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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公表特許公報(A)
(11)【公表番号】
(43)【公表日】2024-09-30
(54)【発明の名称】高分子固体電解質及びその製造方法
(51)【国際特許分類】
   H01B 1/06 20060101AFI20240920BHJP
   H01M 10/0565 20100101ALI20240920BHJP
   H01B 13/00 20060101ALI20240920BHJP
【FI】
H01B1/06 A
H01M10/0565
H01B13/00 Z
【審査請求】有
【予備審査請求】未請求
(21)【出願番号】P 2024518713
(86)(22)【出願日】2023-05-31
(85)【翻訳文提出日】2024-03-25
(86)【国際出願番号】 KR2023007468
(87)【国際公開番号】W WO2023234708
(87)【国際公開日】2023-12-07
(31)【優先権主張番号】10-2022-0067066
(32)【優先日】2022-05-31
(33)【優先権主張国・地域又は機関】KR
(31)【優先権主張番号】10-2023-0070099
(32)【優先日】2023-05-31
(33)【優先権主張国・地域又は機関】KR
(81)【指定国・地域】
(71)【出願人】
【識別番号】521065355
【氏名又は名称】エルジー エナジー ソリューション リミテッド
(74)【代理人】
【識別番号】100188558
【弁理士】
【氏名又は名称】飯田 雅人
(74)【代理人】
【識別番号】100110364
【弁理士】
【氏名又は名称】実広 信哉
(72)【発明者】
【氏名】スンヒョン・ナム
(72)【発明者】
【氏名】ヒャウン・ハン
(72)【発明者】
【氏名】ドン・キュ・キム
【テーマコード(参考)】
5G301
5H029
【Fターム(参考)】
5G301CA12
5G301CA16
5G301CA22
5G301CD01
5H029AJ06
5H029AJ14
5H029AK02
5H029AK03
5H029AL12
5H029AM16
5H029CJ02
5H029CJ08
5H029CJ13
5H029CJ22
5H029HJ01
5H029HJ04
5H029HJ14
(57)【要約】
本発明は、高分子固体電解質及びその製造方法に関する。
【特許請求の範囲】
【請求項1】
架橋結合性官能基を含む高分子;リチウム塩;及び第1の溶媒及び第2の溶媒を含む溶媒;を含む高分子固体電解質であって、
前記高分子固体電解質は、架橋結合構造;および前記架橋結合性官能基を含む無定形高分子鎖(amorphous polymer chain)を含み、
前記架橋結合構造は、(a)架橋結合性官能基間の架橋結合、(b)架橋結合性官能基と第1の溶媒の架橋結合、および(c)架橋結合性官能基とリチウム塩の結合を含み、
前記高分子固体電解質内に含まれる前記溶媒の時間経過による蒸発量を意味する液相蒸発速度(M(t))は、下記式1によって定義されるものである高分子固体電解質:
【数1】
前記M∞は、前記高分子固体電解質に含まれることができる液相の最大値または飽和値であって、0.2~0.6であり、
前記Dは、前記高分子固体電解質の内部における液相の拡散係数であって、10-9cm/s~10-6cm/sであり、
前記Lは、高分子固体電解質の厚さであって、5μm~500μmであり、
前記tは、前記液相蒸発速度が測定される時間である。
【請求項2】
前記第1の溶媒の含量は1ppm~1000ppmである、請求項1に記載の高分子固体電解質。
【請求項3】
前記第1の溶媒は、水、エタノール、イソプロピルアルコール、ジメチルスルホキシド(dimethyl sulfoxide)、アセトニトリル(acetonitrile)、NMP、水及びアルコールを混合した共溶媒、および水とジメチルスルホキシドを混合した共溶媒からなる群から選択される1種以上を含む、請求項1に記載の高分子固体電解質。
【請求項4】
前記第2の溶媒は、エチルメチルカーボネート(EMC)、ジメチルカーボネート(DMC)、エチレンカーボネート(EC)、プロピレンカーボネート(PC)、ビニレンカーボネート(VC)、ジエチルカーボネート(DEC)、テトラヒドロフラン(THF)、2-メチルテトラヒドロフラン(2-MeTHF)、ジオキソラン(DOX)、ジメトキシエタン(DME)、ジエトキシエタン(DEE)、γ-ブチロラクトン(GBL)、アセトニトリル(AN)及びスルホランからなる群から選択される1種以上を含む、高分子固体電解質。
【請求項5】
前記架橋結合性官能基は、ヒドロキシル基(hydroxyl group)、カルボキシル基(carboxyl group)及びアミド基(amide group)からなる群から選択される1種以上を含む、請求項1に記載の高分子固体電解質。
【請求項6】
前記架橋結合性官能基を含む高分子は、ポリビニルアルコール(polyvinyl alcohol、PVA)、ゼラチン(gelatin)、メチルセルロース(methylcellulose)、寒天(agar)、デキストリン(dextran)、ポリ(ビニルピロリドン)(poly(vinyl pyrrolidone))、ポリ(アクリルアミド)(poly(acrylic amide))、澱粉―カルボキシメチルセルロース(starch-carboxymethyl cellulose)、ヒアルロン酸―メチルセルロース(hyaluronic acid-methylcellulose)、キトサン(chitosan)、ポリ(N―イソプロピルアクリルアミド)(poly(N-isopropylacrylamide))及びアミノ基末端ポリエチレングリコール(amino-terminated PEG)からなる群から選択される1種以上を含む、請求項1に記載の高分子固体電解質。
【請求項7】
前記高分子の架橋結合性官能基([G])に対するリチウム塩のリチウム([Li])のモル比([Li]/[G])は0.1超過、0.5未満である、請求項1に記載の高分子固体電解質。
【請求項8】
前記リチウム塩は、LiTFSI(Lithium bis(trifluoromethanesulphonyl)imide)、LiFSI(Lithium bis(fluorosulfonyl)imide)、LiNO、LiOH、LiCl、LiBr、LiI、LiClO、LiBF、LiB10Cl10、LiPF、LiCFSO、LiCFCO、LiAsF、LiSbF、LiAlCl、CHSOLi、CFSOLi、LiSCN、及びLiC(CFSOからなる群から選択される1種以上を含む、請求項1に記載の高分子固体電解質。
【請求項9】
(S1)架橋結合性官能基を含む高分子及び第1の溶媒を含む溶液にリチウム塩を添加して、高分子固体電解質形成用溶液を製造するステップ;
(S2)前記高分子固体電解質形成用溶液を基材上に塗布して塗布膜を形成するステップ;
(S3)前記塗布膜を冷凍(freezing)及び解凍(thawing)して、前記架橋結合性官能基を含む高分子の架橋結合構造を形成し、前記高分子の架橋結合構造は、前記リチウム塩及び前記第1の溶媒を含む、第1の高分子固体電解質を製造するステップ;及び
(S4)前記第1の高分子固体電解質内の第1の溶媒を第2の溶媒に交換して第2の高分子固体電解質を製造するステップ;を含む高分子固体電解質の製造方法。
【請求項10】
前記冷凍は、-30℃~-10℃で行われる、請求項9に記載の高分子固体電解質の製造方法。
【請求項11】
前記解凍は、15℃~35℃で行われる、請求項9に記載の高分子固体電解質の製造方法。
【請求項12】
前記溶媒交換は、第1の高分子固体電解質に含まれる第1の溶媒を高温乾燥した後、前記第2の溶媒に浸漬し、前記第1の溶媒を前記第2の溶媒に交換するものである、請求項9~11のいずれか一項に記載の高分子固体電解質の製造方法。
【請求項13】
請求項1~8のいずれか一項に記載の高分子固体電解質を含む、全固体電池。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本出願は、2022年5月31日付韓国特許出願第10-2022-0067066号及び2023年5月31日付韓国特許出願第10-2023-0070099号に基づく優先権の利益を主張し、当該韓国特許出願の文献に開示された全ての内容を本明細書の一部として含む。
【0002】
本発明は、高分子固体電解質及びその製造方法に関する。
【背景技術】
【0003】
液体電解質を使用するリチウム二次電池は、分離膜によって負極と正極が区画される構造により、変形や外部衝撃で分離膜が損なわれると短絡が発生することがあり、これにより過熱や爆発などの危険につながる可能性がある。したがって、リチウム二次電池分野で安全性を確保できる固体電解質の開発は非常に重要な課題であると言える。
【0004】
固体電解質を用いたリチウム二次電池は、電池の安全性が向上し、電解液の漏れを防ぐことができるため、電池の信頼性が向上し、薄型の電池製作が容易であるという利点がある。また、負極としてリチウム金属を使用できるため、エネルギー密度を向上させることができ、小型二次電池と共に電気自動車用の高容量二次電池などへの応用が期待され、次世代電池として注目されている。
【0005】
固体電解質の中でも高分子固体電解質の原料としては、イオン伝導性材質の高分子材料を使用してもよく、高分子材料と無機材料が混合されたハイブリッド型の材料も提案されている。前記無機材料としては、酸化物又は硫化物のような無機材料を使用してもよい。
【0006】
このような従来の高分子固体電解質は、塗布膜を形成した後、高温乾燥する工程を通じて製造された。しかし、従来の高分子固体電解質の製造技術は、結晶性高分子(crystalline polymer)または半結晶性高分子(semi-crystalline polymer)が持つ高い結晶性のため、イオン伝導度が向上した高分子固体電解質を製造することが難しいという限界があった。すなわち、高分子の結晶化度が高いほど高分子鎖の移動度(chain mobility)は低下し、これにより、高分子固体電解質の内部でリチウムイオンが移動するのに制約があり、高分子固体電解質のイオン伝導度を向上させることが難しかった。
【0007】
例えば、従来の高分子固体電解質は、高分子として架橋結合性官能基であるヒドロキシル基(hydroxyl group)を含むポリビニルアルコール(polyvinyl alcohol、PVA)を使用して、塗布膜を形成した後、高温乾燥工程を通じて製造することができる。具体的には、前記PVAを水に溶解させてPVA水溶液を製造した後、前記PVA水溶液を基材上に溶液流延法(solution casting)で塗布して塗布膜を形成し、常温または高温で乾燥させ、PVAフィルム状の高分子固体電解質を製造することができる。このとき、高温とは、PVAのガラス転移温度(Tg)である80℃以上を意味するものであってもよい。前記乾燥工程で、水分が蒸発した後、PVAに含まれる架橋結合性官能基間の水素結合が形成され、前記水素結合により高分子鎖のフォールディング(chain folding)が発生し、高分子フィルムの結晶化度が高くなる現象が現れる。結晶化度が高くなるほど脆性(brittleness)を持つ高分子フィルムが形成される。結晶化度が高く脆性を持つ高分子フィルムでは、高分子鎖の移動度(chain mobility)が減少し、高分子フィルムの内部に解離したイオンが存在する場合、イオンの移動性も著しく減少する現象が発生する。このため、前述のように塗布膜を形成した後、高温乾燥する工程によって製造された一般的なPVAフィルムは、リチウム二次電池用高分子固体電解質としては適さない物性を示すことになる。
【0008】
従来の高分子固体電解質のこのような限界を克服するために、結晶性高分子または半結晶性高分子に可塑剤(plasticizer)を添加して高分子鎖の移動度を改善させ、高分子固体電解質のイオン伝導度を向上させようとする技術が開発された。しかし、可塑剤を用いる場合、高分子と可塑剤の間の適切な分散度及び溶解度(miscibility)を確保しなければならないので、工程条件を設定することが難しい場合がある。また、液状の可塑剤を適用する場合、高分子との親和性(compatibility)が減少し、高分子固体電解質の製造工程を行うことが難しい場合がある。
【0009】
このため、可塑剤のような別途の添加剤なしで高分子固体電解質のイオン伝導度を向上させることができる技術開発が求められている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0010】
【特許文献1】中国公開特許 第112259788号
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0011】
本発明の目的は、イオン伝導度が改善した高分子固体電解質及びその製造方法を提供することである。
【0012】
本発明の他の目的は、前記イオン伝導度が改善した高分子固体電解質を含む全固体電池を提供することである。
【課題を解決するための手段】
【0013】
前記目的を達成するために、本発明は、架橋結合性官能基を含む高分子;リチウム塩;及び第1の溶媒及び第2の溶媒を含む溶媒;を含む高分子固体電解質であって、
前記高分子固体電解質は、架橋結合構造;及び前記架橋結合性官能基を含む無定形高分子鎖(amorphous polymer chain)を含み、
前記架橋結合構造は、(a)架橋結合性官能基間の架橋結合、(b)架橋結合性官能基と第1の溶媒の架橋結合、及び(c)架橋結合性官能基とリチウム塩の結合を含み、
前記高分子固体電解質内に含まれた前記溶媒の時間経過による蒸発量を意味する液相蒸発速度(M(t))は、下記式1により定義されるものである高分子固体電解質を提供する:
【0014】
【数1】
【0015】
前記M∞は、前記高分子固体電解質に含まれることができる液相の最大値または飽和値であって、0.2~0.6であり、
前記Dは、前記高分子固体電解質の内部における液相の拡散係数であって、10-9cm/s~10-6cm/sであり、
前記Lは、高分子固体電解質の厚さであって、5μm~500μmであり、
前記tは、前記液相蒸発速度が測定される時間である。
【0016】
本発明の一実施態様において、前記第1の溶媒の含量は、1~1000ppmであってもよい。
【0017】
本発明の一実施態様において、前記第1の溶媒は、水、エタノール、イソプロピルアルコール、ジメチルスルホキシド(dimethyl sulfoxide)、アセトニトリル(acetonitrile)、NMP、水及びアルコールを混合した共溶媒、および水とジメチルスルホキシドを混合した共溶媒からなる群から選択される1種以上を含んでもよい。
【0018】
本発明の一実施態様において、前記第2の溶媒は、エチルメチルカーボネート(EMC)、ジメチルカーボネート(DMC)、エチレンカーボネート(EC)、プロピレンカーボネート(PC)、ビニレンカーボネート(VC)、ジエチルカーボネート(DEC)、テトラヒドロフラン(THF)、2-メチルテトラヒドロフラン(2-MeTHF)、ジオキソラン(DOX)、ジメトキシエタン(DME)、ジエトキシエタン(DEE)、γ-ブチロラクトン(GBL)、アセトニトリル(AN)及びスルホランからなる群から選択される1種以上を含んでもよい。
【0019】
本発明の一実施態様において、前記架橋結合性官能基は、ヒドロキシル基(hydroxyl group)、カルボキシル基(carboxyl group)及びアミド基(amide group)からなる群から選択される1種以上を含んでもよい。
【0020】
本発明の一実施態様において、前記架橋結合性官能基を含む高分子は、ポリビニルアルコール(polyvinyl alcohol, PVA)、ゼラチン(gelatin)、メチルセルロース(methylcellulose)、寒天(agar)、デキストリン(dextran)、ポリ(ビニルピロリドン)(poly(vinyl pyrrolidone))、ポリ(アクリルアミド)(poly(acrylic amide))、澱粉-カルボキシメチルセルロース(starch-carboxymethyl cellulose)、ヒアルロン酸-メチルセルロース(hyaluronic acid-methylcellulose)、キトサン(chitosan)、ポリ(N-イソプロピルアクリルアミド)(poly(N-isopropylacrylamide))及びアミノ基末端ポリエチレングリコール(amino-terminated PEG)からなる群から選択される1種以上を含んでもよい。
【0021】
本発明の一実施態様において、前記高分子の架橋結合性官能基([G])に対するリチウム塩のリチウム([Li])のモル比([Li]/[G])は、0.1超過、0.5未満であってもよい。
【0022】
本発明の一実施態様において、前記リチウム塩は、LiTFSI(Lithium bis(trifluoromethanesulphonyl)imide)、LiFSI(Lithium bis(fluorosulfonyl)imide)、LiNO、LiOH、LiCl、LiBr、LiI、LiClO、LiBF、LiB10Cl10、LiPF、LiCFSO、LiCFCO、LiAsF、LiSbF、LiAlCl、CHSOLi、CFSOLi、LiSCN、及びLiC(CFSOからなる群から選択される1種以上を含んでもよい。
【0023】
本発明はまた、(S1)架橋結合性官能基を含む高分子及び第1の溶媒を含む溶液にリチウム塩を添加して高分子固体電解質形成用溶液を製造するステップ;
(S2)前記高分子固体電解質形成用溶液を基材上に塗布して塗布膜を形成するステップ;
(S3)前記塗布膜を冷凍(freezing)及び解凍(thawing)して前記架橋結合性官能基を含む高分子の架橋結合構造を形成し、前記高分子の架橋結合構造は、前記リチウム塩及び前記第1の溶媒を含む、第1の高分子固体電解質を製造するステップ;及び
(S4)前記第1の高分子固体電解質内の第1の溶媒を第2の溶媒に交換して、第2の高分子固体電解質を製造するステップ;を含む、高分子固体電解質の製造方法を提供する。
【0024】
前記冷凍は、-30℃~-10℃で行ってもよい。
【0025】
前記解凍は、15℃~35℃で行ってもよい。
【0026】
前記溶媒交換は、第1の高分子固体電解質に含まれる第1の溶媒を高温乾燥した後、前記第2の溶媒に浸漬し、前記第1の溶媒を前記第2の溶媒に交換するものであってもよい。
【0027】
本発明はまた、前記高分子固体電解質を含む、全固体電池を提供する。
【発明の効果】
【0028】
本発明による高分子固体電解質は、内部に含まれる液相である溶媒の含量が高い一方、前記溶媒の拡散係数は低く、前記高分子固体電解質の内部に多量の液相を長時間閉じ込めている効果を示し、イオン伝導度を改善することができる。
【0029】
本発明による高分子固体電解質は、高分子に含まれる分岐官能基によって形成された三次元ネットワーク構造及び無定形高分子鎖を含む構造により、高分子の結晶性が減少し、これによりイオン伝導度を向上させることができる。
【0030】
また、前記高分子固体電解質は、前記構造的な特徴により、脆性が減少し、延性と粘性が増加した物性を示す。
【0031】
また、前記高分子固体電解質は、溶媒交換により高分子固体電解質のイオン伝導度を向上させることができる。
【発明を実施するための形態】
【0032】
以下、本発明に対する理解を助けるために、本発明をさらに詳しく説明する。
【0033】
本明細書及び特許請求の範囲に使用された用語や単語は、通常的又は辞書的な意味に限定して解釈されてはならず、発明者は自らの発明を最善の方法で説明するために用語の概念を適切に定義することができるという原則に基づき、本発明の技術的思想に合致する意味と概念として解釈されなければならない。
【0034】
本明細書で使用された用語「架橋結合構造」とは、高分子鎖によって形成された立体形状のフレーム(frame)と前記フレームの内部空間を含む構造を意味する。前記高分子鎖は、高分子に含まれる架橋結合性官能基を含む架橋結合により形成されたものであってもよい。前記架橋結合構造は三次元の立体形状を有し、高分子鎖が互いに絡み合っている形態を有するので、三次元ネットワーク構造とも言える。
【0035】
高分子固体電解質
本発明は、高分子固体電解質に関する。
【0036】
本発明の高分子固体電解質は、架橋結合性官能基を含む高分子;リチウム塩;及び第1の溶媒及び第2の溶媒を含む溶媒;を含む高分子固体電解質であって、前記高分子固体電解質は、架橋結合構造;及び前記架橋結合性官能基を含む無定形高分子鎖(amorphous polymer chain)を含み、前記架橋結合構造は、(a)架橋結合性官能基間の架橋結合、(b)架橋結合性官能基と第1の溶媒の架橋結合、および(c)架橋結合性官能基とリチウム塩の結合を含んでもよい。
【0037】
本発明による、架橋結合構造を有する高分子固体電解質は、イオン伝導度が改善したものである可能性がある。前記イオン伝導度の改善度は、前記高分子固体電解質の内部に吸収又は吸着して含まれる液相の含量及び前記吸収又は吸着した液相が含まれる時間と関連がある。つまり、前記高分子固体電解質の内部に吸収又は吸着して含まれる液相の含量及び前記液相が含まれる時間が増加するほど、前記高分子固体電解質のイオン伝導度も改善することを意味する。ここで、前記液相とは、前記高分子固体電解質の製造過程で原料物質として使用されて残留した前記溶媒を意味する。
【0038】
前記高分子固体電解質の内部に吸収又は吸着して含まれる液相の含量に関連して、前記高分子固体電解質が架橋結合構造を持つ場合、一般的な非架橋構造のバルキー(bulky)な高分子固体電解質に比べて、自由体積(free volume)が増加する。これにより、前記増加した自由体積に吸収又は吸着できる液相の量が増加することができ、前記高分子固体電解質のイオン伝導度が改善したことが確認できる。
【0039】
また、高分子固体電解質の内部の液相が含まれる時間に関連して、前記高分子固体電解質が架橋結合構造を有する場合、架橋によって形成された架橋結合構造により液相の移動経路が複雑で、内部に含まれる液相の拡散が困難であり、拡散係数が低くなるため、前記液相が前記高分子固体電解質の内部から外部に拡散又は蒸発する時間が遅延される可能性がある。前記液相の拡散または蒸発が遅延することにより、前記溶媒が高分子固体電解質内に含まれている時間が増加し、前記液相を高分子固体電解質内に閉じ込めておくentrapment効果が大きくなり、前記高分子固体電解質のイオン伝導度が改善したことが確認できる。
【0040】
このように、本発明による架橋結合構造を有する高分子固体電解質のイオン伝導度は、前記高分子固体電解質に含まれる液相の含量及び前記液相が含まれる時間と関連性があり、具体的には、前記液相が含まれる時間は、液相の拡散係数及び蒸発速度と関連性がある。
【0041】
つまり、前記高分子固体電解質に吸収又は吸着して含まれることができる液相の含量と前記液相が含まれる時間が増加するほど、本発明による架橋結合構造を有する高分子固体電解質のイオン伝導度が改善したことが分かる。具体的には、前記液相が含まれる時間が増加するということは、前記液相の拡散係数は小さくなり、蒸発速度も遅くなることを意味する。
【0042】
本発明では、前記架橋結合構造を有する高分子固体電解質のイオン伝導度が改善した特性を、前記高分子固体電解質に吸収又は吸着して含まれることができる液相の含量、液相の拡散係数及び蒸発速度の相関関係を通じて定量的に規定することにより、これらの相関関係を満たす高分子固体電解質が常に一定のレベル以上のイオン伝導度を示すように維持することができる。
【0043】
本発明において、前記高分子固体電解質内に含まれる前記溶媒の時間経過による蒸発量を意味する液相蒸発速度(M(t))は、下記式1によって定義されるものである:
【0044】
【数2】
【0045】
前記M∞は、前記高分子固体電解質に含まれることができる液相の最大値または飽和値であって、0.2~0.6であり、
前記Dは、前記高分子固体電解質の内部における液相の拡散係数であって、10-9cm/s~10-6cm/sであり、
前記Lは、高分子固体電解質の厚さであっって、5μm~500μmであり、
前記tは、前記液相蒸発速度が測定される時間を意味する。
【0046】
前記液相は、第2の溶媒を含む。または、さらに第1の溶媒を含んでもよい。
【0047】
本発明において、前記式1において、時間経過による溶媒の蒸発量を意味する液相蒸発速度(M(t))は実験的に測定することができ、測定された液相蒸発速度(M(t))を式1に適用して、フィッティングパラメータ(fitting parameter)として使用されたM∞及びDを導き出すことにより、高分子固体電解質の架橋結合構造の形成有無および形成程度を予測し、これに基づいてイオン伝導度の改善度も判断することができる。つまり、実験的に測定されたM(t)を式1に適用して導き出されたグラフより、M∞及びDを変化させてフィッティングさせる過程で、式1のグラフと一致する最適なM∞及びDを得ることができる。
【0048】
このとき、前記M(t)は、秤を用いて前記高分子固体電解質の試料を加熱しながら、時間の経過とともに蒸発する液相の重量をモニタリングする方法で測定することができる。例えば、前記M(t)は、加熱式電子秤(AND社MS-70)を用いて試料を55~70℃の温度で、または60℃の温度で加熱しながら、時間の経過とともに蒸発する液相の重量をモニタリングして測定することができる。
【0049】
また、前記M∞は、前記高分子固体電解質に含まれることができる液相の最大値又は飽和値であって、前記M∞が0.2未満であれば、高分子固体電解質の内部に所望する分だけの液相を十分に含浸させることが難しく、イオン伝導度が低下する可能性があり、0.6を超えると、過料の液相含浸により高分子固体電解質の機械的物性が低下し、高分子固体電解質膜またはフィルムというよりはゲルに近い特性を示すようになる。前記M∞は、実験的に測定されたM(t)値を式1でフィッティングする際、フィッティングパラメータ(fitting parameter)として使用されるものである。
【0050】
また、前記Dは、前記高分子固体電解質の内部に含まれる液相の拡散係数であって、一般的な液相の拡散係数である10-9cm/s~10-6cm/sであってもよい。前記Dが10-9cm/s未満であれば、前記高分子固体電解質の内部に液相が含まれるようにすること自体が難しい場合があり、10-6cm/s超過であれば、高分子固体電解質の内部に存在する液相の拡散及び蒸発速度が速くなり、液相を含むようにして高分子固体電解質のイオン伝導度を向上させようとする効果を記載することが難しい場合がある。前記Dは、実験的に測定されたM(t)の値を式1でフィッティングする際、フィッティングパラメータとして使用されるものである。
【0051】
また、前記Lは、高分子固体電解質の厚さであって、5μm~500μmであってもよく、一般的なマイクロメーターを用いて測定されるか、または、前記高分子固体電解質の断面をSEM(Scanning Electron Microscope)で分析して測定することができる。前記Lが5μm未満であると、前記液相によるスウェリング(swelling)により前記高分子固体電解質の機械的強度が低下し、取り扱いが困難になったり、破壊されることがある。前記Lが500μmを超えると、電池性能の低下が発生する可能性がある。
【0052】
また、前記nは任意の整数である。前記nは、特定の数値範囲に限定されないが、5~1000の整数であってもよく、nの値が増加するほど計算の精度が高くなる。
【0053】
また、前記tは、液相蒸発速度(M(t))が測定される時間を意味する。前記tは、特に限定されず、例えば、1分~6時間であってもよい。
【0054】
本発明において、前記架橋結合構造を有する高分子固体電解質は、多孔性高分子マトリックス状であって、前記多孔性高分子マトリックスの拡散係数(D)と非多孔性高分子マトリックスの拡散係数(DNP)の比は、D/DNP≦0.5であってもよい。このような拡散係数比を満たす場合、前記架橋結合構造を有する多孔性高分子マトリックスの内部気孔に含まれる液状成分が高分子マトリックスの外部への脱着及び蒸発が遅延して長時間滞留することができる。
【0055】
本発明において、前記(a)架橋結合性官能基間の架橋結合は、架橋結合性官能基間の水素結合を含んでもよく、例えば、前記水素結合は、OH-間の水素結合であってもよい。
【0056】
もし、前記架橋結合構造が前記(a)架橋結合性官能基間の架橋結合のみからなる場合、前記高分子固体電解質の結晶性が発生し、イオン伝導度が減少する可能性がある。
【0057】
しかし、前記架橋結合構造は、前記(a)架橋結合性官能基間の架橋結合のみならず、前記(b)架橋結合性官能基と第1の溶媒の架橋結合及び(c)架橋結合性官能基とリチウム塩の結合を共に含むので、前記高分子固体電解質の結晶性の発生を防止することができる。
【0058】
本発明において、前記(b)架橋結合性官能基と第1の溶媒の架橋結合は、水素結合を含んでもよく、例えば、前記水素結合は、OH-とH+間の水素結合であってもよい。このとき、H+は水溶媒に由来するものであってもよい。
【0059】
前記(b)架橋結合性官能基と第1の溶媒の架橋結合は、冷凍及び解凍工程で残留した一部の溶媒と架橋結合性官能基の間の水素結合を意味するものであってもよい。
【0060】
また、前記(b)架橋結合性官能基と第1の溶媒の架橋結合は、前記(a)架橋結合性官能基間の架橋結合を阻止し、前記架橋結合構造が前記(a)架橋結合性官能基間の架橋結合のみからなることを阻止するので、高分子固体電解質の結晶性の増加を防止することができる。
【0061】
本発明において、前記(c)架橋結合性官能基とリチウム塩の結合は、ルイス酸-塩基相互作用(Lewis acid-base interaction)による結合を含んでもよく、例えば、前記結合は、OH-とLi+の結合であってもよい。
【0062】
前記(c)架橋結合性官能基とリチウム塩の結合は、ルイス酸-塩基相互作用による結合であり、金属-リガンド結合と同様な形の結合であってもよい。
【0063】
また、前記(c)架橋結合性官能基とリチウム塩の結合は、前記(a)架橋結合性官能基間の架橋結合及び(b)架橋結合性官能基と第1の溶媒の架橋結合を阻止し、前記架橋結合構造が前記(a)架橋結合性官能基間の架橋結合のみで構成されないようにするので、高分子固体電解質の結晶性の発生を防止すると同時に、無定形高分子鎖の形成を促進させることができる。前記無定形高分子鎖が形成されるほど、前記高分子鎖の移動度が向上するため、前記リチウムイオンのホッピング(hopping)効果が増大し、高分子固体電解質のイオン伝導度を改善することができる。
【0064】
本発明において、前記無定形高分子鎖も、後述するような冷凍工程で形成することができ、高分子鎖の規則的なフォールディング(folding)による結晶を形成せず、挙動が自由な状態で存在する高分子鎖を意味する。すなわち、前記無定形高分子鎖は、前記(a)、(b)および(c)のような結合を形成しない架橋結合性官能基を含む高分子を含むものであってもよい。
【0065】
前記架橋結合構造により、前記高分子固体電解質が簡単に途切れるか破壊されないので、リチウムイオンを安定的に含有する電解質支持体の役割を果たすことができる。
【0066】
また、前記無定形高分子鎖により、前記高分子固体電解質が弾性を示し、壊れやすい性質である脆性(brittleness)を最小化することができ、高分子鎖の移動度(polymer chain mobility)に優れて、電解質の内部でリチウムイオンの移動度が向上するため、イオン伝導度が改善した高分子固体電解質を提供することができる。
【0067】
本発明において、前記架橋結合性官能基を含む高分子に含まれる架橋結合性官能基は、前記(a)、(b)及び(c)のような結合をなして架橋結合構造を形成できる特性を有することができる。
【0068】
例えば、前記架橋結合性官能基は、ヒドロキシル基(hydroxyl group)、カルボキシル基(carboxyl group)及びアミド基(amide group)からなる群から選択される1種以上を含んでもよい。
【0069】
また、前記架橋結合性官能基を含む高分子の重量平均分子量(Mw)は、80,000g/mol~130,000g/molであってもよく、具体的には、80,000g/mol以上、83,000g/mol以上または85,000g/mol以上であってもよく、90,000g/mol以下、110,000g/mol以下または130,000g/mol以下であってもよい。前記架橋結合性官能基を含む高分子の重量平均分子量(Mw)が80,000 g/mol未満であれば、架橋結合性官能基による結合が架橋結合構造を得られる程度に十分に形成されない場合がある。前記架橋結合性官能基を含む高分子の重量平均分子量(Mw)が130,000 g/molを超えると、製造工程で使用される高分子溶液で高分子鎖の絡み(entanglement)が増加し、高分子鎖の内部への溶媒浸透率が低下する。これにより、高分子のゲル化(gelation)が加速化して前記高分子の溶解度が低下し、架橋結合性官能基による結合が円滑に行われないため、架橋結合構造の形成が容易でない可能性がある。
【0070】
また、前記架橋結合性官能基を含む高分子は、製造工程で使用される前記高分子溶液内で高分子と溶媒の間の相分離が円滑に行われ、冷凍時に前記相分離した高分子に含まれる架橋結合性官能基によって前記(a)、(b)及び(c)の結合がうまく形成される特徴を有するものであってもよい。
【0071】
例えば、前記架橋結合性官能基を含む高分子は、ポリビニルアルコール(polyvinyl alcohol, PVA)、ゼラチン(gelatin)、メチルセルロース(methylcellulose)、寒天(agar)、デキストリン(dextran)、ポリ(ビニルピロリドン)(poly(vinyl pyrrolidone))、ポリ(アクリルアミド)(poly(acrylic amide))、ポリアクリル酸(poly(acrylic acid)、PAA)、澱粉-カルボキシメチルセルロース(starch-carboxymethyl cellulose)、ヒアルロン酸-メチルセルロース(hyaluronic acid-methylcellulose)、キトサン(chitosan)、ポリ(N-イソプロピルアクリルアミド)(poly(N-isopropylacrylamide))及びアミノ基末端ポリエチレングリコール(amino-terminated PEG)からなる群から選択される1種以上を含んでもよい。好ましくは、前記架橋結合性官能基を含む高分子はPVAであってもよく、前記PVAは、高分子固体電解質の製造過程において、冷凍時に前記PVAと溶媒の間の相分離が効率よく行われ、前記溶媒と相分離したPVAの架橋結合性官能基から誘導された前記(a)、(b)及び(c)の結合によって架橋結合構造を形成することに有利である可能性がある。
【0072】
本発明において、前記リチウム塩は、前記架橋結合構造の内部空間に解離した状態で含まれ、高分子固体電解質のイオン伝導度を向上させることができる。
【0073】
また、前記リチウム塩は、(c)架橋結合性官能基とリチウム塩の結合を形成し、高分子固体電解質の結晶性の発生を防止すると同時に、無定形高分子鎖の形成を促進させることができる。
【0074】
前記リチウム塩は、(CFSONLi(Lithium bis(trifluoromethanesulphonyl)imide, LiTFSI)、(FSONLi(Lithium bis(fluorosulfonyl)imide, LiFSI)、LiNO、LiOH、LiCl、LiBr、LiI、LiClO、LiBF、LiB10Cl10、LiPF、LiCFSO、LiCFCO、LiAsF、LiSbF、LiAlCl、CHSOLi、CFSOLi、LiSCN、及びLiC(CFSOからなる群から選択される1種以上を含んでもよい。
【0075】
本発明において、前記高分子固体電解質に含まれる前記架橋結合性官能基を含む高分子の架橋結合性官能基([G])とリチウム塩のリチウム([Li])のモル比([Li]/[G])は、0.1超過、0.5未満であってもよく、具体的には、0.1超過、0.2以上または0.3以上であってもよく、0.4以下または0.5未満であってもよい。前記モル比([Li]/[G])が0.1以下であれば、リチウム塩の含量が減少し、高分子固体電解質のイオン伝導度が低下する可能性があり、0.5以上であれば、架橋結合性官能基を含む高分子の含量が減少し、前記(a)、(b)及び(c)の結合が十分に形成されず、これにより結晶性が高くなり、イオン伝導度が低下する可能性がある。前記架橋結合性官能基がヒドロキシル基(OH-)であれば、前記[G]は[OH]または[O]と表記することができる。
【0076】
本発明の一実施態様において、前記溶媒は、前記高分子固体電解質の物理的架橋結合によって形成された架橋結合構造の内部に含まれ、溶媒交換工程が容易であり、高分子固体電解質のイオン伝導度を向上させることができる。
【0077】
前記溶媒は、第1の溶媒及び第2の溶媒を含んでもよい。
【0078】
前記第1の溶媒及び前記第2の溶媒は、互いに区分される溶媒であり、前記架橋結合性官能基を含む高分子に対する溶解度が異なってもよい。
【0079】
前記第1の溶媒は、前記架橋結合性官能基を含む高分子に対する溶解度が高く、前記架橋結合性官能基を含む高分子と架橋結合構造を形成することができる。一方、前記第2の溶媒は、前記架橋結合性官能基を含む高分子に対する溶解度が低く、前記架橋結合性官能基を含む高分子と架橋結合構造を形成することが困難である。
【0080】
また、前記第1の溶媒および前記第2の溶媒は、電池構造に応じて、水系電解液または非水系電解液として互いに区分される溶媒であってもよい。
【0081】
また、前記第1の溶媒及び前記第2の溶媒は、難燃性電解液による互いに区分される溶媒であってもよい。
【0082】
前記第1の溶媒は、水、エタノール、イソプロピルアルコール、ジメチルスルホキシド(dimethyl sulfoxide)、アセトニトリル(acetonitrile)、NMP、水とアルコール類を混合した共溶媒、水とジメチルスルホキシドを混合した共溶媒からなる群から選択されるいずれか1つであってもよい。
【0083】
前記第1の溶媒の沸点は150℃以下であってもよい。前記第1の溶媒の沸点は、前記第2の溶媒の沸点よりも低くてもよい。前記第1の溶媒の沸点が150℃を超える場合、第1の溶媒の除去過程中、高分子の内部に形成された水素結合及びルイス酸―塩基相互作用力などが崩壊し、高分子固体電解質の機械的物性が大きく低下する可能性がある。
【0084】
前記第1の溶媒は、架橋結合性官能基を含む高分子を溶解した後、冷凍/解凍工程を通じて架橋結合構造を形成することができる。例えば、前記第1の溶媒が水である場合、冷凍工程中に架橋結合性官能基を含む高分子との相分離が顕著に発生し、氷相(ice phase)及び架橋結合性官能基を含む高分子のリッチ相(rich phase)が形成されることがある。
【0085】
前記第1の溶媒を前記第2の溶媒に置換することは、水に弱い電池ケミストリ―に本発明による高分子固体電解質を使用するためである。例えば、第1の溶媒として水を使用した場合、水系電解質によって特性低下が表れない電池ケミストリ―では問題がないが、水に弱い電池ケミストリ―では電池性能が低下したり、電池が駆動しないという問題がある。このような問題を解決するために、前記第1の溶媒を除去し、イオン伝導度の損失なしに電池の内部に使用可能な第2の溶媒に交換することにより、安定した電池駆動が可能な高分子固体電解質を提供することができる。
【0086】
また、第1の溶媒を使用した場合、固体電解質の製造には問題がないが、前記溶媒が電池火災または爆発発生時に燃焼に脆弱であり、より大きな被害を引き起こすという問題がある。このような問題を解決するために、前記第1の溶媒を除去し、難燃性のある第2の溶媒に交換することにより、安定した電池駆動が可能な高分子固体電解質を提供することができる。
【0087】
また、第1の溶媒を使用した場合、固体電解質の製造には問題がないが、前記第1の溶媒が電池内部に電解質として適用された場合、電池駆動時に期待しなかった溶媒の副反応及び分解などで製品の寿命を低下させる問題が発生する可能性がある。このような問題を解決するために、前記第1の溶媒を除去し、溶媒との副反応などから安定した第2の溶媒に交換することにより、安定した電池駆動が可能な高分子固体電解質を提供することができる。
【0088】
前記第2の溶媒は、エチルメチルカーボネート(EMC)、ジメチルカーボネート(DMC)、エチレンカーボネート(EC)、プロピレンカーボネート(PC)、ビニレンカーボネート(VC)、ジエチルカーボネート(DEC)、テトラヒドロフラン(THF)、2―メチルテトラヒドロフラン(2-MeTHF)、ジオキソラン(DOX)、ジメトキシエタン(DME)、ジエトキシエタン(DEE)、γ-ブチロラクトン(GBL)、アセトニトリル(AN)及びスルホランからなる群から選択される1種以上を含むか、又はこれらの組合せを含んでもよい。例えば、EC:EMC(1:3)、EC:EMC(1:1)、EC:DMC:EMC:FEC(3:3:3:3:1)等を含んでもよいが、これらに限定されない。
【0089】
前記高分子固体電解質内の前記第1の溶媒の含量は、1~1000ppmであってもよい。 前記第1の溶媒の含量が1000ppmを超えると、第2の溶媒の吸収を阻害し、第2の溶媒から期待する物性、例えば、イオン伝導度が低下したり、電池の安定性を減少させるという問題がある。
【0090】
本発明において、前記高分子固体電解質は、フリースタンディングフィルム(free-standing film)状またはコーティング層(coating layer)状であってもよい。前記フリースタンディングフィルムとは、常温・常圧で別途の支持体なしにそれ自体でフィルム状を維持できるフィルムを意味する。前記コーティング層とは、基材上にコーティングして得られたレイヤーを意味する。
【0091】
前記フリースタンディングフィルムまたはコーティング層は、弾性を示し脆性を最小化することができ、リチウムイオンを安定的に含有する支持体としての特性を有するため、高分子固体電解質として適した形態である。
【0092】
高分子固体電解質の製造方法
本発明の一実施態様による高分子固体電解質の製造方法は、下記ステップを含むことができる:
(S1)架橋結合性官能基を含む高分子及び第1の溶媒を含む溶液にリチウム塩を添加して、高分子固体電解質形成用溶液を製造するステップ;
(S2)前記高分子固体電解質形成用溶液を基材上に塗布して塗布膜を形成するステップ;
(S3)前記塗布膜を冷凍(freezing)及び解凍(thawing)して、前記架橋結合性官能基を含む高分子の架橋結合構造を形成し、前記高分子の架橋結合構造は、前記リチウム塩及び前記第1の溶媒を含む、第1の高分子固体電解質を製造するステップ;及び
(S4)前記第1の高分子固体電解質内の第1の溶媒を第2の溶媒に交換して第2の高分子固体電解質を製造するステップ。
【0093】
前記高分子固体電解質の製造方法では、高分子の結晶性を低下させるために使用していた可塑剤(plasticizer)を添加することなく、冷凍工程を通じて、高分子に含まれる架橋結合性官能基による(a)架橋結合性官能基間の架橋結合、(b)架橋結合性官能基と第1の溶媒の架橋結合、および(c)架橋結合性官能基とリチウム塩の結合を誘導することで、高分子の結晶化を防止することができ、その結果、イオン伝導度が向上した高分子固体電解質を製造することができる。以下、各ステップ別に本発明による高分子固体電解質の製造方法をより詳細に説明する。
【0094】
本発明の一実施態様において、前記(S1)ステップでは、架橋結合性官能基を含む高分子及び第1の溶媒を含む溶液にリチウム塩を添加して、高分子固体電解質形成用溶液を形成することができる。
【0095】
前記高分子、第1の溶媒及びリチウム塩は前述の通りである。
【0096】
前記架橋結合性官能基を含む高分子溶液の濃度は、前記高分子固体電解質形成用溶液を基材に塗布する際に、塗布工程が円滑に進行できる程度を考慮して適切に調節することができる。例えば、前記架橋結合性官能基を含む高分子溶液の濃度は、5%~20%であってもよく、具体的には、5%以上、7%以上または9%以上であってもよく、13%以下、17%以下または20%以下であってもよい。前記架橋結合性官能基を含む高分子溶液の濃度が5%未満であれば、濃度が過度に希薄であり、基材上に塗布する際に流れ落ちる可能性があり、20%を超えると、高分子溶液内に所望の濃度のリチウム塩を溶解させ難く、粘度が高いため、均一な薄膜状で塗布することが困難である可能性がある。
【0097】
本発明の一実施態様において、前記(S2)ステップでは、前記高分子固体電解質形成用溶液を基材上に塗布して塗布膜を形成することができる。
【0098】
前記基材は、前記高分子固体電解質形成用溶液が塗布される支持体としての役割を果たすことができれば特に限定されない。例えば、前記基材は、SS(Stainless Steel)、ポリエチレンテレフタレートフィルム、ポリテトラフルオロエチレンフィルム、ポリエチレンフィルム、ポリプロピレンフィルム、ポリブテンフィルム、ポリブタジエンフィルム、塩化ビニル共重合体フィルム、ポリウレタンフィルム、エチレン-酢酸ビニルフィルム、エチレン-プロピレン共重合体フィルム、エチレン-アクリル酸エチル共重合体フィルム、エチレン-アクリル酸メチル共重合体フィルムまたはポリイミドフィルムであってもよい。
【0099】
また、前記塗布方法も、前記高分子固体電解質形成用溶液を前記基材上に膜状に塗布できる方法であれば特に限定されない。例えば、前記塗布方法は、バーコーティング(bar coating)、ロールコーティング(roll coating)、スピンコーティング(spin coating)、スリットコーティング(slit coating)、ダイコーティング(die coating)、ブレードコーティング(blade coating)、コンマコーティング(comma coating)、スロットダイコーティング(slot die coating)、リップコーティング(lip coating)または溶液流延法(solution casting)であってもよい。
【0100】
本発明の一実施態様において、前記(S3)ステップでは、前記塗布膜を冷凍(freezing)及び解凍(thawing)して前記架橋結合性官能基を含む高分子の架橋結合構造を形成し、前記高分子の架橋結合構造は、前記リチウム塩及び前記第1の溶媒を含む第1の高分子固体電解質を製造することができる。
【0101】
前記冷凍工程では、前記塗布膜を形成するために使用された架橋結合性官能基を含む高分子水溶液に含まれる高分子と水が相分離(phase separation)することができる。前記相分離は、前記架橋結合性官能基と水分子間の水素結合に比べて、前記水分子間の水素結合の強度がより強いために誘導されることがある。前記水分子間の水素結合によって凝集された水分子は、冷凍工程によって氷状態(ice phase)で存在する。その結果、前記水分子との相互作用を通じて水素結合を形成する架橋結合性官能基の数は著しく減少する。
【0102】
前記相分離により、前記塗布膜の内部は、(i)ポリマープア相(Polymer-poor phase)と(ii)ポリマーリッチ相(Polymer-rich phase)に分けられる。
【0103】
前記 (i)ポリマープア相(Polymer-poor phase)は、水分子間の水素結合によって凝集した水分子を含む部分で、氷状態(ice phase)で存在し、これをフリーウォーター(free water)の状態とも言える。
【0104】
前記(ii)ポリマーリッチ相(Polymer-rich phase)は、水と相分離した高分子を含む部分である。前記相分離した高分子は、水分子との相互作用から自由になった架橋結合性官能基を含む高分子であり、相分離後、自由な状態となり、規則的なフォールディング(folding)による結晶を形成せず、比較的挙動が自由な無定形状態で存在することになり、これを無定形高分子鎖という。
【0105】
また、前記相分離した高分子に含まれる架橋結合性官能基の一部は、局地的な微細結晶(localized crystallites)を形成する。前記局地的な微細結晶が架橋可能な接点(cross-linkable junction point)として作用し、前記(a)、(b)及び(c)の結合を含む架橋結合構造を形成する。
【0106】
また、前記冷凍工程後に解凍工程において、前記(i)ポリマープア相(Polymer-poor phase)に含まれる氷は溶けて蒸発し、これに自由体積(free volume)が増加した高分子固体電解質を製造することができる。
【0107】
また、前記冷凍は、前記塗布膜を冷凍させることができる程度の条件を適切に選択して行ってもよい。例えば、前記冷凍温度は-30℃~-10℃の温度で行ってもよく、具体的には、前記冷凍温度は-30℃以上、-25℃以上または-23℃以上であってもよく、-18℃以下、-15℃以下または-10℃以下であってもよい。前記冷凍温度が-30℃未満であれば、塗布膜にクラック(crack)が発生する可能性があり、-10℃超過であれば、高分子と水の間に相分離が十分に行われず、無定形高分子鎖(amorphous polymer chain)領域の形成が難しい場合がある。また、前記冷凍は20時間~30時間の範囲内で十分に冷凍される時間を考慮して実施することができる。
【0108】
また、前記解凍は、冷凍された塗布膜を高分子固体電解質として適用できる程度に解凍できる条件を適切に選択して行ってもよい。例えば、前記解凍温度は15℃~35℃であってもよく、または常温(25℃)であってもよい。前記解凍温度が15℃未満であれば、解凍(ice melting)後の水分乾燥効率が低下する可能性があり、35℃を超えると塗布膜が収縮してしわや反りが発生する可能性がある。
【0109】
本発明の一実施態様において、前記(S4)ステップでは、前記第1の高分子固体電解質内の第1の溶媒を第2の溶媒に交換して第2の高分子固体電解質を製造することができる。
【0110】
前記第1の溶媒及び前記第2の溶媒は前述した通りである。
【0111】
前記溶媒交換は、第1の高分子固体電解質内の第1の溶媒を除去し、第2の溶媒ががほとんど存在するように交換することを意味する。前記溶媒交換により、前記第2の溶媒を含む第2の高分子固体電解質を製造することができる。
【0112】
前記溶媒交換は、前記第1の高分子固体電解質に含まれる第1の溶媒を高温乾燥した後、前記第2の溶媒に浸漬し、前記第1の溶媒を前記第2の溶媒に交換することができる。より具体的には、前記第1の溶媒を含む第1の高分子固体電解質を真空オーブンに入れ、低温(50℃)で6時間乾燥した後、高温(100℃)で12時間乾燥して、ドライルーム環境で、前記乾燥した第1の固体電解質を常温で24時間前記第2の溶媒に浸漬することにより、第1の溶媒を第2の溶媒に交換することができる。
【0113】
本発明において、前記(S4)ステップの後に(S5)前記高分子固体電解質の液相蒸発速度(M(t))を測定した後、前記式1に適用して、M∞及びDをフィッティング(fitting)するステップ;をさらに実施して、イオン伝導度が一定のレベル以上の高分子固体電解質を製造することができる。
【0114】
全固体電池
本発明はまた、前記高分子固体電解質を含む全固体電池に関し、前記全固体電池は、負極、正極および前記負極と正極の間に介在する高分子固体電解質を含み、前記固体電解質は、前述した特徴を有するものである。
【0115】
具体的には、前記高分子固体電解質は、冷凍及び解凍工程を経ることで物理的架橋結合が形成されて結晶性が低下し、溶媒交換工程を通じてイオン伝導度が向上するため、全固体電池の電解質として適する。
【0116】
本発明において、前記全固体電池に含まれる正極は、正極活物質層を含み、前記正極活物質層は、正極集電体の一面に形成されたものであってもよい。
【0117】
前記正極活物質層は、正極活物質、バインダー及び導電材を含む。
【0118】
また、前記正極活物質は、リチウムイオンを可逆的に吸蔵および放出することが可能な物質であれば特に限定されず、例えば、リチウムコバルト酸化物(LiCoO)、リチウムニッケル酸化物(LiNiO)、Li[NiCoMn]O (前記式において、MはAl、GaおよびInからなる群から選択されるいずれか1種またはこれらのうち2種以上の元素であり;0.3≦x<1.0、0≦y、z≦0.5、0≦v≦0.1、x+y+z+v=1である)、Li(Lib-a-b’M’b’)O2-c (前記式において、0≦a≦0.2、0.6≦b≦1、0≦b’≦0.2、0≦c≦0.2であり、MはMnと、Ni、Co、Fe、Cr、V、Cu、ZnおよびTiからなる群から選択される1種以上を含み;M’はAl、MgおよびBからなる群から選択される1種以上であり、AはP、F、SおよびNからなる群から選択される1種以上である。)などの層状化合物であるか、あるいは1またはそれ以上の遷移金属で置換された化合物;化学式Li1+yMn2-y(ここで、yは0~0.33である)、LiMnO、LiMn、LiMnOなどのリチウムマンガン酸化物;リチウム銅酸化物(LiCuO); LiV、LiFe、V、Cuなどのバナジウム酸化物;化学式LiNi1-yMyO(ここで、M=Co、Mn、Al、Cu、Fe、Mg、BまたはGaであり、yは0.01~0.3である)で表されるNiサイト型リチウムニッケル酸化物;化学式LiMn2-y(ここで、MはCo、Ni、Fe、Cr、ZnまたはTaであり、yは0.01~0.1である)またはLiMnMO(ここで、MはFe、Co、Ni、CuまたはZnである)で表されるリチウムマンガン複合酸化物;化学式のLiの一部がアルカリ土金属イオンで置換されたLiMn;ジスルフィド化合物;Fe(MoOなどが挙げられるが、これらに限定されない。
【0119】
また、前記正極活物質は、前記正極活物質層の全重量を基準として40~80重量%で含まれてもよい。具体的には、前記正極活物質の含量は、40重量%以上または50重量%以上であってもよく、70重量%以下または80重量%以下であってもよい。前記正極活物質の含量が40重量%未満であれば、湿式正極活物質層と乾式正極活物質層の連結性が足りなくなる可能性があり、80重量%を超えると物質伝達抵抗が大きくなる可能性がある。
【0120】
また、前記バインダーは、正極活物質と導電材等の結合及び集電体への結合を助力する成分として、スチレン-ブタジエンゴム、アクリル化スチレン-ブタジエンゴム、アクリロニトリル共重合体、アクリロニトリル-ブタジエンゴム、ニトリルブタジエンゴム、アクリロニトリル-スチレン-ブタジエン共重合体、アクリルゴム、ブチルゴム、フッ素ゴム、ポリテトラフルオロエチレン、ポリエチレン、ポリプロピレン、エチレン/プロピレン共重合体、ポリブタジエン、ポリエチレンオキシド、クロロスルホン化ポリエチレン、ポリビニルピロリドン、ポリビニルピリジン、ポリビニルアルコール、ポリビニルアセテート、ポリエピクロロヒドリン、ポリホスファゼン、ポリアクリロニトリル、ポリスチレン、ラテックス、アクリル樹脂、フェノール樹脂、エポキシ樹脂、カルボキシメチルセルロース、ヒドロキシプロピルセルロース、セルロースアセテート、セルロースアセテートブチレート、セルロースアセテートプロピオネート、シアノエチルセルロース、シアノエチルスクロス、ポリエステル、ポリアミド、ポリエーテル、ポリイミド、ポリカルボン酸塩、ポリカルボン酸、ポリアクリル酸、ポリアクリレート、リチウムポリアクリレート、ポリメタクリル酸、ポリメタクリレート、ポリアクリルアミド、ポリウレタン、ポリフッ化ビニリデン及びポリ(フッ化ビニリデン)-ヘキサフルオロプロペンからなる群から選択される1種以上を含んでもよい。好ましくは、前記バインダーは、スチレン-ブタジエンゴム、ポリテトラフルオロエチレン、カルボキシメチルセルロース、ポリアクリル酸、ポリアクリル酸リチウムおよびポリフッ化ビニリデンからなる群から選択される1種以上を含んでもよい。
【0121】
また、前記バインダーは、前記正極活物質層の全重量を基準として1重量%~30重量%で含まれてもよく、具体的には、前記バインダーの含量は、1重量%以上または3重量%以上であってもよく、15重量%以下または30重量%以下であってもよい。前記バインダーの含量が1重量%未満であれば、正極活物質と正極集電体との接着力が低下する可能性があり、30重量%を超えると接着力は向上するものの、その分正極活物質の含量が減少し、電池容量が低下する可能性がある。
【0122】
また、前記導電材は、全固体電池の内部環境での副反応を防止し、当該電池に化学的変化を誘発せず、かつ優れた電気伝導性を有するものであれば特に限定されず、代表的には、黒鉛または導電性カーボンを使用してもよく、例えば、天然黒鉛、人造黒鉛等の黒鉛;カーボンブラック、アセチレンブラック、ケッチェンブラック、デンカブラック、サーマルブラック、チャンネルブラック、ファーネスブラック、ランプブラック、サマーブラック等のカーボンブラック;結晶構造がグラフェンやグラファイトである炭素系物質;炭素繊維、金属繊維などの導電性繊維;フッ化炭素;アルミニウム粉末、ニッケル粉末などの金属粉末;酸化亜鉛、チタン酸カリウムなどの導電性ウィスカ(whisker);酸化チタンなどの導電性酸化物;およびポリフェニレン誘導体などの導電性高分子;を単独で、または2種以上を混合して使用してもよいが、必ずしもこれらに限定されない。
【0123】
前記導電材は、通常前記正極活物質層の全重量を基準として0.5重量%~30重量%で含まれてもよく、具体的に、前記導電材の含量は0.5重量%以上または1重量%以上であってもよく、20重量%以下または30重量%以下であってもよい。前記導電材の含量が0.5重量%未満で少なすぎると、電気伝導性の向上効果を期待し難いか、電池の電気化学的特性が低下する可能性があり、30重量%を超えて多すぎると、比較的に正極活物質の量が少なくなり、容量及びエネルギー密度が低下する可能性がある。正極に導電材を含有させる方法は特に制限されず、正極活物質へのコーティングなど、当該分野に公知の通常の方法を使用してもよく。
【0124】
また、前記正極集電体は、前記正極活物質層を支持し、外部導線と正極活物質層の間で電子を伝達する役割を果たすものである。
【0125】
前記正極集電体は、全固体電池に化学的変化を誘発せず、高い電子伝導性を有するものであれば特に限定されない。例えば、前記正極集電体として、銅、ステンレス鋼、アルミニウム、ニッケル、チタニウム、パラジウム、焼成炭素、銅やステンレス鋼の表面に炭素、ニッケル、銀などで表面処理したもの、アルミニウム-カドミウム合金などを使用してもよい。
【0126】
前記正極集電体は、正極活物質層との結合力を強化させるために、正極集電体の表面に微細な凹凸構造を有するか、三次元多孔質構造を採用することができる。これにより、前記正極集電体は、フィルム、シート、箔、メッシュ、ネット、多孔質体、発泡体、不織布体など様々な形態を含んでもよい。
【0127】
前記のような正極は、通常の方法に従って製造することができ、具体的には、正極活物質と導電材及びバインダーを有機溶媒上で混合して製造した正極活物質層形成用組成物を正極集電体上に塗布及び乾燥し、選択的に電極密度の向上のために集電体に圧縮成形して製造することができる。この時、前記有機溶媒としては、正極活物質、バインダー及び導電材を均一に分散させることができ、容易に蒸発するものを使用することが好ましい。具体的には、アセトニトリル、メタノール、エタノール、テトラヒドロフラン、水、イソプロピルアルコールなどが挙げられる。
【0128】
本発明において、前記全固体電池に含まれる前記負極は、負極活物質層を含み、前記負極活物質層は、負極集電体の一面に形成されたものであってもよい。
【0129】
前記負極活物質は、リチウム(Li)を可逆的に挿入(intercalation)または脱挿入(deintercalation)できる物質、リチウムイオンと反応して可逆的にリチウム含有化合物を形成できる物質、リチウム金属またはリチウム合金を含んでもよい。
【0130】
前記リチウムイオン(Li)を可逆的に挿入または脱挿入できる物質は、例えば、結晶質炭素、非晶質炭素またはこれらの混合物であってもよい。前記リチウムイオン(Li)と反応して可逆的にリチウム含有化合物を形成できる物質は、例えば、酸化スズ、チタニウムナイトレート(titanium nitrate)またはシリコンであってもよい。前記リチウム合金は、例えば、リチウム(Li)とナトリウム(Na)、カリウム(K)、ルビジウム(Rb)、セシウム(Cs)、フランシウム(Fr)、ベリリウム(Be)、マグネシウム(Mg)、カルシウム(Ca)、ストロンチウム(Sr)、バリウム(Ba)、ラジウム(Ra)、アルミニウム(Al)及びスズ(Sn)からなる群から選択される金属の合金であってもよい。
【0131】
好ましくは、前記負極活物質はリチウム金属であってもよく、具体的には、リチウム金属薄膜またはリチウム金属粉末の形態であってもよい。
【0132】
前記負極活物質は、前記負極活物質層の全重量を基準として40~80重量%で含まれてもよい。具体的には、前記負極活物質の含量は40重量%以上または50重量%以上であってもよく、70重量%以下または80重量%以下であってもよい。前記負極活物質の含量が40重量%未満であれば、湿式負極活物質層と乾式負極活物質層の連結性が足りなくなる可能性があり、80重量%を超えると物質伝達抵抗が大きくなる可能性がある。
【0133】
また、前記バインダーは、前記正極活物質層で前述した通りである。
【0134】
また、前記導電材は、前記正極活物質層で前述した通りである。
【0135】
また、前記負極集電体は、当該電池に化学的変化を誘発せず、導電性を有するものであれば特に限定されず、例えば、前記負極集電体は、銅、ステンレス鋼、アルミニウム、ニッケル、チタン、焼成炭素、銅やステンレス鋼の表面に炭素、ニッケル、チタン、銀などで表面処理したもの、アルミニウム-カドミウム合金などを使用してもよい。また、前記負極集電体は、正極集電体と同様に、表面に微細な凹凸が形成されたフィルム、シート、箔、ネット、多孔質体、発泡体、不織布体など様々な形態を使用してもよい。
【0136】
前記負極の製造方法は特に限定されず、負極集電体上に当業界において通常使用される層または膜の形成方法を用いて負極活物質層を形成して製造してもよい。例えば、圧着、コーティング、蒸着などの方法を用いてもよい。また、前記負極集電体にリチウム薄膜がない状態で電池を組み立てた後、初期充電によって金属板上に金属リチウム薄膜が形成される場合も本発明の負極に含まれる。
【0137】
また、本発明は、前記全固体電池を単位電池として含む電池モジュール、前記電池モジュールを含む電池パック及び前記電池パックを電源として含むデバイスを提供する。
【0138】
このとき、前記デバイスの具体例としては、電池的モーターによって動力を受けて動くパワーツール(power tool);電気自動車(Electric Vehicle, EV)、ハイブリッド電気自動車(Hybrid Electric Vehicle, HEV)、プラグインハイブリッド電気自動車(Plug-in Hybrid Electric Vehicle, PHEV)などを含む電気車;電動自転車(E-bike)、電動スクーター(E-scooter)を含む電動二輪車;電動ゴルフカート(electric golf cart);電力貯蔵用システム等が挙げられるが、これらに限定されない。以下、本発明の理解を助けるために好ましい実施例を提示するが、以下の実施例は、本発明を例示するものであって、本発明の範疇及び技術思想の範囲内で様々な変更及び修正が可能であることは当業者にとって明らかであり、このような変更及び修正が添付された特許請求の範囲に属することも当然である。
【0139】
下記実施例及び比較例では、下記表1に記載したような架橋結合性官能基を含む高分子、リチウム塩及び溶媒を含む高分子固体電解質を製造した。
【0140】
【表1】
【0141】
実施例
実施例1:高分子固体電解質の製造
PVA(Mw: 89,000 g/mol;加水分解度(degree of hydrolysis: >99%)を水に混合し、10% PVA水溶液を調製した。前記PVA水溶液にLiTFSIを添加した後に攪拌して、架橋結合性官能基を有する高分子であるPVAとリチウム塩であるLiTFSIを含む溶液を調製した。このとき、前記PVAの架橋結合性官能基である「O」とリチウム塩に含まれた「Li」のモル比([Li]/[O])は0.4となるようにした。
【0142】
前記溶液を基材であるSSホイル(SS foil)上にバーコーティング法で塗布して塗布膜を形成した後、-20℃で24時間冷凍及び25℃で解凍し、高分子固体電解質を製造した。
【0143】
前記製造された高分子固体電解質の内部の第1の溶媒である水(HO)を除去した後、第2の溶媒であるエチルメチルカーボネート(ethyl methyl carbonate, EMC)を添加して、高分子固体電解質を製造した。
【0144】
比較例
比較例1
架橋結合性官能基を有する高分子であるPVAとリチウム塩であるLiTFSIを含む溶液を基材であるSSホイル上に塗布した後、冷凍及び解凍工程なしで80℃で乾燥させたことを除いては、前記実施例1と同様の方法で高分子固体電解質を製造した。
【0145】
比較例2
架橋結合性官能基を有する高分子であるPVAとリチウム塩であるLiTFSIを含む溶液を基材であるSSホイル上に塗布した後、冷凍及び解凍工程なしで25℃で乾燥させたことを除いては、前記実施例1と同様の方法で高分子固体電解質を製造した。
【0146】
実験例
実験例1
実施例及び比較例で製造されたフィルム状の高分子固体電解質のイオン伝導度を測定するために、1.7671cmサイズの円形に前記高分子固体電解質を打ち抜き、二枚のステンレス鋼(stainless steel, SS)の間に前記打ち抜かれた高分子固体電解質を配置してコインセルを製造した。
【0147】
(1)イオン伝導度
電気化学インピーダンススペクトロメーター(electrochemical impedance spectrometer, EIS, VM3, Bio Logic Science Instrument)を用いて、25℃でamplitude 10 mV及びスキャン範囲500 KHz~20 MHzの条件で抵抗を測定した後、下記式2を用いて、前記高分子固体電解質のイオン伝導度を計算した。
【0148】
【数3】
【0149】
前記式2において、σは高分子固体電解質のイオン伝導度(S/cm)であり、Rは、前記電気化学インピーダンススペクトロメーターで測定した高分子固体電解質の抵抗(Ω)であり、Lは、高分子固体電解質の厚さ(μm)であり、Aは高分子固体電解質の面積(cm)を意味する。
【0150】
(2)高分子固体電解質の外観観察-フリースタンディングフィルムの形成有無及び冷凍/解凍工程後のサンプル状態
前記式2を用いて計算された高分子固体電解質のイオン伝導度、フリースタンディングフィルム(freestanding film)が形成できるか否か及び高分子固体電解質の外観を観察した結果を下記表2に記載した。このとき、前記フリースタンディングフィルムが形成できるか否か(形成:〇、未成形:×)及び高分子固体電解質の外観は肉眼で観察した。
【0151】
(3)液相蒸発速度(M(t))
実施例及び比較例の製造工程中に高分子固体電解質に含まれる液相(溶媒)が蒸発する前後の重量をそれぞれ測定した後、重量変化率を用いて、液相蒸発速度(M(t))を測定した。
【0152】
(4) M∞及びD
前記計算された液相蒸発速度(M(t))を下記式1に適用し、フィッティングパラメータ(fitting parameter)であるM∞及びDの値を導き出した。
【0153】
【数4】
【0154】
前記M∞は、前記高分子固体電解質に含まれることができる液相の最大値または飽和値であって、0.2~0.6であり、
前記Dは、前記高分子固体電解質の内部における液相の拡散係数であって、10-9cm/s~10-6cm/sであり、
前記Lは、高分子固体電解質の厚さであって、5μm~500μmであり、
前記tは、前記液相蒸発速度が測定される時間を意味する。
【0155】
【表2】
【0156】
前記表2に示すように、実施例1はMが大きく、拡散係数(D)が小さい特性をすべて満たし、イオン伝導度が高いことを確認できた。
【0157】
以上、本発明に対して、たとえ限定された実施例と図面によって説明したが、本発明はこれにより限定されず、本発明が属する技術分野における通常の知識を有する者によって、本発明の技術思想と以下に記載する特許請求の範囲の均等範囲内で様々な修正及び変形が可能であることは当然である。
【国際調査報告】