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特表2024-535524ナチュラルキラー細胞の活性向上用組成物
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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公表特許公報(A)
(11)【公表番号】
(43)【公表日】2024-09-30
(54)【発明の名称】ナチュラルキラー細胞の活性向上用組成物
(51)【国際特許分類】
   A61K 38/10 20060101AFI20240920BHJP
   A61P 35/00 20060101ALI20240920BHJP
   A61P 35/04 20060101ALI20240920BHJP
   A61K 31/7088 20060101ALI20240920BHJP
   C07K 7/08 20060101ALI20240920BHJP
   C12N 15/11 20060101ALI20240920BHJP
【FI】
A61K38/10
A61P35/00
A61P35/04
A61K31/7088
C07K7/08 ZNA
C12N15/11 Z
【審査請求】有
【予備審査請求】未請求
(21)【出願番号】P 2024520824
(86)(22)【出願日】2022-10-05
(85)【翻訳文提出日】2024-04-04
(86)【国際出願番号】 KR2022014996
(87)【国際公開番号】W WO2023059064
(87)【国際公開日】2023-04-13
(31)【優先権主張番号】10-2021-0131745
(32)【優先日】2021-10-05
(33)【優先権主張国・地域又は機関】KR
(81)【指定国・地域】
(71)【出願人】
【識別番号】524258303
【氏名又は名称】インゲニウム、セラピューティクス
【氏名又は名称原語表記】Ingenium Therapeutics
(74)【代理人】
【識別番号】100120031
【弁理士】
【氏名又は名称】宮嶋 学
(74)【代理人】
【識別番号】100120617
【弁理士】
【氏名又は名称】浅野 真理
(74)【代理人】
【識別番号】100126099
【弁理士】
【氏名又は名称】反町 洋
(72)【発明者】
【氏名】チェ、インピョ
(72)【発明者】
【氏名】ジョン、ヘヨン
(72)【発明者】
【氏名】キム、ハンナ
(72)【発明者】
【氏名】ユン、ソクラン
(72)【発明者】
【氏名】ビョン、ジェウン
【テーマコード(参考)】
4C084
4C086
4H045
【Fターム(参考)】
4C084AA02
4C084BA01
4C084BA08
4C084BA18
4C084CA59
4C084NA14
4C084ZB261
4C084ZB262
4C086AA01
4C086AA02
4C086EA16
4C086MA01
4C086MA04
4C086NA14
4C086ZB26
4H045AA10
4H045AA30
4H045BA16
4H045EA20
4H045FA10
(57)【要約】
本発明は、ナチュラルキラー細胞の活性を向上させるための組成物に関するものであって、配列番号1のアミノ酸配列を有するペプチドを有効成分として含むナチュラルキラー細胞の活性向上用組成物を提供する。本発明の配列番号1のアミノ酸配列を有するペプチドは、ナチュラルキラー細胞の細胞殺傷能を増加させるだけでなく、TGF-βによって増加した同族殺害を減少させ、さらにナチュラルキラー細胞の癌細胞に対する感度を向上までさせるところ、配列番号1のアミノ酸配列を有するペプチドは、抗癌剤または抗癌補助剤の有効成分として有用に用いられることができる。
【特許請求の範囲】
【請求項1】
配列番号1のアミノ酸配列を有するペプチドまたはこれを暗号化するポリヌクレオチドを有効成分として含む、ナチュラルキラー細胞の活性向上用組成物。
【請求項2】
前記ペプチドは、TGF-βの発現または活性を抑制するものである、請求項1に記載のナチュラルキラー細胞の活性向上用組成物。
【請求項3】
前記ペプチドは、ナチュラルキラー細胞の細胞殺傷能を向上させるものである、請求項2に記載のナチュラルキラー細胞の活性向上用組成物。
【請求項4】
前記ペプチドは、ナチュラルキラー細胞の同族殺害(fratricide)の活性を減少させるものである、請求項2に記載のナチュラルキラー細胞の活性向上用組成物。
【請求項5】
前記組成物は、抗癌剤または抗癌補助剤である、請求項1に記載のナチュラルキラー細胞の活性向上用組成物。
【請求項6】
前記癌は、固形癌または転移癌である、請求項5に記載のナチュラルキラー細胞の活性向上用組成物。
【請求項7】
配列番号1のアミノ酸配列からなるペプチドまたはこれを暗号化するポリヌクレオチドを有効成分として含む、癌の予防または治療用薬学的組成物。
【請求項8】
前記ペプチドは、前記癌におけるTGF-βの発現または活性を抑制するものである、請求項7に記載の癌の予防または治療用薬学的組成物。
【請求項9】
前記ペプチドは、前記癌の癌細胞に対するナチュラルキラー細胞の感度(susceptibility)を向上させるものである、請求項7に記載の癌の予防または治療用薬学的組成物。
【請求項10】
前記癌は、TGF-βが過発現または過活性化されたものである、請求項7に記載の癌の予防または治療用薬学的組成物。
【請求項11】
配列番号1のアミノ酸配列を有するペプチドまたはこれを暗号化するポリヌクレオチドを処理したナチュラルキラー細胞を含む、癌の予防または治療用細胞治療剤。
【請求項12】
配列番号1のアミノ酸配列を有するペプチドまたはこれを暗号化するポリヌクレオチドをナチュラルキラー細胞に処理する段階を含む、ナチュラルキラー細胞の活性向上方法。
【請求項13】
配列番号1のアミノ酸配列からなるペプチドまたはこれを暗号化するポリヌクレオチドを有効成分として含む癌の予防または治療用薬学的組成物を、対象(subject)に投与する段階を含む、癌治療方法。
【請求項14】
次の段階を含む癌治療方法:
(a)配列番号1のアミノ酸配列からなるペプチドまたはこれを暗号化するポリヌクレオチドをナチュラルキラー細胞に処理する段階と、
(b)前記(a)段階のナチュラルキラー細胞を対象(subject)に投与する段階。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、ナチュラルキラー細胞の活性を向上させるための組成物に関するものであって、より具体的には、TGF-βによる低下したナチュラルキラー細胞の活性を回復させるための組成物に関するものである。
【背景技術】
【0002】
ナチュラルキラー細胞(natural killer cell、NK cell)は、骨髄、リンパ節、末梢血液に存在するリンパ球であって、全リンパ球の約10~15%を占める。表現型としてはCD3陰性、CD56陽性であることが特徴であり、癌細胞またはウイルス感染細胞を殺傷することができる能力を備えた免疫細胞として、先天性免疫応答に重要な役割を担っている。ナチュラルキラー細胞は、特定の抗原の刺激を伴うことなく、細胞表面の受容体とそれに対応する標的細胞リガンドとの相互作用により機能が調節され、これらの受容体は、大きく活性化受容体と抑制性受容体とに区分される。ナチュラルキラー細胞に活性化シグナルを伝達し、ナチュラルキラー細胞の機能を調節する活性受容体には、代表的にNKp30、NKp44、NKp46などのようなNCRs(natural cytotoxicity receptors)、NKG2Dなどが広く知られている。活性化されたナチュラルキラー細胞は、多様な顆粒(granule)を合成し、細胞外に分泌して標的細胞を破壊することができる。顆粒に含まれている代表的なタンパク質のうち、パーフォリン(Perforin)とグランザイム(Granzyme)は、標的細胞を破壊することに主要な役割をする。パーフォリンは、標的細胞の細胞膜上で集合して複合体を形成し、細胞膜に孔を開けて細胞の溶解を引き起こし、グランザイムは、細胞に生成された孔を通して細胞内に入ってカスパーゼ(caspase)を活性化させるだけでなく、多様なメカニズムを介して細胞枯死(cell death)を誘導する。また、ナチュラルキラー細胞はFasL、TRAILのようなデスリガンド(death ligand)を用いて癌細胞の死受容体(death receptor)と結合することによって癌細胞のアポトーシスを誘導する。この受容体の結合は、癌細胞内のカスパーゼ-8、カスパーゼ-10を活性化させ、これによってカスパーゼ-3、カスパーゼ-7が活性化され、結果的にアポトーシスが起こるようになる。
【0003】
このような特性によりナチュラルキラー細胞を抗癌治療に適用してきた。しかし、成功的なほとんどの治療は、血液癌に局限され、固形癌では、その効果が微々たるものであった。固形癌の治療では、一旦ナチュラルキラー細胞が固形癌の組織内に移動して浸透することから難しい。それだけでなく、癌組織に入り込んだとしても、癌組織が有している免疫抑制性微小環境のために適切な抗癌効果を示すことができない。
【0004】
一方、TGF-βは、免疫抑制活性を有するサイトカインであり、T細胞やナチュラルキラー細胞の抗癌活性を阻害する。特に、固形癌ではTGF-βが生産され分泌され、癌の微小環境内の免疫機能を抑制することによって、癌組織の成長に役立つ。転移される癌におけるTGF-β分泌は、癌の予後不良と密接な関係がある。実際に、TGF-β産生やシグナル伝達を阻害すると、ナチュラルキラー細胞の抗癌活性が向上される。TGF-βは、ナチュラルキラー細胞のIFN-γの産生を阻害し、CD16による殺傷能を阻害する。
【0005】
そこで、TGF-βによって抑制されたナチュラルキラー細胞の活性回復や固形癌または転移癌に対する抗癌免疫活性を向上させるための成分の研究及び開発が必要であることが実情である。
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
本発明の目的は、ナチュラルキラー細胞の活性を向上させることができる組成物を提供することである。
【課題を解決するための手段】
【0007】
前記の目的を達成するために、本発明は配列番号1のアミノ酸配列を有するペプチドまたはこれを暗号化するポリヌクレオチドを有効成分として含むナチュラルキラー細胞の活性向上用組成物を提供する。
【0008】
また、本発明は、配列番号1のアミノ酸配列を有するペプチドまたはこれを暗号化するポリヌクレオチドを有効成分として含む癌の予防または治療用薬学的組成物を提供する。
【0009】
また、本発明は、配列番号1のアミノ酸配列を有するペプチドまたはこれを暗号化するポリヌクレオチドを処理したナチュラルキラー細胞を含む癌の予防または治療用細胞治療剤を提供する。
【0010】
また、本発明は、配列番号1のアミノ酸配列を有するペプチドまたはこれを暗号化するポリヌクレオチドをナチュラルキラー細胞に処理する段階を含むナチュラルキラー細胞の活性向上方法を提供する。
【0011】
また、本発明は、配列番号1のアミノ酸配列を有するペプチドまたはこれを暗号化するポリヌクレオチドを含む癌の予防または治療用薬学的組成物を治療が必要な対象に投与する段階を含む癌治療方法を提供する。
【0012】
また、本発明は、(a)配列番号1のアミノ酸配列からなるペプチドまたはこれを暗号化するポリヌクレオチドをナチュラルキラー細胞に処理する段階;および(b)前記(a)段階のナチュラルキラー細胞を対象(subject)に投与する段階;を含む癌治療方法を提供する。
【0013】
また、本発明は、配列番号1のアミノ酸配列からなるペプチドまたはこれを暗号化するポリヌクレオチドを有効成分として含む癌の予防または治療用薬学的組成物;およびナチュラルキラー細胞を、対象(subject)に投与する段階を含む癌の治療方法を提供する。
【発明の効果】
【0014】
本発明の配列番号1のアミノ酸配列を有するペプチドは、ナチュラルキラー細胞の細胞殺傷能を増加させるだけでなく、TGF-βによって増加した同族殺害を減少させ、さらにはナチュラルキラー細胞の癌細胞に対する感度の向上までさせるところ、本発明の前記ペプチドは、抗癌剤または抗癌補助剤の有効成分として有用に用いられることができる。
【図面の簡単な説明】
【0015】
図1】TGF-βによって減少したNK92細胞の細胞殺傷能が、配列番号1のアミノ酸配列からなるペプチドの処理によって回復されることを確認した結果を示すものである。A、BおよびCは、前記ペプチドがナチュラルキラー細胞において効果を示す原理を概略的に説明する図である。B、CおよびDは、それぞれ肺癌細胞株H460、肺癌細胞株H3122および血液癌細胞株K562に対するNK92細胞の細胞殺傷能を測定した実験結果を示すものである。
図2】TGF-βによって減少したプライマリーNK細胞の細胞殺傷能が、配列番号1のアミノ酸配列からなるペプチドの処理によって回復することを確認した結果を示すものである。A、BおよびCは、それぞれ肺癌細胞株H460、肺癌細胞株H3122および血液癌細胞株K562に対するプライマリーNK細胞の細胞殺傷能を測定した実験結果を示すものである。
図3】TGF-βを処理した肺癌細胞株H460に対するNK92の殺傷能の減少および配列番号1のアミノ酸を有するペプチドにより低下した感度の回復を示す図である。Aは、肺癌細胞株H460細胞にTGF-βを処理した後、NK92細胞殺傷能の試験を概略的に示した説明図である。Bは、TGF-βをH460細胞に処理すると、NK92の殺傷能が半分以下に減少し、減少した殺傷能が前記ペプチドによって回復することを示すものである。
図4】TGF-βによってナチュラルキラー細胞間の同族殺害(fratricide)が増加したこと、および配列番号1のアミノ酸を有するペプチドによって同族殺害が減少したことを確認した結果を示すものである。Aは、TGF-βを添加して反応させたNK92を標的細胞としてナチュラルキラー細胞の同族殺害が減少する効果を概略的に説明したものである。BおよびCは、それぞれNK92とプライマリーNK細胞がTGF-βに反応したNK-92細胞に対する同族殺害の増強および前記ペプチドによって同族殺害が減少することを示すものである。
図5】配列番号1のアミノ酸を有するペプチドによって肺癌細胞におけるTGF-βの発現が抑制されることを示す図である。Aは、前記ペプチドが肺癌細胞株H460細胞におけるTGF-βの発現を減少する効果を説明したものである。Bは、前記ペプチドによってH460細胞におけるTGF-βの発現が減少することを示すものである。
図6】前記ペプチドが動物モデルにおけるB16F10黒色腫の肺転移を抑制することを示すものである。
【発明を実施するための形態】
【0016】
以下、本発明を詳細に説明する。
【0017】
本発明の一側面は、ナチュラルキラー細胞の活性向上用組成物を提供する。
【0018】
本発明の前記ナチュラルキラー細胞の活性向上用組成物は、配列番号1のアミノ酸配列またはその機能的等価物を有するペプチド、または前記ペプチドを暗号化するポリヌクレオチドを有効成分として含む。
【0019】
前記ペプチドは、配列番号1のアミノ酸配列またはその機能的等価物を含むものであってもよく、前記配列番号1のアミノ酸配列またはその機能的等価物のみからなるものであってもよい。前記ペプチドの機能的等価物は、前記配列番号1のアミノ酸配列を構成する13個のアミノ酸のうちの一部または全部が別のアミノ酸に置換されるか、前記13個のアミノ酸のうちの一部が欠失されるか、前記13個のアミノ酸に少なくとも1つのアミノ酸が付加されるか、または前記13個のアミノ酸のうちの一部または全部が修飾(modification)されたものであって、前記配列番号1のアミノ酸配列を有するペプチドの活性を有するものであってもよい。前記アミノ酸の置換は、保存的置換であってもよく、例えば、脂肪族非荷電アミノ酸(Gly、Ala、Val、Leu、Ile)間の相互置換、親水性非荷電アミノ酸(Ser、Thr、Asn、Gln)間の相互置換、芳香族アミノ酸(Phe、Tyr、Trp)間の相互置換、酸性アミノ酸(Asp、Glu)間の相互置換、塩基性アミノ酸(His、Lys、Arg)間の相互置換、非極性非荷電アミノ酸(Cys、Met、Pro)間の相互置換などであってもよい。前記アミノ酸の欠失または付加は、例えば、前記配列番号1のアミノ酸配列を有するペプチドの活性に影響を及ぼさない部分でも、直接関与しない部分でも起こり得、特にアミノ酸の付加は、前記配列番号1のアミノ酸配列のN-末端またはC-末端はもちろん、前記配列番号1のアミノ酸配列の間に少なくとも1つのアミノ酸が挿入されていてもよい。また、前記アミノ酸の修飾(modification)は、前記配列番号1のアミノ酸配列を構成する13個のアミノ酸のうちの一部または全部にリン酸化、アセチル化、メチル化、グリコシル化等が生じていてもよい。場合によっては、前記機能的等価物は、前記配列番号1のアミノ酸配列と60%以上の相同性、65%以上、70%以上、75%以上、80%または85%以上、例えば、90%以上の相同性を有するものであってもよい。
【0020】
前記ポリヌクレオチドは、前記ペプチドを暗号化するものであってもよく、例えば、配列番号2の塩基配列またはそれと等価の塩基配列を有するものであってもよい。前記等価の塩基配列は、前記配列番号2の塩基配列とは異なるが、暗号化するペプチドの配列が、配列番号2の塩基配列と同じものであることを意味する。場合によっては、前記等価の塩基配列は、前記配列番号2の塩基配列と60%以上の相同性、70%以上、80%以上または90%以上、例えば、95%以上の相同性を有するものであってもよい。
【0021】
前記ポリヌクレオチドは、ベクターに含まれたものであってもよい。前記ベクターは、自己複製可能であることが好ましく、さらに前記ポリヌクレオチドを発現させることができることがより好ましく、例えば、プラスミド、コスミド、ファージなどであってもよい。
【0022】
また、前記ポリヌクレオチドが含まれたベクターは、宿主細胞内に形質転換されたものであってもよい。前記宿主細胞は、前記ベクターに含まれた前記ポリヌクレオチドから前記配列番号1のアミノ酸配列またはその等価物を有するペプチドを発現させることができることが好ましく、さらに前記のように発現されたペプチドを細胞外に分泌することができることがより好ましい。
【0023】
前記ナチュラルキラー細胞は、先天性免疫系の主成分を構成する細胞傷害性リンパ球であって、大型顆粒リンパ球(large granular lymphocyte、LGL)と定義され、先天性免疫系と適応免疫系において重要な役割を担う。前記ナチュラルキラー細胞は、成熟したナチュラルキラー細胞のみならず、ナチュラルキラー前駆細胞を含むことができる。また、前記ナチュラルキラー細胞は哺乳動物由来であってもよく、前記哺乳動物はヒト、サル、ヤギ、ヒツジ、ラット、マウスなどであってもよく、特に、ヒト、サル、またはマウスであってもよい。
前記ナチュラルキラー細胞の活性は、癌細胞またはウイルスに感染した細胞などのような標的細胞に対する殺傷能、ナチュラルキラー細胞の脱顆粒現象またはナチュラルキラー細胞の活性化受容体が刺激されたり、抑制性受容体が非活性化されたりすることができ、このとき、前記活性化受容体は、NKG2D、2B4、DNAM-1、NCRsなどであってもよく、前記抑制性受容体PD-1、LAG-3、TIM-3などであってもよい。
【0024】
前記ナチュラルキラー細胞の活性が向上するということは、ナチュラルキラー細胞の標的細胞に対する細胞殺傷能(cytotoxicity)の増加、同族殺害(fratricide)の減少、標的細胞に対する感度(sensitivity)の向上などを意味することができる。前記ナチュラルキラー細胞の細胞殺傷能の増加は、標的細胞を殺す(cell death)ことに関与するパーフォリン、グランザイム、インターフェロンなどの物質の発現や分泌が増加するものであってもよく、または前記のような物質が含まれた顆粒(granule)の脱顆粒化が増加するものであることができる。特に、前記パーフォリンは、パーフォリン-1、パーフォリン-2などであってもよく、前記グランザイムは、グランザイムA、グランザイムB、グランザイムH、グランザイムK、グランザイムMなどであってもよく、前記インターフェロンは、インターフェロン-α、インターフェロン-β、インターフェロン-κ、インターフェロン-ωなどのような1型インターフェロンや、インターフェロン-γのような2型インターフェロン、またはインターフェロン-L1のような3型インターフェロンであってもよい。また、前記同族殺害は、ナチュラルキラー細胞が相互間に細胞殺傷能を示すこと、すなわち、ナチュラルキラー細胞自体がエフェクター細胞(effector cell)であると同時に標的細胞(target cell)として作用する現象を意味することができる。前記ナチュラルキラー細胞間の同族殺害は、TGF-βによって増加することができ、前記ナチュラルキラー細胞の同族殺害の減少は、ナチュラルキラー細胞が別のナチュラルキラー細胞を標的細胞として認識する程度が減少することを意味する。また、前記ナチュラルキラー細胞の標的細胞に対する感度の向上は、ナチュラルキラー細胞が標的細胞をより容易に認識することができるようになることを意味する。
【0025】
本発明の具体的な実施例では、配列番号1のアミノ酸配列からなるペプチドの処理によって、TGF-βによって低下したNK92またはプライマリーナチュラルキラー細胞の肺癌細胞株および血液癌細胞株に対する細胞殺傷能が回復され(図1および図2参照)、TGF-βによって低下したNK92またはプライマリーナチュラルキラー細胞の肺癌細胞株に対する感度が回復される一方(図3参照)、TGF-βによって増加したナチュラルキラー細胞間の同族殺害が減少することが確認されたところ(図4参照)、本発明の配列番号1のアミノ酸配列またはその機能的等価物を有するペプチドまたは前記ペプチドを暗号化するポリヌクレオチドがナチュラルキラー細胞の活性を向上させるための有効成分として用いられることができる。
【0026】
したがって、本発明の他の側面は、上述した本発明の配列番号1のアミノ酸配列を有するペプチドまたはこれを暗号化するポリヌクレオチドをナチュラルキラー細胞に処理する段階を含むナチュラルキラー細胞の活性向上方法を提供する。
【0027】
一方、前記ナチュラルキラー細胞の活性向上用組成物は、抗癌剤または抗癌補助剤として用いられることができる。したがって、本発明のまた他の側面は、癌の予防または治療用薬学的組成物を提供し、前記癌の予防または治療用薬学的組成物は、配列番号1のアミノ酸配列またはその機能的等価物を有するペプチド、または前記ペプチドを暗号化するポリヌクレオチドを有効成分として含むことができる。
【0028】
本発明の具体的な実施例では、黒色腫細胞が移植された動物モデルにおいて、配列番号1のアミノ酸配列からなるペプチドを投与した場合、陰性対照群に比べて肺に転移される癌の結節(nodule)数が減少することが確認されたところ(図6参照)、本発明の配列番号1のアミノ酸配列またはその機能的等価物を有するペプチド、または前記ペプチドを暗号化するポリヌクレオチドが癌の予防または治療のための有効成分として用いられることができる。
【0029】
前記癌は、一般的に非制御細胞成長の特徴を有する哺乳動物における生理学的状態を意味し、細胞の正常な分裂、分化およびアポトーシスの制御機能に問題が発生し、異常に過剰増殖して周囲組織及び臓器に浸潤して塊を形成し、既存の構造を破壊したり変形させたりする状態を意味する。前記癌は、固形癌または転移癌であってもよく、例えば、結腸癌および直腸癌を含む大腸癌、乳癌、子宮癌、子宮頸癌、卵巣癌、前立腺癌、脳腫瘍、頭頸部癌、黒色腫、骨髄腫、白血病、リンパ腫、胃癌、肺癌、膵臓癌、肝臓癌、食道癌、小腸癌、肛門付近癌、卵管癌、子宮内膜癌、膣癌、陰門癌、ホジキン病、膀胱癌、腎臓癌、尿管癌、腎細胞癌、腎盂癌、骨癌、皮膚癌、頭部癌、頸部癌、皮膚黒色腫、眼内黒色腫、腺内分泌細胞癌、甲状腺癌、副甲状腺の癌、副腎癌、軟組織肉腫、尿道癌、陰茎癌、中枢神経系(central nervous system; CNS)腫瘍、プライマリーCNSリンパ腫、脊髄腫瘍、脳幹神経膠腫、下垂体腺腫などであってもよく、特に前記のような種類の癌のうち、TGF-βが過剰発現もしくは過剰活性化されたものであってもよい。
【0030】
前記予防は、癌の発生や進行を抑制または遅延させる全ての行為を意味し、前記治療は、癌細胞が死滅するだけでなく、癌細胞の成長の減少、再発の減少、癌細胞に対する免疫系抗癌活性および免疫記憶形成または癌細胞の浸潤の減少など、癌細胞がそれ以上悪化しないあらゆる効果を意味し、これに限定されるものではない。
【0031】
前記組成物は、配列番号1のアミノ酸配列またはその機能的等価物を有するペプチド、または前記ペプチドを暗号化するポリヌクレオチドに加えて、抗癌活性を示す他の有効成分をさらに含むことができる。
【0032】
また、前記組成物は、前記のような有効成分に加えて、薬学的に許容可能な担体(carrier)または添加剤をさらに含むことができる。前記「薬学的に許容可能な」との意味は、有効成分の活性を抑制せず、且つ適用(処方)対象が適応可能な以上の毒性を有さないという意味である。前記担体は、細胞または組織内への化合物の付加を容易にする化合物として定義される。
【0033】
本発明の前記配列番号1のアミノ酸配列またはその機能的等価物を有するペプチド、または前記ペプチドを暗号化するポリヌクレオチドは、単独でまたは任意の便利な担体などと共に混合して投与することができ、このような投与剤形は、単回投与または反復投与剤形であってもよい。前記組成物は固形製剤または液状製剤であってもよい。固形製剤は、散剤、顆粒剤、錠剤、カプセル剤、坐剤などがあるが、これらに限定されるものではない。固形製剤には、担体、着香剤、結合剤、防腐剤、崩壊剤、滑沢剤、充填剤などが含まれることができるが、これらに限定されるものではない。液状製剤としては、水、プロピレングリコール溶液のような溶液剤、懸濁液剤、乳剤などがあるが、これらに限定されるものではなく、適当な着色剤、着香剤、安定化剤、粘性化剤などを添加して製造することができる。例えば、散剤は、本発明の有効成分である配列番号1のアミノ酸配列またはその機能的等価物を有するペプチド、または前記ペプチドを暗号化するポリヌクレオチドと乳糖、澱粉、微結晶セルロースなどの薬剤学的に許容可能な好適な担体を単純混合することによって製造されることができる。顆粒剤は、本発明の前記配列番号1のアミノ酸配列またはその機能的等価物を有するペプチド、または前記ペプチドを暗号化するポリヌクレオチド、薬学的に許容可能な担体およびポリビニルピロリドン、ヒドロキシプロピルセルロース等の薬学的に許容可能な適当な結合剤を混合した後、水、エタノール、イソプロパノール等の溶媒を用いた湿式顆粒法または圧縮力を用いた乾式顆粒法を用いて製造されることができる。また錠剤は、前記顆粒剤をステアリン酸マグネシウムなどの薬学的に許容可能な適当な滑沢剤と混合した後、打錠機を用いて打錠することによって製造されることができる。
【0034】
本発明の前記配列番号1のアミノ酸配列またはその機能的等価物を有するペプチド、または前記ペプチドを暗号化するポリヌクレオチドは、治療すべき疾患及び個体の状態に応じて経口剤、注射剤(例えば、筋肉注射、腹腔注射、静脈注射、注入(infusion)、皮下注射、インプラント)、吸入剤、鼻腔投与剤、膣剤、直腸投与剤、舌下剤、経皮剤、局所剤などで投与されることができるが、これらに限定されるものではない。投与経路によって通常使用され、非毒性である、薬学的に許容可能な運搬体、添加剤、ビヒクルを含む適当な投与ユニット剤形に製剤化され得る。
【0035】
前記組成物は、毎日約0.0001mg/kg~約10g/kgを投与することができ、約0.001mg/kg~約1g/kgの1日用量で投与することができる。しかし、前記投与量は、前記混合物の錠剤程度、患者の状態(年齢、性別、体重など)、治療している状態の深刻性などに応じて多様にすることができる。必要に応じて便利性のために1日の総投与量を1日数回に分けて投与することができる。
【0036】
また、本発明のまた他の側面は、配列番号1のアミノ酸配列を有するペプチドまたはこれを暗号化するポリヌクレオチドを処理したナチュラルキラー細胞を含む癌の予防または治療用細胞治療剤を提供する。
【0037】
用語「細胞治療剤(cellular therapeutic agent)」とは、個体から分離、培養及び特殊な操作を通じて製造された細胞及び組織で治療、診断及び予防の目的で使用される医薬品(米国FDA規定)であって、細胞または組織の機能を復元させるために生きている自家(autologous)、同種(allogenic)、異種(xenogenic)細胞を体外で増殖選別したり、他の方法で細胞の生物学的特性を変化させるなどの一連の行為を通じて治療、診断及び予防の目的で用いられる医薬品を意味する。
【0038】
本発明では、癌の治療のために用いられる治療剤を意味し、上述した配列番号1のアミノ酸配列を有するペプチドまたはこれを暗号化するポリヌクレオチドを処理し、癌細胞に対する殺傷力が増大したナチュラルキラー細胞を有効成分として含むと、癌の治療及び予防のための細胞治療剤として活用することができる。
【0039】
また、本発明のまた他の側面は、上述した本発明の配列番号1のアミノ酸配列からなるペプチドまたはこれを暗号化するポリヌクレオチドを有効成分として含む癌の予防または治療用薬学的組成物を、対象(subject)に投与する段階を含む癌治療方法を提供する。
【0040】
また、本発明のまた他の側面は、次の段階を含む癌治療方法を提供する:
(a)上述した本発明の配列番号1のアミノ酸配列からなるペプチドまたはこれを暗号化するポリヌクレオチドをナチュラルキラー細胞に処理する段階;および
(b)前記(a)段階のナチュラルキラー細胞を対象(subject)に投与する段階。
【0041】
本発明の方法は、本発明のペプチドまたはこれを暗号化するポリヌクレオチドを処理し、癌細胞に対する殺傷力が増大したナチュラルキラー細胞を用いるため、重複した内容は本明細書の過度な複雑性を回避するためにその記載を省略する。
【実施例
【0042】
以下、本発明を実施例によって詳細に説明する。
ただし、下記実施例は、本発明を具体的に例示するものであり、本発明の内容が下記実施例によって限定されない。
【0043】
[実施例1]
[1-1]NK92細胞培養
NK92細胞は、ATCC培養条件に従って、12.5%のFBS(Fetal Bovine Serum、Corning、united states origin、35-015-CV)と12.5%のウマ血清(Gibco)を添加したα-MEM(Welgene)培養液に0.2mMミオイノシトール、0.1mMの2-メルカプトエタノール、0.02mM葉酸、1%の抗生剤-抗真菌剤(antibiotics-antimycotic、Gibco)とIL-2サイトカイン(Peprotech)20ng/ml濃度で添加して培養液として用いており、5%のCOが供給される37℃のCO培養器(water jacketed incubator、Thermo electron corporation)で培養した。
細胞は、1×10 cell/mLの濃度でT-75フラスコ(Thermo)に20~30ml程度で培養し、2~3日おきに1000rpmで5分間遠心分離機(Beckman Coulter)で遠心分離し、上澄み液を除去した後、培養液を交換した。
【0044】
[1-2]プライマリー(primary)NK細胞培養
病院から寄付を受けた臍帯血(IRB承認番号P01-201610-31-002)に血液1ml当たり2ulずつRosettesep Human CD3 depletion cocktail(STEMCELL technologies、catalog #15621)を添加して20分間反応させた。15mlずつ分注したフィコール(GE healthcare、Ficoll-paque premium)に反応させた血液を35mlずつ徐々に上げる。このとき、血液とフィコール層が混じらないように注意しなければならない。血液における細胞層を分離するために2000rpm、Decel 0条件で25分間遠心分離機(Beckman Coulter)で遠心分離し、血液から赤血球およびCD3細胞を分離排出する。CD3が分離された細胞をACKバッファー10mlで10分間反応させて残存する赤血球を除去した後、2%のFBSが添加されたPBS(phosphate-buffered saline)を用いて2回洗浄を行った。洗浄は1500rpm、5分間遠心分離機(Beckman Coulter)で遠心分離し、上澄み液を除去する方式で進めた。こうして得られた細胞を用いてナチュラルキラー細胞で培養を行った。
ナチュラルキラー細胞の培養条件は、10%のFBS(Corning、united states origin、35-015-CV)を添加したalpha-MEM(Welgene)に10ng/ml IL-15(Peprotech)、10ng/ml IL-21(Peprotech)、10-6Mヒドロコルチゾン(Hydrocortisone、Peprotech)と1%の抗生剤-抗真菌剤(antibiotics-antimycotic、Gibco)を追加して培養した。細胞培養濃度は2x10 cell/mlの濃度で6ウェルプレートに培養し、2~3日おきに1200rpm、5分間遠心分離機(Beckman Coulter)で遠心分離し、上澄み液を除去した後、培養液を交換した。
NK細胞の分化程度は、3日おきにFACSCanto II(BD Biosciences)フローサイトメトリーにより確認した。FACSフローサイトメトリー分析は、FACSチューブ(Falcon)に2×10細胞を分注し、FBSが添加されたPBS(FACSバッファー)で1500rpm、3分間遠心分離機(Beckman Coulter)で遠心分離し、洗浄をしてあげてから上澄液を除去した後、再び100ulのFACSバッファーを添加して進めた。CD56 APC(BD)抗体とCD3 PE(BD)抗体をそれぞれ1ulずつ添加した後、4℃で20分間染色した後、FACSバッファーを500ulずつ追加して、1500rpm、3分間遠心分離機(Beckman Coulter)で遠心分離して洗浄した。上澄み液を除去した後、200ulのFACSバッファーを添加し、FACSCanto II(BD Biosciences)で分析を行った。
培養7~9日目CD56分化度が90%程度確認されており、分化が確認されたプライマリーナチュラルキラー細胞(primary NK cell)を用いて実験を進めた。
【0045】
[1-3]肺癌細胞株H460、H3122細胞培養
殺傷能試験において標的細胞株として肺癌細胞株H460、H3122を培養して用いた。H460、H3122細胞は、ATCC培養条件に従って、10%のFBS(Corning、united states origin、35-015-CV)が添加されたRPMI(Welgene)培養液に1%の抗生剤-抗真菌剤(antibiotics-antimycotic、Gibco)を追加した培養液を用いており、5%のCOが供給される37℃のCO培養器(water jacketed CO incubator、Thermo electron corporation)で培養した。細胞は2x10 cell/mlの濃度で100mm×20mm細胞培養皿(corning)に10ml程度で培養した。2~3日おきに細胞観察および培養液交換をしてあげ、H460、H3122の培養液を交換する際、上澄み液を全て除去し、0.025%のTrysin-EDTA(Gibco)2mlで3分間37℃で反応させた後、接着細胞を剥離して1000rpm、5分間遠心分離機(Beckman Coulter)で遠心分離し、新しい培養液で交換した。
【0046】
[1-4]血液癌細胞株K562細胞培養
殺傷能試験において、標的細胞株として血液癌細胞株K562を培養して用いた。K562細胞は、ATCC培養条件に従って、10%のFBS(Fetal Bovine Serum、Corning、united states origin、35-015-CV)が添加されたRPMI(Welgene)培養液に1%の抗生剤-抗真菌剤(antibiotics-antimycotic、Gibco)を追加した培養液を用いており、5%のCOが供給される37℃のCO培養器(water jacketed CO incubator、Thermo electron corporation)で培養した。細胞は2x10 cell/mlの濃度で75T Flask(corning)に20ml程度で培養した。2~3日おきに培養液を交換した。
【0047】
[1-5]配列番号1のアミノ酸配列を有するペプチドの準備
併せて、配列番号1の13個のアミノ酸からなるペプチドを(株)ペプトロン(Peptron、Daejeon、Korea)に依頼して合成し、これを以下の実験にて用いた。
【0048】
[実施例2]
TGFにより低下したナチュラルキラー細胞の細胞殺傷能(cytotoxicity)の回復
前記実施例[1-5]にて準備したペプチドが、TGF-βにより低下したナチュラルキラー細胞の細胞殺傷能に如何なる影響を及ぼすのかを確認した。
【0049】
[2-1]エフェクター細胞(effector cell)の準備
これのために、まず1x10 cell/mlのNK92細胞またはプライマリーNK細胞に前記実施例[1-5]のペプチド20μMまたはTGF-βシグナル阻害剤であるSB431542 5μMの濃度でそれぞれ添加し、37℃で2時間それぞれ培養した後、10ng/mlのTGF-βを添加し、再び同一条件で24時間それぞれ培養した。その後、前記実施例[1-5]のペプチド(20μMまたはSB431542 5μMを添加し、37℃で2時間培養した後、再び10ng/mlのTGF-βを添加し、同一条件下で24時間それぞれ培養した。前記のように培養されたNK92細胞とプライマリーNK細胞を殺傷能試験のエフェクター細胞(effector cell)として用いた。
【0050】
[2-2]標的細胞(target cell)の準備
一方、細胞殺傷能を評価するための標的細胞(target cell)としては、肺癌細胞株であるH460、H3122細胞と血液癌細胞株であるK562をそれぞれ用いた。1x10 cells/mlのH460、H3122およびK562細胞株それぞれを、5ulのカルセイン-AM(calcein-AM、invitrogen)が添加された培養液で37℃で1時間培養して染色した後、1000rpmで5分間遠心分離して洗浄した。
【0051】
[2-3]細胞殺傷能の評価
前記実施例[2-2]にてカルセイン-AMで染色された各々の標的細胞を96ウェルプレートに分注し、前記実施例[2-1]にて準備したエフェクター細胞を処理した。このとき、エフェクター細胞としてNK92細胞が用いられる場合には、エフェクター細胞と標的細胞との比率(E:T比)が20:1になるように処理し、エフェクター細胞としてプライマリーNK細胞が用いられる場合には、E:T比が10:1になるように処理し、37℃で4時間培養した。前記のように培養した培養物を100rcfで5分間遠心分離して上澄み液を分離し、これを96ウェル黒色プレートに100ulずつ分注した後、ELISAアッセイを行った(蛍光480nm/530nm、SpectraMax i3x Molecular Device)。
その結果、図1に示すように、3種の標的細胞の全部に対して、TGF-βによってNK92細胞の細胞殺傷能が低下したが、前記実施例[1-5]のペプチドやSB431542によってNK92細胞の細胞殺傷能が再び回復することが確認された。併せて、前記のような実施例[1-5]のペプチドによるナチュラルキラー細胞の細胞殺傷能の回復効果は、NK92細胞だけでなく、図2に示すようにプライマリーNK細胞においても同様に確認された。
【0052】
[実施例3]
TGFによって低下した癌細胞に対するナチュラルキラー細胞の感度の回復
前記実施例[1-5]にて準備したペプチドが、TGF-βにより低下した癌細胞に対するナチュラルキラー細胞の感度にどのような影響を及ぼすのかを確認した。
これのために、先に1x10 cell/mlのH460肺癌細胞株に前記実施例[1-5]のペプチド20μMまたはTGF-βシグナル阻害剤であるSB431542を5μMの濃度でそれぞれ添加して37℃で2時間それぞれ培養した後、10ng/mlのTGF-βを添加し、再び同一条件で24時間それぞれ培養した。その次に、前記実施例[1-5]のペプチド20μMまたはSB431542 5μMを添加し、37℃で2時間培養した後、再び10ng/mlのTGF-βを添加し、同一条件で24時間それぞれ培養した。前記のように培養したH460細胞1x10 cells/mlを、5ulのカルセイン-AM(calcein-AM、invitrogen)が添加された培養液で37℃で1時間培養して染色した後、1000rpmで5分間遠心分離して洗浄し、「標的」細胞として準備した。
前記のように、カルセイン-AMで染色された各々の標的細胞を96ウェルプレートに分注し、何も処理していない(fresh)NK92細胞をエフェクター細胞として用いて、E:T比が20:1になるように処理し、37℃で4時間培養した。前記のように培養した培養物を100rcfで5分間遠心分離して上澄み液を分離し、これを96ウェル黒色プレートに100ulずつ分注した後、ELISAアッセイを行った(蛍光480nm/530nm、SpectraMax i3x Molecular Device)。
その結果、図3に示すように、TGF-βが処理されたH460細胞に対してはナチュラルキラー細胞が十分な細胞殺傷能を示さなかったが、前記実施例[1-5]のペプチドやSB431542が処理されたH460細胞に対しては、ナチュラルキラー細胞の細胞殺傷能が再び回復することが確認された。
【0053】
[実施例4]
ナチュラルキラー細胞の同族殺害(fratricide)の抑制
TGF-βがナチュラルキラー細胞間の同族殺害(fratricide)にどのような影響を及ぼすのか、さらには前記実施例[1-5]にて準備したペプチドがナチュラルキラー細胞間の同族殺害にどのような影響を及ぼすのかを確認した。
これのために、前記実施例[2-1]と同様の方法で培養した1x10 cells/mlのNK92細胞を、5ulのカルセイン-AM(calcein-AM、invitrogen)が添加された培養液で37℃で1時間培養して染色した後、1000rpmで5分間遠心分離して洗浄し、「標的」細胞として準備した。前記のようにカルセイン-AMで染色された各々の標的細胞を96ウェルプレートに分注し、何も処理していない(fresh)NK92細胞またはプライマリーNK細胞をエフェクター細胞として用いて、前記実施例[2-3]と同様に、20:1または10:1の比率で処理し、37℃で4時間培養した。前記のように培養した培養物を100rcfで5分間遠心分離して上澄み液を分離し、これを96ウェル黒色プレートに100ulずつ分注した後、ELISAアッセイを行った(蛍光480nm/530nm、SpectraMax i3x Molecular Device)。
その結果、図4に示すように、TGF-βが処理されたNK92細胞に対してはナチュラルキラー細胞の同族殺害活性が非常に高いことが確認されたが、前記実施例[1-5]のペプチドやSB431542によってナチュラルキラー細胞の同族殺害活性が著しく減少することが確認された。
【0054】
[実施例5]
癌細胞におけるTGF-β発現の抑制
前記実施例[1-5]にて準備したペプチドが、癌細胞におけるTGF-βの発現にどのような影響を及ぼすのかを確認した。
これのために、2x10 cell/mlの肺癌細胞株H460を2時間培養して安定化させた後、前記実施例[1-5]のペプチドをそれぞれ5μM、10μMおよび20μMの濃度で処理するか、またはSB431542を5μMの濃度で処理し、37℃で24時間培養し、再び前記実施例[1-5]のペプチドまたはSB431542を同じ濃度で処理した後、37℃で24時間培養した。前記のように培養した培養物を100rcfで5分間遠心分離し、上澄液とペレットを分離し、このうち上澄み液を96-ウェル黒色プレートに100ulずつ分注した後、ELISAアッセイを行い(吸光450nm、SpectraMax i3x Molecular Device)TGF-βの分泌量を測定した。
その結果、図5に示すように、前記実施例[1-5]のペプチドが処理された濃度に依存的にH460細胞から分泌されるTGF-βの量が減少することが確認された。
【0055】
[実施例6]
動物モデルにおける抗癌効果
前記実施例[1-5]にて準備したペプチドの抗癌効果をインビボ(in vivo)にて確認するために、24ヶ月齢のC57BL6Jマウスに25mg/kgの前記実施例[1-5]のペプチドを1週間おきに4週間4回腹腔内投与した。その後、前記マウス1匹当たり4×10個のB16F10黒色腫を尾静脈へ投与し、肺に転移された癌の結節(nodule)の個数を数えて抗癌効果を確認した。
その結果、図6に示すように、前記実施例[1-5]のペプチドが投与されたマウスの肺からは陰性対照群に比べて結節の数が著しく減少したことが確認された。
以上、本発明の好ましい実施例を例示的に説明したが、本発明の範囲は前記のような特定の実施例にのみ限定されず、当該分野で通常の知識を有する者であれば、本発明の請求の範囲に記載された範疇内で適宜に変更が可能であろう。
図1
図2
図3
図4
図5
図6
【配列表】
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【国際調査報告】