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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公表特許公報(A)
(11)【公表番号】
(43)【公表日】2024-09-30
(54)【発明の名称】EGFR阻害剤の多形形態
(51)【国際特許分類】
   C07D 491/056 20060101AFI20240920BHJP
   A61K 31/519 20060101ALI20240920BHJP
   A61P 43/00 20060101ALI20240920BHJP
   A61P 35/00 20060101ALI20240920BHJP
   A61P 25/00 20060101ALI20240920BHJP
【FI】
C07D491/056 CSP
A61K31/519
A61P43/00 111
A61P35/00
A61P25/00
【審査請求】未請求
【予備審査請求】未請求
(21)【出願番号】P 2024518581
(86)(22)【出願日】2022-09-23
(85)【翻訳文提出日】2024-05-21
(86)【国際出願番号】 US2022044475
(87)【国際公開番号】W WO2023049312
(87)【国際公開日】2023-03-30
(31)【優先権主張番号】63/247,774
(32)【優先日】2021-09-23
(33)【優先権主張国・地域又は機関】US
(81)【指定国・地域】
(71)【出願人】
【識別番号】523104535
【氏名又は名称】エラスカ・インコーポレイテッド
【氏名又は名称原語表記】Erasca, Inc.
(71)【出願人】
【識別番号】524110470
【氏名又は名称】ブラッター,フリッツ
【氏名又は名称原語表記】BLATTER, Fritz
(71)【出願人】
【識別番号】524110481
【氏名又は名称】マイアー,アクセル ライナー
【氏名又は名称原語表記】MAIER, Axel Rainer
(71)【出願人】
【識別番号】524110492
【氏名又は名称】トゥフィッリ,ニコリーノ
【氏名又は名称原語表記】TUFILLI, Nicolino
(74)【代理人】
【識別番号】100145403
【弁理士】
【氏名又は名称】山尾 憲人
(74)【代理人】
【識別番号】100156144
【弁理士】
【氏名又は名称】落合 康
(72)【発明者】
【氏名】ヴェルニエ,ジャン-ミシェル
(72)【発明者】
【氏名】ブラッター,フリッツ
(72)【発明者】
【氏名】マイアー,アクセル ライナー
(72)【発明者】
【氏名】トゥフィッリ,ニコリーノ
【テーマコード(参考)】
4C086
【Fターム(参考)】
4C086AA01
4C086AA03
4C086AA04
4C086CB22
4C086GA15
4C086MA01
4C086MA04
4C086NA14
4C086ZA02
4C086ZB26
4C086ZC41
(57)【要約】
(S)-N-(3-ブロモ-2-フルオロフェニル)-7-((4-メチルピペラジン-1-イル)メチル)-7,8-ジヒドロ-[1,4]ジオキシノ[2,3-g]キナゾリン-4-アミンの多形形態が、本明細書に開示される。
【化1】
【選択図】図1
【特許請求の範囲】
【請求項1】
以下の構造を有する、遊離塩基である化合物(I)の多形であって、
【化1】
前記多形は、
(1)約4.9±0.2、約13.9±0.2、約22.1±0.2、及び約25.1±0.2度の2θの値を特徴とする特徴的なピークを有するX線回折パターンを有する形態A、
(2)約4.8±0.2、約9.8±0.2、約13.8±0.2、約14.7±0.2、約17.7±0.2、約20.2±0.2、約24.1±0.2、約24.6±0.2、及び約25.1±0.2度の2θの値を特徴とする特徴的なピークを有するX線回折パターンを有する形態B、
(3)約4.9±0.2、約22.9±0.2、約23.2±0.2、約23.7±0.2、及び約24.3±0.2度の2θの値を特徴とする特徴的なピークを有するX線回折パターンを有する形態C、または
(4)約15.6±0.2、約16.9±0.2、約19.1±0.2、約19.5±0.2、約22.5±0.2、及び約26.0±0.2度の2θの値を特徴とする特徴的なピークを有するX線回折パターンを有する形態D、である、前記多形。
【請求項2】
前記多形が、形態Aであり、形態Aが、約4.9±0.2、約12.0±0.2、約13.9±0.2、約14.8±0.2、約15.5±0.2、約15.9±0.2、約17.8±0.2、約20.4±0.2、約21.0±0.2、約22.1±0.2、約23.0±0.2、約23.6±0.2、約24.3±0.2、約24.8±0.2、約25.1±0.2、約26.3±0.2、及び約27.3±0.2度の2θの値を特徴とする特徴的なピークを有するX線回折パターンを有する、請求項1に記載の多形。
【請求項3】
前記多形が、形態Cであり、形態Cが、約4.9±0.2、約9.8±0.2、約12.1±0.2、約14.4±0.2、14.7±0.2、約20.2±0.2、約23.2±0.2、約23.7±0.2、約24.3±0.2、約24.6±0.2、及び約26.1±0.2度の2θの値を特徴とする特徴的なピークを有するX線回折パターンを有する、請求項1に記載の多形。
【請求項4】
前記多形が、形態Dであり、形態Dが、約15.2±0.2、約15.6±0.2、約16.9±0.2、約19.1±0.2、約19.5±0.2、約22.5±0.2、及び約26.0±0.2度の2θの値を特徴とする特徴的なピークを有するX線回折パターンを有する、請求項1に記載の多形。
【請求項5】
前記多形が、形態Dであり、形態Dが、約10.2±0.2、約13.5±0.2、約15.2±0.2、約15.6±0.2、約15.9±0.2、約16.9±0.2、19.1±0.2、約19.5±0.2、約22.5±0.2、約23.3±0.2、約24.3±0.2、約24.7±0.2、約24.9±0.2、約26.0±0.2、約27.9±0.2、及び約29.6±0.2度の2θの値を特徴とする特徴的なピークを有するX線回折パターンを有する、請求項1に記載の多形。
【請求項6】
前記多形が、約153℃の融点を有する形態Dである、請求項1に記載の多形。
【請求項7】
請求項1または2に記載の化合物(I)の形態A多形を形成する方法であって、
(a)イソプロピルアルコール:水(1:1)中の非晶質化合物(I)を結晶化し、前記結晶化された非晶質化合物(I)を平衡化すること、
(b)アセトニトリル:水(9:1)中で形態Dを懸濁平衡化すること、または
(c)水飽和TBME中で非晶質化合物(I)を懸濁平衡化すること、のうちの1つを含む、前記方法。
【請求項8】
請求項1に記載の化合物(I)の形態B多形を形成する方法であって、
(a)水:エタノール(2:1)中で非晶質化合物(I)を懸濁平衡化すること、または
(b)水中で形態Dを懸濁平衡化すること、のうちの1つを含む、前記方法。
【請求項9】
請求項1または3に記載の化合物(I)の形態C多形を形成する方法であって、5.5:2のアセトニトリル:水の溶液から化合物(I)を再結晶化させ、続いて5℃で平衡化することを含む、前記方法。
【請求項10】
請求項1または4~6のいずれか1項に記載の化合物(I)の形態D多形を形成する方法であって、非水溶媒系中で非晶質化合物(I)を結晶化し、スラリー化、播種、平衡化、懸濁平衡化、またはそれらの組み合わせを介して非晶質化合物(I)を形態Dに変換することを含む、前記方法。
【請求項11】
(a)酢酸エチル中でスラリー化すること、
(b)酢酸エチル中で形態Dを播種すること、
(c)アセトニトリル中でスラリー化すること、
(d)酢酸イソプロピル:シクロヘキサン(1:2)中で懸濁平衡化すること、
(e)メチルエチルケトン(MEK):ジイソプロピルエーテル中で懸濁平衡化すること、
(f)メチルエチルケトン(MEK):p-キシレン(1:2)中で懸濁平衡化し、溶媒を部分的蒸発させること、
(g)メチルTHF:メチルシクロヘキサン(1:2)中で平衡化すること、
(h)酢酸イソプロピル:ヘプタン(2:3)中で平衡化すること、
(i)酢酸イソプロピル:ヘプタン(1:1)中で平衡化すること、
(j)酢酸n-ブチル:ヘプタン(5:2)中で懸濁平衡化すること、
(k)形態Dを播種してTBME中で懸濁平衡化すること、
(l)ヘプタン:MIBK(4:1)中で懸濁平衡化すること、
(m)メタノール:メチルシクロヘキサン(1:4)中で懸濁平衡化すること、
(n)トリメチルアミン中で懸濁平衡化すること、または
(o)ジイソプロピルエーテル中で懸濁平衡化すること、のうちの1つを含む、請求項10に記載の方法。
【請求項12】
請求項1または4~6のいずれか1項に記載の化合物(I)の形態D多形を形成する方法であって、
(a)アセトン:ヘプタン(1:3)、
(b)酢酸n-ブチル、または
(c)メタノール:ジイソプロピルエーテル(1:12)、のうちの1つの中で化合物(I)の溶液を蒸発させることを含む、前記方法。
【請求項13】
化合物(I)を精製する方法であって、
【化2】
多形形態Aの結晶を調製することと、前記多形形態Aの結晶を単離することと、を含む、前記方法。
【請求項14】
化合物(I)を精製する方法であって、
【化3】
多形形態Bの結晶を調製することと、前記多形形態Bの結晶を単離することと、を含む、前記方法。
【請求項15】
化合物(I)を精製する方法であって、
【化4】
多形形態Cの結晶を調製することと、前記多形形態Cの結晶を単離することと、を含む、前記方法。
【請求項16】
化合物(I)を精製する方法であって、
【化5】
多形形態Dの結晶を調製することと、前記多形形態Dの結晶を単離することと、を含む、前記方法。
【請求項17】
請求項1~6のいずれか1項に記載の化合物(I)の多形形態と、薬学的に許容される賦形剤と、を含む、薬学的組成物。
【請求項18】
がんを有する対象を治療する方法であって、前記対象に、請求項1~6のいずれか1項に記載の化合物(I)の多形形態A、B、C、またはDの1つ以上を投与することを含む、前記方法。
【請求項19】
前記がんが、異常なEGFR発現を特徴とする、請求項18に記載の方法。
【請求項20】
前記がんが、脳腫瘍である、請求項18または19に記載の方法。
【請求項21】
がんを有する対象を治療するための医薬品の製造における、請求項1~6のいずれか1項に記載の化合物(I)の多形形態A、B、C、またはDの1つ以上の使用。
【請求項22】
前記がんが、異常なEGFR発現を特徴とする、請求項21に記載の使用。
【請求項23】
前記がんが、脳腫瘍である、請求項21または22に記載の使用。
【発明の詳細な説明】
【背景技術】
【0001】
膠芽腫(多形性膠芽腫、GBM)は、成人の原発性悪性脳腫瘍の大部分を占める。上皮成長因子受容体(EGFR)遺伝子の増幅及び変異は、GBMで見られる特徴的な遺伝的異常である(Sugawa,et al.(1990)Proc.Natl.Acad.Sci.87:8602-8606、Ekstrand,et al.(1992)Proc.Natl.Acad.Sci.89:4309-4313)。EGFRまたはその変異型の構成的活性型であるAEGFRを標的とする、チロシンキナーゼ阻害剤(TKI)、モノクローナル抗体、ワクチン、及びRNAベースの薬剤を含む様々な可能性のある治療法が、現在、GBMの治療のために開発中または臨床試験中である。しかしながら、これまでのところ、臨床におけるそれらの有効性は、初期薬物耐性及び獲得薬物耐性の両方によって制限されている(Taylor,et al(2012)Curr.Cancer Drug Targets.12:197-209)。主な制限は、エルロチニブ、ラパチニブ、ゲフィチニブ、及びアファチニブなどの現在の治療法の脳浸透性が低いことである(Razier,et al.(2010)Neuro-Oncology 12:95-103、Reardon,et al.(2015)Neuro-Oncology 17:430-439、Thiessen,et al.(2010)Cancer Chemother.Pharmacol.65:353-361)。
【0002】
国際公開第WO2020/190765号は、(S)-N-(3-ブロモ-2-フルオロフェニル)-7-((4-メチルピペラジン-1-イル)メチル)-7,8-ジヒドロ-[1,4]ジオキシノ[2,3-g]キナゾリン-4-アミン(「化合物(I)」):
【化1】
を開示しており、それが良好なEGFR阻害活性と脳浸透能力との両方を示したことを開示している。しかしながら、この開示において多形形態は特定されていなかった。
【0003】
活性医薬成分(API)の薬物開発中、APIまたはその塩の物理的形態は、製剤中の薬物候補の物理的特性に影響を与え得る。多くの活性医薬成分は、2つ以上の多形形態で存在し得る。さらに、好ましい形態としては、遊離塩基、遊離酸、または薬学的に許容される塩として存在し得る。したがって、製造のための薬学的に許容される塩の形態、ならびに遊離塩基または遊離酸の形態の特定は、薬物候補の開発における重要な一歩を表す。
【0004】
好ましい固体形態を決定または特定する際に、その好ましい固体形態は、しばしば、予測不可能な物理的特性を有するものである。特定の固体形態(結晶性、半固体)が、調製の容易さ、安定性などのために好ましい場合がある。他方では、より高い溶解性及び/または優れた薬物動態のために、異なる結晶性固体が好ましい場合がある。したがって、有効成分の薬学的に許容される塩は、高い溶解度または高い溶解度を提供し得る一方で、臨床薬学的製剤を達成するためには、結晶性固体などの特定の薬剤形態の開発が必要となり得る。
【発明の概要】
【0005】
本出願は、(S)-N-(3-ブロモ-2-フルオロフェニル)-7-((4-メチルピペラジン-1-イル)メチル)-7,8-ジヒドロ-[1,4]ジオキシノ[2,3-g]キナゾリン-4-アミンの多形を対象とする。
【0006】
一態様では、本明細書の実施形態は、化合物(I)の多形形態に関する:
【化2】
【0007】
一実施形態では、化合物(I)の多形形態は、形態Aであり、約4.9±0.2、約13.9±0.2、約22.1±0.2、及び約25.1±0.2度の2θの値で表される特徴的なピークを有するX線粉末回折パターンを有する。
【0008】
一実施形態では、化合物(I)の多形形態は、形態Bであり、約4.8±0.2、約9.8±0.2、約13.8±0.2、約14.7±0.2、約17.7±0.2、約20.2±0.2、約24.1±0.2、約24.6±0.2、及び約25.1±0.2度の2θの値で表される特徴的なピークを有するX線粉末回折パターンを有する。
【0009】
一実施形態では、化合物(I)の多形形態は、形態Cであり、約4.9±0.2、約22.9±0.2、約23.2±0.2、約23.7±0.2、及び約24.3±0.2度の2θの値で表される特徴的なピークを有するX線粉末回折パターンを有する。
【0010】
一実施形態では、化合物(I)の多形形態は、形態Dであり、約15.6±0.2、約16.9±0.2、約19.1±0.2、約19.5±0.2、約22.5±0.2、及び約26.0±0.2度の2θの値で表される特徴的なピークを有するX線粉末回折パターンを有する。
【0011】
一態様では、本明細書の実施形態は、化合物(I)を精製する方法であって、
【化3】
多形形態Aの結晶を調製することと、多形形態Aの結晶を単離することと、を含む、方法に関する。
【0012】
一態様では、本明細書の実施形態は、化合物(I)を精製する方法であって、
【化4】
多形形態Bの結晶を調製することと、多形形態Bの結晶を単離することと、を含む、方法に関する。
【0013】
一態様では、本明細書の実施形態は、化合物(I)を精製する方法であって、
【化5】
多形形態Cの結晶を調製することと、多形形態Cの結晶を単離することと、を含む、方法に関する。
【0014】
一態様では、本明細書の実施形態は、化合物(I)を精製する方法であって、
【化6】
多形形態Dの結晶を調製することと、多形形態Dの結晶を単離することと、を含む、方法に関する。
【0015】
一態様では、本明細書の実施形態は、多形形態の化合物(I)と、薬学的に許容される賦形剤と、を含む薬学的組成物に関する。
【0016】
一態様では、本明細書の実施形態は、がんを有する対象を治療する方法であって、対象に、化合物(I)の多形形態A、B、C、またはDの1つ以上を投与することを含む、方法に関する。
【0017】
一態様では、本明細書の実施形態は、がんを有する対象を治療するための医薬品の製造における、化合物(I)の多形形態A、B、C、またはDの1つ以上の使用に関する。
【図面の簡単な説明】
【0018】
図1】化合物(I)の結晶形態Aの粉末X線回折(PXRD)スペクトルを示す。
図2A】化合物(I)の結晶形態Bの粉末X線回折(PXRD)スペクトルを示す。
図2B】化合物(I)の結晶形態Bの粉末X線回折(PXRD)スペクトルを示す。
図3】化合物(I)の結晶形態Cの粉末X線回折(PXRD)スペクトルを示す。
図4A】化合物(I)の結晶形態Dの粉末X線回折(PXRD)スペクトルを示す。
図4B】化合物(I)の結晶形態Dのフーリエ変換ラマンスペクトルを示す。
【発明を実施するための形態】
【0019】
本出願は、(S)-N-(3-ブロモ-2-フルオロフェニル)-7-((4-メチルピペラジン-1-イル)メチル)-7,8-ジヒドロ-[1,4]ジオキシノ[2,3-g]キナゾリン-4-アミンの多形を対象とする。
【0020】
本開示は、本開示の一部を形成する添付の図面及び実施例に関連して解釈される以下の詳細な説明を参照することによって、より容易に理解され得る。開示される実施形態は、本明細書で説明される及び/または示される特定のデバイス、方法、アプリケーション、条件、またはパラメータに限定されず、本明細書で使用される用語は、単に例として特定の実施形態を説明することを目的とし、開示された実施形態を限定することを意図しないことが理解される。また、添付の特許請求の範囲を含む本明細書で使用される場合、単数形「a」、「an」、及び「the」は、複数を含み、特定の数値への言及は、文脈が明らかに別途指示しない限り、少なくともその特定の値を含む。
【0021】
「含む(comprise)」、「含む(include)」、「有する(having)」、「有する(has)」、「できる(can)」、「含有する(contain)」という用語及びそれらの活用形は、本明細書で使用される場合、指定された成分/ステップの存在を必要とし、他の成分/ステップの存在を許容にする、オープンエンドな移行句、用語、または語であることを意図する。しかしながら、かかる説明はまた、列挙された化合物「からなる」及び「から本質的になる」として組成物またはプロセスをも説明するものと解釈されるべきであり、これは、任意の薬学的担体と共に、指名された化合物のみの存在を許容にし、他の化合物を除外するものである。
【0022】
定義
本明細書で使用される場合、特に反証のない限り、以下の用語及び語句は、以下に示される意味を有する。
【0023】
本明細書で使用される「多形」という用語は、化合物の結晶形態を指す。「多形(polymorph)」及び「結晶形態(crystal form)」または「形態(Form)」の後にアルファベット識別子が続く用語は、同義に使用される。かかる結晶形態は、とりわけ、X線回折パターンによって識別され得る。
【0024】
本明細書で使用される場合、「平衡化」は、化合物の多形を形成するための条件に関して使用される場合、熱力学的平衡をもたらす物理的プロセスを指す。
【0025】
本明細書で使用される場合、「懸濁平衡化」は、化合物の多形を形成するための条件に関して使用される場合、典型的には液体中に固体粒子/材料が分散された懸濁液中で熱力学的平衡をもたらす物理的プロセスを指す。
【0026】
本明細書で使用されるとき、「スラリー化」は、化合物の多形を形成するための条件に関して使用されるとき、好適な撹拌装置で懸濁液を撹拌することによって、典型的には液体中に固体粒子/材料が分散された懸濁液中で熱力学的平衡をもたらす物理的プロセスを指す。
【0027】
本明細書で使用される場合、「播種」は、少量の既存の結晶形態を使用して、目的の化合物の溶液または懸濁液からのその形態のより多くの結晶化を支援するプロセスを指す。
【0028】
別途示されない限り、すべてのキラル(エナンチオマー及びジアステレオマー)及びラセミ形態は、開示される実施形態の範囲内である。C=C二重結合、C=N二重結合及び環系などの多くの幾何異性体もまた、化合物中に存在することができ、かかる安定した異性体はすべて、本開示において企図される。本開示の化合物のシス及びトランス(またはE及びZ-)幾何異性体が記載されており、異性体の混合物として、または分離された異性体形態として単離され得る。
【0029】
「立体異性体」という用語は、空間におけるそれらの原子の配置が異なる同一の構成の異性体を指す。エナンチオマー及びジアステレオマーは、立体異性体の例である。「エナンチオマー」という用語は、互いに鏡像であり、重ね合わせができない一対の分子種のうちの1つを指す。「ジアステレオマー」という用語は、鏡像ではない立体異性体を指す。
【0030】
記号「R」及び「S」は、キラル炭素原子の周りの置換基の構成を表す。異性体記述子「R」及び「S」は、本明細書に記載されるように、コア分子に対する原子配置を示すために使用され、文献(IUPAC勧告1996,Pure and Applied Chemistry,68:2193-2222(1996))で定義されるように使用されることが意図される。
【0031】
本開示の化合物、遊離形態、及びその塩は、水素原子が分子の他の部分に転置され、その結果、分子の原子間の化学結合が再配列される、複数の互変異性形態で存在し得る。存在し得る限り、すべての互変異性形態は、開示された実施形態内に含まれることを理解されたい。
【0032】
本明細書に開示されるすべての範囲は、列挙されるエンドポイントを含み、独立して組み合わせ可能である(例えば、「100mg~200mg」の範囲は、エンドポイント、100mg及び200mg、ならびにすべての中間値を含む)。本明細書に開示される範囲のエンドポイント及び任意の値は、その範囲または値に限定されず、それらは、これらの範囲及び/または値を近似する値を含むのに十分な幅を有する。
【0033】
用語「API」は活性医薬成分を指す。本明細書で使用される場合、APIは、「化合物(I)」または(S)-N-(3-ブロモ-2-フルオロフェニル)-7-((4-メチルピペラジン-1-イル)メチル)-7,8-ジヒドロ-[1,4]ジオキシノ[2,3-g]キナゾリン-4-アミンを指す。
【0034】
本明細書で使用される場合、「物理的に安定な」という用語は、特定の遊離塩基または塩形態が、特定の期間、例えば、1日、2日、3日、1週間、2週間、1ヶ月、2ヶ月、3ヶ月、6ヶ月、12ヶ月、18ヶ月、24ヶ月以上の特定の条件、例えば、室温の周囲湿度または40℃/75%の相対湿度に供された場合、1つ以上の異なる物理的形態(例えば、XRPD、DSCなどによって測定される異なる固体形態)に変化しないことを意味する。いくつかの実施形態では、化合物の形態の25%未満が、特定の条件に供された場合、1つ以上の異なる物理的形態に変化する。いくつかの実施形態では、特定の化合物の形態の約20%未満、約15%未満、約10%未満、約5%未満、約3%未満、約1%未満、約0.5%未満が、特定の条件に供された場合、その特定の化合物の1つ以上の異なる物理的形態に変化する。いくつかの実施形態では、化合物の特定の形態の検出可能な量は、化合物の1つ以上の異なる物理的形態に変化しない。
【0035】
本明細書で使用される場合、「化学的に安定な」という用語は、特定の化合物の化学構造が、特定の期間、例えば、1日、2日、3日、1週間、2週間、1ヶ月、2ヶ月、3ヶ月、6ヶ月、12ヶ月、18ヶ月、24ヶ月以上、特定の条件、例えば、室温の周囲湿度、または40℃/75%の相対湿度に供されたときに、別の化合物に変化(例えば、分解)しないことを意味する。いくつかの実施形態では、特定の化合物の形態の25%未満が、特定の条件に供された場合、1つ以上の他の化合物に変化する。いくつかの実施形態では、特定の化合物の形態の約20%未満、約15%未満、約10%未満、約5%未満、約3%未満、約1%未満、約0.5%未満が、特定の条件に供された場合、1つ以上の他の化合物に変化する。いくつかの実施形態では、特定の化合物の形態の検出可能な量は、その特定の化合物の1つ以上の異なる物理的形態に変化しない。
【0036】
先行する「約」を使用することによって値が近似値として表される場合、特定の値が別の実施形態を形成することが理解されよう。本明細書で使用される場合、「約X」(Xは数値である)は、好ましくは、列挙された値の±10%を指す。例えば、「約8」という語句は、7.2~8.8の値を指し、別の例として、「約8%」という語句は、7.2%~8.8%の値を指す。存在する場合、すべての範囲は、包括的かつ組み合わせ可能である。
【0037】
「固体形態」は、化合物の多形形態を指す。固体形態は、結晶性固体または非晶質固体として存在し得る。
【0038】
「塩酸塩」は、プロトンが化合物の最も塩基性の部位、例えば、窒素原子にイオン的に結合し、塩化物が対アニオンである構造を指す。
【0039】
描画された構造とその構造に与えられた名前との間に矛盾がある場合、描画された構造が優先される。加えて、構造または構造の一部の立体化学が、例えば、太線または破線で示されない場合、構造または構造の一部は、それのすべての立体異性体を包含すると解釈されるべきである。しかしながら、ある場合には、2つ以上のキラル中心が存在する場合、構造及び名称は、相対立体化学を記述するのに役立つ単一のエナンチオマーとして表され得る。有機合成の当業者であれば、化合物がそれらを調製するために使用される方法から単一のエナンチオマーとして調製されるかどうかが分かる。
【0040】
本説明では、「互変異性体」または「互変異性形態」という用語は、低エネルギー障壁を介して相互変換可能である異なるエネルギーの構造異性体を指す。例えば、プロトン互変異性体(プロトトロピック互変異性体としても知られる)は、ケトエノール及びイミン-エナミン異性化などのプロトンの移動を介した相互変換を含む。価互変異性体には、結合電子の一部の再編成による相互変換が含まれる。
【0041】
用語「治療する(treat)」、「治療すること(treating)」、及び「治療(treatment)」は、疾患または疾患に関連する症状の改善または根絶を指す。実施形態では、かかる用語は、かかる疾患を有する患者への1つ以上の予防剤または治療剤の投与に起因する疾患の広がりまたは悪化を最小限に抑えることを指す。本開示の文脈では、用語「治療する」、「治療すること」、及び「治療」はまた、
(i)具体的には、疾患または状態が哺乳動物で発生するのを、かかる哺乳動物がその状態にかかりやすいが、まだ疾患または状態を有すると診断されていない場合に、予防すること、
(ii)疾患または状態を阻害すること、すなわち、その発症を阻止すること、
(iii)疾患または状態を緩和すること、すなわち、その疾患または状態の退行を引き起こすこと、または
(iv)疾患または状態に起因する症状を緩和すること、すなわち、基礎となる疾患または状態に対処することなく、疼痛を緩和すること、を指す。本明細書で使用される場合、「疾患」及び「状態」という用語は、交換可能に使用され得るか、または特定の疾病もしくは状態が、既知の原因となる物質を有しない可能性があり(したがって病因がまだ解決されていない)、したがってまだ疾患として認識されていないが、臨床医によって多少の特定の症状の組が特定されている、望ましくない状態または症候群としてのみ認識されている点で異なり得る。
【0042】
「有効量」という用語は、疾患の治療または予防において、または疾患に関連付けられた症状を遅延または最小限に抑えるのに十分な、化合物または他の有効成分の量を指す。さらに、化合物に対する治療有効量は、疾患の治療または予防における治療的利益を提供する治療剤の、単独での、または他の療法と組み合わせての、量を意味する。化合物と関連して使用される場合、この用語は、全体的な治療を改善するか、疾患の症状もしくは原因を軽減もしくは回避するか、または治療有効性もしくは別の治療剤との相乗効果を増強する量を包含し得る。
【0043】
「患者」または「対象」は、ヒト、ウシ、ウマ、ヒツジ、子羊、ブタ、ニワトリ、七面鳥、ウズラ、ネコ、イヌ、マウス、ラット、ウサギまたはモルモットなどの動物を含む。動物は、非霊長類及び霊長類(例えば、サル及びヒト)などの哺乳動物であり得る。一実施形態では、患者はヒト乳児、小児、青年、または成人などのヒトである。
【0044】
本明細書で使用される場合、「薬学的に許容される担体」という用語は、開示される実施形態内の有用な化合物の塩を、その目的とする機能を果たし得るように担持するか、または輸送することに関与する、薬学的に許容される材料、組成物、または担体、例えば、液体もしくは固体充填剤、安定剤、分散剤、懸濁剤、希釈剤、賦形剤、増粘剤、溶媒、またはカプセル封入材料を意味する。各担体は、開示された実施形態内の有用な塩を含めて、製剤の他の成分とも適合性であり、対象に有害ではないという意味で、「許容され」なければならない。薬学的に許容される担体としての役目を果たし得る物質のいくつかの例としては、乳糖、ブドウ糖、及びショ糖などの糖類;トウモロコシデンプン及びジャガイモデンプンなどのデンプン;セルロース、及びカルボキシメチルセルロースナトリウム、エチルセルロース、及び酢酸セルロースなどのその誘導体、粉末化トラガカント、麦芽、ゼラチン、タルク、ココアバター及び坐剤ワックスなどの賦形剤、ピーナッツ油、綿実油、ベニバナ油、ゴマ油、オリーブ油、トウモロコシ油、及びダイズ油などの油、プロピレングリコールなどのグリコール、グリセリン、ソルビトール、マンニトール、及びポリエチレングリコールなどのポリオール、オレイン酸エチル及びラウリン酸エチルなどのエステル、寒天、水酸化マグネシウム及び水酸化アルミニウムなどの緩衝剤、界面活性剤、アルギン酸、発熱性物質除去水、等張食塩水、リンゲル液、エチルアルコール、リン酸緩衝液、ならびに薬学的製剤に用いられる他の非毒性の適合性材料が挙げられる。
【0045】
適切な製剤は、選択した投与経路に依る。本明細書に記載の薬学的組成物のための好適な賦形剤に関するさらなる詳細は、例えば、Remington:The Science and Practice of Pharmacy,Volume I and Volume II,Twenty-Second Edition,Loyd V.Allen,Jr.,editor(Philadelphia,PA:Pharmaceutical Press,2012);Excipient Development for Pharmaceutical,Biotechnology,and Drug Delivery Systems,Ashok Katdare and Mahesh V.Chaubal,editors(Boca Raton,FL:CRC Press,2006)、及びPharmaceutical Dosage Forms and Drug Delivery Systems,Seventh Ed.(Lippincott Williams & Wilkins 1999)に見出され、かかる開示のために参照により本明細書に組み込まれる。
【0046】
本明細書で使用される場合、薬学的組成物は、本明細書に記載されるような化合物(I)の結晶性固体多形と、担体、安定剤、希釈剤、分散剤、懸濁剤、増粘剤、及び/または賦形剤などの他の化学成分との混合物を指す。薬学的組成物は、化合物の、生物への投与を容易にする。
【0047】
実施形態では、以下の構造を有する、遊離塩基である化合物(I)の多形が提供され、
【化7】
多形は、
(1)約4.9±0.2、約13.9±0.2、約22.1±0.2、及び約25.1±0.2度の2θの値を特徴とする特徴的なピークを有するX線回折パターンを有する形態Aであって、実施形態では、前述のピークのうちの2つ、3つまたは4つを特徴とする、形態Aであるか、
(2)約4.8±0.2、約9.8±0.2、約13.8±0.2、約14.7±0.2、約17.7±0.2、約20.2±0.2、約24.1±0.2、約24.6±0.2、及び約25.1±0.2度の2θの値で特徴的なピークを有するX線回折パターンを有する形態Bであって、実施形態では、上記のピークのうちの2、3、4、5つ、最大ですべてを特徴とする、形態Bであるか、
(3)約4.9±0.2、約22.9±0.2、約23.2±0.2、約23.7±0.2、及び約24.3±0.2度の2θの値で特徴的なピークを有するX線回折パターンを有する形態Cであって、実施形態では、前述のピークのうちの2、3、4、または5つを特徴とする、形態Cであるか、あるいは、
(4)約15.6±0.2、約16.9±0.2、約19.1±0.2、約19.5±0.2、約22.5±0.2、及び約26.0±0.2度の2θの値で特徴的なピークを有するX線回折パターンを有する形態Dであって、実施形態では、上記のピークのうちの2、3、4、5つ、最大ですべてを特徴とする、形態Bである。
【0048】
実施形態では、多形は、形態Aであり、形態Aは、約4.9±0.2、約12.0±0.2、約13.9±0.2、約14.8±0.2、約15.5±0.2、約15.9±0.2、約17.8±0.2、約20.4±0.2、約21.0±0.2、約22.1±0.2、約23.0±0.2、約23.6±0.2、約24.3±0.2、約24.8±0.2、約25.1±0.2、約26.3±0.2、及び約27.3±0.2度の2θの値を特徴とする特徴的なピークを有するX線回折パターンを有する。
【0049】
実施形態では、多形は、形態Cであり、形態Cは、約4.9±0.2、約9.8±0.2、約12.1±0.2、約14.4±0.2、約14.7±0.2、約20.2±0.2、約23.2±0.2、約23.7±0.2、約24.3±0.2、約24.6±0.2、及び約26.1±0.2度の2θの値を特徴とする特徴的なピークを有するX線回折パターンを有する。
【0050】
実施形態では、多形は、形態Dであり、形態Dは、約15.2±0.2、約15.6±0.2、約16.9±0.2、約19.1±0.2、約19.5±0.2、約22.5±0.2、及び約26.0±0.2度の2θの値を特徴とする特徴的なピークを有するX線回折パターンを有する。
【0051】
実施形態では、多形は、形態Dであり、形態Dは、約10.2±0.2、約13.5±0.2、約15.2±0.2、約15.6±0.2、約15.9±0.2、約16.9±0.2、19.1±0.2、約19.5±0.2、約22.5±0.2、約23.3±0.2、約24.3±0.2、約24.7±0.2、約24.9±0.2、約26.0±0.2、約27.9±0.2、及び約29.6±0.2度の2θの値を特徴とする特徴的なピークを有するX線回折パターンを有する。
【0052】
実施形態では、多形は、約153℃の融点を有する形態Dである。
【0053】
実施形態では、多形は、図1に示されるような形態Aであり、表4に示されるピークリストを有する。実施形態では、多形は、図2aに示されるような形態Bであり、表5に示されるピークリストを有する。実施形態では、多形は、図3に示されるような形態Cであり、表6に示されるピークリストを有する。実施形態では、多形は、図4aに示されるような形態Dであり、表8に示されるピークリストを有する。
【0054】
実施形態では、化合物(I)の多形を形成する方法が提供され、本方法は、平衡化、懸濁平衡化、スラリー化、播種、蒸発、またはそれらの組み合わせによって非晶形化合物(I)を多形形態に変換することを含む。実施形態では、形態A、形態B、または形態Cは、水の存在下で非晶質化合物(I)から形成される。実施形態では、形態Dは、非水溶媒系中の非晶質化合物(I)から形成される。
【0055】
実施形態では、以下のうちの1つを含む、化合物(I)の形態A多形を形成する方法が提供される:
(a)イソプロピルアルコール:水(1:1)中の非晶質化合物(I)を結晶化し、結晶化された非晶質化合物(I)を平衡化すること、
(b)形態Dをアセトニトリル:水(9:1)中で懸濁平衡化すること、または
(c)水飽和TBME中で非晶質化合物(I)を懸濁平衡化すること。
【0056】
実施形態では、以下のうちの1つを含む、化合物(I)の形態B多形を形成する方法が提供される:
(a)非晶質化合物(I)を水:エタノール(2:1)中で懸濁平衡化すること、または
(b)形態Dを水中で懸濁平衡化すること。
【0057】
実施形態では、アセトニトリル:水 5.5:2の溶液から化合物(I)を再結晶させ、続いて5℃で平衡化することを含む、化合物(I)の形態C多形の形成方法が提供される。
【0058】
実施形態では、非水溶媒系で非晶質化合物(I)を結晶化し、スラリー化、播種、平衡化、懸濁平衡化、またはそれらの組み合わせを介して非晶質化合物(I)を形態Dに変換することを含む、化合物(I)の形態D多形を形成する方法が提供される。実施形態では、かかる方法は、以下のうちの1つを採用する:
(a)酢酸エチル中でスラリー化すること、
(b)酢酸エチル中で形態Dを播種すること、
(c)アセトニトリル中でスラリー化すること、
(d)酢酸イソプロピル:シクロヘキサン(1:2)中で懸濁平衡化すること、
(e)メチルエチルケトン(MEK):ジイソプロピルエーテル中で懸濁平衡化すること、
(f)メチルエチルケトン(MEK):p-キシレン(1:2)中で懸濁平衡化し、溶媒を部分的蒸発させること、
(g)メチルTHF:メチルシクロヘキサン(1:2)中で平衡化すること、
(h)酢酸イソプロピル:ヘプタン(2:3)中で平衡化すること、
(i)酢酸イソプロピル:ヘプタン(1:1)中で平衡化すること、
(j)酢酸n-ブチル:ヘプタン(5:2)中で懸濁平衡化すること、
(k)形態Dを播種してTBME中で懸濁平衡化すること、
(l)ヘプタン:MIBK(4:1)中で懸濁平衡化すること、
(m)メタノール:メチルシクロヘキサン(1:4)中で懸濁平衡化すること、
(n)トリメチルアミン中で懸濁平衡化すること、または
(o)ジイソプロピルエーテル中で懸濁平衡化すること。
【0059】
実施形態では、化合物(I)の形態D多形を形成する方法であって、以下のうちの1つの中の化合物(I)の溶液を蒸発させることを含む方法が提供される:
(a)アセトン:ヘプタン(1:3)、
(b)酢酸n-ブチル、または
(c)メタノール:ジイソプロピルエーテル(1:12)。
【0060】
実施形態では、化合物(I)の多形を形成するための上記各方法は、温度、撹拌/混合条件、冷却速度、処理時間、濃度、及びpHから選択される1つ以上の条件を制御または採用することができる。
【0061】
実施形態では、各多形形態A、B、C、及びD、ならびに化合物(I)の非晶形形態は、上記の条件を、特定の所望の多形形態を調製する際に記載される条件に変化させることによって相互に変換することができる。いくつかのかかる実施形態では、相互変換は、非晶質形態によって進行することができる。例えば、実施形態では、形態Aは、形態Aから非晶質形態への変換、次いで非晶質形態から形態Dへの変換を介して形態Dに変換され得る。すなわち、以下の実施例に示されるように、形態Aの乾燥は、化合物(I)の非晶質形態へのリフォームの時点まで実施され得、続いて形態Dを調製する条件が続く。同様に、形態Bは、非晶質形態に変換され、そこから形態Dに変換され得る。同様に、形態Cは、非晶質形態に変換され、そこから形態Dに変換され得る。さらに以下に示されるように、形態A、B、及びCを使用して高結晶性固体を生成できることは、化合物(I)の精製に役立ち得る。したがって、本明細書に以下に記載される精製方法は、多形形態及びそれらの非晶質形態の容易な相互変換を利用することができる。いくつかの実施形態では、形態A、B、及びCの各々は、形態Dを調製するために使用される条件下で平衡化を介して形態Dに直接変換することができる。したがって、かかる相互変換は、非晶質形態を通過する必要はない。
【0062】
実施例において以下の本明細書に開示するように、化合物(I)の多形形態は、高い結晶性を有する。したがって、多形形態は、化合物(I)の精製を補助するのに特に好適である。実施形態では、化合物(I)を精製する方法は、本明細書に開示される方法のいずれかによる化合物(I)の多形を調製することと、多形の結晶を単離することとを含む。実施形態では、化合物(I)を精製する方法であって、
【化8】
多形形態Aの結晶を調製することと、多形形態Aの結晶を単離することと、を含む、方法が提供される。
【0063】
実施形態では、化合物(I)を精製する方法であって、
【化9】
多形形態Bの結晶を調製することと、多形形態Bの結晶を単離することと、を含む、方法が提供される。
【0064】
実施形態では、化合物(I)を精製する方法であって、
【化10】
多形形態Cの結晶を調製することと、多形形態Cの結晶を単離することと、を含む、方法が提供される。
【0065】
実施形態では、化合物(I)を精製する方法であって、
【化11】
多形形態Dの結晶を調製することと、多形形態Dの結晶を単離することと、を含む、方法が提供される。
【0066】
実施形態では、本明細書に開示される化合物(I)の多形形態と、薬学的に許容される賦形剤とを含む薬学的組成物が提供される。
【0067】
本開示の薬学的組成物及び方法は、それを必要とする個体を治療するために利用され得る。実施形態では、個体は、ヒトなどの哺乳動物、または非ヒト哺乳動物である。ヒトなどの動物に投与する場合、組成物または化合物は、例えば、化合物と、薬学的に許容される担体とを含む薬学的組成物として、好ましくは投与される。薬学的に許容される担体としては、当技術分野で周知であり、例えば、水もしくは生理学的緩衝食塩水などの水溶液、またはグリコール、グリセロール、オリーブ油などの油、または注射可能な有機エステルなどの、他の溶媒もしくはビヒクルが挙げられる。好ましい実施形態では、かかる薬学的組成物がヒト投与、特に侵襲的投与経路(すなわち、上皮性関門を通る輸送または拡散を回避する注射または移植などの経路)用である場合、水溶液は、発熱物質を含まず、または実質的に発熱物質を含まない。賦形剤は、例えば、薬剤の遅延放出をもたらすために、または1つ以上の細胞、組織または器官を選択的に標的とするために、選択することができる。薬学的組成物は、錠剤、カプセル(スプリンクルカプセル及びゼラチンカプセルを含む)、顆粒、再構成のための凍結乾燥物、粉末、溶液、シロップ、坐剤、注射などの剤形形態であり得る。組成物は、経皮送達システム、例えば皮膚パッチに存在させることもできる。組成物は、ローション、クリーム、または軟膏などの局所投与に好適な溶液中に存在させることもできる。
【0068】
薬学的に許容される担体は、例えば、化合物の安定化、溶解度の増加、または化合物の吸収の増加に作用する、生理学的に許容される薬剤を含有することができる。かかる生理学的に許容される薬剤としては、例えば、グルコース、スクロースまたはデキストランなどの炭水化物、アスコルビン酸またはグルタチオンなどの抗酸化剤、キレート剤、低分子量タンパク質または他の安定剤または賦形剤が挙げられる。生理学的に許容される薬剤を含む薬学的に許容される担体の選択は、例えば、組成物の投与経路に依存する。調製物または薬学的組成物は、自己乳化性薬物送達システムまたは自己微細乳化性薬物送達システムであり得る。薬学的組成物(調製物)は、リポソームまたは他のポリマーマトリックスであってもよく、これらは例えば化合物を組み込むことができる。例えば、リン脂質または他の脂質を含むリポソームは、比較的簡単に作製及び投与される、毒性がなく、生理学的に許容され、代謝可能な担体である。
【0069】
「薬学的に許容される」という語句は、妥当な医学的判断の範囲内で、過度の毒性、刺激、アレルギー反応、または合理的な利益/リスク比に見合った他の問題もしくは複雑な事柄を伴わずに、ヒト及び動物の組織と接触させて使用するのに好適な化合物、材料、組成物、及び/または剤形を指すものとして本明細書で用いられる。
【0070】
本明細書で使用される「薬学的に許容される担体」という語句は、液体または固体の充填剤、希釈剤、賦形剤、溶媒またはカプセル化材料などの薬学的に許容される材料、組成物またはビヒクルを意味する。各担体は、製剤の他の成分と適合性があり、患者に有害ではないという意味で「許容される」ものでなければならない。薬学的に許容される担体として機能することができる材料の例としては、(1)糖、例えばラクトース、グルコース及びショ糖;(2)デンプン、例えばコーンスターチ及びジャガイモ澱粉;(3)セルロース及びその誘導体、例えばカルボキシメチルセルロースナトリウム、エチルセルロース及び酢酸セルロース;(4)粉末化トラガカント;(5)モルト;(6)ゼラチン;(7)タルク;(8)賦形剤、例えばカカオバター及び座薬ワックス;(9)油脂、例えばピーナッツ油、綿実油、サフラワー油、ゴマ油、オリーブ油、トウモロコシ油及びダイズ油;(10)グリコール、例えばプロピレングリコール;(11)ポリオール、例えばグリセリン、ソルビトール、マンニトール及びポリエチレングリコール;(12)エステル、例えばオレイン酸エチル及びエチル・ラウリン酸エステル;(13)寒天;(14)緩衝剤、例えば水酸化マグネシウム及び酸化アルミニウム三水和物;(15)アルギン酸;(16)発熱性物質除去水;(17)等張食塩水;(18)リンガー液;(19)エチルアルコール;(20)リン酸緩衝液;ならびに、(21)薬学的製剤において用いられる他の非中毒性の適合する物質、が挙げられる。
【0071】
薬学的組成物(調製物)は、例えば、経口(例えば、水性または非水性の溶液または懸濁液のような水薬、錠剤、カプセル(スプリンクルカプセル及びゼラチンカプセルを含む)、ボーラス、粉末、顆粒、舌に適用するためのペースト)、口腔粘膜を介した吸収(例えば、舌下)、皮下、経皮(例えば、皮膚に適用されるパッチとして)、及び局所(例えば、皮膚に適用されるクリーム、軟膏、またはスプレーとして)を含む、多くの投与経路のいずれかによって対象に投与することができる。化合物は、吸入用に製剤化されてもよい。実施形態では、化合物は、単に滅菌水に溶解または懸濁され得る。適切な投与経路及びそれに好適な組成物の詳細は、例えば、米国特許第6,110,973号、同第5,763,493号、同第5,731,000号、同第5,541,231号、同第5,427,798号、同第5,358,970号、同第4,172,896号、ならびにそこに引用されている特許に見出すことができる。
【0072】
製剤は、単位剤形で都合良く提供されてもよく、薬学の分野で周知の任意の方法によって調製されてもよい。単回剤形を生成するために担体材料と組み合わせることができる有効成分の量は、治療されている宿主、特定の投与様式に応じて変化する。単回剤形を生成するために担体材料と組み合わせることができる有効成分の量は、概して、治療効果を生じる化合物の量になる。概して、100パーセントのうち、この量は、有効成分の約1パーセント~約99パーセント、好ましくは約5パーセント~約70パーセント、最も好ましくは約10パーセント~約30パーセントの範囲である。
【0073】
これらの製剤または組成物を調製する方法は、化合物などの活性化合物を担体及び任意選択的に1つ以上の副成分と会合させるステップを含む。概して、製剤は、本開示の化合物を、液体担体、または微粉化した固体担体、またはその両方と均一かつ密接に会合させ、次いで、必要に応じて製品を成形することによって調製される。
【0074】
経口投与に好適な本明細書に開示の多形化合物の製剤は、カプセル(スプリンクルカプセル及びゼラチンカプセルを含む)、サシェ、丸剤、錠剤、ロゼンジ(フレーバーベース、通常、スクロース及びアカシアもしくはトラガカントを使用する)、凍結乾燥物、粉末、顆粒の形態で、または水性もしくは非水性液体の溶液もしくは懸濁液として、または水中油型もしくは油中水型液体乳剤として、またはエリキシル剤のしくはシロップとして、またはトローチ剤(pastille)(不活性基剤、例えば、ゼラチン及びグリセリン、またはスクロース及びアカシアを使用する)として、及び/または口腔洗浄剤などとしてのものであってもよく、各々が有効成分として所定量の本開示の化合物を含有する。組成物または化合物は、ボーラス、舐剤またはペーストとして投与することもできる。
【0075】
経口投与用の固体剤形(カプセル(スプリンクルカプセル及びゼラチンカプセルを含む)、錠剤、丸薬、糖衣錠、粉末、顆粒など)を調製するには、有効成分を、1つ以上の薬学的に許容される収入源、例えば、クエン酸ナトリウムまたはリン酸二カルシウム、及び/または以下のいずれかと混合される:(1)充填剤または増量剤、例えばデンプン、ラクトース、ショ糖、グルコース、マンニトール及び/またはケイ酸;例えば(2)結合剤、例えばカルボキシメチルセルロース、アルギナート、ゼラチン、ポリビニルピロリドン、ショ糖及び/またはアカシア;(3)湿潤剤、例えばグリセリン;(4)崩壊剤、例えば寒天、炭酸カルシウム、ジャガイモまたはタピオカ澱粉、アルギン酸、特定のケイ酸塩及び炭酸ナトリウム;(5)溶液緩和剤、例えばパラフィン;(6)吸収促進剤、例えば四級アンモニウム化合物;(7)湿潤剤、例えばセチルアルコール及びグリセロールモノステアレート;(8)吸収剤、例えばカオリン及びベントナイト粘土;(9)潤滑油、例えばタルク、ステアリン酸カルシウム、ステアリン酸マグネシウム、固体のポリエチレングリコール、ドデシル硫酸ナトリウム及びそれらの混合物;(50)錯化剤、例えば、改質された、及び改質されていないシクロデキストリン;ならびに、(11)着色剤。カプセル(スプリンクルカプセル及びゼラチンカプセルを含む)、錠剤及び丸薬の場合、薬学的組成物は緩衝剤も含み得る。類似のタイプの固体組成物はまた、ラクトースまたは乳糖のような賦形剤、ならびに高分子量ポリエチレングリコールなどを使用して、軟及び硬充填ゼラチンカプセルの充填剤としても用いられ得る。
【0076】
錠剤は、任意選択的に1つ以上の副成分と共に圧縮または成形することにより、作製することができる。圧縮錠剤は、結合剤(例えば、ゼラチンまたはヒドロキシプロピルメチルセルロース)、滑沢剤、不活性希釈剤、保存剤、崩壊剤(例えば、デンプングリコール酸ナトリウムまたは架橋カルボキシメチルセルロースナトリウム)、表面活性剤または分散剤を使用して調製され得る。成形錠剤は、不活性液体希釈剤で湿らせた粉末化合物の混合物を好適な機械で成形することにより作製することができる。
【0077】
錠剤、ならびに糖衣錠、カプセル(スプリンクルカプセル及びゼラチンカプセルを含む)、丸薬及び顆粒などの薬学的組成物の他の固体剤形は、任意選択的に刻み目を付けるかまたは腸溶性コーティング及び薬学的製剤の分野で知られている他のコーティングなどのコーティング及びシェルで調製することができる。それらはまた、例えば、所望の放出プロファイルを提供するための様々な割合のヒドロキシプロピルメチルセルロース、他のポリマーマトリックス、リポソーム及び/またはミクロスフェアを使用して、その中の有効成分の徐放または制御放出を提供するように製剤化することもできる。それらは、例えば、細菌保持フィルターを通す濾過により、または使用直前に滅菌水もしくはいくらかの他の滅菌注射媒体により溶解され得る滅菌固体組成物の形態の滅菌剤を組み込むことにより、滅菌され得る。これらの組成物はまた、任意選択的に不透明剤(opacifing agent)を含有していてもよく、任意選択的に遅延様式で、胃腸管の特定の部分でのみ、または優先的に有効成分を放出する組成物であってもよい。使用され得る包埋組成物の例には、ポリマー物質及びワックスが含まれる。有効成分は、適切な場合、上記の賦形剤の1つ以上を含むマイクロカプセル化形態であってもよい。
【0078】
経口投与に有用な液体剤形としては、薬学的に許容されるエマルジョン、再構成用の凍結乾燥物、マイクロエマルジョン、溶液、懸濁液、シロップ及びエリキシルが挙げられる。有効成分に加えて、液体剤形は、例えば、水または他の溶媒、シクロデキストリン及びその誘導体、可溶化剤及び乳化剤、例えば、エチルアルコール、イソプロピルアルコール、炭酸エチル、酢酸エチル、ベンジルアルコール、安息香酸ベンジル、プロピレングリコール、1,3-ブチレングリコール、油類(特に、綿実油、落花生油、トウモロコシ油、胚芽油、オリーブ油、ヒマシ油、ゴマ油)、グリセロール、テトラヒドロフリルアルコール、ポリエチレングリコール、及びソルビタンの脂肪酸エステル、ならびにそれらの混合物のような、当技術分野で一般的に使用される不活性希釈剤を含有し得る。
【0079】
不活性希釈剤に加えて、経口組成物は、湿潤剤、乳化剤及び懸濁化剤、甘味料、香味料、着色料、芳香剤及び保存剤などのアジュバントも含むことができる。
【0080】
懸濁液は、活性化合物に加えて、例えば、エトキシル化イソステアリルアルコール、ポリオキシエチレンソルビトール及びソルビタンエステル、微結晶セルロース、メタ水酸化アルミニウム、ベントナイト、寒天及びトラガカント、及びそれらの混合物などの懸濁化剤を含んでもよい。
【0081】
局所または経皮投与用の剤形としては、粉末、スプレー、軟膏、ペースト、クリーム、ローション、ゲル、溶液、パッチ及び吸入剤が挙げられる。活性化合物は、無菌条件下で、薬学的に許容される担体、及び必要とされる可能性のある保存剤、緩衝剤、または噴射剤と混合することができる。
【0082】
軟膏、ペースト、クリーム及びゲルは、活性化合物に加えて、動物性及び植物性脂肪、油、ワックス、パラフィン、デンプン、トラガカント、セルロース誘導体、ポリエチレングリコール、シリコーン、ベントナイト、ケイ酸、タルク及び酸化亜鉛、またはそれらの混合物などの賦形剤を含有してもよい。
【0083】
粉末及びスプレーは、活性化合物に加えて、乳糖、タルク、ケイ酸、水酸化アルミニウム、ケイ酸カルシウム及びポリアミド粉末、またはこれらの物質の混合物などの賦形剤を含有することができる。スプレーは、クロロフルオロ炭化水素などの通常の噴射剤、及びブタン及びプロパンなどの揮発性非置換炭化水素を追加で含むことができる。
【0084】
経皮パッチは、身体への本開示の化合物の制御送達を提供する追加の利点を有する。かかる剤形は、適切な媒体に活性化合物を溶解または分散させることにより作製され得る。吸収増強剤もまた、皮膚を横切る化合物の流動を増加させるために使用され得る。かかる流れの速度は、速度を制御する膜を提供することか、化合物をポリマーマトリックスまたはゲルに分散させることのいずれかにより制御され得る。
【0085】
本明細書で使用される「非経口投与」及び「非経口で投与される」という語句には、通常、注射による腸内及び局所投与以外の投与様式を意味し、静脈内、筋肉内、動脈内、くも膜下腔内、嚢内、眼窩内、心臓内、皮膚内、腹腔内、経気管、皮下、表皮下、関節内、被膜下、くも膜下、脊髄内及び脳内の注射及び注入が含まれるが、これらに限定されない。非経口投与に好適な薬学的組成物は、1つ以上の薬学的に許容される滅菌等張性水性または非水性溶液、分散液、懸濁液またはエマルジョン、または使用直前に滅菌注射用溶液または分散液に再構成され得る滅菌粉末と組み合わせて、1つ以上の活性化合物を含み、これらは、抗酸化剤、緩衝剤、静菌剤、製剤を対象レシピエントの血液と等張性にする溶質、または懸濁化剤または増粘剤を含み得る。
【0086】
薬学的組成物に用いることができる好適な水性及び非水性担体の例としては、水、エタノール、ポリオール(例えば、グリセロール、プロピレングリコール、ポリエチレングリコールなど)、及びそれらの好適な混合物、オリーブ油などの植物油、ならびにオレイン酸エチルなどの注射可能な有機エステルなどが挙げられる。適切な流動性は、例えば、レシチンなどのコーティング材料の使用によって、分散液の場合は必要な粒径の維持によって、また界面活性剤の使用によって維持され得る。
【0087】
これらの組成物は、保存剤、湿潤剤、乳化剤、及び分散剤などのアジュバントを含んでもよい。微生物の活動の防止は、様々な抗菌剤及び抗真菌剤、例えば、パラベン、クロロブタノール、フェノールソルビン酸などの包含によって確実となり得る。糖類、塩化ナトリウムなどの等張剤を組成物に含めることも望ましい場合がある。加えて、モノステアリン酸アルミニウム及びゼラチンなどの吸収を遅らせる薬剤を含めることにより、注射可能な薬剤形態の長期吸収がもたらされ得る。
【0088】
場合によっては、薬物の効果を延長するために、皮下注射または筋肉内注射からの薬物の吸収を遅らせることが望ましい。これは、難水溶性である結晶性または非晶質の液体懸濁液を使用することにより達成され得る。その場合、薬物の吸収速度は、その溶解速度に依存し、次に、その溶解速度は、結晶サイズ及び結晶形態に依存し得る。代替的に、非経口投与された薬物形態の遅延吸収は、薬物を油ビヒクルに溶解または懸濁させることによっても達成される。
【0089】
注射可能なデポー形態は、ポリラクチド-ポリグリコリドなどの生分解性ポリマー中で対象化合物のマイクロカプセル化マトリックスを形成することにより作製される。ポリマーに対する薬物の比率、及び用いられる特定のポリマーの性質に応じて、薬物放出の速度は制御され得る。他の生分解性ポリマーの例としては、ポリ(オルトエステル)及びポリアンシリドが挙げられる)。デポー注射可能製剤は、生体組織に適合するリポソームまたはマイクロエマルジョン中に薬物を捕捉することによっても調製される。
【0090】
本発明の方法で使用するために、活性化合物は、そのままで、または例えば、0.1~99.5%(より好ましくは0.5~90%)の有効成分を薬学的に許容される担体と組み合わせて含有する薬学的組成物として与えられ得る。
【0091】
導入方法は、再充填可能または生分解性のデバイスによって提供されてもよい。タンパク質性(proteinaceous)バイオ医薬品を含む薬物の制御送達のために、近年、様々な徐放性高分子デバイスが開発されており、インビボで試験されている。生分解性ポリマーと非分解性ポリマーの両方を含む様々な生体適合性ポリマー(ヒドロゲルを含む)を使用して、特定の標的部位で化合物を徐放するためのインプラントを形成することができる。
【0092】
薬学的組成物中の有効成分の実際の投与量レベルは、患者に対し毒性を有さずに、特定の患者、組成物、及び投与様式に対する所望の治療応答を達成するのに有効である、有効成分の量を得るように変化させ得る。
【0093】
選択される投与量レベルは、用いられる特定の化合物または化合物、またはそのエステル、塩もしくはアミドの活性を含む様々な要因、投与経路、投与時間、用いられている特定の化合物(複数可)の特定の排泄速度、治療期間、用いられる特定の化合物(複数可)と組み合わせて使用される他の薬物、化合物及び/または材料、年齢、性別、体重、状態、治療されている患者の健康全般及び以前の病歴、ならびに医療分野で周知の同様の要因に依存する。
【0094】
当技術分野の通常の技能を有する医師または獣医は、必要な薬学的組成物の治療有効量を容易に決定及び処方することができる。
【0095】
例えば、医師または獣医は、所望の治療効果を達成するために必要なレベルよりも低いレベルで薬学的組成物または化合物の投与を開始し、所望の効果が達成されるまで投与量を徐々に増加させることができる。「治療有効量」とは、所望の治療効果を引き出すのに十分な化合物の濃度を意味する。概して、化合物の有効量は、対象の体重、性別、年齢、及び病歴に応じて変わると理解されている。有効量に影響する他の要因としては、患者の状態の重症度、治療されている障害、化合物の安定性、及び必要に応じて化合物と共に投与されている別のタイプの治療薬が挙げられるが、これらに限定されない。薬剤の複数回投与により、より大きい総用量を送達することができる。有効性及び投与量を決定する方法は、当業者に知られている(Isselbaeher et al.(1996)Harrison’s Principles of Internal Medicine 13 ed.,1814-1882、参照により本願明細書に組み込まれる)。
【0096】
概して、本組成物及び方法で使用される活性化合物の好適な1日用量は、治療効果を生み出すのに有効な最低用量である化合物の量である。かかる有効用量は、概して上述の要因に依存する。
【0097】
必要に応じて、活性化合物の有効な1日用量は、1日を通して適切な間隔で別々に投与される1、2、3、4、5、6回以上の分割用量(sub-dose)として、任意選択的に単位剤形で投与されてもよい。本開示の実施形態では、活性化合物は、1日2回または3回投与され得る。好ましい実施形態では、活性化合物は1日1回投与される。
【0098】
この治療を受ける患者は、霊長類、特にヒト、及びウマ、ウシ、ブタ、ヒツジ、ネコ、イヌなどの他の哺乳動物、家禽、及びペット全般を含む、治療を必要としている動物である。
【0099】
実施形態では、本明細書に開示される化合物は、単独で、または別のタイプの治療剤と併用して投与され得る。
【0100】
実施形態では、がんを有する対象を治療する方法であって、本明細書に開示される化合物(I)の多形形態A、B、C、またはDの1つ以上を対象に投与することを含む、方法が提供される。いくつかのかかる実施形態では、がんは異常なEGFR発現を特徴とする。いくつかのかかる実施形態では、がんは、脳腫瘍である。
【0101】
実施形態では、がんを有する対象を治療するための医薬品の製造における、本明細書に開示の化合物(I)の多形形態A、B、C、またはDの1つ以上の使用が提供される。いくつかのかかる実施形態では、がんは、異常なEGFR発現を特徴とする。いくつかのかかる実施形態では、がんは、脳腫瘍である。
【0102】
実施形態では、異常なEGFR発現に関連するがんを有する対象を治療する方法であって、対象に、本明細書に開示されるように、化合物(I)の多形形態A、B、C、またはDの1つ以上を投与することを含む、方法が提供される。実施形態では、がんは、脳腫瘍である。
【0103】
実施形態では、異常なEGFR発現に関連するがんを有する対象を治療するための医薬品の製造における、化合物(I)の多形形態A、B、C、またはDの1つ以上の使用が提供される。実施形態では、がんは、脳腫瘍である。
【0104】
ある特定の態様では、本開示は、対象に、ある量の多形形態の化合物(I)、形態A、B、C、D、またはそれらの組み合わせを投与することを含む、EGFRまたはAEGFRを阻害する方法を提供する。
【0105】
ある特定の態様では、本開示は、がんの治療を必要とする対象に、本明細書に開示される量の化合物(I)の多形を投与することを含む、がんの治療方法を提供する。実施形態では、がんは、膀胱がん、骨腫瘍、脳腫瘍、乳がん、心臓がん、子宮頸がん、結腸がん、結腸直腸がん、食道がん、線維肉腫、胃がん、胃腸がん、頭脊椎頸部がん、カポジ肉腫、腎臓がん、白血病、肝臓がん、リンパ腫、黒色腫、多発性骨髄腫、膵臓がん、陰茎がん、精巣胚細胞がん、胸腺腫がん、胸腺がん、肺がん、卵巣がん、または前立腺がんである。実施形態では、がんは、神経膠腫、星細胞腫、または神経膠芽細胞腫である。実施形態では、がんは、膠芽細胞腫である。実施形態では、がんは、多形性膠芽細胞腫である。実施形態では、方法は、がん細胞の増殖を減少させる。
【0106】
ある特定の態様において、本開示は、対象においてがんを治療する方法を提供し、この方法は、対象に、グルコース代謝阻害剤及び追加の薬剤を投与することを含み、グルコース代謝阻害剤は、本開示の化合物(I)の多形またはその薬学的に許容される塩であり、追加の薬剤は、細胞質p53安定剤である。実施形態では、がんは、膀胱がん、骨腫瘍、脳腫瘍、乳がん、心臓がん、子宮頸がん、結腸がん、結腸直腸がん、食道がん、線維肉腫、胃がん、胃腸がん、頭脊椎頸部がん、カポジ肉腫、腎臓がん、白血病、肝臓がん、リンパ腫、黒色腫、多発性骨髄腫、膵臓がん、陰茎がん、精巣胚細胞がん、胸腺腫がん、胸腺がん、肺がん、卵巣がん、または前立腺がんである。実施形態では、がんは、神経膠腫、星細胞腫、または神経膠芽細胞腫である。実施形態では、がんは、膠芽細胞腫である。実施形態では、がんは、多形性膠芽細胞腫である。実施形態では、方法は、がん細胞の増殖を減少させる。実施形態では、がんは、再発性または難治性である。他の実施形態では、がんは、治療ナイーブである。
【0107】
実施形態では、対象は、以下を含む方法によって、グルコース代謝阻害剤に感受性であると決定されている:
a.対象由来の第1の血液試料を得ることと、
b.対象をケトジェニックダイエットに置くことと、
c.ケトジェニックダイエットに一定期間置かれた後の対象から第2の血液試料を取得することと、
d.第1及び第2の血液試料中のグルコースレベルを測定することと、
e.第2の血液試料中のグルコースレベルを第1の血液試料中のグルコースレベルと比較することと、
f.第2の血液試料中のグルコースレベルが、第1の血液試料中のグルコースレベルと比較して低下した場合に、対象が感受性であると決定すること。
【0108】
実施形態では、第2の血液試料と対照血液試料との間のグルコースレベルの低下は、約0.15mM以上である。実施形態では、第2の血液試料と対照血液試料との間のグルコースレベルの低下は、約0.20mM以上である。実施形態では、第2の血液試料と対照血液試料との間のグルコースレベルの低下は、0.15mM~2.0mMの範囲内である。実施形態では、第2の血液試料と対照血液試料との間のグルコースレベルの低下は、0.25mM~1.0mMの範囲内である。
【0109】
実施形態では、細胞質p53安定剤は、MDM2阻害剤である。実施形態では、MDM2阻害剤は、ナトリンである。実施形態では、MDM2阻害剤は、ナトリン-3またはイダサヌトリンである。実施形態では、対象は、50mg~1600mgのイダサヌトリンを投与される。実施形態では、対象は、100mgのイダサヌトリンを投与される。実施形態では、対象は、150mgのイダサヌトリンを投与される。実施形態では、対象は、300mgのイダサヌトリンを投与される。実施形態では、対象は、400mgのイダサヌトリンを投与される。
【0110】
実施形態では、対象は、600mgのイダサヌトリンを投与される。実施形態では、対象は、1600gのイダサヌトリンを投与される。他の実施形態では、MDM2阻害剤は、RO5045337、RO550378L R06839921、SAR405838、DS-3032、DS-3032b、またはAMG-232である。
【0111】
実施形態では、細胞質p53安定剤は、BCL-2阻害剤である。実施形態では、BCL-2阻害剤は、アンチセンスオリゴデオキシヌレオチドG3139、mRNAアンタゴニストSPC2996、ベネトエラックス(ABT-199)、GDC-0199、オバトクラックス、パエリタキセル、ナビトクラックス(ABT-263)、ABT-737、NU-0129、S055746、またはAPG-1252である。
【0112】
実施形態では、細胞質p53安定剤は、Bcl-xL阻害剤である。実施形態では、Bcl-xL阻害剤は、WEHI539、ABT-263、ABT-199、ABT-737、sabutoclax、ATI01、TW-37、APG-1252、またはガンボグ酸である。
【0113】
実施形態では、グルコース代謝阻害剤及び細胞質p53安定剤は、同じ組成物で投与される。他の実施形態では、グルコース代謝阻害剤及び細胞質p53安定剤は、別個の組成物で投与される。
【0114】
実施形態では、方法は、追加の療法の投与をさらに含む。
【0115】
神経膠腫のタイプ及びステージ
原発性悪性脳腫瘍は、脳または脊椎で始まる腫瘍であり、集合的に神経膠腫として知られている。神経膠腫は、特定のタイプのがんではないが、神経膠細胞に由来する腫瘍を説明するために使用される用語である。原発性悪性脳腫瘍の例としては、星状細胞腫、毛球性星状細胞腫、多形性キサントアストロサイトーマ、びまん性星状細胞腫、未分化星状細胞腫、GBM、神経膠腫、乏突起神経膠腫、上衣腫が挙げられる。WHOの脳腫瘍の分類によれば、星細胞腫は、基礎となる病理によって決定される4つのグレードに分類されている。神経膠腫を分類するために使用される特徴としては、有糸分裂、細胞性または核異型、ならびに擬似パリサード特徴を有する血管増殖及び壊死が挙げられる。悪性(または高悪性度)神経膠腫には、未分化神経膠腫(WHOグレードIII)及び多形神経膠芽腫(GBM、WHOグレードIV)が含まれる。これらは、最も予後が悪い最も攻撃的な脳腫瘍である。
【0116】
GBMは、最も一般的で、複雑で、治療抵抗性があり、最も致命的なタイプの脳腫瘍であり、すべての脳腫瘍の45%を占め、毎年約11,000人の男性、女性、及び子供が診断を受けている。GBM(グレード4星状細胞腫及び多形性膠芽腫としても知られる)は、悪性(がん性)原発性脳腫瘍の最も一般的なタイプである。
【0117】
それらは、いくつかの理由で非常に攻撃的である。まず、神経膠芽腫細胞は、豊富な血液供給を刺激する物質を分泌するため、急速に増殖する。それらはまた、正常細胞と並行して腫瘍の顕微鏡的な触手を送ることによって、侵入し、正常な脳に長距離浸潤する能力を有する。2タイプの神経膠芽腫が知られている。原発性GBMは最も一般的な形態であり、急速に成長し、しばしば早期に症状を引き起こす。
【0118】
続発性神経膠芽腫はそれほど一般的ではなく、すべてのGBMの約10パーセントを占める。それらは、低悪性度のびまん性星状細胞腫または未分化星状細胞腫から進行し、より若い患者に見られることが多い。続発性のGBMは、前頭葉に優先的に位置し、より良い予後をもたらす。
【0119】
GBMは、通常、腫瘍の外科的切除、放射線及び化学療法を含む複合マルチモーダル治療計画によって治療される。第一に、手術中にできるだけ多くの腫瘍が除去される。脳内の腫瘍の位置によって、安全に除去され得る量が決定されることが多い。手術後、放射線療法及び化学療法により、残りの腫瘍細胞の増殖が遅延される。経口化学療法薬であるテモゾロミドは、最も頻繁に6週間使用され、その後は月に1回使用される。別の薬物、ベバシズマブ(Avastin(登録商標)として知られる)もまた、治療中に使用される。この薬剤は、腫瘍の血液供給をリクルートする能力を攻撃し、しばしば腫瘍の成長を遅らせ、または停止させる。
【0120】
新規の治験療法も使用され、これらには、標準療法に治療を追加すること、または標準療法の一部をより良く機能する可能性のある異なる治療に置き換えることが含まれ得る。これらの治療のいくつかとして、ワクチン免疫療法などの免疫療法、または腫瘍が存在する脳の領域への低用量の電気パルス、及びNU-0129などの球状核酸(SNA)を含むナノ療法が挙げられる。いくつかの実施形態では、本開示の方法は、前述の療法のうちの1つ以上と組み合わせて使用される。
【0121】
本明細書で考察される方法及び組成物の実施形態はまた、肺がん、非CNSがん、CNSがん、及び脳転移、軟膜転移、脈絡膜転移、脊髄転移などのCNS転移を含むがこれらに限定されない、他のタイプのがんに適用可能であることも企図される。
【0122】
細胞質p53安定剤
本発明者らは、例えば、CNS透過性小分子などの薬理学的p53安定化が、患者由来の原発性GBMモデルにおけるEGFR駆動グルコース取り込みの阻害と相乗的に致命的であることを実証した。本発明者らは、p53の非転写機能が、代謝応答因子における内在性アポトーシスを刺激する上で重要な役割を有することができることを初めて実証した。したがって、本明細書に記載の治療方法は、細胞質p53安定剤(複数可)を、グルコース代謝阻害剤と組み合わせて投与することを含む。細胞質p53安定剤及びグルコース代謝阻害剤は、同じまたは異なる組成物で、共投与または連続投与することができる。いくつかの実施形態では、単一のp53安定剤が使用され、他の実施形態では、1つ以上のp53安定剤が使用されることが企図される。例えば、(BCL-2及びBCL-Xに結合する)ABT737とのナトリンの組み合わせは、相乗的に、ミトコンドリアレベルでのプロアポトーシス及び抗アポトーシスタンパク質のバランスを標的とし、それによって細胞死を促進することが報告されている。(Hoe et al.2014.Nature Reviews.Vol.13.pp.217)。本明細書で意図されるように、細胞質p53安定剤は、p53を直接的または間接的に薬理学的に安定化または活性化することができる任意の低分子、抗体、ペプチド、タンパク質、核酸またはその誘導体である。細胞質p53の安定化は、アポトーシスのためにがん細胞などの細胞をプライミングすることをもたらす。
【0123】
MDM2アンタゴニスト
細胞内のp53のタンパク質レベルは、その負の調節因子であるE3ユビキチンタンパク質リガーゼMDM2によって厳密に制御され、低く保たれている。本開示の方法または組成物の実施形態では、細胞質p53安定剤は、MDM2アンタゴニスト/阻害剤である。いくつかの実施形態では、MDM2アンタゴニストは、ナトリンである。さらなる実施形態では、ナトリンは、ナトリン-3またはイダサヌトリンである。他の実施形態では、MDM2アンタゴニストは、RO5045337(RG7112としても知られる)、RO5503781、R06839921、SAR405838(MI-773としても知られる)、DS-3032、DS-3032b、またはAMG-232、または任意の他のMDM2阻害剤である。
【0124】
MDM-2に結合することが知られている本発明の方法の範囲内の他の化合物としては、Ro-2443、MI-219、MI-713、MI-888、DS-3032b、ベンゾジアゼピンジオン(例えば、TDP521252)、スルホンアミド(例えば、NSC279287)、エフロメノトリアゾロピリミジン、モルホリノン及びピペリジノン(AM-8553)、テルフェニル、カルコン、ピラゾール、イミダゾール-インドール、イソインドリノン、ピロリジノン(例えば、PXN822)、プライアキソン、ピペリジン、天然由来のプレニルアテッドキサントン、SAH-8(ステープルペプチド)sMTide-02、sMTide-02a(ステープルペプチド)、ATSP-7041(ステープルペプチド)、スピロリゴマー(a-ヘリキシミックミック)が挙げられる。MDM2のタンパク質折り畳みを引き起こすことが知られている他の化合物としては、PRIMA-1MET(APR-246としても知られる)Aprea102-105、PK083、PK5I74、PK5196、PK7088、ベンゾチアゾール、スチクト酸、及びNSC319726が挙げられる。
【0125】
BCL-2阻害剤
本発明の方法または組成物のさらなる実施形態では、細胞質p53安定剤は、BCL-2阻害剤である。いくつかの実施形態では、BCL-2阻害剤は、例えば、アンチセンスオリゴデオキシヌクレオチドG3139、mRNAアンタゴニストSPC2996、ベネトクラクス(ABT-199)、GDC-0199、オバトクラクス、パクリタキセル、ナビトクラックス(ABT-263)、ABT-737、NIT-0129、S055746、APG-1252または任意の他のBCL-2阻害剤である。
【0126】
Bcl-xL阻害剤
本発明の方法または組成物のさらなる実施形態では、細胞質p53安定剤は、Bcl-xL阻害剤である。いくつかの実施形態では、Bcl-xL阻害剤は、例えば、WEHI539、ABT-263、ABT-199、ABT-737、サブトクラックス、ATI01、TW-37、APG-1252、ガンボギン酸または任意の他のBcl-xL阻害剤である。
【0127】
評価方法:グルコース取り込み試験
本開示の方法及び組成物の実施形態では、GBMまたはがんを有する対象は、「代謝レスポンダー」または「代謝非レスポンダー」(すなわち、グルコース代謝阻害剤に感受性)のいずれかであると分類される。実施形態では、対象の分類は、グルコース代謝阻害剤及び細胞質p53安定剤を含む治療を対象に投与する前である。したがって、本開示は、がんを評価し、対象を分類し、治療に対する対象の感受性を決定するための方法であって、グルコース代謝、解糖またはグルコース取り込みの分析を伴う方法を提供する。対象を代謝レスポンダーとして分類する方法を実施例1に詳細に記載する。糖解及びグルコース取り込みを監視する技術は、参照により本明細書に組み込まれる、T.TeSlaa and M.A.Teitell.2014.Methods in Enzymology,Volume 542,pp.92-114に提供されている。
【0128】
糖解は、2つの分子のATPの同時生成と共に、1つの分子のグルコースを2つの分子のピルビン酸に細胞内生化学的に変換することである。ピルビン酸は、NADH及びFADHを産生するためのミトコンドリア内のトリカルボン酸(TCA)サイクルへの入口を含むいくつかの潜在的な運命を有する代謝中間体である。代替的に、ピルビン酸は、NADHからのNAD÷の同時再生を伴う乳酸デヒドロゲナーゼによって、細胞質中の乳酸に変換され得る。糖解によるフラックスの増加は、例えば、ATPの形態の追加のエネルギー、ならびにヌクレオチド、脂質、及びタンパク質生合成のためのグルコース由来代謝中間体を提供することによって、がん細胞の増殖を支持する。Warburg(Oncologia.1956;9(2):75-83)は、酸素が利用可能なときに主に呼吸する非悪性細胞とは対照的に、増殖する腫瘍天井が酸素の存在下でのグルコースから乳酸への変換である好気性糖解を増強することを最初に観察した。
【0129】
Warburg効果と呼ばれるこのミトコンドリアバイパスは、がん細胞、活性化リンパ球、及び多能性幹細胞を含む急速に増殖する細胞で発生する。Warburg効果は、18F-デオキシグルコースなどのフッ素化グルコース類似体の細胞取り込みの増加を識別するためにポジトロン放出断層撮影(PET)スキャンを使用する臨床診断試験のために利用されている。
【0130】
したがって、糖解は、治療及び診断方法の標的を表す。本発明の方法の文脈において、悪性細胞によるグルコース取り込み及び乳酸排出の測定は、グルコース異化及び/またはグルコース代謝阻害剤に対する感受性の変化を検出するのに有用であり得る。かかる変化を検出することは、GBMの治療方法、無効な治療のリスクを低減する方法、腫瘍生存の可能性を低減する方法にとって重要である。本開示の目的のために、18F-デオキシグルコースPETが役に立つ。実施形態では、p53活性化に対する感受性を予測するための迅速な非侵襲的機能的バイオマーカーとしてのバイオマーカーである。この非侵襲的解析は、薬物動態/薬力学的評価が非常に困難で非実用的である悪性脳腫瘍に対して特に有益であり得る。場合によっては、MRI融合を伴う遅延撮像プロトコル(41)及びパラメトリック応答マップ(PRM)は、腫瘍18F-FDG取り込みの変化を定量化するのに有用であり得る(42)。
【0131】
ある特定の態様では、方法は、グルコース取り込み及び乳酸産生の測定に関することができる。培養中の細胞については、グルコースの取り込みと乳酸の排出を測定することによって糖分解フラックスを定量化することができる。細胞へのグルコース取り込みは、グルコーストランスポーター(Glutl-Glut4)を介して行われるが、乳酸排出は、細胞膜におけるモノカルボキシレートトランスポーター(MCT1-MCT4)を介して行われる。
【0132】
細胞外グルコース及び乳酸
グルコース取り込み及び乳酸排出を検出する方法としては、例えば、細胞外グルコースまたは乳酸キット、細胞外バイオアナライザー、ECAR測定、[3HJ-2-DGまたは[14CJ-2-DG取り込み18FDG取り込みまたは2-NBDG取り込みが挙げられる。市販のキット及び器具は、細胞培養培地内のグルコース及び乳酸レベルを定量化するために利用可能である。キットによる検出方法は、通常、比色法または蛍光法であり、分光光度計などの標準的な実験室の機器と互換性がある。バイオプロファイルアナライザ(Nova Biomedicalなど)または生化学アナライザ(例えば、YSI Life Sciencesなど)は、細胞培養培地中のグルコース及び乳酸の両方のレベルを測定することができる。GlucCell(Cesco BioProduets)は、細胞培地中のグルコースレベルのみを測定することができる。各市販の方法は異なる検出プロトコルを有するが、分析のための培地の回収は同じである。
【0133】
細胞外酸性化速度
解糖はまた、単位時間当たりの主にピルビン酸からの変換後の乳酸の排出からの、周囲培地の細胞外酸性化速度(ECAR)の測定によって決定することができる。シーホースエクストラセルフラックス(XF)分析器(Seahorse Bioscience)は、同じ細胞において(酸素消費によって)同時に解糖及び酸化リン酸化を測定するためのツールである。
【0134】
グルコース類似体取り込み
開示の方法のある特定の実施形態は、グルコース類似体の使用を含む。当業者によく知られているように、細胞によるグルコース取り込み速度を決定するために、グルコースの標識された同位体を細胞培養培地に添加し、次いで所与の期間後に細胞内で測定することができる。これらの試験のためのグルコース類似体の例示的なタイプとしては、限定されないが、2-デオキシ-D-[1,2-3H]-グルコース、2-デオキシ-D-[1-14C]-グルコース、または2-デオキシ-2-18F-フルオロ-D-グルコース(18FDG)などの放射性グルコース類似体、または2-[N-(7-ニトロベンツ-2-オキサ-1,3-ジアキソール-4-イル)アミノ]-2-デオキシグルコース(2-NBDG)などの蛍光グルコース類似体が挙げられる。放射性グルコース類似体取り込みの測定には、シンチレーションカウンターが必要であるが、2-NBDG取り込みは通常、フローサイトメトリーまたは蛍光顕微鏡によって測定される。いくつかの実施形態では、グルコース取り込みは、放射性標識グルコース2-デオキシ-2-[フッ素-18]-フルオロ-D-グルコース(18F-FDG)の取り込みによって測定される。さらなる実施形態では、18F-FDGの検出は、ポジトロン放出断層撮影(PET)によって行われる。いくつかの実施形態では、生検は、GBM腫瘍から採取される。18F-FDGを測定する例の詳細な説明は、以下の例で提供する。
【0135】
ある特定の態様では、方法は、腫瘍試料などの生体試料のグルコース取り込みを対照と比較することに関することができる。倍数の増加または減少は、少なくとも、または最大で1、2、3、4、5、6、7、8、9、10、11、12、13、14、15、16、17、18、19、20、25、30、35、40、45、50、55、60、65、70、75、80、85、90、95、100以上、またはそれらの中で導出可能な任意の範囲であり得る。代替的に、試料と参照との間の発現の差異は、少なくともまたは最大で20、25、30、35、40、45、50、55、60、65、70、75、80、85、90、95、100、110、120、130、140、150、160、170、180、190、200、300、400、500、600、700、800、900、1000%の差異、またはそれらの中で導出可能な任意の範囲などのパーセントの減少または増加として表され得る。
【0136】
相対発現レベルを表現する他の方式は、0.001、0.002、0.003、0.004、0.005、0.006、0.007、0.008、0.009、0.01、0.02、0.03、0.04、0.05、0.06、0.07、0.08、0.09、0.1、0.2、0.3、0.4、0.5、0.6、0.7、0.8、0.9、1.0、1.1、1.2、1.3、1.4、1.5、1.6、1.7、1.8、1.9、2.0、2.1、2.2、2.3、2.4、2.5、2.6、2.7、2.8、2.9、3.0、3.1、3.2、3.3、3.4、3.5、3.6、3.7、3.8、3.9、4.0、4.1、4.2、4.3、4.4、4.5、4.6、4.7、4.8、4.9、5.0、5.1、5.2、5.3、5.4、5.5、5.6、5.7、5.8、5.9、6.0、6.1、6.2、6.3、6.4、6.5、6.6、6.7、6.8、6.9、7.0、7.1、7.2、7.3、7.4、7.5、7.6、7.7、7.8、8.0、8.1、8.2、8.3、8.4、8.5、8.6、8.7、8.8、8.9、9.0、9.1、9.2、9.3、9.4、9.5、9.6、9.7、9.8、9.9、10.0、またはその中で導出可能な任意の範囲などの、正規化されたまたは相対的な数値を用いるものである。いくつかの実施形態では、レベルは、対照と比較して得られる。
【0137】
重み付けされた投票プログラムなどのアルゴリズムを使用して、バイオマーカーレベルの評価を容易にすることができる。加えて、誤った評価のリスクを低減するために、他の臨床的証拠をバイオマーカーベースの試験と組み合わせることができる。いくつかの実施形態では、他の細胞遺伝学的評価が考慮され得る。
【実施例
【0138】
本明細書に記載の実施例及び実施形態は例示のみを目的としており、いくつかの実施形態では、様々な修正または変更が、添付の特許請求の範囲の開示及び範囲内に含まれるべきである。
【0139】
以下の略語は、以下の実施例で使用される:
【表1】
【0140】
PXRDのピークリスト:vs=非常に強い、s=強い、m=中程度、w=弱い、vw=非常に弱い強度。
【0141】
DSC:TA Instruments Q2000機器(蓋にピンホールを有する試料パン、加熱速度10K/分)を用いて示差走査熱量測定を実施した。融点は、ピーク最大値として理解される。化合物(I)は約1.2%の水を含有し、そのうちのいくつかは100℃を超えて放出されることが見出されたため、試料をDSC試料パンで乾燥させた。これは、ピンホールでパンを100℃まで加熱し、試料をこの温度で10分間保持することによって行った。次に、乾燥した試料で第2のスキャンを実施し、吸熱シグナルが水の蒸発に起因する可能性があるため、第1のスキャンは無視した。
【0142】
動的蒸気吸着:DVS測定は、ProUmid(旧「Projekt Messtechnik」)、August-Nagel-Str23,89079Ulm(ドイツ)製のSPS11-100n「Sorptions Prufsystem」を用いて行った。約5~20mgの試料をアルミニウム試料パンに入れた。1時間当たり5%の湿度変化率を使用した。適用された測定プログラムを、図(青色トレース)に視覚化する。有効含水量を示すプレゼンテーションを修正する。
【0143】
事前に定義された湿度プログラムを開始する前に、試料をマイクロバランスの上にあるアルミニウムまたは白金ホルダーに置き、50%RHで平衡化させた。測定プログラムを、レポートの図に視覚化する。
【0144】
吸湿性の分類:吸湿性は、初期質量に対する85%RHでの質量利得に基づいて、以下のように分類した:潮解性(液体を形成するために十分に吸着された水)、非常に吸湿性(15%以上の質量増加)、吸湿性(質量増加<15%が≧2%)、わずかに吸湿性(質量増加<2%が≧0.2%)、または非吸湿性(質量増加<0.2%)。
【0145】
顕微鏡検査:Leitz Orthoplan偏光顕微鏡パート#130880で光学顕微鏡検査を行い、概して10×10の倍率を適用した。
【0146】
H-NMR:Bruker DPX300分光計、300.13MHzのプロトン周波数、30°励起パルス、1秒のリサイクル遅延、16回のスキャンの蓄積、溶媒としての重水素化DMSO、参照に使用される溶媒ピーク、TMSスケールに報告された化学シフト。
【0147】
粉末X線回折:粉末X線回折を、Cu-Kα1放射線で動作するMythen1K検出器を備えたStoe Stadi P回折計を用いて実行した。本機器での測定は、40kVの管電圧と40mAの管電力で伝送することにより実施した。湾曲したGeモノクロメータは、Cu-Kα1放射線での試験を可能にする。以下のパラメータを設定した:0.02°2θステップサイズ、12秒ステップ時間、1.5~50.5°2θスキャン範囲、及び1°2θ検出器ステップ(ステップスキャンの検出器モード)。典型的な試料調製のために、約10mgの試料を2つの酢酸箔の間に配置し、Stoe透過試料ホルダーに取り付けた。測定中に試料を回転させた。すべての試料調製及び測定は、周囲空気雰囲気中で行った。
【0148】
ラマン分光法:FT-Ramanスペクトルは、1064nmで動作する近赤外線Nd:YAGレーザー及び液体窒素冷却ゲルマニウム検出器を用いて、Bruker MultiRAMFT-Ramanシステムで記録した。2cm-1の分解能を有する64回のスキャンを、3500~-50cm-1の範囲で蓄積したが、フィルタカットオフ効果のために100cm-1を超えるデータのみを評価する。見かけのレーザー出力は、典型的には100または300mWである。
【0149】
溶解度:おおよその溶解度は、約10mgの化合物への溶媒の増分添加によって決定した。物質が合計10mlの溶媒を添加することによって溶解しなかった場合、溶解度は、1mg/ml未満と示される。この方法に固有の実験誤差により、溶解度値は、大まかな推定値とみなされることが意図され、結晶化実験の設計にのみ使用されることが意図される。
【0150】
TG-FTIR:Bruker FTIR分光計ベクター22(ピンホール、N雰囲気、加熱速度10K/分を有する試料パン)に結合されたNetzsch Thermo-MicrobalanceTG209を用いて、熱重量測定を実施した。
【0151】
HPLC:HPLCは、UV検出を有するAgilent1100シリーズ機器及びWaters XTerra MSC18、100×4.6mm、5um、(FK-CC01H)カラムを用いて、以下のパラメータを使用して実施した:
【表2】
【表3】
【0152】
実施例1
非晶質化合物(I)。
国際公開第2020/190765号に記載の合成及び精製によって得られた化合物(I)の試料を、様々な技術によって特徴付け、非晶質であると決定した。光学顕微鏡画像は、ガラスのような粒子を示し、粉末X線回折(PXRD)パターンは、鋭い反射を示さなかった。FT-IR分光法と結合した熱重量測定は、試料が約1.4%の水を含有することを示した。水の一部は、非晶質粒子の空隙空間に閉じ込められているように見え、その沸点を超えて放出された。試料は、約200℃を超える温度で分解した。示差走査熱量測定(DSC)サーモグラムは、約0.44J/g/℃のΔCpを有する約64℃でのガラス転移を示した。動的蒸気吸着(DVS)は、化合物(I)が、TG-FTIR測定中とほぼ同じ量の水、すなわち約1.5%に達した一方で、サイクル中に高r.h.の終端で約15%の水分含有量を失ったことを示した。したがって、非晶質形態は吸湿性とみなされた。試験終了時の含水率は約6.4%で、開始時よりも有意に高かった。DVS後に回収された試料の粉末X線回折は、DVS実験中に試料が変化していないことを明らかにした。
【0153】
非晶質化合物(I)について、室温でおおよその溶解度を決定した。これらの値は、少量の溶媒を少量の固体に添加することによって得られ、短時間の撹拌または振とうによって溶解を達成した。これらの値は近似値であり、必ずしも熱力学的溶解度値に対応しているわけではない。溶媒混合物の比は、体積比に対応する。
【0154】
最初に、試験を非晶質形態の化合物(I)で行い、後に、安定した結晶形態D(以下の実施例7)が発見された後で、いくつかの試験を結晶形態で繰り返した。非晶質化合物(I)は、酢酸、ケトン、アルコール、エステル、及びジクロロメタン、ならびにそれらの混合物などの最も一般的な有機溶媒に非常に可溶性である。抗溶媒は、水、ヘプタン、及びTBMEである。結晶形態Dの溶解度は、アセトニトリル及び酢酸エチル中の非晶質形態よりも実質的に低いことが見出された。入手可能なデータ及びさらなる実験に基づくと、シクロヘキサン及びメチルシクロヘキサンもまた、抗溶媒として使用することができる。結晶形態D及び非晶質形態の化合物(I)の様々な溶媒中のおおよその溶解度データを表1にまとめる。
【表4】
【0155】
実施例2
懸濁平衡化実験
所与の溶媒系において熱力学的に安定した形態(多形または溶媒和物)を得るために、懸濁平衡化実験を実施した。化合物(I)を適切な量の指定された溶媒または溶媒混合物に懸濁した。非晶質及び結晶形態Dの両方を出発物質として使用した。非水系では、結晶形態Dは非晶質形態から生成され、形態Dが出発物質であるとき、新しい形態は生成されなかった。水系では、形態Aまたは形態Bを生成した。表2は、非晶質形態及び形態Dによる懸濁平衡実験の要約を提供する。
【表5】
【0156】
実施例3
蒸発実験
ある溶液実験における結晶化が失敗したときには、蒸発実験を実施した。ある場合には、新しい(反)溶媒を添加し、懸濁液平衡実験を行ったときに結晶化が達成された。これらの蒸発実験のうちのいくつかの結果を表3に要約する。
【表6】
【0157】
実施例4
結晶形態A
化合物(I)の第1の結晶形態を形態Aとして指定し、イソプロパノール-水混合物中の非晶質形態の懸濁平衡実験から得た。形態Aを、PXRD、TG-FTIR、H-NMR及びDVSによって特徴付けた。形態Aの高結晶性試料は、典型的には大量の溶媒を含有し、乾燥が結晶性の著しい損失をもたらすことが判明した。試料をICH Q3C限界未満の残留溶媒レベルまで乾燥させると、完全に非晶質の物質につながる可能性があると考えられる。
【0158】
形態AのPXRDパターンを、図1に描画する。この試料を乾燥する前にPXRDによって試験し、未乾燥の試料が本質的に非常に結晶性であることに留意すべきである。PXRDパターンは、強く鋭い反射を示す。あまり乾燥していない結晶形態A試料のTG-FTIRは、水及びイソプロパノールに起因する36.6%の大きい質量損失を示した。大きい質量損失を考慮すると、乾燥が不十分であると結論付けられたため、試料を約23時間、周囲温度で真空下でさらに乾燥した結果、新しいTG-FTIRが記録された。新しいTG-FTIRは、約1.75%の質量損失を示し、それは依然としていくらかの水及びイソプロパノールを含有した。H-NMR分光法では、約1%に相当する約0.1当量のイソプロパノールも示され、TG-FTIRの結果と良好に一致している。しかしながら、乾燥した試料のPXRD測定は、最も強烈なピークがほとんど見えない本質的に非晶質の材料を示した。以下の表4は、化合物(I)の結晶形態Aのピークリストを示す。
【表7-1】
【表7-2】
【0159】
形態Aは、水飽和TBME中での懸濁平衡によって確実に製造することができる。TG-FTIRは、形態Aを75%r.h.で乾燥器に保持した後に実施し、得られた質量損失は、水及びいくつかのTBMEに起因する8.9%であった。この試料を、動的な水蒸気吸着によってさらに調べたところ、化合物(I)は、サイクル中に、50%r.h.を上回るときにわずかな量の水を取り込んだ一方で、50%r.h.を下回るときに約8%の水を失うことが示された。0%r.h.と20%r.h.の間に小さなステップが観察された。水は、0%r.h.での第1のDVSサイクル中に完全に除去されず、これは、DVS試験の完了後に、形態Aが、DVS後試料のPXRDによって実証されたように保持された理由であり得る。
【0160】
水分は相対湿度の全範囲にわたって変化し、すなわち、0%~95%までは、化合物(I)(10%)当たり3つの水におおよそ対応するが、しかしながら、水和物の安定性が低いことを考えると、この場合、固定化学量論比は割り当てられなかった。
【0161】
実施例5
結晶形態B
新しい結晶形態を、エタノール中の化合物(I)の溶液から得た。粉末X線回折は、固体形態が形態Aとわずかに異なることを示し、形態Bとして示した。形態Bを、PXRD、TG-FTIR、DVS、及びH-NMRによって特徴付けた。形態Bは、溶媒系としてのメタノール-水、及び純水中での懸濁平衡実験によっても得られた。
【0162】
形態BのPXRDパターンを図2aに示し、ピークリストを以下の表5に示す。形態Aと同様に、形態BをPXRDによって試験し、次に乾燥物が本質的に非常に結晶性であることが示された。PXRDパターンは、強く鋭い反射を示す。さらに乾燥することなく、形態BについてTG-FTIRを実行したところ、サーモグラムは、水に起因する36.5%の大きい質量損失を示したが、アルコールは検出されなかった。大きい質量損失を考慮すると、乾燥が不十分であると結論付けられ、試料を周囲温度でさらに10分間真空乾燥させ、新しいTG-FTIRを記録した。新しいTG-FTIRサーモグラムは、約4.6%の含水量を示した。乾燥した試料のPXRD測定は、結晶性の劇的な損失を示し、さらに乾燥すると、完全に非晶質の材料につながる。
【表8】
【0163】
形態Bを動的蒸気吸着(DVS)によって試験した。湿潤試料を使用したとき、50%r.h.、すなわち、DVS試験の開始時に、大きい初期質量損失があった。DVSは、試料が50%r.h.になると、形態Bが50%r.h.を超えるときにわずかな量の水を取り込むことを示した。サイクル中の総水分変化は、約13%であった。DVS試験終了時に、試料を試料パンから回収し、TG-FTIR及びPXRDによって試験した。DVS後のPXRDパターンは、結晶性が失われたことを示した。TG-FTIRサーモグラムは、含水量が約6.4%であることを示した。ラマンスペクトルも得て、これを図2bに示す。
【0164】
実施例6
結晶形態C
アセトニトリル-水5.5:2中の溶液からの再結晶、続いて5℃での平衡化により、新しい形態である形態Cを得た。形態Cを、PXRD、TG-FTIR、H-NMR、及びDVSによって特徴付けた。
【0165】
形態CのPXRDパターンを図3に示し、選択リストを以下の表6に示す。形態A及びBと同様に、形態Cは、乾燥する前にPXRDによって試験し、その結果、それが本質的に非常に結晶性であることが示された。PXRDパターンは、強く鋭い反射を示す。TG-FTIRをさらに乾燥することなく実施したところ、サーモグラムは、水に起因する48%の大きい質量損失を示した。大きい質量損失を考慮すると、乾燥が不十分であると結論付けられたが、ここでは、それ以上の乾燥実験は実行しなかった。
【表9-1】
【表9-2】
【0166】
形態CのDVS結果は、形態A及びBの結果と同様であった。湿潤試料を使用した場合、50%r.h.、すなわち、DVS試験の開始時に、大きい初期質量損失があった。動的水蒸気吸着は、試料を軽く乾燥させたとき(すなわち、50%r.h.で乾燥させたとき)、50%r.h.を超えるとわずかな量の水を取り込んだことを示した。総水分量変化は、サイクル中に約14%であり、終了時の水分量は約5.9%であったが、完全に乾燥した材料は、0%r.h.で(すなわち、5時間窒素下で)達成されなかった。DVS試験終了時に、試料を試料パンから回収し、TG-FTIR及びPXRDによって試験した。DVS後のPXRDは、結晶性がほぼ完全に失われたことを示した。TG-FTIRサーモグラムは、約5.9%の含水量を示した。
【0167】
実施例7
結晶形態D
バッチで実施された多形試験中、非晶質の試料が頻繁に得られた。発見された結晶形態A、B、及びCは、不十分な物理的形態の安定性を示した。塩スケールアップ実験中、新しいバッチから開始するとき、遊離塩基の新しい結晶形態が発見された。おおよその溶解度データに基づいて、非晶質化合物(I)は、酢酸エチル中で高い溶解度を有した。メタンスルホン酸を添加することによって酢酸エチル中の遊離塩基の溶液からメシル酸塩を得ることを試みると、酸を添加する前に懸濁液が形成された。懸濁液から単離された固体生成物は結晶性であり、新しいPXRDパターンを示した。遊離塩基のこの新しい結晶形態を形態Dとして指定し、HPLC、FT-ラマン、TG-FTIR、DSC、DVSによる化学純度、及び純水及び様々な緩衝液中の溶解性によってさらに特徴付けた。形態Dは、非溶媒和形態であり、無水溶媒及び溶媒混合物で最も好ましく生成される。また溶解性試験を、可能なプロセス溶媒混合物中で実施した。
【0168】
形態Dは、概して、表7に列挙される溶液からの結晶化実験から得られた。これらの実験は、多くの場合、相平衡化と組み合わせた。すなわち、得られた懸濁液を直ちに濾過しなかった。安定した形態を見出すことが重要であると考えられたため、懸濁液を数日間撹拌した。
【表10】
【0169】
化合物(I)(遊離塩基)形態Dの粉末X線回折パターンを図4aに示し、ピークのリストを以下の表8に示す。
【表11】
【0170】
新しい形態Dの純度をジェネリック標準HPLC法によって試験した。純度は、99.4%であることが見出された(非晶質出発物質の98.1%に対して)。形態Dのフーリエ変換(FT)-ラマンスペクトルを図4bに示す。
【0171】
形態DについてTG-FTIRサーモグラムを記録したところ、試料を周囲温度の空気中で短時間乾燥した後に試験したにもかかわらず、残留酢酸エチルの約0.3%しか示さなかったため、溶媒を含まない形態であることが示された。DSCは、153℃におけるピーク最大値及び約69J/gのエンタルピーシグナルを有するかなり鋭い融解吸熱を明らかにした。
【0172】
溶解性試験は、形態Dの可能性のあるプロセス溶媒混合物中で実施した。結果を、以下の表9に示す。
【表12】
【0173】
DVSは形態Dで実施した。95%の相対湿度で、形態Dは最大0.8%の水を取り、湿度が0%r.hのときにスキャンしたとき、試料はすべての水を失った。
【0174】
化合物Iの非晶質及び形態Dの水溶性を試験した。結果を以下の表10に示す。
【表13】
【0175】
pH依存性溶解度試験を、0.1MのHCl、クエン酸緩衝液、及び公称pH値が6.8及び7.4のUSPリン酸緩衝液中で実施した。平衡相中にすべての化合物が溶解したため、pH値が5未満での溶解度試験は失敗した。おおよその試験では、55mgの化合物が1.0mlの0.1M HClに容易に溶解することが示された。結果を、以下の表11に要約する。
【表14】
【0176】
本明細書で言及されているすべての文献は、それらの全体が参照により本明細書に組み込まれる。
図1
図2A
図2B
図3
図4A
図4B
【国際調査報告】