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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公表特許公報(A)
(11)【公表番号】
(43)【公表日】2024-10-02
(54)【発明の名称】ジブロックポリマー
(51)【国際特許分類】
   C08B 37/04 20060101AFI20240925BHJP
   A61K 47/36 20060101ALI20240925BHJP
   A61K 9/51 20060101ALI20240925BHJP
   C08G 81/00 20060101ALI20240925BHJP
【FI】
C08B37/04
A61K47/36
A61K9/51
C08G81/00
【審査請求】未請求
【予備審査請求】未請求
(21)【出願番号】P 2024513129
(86)(22)【出願日】2022-08-26
(85)【翻訳文提出日】2024-04-12
(86)【国際出願番号】 EP2022073797
(87)【国際公開番号】W WO2023025943
(87)【国際公開日】2023-03-02
(31)【優先権主張番号】2112232.0
(32)【優先日】2021-08-26
(33)【優先権主張国・地域又は機関】GB
(31)【優先権主張番号】2113143.8
(32)【優先日】2021-09-14
(33)【優先権主張国・地域又は機関】GB
(81)【指定国・地域】
(71)【出願人】
【識別番号】512101187
【氏名又は名称】ノルウェージャン ユニバーシティ オブ サイエンス アンド テクノロジー(エヌティーエヌユー)
(74)【代理人】
【識別番号】110001070
【氏名又は名称】弁理士法人エスエス国際特許事務所
(72)【発明者】
【氏名】クリステンセン, ビョルン
(72)【発明者】
【氏名】ソルベルグ, アマリー
【テーマコード(参考)】
4C076
4C090
4J031
【Fターム(参考)】
4C076AA65
4C076DD23
4C076DD37
4C076DD41
4C076DD50
4C076DD52
4C076DD62
4C076DD65
4C076EE30
4C076EE41
4C076EE49
4C076FF02
4C076GG06
4C076GG22
4C076GG23
4C090AA02
4C090AA04
4C090AA05
4C090AA09
4C090BA01
4C090BA12
4C090BA19
4C090BA72
4C090BA73
4C090BA97
4C090BB21
4C090BB23
4C090BB32
4C090BB36
4C090BB52
4C090BB53
4C090BB62
4C090CA04
4C090CA06
4C090CA07
4C090CA13
4C090CA14
4C090CA15
4C090CA18
4C090CA19
4C090CA31
4C090CA34
4C090CA35
4C090DA10
4C090DA22
4C090DA23
4C090DA25
4J031AA02
4J031AA20
4J031AA53
4J031AB06
4J031AC09
4J031AD01
4J031AE01
4J031AE10
4J031AF03
(57)【要約】
ジブロックポリマーは、リンカーを介して第2の成分に共有結合された第1の成分を含み、前記第1の成分は、少なくとも50mol%のL-グルロン酸残基を含み、かつ重合度nを有するオリゴマーであり、ここでnは少なくとも3であり、前記第2の成分は、30mol%以下のL-グルロン酸残基を有し、かつ重合度mを有するポリマーであり、ここで9n>=m>=n/2である。
【選択図】なし
【特許請求の範囲】
【請求項1】
リンカーを介して第2の成分に共有結合された第1の成分を含むジブロックポリマーであって、
前記第1の成分が、少なくとも50mol%のL-グルロン酸残基を含み、かつ重合度nを有するオリゴマーであり、ここでnは少なくとも3であり、
前記第2の成分が、30mol%以下のL-グルロン酸残基を有し、かつ重合度mを有するポリマーであり、
ここで9n>=m>=n/2である、ジブロックポリマー。
【請求項2】
リンカーを介して第2の成分に共有結合された第1の成分を含むジブロックポリマーであって、
前記第1の成分が、少なくとも50mol%のL-グルロン酸残基を含み、かつ重合度nを有するオリゴマーであり、ここでnは少なくとも3であり、
前記第2の成分が、30mol%以下のL-グルロン酸残基を有し、かつ重合度mを有するオリゴ糖または多糖であり、
ここで9n=>m=>n/2であり、かつ、nが20以下であるときにmが20以上である、ジブロックポリマー。
【請求項3】
リンカーを介して第2の成分に共有結合された第1の成分を含むジブロックポリマーであって、
前記第1の成分が、少なくとも50mol%のL-グルロン酸残基を含むオリゴマーであり、
前記第2の成分が、30mol%以下のL-グルロン酸残基を有する第2のポリマーであり、
前記ジブロックポリマーが、少なくとも0.1mMの金属イオン濃度で金属イオンを含む水溶液中で自発的にナノ粒子を形成し、前記金属イオンがたとえばAc、Y、Lu、Cu、Ca、Sr、Ba、もしくはRaイオン、またはその混合物等、特にCa、Sr、Ba、またはRaイオンである、ジブロックポリマー。
【請求項4】
前記第2のポリマーが、オリゴ糖もしくは多糖、ポリ(メト)アクリレート、またはポリアルキレングリコール、特にオリゴ糖または多糖である、請求項1~3のいずれかに記載のジブロックポリマー。
【請求項5】
前記第2のポリマーが、デキストランまたはプルランである、請求項1~4のいずれかに記載のジブロックポリマー。
【請求項6】
前記L-グルロン酸オリゴマーの重合度nが7~70である、請求項1~5のいずれかに記載のジブロックポリマー。
【請求項7】
前記第2のポリマーの重合度が8~180である、請求項1~6のいずれかに記載のジブロックポリマー。
【請求項8】
前記リンカーが、アミノ化、還元的アミノ化、またはクリックケミストリーの結果として得られるものである、請求項1~7のいずれかに記載のジブロックポリマー。
【請求項9】
前記リンカーが、トリアゾール、2つのNH-NH-CO-官能基、または2つの-N-O-CH2-官能基を含む、請求項1~8のいずれかに記載のジブロックポリマー。
【請求項10】
請求項1~9に記載のジブロックポリマーと、たとえば金属2+または3+イオンなどの金属イオンなどの陽イオンとを含むナノ粒子。
【請求項11】
請求項1~10のいずれか一項に記載のジブロックポリマーを含むコアシェルナノ粒子であって、前記第1の成分が前記ナノ粒子の前記コアを形成し、前記第2の成分が前記ナノ粒子の前記シェルを形成し、
前記ナノ粒子の前記コア内で、金属イオンおよび/または荷電有機化合物がイオン結合している、コアシェルナノ粒子。
【請求項12】
前記金属イオンが、第(II)族金属イオンまたは放射性核種である、請求項10または11に記載のナノ粒子。
【請求項13】
少なくとも50mol%のL-グルロン酸残基を含み、かつ重合度nを有し、ここでnは少なくとも3であって、たとえばペプチドなどの生物活性分子に連結された、オリゴマーを含むポリマーをさらに含む、請求項10~12に記載のナノ粒子。
【請求項14】
ナノ粒子を調製するための方法であって、
(I)酸または塩基の存在下でアルギン酸を加水分解してグルロン酸オリゴマーを形成することなどによって、グルロン酸オリゴマーを得ること、
(II)前記グルロン酸オリゴマーを、前記グルロン酸オリゴマーと反応するように適合された連結基を有する第2のポリマーと反応させて、ジブロックポリマーを形成すること
を含むか、
または、
(I)酸または塩基の存在下でアルギン酸を加水分解してグルロン酸オリゴマーを形成することなどによって、グルロン酸オリゴマーを得ること、
(II)前記グルロン酸オリゴマーを、前記グルロン酸オリゴマーおよび第2のポリマーと反応するように適合された連結基と反応させること、
(III)連結基を有する前記グルロン酸オリゴマーを第2のポリマーと反応させて、ジブロックポリマーを形成すること、
もしくは、
(I)酸または塩基の存在下でアルギン酸を加水分解してグルロン酸オリゴマーを形成することなどによって、グルロン酸オリゴマーを得て、さらに、前記オリゴマーを官能基によって活性化すること、
(II)前記グルロン酸オリゴマーを、前記グルロン酸オリゴマーの前記官能基と反応する官能基を有するように適合された第2のポリマーと反応させて、ジブロックポリマーを形成すること、
を含み、
かつ、その後に、
前記ジブロックポリマーを、たとえば金属イオン、プロトン、または荷電有機化合物などの陽イオンと接触させて、ナノ粒子を形成することを含む、方法。
【請求項15】
前記ナノ粒子が、たとえば金属イオンの溶液などの金属イオンの均質なソースに対する前記ナノ粒子の透析または露出を介して形成される、請求項14に記載の方法。
【請求項16】
金属イオンの均質なソースに対する前記ナノ粒子の露出が、好ましくはGDLを用いて、前記ジブロックポリマーおよび陽イオンの水溶液のpHを変化させることを伴う、請求項15に記載の方法。
【請求項17】
前記ナノ粒子が、前のステップで用いられたものとは異なる複数の第2の金属イオンと接触することで、前記複数の第2の金属イオンが前記ナノ粒子中に存在する前記金属イオンを少なくとも部分的に置換する、請求項14~16に記載の方法。
【請求項18】
少なくとも50mol%のL-グルロン酸残基を含み、かつ重合度nを有し、ここでnは少なくとも3であって、たとえばペプチドなどの生物活性分子に連結されたオリゴマーを含むポリマーの存在下で、前記ジブロックポリマーを、たとえば金属イオン、プロトン、または荷電有機化合物などの陽イオンと接触させて、ナノ粒子を形成することをさらに含む、請求項15~17に記載の方法。
【請求項19】
患者に金属イオンもしくは荷電有機化合物を送達するため、または、金属イオンを含有する媒体から前記金属イオンを除去するための、請求項10~13に記載のナノ粒子の使用。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、たとえばオリゴ糖もしくは多糖またはポリアルキレングリコールなどの第2のポリマー成分に連結されたオリゴまたはポリグルロン酸成分を含むジブロックポリマーを含むナノ粒子に関する。本発明はさらに、そのジブロックポリマー自体、およびたとえば放射性核種などの金属イオンまたは目的の有機活性剤を患者に送達するためのナノ粒子の使用に関する。代替的に、特定の環境から金属イオンを除去することを可能にするために金属イオンを配位させるためにジブロックポリマーが用いられてもよい。
【背景技術】
【0002】
アルギン酸は、藻類または細菌の多糖であり、穏やかで有用なゲル化特性を有するために食品、医薬品などに多く使用される。ほとんどのアルギン酸は、たとえばCaイオンなどの多価カチオンに対する高親和性を有し、その多価カチオンの結合によってヒドロゲル形成がもたらされる。これらの現象は、アルギン酸内にL-グルロン酸(G:guluronic acid)の配列(ブロック)が存在することに関連し、このL-グルロン酸(G)の配列(ブロック)は、D-マンヌロン酸(M:mannuronic acid)のブロックおよび交互の(..MG..)ブロックと共存する。図1は、アルギン酸内に存在するL-グルロン酸残基の構造を示し、かつアルギン酸鎖によるこれらの単位の理論上の分布を示す。
【0003】
Gの含有量および分布は、アルギン酸が由来する生物に依存し、それはマンヌロナンC5エピメラーゼのファミリーの作用の結果によるものである。
【0004】
アルギン酸自体がブロック多糖と分類されることがあり、3つのブロックタイプの長さおよび分布は、アルギン酸の固有の組成不均一性のために変動する。アルギン酸の多価カチオンによるゲル化特性と、アルギン酸の構造、配列、および鎖長との関係は数十年にわたって広く調査されてきた。
【0005】
どのようにして(ほとんど)純粋なGブロックを親アルギン酸から単離して分離し得るかは周知である(標準的な方法は、希釈酸による部分加水分解と分画沈殿との組み合わせである:アルギン酸を特定のpHで加水分解するときにGブロックが選択的に沈殿する(MおよびMGブロックは可溶性である)。それとは対照的に、単離されたMおよびGブロックの特性、ならびにそれらを精密に操作されたアルギン酸ベースのブロック多糖に取り込むことは、最低限しか調査されていない。
【0006】
ここで本発明者らは、Gブロックが任意の好都合なやり方でたとえばオリゴ糖または多糖などの第2のポリマーに連結されている、精密に操作されたアルギン酸ベースのブロック多糖からナノ粒子を調製し得ることを確定した。必要とされるGブロックは、高い割合のG残基を含有するものである。なぜなら、これらの単位が金属イオンまたは活性剤を配位させて、溶液中でのナノ粒子の自発的な形成を可能にするからである。
【発明の概要】
【課題を解決するための手段】
【0007】
1つの態様から見ると、本発明は、リンカーを介して第2の成分に共有結合された第1の成分を含むジブロックポリマーを提供し、
前記第1の成分は、少なくとも50mol%のL-グルロン酸残基を含み、かつ重合度nを有するオリゴマーであり、ここでnは少なくとも3であり、
前記第2の成分は、30mol%以下のL-グルロン酸残基を有し、かつ重合度mを有するポリマーであり、
ここで9n=>m>=n/2、たとえば9n=>m=>nなどである。
【0008】
疑念を回避するために、n/2が整数でないときは、n/2の値が最も近い整数に四捨五入される。
【0009】
別の態様から見ると、本発明は、リンカーを介して第2の成分に共有結合された第1の成分を含むジブロックポリマーを提供し、
前記第1の成分は、少なくとも50mol%のL-グルロン酸残基を含み、かつ重合度nを有するオリゴマーであり、ここでnは少なくとも3であり、
前記第2の成分は、30mol%以下のL-グルロン酸残基を有し、かつ重合度mを有するオリゴ糖または多糖であり、
ここで9n=>m=>n/2であり、nが20以下であるときにmは20以上である。
【0010】
別の態様から見ると、本発明は、リンカーを介して第2の成分に共有結合された第1の成分を含むジブロックポリマーを提供し、
前記第1の成分は、少なくとも50mol%のL-グルロン酸残基を含むオリゴマーであり、
前記第2の成分は、30mol%以下のL-グルロン酸残基を有する第2のポリマーであり、
前記ジブロックポリマーは、少なくとも0.1mMの金属イオン濃度で金属イオンを含む水溶液中で自発的にナノ粒子を形成する。
【0011】
別の態様から見ると、本発明は、本明細書の前記で定義されたとおりのジブロックポリマーと、たとえば金属2+もしくは3+イオンまたはH+または荷電有機化合物などの陽イオンとを含むナノ粒子を提供する。
【0012】
別の態様から見ると、本発明は、本明細書の前記で定義されたとおりのジブロックポリマーを含むコアシェルナノ粒子を提供し、前記第1の成分は前記ナノ粒子のコアを形成し、前記第2の成分はシェルを形成し、
ナノ粒子のコア内に、たとえば金属イオンおよび/または荷電有機化合物などの陽イオンがイオン結合している。
【0013】
別の態様から見ると、本発明はナノ粒子の調製のための方法を提供し、この方法は、
(I)たとえば酸または塩基の存在下でアルギン酸を加水分解してグルロン酸オリゴマーを形成することなどによって、グルロン酸オリゴマーを得ること、
(II)前記グルロン酸オリゴマーを、前記グルロン酸オリゴマーと反応するように適合された連結基を有する第2のポリマーと反応させて、ジブロックポリマーを形成すること
を含むか、
または、
(I)たとえば酸または塩基の存在下でアルギン酸を加水分解してグルロン酸オリゴマーを形成することなどによって、グルロン酸オリゴマーを得ること、
(II)前記グルロン酸オリゴマーを、前記グルロン酸オリゴマーおよび第2のポリマーと反応するように適合された連結基と反応させること、
(III)連結基を有する前記グルロン酸オリゴマーを第2のポリマーと反応させて、ジブロックポリマーを形成すること、
あるいは、
(I)たとえば酸または塩基の存在下でアルギン酸を加水分解してグルロン酸オリゴマーを形成することなどによって、グルロン酸オリゴマーを得て、前記オリゴマーを官能基によって活性化すること、
(II)前記グルロン酸オリゴマーを、グルロン酸オリゴマーの官能基と反応する官能基を有するように適合された第2のポリマーと反応させて、ジブロックポリマーを形成すること
を含み、
かつ、その後に、
前記ジブロックポリマーを、たとえば金属イオン、プロトン、または荷電有機分子などの陽イオンと接触させて、ナノ粒子を形成することを含む。
【0014】
この方法で形成されるジブロックポリマーは、本明細書で前に定義されたとおりのものであることが好ましい。
【0015】
ジブロックポリマーとイオンとの接触が、透析か、またはたとえばpHをゆっくりと調整して好適な塩またはイオン錯体からゲル化イオンを放出させることなどによって引き起こされる内部ゲル化によってもたらされることが特に好ましい。
【0016】
別の態様から見ると、本発明は、金属イオンまたは荷電有機化合物を患者に送達するための、本明細書の前記で定義されたとおりのナノ粒子の使用を提供する。
【図面の簡単な説明】
【0017】
図1図1は、機能性アルギン酸の生合成、部分的脱重合、および純粋なグルロン酸ブロック(Gn)の単離、次いで活性化多糖への末端コンジュゲーションを概略的に表す図である。図1は、その後の粒子を形成するためのCa++およびGn-L-Dexmによるダイマー化も示す。これらのダイマーの形成は、次にナノ粒子の形成をもたらす。
図2図2は、グルロン酸とPDHAまたはADHとの反応、およびその後のPBを用いた還元を示す図である。
図3図3は、Dex10-PDHA=G3のNMRおよび化学構造を示す図であり、ここでnは還元N-オキシドを表す。この図面は、シッフ塩基を有する還元前のコンジュゲーション(conjugaton)を示す。G3およびPDHA-Dex10による平衡反応混合物の1H-NMRスペクトルを500mM AcOH[d4]pD4にて得ている。コンジュゲートの(E)/(Z)-オキシムによる共鳴に注釈を付けている。コンジュゲートされたGn=b-Dexmの構造が含まれる(=還元されていないオキシムを示す)。比較のために、精製Dex10-PDHAの1H-NMRスペクトルが含まれる。
図4図4は、コア内またはシェルに付着された抗体を介して配位された放射性核種を有する、本発明のコアシェルナノ粒子を理論的に示す図である。
図5図5は、G12-PDHA-Dex100ジブロックポリマーのデータを示す図である。SECによって、残留(未反応)G12が選択的に除去された(図5a)。ジブロックに対するSEC-MALLSデータは、遊離ブロックと比較して溶出プロファイルの明確なシフトを示した(図5b)。
図6図6は、G24-b-Dex36によって作製されたナノ粒子が、さまざまな処理後に安定したままである(同じ粒子サイズを有する)ことを示す図である。
図7図7は、G24-b-Dex36ナノ粒子サイズをpHの関数として示す図である。
【発明を実施するための形態】
【0018】
本発明は、ジブロックポリマーおよびそれらがナノ粒子を形成する能力に関し、このナノ粒子は、たとえば金属イオンもしくはプロトン、またはたとえば医薬品などの荷電有機化合物などの陽イオンを配位させて、たとえば金属イオンまたは荷電有機化合物などの陽イオンを患者に送達することを可能にする。
【0019】
驚くべきことに、たとえばデキストランなどの第2のポリマーをG-アルギン酸(=オリゴグルロン酸=Gブロック)の末端に付着させることによって、たとえばカルシウムイオンなどの陽イオンをジブロックポリマーに接触させたときに、明確に定義された安定性の高いナノ粒子が形成され得る。
【0020】
それとは対照的に、アルギン酸自体(すなわち、本発明で必要とされるGブロック濃度を有さないとき)は金属イオン水溶液の存在下でヒドロゲルを形成しやすく、Gブロック単独では沈殿を形成する。
【0021】
本発明の主な目標は金属イオンを配位させるナノ粒子であるが、プロトンの配位も可能である。
【0022】
この実施形態において、別の鎖-鎖相互作用が関与する。低pHによって、カルボン酸のプロトン化(-COO-+ H+=-COOH)がもたらされる。アルギン酸のpKaは約3である。この値より十分に低いとき、アルギン酸はもはや金属を配位させずに沈殿するか、またはいわゆる「酸性ゲル」を形成する。Gブロックは通常沈殿する(これはGブロックが単離され得ることを意味する)。したがって本発明のジブロックは、たとえば3以下などの低pHにてナノ粒子を形成し得る。この形成は可逆的であり、pH>pKaのときにナノ粒子は再溶解する。
【0023】
本発明は、L-グルロン酸オリゴマーである第1のブロック(または第1の成分)と、たとえばオリゴ糖もしくは多糖またはポリアルキレングリコールなどのポリマーである第2のブロック(または第2の成分)との組み合わせを必要とする。理想的には、第2のポリマーは水溶性である。本明細書において、水溶性という用語は、20℃にて少なくとも10g/Lの水溶解度を有する材料を定義するために用いられる。
【0024】
第2のポリマーは、L-グルロン酸オリゴマーの末端に、すなわちL-グルロン酸オリゴマーの端部の官能性を介して付着されるべきである。加えて、第2のポリマーは末端位置を介してL-グルロン酸ブロックに接続されることが好ましい。したがって、ジブロックは「直鎖状」、すなわち両方のブロックが各ブロックそれぞれの末端位置を介して接続されているとみなされ得る。
【0025】
グルロン酸オリゴマー
本発明は、ジブロックポリマーの第1の成分としてグルロン酸オリゴマー(Gオリゴマー)を使用することを必要とする。これらのオリゴマーは、アルギン酸から容易に得られる。天然のアルギン酸鎖は十分な濃度のG残基を含まないため、天然のアルギン酸をたとえば酸または塩基中で加水分解して、グルロン酸残基の含有量がより高いグルロン酸オリゴマーを生成するべきである。目的のグルロン酸オリゴマーは、L-グルロン酸オリゴマーである。
【0026】
グルロン酸オリゴマーを調製するためのアルギン酸は、好ましくはグルロン酸含有量が高いものである。こうしたアルギン酸は公知である。異なる重合度のグルロン酸オリゴマーを生成するために、異なる天然アルギン酸が用いられ得ることがある。
【0027】
天然アルギン酸鎖を分解するための方法として、たとえば硫酸または硝酸などの強酸などを用いた酸加水分解の使用が好ましい。この加水分解方法は、単に天然のアルギン酸を酸または塩基に露出させることによってもたらされ得る。好都合には、この方法は室温にてもたらされ得るが、上昇温度も用いられ得る。反応混合物の撹拌によって、分画が効率的に起こることが確実になる。
【0028】
本発明において用いられるグルロン酸オリゴマーは、3~100、たとえば5~80など、特に10~50の範囲の重合度を有してもよい。さらに好ましい範囲は10~40である。実際には、アルギン酸から非常に長いGブロックを得ることは困難であるため、DP32~50を有するより短いブロックの使用が好ましい。
【0029】
重合度はNMRを介して決定でき、これはオリゴマー内のすべてのモノマー残基の数を表す。以下に注記するとおり、これらのモノマー残基のすべてがグルロン酸ではないが、その少なくとも50%はグルロン酸残基である必要がある。
【0030】
重合度は、加水分解ステップの長さ、および加水分解を受ける天然アルギン酸の性質によって制御され得る。より長い加水分解反応はより低い重合度をもたらし、逆も同様である。疑念を回避するために、DP=重合度(degree of polymerization)=鎖当たりのモノマー数である。たとえば、ポリマーGGGGG、GGGGM、またはMGMGMは、DP=5(すなわちn=5)を有する。
【0031】
グルロン酸オリゴマーの重合度は一般的に、配位される陽イオンの性質と、第2のコポリマーの性質とに依存して選択される。グルロン酸オリゴマーの重合度が低いときは、ナノ粒子の形成を確実にするために、第2のポリマーがより高い重合度(DP)を有する傾向がある。一般的に、配位される金属イオンが大きい(例、Ba)ときは、より小さいたとえばCaなどの金属イオンのときよりも低い重合度が使用されてもよい。
【0032】
代替的に見ると、グルロン酸オリゴマーの重量平均分子量(Mw:molecular weight)は1000~40,000の範囲であってもよい。Mwは、GPC、光散乱、またはその両方の組み合わせを用いて決定され得る。
【0033】
グルロン酸オリゴマーは、加水分解、(例、リアーゼを用いた)酵素的分解、またはアルカリベータ脱離を含む、当該技術分野で公知の方法によって、アルギン酸から調製されてもよいことが認識されるだろう。当業者は、これらのオリゴマーを形成するための好適な方法を考案し得る。グルロン酸オリゴマーはいくつかの他のモノマー残基を含有してもよいが、グルロン酸オリゴマーのグルロン酸含有量は少なくとも50mol%、好ましくは少なくとも70mol%、特に少なくとも85mol%であることが必須である。その意図するところは、天然アルギン酸よりもかなり高いグルロン酸濃度を含むグルロン酸オリゴマーを調製することである。アルギン酸は分画され、グルロン酸がより低いオリゴマーは除去される。興味深いのは、高G含有量を有するオリゴマーブロックのみである。高G含有量は、金属イオン結合選択性を改善する。
【0034】
代替的に見ると、グルロン酸オリゴマーのモノマー残基の50%以上はL-グルロン酸であり、好ましくはモノマー残基の70%以上、たとえば85%以上などがL-グルロン酸である。したがってFG値は0.5以上、たとえば0.7以上など、特に0.85以上である。もちろん、純粋なグルロン酸オリゴマーの使用も可能である(例、99mol%以上、FG0.99)。存在するグルロン酸オリゴマー中に存在し得る他の残基は、マンヌロン酸を含む。
【0035】
加水分解反応はポリマー鎖の分割をもたらし、形成されるオリゴマーの混合物から目標グルロン酸オリゴマーが分画され得る。
【0036】
本発明のジブロックポリマーを調製するときに、グルロン酸オリゴマーの混合物が使用されてもよいことが認識されるだろう。天然アルギン酸が加水分解されて高G含有量オリゴマーが単離されるとき、こうした混合物が本発明のジブロックポリマーの第1の成分として用いられてもよいし、さらなる精製を用いて単一のオリゴマーまたはより少数の異なるオリゴマーを含有する混合物が単離されてもよい。当業者は、必要とされるナノ粒子の特性に依存して、グルロン酸オリゴマーの第1の成分の性質を調整し得る。しかし、混合物は、実質的にすべての成分が少なくとも50mol%のグルロン酸残基を有するオリゴマーを含有することが必要とされる。
【0037】
グルロン酸オリゴマー内の繰り返し単位の数を決定すること、およびグルロン酸オリゴマー内のグルロン酸残基の数を決定することは、たとえばNMRなどの公知の分析技術を用いて達成され得る。MALS、SEC-MALS、および粘度測定を用いてポリマーのMwを決定することもでき、その情報を用いてポリマー内の繰り返し単位またはモノマーの数を決定することもできる。
【0038】
次いで、任意の好都合な化学的性質を介して、グルロン酸オリゴマーを第2のポリマーと連結する必要がある。アルギン酸の加水分解の性質は、グルロン酸オリゴマーがたとえばアルデヒド官能性などのカルボニル基を含有することを意味する。このカルボニルまたは特定的にアルデヒドの官能性は、グルロン酸オリゴマーを第2のポリマーに接合するときに利用され得る。このカルボニル官能性は、好ましくはグルロン酸オリゴマーの端部に位置する。
【0039】
リンカー
グルロン酸オリゴマーは、リンカーを介して第2のポリマーに接合される。リンカーの性質は重要ではなく、熟練した化学者はグルロン酸オリゴマーを第2のポリマーに接合する多くのやり方を考案し得る。理論上は、このリンカーはジブロックポリマーの2つの成分の連結を可能にする、たとえば-O-原子などの単純な1原子であり得る。しかし、好ましくは専用の連結分子が用いられる。
【0040】
適切な求核剤および求電子剤を作成するために、任意の好適な共有結合化学が反応物の好適な官能化と共に用いられてもよい。クリックケミストリーの使用は、より大きい分子を接合するための特に好ましい方法である。たとえば、アミノオキシ-アジドは、周知のクリックケミストリー反応においてアミノオキシ-DBCOと容易に反応する。相補的なクリック基による反応物の官能化によって、反応物の単純な接続が可能になる。したがって、この実施形態におけるリンカーは、L-グルロン酸オリゴマーと第2のポリマーとの間の原子となる。したがって好ましいリンカーは、(アルキンおよびアジドのクリック反応によって形成された)トリアゾール基を含んでもよい。
【0041】
本発明のリンカーは、好ましくはたとえば二官能性または三官能性などの多官能性である。一実施形態において、二官能性の単一のリンカーが用いられ、すなわちそのリンカーは両方の反応物と反応し得る必要がある。2つの成分の連結は同時にもたらされ得るが、より好都合には最初に一方の成分がリンカーと反応し、その後に他方の成分が官能化された成分と反応する。
【0042】
理想的には、リンカーはMwが300g/mol未満、たとえば50~200g/molなどの小分子である。しかし、たとえばポリアルキレンオキシド鎖などのより大きな連結基を用いることも可能である。好ましくは、こうしたポリマーリンカーは20未満の繰り返し単位を有するだろう。
【0043】
好都合には、連結反応は、グルロン酸オリゴマーおよびもし存在すれば第2のポリマーの末端マスクされたカルボニル/アルデヒド基を利用する。したがって理想的には、連結反応は、たとえばアジド、アルキン、チオール、アルケンなどから選択される官能基による還元的アミノ化、アミノ化、またはクリックケミストリーを伴う反応を含む。ジオキシアミンまたはジヒドラジドの使用が好ましい。
【0044】
したがってリンカーは、第1または第2の成分によってシッフ塩基(オキシムまたはヒドラゾン)を形成してもよい。好都合には、成分の一方は、たとえばO,O’-1,3-プロパンジイルビスヒドロキシルアミン二塩酸塩またはアジピン酸ジヒドラジド(ADH:adipic acid dihydrazide)などの、二官能性還元的アミノ化タイプの試薬によって官能化される。次いで、他方の成分が組み合わされて2つのブロックが連結される。詳細は以下の実験セクションに提供されており、熟練した化学者によって容易に適合され得る。
【0045】
好都合には、リンカーは二官能性リンカーであり、そこにはたとえばC1-10直鎖アルキレン鎖などのアルキレン鎖によって連結された末端官能基が存在する。目的の官能基は、O-NH2または-CO-NH-NH2を含む。より長いリンカーはジブロックポリマーの粘度を変えることがあるため、リンカーの長さは熟練した化学者がジブロックポリマーの特性を変化させるために使用できるさらなるツールである。
【0046】
反応が完了したとき、たとえば安定なアミンを形成するために)シッフ塩基が還元されてもよい。好適な還元剤は、ピコリンボランまたはシアノ水素化ホウ素ナトリウムを含む。こうした種は、オキシムまたはヒドラゾンよりも化学的に安定であってもよい。
【0047】
図2において、グルロン酸とPDHAまたはADHとの反応によってオキシムまたはヒドラゾンが形成され、その後還元されてN-オキシドまたはヒドラジンになることが記載されている。ヒドラゾンは、等価の形態であるピラノシドを有することが認識されるだろう。たとえばフラノシドなどの等価の環状形態も存在してもよい。
【0048】
理想的には、リンカーはグルロン酸オリゴマーおよび第2のポリマーの末端位置を連結すべきである。
【0049】
当業者は、2つの成分を連結するための好適な化学的性質を容易に考案し得るだろう。一実施形態において、リンカーは5~20の骨格原子を含有してもよい(すなわち、2つのブロックを連結する鎖の長さが5~20原子である)。たとえば、O-CH2-CH2-CH2-CH2-Oリンカーは6つの骨格原子を含有する。
【0050】
いくつかの実施形態において、リンカーは、たとえばPEGなどの短鎖ポリアルキレングリコールを含んでもよい。こうした鎖は最大10の繰り返し単位、たとえば最大5のこうした単位などを有してもよい。
【0051】
第2のポリマー
ジブロックポリマーの第2の成分は、たとえばオリゴ糖もしくは多糖、ポリ(メト)アクリレート、またはポリアルキレングリコールなどのポリマーである。第2の可溶性ポリマーは、グルロン酸オリゴマーとは異なる必要があることが認識されるだろう。したがって、第2のポリマーは30mol%を超えるグルロン酸残基を含まない。理想的には、第2のポリマーはグルロン酸残基をまったく含まない。第2のポリマーは、好ましくはアルギン酸に由来するものではない。
【0052】
代替的に見ると、第2のポリマーは、Gブロックのカチオン配位と相互作用しないものである。
【0053】
第2のポリマーは水溶性ポリマーであることが好ましい。いくつかの不溶性ポリマーも用いられてもよく、特にたとえばDP6~40の不溶性キチンオリゴマーなどの重合度が低いものが用いられてもよい。
【0054】
第2のポリマーは、Gオリゴマーに連結されたときに、たとえば金属イオンなどの陽イオンの存在下でナノ粒子を形成するものである。それらの状況で沈殿を形成する第2のポリマーは、除外される。
【0055】
第2のポリマーは、グルロン酸オリゴマーよりも高い重量平均分子量(Mw)を有することが好ましい。理想的には、第2のポリマーのMwはグルロン酸オリゴマーの少なくとも2倍、たとえば3~8倍高い。しかし、第2のポリマーのMwが高過ぎると(例、グルロン酸オリゴマーのMwの20x以上)、目標ナノ粒子よりも沈殿が形成されやすくなる。
【0056】
代替的に見ると、第2のポリマーの重合度は、グルロン酸モノマーの重合度以上であるべきである。したがって、n対mの比率が重要であり、ここでnはグルロン酸のDPであり、mは第2のポリマーのDPである。その比率は理想的には2:1(n:m)~1:9(n:m)、たとえば1:1(n:m)~1:9(n:m)などである。特に好ましい比率は4n=>m>=nである。
【0057】
したがって一般的に、GのDPが第2のポリマーのDPよりもかなり大きいときに沈殿が起こる。両方のオリゴマーが短いとき、たとえば両方のオリゴマーのDPが15未満などであるときに、GのDPが第2のポリマーのDPと等しいとき、NPの形成ではなく沈殿が起こる。したがって、GオリゴマーのDPがn=3~15の範囲であるときは、第2のポリマーのDPのmが好ましくは30~180である。
【0058】
たとえば、(Caイオンによって)G10-リンカー-Dex40はナノ粒子の形成をもたらすのに対して、G10-リンカー-Dex100は沈殿する。
【0059】
40-リンカー-Dex40は、G40-リンカー-Dex100と同様にナノ粒子を形成する。
【0060】
mの値が180を超えるとジブロックポリマーが水溶性になる危険性があるため、mは好ましくは180以下である。
【0061】
沈殿またはナノ粒子をもたらすmおよびnの正確な値は、ナノ粒子内に配位される陽イオンの性質に依存して変動することがある。
【0062】
理論によって制限されることは望まないが、第2のポリマーのDPの適切なMwが、典型的に水性媒体である適切な媒体におけるナノ粒子の自発的な形成を促進すると考えられる。
【0063】
両方のポリマーが少なくとも20の繰り返し単位を有するときは、水溶性ポリマーのMwがグルロン酸オリゴマーよりも少なくてもよい。
【0064】
第2のポリマー内の繰り返し単位の数を決定することは、たとえばNMRなどの周知の分析技術を用いて達成され得る。加えて、MALS、SEC-MALS、または粘度測定を用いてポリマーのMwを決定でき、その情報を用いてポリマー内の繰り返し単位(モノマー)の数を決定することもできる。規定の重合度を有する多くの商業用の多糖が販売されている。
【0065】
実際には、水溶性ポリマーがコアシェルナノ粒子のシェルを形成し、グルロン酸オリゴマーがコアを形成することが考えられ得る。したがって、ナノ粒子はミセルまたはポリマーソームとみなされ得る。
【0066】
好ましい水溶性ポリマーは、ポリエチレングリコールまたはオリゴ糖もしくは多糖、特にヒアルロナン、プルラン、β-1,3-グルカン、ヘパリン、グリコサミノグリカン、アミロース、キトサン、またはデキストランである。デキストランは、微生物由来の分岐したポリ-α-D-グルコシドであり、主にC-1→C-6”のグリコシド結合を有する。デキストラン鎖はさまざまな長さである。
【0067】
水溶性ポリマーは、本明細書で前述されたとおりのリンカーを有するように官能化されてもよく、次いでグルロン酸オリゴマーと水溶性ポリマーとの連結反応がもたらされ得る。
【0068】
第2の成分がポリアルキレングリコールであるとき、それは理想的には少なくとも10の繰り返し単位を含有する。
【0069】
非常に好ましい実施形態において、グルロン酸オリゴマーは、理想的には還元的アミノ化を介してデキストランに連結され、すなわちリンカーはN-オキシドまたはヒドラジンを含む。
【0070】
ジブロックポリマー
したがって、本発明の操作されたジブロックポリマーは、好適なコンジュゲーション法によって連結された2つ以上の異なるブロックを含み、たとえばそれらのブロックからなる。本発明のジブロックポリマーは、直鎖状であってもよい。
【0071】
本発明のジブロックポリマーは、本明細書においてGn-L-xxxと命名でき、ここでGは重合度nを有するグルロン酸オリゴマーである。Lはリンカーであり、xxxはたとえばデキストランなどの第2のポリマーである。特に、ジブロックポリマーはGn-L-Dexmであり、ここでDexはデキストランであり、mはデキストランの重合度である。
【0072】
nの値は、好ましくは8~70である。mの値は、好ましくは30~180、たとえば30~150などである。理想的には、mは少なくとも2nである。
【0073】
n対mの比率も重要である。その比率は理想的には2:1~1:9である。したがって、9n>m>n/2であることが好ましい。特に好ましい比率は4n=>m>=nである。
【0074】
ナノ粒子
本発明のジブロックポリマーは、一方のブロックが短距離引力相互作用を生じ得るのに対して他方のブロックが長距離反発相互作用を生じるような、定義された条件下で自己集合する。自己集合は、非常に多様な構造をもたらす自発的プロセスであり、その特徴は出発ブロックポリマーの分子パラメータに依存する。ジブロックポリマーは、好ましくは水に溶解される。金属イオンの添加によって、ナノ粒子が形成される。理論によって制限されることなく、金属イオンの存在は最初にジブロックポリマーのダイマーの形成を可能にすると考えられる。これらのダイマーの形成によって、ナノ粒子の形成がもたらされる。
【0075】
それとは対照的に、2つのオリゴグルロン酸(oligoguronates)に基づくジブロックポリマーが用いられるとき、金属イオンの添加はナノ粒子ではなく、固体沈殿物の形成を引き起こす。
【0076】
通常は、ナノ粒子形成を確実にするために、過剰な金属イオンが添加される。溶液中に必要とされる金属イオンの濃度は、金属イオンの性質に依存して変動する。金属イオンの混合物が用いられてもよいことも認識されるだろう。一般的に、溶液中に必要とされる金属(2+)イオンの濃度は、次の順序に従う。Mg>>Mn>Ca>Sr>Ba>Cu>Pb。いくつかの実施形態において、飽和溶液が用いられてもよい。
【0077】
ジブロックポリマーの水溶液に金属イオンを添加することによって、本発明のナノ粒子の自発的な形成が可能になる。理想的には、金属イオンの添加は透析または内部ゲル化を用いて行われる。
【0078】
内部ゲル化の方法では、最初にたとえばCaなどの金属イオンが、たとえば金属炭酸塩微小粒子として、またはたとえば金属-EGTAもしくは金属-EDTA錯体などの可溶性金属錯体などとして、アルギン酸内に分散される。たとえばGDLなどのpH調整剤を用いて、ソースから金属イオンを放出させるために十分となるようにpHをゆっくりと低くして、金属-アルギン酸ゲル化を誘導する。本発明のジブロックの存在下で、この方法は驚くべきことに安定なナノ粒子をもたらす。アルギン酸が用いられるときは、ヒドロゲルが形成される。
【0079】
好都合には、透析は、たとえばCaCl2などのCaイオンの溶液などの金属イオン溶液に対してジブロック溶液が透析されることを伴う。透析の長さは、ジブロックポリマーの分子量および透析膜のポアサイズに依存して変動し得る。より大きいポリマーは、より小さいジブロックポリマーよりも短い透析時間を必要とする傾向がある。
【0080】
ジブロックおよび金属イオン溶液の両方の典型的な溶液は、1~100mMの濃度であってもよい。たとえば酢酸ナトリウムなどの緩衝液も用いられてもよい。
【0081】
ナノ粒子は、定常状態に到達するまで長期間にわたって形成され得る。その期間は最大2週間であり得る。
【0082】
代替的に、口語的に「内部ゲル化」として知られる方法において、たとえば金属イオンの溶液などの均質な金属イオンソースを供給することによって、ナノ粒子が形成されてもよい。ジブロックポリマーを生理食塩水に溶解した後に、たとえばCaEGTA(エチレングリコール-ビス(β-アミノエチルエーテル)-N,N,N’,N’-四酢酸(ethylene glycol-bis(β-aminoethyl ether)-N,N,N’,N’-tetraacetic acid))などの金属イオン錯体と接触させ得る。たとえばGDL(グルコノデルタラクトン(gluconodelta lactone))の導入などによって誘導されるpHの低速の変化による、たとえばCaEGTAなどからのカルシウムイオンの均質な放出によって、ナノ粒子が形成される。
【0083】
オリゴグルロン酸-L-デキストランジブロックは、たとえば透析などによるカルシウムイオンの導入によって、明確に定義されたコアシェルミセル様ナノ粒子を形成する。コアシェル粒子は、Gベースのコアとデキストランコロナとの間に厳密な相分離を有する。
【0084】
それとは対照的に、遊離オリゴグルロン酸鎖は、同じ条件下で沈殿する。これはおそらく、側方(lateral)修飾を伴わない刺激感受性ジブロック多糖の最初の報告である。
【0085】
したがって、アルギン酸、Gブロック、およびGn-b-Xmジブロックは、異なる態様でカルシウム塩または希釈酸と反応する。すなわち、アルギン酸は一般的に巨視的ヒドロゲルを形成し、Gブロックは溶液中で沈殿するのに対し、Gn-b-Xmジブロックはコア/シェル構造を有する安定なナノ粒子を形成する。本明細書において、代替的命名Gn-b-Xmは、Gn(Gブロック)と、リンカーとしてのbと、第2の成分としてのXmとを有するジブロック(deblock)を定義するために用いられる。
【0086】
配位され得る金属イオンは、好ましくは多価であり、好ましくは三価または特に二価である。第II族の金属イオン、特にCa、Ra、Sr、およびBaイオンの使用が好ましい。その他の目的の金属は、アクチニドおよびランタニド、たとえばイットリウム、テルビウム、ルテチウム、およびアクチニウムなど、またはいくつかの遷移金属、たとえばCuおよびZrなどを含む。たとえばCu-64およびCu-67は、テルビウム149/152/155/161と共に興味深い選択肢である。特に、本発明のナノ粒子中に放射性核種が配位され得る。好適な放射性核種は、アクチニウム、トリウム、ラジウム、ルテチウム、ガリウム、テクネチウム、ビスマス、パラジウム、鉛、サマリウム、イリジウム、アスタチン、レニウム、エルビウム、ジルコニウム、およびインジウムのものを含む。
【0087】
特定の放射性核種は、アクチニウム-225、トリウム-227、ラジウム-223/224、ルテチウム-177、ガリウム-68、テクネチウム-99、ビスマス-213、ガリウム-67/68、サマリウム-153、アスタチン-211、レニウム-186/188、エルビウム-169、ジルコニウム-89、パラジウム-103、イリジウム-192、および鉛-212、およびインジウム-111を含む。癌を標的とする放射性イオンは特に興味深い。
【0088】
アルギン酸の場合、GブロックとCa、Ra、Sr、およびBaイオンとの強力かつ特異的な相互作用は、たとえばGブロックにコンジュゲートされたデキストランなどの中性ポリマーブロックによってもたらされる立体(反発)相互作用によって釣り合わされ得る。
【0089】
ナノ粒子は、好ましくは10~100nm、たとえば20~80nmなどの直径を有する。
【0090】
したがって、ナノ粒子を用いて、患者に放射性核種またはその他の興味深い金属イオンを投与し得る。ナノ粒子は、放射性核種を貯蔵するために好都合な媒体でもある。本発明のナノ粒子は、たとえば体温および体内pHなどの生理的条件下で安定である。それらのナノ粒子は注入可能である。
【0091】
特定の金属イオンを含むナノ粒子の調製は困難である。たとえば、マグネシウムイオンはジブロックポリマーと自発的に組み合わされてナノ粒子を形成しないため、マグネシウムイオンを用いてナノ粒子を形成することは困難である。しかし、もしマグネシウムを含有するナノ粒子を形成できれば有用であろう。なぜなら、こうしたナノ粒子は、特定の標的に対してより高い親和性を有することがあるからである。
【0092】
ナノ粒子中にすでに存在する金属イオンの置換を介して、マグネシウムイオンをナノ粒子中に導入し得ることが見出されている。したがって、本明細書に記載されるプロトコルに従ってたとえばカルシウムイオンなどを用いてナノ粒子を形成した後に、これらのナノ粒子をたとえばマグネシウムイオン溶液で透析することなどによって、マグネシウムイオン溶液に露出させ得る。さらに、マグネシウムイオン溶液の強度を変動させて、置換される金属イオンの量を変更し得る。溶液中のマグネシウムイオンの濃度を増加させることによって、より多くの金属イオンがナノ粒子から移動させられる。本発明者らの実験では最適濃度が存在することが示唆されており、その濃度を超えると置換の効果が低くなる。当業者は、置換を最大化するために必要な濃度を容易に決定し得る。典型的に、濃度は0.05~20mMである。たとえばハライド、硝酸などの対イオンは、金属イオン溶液に対して好適である。本発明者らは、ナノ粒子中の50~95%の金属イオンを置換可能であり、よって50~95%の置換イオン、たとえばMgイオンなどがもたらされることを実証している。
【0093】
ナノ粒子への異なる金属イオンの導入を可能にするために、さまざまな異なる金属イオンの組み合わせに対してこの置換の原理が使用され得ることが認識されるだろう。たとえばナトリウムまたはカリウムイオンなどのアルカリ金属イオンの導入などが考えられるだろう。
【0094】
したがって一実施形態において、本発明の方法がさらに含むステップにおいて、第1の金属イオンを含むナノ粒子が第2の金属イオンの溶液と組み合わされ、たとえばカルシウムイオンを含むナノ粒子がマグネシウムイオンの溶液と組み合わされることなどによって、少なくとも一部分の第1の金属イオンが移動し、それらが第2の金属イオンの一部分によって置換される。
【0095】
さらなる実施形態において、本発明のナノ粒子は、たとえば荷電医薬品など、生物学的目的の荷電有機分子を配位してもよい。グルロン酸コアは典型的に負に荷電しているため、容易に金属イオンを配位する。たとえば正に荷電した有機分子などの荷電有機分子の配位に対しても、同じイオン相互作用が好適であろう。塩の形態の多くの医薬品が荷電しており、したがって本発明のナノ粒子における配位のために好適である。こうした分子が金属イオンの代わりに用いられるか、または金属イオンと同様に用いられてもよい。
【0096】
加えて、荷電種に対する結合の強度は、第1の成分のG含有量に依存して調整され得る。より高いG含有量は、より強い結合をもたらす傾向がある。したがって、荷電種の生理的放出が重要であるときは、放出を促進するために第1の成分のG含有量が低減され得る。
【0097】
さらなる実施形態において、ジブロックポリマーおよびナノ粒子は、たとえば抗体、リガンドなどの生物学的ターゲティング化合物を有するようにさらに機能化されてもよい。この機能化は、ナノ粒子形成の前または後に行われてもよい。これらの生物学的ターゲティング分子自体が興味深い薬物を有してもよい。たとえば、本発明のジブロックポリマーに結合される抗体に放射性核種が配位され得る。
【0098】
一実施形態において、ナノ粒子の形成中にその一部となるジブロックポリマーに、たとえばペプチドなどの生物学的ターゲティング化合物を取り込むことによって、これらの生物学的ターゲティング化合物を含むナノ粒子を形成し得ることが考えられる。代替的には、関連する生物学的ターゲティング部分が、ナノ粒子の形成中にその一部となるGブロックポリマーと組み合わされてもよい。たとえば、本明細書において定義されるGブロックおよびペプチドを含むジブロックポリマーが、たとえばGn-b-デキストランを含むものなどの本発明のジブロックポリマーと組み合わされて、ナノ粒子が形成される際にそれに取り込まれ得る。
【0099】
よって、たとえばGn-b-デキストランなどの本発明のジブロックポリマーにGn-b-ペプチドを加えることによって、ペプチドリガンドを含有するナノ粒子を調製し得る。この方法における比率を用いて、ナノ粒子中の生体分子の濃度を調整し得る。
【0100】
本発明者らは以下においてペプチドを用いてこの概念を例示するが、任意の好適な生体分子が用いられて、Gブロックに結合され得る。たとえば、ターゲティングリガンドがグルロン酸オリゴマーと組み合わされ得る。その例は、Gブロックを有するアジドへの結合のためにクリックケミストリーリンカーによって活性化され得る葉酸を含む。
【0101】
他の生体分子は、抗体、抗体フラグメント、ナノボディ、アフィボディ、ペプチド(たとえばボンベシン、オクトレオチド、またはRGDなど)、ペプチド模倣薬、アプタマー(核酸)、小分子(たとえばチロシン受容体阻害剤など)、ヒアルロン酸、および受容体または疾患組織を表す細胞中で過剰発現される細胞表面分子を標的とするその他のリガンドを含む。
【0102】
Gブロックに結合された生物学的部分を本発明のジブロックポリマーと組み合わせて、存在金属イオンにおいて形成されるナノ粒子の一部として自発的に取り込ませ得ることが考えられる。
【0103】
別の態様から見ると、本発明はナノ粒子の調製のための方法を提供し、この方法は、
(I)たとえば酸または塩基の存在下でアルギン酸を加水分解してグルロン酸オリゴマーを形成することなどによって、グルロン酸オリゴマーを得ること、
(II)前記グルロン酸オリゴマーを、前記グルロン酸オリゴマーと反応するように適合された連結基を有する第2のポリマーと反応させて、ジブロックポリマーを形成すること
を含むか、
または、
(I)たとえば酸または塩基の存在下でアルギン酸を加水分解してグルロン酸オリゴマーを形成することなどによって、グルロン酸オリゴマーを得ること、
(II)前記グルロン酸オリゴマーを、前記グルロン酸オリゴマーおよび第2のポリマーと反応するように適合された連結基と反応させること、
(III)連結基を有する前記グルロン酸オリゴマーを第2のポリマーと反応させて、ジブロックポリマーを形成すること、
もしくは、
(I)たとえば酸または塩基の存在下でアルギン酸を加水分解してグルロン酸オリゴマーを形成することなどによって、グルロン酸オリゴマーを得て、前記オリゴマーを官能基によって活性化すること、
(II)前記グルロン酸オリゴマーを、グルロン酸オリゴマーの官能基と反応する官能基を有するように適合された第2のポリマーと反応させて、ジブロックポリマーを形成すること、
を含み、
かつ、その後に、
前記ジブロックポリマーを、たとえば金属イオン、プロトン、または荷電有機化合物などの第1の陽イオンと接触させて、ナノ粒子を形成すること、
前記ナノ粒子を、たとえば前のステップで用いられたものとは異なる金属イオンなどの第2の陽イオンと接触させて、前記第2の陽イオンが前記ナノ粒子中の前記第1の陽イオンを少なくとも部分的に置換するようにさせることを含む。
【0104】
別の態様から見ると、本発明はナノ粒子の調製のための方法を提供し、この方法は、
(I)たとえば酸または塩基の存在下でアルギン酸を加水分解してグルロン酸オリゴマーを形成することなどによって、グルロン酸オリゴマーを得ること、
(II)前記グルロン酸オリゴマーを、前記グルロン酸オリゴマーと反応するように適合された連結基を有する第2のポリマーと反応させて、ジブロックポリマーを形成すること
を含むか、
または、
(I)たとえば酸または塩基の存在下でアルギン酸を加水分解してグルロン酸オリゴマーを形成することなどによって、グルロン酸オリゴマーを得ること、
(II)前記グルロン酸オリゴマーを、前記グルロン酸オリゴマーおよび第2のポリマーと反応するように適合された連結基と反応させること、
(III)連結基を有する前記グルロン酸オリゴマーを第2のポリマーと反応させて、ジブロックポリマーを形成すること
もしくは、
(I)たとえば酸または塩基の存在下でアルギン酸を加水分解してグルロン酸オリゴマーを形成することなどによって、グルロン酸オリゴマーを得て、前記オリゴマーを官能基によって活性化すること、
(II)前記グルロン酸オリゴマーを、グルロン酸オリゴマーの官能基と反応する官能基を有するように適合された第2のポリマーと反応させて、ジブロックポリマーを形成すること
を含み、
かつ、その後に、
前記ジブロックポリマーを、ペプチドに連結されたグルロン酸オリゴマーを含むジブロックポリマーの存在下で、たとえば金属イオン、プロトン、または荷電有機化合物などの陽イオンと接触させて、ナノ粒子を形成することを含む。
【実施例
【0105】
テスト方法:
SEC-MALS
多角度光散乱(MALS:Multiangle Light Scattering)によるサイズ排除クロマトグラフ(SEC:Size Exclusion Chromatograph)によって、ブロックポリマー(Gn-b-GnおよびGn-b-Dexm)の分子量および固有粘度を分析した。サンプルを移動相(0.15M NaNO3および10mM EDTA)に溶解し、注入の前に濾過した(0.45μm)。同じ手順を用いて標準物質を調製した。アジレント・テクノロジー(Agilent Technologies)1260 IsoPumpおよび1260 HiPデガッサを用いて、分析中に0.5ml/分の流れを維持した。アジエル・テクノロジー・バイアルサンプラ(Agiel Technologies Vialsampler)により、サンプル(0.7~1ml)を注入した(注入体積当たり50~100μL)。TKSゲル(Gel)カラム4000および2500を直列に接続した。ワイアット・テクノロジー(Wyatt Technology)のDAWN Heleos-IIおよびViscoStar II検出器をShodex屈折率検出器(RI-5011)と直列に接続した。データの収集および処理のためにAstra7.3.0ソフトウェアを用いた。
【0106】
グルロン酸オリゴマーの調製
広範に加水分解された高グルロン酸アルギン酸から、酸沈殿によってさまざまなDPnを有するオリゴマーを得ることによって、異なる分子量および重合度を有するグルロン酸オリゴマー(Gオリゴマー)を調製した。DPnはNMRによって決定した。
【0107】
以下のグルロン酸オリゴマーを調製した。
DP21、FG0.90(ここでDPnは平均重合度であり、FGはグルロン酸であるモノマーの画分、すなわちグルロン酸のmol%である)。
DP4。サンプルのFGは>0.9であった。
DP10。サンプルのFGは>0.9であった。
DP11。サンプルのFGは>0.9であった。
DP12。サンプルのFGは>0.9であった。
【0108】
次いで、グルロン酸オリゴマーを活性化してコンジュゲートを形成するか、または活性化したデキストラン成分と組み合わせてジブロックポリマーを形成した。
【0109】
アジピン酸ジヒドラジド(ADH)、O,O’-1,3-プロパンジイルビスヒドロキシルアミン二塩酸塩(PDHA:O,O’-1,3-propanediylbishydroxylamine dihydrochloride)、および2-メチルピリジンボラン錯体(α-ピコリンボラン-PB)は、シグマアルドリッチ(Sigma-Aldrich)より購入した。
【0110】
グルロン酸コンジュゲートの調製 - 一般的プロトコル
調製の目的のために、オリゴマーを最終オリゴマー濃度が10~20mMとなるようにNaAc緩衝液(500mM、pH4)に溶解し、反応物に10当量のPDHA/ADHを加えた。24h後、室温にてPB(3~20当量)を反応物に加えた。反応物を撹拌しながら24~120h放置した。その後、反応混合物を(DPn<7のときは100~500Da MWCO、DPn≧7のときは3.5kDa MWCOによって)最初に50mM NaClに対して透析し、次いでMQ水に対して透析した。半調製用(semi-preparative)SECによって過剰なリンカーを除去した後に、サンプルを透析および凍結乾燥した。図2は行われた反応を示す。これらのコンジュゲートは、第2のポリマーと組み合わされ得る。
【0111】
グルロン酸ジブロックの比較用の調製
グルロン酸を最終濃度20mMとなるように500mMのNa-Ac緩衝液(500mM、pH4)に溶解した。0.5当量および6~20当量のPBを加えた。ADHに対して24h、PDHAに対して120hの反応時間を用いた。反応混合物をGFC、透析、および凍結乾燥によって精製した。グルロン酸ジブロックは、カルシウムイオンに露出されたときに、沈殿を形成した。
【0112】
グルロン酸-リンカー-デキストランブロックコポリマーの本発明の調製 - 一般的プロトコル
デキストランを10当量のPDHAによって活性化して精製した。グルロン酸(2~3当量)およびデキストラン-PDHAをNaAc緩衝液に溶解し、24h後にPBを加え(3~10当量)、反応物を磁気撹拌しながら120h放置した。その後、反応混合物を透析および凍結乾燥した後に、半調製用GFC、透析、および凍結乾燥によって精製した。
【0113】
G-リンカー-デキストランの粒子形成
n-リンカー-Dexm(n=12およびm=100)(5~10mg/ml)を1mlの10mM NaClに溶解して濾過した(0.22μm)。24h後に、20mM CaCl2および10mM NaCl(1~1.5L)に対してサンプルを透析した(Float-A-Lyzer100~500Da)。
【0114】
Dexm-b-Gnブロックコポリマー(SECによる精製後)および出発材料(GnおよびDexm-リンカー)のSEC MALS分析によるMn、Mw、およびDPnが表1に提示されている。
【0115】
【表1】
【0116】
概念を実証するために、上記と同じプロトコルに従ってさらなるジブロックポリマーを調製して、NMRを用いて分析した。NMRの割り当てをより容易にするために、より短鎖のデキストランおよびグルロン酸オリゴマーを用いた。図3は、500mM AcOHd4 pD4中のG3およびPDHA-Dex10(1:1)による平衡反応混合物のDex10-PDHA-G3に対するNMRスペクトルである(600MHz)。コンジュゲートの(E)/(Z)-オキシムによる共鳴に注釈を付けている。コンジュゲートされたG3=b-Dexmの構造が含まれる(=還元されていないオキシムを示す)。比較のために、精製Dex10-PDHAの1H-NMRスペクトルが含まれる。
【0117】
結論として、DP100デキストラン鎖およびDP10デキストラン鎖によって実証されたとおり、オリゴグルロン酸とPDHA活性化デキストラン鎖とのコンジュゲーションは、より長鎖およびより短鎖に対して効率的である。
【0118】
溶液中のブロックコポリマーの自己集合
溶液中のG40-リンカー-Dex100ジブロックポリマーを、透析によってポリマー溶液に導入されたCaCl2(20mM)と組み合わせた。平衡外の凝集体の形成を最小限にするために、100~500Daのカットオフを有する膜を用いた。10日後に定常状態に到達した。約25nmの直径を有するナノ粒子の集団は、デキストランブロックによって安定化されたアルギン酸ベースのコアヒドロゲルからなるミセル構造に対応する。コアシェル形態学の仮説は、G40ブロックが単独では類似の条件下で沈殿するという事実によってサポートされる。したがって、ジブロック構造はGベースのコアとデキストランコロナとの厳密な相分離を可能にした。
【0119】
溶液中のブロックコポリマーの自己集合
同様にして、G11-b-Dex100を調製した。G11-b-Dex100は、類似の条件下で著しく異なる挙動を有した。すなわち、このブロックコポリマーはCaによって溶液中でより大きいナノ粒子を形成する傾向があった(1000nm以上)。熱力学的観点から、これはGブロックがより短いために、デキストランコロナの形成に関連するエントロピーの損失が、Gブロックのゲル化によるエンタルピーの十分な利得によって補償されないことを意味し得る。したがって、自己集合特性を有するように2つのブロックの長さの比率を注意深く考慮する必要がある。
【0120】
さらなるジブロックポリマー
オリゴウロン酸とPDHAとの反応性が高いことは、ジブロックオリゴ糖または多糖を得るためのPDHA活性化オリゴ糖との反応が類似の結果を伴って進行するであろうことを暗示する。このことを、β-1,3-グルカン-PDHA(DP9)による動力学的調査においてテストした。
【0121】
加えて、対称なブロックの調製について、Gn-PDHAによる反応も調査した。G3との結合の前に、すべてのコンジュゲート(オキシム)をピコリンボラン(PB:picoline borane)によって完全に還元した。これらのPDHA活性化オリゴ糖は、幅広く異なる化学的性質を表す(表3)。デキストランは、α-1,6結合によって鎖の柔軟性が高い中性鎖である。アミロース(α-1,4結合グルカン)およびβ-1,3-グルカンは、どちらも半剛性の中性鎖であり、高次構造を形成する能力を有する。それらは集合的に、ほぼあらゆるタイプのジブロック多糖に向かうこのアプローチの多用途性を示す。
【0122】
最初に、反応物間の1:1のモル比を用いて、オリゴグルロン酸(Gn)とのコンジュゲーションを調査した。すべてのPDHA活性化オリゴ糖に対する結果を表2aにまとめている。それ以外の収率は40~60%の範囲であった。還元および精製を伴うジブロック多糖の調製を以下にさらに詳述する。
【0123】
【表2A】
【0124】
表2のデータは、さらなるオキシム還元前の反応動力学(一次速度定数)および平衡収率を得るための、反応物間の1:1のモル比を用いた初期実験に関する。
【0125】
その後、本発明者らは、反応物の一方または他方がモル過剰となるモル比を用いて、オリゴグルロン酸(Gn)を活性化ブロックにコンジュゲートした。一般的に、反応物のうちの1つがモル過剰で使用されると収率が改善されることが見出される。特に、ジブロックの調製および精製のための方法は、Gブロックに対してモル過剰の活性化ブロックを用いてもよい。
【0126】
たとえば、オリゴグルロン酸(7mM)を3倍モル過剰のPDHA-デキストランと反応させて、還元および透析するとき、収率が顕著に改善される。実際に、本発明者らの調査では、本質的に100%の結合を得るために、3:1または1:3のモル比と、その後の還元ステップとの組み合わせが必要であることが示唆された。(PDHA-デキストランに対して)3当量のオリゴグルロン酸が用いられるとき、SECによって未反応オリゴグルロン酸からジブロックを分離できた。(オリゴグルロン酸に対して)3当量のPDHA-デキストランによって、最良の結果および最も単純な手順が得られ、ここでジブロックはエタノールで選択的に沈殿させることができ、一方で未反応PDHA-デキストランは溶液中に残り、標準的な方法(蒸発/透析/凍結乾燥)によって再利用された。
【0127】
【表2B】
【0128】
精製
結合の後、ゲル濾過クロマトグラフィ(GFC:gel filtration chromatography)または酸による(過剰に添加された)未反応Gnの選択的沈殿のいずれかによって、ジブロックを精製し得る。過剰Gnの沈殿をさらに促進するために、塩または冷却が用いられ得る。なお、ジブロックが可溶性のままであるような条件が選択されるべきである(短いデキストランを有するジブロックは、より高いDPnを有するものに比べてより容易に沈殿する)。
【0129】
過剰なPDHA-デキストランによって結合が行われるとき、NaClを最終濃度0.2Mとなるように加えた後に、エタノールを40%(最終濃度v/v)となるように加えることによって、形成された純粋なジブロックを選択的に沈殿させ得る。上清は過剰(未反応)PDHA-デキストランを含有し、これは透析による脱塩または80%エタノールによる沈殿の後に再利用され得る)。したがって、第2の成分を過剰に使用することは、収率および精製の両方の点で好都合である。
【0130】
透析または内部ゲル化によるナノ粒子(NP)の調製:
さらなる実施形態において、透析または(CaEGTAまたはCaCO3/GDLによる)内部ゲル化によって、ナノ粒子を調製し得る。これら2つの方法は、わずかに異なる粒子サイズをもたらし、加えて異なる集合の動力学を有する。
【0131】
これらの例に対して、上述と同様の原理を用いて、G24-リンカー-Dex36ジブロックポリマーを調製した。
【0132】
内部ゲル化によるNPの調製:
22℃にて10mgのG24-PDHA-Dex36を1mlの15mM NaClに溶解し、12h振とうした。0.3mlの100mM CaEGTAを添加し、溶液を濾過した(0.22μm)。0.0166gのGDLをMQ水に溶解し、濾過して直ちにジブロックの溶液に加えた。溶液を22℃にて12h放置した。後方散乱検出(173°)を伴うZetaSizer Nano ZS(マルバーン・インスツルメンツ(Malvern Instruments)、UK)(25℃、λ=632.8)を用いた動的光散乱(DLS:dynamic light scattering)(散乱強度(キロカウント毎秒(kilo counts per second)、kcps)および強度分布)によって、一定の時間間隔で(1~2hごとに)ナノ粒子の形成をモニタした。
【0133】
透析によるNPの調製:
22℃にて10mgのG24-PDHA-Dex36を1mlの10mM NaClに溶解し、12h振とうした。溶液を濾過し(0.22μm)、透析袋に移した。1Lの20mM CaCl2および10mM NaClに対する透析を、MWCO≧3.5kDaに対して20h、0.5kDa<MWCO≦1.0kDaに対して14日間、MWCO≦0.5kDaに対して14日間続けた。後方散乱検出(173°)を伴うZetaSizer Nano ZS(マルバーン・インスツルメンツ、UK)(25℃、λ=632.8)を用いた動的光散乱(DLS)(散乱強度(キロカウント毎秒、kcps)および強度分布)によって、ナノ粒子の形成をモニタした。
【0134】
【化1】
【0135】
安定性
動的光散乱(DLS)によって、異なる溶媒条件のセットに対するナノ粒子の安定性を実証した。ナノ粒子は、GDL/EGTAの除去、(水に対する透析による)過剰なイオン、および生理的食塩の条件下(150mM NaCl、1.2mM CaCl2)で安定であることを示した。粒子は凍結乾燥可能であった(再懸濁の際には熱処理(40C、30分)のみ必要である)。結果が図6に提示される。
【0136】
酸性化を用いて、G24-b-Dex36のナノ粒子を調製した。任意の残留純Gnは低pHにて沈殿したのに対し、ジブロックポリマーは溶液中に残ってナノ粒子に対応するサイズを保持した。図7は、これを1.09までのさまざまなpH値に対する数の分布として提示されたDLS(動的光散乱)分析によって示す。
【0137】
Mg2+溶液中のナノ粒子の安定性
40-b-Dex50ジブロック(4mg/ml、V=1.0ml)を20mM CaCl2および10mM NaClに対して24h透析した(float-A-lyzer3.5~5.0kDa)。次いでそれを水に対して透析した(24h)。この方法は、このタイプのジブロックによるNPおよびいくつかの凝集体をもたらした。
【0138】
その後、サンプルを次のように段階的に増加する濃度のMgCl2を含有する溶液(20ml)に対して20~24h透析した:0.014mM、0.14mM、1.4mM、14mM、140mM、および1000mM。DLSによって、粒子サイズ分布の変化をモニタした。ICP-MSによって透析物中のCa2+およびMg2+イオンの量を決定し、そこから結合されたCa2+(XCa)およびMg2+(XMg)の画分を算出した。
【0139】
【表3】
【0140】
この結果は、結合Ca2+がMg2+イオンによって徐々に置換されるときに、ナノ粒子(nan)はインタクトなままであり、サイズが縮小する傾向があることを示す。サンプル4(14mM Mg2+、XCa=0.77)に対して、最小の粒子および最も狭いサイズ分布が得られた。それより高いMg2+濃度は、粒子の膨張をもたらした。したがって、適切な濃度のMg2+塩に対する透析によって、粒子崩壊を伴わずに強力に結合したCa2+イオンの一部を除去することができる。
【0141】
ジブロックポリマー
遊離G12をDPn100を有する精製PDHA-デキストランと反応させることによって、G12-PDHA-Dex100ジブロックを調製した。ここではPDHA-デキストランの定量的な置換を得るために、3当量のG12を選択した。SECによって、残留(未反応)G12が選択的に除去された(図5a)。ジブロックに対するSEC-MALLSデータは、遊離ブロックと比較して溶出プロファイルの明確なシフトを示した(図5b)。
【0142】
ペプチドリガンドを含有するナノ粒子
DPn=22を有する多分散Gブロックを、還元的アミノ化によって末端アジド基を含有するアミノオキシ(aminoxy)-PEG5に結合した。Gn-アミノオキシ-PEG-N3をさらに、Cuフリーのクリックケミストリーを用いてシクロオクチン(DBCO)置換GRGDSPペプチドと反応させて、Gn-アミノオキシ-PEG-ペプチドを形成した。
【0143】
SEC-MALLSによって、G25-アミノオキシ-PEG-ペプチドのモル質量7.9kDaを決定した。この調製は、ソルバーグ(Solberg)ら(2022)のカーボハイドレート・ポリマーズ(Carbohydr.Polym.)278、118840に記載されている。
【0144】
GDL/CaGEGTA法(20mM CaEGTA、3.1当量のGDL)によって、10%(w/w)のG22-アミノオキシ(aminoxy)-PEG-ペプチドおよび90%(w/w)のG40-b-Dex50を含有するナノ粒子を調製した。合計ジブロック濃度は4mg/mlであった。
【0145】
この混合物は、ごくわずかに高い流体力学値を伴って、Gn-アミノオキシ-PEG-ペプチドを有さない組成物と同様にナノ粒子を形成した。遊離鎖を沈殿させる0.5mM BaCl2の添加後のDLSによって、(ナノ粒子に取り込まれなかった)遊離鎖は検出できなかった。よって、通常のGn-b-DexmジブロックにGn-アミノオキシ(aminoxy)-PEG-ペプチドを加えることによって、ペプチドリガンドを含有するナノ粒子を調製し得る。
図1
図2
図3
図4
図5
図6
図7
【国際調査報告】