(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公表特許公報(A)
(11)【公表番号】
(43)【公表日】2024-10-02
(54)【発明の名称】治療のための標的化ナノ粒子
(51)【国際特許分類】
A61K 9/51 20060101AFI20240925BHJP
A61K 45/00 20060101ALI20240925BHJP
A61K 31/7088 20060101ALI20240925BHJP
A61K 31/713 20060101ALI20240925BHJP
A61K 48/00 20060101ALI20240925BHJP
A61K 47/34 20170101ALI20240925BHJP
A61K 47/32 20060101ALI20240925BHJP
A61K 47/36 20060101ALI20240925BHJP
A61K 47/42 20170101ALI20240925BHJP
A61K 47/10 20170101ALI20240925BHJP
A61P 43/00 20060101ALI20240925BHJP
A61K 45/06 20060101ALI20240925BHJP
【FI】
A61K9/51
A61K45/00
A61K31/7088
A61K31/713
A61K48/00
A61K47/34
A61K47/32
A61K47/36
A61K47/42
A61K47/10
A61P43/00 111
A61K45/06
【審査請求】未請求
【予備審査請求】未請求
(21)【出願番号】P 2024508578
(86)(22)【出願日】2022-09-19
(85)【翻訳文提出日】2024-04-09
(86)【国際出願番号】 US2022043938
(87)【国際公開番号】W WO2023044090
(87)【国際公開日】2023-03-23
(32)【優先日】2021-09-18
(33)【優先権主張国・地域又は機関】US
(32)【優先日】2022-01-14
(33)【優先権主張国・地域又は機関】US
(81)【指定国・地域】
(71)【出願人】
【識別番号】506147560
【氏名又は名称】ユニバーシティ オブ ピッツバーグ-オブ ザ コモンウェルス システム オブ ハイヤー エデュケーション
【氏名又は名称原語表記】UNIVERSITY OF PITTSBURGH OF THE COMMONWEALTH SYSTEM OF HIGHER EDUCATION
(74)【代理人】
【識別番号】110002734
【氏名又は名称】弁理士法人藤本パートナーズ
(72)【発明者】
【氏名】リ,ソン
(72)【発明者】
【氏名】ホアン,イシアン
(72)【発明者】
【氏名】チェン,ユアン
【テーマコード(参考)】
4C076
4C084
4C086
【Fターム(参考)】
4C076AA65
4C076AA95
4C076CC29
4C076EE06
4C076EE09
4C076EE13
4C076EE17
4C076EE23
4C076EE30
4C076EE41
4C076FF31
4C076FF68
4C084AA13
4C084AA17
4C084AA18
4C084MA02
4C084MA41
4C084NA05
4C084NA10
4C084NA13
4C084ZC021
4C084ZC022
4C086AA01
4C086AA02
4C086EA16
4C086MA02
4C086MA05
4C086NA05
4C086NA10
4C086NA13
4C086ZC02
(57)【要約】
製剤は、カチオン性基を含む複数の両親媒性ポリマーの自己集合から形成されたナノ構造体を含む。各々のナノ構造体は、ナノ構造体への適用剤、又は更にナノ構造体に加えられた適用剤を含む。適用剤は、負電荷を有する標的化薬を含む。
【選択図】なし
【特許請求の範囲】
【請求項1】
カチオン性基を含む複数の両親媒性ポリマーの自己集合から形成されるナノ構造体と、
前記ナノ構造体に加えられた適用剤と、を含み、
前記適用剤が、負電荷を有するCD44リガンドと親水性高分子化合物とを含む、
製剤。
【請求項2】
前記親水性高分子化合物が、負電荷を有する、請求項1に記載された製剤。
【請求項3】
前記親水性高分子化合物が、負電荷を有する分子と親水性ポリマーとの結合体を含む、請求項2に記載された製剤。
【請求項4】
前記親水性ポリマーに結合した前記負電荷を有する分子は、CD44リガンドである、請求項3に記載された製剤。
【請求項5】
各々の前記ナノ構造体が、内側の疎水性ドメインと外側の親水性ドメインとを含む、請求項1に記載された製剤。
【請求項6】
前記CD44リガンドは、オステオポンチン、コラーゲン、マトリックスメタロプロテアーゼ、コンドロイチン硫酸、ヒアルロン酸、又はそれらの誘導体である、請求項1に記載された製剤。
【請求項7】
前記CD44リガンドは、コンドロイチン硫酸である、請求項6に記載された製剤。
【請求項8】
前記ナノ構造体と一体化された治療用化合物をさらに含む、請求項6に記載された製剤。
【請求項9】
前記治療用化合物は、前記負電荷を有するCD44リガンドと前記親水性高分子化合物とが適用される前の前記ナノ構造体に加えられた核酸を含む、請求項8に記載された製剤。
【請求項10】
前記治療用化合物が、疎水性又は親油性の治療用化合物を含む、請求項8に記載された製剤。
【請求項11】
前記治療用化合物は、小分子の治療用化合物である、請求項10に記載された製剤。
【請求項12】
前記治療用化合物が、1kDa未満の分子量を有する、請求項11に記載された製剤。
【請求項13】
前記治療用化合物は、化学療法用化合物である、請求項12に記載された製剤。
【請求項14】
前記治療用化合物とは異なる第二の治療用化合物をさらに含み、前記第二の治療用化合物は核酸を含む、請求項10に記載された製剤。
【請求項15】
前記治療用化合物は、小分子の治療用化合物である、請求項14に記載された製剤。
【請求項16】
前記治療用化合物が、1kDa未満の分子量を有する、請求項15に記載された製剤。
【請求項17】
前記治療用化合物は、化学療法用化合物である、請求項16に記載された製剤。
【請求項18】
前記核酸が、RNA又はDNAを含む、請求項9に記載された製剤。
【請求項19】
前記核酸は、遺伝子又はsiRNAである、請求項18に記載された製剤。
【請求項20】
前記核酸は、siRNAである、請求項19に記載された製剤。
【請求項21】
前記カチオン性基が、本質的にカチオン性の基又はin vivoでカチオンを形成する基を含む、請求項1に記載された製剤。
【請求項22】
前記in vivoでカチオンを形成する基は、アミン基であり、前記アミン基は、非環式アミン基、環式アミン基、又は複素環式アミン基である、請求項21に記載された製剤。
【請求項23】
前記アミン基は、メトホルミン基、モルホリン基、ピペラジン基、ピリジン基、ピロリジン基、ピペリジン、チオモルホリン、チオモルホリンオキシド、チオモルホリンジオキシド、イミダゾール、グアニジン、ビグアニジン、又はクレアチンからなる群より選択される、請求項22に記載された製剤。
【請求項24】
前記親水性ポリマーは、ポリアルキレンオキシド、ポリビニルアルコール、ポリアクリル酸、ポリアクリルアミド、ポリオキサゾリン、多糖類、及びポリペプチドからなる群より選択される、請求項3に記載された製剤。
【請求項25】
前記親水性ポリマーは、ポリエチレングリコールである、請求項3に記載された製剤。
【請求項26】
前記負電荷を有するCD44リガンドの前記親水性高分子化合物に対する比率は、患者の肝臓における前記ナノ構造体の取り込みが、肝臓から離れた腫瘍におけるCD44と前記負電荷を有するCD44リガンドとの相互作用を可能にするのに十分な低レベルに維持されるような比率である、請求項1乃至請求項25のいずれか一項に記載された製剤。
【請求項27】
前記複数の両親媒性ポリマーの各々が、疎水性ポリマー骨格と、前記疎水性ポリマー骨格に結合し且つ少なくとも一つのカチオン性基を含む第一の複数のペンダント基と、前記疎水性ポリマー骨格に結合し且つ少なくとも一つの親水性ポリマーを含む第二の複数のペンダント基と、を含む、請求項1乃至請求項25のいずれか一項に記載された製剤。
【請求項28】
前記疎水性ポリマー骨格が、ペンダント脂質基をさらに含む、請求項27に記載された製剤。
【請求項29】
前記疎水性ポリマー骨格は、フリーラジカル重合を介して形成された、請求項27に記載された製剤。
【請求項30】
前記疎水性ポリマー骨格は、可逆的不活性化ラジカル重合を介して形成された、請求項29に記載された製剤。
【請求項31】
水性媒体においてカチオン性基を含む複数の両親媒性ポリマーの自己集合を介してナノ構造体を形成することと、
負電荷を有するCD44リガンド及び親水性高分子化合物を前記ナノ構造体に加えることと、を含む、
組成物の製剤化方法。
【請求項32】
前記親水性高分子化合物が、負電荷を有する、請求項31に記載された方法。
【請求項33】
前記親水性高分子化合物が、負電荷を有する分子と親水性ポリマーとの結合体を含む、請求項32に記載された方法。
【請求項34】
前記親水性ポリマーに結合した負電荷を有する分子は、CD44リガンドである、請求項33に記載された方法。
【請求項35】
各々の前記ナノ構造体が、内側の疎水性ドメインと外側の親水性ドメインとを含む、請求項31に記載された方法。
【請求項36】
前記CD44リガンドは、オステオポンチン、コラーゲン、マトリックスメタロプロテアーゼ、コンドロイチン硫酸、ヒアルロン酸、又はそれらの誘導体である、請求項31に記載された方法。
【請求項37】
前記CD44リガンドは、コンドロイチン硫酸である、請求項36に記載された方法。
【請求項38】
治療用化合物と前記ナノ構造体とを一体化させることをさらに含む、請求項36に記載された方法。
【請求項39】
前記治療用化合物は、前記負電荷を有するCD44リガンドと前記親水性高分子化合物とが加えられる前に前記ナノ構造体へと加えられた核酸を含む、請求項38に記載された方法。
【請求項40】
前記治療用化合物は、前記複数の両親媒性ポリマーと混合された疎水性又は親油性の化合物である、請求項38に記載された方法。
【請求項41】
前記治療用化合物は、小分子の治療用化合物である、請求項40に記載された方法。
【請求項42】
前記治療用化合物が、1kDa未満の分子量を有する、請求項41に記載された方法。
【請求項43】
前記治療化合物は、化学療法用化合物である、請求項42に記載された方法。
【請求項44】
前記負電荷を有するCD44リガンドと前記親水性高分子化合物とを加える前に、核酸を含む第二の治療用化合物を前記ナノ構造体へと加えることをさらに含む、請求項40に記載された方法。
【請求項45】
前記治療用化合物は、小分子の治療用化合物である、請求項44に記載された方法。
【請求項46】
前記治療用化合物が、1kDa未満の分子量を有する、請求項45に記載された方法。
【請求項47】
前記治療用化合物は、化学療法用化合物である、請求項46に記載された方法。
【請求項48】
前記核酸が、RNA又はDNAを含む、請求項39に記載された方法。
【請求項49】
前記核酸は、遺伝子又はsiRNAである、請求項48に記載された方法。
【請求項50】
前記核酸は、siRNAである、請求項48に記載された方法。
【請求項51】
前記カチオン性基が、本質的にカチオン性の基又はin vivoでカチオンを形成する基を含む、請求項31に記載された方法。
【請求項52】
前記in vivoでカチオンを形成する基は、アミン基であり、前記アミン基は、非環式アミン基、環式アミン基、又は複素環式アミン基である、請求項51に記載された方法。
【請求項53】
前記アミン基は、メトホルミン基、モルホリン基、ピペラジン基、ピリジン基、ピロリジン基、ピペリジン、チオモルホリン、チオモルホリンオキシド、チオモルホリンジオキシド、イミダゾール、グアニジン、ビグアニジン、又はクレアチンからなる群より選択される、請求項52に記載された方法。
【請求項54】
前記親水性ポリマーは、ポリアルキレンオキシド、ポリビニルアルコール、ポリアクリル酸、ポリアクリルアミド、ポリオキサゾリン、多糖類、及びポリペプチドからなる群より選択される、請求項33に記載された方法。
【請求項55】
前記親水性ポリマーは、ポリエチレングリコールである、請求項33に記載された方法。
【請求項56】
前記負電荷を有するCD44リガンドの前記親水性高分子化合物に対する比率は、患者の肝臓における前記ナノ構造体の取り込みが、肝臓から離れた腫瘍におけるCD44と前記負電荷を有するCD44リガンドとの相互作用を可能にするのに十分な低レベルに維持されるような比率である、請求項31乃至請求項55のいずれか一項に記載された方法。
【請求項57】
前記複数の両親媒性ポリマーの各々が、疎水性ポリマー骨格と、前記疎水性ポリマー骨格に結合し且つ少なくとも一つの前記カチオン性基を含む第一の複数のペンダント基と、前記疎水性ポリマー骨格に結合し且つ少なくとも一つの親水性ポリマーを含む第二の複数のペンダント基と、を含む、請求項31乃至請求項55のいずれか一項に記載された方法。
【請求項58】
前記疎水性ポリマー骨格が、ペンダント脂質基をさらに含む、請求項57に記載された方法。
【請求項59】
前記疎水性ポリマー骨格は、フリーラジカル重合を介して形成された、請求項57に記載された方法。
【請求項60】
前記疎水性ポリマー骨格は、可逆的不活性化ラジカル重合を介して形成された、請求項59に記載された方法。
【請求項61】
治療用化合物を患者へと送達する方法であって、
カチオン性基を含む複数の両親媒性ポリマーの自己集合から形成されたナノ構造体を含む製剤を投与することを含み、
前記ナノ構造体が、適用剤を含み、
前記適用剤が、負電荷を有するCD44リガンドと親水性ポリマーとを含み、
前記第一の治療用化合物は、前記製剤と一体化される、方法。
【請求項62】
前記親水性高分子化合物が、負電荷を有する、請求項61に記載された方法。
【請求項63】
前記親水性高分子化合物が、負電荷を有する分子と親水性ポリマーとの結合体を含む、請求項62に記載された方法。
【請求項64】
前記親水性ポリマーに結合した前記負電荷を有する分子は、CD44リガンドである、請求項63に記載された方法。
【請求項65】
各々の前記ナノ構造体は、内側の疎水性ドメインと外側の親水性ドメインとを含む、請求項61に記載された方法。
【請求項66】
前記CD44リガンドは、オステオポンチン、コラーゲン、マトリックスメタロプロテアーゼ、コンドロイチン硫酸、ヒアルロン酸、又はそれらの誘導体である、請求項61に記載された方法。
【請求項67】
前記CD44リガンドは、コンドロイチン硫酸である、請求項61に記載された方法。
【請求項68】
前記治療用化合物は、前記負電荷を有するCD44リガンドと前記親水性高分子化合物とが適用される前に前記ナノ構造体へと加えられた核酸を含む、請求項66に記載された方法。
【請求項69】
前記治療用化合物が、疎水性又は親油性の治療用化合物を含む、請求項61に記載された方法。
【請求項70】
前記治療化合物は、小分子の治療化合物である、請求項69に記載された方法。
【請求項71】
前記治療用化合物が、1kDa未満の分子量を有する、請求項70に記載された方法。
【請求項72】
前記治療用化合物は、化学療法用化合物である、請求項71に記載された方法。
【請求項73】
前記製剤は、前記負電荷を有するCD44リガンドと前記親水性高分子化合物とが加えられる前に前記ナノ構造体に加えられた核酸を含む第二の治療化合物をさらに含む、請求項69に記載された方法。
【請求項74】
前記治療用化合物は、小分子の治療用化合物である、請求項73に記載された方法。
【請求項75】
前記治療用化合物が、1kDa未満の分子量を有する、請求項74に記載された方法。
【請求項76】
前記治療化合物は、化学療法用化合物である、請求項75に記載された方法。
【請求項77】
前記核酸が、RNA又はDNAを含む、請求項68に記載された方法。
【請求項78】
前記核酸は、遺伝子又はsiRNAである、請求項77に記載された方法。
【請求項79】
前記核酸は、siRNAである、請求項77に記載された方法。
【請求項80】
カチオン性基を含む複数の両親媒性ポリマーの自己集合から形成されるナノ構造体と、
前記ナノ構造体に加えられた適用剤と、を含み、
前記適用剤が、患者の体内の対象領域を標的とする負電荷を有する標的化剤を含む、
製剤。
【請求項81】
前記負電荷を有する標的化剤は、細胞受容体に対するリガンド、ペプチド、アプタマー、多糖類及び抗体からなる群より選択される、請求項80に記載された製剤。
【請求項82】
前記負電荷を有する標的化剤は、細胞受容体に対するリガンドである、請求項80に記載された製剤。
【請求項83】
前記適用剤が、親水性高分子化合物をさらに含む、請求項80に記載された製剤。
【請求項84】
前記親水性高分子化合物が、負電荷を有する、請求項83に記載された製剤。
【請求項85】
前記親水性高分子化合物が、負電荷を有する分子と親水性ポリマーとの結合体を含む、請求項84に記載された製剤。
【請求項86】
前記親水性ポリマーに結合した負電荷を有する分子は、前記標的化剤と同じ化合物である、請求項85に記載された製剤。
【請求項87】
前記ナノ構造体が、内側の疎水性ドメインと外側の親水性ドメインとを含む、請求項80に記載された製剤。
【請求項88】
前記ナノ構造体と一体化された治療用化合物をさらに含む、請求項80に記載された製剤。
【請求項89】
前記治療用化合物が、核酸を含む、請求項88に記載された製剤。
【請求項90】
前記治療用化合物が、疎水性又は親油性の治療用化合物を含む、請求項88に記載された製剤。
【請求項91】
前記治療用化合物は、小分子の治療用化合物である、請求項90に記載された製剤。
【請求項92】
前記治療用化合物が、1kDa未満の分子量を有する、請求項91に記載された製剤。
【請求項93】
前記治療用化合物は、化学療法用化合物である、請求項92に記載された製剤。
【請求項94】
前記治療用化合物とは異なる第二の治療用化合物をさらに含み、前記第二の治療用化合物が、核酸を含む、請求項90に記載された製剤。
【請求項95】
前記治療用化合物は、小分子の治療用化合物である、請求項94に記載された製剤。
【請求項96】
前記治療用化合物が、1kDa未満の分子量を有する、請求項95に記載された製剤。
【請求項97】
前記治療化合物は、化学療法用化合物である、請求項96に記載された製剤。
【請求項98】
前記核酸が、RNA又はDNAを含む、請求項89に記載された製剤。
【請求項99】
前記核酸は、遺伝子又はsiRNAである、請求項98に記載された製剤。
【請求項100】
前記核酸は、siRNAである、請求項99に記載された製剤。
【請求項101】
前記カチオン性基が、本質的にカチオン性の基又はin vivoでカチオンを形成する基を含む、請求項80に記載された製剤。
【請求項102】
前記in vivoでカチオンを形成する基は、アミン基であり、前記アミン基は、非環式アミン基、環式アミン基、又は複素環式アミン基である、請求項101に記載された製剤。
【請求項103】
前記アミン基は、メトホルミン基、モルホリン基、ピペラジン基、ピリジン基、ピロリジン基、ピペリジン、チオモルホリン、チオモルホリンオキシド、チオモルホリンジオキシド、イミダゾール、グアニジン、ビグアニジン、又はクレアチンからなる群より選択される、請求項102に記載された製剤。
【請求項104】
前記親水性ポリマーは、ポリアルキレンオキシド、ポリビニルアルコール、ポリアクリル酸、ポリアクリルアミド、ポリオキサゾリン、多糖類、及びポリペプチドからなる群より選択される、請求項85に記載された製剤。
【請求項105】
前記親水性ポリマーは、ポリエチレングリコールである、請求項85に記載された製剤。
【請求項106】
前記ナノ構造体に加えられる前記親水性高分子化合物に対する負電荷を有する標的化剤の比率は、前記対象領域以外の一つ以上の領域における前記ナノ構造体の取り込みが、前記対象領域における前記負電荷を有する標的化剤の相互作用を可能にするために十分な低レベルに維持されるような比率である、請求項83乃至請求項86のいずれか一項に記載された製剤。
【請求項107】
前記複数の両親媒性ポリマーの各々が、疎水性ポリマー骨格と、前記疎水性ポリマー骨格に結合し且つ少なくとも一つの前記カチオン性基を含む第一の複数のペンダント基と、前記疎水性ポリマー骨格に結合し且つ少なくとも一つの親水性ポリマーを含む第二の複数のペンダント基と、を含む、請求項80乃至請求項105のいずれか一項に記載された製剤。
【請求項108】
前記疎水性ポリマー骨格が、ペンダント脂質基をさらに含む、請求項107に記載された製剤。
【請求項109】
前記疎水性ポリマー骨格は、フリーラジカル重合を介して形成された、請求項107に記載された製剤。
【請求項110】
前記疎水性ポリマー骨格は、可逆的不活性化ラジカル重合を介して形成された、請求項109に記載された製剤。
【請求項111】
前記標的化剤は、CD44リガンドである、請求項80乃至請求項105に記載された製剤。
【請求項112】
前記第二の複数のペンダント基の前記親水性ポリマーは、ポリアルキレンオキシド、ポリビニルアルコール、ポリアクリル酸、ポリアクリルアミド、ポリオキサゾリン、多糖類、及びポリペプチドからなる群より選択される、請求項107に記載された製剤。
【請求項113】
前記第二の複数のペンダント基の前記親水性ポリマーは、ポリエチレングリコールである、請求項107に記載された製剤。
【請求項114】
前記ナノ構造体へと加えられる前記親水性高分子化合物に対する前記負電荷を有する標的化剤の比率は、前記対象領域以外の一つ以上の領域における前記ナノ構造体の取り込みが、前記対象領域における前記負電荷を有する標的化剤の相互作用を可能にするために十分な低レベルに維持されるような比率である、請求項107に記載された製剤。
【請求項115】
前記標的化剤は、CD44リガンドである、請求項114に記載された製剤。
【請求項116】
水性媒体においてカチオン性基を含む複数の両親媒性ポリマーの自己集合を介してナノ構造体を形成させることと、
負電荷を有する標的化剤を前記ナノ構造体へと加えることにより適用剤を前記ナノ構造体へと加えることを含む、
組成物を製剤化する方法。
【請求項117】
治療用化合物を患者へと送達する方法であって、
カチオン性基を含む複数の両親媒性ポリマーの自己集合から形成されるナノ構造体を含む製剤を投与することを含み、
前記ナノ構造体が、コーティング適用剤を含み、
前記コーティング適用剤が、負電荷を有する標的化剤を含む、方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
[政府援助]
本発明は、米国国立衛生研究所から授与された助成金番号R01CA223788及びCA219399に基づく政府支援を受けてなされた。政府は、本発明について一定の権利を有する。
【0002】
[関連出願との相互参照]
本出願は、2021年9月18日に出願されたシリアル番号第63/245,810号の米国仮特許出願と、2022年1月14日に出願されたシリアル番号第63/299,431号の米国仮特許出願との利益を主張するものであり、これらの開示内容は参照により本明細書に組み込まれる。
【背景技術】
【0003】
以下の情報は、以下に開示される技術と、そのような技術が典型的に使用され得る環境とを、読者が理解するのを支援するために提供される。本明細書において使用される用語は、本明細書において明確に別段の記載がない限り、特定の狭い解釈に限定されることを意図するものではない。本明細書に記載された参考文献は、技術又はその背景の理解を容易にする場合がある。本明細書において引用される全ての参考文献の開示は、参照により組み込まれる。
【0004】
ナノ粒子/ナノ構造は、例えば、小分子薬物や核酸(siRNAなど)を含む様々な種類の治療薬を、腫瘍に送達又は共送達するのに有効である。ナノキャリアを介したがん治療薬の送達は、腫瘍血管系は数ナノメートルから数百ナノメートルの柵状脈管で漏出性であり、長時間循環するナノ粒子(nanoparticle:NP)は受動的標的メカニズムによって腫瘍組織に選択的に集積するという概念に基づいている。さらに、リンパ系が障害される結果、血管外に滲出したNPを腫瘍組織から除去することができなくなり、これは透過性及び保持の強化(Enhanced Permeation and Retention:EPR)効果として知られる概念である。EPRは、多くの偽遺伝子腫瘍モデルやヒト異種移植腫瘍モデルで一般的に見られるが、ヒトのがん患者ではより不均一であるようである。したがって、EPR以外の、あるいはEPRに加えて、腫瘍を標的とすることができるナノキャリアを開発する必要性が存在する。
【発明の概要】
【0005】
一態様において、製剤は、カチオン性基を有する複数の両親媒性ポリマーの自己集合から形成されるナノ構造体と、前記ナノ構造体に加えられたコーティング、適用剤(application)、又は層と、を含む。前記ナノ構造体は、内側の疎水性ドメインと外側の親水性ドメインとを含むことができる。前記適用剤は、患者の体内の対象領域(例えば、腫瘍)を標的とする負電荷を有する標的化剤を含む。前記標的化剤は、例えば、細胞受容体のためのリガンド、ペプチド、アプタマー、多糖類、及び抗体からなる群から選択され得る。多くの実施形態において、前記標的化剤は、細胞受容体のためのリガンド(例えば、CD44リガンド)である。
【0006】
前記適用剤は、親水性高分子化合物をさらに含み得る。前記親水性高分子化合物は、負電荷を有していてもよい。多くの実施形態において、親水性高分子化合物は、負電荷を有する分子又は化合物と、親水性ポリマーと、の結合体(conjugate)を含む。前記親水性ポリマーと結合された前記負電荷を有する分子は、例えば、前記標的化剤と同じ化合物であってもよい。
【0007】
前記製剤は、前記ナノ構造体と一体化された治療用化合物をさらに含むことができる。前記治療用化合物は、例えば、核酸であってもよい。核酸は、電荷-電荷相互作用を介して、その形成後に前記ナノ構造体の前記カチオン性基と一体化するか、又は前記ナノ構造体との結合体を形成することができる。
【0008】
多数の実施形態において、前記治療用化合物は、疎水性又は親油性の治療用化合物である。前記疎水性又は親油性の治療用化合物は、前記ナノ構造体の内側の前記疎水性ドメインと一体化することができる。前記治療用化合物は、例えば、小分子の治療用化合物であってもよい。前記治療用化合物が、例えば、1kDa未満の分子量を有していてもよい。多くの実施形態において、前記治療用化合物は、化学療法用化合物である。
【0009】
多数の実施形態において、前記製剤は、前記治療用化合物とは異なる第二の治療用化合物をさらに含み、前記第二の治療用化合物は、核酸を含むか又は核酸である。上述したように、前記核酸は、前記ナノ構造体の前記両親媒性ポリマーの前記カチオン性基と一体化していてもよい。
【0010】
前記核酸は、例えば、RNA若しくはDNAを含むか、又は、RNA若しくはDNAであってもよい。多数の実施形態において、前記核酸は、遺伝子(gene)又はsiRNAである。
【0011】
本明細書で使用される場合、用語「カチオン性基(cationic group)」は、本質的にカチオン性の基又はin vivoでカチオンを形成する基を指す。多数の実施形態において、前記in vivoでカチオンを形成する基は、アミン基であり、ここで前記アミン基は、非環式アミン基、環式アミン基、又は複素環式アミン基である。多数の実施形態において、前記アミン基は、メトホルミン基、モルホリン基、ピペラジン基、ピリジン基、ピロリジン基、ピペリジン、チオモルホリン、チオモルホリンオキシド、チオモルホリンジオキシド、イミダゾール、グアニジン、ビグアニジン、又はクレアチンからなる群より選択される。
【0012】
前記親水性ポリマーは、例えば、ポリアルキレンオキシド、ポリビニルアルコール、ポリアクリル酸、ポリアクリルアミド、ポリオキサゾリン、多糖類、及びポリペプチドからなる群から選択され得る。多数の実施形態において、前記親水性ポリマーは、ポリエチレングリコールである。
【0013】
前記ナノ構造体に加えられる前記親水性高分子化合物に対する前記負電荷を有する標的化剤の比率は、対象領域以外の一つ以上の領域における前記ナノ構造体の取り込みが、前記対象領域(例えば、腫瘍)における前記負電荷を有する標的化剤の相互作用を可能にするために十分な低レベルに維持されるように決定され得る。
【0014】
多数の実施形態において、前記複数の両親媒性ポリマーの各々は、疎水性ポリマー骨格と、前記疎水性ポリマー骨格に結合し且つ少なくとも一つの前記カチオン性基を含む第一の複数のペンダント基と、前記疎水性ポリマー骨格に結合し且つ少なくとも一つの親水性ポリマー(すなわち、ペンダント親水性ポリマー)を含む第二の複数のペンダント基とを含む。前記疎水性ポリマー骨格が、例えば、ペンダント脂質基をさらに含み得る。
【0015】
多数の実施形態において、前記疎水性ポリマー骨格は、フリーラジカル重合を介して形成される。前記疎水性ポリマー骨格は、例えば、制御/リビングラジカル重合、又は可逆不活性化ラジカル重合を介して形成され得る。
【0016】
別の態様において、組成物を製剤化する方法は、水性媒体においてカチオン性基を有する複数の両親媒性ポリマーの自己集合を介してナノ構造体を形成することと、負電荷を有する標的化剤を前記ナノ構造体へと加えることによって前記ナノ構造体にコーティング、標的化剤、又は層を付与することと、を含む。
【0017】
別の態様において、患者に治療化合物を送達する方法は、カチオン性基を有する複数の両親媒性ポリマーの自己集合から形成されたナノ構造体を含む製剤を、投与することを含む。各々の前記ナノ構造体は、前記ナノ構造体におけるコーティング、適用剤、又は層を含む。前記適用剤が、負電荷を有する標的化剤を含む。
【0018】
多数の実施形態において、前記標的化剤は、CD44リガンドである。その点に関して、一つの態様において、製剤は、カチオン性基を有する複数の両親媒性ポリマーの自己集合から形成されたナノ構造体を含む。前記ナノ構造体は、前記ナノ構造体に加えられた適用剤を含む。前記適用剤は、負電荷を有するCD44リガンドと親水性高分子化合物とを含む。前記親水性高分子化合物は、負電荷を有していてもよい。多くの実施形態において、前記親水性高分子化合物は、負電荷を有する分子と親水性高分子との結合体である。前記親水性ポリマーと結合する前記負電荷を有する分子は、例えば、CD44リガンドであってもよい。多くの実施形態において、前記親水性高分子化合物は、前記コーティング中に存在する親水性ポリマーと前記CD44リガンドとの結合体である。
【0019】
前記ナノ構造体は、内側の疎水性ドメインと外側の親水性ドメインとをさらに含み得る。前記ナノ構造体は、例えば、ミセルであってもよい。ここでいう前記CD44リガンドは、例えば、オステオポンチン、コラーゲン、マトリックスメタロプロテアーゼ、コンドロイチン硫酸、ヒアルロン酸、又はこのようなリガンドの誘導体(CD44リガンドとして活性を維持する)を含むことができる。多くの実施形態において、前記CD44リガンドは、コンドロイチン硫酸又はヒアルロン酸である。多数の実施形態において、前記CD44リガンドは、コンドロイチン硫酸である。
【0020】
前記製剤は、前記ナノ構造体と一体化された治療用化合物をさらに含み得る。前記治療用化合物は、例えば、前記負電荷を有するCD44リガンドと前記親水性高分子化合物とが適用される前に前記ナノ構造体に加えられた核酸を含むことができ、これらは、例えば、混合物として適用することができる。前記治療用化合物は、例えば、疎水性又は親油性の治療用化合物を含むことができる。多数の実施形態において、前記疎水性又は親油性治療化合物は、小分子の治療化合物である。前記小分子の治療化合物が、例えば、1kDa未満の分子量を有することができる。
【0021】
多数の実施形態において、前記治療用化合物(又は第一の治療用化合物)は、疎水性又は親油性の治療用化合物であり、前記製剤が、前記治療用化合物とは異なる第二の治療用化合物をさらに含み、前記第二の治療用化合物が、核酸を含む。上記のように、前記治療用化合物(又は第一の治療用化合物)は、小分子の治療用化合物であってもよい。
【0022】
本明細書における製剤の前記核酸が、例えば、RNA又はDNAを含み得る。多数の実施形態において、前記核酸は、遺伝子又はsiRNAである。多数の実施形態において、前記核酸は、siRNAである。
【0023】
ここでいう前記カチオン性基は、本質的にカチオン性の基又はin vivoでカチオンを形成する基を含み得る。多数の実施形態において、前記in vivoでカチオンを形成する基、前記カチオン性基は、アミン基であり、ここで前記アミン基は、非環式アミン基、環式アミン基、又は複素環式アミン基である。前記アミン基は、例えば、メトホルミン基、モルホリン基、ピペラジン基、ピリジン基、ピロリジン基、ピペリジン、チオモルホリン、チオモルホリンオキシド、チオモルホリンジオキシド、イミダゾール、グアニジン、ビグアニジン、又はクレアチンからなる群より選択され得る。多数の実施形態において、前記アミン基は、ビグアニジンである。
【0024】
前記親水性ポリマーは、例えば、ポリアルキレンオキシド、ポリビニルアルコール、ポリアクリル酸、ポリアクリルアミド、ポリオキサゾリン、多糖類、及びポリペプチドからなる群から選択され得る。多数の実施形態において、前記親水性ポリマーは、ポリエチレングリコールである。
【0025】
多数の実施形態において、前記親水性高分子化合物に対する前記負電荷を有するCD44リガンドの比率は、患者の肝臓における前記ナノ構造体の取り込みが、肝臓から離れた腫瘍におけるCD44と前記負電荷を有するCD44リガンドとの相互作用を可能にするために十分な低レベルに維持されるように、又はそのように決定される。
【0026】
多数の実施形態において、前記複数の両親媒性ポリマーの各々は、疎水性ポリマー骨格と、前記疎水性ポリマー骨格に結合し且つ少なくとも一つの前記カチオン性基を含む第一の複数のペンダント基と、前記疎水性ポリマー骨格に結合し且つ少なくとも一つの親水性ポリマーを含む第二の複数のペンダント基と、を含む。前記ペンダント親水性ポリマーは、例えば、ポリアルキレンオキシド、ポリビニルアルコール、ポリアクリル酸、ポリアクリルアミド、ポリオキサゾリン、多糖類、及びポリペプチドからなる群から選択され得る。多くの実施形態において、前記ペンダント親水性ポリマーは、ポリエチレングリコールである。前記疎水性ポリマー骨格は、ペンダント脂質基をさらに含み得る。
【0027】
多数の実施形態において、前記疎水性ポリマー骨格は、フリーラジカル重合を介して形成される。前記疎水性ポリマー骨格は、例えば、可逆失活ラジカル重合を介して形成され得る。
【0028】
別の態様において、組成物を製剤化する方法は、水性媒体においてカチオン性基を含む複数の両親媒性ポリマーの自己集合を介してナノ構造体を形成することと、負電荷を有するCD44リガンドと親水性高分子化合物とを前記ナノ構造へと加えることによって各々の前記ナノ構造体の外側にコーティングを加える又は形成することと、を含む。前記親水性高分子化合物は、負電荷を有していてもよい。多くの実施形態において、前記親水性高分子化合物は、負電荷を有する分子と親水性ポリマーとの結合体を含むか、又は結合体である。前記親水性ポリマーと結合された前記負電荷を有する分子は、例えば、CD44リガンドであり得る。多くの実施形態において、前記親水性高分子化合物は、前記コーティング中に存在する親水性ポリマーと前記CD44リガンドとの結合体である。
【0029】
上述のように、各々の前記ナノ構造体は、例えば、内側の疎水性ドメインと外側の親水性ドメインとを含むことができる。前記ナノ構造体は、例えば、ミセルであってもよい。本明細書でいう前記CD44リガンドは、例えば、オステオポンチン、コラーゲン、マトリックスメタロプロテアーゼ、コンドロイチン硫酸、ヒアルロン酸、又はこれらのリガンドの誘導体(ここで、誘導体はCD44リガンドとしての活性を保持する)を含むことができる。多くの実施形態において、前記CD44リガンドは、コンドロイチン硫酸又はヒアルロン酸である。多数の実施形態において、前記CD44リガンドは、コンドロイチン硫酸である。
【0030】
前記方法は、治療用化合物を前記ナノ構造体と一体化させることを、さらに含み得る。前記治療用化合物は、例えば、前記負電荷を有するCD44リガンドと前記親水性高分子化合物とを適用する前に前記ナノ構造体に加えられた核酸を含み得る。前記負電荷を有するCD44リガンドと前記親水性高分子化合物とは、例えば、混合物として適用することができる。前記治療用化合物は、例えば、疎水性若しくは親油性の治療用化合物を含むか、又は、疎水性若しくは親油性の治療用化合物であってもよい。多数の実施形態において、前記疎水性又は親油性の治療化合物は、小分子の治療化合物である。前記小分子の治療化合物が、例えば、1kDa未満の分子量を有し得る。
【0031】
多数の実施形態において、前記治療用化合物は、疎水性又は親油性の治療用化合物であり、前記製剤は、前記治療用化合物とは異なる第二の治療用化合物をさらに含み、前記第二の治療用化合物は、核酸を含む。上記のように、前記治療用化合物は、小分子の治療用化合物であってもよい。
【0032】
本明細書における製剤の前記核酸は、例えば、RNA又はDNAを含み得る。多数の実施形態において、前記核酸は、遺伝子又はsiRNAである。多数の実施形態において、前記核酸は、siRNAである。
【0033】
ここでいう前記カチオン性基は、本質的にカチオン性の基又はin vivoでカチオンを形成する基を含み得る。多数の実施形態において、前記in vivoでカチオンを形成する基、前記カチオン性基は、アミン基であり、ここで前記アミン基は、非環式アミン基、環式アミン基、又は複素環式アミン基である。前記アミン基は、例えば、メトホルミン基、モルホリン基、ピペラジン基、ピリジン基、ピロリジン基、ピペリジン、チオモルホリン、チオモルホリンオキシド、チオモルホリンジオキシド、イミダゾール、グアニジン、ビグアニジン、又はクレアチンからなる群より選択され得る。多数の実施形態において、アミン基は、ビグアニジンである。
【0034】
前記親水性ポリマーは、例えば、ポリアルキレンオキシド、ポリビニルアルコール、ポリアクリル酸、ポリアクリルアミド、ポリオキサゾリン、多糖類、及びポリペプチドからなる群から選択され得る。多数の実施形態において、前記親水性ポリマーは、ポリエチレングリコールである。
【0035】
多数の実施形態において、前記親水性高分子化合物に対する前記負電荷を有するCD44リガンドの比率は、患者の肝臓における前記ナノ構造体の取り込みが、肝臓から離れた腫瘍におけるCD44と前記負電荷を有するCD44リガンドとの相互作用を可能にするために十分な低レベルに維持されるように決定される。
【0036】
多数の実施形態において、前記複数の両親媒性ポリマーの各々は、疎水性ポリマー骨格と、前記疎水性ポリマー骨格に結合し且つ少なくとも一つの前記カチオン性基を含む第一の複数のペンダント基と、前記疎水性ポリマー骨格に結合し且つ少なくとも一つの親水性ポリマーを含む第二の複数のペンダント基と、を含む。前記ペンダント親水性ポリマーは、例えば、ポリアルキレンオキシド、ポリビニルアルコール、ポリアクリル酸、ポリアクリルアミド、ポリオキサゾリン、多糖類、及びポリペプチドからなる群より選択され得る。多くの実施形態において、前記親水性ポリマーは、ポリエチレングリコールである。前記疎水性ポリマー骨格は、ペンダント脂質基をさらに含み得る。
【0037】
多数の実施形態において、前記疎水性ポリマー骨格は、フリーラジカル重合を介して形成される。前記疎水性ポリマー骨格は、例えば、可逆不活性化ラジカル重合を介して形成され得る。
【0038】
さらなる態様において、患者に治療化合物を送達する方法は、カチオン性基を含む複数の両親媒性ポリマーの自己集合から形成されたナノ構造体と、各々の前記ナノ構造体の外側におけるコーティングと、を含む製剤を投与することを含む。前記コーティングは、CD44リガンドと親水性高分子化合物とを含み、前記治療用化合物は、前記製剤と一体化される。上述のように、前記ナノ構造体は、内側の疎水性ドメインと外側の親水性ドメインとをさらに含み得る。前記ナノ構造体は、例えば、ミセルであってもよい。前記ナノ構造体は、上記及び本明細書の他の箇所に記載されるように、さらに特徴付けられ得る。
【0039】
本発明のデバイス、システム、方法、及び組成物は、その属性と付随する利点とともに、添付の図面と併せてとられる以下の詳細な説明を考慮して、最もよく理解されるであろう。
【図面の簡単な説明】
【0040】
【
図1】
図1は、同一遺伝子のCRC(CT26)モデルのマウスにおける、TCF4 siRNAと、OXPを有する5-FU(FuOXP)との、プロドラッグ結合体の共導入の代表例を示す図である。N=5で、***はP<0.01で、***はP<0.001である。
【0041】
【
図2A】
図2Aは、例えば、CD44リガンドであるコンドロイチン硫酸(chondroitin sulfate:CS)のような標的化剤を含む核酸(siRNA)、および/または、小分子治療薬(FuOXP)の送達のための、本ナノ担体の代表的なナノ構造またはナノ粒子の形成のための方法論の一実施形態を概略的に示す。
【0042】
【
図2B】
図2Bは、様々な担体/薬物比(w/w)における、PMAOB/FuOXP混合ミセルの大きさ、ゼータ電位、薬物担持容量(drug loading content:DLC)、及び薬物担持効率(drugloading efficiency:DLE)を示す表である。
【0043】
【
図2C】
図2Cは、窒素(N)/リン酸(P)比(正電荷を帯びやすいポリマーアミン(N=窒素)基と負電荷を帯びやすい核酸リン酸(P)基との比)が1以上で安定な結合体が形成されたことを示すゲル遅延アッセイを示す。
【0044】
【
図2D】
図2Dは、異なるNP比における、FuOXP/siRNA-コロイドミセルの大きさとゼータ電位(zeta potential)とを示す。
【0045】
【
図2E】
図2Eは、異なるNP/硫酸(S)比における、FuOXP/siRNA-コロイドミセルの大きさとゼータ電位とを示す。
【0046】
【
図2F】
図2Fは、異なるNP/S(CS)/S(CS-PEG)比における、FuOXP/siRNA-コロイドミセルの大きさとゼータ電位とを示す。
【0047】
【
図2G】
図2Gは、PBS中で2週間後と、室温と、マウス血清(mouseserum:MS)中で24時間後とでの、NPの大きさの変化の研究を示す。
【0048】
【
図2H】
図2Hは、PMAOB-CP NPに担持されたsiRNAが、RNase IIIによる分解から十分に保護されたのに対して、遊離siRNAがRNase IIIで37℃、1時間処理した後に完全に分解されたことを示すゲル遅延試験を示す。
【0049】
【
図3A】
図3Aは、ポリマーPMAOBの合成経路の一実施形態を示す。
【0050】
【
図3B】
図3Bは、種々のNP比におけるミセル/siRNA複合体(w/o FuOXP)の大きさ及びゼータ電位の研究を示す。
【0051】
【
図3C】
図3Cは、様々なCS/CS-PEG比についての、肝臓と腫瘍とにおけるCy5標識siRNAの組織分布の研究を示す。
【0052】
【
図4A】
図4Aは、Cy5シグナルが腫瘍領域(皮下(subcutaneous:s.c.)CT26モデル)に集中したことを示す、腫瘍を有するマウスの全身NIRイメージングを示す。
【0053】
【
図4B】
図4Bは、心臓、腎臓、脾臓、肺、肝臓、及び腫瘍のex vivo画像を示す。
【0054】
【
図4C】
図4Cは、肝臓と腫瘍とにおける、48時間にわたる定量的蛍光強度を示す。
【0055】
【
図4D】
図4Dは、NP中のCy5標識siRNAと、血液中のCy5標識遊離siRNAとの、経時的な画像を示す。
【0056】
【
図4E】
図4Eは、ヒト結腸癌(WiDr)、ヒト乳癌(BT-474)、マウス膵臓癌(Panc02)、及びマウス乳癌(4T1.2)モデルにおける、心臓、腎臓、脾臓、肺、肝臓、及び腫瘍のNIR画像を示す。
【0057】
【
図4F】
図4Fは、同所性マウス結腸癌モデルにおける組織分布研究を示す。
【0058】
【
図4G】
図4Gは、siRNA NPのi.v.投与後24時間の腫瘍切片におけるCy5 siRNAの分布を示す図である。
【0059】
【
図5A-5C】
図5Aは、野生型(wild-type:WT)マウスと、CD44
-/-マウスとにおける、腫瘍中のCy5標識siRNAの分布を示す全身NIRイメージングを示す。
【0060】
図5Bは、WTマウスと、CD44
-/-マウスとにおける、肝臓及び腫瘍のex vivoイメージングを示す。
【0061】
図5Cは、WTマウスと、CD44
-/-マウスとにおける、血清中のCy5標識siRNAの画像を示す。
【0062】
【
図5D】
図5Dは、野生型(WT)CD44マウスと、CD44
-/-マウスとにおける、腫瘍中及び肝臓組織中のCy5シグナルの定量的強度を示す。
【0063】
【
図5E】
図5Eは、野生型(WT)CD44マウスと、CD44
-/-マウスとにおける、血液中のCy5シグナルの定量的強度を示す。
【0064】
【
図5F】
図5Fは、EPRのような受動的標的化機構が有効なままである一方、能動的経内皮輸送機構が阻害されている、WTマウスとゾンビマウスとの全身NIRイメージングを示す。
【0065】
【
図5G】
図5Gは、野生型(WT)マウスと、ゾンビマウスとにおける、腫瘍組織及び肝臓組織におけるCy5シグナルの定量的強度を示す図である。
【0066】
【
図5H】
図5Hは、マウスの肝類洞内皮細胞(liversinusoidal endothelial cell:LSEC)と、ヒト臍帯静脈内皮細胞(humanumbilical vein endothelial cell:HUVEC)とにおける、CS/PEG-CS比の関数としてのNP取り込みの研究を示す。
【0067】
【
図5I】
図5Iは、本明細書のNPによる腫瘍標的化におけるトランスサイトーシスの役割の研究を示す図であり、Cy5 siRNA NPを上部チャンバー内のHUVECに適用した場合、トランスウェルの下部チャンバーにプレーティングされたCT26において有意なトランスフェクションが認められ、CT26細胞のトランスフェクションがエンドサイトーシス阻害剤であるダイナソア(NP+I)によって有意に阻害されたことから、血管ECを介したトランスサイトーシスを媒介する本明細書のNPの有効性が示される。
【発明を実施するための形態】
【0068】
本明細書の図に一般的に記載され図示されるような実施形態の構成要素は、記載された代表的な実施形態に加えて、多種多様な異なる構成で配置および設計され得ることが容易に理解されるであろう。したがって、図に例示されるような代表的な実施形態のより詳細な以下の説明は、特許請求されるような実施形態の範囲を限定することを意図するものではなく、単に代表的な実施形態を例示するものである。
【0069】
本明細書全体を通して「一つの実施形態(one embodiment)」若しくは「一実施形態(an embodiment)」(又は同様のもの)への言及は、実施形態に関連して説明される特定の特徴、構造、または特性が、少なくとも一つの実施形態に含まれることを意味する。したがって、本明細書を通じて様々な箇所で「一つの実施形態において(in one embodiment)」若しくは「一実施形態において(in anembodiment)」又は同様の表現が現れるが、必ずしもすべてが同じ実施形態を指すわけではない。
【0070】
さらに、記載された特徴、構造、または特性は、一つ又は複数の実施形態において任意の適切な方法で組み合わせることができる。以下の説明では、多数の具体的な詳細が、実施形態の徹底的な理解を与えるために提供される。しかし、関連技術の当業者であれば、様々な実施形態は、一つ以上の具体的な詳細がなくても、又は他の方法、構成要素、材料などを用いて実施することができることを認識するであろう。他の例では、よく知られた構造、材料、又は操作は、難読化を避けるために詳細に示されない又は説明されない。
【0071】
本明細書と添付の特許請求の範囲とで使用される場合、単数形「a」、「an」、及び「the」は、文脈上明らかにそうでないことが指示されない限り、複数の参照を含む。したがって、例えば、「治療用化合物(therapeutic compound)」への言及は、当業者に公知の複数のそのような治療用化合物及びその等価物などを含み、「治療用化合物」への言及は、当業者に公知の一つ以上のそのような治療用化合物及びその等価物などへの言及である。本明細書における値の範囲の記載は、単に、範囲内に入る各個別の値を個々に参照する略記法として役立つことを意図している。本明細書において別段の指示がない限り、各別の値および中間範囲は、本明細書において個々に記載されているかのように本明細書に組み込まれる。本明細書において記載される全ての方法は、本明細書において他に示されない限り、または本文によって明らかに禁忌とされない限り、任意の適切な順序で実施され得る。
【0072】
本明細書で使用する場合、「ポリマー(polymer)」という用語は、より大きな分子を形成するために繰り返し構造で配列された複数の小分子またはモノマーからなる化学化合物を指す。ポリマーは、天然に存在する場合もあれば、合成的に形成される場合もある。ポリマー」という用語には、ホモポリマーとコポリマーとが含まれる。本明細書において「コポリマー(copolymer)」という用語は、二つ以上の異なるモノマーを有する任意のポリマーを含むために使用される。コポリマーは、例えば、交互コポリマー、周期コポリマー、統計コポリマー、ランダムコポリマー、ブロックコポリマー、グラフトコポリマー等を含み得る。ポリマーの例としては、例えば、ポリアルキレンオキシドが挙げられる。
【0073】
本明細書で使用する場合、「ペンダント(pendant)」という用語は、上記のようなポリマーのような長い分子の骨格鎖に結合した基または部位を指す。ペンダント基は、(1)短鎖若しくは低分子量の基、又は(2)ポリマーのような長鎖若しくは高分子量の基のいずれかである。ペンダント基は、側基と呼ばれることもある。長鎖ペンダント基又は高分子量のペンダント基は、「ペンダント鎖(pendant chain)」又は「側鎖(side chain)」と呼ばれることがある。
【0074】
多数の実施形態において、本明細書のシステム、製剤、方法、及び組成物は、小分子の治療剤若しくは薬剤(例えば、化学療法用治療剤若しくは薬剤)および/または核酸ベースの治療剤若しくは薬剤の送達および/または共送達において使用される。両親媒性ポリマーは、例えば、疎水性ポリマー骨格を有するようにラジカル重合を介して形成され得る。疎水性ポリマー骨格は、例えば、フリーラジカル重合又は可逆的不活性化ラジカル重合又はRDRP(以前は制御ラジカル重合またはCRPと呼ばれた)を介して形成され得る。
【0075】
可逆的不活性化ラジカル重合(Reversible-Deactivation RadicalPolymerization:RDRP)手順には、例えば、ニトロキシド媒介重合(NMP)、原子移動ラジカル重合(ATRP)、および可逆的付加フラグメンテーション移動(RAFT)、および過去20年間に発展した他のもの(コバルト媒介移動を含む)が含まれる。RDRPは、あらかじめ定義された分子量、組成、アーキテクチャー、狭い/制御された分子量分布を持つラジカル重合性/共重合性モノマーを含むポリマーやコポリマーへのアクセスを提供する。RDRPプロセスは、予測される分子量、狭い/設計された分子量分布、高度なα-およびω-鎖末端官能基化など、組成的に均質でよく定義されたポリマーを提供できるため、いくつかの総説やACSシンポジウムで報告されているように、多くの研究の対象となってきた。例えば、Qiu, J.; Charleux, B.;Matyjaszewski, K., Prog. Polym. Sci. 2001, 26, 2083; Davis, K. A.;Matyjaszewski, K. Adv. Polym. Sci. 2002, 159, 1; Matyjaszewski, K., Ed.Controlled Radical Polymerization; ACS: Washington, D. C., 1998; ACS SymposiumSeries 685. Matyjaszewski, K., Ed.; Controlled/Living Radical Polymerization.Progress in ATRP, NMP, and RAFT; ACS: Washington, D. C., 2000; ACS SymposiumSeries 768; and Matyjaszewski, K., Davis, T. P., Eds. Handbook of RadicalPolymerization; Wiley: Hoboken, 2002の開示は、参照により本明細書に組み込まれる。
【0076】
疎水性ポリマー骨格は、ラジカル重合性モノマー(RDRPだけでなく、従来の重合またはフリーラジカル重合を含む)のラジカル重合を介して形成され得る。このようなモノマーは、重合前にペンダント基を含んでいてもよい。あるいは、このようなペンダント基は、重合後に結合されてもよい。本明細書で使用するための代表的なモノマーとしては、スチレン、アクリル酸、メタクリル酸、アクリロニトリル、ビニルモノマーおよびそれらの誘導体が挙げられる。多数の実施形態において、本明細書の疎水性ポリマーの重合度は、例えば、500未満である。
【0077】
多数の実施形態において、ポリマーは、疎水性ポリマー骨格に結合され、少なくとも一つのカチオン性基を含む第一の複数のペンダント基と、疎水性ポリマー骨格に結合されて且つ少なくとも一つの親水性ポリマー(上記の通り)を含む第二の複数のペンダント基と、をさらに含む。ペンダント基はまた、少なくとも一つのカチオン性基と少なくとも一つの親水性ポリマーとの両方を含み得る。多数の実施形態において、第一の複数のペンダント基及び第二の複数のペンダント基のうちの少なくとも一つは、連結部分を介して疎水性ポリマー骨格に結合される。
【0078】
上述のように、少なくとも一つのカチオン性基は、例えば、本質的にカチオン性の基、又は、本明細書の製剤中および/もしくはin vivoでカチオンを形成する基(例えば、in vivoでカチオンを形成するアミン基)を含み得る。アミン基は、非環式アミン基、環式アミン基、又は複素環式アミン基であってよい。少なくとも一つのカチオン性基は、例えば、ビグアニジン基、メトホルミン基、モルホリン基、ピペラジン基、ピロリジン基、ピペリジン基、チオモルホリン、チオモルホリンオキシド、チオモルホリンジオキシド、イミダゾール、グアニジン、又はクレアチンからなる群より選択され得る。多数の実施形態において、少なくとも一つのカチオン性基は、メトホルミン基、モルホリン基、ピペラジン基、又はクレアチンからなる群より選択される。本明細書に記載のカチオン性アミン基は、置換または非置換であってもよい。
【0079】
本明細書のペンダント基は、例えば、in vivo条件下(例えば、酸性pH条件下)で不安定な連結部分を介して疎水性ポリマー骨格に結合され得る。この不安定な結合は、例えば、標的領域における条件(例えば、腫瘍の領域における酸性条件に対して敏感であるか、または酸性条件下で不安定である)に敏感であり得る。酸に不安定な結合としては、例えば、マレイン酸カルボキシジメチル、ヒドラジン、イミン、アセタール、オキシム、シリルエーテル、シス-ソニチル、又は他の酸に不安定な結合若しくは連結が挙げられる。酸性条件に感受性である不安定結合の使用は、例えば、例えば、酸性腫瘍環境において親水性ポリマー/オリゴマーを切断するために使用され得る。他の適切な不安定結合の例としては、ジスルフィド結合、低酸素感受性結合、及びグルコース感受性結合が挙げられる。
【0080】
親水性オリゴマーまたは親水性ポリマーは、例えば、ポリアルキレンオキシド、ポリビニルアルコール、ポリアクリル酸、ポリアクリルアミド、ポリオキサゾリン、多糖類、及びポリペプチドからなる群から選択され得る。多数の実施形態において、少なくとも一つの親水性ポリマーは、ポリアルキレンオキシドである。ポリアルキレンオキシドは、例えば、ポリエチレングリコールであってもよい。ポリエチレングリコール又は他の親水性ポリマーは、例えば、少なくとも500Daの分子量を有し得る。多数の実施形態において、ここの他の親水性ポリマーのポリエチレングリコールは、200Daから10kDaの範囲、又は、500Daから5kDaの範囲の分子量を有する。
【0081】
多数の実施形態において、製剤又はナノキャリア製剤は、カチオン性基を含む複数の両親媒性ポリマーの(水性媒体中での)自己集合から形成されるナノ構造体又はナノ粒子を含む。ナノ構造体は、例えば、内側の疎水性ドメインと外側の親水性ドメインとを含むことができる。ナノ構造体は、同様に、ナノ構造体の外側領域または外側領域上にコーティング、適用剤、又は層を含んでもよい。コーティング、適用剤、又は層は、連続的である必要はない。多数の実施形態において、コーティング、適用剤、又は層は、負電荷を有する標的化剤を含む。本明細書中で使用される場合、用語「標的化剤(targeting agent)」は、一般に、腫瘍などの関心領域を積極的に標的化する薬剤を指す。標的化剤の負電荷は、ナノ構造体を形成する両親媒性ポリマーのカチオン性基との電荷-電荷相互作用を介した固定を提供する。標的化を提供することに加えて、このような負電荷を有する薬剤は、ほぼ電荷中性を示すナノ構造/ナノキャリアを達成するために、正電荷の電荷中和/遮蔽を補助する。コーティング、適用剤、又は層は、例えば、電荷-電荷相互作用を介して親水性高分子化合物をカチオン基に固定するための負電荷を含み得る親水性高分子化合物を、さらに含み得る。親水性高分子化合物は、電荷の中和をさらに提供することができ、幾つかの実施形態では、以下でさらに議論されるように、標的化剤に対してある程度の遮蔽を提供することができる。
【0082】
多数の実施形態において、負電荷を有する標的化剤は、細胞レセプター、ペプチド、アプタマー、多糖類、及び抗体のためのリガンドを含むか、またはそれである。負電荷は標的化剤に内在していてもよいし、それに付加されていてもよい(例えば、負電荷分子との結合を介して)。多くの代表的な研究において、標的化剤は負電荷を有するCD44リガンドである。適用剤(application)は、例えば、負電荷を有するCD44リガンドと、上記のような親水性高分子化合物と、を含むことができる。好適なCD44リガンドの例としては、オステオポンチン、コラーゲン、マトリックスメタロプロテアーゼ、コンドロイチン硫酸(CS)、ヒアルロン酸(hyaluronic acid:HA)、又はそのようなリガンドの誘導体(標的化活性を保持する)が挙げられる。上述したように、親水性高分子化合物は負電荷を含んでいてもよい。親水性高分子化合物は、コンドロイチン硫酸やCSのような負に荷電した分子を、上記のように親水性ポリマーと結合させることによって形成することができる。例えば、CS-PEG結合体では、CSは、ナノ構造の両親媒性ポリマーの陽イオンに関連する正電荷と電荷-電荷相互作用を介して相互作用する負電荷を提供する。一般に、適切な負電荷を持つ化合物は、PEGのような親水性ポリマーと共役して、親水性ポリマー共役体をナノ構造に固定することができる。このような化合物は、例えば、別の負電荷を持つCD44リガンド、生体化合物、合成化合物などである。あるいは、親水性ポリマーの一部を負の電荷を含むように修飾してもよい。多数の実施形態において、親水性高分子化合物は、適用剤中に存在する親水性ポリマーとCD44リガンドとの結合体である。
【0083】
ここでのナノキャリア製剤は、例えば、疎水性ドメインおよび/またはナノキャリアのカチオン性基と会合または相互作用する治療化合物を送達するために使用することができる。本発明のナノキャリア製剤は、例えば、小分子、疎水性若しくは親油性の治療化合物若しくは薬剤および/または核酸(例えば、siRNA、遺伝子、プラスミド等)の送達又は共送達が可能である。カチオン性基を含むポリマーから形成されたナノ構造体又はナノ粒子への核酸の組み込みは、例えば、公開米国特許出願第2021/0236645号に記載されており、その開示は参照により本明細書に組み込まれる。両親媒性ポリマー分子のカチオン基と核酸との間の多価の電荷-電荷相互作用は、本明細書のミセルの両親媒性ポリマー分子間に相互作用性の非共有結合性架橋を形成するための単純なアプローチとして機能し得る。
【0084】
CD44リガンドでコーティングされた本ナノキャリア製剤は、腫瘍内皮細胞を介したEPR及びトランスサイトーシスの両方による腫瘍標的化において非常に効果的である。多くの実施形態において、このような負に荷電したリガンドは、ミセルの安定化を補助し得る。このようなナノキャリアは、生物物理学的特性および腫瘍標的化の効率の両方に関して特徴付けられた。
【0085】
さらに、両親媒性間のπ-πスタッキング(例えば、芳香族基の包接を介して)、水素結合などの非共有結合性相互作用が挙げられる。ナノ構造/ミセルを形成する両親媒性ポリマーの基と薬剤のような多数の化合物との間のπ-πおよび疎水性相互作用またはスタッキングおよび他の相互作用は、例えば、米国特許第10,172,795号及び同第9,855,341号、並びに、米国特許公開第2018/0214563号及び同第2021/0236645号に開示されており、これらの開示内容は参照により本明細書に組み込まれる。
【0086】
多くの研究において、本明細書のナノキャリアは、例えば、siRNAのような核酸と化学療法薬のような薬物の共送達において非常に効果的であることが実証された。免疫療法は、がん治療において最も急速に発展している戦略のひとつである。特に、PD-1および/またはCTLA-4の阻害剤を用いた免疫チェックポイント阻害(ICB)は、臨床においてその治療可能性を明確に示している。しかし、この治療法の恩恵を受ける患者はごく少数である。より多くの癌患者に利益をもたらすために、他の免疫チェックポイントを標的とする新規治療法の開発が急務である。
【0087】
代表的なsiRNA及び代表的な化学療法薬である5-Fu/シスプラチンの共送達の治療効果と、その基礎となるメカニズムとを、様々な癌モデルにおいて本ナノキャリアを用いて研究した。5-Fu及びOXPは、大腸癌(colorectal cancer:CRC)に対する第一線の治療薬であり、進行性又は転移性のPCaを含む様々な病期の膵臓癌(pancreatic cancer:PCa)患者に対する主要な治療薬であるが、限られた有効性と全身毒性の問題とを伴っている。以前、5-FU及びシスプラチンの脂質誘導体化プロドラッグ結合体(フプラチン)が、抗腫瘍活性を改善し、正常細胞に対する細胞毒性を低下させることが報告された。臨床においてOXPがシスプラチンより優れていることから、5-Fu及びOXPのプロドラッグ結合体(FuOXP)も同様に合成された。CT26は、FuOXPだけでなく、5-FuOXPにも中等度まで反応不良な同一遺伝子型のCRCモデルである(データは示さず)。多くの研究で、CT26腫瘍のRNA-seqが、FuOXPで5日ごとに3回処理した後に実施され、TCF4は有意に誘導された遺伝子の一つであった(データは示さず)。例えば
図1は、TCF4 siRNAとFuOXPを共導入した代表的な例であり、マウス偽性CRC(CT26)モデルにおいて腫瘍増殖が有意に抑制された。転写因子4(TCF4)は癌タンパク質であり、CRCの癌化と薬剤耐性に関与している。上述したように、CT26腫瘍を有するマウスは、用量1mg/kgのsiRNAと用量5mg/kgのFuOXPとで、5日に1回、様々な治療を3回受けた。FuOXPナノ粒子(NP)単独は、CT26腫瘍の増殖をわずかに阻害した。TCF4 siRNA NP単独では、腫瘍の成長を抑制する効果はわずかであった。しかし、両者を組み合わせることにより、抗腫瘍活性が有意に改善した。腫瘍の体積は、2日に1回追跡した。
【0088】
本明細書の多数の実施形態において、代表的なポリ(無水マレイン酸-alt-1-オクタデセン又はPMAOポリマー(PMAOB-CP)から形成されるナノキャリアが、siRNA及びFuOXPの共送達を達成するために開発された(例えば、
図2Aから
図2H参照)。
図2Aは、PMAOB-CPナノキャリアの開発における主要なコンポーネントとステップを示している。PMAOBは両親媒性ポリマーであり、水溶液中で自己集合してミセルを形成する。脂質モチーフは細胞膜との相互作用を促進し、トランスフェクションを改善することができる。また、疎水性/親油性コアへのFuOXPの担持を改善するのにも役立つ。ビグアニジンモチーフは、非常にポジティブな性質の結果、siRNAとの相互作用を強化するように設計された。PMAOBの合成経路を、
図3Aのスキーム1に示す。ポリ無水マレイン酸-alt-1-オクタデセンまたはPMAO(化合物1:市販のポリマー)をまずエチレンジアミンと反応させてアミン基を導入した。次に、アミン含有PMAOポリマー(化合物2)を、PEG
2K-NHSとジシアンジアミドとに順次反応させ、それぞれPEGとビグアニドペンダント基とを導入した。DMSO中のPMAOB(化合物3)の核磁気共鳴(
1H NMR)スペクトルは、それぞれのPMAOメチルピーク(1.0ppm~1.2ppm)と、PEGメチルピーク(3.28ppm)と、メチレンピーク(3.3ppm~3.6ppm)とを示した。PEG置換は約10%であり、化合物2の他のすべてのアミン基は、ニンヒドリンアッセイに基づいて、ビグアニド基で誘導体化された。
【0089】
PMAOBポリマーは、PBS中で容易にミセルを形成し、その大きさは173.2nmであった。FuOXPは、2/1という低い担体/薬物比でPMAOBミセルに担持することができた。
図2Bは、さまざまな担体/薬物比(w/w)のPMAOB/FuOXP混合ミセルの大きさを示している。担体/薬剤比10/1のPMAOB/FuOXP混合ミセルを、siRNAとのさらなる複合化に使用した。
【0090】
薬物を含まないPMAOBミセルと、FuOXPを担持したPMAOBミセルとの両方が、水溶液中でsiRNAと容易に複合体を形成した。ゲル遅延アッセイは、窒素(N)/リン酸(P)比が1以上で安定な複合体が形成されることを示した(
図2C)。
図2Dは、異なるNP比におけるFuOXP/siRNA共役ミセルの大きさとゼータ電位とを示している。NP比を1/1から2.5/1まで増加させると、結合体の大きさは減少し、結合体のゼータ電位は負になった。NP比を5/1に増加させると、複合体の大きさが増加した。この増加は、この比率で電荷が中性になり、錯体の凝集が起こりやすくなったためと考えられる。NP比をさらに増加させると、ゼータ電位が徐々に増加し、大きさが減少する錯体が形成された。NP比10/1では、得られたFuOXP/siRNA/PMAOB複合体は正電荷を帯び(17.5mV)、大きさは107.5nmであり、FuOXPを単独で担持したPMAOBミセル(179.1nm)よりも小さかった(
図2D)。同様の結果は、siRNAが薬剤を含まないPMAOBミセルと複合体を形成した場合にも示され(
図3B参照)、本明細書のPMAOBベースの担体が、siRNA単独の送達、又は、siRNAとFuOXPとの共送達に使用できることを示している。
【0091】
肺転移を含む肺血管系への送達の可能性があるにもかかわらず、カチオン性表面を有する担体は、遠隔固形腫瘍への全身送達には適さないことがよく知られている。したがって、代表的な研究では、10/1のNP比で形成された安定なFuOXP/siRNA-コロイドミセルを、コンドロイチン硫酸(CS)とCS-PEGとの結合体の形の代表的な親水性化合物の混合物で、表面コーティング/適用(application)した。CSは、高電荷を持つ分子であり、CS/CS-PEGは得られたNP(PMAOB-CP NP)の表面の正電荷を減少させるために用いられた。さらに、血清タンパク質との非特異的相互作用を最小化するために、少量のPEGが含まれた。
図2Eに示すように、CSの量を増やすと、正電荷が徐々に中和された。NP/硫酸(S)比が10/1/2.25の場合、得られたNPの大きさは136.5nmで、わずかにプラスに帯電していた(4.2mV)。この条件下で、少量のCS-PEG(CS/CS-PEGの比が2.5/0.1から2.25/0.25まで)を組み込むと、正電荷の電荷中和/遮蔽がさらに進み、ほぼ電荷が中性になった(
図2F)。CS-PEGの量をさらに増やすと、負電荷を有するNPが形成された。CS-PEGを有するNP(約120nm)は、CS-PEGを有さないNP(約140nm)より小さかった(
図2F)。
【0092】
図2Gは、PBS中、常温で2週間後のPMAOB-CP NPの大きさに最小限の変化があったことを示す。大きさの明らかな変化は、PMAOB-CP NPを50%のマウス血清中で24時間インキュベートした後にも観察されなかった(
図2G)。
図2Hは、遊離siRNAはRNase IIIで37℃、1時間処理すると完全に分解されたことを示している。対照的に、PMAOB-CP NPに担持されたsiRNAは、RNase IIIによる分解から十分に保護された(
図2H)。これらのデータは、FuOXP/siRNAを担持したPMAOB-CP NPは、全身投与後に効果的な腫瘍の標的化を達成するのに十分な時間、血中で安定である可能性が高いことを示している。
【0093】
s.c.腫瘍モデル(CT26)を、初期の代表的な最適化研究に使用した。Cy5標識siRNAと非標識siRNAの混合物(1:1、w/w)を用いてPMAOB-CP NPを調製し、腫瘍における標識siRNAのin vivo分布を尾静脈注射後24時間で蛍光顕微鏡により調べた。肝臓はNPを非選択的に取り込む主要な臓器であるため、肝臓におけるsiRNAの取り込みも調べた。
図3Cは、NP比10/1で調製されたが、それぞれ様々な量のCS/CS-PEGでコーティングされた様々なPMAOB-CP NPで処理した後のCy5-siRNAの組織分布を示す。NP/S(CS)比を1/10/1から1/10/2.5まで増加させると、腫瘍におけるCy5.5シグナルが徐々に増加し、肝臓におけるシグナルが同時に減少した(
図3C)。CSの量をさらに増やすと、腫瘍のシグナルは減少し、肝臓のシグナルは増加した(
図3C)。次に、CS-PEGを組み込むことによって、CSコートNPの腫瘍標的化効率をさらに改善できるかどうかが研究された。多くの研究で、NP/S(CS)比を10/1/2.25に保ちながら、CS-PEGの量を徐々に増加させた。CS/CS-PEGの比を2.25/0.2から2.25/0.5に増加させると、腫瘍におけるCy5.5シグナルはさらに増加したが、肝臓におけるシグナルは減少した(
図3C)。CS-PEGの量をさらに増やすと、腫瘍のシグナルは減少し、肝臓のシグナルは増加した(
図3C)。その後の研究を、10/1/2.25/0.5のNP/S(CS)/S(CS-PEG)比で調製したPMAOB-CP NPを用いて実施した。
【0094】
図4Aから
図4Cは、Cy5-siRNA担持PMAOB-CP NPのi.v.注射後の異なる時間におけるNIR画像を示す。最初に全身イメージングを実施した。その後、腫瘍と主要臓器を採取し、ex vivoイメージングを行った。蛍光強度も定量した。全身イメージングにより、CY5シグナルが腫瘍領域に集中していることが示された(
図4A)。生体外イメージングのデータ(
図4B)は、全身イメージングの結果と一致していた。腫瘍は最も高いレベルの蛍光シグナルを示した。肝臓も明らかなNPの取り込みを示したが、肝臓のCy5シグナルのレベルは腫瘍のそれと比べて有意に低かった。心臓、腎臓、脾臓、肺を含む他の臓器では、シグナルはほとんど見られなかった。
図4Cは、かなりの量のsiRNAシグナルがi.v.注射後12時間で腫瘍で検出されたことを示している。そのレベルは24時間でピークに達し、その後ゆっくりと減少した(
図4C)。NPは、遊離siRNAよりも有意に長く血液中に留まった(
図4D)。
【0095】
s.c.CT26モデルにおける本明細書のPMAOB-CP NPの効果的な腫瘍標的化の実証に続いて、本明細書のナノキャリアが、ヒト結腸癌(WiDr)、ヒト乳癌(BT-474)、マウス膵臓癌(Panc02)、及びマウス乳癌(4T1.2)を含む他のs.c.腫瘍モデルにも選択的送達を媒介し得るかどうかを決定するための研究が実施された。
図4Eは、s.c.CT26モデルで見られたのと同様に、Cy5 siRNAを担持したPMAOB-CP NPは、検討した他のすべてのs.c.腫瘍モデルにおいて、主に腫瘍組織に集中したことを示している。同様の結果は、同所性のマウス結腸がんモデルでも観察された(
図4F)。
図4Gは、siRNA NPのi.v.投与後24時間の腫瘍切片におけるCy5 siRNAの分布を示す。Cy5シグナルの広範な分布が腫瘍組織で観察され、腫瘍細胞と腫瘍EC(CD31
+細胞)との両方がNPを取り込んでいるようである。高倍率では、DAPIとCy5の共局在が明瞭に可視化され、siRNAが細胞内送達後にエンドソームから効果的に放出され、核に到達したことが示された。併せて、これらのデータは、PMAOB-CP NPが様々なタイプの癌に効果的に標的化され得ることを示している。
【0096】
いかなる機構にも限定されないが、PEG遮蔽(>0.5 CS-PEG)の増加に関連した腫瘍取り込みの減少は、CS媒介能動標的化が全体的な腫瘍標的化において役割を果たしそうであることを示すかもしれない。CSはCD44の天然リガンドであり、CD44は腫瘍細胞と腫瘍内皮細胞(EC)の両方で過剰発現していることが知られている。CD44を介したECの標的化が、PMAOB-CP NPによる効果的な腫瘍の標的化に関与しているかどうかを調べるため、CD44
-/-マウスでも同様にNIRイメージングを行い、CD44野生型(WT)マウスでの結果と比較した。CD44
-/-マウスはC57BL/6の遺伝的背景を持ち、CT26腫瘍の樹立には適さないため、多くの研究でMC38結腸がんモデルが用いられた。
図5Aに示すように、Cy5 siRNAを担持したPMAOB-CP NPは、WTマウスの腫瘍組織に非常に効果的に集積した。腫瘍におけるそのレベルは、肝臓におけるレベルよりも有意に高かった。しかし、腫瘍組織におけるCy5シグナルは、CD44
-/-マウスでは有意に減少した(
図5B及び
図5D)。Cy5 siRNAを担持したPMAOB-CP NPの取り込みも、CD44
-/-マウスでは肝臓で減少した。血液中のCy5 siRNAシグナルはCD44
-/-マウスで増加した(
図5C及び
図5E)。このような結果は、Cy5 siRNAを添加したPMAOB-CP NPが血中で非常に安定であり、CD44を介した腫瘍ECが腫瘍全体の標的化に寄与していることを示している。一方、肝類洞EC(LSEC)のCD44もまた、肝臓におけるCy5 siRNAを担持したPMAOB-CP NPの取り込みに寄与している可能性がある。
【0097】
Cy5 siRNAを担持したPMAOB-CP NPの腫瘍標的化効率は、腫瘍血管系を含む全身血管系を灌流し、NPの尾静脈注射前に4%パラホルムアルデヒドで固定したゾンビマウスでも評価した。このモデルでは、ERPのような受動的標的化機構は有効である。
図5Fから
図5Gに示すように、腫瘍におけるCy5 siRNAを担持したPMAOB-CP NPの蓄積は、ゾンビマウスモデルにおいて有意に減少し、これは、能動的および受動的な標的化機構の両方が、PMAOB-CP NPによる腫瘍全体の標的化に寄与していることを示している。
【0098】
代表的なPMAOB-CP NPと相互作用する腫瘍ECおよびLSECにおけるCD44のそれぞれの役割をさらに調べるために、単離されたマウスLSECおよびヒト臍帯静脈内皮細胞(HUVEC)によるCy5 siRNAを担持したPMAOB-CP NPの取り込みを調べた。増殖因子(塩基性線維芽細胞増殖因子、basic fibroblast growth factor:bFGF)非存在下で培養したHUVECは静止状態にあり、CD44の発現レベルは低い。一方、bFGF存在下で培養したHUVECは活性化し、CD44を高レベルで発現する。
図5Hに示すように、CSのみ(CS-PEGなし)でコーティングしたNPは、活性化HUVECとLSLECとの両方に効果的に取り込まれ、活性化HUVECにより多くのNPが取り込まれた(69.3%対61.5%)。また、静止HUVECは活性化HUVECと比較して、NPの取り込み量が有意に少ないことも明らかである(
図5H)。同様の結果が、WT LSECと比較してCD44
-/- LSECについても示され、腫瘍ECとLSECとの両方によるCSコートNPの細胞内取り込みにおいて、CD44媒介エンドサイトーシスがおそらく役割を果たしていることを示している。
【0099】
CS-PEGの取り込みは、活性化HUVECおよびLSECの両方において、PEG用量依存的にNPの細胞取り込みを減少させた。しかしながら、CS-PEGは、活性化HUVECと比較して、LSECによる取り込みにより多くの影響を明らかに示した。CS/CS-PEGの比が2.5/0.25の場合、LSECによる取り込みのレベルは39.8%に減少したのに対し、活性化HUVECでは58.7%のままであった(
図5H)。CS/CS-PEGの比が2.5/1.0では、両方のタイプの細胞におけるPMAOB-CP NPの取り込みレベルは、同等のレベルまで減少した(24.4%対26.8%)。
【0100】
CD44はトランスサイトーシスを媒介する能力があることが示されている。代表的なPMAOB-CP NPによる腫瘍標的化におけるトランスサイトーシスの潜在的役割を探索するために、トランスウェルプレートを用いてHUVECとCT26細胞との共培養実験を行った。12時間後のCy5.5
+ CT26細胞のフロー解析から明らかなように、Cy5.5-siRNA NPを上部チャンバーで増殖させたHUVECに適用すると、下部チャンバーで増殖したCT26細胞が効果的にトランスフェクションされた(
図5I)。トランスフェクションは、エンドサイトーシス阻害剤であるdynasoreによって有意に阻害され、血管ECを介したトランスサイトーシスを媒介する本NPの有効性を示した。
【0101】
ナノキャリアは、様々なタイプの抗癌剤の送達、特に異なるタイプの治療薬の共送達を強化する可能性を持っている。このナノキャリアは、例えばsiRNAと化学治療薬の共導入に適している。腫瘍への両方のタイプの治療薬の送達が強化されることに加えて、この戦略には、化学薬物に曝露される腫瘍細胞にsiRNAを選択的に送達するという利点がある。この共導入アプローチの実施形態は、例えば、共導入された化学療法薬によってin situで誘導されるmRNAに拮抗するのに有効である。核酸(プラスミド及びsiRNA)と疎水性抗がん剤(PTX及びDOX)とを共形成するのに有効な数種の両親媒性ポリマー(POEG-st-Pmor及びPMet-P(cdmPEG
2K))が以前に研究された。これらの担体は、肺転移巣を含む肺への送達には非常に有効であるが、カチオン性表面のため、s.c.腫瘍のような遠隔固形腫瘍への選択的な送達には効果が限定的であった。遠隔固形腫瘍へのsiRNAと小分子薬剤との共送達を容易にするために、幾つかの新しい特徴を持つ新しいタイプのポリマー(PMAOBがその代表例である)がここでの研究で開発された(
図2A)。それに関して、多くの実施形態において、細胞膜との相互作用を促進し、トランスフェクションを改善するために脂質モチーフが導入された。また、代表的な化学療法剤FuOXPの疎水性/親油性コアへの担持を改善するのにも役立つ。多くの実施形態では、in vivoカチオン性ビグアニジンをポリマーに導入して、siRNAとの相互作用を強化した。さらに、多くの実施形態において、CS/CS-PEG
2Kを使用して、FuOXP/siRNAを共担持したPMAOBミセルをコーティングし、中性またはわずかに陰イオン性の表面を有するPMAOB-CP NPを生成し、RESによる「非特異的」取り込みを最小化した。ここでの研究データから、CS/CS-PEGの量と比率は、効果的な腫瘍の標的化のために容易に決定できる方法で調整可能であることが示された。CS-PEGを含まないNPは、肝臓による実質的な「非特異的」取り込みの結果として、腫瘍標的化において限定された有効性を示した。代表的な研究例では、CS/CS-PEGの比を2.5/0.2から2.5/0.5へと増加させると、肝臓への取り込みが減少し、腫瘍への集積が増加した。しかし、CS-PEGの量をさらに増やすと、腫瘍の取り込みは減少した。これらのデータは、CD44
-/-マウスのデータと合わせて、CD44が介在する腫瘍ECの標的化/転移が、腫瘍全体の標的化において重要な役割を果たしていることを強く示している。
【0102】
CD44は、腫瘍ECと腫瘍細胞との両方で過剰発現されていることが知られており、トランスサイトーシスを媒介するのに非常に効果的である。ヒアルロン酸(HA)と、コンドロイチン硫酸(CS)とは、細胞外マトリックスに存在する内因性の多糖リガンドである。腫瘍ECのHA又はCSを介した標的化の有効性を制限する障壁は、LSEC上のCD44の発現であり、これらの細胞が豊富であるため、循環中のNPのほとんどを除去してしまう。実際、多くの報告されたHAとCSでコートされたNPは、腫瘍内のそれよりも有意に高いレベルで、広範な肝臓への取り込みを示した。腫瘍ECはLSECより高いレベルのCD44を発現しているという事実に基づいて、もしEPRを介して腫瘍細胞にNPが到達できた場合、腫瘍EC又は腫瘍細胞への結合を大きく損なうことなく、例えばPEGを適量取り込むことにより、LSECとの相互作用を最小化できるという仮説が立てられた。過剰量のPEGを用いると、CSでコートしたNPと腫瘍ECとの相互作用が阻害され、その結果、CD44に依存しないメカニズムを介して、NPが、クッパー細胞や場合によってはLSECに取り込まれることになる。仮説に基づいた研究により、代表的なPMAOB-CPベースのナノキャリアが開発され、同所性結腸がんモデルを含む複数の腫瘍モデルにおいて、腫瘍の標的化に高い効果を示した。腫瘍への蓄積レベルは、検討したすべての腫瘍モデルにおいて、肝臓への蓄積レベルよりも有意に高かった。さらに重要なことは、このナノキャリアは、EPRとトランスサイトーシスとの両方を通じて腫瘍の標的化が可能であり、臨床応用の可能性を提供することである。
【0103】
PMAOB-CPと他のポリマーベースのNPとを介したsiRNAの送達は、in vitro及びin vivoでの標的遺伝子の効果的なノックダウンにつながる。例えば、siRNAの共送達は、特定のmRNAの化学療法誘導性アップレギュレーションを有意に減少させる可能性がある。さらに、化学療法化合物/薬剤とsiRNAの共導入は、多くのがんモデルにおいて、化学療法薬剤のみを含むNPを使用するよりも抗腫瘍活性の有意な改善をもたらす可能性がある。様々なフロー研究により、CD45細胞、IFNγ+CD8+T細胞、及びGzmB+CD8+T細胞の数の増加、M1/M2比の増加、並びに、Treg細胞の減少が示され、全体的な抗腫瘍活性の増強において、改善された腫瘍免疫微小環境の役割の可能性が高いことが示された。
【0104】
仮説に基づいた研究により、LSECが介在する肝臓への取り込みを最小限に抑えながら、腫瘍ECを効果的に標的化することにより、腫瘍の標的化において非常に効果的なナノキャリアが開発された。核酸治療薬と化学治療薬の腫瘍への送達を強化することに加え、この戦略には、siRNAのような核酸治療薬を化学薬物に曝露された腫瘍細胞に選択的に送達できるという利点がある。したがって、ここでの共送達アプローチは、例えば、共送された化学療法薬によってin situで誘導されるmRNAに拮抗するのに特に有効であると考えられる。siRNAとFuOXPの共導入の代表的な研究は、腫瘍微小環境の有意な改善と抗腫瘍活性の増強につながった。様々な免疫学的標的を化学療法と組み合わせて標的とすることは、例えば結腸癌や膵臓癌を含む様々なタイプの癌の治療のための新規で効果的な免疫化学療法を提供する可能性がある。
【0105】
実験方法
【0106】
材料
ダルベッコ変法イーグル培地(DMEM)と、トリプシン-EDTA溶液とは、Sigma-Aldrich社(米国ミズーリ州)から購入した。ウシ胎児血清(FBS)と、ペニシリン-ストレプトマイシン溶液とは、Invitrogen社(米国ニューヨーク州)から購入した。フローサイトメトリーに使用した抗体は、BioLegend社やBD Biosciences社などの信頼できる業者から購入した。
【0107】
細胞および動物
この研究で使用した細胞株はすべてATCC(バージニア州マナサス)から入手した。CT26マウスCRC、HT29ヒトCRCPanc02マウスPCa、PANC-1ヒトPCa、WiDrヒトCRC、BT-474ヒトBCa、及び4T1.2マウスBCaのS.C.モデル、並びにMC38マウスCRCのCRC同所モデルは、10%のFBSと1%のペニシリン/ストレプトマイシンとを添加したDMEM培地において、5%のCO2を含む加湿雰囲気下で、37℃で培養した。
【0108】
4週鈴から6週齢の雌性のC57BL/6マウス、BALB/cマウス、及びB6.129(Cg)-CD44tm1Hbg/J(CD44-/-)マウスを、ジャクソン研究所から購入した。すべての動物はAAALAC(Association for Assessment and Accreditation of Laboratory AnimalCare)のガイドラインに従い、病原体のない条件下で飼育された。マウス関連の実験は、機関内のガイドラインを完全に遵守して実施され、ピッツバーグ大学の動物使用及びケア管理諮問委員会により承認された。
【0109】
RNA-seq解析
CT26腫瘍を有するBALB/cマウス(n=3、約200mm3)に、コントロールとしてPBSを用いたFuOXP NP処理を、5日に1回、尾静脈注射により3回行った。最後の投与から24時間後に腫瘍を採取した。サンプルはピッツバーグ大学のHealth Sciences Sequencing Coreへと送られ、RNA抽出、ライブラリー構築、配列決定が行われた。RNA-seqデータはSTARを用いてマウス参照ゲノムGRCm38にアライメントされた。遺伝子発現レベルが定量され、アラインメントされたリードからRSEMを用いてカウント発現マトリックスが作成された。百万あたりのカウントをさらなる解析に使用した。
【0110】
cDNAは、培養細胞、単離された腫瘍細胞および間質細胞、または腫瘍組織から抽出された精製RNAから、QuantiTect Reverse Transcription Kit(Qiagen社、米国メリーランド州)を用いて、製造業者の指示に従って作製した。定量的リアルタイムPCRは、7900HT Fast Realtime PCR Systemにおいて、SYBE Green mixを用いて行った。相対的標的mRNAレベルは、デルタ・デルタCt法を用いて分析し、GAPDHに対して正規化した。
【0111】
PMAOBの合成スキーム
PMAO(化合物1)は、30,000から50,000の平均Mnで販売されており、ポリマー1分子あたり約100から約140の繰り返し単位を持つポリマーとなる。Mnは、繰り返し単位の分子量である。化合物1の誘導体を合成するために、反応物のモル比の計算は、分子量350g/molの繰り返しモノマー単位Aに基づいて行った。7グラムの化合物1(繰り返し単位20mmol)を、マグネットバーを備えた250mLのガラス瓶に加え、窒素雰囲気下に置いた。ポリマーを、乾燥脱気させた150mLのDMSOに溶解した。次いで、50mLの乾燥脱気DMSO溶液中の6.67mLのエチレンジアミン(100mmol)を溶液に添加した。溶液を窒素下160℃で48時間撹拌した。反応後、溶液を室温まで冷却した。1Lの塩酸溶液(2mol/L)をDMSO溶液に加え、沈殿をろ過し、水で3回洗浄し、50℃で真空乾燥した(化合物2)。収量は定量的である。392mgの化合物2(繰り返し単位1mmol)と、200mgのPEG2K-NHS(0.1mmol)とを、マグネットバーを備えた50mL瓶に加え、固体を、10mLの乾燥DMSOと1mLのTEA(トリエチルアミン)とに溶解させた。溶液を室温で48時間撹拌した。反応後、溶液を透析バッグ(MWCO 12,000~14,000)に移し、水中で24時間透析した。反応後、溶液を透析バッグ(MWCO 12,000~14,000)に移し、水中で24時間透析した。透析後、溶液をP5ろ紙でろ過し、ろ液を凍結乾燥にかけた(PEG誘導体)。収率は約10~20%である。100mgのPEG誘導体と、840mgのジシアンジアミド(10mmol)とを、マグネットバーを備えた50mLボトルに加えた。固体を、10mLのtert-BuOHに溶解した。その後、溶液をリフレクションし、12時間撹拌した。反応後、溶液を透析バッグ(MWCO 12,000~14,000)に移し、水中で24時間透析した。透析後、溶液を凍結乾燥にかけた(化合物3:PMAOB)。収率は定量的である。
【0112】
FuOXP/siRNA-コロイド化PMAOB NPの調製
フィルム水和法を用いて、FuOXP担持PMAOB NPを調製した。簡単に述べると、PMAOBポリマーと、FuOXPとを、ジクロロメタン中で10:1(w/w)の比率で混合した。溶媒を蒸発させた後、ナノ水を加えてフィルムを水和させ、FuOXP/PMAOB NPを得た。次に、ナノ水で希釈したsiRNAをFuOXP担持ミセルと混合し、FuOXP/siRNA/PMAOB複合体を形成させる。その後、様々な比率のCS/CS-PEGとインキュベートすることで、CS/CS-PEGで装飾されたFuOXP/siRNA共担持PMAOB-CP NPが形成された。siRNAとPMAOBポリマーの複合化は、ゲル遅延アッセイによって確認される。高速液体クロマトグラフィー(HPLC)により、FuOXPの担持容量(DLC)と薬物担持効率(DLE)とを測定した。粒子径と、ゼータ電位とは、動的光散乱法(DLS)で測定した。in vitro薬物放出試験は、公表されたプロトコールに従って透析法で実施した。透析液中に放出されたFuOXPをHPLCで測定した。FuOXP/siRNA共担持NPのコロイド安定性は、大きさの変化と表面電荷の変化とを追跡することにより、PBS(50%マウス血清の有無)中で調べた。RNaseへの曝露後のsiRNAの完全性を、電気泳動により調べた。
【0113】
In vitroでの薬物放出
siRNA複合体の有無にかかわらず、FuOXPを担持したPMAOB-CPからのFuOXPの放出を、透析法を用いて調べた。簡単に述べると、1mgのFuOXPと10mgのPMAOB-CPとを含む2mLのFuOXP/siRNA/PMAOB-CPおよびFuOXP/PMAOB-CPミセルを透析バッグ(MWCO 3.5kDa)に入れ、0.5%(w/v)のTween80を含む40mLの0.1MのPBS溶液に浸した。実験は、37℃、100rpmのインキュベーションシェーカーで行った。一定の時間間隔で、透析バッグ内の溶液10μLと、透析バッグ外の培地1mLとを抜き取り、同量の新しい透析溶液を補充した。FuOXPの濃度は、HPLCで調べた。対照として、遊離のFuOXPを加えた。
【0114】
全身の近赤外(near-infrared:NIR)蛍光イメージング及び生体外イメージング
5匹の雌性BALB/cマウスの群に、それぞれ5×105個のCT26細胞を右脇腹に接種した。腫瘍が約300mm3に成長した時点で、マウスにCy5.5-siRNAを1mg/kgの濃度で担持したPMAOB-CP NPを静脈内投与した。12時間、24時間、36時間、48時間の時点で、マウスをIVIS200システム(Perkin Elmer社、米国)により、励起波長678nm、発光波長694nmで60秒の露光時間で画像化した。腫瘍と、各種の臓器とは、既報のプロトコールに従って、ex vivoイメージング用に摘出した。血液を、5分、0.5時間、1時間、2時間、4時間、8時間、12時間、48時間、及び72時間の時点で採取し、血清サンプルを調製してIVIS200システムで画像化した。
【0115】
NPの腫瘍分布の顕微鏡的研究。in vivoでの腫瘍の生体内分布研究のために、MC38腫瘍を有するマウス(約300mm3)に、Cy5.5-siRNAを担持したNPを、静脈内(intravenously:i.v.)注射した。注入後24時間で、マウスを犠牲にした。腫瘍凍結切片を作製し、ヘキスト染色し、蛍光顕微鏡(BZ-X710、日本)で観察した。血管はFITC-抗CD31抗体で染色した。
【0116】
ゾンビの固定およびナノ粒子の循環。ゾンビマウスアッセイは、以前に公表されたプロトコールに従って実施した。マウスを、TEM溶液(1×PBS中の4%ホルムアルデヒドおよび0.5%グルタルアルデヒド)を用いた経心臓灌流を用いて20分間固定した。その後、Cy5.5-siRNA搭載PMAOB-CP NPを1mg/mLのsiRNA濃度で添加し、循環させた。ナノ粒子の濃度は、対照動物の血液1.8mLを想定した濃度と同じであった。これらの各ナノ粒子溶液を、循環中に圧力を変化させる蠕動ポンプを用いて、生理学的に適切な流速(6ml min-1)で4時間、固定マウスに循環させた。その後、IVIS200システムによりマウスを画像化し、Cy5.5を検出した。
【0117】
細胞への取り込み
マウスの肝類洞内皮細胞(LSEC)を、WTのC57BL/6マウスと、B6.129(Cg)-CD44tm1Hbg/J(CD44-/-)マウスとの両方から、以前に公表されたプロトコールに従って単離した。灌流したマウスの肝臓を切り出し、細胞を放出させるためにすり潰した。細胞懸濁液を異なる速度で数回遠心し、懸濁ペレットをパーコール勾配において担持させた。非実質細胞(NPC)は、25%と50%とのパーコールの二つの密度クッションの界面から集め、クッパー細胞は選択的接着により除去した。LSECは、コラーゲンコート細胞培養プラスチックディッシュに播種して採取した。WTマウスとCD44-/-マウスとのLSEC及び成長因子(bFGF)を添加又は無添加で処理したサブコンフルエントHUVECを、様々なPEG-CS比のCy5.5-siRNA担持PMAOB-CP NPとインキュベートした。細胞の取り込みは、4時間後にフローサイトメトリーにより調べた。
【0118】
FuOXP/siRNA-コロイドNPの治療効果調査
皮下CT26腫瘍保有マウスにおいて。BALB/cマウス(n=5.Jax)に、100μlの血清中に5×105個のCT26細胞を皮下注射した。腫瘍体積が約50mm3に達した時点で、マウスにDPBS(CT)、siCT NP、siRNA NP、FuOXP NP、FuOXP/siCT NP、又はFuOXP/siRNA NPを5日の間隔で3回静脈内投与した。腫瘍の体積と、体重とを、特定の日にモニターした。
【0119】
皮下Panc02腫瘍保有マウスにおいて、C57BL/6マウス(n=5、Jax)に、100μlの無血清DPBS中5×105個のPanc02細胞を右脇腹に皮下注射した。腫瘍体積が約70mm3に達した時点で、マウスにDPBS(CT)、siCT NP、siRNA NP、FuOXP NP、FuOXP/siCT NP、又はFuOXP/siRNA NPを、5日の間隔で3回静脈内投与した。腫瘍の体積と、体重とを、特定の日にモニターした。
【0120】
腫瘍浸潤免疫細胞
CT26腫瘍を有するBALB/cマウスに、対照としてDPBDSを尾静脈注射で5日に1回、3回投与した。腫瘍と、脾臓とは、最後の処置の24時間後に採取した。腫瘍浸潤免疫細胞を単離し、単細胞懸濁液を調製し、フローサイトメトリー分析のために、アネキシンV、CD45、CD8(IFN-γ+/-及びグランザイムB+/-)、CD4(IFN-γ+/-及びグランザイムB+/-)、FoxP3、並びにマクロファージ(F4/80及びCD206)を染色した。
【0121】
毒性
全身毒性の指標として、治療後のマウスの体重を追跡した。in vivo治療試験終了後、血液サンプルを採取し、製造業者のプロトコールに従って、ALT/SGPT又はAST/SGPT液体UVアッセイキットによりALT及びASTを測定した。血清サイトカインレベル(TNF-α及びIL-6)はマウスサイトカインアッセイキットを用いて測定した。腫瘍および心臓、肝臓、脾臓、肺、腎臓などの主要臓器を摘出し、10%ホルムアルデヒドを含むPBSで固定した後、パラフィンに包埋した。パラフィン包埋されたサンプルは、HM325ロータリーマイクロトームを用いて、4μmでスライスした。次いで、組織スライスを、Zeiss Axiostar plus Microscope(米国ペンシルベニア州)下での病理組織学的検査のために、ヘマトキシリン・エオジン染色に供した。
【0122】
統計分析
すべての値は、平均値±平均値の標準誤差(SEM)として示した。統計解析は、二群間の比較には両側スチューデントのt検定、複数群間の比較には一元配置分散分析(ANOVA)を用いて行った。結果は、p<0.05の場合に統計的に有意であるとみなされた。
【0123】
前述の説明及び添付の図面は、現時点における多数の代表的な実施形態を示す。様々な変更、追加および代替設計は、もちろん、前述の説明よりも、むしろ、以下の特許請求の範囲により示される本明細書の範囲から逸脱することなく、前述の教示に照らして当業者に明らかになるであろう。特許請求の範囲の意味及び同等性の範囲内に入るすべての変更および変形は、その範囲内に包含される。
【国際調査報告】