(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公表特許公報(A)
(11)【公表番号】
(43)【公表日】2024-10-02
(54)【発明の名称】細胞性または分子性の被分析物の検出のための革新的なバイオテクノロジーシステム
(51)【国際特許分類】
G01N 33/543 20060101AFI20240925BHJP
G01N 33/569 20060101ALI20240925BHJP
G01N 33/532 20060101ALI20240925BHJP
G01N 33/533 20060101ALI20240925BHJP
G01N 33/553 20060101ALI20240925BHJP
C12N 7/01 20060101ALN20240925BHJP
C12N 1/20 20060101ALN20240925BHJP
C07K 7/06 20060101ALN20240925BHJP
C07K 7/08 20060101ALN20240925BHJP
【FI】
G01N33/543 515D
G01N33/569 B ZNA
G01N33/569 F
G01N33/569 G
G01N33/532 B
G01N33/533
G01N33/543 501D
G01N33/553
C12N7/01
C12N1/20 A
C07K7/06
C07K7/08
【審査請求】未請求
【予備審査請求】未請求
(21)【出願番号】P 2024541290
(86)(22)【出願日】2022-09-21
(85)【翻訳文提出日】2024-05-13
(86)【国際出願番号】 IB2022058928
(87)【国際公開番号】W WO2023047306
(87)【国際公開日】2023-03-30
(31)【優先権主張番号】102021000024185
(32)【優先日】2021-09-21
(33)【優先権主張国・地域又は機関】IT
(81)【指定国・地域】
【公序良俗違反の表示】
(特許庁注:以下のものは登録商標)
(71)【出願人】
【識別番号】524108662
【氏名又は名称】ウニベルシタ デッリ ストゥディ ディ メッシーナ
(71)【出願人】
【識別番号】519161584
【氏名又は名称】アルマ マータ ストゥディオルム-ウニベルシータ ディ ボローニャ
【氏名又は名称原語表記】ALMA MATER STUDIORUM - UNIVERSITA’ DI BOLOGNA
(74)【代理人】
【識別番号】100118902
【氏名又は名称】山本 修
(74)【代理人】
【識別番号】100106208
【氏名又は名称】宮前 徹
(74)【代理人】
【識別番号】100196508
【氏名又は名称】松尾 淳一
(74)【代理人】
【識別番号】100135415
【氏名又は名称】中濱 明子
(72)【発明者】
【氏名】コノチ,サブリナ
(72)【発明者】
【氏名】ググリエルミーノ,サルバトーレ
(72)【発明者】
【氏名】カルバレージ,マッテオ
(72)【発明者】
【氏名】ダニエリ,アルベルト
(72)【発明者】
【氏名】プロディ,ルカ
(72)【発明者】
【氏名】ファツィオ,エンツァ
(72)【発明者】
【氏名】ペトロジーノ,アンナパオラ
(72)【発明者】
【氏名】ディ ジオシア,マッテオ
【テーマコード(参考)】
4B065
4H045
【Fターム(参考)】
4B065AA42X
4B065AA98X
4B065AB01
4B065BA02
4B065CA46
4H045AA10
4H045AA20
4H045AA30
4H045BA15
4H045BA16
4H045BA41
4H045DA86
4H045EA50
4H045FA74
(57)【要約】
本発明は、細胞性または分子性の被分析物を検出する方法に関し、この方法は2種類の人工ファージ、すなわち「捕捉」ファージ(ベイトファージ)と「シグナル」ファージ(レポーターファージ)を使用する。この方法により、標的被分析物を選択的に結合させることができ、その結果、標的被分析物を認識することができる。
【選択図】
図1
【特許請求の範囲】
【請求項1】
試料中の被分析物を検出する方法であって、前記被分析物が、
微生物、寄生虫、真核細胞、細菌、ウイルスから選択される、細胞系、または
毒素、タンパク質、核酸から選択される、分子マーカー、
から選択され、
前記方法は、
a)試料と、適切な支持体に結合されているとともに、前記被分析物を認識するために特異的な少なくとも1種のペプチドまたはポリペプチドまたは融合タンパク質を含む第1のファージM13(ベイトファージ)とを接触させるステップであって、前記ペプチドまたはポリペプチドまたは融合タンパク質はタンパク質pVIII上に露出されており、それによって、前記被分析物に結合した第1のファージM13を含む第1の複合体(「ベイトファージ-被分析物」複合体)の形成を達成するステップと、
b)前記第1のファージM13を、前記第1のファージM13と結合しなかった前記試料部分から分離するステップと、
c)前記第1のファージM13に、タンパク質pIII上に融合した前記被分析物を特異的に認識するための少なくとも1種のペプチドまたはポリペプチドまたはタンパク質、および第2のファージM13のキャプシドにコンジュゲートした少なくとも1種のマーカーを含む第2のファージM13(レポーターファージ)を加えるステップであって、前記マーカーは、蛍光色素分子、発色団、電気化学的活性種または電気化学的発光活性種から選択され、それによって、前記被分析物にサンドイッチ状に結合した第1のファージM13および第2のファージM13を含む第2の複合体の形成を達成するステップと、
d)洗浄を実施して、前記被分析物に結合しなかった前記第2のファージM13を除去するステップと、
e)前記第2の複合体の前記第2のファージM13の前記マーカーによって生成された誘導シグナルを決定するステップと、
を含む、方法。
【請求項2】
前記被分析物が細菌である、請求項1に記載の方法。
【請求項3】
前記被分析物がグラム陰性細菌である、請求項2に記載の方法。
【請求項4】
前記被分析物がグラム陰性細菌であるシュードモナス・エルギノーザ(P.aeruginosa)である、請求項3に記載の方法。
【請求項5】
ステップa)の少なくとも1種のペプチドまたはポリペプチドまたは融合タンパク質が、配列番号1の配列(QRKLAAKLT)を有する、請求項4に記載の方法。
【請求項6】
ステップc)の少なくとも1種のペプチドまたはポリペプチドまたはファージ認識タンパク質が、配列番号2の配列(KLAKLAKKLAKLAK)を有する、請求項4に記載の方法。
【請求項7】
前記マーカーが蛍光体色素分子である、請求項1~6のいずれかに記載の方法。
【請求項8】
前記蛍光色素分子がCF594(Biotium)である、請求項7に記載の方法。
【請求項9】
前記支持体が磁性微小球(MNP)を含み、前記磁性微小球が前記第1のファージM13で機能化されている、請求項1~8のいずれかに記載の方法。
【請求項10】
前記第1のファージM13を、前記第1のファージM13と結合しなかった試料部分から分離する前記ステップが、磁性微小球の磁気捕捉によって行われる、請求項9に記載の方法。
【請求項11】
前記支持体が電極、ポリマーまたはシリコンベースの表面である、請求項1に記載の方法。
【請求項12】
前記第1のファージM13を、前記第1のファージM13と結合しなかった試料部分から分離する前記ステップが、洗浄によって行われる、請求項11に記載の方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、細胞性または分子性の被分析物を検出する方法に関し、この方法は2種類の人工ファージ、すなわち「捕捉」ファージ(ベイトファージ)と「シグナル」ファージ(レポーターファージ)を使用する。この方法により、標的被分析物を選択的に結合させることができ、その結果、標的被分析物を認識することができる。
【背景技術】
【0002】
臨床診断システムや分子診断システムなど、検査診断システム全般の分野では、革新的なシステムの開発に強い関心が常に寄せられている。
現在、異質の被分析物(ウイルス、分子マーカー、毒素、タンパク質、核酸など)の細胞系(微生物や真核細胞)を検出するために使われている主な分析手法は、主に間接的な検出システムに基づいている。これらのシステムは、感度は高いものの(例えば、PCR、ELISA、その他の抗体検査など)、資格を持ったオペレーターによる操作、検査結果が出るまでの待ち時間、および分析の集中化などが必要である。
【0003】
他の態様は、革新的なバイオテクノロジーと統合された生物工学的システムを開発するための、いわゆるPOCT(ポイントオブケア技術)技術である。特に、このようなシステムは、非臨床検査室での迅速な分析検査の実施を可能にし、有資格者以外でも、あるいは患者自身でも実施することができる。特に、POCT分野における研究への注目の高まりは、現代社会における2つの異なる傾向:(i)高額な医療費を削減する一般的な必要性ならびに(ii)早期診断およびカスタム化された治療のためのよりよい分析ソリューションへの需要、に大きく後押しされている。これに加えて、パンデミックの爆発の結果、より高精度、高感度、安価であると同時に大規模なスクリーニングに対する需要が非常に重要になっている。これらの態様は、効率的な患者管理、タイムリーな診断、ならびに感染症発生の迅速な検知に対処するために極めて重要であり、その結果、パンデミックおよび疫病の流行に効率的に対処することが可能になる。
【0004】
そのため、感度が高く選択性があり、同時に安価で直接読み出しが可能であって、分子性および/または細胞性の被分析物、特に微生物(例えば、バクテリアおよびウイルス)の直接検出が可能な分析システムの探索が続けられており、そのシステムにおいては、前記検出が、高い選択性、特異度、費用対効果を有していなければならない。
【発明の概要】
【0005】
したがって、本発明が解決しようとする課題は、例えば、細胞系(例えば、細菌、寄生虫、真核細胞)、ウイルス、分子マーカー(例えば、毒素、タンパク質、核酸)などの被分析物、好ましくは生物臨床的に関心のある被分析物を検出するための方法を提供することであり、この方法は、高い感度および特異度の特徴を有し、直接的であるとともに、迅速で費用効果の高いシステムで使用することができる。
【0006】
この問題は、添付の特許請求の範囲に概説されている本発明の方法によって解決され、そこに含まれる定義は本開示の不可欠な部分である。
本出願人は、今回、2種類の人工ファージ、すなわちベイトファージとレポーターファージを使用する細胞性または分子性の被分析物を検出する方法を発見した。具体的には、前記ファージは、主要カプソマー(主要外皮タンパク質)であるpVIII上に露出するとともに、標的被分析物と選択的に結合できる少なくとも1種の融合ペプチドを含んでいる。その後、ファージ先端の、非主要カプソマー(非主要外皮タンパク質)pIII上に少なくとも1種の認識ペプチドを露出するとともに、主要カプソマー上にシグナル伝達のための少なくとも1種のマーカーを露出させたレポーターファージが、ベイトファージによって捕捉された被分析物と同様にして結合する。このような2種類の人工ファージに基づく検出システムは、「分子サンドイッチ」と定義することができる。
【0007】
したがって、第1の態様において、本発明は、
a)被分析物を含む試料と、適切な支持体に結合されているとともに、被分析物を認識するために特異的な少なくとも1種のペプチドまたはポリペプチドまたは融合タンパク質を含む第1のファージM13(ベイトファージ)と接触させるステップであって、前記ペプチドまたはポリペプチドまたは融合タンパク質はタンパク質pVIII上に露出されており、それによって、被分析物に結合した第1のファージM13を含む第1の複合体(「ベイトファージ-被分析物」複合体)の形成を達成するステップと、
b)第1のファージM13を、前のステップa)で、第1のファージM13と結合しなかった試料部分から分離するステップと、
c)第1のファージM13に、タンパク質pIII上に融合した被分析物を特異的に認識するための少なくとも1種のペプチドまたはポリペプチドまたはタンパク質、および第2のファージM13のキャプシドにコンジュゲートした少なくとも1種のマーカーを含む第2のファージM13(レポーターファージ)を加えるステップであって、前記マーカーは、蛍光色素分子、発色団、電気化学的活性種または電気化学的発光活性種から選択され、それによって、被分析物にサンドイッチ状に結合した第1のファージM13および第2のファージM13を含む第2の複合体(「ベイトファージ-被分析物-レポーターファージ」複合体)の形成を達成するステップと、
d)洗浄を実施して、被分析物に結合しなかった第2のファージM13を除去するステップと、
e)前記第2の複合体の第2のファージM13のマーカーによって生成された誘導シグナルを決定するステップと、
を含む方法に関する。
【0008】
有利なことに、本発明による方法は、標的被分析物を選択的に、高感度で、かつ直接的に検出することを可能にする。特に、前記方法は、感染性微生物(例えば、細菌、寄生虫およびウイルス、例えば、SARS-CoV-2)の直接検出に使用できる。他の有利な例としては、腫瘍学的病態のような病態による変異の場合のようなヒト真核細胞、および異なる分子的性状の被分析物(例えば、タンパク質、分子マーカー、毒素、核酸など)の直接検出が挙げられる。有利なことに、本発明による方法は、複数の被分析物を同時に統合分析するための多重化による検出の可能性を提供する。また、他の有利な態様は、このタイプの検出が高価でないことである。最後に、POCTのために本発明の方法の実施も可能である。
【0009】
本発明の方法のさらなる特徴および利点は、本発明自体の指示的な実施例として提供され、本発明の例示的な実施形態の説明から明らかになるであろう。
【図面の簡単な説明】
【0010】
【
図1】本発明による方法の作用のメカニズムの概略図である。
【
図2】分子サンドイッチ「ベイトファージ+被分析物+レポーターファージ」の画像を示す。
【
図3】分子サンドイッチ「ベイトファージ+被分析物+レポーターファージ」のさらなる画像を示す。
【
図4】分子サンドイッチ「ベイトファージ+被分析物+レポーターファージ」のさらなる画像を示す。
【
図5】分子サンドイッチ「ベイトファージ+被分析物+レポーターファージ」のさらなる画像を示す。
【
図6】分子サンドイッチ「ベイトファージ+被分析物+レポーターファージ」のさらなる画像を示す。
【発明を実施するための形態】
【0011】
本発明の目的のため、本明細書および添付の特許請求の範囲で使用されるいくつかの用語の定義を以下に示す。
「細胞性または分子性の被分析物」という用語は、例えば、細胞系(微生物、寄生虫、真核細胞など)、ウイルス、分子マーカー(毒素、タンパク質、核酸など)のような系を意味し、好ましくは生物臨床的に興味深いものである。
【0012】
本発明の目的は、試料中の被分析物を検出する方法であって、前記被分析物が、
微生物、寄生虫、真核細胞、細菌、ウイルスから選択される細胞系、または
毒素もしくはタンパク質から選択される分子マーカー、
から選択され、
前記方法は、
a)試料と、適切な支持体に結合されているとともに、被分析物を認識するために特異的な少なくとも1種のペプチドまたはポリペプチドまたは融合タンパク質を含む第1のファージM13(ベイトファージ)とを接触させるステップであって、前記ペプチドまたはポリペプチドまたは融合タンパク質はタンパク質pVIII上に露出されており、それによって、被分析物に結合した第1のファージM13を含む第1の複合体(「ベイトファージ-被分析物」複合体)の形成を達成するステップと、
b)第1のファージM13を、第1のファージM13と結合しなかった試料部分から分離するステップと、
c)第1のファージM13に、タンパク質pIII上に融合した被分析物を特異的に認識するための少なくとも1種のペプチドまたはポリペプチドまたはタンパク質、および第2のファージM13のキャプシドにコンジュゲートした少なくとも1種のマーカーを含む第2のファージM13(レポーターファージ)を加えるステップであって、前記マーカーは、蛍光色素分子、発色団、電気化学的活性種または電気化学的発光活性種から選択され、それによって、被分析物にサンドイッチ状に結合した第1のファージM13および第2のファージM13を含む第2の複合体(「ベイトファージ-被分析物-レポーターファージ」複合体)の形成を達成するステップと、
d)洗浄を実施して、被分析物に結合しなかった第2のファージM13を除去するステップと、
e)前記第2の複合体の第2のファージM13のマーカーによって生成された誘導シグナルを決定するステップと、
を含む、方法である。
【0013】
上記のステップは、上記の順序で行われる。
好ましくは、第1のファージM13(ベイトファージ)は、少なくとも1つの融合ペプチド、好ましくは、被分析物と選択的に結合することができるファージのタンパク質「主要外皮タンパク質pVIII」との融合体を露出させた人工様相のM13である。好ましくは、少なくとも1種の融合ペプチドは、第1のファージM13のキャプシド上に、数十または数百、最大数千の桁のコピー数で露出している。
【0014】
第2のファージM13(レポーターファージ)は、当業者に公知の方法で操作されたファージM143であり、被分析物と選択的に結合することができる少なくとも1種のペプチドまたはポリペプチドまたは融合タンパク質、好ましくはファージの「非主要外皮タンパク質pIII」との融合体を露出する。タンパク質「非主要外皮タンパク質pIII」は、前記第2のファージM13のキャプシドのタンパク質である。
【0015】
マーカーに関連して、マーカーによって生成された誘導シグナルを決定することができる。このようなシグナルの決定は、被分析物の光学的または電子的検出によって行える。特に、測光法、蛍光光度法、光ルミネセンス、熱発光、化学発光、電気化学的発光、ボルタンメトリーおよび他の電気化学的手法によって、少なくとも1種のマーカーを検出することができる。実際、ステップc)の通過後、使用するマーカーに応じて、光学的または電子的センサーによって、被分析物の結果としての「捕捉」シグナルが検出され得る。好ましい態様によれば、第2のファージM13のキャプシドにコンジュゲートしたマーカーは、蛍光色素分子、発色団、電気化学的活性種または電気化学的発光活性種である。本発明の好ましい態様によれば、マーカーは蛍光色素分子であり、蛍光色素分子は好ましくはCF594(Biotium)である。
【0016】
本発明の好ましい態様によれば、被分析物は細菌、好ましくはグラム陰性細菌、さらに好ましくはシュードモナス・エルギノーザ(P.aeruginosa)である。好ましくは、ステップa)の少なくとも1種のペプチドまたはポリペプチドまたは融合タンパク質が、配列番号1の配列(QRKLAAKLT)を有する。好ましくは、ステップc)の少なくとも1種のペプチドまたはポリペプチドまたは様相認識タンパク質は、配列番号2の配列(KLAKLAKKLAKLAK)を有する。
【0017】
本発明の好ましい態様によれば、被分析物がシュードモナス・エルギノーザである場合、ステップa)の少なくとも1種のペプチドもしくはポリペプチドまたは融合タンパク質は、配列番号1の配列(QRKLAAKLT)を有する。好ましくは、前記少なくとも1種の融合ペプチドが、第1のファージM13のキャプシド上に、数十または数百、最大数千の桁のコピー数で露出している。
【0018】
本発明の好ましい態様によれば、被分析物がシュードモナス・エルギノーザである場合、ステップc)の少なくとも1種のペプチドまたはポリペプチドまたはファージ認識タンパク質は、配列番号2の配列(KLAKLAKKLAKLAK)を有する。
【0019】
本発明の好ましい態様によれば、被分析物がシュードモナス・エルギノーザである場合、ステップa)の少なくとも1種のペプチドまたはポリペプチドまたは融合タンパク質は、配列番号1の配列(QRKLAAKLT)を有するとともに、ステップc)の少なくとも1種のペプチドまたはポリペプチドまたはファージ認識タンパク質は、配列番号2の配列(KLAKLAKKLAKLAK)を有する。
【0020】
好ましい態様によれば、リンカーを使用することができる。有利には、リンカーはペプチドに移動性の特徴を付与する。好ましくは、リンカーはGGGSである。
本発明による方法の好ましい態様において、支持体、例えば磁性微小球(MNP)が使用され、前記支持体はベイトファージで機能化され(したがって、MNP-ベイトファージコンジュゲートが得られる)、前記ファージは、主要カプソマー(主要外皮タンパク質)pVIII上に露出し、標的被分析物を選択的に結合することができる少なくとも1種の融合ペプチドを含む。また、機能化の例示的であるが限定的でない手順を以下に示す。したがって、本発明による検出方法においては、第1のファージM13で機能化された支持体を使用することができる。好ましくは、支持体は磁性微小球(MNP)である。ここで、「磁性微小球」という用語は、当該技術分野において一般に磁性微粒子MNPと呼ばれ、1種または複数種のファージを固定化することができる粒子を意味する。当業者であれば理解できるように、本明細書では、前記粒子は、球/球(複数)という用語および対応する用語(例えば、微小球)を互換的に使用して呼ぶこともできる。このような粒子は、好ましくはフェライトなどの無機粒子とすることができ、1種または複数種のファージで機能化できる。前記機能化の結果、バイオセンサーを得ることができる。特に、微小球は、表面積と体積の比が平面表面よりも高い三次元構造であるため、標的により多くの結合部位を提供できるという利点がある。他の利点は、流体中での取り扱いが容易であることと、費用対効果が高いことである。好ましい態様によれば、タンパク質pVIIIに融合した活性認識ペプチドを露出させた選択されたファージは、磁性微小球上に共有結合している。これは、被検試料中の細胞、ウイルスまたはタンパク質を直接捕捉し、洗浄し、迅速に濃縮する際に使用するのに有利である。
【0021】
好ましい態様によれば、第1のファージM13に使用される支持体が磁性微小球からなる場合、第1のファージM13を、第1のファージM13と結合していない試料部分から分離するステップは、磁性微小球の磁気捕捉によって行われる。
【0022】
さらに好ましい態様によれば、第1のファージM13の支持体は、電極、ポリマーまたはシリコンベースの表面である。この場合、第1のファージM13を、第1のファージM13と結合していない試料部分から分離するステップは、洗浄によって行われる。
【0023】
本発明の方法の好ましい用途は、病原性グラム陰性細菌(例えば、WHOの「優先リスト」に記載されている種)またはSARS-CoV-2のようなウイルスなどの感染性微生物(細菌およびウイルス)に特に関連した、微生物の細胞を直接検出することを目的とする。このような方法は、真核細胞、特にがん細胞を捕捉し、濃縮し、直接検出する可能性がある液体生検にも拡張できる。この場合、この方法の選択性は、細胞表面に露出された特定の腫瘍マーカーに対する人工的ベイトファージおよびレポーターファージの特異性に関係する。このような方法は、毒素、タンパク質、核酸などの分子性の被分析物、特にこれらが特定の病態のバイオマーカーと考えられる場合にも拡張できる。このような「ファージプローブ」の開発と、それに応じて提示される分析プラットフォームの柔軟性は、ファージディスプレイスキームの大きな適応性によって有利になり、前述の支持体上に目的のタンパク質(野生型または組換え型のいずれか)を固定化した後、バイオパニングによって、ペプチドおよび抗体ライブラリー(scFvs、シングルドメイン抗体など)を選択できる。
【0024】
上記は例示的なものであり、限定的なものではないと理解されたい。加えて、当業者であれば、本発明の範囲から逸脱することなく改変がなされることが可能であることを理解できるであろう。
【実施例】
【0025】
使用試薬とその調製
【0026】
【0027】
機能化の実験手順
50μlのトシル基活性化Dynabeads M-280(Invitrogenカタログ番号142.03)を丸底エッペンドルフチューブに入れ、500μlのホウ酸緩衝液(0.1Mホウ酸緩衝液pH9.5)で、ホイールの上で穏やかに撹拌しながら5分間、2回洗浄した。ビーズを磁気装置で10分間回収した後、緩衝液を捨て、ビーズを50μlのホウ酸緩衝液に再懸濁した。ホウ酸緩衝液中の、1x1012TU/mlのストックからベイトファージを30μl、すなわち3x106ファージクローンを加え、その後60μlのホウ酸緩衝液および60μlの硫酸アンモニウム緩衝液(3M pH7.4)を加えた。チューブを37℃で24時間、傾斜30°の回転タンブラーミキサーで穏やかに撹拌しながら、インキュベートした。ビーズを磁気装置上で10分間分離し、上清を捨て、ビーズを500μlのPBS緩衝液pH7.4+1%BSAで、ホイール上で撹拌しながら5分間2回洗浄した。その後、500μlのブロッキングバッファー(PBS pH7.4+4%BSA)を加え、ビーズを室温(RT)で、2時間ホイール上で撹拌した。ビーズを磁気装置上で10分間分離し、上清を捨て、ビーズを回転タンブラーミキサーで500μlのPBS緩衝液pH7.4+1%BSAで5分間2回洗浄した。最後に、ビーズを200μlのPBSに再懸濁し、4℃で静置した(Dynabeads-ベイトファージ)。3種類の異なるストックを調製した。
【0028】
ベイトファージによるDynabeadsの機能化を確認するためのELISA試験
ベイトファージによるビーズの適切な機能化を確認するため、抗ファージM13抗体を使用するELISA試験を実施した。簡単に言うと、20μlの機能化ビーズを500μlの洗浄バッファー(PBS pH7.4+0.5%Tween20)で2回、ホイール上で5分間洗浄した。ビーズを100μlのPBSに再懸濁し、70μlの抗M13 HPR抗体(PBS+0.1%BSA+0.5%Tween20で1:2500)を加え、次にビーズを回転タンブラーミキサーで37℃、1時間インキュベートした。その後、500μlのPBS+0.5%Tween20で5回の洗浄を実施した。最後のステップで、ビーズを250μlのTMBに再懸濁し、暗所、室温(RT)で、ホイール上で20分間インキュベートした。完全な発色の後、31μlの6N H2SO4で反応をクエンチした。ビーズをマグネット上に10分間置き、その後全部の溶液と1:10希釈液200μlを450nmで読み取った。
【0029】
得られた結果:
【0030】
【0031】
ファージシステムDynabeads/ファージ-pVIIIを使用したシュードモナス・エルギノーザの捕捉試験
捕捉試験
捕捉および検出試験ために、セトリミド寒天培地上の単離シュードモナス・エルギノーザ ATCC 27853を5mlのLBで培養中のものを使用した。菌を8000xgで10分間遠心分離して集め、等容のPBSに再懸濁した。菌体をPBSで希釈し、OD600が0.29の菌体ストック(108細胞/mlに等しい)を得た。20μlのDynabeads-ベイトファージを、500μlのPBSにより5分間ホイール上で2回洗浄した後、磁石上に10分間置き、上清を捨てて、1mlのPBSに再懸濁し、100μlの細菌懸濁液108細胞/ml(最終濃度107細胞)または100μlのPBS(陰性対照)を加えた。
【0032】
試料を37℃の傾斜輪に30分間入れた。
任意の捕捉された細菌を含むビーズ-ベイトファージを磁気装置上で10分間分離した後、上清を取り出し、ビーズ-ファージ-細菌複合体を50μlのPBSに再懸濁し、ファージ-pIII-CF594による認識に使用した。上清中に存在する未捕捉細菌をプレート希釈法で滴定し、セトリミド寒天培地でCFU数をカウントして、ベイトファージで機能化したDynabeadsでの細菌捕捉効率を評価した。すべての試験は3連で行った。実施した試験におけるDynabeads-ベイトファージによるシュードモナス・エルギノーザ細胞の捕捉効率(投入菌数の割合-上清中の菌数=捕捉菌数として計算)は平均90%であった。
【0033】
レポーターファージ(ファージ-pIII-CF594)のエンジニアリング
グラム陰性細菌レポーターファージの構築
グラム(-)細菌の外膜に結合できるペプチドKLAKLAKKLAKLAKをコードする配列を、検出ファージpIIIの先端に5価で表示できるように、ファージミドpSEX81(ProGen)の遺伝子p3の上流の短いリンカーGGGSにフレーム内でクローニングした。前記の組換えファージミドで形質転換した大腸菌TG1の指数期培養物を、次にヘルパーファージHyperphage(ProGen)で重複感染させ、グラム(-)細菌の認識にリダイレクトされたファージ-pIIIビリオンの産生を可能にした。NaCl/PEG溶液での沈殿による精製後、ファージ-pIIIをPBS pH7.4に約1013ファージ/mlの目標濃度で再懸濁した。前記リダイレクトされたファージ-pIIIは蛍光色素分子CF594とコンジュゲートした。
【0034】
レポーターファージと蛍光色素分子CF594とのコンジュゲート
CF594であるイメージング剤を検出ファージpIIIのキャプシドに結合させる方法を以下に述べる。DMSO中の10mM CF594スクシンイミドエステルのストック溶液を室温で調製する。
【0035】
pH8.3の0.1M炭酸水素緩衝液中のレポーターファージ-pIIIを含む溶液1mlに、マグネチックスターラーで絶えず撹拌しながら、ストック溶液10μlを加える。色素のサクシニミジルエステル基は、ファージのキャプシドタンパク質のアミン基と反応して、安定したアミド結合を形成する。この混合物を一晩室温で撹拌しておく。
【0036】
機能化されたファージは、PBS緩衝液中での透析(カットオフ14kDa)によってCF594の非コンジュゲート画分から分離される。透析するバイオコンジュゲートの溶液1mlおよび500mlのPBSを使用して、それぞれ8時間の透析を3サイクル行った。
【0037】
ファージの定量は、ファージのUV-Vis吸光度スペクトルを読み取り、波長269nmから320nmの値を求め、その後、次式を適用することにより行った。
ファージ濃度(ビリオン/mL)=(A269-A320)*6*10^16/bp ファージゲノム=2.04E+13
ファージにコンジュゲートしたCF594を定量するために、以下の式を適用した。
【0038】
CF594の濃度(マイクロM)=A594/イプシロン594=8.91
CF594の濃度およびファージの濃度(ビリオン/ml)が与えられれば、CF594分子/ファージの比は得られ、それは264に相当する。
【0039】
レポーターファージ-pIII-CF594のリダイレクションの細胞蛍光測定法による検証
シュードモナス・エルギノーザ(および他のグラム陰性細菌)へのファージ-pIII-CF594のリダイレクションは、BioRad S3e Cell Sorterを使用する細胞蛍光測定アッセイを実施することによって検証された。
【0040】
ファージ-pIII-CF594の1010個のビリオンと、1mlのPBS pH7.4に再懸濁したシュードモナス・エルギノーザPA14の109個の細胞とを20~30分間インキュベートした。CF594にコンジュゲートさせた非リダイレクトファージM13K07(New England Biolabs)を陰性対照として細胞蛍光測定分析に使用した。ファージpIII-CF594で検出されたMFI(平均蛍光強度)は、対照のM13K07-CF594に対して4倍以上増加し、検出ファージがPA14にリダイレクトされたことを証明した。また、細胞蛍光測定分析により、シュードモナス・エルギノーザの集団の3分の1は、レポーターファージ-pIII-CF594を加えた後、蛍光強度がおよそ1桁分(1 Log)増加したことが確認できた。これは、検出ファージがグラム(-)細菌細胞近傍に複数の蛍光色素分子の蓄積を媒介する能力を示す指標である。
【0041】
ダブルファージシステム(Dynabeads/ベイトファージ-pVIII+レポーターファージ-pIII-CF594)による捕捉および検出試験
レポーターファージ-pIII-CF594で標識する
50μlのPBSに再懸濁したビーズ-ファージ-細菌の複合体、および陰性対照試料(細菌なし)に、2μlのファージ-pIII-CF594(標識ストック1:1、2.04E+13ファージ/ml、0.91μM CF594、246蛍光色素分子/ファージ)を加え、回転ミキサーに37℃で40分間静置し、反応の最後の5分間に1μlのDAPI(ストック10mg/ml)またはSYTO9を加え、捕捉した細菌細胞を標識した。各試料を磁石の上に10分間置き、上清を捨て、100μlのPBSで室温にて5分間撹拌せずに穏やかに洗浄を実施した。その後、試料を再び磁石の上に10分間置き、上清を捨て、50μlのPBSで穏やかに再懸濁を実施した。各試料10μlをスライドにのせ、オリンパスの蛍光顕微鏡(フィルター540/605レンズ40倍および100倍)で試料を表示し、CCDカメラで画像を撮影した。
【0042】
結果についてのコメント
レポーターファージ-pIII-CF594で捕捉した細菌の標識で得られた結果は、ベイトファージで機能化したDynabeads上で複合化したシュードモナス・エルギノーザ上のファージpIIIが特異的に認識されることを示す。
【国際調査報告】