(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公表特許公報(A)
(11)【公表番号】
(43)【公表日】2024-10-02
(54)【発明の名称】ベイナイト鋼およびその作製方法
(51)【国際特許分類】
C22C 38/00 20060101AFI20240925BHJP
C22C 38/38 20060101ALI20240925BHJP
C21D 9/46 20060101ALI20240925BHJP
【FI】
C22C38/00 301S
C22C38/38
C21D9/46 G
【審査請求】有
【予備審査請求】未請求
(21)【出願番号】P 2024519384
(86)(22)【出願日】2022-09-29
(85)【翻訳文提出日】2024-03-28
(86)【国際出願番号】 CN2022122455
(87)【国際公開番号】W WO2023051668
(87)【国際公開日】2023-04-06
(31)【優先権主張番号】202111168628.9
(32)【優先日】2021-09-30
(33)【優先権主張国・地域又は機関】CN
(81)【指定国・地域】
(71)【出願人】
【識別番号】302022474
【氏名又は名称】宝山鋼鉄股▲分▼有限公司
(74)【代理人】
【識別番号】110001195
【氏名又は名称】弁理士法人深見特許事務所
(72)【発明者】
【氏名】張 瀚 龍
(72)【発明者】
【氏名】陳 光
(72)【発明者】
【氏名】張 玉 龍
(72)【発明者】
【氏名】金 ▲シン▼ ▲イェン▼
(72)【発明者】
【氏名】柯 陽 林
【テーマコード(参考)】
4K037
【Fターム(参考)】
4K037EA01
4K037EA02
4K037EA06
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4K037FK01
4K037FK02
4K037FK03
4K037FK05
4K037FK08
(57)【要約】
本発明は、質量パーセントで、以下の化学成分を含むベイナイト鋼を開示した:C:0.10~0.19%、Si:0.05~0.45%、Mn:1.5~2.2%、B:0.001~0.0035%、Al:0.01~0.05%、Cr;0.05~0.40%、Mo:0.05~0.40%、Fe≧90%。鋼におけるC、Si、Mn、B、Al、Cr、Mo等の元素の含有量を合理的に制御することで、鋼には作製過程中で組織勾配を有する相が自発的に形成され、同時に鋼の焼入れ性が高まるため、ベイナイト鋼の強度および成形性が高まる。本発明はさらに、以下の工程を含む、上記ベイナイト鋼の作製方法を開示した:製錬および鋳造;熱間圧延;圧延後冷却および巻取;酸洗いおよび冷間圧延;焼鈍。本発明の作製方法では、厚さ方向に組織勾配を有するベイナイト鋼が得られ、このようなベイナイト鋼は良好な成形性を有する。
【特許請求の範囲】
【請求項1】
質量パーセントで、以下の化学成分を含む、ベイナイト鋼:C:0.10~0.19%、Si:0.05~0.45%、Mn:1.5~2.2%、B:0.001~0.0035%、Al:0.01~0.05%、Cr;0.05~0.40%、Mo:0.05~0.40%、Fe≧90%。
【請求項2】
TiおよびNbにおける少なくとも一つをさらに含み、Nb≦0.1%、Ti≦0.15%、請求項1に記載のベイナイト鋼。
【請求項3】
質量パーセントで、以下の化学成分を含む、ベイナイト鋼:C:0.10~0.19%、Si:0.05~0.45%、Mn:1.5~2.2%、B:0.001~0.0035%、Al:0.01~0.05%、Cr;0.05~0.40%、Mo:0.05~0.40%、残部はFe及び不可避的不純物である。
【請求項4】
前記不可避的不純物では、P≦0.015%、S≦0.004%、請求項3に記載のベイナイト鋼。
【請求項5】
前記ベイナイト鋼では、化学元素の質量パーセントがR=(Mn+Si)/(12*C+160*B)の関係を満たし、ただし、0.9≦R≦1.2、計算時には元素の質量パーセントのパーセント記号前の数値が当て嵌められる、請求項1または3に記載のベイナイト鋼。
【請求項6】
前記ベイナイト鋼では、化学元素の質量パーセントがQ=(C+Cr+Mo+Mn/2)/Rの関係を満たし、ただし、1.15≦Q≦1.5、計算時には元素の質量パーセントのパーセント記号前の数値が当て嵌められる、請求項5に記載のベイナイト鋼。
【請求項7】
前記ベイナイト鋼は、二層の表面層組織および一層のコア部組織を有し、前記コア部組織は前記二層の表面層組織の間にある、請求項1または3に記載のベイナイト鋼。
【請求項8】
前記ベイナイト鋼では、前記コア部組織の体積は、前記ベイナイト鋼体積の20%~50%を占め、残部は前記表面層組織である、請求項7に記載のベイナイト鋼。
【請求項9】
前記表面層組織は、針状ベイナイトおよび粒状炭化物析出相を含み、前記コア部組織は塊状ベイナイトおよび粒状炭化物析出相を含む、請求項7に記載のベイナイト鋼。
【請求項10】
前記針状ベイナイトおよび粒状炭化物析出相は、前記表面層組織体積の99%以上を占め、前記塊状ベイナイトおよび粒状炭化物析出相は、前記コア部組織体積の99%以上を占める、請求項9に記載のベイナイト鋼。
【請求項11】
前記ベイナイト鋼はさらに、二層の複相層を有し、前記二層の表面層組織および一層のコア部組織は中間層を構成し、前記中間層は前記二層の複相層の間にある、請求項7に記載のベイナイト鋼。
【請求項12】
前記ベイナイト鋼では、前記複相層の体積は前記ベイナイト鋼体積の2%~10%を占め、残部は前記中間層組織である、請求項11に記載のベイナイト鋼。
【請求項13】
前記複相層は、多角形フェライト、針状ベイナイトおよび粒状炭化物析出相を含み、多角形フェライトは、前記複相層体積の50%以下を占め、前記多角形フェライト、針状ベイナイトおよび粒状炭化物析出相は、合計で、前記複相層体積の99%以上を占める、請求項11に記載のベイナイト鋼。
【請求項14】
前記ベイナイト鋼の引張強度≧1000MPa、降伏強度≧800MPa、穴広げ率≧40%、破断伸び率≧12%、請求項1~13のいずれ一項に記載のベイナイト鋼。
【請求項15】
以下の工程を含む、請求項1~14のいずれ一項に記載のベイナイト鋼の作製方法:
製錬および鋳造;
熱間圧延;
圧延後冷却および巻取;
酸洗いおよび冷間圧延;
焼鈍。
【請求項16】
前記焼鈍工程は順に、加熱段階、徐冷段階、急冷段階、制御冷却段階および空冷段階を含み、制御冷却速度に関しては、制御冷却段階の冷却速度<徐冷段階の冷却速度<急冷段階の冷却速度、請求項15に記載のベイナイト鋼の作製方法。
【請求項17】
前記徐冷段階では、Q~10*Q℃/sの徐冷速度で徐冷温度720~800℃まで冷却し、化学元素の質量パーセントは、Q=(C+Cr+Mo+Mn/2)/R、1.15≦Q≦1.5、R=(Mn+Si)/(12*C+160*B)、0.9≦R≦1.2を満たし、式における各化学元素には、当該化学元素の質量パーセント含有量のパーセント記号前の数値が当て嵌められる、請求項16に記載のベイナイト鋼の作製方法。
【請求項18】
前記ベイナイト鋼の表面に冷却ガスを噴射することで冷却を行い、前記冷却ガスの噴射圧力は0.2*Q~QkPaとし、前記冷却ガス噴射の保持時間は5~20秒とする、請求項17に記載のベイナイト鋼の作製方法。
【請求項19】
前記徐冷段階では、Q~10*Q℃/sの徐冷速度で徐冷温度620~700℃まで冷却し、化学元素の質量パーセントは、Q=(C+Cr+Mo+Mn/2)/R、1.15≦Q≦1.5、R=(Mn+Si)/(12*C+160*B)、0.9≦R≦1.2を満たし、式における各化学元素には、当該化学元素の質量パーセント含有量のパーセント記号前の数値が当て嵌められる、請求項16に記載のベイナイト鋼の作製方法。
【請求項20】
前記ベイナイト鋼の表面に冷却ガスを噴射することで冷却を行い、前記冷却ガスの噴射圧力は0.05*Q~0.15*QkPaとし、前記冷却ガス噴射の保持時間は5~15秒とする、請求項19に記載のベイナイト鋼の作製方法。
【請求項21】
前記急冷段階では、10*Q~20*Q℃/sの急冷速度で急冷温度400~540℃まで冷却する、請求項17または19に記載のベイナイト鋼の作製方法。
【請求項22】
前記ベイナイト鋼の表面に二回に渡って冷却ガスを噴射することで冷却を行い、前記冷却ガスの第一噴射圧力は0.3*Q~1.5*QkPaとし、前記冷却ガスの第一保持時間は1~7秒とし、前記冷却ガスの第二噴射圧力は0.08*Q~0.2*QkPaとし、前記冷却ガスの第二保持時間は5~10秒とする、請求項21に記載のベイナイト鋼の作製方法。
【請求項23】
前記冷却ガスは還元性ガスおよび不活性ガスの混合物であり、前記還元性ガスは水素ガスであり、その体積分率は1%~8%であり、前記冷却ガスの温度は5~50℃とする、請求項18、20または22に記載のベイナイト鋼の作製方法。
【請求項24】
前記制御冷却段階では、制御冷却速度≦Q℃/s、制御冷却時間は100~200秒とし、前記制御冷却段階終了時に、前記ベイナイト鋼の制御冷却温度≧350℃、請求項16に記載のベイナイト鋼の作製方法。
【請求項25】
前記加熱段階では、≦50℃/sの加熱速度で均熱温度840~950℃まで加熱し、その後保温し、保温時間は60~180秒とする、請求項16に記載のベイナイト鋼の作製方法。
【請求項26】
前記作製方法のパラメータは、以下のいずれ一項を満たす、請求項15に記載のベイナイト鋼の作製方法:
前記熱間圧延工程では、加熱温度は1100~1230℃とし、仕上げ圧延開始温度は1050~1180℃とし、仕上げ圧延終了温度は870~930℃とする;
前記圧延後冷却および巻取工程では、冷却速度は30~150℃/sとし、巻取温度は540~620℃とする;
前記冷間圧延工程では、冷間圧延圧下率≧30%。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は冶金技術分野に関し、特にベイナイト鋼およびその作製方法に関する。
【背景技術】
【0002】
新世代自動車の開発コンセプトである「グリーン&セーフティ」に伴い、自動車構造部品に使用される鋼の強度はますます高くなり、次第に厚さ方向に異なる特性を持つ材料が求められている。例えば、材料の表面層は、高い硬度、耐摩耗性が求められ、もしくはフランジ加工成形のため表面層に高い組織均一性が求められる一方、鋼材全体として引張延び成形時にネッキングおよび破断が発生しないように、コア部が高度な塑性を持っていないといけない。または、材料が曲げ特性を一定程度有するように、表面層としては硬度が低い層状構造が必要とされる場合、フランジ加工および強度を保つため次表面層は均一な硬質相組織を持つ必要があり、塑性、靭性などを確保するためコア部はより柔らかい組織を持っている。それにより、材料が高強度を持っていると同時に、良好な曲げ、フランジ加工および引張延びなどの総合的な成形性を持っている。
【0003】
自動車業界では、厚さ方向の鋼材の異なる組織や性能の要求がますます高まっている間、従来の方法では、溶接、組み合わせ圧延などの方法で異なる成分または組織を有するスラブを使い、鋼材の厚さ方向に勾配を有する組織を獲得する。例えば、CN201210368300.6およびCN201310724615.4などは、金属の組み合わせ圧延を用いて厚さ方向の積層複合材を得た。しかし、この方法は複雑で、ペースが遅く、非常にコストがかかる。
【0004】
また、表面層脱炭の方法を利用して、表面層およびコア部に異なる組織構造を有する鋼板または帯鋼を得ようとする特許もある。例えば、帯鋼表面脱炭を利用して数ミクロンから数十ミクロンの脱炭層を形成させることで、上下の表面層組織が純フェライトまたはフェライト>50%の組織であるのに対し、コア部が他の単相組織または複相組織、例えばマルテンサイト、焼戻しマルテンサイトまたはベイナイト組織である。この方法は、自発的に厚さ方向に組織勾配を形成し、3層複合組織の高強度鋼板を得ることができるが、表面層およびコア部の強度または硬度の差が大きすぎ、表面層の強度または硬度が低すぎるため、当該種の製品の適用範囲(例えば自動車シートレール、ドライブシャフトなどの、表面層に高硬度が求められる分野、または耐疲労性が求められる分野)が大幅に制限され、その結果、材料は曲げ特性が良いが、伸び率および穴広げ率が高くなく、すなわち塑性およびフランジ加工性が悪い。一方、この方法では3層複合組織しか形成できず、さらに多くの層の組織を得ることはできない。
【発明の概要】
【課題を解決するための手段】
【0005】
従来技術における組織勾配の鋼板のコストが高く、3層を超える複合組織が得られないという問題に対し、本発明は降伏強度≧800MPa、引張強度≧1000MPa、破断伸び率≧12%、穴広げ率≧40%の力学的性質が得られるベイナイト鋼を提供し、また鋼板または帯鋼の厚さ方向に勾配を有する組織が形成されるため、材料は良好な総合的な成形性を有し、引張延性および穴広げフランジ加工性がいずれも良好であり、破断伸び率および穴広げ率がいずれも高く、全実施例の(破断伸び率*10+穴広げ率)≧170%。
【0006】
本発明のベイナイト鋼は、質量パーセントで、以下の化学成分を含む:C:0.10~0.19%、Si:0.05~0.45%、Mn:1.5~2.2%、B:0.001~0.0035%、Al:0.01~0.05%、Cr;0.05~0.40%、Mo:0.05~0.40%、Fe≧90%。
【0007】
ただし、各元素の設計主旨は以下の通りである:
C:本発明のベイナイト鋼では、元素Cは主に炭素鋼の組織相転移、炭化物サイズおよびベイナイト部分構造形態を制御し、材料の力学的特性に影響を与える。鋼中のC元素含有量が0.10%未満であると、鋼の強度が目標の要求を満たさない;また、鋼中のC元素含有量が0.19%を超えると、マルテンサイト組織と粗大なセメンタイトが生成されやすく、鋼板の性能が悪化する。さらに、本発明では、Cはさらにベイナイト部分構造形態に影響を与え、C含有量が高いほど針状ベイナイトが生成しやすい。そのため、本発明では、Cの質量パーセントは0.10~0.19%に制御される。好ましくは、Cの質量パーセントは0.13~0.17%とする。
【0008】
Si:本発明のベイナイト鋼では、Siは一定の固溶強化効果を有し、また鋼板の表面品質に影響する。鋼中のSi含有量が0.05%未満であると、十分な強化効果が得られにくい;また、鋼中のSi含有量が0.45%を超えると、酸化スケールまたはトラ模様の色差が形成されやすく、自動車用鋼板の表面品質には不利である。また、本発明では、Siはベイナイト部分構造形態に影響し、Si含有量が高いほど、多角形ベイナイトが形成しやすいため、本発明では、Siの質量パーセントは0.05~0.45%とする。好ましくは、Siの質量パーセントは0.05~0.35%とする。より好ましくは、Siの質量パーセントは0.15~0.3%とする。
【0009】
Mn:本発明のベイナイト鋼では、Mnは鋼の組織相転移の制御元素の一つであり、さらにベイナイト部分構造形態に影響し、Mn含有量が高いほど、多角形ベイナイトが形成しやすい。しかし注意する必要があるが、鋼のMn含有量が高すぎてはならず、鋼のMn含有量が高すぎる時、耐腐食性および溶接性が悪くなる。そのため、本発明では、Mnの質量パーセントは1.5~2.2%に制御される。好ましくは、Mnの質量パーセントは1.7~2.1%とする。
【0010】
B:本発明のベイナイト鋼では、Bは鋼のベイナイトの形成に貢献するだけでなく、さらに鋼板の強度と成形性に影響し、同時にベイナイト部分構造形態に影響する。B含有量が高いほど、針状ベイナイトが得られやすく、鋼板強度が高く、脆性ホウ化物がまた得られやすく、鋼板の穴広げ率に影響する。そのため、本発明では、Bの質量パーセントは0.001~0.0035%に制御される。
【0011】
Al:本発明によるベイナイト鋼において、Alはただ脱酸素元素として鋼中に添加され、それが鋼のO元素を除去し、鋼の性能および品質を確保できる。そのため、本発明のベイナイト鋼では、Alの質量パーセントは0.01~0.05%とする。従来技術では、Alは固溶強化効果の目的でフェライト形成元素および炭化物析出抑制元素として鋼に大量(≧0.1%)に添加され、またはAlの添加によって相転移温度(例えばA1、A3)、ベイナイト形成動力学および炭化物析出動力学を変えることで鋼材の相転移を変え、残留オーストナイトまたは無炭素ベイナイトを形成し、最終的に鋼材の強度を高める。しかし、本発明の成分制御および工程調節では総合的な成形性が良好であるベイナイト鋼が得られ、大量のAlの添加による無炭素ベイナイトの形成はかえて厚さ方向に形成されるベイナイト組織の勾配を破壊し、コスト上昇および連鋳生産の困難化に繋がるため、本発明では、Alの質量パーセントは0.01~0.05%の間に制御することで、コスト上昇または連鋳生産の困難化を避け、厚さ方向のベイナイト組織の勾配を形成させる。
【0012】
CrおよびMo:本発明のベイナイト鋼では、CrおよびMoは、Cと微細な分散炭化物析出相を形成でき、鋼板の強度をさらに高め、またCCT曲線におけるパーライトおよびフェライトの出現期に影響し、鋼板の焼入れ性を高め、厚さ方向の組織勾配の形成および異なる厚さ比例の制御のため、焼鈍工程における鋼板冷却速度とあわせてデザインできる。そのため、本発明では、CrおよびMoの質量パーセントは以下のようにする:0.05%≦Cr≦0.40%、0.05%≦Mo≦0.40%。
【0013】
本発明では鋼におけるC、Si、Mn、B、Al、Cr、Mo等の元素の含有量を合理的に制御することで、鋼には作製過程中で組織勾配を有する相が自発的に形成され、同時に鋼の焼入れ性が高まるため、ベイナイト鋼の強度および成形性が高まる。
【0014】
さらに、上記ベイナイト鋼では、TiおよびNbにおける少なくとも一つがさらに含まれ、ただし、TiおよびNbの質量パーセントは以下を満たす:Nb≦0.1%、Ti≦0.15%。
【0015】
TiおよびNb:本発明のベイナイト鋼では、TiおよびNbは任意な合金元素であり、それらを鋼に添加することで、微細に分散する炭化物析出相を形成し、組織結晶粒を微細化させ、鋼板の強度および成形性をさらに高める。そのため、本発明のベイナイト鋼では、NbおよびTiの質量パーセントは以下のようにする:Nb≦0.1%、Ti≦0.15%。上記合金元素の添加によって、材料のコストが増加するため、性能とコスト管理を総合的に考慮する上、本発明の技術案は、好ましく、NbとTiの少なくとも一つを鋼中に添加してもいい。一実施形態では、本発明のベイナイト鋼には、NbおよびTiは、Nbが質量パーセント含有量0.001~0.1%、Tiが質量パーセント含有量0.001~0.15%で含有される。
【0016】
一実施形態では、本発明のベイナイト鋼には、質量パーセントで、以下の化学成分が含まれる:C:0.10~0.19%、Si:0.05~0.45%、Mn:1.5~2.2%、B:0.001~0.0035%、Al:0.01~0.05%、Cr;0.05~0.40%、Mo:0.05~0.40%、残部はFe及び不可避的不純物である。
【0017】
さらに、上記不可避的不純物では、P≦0.015%、S≦0.004%。
PとSはいずれも鋼中の不純物元素であり、技術上可能である限り、より良い性能およびより優れた品質を有する調質鋼を得るために、鋼中の不純物元素の含有量をできるだけ減らすべきである。
【0018】
さらに、本発明のベイナイト鋼では、化学元素の質量パーセントが以下の関係を満たす:R=(Mn+Si)/(12*C+160*B)、ただし、0.9≦R≦1.2、式における各化学元素には、いずれも当該化学元素の質量パーセント含有量のパーセント記号前の数値が当て嵌められる。
【0019】
本発明では、R=(Mn+Si)/(12*C+160*B)が定義される。実験によると、この式で計算すると、理想の組織勾配を有するベイナイト鋼板/帯鋼構造を得るために、R値を一定の範囲に限定し、0.9≦R≦1.2に限定する必要がある。ただし、CおよびBが多いほど、針状ベイナイトが形成しやすく、MnおよびSiが多いほど、塊状ベイナイトが形成しやすい。そのため、CおよびB、MnおよびSiの含有量を合理にデザインすることで、鋼板および帯鋼を成分デザインの観点で針状ベイナイトと塊状ベイナイトの形成両方に有利である臨界状態、つまり本式の0.9≦R≦1.2の状態にすることができる。最適化される焼鈍工程とあわせることで、最終的には鋼板の厚さ方向に組織の勾配を形成できる。また、C、B含有量が低いものの、ベイナイト形成およびその形態への影響がより強いため、式には大きい係数を使うことで、MnおよびSiの高含有量とのバランスをとる。Mn、Siのベイナイト形成およびその形態への影響がC、Bより著しく弱いからである。本デザインでは、0.9≦R≦1.2のレベルは、勾配組織の形成に最も適す臨界レベルであり、Rが高すぎると、勾配組織における塊状層の厚さが大きすぎて針状層の厚さが小さすぎて、場合によっては針状層がないため組織の厚さ方向に勾配がなく、Rが低すぎると、勾配組織における針状層の厚さが大きすぎて塊状層の厚さが小さすぎて、場合によっては塊状層がないため組織の厚さ方向に勾配がない。そのため、本発明では、Rを0.9≦R≦1.2とすることで、鋼の厚さ方向に組織勾配および力学的性質を保障する。
【0020】
さらに、本発明のベイナイト鋼では、化学元素の質量パーセントは以下の関係を満たす必要がある:Q=(C+Cr+Mo+Mn/2)/R、ただし、1.15≦Q≦1.5、計算時には元素の質量パーセントのパーセント記号前の数値が当て嵌められる。
【0021】
本発明では、Q=(C+Cr+Mo+Mn/2)/Rが定義され、それが鋼の成分デザインをさらに導く。実験によると、1.15≦Q≦1.5の時、鋼は適切な焼入れ性及び組織勾配形成能力を有する。組織の勾配またはその層状構造は鋼板および帯鋼の厚さ方向に分布するため、鋼板および帯鋼の焼入れ性は同様に厚さ方向の勾配組織形成の最も重要な影響要因になり、本願では、C、Cr、Mo、Mnはいずれも鋼板および帯鋼の焼入れ性に影響し、これらの元素の含有量が高いほど、焼入れ性が強い。しかし、Mn含有量はその他の元素より一桁高く、焼入れ性への影響が相対的に弱いため、本式では、Mnのデザインは1/2の係数がつく。針状ベイナイトおよび塊状ベイナイトは、焼鈍工程における生成温度がやや違い、針状ベイナイトの生成温度がより低く、塊状ベイナイトの生成温度がより高いため、鋼板の焼入れ性が高いほど、針状ベイナイトの形成に有利で塊状ベイナイトの形成に不利であり、また逆もそうである。そのため、鋼板および帯鋼における針状ベイナイトと塊状ベイナイトの厚さ方向における割合が適切なサンドイッチを形成できるように、鋼板の成分デザインが塊状ベイナイトの形成に有利、つまりR値が高い時、より高い焼入れ性を加えることで針状ベイナイトの形成を促進する必要があり、また鋼板の成分デザインが針状ベイナイトの形成に有利、つまりR値が低い時、低い焼入れ性を加えることで塊状ベイナイトの形成を促進する必要がある。そのため、Q値の分子は帯鋼の焼入れ性を意味する合金含有量になり、高いほど焼入れ性が強い。分母は組織における塊状ベイナイトと針状ベイナイトの形成能力を意味するR値になり、その分子と分母の比、つまりQ値は焼鈍過程における塊状層と針状層の形成能力と最終的な比例に直接的に影響する。Q値が小すぎると、塊状ベイナイトの形成能力が強すぎて、最終的な組織には針状ベイナイトが形成しにくく、勾配組織が形成されにくい。Q値が大きすぎると、針状ベイナイト形成能力が強すぎて、最終的な組織には塊状ベイナイトが形成しにくく、同様に勾配組織が形成されにくい。
【0022】
さらに、上記ベイナイト鋼は二層の表面層組織および一層のコア部組織を有し、コア部組織は二層の表面層組織の間にある。
【0023】
さらに、ベイナイト鋼では、コア部組織の体積はベイナイト鋼体積の20%~50%を占め、残部は表面層組織である。
【0024】
さらに、表面層組織は針状ベイナイトおよび粒状炭化物析出相を含み、コア部組織は塊状ベイナイトおよび粒状炭化物析出相を含む。
【0025】
さらに、針状ベイナイトおよび粒状炭化物析出相は、表面層組織体積の99%以上を占め、塊状ベイナイトおよび粒状炭化物析出相は、コア部組織体積の99%以上を占める。
【0026】
具体的には、本発明の一実施例のベイナイト鋼では、
図1のように、鋼板または帯鋼の厚さ方向には3層構造があり、一方の表面から他方の表面までの組織はそれぞれ以下である:
表面層組織2:針状層、つまり針状ベイナイトおよび分散析出するナノメートル級、サブマイクロメートル級またはマイクロメートル級の粒状炭化物析出相を主とする組織であり、それらの全量が当該領域相に占める割合≧99%。厚さ方向に占める割合は25%~40%である。
【0027】
コア部組織1:塊状層、つまり塊状ベイナイトおよび分散析出するナノメートル級、サブマイクロメートル級またはマイクロメートル級の粒状炭化物析出相を主とする組織であり、それらの全量が当該領域相に占める割合≧99%。厚さ方向に占める割合は20%~50%である。
【0028】
表面層組織2:針状層、つまり針状ベイナイトおよび分散析出するナノメートル級、サブマイクロメートル級またはマイクロメートル級の粒状炭化物析出相を主とする組織であり、それらの全量が当該領域相に占める割合≧99%。厚さ方向に占める割合は25%~40%である。
【0029】
3層領域のベイナイト鋼厚さ方向に占める割合は全部100%である。
さらに、上記ベイナイト鋼は二層の複相層を有し、上記二層の表面層組織および一層のコア部組織は中間層を構成し、中間層は二層の複相層の間にある。
【0030】
さらに、ベイナイト鋼では、複相層の体積はベイナイト鋼体積の2%~10%を占め、残部は中間層である。
【0031】
さらに、複相層は多角形フェライト、針状ベイナイトおよび粒状炭化物析出相を含み、多角形フェライトは複相層体積の50%以下を占め、多角形フェライト、針状ベイナイトおよび粒状炭化物析出相は複相層体積の99%以上を占める。
【0032】
具体的には、本発明の一実施例のベイナイト鋼では、
図2のように、鋼板または帯鋼の厚さ方向には5層構造があり、一方の表面から他方の表面までの組織はそれぞれ以下である:
複相層3:多角形フェライト、針状ベイナイトおよび分散析出するナノメートル級、サブマイクロメートル級またはマイクロメートル級の粒状炭化物析出相を主とする組織(ただし多角形フェライト組織<50%)であり、多角形フェライト、針状ベイナイトおよび分散析出するナノメートル級、サブマイクロメートル級またはマイクロメートル級の粒状炭化物析出相の全量が当該領域相に占める割合≧99%。厚さ方向に占める割合は1%~5%である。
【0033】
表面層組織2:針状層、つまり針状ベイナイトおよび分散析出するナノメートル級、サブマイクロメートル級またはマイクロメートル級の粒状炭化物析出相を主とする組織であり、それらの全量が当該領域相全体に占める割合≧99%。厚さ方向に占める割合は25%~40%である。
【0034】
コア部組織1:塊状層、つまり塊状ベイナイトおよび分散析出するナノメートル級、サブマイクロメートル級またはマイクロメートル級の粒状炭化物析出相を主とする組織であり、それらの全量が当該領域相に占める割合≧99%。厚さ方向に占める割合は25%~40%である。
【0035】
表面層組織2:針状層、つまり針状ベイナイトおよび分散析出するナノメートル級、サブマイクロメートル級またはマイクロメートル級の粒状炭化物析出相を主とする組織であり、それらの全量が当該領域相に占める割合≧99%。厚さ方向に占める割合は25%~40%である。
【0036】
複相層3:多角形フェライト、針状ベイナイトおよび分散析出するナノメートル級、サブマイクロメートル級またはマイクロメートル級の粒状炭化物析出相を主とする組織(ただし多角形フェライト組織<50%)であり、多角形フェライト、針状ベイナイトおよび分散析出するナノメートル級、サブマイクロメートル級またはマイクロメートル級の粒状炭化物析出相の全量が当該領域相に占める割合≧99%。厚さ方向に占める割合は1%~5%である。
【0037】
5層領域の割合が全部で100%である。ただし、針状層の硬度が最も大きく、複相層の硬度が最も小さい。
【0038】
本発明のベイナイト鋼では、粒状炭化物析出相の直径≦5μm。炭化物析出相を制限するのは、穴広げ率の悪化を避けるためである。炭化物析出相サイズ>5μmの時、鋼板が穴広げフランジ加工変形を受ける時、または穴広げ率を測定する時では、炭化物と基材の結合場所に割れが発生しやすく、鋼板の穴広げ率低下や穴広げフランジ加工性能の悪化に繋がる。
【0039】
さらに、本発明のベイナイト鋼では、ベイナイト鋼の引張強度≧1000MPa、降伏強度≧800MPa、穴広げ率≧40%、破断伸び率≧12%。
【0040】
さらに、本発明のベイナイト鋼は優れた引張延性および穴広げフランジ加工性を有し、破断伸び率*10+穴広げ率≧170%。
【0041】
本発明はさらに、以下の工程を含む上記ベイナイト鋼の作製方法を提供する:
製錬および鋳造;
熱間圧延;
圧延後冷却および巻取;
酸洗いおよび冷間圧延;
焼鈍。
【0042】
従来の表面層脱炭素の方式で組織勾配を有するベイナイト鋼を作製しないため、本発明のベイナイト鋼は表面層強度および硬度がコア部を下回るという問題がない。
【0043】
さらに、上記作製方法のパラメータは、以下におけるいずれ一つを満たす:
熱間圧延工程では、加熱温度は1100~1230℃とし、仕上げ圧延開始温度は1050~1180℃とし、仕上げ圧延終了温度は870~930℃とする;
圧延後冷却および巻取工程では、冷却速度は30~150℃/sとし、巻取温度は540~620℃とする;
冷間圧延工程では、冷間圧延圧下率≧30%。
【0044】
上記作製方法では、焼鈍前工程は主に均一な成分および元の組織を有する鋼板または帯鋼を得るためのものであり、その後の焼鈍工程の実施が均一で安定した組織と特性を満たすことができるようにするためであるが、鋼板の特性に重要な役割を果たすのは焼鈍工程である。
【0045】
焼鈍工程を紹介する前に、以下の概念を紹介する必要がある:
本発明は、鋼板/帯鋼の厚さ方向の勾配組織のデザインを目的としているため、鋼板または帯鋼が厚さ方向に異なる温度範囲を有することは必然的または意図的であるが、鋼板または帯鋼の連続生産モードの制限により、温度検出および制御は、上下表面温度にのみ向けることができ、厚さ方向の他の位置の温度を検出することはできない。上表面および下表面の温度は追加的に区別されず、同じ工程に従って表面温度と呼ばれる。以下で記載される温度および冷却速度はいずれも表面温度および表面温度から計算される冷却速度を意味する。注意する必要があるのは、冷却時、表面温度、冷却速度、冷却時の噴射ガス圧力(冷却能力を示す)および鋼板の焼入れ性で鋼板または帯鋼の厚さ方向の温度分布を制御する。
【0046】
さらに、焼鈍工程は順に加熱段階、徐冷段階、急冷段階、制御冷却段階および空冷段階を含み、制御冷却速度は徐冷段階、急冷段階、制御冷却段階の三段階に以下を満たす:制御冷却段階<徐冷段階<急冷段階。
【0047】
さらに、加熱段階では、≦50℃/sの加熱速度で均熱温度840~950℃まで加熱し、その後保温し、保温時間は60~180秒に制御する。
【0048】
加熱段階では、≦50℃/sの加熱速度でベイナイト鋼を均熱温度840~950℃まで加熱し、60~180s保温する。ただし、加熱段階の加熱速度>50℃/s、または保温時間<60sだと、帯鋼組織の均一性が悪くなり、後続の厚さ方向の勾配組織の形成に影響する。また、温度が上記均熱温度下限未満だと、帯鋼は十分のベイナイト組織(針状ベイナイトであれ塊状ベイナイトであれ)が得られない。さらに、加熱速度は好ましく5~50℃/sである。保温時間>180s、またはさらに、均熱温度が950℃を超えると、帯鋼の結晶粒が粗大化され、鋼の成形性が悪化する。
【0049】
本発明では、厚さ方向に3層組織勾配を有するベイナイト鋼を形成するため、徐冷段階では、Q~10*Q℃/sの徐冷速度で徐冷温度720~800℃まで冷却し、化学元素の質量パーセントは、Q=(C+Cr+Mo+Mn/2)/R、1.15≦Q≦1.5、R=(Mn+Si)/(12*C+160*B)、0.9≦R≦1.2を満たし、式における各化学元素には、当該化学元素の質量パーセント含有量のパーセント記号前の数値が当て嵌められる。一実施形態では、当該徐冷却速度度は5Q~10Q℃/sとする。一実施形態では、当該徐冷却速度度は7Q~10Q℃/sとする。
【0050】
具体的には、本発明の実施例では、ベイナイト鋼の表面に冷却ガスを噴射する方法で徐冷を行う。例えば、冷却時、ベイナイト鋼の表面に冷却ガスを噴射することで冷却を行い、冷却ガス噴射圧力は0.2*Q~QkPaとし、冷却ガス噴射の保持時間は5~20秒とする。勿論、その他の可能な実施例では、例えば液体冷却などの方法で徐冷の目的を達成してもよく、Q~10*Q℃/sの徐冷速度で徐冷温度720~800℃まで冷却できればよい。この段階の主要目的は鋼板または帯鋼が幅方向で温度を均一にし、厚さ方向で温度を不均一にし、各位置とも組織転移を行わせないことである。
【0051】
この工程で徐冷速度を制御するのは、鋼板または帯鋼の幅方向に均一的な温度を実現するためであり、温度の制御は帯鋼の各位置とも相転移を行わせないためである。温度が低すぎると、オーストナイトが相転移で分解し、フェライトまたはパーライトが形成する可能性があり、温度が高すぎると、次の冷却段階の高精度制御に不利であり、厚さ方向の勾配組織の獲得に不利である。冷却ガスの鋼板または帯鋼表面への噴射圧力の制御および保持時間の制御は、いずれも帯鋼の厚さ方向の冷却不均一を制御するためであり、冷却ガスの鋼板または帯鋼表面への噴射圧力が0.2*QkPa未満で、または保持時間が5秒未満であると、冷却能力が不足し、帯鋼表面は設定温度に冷却できるものの、大部分の表面層以下の領域は高い温度にあるため、次の工程で厚さ方向に勾配組織を形成させることに不利であり、または次の段階で形成される勾配組織に針状ベイナイト領域が小さすぎてしまい、QkPaを超え、または保持時間が20秒を超えると、冷却能力が大きすぎてしまい、帯鋼のコア部温度が表面温度に接近もしくは到達し、次の工程で厚さ方向に勾配組織を形成させることに不利であり、または次の段階で形成される塊状ベイナイト区域領域が小さすぎてしまう。
【0052】
本発明では、厚さ方向に5層組織勾配を有するベイナイト鋼を形成するため、徐冷段階では、Q~10*Q℃/sの徐冷速度で徐冷温度620~700℃まで冷却し、化学元素の質量パーセントは、Q=(C+Cr+Mo+Mn/2)/R、1.15≦Q≦1.5、R=(Mn+Si)/(12*C+160*B)、0.9≦R≦1.2を満たし、式における各化学元素には、当該化学元素の質量パーセント含有量のパーセント記号前の数値が当て嵌められる。一実施形態では、当該徐冷却速度度は5Q~10Q℃/sとする。一実施形態では、当該徐冷却速度度は7Q~10Q℃/sとする。
【0053】
具体的には、本発明の実施例では、ベイナイト鋼の表面に冷却ガスを噴射する方法で徐冷を行う。例えば、冷却時、ベイナイト鋼の表面に冷却ガスを噴射することで冷却を行い、冷却ガス噴射圧力は0.05*Q~0.15*QkPaとし、冷却ガス噴射の保持時間は5~15秒とする。勿論、その他の可能な実施例では、例えば液体冷却などの方法で徐冷の目的を達成でき、ベイナイト鋼をQ~10*Q℃/sの徐冷速度で徐冷温度620~700℃まで冷却できる技術案であれば全部本願の範囲内にある。
【0054】
この工程では、620~700℃まで冷却するのは、鋼板または帯鋼の表面をフェライト転移温度区間に入らせるためであり、一定時間の保温で、鋼板または帯鋼の表面領域に一定含有量のフェライトが形成され、最終的に形成される表面層の複相層の準備になる。当該温度未満またはそれを超えることになると、帯鋼表面に一定含有量のフェライトの形成が保障されない。同様に、保持時間が短すぎると、または冷却速度が速すぎると、帯鋼表面のフェライトの生成が間に合わず、最終的には表面層の複相層が形成できない。逆に、保持時間が長すぎると、もしくは冷却速度が遅すぎると、帯鋼表面に形成されるフェライトの含有量が多すぎてしまい、厚さが厚すぎ、表面層の複相層の形成に不利であるだけでなく、急冷段階では浅い表面層に十分な針状ベイナイトが形成されず、後続の針状層の形成に影響する。
【0055】
鋼板または帯鋼の表面への冷却ガスの噴射圧力を0.05*Q~0.15*QkPaとするのは、帯鋼の表面に形成される多角形フェライトの厚さを制御するためである。当該圧力範囲で、保持時間も設定範囲に従う時、鋼板または帯鋼は実際に表面層領域しか620~700℃まで冷却してフェライト相領域に入らず、他の領域の温度はまだ700℃より高く、フェライト変態は起こらない(フェライトの形成も変態潜熱を放出するためである)。しかし、噴射される冷却ガスの圧力が高すぎると、鋼板または帯鋼の浅い表面層、ひいてはコア部の温度が低下し、後続の針状層および塊状層の形成に不利となる。噴射される冷却ガスの圧力が低すぎると、表面層に一定量の多角形フェライトを安定的に形成させることができず、その結果、表面層に複相層を安定的に形成させることができない。
【0056】
徐冷が終わった後、急冷段階では、厚さ方向に3層でも5層でも勾配組織を有するベイナイト鋼の形成には、いずれも10*Q~20*Q℃/sの急冷速度で急冷温度400~540℃まで冷却する必要がある。
【0057】
具体的には、本発明の実施例では、ベイナイト鋼の表面に冷却ガスを噴射する方法で急冷を行う。この段階では、冷却時にベイナイト鋼の表面に二回に渡って冷却ガスを噴射する必要があり、冷却ガスの第一噴射圧力は0.3*Q~1.5*QkPaとし、冷却ガスの第一保持時間は1~7秒とし、冷却ガスの第二噴射圧力は0.08*Q~0.2*QkPaとし、冷却ガスの第二保持時間は5~10秒とする。同様に、その他の可能な実施例では、例えば液体冷却などの方法で徐冷の目的を達成でき、この段階でベイナイト鋼を10*Q~20*Q℃/sの急冷速度で急冷温度400~540まで冷却できる技術案であれば全部本願の範囲内にある。
【0058】
さらに、焼鈍工程に用いられる冷却ガスは還元性ガスおよび不活性ガスの混合物である。好ましくは、当該混合物では、還元性ガスの体積分率は1%~8%である。一実施形態では、当該混合物における還元性ガスは水素ガスであり、その体積分率は1%~8%である。当該冷却ガスの温度は5~50℃に制御してもいい。
【0059】
本発明の一実施例では、鋼板または帯鋼の冷却はその表面に向かって冷却ガス(つまり還元性ガスおよび不活性ガスの混合物)を噴射することで行われ、還元性は水素ガスで実現できる。本発明では、不活性ガスとは実験条件下でベイナイト鋼と化学反応して鋼の組織を影響することのないガスである。具体的には、コスト節約のため、不活性ガスは全部窒素ガスであってもいい。冷却ガスの水素ガスの含有量と温度はさらに制御でき、具体的には表2に示される。ベイナイト鋼の冷却過程では、噴射ガスの圧力、冷却ガスの水素ガスの含有量および冷却ガスの温度等を制御することで、冷却能力または冷却強度を制御し、具体的な数値は鋼板または帯鋼の焼入れ性で確定する。同一実施例では、通常では冷却ガスにおける水素ガス含有量および冷却ガス温度は焼鈍工程に渡って変わらず、この時冷却強度、冷却速度と噴射ガス圧力は正の相関があり、例えば実施例1では、徐冷段階では、冷却ガス噴射圧力は0.6kPaであり、徐冷段階冷却速度は12.5℃/sであり、急冷段階では、冷却ガス第一噴射圧力は1kPaであり、その冷却速度は19.2℃/sである。異なる実施例では、冷却能力および冷却速度は冷却ガス噴射圧力、冷却ガスにおける水素ガス含有量および冷却ガス温度のいずれにも関係し、冷却ガスにおける水素ガス含有量が高いほど、冷却ガス温度が低く、冷却ガス噴射圧力が大きいほど、冷却能力が強く、冷却速度が速い。例えば、実施例7および実施例9のように、冷却ガス温度が等しいが、実施例9の冷却ガスにおける水素ガス含有量がより高く、冷却ガス噴射圧力がより大きいため、その冷却能力および冷却速度もより大きい。
【0060】
具体的には、この段階の反応の急冷温度および急冷速度の制御は、いずれも当該段階において鋼板および帯鋼をベイナイト相領域にさせるためである。温度が高すぎまたは低すぎると、鋼板または帯鋼には十分なベイナイトが形成できない。急冷速度を10*Q~20*Q℃/sに制御するのは、急冷速度をできるだけベイナイト相領域のCCT曲線のノーズ領域に近づかせるためであり、ベイナイト転移がより十分であり、速度がより速くなる。鋼板または帯鋼は、最初の製錬段階から、長い工程の生産過程の間では、一部の領域においては成分および組織の不均一性が現れるのは必然的であり、一部の領域では炭素当量が低すぎてしまい、またはオーストナイトの過冷が小さく、一部の領域では炭素当量が高すぎてしまい、またはオーストナイトの過冷が大きすぎてしまう。冷却速度が設定範囲未満だと、炭素当量が低い、またはオーストナイトの過冷が小さい領域において冷却速度が遅すぎてパーライト転移領域に入ってしまい、またはベイナイト転移速度が遅すぎてしまい転移が不充分になる。同様に、冷却速度が設定範囲より高くなると、炭素当量が低い、またはオーストナイトの過冷が大きい領域はベイナイト相領域を避けてマルテンサイト相領域に入り、またはベイナイト転移速度が遅すぎてしまい転移が不充分になる。これらはいずれも厚さ方向の勾配組織の形成失敗に繋がる。
【0061】
急冷段階の進行に影響する全部の要因には、冷却ガスの鋼板または帯鋼表面への噴射圧力がより重要である。まず、圧力を0.3*Q~1.5*QkPaに制御し、1~7秒保持するのは、鋼板または帯鋼の厚さ方向のコア部領域以外のところに針状ベイナイト層を形成するためであり、これらの領域はベイナイト相転移で変態潜熱を放出し、帯鋼の厚さ方向のコア部領域の温度は表面層および次表面層より高いため、コア部領域で塊状ベイナイトの形成への準備になる。この時、冷噴射ガス圧力または保持時間が設定範囲より低い場合、表面層および次表面層に針状ベイナイトの形成には不利であり、噴射圧力または保持時間が設定範囲より高い場合、冷却能力が強すぎてしまい、帯鋼の厚さ方向のコア部領域にも針状ベイナイトが形成するため、厚さ方向の勾配組織が形成できなくなる。その後はさらに噴射圧力を0.08*Q~0.2*QkPaに減らし、5~10秒維持することで、表面層および次表面層には依然として有効な冷却が得られ、針状ベイナイトが絶えずに形成でき、また冷却ガス圧力の減少と表面層および次表面層の変態潜熱の放出により、帯鋼の厚さ方向のコア部領域の温度がさらに下がらずか少し上がってしまい、帯鋼のコア部で塊状ベイナイトが形成する。最終的には厚さ方向に組織勾配を有する鋼板または帯鋼が形成される。
【0062】
急冷段階が終わった後、厚さ方向に3層もしくは5層組織勾配を有するベイナイト鋼を得るには、制御冷却工程をさらに行う必要がある。制御冷却段階では、制御冷却速度≦Q℃/s、制御冷却時間は100~200秒とし、制御冷却段階が終わる時にベイナイト鋼の制御冷却温度≧350℃。一実施形態では、制御冷却段階が終わる時にベイナイト鋼の温度は350~410℃である。
【0063】
鋼板または帯鋼の長時間制御冷却により、各ベイナイトの相転移が充分に終わり、設定温度下では、組織はゆっくりと安定に生成し、厚さ方向に組織勾配を有する鋼板または帯鋼が形成する。この段階では、制御冷却速度が設定値を超え、または最終的な鋼板または帯鋼の制御冷却温度が設定値未満だと、組織にマルテンサイトが形成し、鋼板または帯鋼の成形性能が悪化する。
【0064】
制御冷却段階が終わった後、ベイナイト鋼を室温まで空冷する。厚さ方向に組織勾配を有する鋼板または帯鋼が得られる。空冷段階はベイナイト鋼の組織に影響しない。
【0065】
前記の通り、本発明の一実施例では、5層の組織勾配を有するベイナイト鋼を得るために、制御徐冷段階の冷却パラメータを異なるものにすれば、従来の3層の勾配組織の上で、さらに表面層に複相層を形成し、厚さ方向に5層の勾配組織を有する鋼板または帯鋼を得ることができる。その後、さらに急冷段階、制御冷却段階を経て、ベイナイト鋼のその他の領域は同様に厚さ方向の位置の異なりで針状ベイナイトまたは塊状ベイナイトが発生する。最終的には、表面層にフェライトが含有される複相層、浅い表面層の針状層およびコア部の塊状層が形成でき、組織勾配を有する5層構造の鋼板または帯鋼が得られる。
【0066】
本発明による有益な効果は以下の通りである:
1.本発明はベイナイト鋼の合理的な元素成分デザインで、特に鋼におけるC、Si、Mn、Bの含有量を合理的に制御し、鋼におけるC、Cr、Mo、Mnの含有量を合理的に制御することで鋼の焼入れ性を最適化させ、鋼は作製過程中に自発的に組織勾配を有する相を形成し、ベイナイト鋼の強度および成形性が高まる。
【0067】
2.本発明はベイナイト鋼の製造方法を開示し、細かい焼鈍工程のデザインで、特に冷却段階の冷却ガス圧力および温度の制御により、適切な化学成分を有する鋼板/帯鋼は本発明の焼鈍条件下で自発的に3層または5層の組織勾配を形成する。本発明の技術案で得られるベイナイト鋼の引張強度≧1000MPa、降伏強度≧800MPa、穴広げ率≧40%、破断伸び率≧12%。
【図面の簡単な説明】
【0068】
【
図1】
図1は本発明の実施例において厚さ方向に3層構造を有する帯鋼の模式図である。
【
図2】
図2は本発明の実施例において厚さ方向に5層構造を有する帯鋼の模式図である。
【
図3】
図3は本発明の実施例7における針状層(上部)と複相層(下部)の間の遷移位置の金相組織写真である。
【
図4】
図4は本発明の実施例1における針状層(上部)と塊状層(下部)の間の遷移位置の金相組織写真である。
【発明を実施するための形態】
【0069】
以下、本発明の実施形態について特定の具体的な実施例を挙げて説明するが、当業者であれば、本明細書に開示された内容から、本発明のその他の利点や効果を安易に理解できる。本発明を好ましい実施例に関連して説明するが、これは本発明の特徴がこの実施形態のみに限定される意味ではない。逆に、実施形態と併せて本発明を説明する目的は、本発明の請求の範囲に基づいて延びられる他の選択や改変をカバーするためである。実際に、実施形態と共に発明を紹介する目的は、本発明の請求項に基づき、得られるその他の選択や改変をカバーするためである。本発明に対する深い見解を提供するために、以下の説明は、数多くの具体的な詳細を含んている。本発明は、これらの詳細がなくてもに実施できる。また、本発明の重点の曖昧化を避けるために、いくつかの具体的な詳細が説明から省略される。矛盾しない限り、本発明の実施例および実施例における特徴は互いに組み合わせることができる。
【0070】
実施例1~14および比較例1~6
本発明では、実施例1~14のベイナイト鋼を以下の工程で作製した:
工程1、製錬および鋳造;
工程2、熱間圧延:加熱温度は1100~1230℃とし、仕上げ圧延開始温度は1050~1180℃とし、仕上げ圧延終了温度は870~930℃とする;
工程3、圧延後冷却および巻取:冷却速度は30~150℃/sとし、巻取温度は540~620℃とする;
工程4、酸洗いで酸化スケールを除去する;
工程5、冷間圧延:必要とされる目標厚さを達成するため、冷間圧延圧下率≧30%とする。具体的には、本発明の実施例では、冷圧延後鋼板または帯鋼の厚さ≦2.2mm;
工程6、焼鈍。
【0071】
比較例1~6のベイナイト鋼も、製錬、連続鋳造、熱間圧延、圧延後冷却および巻取、酸洗いおよび冷間圧延、焼鈍工程により作製され、鋼における化学成分および作製過程のパラメータは表1~2に示される。
【0072】
表1には、実施例1~14および比較例1~3のベイナイト鋼の各化学元素の質量パーセントが示される。
【0073】
表2には、実施例1~14のベイナイト鋼及び比較例1~6の比較鋼の具体的なパラメータが示される。
【0074】
【0075】
【0076】
【0077】
実施例1~5、8、10~11ではそれぞれ厚さ方向に3層がある組織構造が得られ、上下表面層はいずれも針状層であり、コア部は塊状層である。実施例6~7、9、12~14ではそれぞれ厚さ方向に5層がある組織構造が得られ、上下表面層はいずれも複相層であり、上次表面層および下次表面層は針状層であり、コア部は塊状層である。本願のベイナイト鋼の組織では、針状層の硬度が最も大きく、複相層の硬度が最も小さく、塊状層の硬度は針状層および複相層の間である。そのため、3層複合の材料では、上下表面層の針状層は材料に高い表面硬度および表面降伏強度を与え、中部の塊状層はまた材料に高い靭塑性を与えるため、材料の表面硬度または疲労限度が求められ、同時に材料全体の靭塑性が求められる自動車部品、例えば自動車シートレール、ドライブシャフト等の構造件に相応しい。また、5層複合の材料では、上下表面層が相対的に柔らかい複相層は表面層に良好な局所成形性を与え、そして隣接の硬い針状層およびコア部の塊状層はまた材料に高い強度および良好な靭性を与えるため、強度および総合的な成形性が求められる部品、例えば自動車車台の制御アーム、三角アーム等の作製に使える。
【0078】
比較例1~3は成分デザインが発明から逸らし、厚さ方向に勾配がある組織を有する鋼板または帯鋼が得られなかった。比較例1では、R値が高すぎて、純塊状層組織しか得られず、比較例2~3では、R値が低すぎて、純針状層組織しか得られなかった。比較例4~6では鋼種Aが使われ、成分デザインは条件を満たすものの、製造工程における焼鈍工程は発明から逸らすため、厚さ方向に勾配がある組織を有する鋼板または帯鋼が得られなかった。ただし、比較例4では、徐冷段階での冷却ガス圧力がデザイン値を超えているため、鋼板または帯鋼の厚さ方向に渡って大きい割合のフェライトが形成し、また急冷段階でも、冷却ガス圧力がデザイン値を超えているため、鋼板または帯鋼の厚さ方向に渡って針状ベイナイトが形成し、塊状ベイナイトが形成できなかった。且つ鋼板または帯鋼には大きい割合のフェライトが優先的に形成したため、部分的に過冷オーストナイトに炭素が集まり、ベイナイト転移が発生せず、最終的に空冷段階で新しいマルテンサイトに転移するため、鋼板または帯鋼の厚さ方向に勾配がある組織が形成できず、成形性も悪い。比較例5では、急冷段階での冷却ガス圧力がデザイン値を超えているため、純針状ベイナイト組織しか得られず、比較例6では急冷段階での冷却ガス圧力がデザイン値に至っていないため、純塊状層組織しか得られなかった。
【0079】
図3は本発明の実施例7の下表面層領域を示し、具体的には針状層(上部)と複相層(下部)の間にある遷移位置の金相組織の写真(走査電鏡)である。図面の上部、つまりコア部に近い領域では、組織は典型的な針状ベイナイトであるため、当該領域から針状層になるのを意味する。図面の下部、つまり下表面に近い領域では、多角形フェライト、針状ベイナイトおよび分散析出したナノオーダー、サブマイクロオーダーまたはマイクロオーダーの粒状炭化物析出相が含まれるため、当該区域から表面層の複相層になるのを意味する。
【0080】
図4は本発明の実施例1のコア部で上表面層に近い領域を示し、具体的には針状層(上部)と塊状層(下部)の間にある遷移位置の金相組織の写真(走査電鏡)である。図面の上部、つまり上表面に近い領域では、組織中には大量の典型的な針状ベイナイトが含まれるため、当該区域から針状層になるのを意味する。図面の下部、つまりコア部に近い領域では、大量のベイナイトが塊状多角形の形態に転移、つまり当該領域に大量の塊状ベイナイトが形成するため、当該領域から塊状層になるのを意味する。
【0081】
表3では実施例1~14および比較例1~6のベイナイト鋼の力学的性質測定結果が示される。鋼材の降伏強度、引張強度、および破断伸び率を測定するための横JIS 5#引張試験片を採取し、GB/T 228.1-2010「金属材料の引張試験第1部:室温試験方法」を試験方法として採用する。鋼の穴広げ率を測定するために、鋼板の中央部を取った。穴広げ率は穴広げ試験で測定し、雄型で中心部に穴を有するサンプルを雌型に押入れ、板穴の縁部にネッキングもしくは貫通割れが現れるまでサンプルの中心穴を拡大させた。サンプル中心部の初期穴の作成方法および対応する初期穴縁部の品質が穴広げ率の測定結果に対し大きな影響を持つため、試験および測定方法はISO/DIS16630基準で定められた穴広げ率測定方法で実行し、中心初期穴は一次パンチブランキング穴抜き形式(初期穴縁部の品質が一番悪い加工方式に対応する)を採用した。従って、中心初期穴が二次パンチブランキング穴抜き形式、またはドリル穴またはリーマ穴形式で形成される場合、対応する穴広げ率は表に示す値に基づいて20%増加する。中心初期穴がワイヤーカットによって形成される場合、対応する穴広げ率は表に示す値に基づいて50%増加する。中心初期穴がレーザーブランキングによって形成される場合、対応する穴広げ率は表に示す値に基づいて80%増加する。
【0082】
【0083】
表3からわかるように、鋼板または帯鋼の成分及び工程がデザインを満たす時では、すべての実施例において降伏強度≧800MPa、引張強度≧1000MPa、破断伸び率≧12%、穴広げ率≧40%の力学的性質が得られ、また鋼板または帯鋼の厚さ方向に勾配を有する組織が形成されるため、材料は良好な総合的な成形性を有し、引張延性および穴広げフランジ加工性がいずれも良好であり、破断伸び率および穴広げ率がいずれも高く、全実施例の(破断伸び率*10+穴広げ率)≧170%。
【0084】
成分または工程がデザインを満たさない時、理想的な力学的性質が得られない。例えば、比較例1では、C、Mn含有量が下限未満であるため、材料の強度が低い。比較例2では、C含有量が上限を超えるため、材料の強度が大きすぎて成形性が極端に悪い。比較例3では、R値がデザイン下限未満であるため、鋼板または帯鋼にはコア部の塊状層が形成できず、組織全部が針状ベイナイトになり、穴広げ率が極端に高いものの、破断伸び率が悪い。比較例5も類似であり、工程がデザインを満たさない(前記の通り)ため、組織は同様に全部針状ベイナイトになり、穴広げ率が極端に高いものの、破断伸び率が悪い。この二組の比較例はいずれも成形性が「偏っている」ため、総合的な成形性が悪く(破断伸び率*10+穴広げ率)<170%。比較例4および6も、工程がデザインを満たさない(前記の通り)ため、厚さ方向に勾配を有する組織が形成できず、成形性が「偏っている」ため、総合的な成形性が悪く(破断伸び率*10+穴広げ率)<170%。
【0085】
本願における各技術特徴の組み合わせ方式は、本願請求項に記載の組み合わせ方式もしくは具体的な実施例に記載の組み合わせ方式に限定するものではなく、本願に記載の全ての技術特徴は、お互いに矛盾しない限り、いかなる方式で自由に組み合わせもしくは結合してもいい。
【0086】
さらに、注意しなければならないが、以上に挙げられた実施例は、本発明の具体的な実施例でしかない。本発明は以上の実施例に限定されなく、その類似変化や変形は、本発明の開示内容から当業者によって直接得られ、もしくは容易に想起されるものであるため、本発明の保護範囲に属すことが言うまでもない。
【手続補正書】
【提出日】2024-03-28
【手続補正1】
【補正対象書類名】特許請求の範囲
【補正対象項目名】全文
【補正方法】変更
【補正の内容】
【特許請求の範囲】
【請求項1】
質量パーセントで、以下の化学成分
の組み合わせのいずれ一項を含む、ベイナイト鋼:
(1)C:0.10~0.19%、Si:0.05~0.45%、Mn:1.5~2.2%、B:0.001~0.0035%、Al:0.01~0.05%、Cr;0.05~0.40%、Mo:0.05~0.40%、Fe≧90%
;もしくは
(2)C:0.10~0.19%、Si:0.05~0.45%、Mn:1.5~2.2%、B:0.001~0.0035%、Al:0.01~0.05%、Cr;0.05~0.40%、Mo:0.05~0.40%、残部はFe及び不可避的不純物である。
【請求項2】
TiおよびNbにおける少なくとも一つをさらに含み、Nb≦0.1%、Ti≦0.15%、請求項1に記載のベイナイト鋼。
【請求項3】
前記不可避的不純物では、P≦0.015%、S≦0.004%、請求項
1に記載のベイナイト鋼。
【請求項4】
前記ベイナイト鋼では、化学元素の質量パーセントがR=(Mn+Si)/(12*C+160*B)の関係を満たし、ただし、0.9≦R≦1.2、計算時には元素の質量パーセントのパーセント記号前の数値が当て嵌められる、請求項
1に記載のベイナイト鋼。
【請求項5】
前記ベイナイト鋼では、化学元素の質量パーセントがQ=(C+Cr+Mo+Mn/2)/Rの関係を満たし、ただし、1.15≦Q≦1.5、計算時には元素の質量パーセントのパーセント記号前の数値が当て嵌められる、請求項
4に記載のベイナイト鋼。
【請求項6】
前記ベイナイト鋼は、二層の表面層組織および一層のコア部組織を有し、前記コア部組織は前記二層の表面層組織の間にある、請求項
1に記載のベイナイト鋼。
【請求項7】
前記ベイナイト鋼では、前記コア部組織の体積は、前記ベイナイト鋼体積の20%~50%を占め、残部は前記表面層組織である、請求項
6に記載のベイナイト鋼。
【請求項8】
前記表面層組織は、針状ベイナイトおよび粒状炭化物析出相を含み、前記コア部組織は塊状ベイナイトおよび粒状炭化物析出相を含む、請求項
6に記載のベイナイト鋼。
【請求項9】
前記針状ベイナイトおよび粒状炭化物析出相は、前記表面層組織体積の99%以上を占め、前記塊状ベイナイトおよび粒状炭化物析出相は、前記コア部組織体積の99%以上を占める、請求項
8に記載のベイナイト鋼。
【請求項10】
前記ベイナイト鋼はさらに、二層の複相層を有し、前記二層の表面層組織および一層のコア部組織は中間層を構成し、前記中間層は前記二層の複相層の間にある、請求項
6に記載のベイナイト鋼。
【請求項11】
前記ベイナイト鋼では、前記複相層の体積は前記ベイナイト鋼体積の2%~10%を占め、残部は前記中間層組織である、請求項
10に記載のベイナイト鋼。
【請求項12】
前記複相層は、多角形フェライト、針状ベイナイトおよび粒状炭化物析出相を含み、多角形フェライトは、前記複相層体積の50%以下を占め、前記多角形フェライト、針状ベイナイトおよび粒状炭化物析出相は、合計で、前記複相層体積の99%以上を占める、請求項
10に記載のベイナイト鋼。
【請求項13】
前記ベイナイト鋼の引張強度≧1000MPa、降伏強度≧800MPa、穴広げ率≧40%、破断伸び率≧12%、請求項
1に記載のベイナイト鋼。
【請求項14】
以下の工程を含む、請求項1~
12のいずれ一項に記載のベイナイト鋼の作製方法:
製錬および鋳造;
熱間圧延;
圧延後冷却および巻取;
酸洗いおよび冷間圧延;
焼鈍。
【請求項15】
前記焼鈍工程は順に、加熱段階、徐冷段階、急冷段階、制御冷却段階および空冷段階を含み、制御冷却速度に関しては、制御冷却段階の冷却速度<徐冷段階の冷却速度<急冷段階の冷却速度、請求項
14に記載のベイナイト鋼の作製方法。
【請求項16】
以下のいずれ一項を満たす、請求項15に記載のベイナイト鋼の作製方法:
(1)前記徐冷段階では、Q~10*Q℃/sの徐冷速度で徐冷温度720~800℃まで冷却し、化学元素の質量パーセントは、Q=(C+Cr+Mo+Mn/2)/R、1.15≦Q≦1.5、R=(Mn+Si)/(12*C+160*B)、0.9≦R≦1.2を満たし、式における各化学元素には、当該化学元素の質量パーセント含有量のパーセント記号前の数値が当て嵌められる
;もしくは
(2)前記徐冷段階では、Q~10*Q℃/sの徐冷速度で徐冷温度620~700℃まで冷却し、化学元素の質量パーセントは、Q=(C+Cr+Mo+Mn/2)/R、1.15≦Q≦1.5、R=(Mn+Si)/(12*C+160*B)、0.9≦R≦1.2を満たし、式における各化学元素には、当該化学元素の質量パーセント含有量のパーセント記号前の数値が当て嵌められる。
【請求項17】
以下のいずれ一項を満たす、請求項16に記載のベイナイト鋼の作製方法:
(1)前記ベイナイト鋼の表面に冷却ガスを噴射することで冷却を行い、前記冷却ガスの噴射圧力は0.2*Q~QkPaとし、前記冷却ガス噴射の保持時間は5~20秒とする、
(2)前記ベイナイト鋼の表面に冷却ガスを噴射することで冷却を行い、前記冷却ガスの噴射圧力は0.05*Q~0.15*QkPaとし、前記冷却ガス噴射の保持時間は5~15秒とする。
【請求項18】
前記急冷段階では、10*Q~20*Q℃/sの急冷速度で急冷温度400~540℃まで冷却する、請求項
16に記載のベイナイト鋼の作製方法。
【請求項19】
前記ベイナイト鋼の表面に二回に渡って冷却ガスを噴射することで冷却を行い、前記冷却ガスの第一噴射圧力は0.3*Q~1.5*QkPaとし、前記冷却ガスの第一保持時間は1~7秒とし、前記冷却ガスの第二噴射圧力は0.08*Q~0.2*QkPaとし、前記冷却ガスの第二保持時間は5~10秒とする、請求項
18に記載のベイナイト鋼の作製方法。
【請求項20】
前記冷却ガスは還元性ガスおよび不活性ガスの混合物であり、前記還元性ガスは水素ガスであり、その体積分率は1%~8%であり、前記冷却ガスの温度は5~50℃とする、請求項
17に記載のベイナイト鋼の作製方法。
【請求項21】
前記冷却ガスは還元性ガスおよび不活性ガスの混合物であり、前記還元性ガスは水素ガスであり、その体積分率は1%~8%であり、前記冷却ガスの温度は5~50℃とする、請求項19に記載のベイナイト鋼の作製方法。
【請求項22】
前記制御冷却段階では、制御冷却速度≦Q℃/s、制御冷却時間は100~200秒とし、前記制御冷却段階終了時に、前記ベイナイト鋼の制御冷却温度≧350℃、請求項
15に記載のベイナイト鋼の作製方法。
【請求項23】
前記加熱段階では、≦50℃/sの加熱速度で均熱温度840~950℃まで加熱し、その後保温し、保温時間は60~180秒とする、請求項
15に記載のベイナイト鋼の作製方法。
【請求項24】
前記作製方法のパラメータは、以下のいずれ一項を満たす、請求項
14に記載のベイナイト鋼の作製方法:
前記熱間圧延工程では、加熱温度は1100~1230℃とし、仕上げ圧延開始温度は1050~1180℃とし、仕上げ圧延終了温度は870~930℃とする;
前記圧延後冷却および巻取工程では、冷却速度は30~150℃/sとし、巻取温度は540~620℃とする;
前記冷間圧延工程では、冷間圧延圧下率≧30%。
【国際調査報告】