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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公表特許公報(A)
(11)【公表番号】
(43)【公表日】2024-09-30
(54)【発明の名称】電解槽システムおよび電極製造方法
(51)【国際特許分類】
   C25B 1/04 20210101AFI20240920BHJP
   C25B 9/23 20210101ALI20240920BHJP
   C25B 9/77 20210101ALI20240920BHJP
   C25B 9/00 20210101ALI20240920BHJP
   C25B 1/01 20210101ALI20240920BHJP
   C25B 9/75 20210101ALI20240920BHJP
   C25B 11/031 20210101ALI20240920BHJP
   C25B 11/081 20210101ALI20240920BHJP
   C25B 11/089 20210101ALI20240920BHJP
   C25D 7/00 20060101ALI20240920BHJP
   C25D 5/48 20060101ALI20240920BHJP
   C25D 5/24 20060101ALI20240920BHJP
   C25B 11/061 20210101ALN20240920BHJP
   C25B 11/052 20210101ALN20240920BHJP
   C25B 11/054 20210101ALN20240920BHJP
【FI】
C25B1/04
C25B9/23
C25B9/77
C25B9/00 A
C25B1/01 Z
C25B9/00 Z
C25B9/75
C25B11/031
C25B11/081
C25B11/089
C25D7/00 G
C25D5/48
C25D5/24
C25B11/061
C25B11/052
C25B11/054
【審査請求】未請求
【予備審査請求】未請求
(21)【出願番号】P 2024541595
(86)(22)【出願日】2022-07-18
(85)【翻訳文提出日】2024-03-21
(86)【国際出願番号】 SG2022050503
(87)【国際公開番号】W WO2023003509
(87)【国際公開日】2023-01-26
(31)【優先権主張番号】10202108014T
(32)【優先日】2021-07-22
(33)【優先権主張国・地域又は機関】SG
(81)【指定国・地域】
(71)【出願人】
【識別番号】524108846
【氏名又は名称】サングリーンエイチ2 プライベート リミテッド
(74)【代理人】
【識別番号】110000659
【氏名又は名称】弁理士法人広江アソシエイツ特許事務所
(72)【発明者】
【氏名】マシュディ パナ,サイード
【テーマコード(参考)】
4K011
4K021
4K024
【Fターム(参考)】
4K011AA06
4K011AA11
4K011AA22
4K011AA30
4K011AA48
4K011BA07
4K011BA08
4K011DA01
4K011DA11
4K021AA01
4K021AA09
4K021BA02
4K021BC01
4K021BC07
4K021CA07
4K021CA08
4K021CA09
4K021DB04
4K021DB15
4K021DB16
4K021DB18
4K021DB31
4K021DB36
4K021DB43
4K021DB53
4K021DC01
4K021DC03
4K021DC15
4K024AA14
4K024BA01
4K024BA02
4K024BA03
4K024BA04
4K024BA07
4K024BA08
4K024BB09
4K024BB28
4K024BC02
4K024CA01
4K024CA07
4K024CB05
4K024DB10
4K024GA16
(57)【要約】
電解槽システムおよび電極製造方法。電解槽システムは、電解槽スタックと連通している第1の容器と、電源と、電極と、セパレータと、膜と、電解槽スタックと連通している第2の槽とを備えることができる。電極は、触媒材料ならびにミクロ多孔質構造および/またはナノ多孔質構造を有することができる。電極製造方法は、基板を用意することと、基板を酸性溶液に接触させることと、基板に電流を印加することと、粗面化材料を含む担持材料および主材料を基板上に同時に堆積させることと、粗面化材料に浸出処理を施すことと、を含むことができる。
【選択図】図1
【特許請求の範囲】
【請求項1】
溶液を電気分解するためのシステムであって、
・少なくとも一種の触媒材料を含む化合物、および
・ミクロ多孔質構造、
を有する少なくとも一つの電極と、
少なくとも一つのセパレータと、
を含む少なくとも一つの電解槽スタックに連通している第1の容器、ならびに
前記少なくとも一つの電解槽スタックに連通している第2の容器、
を備える、システム。
【請求項2】
前記少なくとも一種の触媒材料がPGMを含む、請求項1に記載のシステム。
【請求項3】
前記少なくとも一種の触媒材料がニッケルを含む、請求項1または2に記載のシステム。
【請求項4】
前記少なくとも一種の触媒材料がコバルトを含む、請求項1から3のいずれか一項に記載のシステム。
【請求項5】
少なくとも一つの膜をさらに含む、請求項1から4のいずれか一項に記載のシステム。
【請求項6】
前記少なくとも一つの電極が、粗面化材料をさらに含む、請求項1から5のいずれか一項に記載のシステム。
【請求項7】
前記粗面化材料がアルミニウムを含む、請求項6に記載のシステム。
【請求項8】
前記少なくとも一つの電極が、ナノ多孔質構造をさらに含む、請求項1から7のいずれか一項に記載のシステム。
【請求項9】
前記少なくとも一つの電極が、少なくとも一種のドープ剤をさらに含む、請求項1から8のいずれか一項に記載のシステム。
【請求項10】
溶液中で水を分解するための方法であって、
少なくとも一種の窒素化合物を含む溶液を少なくとも一つの電解槽スタックへ通過させることと、
・少なくとも一種の触媒材料、および
・ミクロ多孔質構造、
を有する少なくとも一つの電極に前記溶液を接触させることと、
前記溶液中の水分子を分解して水素ガス、ならびに窒素ガスおよび酸素ガスを生成することと、
前記酸素ガスまたは前記窒素ガスと前記水素ガスとを分離することと、
前記少なくとも一つの電解槽スタックから前記水素ガスを排出することと、
前記水素ガスを捕集することと、
を含む方法。
【請求項11】
前記電極に電流を印加することをさらに含む、請求項10に記載の方法。
【請求項12】
電極を製造する方法であって、
基板を用意することと、
前記基板を洗浄することと、
前記基板を酸性溶液に接触させることと、
前記基板に電流を印加することと、
前記基板を乾燥またはすすぐことと、
粗面化材料を含む少なくとも一種の担持材料および少なくとも一種の主材料を前記基板上に同時に堆積させることと、
前記基板上に堆積された前記少なくとも一つの粗面化材料に浸出処理を施すことと、
を含む方法。
【請求項13】
前記主材料がニッケルを含む、請求項12に記載の方法。
【請求項14】
前記主材料がPGMを含む、請求項12または13に記載の方法。
【請求項15】
前記主材料がコバルトを含む、請求項12から14のいずれか一項に記載の方法。
【請求項16】
前記少なくとも一種の担持材料がアルミニウムを含む、請求項12から16のいずれか一項に記載の方法。
【請求項17】
前記少なくとも一種の担持材料がドープ剤を含む、請求項12から17のいずれか一項に記載の方法。
【請求項18】
前記少なくとも一種の材料を堆積させることが物理的堆積を含む、請求項12から17のいずれか一項に記載の方法。
【請求項19】
前記少なくとも一種の材料を堆積させることが化学的堆積を含む、請求項12から18のいずれか一項に記載の方法。
【請求項20】
基板と、
前記基板に接触している多孔質構造であって、
・主材料、
・担持材料、および
・前記担持材料の原子を受容するのに十分な直径を有する細孔、
を有する多孔質構造と、
ドープ剤と、
を備える、電極。
【請求項21】
前記多孔質構造がミクロ孔を含む、請求項20に記載の電極。
【請求項22】
前記多孔質構造がナノ孔を含む、請求項20または21に記載の電極。
【請求項23】
前記主材料および前記担持材料が、前記基板の重量の少なくとも25%を占める、請求項20から22のいずれか一項に記載の電極。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
関連出願の相互参照
本出願は、2021年7月22日に出願された「Novel SunGreenH2 Electrolyser System(新規SunGreenH2電解槽システム)」と題するシンガポール特許出願第10202108014T号の出願の優先権および利益を主張するものであり、その明細書、特許請求の範囲および図面は、参照により本明細書に組み込まれる。
【0002】
本発明の実施形態は、アノード、カソード、および/または、アノードとカソードとを分離するイオン交換膜を用いてガス状水素を生成する電解槽システムに関する。電解槽システムは、太陽エネルギー、風力、水力、バイオエネルギーおよび地熱エネルギー等の再生可能エネルギー源によって動力が与えられる。
【背景技術】
【0003】
水素は、主要なエネルギー分野全体の持続可能性および排出削減に関するあらゆる議論の重要な部分である。多くの工業プロセスの原料およびプロセスガスであることに加えて、水素は輸送用途のための燃料代替物として浮上している。したがって、再生可能な水素資源は生産能力の増大が求められている。水の低温電気分解は、現在、カーボンフリーな水素生成の最も成熟した方法であり、エネルギー地形に影響を与える関連規模に達しつつある。しかしながら、水の低温電気分解のコストは水素製造の従来の供給源で経済性を図るには依然として削減が必要である。低コストの再生可能エネルギー源が利用できれば運転コストの削減が可能になり、材料および製造の最適化を伴う資本コストの大幅な削減の可能性が存在する。
【0004】
電解槽システムによる水素生成に関する課題としては、電解槽システムの安定性および電極材料の高コストが挙げられる。白金族金属(PGM:platinum group metals)系触媒の電極触媒活性の向上を目指した研究の取り組みが進められている。他の研究の取り組みとしては、PGM担持量の低減や、非PGM電極触媒を開発することによるPGMの完全な削減が挙げられる。必要とされているのは、水素を製造するための電力負荷を低減し、電極材料の効力を維持または増加させながら電極材料のコストを低減する方法である。
【発明の概要】
【課題を解決するための手段】
【0005】
本発明のシステムおよび方法は、水素を製造するための電解槽システム、および電解槽システムを用いて水素を製造するための方法に関する。具体的には、本発明のシステムおよび方法は、溶液を電気分解するためのシステムであって、少なくとも一種の触媒材料を含む化合物およびミクロ多孔質構造を有する少なくとも一つの電極と少なくとも一つのセパレータとを含む少なくとも一つの電解槽スタックに連通している第1の容器ならびに少なくとも一つの電解槽スタックに連通している第2の容器を含む、システムに関する。
【0006】
別の実施形態では、少なくとも一種の触媒材料はPGMを含む。別の実施形態では、少なくとも一種の触媒材料は鉄を含む。別の実施形態では、電解槽システムは、少なくとも一つの膜をさらに含む。別の実施形態では、少なくとも一つの電極は、さらに、粗面化(scarifying)材料を含む。別の実施形態では、粗面化材料はアルミニウムを含む。別の実施形態では、少なくとも一つの電極は、ナノ多孔質構造をさらに含む。別の実施形態では、少なくとも一つの電極は、少なくとも一種のドープ剤をさらに含む。
【0007】
一実施形態では、本発明の方法は、溶液中で水を分解する方法であって、少なくとも一種の窒素化合物を含む溶液を少なくとも一つの電解槽スタックへ通過させることと、少なくとも一種の触媒材料およびミクロ多孔質構造を含む少なくとも一つの電極に溶液を接触させることと、溶液中の水分子を分解して水素ガスと窒素ガスまたは酸素ガスとを生成することと、酸素ガスまたは窒素ガスと水素ガスとを分離することと、少なくとも一つの電解槽スタックから水素ガスを排出することと、水素ガスを捕集することと、を含む方法に関する。別の実施形態では、本方法は、電極に電流を印加することをさらに含む。
【0008】
一実施形態では、本発明の方法は、電極を製造するための方法であって、基板を用意することと、基板を洗浄することと、基板を酸性溶液に接触させることと、基板に電流を印加することと、基板を乾燥またはすすぐことと、粗面化材料を含む少なくとも一種の担持材料および少なくとも一種の主材料を基板上に同時に堆積させることと、基板上に堆積した少なくとも一つの粗面化材料に浸出処理を施すことと、を含む方法に関する。別の実施形態では、主材料はニッケルを含む。別の実施形態では、担持材料はアルミニウムを含む。別の実施形態では、担持材料はドープ剤を含む。別の実施形態では、少なくとも一種の材料を堆積させることは、物理的堆積を含む。
別の実施形態では、少なくとも一種の材料を堆積させることは、化学的堆積を含む。
【0009】
一実施形態では、本発明のシステムは、電極を製造するための方法に関し、電極は、基板と、基板に接触する多孔質構造と、を含み、多孔質構造は、主材料と、担持材料と、担持材料の原子およびドープ剤を受容するのに十分な直径を有する細孔と、を含む。別の実施形態では、多孔質構造はミクロ孔を含む。別の実施形態では、多孔質構造はナノ孔を含む。別の実施形態において、主材料および担持材料は、基板の重量の少なくとも25%を占める。
【0010】
本発明の目的、利点および新規な特徴ならびにさらなる適用範囲は、添付の図面と併せて以下の詳細な説明に部分的に記載され、以下を検討することによって当業者には部分的には明らかになり、または本発明の実施によって習得され得る。本発明の目的および利点は、添付の特許請求の範囲において特に指摘される手段および組合せによって実現および達成され得る。
【図面の簡単な説明】
【0011】
本明細書に組み込まれ、本明細書の一部を形成する添付の図面は、本発明の一つ以上の実施形態を示し、説明と共に、本発明の原理を説明するのに役立つ。図面は、本発明の一つ以上の実施形態を例示するためのものにすぎず、本発明を限定するものとして解釈されるべきではない。以下の図面において、
【0012】
図1】電解槽システムの一実施形態を示す図である。
【0013】
図2】電解槽スタックの一実施形態を示す図である。
【0014】
図3】単一セルイオン交換電解槽の一実施形態を示す図である。
【0015】
図4】バイポーラプレートの一実施形態を示す図である。
【0016】
図5A】印加磁場を有する電解槽セルの一実施形態を示す図である。
【0017】
図5B図5Aに示す電解槽セルにおける電流の流れおよび磁場の方向を示すグラフである。
【0018】
図6A】光電気化学システムの配置の一実施形態を示す図である。
【0019】
図6B】光電気化学システムの配置の一実施形態を示す図である。
【0020】
図7】スパッタリングまたは電気めっきを使用する電極製造の一実施形態のプロセスフロー図である。
【0021】
図8】電極製造の一実施形態のプロセスフロー図である。
【0022】
図9】本発明の新規な膜電極接合体(「MEA:membrane electrode assembly」)の初期性能および電流密度を市販のMEAと比較して示す一連のグラフである。
【0023】
図10】本発明の新規MEAの初期性能および長期安定性を市販のMEAと比較して示す一連のグラフである。
【0024】
図11】カソードおよびアノードからの材料の粗面化および/または浸出処理の選択的エッチングの影響を示す一連のグラフである。
【0025】
図12】カソードおよびアノードを熱処理することの影響を示す一連のグラフである。
【0026】
図13】カソードおよび/またはアノードから材料を粗面化および/または浸出処理を施すことによって形成されたミクロ多孔質構造を示す一連の写真である。
【0027】
図14】窒素支援電解槽の長期安定性を示すグラフである。
【発明を実施するための形態】
【0028】
発明の詳細な説明
本発明は、バイポーラプレートと、集電体と、セパレータと、触媒材料およびミクロ多孔質構造を有する電極と、MEA/イオン交換膜と、を備え得る電解槽システムである。
【0029】
「金属(metal)」または「複数種の金属(metals)」という用語は、本明細書、特許請求の範囲、および図面において、金属原子を含む化合物、混合物、または物質として定義される。「金属(metal)」または「複数種の金属(metals)」という用語は、金属水酸化物、金属酸化物、金属塩、元素金属、金属イオン、非イオン性金属、鉱物、またはそれらの組合せを含むが、これらに限定されない。
【0030】
「触媒」または「触媒材料」という用語は、本明細書、特許請求の範囲、および図面において互換的に使用されるものとする。「セパレータ」および「バイポーラプレート」という用語は、本明細書、特許請求の範囲、および図面において互換的に使用されるものとする。
【0031】
「浸出処理」という用語は、本明細書および特許請求の範囲において、材料から1種または複数種の金属を放出、抽出、遊離、または除去するために使用されるプロセスとして定義される。
【0032】
「ミクロ多孔質」または「ミクロ構造」という用語は、本明細書、特許請求の範囲、および図面において、材料の少なくとも一部が直径1ミリメートル未満の細孔を含む材料として定義される。
【0033】
「ナノ多孔質」または「ナノ構造」という用語は、本明細書、特許請求の範囲、および図面において、材料の少なくとも一部が直径1ミクロン未満の細孔を含む材料として定義される。
【0034】
「タンク」または「容器」という用語は、本明細書、特許請求の範囲、および図面において、互換的に使用され、ホルダ、チャンバ、コンテナ、レセプタクル、および/または流体を収容することができる他の物体として定義される。この用語は、ホルダ、チャンバ、コンテナ、レセプタクル、および/または適切な規模もしくは材料のその他の物体を包含するものとする。例えば、それらは、商業規模の水の電気分解のための大型の耐酸性タンクまたは容器を含むことができる。
【0035】
「白金族金属」という用語は、白金、パラジウム、ロジウム、ルテニウム、イリジウム、オスミウム、またはそれらの組合せを含むが、これらに限定されない。
【0036】
本電解槽システムは、従来の電解装置に比べて低い電圧で、水を水素と酸素に、または窒素化合物を水素と窒素に分解することができる。本電解槽システムは、従来の電解槽と比べてより高い電極効率またはMEA効率および長期安定性を有し得る。
【0037】
本電解槽システムは、PGMの必要性を低減しつつ高いセル電流密度を達成することができる。特に、本電解槽システムでは、PEM技術を使用する従来の電解槽に比べて必要なPGMが減り、AEMおよびAE技術を使用する従来の電解槽に比べてPGMを必要としない。
【0038】
窒素支援水素生成を用いる電解槽システムは、酸素が発生しないため、OガスとHガスとの混合によって引き起こされる爆発の危険性がない。窒素支援水素生成を用いる電解槽システムの性能安定性は、従来の水分解系と比べて特に長期運転において高くなり得る。窒素のアノードにおけるアノード反応を酸素で置換することにより、電解槽システムをより低い電圧またはゼロ電圧で動作することが可能になり、酸素の存在に起因するアノードの酸化および腐食が回避され、すなわち酸素発生の代わりに窒素が発生する。窒素支援水素生成を使用する電解槽システムは、水素を発生させるために水を使用する電解槽システムに比べてより高い安定性の範囲(例えば、性能の変化を伴いつつも少なくとも100時間にわたる連続運転)を有し得る。
【0039】
ここで図面を参照すると、図1は、電解槽システム10を示す。水タンク12は、電解槽スタック16の正電荷端18に水流14を供給することができる。電解槽スタック16は、正電荷端18および負電荷端22に接続された電源20によって動力が与えられ得る。電子は、電解槽スタック16内の経路24に沿って流れることができ、水を酸素分子と水素分子に分解することができる。酸素は流出26によって電解槽スタック16から出ていくことができ、水素は流出28によって電解槽スタック16から出ていくことができる。水素は、水素貯蔵タンク30に捕集することができる。
【0040】
図2は、単一の電解槽セル42の分解図を用いて電解槽スタック16を示す。個々の電解槽セルは、コネクタ32によってスタック内に一緒に保持することができる。単一の電解槽セル34は、セパレータおよび/またはバイポーラプレート36の間に少なくとも部分的に配置された電極38を含むことができる。膜40は、電極38の間に少なくとも部分的に配置することができる。水素27および酸素25は、セパレータおよび/またはバイポーラプレート36で生成することができ、単一の電解槽セル34の両端で単一の電解槽セル34から出ていくことができる。
【0041】
図3は、単一セルイオン交換電解槽42を示す。膜40は、ガスケット52の間に少なくとも部分的に配置することができる。膜40は、イオン交換膜56、酸素発生反応(「OER:oxygen evolution reaction」)触媒58、および水素発生反応(「HER:hydrogen evolution reaction」)触媒60を含むことができる。OER触媒58およびHER触媒60は、ガス拡散層(「GDL:gas diffusion layer」)を含むことができる。イオン交換膜56は、OER触媒58とHER触媒60との間に少なくとも部分的に配置することができる。ガスケット52は、フローフィールドプレート50の間に少なくとも部分的に配置することができる。フローフィールドプレート50は、セパレータおよび/またはバイポーラプレート36の間に少なくとも部分的に配置することができる。セパレータおよび/またはバイポーラプレート36は、エンドプレート49および集電体48を含むことができる。単一セルイオン交換電解槽42は、アノードセル44を含むことができる。アノードセル44は、セパレータおよび/またはバイポーラプレート36、フローフィールドプレート50、ガスケット52およびOER触媒58を含むことができる。単一セルイオン交換電解槽42は、カソードセル46を含むことができる。カソードセル46は、セパレータおよび/またはバイポーラプレート36、フローフィールドプレート50、ガスケット52、およびHER触媒60を含むことができる。図4は、単一セルイオン交換電解槽42の構成要素であり得るサーペンタイン型チャネルパターン62を有するセパレータおよび/またはバイポーラプレートの一実施形態を示す。
【0042】
図5Aおよび図5Bは、印加磁場を有する電気分解セル64と、印加磁場を有する電解槽セル64における電流の流れおよび磁場を示すグラフとを示す。セルアセンブリ65は、磁場のS極側端部66と磁場のN極側端部68との間に少なくとも部分的に配置することができる。セルアセンブリ65は、セパレータおよび/またはバイポーラプレート36、電極38、および膜40を含むことができる。必要に応じて、電極38は、後に多孔質輸送体に置き換えられてもよく、および/または、膜40は、触媒とGDLと電極38とを含むMEAに置き換えられてもよい。磁場69は、セパレータおよび/もしくはバイポーラプレート36ならびに/または電極38に印加することができる。磁場は磁場のS極側端部66および磁場のN極側端部68に平行に印加することができ、磁場に垂直に電流を印加することができる。電流は、セルアセンブリ65の構成要素のうちの少なくとも一つの両端に流れてもよく、および/または、それを経由して流れてもよい。
【0043】
図6Aおよび図6Bは、電極配置の光電気化学システム70および光電気化学システム78を示す。光電気化学システム70は、光アノード72とソーラーパネル76との間に少なくとも部分的に配置された光カソード74を含む。光電気化学システム78は、光カソード74とソーラーパネル76との間に少なくとも部分的に配置された光アノード72を含む。ソーラーパネル76は、日射を電力に変換し、光アノード72に、および/または、光カソード74の間に電圧を供給することができる。必要に応じて、光アノード72および/または光カソード74は、日射を直接受けることによって電子流を生成してもよい。
【0044】
図7はスパッタリングまたは電気めっきを用いた電極製造の一実施形態を示す。スパッタリングによる製造方法80では、洗浄工程82によって基板を前処理してもよい。洗浄工程82は、脱脂および/または脱酸を含むことができる。次いで、電流を印加することによって基板に電気化学的活性化84を行うことができる。活性化された基板を乾燥86させ、続けて主材料および担持材料を含む化合物のスパッタリング88を行うことができる。担持材料は、粗面化材料を含むことができる。主材料および担持材料に、浸出処理90を施すことができる。必要に応じて、主材料にドープ剤を導入するために、粗面化された(scarified)化合物にドーピング92を行ってもよい。粗面化された化合物を有する基板に、熱処理94を施してもよい。
【0045】
電気めっき法96では、洗浄工程82によって基板を前処理することができる。洗浄工程82は、脱脂および/または脱酸を含むことができる。次いで、電流を印加することによって基板に電気化学的活性化84を行うことができる。活性化された基板に、主材料および担持材料を含む化合物の電気めっき98を施すことができる。担持材料は、粗面化材料を含むことができる。主材料および担持材料に、浸出処理90を施すことができる。必要に応じて、主材料にドープ剤を導入するために、粗面化された(scarified)化合物にドーピング92を行ってもよい。粗面化された化合物を有する基板に、熱処理94を施してもよい。
【0046】
図8に、電極製造方法100を示す。電極基板に化学的および電気化学的前処理102を施した後、第1の材料堆積104を行うことができる。次いで、基板に第1の熱処理106を施した後、第1の試薬洗浄108および第2の試薬洗浄110を行うことができる。水は、蒸留水および/または精製水を含み得る。次いで、基板に酸洗浄122を実施した後、第3の試薬洗浄114を行うことができる。次いで、基板に電気化学的活性化116を実施した後、第4の試薬洗浄118を行うことができる。次いで、基板を乾燥させ120、第2の材料堆積122を行うことができる。次いで、堆積した材料を有する基板に選択的エッチングおよび/または浸出処理124を施した後、第5の試薬洗浄126および第2の熱処理128を施すことができる。洗浄工程のいずれかにおける試薬は、イソプロピルアルコール、蒸留水、精製水、アセトン、エタノール、またはそれらの組合せを含み得る。
【0047】
図9に、本発明のMEAと市販のMEAの初期性能および安定性データを比較する一連のグラフを示す。結果は、本発明のMEAが、市販のMEAと比べてより低い印加電圧で同じ電流密度を達成し得ることを実証している。この結果はまた、本発明のMEAが市販のMEAと比べて向上した長期安定性を有することを実証している。
【0048】
図10に、本発明の新規な電極の初期性能および電流密度を市販の電極と比較して示す一連のグラフを示す。グラフは、陽イオン交換膜を組み込んだ市販のMEAの初期性能および安定性データを、陽イオン交換膜を組み込んだ本発明のMEAと比較している。陽イオン交換膜は、本発明のMEAおよび市販のMEAのアノード区画とカソード区画との間に少なくとも部分的に配置されている。
【0049】
図11は、カソードおよびアノードからの材料の粗面化および/または浸出処理の選択的エッチングの影響を示している。グラフは、選択的エッチングまたは浸出処理を施していないカソードおよび選択的エッチングまたは浸出処理を施したカソードの性能を示す。選択的エッチングまたは浸出処理を施したカソードは、選択的エッチングまたは浸出処理を施していないカソードと比べると、所与の電圧に対してより多くのエネルギーを保持した。グラフはまた、選択的エッチングまたは浸出処理を施していないアノードおよび選択的エッチングまたは浸出処理を施したアノードの性能を示す。選択的エッチングまたは浸出処理を施したアノードは、選択的エッチングまたは浸出処理を施していないアノードと比べると、所与の電圧に対してより多くのエネルギーを保持した。
【0050】
図12に、カソードおよびアノードの熱処理の影響を示す。グラフは、熱処理のありなしでのカソードおよびアノードの性能を示す。熱処理は、カソードおよびアノードの性能を高めた。
【0051】
図13に、カソードおよび/もしくはアノードからの材料に粗面化ならびに/または浸出処理を施すことによって形成されたミクロ多孔質構造を示す。画像系列130は、粗面化された材料および/または浸出処理を施した材料132の間に散在する細孔134を示している。画像系列130はまた、基板136に結合した触媒材料138を示している。
【0052】
図14は、1MのKOHおよび0.2MのN中の電流密度10mA・cm-2における100時間にわたる二電極ヒドラジン電解槽の長期安定性を示している。電圧は100時間にわたって安定していた。ヒドラジン電解槽システムの動作中、電圧は約0.45Vを保持していた。
【0053】
電解槽システムは、少なくとも一つの電解槽スタックを含み得る。電解槽スタックは、少なくとも一つの電解セルを含み得る。電解セルは、アノードセルおよび/またはカソードセルを含み得る。アノードセルおよび/またはカソードセルは、バイポーラプレート、フローフィールドプレート、ガスケット、電極、触媒、またはそれらの組合せを含むことができる。膜は、アノードセルとカソードセルとの間に配置することができる。バイポーラプレートは、エンドプレート、集電体、流路、またはそれらの組合せを含むことができ、溶液に溶解したガスが気体に変換するのを促進することができる。フローフィールドプレートは流動場を構成することができる。
【0054】
電解槽システムは膜を含み得る。膜は、プロトン交換膜(「PEM:proton-exchange membrane」)、陰イオン交換膜(「AEM:anion-exchange membrane」)、アルカリ電解槽(「AE:alkaline electrolyser」)スタック、またはそれらの組合せを含み得る。PEMおよび/またはAEMはPGMを含み得る。PEMおよびAEMは、イオン交換膜であり得る。電解槽システムは、ナフィオン115、ナフィオン117、ナフィオン212、パーフルオロスルホン酸膜、ポリテトラフルオロエチレン膜、クロールアルカリ膜、カルボン酸膜、またはそれらの組合せを含むがこれらに限定されない陽イオン交換膜をさらに含み得る。電解槽は、金属もしくは混合金属-金属酸化物のミクロ構造および/またはナノ構造を含む電極を用いて高いセル電流密度を達成することができる。電解槽は、カソード触媒および/またはアノード触媒を含んでもよい。カソード触媒および/またはアノード触媒はPGMを含み得る。PEM、AEM、AEスタック、電極、触媒、またはそれらの組合せを含むがこれらに限定されない電解槽システムに磁場を外部から印加することができる。電解槽システムは、水素電解槽システムであってもよい。膜は、少なくとも約0.2mg・cm-2、約0.2mg・cm-2~約3mg・cm-2、約0.4mg・cm-2~約2.5mg・cm-2、約0.6mg・cm-2~約2.0mg・cm-2、約0.8mg・cm-2~約1.5mg・cm-2、約1.0mg・cm-2~約1.2mg・cm-2、または約3mg・cm-2を有し得る。
【0055】
MEAはAEMを含み得る。MEAは結合剤を含んでもよい。結合剤は、アニオン性結合剤、カチオン性結合剤、もしくはアイオノマー結合剤、またはそれらの組合せを含み得る。結合剤は、アノードとAEMとの間に少なくとも部分的に配置されてもよい。結合剤はまた、カソードとAEMとの間に少なくとも部分的に配置されてもよい。AEMは、陰イオン交換膜および/または陽イオン交換膜を含み得る。結合剤は、AEMとアノードおよび/またはカソードとの間のイオン伝導度を、少なくとも約10%、約10%~約40%、約15%~約35%、約20%~約30%、または約40%向上することができる。結合剤は、アイオノマーを含んでもよく、アニオン性またはカチオン性を含んでもよい。結合剤は、AEMと対応するアノードまたはカソードとの間に以下の順序:
●アノード、第1の(アニオン性)結合剤、AEM、第2の(アニオン性)結合剤、カソード;
●アノード、第1の(カチオン性)結合剤、AEM、第2の(カチオン性)結合剤、カソード;
●アノード、第1の(アニオン性)結合剤、AEM、第2の(カチオン性)結合剤、カソード;もしくは
●アノード、第1の(カチオン性)結合剤、AEM、第2の(アニオン性)結合剤、カソード
のうちの1つで少なくとも部分的に配置され得る。
【0056】
MEAの膜はPEMを含み得る。PEMは、約4A・cm-2未満、約0.5A・cm-2~約4A・cm-2、約1A・cm-2~約3.5A・cm-2、約1.5A・cm-2~約3A・cm-2、約2A・cm-2~約2.5A・cm-2、または約4A・cm-2の電流密度を有し得る。カチオン性結合剤は、アノードとPEMとの間、および/またはカソードとPEMとの間に少なくとも部分的に配置されてもよい。カチオン性結合剤は、アイオノマーを含んでもよく、少なくとも約5重量%、約5重量%~約20重量%、約10重量%~約15重量%、または約20重量%のアイオノマー溶液から調製されてもよい。従来のPEM電解槽技術では、アノード触媒およびカソード触媒はPGMを含む。白金は主にカソードを作製するために使用され、イリジウムおよびルテニウムはアノードを作製するために使用される。従来のPEM電解槽技術によって使用される白金族材料の量は通例、1~3mg/cmである。PEMを含む本発明の電解槽システムは、性能を損なうことなく、少なくとも約0.01mg/cm、約0.01mg/cm~約0.1mg/cm、約0.02mg/cm~約0.09mg/cm、約0.03mg/cm~約0.08mg/cm、約0.04mg/cm~約0.07mg/cm、約0.05mg/cm~約0.06mg/cm、約0.1mg/cmのPGMを含む電極を含み得る。PEMはまた、カチオン膜および/または陽イオン交換膜を含み得る。
【0057】
電解槽システムは、水の分解に使用される光電気化学(「PEC:photoelectrochemical」)システムを含み得る。PECシステムは、透明/半透明光アノード(PA:photo-anode)、透明/半透明光カソード(PC:photo-cathode)、太陽電池(SC:solar cell)、またはそれらの組合せを含むことができる。PECシステムは、高い太陽光-水素変換効率で太陽光および水からのグリーン水素の生成を可能にすることができ、すなわち、水素ガスの収率は、PECシステムなしの電解槽およびソーラーパネルによって生成された水素の量と比較して高い。PECシステムは、導電性金属酸化物およびペロブスカイト材料などの非III-V族化合物材料を含んでもよい。
【0058】
電解槽システムは、電源としてソーラーパネルを備えてもよい。ソーラーパネルをPECシステムに組み込んで、太陽光および水からグリーン水素を直接生成することができ、太陽光-水素変換(STH:solar to hydrogen)効率が向上する。
【0059】
光アノードは、BiVO、TiO、WO、SrTiO、Fe、ZnO、またはそれらの組合せを含むがこれらに限定されないn型半導体および/またはペロブスカイト材料を含んでもよい。透明であり得るバンドギャップを有するヘテロ構造を形成するために使用されるn型半導体および/またはペロブスカイト材料。他の適合性材料もまた、高性能n型半導体を形成するために、アノード材料の堆積中に同時に堆積させてもよい。ZnOおよびTi同時に堆積させて、またはZnO、TiおよびWを同時に堆積させて高性能な混合酸化物を形成してもよい。また、光アノードに、PGM系またはNi系合金を含むがこれらに限定されないアノード触媒のナノ粒子をコーティングして光アノードの全体的な性能を改善してもよい。
【0060】
光カソードは、銅系酸化物、p型金属酸化物の合金、またはそれらの組合せを含むがこれらに限定されないp型半導体および/またはペロブスカイト材料を含むことができる。p型半導体および/またはペロブスカイト材料は、透明であり得るバンドギャップを有するヘテロ構造を形成し得る。光カソードは、PGM系またはNi系合金を含むがこれらに限定されないカソード触媒のナノ粒子でコーティングして光カソードの全体的な性能を改善してもよい。
【0061】
光電極、例えば光アノードおよび/または光カソードは、50%を超える曲線因子で14mA・cm-2を超える光電流密度を達成するように製造することができる。光電極中の材料を最適化して結晶構造を達成することができる。結晶構造には、光電極上のナノ結晶の形成が必要になる場合がある。ナノ結晶は、電極上への材料の堆積を調整することによって、例えば堆積時間、堆積時の温度、堆積時の圧力を制御することによって、反応ガスを制御することによって、またはそれらの組合せによって形成することができる。また、ナノ結晶と電極表面との間の界面を、ナノ結晶を光電極に組み入れるために最適化することができる。界面は、各材料の堆積パラメータを制御することによって、例えば、堆積時間、堆積時の温度、堆積時の圧力を制御することによって、反応ガス、堆積時の電力、ガス流量、またはそれらの組合せを制御することによって最適化することができる。界面設計により、ナノ結晶の表面形態および形状の変化を防ぐことができる。
【0062】
光アノードおよび光カソードは、その後、順次堆積を使用して互いに一体化させてもよい。一体化した光電極は、物理的および/または化学的堆積を使用して太陽電池またはソーラーパネルと直接一体化させてもよい。光電極の太陽電池またはソーラーパネルとの一体化は、残りの光電極またはソーラーコンポーネントの性能を妨げないように、各光電極またはソーラーコンポーネントの光吸収を制御することによって行うことができる。光吸収は、堆積パラメータを調整することによって材料の結晶品質および厚さを調整することによって制御することができる。
【0063】
PECシステムのSTH効率は、短絡光電流密度、水素発生のファラデー効率、および入射光力密度に依存し得る。これらのパラメータはすべて、標準的な太陽照明条件下(AM 1.5G 太陽光スペクトル)で測定する必要がある。STH効率は、式1に従って測定することができる。
【数1】

(1)
【0064】
STH効率は、熱力学ポテンシャル(Vredox)に電解電流(IWE:electrolysis current)と水素発生のファラデー効率(ηF)とを掛けて2倍し、次いで、入力光パワー(Pin、input light power)で割ることで算出することができる。
【0065】
PECシステムは非III-V族材料を使用することができ、これにより、光電流密度および水素発生に影響を及ぼすことができる一方、最大30%のSTH効率を達成することができる。30%のSTH効率は、従来のPEC技術で達成されるSTH効率の約3倍である。
【0066】
電解槽システムは、一対の電磁プレートの間に少なくとも部分的に配置された少なくとも一つの電解セルを備えることができる。一対の電磁プレートは、電解セルのスタック内の電流の流れに対して電磁的に垂直に配置することができる。電磁プレートは、準均一な磁場を生成させることができる。電磁プレートは、水素ガスの捕集を加速させることができる。水素ガスの加速は、電解槽スタックを用いた準均一磁場と電荷担体の電流の流れとの協調効果によって達成され得る。電荷担体はプロトンを含み得る。
【0067】
電解槽システムは、溶液中の窒素化合物から水素を生成することができる(窒素支援水素生成)。窒素支援水素生成は、膜電解槽(PEMまたはAEMのいずれか)、NガスおよびHガスを分離するための隔膜を含むアルカリ電解槽、膜を含まない電解槽、またはそれらの組合せにおいて起こり得る。窒素支援水素生成には、窒素化合物を電解槽と接触させることが必要になり得る。窒素および水素は、式3および式6のアノード半反応、ならびに式4および式7のカソード半反応から得られる式2または式5に従って生成され得る。
【0068】
窒素化合物は、ヒドラジン、尿素を含んでもよく、他の試薬は、電解質に溶解すると窒素に分解することができる。窒素支援水素生成は、酸素発生の代わりにアノード側(例えば、アノード)で窒素を発生させ得る。窒素発生により、電解槽システムを動作させるのに必要な全体的なセル電圧および電力を低減することができる。電解槽システム電極の表面特性を調整して、電極の電気化学的電位を変化させることができる。窒素および酸素を発生させるために窒素化合物を分解する電解槽システムは、少なくとも約10mV~約1.5V、約50mV~約1.0V、約100mV~約0.8V、約0.2V~約0.6V、または約1.5Vの印加電圧で動作することができる。窒素支援水素生成を使用する電解槽システムは、印加電圧なしで動作することができ、および/または、副産物として電気を発生させることができる。
【0069】
窒素支援水素生成を使用する電解槽システムは、電解液槽であって、ヒドラジン、尿素、電解液に溶解すると窒素に分解され得る任意の他の試薬もしくはそれらの組合せ;蒸留水;KOH、NaOH、KCOもしくはそれらの組合せを非限定的に含むアルカリ金属電解質;HSO、HCOもしくはそれらの組合せを非限定的に含む酸性電解質;またはそれらの組合せを非限定的に含む電解液槽を備えることができる。KOHは、少なくとも約1.0M、約1.0M~約5.0M、約1.5M~約4.5M、約2.0M~約4.0M、約2.5M~約3.5M、または約5.0Mの濃度であり得る。ヒドラジン、尿素、電解質に溶解すると窒素に分解され得る任意の他の試薬、またはそれらの組合せは、約0.01M以上、約0.01M~約3.0M、約0.5M~約2.5M、約1.0M~約2.0M、または約3.0Mの濃度のNまたはCO(NHであり得る。浴は、約20℃以上、約20℃~約80℃、約25℃~約75℃、約30℃~約70℃、約35℃~約65℃、約40℃~約60℃、約45℃~約55℃、または約80℃の温度で動作することができる。酸素発生反応は、閉鎖循環浴および自動投入システムを介して窒素化合物の濃度を制御することによる窒素発生反応の優位性によって防止される。HとOとの混合物によって引き起こされる爆発の危険性が取り除かれる。
【0070】
電解槽システムは、電源を備えてもよい。電源は、交流、直流、パルス電流、またはそれらの組合せを生成することができる。電源は、日射、熱エネルギー、潮流、風力、バイオエネルギー、またはそれらの組合せを含むがこれらに限定されない再生可能エネルギー源から電気エネルギーを生成することができる。電源は、電解槽システムの電解槽セルに電力、例えば電流を伝送することができる。電気エネルギーは、少なくとも1本の電線によって電源から電解槽システムに伝送することができる。
【0071】
電解槽システムは、約20℃以上、約20℃~約80℃、約30℃~約70℃、約40℃~約60℃、約80℃の温度で動作することができる。動作温度は、好ましくは約60℃であり得る。
【0072】
電解槽システムは電解質を含んでもよい。電解質は、アルカリ電解質を含んでもよい。アルカリ電解質は、リチウム(「Li」)、ナトリウム(「Na」)、カリウム(「K」)、ルビジウム(「Rb」)、セシウム(「Cs」)、フランシウム(「Fr」)、またはそれらの組合せを含むがこれらに限定されないアルカリ金属を含み得る。電解質は、これらに限定されないが、KOH、KCO、NaOH、またはそれらの組合せを含むことができる。電解質は、約0.1M以上、約0.1M~約3M、約0.5M~約2.5M、約1.0M~約2.0M、または約3.0Mの濃度であり得る。
【0073】
MEAは、一対の電極に直接接合されてもよく、および/または少なくとも部分的に一対の電極間に配置されてもよい。一対の電極は、アノードおよびカソードを含むことができる。アノードおよびカソードは、GDLと、GDLに連通する触媒と、を含んでもよい。触媒は、物理的または化学的堆積によってGDLに付着させることができる。GDLは多孔質層を含んでもよい。必要に応じて、アノードおよび/またはカソードは、アノードおよび/またはカソードの表面にコーティングされた触媒を有するGDLであってもよい。GDLは、導電性繊維、紙、発泡体、メッシュ、フェルト、またはそれらの組合せを含むことができる。GDLは、約0.1mm以上、約0.1mm~約2mm、約0.2mm~約1.6mm、約0.4mm~約1.2mm、約0.6mm~約0.8mm、または約2mmの厚さを有することができる。GDLは、約10%以上、約10%~約99%、約20%~約97%、約30%~約95%、約40%~約90%、約50%~約80%、約60%~約70%、または約99%の特定の多孔度または可変多孔度を有することができる。
【0074】
電極(例えばカソードおよび/またはアノード)、触媒は、HERおよび/またはOERのボルケーノグラフから選択することができ、電解槽システムの所望の電流密度に依存し得る。HER触媒には、Mo、Nb、W、Co、Ni、Re、Rh、Pd、Pt、Ir、Au、Ag、Fe、Ti、Ta、Tl、Cu、Bi、Cd、Ga、またはそれらの組合せが含まれ得るが、これらに限定されない。OER触媒には、Cr、Ru、Mn、Fe、Ir、Co、Rh、Ni、Pt、Cu、Pt、Ag、Zn、Au、NbOx、ReOx、VOx、CrOx、SnObx、MoOx、MnOx、PtOx、IrOx、RuOx、TiOx、NiOx、PbObx、CoOx、またはそれらの組合せが含まれ得るが、これらに限定されない。HERおよび/またはOERは、電解槽システム、電解セル、および/または電極が、1.8Vのセル電圧で、少なくとも約0.5A・cm-2以上、約0.5A・cm-2~約2A・cm-2、約0.75A・cm-2~約1.75A・cm-2、約1A・cm-2~約1.5A・cm-2、または約2A・cm-2の電流密度で動作することを可能とし得る。カソード触媒およびアノード触媒は、以下のうちの1つから選択される非PGMを含み得る。
●(Ni0.7±0.1Fe0.3±0.1αβγ、但し、α+β+γ=100%(αは≧50%であり、βおよびγは残りの50%を構成し、それぞれ0~50%の範囲内である)、XおよびYはCr、Co、Mo、W、O、S、P、Nのうちの1つから選択される。
●(Al0.5±0.1)((Ni0.7±0.1Fe0.3±0.1αβγ0.5±0.1、但し、α+β+γ=100%(αは≧50%であり、βおよびγは残りの50%を構成し、それぞれ0~50%の範囲内である)、XおよびYはCr、Co、Mo、W、O、S、P、Nのうちの1つから選択され、触媒は、アルミニウムを浸出させて細孔様構造を形成することによって活性化される。
●(Al0.5±0.1)(Ni0.7±0.1Mo0.3±0.10.5±0.1、但し、触媒はアルミニウムを浸出させて細孔様構造を形成することによって活性化され、1.8Vのセル電圧で電流密度は2A×cm-2より大きい。
【0075】
カソード触媒は、以下:
●(Al0.5±0.1)(Mo0.7±0.1Pt0.3±0.10.5±0.1、および
●Al0.7±0.1Pt0.3±0.1
から選択されるPGMを含み得る。
【0076】
アノード触媒は、以下から選択される細孔様構造を形成するためにアルミニウムを浸出させることにより活性化されたPGMを含み得る。
●(Al0.5±0.1)(IrRu0.5±0.1
●(Ni0.7±0.1Fe0.3±0.1αβγの内層であって、α+β+γ=100%(αは≧50%であり、βおよびγは残りの50%を構成し、それぞれ0~50%の範囲内である)であり、XおよびYはCr、Co、Mo、W、O、S、P、Nのうちの1つから選択される内層、ならびにAl0.7±0.1(IrOx)0.3±0.1の外層、
●(Ni0.7±0.1Fe0.3±0.1αβγの内層であって、α+β+γ=100%(αは≧50%であり、βおよびγは残りの50%を構成し、それぞれ0~50%の範囲内である)であり、XおよびYはCr、Co、Mo、W、O、S、P、Nのうちの1つから選択される内層、ならびに(Al0.5±0.1)(IrRu0.5±0.1の外層、
●(Ni0.7±0.1Fe0.3±0.1αAlβ(但し、α+β+γ=100%(αは≧50%であり、βおよびγは残りの50%を構成し、それぞれ0~50の範囲内である)。
【0077】
バイポーラプレートは、ガス流路および/または液体流路を含むことができる。ガス流路および/または液体流路は、チャネルを含むことができる。チャネルは、これらに限定されないが、サーペンタイン型、カラムピン型、または平行チャネルパターンもしくは直線チャネルパターン、またはそれらの組合せを含むことができる。バイポーラプレートは、集電体、電解質圧力・流量制御器、電気抵抗調整器、またはそれらの組合せを含むことができる。バイポーラプレートのチャネルパターンおよびこれらのプレート上への堆積材料の表面設計は、電解質圧力、電解質の流れ、および/またはバイポーラプレートの電気抵抗に影響を及ぼす可能性がある。バイポーラプレートのチャネルパターンは、規定の深さ、幅、および曲率を有することができる。
【0078】
バイポーラプレートのチャネルパターンにより、電気分解内の液体および/またはガスの管理を円滑に進めることができる。バイポーラプレートを最適化することで、ガスが電解槽システム内に捕捉されるのを防ぐことができ、電解槽システム内の電解質の流れおよび電解槽システムからのガス放出の改善をもたらすことができる。バイポーラプレートの最適化は、ガスおよび/または液体流路のパターンを変更して、ガスがバイポーラプレートおよび/または電解槽システムに捕捉されるのを防止することによって、ならびに導電性および/または耐食性材料でバイポーラプレートをコーティングして、酸化を回避するとともに電気伝導率を高めることによって行われ得る。バイポーラプレートは、ニッケル、ステンレス鋼、チタン、炭素系製品、およびアルミニウム、プラスチック、アクリル、発泡体、またはそれらの組合せを含むことができる。導電性耐食性材料は、合金であって、これらに限定されないが、金、銀、銅、アルミニウム、ニッケル、鉄、モリブデン、クロム、ニオブ、ルテニウム、ロジウム、パラジウム、オスミウム、イリジウム、白金、亜鉛、青銅、真鍮、またはそれらの組合せを含む合金を含み得る。
【0079】
電解槽システムは、スパッタリングまたは電気めっき法によって製造された電極を含んでもよい。電極は、最初に基板を前処理することによって製造することができる。基板は、ニッケル、クロム鉄、モリブデン、銅、チタン、鋼、ステンレス鋼、ニッケル-クロム合金、ニッケル-鉄合金、ニッケル-モリブデン合金、ニッケル-銅合金、チタン合金、フェルト、紙、発泡体またはそれらの組合せを含むことができるが、これらに限定されない。基板を洗浄および/または脱脂して、基板から油、グリース、および/または自然酸化物を除去することができる。基板は、超音波洗浄(18Ω×cmを超える抵抗率)および/またはNaOH、アセトン、エタノール、メタノール、イソプロピルアルコール、蒸留水もしくはそれらの組合せとの接触によって、洗浄および/または脱脂することができる。基板は、約5分間以上、約5分間~約30分間、約10分間~約25分間、約15分間~約20分間、または約30分間、少なくとも一回、洗浄および/または脱脂することができる。基板を酸と接触させることによって、基板の表面から自然酸化物を除去することができる。基板を酸性溶液に浸漬してもよい。酸は、塩酸、フッ化水素酸、硫酸、またはそれらの組合せを含み得るが、これらに限定されない。
【0080】
必要に応じて、基板を、基板から自然酸化物を少なくとも部分的に除去することができるエッチング剤と接触させてもよい。酸は、溶液中の重量濃度(w/w)で、約5%以上、約5%~約50%、約10%~約45%、約15%~約40%、約20%~約35%、約25%~約30%の濃度であり得る。酸は、約50℃以上、約50℃~約80℃、約55℃~約75℃、約60℃~約70℃、または約80℃の温度であり得る。
【0081】
基板は、基板に電流を印加することによって電気化学的に活性化することができる。印加電流密度は、約40mA/cm以上、約40mA/cm~約1000mA/cm、約80mA/cm~約900mA/cm、約100mA/cm~約800mA/cm、約200mA/cm~約700mA/cm、約300mA/cm~約600mA/cm、約400mA/cm~約500mA/cm、または約1000mA/cmであり得る。基板は、HCl浸漬、その後のアセトンおよび/もしくは脱イオン水の洗浄ならびに/またはすすぎによって活性化することができる。
【0082】
スパッタリングまたは電着を使用して、材料を基板に塗布することができる。スパッタリングを使用して材料を塗布する場合、基板を乾燥させてもよい。乾燥は窒素乾燥を含み得る。必要に応じて、乾燥は、約60℃以上、約60℃~約250℃、約80℃~約230℃、約100℃~約210℃、約120℃~約190℃、約130℃~約170℃の温度範囲内または約250℃において真空オーブンで行ってもよい。基板は完全に乾燥させてもよい。電気めっきを使用して材料を塗布する場合、基板を溶媒ですすいでもよい。溶媒は、蒸留水および/または精製水を含み得る。
【0083】
材料は、電極基板の表面上に堆積させることができる。材料は、化合物材料を含んでもよい。化合物材料は、スパッタリング、電子ビーム蒸着、またはそれらの組合せを含むがこれらに限定されない物理的堆積によって基板の表面上に堆積させてもよく、電気めっき、電気化学堆積、またはそれらの組合せを含むがこれらに限定されない化学的堆積によって基板の表面上に堆積させてもよい。化合物材料は、主材料および担持材料を含み得る。主材料は触媒を含み得る。触媒は、Ir、Pt、Ru、Re、Pd、Ni、Fe、Mo、Cr、W、Ti、Coや、Ir、Pt、Ru、Re、Pd、Ni、Fe、Mo、Cr、W、Ti、Coの合金、またはそれらの組合せを含むことができるが、これらに限定されない。化合物材料は、NiPt、NiIr、NiRu、PtIr、PtRu、IrRu、IrW、IrTi、IrPd、またはそれらの組合せを含むことができるが、これらに限定されない。担持材料は、粗面化材料およびドープ剤を含んでもよい。
【0084】
粗面化材料は、Li、Ca、Na、Al、Mg、Zn、またはそれらの組合せを含むことができるが、これらに限定されない。粗面化材料は、主触媒と比べてより低い電気化学ポテンシャルを有し得る。主材料および担持材料は、基板上に同時に堆積させてもよい。基板上に堆積される主材料および担持材料の量は、基板の重量の25%以上にすることができる。選択的エッチングによって化合物材料から粗面化材料を後で浸出させてもよい。粗面化材料を選択的にエッチングおよび/または浸出処理するために、エッチング剤またはエッチング方法を使用することができる。主材料のエッチングおよび/または無視できるエッチングが浸出処理および/または選択的エッチングプロセス中に起こり得る。主材料および粗面化材料は、物理的および/または化学的堆積方法のいずれかを使用して同時に堆積させることができる。
【0085】
主材料および粗面化材料の同時堆積は、物理的堆積法を用いる場合、材料の化合物ターゲットおよび/もしくは化合物ターゲット前駆体、または材料のマルチターゲットおよび/もしくはマルチターゲット前駆体を使用することによって行うことができる。化合物および/またはマルチターゲットは、物理的堆積方法に依存し得る。前駆体は、化合物および/またはマルチターゲット中の原子、例えばPt、Niなどであり得る。適切なターゲットまたは前駆体を選択することにより、化合物材料を基板上に堆積させる、すなわち結合させることができる。例えば、スパッタリング法により化合物材料を堆積させる場合、スパッタリングターゲットを用いてもよい。スパッタリングターゲットは、Pt、Ni、もしくはそれらの組合せを含むがこれらに限定されない単一物質、および/または、NiPt、NiMo、NiPtIr、もしくはそれらの組合せを含むがこれらに限定されない物質の組合せであってもよい。ターゲットまたは化合物ターゲットは、本方法に特有であり得る。例えば、電子ビーム蒸着を使用して基板上に化合物材料を堆積させる場合、化合物やマルチターゲットの代わりに前駆体を用いてもよい。化学的堆積法を用いて化合物材料を基板に塗布するために、混合塩化合物または化合物材料の塩を使用することができる。塩は、NiCl・6HO、FeCl・4HO、CoCl・6HO、(NHMoO、ZnCl、T/HPtCl、CoCl・6HO、Ti/IrCl・HO、ZnCl、またはそれらの組合せを含み得るが、これらに限定されない。電気化学堆積を用いて化合物材料を塗布する場合、パルス電流波を使用することができる。パルス波は、tonが、少なくとも約50μs(microseconds)、約50μs~約5000μs、約100μs~約4500μs、約200μs~約4000μs、約300μs~約3500μs、約400μs~約3000μs、約500μs~約2500μs、約600μs~約2000μs、約700μs~約1500μs、約800μs~約1000μsの範囲内、または約5000μsであり得る。また、パルス波は、toffが、少なくとも約10μs、約10μs~約1000μs、約100μs~約900μs、約200μs~約800μs、約300μs~約700μs、約400μs~約600μsの範囲内、または約1000μsであってもよい。各化合物材料を別々にそして同時に堆積させて目標組成物を達成することができる、すなわち、主材料および担持材料の基板上への同時共堆積を達成することができる。同時堆積により、従来の電極に比べて高い触媒活性を示しつつ、最大10分の1以下のPGM族材料を用いて合金および電極を形成することができる。電極の触媒活性は、活性領域の表面に関連する。粗面化材料を浸出処理および/または選択的にエッチングすると、電極内にミクロ多孔質構造および/またはナノ多孔質構造が形成される。浸出処理および/または選択的にエッチングされた粗面化材料は、化合物材料内に細孔を残す。ミクロ多孔質構造および/またはナノ多孔質構造が形成されると、触媒材料の露出表面積および/または活性領域が増大する。表面積が増大すると、電極の製造に必要な触媒材料の量を削減しつつ、電極の触媒活性が高まる。活性領域は、少なくとも約30%、約30%~約150%、約40%~約125%、約50%~約100%、約60%~約75%、または約150%増大し得る。触媒の表面積は、少なくとも約10%、約10%~約75%、約20%~約70%、約30%~約60%、約40%~約50%、または約75%増大させることができる。
【0086】
粗面化材料を浸出処理および/または選択的にエッチングすることにより、化合物材料内にミクロ孔および/またはナノ孔を形成することができる。多孔質化合物材料は、電極のミクロ多孔質構造および/またはナノ多孔質構造を形成し得る。細孔径の大きさが浸出した原子および/または選択的にエッチングされた原子を受容するのに十分であるように、ナノ多孔質構造内の細孔径は、浸出した原子および/または選択的にエッチングされた原子の幅程度であり得る。例えば、NiPtを含む化合物材料において、Ni原子がNiPt化合物から浸出処理および/または選択的にエッチングされると、ナノ孔を含むナノ多孔質構造が形成される。ナノ孔は、Ni原子を受容するのに十分な直径を有する。
【0087】
担持材料は、窒素、リン、硫黄、ホウ素、モリブデン、鉄、クロム、コバルト、銅、またはそれらの組合せを含むがこれらに限定されないドープ剤を含むことができる。担持材料は、酸窒化物、窒素および硫黄化合物、窒素およびリン化合物、窒素およびホウ素化合物、窒素およびモリブデン化合物、窒素および鉄化合物、またはそれらの組合せを含むがこれらに限定されないドーピング化合物を含むことができる。ドーピングを微量の不純物として主化合物に導入して、電極の電気的性質または電気化学ポテンシャルを含むがこれらに限定されない表面特性を変化させることができる。ドープ剤は、主材料中に微量、すなわち5%未満で存在し得る。ドープ剤は、主化合物と比較して異なる原子サイズおよび構成を有することができ、それが不純物と呼ばれる所以である。ドーピングは、化合物材料の堆積中または堆積後に行うことができる。ドープされた材料は、ドーピング材料およびその濃度に応じて、1.23V~0未満の理論的最小値と比べて低いセル電位を有し得る。セル電位を低下させることにより、セルに印加される電力を低減することができ、それにより、電解槽の全体的な効率が改善される。ドープ剤により、電解槽システムの効率を少なくとも約10%、約10%~約80%、約20%~約70%、約30%~約60%、約40%~約50%、または約80%改善することができる。
【0088】
ドープ剤を電極に加えることによって、電極表面特性が最小必要電位および/または最大効率を有するように調整することができる。スパッタリングされた化合物材料中の共堆積によって、スパッタリング中に反応性ガスを用いることによって、浸出処理および/もしくは選択的エッチング後の電気化学的および/もしくは熱化学的添加によって、またはそれらの組合せによって、ドープ剤を電極に添加することができる。共堆積法では、ドープ剤を化合物材料の他の成分と共に電極上に同時に堆積することができる。ドープ剤は、化合物材料の10%未満であり得る。反応性ガス法では、主材料の堆積と同時にドープ剤、例えば窒素を電極内に拡散させるために、アルゴンガスに対する窒素ガスの比は約30%未満であり得る。電気化学的ドーピングでは、N、P、S、および/またはBを含み得るがこれらに限定されないドープ剤を電解質溶液中に溶解/分散することができる。電解質溶液に電位を印加することによって、ドープ剤を電極および/または化合物材料に組み込むことができる。電位は、少なくとも約50mV、約50mV~約1500mV、約100mV~約1300mV、約200mV~約1100mV、約300mV~約900mV、約500mV~約700mV、または約1500mVであり得る。熱化学的ドーピングでは、化合物材料およびドープ剤は、不活性ガス充填炉内、例えばアルゴン雰囲気下で配置することができる。ドープ剤は、温度を上昇させることによって化合物材料に固定、拡散および/または添加することができる。化合物材料にドープ剤をドープするために、温度を約250℃以上、約250℃~900℃、約300℃~800℃、約400℃~700℃、約500℃~600℃、または約900℃に上げてもよい。すべての方法について、ドープされた電極を、水酸化カリウム(KOH)、酒石酸ナトリウムカリウム四水和物、またはそれらの組合せを含むがこれらに限定されない試薬によって処理した後、脱イオン水洗浄、窒素乾燥、オーブン乾燥、またはそれらの組合せにより、ミクロ多孔質構造および/またはナノ多孔質構造を形成することができる。さらに、すべての方法について、ドープ剤は、化合物材料の担持材料に埋め込まれ、ドープされ、および/または添加され得る。
【0089】
物理的エッチング(反応性イオンエッチング(RIE:reactive ion etching)および誘導結合プラズマエッチングを含むがこれらに限定されない)または化学的/電気化学的エッチングを含むがこれらに限定されない様々なタイプのエッチング法を使用して、粗面化材料に浸出処理を施すことができる。エッチングには、粗面化材料を、それを除去するための物質と接触させることが必要である。一種以上のガスを物理的エッチングにおけるエッチング剤として使用してもよい。試薬を化学的/電気化学的エッチングに使用してもよい。化学的/電気化学的エッチング剤を含む浴に浸漬することによって、電極をエッチングしてもよい。浴組成、作業温度、時間、および印加電流は、エッチングのために選択された材料に応じて変化し得る。
【0090】
化学的/電気化学的エッチングのための浴は、KOH、NaOH、HCl、HSO、またはそれらの組合せを含むがこれらに限定されない塩基性溶液または酸性溶液を含み得る。浴はまた、緩衝剤、ヒドラジン、スケーリング防止剤、エッチング促進剤、またはそれらの組合せを含むがこれらに限定されない添加剤を含んでもよい。緩衝液は、限定するものではないが、ホウ酸、ホウ酸塩、またはそれらの組合せを含むことができ、浴のpHを維持するために使用することができる。ヒドラジンを使用して、pH値が低い浴中での酸化を防止することができる。ポリリン酸塩を含むがこれに限定されないスケーリング防止剤は、エッチング中の電極上の塩の析出を防止することができる。酒石酸ナトリウムカリウム四水和物を含むがこれに限定されないエッチング促進剤は、アルカリ性環境でエッチングを促進することができる。浴は、約25℃以上、約25℃~約85℃、約30℃~約80℃、約35℃~約75℃、約40℃~約70℃、約45℃~約65℃、約50℃~約60℃、または約85℃の温度で動作させることができる。浴に電流を印加することができる。電流は、直流、交流、パルス電流、またはそれらの組合せを含むことができる。印加される直流電流は、少なくとも約25mA/cm、約25mA/cm~約1000mA/cm、約50mA/cm~約900mA/cm、約100mA/cm~約800mA/cm、約200mA/cm~約700mA/cm、約300mA/cm~約600mA/cm、約400mA/cm~約500mA/cm、または約1000mA/cmであり得る。
【0091】
電解槽システムは、少なくとも一つの電極を含み得る。電極は、アノードおよび/またはカソードを含み得る。電極は、性能を改善するために熱処理されてもよい。真空熱処理を電極に施してもよい。真空熱処理は、約300℃以上、約300℃~約1000℃、約400℃~約900℃、約500℃~約800℃、約600℃~約700℃、または約1000℃の温度で行われ得る。真空熱処理は、少なくとも約30分間、約30分間~約4時間、約1時間~約3.5時間、約1.5時間~約3時間、約2時間~約2.5時間、または約4時間行われ得る。熱処理は、電極の温度を上昇させること、電極の温度を維持すること、および電極の温度を低下させることを含み得る。電極温度の上昇および低下は、少なくとも約5℃/分、約5℃/分~約20℃/分、約10℃/分~約15℃/分、または約20℃/分の速度で行われ得る。
【0092】
電解槽システムの実際のセル電圧は、周囲温度での水分解の理論的最小電圧1230mVと比較して、約100mV未満であり得る。電極の触媒組成物のミクロ多孔質構造および/またはナノ多孔質構造は、水分解のセル電圧を0mVに低下させることができ、すなわち、電解槽システムは自律的な電解槽になり、印加電圧なしで動作することができる。BおよびNを含むがこれらに限定されないドープ剤を使用することにより、カソード電位をより正の値にシフトさせることができ、アノード電位をより負の値にシフトさせることができる。水素生成反応は、外部電力をなんら必要とせずに自発的に起こり得る。水素還元の電圧は、電解セルのカソード側の低pH値および電解セルのアノード側の高pH値のもとでは、ヒドラジンまたは尿素の酸化よりもはるかにプラス側になる。低pH値は、少なくとも約0、約0~約5.5、約2.5~約5、約2.5~約4.5、約3~約4、または約5.5であり得る。高pH値は、少なくとも約8、約8~約14、約9~約13、約10~約12、または約14であり得る。このとき、水素生成は熱力学的に有利になり、両側の塩の濃度が維持されている限り自発的に起こる。したがって、窒素化合物支援水素電解槽は、自律的に機能してガス状水素を生成することができ、電気を発生させることもできる。約1A・cm-2の高い電解セル電流密度は、金属または混合金属-金属酸化物ナノ粒子の電極への組み込みから生じ得る。
【0093】
電解槽システムは、アノードセルおよび/またはカソードセルを含み得る。アノードセルの全体的電位は、約10mA・cm-2の電流密度で約250mV未満、約250mV~約0mV、約225mV~約10mV、約200mV~約50mV、約150mV~約100mV、または約250mVであり得る。カソードセル内の全体的電位は、10mA・cm-2の電流密度で約100mV未満、約0mV~約100mV、約5mV~約99mV、約10mV~約97mV、約15mV~約95mV、約20mV~約90mV、約30mV~約80mV、約40mV~約70mV、約50mV~約60mV、または約100mVであり得る。
【0094】
カソードおよびアノードは、同じ材料組成物を含んでもよく、すなわち、二元機能電極として機能してもよく、または異なる材料組成物を含んでもよく、例えば、別個の電極として機能してもよい。二元機能電極は別個の電極と比べて高い安定性を有することができるが、これは電極組成に差がなく、ガルバニ電池のカップリングおよびその後の電極の腐食および劣化のリスクが低減または回避されるためである。セル電圧が100mV未満のPt電極は、アノードとカソードの両方の性能基準として機能し得る。
【0095】
ミクロ構造化発泡体および/またはナノ構造化発泡体は、金属または混合金属-金属酸化物ナノ粒子を含むミクロ構造化触媒および/またはナノ構造化触媒を含み得る。金属または混合金属-金属酸化物は、マグネトロンスパッタリング、プラズマコーティング、電解被覆、またはそれらの組合せを含むがこれらに限定されない物理的または化学的堆積法を使用して、ミクロ構造化発泡体および/またはナノ構造化発泡体に付着させることができる。金属は、Ti、V、Cr、Mn、Fe、Co、Ni、Cu、Zn、Zr、Nb、Mo、Ru、Pd、Ag、Cd、Hf、Ta、W、Re、Ir、Pt、Au、またはそれらの組合せを含み得るが、これらに限定されない。金属酸化物は、上記金属から作られた酸化物であってもよい。
【産業上の利用可能性】
【0096】
本発明は、以下の非限定的な実施例によってさらに説明される。
【実施例
【0097】
実施例1
基板上への化合物材料の堆積は、スパッタ法により行った。洗浄後、基板をスパッタリング室(DC、RF、またはマグネトロンなどの様々なモデルの試験で問題がなかった)に入れ、約10-6トル(高真空)の試験到達圧力(base pressure)を達成した。主触媒および粗面化材料を、(IrO、NiN、NiONなどの金属酸化物または酸窒化物の堆積のための)アルゴン雰囲気中またはアルゴン/酸素/窒素雰囲気中、約3~9ミリトルの作業圧力において、25~500Wの範囲内のスパッタリング出力および1~100標準立方センチメートルの範囲内のガス流量を用いて共堆積させた。
実施例2
【0098】
基板上への化合物材料の堆積は、電気化学堆積法によって行った。いくつかの異なる方法があった。一態様では、電気化学的方法は、パルス電着法を使用することによって、またはコア-シェル構造(粗面化材料がコアで主触媒がシェル)を形成することによって行われた。電気化学的方法に用いた浴の温度は、恒温サーモスタットを用いて維持した。溶液は、DI水およびAnalaRグレードの化学物質を使用して新たに調製した。表1および表2に、電気化学堆積に使用した溶液および塩の例を示す。
【表1】

【表2】
【0099】
実施例3
材料の電着は、ポテンショスタットによる直流およびパルス電流を用いて行った。電流値および時間は、コーティングの厚さおよび形態ならびに目標とする粒径の範囲に依存した。電気めっき時間は、15分~1時間の範囲内であった。印加電流は、75mA/cm~500mA/cmの範囲内であった。パルス法には、ton=50μs~5000μs、toff=10μs~1000μsの方形波を用いた。
実施例4
【0100】
基板上に堆積した化合物材料の後処理は、浸出処理およびドーピングによって行った。化合物材料からの粗面化材料の浸出処理により、触媒材料のミクロ構造が形成された。このプロセスは、選択的エッチングによって行われた。選択的エッチングでは、特定の材料のみがエッチングされ、系内の他の材料への影響は無視できた。
【0101】
前述の実施例で使用したものの代わりに、本発明の実施形態の一般的または具体的に記載された構成要素および/または動作条件を用いて前述の実施例を繰り返すことができ、同様の成功を収めることができる。
【0102】
本明細書および特許請求の範囲において、「約」または「およそ」は、与えられた量または値の20パーセント(20%)以内を意味することに留意されたい。
【0103】
本発明の実施形態は、互いに独立して本明細書に開示される特徴のあらゆる組合せを含むことができる。本発明は、開示された実施形態を特に参照して詳細に説明されているが、他の実施形態も同じ結果を達成することができる。本発明の変形および修正は当業者には明らかであり、添付の特許請求の範囲においてそのような修正および均等物をすべて網羅することが意図されている。上記で引用された全ての参考文献、出願、特許および刊行物の開示全体は、参照により本明細書に組み込まれる。上記で「必須」であると具体的に述べられていない限り、様々な構成要素またはそれらの相互関係のいずれも本発明の動作に必須ではない。むしろ、様々な構成要素を置換すること、および/または、それらの関係を互いに再構成することによって、望ましい結果を達成することができる。
図1
図2
図3
図4
図5A
図5B
図6A
図6B
図7
図8
図9
図10
図11
図12
図13
図14
【国際調査報告】