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特表2024-535263自動反復タンデム質量分析による血漿プロテオミクスプロファイリング方法
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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公表特許公報(A)
(11)【公表番号】
(43)【公表日】2024-09-30
(54)【発明の名称】自動反復タンデム質量分析による血漿プロテオミクスプロファイリング方法
(51)【国際特許分類】
   G01N 33/68 20060101AFI20240920BHJP
   G01N 30/88 20060101ALI20240920BHJP
   G01N 30/72 20060101ALI20240920BHJP
   G01N 27/62 20210101ALI20240920BHJP
【FI】
G01N33/68
G01N30/88 J
G01N30/72 C
G01N27/62 X
G01N27/62 V
【審査請求】未請求
【予備審査請求】未請求
(21)【出願番号】P 2024516783
(86)(22)【出願日】2022-09-16
(85)【翻訳文提出日】2024-03-21
(86)【国際出願番号】 US2022043846
(87)【国際公開番号】W WO2023044036
(87)【国際公開日】2023-03-23
(31)【優先権主張番号】63/245,532
(32)【優先日】2021-09-17
(33)【優先権主張国・地域又は機関】US
(81)【指定国・地域】
(71)【出願人】
【識別番号】507302748
【氏名又は名称】リジェネロン・ファーマシューティカルズ・インコーポレイテッド
(74)【代理人】
【識別番号】100102978
【弁理士】
【氏名又は名称】清水 初志
(74)【代理人】
【識別番号】100205707
【弁理士】
【氏名又は名称】小寺 秀紀
(74)【代理人】
【識別番号】100160923
【弁理士】
【氏名又は名称】山口 裕孝
(74)【代理人】
【識別番号】100119507
【弁理士】
【氏名又は名称】刑部 俊
(74)【代理人】
【識別番号】100142929
【弁理士】
【氏名又は名称】井上 隆一
(74)【代理人】
【識別番号】100148699
【弁理士】
【氏名又は名称】佐藤 利光
(74)【代理人】
【識別番号】100188433
【弁理士】
【氏名又は名称】梅村 幸輔
(74)【代理人】
【識別番号】100128048
【弁理士】
【氏名又は名称】新見 浩一
(74)【代理人】
【識別番号】100129506
【弁理士】
【氏名又は名称】小林 智彦
(74)【代理人】
【識別番号】100114340
【弁理士】
【氏名又は名称】大関 雅人
(74)【代理人】
【識別番号】100214396
【弁理士】
【氏名又は名称】塩田 真紀
(74)【代理人】
【識別番号】100121072
【弁理士】
【氏名又は名称】川本 和弥
(74)【代理人】
【識別番号】100221741
【弁理士】
【氏名又は名称】酒井 直子
(74)【代理人】
【識別番号】100114926
【弁理士】
【氏名又は名称】枝松 義恵
(72)【発明者】
【氏名】ファン シャオシャオ
(72)【発明者】
【氏名】ファン ユー
(72)【発明者】
【氏名】チェン シャオジン
(72)【発明者】
【氏名】リ ニン
【テーマコード(参考)】
2G041
2G045
【Fターム(参考)】
2G041DA05
2G041EA04
2G041FA12
2G041GA01
2G041GA06
2G041GA09
2G041HA01
2G045BB35
2G045CA26
2G045DA36
2G045FA40
2G045FB06
(57)【要約】
本発明は、概して、生体試料中の少なくとも1つの目的タンパク質を特徴付ける方法に関する。具体的には、本発明は、血漿などの生体試料からの少なくとも1つの目的タンパク質及び/又はバイオマーカーを同定し、定量化し、特徴付けるための自動反復タンデム質量分析(AIMS)の使用に関する。
【選択図】図1
【特許請求の範囲】
【請求項1】
生体試料中の少なくとも1つの目的タンパク質を特徴付けるための方法であって、以下:
(a)クロマトグラフィー溶出ピークを得るために、前記生体試料をクロマトグラフィーカラムに供する工程と、
(b)(a)のクロマトグラフィー溶出ピークにわたってデータ依存的取得サイクルを実施することによりタンデム質量分析を実施する工程であって、前記サイクルが、
(i)質量スペクトルスキャンを得ることと、
(ii)得られた前記質量スペクトルスキャンから自動除外セットとして複数の前駆体イオンを選択することと、
(iii)前記自動除外セットに設定された前記複数の前駆体イオンを除外した後、第2の質量スペクトルスキャンを得ることと
を含む、タンデム質量分析を実施する工程と、
(c)前記取得サイクルが所定の回数実行された後、前記少なくとも1つの目的タンパク質を特徴付ける工程と
を含む、方法。
【請求項2】
前記サイクルの所定の回数が、1、2、3、4サイクル、又はそれ以上である、請求項1に記載の方法。
【請求項3】
自動除外セットのための前駆体イオンを選択するための質量誤差許容値が、約15ppmである、請求項1に記載の方法。
【請求項4】
自動除外セットのための前駆体イオンを選択するための保持時間許容値が、約-0.2分~約+0.4分である、請求項1に記載の方法。
【請求項5】
前記自動除外セットが、少なくとも1つのバックグラウンドイオンも含む、請求項1に記載の方法。
【請求項6】
前記自動除外セットが、得られた前記質量スペクトルスキャンからのものではない少なくとも1つの追加の前駆体イオンを含む、請求項1に記載の方法。
【請求項7】
得られた前記質量スペクトルからの前駆体イオンは、それらが所定の強度閾値を下回る場合、前記自動除外セットに追加されない、請求項1に記載の方法。
【請求項8】
試料調製が、直接消化を含み、任意選択で、直接消化が、前記試料をトリプシン及びLysCに接触させることを含む、請求項1に記載の方法。
【請求項9】
クロマトグラフィーステップが、逆相液体クロマトグラフィー、イオン交換クロマトグラフィー、サイズ排除クロマトグラフィー、親和性クロマトグラフィー、疎水性相互作用クロマトグラフィー、親水性相互作用クロマトグラフィー、混合モードクロマトグラフィー、又はそれらの組み合わせを含む、請求項1に記載の方法。
【請求項10】
質量分析計が、エレクトロスプレーイオン化質量分析計、ナノエレクトロスプレーイオン化質量分析計、又は四重極飛行時間型質量分析計であり、前記質量分析計が、液体クロマトグラフィーシステムに連結されている、請求項1に記載の方法。
【請求項11】
前記生体試料がヒト試料である、請求項1に記載の方法。
【請求項12】
前記生体試料が血漿である、請求項1に記載の方法。
【請求項13】
前記少なくとも1つの目的タンパク質がバイオマーカーである、請求項1に記載の方法。
【請求項14】
ヒト血漿中の少なくとも1つのバイオマーカーを特徴付けるための方法であって、以下:
(a)約5μLのヒト血漿を、溶解緩衝液中で希釈する工程と、
(b)約100μgの血漿タンパク質を含む希釈された前記ヒト血漿の試料を、採取する工程と、
(c)前記試料を、少なくとも1つの還元剤及び少なくとも1つのアルキル化剤に接触させる工程と、
(d)消化されたペプチド試料を形成するために、(c)からの試料を、消化条件下でトリプシン及びLysCに接触させる工程と、
(e)前記消化されたペプチド試料を、ペプチドクリーンアップに供する工程と、
(f)濃縮されたペプチド試料を形成するために、(e)の消化されたペプチド試料を一晩の濃縮ステップに供する工程と、
(g)クロマトグラフィー溶出ピークを得るために、前記濃縮されたペプチド試料をクロマトグラフィーカラムに供する工程と、
(h)(a)のクロマトグラフィー溶出ピークにわたってデータ依存的取得サイクルを実施することによりタンデム質量分析を実施する工程であって、前記サイクルが、
(i)質量スペクトルスキャンを得ることと、
(ii)得られた前記質量スペクトルスキャンから、自動除外セットとして複数の前駆体イオンを選択することと、
(iii)前記自動除外セットに設定された前記複数の前駆体イオンを除外した後、第2の質量スペクトルスキャンを得ることと
を含む、タンデム質量分析を実施する工程と、
(c)前記取得サイクルが少なくとも3回実行された後、前記少なくとも1つのバイオマーカーを特徴付ける工程と
を含む、方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
関連出願の相互参照
本出願は、参照により本明細書に組み込まれる、2021年9月17日に出願された米国仮特許出願第63/245,532号の優先権及び利益を主張するものである。
【0002】
分野
本出願は、生体試料中の目的のタンパク質を特徴付けるための方法に関する。
【背景技術】
【0003】
背景
血液は、多様な生物学的プロセスを促進する上で中心的な役割を果たす。全血は、ヒト生物学を研究しバイオマーカーを使用して疾患の徴候を検出するための重要な機会を提供する、容易にアクセス可能な低侵襲性の組織である。全血の液体成分である血漿は、抗凝固剤の存在下での全血の遠心分離後に得ることができる。この単離により、細胞性物質が除去され、細胞を含まない成分が詳細な特徴付けのために利用可能になる。
【0004】
タンパク質発現の大きなダイナミックレンジと最先端の分析方法の能力との両方が理由で、血漿は困難な生物学的マトリックスである。質量分析(MS)はその高スループット及び高感度の性質により、血漿プロテオミクス研究を実施するための魅力的な方法となっている。しかしながら、血漿タンパク質濃度の大きなダイナミックレンジが理由で、従来のMS法では、血漿タンパク質を分析可能とする前に濃縮ステップを必要とする場合があり、それはタンパク質の喪失や複雑な調製ステップにつながる。
【0005】
したがって、濃縮ステップを必要としない単純な調製方法を使用して、複合生体試料、例えば血漿中の、タンパク質を高感度で分析するための方法及びシステムが必要とされていることが理解されるであろう。
【発明の概要】
【0006】
概要
自動反復タンデム質量分析(AIMS)を使用した血漿プロテオミクスプロファイリングのための方法が開発されている。本方法は、以下の試料調製ステップ:
対象から血漿を取得するステップと、
血漿を、溶解緩衝液中で希釈するステップと、
希釈された血漿の試料を、少なくとも1つのタンパク質還元剤に接触させるステップと、
試料を、少なくとも1つのタンパク質アルキル化剤に接触させるステップと、
試料を、少なくとも1つの消化酵素に接触させるステップと、
試料を、ペプチドクリーンアップに供するステップと、
試料のペプチドを濃縮するステップと、を含み得る。本方法は、以下の分析ステップ:
クロマトグラフィー溶出ピークを得るために、試料を液体クロマトグラフィー(LC)に供するステップと、
データ依存的取得(DDA)を使用して、クロマトグラフィーで分離させた試料をタンデム質量分析(MS/MS)に更に供するステップと、
自動除外セットに追加するために、質量スペクトルスキャンから前駆体イオンを自動的に選択するステップと、
自動除外セット内の前駆体イオンを所定のサイクル数の間除外しながら、このLC-MS/MS分析を繰り返すステップと、を含み得る。記載される自動反復MS/MS(AIMS)の使用により、高存在量前駆体イオンが、自動除外セットに追加された後で冗長な質量スペクトルスキャンから除外され、したがって、より感度が高く正確なプロテオミクスプロファイリングが可能になるので、低存在量前駆体イオンのより包括的な検出が可能になる。
【0007】
本開示は、生体試料中の少なくとも1つの目的タンパク質を特徴付けるための方法を提供する。いくつかの例示的な実施形態では、本方法は、以下:
(a)クロマトグラフィー溶出ピークを得るために、生体試料をクロマトグラフィーカラムに供する工程と、
(b)(a)のクロマトグラフィー溶出ピークにわたってデータ依存的取得サイクルを実施することによりタンデム質量分析を実施する工程であって、このサイクルが、
(i)質量スペクトルスキャンを得ることと、
(ii)得られた質量スペクトルスキャンから自動除外セットとして複数の前駆体イオンを選択することと、
(iii)自動除外セットに設定された複数の前駆体イオンを除外した後、第2の質量スペクトルスキャンを得ることと
を含む、タンデム質量分析を実施する工程と、
(c)取得サイクルが所定の回数実行された後、少なくとも1つの目的タンパク質を特徴付ける工程と、を含む。
【0008】
一態様では、サイクルの所定の回数は、1、2、3、4サイクル、又はそれ以上である。別の態様では、自動除外セットのための前駆体イオンを選択するための質量誤差許容値は、約15ppmである。更に別の態様では、自動除外セットのための前駆体イオンを選択するための保持時間許容値は、約-0.2分~約+0.4分である。
【0009】
一態様では、自動除外セットは、少なくとも1つのバックグラウンドイオンも含む。別の態様では、自動除外セットは、得られた質量スペクトルスキャンからのものではない少なくとも1つの追加の前駆体イオンを含む。更に別の態様では、得られた質量スペクトルからの前駆体イオンは、それらが所定の強度閾値を下回る場合、自動除外セットに追加されない。
【0010】
一態様では、試料調製は、直接消化を含む。特定の態様では、直接消化は、当該試料をトリプシン及びLysCに接触させることを含む。
【0011】
一態様では、クロマトグラフィーステップは、逆相液体クロマトグラフィー、イオン交換クロマトグラフィー、サイズ排除クロマトグラフィー、親和性クロマトグラフィー、疎水性相互作用クロマトグラフィー、親水性相互作用クロマトグラフィー、混合モードクロマトグラフィー、又はそれらの組み合わせを含む。
【0012】
一態様では、質量分析計は、エレクトロスプレーイオン化質量分析計、ナノエレクトロスプレーイオン化質量分析計、又は四重極飛行時間型質量分析計であり、質量分析計は、液体クロマトグラフィーシステムに連結されている。
【0013】
一態様では、生体試料はヒト試料である。別の態様では、生体試料は血漿である。更に別の態様では、少なくとも1つの目的タンパク質はバイオマーカーである。
【0014】
加えて、本開示は、ヒト血漿中の少なくとも1つのバイオマーカーを特徴付けるための方法を提供する。いくつかの例示的な実施形態では、本方法は、以下:
(a)約5μLのヒト血漿を、溶解緩衝液中で希釈する工程と、
(b)約100μgの血漿タンパク質を含む希釈された当該ヒト血漿の試料を、採取する工程と、
(c)当該試料を、少なくとも1つの還元剤及び少なくとも1つのアルキル化剤に接触させる工程と、
(d)消化されたペプチド試料を形成するために、(c)からの試料を、消化条件下でトリプシン及びLysCに接触させる工程と、
(e)当該消化されたペプチド試料を、ペプチドクリーンアップに供する工程と、
(f)濃縮されたペプチド試料を形成するために、(e)の消化されたペプチド試料を一晩の濃縮ステップに供する工程と、
(g)クロマトグラフィー溶出ピークを得るために、当該濃縮されたペプチド試料をクロマトグラフィーカラムに供する工程と、
(h)(a)のクロマトグラフィー溶出ピークにわたってデータ依存的取得サイクルを実施することによりタンデム質量分析を実施する工程であって、このサイクルが、
(i)質量スペクトルスキャンを得ることと、
(ii)得られた質量スペクトルスキャンから、自動除外セットとして複数の前駆体イオンを選択することと、
(iii)自動除外セットに設定された複数の前駆体イオンを除外した後、第2の質量スペクトルスキャンを得ることと
を含む、実施する工程と、
(c)取得サイクルが少なくとも3回実行された後、少なくとも1つのバイオマーカーを特徴付ける工程と、を含む。
【0015】
本発明のこれら及び他の態様は、以下の説明及び添付の図面と併せて考慮すると、よりよく評価及び理解される。以下の説明は、様々な実施形態及びその多くの特定の詳細を示すが、例示として与えられるものであり、限定するものではない。本発明の範囲内で、多くの置換、修正、追加、又は再配置を行うことができる。
【図面の簡単な説明】
【0016】
図1】例示的な実施形態による試料調製のワークフローを示す。
図2】例示的な実施形態による自動反復MS/MSのワークフローを示す。
図3】例示的な実施形態による自動反復MS/MSのためのデータ取得ファイルを示す。
図4】例示的な実施形態による反復DDA方法と比較した通常のデータ依存的取得(DDA)方法の各実行によって同定される固有のペプチドを示す。
図5】例示的な実施形態による反復DDA方法と比較した通常のDDA方法の各実行によって同定されるタンパク質群を示す。
図6図6Aは、例示的な実施形態による60回のLC-MS注入の過程にわたる15個のペプチドの安定した保持時間を示す。図6Bは、例示的な実施形態による60回のLC-MS注入の過程にわたる15個のペプチドの安定したピーク面積を示す。
図7】例示的な実施形態による自動反復MS/MSを使用した14の個々の患者試料中の既知のバイオマーカーの定量を示す。
図8】例示的な実施形態による自動反復MS/MSを使用した健康な患者及び過敏性腸症候群(IBS)を有する患者における血清アミロイドA 4(SAA4)の定量を示す。
図9】例示的な実施形態による自動反復MS/MSを使用した健康な患者及び非アルコール性脂肪性肝炎(NASH)患者における最も存在量の多いアポリポタンパク質の定量を示す。
図10】例示的な実施形態による自動反復MS/MSを使用した健康な患者及びNASHを有する患者における低存在量のアポリポタンパク質の定量を示す。
【発明を実施するための形態】
【0017】
詳細な説明
より臨床的に関連する生物学的洞察の必要性は、質量分析(MS)ベースのプロテオミクス研究の数の増加を動機付けている。血液が多様な生物学的プロセスの促進において中心的な役割を果たし、侵襲性が最小限の処置で血液に容易にアクセスできるため、血漿は臨床研究にとって魅力的な生体材料である。したがって、血漿プロテオミクスは、バイオマーカーの発見及びインビトロ診断の将来に非常に有望である。
【0018】
血漿プロテオミクスの主要な課題は、存在量が最大の血漿タンパク質と最小の血漿タンパク質との間の、10桁に及ぶ、タンパク質存在量の広いダイナミックレンジである。従来の方法では、血漿タンパク質のダイナミックレンジを低減させるために、分析前に血漿試料を大規模に調製する必要がある。これは、例えば、試料の喪失及び血漿タンパク質の相対的存在量の歪みをもたらす、血漿での枯渇、及びタンパク質沈殿を含み得る。各追加の調製ステップはまた、血漿プロテオミクス分析に、時間及びリソースにおけるコストを加える。しかしながら、これらのステップを放棄し、濃縮されていない試料を使用すると、MSによる血漿タンパク質の特徴付けが不正確になり得る。
【0019】
例えば、データ依存的取得(DDA)などの従来のプロテオミクス方法は、試料中の最も存在量の多い前駆体のみを断片化し、結果として、低存在量のイオンを見逃し得る。DDA方法は本質的に、存在量について大きいダイナミックレンジを有するタンパク質の同定に、いくつかの制限を有する。この制限は、各MS1スキャンでMS2スキャンのために選択される有限数の前駆体に由来する。ここで、「MS1」及び「MS2」は、それぞれ、タンデム質量分析における第1及び第2の質量分析を示す。MS2スキャンの実際のデューティサイクルが理由で、いくつかの複合MS1スキャンでは、MS2のための前駆体イオン選択が非常に少ないため、MS2の同定に選択されない多数の前駆体が残る。そのうえ、複合MS1スキャンにおける低レベルイオンの変動は、確率論的な前駆体選択を結果的にもたらし得るため、繰り返し注入ごとに、一貫性のない又は相補的な同定が生じる。
【0020】
代替的に、データ非依存的取得(DIA)を用いるLC-MS/MS、特にSWATH方法は、タンパク質を同時に同定及び定量する有望な戦略として示されている(Heissel et al.,2018,Protein Expr Purif,147:69-77、Walker et al.,2017,MAbs,9:654-663)。DIAベースの方法は、理論的には全ての前駆体からMS2断片を捕捉する前駆体イオンのウィンドウから、多重化されたMS2を生成することができるが、依然として小さいウィンドウのダイナミックレンジ干渉の問題に直面している。加えて、効果的かつ信頼性の高いタンパク質同定のためのデータ処理、及びタンパク質ライブラリを構築する前提条件においてハードルが高い。これらの課題の全ては、血漿プロテオミクスにおけるDIAの適用を制限する。したがって、DDAは、LC-MS/MSのためのペプチド及びタンパク質の同定のための最適な方法として機能する。
【0021】
高深度プロテオミクスのための新しいMS取得方法である、反復前駆体イオン除外の最近の開発は、従来のタンデムMSの深度を増加させることが示されている(Zhang,2012,J Am Soc Mass Spectrom,23:1400-1407、Wu et al.,2012,Proteomics Clin Appl,6:304-308、Wang et al.,2008,Anal Chem,80:4696-4710、Zhou,et al.,2015,J Proteomics Bioinform,8:260-265、Huang et al.,2021,J Pharm Biomed Anal,200:114069)。反復方式では、MS/MS断片化のために既に選択されている他の前駆体が更なる分析から除外される場合に、新しい固有のペプチド前駆体イオンの同定が増加する。反復MS/MSは、濃縮を必要とせずに、存在量が広範囲であるタンパク質の同定及び相対的定量化を達成し得る、分かりやすい取得方法である。独特に困難な種類の分析であるヒト血漿プロテオミクスにおける使用のために、反復MS/MS方法は、まだ最適化されていない。
【0022】
血漿プロテオミクス分析の課題に対処するために、自動前駆体イオン除外取得方法、又は自動反復MS/MS(AIMS)を利用する、単純、堅牢、かつ偏りのない戦略が本明細書で説明される。このAIMSアプローチでは、試料のいかなる濃縮も必要とせずに、直接消化された試料を使用することができる。このAIMS戦略により、血漿などの、広いダイナミックレンジを有する複合試料からのペプチド前駆体イオンを、反復繰り返しにおけるMS/MS同定のためにピックアップすることができる。したがって、このアプローチは、従来の方法よりも単純な試料調製プロセスで、通常のDDA方法と比較して高感度のタンパク質同定及び特徴付けを達成することができる。従来の方法と比較して、この新規の方法は、血漿での枯渇、又はタンパク質沈殿を必要としない、より単純な試料調製プロセスを使用しながら、より多くの数の固有のペプチドを同定し、より多くの数の固有のタンパク質を同定することができる。
【0023】
別段記載されない限り、本明細書で使用される全ての技術及び科学用語は、本発明が属する技術分野における当業者によって一般に理解されるものと同じ意味を有する。本明細書に記載される方法及び材料と同様又は同等のいずれの方法及び材料も実施又は試験において使用できるが、特定の方法及び材料をこれより説明する。
【0024】
「1つの(a)」という用語は、「少なくとも1つ」を意味すると理解されるべきであり、「約」及び「およそ」という用語は、当業者によって理解されるように標準的な変動を可能にすると理解されるべきであり、範囲が提供される場合、エンドポイントが含まれる。本明細書で使用される場合、「含む(include)」、「含む(includes)」、及び「含む(including)」という用語は、非限定的であることを意味し、それぞれ「含む(comprise)」、「含む(comprises)」、及び「含む(comprising)」を意味すると理解される。
【0025】
本明細書で使用される場合、「タンパク質」又は「目的タンパク質」という用語は、共有結合したアミド結合を有する任意のアミノ酸ポリマーを含むことができる。タンパク質は、当該技術分野で「ポリペプチド」として一般的に知られている1つ以上のアミノ酸ポリマー鎖を含む。「ポリペプチド」は、ペプチド結合を介して連結された、アミノ酸残基、関連する天然に存在する構造変異体、及び合成された天然に存在しないその類似体から構成されるポリマーを指す。「合成ペプチド又はポリペプチド」は、天然に存在しないペプチド又はポリペプチドを指す。合成ペプチド又はポリペプチドは、例えば、自動ポリペプチド合成装置を使用して合成することができる。様々な固相ペプチド合成法が当業者に既知である。タンパク質は、単一の機能性生体分子を形成するために1つ又は複数のポリペプチドを含んでもよい。別の例示的な態様では、タンパク質は、抗体断片、ナノボディ、組換え抗体キメラ、サイトカイン、ケモカイン、ペプチドホルモンなどを含み得る。目的タンパク質は、生物治療用タンパク質、研究又は治療に使用される組換えタンパク質、トラップタンパク質及び他のキメラ受容体Fc融合タンパク質、キメラタンパク質、抗体、モノクローナル抗体、ポリクローナル抗体、ヒト抗体、並びに二重特異性抗体のうちのいずれかを含み得る。タンパク質は、昆虫バキュロウイルス系、酵母系(例えば、ピキア属の種(Pichia sp.))、及び哺乳動物系(例えば、CHO細胞及びCHO-K1細胞などのCHO派生物)などの組換え細胞ベースの産生系を使用して産生されてもよい。生物療法用タンパク質及びそれらの産生を考察する最近の総説については、Ghaderi et al.“Production platforms for biotherapeutic glycoproteins.Occurrence,impact,and challenges of non-human sialylation”(教示全体が参照により本明細書に組み込まれる、Darius Ghaderi et al.,Production platforms for biotherapeutic glycoproteins.Occurrence,impact,and challenges of non-human sialylation,28 BIOTECHNOLOGY AND GENETIC ENGINEERING REVIEWS 147-176(2012))を参照されたい。いくつかの例示的な実施形態では、タンパク質は、修飾、付加物、及び他の共有結合で連結された部分を含む。それらの修飾、付加物、及び部分には、例えば、アビジン、ストレプトアビジン、ビオチン、グリカン(例えば、N-アセチルガラクトサミン、ガラクトース、ノイラミン酸、N-アセチルグルコサミン、フコース、マンノース、及び他の単糖類)、PEG、ポリヒスチジン、FLAGタグ、マルトース結合タンパク質(MBP)、キチン結合タンパク質(CBP)、グルタチオン-S-トランスフェラーゼ(GST)myc-エピトープ、蛍光標識、及び他の色素などが含まれる。タンパク質は、組成及び溶解度に基づいて分類することができるため、単純タンパク質(例えば、球状タンパク質及び線維性タンパク質)、複合タンパク質(例えば、核タンパク質、糖タンパク質、ムコタンパク質、色素タンパク質、リン酸化タンパク質、金属タンパク質、及びリポタンパク質)、並びに誘導タンパク質(例えば、一次誘導タンパク質及び二次誘導タンパク質)を含み得る。
【0026】
本明細書で使用される場合、「組換えタンパク質」という用語は、好適な宿主細胞に導入された組換え発現ベクターに担持される遺伝子の転写及び翻訳の結果として産生されるタンパク質を指す。ある特定の例示的な実施形態では、組換えタンパク質は、抗体、例えば、キメラ抗体、ヒト化抗体、又は完全ヒト抗体であり得る。ある特定の例示的な実施形態では、組換えタンパク質は、IgG、IgM、IgA1、IgA2、IgD、又はIgEからなる群から選択されるアイソタイプの抗体であり得る。ある特定の例示的な実施形態では、抗体分子は、完全長抗体(例えば、IgG1)であるか、又は代替的に、抗体は、断片(例えば、Fc断片又はFab断片)であり得る。
【0027】
「抗体」という用語は、本明細書で使用される場合、ジスルフィド結合によって相互接続された2つの重(H)鎖及び2つの軽(L)鎖である、4つのポリペプチド鎖、を含む、免疫グロブリン分子、並びにその多量体(例えば、IgM)を含む。各重鎖は、重鎖可変領域(本明細書ではHCVR又はVHと略す)及び重鎖定常領域を含む。重鎖定常領域は、CH1、CH2、及びCH3の3つのドメインを含む。各軽鎖は、軽鎖可変領域(本明細書ではLCVR又はVLと略す)及び軽鎖定常領域を含む。軽鎖定常領域は、1つのドメイン(CL1)を含む。VH及びVL領域は、フレームワーク領域(FR)と呼ばれる、より保存された領域が点在する、相補性決定領域(CDR)と呼ばれる超可変性の領域に更に細分することができる。各VH及びVLは、3つのCDR及び4つのFRから構成され、アミノ末端からカルボキシ末端に向かって、FR1、CDR1、FR2、CDR2、FR3、CDR3、及びFR4の順序で配置される。本発明の異なる実施形態では、抗big-ET-1抗体(又はその抗原結合部分)のFRは、ヒト生殖系列配列と同一であってもよく、天然に又は人工的に修飾されていてもよい。アミノ酸コンセンサス配列は、2つ以上のCDRの並列分析に基づいて定義することができる。「抗体」という用語は、本明細書で使用される場合、完全な抗体分子の抗原結合断片も含む。抗体の「抗原結合部分」、抗体の「抗原結合断片」及び同様の用語は、本明細書で使用される場合、天然に存在する、酵素的に入手可能な、合成の、又は遺伝子操作された、抗原に特異的に結合して複合体を形成するポリペプチド又は糖タンパク質を含む。抗体の抗原結合断片は、例えば、タンパク質分解消化又は抗体可変ドメイン及び必要に応じて定常ドメインをコードするDNAの操作及び発現を伴う組換え遺伝子工学技術などの任意の好適な標準技術を使用して、完全な抗体分子から誘導され得る。このようなDNAは既知であり、かつ/又は、例えば、商業的供給元、DNAライブラリ(例えば、ファージ抗体ライブラリを含む)から容易に入手可能であり、又は合成することができる。DNAは、化学的に又は分子生物学技術を使用して配列決定及び操作され、例えば、1つ以上の可変ドメイン及び/又は定常ドメインを好適な構成に配置したり、コドンを導入したり、システイン残基を作成したり、アミノ酸を修飾、追加又は削除したりすることができる。
【0028】
本明細書で使用される場合、「抗体断片」は、例えば、抗体の抗原結合領域又は可変領域などの、無傷の抗体の一部を含む。抗体断片の例としては、Fab断片、Fab’断片、F(ab’)2断片、scFv断片、Fv断片、dsFvダイアボディ、dAb断片、Fd’断片、Fd断片及び単離された相補性決定領域(CDR)領域、並びにトリアボディ、テトラボディ、直鎖状抗体、一本鎖抗体分子及び抗体断片から形成される多重特異性抗体が挙げられるが、これらに限定されない。Fv断片は、免疫グロブリンの重鎖及び軽鎖の可変領域の組み合わせであり、ScFvタンパク質は、免疫グロブリンの軽鎖及び重鎖の可変領域がペプチドリンカーによって接続される組換え一本鎖ポリペプチド分子である。いくつかの例示的な実施形態では、抗体断片は、親抗体と同じ抗原に結合する断片である親抗体の十分なアミノ酸配列を含み、いくつかの例示的な実施形態では、断片は、親抗体と同等の親和性で抗原に結合し、かつ/又は抗原への結合に関して親抗体と競合する。抗体断片は、いずれの手段によって産生されてもよい。例えば、抗体断片は、無傷の抗体の断片化によって酵素的又は化学的に産生されてもよく、かつ/又は部分的な抗体配列をコードする遺伝子から組換えにより産生されてもよい。代替的又は追加的に、抗体断片は、完全に又は部分的に合成により産生されてもよい。抗体断片は、任意選択で、一本鎖抗体断片を含んでもよい。代替的又は追加的に、抗体断片は、例えば、ジスルフィド結合によって一緒に連結される複数の鎖を含んでもよい。抗体断片は、任意選択で、多分子複合体を含んでもよい。機能的抗体断片は、典型的には少なくとも約50個のアミノ酸を含み、より典型的には少なくとも約200個のアミノ酸を含む。
【0029】
「二重特異性抗体」という用語は、2つ以上のエピトープに選択的に結合できる抗体を含む。二重特異性抗体は、概して、2つの異なる重鎖を含み、各重鎖が、2つの異なる分子(例えば、抗原)上又は同じ分子(例えば、同じ抗原)上のいずれかで、異なるエピトープに特異的に結合する。二重特異性抗体が2つの異なるエピトープ(第1エピトープ及び第2エピトープ)に選択的に結合できる場合、第1エピトープに対する第1重鎖の親和性は、概して、第2エピトープに対する第1重鎖の親和性よりも少なくとも1~2桁又は3桁又は4桁低くなり、また、その逆も同様である。二重特異性抗体によって認識されるエピトープは、同じ標的上に存在することも、異なる標的上に存在することもできる(例えば、同じタンパク質上又は異なるタンパク質上)。二重特異性抗体は、例えば、同じ抗原の異なるエピトープを認識する重鎖を組み合わせることによって作製することができる。例えば、同じ抗原の異なるエピトープを認識する重鎖可変配列をコードする核酸配列は、異なる重鎖定常領域をコードする核酸配列に融合させることができ、そのような配列は、免疫グロブリン軽鎖を発現する細胞内で発現させることができる。
【0030】
典型的な二重特異性抗体は、3つの重鎖CDR、次いでCH1ドメイン、ヒンジ、CH2ドメイン及びCH3ドメインを各々有する2つの重鎖と、免疫グロブリン軽鎖であって、抗原結合特異性を与えないが各重鎖と会合することができる、又は各重鎖と会合することができ、重鎖抗原結合領域によって結合される1つ以上のエピトープと結合することができる、又は各重鎖に会合することができ、1つ若しくは両方の重鎖を1つ若しくは両方のエピトープに結合させることができる、免疫グロブリン軽鎖と、を有する。BsAbは、Fc領域(IgG様)を保有するものとFc領域を欠くものとの2つの主要なクラスに分類でき、後者は通常、Fcを含むIgG及びIgG様二重特異性分子よりも小さい。IgG様bsAbは、トリオマブ、ノブイントゥホールIgG(kih IgG)、crossMab、orth-Fab IgG、二重可変ドメインIg(DVD-Ig)、ツーインワン若しくは二重作用Fab(DAF)、IgG一本鎖Fv(IgG-scFv)、又はκλボディなどであるがこれらに限定されない、異なる形式を有し得る。非IgG様の異なる形式は、タンデムscFv、ダイアボディフォーマット、一本鎖ダイアボディ、タンデムダイアボディ(TandAb)、二重アフィニティーリターゲティング分子(DART)、DART-Fc、ナノボディ、又はドック・アンド・ロック(DNL)法によって産生される抗体を含む(教示全体が本明細書に組み込まれる、Gaowei Fan,Zujian Wang & Mingju Hao,Bispecific antibodies and their applications,8 JOURNAL OF HEMATOLOGY & ONCOLOGY 130、Dafne Mueller & Roland E.Kontermann,Bispecific Antibodies,HANDBOOK OF THERAPEUTIC ANTIBODIES 265-310(2014))。bsAbを産生する方法は、2つの異なるハイブリドーマ細胞株の体細胞融合に基づくクアドローマ技術、化学的架橋剤を含む化学的コンジュゲーション、及び組換えDNA技術を利用する遺伝子アプローチに限定されない。bsAbの例としては、以下の特許出願に開示されているものが挙げられる(参照により本明細書に組み込まれる):2010年6月25日に出願された米国特許出願第12/823838号、2012年6月5日に出願された米国特許出願第13/488628号、2013年9月19日に出願された米国特許出願第14/031075号、2015年7月24日に出願された米国特許出願第14/808171号、2017年9月22日に出願された米国特許出願第15/713574号、2017年9月22日に出願された米国特許出願第15/713569号、2016年12月21日に出願された米国特許出願第15/386453号、2016年12月21日に出願された米国特許出願第15/386443号、2016年7月29日に出願された米国特許出願第15/22343号、及び2017年11月15日に出願された米国特許出願第15814095号。
【0031】
本明細書で使用される場合、「多重特異性抗体」は、少なくとも2つの異なる抗原に対する結合特異性を有する抗体を指す。このような分子は、通常、2つの抗原のみに結合するが(すなわち、二重特異性抗体、bsAb)、三重特異性抗体及びKIH三重特異性抗体などの追加の特異性を有する抗体は、本明細書に開示されるシステム及び方法によっても対処することができる。
【0032】
「モノクローナル抗体」という用語は、本明細書で使用される場合、ハイブリドーマ技術によって産生される抗体に限定されない。モノクローナル抗体は、当技術分野で利用可能な又は既知の任意の手段によって、任意の真核生物、原核生物、又はファージクローンを含む単一クローンに由来することができる。本開示で有用なモノクローナル抗体は、ハイブリドーマ、組換え、及びファージディスプレイ技術、又はそれらの組み合わせの使用を含む、当技術分野で既知の広範な技術を使用して調製することができる。
【0033】
いくつかの例示的な実施形態では、目的タンパク質はバイオマーカーであり得る。本明細書で使用される場合、「バイオマーカー」という用語は、体内又はその生成物中で測定され、転帰又は疾患の発生に影響を及ぼすか又はそれを予測することができる任意の物質、構造、又はプロセスを指す。バイオマーカーは、例えば、個体の疾患状態の反映としてより高い又はより低い発現を有するタンパク質であってもよい。バイオマーカーはまた、療法又は治療に応答して特性が変化する種であってもよく、当該療法又は治療の効果の指標として測定されてもよい。いくつかの例示的な実施形態では、バイオマーカーは、質量分析を使用して測定可能な方法で疾患状態の影響を受けるタンパク質であってもよい。いくつかの特定の例示的な実施形態では、バイオマーカーはアポリポタンパク質であってもよい。他の特定の例示的な実施形態では、バイオマーカーは、血清アミロイドA(SAA)タンパク質であってもよい。
【0034】
本明細書で使用される場合、「試料」は、細胞培養液(CCF)、採取された細胞培養液(HCCF)、下流処理における任意のステップ、原薬(DS)、又は最終的に製剤化された製品を含む医薬品(DP)などのバイオプロセスの任意のステップから得ることができる。いくつかの特定の例示的な実施形態では、試料は、清澄化、クロマトグラフィー生成、ウイルス不活性化、又は濾過の、下流プロセスの任意のステップから選択され得る。
【0035】
いくつかの例示的な実施形態では、試料は生体試料である。本明細書で使用される場合、「生体試料」という用語は、生きている生物、例えば、ヒト又は非ヒト哺乳動物から採取された試料を指す。生体試料は、例えば、全血、血漿、血清、唾液、涙液、精液、頬組織、臓器組織、尿、糞便、皮膚、又は毛髪を含んでもよい。いくつかの例示的な実施形態では、試料は、少なくとも1つのバイオマーカーを含んでもよい。いくつかの例示的な実施形態では、試料は、少なくとも1つの目的タンパク質を含んでもよい。生体試料の分析は、特定の困難、例えば、試料の成分の多様性、試料の成分の高い濃度、又は試料の成分の広いダイナミックレンジを提示する。本開示は、生体試料を分析するための方法であって、例えば、単純な試料調製、それに続く自動化反復MS/MSを含む方法を提供する。
【0036】
いくつかの例示的な実施形態では、目的タンパク質を含む試料は、自動反復MS/MS分析の前に調製され得る。調製ステップは、希釈、アルキル化、還元、変性、消化、ペプチドクリーンアップ、及び/又は濃縮を含み得る。
【0037】
いくつかの例示的な実施形態では、約5μLの血漿が、AIMS分析のために対象から得られる。血漿は、複数の個体からプールされてもよく、1体の個体のみからプールされてもよい。血漿は希釈されてもよく、希釈された血漿の一部又はアリコートは、更なる分析のために採取されてもよい。血漿は、例えば、溶解緩衝液中で希釈されてもよい。希釈された血漿の試料は、約100μgの血漿タンパク質を含んでもよい。いくつかの例示的な実施形態では、本発明の反復方法は、3つのLC-MS/MSサイクルを含み、これらの各々が約30μgの血漿タンパク質を分析する。AIMSは、3回超のサイクル、例えば、4回、5回、又は6回のサイクルを含んでもよい。この場合、より多くの量の出発タンパク質、例えば、約150μgの血漿タンパク質、約200μgの血漿タンパク質、又はそれ以上が所望され得る。血漿は、本発明の方法を使用して分析することができる複合生体試料の例として使用されるが、いずれの複合試料及びいずれの生体試料も本発明の方法において使用できることを理解されたい。
【0038】
本明細書で使用される場合、「タンパク質アルキル化剤」又は「アルキル化剤」という用語は、タンパク質中のある特定の遊離アミノ酸残基をアルキル化するために使用される剤を指す。タンパク質アルキル化剤の非限定的な例は、ヨードアセトアミド(IOA/IAA)、クロロアセトアミド(CAA)、アクリルアミド(AA)、N-エチルマレイミド(NEM)、メタンチオスルホン酸メチル(MMTS)、及び4-ビニルピリジン、又はそれらの組み合わせである。
【0039】
本明細書で使用される場合、「タンパク質変性」は、分子の三次元形状をその天然の状態から変化させるプロセスを指し得る。タンパク質変性は、タンパク質変性剤を使用して実施することができる。タンパク質変性剤の非限定的な例としては、熱、高又は低pH、DTT(以下を参照)のような還元剤、又はカオトロピック剤への曝露が挙げられる。いくつかのカオトロピック剤をタンパク質変性剤として使用することができる。カオトロピック溶質は、水素結合、ファンデルワールス力、及び疎水性効果などの非共有結合力によって媒介される分子内相互作用を妨げることによって、系のエントロピーを増加させる。カオトロピック剤の非限定的な例には、ブタノール、エタノール、塩化グアニジニウム、過塩素酸リチウム、酢酸リチウム、塩化マグネシウム、フェノール、プロパノール、ドデシル硫酸ナトリウム、チオ尿素、N-ラウロイルサルコシン、尿素、及びそれらの塩が挙げられる。
【0040】
本明細書で使用される場合、「タンパク質還元剤」又は「還元剤」という用語は、タンパク質中のジスルフィド架橋の還元のために使用される薬剤を指す。タンパク質を還元するために使用されるタンパク質還元剤の非限定的な例は、ジチオスレイトール(DTT)、β-メルカプトエタノール、エルマン試薬、ヒドロキシルアミン塩酸塩、シアノ水素化ホウ素ナトリウム、トリス(2-カルボキシエチル)ホスフィン塩酸塩(TCEP-HCl)、又はそれらの組み合わせである。
【0041】
本明細書で使用される場合、「消化」という用語は、タンパク質の1つ以上のペプチド結合の加水分解を指す。適切な加水分解剤(例えば、酵素消化又は非酵素消化)を使用して、試料中のタンパク質の消化を行うためのいくつかのアプローチがある。
【0042】
本明細書で使用される場合、「消化酵素」という用語は、タンパク質の消化を行うことができる多数の異なる薬剤のうちのいずれかを指す。酵素消化を行うことができる加水分解剤の非限定的な例としては、アスペルギルス・サイトイ(Aspergillus Saitoi)由来プロテアーゼ、エラスターゼ、サブチリシン、プロテアーゼXIII、ペプシン、トリプシン、Tryp-N、キモトリプシン、アスペルギロペプシンI、LysNプロテアーゼ(Lys-N)、LysCエンドプロテイナーゼ(Lys-C)、エンドプロテイナーゼAsp-N(Asp-N)、エンドプロテイナーゼArg-C(Arg-C)、エンドプロテイナーゼGlu-C(Glu-C)、又は外膜タンパク質T(OmpT)のプロテアーゼ、ストレプトコッカス・ピオゲネス(Streptococcus pyogenes)の免疫グロブリン分解酵素(IdeS)、サーモリシン、パパイン、プロナーゼ、V8プロテアーゼ、若しくは生物活性断片、若しくはそれらのホモログ、又はそれらの組み合わせが挙げられる。タンパク質消化のための利用可能な技術を考察する最近の総説については、Switazar et al.,“Protein Digestion:An Overview of the Available Techniques and Recent Developments”(Linda Switzar,Martin Giera & Wilfried M.A.Niessen,Protein Digestion:An Overview of the Available Techniques and Recent Developments,12 JOURNAL OF PROTEOME RESEARCH 1067-1077(2013))を参照されたい。
【0043】
いくつかの例示的な実施形態では、試料は、LC-MS/MS分析の前に濃縮されてもよい。濃縮は、例えば、試料を数時間又は一晩真空濃縮に供することを含んでもよい。濃縮ステップに有用な装置は、例えば、SpeedVac(登録商標)真空濃縮器であり得る。
【0044】
いくつかの例示的な実施形態では、試料調製は、血漿での枯渇ステップを含まない。いくつかの例示的な実施形態では、試料調製は、タンパク質沈殿ステップを含まない。
【0045】
本明細書で使用される場合、「液体クロマトグラフィー」という用語は、液体によって運ばれる生物学的/化学的混合物が、静止した液相又は固相を通って流れる(又はそれに流れ込む)際の成分の特異的分布の結果として、成分に分離され得るプロセスを指す。液体クロマトグラフィーの非限定的な例としては、逆相液体クロマトグラフィー、イオン交換クロマトグラフィー、サイズ排除クロマトグラフィー、アフィニティークロマトグラフィー、疎水性相互作用クロマトグラフィー、親水性相互作用クロマトグラフィー、又は混合モードクロマトグラフィーが挙げられる。いくつかの態様では、少なくとも1つの目的バイオマーカー又は少なくとも1つの目的タンパク質を含む試料は、上述のクロマトグラフィー方法のうちのいずれか1つ又はそれらの組み合わせに供され得る。
【0046】
本明細書で使用される場合、「質量分析計」という用語は、特定の分子種を認識し、その正確な質量を測定できる装置を含む。この用語は、ポリペプチド又はペプチドを特徴付けることができるいずれの分子検出器も含むことを意味する。質量分析計は、イオン源、質量分析器、及び検出器という3つの主要な部分を含み得る。イオン源の役割は、気相イオンを創出することである。分析物の原子、分子、又はクラスターを、同時に(エレクトロスプレーイオン化のように)又は別のプロセスを通じて、気相に移送し、イオン化することができる。イオン源の選択は用途によって異なる。
【0047】
いくつかの例示的な実施形態では、質量分析計は、タンデム質量分析計であり得る。本明細書で使用される場合、「タンデム質量分析」という用語は、質量選択及び質量分離の複数の段階を使用することによって、試料分子についての構造情報を取得する技術を含む。前提条件は、最初の質量選択ステップの後に、予測可能かつ制御可能な方法で断片が形成されるように、試料分子が気相に変換されてイオン化されることである。MS/MS、又はMSは、まず、前駆体イオン(MS)を選択して単離し、それを断片化して有意義な情報を得ることによって実施され得る。タンデムMSは、多種多様な分析器の組み合わせを用いて成功裏に実行されてきた。ある特定の用途のためにどの分析器を組み合わせるかは、感度、選択性、及び速度だけでなく、サイズ、コスト、及び入手可能性などの多くの異なる因子によって決定することができる。タンデムMS法の2つの主要なカテゴリは、タンデムインスペース及びタンデムインタイムであるが、タンデムインタイム分析器が空間的に又はタンデムインスペース分析器と連結されたハイブリッドも存在する。タンデムインスペース質量分析計は、イオン源、前駆体イオン活性化装置、及び少なくとも2つの非トラップ型質量分析器を含む。特定のm/z分離機能は、機器の1つのセクションでイオンが選択され、中間領域で解離され、次いで産生イオンがm/z分離及びデータ収集のために別の分析器に送信されるように設計できる。タンデムインタイムでは、イオン源で産生された質量分析計イオンを同じ物理装置内で捕捉、分離、断片化し、m/z分離することができる。
【0048】
質量分析計によって同定されたペプチドは、インタクトなタンパク質及びそれらの翻訳後修飾の代理の代表物として使用され得る。これらは、実験データと理論的MS/MSデータとを相関させることによって、タンパク質の特徴付けに使用することができ、後者は、タンパク質配列データベース内の可能性のあるペプチドから生成される。この特徴付けには、限定されないが、タンパク質断片のアミノ酸の配列決定、タンパク質配列の決定、タンパク質デノボ配列決定、翻訳後修飾の位置決定、若しくは翻訳後修飾の同定、若しくは比較可能性分析、又はそれらの組み合わせが含まれる。
【0049】
いくつかの例示的な態様では、質量分析計は、ナノエレクトロスプレー又はナノスプレーで動作し得る。本明細書で使用される「ナノエレクトロスプレー」又は「ナノスプレー」という用語は、多くの場合に外部溶媒送達を使用せずに、非常に低い溶媒流量(典型的には、毎分数百ナノリットル以下の試料溶液)でのエレクトロスプレーイオン化を指す。ナノエレクトロスプレーを形成するエレクトロスプレー注入装置は、静的ナノエレクトロスプレーエミッタ又は動的ナノエレクトロスプレーエミッタを使用することができる。静的ナノエレクトロスプレーエミッタは、長期間にわたって少量の試料(分析物)溶液の連続分析を実行する。動的ナノエレクトロスプレーエミッタは、質量分析計による分析の前に、毛細管カラム及び溶媒送達システムを使用して、混合物のクロマトグラフィー分離を行う。
【0050】
いくつかの例示的な実施形態では、自動反復MS/MSは、ネイティブな条件下で行われ得る。本明細書で使用される場合、「ネイティブな条件」という用語は、分析物中の非共有結合相互作用を保存する条件下で質量分析を行うことを含み得る。ネイティブMSの詳細な総説については、総説:Elisabetta Boeri Erba & Carlo Pe-tosa,The emerging role of native mass spectrometry in characterizing the structure and dynamics of macromolecular complexes,24 PROTEIN SCIENCE1176-1192(2015)を参照されたい。
【0051】
いくつかの例示的な実施形態では、本発明の方法は、タンデム質量分析の所定のサイクル数を含む。一態様では、サイクル数は、1、2、3、4サイクル、又はそれ以上である。サイクル数は、当業者によって容易に決定され得る、試料量、タイミング、ペプチドスペクトルマッチ数、定量正確度に関するユーザの必要性、又は当業者によって容易に決定され得る他の必要性に応じて選択され得る。
【0052】
いくつかの例示的な実施形態では、本発明の方法は、自動除外セットへの前駆体イオンの追加を決定するために、ユーザが決定した質量誤差許容値及び保持時間除外許容値を設定することを含む。質量誤差許容値は、0、1、2、3、4、5、6、7、8、9、10、11、12、13、14、15、16、17、18、19、20、21、22、23、24、25、26、27、28、29、若しくは30ppm、又は当業者によって容易に決定され得るユーザの必要性に応じた別の値であってもよい。保持時間除外許容値は、-0.5分、-0.4分、-0.3分、-0.2分、-0.1分、若しくは0分から、+0.8分、+0.7分、+0.6分、+0.5分、+0.4分、+0.3分、+0.2分、+0.1分、若しくは0分まで、又は当業者によって容易に決定され得るユーザの必要性に応じた別の範囲であってもよい。
【0053】
いくつかの例示的な実施形態では、本発明の方法は、イオン断片化のための前駆体イオンを除外するために使用される自動除外セットを生成することを含む。一態様では、質量スペクトルスキャンで取得される前駆体イオンが、自動除外セットに追加される。別の態様では、自動除外セットはまた、バックグラウンドイオンも含む。バックグラウンドイオンは、全ての質量スペクトルスキャンに存在し、真のペプチド産物を表すものではない場合がある。バックグラウンドイオンは、当業者であれば容易に識別することができる。別の態様では、自動除外セットは、取得された質量スペクトルスキャンからのものではない少なくとも1つの追加の前駆体イオンを含む。ユーザは、質量スペクトルスキャンでまだ取得されていない場合でも、断片化されるべきではない少なくとも1つの前駆体イオンを事前決定することを選択し得る。更に別の態様では、取得された質量スペクトルからの前駆体イオンは、それらが所定の強度閾値を下回る場合、自動除外セットに追加されない。ユーザは、以前の取得が低い品質又は信号強度であった場合、前駆体イオンの質量スペクトル分析を繰り返すことを望む場合がある。
【0054】
本明細書で使用される場合、「データベース」という用語は、例えば、FASTA形式のファイルの形態で、試料中に存在し得るタンパク質配列のコレクションを指す。関連するタンパク質配列は、研究対象の種のcDNA配列に由来し得る。関連するタンパク質配列を検索するために使用され得る公開データベースには、例えば、Uniprot又はSwiss-Protによってホストされているデータベースが含まれた。データベースは、本明細書で「バイオインフォマティクスツール」と称されるデータベースを使用して検索され得る。バイオインフォマティクスツールは、データベース内の全ての可能な配列に対して、解釈されていないMS/MSスペクトルを検索する能力を提供し、解釈された(注釈を付けられた)MS/MSスペクトルを出力として提供する。そのようなツールの非限定的な例は、Mascot(www.matrixscience.com)、Spectrum Mill(www.chem.agilent.com)、PLGS(www.waters.com)、PEAKS(www.bioinformaticssolutions.com)、Proteinpilot(download.appliedbiosystems.com//proteinpilot)、Phenyx(www.phenyx-ms.com)、Sorcerer(www.sagenresearch.com)、OMSSA(www.pubchem.ncbi.nlm.nih.gov/omssa/)、X!Tandem(www.thegpm.org/TANDEM/)、Protein Prospector(prospector.ucsf.edu/prospector/mshome.htm)、Byonic(www.proteinmetrics.com/products/byonic)、又はSequest(fields.scripps.edu/sequest)である。
【0055】
いくつかの例示的な実施形態では、質量分析計は、クロマトグラフィーシステムに連結される。
【0056】
本発明は、上述のタンパク質、目的のタンパク質、バイオマーカー、タンパク質アルキル化剤、タンパク質変性剤、タンパク質還元剤、消化酵素、試料、生体試料、クロマトグラフィー方法、質量分析計、質量誤差許容値、保持時間除外許容値、データベース、又はバイオインフォマティクスツールのうちのいずれかに限定されず、任意のタンパク質、目的のタンパク質、バイオマーカー、タンパク質アルキル化剤、タンパク質変性剤、タンパク質還元剤、消化酵素、試料、生体試料、クロマトグラフィー方法、質量分析計、質量誤差許容値、保持時間除外許容値、データベース、又はバイオインフォマティクスツールが、任意の好適な手段によって選択され得ることが理解される。
【0057】
本発明は、以下の実施例を参照することでより十分に理解される。しかしながら、実施例は、本発明の範囲を限定するものとして解釈されるべきではない。
【実施例
【0058】
実施例1.試料調製
Thermo ScientificのEasyPepキットを使用した、本発明のAIMS方法用の試料を調製するための例示的なプロセスを、図1に示す。5μLの血漿試料を、溶解緩衝液中で希釈する。100μgの血漿タンパク質を含むこの希釈された試料の一部を、後続のステップのための試料として採取する。この試料を、還元/アルキル化ステップに供する。次いで、試料を、トリプシン及びLysCを使用するタンパク質消化に更に供する。消化の後、ペプチドクリーンアップステップを続ける。最後に、試料を、SpeedVac(登録商標)真空濃縮器を使用して一晩の濃縮ステップに供し、濃縮された精製ペプチド試料を得る。
【0059】
従来の方法とは異なり、この方法は、血漿での枯渇ステップ、又はタンパク質沈殿及び洗浄ステップを必要としない。両方のステップは、血漿試料を簡素化し、タンパク質を濃縮するために一般的に使用されるが、試料の喪失、タンパク質の喪失、及び追加の調製時間を生じさせる。本方法の利点は、本方法により、事前の濃縮なしに、タンパク質濃度の高いダイナミックレンジを有する複合試料の分析が可能になり、したがって、これらの損失の多いステップを回避することができ、タンパク質のより正確な同定、特徴付け、及び定量が得られることである。
【0060】
実施例2.自動反復MS/MS
前駆体イオン除外を伴う自動反復MS/MS(AIMS)により、図2に示すように、試料中の、より低い存在量の前駆体及びより低い存在量のタンパク質の検出が可能になる。MS/MS分析に供する前駆体イオンの属性が累積的に記憶される。次いで、これらの前駆体イオンは、次のMS分析から自動的に除外され、存在量がそれほどではない前駆体イオンの分析を可能にする。このプロセスを、同じ試料からの複数のLC-MS/MS分析の過程にわたって繰り返す。同定感度と費やされた時間及びリソースとの最適なバランスとして、3回の注入(実行)を使用したが、その代わりに、必要に応じて、プロセスを4回、5回、6回、又はそれ以上繰り返して、追加のペプチドを同定することができる。
【0061】
カスタマイズされる除外パラメータには、保持時間許容値及び前駆体質量誤差許容値が含まれる。誤差許容量を大きくしすぎずに(大きすぎると、分析されていない前駆体イオンの誤った除外を生じさせ得る)、保持時間及び質量の合理的な量の変動を許容する必要がある。
【0062】
実施例3.最適化された方法の概要
実施例1及び実施例2の試料調製及び分析ステップを、血漿プロテオミクスプロファイリングのために最適化した。試料出発物質は、複数の対象からプールされた5μLのヒト血漿であった。出発物質から採取した総血漿タンパク質は、100μgであった。実施例1に記載の試料調製ステップに続いて、消化されたペプチドを清浄化し、0.1%のギ酸(FA)及び3%のアセトニトリル(ACN)に再懸濁させた。
【0063】
LC-MS分析のため、0.1%のFA水及びACNの移動相を使用した。リアルタイム質量較正を、アイソクラティックポンプからの基準質量の分流を使用して実施した。使用したカラムフォーマットは、2.1mm×150mmのCSHカラムであった。実行時間は、90分+注入時間1分であった。注入量は、注入当たり30μgであり、3回の反復DDA注入を実施した。試料の所要時間は、約5分+試料当たり約90分であり、合計で約275分であった。例示的なデータ取得設定を図3に示す。
【0064】
3回の反復データ依存的取得(DDA)MS/MS実行を使用して、本発明の方法を3回の通常のDDA実行と比較した。図4に示すように、通常の方法を使用すると、1428個の固有のペプチドが同定され、930個が3回の実行にわたって繰り返し同定された。対照的に、反復法を使用すると、1939個の固有のペプチドが同定され、120個のみが3回の実行にわたって繰り返し同定された。この結果により、ペプチドの冗長な同定を低減させ、結果として複合試料中のはるかに多くの数の固有のペプチドを同定する、本発明の方法の実質的に改善された能力が示される。
【0065】
図5に示すように、固有のタンパク質群(タンパク質及びそれらのタンパク質の変異体)を同定する各方法の能力の点で、本反復方法を通常の方法と更に比較した。通常の方法では、307個のタンパク質群を同定することができ、152個が3回の実行にわたって繰り返し同定された。本反復方法は、347個のタンパク質群を同定することができ、91個のみが3回の実行にわたって繰り返し同定された。この結果により、実行間の冗長な同定を効果的に低減させることによる、従来の方法と比較した、複合試料中の固有のタンパク質群を同定することにおける本発明の方法の優位性が更に示される。
【0066】
ヒト血漿において、本反復方法を使用して同定されるが、通常の方法では同定されないタンパク質IDには、チロシンタンパク質キナーゼFynのP06241-3アイソフォーム3、P32189-3グリセロールキナーゼ、Q15643甲状腺受容体結合タンパク質11、接着Gタンパク質共役受容体B2のO60241-4アイソフォーム4、Q2TB90-1推定ヘキソキナーゼHKDC1、P42345セリン/トレオニンタンパク質キナーゼmTOR、Q9NZK5アデノシンデアミナーゼ2、Q9UK55タンパク質Z依存性プロテアーゼ阻害物質、Q13435スプライシング因子3bサブユニット2、Q2TB90-1推定ヘキソキナーゼHKDC1、Q4ADV7 RAB6A-GEF複合体パートナータンパク質1、Q4VNC0予測カチオン輸送ATPase 13A5、フォン・ヴィレブランド因子Aドメイン含有タンパク質3BのQ502W6-6アイソフォーム6、P01877免疫グロブリン重鎖定常アルファ2、P02766トランスチレチン、P10643補体成分C7、コラーゲンアルファ3(VI)鎖のP12111-2アイソフォーム2、コラーゲンアルファ2(XI)鎖のP13942-8アイソフォーム8、P16989-1 Yボックス結合タンパク質3、P28562二重特異性タンパク質ホスファターゼ1、P29374-1 ATリッチ相互作用ドメイン含有タンパク質4A、P32189-3グリセロールキナーゼ、アルファアデュシンのP35611-3アイソフォーム3、P29374-1 ATリッチ相互作用ドメイン含有タンパク質4A、及びQ9P2E2-1キネシン様タンパク質KIF17が含まれる。これらのタンパク質のうちのいくつかは、疾患バイオマーカーとして関心対象である可能性があり、本発明の方法は、従来の方法と比較して、バイオマーカー分析に適用されるときに、実質的な利点を有し得ることを示唆する。
【0067】
実施例5.機器頑健性試験
本発明の方法の頑健性を評価した。20個のヒト血漿試料を、1週間にわたって60回の注入で実行した。様々な保持時間及び存在量の15個のペプチドによって表される4つのタンパク質を、実行にわたって追跡した。図6A及び図6Bに示すように、タンパク質及びペプチドの全体的な保持時間及びピーク面積は、経時的に一貫していた。タンパク質同定レベルは、経時的に同じままであった。これらの結果により、本発明の方法が反復使用のために頑健であり、試料間及び実行間でペプチド及びタンパク質を確実に比較するために使用できることが示される。
【0068】
実施例6.バイオマーカー分析
FDAは、健康及び疾患のバイオマーカーとしての血漿又は血清中のタンパク質のための複数の試験を通過させている又は承認している。バイオマーカーは、典型的には、各分析物について特定のプローブの開発及び製造を必要とする酵素結合免疫吸着アッセイ(ELISA)を使用して評価される。本発明の反復MS/MS方法を、個々の患者においてこれらの既知のバイオマーカーをプロファイリングする能力について試験した。図7に示すように、19個のバイオマーカーを、14人の個々の患者からの試料を使用してアッセイした。本発明の方法は、バイオマーカーの各々を検出し、個々の患者間のバイオマーカーレベルの変動を高感度で判別することができた。
【0069】
2つの特定の疾患のバイオマーカーを更に調査した。代表的な代謝疾患として、非アルコール性脂肪性肝炎(NASH)を調査した。NASHは、非アルコール性脂肪肝疾患(NAFLD)の最も重篤な形態である。NASHは、不可逆的な肝硬変、肝不全、又は肝がんに進行し得る。
【0070】
代表的な炎症関連疾患として、過敏性腸症候群(IBS)も調査した。IBSは、持続的な不快感を引き起こし得る長期的な胃腸障害である。IBSの原因は、依然として不明である。エビデンスにより、IBSが長期の炎症と関連付けられることが示唆されている。
【0071】
血清アミロイドA(SAA)ファミリータンパク質は、炎症状態に関係する。図8に示されるように、IBSを有する患者からの試料を、IBSを有しない患者からの試料と比較し、SAA4のレベルを、本発明の反復MS/MS方法を使用して定量した。この方法を使用して、IBS患者において、より低い平均発現レベルのSAA4が検出されたので、この方法は、この炎症障害を示すバイオマーカーを検出する能力を有することが確認された。
【0072】
次に、アポリポタンパク質を、可能性のある代謝障害のバイオマーカーとして選択した。図9に示すように、NASHを有する患者からの試料を、NASHを有しない患者からの試料と比較し、最も存在量が多いアポリポタンパク質であるアポリポタンパク質A-I(apoA-I)及びapoA-IIのレベルを、本発明の方法を使用して比較した。群間に有意な差は観察されなかった。図10に示すように、低レベルのアポリポタンパク質を更に比較した。群間に有意な差は観察されなかった。これらの結果により、アポリポタンパク質がNASHのための有用なバイオマーカーではない可能性があることが示され、本発明の方法が、バイオマーカーの発見、検証、及び分析のために、複合的な患者試料からの様々なタンパク質をアッセイし、比較する能力を有することが示される。
【0073】
血漿プロテオミクスを同定し定量するための簡便かつ頑健な方法が開発された。5μL規模の最小限の血漿試料しか必要とされず、血漿での枯渇は必要とされなかった。自動反復MS/MSを新規の用途に採用し、ヒト血漿などの複合生体試料に内在するダイナミックレンジの問題を改善することに成功した。本方法は、複数の疾患状態にある患者試料バイオマーカーの評価における使用について実証された。
図1
図2
図3
図4
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図10
【国際調査報告】