(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公表特許公報(A)
(11)【公表番号】
(43)【公表日】2024-09-30
(54)【発明の名称】細胞化神経再生移植片及びその作製方法
(51)【国際特許分類】
A61L 27/38 20060101AFI20240920BHJP
A61L 27/14 20060101ALI20240920BHJP
A61L 27/44 20060101ALI20240920BHJP
A61L 27/52 20060101ALI20240920BHJP
A61L 27/18 20060101ALI20240920BHJP
A61L 27/20 20060101ALI20240920BHJP
A61L 27/22 20060101ALI20240920BHJP
A61L 27/24 20060101ALI20240920BHJP
A61L 27/26 20060101ALI20240920BHJP
【FI】
A61L27/38 200
A61L27/38 100
A61L27/14
A61L27/44
A61L27/52
A61L27/18
A61L27/20
A61L27/22
A61L27/24
A61L27/26
【審査請求】未請求
【予備審査請求】未請求
(21)【出願番号】P 2024519283
(86)(22)【出願日】2022-09-28
(85)【翻訳文提出日】2024-05-27
(86)【国際出願番号】 US2022077140
(87)【国際公開番号】W WO2023056275
(87)【国際公開日】2023-04-06
(32)【優先日】2021-09-28
(33)【優先権主張国・地域又は機関】US
(81)【指定国・地域】
(71)【出願人】
【識別番号】510144959
【氏名又は名称】ラトガース,ザ ステート ユニバーシティ オブ ニュー ジャージー
(74)【代理人】
【識別番号】110002675
【氏名又は名称】弁理士法人ドライト国際特許事務所
(72)【発明者】
【氏名】パン,ジーピン
(72)【発明者】
【氏名】マーシー,エヌ.サンジーバ
(72)【発明者】
【氏名】ボアランド,アンドリュー ジェイ.
(72)【発明者】
【氏名】ガンボア,ジャスミン エム.
(72)【発明者】
【氏名】ペレル,ジェレミー エム.
【テーマコード(参考)】
4C081
【Fターム(参考)】
4C081AB18
4C081BA12
4C081BA16
4C081CA17
4C081CA18
4C081CA24
4C081CC02
4C081CD02
4C081CD04
4C081CD08
4C081CD09
4C081CD11
4C081CD12
4C081CD15
4C081CD27
4C081CD34
4C081CE01
4C081CE08
4C081DA03
4C081DA04
4C081DA12
4C081DB01
4C081DC04
4C081DC11
4C081EA06
(57)【要約】
外表面及び内腔空間を有するエレクトロスピニングされた生分解性ポリマー導管と、導管の外表面に接種された複数の線維芽細胞と、導管の内腔空間を充填する系と、を含む細胞化神経再生移植片が開示される。該系は、ヒドロゲルマトリックス又は強化されたヒドロゲルマトリックス及びシュワン細胞を含んでもよい。細胞化神経再生移植片は、末梢神経損傷の修復に使用されてもよい。また、細胞化神経再生移植片を作製する方法が開示される。
【選択図】
図6
【特許請求の範囲】
【請求項1】
a、外表面及び内腔空間を有するエレクトロスピニングされた生分解性ポリマー導管と、
b、前記導管の外表面に接種された複数の線維芽細胞と、
c、ヒドロゲルマトリックス又は強化されたヒドロゲルマトリックス及びシュワン細胞を含む、前記導管の内腔空間を充填する系と、を含む細胞化神経再生移植片。
【請求項2】
前記エレクトロスピニングされた生分解性ポリマー導管は、複数の層を含む、請求項1に記載の細胞化神経再生移植片。
【請求項3】
前記エレクトロスピニングされた生分解性ポリマー導管は、2つの層を有し、第1層は、整列バイオポリマー繊維を含み、第2層は、非整列バイオポリマー繊維を含む、請求項2に記載の細胞化神経再生移植片。
【請求項4】
前記エレクトロスピニングされた生分解性ポリマーは、チロシン由来のポリマー又はチロソール由来のポリマーである、先行する請求項のいずれか一項に記載の細胞化神経再生移植片。
【請求項5】
前記線維芽細胞は、約1.0×10
5細胞/cm
2~約1.0×10
6細胞/cm
2の濃度で前記導管の外表面に連続細胞層を形成する、先行する請求項のいずれか一項に記載の細胞化神経再生移植片。
【請求項6】
前記シュワン細胞は、前記導管の内腔空間内の前記ヒドロゲルマトリックス又は強化されたヒドロゲルマトリックス全体に実質的に均一に分布する、先行する請求項のいずれか一項に記載の細胞化神経再生移植片。
【請求項7】
前記シュワン細胞は、約500万細胞/mL~約8000万細胞/mLの濃度でヒドロゲルマトリックス又は強化されたヒドロゲルマトリックス全体に分布する、請求項6に記載の細胞化神経再生移植片。
【請求項8】
前記強化されたヒドロゲルマトリックスは、微小直径を有する繊維、中空管、又はそれらの組み合わせを含む、先行する請求項のいずれか一項に記載の細胞化神経再生移植片。
【請求項9】
前記強化されたヒドロゲルマトリックスは、成長因子、ガイダンスキュー、構造ペプチド、接着因子、他の化学薬剤、又はそれらの任意の組み合わせと組み合わせられたRADA16ペプチド、コラーゲン、ゼラチン、アルギン酸塩、ヒアルロン酸、又はそれらの任意の組み合わせからなる群から選択されるヒドロゲルを含む、先行する請求項のいずれか一項に記載の細胞化神経再生移植片。
【請求項10】
前記系は、線維芽細胞、他の支持細胞、又はそれらの任意の組み合わせを更に含む、先行する請求項のいずれか一項に記載の細胞化神経再生移植片。
【請求項11】
前記系における前記線維芽細胞と前記シュワン細胞の濃度は、約1:10である、請求項10に記載の細胞化神経再生移植片。
【請求項12】
請求項1に記載の細胞化神経再生移植片を作製する方法であって、
a、チロシン由来のポリマー又はチロソール由来のポリマーの製剤をエレクトロスピニングして、前記エレクトロスピニングされた生分解性ポリマー導管を作製するステップと、
b、線維芽細胞を培養するステップと、
c、前記エレクトロスピニングされた生分解性ポリマー導管の外表面に前記線維芽細胞を接種するステップと、
d、ヒトシュワン細胞を生成するステップと、
e、前記ヒトシュワン細胞を前記ヒドロゲルマトリックス又は強化されたヒドロゲルマトリックスに埋め込んで前記系を作製するステップと、
f、前記エレクトロスピニングされた生分解性ポリマー導管の内腔空間に前記系を接種するステップと、
g、前記接種された導管を約2週間~約4週間インキュベートして、前記細胞化神経再生移植片を作製するステップと、を含む、方法。
【請求項13】
3Dプリントされたマイクロデバイスは、前記線維芽細胞の接種を促進するために使用される、請求項12に記載の方法。
【請求項14】
前記3Dプリントされたマイクロデバイスは、前記エレクトロスピニングされた生分解性ポリマー導管の内腔空間内への前記系の接種を促進するために使用される、請求項13に記載の方法。
【請求項15】
前記3Dプリントされたマイクロデバイスは、ロッド、中空ギア、中実ギア、及びキャップ付き中空チューブを含む、請求項13に記載の方法。
【請求項16】
前記線維芽細胞を接種するステップは、
前記エレクトロスピニングされた生分解性ポリマー導管を、約1.0×10
5細胞/mL~約5.0×10
5細胞/mLの濃度での懸濁液中の線維芽細胞に供するステップと、
前記線維芽細胞懸濁液中の前記エレクトロスピニングされた生分解性ポリマー導管を回転させるステップと、
前記エレクトロスピニングされた生分解性ポリマー導管を培地溶液に浸漬するステップと、
線維芽細胞が前記エレクトロスピニングされた生分解性ポリマー導管の外表面に接種されるまで、前記エレクトロスピニングされた生分解性ポリマー導管を浸漬状態で約10時間~約24時間維持するステップと、を含む、請求項12に記載の方法。
【請求項17】
前記エレクトロスピニングされた生分解性ポリマー導管の内腔空間に前記系を接種するステップは、
a、前記エレクトロスピニングされた生分解性ポリマー導管の一端をキャッピングするステップと、
b、キャッピングされた前記導管の内腔空間に前記系を挿入して、充填された導管を作製するステップと、
c、充填された前記導管を培地溶液に浸漬するステップと、
d、充填された前記導管をインキュベートして前記系を接種し、前記細胞化神経再生移植片を形成するステップと、を含む、請求項12に記載の方法。
【請求項18】
前記インキュベートステップは、約33℃~約40℃及び約3%~約7%のCO
2で、前記培地溶液の少なくとも一部を約15分間~約30分間ごとに交換しながら、約30分間~約60分間で行われる、請求項17に記載の方法。
【請求項19】
前記インキュベートステップは、前記培地溶液の少なくとも一部を約1日間~約2日間ごとに交換しながら、更に約3週間維持される、請求項18に記載の方法。
【請求項20】
請求項1~11のいずれか一項に記載の細胞化神経再生移植片を患者に移植するステップを含む、患者の損傷した末梢神経を修復する方法。
【請求項21】
前記細胞化神経再生移植片を前記損傷した末梢神経の遠位端及び近位端に接着するステップを更に含む、請求項20に記載の方法。
【請求項22】
a、外表面及び内腔空間を有するエレクトロスピニングされた生分解性ポリマー導管と、
b、ヒドロゲルマトリックス又は強化されたヒドロゲルマトリックス及びシュワン細胞を含む、前記導管の内腔空間を充填する系と、
c、前記エレクトロスピニングされた生分解性ポリマー導管の長手方向に延在し、かつ前記系内にある複数のチャネルと、を含む、細胞化神経再生移植片。
【請求項23】
前記エレクトロスピニングされた生分解性ポリマー導管は、複数の層を含む、請求項22に記載の細胞化神経再生移植片。
【請求項24】
前記エレクトロスピニングされた生分解性ポリマー導管は、2つの層を有し、第1層は、整列バイオポリマー繊維を含み、第2層は、非整列バイオポリマー繊維を含む、請求項23に記載の細胞化神経再生移植片。
【請求項25】
前記エレクトロスピニングされた生分解性ポリマーは、チロシン由来のポリマー又はチロソール由来のポリマーである、請求項22~24のいずれか一項に記載の細胞化神経再生移植片。
【請求項26】
前記導管の外表面に接種された複数の線維芽細胞を更に含み、必要に応じて、前記線維芽細胞は、約1.0×10
5細胞/cm
2~約1.0×10
6細胞/cm
2の濃度で前記導管の外表面に連続細胞層を形成する、請求項22~25のいずれか一項に記載の細胞化神経再生移植片。
【請求項27】
前記シュワン細胞は、前記導管の内腔空間内の前記ヒドロゲルマトリックス又は強化されたヒドロゲルマトリックス全体に実質的に均一に分布する、請求項22~26のいずれか一項に記載の細胞化神経再生移植片。
【請求項28】
前記シュワン細胞は、約500万細胞/mL~約8000万細胞/mLの濃度でヒドロゲルマトリックス又は強化されたヒドロゲルマトリックス全体に分布する、請求項27に記載の細胞化神経再生移植片。
【請求項29】
前記強化されたヒドロゲルマトリックスは、微小直径を有する繊維、中空管、又はそれらの組み合わせを含む、請求項22~28のいずれか一項に記載の細胞化神経再生移植片。
【請求項30】
前記系は、線維芽細胞、他の支持細胞、又はそれらの任意の組み合わせを更に含む、請求項22~29のいずれか一項に記載の細胞化神経再生移植片。
【請求項31】
前記系における前記線維芽細胞と前記シュワン細胞の濃度は、約1:10である、請求項30に記載の細胞化神経再生移植片。
【請求項32】
複数の前記チャネルは、中空であり、シュワン細胞で強化される、請求項22~31のいずれか一項に記載の細胞化神経再生移植片。
【請求項33】
請求項22に記載の細胞化神経再生移植片を作製する方法であって、
a、チロシン由来のポリマー又はチロソール由来のポリマーの製剤をエレクトロスピニングして、前記エレクトロスピニングされた生分解性ポリマー導管を作製するステップと、
b、ヒトシュワン細胞を生成するステップと、
c、前記ヒトシュワン細胞を前記ヒドロゲルマトリックス又は強化されたヒドロゲルマトリックスに埋め込んで前記系を作製するステップと、
d、前記ヒトシュワン細胞を使用して吸収性繊維を培養するステップと、
e、培養された前記吸収性繊維を、長手方向に配置させてそれらの間に間隔をあけるように、前記エレクトロスピニングされた生分解性ポリマー導管の内腔空間内にロードするステップと、
f、前記系を、前記エレクトロスピニングされた生分解性ポリマー導管の内腔空間内及び培養された前記吸収性繊維の間に接種するステップと、
g、接種された前記導管を約1週間~約6週間インキュベートするステップと、を含み、前記吸収性繊維は、溶解して、前記吸収性繊維中には、長手方向の複数の中空チャネルを有する前記細胞化神経再生移植片が残る、方法。
【請求項34】
請求項22に記載の細胞化神経再生移植片を作製する方法であって、
a、チロシン由来のポリマー又はチロソール由来のポリマーの製剤をエレクトロスピニングして、前記エレクトロスピニングされた生分解性ポリマー導管を作製するステップと、
b、ヒトシュワン細胞を生成するステップと、
c、前記ヒトシュワン細胞を前記ヒドロゲルマトリックス又は強化されたヒドロゲルマトリックスに埋め込んで前記系を作製するステップと、
d、前記吸収性繊維を、長手方向に配置させてそれらの間に間隔をあけるように、前記エレクトロスピニングされた生分解性ポリマー導管の内腔空間内にロードするステップと、
e、ヒトシュワン細胞を含む懸濁液を前記エレクトロスピニングされた生分解性ポリマー導管の内腔空間に添加して、培養された吸収性繊維を作製するステップと、
f、前記系を、前記エレクトロスピニングされた生分解性ポリマー導管の内腔空間内及び培養された前記吸収性繊維の間に接種するステップと、
g、接種された前記導管を約1週間~約6週間インキュベートするステップと、を含み、前記吸収性繊維は、溶解して、前記吸収性繊維中には、長手方向の複数の中空チャネルを有する前記細胞化神経再生移植片が残る、方法。
【請求項35】
ステップdの前に、線維芽細胞を培養するステップと、前記エレクトロスピニングされた生分解性ポリマー導管の外表面に前記線維芽細胞を接種するステップと、を含む、請求項33又は34に記載の方法。
【請求項36】
前記吸収性繊維は、約10μm~約50μmの直径を有し、及び/又は、ポリ乳酸-グリコール酸共重合体(PLGA)、ポリグリコール酸(PGA)、高濃度のポリエチレングリコール(PEG)を有するチロシン由来のポリマー若しくはチロソール由来のポリマー、又はそれらの任意の組み合わせを含む、請求項33~35のいずれか一項に記載の方法。
【請求項37】
培養された前記吸収性繊維間の間隔は、約20μm~約100μmである、請求項33~36のいずれか一項に記載の方法。
【請求項38】
前記細胞化神経再生移植片は、前記中空チャネル内のシュワン細胞を含む、請求項33~37のいずれか一項に記載の方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本開示は、末梢神経損傷の修復に使用される細胞化神経再生移植片及びその作製方法に関する。
【背景技術】
【0002】
末梢神経損傷(PNI)は、直接的な医療費が世界経済で年間1500億米ドルを超える。また、特にそのような損傷の年齢中位数が約35歳であるため、個人とその地域社会にとって、機能喪失PNIによる賃金の損失、間接的な支出、その他の長期的な社会経済的コストを含む他のコストが存在する。このような損傷は、身体的外傷、癌、又はその他の神経系病状に起因する可能性がある。関連する社会経済的コストは、世界的に見て大幅に増加しており、特に肉体労働に関する仕事で職場負傷が頻繁に発生する発展途上国では顕著である。医療の大幅な進歩と脳神経外科の精度の向上にも関わらず、神経損傷は、依然として完全な機能回復の望みが薄く、多くの場合、患者は、感覚及び/又は運動機能を失うことになる。更に、PNS障害とCNS障害の両方における神経病状の理解は、初期段階にあり、変性神経疾患に対する解決策は少ない。以前の実験では、ヒトの細胞外マトリックスを模倣したマトリックス内への支持細胞の成長を誘導する、多層バイオポリマー足場の生成の有効性が実証されている。例えば、Garrison, CM、 Singh-Varma, A、 Pastino, AKら、「A multilayered scaffold for regeneration of smooth muscle and connective tissue layers」、J Biomed Mater Res.2020;109:733-744を参照する。組織発達に関する現在の理解では、ECM、支持細胞、及び成長因子などの調節分子が組織の成長とリモデリングにおいて不可欠な役割を果たすことが示唆されている。
【0003】
神経損傷を修復する外科技術が改善されているが、神経損傷を治療する「絶対的基準」がまだない。神経移植手術の先駆者であるDr. Susan E. MacKinnon博士によると、最良の神経移植片である自家移植片は、単に「ブロンズ基準」と見なされている。現在の組織移植片では、手術後に大部分の患者の機能的及び感覚的能力のみを部分的に回復させることができる。更に、PNIの管理コストも増加している。現在、神経損傷の修復では、修復時で患者1人あたり約47000ドルの費用がかかり、年間9.69%増加している。また、ニューロンの再生及び神経系の衰弱状態の緩和についての理解は、まだ初期段階にある。
【発明の概要】
【0004】
外表面及び内腔空間を有するエレクトロスピニングされた生分解性ポリマー導管と、前記導管の外表面に接種された複数の線維芽細胞と、ヒドロゲルマトリックス又は強化されたヒドロゲルマトリックス及びシュワン細胞を含む、前記導管の内腔空間を充填する系と、を含む細胞化神経再生移植片が開示される。前記強化されたヒドロゲルマトリックスは、成長因子、ガイダンスキュー、構造ペプチド、接着因子、他の化学薬剤、又はそれらの任意の組み合わせと組み合わせられたRADA16ペプチド、コラーゲン、ゼラチン、アルギン酸塩、ヒアルロン酸、又はそれらの任意の組み合わせからなる群から選択されるヒドロゲルを含む。前記エレクトロスピニングされた生分解性ポリマー導管は、複数の層、例えば、2つの層を含んでもよく、第1層は、整列バイオポリマー繊維を有し、第2層は、非整列バイオポリマー繊維を有する。前記エレクトロスピニングされた生分解性ポリマーは、チロシン由来のポリマー又はチロソール由来のポリマーであってもよい。前記線維芽細胞は、約1.0×105細胞/cm2を超える濃度で前記導管の外表面に連続細胞層を形成してもよい。前記シュワン細胞は、前記導管の内腔空間内の前記ヒドロゲルマトリックス又は強化されたヒドロゲルマトリックス全体に、例えば約2000万細胞/mLを超える濃度で実質的に均一に分布してもよい。前記細胞化神経再生移植片は、前記エレクトロスピニングされた生分解性ポリマー導管の長手方向に延在し、かつ前記系内にある複数のチャネルを含んでもよい。複数の前記チャネルは、中空であり、シュワン細胞で強化されてもよい。
【0005】
また、前記細胞化神経再生移植片を作製する方法が開示される。前記方法は、チロシン由来のポリマー又はチロソール由来のポリマーの製剤をエレクトロスピニングして、前記エレクトロスピニングされた生分解性ポリマー導管を作製するステップと、線維芽細胞を培養するステップと、前記エレクトロスピニングされた生分解性ポリマー導管の外表面に前記線維芽細胞を接種するステップと、ヒトシュワン細胞を生成するステップと、前記ヒトシュワン細胞を前記ヒドロゲルマトリックス又は強化されたヒドロゲルマトリックスに埋め込んで前記系を作製するステップと、前記エレクトロスピニングされた生分解性ポリマー導管の内腔空間に前記系を接種するステップと、前記接種された導管をインキュベートして、前記細胞化神経再生移植片を作製するステップと、を含む。
【0006】
また、細胞化神経再生移植片を患者に移植するステップを含む、患者の損傷した末梢神経を修復する方法が開示される。
【0007】
また、前記エレクトロスピニングされた生分解性ポリマー導管の長手方向に延在する複数のチャネルを有する前記細胞化神経再生移植片を作製する方法が開示される。前記方法は、チロシン由来のポリマー又はチロソール由来のポリマーの製剤をエレクトロスピニングして、前記エレクトロスピニングされた生分解性ポリマー導管を作製するステップと、ヒトシュワン細胞を生成するステップと、前記ヒトシュワン細胞を前記ヒドロゲルマトリックス又は強化されたヒドロゲルマトリックスに埋め込んで前記系を作製するステップと、前記ヒトシュワン細胞を使用して吸収性繊維を培養し、次に、培養された前記吸収性繊維を、長手方向に配置させるように、前記エレクトロスピニングされた生分解性ポリマー導管内にロードするか、又は、前記吸収性繊維を、長手方向に配置させるように、前記エレクトロスピニングされた生分解性ポリマー導管内にロードするステップと、ヒトシュワン細胞を含む懸濁液を前記エレクトロスピニングされた生分解性ポリマー導管の内腔空間に添加して、培養された吸収性繊維を作製するステップと、前記系を、前記エレクトロスピニングされた生分解性ポリマー導管の内腔空間内及び培養された前記吸収性繊維の間に接種するステップと、接種された前記導管を約1週間~約6週間インキュベートするステップと、を含み、前記吸収性繊維は、溶解して、前記吸収性繊維中には、長手方向の複数の中空チャネルを有し、必要に応じて、前記チャネル内にシュワン細胞を有する前記細胞化神経再生移植片が残る。前記方法は、線維芽細胞を培養するステップと、前記エレクトロスピニングされた生分解性ポリマー導管の外表面に前記線維芽細胞を接種するステップと、を更に含む。前記吸収性繊維は、ポリ乳酸-グリコール酸共重合体(PLGA)、ポリグリコール酸(PGA)、高濃度のポリエチレングリコール(PEG)を有するチロシン由来のポリマー、又はそれらの任意の組み合わせで作製されてもよい。培養された前記吸収性繊維間の間隔は、約20μm~約100μmであってもよい。
【図面の簡単な説明】
【0008】
図1A~
図1Bは、二層シート内の整列繊維と非整列繊維を示す電子顕微鏡写真である。
【0009】
図2A~
図2Bは、二層シート内の整列繊維と非整列繊維を示す電子顕微鏡写真である。
【0010】
図3A~
図3Eは、内腔空間内に封入された、強化されたヒドロゲルマトリックス及び埋め込まれたシュワン細胞の系を有するエレクトロスピニングされた生分解性ポリマー導管の一例である。
【0011】
図4A~
図4Fは、本開示の細胞化神経再生移植片を組み立てるために使用される様々な3Dプリントされた部品の一例である。
【0012】
図5は、ポリマー導管内に長手方向のチャネルを作製するために、どのようにシュワン細胞を吸収性繊維上で培養し得るかの一例を示す概略図である。
【0013】
図6は、本開示の細胞化神経再生移植片を作製するための概略図である。
【0014】
図7A~
図7Dは、初期細胞培養のための多層バイオポリマー固定具の構築の一例である。
【0015】
図8A~
図8Eは、チロシン由来の生分解性ポリマー導管及び固定具アセンブリの構築の一例である。
【0016】
図9A~
図9Cは、ヒトシュワン細胞を生成する方法の一例、及びシュワン細胞の倍数発現のグラフである。
【0017】
図10は、成長因子と組み合わせてレンチウイルスによって送達される転写因子を使用してヒトシュワン細胞を生成して、iPSC又は線維芽細胞(FB)のいずれかのシュワン細胞への分化を促進する第2方法を示す。
【0018】
図11A~
図11Cは、エレクトロスピニングされた生分解性ポリマー繊維足場の反対側で培養されたシュワン細胞及び線維芽細胞を示す。
【0019】
図12は、本開示の細胞化神経再生移植片をマウス末梢神経損傷モデルに移植するためのスキームである。
【0020】
図13は、チロシン由来のポリカーボネートで作製された繊維上で成長するラットシュワン細胞の拡大画像の一例である。
【0021】
図14A~
図14Cは、コラーゲンヒドロゲルマトリックス内で増殖するラットシュワン細胞を示す断面共焦点顕微鏡画像であり、チロシン由来のポリマー繊維がマトリックス全体に分散し、ヒドロゲルマトリックス内に長手方向の神経束を維持していることを示す。
【発明を実施するための形態】
【0022】
PNI患者における軸索再生を促進するために、神経支持細胞を接種した生分解性ポリマー導管を生成するための方法が開示される。該方法は、損傷した末梢神経組織を連結するのに適した細胞化神経再生移植片(CNRG)の構築を含む。幹細胞生物学、生体材料、及び3Dプリンティングを組み合わせてCNRGを作製する。
【0023】
本明細書に開示される細胞化神経再生移植片は、外表面に線維芽細胞(FB)が接種され、内腔空間にシュワン細胞(SC)が接種された、好ましい多層エレクトロスピニングされた生分解性ポリマー導管を利用する。これらのシュワン細胞は、移植片拒絶反応を最小限抑え、良好な再生可能な環境への軸索の再成長を促進するために、人工多能性幹細胞経路を通じて誘導されてもよい。
【0024】
外表面及び内腔空間を有するエレクトロスピニングされた生分解性ポリマー導管と、導管の外表面に接種された複数の線維芽細胞と、導管の内腔空間を充填する系と、を含む細胞化神経再生移植片が開示される。該系は、ヒドロゲルマトリックス又は強化されたヒドロゲルマトリックス及びシュワン細胞を含む。細胞化神経再生移植片は、内腔空間全体にシュワン細胞を含有し、線維芽細胞が外表面に位置する固体構造であってもよい。シュワン細胞は、ヒドロゲルマトリックス又は強化されたヒドロゲルマトリックス全体にわたって3次元的に成長する可能性がある。
【0025】
患者は、手術の準備を整えられ、生細胞及び成長因子を含有する細胞化神経再生移植片は、神経損傷の遠位端と近位端に移植片の末端を縫合するか又は接着することによって患者に移植される。
【0026】
したがって、事前に確立された細胞構造が移植前に開発されることにより、事前に確立された組織は、移植されると、細胞の生存を促進し、移植時に「真の生体内」環境を構成する。以前のアプローチでは、シュワン細胞をゲルに注入するだけであり、移植前にヒドロゲル内でシュワン細胞を安定した培養物に成長させることがない。事前に確立された組織様構築物を開発することにより、移植後のアポトーシス副産物の毒性が軽減され、生体組織に存在する本物の細胞間相互作用が強化される。線維芽細胞の役割は、シュワン細胞の基本的な方向性を確立し、シュワン細胞に成長因子及び接着因子を提供して、本物の神経構造を模倣することである。
【0027】
エレクトロスピニングされた生分解性ポリマー導管は、約1.0mm~約5.0mm、又は約1.5mm~約4.0mmの直径を有してもよい。導管は、約1.0cm~約10.0cm、又は約1.0cm~約5.0cmの長さを有してもよい。導管は、約50μm~約500μm、又は約50μm~約300μmの厚さを有してもよい。導管は、それぞれチロシンポリマー又はチロソール由来のポリマーと呼ばれてもよいチロシン由来のポリマー又はチロソール由来のポリマーで構築されてもよい。チロシン由来のポリマー又はチロソール由来のポリマーは、非炎症性分解バイオ製品を有する。導管は、チロシン由来のポリマー、例えば、デスアミノチロシルチロシンエチルエステル(DTE)、デスアミノチロシルチロシン(DT)、又はそれらの組み合わせで構成されてもよい。導管は、デスアミノチロシルチロシンエチルエステル(DTE)、デスアミノチロシルチロシン(DT)、及びポリエチレングリコール(PEG)で構成されてもよい。本明細書に記載のポリマー中の遊離カルボン酸単位及びPEG単位のモル分率を調整して、そのようなポリマーで作製されるNADの機械的特性及び分解速度を変更することができる。例えば、遊離カルボン酸の量が少ないポリマーは、体内での寿命が長くなる傾向がある。更に、ポリマー中の遊離カルボン酸の量を好ましいモル分率の範囲にわたって調整することによって、得られたポリマーを、異なるデバイス寿命を必要とする様々な用途での使用に適合させることができる。一般に、遊離カルボン酸単位のモル分率が高くなるほど、体内でのデバイスの寿命は、短くなり、そのようなデバイスは、より短い寿命が所望であるか又は要求される用途により適している。
【0028】
導管は、例えば、米国公開第2020/0181321号及び国際公開第2021/055090号のチロソール由来のポリマーで構成されてもよく、これらの全体は、参照により本明細書に組み込まれる。導管は、ポリ(HTyグルタル酸塩)、ポリ(HTyスベリン酸塩)、ポリ(HTYドデカン二酸塩)、ポリ(HTyフェニレンジアセテート)、又はそれらの任意の組み合わせで構成されてもよい。導管は、ポリ(HTyグルタル酸塩)で構成されてもよい。
【0029】
エレクトロスピニングされた生分解性ポリマー導管は、以下の構造(式I)の繰り返し単位を有する生分解性ポリマーで構築されてもよい。
【化1】
式中、aとbは、独立して、0、又は1~6の整数であり、cとdは、独立して、0、又は1~6の整数であり、各R
1は、独立して、最大18個の炭素原子を含有する直鎖及び分枝鎖のアルキル基からなる群から選択され、各R
2は、独立して、最大6個の炭素原子を含有するアルキレン基であり、kは、約20~約200であり、xは、約0.02~約0.20の範囲にあり、zは、約0.005~約0.10の範囲にあり、x+y+z=1.00である。
【0030】
いくつかの実施形態では、aとbは、それぞれ2と1である。いくつかの実施形態では、cとdは、それぞれ2と1であり、R1は、エチルである。いくつかの実施形態では、上記ポリマーのR2は、エチレンであり、kは、約25~約50である。
【0031】
様々なポリカーボネートポリマーの合成は、例えば、米国特許第6120491号及び第6475477号に開示されている方法を含めて、本技術分野で一般に知られており、これらの開示は、参照により本明細書に組み込まれる。米国特許第6120491号に開示されているポリアクリレート及び他のポリカーボネートも、本明細書のポリマー導管の構築に使用されるために参照により本明細書に組み込まれる。ペンダント遊離カルボン酸基を有するポリマーは、好ましくは、遊離カルボン酸基とコモノマーとの交差反応を回避するために、対応するベンジル及びtert-ブチルエステルポリマーで調製される。ベンジルエステルポリマーは、米国特許第6120491号に開示されているパラジウム触媒水素化分解法により、対応する遊離カルボン酸ポリマーに変換されてもよい。tert-ブチルエステルポリマーは、同じく参照により本明細書に組み込まれる米国特許出願公開第20060034769号に開示されている酸分解法によりtert-ブチル基を選択的に除去することにより、対応する遊離カルボン酸ポリマーに変換されてもよい。
【0032】
所定の時間内に分解するか又は再吸収するポリマーを選択してもよい。このため、実施形態では、DTなどのペンダント側鎖カルボン酸基を有するモノマー繰り返し単位のモル分率が約2モル%~約20モル%、好ましくは約5モル%~約20モル%であるポリマーが含まれてもよい。
【0033】
PEGなどのポリアルキレングリコールセグメントは、ポリマーの表面接着力を低下させる。本発明によって提供されるブロックコポリマー中のポリアルキレングリコールセグメントのモル分率を変えることによって、ポリマーの親水性/疎水性比を変化させて、細胞挙動を変更するポリマーコーティングの能力を調整することができる。ポリアルキレングリコールのレベルが増加すると、細胞の付着、遊走及び増殖が抑制される。次に、PEGは、水の取り込みを増加させるため、ポリマーの分解速度が増加する。したがって、一実施形態では、ポリアルキレングリコールの量が0.5モル%~約10モル%、好ましくは約0.5モル%~約5モル%、より好ましくは約0.5モル%~約1モル%に制限されるポリマーが選択される。ポリアルキレングリコールは、1k~2kの分子量を有してもよい。
【0034】
ポリマーは、弾性、剛性、強度及び分解挙動を含む適切な機械的特性を備えたポリマー導管での使用に適切な固有の物理的特性を有するように選択されてもよい。このようなポリマーには、ポリマーが非晶質である場合、生理的条件下で完全に水和したときに37℃を超えるガラス転移温度を有するポリマーが含まれ、ポリマーが結晶性である場合、生理的条件下で完全に水和したときに37℃を超える結晶融解温度を有するポリマーが含まれる。
【0035】
他の生分解性ポリマー及び生体適合性ポリマーを使用して、得られたポリマー導管の特定の所望の特性を提供又は強化する繊維を形成できることが理解されるべきである。使用され得る他のポリマーの例としては、ポリ乳酸、ポリグリコール酸、ポリ乳酸-グリコール酸共重合体、ポリカプロラクトン、様々なポリアミノ酸及びポリ酸無水物が挙げられるが、これらに限定されない。他の天然又は非天然繊維材料、例えば、コラーゲン、セルロース、キトサン、及びそれらの誘導体を代替的又は追加的に利用して、得られたポリマー導管の特定の所望の特性を提供又は強化してもよい(例えば、米国特許第8216602号を参照)。
【0036】
エレクトロスピニングされた生分解性ポリマー導管は、米国特許公開第2018/0280567号に開示されている任意のポリマーで構築されてもよく、その全体が参照により本明細書に組み込まれる。
【0037】
エレクトロスピニングされた生分解性ポリマー導管は、以下の式XVIIIの繰り返し単位を含む生体適合性ポリマーで構築されてもよい。
【化2】
式中、
(a)Aは、CH
2又はCH
2CH
2であり、Bは、結合であり、Yは、(CH
2)
2、(CH
2)
3、CH
2OCH
2、(CH
2)
4、CH
2CH=CHCH
2、(CH
2)
5、(CH
2)
6、及び(CH
2)
10からなる群から選択され、
或いは、
(b)Aは、CH
2CH
2であり、Bは、-O-CO-CH
2CH
2、-O-CO-CH
2CH
2CH
2、及び-O-CO-CH
2OCH
2からなる群から選択され、酸素を介してAに結合され、Yは、(CH
2)
2、(CH
2)
3、CH
2OCH
2、(CH
2)
4、CH
2CH=CHCH
2、(CH
2)
5、(CH
2)
6、及び(CH
2)
10、又は米国特許出願公開第2020/0181321号に開示されている他のポリマーからなる群から選択され、その全体が参照により本明細書に組み込まれる。エレクトロスピニングされた生分解性ポリマー導管は、前述のポリマーのPEGブロックポリマーで構築されてもよい。
【0038】
エレクトロスピニングされた生分解性ポリマー導管は、式Iの複数の単位を含む生体適合性ポリマーで構築されてもよい。
【化3】
式I
式中、
Aは、結合、C
1-3アルキレン、OC
1-3アルキレン、CH=CH、C
1-3アルキレン-O-CO-C
2-5アルキレン、C
1-3アルキレン-O-CO-C
1-2アルキレン-O-C
1-2アルキレンであり、
Bは、酸素、又はNR
aであり、R
aは、H、任意に置換されたC
1-10アルキル、又は-O-E-OCO-であり、Eは、C
1-30アルキレン、C
2-30アルケレン、C
1-30アルキニレン、C
1-30ヘテロアルキレン、C
2-30ヘテロアルケレン、C
1-30ヘテロアルキニレン、C
6-30アリーレン、C
7-30アルキルアリーレン、C
8-30アルケンアリーレン、C
8-30アルキニルアリーレン、及びC
2-30ヘテロアリーレンからなる群から選択され、
R
1は、H又はCOOR
bであり、R
bは、H、最大18個の炭素原子を含有するC
1-10アルキル及びC
1-10アルキルアリールからなる群から選択され、
R
2及びR
3は、独立して、ハロゲン、C
1-4アルキル又はOC
1-4アルキルであり、
各例のXは、
【化4】
で表されるアミノ酸部分であり、
式中、
R
cは、H、又はC
1-6アルキル、C
1-3アルキレン-S-C
1-4アルキル、C
1-3アルキレン-アリール、C
1-3アルキレン-ヘテロアリール、C
1-6アルキレン-COOH、C
1-6アルキレン-N(R
x)
2、及びC
1-6アルキレン-CON(R
x)
2からなる群から選択される非置換若しくは置換の基であり、各R
xは、独立して、H又はC
1-6アルキルであり、
Yは、C
1-10アルキレン、C
6-10アリーレン、C
1-3アルキレン-O-C
1-3アルキレン、O-C
1-6アルキレン、C
1-3アルキレン-S-C
1-3-アルキレン、C
1-3アルキレン-CH=CH-C
1-3アルキレン、C
3-8シクロアルキレン、C
1-3アルキレン-C
4-8シクロアルキレン-C
1-3アルキレン、C
1-3アルキレン-C
6-10アリーレン-C
1-3-アルキレン、C
1-6アルキレン-NR
e-、C
1-3アルキレン-CH(NHBoc)-、及びC
1-3アルキレン-NR
e-C
1-3アルキレンからなる群から選択される非置換又は置換の基であり、R
eは、H、C
1-6アルキル、C
6-10アリール、C
1-3アルキレン-C
6-10アリール及びCON(R
f)
2からなる群から選択され、各R
fは、独立して、H又はC
1-6アルキルであり、
aとbは、独立して、0~4の範囲の整数であり、
cは、1~8の範囲の整数であり、dは、0又は1であり、mは、1~3の範囲の整数である。いくつかの実施形態では、Aは、C
1-3アルキレン、C
1-3アルキレン-O-CO-C
2-5アルキレン、又はC
1-3アルキレン-O-CO-C
1-2アルキレン-O-C
1-2アルキレンである。いくつかの実施形態では、Aは、CH
2又はCH
2CH
2である。いくつかの実施形態では、R
1は、Hである。いくつかの実施形態では、アミノ酸部分は、天然アミノ酸に由来する。いくつかの実施形態では、アミノ酸部分は、フェニルアラニン、バリン、トレオニン、トリプトファン、メチオニン、ロイシン、イソロイシン、リジン、及びヒスチジンからなる群から選択される必須アミノ酸に由来する。いくつかの実施形態では、Yは、C
1-5アルキレン、フェニレン、及びC
1-2アルキレン-O-C
1-2アルキレンからなる群から選択される。いくつかの実施形態では、R
2とR
3は、それぞれ独立して、臭素又はヨウ素である。aとbは、独立して0、1、又は2である。
【0039】
いくつかの実施形態では、生体適合性ポリマーは、式II-a
【化5】
の繰り返し単位を更に含み、式中、m’は、1~3の範囲の整数である。
【0040】
いくつかの実施形態では、生体適合性ポリマーは、式II-b
【化6】
の繰り返し単位を更に含み、式中、Gは、C
2-3-アルキレンであり、nは、4~3000の範囲の整数である。
【0041】
いくつかの実施形態では、生体適合性ポリマーは、式II-c
【化7】
の繰り返し単位を更に含み、式中、Gは、C
2-3-アルキレンであり、n’は、4~3000の範囲の整数である。
【0042】
いくつかの実施形態では、生体適合性ポリマーは、ポリエチレングリコール、ポリカプロラクトン-ジオール、ポリカプロラクトン、ポリ(トリメチレンカーボネート)、ポリラクチド、ポリグリコリド、及びポリ乳酸-グリコール酸共重合体からなる群から選択されるコポリマー単位を更に含む。
【0043】
いくつかの実施形態では、生体適合性ポリマーは、式I-bの構造を更に含み、
【化8】
式I-b
式中、wの範囲は、約0.001~1であり、xの範囲は、0~0.999であり、yの範囲は、0~0.999であり、zの範囲は、0~0.999であり、w+x+y+z=1.000である。いくつかの実施形態では、Aは、C
1-3アルキレン、C
1-3アルキレン-O-CO-CH
2CH
2、C
1-3アルキレン-O-CO-CH
2CH
2CH
2、及びC
1-3アルキレン-O-CO-CH
2OCH
2からなる群から選択され、Bは、酸素である。いくつかの実施形態では、Yは、(CH
2)
2、(CH
2)
3、CH
2OCH
2、(CH
2)
4、CH
2CH=CHCH
2、(CH
2)
5、(CH
2)
6、及び(CH
2)
10からなる群から選択される。いくつかの実施形態では、R
1及びR
cは、Hである。
【0044】
エレクトロスピニングされた生分解性ポリマー導管は、前述の生体適合性ポリマーのいずれかのPEGブロックポリマーで構築されてもよい。
【0045】
また、米国特許第5099060号、特にポリカーボネート合成に関連する開示、米国特許第5216115号、特にポリアリレート合成に関連する開示、米国特許第6048521号、特にPEGブロック共重合に関連する開示、及び米国特許出願公開第2006/0034769号、特に、遊離酸基を有するポリマーの合成に関連する開示も参照により本明細書に組み込まれる。
【0046】
エレクトロスピニングされた生分解性ポリマー導管は、多層であってもよい。該導管は、1層、2層、3層、又は4層を含んでもよい。各層は、整列(配向とも呼ばれる)又は非整列(非配向とも呼ばれる)バイオポリマー繊維を含有してもよい。エレクトロスピニングされた生分解性ポリマー導管は、2つの層を含んでもよく、最内層は、整列バイオポリマー繊維を含み、最外層は、非整列バイオポリマー繊維を含む。
図1A、1B、2A及び2Bは、バイオポリマー繊維の配向層(例えば、
図1A及び2A)及び非配向層(例えば、
図1B及び2B)を有する二層シートの例の電子顕微鏡写真である。シートは、巻き取られて、所望の直径のエレクトロスピニングされた生分解性ポリマー導管として製造されてもよい。
【0047】
線維芽細胞(FB)は、規定の濃度で、例えば、約1.0×105細胞/mL~約5.0×105細胞/mL、又は約2.5×105細胞/mLの密度で、エレクトロスピニングされた生分解性ポリマー導管の外表面に接種されてもよい。線維芽細胞は、外表面に接着され、外表面に約1.0×105細胞/cm2~約1.0×106細胞/cm2の濃度で連続細胞層を形成する。線維芽細胞は、神経上膜の線維芽細胞であってもよい。線維芽細胞は、ポリマー導管の外表面を部分的に(表面積の約50%未満)、実質的に(表面積の約50%を超えて)、又は完全に(表面積の約80%を超えて)覆ってもよい。
【0048】
線維芽細胞及びシュワン細胞は、患者が損傷された時に回収できる皮膚細胞などの患者の細胞の誘導を通じて得られてもよい。これらの皮膚又は他の細胞は、患者から得られると、インビトロで線維芽細胞及びシュワン細胞に分化し、次に、本明細書に記載のエレクトロスピニングされた生分解性ポリマー導管に応用される。自己細胞を使用すると、導管に患者の遺伝物質が保持されるため、移植拒絶反応の可能性が低くなる。
【0049】
特定の分化プロトコルを使用すると、ヒト人工多能性幹細胞(iPSC)からヒトシュワン細胞前駆細胞(hSCP)への変換を介してヒトシュワン細胞(hSC)を作製してもよい。
【0050】
ヒドロゲルマトリックス又は強化されたヒドロゲルマトリックス及びシュワン細胞を含む系は、損傷したニューロンからの神経突起の再成長及び損傷したニューロンの髄鞘化を促進する。ヒドロゲルマトリックスは、水に溶解せず、大量の水又は他の生体体液を吸収することができる架橋親水性ポリマーとして定義されてもよく、RADA16ペプチド、コラーゲン、ゼラチン、アルギン酸塩、ヒアルロン酸、又は他の任意の既知のヒドロゲル材料で作製されてもよい。強化されたヒドロゲルマトリックスは、ブレンド、混合、化学結合、又は他の既知の方法を介して、成長因子、ガイダンスキュー、構造ペプチド、接着因子、他の化学薬剤、又はそれらの組み合わせなどの別の生化学的因子と組み合わせられるヒドロゲルマトリックスである。
【0051】
強化されたヒドロゲルマトリックスは、RADA16ペプチド、コラーゲン、ゼラチン、アルギン酸塩、又はヒアルロン酸ヒドロゲルであってもよい。強化されたヒドロゲルマトリックスは、ヒドロゲルマトリックスとの物理的混合により、又はヒドロゲルマトリックスとの化学的結合により、又はそれらの任意の組み合わせにより、細胞の成長をサポートする成長因子で機能化されてもよい。成長因子は、ニューレグリン1(NRG1)、EGF、FGF、NGF、PDGF、VEGF、IGF、GMCSF、GCSF、TGF、エリスロポエチン(EPO)、TPO、BMP、HGF、GDF、ニューロトロフィン(例えば、GDNF、CNTF、BDNF、NT3)、ネトリン、MSF、SGF、又はそれらの任意の組み合わせから選択されてもよい。成長因子は、NRG1であってもよい。
【0052】
強化されたヒドロゲルマトリックスは、細胞の成長をサポートするために使用されることが知られている基礎培地(例えば、ダルベッコ改変イーグル培地(DMEM))、ウシ胎児血清(FBS)、抗生物質(例えば、ペニシリン、ストレプトマイシン又はそれらの組み合わせ)、フォルスコリン、及びそれらの任意の組み合わせから選択される1つ以上の添加剤を含んでもよい。
【0053】
シュワン細胞は、導管の内腔空間内のヒドロゲルマトリックス又は強化されたヒドロゲルマトリックス全体に実質的に均一に分布してもよい。シュワン細胞は、約500万細胞/mL~約8000万細胞/mL、約1500万細胞/mL~約7500万細胞/mL、又は約2000万細胞/mL~約7000万細胞/mLの濃度でヒドロゲルマトリックス又は強化されたヒドロゲルマトリックス全体に分布してもよい。シュワン細胞は、導管の内腔空間内のヒドロゲルマトリックス又は強化されたヒドロゲルマトリックスによってカプセル化されてもよい。
図14A~
図14Cは、コラーゲンヒドロゲルマトリックス内で増殖するラットシュワン細胞を示す断面共焦点顕微鏡画像である。これらの図では、チロシン由来のポリマー繊維がマトリックス全体に分散し、ヒドロゲルマトリックス内に長手方向の神経束を維持していることが示されている。
図14Aでは、ヒドロゲルマトリックス内の深さに対応する赤青スケールで示されるように、繊維及びシュワン細胞の深さコーディングが三次元に分布されている。
図14B及び
図14Cでは、チロシン由来の繊維が大きな均一な円形構造として示されており、シュワン細胞核は、ヒドロゲルマトリックス内に散在する、DAPIで染色された小さな点として示されている。
【0054】
図3A~
図3Eは、エレクトロスピニングされた生分解性ポリマー導管内のヒドロゲルでカプセル化されたシュワン細胞を示す。
図3Aでは、96ウェルの光学プレートを使用して、ライブイメージングを可能にするヒドロゲルでカプセル化されたシュワン細胞で充填された、エレクトロスピニングされた直立生分解性ポリマー導管を保持し培養し、
図3Bは、エレクトロスピニングされた生分解性ポリマー導管内の3次元RADA16ペプチドヒドロゲルに埋め込まれたGFP(緑色蛍光タンパク質)+ラットシュワン細胞(SC)及びヒト神経前駆細胞を示す。
図3Cは、管端及びDIC付近のGFP+ラットSCを示し、導管端及び外側ウェル空間を示す拡大パネルBである。
図3Dは、GFP+SCのみを示すパネルBの拡大図である。
図3Eは、エレクトロスピニングされた生分解性ポリマー導管によって封入されたヒドロゲルに埋め込まれたラットSC(GFP+)を示す、32μMのZスタックの3次元再構成の一例である。
【0055】
この系はまた、線維芽細胞を含有してもよく、線維芽細胞は、導管の内腔空間内のヒドロゲルマトリックス又は強化されたヒドロゲルマトリックス全体に実質的に均一に分布してもよい。線維芽細胞は、シュワン細胞より低い濃度で、例えば線維芽細胞とシュワン細胞との比が約2:10~約1:20、又は約1:10で存在してもよい。線維芽細胞は、細胞化神経再生移植片内で、特に有髄軸索を取り囲む神経束内に見られる最内部の結合組織層である神経内膜のレベルで、シュワン細胞の機能を促進する。この系は、必要に応じて、線維芽細胞に加えて、内皮細胞、又は移植片細胞構造をサポートする他の細胞などの他の支持細胞を含有してもよいが、それらに限定されない。一実施形態では、ポリマー導管の内腔空間は、ラットSCが全体的に成長するヒドロゲルマトリックス又は強化されたヒドロゲルマトリックスで充填されてもよい。存在する場合、GFP+線維芽細胞がポリマー導管の外表面のみに接種されてもよいため、GFPシグナルは、ポリマー導管の内腔空間内に存在すべきではない。
【0056】
ヒドロゲルマトリックス又は強化されたヒドロゲルマトリックス内に、必要に応じて約5μm~約50μm、又は約20μmの直径を有する繊維又は中空管を追加して、神経内膜鞘状の下部構造を作製してもよい。繊維又は中空管は、コラーゲン、速分解ポリマー繊維を含む他の適切な繊維、又はスクロース若しくは他の適切な糖類などの材料で作製された水溶性犠牲繊維で作製されてもよく、金属ワイヤ若しくはポリマーワイヤでチャネルを作成することによって作製されてもよい。神経内膜鞘状の下部構造の作製により、移植片の発達中及び移植後の細胞間シグナル伝達が強化されてもよい。
【0057】
別の実施形態は、細胞化神経再生移植片を作製する方法である。神経再生移植片は、外表面及び内腔空間を有するエレクトロスピニングされた生分解性ポリマー導管と、導管の外表面に接種された複数の線維芽細胞と、ヒドロゲルマトリックス又は強化されたヒドロゲルマトリックス及びシュワン細胞を含む、導管の内腔空間を充填する系と、を含む。この方法は、ポリマー製剤、例えばチロシン由来のポリマー又はチロソール由来のポリマーをエレクトロスピニングして、エレクトロスピニングされた生分解性ポリマー導管を作製するステップと、線維芽細胞を培養するステップと、エレクトロスピニングされた生分解性ポリマー導管の外表面に線維芽細胞を接種するステップと、ヒトシュワン細胞を生成するステップと、ヒトシュワン細胞をヒドロゲルマトリックス又は強化されたヒドロゲルマトリックスに埋め込んで系を作製するステップと、エレクトロスピニングされた生分解性ポリマー導管の内腔空間に系を接種して、接種された導管を作製するステップと、接種された導管を系内に約1週間~約6週間又は約2週間~約4週間インキュベートして、細胞化神経再生移植片を作製するステップと、を含む。
【0058】
線維芽細胞は、本技術分野で知られている任意の方法によって培養されてもよい。線維芽細胞は、神経上膜の線維芽細胞であってもよい。エレクトロスピニングされたチロシン由来のポリマー導管の外表面には、神経上膜の線維芽細胞が接種されてもよい。エレクトロスピニングされたチロソール由来のポリマー導管の外表面には、神経上膜の線維芽細胞が接種されてもよい。
【0059】
ヒトシュワン細胞の生成は、本技術分野で知られている任意の手段によって達成されてもよい。線維芽細胞が外表面に接種された後、生成されたヒトシュワン細胞は、ヒドロゲルマトリックス又は強化されたヒドロゲルマトリックスに埋め込まれ、必要に応じて軸索の再成長、シュワン細胞の増殖、及び軸索突起の髄鞘化をサポートするために1つ以上の成長因子で機能化される。規定の濃度(例えば、約0.1%~約0.4%、又は約0.25%)でのヒドロゲルマトリックス又は強化されたヒドロゲルマトリックスを、規定の濃度(例えば、約100万細胞/mL~約2000万細胞/mL、約200万細胞/mL~約1500万細胞/mL、約500万細胞/mL~約1000万細胞/mL、又は約1000万細胞/mL)でのシュワン細胞(SC)と混合して、系を作製してもよい。この系は、エレクトロスピニングされた生分解性ポリマー導管の内腔空間内に注入されることにより、内腔空間全体を充填してもよい。充填されたエレクトロスピニングされた生分解性ポリマー導管を系内に約2週間~約4週間、又は約3週間インキュベートすることにより、神経上膜の線維芽細胞とシュワン細胞の両方を導管内に増殖させてもよい。インキュベーション中に培地溶液を追加し、定期的に交換してもよい。培地溶液は、ダルベッコ改変イーグル培地(DMEM)、ウシ胎児血清(FBS)、抗生物質(例えば、ペニシリン、ストレプトマイシン又はそれらの組み合わせ)、及びそれらの任意の組み合わせであってもよい。培地溶液は、DMEM/10%FBS(ウシ胎児血清)/1%ペニシリン/ストレプトマイシンであってもよく、必要に応じて、規定の濃度でフォルスコリン及び/又は成長因子を添加してもよい。フォルスコリンは、約1μM~約5μM、又は約2μMの濃度で添加されてもよい。成長因子は、ニューレグリン-1であってもよく、約5ng/ml~約15ng/ml、又は約10ng/mlの濃度で添加されてもよい。培地溶液は、1.2mLのDMEM/10%FBS/ペニシリン/ストレプトマイシンであってもよい。
【0060】
インキュベーション中、線維芽細胞及びシュワン細胞が培地溶液中でコンフルエントになるまで成長できることにより、この期間の終わりに、線維芽細胞は、導管の外表面に約1.0x105細胞/cm2~約1.0x106細胞/cm2の規定の濃度で外側の連続細胞層を構成する一方、シュワン細胞が約500万細胞/mL~約8000万細胞/mL、約1500万細胞/mL~約7500万細胞/mL、又は約2000万細胞/mL~約7000万細胞/mLの規定の濃度で導管の管腔空間全体を占めるように、内腔空間内に、ヒドロゲルマトリックス又は強化されたヒドロゲルマトリックス全体にわたって、コンフルエントで3Dの実質的に均一なシュワン細胞の分布が存在してもよい。
【0061】
エレクトロスピニングされた生分解性ポリマー導管の外表面に線維芽細胞を接種するには、3Dプリンティングによってマイクロデバイスを作成し、組み立ててもよい。3Dプリントされたマイクロデバイスは、1つ以上のロッド及び1つ以上のギアを含む複数の部品を含んでもよく、該複数の部品は、別個の片として構築されるが、線維芽細胞を接種するためのマイクロデバイスを作成するために組み立てられるか、又は可逆的若しくは不可逆的に連結されてもよい。
【0062】
また、3Dプリントされたマイクロデバイスは、エレクトロスピニングされた生分解性ポリマー導管の内腔空間内に系を接種するために使用されてもよい。3Dプリントされたマイクロデバイスは、線維芽細胞の接種に使用されるものと同じマイクロデバイスであってもよい。
【0063】
例えば、
図4に示すように、マイクロデバイスは、ロッド(
図4A)、中空ギア(
図4B)、中実ギア(
図4C)、及びキャップ付き中空チューブ(
図4E)から組み立てられてもよい。マイクロデバイスを組み立てるには、中空ギアにロッドを挿通してもよい。ロッドは、用途に応じて約1.0mm~約4.0mmの直径を有し、全長が約5.0mm~約5.0cm以上であってもよい。中空ギアと中実ギアのそれぞれは、約8.0mm~約2.0cmの直径と約1.0mm~約2.0mmの厚さを有してもよい。3Dプリントされたマイクロデバイスの部品のそれぞれは、ポリ乳酸(PLA)、ポリカプロラクトン(PCL)、又は本技術分野で使用されることが知られている他の任意の材料で構築されてもよい。次に、エレクトロスピニングされた生分解性ポリマー導管は、ロッド上(又は周囲)に配置され、中実ギアでキャッピングされ、その結果、
図4Dに示すように、エレクトロスピニングされた生分解性ポリマー導管が透明な陰影で示されたアセンブリが得られる。次に、
図3Dに示すように、アセンブリをウェルプレート(以下の
図8Eに示す)に配置し、所定の濃度、例えば約1.0×10
5細胞/mL~約5.0×10
5細胞/mL、又は約2.5×10
5細胞/mLで線維芽細胞懸濁液を接種してもよい。アセンブリをウェルプレート内の培地に浸漬した後、約2分間~約4分間静置して線維芽細胞を足場に付着させ、その後、アセンブリを、ウェル内に留まったままで、その長手方向軸の周りに90度回転させてもよい。導管の4つの円弧長に線維芽細胞懸濁液が接種されるまでこのプロセスを3回繰り返してもよい。必要に応じて、アセンブリが培地で完全に覆われるまで、新鮮な培地をウェルの底部にピペットで移すことによってアセンブリを培地溶液に浸漬してもよい。
【0064】
外表面に線維芽細胞を接種した後、これには約1時間~約24時間かかる場合があり、アセンブリをウェルから取り出し、中空ギアを隣接するウェル内のキャップ付き中空チューブ上に載せる状態でアセンブリを直立させてもよい。中実ギアをアセンブリから取り外し、必要に応じて、滅菌後に廃棄又は再利用してもよい。
図4Fに示すように、ロッドに上から圧力を加えて、ロッドを、中空ギアを貫通してキャップ付き中空チューブ内に押し込むことにより、バイオポリマーチューブ(又は導管)の内部を露出させることができる。次に、
図4Fに示されるデバイスを、ポリスチレン培養チューブなどの任意の既知の培養チューブ内に配置し、系(例えば、ヒドロゲルマトリックス又は強化されたヒドロゲルマトリックスとシュワン細胞との混合物)を、外表面に線維芽細胞が接種されたエレクトロスピニングされた生分解性ポリマー導管の内腔空間に挿入してもよい。必要に応じて、培地溶液を培養チューブに添加してデバイスを浸漬してもよい。培養チューブをキャッピングして、例えば約33℃~40℃及び約3%~7%のCO
2で、又は約37℃及び約5%のCO
2で、約15分間~約30分間又は約20分間インキュベートしてもよい。最初のインキュベーション期間の後、少なくとも一部の培地溶液を交換し、このプロセスを約15分間~約30分間ごとに2回~4回繰り返してもよいか、又は約20分間ごとに交換してもよい。次に、培養チューブ内の少なくとも一部の培地溶液を約2日間~3日間ごとに交換しながら、約3週間インキュベートしてもよい。
【0065】
線維芽細胞とシュワン細胞がコンフルエントになるまで成長すると、充填されて接種されたエレクトロスピニングされたバイオポリマー導管は、内腔全体にシュワン細胞を含有し、かつ線維芽細胞が外側に位置する固体移植片状構造である。構造的には、線維芽細胞は、末梢神経の束を取り囲む結合組織の層である外側神経上鞘を形成してもよい。線維芽細胞は、シュワン細胞の頂端/基底方向を方向付けるという目的を達成すると同時に、インビトロ及びインビボでのシュワン細胞の生存をサポートする成長因子を分泌する。
【0066】
この実施形態(即ち、作製方法)に関連して使用される用語は、上で論じたものと同じ意味及び定義を有する。
【0067】
細胞化神経再生移植片を損傷した末梢神経の遠位端及び近位端に接着することによって細胞化神経再生移植片を患者に移植するステップを含む、損傷した末梢神経を修復する方法が開示される。細胞化神経再生移植片は、外表面及び内腔空間を有するエレクトロスピニングされた生分解性ポリマー導管と、導管の外表面に接種された複数の線維芽細胞と、ヒドロゲルマトリックス又は強化されたヒドロゲルマトリックス及びシュワン細胞を含む、導管の内腔空間を充填する系と、を含む。細胞化神経再生移植片の内部を占めるシュワン細胞は、シグナル伝達分子と毛様体神経栄養因子(CNTF)などの成長因子とを分泌することによって内方成長軸索をサポートし、移植片が患者に移植されると移植片を介して軸索成長を誘導し、再生軸索を髄鞘化するという目的を達成する。
【0068】
ヒドロゲルマトリックス又は強化されたヒドロゲルマトリックス内に複数のチャネルを形成する方法が開示される。この方法では、シュワン細胞を、吸収性(溶解性とも呼ばれる)繊維(直径約10μm~約50μmであり得る)に培養して、ヒドロゲルマトリックス又は強化されたヒドロゲルマトリックス内、必要に応じて生分解性ポリマー導管内に複数のチャネルを作製する。吸収性繊維は、ポリ乳酸-グリコール酸共重合体(PLGA)、ポリグリコール酸(PGA)、高濃度のポリエチレングリコール(PEG)を含むチロシン由来のポリマー若しくはチロソール由来のポリマー、又はそれらの任意の組み合わせで作製されてもよい。1つ以上のコーティング材料を吸収性繊維の表面に応用してもよい。コーティング材料は、ポリ-D-リジン又は他の荷電分子と、コラーゲンヒドロゲル、ヒアルロン酸、若しくは細胞外マトリックスの成分を模倣する可能性のある他の高分子コーティングと、それらの任意の組み合わせから選択されてもよい。懸濁液中の細胞は、吸収性繊維に応用され、毛管現象の作用により繊維に均一にコーティングされてもよい。
図13は、約50μmのE1001k繊維上で成長するラットシュワン細胞の10倍の拡大画像の一例である。
【0069】
シュワン細胞で培養された吸収性繊維は、約20μm~約100μmの繊維間の間隔をあけて、長手方向の配置で生分解性ポリマー導管内にロードされてもよい(或いは、細胞接種時に繊維が生分解性ポリマー導管内に存在してもよい)。残りの管腔空間は、内部がシュワン細胞により取り囲まれた平行配向の繊維で構成されるようにヒドロゲルマトリックス又は強化されたヒドロゲルマトリックスで充填されるか、又は吸収性繊維に直接的に接着されたシュワン細胞で充填されてもよく、管腔空間の残りの部分は、ヒドロゲルマトリックスもしくは強化されたヒドロゲルマトリックス、又はシュワン細胞、線維芽細胞及び/又は他の細胞(これらに限定されない)などの細胞と混合されたヒドロゲルマトリックスもしくは強化されたヒドロゲルマトリックスによって占められてもよい。細胞(例えば、これは約500万細胞/mL~8000万細胞/mLの密度を有する培地を含む細胞懸濁液であり得る)と混合する場合、残りの管腔空間は、必要に応じて約3:2(ヒドロゲル:細胞)の体積比を有するヒドロゲルマトリックス又は強化されたヒドロゲルマトリックス及び細胞混合物で充填されてもよい。
【0070】
時間の経過後、例えば、約1週間~約6ヶ月後、吸収性繊維は、溶解し、ヒドロゲルマトリックス又は強化されたヒドロゲルマトリックス内に長手方向に延在するチャネル内にシュワン細胞が残る。吸収性繊維は、スクロース、ポリビニルアルコール(PVA)、ポリエチレングリコール(PEG)、又はそれらの組み合わせなどの、これらに限定されない、内部の急速に溶解する材料が吸収性材料でコーティングされるような組成物を構成してもよく、該吸収性材料は、PLGA、PGA、大量のPEGを含むチロシン由来のポリマー若しくはチロソール由来のポリマー、又はその配置により接着細胞/周囲細胞を伴う中空チャネルが生じるように長時間にわたって溶解するそれらの組み合わせなどであるが、これらに限定されない。これらのチャネルは、神経再生中に内方成長軸索のテンプレート神経内膜として機能し、シュワン細胞は、神経束を裏打ちして内方成長軸索を髄鞘化する。中空チャネルは、長手方向の空間内にシュワン細胞を含有してもよい。この方法を使用すると、シュワン細胞を使用せずにチャネルを作製することにより、栄養素と培地が導管の長さを横断してヒドロゲルマトリックス又は強化されたヒドロゲルマトリックス全体に拡散することができる。
【0071】
図5は、ヒドロゲルマトリックス又は強化されたヒドロゲルマトリックス内にシュワン細胞で強化された複数のチャネルを形成する方法の一例である。
図5に示すように、足場チューブとも呼ばれる生分解性ポリマー導管1が吸収性繊維2で充填されることが示されている。次に、シュワン細胞を含む懸濁液3を吸収性繊維に接種し、細胞を繊維に接着してSCコーティングされた繊維4を作製する。約4時間~約5日間後、生分解性ポリマー導管内の残りの管腔空間は、必要に応じて、シュワン細胞5を含むヒドロゲル又は強化されたヒドロゲルマトリックスの懸濁液で充填される。添加すると、生分解性ポリマー導管1は、シュワン細胞でコーティングされた繊維4を取り囲むヒドロゲルカプセル化シュワン細胞6で充填された状態のままになる。約3週間後、吸収性繊維が分解して、シュワン細胞によって強化されたチャネル7が残り、チャネルは、長手方向に延在し、神経再生中に内方成長軸索に使用される。
図5に示すように、生分解性ポリマー導管1は、外側の非配向エレクトロスピニング層10と内側の配向エレクトロスピニング層11とを含む。
【0072】
本開示の特徴及び利点は、以下の実施例によって更に十分に示されるが、これらの実施例は、説明の目的で提供されるものであり、決して本発明を限定するものとして解釈されるべきではない。
【実施例】
【0073】
[実施例1]
【0074】
チロシン由来のポリマーエレクトロスピニング足場の調製
E1001(1k)と呼ばれる、デスアミノチロシルチロシンエチルエステル(DTE)、デスアミノチロシルチロシン(DT)、及びポリエチレングリコール(PEG)で構成されるランダムブロックコポリマーポリ(DTE-co-10%DT-co-1%PEGカーボネート)から足場を調製し、ここで、10と01は、それぞれDTとPEGのモルパーセントであり、1kは、PEGの分子量(1000Da)5,6である。ポリマーの3つの成分は、異なる目的を達成する。DTE断片セグメントの主鎖は、ポリマーの加工を助け、必要な機械的特性を有し、加工中及び使用中の化学的安定性を提供する。DT単位の割合を増加させると、分解速度が25mol%のDTでの数日から50mol%のDTでの時間に増加する。本明細書で使用される10mol%のDTによる分解速度は、約1年である。DTEとDTは、両方とも非常に疎水性であるため、含水量を増加させて分解を可能にするためにPEGが組み込まれている。PEG(1k)は、分解後も生体適合性を維持し、PEG(2k)とは異なり、足場内で結晶化しない。ポリマーをヘキサフルオロプロピレンに溶解して16%溶液を調製した。エレクトロスピニング装置は、シリンジポンプ(kd Scientific,Model 780100,Holliston,MA)、18G針を備えた高電圧DC電源(Gamma High Voltage Research,Model ES30P/5W/DAM,Ormand Beach,FL)、及び回転マンドレルで構成された。シリンジをマンドレルから10cm離して配置した。
【0075】
ラットシュワン細胞の培養
ラット初代シュワン細胞(SC)を、10%のFBS、1%のペニシリン/ストレプトマイシン、2μMのフォルスコリン、及び10ng/mlのニューレグリン-1(NRG1)を添加したDMEM(ダルベッコ改変イーグル培地)中で、マトリゲル(Corning)でコーティングされたプレート上で培養した。Accutase(StemCell Technologies)を使用してラットSCを定期的に継代した。
【0076】
ヒト人工多能性幹細胞(iPSC)及び/又はヒト線維芽細胞からの誘導されたシュワン細胞の生成
ヒト誘導シュワン細胞を生成するために、ヒトiPSCをAccutase(StemCell Technologies)で継代し、1:1のDMEM/F12(Hyclone)と、1X B27(Gibco)、3μMのCHIR99021(StemCell Technologies)、20μMのSB431542(StemCell Technologies)、及び50ng/mlのニューレグリン-1(Peprotech)を添加した神経基礎培地(Gibco)とを含有する誘導培地中で成長因子低減マトリゲル(Corning)プレートに18日間播種し、培地を1日おきに交換した。18日目に、培地を、1:1のDMEM/F12と、1X B27、200ng/mlのニューレグリン-1、4μMのフォルスコリン(Sigma)、10ng/mlのPDFG-BB(Peprotech)、及び100nmのオールトランスレチノイン酸(Sigma)を添加した神経基礎培地とに3日間交換した。3日間後、オールトランスレチノイン酸及びフォルスコリンを除いた同じ培地を与え、更に3日間培養した。次に、実験の準備が整うまで、誘導されたシュワン細胞を、1:1のDMEM/F12と、1× B27及び200ng/mlのニューレグリン-1を添加した神経基礎培地中で維持し、3~4日間ごとに栄養を与えた。SOX10、KROX20、又は他の転写因子などのプロシュワン細胞発達転写因子の異所性発現によって、ヒト線維芽細胞は、ヒトシュワン細胞に直接的に誘導されてもよい。
【0077】
ヒドロゲルへのシュワン細胞のカプセル化
シュワン細胞をRADA16ペプチドヒドロゲルにカプセル化するために、ラットシュワン細胞又はヒト誘導シュワン細胞のいずれかをAccutaseで解離し、10%のショ糖水に再懸濁し、血球計数器で計数して、約100万細胞/ml~約2000万細胞/mlの適切な負荷密度を確保した。RADA16ペプチドヒドロゲルと20%のショ糖水を1:1で混合した。次に、細胞懸濁液とヒドロゲル混合物を1:1で合わせ、軽く混合し、エレクトロスピニングされた直立生分解性ポリマー導管にロードした。ヒドロゲルの最終濃度は、0.25%である。ヒドロゲル細胞混合物をロードした直後、DMEM、10%のFBS、1%のペニシリン/ストレプトマイシン、2μMのフォルスコリン、及び10ng/mlのニューレグリン-1からなる培地をウェルに添加して、ヒドロゲルの硬化を開始した。ヒドロゲルによって引き起こされる急性の酸性度を軽減するために、最初の20分間後に培地を交換した。次に、ヒドロゲルでカプセル化されたシュワン細胞を含有するエレクトロスピニングされた生分解性ポリマー導管を、37℃及び5%のCO2でインキュベーター内で培養した。培地を1~2日間ごとに交換し、これは、連続流通反応器ループを使用して達成されてもよい。
【0078】
結果
【0079】
細胞化神経再生移植片(CNRG)の全体設計
【0080】
目標は、損傷した末梢神経の再建及び修復に使用される細胞化神経再生移植片を構築することである。移植片の全体設計を
図6に示す。簡単に説明すると、1)エレクトロスピニングされたチロシン由来のポリマーを基板として使用してバイオポリマー導管(チューブ)を構築し、2)神経上膜の線維芽細胞(FB)を培養し、開発されたマイクロデバイスを使用して線維芽細胞を導管の外表面に接種し(
図7C~
図7E及び
図4A~
図4Fを参照)3)末梢神経の髄鞘化細胞であるシュワン細胞(SC)を生成し、該シュワン細胞を吸収性繊維にコーティングし、及び/又は機能化ヒドロゲル(成長因子を含む)と混合し、4)
図7C~7Eに示すマイクロデバイスを使用して、生分解性ポリマー導管の内部空間にヒドロゲル/SCの混合物を接種する。
【0081】
軸索再生、髄鞘化、及び機能の促進を助けるために、病変部位に移植する前に、細胞化神経再生移植片を培養皿で約1週間~6週間培養した。
【0082】
細胞化神経再生移植片用のバイオポリマーとアセンブリの作製
【0083】
横方向に振動した、大きな直径(5cm)のマンドレルを使用して、平らなシートを作製して、13×21cmのマットを得た。マンドレルの速度は、DC電源(Model 1627A,BK Precision,Yorba Linda,CA)によって制御された。線速度は、非整列層では30メートル/分(mpm)、整列層では650mpmに設定された。
【0084】
以下の3つのステップで多層足場を調製した。16%のポリマー溶液を2mL/hで30分間回転させて非整列層を形成し、続いて10%の溶液を1mL/hで30分間回転させて更なる非整列層を形成し、最後に10%の溶液を1mL/hで30分間回転させて整列層を形成した。
【0085】
最初に、これらの多層足場を平らなシートとしてエレクトロスピニングし、RT(室温)でゆっくり乾燥させ、必要になるまで4℃で冷蔵した。培養実験の直前に、必要に応じて、直径8mmの鋼製中空パンチを使用して、ポリマーを8mmの円形切片(
図7Fに示すように)に切断した。全ての部品をUV光下で30分間滅菌した後、切断された足場を
図7C~
図7Eに示すスナップフィット固定具に固定した。
【0086】
平らなバイオポリマーシートとの細胞適合性の証明に続いて、より小さな直径(1.5mm、2mm、及び4mm)のマンドレルを使用して中空バイオポリマー導管を調製した。エレクトロスピニング後の導管の解放を容易にするために、マンドレルをPEGゲルでコーティングした。これらのマンドレルをチャック(IKA、モデルR20DS1)に取り付け、約200rpmで10分間~2時間回転させて、異なる壁厚と管径のチューブを得た。エレクトロスピニング後、マンドレルをチャックから取り外し、脱イオン水でわずかに濡らし、ポリマー導管をマンドレルから滑らせて慎重に取り外した。導管をゆっくりと乾燥させた後、分解を防止するために必要になるまで4℃で冷蔵した。培養実験では、細胞接種の直前に、ステンレス鋼の外科用ハサミを使用して導管を、長さが5mmの部分に切断し、UV光下で30分間滅菌した。マイクロメーターを使用して足場の厚さを測定した。走査電子顕微鏡(SEM)(Phenom ProX,Nanoscience Instruments,Phoenix,AZ)を使用して繊維形態を評価した。
【0087】
エレクトロスピニングされた平らなシートを形成する非整列E1001(k)バイオポリマー繊維の倍率500倍でのSEM画像を
図7Aに示す。
図7Aと同じエレクトロスピニングされたシートの倍率5000倍でのSEM画像を
図7Bに示す。
図7Cは、平らなバイオポリマーシートを保持するための3Dプリントされたスナップ固定具の下半分を示す。エレクトロスピニングされたE1001(k)足場の直径8mmの片を、デバイス内に示された丸い挿入部分に配置してもよい。
図7Dは、3Dプリントされたスナップ固定具の上半分を示す。エレクトロスピニングされた生分解性ポリマーシートが下半分の片に配置されると、上半分の片がはめ込まれることにより、エレクトロスピニングされたバイオポリマーシートが所定の位置に固定される。この完全に組み立てられた構成を
図7Eに示す。デバイスが完全に組み立てられると、スナップ固定具の両側に作製されたウェルに細胞懸濁液をピペットで移すことができる。これにより、細胞は、足場繊維の片側のみに接着することができ、反対側への細胞の遊走は、防止される。デバイスの外部の幅(タブからタブまで)が約12mmであることにより、デバイス全体は、標準的な24ウェル培養皿のウェルに収まり、内側に回転することができる。側壁を貫通する孔により、培地がデバイスを流れることができる。タブのくぼみにより、鉗子を使用してデバイスを取り扱うことができる。
図7Fは、サンプル中の8mmの円形DTEバイオポリマーシートである。
【0088】
本明細書ではエレクトロスピニングされたバイオポリマーチューブ又はエレクトロスピニングされた生分解性ポリマー導管とも呼ばれるエレクトロスピニングされた生分解性ポリマー導管の外側及び内側に細胞を接種するために、ロッド(
図4A)が中空ギア(
図4B)に挿通されるようにデバイスを組み立てた。次に、本明細書では透明な陰影で示されているエレクトロスピニングされたバイオポリマーチューブをロッド上に配置し、中実ギアでキャッピングすることにより(
図4C)、
図4Dに示すようなアセンブリが得られた。次に、アセンブリを24ウェルプレート(以下の
図8Eに示す)に長手方向に配置し、2.5×10
5細胞/mLの密度で40μLの線維芽細胞懸濁液を、露出したエレクトロスピニングされたバイオポリマーチューブの外側の長さ全体にボリュームをピペットで移すことによって接種した。細胞を足場に2分間付着させた後、デバイスがウェル内に留まったままで、一対の鉗子でギアのうちの1つのタブに力を加えることにより、デバイスをその長手方向軸の周りで90度回転させた。チューブの4つの円弧長箇所に線維芽細胞懸濁液が接種されるまでこのプロセスを3回繰り返した。次に、アセンブリが培地で完全に覆われるまで、ウェルの底部に新鮮な培地をピペットで移すことによって、アセンブリを1.2mLのDMEM/10%のFBS/1%のP/Sに浸漬した。線維芽細胞を一晩付着させた後、アセンブリを一対の鉗子でウェルから無傷で取り出し、中空ギア(
図4Bに示す)を24ウェルプレートの隣接するウェル内のキャップ付き中空チューブ(
図4Eに示す)上に載せた状態でアセンブリを直立させた。次に、一対の鉗子を使用して中実ギアをアセンブリから取り外し、廃棄した。鉗子を使用して、ロッドに上から圧力を直接的に加えて、ロッドを、中空ギアを貫通してキャップ付き中空チューブ内に押し込むことにより、
図4Fに示すようにエレクトロスピニングされたバイオポリマーチューブの内部を露出させた。次に、デバイス全体をポリスチレン培養チューブに注意深く配置し、ヒドロゲルとシュワン細胞の混合物をエレクトロスピニングされたバイオポリマーチューブの内腔にピペットで移した。細胞混合物を分注した直後に、1.5mLの培地をポリスチレンチューブに添加してデバイス全体を浸漬した。次に、チューブをキャッピングし、37℃及び5%のCO
2で20分間インキュベートした。20分間後、1.0mLの培地を交換し、このプロセスを40分間後に繰り返した。チューブ内の培地を、3週間にわたって2日間~3日間ごとに同様に交換した。
【0089】
チロシン由来のバイオポリマーチューブと内室及び外層に細胞を接種するための固定具の構築
【0090】
上記方法を使用して、
図8に示すようにチロシン由来のバイオポリマーチューブを構築した。
図8Aは、バイオポリマー導管の外表面の倍率500倍でのSEM画像である。
図8Bは、
図8Aと同じバイオポリマー導管の外表面の5000倍でのSEM画像である。
図8Cは、長さ10mmのチロシン由来のポリマー導管である。
図8Dは、
図4Dに示すギア及びロッドアセンブリの写真である(本明細書ではバイオポリマー導管なしで示されている)。
図8Eは、標準的な24ウェルプレート内の培地に浸漬した線維芽細胞が接種されたバイオポリマー導管を備えたギア及びロッドアセンブリの写真である。体積40μLの線維芽細胞懸濁液を、露出したポリマー導管の長さ全体に2.5x10
5細胞/mLの密度でピペットで移した。
【0091】
ヒトシュワン細胞の生成
【0092】
細胞化神経再生移植片に組み込むためのヒトシュワン細胞を生成するために、
図9Aに示す以前に公開された方法(Kim,HSら、「Directly induced human Schwann cell precursors as a valuable source of Schwann cells」、Stem Cell Res Ther 11,257(2020)と、https://doi.org/10.1186/s13287-020-01772-xとを参照)を使用して、シュワン細胞をヒト人工多能性幹細胞(iPSC)から分化させ、この方法では、小分子と成長因子を使用してシュワン細胞を患者のiPSCから分化させる。簡単に説明すると、iPSCを、20μMのSB431542及び50ng/mlのニューレグリン-1のカクテル中の成長因子低減マトリゲルプレートに18日間播種した。18日目に、カクテルを200ng/mlのニューレグリン-1、4μMのフォルスコリン、10ng/mlのPDFG-BB、及び100nmのオールトランスレチノイン酸に3日間変更した。3日間後、オールトランスレチノイン酸及びフォルスコリンを除いた同じ培地を与え、更に3日間培養した。次に、実験の準備が整うまで、誘導されたシュワン細胞を50ng/mlのニューレグリン-1中で維持した。
図9Bは、分化プロセスの様々な段階における細胞の明視野画像を示す。これらは、この方法を使用した、0日目(ヒト幹細胞)、3日目(シュワン細胞前駆体(hSCP))、及び16日目(hSC)でのシュワン細胞誘導の代表的な細胞培養画像である。
【0093】
細胞特異的生体分子マーカーは、iPSCからヒトシュワン細胞への変換を識別するために使用される。0日目、3日目及び16日目での各細胞のミエリンタンパク質ゼロ(MPZ)(シュワン細胞によって発現されるミエリンタンパク質)、SOX10(神経堤細胞の進行及びシュワン細胞の分化に重要な転写因子)及びGAP43(シュワン細胞前駆体及び非髄鞘シュワン細胞によって発現される)を分析し、
図9Cに示すようにグラフ化した。データから明らかなように、シュワン細胞の存在の指標としての細胞の発現は、時間の経過とともに増加した。
【0094】
また、転写因子を使用してヒトシュワン細胞の誘導を促進するためのシュワン細胞誘導の2番目の公開された方法(Mazzara,Pら、「Two factor-based reprogramming of rodent and human fibroblasts into Schwann cells」、Nat Commun 8,14088 (2017)、https://doi.org/10.1038/ncomms14088を参照)をテストし、方法2では、レンチウイルスによって送達される転写因子を成長因子と組み合わせて使用して、iPSC又は線維芽細胞(FB)のいずれかのシュワン細胞への分化を促進する。
図10に示すように、SOX10及びKROX20転写因子をヒトiPSC又は線維芽細胞のいずれかに送達した後、ドキシサイクリンの添加によって2週間誘導する。更に、ヒトシュワン細胞の分化を促進するために、このプロセス中にニューレグリン-1とフォルスコリンを追加する。
【0095】
エレクトロスピニングされたバイオポリマーの生存可能性と絶縁性テスト
【0096】
条件は、チロシンエステル由来のエレクトロスピニングされた生分解性ポリマー足場が、インビトロでヒト線維芽細胞及びラットシュワン細胞の成長をサポートできることを実証することであった。ポリマー足場と細胞適合性を証明するために、ヒト線維芽細胞を多層E1001(k)ポリマーシートの片面で成長させた。線維芽細胞を2.5x10
5細胞/mLの初期濃度で接種することにより、DMEM/10%のFBS/1%のP/S中の100μLの細胞懸濁液中の線維芽細胞を、1.0×10
5細胞/cm
2の初期接種面積密度で、
図8Eに示すデバイスのウェルにピペットで移した。
【0097】
図11A~
図11Cは、エレクトロスピニングされた生分解性ポリマー足場の反対側で培養されたシュワン細胞及び線維芽細胞を示す。
図11Aでは、まず1つの細胞型(本明細書ではシュワン細胞)を繊維の上層で培養する。これらの細胞が繊維に接着されると、足場を反転させ、別の細胞型(本明細書では線維芽細胞)を足場の下層で培養する。介在する足場は、いずれかの細胞が反対側に遊走するのを防止しながら、細胞をそれぞれの側に局在化させる。
図11Bでは、ヒト線維芽細胞がバイオポリマー足場の非整列繊維上に成長している。テキサスレッドファロイジン染色で示されるアクチン細胞骨格の多方向プロジェクトに注目されたい。
図11Cは、ラットシュワン細胞(青色の核及び赤色のアクチン細胞骨格)が、緑色で示されたバイオポリマー繊維に沿って直線状に整列して成長することを示す。様々な細胞型のそのような整列は、本明細書に提示されるバイオポリマー足場を使用して、細胞の成長及び増殖を局在化し制御する能力を実証する。
【0098】
細胞化神経再生移植片の構築
【0099】
SCとFBの両方が生分解性ポリマー上に成長できることが実証されており、次の目標は、移植可能な細胞化神経再生移植片を3D形式で構築することである。全体的なスキーム(
図6)で説明されているように、神経鞘のFBを生体バイオポリマーチューブの外表面に培養し、SCを機能化ヒドロゲル及びチューブ内に接種されたヒドロゲル内に培養して、チューブ内の3Dマトリックス、バイオポリマー壁、次にバイオポリマーの外壁上の神経鞘のFB内に培養されたSCを有する固体構造を形成する。
【0100】
細胞化神経再生移植片の末梢神経損傷動物モデルへの移植
【0101】
CNRGの原理使用を証明するために、CNRGが動物モデルにおける末梢神経損傷の修復に役立つことを確認する更なるテストを行っている。具体的には、B6/C57マウスをイソフルランで深く麻酔し、左側の坐骨神経を露出させ、神経に5mmの病変ギャップを作製する。除去された神経ギャップは、同様のサイズのCNRGで置き換えられ、バイオポリマー層は、坐骨神経の神経上膜結合組織膜と一緒に縫合される。CNRGヒドロゲルの遠位端には、神経成長因子(10ng/mlの脳由来神経栄養因子(BDNF)、10ng/mlのニューロトロフィン-3(NT3)、及び10ng/mlのグリア由来神経栄養因子(GDNF))が含まれている。これらの動物に対して、抗生物質(アモキシシリン)及び鎮痛剤(ブプレノルフィン)などの手術後のケアを行っている。動物の状態を6時間ごとに監視し、動物の歩行を監視し、フォンフライフィラメントを使用して左後足の感覚を監視する。損傷した動物の回復を、a)偽手術動物(皮膚が切開されるが、神経が切断されていないマウス)の回復、及びb)自家移植片で修復された5mmの病変ギャップを有する動物の回復と比較する。
【0102】
図12は、マウス末梢神経損傷モデルへのCNRGの移植のための一般的なスキームを示す。
図12は、CNRGを介した軸索成長のインビトロモデリングを示す。軸索突起は、ヒドロゲルを通って成長し、シュワン細胞によって髄鞘化されると予想される。線維芽細胞と非髄鞘シュワン細胞は、ECM(細胞外マトリックス)成分と成長因子をCNRGの異なる層に分泌する。細胞がCNRG内でコンフルエントになるまで成長すると、該細胞をマウス末梢神経損傷モデルに外科的に挿入する。運動能力及び感覚能力の回復は、CNRG治療動物、自家移植片治療動物及び偽動物において評価される。
【0103】
結論として、研究の目標は、損傷した末梢神経の再構築及び修復に適したCNRGを構築することである。この初期調査を通じて次の目的が達成された。1)線維芽細胞及びシュワン細胞とエレクトロスピニングされたチロシン由来のバイオポリマーE1001(k)との適合性を証明するために、エレクトロスピニングされたバイオポリマーの平らなシートに細胞を成功裏に培養しており、2)細胞の明確な局在化と組織化を証明するために、線維芽細胞とシュワン細胞を平らなバイオポリマーシートの反対側に培養することにより、線維芽細胞とシュワン細胞は、バイオポリマー繊維層を横切ることなく別個の層を使用し、ポリマー繊維の整列に基づいて特定の整列を使用しており、3)シュワン細胞とヒドロゲルとの適合性を証明するために、シュワン細胞をヒドロゲルマトリックスに成功裏に培養し、ライブイメージングして、シュワン細胞の三次元ヒドロゲルマトリックス中での生存と増殖を実証しており、4)バイオポリマーチューブの内腔内で細胞を成長させる能力を証明するために、シュワン細胞をヒドロゲルマトリックス又は強化されたヒドロゲルマトリックスと混合し、それらを直径3.5mm及び長さ5.0mmのエレクトロスピニングされたチューブの内部に注入し、共焦点蛍光顕微鏡及び微分干渉コントラスト(DIC)顕微鏡によってシュワン細胞の生存及び増殖を確認しており、5)その能力を証明するために、生分解性繊維にシュワン細胞を培養しており、6)CNRGの最終的な構造を証明するために、まずバイオポリマーチューブの外表面に線維芽細胞を接種し、次にポイント「4)」で説明した方法でヒドロゲルでカプセル化されたシュワン細胞を充填した後、チューブの外表面及び内腔全体に線維芽細胞とシュワン細胞の両方が生存していることを、イメージングと凍結切片によって確認した。
【0104】
本開示の様々な態様及び特定の所望の実施形態であると現在考えられるものを説明してきたが、当業者であれば、本開示の精神から逸脱することなく変更及び修正を行うことができることを認識するであろうし、本開示の真の範囲内に含まれるそのような全ての変更及び修正を含むことが意図される。
【0105】
本発明を特定の好ましい実施形態を参照して詳細に説明したが、以下の特許請求の範囲に記載され定義される本発明の範囲及び精神内で変形及び修正が存在する。
【国際調査報告】