(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公表特許公報(A)
(11)【公表番号】
(43)【公表日】2024-10-02
(54)【発明の名称】脳深部刺激療法をガイドするためにヒト視床中心部をベクトル式にターゲティングするための方法およびそのためのデバイス
(51)【国際特許分類】
A61N 1/36 20060101AFI20240925BHJP
A61N 1/05 20060101ALI20240925BHJP
【FI】
A61N1/36
A61N1/05
【審査請求】未請求
【予備審査請求】未請求
(21)【出願番号】P 2024516926
(86)(22)【出願日】2022-09-14
(85)【翻訳文提出日】2024-05-09
(86)【国際出願番号】 US2022043451
(87)【国際公開番号】W WO2023043786
(87)【国際公開日】2023-03-23
(32)【優先日】2021-09-15
(33)【優先権主張国・地域又は機関】US
(81)【指定国・地域】
【公序良俗違反の表示】
(特許庁注:以下のものは登録商標)
(71)【出願人】
【識別番号】513249770
【氏名又は名称】コーネル ユニバーシティー
(71)【出願人】
【識別番号】524099968
【氏名又は名称】ザ ユニバーシティー オブ ユタ
(71)【出願人】
【識別番号】524100068
【氏名又は名称】ザ ボード オブ トラスティーズ オブ ザ レランド スタンフォード ジュニア ユニバーシティー
(74)【代理人】
【識別番号】100102978
【氏名又は名称】清水 初志
(74)【代理人】
【識別番号】100205707
【氏名又は名称】小寺 秀紀
(74)【代理人】
【識別番号】100160923
【氏名又は名称】山口 裕孝
(74)【代理人】
【識別番号】100119507
【氏名又は名称】刑部 俊
(74)【代理人】
【識別番号】100142929
【氏名又は名称】井上 隆一
(74)【代理人】
【識別番号】100148699
【氏名又は名称】佐藤 利光
(74)【代理人】
【識別番号】100188433
【氏名又は名称】梅村 幸輔
(74)【代理人】
【識別番号】100128048
【氏名又は名称】新見 浩一
(74)【代理人】
【識別番号】100129506
【氏名又は名称】小林 智彦
(74)【代理人】
【識別番号】100114340
【氏名又は名称】大関 雅人
(74)【代理人】
【識別番号】100214396
【氏名又は名称】塩田 真紀
(74)【代理人】
【識別番号】100121072
【氏名又は名称】川本 和弥
(74)【代理人】
【識別番号】100221741
【氏名又は名称】酒井 直子
(74)【代理人】
【識別番号】100114926
【氏名又は名称】枝松 義恵
(72)【発明者】
【氏名】シフ ニコラス
(72)【発明者】
【氏名】ベイカー ジョナサン
(72)【発明者】
【氏名】バトソン クリストファー
(72)【発明者】
【氏名】ジェイソン アンドリュー
(72)【発明者】
【氏名】オサリバン カイル
(72)【発明者】
【氏名】ヘンダーソン ジェイミー
(72)【発明者】
【氏名】チェ ウ ヨン
(72)【発明者】
【氏名】ラット ブライアン
(72)【発明者】
【氏名】ラドヴァン マシュー
(72)【発明者】
【氏名】スー ジェイソン
【テーマコード(参考)】
4C053
【Fターム(参考)】
4C053CC10
4C053JJ02
4C053JJ04
4C053JJ05
4C053JJ21
4C053JJ40
(57)【要約】
脳深部刺激療法(DBS)をガイドするためにヒト視床中心部(CT)をベクトル式ターゲティングするための方法およびデバイスを開示する。いくつかの実施例において、各々が複数の接点を備えた電極が提供される。ヒト対象の外側中心核-背側被蓋路内側コンポーネント(CL/DTTm)線維束の主軸の三次元配向が決定される。電極の接点が、三次元配向と実質的にアライメントして、対象のCT線維内にポジショニングされる。CT線維を選択的に賦活化するために、接点に電気刺激が印加される。ポジショニングおよび印加は、対象における外側中心核-背内側被蓋路の線維経路の賦活化を最大化し、かつ対象における正中中心核-束傍核の線維経路の賦活化を最小化するように、行われる。DBSをガイドするためのヒトCTのベクトル式ターゲティングを伴う手術計画のための方法およびデバイスもまた開示する。
【特許請求の範囲】
【請求項1】
以下の段階を含む、脳深部刺激療法をガイドするためにヒト視床中心部をベクトル式ターゲティングするための方法:
各々が複数の接点を備えた、1つまたは複数の電極を提供する段階;
ヒト対象の外側中心核-背側被蓋路内側コンポーネント(CL/DTTm)線維束の主軸(dominant axis)の三次元配向を決定する段階;
該1つまたは複数の電極の、該複数の接点を、該決定されたCL/DTTm線維束の主軸の該三次元配向と実質的にアライメントして、該ヒト対象の視床中心部線維内にポジショニングする段階;ならびに
該ヒト対象の該視床中心部線維を選択的に賦活化するために、該1つまたは複数の電極の、該ポジショニングされた複数の接点に、電気刺激を印加する段階であって、該ポジショニングおよび該印加が、該ヒト対象における外側中心核-背内側被蓋路の線維経路の賦活化を最大化するように、かつ該ヒト対象における正中中心核-束傍核の線維経路の賦活化を最小化するように行われる、段階。
【請求項2】
複数の電極が提供される、請求項1記載の方法。
【請求項3】
それを行うことで、CL/DTTm線維束の視床中心部線維の75%~100%が刺激される、請求項1記載の方法。
【請求項4】
それを行うことで、視床中心部内の正中中心核-束傍核の線維経路内の正中中心核-束傍核線維の25%未満が刺激される、請求項1記載の方法。
【請求項5】
それを行うことで、CL/DTTm線維束の視床中心部線維の90%~100%、および視床中心部内の正中中心核-束傍核の線維経路内の正中中心核-束傍核線維の10%未満が刺激される、請求項1記載の方法。
【請求項6】
1つまたは複数の病変部を実質的に回避する、1つまたは複数の手術軌道を決定する段階であって、前記ポジショニングが、該決定された手術軌道にさらに基づく、段階
をさらに含む、請求項1記載の方法。
【請求項7】
前記1つまたは複数の病変部が、視床中心部、大脳皮質、または線条体のうち1つまたは複数内にある、請求項6記載の方法。
【請求項8】
電気刺激を印加する段階が、前記1つまたは複数の電極の各々について独立に選択される、0.1~25.0ミリアンペアまたは0.1~10.5ボルトで行われる、請求項1記載の方法。
【請求項9】
電気刺激を印加する段階が、持続的、間欠的、または周期的な刺激を用いて行われる、請求項1記載の方法。
【請求項10】
電気刺激を印加する段階が、前記1つまたは複数の各電極上で、実質的に同相または実質的に位相外れの刺激を用いて行われる、請求項1記載の方法。
【請求項11】
電気刺激を印加する段階が、異なる速度率で上勾配または下勾配にされる、請求項1記載の方法。
【請求項12】
電気刺激を印加する段階が、単相または二相の正弦波、方形波、スパイク波、矩形波、三角波、ランプ波の構成を有する電圧波列を用いて行われる、請求項1記載の方法。
【請求項13】
電気刺激を印加する段階が、1 Hz~10 kHzの1つまたは複数の周波数で行われる、請求項1記載の方法。
【請求項14】
電気刺激を印加する段階が、時間においてインターリーブ可能である1つまたは複数の刺激プログラムを用いて行われる、請求項1記載の方法。
【請求項15】
ヒト対象の脳と連絡した少なくとも1つのセンサーを提供する段階;
該少なくとも1つのセンサーからのデータに基づいて、該ヒト対象の脳におけるニューロン活動の状態を決定する段階;および
該ヒト対象の脳における、該決定されたニューロン活動の状態に基づいて、電気刺激の印加を調整する段階
をさらに含む、請求項1記載の方法。
【請求項16】
ヒト対象の脳を撮影する段階;
セグメント化脳モデルを作成するために、該ヒト対象の撮影された脳の視床中心部をセグメント化する段階;
該ヒト対象における外側中心核-背内側被蓋路の線維経路の賦活化を最大化し、かつ該ヒト対象における正中中心核-束傍核の線維経路の賦活化を最小化する、該セグメント化脳モデルにおける1つまたは複数の電極のポジション、配向、または電気刺激条件を確認する段階;ならびに
前記ポジショニングおよび前記印加を行うために用いられる刺激マップを、該確認に基づいて作成する段階
をさらに含む、請求項1記載の方法。
【請求項17】
以下の段階を含む、ヒト対象における、覚醒調節不全によって特徴付けられる病的状態を処置する方法:
覚醒調節不全を有するヒト対象を選択する段階;
各々が複数の接点を備えた、1つまたは複数の電極を提供する段階;
該選択されたヒト対象の外側中心核-背側被蓋路内側コンポーネント(CL/DTTm)線維束の主軸の三次元配向を決定する段階;
該1つまたは複数の電極の、該複数の接点を、該決定されたCL/DTTm線維束の主軸の該三次元配向と実質的にアライメントして、該選択されたヒト対象の視床中心部線維内にポジショニングする段階;ならびに
該選択されたヒト対象を覚醒調節不全について処置するために、該1つまたは複数の電極の、該ポジショニングされた複数の接点に、電気刺激を印加する段階であって、該ポジショニングおよび該印加が、該選択されたヒト対象における外側中心核-背内側被蓋路の線維経路の賦活化を最大化するように、かつ該選択されたヒト対象における正中中心核-束傍核の線維経路の賦活化を最小化するように行われる、段階。
【請求項18】
間隔の空いた複数の接点を各々が有している複数の電極が提供される、請求項17記載の方法。
【請求項19】
それを行うことで、選択されたヒト対象の視床中心部内の背内側被蓋路の線維経路内の背内側被蓋路線維の75%~100%が刺激される、請求項17記載の方法。
【請求項20】
それを行うことで、選択されたヒト対象の視床中心部内の正中中心核-束傍核の線維経路内の正中中心核-束傍核線維の25%未満が刺激される、請求項19記載の方法。
【請求項21】
電気刺激を印加する段階が、前記1つまたは複数の電極の各々について独立に選択される、0.1~25.0ミリアンペアまたは0.1~10.5ボルトで行われる、請求項17記載の方法。
【請求項22】
セグメント化脳モデルを作成するために、選択されたヒト対象の脳の画像内で視床中心部をセグメント化する段階;
該セグメント化脳モデルにおいて1つまたは複数の線維経路をモデル化する段階;
該セグメント化脳モデルにおける初期のモデル電極ポジションまたは配向を生成する段階;ならびに
前記ポジショニングおよび前記印加を行うために用いられる刺激マップを、該モデル化および該生成に基づいて作成する段階
をさらに含む、請求項17記載の方法。
【請求項23】
覚醒調節不全によって特徴付けられる病的状態が、脳外傷、神経学的変性疾患、てんかん、運動障害、脳炎後の認知不全、発達障害、低酸素性虚血傷害後の認知不全、神経精神障害、集中治療室(ICU)後の混合障害の認知不全、およびICU後の成人呼吸促迫症候群からなる群より選択される、請求項17記載の方法。
【請求項24】
脳深部刺激療法をガイドするためのヒト視床中心部のベクトル式ターゲティングを伴う手術計画のための方法であって、1つまたは複数の外科用コンピューティングデバイスによって実施され、かつ以下の段階を含む、方法:
セグメント化脳モデルを作成するために、ヒト対象の脳の画像内で視床中心部をセグメント化する段階;
該セグメント化脳モデルにおいて1つまたは複数の線維経路をモデル化する段階;
該モデル化に基づいて、該ヒト対象の外側中心核-背側被蓋路内側コンポーネント(CL/DTTm)線維束の主軸の三次元配向を決定する段階;
該ヒト対象の該CL/DTTm線維束の主軸の該決定された三次元配向に少なくとも部分的に基づいて、1つまたは複数の電極について、該セグメント化脳モデルにおける初期のモデルポジションおよび配向を生成する段階;
該モデル化および該生成に基づいて刺激マップを作成する段階;ならびに
該作成されたシミュレーションマップに基づいて、該ヒト対象における外側中心核-背内側被蓋路の線維経路の賦活化が最大化され、かつ該ヒト対象における正中中心核-束傍核の線維経路の賦活化が最小化されるように、該ヒト対象の視床中心部線維を選択的に賦活化するために、該ヒト対象の該視床中心部線維における、該1つまたは複数の電極の、複数の接点についてのポジションおよび配向と、該1つまたは複数の電極の、該ポジショニングおよび配向された複数の接点についての電気刺激条件とを、同定する段階。
【請求項25】
前記セグメント化脳モデルにおける初期のモデルポジションおよび配向を生成する段階が、
該セグメント化脳モデルにおいて解剖学的神経核を同定するために該セグメント化脳モデルを脳モデルアトラスにレジストレーションすること
をさらに含む、請求項24記載の方法。
【請求項26】
レジストレーションすることが、対称正規化を用いて行われる、請求項25記載の方法。
【請求項27】
セグメント化脳モデルにおいて1つまたは複数の線維経路をモデル化する段階が、拡散テンソルデータに基づく、請求項24記載の方法。
【請求項28】
脳深部刺激療法をガイドするためのヒト視床中心部のベクトル式ターゲティングを伴う手術計画のための命令がそこに保存されている、非一時的コンピューター可読媒体であって、
1つまたは複数のプロセッサーによって実行された時に、以下:
セグメント化脳モデルを作成するために、ヒト対象の脳の画像内で該視床中心部をセグメント化すること;
該セグメント化脳モデルにおいて1つまたは複数の線維経路をモデル化すること;
該モデル化された1つまたは複数の線維経路に基づいて、該ヒト対象の外側中心核-背側被蓋路内側コンポーネント(CL/DTTm)線維束の主軸の三次元配向を決定すること;
該ヒト対象の該CL/DTTm線維束の主軸の該決定された三次元配向に少なくとも部分的に基づいて、1つまたは複数の電極の各々について、該セグメント化脳モデルにおける初期のモデルポジションおよび配向を生成すること;
該モデル化された1つまたは複数の線維経路と、1つまたは複数の電極の各々について該生成された、該セグメント化脳モデルにおける初期のモデルポジションおよび配向とに基づいて、刺激マップを作成すること;ならびに
該作成されたシミュレーションマップに基づいて、該ヒト対象における外側中心核-背内側被蓋路の線維経路の賦活化が最大化され、かつ該ヒト対象における正中中心核-束傍核の線維経路の賦活化が最小化されるように、該ヒト対象の視床中心部線維を選択的に賦活化するために、該ヒト対象の該視床中心部線維における、該1つまたは複数の電極の、複数の接点についてのポジションおよび配向と、該1つまたは複数の電極の、該ポジショニングおよび配向された複数の接点についての電気刺激条件とを、同定すること
を該1つまたは複数のプロセッサーに行わせる、実行可能コード
を具備する、非一時的コンピューター可読媒体。
【請求項29】
前記実行可能コードが、1つまたは複数のプロセッサーによって実行された時に、
セグメント化脳モデルにおいて前記1つまたは複数の電極の各々についてポジションおよび配向を同定するために、該セグメント化脳モデルにおいて解剖学的神経核を同定するために該セグメント化脳モデルを脳モデルアトラスにレジストレーションすること
を該1つまたは複数のプロセッサーにさらに行わせる、
請求項28記載の非一時的コンピューター可読媒体。
【請求項30】
レジストレーションすることが、対称正規化を用いて行われる、請求項28記載の非一時的コンピューター可読媒体。
【請求項31】
セグメント化脳モデルにおいて1つまたは複数の線維経路をモデル化することが、拡散テンソルデータに基づく、請求項28記載の非一時的コンピューター可読媒体。
【請求項32】
そこに保存されたプログラム命令を具備しているメモリと、
該メモリに連結されており、かつ以下:
セグメント化脳モデルを作成するために、ヒト対象の脳の画像内で視床中心部をセグメント化すること;
該セグメント化脳モデルにおいて1つまたは複数の線維経路をモデル化すること;
該モデル化された1つまたは複数の線維経路に基づいて、該ヒト対象の外側中心核-背側被蓋路内側コンポーネント(CL/DTTm)線維束の主軸の三次元配向を決定すること;
該ヒト対象の該CL/DTTm線維束の主軸の該決定された三次元配向に少なくとも部分的に基づいて、1つまたは複数の電極の各々について、該セグメント化脳モデルにおける初期のモデルポジションおよび配向を生成すること;
該モデル化された1つまたは複数の線維経路と、1つまたは複数の電極の各々について該生成された、該セグメント化脳モデルにおける初期のモデルポジションおよび配向とに基づいて、刺激マップを作成すること;ならびに
該作成されたシミュレーションマップに基づいて、該ヒト対象における外側中心核-背内側被蓋路の線維経路の賦活化が最大化され、かつ該ヒト対象における正中中心核-束傍核の線維経路の賦活化が最小化されるように、該ヒト対象の視床中心部線維を選択的に賦活化するために、該ヒト対象の該視床中心部線維における、該1つまたは複数の電極の、複数の接点についてのポジションおよび配向と、該1つまたは複数の電極の、該ポジショニングおよび配向された複数の接点についての電気刺激条件とを、同定すること
を行うために、該保存されたプログラム命令を実行するように構成されている、1つまたは複数のプロセッサーと
を具備する、外科用コンピューティングデバイス。
【請求項33】
前記1つまたは複数のプロセッサーが、
セグメント化脳モデルにおいて前記1つまたは複数の電極の各々についてポジションおよび配向を同定するために、該セグメント化脳モデルにおいて解剖学的神経核を同定するために該セグメント化脳モデルを脳モデルアトラスにレジストレーションすること
を行うために、前記保存されたプログラム命令を実行するようにさらに構成されている、
請求項32記載の外科用コンピューティングデバイス。
【請求項34】
レジストレーションすることが、対称正規化を用いて行われる、請求項32記載の外科用コンピューティングデバイス。
【請求項35】
前記1つまたは複数のプロセッサーが、
拡散テンソルデータに基づいて、セグメント化脳モデルにおいて前記1つまたは複数の線維経路をモデル化すること
を行うために、前記保存されたプログラム命令を実行するようにさらに構成されている、
請求項32記載の外科用コンピューティングデバイス。
【請求項36】
請求項32~35のいずれか一項記載の外科用コンピューティングデバイス;
該外科用コンピューティングデバイスに機能的に連結された撮影デバイス;
各々が複数の接点を具備する、1つまたは複数の電極;および
該外科用コンピューティングデバイスからの命令に基づいた該1つまたは複数の電極の電気的賦活化を可能にするために、該外科用コンピューティングデバイスおよび該1つまたは複数の電極に連結された、電気刺激器
を具備する、脳深部刺激療法をガイドするためにヒト視床中心部をベクトル式ターゲティングするためのシステム。
【請求項37】
前記1つまたは複数の電極が、複数の電極を含む、請求項36記載のシステム。
【請求項38】
前記1つまたは複数の電極の各々について独立に選択される、0.1~25.0ミリアンペアまたは0.1~10.5ボルトで電気刺激を印加するために、電気刺激器が前記1つまたは複数の電極を電気的に賦活化できる、請求項36記載のシステム。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は米国国立衛生研究所‐国立神経疾患・脳卒中研究所によって授与された助成金番号第UH3 NS095554号の下で政府の支援によりなされた。米国政府は本発明における一定の権利を有する。
【0002】
本出願は、参照によりその全体が本明細書に組み入れられる、2021年9月15日に提出された米国特許仮出願第63/244,589号の恩典を主張する。
【0003】
分野
本技術は、脳深部刺激療法をガイドするためにヒト視床中心部をベクトル式にターゲティングするための方法およびデバイスに関し、システムおよび非一時的コンピューター可読媒体もこれに含まれる。
【背景技術】
【0004】
背景
視床中心部(CT)は哺乳類の脳の覚醒調節ネットワークにおいて鍵となるノードであり、覚醒中の内的要求および外的要求に応答して前脳前部全体にわたる大規模な活動パターンを変調させるとの仮説が立てられている。例えば外傷性脳損傷(TBI)または脳卒中に起因する、ヒトにおけるCTのダメージは、注意の配分、集中および注目の維持、作業記憶、衝動制御、処理速度、ならびにモチベーションにおける、永続的な認知欠損という結果をもたらす。さらに、CTは皮質-視床系全体にわたって、そして線条体にも、広い二点間接続を示し、そのCTにおけるニューロンの幾何学的特性のゆえに、CT内のニューロンの喪失に由来する(典型的に遂行機能障害の形態である)認知不全や覚醒調節は、外傷性脳損傷;無酸素症;低酸素性虚血性脳症;(例えば動脈瘤出血、血管炎、他の原因に起因する)血管痙攣、または中毒性代謝性、感染後、自己免疫性、もしくは他の広範な原因によって持続する多巣性虚血傷害;に典型的である、多巣性の脳外傷の帰結として広く見られる。
【0005】
現在の治療法はこれらの認知欠損を処置するには効果的でないため、TBI対象における認知機能を再確立しかつ/または広くサポートするために、覚醒調節を人工的に再建するための治療選択肢として視床中心部における脳深部刺激療法(DBS)(CT-DBS)が提唱されている。CT-DBSは、外側中心(CL)核の「ウィング(wing)」およびその軸索の投射線維束をターゲティングすることによって、非常に重度のTBI後の対象の応答性、意思疎通、および運動機能に、顕著かつ累積的な向上という結果をもたらす可能性がある。しかし、DBSリード(例えば電極および/または関連する接点)の位置と神経賦活化の方法とに依存するこのアウトカムをもたらす機序は、依然として不明である。
【0006】
非常に重度のTBI対象を処置するためのDBSの使用には、失敗の長い歴史がある;それは主として、対象選択の不十分さと、仮説のないDBSターゲティングとに起因する。これら対象におけるDBSについての主なターゲットは、CL核の近傍にあり比較的大きく目立つ核である、視床の正中中心核-束傍核複合体(Cm-Pf)とされてきた。しかし今日まで、この対象集団における臨床アウトカムは、調査対象の病因;リード植え込み中にCM-Pfを上首尾にターゲティングおよび取得できる能力;背景にある、傷害後1年以内のTBIからの自然回復率;などの複数の要因のゆえに、非常にばらつきが大きいものとなっている。
【0007】
非常に重度の脳外傷における臨床結果にはばらつきがあるものの、CLの電気刺激中のインタクトな動物において覚醒および行動パフォーマンスを増強することについての前臨床エビデンスは、より広範にわたる。最近の研究では、健康な齧歯類、ならびにてんかんおよびTBIという2つの病理の齧歯類モデルにおいて、CLの電気刺激が覚醒およびパフォーマンスを効果的に増強することが可能であると確かめられている。麻酔した動物では、マウスにおけるCLの光遺伝学的刺激、ならびに齧歯類および非ヒト霊長類(NHP)におけるCLの電気刺激が、皮質および皮質下の広い賦活化を示している。
【0008】
健康に行動している非ヒト霊長類(NHP)における最近の研究は、これらの結果を拡張して、動物がより複雑な視覚運動タスクをしている間にCT-DBSのさまざまな方法が行動および生理に及ぼす影響を調べた。この研究のユニークな局面は、小さく間隔を空けてCT内に置かれた2つのDBSリードを使用したこと、そして、CT内のリードの精密な位置、および2つのリード間で確立される電場の配向の両方が、パフォーマンスの向上および前頭線条体活動パターンの増強についての重大なパラメーターであるという発見であった。
【0009】
より最近の研究では、参照によりその各々の全体が本明細書に組み入れられる米国特許第9,592,383号(特許文献1)およびPCT出願第PCT/US2021/023648号(特許文献2)に説明されているように、対象における外側中心核-背内側被蓋路(CL/DTTm)の線維経路の賦活化を最大化するように、かつ対象における正中中心核-束傍核の線維経路の賦活化を最小化するように、DBS電極を位置決めすると、有利なアウトカムがもたらされた。この研究において、哺乳類の視床内の賦活化および回避を選択的にターゲティングするために、視床線維を制御するために少なくとも2つの刺激器を利用する視床中心部内の電場シェイピング(field-shaping within the central thalamus)(fsCT-DBS)が用いられ、それは、非ヒト霊長類において行われた実験による直接的な測定において実施化された。このように、中等度~重度の外傷性脳損傷がある対象にCT-DBSを適用することによって、覚醒調節の向上がCL/DTTmの賦活化と相関することが示されている。
【0010】
本出願は脳深部刺激療法技法のさらなる増強に関する。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0011】
【特許文献1】米国特許第9,592,383号
【特許文献2】PCT出願第PCT/US2021/023648号
【発明の概要】
【0012】
概要
いくつかの局面において、本開示の技術は、脳深部刺激療法電極のベクトル式留置を実現するための、標的賦活化を実現するためのヒト視床中心部のターゲティング、および視床中心部におけるヒト視床内経路の領域の上首尾な標的回避に関する。いくつかの実施例において、本技術は、外側中心核-背側被蓋路内側コンポーネント(CL/DTTm)線維束に対応するベクトルを正確に決定するために、そして、決定されたベクトルおよび/または主軸(dominant axis)と実質的にアライメントさせて脳深部刺激療法(DBS)電極の接点を位置決めするために、撮影、視床セグメント化プロトコル、および投射線維の賦活化を推定する予測的生物物理モデルに基づいて、ヒト対象におけるヒト視床中心部内経路の標的捕捉および回避を容易にする。
【0013】
本技術の一局面は、脳深部刺激療法(DBS)をガイドするためにヒト視床中心部をベクトル式ターゲティングするための方法に関する。本方法は、各々が複数の接点を備えた、1つまたは複数の電極を提供する段階を伴う。ヒト対象のCL/DTTm線維束の主軸の三次元配向が決定される。次に、前記1つまたは複数の電極の、前記複数の接点が、決定されたCL/DTTm線維束の主軸の三次元配向と実質的にアライメントして、ヒト対象の視床中心部線維内にポジショニングされる。次に、覚醒調節不全についてヒト対象を処置するために、前記1つまたは複数の電極の、ポジショニングされた前記複数の接点に、電気刺激が印加される。ポジショニングおよび印加は、ヒト対象における外側中心核-背内側被蓋路の線維経路の賦活化を最大化するように、かつヒト対象における正中中心核-束傍核の線維経路の賦活化を最小化するように、行われる。
【0014】
本技術の別の局面は、ヒト対象における、覚醒調節不全によって特徴付けられる病的状態を処置する方法に関する。本方法は、覚醒調節不全を有するヒト対象を選択する段階を伴う。各々が複数の接点を備えた、1つまたは複数の電極が提供される。ヒト対象のCL/DTTm線維束の主軸の三次元配向が決定される。次に、前記1つまたは複数の電極の、前記複数の接点が、決定されたCL/DTTm線維束の主軸の三次元配向と実質的にアライメントして、ヒト対象の視床中心部線維内にポジショニングされる。次に、ヒト対象の視床中心部線維を選択的に賦活化するために、前記1つまたは複数の電極の、ポジショニングされた前記複数の接点に、電気刺激が印加される。ポジショニングおよび印加は、ヒト対象における外側中心核-背内側被蓋路の線維経路の賦活化を最大化するように、かつヒト対象における正中中心核-束傍核の線維経路の賦活化を最小化するように、行われる。
【0015】
本技術のさらなる局面は、DBSをガイドするためのヒト視床中心部のベクトル式ターゲティングを伴う手術計画のための方法であって、1つまたは複数の外科用コンピューティングデバイスによって実施される方法に関する。本方法は、セグメント化脳モデルを作成するために、ヒト対象の脳の画像内で視床中心部をセグメント化する段階を伴う。セグメント化脳モデルにおいて1つまたは複数の線維経路がモデル化される。そのモデル化に基づいて、ヒト対象のCL/DTTm線維束の主軸の三次元配向が決定される。決定されたヒト対象のCL/DTTm線維束の主軸の三次元配向に少なくとも部分的に基づいて、1つまたは複数の電極について、セグメント化脳モデルにおける初期のモデルポジションおよび配向が生成される。モデル化および生成に基づいて、刺激マップが作成される。ヒト対象の視床中心部線維を選択的に賦活化するために、ヒト対象の視床中心部線維における、前記1つまたは複数の電極の、複数の接点についてのポジションおよび配向と、前記1つまたは複数の電極の、ポジショニングおよび配向された前記複数の接点についての電気刺激条件とが、同定される。このことは、作成されたシミュレーションマップに基づいて、ヒト対象における外側中心核-背内側被蓋路の線維経路の賦活化が最大化されること、かつヒト対象における正中中心核-束傍核の線維経路の賦活化が最小化されることを、可能にする。
【0016】
本技術のなお別の局面は、DBSをガイドするためのヒト視床中心部のベクトル式ターゲティングを伴う手術計画のための命令がそこに保存されている、非一時的コンピューター可読媒体に関する。本非一時的コンピューター可読媒体は、1つまたは複数のプロセッサーによって実行された時に、セグメント化脳モデルを作成するためにヒト対象の脳の画像内で視床中心部をセグメント化することを前記1つまたは複数のプロセッサーに行わせる、実行可能コードを含む。セグメント化脳モデルにおいて1つまたは複数の線維経路がモデル化される。そのモデル化に基づいて、ヒト対象のCL/DTTm線維束の主軸の三次元配向が決定される。決定されたヒト対象のCL/DTTm線維束の主軸の三次元配向に少なくとも部分的に基づいて、1つまたは複数の電極について、セグメント化脳モデルにおける初期のモデルポジションおよび配向が生成される。モデル化および生成に基づいて、刺激マップが作成される。作成されたシミュレーションマップに基づいて、ヒト対象における外側中心核-背内側被蓋路の線維経路の賦活化が最大化され、かつヒト対象における正中中心核-束傍核の線維経路の賦活化が最小化されるように、ヒト対象の視床中心部線維を選択的に賦活化するために、ヒト対象の視床中心部線維における、前記1つまたは複数の電極の、複数の接点についてのポジションおよび配向と、前記1つまたは複数の電極の、ポジショニングおよび配向された前記複数の接点についての電気刺激条件とが、同定される。
【0017】
本技術の別の局面は外科用コンピューティングデバイスに関する。本外科用コンピューティングデバイスは、そこに保存されたプログラム命令を具備しているメモリと;メモリに連結されており、かつ保存されたプログラム命令を実行するように構成されている、1つまたは複数のプロセッサーと;を含む。保存されたプログラム命令は、セグメント化脳モデルを作成するためにヒト対象の脳の画像内で視床中心部をセグメント化する段階を含む。セグメント化脳モデルにおいて1つまたは複数の線維経路がモデル化される。そのモデル化に基づいて、ヒト対象のCL/DTTm線維束の主軸の三次元配向が決定される。決定されたヒト対象のCL/DTTm線維束の主軸の三次元配向に少なくとも部分的に基づいて、1つまたは複数の電極について、セグメント化脳モデルにおける初期のモデルポジションおよび配向が生成される。モデル化および生成に基づいて、刺激マップが作成される。作成されたシミュレーションマップに基づいて、ヒト対象における外側中心核-背内側被蓋路の線維経路の賦活化が最大化され、かつヒト対象における正中中心核-束傍核の線維経路の賦活化が最小化されるように、ヒト対象の視床中心部線維を選択的に賦活化するために、ヒト対象の視床中心部線維における、前記1つまたは複数の電極の、複数の接点についてのポジションおよび配向と、前記1つまたは複数の電極の、ポジショニングおよび配向された前記複数の接点についての電気刺激条件とが、同定される。
【0018】
本技術のさらなる局面は、DBSをガイドするためにヒト視床中心部をベクトル式ターゲティングするためのシステムに関する。本システムは、本技術の外科用コンピューティングデバイスを含む。本システムはまた、手術計画システムに機能的に連結された撮影デバイス、および1つまたは複数の電極も含む。外科用コンピューティングデバイスからの命令に基づいた電極の電気的賦活化を可能にするために、外科用コンピューティングデバイスおよび前記1つまたは複数の電極に電気刺激器が連結される。
【0019】
本技術は、視床中心部の外側中心核(CL)およびその周りの背側被蓋路内側(DTTm)から出ている線維の賦活化を介して前脳の覚醒調節をサポートするためのDBSをガイドするための、ヒト視床中心部のベクトル式ターゲティングを介した処置の方法、および、そうした処置を可能にするシステムを、有利に提供する。CL/DTTm標的は、線維経路のモデル化から決定されたCL/DTTm線維束の主軸の配向と実質的にアライメントして置かれる多数の電極接点を備えた、1つまたは複数のリードもしくは刺激器を利用することによって、印加される電場をシェイピングすることによって、最適に賦活化できる。
【0020】
刺激のための鍵となる標的は、CLを通過して、皮質および線条体に広く投射する視床網様核(TRN)に入る、上行性網様体賦活系のコンポーネントである背内側被蓋路(DTTm)などの、CTを横切る局所線維路である。DTTmはまた、CL核からTRN、皮質、および線条体まで、グルタミン酸作動性の遠心路を延ばしている。多くのTBI対象については、視床核の実質的な変形および萎縮を含む広範な構造的傷害がこの集団に存在することを鑑みると、精密な治療的DBS標的は決定が困難である可能性がある。しかし、意識レベルがより高く、視床、前頭葉、および線条体の構造的傷害がより少ない対象は、永続的な認知機能不全に苦しんでいることが多いことから、DBS療法の理想的な候補になると予測される。しかし、そうした人において、オフターゲットの副作用を最少化する、覚醒関連経路のターゲティングおよび賦活化の向上は、近年示されているように、この有望な治療法の開発にとってきわめて重要である。DTTm線維経路は、健康なNHPにおいてパフォーマンスを促すための最適なDBS標的であり、このことは、大多数のTBI対象が経験している永続的な疲労および認知機能不全を処置するためにDBSを用いる現行および将来の臨床研究に、直接的に情報を与える。本明細書に説明および例証する技術は、挿入された電極の接点の配向をCL/DTTm線維束の主軸に実質的にアライメントさせることに基づいて、CL/DTTm線維束の標的領域の賦活化を向上させる。
【0021】
視床中心部の脳深部刺激療法(CT-DBS)は、外傷性脳損傷(TBI)後のヒトにおける永続的な認知機能不全を処置するための調査的治療法である。しかし、認知機能の再建を促進する可能性があるCT-DBSの機序は未知であり、TBI対象の病因および回復プロファイルが不均質であることが、ばらつきのあるアウトカムをもたらす可能性が高く、解釈も困難となる可能性が高い。健康な非ヒト霊長類(NHP)の視床中心部(CT)のCT-DBS賦活化の様式が、さまざまな視覚運動タスクを行っているNHPとして、モデル化され、実験的にバリデーションされた。DTTmという特異的な線維経路を選択的に賦活化し、かつ近傍の正中中心核-束傍核(Cm-Pf)経路を限定的に賦活化することは、強固な行動促進という結果をもたらす。これら2つの近傍の視床経路内のCT-DBSのモデル化は、さまざまな動物にわたって観察される行動効果と合致する。インタクトに行動しているNHPにおける生物物理学的モデル化アプローチを経験的にバリデーションすることは、治療法が現在存在しないTBI対象の大多数が経験している永続的な認知機能不全を効果的に処置するために従来および新規の様式のCT-DBSを用いる現行および将来の臨床調査に、直接的に情報を与える。
【0022】
CLおよびCm-Pfの両方が、覚醒および行動促進の何らかの向上と関連することが報告されているが、ヒト臨床研究における局所化の質にはばらつきがあり、それが直接的な比較を不確定なものにしている。本明細書において示すCL/DTTm線維の選択的効果は、前頭皮質領域および線条体領域にわたる広い興奮性入力を提供するこれらの投射と合致している。Cm-Pf->TRN線維の限定的な同時賦活化が促進を限定し、これら線維の同等な同時賦活化が抑止効果を有していたことから、CLニューロンと、束傍核(Pf)および正中中心核(Cm)内のニューロンとの間における、公知の解剖学的および生理学的な相違について、鍵となる役割が示唆される。
【0023】
皮質および線条体の両方の賦活化の研究は、CL/DTTm賦活化に関連する選択的な行動効果についての基盤を示している。CL/DTTmは、前頭皮質領域(その開示内容全体が参照により本明細書に組み入れられる Baker, et al., “Robust Modulation of Arousal Regulation, Performance and Frontostriatal Activity Through Central Thalamic Deep Brain Stimulation in Healthy Non-Human Primates.” J. Neurophysiol. 116:2383-2404 (2016))および線条体領域(その開示内容全体が参照により本明細書に組み入れられる Liu, et al., “Frequency-Selective Control of Cortical and Subcortical Networks by Central Thalamus. Elife. 4, 1-27 (2015))にわたる非常に広い賦活化を実現するが、線条体内のCL/DTTmおよびCm-Pf刺激の局所的な微少回路効果には相違がある。線条体の主な出力ニューロンである中型有棘ニューロン(MSN)は、CL求心路またはPf求心路のいずれかによって賦活化されるが、MSNの活動電位の駆動効果はCL求心路のほうが高いことが示されている。一方で、Pf求心路はNMDA受容体を介して作用して、シナプス可塑性の機序を通じて長期的な抑圧を生成する(その開示内容全体が参照により本明細書に組み入れられる Ellender, et al., “Heterogeneous Properties of Central Lateral and Parafascicular Thalamic Synapses in the Striatum.” J. Physiol. 591, 257-72 (2013))。これらの生理学的な相違は、CL/DTTm線維およびCm-Pf->TRN線維が同時賦活化されたときにもたらされる行動促進の低減に寄与している可能性が高い。
【0024】
Cm-Pf->TRN賦活化の追加による、TRNからCLに対するフィードバック抑制の増大は、両経路が刺激された時の前頭葉機能のCL興奮効果の低下にも寄与している可能性がある。新皮質において、CL求心路による顆粒上層および顆粒下層の広い神経支配は、皮質柱にわたる効果の超線形加算と関連性がある(その開示内容全体が参照により本明細書に組み入れられる Llinas, et al., “Temporal Binding Via Cortical Coincidence Detection of Specific and Nonspecific Thalamocortical Inputs: A Voltage-Dependent Dye-Imaging Study in Mouse Brain Slices.” Proc. Natl. Acad. Sci. U. S. 816 A. 99, 449-454 (2002))。線条体(その開示内容全体が参照により本明細書に組み入れられる Smith, et al., “The Thalamostriatal Systems: Anatomical and Functional Organization in Normal and Parkinsonian States.” Brain Res. Bull. 78, 60-68 (2009) および Ellender, et al., “Heterogeneous Properties of Central Lateral and Parafascicular Thalamic Synapses in the Striatum.” J. Physiol. 591, 257-72 (2013) に開示されているように、CmおよびPfの神経支配がまだら状である)内の局所的なシナプス効果と;TRNからのフィードバック抑制(その開示内容全体が参照により本明細書に組み入れられる Crabtree, et al., “New Intrathalamic Pathways Allowing Modality-Related and Cross Modality Switching in the Dorsal Thalamus.” J. Neurosci. 22, 8754-8761 (2002))を通じた、CLの部分内および髄板傍部の視床領域における細胞体の強力な抑制(その開示内容全体が参照により本明細書に組み入れられる Jones, The Thalamus Springer US, Boston, MA, ed. 2nd, (2007) およびMunkle, et al., “The Distribution of Calbindin, Calretinin and Parvalbumin Immunoreactivity in the Human Thalamus.” J. Chem. Neuroanat. 19, 155-173 (2000));との両方を通じて、この選択的な賦活化を低減させるのは、Cm-Pfに対する賦活化の侵害(encroachment)である可能性が高い。
【図面の簡単な説明】
【0025】
【
図1】外科用コンピューティングデバイスを含む、脳深部刺激療法をガイドするためにヒト視床中心部をベクトル式ターゲティングするための本技術の例示的システムのブロック図である。
【
図2】本技術の例示的な脳深部刺激療法装置の部分側面図および部分ブロック図である。
【
図3A】脳内に植え込まれた本技術の脳深部刺激療法装置の一態様の部分側面図および部分ブロック図である。
【
図3B】対象内の視床中心部線維を賦活化するために
図3Aに示すように植え込まれた脳深部刺激療法装置の一部分の透視図である。
【
図4】
図3Aに図示した適応的フィードバックコントローラーのブロック図である。
【
図5】脳深部刺激療法をガイドするためのヒト視床中心部のベクトル式ターゲティングを伴う手術計画のための例示的方法のフローチャートである。
【
図6】脳深部刺激療法をガイドするためのヒト視床中心部のベクトル式ターゲティングを容易にするための画像ガイド下手術計画に用いられる方法を図示する。
【
図7】個々の視床核の同定を可能にするために視床内のコントラストを示している白質ヌル(white matter null)(WMn)撮影を図示する。
【
図8】神経核からの標的投射およびこの神経核から出ている線維束に対するDBSリード(例えば電極接点)のポジションおよび軌道(すなわち配向)の両方を考慮に入れたベクトル式ターゲティングを定義するために用いられる、標的神経核および回避神経核、ならびに標的線維路および回避線維路の両方を提供する、WMnおよび拡散テンソル画像(DTI)撮影の組み合わせを図示する。
【
図9】
図9Aおよび9Bは、CL/DTTm構造の線維のバルク賦活化(bulk activation)のために調整される、線維の三次元集合体におけるベクトルの配置を示した、概念的な概観を図示する。
【
図10】2つの視床核(賦活化標的)および正中中心核(回避標的)、標的DTTm線維束、ならびに能動電極を備えたDBSリードのボリュームレンダリングを図示する。
【
図11】印加された電場によって賦活化された線維を隔離した、
図10の2つの視床核の別のボリュームレンダリングを図示する。
【
図12】ヒト視床中心部内の複数の標的賦活化(CL、PPN)および回避経路(MD、VPM、CM)を図示する。
【
図13】一般的な視床モデルシステムについての標的賦活化領域および標的回避領域の賦活化パーセンテージのヒストグラムを含む、線維賦活化プロファイルを図示する。
【
図14】
図13に図示したものから電極ポジションを調整して実現された線維賦活化の変化を図示する。
【
図15】CL標的およびPPN標的、ならびに回避対象の他の視床核(VPM、CM、MD)の賦活化パーセンテージを含む、外傷性脳損傷(TBI)を有するヒト対象に由来するヒト視床撮影データを図示する。
【
図16】
図5のヒト視床中心部のベクトル式ターゲティングに基づくDBSを受けた5名の対象についての検査結果を図示する。
【
図17】代表的なヒト対象から標的捕捉するための例示的アプローチを、両半球からの賦活化結果とともに図示する。
【
図18】別の代表的なヒト対象から標的捕捉するための別の例示的アプローチを、両半球からの賦活化結果とともに図示する。
【
図19】共通の合成アトラス空間における複数のヒト対象についての能動接点の留置を図示する。
【
図20】2Hzデューティサイクルの刺激を使った2つの能動接点をまたぐ賦活化について、128チャネルEEGアレイにわたって得られた皮質誘発電位を図示する。
【発明を実施するための形態】
【0026】
詳細な説明
本技術は、脳深部刺激療法(DBS)をガイドするためにヒト視床中心部をベクトル式ターゲティングするための方法に関する。本技術はまた、DBSをガイドするためにヒト視床中心部をベクトル式ターゲティングするための手術計画のための方法、デバイス、システム、および非一時的コンピューター可読媒体にも関する。より具体的には、本技術は、脳深部刺激療法電極のベクトル式留置を実現するために、視床中心部内のヒト視床内経路の諸領域の標的賦活化および上首尾な標的回避を実現するための、ヒト視床中心部のターゲティングの方法に関する。
【0027】
外科用コンピューティングデバイスを含む、DBSをガイドするためにヒト視床中心部のベクトル式ターゲティングを行うためのデバイスおよびシステムを、本明細書に説明する。本技術の一局面は、DBSをガイドするためにヒト視床中心部をベクトル式ターゲティングするためのシステムに関する。本システムは、本技術の外科用コンピューティングデバイスを含む。本システムはまた、外科用コンピューティングデバイスに機能的に連結された撮影デバイス、および1つまたは複数の電極も含む。外科用コンピューティングデバイスからの命令に基づいた電極の電気的賦活化を可能にするために、外科用コンピューティングデバイスおよび前記1つまたは複数の電極に電気刺激器が連結される。
【0028】
図1に、DBSをガイドするためにヒト視床中心部をベクトル式ターゲティングするためのシステム12を含む環境を図示する。システム12は、外科用コンピューティングデバイス14、撮影デバイス16、およびDBS装置18を含むが、追加的なコンピューティングデバイスなど、他の要素またはコンポーネントを他の組み合わせにおいて含んでいてもよい。システム12は、視床中心部の外側中心核(CL)およびそれを囲む背側被蓋路内側(DTTm)から出ている線維(CL/DTTm)の賦活化を介して前脳の覚醒調節をサポートするために、視床中心部内の構造の選択的な賦活化を介した処置を可能にする。
【0029】
システム12の外科用コンピューティングデバイス14は、バス26または他の通信リンクによって一緒に連結された、プロセッサー20、メモリ22、および通信インターフェース24を含むが、他のタイプおよび/または数の要素を他の構成において含んでいてもよい。外科用コンピューティングデバイス14のプロセッサー20は、DBSをガイドするためにヒト視床中心部をベクトル式ターゲティングするための手術計画を含む、本明細書において例として例証および説明する任意の数の機能または他のオペレーションについて、メモリ22内に保存されたプログラム命令を実行してもよい。外科用コンピューティングデバイス14のプロセッサー20は、例えば、1つまたは複数のグラフィック処理ユニット(GPU)、中央処理ユニット(CPU)、または、1つもしくは複数の処理コアを備えた汎用プロセッサーを含んでいてもよいが、他のタイプのプロセッサーもまた用いられてもよい。
【0030】
外科用コンピューティングデバイス14のメモリ22は、本明細書に例証および説明するような本技術の1つまたは複数の局面についてのこれらのプログラム命令を保存するが、プログラム命令の一部または全部が他の場所に保存されてもよい。プロセッサー20に連結された磁気式、光学式、または他の読み取り書き込みシステムによって読み取りおよび書き込みされるランダムアクセスメモリ(RAM)、読出し専用メモリ(ROM)、固体ドライブ(SSD)、フラッシュメモリ、または他のコンピューター可読媒体など、さまざまな異なるタイプのメモリ保存デバイスが、メモリ22に用いられてもよい。
【0031】
したがって、外科用コンピューティングデバイス14のメモリ22は、例えば
図5のように、本明細書において例として例証および説明するようにDBSをガイドするためにヒト視床中心部をベクトル式ターゲティングするための方法を行うなど、外科用コンピューティングデバイス14によって実行された時に外科用コンピューティングデバイス14に動作を行わせる実行可能な命令を含んでいてもよい、アプリケーションを保存していてもよい。アプリケーションは、他のアプリケーションのモジュールまたはコンポーネントとして実施されてもよい。さらに、アプリケーションは、オペレーティングシステムの拡張、モジュール、またはプラグインなどとして実施されてもよい。
【0032】
外科用コンピューティングデバイス14の通信インターフェース24は、外科用コンピューティングデバイス14、撮影デバイス16、およびDBS装置18を機能的に連結し、かつその間の通信を可能にする;これらはすべて、1つまたは複数の通信ネットワーク28によって一緒に連結されるが、他のデバイスおよび/または要素までの、他のタイプおよび/または数の、接続および/または構成が用いられてもよい。通信ネットワーク28は、ローカルエリアネットワーク(LAN)もしくはワイドエリアネットワーク(WAN)、および/または無線ネットワークなど、任意の数および/またはタイプの通信ネットワークを含んでいてもよいが、他のタイプおよび/または数の、プロトコルおよび/または通信ネットワークが用いられてもよい。
【0033】
外科用コンピューティングデバイス14の諸態様を本明細書において説明および例証するが、外科用コンピューティングデバイス14は任意の好適なコンピューティングシステムまたはコンピューティングデバイス上で実施されてよい。理解されるべき点として、本明細書に説明するデバイスおよびシステムは例示的な目的のためであり、当業者に認識されるであろうように、具体的なハードウェアおよびソフトウェアの多数のバリエーションが可能である。
【0034】
加えて、2つまたはそれ以上のコンピューティングシステムまたはデバイスが、上述した任意の1つのシステムの代わりにされてもよい。したがって、上述のデバイスおよびシステムの頑健性および性能を高めるために、冗長および反復といった分散処理の原理および利点もまた、所望に応じて実施されてもよい。本出願の諸態様はまた、任意の好適なインターフェース機構および通信技術を用いて任意の好適なネットワークにわたって延在する、1つまたは複数のコンピューターシステム上で実施されてもよい;そうした機構および技術には、単に例としてであるが、任意の好適な形態(例えば音声およびモデム)における電気通信、ワイヤレス通信メディア、ワイヤレス通信ネットワーク、セルラー通信ネットワーク、G3通信ネットワーク、公衆交換電話網(PSTN)、パケットデータネットワーク(PDN)、インターネット、イントラネット、およびそれらの組み合わせが含まれる。
【0035】
撮影デバイス16は、対象の脳の画像を得るための任意の好適な撮影デバイスであってよく、それにはコンピューター断層撮影に好適なデバイスが含まれるが、他の適切な撮影デバイスが用いられてもよい。撮影デバイス16は、本明細書に開示する方法に基づくさらなる解析用に対象の脳の画像を提供するために外科用コンピューティングデバイス14に連結される。
【0036】
図2はDBS装置18の透視図および機能ブロック図である。DBS装置18は、刺激信号生成器32に連結された第一および第二の刺激器30を含む。DBS装置18は第一および第二の刺激器30に関して説明されるが、DBS装置18が追加的な刺激器を含んでいてもよいことが理解されるべきである。さらに、DBS装置18が説明されるが、他のエネルギーモダリティを用いる刺激デバイスを含めて、他のタイプの刺激デバイスが本技術の方法において用いられてもよいことが理解されるべきである。
【0037】
第一および第二の刺激器30は、シャンク34上にマウントされた少なくとも1つの電極32を含む。一態様において、刺激器30が、各電極を別々に制御できる「多極電極」となるように、複数の電極32がシャンク34上にマウントされる。この実施例において、間隔の空いた複数の接点を提供するために4つの電極32が各シャンク34上に位置しているが、他の数の電極が利用されてもよい。電極34は、シャンク34を通過する1つの(または別個の)絶縁導体に接続される。絶縁導体は、電極32を電圧制御装置36および刺激信号生成器38に接続する。電圧制御装置36および刺激信号生成器38は互いに別個であってもよく、または単一のユニットの部分であってもよい。本明細書において言及する接続は有線または無線であってもよい。
【0038】
電極32は、例えば約100~150 kΩなど当技術分野において公知のインピーダンスを備えた、白金/イリジウムなどの合金であってもよい導電材料から作られる。電極32は長さ約0.5mmである。複数の電極32がシャンク34上にマウントされている一態様において、電極32間の分離は可変または一定であってもよく、そして約0.5mmであってもよい。
【0039】
シャンク34は対象の脳内に植え込まれるように構成される。シャンク34は、実施に好適であるように、円柱形、正方形、螺旋形、または当技術分野において公知の他の幾何学形状として構成されてもよい。一態様において、シャンク34は、本明細書に説明するように、対象において視床中心部線維を選択的に賦活化するために対象の視床中心部内に植え込まれる。
【0040】
刺激信号生成器38は選択されたパルス列をもたらす。一態様において、刺激信号生成器38は、さまざまなチャネルを通じて、多電極システム内の個々の電極32を別々に駆動できる。この実施例において、刺激信号生成器38は、刺激信号を提供するためにいずれか1つの電極32を機能的に選択してもよい。刺激信号生成器38は、複数の電極32にわたって同時かつ独立に、波形の周波数などのさまざまなパラメーターを備えた刺激を提供してもよい。
【0041】
刺激信号生成器38は、約0.1ボルト~約10.5ボルトまたは約0.1 mA~約25.0 mAの範囲内の選択可能な電圧振幅において、そして約1 Hz~約10 kHzの範囲内の選択可能な周波数にて、任意の望ましい形態(単相または二相の正弦波、方形波、スパイク波、矩形波、三角波、ランプ波など)の電圧波列を生成できる。一態様において、刺激信号生成器38は、ペアのいずれかの電極が陰極または陽極として割り当てられた少なくとも1対の電極30をまたぐ定電流を生成できるが、刺激信号生成器38は、ペアのいずれかの電極が陰極または陽極として割り当てられてもよい2対の電極、4対の電極、または6対の電極をまたぐ定電流を生成してもよい。刺激信号生成器38のコンプライアンス電圧は、任意の電極対をまたぐ0.5 kOhm~10 kOhmの範囲内の抵抗型負荷を扱うことができる。各チャネル(陰極/陽極ペア)は最大約25.0 mAまでを送達できる。
【0042】
刺激信号生成器38は、各チャネルをまたいで送達される電流のモニタリングを可能にする回路を含む。一態様において、刺激信号生成器38は、パルスのパルス形状、シーケンス、および周波数を外科用コンピューティングデバイス14などのコンピューター上のソフトウェアで設計でき、そしてコマンド時に電極32への送達のために刺激信号生成器38にアップロードできるという点において、プログラム可能である。各チャネルからの陰極-陽極出力は、植え込まれた刺激器30をまたぐ任意のペアの電極接点を通じて髄板内核において二極性の定電流刺激を提供するために用いられてもよい。
【0043】
電圧制御装置36は、選択された電流の振幅または電圧をパルス列の波に提供する。実際において、用いられるパルス列および電圧振幅は、約1~約12カ月間の時間経過にわたってさまざまなタイプおよび振幅の電気刺激に対する対象の応答を評価することによって、試行錯誤ベースで選択される。例えば、対象の視床核内に刺激器30を植え込んだ後、約0.1~約10.5ボルトの範囲内またはそれより高い電圧であり、約1 Hz~約10 kHzの範囲内のレートである刺激を、1日約8~約12時間にわたって印加する。電圧制御装置36は、持続的、周期的、または間欠的な刺激を提供してもよい。一態様において、電圧制御装置36は、時間においてインターリーブ可能である1つまたは複数の刺激プログラムを用いて行われる電気刺激を提供する。
【0044】
次に
図3Aおよび3Bを参照すると、一態様において、DBS装置18は、適応的フィードバックコントローラー42に接続された1つまたは複数のセンサー40を含む。センサー40は、選択された対象の脳の1つまたは複数の皮質組織および/または皮質下組織のニューロン活動を、当技術分野において公知の手段によって検出するように構成されるが、ニューロン活動を検出するために電極32が利用されてもよい。一態様においてセンサー40は刺激器30に組み込まれるが、本明細書において「刺激器外センサー(extra-stimulator sensor)」と呼ぶ、刺激器に組み込まれないセンサー40が利用されてもよい。刺激器外センサーは皮質領域内もしくは皮質下領域内に植え込まれてもよく、または、対象の頭部の頭皮表面上に位置してもよい。センサー40は、ニューロンのデータを、例えば単一ユニット活動、局所的な電場電位、および/または皮質電図(「EcoG」)活動などの形態で収集する。センサー40と脳組織との間の接続は、利用可能性および脳外傷の具体的パターンの関与によって決定される、1つまたは多数の標的への、電気的、電磁的(無線)、または光学的な接続であってもよい。
【0045】
一態様においてセンサー40はコンピューターおよび論理回路を含むが、センサー40に関連するコンピューターおよび論理回路は、適応的フィードバックコントローラー42内もしくは刺激信号生成器38内、および/または、対象内に植え込まれもしくは対象の体外にあってもよい1つまたは複数の他のデバイス内に組み込まれるなど、他のコンポーネント間で分配されていてもよい。一態様において、センサー40の皮質留置がヒトの制御の失敗の発生を検出してもよく、そして、適応的フィードバック42コントローラーが、脳深部刺激療法装置18内で生じている処理と同期して視床の標的の刺激を調整してもよい。
【0046】
次に
図3A、3B、および4を参照すると、一態様において、適応的フィードバックコントローラー42は、ニューロン記録モジュール44、状態モニタリングモジュール46、パフォーマンスモニタリングモジュール48、処理モジュール50、および伝送モジュール52を含む。適応的フィードバックコントローラー42についてここで説明するモジュールは、1つの物理的デバイス内に位置していてもよく、または、外科用コンピューティングデバイス14を含む複数のデバイス間で分配されていてもよく、そして、本明細書に説明する他のコンポーネントもしくはデバイスに組み込まれてもよい。例えば非限定的に、ニューロン記録モジュール44が刺激器外センサーと同じデバイス内に位置していてもよく、そしてそのデバイスは、DBS装置18の他のコンポーネント、対象、および/または外部システムに情報を送受信するための適切な伝送経路を有する;外部システムは、脳深部刺激装置18または対象を、維持、制御、または点検するために用いられるシステムであり、外科用コンピューティングデバイス14もこれに含まれる。
【0047】
ニューロン記録モジュール44は、対象独特の電気波形パターンのデータなど、センサー40からの情報のさまざまなアイテムを受け取りおよび保存する。一態様において、ニューロン記録モジュール44は、DBS装置18の使用時にセンサー40から受け取った情報をリアルタイムで保存する。一態様において、ニューロン記録モジュール44は、DBS装置18のオフライン作動中に保存された信号の取込みを可能にするための出力手段を含む。
【0048】
状態モニタリングモジュール46はセンサー40に連結され、そして、検出されたニューロン活動の状態に関連する変数の第一セット、特に局所ニューロン活動のスペクトル成分、とりわけ10~15 Hz, 15~20 Hz, 20~25 Hz, 25~30 Hz, 10~30 Hzの周波数範囲内の総パワーを、保存および処理するように構成される;これらはすべて、有効な複数部位刺激中またはアラート認知機能(alert cognitive function)中のいずれかに、皮質、大脳基底核、および視床のニューロン集団において増大することが経験的に同定されている。状態モニタリングモジュール46は、センサー40から、またはこの目的のためにニューロン信号を収集する脳外部から、ニューロン活動の平均的な特質を経時的にサンプリングし、そして、信号のリアルタイムの特質を直接接続または無線(Bluetooth)接続を介してフィードバックとして提供するために、用いられてもよい。一態様において、状態モニタリングモジュール46は、内部メモリ、および、ニューロン信号の特徴を抽出するための計算用リソースを含む。
【0049】
パフォーマンスモニタリングモジュール48はセンサー40に連結され、そして、局所的に検出されたニューロン活動の周波数の変調に関連する変数の第二セットを保存および処理するように構成される。パフォーマンスモニタリングモジュール48は、あらかじめ特定された周波数範囲(例えば15~25 Hz)で局所集団のスペクトルパワーに増大をもたらすうえでの、刺激のパフォーマンス特質をモニターするために用いられる。一態様において、パフォーマンスモニタリングモジュール48は、内部メモリ、および、ニューロン信号の特徴を抽出するための計算用リソースを含む。
【0050】
処理モジュール50は状態モニタリングモジュール46およびパフォーマンスモニタリングモジュール48に連結される。一態様において、処理モジュール50は、処理された変数の第一および第二セットに基づいて特徴ベクトルを抽出するように構成され、そして、抽出された特徴ベクトルと、対象記録部位についてのニューロン活動の局所スペクトルに対応する、あらかじめ保存された特徴ベクトルとの間の比較に基づいて、最適な応答刺激信号を計算するように構成されていてもよい。伝送モジュール52は、対象の覚醒レベルのニューロン活動を調節するために、処理モジュール50によって計算された最適な応答刺激信号を植え込まれた刺激信号生成器38に伝送するように構成される。
【0051】
保存および/または測定された変数のそれぞれのセットに基づいて、コンピューターおよび論理回路を用いて変数から特徴ベクトルを抽出するために、パフォーマンスモニタリングモジュール48および状態モニタリングモジュール46が用いられてもよい。特徴ベクトルは、ニューロン活動の結果として生じる電気信号のほぼ完全な数学的記述を表す。計算された特徴ベクトルは、さらなる処理のために、そして必要であればフィードバック信号を合成するために、用いられてもよい。フィードバック信号は、当業者に公知であるように、有線、無線、または光学式であってもよい伝送路を介して出力されてもよい。DBS装置18の同じまたは別個のコンポーネントが出力信号を計算し、そして、内部モニタリングシステムによって提供される進行中の解析に応答してその出力を調節するために、脳内に置かれた刺激器30に出力信号を伝送する。
【0052】
図3Aおよび4を再び参照すると、適応的フィードバックコントローラー42とインターフェースしたセンサー40をDBS装置18が含み、適応的フィードバックコントローラー42は刺激信号生成器38とインターフェースしている、本出願の一態様が示されている。刺激信号生成器38は、例えばCL/DTTm線維経路など、標的とされた脳領域の電気刺激のフィードバック制御を提供するように構成される。有線、無線、または光学式であってもよい伝送路を介して信号を受け取ると、刺激信号生成器38は、対象の覚醒状態を変調または維持するために、少なくとも1つの刺激器12を介して、対応する刺激を脳のこれらの領域に提供する。DBS装置18の作動特質は適応的フィードバックコントローラー42を用いて自動的に調整されてもよい。他の態様において、センサー40、または適応的フィードバックコントローラー42のコンポーネントが、外部システムまたは医師による取込み用に情報を保存してもよく、またはDBS装置18の設定を調整するために医師/プログラマーによって用いられてもよい。設定は、覚醒レベルを上昇させるため、または局所的な信号パワーに影響を及ぼすために、DBS装置18それ自体によって、または医師/プログラマーによって調整されてもよい。
【0053】
本技術の一局面は、脳深部刺激療法(DBS)をガイドするためにヒト視床中心部をベクトル式ターゲティングするための方法に関する。本方法は、各々が複数の接点を備えた、1つまたは複数の電極を提供する段階を伴う。ヒト対象のCL/DTTm線維束の主軸の三次元配向が決定される。次に、前記1つまたは複数の電極の、前記複数の接点が、決定されたCL/DTTm線維束の主軸の三次元配向と実質的にアライメントして、ヒト対象の視床中心部線維内にポジショニングされる。次に、覚醒調節不全についてヒト対象を処置するために、前記1つまたは複数の電極の、ポジショニングされた前記複数の接点に、電気刺激が印加される。ポジショニングおよび印加は、ヒト対象における外側中心核-背内側被蓋路の線維経路の賦活化を最大化するように、かつヒト対象における正中中心核-束傍核の線維経路の賦活化を最小化するように、行われる。
【0054】
第一の段階において、各々が1つまたは複数の接点を備えた、1つまたは複数の電極が提供される。一態様において、電極32を備えた脳深部刺激装置18が用いられるが、光ファイバー式光遺伝学(「FOG」)システム、BIONシステム、または超音波など、対象の視床中心部を賦活化するための他のデバイスが用いられてもよい。前記1つまたは複数の電極は、後述するように、対象の視床中心部線維の選択的な賦活化を可能にするように構成される。本技術は、複数の電気接点を備えた単一リードシステム、複数の分割接点を備えた単一リードシステム、および分割バンド接点を含む多接点電極の任意の組み合わせを備えた複数リードシステム、とともに用いられてもよい。重要な点として、本システムは、リード接点をまたぐ陽極および陰極の任意の組み合わせに対処できる。
【0055】
次に、電極32など、前記1つまたは複数の電極が、対象の視床中心部線維内にポジショニングされる。一態様において、関連する対象が選択されたら、上述したような刺激器30が、対象における外側中心核-背内側被蓋路の線維経路の賦活化を最大化するように、かつ対象における内側中心核-束傍核の線維経路の賦活化を最小化するように、
図3Bに図示するように対象の視床中心部に植え込まれる。賦活化および抑止のゾーンを
図5に図示する。上述したように、刺激器30は1つまたは複数の電極32を含む。いくつかの態様において、複数の電極32が提供される。1つまたは複数の電極32は、間隔の空いた複数の接点を有する。CL/DTTm標的は、後述するように、多数の電極32の接点を備えた第一および第二の刺激器12を利用することによって、印加される電場をシェイピングすることによって、最適に賦活化できる。図に示すように、このことは、刺激器30上の電極32の大多数を外側中心核-背内側被蓋路線維と接触するようにポジショニングし、一方で、刺激器30上の電極32のうち内側中心核-束傍核の線維と接触するものはあったとしてもごく少数とすることによって、実現される。
【0056】
上述の方法を行ううえで、対象は、局所麻酔または軽度の鎮静の適用によって、意識がある状態であってもよい。手技中に意識を保つのに充分な程度に対象が協力的ではない場合は、全身麻酔下でオペレーションを完遂できるように、当技術分野において公知の方式で上述のアプローチが改変されてもよい。
【0057】
対象には、ヒトを含む任意の動物が含まれる。ヒトでない動物には、非ヒト霊長類、ヒツジ、イヌ、ネコ、ウシ、ウマ、ニワトリ、両生類、および爬虫類など、例えば哺乳動物および非哺乳動物などすべての脊椎動物が含まれるが、非ヒト霊長類、ヒツジ、イヌ、ネコ、ウシ、およびウマなどの哺乳動物が好ましい。対象はまた、ウシ、ブタ、ヒツジ、家禽、およびウマなどの家畜、または、イヌおよびネコなどのペットであってもよい。
【0058】
本明細書に説明する方法は、任意の種、ジェンダー、年齢、民族集団、または遺伝子型の対象に用いられてよい。したがって、対象という用語は男性および女性を含み、かつ、高齢者、成人から高齢者への移行年齢の成人対象、成人前から成人への移行年齢の対象、ならびに、青年、小児、および乳児を含む成人前の対象を含む。一態様において、対象は、処置による利得が最も大きく、未処置のままにされた場合の社会的コストが最も大きい、20代~40代の成人対象である。ヒトの民族集団の例には、白人、アジア人、ヒスパニック、アフリカ人、アフリカ系アメリカ人、ネイティブアメリカン、セム人、太平洋諸島人が含まれる。対象という用語はまた、本明細書に説明するような処置を必要とする限りにおいて任意の遺伝子型または表現型の対象も含む。加えて、対象は、任意の髪色、眼色、皮膚色、またはそれらの任意の組み合わせについての遺伝子型または表現型を有していてもよい。対象という用語は、任意の身長もしくは体重の対象、または、臓器もしくは身体部分が任意のサイズもしくは形状である対象を含む。
【0059】
一態様において、刺激器30は頭蓋における穿頭孔を介して導入されるが、他の実施例において複数の刺激器が用いられてもよい。概して、刺激器30の導入前に、その開示内容全体が参照により本明細書に組み入れられる Tasker et al., “The Role of the Thalamus in Functional Neurosurgery,” Neurosurgery Clinics of North America 6(1):73-104 (1995) に説明されているように、標準的な方法に従った微小電極および微小刺激による詳細なマッピングが行われる。対象の脳を撮影するために撮影デバイス16が用いられてもよい。本システムは、ユーザーが、撮影デバイス16からの神経撮影データを使って、個々の対象における刺激器30などの刺激器システムの植え込みを計画することを可能にする。
【0060】
撮影データは、CL/DTTm→TRN、Cm-Pf→TRN、および他の近傍の視床経路の相対的な賦活化を直接モデル化することによって、視床核、白質の線維路および接続、ならびに、視床内の電場賦活化の影響をモデル化するために用いられる。本技術は、CL/DTTmを選択的に賦活化しかつCm-Pf線維束の同時賦活化を回避するための、単一または複数リードシステムの精密な留置の生物物理学的モデル化を可能にする。本システムは、視床核のモデル化;脳内の特定の白質線維経路のモデル化;生体電場のモデル化;ならびに、リード接点配置、陰極および陽極の幾何学形状、パルス形状、パルス幅、および刺激の周波数の、さまざまな構成によって実現される、標的賦活化および標的回避の確率論的マッピング;を含む。
【0061】
一局面において、対象の視床中心部のセグメント化脳モデルが、公知の技法を用いて作成されてもよい。対象における外側中心核-背内側被蓋路の線維経路の賦活化を最大化し、一方で、対象における内側中心核-束傍核の線維経路の賦活化を最小化する、モデル電極ポジションおよび電気刺激条件が、セグメント化脳モデルを用いて同定されてもよい。同定された電極ポジションおよび電気刺激条件に基づいて刺激マップが作成される。刺激マップは、次に、刺激器30などのシステムの実際のポジショニングを行うために用いられる。刺激マップはまた、いくつかの実施例において、さらに後述するように刺激の印加を決定するために用いられてもよい。
【0062】
次に、対象の視床中心部線維を選択的に賦活化するために、ポジショニングされた1つまたは複数の電極32に電気刺激が印加される。電気刺激は、対象における外側中心核-背内側被蓋路の線維経路の賦活化を最大化し、かつ対象における内側中心核-束傍核の線維経路の賦活化を最小化するために、さまざまな条件において行われてもよい。例えば、電気刺激は、各電極について独立に選択される、.1~25.0ミリアンペアまたは0.1~10.5ボルトで印加されてもよい。電気刺激は、持続的、間欠的、または周期的な刺激を用いて印加されてもよい。電気刺激は、各電極32上で実質的に同相または実質的に位相外れの刺激を用いて印加されてもよい。電気刺激は、選択的な賦活化を向上させるために、異なる速度率で上勾配または下勾配になるように構成されてもよい。電気刺激は、単相または二相の正弦波、方形波、スパイク波、矩形波、三角波、ランプ波の構成を有する電圧波列を用いて行われてもよい。電気刺激は、1 Hz~10 kHzの1つまたは複数の周波数で印加されてもよい。さらに、電気刺激は、時間においてインターリーブ可能である1つまたは複数の刺激プログラムを用いて行われてもよい。
【0063】
本技術のデバイスおよびシステムは、CL/DTTm線維を選択的にするために、そして、
図3Bに示すように視床網様核(TRN)にも投射する、正中中心核-束傍核複合体(Cm-Pf)を起始としこれを通過する近傍のオフターゲット線維を最小化するために、単一または複数リードの精密な留置を可能にする。前記1つまたは複数の電極32は、
図5に示すように、対象における外側中心核-背内側被蓋路の線維経路の賦活化を最大化し、かつ対象における内側中心核-束傍核の線維経路の賦活化を最小化するようにポジショニングされる。
【0064】
本技術は、認識的に媒介される行動(実行機能、覚醒状態、注意の持続、作業記憶、意思決定、および運動実行機能(例えば手および腕の制御された動き)を非限定的に含む)を容易にするためにCL/DTTmを選択的に賦活化するための幾何学的要件を特定する。選択的なCL/DTTm刺激の主要な効果は、オフターゲット効果を最小化しながら、前頭皮質構造および線条体にわたるニューロン集団を賦活化することである。公知の解剖学的および生理学的なデモンストレーションに基づくと、後頭頂葉皮質および一次感覚皮質など、他の皮質構造も、CL/DTTm賦活化の直接的な標的である。一態様において、対象の視床中心部内の背内側被蓋路線維の75%~100%が刺激され、かつ対象の視床中心部内の内側中心核-束傍核の線維の25%未満が刺激される。別の態様において、対象の視床中心部内の背内側被蓋路線維の90%~100%が刺激され、かつ対象の視床中心部内の内側中心核-束傍核の線維の10%未満が刺激される。
【0065】
一態様において、脳深部刺激療法装置18は、上述のような電気刺激の印加中にニューロン活動の状態を決定するためにフィードバックを提供するように構成されたセンサー40をさらに含む。センサー40からのフィードバックに基づいて対象の視床中心部の選択的賦活化の向上をもたらすために、電気刺激条件のうち1つまたは複数がニューロン活動の状態に基づいて調整されてもよい。
【0066】
本技術の別の局面は、ヒト対象における、覚醒調節不全によって特徴付けられる病的状態を処置する方法に関する。本方法は、覚醒調節不全を有するヒト対象を選択する段階を伴う。各々が複数の接点を備えた、1つまたは複数の電極が提供される。ヒト対象のCL/DTTm線維束の主軸の三次元配向が決定される。次に、前記1つまたは複数の電極の、前記複数の接点が、決定されたCL/DTTm線維束の主軸の三次元配向と実質的にアライメントして、ヒト対象の視床中心部線維内にポジショニングされる。次に、決定されたCL/DTTm線維束の主軸の三次元配向と実質的にアライメントして、視床中心部線維を選択的に賦活化するために、前記1つまたは複数の電極の、ポジショニングされた前記複数の接点に、電気刺激が印加される。次に、ヒト対象の視床中心部線維を選択的に賦活化するために、前記1つまたは複数の電極の、ポジショニングされた前記複数の接点に、電気刺激が印加される。ポジショニングおよび印加は、ヒト対象における外側中心核-背内側被蓋路の線維経路の賦活化を最大化するように、かつヒト対象における正中中心核-束傍核の線維経路の賦活化を最小化するように、行われる。
【0067】
覚醒調節不全は、後天性、先天性、および特発性の広範な神経精神疾病の根底にある重要なコンポーネントである。最も顕著なものとして、外傷性脳損傷は覚醒調節不全をもたらす。覚醒調節を乱す構造的脳外傷のさらなる形態には、無酸素症、低酸素症、低酸素性虚血傷害、脳卒中、感染性または自己免疫性の原因による脳炎、および、パーキンソン病など広範な原発性変性性疾病が含まれる。重要な点として、覚醒調節の支持は、皮質機能低下の発作中または発作後状態中の認知機能の再建について目下臨床試験中である。覚醒調節不全は、統合失調症または自閉症などの神経精神疾患の、処置されていない主要な特徴である。したがって、本明細書において説明および例証する技術は、脳外傷、神経学的変性疾患、てんかん、運動障害、脳炎後の認知不全、発達障害、低酸素性虚血傷害後の認知不全、神経精神障害、集中治療室(ICU)後の混合障害の認知不全、および/またはICU後の成人呼吸促迫症候群を処置するために使われてもよい。これらの適用は関連する例として記載されるが、覚醒調節を向上させるために個人における選択的CL/DTTm賦活化を可能にするためのシステムの具体的使用について、適用を網羅したものではない。
【0068】
一態様において、覚醒調節不全によって特徴付けられる病的状態を有する対象が、上述の方法を用いた処置のために選択されてもよい。対象は、脳外傷、神経学的変性疾患、てんかん、運動障害、脳炎後の認知不全、発達障害、低酸素性虚血傷害後の認知不全、および神経精神障害からなる群より選択される病的状態を有していてもよい。
【0069】
本技術は、向上した覚醒調節によって実現できる行動促進を最適化するための、視床中心部におけるシステムの具体的ポジショニングを可能にする。本技術は、システムの概念化および留置の指針となり、そして、より詳しく後述するように、システムの広範な行動アウトカムをマッピングするために刺激構成の空間および賦活化の様式をユーザーが探索することを可能にする。これらのマップは本来的に多次元である:それには、CL/DTTm経路およびCm-Pf->TRN経路に対する効果、生じうる複数の行動促進効果、ならびに同じく重要な点として、オフターゲットの副作用が含まれる。
【0070】
CL核を通って投射するDTTm線維経路を選択的に賦活化し、かつCm-Pf複合体線維の投射を賦活化しないことは、パフォーマンスを促進する。そうした選択的賦活化は、覚醒調節不全および永続的な認知機能不全に苦しむ対象を処置するための治療選択肢として利用できる。その開示内容全体が参照により本明細書に組み入れられる Baker, et al., “Robust Modulation of Arousal Regulation, Performance and Frontostriatal Activity Through Central Thalamic Deep Brain Stimulation in Healthy Non-Human Primates.” J. Neurophysiol. 116:2383-2404 (2016) に開示されているように、CLの「ウィング」内でDBS電場をシェイピングすることは、強固な行動促進、ならびに前頭および線条体集団の活動の増強という結果をもたらした。その開示内容全体が参照により本明細書に組み入れられる Schiff, et al., “Behavioural Improvements with Thalamic Stimulation After Severe Traumatic Brain Injury.” Nature. 448, 600-3 (2007) に開示されているように、これらの知見は、非常に重度の外傷性脳損傷(TBI)対象の症例研究における、従来のCT-DBSの行動的および生理学的な効果と一致する。
【0071】
本技術は、CLおよびDTTmによる寄与をCm-Pf複合体の寄与から隔離することによって、CL視床の構成要素を分ける。これらの行動面の結果は、1)その開示内容全体が参照により本明細書に組み入れられる Crabtree, et al., “New Intrathalamic Pathways Allowing Modality-Related and Cross Modality Switching in the Dorsal Thalamus.” J. Neurosci. 22, 8754-8761 (2002) および Crabtree, “Functional Diversity of Thalamic Reticular Subnetworks.” Front. Syst. Neurosci. s12 (2018) に開示されているように、齧歯類において定義されているものと同様の、視床内の抑制ネットワーク;2)その開示内容全体が参照により本明細書に組み入れられる N. D. Schiff, “Recovery of Consciousness After Brain Injury: A Mesocircuit Hypothesis.” Trends Neurosci. 33, 1-9 (2010) に開示されているように、前脳前部における全体的な活動レベルを調節する、視床、前頭皮質、および大脳基底核にかかわる系である前脳前部メゾ回路の制御において、2つの経路が果たす役割;という2つの機序で説明できる可能性がある。
【0072】
一態様において、セグメント化された単一リードおよび複数リードシステムのポジションは、CLおよびDTTm経路の細胞体を選択的にターゲティングするため、かつCm-Pfから出ている線維投射を回避するために、最適化されてもよい。CLから前頭線条体の標的まで投射しているDTTm経路の、隔離された賦活化は、行動パフォーマンスを促進する。対照的に、DTTmと、Cm-Pf複合体からTRNを通って投射している線維との、混合的な賦活化は、これらの促進効果を妨げるかまたは弱めるかのいずれかである。
【0073】
CLおよびCm-Pfは両方とも強い線条体投射を有するが、線条体におけるそれらの神経支配のパターンは、領域的にも、そして神経支配される細胞要素および細胞タイプに関しても、著しく異なっている。単線維の研究で留意される点として、その開示内容全体が参照により本明細書に組み入れられる Deschenes, et al., “Striatal and Cortical Projections of Single Neurons From the Central Lateral Thalamic Nucleus in the Rat.” Neuroscience. 72, 679-687 (1996) に開示されているように、CL求心路は吻側線条体上に広く扇状に広がる前にTRN内でもシナプスを作る。対照的に、その開示内容全体が参照により本明細書に組み入れられる Parent, et al., “Axonal Collateralization in Primate Basal Ganglia and Related Thalamic Nuclei.” Thalamus Relat. Syst. 2, 71 (2002)、Smith, et al., “The Thalamostriatal Systems: Anatomical and Functional Organization in Normal and Parkinsonian States.” Brain Res. Bull. 78, 60-68 (2009)、Storch, et al., “Reliability and Validity of the Yale Global Tic Severity Scale.” Psychol. Assess. 17, 486-491 (2005)、および Smith, et al., “The Thalamostriatal System in Normal and Diseased States.” Front. Syst. Neurosci. 8 (2014) に開示されているように、Cm-Pf線維は線条体の領域的に精密なゾーン内に多量に投射して、薮状の局所的な樹枝状部を形成する。CLおよびPf求心路は、(その開示内容全体が参照により本明細書に組み入れられる Bolam, et al., “Synaptic Organisation of the Basal Ganglia.” J. Anat. 196, 527-542 (2000) および Ellender, et al., “Heterogeneous Properties of Central Lateral and Parafascicular Thalamic Synapses in the Striatum.” J. Physiol. 591, 257-72 (2013))に開示されているように、線条体の主なニューロン集団である中型有棘ニューロン内に投射することが公知であり、一方でCmニューロンは、その開示内容全体が参照により本明細書に組み入れられる Smith, et al., “The Thalamostriatal Systems: Anatomical and Functional Organization in Normal and Parkinsonian States.” Brain Res. Bull. 78, 60-68 (2009) に開示されているように、局所コリン作動性抑制ニューロン内に投射する。最も重要な点として、その開示内容全体が参照により本明細書に組み入れられる Li et al., “Uncovering the Modulatory Interactions of Brain Networks in Cognition with Central Thalamic Deep Brain Stimulation Using Functional Magnetic Resonance Imaging.” Neuroscience. 440, 65-84 (2020)、Liu, et al., “Frequency-Selective Control of Cortical and Subcortical Networks by Central Thalamus.” Elife. 4, 1-27 (2015)、および Baker, et al., “Robust Modulation of Arousal Regulation, Performance and Frontostriatal Activity Through Central Thalamic Deep Brain Stimulation in Healthy Non-Human Primates.” J. Neurophysiol. 116:2383-2404 (2016) に開示されているように、CL線維は、高周波数刺激で前頭皮質/前頭前皮質の全体および吻側線条体を強力に賦活化する、強く広い前頭線条体投射を有する。
【0074】
これらの相違にもかかわらず、CLおよびCm-Pfの両方の電気刺激について、覚醒状態の向上および行動の促進が報告されている。齧歯類の研究において、CLの電気刺激は、物体認識記憶(その開示内容全体が参照により本明細書に組み入れられる Shirvalkar, et al., “Cognitive Enhancement with Central Thalamic Electrical Stimulation.” Proc. Natl. Acad. Sci. U. S. A. 103, 17007-17012 (2006))、作業記憶(その開示内容全体が参照により本明細書に組み入れられる Chang, et al., “Modulation of Theta-Band Local Field Potential Oscillations Across Brain Networks With Central Thalamic Deep Brain Stimulation to Enhance Spatial Working Memory.” Front. Neurosci. 13 (2019))、および意思決定(その開示内容全体が参照により本明細書に組み入れられる Mair, et al., “Memory Enhancement with Event-Related Stimulation of the Rostral Intralaminar Thalamic Nuclei.” J. Neurosci. 28, 14293-14300 (2008) および Mair, et al., “Cognitive Activation by Central Thalamic Stimulation: The Yerkes-Dodson Law Revisited.” Dose-Response. 9, 313-331 (2011))を促進する。健康なNHPにおいて、本明細書に示すようにDTTmを含む、CLを主とする刺激は、その開示内容全体が参照により本明細書に組み入れられる Baker, et al., “Robust Modulation of Arousal Regulation, Performance and Frontostriatal Activity Through Central Thalamic Deep Brain Stimulation in Healthy Non-Human Primates.” J. Neurophysiol. 116:2383-2404 (2016) に開示されているように、注意の持続、作業記憶、およびパターン認識行動を促進する。ヒトにおいて、CL刺激は、その開示内容全体が参照により本明細書に組み入れられる Schiff, et al., “Behavioural Improvements with Thalamic Stimulation After Severe Traumatic Brain Injury.” Nature. 448, 600-3 (2007) に開示されているように、運動実行機能および発話を含む広範な認知行動の促進を示している。しかし、ヒトの研究では、重度の脳外傷において、Cm-Pf刺激による会話促進(その開示内容全体が参照により本明細書に組み入れられる Bhatnagar, et al., “Effects of Intralaminar Thalamic Stimulation on Language Functions.” Brain Lang. 92, 1-11 (2005))および覚醒状態の再建もまた報告されている。
【0075】
齧歯類において、その開示内容全体が参照により本明細書に組み入れられる Crabtree, et al., “New Intrathalamic Pathways Allowing Modality-Related and Cross Modality Switching in the Dorsal Thalamus.” J. Neurosci. 22, 8754-8761 (2002) では、視床内の抑制性相互作用の豊富な系についての構造的な基礎が示され、そして、現在の結果に関連する2つの重要な知見が特徴付けられた:1)別個の感覚核または運動核内の局所抑制について豊富なネットワークが存在する;これらの抑制ネットワークは感覚核または運動核のいずれかに局所的なものであるようである;および、2)尾側髄板内核群による前側髄板内核群の抑制を介した、感覚から運動への交差する視床経路。尾側髄板内核群の賦活化は、TRNとの2シナプス性接続を介して、前側核群におけるニューロン発火の強力な抑制および抑止をもたらした。これらの知見は、視床内の2つの髄板内核群の視床内抑制の重要なモチーフを示唆する。しかし、ネコまたは霊長類の視床と比較した、齧歯類における重要な相違は、CrabtreeおよびIssacによってCLが尾側髄板内核群の一部に含まれていることであり、それは、その開示内容全体が参照により本明細書に組み入れられる Jones, The Thalamus Springer US, Boston, MA, ed. 2nd, 2007 に開示されているように、齧歯類においてCm-Pf核が存在しないことによる部分が大きい。
【0076】
これと比較して、霊長類におけるCm-Pfは大きく拡大しており(その開示内容全体が参照により本明細書に組み入れられる Jones, et al., “Differential Calcium Binding Protein Immunoreactivity Distinguishes Classes of Relay Neurons in Monkey Thalamic Nuclei.” Eur. J. Neurosci. 1, 222-246 (1989) および Jones, The Thalamus Springer US, Boston, MA, ed. 2nd, 2007)、そしてCLは吻側髄板内核群のコンポーネントとして分類されている。その開示内容全体が参照により本明細書に組み入れられる Jones, The Thalamus Springer US, Boston, MA, ed. 2nd, 2007 はとりわけ、傍層板MD(paralamellar MD)の高密度細胞コンポーネントをCL核の後側細胞とみなせることに注目している;これらのニューロンは前頭皮質および前頭前皮質に強く投射しており、かつ、Cm-Pfの内側面およびPfの前側面と近接している。その開示内容全体が参照により本明細書に組み入れられる Jones, The Thalamus Springer US, Boston, MA, ed. 2nd, 2007 に開示されているように、複数の解剖学者がこれらの領域をヒトCL核に含めるべきであると主張している。TRNを通じたCm-PfおよびCLの相互作用の詳細な研究は非ヒト霊長類において入手可能ではなく、現在のモデル化は齧歯類における観察が指針となるにすぎない。Cm-Pf-TRN線維束によって賦活化されたTRN投射を通じた、CLおよび周囲の関連核に対する直接的な抑制効果は、DTTmおよびCm-Pf-TRN線維において賦活化が釣り合った時の見かけ上の干渉、そして、DTTmの関与が比較的強くなるにつれて「プッシュ-プル」効果が行動性の放出に傾いていくことに伴うこの干渉の減弱を、説明できる。
【0077】
DTTm賦活化は、覚醒状態において前頭線条体ニューロンの選択的な賦活化を促進する。先行研究が示すところによれば、健康なNHPにおいて認識的に媒介される行動を促進するには、その開示内容全体が参照により本明細書に組み入れられる Baker, et al., “Robust Modulation of Arousal Regulation, Performance and Frontostriatal Activity Through Central Thalamic Deep Brain Stimulation in Healthy Non-Human Primates.” J. Neurophysiol. 116:2383-2404 (2016) に開示されているように局所的な電場電位を変化させるだけの、かつ、個々のニューロン発火ダイナミクスを変化させるだけの、充分に強力な前頭および線条体のニューロンの賦活化を要する。覚醒状態において、その開示内容全体が参照により本明細書に組み入れられる Steriade, et al., “Natural Waking and Sleep States: A View From Inside Neocortical Neurons.” J. Neurophysiol. 85, 1969-1985 (2001) および Grillner, et al., “Microcircuits in Action - From CPGs to Neocortex.” Trends Neurosci. 28, 525-533 (2005) に開示されているように、前頭新皮質のニューロンおよび線条体の中型有棘ニューロンの両方が脱分極されて、高レートのシナプス入力を受け取る。ゆえに、行動促進において測定可能となるのに充分な影響を作り出すには、DBSの効果が、前頭線条体集団にわたって、空間的に広くかつ強力に有効でなければならない。
【0078】
その開示内容全体が参照により本明細書に組み入れられる Smith, et al., “The Thalamostriatal Systems: Anatomical and Functional Organization in Normal and Parkinsonian States.” Brain Res. Bull. 78, 60-68 (2009) に開示されているように、覚醒状態のNHPにおける微小電極技法によるCLの刺激は、中程度の行動促進効果を示した。対照的に、従来のCT-DBSと直接比較して、視床中心部内の「電場シェイピング(field-shaping)」(fsCT-DBS)によって作成される有効な幾何学形状によって実現される、行動促進の顕著な増大は、その開示内容全体が参照により本明細書に組み入れられる Baker, et al., “Robust Modulation of Arousal Regulation, Performance and Frontostriatal Activity Through Central Thalamic Deep Brain Stimulation in Healthy Non-Human Primates.” J. Neurophysiol. 116:2383-2404 (2016) に開示されているように、前頭線条体ネットワークにわたるバルク賦活化という文脈において最初に理解されうる。ヒト対象において、前頭線条体ニューロン集団のバルク賦活化は、傷害された脳における覚醒調節の向上を目指した、有効であるさまざまな薬理学的および電気生理学的な刺激処置方法の根底にある、共通の機序として示されている。
【0079】
その開示内容全体が参照により本明細書に組み入れられる Liu, et al., “Frequency-Selective Control of Cortical and Subcortical Networks by Central Thalamus. Elife. 4, 1-27 (2015) に開示されているように、齧歯類において、視床中心部内の局所ニューロン集団の光遺伝学的刺激が示すところによれば、機能的磁気共鳴を用いた全脳レベルでの測定で、CL刺激は前頭線条体系の全体をユニークに賦活化する。ここで示されるDTTm線維の刺激の選択的効果は、前頭皮質および線条体の領域にわたる広い興奮性入力を提供するCL刺激と一致する。Cm-Pf->TRN線維の限定的な同時賦活化であっても行動に対する抑止効果を有していたことは、CLニューロンと、束傍核(Pf)および正中中心核(Cm)内のニューロンとの、さらなる相違に対する注意を喚起する。
【0080】
CLニューロンとCm-Pfニューロンとの相違は、線条体から出て淡蒼球(内部の区画)に投射するニューロンである抑制性の中型有棘ニューロン(MSN)に対する、それらのシナプス後効果にも及ぶ。CL求心路またはPf求心路のいずれかによって光遺伝学的に賦活化したMSNの全細胞パッチクランプ研究では、CL求心路がAMPA受容体を通じて作用すること、そしてMSN活動電位を駆動する効果がより高いことが示されている。加えて、その開示内容全体が参照により本明細書に組み入れられる Ellender, et al., “Heterogeneous Properties of Central Lateral and Parafascicular Thalamic Synapses in the Striatum.” J. Physiol. 591, 257-72 (2013) に開示されているように、NMDA受容体を介して作用するPf求心路は、シナプス可塑性の機序を通じて長期的な抑圧を生成する。これらの生理学的な相違は、Cm-Pf線維が同時賦活化された時に、DTTm賦活化を通じて実現される行動促進が減弱することへの、追加的な寄与を提供している可能性が高い;これらの投射は線条体においてMSNまで続いているからである。CLによるMSNの興奮は、その開示内容全体が参照により本明細書に組み入れられる Fridman, et al., “Neuromodulation of the Conscious State Following Severe Brain Injuries.” Curr. Opin. Neurobiol. 29, 172-177 (2014) および Schiff, “Recovery of Consciousness After Brain Injury: A Mesocircuit Hypothesis.” Trends Neurosci. 33, 1-9 (2010) に開示されているように、前脳前部メゾ回路を通じた視床の2シナプス性の脱抑制につながり、そして、Pf線維の同時賦活化は、MSNの抑止を通じてこの視床の脱抑制に対立する可能性がある。ゆえに、MSNに至るのCL/DTTm求心路とCM-Pf求心路との間のバランスは、それによって視床の全体的な活動レベルを調整できる手段となる。
【0081】
皮質レベルでの重要な相違もまた、CL賦活化 対 Cm-Pf賦活化の効果に影響を及ぼすと予想される;その開示内容全体が参照により本明細書に組み入れられる Jones, The Thalamus Springer US, Boston, MA, ed. 2nd, 2007 に開示されているように、CLが皮質を広く神経支配するのに対し、Cm-Pf投射は比較的まばらである。その開示内容全体が参照により本明細書に組み入れられる Llinas, et al., “Temporal Binding Via Cortical Coincidence Detection of Specific and Nonspecific Thalamocortical Inputs: A Voltage-Dependent Dye-Imaging Study in Mouse Brain Slices.” Proc. Natl. Acad. Sci. U. S. 816 A. 99, 449-454 (2002) に開示されているように、新皮質において、CL求心路による顆粒上層および顆粒下層の広い神経支配は、皮質柱にわたる効果の超線形加算と関連性がある。集合的に、(その開示内容全体が参照により本明細書に組み入れられる Smith, et al., “The Thalamostriatal Systems: Anatomical and Functional Organization in Normal and Parkinsonian States.” Brain Res. Bull. 78, 60-68 (2009) および Ellender, et al., “Heterogeneous Properties of Central Lateral and Parafascicular Thalamic Synapses in the Striatum.” J. Physiol. 591, 257-72 (2013))に開示されているように、Cm-Pfに対する賦活化の侵害が、線条体内の局所的なシナプス効果を通じて、前頭皮質および線条体の領域のバルク賦活化を低減させる可能性が高い;ここで、短期的な抑圧が、Cm-Pf投射によって神経支配される線条体のまだら状の領域に影響を及ぼして、行動促進に干渉する可能性がある。加えて、上述したように、TRNからのフィードバック抑制(その開示内容全体が参照により本明細書に組み入れられる Crabtree, et al., “New Intrathalamic Pathways Allowing Modality-Related and Cross Modality Switching in the Dorsal Thalamus.” J. Neurosci. 22, 8754-8761 (2002))を介した、CLの部分内および髄板傍部の視床領域(同一の特性を備えたニューロンを含有する(その開示内容全体が参照により本明細書に組み入れられる Jones, The Thalamus Springer US, Boston, MA, ed. 2nd, 2007 および Munkle, et al., “The Distribution of Calbindin, Calretinin and Parvalbumin Immunoreactivity in the Human Thalamus.” J. Chem. Neuroanat. 19, 155-173 (2000)))における細胞体の強力な抑制が、直接的な電気刺激ではキャプチャーされない視床の出力を抑止する可能性がある。
【0082】
DTTm内のCT-DBSによる行動促進をもたらすために必要とされる広いバルク賦活化と比較して、麻酔したNHPにおける近年の研究が示すところによれば、その開示内容全体が参照により本明細書に組み入れられる Redinbaugh, et al., “Thalamus Modulates Consciousness via Layer-Specific Control of Cortex.” Neuron, 1-10 (2020) に開示されているように、200μmの間隔が空けられた複数の25μm接点を使用したCL核内のごく局所的な刺激が、プロポフォールおよびイソフルラン麻酔からの覚醒をもたらす可能性がある。局所的に実現される電流を決定する、これらマイクロプローブ接点の電気的な有効長は、その開示内容全体が参照により本明細書に組み入れられる Ranck, “Which Elements are Excited in Electrical Stimulation of Mammalian Central Nervous System: A Review.” Brain Res. 98, 417-440 (1975) に開示されているように、ここで研究されたfsCT-DBS構成によって賦活化される広い領域と比較して、非常に短い。注目点として、200Hzではなく50Hzでの刺激が、麻酔中の覚醒をもたらすのに有効であった。これと比較して、研究された覚醒状態のサルにおいて、150Hz~225Hzの刺激は、その開示内容全体が参照により本明細書に組み入れられる Baker, et al., “Robust Modulation of Arousal Regulation, Performance and Frontostriatal Activity Through Central Thalamic Deep Brain Stimulation in Healthy Non-Human Primates.” J. Neurophysiol. 116:2383-2404 (2016) に開示されているように、強い行動促進、ならびに前頭および線条体の領域における強固な賦活化を示し、それは、これらの位置において直接測定された、ベータ波およびガンマ波の周波数範囲における顕著な増大、ならびにより低い周波数帯域における低減に反映された。これらの差異は、その開示内容全体が参照により本明細書に組み入れられる Larkum,, et al., “Calcium Electrogenesis in Distal Apical Dendrites of Layer 5 Pyramidal Cells at a Critical Frequency of Back-Propagating Action Potentials.” Proc. Natl. Acad. Sci. U.S.A. 96, 14600-14604 (1999), Larkum, et al., “Dendritic Spikes in Apical Dendrites of Neocortical Layer 2/3 Pyramidal Neurons. J. Neurosci. 27, 8999-9008 (2007), および Larkum, et al., “Synaptic Integration in Tuft Dendrites of Layer 5 Pyramidal Neurons: A New Unifying Principle.” Science 325, 756-760 (2009) に開示されているように、覚醒状態において広い賦活化を実現することに加えて、新皮質および線条体のニューロンによって受け取られる背景シナプス活動のレベルを特定の閾値を超えるまで増大させる必要があることを反映している可能性が高い。その開示内容全体が参照により本明細書に組み入れられる Bernander, , et al., “Synaptic Background Activity Influences Spatiotemporal Integration in Single Pyramidal Cells.” Proc. Natl. Acad. Sci. U.S.A. 88, 11569-11573 (1991) に開示されているように、個々の新皮質ニューロンの固有の統合特性は、背景シナプス入力のレベルの増大に伴って変化する。その開示内容全体が参照により本明細書に組み入れられる Larkum,, et al., “Calcium Electrogenesis in Distal Apical Dendrites of Layer 5 Pyramidal Cells at a Critical Frequency of Back-Propagating Action Potentials.” Proc. Natl. Acad. Sci. U.S.A. 96, 14600-14604 (1999), Larkum, et al., “Dendritic Spikes in Apical Dendrites of Neocortical Layer 2/3 Pyramidal Neurons. J. Neurosci. 27, 8999-9008 (2007), および Larkum, et al., “Synaptic Integration in Tuft Dendrites of Layer 5 Pyramidal Neurons: A New Unifying Principle.” Science 325, 756-760 (2009) に開示されているように、新皮質ニューロンにおける樹状突起の電気発生をすべての層にわたってトリガーするためには、入ってくる興奮性入力が約130Hzより高い周波数を有していなければならない。同様に、線条体のニューロンである中型有棘ニューロンの主要な出力は、その開示内容全体が参照により本明細書に組み入れられる Grillner, et al., “Mechanisms for Selection of Basic Motor Programs - Roles for the Striatum and Pallidum.” Trends Neurosci. 28, 364-370 (2005) に開示されているように、活動電位を生成するだけの充分な膜脱分極を維持するために非常に高レートの背景シナプス入力を必要とする。その開示内容全体が参照により本明細書に組み入れられる Schiff, “Central Lateral Thalamic Nucleus Stimulation Awakens Cortex via Modulation of Cross-Regional, Laminar-Specific Activity during General Anesthesia.” Neuron. 106, 1-3 (2020) に開示されているように、いずれの機序も、覚醒状態における高周波数の刺激の必要性において役割を果たしている可能性が高い。
【0083】
あるいは、麻酔したサルにおける50HzのCL刺激の選択的効果は、CLを神経支配する脳幹のコリン作動性および/またはノルアドレナリン作動性の線維の逆行的な賦活化を反映している可能性がある。その開示内容全体が参照により本明細書に組み入れられる Garcia-Rill, et al., “Coherence and Frequency in the Reticular Activating System (RAS).” Sleep Med. Rev. 17, 227-238 (2013) および Garcia-Rill, J, et al., “The physiology of the pedunculopontine nucleus: implications for deep brain stimulation.” J. Neural Transm. 122, 225-235 (2015) に開示されているように、CLに投射する脳幹ニューロンは約40~50Hzに共鳴特性を有することが公知であるが、より高い周波数の刺激はむしろ活動電位をブロックする;このことは、他の研究者らが高周波数の刺激中に効果を見出さなかったことの説明となる可能性がある。
【0084】
本技術のさらなる局面は、1つまたは複数の外科用コンピューティングデバイスによって実施される、DBSをガイドするためのヒト視床中心部のベクトル式ターゲティングを伴う手術計画のための方法に関する。本方法は、セグメント化脳モデルを作成するために、ヒト対象の脳の画像内で視床中心部をセグメント化する段階を伴う。セグメント化脳モデルにおいて1つまたは複数の線維経路がモデル化される。そのモデル化に基づいて、ヒト対象のCL/DTTm線維束の主軸の三次元配向が決定される。決定されたヒト対象のCL/DTTm線維束の主軸の三次元配向に少なくとも部分的に基づいて、1つまたは複数の電極について、セグメント化脳モデルにおける初期のモデルポジションおよび配向が生成される。モデル化および生成に基づいて、刺激マップが作成される。ヒト対象の視床中心部線維を選択的に賦活化するために、ヒト対象の視床中心部線維における、前記1つまたは複数の電極の、複数の接点についてのポジションおよび配向と、前記1つまたは複数の電極の、ポジショニングおよび配向された前記複数の接点についての電気刺激条件とが、同定される。このことは、作成されたシミュレーションマップに基づいて、ヒト対象における外側中心核-背内側被蓋路の線維経路の賦活化が最大化されること、かつヒト対象における正中中心核-束傍核の線維経路の賦活化が最小化されることを、可能にする。
【0085】
本技術のなお別の局面は、DBSをガイドするためのヒト視床中心部のベクトル式ターゲティングを伴う手術計画のための命令がそこに保存されている、非一時的コンピューター可読媒体に関する。本非一時的コンピューター可読媒体は、1つまたは複数のプロセッサーによって実行された時に、セグメント化脳モデルを作成するためにヒト対象の脳の画像内で視床中心部をセグメント化することを前記1つまたは複数のプロセッサーに行わせる、実行可能コードを含む。セグメント化脳モデルにおいて1つまたは複数の線維経路がモデル化される。そのモデル化に基づいて、ヒト対象のCL/DTTm線維束の主軸の三次元配向が決定される。決定されたヒト対象のCL/DTTm線維束の主軸の三次元配向に少なくとも部分的に基づいて、1つまたは複数の電極について、セグメント化脳モデルにおける初期のモデルポジションおよび配向が生成される。モデル化および生成に基づいて、刺激マップが作成される。作成されたシミュレーションマップに基づいて、ヒト対象における外側中心核-背内側被蓋路の線維経路の賦活化が最大化され、かつヒト対象における正中中心核-束傍核の線維経路の賦活化が最小化されるように、ヒト対象の視床中心部線維を選択的に賦活化するために、ヒト対象の視床中心部線維における、前記1つまたは複数の電極の、複数の接点についてのポジションおよび配向と、前記1つまたは複数の電極の、ポジショニングおよび配向された前記複数の接点についての電気刺激条件とが、同定される。
【0086】
本技術の別の局面は外科用コンピューティングデバイスに関する。本外科用コンピューティングデバイスは、そこに保存されたプログラム命令を具備しているメモリと;メモリに連結されており、かつ保存されたプログラム命令を実行するように構成されている、1つまたは複数のプロセッサーと;を含む。保存されたプログラム命令は、セグメント化脳モデルを作成するためにヒト対象の脳の画像内で視床中心部をセグメント化する段階を含む。セグメント化脳モデルにおいて1つまたは複数の線維経路がモデル化される。そのモデル化に基づいて、ヒト対象のCL/DTTm線維束の主軸の三次元配向が決定される。決定されたヒト対象のCL/DTTm線維束の主軸の三次元配向に少なくとも部分的に基づいて、1つまたは複数の電極について、セグメント化脳モデルにおける初期のモデルポジションおよび配向が生成される。モデル化および生成に基づいて、刺激マップが作成される。作成されたシミュレーションマップに基づいて、ヒト対象における外側中心核-背内側被蓋路の線維経路の賦活化が最大化され、かつヒト対象における正中中心核-束傍核の線維経路の賦活化が最小化されるように、ヒト対象の視床中心部線維を選択的に賦活化するために、ヒト対象の視床中心部線維における、前記1つまたは複数の電極の、複数の接点についてのポジションおよび配向と、前記1つまたは複数の電極の、ポジショニングおよび配向された前記複数の接点についての電気刺激条件とが、同定される。
【0087】
次に、
図5を参照して、脳深部刺激療法をガイドするためのヒト視床中心部のベクトル式ターゲティングを伴う手術計画のための例示的方法のフローチャートを説明する。本方法は、
図1に示すような外科用コンピューティングデバイス14などの、1つまたは複数のコンピューティングデバイスによって行われてもよい。
図5を再び参照すると、段階500において、外科用コンピューティングデバイス14が、セグメント化脳モデルを作成するためにヒト対象の脳の画像内で視床中心部をセグメント化する。
【0088】
いくつかの実施例において、ヒト対象の術前磁気共鳴撮像法(MRI)画像を取得するために撮影デバイス16が用いられる;これは任意で、標的賦活化領域および標的回避領域の位置決めを補助する具体的特徴を備えていてもよい。これらの例において、術前MRI画像は、視床内の白質構造と灰白質構造との間に強いコントラストを示す画像系列を含む。
【0089】
任意で、強い視床内コントラストをもたらすために、MR取得パラメーター(例えば、反転時間TI、シーケンス繰り返し時間TS、フリップ角FA、受信バンド幅RBW、および/または、k空間オーダリングストラテジー) を用いた、ヒト視床の白質ヌル化磁化準備型高速取得(white-matter-nulled magnetization-prepared rapid acquisition)(WMnMPRAGEまたはWMn)撮影が用いられてもよい;これは、内髄板の描写、ならびに視床中心部(CL)のボリュームの隔離およびセグメント化を可能にする。いくつかの実施例において、画像分解能(すなわちボクセルサイズ)は1mmもしくはそれより良好であるか、かつ/または等方性(例えば、3つのボクセル寸法のすべてについてサイズが等しい)であり、かつ/または、撮影ボリュームがヒト対象の脳全体をカバーする。
【0090】
本技術のいくつかの実施例において、得られたWMn画像は、ヒト対象の視床内の構造をセグメント化する(またはその空間的境界を定義する)ために、(例えば外科用コンピューティングデバイス14によって)処理される。このセグメント化のための1つの例示的アプローチは、その開示内容全体が参照により本明細書に組み入れられる Su et al., “Thalamus Optimized Multi Atlas Segmentation (THOMAS): fast, fully automated segmentation of thalamic nuclei from structural MRI,” Neuroimage. 2019 Jul 1;194:272-282 に開示されているように、THalamus Optimized Multi-Atlas Segmentation(THOMAS)アルゴリズムを用いることであるが、セグメント化のための他の方法もまた用いられてよい。THOMASアルゴリズムは、各々の脳画像ボリューム上で複数の視床核をセグメント化する。
【0091】
本開示技術に基づくセグメント化のための別の例示的アプローチは、CL核およびVPM核をラベル付けするマスクをテンプレートの脳ボリュームから関心対象の個々の画像ボリュームにワープさせるためのシングルアトラス法を用いることである。THOMASアルゴリズムはCL核およびVPM核を同定またはセグメント化しないので、視床セグメント化のこの第二ステージが本技術のいくつかの実施例において行われてもよい。THOMASアルゴリズムによって同定される核で、CM核など「標的回避領域」となる可能性があるものがいくつか存在するが、主要な標的賦活化領域はCL核である;CL核は、視床セグメント化のこの第二段階のシングルアトラス法を用いて、関心対象の個々の画像ボリュームについて脳の両側で同定される。
【0092】
段階502において、外科用コンピューティングデバイス14は、段階500において生成されたセグメント化脳モデルにおいて1つまたは複数の線維経路をモデル化する。この線維経路のコンフルエンスの位置の同定は、例えば、その開示内容全体が参照により本明細書に組み入れられる Edlow et al., “Neuroanatomic Connectivity of the Human Ascending Arousal System Critical to Consciousness and Its Disorders,” J. Neuropathol. Exp. Neurol. 71(6):531-46 (2012) に基づく拡散テンソル画像法(DTI)の使用などによって、最適に実現できる。いくつかの実施例において、外科用コンピューティングデバイス14は、2mmまたはそれより良好なボクセル寸法の等方分解能でヒト対象の脳全体をカバーするために、DTI処理と矛盾しない様式の拡散強調画像を取得する。拡散強調画像は、高い画質および信号対雑音比をもたらす撮影シーケンスパラメーターを用いて取得できる。
【0093】
これらの拡散強調画像は次に、DTI線維トラクトグラフィーを用いて処理される;DTI線維トラクトグラフィーでは、線維経路の起始となるシード領域、トラッキングされる線維が通らなければならない「フィルター領域」、および任意で、トラッキングされる線維が到達するエンドポイント領域に基づいて、特定の線維路が定義される。外科用コンピューティングデバイス14は、線維トラクトグラフィー法を用いて、橋脚核(PPN)を起始とし、視床のCL核を通り、そして前脳または頭頂部において終わる、CL/DTTm線維束を定義する。
【0094】
段階504において、外科用コンピューティングデバイス14は、複数の接点を有する少なくとも1つの電極について、セグメント化脳モデルにおけるポジションおよび配向を生成する。標的ポイントとしてのCLの外側ウィングの空間位置と、DTIおよび線維トラクトグラフィーによって定義されるCL/DTTmの方向との比較が、三次元におけるCL/DTTm線維束の主軸、ならびに標的となる電極ポジションおよび配向をもたらす。より具体的には、電極の配向は電極の接点の配向に基づき、それは決定されたCL/DTTm線維束の主軸に対応する。外科用コンピューティングデバイス14はまた、標的となるポジションおよび配向を実現するための電極挿入の手術軌道も決定する。したがって、より詳しく後述するように、標的となる電極ポジションおよび配向がDBSリードの局在化をガイドする。
【0095】
任意で、対象の視床の選択的賦活化を提供するための植え込みエリアを同定するために、外科用コンピューティングデバイス14上に保存されたデータに基づいて電極ポジションがさらに生成されてもよい。一態様において、電極ポジションを同定するために、セグメント化脳モデル内で解剖学的神経核を同定するためにセグメント化脳モデルが脳モデルアトラスにレジストレーションされる。レジストレーションは、例えば対称正規化などの技法を用いて行われてもよいが、他の技法もまた用いられてもよい。
【0096】
段階506において、外科用コンピューティングデバイス14は刺激マップを作成する。刺激マップは、対象の視床中心部のセグメント化モデルを用いて作成される。電極ポジションは、モデル刺激を印加した結果として賦活化される線維経路を同定するための刺激マップを生成するために、モデル化された刺激を適用するために用いられる。いくつかの実施例において、DTIから展開された3D線維軌道に適用された際の生物物理学的モデル化を用いて、賦活化線維束および/または回避線維束がレンダリングされる。この相互作用のモデル化は、第一に、脳内で作成される電場を電極位置および刺激設定の関数として計算し、そして第二に、各線維路に沿った電圧値または各神経核内の電圧値に基づいて賦活化を予測することによって、行われる。
【0097】
図6を参照すると、脳深部刺激療法をガイドするためのヒト視床中心部のベクトル式ターゲティングを容易にするための画像ガイド下手術計画に用いられる方法が図示されている。具体的には、
図6は、視床コントラストの増強およびセグメント化の自動化を伴うMRI撮影を利用した視床および視床核のセグメント化を含む、CT-DBSの画像ガイド下手術計画に用いられる方法の概要を図示している。この実施例において、標的神経核および回避神経核を定義するために、WMn撮影がTHOMASプラスCL-VPM自動セグメント化の視床セグメント化アルゴリズムとともに用いられ;標的線維路および回避線維路を定義するために、トラクトグラフィーを伴うDTIが用いられ;そして、電極ポジションおよび配向、ならびに手術軌道を定義するために、ニューロン賦活化の電極および生物物理学的モデル化が用いられている。
【0098】
図7を参照すると、個々の視床核の同定を可能にするために視床内のコントラストを示しているWMn撮影が図示されている。この実施例において、WMn撮影は、個々の視床核の明確な同定を可能にするために視床内のコントラストを示しており、CL核の視覚的エビデンス、ならびに、THOMASアルゴリズムを用いた14個の視床核の自動セグメント化を可能にするだけの充分なコントラストが含まれている。したがって、ヒト対象の視床内の高コントラストを伴うWMn撮影は、視床内のコントラストを提供しないかまたは低減させる他の磁気共鳴シーケンスを使用した場合には可能でない可能性がある、THOMASアルゴリズムを用いた視床核のセグメント化の向上を促す。
【0099】
図8を参照すると、標的神経核および回避神経核、ならびに標的線維路および回避線維路の両方を提供する、WMn撮影およびDTI撮影の組み合わせが図示されている。標的神経核および回避神経核、ならびに標的線維路および回避線維路は、神経核からの標的投射およびこの神経核から出ている線維束に対するDBSリード(例えば電極接点)のポジションおよび軌道(すなわち配向)の両方を考慮に入れたベクトル式ターゲティングを定義するために用いられる。したがって、本技術のベクトル式ターゲティングは、例えばヒト対象の、前頭皮質内および線条体内の構造を標的にするために、視床神経核の三次元モデルと、この神経核から投射しているモデル線維とを組み合わせる。この実施例において、DTTm線維路を同定するために、高分解能の拡散撮影およびそれに続くDTIトラクトグラフィーが用いられ、それは、DTTm線維路の主軸、ならびにそれに対応する電極接点および手術軌道の配向の決定を容易にする。
【0100】
図5に戻ると、段階508において、外科用コンピューティングデバイス14は、任意で、電極ポジション、接点配向、および手術軌道が満足なものかを決定してもよい。電極ポジションおよび接点配向に関する決定は、段階506において作成された刺激マップ;ならびに、対象における外側中心核-背内側被蓋路の線維経路の賦活化が最大化され、かつ対象における正中中心核-束傍核の線維経路の賦活化が最小化されるように、対象の視床中心部線維を選択的に賦活化するために、電極ポジションが理想的であるか;に部分的に基づいてもよい。手術軌道に関する決定は、例えば電極挿入中に回避することが望ましい1つまたは複数の病変部など、ヒト対象の特定の解剖学的構造に基づいてもよい。前記1つまたは複数の病変部は、視床中心部、大脳皮質、または線条体のうち1つまたは複数にある。いくつかの実施例において、段階508における決定は、手術軌道が脳病変部に影響を及ぼす時など、自動化されてもよく、他の実施例において、段階508における決定は、手動の観察、および外科医による外科用コンピューティングデバイス14への入力に基づいてもよい。ポジション、配向、または手術軌道のうち、1つまたは複数が満足なものでないと外科用コンピューティングデバイス14が決定したならば、いいえの分岐に進んで段階504に戻る。
【0101】
それに続く段階504~506の繰り返しにおいて、外科用コンピューティングデバイスは、CL/DTTm線維束の主軸と実質的にアライメントしたままであるが、例えば賦活化もしくは回避を向上させかつ/または病変部を回避するなどである、別の電極ポジションおよび/もしくは配向、ならびに/または別の手術軌道を生成する。いくつかの実施例において、視床内の病変部周りのナビゲーションは、標的捕捉構造において利用可能な残存線維の賦活化のカバー度の増大、および標的回避構造を表す線維の近くの領域の回避に関して、調整を行うことによって実現される。
【0102】
例証的実施例について、刺激対象となる組織の体積内に出ている標的捕捉のための線維の一部を妨げている局所的な視床病変部を囲んでいる線維のモデル化は、問題をはらむ可能性がある。段階506に関して上述した生体電場モデル化を用いて、単一または複数電極が仮想的に置かれ、そして、電極接点の幾何学形状(例えば能動的陰極)のさまざまな組み合わせの元における、電極の局所的なポジショニングおよび配向、ならびにシミュレーションされた賦活化と、刺激パラメーター(例えば、電圧もしくは電流の振幅、刺激パルスのパルス幅、刺激パルスの周波数、刺激信号の接点ごとの位相)とに基づいて、標的捕捉構造または標的回避構造からの各線維束の賦活化が定量的にアセスメントされる。このアプローチは、大きく多巣性の病変部がある脳内での留置をナビゲーションするための、単一電極または多電極システムの計画を可能にする。
【0103】
段階508に戻ると、ポジション、配向、および手術軌道が満足なものであると外科用コンピューティングデバイス14が決定したならば、はいの分岐に進んで段階510に向かう。段階510において、対象の視床中心部線維における前記1つまたは複数の電極についてのポジションおよび配向、手術軌道、ならびに電極についての電気刺激条件が確立され、そして、段階506において作成されたシミュレーションマップに基づいて、対象における外側中心核-背内側被蓋路の線維経路の賦活化が最大化され、かつ対象における内側中心核-束傍核の線維経路の賦活化が最小化されるように、電極を挿入しそして対象の視床中心部線維を選択的に賦活化するために用いられる。
【0104】
したがって、電極の接点がCL/DTTm線維束の主軸の配向と実質的にアライメントし、かついくつかの実施例において病変部を回避するように、対象の視床中心部線維内に電極がポジショニングされる。任意で、標的となる線維経路または神経核の選択的な賦活化を実現し、かつ一方で、標的でない経路または神経核を回避するために、刺激誘発用の電圧がシェイピングされる。シェイピングは、各半球内への1つまたは複数のDBSリードの植え込み、および刺激設定の選択を通じて実現される;刺激設定には、リード間およびリード内の両方の刺激が印加されるものを含まれる。
【0105】
本例示的方法は、術前、術中、および術後の設定において用いられてもよい。標的構造を賦活化しながら一方で他の構造を回避する最も高い見込みを得るために各脳半球内に電極/リードを植え込むための位置、配向、および軌道を決定するために、術前計画が用いられてもよい。術前計画中に、DBSリードの広範なポジション、配向、および軌道が探索される。パラメーター空間は、空間変換という点において6自由度、そして方向性DBSリードについて7自由度を含む。本説明の方法は、対象における外側中心核-背内側被蓋路の線維経路の賦活化が最大化され、かつ対象における内側中心核-束傍核の線維経路の賦活化が最小化されるように、対象の視床中心部線維を選択的に賦活化するために、電極32などの電極を植え込むための位置および配向を決定することを可能にする。
【0106】
本例示的方法はまた、術前計画の実行中に、適用された賦活化が標的上にあるかをさらに決定するために、術中にも用いられてもよい。センサー40からのフィードバックなど、術中に集められた情報が、術前計画に沿っている度合をアセスメントするために用いられる。このデータは外科用コンピューティングデバイス14上の対象モデルにおいて記録および保存される。術前計画が実行されているかを示す可能性がある神経活動を記録するために、1つまたは複数のセンサー40が対象の体内に一時的に植え込まれる。撮影デバイス16を用いた術中撮影(MRI、CT、内視鏡検査)もまた、リードポジションを確かめるために用いられてもよい。
【0107】
加えて、本例示的方法は術後計画において利用されてもよい。術後計画は、治療的恩典を提供するために対象に刺激を提供するために、刺激信号生成器38などの刺激器をプログラムするために利用されてもよい。各半球における、電極32など、DBSリードの実際の位置および配向を確かめるために、撮影デバイス16を用いた術後撮影(MRIまたはCT)が用いられる。この撮影は、外科用コンピューティングデバイス14上に保存された、対象モデルにおける術前撮影とコレジストレーションされる。この時点でリード位置が固定され、追加の手術を行わなければ変更できない。したがって、他の構造内へのスピルオーバーがごくわずかである標的賦活化を実現するために、どの電極を陽極または陰極として賦活化するか、およびどの波形を使用するかなど、上述したような電気刺激条件が調整されてもよい。このパラメーター空間を系統的に探索し、パルス発生器などの刺激信号生成器38のための刺激設定を推奨するために、シミュレーションが用いられる。
【0108】
システム12は、個々の対象に対する電流のプログラミング用にシステムをカスタマイズするために、行動面の効果の正確な植え込み後タイトレーション、ならびに、ポジティブおよびネガティブな行動面の効果のアノテーションを可能にするために、電極の植え込み後の位置を直ちに決定することをさらに可能にする。システム12はまた、高密度EEGと併せて用いられた時に、電気誘発性の活動の植え込み後タイトレーションも可能にする。
【0109】
図9Aおよび9Bを参照すると、CL/DTTm構造の線維のバルク賦活化のために調整される、線維の三次元集合体におけるベクトルの配置を示した、概念的な概観が図示されている。ベクトルは、頭蓋進入位置、および決定されたCL/DTTm線維束の主軸と実質的にアライメントした先端位置を選択するためのMR撮影;標的構造および回避構造の賦活化の推定;ならびに、少なくとも1つの電極が目的を実現できるまでの、リード軌道および先端位置の反復調整;を用いて、仮想空間における初期リード留置を介して置かれる。したがって、
図9Aおよび9Bにおけるベクトルは、CL/DTTm線維束の主軸に実質的に対応し、かつ満足な標的賦活化および標的回避をもたらすように位置決めおよび配向された、三次元空間における電極接点の配向を表す。
【0110】
図10を参照すると、2つの視床核(賦活化標的)および正中中心核(回避標的)、標的DTTm線維束、ならびに能動電極を備えたDBSリードのボリュームレンダリングが図示されている。この実施例において、標的DTTm線維束(紫)の、2つの視床核 (CL-青(賦活化標的))および正中中心核(ピンク(回避標的))、ならびに、能動電極を備えたDBSリード(灰および白)が、特定の線維を賦活化する印加される電場(黄)とともに図示されている。
図11を参照すると、印加された電場によって賦活化された線維を隔離した、
図10の2つの視床核の別のボリュームレンダリングが図示されている。この実施例において、隔離された、賦活化された線維は黄色で示されている。
【0111】
図12を参照すると、ヒト視床中心部内の複数の標的賦活化および回避経路が図示されている。この具体的実施例において、CLおよびPPNが標的線維経路であり、MD, VPM, CMが回避線維経路であるが、他の実施例においては他の経路が標的および/または回避の線維経路であってもよい。
【0112】
図13を参照すると、一般的な視床モデルシステムについての標的賦活化領域および標的回避領域の賦活化パーセンテージのヒストグラムを含む、線維賦活化プロファイルが図示されている。この実施例における、図示されたヒストグラムは、一般的な視床モデルシステムについて、賦活化標的(青)の賦活化パーセンテージ、および回避標的(黄、緑)の賦活化パーセンテージを示している。
図14を参照すると、
図13に図示したものから電極ポジションを調整して実現された線維賦活化の変化が図示されている。電極ポジションは、電極の接点の配向が線維束の主軸に実質的にアライメントされ、その結果として標的賦活化が向上しかつ回避標的/領域の賦活化が低減するように、本開示の技術に基づいて
図13と
図14との間で調整されている。
【0113】
図15を参照すると、CL標的およびPPN標的、ならびに回避対象の他の視床核(VPM, CM, MD)の賦活化パーセンテージを含む、TBIを有するヒト対象に由来するヒト視床撮影データが図示されている。
図15に示されているように、本明細書に説明および例証している技術に基づく例示的電極の4つの接点を介して、賦活化標的の賦活化が増大し、回避標的の賦活化が低減している。
【実施例】
【0114】
本説明を以下の実施例によってさらに例証する。実施例はいかなるかたちにおいても限定的なものとみなされるべきでない。一実施例において、視床の外側中心核の外側部分(「ウィング」)およびそれに関連する線維束である背側被蓋路内側コンポーネント(DTTm)であるCL/DTTm-DBSを、6名のヒト対象(23~60歳、傷害後3~18年)における賦活化の標的として選択した。以下の表1に、人口統計学的に調整した対応スコアとともに示すように、6名のうち5名が試験を完了した。
【0115】
【0116】
ヒト対象におけるCL/DTTm標的を表すベクトルの精密かつ正確な位置についての必要性を満たすために、撮影と、視床のセグメント化と、上述した投射線維の賦活化を推定する予測的生物物理モデルとに基づく、意図した位置における刺激電極のポジショニング、および、意図したCL/DTTm線維束の刺激を最適化するための電極の配向の調整に基づいて、CL/DTTmターゲティングを実施した。msTBIによってもたらされるびまん性軸索損傷(DAI)と、実行注意および情報処理速度制御の持続的障害との間の、よく確立された関係に基づいて、主要有効性エンドポイントとしてトレイルメイキングテストのパートB(TMT-B)を選択した。
【0117】
全対象において電極の両側植え込みが安全に行われ、ポジションおよび配向はCL/DTTmをターゲティングするための対象特異的な撮影によってガイドした。2週間の刺激タイトレーション相、および3カ月間のオープンラベル処置相を含む試験を、5名の対象が完了した。以下により詳しく説明するように、5名の対象全員が、術前ベースラインから処置相終了までのTMT-B完了時間の向上が10%という、あらかじめ選択された主要アウトカムのベンチマークを上回った(15%、24%、26%、42%、および52%の向上)。
【0118】
各対象について、専用の処理パイプラインにおいて使用するための白質ヌル化磁化準備型高速取得グラディエントエコー(WMn-MPRAGE)およびDTIのMRIデータを得た。臨床術前DBS計画作成に用いられる従来のスキャンプロトコルに加えて、32チャネルヘッドコイルを用いた3T GE MR750でWMn-MPRAGEプロトコルおよびDTIプロトコルにより対象をスキャンした。WMnMPRAGE画像ボリュームは以下のパラメーターを用いて取得した:3D MPRAGEシーケンス、冠状配向、TE 4.7ms、TR 11.1ms、TI 500ms、TS 5000ms、セグメント当たりビュー数240、FA: 8°、RBW +/-11.9kHz、空間分解能 1mm 等方、ボリュームあたり220スライスのk空間オーダリング;2Dラジアル・ファンビーム、ARCパラレルイメージング加速率:1.5x1.5。DTI画像ボリュームは以下のパラメーターを用いて取得した:2D拡散強調シングルショット・スピンエコー・エコープラナーイメージング(EPI)シーケンス、アキシャル配向、TE 74ms、TR 8000ms、RBW +/-250kHz、拡散方向: 60、拡散強調(b値): 2500 s/mm^2、空間分解能 2mm 等方、ボリューム当たりスライス数 70、パラレルイメージング加速率: 2、スキャン時間 11分。WMnMPRAGEおよびDTIの画像ボリュームは、スキャンが解析に充分な品質であり、かつモーションアーチファクトにより損なわれていないことを確実にするために、目視検査した。
【0119】
次に、各対象のWMn画像を、THOMAS自動視床セグメント化アルゴリズムを用いて処理したが、THOMASアルゴリズムは外側中心核をデフォルトの核内構造として含んでいないので、THOMASテンプレートから熟練の神経放射線科医による手動セグメント化によって導出されたCLアトラスを用いたシングルアトラスセグメント化を使ってCL境界を同定した;THOMASテンプレートは、20件のWMnボリュームの非線形レジストレーションおよび平均化によって形成された、きわめて高品質のWMn画像である。
【0120】
より具体的には、脳全体のWMnMPRAGEボリュームを、前処理を伴わずにTHOMAS視床セグメント化で処理した。左右分化した12の構造のボリュームを、脳の各半球においてセグメント化および抽出した:視床全体、10個の視床核 (前腹側核[AV]、正中中心核[CM]、外側膝状核[LGN]、背内側核[MD]、内側膝状核[MGN]、視床枕[Pul]、前腹側核[VA]、外側腹側核前部[VLA]、外側腹側核後部[VLP]、および後外側腹側核[VPL])、ならびに、近傍の1つの視床上部構造である手綱核(Hb)。THOMASは視床全体を視床核とは別にセグメント化する;この視床全体は、これら先述の構造のすべて、ならびに、乳頭体視床路、およびラベル付けされていないいくつかの追加的な視床エリア(すなわち、セグメント化された視床核の間のエリア)を包含する。
【0121】
THOMASセグメント化に加えて、シングルアトラスセグメント化アプローチを用いて各半球内のCL核およびVPM核をセグメント化した。これには、THOMASテンプレート上で単独の熟練した神経放射線科医(TT)によって手動セグメント化されたCL核およびVPM核を利用した;THOMASテンプレートは、20件のWMnボリュームの注意深いレジストレーションおよび平均化によって形成された、きわめて高品質のWMnボリュームである。この方式で得られたCLおよびVPMのシングルアトラスを個々の対象のWMnボリュームに非線形的にワープさせ、THOMAS神経核とオーバーラップしたCLおよびVPMのボクセルがあればそれをトリミングすることによって、CLおよびVPMの境界を確定した。
【0122】
換言すると、THOMASセグメント化には、CLおよびVPMのセグメント化より高い優先度を割り当てた;この理論的根拠は、THOMASセグメント化(マルチアトラスアプローチで得られる)はCLおよびVPMのシングルアトラスセグメント化より正確であることにある。ゆえに、THOMAS神経核を優先することによって、CLおよびVPMのセグメント化がTHOMAS神経核とオーバーラップすることを防いだ。しかし、代替的な実施形態において、CLおよび/またはVPMのセグメント化をTHOMASセグメント化より優先することが好ましい可能性もある。THOMASアルゴリズムによって生成されたCLおよび他の近隣の視床核から出ている線維についてトラクトグラフィーモデルを得るために、DTI画像を解析した。
【0123】
次に、意図される標的領域の境界を描写するいくつかの演算的な相違に基づいて、CL核、およびこの領域から出ている軸索の線維束である背側被蓋路内側(DTTm)をターゲティングした。生理学的および解剖学的な先行研究において決定された公知の単シナプス接続に基づくと、CLの「外側ウィング」および前頭前皮質/前頭皮質の領域の相反性接続を伴う、刺激細胞体および軸索の領域には、前帯状回(24野)、運動前野、前補足運動野/補足運動野(6野)、および、前頭眼野を含む背内側前頭前皮質(8野および9野)が含まれる。加えて、電極の留置は、背外側前頭前皮質(46野)への強い投射を有する背内側核の髄板傍部領域(plMD)から出ている線維を刺激するように計画した。集合的に、期待される刺激領域における主要な単シナプス投射は、前頭皮質の外側凸状部に及ぶいくらかの広がりを伴って、内側前頭前野/前頭野の領域にわたる。
【0124】
次に、このCL/DTTmのターゲティングを実現するための電極の留置をガイドするために、安全性および進入ポイント角度によって調整した対象の脳空間内でターゲティングしたモデル電極を用いた、線維賦活化の有限要素モデルおよび生物物理学的モデル化を、局所的な血管幾何学構造の考慮において用いた。CL/DTTm線維路の賦活化の最大化、およびオフターゲット線維の賦活化の最小化を同時に行うために、リードおよび電極の留置と配向とを調整した。
【0125】
2週間の刺激タイトレーション相(TP)および3カ月間のオープンラベル(OL)処置相を含む全試験デザインを、5名の対象が完了した。
図16に示すように、これら対象の5名全員が、術前ベースラインからTP終了までのTMT-B完了時間の向上が10%超という、あらかじめ選択された主要アウトカムのベンチマークを満たした(平均向上率31.75;最小15%、最大52%)。向上の範囲は15%~52%にわたった。最も大きな向上率は、当初の欠損が最も大きかった対象において見られた。とはいえ、ベースラインのパフォーマンスが正常範囲の上位にあった対象であっても、パフォーマンス時間において20%超の向上を示した。
【0126】
さらに詳しくは、
図18および19に、代表的なヒト対象から標的捕捉するための例示的アプローチを、両半球からの賦活化結果とともに図示する。
図18の中央部上列の画像は、冠状WMn画像上に表示された、患者3における能動電極接点の位置を同定しており、CLボリュームが黄色で示されている(青は左半球の2つの接点L3, L4、および右半球の2つの接点R3, R4の輪郭である)。冠状断像における明赤色のマーキングは、通っているDTTm線維を描写しており、それらが空間的に能動接点に近接していることを示している。上列の左側および右側は、左右の半球内で実現されたCL/DTTm線維束の賦活化の図示である。この対象について、4つの能動接点の組み合わせによる賦活化は、左半球内でCL/DTTm線維の81%の賦活化、そして右半球内でこれら線維の78%の賦活化を実現した。下方中央列においてプロットされたヒストグラムは、CL/DTTm、MD、VPL、およびCmの各線維についての賦活化のパーセンテージを示している。ほとんどの接点について、CL/DTTm線維賦活化が、単一接点の単極賦活化についてモデル化された電流振幅の範囲の優位を占めた。これらのヒストグラムは、処置試験における電極接点の幾何学形状および刺激パラメーターを確立するために用いたタイトレーション試験の基礎となった。
【0127】
患者対象にわたって、モデル化されたCL/DTTm賦活化について同様のプロファイルが得られ、ほとんどの電極留置がこれら線維の優位な賦活化という結果をもたらした。しかし、患者3において、右半球内の電極接点はモデル化されたCL/DTTm線維を賦活化できなかった(予測された賦活化の0.5%)。ほとんどの対象について、能動接点は、モデル化されたCL/DTTm線維のモデル化された賦活化をもたらし、回避線維の関与は限定的であった。
【0128】
5名のヒト対象にわたって電極留置を比較するために、全患者の電極留置を単一の共通空間内に整理統合するための合成アトラスを開発した。
図19は、共通の合成アトラス空間における各対象についての能動接点の留置を図示している。
図19は、CL核境界(明赤色のマーク)から出ているCL/DTTm線維の出現の周りの左半球の電極について、能動接点の緊密なクラスター化を示しているが、右半球の能動電極接点の留置は、より大きなばらつきを示した。この違いは、手技中の脳脊髄液の損失によって誘発された脳ボリュームのシフトによる影響を受けた可能性が高い;右半球の電球は典型的に左半球の後に置かれたからである(4名/5名の対象)。
図19にはまた、左右の電極の上面像および角度付き側面像も示されており、左半球における留置の緊密なクラスター化、ならびにCL/DTTm線維束の関係が、CL/DTTm、ならびに、MD、VPL、およびCmに由来する回避線維についての相対的な賦活化パーセンテージとともに示されている。
【0129】
図20を参照すると、2Hzデューティサイクルの刺激を使った2つの能動接点をまたぐ賦活化について、128チャネルEEGアレイにわたって得られた皮質誘発電位が図示されている。
図20の各列は、全128チャネルから得た皮質誘発電位の時間トレースをスーパーインポーズしたものを示している。両半球について、これらの誘発応答は典型的に、刺激パルス後約200msでピークとなる正のふれを最初に示し;続いて、ほとんどの対象において、第二の、そして時に第三の、より浅いピーク賦活化があり;誘発応答がフラットなベースラインに戻る鎮静化は典型的に約1秒以内に生じた。ピーク時(約200ms、赤い線を参照)の誘発応答の深さにおける空間的ばらつきを示したトポグラフィープロットは、最も強い応答が内側領域と外側領域との間の同側半球の前頭領域内に現れることを示している。
【0130】
図20に図示されているように、より再現性のある局在化、変調の深さ、およびピーク振幅応答のタイミングが、左半球において各対象にわたって存在する。これらの知見を、
図19における合成アトラスから得られた知見と比較すると、左の電極リードにおける電極接点ポジションのより緊密なクラスターの対応関係は、同じ線維系の賦活化の対象内一貫性が左半球においてより大きいことを示唆している。右側の電極留置は、賦活化に用いられた最上部の接点より、先端の留置において、より大きな分散を示した。本技術のいくつかの実施例において、局在化、変調の深さ、および/または皮質誘発応答のタイミングに基づく、電極ポジション、配向、または電極賦活化の1つもしくは複数の他のパラメーターの調整を容易にするために、誘発電位の術中測定が用いられてもよい。そうした実施形態において、例えば、脳の電気活動を測定する方法(例えば表面脳波記録用の電極、硬膜下のグリッドもしくはストリップ電極、または留置型の組織電極);コンピューター内のメモリストレージ;平均化する方法;および、リアルタイムの術中フィードバックを神経外科医に表示するための視覚的表示の方法;などが用いられてもよい。
【0131】
2週間の刺激タイトレーション相(TP)および3カ月間のオープンラベル(OL)処置相を含む全試験デザインを、5名の対象が完了した。
図19に見られるように、これら対象の5名全員が、術前ベースラインからTP終了までのTMT-B完了時間の向上が10%超という、あらかじめ選択された主要アウトカムのベンチマークを満たした(平均向上率31.75;最小15%、最大52%)。向上の範囲は15%~52%にわたった。最も大きな向上率は、当初の欠損が最も大きかった対象(すなわち、上述の表1に示した患者2および5)において見られた。とはいえ、ベースラインのパフォーマンスが正常範囲の上位にあった対象(例えば患者3および4)であっても、パフォーマンス時間において20%超の向上を示した。
【0132】
これらの結果をさらにアセスメントするために、2つの追加的な比較を行った。トレイルメイキングテストは、Halstead-Reitan神経性神学的検査バッテリーの一部として、ある範囲の変数について人口統計学的に調整された神経性神学的検査のセットのひとつである。各対象の特異的特質に対して適用される、人口統計学的に調整したTスコアを用いて見出されたこととして、全対象にわたるTMT-Bのパフォーマンス向上の平均は(表1に示すように)9.6であり、標準偏差は0.98である(1標準偏差が10ポイントに等しくなるようにTスコアを正規化した)。
【0133】
第二に、TMT-B時間におけるそのような変化が自然発生的に生じる見込みを推定するために、1年および3~5年のタイムポイントにおいてフォローされた118名のmsTBI対象(その開示内容全体が参照により本明細書に組み入れられる Dikmen et al., “Outcome 3 to 5 Years After Moderate to Severe Traumatic Brain Injury,” Arch Phys Med Rehabil Vol 84, October, 2003(「Dikmen」)の発表済み研究に含まれる対象のサブセットから抽出した対象)から得たTMTパフォーマンスの長期的測定のデータベースに対する、測定値。主要アウトカム尺度であるTMT-Bについて、向上は、「認知的柔軟性(cognitive-flexibility)」という用語の元に集められる、作業記憶の中央実行系コンポーネントおよびセット切り替えにおける変化を反映する。TMT-Bパフォーマンスの向上は、CL/DTTm電気刺激にリンクした、前頭前野、頭頂部の皮質ニューロン(REFS)における機能的変化の指標となる可能性が高い。
【0134】
図16に、個々のDikmen対象(青の塗りつぶし円)および本実施例の対象5名(オレンジの塗りつぶし円)における、TMT-Bパフォーマンスの1年 対 3~5年の散布図を示す。同図に見られるように、5名の対象は、Dikmen対象における長期的変化の分布の雲状部分の下縁に沿って分布している。本発明者らの研究において観察されたTMT-B時間の長期的変化の5件のセット(15~52%速い)は、Dikmenデータセット(変化の平均, 4%遅い)における長期的変化と実質的に異なる:Kolmogorov-Smirnov検定、p<0.005 [.0041。本発明者らの研究においては、時間経過が(Dikmenにおける3~5年のインターバルと比較して)3カ月であること、および、開始ポイントが傷害後3年またはそれ以降であることから、これが慎重な比較となっていることにも留意されたい。加えて、
図16に見られるように、各測定時の検査パフォーマンスが同一である線(y=x)を参照すると、Dikmen対象はパフォーマンスが経時的に悪化に向かう傾向があった(より多くのデータポイントがこの線より上にある)。
【0135】
本実施例の対象はまた、主として探索速度を検査し、前頭線条体機能にもリンクしている可能性がある、TMT-Aでも、パフォーマンスの向上を示した。加えて、実行制御を調べる導出尺度B-Aも向上を示した。Dikmenの検査-再検査データと比較して、観察された変化は有意であった(TMT-A: 本研究において21~47%速い、変化の平均はDikmenにおいて6%遅い、Kolmogorov-Smirnov検定、p<0.001 [.00057)。TMT-Aについて、人口統計学的に調整した、全対象にわたるパフォーマンス向上の平均は(上述の表1に示したように)13.4であり、1標準偏差より大きい向上を示した。集合的に、本実施例における比較結果は、本実施例のCL/DTTm対象においてTMT-B、TMT-A、およびB-Aにおける完了時間がより速いことが、検査-再検査の自然発生的な変動の結果ではない可能性が非常に高いことを示している。
【0136】
加えて、注意機能をさらに評価するための追加的なパフォーマンス尺度としてRuff 2&7検査も用いた。対象1名のベースラインアセスメントは検査実施エラーのゆえに失われた。この尺度はまた、4名の対象にわたって幅広い向上を示した;向上した速度の差および正確度の差が4名すべてにおいて見られ、フルセットの検査を完了した4名中3名において、制御探索速度および自動検出速度が向上していた。
【0137】
あらかじめ選択された副次的尺度TBIQoL-疲労は、向上ベンチマークを満たした2名の参加者について向上を示し、1名は安定を保ち、2名は低下のベンチマークを満たした。5名の対象中4名は、TBIQol-実行機能について10%超の向上も示した(向上の平均32.7%;最小0、最大62%)。TBIQoL-注意力およびTBIQol-実行機能のスケール上の向上は、自己報告による向上を反映する。3カ月という短いOL相にも拘わらず、試験を完了した4名中2名の対象が、術前ベースラインからTP終了時までで、Glasgow Outcome Scale Extended(GOS-E)において1ポイントの増大を示した。
【0138】
好ましい態様を本明細書に詳しく描写および説明してきたが、本出願の精神から逸脱することなくさまざまな改変、追加、および置換などが行われうること、したがってこれらは添付の特許請求の範囲において定義される本出願の範囲に入るとみなされることが、当業者には明らかであろう。
【国際調査報告】