Y、G、D、A、R、S、V、F、L、T、E、P、W、H、K、I、M、NおよびQから個々に選択される、
に従って決定される、請求項1に記載の方法。
【請求項3】
CDR2が、9残基の長さであり、前記CDR2配列のアミノ酸残基が、次の法則:
CDR2の1位は、Iであり、
CDR2の2位は、A、D、G、N、SまたはTであり、
CDR2の3位は、Y、G、D、A、R、S、V、F、L、T、E、P、W、H、K、I、M、NまたはQであり、
CDR2の4位は、Y、G、D、A、R、S、V、F、L、T、E、P、W、H、K、I、M、NまたはQであり、
CDR2の5位は、Gであり、
CDR2の6位は、A、G、SまたはTであり、
CDR2の7位は、I、N、SまたはTであり、
CDR2の8位は、Tであり、
CDR2の9位は、NまたはYである、
に従って決定される、請求項1または請求項2に記載の方法。
【請求項4】
CDR3が、14~20アミノ酸の長さであり、各位置が、Y、G、D、A、R、S、V、F、L、T、E、P、W、H、K、I、M、NおよびQから個々に選択される、請求項1から3のいずれか一項に記載の方法。
【請求項5】
CDR1の5位、存在する場合のCDR1の6位、存在する場合のCDR1の7位、存在する場合のCDR1の8位、CDR2の3位、CDR2の4位およびCDR3の各位置のそれぞれのアミノ酸組成が、13%Y、12%G、10%D、10%A、8%R、8%S、5%V、5%F、4%L、4%T、3%E、3%P、3%W、2%H、2%K、2%I、2%M、2%Nおよび2%Qを含む、請求項2から4のいずれか一項に記載の方法。
【請求項6】
請求項1から5のいずれか一項に記載の方法によって入手可能な合成シングルドメインモノクローナル抗体ライブラリー。
【請求項7】
少なくとも10
10種の特有の抗体配列を含む、請求項6に記載の合成シングルドメインモノクローナル抗体ライブラリー。
【請求項8】
目的の標的に結合する合成シングルドメインモノクローナル抗体を同定するためのスクリーニング方法であって、請求項6または請求項7に記載の合成シングルドメイン抗体ライブラリーの使用を含むスクリーニング方法。
【請求項9】
前記目的の標的が、ウイルス抗原である、請求項8に記載のスクリーニング方法。
【請求項10】
前記ウイルス抗原が、SARS-CoV-2スパイクタンパク質である、請求項9に記載のスクリーニング方法。
【請求項11】
ファージディスプレイ方法である、請求項8から10のいずれか一項に記載のスクリーニング方法。
【請求項12】
次式:FR1-CDR1-FR2-CDR2-FR3-CDR3-FR4(式中、
FR1のアミノ酸配列は、配列番号1を含み、
FR2のアミノ酸配列は、配列番号2を含み、
FR3のアミノ酸配列は、配列番号3を含み、
FR4のアミノ酸配列は、配列番号4を含む)
を有するシングルドメインモノクローナル抗体。
【請求項13】
CDR1が、5~8残基の長さであり、前記CDR1配列のアミノ酸残基が、次の法則:
CDR1の1位は、Gであり、
CDR1の2位は、N、S、TまたはYであり、
CDR1の3位は、Iであり、
CDR1の4位は、FまたはSであり、
CDR1の5位は、Y、G、D、A、R、S、V、F、L、T、E、P、W、H、K、I、M、NまたはQであり、
CDR1の6、7および/または8位は、存在する場合、Y、G、D、A、R、S、V、F、L、T、E、P、W、H、K、I、M、NまたはQからランダムに選択される、
に従って決定される、請求項12に記載のシングルドメインモノクローナル抗体。
【請求項14】
CDR2が、9残基の長さであり、前記CDR2配列のアミノ酸残基が、次の法則:
CDR2の1位は、Iであり、
CDR2の2位は、A、D、G、N、SまたはTであり、
CDR2の3位は、Y、G、D、A、R、S、V、F、L、T、E、P、W、H、K、I、M、NまたはQであり、
CDR2の4位は、Y、G、D、A、R、S、V、F、L、T、E、P、W、H、K、I、M、NまたはQであり、
CDR2の5位は、Gであり、
CDR2の6位は、A、G、SまたはTであり、
CDR2の7位は、I、N、SまたはTであり、
CDR2の8位は、Tであり、
CDR2の9位は、NまたはYである、
に従って決定される、請求項12または請求項13に記載のシングルドメインモノクローナル抗体。
【請求項15】
CDR3が、14~20アミノ酸の長さであり、各位置が、Y、G、D、A、R、S、V、F、L、T、E、P、W、H、K、I、M、NまたはQからランダムに選択される、請求項12から14のいずれか一項に記載のシングルドメインモノクローナル抗体。
【請求項16】
CDR1の5位、存在する場合のCDR1の6位、存在する場合のCDR1の7位、存在する場合のCDR1の8位、CDR2の3位、CDR2の4位およびCDR3の各位置のそれぞれのアミノ酸が、次のパーセンテージ:13%Y、12%G、10%D、10%A、8%R、8%S、5%V、5%F、4%L、4%T、3%E、3%P、3%W、2%H、2%K、2%I、2%M、2%Nおよび2%Qで選択される、請求項12から15のいずれか一項に記載のシングルドメインモノクローナル抗体。
【請求項17】
請求項12から16のいずれか一項に記載のシングルドメインモノクローナル抗体をコードする核酸分子。
【請求項18】
プロモーターに作動可能に連結された、請求項17に記載の核酸分子。
【請求項19】
請求項17または請求項18に記載の核酸分子を含むベクター。
【請求項20】
請求項17もしくは請求項18に記載の核酸分子または請求項19に記載のベクターを含む、単離された宿主細胞。
【請求項21】
重症急性呼吸器症候群コロナウイルス2(SARS-CoV-2)スパイクタンパク質に特異的に結合するシングルドメインモノクローナル抗体であって、配列番号5の相補性決定領域1(CDR1)、CDR2およびCDR3配列を含むシングルドメインモノクローナル抗体。
【請求項22】
前記CDR配列が、KabatまたはIMGT慣例を使用して定義される、請求項21に記載のシングルドメインモノクローナル抗体。
【請求項23】
前記CDR1、CDR2およびCDR3配列がそれぞれ、配列番号5の残基26~32、50~58および97~110を含む、請求項21または請求項22に記載のシングルドメインモノクローナル抗体。
【請求項24】
アミノ酸配列が、配列番号5と少なくとも90%同一であり、配列番号5の残基26~32、50~58および97~110を含む、請求項21から23のいずれか一項に記載のシングルドメインモノクローナル抗体。
【請求項25】
フレームワーク領域1(FR1)、FR2、FR3およびFR4を含み、
FR1のアミノ酸配列が、配列番号1を含む、
FR2のアミノ酸配列が、配列番号2を含む、
FR3のアミノ酸配列が、配列番号3を含む、および/または
FR4のアミノ酸配列が、配列番号4を含む、
請求項21から24のいずれか一項に記載のシングルドメインモノクローナル抗体。
【請求項26】
前記抗体のアミノ酸配列が、配列番号5を含むかまたはそれからなる、請求項21から25のいずれか一項に記載のシングルドメインモノクローナル抗体。
【請求項27】
ヒト化抗体である、請求項21から26のいずれか一項に記載のシングルドメインモノクローナル抗体。
【請求項28】
SARS-CoV-2を中和する、請求項21から27のいずれか一項に記載のシングルドメインモノクローナル抗体。
【請求項29】
検出可能な標識にコンジュゲートされた、請求項21から28のいずれか一項に記載のシングルドメインモノクローナル抗体。
【請求項30】
請求項21から29のいずれか一項に記載のシングルドメインモノクローナル抗体と、異種タンパク質とを含む融合タンパク質。
【請求項31】
前記異種タンパク質が、ヒトFcタンパク質を含む、請求項30に記載の融合タンパク質。
【請求項32】
前記ヒトFcタンパク質が、前記融合タンパク質の半減期を増加させる修飾を含む、請求項31に記載の融合タンパク質。
【請求項33】
前記修飾が、新生児Fc受容体への結合を増加させる、請求項32に記載の融合タンパク質。
【請求項34】
前記異種タンパク質が、タンパク質タグを含む、請求項30に記載の融合タンパク質。
【請求項35】
前記タンパク質タグのアミノ酸配列が、配列番号6を含むかまたはそれからなる、請求項34に記載の融合タンパク質。
【請求項36】
請求項21から29のいずれか一項に記載のシングルドメインモノクローナル抗体を含む二価抗体。
【請求項37】
請求項21から29のいずれか一項に記載のシングルドメインモノクローナル抗体を含む三価単鎖Fv。
【請求項38】
請求項21から29のいずれか一項に記載のシングルドメインモノクローナル抗体を含む二重特異性抗体。
【請求項39】
請求項21から29のいずれか一項に記載のシングルドメインモノクローナル抗体、請求項30から35のいずれか一項に記載の融合タンパク質、請求項36に記載の二価抗体、請求項37に記載の三価単鎖Fvまたは請求項38に記載の二重特異性抗体をコードする核酸分子。
【請求項40】
プロモーターに作動可能に連結された、請求項39に記載の核酸分子。
【請求項41】
請求項39または請求項40に記載の核酸分子を含むベクター。
【請求項42】
請求項39もしくは請求項40に記載の核酸分子または請求項41に記載のベクターを含む宿主細胞。
【請求項43】
薬学的に許容される担体と、請求項21から29のいずれか一項に記載のシングルドメインモノクローナル抗体、請求項30から35のいずれか一項に記載の融合タンパク質、請求項36に記載の二価抗体、請求項37に記載の三価単鎖Fv、請求項38に記載の二重特異性抗体、請求項39もしくは請求項40に記載の核酸分子または請求項41に記載のベクターとを含む組成物。
【請求項44】
SARS-CoV-2スパイクタンパク質に特異的に結合するシングルドメインモノクローナル抗体を産生する方法であって、
宿主細胞において請求項21から29のいずれか一項に記載のシングルドメインモノクローナル抗体をコードする核酸分子を発現させるステップと、
前記シングルドメインモノクローナル抗体を精製するステップと
を含む方法。
【請求項45】
対象由来の生体試料におけるコロナウイルスの存在を検出する方法であって、
免疫複合体を形成するのに十分な条件下で、前記生体試料を、有効量の請求項21から29のいずれか一項に記載のシングルドメインモノクローナル抗体と接触させるステップと、
前記生体試料における前記免疫複合体の存在を検出するステップであって、前記生体試料における前記免疫複合体の存在が、前記試料における前記コロナウイルスの存在を指し示す、ステップと
を含む方法。
【請求項46】
前記生体試料における前記免疫複合体の存在を検出するステップが、前記対象が、SARS-CoV-2感染を有することを指し示す、請求項45に記載の方法。
【請求項47】
対象におけるコロナウイルス感染を阻害する方法であって、有効量の請求項21から29のいずれか一項に記載のシングルドメインモノクローナル抗体、請求項30から35のいずれか一項に記載の融合タンパク質、請求項36に記載の二価抗体、請求項37に記載の三価単鎖Fv、請求項38に記載の二重特異性抗体、請求項39もしくは請求項40に記載の核酸分子、請求項41に記載のベクターまたは請求項43に記載の組成物を投与するステップを含み、前記対象が、コロナウイルス感染を有するかまたはそのリスクがある、方法。
【請求項48】
前記コロナウイルスが、SARS-CoV-2である、請求項47に記載の方法。
【請求項49】
対象におけるコロナウイルス感染を阻害するための、または生体試料におけるコロナウイルスの存在を検出するための、請求項21から29のいずれか一項に記載のシングルドメインモノクローナル抗体、請求項30から35のいずれか一項に記載の融合タンパク質、請求項36に記載の二価抗体、請求項37に記載の三価単鎖Fv、請求項38に記載の二重特異性抗体、請求項39もしくは請求項40に記載の核酸分子、請求項41に記載のベクターまたは請求項43に記載の組成物の使用。
【請求項50】
前記コロナウイルスが、SARS-CoV-2である、請求項49に記載の使用。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
関連出願の相互参照
本出願は、その全体が参照により本明細書に組み込まれる、2021年9月17日に出願された米国仮特許出願第63/245,512号に基づく利益を主張している。
【0002】
分野
本開示は、ヒト化ラマナノボディフレームワーク領域およびランダム化された相補性決定領域(CDR)を有する合成シングルドメインモノクローナル抗体ライブラリーに関する。本開示はさらに、当該ライブラリーから同定されたSARS-CoV-2中和抗体に関する。
【背景技術】
【0003】
背景
重症急性呼吸器症候群-コロナウイルス2(SARS-CoV-2)パンデミックは、医療制度に重い負荷を課す世界的な緊急事態を生じ、驚異的な数の死亡をもたらした。科学界は、防御免疫を付与する有効なワクチンを開発しようと前例のない迅速さで応じた。ワクチン接種は、入院者数を低減させるが、エスケープバリアントの出現および進行中のウイルス伝染の可能性がある。よって、依然として、SARS-CoV-2および他の新興のパンデミック脅威に対する有効な治療薬を同定することができる対費用効果の高い、ハイスループットで、適応可能なパイプラインの必要が継続してある。
【0004】
宿主細胞へのSARS-CoV-2侵入は、エンベロープ繋留スパイク(S)糖タンパク質に頼る。この大型の三量体クラスIタンパク質は、ウイルス表面を密に装飾し、宿主アンジオテンシン変換酵素2(ACE2)を認識し、ウイルス侵入に必要とされる融合機構を含有する。バイオジェネシスの際に、キノコ形の三量体における各Sプロトマーは、細胞のフューリンによって、それぞれ標的認識および融合の原因となるS1およびS2サブユニットへと切断される。各N末端S1サブユニットは、宿主細胞におけるACE2を標的化する受容体結合ドメイン(RBD)を含有する。RBDはヒンジに接続され、これにより、それが、ACE2に結合することができる「アップ」状態と、受容体との相互作用が隣接RBDの近接によって邪魔される「ダウン」状態との間を移行することが可能となる。「アップ」位置における受容体結合は、柄を形成する(stalk forming)S2プロトマーのTMPRSS2媒介性切断を含む事象のカスケードを誘起して、長軸方向3ヘリックス束の各N末端側の端における疎水性融合ペプチド(FP)が露わになる。標的細胞の膜へのFPの挿入に続いて大規模な構造再編成が行われ、それとウイルスエンベロープとの並置(apposition)をもたらし、これにより、それらの融合が生じる。この標的化/融合装置における突然変異は、ウイルス感染力の増加への関与が示唆されてきた。ウイルストロピズムのドライバーとして、表面露出Sタンパク質のRBDは、中和抗体および免疫原の開発に関する強い関心の焦点である。RBD内の鍵となる接触残基の1つであるN501がN501Yへと突然変異した、SARS-CoV-2の複数のバリアントが独立して生じている。この突然変異は、ヒトACE2への結合親和性を増加させる。このようなバリアントは、伝染率の増加および抗体中和の低減に関連付けられてきた、スパイクにおける複数の突然変異を有する。循環するバリアントに対して有効な改善されたSARS-CoV-2中和抗体と同様に、抗体がSARS-CoV-2バリアントに結合する仕方に関する構造的な洞察が依然として必要とされる。
【発明の概要】
【課題を解決するための手段】
【0005】
要旨
本開示は、ヒト化ラマナノボディフレームワーク配列およびランダム化された多様な相補性決定領域(CDR)配列に由来する合成シングルドメインモノクローナル抗体ライブラリーの生成について記載する。SARS-CoV-2スパイクタンパク質への高親和性結合に基づきライブラリーから選択されたシングルドメインモノクローナル抗体についても記載する。
【0006】
合成シングルドメインモノクローナル抗体ライブラリーを作製する方法が本明細書に提供される。一部のインプリメンテーションでは、方法は、合成シングルドメインモノクローナル抗体のそれぞれのフレームワーク(FR)コード領域の間の相補性決定領域1(CDR1)、CDR2およびCDR3配列をコードする核酸分子の多様性を導入して、同じ合成シングルドメインモノクローナル抗体足場アミノ酸配列を有する合成シングルドメインモノクローナル抗体の多様性をコードする核酸分子を生成するステップを含む。一部の例では、合成シングルドメインモノクローナル抗体足場は、配列番号1を含むFR1配列、配列番号2を含むFR2配列、配列番号3を含むFR3配列および配列番号4を含むFR4配列を含む。開示されている方法によって入手可能な合成シングルドメインモノクローナル抗体ライブラリーがさらに提供される。
【0007】
目的の標的に結合する合成シングルドメインモノクローナル抗体を同定するためのスクリーニング方法も提供される。一部のインプリメンテーションでは、方法は、本明細書に開示される合成シングルドメイン抗体ライブラリーの使用を含む。
【0008】
次式:FR1-CDR1-FR2-CDR2-FR3-CDR3-FR4(式中、FR1のアミノ酸配列は、配列番号1を含む;FR2のアミノ酸配列は、配列番号2を含む;FR3のアミノ酸配列は、配列番号3を含む;および/またはFR4のアミノ酸配列は、配列番号4を含む)を有するシングルドメインモノクローナル抗体がさらに本明細書に提供される。シングルドメインモノクローナル抗体をコードする核酸分子およびベクター、ならびに核酸分子またはベクターを含む単離された宿主細胞がさらに提供される。
【0009】
SARS-CoV-2スパイクタンパク質に特異的に結合するシングルドメインモノクローナル抗体も本明細書に提供される。一部のインプリメンテーションでは、抗体は、抗体RBD-1-2GのCDR配列を含む。一部の例では、抗体は、SARS-CoV-2を中和することができる。
【0010】
検出可能なマーカーにコンジュゲートされたシングルドメインモノクローナル抗体がさらに提供される。
【0011】
本明細書に開示されるシングルドメインモノクローナル抗体と、Fcタンパク質、例えば、ヒトFcタンパク質等の異種タンパク質とを含む融合タンパク質も提供される。本明細書に開示されるシングルドメインモノクローナル抗体を含む二価抗体および三価単鎖Fv抗体がさらに提供される。開示されているシングルドメインモノクローナル抗体と、異なる抗原またはエピトープに特異的な第2の抗体(または抗原結合性断片)とを含む二重特異性モノクローナル抗体も提供される。
【0012】
本明細書に開示されるシングルドメインモノクローナル抗体、融合タンパク質、二価抗体、三価単鎖Fvまたは二重特異性抗体をコードする核酸分子がさらに提供される。一部のインプリメンテーションでは、核酸分子は、異種プロモーター等のプロモーターに作動可能に連結される。開示されている核酸分子を含むベクター、およびそのようなベクターを含む宿主細胞も提供される。
【0013】
薬学的に許容される担体と、本明細書に開示されるシングルドメインモノクローナル抗体、融合タンパク質、二価抗体、三価単鎖Fv、二重特異性抗体、核酸分子またはベクターとを含む組成物も提供される。
【0014】
SARS-CoV-2スパイクタンパク質に特異的に結合するシングルドメインモノクローナル抗体を産生する方法がさらに提供される。一部のインプリメンテーションでは、方法は、宿主細胞において開示されているシングルドメインモノクローナル抗体をコードする核酸分子を発現させるステップと、シングルドメインモノクローナル抗体を精製するステップとを含む。
【0015】
対象由来の生体試料におけるコロナウイルスの存在を検出する方法も提供される。一部のインプリメンテーションでは、方法は、免疫複合体を形成するのに十分な条件下で、生体試料を、有効量の本明細書に開示されるシングルドメインモノクローナル抗体と接触させるステップと、生体試料における免疫複合体の存在を検出するステップとを含む。生体試料における免疫複合体の存在は、試料におけるコロナウイルスの存在を指し示す。
【0016】
対象におけるコロナウイルス感染を阻害する方法がさらに提供される。一部のインプリメンテーションでは、方法は、有効量の本明細書に開示されるシングルドメインモノクローナル抗体、組成物、融合タンパク質、二価抗体、三価単鎖Fv、二重特異性抗体、核酸分子またはベクターを対象に投与するステップを含む。
【0017】
本開示の前述および他の目的および特色は、添付の図面を参照しつつ進む次の詳細な説明からより明らかとなるであろう。
【図面の簡単な説明】
【0018】
【
図1A】ACE2との相互作用を遮断する抗SARS-CoV-2スパイクRBDナノボディの発見。(
図1A)合成ヒト化ラマナノボディライブラリーの構築のためのパラメーター。(
図1B)ファージパニングを使用した抗RBDナノボディの同定のための選択戦略の概略図。(
図1C)RBD-mFcに対するRBD-1-1E、RBD-2-1FおよびRBD-1-2GのOctet結合プロファイル(200nMから12.5nMへと、1:2希釈)。(
図1D)RBD-mFcおよびS1-hFcへのナノボディ結合の会合(k
on)および解離(k
off)速度定数ならびに平衡解離定数(K
D)。RBD-1-1E、RBD-2-1FおよびRBD-1-2Gのためのグローバルフィット計算は、200nMから12.5nMを使用した;他は全て、200nMから50nMを使用した。(
図1E)AlphaLISAアッセイを使用したACE2-AviへのRBD-Fc結合のナノボディ媒介性阻害。
【
図2A-C】多価性(Multivalency)は、in vitroで親和性およびSARS-CoV-2感染の阻害を改善する。(
図2A~
図2C)RBD-Hisに対する(
図2A)RBD-1-2G Nb、(
図2B)RBD-1-2G-Fcおよび(
図2C)RBD-1-2G-三量体のためのOctet結合プロファイル(100nMから6.25nMへと、1:2希釈)。(
図2D~
図2E)受容体結合を可視化するためのQD
608-RBDおよびACE2-GFP HEK293T細胞を使用したQDエンドサイトーシスアッセイ。(
図2D)ナノボディおよび(
図2E)Fc構築物によるRBD内部移行の低減におけるナノボディ有効性が示される。N=2回繰り返しウェル、それぞれおよそ2500個の細胞および1600個の細胞。(
図2F~
図2G)標的としてHEK293-ACE2細胞を使用したSARS-CoV-2シュードタイプ化粒子侵入アッセイ。シュードタイプ化粒子侵入の阻害を、ナノボディ(
図2F)およびFc(
図2G)構築物について検査した。2回の独立した実験から得られる代表的なデータ。データは、濃度当たりの平均阻害を表し(n=3)、全てのエラーバーは、SEMを表す。(
図2H)様々なフォーマットにおけるRBD-1-2GおよびRBD-2-1FによるSARS-CoV-2の生きているウイルス感染の阻害。n=2による代表的な生物学的複製。技術的複製は、濃度当たりn=2であり、全てのエラーバーは、S.D.を表す。
【
図3】SARS-CoV-2スパイク三量体およびRBD結合ナノボディのクライオEM。(
図3A)RBD(アップ状態)と複合体形成したナノボディのクライオEM解析は、2種の別個の結合機序を明らかにした。(
図3B)3分子のRBD-1-2Gと複合体形成したS-タンパク質のクライオEMマップの上面図および側面図。(
図3C)画像処理の際に緻密化されたスパイク単量体領域を強調するS-タンパク質の側面図を示す。横たえた(laid)状態のRBDを含有する密度を原子モデルフィッティング緻密化に使用した。
【
図4】UKバリアント(N501Y)に結合するRBD-1-2Gの能力の試験。(
図4A)野生型(WT)および英国(UK)バリアントRBDに結合するRBD-1-2G-Fcによって会合相において最大応答値に達した。pHの差は、PBS(7.4pH)または10mM酢酸塩緩衝剤と150mM NaCl(pH4~pH6.0)を使用して達成され、全ての緩衝剤が、0.1%BSAおよび0.02%Tween(登録商標)を含有した。(
図4B)WTおよびUKバリアントS1タンパク質に結合するRBD-1-2G-Fcによって会合相において最大応答値に達した。(
図4C~
図4D)標的としてHEK293-ACE2細胞を使用したSARS-CoV-2シュードタイプ化粒子侵入アッセイ。様々なRBD-1-2GおよびRBD-2-1Fフォーマットで処置されたWT(
図4C)およびUK(
図4D)シュードタイプ化粒子の阻害。n=2による代表的な生物学的複製。技術的複製は、濃度当たりn=3であり、全てのエラーバーは、S.D.を表す。
【
図5A-B】野生型およびB.1.1.7 RBDバリアントによるRBD-1-2Gの分子動力学。(
図5A~
図5B)WT RBD(
図5A)およびB.1.1.7 RBD(
図5B)と複合体形成したRBD-1-2Gのソーセージ(Sausage)プロット表示。最も大きい可動性を示す領域が指し示されている(470~490および355~375)。(
図5C)結合の総自由エネルギーに関するWT RBDおよびB.1.1.7(N501Y)RBDと複合体形成したRBD-1-2G残基のエネルギー寄与。最高の寄与は、残基R76(RBD-1-2G)およびE484(RBD)について観察される。(
図5D~
図5E)E484(RBD)が関与する相互作用の差を強調する、RBD-1-2Gと複合体形成した(
図5D)WT RBDおよび(
図5E)B.1.1.7 RBDの原子モデルフィッティングおよび分子動力学(MD)シミュレーションの後に得られた原子モデル。
【
図6A-C】ナノボディ精製および品質管理。(
図6A)代表的なIMAC精製。T-総タンパク質(ライセート)、L-カラムロード(清澄化されたライセート)、FT-カラムフロースルー、W-カラム洗浄液。(
図6B)サイズ排除カラム精製(SEC)後の代表的な調製用SDS-PAGE。L-カラムロード。(
図6C)精製されたナノボディのSDS-PAGEクーマシーブルー染色。
図6A~
図6C中のゲルは全て、SDS-PAGE/クーマシー染色であり、タンパク質標準の質量はkDa単位で記述されている。実線のバーは、プールされた画分を指し示す。(
図6D)代表的な精製されたナノボディのエレクトロスプレーイオン化質量分析(ESI-MS)。
【
図7A-F】200nM、100nMおよび50nMの濃度でRBD-mFCに結合する固定化されたナノボディに関するOctet結合プロファイル。
【
図8A-F】200nM、100nMおよび50nMの濃度でS1-hFcに結合する固定化されたナノボディに関するOctet結合プロファイル。RBD-1-2G(
図8C)、RBD-2-1F(
図8B)およびRBD-1-1E(
図8A)は、25nMおよび12.5nMの濃度も含んだ。
【
図9A】ナノボディ処置によるQD ACE2-GFPエンドサイトーシスアッセイ。(
図9A)QDエンドサイトーシスのナノボディ阻害に関する代表的な画像。10μMの濃度で開始したRBD-2-1F、RBD-1-2G、RBD-1-1EまたはRBD-2-1Eと共に30分間プレインキュベートされた、QD
608-RBDで処置されたACE2-GFP HEK293T細胞の代表的な画像モンタージュ。細胞を総計3時間処置した。デジタル位相差(DPC)を使用して、細胞体を可視化した。スケールバー、20μm。(
図9B~
図9C)各チャネルにおいてハイコンテンツ画像解析を使用した(
図9B)QD
608-RBDおよび(
図9C)ACE2-GFPの定量化。データを、Optimem I処置細胞(100%)およびQD608-RBD単独(0%)に対して正規化した。N=2回繰り返しウェル由来のおよそ2500個の細胞、3回の独立した実験の代表。非線形回帰を使用して曲線をフィットさせる。エラーバーは、S.D.を指し示す。
【
図10A】Fc処置によるQD ACE2-GFPエンドサイトーシスアッセイ。(
図10A)QDエンドサイトーシスのFc阻害に関する代表的な画像。5μMまたは10μMの濃度で開始したRBD-2-1F-Fc、RBD-1-2G-Fc、RBD-1-1E-FcまたはRBD-2-1E-Fcと共に30分間プレインキュベートされた、QD
608-RBDで処置されたACE2-GFP HEK293T細胞の代表的な画像モンタージュ。細胞を総計3時間処置した。デジタル位相差(DPC)を使用して、細胞体を可視化した。スケールバー、20μm。(
図10B~
図10C)各チャネルにおいてハイコンテンツ画像解析を使用した(
図10B)QD
608-RBDおよび(
図10C)ACE2-GFPの定量化。データを、Optimem I処置細胞(100%)およびQD608-RBD単独(0%)に対して正規化した。N=2回繰り返しウェル由来のおよそ1600個の細胞、3回の独立した実験の代表。非線形回帰を使用して曲線をフィットさせる。エラーバーは、S.D.を指し示す。
【
図11】RBD-mFcに結合する1-2G-Fcおよび2-1F-Fcのグローバルフィット曲線。(
図11A~
図11B)ロードタンパク質としてRBD-1-2G-Fc(
図11A)またはRBD-2-1F-Fc(
図11B)のいずれかを使用したOctet結合プロファイル。200nMから6.25nM(1:2系列希釈)の範囲に及ぶRBD-mFcの会合をグローバル曲線フィッティングのために使用した。(
図11C~
図11D)OctetバイオセンサーにRBD-mFcをロードし、次いで様々な濃度のRBD-1-2G-Fc(
図11C)またはRBD-2-1F-Fc(
図11D)(200nMから6.25nMへと、1:2系列希釈)に曝露した。(
図11E)
図11A~
図11Dに関するグローバルフィットモデル化由来の計算。
【
図12】非ブロッカーに関するSARS-CoV-2シュードタイプ化粒子アッセイ。ナノボディ(
図12A)およびFc(
図12B)フォーマットに関するSARS-CoV-2シュードタイプ化粒子侵入アッセイ。
【
図13】RBD/ACE2/ナノボディ相互作用の原子フィットモデル。(
図13A)RBD-1-2G結合のモデルは、ACE2結合部位と重複するが、RBD-1-1Gは、結合を阻害することができない。(
図13B)同様のエピトープを示唆するRBD-2-1FおよびRBD-1-2Gの重複は、「グループ1」結合剤によって標的化される。
【
図15】クライオEMワークフローチャートおよび緻密化戦略。
【
図16】RBD-1-2Gナノボディにおける凍結乾燥の効果。RBD-1-2G vs 凍結乾燥され復元された試料を、生きているウイルスの感染を阻害するそれらの能力について検査した。上位濃度は、無処置RBD-1-2Gでは15.2μM、復元された凍結乾燥RBD-1-2G試料では15.8μMであり、これは次いで、dPBSにおける1:2希釈を使用して希釈された。技術的複製は、濃度当たりn=3であり、全てのエラーバーは、S.D.を表す。(
図16B)生きているウイルスアッセイからのパーセントCPEレスキューの棒グラフ。
【
図17】(
図17A)WT RBDおよび(
図17B)B.1.1.7 RBDと複合体形成したRBD-1-2Gに関するカラム当たりのMD3回繰り返しの平均二乗偏差(RMSD)は、系が安定していることを示した。
【
図18】変形形態の同じパターンを示す(
図18A)WT RBD残基および(
図18B)B.1.1.7 RBD残基に関する二乗平均平方根変動(Root mean square fluctuation)(RMSF)。両方のグラフが、残基355~375および470~490に対応する2個の主要ピークを示す。(
図18C~
図18D)(
図18C)WT RBDおよび(
図18D)B.1.1.7 RBDと複合体形成したRBD-1-2Gの残基の変動。
【
図19A】RBD-1-2Gと(
図19A)WT RBDおよび(
図19B)B.1.1.7 RBDを含有する系(カラム当たり)に関する、3回繰り返したMDシミュレーションの時間当たりの水素結合および塩橋相互作用。
【
図20】交差反応性スクリーニングにおいて同定されたヒト膜プロテオームアレイ(MPA)結果(
図20A)。RBD-1-2Gに対するMIEF1タンパク質の反応性を決定するための追跡検証スクリーニング(
図20B)。
【
図21】WTおよびB.1.1.7バリアントにおけるRBD-1-2G vs RBDにおける残基のヒートマップ。
【発明を実施するための形態】
【0019】
配列表
配列表は、4239-107021-02.xmlと命名され、2022年9月1日に作成され、8,469バイトのサイズを有し、参照により本明細書に組み込まれる、ST.26 Sequence Listing XMLファイルとして提出される。添付の配列表中:
配列番号1は、フレームワーク1(FR1)のアミノ酸配列である:
EVQLVESGGGLVQPGGSLRLSCAAS
配列番号2は、フレームワーク2(FR2)のアミノ酸配列である:
MGWFRQAPGKGRELVAA
配列番号3は、フレームワーク3(FR3)のアミノ酸配列である:
YPDSVEGRFTISRDNAKRMVYLQMNSLRAEDTAVYYCA
配列番号4は、フレームワーク4(FR4)のアミノ酸配列である:
WGQGTQVTVSS
配列番号5は、シングルドメイン抗体RBD-1-2Gのアミノ酸配列である:
【化1】
配列番号6は、タンパク質タグのアミノ酸配列である:
GQAGQHHHHHHGAYPYDVPDYAS(配列中、残基1~5、12~13および23は、スペーサー残基であり、残基6~11は、Hisタグであり、残基14~22は、ヒトインフルエンザ赤血球凝集素(HA)タグである)。
配列番号7は、ランダム化されたCDR1のアミノ酸コンセンサス配列である:GX
1IX
2X
3(配列中、X
1は、N、S、TまたはYであり;X
2は、FまたはSであり;X
3は、Y、G、D、A、R、S、V、F、L、T、E、P、W、H、K、I、M、NおよびQから個々に選択される1~4個のアミノ酸残基である)(
図1Aを参照)。
配列番号8は、ランダム化されたCDR2のアミノ酸コンセンサス配列である:IX
1X
2X
2GX
3X
4TX
5(配列中、X
1は、A、D、G、N、SまたはTであり;X
2は、Y、G、D、A、R、S、V、F、L、T、E、P、W、H、K、I、M、NおよびQから選択されるいずれかのアミノ酸であり;X
3は、A、G、SまたはTであり;X
4は、I、N、SまたはTであり;X
5は、NまたはYである)(
図1Aを参照)。
配列番号9は、ペプチドリンカーのアミノ酸配列である(GGGGSGGGGSGGGGS)。
配列番号10は、突然変異したフューリン部位のアミノ酸配列である(GSAS)。
【0020】
詳細な説明
I.略語
ACE2 アンジオテンシン変換酵素2
CDR 相補性決定領域
CFU コロニー形成単位
CoV コロナウイルス
CPE 細胞変性効果
CV カラム体積
EB 平衡化緩衝剤
FP 融合ペプチド
GFP 緑色蛍光タンパク質
IMAC 固定化金属親和性クロマトグラフィー
MD 分子動力学
MLV マウス白血病ウイルス
MPA 膜プロテオームアレイ
Nb ナノボディ
PP シュードタイプ化粒子
QD 量子ドット
RBD 受容体結合ドメイン
RBM 受容体結合モチーフ
RMSD 平均二乗偏差
RMSF 二乗平均平方根変動
RT 室温
S スパイク
SARS 重症急性呼吸器症候群
SEC サイズ排除クロマトグラフィー
UK 英国
WT 野生型
【0021】
II.用語の概要
他に記述がなければ、技術用語は、慣例的な用法に従って使用される。分子生物学における多くの共通用語の定義は、Krebs et al. (eds.), Lewin's genes XII, published by Jones & Bartlett Learning, 2017に見出すことができる。本明細書で使用される場合、単数形「ある(a)」、「ある(an)」および「その(the)」は、文脈がそれ以外のことを明らかに指し示さない限り、単数と複数の両方を指す。例えば、用語「ある抗原(an antigen)」は、単数または複数の抗原を含み、語句「少なくとも1つの抗原」と均等であると考慮することができる。本明細書で使用される場合、用語「を含む(comprises)」は、「を含む(includes)」を意味する。他に指示がなければ、ありとあらゆる塩基サイズまたはアミノ酸サイズや、あらゆる分子量または分子質量値は、核酸またはポリペプチドに付けられる場合、近似であり、説明目的で提供されることをさらに理解されたい。本明細書に記載されているものと同様のまたは均等な多くの方法および材料を使用することができるが、特定の適した方法および材料が本明細書に記載されている。矛盾がある場合、用語の説明を含む本明細書が優先されるものとする。加えて、材料、方法および実施例は、単なる説明であり、限定を意図するものではない。
【0022】
様々なインプリメンテーションの概説を容易にするために、次の用語説明が提供される:
【0023】
約:文脈が、それ以外のことを指し示していない限り、「約」は、参照値のプラスマイナス5%を指す。例えば、「約」100は、95~105を指す。
【0024】
投与:選ばれた経路による対象への開示されている抗体等の薬剤の導入。投与は、局所性または全身性であり得る。例えば、選ばれた経路が血管内である場合、薬剤(抗体等)は、対象の血管内に組成物を導入することにより投与される。例示的な投与経路は、経口、注射(皮下、筋肉内、皮内、腹腔内および静脈内等)、舌下、直腸、経皮(例えば、外用)、鼻腔内、腟および吸入経路を含むがこれらに限定されない。
【0025】
アミノ酸置換:ポリペプチドにおけるある1個のアミノ酸の、異なるアミノ酸による置換え。
【0026】
抗体:SARS-CoV-2由来のスパイクタンパク質等のコロナウイルススパイクタンパク質等の分析物(抗原)に特異的に結合および認識する免疫グロブリン、その抗原結合性断片または誘導体。用語「抗体」は、最も広い意味で本明細書において使用されており、モノクローナル抗体、ポリクローナル抗体、多重特異性抗体(例えば、二重特異性抗体)、シングルドメイン抗体および抗原結合性断片を含むがこれらに限定されない様々な抗体構造を、それらが所望の抗原結合活性を示す限りにおいて包含する。
【0027】
抗体の非限定的な例は、例えば、抗原に対する結合親和性を保持するインタクトな免疫グロブリンならびにそのバリアントおよび断片を含む。抗原結合性断片の例は、Fv、Fab、Fab’、Fab’-SH、F(ab’)2;ダイアボディ(diabody);線形抗体;単鎖抗体分子(例えば、scFv);および抗体断片から形成された多重特異性抗体を含むがこれらに限定されない。抗体断片は、完全抗体の修飾によって産生された抗原結合性断片か、または組換えDNA方法論を使用してde novo合成された抗原結合性断片を含む(例えば、Kontermann and Dubel (Eds.), Antibody Engineering, Vols. 1-2, 2nd ed., Springer-Verlag, 2010を参照)。
【0028】
抗体は、キメラ抗体(ヒト化マウス抗体等)およびヘテロコンジュゲート抗体(二重特異性抗体等)等、遺伝子操作された形態も含む。
【0029】
抗体は、1個または複数の結合部位を有することができる。2個以上の結合部位が存在する場合、結合部位は、互いに同一であっても、異なっていてもよい。例えば、天然に存在する免疫グロブリンは、2個の同一の結合部位を有し、単鎖抗体またはFab断片は、1個の結合部位を有するが、二重特異性または二機能性抗体は、2個の異なる結合部位を有する。
【0030】
典型的には、天然に存在する免疫グロブリンは、ジスルフィド結合によって相互接続された重(H)鎖および軽(L)鎖を有する。哺乳動物免疫グロブリン遺伝子は、カッパー、ラムダ、アルファ、ガンマ、デルタ、イプシロンおよびミュー定常領域遺伝子、ならびに多種多様な免疫グロブリン可変ドメイン遺伝子を含む。2つの型の軽鎖、ラムダ(λ)およびカッパー(κ)が存在する。哺乳動物抗体分子の機能活性を決定する5つの主要な重鎖クラス(またはアイソタイプ)が存在する:IgM、IgD、IgG、IgAおよびIgE。哺乳動物において見出されない抗体アイソタイプは、IgX、IgY、IgWおよびIgNARを含む。IgYは、鳥類および爬虫類によって産生される主な抗体であり、哺乳動物IgGおよびIgEと同様のいくつかの機能性を有する。IgWおよびIgNAR抗体は、軟骨魚類によって産生され、一方、IgX抗体は、両生類において見出される。
【0031】
各重および軽鎖は、定常領域(または定常ドメイン)および可変領域(または可変ドメイン)を含有する。組み合わさって、重および軽鎖可変領域は、抗原に特異的に結合する。
【0032】
「VH」または「VH」の参照は、Fv、scFv、dsFvまたはFab等の抗原結合性断片のものを含む、抗体重鎖の可変領域を指す。「VL」または「VL」の参照は、Fv、scFv、dsFvまたはFabのものを含む、抗体軽鎖の可変ドメインを指す。
【0033】
VHおよびVLは、「相補性決定領域」または「CDR」とも呼ばれる3つの高頻度可変領域によって中断された「フレームワーク」領域を含有する(例えば、Kabat et al., Sequences of Proteins of Immunological Interest, 5th ed., NIH Publication No. 91-3242, Public Health Service, National Institutes of Health, U.S. Department of Health and Human Services, 1991を参照)。異なる軽または重鎖のフレームワーク領域の配列は、種内で相対的に保存されている。構成物軽および重鎖の組み合わされたフレームワーク領域である抗体のフレームワーク領域は、三次元空間においてCDRの位置を定め整列させる役立つ。
【0034】
CDRは主に、抗原のエピトープへの結合の原因となる。所与のCDRのアミノ酸配列境界は、Kabatら(Sequences of Proteins of Immunological Interest, 5th ed., NIH Publication No. 91-3242, Public Health Service, National Institutes of Health, U.S. Department of Health and Human Services, 1991;「Kabat」番号付けスキーム)、Al-Lazikaniら("Standard conformations for the canonical structures of immunoglobulins," J. Mol. Bio., 273(4):927-948, 1997;「Chothia」番号付けスキーム)およびLefrancら("IMGT unique numbering for immunoglobulin and T cell receptor variable domains and Ig superfamily V-like domains," Dev. Comp. Immunol., 27(1):55-77, 2003;「IMGT」番号付けスキーム)によって記載されているもの含む、多数の周知スキームのいずれかを使用して容易に決定することができる。各鎖のCDRは典型的に、CDR1、CDR2およびCDR3(N末端からC末端へと)と称され、また、典型的に、特定のCDRが配置された鎖によって同定される。よって、VH CDR3は、それが見出される抗体のVH由来のCDR3である一方で、VL CDR1は、それが見出される抗体のVL由来のCDR1である。軽鎖CDRは時に、LCDR1、LCDR2およびLCDR3と称される。重鎖CDRは時に、HCDR1、HCDR2およびHCDR3と称される。
【0035】
一部のインプリメンテーションでは、開示されている抗体は、異種定常ドメインを含む。例えば、抗体は、半減期を増加させる1個または複数の修飾(「LS」突然変異等)を含む定常ドメイン等、ネイティブ定常ドメインとは異なる定常ドメインを含む。
【0036】
「モノクローナル抗体」は、実質的に均一な抗体の集団から得られる抗体である、すなわち、例えば、天然に存在する突然変異を含有するかまたはモノクローナル抗体調製物の産生の際に生じる可能なバリアント抗体を除いて、集団を構成する個々の抗体は、同一でありおよび/または同じエピトープに結合し、そのようなバリアントは一般に、少量存在する。異なる決定基(エピトープ)に対して作製された異なる抗体を典型的に含むポリクローナル抗体調製物とは対照的に、モノクローナル抗体調製物の各モノクローナル抗体は、抗原における単一の決定基に対して作製されている。よって、修飾語「モノクローナル」は、抗体の実質的に均一な集団から得られるものとしての抗体の特徴を指し示し、いずれか特定の方法による抗体の産生を要求するものとして解釈されるべきではない。例えば、モノクローナル抗体は、ハイブリドーマ法、組換えDNA法、ファージディスプレイ法、およびヒト免疫グロブリン遺伝子座の全てまたは一部を含有するトランスジェニック動物を利用した方法を含むがこれらに限定されない、種々の技法によって作製することができ、モノクローナル抗体を作製するためのそのような方法および他の例示的な方法は、本明細書に記載されている。一部の例では、シングルドメイン抗体は、ファージディスプレイライブラリーから単離される。モノクローナル抗体は、抗原結合においても他の免疫グロブリン機能においても実質的にいかなる効果もない保存的アミノ酸置換を有することができる(例えば、Greenfield (Ed.), Antibodies: A Laboratory Manual, 2nd ed. New York: Cold Spring Harbor Laboratory Press, 2014を参照)。
【0037】
「シングルドメイン抗体」は、追加の抗体ドメインの非存在下で、抗原または抗原のエピトープに特異的に結合することができるシングルドメイン(可変ドメイン)を有する抗体を指す。シングルドメイン抗体は、例えば、ラクダ類VHH抗体、VNAR抗体、VHドメイン抗体およびVLドメイン抗体を含む。VNAR抗体は、コモリザメ(nurse shark)、テンジクザメ(wobbegong shark)、アブラツノザメ(spiny dogfish)およびバンブーシャーク(bamboo shark)等の軟骨魚類によって産生される。ラクダ類VHH抗体は、天然に軽鎖を欠く重鎖抗体を産生する、ラクダ、ラマ、アルパカ、ヒトコブラクダおよびグアナコを含むいくつかの種によって産生される。
【0038】
本開示の文脈では、「二価抗体」は、2個のシングルドメインモノクローナル抗体(「ナノボディ」)単量体を含む分子である。一部のインプリメンテーションでは、単量体は、Ig Fc領域に融合される(
図2Bにおける概略図を参照)。
【0039】
本開示の文脈では、「三価単鎖Fv」は、3個のシングルドメイン抗体(「ナノボディ」)単量体を含む分子である。一部のインプリメンテーションでは、単量体は、可動性ペプチドリンカーによって接続される(
図2Cにおける概略図を参照)。
【0040】
「ヒト化」抗体または抗原結合性断片は、ヒトフレームワーク領域と、非ヒト(マウス、ラットまたは合成等)抗体または抗原結合性断片由来の1個または複数のCDRとを含む。CDRを提供する非ヒト抗体または抗原結合性断片は、「ドナー」と名付けられ、フレームワークを提供するヒト抗体または抗原結合性断片は、「アクセプター」と名付けられる。1つのインプリメンテーションでは、CDRは全て、ヒト化免疫グロブリンにおけるドナー免疫グロブリン由来である。定常領域は、存在する必要はないが、存在する場合、少なくとも約85~90%、例えば、約95%またはそれよりも多く同一等、ヒト免疫グロブリン定常領域と実質的に同一であり得る。したがって、おそらくCDRを除いた、ヒト化抗体または抗原結合性断片の全ての部分が、天然ヒト抗体配列の対応する部分と実質的に同一である。
【0041】
「キメラ抗体」は、典型的には異なる種のものである2種の異なる抗体に由来する配列を含む抗体である。一部の例では、キメラ抗体は、ある1種のヒト抗体由来の1個または複数のCDRおよび/またはフレームワーク領域、ならびに別のヒト抗体由来のCDRおよび/またはフレームワーク領域を含む。
【0042】
「完全にヒト抗体」または「ヒト抗体」は、ヒトゲノム由来の(またはそれに由来する)配列を含み、別の種由来の配列を含まない抗体である。一部のインプリメンテーションでは、ヒト抗体は、ヒトゲノム由来の(またはそれに由来する)CDR、フレームワーク領域および(存在するのであれば)Fc領域を含む。ヒト抗体は、例えば、ファージディスプレイまたはトランスジェニック動物の使用により、ヒトゲノムに由来する配列に基づき抗体を創出するための技術を使用して同定および単離することができる(例えば、Barbas et al. Phage display: A Laboratory Manuel. 1st Ed. New York: Cold Spring Harbor Laboratory Press, 2004. Print.;Lonberg, Nat. Biotech., 23: 1117-1125, 2005;Lonenberg, Curr. Opin. Immunol., 20:450-459, 2008を参照)。
【0043】
SARS-CoV-2を中和する抗体:感染を阻害する、SARS-CoV-2に関連する生物学的機能を阻害するような仕方で、SARS-CoV-2抗原(スパイクタンパク質等)に特異的に結合するシングルドメインモノクローナル抗体等の抗体。抗体は、SARS-CoV-2の活性を中和することができる。例えば、SARS-CoV-2を中和する抗体は、それに直接的に結合し、細胞への侵入を限定することによりウイルスに干渉することができる。その代わりに、抗体は、例えば、受容体を使用したウイルス侵入に干渉することにより、受容体と病原体との1種または複数の取付け後(post-attachment)相互作用に干渉することができる。一部の例では、コロナウイルススパイクタンパク質に特異的な抗体は、SARS-CoV-2の感染力価を中和する。
【0044】
一部のインプリメンテーションでは、SARS-CoV-2に特異的に結合し、SARS-CoV-2を中和する抗体は、細胞の感染を、例えば、対照抗体または抗原結合性断片と比較して少なくとも50%阻害する。
【0045】
「広く中和する抗体」は、抗原の抗原表面と少なくとも85%、90%、95%、96%、97%、98%または99%同一性を共有する抗原等の関連抗原に結合し、その機能を阻害する抗体である。ウイルス等の病原体由来の抗原に関して、抗体は、病原体の2つ以上のクラスおよび/またはサブクラス由来の抗原に結合し、その機能を阻害することができる。例えば、コロナウイルスに関して、抗体は、SARS-CoV-2を含むコロナウイルス由来のスパイクタンパク質等の抗原に結合し、その機能を阻害することができる。
【0046】
抗原:動物に注射または吸収される組成物を含む、動物における抗体またはT細胞応答の産生を刺激することができる化合物、組成物または物質。抗原は、異種免疫原によって誘導されるものを含む、特異的な液性または細胞性免疫の産物と反応する。本明細書における一部のインプリメンテーションでは、抗原は、SARS-CoV-2スパイクタンパク質等のウイルス抗原である。
【0047】
結合親和性:抗原に対する抗体の親和性。一実施形態では、親和性は、Frankel et al., Mol. Immunol., 16:101-106, 1979によって記載されているスキャッチャード法の修正によって計算される。別の実施形態では、結合親和性は、抗原/抗体解離速度によって測定される。別の実施形態では、高い結合親和性は、競合ラジオイムノアッセイによって測定される。別の実施形態では、結合親和性は、ELISAによって測定される。一部の実施形態では、結合親和性は、バイオレイヤーインターフェロメトリー(bio-layer interferometry)(BLI)技術に基づくOctet系(Creative Biolabs)を使用して測定される。他の実施形態では、Kdは、BIACORES-2000またはBIACORES-3000(BIAcore,Inc.、Piscataway、N.J.)を使用した表面プラズモン共鳴アッセイを使用して測定される。他の実施形態では、抗体親和性は、フローサイトメトリーまたは表面プラズモン共鳴によって測定される。抗原(コロナウイルススパイクタンパク質等)に「特異的に結合する」抗体は、高い親和性で抗原に結合し、他の無関係な抗原には有意に結合しない抗体である。
【0048】
生体試料:対象から得られる試料。生体試料は、細胞、組織ならびに体液、例えば、血液、血液の派生物および画分(血清等)、脳脊髄液、ならびに生検または外科的に除去された組織、例えば、固定されていない、凍結された、またはホルマリンもしくはパラフィン中で固定された組織を含むがこれらに限定されない、対象における疾患または感染の検出に有用なあらゆる臨床試料を含む。特定の例では、生体試料は、SARS-CoV-2感染を有するかまたはそれを有することが疑われる対象から得られる。
【0049】
二重特異性抗体:2個の異なる抗原エピトープに結果的に結合する2個の異なる抗原結合性ドメインで構成される組換え分子。二重特異性抗体は、2個の抗原結合性ドメインの化学的にまたは遺伝学的に連結された分子を含む。抗原結合性ドメインは、リンカーを使用して連結することができる。抗原結合性ドメインは、モノクローナル抗体、抗原結合性断片(例えば、Fab、scFv)またはそれらの組合せであり得る。二重特異性抗体は、1個または複数の定常ドメインを含むことができるが、必ずしも定常ドメインを含まない。
【0050】
免疫複合体を形成するのに十分な条件:抗体が、実質的に全ての他のエピトープへの結合よりも検出可能に大きい程度まで、および/またはその実質的な排除まで、その同族エピトープに結合することを可能にする条件。免疫複合体を形成するのに十分な条件は、結合反応のフォーマットに依存し、典型的に、イムノアッセイプロトコールにおいて利用される条件またはin vivoで遭遇される条件である。イムノアッセイフォーマットおよび条件の説明については、Greenfield (Ed.), Antibodies: A Laboratory Manual, 2nd ed. New York: Cold Spring Harbor Laboratory Press, 2014を参照されたい。方法において用いられる条件は、生きている哺乳動物または哺乳動物細胞の典型的な内側にある条件(例えば、温度、容積オスモル濃度、pH)の参照を含む「生理的条件」である。いくつかの臓器は、極端な条件に曝されることが認識されるが、生物内(intra-organismal)および細胞内の環境は通常、pH7前後(例えば、pH6.0~pH8.0、より典型的にはpH6.5~7.5)に位置し、主な溶媒として水を含有し、0℃を上回りかつ50℃を下回る温度で存在する。容積オスモル濃度は、細胞生存率および増殖を支持する範囲内である。
【0051】
免疫複合体の形成は、従来方法、例えば、免疫組織化学(IHC)、免疫沈降(IP)、フローサイトメトリー、免疫蛍光顕微鏡、ELISA、イムノブロッティング(例えば、ウエスタンブロット)、磁気共鳴画像法(MRI)、コンピュータ断層撮影(CT)スキャン、X線検査および親和性クロマトグラフィーにより検出することができる。
【0052】
コンジュゲート:一体に連結された、例えば、共有結合によって一体に連結された2個の分子の複合体。一実施形態では、抗体は、エフェクター分子に連結される;例えば、検出可能な標識等のエフェクター分子に共有結合により連結された、SARS-CoV-2に特異的に結合する抗体。連結は、化学的または組換え手段によって為すことができる。一実施形態では、連結は、化学的であり、抗体部分およびエフェクター分子の間の反応は、2個の分子の間に形成される共有結合を産生して1個の分子を形成した。抗体およびエフェクター分子の間にペプチドリンカー(短いペプチド配列)が必要に応じて含まれてよい。コンジュゲートは、抗体およびエフェクター分子等、別々の機能性を有する2個の分子から調製され得るため、時に、「キメラ分子」と称されることもある。
【0053】
保存的バリアント:「保存的」アミノ酸置換は、標的タンパク質と相互作用するタンパク質の能力等、タンパク質の機能に実質的に影響を与えることも減少させることもない置換である。例えば、SARS-CoV-2-特異的抗体は、参照抗体配列と比較して、最大1、2、3、4、5、6、7、8、9または最大10個の保存的置換を含むことができ、スパイクタンパク質結合のための特異的結合活性および/またはSARS-CoV-2中和活性を保持することができる。保存的変形形態という用語は、置換されていない親アミノ酸の代わりに置換されたアミノ酸の使用も含む。
【0054】
コードされた配列における単一のアミノ酸または僅かなパーセンテージのアミノ酸(例えば、5%未満、一部の実施形態では、1%未満)を変更、付加または欠失させる個々の置換、欠失または付加は、変更があるアミノ酸の化学的に同様のアミノ酸による置換をもたらす、保存的変形形態である。
【0055】
次の6つの群は、互いに保存的置換であると考慮されるアミノ酸の例である:
1)アラニン(A)、セリン(S)、スレオニン(T);
2)アスパラギン酸(D)、グルタミン酸(E);
3)アスパラギン(N)、グルタミン(Q);
4)アルギニン(R)、リシン(K);
5)イソロイシン(I)、ロイシン(L)、メチオニン(M)、バリン(V);および
6)フェニルアラニン(F)、チロシン(Y)、トリプトファン(W)。
【0056】
非保存的置換は、コロナウイルススパイクタンパク質に特異的に結合する能力等、抗体の活性または機能を低減させる置換である。例えば、あるアミノ酸残基が、タンパク質の機能に必須である場合、他の点では保存的な置換であっても、当該活性を破壊し得る。よって、保存的置換は、目的のタンパク質の基本的な機能を変更させない。
【0057】
接触:直接的に物理的に会合した設置;in vivoまたはin vitroのいずれかで行われ得る固体および液体形態の両方を含む。接触は、ある1つの分子および別の分子の間の接触を含み、例えば、抗体等の別のポリペプチドに接触する、抗原等のある1つのポリペプチドの表面におけるアミノ酸が挙げられる。接触は、例えば、細胞と直接的に物理的に会合させて抗体を設置することによる、細胞の接触を含むこともできる。
【0058】
対照:参照標準。一部の実施形態では、対照は、陰性対照、例えば、コロナウイルスに感染していない健康な患者から得られる試料である。他の実施形態では、対照は、陽性対照、例えば、コロナウイルス感染と診断された患者から得られる組織試料である。さらに他の実施形態では、対照は、歴史的対照または標準参照値または値の範囲(以前に検査された対照試料、例えば、既知の予後もしくはアウトカムを有する患者の群、またはベースラインもしくは正常値を表す試料の群等)である。
【0059】
被験試料および対照の間の差は、増加または逆に減少であり得る。差は、定性的な差または定量的な差、例えば、統計的に有意な差であり得る。一部の例では、差は、対照と比べた、少なくとも約5%、例えば、少なくとも約10%、少なくとも約20%、少なくとも約30%、少なくとも約40%、少なくとも約50%、少なくとも約60%、少なくとも約70%、少なくとも約80%、少なくとも約90%、少なくとも約100%、少なくとも約150%、少なくとも約200%、少なくとも約250%、少なくとも約300%、少なくとも約350%、少なくとも約400%または少なくとも約500%の増加または減少である。
【0060】
コロナウイルス:重症呼吸器疾病を引き起こすことが公知である、ポジティブセンス一本鎖RNAウイルスの科。アルファコロナウイルスおよびベータコロナウイルス属由来の、ヒトに感染することが現在公知であるコロナウイルス科由来のウイルス。その上、ガンマコロナウイルスおよびデルタコロナウイルス属が、将来的にヒトに感染し得ると考えられる。
【0061】
ベータコロナウイルスの非限定的な例は、SARS-CoV-2、中東呼吸器症候群コロナウイルス(MERS-CoV)、重症急性呼吸器症候群コロナウイルス(SARS-CoV)、ヒトコロナウイルスHKU1(HKU1-CoV)、ヒトコロナウイルスOC43(OC43-CoV)、マウス肝炎ウイルス(MHV-CoV)、コウモリSARS様コロナウイルスWIV1(WIV1-CoV)およびヒトコロナウイルスHKU9(HKU9-CoV)を含む。アルファコロナウイルスの非限定的な例は、ヒトコロナウイルス229E(229E-CoV)、ヒトコロナウイルスNL63(NL63-CoV)、ブタ流行性下痢ウイルス(PEDV)および伝染性胃腸炎コロナウイルス(TGEV)を含む。デルタコロナウイルスの非限定的な例は、ブタデルタコロナウイルス(SDCV)である。
【0062】
ウイルスゲノムは、キャッピングされ、ポリアデニル化され、ヌクレオカプシドタンパク質でカバーされている。コロナウイルスビリオンは、スパイク(S)タンパク質と称されるI型融合糖タンパク質を含有するウイルスエンベロープを含む。大部分のコロナウイルスは、レプリカーゼ遺伝子による共通ゲノム組織化を有する。
【0063】
COVID-19:コロナウイルスSARS-CoV-2によって引き起こされる疾患。
【0064】
縮重バリアント:本開示の文脈では、「縮重バリアント」は、遺伝暗号の結果としての縮重である配列を含む、ポリペプチド(抗体重または軽鎖等)をコードするポリヌクレオチドを指す。20種の天然アミノ酸が存在し、その大部分は、2種以上のコドンによって指定される。したがって、ヌクレオチド配列によってコードされるペプチドのアミノ酸配列が変化しない限りにおいて、ペプチドをコードする全ての縮重ヌクレオチド配列が含まれる。
【0065】
検出可能な標識:第2の分子の検出を容易にするために抗体等の第2の分子に直接的にまたは間接的にコンジュゲートされる、検出可能な分子(検出可能なマーカーとしても公知)。例えば、検出可能な標識は、ELISA、分光光度法、フローサイトメトリー、顕微鏡または診断イメージング技法(CTスキャン、MRI、超音波、光ファイバー試験および腹腔鏡試験等)による検出が可能であり得る。検出可能なマーカーの具体的で非限定的な例は、フルオロフォア、化学発光剤、酵素による連結、放射性同位元素および重金属または化合物(例えば、MRIによる検出のための超常磁性酸化鉄ナノ結晶)を含む。検出可能なマーカーを使用するための方法、および様々な目的に適切な検出可能なマーカーの選択に関するガイダンスは、例えば、Green and Sambrook (Molecular Cloning: A Laboratory Manual, 4th ed., New York: Cold Spring Harbor Laboratory Press, 2012)およびAusubel et al. (Eds.) (Current Protocols in Molecular Biology, New York: John Wiley and Sons、2017年の補足を含む)に記述されている。
【0066】
検出:あるものの実存、存在または実態を同定すること。
【0067】
有効量:当該物質が投与される対象において所望の効果を達成するのに十分な、特異的物質の含量。例えば、これは、SARS-CoV-2感染等のコロナウイルス感染を阻害するのに、またはそのような感染の表面的な症状を測定可能に変更するのに必要な量であり得る。
【0068】
一例では、所望の応答は、SARS-CoV-2感染を阻害または低減または防止することである。SARS-CoV-2感染は、方法が有効となるために、完全に排除または低減または防止される必要はない。
【0069】
一部の実施形態では、コロナウイルススパイクタンパク質に結合する開示されている抗体(またはその組成物もしくはコンジュゲート)の有効量の投与は、SAR-CoV-2感染を、適した対照と比較して、所望の量、例えば、少なくとも10%、少なくとも20%、少なくとも50%、少なくとも60%、少なくとも70%、少なくとも80%、少なくとも90%、少なくとも95%、少なくとも98%またはさらには少なくとも100%(検出可能な感染の排除または防止)低減または阻害することができる(例えば、細胞の感染によって、またはコロナウイルスに感染した対象の数もしくはパーセンテージによって、または感染した対象の生存時間の増加によって、または感染に関連する症状の低減によって測定される通り)。
【0070】
感染を阻害するために対象に投与される、コロナウイルススパイクタンパク質に特異的に結合する抗体の有効量は、当該対象に関連する多数の因子、例えば、対象の全体的な健康および/または体重に応じて変動するであろう。有効量は、投薬量を変動させ、例えば、病原体力価の低減等、その結果生じる応答を測定することにより決定することができる。有効量は、様々なin vitro、in vivoまたはin situイムノアッセイにより決定することもできる。
【0071】
有効量は、以前のまたは後続の投与と組み合わせて、有効な応答の達成に寄与する部分用量を包含する。例えば、薬剤の有効量は、単一の用量において、またはいくつかの用量において、例えば、毎日において、数日間もしくは数週間持続する処置の経過において、投与することができる。しかし、有効量は、処置されている対象、処置されている状態の重症度および型、ならびに投与の様式に依存することができる。薬剤の単位剤形は、ある量で、または有効量の倍数で、例えば、無菌の構成成分を有するバイアル(例えば、貫通できる蓋を備えた)またはシリンジにおいて、パッケージングすることができる。
【0072】
エフェクター分子:所望の効果;例えば、エフェクター分子が標的化される細胞における所望の効果を有するもしくは生じることが意図される分子、または検出可能なマーカー。エフェクター分子は、例えば、ポリペプチドおよび小分子を含むことができる。一部のエフェクター分子は、2種以上の所望の効果を有するまたは生じることができる。
【0073】
エピトープ:抗原決定基。これは、特異的免疫応答を誘発するような、抗原性である分子上の特定の化学基またはペプチド配列であり、例えば、エピトープは、Bおよび/またはT細胞が応答する抗原の領域である。抗体は、コロナウイルススパイクタンパク質におけるエピトープ等、特定の抗原エピトープに結合することができる。
【0074】
発現:核酸配列の転写または翻訳。例えば、そのDNAがRNAまたはRNA断片へと転写され、一部の例では、それがプロセシングされてmRNAになるときに、コード核酸配列(遺伝子等)は発現され得る。そのmRNAがタンパク質またはタンパク質断片等のアミノ酸配列へと翻訳されるときにも、コード核酸配列(遺伝子等)は発現され得る。特定の例では、それがRNAへと転写されるときに、異種遺伝子は発現される。別の例では、そのRNAがアミノ酸配列へと翻訳されるときに、異種遺伝子は発現される。発現の調節は、転写、翻訳、RNA輸送およびプロセシング、mRNA等の中間分子の分解に関する制御、または産生後の特異的タンパク質分子の活性化、不活性化、区画化もしくは分解による制御を含むことができる。
【0075】
発現制御配列:それが稼働可能に連結した異種核酸配列の発現を調節する核酸配列。発現制御配列が、核酸配列の転写および適宜、翻訳を制御および調節する場合、発現制御配列は、核酸配列に稼働可能に連結される。よって、発現制御配列は、適切なプロモーター、エンハンサー、転写ターミネーター、タンパク質コード遺伝子の直前にある開始コドン(ATG)、イントロンのためのスプライスシグナル、mRNAの適正な翻訳を可能にするための当該遺伝子の正しい読み枠の維持、および停止コドンを含むことができる。用語「制御配列」は、最低でも、その存在が発現に影響し得る構成成分を含むことを意図し、その存在が有利となる追加の構成成分、例えば、リーダー配列および融合パートナー配列を含むこともできる。発現制御配列は、プロモーターを含むことができる。
【0076】
発現ベクター:発現されるべきヌクレオチド配列に稼働可能に連結された発現制御配列を含む組換えポリヌクレオチドを含むベクター。発現ベクターは、発現のための十分なシス作用性エレメントを含む;発現のための他のエレメントは、宿主細胞によってまたはin vitro発現系において供給され得る。発現ベクターの非限定的な例は、組換えポリヌクレオチドを取り込む、コスミド、プラスミド(例えば、ネイキッドのまたはリポソームに含有された)およびウイルス(例えば、レンチウイルス、レトロウイルス、アデノウイルスおよびアデノ随伴ウイルス)を含む。
【0077】
ポリヌクレオチドは、宿主の挿入された遺伝的配列の効率的な転写を容易にするプロモーター配列を含有する発現ベクターに挿入され得る。発現ベクターは典型的に、複製開始点、プロモーターと共に、形質転換された細胞の表現型選択を可能にする特異的核酸配列を含有する。
【0078】
Fc領域:最初の重鎖定常ドメインを除外した抗体の定常領域。Fc領域は一般に、IgA、IgDおよびIgGの最後の2個の重鎖定常ドメイン、ならびにIgEおよびIgMの最後の3個の重鎖定常ドメインを指す。Fc領域は、これらのドメインのN末端にある可動性ヒンジの一部または全てを含むこともできる。IgAおよびIgMについて、Fc領域は、尾部を含んでも含まなくてもよく、J鎖が結合していても結合していなくてもよい。IgGについて、Fc領域は典型的に、免疫グロブリンドメインCγ2およびCγ3、ならびに必要に応じてCγ1およびCγ2の間のヒンジの下部を含むと理解される。Fc領域の境界は変動し得るが、ヒトIgG重鎖Fc領域は通常、Fcカルボキシル末端までのC226またはP230に続く残基を含むと定義され、この番号付けはKabatに従う。IgAについて、Fc領域は、免疫グロブリンドメインCα2およびCα3、ならびに必要に応じてCα1およびCα2の間のヒンジの下部を含む。
【0079】
融合タンパク質:2個の異なる(異種)タンパク質の少なくとも一部分を含むタンパク質。
【0080】
異種:異なる遺伝的供給源に起源をもつこと。それが発現される細胞以外の遺伝的供給源に起源をもつ、細胞にとって異種である核酸分子。具体的で非限定的な一例では、scFv等のタンパク質をコードする異種核酸分子は、哺乳動物細胞等の細胞において発現される。細胞または生物において異種核酸分子を導入するための方法は、当技術分野で周知であり、例えば、電気穿孔、リポフェクション、パーティクルガン加速および相同組換えを含む、核酸による形質転換が挙げられる。
【0081】
宿主細胞:その中でベクターを増やし、そのDNAを発現させることができる細胞。細胞は、原核細胞または真核細胞であり得る。この用語は、対象宿主細胞のいずれかの後代も含む。複製の際に発生する突然変異が存在し得るため、全ての後代が、親細胞と同一でなくてもよいことが理解される。しかし、用語「宿主細胞」が使用されるときに、そのような後代が含まれる。
【0082】
免疫複合体:可溶性抗原への抗体(本明細書に開示されるシングルドメインモノクローナル抗体等)の結合は、免疫複合体を形成する。免疫複合体の形成は、従来方法、例えば、免疫組織化学、免疫沈降、フローサイトメトリー、免疫蛍光顕微鏡、ELISA、イムノブロッティング(例えば、ウエスタンブロット)、磁気共鳴画像法、CTスキャン、X線検査および親和性クロマトグラフィーにより検出することができる。
【0083】
疾患の阻害または処置:例えば、SARS-CoV-2感染等の疾患のリスクがある対象における、疾患または状態の完全発症の阻害。「処置」は、発症し始めた後に、疾患または病理学的状態の徴候または症状を軽快させる治療介入を指す。疾患または病理学的状態を参照した用語「軽快」は、処置のいずれかの観察可能な有益な効果を指す。疾患の阻害は、ウイルス感染のリスクの防止または低減等、疾患のリスクの防止または低減を含むことができる。有益な効果は、例えば、易罹患性対象における疾患の臨床症状の開始遅延、疾患の一部もしくは全ての臨床症状の重症度の低減、より遅い疾患進行、ウイルス負荷量の低減、対象の全体的な健康もしくは福祉の改善、または特定の疾患に特異的な他のパラメーターによって証明することができる。「予防的」処置は、病理の発症リスクを減少させる目的で、疾患の徴候を示さないかまたは初期徴候のみを示す対象に投与される処置である。
【0084】
用語「低減させる」は、参照薬剤と比較して、薬剤の投与後に疾患もしくは状態が定量的に縮小される場合、または薬剤の投与後に縮小される場合、薬剤が、疾患または状態を低減させるような、相対的な用語である。同様に、用語「防止する」は、疾患または状態の少なくとも1種の特徴が排除される限りにおいて、薬剤が、疾患または状態を完全に排除することを必ずしも意味しない。よって、感染が、例えば、薬剤の非存在下での感染の、または参照薬剤と比較して、少なくとも約50%、例えば、少なくとも約70%または約80%またはさらには約90%だけ、測定可能に縮小される限りにおいて、感染を低減または防止する組成物は、感染を排除することができるが、必ずしも完全でなくてもよい。
【0085】
単離された:当該構成成分が天然に存在する生物の細胞における他の生物学的構成成分、すなわち、他の染色体および染色体外DNAならびにRNA、ならびにタンパク質から実質的に分離された、それから離れた状態で産生された、またはそれと離れるように精製された、生物学的構成成分(核酸、ペプチド、タンパク質またはタンパク質複合体、例えば、抗体等)。よって、単離された核酸、ペプチドおよびタンパク質は、標準精製方法によって精製された核酸およびタンパク質を含む。この用語は、宿主細胞における組換え発現によって調製された核酸、ペプチドおよびタンパク質、ならびに化学合成された核酸も包括する。単離された核酸、ペプチドまたはタンパク質、例えば、抗体は、少なくとも50%、少なくとも60%、少なくとも70%、少なくとも80%、少なくとも90%、少なくとも95%、少なくとも96%、少なくとも97%、少なくとも98%または少なくとも99%純粋であり得る。
【0086】
リンカー:2個の分子を1個の近接分子へと連結するために、例えば、検出可能なマーカーを抗体に連結するために使用することができる二機能性分子。ペプチドリンカーの非限定的な例は、グリシン-セリンリンカーを含む。
【0087】
用語「コンジュゲート」、「連接」、「結合」または「連結」は、2個の分子を1個の近接分子にすること;例えば、2個のポリペプチドを1個の近接ポリペプチドへと連結すること、またはエフェクター分子もしくは検出可能なマーカー放射性核種もしくは他の分子をscFv等のポリペプチドに共有結合により取り付けることを指すことができる。連結は、化学的または組換え手段のいずれかによるものであり得る。「化学的手段」は、1個の分子を形成するように2個の分子の間に形成された共有結合が存在するような、抗体部分およびエフェクター分子の間の反応を指す。
【0088】
核酸(分子または配列):cDNA、mRNA、ゲノムDNA、および合成(化学合成等)DNAまたはRNAを限定することなく含む、デオキシリボヌクレオチドもしくはリボヌクレオチドポリマーまたはそれらの組合せ。核酸は、二本鎖(ds)または一本鎖(ss)であり得る。一本鎖の場合、核酸は、センス鎖またはアンチセンス鎖であり得る。核酸は、天然ヌクレオチド(A、T/U、CおよびG等)を含むことができ、天然ヌクレオチドのアナログ、例えば、標識されたヌクレオチドを含むことができる。
【0089】
「cDNA」は、一本鎖または二本鎖形態のいずれかにおいて、mRNAと相補的または同一であるDNAを指す。
【0090】
「コードする」は、ヌクレオチドの定義された配列(すなわち、rRNA、tRNAおよびmRNA)またはアミノ酸の定義された配列のいずれかを有する生物学的プロセスにおける他のポリマーおよび巨大分子の合成のための鋳型として機能する、遺伝子、cDNAまたはmRNA等、ポリヌクレオチドにおけるヌクレオチドの特異的配列の固有の特性、およびそれに起因する生物学的特性を指す。よって、遺伝子は、当該遺伝子によって産生されたmRNAの転写および翻訳が、細胞または他の生物システムにおいてタンパク質を産生する場合、タンパク質をコードする。そのヌクレオチド配列がmRNA配列と同一であり、通常配列表に提示される、コード鎖と、遺伝子またはcDNAの転写のための鋳型として使用される非コード鎖の両方が、当該遺伝子またはcDNAのタンパク質または他の産物をコードすると称され得る。他に指定がなければ、「アミノ酸配列をコードするヌクレオチド配列」は、互いの縮重バージョンであり、同じアミノ酸配列をコードする全てのヌクレオチド配列を含む。タンパク質およびRNAをコードするヌクレオチド配列は、イントロンを含むことができる。
【0091】
作動可能に連結された:第1の核酸配列が、第2の核酸配列と機能的な関係性で設置されている場合、第1の核酸配列は、第2の核酸配列と作動可能に連結されている。例えば、プロモーターが、コード配列の転写または発現に影響を与える場合、CMVプロモーター等のプロモーターは、コード配列に作動可能に連結されている。一般に、作動可能に連結されたDNA配列は近接しており、2個のタンパク質コード領域を連接することが必要な場合、同じ読み枠内にある。
【0092】
薬学的に許容される担体:役立つ薬学的に許容される担体は、従来のものである。Remington: The Science and Practice of Pharmacy, 22nd ed., London, UK: Pharmaceutical Press, 2013は、開示されている薬剤の医薬品送達に適した組成物および製剤について記載する。
【0093】
一般に、担体の性質は、用いられている特定の投与機序に依存するであろう。例えば、非経口製剤は通常、媒体として、水、生理食塩水、平衡塩類溶液、デキストロース水、グリセロールその他等、薬学的におよび生理学的に許容される流体を含む注射可能流体を含む。固体組成物(例えば、粉末、丸薬、錠剤またはカプセル形態)について、従来の無毒性固体担体は、例えば、医薬品グレードのマンニトール、ラクトース、デンプンまたはステアリン酸マグネシウムを含むことができる。生物学的に中性の担体に加えて、投与されるべき医薬組成物は、少量の無毒性補助的物質、例えば、湿潤剤または乳化剤、添加される保存料(非天然保存料等)およびpH緩衝剤その他、例えば、酢酸ナトリウムまたはソルビタンモノラウレートを含有することができる。特定の例では、薬学的に許容される担体は、無菌であり、例えば、注射による対象への非経口投与に適している。一部の実施形態では、活性薬剤および薬学的に許容される担体は、丸薬等の単位剤形で、またはバイアルにおいて選択された含量で提供される。単位剤形は、1つの投薬量または複数の投薬量を含むことができる(例えば、計量された投薬量の薬剤を選択的に分注することができるバイアルにおいて)。
【0094】
ポリペプチド:アミド結合により一体に連接された、単量体がアミノ酸残基であるポリマー。アミノ酸がアルファ-アミノ酸である場合、L-光学異性体またはD-光学異性体のいずれかを使用することができ、L-異性体が好まれる。用語「ポリペプチド」または「タンパク質」は、本明細書で使用される場合、いずれかのアミノ酸配列を包含し、糖タンパク質等の修飾された配列を含むことを意図する。ポリペプチドは、天然に存在するタンパク質と、組換えまたは合成により産生されたものの両方を含む。ポリペプチドは、アミノ末端(N末端)側の端およびカルボキシ末端側の端を有する。一部の実施形態では、ポリペプチドは、開示されている抗体またはその断片である。
【0095】
精製された:精製されたという用語は、絶対的な純度を要求しない;むしろこれは、相対的な用語として意図される。よって、例えば、精製されたペプチド調製物は、ペプチドまたはタンパク質(抗体等)が、細胞内等、その天然の環境にあるペプチドまたはタンパク質よりも富化された調製物である。一実施形態では、タンパク質またはペプチドが、調製物の総ペプチドまたはタンパク質含有量の少なくとも50%を表すように、調製物は精製される。
【0096】
組換え:組換え核酸は、天然に存在しない配列を有するか、または2個の組合せを行わなければ分離された状態の配列セグメントの人為的な組合せによって作製された配列を有する核酸である。この人為的な組合せは、化学合成によって、またはより一般的には、単離された核酸セグメントの人為的なマニピュレーションによって、例えば、遺伝子操作技法によって達成することができる。組換えタンパク質は、天然に存在しない配列を有するか、または2個の組合せを行わなければ分離された状態の配列セグメントの人為的な組合せによって作製された配列を有するタンパク質である。いくつかのインプリメンテーションでは、組換えタンパク質は、細菌または真核細胞等の宿主細胞に導入された異種(例えば、組換え)核酸によってコードされる。核酸は、例えば、導入された核酸によってコードされるタンパク質を発現することができるシグナルを有する発現ベクターにおいて導入され得る、または核酸は、宿主細胞染色体に組み込まれ得る。
【0097】
SARS-CoV-2:2019年にヒトに最初に出現したベータコロナウイルス属のコロナウイルス。このウイルスは、武漢(Wuhan)コロナウイルス、2019-nCoVまたは2019新型コロナウイルスとしても公知である。SARS-CoV-2は、重症急性呼吸器感染症の致死的原因として出現したポジティブセンス一本鎖RNAウイルスである。ウイルスゲノムは、キャッピングされ、ポリアデニル化され、ヌクレオカプシドタンパク質でカバーされている。SARS-CoV-2ビリオンは、大型のスパイク糖タンパク質を有するウイルスエンベロープを含む。SARS-CoV-2ゲノムは、大部分のコロナウイルスと同様に、ゲノムの5’側の3分の2に含まれたレプリカーゼ遺伝子およびゲノムの3’側の3分の1に含まれた構造遺伝子による共通ゲノム組織化を有する。SARS-CoV-2ゲノムは、5’-スパイク(S) - エンベロープ(E) - 膜(M)およびヌクレオカプシド(N)-3’の順序で構造タンパク質遺伝子の正準セットをコードする。
【0098】
用語「SARS-CoV-2」は、アルファ(B.1.1.7およびQ系列);ベータ(B.1.351および派生系列);デルタ(B.1.617.2およびAY系列);ガンマ(P.1および派生系列);イプシロン(B.1.427およびB.1.429);エータ(B.1.525);イオタ(B.1.526);カッパー(B.1.617.1);1.617.3;ミュー(B.1.621、B.1.621.1)、ゼータ(P.2)およびオミクロン(B.1.1.529)等が挙げられるがこれらに限定されない、そのバリアントを含む。
【0099】
SARS-CoV-2感染の症状は、発熱ならびに乾性咳嗽および息切れ等の呼吸器疾病を含む。重症感染の症例は、重症肺炎、多臓器不全および死亡へと進行し得る。曝露から症状開始までの時間は、およそ2~14日間である。
【0100】
患者症状および背景の査定ならびに遺伝子検査、例えば、逆転写-ポリメラーゼ連鎖反応(rRT-PCR)を含むがこれらに限定されない、ウイルス感染を検出するための標準方法を使用して、SARS-CoV-2感染を検出することができる。検査は、呼吸器または血液試料等の患者試料において行うことができる。
【0101】
SARSスパイク(S)タンパク質:SARS-CoVではおよそ1256アミノ酸のサイズ、SARS-CoV-2では1273アミノ酸のサイズの前駆体タンパク質として最初に合成されるクラスI融合糖タンパク質。個々の前駆体Sポリペプチドは、ホモ三量体を形成し、ゴルジ体内でグリコシル化を受けると共に、シグナルペプチドを除去するようにプロセシングされ、SARS-CoVではおよそ679/680位、SARS-CoV-2では685/686位の間で細胞プロテアーゼにより切断されて、別々のS1およびS2ポリペプチド鎖を生成し、これは、ホモ三量体内のS1/S2プロトマーとして会合を維持し、したがって、ヘテロ二量体の三量体となる。S1サブユニットは、ウイルス膜に対して遠位にあり、N末端ドメイン(NTD)と、その宿主受容体へのウイルス取付けを媒介することが考えられる受容体結合ドメイン(RBD)とを含有する。S2サブユニットは、融合ペプチド等の融合タンパク質機構、融合糖タンパク質に典型的な2個の7アミノ酸繰り返し配列(HR1およびHR2)および中心ヘリックス、膜貫通ドメイン、ならびにサイトゾルテイルドメインを含有すると考えられる。
【0102】
足場:本明細書に開示される合成シングルドメインモノクローナル抗体等、モノクローナル抗体の4個のフレームワーク領域。一部のインプリメンテーションでは、シングルドメインモノクローナル抗体の足場は、それぞれ配列番号1、2、3および4として示されるFR1、FR2、FR3およびFR4のアミノ酸配列を含む。足場は、配列番号1、2、3および/または4に対して1、2、3、4または5個の保存的アミノ酸置換等の1~5個の保存的アミノ酸置換を有するバリアント等、FR1、FR2、FR3およびFR4のバリアントを含むこともできる。
【0103】
配列同一性:2種もしくはそれよりも多い核酸配列または2種もしくはそれよりも多いアミノ酸配列の間の同一性は、配列間のパーセンテージ同一性単位で表現される。配列同一性は、パーセンテージ同一性単位で測定することができる;パーセンテージが高いほど、配列はより同一となる。標的抗原に特異的に結合する抗体のVLまたはVHのホモログおよびバリアントは典型的に、目的のアミノ酸配列との全長整列にわたり計数される少なくとも約75%配列同一性、例えば、少なくとも約80%、85%、90%、91%、92%、93%、94%、95%、96%、97%、98%または99%配列同一性の保有によって特徴付けされる。
【0104】
いずれか適した方法を使用して、比較のために配列を整列することができる。プログラムおよび整列アルゴリズムの非限定的な例は、Smith and Waterman, Adv. Appl. Math. 2(4):482-489, 1981;Needleman and Wunsch, J. Mol. Biol. 48(3):443-453, 1970;Pearson and Lipman, Proc. Natl. Acad. Sci. U.S.A. 85(8):2444-2448, 1988;Higgins and Sharp, Gene, 73(1):237-244, 1988;Higgins and Sharp, Bioinformatics, 5(2):151-3, 1989;Corpet, Nucleic Acids Res. 16(22):10881-10890, 1988;Huang et al. Bioinformatics, 8(2):155-165, 1992;およびPearson, Methods Mol. Biol. 24:307-331, 1994に記載されている。Altschul et al., J. Mol. Biol. 215(3):403-410, 1990は、配列整列方法および相同性計算についての詳細な考察を発表する。NCBI基本的局所整列検索ツール(Basic Local Alignment Search Tool)(BLAST)(Altschul et al., J. Mol. Biol. 215(3):403-410, 1990)は、配列解析プログラムblastp、blastn、blastx、tblastnおよびtblastxと接続した使用のために、National Center for Biological Informationおよびインターネット上を含むいくつかの供給源から利用することができる。Blastnは核酸配列の比較に使用され、一方、blastpはアミノ酸配列の比較に使用される。追加の情報は、NCBIウェブサイトに見出すことができる。
【0105】
一般に、2種の配列を整列したら、両方の配列に同一のヌクレオチドまたはアミノ酸残基が存在する位置の数を計数することにより、マッチの数を決定する。マッチの数を、同定された配列に示される配列の長さまたは繋がれた長さ(同定された配列に示される配列由来の100個の連続したヌクレオチドまたはアミノ酸残基等)のいずれかで割り、続いて、その結果生じる値に100を掛けることにより、2種の配列の間のパーセント配列同一性を決定する。
【0106】
特異的に結合する:抗体を参照する場合、タンパク質および他の生物製剤の不均一集団の存在下での標的タンパク質の存在を決定する結合反応を指す。よって、指名された条件下で、抗体は、特定の標的タンパク質、ペプチドまたは多糖(病原体の表面に存在する抗原、例えば、コロナウイルススパイクタンパク質等)に優先的に結合し、有意な量では、試料または対象に存在する他のタンパク質に結合しない。スパイクタンパク質に関して、抗体が、両方の型のウイルスにおけるスパイクタンパク質に結合するが、他のタンパク質には結合しないように、エピトープは、SARS-CoV-2スパイクタンパク質に存在することができる。特異的結合は、標準方法によって決定することができる。特異的免疫反応性の決定に使用することができるイムノアッセイフォーマットおよび条件の説明については、Harlow & Lane, Antibodies, A Laboratory Manual, 2nd ed., Cold Spring Harbor Publications, New York (2013)を参照されたい。
【0107】
抗体-抗原複合体を参照すると、抗原および抗体の特異的結合は、約10-7モル濃度未満、例えば、約10-8モル濃度、10-9未満またはさらには約10-10モル濃度未満のKDを有する。KDは、所与の相互作用、例えば、ポリペプチドリガンド相互作用または抗体抗原相互作用の解離定数を指す。例えば、抗体または抗原結合性断片および抗原の二分子相互作用について、それは、複合体の濃度で割った二分子相互作用の個々の構成成分の濃度である。
【0108】
コロナウイルススパイクタンパク質におけるエピトープに特異的に結合する抗体は、ウイルス、スパイクタンパク質が取り付けられた基材または生物学的検体中のタンパク質を含む、SARS-CoV-2由来のスパイクタンパク質のNTDまたはRBD等のコロナウイルススパイクタンパク質に実質的に結合する抗体である。当然ながら、ある程度の非特異的相互作用が、抗体および非標的の間に発生し得ることが認識される。典型的には、特異的結合は、抗体およびスパイクタンパク質の間に、抗体および他の異なるコロナウイルスタンパク質(MERS等)または非コロナウイルスタンパク質の間よりもはるかに強い会合をもたらす。特異的結合は典型的に、エピトープを含むタンパク質または標的エピトープを発現する細胞もしくは組織に結合した抗体の量(単位時間当たり)の、このエピトープを欠如するタンパク質または細胞または組織と比較して、2倍を超える、例えば、5倍を超える、10倍を超えるまたは100倍を超える増加をもたらす。そのような条件下でのタンパク質への特異的結合は、特定のタンパク質に対するその特異性のために選択される抗体を要求する。種々のイムノアッセイフォーマットは、特定のタンパク質と特異的に免疫反応性である抗体または他のリガンドの選択に適切である。例えば、固相ELISAイムノアッセイは、タンパク質と特異的に免疫反応性であるモノクローナル抗体を選択するためにルーチンに使用される。
【0109】
対象:ヒトおよび非ヒト哺乳動物、例えば、非ヒト霊長類、ブタ、ラクダ、コウモリ、ヒツジ、ウシ、イヌ、ネコ、齧歯類その他を含むカテゴリーである、生きている多細胞脊椎動物の生物。ある例では、対象は、ヒトである。特定の例では、対象は、ヒトである。追加の例では、SARS-CoV-2感染の阻害を必要とする対象が選択される。例えば、対象は、感染しておらず、SARS-CoV-2感染のリスクがあるか、または感染しており、処置の必要がある。
【0110】
合成:研究室において人為的手段によって産生されることであり、例えば、合成核酸またはタンパク質(例えば、抗体)は、研究室において化学合成することができる。
【0111】
合成シングルドメインモノクローナル抗体ライブラリー:本開示の文脈では、用語「合成シングルドメインモノクローナル抗体ライブラリー」は、CDR配列の間に高い程度の多様性を有する合成シングルドメイン抗体コード配列、および必要に応じてクローニングベクターまたは発現ベクターを含む核酸ライブラリーを包含する。合成シングルドメインモノクローナル抗体ライブラリーは、核酸ライブラリーで形質転換された細菌、酵母もしくは糸状菌もしくは哺乳動物細胞等、核酸ライブラリーを含有するいずれかの形質転換された宿主細胞もしくは生物、または核酸ライブラリーを含有するバクテリオファージもしくはウイルスをさらに含むことができる。この用語は、核酸ライブラリーによってコードされる多様な抗体の対応する混合物をさらに含むことができる。
【0112】
形質転換された:形質転換された細胞は、分子生物学技法によって核酸分子が導入された細胞である。本明細書で使用される場合、形質転換されたという用語や、その他(例えば、形質転換、トランスフェクション、形質導入等)は、ウイルスベクターによる形質導入、プラスミドベクターによる形質転換、ならびに電気穿孔、リポフェクションおよびパーティクルガン加速によるDNAの導入を含む、そのような細胞に核酸分子を導入することができるあらゆる技法を包含する。
【0113】
ベクター:目的のタンパク質のコード配列に操作可能に連結されており、コード配列を発現することができる、プロモーター(複数可)を有する核酸分子(DNAまたはRNA分子等)を含有する実体。非限定的な例は、ネイキッドのもしくはパッケージングされた(脂質および/またはタンパク質)DNA、ネイキッドのもしくはパッケージングされたRNA、複製能力がなくてよいウイルスもしくは細菌もしくは他の微生物、または複製能力があってよいウイルスもしくは細菌もしくは他の微生物の部分構成成分を含む。ベクターは時に、構築物と称される。組換えDNAベクターは、組換えDNAを有するベクターである。ベクターは、複製開始点等、それが宿主細胞において複製することを可能にする核酸配列を含むことができる。ベクターは、1個または複数の選択可能なマーカー遺伝子および他の遺伝的エレメントを含むこともできる。ウイルスベクターは、1種または複数のウイルスに由来する少なくとも一部の核酸配列を有する組換え核酸ベクターである。一部のインプリメンテーションでは、ウイルスベクターは、コロナウイルススパイクタンパク質に特異的に結合し、コロナウイルスを中和する、開示されている抗体または抗原結合性断片をコードする核酸分子を含む。一部のインプリメンテーションでは、ウイルスベクターは、アデノ随伴ウイルス(AAV)ベクターであり得る。
【0114】
~に十分な条件下で:所望の活性を可能にするいずれかの環境を表すために使用される語句。
【0115】
III.序論
「ナノボディ」としても公知のシングルドメインモノクローナル抗体は、Camelidae(VHH)および一部のサメ種に存在する重鎖のみの抗体の特有のクラスである。VHHおよびサメ可変新抗原受容体(VNAR)抗体は、それらの全長IgG対応物よりも1桁小さい。抗ウイルス生物製剤としてこれらの型のシングルドメインモノクローナル抗体を使用することの利点は、原核生物系における数キログラムスケールでの簡便なバルク産生、長い有効期間、および組織におけるより優れた透過性を含む(Dumoulin et al., Protein Sci 11, 500-515, 2002;Hussack et al., PLoS One 6, e28218, 2011)。シングルドメインモノクローナル抗体は、経口で(例えば、GIT活性のためのV565)または吸入により(例えば、ALX-0171)投与することができ、これらの経路は両者共に、COVID-19の処置に有益である(Arezumand et al., Front Immunol 8, 1746, 2017;Nambulli et al., Science Advances 7, eabh0319, 2021)。
【0116】
ファージディスプレイにより、SARS-CoV-2スパイクタンパク質等の目的の標的に対して作製された中和シングルドメインモノクローナル抗体の同定のための迅速かつ効率的な方法が本明細書に開示される。ヒト化シングルドメインモノクローナル抗体フレームワークを、ランダム化された相補性決定領域(CDR)と組み合わせて、抗原認識を多様化することにより、合成ライブラリーを構築した。10種の富化されたRBD結合剤のうち、RBD-1-2Gが、SARS-CoV-2シュードタイプ化粒子に対する490nMのIC50により最も強力であった。RBD-1-2G抗体の二価または三価フォーマットの構築は、シュードタイプ化粒子および真正のSARS-CoV-2ウイルスに対する改善された親和性および中和効力をもたらした。さらに、安定化されたSARS-CoV-2 S-タンパク質外部ドメイン(Wrapp et al., Science 367, 1260-1263, 2020)と複合体形成した4種のシングルドメインモノクローナル抗体のクライオ電子顕微鏡(クライオEM)構造は、2種の別個の結合機序を明らかにした。「グループ1」シングルドメインモノクローナル抗体に対するエピトープは、RBDの遠位端における受容体結合モチーフ(RBM)と重複する。「グループ2」結合剤は、隣接する単量体のN末端ドメインに対して近位にある平坦な区域におけるエピトープを標的化する。この結合部位は、RBMと重複しないことが見出され、ACE結合を阻害することができなかった。さらに、クライオEMは、3コピーのRBD-1-2Gが、同じスパイク三量体に結合することができたことを示した。RBD-1-2G抗体は、N501Y突然変異を含有するシュードタイプ化粒子を中和することができた。分子動力学シミュレーションは、スパイク-ACE2界面に排他的に集中したシングルドメインモノクローナル抗体の基盤を提供し、CDR3が、WT SARS-CoV-2およびB.1.1.7アルファバリアント(N501Y)の中和に関与する最も重要な領域であることを指し示す。
【0117】
本明細書に開示される研究は、合成ヒト化シングルドメインモノクローナル抗体ライブラリーのパニングが、強い治療および予防潜在力を有し得る強力な中和抗体を同定するための効率的でファスト・トラックな方法であることを実証した。本アプローチは、COVID-19等、流行中および新興の感染性疾患の介入を大いに支援することができる。
【0118】
IV.合成シングルドメインモノクローナル抗体ライブラリー
本開示は、合成シングルドメインモノクローナル抗体ライブラリーを作製する方法を提供する。一部のインプリメンテーションでは、方法は、合成シングルドメインモノクローナル抗体のそれぞれのフレームワーク(FR)コード領域の間の相補性決定領域1(CDR1)、CDR2およびCDR3配列をコードする核酸分子の多様性を導入して、同じ合成シングルドメインモノクローナル抗体足場アミノ酸配列を有する合成シングルドメインモノクローナル抗体の多様性をコードする核酸分子を生成するステップを含む。一部のインプリメンテーションでは、合成シングルドメインモノクローナル抗体足場は、配列番号1を含むFR1配列、配列番号2を含むFR2配列、配列番号3を含むFR3配列および配列番号4を含むFR4配列を含む。
【0119】
一部のインプリメンテーションでは、CDR1は、5~8残基(5、6、7または8残基)の長さであり、CDR1配列のアミノ酸残基は、次の法則に従って決定される:CDR1の1位は、グリシン(G)であり;CDR1の2位は、アスパラギン(N)、セリン(S)、スレオニン(T)またはチロシン(Y)であり;CDR1の3位は、イソロイシン(I)であり;CDR1の4位は、フェニルアラニン(F)またはSであり;CDR1の5位は、Y、G、アスパラギン酸(D)、アラニン(A)、アルギニン(R)、S、バリン(V)、F、ロイシン(L)、T、グルタミン酸(E)、プロリン(P)、トリプトファン(W)、ヒスチジン(H)、リシン(K)、I、メチオニン(M)、Nまたはグルタミン(Q)であり;CDR1の6、7および/または8位は、存在する場合、Y、G、D、A、R、S、V、F、L、T、E、P、W、H、K、I、M、NおよびQから個々に選択される。一部の例では、5位、存在する場合の6位、存在する場合の7位および/または存在する場合の8位のそれぞれのアミノ酸組成は、13%Y、12%G、10%D、10%A、8%R、8%S、5%V、5%F、4%L、4%T、3%E、3%P、3%W、2%H、2%K、2%I、2%M、2%Nおよび2%Qを含む。
【0120】
一部のインプリメンテーションでは、CDR2は、9残基の長さであり、CDR2配列のアミノ酸残基は、次の法則に従って決定される:CDR2の1位は、Iであり;CDR2の2位は、A、D、G、N、SまたはTであり;CDR2の3位は、Y、G、D、A、R、S、V、F、L、T、E、P、W、H、K、I、M、NまたはQであり;CDR2の4位は、Y、G、D、A、R、S、V、F、L、T、E、P、W、H、K、I、M、NまたはQであり;CDR2の5位は、Gであり;CDR2の6位は、A、G、SまたはTであり;CDR2の7位は、I、N、SまたはTであり;CDR2の8位は、Tであり;CDR2の9位は、NまたはYである。一部の例では、3位および4位のそれぞれのアミノ酸組成は、13%Y、12%G、10%D、10%A、8%R、8%S、5%V、5%F、4%L、4%T、3%E、3%P、3%W、2%H、2%K、2%I、2%M、2%Nおよび2%Qを含む。
【0121】
一部のインプリメンテーションでは、CDR3は、14~20アミノ酸の長さ(14、15、16、17、18、19、20、21、22、23または24アミノ酸の長さ)であり、各位置は、Y、G、D、A、R、S、V、F、L、T、E、P、W、H、K、I、M、NおよびQから個々に選択される。一部の例では、CDR3の各位置のアミノ酸組成は、13%Y、12%G、10%D、10%A、8%R、8%S、5%V、5%F、4%L、4%T、3%E、3%P、3%W、2%H、2%K、2%I、2%M、2%Nおよび2%Qを含む。
【0122】
本明細書に開示される方法によって入手可能な合成シングルドメインモノクローナル抗体ライブラリーも本明細書に提供される。一部のインプリメンテーションでは、合成シングルドメインモノクローナル抗体ライブラリーは、少なくとも108、109、1010または1011種の特有の抗体配列を含む。一部の例では、合成シングルドメインモノクローナル抗体ライブラリーは、少なくとも1010種の特有の抗体配列を含む。
【0123】
目的の標的に結合する合成シングルドメインモノクローナル抗体を同定するためのスクリーニング方法がさらに本明細書に提供される。一部のインプリメンテーションでは、スクリーニング方法は、本明細書に開示される合成シングルドメイン抗体ライブラリーの使用を含む。一部の例では、目的の標的は、微生物抗原、例えば、ウイルス抗原、細菌抗原、真菌抗原または寄生生物抗原である。具体例では、ウイルス抗原は、SARS-CoV-2抗原、例えば、スパイクタンパク質である。他の例では、目的の標的は、腫瘍抗原である。一部のインプリメンテーションでは、スクリーニング方法は、ファージディスプレイ方法である。
【0124】
次式を有するシングルドメインモノクローナル抗体:FR1-CDR1-FR2-CDR2-FR3-CDR3-FR4(式中、FR1のアミノ酸配列は、配列番号1を含み、FR2のアミノ酸配列は、配列番号2を含み、FR3のアミノ酸配列は、配列番号3を含み、FR4のアミノ酸配列は、配列番号4を含む)も本明細書に提供される。
【0125】
シングルドメインモノクローナル抗体の一部のインプリメンテーションでは、CDR1は、5~8(5、6、7または8)残基の長さであり、CDR1配列のアミノ酸残基は、次の法則に従って決定される:CDR1の1位は、Gであり;CDR1の2位は、N、S、TまたはYであり;CDR1の3位は、Iであり;CDR1の4位は、FまたはSであり;CDR1の5位は、Y、G、D、A、R、S、V、F、L、T、E、P、W、H、K、I、M、NまたはQであり;CDR1の6、7および/または8位は、存在する場合、Y、G、D、A、R、S、V、F、L、T、E、P、W、H、K、I、M、NまたはQからランダムに選択される。一部の例では、5位、存在する場合の6位、存在する場合の7位および/または存在する場合の8位のそれぞれのアミノ酸組成は、13%Y、12%G、10%D、10%A、8%R、8%S、5%V、5%F、4%L、4%T、3%E、3%P、3%W、2%H、2%K、2%I、2%M、2%Nおよび2%Qを含む。
【0126】
一部のインプリメンテーションでは、CDR2は、9残基の長さであり、CDR2配列のアミノ酸残基は、次の法則に従って決定される:CDR2の1位は、Iであり;CDR2の2位は、A、D、G、N、SまたはTであり;CDR2の3位は、Y、G、D、A、R、S、V、F、L、T、E、P、W、H、K、I、M、NまたはQであり;CDR2の4位は、Y、G、D、A、R、S、V、F、L、T、E、P、W、H、K、I、M、NまたはQであり;CDR2の5位は、Gであり;CDR2の6位は、A、G、SまたはTであり;CDR2の7位は、I、N、SまたはTであり;CDR2の8位は、Tであり;CDR2の9位は、NまたはYである。一部の例では、3位および4位のそれぞれのアミノ酸組成は、13%Y、12%G、10%D、10%A、8%R、8%S、5%V、5%F、4%L、4%T、3%E、3%P、3%W、2%H、2%K、2%I、2%M、2%Nおよび2%Qを含む。
【0127】
一部のインプリメンテーションでは、CDR3は、14~20アミノ酸の長さ(14、15、16、17、18、19、20、21、22、23または24アミノ酸の長さ)であり、各位置は、Y、G、D、A、R、S、V、F、L、T、E、P、W、H、K、I、M、NおよびQから個々に選択される。一部の例では、CDR3の各位置のアミノ酸組成は、13%Y、12%G、10%D、10%A、8%R、8%S、5%V、5%F、4%L、4%T、3%E、3%P、3%W、2%H、2%K、2%I、2%M、2%Nおよび2%Qを含む。
【0128】
本明細書に開示されるシングルドメインモノクローナル抗体をコードする核酸分子がさらに提供される。一部のインプリメンテーションでは、核酸分子は、異種プロモーター等のプロモーターに作動可能に連結される。開示されている核酸分子を含むベクター、および開示されている核酸分子またはベクターを含む単離された宿主細胞も提供される。
【0129】
A.シングルドメイン抗体足場におけるCDR多様性の導入
CDRコード配列のランダムなまたは方向性のある合成および対応するフレームワーク配列へのクローニング等による、抗体ライブラリーのためにCDR多様性を生成するための方法が記載されている(例えば、US2016/0237142;およびLindner et al., Molecules 16:1625-1641, 2011)。同様に、本明細書に開示される合成シングルドメインモノクローナル抗体ライブラリーは、高いCDR多様性を選択される足場配列に導入することにより生成された(米国特許第10,919,980号)。
【0130】
一部のインプリメンテーションでは、合成CDR1および合成CDR2の各アミノ酸配列の位置は、ヒトレパートリーにおいて見出されるCDRの天然の多様性を模倣するように合理的に設計される。一部の例では、細胞内発現および機能性に干渉し得るそのチオール基が原因で、システインは回避される。
【0131】
CDR3配列の長さは、異なるエピトープ形状への抗体の結合潜在力、特に、タンパク質の空洞内のエピトープへの結合に影響し得る。したがって、開示されているシングルドメインモノクローナル抗体ライブラリーは、CDR3配列の長さが変動する。一部の例では、CDR3は、14~20アミノ酸の長さ、例えば、14、15、16、17、18、19または20アミノ酸の長さである。
【0132】
一部のインプリメンテーションでは、CDR1は、5~8アミノ酸の長さ、例えば、5、6、7または8アミノ酸の長さである。一部の例では、CDR1のアミノ酸残基は、次の法則に従って選択される:CDR1の1位は、Gであり;CDR1の2位は、N、S、TまたはYであり;CDR1の3位は、Iであり;CDR1の4位は、FまたはSであり;CDR1の5位は、Y、G、D、A、R、S、V、F、L、T、E、P、W、H、K、I、M、NまたはQであり;CDR1の6、7および/または8位は、存在する場合、Y、G、D、A、R、S、V、F、L、T、E、P、W、H、K、I、M、NまたはQからランダムに選択される。一部の例では、5位、存在する場合の6位、存在する場合の7位および/または存在する場合の8位のそれぞれのアミノ酸組成は、13%Y、12%G、10%D、10%A、8%R、8%S、5%V、5%F、4%L、4%T、3%E、3%P、3%W、2%H、2%K、2%I、2%M、2%Nおよび2%Qを含む(
図1Aを参照)。
【0133】
一部のインプリメンテーションでは、CDR2は、9残基の長さであり、CDR2配列のアミノ酸残基は、次の法則に従って決定される:CDR2の1位は、Iであり;CDR2の2位は、A、D、G、N、SまたはTであり;CDR2の3位は、Y、G、D、A、R、S、V、F、L、T、E、P、W、H、K、I、M、NまたはQであり;CDR2の4位は、Y、G、D、A、R、S、V、F、L、T、E、P、W、H、K、I、M、NまたはQであり;CDR2の5位は、Gであり;CDR2の6位は、A、G、SまたはTであり;CDR2の7位は、I、N、SまたはTであり;CDR2の8位は、Tであり;CDR2の9位は、NまたはYである。一部の例では、3位および4位のそれぞれのアミノ酸組成は、13%Y、12%G、10%D、10%A、8%R、8%S、5%V、5%F、4%L、4%T、3%E、3%P、3%W、2%H、2%K、2%I、2%M、2%Nおよび2%Qを含む。
【0134】
一部のインプリメンテーションでは、CDR3は、14~20アミノ酸の長さ(14、15、16、17、18、19、20、21、22、23または24アミノ酸の長さ)であり、各位置は、Y、G、D、A、R、S、V、F、L、T、E、P、W、H、K、I、M、NおよびQから個々に選択される。一部の例では、CDR3の各位置のアミノ酸組成は、13%Y、12%G、10%D、10%A、8%R、8%S、5%V、5%F、4%L、4%T、3%E、3%P、3%W、2%H、2%K、2%I、2%M、2%Nおよび2%Qを含む。
【0135】
上述の法則は、本明細書に開示されるシングルドメインモノクローナル抗体ライブラリーを生成するためのガイドとして使用される。しかし、本明細書に開示される合成シングルドメインモノクローナル抗体足場(配列番号1~4またはそれらのバリアント)を含有する限りにおいて、異なるアミノ酸多様性法則による他のライブラリーも考慮される。
【0136】
特定のインプリメンテーションでは、ライブラリーの相当な比率のクローンのみが、CDR組成についての上述の法則に厳密に従う。例えば、統計的には、ライブラリーのクローンの少なくとも50%、少なくとも60%、少なくとも70%、少なくとも80%または少なくとも90%が、CDR1、CDR2およびCDR3位置におけるアミノ酸残基の組成の上述の法則に従う。
【0137】
一部のインプリメンテーションでは、アミノ酸位置についての上に挙げた法則に従い、インフレーム停止コドンもしくはシステイン残基の出現を回避するために、またはフレームシフトの出現を低減させるために、先端的遺伝子合成アプローチが使用される。そのような方法は、二本鎖DNAトリプルブロック(例えば、Van den Brulle et al., Biotechniques 45(3): 340-343, 2008を参照)、トリヌクレオチド合成、または他のコドン制御された、より一般には、位置制御された縮重合成アプローチを含むがこれらに限定されない。
【0138】
一部のインプリメンテーションでは、コドンバイアスは、例えば、周知方法を使用して、宿主細胞種、例えば、哺乳動物宿主細胞発現のために最適化される。一部の例では、コード配列は、望まれない制限部位、例えば、適切なクローニングまたは発現ベクターへのコード配列のクローニングに使用される制限部位を含有しないように設計される。
【0139】
その結果生じる多様なコード配列は、抗体ライブラリーのための適した発現またはクローニングベクターに導入される。特定のインプリメンテーションでは、発現ベクターは、プラスミドである。他の特定のインプリメンテーションでは、発現ベクターは、ファージディスプレイライブラリーの生成に適する。2つの異なる型のベクターを、ファージディスプレイライブラリーの生成に使用することができる:ファージミドベクターおよびファージベクター。
【0140】
ファージミドは、プラスミドの複製起点を含有する糸状ファージ(Ff-ファージ由来)ベクターに由来する。ファージミドの基本的構成成分は、プラスミドの複製起点、選択的マーカー、遺伝子間領域(IG領域、これは通常、パッキング配列、ならびにマイナスおよびプラス鎖の複製起点を含有する)、ファージコートタンパク質の遺伝子、制限酵素認識部位、プロモーター、およびシグナルペプチドをコードするDNAセグメントを主に含む。その上、ファージミドに基づくライブラリーのスクリーニングを容易にするための分子タグが含まれていてよい。ファージミドは、R408、M13KO7およびVCSM13(Stratagene)等のヘルパーファージとの同時感染によりFfファージと同じ形態を有する糸状ファージ粒子へと変換され得る。ファージベクターの一例は、fd-ファージゲノムおよびファージゲノム複製開始点の付近に挿入されたTn10のセグメントからなるfd-tet(Zacher et al., Gene 9:127-140, 1980)である。ファージミドベクターにおける使用のためのプロモーターの例は、PlacZおよびPT7を含むがこれらに限定されず、シグナルペプチドの例は、pelBリーダー、gIII、CATリーダー、SRPおよびOmpAシグナルペプチドを含むがこれらに限定されない。
【0141】
他のファージディスプレイ方法は、T4またはT7等の溶解性ファージを使用する方法を含む。細菌細胞ディスプレイ(Daugherty et al., Protein Eng 12(7):613-621, 1999;Georgiou et al., Nat Biotechnol 15(1):29-34, 1997)、酵母細胞ディスプレイ(Boder and Wittrup, Nat Biotechnol 15(6):553-557, 1997)、リボソームディスプレイ(Zahnd et al., Nat Methods 4(3):269-279, 2007)、DNAディスプレイ(Eldridge et al., Protein Eng Des Sel 22(11):691-698, 2009)および哺乳動物細胞における表面ディスプレイ(Rode et al., Biotechniques 21(4):650, 652-3, 655-6, 658, 1996)のためのベクターを含む、ディスプレイライブラリーを生成するためのファージ以外のベクターを使用することもできる。酵母ツーハイブリッド等の非ディスプレイ方法を使用して、ライブラリーから関連する結合剤を選択することもできる(Visintin et al., Proc Natl Acad Sci USA 96:11723-11728, 1999)。
【0142】
一部のインプリメンテーションでは、空ベクターの生成を回避するために、自殺遺伝子を有するクローニングベクターにおける組換えコード配列の陽性選択が使用される(例えば、Bernard, BioTechniques 21(2)320-323, 1996を参照)。
【0143】
一部の例では、抗体ライブラリーを生成するために設計されたCDRアミノ酸残基のあらゆる可能な組合せによって計算される多様性は、少なくとも109、少なくとも1010、少なくとも1011または少なくとも1012種の特有の配列である。
【0144】
B.合成シングルドメインモノクローナル抗体ライブラリーおよびその使用
本明細書に開示される方法によって産生された合成シングルドメインモノクローナル抗体ライブラリーも本明細書に提供される。一部のインプリメンテーションでは、合成シングルドメインモノクローナル抗体ライブラリーは、少なくとも108、少なくとも109、少なくとも1010または少なくとも1011種の特有の抗体配列を含む。一部の例では、合成シングルドメインモノクローナル抗体ライブラリーは、少なくとも1010種の特有の抗体配列を含む。
【0145】
一部のインプリメンテーションでは、合成シングルドメインモノクローナル抗体は、目的の標的に特異的に結合するシングルドメインモノクローナル抗体を同定するため等、スクリーニング方法において使用される。本明細書に開示される合成シングルドメインモノクローナル抗体ライブラリーを用いて、目的の標的に対して特異的な親和性を有する結合剤を同定するためのいずれか公知のスクリーニング方法を使用することができる。そのような方法は、ファージディスプレイ技術、細菌細胞ディスプレイ、酵母細胞ディスプレイ、哺乳動物細胞ディスプレイまたはリボソームディスプレイを含むがこれらに限定されない。特定の例では、スクリーニング方法は、ファージディスプレイである。
【0146】
一部のインプリメンテーションでは、目的の標的は、治療用標的であり、合成シングルドメインモノクローナル抗体ライブラリーは、治療用標的への特異的結合を有する合成シングルドメイン抗体を同定するために使用される。特異的なインプリメンテーションでは、目的の標的は、抗原であるか、または少なくとも1つの抗原決定基を含む。例えば、標的は、糖類もしくは多糖、タンパク質もしくは糖タンパク質、または脂質であり得る。1つの特異的なインプリメンテーションでは、目的の標的は、植物、酵母、真菌、昆虫、哺乳動物または他の真核生物の細胞起源のものである。別の特異的なインプリメンテーションでは、目的の標的は、細菌、原生動物またはウイルス起源のものである。特定の例では、標的は、ウイルス、細菌、真菌または原生動物抗原等、抗原である。具体的で非限定的な例では、標的は、スパイクタンパク質等、SARS-CoV-2抗原である。
【0147】
C.ライブラリーから得られたシングルドメインモノクローナル抗体
本明細書に開示されるシングルドメインモノクローナル抗体ライブラリーから選択されたシングルドメインモノクローナル抗体がさらに提供される。開示されるライブラリーの合成シングルドメインモノクローナル抗体の高い多様性を考慮すると、当業者は、ファージディスプレイ/パニング等の従来のスクリーニング方法によって、目的の標的(抗原、例えば、SARS-CoV-2スパイクタンパク質等)に対して高い親和性および高い特異性を有する合成シングルドメイン抗体を得ることができる。
【0148】
選択されたシングルドメインモノクローナル抗体は、適切な抗原結合特性を生成するために、必要に応じてさらに修飾され得る。特に、CDR残基は、例えば、当技術分野で公知の技術(例えば、突然変異誘発、親和性成熟)を使用して、目的の標的に対する抗体親和性を増加させるため、そのフォールディングもしくはその産生を改善するため、またはその粘性を低減するために修飾され得る。
【0149】
一部のインプリメンテーションでは、次式を有するシングルドメインモノクローナル抗体:FR1-CDR1-FR2-CDR2-FR3-CDR3-FR4(式中、フレームワーク領域FR1、FR2、FR3およびFR4は、ヒト化ラマフレームワーク配列である)が本明細書に提供される。特定の例では、それぞれフレームワーク領域FR1、FR2、FR3およびFR4のアミノ酸配列は、配列番号1、2、3および4を含む。他の例では、フレームワーク配列は、目的の標的への特異的結合を保持しつつ、配列番号1、2、3および4に対して1、2、3、4または5個以下の保存的アミノ酸置換を有する配列番号1、2、3および4の機能的なバリアントである。さらに他の例では、フレームワーク配列は、目的の標的への特異的結合を保持しつつ、それぞれ配列番号1、2、3および4に対して少なくとも80%、少なくとも90%、少なくとも95%、少なくとも96%、少なくとも97%、少なくとも98%または少なくとも99%配列同一性を有する配列番号1、2、3および4の機能的なバリアントである。典型的には、フレームワーク領域内の1個または複数のアミノ酸残基は、同じ側鎖ファミリー由来の他のアミノ酸残基に置き換えることができ、新しいバリアントは、結合および/または機能アッセイにおいて検査することができる。
【0150】
一部のインプリメンテーションでは、CDR1は、5~8アミノ酸の長さ、例えば、5、6、7または8アミノ酸の長さである。一部の例では、CDR1のアミノ酸残基は、次の法則に従って選択される:CDR1の1位は、Gであり;CDR1の2位は、N、S、TまたはYであり;CDR1の3位は、Iであり;CDR1の4位は、FまたはSであり;CDR1の5位は、Y、G、D、A、R、S、V、F、L、T、E、P、W、H、K、I、M、NまたはQであり;CDR1の6、7および/または8位は、存在する場合、Y、G、D、A、R、S、V、F、L、T、E、P、W、H、K、I、M、NまたはQからランダムに選択される。一部の例では、5位、存在する場合の6位、存在する場合の7位および/または存在する場合の8位のそれぞれのアミノ酸組成は、13%Y、12%G、10%D、10%A、8%R、8%S、5%V、5%F、4%L、4%T、3%E、3%P、3%W、2%H、2%K、2%I、2%M、2%Nおよび2%Qを含む(
図1Aを参照)。
【0151】
一部のインプリメンテーションでは、CDR2は、9残基の長さであり、CDR2配列のアミノ酸残基は、次の法則に従って決定される:CDR2の1位は、Iであり;CDR2の2位は、A、D、G、N、SまたはTであり;CDR2の3位は、Y、G、D、A、R、S、V、F、L、T、E、P、W、H、K、I、M、NまたはQであり;CDR2の4位は、Y、G、D、A、R、S、V、F、L、T、E、P、W、H、K、I、M、NまたはQであり;CDR2の5位は、Gであり;CDR2の6位は、A、G、SまたはTであり;CDR2の7位は、I、N、SまたはTであり;CDR2の8位は、Tであり;CDR2の9位は、NまたはYである。一部の例では、3位および4位のそれぞれのアミノ酸組成は、13%Y、12%G、10%D、10%A、8%R、8%S、5%V、5%F、4%L、4%T、3%E、3%P、3%W、2%H、2%K、2%I、2%M、2%Nおよび2%Qを含む(
図1Aを参照)。
【0152】
一部のインプリメンテーションでは、CDR3は、14~20アミノ酸の長さ(14、15、16、17、18、19、20、21、22、23または24アミノ酸の長さ)であり、各位置は、Y、G、D、A、R、S、V、F、L、T、E、P、W、H、K、I、M、NおよびQから個々に選択される。一部の例では、CDR3の各位置のアミノ酸組成は、13%Y、12%G、10%D、10%A、8%R、8%S、5%V、5%F、4%L、4%T、3%E、3%P、3%W、2%H、2%K、2%I、2%M、2%Nおよび2%Qを含む(
図1Aを参照)。
【0153】
D.核酸分子
本明細書に開示されるシングルドメインモノクローナル抗体ライブラリーから選択されたシングルドメインモノクローナル抗体をコードする核酸分子も本明細書に提供される。一部のインプリメンテーションでは、核酸分子は、異種プロモーター等のプロモーターに作動可能に連結される。核酸は、細胞全体、細胞ライセート中に存在し得る、または部分的に精製されたもしくは実質的に純粋な形態の核酸であり得る。一部の例では、核酸分子は、DNAまたはRNAであり、イントロン配列を含有しても含有しなくてもよい。
【0154】
一部のインプリメンテーションでは、核酸は、DNA分子である。核酸は、ファージディスプレイベクター等のベクター中に、または組換えプラスミドベクター中に存在し得る。一部の例では、配列番号1~4のフレームワーク領域FR1、FR2、FR3およびFR4をコードする、または前記配列番号1~4に対して少なくとも80%、少なくとも90%、少なくとも95%、少なくとも96%、少なくとも97%、少なくとも98%もしくは少なくとも99%配列同一性を有する対応するバリアント配列をコードする少なくとも1個または複数の核酸配列を含む単離された核酸分子またはベクターが提供される。
【0155】
シングルドメインモノクローナル抗体をコードする核酸分子は、標準組換えDNA技法によって、例えば、発現系における適切な分泌のためのシグナル配列、さらなる精製ステップのための精製タグおよび/または切断可能タグを含むようにさらにマニピュレートすることができる。これらのマニピュレーションにおいて、核酸分子(DNA分子等)は、別のDNA分子に、または別のタンパク質をコードする断片に、例えば、精製/分泌タグまたは可動性リンカーに稼働可能に連結される。用語「稼働可能に連結される」は、この文脈で使用される場合、2個のDNA分子が、機能的な様式で、例えば、2個のDNA分子によってコードされるアミノ酸配列がインフレームを維持するように、またはタンパク質が所望のプロモーターの制御下で発現されるように連接されることを意味することを意図する。
【0156】
シングルドメインモノクローナル抗体の産生に適した単離された宿主細胞がさらに提供される。一部のインプリメンテーションでは、宿主細胞は、哺乳動物細胞系である。シングルドメインモノクローナル抗体の産生のための適切な条件下で宿主細胞を培養するステップと、シングルドメインモノクローナル抗体を単離するステップとを含む、シングルドメインモノクローナル抗体の産生のためのプロセスも提供される。
【0157】
本開示のシングルドメインモノクローナル抗体を分泌させるための哺乳動物宿主細胞は、CHO、例えば、DHFR選択可能マーカー(例えば、Kaufman and Sharp, 1982 Mol. Biol. 159:601-621に記載)と共に使用されるDHFR-CHO細胞(Urlaub and Chasin, 1980, Proc. Natl. Acad. Sci. USA 77:4216-4220に記載)、NSO骨髄腫細胞、InvivogenのpFuse発現系(Moutel et al., BMC Biotechnol 9:14, 2009に記載)、COS細胞、SP2細胞、またはPER-C6細胞系、CrucellもしくはHEK293細胞を含むヒト細胞系(Durocher et al., 2002, Nucleic Acids Res 30(2): 9)を含む。シングルドメインモノクローナル抗体をコードする核酸分子が、哺乳動物宿主細胞に導入される場合、宿主細胞における組換えポリペプチドの発現または宿主細胞が育成される培養培地への組換えポリペプチドの分泌および適正なリフォールディングを可能にするのに十分な期間、宿主細胞を培養して、シングルドメインモノクローナル抗体を産生することにより、抗体が産生される。次に、標準タンパク質精製方法を使用して、培養培地からシングルドメインモノクローナル抗体を回収することができる。
【0158】
V.コロナウイルススパイクタンパク質に特異的なモノクローナル抗体
高い親和性でSARS-CoV-2スパイクタンパク質に特異的に結合する合成シングルドメインモノクローナル抗体が本明細書に記載されている。シングルドメインモノクローナル抗体RBD-1-2Gは、SARS-CoV-2感染に対する強力な中和活性を示す。この抗体は、合成シングルドメインモノクローナル抗体ファージディスプレイライブラリーから選択された。
【0159】
RBD-1-2Gのアミノ酸配列を下に提示する。IMGTの方法を使用して決定されたCDR配列は、太字下線によって指し示されている。当業者は、KabatまたはChothia番号付けスキーム等の代替番号付けスキームを使用してCDR境界を容易に決定することができる。
【化2】
【表A】
【0160】
SARS-CoV-2スパイクタンパク質に結合する(例えば、特異的に結合する)シングルドメインモノクローナル抗体が本明細書に提供される。一部のインプリメンテーションでは、シングルドメインモノクローナル抗体は、配列番号5として本明細書に示されるアミノ酸配列の少なくとも部分、例えば、いずれかの番号付けの慣例(IMGT、KabatまたはChothia等)によって決定されるRBD-1-2Gの1個または複数(全3個等)のCDR配列を含む。特定の例では、CDR配列は、IMGTを使用して決定される。
【0161】
一部のインプリメンテーションでは、シングルドメインモノクローナル抗体は、配列番号5のCDR1、CDR2およびCDR3配列を含む。特異的なインプリメンテーションでは、CDR1、CDR2およびCDR3はそれぞれ、配列番号5の残基26~32、50~58および97~110を含む。一部の例では、シングルドメインモノクローナル抗体のアミノ酸配列は、配列番号5と少なくとも80%、少なくとも85%、少なくとも90%、少なくとも95%、少なくとも96%、少なくとも97%、少なくとも98%または少なくとも99%同一である。一部の例では、シングルドメインモノクローナル抗体は、フレームワーク領域1(FR1)、FR2、FR3およびFR4を含み、FR1のアミノ酸配列は、配列番号1を含む;FR2のアミノ酸配列は、配列番号2を含む;FR3のアミノ酸配列は、配列番号3を含む;および/またはFR4のアミノ酸配列は、配列番号4を含む。特定の例では、シングルドメインモノクローナル抗体のアミノ酸配列は、配列番号5を含むかまたはそれからなる。
【0162】
一部のインプリメンテーションでは、シングルドメインモノクローナル抗体は、ヒト化抗体である。
【0163】
一部のインプリメンテーションでは、モノクローナル抗体または抗原結合性断片は、SARS-CoV-2および/またはSARS-CoV-1を中和する。
【0164】
一部のインプリメンテーションでは、シングルドメインモノクローナル抗体は、検出可能な標識、例えば、フルオロフォア、酵素または放射性同位元素にコンジュゲートされる。
【0165】
本明細書に開示されるシングルドメインモノクローナル抗体と、異種タンパク質とを含む融合タンパク質も本明細書に提供される。一部のインプリメンテーションでは、異種タンパク質は、Fcタンパク質、例えば、ヒトFcタンパク質またはマウスFcタンパク質を含む。一部の例では、Fcタンパク質は、融合タンパク質の半減期を増加させる修飾を含むヒトFcタンパク質である。一部の例では、修飾は、新生児Fc受容体への結合を増加させる。他のインプリメンテーションでは、異種タンパク質は、タンパク質タグを含む。一部の例では、タンパク質タグは、Hisタグおよび/またはヒトインフルエンザ赤血球凝集素タグを含む。特定の例では、タンパク質タグのアミノ酸配列は、配列番号6を含むかまたはそれからなる。
【0166】
本明細書に開示されるシングルドメインモノクローナル抗体を含む二価抗体も本明細書に提供される。一部のインプリメンテーションでは、二価抗体は、Fcタンパク質、例えば、ヒトFcタンパク質に融合されたシングルドメインモノクローナル抗体の2個の単量体を含む。一部の例では、Fcタンパク質は、融合タンパク質の半減期を増加させる修飾を含むヒトFcタンパク質である。一部の例では、修飾は、新生児Fc受容体への結合を増加させる。
【0167】
本明細書に開示されるシングルドメインモノクローナル抗体の3個の単量体を含む三価単鎖Fv抗体がさらに提供される。一部のインプリメンテーションでは、三量体の各単量体は、可動性リンカー、例えば、(GGGGS)3(配列番号9)によって分離される。
【0168】
本明細書に開示されるシングルドメインモノクローナル抗体と、異なる抗原またはスパイクタンパク質の異なるエピトープに特異的に結合する第2の抗体とを含む、多重特異性抗体、例えば、二重特異性抗体も本明細書に提供される。
【0169】
本明細書に開示されるシングルドメインモノクローナル抗体、融合タンパク質、二価抗体、三価単鎖Fvまたは二重特異性抗体をコードする核酸分子がさらに本明細書に提供される。一部のインプリメンテーションでは、核酸分子は、シングルドメインモノクローナル抗体、融合タンパク質、二価抗体、三価単鎖Fvまたは二重特異性抗体をコードするcDNA配列である。一部のインプリメンテーションでは、核酸分子は、異種プロモーター等のプロモーターに作動可能に連結される。
【0170】
本明細書に開示される核酸分子を含むベクターも提供される。一部のインプリメンテーションでは、ベクターは、発現ベクターである。他のインプリメンテーションでは、ベクターは、ウイルスベクターである。開示されている核酸分子またはベクターを含む宿主細胞がさらに提供される。
【0171】
薬学的に許容される担体と、本明細書に開示されるシングルドメインモノクローナル抗体、融合タンパク質、二価抗体、三価単鎖Fv、二重特異性抗体、核酸分子またはベクターとを含む組成物がさらに提供される。
【0172】
SARS-CoV-2スパイクタンパク質に特異的に結合するシングルドメインモノクローナル抗体を産生する方法も本明細書に提供される。一部のインプリメンテーションでは、方法は、宿主細胞において本明細書に開示されるシングルドメインモノクローナル抗体をコードする1種または複数の核酸分子を発現させるステップと、シングルドメインモノクローナル抗体を精製するステップとを含む。
【0173】
対象由来の生体試料におけるコロナウイルスの存在を検出する方法がさらに提供される。一部のインプリメンテーションでは、方法は、免疫複合体を形成するのに十分な条件下で、生体試料を、有効量の本明細書に開示されるシングルドメインモノクローナル抗体と接触させるステップと、生体試料における免疫複合体の存在を検出するステップとを含む。生体試料における免疫複合体の存在は、試料におけるコロナウイルスの存在を指し示す。一部の例では、生体試料における免疫複合体の存在は、対象が、SARS-CoV-2感染を有することを指し示す。
【0174】
コロナウイルス感染を有するかまたはそのリスクがある対象におけるコロナウイルス感染を阻害する方法も提供される。一部のインプリメンテーションでは、方法は、有効量の開示されているシングルドメインモノクローナル抗体、融合タンパク質、二価抗体、三価単鎖Fv、二重特異性抗体、核酸分子、ベクターまたは組成物を対象に投与するステップを含む。一部の例では、コロナウイルスは、SARS-CoV-2である。他の例では、コロナウイルスは、SARS-CoV-1である。
【0175】
対象におけるコロナウイルス感染を阻害するため、または生体試料におけるコロナウイルスの存在を検出するための開示されているシングルドメインモノクローナル抗体、融合タンパク質、二価抗体、三価単鎖Fv、二重特異性抗体、核酸分子、ベクターまたは組成物の使用も提供される。一部のインプリメンテーションでは、コロナウイルスは、SARS-CoV-2である。他のインプリメンテーションでは、コロナウイルスは、SARS-CoV-1である。
【0176】
VI.多重特異性抗体
多重特異性抗体は、2種もしくはそれよりも多いモノクローナル抗体(シングルドメイン抗体等)または2種もしくはそれよりも多い異なるモノクローナル抗体の抗原結合性断片で構成された組換えタンパク質である。例えば、二重特異性抗体は、2種の異なるモノクローナル抗体またはその抗原結合性断片で構成されている。よって、二重特異性抗体は、2種の異なる抗原(または2種の異なるエピトープ)に結合し、三重特異性抗体は、3種の異なる抗原(または3種の異なるエピトープ)に結合する。多重特異性抗体は、例えば、コロナウイルスSタンパク質(N末端ドメイン(NTD)、受容体結合ドメイン(RBD)、またはS1もしくはS2サブユニット全体を含む)および炭水化物(N-グリカンを含む)、エンベロープタンパク質または赤血球凝集素-エステラーゼ二量体(HE)を同時に標的化することにより、コロナウイルス感染を処置するために使用することができる。一部の例では、多重特異性抗体は、コロナウイルスSタンパク質のある部分(NTD、RBD、S1サブユニットまたはS2サブユニット等)を標的化する第1の結合ドメインと、同じコロナウイルスSタンパク質の異なる部分(NTD、RBD、S1サブユニットまたはS2サブユニット等)を標的化する第2の結合ドメインとを含む。
【0177】
Sタンパク質特異的シングルドメインモノクローナル抗体を含む、多重特異性、例えば、三重特異性または二重特異性モノクローナル抗体が本明細書に提供される。一部のインプリメンテーションでは、多重特異性モノクローナル抗体は、Sタンパク質RBD、NTD、S1サブユニットもしくはS2サブユニット、または炭水化物(N-グリカン等)、または他のウイルスタンパク質(エンベロープまたはHE等)に特異的に結合するモノクローナル抗体をさらに含む。多重特異性抗体をコードする単離された核酸分子およびベクター、ならびにこの核酸分子またはベクターを含む宿主細胞も提供される。スパイクタンパク質特異的抗体を含む多重特異性抗体は、コロナウイルス感染の処置のために使用することができる。よって、治療有効量のスパイクタンパク質標的化多重特異性抗体を対象に投与することにより、コロナウイルス感染を有する対象を処置する方法が本明細書に提供される。
【0178】
同じ型または異なる型の2個またはそれよりも多い抗体、抗原結合性断片(scFv等)の架橋等、いずれか適した方法を使用して、多重特異性抗体を設計および産生することができる。多重特異性抗体を作製する例示的な方法は、その全体が参照により本明細書に組み込まれるPCT公開番号WO2013/163427に記載されている方法を含む。適した架橋剤の非限定的な例は、適切なスペーサーによって分離された2個の別個の反応基を有するヘテロ二機能性(m-マレイミドベンゾイル-N-ヒドロキシサクシニミドエステル等)またはホモ二機能性(スベリン酸ジサクシンイミジル等)である架橋剤を含む。
【0179】
多重特異性抗体は、本明細書に提供されるシングルドメインモノクローナル抗体によるコロナウイルススパイクタンパク質への結合を可能にする、いずれか適したフォーマットを有することができる。二重特異性単鎖抗体は、単一の核酸分子によってコードされ得る。二重特異性単鎖抗体と、そのような抗体を構築する方法の非限定的な例は、米国特許第8,076,459号、同第8,017,748号、同第8,007,796号、同第7,919,089号、同第7,820,166号、同第7,635,472号、同第7,575,923号、同第7,435,549号、同第7,332,168号、同第7,323,440号、同第7,235,641号、同第7,229,760号、同第7,112,324号、同第6,723,538号に提供される。二重特異性単鎖抗体の追加の例は、PCT出願番号WO99/54440;Mack et al., J. Immunol., 158(8):3965-3970, 1997;Mack et al., Proc. Natl. Acad. Sci. U.S.A., 92(15):7021-7025, 1995;Kufer et al., Cancer Immunol. Immunother., 45(3-4):193-197, 1997;Loffler et al., Blood, 95(6):2098-2103, 2000;およびBruhl et al., J. Immunol., 166(4):2420-2426, 2001に見出すことができる。二重特異性Fab-scFv(「バイボディ(bibody)」)分子の産生は、例えば、Schoonjans et al. (J. Immunol., 165(12):7050-7057, 2000)およびWillems et al. (J. Chromatogr. B Analyt. Technol. Biomed Life Sci. 786(1-2):161-176, 2003)に記載されている。バイボディについて、scFv分子を、VL-CL(L)またはVH-CH1鎖の1つに融合して、例えば、1つのscFvがFab鎖のC末端に融合されたバイボディを産生することができる。
【0180】
VII.コンジュゲート
本明細書に開示される、コロナウイルススパイクタンパク質に特異的に結合するシングルドメインモノクローナル抗体、融合タンパク質、二価抗体、三価単鎖Fvおよび二重特異性抗体は、薬剤、例えば、エフェクター分子または検出可能なマーカーにコンジュゲートすることができる。共有結合および非共有結合による取付け手段の両方を使用することができる。毒素ならびに放射性薬剤、例えば、125I、32P、14C、3Hおよび35Sならびに他の標識、標的部分、酵素およびリガンド等を含む(がこれらに限定されない)、様々なエフェクター分子および検出可能なマーカーを使用することができる。特定のエフェクター分子または検出可能なマーカーの選択は、特定の標的分子または細胞、および所望の生物学的効果に依存する。
【0181】
検出可能なマーカーを抗体に取り付けるための手順は、エフェクターの化学構造に従って変動する。ポリペプチドは典型的に、エフェクター分子または検出可能なマーカーの結合をもたらすためのポリペプチドにおける適した官能基との反応に利用できる種々の官能基、例えば、カルボキシル(-COOH)、遊離アミン(-NH2)またはスルフヒドリル(-SH)基を含有する。あるいは、抗体は、追加の反応性官能基を露出するかまたはそれを取り付けるように誘導体化される。誘導体化には、いずれか適したリンカー分子の取付けが関与し得る。リンカーは、抗体およびエフェクター分子または検出可能なマーカーの両方と共有結合を形成することができる。適したリンカーは、直鎖もしくは分枝鎖炭素リンカー、複素環炭素リンカーまたはペプチドリンカーを含むがこれらに限定されない。抗体およびエフェクター分子または検出可能なマーカーがポリペプチドである場合、リンカーは、それらの側鎖(システインへのジスルフィド連結を介する等)もしくはアルファ炭素を介して、または末端アミノ酸のアミノおよび/もしくはカルボキシル基を介して構成物アミノ酸に連接され得る。
【0182】
種々の放射線診断化合物、放射線療法化合物、標識(酵素または蛍光分子等)、毒素および他の薬剤を抗体に取り付けるための報告された多数の方法を考慮して、所与の薬剤をシングルドメインモノクローナル抗体、融合タンパク質、二価抗体、三価単鎖Fvまたは二重特異性抗体に取り付けるための適した方法を決定することができる。
【0183】
シングルドメインモノクローナル抗体、融合タンパク質、二価抗体、三価単鎖Fvまたは二重特異性抗体は、検出可能なマーカー;例えば、ELISA、分光光度法、フローサイトメトリー、顕微鏡または診断イメージング技法(CT、コンピュータ体軸断層撮影(computed axial tomography)(CAT)、MRI、磁気共鳴断層撮影(MTR)、超音波、光ファイバー試験および腹腔鏡試験等)による検出が可能な検出可能なマーカーとコンジュゲートすることができる。検出可能なマーカーの具体的で非限定的な例は、フルオロフォア、化学発光剤、酵素による連結、放射性同位元素および重金属または化合物(例えば、MRIによる検出のための超常磁性酸化鉄ナノ結晶)を含む。例えば、有用で検出可能なマーカーは、フルオレセイン、フルオレセインイソチオシアネート、ローダミン、5-ジメチルアミン-1-ナフタレンスルホニルクロライド、フィコエリトリン、ランタニドリン光体その他を含む蛍光化合物を含む。ルシフェラーゼ、緑色蛍光タンパク質(GFP)および黄色蛍光タンパク質(YFP)等、生物発光マーカーも役立つ。シングルドメインモノクローナル抗体、融合タンパク質、二価抗体、三価単鎖Fvまたは二重特異性抗体は、西洋わさびペルオキシダーゼ、β-ガラクトシダーゼ、ルシフェラーゼ、アルカリホスファターゼ、グルコースオキシダーゼその他等、検出に有用な酵素とコンジュゲートすることもできる。抗体は、検出可能な酵素とコンジュゲートされる場合、識別され得る反応産物の産生のために酵素が使用する追加の試薬を添加することにより検出することができる。例えば、薬剤西洋わさびペルオキシダーゼが存在する場合、過酸化水素およびジアミノベンジジンの添加は、視覚的に検出可能な発色反応産物を生じる。シングルドメインモノクローナル抗体、融合タンパク質、二価抗体、三価単鎖Fvまたは二重特異性抗体をビオチンとコンジュゲートし、アビジンまたはストレプトアビジン結合の間接的測定により検出することもできる。アビジンそれ自体を、酵素または蛍光標識とコンジュゲートすることができることに留意されたい。
【0184】
シングルドメインモノクローナル抗体、融合タンパク質、二価抗体、三価単鎖Fvまたは二重特異性抗体は、常磁性薬剤、例えば、ガドリニウムとコンジュゲートすることができる。常磁性薬剤、例えば、超常磁性酸化鉄もまた、標識として役立つ。抗体は、ランタニド(ユーロピウムおよびジスプロシウム等)およびマンガンとコンジュゲートすることもできる。シングルドメインモノクローナル抗体、融合タンパク質、二価抗体、三価単鎖Fvまたは二重特異性抗体は、二次レポーターによって認識される所定のポリペプチドエピトープで標識することもできる(ロイシンジッパーペア配列、二次抗体の結合部位、金属結合ドメイン、エピトープタグ等)。
【0185】
シングルドメインモノクローナル抗体、融合タンパク質、二価抗体、三価単鎖Fvまたは二重特異性抗体は、例えば、診断目的で、放射標識されたアミノ酸とコンジュゲートすることもできる。例えば、放射標識を使用して、X線検査、発光スペクトルまたは他の診断技法によってコロナウイルスを検出することができる。ポリペプチドのための標識の例は、次の放射性同位元素:3H、14C、35S、90Y、99mTc、111In、125I、131Iを含むがこれらに限定されない。放射標識は、例えば、写真フィルムまたはシンチレーションカウンターを使用して検出することができ、蛍光マーカーは、放射された照明を検出するための光検出器を使用して検出することができる。酵素標識は典型的に、酵素に基質を与え、基質における酵素の作用によって産生された反応産物を検出することにより検出され、比色標識は、発色した標識を単純に可視化することにより検出される。
【0186】
コンジュゲート中の抗体当たりの検出可能なマーカー部分の平均数は、例えば、抗体当たり1~20個の部分の範囲に及び得る。一部のインプリメンテーションでは、コンジュゲート中の抗体当たりのエフェクター分子または検出可能なマーカー部分の平均数は、約1~約2、約1~約3、約1~約8;約2~約6;約3~約5;または約3~約4の範囲に及ぶ。コンジュゲートのロード(例えば、抗体当たりのエフェクター分子の比)は、例えば、(i)抗体と比べてモル過剰のエフェクター分子-リンカー中間体またはリンカー試薬を限定すること、(ii)コンジュゲーション反応時間または温度を限定すること、(iii)システインチオール修飾のために還元条件を部分的に限定すること、ならびに(iv)システイン残基の数および位置が、リンカー-エフェクター分子取付けの数または位置の制御のために修飾されるように、抗体のアミノ酸配列を組換え技法により操作することにより、異なる仕方で制御することができる。
【0187】
VIII.抗体バリアント
一部のインプリメンテーションでは、本明細書に開示されるシングルドメインモノクローナル抗体、融合タンパク質、二価抗体、三価単鎖Fvまたは二重特異性抗体のアミノ酸配列バリアントが提供される。例えば、抗体、融合タンパク質、二価抗体、三価単鎖Fvまたは二重特異性抗体の結合親和性および/または他の生物学的特性を改善することが望ましいことがある。シングルドメインモノクローナル抗体をコードするヌクレオチド配列に適切な修飾を導入することにより、またはペプチド合成により、抗体のアミノ酸配列バリアントを調製することができる。そのような修飾は、例えば、抗体のアミノ酸配列内の残基からの欠失および/またはそれへの挿入および/またはその置換を含む。最終構築物が、所望の特徴、例えば、抗原結合を保有することを条件として、欠失、挿入および置換のいずれかの組合せを為して、最終構築物に到達することができる。
【0188】
一部のインプリメンテーションでは、1個または複数のアミノ酸置換を有するバリアントが提供される。置換突然変異誘発のための目的の部位は、CDRおよびフレームワーク領域を含む。アミノ酸置換を目的の抗体に導入することができ、産物を所望の活性、例えば、保持/改善された抗原結合、減少した免疫原性または改善されたADCCもしくはCDCについてスクリーニングすることができる。
【0189】
バリアントは典型的に、分子の低いpIおよび低い毒性を保存するために、正しいフォールディングに必要なアミノ酸残基を保持し、残基の電荷特徴を保持するであろう。抗体においてアミノ酸置換を為して、収量を増加させることができる。
【0190】
一部のインプリメンテーションでは、シングルドメインモノクローナル抗体は、配列番号5として示されるアミノ酸配列と比較して、最大10(最大1、最大2、最大3、最大4、最大5、最大6、最大7、最大8または最大9等)個のアミノ酸置換(保存的アミノ酸置換等)を含む。
【0191】
一部のインプリメンテーションでは、置換、挿入または欠失は、そのような変更が、抗原に結合する抗体の能力を実質的に低減させない限りにおいて、1個または複数のCDR内に発生し得る。例えば、結合親和性を実質的に低減させない保存的変更(例えば、本明細書に提供される保存的置換)をCDRにおいて為すことができる。上に提供されるバリアント抗体配列の一部のインプリメンテーションでは、各CDRは、変更されないか、または1、2もしくは3個以下のアミノ酸置換を含有する。上に提供されるバリアント抗体配列の一部のインプリメンテーションでは、フレームワーク残基のみが修飾されるため、CDRは変化されない。
【0192】
シングルドメインモノクローナル抗体の結合親和性を増加させるために、天然免疫応答の際の抗体の親和性成熟の原因となるin vivo体細胞突然変異プロセスに類似したプロセスにおいて、CDR3内等、抗体をランダムに突然変異させることができる。よって、CDR3に相補的なPCRプライマーを使用してシングルドメインモノクローナル抗体を増幅することにより、in vitro親和性成熟を達成することができる。このプロセスにおいて、結果として生じるPCR産物が、CDR3にランダムな突然変異が導入されたシングルドメイン抗体をコードするように、プライマーは、ある特定の位置に4種のヌクレオチド塩基のランダムな混合物を「スパイク」された。これらのランダムシングルドメイン抗体を検査して、スパイクタンパク質に対する結合親和性を決定することができる。
【0193】
一部のインプリメンテーションでは、抗体は、抗体がグリコシル化される程度を増加または減少させるように変更される。グリコシル化部位の付加または欠失は、1個または複数のグリコシル化部位が創出または除去されるようにアミノ酸配列を変更することにより、簡便に達成することができる。
【0194】
抗体(または融合タンパク質)がFc領域を含む場合、そこに取り付けられた炭水化物を変更することができる。哺乳動物細胞によって産生されたネイティブ抗体は典型的に、Fc領域のCH2ドメインのAsn297へのN-連結によって一般に取り付けられる分枝状二分岐オリゴ糖を含む。例えば、Wright et al. Trends Biotechnol. 15(1):26-32, 1997を参照されたい。オリゴ糖は、様々な炭水化物、例えば、マンノース、N-アセチルグルコサミン(GlcNAc)、ガラクトースおよびシアル酸、ならびに二分岐オリゴ糖構造の「ステム(stem)」におけるGlcNAcに取り付けられたフコースを含むことができる。一部のインプリメンテーションでは、ある特定の改善された特性を有する抗体バリアントを創出するために、抗体におけるオリゴ糖の修飾を為すことができる。
【0195】
1つのインプリメンテーションでは、Fc領域に取り付けられた(直接的にまたは間接的に)フコースを欠如する炭水化物構造を有するバリアントが提供される。例えば、そのような抗体におけるフコースの量は、1%~80%、1%~65%、5%~65%または20%~40%であり得る。フコースの量は、例えば、WO2008/077546に記載されている通り、MALDI-TOF質量分析によって測定される、Asn297に取り付けられた全ての糖構造(glycostructure)(例えば、複合体、ハイブリッドおよび高マンノース構造)の和と比べて、Asn297における糖鎖内のフコースの平均量を計算することにより決定される。Asn297は、Fc領域における約297位に配置されたアスパラギン残基を指す;しかし、Asn297は、抗体における僅かな配列変形形態により、297位の約±3アミノ酸上流または下流に、すなわち、294位~300位の間に配置される場合もある。そのようなフコシル化バリアントは、改善されたADCC機能を有することができる。例えば、米国特許公開番号US2003/0157108(Presta、L.);US2004/0093621(Kyowa Hakko Kogyo Co.,Ltd)を参照されたい。「脱フコシル化(defucosylated)」または「フコース欠損」抗体バリアントに関する刊行物の例は、US2003/0157108;WO2000/61739;WO2001/29246;US2003/0115614;US2002/0164328;US2004/0093621;US2004/0132140;US2004/0110704;US2004/0110282;US2004/0109865;WO2003/085119;WO2003/084570;WO2005/035586;WO2005/035778;WO2005/053742;WO2002/031140;Okazaki et al., J. Mol. Biol., 336(5):1239-1249, 2004;Yamane-Ohnuki et al., Biotechnol. Bioeng. 87(5):614-622, 2004を含む。脱フコシル化抗体を産生することができる細胞系の例は、タンパク質フコシル化が欠損したLec 13 CHO細胞(Ripka et al., Arch. Biochem. Biophys. 249(2):533-545, 1986;米国特許出願番号US2003/0157108およびWO2004/056312、特に、実施例11)、およびノックアウト細胞系、例えば、アルファ-1,6-フコシルトランスフェラーゼ遺伝子、FUT8、ノックアウトCHO細胞(例えば、Yamane-Ohnuki et al., Biotechnol. Bioeng., 87(5): 614-622, 2004;Kanda et al., Biotechnol. Bioeng., 94(4):680-688, 2006;およびWO2003/085107を参照)を含む。
【0196】
例えば、抗体のFc領域に取り付けられた二分岐オリゴ糖がGlcNAcによって二分された、二分されたオリゴ糖を有する抗体バリアントがさらに提供される。そのような抗体バリアントは、低減されたフコシル化および/または改善されたADCC機能を有することができる。そのような抗体バリアントの例は、例えば、WO2003/011878(Jean-Mairet et al.);米国特許第6,602,684号(Umana et al.);およびUS2005/0123546(Umana et al.)に記載されている。Fc領域に取り付けられたオリゴ糖に少なくとも1個のガラクトース残基を有する抗体バリアントも提供される。そのような抗体バリアントは、改善されたCDC機能を有することができる。そのような抗体バリアントは、例えば、WO1997/30087;WO1998/58964;およびWO1999/22764に記載されている。
【0197】
シングルドメインモノクローナル抗体がFcタンパク質に融合された、いくつかのインプリメンテーションでは、Fc領域は、抗体のin vivo半減期を最適化するための1個または複数のアミノ酸置換を含む。IgG Abの血清半減期は、新生児Fc受容体(FcRn)によって調節される。よって、いくつかのインプリメンテーションでは、Fc領域は、FcRnへの結合を増加させるアミノ酸置換を含む。そのような置換の非限定的な例は、IgG定常領域T250QおよびM428L(例えば、Hinton et al., J Immunol., 176(1):346-356, 2006を参照);M428LおよびN434S(「LS」突然変異、例えば、Zalevsky, et al., Nature Biotechnol., 28(2):157-159, 2010を参照されたい);N434A(例えば、Petkova et al., Int. Immunol., 18(12):1759-1769, 2006を参照);T307A、E380AおよびN434A(例えば、Petkova et al., Int. Immunol., 18(12):1759-1769, 2006を参照);ならびにM252Y、S254TおよびT256E(例えば、Dall'Acqua et al., J. Biol. Chem., 281(33):23514-23524, 2006を参照)における置換を含む。開示されるシングルドメイン抗体は、上に挙げる置換のいずれかを含むFcポリペプチドに連結され得るまたはそれを含むことができ、例えば、Fcポリペプチドは、M428LおよびN434S(「LS」)置換を含むことができる。
【0198】
一部のインプリメンテーションでは、本明細書に提供されるシングルドメインモノクローナル抗体、融合タンパク質、二価抗体、三価単鎖Fvまたは二重特異性抗体は、追加の非タンパク質性部分を含有するようにさらに修飾され得る。抗体の誘導体化に適した部分は、水溶性ポリマーを含むがこれらに限定されない。水溶性ポリマーの非限定的な例は、ポリエチレングリコール(PEG)、エチレングリコール/プロピレングリコールのコポリマー、カルボキシメチルセルロース、デキストラン、ポリビニルアルコール、ポリビニルピロリドン、ポリ-1,3-ジオキソラン、ポリ-1,3,6-トリオキサン、エチレン/無水マレイン酸コポリマー、ポリアミノ酸(ホモポリマーまたはランダムコポリマーのいずれか)、およびデキストランまたはポリ(n-ビニルピロリドン)ポリエチレングリコール、プロプロピレングリコール(propropylene glycol)ホモポリマー、酸化プロリプロピレン(prolypropylene oxide)/酸化エチレンコポリマー、ポリオキシエチル化ポリオール(例えば、グリセロール)、ポリビニルアルコール、ならびにこれらの混合物を含むがこれらに限定されない。ポリエチレングリコールプロピオンアルデヒドは、その水中安定性により、製造上の利点を有することができる。ポリマーは、いかなる分子量のものであってもよく、分枝状であっても非分枝状であってもよい。抗体に取り付けられたポリマーの数は変動することができ、2個以上のポリマーが取り付けられる場合、これらは同じまたは異なる分子であり得る。一般に、誘導体化に使用されるポリマーの数および/または型は、改善されるべき抗体の特定の特性または機能、定義された条件下での適用において抗体誘導体が使用されることになるか否か等を含むがこれらに限定されない考察に基づき決定することができる。
【0199】
IX.結合親和性
いくつかのインプリメンテーションでは、シングルドメインモノクローナル抗体(そのバリアントおよびコンジュゲートを含む)は、1.0×10-8M以下、5.0×10-8M以下、1.0×10-9M以下、5.0×10-9M以下、1.0×10-10M以下、5.0×10-10M以下または1.0×10-11M以下の親和性(例えば、KDによって測定される)でコロナウイルススパイクタンパク質に特異的に結合する。KDは、例えば、目的の抗体およびその抗原を用いて行われる放射標識抗原結合アッセイ(RIA)によって測定することができる。
【0200】
1つのアッセイにおいて、KDは、バイオレイヤーインターフェロメトリー(BLI)を使用した表面プラズモン共鳴アッセイを使用して測定することができる。他のインプリメンテーションでは、KDは、ほぼ10応答単位(RU)で固定化抗原CM5チップを用いて、25℃でBIACORE(登録商標)-2000またはBIACORE(登録商標)-3000(BIAcore、Inc.,Piscataway、N.J.)を使用して測定することができる。手短に説明すると、カルボキシメチル化デキストランバイオセンサーチップ(CM5、BIACORE(登録商標),Inc.)は、サプライヤーの説明書に従ってN-エチル-N’-(3-ジメチルアミノプロピル)-カルボジイミド塩酸塩(EDC)およびN-ヒドロキシサクシニミド(NHS)を用いて活性化される。抗原は、カップルされたタンパク質のおよそ10応答単位(RU)を達成するために、流速5l/分の注射前に10mM酢酸ナトリウム、pH4.8で5μg/ml(ほぼ0.2μM)に希釈される。抗原の注射後に、1Mエタノールアミンを注射して、未反応の基を遮断する。動態測定のため、25℃で流速およそ25l/分にて0.05%ポリソルベート20(TWEEN-20(商標))界面活性剤入りのPBS(PBST)において、抗体の2倍系列希釈(0.78nM~500nM)が注射される。会合速度(kon)および解離速度(koff)は、会合および解離センサグラム(sensorgram)を同時にフィッティングさせることにより、単純な1対1のラングミュア結合モデル(BIACORE(登録商標)評価ソフトウェアバージョン3.2)を使用して計算される。平衡解離定数(KD)は、比koff/konとして計算される。例えば、Chen et al., J. Mol. Biol. 293:865-881 (1999)を参照されたい。オンレート(on-rate)が、上述の表面プラズモン共鳴アッセイによって106M-1秒-1を超える場合、オンレートは、撹拌キュベットを備えるストップフロー搭載分光光度計(Aviv Instruments)または8000-シリーズSLM-AMINCO(商標)分光光度計(ThermoSpectronic)等の分光計で測定される増加濃度の抗原の存在下、25℃で、PBS、pH7.2における20nM抗抗原抗体の蛍光発光強度(励起=295nm;発光=340nm、16nmバンドパス)の増加または減少を測定する蛍光クエンチング技法を使用することにより決定することができる。親和性は、Carterra LSA、競合ラジオイムノアッセイ、ELISA、フローサイトメトリーまたはOctet系(Creative Biolabs)を使用したハイスループットSPRによって測定することもでき、これは、バイオレイヤーインターフェロメトリー(BLI)技術に基づく。
【0201】
X.核酸分子
コロナウイルススパイクタンパク質に特異的に結合する開示されている抗体、融合タンパク質およびコンジュゲートのアミノ酸配列をコードする核酸分子(例えば、DNA、cDNAまたはRNA分子)が提供される。これらの分子をコードする核酸分子は、本明細書に提供されるアミノ酸配列、当技術分野で利用できる配列(フレームワークまたは定常領域配列等)および遺伝暗号を使用して容易に産生することができる。一部のインプリメンテーションでは、核酸分子は、宿主細胞(哺乳動物細胞または細菌細胞等)において発現させて、開示されている抗体(例えば、シングルドメイン抗体、三価単鎖Fvまたは二重特異性抗体)、融合タンパク質または抗体コンジュゲートを産生することができる。
【0202】
遺伝暗号を使用して、その配列が異なるが、同じ抗体配列をコードする、またはシングルドメイン抗体配列を含むコンジュゲートもしくは融合タンパク質をコードする核酸等、種々の機能的に等価な核酸配列を構築することができる。
【0203】
コロナウイルススパイクタンパク質に特異的に結合する抗体、融合タンパク質およびコンジュゲートをコードする核酸分子は、例えば、適切な配列のクローニングまたは標準方法による直接的な化学合成によるものを含むいずれか適した方法によって調製することができる。化学合成は、一本鎖オリゴヌクレオチドを産生する。相補配列とのハイブリダイゼーションにより、または鋳型として一本鎖を使用したDNAポリメラーゼによる重合により、これを二本鎖DNAに変換することができる。
【0204】
例示的な核酸は、クローニング技法によって調製することができる。適切なクローニングおよび配列決定技法の例は、例えば、Green and Sambrook(Molecular Cloning: A Laboratory Manual, 4th ed., New York: Cold Spring Harbor Laboratory Press, 2012)およびAusubel et al. (Eds.)(Current Protocols in Molecular Biology, New York: John Wiley and Sons、補足を含む)に見出すことができる。
【0205】
核酸は、増幅方法によって調製することもできる。増幅方法は、ポリメラーゼ連鎖反応(PCR)、リガーゼ連鎖反応(LCR)、転写に基づく増幅系(TAS)および自家持続配列複製系(3SR)を含む。
【0206】
核酸分子は、組換えにより操作された細胞、例えば、細菌、植物、酵母、昆虫および哺乳動物細胞において発現させることができる。抗体およびコンジュゲートは、シングルドメインモノクローナル抗体(必要であればエフェクター分子または検出可能なマーカーに連結)を含む個々のタンパク質として発現させることができる、または融合タンパク質として発現させることができる。抗体を発現および精製するいずれか適した方法を使用することができる;非限定的な例は、Al-Rubeai (Ed.), Antibody Expression and Production, Dordrecht; New York: Springer, 2011)に提供される。
【0207】
シングルドメインモノクローナル抗体、三価単鎖Fv、二重特異性抗体および融合タンパク質をコードする1種または複数のDNA配列は、適した宿主細胞へのDNA移入によってin vitroで発現させることができる。細胞は、原核または真核細胞であり得る。E.coli、他の細菌宿主、酵母ならびに様々な高等真核細胞、例えば、哺乳動物細胞、例えば、COS、CHO、HeLaおよび骨髄腫細胞系を含む、タンパク質の発現に利用できる多数の発現系を使用して、開示されている抗体および抗原結合性断片を発現させることができる。外来性DNAが宿主において継続的に維持されることを意味する安定移入の方法を使用することができる。
【0208】
本明細書に記載されているシングルドメインモノクローナル抗体、三価単鎖Fv、二重特異性抗体および融合タンパク質をコードする核酸の発現は、DNAまたはcDNAをプロモーター(構成的または誘導性のいずれかである)に作動可能に連結し、続いて発現カセットに取り込むことにより達成することができる。プロモーターは、サイトメガロウイルスプロモーターを含む、いずれかの目的のプロモーターであり得る。必要に応じて、エンハンサー、例えば、サイトメガロウイルスエンハンサーが、構築物に含まれる。カセットは、原核生物または真核生物のいずれかにおける複製および組込みに適することができる。典型的な発現カセットは、タンパク質をコードするDNAの発現の調節に有用な特異的な配列を含有する。例えば、発現カセットは、適切なプロモーター、エンハンサー、転写および翻訳ターミネーター、開始配列、タンパク質コード遺伝子の直前にある開始コドン(すなわち、ATG)、イントロンのためのスプライシングシグナル、mRNAの適正な翻訳を可能にするための当該遺伝子の正しい読み枠の維持のための配列、ならびに停止コドンを含むことができる。ベクターは、選択可能なマーカー、例えば、薬物抵抗性(例えば、アンピシリンまたはテトラサイクリン抵抗性)をコードするマーカーをコードすることができる。
【0209】
クローニングされた遺伝子の高レベル発現を得るために、例えば、転写を方向付けるための強いプロモーター、翻訳開始のためのリボソーム結合部位(例えば、内部リボソーム結合配列)および転写/翻訳ターミネーターを含有する発現カセットを構築することが望ましい。E.coliのため、これは、プロモーター、例えば、T7、trp、lacまたはラムダプロモーター、リボソーム結合部位および転写終結シグナルを含むことができる。真核細胞のため、制御配列は、例えば、免疫グロブリン遺伝子、HTLV、SV40またはサイトメガロウイルスに由来するプロモーターおよび/またはエンハンサー、ならびにポリアデニル化配列を含むことができ、スプライスドナーおよび/またはアクセプター配列(例えば、CMVおよび/またはHTLVスプライスアクセプターおよびドナー配列)をさらに含むことができる。カセットは、E.coliのための形質転換または電気穿孔、および哺乳動物細胞のためのリン酸カルシウム処置、電気穿孔またはリポフェクション等のいずれか適した方法によって、選ばれた宿主細胞に移入することができる。カセットによって形質転換された細胞は、amp、gpt、neoおよびhyg遺伝子等、カセットに含有される遺伝子によって付与された抗生物質に対する抵抗性によって選択することができる。
【0210】
その生物活性を縮小することなく、本明細書に記載されている抗体をコードする核酸に対して修飾を為すことができる。抗体のクローニング、発現または融合タンパク質への取込みを容易にするために、いくつかの修飾を為すことができる。そのような修飾は、例えば、終結コドン、簡便に配置された制限部位を創出するための配列、および開始部位を提供するためにアミノ末端にメチオニンを付加するための配列、または精製ステップに役立つ追加のアミノ酸(ポリHis等)を含む。
【0211】
発現されると、シングルドメインモノクローナル抗体、三価単鎖Fv、二重特異性抗体および融合タンパク質は、硫酸アンモニウム沈殿、親和性カラム、カラムクロマトグラフィーその他を含む、当技術分野における標準手順に従って精製することができる(一般に、Simpson et al. (Eds.), Basic methods in Protein Purification and Analysis: A Laboratory Manual, New York: Cold Spring Harbor Laboratory Press, 2009を参照)。シングルドメインモノクローナル抗体、三価単鎖Fv、二重特異性抗体および融合タンパク質は、100%純粋である必要はない。予防的に使用される場合、所望に応じて部分的にまたは均一になるまで精製されると、抗体は、エンドトキシンを実質的に含まない。
【0212】
哺乳動物細胞および細菌、例えば、E.coliからの抗体の発現および/または適切な活性形態へのリフォールディングのための方法は、記載されており、本明細書に開示される抗体に適用可能である。例えば、Greenfield (Ed.), Antibodies: A Laboratory Manual, 2nd ed. New York: Cold Spring Harbor Laboratory Press, 2014、Simpson et al. (Eds.), Basic methods in Protein Purification and Analysis: A Laboratory Manual, New York: Cold Spring Harbor Laboratory Press, 2009およびWard et al., Nature 341(6242):544-546, 1989を参照されたい。
【0213】
XI.抗体組成物および使用方法
本明細書に開示されるシングルドメインモノクローナル抗体、三価単鎖Fv、多重特異性(二重特異性等)抗体、融合タンパク質、組成物、核酸分子およびベクターは、例えば、コロナウイルス(SARS-CoV-2等)感染の検出/診断のための方法において、ならびにコロナウイルス(SARS-CoV-2等)感染の予防および処置において使用することができる。
【0214】
A.検出および診断の方法
in vitroまたはin vivoにおけるコロナウイルススパイクタンパク質の存在の検出のための方法が提供される。一例では、コロナウイルススパイクタンパク質の存在は、対象由来の生体試料において検出され、感染を有する対象の同定に使用され得る。試料は、生検、検死解剖および病理検体由来の組織を含むがこれらに限定されない、いずれかの試料であり得る。生体試料は、組織の切片、例えば、組織学的目的で採取された凍結切片も含む。生体試料は、生体液、例えば、血液、血清、血漿、痰、脊髄液または尿をさらに含む。検出の方法は、免疫複合体を形成するのに十分な条件下で、細胞または試料を、コロナウイルススパイクタンパク質に特異的に結合するシングルドメインドメインモノクローナル抗体、融合タンパク質、二価抗体、三価単鎖Fvもしくは二重特異性抗体、またはそのコンジュゲート(例えば、検出可能なマーカーを含むコンジュゲート)と接触させるステップと、免疫複合体を検出するステップ(例えば、抗体または抗原結合性断片にコンジュゲートされた検出可能なマーカーを検出することにより)とを含むことができる。
【0215】
一部の例では、コロナウイルススパイクタンパク質の存在は、対象由来の生体試料において検出され、コロナウイルス感染を有する対象の同定に使用され得る。試料は、痰、唾液、粘液、鼻洗浄、鼻咽頭試料、中咽頭試料、末梢血、組織、細胞、尿、組織生検、細針吸引、外科的検体、糞便、脳脊髄液(CSF)および気管支肺胞洗浄(BAL)液を含むがこれらに限定されない、いずれかの試料であり得る。生体試料は、組織の切片、例えば、組織学的目的で採取された凍結切片も含む。検出の方法は、免疫複合体を形成するのに十分な条件下で、細胞または試料を、コロナウイルススパイクタンパク質に特異的に結合する抗体または抗体コンジュゲート(例えば、検出可能なマーカーを含むコンジュゲート)と接触させるステップと、免疫複合体を検出するステップ(例えば、抗体にコンジュゲートされた検出可能なマーカーを検出することにより)とを含むことができる。
【0216】
1つのインプリメンテーションでは、抗体は、検出可能なマーカーで直接的に標識される。別のインプリメンテーションでは、コロナウイルススパイクタンパク質に結合する抗体(一次抗体)は、非標識であり、一次抗体に結合することができる二次抗体または他の分子が、検出に利用される。選ばれた二次抗体は、第1の抗体の特異的な種およびクラスに特異的に結合することができる。例えば、第1の抗体が、ヒトIgGである場合、二次抗体は、抗ヒト-IgGであり得る。抗体に結合することができる他の分子は、プロテインAおよびプロテインGを限定することなく含み、これらは両者共に市販されている。
【0217】
抗体または二次抗体のための適した標識は、様々な酵素、接合団、蛍光材料、冷光材料、磁性薬剤および放射性材料を含む。適した酵素の非限定的な例は、西洋わさびペルオキシダーゼ、アルカリホスファターゼ、ベータ-ガラクトシダーゼまたはアセチルコリンエステラーゼを含む。適した接合団複合体の非限定的な例は、ストレプトアビジン/ビオチンおよびアビジン/ビオチンを含む。適した蛍光材料の非限定的な例は、ウンベリフェロン、フルオレセイン、フルオレセインイソチオシアネート、ローダミン、ジクロロトリアジニルアミンフルオレセイン、塩化ダンシルまたはフィコエリトリンを含む。非限定的な例示的な冷光材料は、ルミノールであり;非限定的な例示的な磁性薬剤は、ガドリニウムであり、非限定的な例示的な放射性標識は、125I、131I、35Sまたは3Hを含む。
【0218】
代替インプリメンテーションでは、スパイクタンパク質は、検出可能な物質で標識されたスパイクタンパク質標準およびスパイクタンパク質に特異的に結合する非標識抗体を利用した競合イムノアッセイによって、生体試料においてアッセイすることができる。このアッセイにおいて、生体試料、標識されたスパイクタンパク質標準およびスパイクタンパク質に特異的に結合する抗体が組み合わされ、非標識抗体に結合した標識されたスパイクタンパク質標準の量が決定される。生体試料中のスパイクタンパク質の量は、スパイクタンパク質に特異的に結合する抗体に結合した標識されたスパイクタンパク質標準の量に反比例する。
【0219】
本明細書に開示されるイムノアッセイおよび方法は、多数の目的のために使用することができる。1つのインプリメンテーションでは、コロナウイルススパイクタンパク質に特異的に結合する抗体を使用して、細胞培養物における細胞におけるスパイクタンパク質の産生を検出することができる。別のインプリメンテーションでは、抗体を使用して、コロナウイルス感染を有するかまたはそれを有することが疑われる対象から得られる試料等の生体試料におけるスパイクタンパク質の量を検出することができる。
【0220】
1つのインプリメンテーションでは、鼻咽頭、中咽頭、痰、唾液または血液試料等の生体試料におけるコロナウイルススパイクタンパク質を検出するためのキットが提供される。コロナウイルス感染を検出するためのキットは典型的に、本明細書に開示される抗体またはコンジュゲートのいずれか等、コロナウイルススパイクタンパク質に特異的に結合するシングルドメインモノクローナル抗体を含むであろう。さらなるインプリメンテーションでは、抗体は、標識されている(例えば、蛍光、放射性または酵素標識で)。
【0221】
1つのインプリメンテーションでは、キットは、コロナウイルススパイクタンパク質に結合する抗体の使用の手段を開示する指導用材料を含む。指導用材料は、電子形式(コンピュータディスケットまたはコンパクトディスク等)における文書であり得る、または視覚的(ビデオファイル等)であり得る。キットは、キットが設計された特定の適用を容易にするための追加の構成成分を含むこともできる。よって、例えばキットはその上、標識を検出する手段を含有することができる(酵素標識のための酵素基質、蛍光標識を検出するためのフィルターセット、二次抗体等の適切な二次標識その他等)。キットはその上、特定の方法の実施のためにルーチンに使用される緩衝剤および他の試薬を含むことができる。そのようなキットおよび適切な内容物は、当業者にとって周知である。
【0222】
1つのインプリメンテーションでは、診断キットは、イムノアッセイを含む。イムノアッセイの詳細は、用いられている特定のフォーマットと共に変動し得るが、生体試料におけるスパイクタンパク質を検出する方法は一般に、生体試料を、免疫学的に反応性の条件下でコロナウイルススパイクタンパク質と特異的に反応する抗体と接触させるステップを含む。抗体に、免疫学的に反応性の条件下で特異的に結合させて免疫複合体を形成させ、免疫複合体(結合した抗体)の存在は、直接的にまたは間接的に検出される。
【0223】
本明細書に開示される抗体は、ラジオイムノアッセイ(RIA)、ELISA、側方流動アッセイ(LFA)または免疫組織化学的アッセイ等が挙げられるがこれらに限定されない、イムノアッセイにおいて利用することもできる。抗体は、ウイルス感染細胞を同定/検出するため等、蛍光活性化細胞選別(FACS)に使用することもできる。FACSは、複数の色チャネル、低角度および鈍角光散乱検出チャネルならびにインピーダンスチャネルを、いくつものより精巧なレベルの検出の中でもとりわけ用いて、細胞を分離または選別する(米国特許第5,061,620号を参照)。本明細書に開示される、スパイクタンパク質に結合するモノクローナル抗体または抗原結合性断片のいずれかをこれらのアッセイにおいて使用することができる。よって、抗体は、ELISA、RIA、LFA、FACS、組織免疫組織化学、ウエスタンブロットまたは免疫沈降を限定することなく含む、従来のイムノアッセイにおいて使用することができる。開示されている抗体は、コロナウイルス(SARS-CoV-2等)またはコロナウイルスを含有するエクソソームの捕捉に使用することができるマイクロ流体イムノアッセイ等のナノテクノロジー方法において使用することもできる。マイクロ流体イムノアッセイまたは他のナノテクノロジー方法による使用のための適した試料は、唾液、血液および糞便試料を含むがこれらに限定されない。マイクロ流体イムノアッセイは、米国特許出願第2017/0370921号、同第2018/0036727号、同第2018/0149647号、同第2018/0031549号、同第2015/0158026号および同第2015/0198593号;ならびにLin et al., JALA June 2010, pages 254-274;Lin et al., Anal Chem 92: 9454-9458, 2020;およびHerr et al., Proc Natl Acad Sci USA 104(13): 5268-5273, 2007に記載されており、これらは全て、参照により本明細書に組み込まれる。
【0224】
一部のインプリメンテーションでは、開示されているシングルドメインモノクローナル抗体、融合タンパク質、二価抗体、三価単鎖Fvまたは二重特異性抗体は、ワクチンの検査に使用される。例えば、コロナウイルススパイクタンパク質またはその断片を含むワクチン組成物が、開示されている抗体のエピトープを含む高次構造を取るか否かについて検査するために。よって、ワクチンを検査するための方法であって、免疫複合体の形成に十分な条件下、コロナウイルススパイクタンパク質免疫原等のワクチンを含有する試料を、開示されているシングルドメインモノクローナル抗体、融合タンパク質、二価抗体、三価単鎖Fvまたは二重特異性抗体と接触させるステップと、免疫複合体を検出して、試料中に目的のエピトープを含むワクチンを検出するステップとを含む方法が本明細書に提供される。一例では、試料中の免疫複合体の検出は、免疫原等のワクチン構成成分が、抗体または抗原結合性断片に結合することができる高次構造を取ることを指し示す。
【0225】
B.コロナウイルス感染を処置または阻害する方法
SARS-CoV-2感染等、対象におけるコロナウイルス感染を処置または阻害するための方法が本明細書に開示される。方法は、コロナウイルス感染のリスクがあるかまたはコロナウイルス感染を有する対象に、有効量(対象における感染を阻害するのに有効な量等)の開示されているシングルドメインモノクローナル抗体、融合タンパク質、二価抗体、三価単鎖Fv、二重特異性抗体、核酸分子、ベクターまたは組成物を対象に投与するステップを含む。方法は、曝露前または曝露後に使用することができる。
【0226】
方法が有効となるために、感染が完全に排除または阻害される必要はない。例えば、方法は、処置の非存在下でのコロナウイルス感染と比較して、感染を所望の量だけ、例えば、少なくとも10%、少なくとも20%、少なくとも50%、少なくとも60%、少なくとも70%、少なくとも80%、少なくとも90%、少なくとも95%、少なくとも98%またはさらには少なくとも100%(検出可能なコロナウイルス感染の排除または防止)減少させることができる。一部のインプリメンテーションでは、対象は、有効量の追加の薬剤、例えば、抗ウイルス剤で処置することもできる。
【0227】
一部のインプリメンテーションでは、有効量の開示されているシングルドメインモノクローナル抗体、融合タンパク質、二価抗体、三価単鎖Fv、二重特異性抗体、核酸分子、ベクターまたは組成物の投与は、対象における感染の確立および/またはその後の疾患進行を阻害し、これは、対象におけるコロナウイルス感染の活性(例えば、ウイルス複製)または症状(発熱または咳等)のいずれかの統計的に有意な低減を包含することができる。
【0228】
対象におけるコロナウイルス複製の阻害のための方法が本明細書に開示される。方法は、コロナウイルス感染のリスクがあるかまたはコロナウイルス感染を有する対象に、有効量(すなわち、対象における複製を阻害するのに有効な量)の開示されているシングルドメインモノクローナル抗体、融合タンパク質、二価抗体、三価単鎖Fv、二重特異性抗体、核酸分子、ベクターまたは組成物を対象に投与するステップを含む。方法は、曝露前または曝露後に使用することができる。
【0229】
対象におけるコロナウイルス感染を処置するための方法が開示される。対象におけるコロナウイルス感染を防止するための方法も開示される。これらの方法は、開示されているシングルドメインモノクローナル抗体、融合タンパク質、二価抗体、三価単鎖Fv、二重特異性抗体、核酸分子、ベクターまたは組成物のうち1種または複数を投与するステップを含む。
【0230】
抗体および融合タンパク質は、例えば、静脈内注入によって投与することができる。シングルドメインモノクローナル抗体、融合タンパク質、二価抗体、三価単鎖Fvまたは二重特異性抗体の用量は変動するが、一般に、約1mg/kg、約5mg/kg、約10mg/kg、約20mg/kg、約30mg/kg、約40mg/kgまたは約50mg/kgの用量等、約0.5mg/kg~約50mg/kgの間の範囲に及ぶ。一部のインプリメンテーションでは、シングルドメインモノクローナル抗体、融合タンパク質、二価抗体、三価単鎖Fvまたは二重特異性抗体の用量は、約1mg/kg、約2mg/kg、約3mg/kg、約4mg/kgまたは約5mg/kgの用量等、約0.5mg/kg~約5mg/kgであり得る。シングルドメインモノクローナル抗体、融合タンパク質、二価抗体、三価単鎖Fvまたは二重特異性抗体は、医師によって決定された投薬スケジュールに従って投与される。一部の例では、シングルドメインモノクローナル抗体、融合タンパク質、二価抗体、三価単鎖Fvまたは二重特異性抗体は、毎週、2週間毎、3週間毎または4週間毎に投与される。
【0231】
一部のインプリメンテーションでは、対象における感染を阻害する方法は、対象への1種または複数の追加の薬剤の投与をさらに含む。目的の追加の薬剤は、抗ウイルス剤、例えば、ヒドロキシクロロキン、アルビドール、レムデシビル、ファビピラビル、バリシチニブ、ロピナビル/リトナビル、亜鉛イオンおよびインターフェロンベータ-1b、またはこれらの組合せを含むがこれらに限定されない。
【0232】
一部のインプリメンテーションでは、方法は、本明細書に開示されるコロナウイルススパイクタンパク質に特異的に結合する第1の抗体、およびコロナウイルスタンパク質の異なるエピトープ等のコロナウイルスタンパク質に同様に特異的に結合する第2の抗体の投与を含む。
【0233】
一部のインプリメンテーションでは、対象に、開示されているシングルドメインモノクローナル抗体、融合タンパク質、二価抗体、三価単鎖Fvまたは二重特異性抗体をコードするDNAまたはRNAを投与して、例えば、対象の細胞機構を使用したin vivo抗体産生を提供する。核酸投与のいずれか適した方法を使用することができる;非限定的な例は、米国特許第5,643,578号、米国特許第5,593,972号および米国特許第5,817,637号に提供されている。米国特許第5,880,103号は、生物へのタンパク質をコードする核酸の送達のいくつかの方法について記載する。核酸の投与に対する1つのアプローチは、哺乳動物発現プラスミド等のプラスミドDNAによる直接的投与である。開示されているシングルドメインモノクローナル抗体、融合タンパク質、二価抗体、三価単鎖Fvまたは二重特異性抗体をコードするヌクレオチド配列は、発現を増加させるためのプロモーターの制御下に設置することができる。方法は、核酸のリポソーム送達を含む。そのような方法は、シングルドメインモノクローナル抗体、融合タンパク質、二価抗体、三価単鎖Fvまたは二重特異性抗体の産生に適用することができる。一部のインプリメンテーションでは、開示されているシングルドメインモノクローナル抗体、融合タンパク質、二価抗体、三価単鎖Fvまたは二重特異性抗体は、pVRC8400ベクター(参照により本明細書に組み込まれるBarouch et al., J. Virol., 79(14), 8828-8834, 2005に記載)を使用して、対象において発現される。
【0234】
いくつかのインプリメンテーションでは、対象(コロナウイルス感染のリスクがあるかまたはコロナウイルス感染を有するヒト対象等)に、開示されているシングルドメインモノクローナル抗体、融合タンパク質、二価抗体、三価単鎖Fvまたは二重特異性抗体をコードする1種または複数の核酸分子を含む有効量のウイルスベクターを投与することができる。ウイルスベクターは、開示されているシングルドメインモノクローナル抗体、融合タンパク質、二価抗体、三価単鎖Fvまたは二重特異性抗体をコードする核酸分子の発現のために設計され、対象への有効量のウイルスベクターの投与は、対象における有効量のシングルドメインモノクローナル抗体、融合タンパク質、二価抗体、三価単鎖Fvまたは二重特異性抗体の発現を生じる。対象における開示されているシングルドメインモノクローナル抗体、融合タンパク質、二価抗体、三価単鎖Fvまたは二重特異性抗体の発現に使用することができるウイルスベクターの非限定的な例は、それぞれの全体が参照により本明細書に組み込まれるJohnson et al., Nat. Med., 15(8):901-906, 2009およびGardner et al., Nature, 519(7541):87-91, 2015に提供されるものを含む。
【0235】
1つのインプリメンテーションでは、開示されているシングルドメインモノクローナル抗体、融合タンパク質、二価抗体、三価単鎖Fvまたは二重特異性抗体をコードする核酸は、組織に直接的に導入される。例えば、核酸を、標準方法によって金マイクロスフェア上にロードし、Bio-RadのHELIOS(商標)遺伝子銃等のデバイスによって皮膚内に導入することができる。核酸は、強いプロモーターの制御下のプラスミドからなる「ネイキッド」であり得る。
【0236】
典型的には、DNAは、筋肉内に注射されるが、他の部位内に直接的に注射されてもよい。注射のための投薬量は通常、0.5μg/kg前後~約50mg/kgであり、典型的には、約0.005mg/kg~約5mg/kgである(例えば、米国特許第5,589,466号を参照)。
【0237】
開示されているシングルドメインモノクローナル抗体、融合タンパク質、二価抗体、三価単鎖Fvもしくは二重特異性抗体、またはそのような分子をコードする核酸分子を含む組成物の単一のまたは複数の投与は、患者によって要求されかつ耐容性を示す投薬量および頻度に応じて投与することができる。投薬量は、1回投与することができるが、所望の結果が達成されるまで、または副作用が治療法の中断を是認するまで、定期的に適用することができる。一般に、用量は、患者に許容できない毒性を生じることなく、コロナウイルス感染を阻害するのに十分である。
【0238】
細胞培養アッセイおよび動物研究から得られたデータを使用して、ヒトにおける使用のためにある範囲の投薬量を処方することができる。投薬量は通常、毒性がほとんどないかまたは最小の、ED50を含む循環濃度の範囲内にある。投薬量は、用いられる剤形および利用される投与経路に応じて、この範囲内で変動し得る。有効用量は、細胞培養アッセイおよび動物研究から決定することができる。
【0239】
コロナウイルススパイクタンパク質特異的シングルドメインモノクローナル抗体、融合タンパク質、二価抗体、三価単鎖Fvもしくは二重特異性抗体、またはそのような分子をコードする核酸分子、またはそのような分子を含む組成物は、例えば、皮下、静脈内、動脈内、腹腔内、筋肉内、皮内またはくも膜下腔内注射による等、局所性および全身性投与を含む様々な仕方で、対象に投与することができる。あるインプリメンテーションでは、シングルドメインモノクローナル抗体、融合タンパク質、二価抗体、三価単鎖Fvもしくは二重特異性抗体、またはそのような分子をコードする核酸分子、またはそのような分子を含む組成物は、1日1回、単一の皮下、静脈内、動脈内、腹腔内、筋肉内、皮内またはくも膜下腔内注射によって投与される。シングルドメインモノクローナル抗体、融合タンパク質、二価抗体、三価単鎖Fvもしくは二重特異性抗体、またはそのような分子をコードする核酸分子、またはそのような分子を含む組成物は、疾患部位におけるまたはその付近における直接的な注射によって投与することもできる。さらに別の投与方法は、所定の期間にわたる、シングルドメインモノクローナル抗体、融合タンパク質、二価抗体、三価単鎖Fvもしくは二重特異性抗体、またはそのような分子をコードする核酸分子、またはそのような分子を含む組成物の制御された、継続的なおよび/または緩徐な放出送達を可能にする、浸透圧ポンプ(例えば、Alzetポンプ)またはミニポンプ(例えば、Alzetミニ浸透圧ポンプ)による。浸透圧ポンプまたはミニポンプは、皮下に、または標的部位の付近に植え込むことができる。
【0240】
C.組成物
本明細書に開示されるコロナウイルススパイクタンパク質特異的シングルドメインモノクローナル抗体、融合タンパク質、二価抗体、三価単鎖Fvもしくは二重特異性抗体、またはそのような分子をコードする核酸分子のうち1種または複数を、薬学的に許容される担体中に含む組成物が提供される。一部のインプリメンテーションでは、組成物は、本明細書に開示されるRBD-1-2G抗体、またはそのコンジュゲートを含む。一部のインプリメンテーションでは、組成物は、コロナウイルススパイクタンパク質に特異的に結合する2、3、4種またはそれよりも多い抗体(RBD-1-2Gを含む)を含む。組成物は、例えば、SARS-CoV-2感染等のコロナウイルス感染の阻害または検出に有用である。
【0241】
組成物は、対象への投与のために、キット等において単位剤形で調製することができる。投与の量およびタイミングは、所望の目的を達成するように投与担当の医師の裁量において為される。シングルドメインモノクローナル抗体、融合タンパク質、二価抗体、三価単鎖Fvもしくは二重特異性抗体、またはそのような分子をコードする核酸分子は、全身性または局所性投与のために製剤化することができる。一例では、シングルドメインモノクローナル抗体、融合タンパク質、二価抗体、三価単鎖Fvもしくは二重特異性抗体、またはそのような分子をコードする核酸分子は、静脈内投与等の非経口投与のために製剤化される。
【0242】
一部のインプリメンテーションでは、組成物中のシングルドメインモノクローナル抗体、融合タンパク質、二価抗体、三価単鎖Fvまたは二重特異性抗体は、少なくとも70%(少なくとも75%、少なくとも80%、少なくとも85%、少なくとも90%、少なくとも95%、少なくとも96%、少なくとも97%、少なくとも98%または少なくとも99%等)純粋である。一部のインプリメンテーションでは、組成物は、10%未満(5%未満、4%未満、3%未満、2%未満、1%未満、0.5%未満またはさらに少ない等)の巨大分子夾雑物、例えば、他の哺乳動物(例えば、ヒト)タンパク質を含有する。
【0243】
投与のための組成物は、水性担体等の薬学的に許容される担体に溶解されたシングルドメインモノクローナル抗体、融合タンパク質、二価抗体、三価単鎖Fvもしくは二重特異性抗体、またはそのような分子をコードする核酸分子の溶液を含むことができる。種々の水性担体、例えば、緩衝食塩水その他を使用することができる。そのような溶液は、無菌であり、一般に、望ましくない物質を含まない。そのような組成物は、いずれか適した技法によって滅菌することができる。組成物は、pH調整および緩衝剤、毒性調整剤その他、例えば、酢酸ナトリウム、塩化ナトリウム、塩化カリウム、塩化カルシウム、乳酸ナトリウムその他等、生理的条件を近似するのに要求される薬学的に許容される補助的物質を含有することができる。そのような製剤中の抗体の濃度は、広く変動し得、選択される特定の投与機序および対象の必要に従って、流体体積、粘性、体重その他に基づき主に選択されるであろう。
【0244】
静脈内投与のための典型的な組成物は、1日当たり対象当たり約0.01~約30mg/kgのシングルドメインモノクローナル抗体、融合タンパク質、二価抗体、三価単鎖Fvまたは二重特異性抗体(または抗体を含むコンジュゲートの対応する用量)を含む。投与可能な)組成物を調製するためにいずれか適した方法を使用することができる;非限定的な例は、Remington: The Science and Practice of Pharmacy, 22nd ed., London, UK: Pharmaceutical Press, 2013等の刊行物に提供されている。一部のインプリメンテーションでは、組成物は、約0.1mg/ml~約20mg/mlまたは約0.5mg/ml~約20mg/mlまたは約1mg/ml~約20mg/mlまたは約0.1mg/ml~約10mg/mlまたは約0.5mg/ml~約10mg/mlまたは約1mg/ml~約10mg/mlの濃度範囲で1種または複数のシングルドメインモノクローナル抗体、融合タンパク質、二価抗体、三価単鎖Fvまたは二重特異性抗体を含む液体製剤であり得る。
【0245】
シングルドメインモノクローナル抗体、融合タンパク質、二価抗体、三価単鎖Fvもしくは二重特異性抗体、またはそのような分子をコードする核酸は、凍結乾燥形態で提供することができ、投与前に滅菌水により水を加えて元に戻すことができるが、公知濃度の滅菌溶液中に提供することもできる。次に、シングルドメインモノクローナル抗体、融合タンパク質、二価抗体、三価単鎖Fvもしくは二重特異性抗体、またはそのような分子をコードする核酸を含む溶液を、0.9%塩化ナトリウム、USPを含有する注入バッグに添加することができ、0.5~15mg/kg(体重)の投薬量で典型的に投与することができる。1997年のリツキシマブの承認以降米国で販売されている抗体薬の投与の技術分野における相当な経験を利用できる。シングルドメインモノクローナル抗体、融合タンパク質、二価抗体、三価単鎖Fvもしくは二重特異性抗体、またはそのような分子をコードする核酸は、静脈内プッシュまたはボーラスよりもむしろ、緩徐注入によって投与することができる。一例では、より高い負荷用量が投与され、後続の維持用量は、より低いレベルで投与される。例えば、4mg/kgの初期負荷用量は、およそ90分間の期間にわたり注入することができ、続いて、以前の用量が良好な耐容性を示した場合、2mg/kgの4~8週間の毎週維持用量は、30分間の期間にわたり注入される。
【0246】
制御放出非経口製剤は、インプラント、油性注射または粒状系として作製することができる。タンパク質送達系の幅広い概観については、Banga, Therapeutic Peptides and Proteins: Formulation, Processing, and Delivery Systems, Lancaster, PA: Technomic Publishing Company, Inc., 1995を参照されたい。粒状系は、マイクロスフェア、マイクロ粒子、マイクロカプセル、ナノカプセル、ナノスフェアおよびナノ粒子を含む。マイクロカプセルは、中心コアとして、細胞毒または薬物等の活性タンパク質剤を含有する。マイクロスフェアにおいて、活性タンパク質剤は、粒子全体にわたり分散されている。約1μmよりも小さい粒子、マイクロスフェアおよびマイクロカプセルは一般に、それぞれナノ粒子、ナノスフェアおよびナノカプセルと称される。毛細血管は、およそ5μmの直径を有するため、ナノ粒子のみが静脈内投与される。マイクロ粒子は典型的に、100μm前後の直径であり、皮下または筋肉内投与される。例えば、Kreuter, Colloidal Drug Delivery Systems, J. Kreuter (Ed.), New York, NY: Marcel Dekker, Inc., pp. 219-342, 1994;およびTice and Tabibi, Treatise on Controlled Drug Delivery: Fundamentals, Optimization, Applications, A. Kydonieus (Ed.), New York, NY: Marcel Dekker, Inc., pp. 315-339, 1992を参照されたい。
【0247】
本明細書に開示される組成物のイオン制御放出のためにポリマーを使用することができる。制御された薬物送達における使用に設計された分解性または非分解性ポリマーマトリックス等、いずれか適したポリマーを使用することができる。あるいは、ヒドロキシアパタイトが、タンパク質の制御放出のためのマイクロ担体として使用された。さらに別の態様では、脂質カプセル化薬物の薬物標的化と共に制御放出のためにリポソームが使用される。
【0248】
ある特定の特色および/またはインプリメンテーションを説明するために、次の実施例が提供される。これらの実施例は、本開示を記載されている特定の特色またはインプリメンテーションに限定すると解釈されるべきではない。
【実施例】
【0249】
後述する実施例は、ヒト化ファージライブラリーからのSARS-CoV-2中和シングルドメイン抗体の単離および特徴付けについて記載する。このようなナノボディは、1桁台のnM~μMの親和性でSARS-CoV-2スパイクRBDに結合し、SARS-CoV-2感染の哺乳動物細胞モデルにおいてS-タンパク質シュードタイプ化および真正のウイルスを中和することができる。ナノボディRBD-1-2Gは、二価および三価モダリティに取り込まれた場合、最良の全体的な効力および改善されたウイルス中和を示した。RBD-1-2Gは、ACE2の結合部位と重複するRBDの上部におけるエピトープに結合する(
図13A)。RBD-1-2Gに観察された高い活性は、その高い親和性に帰するのみならず、「アップ」から「ダウン」状態の広い範囲の高次構造でRBDに結合するこのナノボディの能力が原因でもある。クライオEM研究は、S三量体の、以下の2種の優勢な状態を明らかにした:高次構造的免疫回避作用機構を指し示すことができる「ダウン」高次構造における3個のRBDドメイン(Walls et al., Cell 181, 281-292 e286, 2020)、またはACE2到達可能状態に対応する「アップ」高次構造における1個のみのRBD(Walls et al., Cell 181, 281-292 e286, 2020;Wrapp et al., Cell 181, 1004-1015, 2020)。一部のナノボディは、複数のRBD高次構造において画像化することができず、これは、保護された3RBDダウン高次構造への高次構造スイッチングが、結合を立体的に制限し得ることを示唆するであろう。「アップ」および「半分ダウン」状態の両方において結合するRBD-1-2Gの能力は、3個のナノボディが、RBD高次構造状態に関係なく単一のスパイク三量体に結合することを可能にする。
【0250】
(実施例1)
方法
本実施例は、実施例2~7に記載されている研究のための材料および実験手順について記載する。
【0251】
細胞系
ATCCから細胞系を得た(HEK293細胞)。Codex BiosolutionsからACE2-GFP HEK293T(CB-97100-203)細胞を購入した。ヒトACE2の安定発現を有するExpi293F細胞(HEK293-ACE2)は、Codex Biosolutions(Gaithersburg、MD)によってカスタム生産された(Huang et al., Nat Biotechnol 39, 747-753, 2021)。全ての細胞系がマイコプラズマについてルーチンに検査され、マイコプラズマ不含であることが見出された。
【0252】
抗体ライブラリー構築
3ステップ重複伸長PCR(OE-PCR)によってナノボディのDNAライブラリーを構築した。ナノボディおよび2019年以降のPDB由来のCDR3における892種の最適なヒト重鎖のアミノ酸またはIDT三量体19ミックスの解析に基づき、CDR突然変異誘発戦略を設計した(McMahon et al., Nat Struct Mol Biol 25, 289-296, 2018)。
図1Aに示すコドンのバランスを保つライブラリーは、Glen ResearchおよびKeck Biotechnology Resource Laboratoryによって合成された。プライマーを使用して、カプラシズマブ(米国特許第10,919,980号)のヒト化ナノボディ骨格の骨格を増幅して、ベクターpComb3XLambda(Addgene、プラスミド#63892)を使用して、ナノボディのライブラリーを生成した。ライゲーション後に、DNAライブラリーを、増幅前にライブラリー当たりおよそ10
10CFUの効率で、TG1エレクトロコンピテント細胞(Lucigen)へと形質転換した。ライブラリーを増幅するために、ファージミドライブラリーを1L 2TYAG培地(2%グルコース、100μg/mlアンピシリン)に添加し、30℃で一晩振盪した。ライブラリーファージミドの一晩培養物を、3,500rpmで45分間の遠心分離により収集し、10ml 50%2TY/50%グリセロール(v/v)に再懸濁して、ファージライブラリーを作製するためにアリコートを凍結した。1.5mlファージミドグリセロールストックの各アリコートは、ライブラリーサイズのおよそ5×細胞数を含有した。1個のアリコートを、1Lの2TYAG培地においてOD600が0.9~1.0に達するまで37℃、250rpmで振盪し、次いで250μlのM13KO7ヘルパーファージ(5×10
12/ml)を、5×10
9の最終濃度のために各1L培養溶液に添加し、37℃で60分間、細胞の感染に使用した。培養物を3500rpmで10分間遠心分離し、ペレットを1L 2TYKA(50μg/mlカナマイシン、100μg/mlアンピシリン)に再懸濁した。培養物を一晩30℃で振盪して、ファージ粒子を産生した。ファージライブラリーを含有する上清を、一晩冷蔵下で30%体積のPEG/NaClにおいて沈殿させ、PBS/グリセロールストック中10
14/mlの濃度に達するように総計12ml PBSに溶解した(UV-Vis)。ナノボディV
HHドメインおよびヒト抗体重鎖において観察される異なる長さのCDRを繰り返すために、異なる長さのCDRを含有する異なるライブラリーを個々に作製した。
【0253】
ファージライブラリーからのRBD結合剤の単離
1日目に:5mlイムノチューブ(immunotube)(NUNC、444202)において500μlの10μg/ml RBD-mFcを一晩4℃でコーティングした。2日目:一連の10種のライブラリーを混合し、ファージパニングに使用した(EPチューブにおける250μL)。ライブラリーおよびコーティングされたイムノチューブ(PBSで3回予洗)を、10%(w/v)スキムミルクで1.5時間室温(RT)にてブロッキングした。イムノチューブをPBSで3回リンスし、次いで0.5mlプレブロッキングファージ溶液を添加し、その後、RT(300rpm)で1.5時間振盪した。イムノチューブをPBSTで10回、次いでPBSで10回リンスして、結合していないファージを除去した。最後に、0.5mlの新鮮に作製された100mMトリエチルアミンと共にRTで15分間インキュベートすることにより、RBD結合ファージを溶出させた。溶出されたファージを250μlの1M Tris-HCL緩衝剤(pH7.4)によってさらに中和した。中和されたファージ(375μL)を3mL TG1(OD=0.6~0.8)に添加して、60分間振盪しつつ37℃で感染させた。感染されたTG1細胞を3500rpmで10分間収集し、通気式QTrayバイオアッセイトレーにおいて延展し、2%グルコース、100μg/mlアンピシリンを含有する2XYT寒天プレート(Teknova、Y4295およびY4204)において滴定物をプレーティングし、一晩30℃でインキュベートした。3日目に:5ml 2TY培地を用いて全てのコロニーをプレートから掻き取って、200μLを除去し、0.5~0.8のOD600に達するまで25mL 2TYAGにおいて育成した。この時点で、ヘルパーファージ(1ml当たり5×109の最終濃度)を添加し、37℃で60分間振盪しつつインキュベートし、その後、一晩振盪しつつ30℃におけるファージ産生のために培地を2TYKAに交換した。
【0254】
抗体およびスパイクタンパク質発現および精製
ナノボディ-Fcフォーマットは、HEK293一過的発現系(Sino Biological)を使用してCRO企業により産生された。以前に発表された方法(Esposito et al., Protein Expres Purif 174, 105686, 2020)を使用して、スパイクタンパク質を発現および精製した。Vibrioに関して僅かに修飾したTaylor et al. (Methods Mol Biol 1586, 65-82, 2017)に要約される通り、自己誘導培地(ZYM-20052)中のVibrio natriegensにおいてナノボディを発現させた。具体的には、1.5%(w/v)NaClまたはInstant Ocean(Aquarium Systems)により培地を修正し、ラクトースを添加せず、4~5のOD600でIPTG誘導を始め、誘導温度は30℃であり、誘導のほぼ6~8時間後に細胞を採集し、-80℃で凍結した。凍結した細胞ペレットを解凍し、1000光学密度(OD600)単位当たり10mlのPBSに再懸濁した。9,000psiでマイクロフルイダイザー(microfluidizer)に3回通すことにより、ホモジナイズした細胞を溶解した。7,900×gで30分間、4℃の遠心分離によってライセートを清澄化した。清澄化されたライセートを0.45μM Whatman PESシリンジフィルターに通して濾過した。NGC中圧クロマトグラフィー系(BioRad,Inc.)を使用してナノボディを精製した。清澄化されたライセートを解凍し、35mMイミダゾールに調整し、PBS、pH7.4、35mMイミダゾールおよび1:1000プロテアーゼ阻害剤カクテルのIMAC平衡化緩衝剤(EB)において平衡化したHiTrap HP IMACカラムに3ml/分でロードした。EBでベースラインとなるようカラムを洗浄し、EB中35mM~500mMイミダゾールの20カラム体積(CV)勾配でタンパク質を溶出した。溶出画分を、SDS-PAGEおよびクーマシー染色によって解析した。陽性画分をプールし、Superdex 75樹脂を充填し、PBSで平衡化した適切なサイズのカラムを使用したサイズ排除クロマトグラフィー(SEC)によってさらに精製した。SDS-PAGEおよびクーマシー染色によるSEC由来の画分の解析後に、適切な画分をプールし、10K MWCO Amicon超遠心分離ユニットにおいて濃縮し、液体窒素中で瞬間凍結した(Taylor et al., Methods Mol Biol 1586, 65-82, 2017)。
【0255】
ナノボディ三量体発現および精製
昆虫細胞における三量体ナノボディの産生のためのタンパク質発現構築物を、最適化されたDNA鋳型の合成によって生成した(ATUM,Inc.)。三量体ナノボディタンパク質には、分泌のためのミツバチメリチン(HBM)リーダー配列が先行し、C末端His6タグが続いた。DNAは、attB1およびattB2 Gateway組換えクローニング部位で挟まれ、ATUMのアルゴリズムを使用して昆虫細胞発現のために最適化された。Gateway BP組換え(ThermoFisher)を使用して鋳型を組換えて、エントリークローンを生成し、組換えタンパク質を生成するためにポリヘドリンプロモーターを利用するpDest-8、pFastbacスタイルバキュロウイルス発現ベクターにサブクローニングした。Bac-to-Bacキット(ThermoFisher)のための標準説明書を使用してバクミドDNAを産生し、Sf9細胞のトランスフェクトに使用して、バキュロウイルス上清を生成した。7×105細胞/mlのTni-FNL細胞において発現を行い、感染に先立ち27℃で24時間振盪するように設定した。24時間後に、細胞を計数し、3のMOIで目的のナノボディを発現するバキュロウイルスに感染させ、培養物を27℃で72時間振盪した。72時間後に、細胞を1700×gで15分間遠心分離し、上清を収集した。次に、上清を1×PBS、pH7.4に対して一晩4℃で透析して、ニッケルカラムを剥ぎ取る可能性のあるいかなる添加物も除去した。透析された上清を2Mイミダゾールで修正して、25mMイミダゾールの最終濃度にし、次いで1×PBS、pH7.4、25mMイミダゾールのIMAC EBにおいて平衡化したHiTrap HP IMACカラムに5ml/分でロードした。EBでベースラインとなるようカラムを洗浄し、EB中25mM~500mMイミダゾールの20CV勾配でタンパク質を溶出した。溶出画分を、SDS-PAGEおよびクーマシー染色によって解析した。陽性画分をプールし、Superdex S-75樹脂を充填し、1×PBS、pH7.4で平衡化した適切なサイズのカラムを使用したSECによってさらに精製した。SDS-PAGEおよびクーマシー染色によるSEC由来の画分の解析後に、適切な画分をプールし、10K MWCO Amicon超遠心分離ユニットにおいて濃縮し、液体窒素中で瞬間凍結した。精製プロセスは全て、BioRad NGC Quest FPLC系を使用して実行した。
【0256】
Octet(BLI、バイオレイヤーインターフェロメトリー)を使用した親和性決定
分析物としてRBD-mFcまたはS1-hFc組換えタンパク質(Sino Biological、それぞれ40592-V05Hおよび40591-V02H)を使用して、VHHの親和性決定を実行した。動態緩衝剤(0.1%プロテアーゼ不含BSA入りPBSおよびPBS中0.02%Tween-20)中10μg/mlでVHHをNi-NTAバイオセンサー(Molecular Devices、ForteBio)にロードした。水において10分間バイオセンサーを水分補給し、次いでプレートを10分間30℃でプレインキュベートし、その後、実験を開始した。実験パラメーターは、ベースライン=1分間、ロード=5分間、ベースライン2=3分間、会合=5分間、解離=10分間であった。全条件について200、100、50および0nMでRBD-mFcまたはS1-hFcの会合を行い、RBD-1-2G、RBD-2-1FおよびRBD-1-1Eナノボディについて25および12.5nMも含まれた。データ解析のため、0nM分析物とナノボディのロードを、対応するナノボディロードセンサーから減算した。ベースライン2の最後の5秒間に対する曲線の整列、解離に対して整列されたステップ間補正およびStavitzky-Golayフィルタリングを使用した。データを処理し、次いでグローバルフィットによる1:2二価分析物モデルを親和性計算に使用した(データ解析HT 11.1)。
【0257】
親和性決定RBD-1-2G多量体モダリティ
ForteBioアミン反応性第二世代(AR2G)バイオセンサーを使用して、RBD-His(SinoBiological、40592-V08H)に対するRBD-1-2Gの二価および三価モダリティの親和性を決定した。使用前にUltraPure DNase/RNase不含蒸留水(Invitrogen、10977015)においてバイオセンサーを10分間30℃で予め水分補給した。60秒間の水におけるベースラインに続いて、20mMの1-エチル-3-[3-ジメチルアミノプロピル]カルボジイミド塩酸塩(EDC)および10mMのN-ヒドロキシスルホサクシニミド(s-NHS)の混合物における3分間の活性化を行った。次に、バイオセンサー先端を動態緩衝剤(0.02%Tween20および0.1%BSA入りPBS)中2.5μg/mlのRBD-Hisに150秒間、またはほぼ1.5nmの平均結合に達するまで曝した。1Mエタノールアミン(pH8.5)を使用してセンサーを150秒間クエンチした。150秒間の会合相に続く前に、動態緩衝剤における180秒間の別のベースラインを行った。動態緩衝剤において100nMで分析物RBD-1-2G、RBD-1-2G-FcおよびRBD-1-2G-Triを調製し、次いで6.125nM濃度に達するまで1:2希釈した。動態緩衝剤において300秒間、脱会合を測定した。データ解析の際に0nM対照ウェルを減算した。データ処理(データ解析HT 11.1)は、ベースライン2(最後の5秒間)に対する曲線の整列、解離に対して整列されたステップ間補正、およびStavitzky-Golayフィルタリングを含んだ。1:1結合モデルを使用してデータを解析し、グローバル曲線フィッティングを使用して、見かけ上の親和性を計算した。
【0258】
SARS-CoV-2突然変異体S1結合
S1突然変異体バリアントに結合するRBD-1-2G-Fc能力の決定を、抗ヒトIgG捕捉(AHC)バイオセンサーに突然変異体タンパク質をロードし、次いでそれを200nMの様々なS1モダリティに曝露することにより決定した。RBD-1-2G-Fcは、動態緩衝剤(PBS pH7.4+0.02%tweenおよび0.1%プロテアーゼ不含BSA)において10μg/mlで調製された。野生型S1(Sino Biological、40591-V08H)およびB.1.1.7バリアント(Sino Biological、40591-V08H12)は、動態緩衝剤(PBS pH7.4+0.02%tweenおよび0.1%プロテアーゼ不含BSA)または150mM NaCl入り10mM酢酸塩緩衝剤(pH4~pH6.0)において200nMで調製された。水において10分間バイオセンサーに水分補給し、プレートを10分間30℃でプレインキュベートし、その後、実験を開始した。実験パラメーターは、ベースライン1分間、10mMグリシン(pH1.5)における条件づけ20秒間、中和20秒間(条件づけおよび中和をそれぞれ3回行った)、ロード2分間、ベースライン1分間、会合1.5分間、解離3分間であった。データ解析のため、対応するロードセンサーから0nM分析物とS1タンパク質のロードを減算した。ベースライン2の最後の5秒間に対する曲線の整列、解離に対して整列されたステップ間補正およびStavitzky-Golayフィルタリングを使用した。検査された様々なpH条件に関する会合相中に達成された最大応答としてデータを提示した。
【0259】
AlphaLISAアッセイ
AlphaLISAアッセイ(Hanson et al., Acs Pharmacol Transl 3, 1352-1360, 2020)を使用して、ACE2への組換えスパイクタンパク質RBD結合を破壊するナノボディの能力を査定した。用量応答において(1μM~6pM)、ナノボディを、0.05mg/mL BSAを補充したPBSにおいて4nMのFcタグに融合されたSARS-CoV-2スパイクタンパク質受容体結合ドメイン(RBD-Fc、SARS-CoV-2スパイクタンパク質残基319~541)(Sino Biological、Wayne、PA)と共に25℃で30分間プレインキュベートした。インキュベーション後に、C末端HisおよびAviTagを有するACE2(ACE2-Avi、ヒトACE2残基18~740)(ACROBiosystems、Newark、DE)を4nMの最終濃度となるように添加し、その結果生じる混合物を25℃で30分間インキュベートした。AlphaLISAシグナルを産生するために、ACE2-Aviを認識するストレプトアビジンドナービーズおよびRBD-Fcを認識するプロテインAアクセプタービーズを、それぞれ10μg/mlの最終濃度となるように添加し、その結果生じる混合物を暗所にて25℃で40分間インキュベートした。AlphaLISA光モジュールを搭載した384ウェルフォーマット焦点レンズ(BMG Labtech、Cary、NC)を備えるPheraSTAR(BMG Labtech、Cary、NC)プレートリーダーを使用して、AlphaLISA冷光シグナルを測定した。全実験を3回繰り返して行った。
【0260】
QD608-RBD中和アッセイ
以前に記載された通りに(Gorshkov et al., Acs Nano 14, 12234-12247, 2020)QD608-RBDを合成した。PDLコーティング96ウェルプレートにおいてACE2-GFP細胞(25,000個)を播種し、一晩インキュベートした。ナノボディまたはナノボディ-Fc構築物を10nM QD608-RBDと共に30分間プレインキュベートした。細胞をOptimem I血清低減培地で1×洗浄し、その後、ナノボディと共にプレインキュベートした10nM QD608-RBDで3時間処置した。40×水浸対物レンズを使用してPerkin Elmer Operaにおいて細胞を画像化した。単一のプレートにおいて2回繰り返しウェルからウェル当たり8~10個の視野を捕捉した。条件当たりおよそ1600~2500個の細胞を画像化した。
【0261】
シュードタイプ化粒子(PP)中和アッセイ
SARS-CoV-2シュードタイプ化粒子(PPs)をCodex Biosolutions(Gaithersburg、MD)から購入し、マウス白血病ウイルス(MLV)シュードタイプ化系を使用して産生した(Chen et al., Acs Pharmacol Transl 3, 1165-1175, 2020)。全てのSARS-CoV2-S構築物は、19アミノ酸をC末端トランケートして、シュードタイプ化のためにER保持を低減させた。WT S配列は、武漢-Hu-1配列(BEI#NR-52420)であった。バリアントB1.1.7(アルファ)は、突然変異del69-70、del144、N501Y、A570D、D614G、P681H、T716I、S982AおよびD1118Hを含有する。
【0262】
以前に記載された通りに(24)PP中和アッセイを行った。WT PPアッセイのため、HEK293-ACE2細胞を、2μL/ウェル培地(DMEM、10%FBS、1×L-グルタミン、1×Pen/Strep、1μg/mlピューロマイシン)中2000細胞/ウェルで白色ソリッドボトム1536ウェルマイクロプレート(Greiner BioOne)に播種し、37℃で5%CO2にて一晩(ほぼ16時間)インキュベートした。被験物をPBSにおいて1:2滴定し、200nL/ウェルでアッセイプレートに音響的に分注した。細胞を被験物と共に3時間37℃で5%CO2にてインキュベートし、その後、2μL/ウェルのSARS-CoV-2-S PPを添加した。次に、1500rpm(453×g)で45分間の遠心分離によってプレートをスピンし、次いで37℃で48時間、37℃、5%CO2にてインキュベートして、PPの細胞侵入およびルシフェラーゼレポーターの発現を可能にした。インキュベーション後に、Blue Washer(BlueCat Bio)を使用して穏やかな遠心分離により上清を除去した。次に、4μL/ウェルのBright-Gloルシフェラーゼ検出試薬(Promega)をアッセイプレートに添加し、5分間室温でインキュベートした。PHERAStarプレートリーダー(BMG Labtech)を使用して冷光シグナルを測定した。SARS-CoV-2バリアントPP中和アッセイのため、HEK293-ACE2細胞を、15μL/ウェル培地中6000細胞/ウェルで白色ソリッドボトム384ウェルマイクロプレート(Greiner BioOne)に播種した。細胞を37℃で5%CO2にて一晩(ほぼ16時間)インキュベートした。ナノボディをPBSにおいて1:2滴定し、1μl/ウェルで細胞に添加した。細胞を1時間37℃、5%CO2にてナノボディと共にインキュベートし、その後、15μL/ウェルのSARS-CoV-2 PPを添加した。次に、1500rpm(453×g)で45分間の遠心分離によってプレートをスピノキュレーションし、37℃で48時間、37℃、5%CO2にてインキュベートして、PPの細胞侵入およびルシフェラーゼレポーターの発現を可能にした。インキュベーション後に、Blue Washer(BlueCat Bio)を使用して穏やかな遠心分離により上清を除去した。次に、20μL/ウェルのBright-Gloルシフェラーゼ検出試薬(Promega)をアッセイプレートに添加し、5分間室温でインキュベートした。PHERAStarプレートリーダー(BMG Labtech)を使用して冷光シグナルを測定した。100%としてのSARS-CoV-2 PPを含有するウェルおよび0%としての空PPを含有するウェルを用いて、データを正規化した。PPを省略し、代わりに培地を添加することにより、ATP含有量細胞毒性アッセイを行った。100%としての細胞を含有するウェルおよび0%としての培地のみを含有するウェルを用いて、データを正規化した。
【0263】
SARS-CoV-2細胞変性効果(CPE)アッセイ
以前に記載された通りに(Chen et al., Front Pharmacol 11, 592737, 2021)、Southern Research(Birmingham、AL)のBSL-3施設においてSARS-CoV-2細胞変性効果(CPE)アッセイを行った。手短に説明すると、PBSにおいてナノボディを滴定し、3μL/ウェルで384ウェルアッセイプレートに添加して、アッセイの準備ができたプレート(ARP)を作製し、これを次いで凍結し、検査施設に輸送した。細胞培養培地(MEM、1%Pen/Strep/GlutaMax、1%HEPES、2%HI FBS)を5μL/ウェルでARPに分注し、室温でインキュベートして、化合物を溶解させた。Vero E6アフリカミドリザル腎臓上皮細胞(高いACE2発現のため選択)に、培地において0.002の感染多重度(MOI)でSARS-CoV-2(USA_WA1/2020)を接種し、25μL/ウェルとしてアッセイプレートに素早く分注した。最終細胞密度は、4000細胞/ウェルであった。アッセイプレートを72時間、37℃、5%CO2および90%湿度でインキュベートした。CellTiter-Glo(30μL/ウェル、Promega#G7573)をアッセイプレートに分注した。プレートを10分間室温でインキュベートした。冷光シグナルをPerkin Elmer EnvisionまたはBMG CLARIOstarプレートリーダーにおいて測定した。0%CPEレスキューとしての緩衝剤のみのウェルおよび100%CPEレスキューとしてのウイルスなしの対照ウェルを用いて、データを正規化した。CPEアッセイと同じプロトコールをSARS-CoV-2ウイルスの添加なしで使用して、ATP含有量細胞毒性カウンターアッセイを行った。100%生存率としての緩衝剤のみのウェルおよび0%生存率としてのハイアミン(塩化ベンゼトニウム)対照化合物で処置された細胞を用いて、データを正規化した。
【0264】
膜タンパク質アレイアッセイ
Integral Molecular(Philadelphia、PA)において膜プロテオームアレイ(MPA)スクリーニングを行った。MPAは、発現プラスミドから生細胞においてそれぞれ過剰発現される6,000個のヒト膜タンパク質クローンで構成されたタンパク質ライブラリーである。各クローンを、384ウェルプレートの別々のウェルにおいて個々にトランスフェクトし、続いて36時間インキュベーションした(Tucker et al., Proc Natl Acad Sci USA 115, E4990-E4999, 2018)。それぞれ個々のMPAタンパク質クローンを発現する細胞を、ハイスループットスクリーニングのためのマトリックスフォーマットにおいて2回繰り返してアレイ化した。MPAにおけるスクリーニング前に、陽性(膜係留プロテインA)および陰性(偽トランスフェクト)結合対照を発現する細胞において、スクリーニングのための被験抗体(RBD-1-2G)濃度を決定し、続いて、蛍光標識された二次抗体を使用したフローサイトメトリーによって検出した。各被験抗体を所定の濃度でMPAに添加し、タンパク質ライブラリーにわたる結合を、蛍光標識された二次抗体を使用してIntellicyt iQueにおいて測定した。各アレイプレートは、プレート間の再現性を確実にするために陽性(Fc結合)および陰性(空ベクター)対照の両方を含有する。MPAスクリーニングによって同定されたいずれかのオフターゲットとの被験抗体相互作用を、被験抗体の系列希釈を使用した第2のフローサイトメトリー実験において確認し、配列決定によって標的同一性を再検証した。
【0265】
SARS-CoV-2融合前S-タンパク質外部ドメイン
構築物VRC 7471(Dale and Betty Bumpers Vaccine Research Center、NIAID)は、残基986および987におけるプロリン置換を有するnCoV S-2P-dFu-F-3C-H-2S,S外部ドメイン、GSASに突然変異したフューリン部位(配列番号10)、T4フィブリチン三量体化モチーフ、PreScissionプロテアーゼ切断部位、ならびに8×HisおよびStrepタグをコードする。これは、初期に発表された構造(Wrapp et al., Science 367, 1260-1263, 2020)に使用される構築物に基づく。発現は、製造業者のプロトコールに従ってExpi293細胞(Thermo Fisher Scientific)において実行した。手短に説明すると、ExpiFectamineを使用して、1L Expi293細胞を一過的にトランスフェクトし、37℃で18時間インキュベートした。この時点で、エンハンサーを添加し、温度を96時間32℃にシフトさせた。分泌されたタンパク質を採集するために、400gで15分間の遠心分離によって細胞をペレットにし、0.45μmフィルターを通して上清を濾過した。総計5mlのTalon金属親和性樹脂(Takara Bio USA)を上清に添加し、一晩4℃で混合した。上清/樹脂混合物をカラムに重力ロードし、100mlの50mM Tris pH8.0/150mM NaClで、続いて100mlの50mM Tris pH8.0/500mM NaClで洗浄した。50mM Tris pH8.0/150mM NaCl/200mMイミダゾールでスパイク三量体をバッチ溶出した。SDS-PAGEによって査定された、スパイク三量体を含有する画分をプールし、Amicon Ultra 4遠心分離フィルター(Millipore Inc)を使用して、ほぼ1mg/mlとなるように緩衝液交換/濃縮した。濃縮されたタンパク質を小さいアリコートに分け、液体窒素中で瞬間的に凍結し、-80℃で貯蔵した。
【0266】
三量体スパイクタンパク質に結合したナノボディのクライオEM構造決定
検体調製
親水性を増加させるために、25wにおける浸漬モードを使用して、アルゴン雰囲気下でTergeo EMプラズマ洗浄装置(PIE Scientific)においてグリッドを1分間前処置した。各ナノボディ(Nb)と混合した、Tris pH8.0 50mMおよび160mM NaCl緩衝剤における2.73μM SARS CoV-2 Sの3μLアリコートを、クリーンなUltrAufoil R1.2/1.3 300メッシュグリッド上に塗布した。Leica EM GP 2(Leica)ガラス化ロボット(自動吸い取り圧、25℃および95%RHにおけるチャンバー)における液体エタン(-182℃)中に差し込む前に、Whatman No.#1で吸い取ることにより過剰な溶液を除去した。RBD-1-1G(1.5mg/ml)、RBD-1-2G(1.3mg/ml)、RBD-2-1F(1.8mg/ml)、RBD-1-3H(1.2mg/ml)、RBD-2-1B(1.7mg/ml)およびRBD-2-3A(4.2mg/ml)をPBS(pH7.4)中に調製した。
【0267】
データ収集
それぞれ300および200KeVで操作されるTitan KriosまたはTalos Arctica透過型電子顕微鏡(TFS)のいずれかにおいて、データを収集した。前者は、ポストカラムエネルギーフィルター(Gatan)を搭載しており、20eVスリットサイズで操作される。直接的電子検出器(Gatan K2)においてマルチフレーム画像を収集した。データセット毎の詳細を表1に記載する。
【表1】
【0268】
画像処理
画像処理は全て、RELION-3.1.0の文脈において実行した。ビニングなしで内部インプリメンテーションおよび標準パラメーターを使用して運動補正を行った。3.0~30Åの分解能範囲、5000~35000Åのデフォーカス範囲および500ÅのデフォーカスステップサイズにおいてCTFFIND4を使用してCTFを推定した。150および180Åの最小および最大直径によるラプラシアンオブガウシアン(Laplacian-of-Gaussian)検出を使用して、粒子を選定した。これらを、300ピクセルのボックスサイズを使用して抽出し、100ピクセル(最終サイズ3.562A/ピクセル)へとフーリエダウンサンプリングした。2または3ラウンドの2D分類をランして、コンタミネーションおよび外れ値を最初に除去した。「クリーンな」粒子を使用して、確率的勾配降下アルゴリズムを使用した初期3Dマップを作成した。3D分類を使用して、外れ値のさらなる排除を達成した。クリーンなデータセットのそれぞれからコンセンサスC3対称マップを緻密化し、フルデフォーカス緻密化に使用した(異方性、デフォーカスおよび高次異常)。スパイクの非対称部分の分解能を改善するために、このステップの後に分類に対する種々のアプローチ(整列、対称性拡大あり/なし等)を採用した。
【0269】
クライオEMモデル建設および解析
SARS-CoV-2スパイクタンパク質(pdb:6zp0)のC3対称閉鎖構造のための原子モデルを、クライオEMマップにおけるフィッティングのための出発点として使用した。「ワンアップ(one-up)」モデルを作成するために、6zp0におけるRBDの1個(残基336~520)を、参照としてpdb:6vybを使用して開放状態に手作業で整列させた。スパイクタンパク質の原子モデルを、Chimeraにおけるマップツールにおいてフィットを使用して、各マップ中に、剛体として位置を定めた。この後に、原子モデルを、Phenix 1.18.2におけるデフォルト実空間緻密化戦略(ローカルグリッド検索、グローバル最小化、モーフィングおよび原子移動パラメーター緻密化)を使用してマップに可動的にフィットさせた。二次制約もNCSオペレーターの緻密化も用いずに、ラマチャンドラン(Ramachandran)制約を適用しつつ、この緻密化を行った。反復の最大数を150に増加させた。原子モデルシミュレートマップおよびクライオEMマップの間のラマチャンドランプロットおよびフーリエシェル(Fourier Shell)相関プロットを使用して、フィッティングを検証した。各ナノボディとRBDの間の適正な結合機序を得るために、分子ドッキング計算を、次の通りにクライオEMマップへの可動性フィッティングと組み合わせた。I-TASSERプログラム(Roy et al., Nat Protoc 5, 725-738, 2010)を使用して、ナノボディの3D構造モデルを作成した。スレッディングプログラムによって使用される抗体の上位10種の鋳型構造は、ナノボディと60~70%の配列同一性を共有する。作成されたモデルは全て、全般に良好な品質を示した(C-スコア>0およびZ-スコア>1)。Amber20プログラム(Case et al., University of California, San Francisco, 2020)を使用したエネルギー最小化および分子動力学(MD)シミュレーションを用いて、最良の構造モデルをさらに緻密化した。スパイク原子モデルを各密度マップにフィッティングした後に、原子モデルからRBDのNb結合高次構造を抽出した。次に、ナノボディRBD-1-3H、RBD-2-1F、RBD-1-1GおよびRBD-1-2Gと、対応するフィットしたRBDの間の結合機序を、ZDOCKサーバーを使用して予測した。ZDOCKによって報告されるNb-RBD複合体毎の10種の結合機序を全て、剛体として、UCSF Chimeraにおいて対応するRBD密度マップにフィットさせた。次に、PhenixにおけるCryo_fitルーチン(バージョン1.18-3855のためのデフォルトパラメーター)を使用して、マップと最も良く相関するモデルを緻密化した。
【0270】
分子動力学
RBD-1-2GとRBM領域との相互作用をより深く理解するために、原子モデルフィッティングを行って、鍵となる結合残基を同定した。マップにおけるRBD領域の分解能は、原子モデルを直接的に導き出すには十分に高くなかったため、低分解能マップへのRBDおよびRBD-1-2Gの原子モデルのフィッティングが次善の解決策であった。しかし、低分解能におけるVHHの見かけ上の対称性は、複合体の文脈におけるその配向性の曖昧な割当てを生じる。スパイク(6zp0)のモデルをマップにフィットさせ、RBD座標に対応する部分を抽出した(残基328~531)。ナノボディの座標を変動させつつRBD座標が硬直を維持した分子ドッキング計算を、ZDOCKプラットフォームを使用して行った。要請される10種の高次構造のうち、RBMに面するCDRを示したペアを、スパイクモデルの「半分ダウン」状態におけるRBDに対して、マップにおいて位置を定めた。2種の複合体のシミュレートされた密度をマップと比較し、最高の相関係数(CC)を示す結果をさらなる緻密化のために選択した。最良の予測される結合機序を選ぶためのフィルターとしてクライオEMマップを使用して、分子ドッキングと組み合わせたこの原子モデルフィッティング戦略を、ナノボディRBD-1-2G、RBD-2-1F、RBD-1-1GおよびRBD-1-3Hに対して検査したところ、全ての場合において予測の成功を示した。
【0271】
RBD-1-2GとWT RBDと共に、RBD-1-2GとRBD複合体のアルファバリアントにおいて分子動力学シミュレーションを行って、相互作用界面に配置された様々な残基のエネルギー論および関与をさらに特徴付けた。クライオEM密度マッチ分子ドッキングから出発タンパク質構造を得た。タンパク質原子を表すff14SB力場により、Amber.18(Wang et al., Nature 593, 130-135, 2021)を使用して全てのMDシミュレーションを行った。Amber.18のGPU増強PMEMDモジュールにより、初期最小化、平衡化および全ての産生ランを実行した。タンパク質複合体を溶媒和する長方形のTIP3P水ボックスの選択により、Leapモジュールを使用して、初期座標およびトポロジーファイルを作成した。ボックス境界を溶質から少なくとも20Å拡張した。両方の系が、57個のNa+イオンおよび61個のCl-イオンを含有し、これらは、電荷中和および100mM塩濃度を提供した。WT系は、97,998個の原子で構成され、突然変異体系は、98,006個を有した。各タンパク質系による水およびイオンの初期平衡化が、100kcal/mol/Å2力定数による位置的制限に供された後に、最小化は、タンパク質原子における同じ力定数に従った。10kcal/mol/Å2に力定数を維持しつつ、各系を、2n秒間低温(T=100K)定圧シミュレーションに供して、現実的な値に調整された系密度を得た。1n秒間以内に300Kへと段階的に徐々に加熱した後に、各系を、タンパク質原子における位置制約により最大10n秒間にわたりさらに平衡化した。次の10n秒間以内に、位置定数を段階的に除去し、各系をさらなる10n秒間の平衡化に供した。各系において3回の独立した平衡化を行った(2回目および3回目のランのための出発高次構造は、1回目のMDランの10番目および20番目のn秒間構成から選択される)。全ての系に対して2f秒時間ステップで、500n秒間にわたり定圧産生ランを行った。9Åの短い範囲のカットオフにより長い範囲の静電気の処置において粒子メッシュEwald方法を使用した。0.15M塩濃度およびAmberモジュール内のデフォルトパラメーター(IGB=5)の選択により、自由エネルギー推定においてAmber.18のMMGBSAモジュールを遂行した。各トラジェクトリーの各ナノ秒間において選択された500種の構成をこの計算において使用した。Amber.18のCPPTRAJモジュールを使用して、全ての他の解析を行った。
【0272】
(実施例2)
合成ヒト化ナノボディライブラリーからのSARS-CoV-2中和VHHの同定
迅速なin vitroナノボディ発見のためのプラットフォームを開発するために、最初に承認されたヒト化ナノボディ薬カプラシズマブ(米国特許第10,919,980号)に由来する骨格から開始して、多数の合成ファージディスプレイナノボディライブラリーを設計した(
図1A)。ヒトにおける使用のために最適化されたカプラシズマブフレームワークにライブラリーを基礎付けることにより、ファージパニングにより同定された強力結合剤を、治験用新薬(IND)研究および治験のために迅速に前進させることができると仮定された。カプラシズマブフレームワーク領域を、合成された相補性決定ループ(CDR)と組み合わせて、ナノボディの高度に可変な抗原結合界面を多様化させた(McMahon et al., Nat Struct Mol Biol 25, 289-296, 2018)。これにより、理論上、ヒト治験へと迅速に橋渡しされ得る>10
10種の形質転換体のライブラリー多様性がもたらされた。SARS-CoV-2のS1タンパク質に対する1ラウンドと、SARS-CoV-2のRBDに対する2回の追加のパニングラウンドのために、ファージパニングを行った(
図1B)。パニングプロセスにおいて総計13種のナノボディを同定し、そのうち10種が、配列富化を示した。
【0273】
ナノボディをVibrio natriegensにおいて産生し、Ni-NTA親和性クロマトグラフィーと、それに続くサイズ排除クロマトグラフィー(SEC)を使用して精製した。ナノボディのサイズおよびMWをSDS-PAGEおよび高分解能MSによって確認した(
図6A~
図6D)。Octet解析を使用して、様々なナノボディに対するRBD-mFcおよびS1-hFcのリアルタイムの会合および解離を可視化した。グローバルフィットモデル化は、RBD-mFcに対する0.9nM(RBD-1-1E)、4.9nM(RBD-2-1F)および9.4nM(RBD-1-2G)の結合親和性を明らかにした(
図1C~
図1D、
図7A~
図7H)。分析物としてS1-hFcが使用された場合、RBD-1-2Gは、6.9nMの親和性を示し、これは、RBD-mFc分析物よりも26.6%の改善であった(6.9nM vs 9.4nM)。S1フォーマットにスイッチした場合、RBD-2-1F(24.6nM vs 4.9nM)およびRBD-1-1E(3.8nMから0.9nM)の両方について低減された結合親和性が観察された(
図1D、
図8A~
図8K)。親和性に関する観察された差はおそらく、二量体化S1の文脈において到達可能性が低いRBDにおけるいくつかのエピトープが原因であろう。これらのナノボディが、RBD-ACE2複合体形成を阻害するか否か評価するために、AlphaLISAアッセイを開発した(Hanson et al., Acs Pharmacol Transl 3, 1352-1360, 2020)。ACE2-AviおよびRBD-Fc会合を増加する濃度のナノボディの存在下で決定して、それらの受容体遮断能力を評価した(
図1E)。RBD-1-2Gは、S1-hFcに対して2番目に高い親和性を有するにもかかわらず、RBD-1-1Eよりも低いIC
50を生じた(28.3nM vs.126nM)(
図1E)。これらの結果は、治療薬開発のための潜在的な候補としてRBD-1-2Gを支持する。
【0274】
(実施例3)
SARS-CoV-2ウイルスの中和を改善するためのRBD-1-2Gの多量体化
RBD-1-2Gをさらに評価するために、また、改善されたSARS-CoV-2中和性能のために、二価および三価モダリティを構築した。二価フォーマット、RBD-1-2G-Fcは、14.3nMを有する一価フォーマットと比較して、1.9nMの改善された結合親和性を有した(
図2A、
図2B)。3個の一価フォーマットを(GGGGS)
3(配列番号9)可動性リンカーで連結することにより、三価フォーマット(RBD-1-2G-Tri)を構築した。これは、RBD結合のために0.1nMに見かけ上の親和性をさらに改善した(
図2C)。
【0275】
この改善された親和性が、改善された治療潜在力へと置き換わるか検査するために、SARS-CoV-2 RBD量子ドット(QD
608-RBD)を使用してエンドサイトーシスアッセイを行った(
図9A~
図9C、
図10A~
図10C)(Gorshkov et al., Acs Nano 14, 12234-12247, 2020)。RBD-1-2Gは、390nMのIC
50により最高の効力を示した(
図2D)。FcフォーマットへのRBD-1-2Gの変換は、IC
50を14nMに低減させた(
図2E)。RBD-1-1E-Fcについて同様の傾向が観察されたが(3728nMから32nM)、RBD-2-1F-Fcには観察されなかった(947nMから3883nM)(
図2D、
図2E)。RBD-2-1Fは、RBD-1-2Gよりも優れた親和性を有するにもかかわらず(4.9nM vs 9.4nM、
図1D)、RBD-1-2G-Fcは、RBD-2-1F-Fcよりも高い親和性を示した(
図11A~
図11E)。RBDへのRBD-2-1Fの結合は、Fcドメインの存在によって阻害され得る。
【0276】
SARS-CoV-2 S-タンパク質シュードタイプ化マウス白血病ウイルス(MLV)ベクター粒子を使用したin vitro中和アッセイを用いて、抗ウイルス活性をさらに特徴付けた(Chen et al., Acs Pharmacol Transl 3, 1165-1175, 2020)。RBD-1-2Gは、490nMのIC
50でSARS-CoV-2シュードタイプ化ウイルスを中和することが見出された(
図2F)。88nM(RBD-1-2G-Fc)における阻害を示すFcおよび三量体モダリティにより、有意な改善が見られた(
図2G)。QD内部移行アッセイと一致して、RBD-2-1F-Fcは、RBD-2-1Fよりも改善を示したが、RBD-1-2Gモダリティよりも良く中和することができなかった(
図2F)。検査された他のナノボディおよびFcモダリティは、ほとんど活性を示さなかった(
図12A~
図12B)。SARS-CoV-2生きているウイルススクリーニングを行って、ナノボディの中和効果を査定した。RBD-1-2G-Triは、182nMのIC
50を生じ、そのすぐ後に、255nMのIC
50を有するRBD-1-2G-Fcが続く(
図2H)。RBD-1-2Gの三量体およびFcモダリティは、RBD-1-2G(IC
50=1211nM)およびRBD-2-1F-Fc(IC
50=3574nM)よりも強力であることが見出された。これらのデータは、SARS-CoV-2治療薬としてのさらなる開発のためにRBD-1-2Gおよびその多量体モダリティを支持する。
【0277】
(実施例4)
クライオEMは、中和ナノボディについて2種の別個の結合機序を明らかにした
選択されたナノボディが結合する領域を解明するために、単一粒子クライオEMを使用して、4種のナノボディと複合体形成したS-タンパク質外部ドメインの可溶性形態の電子散乱密度マップを得た(
図13A、
図13B、
図14および
図15)。RBD-1-2G、RBD-2-1F、RBD-1-1GおよびRBD-1-3Hとの複合体のマップは、RBD領域における追加的な密度を特色付けた(
図3A)。2種の追加のナノボディ(RBD-2-3AおよびRBD-2-1B)を検査したが、観察された電子密度は、リガンド未結合のスパイクと同様であることが見出された。Octetによって、これらのナノボディがS1-hFcに結合したときに低い親和性も観察され(
図1D)、これらのエピトープが、三量体スパイクの文脈において到達不能であることを示唆する。
【0278】
到達可能なエピトープは、2つのグループに分類することができる。「グループ1」は、RBMと重複する区域における「アップ」RBDの遠位端に配置されたRBD-1-2GおよびRBD-2-1Fのための結合区域を含む。ナノボディRBD-1-1GおよびRBD-1-3Hは、RBMと重複しない区域における直立したRBDの外表面に露出された、「グループ2」におけるエピトープに結合する(
図3A)。スパイク(PDBID:6zp0)の原子モデルフィッティングは、「グループ1」結合剤が、ACE2結合部位と重複するが、「グループ2」結合剤が、ACE2結合を防止しないことを示唆する(
図13A~
図13B)。ダウン高次構造において、RBDにおける「グループ2」のエピトープは、隣接する単量体のNTDによって立体的に閉塞され、よって、このグループのナノボディは、「アップ」高次構造におけるRBDに結合した場合でのみ検出された。対照的に、RBD-1-2Gに対応する密度は、RBDの「アップ」および「半分ダウン」高次構造において検出することができる。「アップ」および「ダウン」状態の間のこの特有の中間体は、立体障害なしで3分子のRBD-1-2Gの収容を可能にし(
図3B)、RBD-1-2Gの高い活性を説明する可能性がある。結合区域の分解能を改善するために、スパイク単量体による対称性拡大およびシグナル減算を使用して、「RBDダウン」スパイク単量体(
図3Cにえび茶色(maroon)で示す)の独立した緻密化を実行した。
【0279】
(実施例5)
RBD-1-2Gは、様々な生理的pHでWTおよびB.1.1.7バリアント(アルファ)に結合する
感染力増加および中和抗体活性低減に関連付けられてきた、N501Y突然変異を有するSARS-CoV-2の異なる系統を同定した(Dejnirattisai et al., Cell 184, 2939-2954, 2021;Wang et al., Nature 593, 130-135, 2021)。Octetバイオセンサー固定化RBD-1-2G-Fcを、野生型およびB.1.1.7突然変異体(N501Y)S1-Hisの両方に曝露した。会合相におけるWTまたはB.1.1.7 RBD-Hisに対する最大の結合応答を、pH条件の範囲(7.4~4.0)にわたりグラフ化した(
図4A)。WTおよびB.1.1.7について同様の結合プロファイルが観察されたが、より強いシグナルが突然変異体により観察された。pH5.0~6.0の間で最も強い結合が観察された。結合は、4.5のpHに至るまで検出可能であった。S1-Hisの代わりにRBD-Hisが使用された場合、同様のパターンが観察された(
図4B)。pH6.0と、pHが4.0まで低減されるときの漸進的な低減の間で最良の結合が観察された。これらのデータは、RBD-1-2Gが、エンドソーム中に(pH=6.5~4.5)内部移行後にSARS-CoV-2 WTおよびB.1.1.7バリアント(アルファ)に結合したままでいることを示唆する。
【0280】
ウイルス粒子中和におけるB.1.1.7スパイク突然変異体の効果を査定した。RBD-1-2G-Triは、野生型粒子よりも良くB.1.1.7シュードタイプ化粒子を阻害することが見出された(0.3nM vs 4.5nM)(
図4C、
図4D)。RBD-1-2G-Fc(17.5nM vs 10.2nM)およびRBD-1-2G(746.5nM vs 511.6nM)は、B.1.1.7バリアントに対して同様のIC
50を示した(
図4C、
図4D)。その上、RBD-2-1F-Fcは、WTシュードタイプ化粒子を阻害することができたが、B.1.1.7(アルファ)突然変異体バージョンを阻害することができなかった(
図4C、
図4D)。
【0281】
(実施例6)
RBD-1-2Gは、低いオフターゲット結合を表す
ヒト膜プロテオームアレイ(MPA、およそ6,000種のヒト膜タンパク質 + SARS-CoV-2スパイクタンパク質)を使用して、RBD-1-2Gの潜在的な多反応性および非特異性をスクリーニングおよび評価した。MPAスクリーニングは、外因的ヒト膜タンパク質への最小の結合による、SARS-CoV-2スパイクへのRBD-1-2Gの高い特異性の結合を確認した(
図20A)。細胞内で発現されるタンパク質であるミトコンドリア伸長因子1(MIEF1)への結合が、初期スクリーニングにおいて検出された。この標的の検証は、RBD-1-2Gが、ベクタートランスフェクト細胞と同様の様式でMIEF1トランスフェクト細胞に結合したことを明らかにした(
図20B)。その上、MIEF1は、ミトコンドリアタンパク質であるため、RBD-1-2Gの血液注入または噴霧投与に干渉する可能性が低いであろう。これらのアッセイは、RBD-1-2Gの最小の潜在的なオフターゲット効果を指し示す。
【0282】
その上、RBD-1-2Gナノボディを凍結乾燥し、復元されたナノボディを同様の生きているウイルスの研究において検査した。凍結乾燥プロセスは、生きているウイルスのスクリーニングにおいて全体的な活性にほとんど影響がなく(
図16A~
図16B)、IC
50は、凍結乾燥試料で5.9μMを、無処置試料において14.8μMを測定する(
図16A~
図16B)。凍結乾燥後に活性を保持するRBD-1-2Gの能力は、ナノボディに基づく治療薬の製造および形成において有用となり得るプラスの特色である。
【0283】
(実施例7)
RBD-1-2GナノボディRBM領域相互作用の原子モデル化
RBD-1-2Gと、WTおよびB.1.1.7(アルファ)バリアントのRBD領域との結合に関与する残基を解明するために、RBD-Nb複合体の分子ドッキングを用い、その後スパイクの文脈でそれをフィッティングした。最良の結合機序は、ドッキング結果をクライオEMマップと重ね合わせることにより選択された。次に、溶媒和RBD-1-2G-WT RBDおよびRBD-1-2G-B.1.1.7 RBD複合体を、溶液における1μ秒間にわたる分子動力学(MD)シミュレーションに供した。
【0284】
全シミュレーションにおける複合体の平均二乗偏差は、系が安定していたことを示した(
図17A~
図17B)。主に1個のジャンプを示す曲線の一貫したパターンは、両方の系における少なくとも2つの可能な分布を指し示す(
図17A、セット2およびセット3)。相互作用の高度に保存されたパターンは、WTおよびB.1.1.7(アルファ)バリアントに対するRBD-1-2Gの非常に同様の結合機序に寄与する。MD結果は、RBD-1-2Gが、WTおよびB.1.1.7(アルファ)バリアントの両方に同様の角度で結合することを示した(
図5Aおよび
図5B)。各複合体における残基当たりの位置変動を比較すると、二乗平均平方根変動(RMSF)における同様のパターン(
図18A~
図18D)と、RBD残基355~375および470~490の周囲の2個の別個の領域におけるより大きい変形形態(
図5Aおよび
図5B)が観察された。相互作用の解析から、E484(RBD)およびR76(RBD-1-2Gの定常領域における)の間の塩橋が、WT RBDを含有する複合体における最も優勢な相互作用であることが見出された(
図5Cおよび
図21)。WT複合体におけるRBD-1-2Gに採用された高次構造は、E484およびR76の間の塩橋が、E484とS25(
図5D)または一部の例ではS28、S29およびG26との相互作用によってさらに安定化されることを示す。この塩橋は、突然変異体RBD複合体における最も優勢な相互作用の1つとして残るが、E484は、この相互作用に排他的に専念するものではない。RBD-1-2Gにおける残基S28、S29およびN73はまた、E484との相互作用に関与する(
図5Dおよび
図5E)。WT複合体と比較して、突然変異体RBDとの複合体において、水素イオンのペアまたは塩橋の数の増加が観察された(
図19)。CDR1およびCDR3、ならびに定常領域における数個の残基(R76およびN73)が、複合体の安定化の原因であった。N末端定常領域(E1、V2、Q3)およびCDR2(A52およびS53)における数個の残基は、WTおよび突然変異体形態の両方においてRBDと相互作用する一方で、CDR2領域におけるS53のみが、N487およびY489によるいくつかの水素結合の生成に関与すると思われる。
【0285】
MM/GBSA方法を使用して、ナノボディ-RBD複合体系の結合自由エネルギー(ΔG結合)を推定した。MDシミュレーショントラジェクトリーを通して20~30n秒間の時間間隔で千枚のスナップショットを撮って、MM/GBSA自由エネルギー差をコンピュータ処理した。
図5Cに示す通り、RBD-1-2G/WT RBDの平均結合エネルギーは、-36.1kcal/molであったが、RBD-1-2G/B.1.1.7 RBDについては、-38.9-kcal/molであった。よって、RBD-1-2Gは、WTおよびB.1.1.7バリアントの両方と安定な複合体を形成することができ、バリアントが僅かに有利である。各残基によって提供される予測される相互作用エネルギーは、E484およびR76の間の塩橋が、両方のシミュレーションにおいて結合の自由エネルギーに対して最も有意な寄与を有することを示した(
図5Cおよび
図21)。この残基ペアは、両方の複合体の安定化において重要な役割を果たし、これは、WTおよびB.1.1.7バリアントに対するこれらのナノボディの同様の結合機序および活性の観察と一致する。
【0286】
開示されている主題の原理が適用され得る多くの可能なインプリメンテーションを考慮すると、説明されているインプリメンテーションが、本開示の単なる例であり、本開示の範囲の限定として解釈するべきではないことを認識するべきである。むしろ、本開示の範囲は、次の特許請求の範囲によって定義される。したがって、本出願人らは、そのような特許請求の範囲の範囲および精神の内に収まる全てのものを請求する。
【配列表】
【国際調査報告】