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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公表特許公報(A)
(11)【公表番号】
(43)【公表日】2024-09-30
(54)【発明の名称】荷電粒子分光計
(51)【国際特許分類】
   G01N 23/2273 20180101AFI20240920BHJP
   H01J 49/48 20060101ALI20240920BHJP
   H01J 37/05 20060101ALI20240920BHJP
   H01J 37/244 20060101ALI20240920BHJP
【FI】
G01N23/2273
H01J49/48 400
H01J37/05
H01J37/244
【審査請求】未請求
【予備審査請求】未請求
(21)【出願番号】P 2024517136
(86)(22)【出願日】2022-09-07
(85)【翻訳文提出日】2024-04-23
(86)【国際出願番号】 SE2022050793
(87)【国際公開番号】W WO2023048611
(87)【国際公開日】2023-03-30
(31)【優先権主張番号】2151151-4
(32)【優先日】2021-09-21
(33)【優先権主張国・地域又は機関】SE
(81)【指定国・地域】
(71)【出願人】
【識別番号】514141754
【氏名又は名称】シエンタ・オミクロン・アーベー
(74)【代理人】
【識別番号】100108453
【弁理士】
【氏名又は名称】村山 靖彦
(74)【代理人】
【識別番号】100110364
【弁理士】
【氏名又は名称】実広 信哉
(74)【代理人】
【識別番号】100133400
【弁理士】
【氏名又は名称】阿部 達彦
(72)【発明者】
【氏名】パトリック・カールソン
【テーマコード(参考)】
2G001
5C101
【Fターム(参考)】
2G001BA08
2G001CA03
2G001DA09
2G001EA04
2G001JA05
5C101AA23
5C101EE17
5C101EE22
5C101EE34
5C101EE51
5C101GG37
(57)【要約】
撮像エネルギー分析器(101)と、静電レンズ系(102)と、を備える荷電粒子分光計(100)が記載されており、静電レンズ系(102)は、第1の偏向器(16A/16C、16B/16D)と、任意選択で、撮像エネルギー分析器(101)の入射前に、座標方向(x、y)において、1回目、さらに該当する場合には2回目の、荷電粒子の偏向を引き起こすように動作可能な第2の偏向器(17A/17C、17B/17D)と、を有する。当該分光計はまた、静電レンズ系(102)の公称空間位置を制御し、レンズテーブルを使用して分光計(100)の角度モードで走査を制御するように構成される制御ユニット(20)を備える。制御ユニット(20)を制御するためのコンピュータプログラムも記載される。
【特許請求の範囲】
【請求項1】
角度モードで動作可能な荷電粒子分光計(100)であって、
荷電粒子の入射部(9)を有する第1の端部(1)と、少なくとも二次元のマルチチャネル粒子検出器(4)を有する第2の端部(3)と、を有する撮像エネルギー分析器(101)であって、スリット方向(30)に延在する少なくとも1つの入射スリット(2)が、前記撮像エネルギー分析器に入射する前記荷電粒子を選択するために前記入射部に配置される、撮像エネルギー分析器(101)と、
光軸(10)に沿って延在し、試料(6)から放出された荷電粒子を前記撮像エネルギー分析器の前記入射部に移送するように配置される静電レンズ系(102)であって、前記静電レンズ系が、前記試料に面するように配置される第1の端部(11)における少なくとも第1のレンズ要素(12)と、前記撮像エネルギー分析器の前記入射部に面するように配置される第2の端部(13)における最後のレンズ要素(14)と、前記第1のレンズ要素と前記最後のレンズ要素との間に配置される少なくとも1つの中間レンズ要素(15、15’、15’’)と、前記撮像エネルギー分析器(101)に入る前に前記静電レンズ系の前記光軸に垂直な方向(x、y)に前記荷電粒子の偏向を引き起こすように動作可能な少なくとも第1の偏向器(16A/16C、16B/16D)と、を備える、静電レンズ系(102)と、
前記撮像エネルギー分析器および前記静電レンズ系に適用される電圧を制御するように構成される制御ユニット(20)と
を備え、
前記制御ユニットには、前記静電レンズ系の各レンズ要素および各偏向器に適用される個々の出力電圧設定のセットを含むレンズテーブルが設けられ、少なくとも1つの電圧設定が、少なくとも3つのパラメータによって定義され、第1のパラメータが、前記光軸に対して一次元において前記試料上の放出スポットの公称空間位置を定義し、第2のパラメータが、前記静電レンズ系の加速ポテンシャルを定義し、第3のパラメータが、前記試料からの前記荷電粒子の放出方向を定義し、前記出力電圧設定のセットが、加速ポテンシャルが前記第2のパラメータによって定義されている状態において、前記第1のパラメータによって定義される前記公称空間位置からの、前記第3のパラメータによって定義される放出角度の前記荷電粒子の偏向を変調するために前記静電レンズ系に適用される電圧を指定し、これにより、スリット面においてスリットを横切る方向(α)における発散を最小にして、前記撮像エネルギー分析器の前記入射スリットに入る荷電粒子の選択された粒子ビーム軌跡を制御する、
ことを特徴とする、
荷電粒子分光計(100)。
【請求項2】
前記静電レンズ系が、前記撮像エネルギー分析器に入る前に少なくとも2回目の、前記静電レンズ系の前記光軸に垂直な方向(x、y)における前記荷電粒子の偏向を引き起こすように動作可能な第2の偏向器(17A/17C、17B/17D)をさらに備える、請求項1に記載の荷電粒子分光計(100)。
【請求項3】
前記出力電圧設定が、少なくとも2つの相互に鏡面対称でない要素が個々の電圧設定を有するように構成され、各設定が、前記選択された条件に関連する少なくとも1つの選択された軌跡を制御するための少なくとも前記3つのパラメータによって分離不可能な方法で定義される、請求項1または2に記載の荷電粒子分光計(100)。
【請求項4】
前記静電レンズ系の前記レンズ要素、前記少なくとも1つの偏向器構成、および前記撮像エネルギー分析器を含む前記荷電粒子分光計の各構成要素のいずれも機械的に動かすことなく、一連の偏向設定が実現される、請求項1から3のいずれか一項に記載の荷電粒子分光計(100)。
【請求項5】
荷電粒子のすべての偏向が、静電手段を使用して実施される、請求項1から4のいずれか一項に記載の荷電粒子分光計(100)。
【請求項6】
前記出力電圧設定が、前記選択されたパラメータに関連する少なくとも1つの選択された軌跡を制御するために、前記選択されたパラメータの連続関数のセットによって定義される、請求項1から5のいずれか一項に記載の荷電粒子分光計(100)。
【請求項7】
前記パラメータのいずれかの値が、上限および下限の境界条件内で連続的に選択され、前記静電レンズ系の各要素の前記出力電圧設定が、前記パラメータの連続関数であり、前記レンズテーブルが、前記選択されたパラメータに関連する少なくとも1つの選択された軌跡を制御するために前記静電レンズ系の要素に適用される電圧を指定する、請求項1から6のいずれか一項に記載の荷電粒子分光計(100)。
【請求項8】
前記第1のパラメータが、前記スリット方向を横切る方向における前記公称空間位置を定義する、請求項1に記載の荷電粒子分光計(100)。
【請求項9】
前記出力電圧設定が、第2次元における公称空間位置を定義する第4のパラメータによっても定義される、請求項1および8のいずれか一項に記載の荷電粒子分光計(100)。
【請求項10】
前記第4のパラメータが、前記静電レンズ系の前記光軸に沿った方向における前記公称空間位置を定義する、請求項9に記載の荷電粒子分光計(100)。
【請求項11】
前記出力電圧設定が、少なくとも5つのパラメータによって定義され、そのうちの3つのパラメータが、前記光軸および前記第1のレンズ要素に対して三次元で前記試料上の放出スポットの前記公称空間位置を定義する、請求項1に記載の荷電粒子分光計(100)。
【請求項12】
前記二次元のマルチチャネル粒子検出器上の各位置が、前記レンズテーブルの前述のパラメータのいずれかに加えて、エネルギー方向における検出器中心からのシフトを定義する追加のパラメータにも依存しており、検出器ウインドウ内の任意のエネルギーレベル(EkPrio)を選択して前記選択された粒子軌跡に関連付けることができるように、前記パラメータを変更することのみによって前記レンズテーブルを変調する、請求項1から11のいずれか一項に記載の荷電粒子分光計(100)。
【請求項13】
前記二次元のマルチチャネル粒子検出器上の各位置が、前記レンズテーブルの前述のパラメータのいずれかに加えて、検出器中心に関連する前記軌跡からの角度シフトを定義する追加のパラメータにも依存しており、前記シフトが、スリットに沿った座標(x)方向の角度成分(θ)であり、検出器ウインドウ内の任意の角度レベル(θxPrio)を選択して前記選択された粒子軌跡に関連付けることができるように、前記パラメータを変更することのみによって前記レンズテーブルを変調する、請求項1から11のいずれか一項に記載の荷電粒子分光計(100)。
【請求項14】
角度モードで動作可能な荷電粒子分光計(100)を制御するためのコンピュータプログラムであって、前記荷電粒子分光計が、
荷電粒子の入射部(9)を有する第1の端部(1)と、少なくとも二次元のマルチチャネル粒子検出器(4)を有する第2の端部(3)と、を有する撮像エネルギー分析器(101)であって、スリット方向(30)に延在する少なくとも1つの入射スリット(2)が、前記撮像エネルギー分析器に入射する前記荷電粒子を選択するために前記入射部に配置される、撮像エネルギー分析器(101)と、
光軸(10)に沿って延在し、試料(6)から放出された荷電粒子を前記撮像エネルギー分析器の前記入射部に移送するように配置される静電レンズ系(102)であって、前記静電レンズ系が、前記試料に面するように配置される第1の端部(11)における少なくとも第1のレンズ要素(12)と、前記撮像エネルギー分析器の前記入射部に面するように配置される第2の端部(13)における最後のレンズ要素(14)と、前記第1のレンズ要素と前記最後のレンズ要素との間に配置される少なくとも1つの中間レンズ要素(15、15’、15’’)と、前記撮像エネルギー分析器(101)に入る前に前記静電レンズ系の前記光軸に垂直な少なくとも第1の座標方向(x、y)に前記荷電粒子の偏向を引き起こすように動作可能な少なくとも第1の偏向器(16A/16C、16B/16D)と、を備える、静電レンズ系(102)と、
プロセッサ(38)を備える制御ユニット(20)であって、前記撮像エネルギー分析器および前記静電レンズ系に適用される電圧を制御するように構成される制御ユニット(20)と
を備え、
さらに、前記コンピュータプログラムが、命令を含み、前記命令が、前記プロセッサによって実行されると、
前記静電レンズ系の各レンズ要素および各偏向器に適用される個々の出力電圧設定のセットを含むレンズテーブルが設けられるように前記制御ユニットを構成し、少なくとも1つの電圧設定が、少なくとも3つのパラメータによって定義され、第1のパラメータが、前記光軸および/または前記第1のレンズ要素に対して一次元において前記試料上の放出スポットの公称空間位置を定義し、第2のパラメータが、前記静電レンズ系の加速ポテンシャルを定義し、第3のパラメータが、前記試料からの前記荷電粒子の放出方向を定義し、前記出力電圧設定のセットが、加速ポテンシャルが前記第2のパラメータによって定義されている状態において、前記第1のパラメータによって定義される前記公称空間位置からの、前記第3のパラメータによって定義される放出角度の前記荷電粒子の偏向を変調するために前記静電レンズ系に適用される電圧を指定し、これにより、スリット面においてスリットを横切る方向(α)における発散を最小にして、前記撮像エネルギー分析器の前記入射スリットに入る荷電粒子の選択された粒子ビーム軌跡を制御する、
ことを特徴とする、
コンピュータプログラム。
【請求項15】
荷電粒子分光計(100)を制御するためのコンピュータプログラムであって、さらに、前記コンピュータプログラムが、命令を含み、前記命令が、プロセッサ上で実行されると、従属請求項2から13のいずれか一項に記載の定義に即して、前記荷電粒子分光計を請求項14に記載されるように機能させることを特徴とする、コンピュータプログラム。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、撮像エネルギー分析器と、光軸を有する静電レンズ系と、撮像エネルギー分析器に、および静電レンズ系の様々な要素に、適用される電圧を制御するように構成される制御ユニットと、を備える荷電粒子分光計に関する。さらに、本発明は、制御ユニットによって分光計機能を制御するように構成されるコンピュータプログラムに関する。
【0002】
荷電粒子分光計は、試料からの荷電粒子が本質的に撮像エネルギー分析器への入射スリットの位置で撮像面において撮像される角度モードで動作可能である。撮像面における荷電粒子の位置は、試料からの荷電粒子の放出角度にほぼ線形に依存する一次近似である。さらに、スリットに垂直な方向の開始角度は、角度偏向方法を使用してアクセスされる。
【背景技術】
【0003】
いくつかの科学分野では、試料の放出スポットから放出された荷電粒子の角度分解分光法の実施は関心事である。そのような試料の小さい領域から放出された荷電粒子は、空間分解角度分解光電子分光法(以下、空間分解ARPESと呼ぶ)を使用して研究することができる。空間分解ARPESを実施するための技術の1つは、試料上の小さい放出スポットを、光源を用いて照射して、放出スポットからの荷電粒子の発光を誘導することである。実験装置は分光計を含み、通常、半球エネルギー分析器がレンズ系と共に動作し、レンズ系は、試料から荷電粒子の粒子ビームを形成するように構成される。しかしながら、十分な精度で放出スポットの空間分解ARPESを実施できるようにするためには、レンズ系に対して放出スポットを正確に位置決めする必要がある。
【0004】
放出スポットの位置は、分光計に対する光源および試料の位置合わせに依存する。従来技術では、放出スポットは、最も一般的には、レンズ系の光軸上に、およびレンズ系からの正しい作動距離において、機械的に位置合わせされる。異なるパラメータの数は、正確な位置合わせを面倒にし、放出スポットのサイズが小さいために実現が極めて困難である。さらに、多くの方向における各構成要素の正確で非結合の機械的動作は高コストであり、そのような動作を実施することができたとしても、機械的ヒステリシスを回避し、予測することは極めて困難である。しかしながら、比較的大きい放出スポット、すなわちミリメートル単位のサイズの場合、十分な精度での位置合わせが機械的に実施されることがある。
【0005】
一方で、空間分解ARPESでは、放出スポットのサイズは、スリットの幅(W)よりも通常小さく、この状況では、機械的位置合わせには、部分的に上述した重大な欠点がある。スリットが光軸に垂直な平面内に配置され、半球エネルギー分析器の入射部に位置決めされた、角度モードで動作する分光計の場合、位置ずれした放出スポットは望ましくない外乱を生成する。外乱の原因は、強いアーチファクトおよびスペクトルシフトである可能性があり、これらの両方は、分光計のオペレータによって解釈する、または打ち消すことが困難である。これは、国際公開第2013/133739号パンフレットに開示されているように、角度偏向方法を使用してスリットに垂直な方向の開始角度にアクセスする場合に特に当てはまる。したがって、レンズ系の正確な位置合わせは困難であり、時間がかかる。一般にARPES測定に使用される試料の寿命は短いので、試料とレンズ、および偏向器の配置の正確な位置合わせを迅速に行い得ることが分光計の性能にとって重要である。そうでない場合、分析される試料が劣化する明らかなリスクがあり、測定を不可能にする。
【0006】
特開第2015036670公報は、電子を偏向させるために、前段レンズと開口との間に配置された前段偏向要素を備える電子分光計を記載している。このような電子分光装置によれば、電子ピックアップ部を構成する光学系の光軸外に位置する試料の領域から放出された光電子を偏向して、光軸と位置合わせさせることができる。これにより、試料の任意の領域から放出される光電子を測定することができる。このような電子分光計により、試料の様々な領域から放出された光電子を、電子捕捉ユニットを構成する光学系の光軸に位置合わせすることができる。特開第2015036670公報の開示による放出スポットは、試料全体、または試料の特定の領域をカバーし得る。試料全体をカバーする放出スポットを、または試料の特定の領域をカバーする放出スポットを、有する電子分光計の使用については区別されない。そのため、電子分光計の光軸に放出スポットを位置合わせる必要がない。分析する領域は、前段偏向要素内の電圧を調整することによって二次元で選択される。次の段階では、静電システムを使用して角度分解スペクトルを記録する。したがって、分光計および方法は、問題の機械的分離に依存し、これは、特定のレベルの近似、したがって特定のレベルの精度にしか到達することができない。さらに、多くの機械的境界条件は、分光計およびその構成要素の設計を制限する。
【0007】
上記の結果として、放出スポットのサイズがスリットの幅よりも小さい状況に関して、高品質のスペクトルを記録するため、改良された分光計、およびそのような分光計のための方法が必要とされている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0008】
【特許文献1】国際公開第2013/133739号
【特許文献2】特開2015-036670号
【発明の概要】
【0009】
上記に鑑みて、本開示の目的は、従来技術による、荷電粒子を光軸に垂直な方向に偏向させるために、荷電粒子分光計に関連する把握された欠点のうちの少なくとも1つを解決する荷電粒子分光計を提示することである。
【0010】
本開示の別の目的は、制御ユニットのプロセッサによって実行されると、上記の分光計を制御するように制御ユニットを構成する命令を含むコンピュータプログラムを提示することであり、これにより、従来技術による、荷電粒子分光計に関連する把握された欠点のうちの少なくとも1つが解決される。
【0011】
本開示のさらに別の目的は、荷電粒子分光計、および荷電粒子分光計を制御するコンピュータプログラムを提示することであり、放出スポットのサイズが分光計の分析領域の入射部で使用されるスリットの幅よりも小さいとき、高品質のスペクトルを記録するために、分光計は、分光計の静電レンズ系において光軸に垂直な方向に荷電粒子を偏向させるための少なくとも1つの偏向器を備える。
【0012】
これらの目的の少なくとも1つは、独立請求項による荷電粒子分光計およびコンピュータプログラムによって達成される。さらなる利点は、従属請求項の特徴によって達成される。
【0013】
本発明の第1の態様によれば、角度モードで動作可能な荷電粒子分光計を提供する。荷電粒子の入射部を有する第1の端部と、少なくとも二次元のマルチチャネル粒子検出器を有する第2の端部と、を有する撮像エネルギー分析器を、分光計は備える。少なくとも1つの入射スリットは、スリット方向に延在し、撮像エネルギー分析器に入射する荷電粒子を選択するために入射部に配置される。
【0014】
静電レンズ系は、光軸に沿って延在し、試料から放出された荷電粒子を撮像エネルギー分析器の入射部に移送するように配置され、静電レンズ系は、試料に面するように配置された第1の端部における少なくとも第1のレンズ要素と、撮像エネルギー分析器の入射部に面するように配置された第2の端部における最後のレンズ要素と、第1のレンズ要素と最後のレンズ要素との間に配置された少なくとも1つの中間レンズ要素と、撮像エネルギー分析器に入る前に、静電レンズ系の光軸に垂直な方向に荷電粒子の偏向を引き起こすように動作可能な少なくとも第1の偏向器と、を備える。
【0015】
制御ユニットは、撮像エネルギー分析器および静電レンズ系に適用される電圧を制御するようにさらに構成され、制御ユニットには、静電レンズ系の各レンズ要素および各偏向器に適用される個々の出力電圧設定のセットを含むレンズテーブルが設けられることを特徴とする。ここで、少なくとも1つの電圧設定は、光軸に対して一次元において試料上の放出スポットの公称空間位置を定義する第1のパラメータと、静電レンズ系の加速ポテンシャルを定義する第2のパラメータと、試料からの荷電粒子の放出方向を定義する第3のパラメータと、の少なくとも3つのパラメータによって定義される。
【0016】
出力電圧設定のセットは、加速ポテンシャルが第2のパラメータによって定義されている状態において、第1のパラメータによって定義される公称空間位置からの、第3のパラメータによって定義される放出角度の荷電粒子の偏向を変調するために静電レンズ系に適用される電圧を指定する。これにより、スリット面でスリットを横切る方向(α)の広がりを最小にして、撮像エネルギー分析器の入射スリットに入る荷電粒子の選択された粒子ビーム軌跡を制御することができる。
【0017】
このような分光計により、機械的位置決めデバイスを使用せずに、荷電粒子が放出される放出スポットの位置に公称空間位置を正確に位置決めすることができる。公称空間位置の電子的位置決めは、完全な位置合わせのために、静電レンズ系に適用される電圧に影響を及ぼす。レンズテーブルは、静電レンズ系の出力電圧設定の最適なセットの設定を可能にする。異なる出力電圧設定に対する異なる電圧のセットは、理論的に事前に計算されてもよい。
【0018】
ゼロ公称空間位置は、静電レンズ要素の所定のゼロ設定を有し、第1の偏向器および可能な追加の偏向器構成による偏向がない、静電レンズ系の通常の公称空間である。第2の偏向器構成は、任意選択であり、本発明の代替の実施形態に従って開示される。この代替実施形態は、広い動作範囲で粒子ビームを制御するために十分な自由度を有する。公称空間位置は、放出スポットの実際の位置に設定されるべきである。特定の設定点に対する出力電圧のセットは、公称位置を設定点によって定義される位置に設定するための電圧と、公称空間位置がゼロ公称空間位置にあるときの特定の放出角度に対する電圧のセットと、の重ね合わせではない。
【0019】
より具体的には、差分電圧の第1のセットは、スリット方向に垂直な平面内で、放出角度θ=0°でのy軸に沿った位置yにおける放出スポットの公称空間位置を位置決めする電圧のセットと、スリット方向に垂直な平面内で、放出角度θ=0°でのy軸に沿ったゼロにおける放出スポットの公称空間位置を位置決めする電圧のセットと、の間の差分のセットとして定義され得る。差分電圧の第2のセットは、スリット方向に垂直な平面内で、放出角度θ=10°でのy軸に沿ったゼロにおける放出スポットの公称空間位置を位置決めする電圧のセットと、スリット方向に垂直な平面内で、放出角度θ=0°でのy軸に沿ったゼロにおける放出スポットの公称空間位置を位置決めする電圧のセットと、の間の差分のセットとして定義され得る。次いで、重ね合わせによって計算された電圧のセットは、スリット方向に垂直な平面内で、放出角度θ=0°でのy軸に沿ったゼロにおける放出スポットの公称空間位置を位置決めし、第1の差分電圧のセットおよび第2の差分電圧のセットである。しかしながら、そのような重ね合わせは、最適な画像化をもたらさず、最適な分解能を妨げる。
【0020】
第1の態様による分光計を用いて達成可能な高い分解能は、入射スリットの幅(W)よりも小さい最大径を有する、試料の放出スポットから荷電粒子を放出させることで達成可能である。入射スリットの幅よりも著しく大きい放出スポットの場合、第1の態様による分光計による分解能の利得が、さらに制限される。
【0021】
本発明のさらなる利点は、経験的調整パラメータのパラメータ化が、モデルに基づく有界関数を介して要素を調整することである。これは、角度モード動作の完全性が維持されることを意味し、これは、撮像面における荷電粒子の位置が、試料からの荷電粒子の放出角度に線形に依存する一次近似にあることを意味する。さらに、これにより、オペレータは、特に角度モードで分光計を利用するときに、以前は不可能であった方法で荷電粒子分光計の位置合わせを解釈し、調整することが可能になる。
【0022】
本発明の代替の実施形態によれば、静電レンズ系は、撮像エネルギー分析器に入る前に少なくとも2回目の、光軸に垂直な方向における荷電粒子の偏向を引き起こすように動作可能な第2の偏向器をさらに備える。これにより、2回偏向された粒子ビームと、1つの方向(y)の光軸との位置合わせが達成され、これにより、粒子ビームは、スリット平面でスリットを横切る方向(α)の広がりを最小にして、撮像エネルギー分析器の入射スリットに入ることができる。これにより、最大20度以上の光軸に向かう開始角度を有する荷電粒子についても、撮像エネルギー分析器の強度と分解能との両方を維持することができる。開始角度のこのような大きい間隔を利用する能力は、2つの後続の偏向を利用しない一般的な場合に許容される最大で数回と比較して改善されている。これに関連して、荷電粒子の偏向は、磁気偏向器、レンズまたはレンズ配置の機械的傾斜、偏向器ポテンシャルを変更すること、すなわち、分光計において荷電粒子をそれらの意図された軌跡から偏向することによって静電偏向を引き起こすための様々な方法、を含む任意の既知の技術を使用して行われ得ることが言及されるべきである。しかしながら、高度に分解された角度測定のための好ましい実施形態は、いかなる機械的動作も伴わない静電偏向手段に依存する。これにより、いかなる機械的動作を伴わずに予め定義された一連の偏向設定を含む測定方式を迅速に、正確に、再現性高く実施することができる。
【0023】
本発明の一実施形態によれば、出力電圧設定は、少なくとも2つの相互に鏡面対称でない要素が個々の電圧設定を有するように構成され、各設定は、選択された条件に関連する少なくとも1つの選択された軌跡を制御するための少なくとも3つのパラメータによって分離不可能な方法で定義される。
【0024】
選択されたパラメータに関連する少なくとも1つの選択された軌跡を制御するための出力電圧設定は、選択されたパラメータの連続関数のセットによって定義されてもよい。これは、たとえ設定位置が互いに近接していくつかの次元に密接して分散され得るとしても、離散的に事前定義された設定位置を有するレンズテーブルよりもさらなる利点を提供する。
【0025】
さらに、上記パラメータのいずれかの値は、上下の境界条件内で連続的に選択されてもよく、静電レンズ系の各要素の出力電圧設定は、パラメータの連続関数として定義されてもよい。レンズテーブルは、選択されたパラメータに関連する少なくとも1つの選択された軌跡を制御するために静電レンズ系の要素に適用される電圧を指定する。
【0026】
公称空間位置は、多くの異なる方法で取得され得る。公称空間位置は、ユーザによって設定されてもよく、または自動位置合わせ手順を使用して取得されてもよい。設定点をどのように取得することができるかについての例を以下に示す。公称空間位置は、放出スポットの実際の位置に設定される。
【0027】
第1のパラメータは、スリット方向を横断する方向における公称空間位置を定義し得る。この方向は、スリット幅(W)の延長と一致し、エネルギー分散方向とも呼ばれることがある。入射スリットの延長方向を横断する方向における公称空間位置の正確な配置は、高分解能を達成するために重要である。第1のパラメータが入射スリットの延長方向を横断する方向における公称空間位置を定義するとき、これは通常のデカルト座標系で適切に実施される。
【0028】
設定点はまた、第2次元における公称空間位置を定義する第4のパラメータによって定義されてもよい。スリット方向を横切る方向における放出スポットの公称空間位置とは別に、制御のための重要な方向は、光軸に沿った放出スポットの公称空間位置である。この目的のために、第4のパラメータは、静電レンズ系の光軸に沿った方向における空間位置を定義し得る。
【0029】
出力電圧設定は、少なくとも5つのパラメータによって定義されてもよく、そのうちの3つのパラメータは、光軸および第1のレンズ要素に対して、三次元で試料上の放出スポットの公称空間位置を定義する。公称空間位置を定義する3つのパラメータを有することによって、放出スポットの公称空間位置を容積内に位置決めすることができる。空間パラメータの位置をデカルト座標で定義するのが明快であるが、極座標も可能である。
【0030】
代替的な一実施形態によれば、放出スポットの公称空間位置の位置は、最初に、スリット方向を横切る方向に、続いて光軸に沿った方向に、最後にスリット方向に沿って、最適化される。各方向の最適化は、一方向に小さい距離を移動し、次いで最適なスペクトルが記録されるまでその位置からスペクトルを評価することによって、反復で実施され得る。別の代替実施形態によれば、位置合わせは、スリット方向に垂直な平面内で正の放出角度に対する分光計スループットが、スリット方向に垂直な平面内で、負の放出角度に対する分光計スループットと対称であるように、配置することによって最適化される。このような測定方式を、角度分散のないエネルギー位置で測定するときに解釈することができる。あるいは、非分散バックグラウンドを増強するためのコンピュータアルゴリズムを利用することができる。
【0031】
撮像エネルギー分析器およびマルチチャネル粒子検出器の構成は、マルチチャネル粒子検出器のエネルギーウインドウを決定する。パスエネルギーの概念は、当分野で周知である。静電レンズ系によって管理される必要がある荷電粒子の最高エネルギーは、パスエネルギーにエネルギーウインドウの半分を加えたものである。静電レンズ系によって管理される必要がある荷電粒子の最低エネルギーは、パスエネルギーからエネルギーウインドウの半分を引いたものである。位相差比は、選択されたエネルギーウインドウ内での試料における荷電粒子の運動エネルギーの中央値と、パスエネルギーとの間の比として定義される。低位相差比の場合、これは、試料における荷電粒子の運動エネルギーの中央値と比較して、エネルギーウインドウが大きいことを意味し、したがって、極めて異なる運動エネルギーを有する荷電粒子を静電レンズによって制御する必要がある。色収差のため、異なる運動エネルギーを有する荷電粒子はレンズ系内で異なる焦点を結ぶため、運動エネルギーの大きく異なる荷電粒子を制御することは困難である。位相差比を変更することなく、エネルギー方向における検出器中心からのシフトを定義する追加のパラメータを制御することにより、スペクトルの第1の部分では低エネルギー、スペクトルの第2の部分では中エネルギー、スペクトルの第3の部分では高エネルギーの粒子を優先して制御することができる。次いで、第1、第2、および第3のスペクトルをマージすることによって、全スペクトルを取得することができる。一般的な場合、検出器ウインドウ内の任意のエネルギーレベル(EkPrio)を優先することができる。さらに、エネルギーウインドウ内の走査エネルギーレベルに基づく取得アルゴリズムは、位置合わせ機能に重ね合わされる場合に価値がある。これは、放出スポットが位置ずれしている場合、スペクトルの加重和が強いアーチファクトを生成するためである。
【0032】
放出角度がマルチチャネル粒子検出器で優先される、光軸に対する入射スリットの平面内で荷電粒子の放出角度を定義する角度パラメータによっても、設定点は定義され得る。このようなパラメータは、分光計が荷電粒子の大きい位相差比で配置されているときに特に重要である。
【0033】
大きい位相差比では、荷電粒子はレンズ系内で強く遅延されることになる。これは、粒子ビームの全発散を必然的に増加させ、選択された作用点の周りの発散の変化率が増加することを意味する。選択された軌跡とは異なる軌跡に関連する荷電粒子は、マルチチャネル粒子検出器上で正しく撮像されない可能性がある。これは、大きい放出角度オフセットのための低品質のスペクトルまたは欠落したスペクトルをもたらす可能性がある。しかしながら、ゼロではない、光軸に対する入射スリットの平面において、特定の放出角度を優先することによって、小さい放出角度成分θに対するスペクトルの品質を犠牲にして、大きい放出角度成分θに対するスペクトルを改善することができる。
【0034】
本発明の代替の実施形態によれば、検出器中心に関連する軌跡からの角度シフトを定義する追加のパラメータにも依存するレンズテーブルを導入することが有益であることが分かっており、シフトは、スリットに沿った座標(x)方向の角度成分(θ)であり、そのパラメータを変更するだけでレンズテーブルを変調し、これにより、検出器ウインドウ内の任意の角度レベル(θxPrio)を選択して、選択された粒子軌跡に関連付けることができる。エネルギーレベルに関する前述の説明と同様に、角度分散方向の検出器ウインドウ内の走査角度レベルに基づく高度な取得アルゴリズムは、位置合わせ機能に重ね合わされた場合にのみ真に価値がある。これは、放出スポットがずれている場合、スペクトルの加重和が強いアーチファクトを生成するためである。
【0035】
本発明の第2の態様によれば、角度モードで動作可能な荷電粒子分光計を制御するコンピュータプログラムが提供される。荷電粒子の入射部を有する第1の端部と、少なくとも二次元のマルチチャネル粒子検出器を有する第2の端部と、を有する撮像エネルギー分析器を、分光計は備える。スリット方向に延在する少なくとも1つの入射スリットが、撮像エネルギー分析器に入射する荷電粒子を選択するために入射部に配置される。
【0036】
静電レンズ系は、光軸に沿って延在し、試料から放出された荷電粒子を、撮像エネルギー分析器の入射部に移送するように配置される。静電レンズ系は、試料に面するように配置された第1の端部における少なくとも第1のレンズ要素と、撮像エネルギー分析器の入射部に面するように配置された第2の端部における最後のレンズ要素と、第1のレンズ要素と最後のレンズ要素との間に配置された少なくとも1つの中間レンズ要素と、撮像エネルギー分析器に入る前に、静電レンズ系の光軸に垂直な少なくとも第1の座標方向に荷電粒子の偏向を引き起こすように動作可能な少なくとも第1の偏向器と、を備える。
【0037】
プロセッサを備える制御ユニットが、撮像エネルギー分析器および静電レンズ系に適用される電圧を制御するように構成され、命令をさらに備えることを特徴とし、命令が、プロセッサによって実行されると、静電レンズ系の各レンズ要素および各偏向器に適用される個々の出力電圧設定のセットを含むレンズテーブルが設けられるように制御ユニットを構成し、少なくとも1つの電圧設定が、光軸に対して一次元において試料上の放出スポットの公称空間位置を定義する第1のパラメータと、静電レンズ系の加速ポテンシャルを定義する第2のパラメータと、試料からの荷電粒子の放出方向を定義する第3のパラメータと、の少なくとも3つのパラメータによって定義され、出力電圧設定のセットが、加速ポテンシャルが第2のパラメータによって定義されている状態において、第1のパラメータによって定義される公称空間位置からの第3のパラメータによって定義される放出角度の荷電粒子の偏向を変調するために静電レンズ系に適用される電圧を指定し、これにより、スリット面においてスリットを横切る方向(α)の広がりを最小にして、撮像エネルギー分析器の入射スリットに入る荷電粒子の選択された粒子ビーム軌跡を制御する。
【0038】
レンズテーブルは、プロセッサによってアクセス可能なメモリに記憶される。メモリは、制御ユニットと一体化されても、外部メモリであってもよい。外部メモリは、クラウドベースのメモリ、またはリモート物理メモリであってもよい。
【0039】
コンピュータプログラムは、機械的位置決めデバイスを使用せずに、荷電粒子が放出される実際の放出スポットの位置に放出スポットの公称空間位置を正確に位置決めすることができる。放出スポットの公称空間位置の電子的位置決めは、完全な位置合わせのために、静電レンズ系に適用される電圧に影響を及ぼす。レンズテーブルは、静電レンズ系の出力電圧設定の最適なセットを可能にする。異なる設定点に対する異なる電圧のセットは、理論的に事前に計算されてもよい。
【0040】
以下、本発明の好適な実施形態について図面を参照しつつ説明する。
【図面の簡単な説明】
【0041】
図1】撮像エネルギー分析器および静電レンズ系を有する荷電粒子分光計を概略的に示す図である。
図2図1の撮像エネルギー分析器の断面A-A、およびマルチチャネル粒子検出器の位置を示す図である。
図3図1の静電レンズ系の断面図および試料を示す図である。
図4】試料および静電レンズ系の第1の端部を詳細に示す図である。
図5】試料および座標系を詳細に示す図である。
図6】荷電粒子がどのように偏向され、その角度動作モードにおいて分光計の静電レンズ系の撮像面上で撮像されるかを示す図である。
図7】撮像エネルギー分析器の入射スリットを通る荷電粒子の軌跡を示す図である。
図8】スリットに対して垂直からの軌跡の角度オフセットがマルチチャネル検出器の径方向オフセットにどのように影響するかを示す図である。
図9a】静電レンズが最適に位置合わせされるとき、スリット方向θ=0°に垂直な平面内で放出角度が角度モードで入射スリット上に位置決めされるように、電圧が静電レンズに適用されるときの、入射スリットにおける荷電粒子の位置を示す図である。
図9b】分光計が角度モードで第1の角度を検出するように設定されているとき、スリットに沿って、およびスリットを横切る位置に応じた入射スリットにおける角度オフセットを示す図である。
図10a】静電レンズが最適に位置合わせされるとき、スリット方向θ=10°に垂直な平面内で放出角度が角度モードで入射スリット上に位置決めされるように、電圧が静電レンズに適用されるときの、入射スリットにおける荷電粒子の位置を示す図である。
図10b図10aの設定で、スリットに沿って、およびスリットを横切る位置に応じた入射スリットにおける角度オフセットを示す図である。
図11a】静電レンズが最適に位置合わせされるとき、スリット方向θ=10°に垂直な平面内で放出角度が角度モードで入射スリット上に位置決めされるように、電圧が静電レンズに適用されるときの、入射スリットにおける荷電粒子の位置を詳細に示す図である。
図11b図11aによる設定について、スリットに沿って、およびスリットを横切る位置に応じた入射スリットにおける角度オフセットを示す図である。
図12a】静電レンズが第1の方向にずれているとき、スリット方向θ=10°に垂直な平面内で放出角度が角度モードで入射スリット上に位置決めされるように、電圧が静電レンズに適用されるときの、入射スリットにおける荷電粒子の位置を詳細に示す図である。
図12b図12aによる設定について、スリットに沿って、およびスリットを横切る位置に応じた入射スリットにおける角度オフセットを示す図である。
図13】静電レンズがレンズテーブルからの電圧のセットと電子的に位置合わせされるとき、図12aおよび図12bによるθの選択および位置ずれについて、スリットに沿って、およびスリットを横切る位置に応じた入射スリットにおける角度オフセットを示す図である。
図14】静電レンズが重ね合わせを使用して電子的に位置合わせされるとき、図12aおよび図12bによるθの選択および位置ずれについて、スリットに沿った、およびスリットを横切る位置に応じた入射スリットにおける角度オフセットを示す図である。
図15】静電レンズが最適に位置合わせされるとき、スリット方向θ=-10°に垂直な平面内で放出角度が角度モードで入射スリット上に位置決めされるように、電圧が静電レンズに適用されるときの、スリットに沿った位置に応じた入射スリットにおける角度オフセットを示す図である。
図16】静電レンズがy方向に-0.3mmずれているとき、スリット方向30に垂直な平面内で放出角度θ=-10°が角度モードで入射スリット上に位置決めされるように、電圧が静電レンズに適用されるときの、スリットに沿った、およびスリットを横切る位置に応じた入射スリットにおける角度オフセットを示す図である。
図17】静電レンズがレンズテーブルからの電圧のセットと電子的に位置合わせされるとき、図16によるθの選択および位置ずれについて、スリットに沿った、およびスリットを横切る位置に応じた入射スリットにおける角度オフセットαを示す図である。
図18】静電レンズが重ね合わせを使用して電子的に位置合わせされるとき、図16によるθの選択および位置ずれについて、スリットに沿った、およびスリットを横切る位置に応じた入射スリットにおける角度オフセットαを示す図である。
図19】静電レンズが第2の方向にずれているとき、スリット方向θ=10°に垂直な平面内で放出角度が角度モードで入射スリット上に位置決めされるように電圧が静電レンズに適用されるときの、スリットに沿った、およびスリットを横切る位置に応じた入射スリットにおける角度オフセットを示す図である。
図20】分光計が図19による検出のために設定されているとき、および静電レンズがレンズテーブルからの電圧のセットで第2の方向に電子的に位置合わせされているとき、スリットに沿った、およびスリットを横切る位置に応じた入射スリットにおける角度オフセットを示す図である。
図21】分光計が図19による検出のために設定されているとき、および静電レンズが重ね合わせを使用して電子的に位置合わせされているとき、スリットに沿った、およびスリットを横切る位置に応じた入射スリットにおける角度オフセットを示す図である。
図22】θxPrioを8°に設定し、図11aによる設定について、スリットに沿った、およびスリットを横切る位置に応じた入射スリットにおける角度オフセットを示す図である。
図23】異なるエネルギーの荷電粒子のマルチチャネル粒子検出器上の位置を示す図である。
【発明を実施するための形態】
【0042】
以下では、本発明は、例示的で、非限定的な例示的な実施形態を使用して説明し、添付の図面を参照については、必ずしも縮尺通りに描いていない。異なる図面に現れる同様の特徴は、同じ参照番号で示す。
【0043】
図1は、一実施形態による、荷電粒子分光計100を示している。分光計は、撮像エネルギー分析器101を備える。図2は、図2のA-Aに沿った撮像エネルギー分析器の断面図である。撮像エネルギー分析器101は、外側金属半球103のみを示す2つの同心金属半球を備える半球エネルギー分析器101である。半球エネルギー分析器では、第1の端部1および第2の端部3は、本質的に同一平面内に通常ある。荷電粒子分光計100は、荷電粒子を試料6から半球エネルギー分析器101の入射部9に移送するように配置された静電レンズ系102を備える。試料6からの荷電粒子の放出は、試料を電磁放射線で照射することによって達成し得る。荷電粒子は、入射部9を通って半球エネルギー分析器101に入る。第2の端部3における荷電粒子の位置は、第1の端部1における荷電粒子の運動エネルギー、および半球エネルギー分析器101に適用される静電場の大きさ、すなわち、上述のように外側金属半球103のみが示す2つの金属半球間に依存する。半球エネルギー分析器およびそれらの機能は、技術分野において周知であり、詳細には説明しない。少なくとも二次元のマルチチャネル粒子検出器4が、半球エネルギー分析器101の第2の端部3に配置され、マルチチャネル粒子検出器4は、複数の検出チャネルを有する。破線5は、半球エネルギー分析器101の径方向を示す。マルチチャネル粒子検出器4上の破線5に沿った荷電粒子の位置は、第1の端部1における荷電粒子の運動エネルギーおよび半球エネルギー分析器101に適用される電圧の大きさに依存する。入射スリット2が、半球エネルギー分析器101に入る荷電粒子を選択するために、入射部9に配置される。入射スリット2は、x軸に沿った主延長方向を有する。荷電粒子分光計100は、荷電粒子を試料6から半球エネルギー分析器101の入射部9に移送するように配置された、光軸10を有する静電レンズ系102を備える。静電レンズ系102は、第1の端部11に、試料に面するように配置された第1のレンズ要素12を備え、第2の端部13に、半球エネルギー分析器101の入射部9に面するように配置された最後のレンズ要素14を備える。第1のレンズ要素12は、試料6からの荷電粒子が静電レンズ系102に入り得る開口40を備える。
【0044】
図3に示す静電レンズ系102はまた、3つの中間レンズ要素15、15’、15’’を備える。静電レンズ系102におけるレンズ要素の数は、設計によって異なり得るが、通常、少なくとも3つのレンズ要素を有する。
【0045】
この第1の実施形態によれば、静電レンズ系はまた、中間レンズ要素15’内に、半球エネルギー分析器101の入射前にレンズ系の光軸10に垂直な第1の方向(x、y)に荷電粒子の偏向を引き起こすように動作可能な第1の偏向器16A/16C、16B/16Dと、半球エネルギー分析器101の入射前に少なくとも2回目の、光軸10に垂直な方向(x、y)における荷電粒子の偏向を引き起こすように動作可能な第2の偏向器17A/17C、17B/17Dと、を備える。第1の偏向器は、4つの偏向器要素16A、16B、16C、16Dを備える。同様に、第2の偏向器は、4つの偏向器要素17A、17B、17C、17Dを備える。対向するペアの偏向器要素16A、16B、16C、16D、17A、17B、17C、17Dに電圧を適用することによって、荷電粒子の方向が影響を受ける可能性がある。入射スリットは、y方向に幅Wを、x方向に高さHを、有する。
【0046】
荷電粒子分光計100はまた、半球エネルギー分析器101および静電レンズ系102への電圧を制御するように構成される制御ユニット20を備える。制御ユニット20は、コンピュータプログラムを実行するように構成されるプロセッサ38を備える。コンピュータプログラムは、命令を備え、命令は、プロセッサによって実行されると、この説明に従って分光計への電圧の動作を制御するように制御ユニットを構成する。
【0047】
荷電粒子分光計100は、光軸10に沿った入射スリット2の位置において、放出スポット21からの荷電粒子を撮像面22上に撮像する角度モードで動作可能である。撮像面22内の荷電粒子の位置は、放出スポット点からの荷電粒子の放出角度、および静電レンズ系に適用される電圧に依存する。第1の偏向器16A/16C、16B/16D、および第2の偏向器17A/17C、17B/17Dの電圧は、撮像面22における荷電粒子の位置に影響を与える。しかしながら、第1の偏向器16A/16C、16B/16D、および第2の偏向器17A/17C、17B/17Dに対する電圧の影響は、他のレンズ要素12、14、15、15’、15’’に対する電圧に依存する。
【0048】
図4は、静電レンズ系102の第1のレンズ要素12、および静電レンズ系102の光軸10を概略的に示している。図4には、放出スポット24内で試料6に当たる入射放射線のビーム23も示している。入射放射線は、例えば、シンクロトロン放射線またはレーザー光であってもよい。放出スポット24のサイズは、ビーム23の幅に依存する。空間分解ARPESを実施するためには、10μm未満の放出スポットであることが望ましい。また、図4には、放出スポット21のゼロ公称空間位置も示されている。ここで、ゼロ公称空間位置とは、第1の偏向器16A/16C、16B/16D、および第2の偏向器17A/17C、17B/17Dに電圧が適用されず、異なるレンズ要素12、14、15、15’、15’’への電圧の公称設定が適用された静電レンズの公称空間位置の位置である図4に見られるように、放出スポット24の位置は、ゼロ公称空間位置21の位置と一致しない。図4の放出スポット24およびゼロ公称空間位置21の位置は、荷電粒子分光計100、ビーム23、および試料6の機械的位置合わせ後の結果である。放出スポット24が、ゼロ公称空間位置21にあるように、ビーム23をゼロ公称空間位置21および試料6と位置合わせすることは極めて困難であることが多い。これは、ビーム23の源がシンクロトロンであるときに特に当てはまる。レンズ要素12、14、15、15’、15’’は、好ましくは回転対称である。
【0049】
図4の破線の箱型26は、静電レンズ系102に適用される電圧を調整することによって放出スポットの公称空間位置を移動させ得る領域を示している。調整は、レンズ偏向器励起によって主に調節される。特定の公称空間位置に対する電圧のセットが、計算され得る。これにより、ゼロ公称空間位置を放出スポット24の位置に移動することができる。制御ユニット20は、ゼロ公称空間位置21に関連する第1の空間次元における空間位置を定義する第1のパラメータを含む設定点をユーザから受け取り、静電レンズ系102への電圧を制御することによって、設定点によって定義された空間位置への放出スポットの公称空間位置を制御するように構成される。このようにして、ゼロ公称空間位置は、移動され得る。公称空間位置を放出スポット24の位置に移動させるために、以下で詳細に説明する様々な方法を使用してもよい。1つの方法は、公称空間位置が放出スポット24の位置にあると判定されるまで、公称空間位置の小さい移動、それに続く荷電粒子の関連測定を含んでもよい。
【0050】
静電レンズ系の第1の端部11は、試料から、したがって放出スポット24から、任意の距離にある。試料と、レンズ系102の第1の端部11との間の静電場は、いかなる有意なレンズ効果も誘発しないように十分に小さいことが好ましい。試料6と第1のレンズ要素12との間の距離は、一般に作動距離WDと称される。第1のレンズ要素12の開口40は、開口40の半径と作動距離WDとに基づいて静電レンズ系102への許容立体角を単純に選択する幾何学的フィルタとして機能する。大きい作動距離WDは、単純な機械的観点からだけでなく、静電場結合の観点からも試料の回転を可能にする。これは、試料の周囲に極低温シールドが使用される場合に特に重要である。しかしながら、他の設計の観点からは、大きい許容角度であっても、レンズ要素12、14、15、15’、15’’の妥当な半径を部分的に可能にするので、比較的小さい作動距離WDが好ましい。静電レンズは、好ましいWDのために構成される。
【0051】
説明した実施形態による静電レンズ系102は、角度モードで動作される。すなわち、光軸10に沿った所望の位置に放出スポットのフーリエ面が生じるように、静電レンズ系102の各レンズ要素が励起される。フーリエ面(またはその後測定された角度分布)は、静電レンズ系102の光軸に関連する。しかしながら、試料6の物理的特性は、試料表面法線に関連する。解釈のための物理的特性への変換は、データ後処理によって実施され得るが、この変換については、ここではさらに説明しない。
【0052】
入射スリット2は、最後のレンズ要素14の下流に位置するフーリエ面内に位置決めされる。説明した実施形態では、最後のレンズ要素14は、入射スリット2と同じポテンシャルである。最後のレンズ要素14上のポテンシャルを加速ポテンシャルと呼ぶことにする。そのような設計は、最後のレンズ要素14と入射スリット2との間の無場領域を可能にする。入射スリット2は非回転対称であるため、上記領域に電界を有しないことが好ましい。
【0053】
以下に説明する実施形態では、200mmの平均半径で設計された半球エネルギー分析器の特性は、シミュレーションソフトウェアを使用して検証されている。幾何学的形状および境界条件は、性能および一般的挙動が文献に示されているものと同様になるように、設計されている。半球エネルギー分析器の内部では、ポテンシャルは一般に加速ポテンシャルを基準とする。さらに、エネルギー分析器の内側半球および外側半球は、スリット面に垂直な方向、および選択されたパスエネルギーEで、光軸上に入射する電子が半球間の一定半径経路を辿り、180度の球面偏向に位置決めされる検出器の中心に到達するように、励起される(ただし、設計に応じていくつかのオフセットが適用されてもよい)。したがって、一定のパスエネルギーの場合、外側球、および同様に内側球は、加速ポテンシャルに対して一定のオフセットを有することになる。半球エネルギー分析器のポテンシャルは、接地ポテンシャルを基準とする場合、加速ポテンシャルによって変化する。ハイパスエネルギーはスループットを促進し、多くの場合、器具の安定性も高める。ローパスエネルギーは、高エネルギー分解能を主に促進する。
【0054】
半球エネルギー分析器は、パスエネルギーに近く、入力ビーム発散の数度の限界内で、一定の入力エネルギーに対して適度に良好な画像特性を有する。径方向において、半球エネルギー分析器は、形式的には静電プリズムであり、高度に有彩色である。半径200mmの半球エネルギー分析器の場合、1eVのパスエネルギーのエネルギー分散は、400mm/eVである。高エネルギー分解能と高角度分解能との両方の測定を効率的に行うために、二次元位置敏感検出システムが必要とされる。例の幾何学的形状では、垂直方向に30mmのスリット全体を依然として撮像しつつ、径方向に少なくとも32mmを記録し得る検出器を有することが合理的である。これにより、0.08eVのエネルギーウインドウが得られる。大きいパスエネルギーの場合、特性は線形的にスケーリングされ、例えば、10eVのパスエネルギーの場合、エネルギー分散は、40mm/eVであり、エネルギーウインドウは、0.8eV(パスエネルギーの8%)である。
【0055】
静電レンズは、本質的に有彩色である。合理的なフーリエ面は、小さいエネルギー間隔内のスリット面でのみ生成することができる。さらに、レンズ系の1つの目的は、初期運動エネルギーEを有する選択された電子を試料から半球エネルギー分析器のスリットに移送し、これにより、この電子のエネルギーが、選択されたパスエネルギーで半球エネルギー分析器に入るようにすることである。初期運動エネルギーEは、試料のすぐ外側の電子の運動エネルギーとして定義される。保存力が静電粒子光学系を支配するので、後者の作業は、それに応じて加速ポテンシャルを調整することによって容易に実施される。例えば、対象のエネルギーウインドウの中心が87eVであり、パスエネルギーが10eVになるように選択される場合、加速ポテンシャルは、10-87=-77Vに設定されるべきである。したがって、テイクオフ方向とレンズ系を通る経路とは無関係に、同じエネルギーであるが異なる方向から始まる2つの電子は、レンズ前部開口内に入る場合、任意の機械的要素と交差しない限り、共通のエネルギーでスリット面に入る。一般用語Eをレンズ系の設定と区別するために、EkLensという表記を系の設定に使用する。
【0056】
保存的な力はまた、レンズ設定をスケーラブルにし、したがって、レンズ設定は、その位相差比RRとして共通的に記憶され、ここで、RR=EkLens/Eである。例えば、第1のレンズL1のレンズ設定がEkLens=20eVおよびE=10eVで、100Vであることが判明した場合、解は、L1=500Vで、EkLens=100eVおよびE=50eVにスケーリング可能である。すなわち、RR=2では、L1=10V/eVである。
【0057】
静電レンズ系では、粒子は、個々のレンズ要素のポテンシャルに応じて、その経路に沿って加速または減速される。個々のレンズ効果は、異なるポテンシャルの2つのレンズ要素間の領域で主に発生する。必要とされるレンズ要素の数は、境界条件および設計に依存する。通常、例示的な実施形態に関して、前部レンズ要素は、一定の接地ポテンシャルにある。上述したように、加速ポテンシャルに最後のレンズ要素を有することに利点がある。離散的な設定の場合、接地された前部要素と、加速ポテンシャル上の最後の要素との間の中間位置における自由に調整可能なレンズ要素を1つだけ有することで十分である。しかしながら、連続的な位相差比にわたって一定の角度分散を実現するために、少なくとも3つの自由に調整可能なレンズ要素が通常展開される。レンズ要素の数が多いと、角度分散および角度集束特性を大幅に変化させる可能性が高くなる場合もある。改善された柔軟性は、過度に決定された最適化問題をもたらし、これは、特定の位相差比および所望の分散について、許容可能な解決策をもたらす調整可能なレンズ要素のいくつかの組合せが存在する可能性があることを意味する。
【0058】
機器の極めて望ましい特性は、いかなる特異性も挙動の急激な変化もなく、位相差比を自由に選択できることである。したがって、従来技術では、それぞれが可能な位相差比の間隔内で一定の角度分散特性を表す一次元レンズテーブルを作成するために多大な努力がなされてきた。一般的な場合については、解析式を見つけることができない。したがって、レンズテーブルは、位相差比に関して多数の個別の較正点に一般に分割される。したがって、厳密に増加する一連の位相差比に対して、自由に調整可能な各レンズ要素は、一連の対応するポテンシャル設定を有する。レンズテーブルという用語はまた、テーブル化された値がいくつかのパラメータ化されたレンズ特性の一定の挙動、この文脈では主に角度分散を表すこと、および各一連のテーブル化された値が、中間の位相差比のポテンシャルを変動またはオーバーシュートなしに標準的なスプラインルーチンで補間することができる、すなわち、局所的に滑らかな挙動を有するようなものであること、を意味する。したがって、レンズテーブルは、この文脈において、複雑な最適化問題内の境界条件のセットを共に満たす一次元曲線のセットである。
【0059】
半球の入射スリット2の場合、エネルギー分散方向(y方向)の寸法は、伝統的に、スリットの幅W図3参照)で表される。高い角度およびエネルギー分解能のために、スリットの幅は比較的狭い必要がある。スリットの高さH図3参照)は、x方向にあり、この文脈では、マルチチャネル粒子検出器4の角度分散方向に関連する。スリットの高さの寸法は、比較的大きくすることができるが、半球エネルギー分析器の撮像特性のために、いくつかの制限が適用される。半球エネルギー分析器への非回転対称入射領域は、様々な方法で設計することができる。高分解能用途では、半球の入射スリット2の前に、エネルギー分散方向であるy方向に少なくともいくらかの制限を有することが有益である。光軸10およびx方向によって画定される平面に対する入射スリット2平面における粒子軌跡の角度オフセットは、従来、α角度で示される。
【0060】
入射スリット2に入る粒子ビームの小区分のα角度分布の制御は、半球エネルギー分析器の最終径方向検出器位置に対する二次α依存性(式のαはラジアンで与えられる)に起因して、エネルギー分解能にとって最も重要である。極めて小さいα角度および一定のエネルギーの場合、スリットは、スリット幅Wに関連する方向に撮像されることになる。この方向に大きい発散を可能にすると、エネルギー分散方向における検出器平面上のスリット像の非対称な広がりを生じることになり、それによって最終的なエネルギー分解能が直接低下する。レンズが撮像モードで実行されるとき、またはレンズを角度モードで実行するときに拡張エミッタが使用されるとき、入射スリット2のいくらかの距離の上流に位置決めされた開口スリット42(図3を参照)が、エネルギー分散方向のビーム発散を制御するために使用されることが多い。開口スリット42の高さHは、入射スリット2の高さHと同程度である。開口スリット42の幅Wおよび光軸10の上流のそのオフセット位置は、どの軌跡が入射スリット2に入ることができるかを決定することになる。開口スリット42は、入射スリット2の幅Weと一般的にペアリングされ、それに依存する。ペアリングは、エネルギー分解能と感度(測定の強度)との間の最適化問題として選択される。エネルギー分解能の相対損失の観点から見ると、大きい入射スリット2の幅は、広いα角度分布を可能にする。一般に、ユーザは、離散的な組合せペアのセットから選択することができる。
【0061】
極めて小さい放出スポットからの角度モード動作の場合、スリット面上のビーム分布は、本質的に局所的にコリメートされるようになる。したがって、完全に位置合わせされて良好に機能する器具(レンズ内の角度パターンの偏向なし)の場合、開口スリット42は、多くの有用な設定について冗長になる。開口スリット42を使用しない実装形態が存在するか、または恐らく本文脈内で一般的には、特大の開口スリット42の幅Wと組み合わされた選択可能な小さい入射スリット2の幅Wが存在する。後者の場合、開口スリット42は、主に極端な異常値の除去のために実装される。
【0062】
電子的傾斜角の方法とも呼ばれる、公開された国際特許出願第2013/133739パンフレットに開示された角度偏向方法の導入後、α角度分布を制御する必要性は、機器の実際の動作範囲を制限する境界条件になっている。一般的な設定では、レンズの例示的な実施形態に提示されているような二重偏向系は、理論的には、その時点で1つの軌跡についてスリット面における位置および方向の所望の組合せしか保証できない。広い分布の特性、すなわち、半球エネルギー分析器のバンドパスフィルタのエネルギーウインドウ内で入射スリット2開口に向けられた角度パターンの分布、スリット平面での特性は、色収差、球面収差、リウヴィルの定理によって支配される理論的境界などにより、理想的な挙動とはいくらか異なる。結果として、いくつかの設定では、入射スリット2に向けられたすべての軌跡についてα角度がゼロになるように、分布を制御するために十分な自由度がないだけである。開口スリット42が使用される場合、入射スリット2に向けられているが大きすぎるα角度を有する軌跡は、開口スリットによって切断され、それによって検出器画像の関連部分の強度も切断される。これは角度カットオフ問題と呼ばれている。特大の開口スリットを使用する場合、大きすぎるα角度で入射スリット2に入る軌跡は、二次α依存性に従ってシフトされた検出器になる。妥当なα角度では、エネルギーシフトは、検出器画像の画像修正を実施するソフトウェアアルゴリズムによって補正することができる。しかしながら、大きいα角度では、変化の導関数が単純に大きくなりすぎて、信頼性の高い高エネルギー分解能測定を行うことができない。
【0063】
電子的傾斜角に関する議論を容易にするために、非伝統的であるが目的のために極めて便利な座標系を導入する。選択した座標系は、物体平面における角度開始方向を2つの角度成分θおよびθとして記述する。図5において、図6と併せて、定義は、球面座標(古典物理学による表記法)との関係で説明される。スリット方向30と光軸10とで画定される平面内で、放出角度θを、θ=θ・cosφと定義しても、スリット方向30に垂直な平面内で、放出角度θをθ=θ・sinφと定義してもよい。y軸に沿ったパターン(図6参照)の動きは、選択された角度θの変更に対応する。一般用語θをレンズ系の設定と区別するために、θyLensという表記を系の設定に使用する。図6の撮像面内の位置は、座標xおよびyで表すことができ、x=Dθ・θ、およびy=Dθ・θである。Dθは、角度分散であり、これは一次近似では線形係数とすることができる。
【0064】
スリットを横切る方向(y座標方向)に角度パターンを電子的に偏向させる場合、偏向器要素の各々だけでなく、場合によってはいくつかの回転対称レンズ要素も、位相差比と、選択された電子傾斜角(θyLens)との両方に依存するポテンシャル設定を有することになる。純粋な偏向器要素の場合、電子的傾斜なしの選択が出力0Vによって与えられるように、好都合に、ポテンシャルは、関連するレンズ要素を参照する。例えば、第1の偏向器パッケージ16A、16B、16C、16Dでは、正のy座標方向に位置決めされた偏向器16Aは、Up1で示される。次に、Up1は、RRおよびθyLensの関数であり、また、ポテンシャルオフセットがUp1output=Up1(RR、θyLens)*Epとなるように、パスエネルギーでスケーリングする。理想的には、そのようなレンズテーブルは、二次元的に計算され、最適化され、および実装され、出力ポテンシャルオフセットが(RR、θyLens)の滑らかで連続的な表面を表すことを意味する。前述のレンズテーブルと同様に、そのような表面は、一般的な場合には、解の連続性および滑らかさを必要とする最適化問題から計算される較正点の二次元セットとして表すことができる。
【0065】
従来技術では、8つの偏向器プレートの対称配置が任意の所望の方法で均一な方向を制御できることを記載した、例えば、米国特許第4,639,602号明細書を参照されたい。さらに、4つの偏向器プレートの縮小されたセットの配置では、大きい半径では均一な場の品質がわずかに低下するが、小さい半径では、挙動は高次の系に類似していることが知られている。したがって、2つの寸法が同じ種類であり、レンズ偏向と同じ平面内にある三次元可変空間の場合、方位角回転(φ)に依存する解析回転と併せて、実用的な実装形態を二次元レンズテーブルに縮小することができる。そのような実装形態は、(RR,x,y)の可変空間が(RR,r,φ)として示される光電子分光法における空間偏向に有効であり、これは、レンズ偏向器系によって生成される場を回転させる可能性により、(RR,r)のレンズテーブルとそれに続く分析方位角回転(φ)として表すことができる。同様に、電子的傾斜角を利用する角度モード動作の場合、(RR,θ,θ)の可変空間は、(RR,θ,φ)として表すことができ、したがって、最も好都合には(RR,θ)のレンズテーブルとそれに続く分析方位角回転(φ)として実装される。
【0066】
電子的傾斜を利用する典型的な測定では、機械的な動作はない。通常、固定EkLensおよび固定Eの場合、θyLensは、等距離の角度刻みで走査される。各設定について、検出器画像が記録される。マッピングの高分解能および完全性のために、検出器画像は、わずかに非線形のマッピング関数によって解釈されなければならない。したがって、2D画像の各画素は、修正行列を介してトリプレット(θ,θ,E)に関連付けられることになる。従来技術では、修正行列は、(RR、θyLens)に依存する。主に、おおよそ、Eは、画像の中心付近の値EkLensを有するエネルギー分散方向(y)の線形関数であり、θは、x=0で値ゼロを有する入射スリット2(x)を横切る方向の線形関数であり、θは、検出器表面全体にわたってθyLensに等しい。したがって、このような走査によって、試料の(θ,θ,E)における三次元マッピングが可能である。
【0067】
図5は、試料6を詳細に示し、試料からの放出方向を説明するために使用される座標系x、y、zを示している。x軸は、入射スリット2の延長方向に平行である。z方向は、静電レンズ系102の光軸と平行である。矢印27は、z軸に対して角度θで放出される電子を示す。リング28は、z軸に対して角度θで放出されたすべての電子を示す。上述したように、角度モードでは、公称空間位置からの荷電粒子は、光軸に沿った入射スリットの位置で撮像面22上に撮像される。撮像面22内の荷電粒子の位置は、公称空間位置からの荷電粒子の放出角度、および静電レンズ系に適用される電圧に依存する。
【0068】
図6は、荷電粒子分光計の特定の構成についての撮像面22における荷電電子のパターンを示している。外側から3番目のリング28は、図5のリング28の画像である。パターンの中心29は、光軸10に沿って試料6から放出された電子に対応する。中心29からの距離の増加は、光軸10に対する放出角度θの増加に対応する。各リングは、2.5°の放出角度θの増加に対応し、これにより、最も外側のリングは、15°の放出角度θに対応する。図6には、x軸に平行で、さらに図5のx軸に平行なスリット軸30に沿って延在する入射スリット2も示している。スリット軸30に垂直な入射スリット2の幅Wは、分解能要件に応じてユーザによって選択される。スリットが小さいほど、エネルギー、および両方の角度成分(θ,θ)の分解能が向上することになる。しかしながら、スリット幅が小さいと、測定の感度(またはスループット)も低下し、スリット幅が極端に薄いことに関連する追加の問題がある。空間分解ARPESの場合、選択は、一般に、放出スポットが入射スリット2の幅Wよりも小さくなるようなものである。図6に見られるように、荷電粒子のパターンはスリットの中心ではなく、入射スリット2の上方の中心にある。これは、θがゼロでない電子を見ることを選択したオペレータの設定によるものである。
【0069】
制御ユニット20には、第1の空間パラメータについて所定の範囲内の上記少なくとも1つの第1の空間次元における公称空間位置のいくつかの異なる空間位置に、およびいくつかの異なる放出角度に、対する電圧のセットを含むレンズテーブルが設けられ、各空間位置および各放出角度に対する電圧のセットは、荷電粒子をその空間位置からその放出角度で分析器101の入射スリット2内に偏向させるために静電レンズ系に適用される電圧を指定する。このようなレンズテーブルでは、図6に見られるように、すなわち、パターンの中心が異なる高さに位置決めされているように、撮像面22内の荷電粒子のパターンを取得するために正しい電圧を適用することができる。角度分光法を実施するとき、パターンをスリット軸30に垂直なy方向に移動させる。レンズテーブルは、制御ユニット20の一部であってもよいし、制御ユニット20の外部にあってもよいメモリ31に記憶されてもよい。
【0070】
スリット方向30と光軸10とで画定される平面内で、放出角度θを、θ=θ・cosφと定義しても、スリット方向30に垂直な平面内で、放出角度θを、θ=θ・sinφと定義してもよい。y軸に沿った図6のパターンの移動は、角度θの変化に対応する。撮像面内の位置は、座標x,およびyで表すことができ、x=Dθ・θ,およびy=Dθ・θである。放出スポットの特定の空間位置について、荷電粒子をその空間位置から特定の放出角度で撮像エネルギー分析器101の入射スリットに偏向させるために静電レンズ系に適用される電圧のセットは、公称空間位置の空間位置に依存する。
【0071】
荷電粒子を放出角度θ=0で公称空間位置から撮像エネルギー分析器101の入射スリット2に偏向させるために、静電レンズ系に適用される電圧の第1のセットが、メモリ31から取得され得る。放出スポットの位置が上記で定義したように公称空間位置にある場合、荷電粒子を放出角度θ=10°で撮像エネルギー分析器101の入射スリット2内に偏向させるために、静電レンズ系に適用される電圧の第2のセットが、メモリ31から取得され得る。公称空間位置の位置がゼロ公称空間位置に関連して位置x、y、zに移動される場合、荷電粒子をスリット方向に垂直な平面内で、放出角度θ=0で撮像エネルギー分析器101の入射スリット2内に偏向させるために、静電レンズ系に適用される電圧の第3のセットが、メモリ31から取得され得る。荷電粒子をスリット方向30に垂直な平面内で、位置x、y、zの公称空間位置からθ=10°の放出角度で撮像エネルギー分析器101の入射スリット2内に偏向させることが望ましい場合、電圧の第3のセットと、電圧の第1のセットとの間の差を、電圧の第2のセットに重ね合わせることは最適ではない。言い換えれば、スリット方向30に垂直な面内で角度θ=10°だけパターンを移動するための電圧の変化は、放出スポット24の位置に依存する。パターンを中心線y軸に沿って特定の角度だけ移動するための電圧のセットの差は、放出スポットの公称空間位置を異なる位置に移動するための電圧のセットの差を使用して重ね合わせから計算されるべきではない。したがって、最適な結果のために、放出スポットの位置がゼロ公称空間位置に関連する位置x、y、zにある場合、荷電粒子をスリット方向30に垂直な平面内で、放出角度θ=10°で撮像エネルギー分析器101の入射スリット2に偏向させるために静電レンズ系に適用される電圧の第4のセットが、メモリ31から取得される。
【0072】
電子的傾斜角の走査を利用する機器のいくつかの設定では、α角度分布は、電子の開始位置で極めて敏感になる。大きい放出スポット24の場合、これは、電子的傾斜角の走査中に試料の異なる領域を探査し得ることを意味する。試料が均質であれば、これは問題ではない。しかしながら、極めて小さい光源が不均一な表面を探査している空間分解ARPESなどの実験の場合、位置ずれが角度カットオフ問題のために部分的にクエンチされるか、またはエネルギー方向に制御不能にシフトされる、データ取得をもたらすので、これは大きな問題となる。従来技術では、電子的傾斜角走査を使用し、高エネルギーおよび高角度分解能が必要とされる三次元マッピングでは、エミッタをレンズの光軸に正確な作動距離で機械的に位置合わせするために多大な労力が必要である。また、このような実験では、ビームの下で試料を移動させることによって、試料の探査位置を変更する。理想的には、これは放出スポット24と、静電レンズ102との間の位置合わせを変更すべきではないが、実際の実験では、これは、実際の非理想的な状況では、機械的変化が、機械的誤差と、試料の周りの局所静電場の変化と、の両方を引き起こす可能性があるので、重大な問題であり得る。さらに、かなりの努力の後、試料の対象領域が発見され、適切に位置合わせされた場合、新規のレンズモードに変更すると、外部場、およびレンズ系の小さい機械的欠陥のために、位置合わせを再調整する必要が生じる可能性がある。このような状況は、ビーム23または試料6の機械的調整によって特定の探査領域が失われるので、実験を事実上不可能にする。
【0073】
従来技術は、大きい被照射面の小さい軸外領域を選択するために、単一の偏向器を用いて前部レンズを機械的に積層することを示唆している。上述の前部レンズは、特開第2015036670公報に開示されている電子的傾斜機能に必要な二重偏向系を組み込んだ角度分解レンズの前に位置決めされる。このような解決策は、レンズ系を分離する内部開口を通過させるために、実質的に単色の手法を必要とするため、大きいエネルギーウインドウに適合しない厳しい境界条件を課す。さらに、第1のレンズが問題を完全にリセットすることができるということは、考慮されていない広い分布上の誘導収差のため、小さいスポットからの高分解能走査ARPESにとっては粗すぎる近似である。特開第2015036670公報に記載された発明は、(RR,r,φ)に依存する第1のレンズのための独立したレンズテーブルと、(RR、θyLens)に依存する分離開口後方にある第2のレンズのための第2のレンズテーブルと、を暗黙的に教示している。しかしながら、高次補正、およびさらに一般的な場合には、このように問題を分離することはできない。
【0074】
RR>1の場合、角度カットオフ問題は一般に、RRが増加するにつれてますます厳しくなることが従来技術から知られている。これは、一般に、位相差が大きいほどビーム発散が大きくなるためである。さらに、ビーム発散が増大すると、レンズ系に、さらなる球面収差を誘発させ、ビーム分布の品質がさらに低下する。RR<1の場合、角度カットオフ問題は、エネルギー軸に沿った別の次元に現れ始める。これは、RRが小さいほど、相対エネルギーウインドウが大きくなるからである。極めて低いRRでは、EkLensに近いエネルギーのみが彩色問題に起因して十分な品質で集束されるので、測定は余り効率的ではなくなる。
【0075】
上述したように、高いRRにおけるいくつかの設定では、角度カットオフ問題は、電子的角度傾斜機能の動作範囲を減少させる。例示的な実施形態は、この問題を処理するための理論的で最適な解決策ではない場合がある。偏向器ステージに多くの極を導入すると、自由度が増加する。しかしながら、そのような実装形態はコストが高くなり、機械的エラーを有するリスクにも関連する。異なる堅牢な手法は、小さいエミッタ、小さいスリット、および比較的高いRRの組合せを利用する実験を容易にする。
【0076】
同様に、RRが極めて低い場合、彩色問題も電子的角度傾斜機能の動作範囲を減少させる。したがって、多くの偏向器極を導入しても、彩色問題を処理するための適した自由度は得られない。彩色問題の低減は、従来、イマージョンフィールド(immersion field)を加速することによって解決されており、これは、異種非金属表面からの高分解能ARPRES測定と互換性がない。新規の手法は、深いエネルギーウインドウを必要とする実験、例えばポンププローブにとって興味深いであろう。
【0077】
高次補正のために、この問題は分離不可能であり、したがって、少なくとも3つの独立変数を含むレンズテーブルの新しい概念を導入する必要があることになる。
【0078】
これは、多次元レンズテーブルに構築される較正点が少なくとも三次元であるという要件を意味する。前述のレンズテーブルの定義が依然として適用され、分析器スリットに入る角度分布の選択された部分が本質的に一定の角度分散特性を有するように、少なくとも三次元可変空間内で滑らかで連続的な補間を必要とする。
【0079】
以下で詳細に説明するように、制御する最も重要な空間次元は、スリットに垂直な、すなわちy軸に沿った放出スポットの公称空間位置である。従来技術と比較して高い精度および動作範囲を取得するために、制御ユニットには、静電レンズ系の各レンズ要素および各偏向器に適用される個々の出力電圧設定のセットを含むレンズテーブルが設けられ、少なくとも1つの電圧設定は、少なくとも3つのパラメータによって定義される。第1のパラメータは、光軸に対して一次元において試料6上の放出スポット24の公称空間位置を定義する。第2のパラメータは、静電レンズ系の加速ポテンシャルを定義し、第3のパラメータは、試料6からの荷電粒子の放出方向を定義する。各設定点の電圧のセットは、第1のパラメータによって定義される公称空間位置からの荷電粒子を、第2のパラメータによって定義される放出角度において、第3のパラメータによって定義される加速ポテンシャルを用いて、撮像エネルギー分析器101の入射スリット2へ偏向させるために、静電レンズ系に適用される電圧を指定する。
【0080】
第1のパラメータは、ゼロ公称空間位置に対するy軸に沿った位置を定義する。一例として、第1のパラメータは、0.1mm刻みで-5mm~+5mmの範囲であり得る。第1のパラメータの範囲は、通常、1mm~20mmであり、異なる空間位置は、通常、0.01mm~0.5mm離れている。
【0081】
レンズテーブル内の各設定点に対して、静電レンズの異なる要素に適用される電圧のセットが記憶される。異なる放出角度の範囲は、静電レンズの許容角度に通常適合される。レンズテーブルにおける放出角度の範囲は、通常、-15°~+15°であり、異なる放出角度間の刻みは、通常、1°である。異なる放出角度間の刻みは、当然ながらさらに小さくても大きくてもよく、0.1°~5°の刻みを使用してもよい。
【0082】
図7は、図3に示す断面B-Bにおける入射スリット2を示している。入射スリット2を通過する電子の軌跡32を示している。静電レンズ102の光軸10に対する軌跡32の軌跡角度αも示している。角度分解されたスペクトルの信頼できる測定値を取得することを可能にするために、軌跡角度αが可能な限り小さいことが重要である。
【0083】
図8は、マルチチャネル粒子検出器4における荷電粒子の径方向オフセットを示している。点は、分光計のモデルにおける光線追跡に基づいており、点線37は、200mmの半球エネルギー分析器半径に対する十分に確立された解析式に基づいている。径方向オフセットは、半球エネルギー分析器101の径方向で、破線5に沿って測定される。
【0084】
図9aは、異なる放出角度で荷電粒子のスリット面上における角度マッピング関数のシミュレーションを示している。輪郭メッシュは、θとθとの両方において1度刻みである。1.0の位相差比でシミュレーションした。最適な位置合わせ、および角度偏向なしの場合のスリット平面におけるテイクオフ角度のマッピング関数。角度メッシュは、両方向で1°刻みを表す。破線は、0.2mmのスリット幅による幾何学的切断を表す。θ=10°を示す線は、スリット開口から遠い位置に明瞭にマッピングされ、太線で描いている。
【0085】
図9bは、データの軌跡32と光軸10との間の関連する結果として生じる軌跡角度αを示している。図9aおよび図9bのシミュレーションは、RR=1で行われている。図9aは、撮像面22内の荷電粒子の位置を示し、太線33は、スリット方向30に垂直な平面内で放出角度θ=10°を示している。図9bは、撮像面22における結果として生じる軌跡角度αを示している。スリットに沿った位置を図3に見ることができ、すなわちx軸に沿った位置を図のx軸で示し、スリットを横切る、すなわちy軸に沿った位置を図のy軸で示している。入射スリットは、y軸上でゼロに位置決めされる。図9bに見られるように、結果として生じる角度αは、スリット方向30に垂直な平面内で、放出角度θ=0°について入射スリット2においてゼロである。図9aの設定で、分布の最適な位置合わせに関するスリット面上の結果として生じるα角度。破線は、0.2mmのスリットによる幾何学的切断を表す。小さいスリットを通過する分布は、極めて小さい発散を有する。
【0086】
図10aおよび図10bは、スリット方向30に垂直な平面内で、放出角度θ=10°が入射スリット2上に位置決めされるように、電圧が静電レンズに適用されるときの、シミュレーションを示している。図10aおよび図10bのシミュレーションは、RR=1で行われている。図10aは、撮像面22内の荷電粒子の位置を示し、太線33は、スリット方向30に垂直な平面内での放出角度θ=10°を示している。1.0の位相差比でシミュレーションした。最適な位置合わせのために、θ=10°に設定されたレンズ偏向による、スリット平面上のテイクオフ角度のマッピング関数。角度メッシュは、両方向で1°刻みを表す。破線は、0.2mmのスリットによる幾何学的切断を表す。θ=10°を示す線は、スリット開口上またはその近傍にマッピングされ、太線で描いている。
【0087】
図10bは、撮像面22における結果として生じる関連する軌跡角度αを示している。スリットに沿った位置を図3に見ることができ、すなわちx軸に沿った位置を図のx軸で示し、スリットを横切る、すなわちy軸に沿った位置を図のy軸で示している。入射スリット2は、y軸上でゼロに位置している。図10bに見られるように、結果として生じる角度αは、スリット方向30に垂直な平面内で、放出角度θ=10°について入射スリット2で0から0.5°の間であり、スリットに沿った位置は-8mmから+8mmの間であり、-10°から+10°の間のスリットに沿った角度成分θを表す。図10aの設定で、すなわちθ=10°での、分布の最適な位置合わせに関するスリット面上の結果として生じるα角度。破線は、0.2mmのスリットによる幾何学的切断を表す。小さいスリットを通過する分布は、多少ではあるが、小さい発散を有する。RR=1では、角度偏向モードは完全な位置合わせで良好に機能し、α角度分布に関して大きな問題はない。図8を参照すると、0.5°の軌跡角度は、0.1mm未満の小さい径方向オフセットを生じさせ、これは高分解能スペクトルに許容可能である。
【0088】
図11aは、RR=8.7であるシミュレーションのための入射スリットにおける荷電粒子の位置を詳細に示している。最適な位置合わせのためのスリット平面上のテイクオフ角度のマッピング関数。角度メッシュは、両方向で1°刻みを表す。θ=10°を示す線は太線で描いている。1×1度のパターンは、非平面スケールに起因してy方向に引き伸ばされる。図11aに示すシミュレーションでは、静電レンズが最適に位置合わせされるとき、スリット方向30に垂直な平面内で、放出角度θ=10°が、角度モードで入射スリット2上に位置決めされるように、電圧が静電レンズに適用される。太線33は、θ=10°の入射スリット2における荷電粒子を示している。図11aに見られるように、スリット方向30に垂直な平面内で、撮像面内の完全な直線において、放出角度θy=10°で荷電粒子を撮像することは不可能であったが、図11aに示す小さい波形は、マッピング関数の適度なソフトウェア修正を伴う高分解能スペクトルに許容可能である。
【0089】
図11bは、図11aによるシミュレートされた状況について、スリットに沿って、およびスリットを横切る位置に応じた入射スリットにおける角度オフセットを示している。図11bに見られるように、入射スリット2に沿った方向で、軌跡角度αがゼロに近いのは、入射スリット2の中心付近のみである。スリットに沿った位置xが間隔-5mm~+5mmである場合、軌跡角度αは1°未満である。図8に見られるように、これにより、マルチチャネル粒子検出器4での径方向オフセットは、0.2mm未満になり、これは依然として高分解スペクトルに許容可能である。しかし、スリット軸30に沿った位置xが、-5mmより下、または+5mmより上では、軌跡角度αは、1°より上である。このような荷電粒子の軌跡角度は、荷電粒子を正確に撮像することを困難にする。スリット軸30に沿った-5mmおよび+5mmの位置xは、スリット軸30と光軸10とによって画定される平面内で、光軸10からそれぞれ-6°および+6°の放出角度θに相当する。
【0090】
図12aは、RR=8.7であるシミュレーションのための入射スリットにおける荷電粒子の位置を詳細に示している。スリットを横切る方向(y方向)の-0.3mmの位置ずれに対するスリット平面上のテイクオフ角度のマッピング関数。レンズモードの角度集束特性のために、位置マッピング関数は、ほとんど影響を受けない。図12aに示すシミュレーションでは、静電レンズがy方向に-0.3mm位置ずれしているとき、すなわち、放出スポット24がy軸に沿ってスリットの下にあるとき、スリット方向30に垂直な平面内で、放出角度θ=10°が角度モードで入射スリット上に位置決めされるように、電圧が静電レンズに適用される。荷電粒子の撮像パターンは、図11aに示すパターンと同様である。
【0091】
図12bは、図12aによるシミュレートされた状況について、スリットに沿って、およびスリットを横切る位置に応じた入射スリットにおける角度オフセットを示している。α角度の分布は変化するが、この場合は著しくない。
【0092】
図13は、静電レンズがレンズテーブルからの電圧のセットと電子的に位置合わせされるとき、図12aによるθの選択および位置ずれについて、スリットに沿った、およびスリットを横切る位置に応じた入射スリットにおける角度オフセットαを示している。スリットを横切る方向(y方向)の-0.3mmの位置ずれに関するスリット面上の結果として生じるα角度。電子的位置合わせパラメータ化は、同じ位置ずれを補償するように設定される。本発明による少なくとも三次元依存性を使用して、図11bと比較することによって分かるように、角度オフセット特性が完全な位置合わせから予想される特性に戻るように、位置ずれを補償することができる。
【0093】
図14は、静電レンズが重ね合わせを使用して電子的に位置合わせされるとき、図12aによるθの選択および位置ずれについて、スリットに沿った、およびスリットを横切る位置に応じた入射スリットにおける角度オフセットαを示している。スリットを横切る方向(y方向)の-0.3mmの位置ずれに関するスリット面上の結果として生じるα角度。逆重ね合わせに基づく電子的位置合わせが適用される。この補正は、正しい方向に作用するが、必要な精度および対称性は取得されない。ここで、重ね合わせとは、スリット方向30に垂直な平面内で、放出角度y軸のθ=0°でのy軸に沿った-0.3における公称空間位置を位置決めするための電圧のセットが、スリット方向30に垂直な平面内で、放出角度θ=10°でのy軸に沿ったゼロにおける公称空間位置を位置決めするための必要な電圧のセットと重ね合わせて使用されることを意味する。
【0094】
より具体的には、差分電圧の第1のセットは、スリット方向30に垂直な平面内で、放出角度θ=0°でのy軸に沿った-0.3における公称空間位置を位置決めするための電圧のセットと、スリット方向30に垂直な平面内で、放出角度θ=0°でのy軸に沿ったゼロにおける公称空間位置を位置決めするための電圧のセットと、の間の差分のセットとして定義され得る。差分電圧の第2のセットは、スリット方向30に垂直な平面内で、放出角度θ=10°でのy軸に沿ったゼロにおける公称空間位置を位置決めする電圧のセットと、スリット方向30に垂直な平面内で、放出角度θ=0°でのy軸に沿ったゼロにおける公称空間位置を位置決めする電圧のセットと、の間の差分のセットとして定義され得る。次いで、重ね合わせから計算された電圧のセットは、スリット方向30に垂直な平面内で、放出角度θ=0°でのy軸に沿ったゼロにおける公称空間位置を位置決めする電圧のセットと、差分電圧の第1のセットと、差分電圧の第2のセットと、の合計からなる。
【0095】
図15は、RR=8.7であるシミュレーションについて、スリットに沿って、およびスリットを横切る位置に応じた入射スリットにおける角度オフセットを示している。シミュレーションでは、静電レンズが最適に位置合わせされるとき、スリット方向30に垂直な平面内で、放出角度θ=10°が角度モードで入射スリット2上に位置決めされるように、電圧が静電レンズに適用される、ことを示している。図15に見られるように、入射スリット2に沿った方向で、軌跡角度αがゼロに近いのは、入射スリット2の中心付近のみである。スリットに沿った位置xが間隔-5mm~+5mmである場合、軌跡角度αは1°未満である。図8に見られるように、これにより、マルチチャネル粒子検出器4での径方向のオフセットは、0.2mm未満になり、これは、依然として高分解能スペクトルに許容可能である。しかしながら、スリット軸30に沿った位置xが、-5mmより下、または+5mmより上では、軌跡角度αは、1°より上である。このような荷電粒子の軌跡角度は、荷電粒子を正確に撮像することを困難にする。スリット軸30に沿った-5mmおよび+5mmの位置xは、スリット軸30と光軸10とによって画定される平面内で、光軸10からそれぞれ-6°および+6°の放出角度θに相当する。対称性に起因して、結果として生じる角度オフセット特性は、図11bに示しているものと鏡面対称である。
【0096】
図16は、RR=8.7であるシミュレーションについて、スリットに沿って、およびスリットを横切る位置に応じた入射スリットにおける角度オフセットを示している。図16に示すシミュレーションでは、電圧が静電レンズに適用され、これにより、静電レンズがy方向に-0.3mmずれているとき、すなわち、放出スポット24がy軸に沿ってスリットの下0.3mmにあるとき、スリット方向30に垂直な平面内で、放出角度θ=-10°が角度モードで入射スリット上に位置決めされる。α角度の分布は、明らかに準最適である。補償なしでは、効率的で信頼できる測定は不可能である。
【0097】
図17は、静電レンズがレンズテーブルからの電圧のセットと電子的に位置合わせされるとき、図16による設定について、スリットに沿った、およびスリットを横切る位置に応じた入射スリットにおける角度オフセットαを示している。本発明による少なくとも三次元依存性を使用して、図15および図11bからの鏡像化された特性と比較することによって分かるように、角度オフセット特性が完全な位置合わせから予想される特性に戻るように、位置ずれを補償することができる。
【0098】
図18は、静電レンズが重ね合わせを使用して電子的に位置合わせされるとき、図16によるθの選択および位置ずれについて、スリットに沿った、およびスリットを横切る位置に応じた入射スリットにおける角度オフセットαを示す図である。重ね合わせから計算された補正は右方向に作用するが、図11bと比較して分かるように、α角度分布を完全には回復しない。図11bと比較して分かるように、重ね合わせを使用する補償は、完全な位置合わせから予想されるものに特性を戻すには低すぎる補償であり、さらに、図14の鏡像化された特性とは類似していない。したがって、放出スポットがy方向に位置ずれしているとき、右方向に補償を行うことができても、重ね合わせ法を使用するとき、負および正のθ選択間の測定値の完全な対称性を達成することができない。ここで、重ね合わせを数値例で示す。
【0099】
第1の設定では、以下のパラメータが設定され、研究する電子の中心運動エネルギーEは、87.0eV、パスエネルギーEは、10.0eV、ゼロ公称空間位置に対する放出スポットのx位置は、0.0、ゼロ公称空間位置に対する放出スポットのy位置は、0.0、光軸に沿った放出スポットの位置は、ゼロ公称空間位置にあり、角度偏向は、θyLens=-10.0に選択される。レンズ要素上の電圧は、接地ポテンシャルを基準として与えられ、一方、偏向器要素上の電圧は、レンズ要素15’を基準とする。この設定点の電圧のセットは、3つの中間レンズ要素15、15’、15’’のそれぞれ729.544V、19.702V、および334.409Vに対するものである。第1の偏向器パッケージ16A、16B、16C、16Dにおける偏向器要素16A、16Cのペアの電圧は、それぞれ15.028V、および-15.028Vである。第2の偏向器パッケージ17A、17B、17C、17Dにおける偏向器要素17A、17Cのペアの電圧は、それぞれ-23.430V、および23.430Vである。
【0100】
放出スポットのy位置が-0.3mmに変更され、θyLens=0.0であるとき、この設定点の電圧のセットは、3つの中間レンズ要素15、15’、15’’のそれぞれ、729.544V、19.702V、および334.409Vに対するものである。第1の偏向器パッケージ16A、16B、16C、16Dにおける偏向器要素16A、16Cペアの電圧は、それぞれ-0.767V、および0.767Vである。第2の偏向器パッケージ17A、17B、17C、17Dにおける偏向器要素17A、17Cのペア電圧は、それぞれ0.247V、および-0.247Vである。
【0101】
電圧の上記2つのセットは、重ね合わせを使用して接合されるとき、偏向器要素を除いて、同じ電圧が取得される。第1の偏向器パッケージ16A、16B、16C、16Dにおける偏向器要素16A、16Cのペアの電圧は、それぞれ-14.262V、および14.262Vである。第2の偏向器パッケージ17A、17B、17C、17Dにおける偏向器要素17A、17Cのペアの電圧は、それぞれ-23.183V、および23.183Vである。
【0102】
θyLens=-10.0に対して本発明によるレンズテーブルを使用し、放出スポットのy位置が-0.3mmであるとき、第1の偏向器パッケージ16A、16B、16C、16Dにおける偏向器要素16A、16Cのペアの電圧は、それぞれ14.332V、および-14.332Vである。これらの電圧は、上記による重ね合わせ方法を使用したときの電圧とは、わずかに異なる。第2の偏向器パッケージ17A、17B、17C、17Dにおける偏向器要素17A、17Cのペアの電圧は、それぞれ-23.114V、および23.114Vである。これらの電圧は、重ね合わせを使用するときの電圧とは、わずかに異なる。
【0103】
図19は、RR=8.7であるシミュレーションについて、スリットに沿って、およびスリットを横切る位置に応じた入射スリットにおける角度オフセットαを示している。θyLens=10°のレンズ偏向セットを用いて、8.7の位相差比でシミュレーションした。スリットを横切る方向(y方向)の+0.3mmの位置ずれに関するスリット面上の結果として生じるα角度。α角度の分布は、明らかに準最適である。したがって、効率的で信頼できる測定は不可能である。図18に示すシミュレーションでは、静電レンズがy方向に+0.3mmずれているとき、すなわち、放出スポット24がy軸に沿ってスリットの上方0.3mmにあるとき、スリット方向30に垂直な平面内で、放出角度θ=10°が角度モードで入射スリット上に位置決めされるように、電圧が静電レンズに適用される。対称性に起因して、α角度分布特性は、図16に示す結果に対して鏡面対称である。
【0104】
図20は、分光計が図19による検出のために設定されているとき、および静電レンズがレンズテーブルからの出力電圧設定のセットと電子的に位置合わせされているとき、スリットに沿った、およびスリットを横切る位置に応じた入射スリットにおける角度オフセットαを示している。本発明による少なくとも三次元依存性を使用して、図11bと比較することによって分かるように、角度オフセット特性が完全な位置合わせから予想される特性に戻るように、位置ずれを補償することができる。同じθyLensの選択であっても位置ずれの符号が逆であることに基づいて、図13もこの特性に戻ったが、偏向器の電圧の大きさは、θyLensの選択と、位置ずれとの間の複雑な依存性のために異なって設定されたことは、注目すべきである。
【0105】
図21は、分光計が図18による検出のために設定されているとき、および静電レンズが重ね合わせを使用して電子的に位置合わせされているとき、スリットに沿った、およびスリットを横切る位置に応じた入射スリットにおける角度オフセットを示している。より具体的には、差分電圧の第1のセットは、スリット方向30に垂直な平面内で、放出角度θ=0°でのy軸に沿った+0.3における公称空間位置を位置決めする電圧のセットと、スリット方向30に垂直な平面内で、放出角度θ=0°でのy軸に沿ったゼロにおける公称空間位置を位置決めする電圧のセットと、の間の差分のセットとして定義され得る。差分電圧の第2のセットは、スリット方向30に垂直な平面内で、放出角度θ=10°でのy軸に沿ったゼロにおける公称空間位置を位置決めする電圧のセットと、スリット方向30に垂直な平面内で、放出角度θ=0°でのy軸に沿ったゼロにおける公称空間位置を位置決めする電圧のセットと、の間の差分のセットとして定義され得る。次いで、重ね合わせから計算された電圧のセットは、スリット方向30に垂直な平面内で、放出角度θ=0°でのy軸に沿ったゼロにおける公称空間位置を位置決めする電圧のセットと、差分電圧の第1のセットと、差分電圧の第2のセットと、の合計からなる。図11bを比較すると分かるように、重ね合わせを使用する補償は、完全な位置合わせから予想されるものに特性を戻すには低すぎる補償であり、さらに、位置ずれの符号が反対であった図14の特性とは異なる。
【0106】
上述の実施形態では、スリット軸30に垂直な方向の位置ずれについてのみ説明した。しかしながら、図4に示すx軸およびz軸に沿った方向の位置ずれを考慮に入れることができる。
【0107】
図22は、θxPrioを8°に設定し、図11aによるθyLensの選択および完全な位置合わせについて、スリットに沿って、およびスリットを横切る位置に応じた入射スリットにおける角度オフセットαを示している。これは、静電レンズ系に適用される電圧のセットが、入射スリットにおける角度オフセットαが、光軸10とスリット軸30とによって画定される平面内で放出角度θ=8°を有する荷電粒子に対して0°である、ようなものであることを意味する。上記の図11bに関連して述べたように、大きい放出角度θ、および大きい放出角度θを有する荷電粒子を撮像することは困難である。ただし、θxPrioの電圧のセットを8°に設定すれば、スリット軸30と光軸10とによって画定される平面内での放出角度θが大きく、スリット軸30に垂直な面内での放出角度θが大きい、荷電粒子を撮像することができる。このθxPrioの設定では、放出角度が小さい場合の撮像性が低下する。このように、パラメータθxPrioも制御することによって、θxPrioをゼロとは異なる角度に設定することによって、スリット軸30と光軸10とで画定される平面内で大きい放出角度θと、スリット軸30に垂直な平面内で大きい放出角度θと、の場合、長い間隔でスペクトルを記録することができ、このような記録されたスペクトルを、θxPrioをゼロに設定して記録されたスペクトルとマージする。このようにθxPrioを使用することは、位相差比が大きいとき、すなわちRRが大きいときに主に有利である。位相差比が小さい場合、すなわちRR=1以下程度の場合、記載した問題はそれほど明確ではない。
【0108】
位相差比が小さい場合、上記のθxPrio、すなわち試料における荷電粒子の運動エネルギーEkPrioよりも制御を優先する別のパラメータがより重要である。図19は、破線5によって示す半球の偏向の径方向を有するマルチチャネル粒子検出器4を拡大図で示している。マルチチャネル粒子検出器4に入射する荷電粒子の運動エネルギーは、E+で示す矢印の方向に増加する。この例では、マルチチャネル粒子検出器4のエネルギーウインドウが、パスエネルギー、すなわち入射スリット2を通過して、マルチチャネル粒子検出器4に衝突する荷電粒子の中央エネルギーの8%であるように、撮像エネルギー分析器101(図1)、およびマルチチャネル粒子検出器4は構成される。これは、マルチチャネル粒子検出器4に入射する荷電粒子の最高エネルギーが、E+0.04・Eであり、マルチチャネル粒子検出器4に入射する荷電粒子の最低エネルギーが、E-0.04・Eであることを意味する。試料での運動エネルギーで割ったエネルギー幅は、0.08・E/Eで表すことができる。以下の例では、想定される位相差比RR=0.2である。これは、パスエネルギーEが、E=5・Eとなることを意味する。したがって、静電レンズ系102によって処理されるマルチチャネル粒子検出器におけるエネルギーウインドウは、0.08・5E=0.4・Eとなる。したがって、検査される電子の運動エネルギーが、約E=2eVの中心エネルギーを有すると仮定する。すると、マルチチャネル粒子検出器4のエネルギーウインドウは、0.8eVとなる。これは、静電レンズ系によって処理される荷電粒子の最低エネルギーが1.6eVであり、静電レンズ系によって処理される荷電粒子の最高エネルギーが2.4eVであることを意味する。静電レンズ系の色収差により、このような大きいエネルギーウインドウ内で荷電粒子の軌跡を制御することは困難である。この目的のために、レンズテーブルはまた、EkPrioを含んでもよい。特定のEkPrioの場合、電圧のセットは、このエネルギーを有する荷電粒子の撮像が優先されるようなものである。非優先エネルギーは、マルチチャネル粒子検出器で正しく画像化されない可能性がある。EkPrioパラメータは、位相差比を変化させないが、偏向器電圧を主に変調する。
【0109】
図23の上の線34は、最低エネルギーを有するマルチチャネル粒子検出器上の荷電粒子の位置を示し、図19の中央の線35は、中間のエネルギーを有するマルチチャネル粒子検出器上の荷電粒子の位置を示し、図19の下の線36は、最高エネルギーを有するマルチチャネル粒子検出器上の荷電粒子の位置を示す。上述した低位相差比の場合、線34、35、36のうちの1つを正確に撮像することのみができる。3つの線34、35、36内の荷電粒子の運動エネルギーに対応する、異なるEkPrioを有する3つのスペクトルを記録し、次いでスペクトルをマージすることによって、マルチチャネル粒子検出器4の全エネルギーウインドウのスペクトルを取得することができる。
【0110】
含まれるべきパラメータの数に応じて、レンズテーブルは、レンズテーブル内の点の各々について、スリット方向30に垂直な平面内で、異なる放出角度θでの電圧のセットを含むことができる。レンズテーブルは多次元であり、三次元の公称空間位置のパラメータと、θxPrioパラメータと、EkPrioパラメータと、を含むことができる。公称空間位置は、x位置、y位置、およびz位置によって画定され得る。したがって、多次元レンズテーブル内の特定の点について、スリット方向30に垂直な平面内で、いくつかの異なる放出角度θでの電圧のセットが存在する。スリット方向30に垂直な平面内での異なる放出角度θは、通常、約-15°~+15°の範囲であるが、例えば、静電レンズ系の許容円錐に応じて、小さいまたは大きい限界を有してもよい。
【0111】
上述の実施形態は、添付の特許請求の範囲およびそれらの限定によってのみ限定される本発明の範囲から逸脱することなく、いくつかの方法で変更することができる。
【符号の説明】
【0112】
1 第1の端部
2 入射スリット
3 第2の端部
4 二次元マルチチャネル粒子検出器
5 破線
6 試料
9 入射部
10 光軸
11 第1の端部
12 第1のレンズ要素
13 第2の端部
14 最後のレンズ要素
15 中間レンズ要素
15’ 中間レンズ要素
15’’ 中間レンズ要素
16A 第1の偏向器、第1の偏向器パッケージ、偏向器要素
16B 第1の偏向器、第1の偏向器パッケージ、偏向器要素
16C 第1の偏向器、第1の偏向器パッケージ、偏向器要素
16D 第1の偏向器、第1の偏向器パッケージ、偏向器要素
17A 第2の偏向器、第2の偏向器パッケージ、偏向器要素
17B 第2の偏向器、第2の偏向器パッケージ、偏向器要素
17C 第2の偏向器、第2の偏向器パッケージ、偏向器要素
17D 第2の偏向器、第2の偏向器パッケージ、偏向器要素
20 制御ユニット
21 放出スポット、ゼロ公称空間位置
22 撮像面
23 ビーム
24 放出スポット
26 破線の箱型
27 矢印
28 リング
29 中心
30 スリット方向、スリット軸
31 メモリ
32 軌跡
33 太線
34 上の線
35 中央の線
36 下の線
37 点線
38 プロセッサ
40 開口
42 開口スリット
100 荷電粒子分光計
101 撮像エネルギー分析器、半球エネルギー分析器
102 静電レンズ系
103 外側金属半球
θ 角度分散
kPrio エネルギーレベル
運動エネルギー
kLens 運動エネルギー
パスエネルギー
高さ
高さ
L1 第1のレンズ
RR 位相差比
Up 偏向器
スリットの幅
スリットの幅
x 座標
座標
y 座標
座標
z 座標
α 方向、角度
θ 放出角度
θxPrio 角度レベル
θ 放出角度
θyLens 放出角度
φ 方位角回転
図1
図2
図3
図4
図5
図6
図7
図8
図9
図10
図11a
図11b
図12a
図12b
図13
図14
図15
図16
図17
図18
図19
図20
図21
図22
図23
【国際調査報告】