(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公表特許公報(A)
(11)【公表番号】
(43)【公表日】2024-10-02
(54)【発明の名称】抗IGSF1抗体及びその使用
(51)【国際特許分類】
A61K 39/395 20060101AFI20240925BHJP
C12N 15/13 20060101ALI20240925BHJP
C12N 15/63 20060101ALI20240925BHJP
C12N 5/10 20060101ALI20240925BHJP
C12N 1/19 20060101ALI20240925BHJP
C12N 1/21 20060101ALI20240925BHJP
C12N 1/15 20060101ALI20240925BHJP
C07K 16/28 20060101ALI20240925BHJP
C12P 21/02 20060101ALI20240925BHJP
A61K 48/00 20060101ALI20240925BHJP
A61P 35/00 20060101ALI20240925BHJP
【FI】
A61K39/395 E
C12N15/13 ZNA
C12N15/63 Z
C12N5/10
C12N1/19
C12N1/21
C12N1/15
C07K16/28
C12P21/02 C
A61K48/00
A61P35/00
A61K39/395 T
【審査請求】有
【予備審査請求】未請求
(21)【出願番号】P 2022574184
(86)(22)【出願日】2021-08-20
(85)【翻訳文提出日】2022-11-29
(86)【国際出願番号】 KR2021011139
(87)【国際公開番号】W WO2023022271
(87)【国際公開日】2023-02-23
(81)【指定国・地域】
【公序良俗違反の表示】
(特許庁注:以下のものは登録商標)
(71)【出願人】
【識別番号】522466625
【氏名又は名称】ウェルマーカー バイオ カンパニー リミテッド
【氏名又は名称原語表記】WELLMARKERBIO CO., LTD.
(74)【代理人】
【識別番号】100107456
【氏名又は名称】池田 成人
(74)【代理人】
【識別番号】100162352
【氏名又は名称】酒巻 順一郎
(74)【代理人】
【識別番号】100123995
【氏名又は名称】野田 雅一
(72)【発明者】
【氏名】キム, ソン‐ラック
(72)【発明者】
【氏名】ソン, ヘ‐ジン
(72)【発明者】
【氏名】リー, ミ‐ソ
(72)【発明者】
【氏名】キム, ハ‐ナ
(72)【発明者】
【氏名】リー, ジュン‐ヒョン
(72)【発明者】
【氏名】シン, ウォン‐ファ
【テーマコード(参考)】
4B064
4B065
4C084
4C085
4H045
【Fターム(参考)】
4B064AG26
4B065AA01X
4B065AA57X
4B065AA72X
4B065AA90X
4B065AA90Y
4B065AB01
4B065BA02
4B065CA24
4B065CA44
4C084AA13
4C084MA66
4C084NA05
4C084NA14
4C084ZB261
4C084ZB262
4C085AA13
4C085AA14
4C085AA16
4C085BB36
4C085BB41
4C085BB43
4C085CC22
4C085CC23
4C085DD62
4C085EE01
4C085GG02
4C085GG03
4C085GG04
4H045AA11
4H045DA75
4H045DA76
4H045FA74
(57)【要約】
本発明は、IGSF1に特異的に結合する新規な抗体、及びそれを有効成分として含む、癌を予防又は治療するための医薬組成物に関する。特に、本発明は、IGSF1のC末端に結合する抗体を提供する。本発明による抗IGSF1抗体は、IGSF1に対して高い特異性及び高い結合能を示した。本発明による抗IGSF1抗体は、IGSF1が過剰発現している肺癌細胞スフェロイドをヒト末梢単核細胞と共培養した場合、スフェロイドへの免疫細胞の浸潤を増加させた。また、本発明による抗IGSF1抗体は、IGSF1が過剰発現しているヒト肺癌細胞を移植したヒト化マウスにおいて、腫瘍の増殖を阻害し、腫瘍組織におけるサイトカインの発現を増加させた。以上の結果より、抗IGSF1抗体は、IGSF1の発現が増加している肺癌組織への免疫細胞の浸潤及び免疫反応を増加させることにより、腫瘍の増殖を阻害し得ることが確認された。したがって、抗IGSF1抗体は、IGSF1が過剰発現している癌を効果的に治療するための抗癌剤として利用し得る。
【選択図】 なし
【特許請求の範囲】
【請求項1】
IGSF1のC末端に特異的に結合する抗IGSF1抗体を有効成分として含む、抗癌剤。
【請求項2】
配列番号1のH-CDR1、配列番号2のH-CDR2及び配列番号3のH-CDR3を含む重鎖可変領域、並びに
配列番号4のL-CDR1、配列番号5のL-CDR2及び配列番号6のL-CDR3を含む軽鎖可変領域
を含む、IGSF1に特異的な抗体又はその断片。
【請求項3】
前記重鎖可変領域が、配列番号7のアミノ酸配列を有し、前記軽鎖可変領域が、配列番号8のアミノ酸配列を有することを特徴とする、請求項2に記載のIGSF1に特異的な抗体又はその断片。
【請求項4】
配列番号1のH-CDR1、配列番号2のH-CDR2及び配列番号3のH-CDR3を含む、重鎖可変領域をコードするポリヌクレオチド。
【請求項5】
配列番号4のL-CDR1、配列番号5のL-CDR2及び配列番号6のL-CDR3を含む、軽鎖可変領域をコードするポリヌクレオチド。
【請求項6】
請求項4又は5に記載のポリヌクレオチドを含む、発現ベクター。
【請求項7】
請求項6に記載のベクターが導入された形質転換細胞。
【請求項8】
IGSF1に特異的な抗体又はその断片を作製する方法であって、
i)請求項7に記載の形質転換細胞を培養するステップ;及び
ii)IGSF1に特異的な抗体又はその断片を回収するステップを含む、方法。
【請求項9】
請求項2又は3に記載のIGSF1に特異的な抗体又はその断片を有効成分として含む、癌を予防又は治療するための医薬組成物。
【請求項10】
前記癌が、IGSF1が過剰発現している癌である、請求項9に記載の癌を予防又は治療するための医薬組成物。
【請求項11】
前記癌が、胃癌、肝臓癌、肺癌、非小細胞肺癌、結腸直腸癌、膀胱癌、骨癌、血液癌、乳癌、メラノーマ、甲状腺癌、副甲状腺癌、骨髄癌、直腸癌、咽頭癌、喉頭癌、食道癌、膵臓癌、舌癌、皮膚癌、脳腫瘍、子宮癌、頭頚部癌、胆嚢癌、口腔癌、肛門周囲癌、結腸癌及び中枢神経系腫瘍からなる群から選択されるいずれか1つであることを特徴とする、請求項10に記載の癌を予防又は治療するための医薬組成物。
【請求項12】
請求項2又は3に記載のIGSF1に特異的な抗体又はその断片を対象に投与することを含む、癌を予防又は治療するための方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、IGSF1に特異的に結合する新規な抗体、及びそれを有効成分として含む癌を予防又は治療するための医薬組成物に関する。
【背景技術】
【0002】
癌に関する研究は長い間、深く行われているが、環境汚染及び食習慣の悪化により、癌の発生率は増加の一途をたどっている。世界中で毎年1億人超の癌患者が発生しており、世界保健機関(WHO)は、癌を主要な死因の1つに位置付けている。このように、癌は現代社会において死亡率の第1位を占める主要な疾患であり、これまで多くの研究がなされてきたにもかかわらず、画期的な治療は存在しない。
【0003】
癌の治療においては、抗癌剤等の化学療法がある程度有効であるが、癌の多様な病態及び抗癌剤に対する耐性により、多くの研究が必要とされている。ここ数十年の診断及び治療技術の発達により、癌治療率は向上しているが、多くの進行癌の5年生存率は5~50%の範囲にとどまっている。さらに、いくつかの癌では、種々の研究及び治療が行われているにもかかわらず、過去20年間の生存率には著しい変化がない。
【0004】
このように、癌は従来の癌治療レジメンでは容易に治療されず、再発及び他部位への転移が起こるため、より本質的な治療法が必要とされている。したがって、癌の悪性化、転移、及び再発の原因と判断される癌細胞に特徴的なバイオマーカーを標的化することによって、癌治療用物質の開発に関心が高まっている。
【0005】
一方、韓国特許出願公開第2016-0014564号には、IGSF1(immunoglobulin superfamily member 1)遺伝子をMET(間葉上皮転換因子)阻害剤に対する感受性を予測するためのバイオマーカーとして使用し得ることが開示されている。上記文献には、癌患者を治療する前に、バイオマーカーを用いて各患者の感受性を判定することにより、高い治療効果を有する抗癌剤を選択し得ることが開示されている。しかし、IGSF1に特異的な抗体を抗癌剤として利用し得ることは開示されていない。
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
本発明者らは、高い治療効果を有する抗癌剤、特に、IGSF1が過剰発現している癌を効果的に治療するための治療剤を開発することを目的として研究を行った。その結果、本発明者らは、IGSF1のC末端に特異的に結合する抗体を開発し、抗体が癌を効果的に予防又は治療することを見出した。
【課題を解決するための手段】
【0007】
上記目的を達成するために、本発明の一態様において、IGSF1のC末端に特異的に結合する抗IGSF1抗体を有効成分として含む抗癌剤が提供される。
【0008】
本発明の別の態様において、配列番号1のH-CDR1、配列番号2のH-CDR2及び配列番号3のH-CDR3を含む重鎖可変領域;並びに配列番号4のL-CDR1、配列番号5のL-CDR2及び配列番号6のL-CDR3を含む軽鎖可変領域を含む、IGSF1又はその断片に対して特異的な抗体が提供される。
【0009】
本発明の別の態様において、IGSF1に特異的な抗体又はその断片をコードするポリヌクレオチド、ポリヌクレオチドを含む発現ベクター、及び発現ベクターが導入された形質転換細胞が提供される。
【0010】
本発明の別の態様において、形質転換細胞を培養すること;及び抗IGSF1抗体又はその断片を回収することを含む、IGSF1に特異的な抗体又はその断片を作製する方法が提供される。
【0011】
本発明の別の態様において、IGSF1に特異的な抗体又はその断片を有効成分として含む、癌を予防又は治療するための医薬組成物が提供される。
【0012】
本発明の別の態様において、IGSF1に特異的な抗体又はその断片を対象に投与することを含む、癌を予防又は治療する方法が提供される。
【発明の効果】
【0013】
本発明による抗IGSF1抗体は、IGSF1に対して高い特異性及び高い結合能を示した。本発明による抗IGSF1抗体は、IGSF1が過剰発現している肺癌細胞スフェロイドをヒト末梢単核細胞と共培養した場合、スフェロイドへの免疫細胞の浸潤を増加させた。さらに、本発明による抗IGSF1抗体は、IGSF1が過剰発現しているヒト肺癌細胞を移植したヒト化マウスにおいて、腫瘍の増殖を抑制した。また、前記抗体は、腫瘍組織に存在する細胞傷害性Tリンパ球のサイトカイン発現を増加させた。以上の結果より、抗IGSF1抗体は、IGSF1発現が増加している腫瘍組織への免疫細胞の浸潤及び免疫反応を増加させることにより、腫瘍の増殖を阻害し得ることが確認された。したがって、抗IGSF1抗体は、IGSF1が過剰発現している癌を効果的に治療するための抗癌剤として利用し得る。
【図面の簡単な説明】
【0014】
【
図1】IGSF1過剰発現ヒト肺癌細胞(NCI-H292 IGSF1 O/E)及び対照(NCI-H292 MOCK)におけるIGSF1の発現レベルをウェスタンブロット及びRT-PCRによって確認することによって得られた結果を示す。
【
図2】IGSF1過剰発現ヒト肺癌細胞(NCI-H292 IGSF1 O/E)及び対照(NCI-H292 MOCK)のスフェロイドをヒト末梢単核細胞(PBMC)と共培養した際にスフェロイドに存在する腫瘍浸潤リンパ球(TIL)を確認することにより得られた結果を示す。
【
図3】IGSF1過剰発現ヒト肺癌細胞(NCI-H292 IGSF1 O/E)又は対照(NCI-H292 MOCK)を移植したマウスの腫瘍組織における腫瘍浸潤リンパ球の存在を確認するためにhCD45+細胞の分布度をフローサイトメトリーにより解析して得られた結果を示すグラフである。
【
図4】IGSF1過剰発現ヒト肺癌細胞(NCI-H292 IGSF1 O/E)又は対照(NCI-H292 MOCK)を移植したマウスの腫瘍組織におけるIGSF1の発現及び腫瘍浸潤リンパ球の存在を免疫組織化学染色法により確認することにより得られた結果を示す。
【
図5】ELISA法を用いて、WM-A1-3389抗体のIGSF1抗原に対する結合親和性を解析することによって得られた結果を示すグラフである。
【
図6】FACS解析を用いて、細胞におけるWM-A1-3389抗体のIGSF1抗原に対する結合親和性を解析して得られた結果を示すグラフである。
【
図7】FACS解析を用いて、IGSF過剰発現ヒト肺癌細胞(NCI-H292 IGSF1 O/E)及び対照(NCI-H292 MOCK)において、細胞に発現するIGSF1に対するWM-A1-3389抗体の結合能を解析することにより得られた結果を示すグラフである。
【
図8】2つのIGSF1過剰発現ヒト肺癌細胞(NCI-H292 IGSF1 O/E及びHEK293E IGSF1 O/E)及び対照(NCI-H292 MOCK及びHEK293E MOCK)においてshIGSF1で処理したIGSF1ノックダウン(K/D)細胞株におけるWM-A1-3389抗体の結合特異性を解析することにより得られた結果を示したグラフである。
【
図9】IGSF1過剰発現ヒト肺癌細胞(NCI-H292 IGSF1 O/E)スフェロイドをヒト末梢単核細胞(PBMC)と共培養した際に、IgG又はWM-A1-3389抗体による処理後のスフェロイドに存在する腫瘍浸潤リンパ球(TIL)を顕微鏡画像により確認することにより得られた結果を示す。
【
図10】IGSF1過剰発現ヒト肺癌細胞(NCI-H292 IGSF1 O/E)及び対照(NCI-H292 MOCK)のスフェロイドをヒト末梢単核細胞(PBMC)と共培養した際に、IgG又はWM-A1-3389抗体による処理後のスフェロイドにおけるHMGB1及びHsp90の発現を示すグラフである。
【
図11】IGSF1過剰発現ヒト肺癌細胞(NCI-H292 IGSF1 O/E)を移植したマウスモデルにおいて、IgG又はWM-A1-3389抗体を投与した群の腫瘍サイズを測定することによって得られた結果を示すグラフである。
【
図12】IGSF1過剰発現ヒト肺癌細胞(NCI-H292 IGSF1 O/E)を移植したマウスモデルにおいて、対象によるIgG又はWM-A1-3389抗体が投与されたマウス群の腫瘍サイズを示すグラフである。
【
図13】白人の肺癌患者組織におけるIGSF1の発現レベルを解析することによって得られた結果を示す。
【発明を実施するための形態】
【0015】
本発明の一態様において、IGSF1のC末端に特異的に結合する抗IGSF1抗体を有効成分として含む抗癌剤が提供される。
【0016】
本明細書において使用される、「IGSF1」という用語は、ヒト及び他の哺乳動物種のX染色体上に見出されるIGSF1遺伝子によってコードされる膜タンパク質である。正常細胞におけるIGSF1の機能はよく知られていないが、IGSF1変異は、IGSF1欠損症候群又は中枢性甲状腺機能低下症等の疾患を引き起こすことが知られている。
【0017】
本発明において、IGSF1は、哺乳動物のIGSF1であれば限定されることなく含まれてもよいが、好ましくは、ヒトIGSF1を指すことができる。さらに、本発明において、IGSF1タンパク質は、ネイティブIGSF1タンパク質又はそのバリアントの全てを含むが、これに限定されるものではない。ネイティブIGSF1タンパク質は、一般的に、ネイティブIGSF1タンパク質のアミノ酸配列を含むポリペプチドを指し、ネイティブIGSF1タンパク質のアミノ酸配列は、一般的に、天然に存在するIGSF1に見出されるアミノ酸配列を指す。IGSF1についての情報は、米国国立衛生研究所のGenBank等の公知のデータベースから得ることができ、例えば、Genebankアクセッション番号NP_001164433.1のアミノ酸配列又は配列番号19のアミノ酸配列を有することができるが、これに限定されるものではない。
【0018】
本明細書において使用される、「抗IGSF1抗体」という用語は、IGSF1に結合することができる抗体を指し、本発明において「IGSF1に特異的な抗体」と互換的に使用することができる。特に、抗IGSF1抗体は、IGSF1のC末端に特異的に結合することができる。抗体の形態は、抗体全体及びその抗体断片の両方を含むことができる。
【0019】
本明細書において使用される、「抗癌剤」という用語は、癌の予防又は治療効果を示す任意の組成物又は医薬を含み得る。
【0020】
本発明において、IGSF1のC末端に結合する抗IGSF1抗体は、IGSF1が過剰発現している癌を効果的に死滅させることができる。この場合、癌は、胃癌、肝臓癌、肺癌、非小細胞肺癌、結腸直腸癌、膀胱癌、骨癌、血液癌、乳癌、メラノーマ、甲状腺癌、副甲状腺癌、骨髄癌、直腸癌、咽頭癌、喉頭癌、食道癌、膵臓癌、舌癌、皮膚癌、脳腫瘍、子宮癌、頭頸部癌、胆嚢癌、口腔癌、肛門周囲癌、結腸癌、及び中枢神経系腫瘍からなる群から選択されるいずれか1つでもよいが、IGSF1が過剰発現している癌であれば、これに限定されない。
【0021】
抗IGSF1抗体
本発明の別の態様において、配列番号1のH-CDR1、配列番号2のH-CDR2及び配列番号3のH-CDR3を含む重鎖可変領域;及び配列番号4のL-CDR1、配列番号5のL-CDR2及び配列番号6のL-CDR3を含む軽鎖可変領域を含むIGSF1に対して特異的な抗体又はその断片が提供される。
【0022】
本明細書において使用される、「抗体」という用語は、特定の抗原と免疫学的に反応する免疫グロブリン分子を指し、抗原を特異的に認識するタンパク質分子を指す。抗体としては、抗体全体、モノクローナル抗体、ポリクローナル抗体、単一ドメイン抗体、一本鎖抗体、多重特異性抗体、ヒト抗体、ヒト化抗体、キメラ抗体、細胞内抗体、scFv、Fab断片、F(ab’)断片、ジスルフィド結合により連結されたFv(sdFv)、及び上記のいずれかのエピトープ結合断片が挙げられるが、これらに限定されるものではない。
【0023】
免疫グロブリンの重鎖及び軽鎖は、それぞれ定常領域及び可変領域を含み得る。
【0024】
免疫グロブリンの軽鎖及び重鎖の可変領域は、相補性決定領域(CDR)と呼ばれる3つの可変領域と、4つのフレームワーク領域(FR)とを含む。CDRは主に抗原のエピトープに結合する機能を有する。各鎖のCDRは典型的には、N末端から出発して、順にCDR1、CDR2、CDR3と呼ばれ、特定のCDRが存在する鎖によって特定される。本発明のIGSF1に特異的な抗体及びその断片は、配列番号1のH-CDR1、配列番号2のH-CDR2及び配列番号3のH-CDR3を含む重鎖可変領域(VH)を含んでいてもよい。さらに、本発明のIGSF1に特異的な抗体及びその断片は、配列番号4のL-CDR1、配列番号5のL-CDR2及び配列番号6のL-CDR3を含む軽鎖可変領域(VL)を含み得る。この場合、重鎖可変領域は、配列番号7のアミノ酸配列を有していてもよく、軽鎖可変領域は配列番号8のアミノ酸配列を有していてもよい。本明細書において、抗体はWM-A1-3389と称することができる。
【0025】
抗体の重鎖可変領域は、配列番号7のアミノ酸配列に対して約90%、約91%、約92%、約93%、約94%、約95%、約96%、約97%、約98%、約99%、又は約100%の同一性を有するアミノ酸配列を含んでいても、又はこれらからなっていてもよい。さらに、抗体の軽鎖可変領域は、配列番号8のアミノ酸配列に対して約90%、約91%、約92%、約93%、約94%、約95%、約96%、約97%、約98%、約99%又は約100%の同一性を有するアミノ酸配列を含んでいても、又はこれらからなっていてもよい。
【0026】
免疫グロブリンの重鎖定常領域(CH)は、異なるアミノ酸組成及び配列を示し、したがって、異なる種類の抗原性を有する。したがって、免疫グロブリンは、5つのカテゴリーに分類されることができ、免疫グロブリンアイソタイプ、すなわち、IgM、IgD、IgG、IgA及びIgEと称することができる。対応する重鎖は、それぞれ、μ鎖、δ鎖、γ鎖、α鎖、及びε鎖である。さらに、ヒンジ領域のアミノ酸組成、並びに重鎖ジスルフィド結合の数及び位置によって、同じ種類のIgが異なるサブタイプに分類され得る。例えば、IgGは、IgG1、IgG2、IgG3、及びIgG4に分類され得る。軽鎖は、異なる定常領域により、κ鎖又はλ鎖に分類されることができる。5種類のIgGは、それぞれκ鎖又はλ鎖のいずれかを有し得る。
【0027】
本発明のIGSF1に特異的な抗体が定常領域を含む場合、IgG、IgA、IgD、IgE、IgM、又はその部分的ハイブリッドに由来する定常領域を含むことができる。
【0028】
本明細書において使用される、「ハイブリッド」という用語は、一本鎖免疫グロブリン重鎖定常領域内に、2つ以上の異なる起源を有する免疫グロブリン重鎖定常領域に対応する配列が存在することを指す。例えば、IgG、IgA、IgD、IgE及びIgMのCH1、CH2及びCH3からなる群から選択される1~4個のドメインからなるドメインをハイブリダイズすることが可能である。
【0029】
さらに、本発明のIGSF1に特異的な抗体が軽鎖定常領域(LC)を含む場合、軽鎖定常領域はλ軽鎖又はκ軽鎖に由来するものであってもよい。
【0030】
本明細書において使用される、「抗体の断片」という用語は、抗原結合活性を有するFab断片、Fab’断片、F(ab’)2断片、並びにIGSF1に結合するFv断片であるscFv断片を指し、本発明に記載の抗体のCDR領域を含む。Fv断片は、重鎖可変領域及び軽鎖可変領域を含み、定常領域を持たず、全ての抗原結合部位を有する最小の抗体の断片である。
【0031】
抗IGSF1抗体をコードするポリヌクレオチド
本発明の別の態様において、IGSF1に特異的な抗体又はその断片をコードするポリヌクレオチドが提供される。抗IGSF1抗体及びその断片は、上述した通りである。この場合、ポリヌクレオチドの重鎖領域は、配列番号9のヌクレオチド配列を含んでいてもよく、軽鎖領域は、配列番号10のヌクレオチド配列を含んでいてもよい。
【0032】
ポリヌクレオチドが同一のポリペプチドをコードする場合、置換、欠失、挿入又はその組合せにより、1つ又は複数の塩基が変異していてもよい。ポリヌクレオチド配列を化学合成により調製する場合、当技術分野で周知の合成方法、例えば、文献(Engels and Uhlmann, Angew Chem IntEd Engl. 37:73-127, 1988)に記載の方法を用いてもよく、トリエステル法、ホスファイト法、ホスホラミダイト法及びH-ホスフェート法、PCR及び他の自動プライマー法、固体支持体上のオリゴヌクレオチドの合成法等が挙げられる。
【0033】
一実施形態によれば、ポリヌクレオチドは、それぞれ、配列番号9又は配列番号10のヌクレオチド配列に対して少なくとも約70%、少なくとも約75%、少なくとも約80%、少なくとも約85%、少なくとも約86%、少なくとも約87%、少なくとも約88%、少なくとも約89%、少なくとも約90%、少なくとも約91%、少なくとも約92%、少なくとも約93%、少なくとも約94%、少なくとも約95%、少なくとも約96%、少なくとも約97%、少なくとも約98%、少なくとも約99%又は少なくとも約100%の同一性を有するヌクレオチド配列を含むことができる。
【0034】
ポリヌクレオチドは、シグナル配列又はリーダー配列をさらに含んでいてもよい。本明細書で使用される、「シグナル配列」という用語は、標的タンパク質の分泌を指示するシグナルペプチドをコードする核酸を指す。シグナルペプチドは、宿主細胞内で翻訳された後、切断される。詳細には、本発明のシグナル配列は、ER(小胞体)膜を介したタンパク質の輸送を開始させるアミノ酸配列をコードするヌクレオチドである。
【0035】
シグナル配列は、その特徴について当技術分野で周知である。このようなシグナル配列は、典型的には16~30個のアミノ酸残基を含み、このようなアミノ酸残基よりも多い又は少ないアミノ酸残基を含んでいてもよい。従来のシグナルペプチドは、3つの領域、すなわち、塩基性N末端領域、中央の疎水性領域、及びより極性の高いC末端領域から構成されている。中央の疎水性領域は4~12個の疎水性残基を含み、これにより、未熟なポリペプチドが膜脂質二重層を通過する間、シグナル配列が固定化される。
【0036】
シグナル配列は、開始後、シグナルペプチダーゼとして一般的に知られている細胞内酵素によって、ERの内腔で切断される。この場合、シグナル配列は、tPa(組織プラスミノーゲン活性化)の分泌シグナル配列、HSV gDs(単純ヘルペスウイルス糖タンパク質Dのシグナル配列)、IgGシグナル配列又は成長ホルモンであってもよい。好ましくは、哺乳動物等を含む高等真核細胞で使用される分泌シグナル配列を使用することができる。
【0037】
本発明において有用なシグナル配列としては、抗体14.18等の抗体軽鎖シグナル配列(Gillies et al.,J.Immunol.Methods,1989.125:191-202)、MOPC141抗体重鎖シグナル配列等の抗体重鎖シグナル配列(Sakano et al.,Nature,1980.286:676-683)、及び当技術分野で公知の他のシグナル配列(例えば、Watson et al.,Nucleic Acid Research,1984.12:5145-5164参照)等が挙げられる。
【0038】
ポリヌクレオチドをロードしたベクター
本発明の別の態様において、IGSF1に特異的な抗体又はその断片をコードするポリヌクレオチドを含むベクターが提供される。ポリヌクレオチドの重鎖領域は、配列番号9のヌクレオチド配列を含んでいてもよく、軽鎖領域は、配列番号10のヌクレオチド配列を含んでいてもよい。さらに、ポリヌクレオチドは、シグナル配列又はリーダー配列をさらに含んでいてもよい。本明細書中において、IGSF1に特異的な抗体及びその断片、並びにシグナル配列は、上に記載する通りである。
【0039】
この場合、ベクターは、重鎖及び軽鎖のポリヌクレオチドをそれぞれ含む2つのベクターであっても、又は両ポリヌクレオチドを含むバイシストロンベクターであってもよい。
【0040】
本明細書において使用される、「ベクター」という用語は、宿主細胞内に導入され、宿主細胞のゲノムに組み替えられ、ゲノム内に挿入されるものであってもよい。或いは、ベクターは、エピソームとして自発的に複製可能なヌクレオチド配列を含む核酸手段であると理解される。ベクターとしては、線状核酸、プラスミド、ファージミド、コスミド、RNAベクター、ウイルスベクター、ミニ染色体、及びそのアナログが挙げられる。ウイルスベクターの例としては、レトロウイルス、アデノウイルス、及びアデノ随伴ウイルスが挙げられるが、これらに限定されるものではない。
【0041】
特に、ベクターとしては、プラスミドDNA、ファージDNA等、市販の開発されたプラスミド(pUC18、pBAD、pIDTSAMRT-AMP等)、大腸菌(E. coli)由来のプラスミド(pYG601BR322、pBR325、pUC118、pUC119等)、枯草菌(Bacillus subtilis)由来のプラスミド(pUB110、pTP5等)、酵母由来のプラスミド(YEp13、YEp24、YCp50等)、ファージDNA(Charon4A、Charon21A、EMBL3、EMBL4、λgt10、λgt11、λZAP等)、動物ウイルスベクター(レトロウイルス、アデノウイルス、ワクシニアウイルス等)、昆虫ウイルスベクター(バキュロウイルス等)等が挙げられる。ベクターは、宿主細胞によって異なるタンパク質の発現レベル及び修飾等を示すため、目的に最適な宿主細胞を選択して使用することが好ましい。
【0042】
さらに、プラスミドは抗生物質耐性遺伝子等の選択マーカーを含有していてもよく、プラスミドを保持する宿主細胞を選択的な条件下で培養することができる。
【0043】
本明細書において使用される、標的タンパク質の「遺伝子発現」又は「発現」という用語は、DNA配列の転写、mRNA転写物の翻訳、及び融合タンパク質生成物又はその断片の分泌を意味すると理解される。有用な発現ベクターは、RcCMV(Invitrogen、Carlsbad)又はそのバリアントでもよい。発現ベクターは、哺乳動物細胞における標的遺伝子の連続的な転写を促進するためのヒトサイトメガロウイルス(CMV)プロモーター、及び転写後のRNAの安定性レベルを高めるためのウシ成長ホルモンポリアデニル化シグナル配列を含むことができる。
【0044】
抗IGSF1抗体を発現する形質転換細胞
本発明の別の態様において、IGSF1に特異的な抗体又はその断片をコードするポリヌクレオチドを含む発現ベクターが導入された形質転換細胞が提供される。IGSF1に特異的な抗体及びその断片は、上に記載する通りである。
【0045】
本明細書において使用される、「形質転換細胞」という用語は、組換え発現ベクターが導入され得る原核細胞及び真核細胞を指す。形質転換細胞は、宿主細胞にベクターを導入し、これを形質転換することにより構築することができる。また、ベクターに含まれるポリヌクレオチドを発現させることにより、本発明の融合タンパク質を作製することができる。
【0046】
形質転換は、種々の方法によって行うことができる。本発明の融合タンパク質を作製し得る限り、特に限定されるものではない。特に、形質転換法、例えば、CaCl2沈殿法、CaCl2沈殿法においてジメチルスルホキシド(DMSO)等の還元剤を用いることにより効率が増強したHanahan法、エレクトロポレーション、リン酸カルシウム沈殿法、プロトプラスト融合法、炭化ケイ素繊維を使用した撹拌法、アグロバクテリウム媒介形質転換法、PEG、デキストラン硫酸、リポフェクトアミンを使用した形質転換法、及び乾燥/阻害媒介型形質転換方法等を使用することができる。さらに、感染を手段として使用することにより、ウイルス粒子を用いて細胞に標的目的物を送達することができる。さらに、遺伝子ボンバードメント等によってベクターを宿主細胞内に導入することができる。
【0047】
さらに、形質転換細胞の構築に用いる宿主細胞はまた、本発明の融合タンパク質を作製することができるものであれば、特に限定されない。特に、宿主細胞としては、原核細胞、真核細胞、及び哺乳動物、植物、昆虫、真菌、又は細菌由来の細胞が挙げられるが、これに限定されるものではない。原核細胞の例としては、大腸菌を用いることができる。また、真核細胞の例としては、酵母を用いることができる。さらに、哺乳動物細胞としては、CHO細胞、F2N細胞、COS細胞、BHK細胞、Bowesメラノーマ細胞、HeLa細胞、911細胞、AT1080細胞、A549細胞、SP2/0細胞、ヒトリンパ芽球、NSO細胞、HT-1080細胞、PERC.6細胞、HEK293細胞、又はHEK293T細胞等を使用できるが、これに限定されるものではない。通常の当業者に哺乳動物宿主細胞として使用可能であることが知られている任意の細胞を使用することができる。
【0048】
上記のように、抗IGSF1抗体及びその断片の治療剤としての、又は他の任意の目的のための特性の最適化のために、宿主細胞が有するグリコシル化関連遺伝子を通常の当業者に公知の方法で操作することによって、融合タンパク質のグリコシル化パターン(例えば、シアル酸、フコシル化、グリコシル化)を調整することができる。
【0049】
抗IGSF1抗体の作製方法
本発明の別の態様において、IGSF1に特異的な抗体又はその断片を作製する方法が提供される。この場合、IGSF1に特異的な抗体及びその断片は、上に記載する通りである。
【0050】
融合タンパク質の作製方法は、i)形質転換細胞を培養すること;及びii)本発明の抗IGSF1抗体又はその断片を回収することを含んでいてもよい。
【0051】
本明細書において使用される、「培養」という用語は、適切に人工的に制御された環境条件下で微生物を増殖させる方法を指す。
【0052】
形質転換細胞を培養する方法は、当技術分野において周知の方法を用いて実施することができる。特に、培養物は、本発明の融合タンパク質を発現させることにより作製され得るものである限り、特に限定されない。詳細には、培養は、バッチプロセスで行っても、又は連続的に供給バッチプロセス又は反復供給バッチプロセスで行ってもよい。
【0053】
さらに、培養物からの融合タンパク質二量体の回収は、当技術分野で公知の方法によって行うことができる。詳細には、回収方法は、作製された本発明の融合タンパク質を回収し得る限り、特に限定されるものではない。好ましくは、回収方法は、遠心分離、濾過、抽出、噴霧、乾燥、蒸発、沈殿、結晶化、電気泳動、分別溶解(例えば、硫酸アンモニウム沈殿)、クロマトグラフィー(例えば、イオン交換、親和性、疎水性、及びサイズ排除)等の方法であってもよい。
【0054】
抗IGSF1抗体の使用
本発明の別の態様において、IGSF1抗体又はその断片を有効成分として含む、癌を予防又は治療するための医薬組成物が提供される。
【0055】
この場合、癌は、IGSF1が過剰発現している癌でもよい。さらに、癌は、胃癌、肝臓癌、肺癌、非小細胞肺癌、結腸直腸癌、膀胱癌、骨癌、血液癌、乳癌、メラノーマ、甲状腺癌、副甲状腺癌、骨髄癌、直腸癌、咽頭癌、喉頭癌、食道癌、膵臓癌、舌癌、皮膚癌、脳腫瘍、子宮癌、頭頸部癌、胆嚢癌、口腔癌、肛門周囲癌、結腸癌、及び中枢神経系腫瘍からなる群から選択されるいずれか1つでもよい。
【0056】
「予防」という用語は、医薬組成物の投与により、癌の発生を阻害する、又は癌の発症を遅延させる任意の作用を指す。「治療」という用語は、医薬組成物の投与により、癌の症状を改善又は有益に変化させる任意の作用を指す。
【0057】
本発明の癌の予防又は治療のための医薬組成物において、抗IGSF1抗体又はその断片は、抗癌活性を示し得る限り、用途、剤型、及び配合目的等に応じて任意の量(有効量)で含まれていてもよい。本明細書において、「有効量」は、抗癌効果を誘導することができる有効成分の量を指す。このような有効量は、通常の当業者の通常の能力の範囲内で実験的に決定することができる。本発明の医薬組成物は、組成物の総重量を基準にして、約0.1重量%~約90重量%、特に約0.5重量%~約75重量%、より詳細には約1重量%~約50重量%の量の抗体を有効成分として含んでいてもよい。
【0058】
本発明の医薬組成物は、従来の方法にしたがって製剤に配合される、従来の非毒性の薬学的に許容できる担体を含んでいてもよい。
【0059】
薬学的に許容できる担体は、患者への送達に適した任意の非毒性物質でもよい。蒸留水、アルコール、脂肪、ワックス及び不活性固体が担体として含まれ得る。さらに、薬学的に許容できる補助剤(緩衝剤、分散剤)が、医薬組成物に含まれてもよい。
【0060】
本明細書において使用される、「薬学的に許容できる担体」という用語は、生物体を刺激せず、投与される化合物の生物学的活性及び特性を阻害しない担体又は希釈剤を指す。液剤として製剤化された組成物の薬学的に許容できる担体は、無菌で生体適合性があり、生理食塩水、滅菌水、リンゲル液、緩衝生理食塩水、アルブミン注射液、デキストロース溶液、マルトデキストリン溶液、グリセロール、エタノール及びこれらの成分のうちの1つ又は複数の成分の混合物を用いることができ、必要に応じて、甘味料、可溶化剤、湿潤剤、乳化剤、等張化剤、吸収剤、酸化防止剤、保存剤、滑沢剤、充填剤、緩衝剤、静菌剤等の他の従来の添加剤を添加することができる。
【0061】
本発明の組成物は、非経口投与(例えば、筋肉内注射、静脈内注射、又は皮下注射)のために種々の製剤で調製することができる。本発明の医薬組成物を非経口製剤として調製する場合、当技術分野で公知の方法にしたがって、適当な担体とともに注射剤、経皮製剤、経鼻吸入剤及び坐剤の形態で製剤化することができる。注射用製剤としては、滅菌水性液剤、非水性液剤、懸濁剤、乳剤、凍結乾燥製剤及び坐剤が挙げられる。非水性溶媒及び懸濁剤としては、プロピレングリコール、ポリエチレングリコール、オリーブ油等の植物油、オレイン酸エチル等の注射用エステルが挙げられる。坐剤の基剤としては、ウィテプソール(Witepsol)、マクロゴール(Macrogol)、トゥイーン(Tween)61、カカオバター、ラウリン、及びグリセロゼラチン等を用いることができる。一方、注射剤とは、可溶化剤、等張化剤、懸濁化剤、乳化剤、安定化剤、及び保存剤などの従来の添加剤を含有していてもよい。
【0062】
医薬組成物の製剤化は当技術分野で知られており、詳細には、文献[Remington’s Pharmaceutical Sciences(19th ed.,1995)]等を参照することができる。この文献は、本明細書の一部と考えられる。
【0063】
本発明の抗体又は組成物は、治療有効量又は医薬有効量で患者に投与することができる。
【0064】
本明細書において使用される、「投与」という用語は、適切な方法によって所定の物質を対象に導入することを意味し、組成物は、標的組織に到達し得る限り、任意の一般的な経路で投与することができる。投与経路としては、腹腔内投与、静脈内投与、筋肉内投与、皮下投与、皮内投与、局所投与、鼻腔内投与、及び直腸内投与が挙げられるが、これらに限定されるものではない。
【0065】
本明細書において、「治療有効量」又は「医薬有効量」は、標的疾患を予防又は治療するために有効な抗体又は組成物の量を指し、医学的処置に適用可能な合理的な利益/リスク比で疾患を治療するのに十分であり、副作用を生じさせない量を意味する。有効量のレベルは、患者の健康状態、疾患の種類及び重症度、薬剤の活性、薬剤に対する感受性、投与方法、投与時間、投与経路及び排出率、治療期間、組合せ及び同時に使用される薬剤を含む要因、医学分野で周知の他の要因に応じて決定することができる。
【0066】
詳細には、本発明の組成物における抗体の有効量は、患者の年齢、性別、及び体重によって変動し得るものであり、一般的には体重1kgあたり約0.1mg~約1,000mg、又は約5mg~約200mgを毎日若しくは隔日に投与しても、又は1日に1~3回に分割してもよい。ただし、投与経路、疾患の重症度、性別、体重、及び年齢等に応じて増減する場合があるため、本発明の範囲はこれに限定されるものではない。
【0067】
「対象」という用語は、本発明の組成物が適用(処方)され得る対象を指し、ラット、マウス等の哺乳動物、又は家畜であってもよく、ヒトを含む。好ましくは、ヒトであってもよいが、これに限定されるものではない。
【0068】
本発明の抗体又はそれを含む医薬組成物は、単独の治療剤として、若しくは他の治療剤と組み合わせて投与しても、従来の治療剤と順次又は同時に投与しても、又は1回で若しくは複数回に分けて投与してもよい。この場合、他の治療剤としては、抗癌活性を有することが知られており、抗癌活性の増強及び補強のために安全性が既に確認されている任意の化合物又は天然抽出物をさらに含んでいてもよい。
【0069】
上記の全ての要因を考慮すると、最小限の副作用で、又は副作用なしで最大の効果を得ることができる量を投与することが重要であり、これは通常の当業者であれば容易に判断することが可能であろう。
【0070】
本発明の別の態様において、癌を予防又は治療するための医薬の製造のための、IGSF1に特異的な抗体又はその断片の使用が提供され、ここで、抗IGSF1抗体及びその断片、癌、予防及び治療は、上述と同様である。
【0071】
本発明の別の態様において、癌の予防及び治療のためのIGSF1に特異的な抗体又はその断片の使用が提供され、ここで、抗IGSF1抗体及びその断片、癌、予防及び治療は、上述と同様である。
【0072】
本発明の別の態様において、IGSF1に特異的な抗体又はその断片を対象に投与することを含む、癌を予防及び治療するための方法が提供され、ここで、抗IGSF1抗体及びその断片、癌、投与、治療及び予防は上述と同様である。
【0073】
対象は、哺乳動物であってもよく、好ましくはヒトである。さらに、対象は、癌患者又は癌に罹患する可能性が高い対象であってもよい。
【0074】
IGSF1に特異的な抗体又はその断片の投与経路、投与量、投与頻度は、患者の状態及び副作用の有無によって異なり得るため、IGSF1に特異的な抗体又はその断片は、種々の方法及び量で対象に投与することができる。最適な投与方法、投与量、及び投与頻度は、通常の当業者であれば適切な範囲で選択することができる。さらに、IGSF1に特異的な抗体又はその断片は、癌に関して治療効果が知られている他の薬剤又は生理活性物質と組み合わせて投与しても、又は他の薬剤との組合せ製剤の形態で製剤化してもよい。
【実施例】
【0075】
以下、本発明を以下の実施例によりさらに詳細に説明する。ただし、以下の実施例は、本発明を例示するためのものに過ぎず、本発明の範囲は以下の実施例に限定されるものではない。
【0076】
実施例1.抗IGSF1抗体の構築
実施例1.IGSF1抗原の発現及び精製
IGSF1の細胞外ドメインのみをJurkat細胞cDNAライブラリーからPCR法により増幅し、N293Fベクター(YBiologics Co.Ltd)を用いてカルボキシ末端(C末端)においてヒトFc(断片結晶化可能領域)及びHisタグを融合し、IGSF1タンパク質発現用ベクターを構築した。構築したIGSF1発現ベクターをHEK293F細胞にトランスフェクトした後、1mMバルプロ酸(valporicacid)(バルプロエート)を添加した培地中で6日間培養した。その後、IGSF1細胞外ドメインを、プロテインAアガロースを用いた一次精製に供し、次いで、IGSF1細胞外ドメインをスーパーデックス(Superdex)200ゲル濾過クロマトグラフィーを用いた二次精製に供した後、抗体スクリーニングに使用した。
【0077】
実施例1.2.IGSF1ヒト抗体のスクリーニング
IGSF1抗原のコーティング及びブロッキングの後、調製したヒト抗体ライブラリーファージ(YBiologics CO.,Ltd.)を用いてバイオパニング(YBiologics CO.,Ltd.)を行い、抗原に特異的に結合したファージのみを溶出させた。2回目、及び3回目のバイオパニングは、1回目のバイオパニングで増幅させたファージを用いて行った。各回のバイオパニングにより得られた陽性ファージ抗体プールについて、ELISAを行い、抗原についての特異性を確認した。また、3回目で得られたファージプールには、抗IGSF1抗体が濃縮されていることが確認された。各ポリファージELISAにおいて、3回目のパニングから、結合能の高いモノクローンを数百種類選択し、それらを用いてELISA解析によりIGSF1に特異的に結合するかどうかを確認し、それによって予備抗体クローンを得た。スクリーニング(screending)予備抗体クローンを、DNAヌクレオチド配列決定に供し、ヌクレオチド配列の異なる99種類のファージを選択した。選択された99の陽性ファージクローンが、抗原IGSF1に強く結合するが、他の抗原には結合しないことが確認された。上記の方法により、IGSF1抗原に特異性を示す抗体を、他の様々な抗原を用いてスクリーニングした結果、合計95種類を選択することができた。
【0078】
実施例1.3.IGSF1抗原に対する特異性の確認
選択した抗体について、ELISA法により、IGSF1を含む他の抗原に対する特異性について比較及び解析を行った。ファージクローンが、対照抗原であるmFc、hRAGE-Fc、CD58-Fc、及びITGA6-Fc等の様々な種類の不特定抗原に結合するかどうかが確認された。こうして得られた抗体をファージからIgGホールベクターに変換し、変換された95クローンの重鎖配列及び軽鎖配列がファージ抗体の配列と一致することが確認された。得られた抗体のうち、最も最適化された抗体が選択され、これを「WM-A1-3389」と称した。WM-A1-3389抗体のCDR配列を下記表1に示す。
【表1】
【0079】
実施例1.4.WM-A1-3389抗体の作製
WM-A1-3389抗体を作製するために、重鎖(配列番号21)をコードするポリヌクレオチド(配列番号23)をN293Fベクター(YBiologics Co, Ltd.)にロードした(以下「HC DNA」と称する)。さらに、軽鎖(配列番号22)をコードするポリヌクレオチド(配列番号24)をN293Fベクター(YBiologics Co., Ltd.)にロードした(以下、LC DNAと称する)。ベクターを細胞に形質転換した後、WM-A1-3389抗体を取得及び精製した。精製されたタンパク質は、SDS-PAGEにより同定した。
【表2】
【0080】
実施例2.IGSF1発現と腫瘍浸潤リンパ球の関係の解析
実施例2.1.IGSF1過剰発現細胞株の構築
ヒト肺癌細胞株NCI-H292又はヒト胚性腎細胞株HEK293E細胞でIGSF1を過剰発現させ、IGSF1が過剰発現している細胞株を構築した(
図1)。この場合、MOCKは、IGSF1を発現させない対照である。
【0081】
詳細には、IGSF1をコードするポリヌクレオチドを含む発現ベクター(OriGene Technologies, Inc.,カタログ番号RC209621)を、ヒト肺癌細胞株NCI-H292細胞又はヒト胚性腎細胞株HEK293F細胞にトランスフェクトした。その後、G418(ネオマイシン)を含む培地で培養することにより、トランスフェクトされた細胞を選択した。選択したクローンについてIGSF1の発現レベルを確認し、最も高いIGSF1発現を示すクローンを選択し、実験に使用した。MOCKは、IGSF1をコードするポリヌクレオチドがロードされていない空のベクターを指す。
【0082】
実施例2.2.肺癌細胞株スフェロイドにおけるIGSF1発現と腫瘍浸潤リンパ球の関係の解析
肺癌におけるIGSF1発現と腫瘍浸潤リンパ球(TIL)の相関関係を細胞レベルで確認するために、IGSF1を過剰発現させた肺癌細胞を用いてスフェロイドにおいて腫瘍浸潤リンパ球を特定した。
【0083】
最初に、肺癌細胞スフェロイドを構築するために、NCI-H292 IGSF1 O/E細胞とNCI-H292 MOCK細胞をそれぞれ2×104細胞/ウェルでU字底96ウェルプレート(Nunc、174925)に播種し、37℃の炭酸ガスインキュベータ内で72時間培養した。末梢血単核細胞(PBMC)は、1,200rpm、10分間の遠心分離により上清を除去し、PBSに再懸濁することにより調製した。18μlのDMSOにCFSE(カルボキシフルオレセイン スクシンイミジルエステル、Invitrogen、C34554)を5mMの濃度になるように添加し、PBSで1mMに希釈した。調製した末梢血単核細胞1×106細胞/mlあたり1mM CFSE溶液を1μl添加し、37℃の炭酸ガスインキュベータで10分間染色した。次いで、染色した末梢血単核細胞(PBMC)を含む溶液に、PBSの5倍量のFBS(ウシ胎児血清)含有培地を添加した。その後、炭酸ガスインキュベータにて37℃で、5分間反応を行った。1,200rpm、10分間の遠心分離により上清を除去した後、染色した末梢血単核細胞を培地に再懸濁し、実験に用いる末梢血単核細胞を調製した。
【0084】
その後、形成されたスフェロイドを超低接着96ウェルプレート(Corning、CLS3474)に2ウェルずつ移した後、CFSEで染色した末梢血単核細胞を1×105細胞/ウェルに播種し、37℃の炭酸ガスインキュベータ内で24時間共培養を行った。腫瘍浸潤リンパ球(TIL)を蛍光顕微鏡で観察した。この場合、IGSF1過剰発現細胞の対照として、NCI-H292 MOCK細胞を用いた。
【0085】
結果として、IGSF1過剰発現ヒト肺癌細胞(NCI-H292 IGSF1 O/E)スフェロイドでは、対照(NCI-H292 MOCK)と比較して腫瘍浸潤リンパ球(TIL)が減少することが確認された(
図2)。
【0086】
実施例2.3.肺癌細胞株を移植したヒト化マウスの腫瘍組織におけるIGSF1発現と腫瘍浸潤リンパ球の関係の解析
肺癌におけるIGSF1の発現と腫瘍浸潤リンパ球(TIL)との相関関係をin vivoレベルで確認するために、IGSF1が過剰発現しているヒト肺癌細胞を移植したヒト化マウスの腫瘍組織において腫瘍浸潤リンパ球を特定した。
【0087】
詳細には、ヒト末梢血単核細胞(PBMC)を移植したNSGマウス(SID(NSGA)マウス、F)に、IGSF1を過剰発現させたヒト肺癌細胞株であるNCI-H292 IGSF1 O/E細胞、又は対照であるNCI-H292 MOCK細胞を1匹あたり5×106個移植し、その後、17日目にマウスから腫瘍切片を採取した。
【0088】
採取した各腫瘍からヒト末梢血単核細胞分離し、FACSによって解析し、腫瘍組織の免疫組織化学染色により腫瘍組織における腫瘍浸潤リンパ球及びIGSF1の発現レベルを確認した。腫瘍に浸潤しているヒト末梢血単核細胞を確認するために、最初に、腫瘍組織をコラゲナーゼB(Roche、カタログ番号11088815001)で処理し、37℃で2時間以上反応させ、腫瘍組織を解離させた。腫瘍組織が完全に細胞に解離すると、lmlピペットを用いてピペッティングすることによって、単一細胞に分離させた。
【0089】
分離させた単一細胞を50mlチューブ(SPL、カタログ番号50050)に移し、20mlのPBSで洗浄した。その後、1,200rpmで3分間遠心分離することによって上清を除去した。残った細胞をDNase I(Roche、カタログ番号11284932001)と37℃で20分間反応させた。その後、20mlのPBSを添加し、1,200rpm、3分間の遠心分離により上清を除去した。残った細胞は0.25% トリプシン(Trysin)/EDTA(GIBCO、カタログ番号15400-054)で処理した。細胞をよく混合した後、新しい50mlチューブにセルストレーナー(SPL、カタログ番号93070)を置き、細胞を濾過した。濾過した細胞を含むチューブに20mlのPBSを添加し、よく混合した。その後、1,200rpm、3分間の遠心分離により上清を除去し、残った細胞にステイン緩衝剤(Stain Buffer)(BD、カタログ番号554656)1mlを添加し、洗浄した。
【0090】
分離させた細胞の非特異的抗体反応をブロックするため、2μgのhuman Fc block(BD、カタログ番号564219)を添加し、室温で10分間反応させた。反応後、抗ヒトCD45(BD、カタログ番号564357)抗体を添加し、遮光しながら4℃で30分間反応させた。反応後、ステイン緩衝剤1mlを添加し、洗浄した。その後、1,200rpm、3分間の遠心分離により上清を除去し、細胞を回収した後、200μlのステイン緩衝剤を添加し、BD LSRフォルテッサ(Fortessa)(商標)フローサイトメーターで解析した(
図3)。
【0091】
また、免疫組織化学染色法により、腫瘍内に発現する腫瘍リンパ球の分布及びIGSF1の発現を確認した。詳細には、ヒト末梢血単核細胞(PBMC)を移植したNSGマウス(SID(NSGA)マウス、F)に、ヒト肺癌細胞株であるNCI-H292 IGSF1 O/E細胞、又はNCI-H292 MOCK細胞を1匹あたり5×106個で移植した。その後、17日目に、マウスから採取した腫瘍組織の切片を脱パラフィンし、再水和した。
【0092】
その後、標的修復緩衝剤に浸漬し、熱誘導性エピトープ修復のためにマイクロ波で15分間加熱した。その後、標的修復緩衝剤中に30分間置いた後、Tris緩衝生理食塩水-0.05% トゥイーン20(TBS-T)で3回洗浄し、ブロッキング液で60分間ブロッキングした。一次抗体は抗IGSF1抗体(Santacruz、sc-393786)であり、1:100に希釈し、4℃で一晩結合させた。翌日、TBS-Tで3回洗浄し、内因性ペルオキシダーゼブロッキング試薬(Cell Marque、925B)と室温で5分間反応させた後、二次抗体(Vector、PK-6101 PK-6102)を室温で60分間結合させた。TBS-Tで3回洗浄した後、アビジン-ビオチンと60分間反応させた。最後にDAB染色(Vector、SK-4100)を行った後、脱水処理を経て組織染色を終了し、染色された組織切片を顕微鏡で観察した。
【0093】
結果として、IGSF1過剰発現ヒト肺癌細胞(NCI-H292 IGSF1 O/E)を移植したヒト化マウスの腫瘍組織において、ヒト免疫細胞であるhCD45+細胞が対照(NCI-H292 MOCK)と比較して減少していることが確認された(
図4)。
【0094】
実施例3.抗IGSF1抗体の結合親和性の解析
実施例3.1.抗IGSF1抗体のin vitroにおける結合親和性の解析
WM-A1-3389抗体のIGSF1抗原に対する結合親和性を、ELISA解析を用いてin vitroで確認した。
【0095】
詳細には、100ngのIGSF1で処理して96ウェルプレートをコートした後、200μlの4%スキムミルク(PBST)を添加し、室温で1時間ブロッキングした。WM-A1-3389抗体を4%スキムミルク(PBST)で12の濃度に1/3に連続希釈し、処理した後、室温で2時間反応させた。反応終了後、ウェルをPBSTで洗浄し、ヒトIgG Fc-HRP抗体で処理し、室温で1時間反応させた。その後、ウェルをPBSTで洗浄した後、TMBペルオキシダーゼ基質を添加して発色の程度を確認した後、450nmで吸光度を測定し、結果を比較及び解析した。
【0096】
結果として、WM-A1-3389抗体は、Kd値が約2.2×10
-11であり、これにより、IGSF1抗原に対して高い結合親和性を有することが示された(
図5)。
【0097】
実施例3.2.細胞内における抗IGSF1抗体のIGSF1に対する結合親和性の解析
IGSF1抗原に対するWM-A1-3389抗体の結合親和性を細胞レベルで確認するために、IGSF1を過剰発現したヒト肺癌細胞(NCI-H292 IGSF1 O/E)及び対照(NCI-H292 MOCK)を用いてIGSF1に対するWM-A1-3389抗体の結合能を確認した。
【0098】
詳細には、NCI-H292 IGSF1 O/E細胞及びNCI-H292 MOCK細胞の培地を除去し、PBSで1回洗浄後、0.25%トリプシン-EDTA 2mlで処理し、細胞を分離させた。分離させた細胞を2%FBS及び0.05%アジ化ナトリウムを含む8mlのPBS(以下、FACS緩衝剤と称する)で希釈し、1,200rpm、1分間の遠心分離により上清を除去した。その後、FACS緩衝剤に1×105細胞/mlになるように細胞を再懸濁した。その後、FACSチューブにそれぞれ1mlずつ分注し、1,200rpm、1分間の遠心分離により上清を除去した。
【0099】
FACSチューブに残ったペレットをボルテックスで遊離させ、WM-A1-3389抗体をFACS緩衝剤200μlあたり20μMから0μMまで1/4に希釈して合計12濃度に添加し、4℃で、30分間反応させた。反応が終了した後、各チューブに1mlのFACS緩衝剤を添加し、1,200rpm、1分間の遠心分離によって上清を除去した。このプロセスを合計2回行った。FACSチューブ内に残ったペレットをボルテックスで遊離させ、FACS緩衝剤200μlあたり、5μg/mlのFITC標識ヤギ抗ヒトIgG抗体(Invitrogen、62-8411)を添加し、4℃で30分間光を遮断しながら反応させた。反応が終了した後、各チューブに1mlのFACS緩衝剤を添加し、1,200rpm、1分間の遠心分離により上清を除去した。このプロセスを合計2回行った。
【0100】
最後に、上清を除去した後、残ったペレットを200μlのFACS緩衝剤に再懸濁し、FACSにより解析した。FACS解析については、BD LSRフォルテッサ(商標)フローサイトメーターを用いて各細胞における標識されたFITC蛍光値を測定し、その結果をFlowJoソフトウェアで解析し、シグマプロットプログラムでEC50値を算出した。この場合、IGSF1過剰発現細胞の対照としてNCI-H292 MOCK細胞を使用した。
【0101】
結果として、対照(NCI-H292 MOCK)では、WA-A1-3389抗体の濃度に関わらず、結合は確認されなかった。一方、IGSF1が過剰発現しているヒト肺癌細胞(NCI-H292 IGSF1 O/E)では、WM-A1-3389抗体のEC50値は約69nMであることが確認された(
図6)。
【0102】
実施例4.細胞における抗IGSF1抗体のIGSF1抗原に対する抗原特異性の解析
IGSF1抗原に対するWM-A1-3389抗体の抗原特異的結合能(標的選択性)を細胞レベルで解析するために、IGSF1が過剰発現されたヒト肺癌細胞(NCI-H292 IGSF1 O/E)を用いて細胞内で発現したIGSF1に対するWM-A1-3389抗体の結合を確認した。
【0103】
詳細には、IGSF1が過剰発現しているヒト肺癌細胞(NCI-H292 IGSF1 O/E)及びその対照(NCI-H292 MOCK)の培地を除去し、PBSで1回洗浄した後、0.25%トリプシン-EDTA 2mlで処理し、細胞を分離させた。分離させた細胞を2%FBS及び0.05%アジ化ナトリウムを含むPBS(以下、FACS緩衝剤と称する)8mlで希釈した後、1,200rpm、1分間の遠心分離により上清を除去した。その後、FACS緩衝剤に1×105細胞/mlになるように細胞を再懸濁した。その後、FACSチューブに各1mlを分注し、1,200rpm、1分間の遠心分離により上清を除去した。
【0104】
FACSチューブに残ったペレットをボルテックスで遊離させ、FACS緩衝剤200μlあたり0.4μgのヒトIgGアイソタイプ抗体(Bio X cell、BE0297)又はWM-A1-3389抗体を添加し、4℃で30分間反応させた。反応が終了した後、各チューブに1mlのFACS緩衝剤を添加し、1,200rpm、1分間の遠心分離により上清を除去した。このプロセスを合計2回行った。FACSチューブ内に残った細胞ペレットをボルテックスにより遊離させ、FACS緩衝剤200μlあたり0.4μgのFITC標識ヤギ抗ヒトIgG抗体(Invitrogen、62-8411)を添加し、4℃で30分間遮光しながら反応させた。
【0105】
反応が終了した後、各チューブに1mlのFACS緩衝剤を添加し、1,200rpm、1分間の遠心分離により上清を除去した。このプロセスを合計2回行った。最後に上清を除去した後、残ったペレットを200μlのFACS緩衝剤に再懸濁し、FACSによって解析した。FACS解析については、BD LSRフォルテッサ(商標)フローサイトメーターを用いて各細胞における標識されたFITC蛍光値を測定し、FlowJoソフトウェアを用いて結果を解析した。この場合、IGSF1過剰発現細胞の対照としてNCI-H292 MOCK細胞を、WM-A1-3389抗体の対照としてヒトIgGアイソタイプを使用した。
【0106】
結果として、WM-A1-3389抗体で処理した群は、IgGアイソタイプで処理した群と比較して、対照(NCI-H292 MOCK)で約2.6%、及びIGSF1過剰発現細胞(NCI-H292 IGSF1 O/E)で約78.9%の結合能を示した(
図7)。
【0107】
次に、IGSF1が過剰発現しているNCI-H292 IGSF1 O/E細胞及びHEK293E IGSF1 O/E細胞に、IGSF1をコードするmRNAに特異的に結合するshRNA(以下、shIGSF1と称する)をトランスフェクトしてIGSF1の発現を低下させ(以下、IGSF1 K/D細胞と称する)、細胞内のIGSF1抗原に対するWM-A1-3389抗体の結合能を測定した。この場合、トランスフェクション(IGSF1 K/D)の対照としてshIGSF1を含まないスクランブルRNA(以下、sc細胞と称する)を用い、WM-A1-3389抗体の対照としてヒトIgGアイソタイプを使用した。WM-A1-3389抗体の抗原特異性は、sc細胞での結合能に基づいて、IGSF1 K/D細胞における結合能と比較した。さらに、IGSF1過剰発現細胞の対照として、NCI-H292 MOCK細胞、HEK293E MOCK細胞をそれぞれ使用した。
【0108】
詳細には、NCI-H292(IGSF1 O/E、MOCK)及びHEK293E(IGSF1 O/E、MOCK)細胞株の培地を除去し、PBSで1回洗浄した後、NCI-H292細胞は0.25%トリプシン-EDTA 2ml、HEK293E細胞は0.05%トリプシン-EDTA2mlでそれぞれ処理して、細胞を分離させた。分離させた細胞を8mlの培養培地で希釈し、800rpm、3分間の遠心分離により上清を除去した。残った細胞をそれぞれ1×105細胞/ml(NCI-H292)及び0.5×105細胞/ml(HEK293E)の濃度に再懸濁した後、60mm培養プレートに細胞3mlを添加し、37℃の細胞インキュベータ内で1日培養した。翌日、shIGSF1のトランスフェクションを行った。1.5mlチューブに200μlのjet PRIME緩衝剤と10nMのshIGSF1を添加及び混合した後、4μlのjet PRIME試薬を添加して混合し、室温で10分間反応させた。その後、前日に調製した細胞の培地を交換し、各細胞にトランスフェクション混合物を200μl添加し、細胞インキュベータ内で24時間反応させた。24時間後、新鮮な培養培地に交換し、さらに24時間培養した。
【0109】
トランスフェクトした細胞については、培地を除去し、上記と同様の方法でFACS解析を行った。
【0110】
結果として、sc細胞株では、ヒトIgGアイソタイプで処理した群と比較して、WM-A1-3389抗体の結合が確認された。さらに、結合能に基づいてIGSF1の発現を低下させた場合(IGSF1 K/D細胞)、WM-A1-3389抗体の結合能が共に低下することが確認された(
図8)。
【0111】
実施例5.肺癌細胞スフェロイドにおける抗IGSF1抗体の免疫抗癌効果の解析
WM-A1-3389抗体の免疫抗癌効果を細胞レベルで解析するために、肺癌細胞スフェロイド及び末梢血単核細胞(PBMC)を共培養し、腫瘍浸潤リンパ球(TIL)及び免疫原性細胞の死滅を確認した。
【0112】
肺癌細胞スフェロイドと末梢血単核細胞との共培養は、実施例2.2と同様の方法で行った。
【0113】
共培養した細胞及び上清をチューブに回収し、1,200rpm、2分間の遠心分離によって上清を除去した。細胞ペレットを500μlの0.25%トリプシン-EDTAで処理して単一細胞とした後、2%FBSと0.05%NaN3とを含むPBS(以下、FACS緩衝剤と称する)2mlで希釈し、1200rpm、3分間の遠心分離により上清を除去した。残った細胞ペレットを200μlのFACS緩衝剤に再懸濁した後、抗HMGB1抗体(Biolegend、651408)、抗Hsp90抗体(Enzo Life Science、ADI-SPA-830PE-D)を添加し、4℃で30分間染色を行った。
【0114】
各チューブにFACS緩衝剤1mlを添加し、1,200rpm、2分間の遠心分離により上清を除去した。このプロセスを合計2回繰り返した。その後、BD LSRフォルテッサ(商標)フローサイトメーターを用いて解析した。FACS解析の結果は、FlowJoソフトウェアを用いて解析した。さらに、腫瘍浸潤リンパ球(TIL)を蛍光顕微鏡で観察した。この場合、WM-A1-3389抗体の対照として、ヒトIgGアイソタイプを使用した。
【0115】
結果として、IGSF1過剰発現肺癌細胞(NCI-H292 IGSF1 O/E)スフェロイドにおいて、WM-A1-3389抗体で処理した群では対照と比較して腫瘍浸潤リンパ球(TIL)が増加することが確認された(
図9)。さらに、IGSF1過剰発現肺癌細胞スフェロイドにおいて、WM-A1-3389抗体で処理した群では、対照と比較して免疫原性細胞死(ICD)も増加することが確認された(
図10)。
【0116】
実施例6.同種移植マウスモデルにおける抗IGSF1抗体の腫瘍増殖抑制有効性の解析
WM-A1-3389抗体の抗癌有効性を動物レベルで確認するために、末梢血単核細胞ヒト化モデル(PBMCヒト化モデル)マウスにIGSF1を過剰発現させたヒト肺癌細胞(NCI-H292 IGSF1 O/E)を移植し、その後、WM-A1-3389抗体の腫瘍増殖抑制有効性を評価した。
【0117】
詳細には、6週齢の雌の末梢血単核細胞ヒト化マウス(Gem biosciences)を購入し、1週間馴化した後、IGSF1過剰発現ヒト肺癌細胞NCI-H292 IGSF1 O/E(5×106細胞/動物)をPBS及びマトリゲルで希釈し、マウスの右背部に皮下注射(200μl)した。腫瘍サイズが約120mm3に達すると、IgGアイソタイプ(対照)又はWM-A1-3389抗体をそれぞれ10mg/kgの用量で腹腔内投与した。投与は3日に1回、4週間行い、週2回、マウスの腫瘍サイズ及び体重を測定した。投与22日目にサテライト群マウスから血液及び腫瘍を採取し、FACS解析に供した。投与が終了した後、実験動物を安楽死させ、腫瘍を摘出し、体重を測定した。WM-A1-3389抗体の対照として、ヒトIgGアイソタイプを使用した。
【0118】
結果として、WM-A1-3389抗体を投与した群は、対照と比較して高い腫瘍増殖抑制有効性を示し、腫瘍阻害率(TGI)約64.5%を示した(
図11)。さらに、個々の対象においても、腫瘍増殖が阻害されることが確認された(
図12)。
【0119】
実施例7.白人肺癌患者組織におけるIGSF1発現の解析
白人肺癌患者組織におけるIGSF1の発現を、免疫組織化学染色法により確認した。
【0120】
詳細には、ヒト非小細胞肺癌患者の組織の切片を脱パラフィン及び再水和した後、標的修復緩衝剤に浸漬し、熱誘導性エピトープ修復のためにマイクロ波で15分間加熱した。その後、さらに30分間標的修復緩衝剤中で反応させた。その後、0.05%トゥイーン20を含むTris緩衝生理食塩水(TBS-T)で3回洗浄し、次いでブロッキング液で60分間ブロッキングした。一次抗体は抗IGSF1抗体(Santacruz、sc-393786)であり、1:100に希釈し、4℃で一晩結合させた。翌日、組織切片をTBS-Tで3回洗浄した後、内因性ペルオキシダーゼブロッキング試薬(Cell Marque、925B)を用いて5分間反応させた。その後、二次抗体(Vector、PK-6101 PK-6102)を室温で60分間結合させた。その後、TBS-Tで3回洗浄し、アビジン-ビオチンで処理し、60分間反応させた後、DAB染色(Vector、SK-4100)を行った。染色された組織切片を顕微鏡で観察した(
図13)。
【配列表】
【国際調査報告】