(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公表特許公報(A)
(11)【公表番号】
(43)【公表日】2024-09-30
(54)【発明の名称】船舶の蒸発ガスの再液化システム及び蒸発ガスの再液化方法
(51)【国際特許分類】
B63B 25/16 20060101AFI20240920BHJP
B63H 21/38 20060101ALI20240920BHJP
F17C 13/00 20060101ALI20240920BHJP
【FI】
B63B25/16 D
B63H21/38 B
F17C13/00 302A
【審査請求】有
【予備審査請求】未請求
(21)【出願番号】P 2024519523
(86)(22)【出願日】2021-12-27
(85)【翻訳文提出日】2024-03-29
(86)【国際出願番号】 KR2021019904
(87)【国際公開番号】W WO2023075023
(87)【国際公開日】2023-05-04
(31)【優先権主張番号】10-2021-0145491
(32)【優先日】2021-10-28
(33)【優先権主張国・地域又は機関】KR
(81)【指定国・地域】
(71)【出願人】
【識別番号】517430897
【氏名又は名称】ハンファ オーシャン カンパニー リミテッド
(74)【代理人】
【識別番号】110000305
【氏名又は名称】弁理士法人青莪
(72)【発明者】
【氏名】パク,ジュ ウン
(72)【発明者】
【氏名】キム,ソン ジン
(72)【発明者】
【氏名】チェ,ウォン ジェ
【テーマコード(参考)】
3E172
【Fターム(参考)】
3E172AA03
3E172AA05
3E172AA06
3E172AB04
3E172AB11
3E172BA06
3E172BD02
3E172DA90
3E172HA04
3E172HA08
3E172HA14
3E172KA03
(57)【要約】
【課題】船舶の蒸発ガスの再液化システム及び蒸発ガスの再液化方法が開示される。
【解決手段】本発明の船舶の蒸発ガスの再液化システムは、船舶に設けられる貯蔵タンクに貯蔵される液化ガスから発生した蒸発ガスを圧縮する圧縮機と、前記圧縮機と前記貯蔵タンクとを接続して、前記蒸発ガスを再液化させて前記貯蔵タンクに戻す再液化ラインと、前記再液化ラインに設けられて、前記圧縮機で圧縮された蒸発ガスを冷却する熱交換器と、前記再液化ラインに設けられて、前記熱交換器で冷却された蒸発ガスを気液分離し、分離された液化ガスを前記貯蔵タンクに供給するセパレータと、前記セパレータの上部に窒素を供給する窒素ブランケットラインと、前記再液化ラインの前記熱交換器の下流で前記再液化ラインから分岐し、前記セパレータを迂回して前記貯蔵タンクに接続されるバイパスラインとを備える。
【特許請求の範囲】
【請求項1】
船舶に設けられる貯蔵タンクに貯蔵される液化ガスから発生した蒸発ガスを圧縮する圧縮機;と、
前記圧縮機と前記貯蔵タンクとを接続して、前記蒸発ガスを再液化させて前記貯蔵タンクに戻す再液化ライン;と、
前記再液化ラインに設けられて、前記圧縮機で圧縮された蒸発ガスを冷却する熱交換器;と、
前記再液化ラインに設けられて、前記熱交換器で冷却された蒸発ガスを気液分離し、分離された液化ガスを前記貯蔵タンクに供給するセパレータ;と、
前記セパレータの上部に窒素を供給する窒素ブランケットライン;と、
前記再液化ラインの前記熱交換器の下流で、前記再液化ラインから分岐し、前記セパレータを迂回して前記貯蔵タンクに接続されるバイパスライン;とを備える、
船舶の蒸発ガスの再液化システム。
【請求項2】
前記窒素ブランケットラインにより前記セパレータに供給される窒素の流量を検知する流量計:をさらに備え、
前記窒素ブランケットラインにより前記セパレータ内の圧力を維持するためのブランケット窒素が供給され、
前記流量計で検知された窒素の流量を基に前記セパレータ内の窒素消費量をモニタリングし、前記窒素消費量が所定値より大きい場合には、前記熱交換器で過冷却となった再液化ガスを、前記バイパスラインにより前記セパレータを迂回させて前記貯蔵タンクに供給するバイパス運転モードで、再液化システムを運転することを特徴とする、
請求項1に記載の船舶の蒸発ガスの再液化システム。
【請求項3】
前記再液化ラインの前記バイパスラインの分岐点の下流に設けられる第1制御バルブ;と、
前記バイパスラインに設けられる第2制御バルブ:とをさらに備える、
請求項2に記載の船舶の蒸発ガスの再液化システム。
【請求項4】
前記第2制御バルブを開放して、過冷却の再液化ガスを前記バイパスラインにより前記貯蔵タンクに供給すると共に、過冷却の再液化ガスの一部を前記セパレータに供給するように前記第1制御バルブの開度を制御し、前記セパレータに供給される窒素の流量をモニタリングして、前記熱交換器で冷却された再液化ガスの全量を前記セパレータに供給する正常運転モードでの前記再液化システムの運転を再開するか否かを判断することを特徴とする、
請求項3に記載の船舶の蒸発ガスの再液化システム。
【請求項5】
前記セパレータ内の圧力を検知する圧力検知器;と、
前記再液化ラインの前記圧縮機の下流で前記再液化ラインから分岐して、前記熱交換器を迂回して前記窒素ブランケットラインに合流し、前記セパレータの上部に接続される圧力補償ライン;と、
前記圧力補償ラインの前記窒素ブランケットラインとの合流点の下流に設けられる圧力補償バルブ;とをさらに備え、
前記圧力検知器で検知された圧力に応じて、前記圧力補償バルブが前記セパレータに供給される前記蒸発ガスまたは窒素の圧力を調整することを特徴とする、
請求項3に記載の船舶の蒸発ガスの再液化システム。
【請求項6】
前記圧力補償ラインの前記窒素ブランケットラインとの合流点の上流に設けられる第1遮断バルブ;と、
前記窒素ブランケットラインに設けられる第2遮断バルブ;と、
前記窒素ブランケットラインの前記第2遮断バルブの下流に設けられて、窒素の逆流を防止するチェックバルブ:とをさらに備える、
請求項5に記載の船舶の蒸発ガスの再液化システム。
【請求項7】
前記熱交換器で前記蒸発ガスと熱交換される冷媒を循環させる冷媒循環部;をさらに備え、
前記冷媒循環部を循環する冷媒が窒素であることを特徴とする、
請求項1~6のいずれか1項に記載の船舶の蒸発ガスの再液化システム。
【請求項8】
船舶に設けられる貯蔵タンクに貯蔵される液化ガスから発生した蒸発ガスを圧縮機で圧縮し、
前記圧縮機で圧縮された蒸発ガスを熱交換器で冷却して再液化させて、セパレータで気液分離して、分離された液化ガスを前記貯蔵タンクに戻し、
前記セパレータの上部に窒素ブランケットラインにより窒素を供給して、前記セパレータ内の圧力を維持し、
前記セパレータに供給される窒素の流量を検知して、前記セパレータ内の窒素消費量をモニタリングし、前記窒素消費量が所定値より大きくなったら、前記熱交換器で過冷却となった再液化ガスをバイパスラインにより前記セパレータを迂回させて、前記貯蔵タンクに供給することを特徴とする、
船舶の蒸発ガスの再液化方法。
【請求項9】
前記熱交換器で過冷却となった再液化ガスを、前記バイパスラインにより前記貯蔵タンクに供給すると共に、過冷却の再液化ガスの一部を前記セパレータに供給し、前記セパレータに供給される窒素の流量をモニタリングして、前記熱交換器で冷却された再液化ガスの全量を前記セパレータに供給するか否かを判断する、
請求項8に記載の船舶の蒸発ガスの再液化方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、船舶の貯蔵タンクに貯蔵される液化ガスから発生した蒸発ガス(BOG; Boil-Off Gas、ボイルオフガス)を冷却して再液化させる蒸発ガスの再液化システム及び蒸発ガスの再液化方法に関する。より詳細には、セパレータ内に窒素を供給してセパレータ内の圧力を維持することで、セパレータで分離された液化ガスを貯蔵タンクへ円滑に供給し、また、液化ガス中に窒素が過剰に溶解する場合には、過冷却の液化ガスをセパレータを迂回させて貯蔵タンクに供給する、蒸発ガスの再液化システム及び蒸発ガスの再液化方法に関する。
【背景技術】
【0002】
天然ガス(Natural gas)は、メタン(Methane)を主成分とし、燃焼時に環境汚染物質を殆ど排出しないことから、環境性に優れた燃料として注目されている。液化天然ガス(LNG; Liquefied Natural Gas)は、天然ガスを大気圧で約-163℃まで冷却して液化させることで得られる。液化天然ガスは、気体状態の天然ガスと比べて、その体積が約1/600まで減少することから、海上ルートを利用した長距離輸送に非常に適している。このような理由から、天然ガスは、主に貯蔵や輸送に有利な液化天然ガス状態で貯蔵されて輸送される。
【0003】
天然ガスの液化点は大気圧で約-163℃と極低温であることから、LNG貯蔵タンクには、通常、LNGを液体状態で維持するための断熱処理が施されるが、LNG貯蔵タンクに断熱処理を施しても、外部熱を遮断するには限界がある。このため、外部熱がLNG貯蔵タンクに継続して伝達されることで、LNG輸送の過程でLNG貯蔵タンク内のLNGが自然気化し、蒸発ガス(BOG; Boil-Off Gas、ボイルオフガス)が発生する。
【0004】
LNG貯蔵タンク内で蒸発ガスが継続して発生することは、LNG貯蔵タンク内の圧力を上昇させる要因となる。LNG貯蔵タンク内の内力が設定した安全圧力以上になると、タンク破損(Rupture)などの緊急事態を起こす虞があるため、安全バルブを利用して蒸発ガスを貯蔵タンクの外部に排出させる必要がある。しかし、蒸発ガスはLNG損失の1つとしてLNGの輸送効率及び燃料効率において重要な問題となることから、貯蔵タンクで発生した蒸発ガスを処理する様々な方法が用いられている。
【0005】
近年、船舶のエンジンなどの燃料需要先で蒸発ガスを使用する方法、蒸発ガスを再液化させて貯蔵タンクに回収する方法、または、これら2つの方法を組合せて使用する方法などが開発され、用いられている。
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
蒸発ガスを再液化させる方法としては、他の冷媒を用いる冷凍サイクルを利用して蒸発ガスを冷媒との熱交換により再液化させる方法、他の冷媒を用いずに蒸発ガス自体を冷媒として使用して再液化させる方法などがある。
【0007】
他の冷媒を用いずに蒸発ガス自体を冷媒として使用する蒸発ガスの再液化方法として、圧縮された蒸発ガスを圧縮前の蒸発ガスとの熱交換により冷却した後、断熱膨張させて再液化させるPRS(Partial Re-liquefaction System)と、その改良技術とが開発され、船舶に用いられている。
【0008】
一方、他の冷媒を用いる冷凍サイクルを利用する再液化方法としては、窒素冷媒を用いる再液化方法が知られている。
【0009】
窒素冷媒は、混合冷媒を用いる冷凍サイクルと比較して冷却効率が低い一方、窒素は不活性物質であることから安全性が高く、また冷媒の相変化が生じないことから、船舶に適用し易いという利点がある。
【0010】
そして、他の冷媒または蒸発ガス自体の冷熱で冷却された蒸発ガスは、セパレータで気液分離され、分離された再液化ガスが貯蔵タンクに回収される。
【0011】
ところで、再液化システムが正常に運転している状態で、熱交換により冷却された液化ガスが過冷却となって、セパレータに供給されることがある。この場合、セパレータに供給された液化ガスからは、フラッシュガスが殆ど発生しない。
【0012】
このような状況で、セパレータ内の液化ガスを貯蔵タンクに供給するため、セパレータの下流に設けられたバルブを開放すると、セパレータ内の圧力が急激に低下し、セパレータ内の圧力を調整することが困難となる。
【0013】
本発明は、上記のように再液化させた液化ガスをセパレータから貯蔵タンクに供給する場合でも、セパレータ内の圧力を維持できると共に、再液化ガスを貯蔵タンクへ円滑に供給できる蒸発ガスの再液化システム及び蒸発ガスの再液化方法を提供する。
【課題を解決するための手段】
【0014】
上記課題を解決するため本発明は、船舶に設けられる貯蔵タンクに貯蔵される液化ガスから発生した蒸発ガスを圧縮する圧縮機と、前記圧縮機と前記貯蔵タンクとを接続して、前記蒸発ガスを再液化させて前記貯蔵タンクに戻す再液化ラインと、前記再液化ラインに設けられて、前記圧縮機で圧縮された蒸発ガスを冷却する熱交換器と、前記再液化ラインに設けられて、前記熱交換器で冷却された蒸発ガスを気液分離し、分離された液化ガスを前記貯蔵タンクに供給するセパレータと、前記セパレータの上部に窒素を供給する窒素ブランケットラインと、前記再液化ラインの前記熱交換器の下流で前記再液化ラインから分岐し、前記セパレータを迂回して前記貯蔵タンクに接続されるバイパスラインとを備える、船舶の蒸発ガスの再液化システムが提供される。
【0015】
また、本発明において、前記窒素ブランケットラインにより前記セパレータに供給される窒素の流量を検知する流量計:をさらに備え、前記窒素ブランケットラインにより前記セパレータ内の圧力を維持するためのブランケット窒素が供給され、前記流量計で検知された窒素の流量を基に前記セパレータ内の窒素消費量をモニタリングし、前記窒素消費量が所定値より大きい場合には、前記熱交換器で過冷却となった再液化ガスを、前記バイパスラインにより前記セパレータを迂回させて前記貯蔵タンクに供給するバイパス運転モードで、再液化システムを運転することが好ましい。
【0016】
また、本発明において、記再液化ラインの前記バイパスラインの分岐点の下流に設けられる第1制御バルブと、前記バイパスラインに設けられる第2制御バルブとをさらに備えることが好ましい。
【0017】
また、本発明において、前記第2制御バルブを開放して、過冷却の再液化ガスを前記バイパスラインにより前記貯蔵タンクに供給すると共に、過冷却の再液化ガスの一部を前記セパレータに供給するように前記第1制御バルブの開度を制御し、前記セパレータに供給される窒素の流量をモニタリングして、前記熱交換器で冷却された再液化ガスの全量が前記セパレータに供給される正常運転モードでの前記再液化システムの運転を再開するか否かを判断することが好ましい。
【0018】
また、本発明において、前記セパレータ内の圧力を検知する圧力検知器と、前記再液化ラインの前記圧縮機の下流で前記再液化ラインから分岐し、前記熱交換器を迂回して前記窒素ブランケットラインに合流し、前記セパレータの上部に接続される圧力補償ラインと、前記圧力補償ラインの前記窒素ブランケットラインとの合流点の下流に設けられる圧力補償バルブとをさらに備え、前記圧力検知器で検知された圧力に応じて、前記圧力補償バルブが前記セパレータに供給される前記蒸発ガスまたは窒素の圧力を調整することが好ましい。
【0019】
また、本発明において、前記圧力補償ラインの前記窒素ブランケットラインとの合流点の上流に設けられる第1遮断バルブと、前記窒素ブランケットラインに設けられる第2遮断バルブと、前記窒素ブランケットラインの前記第2遮断バルブの下流に設けられて、窒素の逆流を防止するチェックバルブとをさらに備えることが好ましい。
【0020】
また、本発明において、前記熱交換器で前記蒸発ガスと熱交換される冷媒を循環させる冷媒循環部をさらに備え、前記冷媒循環部を循環する冷媒が窒素であることが好ましい。
【0021】
また、上記課題を解決するため本発明は、船舶に設けられる貯蔵タンクに貯蔵される液化ガスから発生した蒸発ガスを圧縮機で圧縮し、前記圧縮機で圧縮された蒸発ガスを熱交換器で冷却して再液化させて、セパレータで気液分離して、分離された液化ガスを前記貯蔵タンクに戻し、前記セパレータの上部に窒素ブランケットラインにより窒素を供給して、前記セパレータ内の圧力を維持し、前記セパレータに供給される窒素の流量を検知して、前記セパレータ内の窒素消費量をモニタリングし、前記窒素消費量が所定値より大きくなったら、前記熱交換器で過冷却となった再液化ガスをバイパスラインにより前記セパレータを迂回させて、前記貯蔵タンクに供給することを特徴とする、船舶の蒸発ガスの再液化方法が提供される。
【0022】
また、本発明において、前記熱交換器で過冷却となった再液化ガスを、前記バイパスラインにより前記貯蔵タンクに供給すると共に、過冷却の再液化ガスの一部を前記セパレータに供給し、前記セパレータに供給される窒素の流量をモニタリングして、前記熱交換器で冷却された再液化ガスの全量が前記セパレータに供給するか否かを判断することが好ましい。
【発明の効果】
【0023】
本発明は、蒸発ガス自体の冷熱及び冷媒サイクルの冷熱を利用することで、再液化される蒸発ガスをより効果的に冷却でき、蒸発ガスの再液化率が向上される。
【0024】
特に、セパレータに供給される液化ガスが過冷却となり、セパレータ内でフラッシュガスが殆ど発生しない場合でも、セパレータ内にブランケット窒素を供給して、セパレータ内の圧力を維持することで、セパレータ内の液化ガスを貯蔵タンクに円滑に供給でき、再液化システムを安定に運転することができる。
【0025】
また、再液化ガスが過冷却となり、セパレータ内の再液化ガスにブランケット窒素が過剰に溶解する場合には、再液化ガスをバイパスラインによりセパレータを迂回させて、貯蔵タンクに直接供給すると共に、過冷却の再液化ガスの一部をセパレータに供給し、ブランケット窒素の流量をモニタリングして、再液化システムを正常運転モードで運転することで、窒素消費量を削減することができる。これにより、船内に窒素を供給するための設備の容量や運転費用を削減でき、また、再液化ガスに多量の窒素が溶解することで生じる液化ガスの発熱量や品質が低下するといった問題を解決することができる。
【図面の簡単な説明】
【0026】
【
図1】本発明の実施形態の船舶の蒸発ガスの再液化システムを概略的に示す。
【発明を実施するための形態】
【0027】
以下、図面及び図面に記載した内容を参照して、本発明の動作上の利点及び本発明の実施形態によって達成される目的を、本発明の実施形態を例に説明する。
【0028】
以下、図面を参照して、本発明の実施形態の構成及び作用について説明する。なお、各図面の構成要素に付した参照符号について、同一の構成要素には、他の図面上に表示されるものにも可能な限り同一の符号を表記する。
【0029】
後述する本発明の実施形態の船舶としては、液化ガスを貯蔵する貯蔵タンクが設けられる全種類の船舶であり得る。代表的なものとしては、LNG運搬船(LNG Carrier)、液体水素運搬船、LNG RV(Regasification Vessel)などの自走能力を備える船舶をはじめ、LNG FPSO(Floating Production Storage Offloading)、LNG FSRU(Floating Storage Regasification Unit)などの推進能力を有しない海上浮遊式の海上構造物である。
【0030】
また、本実施形態は、ガスを低温で液化させて輸送でき、貯蔵時に蒸発ガスが発生する全種類の液化ガスの再液化サイクルに適用することができる。このような液化ガスとしては、例えば、LNG(Liquefied Natural Gas)、LEG(Liquefied Ethane Gas)、LPG(Liquefied Petroleum Gas)、液化エチレンガス(Liquefied Ethylene Gas)、液化プロピレンガス(Liquefied Propylene Gas)などの液化ガスがある。なお、後述する実施形態では、代表的な液化ガスの1つであるLNGを例に説明する。
【0031】
図1は、本発明の実施形態の船舶の蒸発ガスの再液化システムを概略的に図示する。
【0032】
図1に示すように、本実施形態の蒸発ガスの再液化システムは、船舶に設けられる貯蔵タンクCTに貯蔵される液化ガスから発生した蒸発ガスを、再液化させて貯蔵タンクCTに戻すためのシステムである。本実施形態の蒸発ガスの再液化システムは、貯蔵タンクCTから排出された蒸発ガスを圧縮機に供給して圧縮し、圧縮機で圧縮された蒸発ガスを熱交換器100で冷却して再液化させた後、貯蔵タンクCTに戻す再液化ラインRLを備える。
【0033】
貯蔵タンクCTから排出され、圧縮される前の蒸発ガスは、熱交換器100で冷媒として使用された後、圧縮機に供給される。この場合、蒸発ガスは圧縮機で、例えば船舶の主エンジンの燃料供給圧力まで圧縮される。例えば、DFエンジンが設けられる場合には5.5bargの圧力、X-DFエンジンが設けられる場合には15bargの圧力、ME-GIエンジンが設けられる場合には300bargの圧力まで圧縮される。圧縮された蒸発ガスは、船舶の主エンジン(図示せず)に燃料として供給され、燃料として供給されずに残った蒸発ガスが再液化される。
【0034】
なお、船舶の規定に関し、エンジンに燃料を供給する圧縮機は、緊急事態に備えて冗長設計(Redundancy)することが求められる。なお、本実施形態では、主に1台の圧縮機を例に説明するが、圧縮機は主圧縮機と予備圧縮機とを備えるように構成される。
【0035】
圧縮機で圧縮された蒸発ガスは、再液化ラインRLにより熱交換器100に供給され、熱交換により冷却される。なお、再液化率を向上させるために、蒸発ガスを更に圧縮(追加圧縮)した後、熱交換により冷却して、再液化させてもよい。
【0036】
再液化ラインRLには、圧縮機で圧縮された蒸発ガスを冷却する熱交換器100と、熱交換器100で冷却された蒸発ガスを気液分離するセパレータ200とが設けられている。セパレータ200で分離された液化ガスは、貯蔵タンクCTに供給される。なお、必要に応じて、熱交換器100とセパレータ200との間には、熱交換により冷却された蒸発ガスを減圧する減圧装置(図示せず)が設けられる。
【0037】
蒸発ガスは、熱交換器100で、冷媒循環部(図示せず)を循環する冷媒との熱交換により冷却される。
【0038】
冷媒循環部は、冷媒が循環する冷媒循環ライン(図示せず)を備える。冷媒循環ラインには、熱交換器100に供給される冷媒を膨張させて冷却するコンパンダ膨張機(図示せず)と、コンパンダ膨張機から冷媒の膨張エネルギーが伝達されて、熱交換器100から排出される冷媒を圧縮するコンパンダ圧縮機(図示せず)とが設けられる。また、コンパンダ圧縮機を駆動するためのモータ(図示せず)が設けられている。コンパンダ圧縮機とコンパンダ膨張機とはシャフトを介して接続され、冷媒の膨張エネルギーを冷媒の圧縮に利用することで、冷媒サイクルを駆動するために必要な電力を削減できる。
【0039】
冷媒循環ラインを循環して熱交換器100に供給される冷媒としては、例えば窒素(N2)が用いられる。コンパンダ圧縮機で圧縮された窒素冷媒は、熱交換器100で冷却された後、コンパンダ膨張機で膨張により冷却され、熱交換器100に冷媒として再び供給されて、冷媒循環ラインを循環する。
【0040】
再液化ラインRLのセパレータ200の下流には、液位調整バルブLVが設けられている。液位調整バルブLVは、セパレータ200で分離された再液化ガスを貯蔵タンクCTに供給するために、再液化ラインRLの開閉を行う。セパレータ200内の再液化ガスを貯蔵タンクCTに供給するため、セパレータ200の下流に設けられる液位調整バルブLVを開放すると、セパレータ200内の圧力が変化する。その結果、セパレータ200内に供給された再液化ガスからフラッシュガスが発生することで、セパレータ200内の圧力が維持される。
【0041】
ところで、貯蔵タンクCTで発生した蒸発ガスの組成によっては(特に蒸発ガスに含まれる窒素の含有量が低い場合には)、熱交換器100で窒素冷媒により冷却され、過冷却となった再液化ガスをセパレータ200に供給しても、セパレータ200内に供給された再液化ガスからは、フラッシュガスが殆ど発生しない。
【0042】
このような状況で、セパレータ200の下流に設けられる液位調整バルブLVを開放すると、セパレータ200内の圧力が急激に低下することで、セパレータ200内の圧力を調整することが難しくなる。そこで、本実施形態では、このような場合でも、セパレータ200内の圧力を補償して、セパレータ200内の圧力を維持できるような装置構成とした。
【0043】
本実施形態では、圧縮機の下流で再液化ラインRLから分岐してセパレータ200の上部に接続される圧力補償ラインPLが設けられている。圧力補償ラインPLには、ブランケット窒素を供給する窒素ブランケットラインNBLが接続されている。そして、セパレータ200内の液化ガスを貯蔵タンクCTに供給する場合には、圧縮ガスまたはブランケット窒素を圧力補償ラインPLによりセパレータ200に供給することで、セパレータ200内の圧力を維持することができる。
【0044】
また、本実施形態では、セパレータ200内の圧力を検知する圧力検知器PTと、セパレータ200内の液化ガスの液位を検知する液位検知器LTとが設けられている。また、圧力補償ラインPLの窒素ブランケットラインNBLとの合流点の下流には、圧力補償バルブPVが設けられている。一方、圧力補償ラインPLの窒素ブランケットラインNBLとの合流点の上流には、第1遮断バルブSV1が設けられている。また、窒素ブランケットラインNBLには、第2遮断バルブSV2と、第2遮断バルブSV2の下流に設けられて、窒素の逆流を防止するチェックバルブCHVとが設けられている。
【0045】
圧力検知器PTで検知されたセパレータ200内の圧力に応じて、圧力補償バルブPVが、圧力補償ラインPLによりセパレータ200の上部に供給される蒸発ガスまたは窒素の圧力を調整する。この場合、第1遮断バルブSV1及び第2遮断バルブSV2のうち、いずれか一方が開放され、他方が遮断されて、蒸発ガスまたは窒素がセパレータ200に供給される。
【0046】
窒素ブランケットラインNBLによりセパレータ200に供給される窒素は、船舶の窒素供給システム(N2 Supply System)の窒素バッファタンク(N2 Buffer Tank)や、窒素冷媒が循環する冷媒循環部に窒素冷媒を供給・補充する窒素インベントリシステム(N2 Inventory System)などから供給される。
【0047】
圧力補償ラインPLによりセパレータ200の上部に蒸発ガスが供給されると、蒸発ガスは、セパレータ200内の液化ガスに飽和(Saturated)するまで溶解し、液化ガスの温度が徐々に上昇することで、液化ガスの過冷却が破られる。このような液化ガスをセパレータ200から貯蔵タンクCTに供給すると、セパレータ200内の圧力と貯蔵タンクCT内の圧力との圧力差によって、フラッシュガスが多量に発生する。
【0048】
また、窒素ブランケットラインNBLによりセパレータ200にブランケット窒素を供給する場合、窒素の液化温度はメタンの液化温度よりも低くいため、窒素は液化ガスに溶解し難い。このため、圧力補償及び継続的な過冷却運転が可能となり、貯蔵タンクCTで発生するフラッシュガスの発生量を減少させることができる。
【0049】
上記本実施形態では、圧力補償ラインPLによるセパレータ200への蒸発ガスまたは窒素の供給を常時行う必要はない。また、上述したようにセパレータ200に供給される液化ガスは、過冷却となることで、セパレータ200内でフラッシュガスが発生しない。また、液位調整バルブLVを開放してもフラッシュガスのみでは、セパレータ200内の圧力を維持できない場合、圧力補償ラインPLにより蒸発ガスまたは窒素をセパレータ200に供給することで、セパレータ200内の圧力を維持することができる。
【0050】
ところで、本発明者らは、シミュレーション及び実証実験により、このような再液化システムで、窒素ブランケットラインNBLによりセパレータ200の上部にブランケット窒素を供給する場合、熱交換器100で過冷却となった再液化ガスに、想定量以上の窒素が溶解することで、消費されるブランケット窒素の量が多くなり、液化ガスを貯蔵タンクCTに円滑に供給できない虞があることを確認した。
【0051】
このような問題を解決するため、熱交換器100で圧縮された蒸発ガスの冷却温度を変更することも考えられるが、その場合、再液化サイクルの冷熱(Cold power)を十分に活用できず、冷却効率が低下することで、他の問題が発生する虞がある。また、セパレータ200内の液化ガスにブランケット窒素が溶解することで、セパレータ200内の圧力が低下する場合でも、セパレータ200内の液化ガスを貯蔵タンクCTに円滑に供給できるよう、供給ポンプなどの装置を追加設置することも考えられるが、その場合、CAPEX(資本支出、Capital expenditure)が増加するという問題がある。
【0052】
本実施形態では、このような問題を解決するため、セパレータ200を迂回させて、熱交換器100と貯蔵タンクCTとを接続するバイパスラインBLを設けた。これにより、セパレータ200内の再液化ガスにブランケット窒素が過剰に溶解することで、セパレータ200内の再液化ガスを貯蔵タンクCTに円滑に供給できない場合や、ブランケット窒素として消費される窒素量が過剰となる場合でも、バイパスラインBLにより過冷却の再液化ガスを貯蔵タンクCTに直接供給することができる。
【0053】
図1に示すように、再液化ラインRLの熱交換器100の下流から分岐させて、セパレータ200を迂回し、貯蔵タンクCTに接続されるバイパスラインBLが設けられている。また、再液化ラインRLのバイパスラインBLとの分岐点の下流には、第1制御バルブCV1が設けられている。また、バイパスラインBLには、第2制御バルブCV2が設けられている。
【0054】
制御部XCの制御により第2遮断バルブSV2を開放し、セパレータ200内の圧力が維持されるように、窒素ブランケットラインNBLによりセパレータ200にブランケット窒素を供給する。また、窒素ブランケットラインNBLによりセパレータ200に供給される窒素の流量が、流量計(図示せず)により検知される。流量計で検知された窒素の流量を基に、セパレータ200内で液化ガスに溶解することで消費される窒素量がモニタリングされる。
【0055】
セパレータ200での窒素消費量が所定値より大きくなる場合には、バイパス運転モードに切り替え、第2制御バルブCV2を開放して、熱交換器100で過冷却となった再液化ガスを、バイパスラインBLによりセパレータ200を迂回させて、貯蔵タンクCTに直接供給されるように再液化システムを運用する。
【0056】
ところで、バイパス運転モードでの運転を継続すると、気液混合状態の再液化ガスが貯蔵タンクCTに供給されることで、貯蔵タンクCT内の圧力が上昇する。したがって、バイパス運転モードにより熱交換器100から再液化ガスを貯蔵タンクCTに供給する場合には、第1制御バルブCV1の開度を調整して、熱交換器100で冷却された再液化ガスをセパレータ200に少量供給する。また、上記流量計によりセパレータ200に供給される窒素の流量をモニタリングし、ブランケット窒素の量を確認し、熱交換器100で冷却された再液化ガスの全量をセパレータ200に供給する正常運転モードで、再液化システムの運転を再開するか否かを判断する。
【0057】
上記実施形態のシステムでは、セパレータ200でブランケット窒素が再液化ガスに所定量以上溶解することで、セパレータ200内の圧力を維持するために必要なブランケット窒素の量が過剰となる場合でも、バイパスラインBLにより再液化ガスを貯蔵タンクCTに直接供給することで、再液化ガスを貯蔵タンクCTに円滑に供給できると共に、ブランケット(N2 Blanketing)のための窒素消費量を削減することができる。これにより、船内への窒素供給のための設備の容量や運転費用を削減でき、また、再液化ガスに多量の窒素が溶解することで生じる液化ガスの発熱量や品質が低下するといった問題を解決することができる。
【0058】
本発明は、上記実施形態に限定されず、本発明の技術的要旨を超えない範囲内で様々な変更または変形ができることは、本発明が属する技術分野の当業者にとって自明である。
【国際調査報告】