(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公表特許公報(A)
(11)【公表番号】
(43)【公表日】2024-10-02
(54)【発明の名称】ブレーキシステムの制御方法およびシステム
(51)【国際特許分類】
B60T 8/171 20060101AFI20240925BHJP
B60T 13/74 20060101ALI20240925BHJP
B60T 8/172 20060101ALI20240925BHJP
B60T 8/17 20060101ALI20240925BHJP
【FI】
B60T8/171 Z
B60T13/74 G
B60T8/172 Z
B60T8/17 B
【審査請求】未請求
【予備審査請求】未請求
(21)【出願番号】P 2024517581
(86)(22)【出願日】2022-09-20
(85)【翻訳文提出日】2024-03-27
(86)【国際出願番号】 IB2022058871
(87)【国際公開番号】W WO2023047275
(87)【国際公開日】2023-03-30
(31)【優先権主張番号】102021000024236
(32)【優先日】2021-09-21
(33)【優先権主張国・地域又は機関】IT
(81)【指定国・地域】
(71)【出願人】
【識別番号】521259127
【氏名又は名称】ブレンボ・ソチエタ・ペル・アツィオーニ
【氏名又は名称原語表記】BREMBO S.p.A.
(74)【代理人】
【識別番号】100106518
【氏名又は名称】松谷 道子
(74)【代理人】
【識別番号】100101454
【氏名又は名称】山田 卓二
(72)【発明者】
【氏名】ロッシ,アレッサンドロ
(72)【発明者】
【氏名】トランティーニ,アルフォンソ
【テーマコード(参考)】
3D048
3D246
【Fターム(参考)】
3D048BB52
3D048HH18
3D048HH58
3D048HH66
3D048HH68
3D048QQ07
3D048RR11
3D048RR13
3D048RR25
3D048RR29
3D048RR35
3D246BA08
3D246DA01
3D246GA14
3D246GA25
3D246GB37
3D246GC14
3D246GC16
3D246HA02A
3D246HA35B
3D246HA37B
3D246HA38A
3D246HA39A
3D246HC02
3D246JB01
3D246JB07
3D246JB47
3D246LA13Z
3D246LA15Z
(57)【要約】
車両のブレーキシステムの制御方法は、キャリパセンサによって検出可能なクランプ力閾値を予め決定するステップ(502)、定義されたキャリパ剛性モデルを特定するステップ(508)、キャリパ剛性モデルを用いて推定クランプ力値(FS)を推定する(510)ステップ、及び推定クランプ力値(FS)に基づいてアクチュエータ制御信号(SC)を生成するステップ(512)を有する。
【特許請求の範囲】
【請求項1】
車両のブレーキシステムを制御する方法であって、
前記ブレーキシステムが、少なくとも1つのブレーキキャリパと、前記ブレーキキャリパのクランプ/解放を引き起こすように作動可能なキャリパアクチュエータと、前記キャリパのクランプに関連する大きさを検出するのに適したキャリパセンサと、を備え、
前記方法は、
前記キャリパセンサによって検出可能なクランプ力閾値を予め決定するステップ(502)であって、前記クランプ力閾値は、キャリパによって行使可能な最大クランプ力値よりも低い、ステップ(502)と、
基準力値(FR)を受信するステップ(506)と、
キャリパ剛性モデリングモジュールによって、前記キャリパによって加えられるクランプ力と前記キャリパアクチュエータの位置とを関係付ける理論剛性曲線によって定義されるキャリパ剛性モデルを特定するステップ(508)と、
力推定モジュールにより、前記キャリパ剛性モデルおよび前記キャリパアクチュエータの位置に関する情報を使用して、推定クランプ力値(FS)を推定するステップ(510)と、
ブレーキ制御モジュールにより、前記推定クランプ力値(FS)と前記基準力値(FR)に基づいてアクチュエータ制御信号(SC)を生成するステップ(512)とを含む、方法。
【請求項2】
前記基準力値(FR)が、制動要求(RF)に基づいて前記基準力値(FR)を生成する車両制御モジュール(101)によって受信される、請求項1に記載の方法。
【請求項3】
前記キャリパセンサが、少なくともゼロから前記クランプ力閾値までの読み取り範囲を有し、
前記基準力値(FR)が前記クランプ力閾値より低い場合、前記方法は、ブレーキ制御モジュールによって、前記キャリパセンサによって検出されたクランプ力に基づいてアクチュエータ制御信号(SC)を生成するステップ(512’)を備える、請求項1または2に記載の方法。
【請求項4】
前記キャリパセンサが、ゼロから少なくとも前記クランプ力閾値までの読み取り範囲を有し、
前記特定するステップ(508)が、前記キャリパアクチュエータの状態情報の関数として前記キャリパセンサによって検出された前記クランプ力の情報に基づいて実行される、請求項1-3のいずれか一項に記載の方法。
【請求項5】
前記特定するステップ(508)が、前記キャリパの全動作範囲にわたって放物線型、三次型、または指数型の理論剛性曲線を生成することからなる、請求項1-4のいずれか一項に記載の方法。
【請求項6】
前記特定するステップ(508)が、前記クランプ力閾値までの力の範囲において、放物線型、三次曲線型、または指数関数型の第1の曲線セクションと、前記第1の曲線セクションの最終部分の傾きから始まる線形外挿によって得られる、前記クランプ力閾値を超える第2の線形セクションとを有する理論剛性曲線を生成することからなる、請求項1-4のいずれか一項に記載の方法。
【請求項7】
前記特定するステップ(508)が、前記キャリパセンサによって提供される情報を取得する新しいサイクルごとにリアルタイムで実行される、請求項5-6のいずれか一項に記載の方法。
【請求項8】
前記特定するステップ(508)が、制動イベント中に前記キャリパセンサによって提供された複数の情報を用いて、制動イベントの終了時に実行される、請求項4-6のいずれか一項に記載の方法。
【請求項9】
前記特定するステップ(508)が、前記クランプ力閾値までの力の範囲内で所定の力サブ閾値を超えるたびに制動イベント中に実行される、請求項4-6のいずれか1項に記載の方法。
【請求項10】
前記特定するステップ(508)が、力推定モジュールによって、前記キャリパセンサによって提供された最新のクランプ力情報により大きな重みを割り当てるステップを含む、請求項4-9のいずれか1項に記載の方法。
【請求項11】
前記キャリパセンサは、前記クランプ力が前記クランプ力閾値に達したときにクランプ力有無情報を提供するのに適したバイナリセンサであることを特徴とする請求項1または2に記載の方法。
【請求項12】
前記特定するステップ(508)が、キャリパヒステリシス効果を推定するステップをさらに含み、
前記推定するステップが、制動イベントにおける力の増加傾向を表す測定された剛性曲線の所定量の変化を含む、請求項1-11のいずれか1項に記載の方法。
【請求項13】
前記特定するステップ(508)が、キャリパヒステリシス効果を推定するステップをさらに含み、
前記推定するステップが、制動イベントを解除するステップにおける前記キャリパセンサによる前記キャリパのクランプ力の検出に基づいている、請求項1-12のいずれか一項に記載の方法。
【請求項14】
車両ブレーキシステムの制御システム(100)であって、
車両のコーナーのブレーキキャリパに作動的に関連付けられた力センサと、
電気機械式または電気油圧式のブレーキキャリパアクチュエータと作動的に関連付けられたアクチュエータセンサと、
キャリパ剛性モデリングモジュールと、
力推定モジュールと、
ブレーキ制御モジュールを備え、
前記制御システムは、請求項1-13のいずれか1項に記載の制御方法のステップを実行するように構成されていることを特徴とするブレーキ制御システム。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、車両の制動システムに関し、特に車両の制動システムの制御方法および相対システムに関する。
【背景技術】
【0002】
現代の車両、例えば乗用車では、電子BBW技術(「brake by wire」の頭文字から)ブレーキシステムを備えたブレーキシステムがますます普及している。
【0003】
典型的なクローズドループ制御システムを備えたBBW電子ブレーキシステムによってその力が調節され得るように、BBW技術の電子ブレーキシステム内では、制動段階中に、一対のブレーキキャリパパッドによってそれぞれのブレーキディスクに及ぼされる力を知ることが不可欠である。キャリパによって及ぼされる力の値は、車両の運転者または電子運転支援システムによって、制動力が前記要求される基準力の値に達することを正確に保証する目的で、制動に要求される基準力の値と比較される。
【0004】
このような比較は、制動要求の典型的な場合だけでなく、BBW電子制動システムが、例えば車輪アンチロックブレーキシステム(ABS)や電子安定性制御システム(ESC)のような、車両が装備している可能性のある付加的な電子システムからの要求に応答しなければならない場合、または車両自体に関する粘着性の低い条件に応答しなければならないような特定の場合にも実行される。
【0005】
従来技術では、加えられたクランプ力のレベルに関するフィードバックを得るために、以下の2つの選択肢がある。
【0006】
1.キャリパの全動作範囲をカバーする力センサ(圧力センサまたはトルクセンサでもよい)の使用。
【0007】
2.BBWシステムのキャリパから得られる追加測定値(位置、電流、温度など)に基づいて印加力を間接的に計算する推定器の使用。
【0008】
選択肢1には、実現可能性、コスト、分解能/精度、および再利用性に関していくつかの制限がある。
【0009】
実現可能性に関しては、場合によっては、キャリパ自体に利用可能な小さなスペースでブレーキキャリパの全動作範囲を読み取ることができるセンサを備えることは不可能である。
【0010】
コストに関しては、読み取り範囲を拡大したセンサの開発と検証は、非常に高価になる可能性がある。
【0011】
センサの読み取り範囲を広げると、精度と分解能が低下する可能性がある。
【0012】
再利用性に関しては、非常に広いレンジを持つセンサが使用されない限り、たとえ低い読み取りレンジが要求されるアクチュエータであっても、各アプリケーションに適切なレンジを持つセンサを選択しなければならず、同じセンサを異なるレンジを持つ複数のアプリケーション、例えば異なる車種レンジに使用することはできない。
【0013】
選択肢2は、例えば、効率のばらつき、パッドの摩耗、アクチュエータとキャリパの製造パラメータのばらつき、熱影響、摩擦力のばらつき等に起因して、部品寿命について多くの不確実性と変動が伴うという問題がある。これらの問題は、特に、低い力のブレーキ事象の最初の部分における推定値が正確性に欠け、パッドディスク接触点を高精度に決定し検出しなければならないことにつながる可能性がある。
【0014】
本発明の目的は、従来技術の解決策の限界および欠点を少なくとも部分的に克服することができるブレーキシステムの制御方法およびシステムを提案することである。
【発明の概要】
【課題を解決するための手段】
【0015】
この目的は、請求項1による制動システムの制御方法および請求項13による制御システムによって達成される。
【0016】
いくつかの有利な実施形態は従属請求項の主題である。
【図面の簡単な説明】
【0017】
本発明による方法および関連システムのさらなる特徴および利点は、添付の図を参照して純粋に非限定的な例として提供される、その好ましい実施形態の以下の説明から得られる。
【0018】
【
図1】
図1は、ブロック図によって、本発明の実施形態による、車両のブレーキシステムのための電子制御システムを示す。
【0019】
【
図2】
図2は、ブロック図によって、本発明のさらなる実施形態による、車両の制動システムのための電子制御システムを示す。
【0020】
【
図3】
図3は、本発明による制御方法の実施形態に従って得られる、一部が測定され一部が推定された力と動きを比較する剛性曲線グラフである。
【0021】
【
図4】
図4と
図4aは、それぞれ力と移動および力と時間を比較する2つの剛性曲線グラフであり、キャリパのヒステリシス特性を含む。
【
図4a】
図4と
図4aは、それぞれ力と移動および力と時間を比較する2つの剛性曲線グラフであり、キャリパのヒステリシス特性を含む。
【0022】
【
図5】
図5は、ヒステリシスを有する力と移動とを比較する別の剛性曲線グラフであり、クランプ力の上昇曲線と下降曲線との間の過渡現象を表す。
【0023】
【
図6】
図6は、本発明の実施形態による、車両のブレーキシステムの制御方法のフローチャートである。
【発明を実施するための形態】
【0024】
添付図面において、1;100は、本発明のいくつかの実施形態に係るブレーキシステムのための電子制御システムを全体として概略的に示すために使用される。特に、この制御システムは、分散型アーキテクチャのブレーキ・バイ・ワイヤ・ブレーキシステムに適用され、車両の各コーナーは、目標制動力すなわち基準(FR)制動力の値と、ブレーキキャリパによって実際に加えられる制動力の強さとの間の誤差を最小化するように、閉ループモードで独立して制御される。
【0025】
制動目標に関連する値とキャリパによって加えられる力の強さは、採用される制御方法、使用されるセンサ、またはコーナーのトポロジーに依存する可能性があり、例えば、力、圧力、またはトルクである可能性があるが、これらに限定されないことに留意すべきである。これらの測定値は相互に関連しており、容易に相互に変換することができる。したがって、以下の説明では、このような相互に関連する量を一般的に「力」または「クランプ力」と呼ぶものとする。
【0026】
さらに、様々な実施形態に共通する要素は、同じ参照番号で示される。
【0027】
本明細書において、図には示されていないが、「車両」という用語は、2つ、3つ、4つまたはそれ以上の車輪を有する、商用タイプでもある任意の車両または自動車を指す。
【0028】
さらに、「ブレーキシステム」という用語は、これも図示しないが、車両のサービスブレーキの発生または車両のパーキングブレーキの発生に寄与するすべての構成要素(機械的および/または電気的または電子的構成要素からブレーキ液まで)の集合を指す。
【0029】
図1および
図2は、システム1の可能な実施形態のブロック図である。
【0030】
いくつかの実施形態では、制御システムは、車両制御モジュール101を備える。
【0031】
車両制御モジュール101は、例えば、主ハードウェアモジュール内のハードウェアモジュール及び/又はソフトウェアロジックであり、それが意図するタスクの中で、制動要求RF(減速要求)を受信するように構成される。
【0032】
この制動要求RFは、車両の運転手によって操作可能なブレーキペダル(図示せず)から来る可能性があり、例えば、車両制御モジュール101によって実装可能なEBDロジック(Electronic Brake-force Distribution、図示せず)によって処理されるか、又は自動車両運転支援ロジック、例えばAEBロジック(Autonomous Emergency Brake、これも図示せず)から来る可能性がある。
【0033】
車両制御モジュール101は、制動要求RFおよび場合によっては制動システム、または一般的には車両に関連するセンサからモータらされる他の情報に基づいて基準力値FRを決定するように構成されてもよい。
【0034】
他の実施形態では、車両制御モジュール101は、本発明の対象である制御システム1;100の外部にあり、制御システム1;100に基準力FRの値を提供する。
【0035】
システム1;100は、車両のコーナーに動作可能に関連付けられた1つまたは複数のコーナー検出装置10をさらに備える。
【0036】
これらのコーナー検出装置10は、車両のコーナーにおけるブレーキシステムを代表するコーナー情報を検出するように構成されている。本明細書では、「車両のコーナーにおける制動システムを代表するコーナー情報」という語句は、実際には、必ずしも物理的に相対するコーナーに配置されていなくても、各制動装置に関連する情報を指す。
【0037】
コーナー検出装置10は、キャリパアクチュエータ、例えば、それぞれのブレーキキャリパのクランプおよび解放を指令するために作動可能な電気機械式または電気油圧式アクチュエータの状態に関連する情報を取得するのに適したアクチュエータセンサ102から構成される。
【0038】
より詳細には、いくつかの実施形態において、アクチュエータセンサ102は、位置センサ、電気電圧センサ、電流センサ、温度センサ等から構成される。
【0039】
このような場合、アクチュエータセンサ102によって取得される情報は、例えば、以下の通りである。
【0040】
ブレーキキャリパの電気機械式アクチュエータまたは電気油圧式アクチュエータの位置。
【0041】
ブレーキキャリパの電気機械式アクチュエータの位置から得られる量、例えば、速度、加速度、または加速度の微分値(スナッチまたはジャーク)。
【0042】
電気機械式または電気油圧式アクチュエータを動かすのに適した電気モータの電源電圧/PWM(パルス幅変調)、およびさらに派生する量(例えば、電気電圧のピーク、フィルタ処理された平均値、電流から派生する電力など)。
【0043】
電気モータによって吸収される電流、およびさらなる派生量(例えば、電流ピーク、フィルタ処理された平均値、電気電圧から派生する電力、推定消費量、効率、吸収される電力など)。
【0044】
電気機械式又は電気油圧式アクチュエータ及び/又は電気モータの外部温度。
【0045】
コーナー検出装置10はさらに、各コーナーについて、ブレーキキャリパによってブレーキディスクに加えられるクランプ力に関する情報を取得するのに適した力センサ104を備える。
【0046】
一実施形態では、力センサ104は、少なくともブレーキキャリパの動作範囲の最初の部分、すなわち電気機械式アクチュエータのピストンストロークの最初の部分、または電気油圧式アクチュエータの場合はポンプフロートストロークまたはキャリパピストンストロークの最初の部分に限定された範囲内で、ブレーキキャリパによって及ぼされるクランプ力を測定するのに適している。
【0047】
換言すれば、力センサ104は、ブレーキキャリパの動作範囲よりも低い力読み取り範囲を有することができる。
【0048】
他の実施形態では、力センサ104は、キャリパによって及ぼされるクランプ力が所定の閾値を超えるか否かを検出するのにのみ適した二値センサ、すなわち力スイッチとして機能するか、または機能するように使用される。この場合、例えば、コーナー情報は、電気機械アクチュエータによる力相の開始を代表する情報、すなわち、電気機械アクチュエータまたは電気油圧アクチュエータのピストンが力を発揮し始め、無負荷位置からブレーキキャリパへの負荷を開始する位置に通過する負荷相の開始を代表する情報(例えば「フラグ」)から構成される。
【0049】
システム1は、アクチュエータによって加えられるクランプ力と電気機械式または電気油圧式アクチュエータのピストンの位置Pとを関係付ける理論剛性曲線Fxによって表されるクランプ剛性モデルに基づいて、推定力値FSを決定するように構成された力推定モジュール110をさらに備える。
【0050】
キャリパ剛性モデルは、剛性モデリングモジュール120で提供される。
【0051】
図1に示す実施形態では、システムが、少なくともキャリパ動作範囲の下側に限定された範囲内でクランプ力を測定するように構成された力センサ104を採用しており、剛性モデリングモジュール120は、力センサから取得した情報およびキャリパアクチュエータの状態に関する情報に基づいて理論剛性曲線Fxを構築する。以下の説明では、モデル構築アルゴリズムのいくつかの例を説明する。
【0052】
この実施形態では、力推定モジュール110は、クランプ力範囲内で理論剛性曲線を推定するように構成される。クランプ力範囲は、センサ読み取り範囲を超え、キャリパの最大クランプ力値までのクランプ力範囲内であるか、またはいかなる場合でもセンサ読み取り範囲内のある所定のクランプ力閾値を超え、例えば、センサの測定精度が満足できる値以下であり、センサの測定精度が満足できないと考えられる値以上である。
【0053】
いくつかの実施形態において、電子制御システムは、基準力値FRが力センサに対して確立された閾値未満である場合には力センサから来るクランプ力情報を使用し、基準力値FRが閾値より高い場合には推定力値FSを使用するように構成される。
【0054】
言い換えれば、剛性モデルは、コーナーの動作範囲全体にわたって閉ループ制御フィードバックを提供するために、センサ読み取り範囲を超えた力を推定するために使用される。
【0055】
例えば、基準力値FRと閾値との間の比較は、アクチュエータセンサ102から来る情報、例えば、電気機械アクチュエータピストンの位置に基づいて、力推定モジュール110によって実行されてもよい。
【0056】
システム1;100はまた、ブレーキ制御モジュール130を含む。
【0057】
ブレーキ制御モジュール130は、例えば主ハードウェアモジュール内のハードウェアモジュールおよび/またはソフトウェアロジックであり、推定器モジュールから来る推定力値FSを代表する信号と、力センサによって検出された実力FAを代表する信号とを受信するように構成される。ブレーキ制御モジュール130は、これら2つの信号の一方を(例えば、基準力値FRが所定の閾値を下回るか上回るかによって)基準力値FRと比較し、その比較に基づいて、ブレーキシステムのブレーキキャリパの電気機械式アクチュエータまたは電気油圧式アクチュエータ(このアクチュエータは、システム1;100の外部に概略的に表され、参照番号AEで示される)のための制御信号SCを生成するように構成される。
【0058】
制御信号SCは、例えば、ブレーキキャリパの電気機械アクチュエータAEに供給される電流又は電気電圧(PWM)の基準値(設定点)であることに留意されたい。
【0059】
一実施形態では、システム1は、電気機械アクチュエータAEの電子駆動モジュールDRも備える。
【0060】
ブレーキ制御モジュール130は、電子駆動モジュールDRによって、電気機械式アクチュエータAEに制御信号SCを供給するように構成され得る。
【0061】
駆動モジュールDRは、制御信号SC、従ってブレーキ要求レベル(パーセンテージ/PWM)を受信するように構成され、その結果、電気機械式アクチュエータAEに供給される駆動信号SC'、例えば電気機械式アクチュエータAEを動かすのに適した電気モータに供給される電気駆動電流を生成する。
【0062】
一実施形態では、剛性モデリングモジュール120は、力センサの読み取り範囲内のキャリパの特性に基づいて、理論剛性曲線を放物線曲線、三次曲線または指数曲線でモデル化するように構成される。
【0063】
より詳細には、いくつかの実施形態では、剛性モデリングモジュール120は、キャリパの特性に応じて(例えば、形状、摩擦などに基づいて)、理論剛性曲線を以下の2つの形態のいずれかでモデル化するように構成される。
【0064】
例えば、「オフライン」システム開発及び試験段階において、特定されたモデル、例えば放物線曲線、三次曲線又は指数曲線がキャリパの全動作範囲を正しく表すことが判明した場合、特定されたモデルは、その読み取り範囲内でセンサから得られる情報に基づいて構築され、同じ曲線は、キャリパの動作範囲の上部、すなわちセンサの読み取り範囲を超えるか、又はいかなる場合にも予め設定された閾値を超える力の推定に使用され得る。
【0065】
一方、特定されたモデル、例えば放物線曲線、三次曲線または指数曲線が、センサの読み取り値が使用されるキャリパの動作範囲の下側のみを正しく表していることが判明した場合、特定されたモデルは、センサの読み取り値を使用するために使用さる。次に、キャリパの剛性が放物線、三次曲線、または指数曲線の代わりに直線曲線としてよりよく識別される可能性がある、センサによってカバーされる領域の外側であるキャリパの動作範囲の上部でモデルを拡張するために、識別されたモデルを使用して直線外挿を実行する。
【0066】
言い換えれば、
図3から分かるように、モデルが動作範囲の下部のみに適合する場合、この下部では曲線は非線形特性、例えば放物線または三次特性を有する。上部(破線で表される)は、下部の最終セクションの傾きから出発してモデルから外挿され、外挿は線形特性を有する。
【0067】
剛性モデリングモジュール120は、様々な戦略に従ってモデル同定ルーチンを実行するように構成することができる。
【0068】
第1の形態は、力センサからモータらされる新しい情報を使用して、新しいブレーキシステム制御サイクル毎にリアルタイムでモデルを識別することである。
【0069】
第2の形態によれば、モデルの同定は、制動イベント中に予め定義された中間的な力の閾値に達したとき(すなわち、センサの閾値を下回ったとき)にのみ実行される。中間的な力の閾値は一定の間隔(例えば1000N毎)で選択してもよいし、最大の非直線性がある領域内のサンプル数を増やし、曲線がより直線的またはほぼ直線的なサンプル数を減らすことによって分散させてもよい。
【0070】
第3の形態によれば、モデルの同定は、力センサからすべてのデータを収集した後、例えばアクチュエータが制動していないときに、制動イベントごとに1回実行される。
【0071】
いくつかの実施形態では、キャリパ剛性モデリングモジュールは、モデルフィッティングステップ中に、使用されるデータに関連する陳腐化パラメータを追加するように構成される場合がある。実際、制動イベントの大半が発生するキャリパの動作範囲の下部では利用可能なデータが多く、高いレベルの力ではデータが少ないことがある。従って、高いレベルの力に関連するデータは、システムが制御している制動イベントよりもずっと以前に発生した制動イベントに関連する古いデータである可能性もある。
【0072】
したがって、フィッティングアルゴリズムは、モデリングステップ中に、利用可能なデータに関連する陳腐化パラメータを導入することにより、最新のデータが古いデータよりも大きな重みを持つようにすることができる。これにより、モデル推定プロセスでは、センサの全動作範囲に関する利用可能な情報を使用することができるが、例えば、パッドの摩耗やディスクおよびキャリパの熱影響による剛性の変化により敏感に反応することができる。
【0073】
モデル同定ルーチンの実行頻度の選択は、モデルを頻繁に更新する必要性と計算負荷の最適化との間のトレードオフから生じる可能性があることに留意すべきである。
【0074】
あらかじめ定義されたクランプ力閾値への到達に関する情報を提供するためにのみ構成または使用される二値力センサ104を採用する
図2に示す実施形態では、剛性モデル120は電子制御システム構成ステップ中に、すなわち「オフライン」モードで取得される。例えば、この場合、キャリパアクチュエータピストンの位置とキャリパクランプ力の測定は、力ランプ中に外部センサによって実行され、収集されたデータは、剛性モデルのパラメータを決定するために使用される。
【0075】
バイナリーフォースセンサ104は、言い換えれば、クランプ力の有無を感知する。感知される力はパッドとディスクの接触力であってもよい。センサは、例えば、力がある所定の閾値を超えたときに、力の存在を検知する。この閾値を超えると、推定モジュールは、アクチュエータセンサ102から受信した情報の関数として推定力値FSを得るように、剛性モデリングモジュール120(
図2では制御システムの外部に表されている)によって提供されたモデルを適用する。
【0076】
この場合、制御システム100は、剛性モデリングモジュール120から「オフラインで」得られた剛性モデルが記憶される記憶モジュール122を構成することができる。記憶モジュール122は力推定モジュール110によってアクセス可能である。
【0077】
必要な力が減少したときに、クランプ力の増加の曲線が力の減少の曲線と一致しないように、剛性モデリングモジュールは、キャリパに存在するヒステリシス効果を考慮するように構成される。
【0078】
より詳細には、一実施形態では、剛性モデリングモジュールは、力を増加させるフェーズについてのみ剛性モデルを特定し、予め定義された量だけモデルを並進させることによって曲線の減少フェーズを導出することによって、このヒステリシス効果を実施するように構成される。
【0079】
キャリパのヒステリシス効果を含むピストン位置の関数としての剛性曲線Fxを
図4に示す。クランプ力の減少段階が注目されるが、これは実質的に上昇段階の変化と同じである。
図4aは、同じ剛性曲線を時間の関数として示す。実施形態の変形例では、力センサからの情報を使用して、ブレーキイベントの適用段階と解除段階の両方で、2つのモデルが識別される。
【0080】
いずれの場合も、一旦2つの曲線が得られると、モデリングモジュールは、特定の力モジュレーションが必要とされ、アクチュエータが力増加フェーズから力減少フェーズへ、またはその逆へ方向を変えるときに、2つの曲線を接続するようなメカニズムを実装するように構成される。
【0081】
特に、
図5に示すように、モデリングアルゴリズムは、キャリパの実際の挙動に基づいて、線形挙動、放物線曲線、三次曲線、指数曲線、またはフィルタとして識別され、モデル化され得るいくつかの追加遷移曲線を実装する。
【0082】
このメカニズムを適切に実装するために、モデリングモジュールは、電気機械式または電気油圧式アクチュエータAEのピストンの位置(または他の関連情報)を検出するセンサから、アクチュエータの移動方向(適用中または解放中)に関する情報を受け取ることができる。
【0083】
いくつかの実施形態では、力センサ104は、電気機械式又は電気油圧式アクチュエータに機械的に統合される。このような統合は代替実施形態に従って実施されるかもしれない。
【0084】
例えば、一実施形態では、力センサは、クランプ力閾値を超える印加力を常に受ける。この実施形態では、センサは永久変形や損傷なしにキャリパ力の全範囲に耐えるように機械的に設計されなければならない。測定される力に関しては、インターフェースのフルスケールに達する閾値までしか測定できないように設計することができる(最大分解能を提供するソリューション)。あるいは、センサはより広いインターフェーススケールを持つが、閾値以上の精度の低い測定値を提供することもできる。
【0085】
一実施形態では、センサは、センサの感応部にクランプ力の閾値までしか応力がかからないような機械的設計と一体化されている。この解決策により、センサの感応部は、キャリパの全力範囲に耐えることができる機械的構造を必要とすることなく、閾値までの1つの力のみに耐えるように設計することができる。
【0086】
次に
図6のブロック図を参照して、本発明による車両のブレーキシステムの制御方法500を説明する。
【0087】
方法500は、象徴的な開始ステップSTRを含んでいる。
【0088】
本方法は、キャリパセンサによって検出可能なクランプ力閾値FTを予め決定すること(502)を含み、かかる閾値FTは、キャリパによって実行可能な最大クランプ力値よりも低い。
【0089】
上述のように、クランプ力閾値FTは、センサ読み取り範囲の最大値であってもよいし、キャリパセンサの精度の関数として選択される閾値であってもよい。
【0090】
方法500は、基準力(FR)の値を受信するステップ(506)を含む。
【0091】
いくつかの実施形態では、基準力(FR)の値は、制動要求(RF)に基づいて、基準力(FR)の値を生成(502)する車両制御モジュール101によって受信(504)される。
【0092】
キャリパによって加えられるクランプ力とキャリパアクチュエータの位置とを関係付ける理論的な剛性曲線によって定義されるキャリパ剛性モデルを、キャリパ剛性モデリングモジュールによって特定する(508)ステップを含む。
【0093】
基準力FRの値が閾値FTよりも高い場合、本方法は、力推定モジュール120によって、キャリパ剛性モデルおよび電気機械アクチュエータの位置に相関する情報を使用して、推定クランプ力値FSを推定する(510)ステップを含む。
【0094】
本方法はまた、ブレーキ制御モジュール130によって、推定クランプ力値FSおよび基準力値FRに基づいてアクチュエータ制御信号を生成する(512)ステップを含む。
【0095】
キャリパセンサが、少なくともゼロから閾値FTまでの読み取り範囲を有する一実施形態において、基準力FRの値が閾値FTよりも低い場合、方法は、ブレーキ制御モジュールによって、キャリパセンサによって測定された実際のクランプ力値FAに基づいてアクチュエータ制御信号SCを生成する(512')ステップを備える。
【0096】
キャリパセンサが少なくともゼロから閾値までの読み取り範囲を有する一実施形態では、508を特定するステップは、キャリパアクチュエータ状態情報の関数としてキャリパセンサによって検出されたクランプ力情報に基づいて実行される。
【0097】
一実施形態では、508を特定するステップは、キャリパの全動作範囲にわたって放物線型、三次型または指数型の理論剛性曲線を生成することからなる。
【0098】
一実施形態の変形例では、508を特定するステップは、閾値までの力の範囲において、放物線型、三次曲線型または指数関数型の第1のセクションと、第1の曲線セクションの最終部分の傾きから始まる線形外挿によって得られる、閾値を超える第2の線形セクションとを有する理論的剛性曲線を生成することからなる。
【0099】
本方法の一実施形態では、508を特定するステップは、キャリパセンサによって提供される情報を取得する新しいサイクル毎にリアルタイムで実行される。
【0100】
本方法の一実施形態の変形例では、508を識別するステップは、制動イベント中にキャリパセンサによって提供された複数の情報を使用して、制動イベントの終了時に実行される。
【0101】
本方法のさらなる実施形態の変形例では、識別ステップ508は、閾値までの力の範囲内で所定の力のサブ閾値を超えるたびに、制動イベント中に実行される。
【0102】
本方法の一実施形態において、識別するステップ508は、力推定器モジュールによって、キャリパセンサによって提供された最新のクランプ力情報により大きな重みを割り当てるステップを含んでいる。
【0103】
本方法の一実施形態の変形例では、クランプ力が所定の閾値に達したときにクランプ力存在情報を提供するのに適したバイナリーキャリパセンサが使用される。
【0104】
本方法の一実施形態において、識別ステップ508は、キャリパヒステリシス効果を推定するステップをさらに含み、前記推定するステップは、力印加の位相を表す理論剛性曲線の所定量の並進を含む。
【0105】
一実施形態の変形例では、ヒステリシス効果を推定するステップは、制動イベント解除段階中のキャリパセンサによるキャリパのクランプ力の検出に基づいている。
【0106】
以下、上述した制御方法および関連システムのいくつかの利点を強調する。
【0107】
キャリパの動作範囲全体に測定を拡張するために、読み取り範囲が限定されたセンサと力推定アルゴリズムとの組み合わせを使用することは、より高い範囲のセンサを使用するか、または力の推定値のみを使用する先行技術の解決策と比較して、いくつかの利点がある。
【0108】
力推定アルゴリズムのみを使用する選択と比較して、力センサも使用することで、接触点を正確に検出することができ、部品の熱影響、摩耗、経年劣化によるパラメータと剛性の分散を正しく識別することができる。
【0109】
さらに、電気機械式キャリパのパッド摩耗の推定はより正確であり、低レベルの力におけるコーナー制御はより高い精度を有し、それによってドライバにより良い経験を提供する。
【0110】
最大読み取り範囲のセンサを使用する場合と比較して、限定された範囲のセンサを使用することで、最も重要な領域である低レベルの力における精度と分解能を最適化することができる。さらに、読み取り範囲が制限されたセンサは、含まれる力に耐えるように設計される可能性があり、そのため、BBWシステムアクチュエータにより適したパッケージングが削減され、製造コストの面でも最適化される。
【0111】
最後に、提案された解決策により、力の範囲が異なる様々なアプリケーションに対して、容易に拡張可能な力センサを採用することができる。同じ物理的センサは、常に同じクランプ力の閾値を測定し、受けるが、閾値以上の力を推定するアルゴリズムだけは、スケールを拡張し、全動作範囲に適応させるためにカスタマイズが必要な場合がある。
【0112】
本発明によるブレーキシステムの制御方法およびシステムの実施形態に対して、当業者は、偶発的なニーズを満たすために、以下の特許請求の範囲から逸脱することなく、要素の変更、適合、および機能的に等価なものへの置き換えを行うことができる。可能な実施形態に属するものとして記載された各特徴は、他の記載された実施形態から独立して得ることができる。
【国際調査報告】