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特表2024-535457増強された腫瘍治療のための治療剤を含有する注入可能なせん断減粘ヒドロゲル
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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公表特許公報(A)
(11)【公表番号】
(43)【公表日】2024-09-30
(54)【発明の名称】増強された腫瘍治療のための治療剤を含有する注入可能なせん断減粘ヒドロゲル
(51)【国際特許分類】
   A61K 9/06 20060101AFI20240920BHJP
   A61K 47/42 20170101ALI20240920BHJP
   A61K 47/02 20060101ALI20240920BHJP
   A61K 45/00 20060101ALI20240920BHJP
   A61K 31/704 20060101ALI20240920BHJP
   A61K 47/46 20060101ALI20240920BHJP
   A61P 35/00 20060101ALI20240920BHJP
【FI】
A61K9/06
A61K47/42
A61K47/02
A61K45/00
A61K31/704
A61K47/46
A61P35/00
【審査請求】有
【予備審査請求】未請求
(21)【出願番号】P 2024519434
(86)(22)【出願日】2022-09-29
(85)【翻訳文提出日】2024-05-27
(86)【国際出願番号】 US2022045273
(87)【国際公開番号】W WO2023055963
(87)【国際公開日】2023-04-06
(31)【優先権主張番号】63/249,949
(32)【優先日】2021-09-29
(33)【優先権主張国・地域又は機関】US
(31)【優先権主張番号】63/250,441
(32)【優先日】2021-09-30
(33)【優先権主張国・地域又は機関】US
(81)【指定国・地域】
(71)【出願人】
【識別番号】506192652
【氏名又は名称】ボストン サイエンティフィック サイムド,インコーポレイテッド
【氏名又は名称原語表記】BOSTON SCIENTIFIC SCIMED,INC.
(71)【出願人】
【識別番号】501083115
【氏名又は名称】メイヨ・ファウンデーション・フォー・メディカル・エデュケーション・アンド・リサーチ
(71)【出願人】
【識別番号】506115514
【氏名又は名称】ザ リージェンツ オブ ザ ユニバーシティ オブ カリフォルニア
【氏名又は名称原語表記】The Regents of the University of California
(74)【代理人】
【識別番号】100105957
【弁理士】
【氏名又は名称】恩田 誠
(74)【代理人】
【識別番号】100068755
【弁理士】
【氏名又は名称】恩田 博宣
(74)【代理人】
【識別番号】100142907
【弁理士】
【氏名又は名称】本田 淳
(72)【発明者】
【氏名】キム、ハンジュン
(72)【発明者】
【氏名】シュー、チュン
(72)【発明者】
【氏名】ジャバルザデ、エフサン
(72)【発明者】
【氏名】オクル、ラフミ
(72)【発明者】
【氏名】カデムホッセイニ、アリレザ
【テーマコード(参考)】
4C076
4C084
4C086
【Fターム(参考)】
4C076AA09
4C076CC27
4C076DD27
4C076EE42
4C076EE57
4C076FF35
4C076FF68
4C084AA17
4C084MA28
4C084MA55
4C084NA10
4C084ZB26
4C086AA01
4C086AA02
4C086EA10
4C086MA03
4C086MA05
4C086MA28
4C086MA55
4C086NA10
4C086ZB26
(57)【要約】
本発明者らは、シリカナノ粒子、ゼラチンベースのポリマー、およびドキソルビシンなどの小分子を使用して、新規のせん断減粘生体材料を開発した。せん断減粘生体材料技術は、ポリマーおよびそのようなポリマー内に負荷された薬物が、例えば、がん治療および免疫療法における使用のために、カテーテルを通して標的領域に直接容易に送達されることを可能にする。そのような材料を注入するために、ある閾値を上回る力が印加されると、それらは、「薄く」なり、半固体として挙動することで、材料がカテーテルを通して容易に流動することを可能にする。力が除去されると、材料は、即座に、有意な凝集特性を有する軟質固体になり、それが除去または分解することを防止する。
【特許請求の範囲】
【請求項1】
ポリマーゼラチンと、
シリケートナノ粒子と、
1000ダルトン未満の分子量を有する治療剤と、を含み、
前記ゼラチン、前記シリケートナノ粒子、および前記治療剤が、せん断減粘ヒドロゲルを形成する、組成物。
【請求項2】
約1%~約5%のポリマーゼラチンと、
約1%~約5%のシリケートナノ粒子と、
を含む、請求項1に記載の組成物。
【請求項3】
7.4のpHを有する環境に配置されたとき、15%または20%未満の薬剤が、15日の期間にわたって前記せん断減粘ヒドロゲルから放出され、
5.0のpHを有する環境に配置されたとき、15%または20%超が、15日の期間にわたってせん断減粘ヒドロゲルから放出される、請求項2に記載の組成物。
【請求項4】
前記治療剤がドキソルビシンである、請求項3に記載の組成物。
【請求項5】
前記せん断減粘ヒドロゲルが、0.8mm(2.4Fr)カテーテル/1mL(1cc)シリンジから前記せん断減粘ヒドロゲルを押し出すために、少なくとも5ニュートンであるが30ニュートン未満の射出力を必要とする、請求項1に記載の組成物。
【請求項6】
ヒトがん細胞をさらに含む、請求項1に記載の組成物。
【請求項7】
保存剤、張度調整剤、界面活性剤、粘度調整剤、糖、およびpH調整剤からなる群から選択される薬学的賦形剤をさらに含む、請求項1に記載の組成物。
【請求項8】
前記組成物がカテーテル内に配置される、請求項1に記載の組成物。
【請求項9】
前記シリケートナノ粒子がLAPONITEを含む、請求項1に記載の組成物。
【請求項10】
請求項1~9のいずれか一項に記載の組成物を予め選択された部位に送達する方法であって、
前記組成物を、開口部を含む第1の端部および第2の端部を有する容器内に配置するステップと、
前記容器の前記第2の端部に力を印加するステップであって、前記力が前記組成物を液化するのに十分である、ステップと、
前記開口部を通して前記容器から前記予め選択された部位に前記組成物を送達するステップと、
を含む、方法。
【請求項11】
前記部位がインビボ部位である、請求項10に記載の方法。
【請求項12】
前記部位が、がん性細胞を含むインビボ位置にある、請求項11に記載の方法。
【請求項13】
前記容器がカテーテルである、請求項10に記載の方法。
【請求項14】
請求項1~9のいずれか一項に記載の組成物を作製する方法であって、シリカナノ粒子と、ゼラチンと、1000ダルトン未満の分子量を有する治療剤と、場合により薬学的賦形剤とを一緒に組み合わせて、せん断減粘生体適合性組成物を形成することを含む、方法。
【請求項15】
シリカナノ粒子の相対量および/またはゼラチンの相対量が、前記組成物の1つ以上のレオロジー特性および/または前記せん断減粘ヒドロゲルからの前記治療剤の放出プロファイルを調整または調節するように選択される、請求項14に記載の方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、生物活性剤を含むせん断減粘生体材料、ならびにそれらを作製および使用するための方法に関する。
【背景技術】
【0002】
せん断減粘ヒドロゲルは、せん断応力下で粘性流体として挙動し、その後、応力が除去されると固体様特性を回復する非ニュートン材料である[1]。これらの特性により、注入可能なせん断減粘生体材料(STB)は、最終的な適用部位に近づいた後に流動性注入および局所的平衡を可能にする自己治癒(self-healing)材料の群として注目を集めている。臨床用途では、STBは、針または一般/マイクロカテーテルを使用して、手の圧力によって体内に送達され得る[2~4]。臨床用途を最適化するためには、特定の臨床状況に応じてSTBの物理的特性を調整する必要がある。物理的特性を変化させることによって、特定の臨床用途(例えば、特定のサイズの血管を閉塞すること、制御された薬物放出、および組織工学スキャフォールドの剛性の調節)に適合したヒドロゲルを合成し得る。
【0003】
従来のSTBの物理的特性は、いくつかの炭素系、ポリマー、および無機ナノ材料の組合せによって調節され得る[5~8]。ゼラチン、ヒアルロン酸、キトサン、コラーゲン、およびアルギネートなどのいくつかの生体材料が、STBを形成するために無機成分と共に以前に使用されている[14~17]。特に、ゼラチンは、非特異的タンパク質の吸着を制限し、溶血を増強し、最終的に凝固時間を延長することで、インビトロでのSTBの実質的に改善された血液適合性を実証する[18]。さらに、組織工学および再生医療におけるゼラチンの適用は、食品医薬品局(FDA)によって承認されている[19~21]。従来のSTBは、止血および血管内塞栓形成のために、ゼラチンを合成クレイナノ粒子であるLAPONITE(登録商標)と混合することによって調製される[18、22]。これらのSTBは、強いせん断減粘挙動、ならびに血液凝固から最小限の炎症反応までの範囲の生体適合性を示す。他の研究者は、この研究を拡張して、塞栓剤[23]、機能化スキャフォールド[24、25]、3Dバイオインク[26]、および薬物送達システム[27]としてSTBを実装した。しかしながら、残念なことに、LAPONITEなどの合成クレイナノ粒子は結晶化ナノ粒子であり、サイズ、表面化学は容易に調整されない。加えて、様々なインビボでの使用におけるLAPONITEの生体適合性をさらに調査する必要があり、この事実により、臨床用途におけるその使用を困難にする。
【0004】
上記の理由により、新しいせん断減粘材料ならびにそれらを作製および使用するための方法が当技術分野において必要とされている。
【発明の概要】
【0005】
以下に議論されるように、本発明者らは、球状シリカナノ粒子、ゼラチンベースのポリマー、および小分子治療剤を使用して、新規なせん断減粘生体材料を開発した。例示的な実施形態として、本発明者らは、シリケートナノプレートレット(LAPONITE XLG)およびゼラチンベースのポリマーを使用して、ドキソルビシン負荷した(doxorubicin-loaded)注入可能なせん断減粘生体材料(STB)を開発した。せん断減粘生体材料技術は、内部に負荷された薬物が針またはカテーテルを通して標的領域に直接容易に送達されることを可能にする独特の特性を提供する。本発明者らは、せん断減粘生体材料が、1)注入可能であって適用が容易であり、2)注入後の高い機械的安定性によって高い局在化を示すという事実に焦点を当てた。したがって、この実施形態では、本発明者らは、固形腫瘍を治療するために、抗がん剤であるドキソルビシンをせん断減粘材料に負荷した。
【0006】
本明細書に開示される発明は、多くの実施形態を有する。本発明の実施形態は、例えば、ポリマーゼラチン、シリケートナノ粒子、および1000ダルトン未満の分子量を有する治療剤を含む組成物を含む。このような組成物において、ゼラチン、シリケートナノ粒子、および治療剤の量は、せん断減粘ヒドロゲルを形成するように選択される。本発明の特定の実施形態において、組成物は、約1%(w/w)~約5%(w/w)のポリマーゼラチン(例えば、約1%(w/w)~約2%(w/w)~約3%(w/w)~約4%(w/w)~約5%(w/w)のいずれかの範囲のポリマーゼラチン)(換言すれば、上記の数値のいずれか2つの間の範囲)、および約1%(w/w)~約5%(w/w)のシリケートナノ粒子(例えば、約1%(w/w)~約2%(w/w)~約3%(w/w)~約4%(w/w)~約5%(w/w)のいずれかの範囲のシリケートナノ粒子)を含む。
【0007】
本発明の特定の実施形態では、組成物は、約0.5%(w/w)~約85%(w/w)のポリマーゼラチンおよびシリケートナノ粒子(例えば、約0.5%(w/w)~約1%(w/w)~約2%(w/w)~約5%(w/w)~約10%(w/w)~約25%(w/w)~約50%(w/w)~約75%(w/w)~約85%(w/w)のいずれかの範囲のゼラチンおよびシリケートナノ粒子)を含む。本発明の特定の実施形態では、ポリマーゼラチンに対するシリケートナノ粒子の比は、約1.0~約0.1(例えば、約1.0~約0.9~約0.8~約0.7~約0.6~約0.5~約0.4~約0.3~約0.2~約0.1のいずれかの範囲)である。特定の実施形態では、ポリマーゼラチンは、メタクリル化ゼラチン(GelMA)、アクリル化ゼラチン、またはチオール化ゼラチンである。特定の実施形態では、組成物は、約0.5%(w/w)~約99%(w/w)の水(例えば、約0.5%(w/w)~約1%(w/w)~約2%(w/w)~約5%(w/w)~約10%(w/w)~約25%(w/w)~約50%(w/w)~約75%(w/w)~約90%(w/w)~約95%(w/w)~約97.5%(w/w)~約99%(w/w)のいずれかの範囲の水)を含む。特定の実施形態では、組成物は、約0.01%(w/w)~約20%(w/w)の治療剤(例えば、約0.01%(w/w)~約0.02%(w/w)~約0.5%(w/w)~約1%(w/w)~約2%(w/w)~約5%(w/w)~約10%(w/w)~約15%(w/w)~約20%(w/w)のいずれかの範囲の治療剤)を含む。
【0008】
典型的には、これらの組成物は、保存剤、張度調整剤、界面活性剤、粘度調整剤、糖、およびpH調整剤からなる群から選択される薬学的賦形剤をさらに含む。本発明のいくつかの実施形態において、組成物は、ヒトがん細胞をさらに含む。本発明の組成物は、1つ以上の小分子治療剤(例えば、抗炎症剤、凝固を調節する薬剤、抗生物質剤、化学療法剤など)を含む。例示的な治療剤は、アルカロイド(パクリタキセル、ビンブラスチン、およびビンクリスチンなど)、代謝拮抗剤(ゲムシタビン、5-フルオロウラシル、およびメトトレキサートなど)、抗生物質および抗生物質誘導体(ドキソルビシン、ダウノルビシン、およびブレオマイシンなど)、ならびにホルモン性抗新生物薬(タモキシフェン、ジエチルスチルベストロール、およびリン酸ポリエストラジオールなど)を含む。本発明の特定の例示的な実施形態において、治療剤はドキソルビシンである。
【0009】
本発明のいくつかの実施形態では、成分の量は、7.4のpHを有する環境に配置されたとき、15日の期間にわたって15%または20%未満の薬剤がせん断減粘ヒドロゲルから放出され、5.0のpHを有する環境に配置されたとき、15日の期間にわたって15%または20%超がせん断減粘ヒドロゲルから放出されるような量である。本発明の特定の実施形態では、せん断減粘ヒドロゲルが、0.8mm(2.4Fr)カテーテル/1mL(1cc)シリンジからせん断減粘ヒドロゲルを押し出すために、少なくとも5ニュートンであるが30ニュートン未満の射出力(injection force)を必要とする。
【0010】
本発明のさらに別の実施形態は、本明細書に開示されるせん断減粘生体適合性組成物を作製する方法であって、せん断減粘生体適合性組成物を形成するように、球状シリカナノ粒子、ゼラチン、およびドキソルビシンなどの小治療剤分子、ならびに場合により薬学的賦形剤を一緒に組み合わせることを含む方法である。これらの方法の特定の実施形態では、球状シリカナノ粒子の表面特性、球状シリカナノ粒子の中位径、球状シリカナノ粒子の相対量、および/またはゼラチンの相対量などは、せん断減粘生体適合性組成物の1つ以上のレオロジー特性または治療剤放出プロファイルを調整または調節するように選択される。この様式で本発明の組成物の機械的特性を調節することによって、本発明の実施形態は、種々の異なる臨床用途における使用に適合され得る。
【0011】
本発明の別の実施形態は、本明細書中に開示されるせん断減粘生体適合性組成物を、予め選択された部位(例えば、がん細胞を含むインビボ位置)に送達する方法である。典型的には、このような方法は、開口部を含む第1の末端および第2の末端を有する容器(例えば、カテーテル)中に組成物を配置するステップ;この容器の第2の末端に力を印加するステップであって、この力は、この組成物を液化するのに十分である、ステップ;次いで、この組成物を、この容器から開口部を通して予め選択された部位に送達するステップを含む。いくつかの実施形態では、容器は、組成物が負荷されたシリンジを含み、シリンジは、針および/またはカテーテルチューブと流体連通するように構成される。そのような方法の実施形態は、治療剤を送達するために、本明細書に開示されるせん断減粘生体適合性組成物を使用する治療レジメンを含む。特定の実施形態では、本開示は、それを必要とする対象において固形腫瘍を治療する方法であって、対象に、治療有効量の本明細書に開示されているせん断減粘生体適合性組成物を投与するステップを含む方法を対象とする。特定の実施形態では、固形腫瘍は、血管腫瘍、脳腫瘍(例えば、髄膜腫または膠芽腫)、脊髄腫瘍、頚動脈小体腫瘍、肝臓がん、肺がん、神経内分泌腫瘍、腎腫瘍、膵臓腫瘍、または前立腺腫瘍から選択される。特定の実施形態では、固形腫瘍は、皮膚がん(例えば、メラノーマ、肥満細胞腫瘍、扁平上皮がん、または基底細胞腫瘍)、乳がん、肉腫性腫瘍(例えば、線維肉腫、平滑筋肉腫、横紋筋肉腫、骨肉腫、または軟骨肉腫)、およびリンパ腫性腫瘍から選択される。特定の実施形態では、組成物は、治療を必要とする局所領域に投与される。特定の実施形態では、組成物は、治療有効量の治療剤の局所領域への持続放出を提供する。特定の実施形態では、局所領域は固形腫瘍を含む。特定の実施形態では、組成物は、腫瘍塞栓形成および治療有効量の治療剤の腫瘍への持続放出を提供する。
【0012】
本発明の他の目的、特徴、および利点は、以下の詳細な説明から当業者にとって明らかになるであろう。しかしながら、詳細な説明および特定の例は、本発明のいくつかの実施形態を示すが、限定ではなく、例証として与えられることを理解されたい。本発明の趣旨から逸脱することなく、本発明の範囲内で多くの変更および修正を行うことができ、本発明はそのようなすべての修正を含む。
【図面の簡単な説明】
【0013】
図1図1A図1B、および図1Cは、異なるpH条件下でのドキソルビシン負荷したSTBの様々な組成物からの放出プロファイルデータを示す。
図2図2A図2B、および図2Cは、STBの様々な組成物からの射出力データを示す。
図3図3A図3B、および図3Cは、STBの様々な組成物のレオロジー特性を示す。
図4図4Aは、様々なドキソルビシン負荷したSTBの写真を示す。図4Bは、ドキソルビシン負荷したSTBの直接接触抗がん効果を評価するためのインビトロ研究の概略図を提供する。図4Cは、トランスウェル(transwell)放出によるドキソルビシン負荷したSTBの抗がん効果を評価するためのインビトロ研究の概略図を提供する。
図5図5A図5B、および図5Cは、ドキソルビシン負荷したSTBの直接接触によるインビトロ抗がん有効性評価からのデータを示す。
図6図6A図6B、および図6Cは、ドキソルビシン負荷したSTBのトランスウェル放出によるインビトロ抗がん有効性評価からのデータを示す。
図7図7Aは、メラノーマについてのDOX-STBのインビボ抗がん有効性研究からのデータを示す。図7Bは、ドキソルビシン負荷したSTBを有するメラノーマ担持マウスの腫瘍成長曲線からのデータを示す。図7Cは、屠殺の日の腫瘍重量研究からのデータを示す。
【発明を実施するための形態】
【0014】
実施形態の説明では、本明細書の一部を形成し、本発明を実施することができる特定の実施形態を例示として示す添付の図面を参照する場合がある。本発明の範囲から逸脱することなく、他の実施形態を利用してもよく、構造的変更を行ってもよいことを理解されたい。他に定義されない限り、本明細書中で使用される全ての技術用語、表記、および他の科学用語または専門用語は、本発明が属する分野の当業者によって一般的に理解される意味を有することが意図される。いくつかの場合において、一般的に理解される意味を有する用語は、明確にするために、および/または容易に参照するために本明細書において定義され、本明細書におけるそのような定義の包含は、必ずしも、当技術分野において一般的に理解されるものに対する実質的な差異を表すと解釈されるべきではない。本明細書に説明または参照される技術および手順の態様の多くは、当業者によって十分に理解され、一般的に使用される。以下の本文は、本発明の様々な実施形態を説明する。
【0015】
せん断減粘生体材料(STB)技術は、内部に負荷された固体ポリマーおよび薬物がカテーテル等の手段によって標的領域に直接容易に送達されることを可能にする独特の特性を提供する。これを考慮して、本発明者らは、シリカナノ粒子およびゼラチンベースのポリマーを使用して、新規なせん断減粘生体材料のクラスを開発した。本発明の実施形態は、例えば、シリカナノ粒子およびゼラチンを含むせん断減粘生体適合性組成物を含む。無機複合組成物の中で、シリカは、「一般に安全と認められる(Generally Recognized As Safe)(GRAS)」FDAとして分類され、最も生体適合性の材料の1つと考えられている。このことを考慮して、シリケートナノ粒子は、表面電荷および生物活性特性を有するそれらの均一な粒子サイズに起因して、活性成分またはレオロジー改質剤として医薬品、化粧品、および食品産業において使用されてきた[9、10]。加えて、シリカナノ粒子のサイズ、構造、表面特性を容易に調整することができ、これらの特性により、シリカナノ粒子は、多種多様な生物医学的用途において有用な材料のクラスを提供することができる。
【0016】
本発明の組成物は、さらなる成分(例えば、さらなるポリマー、賦形剤、治療剤など)を含み得る。例えば、本発明の組成物は、1つ以上の食品医薬品局(FDA)承認ポリマーまたは細胞適合性ポリマーを含み得る。このようなポリマーとしては、アルギネート、キトサン、コラーゲン、ヒアルロン酸(HA)、コンドロイチン硫酸(ChS)、デキストリン、ゼラチン、フィブリン、ペプチド、およびシルクが挙げられる。合成ポリマー(例えば、ポリ(エチレングリコール)(PEG)、ポリ(エチレンオキシド)(PEO)、ポロキサマー(Pluronic(登録商標))(PEO-PPO-PEO)、ポリオキサミン(Tetronic(登録商標))(PEO-PPO)、ポリ(ビニルアルコール)(PVA)、ポリ(乳酸-co-グリコール酸)(PLGA)、ポリ(グリコール酸)(PGA)、ポリ(乳酸)(PLA)、ポリカプロラクトン(PCL)、ポリ(L-グルタミン酸)(PLga)、ポリ無水物、ポリ(N-イソプロピルアクリルアミド)(PNIPAAm)、ポリアニリンなど)もまた、本発明の組成物中に含まれ得る。当該分野で公知のように、ヒドロゲルの調製物は、化学的または物理的のいずれかで架橋された材料を含むように作製されてもよい。
【0017】
本発明の組成物の特定の実施形態は、例えば、薬学的賦形剤(例えば、保存剤、張度調整剤、界面活性剤、粘度調整剤、糖、およびpH調整剤からなる群より選択されるもの)を含む。ヒトへの投与に適切な組成物について、「賦形剤」という用語は、Remington:The Science and Practice of Pharmacy,Lippincott Williams&Wilkins,21st ed.(2006)(その内容は、本明細書中に参照により援用される)に説明される成分を含むことを意味するが、これらに限定されない。
【0018】
必要に応じて、本発明の組成物は、1つ以上の小分子治療剤(すなわち、1000ダルトン未満の分子量を有するもの)(例えば、抗炎症剤、凝固を調節する薬剤、抗生物質剤、化学療法剤など)を含む。本明細書に開示される本発明の実施形態において、小分子治療剤はドキソルビシンである。本発明の組成物は、薬物、細胞、タンパク質、および生物活性分子(例えば、酵素)などの治療剤の担体またはスキャフォールドとして使用するために製剤化され得る。担体として、このような組成物は、薬剤を組み込むことができ、種々の病理学的状態の治療のために体内の所望の部位に薬剤を送達し得る。病理学的状態には、例えば、感染症および炎症性疾患(例えば、パーキンソン病、細菌性および抗菌性感染症、糖尿病など)、ならびにがん(例えば、結腸がん、肺がん、乳がん、卵巣がん、リンパ腫がんなど)が含まれる。さらに、スキャフォールドとして、本発明の組成物は、組織修復および所望の組織の再生(例えば、軟骨、骨、網膜、脳、および神経組織の修復、血管再生、創傷治癒など)において使用するための細胞および他の薬剤のための柔軟な滞留空間を提供することができる。さらに、本発明の実施形態は、例えば、免疫系の構成要素を増強するために、免疫療法に有用な免疫調節剤を含み得る。本発明のそのような実施形態における使用に適合され得る特定の例示的な材料および方法は、例えば、Hydrogels:Design,Synthesis and Application in Drug Delivery and Regenerative Medicine 1st Edition,Singh,Laverty and Donnelly Eds;およびHydrogels in Biology and Medicine(Polymer Science and Technology)UK ed.Edition by J.Michalek et al.において見出すことができる。
【0019】
本発明の実施形態は、例えば、ポリマーゼラチン、シリケートナノ粒子、および1000ダルトン未満の分子量を有する治療剤を含む組成物を含む。このような組成物において、ゼラチン、シリケートナノ粒子、および治療剤の量は、せん断減粘ヒドロゲルを形成するように選択される。本発明の特定の実施形態では、組成物は、約1%~約5%のポリマーゼラチン、および約1%~約5%のシリケートナノ粒子を含む。典型的には、これらの組成物は、保存剤、張度調整剤、界面活性剤、粘度調整剤、糖、およびpH調整剤からなる群から選択される薬学的賦形剤をさらに含む。本発明のいくつかの実施形態において、組成物は、ヒトがん細胞をさらに含む。本発明の例示的な実施形態において、治療剤はドキソルビシンである。
【0020】
本発明のいくつかの実施形態では、組成物は、使用者が組成物の1つ以上のレオロジー特性を調節することを容易にするその能力について選択された容器(例えば、カテーテル)内に配置される。本発明の実施形態における使用のために適合され得る特定の例示的な材料および方法は、例えば、Biomedical Hydrogels: Biochemistry,Manufacture and Medical Applications(Woodhead Publishing Series in Biomaterials)1st Edition;Steve Rimmer(Editor)において見出すことができる。本発明の例示的な実施形態である図3A~3Cに示されるように、組成物の成分は、望ましいレオロジー特性を提供するように選択される。
【0021】
本発明の別の実施形態は、本明細書中に開示されるせん断減粘生体適合性組成物を、予め選択された部位(例えば、個体が外傷もしくは傷害を経験したか、またはがんなどの病変を示すインビボ位置)に送達する方法である。典型的には、このような方法は、開口部を含む第1の末端および第2の末端を有する容器(例えば、カテーテル)中に組成物を配置するステップ;この容器の第2の末端に力を印加するステップであって、この力は、この組成物を液化するのに十分である、ステップ;次いで、この組成物を、この容器から開口部を通して予め選択された部位に送達するステップを含む。そのような方法の実施形態は、例えば、図4A~4Cに示されるような治療剤を送達するために、本明細書に開示されるせん断減粘生体適合性組成物を使用する治療レジメンを含む。
【0022】
本発明のさらに別の実施形態は、本明細書に開示されるせん断減粘生体適合性組成物を作製する方法であって、シリカナノ粒子およびゼラチン、小分子治療剤、ならびに場合により薬学的賦形剤を一緒に組み合わせて、せん断減粘生体適合性組成物を形成するステップを含む方法である。これらの方法の特定の実施形態では、シリカナノ粒子の表面特性、シリカナノ粒子の中位径、シリカナノ粒子の相対量、および/またはゼラチンの相対量などは、せん断減粘生体適合性組成物の1つ以上のレオロジー特性を調整または調節するように選択される。この様式で本発明の組成物の機械的特性を調節することによって、本発明の実施形態は、種々の異なる臨床用途における使用に適合され得る。これに関連して、例えば、米国特許出願公開第20050227910号明細書、同第20100120149号明細書、同第20120315265号明細書、同第20140302051号明細書、および同第20190290804号明細書;ならびにLee,Biomaterials Research volume 22,Article number:27(2018);Thambi et al.,J Control Release.2017 Dec 10;267:57-66.doi:10.1016/j.jconrel.2017.08.006.Epub 2017 Aug 4;およびGianonni et al.,Biomater.Sci.,2016(これらの内容は、参照により援用される)に開示されているものなどの、当技術分野で認められている多種多様な材料および方法を、本発明の実施形態における使用に適合させることができる。
【0023】
本発明の例示的な材料および方法
本発明の例示的な実施形態として、本発明者らは、シリケートナノプレートレット(LAPONITE XLG)およびゼラチンベースのポリマーを使用して、ドキソルビシン負荷した注入可能なせん断減粘生体材料(STB)を開発した。せん断減粘生体材料技術は、内部に負荷された薬物が針またはカテーテルを通して標的領域に直接容易に送達されることを可能にする独特の特性を提供する。本発明者らは、せん断減粘生体材料が、1)注入可能であって適用が容易であり、2)注入後の高い機械的安定性によって高い局在化を示すという事実に焦点を当てた。したがって、本発明者らは、固形腫瘍を治療するために、抗がん剤ドキソルビシンをせん断減粘材料に負荷した。
【0024】
本発明者らは、3つの異なるSTB組成物(ゼラチン4.5%/LAPONITE1.5%[6NC25];ゼラチン3.0%/LAPONITE3.0%[6NC50];ゼラチン1.5%/LAPONITE4.5%[6NC75])を、ドキソルビシン負荷した生体材料について試験した。放出プロファイルを3つのpH条件(pH5.0、6.0、7.4)下で30日間分析した(図1A、1B、1C)。ゼラチンは、pH条件に関係なく3日以内にドキソルビシンを放出したが、LAPONITEは、酸性条件でのみドキソルビシンの20%未満を放出した。興味深いことに、3つ全てのSTB組成物は、pH5の酸性条件下でドキソルビシンの高い放出を示したが、通常の生理学的pHである7.4ではほとんど放出を示さなかった。LAPONITE比が高いほど、ドキソルビシンの放出が低いことも観察された。射出力測定は、本発明者らが試験した3つ全ての組成物が、0.8mm(2.4Fr)のマイクロカテーテルおよび1.66mm(5Fr)の一般的なカテーテルを介して送達され得ることを示した(図2A、2B、2C)。全てのSTB組成物は、好ましい射出力の範囲内(<30N)であったが、LAPONITE含有量が高いほど、射出力は高かった。レオロジー測定は、全てのSTB組成物がせん断減粘特性(非ニュートン挙動、せん断速度が増加したときに粘度が減少する)を示し、貯蔵弾性率は、より高いLAPONITE含有量でより高いことを見出した(図3A、3B、3C)。
【0025】
本発明者らは、ゼラチンポリマーおよびLAPONITEを混合することによって2つのタイプのSTBを調製し、次いで、ドキソルビシン溶液を添加して、ドキソルビシン負荷したSTB(DOX-STB)を作製した(図4A)。DOX-STBのインビトロ抗がん有効性を決定するために、本発明者らは、2つのタイプのインビトロ試験を考案した。まず、腫瘍と接触したDOX-STBの抗がん有効性を分析するために、B16F10メラノーマ細胞を培養プレート上に播種し、次いで、4つの範囲のドキソルビシンを負荷した2つのSTBを適用した(図4B)。他のインビトロモデルを、トランスウェル放出抗がん有効性モデルを使用して同定して、直接接触ではなくDOX-STBから放出されたドキソルビシンによる抗がん有効性を分析した。(図4C)。DOX-STB適用の1、3、および7日後に生死染色を実施することによって、直接接触およびトランスウェル放出の両方のインビトロモデルを抗がん有効性について分析した。直接接触インビトロ抗がん有効性分析は、STB自体は抗がん効果を示さず、一方、ほとんどの腫瘍細胞が、10ug/g以上のドキソルビシンの濃度で死滅したことを示した(図5A、5B、5C)。同様に、間接トランスウェル放出の結果は、腫瘍細胞が10ug/g以上のDOX-STBで死滅したことを示した(図6A、6B、6C)。
【0026】
最後に、B16F10メラノーマ腫瘍細胞をC57Bl/6Jマウスに皮下注入することによって作製されたメラノーマ腫瘍モデルにおいて、DOX-STBのインビボ抗がん有効性を分析した(図7A)。概して、インビトロ実験と同様に、STB自体は抗がん有効性を示さなかったが、腫瘍サイズはドキソルビシン(DOX、DOX-6NC25、DOX-6NC75)を負荷した全ての群において減少した。2日毎にカリパスによって測定された腫瘍成長曲線において、両方のドキソルビシン負荷した群は、メラノーマ成長を阻害することが見出された(図7B)。興味深いことに、DOX-6NC25およびDOX-6NC75の腫瘍重量中央値は、腫瘍重量においてDOX未満であった(図7C)。
【0027】
まとめると、本発明者らのDOX-STBは、1)pH依存性ドキソルビシン放出(酸性pHでのドキソルビシン放出)、2)DOX放出がSTB組成物の変化に従って調整可能であること、ならびに3)直接および/またはDOX-STBから放出されるドキソルビシンが腫瘍細胞を死滅させることができること、ならびに4)DOX-STBが動物モデルにおいて腫瘍成長を阻害することができることを示す。
【0028】
要約すると、本発明者らは、種々の特性を有するドキソルビシン、ゼラチン、および生体適合性シリカナノ粒子の複合体を有する新規なせん断減粘生体材料を開発した。ゲル化/シリカナノ粒子の粒子サイズおよび組成などのシリカナノ粒子の特性を調整することによって、機械的特性およびレオロジー特性は、異なる要件を満たすように慎重に調整され得る。これらの実験で使用される全ての組成物は、異なるサイズのカテーテルを通して注入可能である。レオロジー試験は、せん断減粘特性による迅速な回復および機械的安定性を示した。ゼラチン-シリカナノ粒子ベースのSTBは、優れた生物学的安定性、体温押出性、せん断減粘挙動、および迅速なネットワーク回復性を示す。これらの魅力的な物理化学的特性は、インビボでの容易な投与に有利であり、ゼラチン-シリカナノ粒子ベースのSTBは、薬物送達、血管内塞栓形成、組織再生、バイオプリンティングにおいて、および他の生物医学的用途のために、大きな可能性を保持し得る。
【0029】
参考文献
【0030】
【表1-1】
【0031】
【表1-2】
【0032】
【表1-3】
【0033】
本明細書で言及される全ての刊行物(例えば、上記で数字として列挙された参考文献、および米国特許出願公開第20180104059号明細書)は、引用された刊行物に関連して態様、方法、および/または材料を開示および説明するために、参照により本明細書に援用される。
【0034】
この仮出願に含まれる付属書は、雑誌に掲載するためにフォーマットされた発明の開示を提供する。本開示は、本発明の様々な態様および実施形態を示す。この付属書は、参照により本明細書に援用される。
図1
図2
図3
図4
図5
図6
図7
【国際調査報告】