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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公表特許公報(A)
(11)【公表番号】
(43)【公表日】2024-10-02
(54)【発明の名称】ロバスト量子コンピューティング
(51)【国際特許分類】
   G06N 10/40 20220101AFI20240925BHJP
   G06N 10/20 20220101ALI20240925BHJP
【FI】
G06N10/40
G06N10/20
【審査請求】未請求
【予備審査請求】未請求
(21)【出願番号】P 2024515403
(86)(22)【出願日】2022-09-09
(85)【翻訳文提出日】2024-04-17
(86)【国際出願番号】 EP2022075178
(87)【国際公開番号】W WO2023036963
(87)【国際公開日】2023-03-16
(31)【優先権主張番号】2112879.8
(32)【優先日】2021-09-09
(33)【優先権主張国・地域又は機関】GB
(81)【指定国・地域】
【公序良俗違反の表示】
(特許庁注:以下のものは登録商標)
1.MATLAB
(71)【出願人】
【識別番号】595042184
【氏名又は名称】ユニバーシティ オブ サリー
(74)【代理人】
【識別番号】110000671
【氏名又は名称】IBC一番町弁理士法人
(72)【発明者】
【氏名】レ,グウェン
(72)【発明者】
【氏名】ジノサール,エラン
(72)【発明者】
【氏名】サイキエルト,マックス
(57)【要約】
キュービット、駆動部、キュービット間結合、及びキュービットと駆動部との結合の物理パラメータの全部又は一部に実験上の不確実性があるにもかかわらずフィデリティが大きいゲートが実現されるような駆動パルスを成形することができるロバスト最適制御技術が提供される。たとえば、複数の結合したキュービットを備える量子システムを制御する方法は、i)キュービットを複数の部分群に割り当てるステップであって、割り当てるステップは、部分群中の各非駆動キュービットがこの部分群中の駆動キュービットに結合され、かつ隣接する任意の2つの部分群が少なくとも1つの非駆動キュービットを共有しかついかなる駆動キュービットも共有しないような少なくとも1つの駆動キュービットと複数の非駆動キュービットとを部分群毎に選択するステップを備える、ステップと、ii)各駆動キュービットに駆動信号を印加して駆動キュービットで所望の量子ゲートの集合を実施するステップであって、駆動キュービットに対する駆動信号の同時の印加によって各非駆動キュービットで恒等ゲートが実施される、ステップとを備えてもよい。
【特許請求の範囲】
【請求項1】
複数の結合したキュービットを備える量子システムを制御する方法であって、
i)前記キュービットを複数の部分群に割り当てるステップであって、割り当てる前記ステップは、部分群中の各非駆動キュービットがこの部分群中の駆動キュービットに結合され、かつ隣接する任意の2つの部分群が少なくとも1つの非駆動キュービットを共有しかついかなる駆動キュービットも共有しないような少なくとも1つの駆動キュービットと複数の非駆動キュービットとを部分群毎に選択するステップを備える、ステップと、
ii)各駆動キュービットに駆動信号を印加して前記駆動キュービットで所望の量子ゲートの集合を実施するステップであって、前記駆動キュービットに対する前記駆動信号の同時の前記印加によって各非駆動キュービットで恒等ゲートが実施される、ステップと
を備える方法。
【請求項2】
一部又は全部のキュービット間結合が不変である、請求項1に記載の方法。
【請求項3】
前記キュービット間結合は前記部分群のハミルトニアンが互いに可換であるような形態を持つ、請求項1又は2に記載の方法。
【請求項4】
前記キュービット間の結合はZZ結合、又はキュービットの自由発展ハミルトニアンと可換であるあらゆる結合を含む、請求項1から3のいずれか1項に記載の方法。
【請求項5】
前記複数のキュービットは1D配列、2D配列又は3D配列として配置される、請求項1から4のいずれか1項に記載の方法。
【請求項6】
ステップi)及びii)を繰り返して所望の量子ゲートのさらに別の集合を実施するステップをさらに備える請求項1から5のいずれか1項に記載の方法。
【請求項7】
ステップi)を繰り返すことは異なる駆動キュービットを選択するステップを備える、請求項6に記載の方法。
【請求項8】
ステップii)の、先に行なわれる反復から得られる前記駆動信号が、ステップii)の、後に行なわれる反復から得られる前記駆動信号が印加されるまで、印加され続ける、請求項6又は7に記載の方法。
【請求項9】
所望の量子ゲートの前記集合はアダマールゲート、π/8ゲート、前記恒等ゲート及びCNOTゲートを含む、請求項1から8のいずれか1項に記載の方法。
【請求項10】
所望の量子ゲートの前記集合は少なくとも1つの2キュービットゲートを備えることができる、請求項1から9のいずれか1項に記載の方法。
【請求項11】
前記駆動信号は、
前記量子システムの表現を生成するステップと、
前記量子システムの、1つ以上のパラメータの不確実性の範囲を反映する領域を定めるステップと、
前記領域内の所定の箇所について、計算されたフィデリティを前記表現を用いて最大化するのに用いられる初期駆動信号を特定するステップと、
同時に前記領域の境界の複数の箇所について、計算されたフィデリティをtheと前記初期駆動信号とを用いて最大化するのに用いられる最終駆動信号を特定するステップと
によって得られ、
前記最終駆動信号は前記駆動キュービットに印加される、
請求項1から10のいずれか1項に記載の方法。
【請求項12】
前記量子システムの前記表現はテンソルネットワーク表現である、請求項11に記載の方法。
【請求項13】
前記最終駆動信号を前記駆動キュービットに印加する前に、
前記領域内の1つ以上のさらに別の箇所の前記最終駆動信号の前記フィデリティを計算するステップと、
前記計算されたフィデリティから前記領域にわたる前記フィデリティの分布を決定するステップと
をさらに備える請求項11又は12に記載の方法。
【請求項14】
前記初期駆動信号を特定する前記ステップは勾配上昇/降下法を利用するステップを備える、請求項11から13のいずれか1項に記載の方法。
【請求項15】
前記最終駆動信号を特定する前記ステップは前記初期駆動信号を起点とする勾配上昇/降下法を利用するステップを備える、請求項11から14のいずれか1項に記載の方法。
【請求項16】
iii)前記キュービットの少なくとも1つの状態を測定するステップ
をさらに備える請求項1から15のいずれか1項に記載の方法。
【請求項17】
前記キュービットは超伝導キュービットである、請求項1から16のいずれか1項に記載の方法。
【請求項18】
前記キュービットはトランズモンキュービット又は磁束キュービットである、請求項17に記載の方法。
【請求項19】
複数のキュービットを備える量子システムに印加される駆動信号を得る方法であって、
前記量子システムの表現を生成するステップと、
前記量子システムの、1つ以上のパラメータの不確実性の範囲を反映する領域を定めるステップと、
前記領域内の所定の箇所について、計算されたフィデリティを前記表現を用いて最大化するのに用いられる初期駆動信号を特定するステップと、
同時に前記領域の境界の複数の箇所について、計算されたフィデリティを前記表現と前記初期駆動信号とを用いて最大化するのに用いられる最終駆動信号を特定するステップと
を備え、
前記最終駆動信号は1つ以上のキュービットに印加される、
方法。
【請求項20】
コンピュータ実行可能指示を備えるコンピュータプログラムプロダクトであって、前記指示がコンピュータによって実行されるとき、前記コンピュータに請求項1から19のいずれか1項に記載の方法を実行させる、コンピュータプログラムプロダクト。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本開示は量子コンピューティングに関し、特に、複数のキュービット間に固定結合が存在する量子コンピューティングシステムに関する。このような量子コンピューティングシステムに量子ゲートを適用するための制御技術が提供される。
【背景技術】
【0002】
量子コンピューティングは、従来のバイナリコンピューティングシステムから一段階上の根本的変化を表わすものである。特に、物理系における量子状態の重ね合せを利用することによって、従来のコンピューティングシステムと比較して処理能力を大幅に向上させる機会が得られる。一方で、このような量子状態を制御するためには、システムのきわめて精密な管理と、その変化する自由度の高精度の制御とが必須であり、今日までの研究によって量子コンピューティング能力を大まかには示すことはできていたが、小型化可能でありかつ商業的に成立するシステムを提供することは依然として困難である。
【0003】
多くの量子コンピューティングシステムの基本単位は量子ビットすなわちキュービットであり、キュービットは2つの別個の情報が載った状態にあることができるが、古典的なコンピューティングビットとは異なり、それらの状態の重ね合せになることもできる。量子回路とは、量子コンピューティングシステムのキュービットにシーケンシャルな演算(すなわち「ゲート」)の集合を適用する例として概念化され、量子回路はキュービットに記憶される情報の状態を変える。最終的には、これは測定可能な結果を得る目的で行なわれる。この種の量子ゲートをキュービットに個別に適用することができるし、この種の量子ゲートはキュービットの集合に同時に適用される2つの(又は2つを超える)キュービットゲートであってもよい。ゲートの実行は通常、制御信号(すなわち駆動信号)を用いて行なわれ、制御信号はフィデリティの大きい(すなわち、エラーレートの小さい)ゲートを実現するのに必要である。通常、記憶された情報が失われるまでの時間は僅かしかないので、ゲートは高速である必要もある。
【0004】
複数キュービット系では、キュービット間になんらかの結合要素が存在し、これは、エネルギー交換と量子状態の修正とを引き起こす可能性のある相互作用である。たとえば、元々備わっている相互誘導、スピン間の交換や、原子間の双極子間相互作用などの元々備わっている相互作用がこのような結合を引き起こす場合がある。さらに、多くの量子コンピューティングシステムでは、いくつかの量子ゲートの適用を容易にするために、意図的な結合が行なわれる(その一部は複数のキュービットに同時に適用され、当該キュービットの量子状態間のもつれを利用する)。多くの場合、キュービット間の相互作用を適切に制御することができるように可変結合を行なうようにシステムが設計される。
【0005】
しかし、可変結合は複雑であるため、量子コンピューティングシステムの作製及び配線のコストが増加する。これはシステムの規模を拡大してより多数のキュービットを組み込む際に特に深刻であり、このことは、可変結合の要件がこのようなデバイスの規模拡大にともなう技術的困難の一因になる可能性があることを意味する。近未来の中程度のアルゴリズムであっても実行するには数千のキュービットが必要になることが予測されているため、規模変更の管理を行なうことがきわめて困難になる。作製のばらつきと材料の拡散過程とに起因するキュービットとキュービット間結合との物理パラメータに関連する不確実性が存在するので、システムの制御及び評価(ハードウェア検証)上の困難がさらに生じる。すべてのキュービットの正確な評価と較正とがきわめて困難であり、実施上、ある程度の不確実性が存在する可能性が高く、フィデリティの大きいゲートを得るためには、すべての制御プロセスがこの不確実性に対して十分にロバストである必要がある。
【発明の概要】
【0006】
本開示の第1の態様に係れば、複数の結合したキュービットを備える量子システムを制御する方法であって、
i)キュービットを複数の部分群に割り当てるステップであって、割り当てるステップは、部分群中の各非駆動キュービットがこの部分群中の駆動キュービットに結合され、かつ隣接する任意の2つの部分群が少なくとも1つの非駆動キュービットを共有しかついかなる駆動キュービットも共有しないような、各部分群中の少なくとも1つの駆動キュービットと複数の非駆動キュービットとを選択するステップを備える、ステップと、
ii)各非駆動キュービットで恒等ゲートを同時に実施しつつ、各駆動キュービットに駆動信号を印加して所望の量子ゲートの集合を実施するステップと
を備える方法が提供される。
【0007】
キュービット間結合により非駆動キュービットの状態が時間の経過とともに発展する。このような場合であっても、各部分群中の駆動キュービットに駆動信号を選択的に印加することによってこのような非駆動キュービットに恒等ゲートを適用することができる。作製や材料の不整合、環境条件などから生じるシステムの特性の僅かな変動に対してロバストな駆動プロセスを生み出してもよい。部分群を割り当てる前述の手法を通じて、非駆動キュービットの状態を不変にしておいて、駆動キュービットに所望のゲートを適用することを可能にするロバスト駆動信号を開発することができる。
【0008】
特に、キュービット、駆動部、キュービット間結合及びキュービットと駆動部との結合の物理パラメータの全部又は一部に実験上の不確実性があるにもかかわらず、フィデリティが大きいゲートが実現されるような駆動パルスを成形するロバスト最適制御を提供してもよい。したがって、特定のレベルの不確実性に対して、よりロバストな結果を達成することができる。これにより、所望のフィデリティを実現するために使用前及び使用中に量子システムの較正及び特性評価を行なうことを逃れたりその必要があまりないようにしたりすることができ、これにより、価値のある計算を実行することができる速度が大幅に上昇する。システムの規模が拡大するほど、この種の利益が大きくなる。いくつかの例では、不確実性を持つパラメータの領域の極点で計算されたゲートフィデリティの集合の最小値又は平均値を最大化するように駆動信号が最適化される。
【0009】
キュービット間結合を利用することによって非駆動キュービットの状態を維持するのに駆動信号が効果的であるので、この目的のためにキュービット間に可変結合を設ける必要はない。特に、必要な場合に駆動信号によって恒等ゲートが能動的に適用されるので、量子状態の発展を妨げるためにキュービットの結合を解放することは必須ではない。したがって、いくつかの実施形態では、キュービットの一部又は全部の間の結合が不変である。このような場合であっても、必要な場合には一部又は全部の結合に可変結合を用いてもよい。
【0010】
説明されている仕方でキュービットを割り当てることにより、系のハミルトニアンを僅か数個のキュービットの可換ブロック(部分群)に分解することができる場合がある。各ブロックのヒルベルト空間の次元を低次元にすることができ、各ブロックの不確実性を持つパラメータを少数にすることができるので、そのユニタリ発展をロバスト最適制御アルゴリズムを用いて効率的に最適化することができる。すなわち、キュービット間結合が、部分群のハミルトニアンが互いに可換であるような形態を持ってもよい。この結果、駆動部と、キュービットと駆動部との相互作用とを含む系全体のハミルトニアンを可換部分群ハミルトニアンの和として表現することができる。
【0011】
キュービットを互いに容量結合してもよい。これは、他の形態の結合への付加物であってもその代替物であってもよい。いくつかの実施形態では、キュービット間の結合はZZ結合、又はキュービットの自由発展ハミルトニアンと可換であるあらゆる結合を含む。これはロバスト駆動信号の開発に有益であると言える。
【0012】
一般化して言えば、複数のキュービットは任意の次元特性すなわち接続特性を持つネットワークの物理的形状を持ってもよい。一例では、複数のキュービットはキュービットの2D配列であってもよいし、その他一切の次元のキュービットの配列であってもよい。複数のキュービットは、たとえば、頂点にキュービットがある六角形(ハニカム)配列であっても正方形配列であってもよい。他の例では、配列は1D配列であってもよい。
【0013】
通常、量子回路には一連のキュービットの集合に複数のゲートを適用することが含まれる。本方法は、ステップi)及びii)を繰り返して所望の量子ゲートのさらに別の集合を実施するステップを備えてもよい。これは、これらのステップを繰り返して後続のゲートを適用するときに駆動キュービット及び非駆動キュービットとして同じキュービットが用いられる場合であるとは限らない。たとえば、ステップi)を繰り返すことは異なる駆動キュービットを選択するステップを備えてもよい。
【0014】
駆動信号を中断することなく印加してもよい。たとえば、ステップi)及びii)が繰り返される場合、ステップii)の、先に行なわれる反復から得られる駆動信号が、後に行なわれる反復から得られる駆動信号がしかるべき形態で印加されるまで、印加され続ける。駆動信号の印加の合間にギャップがある場合、ギャップを実施上可能な限り最小にしてもよい。これにより、キュービットの量子状態の意図しない発展を避けることができる。
【0015】
所望の量子ゲートの集合はアダマールゲート、π/8ゲート、恒等ゲート及びCNOTゲートの少なくとも1つを含んでもよい。これの代わりに又はこれに加えて、所望の量子ゲートはZゲート(たとえば、パウリZゲートやパラメトリックZゲート)及び/又はXゲート及び/又はYゲートを備えてもよい。他の量子ゲートも集合又は所望の量子ゲートに含まれてもよい。これらのゲートとこれらの組合せとを用いて広範囲の量子回路を同時に製造することができる。多くの実施形態では、所望の量子ゲートの集合は最後の1つの2キュービットゲートで備えるが、これはすべての実施形態で必須ではない。
【0016】
本方法は、キュービットのうちの少なくとも1つの状態を測定するステップをさらに備えてもよい。このようにして、系から出力を得ることができる。
【0017】
いくつかの例では、駆動キュービットに適用される駆動信号は、量子システムの表現を生成するステップと、量子システムの、1つ以上のパラメータの不確実性の範囲を反映する領域を定めるステップと、領域内の所定の箇所について、計算されたフィデリティを表現を用いて最大化するのに用いられる初期駆動信号を特定するステップと、同時に領域の境界の複数の箇所について、計算されたフィデリティを表現と初期駆動信号とを用いて最大化するのに用いられる最終駆動信号を特定するステップとによって得られ、最終駆動信号は1つ以上のキュービットに印加される。
【0018】
駆動信号を得る本方法はまさに新規そのものであり、したがって、本開示のさらに別の独立した態様に係れば、複数のキュービットを備える量子システムに印加される駆動信号を得る方法であって、量子システムの表現を生成するステップと、量子システムの、1つ以上のパラメータの不確実性の範囲によって定められる領域を定めるステップと、領域内の所定の箇所について、計算されたフィデリティを表現を用いて最大化するのに用いられる初期駆動信号を特定するステップと、同時に領域の境界の複数の箇所について、計算されたフィデリティを表現と初期駆動信号とを用いて最大化するのに用いられる最終駆動信号を特定するステップとを備え、最終駆動信号は1つ以上のキュービットに印加される、方法が提供される。
【0019】
量子システムの表現はテンソルネットワーク表現であってもよい。このことが一部の複雑な系では有効であることが分かっているが、一部の実施形態では、量子システムの別の表現を本方法の目的に用いてもよい。
【0020】
この手法により、未知であったり時間の経過とともに予測不可能に変化したりする量子システムのパラメータの変動に対して量子操作のフィデリティをロバストにすることができる。まず、パラメータ不確実性の領域に関する箇所に基づいて初期駆動信号を特定(たとえば、この領域の中心箇所で特定)し、その後、当該初期駆動信号を用いて最終駆動信号を得ることにより、このプロセスで領域にわたって十分なフィデリティを確保するのを容易にすることができる。この点に関して、不確実性又はパラメータの範囲と、これを反映する領域とをユーザが定めたり選択したりしてもよい。
【0021】
上記とは別に、本方法は、領域内の1つ以上のさらに別の箇所の最終駆動信号を用いてフィデリティを計算するステップと、計算されたフィデリティから領域にわたるフィデリティの分布を決定するステップとをさらに備える。
【0022】
これにより、駆動信号のロバスト性をたとえば、駆動信号を印加する前に確認することを可能にしてもよい。このようにして、量子システムの観測された結果や挙動をより深く理解することができ、これが正確である可能性が高いことがより完全に理解される。
【0023】
初期駆動信号を特定するステップは勾配上昇/降下法を利用するステップを備えてもよい。このような手法により、特定のパラメータの集合が与えられた場合に最適な制御信号を特定することができる。
【0024】
いくつかの例では、最終駆動信号を特定するステップは初期駆動信号を起点とする勾配上昇/降下法を利用するステップを備える。パラメータの不確実性の領域内で最適化された駆動信号を起点とするこのような方法を用いることにより、最終駆動信号によって当該領域にわたって良好なフィデリティも得られる可能性が高くなる。
【0025】
キュービットは超伝導キュービットであってもよく、たとえば、トランズモンキュービットであってもよい。
【0026】
さらに別の態様に係れば、1つ以上のプロセッサによって実行されるとき、1つ以上のプロセッサに上記の態様の方法を実行させるコンピュータ実行可能指示を備えるコンピュータプログラムプロダクトを提供することができる。当該方法を実行するように構成される1つ以上のプロセッサを備える実現例も提供してもよい。
【図面の簡単な説明】
【0027】
以下の添付の図面を参照して本開示の実施形態を説明する。
図1a】キュービットの配列と外部駆動部とを備える量子システムを示す。
図1b図1aの量子システムに適用することができる量子回路を示す。
図2a】キュービットのハニカム配列中の4キュービット部分群を示す。
図2b】2つの駆動キュービットを含む、キュービットのハニカム配列中の6キュービット部分群を示す。
図2c】周囲にある非駆動キュービットに結合されている中央の1つ以上の駆動キュービットを含む一般化された部分群配置を示す。
図3図2aの4キュービット部分群の駆動キュービットにアダマールゲートを適用するのに用いられる導出された最適なパルス形状を示す。
図4】複数のキュービットを備える量子システムに駆動信号を印加するプロセスを示す図である。
図5】不確実性を持つパラメータに依存する量子操作のフィデリティの例を示す。
図6】量子システムのテンソルネットワーク表現を示す図である。
図7】(a)単一キュービット演算子及び(b)2キュービット演算子を、演算子の対応するテンソルを縮約することによってテンソルネットワーク状態に適用する様子を示す。
図8】最適制御アルゴリズムを得るためのプロセスのフロー図である。
【発明を実施するための形態】
【0028】
図1aを参照して、図中、左側には第1の期間/ステップ(時刻tから時刻t)の量子システム100が示されており、右側には第2の期間/ステップ(時刻tから時刻t)の量子システム100が示されている。量子システムは結合したキュービット110の配列と、量子コンピューティングシステムの一部を形成する外部駆動部120とを備える。駆動部120を用いることで、制御/駆動信号を配列中の駆動キュービットに印加することによってキュービット配列上の量子ゲートの集合が実施される。図1aの例では、Hはアダマールゲートを表わし、CXは2キュービットCNOTゲートを表わし、Sは位相ゲートを表わし、Iは恒等ゲート(identity gate)を表わし、X,Y,Zは単一キュービットのパウリゲートを表わす。情報を持つ少なくとも2つの異なる量子状態になることができる物理的発現状態を通じて各キュービットを実現することができる。たとえば、各キュービットはトランズモンキュービットなどの超伝導キュービットであってもよい。量子システム100は結合したキュービット110と、キュービット110に印加される電気信号を提供する外部駆動部120とを物理的に実施したものである。
【0029】
外部駆動部120によって駆動信号を各キュービットに個別に印加することができる状態で、各キュービットの量子状態の発展が結合期間にわたってその隣のキュービットによって影響される。図示されているシステムでは、キュービット間結合は不変であり、当該結合に影響を及ぼすことを目的として、分離した制御ラインは設けられない。これにより、システムの作製の複雑さが軽減されるとともに、影響の較正及び抑制がなされないという当該作製に由来するリスクが軽減される。
【0030】
簡単にするために、キュービット間でZZ結合を仮定しているが、以下の説明はキュービットの自由発展ハミルトニアンと可換であるあらゆる結合に当てはまる。トランズモン間の、キャビティとの共通の相互作用を通じた有効なZZ結合は実験上既に示されており、最近では磁束可変結合器を介して示されていることに留意する。相互作用するスピン系の量子シミュレーションに用いられる超伝導キュービット間のクロスカー効果を利用してZZ結合を実現する提案もなされている。これに加えて、ZZカップリングは、精巧なパルス成形を利用することができる核磁気共鳴量子コンピュータにおいて元々備わっている相互作用である。
【0031】
説明された方法に係れば、各期間(すなわち、各時間ステップ)において、所定の部分群から選択されたキュービットが駆動され、当該部分群の残りのキュービットが受動的なままである。図1aでは、駆動キュービットがグレーで描かれているものであり、非駆動キュービットがグレーで描かれていないものである。駆動キュービットの部分配列は、配列のハミルトニアンを可換の数個キュービットブロックに分解することができ、かつハミルトニアンのすべてのパラメータの不確実性に対して量子ゲートがロバストであるように一連の基準を満たす。駆動キュービット上のゲートを各駆動信号によって実施することができ、これをキュービット間の固定結合と組み合せることで、近隣の非駆動キュービットに恒等ゲートも同時に実施される。次のステップでは、キュービットの異なる集合上のゲートを実施するために異なる部分配列が駆動される。図1a)において、隣接する2つのキュービット上のCXはCNOTゲートを表わし、Iは恒等ゲートを表わす。
【0032】
各ブロック(キュービットの部分群)のヒルベルト空間の次元は低次元であり、各ブロックの不確実性を持つパラメータは少数であるので、そのユニタリ発展をロバスト最適制御アルゴリズムを用いて効率的に最適化することができる。この分解は、キュービット間結合項が計算基底で対角になっており(たとえばZZ相互作用)かつ図1aに示されているように、対象の量子ゲートに基づいて選択されるキュービットの部分配列のみが駆動される場合に存在する。
【0033】
駆動される部分配列の選択は、すべてのキュービット間結合の不確実性に対してゲートをロバストにするために、いずれの非駆動キュービットも少なくとも1つの駆動キュービットに結合されなければならないという要件も満たさなければならない。
【0034】
図1bは、図1aに示されている量子システムに量子回路を適用する例を示す。本回路は、システムのキュービットに適用される一連の量子ゲートを備える。各時間ステップの駆動キュービットには様々な所望の量子ゲートが適用される一方で、非駆動キュービットには、後述されているように、非駆動キュービットが駆動キュービットに結合されることを通じて恒等ゲートが適用される。したがって、各キュービット(異なる時間ステップで駆動される場合と駆動されない場合がある)について、ゲート間のあらゆるアイドル間隔がアクティブな恒等ゲートで埋められ、結合による発展が妨げられる。したがって、キュービットの状態を維持するために結合を完全に阻止することは必須ではない。
【0035】
図1bは時間ステップ201,202,203,204で適用されるゲートと、測定値の位相205とを示している。時間ステップにわたる4つの横線は4つのキュービットを表わし、駆動される時間ステップ中のキュービットはグレーで描かれていないものであり、キュービットが駆動されない時間ステップにあるキュービットはグレーで描かれているものである。Iは恒等ゲートを表わし、Hはアダマールゲートを表わし、CXはCNOTゲートを表わし、ZはパウリZゲートを表わす。特定の時間ステップの、すべての非駆動キュービットに恒等ゲートIが適用されることが分かる。これは、当該時間ステップの駆動キュービットへの結合によって実現される。
【0036】
図4はキュービットの配列を備える量子システムに量子操作を適用するプロセスを示すフロー図を示す。まず、ステップ410で、配列全体に含まれるキュービットを部分群に割り当て、その際、部分群中の各非駆動キュービットが当該部分群中の駆動キュービットに結合されるように割り当て、隣接する任意の2つの部分群が少なくとも1つの非駆動キュービットを共有しかついかなる駆動キュービットも共有しないような部分群に割り当てる。その後、駆動キュービットで所望の量子ゲートの集合を実施するために、駆動キュービットに駆動信号を印加する。非駆動キュービットに駆動信号が印加されない状態で、図1a及び図1bに示されているように、駆動キュービットに適用される駆動信号が、非駆動キュービットに恒等ゲートを適用するのにも有効であるように当該非駆動キュービットと駆動キュービットとの結合を利用する。
【0037】
上記で概略的に説明されている原理をさらに理解するために、固定最近隣縦相互作用、すなわち、bareキュービットのハミルトニアンと可換である相互作用によって結合されるキュービットの系を考える。簡単にするために、ZZインタラクションを選択する。理解の一助とするためにこの例を選択したが、本出願で説明されている技術を実施するのに別の系及び結合も用いてもよい。説明されている例では、キュービットの部分集合が外部場によって駆動される場合、系のハミルトニアンは、
【0038】
【数1】
【0039】
であり、ここで、νはj番目のキュービットの駆動に関する周波数であり、
【0040】
【数2】
【0041】
及び
【0042】
【数3】
【0043】
は場の2つの直交成分であり、dはj番目のキュービットの双極子行列要素であり、Lは駆動部分集合である。通常、キュービットの遷移エネルギーωは相互作用Jjkよりもはるかに大きいので、
【0044】
【数4】
【0045】
は非駆動ハミルトニアンの基底状態であり、冷却によって初期化することができる。
【0046】
ユニタリ変換
【0047】
【数5】
【0048】
で記述されるキュービットの周波数で回転する枠組みにおいて、回転波近似の場合のハミルトニアンは、
【0049】
【数6】
【0050】
であり、ここで、
【0051】
【数7】
【0052】
である。
ここで、
【0053】
【数8】
【0054】
はラビ周波数であり、
【0055】
【数9】
【0056】
は共鳴からのずれである。H(t)のような多体ハミルトニアンのユニタリ発展の計算は、ハミルトニアンを数個キュービットブロックを可換にする和、すなわちH(t)=Σ(t)(すべてのH(t)が互いに可換である)に分解すことができない限り、波動関数の指数関数部分が複雑であるので、一般に困難である。時間幅Tの後のユニタリ発展はU(T)=Π(T)になり、ここで、
【0057】
【数10】
【0058】
であり、τは時間順序演算子である。U(T)には数キュービットしか関与しないので、効率的に計算することができる。U(T)因数も互いに可換であり、別々のキュービットブロックに適用される並列量子ゲートとして見ることができる。
【0059】
本出願で説明されている技術を用いることにより、H(t)を数個キュービット可換ブロックに分解することができる駆動パターンを導出することができる。駆動パターンにより、最適な制御を用いて、キュービット間結合と、駆動部とキュービットとの結合との不確実性に対して最終的なユニタリをロバストにすることも可能になる場合がある。
【0060】
たとえば、最近隣ZZ結合と、図2aのグレーで描かれていないキュービットの部分配列のみが駆動される交互パターンとを持つキュービットの大きい任意の規模のハニカム格子を考えることができる。したがって、
【0061】
【数11】
【0062】
であり、ここで、Lは駆動部分配列であり、
【0063】
【数12】
【0064】
であり、ここで、NBはキュービットjの3つの最近隣キュービットの集合である。構築ブロックHの各々には4つのキュービットが関与し、ブロックは互いに可換である。これについては、図2aのハミルトニアンをグラフで表現することによってより分かり易く見ることができる。グラフ中の各リンクはZZ結合項を表わし、グレーで描かれていない頂点は単一キュービット駆動項を表わし、グレーで描かれている頂点は非駆動キュービットを表わし、したがって、H(t)にはなにも加算されない。すべてのZZ項は互いに可換であり、駆動頂点は当該駆動頂点に接続されている3つのリンクのみと可換ではない。これは、σ及びσがσと可換でないからである。したがって、合計ハミルトニアンを、図2aの破線の丸で囲まれている可換4キュービットブロックの和として表わすことができる。各ブロックの中心には駆動キュービットが1つだけある。近隣の2つのブロックの交差部分にあるキュービットは駆動されず、可換性が維持される。以下でより詳細に説明されているように、ブロック内に永続的なZZ相互作用があるにもかかわらず、非駆動キュービットの状態を変更することなく、駆動キュービット上でロバストな単一キュービットゲートを実施することが可能である。
【0065】
可変結合器を有する従来のデバイスでは、2キュービットもつれゲートが必要な場合にのみ、隣接するキュービット間の相互作用を働かせることができる。これとは対照的な添付の図に示されている実施形態では、ZZ結合が常に働いており、一般化して言えば、ZZ結合によってすべてのキュービットを常時もつれさせる。その一方で、説明されている技術を用いることによって、この場合でも、2つの目標キュービット間の特定の2キュービットもつれゲート、たとえばCNOTゲートを、両方の目標キュービットを駆動することによって実施することが可能である(詳細は後述されている)。近隣の2つのキュービットの駆動を行なうと、同一の6キュービットブロックから中央の行が構築されている図2bのパターンが得られる。残りの格子を以前と同様に駆動することができる。この例では6キュービットブロックが提案されているが、2キュービットゲートが1つのみ適用されることに当業者であれば想到する。これは、いずれのリンク(ZZ項)も少なくとも1つの駆動キュービットに接続されなければならないというロバスト制御の条件を満たすためのものである。図2bに示されているパターンは、当該基準を満たすという結果に容易に至る近道となる。リンク
【0066】
【数13】
【0067】
がいずれの駆動キュービットにも接続されていない場合、当該リンクはハミルトニアンの他のすべての項と可換であり、ユニタリ発展全体に対する寄与は因子
【0068】
【数14】
【0069】
のみであり、これ以上の制御がない場合、Jjkの不確実性に対してロバストにすることはできない。
【0070】
境界上の非駆動キュービットが駆動キュービットの中心の部分集合に接続されているスターグラフ(図2cを参照)の場合に、
【0071】
【数15】
【0072】
というタイプの演算を実現することが可能であるという重要な数値的発見に関して、本出願で説明されている手法の有益なロバスト性を理解することができる。ここで、Uは駆動部分集合に作用するユニタリであり、Iは境界にある非駆動部分集合に作用する単位行列である。このことは、ゲートUが駆動部分集合に適用される一方で、残りが影響を受けないことを意味する。境界上の当該キュービットがゲートの際にZZ相互作用によって作用を受けることが明らかであるが、適正なパルス形状を選択することによって、中心の駆動項とZZコネクタとの複合効果を用いてパルスの端で境界(すなわち非駆動キュービット)に恒等性が確実に適用されることが分かる。したがって、ZZ相互作用はストロボスコピックに効果的に除去される。駆動部分集合が1つのキュービット(2つのキュービット)を含む場合、Uは単一キュービット(2キュービット)ゲートである。さらに、グラフのハミルトニアンの、すべてのZZ結合J、駆動部とキュービットとのすべてのラビ結合
【0073】
【数16】
【0074】
及びすべての共鳴からのずれδに著しい不確実性があるにもかかわらず、フィデリティの大きい
【0075】
【数17】
【0076】
を実現することができる。図2aから図2cの4キュービットブロック及び6キュービットブロックがそれぞれ、中心に1つの駆動キュービット及び2つの駆動キュービットを持つスターグラフである。配列上での量子計算の実現例が図1に示されており、図1では、駆動している部分配列を所定のステップから次のステップにシフトして、適正なキュービットに目標量子ゲートを適用する。特定のステップでキュービットに適用される他のゲートがない場合は、アクティブな恒等ゲートを適用してこのキュービットの状態が変化しないように維持する。
【0077】
ロバスト最適制御では、パルス幅Tを、間隔Δtである時間ビンM個分に分割することができる。各時間ビンでは場の振幅が一定に保たれる。ラビ周波数の集合が制御ベクトル
【0078】
【数18】
【0079】
を形成する。ここで、
【0080】
【数19】
【0081】
は駆動部分集合である。その際、スターグラフgのユニタリ発展U(T)がcの関数である。各キュービット間結合Jjk及び共鳴からのずれδがそれぞれ不確実性間隔
【0082】
【数20】
【0083】
及び
【0084】
【数21】
【0085】
内で独立して変化することが可能になる。双極子行列要素の不確実性、又は実験毎の場の振幅の変化をもたらす駆動部の低速のドリフトによってラビ周波数の不確実性が引き起こされる可能性がある。これのモデルをH
【0086】
【数22】
【0087】
【0088】
【数23】
【0089】
に置換することによって生成することができる。ここで、αは間隔[1-Δα/2,1+Δα/2]内で変化する無次元のパラメータである。ここで、ユニタリU(T)もJjk、α及びδに依存する。キュービット間結合及び双極子行列要素を作製時点に測定したり推定したりすることができる。このことは、実質的に配列が構築された後にキュービット間結合及び双極子行列要素の値が変化する可能性があることを意味すると言える。これとは対照的に、完成した配列中のすべてのキュービットの周波数をきわめて正確な分光測定を用いて定量することが一般的に可能である。当該配列では、ZZ相互作用に起因して各キュービットの共鳴周波数がシフトするが、当該シフトをキャンセルしてbareキュービット周波数ωを得るように組み合せることができる1光子吸収測定及び2光子吸収測定の手順を探索することができる。したがって、駆動場が共鳴状態に調整され(
【0090】
【数24】
【0091】
)、残りの不確実性が平均キュービット間相互作用よりもはるかに小さい(
【0092】
【数25】
【0093】
)と考えることができる。共鳴からのずれの不確実性が上記のように小さいことは、きわめて正確な分光測定とキュービットの優れた周波数安定性とによりキュービットのほとんどの物理的実現例において容易に実現可能である。
【0094】
上記のような不確実性を持つパラメータの集合をνと表記すると、ロバスト最適制御問題を最小値最大化最適化問題(max-min optimization problem)として定義することができる。最適制御によってνにわたって最小フィデリティが最大化される。
【0095】
【数26】
【0096】
ここで、
【0097】
【数27】
【0098】
はνの可能な値を含む超立方体であり、F(c,ν)はトレース距離に基づくフィデリティである。
【0099】
【数28】
【0100】
ここで、Dは、gのヒルベルト空間の次元であり、Iは境界上の非駆動キュービットの部分集合の単位行列であり、Uは中心の駆動部分集合に適用されることが望ましい目標ユニタリである。数値計算では、
【0101】
【数29】
【0102】
中のサンプリング箇所の集合νを選択し、この集合中の最小フィデリティを探索する。不確実性のすべてが5%未満であり、F(c,ν)が99%を超える場合、νにわたるその最小値は常に
【0103】
【数30】
【0104】
の極点の1つ、すなわち、超立方体の角の1つにあることが分かる。したがって、
【0105】
【数31】
【0106】
を定義し直すことができる。ここで、xは
【0107】
【数32】
【0108】
の極点の慎重な集合である。これにより、F(c,ν)を計算しなければならないサンプリング箇所の数が大幅に減少する。n個の不確実性を持つパラメータの超立方体に
【0109】
【数33】
【0110】
個の極点が存在する。たとえば、図2bの6キュービットブロックには不確実性を持つ9個のパラメータ(5つのJ、2つのα及び2つのδ)があるので、任意のcに対してF(c,ν)の
【0111】
【数34】
【0112】
個の値を計算する必要がある。
【0113】
本開示では、最大12個のキュービットと不確実性を持つ複数のパラメータとを含む系を扱うことができ、勾配を用いるロバスト最適制御に用いられる数値計算が提供される。cのランダムな初期推測を起点として、勾配(1次的増分(first order increment))を用いてステップδcを特定して
【0114】
【数35】
【0115】
.δcを最大化することができ、これにより、すべてのνに対してF(c,ν)が増加する。このようにして、νにわたる最小フィデリティである
【0116】
【数36】
【0117】
を1にきわめて近い値まで増加させることができる。これにより、超立方体
【0118】
【数37】
【0119】
の極点におけるすべてのフィデリティが確実に増大する。この最適化問題は逐次線形化(sequential convex programming:SCP)によって解決することができる。この目的のために、MatlabのYALMIPツールボックスとSPDT3パッケージとを用いた。
【0120】
【数38】
【0121】
.δcが正であるようなステップが見つかった場合は上限u0を1.15だけ増加させ、見つからなかった場合は上限を2だけ減少させる。数値テストで最速の収束が得られるように当該係数を選択した。最大反復回数に達するか、ステップの上限が微小な許容値未満まで降下するかするまでこの手順を繰り返すことができる。
【0122】
実際には、勾配上昇法を用いて平均フィデリティ
【0123】
【数39】
【0124】
を最大化することによって
【0125】
【数40】
【0126】
を上昇させることもできることが分かる。これは場合によってはすべてのνについてF(c,ν)を増加させることを試すよりも高速に機能する。n番目の時間ビンについて、時間ステップが小さい場合に正確な中点法(mid-point rule)によって時間発展を計算する(
【0127】
【数41】
【0128】
)。行列のべき乗はスパース行列と、単純で効率的な2次式から計算される勾配とを用いることによって高速化される。本開示で説明されている2つのアプローチ(すなわち、不確実性を持つパラメータの領域の極点で計算されたゲートフィデリティの集合の最小値の最大化か、平均フィデリティの最大化)のうち、前者のアルゴリズムの方が制御パラメータの初期推測の影響をより受け易いことが分かっている。
【0129】
図2aの4キュービットブロックの場合、
【0130】
【数42】
【0131】
を実現するための最適なパルスが導出される。ここで、Uはアダマールゲート及びπ/8ゲートである。図2bの6キュービットブロックの場合、UはCNOTゲートになる。これらの3つのゲートにより、いずれの複数キュービットユニタリも任意の精度で近似することができるユニバーサルセットが形成され、配列上でユニバーサル量子コンピューティングが可能になる。固定結合以外を含まない系の場合、相互作用が永続的であるにもかかわらずブロック中のキュービットがすべて変化しないように維持する恒等ゲートを実施することも必要である。
【0132】
表1は、様々な不確実性レベルにあるユニバーサルセット及び恒等ゲートに対して得られたロバストなフィデリティを示す。ゲート時間幅がM=100個の時間ビンに分割される。1%の不確実性の場合、フィデリティは単一キュービットゲートでは99.999%を超え、2キュービットゲートでは99.98%を超える。不確実性が5%程度である場合でも、単一キュービットゲートで99.999%のフィデリティがやはり実現され、2キュービットゲートで99.94%を超えるフィデリティが実現される。初期推測の回数を増やしたり、制約を緩和したり、制御変数の数を増やしたりすることによって上記を改善することができる。図3には不確実性が1%であるアダマールゲートの最適なパルス形状の例が示されている。この形状は、ロバスト性を実現するように設計されている。すなわち、部分群及び制御の物理パラメータが著しい不確実性を持つにもかかわらず、ゲートのフィデリティが大きくなる。図示されている手法では
【0133】
【数43】
【0134】
であるが、時間幅のこの特定の値は必須ではない。Tが10%だけ変更される場合、同程度のオーダーのフィデリティが実現される。ロバスト最適制御の有効性を理解するために、表1には非ロバスト最適制御で計算されたフィデリティも示されており、これを計算するには、まずすべての不確実性を無視し、すべてのjに対して
【0135】
【数44】
【0136】
、α=1かつδ=0である理想的な例についてフィデリティを最適化した後、得られた最適な制御cidealを用いて超立方体の最小フィデリティ
【0137】
【数45】
【0138】
を計算する。結果は表1の括弧内に示されている。不確実性が著しく大きい場合(1%及び5%)、ロバスト最適化によりフィデリティが99%~99.9%向上する。
【0139】
【表1】
【0140】
以下、配列の読出しを説明する。計算の終了時に駆動部がオフになり、系はバックグラウンドのハミルトニアン
【0141】
【数46】
【0142】
にしたがって発展する。最終的な波動関数を計算基底
【0143】
【数47】
【0144】
で展開することができる。Hはσ項のみからなるので、
【0145】
【数48】
【0146】
はHの固有状態であり、Hの影響下で発展するときに係数
【0147】
【数49】
【0148】
の別の位相しかもたらされない。したがって、因数分解に用いられるショアのアルゴリズムや線形システムを解くためのHHSアルゴリズムの場合のように、計算の解が最終的な波動関数のビット列に符号化される場合、別の位相によって結果は変わらない。したがって、駆動部がオフになった後に計算基底への射影測定を随時実行することができる。読み出されたフィデリティが十分に大きい場合、同じ射影測定を用いて2個の計算基底ベクトルの集合でランダムな状態の系を用意することもできる。測定結果からこの状態が正確に分かり、これを計算の開始点として用いることができる。
【0149】
図5図8を参照して、量子システムに対する印加に用いられる制御/駆動信号を得るための別の技術を説明する。当該技術は複数キュービット量子状態のテンソルネットワーク表現に基づいており、図1から図4で説明されている方法、又は任意の形式のキュービット間相互作用を持つ複数のキュービットを含む別の量子システムに当該技術を適用することができる。
【0150】
上述されているように、複雑な量子デバイスでは、すべてのキュービットの物理パラメータを正確に評価することは実施不能/不可能であり、この結果、系のモデルに関するなんらかの不確実性が生じる。当該パラメータは材料の拡散過程により実験毎に変化する。このような不確実性によってフィデリティが大幅に低下し、高いフィデリティを実現する場合の正確な評価が困難になり、複雑な現場較正スキームを頻繁に実行する必要がある。この影響は不確実性を持つパラメータの数が増加するのにともない急激に悪化する。したがって、デバイスの物理パラメータの不確実性に対してロバストな量子操作の方法を備えることが重要である。
【0151】
このような不確実性に対して制御信号自体が確実にロバストであることで、特有の効果を奏することが可能である。本開示では、テンソルネットワーク、すなわち、多体力学をシミュレートするための効率的な形式主義に基づく複数キュービットデバイスのためのロバスト最適制御方法/アルゴリズムが提供される。後述されているように、本方法を、量子コンピューティングや量子計測の用途に用いられるキュービットの大規模システムに適用することができる。
【0152】
ロバスト最適制御は量子システムにおける不確実性/不均一性の影響に対抗するための有望な技術である。外部駆動部の振幅及び位相の最適な形状を設計することによって、キュービットと駆動部との両方に著しい不確実性がある場合でも、正確な量子操作を実現することができる。フィデリティは、最終的な操作が目標の操作にどの程度近いかの尺度であり、多変数制御ベクトルcによって示される外部駆動部の振幅、位相及び時間幅の関数であることが明らかである。フィデリティはキュービットの物理パラメータ(νと表記)にも依存し、この物理パラメータとcとがいくつかの変数を共有してもよい。νの実験上の不確実性により、フィデリティF(c,ν)が大幅に変動する場合がある(図5の例を参照)。本図は不確実性を持つパラメータJに依存する量子操作のフィデリティの例を示している。標準パルス(本例ではガウシアン(左面の破線))を用いることで、不確実性がない場合(ΔJ=0(右面))の理論上のフィデリティできわめて高い量子操作を実施することができる。一方で、このフィデリティはJの影響をきわめて受け易く、ΔJとともに急速に低下する。初期パルスを最適なパルス(左面の実線)に変形するのにロバスト最適制御アルゴリズムを用い、不確実性を持つ変数のフィデリティを平坦にし(右面)、全範囲で十分に大きいフィデリティを維持する。
【0153】
不確実性を持つ領域にあるνのすべての値に対してF(c,ν)を最適化する制御に最適なパルスを求め、νの値が正確に分からない場合でもフィデリティが確実に高くなる。数学的にはこれは最小値最大化最適化問題と言われており、
【0154】
【数50】
【0155】
を最大化するcを探索する。ここで、Rは、νの、すべての可能な値を含む不確実性を持つ領域である。
【0156】
量子プロセスがnキュービットゲートの場合、
【0157】
【数51】
【0158】
である。ここで、nはキュービットの数であり、Uは実際のユニタリ発展であり、U’は目標のユニタリ発展である。状態の用意について、フィデリティは終状態
【0159】
【数52】
【0160】
と目標状態
【0161】
【数53】
【0162】
との重ね合せ
【0163】
【数54】
【0164】
にすぎない。
【0165】
例として、キュービットの部分集合が外部制御によって駆動される、多数のキュービットの相互作用系のモデルを考える。系のハミルトニアンは、
【0166】
【数55】
【0167】
である。ここで、Δは、j番目のキュービットの共鳴からのずれであり、Vjkはキュービット間の相互作用であり、Sは駆動キュービットの部分集合であり、Ωx,yはxチャネル及びyチャネルの駆動部のラビ振幅であり、σx,y,zはパウリ行列である。ここで、ラビ振幅は制御変数であり、通常、M個の時間ステップがある区分関数(piecewise function)によって近似され、各間隔で一定のままである。制御ベクトルcは集合
【0168】
【数56】
【0169】
であり、パラメータベクトルνはΔ、Vjk及び
【0170】
【数57】
【0171】
を含むH(t)の、すべての物理パラメータの集合である。この相互作用モデルは超伝導キュービットとスピンキュービットとを含む複数キュービット固体デバイスに適用可能である。
【0172】
フィデリティFを計算するには、まず終状態を得るために複数キュービット系のユニタリ発展をシミュレートする必要がある。最大16個のキュービットを有する小規模な系の場合、これを、スパースハミルトニアンのクリロフ部分空間反復に基づく正確なべき乗で簡単に実行することができる。ただし、相互作用するn個のキュービットの波動関数
【0173】
【数58】
【0174】
を記述するのに2個の複素数が必要である。したがって、必要なメモリ量及び時間が指数関数的に増大し、nが大きいときわめて高価になる。
【0175】
テンソルネットワーク(tensor network:TN)の利点は、キュービットの数に応じた時間及びメモリの多項式的な規模の変化、すなわち効率の大幅な向上にある。TNは、各キュービットにテンソル(図6aのグレーで描かれている丸)が割り当てられた波動関数の表現であり、本記載では量子状態はテンソルの数学的ネットワークによって表現されている。図6aの丸の各足はテンソルのインデックスを表わし、したがって、足の数がテンソルの次元、すなわちランクである。オープンな足(open leg)はキュービットの物理インデックスを表わす。すなわち、オープンな足は0又は1のみであることが可能である。接続されている足は仮想インデックスと呼ばれ、任意のサイズ(Dと表記)を持つことができる。このサイズは文献ではボンド次元と呼ばれている。計算基底の係数は
【0176】
【数59】
【0177】
によってテンソルに関連づけられる。ここで、Tはj番目のキュービットのテンソルであり、上付き文字はオープンインデックス(open index)である。本開示における「縮約」は、ネットワーク中で接続されているすべてのインデックスの縮約を意味する。最も単純な例では、テンソルのランクが2であり、すなわち、テンソルは行列であり、テンソル縮約は行列の積まで下落して単純になる。テンソルネットワークの保存には2nD個の複素数のみが必要である。ここで、rは仮想インデックスの数であり、Dはボンド次元である。状態用意プロセスのフィデリティを、図6bのように、実際の状態のテンソルから構築されたネットワークを目標状態のものとともに縮約することによって効率的に計算することができる。
【0178】
nキュービットユニタリゲートもテンソルネットワークによって表現することができ、一般化して言えば、任意のこのようなゲートを計算基底で
【0179】
【数60】
【0180】
として展開することができる。2nランクのテンソル
【0181】
【数61】
【0182】
をテンソルネットワーク、たとえば図6dの1Dネットワークで表現することができる。ユニタリゲートのフィデリティを、図6eに示されているように、ゲートのテンソルから構築されたネットワークを目標ゲートのものとともに縮約することによって計算することができる。図6b及び図6eの1Dテンソルネットワークの場合、ネットワークの縮約には
【0183】
【数62】
【0184】
のコストがかかる。
【0185】
図6をまとめると、本図は以下を示している。a)4キュービットの系の状態に対する1次元(1D)テンソルネットワーク。グレーで描かれている丸で表現されているテンソルの足の数はそのインデックスの数又はランクである。オープンな足は、0又は1であることが可能である物理キュービットインデックスを表現している。接続されている足は仮想インデックスであり、任意のサイズを持つことができる。接続されているインデックスを縮約して計算基底での状態の係数を得る。b)状態用意フィデリティ
【0186】
【数63】
【0187】
を計算するためのテンソルネットワーク縮約の図。c)16個のキュービットの状態の2Dテンソルネットワーク。d)4つのキュービットのユニタリゲートの1Dテンソルネットワーク。状態の物理インデックスと比較して、ゲートのテンソルネットワークには2倍の数の物理インデックスがある。e)ゲートフィデリティ
【0188】
【数64】
【0189】
を計算するためのテンソルネットワーク縮約の図。e)16個のキュービットのゲートの2Dテンソルネットワーク。
【0190】
実際の状態又はユニタリを得るには、パルスを印加する際の系の時間発展をシミュレートする必要がある。これを時間発展ブロックデシメーションアルゴリズム(time evolving block decimation algorithm:TEBD)を用いて実行することができる。微小時間ステップdtについて、系全体のユニタリ発展e-iH(t)dtは、鈴木=トロッター公式や同等のものによって、1つキュービットユニタリ演算子の積、2つキュービットユニタリ演算子の積又は多数のキュービットユニタリ演算子の積に展開される。この時間ステップ中の系の時間発展は、図7に示されているように、これらのユニタリ演算子を状態のテンソルネットワーク、すなわちユニタリゲートに縮約することによって得られる。本図は、演算子U(グレーで描かれている四角)の対応するテンソルを目標のキュービット(グレーで描かれてない丸)のテンソルに縮約することによって、(a)単一キュービット演算子と(b)2キュービット演算子とがテンソルネットワーク状態に適用されることを示している。
【0191】
フィデリティを最大化するのに最適な制御アルゴリズム、たとえば制御変数を
【0192】
【数65】
【0193】
によって更新する勾配上昇法を用いる。ここで、
【0194】
【数66】
【0195】
は制御変数に対する勾配であり、λはステップサイズである。複数キュービット系の場合、勾配を時間ステップ内で1次式又は2次式によって近似することができ、その後、図6c及び図6eのように、一連の1つのキュービット演算子、2つのキュービット演算子又は多数のキュービット演算子でフィデリティのテンソルネットワークを挟むことによって効率的に計算することができる。このような近似式は時間ステップが十分に小さい場合に十分に機能する。
【0196】
不確実性を持つパラメータνの変動に対するフィデリティをロバストにするために、図8に示されているプロセスを用いることができる。まず、ステップ810で、量子システムのテンソルネットワーク表現などの表現を取得する。続いて、ステップ820で、系のパラメータの不確実性を反映する領域Rを定める。その後、以下の3ステップの手順を用いて、望ましいフィデリティを持つ駆動信号を特定することができる。
【0197】
1)ステップ830で、ν=νでフィデリティを最適化する(νは不確実性を持つ領域Rの中心である)。すなわち、
【0198】
【数67】
【0199】
であるような制御(初期駆動信号)cを探索する。関数F(c,ν)はνで極大値を持ち、Rが十分に小さい場合にはF(c,ν)がRでほぼ凹関数であることを示すことができる。したがって、RにおけるF(c,ν)の最小値はRの極点にほぼある。
【0200】
2)次に、ステップ840で、制御の初期値としてcを用いて、最適化プロセスの終了時にRの領域全体でフィデリティが大きくなるように、Rの極点、又はRの表面上若しくは当該表面の近傍の箇所の集合でフィデリティを最適化する。本ステップの最後の制御(すなわち、最終駆動信号)cを提示する。
【0201】
3)上記とは別に(図8に示されていない例)、Rにおけるフィデリティ関数F(c,ν)の分布をサンプリングすることによってRの全体でフィデリティが実際に大きいことを確認する。これを、Rにおいてランダムに均一に生成された箇所でフィデリティを計算することによって行なう。この分布からフィデリティの平均値、標準偏差及び最悪の場合の値を推定する。
【0202】
これらの段階の後、1つ以上の最終駆動信号を系のキュービットに印加する。これを図1から図4について考えると、たとえば、これらの最終駆動信号を特に駆動キュービットに適用することになる。
【0203】
上述されているタイプの最適制御アルゴリズムの利点を、以下で詳細に説明されているいくつかの例を参照することで理解することができる。
【0204】
可変結合器を有する量子コンピュータでは、キュービット間の相互作用を働かせることと、働きを止めることとを行なうことができるが、通常、近くのキュービットとの有限の範囲の一定の残留相互作用が存在する。したがって、単一キュービットゲート又は2キュービットゲートを正確にシミュレートするには、力学に近隣の多数のキュービットを含める必要がある。パルス発生器の許容バンド幅内で、複数キュービットユニタリを実施するための比較的滑らかなパルスを設計するのに最適な制御アルゴリズムを用いることができる。特に興味深いのは、残差相互作用と結合されるキュービットのクラスタで量子ゲートのユニバーサルセット、すなわち、任意の複数キュービットユニタリを近似することができる集合を実現することである。このユニバーサルセットはアダマールゲート、π/8ゲート及びCNOTゲートを含む。相互作用するキュービットのクラスタではゲートに関与しないキュービットが変化しないように維持しなければならないことに留意する。たとえば、単一キュービットアダマールゲートが実際には
【0205】
【数68】
【0206】
という形態の複数キュービットゲートである。ここで、Iは恒等演算子である。このようなゲートでは生じるエンタングルメントが小さいので、ボンド次元Dが十分に小さいテンソルネットワークを用いてこのようなゲートをシミュレートすることができる。
【0207】
本出願で説明されている手法は、各モジュール内のキュービット間の相互作用が一定である、すなわち、経時変化がないモジュール式量子コンピュータアーキテクチャにも適用可能である。固体量子コンピュータでは、可変結合器には通常、より多くの回路要素が含まれ、相互作用の大きさを調整するのに独自の外部制御が必要であるので、製造及び配線のコストが発生する。現実世界の問題を解決するとなると、量子コンピュータに数百万のキュービットが必要になる場合があり、可変結合器が複雑になるので、デバイスの規模を拡大する際に技術的により困難になる。これとは対照的に、超伝導キュービット間の容量結合などの固定結合器には相互作用の大きさを制御するのに追加の構成要素が不要である結果、ハードウェアアーキテクチャが大幅に簡素化される。多くのプラットフォームでは、固定結合が、元々備わっている相互作用、たとえば、超伝導キュービット間の相互誘導やスピン間の交換から生じるので、キュービットの結合に用いられる部品が必須ではない。したがって、大規模な量子コンピュータの場合、モジュールを分離し、各モジュールが有限の数のキュービットを有し、各モジュールですべての結合が固定されることが有効である場合があり、可変結合はモジュール間でのみ必要である。本アーキテクチャでは、各モジュールで量子ゲートを最適化するのに上記の最適制御アルゴリズムがきわめて有用である。Dが十分に小さいテンソルネットワークを用いることで、束縛されたもつれが生じている複数キュービット状態が適切に近似される。これは、ギャップのあるハミルトニアンの基底状態やGHZ状態など、量子シミュレーション及び量子計測で注目されている多くの状態に当てはまる。特に興味深い適用例は、もつれたGHZ状態、スピンN00N状態を用意するための外部駆動部の最適なパルス形状を探索するものである。これら2つの状態は、どちらも外部場の超高感度測定を可能にするので、量子計測の中核である。多数のキュービットからなる複雑な系では、誤差の原因が多数あり、状態用意プロセスのフィデリティが小さいことが避けられない。ロバスト最適制御はこの問題の解決手段であり、測定誤差(分散)の最適な1/nオーダーのハイゼンベルグ限界を実現するのに有用である。ここで、nはキュービットの数である。ハイゼンベルグ限界は1/nの古典的なショットノイズ限界よりも大幅に改善されたものであり、測定を多数回繰り返すことを実施できない状況でも超高感度測定を可能にする。これはセンシング技術に革命をもたらす可能性を持つ。
【0208】
上述の技術の変形及び修正は当業者であれば明らかである。たとえば、ハニカム格子が詳細に説明されているが、同じ接続特性を持つ任意の物理的形状、たとえば、各キュービットが最近隣の3つのキュービットのみに接続される正方形格子にキュービットを配置することができる。さらに、正方形格子や一次元鎖などの他の形状に対しても可換性及びロバスト制御の条件を満たす駆動パターンが存在する。同様に、上述の手法は、可変結合が存在しないことを前提としているが、可変結合が設けられる手法や、固定結合器のクラスタを可変結合器で接続し、必要な可変結合器の数をこの場合も抑えておきつつ制御を容易にするハイブリッドアーキテクチャが設けられる手法にも当業者は想到することができる。これにより、量子の利点を実現するために量子コンピュータの規模を拡大する際の技術的困難が緩和される可能性がある。
図1a
図1b
図2a
図2b
図2c
図3
図4
図5
図6
図7
図8
【国際調査報告】