(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公表特許公報(A)
(11)【公表番号】
(43)【公表日】2024-09-30
(54)【発明の名称】細胞培養用プラットフォーム、細胞培養法、及びその使用
(51)【国際特許分類】
C12N 5/071 20100101AFI20240920BHJP
C12N 5/09 20100101ALI20240920BHJP
C12Q 1/02 20060101ALI20240920BHJP
A61P 35/00 20060101ALI20240920BHJP
A61K 45/00 20060101ALI20240920BHJP
A61K 48/00 20060101ALI20240920BHJP
A61K 35/17 20150101ALI20240920BHJP
A61P 43/00 20060101ALI20240920BHJP
A61K 33/243 20190101ALI20240920BHJP
A61K 31/7068 20060101ALI20240920BHJP
C12N 5/0783 20100101ALN20240920BHJP
C12N 5/10 20060101ALN20240920BHJP
A61K 47/68 20170101ALN20240920BHJP
A61K 39/395 20060101ALN20240920BHJP
【FI】
C12N5/071
C12N5/09
C12Q1/02
A61P35/00
A61K45/00
A61K48/00
A61K35/17
A61P43/00 121
A61K33/243
A61K31/7068
C12N5/0783
C12N5/10
A61K47/68
A61K39/395 T
A61K39/395 U
【審査請求】未請求
【予備審査請求】未請求
(21)【出願番号】P 2024520535
(86)(22)【出願日】2022-10-03
(85)【翻訳文提出日】2024-05-28
(86)【国際出願番号】 US2022045549
(87)【国際公開番号】W WO2023059555
(87)【国際公開日】2023-04-13
(32)【優先日】2021-10-05
(33)【優先権主張国・地域又は機関】US
(32)【優先日】2022-09-30
(33)【優先権主張国・地域又は機関】US
(81)【指定国・地域】
(71)【出願人】
【識別番号】596118493
【氏名又は名称】アカデミア シニカ
【氏名又は名称原語表記】ACADEMIA SINICA
【住所又は居所原語表記】128 Sec 2,Academia Road,Nankang,Taipei 11529 TW
(74)【代理人】
【識別番号】110002572
【氏名又は名称】弁理士法人平木国際特許事務所
(72)【発明者】
【氏名】チャン,イン-チー
【テーマコード(参考)】
4B063
4B065
4C076
4C084
4C085
4C086
4C087
【Fターム(参考)】
4B063QA01
4B063QA18
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4B063QQ52
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4C086ZC75
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4C087AA02
4C087BB37
4C087CA04
4C087NA05
4C087ZB26
(57)【要約】
本発明の開示内容は、細胞培養物(例えば腫瘍スフェロイド)の調製方法、がん治療剤の評価方法、及びがんの治療法を提供する。細胞培養物の調製方法は、(a)高分子電解質多層及び場合により吸収性ポリマーにより表面がコーティングされた細胞培養用製品を提供する工程、(b)該表面上に複数のがん細胞を播種する工程であって、該複数のがん細胞はがん患者の体液サンプルから得られる工程、並びに(c)細胞培養物を生成するのに十分な時間、適切な培地下でがん細胞を培養する工程であって、細胞培養物が、コーティング表面に接着した複数の腫瘍スフェロイドを含む三次元(3D)細胞培養物を含む工程を含む。
【選択図】
図1A
【特許請求の範囲】
【請求項1】
細胞培養物の調製方法であって、
(a)高分子電解質多層及び場合により吸収性ポリマーによってコーティングされた表面を有する細胞培養用製品を提供する工程、
(b)該表面上に複数のがん細胞を播種する工程であって、該複数のがん細胞はがん患者の体液サンプルから得られる工程、及び
(c)細胞培養物を生成するのに十分な時間、適切な培地下でがん細胞を培養する工程であって、細胞培養物が、コーティング表面に接着した複数の腫瘍スフェロイドを含む三次元(3D)細胞培養物を含む工程、
を含む、細胞培養物の調製方法。
【請求項2】
がん治療剤の評価方法であって、
(a)請求項1の方法に従って細胞培養物を調製する工程、
(b)任意で、細胞培養物を複数の免疫細胞と共にインキュベートする工程、
(c)細胞培養物を治療剤と接触させる工程、
(d)細胞培養物に対する治療剤の効果を評価する工程、及び
(e)治療剤が細胞培養物に対して有効である場合にはそのがん患者を治療剤に対して応答性があると判定し、また治療剤ががん細胞培養物に対して有効でない場合にはそのがん患者を治療剤に対して応答性がないと判定する工程、
を含む、がん治療剤の評価方法。
【請求項3】
適切な培地がRho関連タンパク質キナーゼ(ROCK)阻害剤を含み、ROCK阻害剤がイソキノリン、4-アミドピリジン又は4-アミドピロロピリジン骨格を有する構造式のものである、請求項1に記載の方法。
【請求項4】
請求項1に記載の方法であって、表面が、高分子電解質多層及び吸収性ポリマーによりコーティングされ、吸収性ポリマーが、ポリ(ビニルアルコール)(PVA)、ポリ(エチレングリコール)(PEG)、PEG-アクリレート、ポリビニルピロリドン(PVP)、ポリエチレンイミン(PEI)、ポリ-L-ラクチド(PLLA)、ポリ-D-ラクチド(PDLA)、ポリ(L-ラクチド-co-D,L-ラクチド)(PDLA)、ポリエチレンイミン(PEI)、ポリ-L-ラクチド(PLLA)、ポリ-D-ラクチド(PDLA)、ポリ(L-ラクチド-co-D,L-ラクチド)(PLDLLA)、ポリ(グリコール酸)(PGA)、ポリ(乳酸-co-グリコール酸)(PL-co-GA)、ポリ(メチルメタクリレート)(PMMA)、ポリ(ヒドロキシエチルメタクリレート)(p-HEMA)、及びこれらの誘導体からなる群より選択される、方法。
【請求項5】
治療剤が、1つ以上の化学療法薬、免疫チェックポイント阻害剤、核酸医薬、治療用細胞組成物、及びそれらの組合せからなる群より選択される、請求項2に記載の方法。
【請求項6】
治療剤が免疫チェックポイント阻害剤を含み、細胞培養物がさらに複数の免疫細胞と共にインキュベートされる、請求項5に記載の方法。
【請求項7】
免疫チェックポイント阻害剤が、PD-1阻害剤、PD-L1阻害剤、及びCLTA-4阻害剤からなる群より選択される、請求項6に記載の方法。
【請求項8】
免疫チェックポイント阻害剤が、ニボルマブ、ペムブロリズマブ、セミプリマブ、アテゾリズマブ、アベルマブ、デュルバルマブ、及びイピリムマブからなる群より選択される、請求項7に記載の方法。
【請求項9】
治療剤が治療用細胞組成物を含む、請求項5に記載の方法。
【請求項10】
治療用細胞組成物が、T細胞、ナチュラルキラー(NK)細胞又は樹状細胞を含む、請求項9に記載の方法。
【請求項11】
治療用細胞組成物がキメラ抗原受容体T(CAR-T)細胞又はキメラ抗原受容体-ナチュラルキラー(CAR-NK)細胞を含む、請求項9に記載の方法。
【請求項12】
治療剤が1つ以上の化学療法薬を含む、請求項5に記載の方法。
【請求項13】
1つ以上の化学療法薬が細胞毒性化学療法薬又は細胞増殖抑制性化学療法薬である、請求項12に記載の方法。
【請求項14】
治療剤が核酸医薬を含む、請求項5に記載の方法。
【請求項15】
前記高分子電解質多層が、交互積層法により形成される、請求項1に記載の方法。
【請求項16】
細胞培養物が高分子電解質多層の一番外側の層と直接接触している、請求項1に記載の方法。
【請求項17】
一番外側の層がポリカチオン又はポリアニオンである、請求項16に記載の方法。
【請求項18】
ポリカチオンが、ポリ(L-リジン)(PLL)、ポリ(L-アルギニン)(PLA)、ポリ(L-オルニチン)(PLO)又はポリ(L-ヒスチジン)(PLH)、及びそれらの組合せからなる群より選択される、請求項17に記載の方法。
【請求項19】
ポリアニオンがポリ(L-グルタミン酸)(PLGA)又はポリ(L-アスパラギン酸)(PLAA)である、請求項17に記載の方法。
【請求項20】
高分子電解質多層が、ポリカチオンとポリアニオンとの二重層をn組含み、nが1~30までの整数である、請求項1に記載の基材。
【請求項21】
高分子電解質多層が、ポリカチオンとポリアニオンとの二重層をn組、及びポリアニオンの追加層を含み、nが1~30の範囲の整数である、請求項1に記載の基材。
【請求項22】
高分子電解質多層が、ポリカチオンとポリアニオンとの二重層をn組、及びポリカチオンの追加層を含み、nが1~30の範囲の整数である、請求項1に記載の基材。
【請求項23】
体液サンプルが血清、血漿、全血、尿又は腹水を含む、請求項1に記載の方法。
【請求項24】
体液サンプルが血液サンプルを含む、請求項1に記載の方法。
【請求項25】
複数のがん細胞が循環腫瘍細胞(CTC)を含む、請求項1に記載の方法。
【請求項26】
腫瘍スフェロイドの各々が単一細胞増殖を介して作製される、請求項1に記載の方法。
【請求項27】
腫瘍スフェロイドの各々の平均直径が約50μM~約150μMである、請求項1に記載の方法。
【請求項28】
工程(b)の播種が、基材上に1000細胞/cm
2未満の密度で細胞をプレーティングすることを含む、請求項1に記載の方法。
【請求項29】
細胞培養物に対する治療剤の効果が、細胞培養物のサイズ、形態、物理的特性、生物学的特性、及び/又は動力学的特性を決定するためのセルベースアッセイ及び/又は生化学的アッセイを実施することによって決定される、請求項2に記載の方法。
【請求項30】
がんの治療方法であって、
(a)請求項2の方法に従って、がん患者の治療剤を評価する工程、及び
(b)治療剤に応答性があるがん患者に、治療上有効量の治療剤を投与する工程、
を含む、がんの治療方法。
【請求項31】
治療剤が、1つ以上の化学療法薬、免疫チェックポイント阻害剤、核酸医薬、治療用細胞組成物、及びそれらの組合せからなる群より選択される、請求項30に記載の方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
関連出願の相互参照
本出願は、2021年10月5日に出願された米国仮特許出願第63/252,268号の優先権及びその利益を主張するものであり、その開示内容は参照によりその全体が本明細書に組み込まれる。
【背景技術】
【0002】
腫瘍生物学、神経変性疾患、及び薬物毒性の研究を含む基礎科学から前臨床創薬応用に至るまで、研究者の間で3Dスフェロイドモデルへの関心が高まっている。三次元(3D)細胞培養法は、複雑な組織モデルや腫瘍モデルの作製にますます使用されるようになっている。
【0003】
市場で入手可能な3D細胞培養法や製品を用いて形成されるスフェロイドには様々なバリエーションがあり、これが読み出しに影響を与える可能性がある。例えば、超低接着表面(Ultra-Low Attachment(ULA))プレートやハンギング・ドロップ法を含む3D細胞培養に広く使われている非接着技術は、これらの方法が通常は細胞の凝集を介してスフェロイドを作製するため、適していることが証明されていない。このようなスフェロイドは、一般的に元の不均一性を維持し、様々な特性を持つ複数の細胞を保有しているため、細胞の不均一性をよりよく理解する必要がある。数万個の細胞が凝集してスフェロイド(即ち球状の塊)になると、深さが200μmを超えたところには栄養と酸素が行き渡らないため、数時間かけて広範な中心部の壊死のコア(central necrotic core)が形成され、細胞増殖が妨げられる。広範な中心部の壊死は実際のがんではまれな現象である。
【0004】
或いは、マトリゲルはオルガノイド形成のような組織ベースの細胞増殖によく使われる埋込み基質(embedded substrate)である。しかし、焦点が合わない、化合物の拡散が非効率的である、サンプルの単離が困難である等から、ex vivoの3Dスフェロイドベースのアプリケーションに適用するには限界がある。
【0005】
スフェロイド形成を標準化することは、均一な3D細胞培養物を作製し、スフェロイドベースのアッセイから再現性のある結果を得て、薬物スクリーニングやがん患者の治療ガイドラインを得るために極めて重要である。現在、大多数の患者から一次がん細胞、特に循環腫瘍細胞を確実に培養する技術や方法は、依然として難題である。
【0006】
従って、がん細胞、特にがん患者の血液サンプルから採取した循環腫瘍細胞から3D細胞培養物を確実に作製できる、改良された細胞培養用プラットフォーム及び細胞培養法の開発が必要とされている。
【発明の概要】
【0007】
本開示は、細胞培養物、特に3D細胞培養物(例えばスフェロイド)を調製するための改良された細胞培養用プラットフォーム及び細胞培養法を提供する。本明細書で開示されるプラットフォームは、高分子電解質多層(PEM)及び場合により吸収性ポリマーにより表面がコーティングされた細胞培養用製品(cell culture article)を含む。
【0008】
本開示はまた、細胞培養物、特に、本明細書に開示される細胞培養用プラットフォームを用いて調製されたがん細胞培養物(例えば、腫瘍スフェロイド)の、in vitro薬物スクリーニングのための使用、及びがん治療剤(therapeutic agent for cancer)の評価のための使用に関する。がんの治療法も提供される。
【0009】
従って、本開示の一態様は、細胞培養物(例えば3D培養物)の調製方法であって、(a)高分子電解質多層及び場合により吸収性ポリマーにより表面がコーティングされた細胞培養用製品を提供する工程、(b)複数のがん細胞を表面に播種する工程、及び(c)細胞培養物を作製するのに十分な時間、適切な培地下で複数のがん細胞を培養する工程であって、細胞培養物が、コーティング表面に接着した複数の腫瘍スフェロイドを含む3D細胞培養物である工程、を含む方法を提供する。
【0010】
幾つかの実施形態では、複数のがん細胞はがん患者の体液サンプル(fluid sample)から得られる。体液サンプルは、血清、血漿、全血、尿又は腹水であってもよい。幾つかの実施形態では、複数のがん細胞は循環腫瘍細胞を含んでもよく、前記循環腫瘍細胞は固形腫瘍由来のがん細胞を含む。
【0011】
幾つかの実施形態では、各腫瘍スフェロイドは単一細胞増殖(single cell proliferation)を介して作製される。
【0012】
幾つかの実施形態では、各腫瘍スフェロイドの平均直径は、約50μM~約150μMである。
【0013】
幾つかの実施形態では、工程(b)の播種は、基材(substrate)上に1000細胞/cm2未満の密度で細胞をプレーティングすることを含む。
【0014】
幾つかの実施形態では、本明細書に記載されるコーティング表面は、高分子電解質多層及び吸収性ポリマーを含む。吸収性ポリマーの例としては、ポリ(ビニルアルコール)(PVA)、ポリ(エチレングリコール)(PEG)、PEG-アクリレート、ポリビニルピロリドン(PVP)、ポリエチレンイミン(PEI)、ポリ-L-ラクチド(PLLA)、ポリ-D-ラクチド(PDLA)、ポリ(L-ラクチド-co-D,L-ラクチド)(PLDLLA)、ポリ(グリコール酸)(PGA)、ポリ(乳酸-co-グリコール酸)(PL-co-GA)、ポリ(メチルメタクリレート)(PMMA)、ポリ(ヒドロキシエチルメタクリレート)(p-HEMA)、及びこれらの誘導体が挙げられるが、これらに限定されない。
【0015】
幾つかの実施形態では、本明細書に記載の好適な培地は、Rho関連タンパク質キナーゼ(ROCK)阻害剤を含む。幾つかの実施形態では、ROCK阻害剤は、イソキノリン、4-アミドピリジン、又は4-アミドピロロピリジン骨格(scaffold)を有する構造式のものである。
【0016】
別の態様では、本開示は、がんの治療剤の評価方法であって、(a)上記方法に従って細胞培養物(例えば、腫瘍スフェロイド)を調製する工程、(b)場合により、細胞培養物を複数の免疫細胞と共にインキュベートする工程、(c)細胞培養物を治療剤と接触させる工程;(d)細胞培養物に対する治療剤の効果を評価する工程、及び(e)治療剤が細胞培養物に対して有効である場合にはがん患者を治療剤に対して応答性があると判定し、また治療剤が細胞培養物に対して有効でない場合にはがん患者を治療剤に対して応答性がないと判定する工程、を含む方法を提供する。
【0017】
細胞培養物に対する治療剤の効果は、発光及び/又は蛍光に基づくセルベースアッセイ及び/又は生化学的アッセイを実施することにより決定することができる。幾つかの実施形態では、細胞培養物に対する治療剤の効果は、発光に基づく細胞生存率アッセイを実施することにより決定される。幾つかの実施形態では、治療剤の効果は、単一細胞由来スフェロイドの中の細胞のサイズ、形態、物理的特性、生物学的特性、及び/又は動力学的特性を決定するための1つ以上のアッセイを実施することによって決定することができる。アッセイ結果は、がん患者に対する治療ガイドラインを提供することができる。
【0018】
幾つかの実施形態では、本明細書に記載される免疫細胞は、がん患者の末梢血から得た自己由来免疫細胞を含む。幾つかの実施形態では、自己由来免疫細胞は、ex vivoで増殖させた自己由来免疫細胞を含む。
【0019】
本明細書に記載される治療剤としては、化学療法剤、免疫チェックポイント阻害剤、核酸医薬、治療用細胞組成物、及びそれらの組合せが挙げられるが、これらに限定されない。
【0020】
幾つかの実施形態では、治療剤は免疫チェックポイント阻害剤であり、細胞培養物を複数の免疫細胞(例えば、末梢血から得た自己由来免疫細胞)と共にインキュベートする。本明細書に記載の免疫チェックポイント阻害剤は、PD-1阻害剤、PD-L1阻害剤、又はCLTA-4阻害剤であってもよい。免疫チェックポイント阻害剤の例としては、ニボルマブ、ペムブロリズマブ、セミプリマブ、アテゾリズマブ、アベルマブ、デュルバルマブ、及びイピリムマブが挙げられるが、これらに限定されない。
【0021】
幾つかの実施形態では、治療剤は治療用細胞組成物である。幾つかの実施形態では、本明細書に記載の治療用細胞組成物は、T細胞、ナチュラルキラー(NK)細胞、又は樹状細胞である。幾つかの実施形態では、治療用細胞組成物は、キメラ抗原受容体T(CAR-T)細胞又はキメラ抗原受容体-ナチュラルキラー(CAR-NK)細胞である。
【0022】
幾つかの実施形態では、治療剤は、1つ以上の化学療法薬を含む。本明細書に記載される1つ以上の化学療法薬は、細胞毒性若しくは細胞増殖抑制性の化学療法薬であってもよい。
【0023】
幾つかの実施形態では、治療剤は核酸医薬を含む。
【0024】
幾つかの実施形態では、細胞培養物(例えば3D培養物)は、本明細書に記載の高分子電解質多層の一番外側の層と直接接触していてもよい。一番外側の層は、ポリカチオンであってもポリアニオンであってもよい。幾つかの実施形態では、ポリカチオンは、ポリ(L-リジン)(PLL)、ポリ(L-アルギニン)(PLA)、ポリ(L-オルニチン)(PLO)又はポリ(L-ヒスチジン)(PLH)、及びそれらの組合せからなる群より選択される。幾つかの実施形態では、ポリアニオンは、ポリ(L-グルタミン酸)(PLGA)又はポリ(L-アスパラギン酸)(PLAA)であってもよい。
【0025】
幾つかの実施形態では、高分子電解質多層はn組の二重層を含み、nは1~30の整数であり、一番外側の層はポリカチオン又はポリアニオンである。高分子電解質多層が、ポリカチオンとポリアニオンとの二重層をn組、及びポリアニオンの追加層を含み、nが1~30の整数であり、一番外側の層がポリカチオン又はポリアニオンである、請求項16に記載の基材。
【0026】
別の態様では、本開示は、がんの治療法であって、(a)本明細書に記載の方法に従ってがん患者に対する治療剤を評価する工程、及び(b)治療剤に応答性があるがん患者に治療上有効量の治療剤を投与する工程、を含むがんの治療法を提供する。
【0027】
本明細書に記載される治療剤は、1つ以上の化学療法薬、免疫チェックポイント阻害剤、核酸医薬、治療用細胞組成物、又はそれらの組合せであってもよい。
【図面の簡単な説明】
【0028】
【
図1】
図1A~Cは、本開示の一実施形態に従って表面上に作製されたCTC培養物の経時的変化を示す代表的な画像を表す。(A)乳がん患者の血液サンプルから得たCTC由来のCTC培養物を、表面上にて7日間及び14日間培養して作製した。スケールバー:50μm;(B)頭頸部扁平上皮がん(HNSCC)患者の血液サンプルから得たCTC由来のCTC培養物を、12日間、15日間及び38日間培養して表面上に作製した。スケールバー:50μm;(C)結腸直腸がん(CRC)患者の血液サンプルから得たCTC由来のCTC培養物を、2日間、13日間及び27日間培養して表面上に作製した。スケールバー:50μm。
【
図2A】
図2A~Eは、CTC培養物の薬物感受性と臨床応答との相関を示す。(A)CTC由来多種がん薬物検査(CTC-originated multi-cancer drug test)における臨床サンプル分類の概要フローチャート。(B)新しく回収した血液検体から樹立したCTC由来スフェロイドの試験である。乳がん(9/13)、大腸がん(9/9)、頭頸部がん(4/4)、尿路上皮がん(3/3)、胃がん(1/1)、及び肺がん(1/1)を含む多くのがん種から、33検体中合計29検体(88%)でCTCスフェロイドの樹立に成功した。(C)本発明の細胞培養用プラットフォーム上で対応のある検定を行ったCTC-スフェロイドの臨床薬物応答に基づく細胞生存率試験のウォーターフォールプロットである。灰色のバーは臨床的に抵抗性であるグループを示し、白いバーは臨床的に感受性であるグループを示す。(D)臨床的抵抗性グループ及び臨床的感受性グループから得られた薬物試験の細胞生存率の平均±SEMのドットプロット分布である。これらのグループをt-検定で比較した。各点/四角は、個々の対応のある臨床反応を表す。(E)臨床薬物試験結果のROC曲線である。点線はAUC
ROC0.5を表し、予測値がないことを示す。CIは信頼区間。
【
図3A】
図3A~Fは、CTC由来スフェロイドのin vitro薬物試験結果及び臨床患者の臨床病理学的結果を示す。(A)患者AのCTC由来スフェロイドの薬物細胞毒性アッセイ結果である。このアッセイでは、オキサリプラチン、ドセタキセル、ドキソルビシン、イリノテカン、マイトマイシン-C、及び5-FUの6種類の化学療法薬について試験した。(B及びD)薬剤パネルで処置後3日目のCTC由来スフェロイドの形態の画像である。スケールバー:20μm。(C及びE)CTC由来スフェロイドを表示された薬剤パネルで処置後3日目の正規化生存率である。(F)患者Bをシスプラチン/ゲムシタビンで処置した前後の造影CT画像である。
【
図4A】本開示の表面(PEMプレートと表記)上で個別化免疫細胞療法の有効性を判定する手順を示すフローチャートである。
【
図4B】本開示の表面上における、NK-92MI細胞及びPDNK細胞それぞれによるHCT116スフェロイドの破壊を示す代表的なタイムラプス画像である。24時間共培養した後のHCT116スフェロイドの平均生存率を解析した。別々の3人から得たPDNK細胞を使用し、各独立実験で生存率の解析に採用したHCT116スフェロイドの数は、15~37個であった。矢じりはHCT116スフェロイド、矢印はNK細胞、n.s.は有意差なし。スケールバー:50mm。
【
図4C】RCEプラットフォーム上における、CTCスフェロイドに対する自己由来PDNK細胞とNK-92MI細胞の細胞毒性の違いを示す代表的なタイムラプス画像である。共培養中のCTCスフェロイドとNK細胞との間の相互作用イベントが示されている。3人の患者から得たCTCスフェロイドの生存率を、それぞれ異なるNK細胞と24時間共培養した後に調べた。生存率を決定するための各独立実験において、CTCスフェロイドのうち13~58個を使用した。矢じりはCTCスフェロイド、矢印はNK細胞。スケールバー:50mm。
【発明を実施するための形態】
【0029】
詳細な説明
本開示は、細胞培養物、特に3D細胞培養物(例えばスフェロイド)を調製するための改良された細胞培養用プラットフォーム及び細胞培養法を提供する。本明細書に記載の表面により、3D細胞培養物の形成を誘導することができ、市場で入手可能な他の細胞培養法を用いて増殖させることが困難なCTC等の特定の初代細胞の3D細胞培養物を形成することが可能となる。現在、大多数の患者からCTCを確実に培養する技術及び方法は、依然として課題のままである。本開示は、CTCの確実且つ着実な増殖を可能にする改良されたプラットフォーム及び方法を提供する。CTC培養物が成功裏に樹立されれば、転移プロセスや個々の患者の治療応答に関する貴重な知見が得られるであろう。
【0030】
本発明の細胞培養用製品
本明細書で開示されるプラットフォームは、高分子電解質多層(PEM)及び場合により吸収性ポリマーにより表面がコーティングされた細胞培養用製品を含む。幾つかの実施形態では、表面はPEMによりコーティングされる。幾つかの実施形態では、表面はPEM及び吸収性ポリマーによりコーティングされる。本明細書に開示されるPEMは、反対極の電荷を帯びたポリマー(即ち、高分子電解質)を交互に積層して複数の層となっているものである。本明細書に記載される反対極の電荷を帯びたポリマーとは、正電荷を帯びた高分子電解質(本明細書ではポリカチオンとも呼ばれる)と負電荷を帯びた高分子電解質(本明細書ではポリアニオンとも呼ばれる)との組合せである。
【0031】
ポリカチオンの例としては、ポリ(L-リジン)(PLL)、ポリ(L-アルギニン)(PLA)、ポリ(L-オルニチン)(PLO)、ポリ(L-ヒスチジン)(PLH)、ポリエチレンイミン(PEI)、ポリ[α-(4-アミノブチル)-L-グリコール酸](PAGA)、2-(ジメチルアミノ)エチルメタクリレート(DMAEMA)、N,N-ジエチルアミノエチルメタクリレート(DEAEMA)、及びこれらの組合せが挙げられるが、これらに限定されない。幾つかの例では、ポリカチオンはPLLである。幾つかの例では、ポリカチオンはPLOである。幾つかの例では、ポリカチオンはPLHである。幾つかの例では、ポリカチオンはPLAである。
【0032】
ポリアニオンの例としては、ポリ-L-グルタミン酸(PLGA)、ポリ-L-アスパラギン酸(PLAA)、ポリ(アクリル酸)、ポリ(メタクリル酸)(PMAA)、ポリ(スチレンスルホン酸)(PSS)、ポリ(N-イソプロピルアクリルアミド)(NIPAM)、ポリ(2-アクリルアミド-2-メチル-1-プロパンスルホン酸)(PAMPS)、及びこれらの組合せが挙げられるが、これらに限定されない。幾つかの例では、ポリアニオンはPLGAである。幾つかの例では、ポリアニオンはPLAAである。
【0033】
高分子電解質多層は、交互積層法(layer-by-layer assembly)によりポリカチオンとポリアニオンを交互に積層することによって形成することができる。本明細書に記載される高分子電解質多層は、ポリカチオン層及びポリアニオン層を含む二重層を少なくとも1つ含む。
【0034】
幾つかの実施形態では、PEMは、約1~約100組の二重層を含み得る。幾つかの実施形態では、PEMは、約1~約50組の二重層を含み得る。幾つかの実施形態では、PEMは、約1~約30組の二重層を含み得る。幾つかの実施形態では、PEMは、約1~約20組の二重層を含み得る。幾つかの実施形態では、二重層の数は、1、2、3、4、5、6、7、8、9、10、11、12、13、14、15、16、17、18、19又は20である。幾つかの実施形態では、二重層の数は、1~10、1~8、1~5、3~20、5~20、10~20、11~19、12~18、13~17、又は14~16である。幾つかの実施形態では、二重層の数は3である。幾つかの実施形態では、二重層の数は4である。幾つかの実施形態では、二重層の数は5である。幾つかの実施形態では、二重層の数は6である。幾つかの実施形態では、二重層の数は7である。幾つかの実施形態では、二重層の数は8である。幾つかの実施形態では、二重層の数は9である。幾つかの実施形態では、二重層の数は10である。幾つかの実施形態では、二重層の数は11である。幾つかの実施形態では、二重層の数は12である。幾つかの実施形態では、二重層の数は13である。幾つかの実施形態では、二重層の数は14である。幾つかの実施形態では、二重層の数は15である。幾つかの実施形態では、二重層の数は16である。幾つかの実施形態では、二重層の数は17である。幾つかの実施形態では、二重層の数は18である。幾つかの実施形態では、二重層の数は19である。幾つかの実施形態では、二重層の数は20である。
【0035】
幾つかの実施形態では、本明細書に記載される高分子電解質多層は、正電荷を帯びた高分子電解質と負電荷を帯びた高分子電解質との二重層を1つ以上含み、ポリカチオンは、PLL、PLO、PLH、及びPLAから選択され、ポリアニオンは、PLGA及びPLAAから選択される。幾つかの実施形態では、そのセット数は、1~100、3~60、3~50、又は3~30である。幾つかの実施形態では、そのセット数は、3、4、5、6、7、8、9、10、11、12、13、14、15、16、17、18、19、又は20より多い。幾つかの実施形態では、そのセット数は3、4、5、6、7、8、9、10、11、12、13、14、15、16、17、18、19又は20である。幾つかの実施形態では、そのセット数は、1~10、1~8、1~5、3~20、5~20、10~20、11~19、12~18、13~17、又は14~16である。
【0036】
幾つかの実施形態では、本明細書に記載される高分子電解質多層は、PLLとPLGAとの二重層を1つ以上含む。幾つかの実施形態では、PLLとPLGAとの二重層の数は、1~100、3~60、3~50、又は3~30である。幾つかの実施形態では、二重層の数は、3、4、5、6、7、8、9、10、11、12、13、14、15、16、17、18、19、又は20より多い。幾つかの実施形態では、二重層の数は、3、4、5、6、7、8、9、10、11、12、13、14、15、16、17、18、19又は20である。幾つかの実施形態では、二重層の数は、1~10、1~8、1~5、3~20、5~20、10~20、11~19、12~18、13~17、又は14~16である。
【0037】
幾つかの実施形態では、本明細書中に記載される高分子電解質多層は、PLOとPLGAとの二重層を1つ以上含む。幾つかの実施形態では、PLOとPLGAとの二重層の数は、1~100、3~60、3~50、又は3~30である。幾つかの実施形態では、二重層の数は、3、4、5、6、7、8、9、10、11、12、13、14、15、16、17、18、19、又は20より多い。幾つかの実施形態では、二重層の数は、3、4、5、6、7、8、9、10、11、12、13、14、15、16、17、18、19又は20である。幾つかの実施形態では、二重層の数は、1~10、1~8、1~5、3~20、5~20、10~20、11~19、12~18、13~17、又は14~16である。
【0038】
幾つかの実施形態では、本明細書に記載される高分子電解質多層は、PLHとPLGAとの二重層を1つ以上含む。幾つかの実施形態では、PLHとPLGAとの二重層の数は、1~100、3~60、3~50、又は3~30である。幾つかの実施形態では、二重層の数は、3、4、5、6、7、8、9、10、11、12、13、14、15、16、17、18、19、又は20より多い。幾つかの実施形態では、二重層の数は、3、4、5、6、7、8、9、10、11、12、13、14、15、16、17、18、19又は20である。幾つかの実施形態では、二重層の数は、1~10、1~8、1~5、3~20、5~20、10~20、11~19、12~18、13~17、又は14~16である。
【0039】
幾つかの実施形態では、本明細書中に記載される高分子電解質多層は、PLAとPLGAとの二重層を1つ以上含む。幾つかの実施形態では、PLAとPLGAとの二重層の数は、1~100、3~60、3~50、又は3~30である。幾つかの実施形態では、二重層の数は、3、4、5、6、7、8、9、10、11、12、13、14、15、16、17、18、19、又は20より多い。幾つかの実施形態では、二重層の数は、3、4、5、6、7、8、9、10、11、12、13、14、15、16、17、18、19又は20である。幾つかの実施形態では、二重層の数は、1~10、1~8、1~5、3~20、5~20、10~20、11~19、12~18、13~17、又は14~16である。
【0040】
幾つかの実施形態では、本明細書に記載される高分子電解質多層は、PLLとPLAAとの二重層を1つ以上含む。幾つかの実施形態では、PLLとPLAAとの二重層の数は、1~100、3~60、3~50、又は3~30である。幾つかの実施形態では、二重層の数は、3、4、5、6、7、8、9、10、11、12、13、14、15、16、17、18、19、又は20より多い。幾つかの実施形態では、二重層の数は、3、4、5、6、7、8、9、10、11、12、13、14、15、16、17、18、19又は20である。幾つかの実施形態では、二重層の数は、1~10、1~8、1~5、3~20、5~20、10~20、11~19、12~18、13~17、又は14~16である。
【0041】
幾つかの実施形態では、本明細書に記載される高分子電解質多層は、PLOとPLAAとの二重層を1つ以上含む。幾つかの実施形態では、PLOとPLAAとの二重層の数は、1~100、3~60、3~50、又は3~30である。幾つかの実施形態では、二重層の数は、3、4、5、6、7、8、9、10、11、12、13、14、15、16、17、18、19又は20より大きい。幾つかの実施形態では、二重層の数は、3、4、5、6、7、8、9、10、11、12、13、14、15、16、17、18、19又は20である。幾つかの実施形態では、二重層の数は、1~10、1~8、1~5、3~20、5~20、10~20、11~19、12~18、13~17、又は14~16である。
【0042】
幾つかの実施形態では、本明細書に記載される高分子電解質多層は、PLHとPLAAとの二重層を1つ以上含む。幾つかの実施形態では、PLHとPLAAとの二重層の数は、1~100、3~60、3~50、又は3~30である。幾つかの実施形態では、二重層の数は、3、4、5、6、7、8、9、10、11、12、13、14、15、16、17、18、19、又は20より多い。幾つかの実施形態では、二重層の数は、3、4、5、6、7、8、9、10、11、12、13、14、15、16、17、18、19又は20である。幾つかの実施形態では、二重層の数は、1~10、1~8、1~5、3~20、5~20、10~20、11~19、12~18、13~17、又は14~16である。
【0043】
幾つかの実施形態では、本明細書に記載される高分子電解質多層は、PLAとPLAAとの二重層を1つ以上含む。幾つかの実施形態では、PLAとPLAAとの二重層の数は、1~100、3~60、3~50、又は3~30である。幾つかの実施形態では、二重層の数は、3、4、5、6、7、8、9、10、11、12、13、14、15、16、17、18、19、又は20より多い。幾つかの実施形態では、二重層の数は、3、4、5、6、7、8、9、10、11、12、13、14、15、16、17、18、19又は20である。幾つかの実施形態では、二重層の数は、1~10、1~8、1~5、3~20、5~20、10~20、11~19、12~18、13~17、又は14~16である。
【0044】
幾つかの実施形態では、本明細書に記載の表面は、(ポリアニオン/ポリカチオン)nによりコーティングされ、ポリアニオン/ポリカチオンは、PLGA/PLL、PLAA/PLL、PLGA/PLA、PLAA/PLA、PLGA/PLO、PLAA/PLO、PLGA/PLH及びPLAA/PLHから選択される。幾つかの実施形態では、nは1~30の整数であり、場合により、1、2、3、4、5、6、7、8、9、10、11、12、13、14、15、16、17、18、19、20、21、22、23、24、25、26、27、28、29又は30である。幾つかの実施形態では、nは1~5、5~15、5~20、10~20、10~25、10~30、15~20、15~25又は15~30である。
【0045】
幾つかの実施形態では、本明細書に記載の表面は、ポリカチオン(ポリアニオン/ポリカチオン)nによりコーティングされ、ポリアニオン/ポリカチオンは、PLGA/PLL、PLAA/PLL、PLGA/PLA、PLAA/PLA、PLGA/PLO、PLAA/PLO、PLGA/PLH及びPLAA/PLHから選択される。幾つかの実施形態では、nは1~30の整数であり、場合により、1、2、3、4、5、6、7、8、9、10、11、12、13、14、15、16、17、18、19、20、21、22、23、24、25、26、27、28、29又は30である。幾つかの実施形態では、nは1~5、5~15、5~20、10~20、10~25、10~30、15~20、15~25又は15~30である。
【0046】
幾つかの実施形態では、本明細書に記載の表面は、ポリアニオン(ポリカチオン/ポリアニオン)nによりコーティングされ、ポリカチオン/ポリアニオンは、PLL/PLGA、PLL/PLAA、PLA/PLGA、PLA/PLAA、PLO/PLGA、PLO/PLAA、PLH/PLGA及びPLH/PLAAから選択される。幾つかの実施形態では、nは1~30の整数であり、場合により、1、2、3、4、5、6、7、8、9、10、11、12、13、14、15、16、17、18、19、20、21、22、23、24、25、26、27、28、29又は30である。幾つかの実施形態では、nは1~5、5~15、5~20、10~20、10~25、10~30、15~20、15~25又は15~30である。
【0047】
薄膜としてのPEMの厚さは、広範囲、例えば約30nm~約30μm、又は約100nm~約20μmであってよい。幾つかの実施形態では、厚さは、約100nm~約500nm、約500nm~約1μm、又は約1μm~約10μmである。幾つかの実施形態では、厚さは約200nm、約400nm、約600nm、約800nm、又はその間の任意の数値である。幾つかの実施形態では、厚さは約1、5、10、15、20μm、又はその間の任意の数値である。
【0048】
幾つかの実施形態では、PEMは、ポリアニオン溶液やポリカチオン溶液を、混合物として若しくは順次、ディッシュ内/ディッシュ上にピペッティングすることによって積層(deposit)してもよい。本開示における使用では、本明細書に記載されるポリカチオン及びポリアニオンのそれぞれを水溶液に溶解してもよい。水溶液は、有機溶媒を含まないか、実質的に含まない。例えば、重合後のポリマー中に有機溶媒が残ることにより、水溶液中に若干量の有機溶媒が存在し得ることは理解されよう。本明細書において、水溶液中の有機溶媒に関する「実質的に含まない」とは、水溶液に含まれる有機溶媒が1重量%未満であることを意味する。多くの実施形態において、水溶液は0.8%未満、0.5%未満、0.2%未満又は0.1%未満の有機溶媒を含む。ポリカチオン及びポリアニオンのそれぞれを、コーティング目的のために適した任意の濃度で水溶液に溶解することができる。
【0049】
幾つかの実施形態では、PEMはディップコーティングによって細胞培養用製品の表面に形成することができる。ディップコーティングでは、成形品(article)を高分子電解質溶液に一定時間(通常10~15分)浸漬した後、何度かすすぎ、反対電荷を持つ第二の高分子電解質溶液に浸漬する。所望の層数が得られるまでこの過程を繰り返す。
【0050】
幾つかの実施形態では、PEMはスプレーコーティングによって細胞培養用製品の表面に形成することができる。幾つかの実施形態では、高分子電解質を表面に3~10秒間スプレーした後、10~30秒間の休息/水抜き(rest/draining)期間を置き、3~20秒間水スプレーで表面を洗浄し、さらに10秒間の休息期間を置き、反対の電荷の高分子電解質でこのサイクルを繰り返すことができる。
【0051】
幾つかの実施形態では、PEMはスピンコーティングによって細胞培養用製品の表面に形成することができる。スピンコーティングは、溶液ベースのコーティング系のための高度に制御された方法である。典型的なスピンコーティングの手順は、10~15秒間のスピンコーティング、15~30秒間の「スピンコーティング」水による少なくとも1回のすすぎ、及び反対の電荷を帯びた高分子電解質によるこの手順の繰り返しを含む。スピンコーティングでは、洗浄工程は必要ない場合もある。
【0052】
PEMの特性評価には多くの方法論が利用可能である。幾つかの実施形態では、方法論は、エリプソメトリー(厚さ)、散逸モニタリング付き水晶振動子マイクロバランス(吸着質量、粘弾性)、接触角解析(表面エネルギー)、フーリエ変換赤外分光法(官能基)、X線光電子分光法(化学組成)、走査型電子顕微鏡法(表面構造)、及び原子間力顕微鏡法(粗さ/表面構造)を含み得る。
【0053】
本明細書に記載されるように、表面上の水滴に対する接触角が90度未満である場合(接触角は、水滴内部を通過する角度として定義される)、表面は親水性である。実施形態には、接触角が90度~0度である親水性表面が含まれる。当業者であれば、この明確化した境界内の全ての範囲及び値が企図されること、例えば、以下のいずれかが上限又は下限として設定可能であることを直ちに理解するであろう:90度、80度、70度、60度、50度、40度、30度、20度、10度、5度、2度、0度。
【0054】
幾つかの実施形態では、表面を吸収性ポリマーで更にコーティングしてもよい。場合によっては、吸収性ポリマーは、細胞培養用製品の表面に付着したコーティングの一番内側の層であってもよい。幾つかの実施形態では、吸収性ポリマーは支持体(support)の表面に物理的に架橋されている。幾つかの実施形態では、吸収性ポリマーは支持体の表面に化学的に架橋されている。
【0055】
本明細書に記載の吸収性ポリマーは、親水性吸収性ポリマーである。本発明で使用できる吸収性ポリマーの非限定的リストには、以下のポリマー及びその誘導体の親水性且つ生体適合性のグレードが含まれる:ポリビニルアルコール(PVA)、エチレンビニルアルコール共重合体(典型的には、親水性の度合いがエチレン(疎水性)基とビニルアルコール(親水性)基の分布に依存する非生分解性材料)、ポリビニルアルコールとエチレンビニルアルコールの共重合体、ポリアクリレート組成物、ポリウレタン組成物、ポリ(エチレングリコール)(PEG)、別称ポリ(オキシエチレン)(POE)及びポリ(エチレンオキシド)(PEO)、並びにその誘導体(ポリエチレングリコールメタクリレート(PEGMA)、ポリエチレングリコールジメタクリレート(PEGDMA)及びポリエチレングリコールジアクリレート(PEGDA)を含むがこれらに限定されない);ポリアクリルアミド(アクリルアミド毒性残留物を含まない)、ポリビニルピロリドン、ポリビニルアミン、ポリエチレンイミン等の窒素含有材料;様々な形態のポリラクチドとしても知られるポリ乳酸等の帯電性材料及びその誘導体、例えばポリ-L-ラクチド(PLLA)及びその誘導体、ポリ-D-ラクチド(PDLA)及びその誘導体、ポリ(L-ラクチド-co-D,L-ラクチド)(PLDLLA)及びその誘導体)、ポリグリコリドとしても知られるポリグリコール酸(PGA)、乳酸とグリコール酸の共重合体であるポリ(乳酸-co-グリコール酸)(PL-co-GA)、PLA及び/又はPGAとPEGとの共重合体;ポリメタクリル酸;当分野で公知である吸収性、親水性、及び生体適合性のある材料の中でもとりわけポリ(ヒドロキシエチルメタクリレート)(ポリ-HEMA)等。
【0056】
幾つかの実施形態では、吸収性ポリマーは、ポリ(ビニルアルコール)(PVA)、エチレンビニルアルコールの共重合体、ポリビニルアルコールとエチレンビニルアルコールの共重合体、ポリアクリレート組成物、ポリウレタン組成物、ポリ(エチレングリコール)(PEG)、PEG-アクリレート、ポリエチレングリコールメタクリレート(PEGMA)、ポリエチレングリコールジメタクリレート(PEGDMA)、ポリエチレングリコールジアクリレート(PEGDA)、ポリアクリルアミド(PAM)、ポリビニルピロリドン(PVP)、ポリビニルアミン(PVAm)、ポリエチレンイミン(PEI)、ポリ-L-ラクチド(PLLA)、ポリ-D-ラクチド(PDLA)、ポリ(L-ラクチド-co-D,L-ラクチド)(PLDLLA)、ポリ(グリコール酸)(PGA)、ポリ(乳酸-co-グリコール酸)(PL-co-GA)、ポリ(メチルメタクリレート)(PMMA)、及びポリ(ヒドロキシエチルメタクリレート)(p-HEMA)からなる群より選択される。
【0057】
幾つかの実施形態では、吸収性ポリマーは、PVA、PEG、PEG-アクリレート、ポリ酪酸、PMMA、p-HEMA、それらの組合せ又は誘導体からなる群より選択される。幾つかの実施形態では、吸収性ポリマーはPVA又はその誘導体である。幾つかの実施形態では、吸収性ポリマーはPEG、又は、PEGMA、PEGDMA若しくはPEGDA等のPEG-アクリレートである。幾つかの実施形態では、吸収性ポリマーは、ポリ乳酸又はPLLA、PDLA若しくはPLDLLA等の誘導体である。幾つかの実施形態では、吸収性ポリマーはPGA、又はPLGA等の誘導体である。幾つかの実施形態では、吸収性ポリマーはPMAA、又はpHEMA等の誘導体である。
【0058】
幾つかの実施形態では、吸収性ポリマーの平均分子量は、約2,500g/mol~約200,000g/molである。場合によっては、親水性ポリマーの平均分子量は、約5,000g/mol~約175,000g/mol、約5,000g/mol~約150,000g/mol、約5,000g/mol~約125,000g/mol、約5,000g/mol~約100,000g/mol、約5,000g/mol~約75,000g/mol、約5,000g/mol~約50,000g/mol、約5,000g/mol~約25,000g/mol、約5,000g/mol~約10,000g/mol、約10,000g/mol~約175,000g/mol、約10,000g/mol~約150,000g/mol、約10,000g/mol~約125,000g/mol、約10,000g/mol~約100,000g/mol、約10,000g/mol~約75,000g/mol、約10,000g/mol~約50,000g/mol、約10,000g/mol~約25,000g/mol、約20,000g/mol~約150,000g/mol、又は約50,000g/mol~約150,000g/molである。
【0059】
ある実施形態では、吸収性ポリマー(例えばPVA又はPEG)の体積は、表面コーティングの総体積の約0.01%~約10%である。幾つかの例では、吸収性ポリマーは、表面コーティング総体積の約0.01%~約9%v/v、約0.01%~約8%v/v、約0.01%~約7%v/v、約0.01%~約6%v/v、約0.01%~約5%v/v、約0.01%~約4%v/v、約0.01%~約3%v/v、約0.01%~約2%v/v、約0.01%~約1%v/v、約0.1%~約10%v/v、約0.1%~約9%v/v、約0.1%~約8%v/v、約0.1%~約7%v/v、約0.1%~約6%v/v、約0.1%~約5%v/v、約0.1%~約4%v/v、約0.1%~約3%v/v、約1%~約10%v/v、約1%~約9%v/v、約1%~約8%v/v、約1%~約7%v/v、約1%~約6%v/v、約1%~約5%v/v、約1%~約4%v/v、約2%~約10%v/v、又は約5%~約10%v/vである。
【0060】
幾つかの例では、表面コーティングの総重量あたりの吸収性ポリマー(例えばPVA又はPEG)の重量は、約1%~約50%である。幾つかの例では、表面コーティングの総重量あたりの吸収性ポリマーの重量は、約1%~約10%、20%、30%又は40%である。
【0061】
幾つかの実施形態では、吸収性ポリマーは細胞培養用製品の表面と直接接触していてもよい。幾つかの例では、吸収性ポリマーは細胞培養用製品の表面に直接積層される。幾つかの例では、吸収性ポリマーは細胞培養用製品の表面に間接的に積層される。幾つかの例では、吸収性ポリマーは細胞培養用製品の表面に物理的に架橋される。幾つかの例では、吸収性ポリマーは細胞培養物用製品の表面に化学的に架橋される。
【0062】
幾つかの実施形態では、吸収性ポリマーは、PEMと直接接触していてもよい。幾つかの実施形態では、吸収性ポリマーは、PEMのポリアニオン及び/又はポリカチオンと物理的に架橋される。幾つかの実施形態では、吸収性ポリマーは、PEMのポリアニオン及び/又はポリカチオンに化学的に架橋される。
【0063】
幾つかの実施形態では、表面は充填剤をさらに含む。幾つかの例では、充填剤は鉱物充填剤(シリカ、アルミナ、炭酸カルシウム、又はシリコーン樹脂等が挙げられるがこれらに限定されない)を含む。
【0064】
本明細書に開示される表面により、細胞の接着及び増殖だけでなく、培養細胞を生きたまま採取する(harvest)こと(例えば、3D細胞培養)も可能となる。本開示の幾つかの実施形態によれば、細胞培養用基材は、生細胞を採取するために使用することができる(80%~100%生細胞、又は約85%~約99%生細胞、又は約90%~約99%生細胞等)。例えば、採取される細胞のうち、少なくとも80%が生細胞である、少なくとも85%が生細胞である、少なくとも90%が生細胞である、少なくとも91%が生細胞である、少なくとも92%が生細胞である、少なくとも93%が生細胞である、少なくとも94%が生細胞である、少なくとも95%が生細胞である、少なくとも96%が生細胞である、少なくとも97%が生細胞である、少なくとも98%が生細胞である、又は少なくとも99%が生細胞である。幾つかの実施形態では、例えばトリプシン、TrypLE、Accutase等の細胞解離用酵素を使用して若しくは使用せずに、細胞培養系から細胞を放出することができる。
【0065】
本明細書に開示される細胞培養用製品は、シリコン、プラスチック、ガラス、エラストマー等の任意の適切な材料で作られた支持体を含む。ある実施形態では、支持体はエラストマーで作られる。本明細書に記載されるエラストマーは、シリコーンエラストマーであってもよい。幾つかの実施形態では、シリコーンエラストマーは、ポリジメチルシロキサン(PDMS)である。
【0066】
ある実施形態では、支持体は、ソーダ石灰ガラス、パイレックス(登録商標)ガラス、バイコールガラス、石英ガラス等のガラス材料で作られる。ある実施形態では、支持体は、ポリエチレン、ポリプロピレン、ポリメチルペンテン、環状オレフィンポリマー、環状オレフィン共重合体、ポリ塩化ビニル、ポリウレタン、ポリエステル、ポリアミド、エチレン-酢酸ビニル共重合体、エチレン-ビニルアルコール共重合体、エチレン-アクリル酸共重合体、エチレン-アクリル酸メチル共重合体、エチレン-メタクリル酸共重合体、エチレン-メタクリル酸メチル共重合体、ポリアクリル酸、ポリメタクリル酸、ポリアクリル酸メチル、及びポリメタクリル酸メチル、又はこれらの誘導体等のプラスチック又はポリマーで作られる。ある実施形態では、ポリスチレン、ポリエチレンテレフタレート、ポリカーボネート、ポリビニルピロリドン、ポリブタジエン、ポリ塩化ビニル、ポリエチレンオキシド、ポリピロール、及びポリプロピレンオキシドのうちの少なくとも1つを含む材料でできた支持体が使用される。
【0067】
その方法及び使用
1)細胞培養物の調製法
一態様では、本開示は、本開示の細胞培養用基材を用いて細胞培養物を調製する方法を提供する。本明細書に開示される方法は、(a)本明細書に記載の高分子電解質多層及び場合により吸収性ポリマーを含む表面を有する細胞培養用基材を提供する工程、(b)複数の細胞を表面上に播種する工程、及び(c)表面上に細胞培養物を生成するのに十分な時間、適切な培地下で複数の細胞を培養する工程、を含む。好ましい実施形態では、細胞培養物は表面に接着している。幾つかの実施形態では、細胞培養物は三次元(3D)細胞培養物を含む。3D細胞培養物はスフェロイドの形態であってもよい。幾つかの実施形態では、本明細書に記載されるスフェロイドは、単一細胞増殖を介して作製される。幾つかの実施形態では、細胞培養物は1つ以上の単一細胞由来スフェロイドを含む。好ましい実施形態では、単一細胞由来スフェロイドは表面に接着している。幾つかの実施形態では、単一細胞由来スフェロイドは表面に半接着又は緩く接着している。
【0068】
幾つかの実施形態では、工程(b)の複数の細胞の播種は、表面に1細胞~10細胞/cm2の密度で細胞をプレーティングすることを含む。幾つかの実施形態では、工程(b)の複数の細胞の播種は、表面上に10細胞~100細胞/cm2の密度で細胞をプレーティングすることを含む。幾つかの実施形態では、工程(b)の複数の細胞の播種は、基材表面上に100細胞~1000細胞/cm2の密度で細胞をプレーティングすることを含む。幾つかの実施形態では、工程(b)の複数の細胞の播種は、基材表面上に200細胞~5000細胞/cm2の密度で細胞をプレーティングすることを含む。
【0069】
場合によっては、本明細書に記載されるスフェロイドは、約8個~約1000個の細胞を含み得る。場合によっては、スフェロイドは、約8個~約800個の細胞、約8個~約500個の細胞、約8個~約400個の細胞、約8個~約300個の細胞、約8個~約200個の細胞、約8個~約100個の細胞、約10個~約1000個の細胞、約10個~約800個の細胞、約10個~約500個の細胞、約10個~約400個の細胞、約10個~約300個の細胞、約10個~約200個の細胞、約10個~約100個の細胞、約50個~約1000個の細胞、約50個~約800個の細胞、約50個~約500個の細胞、約50個~約400個の細胞、約50個~約300個の細胞、約50個~約200個の細胞、約100個~約1000個の細胞、約100個~約800個の細胞、約100個~約500個の細胞、約100個~約400個の細胞の細胞、約100個~約300個の細胞、約300個~約1000個の細胞、約300個~約800個の細胞、約300個~約500個の細胞、約500個~約1000個の細胞、又は約500個~約800個の細胞を含む。
【0070】
幾つかの実施形態では、本明細書に記載されるスフェロイドの直径は、約40μm~約200μmであってよい。幾つかの実施形態では、スフェロイドの直径は、約50μm~約150μmであってもよい。場合によっては、スフェロイドの直径は、約50μm~約120μm、約50μm~約100μm、約50μm~約80μm、約50μm~約60μm、約80μm~約150μm、約80μm~約120μm、約80μm~約100μm、約100μm~約200μm、約100μm~約150μm、又は約100μm~約120μmであってもよい。
【0071】
幾つかの実施形態では、細胞は2~8日間(例えば、2、3、4、5、6、7、又は8日間)培養される。他の実施形態では、細胞は7~14日間(例えば、7、8、9、10、11、12、13、又は14日間)培養される。他の実施形態では、細胞は1~4週間(例えば、1、2、3、4週間)培養される。
【0072】
幾つかの実施形態では、本明細書に記載される複数の細胞は、がん細胞を含む。幾つかの実施形態では、がん細胞は、がん患者の生物学的サンプルから得られる。幾つかの実施形態では、生物学的サンプルは体液サンプルである。本明細書に記載の体液サンプルは、血清、血漿、全血、尿、又は腹水であり得る。幾つかの実施形態では、体液サンプルは血液サンプルであり、がん細胞は、循環腫瘍細胞(CTC)及び/又は腫瘍関連細胞を含む。CTCは血液サンプルから単離することができる。CTCの単離には現在幾つかの戦略が利用可能である。血小板、赤血球、白血球等の残りの血液成分から生きたCTCを単離するとなると、濃縮は重要な工程であり、CTCの濃度を高めることで検出プロセスを容易とすることができる。濃縮工程は、3つの異なるタイプの技術、即ちタンパク質発現に基づく技術、物理的性質に基づく技術、機能に基づく技術によって行うことができる。生きた循環腫瘍細胞(CTC)を単離するための戦略の例としては、RosetteSep(登録商標)、CTC-iChip、Ficoll(登録商標)、Ficoll-Pacque(登録商標)、Lymphoprep(登録商標)、Percoll(登録商標)、MetaCell(登録商標)、Parsortix(登録商標)、Collagen adhesion matrix assay(CAM)、及びEPithelial ImmunoSPOT assay(EPISPOT)等が挙げられるが、これらに限定されない。
【0073】
例示的な実施形態の方法では、任意の適切な培養培地を採用することができる。例示的な培養培地としては、上皮成長因子(EGF)及び/又は塩基性線維芽細胞成長因子(bFGF)を補充したダルベッコ改変イーグル培地(DMEM)や、B27サプリメント、上皮成長因子(EGF)及び塩基性線維芽細胞成長因子(bFGF)を補充したダルベッコ改変イーグル培地(DMEM)の混合物が挙げられるが、これらに限定されない。
【0074】
がん細胞(例えばCTC)を培養するための培地は、上皮成長因子(EGF)、塩基性線維芽細胞成長因子(bFGF、又はFGF2)、線維芽細胞成長因子-10(FGF10)等の追加成長因子、顆粒球マクロファージコロニー刺激因子(GM-CSF)、インスリン及びインスリン様成長因子1(IGF-1)を含んでいてもよい。幾つかの例では、WNT/β-カテニンシグナル伝達を介して上皮細胞の生存及び増殖を維持するためにR-スポンジン1タンパク質が含まれていてもよい。幾つかの実施形態では、無血清培養培地が使用される場合、インスリン、トランスフェリン及びセレン(ITS)を補充して若しくは補充せずに、B27及びN2サプリメントが添加され得る。幾つかの実施形態では、CTC増殖を促進するために、特定のシグナル伝達経路に対する低分子阻害剤を培地に含めることができる。例えば、A83-01及びALX-270-445(ALK5阻害剤II)は、TGFβ1型受容体キナーゼ(ALK5)の機能を特異的に阻害して、上皮から間葉への移行を防止し、CTCの生存及び増殖を促進する可能性がある。p38MAPK阻害剤であるSB202190は、p38活性化によるアポトーシスを防止し得る。幾つかの実施形態では、培養培地は、Rho関連タンパク質キナーゼ(ROCK)阻害剤を含み得る。本明細書に記載のROCK阻害剤は、イソキノリン、4-アミドピリジン又は4-アミドピロロピリジン骨格を有する構造式のものであってもよい。幾つかの実施形態では、ROCK阻害剤は、ファスジル、ヒドロキシファスジル、H-1152P、リパスジル又はそれらの誘導体等のイソキノリンベースのROCK阻害剤である。幾つかの実施形態では、ROCK阻害剤は、Y27632、Y32885、又はそれらの誘導体等の4-アミドピリジンベースのROCK阻害剤である。幾つかの実施形態では、ROCK阻害剤は、Y30141、Y39983、又はそれらの誘導体等の4-アミドピロロピリジンベースのROCK阻害剤である。ファスジル、ヒドロキシファスジル、H-1152P、リパスジル、Y30141、Y39983、Y27632、及びY32885の構造式を以下に示す。
【化1】
【0075】
幾つかの実施形態では、生物学的サンプルはヒト原発性腫瘍サンプルであってよい。原発性腫瘍サンプルは、患者の原発性腫瘍細胞又は転移性腫瘍細胞を含み得る。幾つかの実施形態では、がん細胞は、血清を補充した培地中で原発性腫瘍サンプルを細かく砕き、細かく砕いた原発性腫瘍サンプルを酵素で処理し、酵素処理したサンプルから腫瘍スフェロイドを採取することによって得ることができる。幾つかの実施形態では、細かく砕いた原発性腫瘍サンプルを、細かく砕いた原発性腫瘍サンプルの部分消化をもたらすのに十分な量の酵素で及び/又は十分な時間で、好ましくは、処理は25℃~39℃にて10分~60分間、より好ましくは15分~45分間、処理する。
【0076】
本明細書に記載されるがんの例としては、急性リンパ系がん、急性骨髄性白血病、肺胞横紋筋肉腫、骨がん、脳腫瘍、乳がん、肛門がん、肛門管がん又は肛門直腸がん、眼球がん、肝内胆管がん(cancer of the intrahepatic bile duct cancer)、関節がん、頸部がん、胆嚢がん又は胸膜がん、鼻、鼻腔又は中耳がん(cancer of the nose, nasal cavity or middle ear)、口腔がん、外陰部がん、慢性リンパ性白血病、慢性骨髄性がん、結腸がん、食道がん、子宮頸がん、消化管カルチノイド腫瘍、神経膠腫、ホジキンリンパ腫、下咽頭がん、腎臓がん、喉頭がん、肝臓がん、肺がん、悪性中皮腫、黒色腫、多発性骨髄腫、上咽頭がん、非ホジキンリンパ腫、卵巣がん、膵臓がん、腹膜がん、胸膜・腸間膜がん、咽頭がん、前立腺がん、直腸がん、腎臓がん、皮膚がん、小腸がん、軟部組織がん、胃がん、精巣がん、甲状腺がん、尿管がん、膀胱がんが挙げられるが、これらに限定されない。
【0077】
幾つかの実施形態では、複数の細胞は腫瘍関連細胞を含み得る。腫瘍関連細胞の例としては、腫瘍細胞クラスター、腫瘍浸潤リンパ球(TIL)、がん関連マクロファージ様細胞(CAML)、腫瘍関連マクロファージ(TAM)、腫瘍関連単球/マクロファージ系細胞(MMLC)、がん幹細胞、腫瘍微小塞栓、腫瘍関連間質細胞(TASC)、腫瘍関連骨髄系細胞(TAMCs)、腫瘍関連制御性T細胞(Treg)、がん関連線維芽細胞(CAFs)、腫瘍由来内皮細胞(TECs)、腫瘍関連好中球(TAN)、腫瘍関連血小板(TAP)、腫瘍関連免疫細胞(TAI)、骨髄由来抑制細胞(MDSC)、及びこれらの組合せ等が挙げられるが、これらに限定されない。
【0078】
ある実施形態では、本明細書に記載のがん細胞培養物は、1つ以上のがん細胞スフェロイド(例えば、腫瘍スフェロイド)を含む。本明細書に記載される腫瘍スフェロイドは、がんの治療剤の評価に使用され得る。
【0079】
2)治療剤の評価方法
本開示の別の態様は、がん患者に対する治療剤を評価する方法を特徴とする。本方法は、 (a)本明細書に記載の方法に従って細胞培養物(例えば、CTC培養物)を調製する工程、(b)場合により、細胞培養物を複数の免疫細胞と共にインキュベートする工程、(c)細胞培養物を治療剤と接触させる工程、(d)細胞培養物に対する治療剤の効果を評価する工程、及び(e)治療剤が細胞培養物に対して有効である場合にはがん患者を治療剤に対して応答性があると判定し、また治療剤が細胞培養物に対して有効でない場合にはがん患者を治療剤に対して応答性がないと判定する工程、を含む。
【0080】
幾つかの実施形態では、治療剤の効果は、発光及び/又は蛍光に基づくセルベースアッセイ及び/又は生化学的アッセイを実施することにより分析される。幾つかの実施形態では、治療剤の効果は、発光に基づく細胞生存率アッセイを実施することにより分析される。幾つかの実施形態では、治療剤の効果は、腫瘍スフェロイド中の細胞のサイズ、形態、物理的特性、生物学的特性、及び/又は動力学的特性を決定するための1つ以上のアッセイを実施することによって分析することができる。幾つかの実施形態では、治療剤の効果は、腫瘍スフェロイド中の1つ以上の遺伝子又は1つ以上のタンパク質の生化学的活性及び/又は発現レベルを分析するための1つ以上のアッセイに基づいてさらに分析することができる。アッセイ結果は、がん患者に対する治療ガイドラインを提供し得る。
【0081】
幾つかの実施形態では、本明細書に記載の複数の免疫細胞は、末梢血由来の自己由来免疫細胞を含む。幾つかの実施形態では、自己由来免疫細胞は、ex vivoで増殖させた自己由来免疫細胞を含む。幾つかの実施形態では、免疫細胞は、末梢血から単離され、ex vivoで増殖させた自己由来ナチュラルキラー(NK)細胞を含む。他の実施形態では、免疫細胞は、ドナーから単離され、ex vivoで増殖させた同種他家由来ナチュラルキラー(NK)細胞を含む。他の実施形態では、免疫細胞は、ヒト人工多能性幹細胞(iPSC)又は胚性幹細胞(ESC)から分化させ、ex vivoで増殖させたナチュラルキラー(NK)細胞を含む。腫瘍スフェロイドを複数の免疫細胞と共にインキュベートする工程により、腫瘍細胞-免疫細胞の共培養物を形成することができ、これにより、がんを治療する際にin vivoで投与した場合の治療剤の有効性を評価することができるように、in vivoで生じる腫瘍微小環境を模倣したex vivoでの再現が可能になる。
【0082】
適切な治療剤としては、化学療法剤、免疫チェックポイント阻害剤、核酸医薬、治療用細胞組成物、及びそれらの組合せが挙げられるが、これらに限定されるものではない。
【0083】
幾つかの実施形態では、治療剤は細胞毒性又は細胞増殖抑制性の化学療法薬である。本明細書に記載の方法は、複数の免疫細胞の存在下又は不在下で、腫瘍スフェロイドを細胞毒性又は細胞増殖抑制性の化学療法薬と接触させる工程を含む。化学療法薬は、アルキル化剤(シスプラチン、カルボプラチン、オキサリプラチン、メクロレタミン、シクロホスファミド、クロラムブシル、ダカルバジン、ロムスチン、カルムスチン、プロカルバジン、クロラムブシル及びイホスファミド等)、代謝拮抗剤(フルオロウラシル(5-FU)等、ゲムシタビン、メトトレキサート、シトシンアラビノシド、フルダラビン、及びフロクスリジン等)、代謝拮抗薬(パクリタキセルやデセタキセル等のタキサン系薬剤、ビンクリスチン、ビンブラスチン、ビノレルビン、ビンデシン等のビンカアルカロイド系薬剤等)、アントラサイクリン系薬剤(ドキソルビシン、ダウノルビシン、バルビシン、イダルビシン、エピルビシン、及びアクチノマイシンD等のアクチノマイシン等)、細胞毒性抗生物質(マイトマイシン、プリカマイシン、及びブレオマイシン等)、トポイソメラーゼ阻害剤(カンプトテシン、イリノテカン、及びトポテカン等のカンプトテシン類、並びにアムサクリン、エトポシド、リン酸エトポシド、テニポシド等のエピポドフィロトキシン誘導体等)、ベバシズマブ(AVASTIN(登録商標))等の血管内皮増殖因子(VEGF)に対する抗体、その他の抗VEGF化合物;抗体又は化合物等の抗PD-1(抗プログラム死-1)治療薬(例えばニボルマブ);サリドマイド(THALOMID(登録商標))及びその誘導体(レナリドミド(REVLIMID(登録商標))等);エンドスタチン;アンジオスタチン;スニチニブ(SUTENT(登録商標))等の受容体チロシンキナーゼ(RTK)阻害剤;ソラフェニブ(ネクサバール(登録商標))、エルロチニブ(タルセバ(登録商標))、パゾパニブ、アキシチニブ、及びラパチニブ等のチロシンキナーゼ阻害剤;トランスフォーミング成長因子-α又はトランスフォーミング成長因子-β阻害剤、パニツムマブ(VECTIBIX(登録商標))やセツキシマブ(ERBITUX(登録商標))等の上皮成長因子受容体に対する抗体であってもよい。
【0084】
幾つかの実施形態では、治療剤は免疫チェックポイント阻害剤である。本明細書に記載の方法は、複数の免疫細胞の存在下で、腫瘍スフェロイドを免疫チェックポイント阻害剤と接触させる工程を含む。免疫チェックポイント阻害剤は、CD137、CD134、PD-1、KIR、LAG-3、PD-L1、PDL2、CTLA-4、B7.1、B7.2、B7-DC、B7-H1、B7-H2、B7-H3、B7-H4、B7-H5、B7-H6、B7-H7、BTLA、LIGHT、HVEM、GAL9、TIM-3、TIGHT、VISTA、2B4、CGEN-15049、CHK1、CHK2、A2aR、TGF-β、PI3Kγ、GITR、ICOS、IDO、TLR、IL-2R、IL-10、PVRIG、CCRY、OX-40、CD160、CD20、CD52、CD47、CD73、CD27-CD70、CD40、及びこれらの組合せであってもよい。幾つかの実施形態では、治療剤は、PD-1阻害剤、PD-L1阻害剤、及びCLTA-4阻害剤から選択される免疫チェックポイント阻害剤である。本明細書に記載の免疫チェックポイント阻害剤は、ニボルマブ、ペムブロリズマブ、セミプリマブ、アテゾリズマブ、アベルマブ、デュルバルマブ、及びイピリムマブからなる群より選択される。
【0085】
幾つかの実施形態では、治療剤は核酸医薬(nucleic acid drug)である。本明細書に記載の方法は、複数の免疫細胞の存在下又は不在下で、腫瘍スフェロイドを核酸医薬と接触させる工程を含む。核酸医薬は、DNA、DNAプラスミド、nDNA、mtDNA、gDNA、RNA、siRNA、miRNA、mRNA、piRNA、アンチセンスRNA、snRNA、snoRNA、vRNA、及びこれらの組合せであってもよい。幾つかの実施形態では、核酸治療薬(therapeutic nucleic acid)は、GM-CSF、IL-12、IL-6、IL-4、IL-12、TNF、IFNy、IFNa、及びそれらの組合せからなる群より選択される遺伝子をコードするヌクレオチド配列を含むDNAプラスミドである。
【0086】
幾つかの実施形態では、治療剤は治療用細胞組成物である。本明細書に記載の方法は、複数の免疫細胞の不在下で、腫瘍スフェロイドを治療用細胞組成物と接触させる工程を含む。治療用細胞組成物の例としては、T細胞、ナチュラルキラー(NK)細胞及び樹状細胞、キメラ抗原受容体T(CAR-T)細胞及びキメラ抗原受容体-ナチュラルキラー(CAR-NK)細胞が挙げられるが、これらに限定されない。
【0087】
3)免疫療法を用いたがんの治療方法
本開示の別の態様は、がん患者に対して免疫療法を用いてがんを治療する方法を特徴とする。本発明の方法は、(a)本明細書に記載の方法に従って、がん患者に対する免疫療法用の治療剤を評価する工程、及び(b)治療剤に対して応答性のあるがん患者に、治療上有効量の治療剤を投与する工程、を含む。
【0088】
幾つかの実施形態では、免疫療法用の治療剤は、免疫チェックポイント阻害剤を含む。幾つかの実施形態では、免疫療法用の治療剤は、治療用細胞組成物を含む。幾つかの実施形態では、免疫療法用の治療剤は、核酸医薬を含む。幾つかの実施形態では、がん患者に、細胞毒性又は細胞増殖抑制性の化学療法薬をさらに投与する。
【0089】
4)in vitroにおける単一細胞由来スフェロイドの調製方法
本開示の別の態様は、in vitroで単一細胞由来スフェロイドを調製する方法を提供し、この方法は、(a)本明細書に記載される高分子電解質多層及び場合により吸収性ポリマーを含む表面を有する細胞培養用基材を提供する工程、(b)サンプル(例えば、液体生検サンプル、針生検、組織生検)から細胞(例えば、腫瘍細胞及び/又は腫瘍関連細胞)を単離して単離細胞を提供する工程、(c)単離細胞を基材上に播種する工程、及び(d)1以上のスフェロイドを生成するのに十分な時間、適切な培地下にて細胞培養用基材中で培養することにより細胞を増幅する工程(ここで、1以上のスフェロイドの各々は単一細胞由来である)を含む。
【0090】
本明細書に記載される1以上のスフェロイドは、単一細胞増殖を介して作製される。好ましい実施形態において、本明細書に記載される1以上のスフェロイドは、細胞の凝集を伴わない単一細胞増殖を介して作製される。幾つかの実施形態では、1以上のスフェロイドのサイズは均一である。
【0091】
幾つかの実施形態では、工程(c)の単離細胞の播種は、表面(即ち細胞増殖表面)上に1細胞~10細胞/cm2の密度で細胞をプレーティングすることを含む。幾つかの実施形態では、工程(c)の単離細胞の播種は、表面上に10細胞~100細胞/cm2の密度で細胞をプレーティングすることを含む。幾つかの実施形態では、工程(c)の単離細胞の播種は、表面上に100細胞~1000細胞/cm2の密度(2)で細胞をプレーティングすることを含む。
【0092】
幾つかの実施形態では、単離細胞はがん細胞である。ある実施形態では、がん細胞はヒト原発腫瘍組織から単離される。ある実施形態では、がん細胞は、がん患者の血液サンプルから単離される。
【0093】
幾つかの実施形態では、培養培地は、ダルベッコ改変イーグル培地(DMEM)を含む。幾つかの実施形態では、培養培地は、上皮成長因子(EGF)及び/又は塩基性線維芽細胞成長因子(bFGF)を含む。幾つかの実施形態では、培養培地は、B27サプリメント、上皮成長因子(EGF)及び塩基性線維芽細胞成長因子(bFGF)を補充したダルベッコ改変イーグル培地(DMEM)の混合物を含む。
【0094】
幾つかの実施形態では、本開示の細胞培養系は、単一細胞由来スフェロイドのサイズを直径200μm未満に維持して細胞の壊死を防ぎ、細胞が経時的に増殖を続けるにつれて、より小さいスフェロイドへの分裂を誘導することができる。幾つかの実施形態では、単一細胞由来スフェロイドのサイズは、直径150μm未満である。幾つかの実施形態では、単一細胞由来スフェロイドのサイズは、直径約40、50、60、70、80、90、100、110、120、130又は140μmである。アポトーシス/ネクローシスに起因する細胞破片(cell debris)は、ハンギングドロップやU字型ULAプレートのような市場で通常使用されているプラットフォームとは異なり、培養7日後の単一細胞由来スフェロイドでは観察されない。
【0095】
5)治療剤のスクリーニング方法
別の態様では、本開示は、治療剤をスクリーニングするための方法を提供する。本方法は、(a)がん細胞の集団を含む単一細胞由来スフェロイドを提供する工程であって、単一細胞由来スフェロイドが本明細書に開示される細胞培養用基材を用いて調製される工程、(b)単一細胞由来スフェロイドに被験物質(test substance)を加える工程、及び(c)単一細胞由来スフェロイドに対する被験物質の効果を評価する工程、を含む。
【0096】
ある実施形態では、単離細胞は幹細胞様細胞(stem-like cell)である。このような幹細胞様細胞は、当分野で公知のマーカーを用いて同定及び単離することができる。
【0097】
幾つかの実施形態では、単一細胞由来スフェロイドは、がん幹細胞様細胞の集団を含む腫瘍スフェロイドである。幾つかの実施形態では、がん幹細胞様細胞の集団は、少なくとも約1×104個のがん幹細胞様細胞を含む。幾つかの実施形態では、がん幹細胞様細胞の集団は、少なくとも約1×103個のがん幹細胞様細胞を含む。幾つかの実施形態では、がん幹細胞様細胞の集団は、少なくとも約5~900個のがん幹細胞様細胞、例えば、少なくとも約5個、10個、15個、20個、25個、30個、40個、50個、60個、70個、80個、90個、100個、200個、300個、400個、500個、600個、700個、800個、900個又は1000個のがん幹細胞様細胞のいずれかを含む。幾つかの実施形態では、本明細書で産生される単一細胞由来スフェロイドは、高い幹細胞性及び上皮間葉転換(EMT)能を示す。
【0098】
本明細書に記載されるがん幹細胞様細胞は、がん細胞から得ることでき、本明細書に記載される細胞培養系で培養して誘導することができる。幾つかの実施形態では、がん幹細胞様細胞は無血清幹細胞培地中で培養される。幾つかの実施形態では、がん幹細胞はがん幹細胞完全培養培地中で培養される。
【0099】
本明細書で作製したがん幹細胞様細胞(CSC)の集団は、CSCを標的としたがん治療やがん免疫療法のためのin vitro薬物スクリーニングに有用である。
【0100】
6)がん幹細胞様細胞を選択的に標的とする治療剤のスクリーニング方法
別の態様では、本開示は、がん幹細胞様細胞を選択的に標的とする治療剤をスクリーニングする方法を提供する。本方法は、(a)がん幹細胞様細胞の集団を含む単一細胞由来スフェロイドを提供する工程であって、単一細胞由来スフェロイドが、本明細書に開示される表面を有する細胞培養用基材を用いて調製される工程、(b)単一細胞由来スフェロイドに被験物質を加える工程、及び(c)単一細胞由来スフェロイドに対する被験物質の効果を評価する工程を含む。
【0101】
7)がん転移の阻害方法、及びがんの予防、緩和、若しくは治療方法
別の態様では、本開示は、がんの転移を阻害し、がんを予防、緩和又は治療するための方法を提供する。本方法は、がん幹細胞様細胞を選択的に標的とする治療剤の有効量をがん患者に投与する工程を含む。治療剤は上記方法でスクリーニング及び選択する。
【0102】
別の態様では、本開示は、in vitroで作製された単一細胞由来スフェロイドを含む組成物を提供し、ここで、単一細胞由来スフェロイドは上記方法によって調製される。
【0103】
上記方法のいずれかによる幾つかの実施形態では、がん細胞は、液体生検サンプル、針生検サンプル、又は子宮頸管スメアサンプル等の、被験体の手術、生検、又は血液から得られる腫瘍サンプル(組織サンプル又は体液サンプル等)から得た初代細胞培養物の細胞を含む。幾つかの実施形態では、サンプルは血液、唾液又は尿サンプルである。幾つかの実施形態では、サンプルは、転移性がんのがん患者、又は治療前、治療中、若しくは治療後のがん患者等のがん患者から得たものである。幾つかの実施形態では、初代細胞培養物の細胞は、患者の血液サンプルから単離された循環がん細胞である。幾つかの実施形態では、初代細胞培養物は、患者由来異種移植片(PDX)を含む。上記方法のいずれかによる幾つかの実施形態では、がん細胞はがん細胞株の細胞を含む。
【0104】
上記方法のいずれかによる幾つかの実施形態では、被験物質は、細胞毒性又は細胞増殖抑制性の化学療法薬等の化学療法薬である。幾つかの実施形態では、治療剤は、免疫チェックポイント阻害剤等の免疫チェックポイント阻害剤である。幾つかの実施形態では、治療剤は核酸医薬である。幾つかの実施形態では、治療剤は、T細胞、ナチュラルキラー(NK)細胞、及び樹状細胞を含む(ただしこれらに限定されない)治療用細胞組成物である。
【0105】
上記細胞培養法のいずれかによる幾つかの実施形態では、細胞は、約2日~約5週間、例えば約3日~約14日、例えば約7日間、培養される。幾つかの実施形態では、細胞は3日間培養され、少なくとも1つの3Dスフェロイドの平均直径は、約40μm~約200μmである。
【0106】
上記方法のいずれかによる幾つかの実施形態では、高分子電解質多層の厚さは約30nm~約30μm(約100nm~約20μmを含む、例えば約500nm等)である。
【0107】
特定の用語
別途定義されない限り、本明細書で使用される全ての技術用語及び科学用語は、特許請求される主題が属する技術分野の当業者によって一般的に理解されるのと同じ意味を有する。前述の概要及び以下の詳細な説明は、例示的及び説明的なものに過ぎず、特許請求される主題を制限するものではないことを理解されたい。本出願では、特に断らない限り、単数形が使用される場合は複数形を含む。本明細書及び添付の特許請求の範囲において使用される場合、単数形「a」、「an」及び「the」は、文脈上明らかに別段の指示がない限り、複数形も含むことに留意されたい。本出願において、「又は」が使用される時は、特に断りのない限り、「及び/又は」を意味する。さらに、「含んでいる(including)」という用語の使用は、「含む(include)」、「含む(includes)」、「含まれる(included)」等の他の形態と同様に、限定的なものではない。
【0108】
本明細書で使用される際、範囲及び量は、特定の値や範囲に「約」を付けた形で表す場合がある。「約」にはその量そのものも含まれる。従って、「約5μL」は「約5μL」及び「5μL」も意味する。一般に、「約」という用語は、実験誤差の範囲内であると予想される量を含む。
【0109】
本明細書で使用されているセクションの見出しは、単に整理するためのものであり、記載されている主題を限定するものとして解釈されるものではない。
【0110】
本明細書で使用する場合、用語「含む(comprising)」は、その方法は、記載された工程又は要素を含むが、他の工程又は要素を除外しないことを意味することを意図する。「から本質的になる」とは、特許請求の範囲が、特許請求の範囲に記載された方法の基本的かつ新規な特性に実質的に影響を与えない範囲の他の工程又は要素のみ含み得ることを意味する。「からなる」とは、その請求項に規定されていない要素又は工程を除外することを意味する。これらの転換語(transition terms)の各々によって定義される実施形態は、本開示の範囲内である。
【0111】
本明細書で使用する場合、「正電荷を帯びた高分子電解質」という用語は、2つ以上の正電荷を含む複数のモノマー単位又は非ポリマー分子を包含する。幾つかの例では、正電荷を帯びた高分子電解質は、電荷正基、電荷中性基、又は電荷負基を含み、正味電荷が正である複数のモノマー単位又は非ポリマー分子も包含する。
【0112】
本明細書で使用する場合、「カチオン性ポリマー」という用語は、複数のモノマー単位又は非ポリマー分子を包含する。幾つかの例では、カチオン性ポリマーは合成ポリマーである。他の例では、カチオン性ポリマーは天然ポリマーである。
【0113】
本明細書で使用する場合、「カチオン性ポリペプチド」という用語は、2つ以上の正電荷を含むポリペプチドを指す。幾つかの例では、カチオン性ポリペプチドは、正電荷を帯びたアミノ酸残基、負電荷を帯びた残基、及び極性残基を含むが、ポリペプチドの正味電荷は正である。場合によっては、カチオン性ポリペプチドは8~100アミノ酸長である。場合によっては、カチオン性ポリペプチドは8~80、8~50、8~40、8~30、8~25、8~20、8~15、10~100、10~80、10~50、10~40、10~30、10~20、20~100、20~80、20~50、20~40、20~30、30~100、30~80、30~50、40~100、40~80、又は50~100アミノ酸長である。
【0114】
本明細書で使用する場合、「負電荷を帯びた高分子電解質」という用語は、2つ以上の負電荷を含む複数のモノマー単位又は非ポリマー分子を包含する。幾つかの例では、負電荷を帯びた高分子電解質は、電荷正基、電荷中性基、又は電荷負基を含み、正味電荷が負である複数のモノマー単位又は非ポリマー分子も包含する。
【0115】
本明細書で使用する場合、「アニオン性ポリマー」という用語は、複数のモノマー単位又は非ポリマー分子を包含する。幾つかの例では、アニオン性ポリマーは合成ポリマーである。他の例では、アニオン性ポリマーは天然ポリマーである。
【0116】
本明細書で使用する場合、「アニオン性ポリペプチド」という用語は、2つ以上の負電荷を含むポリペプチドを指す。幾つかの例では、アニオン性ポリペプチドは、正電荷を帯びたアミノ酸残基、負電荷を帯びた残基、及び極性残基を含むが、ポリペプチドの正味電荷は負である。幾つかのケースでは、アニオン性ポリペプチドは8~100アミノ酸長である。幾つかのケースでは、アニオン性ポリペプチドは8~80、8~50、8~40、8~30、8~25、8~20、8~15、10~100、10~80、10~50、10~40、10~30、10~20、20~100、20~80、20~50、20~40、20~30、30~100、30~80、30~50、40~100、40~80、又は50~100アミノ酸長である。
【0117】
本明細書で使用する場合、「ポリマー」という用語には、ホモポリマー及び共重合体、分岐ポリマー及び非分岐ポリマー、並びに天然ポリマー又は合成ポリマーの両方が含まれる。
【0118】
本明細書で使用する場合、「腫瘍」という用語は新生物、即ち細胞又は組織の異常増殖を指し、良性(即ち非がん性増殖)及び悪性(即ち原発性又は転移性のがん性増殖を含むがん性増殖)を含むと理解される。
【0119】
新生物の例としては、中皮腫、肺がん(例えば小細胞肺がん、非小細胞肺がん)、皮膚がん(例えば黒色腫)、胃がん、肝臓がん、結腸直腸がん、乳がん、膵臓がん、前立腺がん、血液がん、骨がん、骨髄がん、及びその他のがんが挙げられるが、これらに限定されない。
【0120】
本明細書で使用される「腫瘍スフェロイド」又は「腫瘍細胞スフェロイド」という用語は、腫瘍細胞の小さな塊又は瘤を構成する腫瘍細胞の凝集体を指す。幾つかの実施形態では、腫瘍スフェロイドの直径は、約3cm未満、約2cm未満、約1cm未満、約5mm未満、約2.5mm未満、約1mm未満、約100μm未満、約50μm未満、約25μm未満、約10μm未満、又は約5μm未満である。幾つかの実施形態では、腫瘍スフェロイドの直径は、10μm~500μmである。幾つかの実施形態では、腫瘍スフェロイドの直径は、40μm~100μmである。幾つかの実施形態では、腫瘍スフェロイドの直径は、40μm~70μmである。
【0121】
本明細書で用いる免疫細胞には、好中球、好酸球、好塩基球、マスト細胞、単球、マクロファージ、樹状細胞、ナチュラルキラー細胞、リンパ球(B細胞及びT細胞)が含まれる。
【実施例】
【0122】
これらの実施例は、例示のみを目的として提供されるものであり、本明細書で提供される特許請求の範囲を限定するものではない。
【0123】
実施例1:本発明の表面の構築
高分子電解質多層による表面コーティングを構築するために、ポリカチオン/ポリアニオン積層用にプラズマ処理した組織培養プレート(TCP、ポリスチレン)を使用した。プラズマ処理とは、TCPプレートの表面を酸素プラズマにさらすことである。酸素プラズマ処理によって、表面にシラノール基(Si-OH)、アルコール性水酸基(C-OH)、カルボン酸(COOH)のラジカル種が発生し、これらの種によってポリアニオン(又はポリアニオン)と活性化TCP表面との間に水素結合ができる。
【0124】
高分子電解質多層を構築するために、ポリカチオンとポリアニオンの両方をTris-HCl緩衝液(pH7.4)に溶解し、Tris-HCl緩衝液ですすいだ後、TCP表面に積層した。ポリカチオン又はポリアニオンの各層を積層し、インキュベートした後、Tris-HCl緩衝液で洗浄した。幾つかの実施例では、ポリカチオンはポリ-L-リジン(PLL)であり、ポリアニオンはポリ-L-グルタミン酸(PLGA)である。幾つかの実施例では、ポリカチオンはPLOであり、ポリアニオンはPLGAである。幾つかの実施例では、ポリカチオンはPLHであり、ポリアニオンはPLGAである。幾つかの実施例では、ポリカチオンはPLAであり、ポリアニオンはPLGAである。PLL(MW150K-300K)、PLGA(MW50K-100K)、PLO(0.01%)溶液、PLH(MW5K-25K)、PLA(MW15K-70K)は、Sigma-Aldrich(米国ミズーリ州セントルイス)から市場で入手可能である。ポリカチオンとポリアニオンの両方をTris-HCl緩衝液(pH7.4)に溶解し、Tris-HCl緩衝液ですすいだ後、TCPプレート上に積層させる。ポリカチオン又はポリアニオンの各層を積層し、10分間インキュベートした後、Tris-HCl緩衝液で2分、1分、1分の3回洗浄する。PLL/PLGA、PLO/PLGA、PLH/PLGA及びPLA/PLGA多層フィルムは、以下のような交互積層法により作製することができる。
【0125】
幾つかの実施例では、高分子電解質多層はPLL/PLGA多層であり、PLL及びPLGAをプレート上に順次積層させることによって構築することができる。各積層工程は、PLL又はPLGA溶液をプレート表面に添加し、10分間インキュベートし、2分、1分、1分の3回洗浄することを含む。一実施形態では、(PLGA/PLL)3で構成される基材が構築される。一実施形態では、(PLGA/PLL)5で構成される基材コーティングが構築される。一実施形態では、(PLGA/PLL)10で構成される基材が構築される。一実施形態では、(PLGA/PLA)15で構成される基材が構築される。
【0126】
幾つかの実施例では、高分子電解質多層はPLO/PLGA多層であり、PLO及びPLGAをプレート上に順次積層させることによって構築することができる。各積層工程は、PLO又はPLGA溶液をプレート表面に添加し、10分間インキュベートし、2分、1分、1分の3回洗浄することを含む。一実施形態では、(PLGA/PLO)3で構成される基材が構築される。一実施形態では、(PLGA/PLO)5で構成される基材コーティングが構築される。一実施形態では、(PLGA/PLO)10で構成される基材が構築される。一実施形態では、(PLGA/PLO)15で構成される基材が構築される。
【0127】
幾つかの実施例では、高分子電解質多層はPLH/PLGA多層であり、PLHとPLGAをプレート上に順次積層させることによって構築することができる。各積層工程は、PLH又はPLGA溶液をプレート表面に添加し、10分間インキュベートし、2分、1分、1分の3回洗浄することを含む。一実施形態では、(PLGA/PLH)3で構成される基材が構築される。一実施形態では、(PLGA/PLH)5で構成される基材コーティングが構築される。一実施形態では、(PLGA/PLH)10で構成される基材が構築される。一実施形態では、(PLGA/PLH)15で構成される基材が構築される。
【0128】
幾つかの実施例では、高分子電解質多層はPLA/PLGA多層であり、PLA及びPLGAをプレート上に順次積層させることによって構築することができる。各積層工程は、PLA又はPLGA溶液をプレート表面に添加し、10分間インキュベートし、2分、1分、1分の3回洗浄することを含む。一実施形態では、(PLGA/PLA)3で構成される基材が構築される。一実施形態では、(PLGA/PLA)5で構成される基材コーティングが構築される。一実施形態では、(PLGA/PLA)10で構成される基材が構築される。一実施形態では、(PLGA/PLA)15で構成される基材が構築される。
【0129】
実施例2:スフェロイド形成のための細胞培養用プラットフォームの比較
個別化医療用薬物試験(personalized drug testing)等の臨床応用を促進するためのex vivo3Dモデルを確立するために、様々な培養用プラットフォームを評価した。超低接着表面(ULA)プレート(コーニング社製)は、懸濁培養用プラットフォームとして、細胞の凝集に基づくスフェロイド形成が可能であったが、結果はスフェロイド形成の収率が非常に低かった。我々の実験では、ULAプレート上に播種し培養した細胞のうち、スフェロイドを形成できた数は1%未満であった。比較のために、交互積層法の高分子電解質多層(PEM)によりコーティングしたプレートを、スフェロイドのex vivo培養について評価した。HCT116大腸がん細胞株を例にとると、DMEM完全培地を用いて5~7日間培養した結果、PEMでコートティングしたプレート上に播種し培養した細胞の78.7±2.7%が増殖して細胞スフェロイドを形成したのに対し、ULAプレート上に播種し培養した細胞は0.2±0.1%しかスフェロイドを形成しなかった。様々な培養用プラットフォーム上で培地がスフェロイド形成に影響を及ぼすか否かを評価するため、成長因子を供給した無血清培地(SPH培地)を用いてスフェロイド形成試験を行った。その結果、PEMでコーティングした培養プレート上に播種し培養した細胞の62.2±2.3%が、5-7日間培養後に増殖して細胞スフェロイドを形成したのに対し、ULAプレート上に播種し培養した細胞は0.7±0.1%しかスフェロイドを形成しなかった。ULAプレートと同様に、ポリ-HEMAでコーティングしたプレートでは、スフェロイド形成の収率は低かった。組織ベースの細胞培養によく使われる埋込み基質であるマトリゲルもテストした。その結果、作製されたスフェロイドはマトリゲルに埋め込まれていたため、画像がぼやけたりピントが合わなかったりして、スフェロイドの解析やイメージングが困難であった。
【0130】
実施例3:本発明の培養用プラットフォーム上での生きたスフェロイドの形成
リキッドバイオプシーは、血液から直接リアルタイムでがん検体(specimen)を得る可能性を提供する。しかし、循環腫瘍細胞(CTC)の希少性が、臨床的利用でのex vivo適用の全プロセスに障害を与えている。循環腫瘍細胞を個々の薬剤のスクリーニングや検査に使用することの可能性を示した論文は幾つかあるが、臨床応用のための偏りのない3次元培養モデルは殆ど提供されていない。希少細胞増殖のためのPEMでコーティングした培養プレートの実現可能性を検証するため、ごく低密度のHCT116細胞をPEMでコーティングした培養プレートの表面に播種し、タイムラプス顕微鏡で撮影した。単一細胞はPEMでコーティングした培養プレートの表面に半接着を示し、増殖を続けて7日後には直径約70μmのスフェロイドを形成した。このように、PEMでコーティングした培養プレート上の単一細胞由来スフェロイドは、希少細胞サンプルを活用することで、その後の臨床応用を促進する可能性がある。さらに、PEMでコーティングした培養プレートの表面に播種した細胞の密度が高くなると、細胞は増殖し続けて各単一細胞からスフェロイドを形成した。しかし、2つのスフェロイドが互いに十分に近接して大きなスフェロイドを形成すると、細胞はスフェロイド融合を起こす。3Dスフェロイドを用いた希少細胞増殖技術の臨床的応用を確立するためには、ex vivo試験中の潜在的な偏り(bias)を排除するために、スフェロイドサイズの均一性と生きたスフェロイドの維持が望ましい。本発明の細胞培養用プラットフォームで増殖したスフェロイドサイズの均一性を試験するため、96ウェルプレートで本発明の表面コーティングを施したウェルに合計300個の細胞を播種した。細胞は増殖し、スフェロイドを形成した。スフェロイドのサイズを、Opera Phenixハイコンテント共焦点スクリーニングシステム(Perkin Elmer社)で検証した。ウェルあたりの平均スフェロイド数は320±54個、各ウェルの平均スフェロイド径は5日目で69±34μmであった。これらの結果は、PEMでコーティングした培養プレート上では、スフェロイド形成能が高く、形成されたスフェロイドサイズは均一であったことを示している。ULプラットフォーム又は本発明の細胞培養用プラットフォームのいずれかで増殖させたスフェロイドを単離し、LIVE/DEADアッセイ(Invitrogen社)で染色して細胞の生存率を試験した。EthD1の蛍光強度分析の結果、ULプラットフォームで培養したスフェロイド細胞は、本発明の細胞培養用プラットフォームで培養したスフェロイドと比較して、有意に高い死滅が認められた。さらに、PEMでコーティングした培養プレート上で培養したスフェロイドは、凍結融解サイクル保存後も高い細胞生存率を示し、クライオバンク処理後の細胞生存率が高いことが示された。さらに、共焦点顕微鏡による走査では、ULAプレート上で作製された凝集スフェロイドでは細胞間の接触が緩やかであったのに対し、PEMでコーティングした培養プレート上で培養されたスフェロイドでは細胞間の相互作用が緊密であることが明らかになった。このように、均一で生存可能な単一細胞由来スフェロイドは、個別化医療用薬物検査等の臨床応用を促進する可能性がある。
【0131】
実施例4:臨床サンプルから得た患者由来スフェロイド
臨床的に有用な患者由来スフェロイドを樹立するために、組織切除、コアニードル生検、及び瀉血採血から患者由来の検体を採取し、ex vivoスフェロイド培養を行った。幾つかの実施例では、がん細胞は腫瘍組織から得た。幾つかの実施例では、がん細胞は血液サンプルから得た。生きたCTCは、当該技術分野で知られている方法を用いて単離することができる。全ての生存細胞をPEMでコーティングした培養プレートの表面に播種し、2~4週間で患者由来のスフェロイドを作製することができる。
図1A~Cは、本開示の一実施形態に従って表面上に作製されたCTC培養物の経時的変化を示す代表的な画像を表す。(A)乳がん患者の血液サンプル中のCTCに由来するCTC培養物を、表面上にて、7日間及び14日間培養して作製した;(B)頭頸部扁平上皮がん(HNSCC)患者の血液サンプル中のCTCに由来するCTC培養物を、表面上にて、12日間、15日間及び38日間培養して作製した;(C)大腸がん(CRC)患者の血液サンプル中のCTCに由来するCTC培養物を、表面上にて、2日間、13日間及び27日間培養して作製した。スケールバー:50μm。
【0132】
実施例5:CTC由来スフェロイドに対するex vivo薬物試験と臨床応答との高い一致性
本研究で募集した31人のがん患者から得られた33の血液検体から、患者由来CTC培養物を、患者の体外で作製することに成功した。検体は、乳がん(n=13)、結腸がん(n=11)、頭頸部がん(n=4)、尿路上皮がん(n=3)、肺がん(n=1)、胃がん(n=1)と診断された患者から得た。これらの血液検体を採取し、本発明の細胞培養用プラットフォームの表面で培養した。
【0133】
CTC培養物を作製する成功率を算出すると88%(33検体中29検体)である。乳がん患者からの4検体は、薬物検査を実施するにはサンプル量が不十分である。
【0134】
次に、CTC培養物における各薬物検査の細胞生存率と患者における臨床応答との関連性を調べた。29のCTC培養物から合計167のex vivo薬物試験が、本開示の培養用プラットフォームの表面上で作製された。比較のために、対応のある検定を行った臨床患者から42人の治療結果を得た。臨床反応が分かっている42人の治療結果のうち、医師の診断により、その治療応答に基づいて、対応のある患者治療を施した35人のCTC培養物が臨床的抵抗性グループに分類され、残りの7人の患者の治療が、臨床的感受性グループに分類された。
【0135】
CTC培養物の抵抗性グループと感受性グループとの間で、化学療法薬に対する細胞生存率について有意差のある応答が確認された(
図2D、Mann-Whitney t-testで算出、p=0.0159)。適切な判定閾値により、感受性グループのCTC培養物は、抵抗性グループのCTC培養物よりもはるかに低い細胞生存率を示した。このウィンドウから作成された受信者操作特性(ROC)曲線は、0.939[信頼区間(CI)、0.86~1.01(
図2E)]という高いAUC値を示した。このデータは、同一の臨床治療薬を用いたex vivo薬物アッセイで試験した結果、CTC培養物が臨床治療結果と極めて関連性の高い薬物応答を示したことを実証した。重要なことは、このアッセイ法は最初の播種に1~10
2細胞しか必要とせず、3週間以内に次の治療薬スクリーニング用のスフェロイドを作製できたことである。
【0136】
実施例6:CTC培養物のex vivo薬物応答プロファイルは臨床治療結果と相関する
ex vivo薬物アッセイの結果を検証するため、患者の血液検体から得たCTC培養物で、単剤又は併用で治療剤を試験した。患者Aは、オキサリプラチン、ドセタキセル、5-FUによる前治療歴があり、臨床治療後に病勢が進行した。オキサリプラチン、ドセタキセル、5-FU、ドキソルビシン、マイトマイシン-c、及びイリノテカンを含む、使用済みの薬剤パネルと潜在的な候補薬剤パネルの両方を用いて設計したex vivo薬剤アッセイを、時間依存的かつ用量依存的に行った(
図3A)。細胞形態に関しては、患者Aの血液サンプルから得たCTCスフェロイドの直径は約30~40μmで、無処置のMock群ではスフェロイド形態は無傷であった。オキサリプラチンと5-FUで3日間処置すると、CTCスフェロイドの直径はMock群より小さくなり、見た目に漏出した。ドキソルビシンで処置すると、CTC培養物に明らかな破損形態が認められ、細胞周囲に細胞破片が表れた(
図3C)。一方、患者Aは5-FUとドセタキセル処置で50%を超える高いスフェロイド生存率を示したが、ドキソルビシン処置では4%未満であった。この結果は、臨床使用した薬剤に対する治療抵抗性における臨床治療結果と非常に一致している。従って、ドキソルビシンは、未使用薬(マイトマイシン-c及びイリノテカン)の中でも、次の治療ラインに有望な関連候補薬であった(
図3B)。さらに、尿路上皮がん患者Bに対して、ex vivo薬物試験を行った。患者Bから得たシスプラチン/ゲムシタビン併用で処置したCTC培養物のサイズ及び細胞生存率は、いずれも未処置のMock群や単剤処置したスフェロイドより小さかった(
図3C及び3D)。実際も同様に、この患者もCT画像診断においてシスプラチン/ゲムシタビン併用療法後の腫瘍塊が有意に縮小し、良好な臨床応答を示した(
図3F)。まとめると、CTCに基づくex vivo薬剤感受性アッセイの結果は、臨床的患者応答と高い一致を示した。これらの結果は、薬物治療応答の臨床結果を予測する上で、臨床的に有用な薬物検査プラットフォームが実現可能であることを示す。
【0137】
実施例8:患者由来腫瘍スフェロイドと末梢血から得た自己由来NK細胞との共培養
末梢血はナチュラルキラー(NK)細胞の供給源として利用できる。末梢血単核球(PBMC)には循環NK細胞の10~12%が含まれている。大腸がん患者の末梢血から患者由来NK(PDNK)細胞を単離し、単離後2週間ex vivoで増殖させた。
【0138】
大腸がん患者由来の腫瘍スフェロイドを本発明の表面上に作製した。患者由来腫瘍スフェロイドに対するPDNK細胞の細胞毒性を調べるため、腫瘍スフェロイドとPDNK細胞を24時間共培養した。患者由来腫瘍スフェロイドは24時間インキュベートした後も形態変化なくそのままであり、PDNK細胞は患者由来腫瘍スフェロイドに対して細胞毒性を示さないことが示された。この結果から、自己由来PDNK細胞は、本発明の表面上の患者由来腫瘍スフェロイドに接近することはできるが、患者由来腫瘍スフェロイドを殺傷対象として認識しないことが示された。
【0139】
比較のため、NK-92MI細胞株をPDNK細胞の並行対照群として採用した。患者由来の腫瘍スフェロイドをNK-92MI細胞と共培養した。その結果、患者由来腫瘍スフェロイドは2時間以内にNK-92MI細胞に認識され、急速に取り囲まれることが観察された。その後、患者由来腫瘍スフェロイドはNK-92MI細胞によってさらに破壊され、本発明の表面には患者由来腫瘍スフェロイドの破片が観察された。解析の結果、患者由来腫瘍スフェロイドに対するNK-92MI細胞の細胞毒性は、自己由来PDNK細胞の細胞毒性よりも飛躍的に高いことが示された。解析は、発光に基づくセルベースアッセイ又は発光若しくは蛍光に基づく生化学的アッセイにより行った。
【0140】
[方法及び材料]
免疫蛍光染色及び顕微鏡撮影。免疫蛍光染色では、4%パラホルムアルデヒドを加えたPBS緩衝液で細胞を30分間固定し、0.1%トリトンX-100を加えたPBS緩衝液でさらに30分間透過処理し、5%BSAで1時間ブロックした。その後、細胞を結腸特異的マーカーであるウサギ抗ヒト汎サイトケラチン(panCK、アブカム社:イギリス国ケンブリッジ)で染色し、続いてヤギ抗ウサギ647二次抗体とDAPI(in vitroジェン社)で核染色した。染色していない細胞及び免疫染色した細胞を両方とも、Nikon Ti Eclipse倒立蛍光顕微鏡で撮影した。
【0141】
臨床患者からの循環腫瘍細胞(CTC)の捕捉及び放出。長庚記念病院(桃園県林口)、台北退役軍人総合病院(台湾台北市)、及び国立台湾大学病院(台湾台北市)の乳がん、大腸がん(CRC)、頭頸部扁平上皮がん(HNSCC)、及び尿路上皮がん患者から末梢血及び組織サンプルを得た。外科的切除又は針生検で得た組織を、氷冷DMEM培地中で保存し、外科的切除後直ちに移植した。各患者から合計2mLの全血サンプルをエチレンジアミン四酢酸(EDTA)Vacutainer(登録商標)管(BD Biosciences)で採取し、CTC捕捉プラットフォームでCTCの捕捉と放出に使用した。
【0142】
本発明の培養用プラットフォーム上でのスフェロイド形成。本発明の培養用プラットフォーム上での培養に使用する細胞サンプルを懸濁培地に採取する。各ウェルに細胞懸濁培地を加える。細胞は、加湿した5%CO2雰囲気の37℃インキュベーターで培養することができる。週に1~2回、培地の半分を交換する。培養されたスフェロイド(腫瘍塊)は、細胞密度とスフェロイドサイズの必要性に応じて、本発明の培養用プラットフォームで2週間超維持することが可能である。
【0143】
統計解析。全ての統計解析は、GraphPad Prismソフトウェア(バージョン6.0c, カリフォルニア州ラホヤ)を用いて行った。統計解析にはStudent's t-testを行い、2つのグループ間の統計学的有意差を調べるためにp値を0.05とした。表示した結果は全て、少なくとも3回の反復実験の平均値±SEMで示した。
【国際調査報告】