(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公表特許公報(A)
(11)【公表番号】
(43)【公表日】2024-10-02
(54)【発明の名称】バイオインク
(51)【国際特許分類】
A61L 27/20 20060101AFI20240925BHJP
A61L 27/22 20060101ALI20240925BHJP
A61L 27/26 20060101ALI20240925BHJP
A61L 27/16 20060101ALI20240925BHJP
【FI】
A61L27/20
A61L27/22
A61L27/26
A61L27/16
【審査請求】未請求
【予備審査請求】有
(21)【出願番号】P 2024516636
(86)(22)【出願日】2022-06-10
(85)【翻訳文提出日】2024-05-13
(86)【国際出願番号】 FI2022050403
(87)【国際公開番号】W WO2023041836
(87)【国際公開日】2023-03-23
(32)【優先日】2021-09-15
(33)【優先権主張国・地域又は機関】FI
(81)【指定国・地域】
【公序良俗違反の表示】
(特許庁注:以下のものは登録商標)
(71)【出願人】
【識別番号】519096781
【氏名又は名称】タンペレ・ユニバーシティー・ファウンデーション・エスアール
(74)【代理人】
【識別番号】100099759
【氏名又は名称】青木 篤
(74)【代理人】
【識別番号】100123582
【氏名又は名称】三橋 真二
(74)【代理人】
【識別番号】100117019
【氏名又は名称】渡辺 陽一
(74)【代理人】
【識別番号】100141977
【氏名又は名称】中島 勝
(74)【代理人】
【識別番号】100138210
【氏名又は名称】池田 達則
(74)【代理人】
【識別番号】100225598
【氏名又は名称】桐島 拓也
(72)【発明者】
【氏名】アンニ モロ
(72)【発明者】
【氏名】オーメン ポディヤン オーメン
【テーマコード(参考)】
4C081
【Fターム(参考)】
4C081AB01
4C081AB11
4C081AB31
4C081BA12
4C081BB07
4C081CA052
4C081CA182
4C081CD022
4C081CD042
4C081CD081
4C081CD092
4C081CD112
4C081CD172
(57)【要約】
本発明は、ヒドロゲル前駆体組成物及びヒドロゲル前駆体組成物から得られ得るバイオインク、並びにその調製法及び使用法に関する。より具体的には、本発明は、細胞を含むカテコールがグラフトされ自発的に架橋されるヒドロゲルを含有するバイオインク、並びに3Dバイオプリンティングにおけるその使用、及びその調製法に関する。
【特許請求の範囲】
【請求項1】
バイオインク用のヒドロゲル前駆体組成物であって
i.
a.少なくとも1つの第1の反応性官能基並びに
b.少なくとも1つのカテコール基及び/又はフェノール基
にコンジュゲートされたヒアルロン酸(HA)成分を含む、第1の成分と、
ii.少なくとも1つの第2の反応性官能基にコンジュゲートされたヒアルロン酸(HA)成分を含む第2の成分と、
iii.少なくとも1つのレオロジー改質剤成分と、
を含み、
前記少なくとも1つの第2の反応性官能基が、前記少なくとも1つの第1の反応性官能基と架橋を形成するように構成され、前記少なくとも1つのレオロジー改質剤成分が、1200kDa~1900kDaの分子量を有するヒアルロン酸を含み、前記少なくとも1つのレオロジー成分が、前記ヒドロゲル前駆体組成物の総重量の2~50重量%を構成することを特徴とする、ヒドロゲル前駆体組成物。
【請求項2】
i.前記少なくとも1つの第1の反応性官能基が、ヒドラジド基、ヒドラジン基、カルボヒドラジド基、アミノオキシ基、アミン基、セミカルバジド基、チオセミカルバジド基及び/又はカルバゼート基から選択され、好ましくは、前記少なくとも1つの第1の反応性官能基がカルボヒドラジド基(-CONHNH
2)であり、前記少なくとも1つの第2の反応性官能基がアルデヒド基(-CHO)であり、かつ/又は
ii.前記少なくとも1つの第1の反応性官能基がセミカルバジド又はアミノオキシであり、前記少なくとも1つの第2の反応性官能基がケトンである、請求項1に記載のヒドロゲル前駆体組成物。
【請求項3】
i.前記少なくとも1つの第1の反応性官能基及び前記少なくとも1つのカテコール基にコンジュゲートされた前記HA成分を含む第1の成分であって、前記少なくとも1つの第1の反応性基がカルボヒドラジド基(-CONHNH
2)である、第1の成分と、
ii.前記少なくとも1つの第2の反応性官能基にコンジュゲートされたHA成分を含む第2の成分であって、前記少なくとも1つの第2の反応性官能基がアルデヒド基(-CHO)である、第2の成分と、
iii.少なくとも1つのレオロジー改質剤成分と
を含む、請求項1又は2に記載のヒドロゲル前駆体組成物。
【請求項4】
前記ヒドロゲル前駆体組成物の前記レオロジー改質剤成分が、アルギン酸塩、キトサン、ナノセルロース、ポリエチレングリコール、ポロキサマー、ポリビニルアルコール、細胞外マトリックスタンパク質、アルブミン、又はそれらの混合物をさらに含む、請求項1~3のいずれか一項に記載のヒドロゲル前駆体組成物。
【請求項5】
前記ヒドロゲル前駆体組成物の前記レオロジー改質剤成分が、250~300kDaの分子量を有するコラーゲン、好ましくはI型をさらに含む、請求項1~4のいずれか一項に記載のヒドロゲル前駆体組成物。
【請求項6】
前記ヒドロゲル前駆体組成物の前記レオロジー改質剤成分が、440~530kDaの分子量を有するヒトフィブロネクチンをさらに含む、請求項1~5のいずれか一項に記載のヒドロゲル前駆体組成物。
【請求項7】
前記ヒドロゲル前駆体組成物の前記レオロジー改質剤成分が、400~900kDaの分子量を有するラミニン、好ましくはヒト又はマウス組換えラミニンをさらに含む、請求項1~6のいずれか一項に記載のヒドロゲル前駆体組成物。
【請求項8】
前記少なくとも1つの第1の反応性官能基が、リンカーL
1を介して前記第1の成分の前記HA成分にコンジュゲートされ、前記リンカーL
1が、好ましくは前記HA成分のグルクロン酸残基のカルボキシレートヒドロキシ基の置換を介して、前記HA成分のカルボキシル基にコンジュゲートされ、前記リンカーL
1が、1~10個の部分から形成され、各部分が、独立して、フェニレン(-C
6H
4-)、オキシム(-C=N-O-)、イミン(-C=N-C-)、1~12の炭素原子を含有するアルキレン(-CH
2-)、エチニジイル(-C≡C-)、エチレンジイル(-C=C-)、エーテル(-O-)、チオエーテル(-S-)、アミド(-CO-NH-、-CO-NR’-、-NH-CO-及びNR’-CO-)からなる群から選択され、R’が5未満の炭素原子を含有するアルキル基、カルボニル(-CO-)、エステル(-COO-及びOOC-)、ジスルフィド(-SS-)、スルホンアミド(-SO
2-NH-、-SO
2-NR’-)、スルホン(-SO
2-)、ホスフェート(-O-PO
2-O-)、ジアザ(-N=N-)、ジイミン(-NHNH-)、第2級アミン(-NHNH-)及び第3級アミンである、請求項1~7のいずれか一項に記載のヒドロゲル前駆体組成物。
【請求項9】
前記第1の成分が複数の第1の反応性官能基を含み、前記第1の反応性官能基、又は前記第1の反応性官能基にコンジュゲートされた前記リンカーL
1が、前記第1の成分の前記HA成分の二糖反復単位の5~20%、好ましくは9~15%、より好ましくは12~13%にコンジュゲートされる、請求項8に記載のヒドロゲル前駆体組成物。
【請求項10】
前記少なくとも1つの第1の反応性官能基がカルボヒドラジド基であり、前記リンカーL
1が-NHNH-である、請求項8又は9に記載のヒドロゲル前駆体組成物。
【請求項11】
前記少なくとも1つのフェノール基及び/又はカテコール基が、リンカーL
2を介して前記第1の成分の前記HA成分にコンジュゲートされ、前記リンカーL
2が、好ましくは前記HA成分のグルクロン酸残基のカルボキシレートヒドロキシ基の置換を介して、前記HA成分のカルボキシル基にコンジュゲートされ、前記リンカーL
2が、1~10個の部分から形成され、各部分が、独立して、フェニレン(-C
6H
4-)、オキシム(-C=N-O-)、イミン(-C=N-C-)、1~12の炭素原子を含有するアルキレン(-CH
2-)、エチニジイル(-C≡C-)、エチレンジイル(-C=C-)、エーテル(-O-)、チオエーテル(-S-)、アミド(-CO-NH-、-CO-NR’-、-NH-CO-及びNR’-CO-)からなる群から選択され、R’が5未満の炭素原子を含有するアルキル基、カルボニル(-CO-)、エステル(-COO-及びOOC-)、ジスルフィド(-SS-)、スルホンアミド(-SO
2-NH-、-SO
2-NR’-)、スルホン(-SO
2-)、ホスフェート(-O-PO
2-O-)、ジアザ(-N=N-)、ジイミン(-NHNH-)、第2級アミン(-NHNH-)及び第3級アミンを示し、好ましくは前記リンカーL
2が-NH(CH
2)
2-である、請求項1~10のいずれかに記載のヒドロゲル前駆体組成物。
【請求項12】
前記第1の成分が複数のカテコール基及び/又はフェノール基を含み、前記カテコール基及び/又はフェノール基、あるいは前記カテコール基及び/又はフェノール基にコンジュゲートされた前記リンカーL
2が、前記第1の成分の前記HA成分の二糖反復単位の1~20%、好ましくは2~10%、より好ましくは3~6%、さらにより好ましくは3.0~3.6%にコンジュゲートされる、請求項11に記載のヒドロゲル前駆体組成物。
【請求項13】
前記少なくとも1つの第2の反応性官能基が、リンカーL
3を介して前記第2の成分の前記HA成分にコンジュゲートされ、前記リンカーL
3が、好ましくは前記HA成分のグルクロン酸残基のカルボキシレートヒドロキシ基の置換によって、前記HA成分のカルボキシル基にコンジュゲートされ、前記リンカーL
3が、1~10個の部分から形成され、各部分が、独立して、フェニレン(-C
6H
4-)、オキシム(-C=N-O-)、イミン(-C=N-C-)、1~12の炭素原子を含有するアルキレン(-CH
2-)、エチニジイル(-C≡C-)、エチレンジイル(-C=C-)、エーテル(-O-)、チオエーテル(-S-)、アミド(-CO-NH-、-CO-NR’-、-NH-CO-及びNR’-CO-)からなる群から選択され、R’が5未満の炭素原子を含有するアルキル基、カルボニル(-CO-)、エステル(-COO-及びOOC-)、ジスルフィド(-SS-)、スルホンアミド(-SO
2-NH-、-SO
2-NR’-)、スルホン(-SO
2-)、ホスフェート(-O-PO
2-O-)、ジアザ(-N=N-)、ジイミン(-NHNH-)、及び第3級アミンである、請求項1~12のいずれかに記載のヒドロゲル前駆体組成物。
【請求項14】
前記第2の成分が複数の第2の反応性官能基、好ましくはアルデヒド基を含み、前記第2の反応性官能基又は前記第2の反応性官能基にコンジュゲートされた前記リンカーL
3が、前記第2の成分の前記HA成分の前記二糖反復単位の5~50%、好ましくは9~15%、より好ましくは11~13%にコンジュゲートされる、請求項13に記載のヒドロゲル前駆体組成物。
【請求項15】
前記少なくとも1つの第2の反応性官能基がアルデヒド基(-CHO)であり、前記リンカーL
3が-NHCH
2-である、請求項13又は14に記載のヒドロゲル前駆体組成物。
【請求項16】
前記第1の成分及び前記第2の成分の分子量が100~1000kDaである、請求項1~15のいずれか一項に記載のヒドロゲル前駆体組成物。
【請求項17】
前記第1の成分及び前記第2の成分の分子量が100~300kDaである、請求項1~16のいずれか一項に記載のヒドロゲル前駆体組成物。
【請求項18】
前記少なくとも1つのレオロジー改質剤成分が、
1200kDa~1900kDaの分子量のヒアルロン酸と、
250~300の分子量のコラーゲン、好ましくはI型と、
を含み、
前記少なくとも1つのレオロジー成分が、前記ヒドロゲル前駆体組成物の総重量の2~50重量%、好ましくは9~40重量%、より好ましくは11~23重量%を構成する、請求項1に記載のヒドロゲル前駆体成分。
【請求項19】
前記少なくとも1つのレオロジー改質剤成分が、好ましくはゼラチン、ラミニン、フィブロネクチン、ビトロネクチン、並びにそれらの断片及び/又は混合物から選択される1つ以上の細胞外マトリックスタンパク質を含む、請求項18に記載のヒドロゲル前駆体成分。
【請求項20】
前記少なくとも1つの第1の反応性基がカルボヒドラジドであり、前記少なくとも1つの第2の反応性基がアルデヒドである、請求項18又は19に記載のヒドロゲル前駆体成分。
【請求項21】
前記少なくとも1つの第1の反応性基がアルデヒドであり、前記少なくとも1つの第2の反応性基がカルボヒドラジドである、請求項18又は19に記載のヒドロゲル前駆体成分。
【請求項22】
前記第1の成分及び前記第2の成分の分子量が100~1000kDaである、請求項18~21のいずれか一項に記載のヒドロゲル前駆体組成物。
【請求項23】
前記第1の成分及び前記第2の成分の分子量が100~300kDaである、請求項18~21のいずれか一項に記載のヒドロゲル前駆体組成物。
【請求項24】
請求項1~23のいずれか一項に記載のヒドロゲル前駆体組成物を、細胞を含む流体と混合することによって得られ得る、バイオインク。
【請求項25】
3D印刷などの積層造形のための、請求項1~23のいずれか一項に記載のヒドロゲル前駆体組成物又は請求項24に記載のバイオインクの使用。
【請求項26】
請求項24に記載のバイオインクを3D印刷するための方法であって
a)請求項1~23のいずれか一項に記載のヒドロゲル前駆体組成物を、細胞を含む流体と混合することと、
b)前記流体中で、前記ヒドロゲル前駆体組成物の前記第1の成分と前記ヒドロゲル前駆体組成物の前記第2の成分とを架橋させることと、
c)前記バイオインクの粘度が200~2000Pa・sである場合に、前記バイオインクを3D印刷することと、
を含む、方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、バイオインク、及びバイオインクを調製し、使用する方法に関する。より具体的には、本発明は、ヒドロゲル前駆体組成物から得られ得る架橋ヒドロゲルと、細胞などの生物起源の材料とを含有するバイオインクに関する。本発明はまた、3D印刷におけるヒドロゲル又はバイオインクの使用、及びそれを3D印刷する方法に関する。
【背景技術】
【0002】
3Dバイオプリンティングは、組織及び臓器様構造の生成のための強力な技術であり、人工組織の設計に大きな可能性を提供する。バイオプリンティングは、積層造形の一形態であり、コンピュータに支援されている設計を使用して、3D生体構造が層ごとに生成される。3Dバイオプリンティングは、天然組織の複雑で不規則な形状を模倣する患者特異的構築物又はインプラントへの細胞の正確な空間的配置を可能にする。この新たな技術の可能性にもかかわらず、組織工学及び再生医療におけるそのより広範な使用を制限する技術的課題が依然として存在する。
【0003】
バイオインクは、一般に、生存細胞又は成長因子を含む単一又は複数の成分のマトリックス成分を含有する材料であり、3Dバイオプリンターに装填されて天然組織様構築物を製造する。バイオインクが3Dバイオプリンティングにおいて良好に機能するために、いくつかの要件が設定されている。バイオインクは、印刷可能であり、印刷後にその3D形状を保持する必要がある。これらの特性は、構造的安定性、生体適合性及び有効な生物学的性能と組み合わされる必要がある。現在のバイオインクは、単一のバイオインクにおいてこれらの態様の全てを最適化することができていない。
【0004】
バイオインクは、各用途のための特定の要件に応えるために様々な材料から製造され得る。小さなサイズのノズルを通して押し出され、その後、形状安定なゲルを形成する能力を有するヒドロゲル組成物は、生存細胞を組み込むことができる、バイオインクのための適切な基材と見なされる。ヒドロゲル及びバイオインクの開発には進歩があるものの、ヒドロゲル及びバイオインクへの組織接着性成分の組み込みの研究は幾分遅れている。カテコールは、ヒドロゲルの組織接着特性を増加させるために、組織工学用途において研究されており、これまでに、カテコール化学に基づく多くの組織接着性ヒドロゲルが導入されている。しかし、これらのヒドロゲルは、ほとんどが自動酸化、自己重合、又は金属配位重合のいずれかによって形成され、これらの形成経路は、細胞機能を犠牲にする可能性があり、したがって、細胞と生体適合性ではない。さらに、多くのバイオインクは、ヒドロゲル基材の構造的安定性のために光開始剤及び光架橋を必要とし、これは、バイオインクの生物学的機能性に対する重大な制限として作用し得る。
【0005】
クリックケミストリーに基づくヒドロゲルは、反応性試薬を混合した後、成分の自発的な架橋によって形成されるように構成される。こうしたヒドロゲルは、高い細胞生存率で生存細胞を封入できることが示されている。一般に、クリックケミストリー反応は、迅速、自発的、多用途で、極めて選択的であり、2つの分子物質又は成分が組み合わされた場合に高収率の製品を生じ得る。これに関して、ヒアルロン酸(HA)に基づく架橋ヒドロゲルが研究されており、これらのヒドロゲルの架橋は迅速に起こり、比較的狭いバイオファブリケーションウィンドウを生じる。例えば、Koivusalo et al.2019は、3D印刷に不適切なゲル化速度及び粘度を有するHAに基づくヒドラゾン架橋ヒドロゲルを開示している。
【0006】
組織接着特性を有するバイオインク組成物が存在するにもかかわらず、組織接着性成分の自己重合、酸化又は金属配位重合に依存しない、改善された組織接着特性を有する新規のバイオインクが依然として必要とされている。適切な架橋速度、したがって3D印刷のための最適なバイオファブリケーションウィンドウを提供する新規バイオインク組成物も必要とされている。細胞増殖及び組織分化並びにより特殊化した細胞表現型に向けた成熟を可能にする新規バイオインク組成物も必要とされている。さらに、向上した印刷適性及び構造安定性のために光開始剤及び光架橋を使用しないバイオインクが必要とされている。
【発明の概要】
【0007】
本出願は、添付の独立請求項において定義される発明、及び以下に開示されるそれらの実施形態に関する。添付の特許請求の範囲は、保護の範囲を定義する。特許請求の範囲によってカバーされない、詳細な説明又は図面に開示される任意の方法、プロセス、製品、又は装置は、特許請求される発明の実施形態ではないが、特許請求される発明を理解するために有用である例として提供される。
【0008】
本明細書では、ヒドロゲル及びバイオインクの調製において利用することができるヒドロゲル前駆体組成物について記載する。ヒドロゲル及びバイオインクは、3D及び/又は4D印刷などの積層造形において使用することができる。
【0009】
本発明者らは、驚くべきことに、特定の組成を有する架橋ヒドロゲルが、該ヒドロゲル組成物に1つ以上のレオロジー改質剤が組み込まれた場合に、積層造形及びバイオプリンティングに好適であることを見出し、以下の実施例において示した。
【0010】
第1の態様によれば、
i
a.少なくとも1つの第1の反応性官能基並びに
b.少なくとも1つのカテコール基及び/又はフェノール基
にコンジュゲートされたヒアルロン酸(HA)成分を含む、第1の成分と、
ii 少なくとも1つの第2の反応性官能基にコンジュゲートされたヒアルロン酸(HA)成分を含む第2の成分と、
iii 少なくとも1つのレオロジー改質剤成分と、
を含むヒドロゲル前駆体成分であって、
少なくとも1つの第2の反応性官能基が、少なくとも1つの第1の反応性官能基と架橋を形成するように構成される、ヒドロゲル前駆体組成物が提供される。
【0011】
第2の態様によれば、第1の態様のヒドロゲル前駆体組成物を、細胞を含む流体と混合することによって得られ得る、バイオインクが提供される。
【0012】
第3の態様によれば、3D印刷などの積層造形のための、第1の態様のヒドロゲル前駆体組成物又は第2の態様のバイオインクの使用が提供される。
【0013】
第4の態様によれば、バイオインクを3D印刷するための方法であって
a)第1の態様のヒドロゲル前駆体組成物を、細胞を含む流体と混合することと、
b)この流体中で、ヒドロゲル前駆体組成物の第1の成分とヒドロゲル前駆体組成物の第2の成分とを架橋させることと、
c)バイオインクの粘度が200~2000Pa・sである場合に、バイオインクを3D印刷することと、
を含む、方法が提供される。
【0014】
さらなる態様によれば、i)少なくとも1つの第1の反応性官能基、並びに少なくとも1つのカテコール基及び/又はフェノール基にコンジュゲートされたヒアルロン酸(HA)成分を含む第1の成分と、ii)少なくとも1つの第2の反応性官能基にコンジュゲートされたヒアルロン酸(HA)成分を含む第2の成分と、iii)1200kDa~1900kDaの分子量を有する少なくとも1つのレオロジー改質剤成分と、を含むヒドロゲル前駆体組成物であって、少なくとも1つの第2の反応性官能基が、少なくとも1つの第1の反応性官能基と架橋を形成するように構成される、ヒドロゲル前駆体組成物が提供される。さらなる態様によれば、i)少なくとも1つのカルボヒドラジド基(-CONHNH2)及び少なくとも1つのカテコール基にコンジュゲートされたHA成分を含む第1の成分と、ii)少なくとも1つのアルデヒド基(-CHO)にコンジュゲートされたHA成分を含む第2の成分と、iii)1200kDa~1900kDaの分子量を有する少なくとも1つのレオロジー改質剤成分と、を含むヒドロゲル前駆体組成物が提供される。さらなる態様によれば、i)少なくとも1つのカルボヒドラジド基(-CONHNH2)及び少なくとも1つのドーパミン基(DA)にコンジュゲートされたHA成分を含む第1の成分と、ii)少なくとも1つのアルデヒド基(-CHO)にコンジュゲートされたHA成分を含む第2の成分と、iii)1200kDa~1900kDaの分子量を有するHAを含む少なくとも1つのレオロジー改質剤成分と、を含むヒドロゲル前駆体組成物が提供される。さらなる態様によれば、i)少なくとも1つのセミカルバジド及び少なくとも1つのカテコール基にコンジュゲートされたHA成分を含む第1の成分と、ii)少なくとも1つのケトンにコンジュゲートされたHA成分を含む第2の成分と、iii)1200kDa~1900kDaの分子量を有する少なくとも1つのレオロジー改質剤成分と、を含むヒドロゲル前駆体組成物が提供される。さらなる態様によれば、i)少なくとも1つのセミカルバジド及び少なくとも1つのカテコール基にコンジュゲートされたHA成分を含む第1の成分と、ii)少なくとも1つのアルデヒドにコンジュゲートされたHA成分を含む第2の成分と、iii)1200kDa~1900kDaの分子量を有する少なくとも1つのレオロジー改質剤成分と、を含むヒドロゲル前駆体組成物が提供される。さらなる態様によれば、i)少なくとも1つのアミノオキシ及び少なくとも1つのカテコール基にコンジュゲートされたHA成分を含む第1の成分と、ii)少なくとも1つのケトンにコンジュゲートされたHA成分を含む第2の成分と、iii)1200kDa~1900kDaの分子量を有する少なくとも1つのレオロジー改質剤成分と、を含むヒドロゲル前駆体組成物が提供される。さらなる態様によれば、i)少なくとも1つのアミノオキシ及び少なくとも1つのカテコール基にコンジュゲートされたHA成分を含む第1の成分と、ii)少なくとも1つのアルデヒドにコンジュゲートされたHA成分を含む第2の成分と、iii)1200kDa~1900kDaの分子量を有する少なくとも1つのレオロジー改質剤成分と、を含むヒドロゲル前駆体組成物が提供される。さらなる態様によれば、第1の態様のヒドロゲル前駆体組成物を流体と混合することによって得られ得るヒドロゲル組成物が提供される。さらなる態様によれば、流体と混合された第1の態様のヒドロゲル前駆体組成物の成分の自発的架橋によって得られ得るヒドロゲル組成物が提供される。さらなる態様によれば、このヒドロゲル前駆体組成物が流体と混合された場合、第1の態様のヒドロゲル前駆体組成物の第1の成分及び第2の成分の自発的ヒドラゾン架橋によって得られ得るヒドロゲル組成物が提供される。さらなる態様によれば、第1の態様のヒドロゲル前駆体組成物を流体と混合することによって得られ得るヒドロゲル組成物であって、積層造形において使用可能であるヒドロゲル組成物が提供される。さらなる態様によれば、ヒドロゲル組成物を3D印刷するための方法であって、a)ヒドロゲル前駆体組成物を流体と混合することと、b)この流体中で、ヒドロゲル前駆体組成物の第1の成分とヒドロゲル前駆体組成物の第2の成分とを架橋させることと、c)ヒドロゲル組成物の粘度が200~2000Pa・sである場合に、ヒドロゲル組成物を3D印刷することと、を含む、方法が提供される。
【0015】
一実施形態において、本発明は、印刷可能なヒドロゲル組成物を得るためのヒドロゲル前駆体組成物に関する。一実施形態において、本発明は、3D印刷用ヒドロゲル組成物に関する。一実施形態において、本発明は、3Dバイオプリンティングのためのバイオインク組成物であって、細胞と混合されたヒドロゲル組成物を含むバイオインク組成物に関する。一実施形態において、本発明は、3D印刷の方法に関する。
【0016】
本発明のヒドロゲル前駆体組成物は、ヒドロゲル組成物の成分間の適切な架橋速度を可能にし、架橋ヒドロゲルが3D印刷において使用されるための適切な製造期間を可能にする点で有利である。本発明のヒドロゲル前駆体組成物は、モジュールリンカー部分及び反応性官能基のため、並びにレオロジー改質剤成分のコンシステンシーにおけるモジュール性のため、高いモジュール性を有する点で有利である。
【0017】
本発明のヒドロゲル前駆体組成物から得られ得る本発明のヒドロゲル組成物は、印刷適性及び印刷後の形状の保持において改善された性能を有する点で有利である。本発明のヒドロゲル前駆体組成物から得られ得るヒドロゲル組成物は、改善されたずり減粘特性及び粘弾性特性を有し、ヒドロゲルの3D印刷を可能にする点でさらに有利である。本発明のヒドロゲル前駆体組成物から得られ得る本発明のヒドロゲル組成物は、最適化された架橋速度を有し、ヒドロゲルを3D印刷において使用することを可能にする点で有利である。本発明のヒドロゲル組成物は、ヒドロゲル組成物の自発的な双直交架橋が制御しやすく、したがってイオン架橋又は光化学的架橋されたヒドロゲルとは異なるために、有利である。
【0018】
本発明のバイオインクは、その中に混合された細胞と高い生体適合性を有し、細胞の増殖を可能にし、より特殊化した細胞表現型及び成熟組織に細胞が分化し成熟する点で有利である。本発明のバイオインクは、移植の際に、印刷された構造が宿主組織に一体化するのを補助する組織接着性成分を含む点で有利である。本発明のバイオインクはまた、改善されたずり減粘特性及び粘弾性特性を有し、架橋速度が最適化され、印刷後の形状が保持されて、バイオインクが3D印刷において使用されることを可能にする点で有利である。本発明のバイオインクはまた、細胞にとって有害ではないヒドロゲル前駆体組成物成分の架橋反応を通して得られ得るという点で有利である。本発明のバイオインクはまた、in vivoで生分解性である成分のみを含む点で有利である。
【0019】
本発明の第1の態様のヒドロゲル前駆体組成物又は第2の態様のバイオインクの使用は、多くの用途における使用を可能にし、使用の多くの改変を可能にする点で有利である。例えば、ヒドロゲル前駆体組成物又はバイオインクは、様々な印刷機器と共に、又は広範囲の3D印刷/バイオプリンティング技術と共に使用することができる。本発明のヒドロゲル前駆体組成物又はバイオインクの使用は、損傷組織の修復及び再生のためのin situ注入可能物として使用されるように構成される点で有利である。
【0020】
本発明のヒドロゲル組成物の3D印刷のための方法は、プロセス条件に関して高いモジュール性を有する点で有利である。本発明のヒドロゲル組成物の3D印刷のための方法は、ヒドロゲル前駆体組成物の第1の成分と第2の成分との間の架橋の形成が自発的であるように構成されるため、イオン架橋に基づくものでもなく、特定の温度又は光の波長などの特定の架橋誘導因子も必要としない点で有利である。
【0021】
以下に提供される実施例に示されるように、特許請求されるヒドロゲル前駆体組成物、結果として生じる印刷可能なヒドロゲル組成物、及びヒドロゲル前駆体組成物を用いて得られるバイオインクは、3D印刷において使用される場合、当技術分野において公知の製品と比較して、改善された性能を有する。
【0022】
本発明の例示的かつ非限定的な実施形態は、構造及び操作方法の両方に関して、その追加の目的及び利点と共に、添付の図面に関連して読まれる際、特定の例示的な実施形態の以下の説明から最もよく理解される。
【図面の簡単な説明】
【0023】
いくつかの例示的な実施形態が、添付の図面を参照して説明される。
【
図1】例示的な実施形態による例示的なヒドロゲル又はバイオインクの製造の概略図を示す。
【
図2】例示的な実施形態によるヒドロゲル組成物のずり減粘挙動を示す、連続流下の粘度A)及び周期的流下の粘度B)を示す。
【
図3】例示的な実施形態による、貯蔵弾性率及び損失弾性率として示されるヒドロゲル組成物の歪み回復を示す。
【
図4】例示的な実施形態による、A)いかなるレオロジー改質剤も含まない、B)本発明記載のレオロジー改質剤成分としてのヒアルロン酸ナトリウム及びヒトI型コラーゲンを含む、及びC)Koivusalo et al.2019の開示に従った、ヒドロゲル前駆体組成物を使用して製造された例示的な3D印刷されたヒドロゲル格子を示す。スケールバー10mm。
【
図5】例示的な実施形態による、最終ヒドロゲル組成物体積から、A)2.92mg/ml、B)8.16mg/ml、及びC)11.66mg/mlの架橋成分、すなわち、ヒドロゲル前駆体組成物の第1の成分及び第2の成分を含むヒドロゲル前駆体組成物を使用して製造された例示的な3D印刷されたヒドロゲル格子を示す。
【
図6】例示的な実施形態による、レオロジー改質剤成分として最終ヒドロゲル組成物体積の、A)0.18mg/ml、B)0.56mg/ml、及びC)1.09mg/mlのI型コラーゲンをヒアルロン酸(HA)と共に含むヒドロゲル前駆体組成物を使用して製造された例示的な3D印刷されたヒドロゲル格子を示す。
【
図7】例示的な実施形態による、レオロジー改質剤成分として最終ヒドロゲル組成物体積のA)0.625mg/ml、B)1.25mg/ml、及びC)3.125mg/mlのHAを含むヒドロゲル前駆体組成物を使用して製造された例示的な3D印刷されたヒドロゲル格子を示す。
【
図8】例示的な実施形態による、レオロジー改質剤成分としてA)ラミニン、B)アルブミン、又はC)フィブロネクチンをHAと共に含むヒドロゲル前駆体組成物を使用して製造される、例示的な3D印刷されたヒドロゲル格子を示す。
【
図9】例示的な実施形態による、ヒドロゲル前駆体組成物を使用して製造される、例示的な印刷された3Dヒドロゲル構造の斜視
図A)及びB)を示す。
【
図10】例示的な実施形態による、A)時間の関数としての例示的な3D印刷されたヒドロゲル格子の相対フィラメント厚(D0は0日目の相対フィラメント厚を示し、D7は7日目の相対フィラメント厚を示す)と、B)0日目及びC)7日後の印刷されたヒドロゲル格子の画像とを示す。
【
図11】例示的な実施形態による、A)3D印刷された線、及びB)3D印刷された構造における細胞生存率を示す、放出された蛍光として測定された、異なる時点での例示的なヒドロゲルにおけるhASC及びhASC由来角膜間質様細胞の細胞生存率、並びにC)hASC及びD)hASC由来角膜間質様細胞における印刷7日後の3D印刷された線のファロイジン染色を示す。
【
図12】レオロジー改質剤として高分子量HA及びCol Iを含むバイオインク(基本インク)、Col Iを含まない同じインク、及びレオロジー改質剤として低Mw HAを含むバイオインクについての10分間の架橋後の粘度を示す。
【
図13】レオロジー改質剤として高分子量HA及びCol Iを有するバイオインク(基本インク)、Col Iを含まない同じインク、及びレオロジー改質剤として低Mw HAを含むバイオインクについての1時間の架橋後の粘度を示す。
【0024】
【
図14】A)は、レオロジー改質剤としてのCol Iと高分子量HAとの組合せが、伸縮性バイオインク及び粘着性材料を生じることを示し、B)は、Col Iなしでは、同じバイオインクが伸縮性でなく、引っ張っている間に壊れることを示す。
【
図15】A)は、レオロジー改質剤としての高分子量HAとCol Iとの組み合わせが、培養中に印刷された形態を維持し、培養中に皿の底から剥離しない粘着性バイオインクを生じることを示し、B)は、Col Iなしでは、同じバイオインクが培養中の皿から剥離し、印刷された構造を失うことを示す。
【
図16】A)は、高分子量HAの合成が、溶解せず、印刷に使用できない成分を生じることを示し、B)は、成分が試薬溶液に溶解しないため、合成された高分子量HA-DA-CDHを分析及び特性評価することができないことを示す。
【発明を実施するための形態】
【0025】
動詞「含む(comprise)」、「含有する(contain)」、及び「含まれる(include)」は、本明細書では、記載されていない特徴の存在を排除も要求もしないオープンエンドの表現として使用される。本明細書で使用される場合、用語「含む(comprising)」は、「含まれる(including)」、「含有する(containing)」、及び「包含する(comprehending)」のより広い意味、並びにより狭い表現「からなる(consisting of)」及び「のみからなる(consisting only of)」を含む。添付の従属請求項に記載された特徴は、特に明記しない限り、互いに自由に組み合わせることができる。さらに、「a」又は「an」、すなわち単数形の使用は、本文書全体を通して、複数を除外しないことが理解されるべきである。
【0026】
本明細書で使用される場合、「積層造形」という用語は、コンピュータ誘導されたデジタルモデルに基づく、材料の3D及び4D印刷を指す。用語「3D積層造形」又は「3D印刷」は、印刷により、物体の表面に材料を単層で塗布すること、又は例えばヒドロゲルの単層コーティングを形成することを指すことができる。用語「3D積層造形」又は「3D印刷」はまた、材料を層ごとに印刷して、3次元物体の多層(すなわち、1より多い印刷層)構造を生じることを指すことができる。用語「4D積層造形」又は「4D印刷」は、3D印刷材料が印刷後に異なる形態に変形することが可能な3D印刷を指すことができる。したがって、用語「3D印刷」は、用語「4D印刷」も含む。用語「3D積層造形」又は「3D印刷」は、基板などの表面上への印刷、又はFRESH印刷を含むサポートバスへの印刷を指すこともできる。用語「3D積層造形」又は「3D印刷」は、生存細胞などの生物起源の材料を含む材料の印刷も指すことができる。したがって、用語「3D印刷」は、用語「バイオプリンティング」又は「3Dバイオプリンティング」も意味することができる。
【0027】
本明細書で使用される場合、用語「バイオプリンティング」は、バイオインクなどの印刷される材料が生存細胞などの生物起源の材料を含む、材料の3D印刷の方法を指す。
【0028】
本明細書で使用される場合、用語「ヒドラゾン架橋」は、生体分子又は生体高分子にグラフトされるアルデヒド基とヒドラジド基との間で架橋反応が起こる、2つの生体適合性生体分子又は生体高分子をコンジュゲートする自発的クリック型反応を意味する。ヒドラゾン結合を含む架橋は、-C(O)-NH-N=C結合を含む。
【0029】
本明細書で使用される場合、用語「バイオファブリケーションウィンドウ」は、本発明によるヒドロゲル又はバイオインクの文脈において、架橋ヒドロゲル又はバイオインクが、積層造形におけるその使用を可能にするコンシステンシーを有する期間を指す。
【0030】
本明細書で使用される場合、用語「アルデヒド基」は、化学式-CHOを有するアルデヒドを含むか、又はそれからなる官能基を指し、式中、カルボニル中心は、酸素に二重結合し、水素に単結合した炭素である。
【0031】
本明細書で使用される場合、用語「カテコール基」は、ベンゼン核が互いにオルト位に2つのヒドロキシ置換基を有するカテコールを含むか又はカテコールからなる官能基を指す。
【0032】
本明細書で使用される場合、用語「カルボヒドラジド基」は、カルボニル基(C=O)がヒドラジド基(-NH-NH2)と隣接している、カルボヒドラジドを含むか又はカルボヒドラジドからなる官能基を指す。
【0033】
本明細書で使用される場合、用語「カルボン酸基」又は「カルボキシル基」は、炭素原子に結合したヒドロキシル基(O-H)を有するカルボニル基(C=0)からなる。
【0034】
本明細書で使用される場合、用語「細胞外マトリックスタンパク質」は、タンパク質、巨大分子及びミネラル、並びにin vivoで細胞及び組織を取り囲み、支持し、そして外側から構造を与える他の分子の大きなネットワークにおいて見出される任意のタンパク質を指す。
【0035】
本明細書で使用される場合、用語「レオロジー改質剤」は、組成物に添加された際、粘度、粘弾性、トルク、剪断応力、及び剪断速度などのこの組成物のレオロジー特性を改質することが可能な成分を指す。
【0036】
本明細書で使用される場合、用語「レオロジー改質剤成分」は、ヒドロゲル組成物のレオロジー特性を改善するように構成される成分を意味する。レオロジー改質剤成分は、少なくとも1つのレオロジー改質剤、例えば、2つ又は3つのレオロジー改質剤を含む。レオロジー改質剤成分は、例えば、タンパク質及び/又は多糖類であってもよい、1つ以上のポリマー又は非ポリマー成分を含むことができる。レオロジー改質剤成分は、ヒドロゲル前駆体組成物に添加される場合、少なくとも、生じるヒドロゲル組成物のレオロジー特性(例えば、粘弾性、粘度、トルク、剪断応力及び剪断速度)を改質可能である。必要に応じて、レオロジー改質剤成分はまた、組成物に添加される場合、他の影響(例えば、細胞の生体適合性の増加)を有し得る。
【0037】
本明細書で使用される場合、用語「ヒアルロン酸(HA)」は、交互のβ-(1→4)及びβ-(1→3)グリコシド結合を介して連結された反復単位としてのD-グルクロン酸及びN-アセチル-D-グルコサミン対から構成される二糖類のポリマーを意味する。ヒアルロン酸は、長さが約25,000までの二糖反復であってもよい。用語「ヒアルロン酸」は、ヒアルロン酸ナトリウムなどのヒアルロン酸の塩及び/又は溶媒和物も意味し得る。略語HAはヒアルロン酸を意味する。本明細書で使用される場合、用語「ヒアルロン酸(HA)」は、例えば、HA成分(下記参照)中のHA、又はレオロジー改質剤成分中のHAを指すために使用され得る。
【0038】
本明細書で使用される場合、用語「HA成分の二糖反復単位」は、このD-グルクロン酸及びN-アセチル-D-グルコサミン対から構成される、HAポリマーの反復二糖単位を指す。本明細書で使用される場合、用語「ヒアルロン酸(HA)成分」は、ヒアルロン酸(HA)又はその塩若しくは溶媒和物を含むヒドロゲル前駆体組成物の成分を意味する。一実施形態において、ヒアルロン酸成分は、完全にHAからなる。用語「HA成分」は、ヒアルロン酸成分を意味する。HA成分は、ヒドロゲル前駆体組成物の第1の成分及び/又は第2の成分のHA成分を指すことができる。
【0039】
本明細書で使用される場合、用語「部分」は、分子の構造において機能的又は構造的に同定され得る分子の一部を意味する。部分は、官能基であってもよいし、又は共通の構造的態様を共有する複数の官能基を有する分子の一部を表す。
【0040】
本明細書で使用される場合、用語「流体」は、液体又はガス状物質を指す。ヒドロゲル組成物において、流体は、定義により、水又は水性溶液若しくは懸濁液、例えば、細胞培養培地、緩衝溶液、生理食塩水溶液及び/又はスクロース溶液である。
【0041】
本明細書で使用される場合、用語「成分」は、1つの個々の構成部分を指し、組成物中で使用される場合、それは全ての他の成分と一緒に組成物全体を形成する。成分は、いくつかの異なる化合物を含み得るか、又は全体として1つの特定の化合物若しくは分子からなり得る。
【0042】
本明細書で使用される場合、用語「粘度」は、流体の動的粘度を指し、測定単位Pa・s(パスカル秒)が使用される。
【0043】
本明細書で使用される場合、用語「コンジュゲート」は、2つの部分又は化合物が、互いに直接結合されることによって、又は別の部分若しくは化合物を介して間接的に結合されることによって互いに結合されることを指す。コンジュゲートは、2つ以上の化合物が一緒にコンジュゲートされることによって形成される化合物を指す。
【0044】
本明細書で使用される場合、用語「反応性官能基」は、目的とする実験の設定において化学反応を経ることが意図されるか、又は合理的に予想され得る化合物の官能基又は部分を指す。一実施形態では、反応性官能基は、(やはり官能基又は部分である)特定の反応パートナーが反応性官能基と接触した際、化学反応を経ることが予想される。
【0045】
本明細書で使用される場合、用語「架橋」は、1つのポリマー鎖又は分子を別のものに連結する化学結合又は結合の短い配列を意味する。
【0046】
本明細書で使用される場合、用語「リンカー」は、ヒドロゲル前駆体組成物の第1の成分内又は第2の成分内の2つの隣接する部分を接続するモジュール領域を意味する。
【0047】
本明細書で使用される場合、用語「生体適合性」は、生存細胞又は組織と適合性であり、そして細胞の生存性を維持する材料の特性、及び身体又は体液に曝露された場合に、任意の毒性副作用又は免疫学的応答を生じない能力を記載する。
【0048】
本明細書で使用される場合、用語「重量%」は、重量百分率を意味する。混合物中の物質の重量%は、混合物の総重量における物質の重量による割合を意味する。重量%は、試験物質の重量を全混合物の重量で割ることによって計算される。
【0049】
ヒドロゲル前駆体組成物は
i)
a)少なくとも1つの第1の反応性官能基並びに
b)少なくとも1つのカテコール基及び/又はフェノール基
にコンジュゲートされたヒアルロン酸(HA)成分を含む、第1の成分と、
ii)少なくとも1つの第2の反応性官能基にコンジュゲートされたヒアルロン酸(HA)成分を含む第2の成分と、
iii)少なくとも1つのレオロジー改質剤成分と、
を含み、
少なくとも1つの第2の反応性官能基は、少なくとも1つの第1の反応性官能基と架橋を形成するように構成される。
【0050】
したがって、本開示の目的は、
i.
a.少なくとも1つの第1の反応性官能基並びに
b.少なくとも1つのカテコール基及び/又はフェノール基
にコンジュゲートされたヒアルロン酸(HA)成分を含む、第1の成分と、
ii.少なくとも1つの第2の反応性官能基にコンジュゲートされたヒアルロン酸(HA)成分を含む第2の成分と、
iii.少なくとも1つのレオロジー改質剤成分と、
を含む、ヒドロゲル前駆体組成物であって、
少なくとも1つの第2の反応性官能基が、少なくとも1つの第1の反応性官能基と架橋を形成するように構成され、少なくとも1つのレオロジー改質剤成分が、1200kDa~1900kDaの分子量を有するヒアルロン酸を含み、少なくとも1つのレオロジー成分が、ヒドロゲル前駆体組成物の総重量の2~50重量%を構成する、ヒドロゲル前駆体組成物を提供することである。
【0051】
一実施形態では、ヒドロゲル前駆体組成物中、
i)少なくとも1つの第1の反応性官能基は、ヒドラジド、ヒドラジン、カルボヒドラジド、アミノオキシ、アミン、セミカルバジド、チオセミカルバジド及び/又はカルバゼート基から選択され、好ましくは、少なくとも1つの第1の反応性官能基はカルボヒドラジド基(-CONHNH2)であり、少なくとも1つの第2の反応性官能基はアルデヒド基(-CHO)であり、並びに/あるいは
ii)少なくとも1つの第1の反応性官能基はセミカルバジド又はアミノオキシであり、少なくとも1つの第2の反応性官能基はケトンである。
【0052】
一実施形態では、ヒドロゲル前駆体組成物は
i)少なくとも1つの第1の反応性官能基及び少なくとも1つのカテコール基にコンジュゲートされたHA成分を含む第1の成分であって、少なくとも1つの第1の反応性基がカルボヒドラジド基(-CONHNH2)である、第1の成分と、
ii)少なくとも1つの第2の反応性官能基にコンジュゲートされたHA成分を含む第2の成分であって、少なくとも1つの第2の反応性官能基がアルデヒド基(-CHO)である、第2の成分と、
iii)少なくとも1つのレオロジー改質剤成分と、
を含む。
【0053】
一実施形態では、第1の成分のHA成分は、完全にHAポリマーからなる。一実施形態では、第1の成分のHA成分は、100~1000kDa、好ましくは100~300kDaの分子量を有するHAポリマーからなる。
【0054】
一実施形態では、第2の成分のHA成分は、完全にHAポリマーからなる。一実施形態では、第2の成分のHA成分は、100~1000kDa、好ましくは100~300kDaの分子量を有するHAポリマーからなる。
【0055】
一実施形態では、第1の成分の少なくとも1つの第1の反応性官能基は、-CONHNH2部分からなるカルボヒドラジド基である。
【0056】
一実施形態では、第1の成分は、少なくとも1つのカテコール基又はその誘導体を含む。一実施形態では、第1の成分は、HA成分にコンジュゲートされたカテコールアミン又はその誘導体を含む。好ましい実施形態では、第1の成分の少なくとも1つのカテコール基は、HA成分にコンジュゲートされたドーパミン基(DA)を含むか、又はこうしたドーパミン基からなる。一実施形態では、少なくとも1つのカテコール基を含むヒドロゲル前駆体組成物は、流体がヒドロゲル前駆体組成物に添加されると、非圧潰性ヒドロゲル組成物を生成するように構成される。
【0057】
一実施形態では、第1の成分は、少なくとも1つのフェノール基を含む。一実施形態では、フェノール基を含むヒドロゲル前駆体組成物は、流体がヒドロゲル前駆体組成物に添加されると、非圧潰性ヒドロゲル組成物を生成するように構成される。
【0058】
一実施形態では、第2の成分の少なくとも1つの第2の反応性官能基は、HA成分にコンジュゲートされた-CHO部分からなるアルデヒド基である。一実施形態では、第2の成分の少なくとも1つのアルデヒド基は、HA成分にコンジュゲートされた-CHO部分を含む。
【0059】
一実施形態では、ヒドロゲル前駆体組成物の第2の成分は、ヒドロゲル前駆体組成物の第1の成分と自発的に架橋可能であるように構成される。一実施形態では、ヒドロゲル前駆体組成物の第2の成分は、ヒドロゲル前駆体組成物の第1の成分と自発的にヒドラゾン架橋可能であるように構成される。一実施形態では、ヒドロゲル組成物は、ヒドロゲル前駆体組成物を流体と混合することによって得られ得る。好ましい実施形態では、ヒドロゲル前駆体組成物と混合される流体は液体である。ヒドロゲル前駆体組成物と混合される流体は、例えば、水又は水溶液(例えば、細胞培養培地、緩衝溶液、生理食塩水溶液及び/又はスクロース溶液)であり得る。
【0060】
一実施形態では、ヒドロゲル前駆体組成物の第2の成分の第2の反応性官能基(複数可)は、ヒドロゲル前駆体組成物の第1の成分の第1の反応性官能基(複数可)と架橋を形成するように構成される。一実施形態では、第2の成分の第2の反応性官能基(複数可)は、ヒドロゲル前駆体組成物が流体と混合された後にのみ、第1の成分の第1の反応性官能基(複数可)と架橋を形成するように構成される。一実施形態では、架橋の形成は、自発的であるように構成され、特定の温度又は光の波長などの誘導因子を必要としない。一実施形態では、架橋の形成は、ヒドロゲル前駆体組成物の第1の成分及び第2の成分を一緒にヒドラゾン架橋するなど、自発的クリック化学反応に基づく。
【0061】
一実施形態では、ヒドロゲル前駆体組成物の第1の成分及び第2の成分の反応性官能基は、架橋を形成するように構成されて、非圧潰性ヒドロゲル組成物を形成する。一実施形態では、第2の成分と架橋を形成する第1の成分の少なくとも1つの第1の反応性官能基は、カルボヒドラジド基である。一実施形態では、第2の成分と架橋を形成する第1の成分の少なくとも1つの第1の反応性官能基は、ヒドラジド、ヒドラジン、アミノオキシ、アミン、セミカルバジド、チオセミカルバジド及び/又はカルバゼート基から選択される。
【0062】
一実施形態では、第1の成分の少なくとも1つの第1の反応性官能基は、生じる架橋ヒドロゲル組成物のレオロジー特性に影響を及ぼす。一実施形態では、カルボヒドラジド基などの第1の成分の少なくとも1つの第1の反応性官能基は、第2の成分の反応性官能基と強い架橋を形成するように構成される。
【0063】
一実施形態では、アルデヒド基などの第2の成分の少なくとも1つの第2の反応性官能基は、第1の成分の反応性官能基と強い架橋を形成するように構成される。一実施形態では、第2の成分の少なくとも1つの第2の反応性官能基は、第1の成分のカルボヒドラジド基と、又は第1の成分の別の官能基と反応性である。一実施形態では、第1の成分と架橋を形成する第2の成分の少なくとも1つの第2の反応性官能基は、アルデヒド(-CHO)基である。
【0064】
一実施形態では、ヒドロゲル前駆体組成物の第1の成分及び第2の成分は、少なくとも1つの共有結合を含む架橋を形成することによってコンジュゲートされるように構成される。ある実施形態では、ヒドロゲル前駆体組成物の第1の成分及び第2の成分は、ヒドラゾン(-C(O)-NH-N=C-)、オキシム(-C=N-O-)、イミン(-C=N-C-)、セミカルバゾン(-NH-C(O)-NH-N=C-)、チオセミカルバゾン(-NH-C(S)-NH-N=C-)、又はカルバゾン(-O-C(O)-NH-N=C-)結合を含む架橋を形成するように構成される。架橋速度及び安定性は、ヒドロゲル前駆体組成物の第1の成分と第2の成分との間に形成される具体的な架橋に依存して変化する。例えば、HA成分にコンジュゲートされた-NHNHCONHNH2基を含む第1の成分は、HA成分にコンジュゲートされた-NHNHCO(CH2)4CONHNH2基を含む第1の成分よりも、第2の成分の反応性官能基アルデヒドと、約15倍強い架橋を生成する。
【0065】
ヒドロゲル前駆体組成物のそれぞれの成分中のHAに対し最低のコンジュゲーション百分率を有する第1の成分及び第2の成分の第1又は第2の反応性官能基(複数可)が、ヒドロゲル中の架橋度を決定する。一実施形態では、第2の反応性官能基としてのアルデヒド基、又は第1の反応性官能基としてのカルボヒドラジド基のいずれかとのHAの最低コンジュゲーション百分率が、ヒドロゲル中の架橋度を決定する。しかしながら、ヒドロゲル前駆体組成物が、反応性官能基の1つ、例えばアルデヒド又はカルボヒドラジドを過剰に含む場合、ヒドロゲルマトリックスの安定性は、架橋度に影響を及ぼすことなく増加する。これは、ヒドラゾン架橋プロセスにおいて生成される共有結合の動的性質によるものであり、架橋は繰り返し形成及び破壊され、架橋パートナーは、パートナーの1つが過剰である場合、互いを迅速に見つけることができる。第2の成分中の過剰なアルデヒド基は、ヒドロゲル組成物の組織接着特性を増加させる。
【0066】
一実施形態では、ヒドロゲル前駆体組成物のレオロジー改質剤成分は、架橋ヒドロゲル前駆体組成物から得られ得るヒドロゲル組成物のレオロジーを改質するように構成される。一実施形態では、ヒドロゲル前駆体組成物のレオロジー改質剤成分は、架橋ヒドロゲル前駆体組成物から得られ得るヒドロゲル組成物の、少なくとも粘弾性、粘度、トルク、剪断応力及び剪断速度を改質するように構成される。
【0067】
一実施形態では、ヒドロゲル前駆体組成物のレオロジー改質剤成分は、多糖、タンパク質、合成ポリマー又はそれらの組み合わせから選択される。
【0068】
一実施形態では、ヒドロゲル前駆体組成物のレオロジー改質剤成分は、ヒアルロン酸、アルギン酸塩、キトサン、ナノセルロース、ポリエチレングリコール、ポロキサマー、ポリビニルアルコール、細胞外マトリックス(ECM)タンパク質、アルブミン、又はそれらの混合物から選択される。
【0069】
一実施形態では、ヒドロゲル前駆体組成物のレオロジー改質剤成分は、ゼラチン、I型コラーゲン、III型コラーゲン、IV型コラーゲン、V型コラーゲン、ラミニン、フィブロネクチン、ビトロネクチン、並びにそれらの断片及び/又は混合物から選択される細胞外マトリックス(ECM)タンパク質を含む。
【0070】
一実施形態では、ヒドロゲル前駆体組成物中のレオロジー改質剤成分の重量%は、レオロジー改質剤成分の分子量に依存する。一実施形態では、ヒドロゲル前駆体組成物中のレオロジー改質剤成分の適用重量%は、適用されたレオロジー改質剤成分の分子量の増加と共に実質的に直線的に減少する。レオロジー改質剤成分は、架橋ヒドロゲル前駆体組成物から得られ得るヒドロゲルのレオロジー及び粘度を改質するように構成され、したがって、高分子量レオロジー改質剤成分の濃度が高すぎると、不必要に高い粘度を有するヒドロゲル組成物が生じる。同様に、低すぎる濃度の低分子量レオロジー改質剤成分は、不必要に低い粘度を有するヒドロゲル組成物を生じる。
【0071】
一実施形態では、ヒドロゲル前駆体組成物のレオロジー改質剤成分は、50kDa~1900kDa、好ましくは500kDa~1900kDa、より好ましくは1200kDa~1900kDaの分子量を有するヒアルロン酸を含む。一実施形態では、ヒドロゲル前駆体組成物は、ヒドロゲル前駆体組成物の総重量の2~50重量%、好ましくは5~40重量%、より好ましくは7~17重量%のHAをレオロジー改質剤として含む。
【0072】
一実施形態では、ヒドロゲル前駆体組成物のレオロジー改質剤成分は、50kDa~1900kDa、好ましくは500kDa~1900kDa、より好ましくは1200kDa~1900kDaの分子量を有するHAからなる。一実施形態では、レオロジー改質剤成分はHAからなり、レオロジー改質剤成分の重量%は、ヒドロゲル前駆体組成物の総重量の2~50重量%、好ましくは5~40重量%、より好ましくは7~17重量%である。一実施形態では、ヒドロゲル前駆体組成物のレオロジー改質剤成分は、1200kDa~1900kDaの分子量を有するHAからなり、レオロジー改質剤成分の重量%は、ヒドロゲル前駆体組成物の総重量の7~17重量%である。一実施形態では、レオロジー改質剤成分のHAの分子量は、3D印刷後のヒドロゲル組成物の印刷適性及び形状の保持における改善された性能に基づいて選択される。一実施形態では、1200kDa~1900kDaの分子量を有するHAを含むレオロジー改質剤成分は、3D印刷後のヒドロゲル組成物の印刷性能及び形状の保持に有利である。
【0073】
一実施形態では、ヒドロゲル前駆体組成物のレオロジー改質剤成分は、250~300kDaの分子量を有するヒトコラーゲン、好ましくはI型を含む。一実施形態では、ヒドロゲル前駆体組成物は、レオロジー改質剤として、ヒドロゲル前駆体組成物の総重量の0.05~40重量%、好ましくは2~15重量%、より好ましくは3~8重量%のコラーゲンを含む。
【0074】
一実施形態では、ヒドロゲル前駆体組成物のレオロジー改質剤成分は、440~530kDaの分子量を有するヒトフィブロネクチンを含む。一実施形態では、ヒドロゲル前駆体組成物は、レオロジー改質剤として、ヒドロゲル前駆体組成物の総重量の2~50重量%、好ましくは5~30重量%、より好ましくは7~12重量%のヒトフィブロネクチンを含む。
【0075】
一実施形態では、ヒドロゲル前駆体組成物のレオロジー改質剤成分は、400~900kDaの分子量を有するラミニン、好ましくはヒト又はマウス組換えラミニンを含む。一実施形態では、ヒドロゲル前駆体組成物は、レオロジー改質剤として、ヒドロゲル前駆体組成物の総重量の0.2~50重量%、好ましくは0.2~5重量%、より好ましくは0.2~2.0重量%のラミニンを含む。
【0076】
一実施形態では、ヒドロゲル前駆体組成物のレオロジー改質剤成分は、66~67kDaの分子量を有するヒト又はウシアルブミンを含む。一実施形態では、ヒドロゲル前駆体組成物は、レオロジー改質剤として、ヒドロゲル前駆体組成物の総重量の0.2~60重量%、好ましくは30~60重量%、より好ましくは54~58重量%のアルブミンを含む。
【0077】
一実施形態では、レオロジー改質剤成分は、2つ以上のレオロジー改質剤を含む。一実施形態では、レオロジー改質剤成分は、少なくともHAと、アルギン酸塩、キトサン、ナノセルロース、ポリエチレングリコール、ポロキサマー、ポリビニルアルコール、細胞外マトリックス(ECM)タンパク質、アルブミン、又はそれらの混合物から選択される別のレオロジー改質剤とを含む。一実施形態では、レオロジー改質剤成分は、少なくともHAと、ECMタンパク質及び/又はアルブミンから選択される別のレオロジー改質剤とを含む。一実施形態では、レオロジー改質剤成分は、1200~1900kDaの分子量を有するHAと、ECMタンパク質及び/又はアルブミンから選択される別のレオロジー改質剤とを含む。一実施形態では、レオロジー改質剤成分は、ヒドロゲル組成物の印刷性能及び形状の保持を改善するように構成されたHAと、ヒドロゲル前駆体組成物の生体適合性を改善するように構成された別のレオロジー改質剤としてのECMタンパク質とを含む。
【0078】
一実施形態では、ヒドロゲル前駆体組成物のレオロジー改質剤成分は、HAとコラーゲン、好ましくはI型コラーゲンとの混合物を含む。一実施形態では、ヒドロゲル前駆体組成物は、レオロジー改質剤成分として、ヒドロゲル前駆体組成物の総重量の2~50重量%、好ましくは9~40重量%、より好ましくは11~23重量%のHAとI型コラーゲンとの混合物を含む。
【0079】
例示的な実施形態では、ヒドロゲル前駆体組成物は、レオロジー改質剤成分として、1200~1900kDaの分子量を有する17.6重量%のHAを含む。別の例示的な実施形態では、ヒドロゲル前駆体組成物は、レオロジー改質剤成分として、300kDaの分子量を有する5.4重量%のヒトI型コラーゲンと、1200~1900kDaの分子量を有する11.9重量%のHAとを含む。
【0080】
一実施形態では、第1の成分の少なくとも1つの第1の反応性官能基及びカテコール基、並びに第2の成分の少なくとも1つの第2の反応性官能基は、それらのそれぞれのHA成分のグルクロン酸残基のカルボキシル基に、又はそれらのそれぞれのHA成分の任意の官能基にコンジュゲートされる。一実施形態では、第1の成分の少なくとも1つのカルボヒドラジド基及びカテコール基、並びに第2の成分の少なくとも1つのアルデヒド基は、それらのそれぞれのHA成分のグルクロン酸残基のカルボキシル基に、又はそれらのそれぞれのHA成分の任意の官能基にコンジュゲートされる。好ましくは、第1の成分の少なくとも1つのカルボヒドラジド基及びカテコール基、並びに第2の成分の少なくとも1つのアルデヒド基は、HA成分のグルクロン酸残基のヒドロキシル基(OH)の置換を介してそれらのそれぞれのHA成分に、又はより好ましくは、それらのそれぞれのHA成分のグルクロン酸残基のカルボキシル基にコンジュゲートされる。一実施形態では、第1の成分の少なくとも1つのカルボヒドラジド基及びカテコール基、並びに第2の成分の少なくとも1つのアルデヒド基は、それらのそれぞれのHA成分に直接、又はリンカー成分を介してコンジュゲートされる。
【0081】
一実施形態では、少なくとも1つの第1の反応性官能基は、間にいかなるリンカーも含まず、第1の成分中のHA成分に直接コンジュゲートされる。好ましくは、少なくとも1つの第1の反応性官能基は、HA成分のグルクロン酸残基のカルボキシル基にコンジュゲートされるか、又はOH基の置換を介してHA成分のグルクロン酸残基にコンジュゲートされる。
【0082】
一実施形態では、少なくとも1つの第1の反応性官能基が、リンカーL1を介して第1の成分のHA成分にコンジュゲートされるヒドロゲル前駆体組成物であって、このリンカーL1が、好ましくはHA成分のグルクロン酸残基のカルボキシレートヒドロキシ基の置換を介して、HA成分のカルボキシル基にコンジュゲートされる、ヒドロゲル前駆体組成物を開示する。一実施形態では、少なくとも1つの第1の反応性官能基が、リンカーL1を介して第1の成分のHA成分にコンジュゲートされる、ヒドロゲル前駆体組成物であって、このリンカーL1が、好ましくはHA成分のグルクロン酸残基のカルボキシレートヒドロキシ基の置換によって、HA成分のカルボキシル基にコンジュゲートされ、リンカーL1が、1~10個の部分から形成され、各部分が、独立して、フェニレン(-C6H4-)、オキシム(-C=N-O-)、イミン(-C=N-C-)、1~12の炭素原子を含有するアルキレン(-CH2-)、エチニジイル(-C≡C-)、エチレンジイル(-C=C-)、エーテル(-O-)、チオエーテル(-S-)、アミド(-CO-NH-、-CO-NR’-、-NH-CO-及びNR’-CO-)から選択され、R’が5未満の炭素原子を含有するアルキル基、カルボニル(-CO-)、エステル(-COO-及びOOC-)、ジスルフィド(-SS-)、スルホンアミド(-SO2-NH-、-SO2-NR’-)、スルホン(-SO2-)、ホスフェート(-O-PO2-O-)、ジアザ(-N=N-)、ジイミン(-NHNH-)、第2級アミン(-NHNH-)及び第3級アミンである、ヒドロゲル前駆体組成物を開示する。
【0083】
一実施形態では、第1の成分が複数の第1の反応性官能基を含み、第1の反応性官能基、又は第1の反応性官能基にコンジュゲートされたリンカーL1が、第1の成分のHA成分の二糖反復単位の5~20%、好ましくは9~15%、より好ましくは12~13%にコンジュゲートされる、ヒドロゲル前駆体組成物を開示する。
【0084】
一実施形態では、少なくとも1つの第1の反応性官能基がカルボヒドラジド基であり、リンカーL1が-NHNH-であるヒドロゲル前駆体組成物を開示する。
【0085】
好ましい実施形態では、少なくとも1つの第1の反応性官能基はカルボヒドラジド基であり、この第一の反応性官能基は第1の成分中のリンカーL1を介してHA成分にコンジュゲートされ、リンカーL1は、好ましくは、HA成分のグルクロン酸残基のカルボキシル基を介してHA成分にコンジュゲートされる。あるいは、リンカーL1は、HA成分の二糖反復単位に含まれる別の官能基にコンジュゲートされる。
【0086】
一実施形態では、少なくとも1つのカルボヒドラジド基は、式(I)に記載のリンカーL
1を介してHAのグルクロン酸残基のカルボキシル基にコンジュゲートされる(式中、nは好ましくは250~2500であり、より好ましくはnは250~750である)。
【化1】
【0087】
一実施形態では、少なくとも1つのカルボヒドラジド基は、グルクロン酸残基の-OH基の置換によって、リンカーL1を介してHA成分のグルクロン酸残基にコンジュゲートされる。一実施形態では、グルクロン酸残基の-OH基は、アミノ基又はさらなるヒドラジド基などのα-置換基を含むリンカーL1で置換される。
【0088】
一実施形態では、ヒドロゲル前駆体組成物の第1の成分のリンカーL1は、好ましくは、-NHNH-、及びNHNH(CH2)n-から選択される(式中、nは1~12であり、好ましくはnは4である)。好ましい実施形態では、リンカーL1は-NHNH-であり、リンカーL1は、HA成分のグルクロン酸残基のカルボキシル基を介してHA成分にコンジュゲートされる。
【0089】
一実施形態では、第1の成分中にリンカーL1として-NHNH-を含むヒドロゲル前駆体組成物は、リンカーL1として-NHNH(CH2)n-(式中、nは1~12である)を有するヒドロゲル前駆体組成物と比較して、より速く架橋を形成するように構成される。一実施形態では、リンカーL1として-NHNH-を含むヒドロゲル前駆体組成物は、4個の炭素を含有するリンカー-NHNH(CH2)4-又はアジピン酸ジヒドラジド系リンカーを有するヒドロゲル前駆体組成物と比較して、印刷可能なヒドロゲル組成物をより速く形成するように構成され、形成されたヒドロゲル組成物はより安定である。一実施形態では、第1の成分中にリンカーL1として-NHNH-を含むヒドロゲル前駆体組成物は、リンカーL1として-NHNH(CH2)4を含むヒドロゲル前駆体組成物と比較して、増加した安定性を有する印刷可能なヒドロゲル組成物を形成するように構成される。
【0090】
一実施形態では、第1の成分のリンカーL1の構造及び長さは、カルボヒドラジド基とHA成分とのコンジュゲーションのために最適化される。リンカーL1の最適な構造及び長さは、カルボヒドラジド基及び第1の成分のHA成分が最適な立体配置を得ることを可能にし、第1の成分の第2の成分への効率的な架橋を可能にする。したがって、第1の成分のリンカーL1のモジュール構造及び長さは、より速い反応動力学を有する架橋ヒドロゲル組成物の高い安定性を促進する。
【0091】
一実施形態では、第1の成分は、カルボヒドラジド基である複数の第1の反応性官能基を含み、カルボヒドラジド基又はカルボヒドラジド基にコンジュゲートされたリンカーL1は、第1の成分のHA成分の二糖反復単位の5~20%、好ましくは9~15%、より好ましくは12~13%にコンジュゲートされる。一実施形態では、カルボヒドラジド基(又はリンカーL1)と第1の成分のHA成分の二糖反復単位とのこのコンジュゲーション百分率は、ヒドロゲル組成物の印刷適性に有益である。カルボヒドラジド基、又はカルボヒドラジド基にコンジュゲートされたリンカーL1が、第1の成分のHA成分の二糖反復単位の20%超にコンジュゲートされる実施形態では、ヒドロゲルの架橋及び安定性は改善されるが、印刷適性は低下する。
【0092】
一実施形態では、少なくとも1つのフェノール基及び/又はカテコール基は、間にいかなるリンカーも含まず、第1の成分中のHA成分に直接コンジュゲートされる。好ましくは、少なくとも1つのフェノール基及び/又はカテコール基は、HA成分のグルクロン酸残基のカルボキシル基にコンジュゲートされるか、又はOH基の置換を介してHA成分のグルクロン酸残基にコンジュゲートされる。
【0093】
一実施形態では、少なくとも1つのフェノール基及び/又はカテコール基が、リンカーL2を介して第1の成分のHA成分にコンジュゲートされ、このリンカーL2が、好ましくはHA成分のグルクロン酸残基のカルボキシレートヒドロキシ基の置換を介して、HA成分のカルボキシル基にコンジュゲートされる、ヒドロゲル前駆体組成物を開示する。一実施形態では、ヒドロゲル前駆体組成物であって、少なくとも1つのフェノール基及び/又はカテコール基が、リンカーL2を介して第1の成分のHA成分にコンジュゲートされ、このリンカーL2が、好ましくはHA成分のグルクロン酸残基のカルボキシレートヒドロキシ基の置換を介して、HA成分のカルボキシル基にコンジュゲートされ、リンカーL2が、1~10個の部分から形成され、各部分が、独立して、フェニレン(-C6H4)、オキシム(-C=N-O-)、イミン(-C=N-C-)、1~12の炭素原子を含有するアルキレン(-CH2-)、エチニジイル(-C≡C-)、エチレンジイル(-C=C-)、エーテル(-O-)、チオエーテル(-S-)、アミド(-CO-NH-、-CO-NR’-、-NH-CO及びNR’-CO-)からなる群から選択され、R’が5未満の炭素原子を含有するアルキル基、カルボニル(-CO-)、エステル(-COO-及びOOC-)、ジスルフィド(-SS-)、スルホンアミド(-SO2-NH-、-SO2-NR’-)、スルホン(-SO2-)、ホスフェート(-O-PO2-O-)、ジアザ(-N=N-)、ジイミン(-NHNH-)、第二級アミン(-NH-)、及び第三級アミンを示し、好ましくはリンカーL2が-NH(CH2)2-である、ヒドロゲル前駆体組成物を開示する。
【0094】
一実施形態では、第1の成分が複数のカテコール基及び/又はフェノール基を含み、カテコール基及び/又はフェノール基、あるいはカテコール基及び/又はフェノール基にコンジュゲートされたリンカーL2が、第1の成分のHA成分の二糖反復単位の1~20%、好ましくは2~10%、より好ましくは3~6%、さらにより好ましくは3.0~3.6%にコンジュゲートされる、ヒドロゲル前駆体組成物を開示する。
【0095】
一実施形態では、ヒドロゲル前駆体組成物の第1の成分は、第1の成分中のリンカーL2を介してHA成分にコンジュゲートされる少なくとも1つのカテコール基を含み、リンカーL2は、好ましくは、HA成分のグルクロン酸残基のカルボキシル基を介してHA成分にコンジュゲートされる。あるいは、リンカーL2は、HA成分の二糖反復単位に含まれる別の官能基にコンジュゲートされる。
【0096】
一実施形態では、少なくとも1つのカテコール基は、式(II)に記載のリンカーL
2を介してHA成分のグルクロン酸残基のカルボキシル基にコンジュゲートされる(式中、nは、好ましくは250~2500であり、より好ましくはnは250~750である)。
【化2】
【0097】
一実施形態では、少なくとも1つのカテコール基は、グルクロン酸残基の-OH基の置換によってリンカーL2を介してHA成分のグルクロン酸残基のカルボキシル基にコンジュゲートされる。一実施形態では、グルクロン酸残基のOH基は、アミノ基などのα-置換基を含むリンカーL2で置換されている。
【0098】
一実施形態では、ヒドロゲル前駆体組成物の第1の成分のリンカーL2は、最も好ましくは-NH(CH2)2-であり、リンカーL2は、好ましくはHA成分のグルクロン酸残基のカルボキシル基を介してHA成分にコンジュゲートされる。好ましい実施形態において、リンカーL2は、-NH(CH2)2-である。
【0099】
一実施形態では、第1の成分は複数のカテコール基を含み、カテコール基又はカテコール基にコンジュゲートされたリンカーL2は、第1の成分のHA成分の二糖反復単位の1~20%、好ましくは2~10%、より好ましくは3~6%、さらにより好ましくは3.0~3.6%にコンジュゲートされる。このリンカーL2は、好ましくは、第1の成分のHA成分のグルクロン酸単位のカルボキシル基にコンジュゲートされる。一実施形態では、第1の成分のHA成分の二糖反復単位にコンジュゲートされたカテコール基の百分率は、最終ヒドロゲル組成物の組織接着特性、並びに粘弾性及びずり減粘特性に有利である。
【0100】
一実施形態では、リンカーL2としての-NH(CH2)2-と、第1の成分にコンジュゲートされたカテコール基とを含むヒドロゲル前駆体組成物は、カテコール基を含まないヒドロゲル前駆体組成物と比較して、印刷可能なヒドロゲル組成物をより速く形成するように構成される。
【0101】
一実施形態では、少なくとも1つのカテコール基は、ドーパミンのアミノ基をHA成分のカルボキシル基と反応させることによってHA成分にコンジュゲートされる。
【0102】
一実施形態では、少なくとも1つの第2の反応性官能基は、間にいかなるリンカーも含まず、第2の成分中のHA成分に直接コンジュゲートされる。好ましくは、少なくとも1つの第2の反応性官能基は、HA成分のグルクロン酸残基のカルボキシル基にコンジュゲートされるか、又はOH基の置換を介してHA成分のグルクロン酸残基にコンジュゲートされる。
【0103】
一実施形態では、少なくとも1つの第2の反応性官能基が、リンカーL3を介して第2の成分のHA成分にコンジュゲートされ、このリンカーL3が、好ましくはHA成分のグルクロン酸残基のカルボキシレートヒドロキシ基の置換を介して、HA成分のカルボキシル基にコンジュゲートされる、ヒドロゲル前駆体組成物を開示する。一実施形態では、少なくとも1つの第2の反応性官能基が、リンカーL3を介して第2の成分のHA成分にコンジュゲートされ、このリンカーL3が、好ましくはHA成分のグルクロン酸残基のカルボキシレートヒドロキシ基の置換によって、HA成分のカルボキシル基にコンジュゲートされ、リンカーL3が、1~10個の部分から形成され、各部分が、独立して、フェニレン(-C6H4-)、オキシム(-C=N-O-)、イミン(-C=N-C-)、1~12の炭素原子を含有するアルキレン(-CH2-)、エチニジイル(-C≡C-)、エチレンジイル(-C=C-)、エーテル(-O-)、チオエーテル(-S-)、アミド(-CO-NH-、-CO-NR’-、-NH-CO-及びNR’-CO-)からなる群から選択され、R’が5未満の炭素原子を含有するアルキル基、カルボニル(-CO-)、エステル(-COO-及びOOC-)、ジスルフィド(-SS-)、スルホンアミド(-SO2-NH-、-SO2-NR’-)、スルホン(-SO2-)、ホスフェート(-O-PO2-O-)、ジアザ(-N=N-)、ジイミン(-NHNH-)、及び第3級アミンである、ヒドロゲル前駆体組成物を開示する。
【0104】
一実施形態では、ヒドロゲル前駆体組成物の第2の成分は、複数の第2の反応性官能基、好ましくはアルデヒド基を含み、第2の反応性官能基又は第2の反応性官能基にコンジュゲートされたリンカーL3は、第2の成分のHA成分の二糖反復単位の5~50%、好ましくは9~15%、より好ましくは11~13%にコンジュゲートされる。
【0105】
一実施形態では、ヒドロゲル前駆体組成物の少なくとも1つの第2の反応性官能基はアルデヒド基(-CHO)であり、リンカーL3は-NHCH2-である。
【0106】
好ましい実施形態では、少なくとも1つの第2の反応性官能基は、第2の成分中のリンカーL3を介してHA成分にコンジュゲートされたアルデヒド基であり、リンカーL3は、好ましくは、HAのグルクロン酸残基のカルボキシル基を介してHA成分にコンジュゲートされる。あるいは、リンカーL3は、HA成分の二糖反復単位に含まれる別の官能基にコンジュゲートされる。
【0107】
一実施形態では、少なくとも1つの第2の反応性官能基は、式(III)に記載のリンカーL
3を介してHA成分のグルクロン酸残基のカルボキシル基にコンジュゲートされるアルデヒド基である(式中、nは好ましくは250~2500であり、より好ましくはnは250~750である)。
【化3】
【0108】
一実施形態では、少なくとも1つのアルデヒド基は、グルクロン酸残基の-OH基の置換によってリンカーL3を介してHA成分のグルクロン酸残基のカルボキシル基にコンジュゲートされる。一実施形態では、グルクロン酸残基の-OH基は、アミノ基などのα-置換基を含むリンカーL3で置換されている。
【0109】
一実施形態では、ヒドロゲル前駆体組成物の第2の成分のリンカーL3は、最も好ましくは-NH(CH2)n-であり、nは1~12であり、好ましくはnは2であり、より好ましくはnは1である。一実施形態では、ヒドロゲル前駆体組成物の第2の成分のリンカーL3は、最も好ましくは-NHCH2-であり、リンカーL3は、HA成分のグルクロン酸残基のカルボキシル基を介してHA成分にコンジュゲートされる。別の実施形態では、ヒドロゲル前駆体組成物の第2の成分のリンカーL3は、-NHNH-である。
【0110】
一実施形態では、第2の成分のリンカーL3の構造及び長さは、第2の反応性官能基とHA成分とのコンジュゲーションのために最適化される。リンカーL3の構造及び長さが最適であれば、アルデヒド基及び第2の成分のHA成分が最適な立体配置を得ることが可能になり、第1の成分の第2の成分への効率的な架橋が可能になる。したがって、第2の成分のリンカーL3のモジュール構造及び長さは、架橋ヒドロゲル組成物の高い安定性を促進する。
【0111】
一実施形態では、アルデヒド基は、リンカーL3を使用せずに、第2の成分のHA成分の二糖反復単位の5~50%、好ましくは9~15%、より好ましくは11~13%までの、HA成分のグルクロン酸残基中のC2及びC3ヒドロキシルのNaIO4媒介酸化によって生成される。アミノグリセロール基のグラフト化とそれに続くNaIO4酸化によるこの様式で生成されるアルデヒド基は、ポリマーの断片化を最小限に抑え、HAの生物活性を保存するため、従来の骨格酸化よりも好ましい。アミノグリセロール基のグラフト化とそれに続くNaIO4酸化によってアルデヒド基を生成するこのアプローチは、第2の成分のHA成分の二糖反復単位にコンジュゲートされるアルデヒド基の程度に対して、改善された制御を提供する。
【0112】
好ましい実施形態では、カルボヒドラジド基又はカルボヒドラジド基にコンジュゲートされたリンカーL1は、HA成分の二糖反復単位の12~13%にコンジュゲートされ、カテコール基又はカテコール基にコンジュゲートされたリンカーL2は、第1の成分中のHA成分の二糖反復単位の3.0~3.6%にコンジュゲートされる。好ましい実施形態では、アルデヒド基又はアルデヒド基にコンジュゲートされたリンカーL3は、第2の成分のHA成分の二糖反復単位の11~13%にコンジュゲートされる。
【0113】
一実施形態では、ヒドロゲル前駆体組成物は、成長因子、抗体、ホルモン、ペプチド、ポリペプチド、ナノ粒子、並びにそれらの断片及び/又は混合物から選択される少なくとも1つの調節シグナル成分も含む。一実施形態では、調節シグナル成分は、ヘパリン、ヘパリン由来ナノ粒子、成長因子封入ナノキャリア、及び/又は成長因子(複数可)を安定化するように適合された成長因子固定化生体材料を含む。一実施形態では、調節シグナル成分は、超常磁性酸化鉄NP(SPION)であるナノ粒子を含む。一実施形態では、調節シグナル成分は、バイオインク中のニューロン、心筋細胞又は筋芽細胞を利用する場合に伝導特性を付与する金ナノ粒子を含む。ヒドロゲル前駆体組成物の少なくとも1つの調節シグナル成分は、印刷可能なバイオインクを得るために、ヒドロゲル前駆体組成物と混合される細胞タイプに基づいて選択される。一実施形態では、ヒドロゲル前駆体組成物と混合される少なくとも1つの調節シグナル成分は、ヒドロゲル前駆体組成物中に混合される細胞の分化を誘導又は促進するように構成される。一実施形態では、ヒドロゲル前駆体組成物と混合された少なくとも1つの調節シグナル成分は、細胞増殖、接着、細胞運命決定を促進し、かつ/又はヒドロゲル前駆体組成物中に混合された細胞のセクレトームに影響を及ぼすように構成される。一実施形態では、ヒドロゲル前駆体組成物と混合された少なくとも1つの調節シグナル成分は、ヒドロゲル前駆体組成物中に混合された細胞の組織構造発達を促進するように構成される。
【0114】
好ましい実施形態によれば、したがって、ヒドロゲル前駆体成分の少なくとも1つのレオロジー改質剤成分は
1200kDa~1900kDaの分子量のヒアルロン酸と、
250~300の分子量のコラーゲン、好ましくはI型と、
を含み、少なくとも1つのレオロジー成分は、ヒドロゲル前駆体組成物の総重量の2~50重量%、好ましくは9~40重量%、より好ましくは11~23重量%を構成する。
【0115】
少なくとも1つのレオロジー改質剤成分はまた、好ましくはゼラチン、ラミニン、フィブロネクチン、ビトロネクチン、並びにそれらの断片及び/又は混合物から選択される1つ以上のさらなる細胞外マトリックスタンパク質を含んでもよい。
【0116】
好ましい実施形態によれば、ヒドロゲル前駆体成分の少なくとも1つの第1の反応性基はカルボヒドラジドであり、少なくとも1つの第2の反応性基はアルデヒドである。
【0117】
別の好ましい実施形態によれば、ヒドロゲル前駆体成分の少なくとも1つの第1の反応性基はアルデヒドであり、少なくとも1つの第2の反応性基はカルボヒドラジドである。
【0118】
好ましい実施形態によれば、第1の成分及び第2の成分の分子量は、100~1000kDa、好ましくは100~300kDaである。
【0119】
一実施形態では、ヒドロゲル前駆体組成物を、細胞を含む流体と混合することによって得られ得るバイオインクを提供する。
【0120】
一実施形態では、ヒドロゲル前駆体組成物及び細胞は、その中に混合されている細胞と等張である流体中で混合される。一実施形態では、選択された流体は、その中に細胞が混合されている等張性ヒドロゲル組成物を生成する。好ましい実施形態では、細胞及びヒドロゲル前駆体組成物と混合される流体は、液体である。細胞及びヒドロゲル前駆体組成物と混合される流体は、細胞培養培地などの水溶液、リン酸緩衝生理食塩水(PBS)などの生理食塩水溶液、別の緩衝溶液、及び/又はスクロース溶液であってもよい。
【0121】
一実施形態では、細胞は未分化幹細胞及び/又は分化細胞を含む。一実施形態では、細胞はヒト細胞又は哺乳動物細胞を含む。一実施形態では、細胞は、増殖性細胞及び/又は非増殖性細胞を含む。一実施形態では、細胞は、好ましくは同じ種を起源とする、異なる細胞タイプの混合物を含む。一実施形態では、細胞は、hASC、hASC由来角膜間質様細胞、ヒト多能性幹細胞(hPSC)由来神経細胞(NC)及び/又はhPSC由来角膜内皮細胞を含む。一実施形態では、細胞は、肝細胞、血管内皮細胞、リンパ管内皮細胞及び/又は線維芽細胞を含む。
【0122】
一実施形態では、ヒドロゲル前駆体組成物及び/又はバイオインクは、バイオインク中の細胞生存性を促進する栄養素を含み、栄養素は、アミノ酸、タンパク質、ペプチド、脂肪酸、脂質、微量元素、抗生物質、ビタミン、無機塩、炭水化物、及び/又は血清から選択される。
【0123】
一実施形態では、3D印刷などの積層造形のためのヒドロゲル前駆体組成物又はバイオインクの使用を提供する。
【0124】
一実施形態では、バイオインクを3D印刷するための方法であって、a)ヒドロゲル前駆体組成物を、細胞を含む流体と混合することと、b)ヒドロゲル前駆体組成物の第1の成分を、この流体中でヒドロゲル前駆体組成物の第2の成分と架橋させることと、c)バイオインクの粘度が200~2000Pa・sである場合に、バイオインクを3D印刷することと、を含む方法を開示する。
【0125】
一実施形態では、3D印刷のための方法は、ヒドロゲル前駆体組成物を、細胞を含む流体に混合して、バイオプリント可能なバイオインクを得ることを含む。一実施形態では、ヒドロゲルは、ヒドロゲル前駆体組成物の成分の自発的架橋によって得られ得る。一実施形態では、バイオインクは、ヒドロゲル前駆体組成物が細胞を含む流体中で混合される際に、該組成物の成分の自発的な架橋によって得られ得る。流体と混合されたヒドロゲル前駆体組成物は、ヒドロゲル前駆体組成物の第1の成分の反応性官能基と第2の成分の反応性官能基との間に架橋を形成するように構成される。生じた架橋ヒドロゲル組成物は、3D印刷法で印刷可能である。架橋ヒドロゲル組成物及び細胞を含むバイオインクは、3D印刷法で印刷可能である。
【0126】
一実施形態では、架橋バイオインクが印刷可能である期間は制限され、バイオファブリケーションウィンドウが、ヒドロゲル前駆体組成物の組成によって決定されることで、バイオインクの架橋形成動態が決定される。ヒドロゲル及び/又はバイオインクの架橋は、流体がヒドロゲル前駆体組成物に添加されたときに開始する連続プロセスである。ヒドロゲル及び/又はバイオインクは、適切な量の架橋が形成されるため、印刷可能であり、それによって、ヒドロゲル及び/又はバイオインクに印刷のための最適な粘度及びずり減粘特性を与える。一実施形態では、印刷されたヒドロゲル及び/又はバイオインク構造を、例えば硬化によって安定化させることは、さらなる架橋を促進し、印刷後の印刷されたバイオインク構造の安定性を高める。
【0127】
ヒドロゲル及び/又はバイオインクを得るための例示的なプロセスを
図1に示す。例示的なヒドロゲル前駆体組成物は、第1の成分1、HA-DA-CDH(ヒアルロン酸-ドーパミン-カルボヒドラジド)と、第2の成分2、HA-Ald(ヒアルロン酸-アルデヒド)と、2つのレオロジー改質剤成分であるI型コラーゲン及びHAを含む第3の成分3と、を含む(工程(I))。ヒドロゲル前駆体組成物を緩衝液又は細胞培養培地などの流体と混合すると(工程(II))、ドーパミン及びコラーゲンとの強い二次相互作用と共に自発的ヒドラゾン架橋反応が起こり、二重ネットワーク構造が形成されることによってヒドロゲル組成物が形成される(工程(III))。
図1にも示されるように、バイオインクは、ヒドロゲル前駆体組成物を、細胞を含む流体と混合することによって得られる。ヒト脂肪細胞組織由来幹細胞(hASC)及びhASC由来角膜間質様細胞などの哺乳動物細胞は、架橋前にヒドロゲルと混合され、バイオインクの形成を生じる。その結果、生じたヒドロゲル及び/又はバイオインクは、積層造形のためのあらかじめ決定された期間(バイオファブリケーションウィンドウ)に適している。バイオインクは、バイオファブリケーションウィンドウ内で3Dバイオプリントすることができ、その結果、生存可能なバイオプリントされた足場が生じる。
【0128】
ヒドロゲル及びヒドロゲルを含むバイオインクは、印刷可能でなければならないが、また十分に安定でなければならない。安定性は、ヒドロゲルの架橋度によって影響され、架橋度は、ヒドロゲルにおいて使用されるヒドロゲル前駆体組成物の第1の成分及び第2の成分の濃度によって部分的に影響される。一実施形態では、ヒドロゲル組成物中のヒドロゲル前駆体組成物の第1の成分及び第2の成分を合わせた濃度は、好ましくは2.5~15.5mg/mlである。一実施形態では、バイオインク中のヒドロゲル前駆体組成物の第1の成分及び第2の成分を合わせた濃度は、好ましくは2.5~15.5mg/mlである。ヒドロゲルの架橋度は、ヒドロゲル前駆体組成物の第1の成分及び第2の成分の利用可能な反応性官能基によっても影響を受ける。架橋度は、それぞれのHA成分の二糖反復単位に結合した、第1の成分中の第1の反応性官能基、又は第2の成分中の第2の反応性官能基の制限量のいずれかより低い量によって決定される。架橋度は、それぞれ第2の反応性官能基又は第1の反応性官能基と架橋されている第1の反応性官能基又は第2の反応性官能基にコンジュゲートされる第1及び第2のHA成分の二糖反復単位の百分率を指す。バイオインクの架橋度は、ヒドロゲル前駆体組成物の第1の成分及び第2の成分のリンカーL1、L2及び/又はL3の組成によってさらに影響を受ける可能性がある。第1の成分と第2の成分との間に形成されるヒドラゾン架橋の程度は、第1及び第2のHA成分の二糖反復単位の総量の15%未満でなければならない。ヒドラゾン架橋度が、第1の成分及び第2の成分のHA成分の二糖反復単位を合わせた量の15%を超える場合、架橋速度が速すぎることでヒドロゲルの印刷適性が制限される。
【0129】
一実施形態では、架橋ヒドロゲル組成物及び/又はバイオインクは、ヒドロゲル組成物の粘度が100~5000Pa・s、好ましくは200~2000Pa・sである場合に印刷可能である。一実施形態では、3D印刷のための方法は、混合物の粘度が100~5000Pa・s、好ましくは200~2000Pa・sに達するまで、ヒドロゲル前駆体組成物の第1の成分及び第2の成分を架橋させることを含む。一実施形態では、3D印刷のための方法は、ヒドロゲル組成物の粘度が100~5000Pa・s、好ましくは200~2000Pa・sである場合に、ヒドロゲル組成物を3D印刷することを含む。
【0130】
一実施形態では、ヒドロゲル前駆体組成物の第1の成分及び第2の成分は、1~38℃の温度で架橋するように構成される。一実施形態では、ヒドロゲル架橋温度は、18~24℃、好ましくは19~22℃の範囲内の室温である。一実施形態では、ヒドロゲル及び/又はバイオインクの架橋に最適な温度は、1~38℃、好ましくは18~24℃である。一実施形態では、ヒドロゲル及び/又はバイオインクの架橋に最適な温度は、1~38℃、好ましくは18~24℃、より好ましくは19~22℃である。
【0131】
好ましい実施形態では、ヒドロゲル及び/又はバイオインクの架橋を、ヒドロゲル及び/又はバイオインクの粘度が約200Pa・sに達するまで進行させた後、ヒドロゲル及び/又はバイオインクは印刷に使用され得る。一実施形態では、ヒドロゲル及び/又はバイオインクの架橋は、ヒドロゲル及び/又はバイオインクの粘度が200Pa・sに達するまで、20℃で最大60分間、好ましくは45~60分間進行する。
【0132】
一実施形態では、ヒドロゲル及び/又はバイオインクが印刷可能である、すなわち、加工され得る期間は、架橋成分、すなわち、ヒドロゲル前駆体組成物の第1の成分及び第2の成分の使用濃度に依存する。一実施形態では、5.83mg/mlの架橋成分を含むヒドロゲル/バイオインクの場合、バイオファブリケーションウィンドウは、少なくとも150分、又は好ましくは少なくとも90分である。一実施形態では、ヒドロゲル/バイオインクを印刷するための印刷圧は、使用印刷ノズルのサイズに依存する。
【0133】
一実施形態では、3D印刷されたヒドロゲル組成物は、好ましくは、印刷後に十分な安定性を達成するために、印刷後にさらなる架橋を形成することを可能にされる。一実施形態では、3D印刷されたバイオインクをさらなるプロセシングのために等張液に浸漬する前に、バイオインクは、3D印刷後に安定化され、さらなる架橋を形成することを可能にされる。一実施形態では、3D印刷されたヒドロゲル組成物及び/又はバイオインクは、好ましくは、印刷後のヒドロゲルの十分な安定性を達成するため、印刷されたヒドロゲルをさらなるプロセシングのために等張液に浸漬する前に、ある期間硬化される。一実施形態では、3D印刷されたヒドロゲル組成物及び/又はバイオインクは、15~60分間硬化される。
【実施例】
【0134】
実施例1.本発明のヒドロゲル前駆体組成物の第1の成分の一部としてのドーパミン修飾ヒアルロン酸の合成
1mmolのHA(400mg、1当量)を60mLの脱イオン水に溶解し、次いでそれに1mmolのHOBt(153mg、1当量)及び1mmolのドーパミン(190mg、1当量)を添加した。反応溶液のpHを1M HCl及び1M NaOHで5.5に調整した。次いで、0.25mmolのEDC(48mg、0.25当量)を30分間隔で2バッチで添加した。溶液のpHを5.5に6時間維持し、次いで一晩撹拌した。反応混合物を透析バッグに装填し、100mM NaClを含有する希HCl(pH=3.5)に対して透析し(4×2L、24時間)、続いて希HCl中で透析し(pH3.5、2×2L、24時間)、次いで脱イオン水に対して透析した(2×2L、24時間)。その後、溶液を凍結乾燥した。ドーパミンは、そのα-アミノ基を介して、HA成分のカルボキシル基にコンジュゲートされるため、リンカーL2は、-NH(CH2)2-である。ドーパミンコンジュゲーションの程度は、NMR分光法(1H NMR、300MHz)によって推定されるように、3.6%(HAの二糖単位に対して)であった。
【0135】
実施例2.本発明のヒドロゲル前駆体組成物の第1の成分としてのドーパミン及びカルボヒドラジド修飾ヒアルロン酸(HA-DA-CDH)の合成
第1の反応性基としてのカルボヒドラジド基(-CONHNH2)及びカテコール基にコンジュゲートされたヒアルロン酸(HA)成分を含む第1の成分を合成した。ドーパミン修飾ヒアルロン酸(HA-DA)上へのカルボヒドラジド(CDH)のコンジュゲーションを、カルボジイミドカップリング化学によって行った。簡潔に述べると、0.5mmolのHA-DA(200mg、1当量)を120mLの脱イオン水に溶解した。その後、0.375mmolのカルボジヒドラジド(34mg、0.75当量)及び0.5mmolのHOBt(76.5mg、1当量)をHA-DA水溶液に添加した。反応混合物のpHを4.7に調整した。最後に、0.1mmolのEDC・HCl(20mg、0.2当量)を加え、一晩撹拌した。反応混合物を透析バッグに装填し、100mM NaClを含有する希HCl(pH=3.5)に対して透析し(4×2L、24時間)、続いて希HCl中で透析し(pH3.5、2×2L、24時間)、次いで脱イオン水に対して透析した(2×2L、24時間)。その後、混合物を凍結乾燥してHA-DA-CDHを得た。ヒドラジド修飾の程度は、TNBSアッセイを使用して決定されるように、13.2%(HAの二糖反復単位に関して)であることが見出された。カルボジヒドラジド(NH2NHCONHNH2)はHA-DAのCOOH基と反応可能であったため、形成されるリンカーL1は-NHNH-である。
【0136】
実施例3.本発明のヒドロゲル前駆体組成物の第2の成分としてのアルデヒド修飾ヒアルロン酸(HA-Ald)の合成
第2の反応性基としてのアルデヒド基(-CHO)にコンジュゲートされたヒアルロン酸(HA)成分を含む第2の成分を合成した。表題化合物を、Biomacromolecules 2013に開示されているように合成した。アルデヒド基(-CHO)を、この文献に開示されているようにHA成分にコンジュゲートし、形成されるリンカーL3は-NHCH2-であった。HA中のアルデヒド修飾の百分率は、1H NMR分光法によって決定した際、(二糖単位に対して)9%であることが見出された。アルデヒド修飾の程度は、tert-ブチルカルバゼートをアルデヒド修飾HAと反応させ、続いてNaCNBH3還元し、HAの2.0ppmでのN-アセチルシグナルに対して1.4ppmでのtert-ブチルシグナルを統合することによって推定した。
【0137】
実施例4.ヒドロゲル組成物の調製
ヒドロゲル組成物を、ヒドラゾン架橋化学を用いて調製した。合成されたHA-DA-CDH(ヒドロゲル前駆体組成物の第1の成分)及びHA-Ald(ヒドロゲル前駆体組成物の第2の成分)成分をUVで20分間滅菌し、濃度10mg/ml(w/v)で滅菌PBSに溶解した。1200~1900kDaのMwを有するヒアルロン酸ナトリウム(Pharma Grade 150)(Novamatrix)を一次レオロジー改質剤成分として使用し、0.4M NaClを含む滅菌5×PBS中に10mg/ml(w/v)の濃度で溶解した。OptiCol(商標)ヒトI型コラーゲン(3.1mg/ml)(Cell Guidance Systems Ltd,Cambridge,UK)を、生体適合性及び粘弾性を増加させるための二次レオロジー改質剤成分としてヒドロゲル前駆体組成物に導入した。ヒトI型コラーゲンを、10Xダルベッコリン酸緩衝生理食塩水(DPBS,Carl Roth,Karlsruhe,Germany)の存在下、1M水酸化ナトリウム(NaOH)でpH7.4に中和した。最終ヒドロゲル組成物中の架橋成分、すなわち、ヒドロゲル前駆体組成物の第1の成分及び第2の成分の濃度は、5.83mg/mlであった。最終ヒドロゲル組成物は、HA-DA-CDH 29.2%(v/v)、HA-Ald 29.2%(v/v)、HA 12.5%(v/v)、中和ヒトI型コラーゲン18.2%(v/v)及び細胞培養培地10.9%(v/v)からなった。成分の混合は、2つのシリンジをメス-メスルアーロック(female-female luer lock)で組み合わせたデュアルシリンジシステムを使用して行った。完全に混合した後、混合物を30ccのNordson EFDシリンジバレルに入れ、カートリッジピストンを直ちにバレルに入れた。混合物の架橋成分に、室温で45~60分間にわたり架橋及び硬化させて、印刷可能なヒドロゲルを形成させた。架橋は、印刷のためにヒドロゲルを使用する前に、ヒドロゲルが最適なコンシステンシー及び粘度を得ることを可能にする。
【0138】
実施例5.3D印刷
実施例4に開示されたヒドロゲルを用いて3D印刷を行った。Envisiontec(Gladbeck,Germany)による3D-Bioplotter(登録商標)Manufacturer Seriesによる押出ベースの3D印刷を使用した。プレ架橋期間後、3D印刷のための90分のバイオファブリケーションウィンドウが得られた。ヒドロゲル組成物を有するバレルを、3Dバイオプリンターの低温プリントヘッドに装填した。0.50インチの長さ及び100μmの内径を有する32Gブラント針を印刷のために使用した。プリントヘッド温度を20℃に調整し、印刷を室温で行った。.stlフォーマットの3DモデルをPerfactory RP Softwareで作成し、印刷パターンを含む内部パラメータをVisuals Machineで調整した。80μmのスライス間隔を全ての印刷構造に使用し、針の高さを0.07mmに調整した。細胞を含むヒドロゲル、すなわちバイオインクを用いた3D印刷のために、1.0バールの印刷圧及び6.0mm/sの印刷速度を使用した。バイオインクに使用された3D印刷パラメータは、他の点では上に開示されたものと同じであった。
【0139】
実施例6.ヒドロゲル組成物の粘度及びずり減粘
実施例4に封入されたヒドロゲル組成物の注入性及びずり減粘特性を測定した。連続流下(0.01~10s-1)及び周期流下の両方で、ヒドロゲルの粘度及び流動特性を測定した。周期流に関して使用された剪断速度は、TA instrumentsのDHR-IIレオメーターにおいて、12mmステンレス鋼平行板形状を使用して、各サイクルについて60秒の保持時間を有する7サイクルまで、0.01及び10s-1であった。
図2は、A)連続流及びB)周期流の下でのヒドロゲル組成物の粘度をPa・sとして開示しており、ヒドロゲル組成物が優れた注入性及びずり減粘特性を有することを開示する。実施例4の架橋ヒドロゲルの歪み回復をさらに評価するために、その貯蔵弾性率及び損失弾性率を測定した。測定は、低(1%歪み)振動歪み条件と高(50%歪み)振動歪み条件とを交互に繰り返す流動下、25℃及び1Hzの振動周波数で、各工程において60秒の保持期間を有する7サイクルについて、直径12mmのステンレス鋼平行板形状を使用して行った。
図3におけるヒドロゲル組成物の貯蔵弾性率(Pa)及び損失弾性率(Pa)を開示する結果は、ヒドロゲル組成物が歪み下でずり減粘性であることを示す。
【0140】
実施例7.レオロジー改質剤成分を含むヒドロゲル組成物及びレオロジー改質剤成分を含まないヒドロゲル組成物を使用した、3D印刷
レオロジー改質剤を含むヒドロゲル組成物及びレオロジー改質剤を含まないヒドロゲル組成物を3D印刷に関して試験した。実施例4に開示された組成物を、レオロジー改質剤を含むヒドロゲルとして、この実験で使用した。実施例4に開示されたヒドロゲルに対応するヒドロゲルを、いかなるレオロジー改質剤もなしで調製した。どちらのヒドロゲルも、5.83mg/mlの架橋成分を含んでいた。6つの層を有し、ストランド間の距離が2.5mmである格子構造を印刷した。印刷された構造の写真を、印刷直後に撮った。ヒドロゲルを印刷前に室温で1時間架橋させ、その後、32Gノズルを通して印刷した。どちらのヒドロゲルについても、1.0バール及び6.0mm/sの印刷パラメータを使用した。
【0141】
これらのヒドロゲル組成物の印刷適性を、Koivusalo et al.2019によって以前に開示されたように調製されたヒドロゲル組成物とさらに比較した。材料のゲル化が他の2つのヒドロゲル組成物と比較して非常に迅速であったため、Koivusalo et al.2019によって開示されたヒドロゲル組成物は、架橋成分を混合した直後に印刷された。2層及び線間距離2.5mmを有する格子構造を使用した。27Gのより大きなノズルを使用し、ヒドロゲル材料がノズルを通って流れるために、1.5~2.0バールのより高い圧力が必要であった。
【0142】
いかなるレオロジー改質剤成分も含まない3D印刷されたヒドロゲル組成物を示す画像を
図4Aに示し、レオロジー改質剤としてヒアルロン酸及びヒトI型コラーゲンを含む3D印刷されたヒドロゲル組成物を示す画像を
図4Bに示し、Koivusalo et al.2019の3D印刷されたヒドロゲル組成物を示す画像を
図4Cに示す。これらの結果は、例示的なレオロジー改質剤を含むヒドロゲルが、良好な印刷品質を有するヒドロゲルを形成することを示す。これらの結果はまた、レオロジー改質剤を含まないヒドロゲルは、印刷可能なフィラメントを形成せず、特定の構造にパターン化することができず、こうしたものとして3D印刷に使用することができないことを示す。さらに、Koivusalo et al 2019によって開示されたヒドロゲル組成物は、
図4Cに示されるヒドロゲル組成物のように、連続フィラメントとして印刷されるのではなく、塊を形成し、不均一に印刷された。これは、より高濃度の架橋成分を含み、レオロジー改質剤を含まない、Koivusalo et al.2019に記載されているヒドロゲル組成物が、3D印刷に適していないことを示す。
【0143】
実施例8.異なる濃度の架橋成分を含むヒドロゲル組成物を使用した3D印刷
ヒドロゲル組成物中の異なる濃度の架橋成分を、ヒドロゲルの印刷適性に対する影響を観察するために研究した。実施例4と同じヒドロゲル前駆体組成物の成分を使用した。2.92mg/ml、8.16及び11.66mg/mlの架橋成分濃度を有するヒドロゲルを調製し、研究した。2つの層及び1.00mmの線距離を有する20×20mmの格子構造を、2.92mg/ml及び8.16mg/mlの架橋成分濃度のヒドロゲルで印刷し、線距離2.50mmを有する15mm×15mmの格子を、11.66mg/mlの架橋成分濃度のヒドロゲルに使用した。2.92mg/mlの架橋成分濃度のヒドロゲルを、34Gノズルを使用して、0.2バールの圧力及び18mm/sの速度で印刷した。8.16mg/mlの架橋成分濃度のヒドロゲルに関しては、1.6バールの圧力及び5mm/sの速度の印刷パラメータで32Gノズルを使用した。1.3バール及び6mm/sで27Gノズルを使用して、11.66mg/mlの架橋成分濃度のヒドロゲルを印刷した。架橋時間は、最初の2つの濃度については1時間であり、後者については30分であった。
図5は、2.92mg/ml(
図5A)、8.16mg/ml(
図5B)、及び11.66mg/ml(
図5C)の架橋成分を含むヒドロゲルの代表的な画像を示す。良好なフィラメント形成及び微調整されたパターニングを伴う成功した印刷が、3つ全てのヒドロゲル組成物で見られ、研究された濃度の架橋成分を伴うヒドロゲル組成物が、3D印刷への使用に好適であることが示された。
【0144】
実施例9.レオロジー改質剤として異なる濃度のI型コラーゲンを含むヒドロゲル組成物を使用した3D印刷
ヒドロゲルの印刷適性に対する、レオロジー改質剤成分としてのHAとコラーゲン濃度との複合的影響を評価した。第2のレオロジー改質剤成分として、改変された濃度のI型コラーゲンを含む実施例4に開示されるようなヒドロゲル組成物を試験のために使用した。実施例4に開示した組成物と同じ濃度のHAをレオロジー改質剤として含む3つのヒドロゲル組成物を調製した。3つのヒドロゲル組成物は全て、5.83mg/mlの架橋成分も含んでいた。ヒドロゲル中の試験した中和ヒトI型コラーゲン成分濃度は、0.18mg/ml、0.56mg/ml及び1.09mg/mlであった。全ての調べたヒドロゲル組成物に関して、0.9バール及び6.00mm/sの印刷パラメータを使用し、全ての試料を、1.0mmの線距離を有する2層及び20mm×20mmの格子構造に印刷した。32Gノズルを印刷に使用した。二次レオロジー改質剤成分として3つの異なる濃度のヒトI型コラーゲンを含む3D印刷されたヒドロゲル組成物を示す例示的な画像を
図6に示す。
図6は、1mg/ml(
図6A)、3.1mg/ml(
図6B)、及び6.0mg/ml(
図6C)のヒトI型コラーゲン濃度を有するヒドロゲルの代表的な画像を提示する。コラーゲン濃度の増加と共に、ヒドロゲル組成物において、架橋の増加及び形状忠実度の改善が観察された。
【0145】
実施例10.レオロジー改質剤成分として異なる濃度のHAを含むヒドロゲル組成物を使用した3D印刷
実施例4に含まれるヒドロゲル架橋成分比及び試薬を使用した。レオロジー改質剤成分として異なる濃度のHAを有するヒドロゲルを調製し、それらの印刷適性を調べた。これらのヒドロゲルにはレオロジー改質剤としてI型コラーゲンを添加しなかった。ヒドロゲル中の0.625mg/ml、1.25mg/ml及び3.125mg/mlの最終HA濃度を試験した。ヒドロゲルを、1.3バール、8mm/sを使用して印刷し、2.50mmのストランド距離を有する6つの層状格子を3D印刷した。
【0146】
図7に示す結果は、HAの濃度が、ヒドロゲルの印刷品質及び形状忠実度に明らかな影響を及ぼすことを示す。ヒドロゲル中の0.625mg/mlのHAの濃度(
図7A)は、最適ではなく、多層ヒドロゲルがその形状を保持するには低すぎるようである。3.125mg/ml(
図7C)のHA濃度を有するヒドロゲルは、他の試験された濃度と比較してより硬いが、多層3D構造をプリントする間にフィラメントが広がり、したがって、この濃度は最適ではない。レオロジー改質剤として1.25mg/ml(
図7B)のHAを含むヒドロゲルは、試験された濃度のうち最良の印刷適性及び形状忠実度品質を示した。
【0147】
実施例11.様々なレオロジー改質剤を含むヒドロゲル組成物を使用した3D印刷
ヒドロゲル組成物中のレオロジー改質剤成分のいくつかの異なる組み合わせを調べ、それらの印刷適性を試験した。実施例4のヒドロゲル組成物を、ヒトI型コラーゲン成分を他のタンパク質で置き換える改変を伴って使用した。ヒドロゲル中で0.8mg/mlの最終濃度を有するPBS中のヒトフィブロネクチンを研究した。さらに、ヒドロゲル中の最終濃度が0.02mg/mlであるヒト組換えラミニン521(Biolamina)、及びヒドロゲル中の最終濃度が9.1mg/mlであるヒトアルブミン(Sigma)を調べた。成分を混合した後、ヒドロゲルを室温で1時間架橋させた。全ての調製されたヒドロゲルを、32G針を用いて0.9バール及び6.0mm/sで印刷した。
【0148】
図8は、フィブロネクチン及びHA(
図8A)、ラミニン及びHA(
図8B)、並びにアルブミン及びHA(
図8C)をレオロジー改質剤成分として示された濃度で有するヒドロゲル前駆体組成物を使用して生成された代表的なヒドロゲル格子を提示する。ラミニン及びアルブミンを含むヒドロゲル組成物は、迅速な架橋、及びレオロジー改質剤としてヒトI型コラーゲンを含むヒドロゲルと非常に類似した挙動を示した。フィブロネクチンを含むヒドロゲルは印刷可能であったが、ラミニン及びアルブミンを含む他の2つの調べたヒドロゲル組成物と比較して、フィラメント広がりの増加及び印刷適性の低下を示した。これらの結果は、ヒドロゲル前駆体組成物において使用することができ、ヒドロゲルにおいて良好な架橋及びずり減粘特性を生じるレオロジー改質剤のいくつかの潜在的な組み合わせが存在することを示す。
【0149】
実施例12.3Dヒドロゲル円柱構造における3D印刷されたヒドロゲル組成物の形状忠実度の観察
3D印刷されたヒドロゲルの形状忠実度を観察するために、実施例4のヒドロゲル組成物を使用した。
【0150】
15mmの直径及び1mmの高さを有する3D円柱を印刷した。使用した線距離は400μmであり、交互層は90°の角度であった。
図9には、印刷直後の、100μm印刷ノズルを使用した、12個の印刷層を有する、印刷された3D構造の2つの例示的な斜視
図A及びBが示される。これらの結果は、ヒドロゲル組成物が3D円柱形状で印刷された際、層ごとに良好に印刷され、良好な形状忠実度を有することを示す。
【0151】
実施例13.3D印刷されたヒドロゲル組成物の形状忠実度の、時間の関数としての観察
ヒドロゲル組成物の形状忠実度をさらに調べるために、ヒドロゲルのフィラメント厚を時間の関数として測定した。この実験でも、実施例4のヒドロゲル組成物を使用した。ヒドロゲルを、15mm×15mmの寸法を有する6層の十字パターンを有する格子状に3D印刷した。印刷された線の間に2.50mmの距離を使用し、交互層は90°の角度であった。印刷直後及び+37℃のPBSに7日間浸漬した後に、試料を画像化した。印刷されたヒドロゲルフィラメントの厚さを、Image Jを用いて定量化した。結果は、試料が採取された時点のフィラメント厚の、印刷直後のフィラメント厚に対する比として計算された、相対フィラメント厚として提示される。
図10Aには、時間の関数として、3D印刷されたヒドロゲルの計算された相対フィラメント厚が示されており、D0は0日目の相対フィラメント厚を示し、D7は7日目の相対フィラメント厚を示す。0日目(D0)及び7日目の印刷された格子の対応する画像を、それぞれ
図10B及び
図10Cに示す。これらの結果は、ヒドロゲルの形状忠実度が、観察された期間にわたって有意に変化しないことを立証する。印刷されたヒドロゲル格子の全ての孔(36/36)は、0日目(
図10B)から7日目(
図10C)までの7日間の観察期間中、開いたままであった。7日間の培養期間中に、相対フィラメント厚の増加はわずか12%であることが観察された。
【0152】
実施例14.細胞及び細胞培養
ヒト脂肪由来幹細胞(hASC)を、当該技術分野において開示されているように、皮下脂肪組織試料から機械的及び酵素的に単離した。その後、hASCを、5%ヒト血清(AB型男性、BioWest,Nuaille,France由来、HIV試験済み)、1%GlutaMAX(商標)及び1%ペニシリン/ストレプトマイシンを添加したDMEM/F-12を含有する培地中で培養した。ヒトASCを、TrypLE(商標)を使用して集密時に継代し、継代4~5でバイオプリンティングに使用した。バイオプリンティングのために、hASCをTrypLE(商標)の酵素作用により剥離させ、遠心分離し、計数のために培養培地に再懸濁した。その後、hASCを遠心分離し、上清を除去し、細胞を培養培地に再懸濁し、1.1×106細胞/mlの細胞密度でヒドロゲル前駆体組成物と混合して、バイオプリンティングに使用される印刷可能なバイオインクを得た。
【0153】
別の実験設定では、hASCを、バイオプリンティングに使用する前に、7日間培養して角膜間質様細胞に分化させた。分化のため、hASCを、10ng/mL塩基性線維芽細胞成長因子(bFGF)、0.1mMアスコルビン酸-2-リン酸及び1μMレチノイン酸を添加した、Advanced DMEM(Gibco(商標))、1%GlutaMAX(商標)、1%ペニシリン/ストレプトマイシンを含有する培地中、7000細胞/cm2の細胞密度でT75細胞培養フラスコ上にプレーティングした。印刷のため、hASCについて記載したように、あらかじめ分化させた細胞を調製した。
【0154】
実施例15.3D印刷されたヒドロゲル組成物の生体適合性
実施例4において開示されるヒドロゲル組成物の生体適合性を、3D印刷された線及び円柱由来のhASC及びhASC由来角膜間質様細胞を用いて評価した。ヒドロゲル組成物を調製し、hASC又はhASC由来角膜間質様細胞のいずれかと混合して、2つの異なるバイオインクを得た。バイオインクは、平行線の2層で3D印刷された。印刷領域の寸法は20mm×20mmであり、線間距離は1.00mmであった。15mmの直径及び800μmの高さを有する3D円柱もまた、3D印刷した。使用した線間距離は400μmであった。交互層は90°の角度であった。3D印刷後、印刷された線及び円柱をさらに架橋させ、+37℃、5%CO2で20分間安定化させた後、細胞培養培地又は滅菌PBS中に浸漬した。より高い3D円柱試料の印刷のため、印刷されたヒドロゲルを培地又は滅菌PBS中に浸漬する前に、1時間の安定化期間を使用した。
【0155】
印刷後の細胞生存率を、印刷の1、3及び7日後にPrestoBlue(商標)細胞生存性試薬(Invitrogen)を用いて決定した。PrestoBlue(登録商標)分析のため、両方の細胞タイプ由来の各時点の3つの試料をDPBS(Lonza)で1回洗浄し、細胞培養培地中で1:10(v/v)に希釈したPrestoBlue(登録商標)試薬を試料に添加した。37℃で1時間インキュベートした後、PrestoBlue(登録商標)培地の100μLアリコットを96ウェルプレート上の各試料から3つ組で収集し、それらの蛍光を、Viktor 1420 Multilabel Counter(Wallac,Turku,Finland)を使用して、それぞれ544nm及び590nmの励起及び発光波長で測定した。
【0156】
培地試料に関する蛍光値を
図11に示す。D0は0日目の蛍光、D3は3日目の蛍光、D7は7日目の蛍光を示す。
図11Aは、3D印刷された二重層バイオインク線における蛍光を示し、
図11Bは、この細胞タイプを有する3D印刷された非中空3D円柱における蛍光を示す。これらの結果は、印刷可能なバイオインクを生じる細胞と共に使用されるヒドロゲルが、複数の細胞タイプと生体適合性であり、印刷後の細胞生存性を支持することが可能であることを示す。経時的な蛍光の増加は、印刷可能なバイオインクを生じる細胞と共に使用されるヒドロゲルが、印刷後に複数の細胞タイプで細胞増殖を促進することも可能であることを示す。印刷された細胞タイプ両方の細胞形態を、D7後の細胞のアクチンフィラメントのIF染色で評価した。簡潔に述べると、印刷された線を4%PFAで30分間固定し、洗浄し、PBS中の0.1%Triton-X-100で室温で15分間透過処理し、その後、PBS中の5%BSAで室温で1時間ブロッキングした。ファロイジン(Sigma)を5%BSA-PBS溶液中に1:100の比で希釈し、室温で1時間インキュベートした。試料をPBSで3回洗浄し、Olympus IX 51蛍光顕微鏡で免疫蛍光画像を撮影した。hASC及びhASC由来角膜間質様細胞のIF画像を、それぞれ
図11C及びDに示す(スケールバー500μm)。どちらの細胞タイプも細長い細胞形態を有し、バイオインクにおける良好な生体適合性並びに細胞及び組織成熟を示した。
【0157】
実施例16.ヒドロゲル特性に対するレオロジー改質剤のMwの影響の観察
実施例4に開示されたヒドロゲル組成物のためのレオロジー改質剤の組成及びMwの影響を評価した。実施例4に開示されたレオロジー成分として高Mw HA(Mw=1200~1900kDa)及びヒトI型コラーゲンを有するヒドロゲル組成物を対照(基本バイオインク)として使用した。ヒトI型コラーゲンを含まない実施例4に開示されるものと類似のヒドロゲル組成物(コラーゲンを含まないバイオインク)も調べた。最後に、実施例4に開示されたヒドロゲルのレオロジー成分を、低Mw HA(Mw 100~300kDa)で置き換えた。これらのヒドロゲル組成物の注入性及びずり減粘特性を、室温で10分及び1時間の架橋後に、TA instrumentsのDHR-IIレオメーターを用いて連続流下(0.01~10s
-1)で決定した。基本バイオインク組成物は、架橋の10分後(
図12)及び1時間後(
図13)に最も高い粘度を示した。基本バイオインクの粘度は、コラーゲンを含まない類似のヒドロゲル組成物と比較して高かった。低Mw HAを有するヒドロゲル組成物は、どちらの時点でも最も低い粘度値を示した。これらの結果は、レオロジー改質剤として使用されるHAのMwが、開発されたヒドロゲルの粘度及び印刷適性に有意な影響を及ぼすことを示す。さらに、レオロジー改質剤として高Mw HA及びヒトI型コラーゲンの両方を使用する複合的影響は、ヒドロゲル組成物の印刷適性に有益である。
【0158】
実施例17.ヒドロゲル特性に対するヒトI型コラーゲンの影響
実施例4に開示されたヒドロゲル組成物に対するヒトI型コラーゲンの影響を評価した。このために、実施例4に開示されたヒドロゲル組成物を、ヒトI型コラーゲン成分を含まない類似のヒドロゲル組成物と比較した。どちらのヒドロゲルも室温で1時間架橋させた。次いで、ヒドロゲルをシリンジからわずかに押し出し、そしてヒドロゲルを引っ張ることによって、弾性及びフィラメント形成を評価した。ヒトI型コラーゲンを含むヒドロゲル組成物は、優れたフィラメント形成及び弾性を示した(
図14A)。コラーゲンを含むヒドロゲルは、長い繊維へと引き伸ばされた。コラーゲンを含むヒドロゲルは粘着性であり、複数回引き伸ばした後も基材から剥離しなかった。I型コラーゲンを含まないヒドロゲルは、繊維を形成することができず、乏しい弾性を示した(
図14B)。両方のヒドロゲルを、実施例15に含まれるような平行線の2つの層に3Dバイオプリントした。印刷された線を細胞培養培地に入れ、基材への接着及び形状忠実度について調べた。コラーゲンIを含むヒドロゲル組成物は、印刷基材に付着したままであり、印刷された線の形態を維持した(
図15A)。対照的に、I型コラーゲンを含まないヒドロゲル組成物は、細胞培養培地中で印刷基材から剥離し、印刷された組織化線パターンを失った(
図15B)。これらの結果は、ヒトI型コラーゲンと高Mw HAとの組み合わせが、優れた印刷適性、弾性、粘着性及びフィラメント形成を有する独特のヒドロゲル組成物を生じることを示す。
【0159】
実施例18.HA-DA-CDH合成及びヒドロゲル組成物に対するMwの影響
HA-DA-CDHは、高Mw HA(Mw=1200~1900kDa)を使用する改変を伴って、実施例2に記載されるように合成された。合成されたHA-DA-CDHを、実施例4に含まれるヒドロゲル組成物を調製するために調べた。このために、HA-DA-CDHを1xPBSに溶解した。溶液を、連続的に振盪しながら+37℃で5時間インキュベートした。HA-DA-CDHは、10mg/mlの濃度までは1×PBSに溶解しなかった(
図16A)。調製されたHA-DA-CDH成分の合成度を決定するために、TNBSアッセイを使用した。合成された成分は試薬溶媒中に溶解せず(
図16B)、TNBSアッセイによる定量化を行うことができなかった。これらの結果は、高Mw HAが、ヒドロゲル組成物を調製するためのHA-DA-CDHの合成に適していないことを示す。
【0160】
前述の説明は、特定の実装形態及び実施形態の非限定的な例として、本発明を実施するために本発明者らによって現在企図されている最良の形態の完全かつ有益な説明を提供している。しかし、本発明は、上述した実施形態の詳細に限定されるものではなく、本発明の特徴から逸脱することなく、同等の手段を使用する他の実施形態において、又は実施形態の異なる組み合わせにおいて実施され得ることは、当業者には明らかである。
【0161】
さらに、先に開示された例示的な実施形態の特徴のいくつかは、他の特徴の対応する使用を伴わず、有利に使用され得る。したがって、実施形態や態様の任意の適切な組み合わせを行ってもよい。本明細書に開示される態様又は実施形態の任意の組み合わせはまた、態様又は実施形態に開示される少なくとも1つの非本質的な特徴を伴わずに行われ得る。
【0162】
異なる非拘束的な例示的態様及び実施形態が、上記に説明されている。前述の実施形態は、単に、異なる実装において利用され得る選択された態様又は工程を説明するために使用される。いくつかの実施形態は、特定の例示的な態様のみに関して提示され得る。対応する実施形態は、他の例示的な態様にも適用され得ることを理解されたい。添付の特許請求の範囲は、保護の範囲を定義する。説明又は図面に開示され、特許請求の範囲によってカバーされない任意の方法、プロセス、使用、製品又は装置は、特許請求される発明の実施形態として理解されるべきではないが、特許請求される発明を理解するために有用である例として提供される。
【0163】
参考文献
Biomacromolecules 2013,14,7,2427-2432,公開日:2013年5月30日、https: //doi.org/10.1021/bm400612h
Koivusalo L.et al.Biomaterials 2019,225,公開日2019年9月23日、https: //doi.org/10.1016/j.biomaterials.2019.119516
【国際調査報告】