(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公表特許公報(A)
(11)【公表番号】
(43)【公表日】2024-09-30
(54)【発明の名称】メタクリル酸の製造のための方法
(51)【国際特許分類】
C07C 51/235 20060101AFI20240920BHJP
C07C 57/055 20060101ALI20240920BHJP
C07B 61/00 20060101ALN20240920BHJP
【FI】
C07C51/235
C07C57/055 B
C07B61/00 300
【審査請求】未請求
【予備審査請求】未請求
(21)【出願番号】P 2024518896
(86)(22)【出願日】2022-10-05
(85)【翻訳文提出日】2024-04-04
(86)【国際出願番号】 US2022045728
(87)【国際公開番号】W WO2023059681
(87)【国際公開日】2023-04-13
(32)【優先日】2021-10-08
(33)【優先権主張国・地域又は機関】US
(81)【指定国・地域】
(71)【出願人】
【識別番号】502141050
【氏名又は名称】ダウ グローバル テクノロジーズ エルエルシー
(71)【出願人】
【識別番号】590002035
【氏名又は名称】ローム アンド ハース カンパニー
【氏名又は名称原語表記】ROHM AND HAAS COMPANY
(74)【代理人】
【識別番号】100092783
【氏名又は名称】小林 浩
(74)【代理人】
【識別番号】100095360
【氏名又は名称】片山 英二
(74)【代理人】
【識別番号】100120134
【氏名又は名称】大森 規雄
(74)【代理人】
【識別番号】100156476
【氏名又は名称】潮 太朗
(72)【発明者】
【氏名】ボールス、ダニエル エイ.
(72)【発明者】
【氏名】チャクラバーティ、リータム
(72)【発明者】
【氏名】リンバッハ、カーク ダブリュ.
【テーマコード(参考)】
4H006
4H039
【Fターム(参考)】
4H006AA02
4H006AC46
4H006BA05
4H006BC11
4H006BC14
4H006BC34
4H006BC35
4H006BE60
4H006BS10
4H039CA65
4H039CC30
(57)【要約】
a)プロピオンアルデヒド及びホルムアルデヒドからメタクロレインを製造することと、b)工程a)で製造されたメタクロレイン及び水から、酸化反応においてメタクリル酸を製造することと、を含む、メタクリル酸を製造するための方法。工程b)は、1バールを超える圧力で行われる。工程c)は、反応器システム中で、不均一貴金属含有触媒の存在下で液相反応において行われ、反応器システムは酸素含有ガスを含む。工程b)におけるメタクロレインの平均濃度は、水及びメタクロレインの総重量に基づいて40重量%未満である。工程b)の反応器システムは、システムに出入りする水及びメタクロレインの平均量に基づいて、40:1未満の水対メタクロレインの平均比を有する。
【特許請求の範囲】
【請求項1】
メタクリル酸を製造するための方法であって、
a)プロピオンアルデヒド及びホルムアルデヒドからメタクロレインを製造することと、
b)工程a)で製造されたメタクロレイン及び水から、酸化反応においてメタクリル酸を製造することと、を含み、
工程b)が、1バールを超える圧力で行われ、
工程b)が、反応器システム中で、不均一貴金属含有触媒の存在下で液相反応において行われ、前記反応器システムは酸素含有ガスを含み、
工程b)におけるメタクロレインの平均濃度が、水及びメタクロレインの総重量に基づいて40重量%未満であり、
工程b)の前記反応器システムが、前記システムに出入りする水及びメタクロレインの平均量に基づいて、40:1未満の水対メタクロレインの平均比を有する、方法。
【請求項2】
工程b)の前記反応器システムを出る気相中の酸素が、前記気相の総量に基づいて1mol%~7.5mol%の酸素の範囲の量で存在する、請求項1に記載の方法。
【請求項3】
工程b)の前記反応器システムを出る前記気相中の酸素が、前記気相の総量に基づいて2mol%~7.25mol%の範囲の量で存在する、請求項2に記載の方法。
【請求項4】
工程c)の前記反応器システムを出る前記気相中の酸素が、前記気相の総量に基づいて4mol%~7mol%未満の範囲の量で存在する、請求項3に記載の方法。
【請求項5】
前記不均一貴金属含有触媒が、スラリー又は固定床の形態である、請求項1~4のいずれか一項に記載の方法。
【請求項6】
前記不均一貴金属含有触媒が、金を含む、請求項1~5のいずれか一項に記載の方法。
【請求項7】
前記不均一貴金属含有触媒が、1時間にわたって前記反応器システムを出るメタクリル酸のグラム-モル毎に0.02kg~2kgの触媒の範囲の量で存在する、請求項1~6のいずれか一項に記載の方法。
【請求項8】
前記不均一貴金属含有触媒が、1時間にわたって前記反応器システムを出るメタクリル酸のグラム-モル毎に0.0001kg~0.1kgの金の範囲の量で存在する、請求項1~7のいずれか一項に記載の方法。
【請求項9】
工程b)の前記反応器が、マルチゾーン反応器を含む、請求項1~8のいずれか一項に記載の方法。
【請求項10】
工程b)の前記反応器システムが、単一の反応器を備える、請求項1~9のいずれか一項に記載の方法。
【請求項11】
工程b)の前記反応器システムが、2つ以上の反応器を備える、請求項1~9のいずれか一項に記載の方法。
【請求項12】
前記プロピオンアルデヒドをエチレンから製造することを更に含む、請求項1~11のいずれか一項に記載の方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、不均一触媒を使用してメタクロレインからメタクリル酸を調製するための方法に関する。
【背景技術】
【0002】
メタクリル酸を調製するための方法は公知である。例えば、国際公開第2014/146961号は、少なくとも1つのC4化合物の気相酸化によるメタクリル酸又はメタクリル酸の調製のための方法を開示している。
【0003】
欧州特許第3144291号は、メタクリル酸アルキル及びメタクリル酸の調製のための方法を開示しており、この方法では、メタクロレインを第1の反応器中で合成し、メタクロレインを第2の反応器中で酸化的エステル化に供してメタクリル酸アルキルを形成し、第3の反応器中でメタクリル酸アルキルの少なくとも一部を水と反応させてメタクリル酸を形成する。
【0004】
メタクリル酸の効率的な製造において、選択性を最大にし、全ての副生成物の形成を減少させることが望ましい。
【発明の概要】
【0005】
本発明は、メタクリル酸を製造するための方法であって、
a)プロピオンアルデヒド及びホルムアルデヒドからメタクロレインを製造することと、
b)工程a)で製造されたメタクロレイン及び水から、酸化反応においてメタクリル酸を製造することと、を含み、
工程b)が、1バールを超える圧力で行われ、
工程b)が、反応器システム中で、不均一貴金属含有触媒の存在下で液相反応において行われ、反応器システムは酸素含有ガスを含み、
工程b)におけるメタクロレインの平均濃度が、水及びメタクロレインの総重量に基づいて40重量%未満であり、
工程b)の反応器システムが、システムに出入りする水及びメタクロレインの平均量に基づいて、40:1未満の水対メタクロレインの平均比を有する、方法を目的とする。
【発明を実施するための形態】
【0006】
別途記載のない限り、全ての組成比率は重量パーセント(重量%)であり、全ての温度は℃単位である。別途記載のない限り、平均は算術平均である。「平均濃度」は、領域に入る濃度及び領域を出る濃度の算術平均であり、ここで、領域は、個々の反応器、反応器システム、又は反応器若しくは反応器システム内のゾーンである。「平均比」は、別の成分の平均濃度に対する1つの成分の平均濃度の比である。例えば、反応器システム中の水対メタクロレインの平均比は、反応器システムに出入りする水の平均濃度を反応器システムに出入りするメタクロレインの平均濃度で割ることによって計算される。
【0007】
貴金属は、金、プラチナ、イリジウム、オスミウム、銀、パラジウム、ロジウム、及びルテニウムのいずれかである。2つ以上の貴金属が触媒中に存在してもよく、その場合、制限が全ての貴金属の合計に適用される。
【0008】
「触媒中心」は、触媒粒子の重心、すなわち、全ての座標方向における全ての点の平均位置である。直径は、触媒中心を通過する任意の直線寸法であり、平均直径は、全ての可能な直径の算術平均である。アスペクト比は、最長の直径対最短の直径の比である。
【0009】
反応器システムは、指定された反応が行われる1つ以上の反応器を指す。例えば、メタクリル酸を製造するためのメタクロレインの酸化反応は、反応器システム中で行われる指定された反応であり得る。反応器システムは、単一の反応器又は複数の反応器を備えてもよい。更に、反応器システムは、複数のゾーン、すなわちマルチゾーン反応器システムに細分されてもよい。ゾーンは、物理的分離によって、例えば分離した領域を画定する壁若しくはバリアによって、又は反応条件における違いによって、例えば触媒、反応体、若しくは他の反応成分、例えば不活性材料、pH調整剤などの、圧力、温度、組成若しくは濃度によって画定され得る。例えば、反応器システムは、単一のゾーンを備えた単一の反応器、複数のゾーンを備えた単一の反応器、各反応器中に単一のゾーンを備えた複数の反応器、1つ以上の反応器が単一のゾーンを有し、1つ以上の反応器が複数のゾーンを備えた複数の反応器、又はそれぞれが複数のゾーンを備えた複数の反応器を備えることができる。定義によって、複数の反応器を備えた反応器システムは、マルチゾーン反応器システムと考えられ得る。マルチゾーン反応器の例は、1つ以上の混合ゾーン、冷却ゾーン、及び反応が行われる1つ以上の触媒ゾーンを含む複数のゾーンを備えた連続管状反応器であってもよい。マルチゾーン単一反応器の別の例は、液体反応体が循環する触媒ゾーンを画定する触媒を含有する内壁と、反応体が反応器に入り、生成物が反応器を出る、触媒ゾーンの外側の供給/除去ゾーンとを含む撹拌床反応器であってもよい。反応器システムの平均濃度又は任意の比に言及する場合、平均濃度又は比は、反応器システムに入るもの及び反応器システムを出るものに基づいて計算される。
【0010】
反応器システムは、流動床反応器、固定床反応器、トリクルベッド反応器、充填気泡塔反応器、又は撹拌床反応器として構成された反応器を備えることができる。好ましくは、反応器システムは充填気泡塔反応器を備える。
【0011】
触媒は、触媒が存在する反応器に応じて、スラリー又は固定床の形態で存在してもよい。例えば、スラリー触媒は、撹拌床反応器又は流動床反応器で使用することができ、一方、固定床触媒は、固定床反応器、トリクル床反応器、又は充填気泡塔反応器で使用することができる。好ましくは、触媒は固定床反応器の形態である。
【0012】
触媒のサイズは、反応器のタイプに基づいて選択することができる。例えば、スラリー触媒は、200μm未満、例えば、10μm~200μmなどの平均粒径を有し得る。固定床触媒は、200μm以上、例えば、200μm~30mmなどの平均粒径を有し得る。好ましくは、触媒粒子の平均直径は、少なくとも60μm、好ましくは少なくとも100μm、好ましくは少なくとも200μm、好ましくは少なくとも300μm、好ましくは少なくとも400μm、好ましくは少なくとも500μm、好ましくは少なくとも600μm、好ましくは少なくとも700μm、好ましくは少なくとも800μm;好ましくは30mm以下、好ましくは20mm以下、好ましくは10mm以下、好ましくは5mm以下、好ましくは4mm以下、好ましくは3mm以下である。
【0013】
貴金属含有触媒は、貴金属の粒子を含む。好ましくは、貴金属はパラジウム又は金を含み、より好ましくは貴金属は金を含む。
【0014】
貴金属の粒子は、好ましくは、15nm未満、好ましくは12nm未満、より好ましくは10nm未満、更により好ましくは8nm未満の平均粒径を有する。貴金属粒子の平均直径の標準偏差は、+/-5nm、好ましくは+/-2.5nm、より好ましくは+/-2nmである。本明細書で使用される場合、標準偏差は、式:
【数1】
(式中、xは各粒子のサイズであり、x-はn個の粒子の平均であり、nは少なくとも500である)
によって計算される。
【0015】
好ましくは、貴金属含有触媒は、チタン含有粒子を更に含む。
【0016】
チタン含有粒子は、元素チタン又は酸化チタンTiOxを含んでもよい。好ましくは、チタン含有粒子は酸化チタンを含む。
【0017】
チタン含有粒子は、好ましくは、貴金属含有粒子の平均直径の5倍未満の平均直径、より好ましくは貴金属含有粒子の平均直径の4倍未満の平均直径、更により好ましくは貴金属含有粒子の平均直径の3倍未満の平均粒径、更により好ましくは貴金属含有粒子の平均直径の2倍未満の平均粒径、なおもより好ましくは貴金属含有粒子の平均直径の1.5倍未満の平均粒径を有する。
【0018】
チタン含有粒子の量に対する貴金属含有粒子の重量による量は、1:1~1:20の範囲であってもよい。好ましくは、貴金属含有粒子対チタン含有粒子の重量比は、1:2~1:15、より好ましくは1:3~1:10、更により好ましくは1:4~1:9、なおもより好ましくは1:5~1:8の範囲である。
【0019】
好ましくは、貴金属粒子はチタン含有粒子の間に均一に分布している。本明細書で使用される場合、「均一に分布した」という用語は、貴金属粒子が実質的に凝集せずにチタン含有粒子の間にランダムに分散していることを意味する。好ましくは、貴金属粒子の総数の少なくとも80%が、15nm未満の平均直径を有する粒子中に存在する。より好ましくは、貴金属粒子の総数の少なくとも90%が、15nm未満の平均直径を有する粒子中に存在する。更により好ましくは、貴金属粒子の総数の少なくとも95%が、15nm未満の平均直径を有する粒子中に存在する。
【0020】
触媒中の貴金属粒子は、担体材料の表面上に配置されてもよい。好ましくは、担体材料は酸化物材料の粒子であり、好ましくは、γ-、δ-若しくはθ-アルミナ、シリカ、マグネシア、チタニア、ジルコニア、ハフニア、バナジア、酸化ニオブ、酸化タンタル、セリア、イットリア、酸化ランタン、又はこれらの組み合わせである。好ましくは、貴金属を含む触媒の部分において、担体は、10m2/g超、好ましくは30m2/g超、好ましくは50m2/g超、好ましくは100m2/g超、好ましくは120m2/g超の表面積を有する。貴金属をほとんど含まないか、又は全く含まない触媒の部分において、担体は、50m2/g未満、好ましくは20m2/g未満の表面積を有し得る。担体の平均直径と最終触媒粒子の平均直径とが著しく異なることはない。
【0021】
好ましくは、触媒粒子のアスペクト比は、10:1以下、好ましくは5:1以下、好ましくは3:1以下、好ましくは2:1以下、好ましくは1.5:1以下、好ましくは1.1:1以下である。触媒粒子の好ましい形状としては、球、円柱、直方体、輪、多葉形状(例えば、クローバー断面)、複数の穴及び「ワゴンホイール」を有する形状、好ましくは球が挙げられる。不規則な形状も使用され得る。
【0022】
貴金属粒子は、触媒全体にわたって分散され得るか、又は例えば、勾配濃度若しくは層状構造などの様々な濃度密度を有し得る。好ましくは、貴金属(複数可)の少なくとも90重量%は、触媒体積(すなわち、平均触媒粒子の体積)の外側70%、好ましくは触媒体積の外側60%、好ましくは外側50%、好ましくは外側40%、好ましくは外側35%、好ましくは外側30%、好ましくは外側25%である。好ましくは、任意の粒子形状の外側体積は、外側表面に垂直な線に沿って測定された、その内側表面からその外側表面(粒子の表面)まで一定の距離を有する体積に対して計算される。例えば、球形粒子の場合、体積の外側x%は球形シェルであり、その外側表面は粒子の表面であり、その体積は球全体の体積のx%である。好ましくは、貴金属の少なくとも95重量%、好ましくは少なくとも97重量%、好ましくは少なくとも99重量%は、触媒の外側体積にある。好ましくは、貴金属(複数可)の少なくとも90重量%(好ましくは少なくとも95重量%、好ましくは少なくとも97重量%、好ましくは少なくとも99重量%)は、触媒直径の30%以下、好ましくは25%以下、好ましくは20%以下、好ましくは15%以下、好ましくは10%以下、好ましくは8%以下の表面からの距離内にある。表面からの距離は、表面に垂直な線に沿って測定される。
【0023】
好ましくは、触媒は、シリカを含む担体材料上の金粒子及びチタン含有粒子を含む。好ましくは、金粒子及びチタン含有粒子は、担体粒子上に卵殻構造を形成する。卵殻層は、500ミクロン以下、好ましくは250ミクロン以下、より好ましくは100ミクロン以下の厚さを有し得る。
【0024】
好ましくは、金粒子の総重量の少なくとも0.1重量%が触媒の表面に露出しており、表面は、触媒の外表面及び細孔の両方を含む。本明細書で使用される場合、「露出している」という用語は、金粒子の少なくとも一部が別の金粒子又はチタン含有粒子によって覆われていないこと、すなわち、反応体が金粒子に直接接触することができることを意味する。したがって、金粒子は、担体材料の細孔内に配置されていて、細孔内で金粒子と直接接触することができる反応体によって依然として露出されていてもよい。より好ましくは、金粒子の総重量の少なくとも0.25重量%が触媒の表面に露出しており、更により好ましくは、金粒子の総重量の少なくとも0.5重量%が触媒の表面に露出しており、更により好ましくは、金粒子の総重量の少なくとも1重量%が触媒の表面に露出している。
【0025】
触媒は、好ましくは、担体の存在下で金属塩の水溶液から貴金属を沈殿させることにより製造される。好ましい貴金属塩としては、テトラクロロ金酸、金チオ硫酸ナトリウム、金チオリンゴ酸ナトリウム、水酸化金、硝酸パラジウム、塩化パラジウム、及び酢酸パラジウムが挙げられるが、これらに限定されない。好ましい一実施形態では、触媒は、好適な貴金属前駆体塩の水溶液を多孔性無機酸化物に添加して細孔を溶液で充填し、次いで水を乾燥により除去する初期湿潤技法によって製造される。次いで、得られた材料は、貴金属塩を金属又は金属酸化物に分解するための、焼成、還元、又は当業者に知られている他の処理によって、完成触媒に変換される。好ましくは、少なくとも1つのヒドロキシル又はカルボン酸置換基を含むC2~C18チオールが、溶液中に存在する。好ましくは、少なくとも1つのヒドロキシル又はカルボン酸置換基を含むC2~C18チオールは、2~12個、好ましくは2~8個、好ましくは3~6個の炭素原子を有する。好ましくは、チオール化合物は、4つ以下、好ましくは3つ以下、好ましくは2つ以下の、ヒドロキシル基とカルボン酸基との合計を含む。好ましくは、チオール化合物は、2つ以下、好ましくは1つ以下のチオール基を有する。チオール化合物がカルボン酸置換基を含む場合、それらは、酸形態、共役塩基形態、又はこれらの混合物で存在し得る。チオール成分はまた、そのチオール(酸)形態又はその共役塩基(チオレート)形態のいずれかで存在し得る。特に好ましいチオール化合物としては、チオリンゴ酸、3-メルカプトプロピオン酸、チオグリコール酸、2-メルカプトエタノール、及び1-チオグリセロールが挙げられ、それらの共役塩基も含まれる。
【0026】
本発明の一実施形態では、触媒は、析出沈殿によって製造され、ここで、多孔質無機酸化物が、好適な貴金属前駆体塩を含有する水溶液に浸漬され、次いで、その塩が、溶液のpHを調整することにより無機酸化物の表面と相互作用される。次いで、得られた処理済み固体を(例えば濾過により)回収し、次いで、貴金属塩を金属又は金属酸化物に分解するための、当業者に知られている、焼成、還元、又は他の前処理によって完成触媒に変換される。
【0027】
触媒床は、不活性又は酸性材料を更に含んでもよい。好ましい不活性又は酸性材料としては、例えば、アルミナ、粘土、ガラス、炭化ケイ素及び石英が挙げられる。好ましくは、触媒床の前及び/又は後に位置する不活性又は酸性材料は、触媒の平均直径以上、好ましくは1mm~30mm;好ましくは少なくとも2mm;好ましくは30mm以下、好ましくは10mm以下、好ましくは7mm以下の平均直径を有する。
【0028】
本発明は、触媒床を含有する酸化反応器システム内で、酸素含有ガスの存在下、メタクロレインを水と反応させることを含む、メタクリル酸の製造のための方法において有用である。
【0029】
スラリー床又は固定床を備えることができる触媒床は、触媒粒子を含む。酸化反応器システムは、メタクロレイン、水及びメタクリル酸を含む液相と、酸素を含む気相とを更に含む。液相は、副生成物、例えば、メタクロレインジメチルアセタール(MDA)を更に含み得る。
【0030】
好ましくは、酸化反応器システムにおけるメタクロレインの平均濃度は、水及びメタクロレインの総重量に基づいて40重量%未満である。好ましくは、酸化反応器システムは、システムに出入りする水及びメタクロレインの平均量に基づいて、40:1未満の水対メタクロレインの平均比を有する。
【0031】
好ましくは、酸化反応器システムを出るガス流中の酸素濃度は、酸化反応器システムを出るガス流の総体積に基づいて、少なくとも1モル%、より好ましくは少なくとも2モル%、更により好ましくは少なくとも2.5モル%、なおもより好ましくは少なくとも3モル%、なおもより好ましくは少なくとも3.5モル%、なおも更により好ましくは少なくとも4モル%、最も好ましくは少なくとも4.5モル%である。好ましくは、酸化反応器システムを出るガス流中の酸素濃度は、酸化反応器システムを出るガス流の総量に基づいて、7.5mol%以下、好ましくは7.25mol%以下、好ましくは7mol%以下である。
【0032】
好ましくは、酸化反応器システム中の液相は、40℃~120℃の温度であり、好ましくは少なくとも50℃、好ましくは少なくとも55℃である。酸化反応器システム中の液相の温度は、好ましくは110℃以下、好ましくは100℃以下である。酸化反応器システムが2つ以上の反応器及び/又は2つ以上のゾーンを備える場合、各反応器及び/又はゾーン中の温度は同じであっても異なっていてもよい。例えば、反応器又はゾーンを出る反応混合物は、次の反応器又はゾーンに入る前に冷却されてもよい。
【0033】
好ましくは、酸化反応器システム中の触媒床は、1バール~150バール(100kPa~15000kPa)の圧力である。酸化反応器システムの触媒床中の圧力は、少なくとも10バール、好ましくは少なくとも20バール、好ましくは少なくとも30バール、好ましくは少なくとも40バール、又は好ましくは少なくとも60バールであってよい。例えば、酸化反応器システムの触媒床中の圧力は、少なくとも100バールであってもよい。酸化反応器システムが2つ以上の反応器及び/又はゾーンを備える場合、各反応器及び/又はゾーン中の圧力は、同じであっても異なっていてもよい。
【0034】
酸化反応器システム中の不均一貴金属含有触媒は、1時間にわたって反応器システムを出るメタクリル酸のグラム-モル毎に0.02kg~2kgの範囲の触媒の量で存在し得る。好ましくは、酸化反応器システム中の不均一貴金属含有触媒は、1時間にわたって反応器システムを出るメタクリル酸のグラム-モル毎に少なくとも0.02kg~0.5kgの触媒の量で存在する。好ましくは、酸化反応器システム中の不均一貴金属含有触媒は、1時間にわたって反応器システムを出るメタクリル酸のグラム-モル毎に、0.4kg未満の触媒、より好ましくは0.3kg未満の触媒、更により好ましくは0.25kg未満の触媒、更により好ましくは0.2kg未満の触媒の量で存在する。
【0035】
反応器を出るメタクリル酸の量は、酸化反応器システムにおけるメタクロレインの変換率に依存する。例えば、酸化反応器システムに入るメタクロレインの50%変換率では、製造されるメタクリル酸のモル毎に2モルのメタクロレインが必要となる。この例では、酸化反応器システム中の不均一貴金属含有触媒は、1時間にわたって反応器システムに入るメタクロレインのグラム-モル毎に0.01kg~1kgの範囲の触媒の量で存在し得る。酸化反応器システムに入るメタクロレインの25%変換率では、製造されるメタクリル酸のモル毎に4モルのメタクロレインが必要とされ、酸化反応器システム中の不均一貴金属含有触媒は、1時間にわたって反応器システムに入るメタクロレインのグラム-モル毎に0.005kg~0.5kgの範囲の触媒の量で存在し得る。酸化反応器システムに入るメタクロレインの75%変換率では、製造されるメタクリル酸のモル毎に1.33モルのメタクロレインが必要とされ、酸化反応器システム中の不均一貴金属含有触媒は、1時間にわたって反応器システムに入るメタクロレインのグラム-モル毎に0.015kg~1.5kgの範囲の触媒の量で存在し得る。いかなる外部リサイクル流も無視すると、酸化反応器システムは、好ましくは、酸化反応器システム中、メタクロレインからメタクリル酸への少なくとも25%の変換率、より好ましくは少なくとも35%の変換率、更により好ましくはメタクロレインからメタクリル酸への少なくとも40%の変換率を示す。未反応メタクロレインを酸化反応器システムにリサイクルする外部リサイクル流の添加もまた、プロセスの全体的な変換効率を改善するために使用することができる。
【0036】
貴金属含有触媒が金を含む場合、金は、1時間にわたって反応器システムを出るメタクリル酸のグラム-モル毎に0.0001kg~0.1kgの範囲の量で存在してもよい。好ましくは、金は、1時間にわたって反応器システムを出るメタクリル酸のグラム-モル毎に少なくとも0.0001kg~0.005kgの量で存在する。好ましくは、金は、1時間にわたって反応器システムを出るメタクリル酸のグラム-モル毎に0.004kg未満の量で存在する。
【0037】
反応器システムに入るメタクロレインの量に対する酸化反応器システム中の不均一貴金属含有触媒の量に関して、酸化反応器システムに入るメタクロレインの50%変換率において、酸化反応器システム中の不均一貴金属含有触媒中の金は、1時間にわたって反応器システムに入るメタクロレインのグラム-モル毎に0.00005kg~0.05kgの範囲の金の量で存在し得る。酸化反応器システムに入るメタクロレインの25%変換率において、酸化反応器システム中の不均一貴金属含有触媒中の金は、1時間にわたって反応器システムに入るメタクロレインのグラム-モル毎に0.000025kg~0.025kgの範囲の触媒の量で存在し得る。酸化反応器システムに入るメタクロレインの75%変換率において、酸化反応器システム中の不均一貴金属含有触媒中の金は、1時間にわたって反応器システムに入るメタクロレインのグラム-モル毎に0.000075kg~.075kgの範囲の触媒の量で存在し得る。
【0038】
触媒床中のpHは2~10の範囲であってもよい。いくつかの触媒は、酸性条件下で不活性化され得る。したがって、触媒が耐酸性でない場合、触媒床のpHは4~10、好ましくは少なくとも5、好ましくは少なくとも5.5、好ましくは9以下、好ましくは8以下、好ましくは7.5以下である。
【0039】
反応器システムのpHを上昇させるために、塩基材料を添加してもよい。塩基材料は、アレニウス塩基(すなわち、水中で解離して水酸化物イオンを形成する化合物)、ルイス塩基(すなわち、電子対を供与することができる化合物)、又はブレンステッド-ローリー塩基(すなわち、プロトンを受容することができる化合物)を含むことができる。アレニウス塩基の例としては、アルカリ及びアルカリ土類金属の水酸化物が挙げられるが、これらに限定されない。ルイス塩基の例としては、アミン、スルフェート、及びホスフィンが挙げられるが、これらに限定されない。ブレンステッド-ローリー塩基の例としては、ハロゲン化物、硝酸塩、亜硝酸塩、亜塩素酸塩、塩素酸塩などが挙げられるが、これらに限定されない。アンモニアは、ルイス塩基又はブレンステッド-ローリー塩基のいずれかであり得る。
【0040】
本発明者らは、反応器システム中の塩基材料の高い局所濃度が、副生成物としての望ましくないマイケル付加物の形成を引き起こし得ることを発見した。したがって、マイケル付加物の形成の最小化を助けるために、ベース材料は、好ましくは、反応器システムに入る前に少なくとも1つの他の材料と混合される。好ましくは、塩基材料は反応器システムの外部の位置で導入され、1つ以上の反応体又は希釈剤と混合されて塩基含有流を形成する。例えば、塩基材料は、水又は非反応性溶媒、すなわち、反応器システムにおけるメタクリル酸の形成に悪影響を及ぼさない溶媒と混合されてもよい。反応器システムの外部の位置は混合容器であってもよい。あるいは、反応器の外部の位置は、乱流、バッフル、ジェットミキサー、又は他の混合方法などによって十分な混合が起こる供給ライン又はリサイクルラインなどの、成分が反応器システムに移動するラインであってもよい。
【0041】
好ましくは、塩基含有流中の塩基材料の量は、塩基含有流の総重量に基づいて、50重量%以下、好ましくは25重量%以下、好ましくは20重量%以下、好ましくは15重量%以下、好ましくは10重量%以下、好ましくは5重量%以下、又は好ましくは1重量%以下である。塩基材料は、好ましくは、反応器システムに入る前の塩基含有流の総重量に対して、1:2未満、例えば、1:3未満、1:4未満、1:5未満、1:10未満、1:20未満、又は1:100未満の倍率で希釈される。
【0042】
好ましくは、塩基含有流は、それが反応器システムに添加される前に、塩基含有流内の塩基材料の濃度の局所的スパイクを回避するために十分に混合される。例えば、塩基含有流が少なくとも95%の均質度に達すること、すなわち、塩基材料の濃度の変動が、反応器システムに入る前の塩基含有流の塩基材料の平均濃度の+/-5%以内で逸脱することが好ましい。好ましくは、塩基含有流は、塩基材料の導入から4分以内、より好ましくは2分以内、更により好ましくは塩基材料の導入から1分以内に95%の均質度に達する。
【0043】
混合容器に関して、添加剤が95%の均質度に達するのに必要な時間はΘ
95で規定され、これは、Grenville and Nienow,The Handbook of Industrial Mixing,Pages 507-509によって開示された方法によって計算することができ、これは、乱流中の撹拌タンクについて、式:
【数2】
(式中、Tは反応器の内径、Hは液体の高さ、Dはインペラの直径、N
pはインペラの特徴的な動力数、Nはインペラ速度である)
を付与する。同様の式が、スタティックミキサー、ジェット混合容器などについても存在する。
【0044】
好ましくは、ベース材料は、反応器システムの内部又は外部のいずれにおいても反応器システムに添加されない。好ましくは、塩基材料が反応器システムに添加されない場合、貴金属含有触媒は、金及びチタン含有粒子からなる触媒などの耐酸性触媒を含む。塩基材料の非存在下で酸化反応器システムを動作させることは、いくつかの利点をもたらし得る。1つの利点は、マイケル付加物の生成が少ないことによる選択性及び空時収量(space time yield、STY)の増加である。別の利点は、削減された、水性廃棄物を処理するコストによる、コストの削減である。塩基材料が使用された酸化プロセスを出る水性廃棄物は、大量の無機塩を生成することがあり、これは、生物学的水処理方法で処理することが困難又は不可能な場合がある。これは、次に、焼却のような他の廃棄物処理方法の使用を必要とし得る。
【0045】
酸化反応において使用されるメタクロレインは、好ましくは、アルドール縮合又はマンニッヒ縮合のいずれかによって生成される。好ましくは、メタクロレインは、適切な触媒の存在下でプロピオンアルデヒドとホルムアルデヒドとのマンニッヒ縮合によって形成される。プロピオンアルデヒド対ホルムアルデヒドのモル比は、1:20~20:1、好ましくは1:1.5~1.5:1、より好ましくは1:1.25~1.25:1、更により好ましくは1:1.1~1.1:1の範囲であってもよい。
【0046】
マンニッヒ縮合方法において使用され得る触媒の例としては、例えば、アミン-酸触媒が挙げられる。アミン-酸触媒の酸としては、無機酸(例えば、硫酸及びリン酸)、並びに有機モノ-、ジ-又はポリカルボン酸(例えば、脂肪族C1~C10モノカルボン酸、C2~C10ジカルボン酸、C2~C10ポリカルボン酸)が挙げられるが、これらに限定されない。アミン酸触媒の好適なアミンには、式NHR1R2(式中、R1及びR2は、各々独立して、C1~C10アルキルであり、任意選択的に、エーテル、ヒドロキシル、第2級アミノ若しくは第3級アミノ基で置換されるか、又はR1及びR2は、隣接する窒素と一緒になって、C5~C7複素環を形成してもよく、任意選択的に、更なる窒素原子及び/若しくは酸素原子を含有し、任意選択的に、C1~C4アルキル若しくはC1~C4ヒドロキシアルキルによって置換される)の化合物が挙げられるが、これらに限定されない。
【0047】
マンニッヒ縮合反応は、好ましくは、少なくとも20℃の温度及び1バールを超える圧力で、反応器中、アミン-酸触媒の存在下、プロピオンアルデヒド、ホルムアルデヒド、及びメタノールを反応させることによって液相中で行われる。反応器の温度は、20℃~220℃、好ましくは80℃~220℃、より好ましくは120℃~220℃の範囲であってもよい。反応器の圧力は、1バール超~120バールの範囲であってもよい。
【0048】
阻害剤を反応器に添加して、望ましくない生成物の形成を防止することができる。例えば、4-ヒドロキシ-2,2,6,6-テトラメチルピペリジン-1-オキシル(4-ヒドロキシ-TEMPO)を反応器に添加することができる。
【0049】
メタクロレインを調製するために使用されるプロピオンアルデヒドは、エチレンのヒドロホルミル化によって調製することができる。ヒドロホルミル化方法は当技術分野で公知であり、例えば、米国特許第4,427,486号、米国特許第5,087,763号、米国特許第4,716,250号、米国特許第4,731,486号、及び米国特許第5,288,916号に開示されている。エチレンのプロピオンアルデヒドへのヒドロホルミル化は、ヒドロホルミル化触媒の存在下で、エチレンを一酸化炭素及び水素と接触させることを含む。ヒドロホルミル化触媒の例としては、例えば、有機ホスフィン、有機ホスファイト、及び有機ホスホルアミダイトなどの金属-有機リン配位子錯体が挙げられる。一酸化炭素対水素の比は、1:10~100:1、好ましくは1:10~10:1の範囲であってもよい。ヒドロホルミル化方法は、-25℃~200℃、好ましくは50℃~120℃の範囲の温度で行われ得る。
【0050】
プロピオンアルデヒドを調製するために使用されるエチレンは、エタノールの脱水から調製され得る。例えば、エチレンは、エタノールの酸触媒脱水によって調製され得る。エタノール脱水は当技術分野で公知であり、例えば、米国特許第9,249,066号に開示されている。好ましくは、エタノールは、石油ベースの供給源から調製されるエタノールとは対照的に、植物材料又はバイオマスなどの再生可能な資源から供給される。メタクリル酸の製造方法においてバイオ資源エタノールのみを使用することは、再生可能な資源に由来するメタクリル酸の炭素原子の最大50%(すなわち、メタクリル酸中の4個の炭素原子のうちの2個)をもたらすことができる。
【0051】
メタクリル酸中の再生可能な炭素含有量を更に増加させるために、追加の出発材料を再生可能な資源から調製することもできる。例えば、ホルムアルデヒドは合成ガスから調製することができ、合成ガスはバイオマスから調製することができる。プロピオンアルデヒドの調製にも使用することができる一酸化炭素は、Li et al.,ACS Nano,2020,14,4,4905-4915によって開示されているように、再生可能な資源から調製することもできる。これらの追加の生物資源を使用することにより、再生可能な炭素の量を更に増加させることができる。
【0052】
あるいは、メタクリル酸を製造するための出発材料は、リサイクルされた材料から調製することができる。例えば、リサイクルされた二酸化炭素はメタノールを製造するために使用することができ、メタノールはホルムアルデヒドを製造するために使用することができる。
【0053】
好ましくは、メタクリル酸中の炭素原子の少なくとも50%、より好ましくは少なくとも75%、更により好ましくは100%が、再生可能な又はリサイクルされた内容物に由来する。
【国際調査報告】