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特表2024-535916穴拡げ性及び延性に優れた高強度厚物鋼板及びその製造方法
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  • 特表-穴拡げ性及び延性に優れた高強度厚物鋼板及びその製造方法 図1
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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公表特許公報(A)
(11)【公表番号】
(43)【公表日】2024-10-02
(54)【発明の名称】穴拡げ性及び延性に優れた高強度厚物鋼板及びその製造方法
(51)【国際特許分類】
   C22C 38/00 20060101AFI20240925BHJP
   C22C 38/38 20060101ALI20240925BHJP
   C21D 9/46 20060101ALI20240925BHJP
【FI】
C22C38/00 301S
C22C38/38
C21D9/46 G
【審査請求】有
【予備審査請求】未請求
(21)【出願番号】P 2024518912
(86)(22)【出願日】2022-09-21
(85)【翻訳文提出日】2024-03-26
(86)【国際出願番号】 KR2022014116
(87)【国際公開番号】W WO2023048467
(87)【国際公開日】2023-03-30
(31)【優先権主張番号】10-2021-0126999
(32)【優先日】2021-09-27
(33)【優先権主張国・地域又は機関】KR
(81)【指定国・地域】
(71)【出願人】
【識別番号】522492576
【氏名又は名称】ポスコ カンパニー リミテッド
(74)【代理人】
【識別番号】100083806
【弁理士】
【氏名又は名称】三好 秀和
(74)【代理人】
【識別番号】100111235
【弁理士】
【氏名又は名称】原 裕子
(74)【代理人】
【識別番号】100195257
【弁理士】
【氏名又は名称】大渕 一志
(72)【発明者】
【氏名】チョ、 キュン-レ
(72)【発明者】
【氏名】キム、 スン-キュ
(72)【発明者】
【氏名】パク、 ジュン-ホ
(72)【発明者】
【氏名】ハン、 サン-ホ
(72)【発明者】
【氏名】キム、 ジョン-フン
【テーマコード(参考)】
4K037
【Fターム(参考)】
4K037EA01
4K037EA02
4K037EA05
4K037EA06
4K037EA11
4K037EA15
4K037EA16
4K037EA18
4K037EA19
4K037EA23
4K037EA25
4K037EA27
4K037EA31
4K037EB05
4K037EB08
4K037EB12
4K037FA02
4K037FA03
4K037FC07
4K037FE01
4K037FE02
4K037FE03
4K037FG00
4K037FH01
4K037FJ01
4K037FJ05
4K037FK01
4K037FK02
4K037FK03
4K037FK08
4K037FL00
(57)【要約】
本発明は、自動車用素材として好適な鋼に関し、具体的に、穴拡げ性及び延性に優れた高強度厚物鋼板及びその製造方法に関する。
【特許請求の範囲】
【請求項1】
重量%で、炭素(C):0.05~0.12%、マンガン(Mn):2.0~3.0%、シリコン(Si):0.5%以下(0%は除く)、クロム(Cr):1.0%以下(0%は除く)、ニオブ(Nb):0.1%以下(0%は除く)、チタン(Ti):0.1%以下(0%は除く)、ボロン(B):0.003%以下(0%は除く)、アルミニウム(sol.Al):0.02~0.05%、リン(P):0.05%以下(0%は除く)、硫黄(S):0.01%以下(0%は除く)、窒素(N):0.01%以下(0%は除く)、鉄(Fe)及びその他の不可避不純物を含み、
微細組織として、面積分率10~30%のフェライト、10~25%の再結晶フェライトブリッジ(bridge)、20~30%のベイナイト及び残部マルテンサイトを含む、穴拡げ性及び延性に優れた高強度厚物鋼板。
【請求項2】
前記再結晶フェライトブリッジ(bridge)は、平均円相当直径が1~6μmである、請求項1に記載の穴拡げ性及び延性に優れた高強度厚物鋼板。
【請求項3】
前記鋼板は、マルテンサイト相を面積分率15%以上で含む、請求項1に記載の穴拡げ性及び延性に優れた高強度厚物鋼板。
【請求項4】
前記鋼板は、残留オーステナイト相を面積分率3%以下(0%を含む)でさらに含む、請求項1に記載の穴拡げ性及び延性に優れた高強度厚物鋼板。
【請求項5】
前記鋼板は、引張強度980MPa以上、降伏強度550~700MPa、総伸び率14%以上である、請求項1に記載の穴拡げ性及び延性に優れた高強度厚物鋼板。
【請求項6】
前記鋼板は、穴拡げ率(HER)が30%以上である、請求項1に記載の穴拡げ性及び延性に優れた高強度厚物鋼板。
【請求項7】
前記鋼板は、1~3mmの厚さを有する、請求項1に記載の穴拡げ性及び延性に優れた高強度厚物鋼板。
【請求項8】
重量%で、炭素(C):0.05~0.12%、マンガン(Mn):2.0~3.0%、シリコン(Si):0.5%以下(0%は除く)、クロム(Cr):1.0%以下(0%は除く)、ニオブ(Nb):0.1%以下(0%は除く)、チタン(Ti):0.1%以下(0%は除く)、ボロン(B):0.003%以下(0%は除く)、アルミニウム(sol.Al):0.02~0.05%、リン(P):0.05%以下(0%は除く)、硫黄(S):0.01%以下(0%は除く)、窒素(N):0.01%以下(0%は除く)、鉄(Fe)及びその他の不可避不純物を含む鋼スラブを準備する段階と、
前記鋼スラブを1100~1300℃の温度範囲で加熱する段階と、
前記加熱された鋼スラブを熱間圧延して熱延鋼板を製造する段階と、
前記熱延鋼板を400~700℃の温度範囲で巻き取る段階と、
前記巻き取り後、熱延鋼板を常温まで冷却する段階と、
前記冷却された熱延鋼板を55~80%の冷間圧下率で冷間圧延して冷延鋼板を製造する段階と、
前記冷延鋼板を連続焼鈍処理する段階と、
前記連続焼鈍後650~700℃の温度範囲まで1~10℃/sの平均冷却速度で1次冷却する段階と、
前記1次冷却後450~500℃の温度範囲まで5~50℃/sの平均冷却速度で2次冷却する段階と、を含み、
前記連続焼鈍は、加熱帯、均熱帯及び冷却帯が備えられた設備で行い、前記冷延鋼板を加熱帯に昇温する際、600~700℃で1~3分間維持する再結晶帯を経ることを特徴とする、穴拡げ性及び延性に優れた高強度厚物鋼板の製造方法。
【請求項9】
前記熱間圧延は、出口側温度Ar3以上~1000℃以下で仕上げ熱間圧延するものである、請求項8に記載の穴拡げ性及び延性に優れた高強度厚物鋼板の製造方法。
【請求項10】
前記巻き取り後の冷却は、0.1℃/s以下(0℃/sを除く)の冷却速度で行うものである、請求項8に記載の穴拡げ性及び延性に優れた高強度厚物鋼板の製造方法。
【請求項11】
前記加熱帯及び均熱帯は、790~850℃の温度範囲に制御される、請求項8に記載の穴拡げ性及び延性に優れた高強度厚物鋼板の製造方法。
【請求項12】
前記2次冷却後、過時効処理する段階をさらに含み、
前記過時効処理は200~800秒間行うものである、請求項8に記載の穴拡げ性に優れた高強度厚物鋼板の製造方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、自動車用素材として好適な鋼に関し、具体的には、穴拡げ性及び延性に優れた高強度厚物鋼板及びその製造方法に関する。
【背景技術】
【0002】
最近、自動車産業分野では、CO排出に対する環境規制及びエネルギー使用に対する規制により、燃費向上または耐久性向上のために高強度鋼の使用が求められている。
【0003】
特に、自動車の衝撃安定性に対する規制が拡大するにつれて、車体の耐衝撃性を向上するためのメンバ(member)、シートレール(seat rail)、ピラー(pillar)等のような構造部材の素材として強度に優れた高強度鋼が採用されている。
【0004】
このような自動車部品は、安定性、デザインに応じて複雑な形状を有し、主にプレス金型で成形して製造するため、高強度と共に高レベルの成形性が要求される。
【0005】
ところが、鋼の強度が高いほど衝撃エネルギーの吸収に有利な特徴を有する一方、一般に強度が高くなると伸び率が減少し、成形加工性が低下するという問題点がある。さらに、降伏強度が過度に高い場合には、成形時に金型において素材の流入が減少するため成形性が低下し、製造コストが上昇するという問題がある。
【0006】
また、自動車部品には、穴を加工した後に拡張する成形部位が多数あるため、円滑な成形のためには穴拡げ性(Hole Expandability、HER)が要求されるが、高強度鋼は穴拡げ性が低いため、成形中にクラック(crack)のような欠陥が発生するという問題がある。このように、穴拡げ性が低下すると、自動車の衝突時に、部品成形部でクラックが発生して部品が破壊されやすく、搭乗者の安全が脅かされるおそれがある。また、搭乗者の安全性に対する基準が高くなるにつれて、一部の自動車メーカーを中心に剛性確保のための厚物材の採用も着実に増加している。
【0007】
一方、自動車用素材に使用される高強度鋼としては、代表的に、二相組織鋼(Dual Phase Steel、DP鋼)、変態誘起塑性鋼(Transformation Induced Plasticity Steel、TRIP鋼)、複合組織鋼(Complex Phase Steel、CP 鋼)、フェライト-ベイナイト鋼(Ferrite Bainite steel、FB鋼)などがある。
【0008】
超高張力鋼であるDP鋼は、およそ0.5~0.6レベルの低い降伏比を有するため加工が容易であり、TRIP鋼に次いで高い伸び率を有するという利点がある。よって、主にドアアウター、シートレール、シートベルト、サスペンション、アーム、ホイールディスクなどに適用されているのが実情である。
【0009】
TRIP鋼は0.57~0.67の範囲の降伏比を有することから、優れた成形性(高延性)を示すという特徴があり、よって、メンバ、ループ、シートベルト、バンパーレールなどのような高成形性が要求される部品に好適である。
【0010】
CP鋼は、低降伏比と共に高い伸び率と曲げ加工性により、サイドパネル、アンダーボディ補強材などに適用され、FB鋼は、穴拡げ性に優れるため、主にサスペンションロアアームやホイールディスクなどに適用される。
【0011】
そのうち、DP鋼は主に延性に優れたフェライト及び強度の高い硬質相(マルテンサイト相、ベイナイト相)で構成され、微量の残留オーステナイトが存在することができる。このようなDP鋼は降伏強度が低く、引張強度が高いため、降伏比(Yield Ratio、YR)が低く、高い加工硬化率、高延性、連続降伏挙動、常温耐時効性、焼付硬化性などに優れる特性を有する。また、各相(phase)の分率と再結晶度、分布均一度などを制御することにより、穴拡げ性の高い高強度鋼として製造することができる。
【0012】
ところが、引張強度980MPa以上の超高強度を確保するためには、強度向上に有利なマルテンサイト相のような硬質相(hard phase)の分率を高めなければならないが、この場合、降伏強度が上昇してプレス成形中にクラック(crack)等の欠陥が発生するという問題がある。
【0013】
一般に自動車用DP鋼は、製鋼及び連鋳工程によってスラブを作製した後、このスラブに対して[加熱-粗圧延-仕上げ熱間圧延]を行って熱延コイルを得た後に焼鈍工程を経て最終製品として製造する。
【0014】
ここで、焼鈍工程は主に冷延鋼板の製造時に行われる工程であって、冷延鋼板は熱延コイルを酸洗浄して表面スケール(scale)を除去し、常温で一定の圧下率で冷間圧延した後、焼鈍工程及び必要に応じて更なる調質圧延工程を経て製造される。
【0015】
冷間圧延して得られた冷延鋼板(冷延材)は、それ自体が非常に硬化した状態であって、加工性が要求される部品の作製には不適であるため、後続工程として、連続焼鈍炉内での熱処理により軟質化させて加工性を向上させることができる。
【0016】
一例として、焼鈍工程は、加熱炉内で鋼板(冷延材)を約650~850℃に加熱した後、一定時間維持することにより、再結晶及び相変態現象によって硬度を下げて加工性を改善することができる。
【0017】
焼鈍工程を経ていない鋼板は、硬度、特に、表面硬度が高く加工性が不足するのに対し、焼鈍工程が行われた鋼板は再結晶組織を有することにより、硬度、降伏点、抗張力が低くなり加工性の向上を図ることができる。
【0018】
DP鋼の降伏強度を下げる代表的な方法として、連続焼鈍時に加熱工程でフェライトを完全に再結晶させて等軸晶形態に製造することにより、後続工程においてオーステナイトの生成及び成長の際に等軸晶形態となるようにし、粒子サイズが小さく均一なオーステナイト相を形成することが有利である。
【0019】
そして、厚物材の場合には、一定の圧下率を確保するために熱延厚さを相対的に厚く確保しなければならないため、後続の冷間圧延時に負荷が大きく操業性が低下するという問題がある。厚物材を製造する際に圧下率が低いと、焼鈍中にフェライト未再結晶による組織の不均一度が大きくなって降伏強度が高くなり、冷間圧延の方向性が微細組織に維持されることで、加工性が低下するという問題がある。したがって、厚物材の場合、寸法の特性上、厚さ方向への材質ばらつきが大きくならざるを得ないため、加工性及び利用物性を向上させるために、できるだけ材質を均質化処理する技術が求められる。
【0020】
一方、特許文献1では、Ti、Mo等を活用して微細析出物を形成し、微細組織として、フェライト、ベイナイト及びマルテンサイト相で構成することにより、穴拡げ性及び伸び率の確保が可能であると開示している。
【0021】
ところが、この文献は、微細析出物を形成するための炭素とベイナイトを導入するために過度に添加されるシリコンにより溶接性及び液状金属脆化(LME)の問題がある。さらに、軟質相と硬質相との間の硬度差などによる問題が依然として存在し、高い穴拡げ性のためにベイナイト相を過剰な分率で形成することにより降伏強度が高く、加工が困難であり、伸び率に劣るという欠点がある。
【0022】
前述の従来技術から察するに、厚物高強度鋼の伸び率及び穴拡げ性などのような成形性を同時に向上させるためには、鋼内に均一な組織を形成しながら、降伏強度は下げるとともに、加工性を向上させることができる方法の開発が求められる。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0023】
【特許文献1】韓国公開特許第10-2021-0095156号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0024】
本発明の一態様は、自動車構造部材用等に好適な素材として、低い降伏比、高い強度を有しつつ、延性の向上により穴拡げ性等の成形性に優れた高強度厚物鋼板及びそれを製造する方法を提供しようとするものである。
【0025】
本発明の課題は、上述した内容に限定されない。本発明の課題は、本明細書の内容全体から理解することができ、本発明が属する技術分野において通常の知識を有する者であれば、本発明の更なる課題を理解する上で何ら困難がない。
【課題を解決するための手段】
【0026】
本発明の一態様は、重量%で、炭素(C):0.05~0.12%、マンガン(Mn):2.0~3.0%、シリコン(Si):0.5%以下(0%は除く)、クロム(Cr):1.0%以下(0%は除く)、ニオブ(Nb):0.1%以下(0%は除く)、チタン(Ti):0.1%以下(0%は除く)、ボロン(B):0.003%以下(0%は除く)、アルミニウム(sol.Al):0.02~0.05%、リン(P):0.05%以下(0%は除く)、硫黄(S):0.01%以下(0%は除く)、窒素(N):0.01%以下(0%は除く)、鉄(Fe)及びその他の不可避不純物を含み、
微細組織として、面積分率10~30%のフェライト、10~25%の再結晶フェライトブリッジ(bridge)、20~30%のベイナイト及び残部マルテンサイトを含む、穴拡げ性及び延性に優れた高強度厚物鋼板を提供する。
【0027】
本発明の他の一態様は、鋼スラブを準備する段階と、上記鋼スラブを1100~1300℃の温度範囲で加熱する段階と、上記加熱された鋼スラブを熱間圧延して熱延鋼板を製造する段階と、上記熱延鋼板を400~700℃の温度範囲で巻き取る段階と、上記巻き取り後、熱延鋼板を常温まで冷却する段階と、上記冷却された熱延鋼板を55~80%の冷間圧下率で冷間圧延して冷延鋼板を製造する段階と、上記冷延鋼板を連続焼鈍処理する段階と、上記連続焼鈍後650~700℃の温度範囲まで1~10℃/sの平均冷却速度で1次冷却する段階と、上記1次冷却後450~500℃の温度範囲まで5~50℃/sの平均冷却速度で2次冷却する段階と、を含み、
上記連続焼鈍は、加熱帯、均熱帯及び冷却帯が備えられた設備で行い、上記冷延鋼板を加熱帯に昇温する際に600~700℃で1~3分間維持する再結晶帯を経ることを特徴とする、穴拡げ性及び延性に優れた高強度厚物鋼板の製造方法を提供する。
【発明の効果】
【0028】
本発明によれば、高強度を有するにもかかわらず、穴拡げ性に優れ、成形性と衝突抵抗性が向上した厚物鋼板を提供することができる。
【0029】
このように、成形性が向上した本発明の鋼板は、プレス成形時にクラックまたはシワ等の加工欠陥を防止することができるため、複雑な形状への加工が要求される構造用等の部品に好適に適用する効果がある。さらに、そのような部品が適用された自動車が不可避に衝突する場合、クラック等の欠陥が発生しにくいように耐衝突性が向上した素材を製造する上でも効果的である。
【図面の簡単な説明】
【0030】
図1】本発明の一実施例に係る連続焼鈍時の熱履歴及び相変態履歴を示すものである。図1において、破線は従来の連続焼鈍時の熱履歴を示し、実線は本発明に係る連続焼鈍時の熱履歴を示すことを明らかにする。
図2】(a)は組織内のボイド(void)形成機構を示し、(b)は本発明の一実施例に係る発明例における組織内の界面強化機構を示すものである。
図3】本発明の一実施例に係る比較例の微細組織写真を示すものである。
図4】本発明の一実施例に係る発明例の微細組織写真を示すものである(図4における矢印は、再結晶フェライトブリッジ(bridge)組織を表したものである)。
【発明を実施するための形態】
【0031】
本発明の発明者らは、自動車用素材のうち複雑な形状への加工が要求される部品等に好適に使用できるレベルの成形性を有する素材を開発するために鋭意研究した。
【0032】
特に、本発明者らは、相対的に冷間圧下率が低くならざるを得ない自動車用厚物鋼板において、硬質相間の割れ抵抗性を高めることができる組織構成を導出するとともに、ボイド(void)の生成及び伝播防止に有利な硬質相の微細化及び結晶粒形状の制御により目標とする条件が達成できることを確認し、本発明を完成するに至った。
【0033】
特に、本発明は、硬質相の一方向性が除去されるように上記硬質相を互いに連結する構造を有する再結晶フェライトブリッジ(bridge)を導入し、このような組織を形成するにあたり、合金組成及び製造条件を最適化することに技術的意義がある。
【0034】
以下、本発明について詳細に説明する。
【0035】
本発明の一態様に係る穴拡げ性及び延性に優れた高強度厚物鋼板は、重量%で、炭素(C):0.05~0.12%、マンガン(Mn):2.0~3.0%、シリコン(Si):0.5%以下(0%は除く)、クロム(Cr):1.0%以下(0%は除く)、ニオブ(Nb):0.1%以下(0%は除く)、チタン(Ti):0.1%以下(0%は除く)、ボロン(B):0.003%以下(0%は除く)、アルミニウム(sol.Al):0.02~0.05%、リン(P):0.05%以下(0%は除く)、硫黄(S):0.01%以下(0%は除く)、窒素(N):0.01%以下(0%は除く)を含むことができる。
【0036】
以下では、本発明で提供する高強度厚物鋼板の合金組成を上記のように制限する理由について詳細に説明する。
【0037】
一方、本発明で特に断らない限り、各元素の含量は重量を基準とし、組織の割合は面積を基準とする。
【0038】
炭素(C):0.05~0.12%
炭素(C)は、固溶強化のために添加される重要な元素であり、このようなCは析出元素と結合して微細析出物を形成することにより鋼の強度向上に寄与する。
【0039】
上記Cの含量が0.12%を超えると、硬化能が増加し、鋼を製造する際、冷却中にマルテンサイトが形成されることで強度が過度に上昇する一方、伸び率の減少を招くという問題がある。また、溶接性に劣り、部品への加工時に溶接欠陥が発生するおそれがある。一方、上記Cの含量が0.05%未満であると、目標レベルの強度確保が困難になる。
【0040】
したがって、上記Cは0.05~0.12%を含むことができる。より有利には0.06%以上で含むことができ、0.10%以下で含むことができる。
【0041】
マンガン(Mn):2.0~3.0%
マンガン(Mn)は、鋼中の硫黄(S)をMnSとして析出させ、FeSの生成による熱間脆性を防止し、鋼の固溶強化に有利な元素である。
【0042】
このようなMnの含量が2.0%未満であると、上述の効果が得られないだけでなく、目標レベルの強度確保に困難がある。一方、その含量が3.0%を超えると、溶接性、熱間圧延性などにおける問題が発生する可能性が高いとともに、硬化能の増加によって、より容易にマルテンサイトが形成されるため、延性が低下するおそれがある。また、組織内にMn-Band(Mn酸化物帯)が過度に形成されて加工クラックのような欠陥が発生する危険が高まるという問題がある。そして、焼鈍時にMn酸化物が表面に溶出してめっき性を大きく阻害するという問題がある。
【0043】
したがって、上記Mnは2.0~3.0%で含むことができる。より有利には、2.2%以上、2.8%以下で含むことができる。
【0044】
シリコン(Si):0.5%以下(0%は除く)
シリコン(Si)は、フェライト安定化元素であって、フェライト変態を促進して目標レベルのフェライト分率を確保するのに有利である。また、固溶強化能が良く、フェライトの強度を高めるのに効果的であり、鋼の延性を低下させることなく強度を確保する上で有用な元素である。
【0045】
このようなSiの含量が0.5%を超えると、固溶強化効果が過度になり、むしろ延性が低下し、表面スケール欠陥を誘発してめっきの表面品質に悪影響を及ぼす。また、化成処理性を阻害するという問題がある。
【0046】
したがって、上記Siは0.5%以下で含むことができ、0%は除くことができる。より有利には0.1%以上で含むことができる。
【0047】
クロム(Cr):1.0%以下(0%は除く)
クロム(Cr)は、冷却中に硬化能効果を発揮してベイナイト相の形成を容易にし、焼鈍熱処理時にマルテンサイト相の形成を抑制する一方、微細な炭化物を形成して強度の向上に寄与する元素である。
【0048】
また、本発明では、上記Crを適正レベルで含有することにより、加熱中にフェライト安定化元素として作用してオーステナイト相変態反応を遅延させつつ、より高い温度で相変態が開始するため、加熱中に再結晶のみが起こる領域(Trex~A1)に長く滞留する。その結果、再結晶フェライトブリッジ組織を確保することができる。
【0049】
上記Crの含量が1.0%を超えると、意図する再結晶フェライトブリッジが形成されず、鋼の延性及び穴拡げ性が減少し、粒界に炭化物が形成される場合には強度及び伸び率に劣るおそれがある。また、製造コストが上昇するという問題がある。
【0050】
したがって、上記Crは1.0%以下で含むことができ、0%は除くことができる。より有利には0.01%以上で含むことができる。
【0051】
ニオブ(Nb):0.1%以下(0%は除く)
ニオブ(Nb)は、オーステナイト粒界に偏析し、焼鈍熱処理時にオーステナイト結晶粒の粗大化を抑制し、微細な炭化物を形成して強度向上に寄与する元素である。
【0052】
このようなNbの含量が0.1%を超えると、粗大な炭化物が析出し、鋼中における炭素量の低減により強度及び伸び率に劣る可能性があり、製造コストが上昇するという問題がある。
【0053】
したがって、上記Nbは0.1%以下で含むことができ、0%は除くことができる。
【0054】
チタン(Ti):0.1%以下(0%は除く)
チタン(Ti)は、微細炭化物を形成する元素であって、降伏強度及び引張強度の確保に寄与する。また、Tiは鋼中のNをTiNとして析出させ、鋼中に不可避に存在するAlによるAlNの形成を抑制する効果があり、連続鋳造時にクラックの発生可能性を低減させる効果がある。
【0055】
このようなTiの含量が0.1%を超えると、粗大な炭化物が析出し、鋼中における炭素量の低減により強度及び伸び率が減少するおそれがある。また、連続鋳造時にノズル詰まりを誘発するおそれがあり、製造コストが上昇するという問題がある。
【0056】
したがって、上記Tiは0.1%以下で含むことができ、0%は除くことができる。
【0057】
ボロン(B):0.003%以下(0%は除く)
ボロン(B)は、焼鈍熱処理後に冷却する過程でオーステナイトがパーライトに変態することを遅延させる元素であるが、その含量が0.003%を超えると、Bが表面に過剰に濃化してめっき密着性の劣化を招く可能性がある。
【0058】
したがって、上記Bは0.003%以下で含むことができ、不可避に添加されるレベルを考慮して0%を除くことができる。
【0059】
アルミニウム(sol.Al):0.02~0.05%
アルミニウム(sol.Al)は、鋼の粒度微細化効果及び脱酸のために添加する元素であって、その含量が0.02%未満であると、安定した状態でアルミニウムキルド鋼を製造することができない。一方、その含量が0.05%を超えると、結晶粒が微細化して強度が向上する効果があるが、製鋼の連鋳操業時に介在物の過剰な形成により、めっき鋼板の表面不良が発生するおそれが高くなる。
【0060】
したがって、上記sol.Alは0.02~0.05%で含むことができる。
【0061】
リン(P):0.05%以下(0%は除く)
リン(P)は、固溶強化効果が最も大きい置換型元素であって、面内異方性を改善し、成形性を大きく低下させることなく強度を確保するのに有利な元素である。しかし、このようなPを過剰に添加する場合、脆性破壊が発生する可能性が大きく増加し、熱間圧延中にスラブの板破断が発生する可能性が増加し、めっき表面特性を阻害するという問題がある。
【0062】
したがって、本発明では、上記Pの含量を0.05%以下に制御することができ、不可避に添加されるレベルを考慮して0%を除くことができる。
【0063】
硫黄(S):0.01%以下(0%は除く)
硫黄(S)は、鋼中の不純物元素として不可避に添加される元素であり、延性を阻害するため、その含量をできるだけ低く管理することが好ましい。特に、Sは赤熱脆性を発生させる可能性を高めるという問題があるため、その含量を0.01%以下に制御することが好ましい。但し、製造過程中に不可避に添加されるレベルを考慮して0%は除くことができる。
【0064】
窒素(N):0.01%以下(0%は除く)
窒素(N)は固溶強化元素であるが、その含量が0.01%を超えると、脆性が発生する危険性が高くなり、鋼中のAlと結合してAlNを過剰に析出させるため、連鋳品質を阻害するおそれがある。
【0065】
したがって、上記Nは0.01%以下で含むことができ、不可避に添加されるレベルを考慮して0%は除くことができる。
【0066】
本発明の残りの成分は鉄(Fe)である。但し、通常の製造過程では、原料または周囲環境から意図しない不純物が不可避に混入する可能性があるため、これを排除することはできない。これらの不純物は、通常の製造過程における技術者であれば、誰でも分かるものであるため、本明細書では、その全ての内容については特に言及しない。
【0067】
上述した合金組成を有する本発明の鋼板は、微細組織として軟質相(soft phase)であるフェライトと、硬質相(hard phase)であるベイナイト及びマルテンサイト相と共に、上記硬質相を連結して形成される再結晶フェライトブリッジ(bridge)組織で構成されることができる。
【0068】
本発明において、再結晶フェライトブリッジの生成による微細組織相の最も大きい変化は、既存のフェライトの圧延方向性の消失及び硬質相周辺の連結の程度が大きいということである。また、加熱中に再結晶フェライトブリッジの形成により、逆変態オーステナイトの生成位置が減少し、高温におけるオーステナイトの生成が遅延され、冷却後のより小さいサイズの2次相を生成することができる。未再結晶フェライト領域は、圧延方向性が存在する延伸された組織であり、不規則な粗い界面として残っており、再結晶フェライトブリッジ粒界は、多角形状の滑らかな界面を有するという特徴がある。上記再結晶フェライトブリッジを決定する方法は、例えば、EBSD結晶方位(electron backscatter diffraction orientation)で区分することができ、又は過酸化水素水水溶液(ex.蒸留水140ml、過酸化水素100ml、シュウ酸4g、硫酸2ml、フッ酸1.5ml)でエッチングして光学的に区分することができる。
【0069】
具体的に、本発明の鋼板は、フェライト相を面積分率10~30%、再結晶フェライトブリッジ(bridge)相を面積分率10~25%で含み、硬質相である20~30%のベイナイト及び残部マルテンサイト相を含むことができる。それに加えて、微量の残留オーステナイト相を含むことができる。
【0070】
本発明において、上記再結晶フェライトブリッジ(bridge)相は、硬質相の一方向性を解消して硬質相の結晶粒界に沿って発生するボイド(void)、このボイドの伝播を抑制するのに有利な組織であって、既存の粒状フェライト(polygonal ferrite)とは区別される組織である。
【0071】
また、上記再結晶フェライトブリッジ(bridge)は、一般的な再結晶フェライトとも区別される組織であって、相対的に粗大であり、好ましくは、円相当直径(equivalent circular diameter)を基準に平均1~6μmのサイズを有する。上記再結晶フェライトブリッジ相のサイズが1μm未満であると、硬質相の方向性を解消するのに困難があり、目的とする効果が得られない。一方、そのサイズが6μmを超えると、過度に粗大な組織となり、強度等の物理的性質が阻害されるおそれがある。
【0072】
図2に示すように、硬質相が方向性を有するように形成される場合(a)、結晶粒界に沿って形成されたボイド(void)の連結が容易になり、クラックの伝播が有利となる。一方、本発明で意図する組織(b)、特に再結晶フェライトブリッジ相が硬質相の一方向性は除去しながら、硬質相を互いに連結する構造として形成されると、ボイドが結晶粒界に沿って合体しにくくなるため、結果的にクラックの発生、その伝播を大きく抑制する効果がある。
【0073】
このような再結晶フェライトブリッジ(bridge)相の分率が過度に高いと、相対的に硬質相の分率が低くなり、目標レベルの強度を確保できなくなる。これを考慮して、上記再結晶フェライトブリッジ(bridge)相を25%以下で含むことができる。一方、その分率が10%未満であると、上述した効果(硬質相の一方向性の解消及びボイド伝播の抑制など)が十分に得られなくなり、穴拡げ性に劣るようになる。
【0074】
すなわち、本発明は、軟質相であるフェライト相と硬質相であるベイナイト相、マルテンサイト相以外に、再結晶フェライトブリッジ相を導入し、上記再結晶フェライトブリッジ相の形状及び分布を制御することにより成形性をさらに向上させることに技術的意義がある。
【0075】
上記フェライト相の分率が10%未満であると、鋼の延性確保に不利であり、一方、その分率が30%を超えると、相対的に硬質相の分率が低くなり、目標レベルの強度を確保する上で困難がある。
【0076】
上記ベイナイト相の分率が20%未満であると、強度確保に困難があるだけでなく、軟質相及びマルテンサイト相間の硬度差が大きくなるという問題がある。一方、その分率が30%を超えると、軟質相の分率が低くなり、延性の確保が困難になる。
【0077】
上記フェライト相、再結晶フェライトブリッジ(bridge)相とベイナイト相を除く組織のうちマルテンサイト相は、その分率については具体的に限定していないが、引張強度980MPa以上の超高強度を確保するために面積分率15%以上を含むことができる。但し、上記マルテンサイト相の分率が60%を超えると、延性が低下して目標レベルの成形性を確保しにくくなる。
【0078】
一方、上記残留オーステナイト相は、その分率が3%を超えないことが有利であり、0%であっても意図する物性の確保には無理がないことを明らかにする。
【0079】
上述した微細組織を有する本発明の高強度厚物鋼板は、引張強度980MPa以上、降伏強度550~700MPa、伸び率(総伸び率)が14%以上であり、高強度とともに高延性の特性を有することができる。
【0080】
また、上記鋼板は、30%以上の穴拡げ率(Hole Expansion Ratio、HER)を有することにより、加工時に発生し得るクラックに対する抵抗性及び衝突破断抵抗性に優れる効果がある。
【0081】
そして、本発明の高強度厚物鋼板は、その厚さが1~3mmであり、より好ましくは1.5~2.5mmの厚さを有することができる。
【0082】
以下、本発明の他の一態様に係る穴拡げ性及び延性に優れた高強度厚物鋼板を製造する方法について詳細に説明する。
【0083】
簡単に言えば、本発明は[鋼スラブ加熱-熱間圧延-巻き取り-冷間圧延-連続焼鈍]の工程を経て目的とする鋼板を製造することができ、以下、各工程について詳細に説明する。
【0084】
[鋼スラブ加熱]
まず、上述した合金組成を満たす鋼スラブを準備した後、これを加熱することができる。
【0085】
本工程は、後続する熱間圧延工程を円滑に行い、目標とする鋼板の物性を十分に得るために行われる。本発明では、このような加熱工程の条件については特に制限しておらず、通常の条件であれば構わない。一例として、1100~1300℃の温度範囲で加熱工程を行うことができる。
【0086】
[熱間圧延]
上記により加熱された鋼スラブを熱間圧延して熱延鋼板に製造することができ、このとき、出口側温度Ar3以上~1000℃以下で仕上げ熱間圧延を行うことができる。
【0087】
上記仕上げ熱間圧延の際、出口側温度がAr3未満であると、熱間変形抵抗が急激に増加し、熱延コイルの上(top)部、下(tail)部及びエッジ(edge)部が単相領域となり、面内異方性が増加して成形性が劣化するおそれがある。一方、その温度が1000℃を超えると、相対的に圧延荷重が減少して生産性には有利であるものの、厚い酸化スケールが発生するおそれがある。
【0088】
より具体的に、上記仕上げ熱間圧延は760~940℃の温度範囲で行うことができる。
【0089】
[巻き取り]
上記により製造された熱延鋼板をコイル状に巻き取ることができる。
【0090】
上記巻き取りは400~700℃の温度範囲で行うことができる。もし、巻取温度が400℃未満であると、マルテンサイトまたは再結晶フェライトブリッジ(bridge)相が過剰に形成され、熱延鋼板の過度な強度上昇を招き、以後の冷間圧延時、負荷による形状不良などの問題が生じる可能性がある。一方、巻取温度が700℃を超えると、表面スケールが増加して酸洗性が劣化するという問題がある。
【0091】
[冷却]
上記巻き取られた熱延鋼板を常温まで0.1℃/s以下(0℃/sを除く)の平均冷却速度で冷却することが好ましい。このとき、上記巻き取られた熱延鋼板は、移送、積置などの過程を経た後に冷却が行われることができるが、冷却前の工程がこれに限定されるものではないことを明らかにする。
【0092】
このように、巻き取られた熱延鋼板を一定速度で冷却を行うことにより、オーステナイトの核生成サイト(site)となる炭化物を微細に分散させた熱延鋼板を得ることができる。
【0093】
[冷間圧延]
上記により巻き取られた熱延鋼板を冷間圧延して冷延鋼板に製造することができ、本発明における上記冷間圧延は55~80%の冷間圧下率で行うことができる。
【0094】
本発明は、冷間圧延時に適正レベルの冷間圧下率を適用した状態で、後続の連続焼鈍工程時の加熱区間でフェライトの再結晶をさらに促進させることができ、これにより微細なフェライトの形成が誘導され、フェライト粒界に形成されるオーステナイトも小さくて均一に形成させることができる。
【0095】
上記冷間圧延時の圧下率が55%未満であると、フェライト再結晶が遅延されて微細かつ均一なオーステナイト相が得られにくくなる。一方、80%を超えると、過度な再結晶により降伏強度が低下しすぎて目標レベルの強度を確保できなくなる。より有利には78%以下で行うことができる。
【0096】
本発明において、上記冷間圧下率は、一定厚さを有する熱延厚物材からZRM設備の高い圧延能力(例えば、5000KN/mmレベル)で実現することができるだけでなく、リバーシングミル(reversing mill)を活用して繰り返し圧延によって目標圧下率を達成する工程も含むことができる。非限定的な例として、上記熱延厚物材は4~8mmの厚さを有することができ、上記熱延厚物材の厚さが6mm以上である場合にリバーシングミルを活用した冷間圧延工程を行うことができることを明らかにする。
【0097】
リバーシング圧延機は、一般に、薄物材の圧延に使用される圧延機の一種であって、一対のロール(roll)の間で素材を往復させながら圧延する圧延機を指し、上記素材の往復時の片道を1パスに設定することができる。
【0098】
本発明は、上記冷間圧延前に熱延鋼板を酸洗処理することができ、上記酸洗処理工程は通常の方法で行うことができることを明らかにする。
【0099】
[連続焼鈍]
上記により製造された冷延鋼板を連続焼鈍処理することが好ましい。上記連続焼鈍処理は、一例として、連続焼鈍炉(CAL)で行われることができる。
【0100】
通常、連続焼鈍炉(CAL)は、[加熱帯-均熱帯-冷却帯(徐冷帯及び急冷帯)-(必要に応じて、過時効帯)]で構成できるが、このような連続焼鈍炉に冷延鋼板を装入した後、加熱帯で特定の温度に加熱し、目標温度に到達した後、均熱帯で一定時間維持する工程を経ることになる。
【0101】
本発明では、上記連続焼鈍時の加熱帯と均熱帯の温度を同一に制御することができ、これは、加熱帯の終了温度と均熱帯の開始温度を同一に制御することを意味する(図1)。
【0102】
具体的に、上記加熱帯及び均熱帯の温度は790~850℃に制御することができる。
【0103】
上記加熱帯の温度が790℃未満であると、再結晶のための十分な入熱を加えることができなくなる。一方、その温度が850℃を超えると、生産性が低下し、オーステナイト相が過度に形成され、後続の冷却後に硬質相(hard phase)の分率が大きく増加し、鋼の延性に劣るおそれがある。
【0104】
また、上記均熱帯の温度が790℃未満であると、加熱帯の終了温度で過度な冷却が要求されるため、経済的に不利であり、再結晶のための熱量が不十分となるおそれがある。一方、その温度が850℃を超えると、オーステナイト分率が過度になり、冷却中に硬質相の増加により成形性が減少するおそれがある。
【0105】
上述した温度範囲内で均熱帯の温度を高くすると、最終組織における硬質相の分率を増加させて降伏強度を高めるとともに、ベイナイトの導入によって相間の硬度差を下げて穴拡げ率を向上させる。
【0106】
一方、本発明は、焼鈍過程において十分な再結晶を起こすことにより、再結晶フェライトブリッジ(bridge)の生成を誘導するという特徴がある。
【0107】
具体的に、本発明は、上記冷延鋼板を加熱帯の温度領域に昇温する際、中間温度で一定時間維持する再結晶帯を導入することができ、より好ましくは、600~700℃の温度範囲で1~3分間維持する工程を経ることが好ましい(図2の破線グラフ)。
【0108】
上記再結晶帯の温度が600℃未満であるか、維持時間が1分未満であると、フェライトの再結晶が十分ではないため、目標とした分率で再結晶フェライトブリッジ相を形成することができない。一方、その温度が700℃を超えるか、維持時間が3分を超えると、再結晶が過度になり強度の低下及び結晶粒の粗大化による物性低下のおそれがある。
【0109】
本発明は、上記再結晶帯工程により最終微細組織として、硬質相及び軟質相の適正分率と共に再結晶フェライトブリッジ(bridge)相を導入することで、強度を維持させながらも、亀裂靭性、言い換えれば、割れ抵抗性を強化させることにより加工性を向上させる効果を得ることができる。
【0110】
[段階的冷却]
上述したように、上記により連続焼鈍処理された冷延鋼板を冷却することで、目標とする組織を形成することができ、このとき、段階的(stepwise)に冷却を行うことが好ましい。
【0111】
本発明において、上記段階的冷却は、1次冷却-2次冷却からなることができ、具体的に、上記連続焼鈍後650~700℃の温度範囲まで1~10℃/sの平均冷却速度で1次冷却した後、450~500℃の温度範囲まで5~50℃/sの平均冷却速度で2次冷却を行うことができる。
【0112】
このとき、2次冷却に比べて1次冷却をより遅く行うことで、その後、相対的に急冷区間である2次冷却時の急激な温度低下による板形状不良を抑制することができる。
【0113】
上記1次冷却時の終了温度が650℃未満であると、低すぎる温度により炭素の拡散活動度が低く、フェライト内の炭素濃度が高くなる一方、オーステナイト内の炭素濃度が低くなるにつれて硬質相の分率が過度になって降伏比が増加し、それにより、加工時にクラックが発生する傾向が高くなる。また、均熱帯と冷却帯(徐冷帯)との間の冷却速度が大きくなりすぎて板の形状が不均一になるという問題が発生する。上記終了温度が700℃を超えると、後続冷却(2次冷却)時に過度に高い冷却速度が要求されるという欠点がある。
【0114】
また、上記1次冷却時の平均冷却速度が10℃/sを超えると、炭素拡散が十分に起こらなくなる。一方、生産性を考慮して上記1次冷却を1℃/s以上の平均冷却速度で行うことができる。
【0115】
上述したように1次冷却を完了した後には、一定以上の冷却速度で急冷(2次冷却)を行うことができる。このとき、2次冷却終了温度が450℃未満であると、鋼板の幅方向及び長さ方向に冷却ばらつきが発生し、板形状が劣化するおそれがある。一方、その温度が500℃を超えると、硬質相を十分に確保できなくなり、強度が低下する可能性がある。
【0116】
また、上記2次冷却時の平均冷却速度が5℃/s未満であると、軟質相の分率が過度になるおそれがある。一方、50℃/sを超えると、むしろ硬質相が不十分になるおそれがある。
【0117】
なお、必要に応じて、上記段階的冷却を完了した後に過時効処理を行うことができる。
【0118】
上記過時効処理は、上記2次冷却終了温度後に一定時間維持する工程であって、コイルの幅方向、長さ方向に均一な熱処理が行われることで形状品質を向上させる効果がある。このために、上記過時効処理は200~800秒間行うことができる。
【0119】
上記過時効処理は上記2次冷却終了直後に行うことができるため、その温度が上記2次冷却終了温度と同一であるか、又は上記2次冷却終了温度の範囲内であることができ、それより低い温度で行われることもできる。より有利には、300~450℃の温度範囲で行うことができることを明らかにする。
【0120】
前述のようにして製造された本発明の高強度厚物鋼板は、微細組織が硬質相及び軟質相で構成され、特に最適化された冷間圧延及び焼鈍工程によりフェライト再結晶を最大化することにより、最終的に再結晶されたフェライト基地に硬質相であるマルテンサイト相が均一に分布した組織を有することができる。さらに、硬質相が連結されるように相対的に粗大な再結晶フェライトブリッジ(bridge)相を導入することにより、加工時のクラック抵抗性を高める効果がある。
【0121】
このことから、本発明の厚物鋼板は、引張強度980MPa以上の高強度を有するにもかかわらず、低降伏比及び高延性の確保により、優れた穴拡げ性等の成形性を確保することができる。
【実施例
【0122】
以下、実施例を挙げて、本発明についてより詳細に説明する。しかし、このような実施例の記載は、本発明の実施を例示するためのものであり、このような実施例の記載によって本発明が限定されるものではない。本発明の権利範囲は、特許請求の範囲に記載された事項及びこれにより合理的に類推される事項によって決定されるものである。
【0123】
(実施例)
下記表1に示す合金組成を有する鋼スラブを作製した後、それぞれの鋼スラブを1200℃で1時間加熱した後、仕上げ圧延温度880~920℃で仕上げ熱間圧延して熱延鋼板を製造した。その後、それぞれの熱延鋼板を650℃で巻き取った後、0.1℃/sの冷却速度で常温に冷却した。その後、巻き取られた熱延鋼板について、下記表2に示す条件で冷間圧延及び連続焼鈍処理した後、段階的冷却(1次-2次)後360℃で520秒間過時効処理を行い、厚さ1.8mmの最終鋼板を製造した。
【0124】
このとき、段階的冷却時の1次冷却は3℃/sの平均冷却速度、2次冷却は20℃/sの平均冷却速度で行った。
【0125】
上記により製造されたそれぞれの鋼板について微細組織を観察し、引張及び加工特性と穴拡げ率等の加工工程の利用物性指数を評価した後、その結果を下記表3に示した。
【0126】
このとき、それぞれの試験片に対する引張試験は、圧延方向の垂直方向にJIS5号サイズの引張試験片を採取した後、ストレインレート(strain rate)0.01/sで引張試験を行った。
【0127】
一方、穴拡げ率(HER、%)測定試験は、ISO16630基準に従って行った。具体的に、試験片に円形の穴を打ち抜いた後、これを円錐型パンチを用いて拡張させる際、穴の縁に発生した割れが厚さ方向に貫通するまでの穴拡大量を初期の穴に対する割合で示した。このとき、試験片の寸法は120mm×120mm、クリアランス(clearance)は12%であり、パンチング孔径は10mm、パンチングホールディング荷重は20ton、試験速度は12mm/minに設定した。
【0128】
そして、組織相(phase)のうち硬質相に該当するベイナイト相はピクラール(picral)エッチング、マルテンサイト相はナイタル(nital)エッチング後、2000倍率、5000倍率でSEMを介して観察した。
【0129】
また、フェライト相及び再結晶フェライトブリッジ(phase)相などについても、ナイタルエッチング後のSEMとイメージ分析プログラム(Image analyzer program)を用いてそれぞれの分率を測定した。
【0130】
【表1】
【0131】
【表2】
【0132】
【表3】
【0133】
上記表1~3に示すように、鋼の合金組成と製造条件、特に、冷間圧延及び連続焼鈍工程が、本発明で提案する条件を全て満たす発明例1~6は、冷間圧延後の焼鈍過程において、フェライトの十分な再結晶により、硬質相が再結晶フェライトブリッジ(bridge)相によって連結されて形成された。これにより、高強度を有しながらも板状加工に適した降伏強度を有し、伸び率に優れていた。また、均質な硬質相の分布により穴拡げ性に優れ、目標レベルの成形性の確保が可能であることが確認できる。
【0134】
一方、鋼板の製造工程中、連続焼鈍時の加熱過程で再結晶帯を経ていない比較例1~4及び比較例6~9は、再結晶が十分に起こらなかったため、再結晶フェライトブリッジ相が不十分であった。このうち、連続焼鈍温度が相対的に低い比較例1~4は伸び率、穴拡げ性のうち少なくとも一つの物性に劣り、相対的に連続焼鈍温度が高い比較例6~9はベイナイト相が過度に形成され、降伏強度が過度に高く伸び率に劣っていた。
【0135】
比較例5及び10は、再結晶駆動のための焼鈍温度及び強度確保のための十分なオーステナイト安定度を有しているが、不足した圧下率により再結晶が十分に起こらなくなり、均一な組織を形成できなかった結果、伸び率に劣り、降伏強度が相対的に高くなった。
【0136】
また、2次冷却温度が非常に低い比較例11~14は、降伏強度が過度に高いため加工中にクラック発生の危険性が高く、再結晶フェライトブリッジ相が存在しないため、伸び率に劣っていた。
【0137】
図3は、比較例1、4-5及び9の微細組織写真、図4は、発明例1、3-4及び6の微細組織写真を示すものである。
【0138】
図3に示すように、比較例1、4、9は、連続焼鈍時の昇温過程で再結晶帯工程が導入されなかったため、再結晶フェライトブリッジ(bridge)による硬質相の連結構造をほとんど確認することができない。また、比較例5は、圧下率の不足により再結晶帯の分率が低く、低い駆動力のため再結晶が不足し、硬質相が互いに集まる構造に形成されることにより、クラック伝播抵抗性が低い組織を形成した。
【0139】
一方、図4に示すように、発明例は、再結晶帯工程により相対的に粗大な再結晶フェライトブリッジ(bridge)相が観察され、この相(phase)により硬質相の一方向性が解消されたことが分かる。
図1
図2
図3
図4
【国際調査報告】