(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公表特許公報(A)
(11)【公表番号】
(43)【公表日】2024-10-02
(54)【発明の名称】CDCプラットホーム抗体
(51)【国際特許分類】
C07K 16/18 20060101AFI20240925BHJP
C07K 19/00 20060101ALI20240925BHJP
C12N 15/62 20060101ALI20240925BHJP
C12N 15/13 20060101ALI20240925BHJP
C12N 15/63 20060101ALI20240925BHJP
C12N 1/15 20060101ALI20240925BHJP
C12N 1/19 20060101ALI20240925BHJP
C12N 1/21 20060101ALI20240925BHJP
C12N 5/10 20060101ALI20240925BHJP
C12P 21/02 20060101ALI20240925BHJP
C12P 21/08 20060101ALI20240925BHJP
A61P 13/12 20060101ALI20240925BHJP
A61P 21/04 20060101ALI20240925BHJP
A61P 15/08 20060101ALI20240925BHJP
A61P 1/02 20060101ALI20240925BHJP
A61P 19/10 20060101ALI20240925BHJP
A61P 7/02 20060101ALI20240925BHJP
A61P 9/10 20060101ALI20240925BHJP
A61P 17/02 20060101ALI20240925BHJP
A61P 1/18 20060101ALI20240925BHJP
A61P 17/00 20060101ALI20240925BHJP
A61P 27/16 20060101ALI20240925BHJP
A61P 7/04 20060101ALI20240925BHJP
A61P 5/14 20060101ALI20240925BHJP
A61P 11/00 20060101ALI20240925BHJP
A61P 19/00 20060101ALI20240925BHJP
A61P 1/16 20060101ALI20240925BHJP
A61P 37/08 20060101ALI20240925BHJP
A61P 25/00 20060101ALI20240925BHJP
A61P 27/02 20060101ALI20240925BHJP
A61P 3/10 20060101ALI20240925BHJP
A61P 9/00 20060101ALI20240925BHJP
A61P 29/00 20060101ALI20240925BHJP
A61P 17/06 20060101ALI20240925BHJP
A61P 1/04 20060101ALI20240925BHJP
A61P 25/28 20060101ALI20240925BHJP
A61P 11/06 20060101ALI20240925BHJP
A61P 19/02 20060101ALI20240925BHJP
A61P 37/06 20060101ALI20240925BHJP
A61P 35/00 20060101ALI20240925BHJP
A61K 39/395 20060101ALI20240925BHJP
【FI】
C07K16/18 ZNA
C07K19/00
C12N15/62 Z
C12N15/13
C12N15/63 Z
C12N1/15
C12N1/19
C12N1/21
C12N5/10
C12P21/02 C
C12P21/08
A61P13/12
A61P21/04
A61P15/08
A61P1/02
A61P19/10
A61P7/02
A61P9/10
A61P17/02
A61P1/18
A61P17/00
A61P27/16
A61P7/04
A61P5/14
A61P11/00
A61P19/00
A61P1/16
A61P37/08
A61P25/00
A61P27/02
A61P3/10
A61P9/00
A61P29/00
A61P17/06
A61P1/04
A61P25/28
A61P11/06
A61P29/00 101
A61P19/02
A61P37/06
A61P35/00
A61K39/395 N
【審査請求】有
【予備審査請求】未請求
(21)【出願番号】P 2024512136
(86)(22)【出願日】2022-08-26
(85)【翻訳文提出日】2024-04-15
(86)【国際出願番号】 CN2022115262
(87)【国際公開番号】W WO2023025309
(87)【国際公開日】2023-03-02
(31)【優先権主張番号】202110997571.7
(32)【優先日】2021-08-27
(33)【優先権主張国・地域又は機関】CN
(81)【指定国・地域】
【公序良俗違反の表示】
(特許庁注:以下のものは登録商標)
(71)【出願人】
【識別番号】523029928
【氏名又は名称】サンシャイン・グオジアン・ファーマシューティカル(シャンハイ)カンパニー・リミテッド
(74)【代理人】
【識別番号】100114188
【氏名又は名称】小野 誠
(74)【代理人】
【識別番号】100119253
【氏名又は名称】金山 賢教
(74)【代理人】
【識別番号】100124855
【氏名又は名称】坪倉 道明
(74)【代理人】
【識別番号】100129713
【氏名又は名称】重森 一輝
(74)【代理人】
【識別番号】100137213
【氏名又は名称】安藤 健司
(74)【代理人】
【識別番号】100183519
【氏名又は名称】櫻田 芳恵
(74)【代理人】
【識別番号】100196483
【氏名又は名称】川嵜 洋祐
(74)【代理人】
【識別番号】100160749
【氏名又は名称】飯野 陽一
(74)【代理人】
【識別番号】100160255
【氏名又は名称】市川 祐輔
(74)【代理人】
【識別番号】100219265
【氏名又は名称】鈴木 崇大
(74)【代理人】
【識別番号】100203208
【氏名又は名称】小笠原 洋平
(74)【代理人】
【識別番号】100216839
【氏名又は名称】大石 敏幸
(74)【代理人】
【識別番号】100146318
【氏名又は名称】岩瀬 吉和
(74)【代理人】
【識別番号】100127812
【氏名又は名称】城山 康文
(72)【発明者】
【氏名】ジャオ,ジエ
(72)【発明者】
【氏名】ジャン,シュエサイ
(72)【発明者】
【氏名】ファン,ハオミン
(72)【発明者】
【氏名】ジュ,ジェンピン
【テーマコード(参考)】
4B064
4B065
4C085
4H045
【Fターム(参考)】
4B064AG01
4B064AG26
4B064AG27
4B064CA19
4B064CC24
4B064CE12
4B064DA01
4B065AA01X
4B065AA57X
4B065AA83X
4B065AA87X
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4B065AA90Y
4B065AB01
4B065AC14
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4B065CA25
4B065CA44
4C085AA13
4C085AA14
4C085BB11
4C085BB36
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4C085CC01
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4C085EE01
4H045AA10
4H045AA11
4H045AA20
4H045AA30
4H045BA10
4H045BA41
4H045CA40
4H045DA75
4H045DA76
4H045EA20
4H045FA74
4H045GA26
(57)【要約】
CDC効果を増強するプラットホーム技術。具体的に、抗原結合活性およびCDC活性を有する抗体またはその断片もしくは融合タンパク質であって、所定の抗原を標的とする結合機能ドメイン、および重鎖Fc領域エレメントを含み、前記重鎖Fc領域エレメントは、(1) Fc領域の309番目の位置に、W、Y、E、F、H、C、D、N、Q、R、S、T、またはKからなる群から選ばれるアミノ酸残基が含まれており、好ましくはFC領域の345番目の位置にさらにRが含まれており、ならびに/あるいは(2) C末端にテールピース(tail-piece)エレメントが含まれている抗体またはその断片もしくは融合タンパク質に関する。前記抗体またはその断片もしくは融合タンパク質は、309番目のアミノ酸の部位特異的突然変異またはC末端へのテールピースエレメントの付加により、本発明の抗体またはその断片もしくは融合タンパク質のCDC性能を顕著に向上させ、そして既存の抗体またはその断片もしくは融合タンパク質の治療効果を改善し、多くの疾患を治療することができる。
【特許請求の範囲】
【請求項1】
抗原結合活性およびCDC活性を有する抗体またはその断片もしくは融合タンパク質であって、所定の抗原を標的とする結合機能ドメイン、および重鎖Fc領域エレメントを含み、前記重鎖Fc領域エレメントは、
(1) Fc領域の309番目の位置に、W、Y、E、F、H、C、D、N、Q、R、S、T、またはKからなる群から選ばれるアミノ酸残基が含まれており;ならびに/あるいは
(2) C末端にテールピース(tail-piece)エレメントが含まれている
ことを特徴とするもの。
【請求項2】
前記の抗体またはその断片もしくは融合タンパク質は、さらに、ADCC活性を有することを特徴とする請求項1に記載の抗体またはその断片または融合タンパク質。
【請求項3】
前記重鎖Fc領域エレメントは、以下の群から選ばれるFc領域の位置のアミノ酸残基置換を含むことを特徴とする請求項1~2のいずれかに記載の抗体またはその断片または融合タンパク質:
(1)L309W+E345R;
(2)L309Y+E345R;
(3)L309E+E345R;
(4)L309F+E345R;
(5)L309H+E345R;
(6)L309C+E345R;
(7)L309D+E345R;
(8)L309N+E345R;
(9)L309Q+E345R;
(10)L309R+E345R;
(11)L309S+E345R;
(12)L309T+E345R;または
(13)L309K+E345R。
【請求項4】
前記所定の抗原を標的とする結合機能ドメインは、CD38、CD3、CD47、CD19、CD20、HER2、EGFR、CD123、Glypican-3、CD25、Trop-2、EpCAM、またはこれらの組み合わせからなる群から選ばれる抗原分子に結合することを特徴とする請求項1~3のいずれかに記載の抗体またはその断片または融合タンパク質。
【請求項5】
前記重鎖Fc領域エレメントはIgG由来のもので、前記IgGは以下の群から選ばれるアミノ酸配列を有することを特徴とする請求項1~4のいずれかに記載の抗体またはその断片または融合タンパク質:
配列番号31、配列番号32または配列番号34。
【請求項6】
前記の抗体またはその断片もしくは融合タンパク質は以下の群から選ばれることを特徴とする請求項1~5のいずれかに記載の抗体またはその断片または融合タンパク質:
(a) 以下の群から選ばれるアミノ酸配列を有する抗体またはその断片もしくは融合タンパク質:
配列番号35で示されるH-CDR1、配列番号36で示されるH-CDR2および配列番号37で示されるH-CDR3を含有するVH領域と、EU番号付けではヒトIgG1の309番目の位置にWまたはY突然変異のある重鎖定常領域とを含む重鎖、ならびに、配列番号38で示されるL-CDR1、配列番号39で示されるL-CDR2および配列番号40で示されるL-CDR3を含有するVL領域を含む軽鎖;あるいは
配列番号11で示されるH-CDR1、配列番号12で示されるH-CDR2および配列番号13で示されるH-CDR3を含有するVH領域と、EU番号付けではヒトIgG1の309番目の位置にWまたはY突然変異のある重鎖定常領域とを含む重鎖、ならびに、配列番号14で示されるL-CDR1、配列番号15で示されるL-CDR2および配列番号16で示されるL-CDR3を含有するVL領域を含む軽鎖;あるいは
配列番号35で示されるH-CDR1、配列番号36で示されるH-CDR2および配列番号37で示されるH-CDR3を含有するVH領域と、EU番号付けではヒトIgG1の309番目の位置にWまたはY突然変異、そして345番目の位置にR突然変異のある重鎖定常領域とを含む重鎖、ならびに、配列番号38で示されるL-CDR1、配列番号39で示されるL-CDR2および配列番号40で示されるL-CDR3を含有するVL領域を含む軽鎖;あるいは
配列番号11で示されるH-CDR1、配列番号12で示されるH-CDR2および配列番号13で示されるH-CDR3を含有するVH領域と、EU番号付けではヒトIgG1の309番目の位置にWまたはY突然変異、そして345番目の位置にR突然変異のある重鎖定常領域とを含む重鎖、ならびに、配列番号14で示されるL-CDR1、配列番号15で示されるL-CDR2および配列番号16で示されるL-CDR3を含有するVL領域を含む軽鎖;あるいは
配列番号35で示されるH-CDR1、配列番号36で示されるH-CDR2および配列番号37で示されるH-CDR3を含有するVH領域と、配列番号31で示される配列を有する重鎖定常領域とを含む重鎖、ならびに、配列番号38で示されるL-CDR1、配列番号39で示されるL-CDR2および配列番号40で示されるL-CDR3を含有するVL領域を含む軽鎖;あるいは
配列番号11で示されるH-CDR1、配列番号12で示されるH-CDR2および配列番号13で示されるH-CDR3を含有するVH領域と、配列番号31で示される配列を有する重鎖定常領域とを含む重鎖、ならびに、配列番号14で示されるL-CDR1、配列番号15で示されるL-CDR2および配列番号16で示されるL-CDR3を含有するVL領域を軽鎖;
(b)(a)におけるアミノ酸配列が1つまたは複数のアミノ酸残基の置換、欠失または付加を経てなる、抗原結合機能および前記CDC活性を有する(a)から誘導されるポリペプチド。
【請求項7】
抗体またはその断片もしくは融合タンパク質のCDCを向上させる方法であって、前記抗体またはその断片もしくは融合タンパク質はイムノグロブリンのFc領域および所定の抗原を標的とする結合機能ドメインを含み、前記方法は、以下の工程を含む方法:
(S1a)1つまたは複数のアミノ酸残基における突然変異を当該抗体またはその断片もしくは融合タンパク質に導入し、前記突然変異はIgGの重鎖のFc領域の309番目を、W、Y、E、F、H、C、D、N、Q、R、S、T、またはKからなる群から選ばれるアミノ酸に突然変異させるものを含む;ならびに/あるいは
(S1b)Fc領域のC末端に、配列番号7または8で示される、テールピース(tail-piece)エレメントを融合する。
【請求項8】
工程(S1a)では、前記突然変異は、さらに、IgGの重鎖のFc領域における345番目をRに突然変異させるものを含むことを特徴とする請求項7に記載の方法。
【請求項9】
重鎖Fc領域エレメントであって、
(1) Fc領域の309番目の位置に、W、Y、E、F、H、C、D、N、Q、R、S、T、またはKからなる群から選ばれるアミノ酸残基が含まれており、好ましくは、さらに、IgG重鎖のFc領域における345番目をRに突然変異させることを含み;ならびに/あるいは
(2) C末端にテールピース(tail-piece)エレメントが含まれている
ことを特徴とする重鎖Fc領域エレメント。
【請求項10】
単離された核酸分子であって、請求項1~6のいずれかに記載の抗体またはその断片または融合タンパク質、あるいは請求項9に記載の重鎖Fc領域エレメントをコードすることを特徴とするもの。
【請求項11】
請求項10に記載の核酸分子を含有することを特徴とする発現ベクター。
【請求項12】
請求項11に記載の発現ベクターを含有することを特徴とする宿主細胞。
【請求項13】
請求項1~6のいずれかに記載の抗体またはその断片または融合タンパク質あるいは請求項9に記載の重鎖Fc領域エレメントの製造方法であって、以下の工程を含むことを特徴とする方法:
(a) 発現の条件において、請求項12に記載の宿主細胞を培養することにより、前記の抗体またはその断片もしくは融合タンパク質あるいは前記の重鎖Fc領域エレメントを発現させる;
(b) (a)に記載の抗体またはその断片もしくは融合タンパク質あるいは前記の重鎖Fc領域エレメントを単離して精製する。
【請求項14】
以下のものを含むことを特徴とする免疫複合体:
(a) 請求項1~6のいずれかに記載の抗体またはその断片もしくは融合タンパク質、ならびに
(b) 検出可能なマーカー、薬物、毒素、サイトカイン、放射性核種、または酵素からなる群から選ばれる複合部分。
【請求項15】
請求項1~6のいずれかに記載の抗体またはその断片もしくは融合タンパク質あるいは請求項14に記載の免疫複合体と薬学的に許容される担体とを含む含有することを特徴とする薬物組成物。
【請求項16】
癌または免疫関連疾患を治療する薬物の製造における、請求項1~6のいずれかに記載の抗体またはその断片または融合タンパク質、あるいは請求項14に記載の免疫複合体、あるいは請求項15に記載の薬物組成物の使用。
【請求項17】
前記癌は、メラノーマ、腎臓癌、前立腺癌、膵臓腺癌、乳癌、結腸癌、肺癌、食道癌、頭頸部扁平上皮癌、肝臓癌、卵巣癌、子宮頸癌、甲状腺癌、膠芽細胞腫、膠細胞腫、多発性骨髄腫およびほかの新生物性悪性疾患からなる群から選ばれることを特徴とする請求項16に記載の使用。
【請求項18】
前記免疫関連疾患は自己免疫性疾患、好ましくは自己免疫性腎臓疾患(免疫性腎臓炎、自己免疫性腎臓疾患)、エリテマトーデス、全身性エリテマトーデス(SLE)、シェーグレン症候群(Sjogren’s Syndrome)、関節炎、関節リウマチ、喘息、COPD、骨盤内炎症性疾患、アルツハイマー病(Alzheimer's Disease)、炎症性腸管疾患、クローン病(Crohn's disease)、潰瘍性結腸炎、ペイロニー病(Peyronie's Disease)、セリアック病、胆嚢疾患、毛巣疾患、腹膜炎、乾癬、乾癬性関節炎、血管炎、手術癒着、卒中、I型糖尿病、ライム病(Lyme disease)、脳膜脳炎、自己免疫性ブドウ膜炎、多発性硬化症、ギラン・バレー症候群(Guillain-Barr syndrome)、アトピー性皮膚炎、自己免疫性肝臓炎、強直性脊椎炎、線維化肺胞炎、バセドウ病(Grave's disease)、特発性血小板減少性紫斑病(ITP)、メニエール病(Meniere's disease)、天疱瘡、原発性胆汁性肝硬変、サルコイドーシス、強皮症、ウェゲナー肉芽腫症(Wegener's granulomatosis)、ほかの自己免疫性障害、膵臓腺炎、創傷(外科手術)、移植片対宿主病、移植拒絶、心臓疾患(虚血性疾患、たとえば、心筋梗塞やアテローム性動脈硬化を含む)、血管内凝固、骨再吸収、骨粗鬆症、骨関節炎、歯周炎および低クロール血症、胎児-母体耐性欠失に関連する不妊症、白斑、重症筋無力症(MG)、全身性強皮症、炎症性腸疾患、胃炎またはIgG4関連疾患で、好ましくは免疫グロブリンA腎症(IgAN)、膜性腎症(MN)または腎障害性モノクローナル・ガンモパチー(MGRS)、ループス腎炎または紫斑病性腎炎であることを特徴とする請求項16に記載の使用。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、抗体の分野に関し、具体的に、補体依存性細胞傷害(CDC)および/または抗体依存性細胞介在性細胞傷害(ADCC)プラットホーム抗体に関する。
【背景技術】
【0002】
補体(complement、C)は、正常なヒトおよび動物の血清と組織液に存在する一組の活性化すると酵素活性があるタンパク質である。19世紀末に、Bordetにより、新鮮な血液に熱耐性のない成分が含まれていることが既に実証され、特異的抗体を補助・補充し、免疫溶菌、溶血作用を仲介することができるため、補体と呼ばれる。補体は、30数種類の可溶性タンパク質、膜結合性タンパク質および補体受容体からなる多分子システムで、補体系(complement system)と呼ばれる。正常な場合、補体は血漿タンパク質の構成成分である。補体系の各成分は、活性のない前駆体として血漿に存在する。必要な時、活性化物質、たとえば、抗原-抗体複合体などの作用により、順に活性化され、最終的に作用を発揮する。補体系の各成分の生物学的機能により、補体固有成分、補体調節成分および補体受容体に分かれる。
【0003】
補体固有成分は、以下の4種類に分かれる:1、古典活性化経路のC1、C2、C4;2、副経路活性化経路のB因子、D因子およびP因子;3、マンノース結合レクチン(mannan binding lectin、MBL)活性化経路のMBLおよびセリンプロテアーゼ;4、共通の末端経路に関与するC3、C5、C6、C7、C8、C9。
【0004】
補体活性化の過程は、その開始順序により、3つの経路に分かれる:1、抗原-抗体複合体が主要な活性化物質である、C1q-C1r2-C1s2からの古典経路(classical pathway);2、抗体に依存しないC3からの副経路(alternative pathway);3、マンノース結合レクチン(MBL)グルコシル基によって認識するレクチン活性化経路(MBL pathway)。上記の3つの経路は共通の末端経路、すなわち、膜侵襲複合体の形成およびその細胞溶解効果がある。
【0005】
補体の古典活性化経路(classical pathway)とは、主にC1qが免疫複合体(immune complex)と結合すると、順にC1r、C1s、C4、C2、C3が活性化され、C3転換酵素(C4b 2b)とC5転換酵素(C4b2b3b)が形成するカスケード酵素触媒反応の過程である。それは抗体が仲介する体液免疫応答の主な作用形態である。
【0006】
免疫複合体は、主に、抗原に結合するIgG、IgM分子である。各C1q分子は2つ以上のイムノグロブリン分子のFc部分と結合する必要があり、遊離または可溶性の抗体は補体を活性化させない。古典経路の活性化に関与する補体成分は、順に、C1、C4、C2およびC3、C5~C9である。
【0007】
古典経路の活性化過程は、3つの主要な段階に分かれる:1、認識段階;2、活性化段階;3、膜侵襲段階。補体系の活性化過程において、多くの生物活性物質が発生し、一連の生物学的効果を引き起こす。補体の生物学的効果は、1、貪食作用の増強、貪食細胞の走化性の増強;2、血管の透過性の増強;3、ウイルスの中和;4、細胞溶解作用;5、免疫反応の調節作用などがある。
【0008】
研究(参照文献:Complement Is Activated by IgG Hexamers Assembled at the Cell Surface[J]. Science, 2014, 343(6176):1260-3.)では、六量体はC1qに結合して古典活性化経路を開始させる最も有効な形態であることが示された。Genmabはこの原理に基づいてHexaBodyプラットホームを開発した(参照文献:Jong R , Beurskens F J , Verploegen Sら, A Novel Platform for the Potentiation of Therapeutic Antibodies Based on Antigen-Dependent Formation of IgG Hexamers at the Cell Surface[J]. PLOS Biology, 2016, 14(1):e1002344.)。当該プラットホーム技術の特徴は、Fcの特定の部位の突然変異(たとえば、E345R)を誘導することにより、FcとFcの間の相互作用を増強し、抗体が細胞表面の抗原に結合した後、より六量体になりやすいように促進することができることである。形成する六量体は、有効に免疫反応の機能、特に抗体の補体依存性細胞傷害(complement-dependent cytotoxicity、CDC)を向上させることができる。しかしながら、既存技術における方法はまだ満足できるものとは言えない。
【0009】
ADCC、すなわち、抗体依存性細胞介在性細胞傷害(ADCC、antibody-dependent cell-mediated cytotoxicity)とは、抗体のFab領域が腫瘍細胞またはほかの標的細胞の表面の抗原と、Fc領域が殺傷細胞(NK細胞、マクロファージなど)の表面のFcγRと結合することにより、殺傷細胞の直接の標的細胞の殺傷を仲介することである。中では、NK細胞は抗体がADCC作用を発揮する主なエフェクター細胞で、抗体のFc領域がNK細胞の表面のFcγRと結合すると、後者が活性化され、活性化されたNK細胞はパーフォリン、グランザイムなどの細胞傷害物質を放出して標的細胞のアポトーシスを誘導することで、標的細胞を殺傷する目的を果たす。よって、ADCC効果は関連抗体が生物学的活性を発揮する主な機序の一つでもある。現在、生物医薬の分野において、ADCC活性について最も開発されている抗体のサブタイプは野生型のIgG1である。
【0010】
そのため、本分野では、良いCDCおよび/またはADCC活性を有するプラットホーム抗体の開発がまだ必要である。
【発明の概要】
【0011】
本発明の目的は、抗体またはその断片もしくは融合タンパク質のCDC活性を増強するプラットホーム、好ましくは抗体またはその断片もしくは融合タンパク質のCDCおよび/またはADCC活性を増強するプラットホームを提供することにある。
【0012】
本発明の第一の側面では、抗原結合活性およびCDC活性を有する抗体またはその断片もしくは融合タンパク質であって、所定の抗原を標的とする結合機能ドメイン、および重鎖Fc領域エレメントを含み、前記重鎖Fc領域エレメントは、
(1) Fc領域の309番目の位置に、W、Y、E、F、H、C、D、N、Q、R、S、T、またはKからなる群から選ばれるアミノ酸残基が含まれており;ならびに/あるいは
(2) C末端にテールピース(tail-piece)エレメントが含まれている
ものを提供する。
【0013】
もう一つの好適な例において、前記重鎖Fc領域エレメントとテールピース(tail-piece)エレメントはリンカーを介して連結している。
【0014】
もう一つの好適な例において、前記重鎖Fc領域エレメントは2本の重鎖Fc領域を含み、各重鎖Fc領域は、(1) Fc領域の309番目の位置に、それぞれ独立に、W、Y、E、F、H、C、D、N、Q、R、S、T、またはKからなる群から選ばれるアミノ酸残基がそれぞれ独立含まれており;ならびに/あるいは
(2) C末端にテールピース(tail-piece)エレメントが含まれている。
【0015】
もう一つの好適な例において、各重鎖Fc領域は、345番目の位置に、さらに、Rが含まれている。
【0016】
もう一つの好適な例において、前記の抗体またはその断片もしくは融合タンパク質は、さらに、ADCC活性を有する。
【0017】
もう一つの好適な例において、前記所定の抗原を標的とする結合機能ドメインは、CD38、CD3、CD47、CD19、CD20、HER2、EGFR、CD123、Glypican-3、CD25、Trop-2、EpCAM、またはこれらの組み合わせからなる群から選ばれる抗原分子に結合する。
【0018】
もう一つの好適な例において、前記所定の抗原を標的とする結合機能ドメインは、VH、VL、Fab、F(ab')2、Fab'、scFvまたはVHHからなる群から選ばれるドメインを含む。
【0019】
もう一つの好適な例において、前記重鎖Fc領域エレメントのCH3ドメインのC末端にテールピース(tail-piece)エレメントが含まれている。
【0020】
もう一つの好適な例において、前記重鎖Fc領域エレメントはIgG由来のものである。
【0021】
もう一つの好適な例において、前記IgGは配列番号31、配列番号32または配列番号34からなる群から選ばれるアミノ酸配列を有する。
【0022】
もう一つの好適な例において、前記IgGは哺乳動物、好ましくはネズミ、カニクイザルまたはヒト、より好ましくはヒト由来のものである。
【0023】
もう一つの好適な例において、前記重鎖Fc領域エレメントはIgG1、IgG2、IgG3またはIgG4由来のCH2および/またはCH3ドメインを含む。
【0024】
もう一つの好適な例において、前記重鎖Fc領域エレメントはヒトIgG1由来のものである。
【0025】
もう一つの好適な例において、前記重鎖Fc領域エレメントはIgG1由来のCH2とCH3ドメインを含む。
【0026】
もう一つの好適な例において、前記抗体またはその断片もしくは融合タンパク質は単特異性、二重特異性、三重特異性または多重特異性抗体またはその断片もしくは融合タンパク質である。
【0027】
もう一つの好適な例において、前記抗体またはその断片もしくは融合タンパク質は二量体、三量体または多量体である。
【0028】
もう一つの好適な例において、前記多量体は六量体である。
【0029】
もう一つの好適な例において、前記重鎖Fc領域エレメントはFc領域の309番目の位置にF、C、WまたはYからなる群から選ばれるアミノ酸残基が含まれている。
【0030】
もう一つの好適な例において、前記重鎖Fc領域エレメントは、さらに、ほかの位置のアミノ酸置換を含む。
【0031】
もう一つの好適な例において、前記重鎖Fc領域エレメントは、さらに、Fc領域の345番目の位置におけるグルタミン酸残基のアルギニン残基による置換(E345R)を含む。
【0032】
もう一つの好適な例において、前記重鎖Fc領域エレメントは、以下の群から選ばれるFc領域の位置のアミノ酸残基置換を含む:
(1)L309W+E345R;
(2)L309Y+E345R;
(3)L309E+E345R;
(4)L309F+E345R;
(5)L309H+E345R;
(6)L309C+E345R;
(7)L309D+E345R;
(8)L309N+E345R;
(9)L309Q+E345R;
(10)L309R+E345R;
(11)L309S+E345R;
(12)L309T+E345R;または
(13)L309K+E345R。
【0033】
もう一つの好適な例において、前記重鎖Fc領域エレメントは、Fc領域の位置にL309W+E345Rのアミノ酸残基置換がある。
【0034】
もう一つの好適な例において、前記重鎖Fc領域エレメントのアミノ酸の番号はEU番号付けシステムに準ずるものである。
【0035】
もう一つの好適な例において、前記テールピースエレメントはヒトIgM由来のものである。
【0036】
もう一つの好適な例において、前記テールピースエレメントに1つまたは複数のアミノ酸の突然変異が含まれている。
【0037】
もう一つの好適な例において、前記テールピースエレメントの配列は配列番号7または8で示されるものである。
【0038】
もう一つの好適な例において、前記所定の抗原を標的とする結合機能ドメインはCD38に結合する結合機能ドメインで、以下の群から選ばれる重鎖可変領域および軽鎖可変領域を含む:
(1) 重鎖可変領域であって、以下に示される3つの相補性決定領域CDRを含むもの:
配列番号11で示されるH-CDR1;
配列番号12で示されるH-CDR2;
配列番号13で示されるH-CDR3;および
軽鎖可変領域であって、以下に示される3つの相補性決定領域CDRを含むもの:
配列番号14で示されるL-CDR1;
配列番号15で示されるL-CDR2;
配列番号16で示されるL-CDR3;あるいは
(2) 重鎖可変領域であって、以下に示される3つの相補性決定領域CDRを含むもの:
配列番号35で示されるH-CDR1;
配列番号36で示されるH-CDR2;
配列番号37で示されるH-CDR3;および
軽鎖可変領域であって、以下に示される3つの相補性決定領域CDRを含むもの:
配列番号38で示されるL-CDR1;
配列番号39で示されるL-CDR2;
配列番号40で示されるL-CDR3。
【0039】
もう一つの好適な例において、前記抗体またはその断片もしくは融合タンパク質は以下の群から選ばれる:
(a) 以下の群から選ばれるアミノ酸配列を有する抗体またはその断片もしくは融合タンパク質:
配列番号35で示されるH-CDR1、配列番号36で示されるH-CDR2および配列番号37で示されるH-CDR3を含有するVH領域と、EU番号付けではヒトIgG1の309番目の位置にWまたはY突然変異のある重鎖定常領域とを含む重鎖、ならびに、配列番号38で示されるL-CDR1、配列番号39で示されるL-CDR2および配列番号40で示されるL-CDR3を含有するVL領域を含む軽鎖;あるいは
配列番号11で示されるH-CDR1、配列番号12で示されるH-CDR2および配列番号13で示されるH-CDR3を含有するVH領域と、EU番号付けではヒトIgG1の309番目の位置にWまたはY突然変異のある重鎖定常領域とを含む重鎖、ならびに、配列番号14で示されるL-CDR1、配列番号15で示されるL-CDR2および配列番号16で示されるL-CDR3を含有するVL領域を含む軽鎖;あるいは
配列番号35で示されるH-CDR1、配列番号36で示されるH-CDR2および配列番号37で示されるH-CDR3を含有するVH領域と、EU番号付けではヒトIgG1の309番目の位置にWまたはY突然変異、そして345番目の位置にR突然変異のある重鎖定常領域とを含む重鎖、ならびに、配列番号38で示されるL-CDR1、配列番号39で示されるL-CDR2および配列番号40で示されるL-CDR3を含有するVL領域を含む軽鎖;あるいは
配列番号11で示されるH-CDR1、配列番号12で示されるH-CDR2および配列番号13で示されるH-CDR3を含有するVH領域と、EU番号付けではヒトIgG1の309番目の位置にWまたはY突然変異、そして345番目の位置にR突然変異のある重鎖定常領域とを含む重鎖、ならびに、配列番号14で示されるL-CDR1、配列番号15で示されるL-CDR2および配列番号16で示されるL-CDR3を含有するVL領域を含む軽鎖;あるいは
配列番号35で示されるH-CDR1、配列番号36で示されるH-CDR2および配列番号37で示されるH-CDR3を含有するVH領域と、配列番号31で示される配列を有する重鎖定常領域とを含む重鎖、ならびに、配列番号38で示されるL-CDR1、配列番号39で示されるL-CDR2および配列番号40で示されるL-CDR3を含有するVL領域を含む軽鎖;あるいは
配列番号11で示されるH-CDR1、配列番号12で示されるH-CDR2および配列番号13で示されるH-CDR3を含有するVH領域と、配列番号31で示される配列を有する重鎖定常領域とを含む重鎖、ならびに、配列番号14で示されるL-CDR1、配列番号15で示されるL-CDR2および配列番号16で示されるL-CDR3を含有するVL領域を軽鎖;
(b)(a)におけるアミノ酸配列が1つまたは複数のアミノ酸残基の置換、欠失または付加を経てなる、抗原結合機能および前記CDC活性を有する(a)から誘導されるポリペプチド。
【0040】
もう一つの好適な例において、前記抗体またはその断片もしくは融合タンパク質は以下の群から選ばれる:
(a) 以下の群から選ばれるアミノ酸配列を有する抗体またはその断片もしくは融合タンパク質:
配列番号1で示される配列を有するVH領域と、EU番号付けではヒトIgG1の309番目の位置WまたはY突然変異のある重鎖定常領域とを含む重鎖、ならびに、配列番号2で示される配列を有するVL領域を含む軽鎖;あるいは
配列番号21で示される配列を有するVH領域と、EU番号付けではヒトIgG1の309番目の位置WまたはY突然変異のある重鎖定常領域とを含む重鎖、ならびに、配列番号22で示される配列を有するVL領域を含む軽鎖;あるいは
配列番号1で示される配列を有するVH領域と、EU番号付けではヒトIgG1の309番目の位置にWまたはY突然変異、そして345番目の位置にR突然変異のある重鎖定常領域とを含む重鎖、ならびに、配列番号2で示される配列を有するVL領域を含む軽鎖;あるいは
配列番号21で示される配列を有するVH領域と、EU番号付けではヒトIgG1の309番目の位置にWまたはY突然変異、そして345番目の位置にR突然変異のある重鎖定常領域とを含む重鎖、ならびに、配列番号22で示される配列を有するVL領域を含む軽鎖;あるいは
配列番号1で示される配列を有するVH領域と、配列番号31で示される配列を有する重鎖定常領域とを含む重鎖、ならびに、配列番号2で示される配列を有するVL領域を含む軽鎖;あるいは
配列番号21で示される配列を有するVH領域と、配列番号31で示される配列を有する重鎖定常領域とを含む重鎖、ならびに、配列番号22で示される配列を有するVL領域を軽鎖;
(b)(a)におけるアミノ酸配列が1つまたは複数のアミノ酸残基の置換、欠失または付加を経てなる、抗原結合機能および前記CDC活性を有する(a)から誘導されるポリペプチド。
【0041】
もう一つの好適な例において、前記抗体またはその断片もしくは融合タンパク質は以下の群から選ばれる:
(a) 以下の群から選ばれるアミノ酸配列を有する抗体またはその断片もしくは融合タンパク質:
配列番号1で示される配列を有するVH領域と、配列番号31で示される配列を有する重鎖定常領域とを含む重鎖、ならびに、配列番号2で示される配列を有するVL領域を含む軽鎖;あるいは
配列番号21で示される配列を有するVH領域と、配列番号31で示される配列を有する重鎖定常領域とを含む重鎖、ならびに、配列番号22で示される配列を有するVL領域を含む軽鎖;あるいは
配列番号1で示される配列を有するVH領域と、配列番号32で示される配列を有する重鎖定常領域とを含む重鎖、ならびに、配列番号2で示される配列を有するVL領域を含む軽鎖;あるいは
配列番号21で示される配列を有するVH領域と、配列番号32で示される配列を有する重鎖定常領域とを含む重鎖、ならびに、配列番号22で示される配列を有するVL領域を含む軽鎖;あるいは
配列番号1で示される配列を有するVH領域と、配列番号34で示される配列を有する重鎖定常領域とを含む重鎖、ならびに、配列番号2で示される配列を有するVL領域を含む軽鎖;あるいは
配列番号21で示される配列を有するVH領域と、配列番号34で示される配列を有する重鎖定常領域とを含む重鎖、ならびに、配列番号22で示される配列を有するVL領域を軽鎖;
(b)(a)におけるアミノ酸配列が1つまたは複数のアミノ酸残基の置換、欠失または付加を経てなる、抗原結合機能および前記CDC活性を有する(a)から誘導されるポリペプチド。
【0042】
本発明の第二の側面では、抗体またはその断片もしくは融合タンパク質のCDCを向上させる方法であって、前記抗体またはその断片もしくは融合タンパク質はイムノグロブリンのFc領域および所定の抗原を標的とする結合機能ドメインを含み、前記方法は、以下の工程を含む方法を提供する:
(S1a)1つまたは複数のアミノ酸残基における突然変異を当該抗体またはその断片もしくは融合タンパク質に導入し、前記突然変異はIgGの重鎖のFc領域の309番目を、W、Y、E、F、H、C、D、N、Q、R、S、T、またはKからなる群から選ばれるアミノ酸に突然変異させるものを含む;ならびに/あるいは
(S1b)Fc領域のC末端に、配列番号7または8で示される、テールピース(tail-piece)エレメントを融合する。
【0043】
もう一つの好適な例において、前記IgGの重鎖のFc領域における309番目のLを、W、Y、E、F、H、C、D、N、Q、R、S、T、またはKからなる群から選ばれるアミノ酸に突然変異させる。
【0044】
もう一つの好適な例において、前記方法は、さらに、以下の工程を含む:
(S2)突然変異後の抗体またはその断片もしくは融合タンパク質と突然変異前の抗体またはその断片もしくは融合タンパク質のCDC性能を比較する。
【0045】
もう一つの好適な例において、前記方法は、さらに、抗体またはその断片もしくは融合タンパク質のADCCの活性を向上させる工程を含む。
【0046】
もう一つの好適な例において、前記(S1a)および(S1b)は、同時に、前後にまたは逆転した順で行われる。
【0047】
もう一つの好適な例において、前記突然変異はIgGの重鎖のFc領域における309番目を、W、Yからなる群から選ばれるアミノ酸に突然変異させるものを含む。
【0048】
もう一つの好適な例において、工程(S1a)では、前記抗体またはその断片もしくは融合タンパク質において重鎖Fc領域における309番目がYでもWでもない場合、それをYまたはWに突然変異させる。
【0049】
もう一つの好適な例において、工程(S1a)では、前記抗体またはその断片もしくは融合タンパク質において重鎖Fc領域における309番目がYではない場合、それをYに突然変異させる。
【0050】
もう一つの好適な例において、工程(S1a)では、前記抗体またはその断片もしくは融合タンパク質において重鎖Fc領域における309番目がWではない場合、それをWに突然変異させる。
【0051】
もう一つの好適な例において、工程(S1a)では、前記突然変異は、さらに、IgGの重鎖のFc領域における345番目をRに突然変異させるものを含む。
【0052】
もう一つの好適な例において、工程(S1a)では、前記突然変異は、IgGの重鎖のFc領域における309番目のLを、W、Y、E、F、H、C、D、N、Q、R、S、T、またはKからなる群から選ばれるアミノ酸に突然変異させるもの;ならびに
IgGの重鎖のFc領域における345番目のEをRに突然変異させるものを含む。
【0053】
本発明の第三の側面では、重鎖Fc領域エレメントであって、
(1) Fc領域の309番目の位置に、W、Y、E、F、H、C、D、N、Q、R、S、T、またはKからなる群から選ばれるアミノ酸残基が含まれており;ならびに/あるいは
(2) C末端にテールピース(tail-piece)エレメントが含まれている
ものを提供する。
【0054】
もう一つの好適な例において、前記重鎖Fc領域エレメントとテールピース(tail-piece)エレメントはリンカーを介して連結している。
【0055】
もう一つの好適な例において、前記重鎖Fc領域エレメントのCH3ドメインのC末端にテールピース(tail-piece)エレメントが含まれている。
【0056】
もう一つの好適な例において、前記重鎖Fc領域エレメントはIgG由来のものである。
【0057】
もう一つの好適な例において、前記重鎖Fc領域エレメントはヒトIgG1由来のものである。
【0058】
もう一つの好適な例において、前記重鎖Fc領域エレメントはIgG1、IgG2、IgG3またはIgG4由来のCH2およびCH3ドメインを含む。
【0059】
もう一つの好適な例において、前記重鎖Fc領域エレメントはIgG1由来のCH2とCH3ドメインを含む。
【0060】
もう一つの好適な例において、前記重鎖Fc領域エレメントはFc領域の309番目の位置にF、C、WまたはYからなる群から選ばれるアミノ酸残基が含まれている。
【0061】
もう一つの好適な例において、前記重鎖Fc領域エレメントは、さらに、ほかの位置のアミノ酸置換を含む。
【0062】
もう一つの好適な例において、前記重鎖Fc領域エレメントは、さらに、Fc領域の345番目の位置におけるグルタミン酸残基のアルギニン残基による置換(E345R)を含む。
【0063】
もう一つの好適な例において、前記重鎖Fc領域エレメントは、以下の群から選ばれるFc領域の位置のアミノ酸残基置換を含む:
(1)L309W+E345R;
(2)L309Y+E345R;
(3)L309E+E345R;
(4)L309F+E345R;
(5)L309H+E345R;
(6)L309C+E345R;
(7)L309D+E345R;
(8)L309N+E345R;
(9)L309Q+E345R;
(10)L309R+E345R;
(11)L309S+E345R;
(12)L309T+E345R;または
(13)L309K+E345R。
【0064】
もう一つの好適な例において、前記重鎖Fc領域エレメントのアミノ酸の番号はEU番号付けシステムに準ずるものである。
【0065】
もう一つの好適な例において、前記テールピースエレメントはヒトIgM由来のものである。
【0066】
もう一つの好適な例において、前記テールピースエレメントに1つまたは複数のアミノ酸の突然変異が含まれている。
【0067】
もう一つの好適な例において、前記テールピースエレメントの配列は配列番号7または8で示されるものである。
【0068】
本発明の第四の側面では、単離された核酸分子であって、本発明の第一の側面に記載の抗体またはその断片もしくは融合タンパク質、あるいは本発明の第三の側面に記載の重鎖Fc領域エレメントをコードする核酸分子を提供する。
【0069】
本発明の第五の側面では、本発明の第四の側面に記載の核酸分子を含有する発現ベクターを提供する。
【0070】
本発明の第六の側面では、本発明の第五の側面に記載の発現ベクターを含有する宿主細胞を提供する。
【0071】
本発明の第七の側面では、本発明の第一の側面に記載の抗体またはその断片もしくは融合タンパク質あるいは本発明の第三の側面に記載の重鎖Fc領域エレメントの製造方法であって、以下の工程を含む方法を提供する:
(a) 発現の条件において、本発明の第六の側面に記載の宿主細胞を培養することにより、前記の抗体またはその断片もしくは融合タンパク質あるいは前記の重鎖Fc領域エレメントを発現させる;
(b) (a)に記載の抗体またはその断片もしくは融合タンパク質あるいは前記の重鎖Fc領域エレメントを単離して精製する。
【0072】
本発明の第八の側面では、以下のものを含むする免疫複合体を提供する:
(a) 本発明の第一の側面に記載の抗体またはその断片もしくは融合タンパク質;ならびに
(b) 検出可能なマーカー、薬物、毒素、サイトカイン、放射性核種、または酵素からなる群から選ばれる複合部分。
【0073】
本発明の第九の側面では、本発明の第一の側面に記載の抗体またはその断片もしくは融合タンパク質あるいは本発明の第八の側面に記載の免疫複合体と、薬学的に許容される担体とを含有する薬物組成物を提供する。
【0074】
本発明の第十の側面では、癌または免疫関連疾患を治療する薬物の製造における、本発明の第一の側面に記載の抗体またはその断片もしくは融合タンパク質、あるいは本発明の第八の側面に記載の免疫複合体、あるいは本発明の第九の側面に記載の薬物組成物の使用を提供する。
【0075】
もう一つの好適な例において、前記癌は、メラノーマ、腎臓癌、前立腺癌、膵臓腺癌、乳癌、結腸癌、肺癌、食道癌、頭頸部扁平上皮癌、肝臓癌、卵巣癌、子宮頸癌、甲状腺癌、膠芽細胞腫、膠細胞腫、多発性骨髄腫およびほかの新生物性悪性疾患からなる群から選ばれる。
【0076】
もう一つの好適な例において、前記免疫関連疾患は自己免疫性疾患、好ましくは自己免疫性腎臓疾患(免疫性腎臓炎、自己免疫性腎臓疾患)、エリテマトーデス、全身性エリテマトーデス(SLE)、シェーグレン症候群(Sjogren’s Syndrome)、関節炎、関節リウマチ、喘息、COPD、骨盤内炎症性疾患、アルツハイマー病(Alzheimer's Disease)、炎症性腸管疾患、クローン病(Crohn's disease)、潰瘍性結腸炎、ペイロニー病(Peyronie's Disease)、セリアック病、胆嚢疾患、毛巣疾患、腹膜炎、乾癬、乾癬性関節炎、血管炎、手術癒着、卒中、I型糖尿病、ライム病(Lyme disease)、脳膜脳炎、自己免疫性ブドウ膜炎、多発性硬化症、ギラン・バレー症候群(Guillain-Barr syndrome)、アトピー性皮膚炎、自己免疫性肝臓炎、強直性脊椎炎、線維化肺胞炎、バセドウ病(Grave's disease)、特発性血小板減少性紫斑病(ITP)、メニエール病(Meniere's disease)、天疱瘡、原発性胆汁性肝硬変、サルコイドーシス、強皮症、ウェゲナー肉芽腫症(Wegener's granulomatosis)、ほかの自己免疫性障害、膵臓腺炎、創傷(外科手術)、移植片対宿主病、移植拒絶、心臓疾患(虚血性疾患、たとえば、心筋梗塞やアテローム性動脈硬化を含む)、血管内凝固、骨再吸収、骨粗鬆症、骨関節炎、歯周炎および低クロール血症、胎児-母体耐性欠失に関連する不妊症、白斑、重症筋無力症(MG)、全身性強皮症、炎症性腸疾患、胃炎またはIgG4関連疾患である。
【0077】
もう一つの好適な例において、前記免疫関連疾患は自己免疫性腎臓疾患、好ましくは免疫グロブリンA腎症(IgAN)、膜性腎症(MN)または腎障害性モノクローナル・ガンモパチー(MGRS)、ループス腎炎または紫斑病性腎炎である。
【0078】
本発明の第十一の側面では、疾患を治療する方法であって、必要な対象に本発明の第一の側面に記載の抗体またはその断片もしくは融合タンパク質、本発明の第九の側面に記載の薬物組成物あるいは本発明の第八の側面に記載の免疫複合体を施用する工程を含む方法を提供する。
【0079】
もう一つの好適な例において、前記疾患は癌または免疫関連疾患を含む。
【0080】
もちろん、本発明の範囲内において、本発明の上記の各技術特徴および下記(たとえば実施例)の具体的に記述された各技術特徴は互いに組合せ、新しい、または好適な技術方案を構成できることが理解される。紙数に限りがあるため、ここで逐一説明しない。
【0081】
図面の説明
【図面の簡単な説明】
【0082】
【
図1】
図1はFc部分の309番目の部位特異的突然変異(L309 E/F/H/C/D/N/Q/R/S/T/K/W/Y)を含有する抗体のRaji細胞に対するCDC活性を示す。
【
図2】
図2はFc部分の309番目の部位特異的突然変異(L309 E/F/H/C/D/N/Q/R/S/T/K/W/Y)を含有する抗体のDaudi細胞に対するCDC活性を示す。
【
図3】
図3はFc部分の309番目の部位特異的突然変異(L309 F/C/W/Y)を含有する抗体およびFc部分の末端が改変(PepおよびPep-CS)された抗体のDaudi細胞に対するCDC活性を示す。
【
図4】
図4はOKT10-Hu-IgG1およびその突然変異体のDaudi細胞に対するCDC活性を示す。
【
図5】
図5は50G12-Hu-IgG1、OKT10-Hu-IgG1、Daratumumab-IgG1およびIsatuximab-IgG1抗体のカニクイザルCD38に対する結合能力を示す。
【
図6】
図6は50G12-L309W-E345R、単一部位突然変異抗体50G12-L309W、単一部位突然変異抗体50G12-E345R、未突然変異抗体50G12-Hu-IgG1および対照抗体ダラツムマブ(Daratumumab)が仲介する補体活性化のDaudi細胞に対する殺傷活性を示す。
【
図7】
図7は50G12-L309W-E345R、単一部位突然変異抗体50G12-L309W、単一部位突然変異抗体50G12-E345R、未突然変異抗体50G12-Hu-IgG1および対照抗体ダラツムマブが仲介する補体活性化のRomas細胞に対する殺傷活性を示す。
【
図8】
図8は50G12-L309W-E345R、単一部位突然変異抗体50G12-L309W、単一部位突然変異抗体50G12-E345R、未突然変異抗体50G12-Hu-IgG1および対照抗体ダラツムマブが仲介する補体活性化のRaji細胞に対する殺傷活性を示す。
【
図9】
図9は50G12-L309W-E345R、単一部位突然変異抗体50G12-L309W、単一部位突然変異抗体50G12-E345R、未突然変異抗体50G12-Hu-IgG1および対照抗体ダラツムマブが仲介するADCC効果のDaudi細胞に対する殺傷活性を示す。
【
図10】
図10は50G12-L309W-E345R、単一部位突然変異抗体50G12-L309W、単一部位突然変異抗体50G12-E345R、未突然変異抗体50G12-Hu-IgG1および対照抗体ダラツムマブが仲介するADCC効果のNCI-H929細胞に対する殺傷活性を示す。
【
図11】
図11は50G12-L309W-E345R、未突然変異抗体50G12-Hu-IgG1、単一部位突然変異抗体50G12-L309W、単一部位未突然変異抗体50G12-E345Rおよび対照抗体ダラツムマブが仲介するADCC効果のRomas細胞に対する殺傷活性を示す。
【
図12】
図12は50G12-L309W-E345R、単一部位突然変異抗体50G12-L309W、単一部位突然変異抗体50G12-E345R、未突然変異抗体50G12-Hu-IgG1および対照抗体ダラツムマブが仲介するADCC効果のMOLP8細胞に対する殺傷活性を示す。
【
図13】
図13は50G12-L309W-E345R、単一部位突然変異抗体50G12-L309W、単一部位突然変異抗体50G12-E345R、未突然変異抗体50G12-Hu-IgG1、対照抗体ダラツムマブが仲介するADCC効果のRaji細胞に対する殺傷活性を示す。
【
図14】
図14は50G12-L309W-E345R、未突然変異抗体50G12-Hu-IgG1、対照抗体ダラツムマブのアポトーシス誘導作用を示す。
【具体的な実施形態】
【0083】
本発明者は、幅広く深く研究したところ、初めて、意外に、抗体の重鎖定常領域FcのL309番(好ましくはL309番およびE345番)を改変することおよび/または抗体の重鎖定常領域のFc部分にヒトIgMのテールピースを融合することで、顕著に抗体の免疫効果の機能を増強し、特に抗体の補体依存性細胞傷害(CDC)および抗体依存性細胞介在性細胞傷害(ADCC)を向上させることができることを見出した。これに基づき、本発明を完成させた。
【0084】
用語
本発明において、用語「抗体(Antibody、略称Ab)」と「免疫グロブリンG(Immunoglobulin G、略称IgG)」は同様な構造上の特徴のヘテロテトラマーの糖タンパク質で、2本の同様の軽鎖(L)と2本の同様の重鎖(H)からなるものである。各軽鎖は、重鎖に1つの共有ジスルフィド結合によって結合しているが、重鎖間のジスルフィド結合の数は、免疫グロブリンのアイソタイプ(isotype)によるものである。各重鎖および軽鎖も、それぞれ一定の間隔の鎖内ジスルフィド結合を有する。各重鎖は、一方の末端に可変領域(VH)を有し、その先が定常領域で、重鎖の定常領域は三つのドメインCH1、CH2、およびCH3で構成される。各軽鎖は、一方の末端に可変領域(VL)を有し、他方の末端に定常領域を有し、軽鎖の定常領域は一つのドメインCLを含む。軽鎖の定常領域は重鎖定常領域のCH1ドメインと、軽鎖の可変領域は重鎖の可変領域と対応している。定常領域は、抗体と抗原との結合には直接関与しないが、たとえば、抗体依存性細胞介在性細胞傷害(ADCC、antibody-dependent cell-mediated cytotoxicity)などに関与し、異なるエフェクター機能を示す。重鎖定常領域は、IgG1、IgG2、IgG3、IgG4といったサブタイプを含み、軽鎖定常領域は、κ(Kappa)またはλ(Lambda)を含む。抗体の重鎖と軽鎖は、重鎖のCH1ドメインと軽鎖のCLドメインの間のジスルフィドを介して共有結合し、抗体の二つの重鎖は、ヒンジ領域の間で形成したポリペプチド間ジスルフィドを介して共有結合する。本発明において、用語「Fab」および「Fc」とは、パパインで抗体を二つの完全に同様のFab断片および一つのFc断片に分解することである。Fab断片は、抗体の重鎖のVHとCH1および軽鎖のVLとCLドメインからなるものである。Fc断片、すなわち、フラグメント結晶化可能(fragment crystallizable、Fc)断片は、抗体のCH2とCH3ドメインからなるものである。Fc断片は、抗原結合活性がなく、抗体がエフェクター分子または細胞と相互作用する部位である。本発明において、「可変」とは、抗体において可変領域のある部分が配列で異なっており、これによって各特定の抗体のその特定の抗原に対する結合および特異性が構成されることを指す。しかし、可変性は、均一に抗体の可変領域全体に分布しているわけではない。重鎖可変領域と軽鎖可変領域における相補性決定領域(complementarity-determining region、CDR)または超可変領域と呼ばれる三つの断片に集中している。可変領域において、比較的に保存的な部分は、フレームワーク領域(frame region、FR)と呼ばれる。天然の重鎖および軽鎖の可変領域に、それぞれ、基本的にβシート構造となっており、連結ループを形成する3つのCDRで連結され、場合によって部分βシート構造となる4つのFR領域が含まれる。各鎖におけるCDRは、FR領域で密接し、かつ他方の鎖のCDRと一緒に抗体の抗原結合部位(Kabatら、NIH Publ.No.91-3242、卷I、647-669頁(1991))参照する)を形成している。
【0085】
本明細書で用いられるように、用語「フレームワーク領域」(FR)とはCDR間に挿入されるアミノ酸配列で、すなわち、単一の種において異なるグロブリンの間で比較的に保守的なグロブリンの軽鎖と重鎖可変領域のそれらの部分である。グロブリンの軽鎖と重鎖は、それぞれ4つのFRを有し、それぞれFR1-L、FR2-L、FR3-L、FR4-LおよびFR1-H、FR2-H、FR3-H、FR4-Hと呼ばれる。相応的に、軽鎖可変ドメインは(FR1-L)-(CDR1-L)-(FR2-L)-(CDR2-L)-(FR3-L)-(CDR3-L)-(FR4-L)と、かつ重鎖可変ドメインは(FR1-H)-(CDR1-H)-(FR2-H)-(CDR2-H)-(FR3-H)- (CDR3-H)-(FR4-H)と表示される。好適に、本発明のFRはヒト抗体FRまたはその誘導体で、前記ヒト抗体FRの誘導体は天然に存在するヒト抗体FRとほぼ同様で、すなわち、配列同一性が85%、90%、95%、96%、97%、98%または99%に達する。
【0086】
CDRのアミノ酸配列が既知で、当業者は簡単にフレームワーク領域FR1-L、FR2-L、FR3-L、FR4-Lおよび/またはFR1-H、FR2-H、FR3-H、FR4-Hを確定することができる。
【0087】
本明細書で用いられるように、用語「ヒトフレームワーク領域」は天然に存在するヒト抗体のフレームワーク領域とほぼ同様(約85%またはそれ以上、具体的に、90%、95%、97%、99%または100%)のフレームワーク領域である。
【0088】
本明細書で用いられるように、「テールピース(tail-piece)エレメント」、「TPエレメント」は入れ替えて使用することができ、いずれもIgM由来のテールピース配列で、好ましくはヒトIgM由来のものである。本発明のTPエレメントは任意の適切なアミノ酸配列を含んでもよい。前記TPエレメントは天然に存在する抗体において発見されたテールピースでもよく、あるいは、選択的に、長さおよび/または構成において天然テールピースと異なる、修飾されたテールピース配列でもよい。前記の修飾は1つまたは複数のアミノ酸の突然変異でもよいが、たとえば、IgMのテールピースにおけるシステインをセリンに突然変異させる。
【0089】
本発明の一つの具体的な実施例において、TPエレメントの配列は配列番号7または8で示されるものである。
【0090】
なお、TPエレメントと重鎖Fc領域のC末端を直接融合してもよい。あるいは、TPエレメントと重鎖Fc領域の間に短いリンカー配列を提供してもよい。
【0091】
本明細書で用いられるように、用語「リンカー」とはFc領域とTPエレメントの間の短いリンカー配列で、好ましくは柔軟性リンカーである。適切なリンカーの実例は、単一のグリシン(Gly)、またはセリン(Ser)残基を含むが、リンカーにおけるアミノ酸残基の標識および配列はリンカーにおける実現しようとする二次構造要素のタイプによって変わる。
【0092】
抗体またはその断片もしくは融合タンパク質
本発明の抗体またはその断片もしくは融合タンパク質は、抗原結合活性およびCDC活性を有する抗体またはその断片もしくは融合タンパク質であって、所定の抗原を標的とする結合機能ドメイン、および重鎖Fc領域エレメントを含み、前記重鎖Fc領域エレメントは2本の重鎖Fc領域を含み、各重鎖Fc領域は、(1) Fc領域の309番目の位置に、W、Y、E、F、H、C、D、N、Q、R、S、T、またはKからなる群から選ばれるアミノ酸残基が含まれており、ならびに/あるいは(2) C末端にテールピース(tail-piece)エレメントが含まれている。本明細書で用いられるように、「重鎖Fc領域エレメント」は2本の重鎖Fc領域を含有する。特別に説明しない限り、本発明において、重鎖Fc領域エレメントにおける突然変異部位とは、重鎖Fc領域エレメントにおける各重鎖のFc領域に含まれる突然変異部位である。
【0093】
なお、本発明の抗体またはその断片もしくは融合タンパク質の重鎖Fc領域エレメントにおける309番目の特定のCDC増強型突然変異は、ほかの抗体性能(たとえば、CDC、特異性、親和力など)を向上させる技術、たとえば、E345R突然変異と合わせることができる。好ましくは、本発明における抗体またはその断片もしくは融合タンパク質は、重鎖Fc領域エレメントにおける各重鎖のFc領域に突然変異の組み合わせであるL309W+E345Rが含まれる場合、明らかにCDCを増強するという意外な作用、より好ましくは明らかにCDCおよびADCC活性を増強する作用を有する。
【0094】
本明細書で用いられるように、用語「CDCプラットホーム抗体」、「本発明の抗体」、「本発明の抗体またはその断片」、「本発明の融合タンパク質」、「本発明の抗体またはその断片もしくは融合タンパク質」は入れ替えて使用することができ、いずれも本発明の第一の側面に記載のCDC機能が増強した抗体またはその断片もしくは融合タンパク質を指す。なお、前記用語は、さらに、本発明抗体またはその断片もしくは融合タンパク質の活性断片を含み、前記活性断片は抗原結合活性のみならず、309番目の特定の突然変異および/またはTP(tail-piece)エレメントも残っている。
【0095】
本発明において、別途に指定しない限り、抗体のドメインにおける残基の表示にEU番号付けシステムが使用される。当該システムは、最初にEdelmanらによって1969年に設計され、以下の文献に詳細が記載されている:Kabatら,1987(Edelmanら,1969; “The cova1ent structure of an entire γG immunoglobulin molecule,” PNAS Biochemistry第63卷pp78-85。Kabatら,1987; Sequences of Proteins of Immunological Interest, US Department of Health and Human Services, NIH,USA。)。位置の番号および/またはアミノ酸残基を特定の抗体のアイソフォームに付与する場合、任意のほかの抗体のアイソフォームの相応する位置および/またはアミノ酸残基に適用できるということは当業者に既知のことである。たとえば、天然に存在するヒトIgG1、IgG3およびIgG4における309番目の位置に発見された野生型残基はロイシン残基で、天然に存在するIgG2に発見された野生型残基はバリン残基である。IgMまたはIgA由来の尾部のアミノ酸残基に言及する場合、本分野の通常の実践に基づき、示される位置の番号は天然に存在するIgMまたはIgAにおける残基の位置の番号である。本明細書で用いられるように、「309番目の位置におけるアミノ酸残基」とは天然に存在するヒトIgG1におえる309番目の位置における残基で、「345番目の位置におけるアミノ酸残基」とは天然に存在するヒトIgG1におえる345番目の位置における残基である。
【0096】
なお、本発明はCDCプラットホーム抗体またはその断片もしくは融合タンパク質を構築する方法、すなわち、本発明の抗体またはその断片もしくは融合タンパク質を構築する方法も提供するが、前記方法は本発明の第二の側面に記載の通りである。本発明のCDCプラットホーム抗体またはその断片もしくは融合タンパク質を構築する方法では、所定の抗原を標的とする抗体またはその断片もしくは融合タンパク質のCDC活性を向上させ、さらに顕著に融合タンパク質のCDCおよび/またはADCC活性を向上させることができる。
【0097】
本発明において、本発明の抗体またはその断片もしくは融合タンパク質に含まれる所定の抗原を標的とする結合機能ドメインは異なる抗原のターゲットを標的とすることができ、前記所定の抗原を標的とする結合機能ドメインは、CD38、CD3、CD47、CD19、CD20、HER2、EGFR、CD123、Glypican-3、CD25、Trop-2、EpCAM、またはこれらの組み合わせからなる群から選ばれる抗原分子に結合する。
【0098】
CD38を例とすると、好適に、本発明の抗CD38抗体の配列は特許出願CN202010805420.2に記載される通りで、当業者は本分野で熟知される技術で本発明の抗原の結合機能ドメインを修飾または改変し、たとえば、1つまたは複数のアミノ酸残基の付加、欠失および/または置換を行うことで、さらに抗原の結合機能ドメインの親和力または構造安定性を増加させ、そして通常の測定方法によって修飾または改変後の結果を得ることもできる。
【0099】
本発明において、本発明の抗体またはその断片もしくは融合タンパク質は、さらに、その保存的変異体を含み、本発明の抗体またはその断片もしくは融合タンパク質のアミノ酸配列と比較すると、10個以下、好ましくは8個以下、より好ましくは5個以下、最も好ましくは3個以下のアミノ酸が類似または近い性質を持つアミノ酸で置換されてなるポリペプチドを指す。これらの保存的突然変異のポリペプチドは、表Aのようにアミノ酸の置換を行って生成することが好ましい。
【表1】
【0100】
本発明において、用語「抗」および「結合」とは、二つの分子の間の非ランダムの結合反応のことで、たとえば、抗体とその対する抗原の間の反応が挙げられる。通常、抗体は約10-7M未満、たとえば、約10-8M、10-9M、10-10M、10-11M未満またはそれ以下の解離平衡定数(KD)で抗原に結合する。用語「KD」とは特定の抗体-抗原相互作用の平衡解離定数で、抗体と抗原の間の結合親和力を表すためのものである。解離平衡定数が小さいほど、抗体-抗原の結合が緊密で、抗体と抗原の間の親和力が高い。たとえば、表面プラスモン共鳴技術(Surface Plasmon Resonance、略称SPR)によってBIACORE装置で抗体と抗原の結合親和力を、あるいはELISA測定によって抗体と抗原の結合の相対的親和力を測定する。
【0101】
本発明の抗体またはその断片もしくは融合タンパク質は単独に使用してもよく、検出可能ななマーカー(診断目的)、治療剤、または任意の以上のこれらの物質の組み合わせと結合またはカップリングしてもよい。
【0102】
コード核酸および発現ベクター
また、本発明は、上記抗体またはその断片または融合タンパク質をコードするポリヌクレオチド分子を提供する。本発明のポリヌクレオチドは、DNA形態でもRNA形態でもよい。DNA形態は、cDNA、ゲノムDNAまたは人工合成のDNAを含む。DNAは、一本鎖でも二本鎖でもよい。DNAは、コード鎖でも非コード鎖でもよい。本発明において、用語「発現ベクター」とは特定の標的タンパク質またはほかの物質を発現させるために発現カセットを担持するベクター、たとえば、プラスミド、ウイルスベクター(たとえば、アデノウイルス、レトロウイルス)、ファージ、酵母プラスミドまたはほかのベクターを指す。たとえば、適切な調節配列、たとえば、プロモーター、ターミネーター、エンハンサーなどを含む、本分野の通常の発現ベクターが挙げられ、前記発現ベクターは、ウイルスベクター(たとえば、アデノウイルス、レトロウイルス)、プラスミド、ファージ、酵母プラスミドまたはほかのベクターを含むが、これらに限定されない。前記発現ベクターは、好ましくは、pDR1、pcDNA3.4(+)、pDHFRまたはpTT5を含む。
【0103】
関連の配列を獲得すれば、組み換え法で大量に関連配列を獲得することができる。この場合、通常、その配列をベクターにクローンした後、細胞に導入し、さらに通常の方法で増殖させた宿主細胞から関連配列を単離して得る。
【0104】
さらに、本発明は、上記の適当なDNA配列および適当なプロモーターあるいは制御配列を含むベクターに関する。これらのベクターは、タンパク質を発現するように、適当な宿主細胞の形質転換に用いることができる。
【0105】
本発明において、用語「宿主細胞」は本分野の通常の様々な宿主細胞で、ベクターが安定して自己複製し、かつ担持されるポリヌクレオチド分子が有効に発現されるようにさせることができればよい。中では、前記宿主細胞は原核発現細胞および真核発現細胞を含み、前記宿主細胞は、好ましくは、COS、CHO、NS0、sf9、sf21、DH5α、BL21(DE3)、TG1、BL21(DE3)、293Fまたは293E細胞を含む。
【0106】
薬物組成物
さらに、本発明は組成物を提供する。好ましくは、前記の組成物は薬物組成物で、上記の抗体またはその活性断片あるいは融合タンパク質と、薬学的に許容される担体とを含有する。通常、これらの物質を無毒で不活性で薬学的に許容される水系担体で配合し、pH値は配合される物質の性質および治療しようとする疾患にもよるが、pH値は通常4~8程度、好ましくは5~7程度である。配合された薬物組成物は通常の経路で給与することができ、静脈注射、静脈点滴、皮下注射、局部注射、筋肉注射、腫瘍内注射、腹腔内注射注射(たとえば、腹膜内)、頭蓋内注射、または腔内注射を含むが、これらに限定されない。
【0107】
本発明において、用語「薬物組成物」とは、本発明の二重機能抗体またはその断片もしくは融合タンパク質が薬学的に許容される担体と共に薬物製剤組成物を構成することによってより安定して治療効果を発揮することができ、これらの製剤は本発明で公開される二重機能抗体またはその断片もしくは融合タンパク質のアミノ酸コア配列の配座の完全性を保つと同時に、タンパク質の多くの官能基の分解(凝集、脱アミノまたは酸化を含むが、これらに限定されない)を防ぐことができる。
【0108】
本発明の薬物組成物は、安全有効量(たとえば0.001~99wt%、好ましくは0.01~90wt%、より好ましくは0.1~80wt%)の本発明の上記の二重機能抗体またはその断片もしくは融合タンパク質(またはその複合体)と、薬学的に許容される担体または賦形剤とを含有する。このような担体は、水、緩衝液、ブドウ糖、水、グリセリン、エタノール、及びその組合せを含むが、これらに限定されない。薬物の製剤は投与形態に相応する。本発明の薬物組成物は、注射剤としてもよく、たとえば生理食塩水またはブドウ糖およびほかの助剤を含有する水溶液で通常の方法によって製造することができる。薬物組成物は、注射剤、溶液の場合、無菌条件で製造する。活性成分の投与量は治療有効量、たとえば毎日約10μg/kg体重~約50mg/kg体重である。また、本発明の二重機能抗体またはその断片もしくは融合タンパク質はほかの治療剤と併用することもできる。
【0109】
薬物組成物の使用時、安全有効量の二重機能抗体またはその断片もしくは融合タンパク質、またはその免疫複合体を哺乳動物に施用するが、その安全有効量は、通常、少なくとも約10μg/kg体重で、かつ多くの場合、約50 mg/kg体重以下で、好ましくは当該投与量が約10μg/kg体重~約10 mg/kg体重である。勿論、具体的な投与量は、さらに投与の様態、患者の健康状況などの要素を考えるべきで、すべて熟練の医者の技能範囲以内である。
【0110】
本発明において、用語「有効量」とは、本発明の薬物組成物を被験者に施用すると、治療される個体に予想される効果が生じる量または投与量を指すが、当該予想される効果は個体の病症の改善を含む。用語「被験者」は、哺乳動物、たとえば、ヒト、非ヒト霊長類動物、ラットおよびマウスなどを含む、これらに限定されない。
【0111】
応用
また、本発明は、本発明の第一の側面に記載の抗体またはその断片もしくは融合タンパク質、あるいは本発明の第八の側面に記載の免疫複合体、あるいは本発明の第九の側面に記載の薬物組成物の使用、たとえば、診断製剤または薬物の製造における使用を提供する。
【0112】
好ましくは、前記の薬物は癌、または免疫関連疾患の予防および/または治療のための薬物である。
【0113】
本発明において、前記癌は、メラノーマ、腎臓癌、前立腺癌、膵臓腺癌、乳癌、結腸癌、肺癌、食道癌、頭頸部扁平上皮癌、肝臓癌、卵巣癌、子宮頸癌、甲状腺癌、膠芽細胞腫、膠細胞腫、多発性骨髄腫およびほかの新生物性悪性疾患からなる群から選ばれる。
【0114】
本発明の一つの好適な実施例において、前記の薬物は、CD38の発現または機能異常に関連する疾患の予防および/または治療のための薬物である。
【0115】
本発明において、前記CD38の発現または機能異常に関連する疾患は本分野の通常のCD38の発現または機能異常に関連する疾患である。好ましくは、前記CD38の発現または機能異常に関連する疾患は、腫瘍/癌、または免疫関連疾患である。
【0116】
好ましくは、前記疾患は好適に免疫関連疾患、たとえば、自己免疫性疾患である。より好ましくは、前記の薬物は自己抗体が仲介する自己免疫疾患の治療および/または予防のためのものである。さらに、前記自己免疫性疾患は自己免疫性腎臓疾患(免疫性腎臓炎、自己免疫性腎臓疾患)、エリテマトーデス、全身性エリテマトーデス(SLE)、バセドウ病(Grave's disease)、重症筋無力症(MG)、特発性血小板減少性紫斑病(ITP)、自己免疫性腎臓疾患(免疫性腎臓炎、自己免疫性腎臓疾患)、エリテマトーデス、全身性エリテマトーデス(SLE)、シェーグレン症候群(Sjogren’s Syndrome)、関節炎、関節リウマチ、喘息、COPD、骨盤内炎症性疾患、アルツハイマー病(Alzheimer's Disease)、炎症性腸管疾患、クローン病(Crohn's disease)、潰瘍性結腸炎、ペイロニー病(Peyronie's Disease)、セリアック病、胆嚢疾患、毛巣疾患、腹膜炎、乾癬、乾癬性関節炎、血管炎、手術癒着、卒中、I型糖尿病、ライム病(Lyme disease)、脳膜脳炎、自己免疫性ブドウ膜炎、多発性硬化症、ギラン・バレー症候群(Guillain-Barr syndrome)、アトピー性皮膚炎、自己免疫性肝臓炎、強直性脊椎炎、線維化肺胞炎、バセドウ病(Grave's disease)、特発性血小板減少性紫斑病(ITP)、メニエール病(Meniere's disease)、天疱瘡、原発性胆汁性肝硬変、サルコイドーシス、強皮症、ウェゲナー肉芽腫症(Wegener's granulomatosis)、ほかの自己免疫性障害、膵臓腺炎、創傷(外科手術)、移植片対宿主病、移植拒絶、心臓疾患(虚血性疾患、たとえば、心筋梗塞やアテローム性動脈硬化を含む)、血管内凝固、骨再吸収、骨粗鬆症、骨関節炎、歯周炎および低クロール血症、胎児-母体耐性欠失に関連する不妊症、白斑、重症筋無力症(MG)、全身性強皮症、炎症性腸疾患、胃炎またはIgG4関連疾患を含むが、形質細胞の過剰な増殖、分泌で生じる抗体と免疫グロブリンから形成される免疫複合体による免疫グロブリンA腎症(IgAN)、膜性腎症(MN)または腎障害性モノクローナル・ガンモパチー(MGRS)、ループス腎炎または紫斑病性腎炎が好ましい。
【0117】
現在、IgAN、MN、MGRSという3つの自己免疫性腎臓疾患に対する治療は多くの臨床需要が満たされておらず、特に特異的ターゲッティング治療の手段が不足し、CD20を標的とするリツキシマブのみがMNの治療への使用が許可されているが、CD20は自己抗体が少量に生成する活性化B細胞のみにおいて発現されるため、調査結果では、臨床においてまだ40%とも達するMN患者は抗CD20治療が無効であることが示されている。一方、CD38は形質細胞において高度に発現され、本発明における特異的にCD38を標的とする抗体(たとえば、50G12-L309W-E345Rなど)はADCC、ADCPおよびCDCなどの効果によって形質細胞の分解およびアポトーシスを誘導することができ、IgAN、MN、MGRSおよび多発性骨髄腫(MM)の治療に有用である。
【0118】
本発明の主な利点は以下のものを含む。
【0119】
(1)本発明は、CDCおよび/またはADCCを増強する新たな技術を提供する。当該技術は、CDCおよび/またはADCC活性が欠失したか、限られた抗体薬物をCDCおよび/またはADCC増強型の抗体薬物に変える見込みがある。当該技術を運用すると、既存の異なる標的/標的細胞に作用する抗体を直接改造することができる。当該技術を運用すると、既存の抗体の治療効果を改善し、多くの疾患を治療することができる。
【0120】
(2)309番目のアミノ酸の部位特異的突然変異により、顕著に本発明の抗体またはその断片もしくは融合タンパク質のCDCおよび/またはADCC性能を向上させることができる。また、本発明の309番目の特定のCDCおよび/またはCDC増強型の突然変異は、ほかの抗体性能(たとえば、CDC、特異性、親和力など)を向上させる技術、たとえば、E345R突然変異と合わせることができる。
【0121】
以下、具体的な実施例を合わせ、さらに本発明を陳述する。これらの実施例は本発明を説明するために用いられるものだけで、本発明の範囲の制限にはならないと理解されるものである。以下の実施例で詳細な条件が示されていない実験方法は、通常、たとえばSambrookら、「モレキュラー・クローニング:研究室マニュアル」(ニューヨーク、コールド・スプリング・ハーバー研究所出版社、1989) に記載の条件などの通常の条件に、あるいは、メーカーのお薦めの条件に従う。特に断らない限り、%と部は、重量で計算された。
【0122】
関連試薬資材:
EZ-link NHS-LC-Biotin (Thermo Fisher Scientific,カタログ番号21343);Biotin CAPture Kit, Series S(Cytiva,カタログ番号28920234);HBS-EP+ pH7.4緩衝液(GE Healthcare,カタログ番号BR-1006-69);Daudi、Raji、Romas、NCI-H929細胞はATCC(American Type Culture Collection)から、MOLP8細胞は南京科佰生物有限公司から購入された;ADCC Bioassayエフェクター細胞(蘇州瑞安生物科技有限公司,カタログ番号RA-CK01);Cell Titer-Glo Luminescent Assay (Promega,カタログ番号G7570);Normal Human Serum complement (Quidel Corporation,カタログ番号A11);Bio-Glo Luciferase Assay System(Promega,カタログ番号G7940); Annexin V-FITC/PI アポトーシス検出キット(Yeasen, カタログ番号40302ES60)。
【0123】
実施例で使用されたタンパク質発現および精製の方法の説明は以下の通りである。
【0124】
標的遺伝子を発現ベクターpcDNA3.4に構築し、PEI(Polyethylenimine)で構築された発現ベクターまたは発現ベクターの組み合わせをFreeStyle(登録商標) 293-F Cells細胞(以下、HEK293Fと略され、Thermo Fisher Scientificから購入された)に導入して抗体または組み換えタンパク質を発現させ、HEK293F細胞をFree Style 293 Expression Medium(Thermo Fisher Scientificから購入された)において5日培養した後、細胞上清を収集し、さらにProtein Aアフィニティクロマトグラフィーによって抗体を精製し、Ni-NTAアフィニティクロマトグラフィーによって組み換えタンパク質を精製した。
【0125】
以下の実施例で使用されたELISA検出方法の説明は以下の通りである。
【0126】
相応する組み換えタンパク質でマイクロプレートをコーティングし、1%ウシ血清アルブミン含有PBST(PBSTは0.05% Tween-20を含有するリン酸塩緩衝液)でマイクロプレートをブロッキングした。被験抗体を勾配希釈した後、上記組み換えタンパク質がコーティングされたマイクロプレートに移し、室温で半時間インキュベートした。プレートを洗浄した後、適切に希釈されたHRP(Horseradish Peroxidase)で標識されたヒツジ抗ヒト抗体(Fc specific,Sigmaから購入された)を入れ、室温で半時間インキュベートした。プレートを洗浄した後、各ウェルに100μLのTMB(3,3',5,5'-テトラメチルベンチジジン)を基質とする呈色液を入れ、室温で1~5 minインキュベートした。50μLの停止液(2 M H2SO4)を入れて反応を停止させた。マイクロプレートリーダー(SpectraMax 190)によってOD450を読み取った。GraphPad Prism7でブロッティングおよびデータ分析を行い、そしてEC50/IC50を計算した。
【0127】
以下の実施例で使用されたな物理・化学的性質の検出方法の説明は以下の通りである。
【0128】
HPLC-SEC
抗体は高分子量のタンパク質で、高度に複雑な二次および三次構造を有する。翻訳後修飾、集合および分解などの変化のため、抗体は生物化学および生物物理の特性の面において異質のものである。分離技術によって三重特異性抗体を分析すると、通常、バリアント、集合体および分解断片が観察され、これらの存在によって安全性および有効性が害される可能性がある。抗体を生産および保存する過程において、集合体、分解断片および不完全に組み立てられた分子が現れやすい。本発明において、高速液体クロマトグラフィー-分子排斥クロマトグラフィー(High-performance liquid chromatography-size exclusion chromatography、HPLC-SEC)によってサンプルにおける上記不純物の含有量を検出した。集合体の分子量は単量体よりも大きいため、相応するピークの保持時間が短い。分解断片または不完全に組み立てられた分子の分子量は単量体よりも小さいため、相応するピークの保持時間が長い。HPLC-SECで使用されるクロマトグラフィー装置はDionex Ultimate 3000で、移動相の調製方法は以下の通りである:適量の20 mMリン酸二水素ナトリウム母液を取り、20 mMリン酸水素二ナトリウムでpHを6.8±0.1に調整した。仕込み量:20 μg。クロマトグラフィーカラムはTSK G3000SWXLで、仕様は7.8×300 mm 5μmである。流速0.5 mL/min、溶離時間30 min;カラム温度25℃、サンプル室温度10℃;検出波長214 nm。
【0129】
【0130】
実施例1 抗ヒトCD38モノクローナル抗体(50G12)の製造
50G12-Humanized(以下、50G12-Hu-IgG1と呼ぶ)は抗CD38ヒト化モノクローナル抗体で、その重鎖および軽鎖のアミノ酸配列がCN202010805420.2における配列番号11および配列番号12(すなわち、本発明における配列番号5および6)からのものである。50G12-Hu-IgG1の重鎖可変領域および軽鎖可変領域のアミノ酸配列は配列番号1および2の通りである。50G12-Hu-IgG1の重鎖のH-CDR1、H-CDR2およびH-CDR3のアミノ酸配列はそれぞれ配列番号35、36および37、50G12-Hu-IgG1の軽鎖のL-CDR1、L-CDR2およびL-CDR3のアミノ酸配列はそれぞれ配列番号38、39および40の通りである。50G12-Hu-IgG1の重鎖定常領域はヒトIgG1(アミノ酸配列は配列番号3の通りである)、軽鎖定常領域はヒトκ(アミノ酸配列は配列番号4の通りである)である。ここで、50G12-Hu-IgG1の重鎖および軽鎖のコード遺伝子をそれぞれ50G12-Hu-IgG1-HCおよび50G12-Hu-IgG1-LCと名付ける。50G12-Hu-IgG1-HCと50G12-Hu-IgG1-LCの遺伝子をそれぞれpcDNA3.4発現ベクターに構築し、2つのベクターを組み合わせて発現させて抗体を精製したが、得られた抗体を50G12-Hu-IgG1と名付けた。
【0131】
実施例2 抗体の重鎖定常領域のFc部分の改変
文献(Rowley T F, Peters S J, Aylott Mら, Engineered hexavalent Fc proteins with enhanced Fc-gamma receptor avidity provide insights into immune-complex interactions[J]. Communications biology, 2018, 1(1): 1-12.)からわかるように、ヒトIgG1モノクローナル抗体はL309(Eu numbering scheme)がシステイン(Cと略す)に突然変異してかつFc末端にヒトIgMのテールピースが融合した後、六量体化した抗体複合体になりやすい。これにより、ヒトIgG1のL309C突然変異およびヒトIgMのテールピースはヒトIgG1の六量体への形成を促進する潜在力があることが示された。
【0132】
1.Fc部分の309番目の部位特異的突然変異
ここで、本実施例は50G12-Hu-IgG1の重鎖の遺伝子のL309部位に対して部位特異的突然変異を行い、L309をそれぞれ(E/F/H/C/D/N/Q/R/S/T/K/W/Y)に突然変異させ、一連の突然変異体が得られ、さらに上記方法に従って発現させて抗体を精製し、得られた抗体をそれぞれ50G12-Hu-IgG1-L309X(XはE/F/H/C/D/N/Q/R/S/T/K/W/Yを表す)と名付けた。
【0133】
CDCを測定する方法は、下記の通りである:RajiおよびDaudi細胞はATCC(American Type Culture Collection)から購入され、そしてATCCのお薦めの方法によって通常の培養および継代が行われた。RPMI-1640(Gibco;カタログ番号:11835-030)にヒト血清(Allcells;カタログ番号:PB022-C)をいれ、ヒト血清の最終濃度が5%にようにした;この培地で対数期のRaji/Daudi細胞を再懸濁させた後、96ウェルプレート(Corning;カタログ番号:CLS3599)に接種し、各ウェルに50 μLの細胞懸濁液(10万個細胞含有)を接種した;被験抗体を勾配希釈した後、上記細胞が接種された96ウェルプレートに50 μL/ウェルで入れた;均一に混合した後、二酸化炭素細胞インキュベーターにおいて2.5時間インキュベートした;96ウェルプレートにCCK-8(Dojindo,カタログ番号:CK04)を20 μL/ウェルで入れ、続いて2時間インキュベートした;SpectraMax 190(Molecular Devices)によって96ウェルプレートのOD450を読み取った;GraphPad Prism7でデータ分析およびブロッティングを行い、IC50を計算した。
【0134】
CDC活性が強いほど、細胞の活力が低く、OD450も低くなる。
図1および
図2の結果のいずれからも、親の抗体50G12-Hu-IgG1と比べ、50G12-Hu-IgG1-L309F/C/W/Yは顕著に増強したCDCを有することが示された。中では、アイソタイプ対照は標的と関連しないヒトIgG1モノクローン抗体である。
【0135】
2.Fc部分の末端の改変
ここで、遺伝子工学によってIgMのテールピース(アミノ酸配列:PTLYNVSLVMSDTAGTCY(配列番号7)、当該短鎖ペプチドをPepと略す)のコード配列を50G12-Hu-IgG1の重鎖の遺伝子の末端に連結し、そして当該重鎖の遺伝子を50G12-Hu-IgG1-Pep-HCと名付けた(アミノ酸配列が配列番号9の通りである)。発現の過程において抗体分子の間にジスルフィド結合が形成しないように、2本のテールピースにおけるシステインをセリンに突然変異させ(突然変異後のテールピースのアミノ酸配列:PTLYNVSLVMSDTAGTSY(配列番号8)、当該短鎖ペプチドをPep-CSと略す)、そして当該重鎖の遺伝子を50G12-Hu-IgG1-Pep-CS-HCと名付けた(アミノ酸配列が配列番号10の通りである)。50G12-Hu-IgG1-Pep-HCと50G12-Hu-IgG1-Pep-CS-HCの遺伝子をそれぞれpcDNA3.4発現ベクターに構築し、2つのベクターをそれぞれ50G12-Hu-IgG1-LCの遺伝子と組み合わせて発現させて抗体を精製したが、得られた抗体をそれぞれ50G12-Hu-IgG1-Pepと50G12-Hu-IgG1-Pep-CSと名付けた。
【0136】
上記方法によって50G12-Hu-IgG1-L309F/C/W/Y、50G12-Hu-IgG1-Pepおよび50G12-Hu-IgG1-Pep-CSのCDCを検出した。異なる点は、ここでCellTiter-Glo
R Luminescent Cell Viability Assay(Promega,カタログ番号:G7572,CTGと略す)で細胞の活力を検出したことにある。一部のウェルの細胞にTriton X-100(0.1%)入れることによって細胞を十分に分解させ、これらの細胞をCTGに入れた後に生じる信号はベース値である。抗体で処理されていない細胞をCTGに入れた後に生じる信号は最大値である。CDCは以下の公式で計算される:細胞傷害(%)=(最大値-実験値)/(最大値-ベース値)×100。GraphPad Prism7でデータ分析およびブロッティングを行い、
図3に示す。EC
50を計算し、表2に示す。
【表3】
【0137】
CDCが強いほど、EC
50が小さく、Top(曲線のプラトーの高さ)が高くなる。
図3および表2の結果から、親の抗体50G12-Hu-IgG1と比べ、50G12-Hu-IgG1-L309F/C/W/Yは顕著に増強したCDCを有し、中では、50G12-Hu-IgG1-L309F/Y的CDCが50G12-Hu-IgG1-L309C/Wよりも弱いことが示された。50G12-Hu-IgG1-Pepと50G12-Hu-IgG1-Pep-CSは近いCDCを有し、そしてこれらのCDCは50G12-Hu-IgG1-L309C/Wに基本的に相当する。50G12-Hu-IgG1-L309C/W、50G12-Hu-IgG1-Pepおよび50G12-Hu-IgG1-Pep-CSはいずれもTopが99超で、これによってこれらの抗体は高濃度の場合、標的細胞を十分に分解させることができることが示された。
【0138】
実施例3 抗体突然変異体の集合体の分析
HPLC-SECによって上記好適な抗体突然変異体の純度を測定した。結果は以下の通りであった。
【表4】
【0139】
HPLC-SECの測定結果から、50G12-Hu-IgG1-L309F/W/Yおよび50G12-Hu-IgG1-Pep-CSの主要ピークの比率がいずれも98%超であることがわかり、これによってこれらはサイズ異質性が小さく、高い純度を有することが示された。また、50G12-Hu-IgG1-L309Cおよび50G12-Hu-IgG1-Pepの主要ピークの比率がそれぞれ79.7%と74.0%で、両者の純度が80%未満で、スペクトルでは、この2つの抗体に多くの集合体が存在することが示された。
【0140】
実施例4 抗ヒトCD38モノクローナル抗体OKT10の改変
1.OKT10ヒト化モノクローナル抗体の製造
OKT10は抗ヒトCD38モノクローナル抗体で、マウスハイブリドーマからできたものである。その重鎖可変領域および軽鎖可変領域のアミノ酸配列(配列番号19および20)はNCBI GenBank(ABA42888.1およびABA42887.1)からのものである。
【0141】
上記可変領域をコードするDNAは上海生工生物工程有限公司によって合成されたものである。OKT10の重鎖可変領域と軽鎖可変領域のアミノ酸配列を分析し、Kabat番号付けでそれぞれOKT10の重鎖と軽鎖の抗原相補性決定領域およびフレームワーク領域を決定した。OKT10の重鎖CDRのアミノ酸配列はH-CDR1:RSWMN(配列番号11)、H-CDR2:EINPDSSTINYTTSLKD(配列番号12)およびH-CDR3:YGNWFPY(配列番号13)で、軽鎖CDRのアミノ酸配列はL-CDR1:KASQNVDTNVA(配列番号14)、L-CDR2:SASYRYS(配列番号15)およびL-CDR3:QQYDSYPLT(配列番号16)である。
【0142】
https://www.ncbi.nlm.nih.gov/igblast/において、ネズミ由来のOKT10の重鎖可変領域をヒトIgG胚系配列と相同性比較し、IGHV3-48*01を重鎖CDR移植テンプレートとして選択し、ネズミ由来のOKT10の重鎖CDRをIGHV3-48*01の骨格領域に移植し、そしてH-CDR3の後にWGQGTLVTVSS(配列番号17)を第四のフレームワーク領域として付加し、CDR移植重鎖可変領域の配列を得た。同様に、ネズミ由来のOKT10の軽鎖可変領域とヒトIgG胚胎系配列に対して相同性の比較を行い、IGKV1-16*01を軽鎖CDR移植鋳型として選択し、ネズミ由来のOKT10の軽鎖CDRをIGKV1-16*01の骨格領域に移植し、そしてL-CDR3の後にFGQGTKVEIK(配列番号18)を第四のフレームワーク領域として入れ、CDR移植軽鎖可変領域の配列を得た。CDR移植可変領域に基づき、一部のフレームワーク領域のアミノ酸部位を復帰突然変異させた(復帰突然変異は、ヒト由来フレームワーク領域の一部のアミノの酸をネズミ由来フレームワーク領域の同一の位置のアミノ酸に突然変異させることで、復帰突然変異の部位は一般的に構造および/または親和力の維持に非常に重要である)。復帰突然変異の場合、アミノ酸配列に対してKabat番号付けを行い、部位の位置はKabat番号で示す。
【0143】
好適に、CDR移植重鎖可変領域について、28番目のTをDに復帰突然変異させる。CDR移植軽鎖可変領域について、36番目のFをYに、46番目のSをAに復帰突然変異させた。
【0144】
上記復帰突然変異部位を持つ重鎖可変領域と軽鎖可変領域をそれぞれOKT10ヒト化重鎖可変領域(アミノ酸配列は配列番号21の通りである)と軽鎖可変領域(アミノ酸配列は配列番号22の通りである)と定義した。上記ヒト化した重鎖と軽鎖可変領域をコードするDNAは上海生工生物工程有限公司によって合成されたものである。合成されたヒト化重鎖可変領域をヒトIgG1定常領域(アミノ酸配列は配列番号3の通りである)と連結し、全長のヒト化重鎖の遺伝子を得たが、OKT10-Hu-HCと名付けた(アミノ酸配列は配列番号23の通りである)。ヒト化軽鎖可変領域をとヒトκ鎖定常領域(アミノ酸配列は配列番号4の通りである)と連結し、全長のヒト化軽鎖の遺伝子を得たが、OKT10-Hu-LCと名付けた(アミノ酸配列は配列番号24の通りである)。
【0145】
OKT10-Hu-HCとOKT10-Hu-LCの遺伝子をそれぞれpcDNA3.4発現ベクターに構築し、2つのベクターを組み合わせて発現させて抗体を精製したが、得られた抗体をOKT10-Hu-IgG1と名付けた。
【0146】
2.OKT10-Hu-IgG1突然変異体の製造
ここで、OKT10-Hu-IgG1重鎖の遺伝子のL309の位置に対して部位特異的突然変異を行い、それぞれWまたはYに突然変異させ、突然変異遺伝子をさらにそれぞれOKT10-Hu-LCと組み合わせ、発現させて抗体を精製したが、得られた抗体をそれぞれOKT10-Hu-IgG1-L309WとOKT10-Hu-IgG1-L309Yと名付けた。ここで、遺伝子工学によってPep-CSのコード配列をOKT10-Hu-IgG1の重鎖の遺伝子の末端に連結し、そして当該重鎖の遺伝子をOKT10-Hu-IgG1-Pep-CS-HCと名付け(アミノ酸配列が配列番号25の通りである)、OKT10-Hu-LCと組み合わせた後、上記方法によって発現させて抗体を精製したが、得られた抗体をOKT10-Hu-IgG1-Pep-CSと名付けた。
【0147】
3.OKT10-Hu-IgG1突然変異体のCDCの測定
上記実施例に記載の方法によってOKT10-Hu-IgG1およびその突然変異体のCDCを測定した。結果を
図4に示す。
【0148】
図4の結果から、親の抗体OKT10-Hu-IgG1と比べ、OKT10-Hu-IgG1-L309W、OKT10-Hu-IgG1-L309YおよびOKT10-Hu-IgG1-Pep-CSは顕著に増強したCDC活性を有し、これらのEC
50がそれぞれ0.5942 nM、5.902 nMおよび1.715 nMで、これらのプラトーがそれぞれ99.85、69.84および99.43であることが示された。OKT10-Hu-IgG1-L309WおよびOKT10-Hu-IgG1-Pep-CSはいずれもTopが99超で、これによってこれらの抗体は高濃度の場合、標的細胞を十分に分解させることができることが示された。上記結果から、三者の中で、OKT10-Hu-IgG1-L309WはCDCが最も強いことが示された。
【0149】
4.OKT10-Hu-IgG1のカニクイザルCD38に対する結合力
ダラツムマブは市販が許可された抗ヒトCD38モノクローナル抗体で、その重鎖と軽鎖可変領域のアミノ酸配列(配列番号26と27)は『WHO Drug Information, Vol. 24, No. 1, 2010』から入手されたものである。
【0150】
イサツキシマブ(Isatuximab)は別の市販が許可された抗ヒトCD38モノクローナル抗体で、その重鎖と軽鎖可変領域のアミノ酸配列(配列番号28と29)は『WHO Drug Information, Vol. 29, No. 3, 2015』から入手されたものである。
【0151】
上記重鎖可変領域と軽鎖可変領域のDNAは上海生工生物工程有限公司によって合成されたものである。合成されたダラツムマブの重鎖可変領域の遺伝子をヒトIgG1の重鎖定常領域の遺伝子と連結し、全長の重鎖の遺伝子を得た。ダラツムマブの軽鎖可変領域の遺伝子をヒトκ鎖定常領域の遺伝子と連結し、全長の軽鎖の遺伝子を得た。上記実施例に記載の方法によって発現させて抗体を精製したが、得られた抗体をDaratumumab-IgG1と名付けた(Daratumumabとも呼ぶ)。また、同じような実験方法によって抗体Isatuximab-IgG1を得た。
【0152】
カニクイザルCD38のアミノ酸配列(配列番号30)はhttps://www.uniprot.org/uniprot/Q5VAN0から入手されたもので、カニクイザルCD38の細胞外部分をコードするDNAは上海生工生物工程有限公司によって合成され、遺伝子の末端にポリヒスチジンをコードするコード配列を付加し、さらに組み換え遺伝子を発現ベクターに構築した。上記実施例に記載の方法によって当該組み換えタンパク質を発現させ、さらにNi-NTAアフィニティクロマトグラフィーカラムで培養上清における組み換えタンパク質を精製したが、得られた組み換えタンパク質をCD38-ECD-Cynoと名付けた。
【0153】
CD38-ECD-Cynoでマイクロプレートをコーティングし(10 ng/ウェル)、さらにELISAで50G12-Hu-IgG1、OKT10-Hu-IgG1、Daratumumab-IgG1およびIsatuximab-IgG1のCD38-ECD-Cynoに対する結合能力を測定した。
【0154】
図5では、OKT10-Hu-IgG1は有効にカニクイザルのCD38に結合することができ、EC
50が0.1324 nMであることが示された。50G12-Hu-IgG1、Daratumumab-IgG1およびIsatuximab-IgG1はいずれもカニクイザルCD38を認識することができない。
【0155】
実施例5 モノクローナル抗体50G12-L309W-E345Rの製造
遺伝子工学および分子クローニング技術によって50G12-Hu-IgG1重鎖定常領域のL309の位置をWに部位特異的突然変異させ、同時にE345の位置をRに部位特異的突然変異させ、そしてpcDNA3.4発現ベクターに構築し、得られた重鎖を50G12-Hu-IgG1-L309W-E345Rと名付け、上記重鎖を50G12-Hu-IgG1-LCとともにHEK-293F細胞に形質移入して5日発現させ、ProteinAアフィニティクロマトグラフィーカラムによって精製して得られた抗体を50G12-L309W-E345Rと名付けた。同様の方法によって単一部位突然変異抗体50G12-L309W(50G12-Hu-IgG1-L309Wとも呼ぶ)および50G12-E345Rを得た。
【0156】
実施例6 50G12-L309W-E345RのヒトCD38に対する親和力の測定
ここで、Biacore 8K(GE Healthcareから購入された)によって50G12-L309W-E345R、50G12-Hu-IgG1、ダラツムマブのヒトCD38タンパク質に対する結合、解離定数を測定した。具体的な実施方法は以下の通りである。
【0157】
1) EZ-Link NHS-Biotin Reagent説明書(Thermo Fisher Scientificから購入、カタログ番号21343)に従ってヒトCD38タンパク質をビオチン化し、そしてCD38-biotinと名付けた。
【0158】
2) CAPチップのカップリング:50μg/mL Biotin CAPture ReagentをHBS-EP+ pH7.4 Bufferと1:1で混合し、操作パラメーターは接触時間60s、流速 2 μL/minであった。
【0159】
3)Biotin-CD38を捕獲し、操作パラメーターは以下の通りである: biotin-CD38濃度2μg/mL、接触時間15 s、流速10 μL/min、再生接触時間30 s。
【0160】
4) HBS-EP+ pH7.4緩衝液で各被験抗体を希釈し、最高濃度が200nMで、2倍で1.5625 nMおよび0濃度点に希釈し、Biotin CAPture Kit説明書に従って再生液を調製し、Biacore 8Kにおいて以下のパラメーターで仕込んだ:結合時間180s、解離時間600s、流速30μL/min、再生接触時間30s、流速30μL/min。
【0161】
5) Biacore 8K Evaluation Softwareでデータを分析し、「Kinetics」モードにおいて「1:1 binding kinetics model」の公式を選んでフィッティングし、各抗体とCD38の親和力のデータを得た。
【0162】
表4で示されるように、50G12-L309W-E345R、50G12-Hu-IgG1はCD38タンパク質に対する親和力がダラツムマブよりも強く、具体的に、50G12-L309W-E345R、50G12-Hu-IgG1の解離定数kdがダラツムマブよりも良く、3つの抗体の平衡解離定数KDがそれぞれ2.99×10
-9 M,3.58×10
-9 Mおよび2.60×10
-8 Mであったと表された。
【表5】
【0163】
実施例7 50G12-L309W-E345RのCDC活性の測定
対数期あるヒトバーキットリンパ腫細胞Daudi、RajiおよびRomasをDPBSで一回洗浄し、無血清でフェノールレッド無しの1640培地で細胞密度が2E5/mLになるように調整し、50μL/ウェルで白色の96ウェル細胞培養プレートに敷いた。無血清でフェノールレッド無しの1640培地で抗体を所要の濃度に希釈した後、3倍勾配で連続して12の濃度に希釈した。上記細胞培養プレートに希釈が完成された薬品を50μL/ウェルで入れ、抗体の最終濃度が50nMで、平行で2つの重複ウェルを設け、37℃、5%CO2細胞インキュベーターにおいて30minインキュベートした。Normal Human Serum complementを20μL/ウェルで上記培養プレートに入れ、37℃、5% CO2細胞インキュベーターにおいて2hインキュベートした。上記細胞培養プレートを室温において15min平衡化し、80μL/ウェルで室温で平衡化されたCell Titer-Glo Luminescent Assay呈色剤を入れ、室温で8minインキュベートした後、マイクロプレートリーダーi3(Molecular Devicesから購入、型番SPECTRA MAX i3)によって検出してデータを収集し、GraphPad Prism9によってデータ分析およびブロッティングを行い、そしてIC50を計算した。
【0164】
図6で示されるように、50G12-L309W-E345Rが仲介する補体の活性化は、Romas細胞に対する殺傷活性が明らかに未突然変異抗体50G12-Hu-IgG1および対照抗体ダラツムマブよりも優れ、単一部位突然変異抗体50G12-L309W、単一部位突然変異抗体50G12-E345Rよりもやや良かった。表5で示されるように、50G12-L309W-E345Rが仲介する補体作用は、Romas細胞に対する殺傷のIC
50がダラツムマブよりも約8倍優れ、最大殺傷活性の絶対値(Bottom)がダラツムマブよりも約98倍優れ、IC
50が50G12-L309Wよりも約1.7倍優れ、50G12-E345Rよりも約1.2倍優れた。
【0165】
図7で示されるように、50G12-L309W-E345Rが仲介する補体の活性化は、Daudi細胞に対する殺傷活性が明らかに単一部位突然変異抗体50G12-L309W、未突然変異抗体50G12-Hu-IgG1および対照抗体ダラツムマブよりも優れ、単一部位突然変異抗体50G12-E345Rよりもやや良かった。表6で示されるように、50G12-L309W-E345Rが仲介する補体作用は、Daudi細胞に対する殺傷のIC
50がダラツムマブよりも約19倍優れ、最大殺傷活性の絶対値(Bottom)がダラツムマブよりも約25倍優れ、IC
50が50G12-L309Wよりも約3.2倍優れ、IC
50が50G12-E345Rよりも約1.4倍優れた。
【0166】
図8で示されるように、50G12-L309W-E345Rが仲介する補体の活性化は、Raji細胞に対する殺傷活性が明らかに単一部位突然変異抗体50G12-L309W、単一部位突然変異抗体50G12-E345R、未突然変異抗体50G12-Hu-IgG1、対照抗体ダラツムマブよりも優れたが、50G12-Hu-IgG1およびダラツムマブはRaji細胞においてほとんどCDC活性がなく、これはRaji細胞の表面のCD38発現レベルが比較的に低かったことに関連する可能性がある。表7で示されるように、50G12-L309W-E345Rが仲介する補体作用は、Raji細胞に対する殺傷のIC
50が50G12-E345Rよりも約2倍優れ、最大殺傷活性の絶対値(Bottom)が50G12-E345Rよりも約2.4倍優れた。
【0167】
上記データから、各抗体は異なる細胞において引き起こすCDC効果が異なることが示され、これはCD38の異なる細胞における発現レベルのみならず、各細胞における補体調節タンパク質CD55およびCD59の発現量に関連する(参照文献:CD38 expression and complement inhibitors affect response and resistance to daratumumab therapy in myeloma [J]. Blood, 2016, 128(7):959-970.)。しかし、確定できる点は、抗体の重鎖の定常領域に同時にL309WとE345Rの二部位の突然変異を導入すると、有効に抗体が仲介するCDC活性を増強することができ、そして、前記二部位の突然変異の導入は抗体に意外な優れた活性を付与し、L309WまたはE345Rの単一部位の突然変異を導入した抗体あるいは突然変異部位が導入されていない抗体のいずれよりも優れ、そしてこのようなCDCの増強効果はCD38発現レベルが比較的に低い腫瘍細胞においてより顕著に表れることである。
【表6】
【表7】
【表8】
【0168】
実施例8 50G12-L309W-E345RのADCC活性の測定
対数期にあるヒトバーキットリンパ腫細胞Daudi、Ramos、Raji、ヒト骨髄腫細胞NCI-H929、ヒト多発性骨髄腫細胞MOLP8は、DPBSで細胞を1回洗浄した後、無血清1640培地で細胞密度を4.8E5/mLに調整し、25μL/ウェルで白色の96ウェル細胞培養プレートに敷いた。無血清1640培地で各抗体を所要の濃度に希釈した後、3倍勾配で連続して10の濃度に希釈し、希釈が完成された各抗体を、25μL/ウェルで上記細胞培養プレートに入れ、そして細胞インキュベーターにおいて45minインキュベートした。DPBSで対数期のADCC効果細胞を1回洗浄した後、無血清1640培地で細胞密度を3E6/mLに調整し、25μL/ウェルで上記培養プレートに入れ、37℃、5% CO2細胞インキュベーターにおいて6hインキュベートした。
【0169】
事前に細胞培養プレートを室温で15min程度平衡化し、各ウェルに60μLのBio-glo呈色剤を入れ、室温で4minインキュベートした後、マイクロプレートリーダーi3で検出してデータを収集し、GraphPad Prism9でデータ分析およびブロッティングを行い、そしてIC50を計算した。
【0170】
図9で示されるように、50G12-L309W-E345Rが仲介するADCC効果のDaudi細胞に対する殺傷活性は未突然変異抗体50G12-Hu-IgG1、単一部位突然変異抗体50G12-L309W、単一部位突然変異抗体50G12-E345Rおよび対照抗体ダラツムマブよりも明らかに良かった。表8で示されるように、50G12-L309W-E345Rが仲介するADCC効果は、Daudi細胞に対する殺傷のIC
50がダラツムマブよりも約1.5倍優れ、最大殺傷活性の絶対値(Top)がダラツムマブよりも約1.3倍優れ、かつIC
50が50G12-E345Rよりも約2倍優れ、IC
50が50G12-L309Wよりも約1.7倍優れた。
【表9】
【0171】
図10で示されるように、50G12-L309W-E345Rが仲介するADCC効果のNCI-H929細胞に対する殺傷活性は未突然変異抗体50G12-Hu-IgG、単一部位突然変異抗体50G12-L309W、単一部位突然変異抗体50G12-E345Rおよび対照抗体ダラツムマブよりも明らかに良かった。表9で示されるように、50G12-L309W-E345Rが仲介するADCC効果は、NCI-H929細胞に対する殺傷のIC
50がダラツムマブよりも約1.5倍優れ、最大殺傷活性の絶対値(Top)がダラツムマブよりも約1.9倍優れ、かつIC
50が50G12-E345Rよりも約1.9倍優れ、IC
50が50G12-L309Wよりも約1.3倍優れた。
【表10】
【0172】
図11で示されるように、50G12-L309W-E345Rが仲介するADCC効果のRomas細胞に対する殺傷活性は未突然変異抗体50G12-Hu-IgG1、単一部位突然変異抗体50G12-L309W、単一部位突然変異抗体50G12-E345Rおよび対照抗体ダラツムマブよりも明らかに良かった。表10で示されるように、50G12-L309W-E345Rが仲介するADCC効果は、Romas細胞に対する殺傷のIC
50がダラツムマブよりも約2.7倍優れ、最大殺傷活性の絶対値(Top)がダラツムマブよりも約1.2倍優れ、かつIC
50が50G12-E345Rよりも約2.4倍優れ、IC
50が50G12-L309Wよりも約2倍優れた。
【表11】
【0173】
図12で示されるように、50G12-L309W-E345Rが仲介するADCC効果のMOLP8細胞に対する殺傷活性は未突然変異抗体50G12-Hu-IgG1、単一部位突然変異抗体50G12-L309W、単一部位突然変異抗体50G12-E345Rおよび対照抗体ダラツムマブよりも明らかに良かった。表11で示されるように、50G12-L309W-E345Rが仲介するADCC効果は、MOLP8細胞に対する殺傷のIC
50がダラツムマブよりも約3.5倍優れ、最大殺傷活性の絶対値(Top)がダラツムマブよりも約1.5倍優れ、かつIC
50が50G12-E345Rよりも約3.3倍優れ、IC
50が50G12-L309Wよりも約2.5倍優れた。
【表12】
【0174】
図13で示されるように、50G12-L309W-E345Rが仲介するADCC効果のRaji細胞に対する殺傷活性は未突然変異抗体50G12-Hu-IgG1単一部位突然変異抗体50G12-L309W、単一部位突然変異抗体50G12-E345Rおよび対照抗体ダラツムマブよりも明らかに良かった。表12で示されるように、50G12-L309W-E345Rが仲介するADCC効果は、Raji細胞に対する殺傷のIC
50がダラツムマブよりも約9.2倍優れ、最大殺傷活性の絶対値(Top)がダラツムマブよりも約1.3倍優れ、かつIC
50が50G12-E345Rよりも約2.7倍優れ、IC
50が50G12-L309Wよりも約3倍優れた。
【表13】
【0175】
上記データから、抗体の重鎖の定常領域に同時にL309WとE345Rの二部位の突然変異を導入すると、有効に抗体が仲介するADCC活性を増強することができ、その活性がL309WまたはE345Rの単一部位の突然変異のみを導入した抗体あるいは突然変異部位が導入されていない抗体のいずれよりも優れ、そしてCDC効果に敏感でないNCI-H929にも(参照文献:CD38 expression and complement inhibitors affect response and resistance to daratumumab therapy in myeloma [J]. Blood, 2016, 128(7):959-970.)、L309WとE345Rの二部位の突然変異が優れたADCC増強効果を表すことが示された。
【0176】
実施例9 50G12-L309W-E345Rのアポトーシス誘導作用
対数期にあるヒトバーキットリンパ腫細胞Daudiを2%FBS含有RPMI-1640培地で1回洗浄し、1E5/150μL/ウェルで細胞密度を調整し、96ウェル細胞培養プレートに敷いた。2% FBS含有RPMI-1640培地で抗体を12nMに希釈した後、3倍勾配で連続して8の濃度に希釈し、50μL/ウェルで希釈された抗体を上記96ウェル細胞培養プレートに入れ、抗体の最終濃度が3nMで、細胞インキュベーターにおいて24hインキュベートした。冷却しておいたPBSで、200μL/ウェルで、400g、4℃で5min遠心して細胞を2回洗浄した。FITCで標識されたAnnexin Vアポトーシス検出キットでアポトーシス細胞を染色し、100μLの1×binding bufferで細胞を再懸濁させ、1.5μL/ウェルでFITC-Annexin Vを入れ、軽く均一に混合し、光を避けて室温で15min反応させた。100μLの1×binding bufferを入れ、均一に混合し、1h内でフローサイトメーター(Beckmanから購入、型番cytoflex)でFITCチャンネルの平均蛍光強度を測定してデータを分析し、染色細胞数を計算した。GraphPad Prism9でデータ分析およびブロッティングを行い、IC50を計算した。
【0177】
図14で示されるように、50G12-L309W-E345Rによって誘導されたDaudi細胞のアポトーシス効果は未突然変異抗体50G12-Hu-IgG1に相当し、いずれも明らかに対照抗体ダラツムマブよりも良く、表13で示されるように、50G12-L309W-E345Rによって誘導されたDaudi細胞のアポトーシスの最大活性(Top)はダラツムマブよりも約2.1倍優れた。
【表14】
【0178】
各文献がそれぞれ単独に引用されるように、本発明に係るすべての文献は本出願で参考として引用する。また、本発明の上記の内容を読み終わった後、当業者が本発明を各種の変動や修正をすることができるが、それらの等価の形態のものは本発明の請求の範囲に含まれることが理解されるはずである。
【配列表】
【国際調査報告】