(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公表特許公報(A)
(11)【公表番号】
(43)【公表日】2024-09-30
(54)【発明の名称】回転シールリング材料
(51)【国際特許分類】
C04B 35/577 20060101AFI20240920BHJP
C04B 35/645 20060101ALI20240920BHJP
C01B 21/072 20060101ALI20240920BHJP
C01B 32/956 20170101ALI20240920BHJP
F16C 33/24 20060101ALI20240920BHJP
F16J 15/34 20060101ALI20240920BHJP
【FI】
C04B35/577
C04B35/645
C01B21/072 R
C01B32/956
F16C33/24 Z
F16J15/34 F
【審査請求】未請求
【予備審査請求】未請求
(21)【出願番号】P 2024517125
(86)(22)【出願日】2022-07-18
(85)【翻訳文提出日】2024-03-18
(86)【国際出願番号】 IB2022056595
(87)【国際公開番号】W WO2023286038
(87)【国際公開日】2023-01-19
(32)【優先日】2021-07-16
(33)【優先権主張国・地域又は機関】US
(81)【指定国・地域】
(71)【出願人】
【識別番号】515333499
【氏名又は名称】ジョン クレーン インコーポレイテッド
(74)【代理人】
【識別番号】100147485
【氏名又は名称】杉村 憲司
(74)【代理人】
【識別番号】230118913
【氏名又は名称】杉村 光嗣
(74)【代理人】
【識別番号】100174001
【氏名又は名称】結城 仁美
(72)【発明者】
【氏名】スニルクマール シー ピライ
(72)【発明者】
【氏名】ラギニ トゥルパティ
(72)【発明者】
【氏名】クラウス ディーター メック
【テーマコード(参考)】
3J011
3J041
4G146
【Fターム(参考)】
3J011AA20
3J011SB19
3J011SD02
3J011SD03
3J041BA01
3J041BB01
3J041BC02
4G146MA14
4G146MB02
4G146PA13
4G146PA16
(57)【要約】
本発明は、炭化珪素と窒化アルミニウムからなる未焼結複合粉末組成物、焼結方法およびそれから得られるまたは得られる炭化珪素焼結体、ならびにSiC-AlN複合セラミック、その用途およびそれを含む成形品に関する。一態様では、本発明は、90.0重量%から99.9重量%の炭化ケイ素および0.1重量%から10重量%の窒化アルミニウムを含む未焼結複合粉末組成物を提供する。別の態様において、本発明は、式x(SiC)-1-x(AlN)を有するSiC-AlN複合セラミック材料を提供し、式中、0.999≧x≧0.900であり、複合セラミック材料は、4.5MPa.m1/2を超える破壊靭性、および120W/mKを超える熱伝導率を有する。
【特許請求の範囲】
【請求項1】
90.0重量%から99.9重量%の炭化ケイ素と0.1重量%から10重量%の窒化アルミニウムからなる未焼結複合粉末組成物。
【請求項2】
95.0重量%から99.9重量%の炭化ケイ素および0.1重量%から5.0重量%の窒化アルミニウムを含む、請求項1に記載の未焼結複合粉末組成物。
【請求項3】
組成物が、焼結助剤のような追加成分を5重量%未満含む、請求項1または請求項2に記載の未焼結複合粉末組成物。
【請求項4】
請求項1または請求項2に記載の未焼結複合粉末組成物であって、該組成物が、焼結助剤のような追加成分を3重量%未満含むことを特徴とする未焼結複合粉末組成物。
【請求項5】
組成物が本質的に炭化ケイ素および窒化アルミニウムからなる、先行する請求項のいずれかに記載の未焼結複合粉末組成物。
【請求項6】
組成物が炭化ケイ素と窒化アルミニウムとからなる、前記請求項のいずれかに記載の未焼結複合粉末組成物。
【請求項7】
炭化ケイ素がα-炭化ケイ素を含む、前記請求項のいずれかに記載の未焼結複合粉末組成物。
【請求項8】
窒化アルミニウムが窒化アルミニウムナノ粒子を含む、先行する請求項のいずれかに記載の未焼結複合粉末組成物。
【請求項9】
炭化ケイ素が0.1μm~5μmの平均粒径の粒子を含む、前記請求項のいずれかに記載の未焼結複合粉末組成物。
【請求項10】
窒化アルミニウムが、1.0nm~1,000nmの平均粒径を有する粒子を含む、先行する請求項のいずれかに記載の未焼結複合粉末組成物。
【請求項11】
炭化ケイ素粉末と窒化アルミニウム粉末のスラリーを液体媒体中で粉砕することにより得られる、先行する請求項のいずれかに記載の未焼結複合粉末組成物。
【請求項12】
スラリーが、平均粒径が3μm以下、例えば0.2μm~3μmの炭化ケイ素粉末から形成される、請求項11に記載の未焼結複合粉末組成物。
【請求項13】
請求項11または請求項12に記載の未焼結複合粉末組成物であって、スラリーが平均粒径10nm~500nmの窒化アルミニウムナノ粒子粉末から形成されていることを特徴とする未焼結複合粉末組成物。
【請求項14】
スラリーがα-炭化ケイ素粉末から形成される、請求項11から13のいずれか1項に記載の未焼結複合粉末組成物。
【請求項15】
液体媒体が、炭化ケイ素粉末および窒化アルミニウム粉末が不溶性および/または非反応性である液体からなる、請求項11から14のいずれか1項に記載の未焼結複合粉末組成物。
【請求項16】
液体媒体が、エタノールなどのC1~C5脂肪族一価アルコールを含む、請求項11から15のいずれか一項に記載の未焼結複合粉末組成物。
【請求項17】
粉砕が15時間から25時間実施され、任意に、粉砕がローラーミルの使用を含む、請求項11から16のいずれか一項に記載の未焼結複合粉末組成物。
【請求項18】
粉砕が、粉砕媒体として窒化ケイ素または炭化ケイ素ボールを用いてスラリーを粉砕することからなり、窒化ケイ素が好ましい、請求項11から17のいずれか1項に記載の未焼結複合粉末組成物。
【請求項19】
粉砕後、スラリーを乾燥して未焼結複合粉末を製造する、請求項11から18のいずれか1項に記載の未焼結複合粉末組成物;好ましくは、(i)スラリーを真空下、例えば80℃から100℃の温度で乾燥する;または(ii)スラリーを80℃から140℃の温度で噴霧乾燥する。
【請求項20】
請求項11から19のいずれか1項に記載の未焼結複合粉末組成物であって、粉砕後、乾燥が実施された場合には、未焼結複合粉末を、250μmから350μmの孔径を有するスクリーンに通すことを特徴とする未焼結複合粉末組成物。
【請求項21】
前記請求項のいずれかに記載の未焼結複合粉末組成物を焼結することにより得られるSiC-AlN複合セラミック材料。
【請求項22】
焼結が、熱間プレス、スパークプラズマ焼結、熱間静水圧プレス(HIP)、ガス圧焼結、またはそれらの任意の組み合わせからなる、請求項21に記載のSiC-AlN複合セラミック材料。
【請求項23】
請求項21または請求項22に記載のSiC-AlN複合セラミック材料において、焼結が1800℃以上の温度での焼結からなることを特徴とするSiC-AlN複合セラミック材料。
【請求項24】
焼結が、1800℃~2100℃の温度での焼結を含む、請求項21から23のいずれか1項に記載のSiC-AlN複合セラミック材料。
【請求項25】
焼結が、5MPaから75MPaの圧力での焼結を含む、請求項21から24のいずれか1項に記載のSiC-AlN複合セラミック材料。
【請求項26】
焼結が、10MPaから60MPaの圧力での焼結を含む、請求項21から25のいずれか1項に記載のSiC-AlN複合セラミック材料。
【請求項27】
SiC-AlN複合セラミック材料が、焼結されたα-炭化ケイ素を含む、請求項21から26のいずれか1項に記載のSiC-AlN複合セラミック材料。
【請求項28】
炭化ケイ素焼結体の粒径が2.0~3.0μmである、請求項21から27のいずれか1項に記載のSiC-AlN複合セラミック材料。
【請求項29】
SiC-AlN複合セラミック材料が、4.5MPa.m
1/2 を超える破壊靭性、および120W/mKを超える熱伝導率を有する、請求項21から28のいずれか1項に記載のSiC-AlN複合セラミック材料。
【請求項30】
SiC-AlN 複合セラミック材料は、式x (SiC) -1-x (AlN)を有し、0.999 ≧ x ≧ 0.900;および複合セラミック材料は、4.5MPa.m
1/2 を超える破壊靭性;および120 W/mK を超える熱伝導率を有する。
【請求項31】
請求項30に記載のSiC-AlN複合セラミック材料であって、該SiC-AlN複合セラミック材料が、式x (SiC)-1-x (AlN)を有し、ここで、0.999≧x≧0.950である、SiC-AlN複合セラミック材料。
【請求項32】
炭化ケイ素焼結体が5MPa・m以上の破壊靭性を有する、請求項21から31のいずれか1項に記載のSiC-AlN複合セラミック材料。
【請求項33】
炭化ケイ素焼結体が5.0KARA~6.0MPa.m
1/2 の破壊靭性を有する、請求項21から32のいずれか1項に記載のSiC-AlN複合セラミック材料。
【請求項34】
焼結炭化ケイ素材料が、110W/mKから150W/Mk、好ましくは115W/mKから150W/mK;より好ましくは120W/mKから145W/mKの熱伝導率を有する、請求項21から33のいずれか1項に記載のSiC-AlN複合セラミック材料。
【請求項35】
炭化ケイ素焼結体の熱膨張係数が4×10-6 /K未満である、請求項21から34のいずれか一項に記載のSiC-AlN複合セラミック材料。
【請求項36】
請求項21から35のいずれか1項に記載のSiC-AlN複合セラミック材料であって、焼結炭化ケイ素材料が、600MPa以上;好ましくは600Mpaから850Mpa、より好ましくは700Mpaから850Mpaの曲げ強度を有する、SiC-AlN複合セラミック材料。
【請求項37】
焼結炭化ケイ素材料が、400Gpaから450Gpa、好ましくは420Gpaから450Gpaの弾性率を有する、請求項21から36のいずれか1項に記載のSiC-AlN複合セラミック材料。
【請求項38】
炭化ケイ素焼結体が以下の特性の1つ以上を有する、請求項21から37のいずれか1項に記載のSiC-AlN複合セラミック材料
(a)密度 3.0 から3.3 g/cm
3
(b)5%未満、好ましくは2.5%未満、より好ましくは1%未満の空隙率および
(c)0.10~0.20、好ましくは0.14~0.18のポアソン比。
【請求項39】
請求項21から38のいずれか1項に記載のSiC-AlN複合セラミック材料であって、炭化ケイ素焼結体が、相対湿度60%未満の気体流体(空気、窒素、二酸化炭素など)中で、0.5未満;好ましくは0.4未満、最も好ましくは0.3未満の摩擦係数を有する、SiC-AlN複合セラミック材料。
【請求項40】
請求項21から39のいずれか1項に記載のSiC-AlN複合セラミック材料であって、炭化ケイ素焼結体が、相湿度60%未満の気体流体(空気、窒素、二酸化炭素など)中における摩耗係数を0.00001 mm /Nm未満、好ましくは0.000005 mm /Nm未満、および/または乾燥条件下における摩耗係数を有する、SiC-AlN複合セラミック材料。好ましくは0.000005 mm
3/Nm未満;および/または乾燥条件下での摩耗係数が0.0001 mm
3 /Nm未満;好ましくは0.000005 mm
3 /Nm未満である。
【請求項41】
焼結炭化ケイ素材料が、300MPaより大きい、好ましくは350MPaより大きい;より好ましくは375MPaから450MPaの引張強さを有する、請求項21から40のいずれか1項に記載のSiC-AlN複合セラミック材料。
【請求項42】
請求項1~20のいずれか1項に記載の未焼結複合粉末組成物の製造方法であって、該製造方法が、未焼結複合粉末組成物を形成するように、炭化ケイ素粉末と窒化アルミニウム粉末とを、炭化ケイ素90.0重量%~99.9重量%および窒化アルミニウム0.1重量%~10重量%の量で組み合わせることからなる、未焼結複合粉末組成物の製造方法。
【請求項43】
炭化ケイ素粉末と窒化アルミニウム粉末を、95.0重量%から99.9重量%の炭化ケイ素と0.1重量%から5重量%の窒化アルミニウムの量で組み合わせる、請求項42に記載のプロセス。
【請求項44】
未焼結複合粉末組成物が、焼結助剤のような追加成分を5重量%未満含む、請求項42または請求項43に記載のプロセス。
【請求項45】
組成物が、2重量%未満の焼結助剤などの追加成分を含む、請求項42から44のいずれか1項に記載のプロセス。
【請求項46】
組成物が本質的に炭化ケイ素および窒化アルミニウムからなる、請求項42から45のいずれか1項に記載のプロセス。
【請求項47】
組成物が炭化ケイ素および窒化アルミニウムからなる、請求項42から46のいずれか1項に記載のプロセス。
【請求項48】
炭化ケイ素粉末がα-炭化ケイ素からなる、請求項42から47のいずれか1項に記載のプロセス。
【請求項49】
窒化アルミニウム粉末が窒化アルミニウムナノ粒子を含む、請求項42から48のいずれか1項に記載のプロセス。
【請求項50】
炭化ケイ素粉末が、平均粒径3μm以下、好ましくは0.2μm~3μmの粒子を含む、請求項42から49のいずれか一項に記載のプロセス。
【請求項51】
窒化アルミニウム粉末が、平均粒径10nm~500nmの粒子を含む、請求項42から50のいずれか1に記載のプロセス。
【請求項52】
炭化ケイ素粉末と窒化アルミニウム粉末とを組み合わせることが、液体媒体中で粉末のスラリーを形成することからなる、請求項42から51のいずれか1項に記載のプロセス。
【請求項53】
液体媒体が、エタノールなどのC1~C5脂肪族一価アルコールを含む、請求項52に記載のプロセス。
【請求項54】
請求項52または請求項53に記載のプロセスであって、該プロセスが、スラリーを粉砕することをさらに含み、任意選択で、スラリーを粉砕することが、ローラーミルの使用を含む、プロセス。
【請求項55】
スラリーを粉砕することが、粉砕媒体として炭化ケイ素ボールを用いてスラリーを粉砕することを含む、請求項54に記載のプロセス。
【請求項56】
スラリーを乾燥することをさらに含む、請求項52から55のいずれか1項に記載のプロセス。
【請求項57】
スラリーが真空中で乾燥され、および/またはスラリーが80℃から140℃の温度で乾燥される、請求項56に記載のプロセス。
【請求項58】
スラリーの乾燥が、スラリーの噴霧乾燥、真空乾燥もしくはオーブン乾燥、またはそれらの組合せからなる、請求項56または請求項57に記載のプロセス。
【請求項59】
形成後、未焼結複合粉末組成物を、250μmから350μmの孔径を有するスクリーンに通す、請求項42から57のいずれか1項に記載のプロセス、前記プロセスステップが実施される場合、組成物は、粉砕および乾燥のステップの後にスクリーンに通される、プロセス。
【請求項60】
請求項21から41のいずれか一項に記載のSiC-AlN複合セラミック材料を製造するためのプロセスであって、該プロセスは、請求項1から20のいずれか一項に記載の未焼結複合粉末組成物を焼結することを含む、プロセス。
【請求項61】
未焼結複合粉末組成物を焼結することが、熱間プレス、スパークプラズマ焼結、熱間静水圧プレス(HIP)、ガス圧焼結、またはそれらの任意の組み合わせからなる、請求項60に記載のプロセス。
【請求項62】
焼結が、1800℃を超える温度での焼結を含む、請求項60または請求項61に記載のプロセス。
【請求項63】
焼結が、1800℃~2100℃の温度での焼結を含む、請求項60から62のいずれか1項に記載のプロセス。
【請求項64】
焼結が、5MPaから75MPaの圧力で焼結することを含む、請求項60から63のいずれか1項に記載のプロセス。
【請求項65】
焼結が、10MPaから60MPaの圧力で焼結することを含む、請求項60から64のいずれか1項に記載のプロセス。
【請求項66】
請求項60から65のいずれか1項に記載のプロセスであって、該プロセスが、SiC-AlN複合セラミック材料を製造品、またはその部品にさらに加工することをさらに含む、プロセス。
【請求項67】
請求項60から65のいずれか1項に記載のプロセスであって、未焼結複合材料粉末が、請求項42から59のいずれか一項に記載のプロセスによって製造される、プロセス。
【請求項68】
請求項21から41のいずれか1項に記載のSiC-AlN複合セラミック材料で形成された部品を含む物品。
【請求項69】
成形品がメカニカルシール、軸受、又は摩耗部品である、請求項68に記載の成形品。
【請求項70】
成形メカニカルシールであり、構成部品がメカニカルシール面である、請求項68又は請求項69による成形品。
【請求項71】
請求項21から41のいずれか1項に記載の炭化ケイ素焼結体で形成されたメカニカルシール面。
【請求項72】
請求項21から39のいずれか1項に記載のSiC-AlN複合セラミック材料のメカニカルシール、軸受または摩耗部品への使用、好ましくは、炭化ケイ素焼結体がメカニカルシールの面に使用される。
【請求項73】
メカニカルシール面構成部品の遠心応力(例えばフープ応力)に対する耐性を改善するための、請求項21から41のいずれか1項に記載のSiC-AlN複合セラミック材料の使用。
【発明の詳細な説明】
【背景技術】
【0001】
例示的な実施形態は、回転シールの技術、特に回転シールに使用されるシールリングに関する。特に、本発明は、炭化ケイ素と窒化アルミニウムとを含む未焼結複合粉末組成物、焼結プロセス、およびそれから得られるかまたは得られる炭化ケイ素焼結体、ならびにSiC-AlN複合セラミック、その用途、およびそれを含む成形品に関する。
【0002】
ポンプ、コンプレッサー、タービン、その他の回転機械の回転軸と固定ハウジングの間のシールに使用できるシールは、いくつかの種類がある。その一例が端面メカニカルシールである。
このようなシールは、それぞれが面を持ち、2つの面が互いに摺動可能に接触するように配置された2つのリングで形成されたシールインターフェースを含む。
【0003】
運転中、リングの一方は回転シャフトとともに回転し、もう一方は固定位置に保持される。回転リングは回転シャフト/ローターに嵌合されるため、「嵌合リング」と呼ばれることもある。回転リングは、シャフトスリーブを介してローターに嵌合させることができる。固定リングはプライマリーリングと呼ばれることもあり、運転中は回転しない。
【0004】
リングのシール面間の摩擦摩耗により、2つの面の間に隙間が形成され、過度の漏れが生じることがある。従って、このようなシールには、摩耗を考慮しつつ、比較的漏れのないシールを維持するために、面の互いに対する適切な位置または軸方向の位置を維持するための定期的な調整が必要です。 もちろん、フェースがどのようにうまく操作されていても、多少の漏れは発生する。
【0005】
摩耗に自動的に対応し、シール面を押し合うための閉鎖力を提供するために、様々なバイアス機構が考えられてきた。
このようなバイアス機構には、単一および複数のコイルスプリング、金属ベローズなどがある。当業者であれば、全閉止力は、実際には、シールされた流体からの油圧力と、バイアス機構によって提供される力との組み合わせであることを理解するであろう。
【0006】
炭化ケイ素は、高強度、高熱伝導性、高硬度、高剛性、優れた耐摩耗性など、優れた熱機械特性を持つ非酸化物セラミック材料である。また、耐薬品性にも優れている。そのため、この材料はトライボロジー用途、特にメカニカルシール面の部品として広く使用されている。
【0007】
炭化ケイ素ベースのセラミックシールは、反応結合炭化ケイ素、固相焼結炭化ケイ素(SS SiC)、液相焼結炭化ケイ素(LP SiC)など、さまざまな形態で市販されている。
【0008】
本発明者らは、現在のセラミックシールに使用されている材料には、特定の用途での使用を制限する欠点があることを発見した。例えば、自己焼結SiCは適度な強度(約450Mpa)を有するが、破壊靭性が低い(~4Mpa.m1/2 )ため、高PV条件下での使用が制限される。同様に、液相焼結SiCは高い強度(約650 Mpa)と高い破壊靭性(約6 MPa.m 1/2 、例えばASTM D5045に準拠したシングルエッジノッチベンディング(SENB)法で測定)を有するが、熱伝導率(~90 W/m・K)と耐接触摩耗性は低い。
【0009】
このような制約を克服するために、本明細書では、公知の炭化ケイ素組成物よりも高い強度、高い破壊靭性、高い熱伝導性、高い耐接触摩耗性を有する改良炭化ケイ素組成物( )の詳細と、その製造方法について開示する。
【0010】
一態様において、本発明は、90.0重量%から99.9重量%の炭化ケイ素と0.1重量%から10重量%の窒化アルミニウムとを含む未焼結複合粉末組成物を提供する。
【0011】
別の態様において、本発明は、本明細書に記載の未焼結複合粉末組成物を焼結することによって得られる、または得られるSiC-AlN複合セラミック材料。
【0012】
さらに別の態様において、 本発明は、式x (SiC)-1-x(AlN)を有するSiC-AlN複合セラミック材料を提供し、式中、0.999≧x≧0.900であり、複合セラミック材料は、4.5MPa.m1/2を超える破壊靭性;および120W/m K を超える熱伝導率を有する。
【0013】
さらなる態様において、本発明は、本明細書に記載の未焼結複合粉末を製造するためのプロセスを提供し、このプロセスは、未焼結複合粉末組成物を形成するように、90.0重量%から99.9重量%の炭化ケイ素および0.1重量%から10重量%の窒化アルミニウムの量で炭化ケイ素粉末および窒化アルミニウム粉末を組み合わせることからなる。
【0014】
さらに別の態様において、本発明は、本明細書に記載のSiC-AlN複合セラミック材料で形成された部品を含む物品を提供する。
【0015】
さらに別の態様では、本発明は、本明細書に記載のSiC-AlN複合セラミック材料で形成されたメカニカルシール面に関する。
【0016】
さらに別の態様において、本開示は、メカニカルシール、軸受または摩耗部品における、本明細書に記載のSiC-AlN複合セラミック材料の使用に関する。
これらの材料の主な用途分野(これらに限定されない)としては、メカニカル・シール・フェース、ベアリング、摩耗部品(ドライおよびウェット用途の両方)などがある。
【0017】
さらなる技術的特徴および利点は、本発明の技術によって実現される。本発明の実施形態および態様は、本明細書において詳細に説明され、特許請求される主題の一部とみなされる。 より良く理解するために、詳細な説明および図面を参照されたい。
【図面の簡単な説明】
【0018】
本明細書に記載された排他的権利の具体的内容は、明細書の最後に記載された特許請求の範囲において特に指摘され、明確に特許請求されている。 本発明の実施形態の前述および他の特徴および利点は、添付の図面と併せて取られる以下の詳細な説明から明らかである。
【
図1】
図1は、SiC-AlN複合セラミック材料が調製され得るプロセスのフローチャートを示す。
【
図2】
図2は、湿度60%の空気中における実施例の材料の定常状態摩擦係数(CoF)試験結果を示す。
【
図3】
図3は、湿度60%の空気中における実施例の材料の摩耗係数(CoW)試験結果の比較を示す。
【
図4】
図4は、実施例の材料について、窒素雰囲気下(測定温度-40℃)の乾燥状態でボール・オン・ディスク(BoD)法を用いて測定した摩耗係数(CoW)試験結果を示している。
【0019】
ここに描かれた図は例示である。 本発明の精神から逸脱することなく、図またはそこに記載された操作には多くの変形が可能である。 例えば、動作を異なる順序で実行したり、動作を追加、削除、修正したりすることができる。また、「結合」という用語およびその変形は、2つの要素間に通信経路があることを説明するものであり、要素間に介在する要素/接続がなく、要素間が直接接続されていることを意味するものではない。これらの変形はすべて、本明細書の一部とみなされる。
【0020】
1つの態様において、本発明は、90.0重量%~99.9重量%の炭化ケイ素および0.1重量%~10重量%の窒化アルミニウムを含む未焼結複合粉末組成物を提供する。本発明の未焼結組成物は、SiC-AlN複合セラミック材料の前駆体として特に有用であり、特に、高い破壊靭性と高い熱伝導性の両方を必要とする用途において有利であることが見出されている。高い破壊靭性と高い熱伝導性の両立は、従来のSiCセラミックスやAlNセラミックスでは実現されていなかった。
【0021】
本明細書に記載の未焼結複合粉末組成物から形成され得るSiC-AlN複合セラミック材料は、ターボ機械用途のシール形成に特に有用であることが判明している。例えば、遠心式ガス圧縮機の2シールシステムのアウトボードシールは、通常、低圧だが高速で作動する。このような条件下で使用される材料は、高いシャフト回転速度によるフープ応力に耐える高い引張強度と、シール面の溝が安定した流体膜を生成する能力を損なうシール界面の熱円錐または先細りを最小限に抑えるための低熱膨張係数と組み合わせた高い熱伝導率を持つ必要がある。このようなシステムのインボードシールは高圧で作動し、高速でプロセスガスをシールする。このような条件にさらされる材料は、圧力やアバットメントの負荷による部品の変形を最小にするために高い機械的強度を持ち、シール部品の熱変形を最小にするために低い熱膨張係数と組み合わされた高い熱伝導率を持つ必要がある。アウトボードシールと同様に、「形状が安定した」シール界面ギャップは、流体膜の安定性のために重要であるが、同様にシールギャップを横切る漏れを制限するためにも重要である。
【0022】
本発明者らは、ターボガスシールのアウトボードシールの性能シミュレーションから、従来のガスシールセラミックス(SiCおよびSi N34 )は、部品の応力レベルが致命的に高くなる前でさえ、これらの材料の最大定格速度を制限する、高速での過度の熱界面テーパーに悩まされることを発見した。その理由は、シーリング界面の粘性シアが速度とともに増加するため、部品内の高い熱勾配が「サーマルコニング」、つまり熱シーリング界面のテーパーを増加させ、界面のガスシール溝が流体力学的揚力を発生しにくくなるためである。その結果、高速で流体膜ギャップが "崩壊 "し、ガスシール全体が壊滅的に破損することになる。
【0023】
本明細書に記載の未焼結粉末複合組成物から調製可能なSiC-AlN複合セラミック材料は、従来の材料から形成されたシールが被る、速度によるシール界面の平坦度の変化を低減または最小化することができる。流体膜ギャップは、材料が耐えられる最大速度およびフープ応力まで維持することができる。一例として、従来のSiC材料はサーマルコニングのために回転速度が140m/sに制限されることがあるが、同様の機械的強度を有するSiC-AlN複合セラミック材料は250m/sを超える速度に達することができる。
【0024】
未焼結複合粉末組成物中の0.1~10重量%の窒化アルミニウムの存在は、特に有利な特性を有するセラミック材料を形成する上で重要な特徴であることが判明しており、これは、純粋な炭化ケイ素セラミックまたは純粋な窒化アルミニウムセラミックでは示されない、得られるセラミックの微細構造の改変の結果であると考えられている。好ましい実施形態では、未焼結複合粉末組成物は、95.0重量%から99.9重量%の炭化ケイ素と、0.1重量%から5.0重量%の窒化アルミニウムとからなる。より好ましくは、未焼結複合粉末組成物は、95.0重量%から99.9重量%の炭化ケイ素および0.1重量%から5.0重量%の窒化アルミニウムからなる。
【0025】
本発明はまた、未焼結複合粉末組成物、および本明細書に記載のSiC-AlN複合セラミックを製造するためのプロセスも提供する。
【0026】
セラミック材料を製造するための従来の固体合成法では、通常、出発粉末の粉砕に続いて、所望のセラミック製品を製造するための焼結の前に、成形、およびオプションとして焼成が行われる。粉砕には湿式粉砕と乾式粉砕がある。高エネルギー振動粉砕は、例えば、出発粉末の混合や、利用する場合は焼成後の粉砕に使用することができる。湿式粉砕が採用される場合、粉末は適切な液体(例えば、エタノール、水、またはそれらの組み合わせ)と混合されてスラリーを形成し、適切な高密度粉砕媒体(例えば、イットリア安定化ジルコニア(YSZ)ビーズ、または炭化ケイ素ボール)を用いて湿式粉砕される。好ましくは高い焼結密度を有するセラミック製品を製造するために焼結される前に、粉砕された粉末は、任意に焼成され、および/または任意に所望の形状(例えば、ペレット)に成形され得る。焼結後に複合セラミック材料が調製されると、所望に応じて、焼結後の機械加工工程および表面処理も実施することができる。SiC-AlN複合セラミック材料が調製されるプロセスのフローチャートを示す
図1も参照されたい。したがって、理解されるように、本明細書に記載される未焼結複合粉末組成物は、例えば、複合セラミックを形成するために焼結する前に実施される粉砕および他のプロセス工程から得ることができる。従って、本明細書に記載の未焼結複合粉末組成物は、複合セラミック材料を形成するためのその後の工程に関連する追加成分を含んでいてもよい。例えば、未焼結複合粉末組成物は、安定剤、結合剤および/または焼結助剤を含んでもよいが、これらは、好ましくは最小限に抑えられるか、または完全に除外される。一般的な焼結助剤としては、例えば、Y O
23、CaO、SiO
2 、La O
23 、CeO
2 、SiO
2 、Al O
23 、TiO
2 などがある。
【0027】
したがって、いくつかの実施形態では、未焼結複合粉末組成物は、焼結助剤などの追加成分を5重量%未満、好ましくは3重量%未満、2重量%未満、1重量%未満、さらには0.1重量%未満、さらには0.01重量%未満含んでなる。特に好ましい実施形態では、未焼結複合粉末組成物は、炭化ケイ素および窒化アルミニウムからなる、または本質的になる。
【0028】
当業者であれば理解できるように、高純度の炭化ケイ素および窒化アルミニウムの出発粉末は市販されており、様々な粒度仕様で入手可能である。α-炭化ケイ素(α-SiC)は、炭化ケイ素の最も一般的な結晶形態(多形形態)であり、六方晶の結晶構造を有するが、他の多形形態(例えば、β-炭化ケイ素(β-SiC))も知られている。いくつかの実施形態では、本発明に関連して使用され得る炭化ケイ素材料は、α-炭化ケイ素(α-SiC)からなるか、またはα-炭化ケイ素(α-SiC)からなる。
【0029】
本発明の未焼結複合粉末組成物の形成には、様々な平均粒径(D50)の炭化ケイ素粉末を使用することができる。いくつかの実施形態において、未焼結複合粉末組成物中の炭化ケイ素成分は、0.1μm~5μm、好ましくは3μm以下、例えば0.2μm~2μm、より好ましくは0.2μm~1μmの平均粒径を有する。炭化ケイ素成分の粒子径は、例えば、公知の光散乱技術およびそれを用いた装置(例えば、M/s Malvern Instruments Ltd, UKのZetasizer 1000HSなど)を用いて測定することができる。
【0030】
本発明の未焼結複合粉末組成物の形成には、様々な平均粒径(D50)の窒化アルミニウム粉末を使用することができるが、窒化アルミニウム粉末成分は炭化ケイ素粉末成分よりも小さい平均粒径を有することが好ましい。好ましい実施形態において、未焼結複合粉末組成物中の窒化アルミニウム成分は、窒化アルミニウムナノ粒子(例えば、1.0nm~1,000nmの平均粒径(D50 )を有する窒化アルミニウム粒子)からなる。好ましくは、未焼結複合粉末組成物中の窒化アルミニウムの平均粒径(D50 )は、10nm~500nmである。窒化アルミニウム成分の粒子径は、例えば、公知の透過型電子顕微鏡(TEM)技術を用いて決定することができる。
【0031】
本明細書に記載の未焼結複合粉末組成物は、本明細書に記載のものを含む炭化ケイ素および窒化アルミニウム出発粉末を混和し、未焼結複合粉末組成物を形成するために粉砕(および任意に乾燥)することによって得ることができる。上述したように、セラミック複合材料の調製の一環として、出発粉末の混合物は、乾式粉砕または好ましくは湿式粉砕(すなわち、液体媒体中のスラリーの一部として)を受けるのが一般的である。従って、上述の炭化ケイ素および窒化アルミニウムの粉末は、選択された重量比(最終的に所望の成分モル比を有するSiC-AlN複合セラミック材料が得られるように選択され得る)で混和され、次いで湿式粉砕され得るスラリーを提供するために(
図1のフローチャートの第1段階に示されるように)適切な液体媒体と接触され得る。この目的に適した液体媒体は、炭化ケイ素および窒化アルミニウムが不溶性および/または非反応性であるものであり、メタノール、エタノール、iso-プロパノール、n-ブタノールまたはn-ヘプタノールなどのC1~C5脂肪族一価アルコール、水またはそれらの組み合わせから選択される液体媒体を含む。好ましくは、湿式粉砕のためにスラリーが形成される場合、
図1に示すように、エタノールからなるか、またはエタノールからなる液体媒体が使用される。 好ましい実施形態において、スラリーは、0.2μmから3μmなどの3μm以下の平均粒径を有する炭化ケイ素粉末から形成され、および/またはスラリーは、10nmから500nmの平均粒径を有する窒化アルミニウムナノ粒子粉末から形成される。
【0032】
粉砕の特定の形態は特に限定されず、適切な粉砕技術の例には、ローラー粉砕、ボール粉砕、 アトリション粉砕、および遠心/遊星粉砕 が含まれる。いくつかの実施形態では、ボール粉砕が使用され、任意で粉砕媒体はYSZビーズ、窒化ケイ素ボール、炭化ケイ素ボールからなる。粉砕媒体として炭化ケイ素ボールを使用することは、焼結前に得られる粉砕生成物の純度を最大化するために、代替粉砕媒体からの不要成分の汚染または溶出を回避する上で有利である。このような粉砕媒体からの汚染や溶出は、粉砕媒体自体が炭化ケイ素から形成されている場合には問題とはならない。当業者は、粉砕の形態(すなわち乾式または湿式)、得られる粉砕製品の成分の意図される粒子径、および粉砕が行われる可能性のある時間スケール(例えば15~25時間)に基づいて、例えばローラー粉砕などの特定の粉砕形態を選択することができる。
【0033】
図1のフローチャートに示すように、湿式粉砕ステップが使用された場合、プロセスの次のステップは、典型的には乾燥ステップであり、これは未焼結複合粉末組成物を製造するために利用され得る。乾燥の特定の形態は特に限定されず、真空下での乾燥、オーブン乾燥または噴霧乾燥が利用され得る。いくつかの実施形態において、スラリーは、80℃~100℃の温度で真空下で乾燥される。いくつかの実施形態において、スラリーは、100℃から140℃の温度で噴霧乾燥される。適切なラボスケールスプレードライヤーの例としては、規模にもよるが、Buchiのmini B-290スプレードライヤーまたは大河原化工機のL-8iスプレードライヤーが挙げられる。
【0034】
図1のフローチャートに示すように、任意の乾燥ステップに続いて、未焼結複合粉末組成物は、所望の粒度分布の粉末複合体を得るためにスクリーニング/ふるい分けを受けてもよい。いくつかの実施形態では、粉砕後、および実施される場合には乾燥後、未焼結複合粉末は、250μm~350μmの孔径を有するスクリーン、例えば275μm~325μm、例えば300μmの孔径を有するスクリーンに通される、別の態様に従って、本発明は、本明細書に記載の未焼結複合粉末組成物を焼結することによって得られる、または得られるSiC-AlN複合セラミック材料を提供する。焼結ステップは、
図1のフローチャートに示されるように、圧力アシストであってもよく、例えば、ホットプレス、スパークプラズマ焼結、熱間静水圧プレス(HIP)、ガス圧焼結、またはそれらの任意の組合せから構成されてもよい。
【0035】
適切な焼結が達成されるのであれば、ある種の圧力補助条件下ではより低い温度が適切である場合があり、これは製品の微細構造分析によって容易に決定することができるため、焼結ステップの温度には特に制限はない。例えば、走査型電子顕微鏡(SEM)分析、透過型電子顕微鏡(TEM)分析などを用いて、粒径や粒度分布を定量化し、粒界を評価することができる。製品の密度および気孔率も、ASTM C373-88などの既知の方法で容易に測定できる。適切な焼結温度は、例えば、一般的に1800℃以上であり、圧力補助焼結システムで採用される適切な圧力は、少なくとも5MPaである。
【0036】
いくつかの実施形態では、SiC-AlN複合セラミック材料は、1800℃~2100℃、好ましくは1800℃~2000℃、より好ましくは1850℃~1950℃の温度での未焼結複合粉末組成物の焼結から得られるか、または得られる。圧力補助焼結が採用される場合、焼結が起こる圧力の好適な範囲は、5MPaから75MPa、好ましくは10MPaから60MPa、より好ましくは30MPaから50MPaである。
【0037】
いくつかの実施形態において、本明細書に記載の未焼結複合粉末組成物の焼結から得られる、または得られるSiC-AlN複合セラミック材料は、焼結されたα-炭化ケイ素からなる。いくつかの実施形態において、本明細書に記載の未焼結複合粉末組成物の焼結から得られる、または得られるSiC-AlN複合セラミック材料は、2.0~3.0μmの粒径を有する焼結炭化ケイ素からなる。
【0038】
焼結後、得られたSiC-AlN複合セラミック材料は、
図1に示すように、機械加工(すなわち、異なる用途のための成形)または最終的な表面処理(研磨または溝加工など)を行うことができる。
【0039】
本明細書に記載される未焼結複合粉末組成物の焼結から得られる、または得られるSiC-AlN複合セラミック材料は、いくつかの有利な特性を組み合わせて示すことが判明しており、そのため、ターボ機械用途(例えば、遠心式ガス圧縮機の2シールシステムのインバウンドシールまたはアウトボードシール)のような、高速、高熱勾配および高フープ応力を受けるシール用途に特に適している。このような有利な特性には、低熱膨張係数と高熱伝導性(例えば、シール界面の熱円錐や先細りを最小限に抑えるため)、および高機械的強度(圧力やアバットメント荷重による部品の変形を最小限に抑えるため)が含まれる。
【0040】
本明細書に記載の焼結および未焼結複合粉末組成物から得られる、または得られるSiC-AlN複合セラミック材料において特に驚くべきことが判明した特徴の組み合わせは、高い破壊靭性(例えば、4.5MPa.m を超える)と高い熱伝導率(例えば、120W/m K を超える)の組み合わせである。MPa.m1/2 )と高い熱伝導率(例えば120W/m K以上)の組み合わせである。このような特徴の組み合わせは、例えば従来のシール材料であるSiCセラミックスや窒化ケイ素(Si N34)セラミックスではこれまで見られなかったものである。破壊靭性はASTM C1421(シェブロン・ノッチ法)、熱伝導率はASTM E1461を用いて測定することができる。
【0041】
本明細書に記載される複合セラミック材料中に必要な濃度でAlNが存在することは、(例えば、従来のSiCセラミックと比較して)セラミックの微細構造を改質する上で特に有利であると考えられる。セラミック複合体を形成する際にSiCおよびAlN以外の成分が実質的に存在しないことも、本明細書に記載の未焼結複合粉末組成物の焼結により得られる複合セラミックにおいてSiCおよびAlNの好ましい相互作用を最大化する上で特に有利であると考えられる。したがって、 さらに別の態様において、本発明は、式x (SiC)-1-x (AlN)を有するSiC-AlN複合セラミック材料も提供する。式中、0.999≧x≧0.900であり、複合セラミック材料は、4.5MPa.m1/2を超える破壊靭性;および120W/m Kを超える熱伝導率を有する。
【0042】
好ましい実施形態では、SiC-AlN複合セラミック材料は、式x (SiC)-1-x (AlN)を有し、ここで0.999≧x≧0.950である。
いくつかの実施形態では、本明細書に記載のSiC-AlN複合セラミック材料は、5MPa.m1/2 以上、好ましくは5.0~6.0MPa.m1/2 の破壊靭性を有する。
【0043】
いくつかの実施形態において、本明細書に記載のSiC-AlN複合セラミック材料は、110W/mK~150W/mK;好ましくは115W/mK~150W/mK;より好ましくは120W/mK~145W/mKの熱伝導率を有する。
【0044】
いくつかの実施形態では、本明細書に記載のSiC-AlN複合セラミック材料は、焼結炭化ケイ素材料の熱膨張係数が4×10-6 /K未満である。熱膨張係数は、好適にはASTM E228を用いて測定することができる。
【0045】
いくつかの実施形態において、本明細書に記載のSiC-AlN複合セラミック材料は、600MPa以上、好ましくは600MPa~850MPa;より好ましくは700MPa~850MPaの曲げ強度を有する。曲げ強度は、好適にはASTM C1161(4点)を用いて測定することができる。
いくつかの実施形態では、本明細書に記載のSiC-AlN複合セラミック材料は、400GPa~450GPa、好ましくは420GPa~450GPaの弾性率を有する。弾性率は、好適にはASTM E494を用いて測定することができる。
【0046】
いくつかの実施形態において、本明細書に記載のSiC-AlN複合セラミック材料は、以下の特性のうちの1つ以上を有する。
(a)密度は3.0~3.3 g/cm 3
(b)空隙率が5%未満、好ましくは2.5%未満;より好ましくは1%未満および
(c)ポアソン比は0.10~0.20、好ましくは0.14~0.18である。
密度と空隙率はASTM C373-88で、ポアソン比はASTM E494で測定するのが適当である。
【0047】
いくつかの実施形態では、本明細書に記載のSiC-AlN複合セラミック材料は、相対湿度60%未満の気体流体(空気、窒素、二酸化炭素など)中で0.5未満の摩擦係数を有し、好ましくは0.4未満であり、最も好ましくは0.3未満である。
【0048】
いくつかの実施形態では、本明細書に記載のSiC-AlN複合セラミック材料は、相対湿度60%未満の気体流体(例えば、空気、窒素、二酸化炭素など)中で、0.00001mm3 /Nm未満の摩耗係数;好ましくは0.000005mm3 /Nm未満;および/または乾燥条件下で、0.0001mm3 /Nm未満;好ましくは0.000005mm3 /Nm未満の摩耗係数を有する。
【0049】
摩擦係数と摩耗係数は、ASTM G-99に準拠したボール・オン・ディスク法で測定するのが好適である。この方法では、特定の材質のディスクを一定の速度で回転させ、相手材質のボールをディスクに接触するまで移動させ、既知の力を一定時間加える。試験中、法線荷重と横荷重が測定され、これら2つの力から摩擦係数を求めることができる。試験終了後、ディスクとボールから除去された材料の体積を測定し、摩耗係数を決定することができる。
【0050】
いくつかの実施形態において、本明細書に記載のSiC-AlN複合セラミック材料は、300MPaを超える、好ましくは350MPaを超える、より好ましくは375MPa~450MPaの引張強さを有する。
【0051】
いくつかの実施形態において、本明細書に記載のSiC-AlN複合セラミック材料を調製するためのプロセスは、焼結炭化ケイ素材料を製造品、またはその部品にさらに加工することをさらに含む。
【0052】
したがって、さらなる態様において、本発明は、本明細書に記載されるSiC-AlN複合セラミック材料で形成された部品を含む物品を提供する。本明細書で論じるように、SiC-AlN複合セラミック材料が示す特性の特定の組み合わせにより、異なる用途、特に、ターボ機械用途(例えば、遠心式ガス圧縮機の2シールシステムのインバウンドシールまたはアウトボードシール)のような、高速、高熱勾配および高フープ応力を受ける用途に有用である。
【0053】
したがって、さらに別の態様において、本発明は、本明細書に記載されるように、SiC-AlN複合セラミック材料で形成されたメカニカルシール面を提供する。
さらに別の態様において、本開示は、メカニカルシール、軸受または摩耗部品における、本明細書に記載のSiC-AlN複合セラミック材料の使用を提供する。
【0054】
別の態様において、本開示は、メカニカルシール面構成部品における遠心応力(例えば、フープ応力)に対する耐性を改善するための、本明細書に記載のSiC-AlN複合セラミック材料の使用を提供する。
【0055】
開示された装置および方法の1つまたは複数の実施形態の詳細な説明は、本明細書において、図を参照して例示的に示されるものであり、限定するものではない。本明細書では、関連する図面を参照して様々な実施形態を説明する。本開示の範囲から逸脱することなく、代替の実施形態を考案することができる。
【0056】
次に、本発明の側面により具体的に関連する技術の概要に目を向けると、以下に示すような組成を有する、新たに開発されたSiC-AlN複合セラミック材料「JC-SiC」が開示されている。
【0057】
α-炭化ケイ素(平均粒径0.7μm)=95.0~99.9wt
窒化アルミニウム(ナノ粒子) - 0.1 - 5.0 wt
【0058】
一実施形態では、材料は以下に述べるように形成することができる。プラスチック容器に入れたエタノール(200プルーフ)に炭化ケイ素と窒化アルミニウムの粉末を加える。粉砕媒体として窒化ケイ素ボールを使用。スラリーをローラーミルで18~20時間粉砕し、90℃で真空乾燥する。こうして得られた粉末は、300マイクロメートルのスクリーンを使って篩分けされる。その後、圧力(10~50MPa)と温度(1800~2100℃)を組み合わせて粉末を圧密する。圧密された部品は機械加工され、最終的な表面仕上げ加工が施されます。このプロセスのフローチャートを
図1に示す。
【0059】
提案されているシールは、以下のシールに関する問題の1つ以上に対処することができる。 例えば、2シールシステムのアウトボードシールでは、一般的に低圧だが高速で作動する。このような条件にさらされる材料は、高いシャフト回転速度によるフープ応力に耐える高い引張強度と、シール面の溝が安定した流体膜を生成する能力を損なうシール界面の熱円錐または先細りを最小にするための低い熱膨張係数と組み合わされた高い熱伝導率を持つ必要がある。このようなシステムのインボードシールは高圧で作動し、高速でプロセスガスをシールする。このような条件下で使用される材料は、圧力やアバットメントの負荷による部品の変形を最小にするために高い機械的強度を持ち、シール部品の熱変形も最小にするために熱膨張係数が低く、熱伝導率が高いことが求められます。アウトボードシールと同様に、"安定した "シールインターフェースギャップは、流体膜の安定性のために重要ですが、同様にシールギャップを横切る漏れを制限するためにも重要である。
【0060】
ターボガスシールのアウトボードシールの性能シミュレーションから、従来のガスシールセラミックス(SiCとSi N34 )は、部品の応力レベルが致命的に高くなる前でさえ、これらの材料の最大定格速度を制限する、高速での過度の熱界面テーパーに悩まされていることが明らかである。その理由は、シーリング界面の粘性シアが速度とともに増加するため、コンポーネント内の高い熱勾配が「サーマルコニング」、つまりサーマルシール界面のテーパーを増加させ、界面のガスシール溝が流体力学的揚力を生成しにくくなるためである。その結果、高速で流体膜ギャップが「崩壊」し、ガスシール全体が壊滅的に破損することになる。
【0061】
しかし、本明細書で開示するJC-SiC材料の改善された熱特性は、速度によるシール界面の平坦性の変化を低減または最小化する可能性がある。流体膜ギャップは、材料が耐えられる最大速度とフープ応力まで維持することができる。一例として、従来のSiC材料はサーマルコニングのために回転速度が140m/sに制限されるかもしれないが、同様の機械的強度を持つJC-SiC-S材料は250m/sを超える速度に達することができる。
【0062】
次に、以下の実施例を参照して本発明をさらに説明するが、これらは例示であって限定的なものとはみなされない。
【0063】
例
実施例1:炭化ケイ素焼結体(「JC-SiC」)の調製
プラスチック容器に入れたエタノール(200プルーフ)に炭化ケイ素と窒化アルミニウムの粉末を加える。粉砕媒体として窒化ケイ素ボールを使用。スラリーをローラーミルで18~20時間粉砕し、真空下90℃(o )で乾燥させる。こうして得られた粉末を300マイクロメートルのスクリーンで篩分けする。その後、圧力(10 - 50 MPa)と温度(1800 - 2100o )を組み合わせて粉末を圧密する。圧密された部品は機械加工され、最終的な表面仕上げ加工が施される。「JC-SiC-S」材料はスパークプラズマ焼結(SPS)法で圧密され、「JC-SiC-H」材料はホットプレス(HP)法で圧密された。
【0064】
実施例2:SiC-AlN複合セラミック材料(「JC-SiC」)および比較セラミックの特性評価
さらに、ターボガスシールのインボードシールの性能シミュレーションから、従来のガスシールセラミックス(SiCとSi3N4)は、シャフト速度の増加に対してシール界面の平坦性をうまく維持できないことが明らかになった。その理由は、アウトボードシールの場合と非常によく似ています。シール界面でのガスの粘性加熱と、シールギャップ出口での膨張ガスによる局所的な冷却が、平坦度(コーニング)に影響を与える温度勾配を引き起こします。シャフトの速度が上がると、これらの要因は増幅される。フェース平坦度の変化は、フィルム剛性で表される流体フィルムまたはギャップの安定性に影響します。最も重要なのは、フェース平坦度がシール漏れに影響する(増加する)ことです。しかし、SiC-AlN複合セラミック(JC-SiC)材料の改善された熱特性は、速度による界面平坦度の変化を制限する。流体膜ギャップは、膜の安定性と漏れに大きな影響を与えることなく、最高速度(アウトボードシール部品の応力限界によってのみ制限される)まで維持することができる。
【0065】
さらに詳しい説明のために、表1を以下に示す。表1は、JC-SiC材料(JC-SiC-SおよびJC-SiC-H)の主な熱機械特性を、市販されている固相焼結材料および液相焼結材料と比較して示しており、特に断りのない限り、本明細書に記載したASTM法に従って測定したものである。JC材料は、自己焼結(SS SiC)と液相焼結(LP SiC)の両方の炭化ケイ素特性の最良を有することが分かる。
【表1】
【0066】
例3:トライボロジー特性の評価
ボール・オン・ディスク(BoD)試験は、JC材料と市販のSS SiCおよびLP SiC材料のトライボロジー特性を評価するために使用された(例えば、ASTM G-99に準拠)。
図2 は、湿度60%の空気中における上記材料の定常状態の摩擦係数(CoF)を示している 。JC SiC-SのCoFはLP SiCの約1/3
rd であり、SS SiCの1/2以下であることがわかる。
【0067】
湿度60%の空気中における摩耗係数(CoW)の比較を
図3に示す。ここで、JC-SiC-SのCoWはLP SiCより約2 1/2オーダー低く、SS SiCより大幅に低い。
乾燥状態でのCoWを評価するため、-40℃の窒素雰囲気下でBoD試験を実施した。
【0068】
ここでもまた、JC-SiC-SのCoWが市販のSiC材料と比べて最も低いことは明らかである。
トライボロジー評価では、SiC-AlN複合セラミック(JC-SiC)材料の乾湿両条件における優位性が、これらの用途に使用される他の市販材料よりも明らかに強調されている。
【0069】
例4:引張強さの評価
リング状のサンプル(外径230mm、内径172mm、厚さ17mm)を高速試験装置で回転させ、引張強さを試験した。材料が破断するまで速度を段階的に増加させた。破断時の速度に基づいて、その速度で発生した応力を計算した。表2は、JC-SiC-Sと市販のLP焼結SiCのスピン試験結果を比較したものである。
【表2】
【0070】
その結果、JC-SiC-SはLP焼結SiCよりも約10%強いことがわかった。
【0071】
「約」という用語は,出願時に利用可能な機器に基づく特定の量の測定に関連する誤差の程度を含むことを意図している。
本明細書で使用される用語は、特定の実施形態を説明するためだけのものであり、本開示を限定することを意図するものではない。本明細書で使用される場合、単数形「a」、「an」、および「the」は、文脈上明らかにそうでないことが示されない限り、複数形も含むことが意図される。本明細書において使用される場合、用語「からなる(comprises)」および/または「からなる(comprising)」は、記載された特徴、整数、ステップ、操作、要素、および/または構成要素の存在を特定するが、1つまたは複数の他の特徴、整数、ステップ、操作、要素構成要素、および/またはそれらの群の存在または追加を排除するものではないことがさらに理解されるであろう。
【0072】
また、「結合」、「接続」およびその変形という用語は、2つの要素間に経路があることを説明するものであり、要素間に介在する要素/接続がなく、要素間が直接接続されていることを意味するものではない。これらの変形はすべて本明細書の一部とみなされる。しかしながら、添付の特許請求の範囲に具体的に記載されている場合、記載されている接続/結合はいずれも直接的な接続/結合であり得る。
【0073】
連結および/または位置関係は、別段の指定がない限り、直接的または間接的であることができ、本発明はこの点で限定することを意図していない。したがって、エンティティの結合は、直接的結合または間接的結合のいずれかを指すことができ、エンティティ間の位置関係は、直接的位置関係または間接的位置関係であることができる。さらに、本明細書に記載される様々なタスクおよびプロセスステップは、本明細書に詳細に記載されない追加のステップまたは機能性を有する、より包括的な手順またはプロセスに組み込むことができる。
【0074】
本開示は、例示的な実施形態または実施形態を参照して説明されてきたが、当業者には、本開示の範囲から逸脱することなく、様々な変更を加えることができ、等価物をその要素に置き換えることができることが理解されるであろう。加えて、本開示の本質的な範囲から逸脱することなく、特定の状況または材料を本開示の教示に適合させるために、多くの変更を行うことができる。したがって、本開示は、本開示を実施するために企図される最良の態様として開示される特定の実施形態に限定されず、本開示は、特許請求の範囲に属する全ての実施形態を含むことが意図される。
【誤訳訂正書】
【提出日】2024-05-27
【誤訳訂正1】
【訂正対象書類名】明細書
【訂正対象項目名】全文
【訂正方法】変更
【訂正の内容】
【発明の詳細な説明】
【背景技術】
【0001】
例示的な実施形態は、回転シールの技術、特に回転シールに使用されるシールリングに関する。特に、本発明は、炭化ケイ素および窒化アルミニウムを備える未焼結複合粉末組成物、焼結プロセス、およびそれから得られた、または得ることができる炭化ケイ素焼結材料、およびSiC-AlN複合セラミック、その用途、およびそれを含む物品に関する。
【0002】
回転機械の回転軸およびポンプ、コンプレッサー、タービンの固定ハウジングの間のシールに使用できるシールは、いくつかの種類がある。その一例が、端面メカニカルシールである。このようなシールは、それぞれが面を有し、2つの面が互いに摺動可能に接触するように配置された2つのリングで形成されたシール接触面を含む。
【0003】
動作中、回転リングの一方は回転シャフトと共に回転し、他方は固定位置に保持される。回転リングは、回転シャフト/ローターに嵌合されるため、「嵌合リング」と呼ばれることもある。回転リングは、シャフトスリーブを介してローターに嵌合させることができる。固定リングはプライマリーリングと呼ばれることもあり、動作中は回転しない。
【0004】
リングのシール面間の摩擦摩耗により、2つの面の間に隙間が形成され、過度の漏れが生じることがある。したがって、このようなシールには、比較的漏れのないシールを維持しながら、摩耗を考慮して面の互いに対する適切な位置または軸方向の位置を維持するための定期的な調整が必要である。もちろん、面がどのようにうまく操作されていても、多少の漏れは発生する。
【0005】
摩耗に自動的に対応し、シール面を押し合う閉止力を提供するために、様々なバイアス機構が考えられてきた。このようなバイアス機構には、単一および複数のコイルスプリング、金属ベローズなどがある。当業者であれば、シールされた流体からの液圧力とバイアス機構によって提供される力との組み合わせが、実際には全閉力であることを理解するであろう。
【0006】
炭化ケイ素は、高強度、高熱伝導性、高硬度、高剛性、優れた耐摩耗性などの優れた熱機械特性を有する非酸化物セラミック材料である。また、耐薬品性にも優れている。そのため、この材料はトライボロジー用途、特に前記メカニカルシール面の部品として広く使用されている。
【0007】
炭化ケイ素ベースのセラミックシールは、反応結合炭化ケイ素、固相炭化ケイ素焼結体(SS SiC)および液相炭化ケイ素焼結体(LP SiC)のような様々な形態で市販されている。
【発明の概要】
【0008】
本発明者らは、現在のセラミックシールに使用されている材料には、特定の用途での使用を制限する欠点があることを発見した。例えば、自己焼結SiCは適度な強度(約450Mpa)を有するが、破壊靭性が低いため(約4Mpa.m1/2)、高PV条件下での使用が制限される。同様に、液相焼結SiCは、より高い強度(約650Mpa)および高い破壊靭性(ASTM D5045に準拠し、例えばシングルエッジノッチベンディング(SENB)法で測定した場合、約6MPa.m1/2)を有するが、熱伝導性(約90W/mK)および耐接触摩耗性は低い。
【0009】
これらの制限を克服するために、本明細書は、既知の炭化ケイ素組成物よりも高い強度、高い破壊靭性、高い熱伝導性および高い耐接触摩耗性を有する改良炭化ケイ素組成物の詳細およびその製造方法を開示する。
【0010】
1つの態様において、本発明は、90.0重量%~99.9重量%の炭化ケイ素および0.1重量%~10重量%の窒化アルミニウムを備える未焼結複合粉末組成物を提供する。
【0011】
別の態様において、本発明は、本明細書に記載の未焼結複合粉末組成物を焼結することによって得られた、または得ることができるSiC-AlN複合セラミック材料を提供する。
【0012】
さらに別の態様において、本発明は、式x(SiC)-1-x(AlN)を有するSiC-AlN複合セラミック材料を提供し、式中、0.999≧x≧0.900であって、ここで複合セラミック材料は、4.5MPa.m1/2より大きい破壊靭性および120W/mKより大きい熱伝導性を有する。
【0013】
さらなる態様において、本発明は、本明細書に記載の未焼結複合粉末を製造するためのプロセスを提供し、該プロセスは、未焼結複合粉末組成物を形成するように、90.0重量%~99.9重量%の炭化ケイ素および0.1重量%~10重量%の窒化アルミニウムの量で炭化ケイ素粉末および窒化アルミニウム粉末を組み合わせることからなる。
【0014】
さらに別の態様において、本発明は、本明細書に記載されるSiC-AlN複合セラミック材料で形成された部品を備える物品を提供する。
【0015】
さらに別の態様において、本発明は、本明細書に記載されるSiC-AlN複合セラミック材料で形成されたメカニカルシール面に関する。
【0016】
さらに別の態様において、本開示は、メカニカルシール、ベアリングまたは摩耗部品における、本明細書に記載されるようなSiC-AlN複合セラミック材料の使用に関する。
【0017】
これらの材料の主な応用分野(これらに限定されない)としては、メカニカルシール面、ベアリング、摩耗部品(乾式および湿式の両方の用途)などがある。
【0018】
付加的な技術的特徴および利点は、本発明の技術によって実現される。本発明の実施形態および態様は、本明細書において詳細に説明され、特許請求される主題の一部とみなされる。より良く理解するために、詳細な説明および図面を参照されたい。
【図面の簡単な説明】
【0019】
本明細書に記載された排他的権利の具体的内容は、明細書の最後に記載された特許請求の範囲において特に指摘され、明確に主張されている。本発明の実施形態の前述および他の特徴および利点は、添付の図面と併せて以下の詳細な説明から明らかである:
【
図1】
図1は、SiC-AlN複合セラミック材料が調製され得るプロセスのフローチャートを示す。
【
図2】
図2は、湿度60%の空気中における実施例の材料の定常状態摩擦係数(CoF)試験結果を示す。
【
図3】
図3は、湿度60%の空気中における実施例の材料の摩耗係数(CoW)試験結果の比較を示す。
【
図4】
図4は、実施例の材料について、窒素下の乾燥状態(-40℃の露点温度)でボールオンディスク(BoD)法を用いて測定した摩耗係数(CoW)試験結果を示す。
【0020】
本明細書に描かれている図は例示である。本発明の精神から逸脱することなく、図またはその中で記載された操作には多くの変形が可能である。例えば、動作を異なる順序で実行したり、動作を追加、削除、変更したりすることができる。また、「結合(coupled)」という用語およびその変形は、2つの要素間に伝達経路があることを説明するものであり、要素間に介在する要素/接続がなく、要素間が直接接続されていることを意味するものではない。これらの変形はすべて、本明細書の一部とみなされる。
【発明を実施するための形態】
【0021】
[発明の詳細な説明]
1つの態様において、本発明は、炭化ケイ素90.0重量%~99.9重量%および窒化アルミニウム0.1重量%~10重量%を含む未焼結複合粉末組成物を提供する。本発明の未焼結組成物は、SiC-AlN複合セラミック材料の前駆体として特に有用であり、特に、高い破壊靭性および高い熱伝導性の両方を必要とする用途において有利であることが見出されている。高い破壊靭性および高い熱伝導性の両立は、従来のSiCセラミックスまたはAlNセラミックスでは実現されていなかった。
【0022】
本明細書に記載の未焼結複合粉末組成物から形成され得るSiC-AlN複合セラミック材料は、ターボ機械用途のシール形成に特に有用であることが判明している。例えば、遠心式ガス圧縮機の2-シールシステムのアウトボードシールは、通常、低圧だが高速で作動する。このような条件下で使用される材料は、シャフトの高速回転によるフープ応力に耐える高い引張強度および、シール面の溝が安定した流体膜を形成する能力を損なうシール界面のサーマルコーニングまたはテーパリングを最小限に抑えるための低熱膨張係数と組み合わせた高い熱伝導性を持つ必要がある。このようなシステムのインボードシールは高圧で作動し、高速でプロセスガスを密封する。このような条件にさらされる材料は、圧力およびアバットメントの負荷による部品の変形を最小限に抑えるために高い機械的強度を持ち、シール部品の熱変形も最小限に抑えるために、低熱膨張係数と組み合わされた高い熱伝導性を持つ必要がある。アウトボードシールと同様に、「形状安定性(form stabile)」シールインターフェースギャップは、流体膜の安定性のために重要であるが、同様にシールギャップを横切る漏れを制限するためにも重要である。
【0023】
本発明者らは、ターボガスシールのアウトボードシールの性能シミュレーションから、従来のガスシールセラミックス(SiCおよびSi3N4)は、部品の応力レベルが致命的に高くなる前でさえ、これらの材料の最大定格速度を制限する、高速での過度の熱界面テーパーに悩まされることを見出した。その理由は、シール界面の粘性シア(viscous sheer)が速度とともに増加するため、部品内の高い熱勾配が「サーマルコーニング(thermal coning)」を引き起こし、またはシール界面のテーパーを増加させ、界面のガスシール溝が流体力学的な揚力をあまり発生させなくなるためである。その結果、高速で流体膜ギャップが「崩壊(collapse)」し、ガスシール全体が壊滅的に破損することになる。
【0024】
本明細書に記載の未焼結粉末複合組成物から調製可能なSiC-AlN複合セラミック材料は、従来の材料から形成されたシールが被る、速度によるシール界面の平坦度の変化を低減または最小化することができる。流体膜ギャップは、材料が耐えられる最大速度およびフープ応力まで維持することができる。一例として、従来のSiC材料はサーマルコーニングのために回転速度が140m/sに制限されることがあるが、同様の機械的強度を有するSiC-AlN複合セラミック材料は250m/sを超える速度に達することができる。
【0025】
未焼結複合粉末組成物中に0.1~10wt%の窒化アルミニウムが存在することは、特に有利な特性を有するセラミック材料を形成する上で重要な特徴であることが判明しており、これは、純粋な炭化ケイ素セラミックまたは純粋な窒化アルミニウムセラミックでは示されない、得られるセラミックの微細構造の改変の結果であると考えられている。好ましい実施形態において、未焼結複合粉末組成物は、炭化ケイ素95.0重量%~99.9重量%および窒化アルミニウム0.1重量%~5.0重量%を含む。より好ましくは、未焼結複合粉末組成物は、炭化ケイ素95.0重量%~99.9重量%および窒化アルミニウム0.1重量%~5.0重量%を含む。
【0026】
本発明はまた、未焼結複合粉末組成物、および本明細書に記載のSiC-AlN複合セラミックを製造するためのプロセスも提供する。
【0027】
セラミック材料を製造するための従来の固体合成法では、通常、出発粉末の粉砕に続いて、所望のセラミック製品を製造するための焼結の前に、成形、およびオプションとして焼成が行われる。粉砕には湿式粉砕と乾式粉砕がある。高エネルギー振動粉砕は、例えば、出発粉末を混合するため、および利用される場合には脱灰後の粉砕のために使用することができる。湿式粉砕が採用される場合、粉末は適切な液体(例えば、エタノールまたは水、あるいはそれらの組み合わせ)と混合してスラリーを形成し、適切な高密度粉砕媒体(例えば、イットリア安定化ジルコニア(YSZ)ビーズ、又は炭化ケイ素ボール)を用いて湿式粉砕される。好ましくは高い焼結密度を有するセラミック製品を製造するために焼結される前に、粉砕された粉末は任意に焼成され、および/または随意的に所望の形状(例えば、ペレット)に成形され得る。焼結後に複合セラミック材料が調製されると、必要に応じて焼結後の機械加工および表面処理を行うこともできる。SiC-AlN複合セラミック材料が調製されるプロセスのフローチャートである
図1も参照されたい。
【0028】
したがって、理解されるように、本明細書に記載する未焼結複合粉末組成物は、例えば、複合セラミックを形成するために焼結する前に実施される粉砕及び他のプロセスのステップから得ることができる。したがって、本明細書に記載の未焼結複合粉末組成物は、複合セラミック材料を形成するためのその後の工程に関連する付加的な成分を含んでいてもよい。例えば、未焼結複合粉末組成物は、安定剤、結合剤および/または焼結促進剤を含んでもよいが、これらは、好ましくは最小限に抑えられるか、または完全に除外される。一般的な焼結促進剤としては、例えば、Y2O3、CaO、SiO2、La2O3、CeO2、SiO2、Al2O3、およびTiO2が挙げられる。
【0029】
このように、いくつかの実施形態において、未焼結複合粉末組成物は、前記焼結促進剤のような追加成分を5重量%未満、好ましくは3重量%未満、2重量%未満、1重量%未満、さらには0.1重量%未満、さらには0.01重量%未満含む。特に好ましい実施形態において、前記未焼結複合粉末組成物は、炭化ケイ素および窒化アルミニウムからなる、または本質的に炭化ケイ素および窒化アルミニウムからなる。
【0030】
当業者であれば理解できるように、高純度の炭化ケイ素および窒化アルミニウムの出発粉末は市販されており、その粒径の仕様も様々である。α-炭化ケイ素(α-SiC)は炭化ケイ素の最も一般的な結晶形態(多形形態)であり、六方晶の結晶構造を有するが、他の多形形態(例えばβ-炭化ケイ素(β-SiC))も知られている。いくつかの実施形態において、本発明に関連して使用されうる炭化ケイ素材料は、α-炭化ケイ素(α-SiC)を含むか、またはα-炭化ケイ素(α-SiC)を含む。
【0031】
平均粒径(D50)が異なる炭化ケイ素粉末を、本発明の未焼結複合粉末組成物を形成する際に使用し得る。いくつかの実施形態において、未焼結複合粉末組成物中の炭化ケイ素成分は、0.1μm~5μm、好ましくは3μm未満または等しく、例えば0.2μm~2μm、より好ましくは0.2μm~1μmの平均粒径を有する。炭化ケイ素成分の粒子径は、例えば、公知の光散乱技術および同様のものを用いた機器(例えば、Zetasizer 1000HS、M/s Malvern Instruments Ltd、UKなど)を用いて測定することができる。
【0032】
平均粒径(D50)が異なる窒化アルミニウム粉末を、本発明の未焼結複合粉末組成物の形成に使用することができるが、窒化アルミニウム粉末成分は炭化ケイ素粉末成分よりも小さい平均粒径を有することが好ましい。好ましい実施形態において、未焼結複合粉末組成物中の窒化アルミニウムは、窒化アルミニウムナノ粒子(例えば、1.0nm~1,000nmの平均粒径(D50)を有する窒化アルミニウム粒子)を含む。好ましくは、未焼結複合粉末組成物中の窒化アルミニウムの平均粒径(D50)は、10nm~500nmである。窒化アルミニウム成分の粒子径は、例えば、公知の透過型電子顕微鏡(TEM)技術を用いて測定することができる。
【0033】
本明細書に記載の未焼結複合粉末組成物は、本明細書に記載のいずれかを含む炭化ケイ素および窒化アルミニウム出発粉末を混合し、粉砕(および随意的に乾燥)して未焼結複合粉末組成物を形成することによって得ることができる。上述したように、セラミック複合材料の調製の一環として、出発粉末の混合物が乾式粉砕または好ましくは湿式粉砕(すなわち、液体媒体中のスラリーの一部として)されるのが一般的である。したがって、上述の炭化ケイ素および窒化アルミニウムの粉末は、選択された重量比(最終的に所望の成分モル比を有するSiC-AlN複合セラミック材料が得られるように選択され得る)で混合され、次いで湿式粉砕され得るスラリーを提供するため、適切な液体媒体と接触され得る(
図1のフローチャートの第1段階に示す)。この目的に適した液体媒体は、前記炭化ケイ素および窒化アルミニウムが不溶性および/または非反応性であるものであり、メタノール、エタノール、イソ-プロパノール、n-ブタノールまたはn-ヘプタノールなどのC1~C5脂肪族一価アルコール、水またはそれらの組み合わせから選択される液体媒体を含む。好ましくは、湿式粉砕のためにスラリーが形成される場合、
図1に示すように、エタノールを含むか、またはエタノールからなる液体媒体を使用する。好ましい実施形態において、スラリーは、平均粒径が3μm未満または等しく、例えば0.2μm~3μmの炭化ケイ素粉末から形成され、および/または、スラリーは、平均粒径10nm~500nmの窒化アルミニウムナノ粒子粉末から形成される。
【0034】
粉砕の特定の形態は特に限定されず、適切な粉砕技術の例には、ローラー粉砕、ボール粉砕、アトリッション粉砕、および遠心/遊星粉砕が含まれる。いくつかの実施形態において、ボール粉砕が使用され、任意でミリング媒体はYSZビーズ、窒化ケイ素ボールまたは炭化ケイ素ボールからなる。炭化ケイ素ボールを粉砕媒体として使用することは、焼結前に得られる粉砕生成物の純度を最大化するために、代替粉砕媒体からの不要成分の汚染または溶出を回避する上で有利である。粉砕媒体からの溶出によるこのような汚染は、粉砕媒体自体が炭化ケイ素から形成されている場合には問題とならない。当業者は、粉砕の形態(すなわち乾式または湿式)、得られる粉砕製品の成分の意図される粒子径、および粉砕が行われる可能性のある時間スケール(例えば15~25時間)に基づいて、例えばローラー粉砕などの特定の粉砕形態を選択することができるが、典型的な粉砕の時間スケールは、生産規模によるが、典型的には6~48時間、好ましくは12~36時間、より好ましくは15~25時間、例えば18~20時間の範囲である。
【0035】
図1のフローチャートに示すように、湿式粉砕ステップを使用した場合、プロセスの次のステップは、典型的には乾燥ステップであり、これは、未焼結複合粉末組成物を製造するために利用し得る。乾燥の特定の形態は特に限定されず、真空下での乾燥、オーブン乾燥または噴霧乾燥を利用し得る。いくつかの実施形態において、前記スラリーを真空下、80℃~100℃で乾燥する。いくつかの実施形態において、前記スラリーを、100℃~140℃で噴霧乾燥する。適切なラボ(研究室)スケールのスプレードライヤーの例としては、規模にもよるが、Buchi社のmini B-290スプレードライヤーまたは大川原化工機株式会社のL-8iスプレードライヤーが挙げられる。
【0036】
図1のフローチャートに示すように、任意の乾燥ステップに続いて、未焼結複合粉末組成物は、所望の粒度分布の粉末複合体を得るために、スクリーニング/ふるい分けをしてもよい。いくつかの実施形態において、粉砕後、および実施される場合には乾燥後、前記未焼結複合粉末を、孔径が250μm~350μmのスクリーン、例えば275μm~325μm、例えば孔径が300μmのスクリーンに通過させる。
【0037】
別の態様に従って、本発明は、本明細書に記載の未焼結複合粉末組成物を焼結することによって得られた、または得ることができるSiC-AlN複合セラミック材料を提供する。焼結ステップは、圧力アシストであってもよく、
図1のフローチャートに示すように、例えば、高温圧縮、放電プラズマ焼結、熱間静水圧プレス(HIP)、ガス圧焼結、またはそれらの任意の組み合わせから構成されてもよい。
【0038】
適切な焼結が達成されるのであれば、特定の圧力補助条件下ではより低い温度が適切である場合があり、これは製品の微細構造分析によって容易に決定することができるため、焼結ステップの温度には特に制限はない。例えば、走査型電子顕微鏡(SEM)分析、透過型電子顕微鏡(TEM)分析を用いて、粒径および粒度分布を定量化し、結晶粒界を評価することができる。製品の密度および気孔率は、ASTM C373-88などの既知の方法で容易に測定することもできる。適切な焼結温度は、例えば、一般的に1800℃以上であり、圧力補助焼結システムで採用する適切な圧力は、少なくとも5MPaである。
【0039】
いくつかの実施形態において、SiC-AlN複合セラミック材料は、1800℃~2100℃、好ましくは1800℃~2000℃、より好ましくは1850℃~1950℃の温度での未焼結複合粉末組成物の焼結から得られる、または得ることができる。圧力補助焼結を採用する場合、焼結が起こる適切な圧力範囲は、5MPa~75MPa、好ましくは10MPa~60MPa、より好ましくは30MPa~50MPaである。
【0040】
いくつかの実施形態において、本明細書に記載の未焼結複合粉末組成物の焼結から得られた、または得ることができるSiC-AlN複合セラミック材料は、焼結されたα-炭化ケイ素を含む。いくつかの実施形態において、本明細書に記載の未焼結複合粉末組成物の焼結から得られた、または得ることができるSiC-AlN複合セラミック材料は、粒径が2.0~3.0μmである、炭化ケイ素焼結体からなる。
【0041】
焼結後、得られたSiC-AlN複合セラミック材料は、
図1に示すように、機械加工(すなわち、異なる用途のための成形)または最終的な表面処理(研磨または溝加工など)の対象とすることができる。
【0042】
本明細書に記載の未焼結複合粉末組成物の焼結から得られる、または得ることができるSiC-AlN複合セラミック材料は、いくつかの有利な特性を組み合わせて示すことが判明しており、それは、ターボ機械用途(例えば、遠心式ガス圧縮機の2-シールシステムのインバウンドシールまたはアウトボードシール)のような、高速、高熱勾配および高フープ応力を受けるシール用途に特に適している。このような有利な特性には、低熱膨張係数と共に高熱伝導性(例えば、シーリング界面のサーマルコーニングまたはテーパリングを最小限に抑えるため)、および高機械的強度(圧力および衝合の負荷による部品の歪みを最小限に抑えるため)が含まれる。
【0043】
本明細書に記載の焼結および未焼結複合粉末組成物から得られる、または得ることができるSiC-AlN複合セラミック材料において特に驚くべきことが判明した特徴の組み合わせは、高い破壊靭性(例えば、4.5MPa.m1/2以上)および高い熱伝導性(例えば、120W/mK以上)の組み合わせである。この特徴の特定の組み合わせは、例えば従来のシール材料として選択されているSiCセラミックまたは窒化ケイ素(Si3N4)セラミックではこれまで見られなかった。破壊靭性はASTM C1421(シェブロンノッチ法)を用いて、熱伝導性はASTM E1461を用いて測定することができる。
【0044】
本明細書に記載の複合セラミック材料中に必要な濃度でAlNが存在することは、(例えば、従来のSiCセラミックと比較して)セラミックの微細構造を改質する上で特に有利であると考えられる。セラミック複合体を形成する際にSiCおよびAlN以外の成分が実質的に存在しないことも、本明細書に記載の未焼結複合粉末組成物の焼結から得られる複合セラミックにおいて、SiCおよびAlNの好ましい相互作用を最大化する上で特に有利であると考えられる。
【0045】
したがって、さらに別の態様において、本発明はまた、式x(SiC)-1-x(AlN)を有するSiC-AlN複合セラミック材料を提供し、ここで、0.999≧x≧0.900であり、そしてここで、複合セラミック材料は、4.5MPa.m1/2より大きい破壊靭性および120W/mKより大きい熱伝導率を有する。
【0046】
好ましい実施形態において、SiC-AlN複合セラミック材料は、式x(SiC)-1-x(AlN)を有し、式中、0.999≧x≧0.950である。
【0047】
いくつかの実施形態において、本明細書に記載のSiC-AlN複合セラミック材料は、5MPa.m1/2以上または等しい、好ましくは5.0~6.0MPa.m1/2の破壊靭性を有する。
【0048】
いくつかの実施形態において、本明細書に記載のSiC-AlN複合セラミック材料は、110W/mK~150W/mK、好ましくは115W/mK~150W/mK、より好ましくは120W/mK~145W/mKの熱伝導性を有する。
【0049】
いくつかの実施形態において、本明細書に記載のSiC-AlN複合セラミック材料は、炭化ケイ素焼結体材料の熱膨張係数が4×10-6/K未満である。熱膨張係数は、適切にはASTM E228を用いて測定することができる。
【0050】
いくつかの実施形態において、本明細書に記載のSiC-AlN複合セラミック材料は、600MPa以上または等しく、好ましくは600MPa~850MPa、より好ましくは700MPa~850MPaの曲げ強度を有する。曲げ強度は、適切にはASTM C1161(4点)を用いて測定することができる。
【0051】
いくつかの実施形態において、本明細書に記載のSiC-AlN複合セラミック材料は、400GPa~450GPa、好ましくは420GPa~450GPaの弾性率を有する。弾性率は、適切にはASTM E494を用いて測定することができる。
【0052】
いくつかの実施形態において、本明細書に記載のSiC-AlN複合セラミック材料は、以下の特性のうちの1つ以上を有する。
(a)3.0~3.3g/cm3の密度、
(b)5%未満、好ましくは2.5%未満、より好ましくは1%未満の空隙率、および
(c)0.10~0.20、好ましくは0.14~0.18のポアソン比。
【0053】
密度および気孔率は、ASTM C373-88を用いて測定するのが適切であり、一方ポアソン比は、ASTM E494を用いて測定するのが適切である。
【0054】
いくつかの実施形態において、本明細書に記載のSiC-AlN複合セラミック材料は、相対湿度60%未満の気体流体(空気、窒素、二酸化炭素など)中で、0.5未満の摩擦係数を有し、好ましくは0.4未満であり、最も好ましくは0.3未満である。
【0055】
いくつかの実施形態において、本明細書に記載のSiC-AlN複合セラミック材料は、相対湿度60%未満の気体流体(例えば、空気、窒素、二酸化炭素など)中で、0.00001mm3/Nm未満の摩耗係数、好ましくは0.000005mm3/Nm未満、および/または0.0001mm3/Nm未満、好ましくは乾燥条件下で、0.000005mm3/Nm未満の摩耗係数を有する。
【0056】
摩擦および摩耗係数は、適切には、ASTM G-99に従ってボールオンディスク法によって測定することができ、特定の材料のディスクを一定の速度で回転させ、相手材料のボールをディスクに接触するまで移動させ、既知の力を特定の時間加える。試験中、法線荷重と横荷重を測定し、これら2つの力から摩擦係数を求めることができる。試験終了後、ディスクとボールから除去された材料の体積を測定し、摩耗係数を決定することができる。
【0057】
いくつかの実施形態において、本明細書に記載のSiC-AlN複合セラミック材料は、300MPaを超える、好ましくは350MPaを超える、より好ましくは375MPa~450MPaの引張強度を有する。
【0058】
いくつかの実施形態において、本明細書に記載のSiC-AlN複合セラミック材料を調製するためのプロセスは、炭化ケイ素焼結体材料を物品またはその部品にさらに加工することを、さらに含む。
【0059】
したがって、さらなる態様において、本発明は、本明細書に記載のSiC-AlN複合セラミック材料で形成された部品を含む物品を提供する。本明細書で論じるように、SiC-AlN複合セラミック材料が示す特性の特定の組み合わせにより、SiC-AlN複合セラミック材料は、異なる用途、特に、ターボ機械用途(例えば、遠心式ガス圧縮機の2-シールシステムのインバウンドシールまたはアウトボードシール)のような、高速、高熱勾配および高フープ応力を受ける用途に有用である。
【0060】
したがって、さらに別の態様において、本発明は、本明細書に記載のSiC-AlN複合セラミック材料で形成されたメカニカルシール面を提供する。
【0061】
さらに別の態様において、本開示は、メカニカルシール、ベアリングまたは摩耗部品における、本明細書に記載のSiC-AlN複合セラミック材料の使用を提供する。
【0062】
別の態様において、本開示は、メカニカルシール面の部品における遠心応力(例えば、フープ応力)に対する耐性を改善するための、本明細書に記載のSiC-AlN複合セラミック材料の使用を提供する。
【0063】
開示された装置および方法の1つまたは複数の実施形態の詳細な説明は、図を参照して例示的に示されるものであり、限定するものではない。
【0064】
本明細書では、関連する図面を参照して、様々な実施形態を説明する。本開示の範囲から逸脱することなく、代替の実施形態を考案することができる。
【0065】
次に、本発明の側面により具体的に関連する技術の概要に目を向けると、以下に示すような組成を有する、新たに開発されたSiC-AlN複合セラミック材料「JC-SiC」を開示する:
α-炭化ケイ素(平均粒径0.7μm)=95.0~99.9wt%
窒化アルミニウム(ナノ粒子)=0.1~5.0wt%
【0066】
一実施形態において、材料は以下に説明するように形成することができる。
【0067】
炭化ケイ素と窒化アルミニウムの粉末を、プラスチック容器中のエタノール(200プルーフ)に加える。粉砕媒体として窒化ケイ素ボールを使用する。スラリーを、ローラーミルを用いて18~20時間粉砕し、真空下で、90℃で乾燥する。このように得られた粉末を300マイクロメートルのスクリーンで篩分けする。その後、圧力(10~50MPa)および温度(1800~2100℃)を組み合わせて、粉末を圧密する。圧密した部品は機械加工し、最終的な表面仕上げ加工を施す。
【0068】
【0069】
提案されたシールは、以下のシールに関し以下に特定される問題の1つ以上に対処することができる。例えば、2-シールシステムのアウトボードシールでは、通常、低圧だが高速で作動する。このような条件にさらされる材料は、高いシャフト回転速度によるフープ応力に耐える高い引張強度および、シール表面の溝が安定した流体膜を生成する能力を損なうシール界面のサーマルコーニングまたはテーパリングを最小にするために、低い熱膨張係数と組み合わせた高い熱伝導性を有する必要がある。このようなシステムのインボードシールは高圧で作動し、高速でプロセスガスを密封する。このような条件にさらされる材料は、圧力およびアバットメントの負荷による部品の変形を最小にするために高い機械的強度を有し、シール部品の熱変形を最小にするために低熱膨張係数と組み合わせた高い熱伝導率も有さなければならない。アウトボードシールと同様に、「形状安定性(form stabile)」シール界面の隙間は、流体膜の安定性のために重要だが、同様にシールの隙間を横切る漏れを制限するためにも重要である。
【0070】
ターボガスシールのアウトボードシールの性能シミュレーションから、従来のガスシールセラミックス(SiCおよびSi3N4)は、部品の応力レベルが致命的に高くなる前でさえ、これらの材料の最大定格速度を制限する、高速での過度の熱界面テーパーに悩まされることが明らかである。その理由は、シール界面の粘性シアが速度とともに増加するため、部品内の高い熱勾配が「サーマルコーニング(thermal coning)」、または熱シーリング界面のテーパーを増加させ、界面のガスシール溝が流体力学的揚力をあまり発生させなくなるためである。その結果、高速で流体膜ギャップが「崩壊(collapse)」し、ガスシール全体が壊滅的に破損する。
【0071】
しかしながら、本明細書で開示するJC-SiC材料の改善された熱特性は、速度によるシール界面の平坦性の変化を低減または最小化することができる。流体膜ギャップは、材料が耐えられる最大速度およびフープ応力まで維持することができる。一例として、従来のSiC材料はサーマルコーニングのために回転速度が140m/sに制限され得るが、同様の機械的強度を持つJC-SiC-S材料は250m/sを超える速度に達することができる。
【0072】
次に、本発明を以下の実施例を参照してさらに説明するが、これらは例示であって限定的なものとはみなされない。
【実施例】
【0073】
[実施例1]
炭化ケイ素焼結体材料(「JC-SiC」)の調製
プラスチック容器に入れたエタノール(200プルーフ)に、炭化ケイ素および窒化アルミニウムの粉末を加える。粉砕媒体として、窒化ケイ素ボールを使用する。スラリーをローラーミルで18~20時間粉砕し、真空下で、90℃で乾燥させる。こうして得られた粉末を、300マイクロメートルのスクリーンで篩い分ける。その後、圧力(10~50MPa)および温度(1800~2100℃)を組み合わせて粉末を圧密する。その後、連結された部品をサイズに機械加工し、最終的な表面仕上げ加工を施す。「JC-SiC-S」材料は、放電プラズマ焼結(SPS)法で圧密し、「JC-SiC-H」材料は高温圧縮(HP)法で圧密した。
【0074】
[実施例2]
SiC-AlN複合セラミックス(「JC-SiC」)および比較セラミックスの特性評価
【0075】
さらに、ターボガスシールのインボードシールの性能シミュレーションから、従来のガスシールセラミックス(SiCおよびSi3N4)は、シャフト速度の増加に対してシール界面の平坦性をうまく維持できないことが明らかである。その理由は、アウトボードシールの場合と非常によく似ており、シール界面でのガスの粘性加熱および、シールギャップ出口での膨張ガスによる局所的な冷却が、平坦度に影響を与える(コーニング)温度勾配を引き起こす。シャフトの速度が上がると、これらの要因は増幅する。フェース平坦度の変化は、フィルム剛性で表される流体フィルムまたはギャップの安定性に影響する。最も重要なのは、フェース平坦度がシール漏れ(増加)に影響することである。しかし、SiC-AlN複合セラミック(JC-SiC)材料の改善された熱特性は、速度による界面平坦度の変化を制限する。流体膜ギャップは、膜の安定性および漏れに大きな影響を与えることなく、最高速度(アウトボードシール部品の応力限界によってのみ制限される)まで維持することができる。
【0076】
さらなる説明のために、表1を以下に示す。表1は、JC-SiC材料(JC-SiC-SおよびJC-SiC-H)の主要な熱機械的特性を、市販の固相焼結材料および液相焼結材料と比較して示しており、特に断りのない限り、上述の通りASTM法に従って測定したものである。JC材料は、自己焼結(SS SiC)および液相焼結(LP SiC)の両方の炭化ケイ素特性の最良を有することが分かる。
【0077】
【0078】
[実施例3]
トライボロジー特性の評価
JC材料と市販のSS SiCおよびLP SiC材料のトライボロジー特性を評価するために、ボールオンディスク(BoD)試験を使用した(例えば、ASTM G-99に準拠)。
図2は、湿度60%の空気中における上記材料の定常摩擦係数(CoF)を示す。JC SiC-SのCoFはLP SiCの約1/3であり、SS SiCの1/2以下であることが分かる。
【0079】
湿度60%の空気中における摩耗係数(CoW)の比較を、
図3に示す。ここで、JC-SiC-SのCoWは、LP SiCよりも約2 1/2低く、SS SiCよりも著しく低い。
【0080】
乾燥状態でのCoWを評価するために、-40℃の露点温度の窒素雰囲気下、BoD試験を行った。結果を
図4に示す。
【0081】
ここでも、JC-SiC-SのCoWが、市販のSiC材料と比べて最も低いことは明らかである。
【0082】
トライボロジー評価では、SiC-AlN複合セラミック(JC-SiC)材料の利点が、これらの用途に使用される他の市販材料よりも、乾湿両条件下で明らかに強調される。
【0083】
[実施例4]
引張強度の評価
引張強度は、高速試験装置でリング状のサンプル(外径=230mm、内径=172、厚さ=17mm)を回転させて試験した。速度は、材料が破壊するまで段階的に増加させた。破壊時の速度に基づいて、その速度で発生した応力を計算した。表2は、JC-SiC-Sと市販のLP焼結SiCのスピン試験結果を比較したものである。
【0084】
【0085】
結果は、JC-SiC-SがLP焼結SiCよりも約10%強いことを示す。
【0086】
用語「約(about)」は、出願時に利用可能な機器に基づく特定の量の測定に関連する誤差の程度を含むことを意図する。
【0087】
本明細書で使用する用語は、特定の実施形態を説明するためだけのものであり、本開示を限定することを意図するものではない。本明細書で使用する場合、単数形「a」、「an」、および「the」は、文脈上明らかにそうでないことが示されない限り、複数形も含むことが意図される。本明細書中で使用する場合、用語「備える/含む(comprises)」および/または「備える/含む(comprising)」は、記載された特徴、整数、ステップ、操作、要素、および/または成分の存在を特定するが、1つまたは複数の他の特徴、整数、ステップ、操作、要素成分、および/またはそれらの群の存在または追加を排除するものではないことがさらに理解されるであろう。
【0088】
また、用語「結合(coupled)」、「接続(connected)」およびそれらの変形は、2つの要素間に経路を有することを説明するものであり、要素間に介在する要素/接続がない状態での、要素間の直接的な接続を意味するものではない。これらの変形は、すべて本明細書の一部とみなされる。しかし、添付の特許請求の範囲に具体的に記載される場合、記載される接続/結合はいずれも直接的な接続/結合であり得る。
【0089】
接続および/または位置関係は、別段の指定がない限り、直接的または間接的であることができ、本発明はこの点で限定することを意図していない。したがって、存在物の結合は、直接的結合または間接的結合のいずれかを指すことができ、存在物間の位置関係は、直接的または間接的位置関係とすることができる。さらに、本明細書に記載する様々なタスクおよびプロセスステップは、本明細書に詳細に記載しない追加のステップまたは機能性を有する、より包括的な手順またはプロセスに組み込むことができる。
【0090】
本開示は、例示的な実施形態または実施形態を参照して説明してきたが、当業者には、本開示の範囲から逸脱することなく、様々な変更を行うことができ、等価物をその要素に置き換えることができることが理解されるであろう。さらに、本開示の本質的な範囲から逸脱することなく、特定の状況または材料を本開示の教示に適合させるために、多くの修正を行うことができる。したがって、本開示は、本開示を実施するために企図された最良の態様として開示する特定の実施形態に限定されるのではなく、本開示は、特許請求の範囲に属する全ての実施形態を含むことが意図される。
【誤訳訂正2】
【訂正対象書類名】特許請求の範囲
【訂正対象項目名】全文
【訂正方法】変更
【訂正の内容】
【特許請求の範囲】
【請求項1】
未焼結複合粉末組成物であって、炭化ケイ素90.0重量%~99.9重量%および窒化アルミニウム0.1重量%~10重量%を備える、未焼結複合粉末組成物。
【請求項2】
請求項1記載の未焼結複合粉末組成物において、炭化ケイ素95.0重量%~99.9重量%および窒化アルミニウム0.1重量%~5.0重量%を含む、未焼結複合粉末組成物。
【請求項3】
請求項1または請求項2記載の未焼結複合粉末組成物において、焼結促進剤のような追加成分を5重量%未満含む、未焼結複合粉末組成物。
【請求項4】
請求項1または請求項2記載の未焼結複合粉末組成物において、前記未焼結複合粉末組成物は、焼結促進剤のような追加成分を3重量%未満含む、未焼結複合粉末組成物。
【請求項5】
請求項1~4のいずれか一項記載の未焼結複合粉末組成物において、前記未焼結複合粉末組成物は、本質的に炭化ケイ素および窒化アルミニウムからなる、未焼結複合粉末組成物。
【請求項6】
請求項1~5のいずれか一項記載の未焼結複合粉末組成物において、前記未焼結複合粉末組成物は、炭化ケイ素および窒化アルミニウムからなる、未焼結複合粉末組成物。
【請求項7】
請求項1~6のいずれか一項記載の未焼結複合粉末組成物において、前記炭化ケイ素はα-炭化ケイ素を含む、未焼結複合粉末組成物。
【請求項8】
請求項1~7のいずれか一項記載の未焼結複合粉末組成物において、前記窒化アルミニウムは、窒化アルミニウムナノ粒子を含む、未焼結複合粉末組成物。
【請求項9】
請求項1~8のいずれか一項記載の未焼結複合粉末組成物において、前記炭化ケイ素は、平均粒径0.1μm~5μmの粒子を含む、未焼結複合粉末組成物。
【請求項10】
請求項1~9のいずれか一項記載の未焼結複合粉末組成物において、前記窒化アルミニウムは、平均粒径1.0nm~1,000nmの粒子を含む、未焼結複合粉末組成物。
【請求項11】
請求項1~10のいずれか一項記載の未焼結複合粉末組成物において、前記未焼結複合粉末組成物は、炭化ケイ素粉末および窒化アルミニウム粉末のスラリーを液体媒体中で粉砕することによって得られる、未焼結複合粉末組成物。
【請求項12】
請求項11記載の未焼結複合粉末組成物において、前記スラリーは、平均粒径3μm未満または等しく、例えば0.2μm~3μmの炭化ケイ素粉末から形成される、未焼結複合粉末組成物。
【請求項13】
請求項11または請求項12記載の未焼結複合粉末組成物において、前記スラリーは、平均粒径10nm~500nmの窒化アルミニウムナノ粒子粉末から形成される、未焼結複合粉末組成物。
【請求項14】
請求項11~13のいずれか一項記載の未焼結複合粉末組成物において、前記スラリーは、α-炭化ケイ素粉末から形成される、未焼結複合粉末組成物。
【請求項15】
請求項11~14のいずれか一項記載の未焼結複合粉末組成物において、前記液体媒体は、前記炭化ケイ素粉末および窒化アルミニウム粉末が不溶性および/または非反応性である液体を含む、未焼結複合粉末組成物。
【請求項16】
請求項11~15のいずれか一項記載の未焼結複合粉末組成物において、前記液体媒体は、エタノールのようなC1~C5脂肪族一価アルコールを含む、未焼結複合粉末組成物。
【請求項17】
請求項11~16のいずれか一項記載の未焼結複合粉末組成物において、前記粉砕を15~25時間行い、任意に、前記粉砕がローラー粉砕の使用を含む、未焼結複合粉末組成物。
【請求項18】
請求項11~17のいずれか一項記載の未焼結複合粉末組成物において、前記粉砕は、粉砕媒体として窒化ケイ素または炭化ケイ素ボールの使用により前記スラリーを粉砕することを含み、窒化ケイ素が好ましい、未焼結複合粉末組成物。
【請求項19】
請求項11~18のいずれか一項記載の未焼結複合粉末組成物において、前記粉砕後、前記スラリーを乾燥して未焼結複合粉末を製造する、前記未焼結複合粉末組成物であって、好ましくは、(i)前記スラリーを真空下、例えば80℃~100℃で乾燥し、または(ii)前記スラリーを80℃~140℃で噴霧乾燥により乾燥することにより製造する、未焼結複合粉末組成物。
【請求項20】
請求項11~19のいずれか一項記載の未焼結複合粉末組成物において、前記粉砕後、および乾燥を行う場合には乾燥後、前記未焼結複合粉末を、孔径が250μm~350μmのスクリーンに通過させる、未焼結複合粉末組成物。
【請求項21】
SiC-AlN複合セラミック材料であって、請求項1~20のいずれか一項記載の未焼結複合粉末組成物を焼結することにより得られる、SiC-AlN複合セラミック材料。
【請求項22】
請求項21記載のSiC-AlN複合セラミック材料において、前記焼結は、高温圧縮、放電プラズマ焼結、熱間静水圧プレス(HIP)、ガス加圧焼結、またはそれらの任意な組み合わせを含む、SiC-AlN複合セラミック材料。
【請求項23】
請求項21または請求項22記載のSiC-AlN複合セラミック材料において、前記焼結は、1800℃以上の温度での焼結を含む、SiC-AlN複合セラミック材料。
【請求項24】
請求項21~23のいずれか一項記載のSiC-AlN複合セラミック材料において、前記焼結は、1800℃~2100℃の温度での焼結を含む、SiC-AlN複合セラミック材料。
【請求項25】
請求項21~24のいずれか一項記載のSiC-AlN複合セラミック材料において、前記焼結は、5MPa~75MPaの圧力での焼結を含む、SiC-AlN複合セラミック材料。
【請求項26】
請求項21~25のいずれか一項記載のSiC-AlN複合セラミック材料において、前記焼結は、10MPa~60MPaの圧力での焼結を含む、SiC-AlN複合セラミック材料。
【請求項27】
請求項21~26のいずれか一項記載のSiC-AlN複合セラミック材料において、SiC-AlN複合セラミック材料は、焼結されたα-炭化ケイ素を含む、SiC-AlN複合セラミック材料。
【請求項28】
請求項21~27のいずれか一項記載のSiC-AlN複合セラミック材料において、炭化ケイ素焼結体材料の粒径が2.0~3.0μmである、SiC-AlN複合セラミック材料。
【請求項29】
請求項21~28のいずれか一項記載のSiC-AlN複合セラミック材料において、前記SiC-AlN複合セラミック材料は、4.5MPa.m
1/2を超える破壊靭性および120W/mKを超える熱伝導性を有する、SiC-AlN複合セラミック材料。
【請求項30】
SiC-AlN複合セラミック材料であって、式
x(SiC)-
1-x(AlN)を有し、式中、0.999≧x≧0.900であり、複合セラミック材料は、4.5MPa.m
1/2を超える破壊靭性および120W/mKを超える熱伝導性を有する、SiC-AlN複合セラミック材料。
【請求項31】
請求項30記載のSiC-AlN複合セラミック材料において、前記SiC-AlN複合セラミック材料は、式
x(SiC)-
1-x(AlN)を有し、式中、0.999≧x≧0.950である、SiC-AlN複合セラミック材料。
【請求項32】
請求項21~31のいずれか一項記載のSiC-AlN複合セラミック材料において、前記炭化ケイ素焼結体材料は、5MPa.m
1/2以上または等しい破壊靭性を有する、SiC-AlN複合セラミック材料。
【請求項33】
請求項21~32のいずれか一項記載のSiC-AlN複合セラミック材料において、前記炭化ケイ素焼結体材料は、5.0~6.0MPa.m
1/2の破壊靭性を有する、SiC-AlN複合セラミック材料。
【請求項34】
請求項21~33のいずれか一項記載のSiC-AlN複合セラミック材料において、前記炭化ケイ素焼結体材料は、110W/mK~150W/mK、好ましくは115W/mK~150W/mK、より好ましくは120W/mK~145W/mKの熱伝導性を有する、SiC-AlN複合セラミック材料。
【請求項35】
請求項21~34のいずれか一項記載のSiC-AlN複合セラミック材料において、前記炭化ケイ素焼結体材料の熱膨張係数は、4×10
-6/K未満である、SiC-AlN複合セラミック材料。
【請求項36】
請求項21~35のいずれか一項記載のSiC-AlN複合セラミック材料において、前記炭化ケイ素焼結体材料は、600MPa以上または等しく、好ましくは600Mpa~850Mpa、より好ましくは700Mpa~850Mpaの曲げ強度を有する、SiC-AlN複合セラミック材料。
【請求項37】
請求項21~36のいずれか一項記載のSiC-AlN複合セラミック材料において、前記炭化ケイ素焼結体材料は、400Gpa~450Gpa、好ましくは420Gpa~450Gpaの弾性率を有する、SiC-AlN複合セラミック材料。
【請求項38】
請求項21~37のいずれか一項記載のSiC-AlN複合セラミック材料において、前記炭化ケイ素焼結体材料は、以下の特性、すなわち、
(a)3.0~3.3g/cm
3の密度、
(b)5%未満、好ましくは2.5%未満、より好ましくは1%未満の空隙率、および
(c)0.10~0.20、好ましくは0.14~0.18のポアソン比
のうち1つ以上を有する、SiC-AlN複合セラミック材料。
【請求項39】
請求項21~38のいずれか一項記載のSiC-AlN複合セラミック材料において、前記炭化ケイ素焼結体材料は、相対湿度60%未満の気体流体(空気、窒素、二酸化炭素など)中で、0.5未満、好ましくは0.4未満、最も好ましくは0.3未満の摩擦係数を有する、SiC-AlN複合セラミック材料。
【請求項40】
請求項21~39のいずれか一項記載のSiC-AlN複合セラミック材料において、前記炭化ケイ素焼結体材料は、相対湿度60%未満の気体流体(空気、窒素、二酸化炭素など)中における摩耗係数が0.00001mm
3/Nm未満、好ましくは0.000005mm
3/Nm未満、および/または乾燥条件下における摩耗係数が0.0001mm
3/Nm未満、好ましくは0.000005mm
3/Nm未満である、SiC-AlN複合セラミック材料。
【請求項41】
請求項21~40のいずれか一項記載のSiC-AlN複合セラミック材料において、前記炭化ケイ素焼結体材料は、300MPaを超える、好ましくは350MPaを超える、より好ましくは375MPa~450MPaの引張強度を有する、SiC-AlN複合セラミック材料。
【請求項42】
請求項1~20のいずれか一項記載の未焼結複合粉末組成物の製造プロセスであって、前記炭化ケイ素粉末および窒化アルミニウム粉末を、炭化ケイ素90.0重量%~99.9重量%および窒化アルミニウム0.1重量%~10重量%の量で組み合わせて、前記未焼結複合粉末組成物を形成するステップを備える、未焼結複合粉末組成物の製造プロセス。
【請求項43】
請求項42に記載のプロセスにおいて、前記炭化ケイ素粉末および前記窒化アルミニウム粉末を、炭化ケイ素95.0重量%~99.9重量%および窒化アルミニウム0.1重量%~5重量%の量で組み合わせる、プロセス。
【請求項44】
請求項42または請求項43記載のプロセスにおいて、前記未焼結複合粉末組成物は、焼結促進剤のような追加成分を5重量%未満含む、プロセス。
【請求項45】
請求項42~44のいずれか一項記載のプロセスにおいて、前記未焼結複合粉末組成物は、前記焼結促進剤のような追加成分を2重量%未満含む、プロセス。
【請求項46】
請求項42~45のいずれか一項記載のプロセスにおいて、前記未焼結複合粉末組成物は、本質的に炭化ケイ素および窒化アルミニウムからなる、プロセス。
【請求項47】
請求項42~46のいずれか一項記載のプロセスにおいて、前記未焼結複合粉末組成物は、炭化ケイ素および窒化アルミニウムからなる、プロセス。
【請求項48】
請求項42~47のいずれか一項記載のプロセスにおいて、前記炭化ケイ素粉末はα-炭化ケイ素を含む、プロセス。
【請求項49】
請求項42~48のいずれか一項記載のプロセスにおいて、前記窒化アルミニウム粉末は、窒化アルミニウムナノ粒子を含む、プロセス。
【請求項50】
請求項42~49のいずれか一項記載のプロセスにおいて、前記炭化ケイ素粉末は、平均粒径3μm未満または等しく、好ましくは0.2μm~3μmの粒子を含む、プロセス。
【請求項51】
請求項42~50のいずれか一項記載のプロセスにおいて、前記窒化アルミニウム粉末は、平均粒径10nm~500nmの粒子を含む、プロセス。
【請求項52】
請求項42~51のいずれか一項記載のプロセスにおいて、前記炭化ケイ素粉末および前記窒化アルミニウム粉末を組み合わせるものであって、液体媒体中で粉末のスラリーを形成することを含む、プロセス。
【請求項53】
請求項52記載のプロセスにおいて、前記液体媒体が、エタノールのようなC1~C5脂肪族一価アルコールを含む、プロセス。
【請求項54】
請求項52または請求項53記載のプロセスにおいて、前記プロセスは、さらに前記スラリーを粉砕することを含み、随意的に、前記スラリーを粉砕することはローラーミルの使用を含む、プロセス。
【請求項55】
請求項54記載のプロセスにおいて、前記スラリーを粉砕することは、粉砕媒体として炭化ケイ素ボールの使用により前記スラリーを粉砕することを含む、プロセス。
【請求項56】
請求項52~55のいずれか一項記載のプロセスであって、さらに、前記スラリーを乾燥するステップを備える、プロセス。
【請求項57】
請求項56記載のプロセスにおいて、前記スラリーを真空中で乾燥し、および/または前記スラリーを80℃~140℃の温度で乾燥する、プロセス。
【請求項58】
請求項56または請求項57記載のプロセスにおいて、前記スラリーの乾燥は、前記スラリーの噴霧乾燥、真空乾燥またはオーブン乾燥、またはそれらの組み合わせを含む、プロセス。
【請求項59】
請求項42~57のいずれか一項記載のプロセスにおいて、前記形成後、前記未焼結複合粉末組成物を、孔径が250μm~350μmのスクリーンに通過させるプロセスであって、前記プロセスのステップが実施される場合、前記未焼結複合粉末組成物は、粉砕および乾燥のステップの後に前記スクリーンに通過させる、プロセス。
【請求項60】
請求項21~41のいずれか一項記載のSiC-AlN複合セラミック材料を製造するプロセスであって、前記プロセスは、請求項1~20のいずれか一項記載の未焼結複合粉末組成物を焼結するステップを備える、プロセス。
【請求項61】
請求項60記載のプロセスにおいて、前記未焼結複合粉末組成物を焼結するステップは、高温圧縮、放電プラズマ焼結、熱間静水圧プレス(HIP)、ガス圧焼結、またはそれらの任意な組み合わせのステップを含む、プロセス。
【請求項62】
請求項60または請求項61記載のプロセスにおいて、前記焼結は、1800℃以上の温度での焼結を含む、プロセス。
【請求項63】
請求項60~62のいずれか一項記載のプロセスにおいて、前記焼結は、1800℃~2100℃の温度での焼結を含む、プロセス。
【請求項64】
請求項60~63のいずれか一項記載のプロセスにおいて、前記焼結は、5MPa~75MPaの圧力での焼結を含む、プロセス。
【請求項65】
請求項60~64のいずれか一項記載のプロセスにおいて、前記焼結は、10MPa~60MPaの圧力での焼結を含む、プロセス。
【請求項66】
請求項60~65のいずれか一項記載のプロセスにおいて、前記プロセスは、前記SiC-AlN複合セラミック材料を物品またはその部品にさらに加工することをさらに含む、プロセス。
【請求項67】
請求項60~65のいずれか一項記載のプロセスであって、前記未焼結複合粉末は、請求項42~59のいずれか一項記載のプロセスによって製造される、プロセス。
【請求項68】
メカニカルシール、ベアリングであって、請求項21~41のいずれか一項記載のSiC-AlN複合セラミック材料で形成された部品を含む、成形品。
【請求項69】
請求項68記載の成形品において、前記成形品は前記メカニカルシール、前記ベアリングまたは摩耗部品である、成形品。
【請求項70】
請求項68または請求項69記載の成形品において、前記成形品は前記メカニカルシールであって、部品がメカニカルシール面である、成形品。
【請求項71】
請求項21~41のいずれか一項記載の炭化ケイ素焼結体材料で形成された、メカニカルシール面。
【請求項72】
請求項21~39のいずれか一項記載のSiC-AlN複合セラミック材料の使用において、メカニカルシール、ベアリングまたは摩耗部品における使用であって、好ましくは、前記炭化ケイ素焼結体材料はメカニカルシール面に使用する、使用。
【請求項73】
請求項21~41のいずれか一項記載のSiC-AlN複合セラミック材料の使用において、メカニカルシール面の部品の遠心応力(例えば、フープ応力)に対する耐性を改善するための、使用。
【国際調査報告】