(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公表特許公報(A)
(11)【公表番号】
(43)【公表日】2024-09-30
(54)【発明の名称】脂肪を減少させるための、ゲル、ゲル形成溶液、またはゲル形成懸濁液中に細胞溶解性化合物を含む注射用組成物
(51)【国際特許分類】
A61K 45/00 20060101AFI20240920BHJP
A61K 31/575 20060101ALI20240920BHJP
A61K 47/18 20170101ALI20240920BHJP
A61K 47/12 20060101ALI20240920BHJP
A61K 31/167 20060101ALI20240920BHJP
A61K 31/573 20060101ALI20240920BHJP
A61K 9/08 20060101ALI20240920BHJP
A61P 23/02 20060101ALI20240920BHJP
A61P 29/00 20060101ALI20240920BHJP
A61P 43/00 20060101ALI20240920BHJP
A61K 9/06 20060101ALI20240920BHJP
A61P 3/04 20060101ALI20240920BHJP
A61K 31/616 20060101ALI20240920BHJP
【FI】
A61K45/00
A61K31/575
A61K47/18
A61K47/12
A61K31/167
A61K31/573
A61K9/08
A61P23/02
A61P29/00
A61P43/00 101
A61K9/06
A61P3/04
A61K31/616
【審査請求】有
【予備審査請求】未請求
(21)【出願番号】P 2024518625
(86)(22)【出願日】2022-07-05
(85)【翻訳文提出日】2024-03-22
(86)【国際出願番号】 CN2022103787
(87)【国際公開番号】W WO2024007140
(87)【国際公開日】2024-01-11
(81)【指定国・地域】
(71)【出願人】
【識別番号】524111651
【氏名又は名称】グロノバ ファーマ シーオー.,エルティディー.
(74)【代理人】
【識別番号】100095407
【氏名又は名称】木村 満
(74)【代理人】
【識別番号】100132883
【氏名又は名称】森川 泰司
(74)【代理人】
【識別番号】100148633
【氏名又は名称】桜田 圭
(74)【代理人】
【識別番号】100147924
【氏名又は名称】美恵 英樹
(74)【代理人】
【識別番号】110003797
【氏名又は名称】弁理士法人清原国際特許事務所
(72)【発明者】
【氏名】カァォ,ミンシュン
(72)【発明者】
【氏名】チュー,ヨンユー
【テーマコード(参考)】
4C076
4C084
4C086
4C206
【Fターム(参考)】
4C076AA09
4C076AA12
4C076AA22
4C076AA94
4C076BB16
4C076CC04
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4C086MA05
4C086MA23
4C086MA66
4C086NA05
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4C086ZB11
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4C206AA02
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4C206MA86
4C206ZA31
4C206ZA70
4C206ZB11
(57)【要約】
【解決手段】本発明は、第1の成分として細胞溶解性化合物、好ましくはデオキシコール酸またはその塩、より好ましくはDCA-Naと、薬学的に許容される賦形剤とを含む、注射用組成物を提供する。本発明はまた、局所脂肪の減少または除去を必要とする対象における局所脂肪の減少または除去のための注射用組成物の使用も提供し、この注射用組成物は、対象の皮下注射部位に皮下注射される。本発明はまた、有効量の注射用組成物を対象に投与することを含む、局所脂肪の減少または除去を必要とする対象における局所脂肪を減少または除去する方法を提供する。具体的に、本発明の注射用組成物は、ゲルの形態であり得る。
【選択図】なし
【特許請求の範囲】
【請求項1】
ゲル、ゲル形成溶液、またはゲル形成懸濁液中に細胞溶解性化合物を含む、脂肪を減少させるための注射用組成物であって、
第1の成分として細胞溶解性化合物、および
薬学的に許容される賦形剤を含む、注射用組成物。
【請求項2】
前記細胞溶解性化合物が、デオキシコール酸またはその塩である、請求項1に記載の注射用組成物。
【請求項3】
前記細胞溶解性化合物がDCA-Naであり、前記注射用組成物が、塩基性アミノ酸または有機酸のうち1つ以上から選択される第2の成分をさらに含む、請求項1または2に記載の注射用組成物。
【請求項4】
前記DCA-Naの濃度が7~51mg/mLである、請求項3に記載の注射用組成物。
【請求項5】
前記塩基性アミノ酸がL-リジンである、請求項3または4に記載の注射用組成物。
【請求項6】
前記L-リジンの濃度が11~145mg/mLである、請求項5に記載の注射用組成物。
【請求項7】
混合前の前記L-リジンのpHが8.0未満であり、前記注射用組成物のpHが6.45~7.75である、請求項5または6に記載の注射用組成物。
【請求項8】
第3の成分として抗炎症薬をさらに含む、請求項3~7のいずれか一項に記載の注射用組成物。
【請求項9】
前記抗炎症薬がアスピリンである、請求項8に記載の注射用組成物。
【請求項10】
前記アスピリンの濃度が14~100mg/mLである、請求項9に記載の注射用組成物。
【請求項11】
第4の成分として局所麻酔薬をさらに含む、請求項3~10のいずれか一項に記載の注射用組成物。
【請求項12】
前記局所麻酔薬がリドカインである、請求項11に記載の注射用組成物。
【請求項13】
前記抗炎症薬が、デキサメタゾンリン酸ナトリウム(DSP)である、請求項8に記載の注射用組成物。
【請求項14】
前記塩基性アミノ酸がL-ヒスチジンである、請求項3または4に記載の注射用組成物。
【請求項15】
前記L-ヒスチジンの濃度が1.4~11.5mg/mLである、請求項14に記載の注射用組成物。
【請求項16】
前記塩基性アミノ酸がL-アルギニンである、請求項3または4に記載の注射用組成物。
【請求項17】
前記L-アルギニンの濃度が115~143mg/mLである、請求項16に記載の注射用組成物。
【請求項18】
前記有機酸が酢酸である、請求項3または4に記載の注射用組成物。
【請求項19】
前記酢酸の濃度が46~143×10
-3%である、請求項18に記載の注射用組成物。
【請求項20】
局所脂肪の減少または除去を必要とする対象における局所脂肪の減少または除去のための、請求項1~19のいずれか一項に記載の注射用組成物の使用であって、前記注射用組成物が前記対象の皮下注射部位に皮下注射される、使用。
【請求項21】
前記皮下注射部位が、前記対象の顔、顎、腕、腰、腹部、または大腿内の局所脂肪である、請求項20に記載の使用。
【請求項22】
局所脂肪の減少または除去のための薬剤の製造における、請求項1~19のいずれか一項に記載の注射用組成物の使用。
【請求項23】
局所脂肪の減少または除去を必要とする対象における局所脂肪を減少または除去するための方法であって、前記対象に、請求項1~19のいずれか一項に記載の注射用組成物を有効量で皮下注射することを含む、方法。
【請求項24】
前記注射用組成物が、前記対象の顔、顎、腕、腰、腹部、または大腿内の局所脂肪に皮下注射される、請求項23に記載の方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、注射用組成物の調製に関する。より具体的には、本発明は、脂肪を減少させるための、ゲル、ゲル形成溶液、またはゲル形成懸濁液中に細胞溶解性化合物を含む注射用組成物、本発明の注射用組成物を投与することによる局所脂肪の減少または除去のための使用または方法に関する。具体的に、本発明の注射用組成物は、注射中または注射後にゲルの形態であってもよい。
【背景技術】
【0002】
顎下部の脂肪や二重あごは、通常、食事または運動に耐性を示すため、有効成分であるデオキシコール酸を用いた非外科的な脂肪除去注射が、顎下部の脂肪を減少させる新たな治療法となっている。
【0003】
デオキシコール酸(DCA)は二次胆汁酸であり、腸内での消化吸収のために脂肪を乳化および可溶化することができる。その塩であるデオキシコール酸ナトリウム(DCA-Na)は、細胞を溶解するためによく使用されるアニオン性界面活性剤である。DCAはTGR5アゴニスト(武田Gタンパク質共役受容体5、GPBAR1)であり、TGR5の活性化は、高脂肪食餌を与えられた動物において肥満を減少させることが分かっている。DCAは、脂肪細胞を溶解し、脂肪の減少をもたらすと予測される。しかし、細胞溶解は、マクロファージおよび単球などの炎症細胞を誘引して、破壊された脂肪細胞を除去する。デオキシコール酸治療を受けた患者は、炎症による腫脹、疼痛、しびれ、発赤、治療時の硬結領域を経験することが多いため、組織学的証拠により治療後の炎症の大部分がこの時期までに消失したことが示されたことから、各治療間の間隔は長い(約1ヵ月)。DCA-Naは、低pH下で、トリス(ヒドロキシメチル)アミノメタン(TRIS)緩衝液と混合して、またはポリマーおよびアミノ酸であるL-アスパラギン酸と混合して、ヒドロゲルを形成することができる。DCA-Na/TRISヒドロゲル上での追加の溶質の放出は持続的であると見出されているため、好適な薬物送達および放出プラットフォームであるはずである。ある研究では、グリシンおよびL-α-アラニンではなく、アミノ酸であるL-リジンおよびL-アルギニンを加えることで、それらのヒドロゲル形成が弱まることが示されたが、本発明者らは、L-リジン、L-アルギニン、およびL-ヒスチジンなどの塩基性アミノ酸、ならびに/または酢酸などの有機酸と混合することによってDCA-Naゲル系を構築することに成功した。
【0004】
デオキシコール酸溶液の注射後、デオキシコール酸は1センチメートルを超える脂肪組織に浸透することが研究で示されている。直径2センチメートルを超える脂肪組織球が炎症反応を起こす。デオキシコール酸ゲル溶液を脂肪組織に注射すると、デオキシコール酸の7日間の徐放の間、デオキシコール酸ゲルの周囲にある脂肪細胞だけが徐々に破壊される。炎症反応は、デオキシコール酸ゲルを取り囲む脂肪細胞の2ミリメートル未満の薄層に限定される。炎症性脂肪組織の総体積は、従来の細胞溶解注射の10%未満である。最後に、デオキシコール酸の注射量に比例した体積の空洞が脂肪組織に出現し、2~3週間以内に消失する。
【0005】
したがって、細胞溶解反応を、ゲル表面の周囲にあるデオキシコール酸が浸潤した脂肪細胞に限定できるように、L-リジン、L-アルギニン、およびL-ヒスチジンなどの塩基性アミノ酸、ならびに/または酢酸などの有機酸と混合することで構築される、注射部位における徐放性のデオキシコール酸、またはその塩であるデオキシコール酸ナトリウム(DCA-Na)ゲルが期待される。また、炎症や疼痛を軽減するために、治療中に抗炎症薬または局所麻酔薬を注射に加えることも可能である。さらに、本発明者らは、細胞溶解がより有効となることで、患者がより少ない治療回数で治療を完遂できるように、DCA-Naの濃度を高くすることも目的とした。まとめると、DCA-Na、塩基性アミノ酸、および/または有機酸と、抗炎症薬および/または局所麻酔薬との混合物は、脂肪を減少または除去し、有害作用を効果的に低減し、各治療間の間隔を短縮し、治療プロセス全体を短縮させるはずである。DCA-Na注射剤の組成物は、好ましくは、混合後5分以降120分までにゲル状の外観を形成する。
【発明の概要】
【0006】
本発明は、細胞溶解性化合物、好ましくはデオキシコール酸またはその塩、より好ましくはDCA-Naの注射用組成物を、ゲル、ゲル形成溶液、またはゲル形成懸濁液の形態で提供する。この注射用組成物は、局所脂肪の減少または除去のために使用することができ、副作用が少なく、治療プロセスが比較的短い。
【0007】
1つの態様において、本発明は、脂肪を減少させるための、ゲル、ゲル形成溶液、またはゲル形成懸濁液中に細胞溶解性化合物を含む注射用組成物を提供し、この注射用組成物は、
第1の成分として細胞溶解性化合物、および
薬学的に許容される賦形剤を含む。
【0008】
好ましくは、細胞溶解性化合物は、デオキシコール酸またはその塩である。
【0009】
より好ましくは、細胞溶解性化合物はDCA-Naであり、注射用組成物は、塩基性アミノ酸または有機酸のうち1つ以上から選択される第2の成分をさらに含む。
【0010】
いくつかの実施形態において、DCA-Naの濃度は7~51mg/mLである。
【0011】
いくつかの実施形態において、塩基性アミノ酸はL-リジンである。
【0012】
1つの実施形態において、L-リジンの濃度は11~145mg/mLである。
【0013】
別の実施形態において、混合前のL-リジンのpHは8.0未満であり、注射用組成物のpHは6.45~7.75である。
【0014】
別の実施形態において、注射用組成物は、第3の成分として抗炎症薬をさらに含む。
【0015】
好ましくは、抗炎症薬はアスピリンである。
【0016】
より好ましくは、アスピリンの濃度は14~100mg/mLである。
【0017】
好ましくは、注射用組成物は、第4の成分として局所麻酔薬をさらに含む。
【0018】
より好ましくは、局所麻酔薬はリドカインである。
【0019】
より好ましくは、リドカインの濃度は2.5~6.5mg/mLである。
【0020】
好ましくは、抗炎症薬は、デキサメタゾンリン酸ナトリウム(DSP)である。
【0021】
より好ましくは、注射用組成物のpHは6.45~7.40である。
【0022】
より好ましくは、DSPの濃度は1mg/mL以下である。
【0023】
いくつかの実施形態において、塩基性アミノ酸はL-ヒスチジンである。
【0024】
好ましくは、L-ヒスチジンの濃度は1.4~11.5mg/mLである。
【0025】
いくつかの実施形態において、塩基性アミノ酸はL-アルギニンである。
【0026】
好ましくは、L-アルギニンの濃度は115~143mg/mLである。
【0027】
いくつかの実施形態おいて、有機酸は酢酸である。
【0028】
好ましくは、酢酸の濃度は46~143×10-3%である。
【0029】
他の実施形態において、注射用組成物は、生理食塩水をさらに含む。
【0030】
他の実施形態において、注射用組成物は、好ましくは注射中および注射後に、ゲルの形態にある。
【0031】
別の態様において、本発明は、局所脂肪の減少または除去を必要とする対象における局所脂肪の減少または除去のための、上記の注射用組成物の使用を提供し、注射用組成物は、対象の皮下注射部位に皮下注射される。
【0032】
別の実施形態において、皮下注射部位は、対象の顔、顎、腕、腰、腹部、または大腿内の局所脂肪である。
【0033】
別の態様において、本発明は、局所脂肪の減少または除去のための医薬の製造のための、上記注射用組成物の使用を提供する。
【0034】
別の態様において、本発明は、局所脂肪の減少または除去を必要とする対象における局所脂肪を減少または除去するための方法であって、有効量の上記注射用組成物を対象に投与、好ましくは皮下注射することを含む方法を提供する。
【0035】
別の実施形態において、対象はヒトである。
【0036】
別の実施形態において、注射用組成物は、対象の顔、顎、腕、腰、腹部、または大腿内の局所脂肪に投与、好ましくは皮下注射される。
【0037】
本発明の注射用組成物はまた、生理食塩水も含んでもよく、注射中または注射後にゲルの形態にあってもよい。
【図面の簡単な説明】
【0038】
【
図1-1】DCA-Na溶液と、(a)100mg/mL、(b)200mg/mL、(c)300mg/mL、(d)400mg/mL、または(e)500mg/mLのL-リジン溶液との混合物の外観である。
【
図1-2】DCA-Na溶液と、(a)100mg/mL、(b)200mg/mL、(c)300mg/mL、(d)400mg/mL、または(e)500mg/mLのL-リジン溶液との混合物の外観である。
【
図2】様々なpHにおけるDCA-Na溶液と、(a)200mg/mLまたは(b)400mg/mLのL-リジン溶液との混合物の外観である。
【
図3-1】DCA-Na溶液と、(a)90mg/mL、(b)180mg/mL、(c)300mg/mL、(d)450mg/mL、または(e)600mg/mLのLAとの混合物の外観である。
【
図3-2】DCA-Na溶液と、(a)90mg/mL、(b)180mg/mL、(c)300mg/mL、(d)450mg/mL、または(e)600mg/mLのLAとの混合物の外観である。
【
図4-1】CA-Na溶液と、リドカインHCl溶液中の(a)90mg/mL、(b)180mg/mL、(c)300mg/mL、(d)450mg/mL、または(e)600mg/mLのLAとの混合物の外観である。
【
図4-2】CA-Na溶液と、リドカインHCl溶液中の(a)90mg/mL、(b)180mg/mL、(c)300mg/mL、(d)450mg/mL、または(e)600mg/mLのLAとの混合物の外観である。
【
図5】2匹のブタの両側部(L:左側、R:右側)で収集された脂肪組織の写真であり、(a)および(b)は第1のブタのものであり、(c)および(d)は第2のブタのものである。
【
図6】様々なpHにおけるDCA-Na溶液と、(a)200mg/mLまたは(b)400mg/mLのL-リジン/DSP溶液との混合物の外観である。
【
図7-1】3匹のブタの両側部(L:左側、R:右側)で収集された脂肪組織の写真であり、(a)および(b)は第1のブタのものであり、(c)および(d)は第2のブタのものであり、(e)および(f)は第3のブタのものである。
【
図7-2】3匹のブタの両側部(L:左側、R:右側)で収集された脂肪組織の写真であり、(a)および(b)は第1のブタのものであり、(c)および(d)は第2のブタのものであり、(e)および(f)は第3のブタのものである。
【
図8-1】DCA-Na溶液と、(a)2.5mg/mL、(b)5mg/mL、(c)10mg/mL、(d)20mg/mL、(e)40mg/mL、または(f)50mg/mLのL-ヒスチジン溶液との混合物の外観である。
【
図8-2】DCA-Na溶液と、(a)2.5mg/mL、(b)5mg/mL、(c)10mg/mL、(d)20mg/mL、(e)40mg/mL、または(f)50mg/mLのL-ヒスチジン溶液との混合物の外観である。
【
図9】DCA-Na溶液と500mg/mLのL-アルギニン溶液との混合物の外観である。
【
図10-1】DCA-Na溶液と、(a)0.1%、(b)0.2%、(c)0.3%、(d)0.4%、(e)0.5%、または(f)0.6%のL-ヒスチジン溶液との混合物の外観である。
【
図10-2】DCA-Na溶液と、(a)0.1%、(b)0.2%、(c)0.3%、(d)0.4%、(e)0.5%、または(f)0.6%のL-ヒスチジン溶液との混合物の外観である。
【
図10-3】DCA-Na溶液と、(a)0.1%、(b)0.2%、(c)0.3%、(d)0.4%、(e)0.5%、または(f)0.6%のL-ヒスチジン溶液との混合物の外観である。
【発明を実施するための形態】
【0039】
定義
本発明において、以下の定義が適用可能である。
【0040】
冠詞「a」および「an」は、本発明において、冠詞の文法上の対象物の1つまたは複数(すなわち、少なくとも1つ)を指すために使用される。例として、「要素(an element)」は、1つの要素または複数の要素を意味する。
【0041】
「および/または」という用語は、本発明において、別段の指示がない限り、「および」または「または」のいずれかを意味するために使用される。
【0042】
「有効量」という用語は、本発明による組成物の投与または使用状況において、所望の効果または結果を達成するために十分な組成物の量を意味する。有効量は、当業者に公知である方法によって決定することができる。
【0043】
「対象」は、哺乳動物、例えば、ヒト、マウス、ラット、モルモット、イヌ、ネコ、ウマ、ウシ、ブタ、または非ヒト霊長類、例えば、サル、チンパンジー、ヒヒもしくはアカゲザルである。本発明の対象は、好ましくはヒトである。
【0044】
「薬学的に許容される賦形剤」が、本明細書において使用されることがあるが、一般的に安全であり、毒性がなく、生物学的にもその他の点でも望ましくないことのない医薬組成物を調製するのに有用な化合物を指し、獣医学的使用またはヒトの薬学的使用に許容される賦形剤を含む。本明細書および特許請求の範囲において使用される薬学的に許容される賦形剤は、1つおよび複数のそのような賦形剤の両方を含む。好適な賦形剤には、無菌水または注射用水などの溶媒、タルク、ステアリン酸マグネシウムなどの滑沢剤、湿潤剤、乳化剤および懸濁剤、塩化ナトリウム等の等張化剤;塩酸などの酸、水酸化ナトリウムなどの塩基、リン酸水素二ナトリウムなどの緩衝液、ならびに安息香酸メチル、ヒドロキシ安息香酸プロピルおよびベンジルアルコールなどの保存剤が含まれる。
【0045】
「細胞溶解性化合物」はまた、界面活性剤または脂肪分解性化合物であってもよい。好適な細胞溶解性化合物としては、ホスファチジルコリン、デオキシコール酸またはその塩が挙げられるが、これらに限定されない。本発明の細胞溶解性化合物は、好ましくはデオキシコール酸またはその塩であり、より好ましくはDCA-Naである。
【0046】
アスピリン(アセチルサリチル酸)は、疼痛、発熱、または炎症を軽減するために使用される非ステロイド性抗炎症薬(NSAID)であるが、血小板の正常な機能も抑制する。その可溶性塩であるリジンアスピリン(LA)は、静脈内または筋肉内に投与することができる。投与後、リジンアスピリンはアセチルサリチル酸に変換され、サリチル酸に代謝される。
【0047】
デキサメタゾンは、副腎によって産生される天然ホルモンに類似した糖質コルチコステロイドである。デキサメタゾンは、炎症(腫脹、熱、発赤、および疼痛)を緩和し、特定の型の関節炎、重度のアレルギー、喘息、および特定のタイプの癌を治療するために使用される。デキサメタゾンリン酸ナトリウム(DSP)は、そのリン酸ナトリウム塩の形態である。
【0048】
リドカイン(またはリグノカイン)は、神経インパルスの伝達を一時的に遮断することができるアミノアミド型の局所麻酔薬である。リドカインは、通常、投与後数分以内に効き始め、30分~3時間持続する。リドカイン混合物は、皮膚または粘膜に直接適用して、その部位を麻痺させることもできる。
【実施例】
【0049】
本発明は、以下の実施例に従ってよりよく理解することができる。しかし、実施例に記載された内容は、特許請求の範囲に詳細に記載された本発明を限定するものではなく、単に本発明を説明するためのものであることは、当業者であれば容易に理解できるであろう。別段の指示がない限り、本発明の組成物は、市販の材料を使用し、当業者に公知の一般的な技術および手順を利用することによって調製することができる。
【0050】
DCA-Na溶液
DCA-Na(99%,Acros Organics,Geel,Belgium)、NaOH、Na2HPO4(Sigma-Aldrich,St.Louis,MO,USA)、およびNaCl(Honeywell,Charlotte,NC,USA)を注射用水80mLに加え、次いで100mLの溶液にした。次いで、ベンジルアルコール(Alfa Aesar,Ward Hill,MA,USA)を溶液に加え、追加の水酸化ナトリウム/塩酸を加えてpH値を調節した。各種成分の量および濃度は、表1および表2に示す通りであり、それぞれ5%溶液および1%溶液を調製した。溶液をオートクレーブにより30分間滅菌した。
【0051】
【0052】
【0053】
以下の実施例において、DCA-Na溶液を他の成分と混合することで注射用組成物を調製した。特に明記しない限り、得られた組成物中のDCA-Naの最終濃度の要件は、初期溶液の70%以上(5%溶液の場合は36.96mg/mL以上、1%溶液の場合は7.39mg/mL以上)である。DCA-Naを他の成分と混合した後の外観を、25℃、37℃および42℃で、20分間、30分間、45分間、60分間および120分間静置後に観察した。また、200μLの0.9%生理食塩水にそれぞれ200μLの混合液を加え、37℃で20分間、30分間、45分間、60分間、120分間静置後のそれらの外観も観察した。写真を撮り、図に示した。
【0054】
実施例1.DCA-NaおよびL-リジンの組成物
DCA-NaおよびL-リジンの組成物が混合後にゲルを形成するかどうかを調べるために、DCA-Na溶液を、表3に従って酸性L-リジン溶液(pH5.0~5.2、Acros Organics)と混合した。
【0055】
【0056】
【0057】
【0058】
図1は、リジン溶液をDCA-Na溶液に加えた場合、すべてのグループが透明な溶液を形成したことを示した。より高い濃度のリジンを用いたDCA-Naとリジンとの混合物(
図1の1c~1e)は、25℃に置かれた場合、30分前後でゲルを形成し始めた(倒立させた後にボトルの底に残った)が、42℃に置かれたDCA-Naとリジンとの混合物は、試験した5%DCA-Na中のすべてのリジン濃度および1%DCA-Na中の140mg/mL未満のリジン濃度においてゲル形成しなかった。0.9%生理食塩水に加えた5%のDCA-Naとリジンとの混合物は、リジン濃度が83mg/mLより大きい場合60分前後、リジン濃度が85mg/mLより大きい場合30分前後でゲルを形成した(
図1の1c~1e)。0.9%生理食塩水に加えた1%DCA-Naとリジンとの混合物は、リジン濃度が45mg/mLより大きい場合、60分前後でゲルを形成し、リジン濃度が69mg/mLより大きい場合30分前後でゲル形成し、リジン濃度が85mg/mLより大きい場合20分前後でゲル形成した(
図1の1c~1e)。これらの結果は、より高い濃度のLAがより短い時間でゲルを形成したことを示した。したがって、DCA-Naとリジンとの混合物は、混合後できるだけ早く使用することが示唆されている。
【0059】
実施例1では、DCA-Naの最終濃度が7.54~44.00mg/mL、L-リジンの最終濃度が45.45~142.86mg/mLの場合に、0.9%生理食塩水を加えた組成物はゲルを形成することができる。
【0060】
混合後にゲルを形成するDCA-Na溶液とL-リジン溶液の最適なpH値を調べるために、表4に従ってDCA-Na溶液を様々なpHのL-リジンと混合した。
【0061】
【0062】
【0063】
【0064】
図2は、DCA-Na溶液にリジン溶液を加えた場合、すべてのグループが透明な溶液を形成したことを示した。4.0~10.0の範囲のpHの200mg/mLのL-リジン溶液と混合した5%および1%DCA-Na溶液において、混合溶液のpH値は、7.21~9.97および6.71~9.92の範囲であり、5.0~10.0の範囲のpHの400mg/mLのL-リジン溶液と混合した5%および1%DCA-Na溶液において、pH値は、7.45~9.92および6.96~9.89であった(表5)。200mg/mLのL-リジン試験では、0.9%生理食塩水に加えた5%DCA-NaおよびL-リジンは、pH4.0の場合60分前後でゲルを形成し、0.9%生理食塩水に加えた1%DCA-NaとL-リジンとの混合物はpH4.0の場合30分前後、pH5.0で45分前後でゲルを形成した(
図2の2a)。400mg/mLのL-リジン試験では、0.9%生理食塩水に加えた5%DCA-NaとL-リジンとの混合物は、pH5.0および6.0の場合45分前後、pH7.0の場合60分前後でゲルを形成し、0.9%生理食塩水に加えた1%DCA-NaとL-リジンとの混合物は、pH5.0の場合30分前後、pH6.0の場合45分前後でゲルを形成した(
図2の2b)。したがって、混合前のL-リジン溶液の好適なpHは8.0未満、好ましくは5.0~7.0、より好ましくはpH5.0~6.0前後である。L-リジンの濃度が低いほど、pHは低くなることが示唆されている。
【0065】
0.9%生理食塩水を加えた組成物は、組成物の最終pHが7.02~7.70である場合にゲルを形成することができる。
【0066】
実施例2.DCA-Naおよびリジンアスピリンの組成物
DCA-Na溶液をリジン含有NSAIDと混合してゲルを形成できるかどうかを試験するために、DCA-Na溶液を表6に従ってLA(Lyacety、0.9g/ボトル、0.5gアスピリンに相当、China Chemical & Pharmaceutical Co., Ltd.、中国台北市)と混合した。
【0067】
【0068】
【0069】
【0070】
図3は、LA溶液をDCA-Na溶液に加えた場合、全てのグループが透明な溶液を形成したことを示した。DCA-NaおよびLA濃度がより高いLAの混合物は、25℃に置かれたときに20分前後でゲルを形成し始め(
図3の3d、3e)、37または42℃に置かれた混合物は、ゲルを形成するのにより長い時間を要したが、短時間内に懸濁液(または沈殿物)を形成した(
図3の3b~3e)。0.9%生理食塩水に加えた混合物は、LA濃度が50mg/mL以上の場合60分前後でゲルを形成し、LA濃度が69mg/mLを超える場合30分前後でゲルを形成した(
図3の3b~3e)。LA濃度が高いほど短時間でゲルを形成した。したがって、DCA-NaおよびLAの混合物は、混合後できるだけ早く使用されることが示唆されている。
【0071】
実施例2では、DCA-Naの最終濃度が7.54~48.00mg/mL、最大でも50.29mg/mLであり、LAの最終濃度が25.71~171.43mg/mLであった場合に、0.9%生理食塩水を加えた組成物はゲルを形成することができ、ここで、リジンおよびアスピリンの最終濃度は、それぞれ、約11.40~76.81mg/mLおよび14.31~94.62mg/mLであった。
【0072】
実施例3.DCA-Na、およびリドカインHClを加えたリジンアスピリンの組成物
混合後に、DCA-Na溶液および局所麻酔リドカインHClに溶解したLAがゲルを形成したかどうかを試験するために、表7に従って、DCA-Na溶液をリドカインHCl(5mL/ボトル、Lita Pharmacy CO.,Ltd.、中国台中市)中のLAと混合した。
【0073】
【0074】
【0075】
【0076】
図4は、リドカインHCl溶液中のLAをDCA-Na溶液に加えた場合、全てのグループが透明な溶液を形成したことを示した。DCA-Naと高濃度のLAを有するリドカインHCl中のLAの混合物は、25℃に置かれたときに30分前後でゲルを形成し始めたが(
図4の4e)、37または42℃に置かれた混合物は、ゲルを形成するのにより長い時間を要したが、短時間内に懸濁液または沈殿物を形成した(
図4の4a~4e)。5%DCA-Na溶液の場合、0.9%生理食塩水に加えたDCA-NaとリドカインHCl中のLAの混合物は、LA濃度が70mg/mLを超える場合60分前後、LA濃度が134mg/mLを超える場合45分前後、LA濃度が170mg/mLを超える場合30分前後でゲルを形成した(
図4の4c~4e)。5%DCA-Na溶液と混合するリドカインHClの濃度は、6mg/mLまで許容可能であった。1%DCA-Na溶液の場合、0.9%生理食塩水に加えたDCA-NaおよびLA+リドカインHClの混合物は、LA濃度が40mg/mLを超える場合120分前後、LA濃度が67mg/mLを超える場合60分前後、LA濃度が85mg/mLを超える場合45分前後でゲルを形成した(
図4の4b~4e)。1%DCA-Na溶液と混合するリドカインHClの好適な濃度は、3mg/mL前後であった。これらの結果は、低濃度のDCA-Naに高濃度のリドカインを加えると沈殿しやすいことを示した。
【0077】
実施例3では、DCA-Naの最終濃度が8.12~44.90mg/mLであり、LAの最終濃度が41.54~179.83mg/mLであった場合に、0.9%生理食塩水を加えた組成物はゲルを形成することができ、ここで、リジンおよびアスピリンの最終濃度が、それぞれ約18.61~80.61mg/mLおよび22.93~99.22mg/mLであり、リドカインの最終濃度が2.99~6.99mg/mLであった。
【0078】
実施例4.ブタ組織における、DCA-Na、およびリドカインHClを加えたリジンアスピリンの効果
5~6ヶ月齢前後のSPFランドレース雄ブタ2頭を0.04mg/kgアトロピンの筋肉内注射により麻酔した。10~15分後、6mg/kg Zoletil 50および2.2mg/kg Rompunを筋肉内注射した。1.5mLのリドカインHClをLAに加え、溶解するまで混合した。0.35mLのリドカインHCl/LA溶液を2mLの1%または5%DCA-Na溶液に加え、溶解するまで混合した。ブタに0.9%生理食塩水、1%または5%DCA-Na溶液を、リドカインHCl/LAの添加あり、または添加なしで、表8に従って異なる時点で注射した。各注射部位の面積は16cm
2であり、組成物は各部位の中心で1.0cmの深さに注射した。ブタの各側部に55部位ずつ注射した(合計110部位/ブタ)。屠殺後(0日目)、脂肪組織サンプルを採取し、中央から半分に切断した。切片の写真を記録し、
図5に示した。
【0079】
【0080】
図5に示すように、注射7日後、DCA-Na溶液を単独で注射した部位は、リドカインHCl/LAを含むDCA-Na溶液を注射した部位よりやや硬く、かなり腫れていた。
図5は、DCA-Na溶液を単独で注射した場合に、注射部位で細胞溶解が起こることを示した(グループ4-7)。一方、DCA-Na溶液をリドカインHCl/LAとともに注射した場合に、脂肪組織の底で細胞溶解が起こる(グループ8-15)。これは、DCA-Na溶液のみが脂肪組織中に拡散する傾向があることを示唆し得るが、しかし、DCA-Na溶液をリドカインHCl/LAと混合すると、脂肪組織の底で沈着および拡散し得るゲルが形成され、これは、触診時の硬度の低下と一致する。DCA-Na溶液を単独で注射した部位における細胞溶解および/または炎症は、少なくとも21~28日間観察可能であったが、リドカインHCl/LAを含むDCA-Na溶液を注射した部位では21日後に観察しづらかった。
【0081】
リドカインHClを含む、DCA-Naとリジンアスピリンとの組成物は、炎症などの副作用が少なく、効果的に脂肪を減らすことができる。
【0082】
実施例5.DCA-Naおよび、DSPを含むL-リジンの組成物
DCA-Na溶液とリジンおよび別の抗炎症薬であるDSP(Tai Yu Chemical&Pharmaceutical Co.,Ltd.,中国、新竹県)を混合してゲルを形成できるかどうか、およびゲルを形成するための最適pH値を試験するために、表9に従ってDCA-Na溶液を、異なるpH値のL-リジン/DSPと混合した。要件は、DSPの最終濃度が1mg/mL以下である。
【0083】
【0084】
【0085】
【0086】
図6は、L-リジン/DSP溶液をDCA-Na溶液に加えた場合、すべてのグループが透明な溶液を形成することを示した。混合溶液のpH値は、pHが4.0から7.0の範囲にある200mg/mL L-リジン溶液と混合した5%および1%DCA-Na溶液では6.87~7.43および6.48~7.28の範囲、pHが4.0から7.0の範囲にある400mg/mL L-リジン溶液と混合した5%および1%DCA-Na溶液では7.11~7.54および6.75~7.34の範囲であった(表10)。200mg/mLのL-リジン試験において、5%DCA-NaとL-リジン/DSPを0.9%生理食塩水に加えた混合液はpH4.0の場合45分前後でゲルを形成し、1%DCA-NaとL-リジン/DSPを0.9%生理食塩水に加えた混合液はpH4.0の場合20分前後でゲルを形成した(
図6の6a)。400mg/mLのL-リジン試験では、5%DCA-NaとL-リジン/DSPを0.9%生理食塩水に加えた混合液は、pH4.0と5.0の場合30分前後で、pH6.0の場合45分前後でゲルを形成し、1%DCA-NaとL-リジン/DSPを0.9%生理食塩水に加えた混合液は、pH4.0の場合20分前後で、pH5.0と6.0の場合30分前後でゲルを形成した(
図6の6b)。これは、DCA-Na溶液がL-リジンDSP溶液と混合した後にゲルを形成することができ、L-リジンの濃度が増加すると時間が短縮されることを示唆した。L-リジン/DSP溶液の好適なpHは、約pH4.0~6.0である。
【0087】
実施例5において、DCA-Naの最終濃度が8.123または40.615mg/mL、リジンの最終濃度が46.154または92.308mg/mL、DSPの最終濃度が0.999mg/mLのとき、0.9%生理食塩水を加えた組成物はゲルを形成することができる。0.9%生理食塩水を加えた組成物は、組成物の最終pHが6.48~7.38であるときにゲルを形成することができる。
【0088】
実施例6.ブタ組織における、DCA-Na、およびDSPを含むリジンの効果
体重が少なくとも100kgの雄性ブタ3頭に0.02mg/kgのアトロピンを筋肉内注射して、酸素(O
2)と混合した3%のイソフルランおよび30~70%の亜酸化窒素(N
2O)の吸入によって麻酔をかけた。0.5mLのL-リジン/DSP溶液(pH6.0)を1mLの1%または5%DCA-Na溶液に加え、溶解するまで混合した。表11に従って、ブタに0.9%生理食塩水、1%または5%DCA-Na溶液およびL-リジン/DSP溶液を異なる時点で注射した。各注射部位の面積は9cm2であり、組成物を各部位の中心で0.5cmの深さで注射した。ブタの各側部に54部位ずつ注射した(合計108部位/ブタ)。0日目に、動物に0.02mg/kgのアトロピンおよび6mg/kgのゾレチル50を筋肉内注射して麻酔をかけた。脂肪組織サンプルを採取し、中央から半分に切断した。組織切片の写真を記録し、
図7に示した。
【0089】
【0090】
【0091】
図7は、DCA-Na溶液をリジンまたはリジン/DSPとともに浅い深さに注射した場合に、注射部位で細胞溶解が起こったことを示している。DCA-Naの濃度または量を増加させると、より広い範囲の発赤が観察されたことから、より強い細胞溶解反応または炎症がもたらされた(グループ2-5)。細胞溶解反応または炎症は、注射の7~14日後に発赤の観察が少なくなったので、かなり軽減された。また、DSPの濃度を増加させると、注射部位の発赤の程度や面積が減少し(グループ6-9)、このことは、抗炎症作用のあるDSPを加えることで、注射部位の炎症を効果的に軽減させることができることを示唆している。
【0092】
DCA-NaおよびDSPを含むリジンの組成物は、炎症および発赤などの副作用を少なくしながら、脂肪を効果的に減少させることができる。
【0093】
実施例7.DCA-Naおよび塩基性アミノ酸の組成物
DCA-Na溶液および他の塩基性カチオン性アミノ酸が混合後にゲルを形成するかどうかを試験するために、DCA-Na溶液を、それぞれ表12および13に従って、酸性のL-ヒスチジン(pH5.0~5.2、Sigma-Aldrich)溶液またはL-アルギニン(pH5.0~5.2、Sigma-Aldrich)溶液と混合した。
【0094】
実施例7.1.DCA-NaおよびL-ヒスチジンの組成物
【0095】
【0096】
【0097】
【0098】
2.86mg/mLより高い濃度を有するL-ヒスチジン溶液は、1%DCA-Na溶液に加えた後に沈殿し(
図8の8c~8f)、11.43mg/mLより高い濃度を有するL-ヒスチジン溶液は、5%DCA-Na溶液に加えた後に沈殿した(
図8の8e~8f)。L-ヒスチジンの濃度が高い、DCA-NaとL-ヒスチジンとの混合物は、25℃に置かれたときに20分前後でゲルを形成し始め、37℃または42℃に置かれた混合物は、短時間で懸濁液(または沈殿物)を形成した(
図8の8b~8f)。0.9%生理食塩水に加えた1%DCA-NaとL-ヒスチジンとの混合物は、L-ヒスチジン濃度が1.43mg/mL以上の場合、20分前後でゲルを形成した(
図8の8b~8e)。0.9%生理食塩水に加えた5%DCA-NaとL-ヒスチジンとの混合物は、L-ヒスチジン濃度が2.86mg/mL以上の場合、20分前後でゲルを形成した(
図8の8c~8e)。
【0099】
実施例7.1において、DCA-Naの最終濃度が7.54~48.00mg/mL、およびL-ヒスチジンの最終濃度が1.43~11.43mg/mLであった場合、0.9%生理食塩水を加えた組成物は、ゲルを形成することができる。
【0100】
実施例7.2.DCA-NaおよびL-アルギニンの組成物
【0101】
【0102】
図9は、DCA-Na溶液に500mg/mLのL-アルギニン溶液を加えた場合、全てのグループが透明な溶液を形成したことを示した。しかし、グループ1-10のみが、25℃に置かれて、0.9%生理食塩水に添加された後、60分前後でゲルを形成した。37℃または42℃に置かれたDCA-NaおよびL-アルギニンの全ての混合物は、全ての試験時間でゲルを形成しなかった。
【0103】
実施例7.2において、DCA-Naの最終濃度が7.54または8.12mg/mL、およびL-アルギニンの最終濃度が115.38または142.86mg/mLであった場合、0.9%生理食塩水を加えた組成物は、ゲルを形成することができる。
【0104】
これらの結果から、L-リジン、L-ヒスチジンおよびL-アルギニンは塩基性アミノ酸に属するが、ゲルを形成するために必要な濃度が異なることが明らかとなった。例えば、高濃度のL-アルギニンおよび低濃度のDCA-Naのみがゲルを形成し、L-リジンおよびL-ヒスチジンと比較してより長い時間を要した。一方、低濃度のL-ヒスチジンはゲルを形成するのに十分であった。DCA-Naでゲル組成物を形成するという点では、リジンが最も優れ得、ヒスチジンが続き、アルギニンが最も劣り得る。
【0105】
実施例8.DCA-Naおよび有機酸の組成物
本発明者らは、DCA-Na溶液と混合した溶液のpH値がゲルを形成する能力に影響を及ぼすことを示した。DCA-Na溶液および有機酸が混合後にゲルを形成するかどうかを試験するために、表14に従ってDCA-Na溶液を希釈酢酸(Scharlau,バルセロナ、スペイン)と混合した。
【0106】
【0107】
【0108】
【0109】
57.14×10
-3%より高濃度の酢酸溶液は、1%DCA-Na溶液(8.80mg/mL以下)への添加後に沈殿し、45.45×10
-3%より高濃度の酢酸溶液は、1%DCA-Na溶液(9.60mg/mL以上)への添加後に沈殿した(
図10の10b~10f)。171.43×10
-3%より高濃度の酢酸溶液は、5%DCA-Na溶液(37.7mg/mL以下)への添加後に沈殿し、100.00×10
-3%より高濃度の酢酸溶液は、5%DCA-Na溶液(44.00mg/mL以上)への添加後に沈殿した(
図10の10d~10f)。より高濃度の酢酸を含むDCA-Naと酢酸との混合物は、25℃に置かれた場合、20分前後でゲルを形成し始めた一方で、37℃または42℃に置かれた混合物は、短時間のうちに懸濁液(または沈殿物)を形成した(
図10の10b~10f)。0.9%生理食塩水に加えた1%DCA-Naと酢酸との混合物は、46.15×10
-3%以上の酢酸濃度で20分前後でゲルを形成した(
図10の10b~10e)。0.9%生理食塩水に加えた5%DCA-Naと酢酸との混合物は、92.30×10
-3%以上の酢酸濃度の場合20分前後でゲルを形成した(
図10の10d~10e)。
【0110】
実施例8では、DCA-Naの最終濃度が7.54~40.62mg/mL、および酢酸の最終濃度が46.15×10-3%~142.86×10-3%の場合、0.9%生理食塩水を加えた組成物は、ゲルを形成することができる。
【0111】
本発明は、細胞溶解性化合物、特にデオキシコール酸またはそのDCA-Na塩が、低pHのアミノ酸(またはカチオン性イオン)または有機酸と混合した後、徐放性ゲル、ゲル形成溶液、またはゲル形成懸濁液を形成し得ることを示した。DCA-Naゲルの製剤には、局所の炎症を抑えるために、リジンアスピリンやデキサメタゾンリン酸ナトリウムなどの追加の非炎症性薬物、および局所麻酔薬リドカインを加えることができる。本発明は、脂肪の減少のためのゲルまたはゲル形成溶液(または懸濁液)中の、ならびに炎症または他の有害作用を低減させ、各治療間の間隔を短縮し、治療プロセス全体を短縮させる、局所脂肪の非外科的減少または除去のための抗炎症薬および/または局所麻酔薬の追加を伴う、デオキシコール酸またはその塩などの徐放性細胞溶解性化合物の組成物を提供する。本発明の注射可能組成物は、任意選択で生理食塩水を含んでいてもよく、注射中または注射後にゲルの形態であってもよい。
【手続補正書】
【提出日】2024-04-12
【手続補正1】
【補正対象書類名】特許請求の範囲
【補正対象項目名】全文
【補正方法】変更
【補正の内容】
【特許請求の範囲】
【請求項1】
ゲル、ゲル形成溶液、またはゲル形成懸濁液中に細胞溶解性化合物を含む、脂肪を減少させるための注射用組成物であって、
第1の成分として細胞溶解性化合物、および
薬学的に許容される賦形剤を含む、注射用組成物。
【請求項2】
前記細胞溶解性化合物が、デオキシコール酸またはその塩である、請求項1に記載の注射用組成物。
【請求項3】
前記細胞溶解性化合物がDCA-Naであり、前記注射用組成物が、塩基性アミノ酸または有機酸のうち1つ以上から選択される第2の成分をさらに含
み、
ここで、前記DCA-Naの濃度が7~51mg/mLである、請求項
1に記載の注射用組成物。
【請求項4】
前記塩基性アミノ酸がL-リジンであり、ここで、前記L-リジンの濃度が11~145mg/mLである、請求項3に記載の注射用組成物。
【請求項5】
混合前の前記L-リジンのpHが8.0未満であり、前記注射用組成物のpHが6.45~7.75である、請求項4に記載の注射用組成物。
【請求項6】
第3の成分として抗炎症薬をさらに含み、ここで、前記抗炎症薬がアスピリンであり、
ここで、前記アスピリンの濃度が14~100mg/mLである、請求項3に記載の注射用組成物。
【請求項7】
第4の成分として局所麻酔薬をさらに含み、ここで、前記局所麻酔薬がリドカインである、請求項3に記載の注射用組成物。
【請求項8】
前記抗炎症薬が、デキサメタゾンリン酸ナトリウム(DSP)である、請求項6に記載の注射用組成物。
【請求項9】
前記塩基性アミノ酸がL-ヒスチジンであり、ここで、前記L-ヒスチジンの濃度が1.4~11.5mg/mLである、請求項3に記載の注射用組成物。
【請求項10】
前記塩基性アミノ酸がL-アルギニンであり、ここで、前記L-アルギニンの濃度が115~143mg/mLである、請求項3に記載の注射用組成物。
【請求項11】
前記有機酸が酢酸であり、ここで、前記酢酸の濃度が46~143×10
-3
%である、請求項3に記載の注射用組成物。
【請求項12】
局所脂肪の減少または除去を必要とする対象における局所脂肪の減少または除去の方法に使用するための、請求項1~11のいずれか一項に記載の注射用組成物であって、前記注射用組成物が前記対象の皮下注射部位に皮下注射される、注射用組成物。
【請求項13】
前記皮下注射部位が、前記対象の顔、顎、腕、腰、腹部、または大腿内の局所脂肪である、請求項12に記載の注射用組成物。
【国際調査報告】