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特表2024-535874抗-VEGFR2(KDR)改良抗体及びこの用途
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  • 特表-抗-VEGFR2(KDR)改良抗体及びこの用途 図1
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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公表特許公報(A)
(11)【公表番号】
(43)【公表日】2024-10-02
(54)【発明の名称】抗-VEGFR2(KDR)改良抗体及びこの用途
(51)【国際特許分類】
   C07K 16/28 20060101AFI20240925BHJP
   C12N 15/13 20060101ALI20240925BHJP
   C12N 15/63 20060101ALI20240925BHJP
   C12N 15/70 20060101ALI20240925BHJP
   C12P 21/08 20060101ALI20240925BHJP
   C12N 5/10 20060101ALI20240925BHJP
   C12P 21/00 20060101ALI20240925BHJP
   C12N 1/15 20060101ALI20240925BHJP
   C12N 1/19 20060101ALI20240925BHJP
   C12N 1/21 20060101ALI20240925BHJP
   A61K 39/395 20060101ALI20240925BHJP
   A61P 9/00 20060101ALI20240925BHJP
   A61P 35/00 20060101ALI20240925BHJP
   A61P 43/00 20060101ALI20240925BHJP
   A61K 45/00 20060101ALI20240925BHJP
   G01N 33/531 20060101ALI20240925BHJP
   G01N 33/573 20060101ALI20240925BHJP
【FI】
C07K16/28
C12N15/13 ZNA
C12N15/63 Z
C12N15/70 Z
C12P21/08
C12N5/10
C12P21/00 Z
C12N1/15
C12N1/19
C12N1/21
A61K39/395 N
A61P9/00
A61P35/00
A61P43/00 121
A61K45/00
G01N33/531 A
G01N33/573 A
【審査請求】有
【予備審査請求】未請求
(21)【出願番号】P 2024517119
(86)(22)【出願日】2022-09-14
(85)【翻訳文提出日】2024-04-19
(86)【国際出願番号】 KR2022013664
(87)【国際公開番号】W WO2023043156
(87)【国際公開日】2023-03-23
(31)【優先権主張番号】10-2021-0122913
(32)【優先日】2021-09-15
(33)【優先権主張国・地域又は機関】KR
(81)【指定国・地域】
【公序良俗違反の表示】
(特許庁注:以下のものは登録商標)
1.TWEEN
(71)【出願人】
【識別番号】520364897
【氏名又は名称】ファームアブシン・インコーポレイテッド
【氏名又は名称原語表記】PHARMABCINE INC.
【住所又は居所原語表記】2F, RESEARCH BUILDING 2, YUSEONG‐DAERO 1689BEON‐GIL 70, YUSEONG‐GU, DAEJEON 34047, REPUBLIC OF KOREA
(74)【代理人】
【識別番号】100139594
【弁理士】
【氏名又は名称】山口 健次郎
(74)【代理人】
【識別番号】100194973
【弁理士】
【氏名又は名称】尾崎 祐朗
(72)【発明者】
【氏名】ナム ジュリョン
(72)【発明者】
【氏名】チョン ジョングン
(72)【発明者】
【氏名】イ ウォンソプ
(72)【発明者】
【氏名】ユ ジンサン
【テーマコード(参考)】
4B064
4B065
4C084
4C085
4H045
【Fターム(参考)】
4B064AG27
4B064CC24
4B065AA26X
4B065AA72X
4B065AA90X
4B065AB01
4C084AA19
4C084NA14
4C084ZA36
4C084ZB26
4C084ZC75
4C085AA14
4C085BB11
4C085EE01
4C085EE03
4H045AA11
4H045AA20
4H045AA30
4H045BA10
4H045DA76
4H045EA20
4H045EA50
4H045FA74
(57)【要約】
本発明は、向上された特性を示す抗-VEGFR2(KDR)改良抗体またはこの抗原結合断片及びその用途に関する。具体的には、本発明は、VEGFR2/KDRに特異的に結合するヒト抗体の重鎖FR(framework regoin)をVH1からVH3に置換及び軽鎖FR(framework regoin)をVL1からVK1に置換し、突然変異を誘導させ、抗原に対する親和性を増加させた抗-VEGFR2(KDR)抗体、またはこの抗原結合断片、前記抗体またはこの抗原結合断片を含む新生血管形成(angiogenesis)に関連する疾患の診断または治療用組成物、腫瘍またはがんの予防または治療用組成物、及び前記抗体以外の治療剤と併用投与するための組成物に関する。
【特許請求の範囲】
【請求項1】
配列番号1、7、13、19及び25からなる群から選択される配列を含む重鎖CDR1、
配列番号2、8、14、20及び26からなる群から選択される配列を含む重鎖CDR2、及び
配列番号3、9、15、21及び27からなる群から選択される配列を含む重鎖CDR3を含む重鎖可変領域、及び
配列番号4、10、16、22及び28からなる群から選択される配列を含む軽鎖CDR1、
配列番号5、11、17、23及び29からなる群から選択される配列を含む軽鎖CDR2、及び
配列番号6、12、18、24及び30からなる群から選択される配列を含む軽鎖CDR3を含む軽鎖可変領域を含む、VEGFR2/KDRに結合する抗体またはこの抗原結合断片。
【請求項2】
配列番号1の重鎖CDR1、配列番号2の重鎖CDR2、及び配列番号3の重鎖CDR3を含む重鎖可変領域、配列番号4の軽鎖CDR1、配列番号5の軽鎖CDR2、及び配列番号6の軽鎖CDR3を含む軽鎖可変領域、
配列番号7の重鎖CDR1、配列番号8の重鎖CDR2、及び配列番号9の重鎖CDR3を含む重鎖可変領域、配列番号10の軽鎖CDR1、配列番号11の軽鎖CDR2、及び配列番号12の軽鎖CDR3を含む軽鎖可変領域、
配列番号13の重鎖CDR1、配列番号14の重鎖CDR2、及び配列番号15の重鎖CDR3を含む重鎖可変領域、配列番号16の軽鎖CDR1、配列番号17の軽鎖CDR2、及び配列番号18の軽鎖CDR3を含む軽鎖可変領域、
配列番号19の重鎖CDR1、配列番号20の重鎖CDR2、及び配列番号21の重鎖CDR3を含む重鎖可変領域、配列番号22の軽鎖CDR1、配列番号23の軽鎖CDR2、及び配列番号24の軽鎖CDR3を含む軽鎖可変領域、または
配列番号25の重鎖CDR1、配列番号26の重鎖CDR2、及び配列番号27の重鎖CDR3を含む重鎖可変領域、配列番号28の軽鎖CDR1、配列番号29の軽鎖CDR2、及び配列番号30の軽鎖CDR3を含む軽鎖可変領域を含む、請求項1に記載の抗体またはこの抗原結合断片。
【請求項3】
配列番号32、36、40、44、48からなる群から選択される重鎖可変領域を含む、請求項1に記載の抗体またはこの抗原結合断片。
【請求項4】
配列番号34、38、42、46、50からなる群から選択される軽鎖可変領域を含む、請求項1に記載の抗体またはこの抗原結合断片。
【請求項5】
配列番号32、36、40、44、48からなる群から選択される配列と80%以上の相同性を有する配列を含む重鎖可変領域を含むVEGFR2/KDRに結合する、請求項1に記載の抗体またはこの抗原結合断片。
【請求項6】
配列番号34、38、42、46、50からなる群から選択される配列と80%以上の相同性を有する配列を含む軽鎖可変領域を含むVEGFR2/KDRに結合する、請求項1に記載の抗体またはこの抗原結合断片。
【請求項7】
配列番号32、36、40、44、48からなる群から選択される配列と80%以上の相同性を有する配列を含む重鎖可変領域及び配列番号34、38、42、46、50からなる群から選択される配列と80%以上の相同性を有する配列を含む軽鎖可変領域を含むVEGFR2/KDRに結合する、請求項1に記載の抗体またはこの抗原結合断片。
【請求項8】
請求項1~7のいずれか一項に記載の抗体またはこの抗原結合断片をコードする核酸。
【請求項9】
請求項8に記載の核酸を含む発現ベクター。
【請求項10】
請求項9に記載の発現ベクターを含む、形質転換細胞。
【請求項11】
以下の段階を含むVEGFR2/KDRに結合する抗体またはこの抗原結合断片の製造方法:
(a)請求項10に記載の細胞を培養する段階;及び
(b)前記培養された細胞から抗体またはこの抗原結合断片を回収する段階。
【請求項12】
請求項1~7のいずれか一項に記載の抗体またはこの抗原結合断片を有効成分として含む血管新生疾患の予防または治療用組成物。
【請求項13】
請求項1~7のいずれか一項に記載の抗体またはこの抗原結合断片を有効成分として含む血管新生疾患の診断用組成物。
【請求項14】
請求項1~7のいずれか一項に記載の抗体またはこの抗原結合断片を有効成分として含む腫瘍またはがんの予防または治療用組成物。
【請求項15】
請求項1~7のいずれか一項に記載の抗体またはこの抗原結合断片を含む他の治療剤との併用投与用組成物。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、向上された特性を示す抗-VEGFR2(KDR)改良抗体またはこの抗原結合断片及びその用途に関する。具体的には、本発明は、VEGFR2/KDRに特異的に結合するヒト抗体の重鎖FR(framework regoin)をVH1からVH3に置換及び軽鎖FR(framework regoin)をVL1からVK1に置換し、突然変異を誘導させ、抗原に対する親和性を増加させた抗-VEGFR2(KDR)抗体、またはこの抗原結合断片、前記抗体またはこの抗原結合断片を含む新生血管形成(angiogenesis)に関連する疾患の診断または治療用組成物、腫瘍またはがんの予防または治療用組成物、及び前記抗体以外の治療剤と併用投与するための組成物に関する。
【背景技術】
【0002】
VEGFR2/KDRは、一次的な血管新生受容体であり、VEGFアイソフォームであるA、C、D及びEと結合し、内皮細胞分化だけでなく、VEGFのマイトジェン性、血管新生性及び浸透性-増強効果に重要である。抗-VEGFR2抗体は、公知の全てのVEGFアイソフォームが
VEGFR2/KDRに結合し、シグナリングを開始することを防ぐことができる。また、腫瘍は、より多い数のVEGFを分泌する一方、受容体の数は、相対的に一定に維持されるため、受容体を標的とすることは、非常に高いレベルのVEGFアイソフォームの存在下でさえ、完全にシグナリングを抑制する確率を増加させる。
【0003】
新生血管形成(angiogenesis)とは、内皮細胞の成長、分裂、移動等により、従来の血管から新しい血管が生成されることを意味し、成人では創傷の治療、女性の生殖周期等の特別な場合を除いて発生しない。しかし、腫瘍の成長と転移、年齢関連黄斑変性(age-related macular degeneration)、リウマチ性関節炎(rheumatoid arthritis)、糖尿病性網膜症(diabetic retinopathy)、乾癬(psoriasis)及び慢性炎症(chronic inflammation)等のような疾患で過剰な新生血管の形成が報告されており(Cameliet andJain, Nature, 407:249, 2000)、このような理由から、新生血管阻害剤を用いて疾患治療、特に腫瘍の治療をしようとする多くの努力が行われている。
【0004】
新生血管形成に関与する因子としては、血管内皮細胞成長因子(VEGF)、上皮成長因子(EGF)、血小板由来成長因子(PDGF)、転換成長因子(TGFb)、線維芽細胞成長因子(FGF)等があり、このうち内皮細胞成長因子は、内皮細胞の成長、分化移動に直接関与する内皮細胞特異的因子として4種の異なるアイソフォーム(VEGF165, VEGF121, VEGF189, VEGF206)が存在し、胎盤を除く全てのヒト組織でVEGF165が最も豊富なアイソフォームである(Tisher et al., J Biol Chem, 266: 11947, 1991)。
【0005】
内皮細胞成長因子(VEGF)は、原位置において、内皮前駆体(血管芽細胞)の分化からの新しい血管形成を調節し、胚組織(Breier et al., Development (Camb), 114:521, 1992)、マクロファージ、創傷治癒中の増殖上皮角質細胞(Brown et al., J. Exp. Med., 176:1375, 1992)で発現され、炎症と結びついた組織浮腫の原因であり得る(Ferrara et al., Endocr. Rev., 13:18, 1992)。原位置ハイブリダイゼーション研究によると、多形性膠芽細胞腫、血管芽細胞腫、中枢神経系新生物及びエイズ-関連カポジ肉腫(Plate et al., nature 359:845,1992; Plate et al., Cancer Res. 53: 5822, 1993; Berkman et al., J. Clin. Invest. 91: 153, 1993; Nakamura et al., AIDS Weekly. 13(1), 1992)を含む多数のヒト腫瘍株でVEGFが高度に発現されることが証明された。高レベルのVEGFは、低酸素症誘導血管新生でも観察された(Shweiki et al., Nature 359: 843, 1992)。
【0006】
VEGFの生物学的機能は、VEGFに対して高親和性を有するVEGF受容体を介して媒介されるが、前記受容体は、胚形成(embryogenesis)中(Millauer et al., Cell, 72: 835, 1993)及び腫瘍形成中に内皮細胞で選択的に発現される。一般的に、VEGF受容体(VEGFR)は、そのアミノ末端の細胞外受容体リガンド-結合ドメインに複数個、一般的に、5個または7個の免疫グロブリン類似ループを有することを特徴とするクラスIII受容体型チロシンキナーゼである(Kaipainen et al., J. Exp. Med., 178: 2027, 1993)。他の二つの部位は、キナーゼインサートドメインと呼ばれる可変長の親水性インターキナーゼ配列の挿入によって中断されるカルボキシ-末端の細胞内触媒ドメイン及び膜貫通部位を含む(Terman et al., Oncogene, 6: 1677, 1991)。VEGFRは、ニューロフィリン-1及びニューロフィリン-2のような他の受容体もVEGFに結合することはできるが、fms-類似チロシンキナーゼ受容体(flt-1)、またはVEGFR-1(Shibuya et al., Oncogene, 5: 519, 1990; WO 92/14248; Terman et al., Oncogene, 6:1677, 1991)及びキナーゼインサートドメインを含む受容体/胎児肝キナーゼ(KDR/flk-1)、またはVEGFR-2(Matthews et al., Proc. Natl. Acad. Sci. USA, 88:9026, 1991)を含む。他のチロシンキナーゼ受容体であるVEGFR-3(flt-4)は、VEGFホモログであるVEGF-C及びVEGF-Dに結合し、リンパ管の発達に重要な役割を果たす。
【0007】
高レベルのFlk-1は、神経膠腫を浸潤する内皮細胞によって発現される。(Plate et al., Nature 359:845, 1992)。Flk-1レベルは、ヒト膠芽細胞腫によって生成されるVEGFによって特異的に上向き調節される(Plate et al., Cancer Res. 53: 5822, 1993)。膠芽細胞腫関連内皮細胞(GAEC)において、Flk-1が高レベルで発現されるという事実は、Flk-1転写体が正常な脳内皮細胞ではほとんど検出されないため、受容体活性がおそらく腫瘍形成中に誘導されることを示す。このような上向き調節は、腫瘍に非常に近い血管内皮細胞でのみ発生する。中和抗-VEGFモノクローナル抗体(mAb)でVEGF活性を遮断すると、ヌードマウスにおけるヒト腫瘍移植片の成長が抑制されるが(Kim et al., Nature 362: 841, 1993)、これは腫瘍関連血管新生におけるVEGFが直接的な役割を果たすことを示すものである。
【0008】
VEGFリガンドが腫瘍細胞で上向き調節され、その受容体が腫瘍浸潤血管内皮細胞で上向き調節されるが、血管新生と結びつかない正常細胞では、VEGFリガンド及びその受容体の発現は低い。従って、これらの正常細胞は、VEGFとその受容体との相互作用を遮断し、血管新生が抑制されることになり、従って、腫瘍成長が起こらない。
【0009】
高レベルのVEGFR-2は、神経膠腫に浸潤する内皮細胞によって発現され、ヒト膠芽細胞腫によって生成されるVEGFにより特異的に上向き調節される(Plate et al., Nature, 359:845, 1992; Plate et al., Cancer Res., 53:5822, 1993)。VEGFR-2転写体は、正常な脳内皮細胞ではほとんど検出されないため、膠芽細胞腫関連内皮細胞(GAEC)で高レベルのVEGFR-2が発現されることは、腫瘍形成中に受容体活性が誘導されることを示す。
【0010】
VEGFは、様々なタイプの腫瘍で高レベルで発現され(Plate et al., Nature, 359:8435, 1992; Dvorak et al., J. Exp. Med., 174:1275, 1991)、新しく生じた毛細血管は、VEGF-生産性腫瘍細胞の周囲に集まる(Plate et al., Nature, 359:8435, 1992)。VEGFの発現は、急速に成長する腫瘍に関連するように、低酸素症条件下で強く上向き-調節される(Shweiki et al., Nature, 359:843, 1992)。アバスチン(Avastin)のような抗体によるVEGFの中和は(Ferrara et al., Nat Rev Drug Discov., 3(5):391, 2004; Avery et al., Ophthalmology, 113(3):363, 2006)、がんまたはAMDのような他の血管新生疾患を抑制するために臨床的に承認された治療法である。しかし、VEGFの遮断に対する耐性が化学療法と併用される場合にも発見された。この耐性は、リモデリングされた脈管構造及び他の血管新生因子の増加した発現に関連し得る。従って、当該技術分野には、がん及び血管新生に関連する他の疾患を抑制するための改善された組成物及び方法についての必要性が依然として存在する。
【0011】
チロシンキナーゼ阻害剤(TKI)及び抗-KDRP抗体の両方がKDR-媒介された血管新生を抑制することができるとしても、抗体接近は、TKIと比較して利点を有する。TKIとは対照的に、抗-KDR抗体は、より特異的なKDR標的剤である(すなわち、抗-KDR抗体は、他のVEGF受容体を抑制しない)。このような高い特異性のため、抗-KDR抗体は、オフターゲット効果(off-target effect)及び特異性の低いTKIによって引き起こされる毒性を制限し/するか、回避することができる(Witte et al., Cancer Metastasis Rev., Jun;17(2):155, 1998)。
【0012】
ただ一つのリガンド(VEGF-A)にのみ結合するアバスチンとは異なり、抗-KDR抗体は、全ての公知のVEGFがVEGFR2/KDRに結合することを防ぐことが予想される。抗-KDR抗体は、単にVEGF-Aを遮断するよりは、腫瘍の血管新生に対してより強力な抑制効果を有することができる。抗-KDR抗体を用いた治療法がアバスチン耐性の場合に効果的である可能性がある。
【0013】
このような技術的背景の下、本出願の発明者らは、従来のVEGFR2/KDRに特異的に結合する抗体を改良するために、重鎖可変領域のFR(framework regoin)をVH1からVH3に置換及び軽鎖FR(framework regoin)をVL1からVK1に置換し、重鎖と軽鎖のCDR3領域に突然変異を誘導させ、抗原に対する親和性を増加した新規な抗体を製造し、本発明を完成した。
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0014】
本発明の目的は、VEGFR2/KDRに対する向上した結合力を有する抗体の改良抗体またはこの抗原結合断片を提供することである。
本発明の他の目的は、前記抗体またはこの抗原結合断片をコードする核酸を提供することである。
本発明の他の目的は、前記核酸を含むベクター、前記ベクターを含む形質転換細胞及びこの製造方法を提供することである。
【0015】
本発明のまた他の目的は、前記抗体またはこの抗原結合断片を含む血管新生疾患の予防または治療用組成物を提供することである。本発明のまた他の目的は、前記抗体またはこの抗原結合断片を個体に投与する段階を含む血管新生疾患の予防または治療方法を提供することである。本発明のまた他の目的は、前記抗体またはこの抗原結合断片を、血管新生疾患の予防または治療用組成物の製造に使用する用途を提供することである。
本発明のまた他の目的は、前記抗体またはこの抗原結合断片を含む血管新生疾患の診断用組成物を提供することである。
【0016】
本発明のまた他の目的は、前記抗体またはこの抗原結合断片を含む腫瘍またはがんの予防または治療用組成物を提供することである。本発明のまた他の目的は、前記抗体またはこの抗原結合断片を個体に投与する段階を含むがんの予防または治療方法を提供することである。本発明のまた他の目的は、前記抗体またはこの抗原結合断片をがんの予防または治療用組成物の製造に使用する用途を提供することである。
本発明のまた他の目的は、前記抗体またはこの抗原結合断片を含む他の治療剤と併用投与するための組成物を提供することである。
【課題を解決するための手段】
【0017】
前記目的を達成するために、本発明は、配列番号1、7、13、19及び25からなる群から選択される配列を含む重鎖CDR1、
配列番号2、8、14、20及び26からなる群から選択される配列を含む重鎖CDR2、及び
配列番号3、9、15、21、27、51、52及び53からなる群から選択される配列を含む重鎖CDR3を含む重鎖可変領域、及び
配列番号4、10、16、22及び28からなる群から選択される配列を含む軽鎖CDR1、
配列番号5、11、17、23及び29からなる群から選択される配列を含む軽鎖CDR2、及び
【0018】
配列番号6、12、18、24及び30からなる群から選択される配列を含む軽鎖CDR3を含む軽鎖可変領域を含む、VEGFR2/KDRに結合する抗体またはこの抗原結合断片を提供する。
【0019】
本発明はまた、配列番号32、36、40、44、48からなる群から選択される配列と80%以上の相同性を有する配列を含む重鎖可変領域を含むVEGFR2/KDRに結合する抗体またはこの抗原結合断片を提供する。
【0020】
本発明はまた、配列番号34、38、42、46、50からなる群から選択される配列と80%以上の相同性を有する配列を含む軽鎖可変領域を含むVEGFR2/KDRに結合する抗体またはこの抗原結合断片を提供する。
【0021】
本発明はまた、配列番号32、36、40、44、48からなる群から選択される配列と80%以上の相同性を有する配列を含む重鎖可変領域及び配列番号34、38、42、46、50からなる群から選択される配列と80%以上の相同性を有する配列を含む軽鎖可変領域を含むVEGFR2/KDRに結合する抗体またはこの抗原結合断片を提供する。
本発明はまた、前記抗体またはこの抗原結合断片をコードする核酸を提供する。
本発明はまた、前記核酸を含むベクターを提供する。
本発明はまた、前記ベクターを含む形質転換細胞を提供する。
【0022】
本発明はまた、以下の段階を含む前記抗体またはこの抗原結合断片の製造方法を提供する:(a)前記細胞を培養する段階;及び(b)前記培養された細胞から抗体またはこの抗原結合断片を回収する段階。
本発明はまた、前記抗体またはこの抗原結合断片を含む血管新生疾患の予防または治療用組成物を提供する。
本発明はまた、前記抗体またはこの抗原結合断片を含む血管新生疾患の診断用組成物を提供する。
本発明はまた、前記抗体またはこの抗原結合断片を含む腫瘍またはがんの予防または治療用組成物を提供する。
本発明はまた、前記抗体またはこの抗原結合断片を含む他の治療剤と併用投与するための組成物を提供する。
【図面の簡単な説明】
【0023】
図1】6A6の重鎖CDR配列を移植した配列である。
図2】6A6の軽鎖CDR配列を移植した配列である。
図3】一時発現及び精製した抗-Ang2抗体のヒト及びマウスAng2とAng1に対する結合を評価したELISA結果である。
図4】選別された抗Ang2抗体のヒト及びマウスAng2/Tie2結合を中和することができる能力を示す結果である。
【発明を実施するための形態】
【0024】
他に定義されない限り、本明細書で使用される全ての技術的及び科学的用語は、本発明が属する技術分野における熟練した専門家により通常理解されるものと同じ意味を有する。一般的に、本明細書で使用される命名法は、当該技術分野において周知であり、通常使用されるものである。
【0025】
本発明は、血管内皮成長因子受容体を中和する完全ヒト化抗体の改良抗体に関する。特に、血管内皮成長因子受容体を中和するヒトモノクローナル抗体(登録特許10-0883430)の改良抗体及びその用途に関する。
【0026】
本出願の発明者らは、完全ヒト抗体ライブラリから発明され、VEGFR-2/KDRを標的としながら、同時にマウスやラット由来のflk-1(VEGFR-2相同体)に対しても反応性を有する唯一の抗体を改良した。当該抗体は、臨床試験を通じてその優秀性が立証されたが、抗体タンパク質の抗原に対する結合力がやや低く、生体内半減期が短い。これを改良することで、免疫抗がん剤としての効能増大、血管新生に関連した疾患での効能増大が予想される。
【0027】
従来のVEGFR2/KDRに特異的に結合する抗体を改良するために、重鎖可変領域のFR(framework regoin)をVH1からVH3に置換及び軽鎖FR(framework regoin)をVL1からVK1に置換し、重鎖と軽鎖のCDR3領域に突然変異を誘導させ、抗原に対する親和性を増加させた新規な抗体を製造した。その結果、本発明者らは、従来のVEGFR2/KDRに特異的に結合する抗体より高い結合力を有し、細胞内効能がより良い抗体を開発し、抗体が目的とする免疫抗がん剤または血管新生に関連する疾患の治療剤としての役割を果たすことができることを確認した。
【0028】
前記改良抗体は、以下のような方法でスクリーニングした。まず、6A6のCDR領域配列とフレームワーク(frame work: FR)配列を確認し、CDR移植技術を使用し、重鎖CDR配列をヒト生殖細胞系列VH3配列に移植し、軽鎖CDR配列をヒト生殖細胞系列VK1に移植した。
【0029】
CDR grafting(移植)とは、一般的にマウスモノクローナル抗体の可変部位配列を暗号化するDNAを分離し、遺伝子クローニングを通じてCDR配列を確保した後、インシリコ上で適合したヒト抗体配列の中にCDR配列を移植して作製する方法である(Hou S, et al. Humanization of an anti-CD34 monoclonal antibody by complementarity-determining region grafting based on computer-assisted molecular modelling. J Biochem. 2008;144(1):115-20;及びKashmiri SV, De Pascalis R, Gonzales NR, Schlom J. SDR grafting--a new approach to antibody humanization. Methods. 2005;36(1):25-34)。前記の方法を活用し、ヒト生殖細胞系列VH1/VL1を有する6A6のフレームワークをヒト生殖細胞系列VH3/VK1に置換した。
【0030】
前記置換された抗体の親和性を向上させるために、軽鎖と重鎖のCDR3塩基配列に突然変異を誘導するライブラリを構築し、組換えKDR D1~D3-Fc融合タンパク質を用いて、抗体をスクリーニングした。抗体スクリーニングは、ファージディスプレイを使用してスクリーニングした。
【0031】
これに基づき、本発明は、一観点において、配列番号1、7、13、19及び25からなる群から選択される配列を含む重鎖CDR1、
配列番号2、8、14、20及び26からなる群から選択される配列を含む重鎖CDR2、及び
配列番号3、9、15、21、27、51、52及び53からなる群から選択される配列を含む重鎖CDR3を含む重鎖可変領域、及び
配列番号4、10、16、22及び28からなる群から選択される配列を含む軽鎖CDR1、
配列番号5、11、17、23及び29からなる群から選択される配列を含む軽鎖CDR2、及び
配列番号6、12、18、24及び30からなる群から選択される配列を含む軽鎖CDR3を含む軽鎖可変領域を含む、VEGFR2/KDRに結合する抗体またはこの抗原結合断片に関する。
【0032】
本明細書で使用される用語、「抗体(antibody)」は、VEGFR2/KDRに特異的に結合する抗-VEGFR2/KDR抗体を意味する。本発明の範囲には、VEGFR2/KDRに特異的に結合する完全な抗体形態だけでなく、前記抗体分子の抗原結合断片も含まれる。
【0033】
完全な抗体は、二つの全長の軽鎖及び二つの全長の重鎖を有する構造であり、それぞれの軽鎖は、重鎖とジスルフィド結合で連結されている。重鎖不変領域は、ガンマ(γ)、ミュー(μ)、アルファ(α)、デルタ(δ)及びエプシロン(ε)タイプを有し、サブクラスとして、ガンマ1(γ1)、ガンマ2(γ2)、ガンマ3(γ3)、ガンマ4(γ4)、アルファ1(α1)及びアルファ2(α2)を有する。軽鎖の不変領域は、カッパ(κ)及びラムダ(λ)タイプを有する。
【0034】
抗体の抗原結合断片または抗体断片とは、抗原結合機能を保有している断片を意味し、Fab、F(ab')、F(ab')2及びFv等を含む。抗体断片のうち、Fabは、軽鎖及び重鎖の可変領域と軽鎖の不変領域及び重鎖の第一不変領域(CH1)を有する構造で、一つの抗原結合部位を有する。Fab'は、重鎖CH1ドメインのC-末端に一つ以上のシステイン残基を含むヒンジ領域(hinge region)を有するという点で、Fabと違いがある。F(ab')2抗体は、Fab'のヒンジ領域のシステイン残基がジスルフィド結合を形成しながら生成される。Fvは、重鎖可変領域及び軽鎖可変領域のみを有する最小の抗体片である。二重鎖Fv(two-chain Fv)は、非共有結合で重鎖可変領域と軽鎖可変領域が連結されており、単鎖Fv(single-chain Fv, scFv)は、一般的にペプチドリンカーを介して重鎖の可変領域と軽鎖の可変領域が共有結合で連結されるか、またはC-末端で直接連結されており、二重鎖Fvのようにダイマーと同じ構造を形成することができる。このような抗体断片は、タンパク質加水分解酵素を用いて得ることができ(例えば、全体の抗体をパパインで制限切断するとFabを得ることができ、ペプシンで切断するとF(ab')2断片を得ることができる)、遺伝子組換え技術を通じて作製することもできる。
【0035】
一実施例において、本発明による抗体は、Fv形態(例えば、scFv)であるか、完全な抗体形態である。また、重鎖不変領域は、ガンマ(γ)、ミュー(μ)、アルファ(α)、デルタ(δ)またはエプシロン(ε)のいずれか一つのアイソタイプから選択することができる。例えば、不変領域は、ガンマ1(IgG1)、ガンマ3(IgG3)またはガンマ4(IgG4)である。軽鎖不変領域は、カッパまたはラムダ型であり得る。
【0036】
本明細書で使用される用語、「重鎖」は、抗原に特異性を付与するための十分な可変領域配列を有するアミノ酸配列を含む可変領域ドメインVH及び三つの不変領域ドメインCH1、CH2及びCH3を含む全長重鎖及びこの断片を全て意味する。また、本明細書で使用される用語、「軽鎖」は、抗原に特異性を付与するための十分な可変領域配列を有するアミノ酸配列を含む可変領域ドメインVL及び不変領域ドメインCLを含む全長軽鎖及びこの断片を全て意味する。
【0037】
本発明の抗体は、モノクローナル抗体、多特異的抗体、ヒト抗体、ヒト化抗体、キメラ抗体、単鎖Fvs(scFV)、単鎖抗体、Fab断片、F(ab')断片、ジスルフィド-結合Fvs(sdFV)及び抗-イディオタイプ(抗-Id)抗体、または前記抗体のエピトープ-結合断片等を含むが、これらに限定されない。
【0038】
前記モノクローナル抗体は、実質的に同質的な抗体集団から得られた抗体、すなわち、集団を占めている個々の抗体が微量で存在することが可能な自然発生的突然変異を除いて同一のものを指す。モノクローナル抗体は、高度に特異的なため、単一の抗原部位に対抗して誘導される。典型的に異なる決定因子(エピトープ)に対して指示された異なる抗体を含む通常の(ポリクローナル)抗体製剤とは対照的に、それぞれのモノクローナル抗体は、抗原上の単一の決定因子に対して指示される。
【0039】
「エピトープ」は、抗体が特異的に結合することができるタンパク質の決定部位(determinant)を意味する。エピトープは、通常、化学的に活性な表面分子群、例えば、アミノ酸または糖側鎖で構成され、一般的に、特定の3次元の構造的特徴だけでなく、特定の電荷特性を有する。立体的エピトープ及び非立体的エピトープは、変性溶媒の存在下で前者に対する結合は消失されるが、後者に対しては消失されないという点で区別される。
【0040】
前記「ヒト化」形態の非-ヒト(例えば、ミューリン)抗体は、非-ヒト免疫グロブリン由来の最小配列を含有するキメラ抗体である。多くの場合、ヒト化抗体は、受容者の超可変領域からの残基を目的とする特異性、親和性及び能力を保有している非-ヒト種(ドナー抗体)、例えば、マウス、ラット、ウサギまたは非-ヒト霊長類の超可変領域からの残基で代替させたヒト免疫グロブリン(受容者抗体)である。
【0041】
前記「ヒト抗体」は、ヒト免疫グロブリンに由来する分子であり、相補性決定領域、構造領域を含む抗体を構成する全てのアミノ酸配列の全体がヒトの免疫グロブリンで構成されているものを意味する。
【0042】
重鎖及び/または軽鎖の一部が特別な種に由来するか、特別な抗体クラスまたはサブクラスに属する抗体内の相応する配列と同一であるか、これと相同性である一方、残りの鎖(複数可)は、また他の種に由来するか、また他の抗体クラスまたはサブクラスに属する抗体内の相応する配列と同一であるか、これと相同性である「キメラ」抗体(免疫グロブリン)だけでなく、目的とする生物学的活性を示す前記抗体の断片が含まれる。
【0043】
本願で使用されるような「抗体可変領域」は、相補性決定領域(CDR;すなわち、CDR1、CDR2、及びCDR3)、及び骨格領域(FR)のアミノ酸配列を含む抗体分子の軽鎖及び重鎖部分を指す。VHは、重鎖の可変領域を指す。VLは、軽鎖の可変領域を指す。
【0044】
「相補性決定領域」(CDR;すなわち、CDR1、CDR2、及びCDR3)は、抗原結合のために必要な存在である、抗体可変領域のアミノ酸残基を指す。各可変領域は、典型的に、CDR1、CDR2及びCDR3として確認される三つのCDR領域を有する。本発明は、配列番号1の重鎖CDR3を含む重鎖可変領域及び配列番号2の軽鎖CDR3を含む軽鎖可変領域を含む。
【0045】
本発明において、前記VEGFR2/KDRに結合する抗体またはこの抗原結合断片は、配列番号1の重鎖CDR1、配列番号2の重鎖CDR2、及び配列番号3の重鎖CDR3を含む重鎖可変領域、配列番号4の軽鎖CDR1、配列番号5の軽鎖CDR2、及び配列番号6の軽鎖CDR3を含む軽鎖可変領域、
配列番号7の重鎖CDR1、配列番号8の重鎖CDR2、及び配列番号9の重鎖CDR3を含む重鎖可変領域、配列番号10の軽鎖CDR1、配列番号11の軽鎖CDR2、及び配列番号12の軽鎖CDR3を含む軽鎖可変領域、
配列番号13の重鎖CDR1、配列番号14の重鎖CDR2、及び配列番号15の重鎖CDR3を含む重鎖可変領域、配列番号16の軽鎖CDR1、配列番号17の軽鎖CDR2、及び配列番号18の軽鎖CDR3を含む軽鎖可変領域、
配列番号19の重鎖CDR1、配列番号20の重鎖CDR2、及び配列番号21の重鎖CDR3を含む重鎖可変領域、配列番号22の軽鎖CDR1、配列番号23の軽鎖CDR2、及び配列番号24の軽鎖CDR3を含む軽鎖可変領域、
配列番号25の重鎖CDR1、配列番号26の重鎖CDR2、及び配列番号27の重鎖CDR3を含む重鎖可変領域、配列番号28の軽鎖CDR1、配列番号29の軽鎖CDR2、及び配列番号30の軽鎖CDR3を含む軽鎖可変領域、
配列番号13の重鎖CDR1、配列番号14の重鎖CDR2、及び配列番号51の重鎖CDR3を含む重鎖可変領域、配列番号16の軽鎖CDR1、配列番号17の軽鎖CDR2、及び配列番号18の軽鎖CDR3を含む軽鎖可変領域、
配列番号13の重鎖CDR1、配列番号14の重鎖CDR2、及び配列番号52の重鎖CDR3を含む重鎖可変領域、配列番号16の軽鎖CDR1、配列番号17の軽鎖CDR2、及び配列番号18の軽鎖CDR3を含む軽鎖可変領域、または
配列番号13の重鎖CDR1、配列番号14の重鎖CDR2、及び配列番号53の重鎖CDR3を含む重鎖可変領域、配列番号16の軽鎖CDR1、配列番号17の軽鎖CDR2、及び配列番号18の軽鎖CDR3を含む軽鎖可変領域を含むことができる。
【0046】
「骨格領域」(FR)は、CDR残基以外の可変領域残基である。各可変領域は、典型的に、FR1、FR2、FR3及びFR4として確認される四つのFRを有する。
【0047】
「Fv」断片は、完全な抗体認識及び結合部位を含有する抗体断片である。これらの領域は、一つの重鎖可変領域と一つの軽鎖可変領域が、例えば、scFvで固く、事実上共有的に連合された二量体で構成される。
【0048】
「Fab」断片は、軽鎖の可変及び不変ドメインと、重鎖の可変及び第1不変ドメイン(CH1)を含有する。F(ab')2抗体断片は、一般的に、それらの間にヒンジシステインにより、それらのカルボキシ末端付近に共有的に連結される一対のFab断片を含む。
【0049】
「単鎖Fv」または「scFv」抗体断片は、抗体のVH及びVLドメインを含むが、これらのドメインは、単一のポリペプチド鎖内に存在する。Fvポリペプチドは、scFvが抗原結合のために目的とする構造を形成することができるようにするVHドメインとVLドメインとの間にポリペプチドリンカーをさらに含むことができる。
【0050】
VEGFR2/KDR抗体は、単鎖または二重鎖を含むことができる。機能的に、VEGFR2/KDR抗体の結合親和性は、10-5M~10-12Mの範囲内にある。例えば、VEGFR2/KDR抗体の結合親和性は、10-6M~10-12M、10-7M~10-12M、10-8M~10-12M、10-9M~10-12M、10-5M~10-11M、10-6M~10-11M、10-7M~10-11M、10-8M~10-11M、10-9M~10-11M、10-10M~10-11M、10-5M~10-10M、10-6M~10-10M、10-7M~10-10M、10-8M~10-10M、10-9M~10-10M、10-5M~10-9M、10-6M~10-9M、10-7M~10-9M、10-8M~10-9M、10-5M~10-8M、10-6M~10-8M、10-7M~10-8M、10-5M~10-7M、10-6M~10-7Mまたは10-5M~10-6Mである。
【0051】
本発明は、配列番号32、36、40、44、48からなる群から選択される配列と80%以上の相同性を有する配列を含む重鎖可変領域を含むVEGFR2/KDRに結合する抗体またはこの抗原結合断片に関する。
【0052】
本発明はまた、配列番号34、38、42、46、50からなる群から選択される配列と80%以上の相同性を有する配列を含む軽鎖可変領域を含むVEGFR2/KDRに結合する抗体またはこの抗原結合断片に関する。
【0053】
本発明はまた、配列番号32、36、40、44、48からなる群から選択される配列と80%以上の相同性を有する配列を含む重鎖可変領域及び配列番号34、38、42、46、50からなる群から選択される配列と80%以上の相同性を有する配列を含む軽鎖可変領域を含むVEGFR2/KDRに結合する抗体またはこの抗原結合断片に関する。
【0054】
前記相同性は、請求された配列番号の配列の全体と比較し、80%、81%、82%、83%、84%、85%、86%、87%、88%、89%、90%、91%、92%、93%、94%、95%、96%、97%、98%、99%、またはそれ以上の相同性を有することができる。
【0055】
前記VEGFR2/KDRに結合する抗体またはこの抗原結合断片は、配列番号32、36、40、44、48からなる群から選択される重鎖可変領域を含むことができる。また、前記VEGFR2/KDRに結合する抗体またはこの抗原結合断片は、配列番号34、38、42、46、50からなる群から選択される軽鎖可変領域を含むことができる。
本発明による具体的な実施例において、配列番号32の重鎖可変領域及び配列番号34の軽鎖可変領域;
配列番号36の重鎖可変領域及び配列番号38の軽鎖可変領域;
配列番号40の重鎖可変領域及び配列番号42の軽鎖可変領域;
配列番号44の重鎖可変領域及び配列番号46の軽鎖可変領域;または
配列番号48の重鎖可変領域及び配列番号50の軽鎖可変領域を含むことができる。
【0056】
「ファージディスプレイ」は、変異体ポリペプチドをファージ、例えば、繊維状ファージ粒子の表面上に、外皮タンパク質の少なくとも一部との融合タンパク質としてディスプレイする技術である。ファージディスプレイの有用性は、ランダム化タンパク質変異体の大規模なライブラリを対象にし、標的抗原と高親和性で結合する配列を迅速かつ効率的に分類することができるという事実にある。ペプチド及びタンパク質ライブラリをファージ上にディスプレイすることは、特異的な結合特性を有するポリペプチドを見つけるために、数百万個のポリペプチドをスクリーニングするために使用されてきた。
【0057】
ファージディスプレイ技術は、特定のリガンド(例えば、抗原)に結合する新規タンパク質を生成及び選別するための強力なツールを提供した。ファージディスプレイ技術を使用し、タンパク質変異体の大規模なライブラリを生成させ、標的抗原と高親和性で結合する配列を迅速に分類することができる。変異体ポリペプチドを暗号化する核酸をウイルス性外皮タンパク質、例えば、遺伝子IIIタンパク質または遺伝子VIIIタンパク質を暗号化する核酸配列と融合させる。タンパク質またはポリペプチドを暗号化する核酸配列を、遺伝子IIIタンパク質の一部を暗号化する核酸配列と融合させた1価ファージディスプレイシステムが開発された。1価ファージディスプレイシステムにおいては、遺伝子融合物が低レベルで発現され、野生型遺伝子IIIタンパク質もまた発現され、粒子感染性が維持される。
【0058】
繊維状ファージ表面上でのペプチドの発現と大腸菌の周辺細胞質での機能性抗体断片の発現を立証することが抗体ファージディスプレイライブラリを開発する上で重要である。抗体または抗原結合性ポリペプチドのライブラリは、数多くの方式、例えば、ランダムDNA配列を挿入することにより、単一遺伝子を変更させる方法または関連する遺伝子系列をクローニングする方法で製造した。ライブラリを対象にし、目的とする特徴を伴う抗体または抗原結合性タンパク質の発現に関してスクリーニングすることができる。
【0059】
ファージディスプレイ技術は、目的とする特徴を有する抗体を製造するための通常のハイブリドーマ及び組換え方法に比べ、いくつかの利点を有している。このような技術は、動物を使用せずとも、短時間で様々な配列を有する大規模な抗体ライブラリを生成させることができる。ハイブリドーマの製造やヒト化抗体の製造は、数ヶ月の製造期間を必要とする場合がある。また、免疫が全く要求されないため、ファージ抗体ライブラリは、毒性や抗原性の低い抗原に対しても抗体を生成させることができる。ファージ抗体ライブラリを使用し、新規な治療的抗体を生成及び確認することもできる。
【0060】
ファージディスプレイライブラリを使用して免疫化した、非-免疫化したヒト、生殖細胞系配列、または未感作B細胞Igレパートリー(repertory)からヒト抗体を生成させる技術を使用することができる。各種リンパ系組織を使用し、未感作または非免疫抗原結合性ライブラリを製造することができる。
【0061】
ファージディスプレイライブラリから高親和性抗体を確認及び分離することができる技術は、治療用の新規抗体分離において重要である。ライブラリから高親和性抗体を分離することは、ライブラリのサイズ、細菌性細胞中での生産効率及びライブラリの多様性に左右され得る。ライブラリのサイズは、抗体または抗原結合性タンパク質の不適切な折り畳みと終止コドンの存在による非効率的な生産によって減少される。細菌性細胞での発現は、抗体または抗原結合性ドメインが適切に折り畳まれない場合には抑制され得る。発現は、可変/不変界面の表面や選別されたCDR残基における残基を交互に突然変異させることによって改善させることができる。骨格領域の配列は、細菌性細胞から抗体ファージライブラリを生成させる場合に適切な折り畳みを提供するための一つの要素である。
【0062】
高親和性抗体分離において、抗体または抗原結合性タンパク質の多様なライブラリを生成させることが重要である。CDR3領域は、これらがしばしば抗原結合に参与することが明かされた。重鎖上のCDR3領域は、サイズ、配列及び構造的立体形態の面で相当に多様であるため、これを用いて様々なライブラリを製造することができる。
【0063】
また、各位置で20個のアミノ酸全てを使用し、可変重鎖及び軽鎖のCDR領域をランダム化することにより、多様性を発生させることができる。20個の全てのアミノ酸を使用すると、多様性の大きい変異体抗体配列が生成され、新規な抗体を確認する機会が増加し得る。
【0064】
本発明の抗体または抗体断片は、VEGFR2/KDRを特異的に認識することができる範囲内で、本明細書に記載の本発明の抗-VEGFR2/KDR抗体の配列だけでなく、この生物学的均等物も含むことができる。例えば、抗体の結合親和性及び/または他の生物学的特性をさらに改善させるために、抗体のアミノ酸配列に追加の変化を加えることができる。このような変形は、例えば、抗体のアミノ酸配列残基の欠失、挿入及び/または置換を含む。このようなアミノ酸変異は、アミノ酸側鎖置換体の相対的な類似性、例えば、疎水性、親水性、電荷、サイズ等に基づいて行われる。アミノ酸側鎖置換体のサイズ、形状及び種類についての分析により、アルギニン、リシンとヒスチジンは全て正電荷を帯びた残基であり;アラニン、グリシンとセリンは類似のサイズを有し;フェニルアラニン、トリプトファンとチロシンは類似の形状を有することが分かる。従って、これらの考慮事項に基づき、アルギニン、リシンとヒスチジン;アラニン、グリシンとセリン;そしてフェニルアラニン、トリプトファンとチロシンは生物学的に機能均等物であるといえる。
【0065】
前述の生物学的均等活性を有する変異を考慮すると、本発明の抗体またはこれをコードする核酸分子は、配列番号に記載された配列と実質的に同一性(substantial identity)を示す配列も含むものと解釈される。前記の実質的な同一性は、前記の本発明の配列と任意の他の配列に最大限対応するようにアラインし、当業界で通常用いられるアルゴリズムを用いてアラインされた配列を分析した場合に、少なくとも90%の相同性、最も好ましくは、少なくとも95%の相同性、96%以上、97%以上、98%以上、99%以上の相同性を示す配列を意味する。配列比較のためのアラインメント方法は、当業界で公知である。NCBI Basic Local Alignment Search Tool(BLAST)は、NCBI等でアクセス可能であり、インターネット上でblastp、blasm、blastx、tblastn及びtblastxのような配列分析プログラムと連動して用いることができる。BLASTは、www.ncbi.nlm.nih.gov/BLAST/で接続可能である。このプログラムを用いた配列相同性比較方法は、www.ncbi.nlm.nih.gov/BLAST/blast_ help.htmlで確認することができる。
【0066】
これに基づき、本発明の抗体またはこの抗原結合断片は、明細書に記載の明示された配列または全体と比較し、90%、91%、92%、93%、94%、95%、96%、97%、98%、99%、またはそれ以上の相同性を有することができる。このような相同性は、当業界に公知の方法による配列比較及び/またはアライメントによって決定することができる。例えば、配列比較アルゴリズム(すなわち、BLASTまたはBLAST 2.0)、手動アライメント、目視検査を用いて、本発明の核酸またはタンパク質のパーセント配列相同性を決定することができる。
本発明は、他の観点において、前記抗体またはこの抗原結合断片をコードする核酸に関する。
【0067】
前記核酸は、重鎖可変領域をコードする配列番号31、35、39、43、47からなる群から選択することができる。前記核酸は、軽鎖可変領域をコードする配列番号33、37、41、45、49からなる群から選択することができる。
【0068】
本発明の抗体またはこの抗原結合断片をコードする核酸を分離し、抗体またはこの抗原結合断片を組換え的に生産することができる。核酸を分離し、これを複製可能なベクター内に挿入してさらにクローニングするか(DNAの増幅)、またはさらに発現させる。これに基づき、本発明は、また他の観点において、前記核酸を含むベクターに関する。
【0069】
「核酸」は、DNA(gDNA及びcDNA)及びRNA分子を包括的に含む意味を有し、核酸における基本構成単位であるヌクレオチドは、自然のヌクレオチドだけでなく、糖または塩基部位が変形された類似体(analogue)も含む。本発明の重鎖及び軽鎖可変領域をコードする核酸の配列は変形することができる。前記変形は、ヌクレオチドの追加、欠失、または非保存的な置換または保存的な置換を含む。
【0070】
前記抗体を暗号化するDNAは、通常の過程を使用して(例えば、抗体の重鎖と軽鎖を暗号化するDNAと特異的に結合することができるオリゴヌクレオチドプローブを使用することにより)容易に分離または合成する。多くのベクターが入手可能である。ベクター成分には、一般的に、以下のうちの一つ以上が含まれるが、それらに制限されない:シグナル配列、複製起点、一つ以上のマーカー遺伝子、増強因子要素、プロモーター、及び転写終結配列。
【0071】
本明細書で使用される用語、「ベクター」は、宿主細胞で目的遺伝子を発現させるための手段であり、プラスミドベクター;コズミドベクター;バクテリオファージベクター、アデノウイルスベクター、レトロウイルスベクター及びアデノ-随伴ウイルスベクターのようなウイルスベクター等を含む。前記ベクターにおいて、抗体をコードする核酸は、プロモーターと作動的に連結されている。
【0072】
「作動的に連結」は、核酸発現調節配列(例えば、プロモーター、シグナル配列、または転写調節因子の結合位置のアレイ)と他の核酸配列との間の機能的な結合を意味し、これにより、前記調節配列は、前記他の核酸配列の転写及び/または解読を調節するようになる。
【0073】
原核細胞を宿主とする場合には、転写を進行させることができる強力なプロモーター(例えば、tacプロモーター、lacプロモーター、lacUV5プロモーター、lppプロモーター、pLλプロモーター、pRλプロモーター、rac5プロモーター、ampプロモーター、recAプロモーター、SP6プロモーター、trpプロモーター及びT7プロモーター等)、解読の開始のためのリボソーム結合部位及び転写/解読終結配列を含むことが一般的である。また、例えば、真核細胞を宿主とする場合には、哺乳動物細胞のジノムに由来するプロモーター(例えば、メタロチオニンプロモーター、β-アクチンプロモーター、ヒトヘログロビンプロモーター及びヒト筋クレアチンプロモーター)または哺乳動物ウイルスに由来するプロモーター(例えば、アデノウイルス後期プロモーター、ワクシニアウイルス7.5Kプロモーター、SV40プロモーター、サイトメガロウイルス(CMV)プロモーター、HSVのtkプロモーター、マウス乳房腫瘍ウイルス(MMTV)プロモーター、HIVのLTRプロモーター、モロニーウイルスのプロモーター、エプスタインバールウイルス(EBV)のプロモーター及びラウス肉腫ウイルス(RSV)のプロモーター)を用いることができ、転写終結配列としてポリアデニル化配列を一般的に有する。
【0074】
場合によっては、ベクターは、そこから発現される抗体の精製を容易にするために、他の配列と融合することもできる。融合される配列は、例えば、グルタチオンS-トランスフェラーゼ(Pharmacia, USA)、マルトース結合タンパク質(NEB, USA)、FLAG(IBI, USA)及び6x His(hexahistidine; Quiagen, USA)等がある。
【0075】
前記ベクターは、選択標識として当業界で通常用いられる抗生物質耐性遺伝子を含み、例えば、アンピシリン、ゲンタマイシン、カベニシリン、クロラムフェニコール、ストレプトマイシン、カナマイシン、ゲネチシン、ネオマイシン及びテトラサイクリンに対する耐性遺伝子がある。
【0076】
本発明は、また他の観点において、前述のベクターで形質転換された細胞に関する。本発明の抗体を生成させるために使用される細胞は、原核生物、酵母または高等真核生物細胞であってもよく、これらに制限されない。
【0077】
エシェリヒアコリ(Escherichia coli)、バチルスサブチルス及びバチルスチューリンゲンシスのようなバチルス属の菌株、ストレプトマイセス(Streptomyces)、シュードモナス(Pseudomonas)(例えば、シュードモナスプチダ(Pseudomonas putida))、プロテウスミラビリス(Proteus mirabilis)及びスタフィロコッカス(Staphylococcus)(例えば、スタフィロコッカスカルノサス(Staphylococcus carnosus))のような原核宿主細胞を用いることができる。
【0078】
ただし、動物細胞への関心が最も高く、有用な宿主細胞株の例は、COS-7、BHK、CHO、CHOK1、DXB-11、DG-44、CHO/-DHFR、CV1、HEK293、TM4、VERO、HELA、MDCK、BRL 3A、W138、Hep G2、SK-Hep、MMT、TRI、MRC 5、FS4、3T3、RIN、A549、PC12、K562、PER.C6、SP2/0、NS-0、U20S、またはHT1080であってもよいが、これらに制限されない。
【0079】
本発明は、また他の観点において、(a)前記細胞を培養する段階;及び(b)前記培養された細胞から抗体またはこの抗原結合断片を回収する段階を含む、前記抗体またはこの抗原結合断片の製造方法に関する。
【0080】
前記細胞は、各種培地で培養することができる。市販の培地のうち、制限なく培養培地として使用することができる。当業者に公知の他の全ての必須補充物を適切な濃度で含むこともできる。培養条件、例えば、温度、pH等が発現のために選別された宿主細胞と共に既に使用されており、これは当業者に明らかであろう。
【0081】
前記抗体またはこの抗原結合断片の回収は、例えば、遠心分離または限外ろ過により不純物を除去し、その結果物を、例えば、親和性クロマトグラフィー等を用いて精製することができる。さらなる他の精製技術、例えば、アニオンまたはカチオン交換クロマトグラフィー、疎水性相互作用クロマトグラフィー、ヒドロキシルアパタイトクロマトグラフィー等を使用することができる。
【0082】
前記抗体は、IgGまたは可変領域を含む断片、すなわち、ScFv、Fabであってもよい。また、重鎖の可変領域は、IgG1、IgG2、IgG3、IgG4であってもよい。
本発明は、また他の観点において、前記抗体またはこの抗原結合断片を有効成分として含む血管新生疾患の予防または治療用組成物に関する。
【0083】
前記血管新生は、以前に存在した血管から新しい血管の形成または成長を意味し、「血管新生関連疾患(angiogenesis-related disease)」は、血管新生の発生または進行に関連する疾患を意味する。前記抗体で治療可能であれば、その疾患は限定されず血管新生関連疾患の範囲に含んでもよい。 血管新生関連疾患の例としては、がん、転移(metastasis)、糖尿病網膜症(diabetic retinopathy)、未熟児網膜症(retinopathy of prematurity)、角膜移植拒絶反応(corneal graft rejection)、黄斑変性症(macular degeneration)、血管新生緑内障(neovascular glaucoma)、全身紅色症(erythrosis)、増殖性網膜症(proliferative retinopathy)、乾癬(psoriasis)、血友病性股関節炎(hemophilic arthritis)、動脈硬化性プラーク(atherosclerotic plaques)の毛細血管形成、ケロイド(keloid)、創傷顆粒化(wound granulation)、血管癒着(vascular adhesion)、関節リウマチ(rheumatoid arthritis)、変形性関節症(osteoarthritis)、自己免疫疾患(autoimmune diseases)、クローン病(Crohn's disease)、再狭窄(restenosis)、アテローム性動脈硬化症(atherosclerosis)、腸管狭窄(intestinal adhesions)、ネコひっかき病(cat scratch disease)、潰瘍(ulcer)、肝硬変(liver cirrhosis)、腎炎(nephritis)、糖尿病性腎症(diabetic nephropathy)、糖尿病性足潰瘍(diabetic Foot Ulcers)、慢性腎不全(chronic kidney failure)、真性糖尿病(diabetes mellitus)、炎症性疾患(inflammatory diseases)、特発性肺線維症(Idiopathic Pulmonary Fibrosis)、敗血症(sepsis)、急性呼吸窮迫症候群(Acute respiratory distress syndrome)及び神経変性疾患(neurodegenerative diseases)を含むが、これらに限定されない。
【0084】
また、前記がんは、食道がん(esophageal cancer)、胃がん(stomach cancer)、大腸がん(large intestine cancer)、直腸がん(rectal cancer)、口腔がん(oral cancer)、咽頭がん(pharynx cancer)、喉頭がん(larynx cancer)、肺がん(lung cancer)、結腸がん(colon cancer)、乳がん(breast cancer)、子宮頸がん(uterine cervical cancer)、子宮内膜がん(endometrial cancer)、卵巣がん(ovarian cancer)、前立腺がん(prostate cancer)、精巣がん(testis cancer)、膀胱がん(bladder cancer)、腎臓がん(renal cancer)、肝臓がん(liver cancer)、膵臓がん(pancreatic cancer)、骨がん(bone cancer)、結合組織がん(connective tissue cancer)、皮膚がん(skin cancer)、脳腫瘍(brain cancer)、甲状腺がん(thyroid cancer)、白血病(leukemia)、ホジキンリンパ腫(Hodgkin's lymphoma)、リンパ腫(lymphoma)及び多発性骨髄血液がん(multiple myeloid blood cancer)からなる群から選択されるが、これらに限定されない。
【0085】
ここで使用される用語「予防(prevention or prophylaxis)」は、本発明の抗体または組成物を投与し、関心疾患の開始を抑制または遅延させるあらゆる措置を指す。用語「治療(treatment or therapy)」は、本発明の抗体または組成物を投与し、関心疾患の症状が改善されるか、症状が好転されるようにするあらゆる措置を指す。
【0086】
本発明は、例えば、(a)本発明によるVEGFR2/KDRに対する抗体またはこの抗原結合断片の薬剤学的有効量;及び(b)薬剤学的に許容される担体を含む腫瘍またはがんの予防または治療用の薬剤学的組成物であり得る。本発明はまた、前記抗体またはこの抗原結合断片を腫瘍またはがん患者に投与する段階を含む腫瘍またはがんの予防または治療方法であり得る。本発明は、さらに、前記抗体またはこの抗原結合断片のVEGFR2/KDRの機構妨害用途及びこれを通じた腫瘍またはがんの予防または治療用途であり得る。
【0087】
前記組成物に適用される疾患である腫瘍またはがんは、典型的に、VEGFまたはVEGFR2/KDRを過剰発現する腫瘍またはがん、及びVEGFまたはVEGFR2/KDRを過剰発現しない腫瘍またはがんを含む。治療用として好ましい腫瘍またはがんの非-制限的な例は、黒色腫(例えば、転移性悪性黒色腫)、腎臓がん(例えば、透明細胞がん腫)、前立腺がん(例えば、ホルモン不応性前立腺がん腫)、膵臓腺がん腫、乳がん、結腸がん、肺がん(例えば、非-小細胞肺がん)、食道がん、頭頸部扁平上皮がん腫、肝臓がん、卵巣がん、子宮頸がん、甲状腺がん、膠芽腫、神経膠腫、白血病、リンパ腫、及びその他の新生物がん腫を含む。さらに、本発明は、本発明の抗体を使用して治療することができる不応または再発がんを含む。
【0088】
本発明は、例えば、前記抗-VEGFR2/KDR抗体またはこの抗原結合断片の治療的有効量を、血管新生阻害を必要とする患者に投与する段階を含む、血管新生疾患の治療方法が提供される。前記血管新生疾患の治療は、前記投与段階の前に、血管新生阻害を必要とする患者を確認する段階をさらに含むことができる。また他の例において、前記抗VEGFR2/KDR抗体またはこの抗原結合断片の治療的有効量を、VEGFR2/KDR関連疾患の予防及び/または治療を必要とする患者に投与する段階を含む、VEGFR2/KDR関連疾患の予防及び/または治療方法が提供される。前記予防及び/または治療方法は、前記投与段階の前に、VEGFR2/KDR関連疾患の予防及び/または治療を必要とする患者を確認する段階をさらに含んでもよい。
【0089】
前記薬学組成物は、薬学的に許容可能な担体をさらに含んでもよく、前記担体は、薬物の製剤化に通常用いられるものであり、ラクトース、デキストロース、スクロース、ソルビトール、マンニトール、澱粉、アカシアゴム、リン酸カルシウム、アルギン酸塩、ゼラチン、ケイ酸カルシウム、微結晶性セルロース、ポリビニルピロリドン、セルロース、水、シロップ、メチルセルロース、ヒドロキシ安息香酸メチル、ヒドロキシ安息香酸プロピル、滑石、ステアリン酸マグネシウム、ミネラルオイル等からなる群から選択される1種以上であってもよいが、これらに限定されない。前記薬学組成物はまた、薬学組成物の製造に通常使用される希釈剤、賦形剤、潤滑剤、湿潤剤、甘味料、香味剤、乳化剤、懸濁剤、保存剤からなる群から選択される1種以上をさらに含んでもよい。
【0090】
前記薬学組成物、または前記抗体、またはこの抗原結合断片の有効量は、経口または非経口で投与することができる。非経口投与の場合には、静脈内注入、皮下注入、筋肉注入、腹腔注入、内皮投与、局所投与、鼻腔内投与、肺内投与及び直腸内投与等で投与することができる。経口投与時、タンパク質またはペプチドは消化されるため、経口用組成物は、活性薬剤をコーティングするか、胃での分解から保護されるように剤形化することができる。また、前記組成物は、活性物質が標的細胞に移動することができる任意の装置によって投与することができる。
【0091】
本発明の組成物は、薬学的に有効な量で投与される。ここで使用される用語「薬学的に有効な量(pharmaceutically effective amount)」は、全ての医学的治療に適用可能な適当な利益とリスク比率(benefit/risk ratio)で十分な疾患治療用の薬学的組成物の量を指す。有効量は、治療すべき疾患の重症度、患者の年齢及び性別、疾患の種類、薬剤の活性度、薬剤に対する敏感度、投与時間、投与経路、分泌速度、治療期間、薬剤の共投与及び本分野で知られている他のパラメータを含む様々な要因によって異なる。本発明の組成物は、単独で、または他の治療法と組み合わせて投与することができる。このような場合に、従来の治療法と共に順番に、または同時に投与することができる。また、前記組成物は、1回量または複数回の容量に分けて投与することができる。これらの要因を完全に考慮する時、副作用なく最大の効果を得るために十分な最小量を投与することが重要であり、この服用量は、当該分野の専門家によって容易に決定することができる。本発明の薬学的組成物の服用量は特に限定されないが、患者の健康状態及び体重、疾患の重症度、薬の種類、投与経路及び投与時間を含む様々な要因に応じて変更される。組成物は、1日に1回量または複数回の容量で、ラット、マウス、家畜、ヒト等を含む哺乳類内に、典型的に許容される経路、例えば、経口で、直腸に、静脈に(intravenously)、皮下に(subcutaneously)、子宮内に(intrauterinely)または脳血管内に(intracerebrovascularly)投与することができる。
【0092】
前記薬学組成物内の抗VEGFR2/KDR抗体またはこの抗原結合断片の含有量は、製剤化方法、投与方式、患者の年齢、体重、性別、病状、食物、投与時間、投与間隔、投与経路、排泄速度及び反応感応性のような要因により、様々に処方することができる。例えば、前記抗VEGFR2/KDR抗体またはこの抗原結合断片の1日投与量は、0.001~1000mg/kg、具体的には0.01~100mg/kg、より具体的には0.1~50mg/kg、さらに具体的には0.1~20mg/kgの範囲であってもよいが、これらに制限されない。前記1日投与量は、単位容量の形態で一つの製剤として製剤化されるか、適切に分量して製剤化されるか、多容量容器内に入れて製造することができる。
【0093】
前記薬学組成物は、他の血管新生阻害剤関連疾患の治療剤のような他の薬物と併用投与可能であり、その投与量、投与方法及び他の薬物の種類は、患者の状態に応じて適切に処方することができる。
【0094】
前記薬学的組成物は、オイルまたは水性媒質中の溶液、懸濁液、シロップ剤または乳化液の形態であるか、エキス剤、酸剤、粉末剤、顆粒剤、錠剤またはカプセル剤等の形態で剤形化することができ、剤形化のために分散剤または安定化剤をさらに含むことができる。
【0095】
特に、前記抗VEGFR2/KDR抗体またはこの抗原結合断片を含む薬学組成物は、抗体または抗原結合断片を含むため、免疫リポソームで剤形化することができる。抗体を含むリポソームは、当業界に広く知られている方法に従って製造することができる。前記免疫リポソームは、ホスファチジルコリン、コレステロール及びポリエチレングリコール-誘導体化されたホスファチジルエタノールアミンを含む脂質組成物として、逆相蒸発法によって製造することができる。(公開特許10-2015-0089329)例えば、抗体のFab'断片は、ジスルフィド-交替反応によりリポソームに接合することができる。
【0096】
一方、前記抗VEGFR2/KDR抗体またはこの抗原結合断片は、VEGFR2/KDR特異的に結合するため、これを用いて、VEGFR2/KDRの活性化及び/または過生成の有無を確認することができる。従って、本発明のまた他の例は、前記抗VEGFR2/KDR抗体またはこの抗原結合断片を含むVEGFR2/KDR阻害剤関連疾患の診断用薬学組成物を提供する。また他の例において、患者から得られた生物試料に前記抗VEGFR2/KDR抗体またはこの抗原結合断片を処理する段階;抗原-抗体反応の有無を確認する段階;及び抗原-抗体反応が探知される場合、前記患者をVEGFR2/KDRの活性化及び/または過生成の症状が存在するか、VEGFR2/KDRの活性化及び/または過生成関連疾患を有すると判断する段階を含む、診断方法または診断に情報を提供する方法を提供する。前記生物試料は、患者から得られた細胞、組織、体液等からなる群から選択されるものであってもよい。
【0097】
前記抗原-抗体反応の有無を確認する段階は、当業界に公知の様々な方法を通じて行うことができる。例えば、通常の酵素反応、蛍光、発光及び/または放射線検出を通じて測定することができ、具体的には、免疫クロマトグラフィー(Immunochromatography)、免疫組織染色(Immunohistochemistry)、酵素結合免疫吸着測定法(enzymeliked immunosorbent assay: ELISA)、放射免疫測定法(radioimmunoassay: RIA)、酵素免疫測定法(enzymeimmunoassay: EIA)、蛍光免疫測定法(Floresence immunoassay: FIA)、発光免疫測定法(luminescence immunoassay: LIA)、ウェスタンブロッティング(Western bloting)等からなる群から選択される方法によって測定することができるが、これらに制限されない。
【0098】
前記免疫分析過程による最終的なシグナルの強度を分析することにより、がんを診断することができる。すなわち、生物学的試料で本発明のマーカーのタンパク質が高発現され、シグナルが正常な生物学的試料(例えば、正常な胃組織、血液、血漿または血清)よりも強く出る場合には、がんと診断される。
【0099】
また他の観点において、本発明は、前記がん診断用組成物を含むがん診断用キットに関する。本発明によるキットは、試料と抗体が反応することによって示されるシグナルを分析し、がんを診断することができる。この時、前記シグナルは、抗体に結合された酵素、例えば、アルカリホスファターゼ、β-ガラクトシダーゼ、ホースラディッシュペルオキシダーゼ、ルシフェラーゼまたはシトクロムP450を含んでもよいが、これらに制限されず、この時、酵素に対する基質は、酵素としてアルカリホスファターゼが用いられる場合には、基質としてブロモクロロインドリルホスフェート(BCIP)、ニトロブルーテトラゾリウム(NBT)、ナフトール-AS-B1-ホスフェート(naphthol-AS-B1-phosphate)及びECF(enhanced chemifluorescence)のような発色反応基質が用いられ、ホースラディッシュペルオキシダーゼが用いられる場合には、クロロナフトール、アミノエチルカルバゾール、ジアミノベンジジン、D-ルシフェリン、ルシゲニン(ビス-N-メチルアクリジニウム硝酸塩)、レゾルフィンベンジルエーテル、ルミノール、アンプレックスレッド試薬(10-アセチル-3,7-ジヒドロキシフェノキサジン)、HYR(p-phenylenediamine-HCl and pyrocatechol)、TMB(tetramethylbenzidine)、ABTS(2,2'-Azine-di[3-ethylbenzthiazoline sulfonate])、o-フェニレンジアミン(OPD)及びナフトール/パイロニン、グルコースオキシダーゼとt-NBT(nitroblue tetrazolium)及びm-PMS(phenzaine methosulfate)のような基質を用いることができるが、これらに制限されない。
【0100】
また、本発明によるキットは、検出可能なシグナルを発生させるラベルを含むことができ、前記ラベルは、化学物質(例えば、ビオチン)、酵素(アルカリホスファターゼ、β-ガラクトシダーゼ、ホースラディッシュペルオキシダーゼ及びシトクロムP450)、放射能物質(例えば、C14、I125、P32及びS35)、蛍光物質(例えば、フルオレシン)、発光物質、化学発光物質(chemiluminescent)及びFRET(fluorescence resonance energy transfer)を含んでもよいが、これらに制限されない。
血管新生の診断のために使用される酵素の活性測定またはシグナルの測定は、当業界に公知の様々な方法に従って実施することができる。
前記薬学組成物の投与または診断対象患者は、ヒト、サル等を含む霊長類、マウス、ラット等を含むげっ歯類等を含む哺乳類であってもよい。
【0101】
前記VEGFR2/KDR関連疾患は、がん;がん転移;未熟児網膜症、黄斑変性症(例えば、加齢黄斑変性症)、糖尿病性網膜症、血管新生緑内障等の眼疾患;喘息;関節リウマチ;乾癬;肺炎、慢性炎症等の炎症性疾患;高血圧、動脈硬化等の心血管疾患または敗血症等であってもよい。前記がんは、VEGFR2/KDRを過剰発現するものであってもよく、固形がんまたは血液がんであってもよく、これらに制限されないが、扁平上皮細胞がん、小細胞肺がん、非小細胞肺がん、肺の腺がん、肺の扁平上皮がん、腹膜がん、皮膚がん、皮膚または眼内黒色腫、直腸がん、肛門周囲がん、食道がん、小腸がん、内分泌腺がん、副甲状腺がん、副腎がん、軟部組織肉腫、尿道がん、慢性または急性白血病、リンパ球性リンパ腫、肝細胞がん、胃腸がん、膵臓がん、膠芽腫、頸部がん、卵巣がん、肝臓がん、膀胱がん、肝腫瘍、乳がん、結腸がん、大腸がん、子宮内膜または子宮がん、唾液腺がん、腎臓がん、肝臓がん、前立腺がん、陰門がん、甲状腺がん、肝臓がん、頭頸部がん、脳腫瘍、骨肉腫等からなる群から選択される1種以上であってもよい。前記がんは、原発性がんまたは転移性がんであってもよい。
【0102】
また、本発明の抗体は、他の抗体または生物学的活性剤または様々な目的のための物質と組み合わせて使用することができる。本発明は、このような観点において、前記抗体またはこの抗原結合断片を含む、他の血管新生疾患治療剤との併用投与用組成物に関する。
【0103】
前記他の血管新生疾患治療剤は、抗-血管新生薬物、消炎薬物及び/または抗がん薬物を挙げることができる。これにより、互いの抵抗性を克服させ、効能を増進させることができる。
【0104】
本発明による組成物において、他の血管新生疾患治療剤と併用投与される場合、抗VEGFR2/KDR抗体またはこの抗原結合断片と他の血管新生疾患治療剤は、順次または同時に投与することができる。例えば、抗-血管新生薬物、消炎薬物及び/または抗がん薬物を対象体に投与した後、活性成分として抗VEGFR2/KDR抗体またはこの抗原結合断片を含む組成物を前記対象体に投与するか、前記組成物を対象体に投与した後、抗-血管新生薬物、消炎薬物及び/または抗がん薬物を前記対象体に投与する。場合によっては、前記組成物を抗-血管新生薬物、消炎薬物及び/または抗がん薬物と同時に対象体に投与することができる。
【実施例
【0105】
以下、実施例を通じて、本発明をさらに詳細に説明する。これらの実施例は、ひとえに本発明を例示するためのものであり、本発明の範囲がこれらの実施例によって制限されるものと解釈されないことは、当業界における通常の知識を有する者にとって自明であろう。
【0106】
実施例1. CDR grafting(移植)
6A6のCDR配列をカバットナンバリング、IMGTプログラムを通じて確認し、これをヒト生殖細胞系列VH3/VK1に移植するクローニングを行った。図1に重鎖CDR移植配
列を表記し、図2に軽鎖CDR移植配列を表記した。
【0107】
実施例2. 親和性増進のための変異体作製及び選別
CDR移植された抗体の親和性増進のための最適化を行った。軽鎖と重鎖のCDR3の元来のDNA配列を70%保存し、ランダム化(randomize)させるソフト-ランダム化(soft-randomization)法を活用し、軽鎖CDR3と重鎖CDR3にランダム変異を導入したプライマーを作製した。これを使用したPCRを通じて、変異が導入された軽鎖可変領域、重鎖可変領域コードDNA断片を確保した。このDNA断片をそれぞれscFvファージファージミドの軽鎖可変領域及びscFvファージファージミドの重鎖可変領域と置換し、軽鎖CDR3変異体scFvファージライブラリと重鎖CDR3変異体scFvファージDNAライブラリをそれぞれ作製した。
【0108】
変異体scFvファージDNAライブラリをフェノール-クロロホルム精製後、電気穿孔法を使用して大腸菌株XL-1 Blueに形質転換した。形質転換効率分析及び、DNA配列分析を通じて多様性が確保されたことを確認した後、500ml規模で培養してファージ発現を誘導し、PEG-沈殿法を用いて軽鎖と重鎖のCDR3変異体scFvファージライブラリを作製した。
【0109】
各変異体scFvファージライブラリを使用してバイオパニングを行った。96-ウェル免疫プレートに抗原(KDR1~3 domian-Fc)を2mg/mlで100mlずつウェルに入れ、4℃オーバーナイト(overnight)させた。翌日、抗原コーティングプレート(coating plate)は、PBST(0.1% tween20)で3回洗浄した後、2% BSA遮断バッファー(blocking buffer)200mlを入れ、室温で2時間反応させた。2x YT-TET(tetracycline 10μg/ml)成長培地(growth medium)2mlにXL1-Blueストック(stock)50mlを入れ、37℃、200rpmで2時間程度育てた後、13mlをさらに添加してOD600が0.5になるまで育てた。遮断(blocking)2時間が過ぎると、1X PBST(0.1% tween20)で3回洗浄した。洗浄した各ウェルに変異体ライブラリと4% BSAを同じ量で混合した後、200mlずつ添加し、室温で30分間ロッキング(rocking)した後、2時間反応させた。ファージライブラリ反応が終わると、上層液は捨て、0.1% PBSTで5回洗浄し、PBSで5回洗浄した。各ウェルに100mM TEA(trimethylamine)100mlを入れた後、室温で10分間振盪した。10分が過ぎると、各ウェルに1M Tris(pH 7.5)50mlを入れて混合した。上澄み液(supernatant)は、OD600が0.5になったXL1-blue 10mlに入れ、37℃で30分間感染(infection)させた。感染が終わると、100mlはアウトプットタイター(output titer)として使用し、残りは6,000rpm、10分間遠心分離した。上層液は捨て、沈殿物はラージスクエアプレート(large square plate: CM 34μg/ml + 1% Glucose)にスプレッディング(spreading)し、37℃でオーバーナイトインキュベーション(overnight incubation)した。アウトプットタイターとして残した100mlは、1/10、1/100、1/1000に希釈(dilution)し、CMプレートにスプレッディングして37℃でオーバーナイトした。翌日、スクエアプレートで育ったコロニー(colony)は、2x YT培地50mlを入れた後、ループ(loop)を使用して掻き集めた後、6000rpm、10分遠心分離して上層液は捨て、沈殿液(precipitate)に対して1次パニングストック(panning stock)を作製し、2x YT培養培地(growth media: CM 34μg/ml + 1% Glucose)100mlを500ml三角フラスコに入れた後、OD600が0.2になるように細胞を入れ、200rpm、37℃でOD 0.5になるまで育てた。OD600値が0.5になるまで細胞を培養した後に、ヘルパーファージ(helper phage: M13KO7 mutant)を細胞の20倍になるように入れた。ヘルパーファージを入れて37℃、30分感染(infection)させた後、6000rpm、10 分遠心分離した。上層液を捨て、細胞は2xYT培地(CM 34μg/ml + Kan. 70μg/ml + 1mM IPTG + 5mM MgCl2)100mlに交替して入れた後、200rpm、30℃、オーバーナイトした。翌日、育った細胞は7000rpm、10分、遠心分離し、同じ方法でもう一度遠心分離した。集めた上層液は、上層液の1/5(v/v) 20% PEG/2.5m NaClを入れ、アイス(ice)で1時間沈殿させた。沈殿させた後、9000rpm、1時間遠心分離した。上層液は捨て、PBS 5mlで沈殿液(precipitate)を溶かした後、0.45mmフィルター(filter)にろ過した後、4℃で保管し、これを次回のパニング(panning)過程で使用した。この過程を3~4回繰り返し、抗原に結合する抗体を、ELISAを行って確認した。
その後、選別過程においては、結合を維持する能力の定量的評価指標としてscFvの解離速度定数Kdisを測定した。
【0110】
実施例2. 抗原に対する高親和力を有する抗体選別(Off-rate screening)
選別された抗体の抗原に対する結合力をオクテット(Fortebio)を用いて測定した。このため、KDR1~3ドメインをバイオセンサー(biosensor)に固定(immobilize)した後、scFvの形態で発現された候補抗体を入れて結合させた後、解離速度定数を測定した。選別された最適化クローン5種に対するアミノ酸配列(表2、3)と解離速度定数測定結果(表1)を図示した。表記されたCDR配列は、IMGTデータベースを通じて分析した配列である。
【表1】
【表2】
【表3】
【0111】
実施例3. 抗体発現
選別したscFvファージのIgG形態への転換は、分子生物学的技法を使用して行った。選別した大腸菌クローンからファージミド(Phagemid)を抽出、PCR技法を使用して可変領域を増幅した。増幅した重鎖可変領域を、重鎖不変領域を含む発現ベクター(Invivogen、pfusess-hchg1)に挿入し、増幅した軽鎖可変領域は、軽鎖不変領域を含む発現ベクター(Invivogen、pfuse2ss-hclk)に挿入し、IgG形態のDNAクローニングを完了した。
【0112】
IgGの一時発現は、Expi293F発現システムキット(Expi293F expression system kit: Thermo Fisher Scientific, US)を使用した。キットに含まれるExpi293細胞を、専用培地を使用して37℃、5% CO2環境下で125rpmオービタルシェーカー上で浮遊培養した。3日ごとに3 X 105cells/mlになるように継代培養し、発現ベクター導入時には3 X 106cells/mlになるように細胞数を調整した後に使用した。遺伝子導入は、専用試薬であるエクスピフェクタミンを使用し、細胞懸濁液1mlあたりの発現ベクターDNA 1mgとエクスピフェクタミン2.7μlを含有するLipid-DNA複合体を作製、細胞懸濁液に添加し、導入16~18時間後にエンハンサー(Enhancer)1/2を添加して発現を誘導した。この後、同じ条件で3~4日間培養後、遠心分離してIgG含有上澄み液を取得した。
【0113】
実施例4. 抗体の精製
取得した上澄み液をプロテインAカラム(GE Healthcare)に注入し、親和力クロマトグラフィーを通じてIgGを精製した。カラムを20mM Tris-HCl、50mM NaCl、5mM EDTA(pH 7.0)で平衡化させた後、上澄み液を注入、50mM Tris-HCl、500mM NaCl、5mM EDTA、0.2% ポリソルベート20(pH 7.0)溶液で洗浄した後、50mM NaCl、0.1Mグリシン-HCl(pH 3.5)で溶出後、1M Trisで中和した。溶出されたタンパク質は、MWCO 10,000スペクトラ/ポア透析膜(Spectrum Labs, US)を使用した透析過程を通じて、PBSで溶媒を交替した。この後、ビバスピン(Satorius, DE)を使用し、必要な濃度に濃縮して分注後、-80℃で保管した。
【0114】
実施例5. 抗体の結合特異性の分析
選別された抗体のKDR1~3ドメインに対する結合力をオクテットシステム(Fortebio Inc. US)を使用して測定した。このため、抗-VEGFR2/KDR抗体をバイオセンサーに固定化し、ヒトKDR1~3の濃度別の結合動力学を測定し、結合速度定数(ka)、解離速度定数(kdis)及び結合定数(KD)を算出した(表4)。
【表4】
【0115】
実施例6. 抗体の中和能力の確認(HUVEC viability assay)
抗体の生物学的活性を測定するために、以下のような実験を行った。HUVECは、ロンザ(cat# C2519A)社から購入した細胞を使用し、VascuLife VEGF-Mv medium complete kit (Lifeline cell technology, cat# LCT-LL-0005)培地を使用し、2%ゼラチンがコーティングされたプレートで培養する。培養は、37℃、5% Co2インキュベーターで行う。アッセイにはパッセージ10以内の細胞を使用し、0.5%加熱不活性化したFBSが含まれたM199培地(Gibco, cat# 11043-023)で、96ウェルプレートでウェルあたり1 X 104cellsを用いて行った。アッセイは、様々な濃度に希釈した抗体をアッセイプレートに先に処理した後、細胞をウェルごとに1 X 104cellsを入れた後、30分間インキュベーターで培養する。30分間の培養後、VEGF165(R&D, cat# 293-VE)をウェルごとに30ng/mLの濃度で処理した。3日間37℃ CO2インキュベーターで培養した後、生存率を測定した。生存率は、プロメガ社のCellTier Glo-Luminescent Cell viability Assay Kit (cat no. G7571)を使用し、生きた細胞内のATPを定量した(図3)。図3に示すように、選別された抗体はVEGF165による効能を濃度別に阻害した。
【0116】
実施例7. 抗体のVEGF165/VEGFR2シグナル抑制効果分析(p-KDR assay)
VEGF/VEGFR2シグナル抑制効果分析のためにHUVEC細胞を使用し、HUVECは、ロンザ(cat# C2519A)社から購入した細胞を使用した。VascuLife VEGF-Mv medium complete kit (Lifeline cell technology, cat# LCT-LL-0005)培地を使用し、細胞培養した後、6ウェルプレートにウェルごとに8x105入れ、37℃の二酸化炭素が供給されるインキュベーターで一晩育てる。前記の細胞に抗体を10μg/mLの濃度で20分間処理した後、VEGF165(R&D, cat# 293-VE)を10分間処理する。この時、抗体がなく、VEGF165タンパク質のみが入っているウェルを含ませ、シグナル抑制効果分析の基準値とする。各薬物反応が終わったHUVEC細胞は、PBSで2回洗浄した後、細胞抽出物を得るために溶解バッファー(Thermo Scientific, RIPA buffer & phosphatase inhibitors)を入れ、アイスで20分間反応させる。この後、13000rpm、4℃で遠心分離後、上澄み液のみを得る。BCAタンパク質定量法を用いて定量後、10% SDS-PAGEゲルにライセートをロードした後、電気泳動する。ニトロセルロースメンブレン(Bio-Rad)を用いて転写を行った後、0.1% Tween20 TBSTバッファーに5%スキンミルクを希釈し、常温1時間遮断を行う。この後、1次抗体(p-VEGFR2(Y1175);Cell signaling)を1:1000で希釈して4℃でシェイキングオーバーナイトを進行し、ペルオキシダーゼ-コンジュゲート2次抗体(Santa cruz)を1:5000で希釈し、常温1時間反応させる。ECLソリューション(Pierce) 反応を経て、目的とするタンパク質のバンドを観察した。その結果、D4、D3、A4でVEGF165によるリン酸化を6A6よりも効果的に阻害することを確認した(図4)。
【産業上の利用可能性】
【0117】
本発明を通じて、従来のVEGFR2/KDRを標的とする抗体より親和性が向上された抗体を開発することにより、腫瘍を治療する上で、従来の治療剤より効能に優れた併用治療及び単独治療法を提供することができる。本発明による抗-VEGFR2/KDR抗体またはこの抗原結合断片は、VEGFR2/KDRへの向上された結合力を示し、目的とするがん/腫瘍または血管新生阻害剤関連疾患の予防または治療に有用に使用することができる。
【0118】
以上、本発明の内容の特定の部分を詳細に記述したが、当業界における通常の知識を有する者にとって、このような具体的な記述は単に好ましい実施態様に過ぎず、これによって本発明の範囲が制限されない点は明らかであろう。従って、本発明の実質的な範囲は、添付の請求項とそれらの等価物によって定義されるといえる。
図1
図2
図3
図4
【配列表】
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【国際調査報告】