(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公表特許公報(A)
(11)【公表番号】
(43)【公表日】2024-09-30
(54)【発明の名称】エレクトロポレーションを使用する、強化されたウイルス形質導入の方法
(51)【国際特許分類】
C12N 15/87 20060101AFI20240920BHJP
C12N 15/09 20060101ALI20240920BHJP
C12N 15/55 20060101ALI20240920BHJP
C12N 5/10 20060101ALI20240920BHJP
C12N 5/071 20100101ALI20240920BHJP
C12N 5/078 20100101ALI20240920BHJP
C12N 5/0781 20100101ALI20240920BHJP
C12N 5/0783 20100101ALI20240920BHJP
C12N 5/0784 20100101ALI20240920BHJP
C12N 5/0786 20100101ALI20240920BHJP
C12N 5/0787 20100101ALI20240920BHJP
C12N 5/0789 20100101ALI20240920BHJP
C12N 5/077 20100101ALI20240920BHJP
C12N 5/0775 20100101ALI20240920BHJP
A61K 35/14 20150101ALI20240920BHJP
A61K 35/12 20150101ALI20240920BHJP
A61K 35/15 20150101ALI20240920BHJP
A61K 35/51 20150101ALI20240920BHJP
A61K 35/17 20150101ALI20240920BHJP
A61P 43/00 20060101ALI20240920BHJP
【FI】
C12N15/87 Z
C12N15/09 100
C12N15/09 110
C12N15/55
C12N5/10
C12N5/071
C12N5/078
C12N5/0781
C12N5/0783
C12N5/0784
C12N5/0786
C12N5/0787
C12N5/0789
C12N5/077
C12N5/0775
A61K35/14
A61K35/12
A61K35/15
A61K35/51
A61K35/17
A61P43/00 105
【審査請求】未請求
【予備審査請求】未請求
(21)【出願番号】P 2024518480
(86)(22)【出願日】2022-09-26
(85)【翻訳文提出日】2024-05-17
(86)【国際出願番号】 US2022044742
(87)【国際公開番号】W WO2023049458
(87)【国際公開日】2023-03-30
(32)【優先日】2021-09-24
(33)【優先権主張国・地域又は機関】US
(81)【指定国・地域】
(71)【出願人】
【識別番号】323009874
【氏名又は名称】マックスサイト・インコーポレイテッド
(74)【代理人】
【識別番号】100108453
【氏名又は名称】村山 靖彦
(74)【代理人】
【識別番号】100110364
【氏名又は名称】実広 信哉
(74)【代理人】
【識別番号】100133400
【氏名又は名称】阿部 達彦
(72)【発明者】
【氏名】ジョーン・ヒリー・フォスター
(72)【発明者】
【氏名】ジェームズ・ブレイディ
【テーマコード(参考)】
4B065
4C087
【Fターム(参考)】
4B065AA93X
4B065AA94X
4B065AB01
4B065AC14
4B065BA02
4B065BA03
4B065CA24
4B065CA44
4C087AA01
4C087AA02
4C087AA03
4C087BB35
4C087BB37
4C087BB44
4C087BB59
4C087BB63
4C087CA04
4C087CA12
4C087NA14
4C087ZB21
(57)【要約】
細胞又は細胞株を、ウイルス、ウイルスベクター又はウイルス様粒子と組み合わせて混合物を形成すること、並びに混合物に対しエレクトロポレーション及び形質導入を同時に実施して、そこにウイルス、ウイルスベクター又はウイルス様粒子を挿入することを含む、細胞編集の方法。開示される方法は、ウイルス、ウイルスベクター又はウイルス様粒子に、細胞又は細胞株を編集、除去又は改変させ、そこにウイルス、ウイルスベクター又はウイルス様粒子を挿入することを同時に引き起こす。開示される方法により作製される、改変された細胞又は細胞株も開示される。
【特許請求の範囲】
【請求項1】
細胞へのエレクトロポレーションを使用する、強化されたウイルス形質導入の方法であって、
改変前の1種又は複数の細胞を選択する工程、
改変前の細胞を採取する工程、
改変前の細胞を濃縮する工程、
改変前の細胞を、ウイルス、ウイルスベクター又はウイルス様粒子と組み合わせて、混合物を形成する工程、
混合物に対してエレクトロポレーション及び形質導入を同時に実施して、そこにウイルス、ウイルスベクター又はウイルス様粒子を挿入する工程、並びに
1種又は複数の共エレクトロポレーションされた細胞を形成する工程
を含む、方法。
【請求項2】
ウイルス、ウイルスベクター又はウイルス様粒子が、遺伝子編集薬剤により共エレクトロポレーションされる、請求項1に記載の方法。
【請求項3】
遺伝子編集薬剤が、CRISPR CAS-9、RNA、プラスミド、mega-TALS、gene-writing、DNアーゼI、ベンゾナーゼ、エキソヌクレアーゼI、エキソヌクレアーゼIII、マングビーンヌクレアーゼ、ヌクレアーゼBAL31、RNアーゼI、51ヌクレアーゼ、ラムダエキソヌクレアーゼ、RecJ、T7エキソヌクレアーゼ、ジンクフィンガーヌクレアーゼ、メガヌクレアーゼ、転写活性化因子様エフェクターヌクレアーゼ、及び部位特異的ヌクレアーゼから選択される、請求項2に記載の方法。
【請求項4】
共エレクトロポレーションされた細胞のうちの20%超が、所望のタンパク質又はペプチドを発現する、請求項1に記載の方法。
【請求項5】
共エレクトロポレーションされた細胞のうちの25~35%が、所望のタンパク質又はペプチドを発現する、請求項4に記載の方法。
【請求項6】
共エレクトロポレーションされた細胞が、改変前の細胞と比較して25~50%の範囲の生存率の低下を有する、請求項1に記載の方法。
【請求項7】
共エレクトロポレーションされた細胞が、改変前の細胞と比較して20%以下の生存率の低下を有する、請求項1に記載の方法。
【請求項8】
共エレクトロポレーションされた細胞が、改変前の細胞と比較して10%以下の生存率の低下を有する、請求項1に記載の方法。
【請求項9】
共エレクトロポレーションされた細胞が、改変前の細胞と比較して5%以下の生存率の低下を有する、請求項1に記載の方法。
【請求項10】
改変前の細胞が、1x10
5~1x10
11の範囲の細胞集団以内である、請求項1に記載の方法。
【請求項11】
改変前の細胞が、10μl~1Lの範囲の体積に濃縮される、請求項1に記載の方法。
【請求項12】
共エレクトロポレーションされた細胞を患者に投与する更なる工程を含む、請求項1に記載の方法。
【請求項13】
改変前の細胞を濃縮する工程が、遠心機又は任意の細胞凝縮装置により実施される、請求項1に記載の方法。
【請求項14】
改変前の細胞が、血液、間質液、及び組織に由来する、請求項1に記載の方法。
【請求項15】
改変前の細胞が、骨髄、末梢血、又は臍帯血、又は任意の他の正常な若しくは疾患に侵された組織に由来する、請求項14に記載の方法。
【請求項16】
改変前の細胞が、全末梢血単核細胞(PBMC)又は全臍帯血単核細胞(CBMC)に由来する、請求項14に記載の方法。
【請求項17】
PBMCが、1種又は複数のアルファベータTCR+T細胞、ガンマデルタTCR+T細胞、NK細胞、インバリアントNKT細胞、B細胞、樹状細胞、単球、マクロファージ、好中球、顆粒球、造血前駆細胞、間葉系前駆細胞、及び間質細胞を含む、請求項16に記載の方法。
【請求項18】
改変前の細胞を濃縮する工程が、ウイルス、ウイルスベクター、又はウイルス様粒子と組み合わされる前に緩衝液中で再懸濁された凝縮された細胞を生成する、請求項1に記載の方法。
【請求項19】
請求項1に記載の方法により作製される、改変された細胞。
【請求項20】
改変前の細胞が、血液、間質液、及び組織に由来する、請求項19に記載の改変された細胞。
【請求項21】
改変前の細胞が、骨髄、末梢血、又は臍帯血、又は任意の他の正常な若しくは疾患に侵された組織に由来する、請求項19に記載の改変された細胞。
【請求項22】
末梢血及び臍帯血が、末梢血単核細胞(PBMC)及び全臍帯血単核細胞(CBMC)をそれぞれ含む、請求項21に記載の改変された細胞。
【請求項23】
PBMCが、アルファベータTCR+T細胞、ガンマデルタTCR+T細胞、NK細胞、インバリアントNKT細胞、B細胞、樹状細胞、単球、マクロファージ、好中球、顆粒球、造血前駆細胞、間葉系前駆細胞、間質細胞、及びそれらの組合せである、請求項22に記載の改変された細胞。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
優先権
本出願は、その全体にわたって参照により本明細書に組み込まれる、2021年9月24日出願の米国仮出願第63/261,654号に基づく優先権を主張する。
【0002】
分野
本開示は概して、細胞へのエレクトロポレーションを使用する、強化されたウイルス形質導入を含む遺伝子編集の方法、特に、共エレクトロポレーション(co-electroporation)により目的の遺伝子をノックアウトすること並びに新たな遺伝子及び/又はウイルスベクターを挿入することを含む、遺伝子を編集する方法に関する。本開示は、この方法を使用して作製される改変された細胞、及び改変された細胞を含む治療剤を患者に送達する方法にも関する。
【背景技術】
【0003】
エレクトロポレーションは、核酸を細胞内にロードして、ロードされた細胞のトランスフェクションを達成するための方法である。専門用語、エレクトロポレーション、電気トランスフェクション及び電気ローディング(electroloading)は、本技術、導入遺伝子発現及び細胞質への分子の移動の一般的な意味に重点を置いて、それぞれ本文献において交換可能に使用されている。以下、細胞をトランスフェクトするこの方法は、トランスフェクト試薬又はロードされる核酸の生物ベースのパッケージング、例えばウイルスベクター又はウイルス様粒子を用いず、細胞のローディングを推進するための、細胞に印加される一過性の電場のみによるエレクトロポレーションを使用する方法である、電気ローディングと呼ばれる。
【0004】
エレクトロポレーションの中で、ヌクレオフェクションは、細胞質中の移送されたDNAが核に入るのを助けるトランスフェクション試薬を伴う特殊なエレクトロポレーションである。ヌクレオフェクションが、専用のヌクレオフェクション薬剤により処理されたプラスミドDNAを使用して休止T細胞及びNK細胞をトランスフェクトしたことが報告された(Maashoら、2004)。キメラ受容体の休止T細胞ヌクレオフェクションにより、特異的な標的細胞死滅をもたらすことができたことも実証された(Finney、ら、2004)。
【0005】
それに加えて、休止細胞及び患者に注入される細胞に関して有益となりうるmRNAにより細胞をロードすることが可能である。まずmRNAは、特に電気ローディングによりロードされた場合、プラスミドDNAによるローディングと比較して最小限の細胞毒性を生じ、これは特に休止細胞、例えば休止NK及び末梢血単核細胞(PBMC)細胞の電気ローディングに当てはまる。また、mRNAは発現されるために細胞核に入る必要がないため、休止細胞はロードされたmRNAを容易に発現する。更に、mRNAは核に輸送される必要がなく転写もプロセシングもされる必要がないため、実質的に細胞の細胞質に入った直後に翻訳が開始されうる。このことが、mRNAによりコードされる遺伝子の迅速な発現を可能にする。更に、mRNAは複製せず、細胞の遺伝性の遺伝子材料を改変せず、mRNA調製物は一般的に単一のタンパク質コード配列を含有し、これは、ロードされた細胞中で発現されていることが望まれるタンパク質をコードする。mRNA電気ローディングについての各種研究が報告されている(Landiら、2007;Van De Parreら2005;Rabinovichら2006;Zhaoら、2006)。
【0006】
遺伝子編集手順、クラスター化して規則的な配置の短い回文配列リピート(「CRISPR」)は、標的位置の遺伝子を選択し、DNAの部分を除去するか編集するか又は変化させることにより遺伝子を正確に編集する能力を可能にする。CRISPRは、目的の遺伝子をノックアウトし、新たな遺伝子及び/又はウイルスベクターを挿入するのに利用可能である。歴史的に、挿入を実行するタイミングは様々であるが、これは常にノックアウトが完了した後に実行される。ウイルスベクター挿入は、タイミングにおいて遺伝子のノックアウトにより近く実行されればより効率的であることが、文献において示されてきた。
【0007】
エレクトロポレーションは細胞における全てのリン脂質膜を乱し、核を含む細胞内部への到達を容易にする。科学者が直面する技術的な問題は、形質導入の効率及び有効性を最大にするための、DNAを切断した後に形質導入を実行するタイミングである。
【0008】
形質導入の効率は、治療上の効力不足及び合理化された製造工程がないことにより、多くのプログラムを遅延又は中止させる決定的な欠点であった。エレクトロポレーションは、細胞培養物にウイルスを添加する標準的な形質導入よりも早い。Barlettら、J. Virol. 2000年3月; 74(6): 2777~2785頁。現行のエレクトロポレーション方法は、ウイルスベクターを、エレクトロポレーションと一緒にではなく、エレクトロポレーションの前又は後のいずれかに添加する。AAV形質導入により核に入ることは速度を限定し、KO後にKIを導入することは、細胞に対するストレスを引き起こし、生存率を減少させる。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0009】
【特許文献1】米国特許出願第10/225,446号
【特許文献2】公開済みPCT出願第WO03/018751号
【特許文献3】公開済みPCT出願第WO2004/031353号
【特許文献4】米国特許出願第10/781,440号
【特許文献5】米国特許出願第10/080,272号
【特許文献6】米国特許出願第10/675,592号
【特許文献7】米国特許第5,720,921号
【特許文献8】米国特許第6,074605号
【特許文献9】米国特許第6,773,669号
【特許文献10】米国特許第6,090,617号
【特許文献11】米国特許第6,485,961号
【特許文献12】米国特許第6,617,154号
【特許文献13】米国特許第5,612,207号
【特許文献14】米国特許第7,141,425号
【非特許文献】
【0010】
【非特許文献1】Barlettら、J. Virol. 2000年3月; 74(6): 2777~2785頁
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0011】
本開示は、効率を増大させつつ、手順の長さを短くするためノックアウト及びノックインを同時に共トランスフェクトする方法により、先行技術における前述の欠陥のうちの1つ又は複数を克服しようとする。請求される方法は、ステップがより少なく、工程における細胞の操作がより少ないより合理化された製造工程を提供する。これは、治療上の効力も増大させる。
【課題を解決するための手段】
【0012】
一実施形態において、細胞へのエレクトロポレーションを使用する、強化されたウイルス形質導入の方法であって、1種又は複数の改変前の細胞(cells-to-be-modified)を選択する工程、改変前の細胞を採取する工程、改変前の細胞を濃縮する工程、改変前の細胞を、ウイルス、ウイルスベクター又はウイルス様粒子と組み合わせて、混合物を形成する工程、混合物に対してエレクトロポレーション及び形質導入を同時に実施して、そこにウイルス、ウイルスベクター又はウイルス様粒子を挿入する工程、並びに1種又は複数の共エレクトロポレーションされた細胞を形成する工程を含む、方法が開示される。
【0013】
一実施形態において、遺伝子編集の方法が記載され、方法は、編集される細胞又は細胞株を選択する工程、細胞又は細胞株を採取する工程、遠心機又は任意の細胞凝縮装置の使用により、細胞又は細胞株を凝縮させる工程、細胞又は細胞株を、CAS9-sgRNA検体、及び所望のタンパク質又はペプチドをコードするウイルスベクターと組み合わせて混合物を形成する工程、並びに混合物に対し同時のトランスフェクション及び形質導入を実施する工程を含む。開示される方法は同時に、CAS9-sgRNA検体に細胞又は細胞株由来の目的の遺伝子を編集、除去又は変化させ、遺伝子の編集された、除去された又は変化した位置にベクターを挿入する。
【0014】
一実施形態において、開示される方法により作製される改変された細胞も開示される。改変された細胞は、血液、間質液、及び組織に由来してもよい。開示される方法において使用される細胞の非限定的な例は、骨髄、末梢血、又は臍帯血、又は任意の他の正常な若しくは疾患に侵された組織に由来する細胞を含む。
【0015】
一実施形態において、緩衝液中で再懸濁された凝縮された細胞はウイルスと混合され、プロセシング構築物に挿入され、エレクトロポレーションされる。形質導入によりKO後にKIがなされる場合、RNP+ウイルス(KO)はプロセシング構築物中に配置されたウイルス(KI)と混合され、エレクトロポレーションされる。
【0016】
先に論じられた主題とは別に、本開示は複数の他の例示的な特徴、例えば以下で説明される特徴を含む。前述及び以下の記載がともに例示的なものに過ぎないことが理解されるべきである。
【0017】
添付の図は本明細書の一部を含み、いくつかの実施形態を例示し、本明細書とともに本明細書で開示される原理を説明するのに役立つ。特許又は出願ファイルは少なくとも1つのカラーの図を含有する。カラーの図付きのこの特許又は特許出願公報のコピーは、要求及び必要な料金の支払いがあれば当局により提供される。
【図面の簡単な説明】
【0018】
【
図1】同時のエレクトロポレーション及び形質導入を含む、本開示による方法についての試験結果、特に本開示の一実施形態によりGFPを発現した細胞のパーセンテージを示す棒グラフである。
【
図2】同時のエレクトロポレーション及び形質導入を含む、本開示による方法についての試験結果、特に1細胞あたりの平均蛍光を示す棒グラフである。
【発明を実施するための形態】
【0019】
本明細書で使用される場合、「ノックアウト」(「KO」と略記)は、特定の遺伝子座の発現を妨害するためのDNA配列の一部の欠失又は無関係のDNA配列情報の挿入を指す。
【0020】
本明細書で使用される場合、「ノックイン」(「KI」と略記)技術は、1対1の置換又は配列情報の追加によるDNA配列情報の変化を指す。
【0021】
本明細書で特に別途定義されない限り、本明細書で使用される技術的、科学的、及び他の用語は全て、格付けベース方法及びウェブベースの評判システム及び関連科学の分野の技術者により通常理解されるものと同じ意味を有する。更なる用語が、必要に応じて以下の本開示において定義される可能性がある。
【0022】
一実施形態において、(KO)及び(KI)の両方を同時に実行することに基づく遺伝子編集の方法が開示される。開示される方法は、エレクトロポレーションと一緒にではなくエレクトロポレーションの前又は後にウイルスを添加することに焦点を当てる先行技術の欠陥を克服する。例えば、一実施形態において、方法は、編集される細胞又は細胞株を選択する工程、細胞又は細胞株を採取する工程、遠心機又は任意の細胞凝縮装置の使用により、細胞又は細胞株を凝縮させる工程、細胞又は細胞株をCAS9-sgRNA検体、及び所望のタンパク質又はペプチドをコードするウイルスベクターと組み合わせて混合物を形成する工程、並びに混合物に対し同時のエレクトロポレーション及び形質導入を実施する工程を含む。開示される方法は同時に、CAS9-sgRNA検体に細胞又は細胞株由来の目的の遺伝子を編集、除去又は変化させ、遺伝子の編集された、除去された又は変化した位置にベクターを挿入する。
【0023】
選択された目的の細胞又は細胞株は、細胞型に応じて、指定された長さの時間増殖及び/又は刺激される。エレクトロポレーション当日に、浮遊又は接着細胞が採取され、細胞サンプリングが細胞数及び生存率について行われる。
【0024】
一実施形態において、血清の存在下で培養された細胞が培地中の残留成分を除去するため、緩衝液又は基本培地で洗浄される。選択された細胞の数がプロセシング構築物に対する実験の範囲に応じて、遠心分離又は任意の細胞凝縮装置により凝縮される。
【0025】
一実施形態において、次いで、緩衝液及び/又は基本培地中の正確な体積の細胞が組み合わされたCAS9-sgRNA及び感染性ウイルス単位と混合される。RNP/感染性単位を緩衝液及び/又は基本培地中の細胞ペレットと混合した後これがプロセシング構築物中に挿入され、エレクトロポレーションシステムに取り付けられる。
【0026】
本明細書で開示される方法によるエレクトロポレーションが実行される。一実施形態において、次いで、細胞が細胞型に応じてサイトカインを含みうる完全培地中で予め確立されたvc/mLで再懸濁される。
【0027】
特定の細胞型プログラムに応じて分析が実行される。開示される方法は、従来のトランスフェクション及び形質導入の逐次ステップより早いだけでなくより効率的でもある。例えば、共トランスフェクトされた細胞のうちの20%超が所望のタンパク質又はペプチドを発現し、一部の場合では、共トランスフェクトされた細胞のうちの25~35%が所望のタンパク質又はペプチドを発現することが判明した。それに加えて、開示される方法は、コトランスフェクト共トランスフェクトされた細胞が生存率50%超、更に生存率75%超、又は更に生存率90%超であることを示す。
【0028】
本明細書で開示される方法は、任意の植物細胞、海洋細胞、任意の真核生物細胞型を限定されずに含む任意の哺乳動物細胞株、特定の血液細胞、初代細胞、がん細胞、罹患した細胞に適用可能であり、他の種類のウイルスベクターを含む。
【0029】
本明細書で開示される方法は、多様な細胞集団で使用可能である。一部の実施形態において、細胞は、血液、間質液、及び任意の組織、例えば骨髄、末梢血、又は臍帯血、又は任意の他の正常な若しくは疾患に侵された組織由来であってもよい。一部の実施形態において、細胞は全末梢血又は全臍帯血由来であってもよい。一部の実施形態において、細胞は全末梢血単核細胞(PBMC)由来であってもよい。一部の実施形態において、細胞は全臍帯血単核細胞(CBMC)由来であってもよい。一部の実施形態において、細胞は末梢血単核細胞(PBMC)の画分由来であってもよい。一部の実施形態において、細胞は臍帯血単核細胞(CBMC)の画分由来であってもよい。一部の実施形態において、細胞は血液の特定の細胞成分由来であってもよい。これらの細胞は細胞療法を受ける対象にとって自家又は同種であってもよい。
【0030】
PBMCの非限定的な例は、アルファベータTCR+T細胞、ガンマデルタTCR+T細胞、NK細胞、インバリアントNKT細胞、B細胞、樹状細胞、単球、マクロファージ、好中球、顆粒球、造血前駆細胞、間葉系前駆細胞、及び間質細胞を含む。これらの細胞は成熟又は未熟細胞であってもよい。これらの細胞はまた、系列決定された細胞及び系列未決定の細胞であってもよい。
【0031】
一部の実施形態において、単離された細胞、又は改変がなされる細胞は、新たに単離された細胞、予め単離された細胞、又は凍結保存された細胞であってもよい。一部の実施形態において、改変された細胞は、新たに単離された細胞、予め単離された細胞、又は凍結保存された細胞であってもよい。一部の実施形態において、改変された細胞は、改変直後に使用されてもよい。一部の実施形態において、改変された細胞は凍結保存され、後で使用されてもよい。一部の実施形態において、単離された細胞及び/又は改変された細胞は、休止及び未刺激(非活性化、未増殖)であってもよく、活性化(抗原又は刺激により)されていてもよく、活性化、培養、及び増殖(サイトカインにより刺激)されていてもよい。
【0032】
一部の実施形態において、細胞は健康な対象又は罹患した対象から得られてもよい。一部の実施形態において、細胞は哺乳動物細胞であってもよい。一部の実施形態において、細胞は、ヒト細胞、マウス細胞、ハムスター細胞であってもよい。一部の実施形態において、対象は哺乳動物であってもよい。一部の実施形態において、対象は、ヒト、マウス、又はハムスターであってもよい。一部の実施形態において、使用される哺乳動物細胞型は、B細胞(ヒト及びマウス)、Vero細胞、及び心筋細胞である。
【0033】
ウイルス形質導入に対する経路は様々な細胞型の間で不変であるため、当業者は開示される方法により使用される哺乳動物細胞型を選択する際、使用者がウイルスの量(MOI)又はウイルス型、例えば限定されずにAAV1又はAAV6に対し微調整を行うだけでよいことを理解する。ウイルス血清型を選択する際、目的の細胞に形質導入することが示されているものを選択することが有益である。更に、印加される特定のエネルギー/電圧、及び感染率が、各細胞型について最適化される必要がある。
【0034】
エレクトロポレーションは、細胞に組成物を導入する周知の方法である。当業者はエレクトロポレーションの方法を熟知している。エレクトロポレーションは、例えば、フローエレクトロポレーション又は静止型エレクトロポレーション(static electroporation)であってもよい。一実施形態において、がん細胞をトランスフェクトする方法は参照により本明細書に組み込まれる米国特許出願第10/225,446号に記載されるエレクトロポレーション機器の使用を含む。エレクトロポレーションのための方法及び機器は、例えば、公開済みPCT出願第WO03/018751号及び第WO2004/031353号、米国特許出願第10/781,440号、第10/080,272号、及び第10/675,592号、並びに米国特許第5,720,921号、第6,074605号、第6,773,669号、第6,090,617号、第6,485,961号、第6,617,154号、第5,612,207号、第7,141,425号にも記載され、これら全てが参照により組み込まれる。
【0035】
一部の実施形態において、導入する工程はエレクトロポレーションすることを更に含み、エレクトロポレーション効率の空間的及び時間的制御は、細胞の集団内で変化させるか又は調整されてもよい。ある細胞型には効果を有するが他の細胞型には効果を有しない、例えば対象由来の細胞の試料のうちB細胞には影響を及ぼさずT細胞には影響を及ぼす、各種特定のある種の変数が、トランスフェクト方法に適用されてもよいと考えられる。
【0036】
一部の実施形態において、本明細書で開示される方法及び組成物は、がん及び自己免疫疾患の治療のためのものを含むがこれらに限定されない多くの免疫療法において有効でありうる。本明細書で開示される方法及び組成物は、慢性疾患及び感染症、ウイルス感染症、細菌感染症、又は寄生虫感染症、移植片対宿主病、リンパ増殖性障害、並びに過剰増殖性疾患を含むがこれらに限定されない、いくつかの他の疾患の治療に使用されてもよい。これらの方法及び組成物は、本明細書で論じられない更なる適応症に有用でありうると考えられる。
【0037】
一部の実施形態において、調節は直接的又は間接的である。一部の実施形態において、変化は直接的又は間接的である。一部の実施形態において、治療上の有効性又は治療上の指標は、免疫応答、免疫活性化、又は免疫抑制を包含してもよい。
【0038】
本開示の一態様において、in vitro又はex vivo細胞ワクチン療法のための改変された細胞を発生させる方法が提供される。方法は、細胞を単離する工程、細胞に組成物を導入する工程、及び対象に細胞を投与する工程を含む。一部の実施形態において、組成物は少なくとも1種の抗原を単独で又はそれらの組合せとしてコードする少なくとも1種のmRNAを含み、改変された細胞は、抗原に対する免疫応答を誘導しうるか、又は誘導することが可能である。一部の実施形態において、改変された細胞はエピトープ拡散と呼ばれる機序を介して対象の標的細胞により発現される他の抗原に対する免疫応答を誘導しうるか、又は誘導することが可能である。
【0039】
一部の実施形態において、遺伝子編集薬剤は、CRISPR CAS-9、RNA、プラスミド、mega-TALS、gene-writing、DNアーゼI、ベンゾナーゼ、エキソヌクレアーゼI、エキソヌクレアーゼIII、マングビーンヌクレアーゼ、ヌクレアーゼBAL31、RNアーゼI、51ヌクレアーゼ、ラムダエキソヌクレアーゼ、RecJ、T7エキソヌクレアーゼ、ジンクフィンガーヌクレアーゼ、メガヌクレアーゼ、転写活性化因子様エフェクターヌクレアーゼ、又は部位特異的ヌクレアーゼを含む。
【0040】
用語「細胞ワクチン」は、本明細書で使用される場合、抗原を発現するように改変された細胞を指す。特に、細胞ワクチンは、抗原に対する免疫応答を誘導し、標的抗原を発現する細胞に対する免疫細胞を活性化するように改変された細胞を指す。細胞ワクチンは、対象に送達されると、炎症環境を発生させ、悪性腫瘍に対する免疫応答、及び異常に増殖する自己免疫細胞、ウイルス、細菌、真菌、又は任意の疾患を引き起こす生物学的薬剤に感染した細胞に対する免疫応答を誘発し、それにより、それらの細胞に、罹患した/感染したか又は疾患を引き起こす細胞を特異的に抑制するかつ/又は不活性化するか又は死滅させる能力をもたらす。抗原の非限定的な例は、タンパク質、ポリペプチド、糖抗原、リポタンパク質、又はペプチド抗原、又はペプチドミメティックを含んでもよい。
【0041】
概して、分子はタンパク質、ヌクレオチド配列、糖、リポタンパク質、又はそれらの断片を含んでもよい。これらの分子のうちのいずれかが、抗原として使用されてもよく、又は例えば、ヌクレオチド配列の場合、抗原を生成するのに使用されてもよい。これらの分子は天然(すなわち生物学的)又は合成であってもよい。一部の実施形態において、抗原はタンパク質、ポリペプチド、ペプチド多量体、ペプチドアビマー、糖抗原、又は脂質タンパク質、又はそれらの組合せであってもよい。
【0042】
用語「形質導入」は、細胞への核酸のウイルス媒介性移送について記載するのに使用される。外来性DNA又はRNAによる細胞のトランスフェクションとは対照的に、ここではトランスフェクション試薬が必要ない。ビリオンとも呼ばれるウイルスベクターは、それ自体が更なる操作とは無関係に細胞を感染させ、核内にDNAを直接輸送することができる。核内へのDNAの放出後、目的のタンパク質が細胞の機構を使用して生成される。
【0043】
本発明の特徴及び利点は、例示のために提供され、いかなる方法によっても本発明を限定するものと解釈されるべきでない以下の実施例によってより完全に示される。
【実施例】
【0044】
ヒトPBMCを、CD3/CD28ビーズにより3日間活性化させた。細胞の3つの群に、AAV6-GFPにより、標準的なプロトコルに従って、0.2、1及び5感染多重度(MOI)で形質導入した。活性化された細胞の3つの他のセットを、MaxCyteエレクトロポレーション緩衝液中に懸濁させ、形質導入に使用されたものと同じMOIのAAVを含有するMaxCyte 25μlプロセシング構築物に移送した。エレクトロポレーション後、細胞を、IL-7及びIL-15を含有する培地に、形質導入された細胞と同じ密度で播種した。GFP発現を、24、48及び72時間時点でフローサイトメトリーによりアッセイした。
【0045】
図1は、GFPを発現した細胞のパーセンテージを示す。
図2は、1細胞あたりの平均蛍光を示す。
図1及び
図2はともに、同時のエレクトロポレーション及び形質導入が標準的な形質導入と比較してウイルスを取り込んだ細胞の数を増大させ、かつ1細胞あたりのウイルスの量を増大させたことを示す。
【0046】
ここで開示される明細書が例示的なものに過ぎないこと、及び非限定的であることが意図されることの両方が理解されるべきである。
【0047】
別途特別に明記されない限り、本明細書に示される任意の方法が、工程が特定の順序で実施されることを求めるものと解釈されることは何ら意図されない。したがって、方法クレームが、その工程が従うべき順序を実際には記載していない場合、又は工程が特定の順序に限定されるべきであることが、クレーム又は明細書に別途特に明記されない場合、任意の特定の順序が暗示されることは何ら意図されない。それに加えて、本明細書に記載される任意の方法又は組成物は、本明細書に記載される任意の他の方法又は組成物に関して実施されてもよいと考えられる。
【0048】
ここで開示される明細書及び例は、例示的なものに過ぎないと考えられることが意図され、本発明の真の範囲及び趣旨はクレームに示される。本明細書に記載される組成物、機器及び方法についての他の実施形態は本開示について考慮し、本明細書で開示される各種実施例の実施形態を実行すれば当業者にとって明らかである。
【0049】
実施例以外では、又は別途示されない限り、成分、反応条件、分析的測定値、並びに明細書及びクレームにおいて使用されるその他のものの量を表す数字は全て、用語「約」により、全ての例において修飾されているものと理解されるべきである。したがって、それとは反対に示されない限り、明細書及び添付されたクレームにおいて示される数値変数は、本開示により得られることが求められる所望の特性次第で変動しうる近似値である。少なくとも、かつ均等論の適用をクレームの範囲に限定しようとするものではなく、各数値変数は、有効桁数及び通常の端数を丸める手法に照らして解釈されるべきである。
【0050】
本開示の広い範囲を表す数値範囲及び変数は近似値であるが、別途示されない限り、特定の実施例において示される数値は可能な限り正確に報告される。しかし、任意の数値は、それらの各試験測定値にみられる標準偏差から必然的に生じるある種の誤りを本質的に含有する。
【0051】
本明細書で使用される場合、用語「the」、「a」、又は「an」は、「少なくとも1つの」を意味し、それとは反対に明確に示されない限り、「1つのみ」に限定されるべきでない。ゆえに、例えば「ハイブリッドペプチド」は、「少なくとも1つのハイブリッドペプチド」を意味すると解釈されるべきである。
【0052】
本明細書において言及される出版物、特許及び特許出願は全て、本明細書では、各個々の出版物、特許又は特許出願が、参照により本明細書に組み込まれると特にかつ個々に示されるのと同程度に、参照によりそれらの全体にわたって本明細書に組み込まれる。
【国際調査報告】