(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公表特許公報(A)
(11)【公表番号】
(43)【公表日】2024-09-30
(54)【発明の名称】神経変性障害を処置するための抗セマフォリン4D結合分子の使用に関する予測アウトカムプロファイリング
(51)【国際特許分類】
A61K 39/395 20060101AFI20240920BHJP
A61P 25/00 20060101ALI20240920BHJP
A61P 25/28 20060101ALI20240920BHJP
A61P 25/14 20060101ALI20240920BHJP
A61P 25/16 20060101ALI20240920BHJP
A61P 21/00 20060101ALI20240920BHJP
C07K 16/28 20060101ALN20240920BHJP
C12N 15/13 20060101ALN20240920BHJP
【FI】
A61K39/395 N
A61K39/395 D
A61P25/00
A61P25/28
A61P25/14
A61P25/16
A61P21/00
C07K16/28 ZNA
C12N15/13
【審査請求】未請求
【予備審査請求】未請求
(21)【出願番号】P 2024518774
(86)(22)【出願日】2021-09-27
(85)【翻訳文提出日】2024-05-13
(86)【国際出願番号】 US2021052142
(87)【国際公開番号】W WO2023048726
(87)【国際公開日】2023-03-30
(81)【指定国・地域】
【新規性喪失の例外の表示】特許法第30条第2項適用申請有り (1)令和3年4月29日、集会名「CHDI 16th Annual HD Therapeutics Conference(ポスター発表)」において発表。 (2)令和3年4月29日、集会名「CHDI 16th Annual HD Therapeutics Conference(口頭発表)」において発表。 (3)令和3年9月10日、集会名「European Huntington’s Disease Network(EHDN)2021 Remote Meeting」において発表。 (4)令和3年9月22日、集会名「Oppenheimer Fall Healthcare Life Sciences and MedTech Summit」において発表。
(71)【出願人】
【識別番号】504455148
【氏名又は名称】バクシネックス インコーポレーティッド
(74)【代理人】
【識別番号】100102978
【氏名又は名称】清水 初志
(74)【代理人】
【識別番号】100205707
【氏名又は名称】小寺 秀紀
(74)【代理人】
【識別番号】100160923
【氏名又は名称】山口 裕孝
(74)【代理人】
【識別番号】100119507
【氏名又は名称】刑部 俊
(74)【代理人】
【識別番号】100142929
【氏名又は名称】井上 隆一
(74)【代理人】
【識別番号】100148699
【氏名又は名称】佐藤 利光
(74)【代理人】
【識別番号】100188433
【氏名又は名称】梅村 幸輔
(74)【代理人】
【識別番号】100128048
【氏名又は名称】新見 浩一
(74)【代理人】
【識別番号】100129506
【氏名又は名称】小林 智彦
(74)【代理人】
【識別番号】100114340
【氏名又は名称】大関 雅人
(74)【代理人】
【識別番号】100214396
【氏名又は名称】塩田 真紀
(74)【代理人】
【識別番号】100121072
【氏名又は名称】川本 和弥
(72)【発明者】
【氏名】ザウダラー モーリス
(72)【発明者】
【氏名】エバンス エリザベス
(72)【発明者】
【氏名】フィッシャー テレンス
【テーマコード(参考)】
4C085
4H045
【Fターム(参考)】
4C085AA13
4C085AA14
4C085BB11
4C085EE01
4C085GG02
4H045AA11
4H045AA30
4H045BA10
4H045CA40
4H045DA76
4H045EA20
4H045EA50
4H045FA74
(57)【要約】
セマフォリン4D(SEMA4D)と特異的に結合する単離された結合分子による処置のために、神経変性障害を有する対象を選択するための方法、SEMA4Dと特異的に結合する単離された結合分子によって処置される、神経変性障害を有する対象の処置アウトカムを予測するための方法、およびSEMA4Dと特異的に結合する単離された結合分子によって、神経変性障害を有する対象を処置するための方法を、本明細書において提供する。
【特許請求の範囲】
【請求項1】
セマフォリン4D(SEMA4D)と特異的に結合する単離された抗体またはその抗原結合断片による処置のために、神経変性障害を有する対象、神経変性障害を有すると決定された対象、または神経変性障害を有すると推測される対象を選択する方法であって、
(i)1つまたは複数の標準的な認知評価試験および/または機能評価試験において、該対象についての認知障害評価スコアおよび/または機能障害評価スコアを決定する工程;ならびに
(ii)該スコアが、軽度認知障害(MCI)、軽度認知症、中等度認知障害、または第I期もしくは第II期のハンチントン病の指標となる所定の値を満たす場合に、該対象を処置のために選択する工程
を含む、前記方法。
【請求項2】
1つまたは複数の標準的な認知評価試験および/または機能評価試験が、Montreal Cognitive Assessment(MoCA)、Total Functional Capacity(TFC)、Clinical Global Impression of Change(CGIC)、およびClinical Global Impression of Severity(CGIS)より選択される、請求項1記載の方法。
【請求項3】
1つまたは複数の標準的な機能評価試験がTFCであり、対象についての機能障害評価スコアが7~12の範囲である、請求項1または2記載の方法。
【請求項4】
対象についての機能障害評価スコアが8~12または8~11の範囲である、請求項3記載の方法。
【請求項5】
1つまたは複数の標準的な認知評価試験がMoCAであり、対象についての認知障害評価スコアが10~25の範囲である、請求項1または2記載の方法。
【請求項6】
MoCAスコアが19~25の範囲である、請求項5記載の方法。
【請求項7】
MoCAスコアが11~21の範囲である、請求項5記載の方法。
【請求項8】
神経変性障害が、アルツハイマー病、パーキンソン病、ハンチントン病、ダウン症候群、運動失調、筋萎縮性側索硬化症(ALS)、前頭側頭型認知症(FTD)、HIV関連認知障害、CNSループス、軽度認知障害から中等度認知障害、またはそれらの組み合わせからなる群より選択される、請求項1~7のいずれか一項記載の方法。
【請求項9】
神経変性障害がアルツハイマー病(AD)またはハンチントン病(HD)である、請求項8記載の方法。
【請求項10】
SEMA4Dと特異的に結合する前記抗体またはその抗原結合断片が、SEQ ID NO 6、7、および8をそれぞれ含むVHCDR1~3を含む可変重鎖(VH)と、SEQ ID NO 14、15、および16をそれぞれ含むVLCDR1~3を含む可変軽鎖(VL)とを含むか、またはSEQ ID NO 42、43、および44をそれぞれ含むVHCDR1~3を含む可変重鎖(VH)と、SEQ ID NO 46、47、および48をそれぞれ含むVLCDR1~3を含む可変軽鎖(VL)とを含む、請求項1~9のいずれか一項記載の方法。
【請求項11】
前記抗体またはその抗原結合断片がSEMA4Dのその受容体との結合を阻害する、請求項1~10のいずれか一項記載の方法。
【請求項12】
前記受容体がプレキシンB1およびプレキシンB2より選択される、請求項11記載の方法。
【請求項13】
前記抗体またはその抗原結合断片が、SEMA4Dによって媒介されるシグナル伝達を阻害する、請求項11または12記載の方法。
【請求項14】
セマフォリン4D(SEMA4D)と特異的に結合するセマフォリン4Dアンタゴニスト抗体またはその抗原結合断片が、神経変性障害を有する対象、神経変性障害を有すると診断された対象、または神経変性障害を有すると推測される対象の処置において有効であるか否かを予測するための方法であって、
(i)1つまたは複数の標準的な認知評価試験および/または機能評価試験において、該対象についての認知障害評価スコアおよび/または機能障害評価スコアを決定する工程;ならびに
(ii)該スコアが、軽度認知障害(MCI)、軽度認知症、中等度認知障害、または第I期もしくは第II期のハンチントン病の指標となる所定の値を満たす場合に、処置に対する正の反応を予測する工程
を含む、前記方法。
【請求項15】
1つまたは複数の標準的な認知評価試験および/または機能評価試験が、Montreal Cognitive Assessment(MoCA)、Total Functional Capacity(TFC)、Clinical Global Impression of Change(CGIC)、およびClinical Global Impression of Severity(CGIS)より選択される、請求項14記載の方法。
【請求項16】
標準的な機能評価試験がTFCであり、対象についての機能障害評価スコアが7~12の範囲である、請求項14または15記載の方法。
【請求項17】
対象についての機能障害評価スコアが8~12または8~11の範囲である、請求項16記載の方法。
【請求項18】
標準的な認知評価試験がMoCAであり、対象についての認知障害評価スコアが10~25の範囲である、請求項14または15記載の方法。
【請求項19】
MoCAスコアが19~25の範囲である、請求項18記載の方法。
【請求項20】
MoCAスコアが11~21の範囲である、請求項18記載の方法。
【請求項21】
神経変性障害が、アルツハイマー病、パーキンソン病、ハンチントン病、ダウン症候群、運動失調、筋萎縮性側索硬化症(ALS)、前頭側頭型認知症(FTD)、HIV関連認知障害、CNSループス、軽度認知障害から中等度認知障害、またはそれらの組み合わせからなる群より選択される、請求項14~20のいずれか一項記載の方法。
【請求項22】
神経変性障害がアルツハイマー病(AD)またはハンチントン病(HD)である、請求項21記載の方法。
【請求項23】
SEMA4Dと特異的に結合する前記抗体またはその抗原結合断片が、SEQ ID NO 6、7、および8をそれぞれ含むVHCDR1~3を含む可変重鎖(VH)と、SEQ ID NO 14、15、および16をそれぞれ含むVLCDR1~3を含む可変軽鎖(VL)とを含むか、またはSEQ ID NO 42、43、および44をそれぞれ含むVHCDR1~3を含む可変重鎖(VH)と、SEQ ID NO 46、47、および48をそれぞれ含むVLCDR1~3を含む可変軽鎖(VL)とを含む、請求項14~22のいずれか一項記載の方法。
【請求項24】
前記抗体またはその抗原結合断片がSEMA4Dのその受容体との結合を阻害する、請求項14~23のいずれか一項記載の方法。
【請求項25】
前記受容体がプレキシンB1およびプレキシンB2より選択される、請求項24記載の方法。
【請求項26】
前記抗体またはその抗原結合断片が、SEMA4Dによって媒介されるシグナル伝達を阻害する、請求項24または25記載の方法。
【請求項27】
神経変性障害を有する対象、神経変性障害を有すると決定された対象、または神経変性障害を有すると推測される対象を処置する方法であって、
(i)1つまたは複数の標準的な認知評価試験および/または機能評価試験において、該対象についての認知障害評価スコアおよび/または機能障害評価スコアを決定する工程;ならびに
(ii)該スコアが、軽度認知障害(MCI)、軽度認知症、中等度認知障害、または第I期もしくは第II期のハンチントン病の指標となる所定の値を満たす場合に、セマフォリン4D(SEMA4D)と特異的に結合する単離された抗体またはその抗原結合断片の治療的に有効な量を投与する工程
を含む、前記方法。
【請求項28】
1つまたは複数の標準的な認知評価試験または機能評価試験が、Montreal Cognitive Assessment(MoCA)、Total Functional Capacity(TFC)、Clinical Global Impression of Change(CGIC)、およびClinical Global Impression of Severity(CGIS)より選択される、請求項27記載の方法。
【請求項29】
標準的な機能評価試験がTFCであり、対象についての機能障害評価スコアが7~12の範囲である、請求項27または28記載の方法。
【請求項30】
対象についての機能障害評価スコアが8~12または8~11の範囲である、請求項28記載の方法。
【請求項31】
標準的な認知評価試験がMoCAであり、対象についての認知障害評価スコアが10~25の範囲である、請求項27または28記載の方法。
【請求項32】
MoCAスコアが19~25の範囲である、請求項31記載の方法。
【請求項33】
MoCAスコアが11~21の範囲である、請求項31記載の方法。
【請求項34】
神経変性障害が、アルツハイマー病、パーキンソン病、ハンチントン病、ダウン症候群、運動失調、筋萎縮性側索硬化症(ALS)、前頭側頭型認知症(FTD)、HIV関連認知障害、CNSループス、軽度認知障害、またはそれらの組み合わせからなる群より選択される、請求項27~33のいずれか一項記載の方法。
【請求項35】
神経変性障害がアルツハイマー病(AD)またはハンチントン病(HD)である、請求項34記載の方法。
【請求項36】
SEMA4Dと特異的に結合する前記抗体またはその抗原結合断片が、SEQ ID NO 6、7、および8をそれぞれ含むVHCDR1~3を含む可変重鎖(VH)と、SEQ ID NO 14、15、および16をそれぞれ含むVLCDR1~3を含む可変軽鎖(VL)とを含むか、またはSEQ ID NO 42、43、および44をそれぞれ含むVHCDR1~3を含む可変重鎖(VH)と、SEQ ID NO 46、47、および48をそれぞれ含むVLCDR1~3を含む可変軽鎖(VL)とを含む、請求項27~35のいずれか一項記載の方法。
【請求項37】
前記抗体またはその抗原結合断片がSEMA4Dのその受容体との結合を阻害する、請求項27~36のいずれか一項記載の方法。
【請求項38】
前記受容体がプレキシンB1およびプレキシンB2より選択される、請求項37記載の方法。
【請求項39】
前記抗体またはその抗原結合断片が、SEMA4Dによって媒介されるシグナル伝達を阻害する、請求項37または38記載の方法。
【請求項40】
前記処置が、
神経変性障害に関連した症状の発生の減少、低下、緩徐化、もしくは中止;神経変性障害に関連した症状の重症度の減少、低下、もしくは低減をもたらすか;または
対象の生活の質を改善する、
請求項27~39のいずれか一項記載の方法。
【請求項41】
前記症状が、精神神経症状、認知症状、運動機能障害、およびそれらの任意の組み合わせより選択される、請求項40記載の方法。
【請求項42】
神経変性障害を有する対象、神経変性障害を有すると推測される対象、または神経変性障害を有すると診断された対象を処置する方法において使用するための、セマフォリン4D(SEMA4D)と特異的に結合する単離された抗体またはその抗原結合断片であって、
該対象が、
軽度認知障害、軽度認知症、もしくは中等度認知障害の指標となる、1つもしくは複数の標準的な認知評価試験における認知障害評価スコアを有すると評価されているか、または
第I期もしくは第II期のハンチントン病の指標となる、1つもしくは複数の標準的な機能評価試験における機能障害評価スコアを有すると評価されている、
前記単離された抗体またはその抗原結合断片。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
電子的に提出された配列表の参照
本願は、その全体が参照により本明細書に組み入れられる、ASCII形式で電子的に提出された配列表を含有している。2021年9月27日に作成された該ASCIIコピーは、8555_040_SL.txtという名前であり、32KBバイトのサイズである。
【背景技術】
【0002】
開示の背景
CD100としても公知であるセマフォリン4D(SEMA4D)は、セマフォリン遺伝子ファミリーに属する膜貫通タンパク質である(例えば、SEQ ID NO: 1(ヒト);SEQ ID NO: 2(マウス))。SEMA4Dは、ホモ二量体として細胞表面上に発現しているが、細胞活性化時に、SEMA4Dは、タンパク質分解性切断を介して細胞表面から放出されて、タンパク質の可溶型であるsSEMA4Dを生成することができ、これもまた生物学的に活性を有する。例えば、Suzuki et al., Nature Rev. Immunol. 3:159-167 (2003)(非特許文献1);Kikutani et al., Nature Immunol. 9:17-23 (2008)(非特許文献2)を参照されたい。SEMA4Dは、神経変性障害、自己免疫疾患、脱髄性疾患、およびある特定の癌の発症に関係している。
【0003】
SEMA4Dは、神経変性障害、自己免疫疾患、脱髄性疾患、およびある特定の癌の発症に関係している。しかしながら、脳および脊髄を含む中枢神経系(CNS)の組織化および機能、ならびにCNSによって調節される行動に対するSEMA4Dシグナル伝達阻止の効果は、未だ解明されていない。CNSにおける変化は、対象の行動および生活の質に対して甚大な影響を及ぼすため、これは重要である。特に、そのような変化は、対象の精神神経行動、認知行動、および運動能力に影響を与えうる。
【0004】
神経変性障害および神経炎症性障害は、多様な原因から発生する高度に不均一な疾患として認識されており、障害の進行は、処置アウトカムに影響を与える可能性が非常に高い。従って、神経変性障害および神経炎症性障害を有する患者の処置に対する反応の予測を支援することが必要とされている。
【先行技術文献】
【非特許文献】
【0005】
【非特許文献1】Suzuki et al., Nature Rev. Immunol. 3:159-167 (2003)
【非特許文献2】Kikutani et al., Nature Immunol. 9:17-23 (2008)
【発明の概要】
【0006】
開示の概要
セマフォリン4D(SEMA4D)と特異的に結合する単離された抗体またはその抗原結合断片による処置のために、神経変性障害を有する対象、神経変性障害を有すると決定された対象、または神経変性障害を有すると推測される対象を選択する方法が提供される。本法は、(i)1つまたは複数の標準的な認知評価試験および/または機能評価試験において、対象についての認知障害評価スコアおよび/または機能障害評価スコアを決定すること;ならびに(ii)スコアが、軽度認知障害(MCI)、軽度認知症、中等度認知障害、または第I期もしくは第II期のハンチントン病の指標となる所定の値を満たす場合に、対象を処置のために選択することを含む。ある特定の態様において、1つまたは複数の標準的な認知評価試験は、Montreal Cognitive Assessment(MoCA)、Total Functional Capacity(TFC)、Clinical Global Impression of Change(CGIC)、およびClinical Global Impression of Severity(CGIS)より選択される。ある特定の態様において、1つまたは複数の標準的な認知評価試験は、TFCであり、対象についての認知障害評価スコアは、7~12、8~12、または8~11の範囲である。他の態様において、1つまたは複数の標準的な認知評価試験は、MoCAであり、対象についての認知障害評価スコアは、10~25、例えば、10~21、11~25、19~25、または11~21の範囲である。ある特定の態様において、本法は、アルツハイマー病、パーキンソン病、ハンチントン病、ダウン症候群、運動失調、筋萎縮性側索硬化症(ALS)、前頭側頭型認知症(FTD)、HIV関連認知障害、CNSループス、軽度認知障害、軽度認知症、中等度認知障害、またはそれらの組み合わせを有する対象、それらを有すると推測される対象、またはそれらを有すると診断された対象に適用される。他の態様において、本法は、アルツハイマー病またはハンチントン病を有する対象、それらを有すると推測される対象、またはそれらを有すると診断された対象に適用される。
【0007】
本開示のこの局面の方法において、SEMA4Dと特異的に結合する抗体またはその抗原結合断片は、SEQ ID NO 6、7、および8をそれぞれ含むVHCDR1~3を含む可変重鎖(VH)と、SEQ ID NO 14、15、および16をそれぞれ含むVLCDR1~3を含む可変軽鎖(VL)とを含むか、またはSEQ ID NO 42、43、および44をそれぞれ含むVHCDR1~3を含む可変重鎖(VH)と、SEQ ID NO 46、47、および48をそれぞれ含むVLCDR1~3を含む可変軽鎖(VL)とを含む。他の態様において、抗体またはその抗原結合断片は、SEMA4Dのその受容体との結合を阻害する。さらなる態様において、受容体は、プレキシンB1およびプレキシンB2より選択され、ある特定の態様において、抗体またはその抗原結合断片は、SEMA4Dによって媒介されるシグナル伝達を阻害する。
【0008】
本開示の別の局面は、セマフォリン4D(SEMA4D)アンタゴニスト抗体またはその抗原結合断片が、神経変性障害を有する対象、神経変性障害を有すると決定された対象、または神経変性障害を有すると推測される対象の処置において有効であるか否かを予測するための方法を提供する。この方法は、(i)1つまたは複数の標準的な認知評価試験および/または機能評価試験において、対象についての認知障害評価スコアおよび/または機能障害評価スコアを決定すること;ならびに(ii)スコアが、軽度認知障害(MCI)、軽度認知症、中等度認知障害、または第I期もしくは第II期のハンチントン病の指標となる所定の値を満たす場合に、処置に対する正の反応を予測することを含む。ある特定の態様において、1つまたは複数の標準的な認知評価試験は、Montreal Cognitive Assessment(MoCA)、Total Functional Capacity(TFC)、Clinical Global Impression of Change(CGIC)、およびClinical Global Impression of Severity(CGIS)より選択される。ある特定の他の態様において、1つまたは複数の標準的な認知評価試験は、TFCであり、対象についての認知障害評価スコアは、7~12、8~12、または8~11の範囲である。他の態様において、1つまたは複数の標準的な認知評価試験は、MoCAであり、対象についての認知障害評価スコアは、10~25、例えば、10~21、11~25、19~25、または11~21の範囲である。ある特定の態様において、本法は、アルツハイマー病、パーキンソン病、ハンチントン病、ダウン症候群、運動失調、筋萎縮性側索硬化症(ALS)、前頭側頭型認知症(FTD)、HIV関連認知障害、CNSループス、軽度認知障害、軽度認知症、中等度認知障害、またはそれらの組み合わせを有する対象、それらを有すると推測される対象、またはそれらを有すると診断された対象に適用される。他の態様において、本法は、アルツハイマー病またはハンチントン病を有する対象、それらを有すると推測される対象、または有すると診断された対象に適用される。
【0009】
本開示のこの局面の方法において、SEMA4Dと特異的に結合する抗体またはその抗原結合断片は、SEQ ID NO 6、7、および8をそれぞれ含むVHCDR1~3を含む可変重鎖(VH)と、SEQ ID NO 14、15、および16をそれぞれ含むVLCDR1~3を含む可変軽鎖(VL)とを含むか、またはSEQ ID NO 42、43、および44をそれぞれ含むVHCDR1~3を含む可変重鎖(VH)と、SEQ ID NO 46、47、および48をそれぞれ含むVLCDR1~3を含む可変軽鎖(VL)とを含む。他の態様において、抗体またはその抗原結合断片は、SEMA4Dのその受容体との結合を阻害する。さらなる態様において、受容体は、プレキシンB1およびプレキシンB2より選択され、ある特定の態様において、抗体またはその抗原結合断片は、SEMA4Dによって媒介されるシグナル伝達を阻害する。
【0010】
本開示の別の局面において、神経変性障害を有する対象、神経変性障害を有すると決定された対象、または神経変性障害を有すると推測される対象において、症状を軽減するためにセマフォリン4D結合分子を使用する方法が提供される。本明細書に例示される本開示のこの局面によると、(i)1つまたは複数の標準的な認知評価試験および/または機能評価試験において、対象についての認知障害評価スコアおよび/または機能障害評価スコアを決定すること;ならびに(ii)スコアが、軽度認知障害(MCI)、軽度認知症、中等度認知障害、または第I期もしくは第II期のハンチントン病の指標となる所定の値を満たす場合に、セマフォリン4D(SEMA4D)と特異的に結合する単離された抗体またはその抗原結合断片の治療的に有効な量を投与することを含む、神経変性障害を有する対象、神経変性障害を有すると決定された対象、または神経変性障害を有すると推測される対象を処置する方法が提供される。本開示のこの局面のある特定の態様において、1つまたは複数の標準的な認知評価試験は、Montreal Cognitive Assessment(MoCA)、Total Functional Capacity(TFC)、Clinical Global Impression of Change(CGIC)試験、およびClinical Global Impression of Severity(CGIS)試験より選択される。他の態様において、1つまたは複数の標準的な認知評価試験は、TFCであり、対象についての認知障害評価スコアは、7~12、例えば、7~11、8~12、または8~11の範囲である。さらに他の態様において、1つまたは複数の標準的な認知評価試験は、MoCAであり、対象についての認知障害評価スコアは、10~25、例えば、10~21、11~25、19~25、または11~21の範囲である。ある特定の態様において、本法は、アルツハイマー病、パーキンソン病、ハンチントン病、ダウン症候群、運動失調、筋萎縮性側索硬化症(ALS)、前頭側頭型認知症(FTD)、HIV関連認知障害、CNSループス、軽度認知障害、軽度認知症、中等度認知障害、またはそれらの組み合わせを有する対象、それらを有すると推測される対象、またはそれらを有すると診断された対象に適用される。他の態様において、本法は、アルツハイマー病またはハンチントン病を有する対象、それらを有すると推測される対象、またはそれらを有すると診断された対象に適用される。
【0011】
本開示のこの局面の方法において、SEMA4Dと特異的に結合する抗体またはその抗原結合断片は、SEQ ID NO 6、7、および8をそれぞれ含むVHCDR1~3を含む可変重鎖(VH)と、SEQ ID NO 14、15、および16をそれぞれ含むVLCDR1~3を含む可変軽鎖(VL)とを含むか、またはSEQ ID NO 42、43、および44をそれぞれ含むVHCDR1~3を含む可変重鎖(VH)と、SEQ ID NO 46、47、および48をそれぞれ含むVLCDR1~3を含む可変軽鎖(VL)とを含む。他の態様において、抗体またはその抗原結合断片は、SEMA4Dのその受容体との結合を阻害する。さらなる態様において、受容体は、プレキシンB1およびプレキシンB2より選択され、ある特定の態様において、抗体またはその抗原結合断片は、SEMA4Dによって媒介されるシグナル伝達を阻害する。
【0012】
本開示のこの局面のさらなる態様において、処置は、神経変性障害に関連した症状の発生の減少、低下、緩徐化、もしくは中止;神経変性障害に関連した症状の重症度の減少、低下、もしくは低減をもたらすか;または対象の生活の質を改善する。ある特定の態様において、症状は、精神神経症状、認知症状、運動機能障害、およびそれらの任意の組み合わせより選択される。
【0013】
本開示の別の局面において、神経変性障害を有する対象、神経変性障害を有すると推測される対象、または神経変性障害を有すると診断された対象を処置する方法において使用するための、セマフォリン4D(SEMA4D)と特異的に結合する単離された抗体またはその抗原結合断片が提供され、ここで、対象は、軽度認知障害、軽度認知症、もしくは中等度認知症、または第I期もしくは第II期のハンチントン病の指標となる、1つまたは複数の標準的な認知評価試験および/または機能評価試験における認知障害評価スコアおよび/または機能障害評価スコアを有すると評価されている。この局面のある特定の態様において、SEMA4Dと特異的に結合する抗体またはその抗原結合断片は、SEQ ID NO 6、7、および8をそれぞれ含むVHCDR1~3を含む可変重鎖(VH)と、SEQ ID NO 14、15、および16をそれぞれ含むVLCDR1~3を含む可変軽鎖(VL)とを含むか、またはSEQ ID NO 42、43、および44をそれぞれ含むVHCDR1~3を含む可変重鎖(VH)と、SEQ ID NO 46、47、および48をそれぞれ含むVLCDR1~3を含む可変軽鎖(VL)とを含む。他の態様において、抗体またはその抗原結合断片は、SEMA4Dのその受容体との結合を阻害する。さらなる態様において、受容体は、プレキシンB1およびプレキシンB2より選択され、ある特定の態様において、抗体またはその抗原結合断片は、SEMA4Dによって媒介されるシグナル伝達を阻害する。この局面の単離された抗体は、本開示の方法のうちの任意のものにおいて使用され得る。
【図面の簡単な説明】
【0014】
【
図1】ベースラインUnified Huntington Disease Rating Scale(UHDRS)Total Functional Capacityスコア(HDRS-TFC)が11または12~13であったサブグループ別の、ベースラインから3ヶ月目、5ヶ月目、11ヶ月目、および17ヶ月目までの一次分析期間中の、プラセボ(PBO)または抗SEMA4D抗体(ペピネマブ(Pepinemab);PEPI)によって処置された初期顕性患者のClinical Global Impression of Change(CGIC)のカテゴリ変化を示す。
図1Aは、ベースラインTFCスコアが11であった対象の、CGICのカテゴリ変化を示す。
図1Bは、ベースラインTFCスコアが12および13であった対象の、CGICのカテゴリ変化を示す。
【
図2】Huntington Disease Cognitive Assessment Battery(HD-CAB)コンポジット(composite)試験結果。
図1Aは、18ヶ月間にわたってプラセボ(PBO)または抗SEMA4D抗体(ペピネマブ;PEPI B1)によって処置された、26未満のベースラインMoCAスコアを有していた初期顕性HD患者における、HD-CABコンポジットスコアのベースラインからの変化(CHG)(平均値+測定の標準誤差(SEM))を示す。
図1Bは、18ヶ月間にわたってプラセボまたは抗SEMA4D抗体(ペピネマブ;PEPI)によって処置された、26以上のベースラインMoCAスコアを有していた初期顕性HD患者における、HD-CABコンポジットスコアのベースラインからの変化(CHG)(平均値+測定の標準誤差(SEM))を示す。
【
図3】MoCAによって層別化されたTotal Motor Score(TMS)。
図1Aは、18ヶ月間にわたってプラセボ(PBO)または抗SEMA4D抗体(ペピネマブ;PEPI)によって処置された、26未満のベースラインMoCAスコアを有していた初期顕性HD患者における、TMSのベースラインからの変化(CHG)(平均値+測定の標準誤差(SEM))を示す。
図1Bは、18ヶ月間にわたってプラセボまたは抗SEMA4D抗体(ペピネマブ;PEPI)によって処置された、26以上のベースラインMoCAスコアを有していた初期顕性HD患者における、ベースラインからの変化(CHG)(平均値+測定の標準誤差(SEM))を示す。
【発明を実施するための形態】
【0015】
開示の詳細な説明
定義
「1つの」(「a」または「an」)実体という用語は、1つまたは複数のその実体を指し;例えば、「抗SEMA4D抗体(an anti-SEMA4D antibody)」は、1つまたは複数の抗SEMA4D抗体を表すように理解されることに注意されたい。そのように、「1つの」、「1つまたは複数の」、および「少なくとも1つの」という用語は、本明細書において互換的に使用することができる。
【0016】
さらに、本明細書において使用されるように、「および/または」とは、他方を含み、または他方を含まずに、2つの指定された特色または成分の各々を具体的に開示するものとして解釈されたい。従って、本明細書において「Aおよび/またはB」のような句において使用されるように、「および/または」という用語は、「AおよびB」、「AまたはB」、「A」(単独)、および「B」(単独)を含むように意図される。同様に、「A、B、および/またはC」のような句において使用されるように、「および/または」という用語は、以下の態様の各々を包含するように意図される:A、B、およびC;A、B、またはC;AまたはC;AまたはB;BまたはC;AおよびC;AおよびB;BおよびC;A(単独);B(単独);ならびにC(単独)。
【0017】
他に定義されない限り、本明細書において使用される技術用語および科学用語は、本開示が関係している技術分野の当業者によって一般的に理解されるのと同一の意味を有する。例えば、Concise Dictionary of Biomedicine and Molecular Biology, Juo, Pei-Show, 2nd ed., 2002, CRC Press;The Dictionary of Cell and Molecular Biology, 3rd ed., 1999, Academic Press;およびthe Oxford Dictionary Of Biochemistry And Molecular Biology, Revised, 2000, Oxford University Pressが、本開示において使用される用語の多くの一般的な辞書を当業者に提供する。
【0018】
単位、接頭辞、および記号は、国際単位系 (SI)によって認められた形態で示される。数的な範囲は、範囲を定義する数を含む。他に示されない限り、アミノ酸配列は、左から右へ、アミノからカルボキシへの方向で記される。本明細書において提供される見出しは、明細書を全体として参照することによって入手され得る、開示の様々な局面または態様を限定するものではない。従って、以下に定義される用語は、明細書全体を参照することによって、より完全に定義される。
【0019】
本明細書において使用されるように、「天然に存在しない」物質、組成物、実体、および/または物質、組成物、もしく実体の組み合わせ、またはその文法的な変化形は、「天然に存在する」と当業者によって十分に理解されているか、または「天然に存在する」と審査官もしくは行政機関もしくは司法機関によって決定もしくは解釈されているか、もしくは任意の時点で決定もしくは解釈される可能性のある、物質、組成物、実体、および/または物質、組成物、もしくは実体の組み合わせを明示的に除外するが、それらを除外するに過ぎない、条件的な用語である。
【0020】
本明細書において使用されるように、「神経変性障害」または「神経変性疾患」という用語は互いに交換可能に使用され、神経系の1つまたは複数の領域におけるニューロンの死、およびその後の患部の機能的障害を特徴とする中枢神経系(CNS)の障害を指す。神経変性障害の例は、非限定的に、アルツハイマー病、パーキンソン病、ハンチントン病、ダウン症候群、運動失調、筋萎縮性側索硬化症(ALS)、前頭側頭型認知症(FTD)、HIV関連認知障害(HAND、HIV関連神経認知障害)、CNSループス、軽度認知障害、軽度認知症、および中等度認知障害を含む。神経変性疾患は、影響された個人およびその家族、さらには社会全体の生活に多大な影響を及ぼす。
【0021】
本明細書において使用されるように、「アルツハイマー病」(AD)という用語は、初期には部分健忘、後期には不穏状態、失見当識、失語、失認、または失行(認知機能低下)、認知症、時には、多幸症または抑うつとして顕在化する進行性の疾患を指す。この疾患は、典型的には、40~90歳で発病し、主に女性が罹患する。有病率に関しては、65歳を超える集団の約13%と推定されている。
【0022】
本明細書において使用されるように、「ハンチントン病」(HD)という用語は、(HTT遺伝子によって発現される)タンパク質ハンチンチンのN末端におけるポリグルタミン鎖の伸長による神経変性疾患を指す。変異型タンパク質(mHTT)における伸長は、アミノ酸グルタミンの35~40回を超える繰り返しであり得る。この疾患は、古典的な協調運動障害および「舞踏病」のような運動の出現を決定する、線条体の中サイズ有棘ニューロンにおける毒性を含む、異なる脳区域における進行性のニューロン死を呈する。mHTTの作用機序は、野生型タンパク質と比較した機能獲得および機能喪失の両方として記載されており、異なる細胞コンパートメントにおいて様々なタンパク質と相互作用する能力の獲得または喪失を含む。
【0023】
「軽度認知障害」(MCI)という用語は、本明細書において使用されるように、正常な老化の、予想される認知機能低下と、認知症の、より重篤な機能低下との間の病期をさす。MCIは、記憶、言語、思考、および/または判断の問題を特徴とする。神経変性疾患に関して、MCIは、脳内の特徴的な変化が存在する場合、アルツハイマー病を含む疾患連続体の初期の病期であり得る。異常な脳陽電子放射断層撮影(PET)スキャンまたはアミロイドβタンパク質(アルツハイマー病の2つの特徴のうちの1つ)についての髄液試験を有するMCI個体は、アルツハイマー病によるMCIという診断を有すると見なされる。MCIは、18~25のMoCAスコア、11~13のTFCスコア、62/100未満のQmciスコア、例えば、24~27/30のMMSEスコア、80~90/100のACE-IIIスコア、23~26/30のRUDASスコアによって示される。当業者は、MCIを示す他のCI試験からのスコア、例えば、適用可能なMoCAスコアまたはTFCスコアに相当する試験スコアを同定することができる。
【0024】
「軽度認知症」という用語は、本明細書において使用されるように、問題解決障害に関連する中等度の記憶喪失および見当識障害の状態をさす。この病期において、罹患した個体は、自立して機能することができる場合もあるが、短期記憶の欠如、複雑なタスクまたは問題解決についての困難さを有し得る。軽度認知症は、例えば、8~23/30のMSSEスコア、65~76/100のACE-IIIスコア、11~17/30のMOCAスコア、または17~22/30のRUDASスコアによって同定される。
【0025】
「中等度認知障害」または「中等度認知症」という用語は、本明細書において使用されるように、その障害を有する個体が、明確な目に見える精神障害の徴候を示す、認知症の病期をさす。中等度認知障害は、軽度または初期の認知症と見なされるが、この病期の認知症のための医学用語は「中等度認知機能低下」である。中等度認知障害は、例えば、10~18/30のMMSEスコア、3~10/30のMoCAスコア、35~64/100のACE-IIIスコア、または10~16/30のRUDASスコアによって示される。当業者は、中等度認知障害を示す他のCI試験からのスコア、例えば、適用可能なMoCAスコアまたはTFCスコアに相当する試験スコアを同定することができる。
【0026】
「重度認知症」という用語は、認知および機能の深刻な障害に関連する認知症の病期をさす。症状には、重度記憶障害、見当識障害、口頭言語能力の制限または喪失、失禁、判断能力の欠如、身の回りの世話のための他者への高度の依存等が含まれる。重度認知症は、例えば、10/30未満のMMSE、35/100未満のACE-III、6/30未満(または試験不可)のMOCA、または10/30未満のRUDASによって示される。当業者は、重度認知症を示す他のCI試験からのスコア、例えば、適用可能なMoCAスコアまたはTFCスコアに相当する試験スコアを同定することができる。
【0027】
「治療的有効量」という用語は、対象において疾患または障害を「処置する」ために有効である、抗体、ポリペプチド、ポリヌクレオチド、有機低分子、または他の薬物の量を指す。神経変性障害の場合、治療的有効量の薬物は、障害の症状を軽減することができるか;症状の発生を減少させるか、低下させるか、遅延させるか、もしくは停止させることができるか;症状の重症度を減少させるか、低下させるか、遅延させることができるか;症状の顕在化を阻害すること、例えば、抑制するか、遅延させるか、防止するか、停止させるか、もしくは逆転させることができるか;障害に関連した症状のうちの1つもしくは複数をある程度まで和らげることができるか;罹患率および死亡率を低下させることができるか;生活の質を改善することができるか;またはそのような効果の組み合わせを有する。
【0028】
本明細書において言及されるように、「症状」という用語は、例えば、(1)精神神経症状、(2)認知症状、および(3)運動機能障害を指す。精神神経症状の例は、例えば、不安様行動を含む。認知症状の例は、例えば、学習および記憶の欠陥を含む。運動機能障害の例は、例えば、自発運動を含む。
【0029】
「Total Functional Capacity(TFC)」という用語は、本明細書において言及されるように、労働能力、資金管理能力、家事およびセルフケアタスクを実行する能力、ならびに自立して生活する能力を評価するために使用されるShoulston-Fahnの標準化されたスケールに関する。TFCスケールは、13(正常)から0(重度能力障害)までの範囲であり、スコアが高いほど、機能性が高いことを示す。TFCは、機能性低下に基づく疾患重症度のレベルを示す5つの病期に区分されている。11~13のTFCスコアは第I期(最も軽度);7~10は第II期;3~6は第III期;1~2は第IV期を表し;0というスコアは第V期(最も重度)である。TFCは、ハンチントン病の病期の決定における標準的な臨床評価ツールである(Unified Huntington's Disease Rating Scale:reliability and consistency.Huntington Study Group.Mov Disord.1996;11(2):136-142)。TFCおよびTotal Motor Score(TMS)は、UHDRSの構成要素である。
【0030】
本明細書において使用されるように、「Unified Huntington Disease Rating Scale(UHDRS)Total Motor Score(TMS)」という用語は、HDにおける運動機能の最も広く使用されている尺度をさす。UHDRS-TMSは、眼球運動、舞踏病(chorea)(舞踏(jerky)運動)、ジストニア(筋肉の痙攣および捻転)、動作緩慢(動作の遅さ)、ならびに固縮(硬直)という5つの領域で、標準化された評定によってHDの運動特性を評価する。5つの領域の各々において、31項目が、0(正常)から4(最も重度の障害)までの範囲の5点スケールで、個々に評定される。31項目全てのスコアの合計をUHDRS-TMSと呼ぶ。UHDRS-TMSの範囲は、0~124であり、スコアが高いほど、運動障害が重度であることを示す。
【0031】
「Montreal Cognitive Assessment」(MoCA)という用語は、本明細書において使用されるように、軽度認知障害(MCI)、およびアルツハイマー病(AD)の病期、ならびにその他の神経変性障害の検出を補助するために設計された、検証済みの迅速認知スクリーニング試験をさす。それは、種々の認知領域:注意および集中、実行機能、記憶、言語、視覚構成能力、概念的思考、計算、ならびに見当識を評価する。可能な総スコアは30点であり;26以上のスコアは正常と見なされ、スコア19~25は軽度認知障害(MCI)を示唆し、11~21のスコアは軽度ADと見なされ、6~10のスコアは中等度認知症を示唆する。MoCAスコアは、認知症または認知機能低下に関連する任意の障害を評価するために使用され得る(Nasreddine ZS et al.The Montreal Cognitive Assessment,MoCA:a brief screening tool for mild cognitive impairment.J Am Geriatr Soc.2005;53(4):695-9)。
【0032】
「Huntington Disease Cognitive Assessment Battery」(HD-CAB)という用語は、本明細書において使用されるように、Huntington Disease Cognitive Assessment Battery(HD-CAB)を構成する6つの試験:Symbol Digit Modalities Test(SDMT)、Paced Tapping(PTAP)、One Touch Stockings of Cambridge(OTS)、Emotion Recognition(EMO)、Trail Making B(TRAILS-B)、およびHopkins Verbal Learning Test(HVLT R)をさす。これらの試験は、病状に対する感度(Cohenのd効果量:初期HD=-1.38~-1.90、プレHD=-0.41~-0.78)、および許容される信頼性(r's 0.73~0.93)を示すために使用される。コンポジットスコアは、大きい効果量(初期HD=-2.44、プレHD=-0.87)、および高い信頼性(r=0.95)を示す。このバッテリは、大きい効果量、ならびに高い信頼性、ならびに十分に特徴決定された精神測定および練習効果と共に、病状に対する高い感度を有する。HD-CABを構成する試験のバッテリは、症状改善および機能低下の緩徐化の両方を検出するのに十分な範囲を提供する。6つ全てのHD-CAB構成要素試験の結果を要約した統計量であるHD-CABコンポジットは、6つ全ての試験のzスコアの合計である。HD-CABは、以下の認知領域を測定する:実行機能、注意、記憶、視空間的処理、タイミング、および感情処理。HDなどの多面的な疾患において、HD-CABコンポジットは、単一のHD-CAB構成要素より、疾患の複雑さを捉える可能性が高い。個体によって、そして疾患の進行度によって、ある特定の認知領域が他より大きく影響を受ける。単一の領域を測定する単一のHD-CAB構成要素が、全ての個体においてHDの認知障害の程度および範囲を捉える可能性は低い。複数の認知領域を反映するコンポジットエンドポイントへと尺度を組み合わせることによって、認知効果をより完全に捉えることが可能になる。HD-CABコンポジットの値が高いほど、認知機能性が高いことを示す(Stout JC,Queller S,Baker KN,et al.HD-CAB:a cognitive assessment battery for clinical trials in Huntington's disease.Mov Disord.2014;29(10):1281-1288)。
【0033】
Clinical Global Impressionsスケール(CGI)は、最初に、疾病の重症度(CGI-S);全般的改善(CGI-I);有効性指数(CGI-E)という3つの異なる全般的尺度からなる。CGI-Iスコアは、一般に、一方の改善が他方に続くように、CGI-Sと共に推移する。CGI-SスコアおよびCGI-Iスコアは、時に、解離し得る(本明細書に組み入れられる、Busner and Targum,The Clinical Global Impressions Scales.Psychiatry(Edgemont).(2007)4:28-37)。
【0034】
「Clinical Global Impression of Change(またはImprovement)」(CGIC)という用語は、患者の疾病が、処置介入の開始時のベースライン状態と比べて、どの程度、改善されたか、または悪化したかを、医師が評価することを必要とするスケールをさす。CGICは、個体の全体的な病状に関する単一項目の質問である。それは、研究薬物に対する全体的な反応を、著明悪化(-3)から著明改善(+3)までの範囲の7点リッカートスケールで評価する。処置反応の評定は、治療効力、および処置に関連した有害事象の両方を考慮に入れるべきである。CGICの各構成要素は、別々に評定される(Guy,W.(1976)Assessment Manual for Psychopharmacology.Rockville,MD:US Department of Health,Education,and Welfare Public Health Service Alcohol,Drug Abuse,and Mental Health Administration)。
【0035】
「Clinical Global Impression-Severityスケール(CGI-S)」という用語は、本明細書において使用されるように、同じ診断を有する患者に関する医師の過去の経験と比べて、評価の時点における患者の疾病の重症度を、医師が評定することを必要とする7点スケールをさす。総合的な臨床経験を考慮して、患者は、評定の時点における精神病の重症度について評価される。スコアは、1(正常)から7(極度の精神病)までの範囲である。
【0036】
CGICおよびMoCAは、ADを含むが、それに限定されるわけではない多様な神経変性疾患において利用され;TFC、TMS、およびHD-CABは、HDに特異的である。
【0037】
「Mini Mental State Examination」という用語は、本明細書において使用されるように、精神状態を体系的かつ徹底的に評価するために使用され得る標準化されたツールをさす。それは、見当識、登録(即時記憶)、注意および計算、想起(短期記憶)、ならびに言語という認知機能の5つの分野を測定する11の質問からなる尺度である。最大スコアは30である。23以下のスコアが、認知障害の指標となる(軽度認知障害:24~27/30;軽度認知症:18~23/30;中等度認知症:10~18/23)。28~30/30のスコアは正常と見なされ;National Institute for Health and Care Excellence(NICE)は、21~24を軽度、10~20を中等度認知症、10未満を重度障害と分類している。
【0038】
「Mini-Cog(商標)」という用語は、本明細書において使用されるように、日常的な通院および入院の両方において認知障害を迅速に検出するために使用されるスクリーニングツールをさす。Mini-Cog(商標)は、より徹底的な評価を必要とする個体を同定するための効果的なトリアージツールとして役立つ。Mini-Cog(商標)のClock Drawing Test(CDT)構成要素は、認知機能、記憶、言語理解、視覚運動能力、および実行機能を含む多数の認知領域を医師が迅速に評価することを可能にし、経時的に追跡され得る、正常な成績および損なわれた成績の両方の目に見える記録を提供する。Mini-Cog(商標)は、しばしば、認知障害を検出するための他の試験と組み合わせて使用される。
【0039】
「Quick Mild Cognitive Impairmentスクリーン」(Qmci)とは、本明細書において言及されるように、MCIおよび認知症の早期検出および鑑別診断のための、迅速で妥当な信頼性のある手段として開発された、認知障害についての短時間スクリーニング試験である(O'Caoimh R,Gao Y,McGIade C,Healy L,Gallagher P,Timmons S,Molloy DW(2012)Comparison of the Quick Mild Cognitive Impairment(Qmci) screen and the MMSE in screening for mild cognitive impairment.Age Ageing 41,624-629.;O'Caoimh R,Gao Y,Gallagher P,Eustace J,McGIade C,Molloy DW(2013)Which part of the Quick mild cognitive impairment screen(Qmci) discriminates between normal cognition,mild cognitive impairment and dementia?,Age Ageing 42,324-330)。Qmciは、標準化されたAlzheimer's Disease Assessment Scale-cognitiveセクション、Clinical Dementia Ratingスケール、およびLawton-Brodyの日常生活活動(activities of daily living)スケールと相関する(O'Caoimh R,Svendrovski A,Johnston B,Gao Y,McGIade C,Timmons S,Eustace J,Guyatt G,Molloy DW(2014)Comparison of the Quick mild cognitive impairment screen(Qmci) to the Standardized Alzheimer's Disease Assessment Scale-cognitive section(SADAS-cog) in clinical trials.J Clin Epidemiol 67,87-92)。QmciおよびMoCAは、両方とも、MCIと認知症との区別、ならびに正常認知および主観的記憶愁訴(SMC)と、MCIおよび認知障害(CI)との区別において優れた精度を有する。Qmciは、優れた感度および特異度を有する。62/100未満のスコアリングカットオフで、Cmciは、認知障害の検出のための90%の感度および87%の特異度を有することが示されている(O'Caoimh R,Gao Y,Gallagher P,Eustace J,Molloy W(2014))。
【0040】
本明細書において使用されるように、「Alzheimer's Disease Assessment Scale-Cognitiveサブスケール」(ADAS-Cog試験)という用語は、新たな薬物およびその他の介入についての調査研究および臨床試験において、認知を測定するために最も頻繁に使用されている試験のうちの1つに関する。この試験は、主に、言語および記憶を測定する。ADAS-Cogは、2パートのスケールとして開発されたものであり:1つは、認知機能を測定し、1つは、気分および行動などの非認知機能を測定する。大部分の最近の研究が、認知能力を測定するサブスケールであるADAS-Cogサブスケールを使用している(Kueper JK,Speechley M,Montero-odasso M.The Alzheimer's Disease Assessment Scale-Cognitive Subscale(ADAS-Cog):modifications and responsiveness in pre-dementia populations.A narrative review.J Alzheimer's Dis.2018;63(2):423-444.doi:10.3233/JAD-170991)。ADAS-Cogは、認知の評価を支援し、正常な認知機能性と損なわれた認知機能性とを鑑別する。これは、認知機能低下の程度を決定するために特に有用であり、回答およびスコアに基づき、ある者がアルツハイマー病のどの病期にあるかの評価を支援することができる。ADAS-Cogは、認知機能性の漸進的な改善または低下を決定することができるため、しばしば、臨床試験において使用される(Cano SJ,Posner HB,Moline ML,et al.The ADAS-cog in Alzheimer's disease clinical trials:psychometric evaluation of the sum and its parts.Journal of Neurology,Neurosurgery & Psychiatry 2010;81:1363-1368)。ADAS-Cog試験のスコアリングは、ADAS-Cogの各タスクにおける不正解についての得点に基づき、総スコアは0から70までの範囲である。機能障害が大きいほど、スコアは高くなる。70というスコアは、最も重度の障害を表し、0は、最小の障害を表す(Food and Drug Association.ADAS-Cog Administration and Scoring Manual)。
【0041】
本明細書において言及されるように、「Clinical Dementia Rating Scale Sum of Boxes」(CDR-SOB)とは、ADの重症度を段階分けするために使用される試験である。Texas Alzheimer's Research Consortium Study(Sid E.O'Bryant,PhD,Stephen C.Waring,DVM,PhD,C.Munro Cullum,PhD,James Hall,PhD,Laura Lacritz,PhD,Paul J.Massman,PhD,Philip J.Lupo,MPH,Joan S.Reisch,PhD,Rachelle Doody,MD,PhD,and Texas Alzheimer's Research Consortium,Arch Neurol.2008;65(8):1091-1095.doi:10.1001/archneur.65.8.1091)は、軽度ADが4.5から9.0までのCDR-SOBスコアに及び、中等度ADが9.5から15.5までのCDR-SOBスコアに及ぶと結論付けた。
【0042】
本明細書において言及されるように、「Addenbrooke's Cognitive Examination III」(ACE-III)とは、注意、見当識、記憶、言語、視覚的知覚能力、および視空間的能力の試験から構成されるスクリーニング試験である。これは、認知障害の検出、特に、アルツハイマー病および前頭側頭型認知症の検出において有用である。ACE-III試験は、注意、記憶、流暢性、言語、および視空間的処理という5つの認知領域を試験する19のアクティビティからなる。各アクティビティの結果は、100点(注意についての18点、記憶についての26点、流暢性についての14点、言語についての26点、視空間的処理についての16点)中の総スコアを与えるためスコアリングされる。スコアは、患者の全体的な病歴および検査と関連して解釈される必要があるが、88以上のスコアは正常と見なされ;83未満は認知症の指標となる。
【0043】
「Rowland Universal Dementia Assessment Scale」(RUDAS)とは、本明細書において言及されるように、ベースライン認知成績の評価に対する文化的学習および言語多様性の影響を最小化するために設計された短時間認知スクリーニング手段である。RUDASは、文化および教育のより少ないバイアスを有する可能性が高いため、評価において解釈者によって容易に解釈される。RUDASは、記憶、視空間的見当識、実践、視覚構成描画、記憶想起、および言語の評価を目的とした一連の質問からなる。23~30のスコアは正常と見なされ;スコアが低いほど、障害が重いことを示す。
【0044】
「認知障害評価スコアまたは機能障害評価スコアの決定」という用語は、認知障害(CI)、例えば、神経変性障害に関連するCI、および/または、例えば、HDに関連する機能障害もしくは機能欠損を評価するため、それぞれ、MCI/認知症(認知能力)またはHD(機能的能力)についての標準化されたスクリーニング試験、例えば、MoCA試験またはTFC試験を使用して、対象の認知能力および/または機能的能力の試験が実施されることを意味するために、本明細書において使用される。本明細書に記載されるCI試験または機能試験のうちの任意のもの、例えば、MoCA試験またはTFC試験の結果は、その対象についての全体的なスコアを取得するため、適切なスケールに適用される。同様に、「Montreal Cognitive Assessment(MoCA)スコアの決定」または「Total Functional Capacity(TFC)スコアの決定」という用語は、それぞれ、MoCA試験またはTFC試験を使用した、対象の認知能力または総合機能的能力の試験を意味する。
【0045】
試験は、一般に、資格を有する、かつ/または認定された医療提供者によって実施される。試験および/またはスコアリングを実施する者が、対象の処置も実施する必要はなく、しばしば、そうではない。本開示の方法の目的のため、試験スコア、例えば、MoCAスコアまたはTFCスコアは、処置を施すべきか否かを評価するため、資格を有する、かつ/または認定された医療提供者などの者から取得され得る。
【0046】
「処置」または「軽減」または「改善」などの用語は、1)診断された病理学的状態または障害を治癒する、それを減速させる、その症状を減少させる、それを逆転する、および/またはその進行を停止させる治療的手段、ならびに2)標的とした病理学的状態または障害を予防する、および/またはその発症を緩徐化する防御的手段または予防的手段の両方を指す。従って、処置を必要とする人々は、既に障害を有する人々;障害を有する傾向がある人々;および障害が予防されるべき人々を含む。有益なまたは望ましい臨床結果は、検出可能であろうとまたは検出不可能であろうと、症状の軽減、疾患の程度の縮小、疾患の安定化(すなわち悪化させないこと)、疾患進行の遅延または緩徐化、疾患状態の改善または一時的緩和、および寛解(部分的であろうとまたは全体的であろうと)、あるいはそれらの任意の組み合わせを含むが、これらに限定されない。「処置」とはまた、処置を受けていない場合に期待される生存と比較した際に延長した生存も意味することができる。処置を必要とする人々は、既に状態もしくは障害を有する人々、および、状態もしくは障害を有する傾向がある人々、または、状態もしくは障害が予防されるべき人々を含む。
【0047】
「対象」または「個体」または「患者」により、任意の対象、特にヒトが意味される。
【0048】
本明細書において使用されるように、句「抗SEMA4D抗体の投与から恩恵を受けるであろう対象」は、例えば、SEMA4Dポリペプチドの検出のために(例えば診断手順のために)使用される抗SEMA4D抗体もしくは他のSEMA4D結合分子の投与から、および/または、抗SEMA4D抗体もしくは他のSEMA4D結合分子での処置、すなわち疾患の軽減または予防から恩恵を受けるであろうヒト対象を含む。
【0049】
本開示の「結合分子」または「抗原結合分子」は、その最も広い意味において、抗原決定基に特異的に結合する分子を指す。1つの態様において、結合分子は、SEMA4Dに、例えば、約150 kDaの膜貫通SEMA4Dポリペプチドまたは約120 kDaの可溶性SEMA4Dポリペプチド(一般的にsSEMA4Dと呼ばれる)に特異的に結合する。一部の態様において、本開示の結合分子は、抗体またはその抗原結合断片である。別の態様において、本開示の結合分子は、抗体分子の少なくとも1個の重鎖CDRまたは軽鎖CDRを含む。別の態様において、本開示の結合分子は、1種または複数の抗体分子由来の少なくとも2個のCDRを含む。別の態様において、本開示の結合分子は、1種または複数の抗体分子由来の少なくとも3個のCDRを含む。別の態様において、本開示の結合分子は、1種または複数の抗体分子由来の少なくとも4個のCDRを含む。別の態様において、本開示の結合分子は、1種または複数の抗体分子由来の少なくとも5個のCDRを含む。別の態様において、本開示の結合分子は、1種または複数の抗体分子由来の少なくとも6個のCDRを含む。
【0050】
本開示は、処置のための対象を選択する方法、セマフォリン4D(SEMA4D)アンタゴニスト抗体またはその抗原結合断片が処置において有効であるか否かを決定する方法、および神経変性障害を有する対象、神経変性障害を有すると推測される対象、または神経変性障害を有すると診断された対象における症状を処置するか、または軽減する方法に関する。本開示の方法は、標準化された認知評価試験のうちの任意の1つもしくは複数、例えば、本明細書に記載される試験もしくはその他の妥当な標準化された認知評価試験、例えば、(本明細書に記載される)MoCAおよび/もしくはTFCの使用を通して、対象の認知障害評価スコアを決定すること、ならびに処置のための対象を選択すること、処置が成功する可能性が高いか否かを決定すること、または試験スコア、例えば、MoCAスコアおよび/もしくはTFCスコアが所定の値を満たす場合に、適宜、抗SEMA4D結合分子、例えば、抗体、もしくはその抗原結合断片、変異体、もしくは誘導体を対象に投与すること(即ち、処置すること)を含む。全長抗体、例えば、天然に存在する抗体に具体的に言及していない限り、「抗SEMA4D抗体」という用語は、全長抗体のみならず、そのような抗体の抗原結合断片、変異体、類似体、もしくは誘導体も包含し、例えば、天然に存在する抗体もしくは免疫グロブリン分子、または抗体分子と類似した様式で抗原と結合する改変型抗体分子もしくは断片を包含する。
【0051】
本明細書において使用されるように、「ヒト」抗体または「完全ヒト」抗体は、ヒト免疫グロブリンのアミノ酸配列を有する抗体を含み、ヒト免疫グロブリンライブラリーから、または、下記および例えばKucherlapatiらによる米国特許第5,939,598号に記載されるような、1種または複数のヒト免疫グロブリンの遺伝子導入動物であって、内因性の免疫グロブリンを発現しない動物から単離された抗体を含む。「ヒト」抗体または「完全ヒト」抗体は、少なくとも重鎖の可変ドメイン、または少なくとも重鎖および軽鎖の可変ドメインを含み、該可変ドメインがヒト免疫グロブリン可変ドメインのアミノ酸配列を有する抗体もまた含む。
【0052】
「ヒト」抗体または「完全ヒト」抗体は、本明細書において記載される抗体分子(例えば、VH領域および/またはVL領域)の変異体(誘導体を含む)を含むか、それらから本質的になるか、またはそれらからなり、抗体またはその断片がSEMA4Dポリペプチドまたはその断片もしくは変異体に免疫特異的に結合する、上記のような「ヒト」抗体または「完全ヒト」抗体もまた含む。アミノ酸置換を結果として生じる部位特異的変異誘発およびPCR媒介変異誘発を含むがこれらに限定されない、当業者に公知である標準的な技術を、ヒト抗SEMA4D抗体をコードするヌクレオチド配列中に変異を導入するために使用することができる。一部の態様では、変異体(誘導体を含む)は、参照VH領域、VHCDR1、VHCDR2、VHCDR3、VL領域、VLCDR1、VLCDR2、またはVLCDR3に対して、50アミノ酸未満の置換、40アミノ酸未満の置換、30アミノ酸未満の置換、25アミノ酸未満の置換、20アミノ酸未満の置換、15アミノ酸未満の置換、10アミノ酸未満の置換、5アミノ酸未満の置換、4アミノ酸未満の置換、3アミノ酸未満の置換、または2アミノ酸未満の置換をコードする。
【0053】
ある特定の態様において、アミノ酸置換は、下記でさらに議論される保存的アミノ酸置換である。あるいは、変異を、飽和変異誘発などにより、コード配列のすべてまたは一部に沿って無作為に導入することができ、結果として生じた変異体を、活性(例えば、SEMA4Dポリペプチド、例えば、ヒト、マウス、またはヒトおよびマウス両方のSEMA4Dに結合する能力)を保持する変異体を同定するために生物学的活性についてスクリーニングすることができる。「ヒト」抗体または「完全ヒト」抗体のそのような変異体(またはその誘導体)は、「最適化された」または「抗原結合について最適化された」ヒト抗体または完全ヒト抗体と呼ぶこともでき、抗原に対して改善された親和性を有する抗体を含む。
【0054】
「抗体」および「免疫グロブリン」という用語は、本明細書において互換的に使用される。抗体または免疫グロブリンは、少なくとも重鎖の可変ドメインを含み、通常、少なくとも重鎖および軽鎖の可変ドメインを含む。脊椎動物系における基本的な免疫グロブリン構造は、比較的よく理解されている。例えば、Harlow et al. (1988) Antibodies: A Laboratory Manual (2nd ed.; Cold Spring Harbor Laboratory Press)を参照されたい。
【0055】
本明細書において使用されるように、「免疫グロブリン」という用語は、生化学的に区別することができる種々の広範なクラスのポリペプチドを含む。当業者は、重鎖が、ガンマ、ミュー、アルファ、デルタ、またはイプシロン(γ、μ、α、δ、ε)として、それらの中にいくつかのサブクラス(例えばγ1~γ4 γ4. γ4)を伴って分類されることを認識するであろう。抗体の「クラス」をそれぞれIgG、IgM、IgA、IgG、またはIgEと決定することが、この鎖の性質である。免疫グロブリンのサブクラス(アイソタイプ)、例えば、IgG1、IgG2、IgG3、IgG4、IgA1、IgA2などは、十分に特徴決定されており、機能的特殊化を与えることが公知である。これらのクラスおよびアイソタイプの各々の修飾バージョンは、本開示を考慮して当業者が容易に識別可能であり、従って、本開示の範囲内である。すべての免疫グロブリンクラスが、明らかに本開示の範囲内であり、以下の議論は概して、IgGクラスの免疫グロブリン分子に向けられる。IgGに関して、標準的な免疫グロブリン分子は、分子量およそ23,000ダルトンの2個の同一の軽鎖ポリペプチド、および分子量53,000~70,000の2個の同一の重鎖ポリペプチドを含む。4本の鎖は典型的に、ジスルフィド結合により「Y」形態に連結され、軽鎖が、「Y」の口部から始まり可変領域を通して連続して、重鎖をひとまとめにする。
【0056】
軽鎖は、カッパまたはラムダ(κ、λ)のいずれかとして分類される。各重鎖のクラスは、κ軽鎖またはλ軽鎖のいずれと結合しうる。概して、免疫グロブリンがハイブリドーマ、B細胞、または遺伝子改変型宿主細胞のいずれかにより生成される際、軽鎖および重鎖は互いに共有結合し、かつ2個の重鎖の「尾」部分は、共有ジスルフィド結合または非共有結合により互いに結合している。重鎖において、アミノ酸配列は、Y形態の叉状端のN末端から各鎖の底部のC末端までおよぶ。
【0057】
軽鎖および重鎖は両方とも、構造的および機能的な相同性領域に分割される。「定常」および「可変」という用語は、機能的に使用される。この点において、軽鎖の可変ドメイン(VLまたはVK)および重鎖の可変ドメイン(VH)両方の部分は、抗原認識および特異性を決定することが、認識されるであろう。逆に、軽鎖の定常ドメイン(CL)および重鎖の定常ドメイン(典型的にはCH1、CH2、またはCH3)は、分泌、経胎盤移動性、Fc受容体結合、補体結合などのような重要な生物学的特性を与える。慣例により、定常領域ドメインのナンバリングは、抗体の抗原結合部位またはアミノ末端からより遠くなるにつれて増大する。N末端部分が可変領域であり、C末端部分が定常領域である;CH3ドメインおよびCLドメインは典型的には、それぞれ重鎖および軽鎖のカルボキシ末端を含む。
【0058】
上記に示されるように、可変領域は、抗体が抗原上のエピトープを選択的に認識し、かつ特異的に結合することを可能にする。すなわち、抗体のVLドメインおよびVHドメイン、またはこれらの可変ドメイン内の相補性決定領域(CDR)のサブセットは、組み合わさって、三次元の抗原結合部位を規定する可変領域を形成する。この4要素からなる抗体構造は、Yの各腕の末端に存在する抗原結合部位を形成する。より具体的には、抗原結合部位は、VH鎖およびVL鎖の各々上の3個のCDRにより規定される。いくつかの場合には、例えば、ラクダ科の種に由来するかまたはラクダ科の免疫グロブリンに基づいて改変されたある特定の免疫グロブリン分子は、完全な免疫グロブリン分子が軽鎖を有さず、重鎖のみからなり得る。例えば、Hamers-Casterman et al., Nature 363:446-448 (1993)を参照されたい。
【0059】
天然に存在する抗体において、各抗原結合ドメイン中に存在する6個の「相補性決定領域」または「CDR」は、抗体が水性環境においてその三次元形態を呈する際に抗原結合ドメインを形成するように特異的に位置づけられる、アミノ酸の短い非隣接の配列である。「フレームワーク」領域と呼ばれる抗原結合ドメイン中のアミノ酸の残りの部分は、より低い分子間の可変性を示す。フレームワーク領域は、主としてβシート立体配座を採り、CDRは、βシート構造を連結し、いくつかの場合にはその一部を形成するループを形成する。従って、フレームワーク領域は、CDRを鎖間の非共有相互作用により正確な配向に位置づけることを提供する足場を形成するように作用する。位置づけられたCDRにより形成される抗原結合ドメインは、免疫反応性抗原上のエピトープに対して相補性の表面を規定する。この相補性の表面が、抗体のその同起源エピトープに対する非共有結合を促進する。それぞれCDRおよびフレームワーク領域を構成するアミノ酸は、正確に定義されているため(下記参照)、任意の所与の重鎖可変ドメインまたは軽鎖可変ドメインについて当業者が容易に同定することができる。
【0060】
当技術分野内で使用される、および/または受け入れられる用語の2つまたはそれより多い定義がある場合には、本明細書において使用される用語の定義は、それとは反対に明示的に述べられない限り、そのような意味のすべてを含むように意図される。具体例は、重鎖ポリペプチドおよび軽鎖ポリペプチド両方の可変領域内に見出される非隣接の抗原結合部位を記載するための、「相補性決定領域」(「CDR」)という用語の使用である。この特定の領域は、参照により本明細書に組み入れられる、Kabat et al. (1983) U.S. Dept. of Health and Human Services, "Sequences of Proteins of Immunological Interest"およびChothia and Lesk, J. Mol. Biol. 196:901-917 (1987)によって記載されており、定義は、互いに対して比較した際のアミノ酸残基の重複またはサブセットを含む。それにもかかわらず、抗体またはその変異体のCDRに言及するためのいずれかの定義の適用は、本明細書において定義されかつ使用される用語の範囲内であることが意図される。上記で引用される参照文献の各々により定義されるCDRを包含する適切なアミノ酸残基を、比較として下記の表1に示す。特定のCDRを包含する正確な残基の数字は、CDRの配列およびサイズに応じて変動するであろう。当業者は日常的に、抗体の可変領域アミノ酸配列を考慮して、どの残基が特定のCDRを構成するかを決定することができる。
【0061】
(表1)CDRの定義
1
1表1におけるすべてのCDRの定義のナンバリングは、Kabatらにより示されるナンバリング慣例に従う(下記参照)。
【0062】
Kabatらはまた、任意の抗体に適用可能である可変ドメイン配列についてのナンバリングシステムも定義した。当業者は、配列自体を超えるいずれの実験データにも頼ることなく、「Kabatナンバリング」のこのシステムを任意の可変ドメイン配列に明白に割り当てることができる。本明細書において使用されるように、「Kabatナンバリング」とは、Kabat et al. (1983) U.S. Dept. of Health and Human Services, "Sequence of Proteins of Immunological Interest."により示されるナンバリングシステムを指す。別の方法で特定化されない限り、本開示の抗SEMA4D抗体、またはその抗原結合断片、変異体、もしくは誘導体における特定のアミノ酸残基の位置のナンバリングについての言及は、Kabatナンバリングシステムに従う。
【0063】
本開示の抗体、またはその抗原結合断片、変異体、もしくは誘導体は、ポリクローナル抗体、モノクローナル抗体、少なくとも1本の腕がSEMA4Dに特異的である多重特異性抗体および二重特異性抗体、ヒト抗体、ヒト化抗体、霊長類化抗体、またはキメラ抗体、一本鎖抗体、エピトープ結合断片、例えば、Fab、Fab'およびF(ab')2、Fd、Fv、一本鎖Fv(scFv)、ジスルフィド結合Fv(sdFv)、VLドメインまたはVHドメインのいずれかを含む断片、Fab発現ライブラリーにより産生された断片、ならびに抗イディオタイプ(抗Id)抗体(例えば、本明細書において開示される抗SEMA4D抗体に対する抗Id抗体を含む)を含むが、これらに限定されない。ScFv分子は当技術分野において公知であり、例えば、米国特許第5,892,019号に記載されている。本開示の免疫グロブリンまたは抗体分子は、免疫グロブリン分子の任意のタイプ(例えば、IgG、IgE、IgM、IgD、IgA、およびIgY)、クラス(例えば、IgG1、IgG2、IgG3、IgG4、IgA1、およびIgA2など)、またはサブクラスであり得る。
【0064】
本明細書において使用されるように、「重鎖部分」という用語は、免疫グロブリン重鎖に由来するアミノ酸配列を含む。ある特定の態様において、重鎖部分を構成するポリペプチドは、VHドメイン、CH1ドメイン、ヒンジ(例えば、上部、中間部、および/または下部ヒンジ領域)ドメイン、CH2ドメイン、CH3ドメイン、またはその変異体もしくは断片の、少なくとも1つを含む。例えば、本開示における使用のための結合ポリペプチドは、CH1ドメインを構成するポリペプチド鎖;CH1ドメイン、ヒンジドメインの少なくとも一部、およびCH2ドメインを構成するポリペプチド鎖;CH1ドメインおよびCH3ドメインを構成するポリペプチド鎖;CH1ドメイン、ヒンジドメインの少なくとも一部、およびCH3ドメインを構成するポリペプチド鎖、または、CH1ドメイン、ヒンジドメインの少なくとも一部、CH2ドメイン、およびCH3ドメインを構成するポリペプチド鎖を含んでもよい。別の態様において、本開示のポリペプチドは、CH3ドメインを構成するポリペプチド鎖を含む。さらに、本開示における使用のための結合ポリペプチドは、CH2ドメインの少なくとも一部(例えば、CH2ドメインのすべてまたは部分)を欠如していてもよい。上記に示されるように、これらのドメイン(例えば重鎖部分)は、アミノ酸配列において天然に存在する免疫グロブリン分子とは異なるように修飾されてもよいことが、当業者に理解されるであろう。
【0065】
本明細書において開示されるある特定の抗SEMA4D抗体、またはその抗原結合断片、変異体、もしくは誘導体において、多量体の1本のポリペプチド鎖の重鎖部分は、多量体の2本目のポリペプチド鎖上のものと同一である。あるいは、本開示の重鎖部分を含有する単量体は、同一ではない。例えば、各単量体は、例えば二重特異性抗体を形成する、異なる標的結合部位を含んでもよい。
【0066】
本明細書中で開示される方法における使用のための結合分子の重鎖部分は、異なる免疫グロブリン分子に由来してもよい。例えば、ポリペプチドの重鎖部分は、IgG1分子に由来するCH1ドメインおよびIgG3分子に由来するヒンジ領域を含むことができる。別の例において、重鎖部分は、部分的にIgG1分子に、および部分的にIgG3分子に由来するヒンジ領域を含むことができる。別の例において、重鎖部分は、部分的にIgG1分子に、および部分的にIgG4分子に由来するキメラヒンジを含むことができる。
【0067】
本明細書において使用されるように、「軽鎖部分」という用語は、免疫グロブリン軽鎖、例えば、κ軽鎖またはλ軽鎖に由来するアミノ酸配列を含む。一部の局面において、軽鎖部分は、VLドメインまたはCLドメインの少なくとも1つを含む。
【0068】
本明細書において開示される抗SEMA4D抗体、またはその抗原結合断片、変異体、もしくは誘導体は、これらが認識するかまたは特異的に結合する抗原、例えば、本明細書において開示される標的ポリペプチド(例えばSEMA4D)のエピトープまたは部分の観点から記載されるか、または特定化されてもよい。抗体の抗原結合ドメインと特異的に相互作用する標的ポリペプチドの部分が、「エピトープ」または「抗原決定基」である。標的ポリペプチドは、単一のエピトープを含むことができるが、典型的には、少なくとも2個のエピトープを含み、かつ、抗原のサイズ、立体配座、およびタイプに応じて、任意の数のエピトープを含むことができる。さらに、標的ポリペプチド上の「エピトープ」は、非ポリペプチド要素であってもよいか、またはそれを含んでもよく、例えば、エピトープは炭水化物側鎖を含んでもよいことに注意されたい。
【0069】
抗体のためのペプチドまたはポリペプチドエピトープの最小サイズは、約4個~5個のアミノ酸であると考えられている。ペプチドまたはポリペプチドエピトープは、例えば、少なくとも7個、少なくとも9個、または少なくとも約15個~約30個の間のアミノ酸を含有しうる。CDRは、その三次形態において抗原性ペプチドまたはポリペプチドを認識することができるため、エピトープを構成するアミノ酸は、隣接している必要がなく、いくつかの場合には、別個のペプチド鎖上にありうる。本開示の抗SEMA4D抗体により認識されるペプチドまたはポリペプチドエピトープは、少なくとも4個、少なくとも5個、少なくとも6個、少なくとも7個、少なくとも8個、少なくとも9個、少なくとも10個、少なくとも15個、少なくとも20個、少なくとも25個、または約15個~約30個の間の、SEMA4Dの隣接または非隣接のアミノ酸の配列を含有しうる。
【0070】
「特異的に結合する」により、抗体がその抗原結合ドメインを介してエピトープに結合すること、および結合が抗原結合ドメインとエピトープとの間のいくらかの相補性を必然的に伴うことが、概して意味される。この定義に従って、抗体が、無作為の関連のないエピトープに結合するよりも容易に、その抗原結合ドメインを介してそのエピトープに結合する際、抗体はエピトープに「特異的に結合する」と言われる。「特異性」という用語は、それによりある特定の抗体がある特定のエピトープに結合する相対的親和性を認定するために、本明細書において使用される。例えば、抗体「A」は、所与のエピトープに対して抗体「B」よりも高い特異性を有すると考えられ得、または抗体「A」は、関連するエピトープ「D」に対して有するよりも高い特異性でエピトープ「C」に結合すると言うこともできる。
【0071】
「優先的に結合する」により、抗体が、関連する、同様の、相同の、または類似のエピトープに結合するよりも容易に、エピトープに特異的に結合することが意味される。従って、所与のエピトープに「優先的に結合する」抗体は、そのような抗体が関連するエピトープと交差反応し得るにもかかわらず、関連するエピトープよりもそのエピトープに結合する可能性が高いであろう。
【0072】
非限定的な例として、抗体は、第2のエピトープについての抗体の解離定数(KD)より低いKDで第1のエピトープに結合する場合、該第1のエピトープに優先的に結合すると考えられてもよい。別の非限定的な例において、抗体は、第2のエピトープについての抗体のKDより少なくとも1桁低い親和性で第1のエピトープに結合する場合、第1の抗原に優先的に結合すると考えられてもよい。別の非限定的な例において、抗体は、第2のエピトープについての抗体のKDより少なくとも2桁低い親和性で第1のエピトープに結合する場合、第1のエピトープに優先的に結合すると考えられてもよい。
【0073】
別の非限定的な例において、抗体は、第2のエピトープについての抗体のオフ速度(off rate)(k(オフ))より低いk(オフ)で第1のエピトープに結合する場合、第1のエピトープに優先的に結合すると考えられてもよい。別の非限定的な例において、抗体は、第2のエピトープについての抗体のk(オフ)より少なくとも1桁低い親和性で第1のエピトープに結合する場合、第1のエピトープに優先的に結合すると考えられてもよい。別の非限定的な例において、抗体は、第2のエピトープについての抗体のk(オフ)より少なくとも2桁低い親和性で第1のエピトープに結合する場合、第1のエピトープに優先的に結合すると考えられてもよい。本明細書において開示される抗体、または抗原結合断片、変異体、もしくは誘導体は、5×10-2 秒-1、10-2 秒-1、5×10-3 秒-1、または10-3 秒-1より低いかまたはそれと同等のオフ速度(k(オフ))で、本明細書において開示される標的ポリペプチド(例えば、SEMA4D、例えば、ヒト、マウス、またはヒトおよびマウス両方のSEMA4D)またはその断片もしくは変異体に結合すると言いうる。特定の局面において、本開示の抗体は、5×10-4 秒-1、10-4 秒-1、5×10-5 秒-1、または10-5 秒-1、5×10-6 秒-1、10-6 秒-1、5×10-7 秒-1、または10-7 秒-1より低いかまたはそれと同等のオフ速度(k(オフ))で、本明細書において開示される標的ポリペプチド(例えば、SEMA4D、例えば、ヒト、マウス、またはヒトおよびマウス両方のSEMA4D)またはその断片もしくは変異体に結合すると言われてもよい。
【0074】
本明細書において開示される抗体、または抗原結合断片、変異体、もしくは誘導体は、103 M-1秒-1、5×103 M-1秒-1、104 M-1秒-1、または5×104 M-1秒-1より高いかまたはそれと同等のオン速度(on rate)(k(オン))で、本明細書において開示される標的ポリペプチド(例えば、SEMA4D、例えば、ヒト、マウス、またはヒトおよびマウス両方のSEMA4D)またはその断片もしくは変異体に結合すると言われてもよい。一部の局面において、本開示の抗体は、105 M-1秒-1、5×105 M-1秒-1、106 M-1秒-1、または5×106 M-1秒-1、または107 M-1秒-1より高いかまたはそれと同等のオン速度(k(オン))で、本明細書において開示される標的ポリペプチド(例えば、SEMA4D、例えば、ヒト、マウス、またはヒトおよびマウス両方のSEMA4D)またはその断片もしくは変異体に結合すると言うことができる。
【0075】
抗体は、参照抗体のエピトープへの結合をある程度遮断する範囲でそのエピトープに優先的に結合する場合、参照抗体の所与のエピトープへの結合を競合的に阻害すると言われる。競合的阻害は、当技術分野において公知である任意の方法、例えば、競合ELISAアッセイにより測定されてもよい。抗体は、少なくとも90%、少なくとも80%、少なくとも70%、少なくとも60%、または少なくとも50%、参照抗体の所与のエピトープへの結合を競合的に阻害すると言われてもよい。
【0076】
本明細書において使用されるように、「親和性」という用語は、個々のエピトープの免疫グロブリン分子のCDRとの結合の強度の尺度を指す。例えば、Harlow et al. (1988) Antibodies: A Laboratory Manual (Cold Spring Harbor Laboratory Press, 2nd ed.) の27~28ページを参照されたい。本明細書において使用されるように、「結合力」という用語は、免疫グロブリンの集団と抗原との間の複合体の全体の安定性、すなわち、免疫グロブリン混合物の抗原との機能的結合強度を指す。例えば、Harlowの29~34ページを参照されたい。結合力は、集団中の個々の免疫グロブリン分子の特異的なエピトープとの親和性、ならびにまた免疫グロブリンおよび抗原の結合価の両方に関連する。例えば、2価のモノクローナル抗体と、ポリマーなどの高度に反復するエピトープ構造を有する抗原との間の相互作用は、高い結合力の1つであろう。
【0077】
本開示の抗SEMA4D抗体、またはその抗原結合断片、変異体、もしくは誘導体はまた、その交差反応性の観点から記載されるか、または特定化されてもよい。本明細書において記載されるように、「交差反応性」という用語は、1種の抗原に特異的な抗体の第2の抗原と反応する能力;2種の異なる抗原性物質の間の関連性の尺度を指す。従って、抗体が、その形成を誘導したエピトープ以外のエピトープに結合する場合、交差反応性である。交差反応性エピトープは、概して、誘導エピトープと同一の相補的構造特性の多くを含有し、いくつかの場合には、実際に元よりも良好に適合し得る。
【0078】
例えば、ある特定の抗体は、関連するが同一ではないエピトープ、例えば、参照エピトープと少なくとも95%、少なくとも90%、少なくとも85%、少なくとも80%、少なくとも75%、少なくとも70%、少なくとも65%、少なくとも60%、少なくとも55%、および少なくとも50%の同一性(当技術分野において公知でありかつ本明細書において記載される方法を用いて算出した際)を有するエピトープに結合する、ある程度の交差反応性を有する。抗体は、参照エピトープと95%未満、90%未満、85%未満、80%未満、75%未満、70%未満、65%未満、60%未満、55%未満、および50%未満の同一性(当技術分野において公知でありかつ本明細書において記載される方法を用いて算出した際)を有するエピトープに結合しない場合、ほとんどまたはまったく交差反応性を有さないと言われてもよい。抗体は、そのエピトープの任意の他の類似体、オーソログ、または相同体に結合しない場合、ある特定のエピトープについて「高度に特異的」であると考えられてもよい。
【0079】
本開示の抗SEMA4D結合分子、例えば、抗体、またはその抗原結合断片、変異体、もしくは誘導体はまた、本開示のポリペプチド、例えば、SEMA4D、例えば、ヒト、マウス、またはヒトおよびマウス両方のSEMA4Dに対するその結合親和性の観点から記載されるか、または特定化されてもよい。特定の局面において、結合親和性は、5×10-2 M、10-2 M、5×10-3 M、10-3 M、5×10-4 M、10-4 M、5×10-5 M、10-5 M、5×10-6 M、10-6 M、5×10-7 M、10-7 M、5×10-8 M、10-8 M、5×10-9 M、10-9 M、5×10-10 M、10-10 M、5×10-11 M、10-11 M、5×10-12 M、10-12 M、5×10-13 M、10-13 M、5×10-14 M、10-14 M、5×10-15 M、または10-15 Mより低い解離定数またはKdを有するものを含む。ある特定の態様において、本開示の抗SEMA4D結合分子、例えば、抗体またはその抗原結合断片は、約5×10-9~約6×10-9のKdでヒトSEMA4Dに結合する。別の態様において、本開示の抗SEMA4D結合分子、例えば、抗体またはその抗原結合断片は、約1×10-9~約2×10-9のKdでマウスSEMA4Dに結合する。
【0080】
本明細書において使用されるように、「キメラ抗体」という用語は、免疫反応性領域または部位が第1の種から取得されているかまたは由来し、かつ、定常領域(本開示に従って、無傷であるか、部分的であるか、または修飾されていてもよい)が第2の種から取得されている任意の抗体を意味すると考えられるであろう。特定の態様において、標的結合領域または部位は、非ヒト供給源(例えば、マウスまたは霊長類)由来であると考えられ、かつ、定常領域はヒトである。
【0081】
本明細書において使用されるように、「改変型抗体」という用語は、重鎖または軽鎖のいずれかまたは両方における可変ドメインが、公知の特異性の抗体由来の1個または複数のCDRの少なくとも部分的な置換により、ならびに、必要な場合、部分的なフレーム領域の置換および配列交換により変更されている抗体を指す。CDRは、フレームワーク領域が由来する抗体と同一のクラスまたはさらにサブクラスの抗体に由来してもよいが、CDRが異なるクラスの抗体、または異なる種由来の抗体に由来することが、想定される。公知の特異性の非ヒト抗体由来の1個または複数の「ドナー」CDRがヒト重鎖または軽鎖のフレームワーク領域中に移植されている、改変型抗体は、本明細書において「ヒト化抗体」と呼ばれる。1個の可変ドメインの抗原結合能力を別の可変ドメインに移すために、CDRのすべてをドナー可変ドメイン由来の完全なCDRで置換することは、必ずしも必要ではない。むしろ、標的結合部位の活性を維持するために必要とされる残基のみを移すことができる。
【0082】
ヒト化抗体の重鎖または軽鎖または両方における可変ドメイン内のフレームワーク領域は、ヒト起源の残基のみを含んでもよいことがさらに認識され、この場合、ヒト化抗体のこれらのフレームワーク領域は、「完全ヒトフレームワーク領域」と呼ばれる(例えば、全体として参照により本明細書に組み入れられる米国特許出願公開第2010/0285036 A1号においてMAb 2503として開示されているMAb 1515/2503または67)。あるいは、ドナー可変ドメインのフレームワーク領域の1個または複数の残基は、SEMA4D抗原に対する妥当な結合を維持するためまたは結合を増強するために、必要な場合、ヒト化抗体の重鎖または軽鎖または両方における可変ドメインのヒトフレームワーク領域の対応する位置の中で、改変することができる。この様式において改変されているヒトフレームワーク領域は、従って、ヒトおよびドナーのフレームワーク残基の混合物を含み、本明細書において「部分的ヒトフレームワーク領域」と呼ばれる。
【0083】
例えば、抗SEMA4D抗体のヒト化は、Winterおよび共同研究者の方法に従って(Jones et al., Nature 321:522-525 (1986);Riechmann et al., Nature 332:323-327 (1988);Verhoeyen et al., Science 239:1534-1536 (1988))、げっ歯類または変異げっ歯類のCDRまたはCDR配列を、ヒト抗SEMA4D抗体の対応する配列と置換することにより、本質的に行うことができる。参照により本明細書に組み入れられる、米国特許第5,225,539号;米国特許第5,585,089号;米国特許第5,693,761号;米国特許第5,693,762号;米国特許第5,859,205号もまた参照されたい。結果として生じたヒト化抗SEMA4D抗体は、ヒト化抗体の重鎖および/または軽鎖の可変ドメインの完全ヒトフレームワーク領域内に少なくとも1個のげっ歯類または変異げっ歯類のCDRを含むであろう。いくつかの例において、ヒト化抗SEMA4D抗体の1個または複数の可変ドメインのフレームワーク領域内の残基は、対応する非ヒト(例えばげっ歯類)残基により置換されており(例えば、米国特許第5,585,089号;米国特許第5,693,761号;米国特許第5,693,762号;および米国特許第6,180,370号を参照されたい)、その場合、結果として生じたヒト化抗SEMA4D抗体は、重鎖および/または軽鎖の可変ドメイン内に部分的ヒトフレームワーク領域を含むであろう。
【0084】
さらに、ヒト化抗体は、レシピエント抗体中またはドナー抗体中に見出されない残基を含むことができる。これらの修飾は、抗体の性能をさらに磨くために(例えば望ましい親和性を得るために)なされる。概して、ヒト化抗体は、少なくとも1個の、および典型的には2個の可変ドメインの実質的にすべてを含むと考えられ、その中で、CDRのすべてまたは実質的にすべては、非ヒト免疫グロブリンのものに対応し、フレームワーク領域のすべてまたは実質的にすべては、ヒト免疫グロブリン配列のものである。ヒト化抗体は任意で、免疫グロブリン定常領域(Fc)の少なくとも一部、典型的にはヒト免疫グロブリンのものも含むであろう。さらに詳細には、参照により本明細書に組み入れられるJones et al., Nature 331:522-525 (1986);Riechmann et al., Nature 332:323-329 (1988);およびPresta, Curr. Op. Struct. Biol. 2:593-596 (1992)を参照されたい。従って、そのような「ヒト化」抗体は、無傷のヒト可変ドメインが非ヒト種由来の対応する配列により置換されているとは実質的に言えない抗体を含んでもよい。実際には、ヒト化抗体は、典型的に、いくつかのCDR残基および場合によりいくつかのフレームワーク残基が、げっ歯類抗体中の類似した部位由来の残基により置換されているヒト抗体である。例えば、米国特許第5,225,539号;米国特許第5,585,089号;米国特許第5,693,761号;米国特許第5,693,762号;米国特許第5,859,205号を参照されたい。また、あらかじめ決定された抗原について改善された親和性を有するヒト化抗体を産生するためのヒト化抗体および技術が開示されている、米国特許第6,180,370号、および国際公開公報第01/27160号も参照されたい。
【0085】
本明細書において使用されるように、「医療提供者」という用語は、生存している対象、例えば、ヒト患者と直接接するかまたは投与を行う個人または機関を指す。疾患の評価、検査、および処置は一般的に、医療提供者によって行われる。医療提供者の非限定的な例は、医師、看護師、技師、セラピスト、薬剤師、カウンセラー、代替医療実務者、医療施設、医院、病院、救急室、診療所、緊急ケアセンター、代替医療診療所/施設、ならびに一般医学的な、専門医学的な、外科的な、かつ/またはその他の型の処置、評価、維持、治療、薬物治療、および/または助言を含むが、これらに限定されない、患者の健康状態の全部または一部に関する一般的なかつ/または専門的な処置、評価、維持、治療、薬物治療、および/または助言を提供する他の実体を含む。
【0086】
II.標的ポリペプチドの説明
本明細書において使用されるように、「セマフォリン4D」、「SEMA4D」、および「SEMA4Dポリペプチド」という用語は、「SEMA4D」および「Sema4D」のように、互換的に使用される。ある特定の態様において、SEMA4Dは、細胞の表面上に発現しているか、または細胞により分泌される。別の態様において、SEMA4Dは膜結合性である。別の態様において、SEMA4Dは可溶性、例えばsSEMA4Dである。他の態様において、SEMA4Dは、完全なサイズのSEMA4D、またはその断片、またはSEMA4D変異体ポリペプチドを含んでもよく、該SEMA4Dの断片またはSEMA4D変異体ポリペプチドは、完全なサイズのSEMA4Dのいくつかまたはすべての機能特性を保持している。
【0087】
完全なサイズのヒトSEMA4Dタンパク質は、150 kDaの2本のポリペプチド鎖からなるホモ二量体膜貫通タンパク質である。SEMA4Dは、細胞表面受容体のセマフォリンファミリーに属し、CD100とも呼ばれる。ヒトおよびマウス両方のSEMA4D/Sema4Dは、それらの膜貫通型からタンパク質分解性に切断されて120-kDaの可溶型を生じ、2種のSema4Dアイソフォームの存在を示す(Kumanogoh et al., J. Cell Science 116(7):3464 (2003))。セマフォリンは、ニューロンとその適切な標的との間の正確な連結を確立する際に重要な役割を果たす発生中の軸索ガイダンス因子として元来定義された、可溶性タンパク質および膜結合性タンパク質からなる。SEMA4Dは、構造的にクラスIVセマフォリンと考えられ、アミノ末端のシグナル配列の後に、17個の保存されたシステイン残基を含有する特徴的な「セマ」ドメイン、Ig様ドメイン、リジンに富んだストレッチ、疎水性膜貫通領域、および細胞質尾部からなる。
【0088】
SEMA4Dのポリペプチド鎖は、約13アミノ酸のシグナル配列を含み得、約512アミノ酸のセマフォリンドメイン、約65アミノ酸の免疫グロブリン様(Ig様)ドメイン、104アミノ酸のリジンに富んだストレッチ、約19アミノ酸の疎水性膜貫通領域、および110アミノ酸の細胞質尾部をさらに含む。細胞質尾部中のチロシンリン酸化のためのコンセンサス部位は、SEMA4Dのチロシンキナーゼとの予測される会合を支持する(Schlossman, et al., Eds. (1995) Leucocyte Typing V (Oxford University Press, Oxford))。
【0089】
SEMA4Dは、少なくとも3種の機能的受容体、プレキシンB1、プレキシンB2、およびCD72を有することが公知である。受容体の1種であるプレキシンB1は、非リンパ系組織において発現し、SEMA4Dに対する高親和性(1 nM)受容体であることが示されている(Tamagnone et al., Cell 99:71-80 (1999))。プレキシンB1シグナル伝達のSEMA4D刺激は、ニューロンの成長円錐虚脱を誘導すること、ならびにオリゴデンドロサイトの突起伸長虚脱およびアポトーシスを誘導することが示されている(Giraudon et al., J. Immunol. 172:1246-1255 (2004);Giraudon et al., NeuroMolecular Med. 7:207-216 (2005))。プレキシンB1シグナル伝達は、SEMA4Dへの結合後に、R-Rasの不活性化を媒介して、細胞外マトリクスへのインテグリン媒介性付着の減少およびRhoAの活性化をもたらし、細胞骨格の再構成および細胞遊走をもたらす。Kruger et al., Nature Rev. Mol. Cell Biol. 6:789-800 (2005);Pasterkamp, TRENDS in Cell Biology 15:61-64 (2005)を参照されたい。一方、プレキシンB2はSEMA4Dに対して中間的な親和性を有し、最近の報告により、プレキシンB2は成人脳室下帯における皮質ニューロンの遊走ならびに神経芽細胞の増殖および遊走を調節することが示されている(Azzarelli et al,. Nat Commun 2014 Feb 27, 5:3405, DOI: 10.1038/ncomms4405; およびSaha et al., J. Neuroscience, 2012 November 21, 32(47):16892-16905)。
【0090】
リンパ系組織においては、CD72が、低親和性(300nM)SEMA4D受容体として利用されている(Kumanogoh et al., Immunity 13:621-631 (2000))。B細胞およびAPCがCD72を発現し、抗CD72抗体は、CD40により誘導されるB細胞応答およびCD23のB細胞切断の増強などの、sSEMA4Dと同一の作用の多くを有する。CD72は、多くの抑制性受容体と会合することができるチロシンホスファターゼSHP-1を動員することにより、B細胞応答の負の制御因子として働くと考えられている。SEMA4DのCD72との相互作用は、SHP-1の解離、およびこの負の活性化シグナルの損失を結果としてもたらす。SEMA4Dは、インビトロでT細胞刺激ならびにB細胞の凝集および生存を促進することが報告されている。SEMA4D発現細胞またはsSEMA4Dの添加によって、インビトロでCD40により誘導されるB細胞増殖および免疫グロブリン産生が増強され、ならびにインビボの抗体応答が加速化される(Ishida et al., Inter. Immunol. 15:1027-1034 (2003);Kumanogoh and H. Kukutani, Trends in Immunol. 22:670-676 (2001))。sSEMA4Dは、共刺激分子の上方制御およびIL-12の分泌の増加を含む、CD40により誘導される樹状細胞(DC)の成熟を増強する。さらに、sSEMA4Dは、免疫細胞の遊走を阻害することができ、それは、遮断する抗SEMA4D抗体の添加により逆転させることができる(Elhabazi et al., J. Immunol. 166:4341-4347 (2001);Delaire et al., J. Immunol. 166:4348-4354 (2001))。
【0091】
Sema4Dは、脾臓、胸腺、およびリンパ節を含むリンパ系器官において、ならびに、脳、心臓、および腎臓などの非リンパ系器官において高レベルで発現している。リンパ系器官において、Sema4Dは、休止T細胞上に豊富に発現しているが、休止B細胞、およびDCなどの抗原提示細胞(APC)上には弱くしか発現していない。細胞の活性化により、SEMA4Dの表面発現および可溶性SEMA4D(sSEMA4D)の生成が増加する。
【0092】
SEMA4Dの発現パターンにより、SEMA4Dが免疫系において重要な生理学的役割および病理学的役割を果たすことが示唆される。SEMA4Dは、B細胞の活性化、凝集、および生存を促進し;CD40により誘導される増殖および抗体産生を増強し;T細胞依存性抗原に対する抗体応答を増強し;T細胞増殖を増加させ;樹状細胞の成熟およびT細胞を刺激する能力を増強し;かつ脱髄および軸索変性に直接関係していることが、示されている(Shi et al., Immunity 13:633-642 (2000);Kumanogoh et al., J Immunol 169:1175-1181 (2002);およびWatanabe et al., J Immunol 167:4321-4328 (2001))。
【0093】
SEMA4Dノックアウト(SEMA4D-/-)マウスは、SEMA4Dが体液性免疫応答および細胞性免疫応答の両方において重要な役割を果たすことの追加的な証拠を提供している。SEMA4D-/-マウスにおいて、非リンパ系組織の主要な異常性は知られていない。SEMA4D-/-マウス由来のDCは、不十分な同種刺激能力を有し、sSEMA4Dの添加により救出することができる共刺激分子の発現の欠陥を示す。ミエリンオリゴデンドロサイト糖タンパク質特異的なT細胞が、SEMA4Dの非存在下では十分に生成されないため、SEMA4Dが欠損している(SEMA4D-/-)マウスは、ミエリンオリゴデンドロサイト糖タンパク質ペプチドにより誘導される実験的自己免疫性脳脊髄炎を発症することができない(Kumanogoh et al., J Immunol 169:1175-1181 (2002))。有意な量の可溶性SEMA4Dがまた、自己免疫の傾向があるMRL/lprマウス(SLEなどの全身性自己免疫疾患のモデル)の血清中に検出されるが、正常マウスにおいては検出されない。さらに、sSEMA4Dのレベルは、自己抗体のレベルと相関し、年齢とともに増加する(Wang et al., Blood 97:3498-3504 (2001))。可溶性SEMA4Dはまた、脱髄性疾患を有する患者の脳脊髄液および血清中に蓄積することも示されており、sSEMA4Dは、インビトロでヒト多能性神経前駆体(Dev細胞)のアポトーシスを誘導し、かつ、ラットオリゴデンドロサイトの突起伸長を阻害するとともにそのアポトーシスを誘導する(Giraudon et al., J Immunol 172(2):1246-1255 (2004))。このアポトーシスは、抗SEMA4D MAbにより遮断された。
【0094】
III.神経変性におけるアストロサイトおよびミクログリアの役割
アストロサイトは、健常CNSにおいて多くの必須の複雑な機能、例えば、血流の制御、体液/イオン/pH/神経伝達物質恒常性、シナプス形成/機能、エネルギーおよび代謝、ならびに血液脳関門維持を行う特殊なグリア細胞である(Barres B.A.(2008)The mystery and magic of glia:a perspective on their roles in health and disease.Neuron 60:430-440)。アストロサイトは、神経炎症性疾患および神経変性疾患の主要な病理学的特徴として役立つ反応性アストログリオーシスと呼ばれる過程を通して、CNS損傷に反応する。反応性アストログリオーシスが、正常アストロサイト機能の喪失または異常活性の獲得を介して、CNS障害において主要な、または寄与する役割を果たす可能性があることを示す証拠が、増加してきている。多くのCNS疾患における中心的な役割を考えると、疾患進行を効果的に緩徐化し、またはさらには逆転させるため、正常なアストロサイト機能を回復させる新たな分子標的を同定し、厳密に試験することが大いに必要とされる。アストロサイトがCNS疾患に影響し得る可能性のある経路は、いくつか存在する。
【0095】
ミクログリアは、脳内の他の細胞とは異なる細胞系統に由来する脳の常在免疫細胞である。ミクログリアは、脳実質を常時パトロールしている運動性の高い細胞である。活性化されたミクログリアはADの進行に寄与するという報告が存在する(Clayton,K.,"Plaque associated microglia hyper-secrete extracellular vesicles and accelerate tau propagation in a humanized APP mouse model,"Mol.Neurodegen.12021)1-6:18;Pascoal,TA,et al.,Microglial activation and tau propagate joint across Braak stages,Nature Med(2021)27:1592-1599)。逆に、ミクログリア活性化は病原性ではなく防御性であることを示唆するデータも存在する。これには、TREM2変異体が、ミクログリア活性化を低下させ、かつ疾患進行を加速させたという遺伝学的証拠が含まれる(Leyns CE,Gratuze M,Narasimhan S,Jain N,Koscal U,Jiang H,Manis M,Colonna M,Lee VM,Ulrich JD,Holtzman DM."TREM2 function impedes tau seeding in neuritic plaques." Nat.Neurosci.(2019)22,1217-1222;Lee SH,Meilandt WJ,and Hansen DV."Trem2 restrains the enhancement of tau accumulation and neurodegeneration by beta amyloid pathology." Neuron(2021)109:1283-1301;Lewcock JW,Schlepckow K,Di Paolo G,Tahirovic S,Monroe KM,Haass C.Emerging Microglia Biology Defines Novel Therapeutic Approaches for Alzheimer's Disease.Neuron(2020)108:801-821)。
【0096】
これらの研究によって提示された明らかな矛盾にも関わらず、転写パターンのレベルでのミクログリアの不均一性の証拠も存在し、ミクログリアは、活性化/不活性化の状態に依って、防御性または病原性のいずれかであり得ることが示唆されている(Mathys,H.et al."Temporal tracking of microglia activation in neurodegeneration at single-cell resolution."Cell Rep.(2017)21:366-380)。ミクログリアの病原活性は、神経炎症(Leng F,Edison P."Neuroinflammation and microglial activation in Alzheimer disease:where do we go from here?"Nat Rev Neurol(2021)17:157-172)またはタウ凝集核の蔓延の促進に関係している可能性がある。同様に、抗炎症性サイトカインの分泌または食作用およびタウ凝集核の分解は、防御性であり得る。活性化されたミクログリアは、神経変性疾患の初期には防御性であるが、疾患が進行するにつれ、後に病原性表現型を獲得することを示唆するデータもある(Mathys,H.et al.(2017);Fan,Z.,Brooks,D.J.,Okello,A.& Edison,P."An early and late peak in microglial activation in Alzheimer's disease trajectory."Brain(2017)140:792-803)。
【0097】
神経変性状態、例えば、ハンチントン病(HD)、アルツハイマー病(AD)、パーキンソン病(PD)、および筋萎縮性側索硬化症(ALS)において、神経炎症は、脳実質における炎症性メディエーターの存在を伴う、アストロサイトおよびミクログリアの両方を含むグリア細胞の反応性表現型を特徴とする(Ransohoff,(2016),How neuroinflammation contributes to neurodegeneration.Science 353,777-783;Masgrau et al.,(2017),Should we stop saying "glia" and "neuroinflammation"? Trends Mol.Med.23,486-500)。HDにおいて、炎症のコントロールに関連する遺伝子の転写の変化を伴う、ミクログリア、アストロサイト、循環サイトカインレベル、マクロファージ浸潤の変化を同定した研究もある(Crotti and Glass,(2015)"The choreography of neuroinflammation in Huntington's disease."Trends Immunol.36,364-373.;Ransohoff,(2009)Microglial physiology:unique stimuli,specialized responses.Annu.Rev.Immunol.27,119-145)。
【0098】
アストロサイトとミクログリアとの間には相当のクロストークが存在することが、研究によって示されている。ミクログリアとアストロサイトとは、正常な健康状態においても、疾患状態においても、それらの機能を調節するため、接触依存性因子および分泌型因子を介して相互作用する。Liddelowらは、ミクログリアが、アストロサイトを活性化し得ることを示したが(Liddelow S.A.et al.,"Neurotoxic reactive astrocytes are induced by activated microglia".Nature(2017)541:481-487)、Lianらは、アストロサイトが、ミクログリアを活性化し得ることを示した("Astrocyte-microglia cross talk through complement activation modulates amyloid pathology in mouse models of Alzheimer's disease."J.Neurosci.(2016)36:577-589)。最近、ミクログリアは、SEMA4Dを発現し、プレキシンB1/B2受容体を発現するアストロサイトとの相互作用を通して、炎症およびCNS病理を促進するよう活性化されることが示された(Clark et al.,"Barcoded viral tracing of single-cell interactions in central nervous system inflammation,"2021.Science 372,eabf1230)。CNS病理発生を促進するミクログリア-アストロサイト相互作用のメディエーターとしての、SEMA4D-プレキシンB1およびSEMA4D-プレキシンB2によってコントロールされるシグナル伝達経路が、Clarkらによって同定された(Science 372 eabf1230)、したがって、SEMA4D/プレキシンB1/B2経路は、アストロサイトおよびミクログリアの両方を活性化することができるようである。
【0099】
HDおよびADの両方において、神経変性疾患進行中にニューロンがSEMA4Dをアップレギュレートすること(Evans EE,Fisher T,Mishra V et al.,"REGULATION OF GLIAL CELL ACTIVATION AND NEURODEGENERATION BY ANTI-SEMAPHORIN 4D ANTIBODY PEPINEMAB,POTENTIAL TREATMENT FOR ALZHEIMER'S AND HUNTINGTON'S DISEASE."AAT-AD/PD(商標)2020 abstract)、およびアストロサイトがプレキシンB1/B2受容体を発現すること(Clark et al.,Science 372 eabf1230)が、公知である。CNSにおけるアストロサイトとニューロンとの密接な関連性を考えると、SEMA4Dのアップレギュレーションはアストロサイト活性化を誘発し得る可能性が高い。これらの同じ活性化されたアストロサイトは、その後、やはりSEMA4Dを発現するミクログリアを活性化し得る。アストロサイトおよびミクログリアについての役割が活性化の状態によって異なるという証拠を考慮すると、防御性の効果への干渉を制限しながら、これらの細胞の病原性の効果を低下させることができる、薬剤による処置に対して最も受容性が高い神経変性疾患の病期を同定することが、大いに必要とされる。
【0100】
IV.抗SEMA4D抗体
SEMA4Dに結合する抗体は、当技術分野において記載されている。例えば、米国特許第8,496,938号、米国特許出願公開第2008/0219971 A1号、米国特許出願公開第2010/0285036 A1号、米国特許出願公開第2006/0233793 A1号、および米国特許出願公開第2021/0032329A1号、国際特許出願である国際公開公報第93/14125号、国際公開公報第2008/100995号、および国際公開公報第2010/129917号、ならびにHerold et al., Int. Immunol. 7(1): 1-8 (1995)を参照されたく、これらの各々は、全体として参照により本明細書に組み入れられる。
【0101】
ある特定の態様において、抗体は、SEMA4Dの1種または複数のその受容体、例えばプレキシンB1またはプレキシンB2との相互作用を遮断する。これらの特性を有する抗SEMA4D抗体を、本明細書中で提供される方法において使用することができる。使用することができる抗体は、米国特許出願公開第2010/0285036 A1号および米国特許出願公開第2001/0032329A1号に完全に記載されているMAb VX15/2503(ペピネマブ)、67、76、およびD2517、ならびにその抗原結合断片、変異体、または誘導体を含むが、これらに限定されない。本明細書中で提供される方法において使用することができる追加的な抗体は、米国特許出願公開第2006/0233793 A1号に記載されているBD16およびBB18抗体、ならびにその抗原結合断片、変異体、もしくは誘導体;または、米国特許出願公開第2008/0219971 A1号に記載されているMAb 301、MAb 1893、MAb 657、MAb 1807、MAb 1656、MAb 1808、Mab 59、MAb 2191、MAb 2274、MAb 2275、MAb 2276、MAb 2277、MAb 2278、MAb 2279、MAb 2280、MAb 2281、MAb 2282、MAb 2283、MAb 2284、およびMAb 2285の任意、ならびにその任意の断片、変異体、もしくは誘導体を含む。ある特定の態様において、本明細書中で提供される方法における使用のための抗SEMA4D抗体は、ヒト、マウス、またはヒトおよびマウス両方のSEMA4Dに結合する。また、任意の前述の抗体と同一のエピトープに結合する抗体、および/または任意の前述の抗体を競合的に阻害する抗体も有用である。
【0102】
ある特定の態様において、本明細書中で提供される方法において有用である抗SEMA4D抗体、またはその抗原結合断片、変異体、もしくは誘導体は、参照抗SEMA4D抗体分子、例えば上記のもののアミノ酸配列と少なくとも約80%、約85%、約88%、約89%、約90%、約91%、約92%、約93%、約94%、または約95%の配列同一性を有するアミノ酸配列を有する。さらなる態様において、結合分子は、参照抗体と少なくとも約96%、約97%、約98%、約99%、または100%の配列同一性を共有する。
【0103】
別の態様において、本明細書中で提供される方法において有用である抗SEMA4D抗体、またはその抗原結合断片、変異体、もしくは誘導体は、免疫グロブリン重鎖可変ドメイン(VHドメイン)を含むか、それから本質的になるか、またはそれからなり、該VHドメインのCDRの少なくとも1個は、SEQ ID NO: 9、10、または41のCDR1、CDR2、またはCDR3と少なくとも約80%、約85%、約90%、約95%、約96%、約97%、約98%、約99%、または同一であるアミノ酸配列を有する。
【0104】
別の態様において、本明細書中で提供される方法において有用である抗SEMA4D抗体、またはその抗原結合断片、変異体、もしくは誘導体は、免疫グロブリン重鎖可変ドメイン(VHドメイン)を含むか、それから本質的になるか、またはそれからなり、該VHドメインのCDRの少なくとも1個は、SEQ ID NO: 6、SEQ ID NO: 7、SEQ ID NO: 8、SEQ ID NO: 42、SEQ ID NO: 43、またはSEQ ID NO: 44と少なくとも約80%、約85%、約90%、約95%、約96%、約97%、約98%、約99%、または同一であるアミノ酸配列を有する。
【0105】
別の態様において、本明細書中で提供される方法において有用である抗SEMA4D抗体、またはその抗原結合断片、変異体、もしくは誘導体は、免疫グロブリン重鎖可変ドメイン(VHドメイン)を含むか、それから本質的になるか、またはそれからなり、該VHドメインのCDRの少なくとも1個は、SEQ ID NO: 6、SEQ ID NO: 7、SEQ ID NO: 8、SEQ ID NO: 42、SEQ ID NO: 43、またはSEQ ID NO: 44と、1、2、3、4、または5個の保存的アミノ酸置換以外は同一であるアミノ酸配列を有する。
【0106】
別の態様において、本明細書中で提供される方法において有用である抗SEMA4D抗体、またはその抗原結合断片、変異体、もしくは誘導体は、SEQ ID NO: 9、SEQ ID NO: 10、またはSEQ ID NO: 41と少なくとも約80%、約85%、約90%、約91%、約92%、約93%、約94%、約95%、約96%、約97%、約98%、約99%、または100%同一であるアミノ酸配列を有するVHドメインを含むか、それから本質的になるか、またはそれからなり、該コードされたVHドメインを含む抗SEMA4D抗体は、SEMA4Dに特異的または優先的に結合する。
【0107】
別の態様において、本明細書中で提供される方法において有用である抗SEMA4D抗体、またはその抗原結合断片、変異体、もしくは誘導体は、免疫グロブリン軽鎖可変ドメイン(VLドメイン)を含むか、それから本質的になるか、またはそれからなり、該VLドメインのCDRの少なくとも1個は、SEQ ID NO: 17、18、またはSEQ ID NO: 45のCDR1、CDR2、またはCDR3と少なくとも約80%、約85%、約90%、約95%、約96%、約97%、約98%、約99%、または同一であるアミノ酸配列を有する。
【0108】
別の態様において、本明細書中で提供される方法において有用である抗SEMA4D抗体、またはその抗原結合断片、変異体、もしくは誘導体は、免疫グロブリン軽鎖可変ドメイン(VLドメイン)を含むか、それから本質的になるか、またはそれからなり、該VLドメインのCDRの少なくとも1個は、SEQ ID NO: 14、SEQ ID NO: 15、SEQ ID NO: 16、SEQ ID NO: 46、SEQ ID NO: 47、またはSEQ ID NO: 48と少なくとも約80%、約85%、約90%、約95%、約96%、約97%、約98%、約99%、または同一であるアミノ酸配列を有する。
【0109】
別の態様において、本明細書中で提供される方法において有用である抗SEMA4D抗体、またはその抗原結合断片、変異体、もしくは誘導体は、免疫グロブリン軽鎖可変ドメイン(VLドメイン)を含むか、それから本質的になるか、またはそれからなり、該VLドメインのCDRの少なくとも1個は、SEQ ID NO: 14、SEQ ID NO: 15、SEQ ID NO: 16、SEQ ID NO: 46、SEQ ID NO: 47、またはSEQ ID NO: 48と、1、2、3、4、または5個の保存的アミノ酸置換以外は同一であるアミノ酸配列を有する。
【0110】
さらなる態様において、本明細書中で提供される方法において有用である抗SEMA4D抗体、またはその抗原結合断片、変異体、もしくは誘導体は、SEQ ID NO: 17、SEQ ID NO: 18、またはSEQ ID NO: 45と少なくとも約80%、約85%、約90%、約91%、約92%、約93%、約94%、約95%、約96%、約97%、約98%、約99%、または100%同一であるアミノ酸配列を有するVLドメインを含むか、それから本質的になるか、またはそれからなり、該コードされたVLドメインを含む抗SEMA4D抗体は、SEMA4Dに特異的または優先的に結合する。
【0111】
さらなる態様において、本明細書において提供される方法において有用である抗SEMA4D抗体、またはその抗原結合断片、変異体、もしくは誘導体は、それぞれ、SEQ ID NO:17およびSEQ ID NO:9、それぞれ、SEQ ID NO:18およびSEQ ID NO:10、または、それぞれ、SEQ ID NO:45およびSEQ ID NO:41と、少なくとも約80%、約85%、約90%、約91%、約92%、約93%、約94%、約95%、約96%、約97%、約98%、約99%、または100%同一であるアミノ酸配列を各々有する、VLドメインおよびVHドメインを含むか、それらから本質的になるか、またはそれらからなり、ここで、コードされたVLドメインを含む抗SEMA4D抗体は、SEMA4Dと特異的または優先的に結合する。
【0112】
また、本明細書中で提供される方法における使用のために、本明細書において記載されるような抗SEMA4D抗体、またはその抗原結合断片、変異体、もしくは誘導体をコードするポリペプチド、そのようなポリペプチドをコードするポリヌクレオチド、そのようなポリヌクレオチドを含むベクター、およびそのようなベクターまたはポリヌクレオチドを含む宿主細胞も含まれ、すべては、本明細書中で記載される方法における使用のために、抗SEMA4D抗体、またはその抗原結合断片、変異体、もしくは誘導体を産生するためのものである。
【0113】
本開示の抗SEMA4D抗体の適した生物学的に活性を有する変異体を、本開示の方法において使用することができる。そのような変異体は、親抗SEMA4D抗体の望ましい結合特性を保持しているであろう。抗体変異体を作製する方法は、当技術分野において一般的に利用可能である。
【0114】
変異誘発およびヌクレオチド配列変更のための方法は、当技術分野において周知である。例えば、参照により本明細書に組み入れられる、Walker and Gaastra, eds. (1983) Techniques in Molecular Biology (MacMillan Publishing Company, New York);Kunkel, Proc. Natl. Acad. Sci. USA 82:488-492 (1985);Kunkel et al., Methods Enzymol. 154:367-382 (1987);Sambrook et al. (1989) Molecular Cloning: A Laboratory Manual (Cold Spring Harbor, N.Y.);米国特許第4,873,192号;およびこれらにおいて引用される参照文献を参照されたい。関心対象のポリペプチドの生物学的活性に影響を及ぼさない適切なアミノ酸置換についての手引きは、全体として参照により本明細書に組み入れられるAtlas of Protein Sequence and Structure (Natl. Biomed. Res. Found., Washington, D.C.)の345-352ページにおけるDayhoffらのモデル(1978)において見出され得る。Dayhoffらのモデルは、適した保存的アミノ酸置換を決定するために、Point Accepted Mutation(PAM)アミノ酸類似度マトリクス(PAM 250マトリクス)を使用する。特定の態様において、1個のアミノ酸を類似した特性を有する別のアミノ酸と交換するような保存的置換を用いうる。DayhoffらのモデルのPAM250マトリクスにより教示される保存的アミノ酸置換の例は、Gly⇔Ala、Val⇔Ile⇔Leu、Asp⇔Glu、Lys⇔Arg、Asn⇔Gln、およびPhe⇔Trp⇔Tyrを含むが、これらに限定されない。
【0115】
関心対象のポリペプチドである、抗SEMA4D結合分子、例えば、抗体またはその抗原結合断片の変異体を構築する際には、変異体が、例えば、本明細書において記載されるような、例えば、細胞の表面上に発現しているかまたは細胞により分泌されるSEMA4D、例えば、ヒト、マウス、またはヒトおよびマウス両方のSEMA4Dに特異的に結合することができる、およびSEMA4D遮断活性を有する、望ましい特性を保有し続けるように修飾がなされる。明らかに、変異体ポリペプチドをコードするDNA中に作製されるどのような変異も、配列をリーディングフレームの外に置いてはならず、特定の態様においては、mRNAの二次構造を生じ得る相補性領域を創出しない。欧州特許出願公開第75,444号を参照されたい。
【0116】
抗SEMA4D結合分子、例えば、抗体、またはその抗原結合断片、変異体、もしくは誘導体の結合特異性を測定する方法は、標準的な競合結合アッセイ、T細胞またはB細胞による免疫グロブリン分泌をモニタリングするためのアッセイ、T細胞増殖アッセイ、アポトーシスアッセイ、ELISAアッセイなどを含むが、これらに限定されない。例えば、すべてが参照により本明細書に組み入れられる、国際公開公報第93/14125号;Shi et al., Immunity 13:633-642 (2000);Kumanogoh et al., J Immunol 169:1175-1181 (2002);Watanabe et al., J Immunol 167:4321-4328 (2001);Wang et al., Blood 97:3498-3504 (2001);およびGiraudon et al., J Immunol 172(2):1246-1255 (2004)において開示される、そのようなアッセイを参照されたい。
【0117】
本明細書において開示される定常領域、CDR、VHドメイン、またはVLドメインを含む任意の特定のポリペプチドが、別のポリペプチドと少なくとも約65%、約70%、約75%、約80%、約85%、約90%、約91%、約92%、約93%、約94%、約95%、約96%、約97%、約98%、約99%、またはさらに約100%同一であるか否かを、本明細書において議論する際、%同一性は、BESTFITプログラム(Wisconsin Sequence Analysis Package, Version 8 for Unix, Genetics Computer Group, University Research Park, 575 Science Drive, Madison, Wis. 53711)などの、しかしこれに限定されない、当技術分野において公知である方法およびコンピュータプログラム/ソフトウェアを用いて決定することができる。BESTFITは、2種の配列間の相同性の最も高いセグメントを見出すために、Smith and Waterman (1981) Adv. Appl. Math. 2:482-489の局所相同性アルゴリズムを使用する。特定の配列が、例えば、本開示による参照配列と95%同一であるか否かを判定するためにBESTFITまたは任意の他の配列アラインメントプログラムを用いる際は、パラメータを、当然、同一性のパーセンテージが参照ポリペプチド配列の完全長にわたって計算されるように、かつ参照配列中のアミノ酸の総数の5%までの相同性におけるギャップが許容されるように、設定する。
【0118】
本開示の目的で、パーセント配列同一性を、Smith-Waterman相同性検索アルゴリズムを使用して、12のギャップ開始ペナルティおよび2のギャップ伸長ペナルティ、62のBLOSUMマトリクスを有するアフィンギャップ検索を用いて決定してもよい。Smith-Waterman相同性検索アルゴリズムは、Smith and Waterman (1981) Adv. Appl. Math. 2:482-489において教示される。変異体は、例えば、参照抗SEMA4D抗体(例えば、MAb VX15/2503(ペピネマブ)、67、76、またはD2517)と、わずか1~15個のアミノ酸残基、わずか1~10個のアミノ酸残基、例えば6~10個、わずか5個、わずか4個、3個、2個、またはさらに1個のアミノ酸残基が異なっていてもよい。
【0119】
2種の最適に整列化された配列を比較ウインドウにおいて比較することによっても、「配列同一性」の百分率を決定することができる。配列を比較のために最適に整列化するためには、参照配列を一定に保ったまま、比較ウインドウ内のポリヌクレオチド配列またはポリペプチド配列の部分に、付加またはギャップと呼ばれる欠失を含めることができる。最適な整列化とは、ギャップを含んでいるとしても、参照配列と比較配列との間の「同一の」位置の数を可能な限り大きくする整列化である。2004年9月1日時点でNational Center for Biotechnology Informationから入手可能であったプログラム「BLAST 2 Sequences」のバージョンを使用して、2種の配列の間の「配列同一性」百分率を決定することができる。このプログラムには、Karlin and Altschul(Proc. Natl. Acad. Sci. USA 90(12):5873-5877, 1993)のアルゴリズムに基づくプログラムBLASTN(ヌクレオチド配列比較のため)およびBLASTP(ポリペプチド配列比較のため)が組み込まれている。「BLAST 2 Sequences」を利用する時、ワードサイズ(3)、オープンギャップペナルティ(11)、エクステンションギャップペナルティ(1)、ギャップドロップオフ(50)、期待値(10)、およびマトリックスオプションを含むが、これに限定されない、他の必要とされるパラメータについて、2004年9月1日時点でデフォルトパラメータであったパラメータを使用することができる。
【0120】
抗SEMA4抗体の定常領域は、多数の方式でエフェクター機能を変化させるように変異させることができる。例えば、Fc受容体に対する抗体結合を最適化するFc変異を開示している、米国特許第6,737,056B1号および米国特許出願公開第2004/0132101A1号を参照されたい。
【0121】
本明細書中で提供される方法において有用である、ある特定の抗SEMA4D抗体、またはその断片、変異体、もしくは誘導体において、Fc部分を、当技術分野において公知である技術を用いてエフェクター機能を低下させるように変異させることができる。例えば、定常領域ドメインの(点変異または他の手段を通した)欠失または不活性化は、循環する修飾抗体のFc受容体結合を低減させ、それにより腫瘍局在化を増加させることができる。他の場合には、本開示と一致する定常領域修飾は、補体結合を緩和し、従って血清半減期を低減させる。定常領域のさらに他の修飾を、ジスルフィド結合またはオリゴ糖部分を修飾して、抗原特異性または抗体柔軟性の増加による局在化の増強を可能にするために、使用することができる。結果として生じた修飾体の生理学的プロフィール、生物学的利用能、および他の生化学的作用、例えば、腫瘍局在化、生体内分布、および血清半減期は、過度の実験を伴わない周知の免疫学的技術を用いて、容易に測定および定量化することができる。本明細書中で提供される方法における使用のための抗SEMA4D抗体は、例えば、共有結合が抗体のその同起源のエピトープに対する特異的結合を妨げないような、任意のタイプの分子の抗体への共有結合により修飾されている誘導体を含む。例えば、しかし限定としてではなく、抗体誘導体は、例えば、グルコシル化、アセチル化、ペグ化、リン酸化、アミド化、公知の保護基/遮断基による誘導体化、タンパク質分解性切断、細胞性リガンドまたは他のタンパク質への結合などにより修飾されている抗体を含む。多数の化学修飾の任意は、特異的化学切断、アセチル化、ホルミル化などを含むがこれらに限定されない公知の技術により行うことができる。さらに、誘導体は、1個または複数の非古典的アミノ酸を含有することができる。
【0122】
「保存的アミノ酸置換」とは、その中でアミノ酸残基が類似した電荷をもつ側鎖を有するアミノ酸残基と置き換えられているものである。類似した電荷をもつ側鎖を有するアミノ酸残基のファミリーが、当技術分野において定義されている。これらのファミリーは、塩基性側鎖を有するアミノ酸(例えば、リジン、アルギニン、ヒスチジン)、酸性側鎖を有するアミノ酸(例えば、アスパラギン酸、グルタミン酸)、非荷電極性側鎖を有するアミノ酸(例えば、グリシン、アスパラギン、グルタミン、セリン、スレオニン、チロシン、システイン)、非極性側鎖を有するアミノ酸(例えば、アラニン、バリン、ロイシン、イソロイシン、プロリン、フェニルアラニン、メチオニン、トリプトファン)、β分岐側鎖を有するアミノ酸(例えば、スレオニン、バリン、イソロイシン)、および芳香族側鎖を有するアミノ酸(例えば、チロシン、フェニルアラニン、トリプトファン、ヒスチジン)を含む。あるいは、変異を、例えば飽和変異誘発により、コード配列のすべてまたは一部に沿って無作為に導入することができ、結果として生じた変異体を、活性(例えば、抗SEMA4Dポリペプチドに結合する能力、SEMA4Dのその受容体との相互作用を遮断する能力、または、患者における神経変性障害に関連する症状を軽減させる能力)を保持する変異体を同定するために生物学的活性についてスクリーニングすることができる。
【0123】
例えば、抗体分子のフレームワーク領域のみまたはCDR領域のみに変異を導入することが可能である。導入された変異は、サイレント変異または中立ミスセンス変異である、すなわち、抗原に結合する抗体の能力に対して何も効果を有さないか、またはほとんど効果を有さないことができる。これらのタイプの変異は、コドン使用頻度を最適化するため、またはハイブリドーマの抗体産生を改善するために有用であり得る。あるいは、非中立ミスセンス変異は、抗原に結合する抗体の能力を変更してもよい。当業者は、抗原結合活性の無変更または結合活性の変更(例えば、抗原結合活性の改善または抗体特異性の変化)などの望ましい特性を有する変異体分子を、設計しかつ試験することができるであろう。変異誘発後に、コードされたタンパク質を、日常的に発現させてもよく、コードされたタンパク質の機能的活性および/または生物学的活性(例えば、SEMA4Dポリペプチドの少なくとも1個のエピトープに免疫特異的に結合する能力)を、本明細書において記載される技術を用いて、または当技術分野において公知である日常的な修飾技術により、測定することができる。
【0124】
ある特定の態様において、本明細書中で提供される方法における使用のための抗SEMA4D抗体は、少なくとも1個の最適化された相補性決定領域(CDR)を含む。「最適化されたCDR」により、CDRが、最適化されたCDRを含む抗SEMA4D抗体に付与される結合親和性および/または抗SEMA4D活性を改善するように、修飾されかつ最適化されていることが意図される。「抗SEMA4D活性」または「SEMA4D遮断活性」は、SEMA4Dと関連する以下の活性の1つまたは複数を調節する活性を含むことができる:B細胞の活性化、凝集、および生存;CD40により誘導される増殖および抗体産生;T細胞依存性抗原に対する抗体応答;T細胞もしくは他の免疫細胞の増殖;樹状細胞の成熟;脱髄および軸索変性;多能性神経前駆体および/もしくはオリゴデンドロサイトのアポトーシス;内皮細胞遊走の誘導;自発性単球遊走の阻害;細胞表面プレキシンB1もしくは他の受容体に対する結合、または、可溶性SEMA4DもしくはSEMA4D+細胞の表面上に発現しているSEMA4Dと関連する任意の他の活性。抗SEMA4D活性はまた、リンパ腫を含む特定のタイプの癌、自己免疫疾患、中枢神経系(CNS)および末梢神経系(PNS)の炎症性疾患を含む炎症性疾患、移植片拒絶、ならびに浸潤性血管新生を含むが、これらに限定されない、SEMA4Dの発現と関連する疾患の発生率または重症度の低下に帰することができる。マウス抗SEMA4D MAb BD16およびBB18に基づく最適化された抗体の例は、米国特許出願公開第2008/0219971 A1号、国際特許出願である国際公開公報第93/141251号、およびHerold et al., Int. Immunol. 7(1): 1-8 (1995)に記載され、これらの各々は、全体として参照により本明細書に組み入れられる。修飾は、抗SEMA4D抗体が、SEMA4D抗原についての特異性を保持し、かつ改善された結合親和性および/または改善された抗SEMA4D活性を有するように、CDR内のアミノ酸残基の置換を含んでもよい。
【0125】
V.対象の神経変性疾患進行の決定
本開示は、一般に、処置のための対象を選択する方法、対象が処置から利益を得るか否かを決定する方法、および患者、例えば、ヒト患者を処置する(例えば、症状を軽減する)方法に関し、ここで、対象は、進行性神経変性障害を有するか、進行性神経変性障害を有すると診断されているか、または進行性神経変性障害を有すると推測される。方法は、神経変性障害の進行の状態を決定すること、次いで、初期のまたはより軽度の病期の神経変性障害であるが、処置の成功アウトカムに対してより容易に感受性であるよう十分に進行したもの、例えば、MCI、軽度認知症、または中等度の認知症もしくは認知障害を示す1つまたは複数の所定の試験スコアを、対象の神経変性疾患進行が満たす場合に、SEMA4Dと特異的に結合する抗体、またはその抗原結合断片、変異体、もしくは誘導体を投与することを含む。
【0126】
多くの変性神経疾患は、徐々の記憶喪失および認知増悪、ならびに筋機能の増悪を特徴とし、いくつかの場合においては、人格変化も特徴とする。多くの神経変性疾患の特徴は、進行性の神経細胞死である(Yuan J,Yankner BA:Apoptosis in the nervous system.Nature 2000;407:802-809)。神経変性疾患を処置するための多くの薬物は、症状改善を提供するに過ぎず、例えば、ADを有する患者において、認知機能低下を逆転させるか、または緩徐化することはできない。薬物開発努力の不成功の多くは、大部分において、不十分な疾患特徴決定による。科学および医学の分野は、これらの神経変性疾患のうちの多くのものの病態生理学、直接的な原因、ならびにこれらの疾患が患者によって異なって現れ得る理由もしくは方法、または進行に影響する生化学的な経路および因子について、未だ十分な理解を有していない。神経変性疾患進行の解明は、疾患の進行を緩徐化するよう設計された治療剤の開発にとって不可欠である。
【0127】
神経変性疾患を適切に診断するためのバイオマーカーが存在しない場合、例えば、PD、HD、およびADの徴候および症状が出現した時には、その疾患を効果的に処置するには手遅れであり得る。したがって、疾患過程の十分に初期に使用された場合に大きい利益を有し得る有望なアプローチが、進行した疾患の病期においては無効であると判明する可能性があり、このことは、バイオマーカーの緊急性についてさらに詳しく説明している。
【0128】
本開示は、対象が抗SEMA4D抗体による処置から利益を得る可能性が高いか否かを決定して、早期介入を可能にするため、対象の病状または疾患進行の病期に関する臨床情報を適用する方法を提供する。神経変性障害を有すると診断された対象、神経変性障害を有すると推測される対象、または神経変性障害を有する対象は、障害の進行を決定するため、精神状態(例えば、認知機能低下、認知症等)および神経生理学的状態(例えば、バランス、運動失調、筋攣縮等)を決定するための任意の数の検証済みの標準化された試験によって評価され得る。神経心理学的試験は、一般に、認知を評価するため、鉛筆および紙(例えば、時計描画試験)、質疑応答、ならびにコンピュータ化された尺度を使用する。これらの試験は、一般的に、しばしば、性別、教育によって層別化されており、時に、人種によっても層別化されている、同じ年齢範囲の健常者との比較のために利用可能な標準化された規範情報を有する。一般的に、各領域にいくつかの試験を含む、包括的な試験バッテリを実施することによって、認知「表現型」と見なされる強みおよび弱みのプロファイルを確立することが可能であり、それは、鑑別診断の絞り込みを支援する(Weintraub S,Wicklund AH,Salmon DP.The neuropsychological profile of Alzheimer disease.Cold Spring Harb Perspect Med.2012;2(4)a006171)。その他の複数の情報、例えば、気分および行動の症状、薬物治療、併存疾患、家族歴、病歴、ならびに試験に影響し得る緩和因子(mitigating factors)が統合されてもよい。記録レビューおよびインタビューにおいて収集されたこれらのデータは、試験データ解釈において考慮され、個体の神経行動学的状態、即ち、神経変性障害の病期または相の全体的な特徴決定に寄与する。
【0129】
対象の神経変性状態を評価するためのいくつかの周知のスクリーニング尺度には、例えば、Mini-Mental State Examination[MMSE](Folstein MF,Folstein SE,McHugh PR."Mini-mental state":a practical method for grading the cognitive state of patients for the clinician.J Psychiatr Res.1975;12(3):189-198)、Montreal Cognitive Assessment[MoCA](Nasreddine ZS,Phillips NA,Bedirian V,et al.The Montreal Cognitive Assessment,MoCA:a brief screening tool for mild cognitive impairment.J Am Geriatr Soc.2005;53(4):695-699)、Total Functional Capacity(TFC)およびTotal Motor Score(TMS)が構成要素であるUnified Huntington's Disease Rating Scale(UHDRS)、Huntington's Disease-Cognitive Assessment Battery(HD-CAB)、ならびにClinical Global Impression of Change(CGIC)、ならびに本明細書に記載されるその他のいくつかの試験が含まれる。複数の認知領域を反映するコンポジットエンドポイントへと尺度を組み合わせることによって、認知効果をより完全に捉えることが可能になるため、しばしば、複数のスクリーニング尺度が、患者の神経変性のレベルを評価するために使用される。
【0130】
TFC試験はHDに特異的である。TFCの総スコアは、0から13までの範囲であり、スコアが大きいほど、機能性が高いことを示す。TFCは、機能性低下に基づく疾患重症度のレベルを示す5つの病期に区分されている。11~13のTFCスコアは第I期(最も軽度);7~10は第II期;3~6は第III期;1~2は第IV期を表し;0というスコアは第V期(最も重度)である。
【0131】
MoCAスケールのスコアは、0から30までの範囲であり、26以上のスコアは、一般に、正常な機能性と見なされる。19~25の範囲のMoCAスコアは、軽度認知障害(MCI)を示し;11~21の範囲のMoCAスコアは、軽度ADまたは軽度認知症を示し;6~10のMoCAスコアは、中等度認知症を示す。MoCAは、認知障害に関連した任意の神経変性障害、例えば、HDおよびADを評価するために使用される。
【0132】
本開示は、本開示の抗SEMA4D抗体による処置のための、神経変性障害を有すると診断された対象、神経変性障害を有すると推測される対象、または神経変性障害を有する対象を選択する方法、ならびに、そのような対象が本開示の抗SEMA4D抗体による処置から利益を得るか否かを決定する方法を提供し、最初に、1つまたは複数の認知障害試験、例えば、本明細書に記載されるものを使用して、対象についての認知障害評価スコア、例えば、MoCAおよび/またはTFCスコアを決定(または取得)し、特定の認知試験について所定の値を満たす対象を選択し、かつ/または処置することによって、そのような対象を、本明細書に記載される抗SEMA4D抗体によって処置する方法も提供する。神経変性障害を有すると診断された対象、神経変性障害を有すると推測される対象、または神経変性障害を有する対象であって、本明細書に記載される認知スクリーニングおよび/もしくは機能スクリーニングによって決定されるように、神経変性障害の比較的初期の病期、例えば、MCIに関連する病期、軽度もしくは中等度の認知症、例えば、AD、または第I期もしくは第II期のHDにあると決定された対象は、神経変性障害のより初期またはより後期の病期にある対象より、本開示の抗SEMA4D抗体による処置から利益を得る可能性が高いか、またはよりロバストな利益を有することが、本明細書において示される。より具体的には、認知障害の指標となる26未満、例えば、11~21、15~21、19~21、19~25のMoCAスコア、もしくは11~25もしくは10~25、例えば、10~21の任意のスコアであるか、もしくはそれに相当する1つもしくは複数の認知障害試験スコア、および/または、12以下、例えば、7~12、7~11、7~10、7~9、8~10、8~11、8~12、9~12、9~11、もしくは10~12のTFCスコアであるか、もしくはそれに相当する1つもしくは複数の認知障害試験スコアを呈するそのような対象は、本開示の抗SEMA4D抗体の投与から利益を得ることができる。
【0133】
一般に、1つまたは複数のスコアの試験および評価、スコアの比較、スコアの評価、ならびに処置決定は、1または複数の医療提供者、医療給付提供者、および/または臨床試験室によって実施され得る。
【0134】
本開示の方法は、前記の対象のサブセットを処置するための、抗SEMA4D結合分子、例えば、抗体(その抗原結合断片、変異体、および誘導体を含む)の使用に関する。
【0135】
1つの態様において、処置は、本明細書に記載される、SEMA4Dと結合し、SEMA4Dを中和する抗SEMA4D結合分子、例えば、抗体もしくはその抗原結合断片、またはその他の生物製剤、または低分子の、患者への適用または投与を含み、ここで、患者は、神経変性障害を有するか、または神経変性障害を有すると推測される。別の態様において、処置は、抗SEMA4D結合分子、例えば、抗体またはその抗原結合断片を含む薬学的組成物の、患者への適用または投与も含むものとし、ここで、患者は、神経変性障害を有するか、または神経変性障害を発症するリスクを有する。
【0136】
本明細書に記載される抗SEMA4D結合分子、例えば、抗体またはその結合断片は、様々な神経変性障害の処置のために、特に、前記の時間のウインドウ(または疾患の相)において有用である。いくつかの態様において、神経変性障害の処置は、障害に関連する症状の改善を誘導することが意図される。他の態様において、神経変性障害の処置は、症状発現を低下させるか、減速させるか、またはその増加を中止することが意図される。他の態様において、神経変性障害の処置は、症状の発現を阻害すること、例えば、抑制するか、減速させるか、防止するか、中止するか、または逆転させることが意図される。他の態様において、神経変性障害の処置は、障害に関連する症状のうちの1つまたは複数をある程度緩和することが意図される。これらの状況において、症状は、神経精神症状、認知症状、および/または運動機能障害であり得る。他の態様において、神経変性障害の処置は、罹患率および死亡率を低下させることが意図される。他の態様において、神経変性障害の処置は、生活の質を改善することが意図される。
【0137】
1つの態様において、本開示は、具体的には、障害に関連する症状を改善するための、神経変性障害の処置において使用するための、医薬としての、抗SEMA4D結合分子、例えば、抗体、またはその抗原結合断片、変異体、もしくは誘導体の使用に関する。別の態様において、抗SEMA4D結合分子の使用は、さらなる症状の発現を遅延させるか、または中止する。
【0138】
本開示の方法によると、本明細書中の他の箇所で定義される、少なくとも1つの抗SEMA4D結合分子、例えば、抗体、またはその抗原結合断片、変異体、もしくは誘導体、またはその他の生物製剤、または低分子は、本明細書において同定された対象のサブセットに投与された時に、神経変性障害に関する正の治療反応を促進するために使用され得る。神経変性障害に関する「正の治療反応」とは、障害に関連する症状の改善を含むものとする。そのような正の治療反応は、投与経路に限定されず、ドナー、ドナー組織(例えば、臓器灌流)、宿主、それらの任意の組み合わせ等への投与を含み得る。具体的には、本明細書において提供される方法は、患者における神経変性障害の進行の阻害、防止、低下、軽減、または低減に関する。したがって、例えば、障害の改善は、臨床的に観察可能な症状の欠如、臨床的に観察可能な症状の発生率の減少、または臨床的に観察可能な症状の変化として特徴決定され得る。障害の改善(または悪化)は、対象のベースライン認知状態を診断するために使用されたのと同じ認知評価試験、または他の認知評価試験を使用することによって決定され得る。
【0139】
抗SEMA4D結合分子、例えば、抗体、またはその抗原結合断片、変異体、もしくは誘導体、またはその他の生物製剤、または低分子は、神経変性障害に対する少なくとも1つまたは複数の他の処置と組み合わせて使用されてもよく;ここで、付加的な治療は、抗SEMA4D結合分子、例えば、抗体、またはその抗原結合断片、変異体、もしくは誘導体の投与前、投与中、または投与後に投与される。したがって、組み合わせ治療が、別の治療剤の投与と組み合わせられた、抗SEMA4D結合分子、例えば、抗体、またはその抗原結合断片、変異体、もしくは誘導体の投与を含む場合、本開示の方法は、同時(simultaneous)投与またはいずれかの順序での逐次投与による、別々の製剤または単一の薬学的製剤を使用した、同時投与(coadministration)を包含する。
【0140】
ある特定の態様において、本開示の方法を適用するためには、本明細書に記載される試験のうちの任意のもの、または他の標準化された認知評価試験もしくは機能評価試験、例えば、TFC試験および/もしくはMoCA試験によって、神経変性障害を有すると推測される対象、神経変性障害を有すると診断された対象、または神経変性障害を有する対象のスクリーニングが、SEMA4Dと特異的に結合する有効量の結合分子を含む治療の投与の前に(選択の手段として)または前後両方において取得される。いくつかの場合において、処置の効果を決定するために、治療が開始された後、または治療が終了した後に、例えば、毎月、毎四半期、または毎年、選択された患者から連続的な試験スコアを取得することができる。
【0141】
前記の方法のうちの任意のもののある特定の局面において、神経変性障害は、アルツハイマー病、パーキンソン病(PD)、ハンチントン病(HD)、ダウン症候群、運動失調、筋萎縮性側索硬化症(ALS)、前頭側頭型認知症(FTD)、HIV関連認知障害、CNSループス、軽度認知障害から中等度認知症、またはそれらの組み合わせからなる群より選択される。前記の方法のうちの任意のもののある特定の態様において、神経変性障害は、アルツハイマー病またはハンチントン病である。
【0142】
VI.薬学的組成物および投与法
抗SEMA4D結合分子、例えば、抗体、またはその抗原結合断片、変異体、もしくは誘導体を調製する方法、およびこれらを必要とする対象に投与する方法は、当業者に周知であるか、または当業者により容易に決定される。抗SEMA4D結合分子、例えば、抗体、またはその抗原結合断片、変異体、もしくは誘導体の投与の経路は、例えば、経口であるか、非経口であるか、吸入によるか、または局所であることができる。本明細書において使用される非経口という用語は、例えば、静脈内投与、動脈内投与、腹腔内投与、筋肉内投与、皮下投与、直腸投与、または膣投与を含む。投与のこれらの形態のすべてが、本開示の範囲内であると明らかに企図されるが、投与のための形態の例は、注射用、特に、静脈内または動脈内の注射または点滴用の溶液であろう。注射に適した薬学的組成物は、緩衝剤(例えば、酢酸緩衝剤、リン酸緩衝剤、またはクエン酸緩衝剤)、界面活性剤(例えばポリソルベート)、任意で安定剤(例えばヒトアルブミン)などを含むことができる。
【0143】
本明細書において議論されるように、抗SEMA4D結合分子、例えば、抗体、またはその抗原結合断片、変異体、もしくは誘導体は、神経変性障害のインビボ処置のための薬学的有効量で投与することができる。この点において、開示される結合分子を、投与を容易にし、かつ活性剤の安定性を促進するように製剤化できることが、認識されるであろう。ある特定の態様において、本開示に従う薬学的組成物は、生理食塩水、非毒性緩衝剤、保存薬などのような、薬学的に許容される非毒性の滅菌担体を含む。本出願の目的で、抗SEMA4D結合分子、例えば、抗体、またはその抗原結合断片、変異体、もしくは誘導体の薬学的有効量は、標的に対する有効な結合を達成するため、および有益性を達成するため、例えば、神経変性障害に関連する症状の改善に十分な量を意味すると見なされる。
【0144】
本開示において使用される薬学的組成物は、例えば、イオン交換体、アルミナ、ステアリン酸アルミニウム、レシチン、ヒト血清アルブミンなどの血清タンパク質、リン酸塩などの緩衝物質、グリシン、ソルビン酸、ソルビン酸カリウム、飽和植物脂肪酸の部分グリセリド混合物、水、塩または電解質、例えば、硫酸プロタミン、リン酸水素二ナトリウム、リン酸水素カリウム、塩化ナトリウム、亜鉛塩、コロイド状シリカ、三ケイ酸マグネシウム、ポリビニルピロリドン、セルロースベースの物質、ポリエチレングリコール、カルボキシメチルセルロースナトリウム、ポリアクリラート、ワックス、ポリエチレン-ポリオキシプロピレン-ブロックポリマー、ポリエチレングリコール、および羊毛脂を含む、薬学的に許容される担体を含む。
【0145】
非経口投与のための調製物は、滅菌の水性または非水性の溶液、懸濁液、および乳濁液を含む。非水性溶媒の例は、プロピレングリコール、ポリエチレングリコール、オリーブ油などの植物油、およびオレイン酸エチルなどの注射可能な有機エステルである。水性担体は、例えば、水、食塩水および緩衝媒体を含むアルコール性/水性溶液、乳濁液、または懸濁液を含む。本開示において、薬学的に許容される担体は、0.01~0.1 M、例えば約0.05 Mのリン酸緩衝液または0.8%の食塩水を含むが、これらに限定されない。他の一般的な非経口賦形剤は、リン酸ナトリウム溶液、リンガーデキストロース、デキストロースおよび塩化ナトリウム、乳酸加リンガー溶液、または固定油を含む。静脈内賦形剤は、リンガーデキストロースに基づくものなどのような、流体および栄養補液、電解質補液を含む。例えば、抗微生物薬、抗酸化薬、キレート剤、および不活性ガスなどのような保存薬および他の添加物もまた、存在してもよい。
【0146】
非経口製剤は、単回ボーラス用量、注入、またはその後維持用量が続く負荷ボーラス用量であることができる。これらの組成物は、特異的な固定された間隔もしくは可変の間隔で、例えば1日に1回、または「必要に応じて」随時、投与することができる。
【0147】
本開示において使用されるある特定の薬学的組成物は、例えば、カプセル剤、錠剤、水性懸濁液、または溶液を含む許容される剤形において経口投与することができる。ある特定の薬学的組成物はまた、鼻エアロゾルまたは吸入によっても投与することができる。そのような組成物は、ベンジルアルコールまたは他の適当な保存薬、生物学的利用能を増強するための吸収促進剤、および/または他の従来の可溶化剤もしくは分散剤を使用して、食塩水中の溶液として調製することができる。
【0148】
単一剤形を産生するために担体材料と組み合わされるべき抗SEMA4D結合分子、例えば、抗体、またはその断片、変異体、もしくは誘導体の量は、処置される宿主、および投与の特定の様式に応じて変動すると考えられる。組成物は、単一用量として、複数用量として、または確立された期間にわたって注入において投与することができる。投薬レジメンはまた、最適な望ましい応答(例えば、治療応答または防御応答)を提供するように調整することもできる。
【0149】
本開示の範囲に沿って、抗SEMA4D抗体、またはその抗原結合断片、変異体、もしくは誘導体を、前述の処置の方法に従って治療効果を生じるのに十分な量で、ヒト対象に投与することができる。抗SEMA4D抗体、またはその抗原結合断片、変異体、もしくは誘導体は、公知の技術に従って本開示の抗体を従来の薬学的に許容される担体または希釈剤と組み合わせることにより調製された従来の剤形において、そのようなヒトに投与することができる。薬学的に許容される担体または希釈剤の形態および特徴は、それと組み合わされるべき活性成分の量、投与の経路、および他の周知の変数により規定されることが、当業者により認識されるであろう。当業者はさらに、本開示の抗SEMA4D結合分子、例えば、抗体、またはその抗原結合断片、変異体、もしくは誘導体の1つまたは複数の種を含むカクテルを使用できることを、認識するであろう。
【0150】
症状の発生率の減少ための、本開示の組成物の治療的有効用量は、投与の手段、標的部位、患者の生理学的状態、投与される他の薬剤、および処置が防御的であるかまたは治療的であるかを含む、多くの異なる要因に応じて変動する。処置投薬量を、安全性および有効性を最適化するように、当業者に公知である日常的な方法を用いて滴定してもよい。
【0151】
投与されるべき少なくとも1つの抗SEMA4D結合分子、例えば、抗体、またはその結合断片、変異体、もしくは誘導体の量は、本開示を考慮して過度の実験を伴わずに、当業者が容易に決定する。投与の様式、および少なくとも1つの抗SEMA4D結合分子、例えば、抗体、その抗原結合断片、変異体、または誘導体のそれぞれの量に影響を及ぼす要因は、疾患の重症度、疾患の履歴、ならびに治療を受ける個体の年齢、身長、体重、健康、および身体状態を含むが、これらに限定されない。同様に、投与されるべき抗SEMA4D結合分子、例えば、抗体、またはその断片、変異体、もしくは誘導体の量は、投与の様式、および、対象がこの剤の単一用量を受けるかまたは複数用量を受けるかに依存するであろう。
【0152】
本開示の実施は、別の方法で指示されない限り、当技術分野の技能内である、細胞生物学、細胞培養、分子生物学、遺伝子導入生物学、微生物学、組み換えDNA、および免疫学の従来の技術を使用するであろう。そのような技術は、文献において完全に説明されている。例えば、Sambrook et al., ed. (1989) Molecular Cloning A Laboratory Manual (2nd ed.; Cold Spring Harbor Laboratory Press);Sambrook et al., ed. (1992) Molecular Cloning: A Laboratory Manual, (Cold Springs Harbor Laboratory, NY);D. N. Glover ed., (1985) DNA Cloning, Volumes I and II;Gait, ed. (1984) Oligonucleotide Synthesis;Mullis et al. 米国特許第4,683,195号;Hames and Higgins, eds. (1984) Nucleic Acid Hybridization;Hames and Higgins, eds. (1984) Transcription And Translation;Freshney (1987) Culture Of Animal Cells (Alan R. Liss, Inc.);Immobilized Cells And Enzymes (IRL Press) (1986);Perbal (1984) A Practical Guide To Molecular Cloning;論文であるMethods In Enzymology (Academic Press, Inc., N.Y.);Miller and Calos eds. (1987) Gene Transfer Vectors For Mammalian Cells, (Cold Spring Harbor Laboratory);Wu et al., eds., Methods In Enzymology, Vols. 154 and 155;Mayer and Walker, eds. (1987) Immunochemical Methods In Cell And Molecular Biology (Academic Press, London);Weir and Blackwell, eds., (1986) Handbook Of Experimental Immunology, Volumes I-IV;Manipulating the Mouse Embryo, Cold Spring Harbor Laboratory Press, Cold Spring Harbor, N.Y., (1986);およびAusubel et al. (1989) Current Protocols in Molecular Biology (John Wiley and Sons, Baltimore, Md.)を参照されたい。
【0153】
抗体工学の一般原理は、Borrebaeck, ed. (1995) Antibody Engineering (2nd ed.; Oxford Univ. Press)に示されている。タンパク質工学の一般原理は、Rickwood et al., eds. (1995) Protein Engineering, A Practical Approach (IRL Press at Oxford Univ. Press, Oxford, Eng.)に示されている。抗体および抗体-ハプテン結合の一般原理は、Nisonoff (1984) Molecular Immunology (2nd ed.; Sinauer Associates, Sunderland, Mass.);およびSteward (1984) Antibodies, Their Structure and Function (Chapman and Hall, New York, N.Y.)に示されている。さらに、当技術分野において公知であり、かつ具体的に記載されていない免疫学における標準的な方法は、概して、Current Protocols in Immunology, John Wiley & Sons, New York;Stites et al., eds. (1994) Basic and Clinical Immunology (8th ed; Appleton & Lange, Norwalk, Conn.)、およびMishell and Shiigi (eds) (1980) Selected Methods in Cellular Immunology (W.H. Freeman and Co., NY)におけるように従う。
【0154】
免疫学の一般原理を示す標準的な参照著作物は、Current Protocols in Immunology, John Wiley & Sons, New York;Klein (1982) J., Immunology: The Science of Self-Nonself Discrimination (John Wiley & Sons, NY);Kennett et al., eds. (1980) Monoclonal Antibodies, Hybridoma: A New Dimension in Biological Analyses (Plenum Press, NY);Campbell (1984) "Monoclonal Antibody Technology" in Laboratory Techniques in Biochemistry and Molecular Biology, ed. Burden et al., (Elsevire, Amsterdam);Goldsby et al., eds. (2000) Kuby Immunology (4th ed.; H. Freemand & Co.);Roitt et al. (2001) Immunology (6th ed.; London: Mosby);Abbas et al. (2005) Cellular and Molecular Immunology (5th ed.; Elsevier Health Sciences Division);Kontermann and Dubel (2001) Antibody Engineering (Springer Verlag);Sambrook and Russell (2001) Molecular Cloning: A Laboratory Manual (Cold Spring Harbor Press);Lewin (2003) Genes VIII (Prentice Hall2003);Harlow and Lane (1988) Antibodies: A Laboratory Manual (Cold Spring Harbor Press);Dieffenbach and Dveksler (2003) PCR Primer (Cold Spring Harbor Press)を含む。
【0155】
上記で引用された参照文献のすべて、および本明細書において引用されるすべての参照文献は、全体として参照により本明細書に組み入れられる。
【0156】
以下の実施例は、例証として提供され、限定としては提供されない。
【実施例】
【0157】
実施例1:TFCによって試験され、ベースラインにおいて(TFCスコアが11または12~13の)初期顕性疾患を呈したHD患者を含む2つの対象群を、20mg/kgの抗SEMA4D抗体(ペピネマブ、VX15/2503)、またはVX15/2503用の希釈液(130mM塩化ナトリウムおよび0.02%ポリソルベート80を含有する20mM酢酸ナトリウム(pH5.4)の無菌溶液(保存剤なし))からなるプラセボのいずれかによって毎月処置した。抗体およびプラセボを静脈内投与した。
【0158】
図1は、ベースラインから17ヶ月目までの一次分析期間中の、これらの初期顕性患者における、UHDRS-TFCサブグループ(11および12~13)別の3ヶ月目、5ヶ月目、11ヶ月目、および17ヶ月目のCGICのカテゴリ変化を示す。PBO B1=プラセボ処置;PEPI B1=VX15/2503処置。ベースラインにおいて、わずかに進行した疾患(TFC11)を呈した患者においては、TFCが12~13であった患者と比較して、処置利益の傾向が観察された。ベースラインUHDRS-TFCが11であった対象のうち、ペピネマブによって処置された対象は、プラセボによって処置された対象より、CGICによる病状悪化を有した人数(点線より下の薄い影付きのバーおよび濃い影付きのバー)が少ない(44%対71%)(オッズ比[95%CI]:0.31[0.09、1.12]、名目上の片側p=0.041)。ベースラインにおいてUHDRS-TFCスコアが11であった対象について、ペピネマブによって処置された対象は、プラセボによって処置された対象より、17ヶ月目にCGICの変化を示さなかった人数(白色バー)が多い。対照的に、ベースラインにおいてUHDRS-TFCスコアが12または13であった対象においては、18ヶ月の処置中、処置群間にCGICスコアの検出可能な差は観察されなかった。
【0159】
実施例2:2つの対象群(26未満のMoCAスコアを有していた初期顕性HD患者、および26以上のMoCAスコアを有していた患者(認知正常))を、20mg/kgの抗SEMA4D抗体(VX15/2503、ペピネマブ)、またはVX15/2503用の希釈液(130mM塩化ナトリウムおよび0.02%ポリソルベート80を含有する20mM酢酸ナトリウム(pH5.4)の無菌溶液(保存剤なし))からなるプラセボのいずれかによって毎月処置した。抗体およびプラセボを静脈内投与した。
【0160】
図2は、(認知障害と見なされる)26のMoCAおよび26以上のMoCA(認知正常)の両方を含む、ベースラインMoCAスコアによって層別化された初期顕性対象における、一次分析期間中に観察されたHD-CABコンポジットのベースラインからの平均変化を示す。VX15/2503(ペピネマブ;PEPI)によって処置された患者(四角■)およびプラセボ(PBO)によって処置された患者(丸●)、各群についての各時点における対象の人数nが、下部に記載されており(上列=プラセボによって処置された対象;下列=ペピネマブによって処置された対象)、エラーバーはSEMを表す。HD-CABスコアが大きいほど、認知機能性が高いことを表す。ベースラインにおいて認知障害を示した患者において、プラセボ群においては、HD-CABスコアの検出可能な低下が存在するが、ペピネマブ処置は、プラセボと比較して、認知機能低下の停止、緩徐化、または逆転を示す。対照的に、ベースラインにおいて正常な認知機能性を有していた患者においては、研究の過程で、プラセボ群において最小の機能低下が存在し、処置の違いは明らかでない。
【0161】
実施例3:2つの対象群((認知障害と見なされる)26未満のMoCAスコアを有していた初期顕性HD患者、および26以上のMoCAスコア(認知正常)を有していた患者)を、20mg/kgの抗SEMA4D抗体(VX15/2503、ペピネマブ)、またはVX15/2503用の希釈液(130mM塩化ナトリウムおよび0.02%ポリソルベート80を含有する20mM酢酸ナトリウム(pH5.4)の無菌溶液(保存剤なし))からなるプラセボのいずれかによって毎月処置した。抗体およびプラセボを静脈内投与した。
【0162】
図3は、(認知障害と見なされる)26未満のMoCAおよび26以上のMoCA(認知正常)の両方を含む、ベースラインMoCAスコアによって層別化された初期顕性対象において、一次分析期間中に観察されたTotal Motor Score(TMS)のベースラインからの平均変化を示す。VX15/2503(PEPI)によって処置された患者は、四角(■)によって示され、プラセボ(PBO)によって処置された患者は、丸(●)によって示され、各群についての各時点における対象の人数nが、下部に記載されており(上列=プラセボによって処置された対象、下列=ペピネマブによって処置された対象)、エラーバーはSEMを表す。TMSスコアが低いほど、運動機能が良好であることを表す。ベースラインにおいて認知障害を示す患者においては、プラセボ群において運動障害の増加が存在するが、ペピメマブ処置は、プラセボと比較して運動障害の緩徐化を示す。対照的に、ベースラインにおいて正常な認知機能性を有する患者においては、研究の過程で、プラセボ群において運動障害の最小の変化が存在し、処置の違いは明らかでない。
【0163】
以下の配列は、その全体が参照により本明細書に組み入れられる、米国特許出願第20210032329号に記載される抗体D2517を定義する:
【0164】
本明細書において示される本開示の多くの修飾および他の態様が、前述の説明および関連する図面において提示される教示の恩恵を受ける、これらの開示が属する技術分野の当業者には、思い浮かぶであろう。従って、本開示は、開示された具体的な態様に限定されるべきではないこと、ならびに修飾および他の態様は添付の特許請求の範囲および本明細書において開示される態様の列挙の範囲内に含まれるように意図されることが、理解されるべきである。具体的な用語が本明細書において使用されるが、それらは、一般的で説明的な意味でのみ使用されており、限定の目的で使用されているのではない。
【配列表】
【国際調査報告】