(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公表特許公報(A)
(11)【公表番号】
(43)【公表日】2024-10-02
(54)【発明の名称】耳科学的蝸牛注入装置、システム、及び方法
(51)【国際特許分類】
A61F 11/00 20220101AFI20240925BHJP
A61M 31/00 20060101ALN20240925BHJP
【FI】
A61F11/00
A61M31/00
【審査請求】未請求
【予備審査請求】未請求
(21)【出願番号】P 2024519397
(86)(22)【出願日】2022-09-27
(85)【翻訳文提出日】2024-05-23
(86)【国際出願番号】 US2022044846
(87)【国際公開番号】W WO2023055719
(87)【国際公開日】2023-04-06
(32)【優先日】2021-09-29
(33)【優先権主張国・地域又は機関】US
(81)【指定国・地域】
(71)【出願人】
【識別番号】522296619
【氏名又は名称】スパイラル・セラピューティクス・インコーポレイテッド
(74)【代理人】
【識別番号】100108453
【氏名又は名称】村山 靖彦
(74)【代理人】
【識別番号】100110364
【氏名又は名称】実広 信哉
(74)【代理人】
【識別番号】100133400
【氏名又は名称】阿部 達彦
(72)【発明者】
【氏名】シグネ・エリクソン
(72)【発明者】
【氏名】ブラッド・レブリング
(72)【発明者】
【氏名】ユージーン・デ・ジュアン
(72)【発明者】
【氏名】アンドリュー・アイオーブ
【テーマコード(参考)】
4C066
【Fターム(参考)】
4C066AA06
4C066BB03
4C066CC01
4C066FF01
(57)【要約】
難聴及びその他の耳障害を含むがこれらに限定されない耳の障害を治療する目的で、内耳の治療処置を容易にするために装置、システム、及び方法が使用され得る。いくつかの例では、システム及び方法は、内耳で行われる処置の侵襲性を最小限に抑えるために使用され得る器具及び手法を含む。
【特許請求の範囲】
【請求項1】
治療薬を蝸牛に注入するためのシステムであって、
前記システムが、
外耳道及び鼓膜を通って前進するように寸法決めされたシャフトを有する内視鏡であって、蝸牛の視覚化のために前記内視鏡の遠位先端が中耳領域内に配置可能であるようになっている、内視鏡と、
前記蝸牛内への送達のための治療薬と、
蝸牛送達ルーメンと、前記蝸牛送達ルーメンと流体連通し、前記蝸牛内への送達のために前記治療薬を受け入れるように構成された近位ポートと、前記内視鏡の前記シャフトに隣接して、かつ前記鼓膜を通って前進するために前記内視鏡に対して移動可能な遠位ポートとを含むマイクロカニューレであって、前記マイクロカニューレの前記遠位ポートが前記内視鏡からの視覚化のもとで前記蝸牛内に挿入可能である、マイクロカニューレと、
前記マイクロカニューレ内で摺動可能である第1のガイドワイヤであって、前記第1のガイドワイヤの少なくとも一部が前記マイクロカニューレ内に配置されている間に前記蝸牛の正円窓膜を貫通するように構成されたガイドワイヤ先端を有し、前記マイクロカニューレの前記遠位ポートが、前記マイクロカニューレの前記蝸牛送達ルーメンを介して前記治療薬を前記蝸牛に注入するために、前記ガイドワイヤ先端によって貫通された前記正円窓膜を通って挿入可能である、第1のガイドワイヤと
を備える、システム。
【請求項2】
前記第1のガイドワイヤが湾曲形状を有する端部を有し、前記マイクロカニューレが、前記マイクロカニューレを前記第1のガイドワイヤの前記端部上で前進させることに応答して、前記第1のガイドワイヤの前記端部の前記湾曲形状をとるように可撓性を有し、前記マイクロカニューレが前記正円窓膜に向かって位置合せされる、請求項1に記載のシステム。
【請求項3】
前記マイクロカニューレの前記遠位ポートが、前記ガイドワイヤ先端によって貫通された前記正円窓膜を通って前記蝸牛の鼓室階内に挿入可能である、請求項1または2に記載のシステム。
【請求項4】
前記マイクロカニューレの前記遠位ポートが、前記第1のガイドワイヤの前記ガイドワイヤ先端が鼓室階から近位に留まる間、前記鼓室階内に挿入可能である、請求項3に記載のシステム。
【請求項5】
前記マイクロカニューレの前記遠位ポート及び前記第1のガイドワイヤの前記ガイドワイヤ先端が、前記鼓室階内に同時に挿入可能である、請求項3に記載のシステム。
【請求項6】
前記第1のガイドワイヤの前記ガイドワイヤ先端が前記鼓室階内に配置されている間に、前記マイクロカニューレの前記遠位ポートが、前記第1のガイドワイヤ上のマイクロカニューレの前進によって前記鼓室階内に挿入可能である、請求項3に記載のシステム。
【請求項7】
前記第1のガイドワイヤが前記マイクロカニューレから引き抜き可能であり、前記システムが、前記マイクロカニューレからの前記第1のガイドワイヤの引き抜きに続いて、前記マイクロカニューレ内に挿入可能な第2のガイドワイヤをさらに含む、請求項1から3のいずれか一項に記載のシステム。
【請求項8】
前記第2のガイドワイヤが前記第1のガイドワイヤとは異なる形状を有し、前記第2のガイドワイヤが前記蝸牛の鼓室階内に挿入するように構成される、請求項7に記載のシステム。
【請求項9】
前記第2のガイドワイヤが前記鼓室階内に配置されている間に、前記マイクロカニューレの前記遠位ポートが、前記第2のガイドワイヤ上のマイクロカニューレの前進によって前記鼓室階内に挿入可能である、請求項8に記載のシステム。
【請求項10】
前記マイクロカニューレの前記遠位ポートが、前記第1のガイドワイヤが前記マイクロカニューレ内に配置されている間に、前記マイクロカニューレの前記蝸牛送達ルーメンを介して、前記治療薬を前記蝸牛に注入するように構成される、請求項1から6のいずれか一項に記載のシステム。
【請求項11】
前記マイクロカニューレの前記遠位ポートが、前記マイクロカニューレから前記第1のガイドワイヤが引き抜かれた後に、前記マイクロカニューレの前記蝸牛送達ルーメンを介して、前記治療薬を前記蝸牛に注入するように構成される、請求項1から6のいずれか一項に記載のシステム。
【請求項12】
前記マイクロカニューレが、前記治療薬の前記蝸牛への注入中に前記蝸牛から流体を吸引するように構成される、請求項1から11のいずれか一項に記載のシステム。
【請求項13】
前記マイクロカニューレが、前記蝸牛において測定された流体圧力に応じて、前記蝸牛から流体を吸引するように構成される、請求項12に記載のシステム。
【請求項14】
前記マイクロカニューレが、注入される前記治療薬と吸引される流体との間の体積バランスに応じて、前記蝸牛から前記流体を吸引するように構成される、請求項12に記載のシステム。
【請求項15】
前記マイクロカニューレが、前記内視鏡からの視覚化のための前記遠位ポートに近接して配置された深度マーカを含む、請求項1から14のいずれか一項に記載のシステム。
【請求項16】
前記深度マーカが、前記マイクロカニューレの遠位ポートが鼓室階内で前進させられる深さを示す、請求項15に記載のシステム。
【請求項17】
前記内視鏡の前記シャフトが、長さが2mm未満である前記鼓膜の切開部を通って前進するようなサイズである、請求項1から16のいずれか一項に記載のシステム。
【請求項18】
患者の蝸牛に治療薬を注入する方法であって、
前記方法が、
前記患者の外耳道を介して内視鏡のシャフトを前進させて前記内視鏡の遠位先端が前記患者の中耳領域に位置するようにするステップと、
前記内視鏡の作業チャネルを通して、ルーメンを画定するマイクロカニューレを前進させるステップと、
前記マイクロカニューレの前記ルーメンを通して、第1のガイドワイヤを前進させるステップと、
前記第1のガイドワイヤの先端を使用して前記患者の正円窓膜を貫通するステップと、
前記マイクロカニューレの前記ルーメンを介して、前記治療薬を前記蝸牛に注入するステップと
を含む、方法。
【請求項19】
前記第1のガイドワイヤが湾曲形状を有する端部を有し、
前記方法が、前記マイクロカニューレを前記第1のガイドワイヤの前記端部上で前進させるステップをさらに含み、
前記マイクロカニューレが前記第1のガイドワイヤの前記端部上を前進させられるにつれて、前記マイクロカニューレが前記湾曲形状をとり、前記正円窓膜に向かって位置合せされる、請求項18に記載の方法。
【請求項20】
前記正円窓膜を貫通した後かつ注入する前記ステップの前に、前記マイクロカニューレを前記蝸牛の鼓室階内で前進させるステップをさらに含む、請求項18または19に記載の方法。
【請求項21】
前記マイクロカニューレを前記鼓室階内で前進させる前記ステップが、前記第1のガイドワイヤを前進させることなしに行われる、請求項20に記載の方法。
【請求項22】
前記マイクロカニューレを前記鼓室階内で前進させる前記ステップが、前記第1のガイドワイヤも前進させながら行われる、請求項20に記載の方法。
【請求項23】
前記マイクロカニューレを前記鼓室階内で前進させる前記ステップが、前記第1のガイドワイヤを鼓室階内で前進させた後に行われる、請求項20に記載の方法。
【請求項24】
前記正円窓膜を貫通した後かつ注入する前記ステップの前に、前記マイクロカニューレの前記ルーメンから前記第1のガイドワイヤを引き抜き、前記マイクロカニューレの前記ルーメンに第2のガイドワイヤを挿入するステップをさらに含む、請求項18または19に記載の方法。
【請求項25】
前記正円窓膜を貫通した後かつ注入する前記ステップの前に、前記第2のガイドワイヤを前記蝸牛の鼓室階内で前進させるステップをさらに含む、請求項24に記載の方法。
【請求項26】
前記第2のガイドワイヤを前記蝸牛の前記鼓室階内で前進させた後、前記マイクロカニューレを前記第2のガイドワイヤ上で前記蝸牛の前記鼓室階内に前進させるステップをさらに含む、請求項25に記載の方法。
【請求項27】
前記治療薬を前記蝸牛に注入する前記ステップが、前記第1のガイドワイヤが前記マイクロカニューレの前記ルーメン内にある間に行われる、請求項18から23のいずれか一項に記載の方法。
【請求項28】
前記マイクロカニューレの前記ルーメンから前記第1のガイドワイヤを引き抜くステップをさらに含み、前記治療薬を前記蝸牛に注入する前記ステップが、前記マイクロカニューレの前記ルーメンから前記第1のガイドワイヤが引き抜かれた後に行われる、請求項18から23のいずれか一項に記載の方法。
【請求項29】
前記治療薬を前記蝸牛に注入する前記ステップを行いながら、前記蝸牛から流体を吸引するステップをさらに含む、請求項18から28のいずれか一項に記載の方法。
【請求項30】
前記蝸牛から流体を吸引する前記ステップが、前記蝸牛内で測定される流体圧力に基づいて調節される、請求項29に記載の方法。
【請求項31】
前記蝸牛から流体を吸引する前記ステップが、注入される前記治療薬と吸引される前記流体との間の体積バランスに基づいて調節される、請求項29に記載の方法。
【請求項32】
前記マイクロカニューレが深度マーカを含む、請求項18から31のいずれか一項に記載の方法。
【請求項33】
前記正円窓膜を貫通した後かつ注入する前記ステップの前に、前記マイクロカニューレを前記蝸牛の鼓室階内で前進させ、前記深度マーカを使用して、前記マイクロカニューレの先端が前記鼓室階内で前進させられた深さを決定するステップをさらに含む、請求項32に記載の方法。
【請求項34】
前記患者の鼓膜に切開部を形成するステップをさらに含み、前記内視鏡の前記シャフトが前記切開部を通って前進させられる、請求項18から33のいずれか一項に記載の方法。
【請求項35】
患者の蝸牛に治療薬を注入する方法であって、
前記方法が、
前記患者の外耳道を介して内視鏡のシャフトを前進させて前記内視鏡の遠位先端が前記患者の中耳領域に位置するようにするステップと、
前記内視鏡の作業チャネルを通して、ルーメンを画定するマイクロカニューレを前進させるステップであって、前記マイクロカニューレの遠位先端が正円窓膜を通ってかつ前記蝸牛の鼓室階内のある深さまで前進させられる、ステップと、
前記マイクロカニューレの前記ルーメンを介して、かつ前記マイクロカニューレの前記遠位先端が前記鼓室階内の前記ある深さにある間に、前記治療薬を前記蝸牛に注入するステップと、
注入する前記ステップ中に、前記鼓室階から流体を吸引するステップと
を含む、方法。
【請求項36】
吸引する前記ステップが、前記マイクロカニューレの第2のルーメンを使用して行われる、請求項35に記載の方法。
【請求項37】
吸引する前記ステップが、前記蝸牛内で測定される流体圧力に基づいて調節される、請求項35または36に記載の方法。
【請求項38】
吸引する前記ステップが、注入される前記治療薬と吸引される前記流体との間の体積バランスに基づいて調節される、請求項35または36に記載の方法。
【請求項39】
患者の蝸牛に治療薬を注入する方法であって、
前記方法が、
マイクロカニューレを介して、かつ前記マイクロカニューレの遠位先端が前記蝸牛の鼓室階内のある深さにある間に、前記治療薬を注入するステップと、
注入する前記ステップ中に、前記鼓室階から流体を吸引するステップと
を含む、方法。
【請求項40】
患者の蝸牛に治療薬を注入する方法であって、
前記方法が、
ガイドワイヤを前記蝸牛の鼓室階内で前進させるステップと、
マイクロカニューレを前記鼓室階内の前記ガイドワイヤ上で前進させて、前記マイクロカニューレの遠位先端を前記鼓室階内のある深さに配置するステップと、
前記マイクロカニューレのルーメンを介して、前記治療薬を前記蝸牛に注入するステップと
を含む、方法。
【請求項41】
鼓膜の切開部を介して中耳に配置されるようなサイズ及び構成の遠位シャフトを有する内視鏡であって、作業チャネルを画定する内視鏡と、
前記作業チャネル内に摺動可能に使い捨て可能であり、ルーメンを画定するマイクロカニューレと
を含む、医療機器システム。
【請求項42】
前記ルーメン内に摺動可能に使い捨て可能なガイドワイヤをさらに備える、請求項41に記載の医療機器システム。
【請求項43】
前記ガイドワイヤが湾曲した遠位端部を有する、請求項42に記載の医療機器システム。
【請求項44】
前記マイクロカニューレが、前記ガイドワイヤの前記湾曲した遠位端部が前記マイクロカニューレの前記部分のみの前記ルーメン内に係合すると、前記マイクロカニューレの一部が湾曲するように横方向適合性を有する、請求項43に記載の医療機器システム。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
関連出願の相互参照
本出願は、2021年9月29日に出願された米国仮出願第63/249,938号の利益を主張する。前述の出願の開示は、その全体が参照により本明細書に組み込まれる。
【0002】
本文献は、難聴及びその他の耳障害を含むがこれらに限定されない耳の障害を治療する目的で、内耳の治療処置を容易にするための装置、システム、及び方法に関する。いくつかの例では、システム及び方法は、内耳で行われる処置の侵襲性を最小限に抑えるために使用され得る器具及び手法を含む。
【背景技術】
【0003】
感音性難聴(SNHL)は、蝸牛における有毛細胞の欠如若しくは損傷、又はその下流における神経シグナリングの障害に起因する。SNHLは、典型的には、大きな騒音への曝露、頭部外傷、加齢、感染症、メニエル病、腫瘍、耳毒性、アッシャー症候群などの遺伝性疾患などに関連する。
【0004】
SNHLはよく見られるものであり、人間のコミュニケーション及び生活の質に対するその影響は重大である。SNHLの結果は、中程度のコミュニケーション困難及び社会的引きこもりから、深刻な難聴及びその重大な障害にまで及ぶ。SNHLの従来の管理は、典型的には、補聴器又は蝸牛インプラントの使用を含む。
【0005】
SNHLの治療のための治療薬の効果的な投与は、いくつかの解剖学的障壁によって制限される。全身投与される薬剤は、血液迷路関門を越えることが困難であり、内耳における治療レベルを達成するためには極めて高い全身投与量を必要とし得る。鼓室内投与は、蝸牛の正円窓膜及び卵円窓膜を越える拡散から治療的な曝露をもたらし得る。
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
しかしながら、このアプローチは、治療薬の濃度勾配をもたらし得、蝸牛のより深い領域は未処置のままとなる。特定の状況下では、正円窓膜への直接投与が望ましいが、それは現在、費用がかかり、合併症をもたらし得る高度に侵襲的な外科手術を必要とする。したがって、蝸牛に薬剤を直接投与するための安全で効果的かつ低侵襲的な手段は、耳科学分野に変革をもたらし、様々な内耳障害の内科的治療を可能にし得る。
【課題を解決するための手段】
【0007】
本文書には、様々な内耳障害及びSNHLの形態を治療するために、内耳(蝸牛)への治療薬の投与を容易にするための装置、システム、及び方法が記載される。これらの内耳障害及びSNHLの形態には、自己免疫性内耳疾患、化学療法によって誘発される耳毒性、及びメニエル病を含む、内耳に影響を及ぼす特発性及び炎症性の疾患が含まれる。さらに、その他の変性内耳障害は、特発性、遺伝子ベース、及び加齢に関連する進行性SNHLを含み、そのようなシステムによる治療に適し得る。いくつかの例では、システム及び方法は、内耳で行われる薬剤送達又は外科手術の侵襲性を最小限に抑えるために使用され得る器具及び手法を含む。
【0008】
本明細書に記載の装置、システム、及び方法は、追加の治療手法と共に使用することができる。例えば、本明細書に記載の装置、システム、及び方法は、特に、(液体、ゲル、固体などの形態であり得る)小分子、タンパク質、及び遺伝子治療ベクターを含む治療薬の送達、装置又はインプラント送達、診断処置、及び外科手術などであるがこれらに限定されない治療手法と共に使用され得る。
【0009】
一態様では、本開示は、患者の蝸牛に治療薬を注入する方法に関する。いくつかの実施形態では、そのような方法は、患者の外耳道を介して内視鏡のシャフトを前進させて内視鏡の遠位先端が患者の中耳領域に位置するようにするステップと、内視鏡の作業チャネルを通して、ルーメンを画定するマイクロカニューレを前進させるステップと、マイクロカニューレのルーメンを通して、第1のガイドワイヤを前進させるステップと、第1のガイドワイヤの先端を使用して患者の正円窓膜を貫通するステップと、マイクロカニューレのルーメンを介して、治療薬を蝸牛に注入するステップとを含む。
【0010】
患者の蝸牛に治療薬を注入するためのそのような方法は、任意選択的に、以下の特徴のうちの1以上を含んでもよい。第1のガイドワイヤは、湾曲形状を有する端部を有してもよい。本方法はまた、マイクロカニューレを第1のガイドワイヤの端部上で前進させるステップを含んでもよく、マイクロカニューレが第1のガイドワイヤの端部上を前進させられるにつれて、マイクロカニューレは湾曲形状をとり、正円窓膜に向かって位置合せされる。この方法はまた、正円窓膜を貫通した後かつ注入の前に、マイクロカニューレを蝸牛の鼓室階内で前進させるステップを含んでもよい。マイクロカニューレを鼓室階内で前進させるステップは、第1のガイドワイヤを前進させることなしに行われてもよい。マイクロカニューレを鼓室階内で前進させるステップは、第1のガイドワイヤを前進させながら行われてもよい。マイクロカニューレを鼓室階内で前進させるステップは、第1のガイドワイヤを鼓室階内で前進させた後に行われてもよい。本方法はまた、正円窓膜を貫通した後かつ注入の前に、マイクロカニューレのルーメンから第1のガイドワイヤを引き抜き、マイクロカニューレのルーメンに第2のガイドワイヤを挿入するステップを含んでもよい。本方法はまた、正円窓膜を貫通した後かつ注入の前に、第2のガイドワイヤを蝸牛の鼓室階内で前進させるステップを含んでもよい。本方法はまた、第2のガイドワイヤを蝸牛の鼓室階内で前進させた後、マイクロカニューレを第2のガイドワイヤ上で蝸牛の鼓室階内に前進させるステップを含んでもよい。いくつかの実施形態では、治療薬を蝸牛に注入するステップは、第1のガイドワイヤがマイクロカニューレのルーメン内にある間に行われる。本方法はまた、マイクロカニューレのルーメンから第1のガイドワイヤを引き抜くステップを含んでもよく、治療薬を蝸牛に注入するステップは、マイクロカニューレのルーメンから第1のガイドワイヤが引き抜かれた後に行われる。本方法はまた、治療薬を蝸牛に注入するステップを行いながら、蝸牛から流体を吸引するステップを含んでもよい。蝸牛から流体を吸引するステップは、蝸牛内で測定される流体圧力に基づいて調節されてもよい。蝸牛から流体を吸引するステップは、注入される治療薬と吸引される流体との間の体積バランスに基づいて調節されてもよい。マイクロカニューレは深度マーカを含んでもよい。本方法はまた、正円窓膜を貫通した後かつ注入の前に、マイクロカニューレを蝸牛の鼓室階内で前進させ、深度マーカを使用して、マイクロカニューレの先端が鼓室階内で前進させられた深さを決定するステップを含んでもよい。本方法はまた、患者の鼓膜に切開部を形成するステップを含んでもよく、内視鏡のシャフトは切開部を通って前進させられる。
【0011】
別の態様では、本開示は、患者の蝸牛に治療薬を注入する方法に関する。本方法は、患者の外耳道を介して内視鏡のシャフトを前進させて内視鏡の遠位先端が患者の中耳領域に位置するようにするステップと、内視鏡の作業チャネルを通して、ルーメンを画定するマイクロカニューレを前進させるステップであって、マイクロカニューレの遠位先端が正円窓膜を通ってかつ蝸牛の鼓室階内のある深さまで前進させられる、ステップと、マイクロカニューレのルーメンを介して、かつマイクロカニューレの遠位先端が鼓室階内のある深さにある間に、治療薬を蝸牛に注入するステップと、注入するステップ中に、鼓室階から流体を吸引するステップとを含む。
【0012】
患者の蝸牛に治療薬を注入するためのそのような方法は、任意選択的に、以下の特徴のうちの1以上を含んでもよい。吸引するステップは、マイクロカニューレの第2のルーメンを使用して行われてもよい。吸引するステップは、蝸牛内で測定される流体圧力に基づいて調節されてもよい。吸引するステップは、注入される治療薬と吸引される流体との間の体積バランスに基づいて調節されてもよい。
【0013】
別の態様では、本開示は、患者の蝸牛に治療薬を注入する方法に関する。本方法は、マイクロカニューレを介して、かつマイクロカニューレの遠位先端が蝸牛の鼓室階内のある深さにある間に、治療薬を注入するステップと、注入するステップ中に、鼓室階から流体を吸引するステップとを含む。
【0014】
別の態様では、本開示は、患者の蝸牛に治療薬を注入する方法に関する。本方法は、ガイドワイヤを蝸牛の鼓室階内で前進させるステップと、マイクロカニューレを鼓室階内のガイドワイヤ上で前進させて、マイクロカニューレの遠位先端を鼓室階内のある深さに配置するステップと、マイクロカニューレのルーメンを介して、治療薬を蝸牛に注入するステップとを含む。
【0015】
別の態様では、本開示は、鼓膜の切開部を介して中耳に配置されるようなサイズ及び構成の遠位シャフトを有する内視鏡であって、作業チャネルを画定する内視鏡と、作業チャネル内に摺動可能に使い捨て可能であり、ルーメンを画定するマイクロカニューレとを含む、医療機器システムに関する。
【0016】
そのような医療機器システムは、任意選択的に、以下の特徴のうちの1以上を含んでもよい。医療機器システムはまた、ルーメン内に摺動可能に使い捨て可能なガイドワイヤを含んでもよい。ガイドワイヤは、湾曲した遠位端部を有してもよい。マイクロカニューレは、ガイドワイヤの湾曲した遠位端部がマイクロカニューレの部分のみのルーメン内に係合すると、マイクロカニューレの部分が湾曲するように横方向適合性を有してもよい。
【0017】
本明細書に記載の実施形態の一部又は全部は、以下の利点のうちの1以上を提供し得る。第1に、本明細書に記載の内耳障害を治療するための器具及び関連手法のいくつかの実施形態は、従来の方法と比較して処置上の侵襲性を低下させる。例えば、経外耳道及び経鼓膜アプローチ(及び他のアプローチ)を使用して蝸牛内にアクセスするための器具及び手法が開示される。さらに、経鼓膜アプローチは、鼓膜における小さな自己治癒切開によるものであり得る。そのような低侵襲性処置は、全体的な処置時間及びコストを削減し、より侵襲的な処置に伴う患者へのリスクを軽減することができる。
【0018】
第2に、いくつかの実施形態では、本明細書に記載の器具及び手法の使用は、卵円窓の穿孔又は蝸牛の第2の開窓の形成なしに内耳の疾患を治療することができる。例えば、本明細書に記載のいくつかの処置では、治療薬は、卵円窓に影響を与えることなく、正円窓を介して蝸牛に注入することができる。そのような手法は、卵円窓の穿孔を含む手法と比較して、注入物のより良好な制御の維持に有利に役立ち得る。そのような手法はまた、瘻孔の形成に伴う患者へのリスクを低減する。
【0019】
第3に、いくつかの実施形態では、蝸牛液の吸引が、治療薬の蝸牛への注入と同時に行われ得る。いくつかのそのような実施形態では、蝸牛内の流体バランスが達成又は近似され得る。したがって、治療薬の注入に関連する蝸牛内の圧力変化が有利に排除されるか、又は厳密に制御され得る。そのような吸引は能動的又は受動的であり得る。処置中に収集された蝸牛液は、疾患の診断に役立ち得るバイオマーカとして分析することができる。
【0020】
第4に、本明細書に記載の装置、システム、及び方法は、有利には、鼓膜腱索神経に影響を及ぼすことなく、蝸牛内の耳疾患の治療を可能にする。対照的に、耳疾患を治療するための治療薬の蝸牛への注入を含むいくつかの従来の方法は、鼓膜腱索神経を損傷(例えば、切断)する必要があり得る。本明細書に記載の技術は、鼓膜腱索神経に損傷を及ぼさない。
【0021】
第5に、本明細書に記載の技術は、治療薬の正円窓膜を通る拡散、又は治療薬の蝸牛内の拡散に依存しない。代わりに、本明細書に記載の技術は、蝸牛内深くの標的位置への、及び拡散に依存せずに所望の治療効果をもたらす程度までの治療薬の対流注入を可能にする。
【0022】
第6に、本明細書に記載のシステムは、マイクロカニューレの誘導、マイクロカニューレのカラム強度の付加、組織の貫通又は操作などであるがこれらに限定されない様々な目的のために、1以上のガイドワイヤの特性を有利に利用することができる。
【0023】
本発明の1以上の実施形態の詳細は、添付の図面及び以下の説明に記載される。本発明の他の特徴、目的、及び利点は、説明及び図面、並びに特許請求の範囲から明らかになるであろう。
【図面の簡単な説明】
【0024】
【
図1】いくつかの実施形態による例示的な耳内視鏡システムの斜視図である。
【
図2】例示的なマイクロカニューレを含む、
図1の耳内視鏡システムの遠位端部の側面図である。
【
図3】マイクロカニューレ内から延伸する例示的なガイドワイヤを含む、
図1の耳内視鏡システムの遠位端部の別の側面図である。
【
図4】マイクロカニューレがガイドワイヤ上を前進させられ、ガイドワイヤの形状に従ってマイクロカニューレの湾曲が引き起こされている、
図1の耳内視鏡システムの遠位端部の別の側面図である。
【
図5】いくつかの実施形態による、内耳の正円窓窩にアクセスするために使用されている
図1の耳内視鏡システムを示す図である。
【
図6】
図1の耳内視鏡システムの遠位端部が内耳にアクセスするためにそれを通って延伸することができる経鼓膜切開部を示す図である。
【
図7】正円窓から蝸牛の内側領域までの曲がりくねった解剖学的経路を有する例示的な蝸牛を示す図である。
【
図8A】いくつかの実施形態による、治療薬を蝸牛に注入するための例示的な方法のフローチャートを提供する。
【
図8B】いくつかの実施形態による、治療薬を蝸牛に注入するための例示的な方法のフローチャートを提供する。
【発明を実施するための形態】
【0025】
様々な図面における同様の参照符号は、同様の要素を示す。
【0026】
図1を参照すると、以下でさらに説明するように、蝸牛の内部にアクセスすることによって様々な耳の疾患を治療するために例示的な耳内視鏡システム100が使用され得る。内視鏡システム100は、大まかに、ハンドル110と、内視鏡シャフト120と、作業チャネルアクセスポート130とを含み得る。図示の実施形態は単一の作業チャネルアクセスポート130を含むが、いくつかの実施形態では、作業チャネルアクセスポート130の2以上が(作業チャネルアクセスポート130に関連付けられた2以上の作業チャネルと共に)含まれ得る。
【0027】
内視鏡シャフト120は、ハンドル110から遠位に延伸する。図示の実施形態では、内視鏡シャフト120は、ハンドル110の軸と本質的に平行に延伸する。しかしながら、いくつかの実施形態では、内視鏡シャフト120は、ハンドル110の軸に対して非ゼロ角度で延伸する。例えば、いくつかの実施形態では、内視鏡シャフト120は、ハンドル110に対して0°~45°の角度で延伸する。
【0028】
いくつかの実施形態では、内視鏡シャフト120は、使用中に中耳及び/又は内耳を照らすことができる可視光を発する。いくつかの実施形態では、光は、外部光源から生じ、1以上の光ファイバを介して内視鏡シャフト120の遠位先端部に伝達され得る。代替的又は追加的に、いくつかの実施形態では、光は、内視鏡シャフト120の遠位先端部又はその付近に搭載された内蔵光源(例えば、LED)から生じ得る。いくつかの実施形態では、中耳及び/又は内耳を照らす光は、内視鏡シャフト120の遠位先端部の近位に位置する光源(例えば、光ファイバ、LEDなど)から生じ得る。
【0029】
図示の実施形態では、耳内視鏡システム100は、外部ビデオディスプレイと共に使用されるように設計される。代替的に、いくつかの実施形態では、耳内視鏡システム100は、内視鏡シャフト120の視野を直接観察するための一体型レンズ観察システムを含み得る。
【0030】
耳内視鏡システム100はまた、作業チャネルアクセスポート130を含む。作業チャネルアクセスポート130は、以下でさらに説明するように、1以上の装置又は器具を受け入れることができる作業チャネルへの開口部である。
【0031】
図2~
図4も参照すると、作業チャネル140は、作業チャネルアクセスポート130を介してアクセスされ得る。この例では、作業チャネル140は、内視鏡シャフト120と平行に延伸するように装置又は器具を方向づけるように配置される。
【0032】
図示の実施形態では、例示的なマイクロカニューレ150が、作業チャネル140内に摺動可能に配置される。したがって、マイクロカニューレ150は、(
図2の二重矢印線で示すように)内視鏡シャフト120に対して伸縮可能である。
【0033】
さらに、この例では、耳内視鏡システム100は、例示的なガイドワイヤ160a(いくつかの実施形態では、代わりにスタイレット及び/又は別のマイクロカニューレであり得る)を含む。ガイドワイヤ160aは、マイクロカニューレ150によって画定されたルーメン内に摺動可能に配置される。換言すれば、マイクロカニューレ150は、ガイドワイヤ160a上にある。したがって、ガイドワイヤ160aは、マイクロカニューレ150に対して伸縮可能である。さらに、マイクロカニューレ150は、ガイドワイヤ160aに対して伸縮可能である。マイクロカニューレ150及び/又はガイドワイヤ160aのこれらの動きは、既知の技術に従って臨床医によって手動で作動させられ得る。
【0034】
以下でさらに説明するように、様々な異なるガイドワイヤが、耳内視鏡システム100と共に利用され得る。場合によっては、2以上の異なるガイドワイヤが単一の処置中に使用され得る。そのような異なるガイドワイヤは、本明細書に記載の治療処置の特定の段階中に特定の目的のために使用され得る異なる特性(例えば、形状、剛性、直径など)を有し得る。したがって、ガイドワイヤ160aは、本明細書に記載の治療処置に有用であり得るガイドワイヤの種類の単なる一例である。
【0035】
図3及び
図4に示すように、例示的なガイドワイヤ160aは、自然な湾曲した端部を有し得るが、必ずしも有する必要はない。図示の実施形態では、ガイドワイヤ160aの湾曲した端部の横方向剛性は、マイクロカニューレ150の横方向剛性よりも大きい。換言すれば、マイクロカニューレ150は、ガイドワイヤ160aの湾曲した端部よりも適合性がある。したがって、マイクロカニューレ150がガイドワイヤ160aの湾曲した端部上で遠位方向に延伸されると、マイクロカニューレ150はガイドワイヤ160aの湾曲した形状をとる。このようにして、マイクロカニューレ150は、マイクロカニューレ150が前進させられるにつれて偏向又は誘導される。別の実施形態では、ガイドワイヤ160aは、空中で延伸する際にマイクロカニューレ150よりも高い剛性を必ずしも有していない。しかしながら、ガイドワイヤ160aが前進させられ(例えば、以下でさらに説明するように、ガイドワイヤ160aの湾曲部を必要とする正円窓窩内に前進させられ)、ガイドワイヤ160aの一部が固定されると、マイクロカニューレ150はガイドワイヤ160aの経路に沿って進む。ガイドワイヤ160aが曲がるために使用されている場合、マイクロカニューレ150は、ガイドワイヤ160aの上述の経路に沿って進む。
【0036】
別の実施形態では、ガイドワイヤ160aは、マイクロカニューレ150内に収まるようにより小さく、マイクロカニューレの内側に寸法決めされ得、それ自体が、ルーメン内にあるスタイレット又はガイドワイヤを有し得る。いくつかの実施形態では、この内側マイクロカニューレ160aは、ニチノールから構成することができ、ガイドワイヤ160aと同様の予め成形された湾曲部を有し得る。場合によっては、(ガイドワイヤ160aの代わりの)そのようなニチノール内側マイクロカニューレは、ガイドワイヤ160aよりも大きな角度の湾曲部を維持することができるため有利であり得、それにより、よりきつい曲がり及び/又はより大きな曲がりを有する状況での使用が可能になる。
【0037】
図5を参照すると、耳内視鏡システム100は、蝸牛50を治療するために使用され得る。蝸牛50の内側(例えば、鼓室階)は、蝸牛50の正円窓52を介して、耳内視鏡システム100のガイドワイヤ160a及び/又はマイクロカニューレ150によってアクセスされ得る。いくつかの実施形態では、治療薬の注入は、以下でさらに説明するように、マイクロカニューレ150を介して蝸牛50(例えば、鼓室階)内に送達され得る。
【0038】
図示するように、耳内視鏡システム100は、患者10の外耳20内に延伸され得る。次いで、耳内視鏡システム100の遠位端部のマイクロカニューレ150及び内視鏡シャフト120は、鼓膜30の小さな(例えば、<3mmの)切開部32(
図6参照)を通って前進させられ、中耳40内に延伸され得る。この向きでは、臨床医は、内視鏡シャフト120を使用しながら中耳40内でマイクロカニューレ150及び/又はガイドワイヤ160aを操作して、その操作によるマイクロカニューレ150及び/又はガイドワイヤ160aの動きを視認することができる。
【0039】
例えば、図示の例では、ガイドワイヤ160aは、正円窓52の窩に入るように延伸されている。これは、中耳40に配置された内視鏡シャフト120を使用する臨床医の視認によって行われる。さらに、ガイドワイヤ160aが正円窓52の窩内にある状態で、臨床医は、マイクロカニューレ150をガイドワイヤ160a上で正円窓52の窩内に延伸させることができる。
【0040】
場合によっては、患者10は、正円窓52の窩上に偽膜を有することがある。そのような場合、ガイドワイヤ160a及び/又はマイクロカニューレ150を正円窓52の窩内に延伸する前に、ガイドワイヤ160a又は別の器具を使用して、偽膜(又はその一部)を穿刺かつ/又は除去することができる。
【0041】
図7は、(
図5及び
図6にも示されているように)正円窓52の窩に接近するガイドワイヤ160a及びマイクロカニューレ150のより近景の図を概略的に示す。この概略図は、中耳40から蝸牛50への経路が曲がりくねった解剖学的経路であることを示している。例えば、正円窓52の窩は、典型的には、耳内視鏡システム100の軸を横断する第1のベクトル51に沿って接近される。したがって、図示するように、(マイクロカニューレ150に同様の湾曲を誘発する)ガイドワイヤ160aの湾曲部は、ガイドワイヤ160a及びマイクロカニューレ150が第1のベクトル51に沿って正円窓52の窩内に前進するのを容易にするのに有益であり得る。
【0042】
ガイドワイヤ160a及び/又はマイクロカニューレ150が正円窓52の窩にあるとき、正円窓52の膜は穿刺され得る。いくつかの実施形態では、ガイドワイヤ160aは、正円窓52の膜を穿刺するために使用され得る遠位先端を有し得る。例えば、いくつかの実施形態では、ガイドワイヤ160aは、鋭い遠位先端、又は正円窓膜の穿孔を促進するための他の形状を有し得る。いくつかの実施形態では、ガイドワイヤ160aは、マイクロカニューレ150とは独立して、又はマイクロカニューレ150と同時に(マイクロカニューレ150の鋭利な先端のみが突出して)前進させられて正円窓膜を穿孔する。正円窓膜の穿孔は、ガイドワイヤ160aを押し進めることによって、又はガイドワイヤ160aを回転させて正円窓膜を「ドリルして」貫通することによって行われ得る。
【0043】
本明細書の他の箇所に記載されるように、いくつかの実施形態では、ガイドワイヤ160aではなく、第2の内側マイクロカニューレがメインマイクロカニューレ150の内側で使用される。そのような場合、マイクロカニューレ160aは、その遠位先端に鋭利な縁部を有し得、緩やかに回転して正円窓膜をドリルして貫通し得る。
【0044】
正円窓膜の穿刺後、(スタイレット又は内側マイクロカニューレ160aを代表するものでもある)ガイドワイヤ160aは、正円窓膜を通して前進させられ得る。マイクロカニューレ150は、ガイドワイヤ160a上で正円窓膜を通って同時に又は後続して前進させられ得る。必要に応じて、例えば、鋭利な先端を除去すること、又は異なる特性(例えば、ガイドワイヤの剛性、予め形成された曲率など)を有するガイドワイヤに変更することが望ましい場合、ガイドワイヤ160aは別のガイドワイヤ160aに交換され得る。
【0045】
正円窓52の膜を穿刺した後、マイクロカニューレ150を蝸牛50の鼓室階54内に前進させるために、マイクロカニューレ150の伸長及び前進方向は、第1のベクトル51から調整されて、鼓室階54に沿って延伸する第2のベクトル53とほぼ合致する。典型的には、第1のベクトル51と第2のベクトル53とは(
図7に示すように)大きく異なる。したがって、マイクロカニューレ150は、正円窓52におけるその入口から鼓室階54内に延伸されるにつれて、方向(曲がり)を大きく変化させる。場合によっては、この曲がりは、最初にガイドワイヤ160a(及びその湾曲した端部)を鼓室階54内に延伸させ、次いでマイクロカニューレ150をガイドワイヤ160a上で延伸させることによって実行され得る。場合によっては、ガイドワイヤ160aが引き抜かれて、第2のガイドワイヤ160b(図示せず)がマイクロカニューレ150を通して挿入され得る。第2のガイドワイヤ160bは、ガイドワイヤ160aの湾曲部分とは異なる半径を有する湾曲部分など、ガイドワイヤ160aとは異なる特性を有し得る。
【0046】
いくつかの実施形態では、正円窓52の膜を穿刺した後、マイクロカニューレ150は、(マイクロカニューレ150の端部にガイドワイヤを有することなく)それ自体で鼓室階54内に前進させられ得る。そのような場合、マイクロカニューレ150の高い適合性又は可撓性により、マイクロカニューレ150が鼓室階54内を前進させられるにつれて、マイクロカニューレ150が鼓室階54の解剖学的構造に容易に追従できるようになり得る。さらに、いくつかの実施形態では、マイクロカニューレ150の遠位先端は、マイクロカニューレ150が鼓室階54内を前進させられるときに鼓室階54の壁に損傷を与えることを回避するように、外傷性なく(例えば、その遠位先端にドーナツ状先端を有するように)構成され得る。
【0047】
いくつかの実施形態では、マイクロカニューレ150は、39~40ゲージ(外径約0.12mm)であり得る。いくつかの実施形態では、マイクロカニューレ150の外径は、0.12mm~0.4mmであり得る。特定の実施形態では、マイクロカニューレ150は、先端部がマイクロカニューレ150の近位部分よりも小さくなるように、段階的なゲージ(直径)を有し得る。マイクロカニューレ150の直径の段階的変化は、増分的に(段階的な変化)又は連続的に(漸進的な変化)行われ得る。
【0048】
最も適切な方法がいずれであっても、マイクロカニューレ150は、鼓室階54内に十分に前進させられ得る。蝸牛50の形状により、鼓室階54内でのマイクロカニューレ150の前進中、マイクロカニューレ150は、マイクロカニューレ150が前進させられるにつれて、第2のベクトル53に沿った延伸から第3のベクトル55に沿った延伸に変化するか、又は曲がる(そしてその後、鼓室階54の螺旋形状によって画定される他の方向に沿って延伸する)。いくつかの実施形態では、マイクロカニューレ150は、その前進を容易にするために潤滑性コーティングを有し得る。いくつかの実施形態では、マイクロカニューレ150は、非円形の断面形状(例えば、D字形、卵形など)を有し得る。
【0049】
マイクロカニューレ150は、鼓室階54内に所望の深さまで前進させられ得る。いくつかの実施形態では、臨床医が、マイクロカニューレ150を鼓室階54内に、蝸牛50内の目標深さ(又は目標深さ範囲)まで挿入できるように、深度マーカがマイクロカニューレ150上に含まれ得る。本発明者らによる研究では、マイクロカニューレ150の先端は蝸牛50のずっと奥深くの先端まで配置されなくてもよいことが示されている。代わりに、本発明者らは、例えば8000kHzの周波数位置(蝸牛50の先端から約10mm)と600Hzの周波数位置(蝸牛50の先端から約25mm)との間の音声範囲内に十分入る深さ位置が、治療薬を注入するのに良好な目標深さであることを発見している。本発明者らはまた、注入が噴射動作(又は対流)を含み、それによって注入中に治療薬がマイクロカニューレ150の遠位先端を超えて到達し得ることも発見していることなどから、そのような深さで十分である。例えば、いくつかの置換形態を用いて(例えば、内径0.13mm×外径0.26mmのマイクロカニューレで1cc/分~2.5cc/分の間の流量を使用して)、本発明者らは、マイクロカニューレ150の遠位先端を越えて15mmまでの範囲で対流混合を達成した(なお、本発明者らは、5マイクロリットル/分~50マイクロリットル/分まで流量を下げ、マイクロカニューレのサイズも外径0.12mm~0.9mmの間とすることも想定できている)。
【0050】
マイクロカニューレ150が鼓室階54内に目標深さまで挿入されると、マイクロカニューレ150を介した治療薬の注入が開始され得る。いくつかの実施形態では、ガイドワイヤ(この段階でマイクロカニューレ150内にまだ存在している場合)が、まず注入の前にマイクロカニューレ150のルーメンから取り外される。特定の実施形態では、ガイドワイヤ(この段階でまだ存在している場合)は、注入中もマイクロカニューレ150のルーメン内に残される。
【0051】
いくつかの実施形態では、マイクロカニューレ150を介した蝸牛50への治療薬の注入中に、蝸牛50からの天然流体が同時に吸引され得る。したがって、いくつかの実施形態では、マイクロカニューレ150は、マイクロカニューレ150の遠位先端の近位に配置された1以上の開口部を有する第2のルーメンによって構成され得る。換言すれば、いくつかの実施形態では、マイクロカニューレ150は、注入用の第1のルーメンと吸引用の第2のルーメンとを有するマルチルーメンカテーテルである。第2のルーメンへの1以上の開口部は、マイクロカニューレ150の遠位先端の近位に(例えば、正円窓52の付近に)配置され得、カテーテル沿いの鼓室階54の長さが注入された薬剤にさらされるようになっている。そのようなマルチルーメンマイクロカニューレ150の2つのルーメンは、様々な断面形状及び構成(例えば、円形断面に隣接するC字形断面、2つの円形断面、又は他の形状)を有し得る。他の実施形態では、マルチルーメンマイクロカニューレ150は、第2のルーメンがメインルーメンと同心になるように、2つの入れ子状管状構造を有してもよい。マルチルーメンマイクロカニューレ150は、いくつかの実施形態では、中心管を通して注入を行い、中心管の周りの環状空間(例えば、遠位開口部か、又は中心管の遠位先端に対して近位に配置された外側管の側面の開口部のいずれか)を通して吸引を同時に行うことができるように、2つの同軸管から構成され得る。
【0052】
注入中のそのような吸引は、蝸牛内圧力の潜在的に危険な上昇を防ぐのに役立ち得る。いくつかの実施形態では、注入中に鼓室階54の圧力測定値が取得され、吸引量を調節して蝸牛内圧力を目標範囲内に保つために圧力測定値が使用され得る。いくつかの実施形態では、そのような圧力センサは、マイクロカニューレ150上又は鼓室階54内のガイドワイヤ上に配置され得る。
【0053】
いくつかの実施形態では、体液平衡手法が、注入中の吸引量を調節/制御するために使用され得る。すなわち、吸引体積が測定され、注入体積と本質的に等しく保たれるように制御され得る。
【0054】
注入される流体は、小分子、大分子生物製剤、ペプチド、オリゴヌクレオチド、及び遺伝子治療ベクターなどの治療薬を含み得るが、これらに限定されない。注入される流体はまた、X線及びCTのイメージングを向上させるためのヨウ素ベースの薬剤、並びにMRI画像を向上させるためのガドリニウムベースの造影剤など、病理の診断を支援するためのトレーサ分子を含み得る。
【0055】
注入中の吸引を可能にするシステムはまた、生来の外リンパ液の安全な収集を可能にする。この流体は鼓室階を浸し、疾患診断、疾患予後、病期、及び介入に対する反応を知らせるのに使用可能な分子マーカを含有する。収集された流体は、確立された技術を使用して、核酸、ペプチド、タンパク質、脂質、イオン、及び他の小分子を含む様々な分子の存在、不在、及び相対的な定量的発現について分析され得る。収集される流体中の外リンパの濃度は、注入された薬剤で希釈されるにつれて、処置中に経時的に減少することが予想される。一連の収集リザーバが、収集された流体を採取時間ごとに分離するために設置され得る。外リンパが濃縮された初期のサンプルは、検出及び定量化の可能性を高めるために、バイオマーカの存在について優先的に分析され得る。
【0056】
注入中の吸引を可能にするシステムはまた、注入された薬剤の安全な収集を可能にする。逆に、蝸牛内の第2の開窓からの流出又は正円窓からの逆流を可能にするシステムは、注入された薬剤の中耳組織及びエウスタキオ管への曝露をもたらし、さらに全身曝露の増加をもたらす。特に遺伝子治療の場合、蝸牛外への曝露を制限することは、薬剤に対する免疫応答を制限するために非常に望ましい。
【0057】
図8A及び
図8Bを参照すると、患者の蝸牛に治療物質を注入するための方法200がフローチャート形式で示されている。方法200は、上述した方法で、並びに上述した装置及びシステムを使用して行われ得る。破線のボックスは任意のステップである。
【0058】
ステップ210において、患者の鼓膜に切開部又は開口部が形成される。このような切開部は、
図6に例示される(鼓膜30における切開部32を参照)。場合によっては、この切開部は2mm未満の長さであり得る。特定の状況では、ポート装置が切開部に設置され得る。切開部に存在するそのようなポート装置は、開口部を画定し得、そこを通って器具が中耳にアクセスするために延伸し得る。代替的に、いくつかの実施形態では、切開部ではなく、鼓膜30の小さなフラップが上げられ得る。
【0059】
ステップ220において、鼓膜の切開部(又は鼓膜フラップによって形成された開口部)を通って、かつ正円窓窩に向かって1以上の装置が前進させられ得る。例えば、
図5~
図7を参照して図示及び説明されるように、いくつかの実施形態では、内視鏡、マイクロカニューレ、及びガイドワイヤが、鼓膜の切開部を通って前進させられ得る。いくつかの実施形態では、1以上の安定化装置(例えば、患者の解剖学的構造に一時的に固定され、器具をスライド可能に受け入れるための1以上のチャネルを画定するカラー、ガイド、通路、又はチューブ)が、外耳道及び/又は鼓膜で使用されてもよい。1以上の装置(例えば、内視鏡、マイクロカニューレ、及びガイドワイヤ)は、そのような安定化装置を通って前進させられ得る。安定化装置は、1以上の装置の制御を向上させ、患者の安全性を向上させ得る。その結果、マイクロカニューレ及びガイドワイヤの遠位端部が、患者の中耳に配置され得る。内視鏡は、達成可能な範囲で、正円窓窩の視覚化を容易にするために配置され得る。
【0060】
ステップ220の間、いくつかの実施形態では、マイクロカニューレが内視鏡の作業チャネル内に配置され得、ガイドワイヤがマイクロカニューレのルーメン内に配置され得る。マイクロカニューレは、内視鏡に対して遠位及び近位に移動可能であり得る。さらに、ガイドワイヤは、マイクロカニューレに対して遠位及び近位に移動可能であり得る。換言すれば、マイクロカニューレは、ガイドワイヤ上を移動可能である。
【0061】
患者が擬似膜又は正円窓窩に対する他の閉塞物を有する場合、擬似膜又は他の閉塞物は、正円窓窩へのアクセスを得るために少なくとも必要な程度まで除去又は緩和され得る。
【0062】
いくつかの実施形態では、ガイドワイヤは、ガイドワイヤを正円窓窩に向けるように(例えば、
図3に示すように)湾曲した又は成形された1以上の端部を含み得る。マイクロカニューレがガイドワイヤの湾曲した又は成形された部分上を前進させられる(又はその部分上に存在する)とき、マイクロカニューレは、(例えば、
図4及び
図7に示すように)ガイドワイヤの湾曲した又は成形された部分に追従する傾向がある。したがって、ガイドワイヤはマイクロカニューレを「誘導」するために使用され得る。
【0063】
ステップ230において、マイクロカニューレは、蝸牛の正円窓窩と鼓室階との間に障壁を提供する正円窓膜に向かって、ガイドワイヤ上を正円窓窩内に前進させられる。ガイドワイヤ及び/又はマイクロカニューレの遠位先端は、この時点で正円窓窩内にある。
【0064】
ステップ240において、正円窓膜がガイドワイヤの遠位先端によって穿刺される。いくつかの実施形態では、ガイドワイヤは、正円窓膜を穿刺するために特別に構成された先端を有してもよい。例えば、いくつかの実施形態では、ガイドワイヤの先端は、正円窓膜の穿刺を容易にするために尖っており、鋭利であり、かつ/又は剛性を有してもよい。マイクロカニューレは、ガイドワイヤに追加のカラム強度を提供して正円窓膜の穿刺を支援するために、この接合部でガイドワイヤの先端の付近にあり得る。いくつかの実施形態では、正円窓膜は、(ガイドワイヤの遠位先端による方法以外の)他の方法で穿刺され得る。例えば、いくつかの実施形態では、正円窓膜は、レーザ、超音波器具などの別の種類の器具を使用して穿刺され得る。
【0065】
正円窓膜が穿刺された状態で、ガイドワイヤ及び/又はマイクロカニューレの遠位先端部は、穿刺部を通って蝸牛の鼓室階内に前進させられ得る。いくつかの実施形態では、蝸牛の開窓(蝸牛造窓)が、正円窓膜への代替入口点として形成されてもよい。蝸牛造窓は、小型ドリル、レーザ、超音波器具などを介して形成され得る。蝸牛造窓を介したマイクロカニューレの配置によって、蝸牛の基底曲がりに入るのに必要な誘導の程度が低減され、挿入が容易になり得る。
【0066】
任意選択のステップ250において、ガイドワイヤ(すなわち「第1のガイドワイヤ」)が引き抜かれ、第1のガイドワイヤとは異なる特性を有する別のガイドワイヤ(すなわち「第2のガイドワイヤ」)が、(マイクロカニューレがその現在位置に留まる間、)マイクロカニューレのルーメンを通して前進させられ得る。例えば、いくつかの実施形態では、第2のガイドワイヤは、第1のガイドワイヤとは半径が異なる湾曲部分を有してもよい。そのような場合、第2のガイドワイヤは、第1のベクトル51に位置合せされた状態から第2のベクトル53に位置合せされた状態にまでマイクロカニューレを前進させるのに必要な、きつい曲がりの誘導を容易にし得る(
図7を参照)。さらに、いくつかの実施形態では、第2のガイドワイヤは、外傷性のない先端部(例えば、第1のガイドワイヤが有し得るような、正円窓膜を穿刺するように構成された先端の代わりになるもの)を有してもよい。いくつかの実施形態では、鼓室階内の複数の曲がりに対応するために、複数のガイドワイヤ変更があり得る。
【0067】
ステップ260、262及び264は、マイクロカニューレを鼓室階内に前進させるための3つの代替手法である。いくつかの実施形態では、これら3つの手法の組み合わせが使用され得る。特定の実施形態では、マイクロカニューレ及び/又はガイドワイヤは、マイクロカニューレ及び/又はガイドワイヤが鼓室階内に延伸された距離の表示を臨床医オペレータに提供する深度マーカを含み得る。
【0068】
ステップ260において、ガイドワイヤを前進させることはせず、マイクロカニューレが鼓室階に沿って前進させられる。換言すれば、マイクロカニューレは、それ自体で鼓室階に沿って前進させられる。いくつかの態様では、マイクロカニューレは、マイクロカニューレが前進させられるにつれてマイクロカニューレが鼓室階の曲がりに追従することを可能にする高度の適合性を有し得る。さらに、いくつかの実施形態では、マイクロカニューレは、マイクロカニューレが前進させられるにつれて蝸牛の内壁表面に損傷を与えるリスクを軽減するための外傷性のない先端部を有する。
【0069】
ステップ262において、ガイドワイヤがマイクロカニューレのルーメン内に存在している間、マイクロカニューレが鼓室階に沿って前進させられる。換言すれば、マイクロカニューレ及びガイドワイヤは、鼓室階に沿って同時に前進させられる。
【0070】
ステップ264において、ガイドワイヤが、最初にそれ自体で鼓室階に沿って前進させられ、次いでマイクロカニューレが、ガイドワイヤ上を前進させられる。
【0071】
マイクロカニューレは、蝸牛内の特定の目標深さ(又は目標深さ範囲)まで前進させられ得る。一般に、マイクロカニューレの先端は、正円窓と蝸牛の頂点との間の地点に挿入され得る。例えば、場合によっては、マイクロカニューレの先端は、限定するものではないが、10mm~15mm、又は8mm~20mm、又は12mm~24mm、又は16mm~30mmの距離だけ、正円窓から蝸牛(鼓室階)内に挿入され得る。
【0072】
ステップ270において、マイクロカニューレのルーメン内のガイドワイヤは、任意選択的に引き抜かれる。しかしながら、いくつかの実施形態では、ガイドワイヤはマイクロカニューレのルーメン内に残される。
【0073】
ステップ280において、治療薬がマイクロカニューレのルーメンを通して蝸牛に注射又は注入される。注入は、注入物(治療薬)がマイクロカニューレの先端を越えて蝸牛の頂点に向かって遠くまで注入される対流噴射効果を提供し得る。
【0074】
任意選択のステップ290では、治療薬が蝸牛に注入されている間に、蝸牛内からの流体が吸引され得る。注入中のそのような同時の吸引は、蝸牛内の流体圧力を目標範囲内に維持するのに役立ち得る。吸引は能動的又は受動的であり得る。いくつかの実施形態では、注入中に鼓室階の圧力測定値が取得され、吸引量を調節して、蝸牛内圧力を目標範囲内に保つために圧力測定値が使用され得る。いくつかの実施形態では、そのような圧力センサは、マイクロカニューレ上又は鼓室階内のガイドワイヤ上に配置され得る。いくつかの実施形態では、体液平衡手法が、注入中の吸引量を調節/制御するために使用され得る。すなわち、吸引体積が測定され、注入体積と本質的に等しく保たれるように制御され得る。
【0075】
ステップ290の吸引を容易にするために、いくつかの実施形態では、マイクロカニューレは、注入用の第1のルーメンと吸引用の第2のルーメンとを有するマルチルーメンカテーテルである。第2のルーメンへの1以上の開口部は、鼓室階から吸引された流体が治療薬ではないように(又は、少量のみの治療薬を含むように)、近位に配置される(例えば、正円窓の付近)。いくつかの実施形態では、第2のカニューが、正円窓付近の鼓室階から流体を吸引するために使用され得る。
【0076】
ステップ300において、器具が引き抜かれ、患者から完全に取り外される。蝸牛に注入された治療薬は、その治療効果を提供するために蝸牛内に残る。鼓膜30への小さな切開部は、自己治癒し、一定期間にわたり自ら閉じていく。
【0077】
患者の蝸牛に治療物質を注入する上述の方法200は、直接の視覚化のために内視鏡を使用するが、いくつかの実施形態では、そのような内視鏡の代わりに、又はそのような内視鏡に加えて、顕微鏡又はOCT(光コヒーレンス断層撮影スコープ)が使用され得る。いくつかのそのような場合は、顕微鏡(すなわち小型ミラー)を使用して正円窓の視覚化を提供するための小型ミラーを有する器具(すなわちカテーテルガイド)の使用を含み得る。したがって、いくつかの実施形態では、方法200を行うために内視鏡は必要とされない。
【0078】
本明細書に開示される器具は、中耳又は内耳への経管、経鼓膜アプローチを使用する耳科的処置の文脈で主に説明されているが、器具はそのような使用に限定されず、体内の他の空洞又は空間及び他のアプローチに使用され得ることを理解されたい。例えば、いくつかの実施形態では、本明細書に記載の器具は、経乳様突起アクセス、鼓室中皮弁を介した経管、経鼓膜弁輪、耳内膜、後耳、耳姿勢、蝸牛吻合などを含むがこれらに限定されない、中耳、内耳、エウスタキオ管、乳様突起腔への他のアプローチ及び手法のために使用され得る。そのようなシステム及び方法は、とりわけ、薬物送達、ゲル送達、抗生物質送達、遺伝子送達、移植片配置、装置又はインプラント送達、組織除去、診断処置、採取処置、外科手術に使用することができる。
【0079】
本明細書に記載の実施形態又は実施形態の特徴のいずれも、任意の組み合わせ及び任意の置換で組み合わせることができ、すべてが本開示の範囲内であることに留意されたい。
【0080】
本明細書に記載の装置、システム、及び方法は、いくつかの例を提供すれば、難聴、耳鳴り、回転性めまいを含むバランス障害、メニエル病、前庭神経炎、前庭シュワン細胞腫、迷路炎、耳硬化症、耳小骨連鎖脱臼、真珠腫、中耳炎、中耳感染症、及び鼓膜穿孔を含むがこれらに限定されない中耳及び/又は内耳の任意の障害を治療する過程で使用することができる。いくつかの実施形態では、本明細書に記載の装置、システム、及び方法は、正円窓窩及び/又は卵円窓若しくは中耳腔の他の部分などの他の標的部位への治療薬の正確な送達の過程で、かつ中耳の他の特徴又は領域へのアクセスを提供するために使用され得る。例えば、本明細書に記載のシステム及び方法は、耳小骨連鎖の低侵襲再建手術、コレステアトーマの除去、診断評価、及び他の処置に使用することができる。本明細書に記載のシステム及び方法を使用するためのあらゆるそのような技術は、本開示の範囲内に含まれる。
【0081】
本明細書に記載の装置及びシステムは、アルミニウム、チタン、ステンレス鋼、ニチノール、これらの組み合わせの編組などであってこれらに限定されない金属、又はシリコーン、ポリウレタン、ABS、PEEK、PET、HDPEなどであってこれらに限定されないポリマー、射出成形部品、エラストマー材料、ゲルなどで構築され得る。
【0082】
本明細書に記載の装置、システム、材料、化合物、組成物、物品、及び方法は、開示の主題の特定の態様の上記の詳細な説明を参照することによって理解され得る。しかしながら、上記の態様は、特定の装置、システム、方法、又は特定の仲介物に限定されず、したがって変動し得ることを理解されたい。本明細書で使用される用語は、特定の態様のみを説明するためのものであり、限定することを意図するものではないことも理解されたい。
【0083】
いくつかの実施形態を説明した。それにもかかわらず、本明細書の特許請求の範囲から逸脱することなく、様々な修正が行われ得ることが理解されよう。したがって、他の実施形態は、以下の特許請求の範囲内にある。
【符号の説明】
【0084】
10 患者、20 外耳、30 鼓膜、32 切開部、40 中耳、50 蝸牛、51 第1のベクトル、52 正円窓、53 第2のベクトル、54 鼓室階、55 第3のベクトル、100 耳内視鏡システム、110 ハンドル、120 内視鏡シャフト、130 作業チャネルアクセスポート、140 作業チャネル、150 マイクロカニューレ、160a ガイドワイヤ、160b 第2のガイドワイヤ
【国際調査報告】