(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公表特許公報(A)
(11)【公表番号】
(43)【公表日】2024-09-30
(54)【発明の名称】降車支援装置
(51)【国際特許分類】
G08G 1/16 20060101AFI20240920BHJP
【FI】
G08G1/16 C
【審査請求】有
【予備審査請求】未請求
(21)【出願番号】P 2024519074
(86)(22)【出願日】2022-08-12
(85)【翻訳文提出日】2024-03-27
(86)【国際出願番号】 JP2022030803
(87)【国際公開番号】W WO2023053747
(87)【国際公開日】2023-04-06
(32)【優先日】2021-09-30
(33)【優先権主張国・地域又は機関】RO
(81)【指定国・地域】
(71)【出願人】
【識別番号】000003207
【氏名又は名称】トヨタ自動車株式会社
(71)【出願人】
【識別番号】508097870
【氏名又は名称】コンチネンタル オートモーティヴ ゲゼルシャフト ミット ベシュレンクテル ハフツング
【氏名又は名称原語表記】Continental Automotive GmbH
【住所又は居所原語表記】Vahrenwalder Strasse 9, D-30165 Hannover, Germany
(74)【代理人】
【識別番号】110000213
【氏名又は名称】弁理士法人プロスペック特許事務所
(72)【発明者】
【氏名】竹内 宏次
(72)【発明者】
【氏名】徳田 将則
(72)【発明者】
【氏名】石田 正穂
(72)【発明者】
【氏名】福田 純也
(72)【発明者】
【氏名】征矢 竜一
(72)【発明者】
【氏名】オヴィディウ マリウス キチェア
【テーマコード(参考)】
5H181
【Fターム(参考)】
5H181AA01
5H181CC03
5H181CC04
5H181CC11
5H181CC14
5H181FF25
5H181FF27
5H181FF33
5H181FF35
5H181LL02
5H181LL07
5H181LL08
5H181LL17
(57)【要約】
降車支援装置は、自車両の後方に存在する物標に関する物標情報を取得する物標情報取得装置12と、降車支援制御を実行可能な制御ユニット10とを備える。制御ユニットは、停車中に乗員の安全な降車を阻害する可能性がある阻害物標が検出されたか否かを物標情報に基づいて判定し、少なくとも阻害物標が検出された場合に成立する降車支援条件が成立している場合、阻害物標の少なくとも一部が後方車幅領域内に位置している場合に成立する特定条件が成立しているか否かを判定し、特定条件が成立していない場合は降車支援制御を実行し、特定条件が成立している場合は降車支援制御を実行しない。
【特許請求の範囲】
【請求項1】
自車両の後方に存在する物標を検出し、前記検出された物標に関する情報を物標情報として取得する物標情報取得装置(12)と、
前記自車両の乗員の安全な降車を支援する降車支援制御を実行可能な制御ユニット(10)と、
を備えた降車支援装置において、
前記制御ユニットは、
停車中に前記乗員の安全な降車を阻害する可能性がある阻害物標が検出されたか否かを前記物標情報に基づいて判定し、
少なくとも前記阻害物標が検出された場合に成立する降車支援条件が成立しているか否かを判定し、
前記降車支援条件が成立している場合、前記阻害物標の少なくとも一部が、前記自車両の左後方角部から前記自車両の前後方向における後方向に延びている仮想線と、前記自車両の右後方角部から前記後方向に延びている仮想線と、の間の領域である後方車幅領域内に位置している場合に成立する特定条件が成立しているか否かを判定し、
前記特定条件が成立していない場合は前記降車支援制御を実行し、
前記特定条件が成立している場合は前記降車支援制御を実行しない、
ように構成された、
降車支援装置。
【請求項2】
請求項1に記載の降車支援装置において、
前記阻害物標の前端部のうち前記自車両の車幅方向において前記自車両に最も近接している部分を近接部と規定し、
前記自車両の左右の後方角部を通過する基準軸上に位置しており、前記左右の後方角部から車幅外側方向にそれぞれ延びている、所定の長さを有する仮想線を交差判定線と規定すると、
前記制御ユニット(10)は、
前記検出された物標の移動方向に沿って前記近接部から延びている延長線と前記基準軸との交点が前記交差判定線上に位置している場合において、この物標が前記交点に到達するまでに要すると予測される予測時間が所定の時間閾値以下であるときは、この物標が阻害物標であると判定する、
ように構成されており、
更に、前記交点の位置の単位時間当たりの変化量の大きさが所定の変化量閾値以上である場合に前記特定条件が成立していると判定する、
ように構成された、
降車支援装置。
【請求項3】
請求項1又は請求項2に記載の降車支援装置において、
前記制御ユニット(10)は、
更に、前記阻害物標の速度の前記自車両の前後方向成分が、0より大きく且つ所定の速度閾値未満である、及び/又は、前記阻害物標の減速度の前記前後方向成分が、所定の減速度閾値以上である場合に前記特定条件が成立していると判定する、
ように構成された、
降車支援装置。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、降車支援制御の不要作動を抑制することが可能な降車支援装置に関する。
【背景技術】
【0002】
従来から、車両の乗員の安全な降車を支援する降車支援制御を実行可能な降車支援装置が知られている。降車支援装置は、例えば、停車中に乗員の安全な降車を阻害する(別言すれば、車両の側方を通過する)可能性がある阻害物標が検出された場合において乗員の降車意図が検出されたときに降車支援制御を実行するように構成されている。
【0003】
例えば、日本国公開特許公報である特開2007-138457号公報の車両ドア制御装置は、車両の側方を通過する物体を検知する通過物体検知手段を備えており、車両のスライドドアが開状態の場合に通過物体検知手段により車両の側方を通過する物体を検知したときに乗員に当該物体の存在を通知するとともに当該スライドドアの開動作を抑制するように構成されている。
【発明の概要】
【0004】
降車支援装置は、「車両の後方に存在する物標を検出し、検出された物標に関する情報を物標情報として取得する物標情報取得装置」を備えており、当該装置により取得された物標情報に基づいて、検出された物標が阻害物標であるか否かを判定する。典型的には、降車支援装置は、物標が阻害物標であるか否かを以下のようにして判定する。
【0005】
即ち、降車支援装置は、停車期間中、車両の左右の後方角部から車幅外側方向(即ち、車幅方向における外側方向)にそれぞれ延びている仮想線を交差判定線として設定する。そして、物標情報に基づいて物標の移動方向を演算し、物標が当該移動方向に沿って移動を継続した場合に交差判定線を所定時間以内に通過するか否かを判定する。所定時間以内に通過すると判定した場合、降車支援装置は、当該物標は阻害物標であると判定する。
【0006】
このようにして阻害物標であると判定された物標について降車支援制御が実行されることにより、ドア又は乗員が阻害物標と接触してしまう可能性を低減することができる。しかしながら、その一方で、降車支援制御が不要な場面にも関わらず当該制御が実行されると、乗員に煩わしさを与えたり乗員の安全な降車を却って妨げたりする可能性がある。ここで、物標情報取得装置の検出精度によっては、物標情報の正確性が減少し、物標の移動方向の演算結果に誤差が生じる場合がある。その結果、実際には物標が現時点の移動方向に沿って移動を継続しても交差判定線とは交差しないにも関わらず、所定時間以内に交差判定線を通過する阻害物標であると判定されることがある。即ち、上述した「降車支援制御が不要な場面」とは、物標の移動方向の演算結果に誤差が生じることに起因して実際には阻害物標には該当しない物標が阻害物標として誤検出されるような場面である。このため、降車支援制御の不要作動を抑制して当該制御の信頼性を向上させることが求められている。
【0007】
本発明は、上述した問題に対処するためになされたものである。即ち、本発明の目的の一つは、降車支援制御の不要作動を抑制することが可能な降車支援装置を提供することにある。
【0008】
本発明による降車支援装置(以下、「本発明装置」と称する。)は、
自車両の後方に存在する物標を検出し、前記検出された物標に関する情報を物標情報として取得する物標情報取得装置(12)と、
前記自車両の乗員の安全な降車を支援する降車支援制御を実行可能な制御ユニット(10)と、
を備える。
前記制御ユニット(10)は、
停車中に前記乗員の安全な降車を阻害する可能性がある阻害物標が検出されたか否かを前記物標情報に基づいて判定し、
少なくとも前記阻害物標が検出された場合に成立する降車支援条件が成立しているか否かを判定し、
前記降車支援条件が成立している場合、前記阻害物標の少なくとも一部が、前記自車両の左後方角部から前記自車両の前後方向(x軸方向)における後方向(-x軸方向)に延びている仮想線(L1)と、前記自車両の右後方角部から前記後方向(-x軸方向)に延びている仮想線(L2)と、の間の領域である後方車幅領域(Rvw)内に位置している場合に成立する特定条件が成立しているか否かを判定し、
前記特定条件が成立していない場合は前記降車支援制御を実行し、
前記特定条件が成立している場合は前記降車支援制御を実行しない、
ように構成されている。
【0009】
従来の降車支援装置は、例えば、停車中に阻害物標が検出され且つ乗員の降車意図が検出された場合に成立する実行条件が成立しているときは、降車支援制御を実行する。この構成によれば、実際には阻害物標には該当しない物標が、その移動方向の演算結果に誤差が生じることに起因して阻害物標として誤検出されたときにも実行条件が成立したときには降車支援制御が実行されるため、不要作動の原因となっていた。
【0010】
ここで、本願発明者らは、物標がその移動方向の演算結果に誤差が生じることに起因して阻害物標として誤検出されるときは、当該物標は、自車両の真後ろに延在する領域を移動している傾向があるとの知見を得た。この知見に基づき、本発明装置は、降車支援条件が成立している場合、直ちに降車支援制御を実行するのではなく、特定条件、即ち、阻害物標の少なくとも一部が自車両の後方車幅領域内に位置している場合に成立する条件が成立しているか否かを判定するように構成されている。そして、特定条件が成立していない場合は物標が阻害物標として誤検出されている可能性は低いと判定して降車支援制御を実行し、特定条件が成立している場合は物標がその移動方向の演算結果に誤差が生じることに起因して阻害物標として誤検出されている可能性が高いと判定して降車支援制御を実行しないように構成されている。
【0011】
この構成によれば、実際に降車支援制御が必要な場面では当該制御を適切に実行しながら、当該制御の不要作動を抑制することができ、降車支援制御の信頼性を向上させることができる。
【0012】
本発明の一側面では、
前記阻害物標の前端部のうち前記自車両の車幅方向において前記自車両に最も近接している部分を近接部(np)と規定し、
前記自車両の左右の後方角部を通過する基準軸(y軸)上に位置しており、前記左右の後方角部から車幅外側方向にそれぞれ延びている、所定の長さを有する仮想線を交差判定線(LL、LR)と規定すると、
前記制御ユニット(10)は、
前記検出された物標の移動方向に沿って前記近接部(np)から延びている延長線と前記基準軸(y軸)との交点が前記交差判定線(LL、LR)上に位置している場合において、この物標が前記交点に到達するまでに要すると予測される予測時間(TTC)が所定の時間閾値(TTCth)以下であるときは、この物標が阻害物標であると判定する、
ように構成されており、
更に、前記交点の位置の単位時間当たりの変化量の大きさ(|Δy|)が所定の変化量閾値(Δyth)以上である場合に前記特定条件が成立していると判定する、
ように構成されている。
【0013】
本願発明者らは、物標がその移動方向の演算結果に誤差が生じることに起因して阻害物標として誤検出されるときは、当該物標の移動方向に沿って近接部から延びている延長線と基準軸との交点の位置の単位時間当たりの変化量の大きさが比較的に大きくなる傾向があるとの知見を得た。この知見に基づき、本発明の一側面では、更に、上記交点の位置の単位時間当たりの変化量の大きさが変化量閾値以上である場合に特定条件が成立するように構成されている。この構成によれば、降車支援制御が不要作動であるか否かの判定精度がより高くなり、降車支援制御をより適切に実行することができる。
【0014】
本発明の一側面では、
前記制御ユニット(10)は、
更に、前記阻害物標の速度(v)の前記自車両の前後方向成分(vx)が、0より大きく且つ所定の速度閾値(vxth)未満である、及び/又は、前記阻害物標の減速度(d)の前記前後方向成分(dx)が、所定の減速度閾値(dxth)以上である場合に前記特定条件が成立していると判定する、
ように構成されている。
【0015】
本願発明者らは、物標がその移動方向の演算結果に誤差が生じることに起因して阻害物標として誤検出されるときは、当該物標は、「自車両の前後方向成分」の速度が比較的に小さい値となるような速度、及び/又は、当該前後方向成分の減速度が比較的に大きい値となるような減速度で移動する傾向があるとの知見を得た。この知見に基づき、本発明の一側面では、更に、阻害物標の速度の当該前後方向成分が、0より大きく且つ速度閾値未満である、及び/又は、阻害物標の減速度の当該前後方向成分が、減速度閾値以上である場合に特定条件が成立するように構成されている。この構成によれば、降車支援制御が不要作動であるか否かの判定精度が更に高くなり、降車支援制御を更に適切に実行することができる。
【0016】
上記説明においては、発明の理解を助けるために、実施形態に対応する発明の構成要件に対して、実施形態で用いた符号を括弧書きで添えているが、発明の各構成要件は、前記符号によって規定される実施形態に限定されるものではない。
【図面の簡単な説明】
【0017】
【
図1】本発明の実施形態に係る降車支援装置(本実施装置)の概略構成図である。
【
図2】本実施装置が備えるレーダセンサの立体物検出範囲を示す図であり、レーダセンサによって検出された物標のTTCの演算方法を説明するための図である。
【
図3】特定条件について説明するための図であり、警報条件が成立する場合において警報制御の不要作動が抑制されるケースを例示する図である。
【
図4】本実施装置の降車支援ECUのCPUが実行するルーチンを示すフローチャートである。
【
図5】CPUが実行するルーチンを示すフローチャートである。
【
図6】CPUが実行するルーチンを示すフローチャートである。
【発明を実施するための形態】
【0018】
(構成)
以下、本発明の実施形態に係る降車支援装置(以下、「本実施装置」とも称する。)について図面を参照しながら説明する。
図1に示すように、本実施装置は、降車支援ECU10、及び、これに接続された車速センサ11、レーダセンサ12、ドア開閉センサ13、及び、ブザー20を備える。降車支援ECU10は、マイクロコンピュータを主要部として備える。ECUは、Electronic Control Unitの略である。マイクロコンピュータは、CPU、ROM、RAM及びインターフェース(I/F)等を含み、CPUはROMに格納されたインストラクション(プログラム、ルーチン)を実行することにより各種機能を実現するようになっている。以下では、本実施装置が搭載された車両を「自車両」と称する。
【0019】
降車支援ECU10は、上記センサ11乃至13が発生又は出力する信号を所定の時間が経過する毎に取得し、取得した信号に基づいてブザー20を制御するように構成されている。以下では、降車支援ECU10を、単に「ECU10」とも称する。
【0020】
車速センサ11は、自車両の走行速度(以下、「車速」と称する。)に応じた信号を発生する。ECU10は、車速センサ11が発生した信号を取得し、当該信号に基づいて車速を演算する。車速がゼロの場合、ECU10は、自車両が停止状態にある(以下、「停車中」とも称する。)と判定する。
【0021】
レーダセンサ12(物標情報取得装置)は、自車両の後方(真後ろ及び後側方)に存在する立体物(物標)に関する情報を取得する機能を有している。立体物は、車両、自転車、歩行者等の移動物である。
【0022】
図2に示すように、レーダセンサ12は、自車両Vの左後方角部に設けられた左レーダセンサ12Lと、自車両Vの右後方角部に設けられた右レーダセンサ12Rと、を含む。レーダセンサ12は、ミリ波帯の電波を自車両の周囲に照射する。具体的には、左レーダセンサ12Lは、自車両の左後方の左側領域RLを含む範囲に電波を照射し、右レーダセンサ12Rは、自車両の右後方の右側領域RRを含む範囲に電波を照射する。左側領域RL及び右側領域RRは、何れも自車両Vから後方に離間するにつれて車幅外側方向及び車幅内側方向に長くなる形状となっている。なお、
図2では、便宜上、領域RL及びRRの自車両Vに対する比率等は変更して図示されている。
【0023】
レーダセンサ12は、立体物が電波の照射範囲内に存在する場合、その立体物からの反射波を受信する。レーダセンサ12は、電波の照射タイミングと受信タイミングと等に基づいて、立体物の有無、及び、自車両と立体物との相対関係(自車両から立体物までの距離、自車両に対する立体物の方位、及び、自車両に対する立体物の相対速度等)を演算する。別言すれば、レーダセンサ12は、自車両の後方に存在する立体物を検出する。以下では、レーダセンサ12によって検出された立体物(即ち、領域RL又はRRに存在する立体物)を「物標」とも称する。レーダセンサ12は、物標に関するこれらの情報を物標情報としてECU10に出力する。
【0024】
なお、物標情報を取得するセンサはレーダセンサ12に限られない。例えば、レーダセンサ12に代えて、又は、加えて、レーザーレーダセンサ、超音波センサ、及び/又は、カメラセンサ等が用いられてもよい。或いは、レーダセンサ12として、ブラインドスポットモニタ制御に使用されるセンサが使用されてもよい。ブラインドスポットモニタ制御は、後方から自車両に接近する車両(特に、サイドミラーでは確認し難い領域に存在する車両)を検出した場合に自車両の運転者に注意喚起する制御である。
【0025】
図1に戻って説明を続ける。ドア開閉センサ13は、自車両が有する複数のドア(より詳細には、サイドドア)のそれぞれに設けられている。ドア開閉センサ13は、ドアの開閉状態を検出する。ドア開閉センサ13は、ドアが開状態にあることを検出した場合、開状態が検出されている期間中、当該ドアが開状態にあることを示す開信号を発生する。ドア開閉センサ13は、ドアが閉状態にあることを検出した場合、閉状態が検出されている期間中、当該ドアが閉状態にあることを示す閉信号を発生する。ECU10は、これらのドア開閉センサ13のそれぞれが開信号及び閉信号の何れを発生しているかを検出し、その検出結果に基づいて、そのドア開閉センサ13に対応するドアが開状態であるのか閉状態であるのかを検出する。
【0026】
ブザー20は、メーターパネル(図示省略)に内蔵されており、ECU10からの駆動指令に基づいて鳴動するように構成されている。
【0027】
(作動の詳細)
従来の降車支援装置は、例えば、停車中に乗員の安全な降車を阻害する可能性がある阻害物標が検出された場合において乗員の降車意図が検出されたときは降車支援制御を実行するように構成されている。この構成によれば、物標の移動方向の演算結果に誤差が生じることに起因して実際には阻害物標には該当しない物標が阻害物標として誤検出され、その結果、不要な降車支援制御が実行されてしまう可能性がある。
そこで、本願発明者らは、「物標の移動方向の演算結果に誤差が生じ易いのは、物標が自車両の真後ろに延在する領域を移動しているときである」との知見に基づき、本実施装置を以下のように構成した。即ち、本実施装置は、停車中に阻害物標が検出され且つ乗員の降車意図が検出された場合において、「阻害物標が自車両の真後ろに延在する領域を移動している場合に成立する可能性が高い条件」である特定条件(後述)が成立しているときは、当該阻害物標は実際には阻害物標に該当しないと判定して降車支援制御を実行しないように構成されている。なお、本実施形態では、ECU10は、降車支援制御として警報制御を実行する。警報制御は、ブザー20を鳴動させる処理を実行する制御である。以下、ECU10の作動について詳細に説明する。
【0028】
ECU10は、以下の条件1乃至条件3の全てが成立している場合、警報条件が成立していると判定する。なお、警報条件は、「降車支援条件」の一例に相当する。
(条件1)自車両が停止状態にある。
(条件2)阻害物標が検出されている。
(条件3)自車両のドアが開状態である。
【0029】
まず、条件1について説明する。ECU10は、車速センサ11から取得される車速がゼロの場合、条件1が成立していると判定する。
【0030】
次に、条件2について説明する。阻害物標とは、自車両に後方から接近して乗員の安全な降車を阻害する(別言すれば、自車両の側方を通過する)可能性がある移動物を意味する。ECU10は、以下のようにして阻害物標を検出する。即ち、ECU10は、レーダセンサ12から取得される物標情報に基づいて左側領域RL又は右側領域RRに物標が存在すると判定した場合、当該物標が自車両に接触又は最接近するまでに要すると予測される予測時間を演算する。以下では、説明の便宜上、この予測時間を「TTC(Time To Collision)」とも称する。TTCが所定の時間閾値TTCth以下である場合、ECU10は、当該物標を阻害物標として検出し、条件2が成立していると判定する。
【0031】
図2を参照してより詳細に説明する。
図2は、他車両Vtが自車両Vに後方から接近している様子を示す。
図2に示すように、ECU10は、自車両Vが停止状態にある場合(即ち、条件1が成立している場合)、自車両Vの左右の後方角部の中央を原点としたxy座標系を設定する。x軸は自車両Vの前後方向に延びており、y軸は自車両Vの車幅方向(左右方向)に延びている。即ち、y軸は、自車両Vの左右の後方角部を通過する軸ということもできる。なお、本実施形態では、自車両Vの左右の後方角部の中央は、自車両Vの後端中央部と一致している。y軸は、「基準軸」の一例に相当する。
【0032】
加えて、ECU10は、自車両Vが停止状態にある場合、自車両Vに交差判定線Lを設定する。交差判定線Lは、TTCを演算するために設定される仮想線であり、左側交差判定線LLと、右側交差判定線LRと、を含む。左側交差判定線LLは、自車両Vの左後方角部からy軸上を-y軸方向(車幅外側方向)に延びており、右側交差判定線LRは、自車両Vの右後方角部からy軸上を+y軸方向(車幅外側方向)に延びている。左右の交差判定線LL及びLRの長さは互いに同一(例えば、約1.3[m])であり、本実施形態では、自車両Vの左右の後方角部における領域RL、RRのy軸方向の長さに略等しい。なお、左右の交差判定線LL、LRの長さは、「自車両Vの乗員が降車している最中に物標がこれらの判定線LL、LR上の任意の位置を通過すると自車両Vのドア又は乗員と接触する可能性がある」程度の長さとなるように、実験又はシミュレーションにより予め設定されている。
【0033】
ECU10は、自車両Vが停止状態にある場合、物標情報に基づいて物標(
図2の例では、他車両Vt)の速度ベクトルAを演算し、その始点を、物標の近接部npに設定する。近接部npは、物標の前端部のうちy軸方向において自車両Vに最も近接している部分である。なお、速度ベクトルAは、例えば、物標の位置(距離及び方位)の時間微分により演算され得る。
【0034】
ECU10は、物標の速度ベクトルAの延長線が左右の交差判定線LL、LRの何れか一方と交差する(別言すれば、当該延長線とy軸との交点が交差判定線L上に位置している)場合、「物標が交差判定線Lと交差するまでに要すると予測される時間(別言すれば、物標の速度ベクトルAの延長線と交差判定線Lとの交点に物標が到達するまでに要すると予測される時間)」をTTCとして演算する。TTCは、物標情報を用いて、例えば、「近接部npから上記交点までの距離」を「物標の現時点の速度」で除算することにより演算され得る。
【0035】
物標が将来的に左側交差判定線LLと交差する場合のTTCがTTCth以下の場合、ECU10は、当該物標は乗員が左側のドアから安全に降車することを阻害する可能性があると判定し、当該物標を左側のドアに対する阻害物標として検出する。
一方、物標が将来的に右側交差判定線LRと交差する場合のTTCがTTCth以下の場合、ECU10は、当該物標は乗員が右側のドアから安全に降車することを阻害する可能性があると判定し、当該物標を右側のドアに対する阻害物標として検出する。
これらの場合、ECU10は、条件2が成立していると判定する。
【0036】
他方、物標が将来的に左右の交差判定線LL、LRの何れか一方と交差するものの、TTCがTTCthを超えている場合、ECU10は、当該物標は(現時点では)乗員の安全な降車を阻害する可能性はないと判定し、当該物標を阻害物標として検出しない。
これに対し、物標の速度ベクトルAの延長線が左右の交差判定線LL、LRの何れとも交差しない(別言すれば、当該延長線とy軸との交点が交差判定線L上に位置していない)場合、TTCは演算され得ず、従って、ECU10は、当該物標を阻害物標として検出しない。
これらの場合、ECU10は、条件2が成立していないと判定する。
【0037】
図2の例では、他車両Vtは、現時点の速度ベクトルAによれば、将来的に右側交差判定線LRと交差する。このため、ECU10は、他車両VtについてTTCを演算し、TTCがTTCth以下の場合は他車両Vtを右側のドアに対する阻害物標として検出し、TTCがTTCthを超えている場合は他車両Vtを阻害物標として検出しない。
【0038】
なお、ECU10は、物標の速度ベクトルAの延長線が交差判定線Lと交差しない場合であっても、y軸との交点のy座標を演算する。このため、左右の交差判定線LL、LRの終点のy座標をそれぞれ-Ly、Lyと規定し、自車両Vの車幅をwと規定すると、「物標の速度ベクトルAの延長線が左右の交差判定線LL、LRの何れか一方と交差する」ことは、「物標の速度ベクトルAの延長線とy軸との交点のy座標が-Ly≦y≦-w/2又はw/2≦y≦Lyを満たす」ことと同義である。
【0039】
続いて、条件3について説明する。ECU10は、ドア開閉センサ13から取得した信号に基づいて、阻害物標が検出された側のドアが開状態であると判定した場合、条件3が成立していると判定する。
【0040】
ECU10は、警報条件が成立している場合、警報条件を満たす阻害物標について特定条件が成立しているか否かを判定する。一般に、レーダセンサ12の検出精度は、「自車両の真後ろに延在する領域」を移動している物標を検出する際に低下する傾向がある。物標がこのような領域を移動している場合、物標の少なくとも一部は自車両とy軸方向においてオーバーラップしている。物標がx軸方向に直進していると仮定すると、このように物標が自車両とその一部においてオーバーラップしている場合、当該物標が将来的に自車両の側方を通過する可能性は低い。即ち、当該物標は阻害物標にはなり難い。一方で、当該物標が進行方向を変更して将来的に自車両の側方を通過する(即ち、阻害物標になる)場合は、進行方向を変更した時点(即ち、自車両とオーバーラップしなくなった時点)にて警報制御を実行すれば十分であると考えられる。
以上より、本願発明者らは、阻害物標として検出された物標が自車両の真後ろに延在する領域を移動している場合、当該物標は実際には阻害物標には該当しない(別言すれば、レーダセンサ12の検出精度に起因して物標の移動方向の演算結果に誤差が生じて阻害物標として誤検出された可能性が高い)という知見に基づき、実験及び/又はシミュレーションにより特定条件を設定した。本実施形態では、ECU10は、以下の条件a乃至条件cの全てが成立している場合に特定条件が成立すると判定する。
【0041】
(条件a)阻害物標の少なくとも一部が、自車両の後方車幅領域Rvw内に位置している。
(条件b)阻害物標の速度ベクトルAの延長線とy軸との交点のy座標の単位時間当たりの変化量の大きさ|Δy|が、所定の変化量閾値Δyth以上である。
(条件c)阻害物標の速度のx軸成分vxが、0より大きく且つ所定の速度閾値vxth未満である、及び/又は、阻害物標の減速度のx軸成分dxが、所定の減速度閾値dxth以上である。
【0042】
まず、条件aについて説明する。
図3に示すように、自車両Vの後方車幅領域Rvwは、自車両Vの左後方角部から-x軸方向に延びている仮想線L1と、自車両Vの右後方角部から-x軸方向に延びている仮想線L2と、の間の領域として規定される。即ち、後方車幅領域Rvwは、自車両の真後ろに延在している。条件aは、阻害物標の少なくとも一部がこの後方車幅領域Rvw内に位置している場合(別言すれば、阻害物標を構成する座標群のy座標のうちx軸に最も近いy座標が-w/2≦y≦w/2を満たしている場合)に成立する。実験及び/又はシミュレーションによれば、物標が阻害物標として誤検出されるときは、当該物標が自車両の真後ろに延在する領域を移動している傾向があった。このため、条件aが導入された。
【0043】
なお、条件aは、近接部npのy座標が-w/2≦y≦w/2を満たしている場合に成立するように構成されてもよい。或いは、条件aは、阻害物標の後方車幅領域Rvwへの進入率が所定の進入率閾値以上の場合に成立するように構成されてもよい。ここで、上記進入率は、「y軸方向において阻害物標が自車両Vとオーバーラップしている部分の長さ」を「自車両Vの車幅w」で除算することにより演算され得る。
【0044】
次に、条件bについて説明する。上述したように、ECU10は、レーダセンサ12によって物標が検出されると、物標情報に基づいて、当該物標の速度ベクトルAの延長線とy軸との交点のy座標を演算する。そして、物標が阻害物標として検出された場合、交点のy座標の単位時間当たりの変化量の大きさ|Δy|(以下、単に「変化量の大きさ|Δy|」とも称する。)を演算する。条件bは、阻害物標が|Δy|≧Δythを満たす場合に成立する。実験及び/又はシミュレーションによれば、物標が阻害物標として誤検出されるときは、変化量の大きさ|Δy|が比較的に大きくなる傾向があった。これは、物標が阻害物標として誤検出されるときは、レーダセンサ12の検出精度に起因して当該物標の移動方向の演算結果に誤差が生じており、交点の位置が変化し易い(不安定である)ためであると考えられる。以上より、条件bが導入された。
【0045】
なお、変化量閾値Δythは、物標が阻害物標として誤検出されるときは|Δy|≧Δythが成立し易く、且つ、物標の移動方向が正確に演算されているときは|Δy|≧Δythが成立し難くなるような値に設定されている。また、上記単位時間は、実験及び/又はシミュレーションにより適切な値に設定され得る。
【0046】
続いて、条件cについて説明する。条件cは、阻害物標が0<vx<vxth及び/又はdx≧dxthを満たす場合に成立する。実験及び/又はシミュレーションによれば、物標が阻害物標として誤検出されるときは、物標は、x軸成分の速度vxが比較的に小さい値となるような速度v、及び/又は、x軸成分の減速度dxが比較的に大きい値となるような減速度dで移動する傾向があった。このため、条件cが導入された。なお、減速度dは、自車両の減速の度合いを表す0以上の値であり、自車両に作用する制動力が大きくなるにつれて増加する。
なお、速度閾値vxthは、物標が阻害物標として誤検出されるときはvx<vxthが成立し易く、且つ、物標の移動方向が正確に演算されているときはvx<vxthが成立し難くなるような値に設定されている。同様に、減速度閾値dxthは、物標が阻害物標として誤検出されるときはdx≧dxthが成立し易く、且つ、物標の移動方向が正確に演算されているときはdx≧dxthが成立し難くなるような値に設定されている。
【0047】
条件a乃至条件cの全てが成立している場合、阻害物標(と判定された物標)は自車両の真後ろに延在する領域を移動している可能性が高い。即ち、特定条件は、阻害物標が自車両の真後ろに延在する領域を移動している場合に成立する可能性が高い条件である。ECU10は、特定条件が成立している場合、「条件2の成立により阻害物標と判定された物標」は実際には阻害物標に該当しない(即ち、物標の移動方向の演算結果に誤差が生じることに起因して条件2が成立してしまったに過ぎない)と判定し、警報制御を実行しない。一方、ECU10は、特定条件が成立していない場合、物標は自車両の真後ろに延在する領域を移動していない、或いは、物標が当該領域を移動していたとしても、自車両が位置している車線(自車線)を横切る目的で移動しているに過ぎないと判定し(即ち、物標は実際に阻害物標である可能性が高いと判定し)、警報制御を実行する。
【0048】
特定条件の作用効果について
図3を参照して説明する。
図3は、停車中の自車両Vから乗員が右側のドアを開放して降車しようとしている状況下(即ち、条件1及び条件3が成立している状況下)において、他車両Vtが+x軸方向に直進しながら自車両Vに後方から接近している様子を示す。
【0049】
図3に示すように、他車両Vtの速度ベクトルAの延長線は実際には交差判定線Lと交差していない(即ち、当該延長線とy軸との交点(点P)は交差判定線L上に位置していない)。このため、少なくとも現時点では他車両Vtは阻害物標には該当しない。別言すれば、他車両Vtについては警報制御を実行する必要はない。しかしながら、本例では、レーダセンサ12の検出精度に起因して他車両Vtの移動方向の演算結果に誤差が生じ、その結果、ECU10は、速度ベクトルAの延長線とy軸との交点を点Pではなく点Pi(右側交差判定線LR上の点)であると誤って演算している。本例では、他車両VtについてTTC≦TTCthが成立している。このため、他車両Vtは阻害物標として検出される(即ち、条件2が成立する。)。
【0050】
これにより、警報条件が成立するため、ECU10は、特定条件が成立しているか否かを判定する。本例では、他車両Vtの左側部分が自車両Vの後方車幅領域Rvw内に位置している(条件a)。また、交点を点Pではなく点Piと誤演算したことにより、|Δy|≧Δythが成立している(条件b)。更に、他車両Vtは自車両Vと衝突しないように比較的に低速で走行しており、0<vx<vxthが成立している(条件c)。従って、ECU10は、特定条件が成立していると判定し、他車両Vtについては警報制御を実行しない。即ち、ECU10は、
図3の例において他車両Vtが阻害物標として検出され、これにより警報条件が成立した場合であっても、特定条件が成立しているときは、当該他車両Vtの移動方向の演算結果に誤差が生じることに起因して阻害物標として誤検出されたと判定し、警報制御を実行しない。この構成によれば、警報制御の不要作動が抑制される。
【0051】
なお、
図3の例では、他車両Vtは比較的に低速で走行しているが、これに代えて、又は、加えて、他車両Vtが自車両Vと衝突しないように比較的に大きく減速しており、これによりdx≧dxthが成立している場合であっても、条件cが成立するため、特定条件が成立する。
【0052】
加えて、特定条件が条件b及び/又は条件cを含んでいることにより、条件aが成立していても(即ち、阻害物標が後方車幅領域Rvw内に位置していても)、阻害物標が自車線を横切る目的で後方車幅領域Rvwを移動しているに過ぎない場合は、条件b及び/又は条件c(特に、条件c)が成立し難くなるため特定条件は不成立となり、結果として、ECU10は、警報制御を実行する。この構成によれば、物標が実際に阻害物標に該当する場合には警報制御が適切に実行される。別言すれば、特定条件の導入に起因して、実際に警報制御が必要な場面においてまで当該制御が実行されなくなるという事態が発生し難くなる。
【0053】
なお、
図3に例示される状況は、典型的には、左側通行が定められている国(対向車線が走行車線に対して右側に位置する車線レイアウトが採用されている国)において起こり得る。右側通行が定められている国(対向車線が走行車線に対して左側に位置する車線レイアウトが採用されている国)においては、他車両Vtを、x軸について対称移動させた場合において自車両Vの乗員が左側のドアを開放して降車しようとするときに同様の状況が起こり得る。しかしながら、左側通行が定められている国において警報制御の不要作動が発生する状況は、乗員が右側のドアから降車しようとするときに限られず、左側のドアから降車しようとするときにも起こり得る(例えば、駐車場にて降車する場合)。これは、右側通行が定められている国においても同様である。
【0054】
従来の降車支援装置によれば、警報条件が成立した場合は警報制御が実行されるため、実際には阻害物標には該当しない物標であってもその移動方向の演算結果に誤差が生じることに起因して阻害物標として誤検出された場合には警報制御が実行されてしまい、不要作動となっていた。これに対し、本実施装置によれば、
図3に例示するように、警報条件が成立した場合は直ちに警報制御を実行するのではなく、特定条件が成立しているか否かを判定し、成立していないときにのみ警報制御を実行する。このため、実際に警報制御が必要な場面では当該制御を適切に実行しながら、当該制御の不要作動を抑制することができ、警報制御の信頼性を向上させることができる。
【0055】
(具体的作動)
続いて、ECU10の具体的作動について説明する。ECU10のCPUは、ECU10に電源が供給されている期間中(後述)、所定時間が経過する毎に
図4乃至
図6にフローチャートにより示したルーチンをこの順に繰り返し実行するように構成されている。
【0056】
所定のタイミングになると、CPUは、
図4のステップ400から処理を開始してステップ410に進み、車速センサ11から取得した車速に基づいて自車両が停止状態にあるか否かを判定する(条件1)。自車両が走行状態にある場合、CPUは、ステップ410にて「No」と判定し(即ち、条件1が成立しない(警報条件が成立しない)と判定し)、ステップ495に進んで本ルーチンを一旦終了する。一方、自車両が停止状態にある場合、CPUは、ステップ410にて「Yes」と判定し(即ち、条件1が成立すると判定し)、ステップ420に進む。
【0057】
ステップ420では、CPUは、レーダセンサ12から取得した物標情報に基づいて物標が検出されたか否かを判定する。物標が検出されていない場合、CPUは、ステップ420にて「No」と判定し、ステップ495に進んで本ルーチンを一旦終了する。一方、物標が検出された場合、CPUは、ステップ420にて「Yes」と判定し、ステップ430に進む。
【0058】
ステップ430では、CPUは、検出された物標の速度ベクトルAを物標情報に基づいて演算し、速度ベクトルAの延長線が左右の交差判定線LL、LRの何れかと交差する場合、当該物標についてTTCを演算する。その後、CPUは、ステップ440に進む。
【0059】
ステップ440では、CPUは、検出された物標についてTTC≦TTCthが成立しているか否かを判定する(条件2)。TTC>TTCthである場合、CPUは、ステップ440にて「No」と判定し(即ち、条件2が成立しない(警報条件が成立しない)と判定し)、ステップ495に進んで本ルーチンを一旦終了する。一方、TTC≦TTCthである場合、CPUは、ステップ440にて「Yes」と判定し(即ち、条件2が成立する(物標は阻害物標である)と判定し)、ステップ450に進む。
【0060】
ステップ450では、CPUは、ドア開閉センサ13から取得した信号に基づいてドア(阻害物標が検出された側のドア)が開状態であるか否かを判定する。ドアが閉状態の場合、CPUは、ステップ450にて「No」と判定し(即ち、条件3が成立しない(警報条件が成立しない)と判定し)、ステップ495に進んで本ルーチンを一旦終了する。一方、ドアが開状態の場合、CPUは、ステップ450にて「Yes」と判定し(即ち、条件3が成立すると判定し)、ステップ460に進んで警報条件が成立したと判定する。その後、CPUは、ステップ495に進んで本ルーチンを一旦終了する。
【0061】
ステップ460にて警報条件が成立したと判定した場合、CPUは、
図5のステップ500から処理を開始してステップ510に進み、
図4のステップ440にて「Yes」と判定された物標(即ち、阻害物標)の少なくとも一部が後方車幅領域Rvw内に位置しているか否かを判定する(条件a)。阻害物標が後方車幅領域Rvw内に位置していない場合、CPUは、ステップ510にて「No」と判定し(即ち、条件aが成立しない(特定条件が成立しない)と判定し)、ステップ595に進んで本ルーチンを一旦終了する。一方、阻害物標の少なくとも一部が後方車幅領域Rvw内に位置している場合、CPUは、ステップ510にて「Yes」と判定し(即ち、条件aが成立すると判定し)、ステップ520に進む。
【0062】
ステップ520では、CPUは、阻害物標が|Δy|≧Δythを満たしているか否かを判定する(条件b)。|Δy|<Δythである場合、CPUは、ステップ520にて「No」と判定し(即ち、条件bが成立しない(特定条件が成立しない)と判定し)、ステップ595に進んで本ルーチンを一旦終了する。一方、|Δy|≧Δythである場合、CPUは、ステップ520にて「Yes」と判定し(即ち、条件bが成立すると判定し)、ステップ530に進む。
【0063】
ステップ530では、CPUは、阻害物標が0<vx<vxth及び/又はdx≧dxthを満たしているか否かを判定する(条件c)。vx≧vxth、且つ、0≦dx<dxth又はax≧0(ax:阻害物標の加速度のx軸成分)である場合、CPUは、ステップ530にて「No」と判定し(即ち、条件cが成立しない(特定条件が成立しない)と判定し)、ステップ595に進んで本ルーチンを一旦終了する。一方、0<vx<vxth及び/又はdx≧dxthである場合、CPUは、ステップ530にて「Yes」と判定し(即ち、条件cが成立すると判定し)、ステップ540に進んで特定条件が成立したと判定する。その後、CPUは、ステップ595に進んで本ルーチンを一旦終了する。
【0064】
その後、CPUは、
図6のステップ600から処理を開始してステップ610に進み、
図4のルーチンの判定結果に基づいて警報条件が成立しているか否かを判定する。警報条件が成立していない場合(ステップ410、420、440又は450の何れかにおいて「No」と判定された場合)、CPUは、ステップ610にて「No」と判定し、ステップ695に進んで本ルーチンを一旦終了する。即ち、CPUは警報制御を実行しない。一方、警報条件が成立している場合(ステップ460)、CPUは、ステップ610にて「Yes」と判定し、ステップ620に進む。
【0065】
ステップ620では、CPUは、
図5のルーチンの判定結果に基づいて特定条件が成立しているか否かを判定する。特定条件が成立していない場合(ステップ510、520又は530の何れかにおいて「No」と判定された場合)、CPUは、ステップ620にて「No」と判定し(即ち、警報制御が必要な状況であると判定し)、ステップ630に進む。ステップ630では、CPUは、ブザー20に駆動指令を送信してブザー20を鳴動させる。これにより、警報制御が実行される。その後、CPUは、ステップ695に進んで本ルーチンを一旦終了する。
【0066】
一方、特定条件が成立している場合(ステップ540)、CPUは、ステップ620にて「Yes」と判定し(即ち、実際には阻害物標には該当しない物標が、その移動方向の演算結果に誤差が生じることに起因して阻害物標として誤検出されたことにより警報条件が成立しているに過ぎないと判定し)、ステップ695に進んで本ルーチンを一旦終了する。即ち、CPUは、警報制御を実行しない。これにより、実際に警報制御が必要な場面では当該制御を適切に実行しながら、当該制御の不要作動を抑制することができ、警報制御の信頼性を向上させることができる。その後、CPUは、ステップ695に進んで本ルーチンを一旦終了する。
【0067】
ECU10への電源供給は、イグニッションスイッチがオフされた後も所定の条件が成立するまで継続される。この条件は、例えば、ドアがロックされた時点で成立するように構成されてもよいし、自車両が停止してから所定の停車時間が経過した時点で成立するように構成されてもよい。この構成によれば、警報制御が必要な場面で当該制御が実行されないという可能性を低減でき、警報制御をより適切に実行できる。
【0068】
以上、本実施形態に係る降車支援装置について説明したが、本発明は上記実施形態に限定されるものではなく、本発明の目的を逸脱しない限り、種々の変更が可能である。
【0069】
例えば、上記実施形態では特定条件は条件a乃至条件cの全てが成立した場合に成立するが、特定条件の成立要件はこれに限られない。例えば、特定条件は、条件aが成立した場合に成立するように構成されてもよい。警報条件が成立した場合において阻害物標の少なくとも一部が自車両の後方車幅領域Rvw内に位置しているときは、物標が、その移動方向の演算結果に誤差が生じることに起因して阻害物標として誤検出されている可能性が高い。このため、特定条件が条件aのみが成立した場合に成立するように構成された場合であっても、警報制御の不要作動を抑制できる。或いは、特定条件は、条件a及び条件bが成立した場合、又は、条件a及び条件cが成立した場合に成立するように構成されてもよい。
【0070】
また、上記実施形態では降車支援制御として警報制御が実行されたが、降車支援制御の種類はこれに限られない。例えば、ドアの開放の度合いを制限するドア開放制限制御、又は、ドアをロックするドアロック制御が降車支援制御として実行されてもよい。或いは、警報制御に加えてドア開放制限制御又はドアロック制御が降車支援制御として実行されてもよい。
【0071】
更に、上記実施形態では警報制御としてブザー20を鳴動させる処理が実行されたが、警報制御の処理内容はこれに限られない。例えば、以下の処理、即ち、阻害物標が検出された側のサイドミラーインジケータ(自車両の左右のサイドミラーのそれぞれの所定の位置に設けられたインジケータ)を点灯させる処理、メーターパネルに所定のマーク(例えば、阻害物標が左後方又は右後方の何れの方向から接近しているのかを明示するマーク)を表示させる処理、及び/又は、スピーカ(ナビゲーションシステムの構成要素)に所定のメッセージ(例えば、「接近車両にご注意下さい」とのメッセージ)を発話させる処理が、ブザー20を鳴動させる処理に代えて、又は、加えて、警報制御として実行されてもよい。
【0072】
更に、上記実施形態では、条件2は、物標についてTTC≦TTCthが成立した時点で成立するが、条件2の成立要件はこれに限られない。例えば、物標についてTTC≦TTCthが所定の継続時間だけ継続した場合に条件2が成立するように構成されてもよい。また、条件3は、阻害物標が検出された側のドアが閉状態から開状態に変化した時点で成立するように構成されてもよい。或いは、条件3は、車内に設置されたカメラ(車内の乗員を撮像可能なカメラ)により撮像された画像データに基づいて乗員がドア操作部(典型的にはドアのインナーレバー)を操作している動作が検出された場合に成立するように構成されてもよい。
【0073】
また、上記実施形態では、警報条件は条件1乃至条件3の全てが成立した場合に成立するが、警報条件の成立要件はこれに限られない。例えば、警報条件は、条件3を含んでいなくてもよく、条件1及び条件2が成立した場合に成立するように構成されてもよい。別言すれば、警報制御は、乗員に降車意図があるか否かに関わらず実行されるように構成されてもよい。
【0074】
或いは、警報制御は、2段階で実行されてもよい。具体的には、警報制御は、2種類の制御、即ち、通常警報制御と軽度警報制御(通常警報制御よりも支援の程度が軽度な制御)を含む。軽度警報制御は、例えば、上述したサイドミラーインジケータ点灯処理を実行する制御であり、通常警報制御は、例えば、サイドミラーインジケータ点灯処理に加え、上述した「ブザー鳴動処理、メーターパネル上マーク表示処理、スピーカ発話処理」の少なくとも1つを実行する制御である。軽度警報制御は、条件1及び条件2が成立した場合(即ち、停車中に阻害物標が検出されたものの、ドアが閉状態である場合)に実行される。通常警報制御は、条件1及び条件2に加え、条件3が更に成立した場合(即ち、停車中に阻害物標が検出され且つドアが開状態の場合)に実行される。
ドアが閉状態の場合、乗員が当該ドアから降車しようとしているか否かを判別できない。別言すれば、乗員に降車意図はあるものの現時点では当該ドアを開けていないだけという可能性、及び、乗員に降車意図はなく当該ドアは引き続き閉状態に維持されるという可能性、の両方が考えられる。このため、当該ドアが閉状態の場合は軽度警報制御を実行することにより、「降車意図がある乗員には前もって阻害物標の存在を報知しておくこと」と、「降車意図がない乗員には通常警報制御が実行されることに起因した煩わしさを与えないこと」と、を両立させることができる。
なお、条件1乃至条件3が全て成立している場合、通常警報制御に代えて、上述したドア開放制限制御又はドアロック制御が降車支援制御として実行されてもよい。或いは、通常警報制御に加えて、ドア開放制限制御又はドアロック制御が降車支援制御として実行されてもよい。
【0075】
更に、上記実施形態では、交差判定線Lを導入し、物標のTTCに基づいて阻害物標を検出するように構成されているが、阻害物標の検出方法はこれに限られない。例えば、自車両の後方(典型的には、左後側方及び右後側方)に所定の大きさ及び形状を有する仮想的なエリア(より詳細には、レーダセンサ12の照射範囲内のエリア)を設定し、レーダセンサ12により検出された物標が当該エリア内に位置している場合に当該物標を阻害物標として検出するように構成されてもよい。この場合、上記エリアの形状は特に限定されず、例えば、台形形状又は長方形形状であってもよい。
【符号の説明】
【0076】
10:降車支援ECU、11:車速センサ、12:レーダセンサ、13:ドア開閉センサ、20:ブザー
【国際調査報告】